ユーモア・ルーモア・フェイカー・メイカー!
●噂よ噂、何見て起こる
『ねえ知ってる? 市民プールで溺死した人が居るって』
『溺れようがない場所で溺れたんだって』
『プールの底には冥府と繋がってて、引きずり込もうとするんだって!』
『暗い暗ぁい水の中でもがき苦しんで……命を持っていかれちゃうの!』
『嘘だって言うなら行ってみればいいよ、プールにさ』
街に広がる無数の噂。
それは『プールから手が出て引きずり込んでくる』という都市伝説じみた噂だった。
それはやがて『一つのプール』から『全てのプール』にて起こる現象となる。
『悍ましい溺死者の手』と呼ばれるようになる、新たなUDCの誕生だ。
「くふふふっ……楽しいわあ」
街を見下ろすように、高層ビルの屋上で一人の少女が笑っていた。
黒いセーラー服を着て、学生カバンを持って……まるで普通の学生のようにみえる。
……こんな場所でなければ、の話だが。
「噂が噂を呼び、恐怖を呼び起こす……そうすればやがて、忘れ去られた人の心の奥底と繋がるの……栄養を得た恐怖は、力を得て形を作る……新たなUDCの誕生ね」
びゅうびゅうと風が吹き、彼女の髪は踊りうねる。
それを気にも介さずに、彼女は楽しそうに笑った。
「それが、更に人に恐怖を呼び起こし……やがてここは、UDCで埋め尽くされる、そうなればどんなに素敵でしょう。くふふふっ」
ふわり、と少女は宙へ踊り……落ちていった。
●グリモアベース
「皆さんは都市伝説というものを聞いたことがありますか?」
グリモアベースの中で、片手にタブレットを持った女性が呟いた。
彼女はノルナイン・エストラーシャ……ミレナリィドールのグリモア猟兵だ。
「都市伝説とは、UDCアースに存在する口承形態の一つです。現代発祥、根拠に乏しい、様々なニュース性を持つ……という特徴があります。一番多いのは『怖い話』……オバケが出る、殺人鬼が居る等々、挙げればキリがありません」
タブレットからホログラムを映し出しながら、ノルナインはいくつか例示していく。
「このような話をするのは他でもありません。都市伝説に関わる事件を予知したのです」
ホログラムの映像を変えながら、ノルナインは言った。
「今回皆さんに向かってもらうのは、UDCアースです。街の一つに大きな市民プールがあるのですが、そこを調べてもらいます」
ホログラムに映し出されたのは、そこそこ大きな建物だった。
屋内型プールで、天候を気にせず年中いつでも楽しむ事が出来る。一般的な25mプールから、子供用の浅いプール、流れるプールに波の出るプール、ウォータースライダーまで有るという至れり尽くせりの施設だ。
……しかし何故プールなのだろうか。そう思った猟兵も居るに違いない。
その疑問を感じ取ったのか、ノルナインは言葉を続けた。
「今回私が予知したのは、都市伝説がUDCとなり、UDCが都市伝説を作り……やがて都市がUDCで埋め尽くされる、という光景です」
それを聞き、思わず声をあげた猟兵も居た。
UDCが増殖して街を覆い尽くす……それはまさに地獄絵図、UDCアースの終わりだ。
「そしてその発端が、この市民プールなのです。市民プールでは今、変な都市伝説が生まれつつあります……『死者の手が人を引きずり込む』というものです。皆さんには、この都市伝説の出元を調査してもらいたいと思います」
そう言うと、一旦ノルナインは言葉を切った。
●フェイカー・メイカー
「私の予知に従えば、故意にUDCを生み出そうとしている存在が居るはずです。それはとても良くない……UDCがUDCを生むような事態になれば、いくらUDC組織や猟兵が居ると言っても、手数が足りなくなってしまうでしょう」
自己増殖するUDC。
それはねずみ算的に増殖し、やがて人の数を越えるだろう。
そうなれば……UDCアースの未来はない。
「ですから皆さん、この事件の真相を暴き立て、首謀者を見つけて下さい。小さな事件とは言え、これは大災害になり得る可能性を秘めています。これを止められるのは、猟兵だけです」
ノルナインは、真っすぐと猟兵たちを見据えた。
「事件解決のほど、よろしくお願いします」
そうして彼女は、一礼した。
苅間 望
都市伝説だ、噂だ……いやいやプールだ! 真冬のプールだ!
季節感を外した真冬のプール……水着……ちょっといいですよね。
……はいどうも、初めまして or こんにちは。苅間望と申します。
只今スペースシップワールドの方で戦争なるものが起きておりますね。
しかし、それはそれとして通常依頼を投げるのもまた一つの楽しみだと思います。戦争の合間にちょっと息抜き、なんて感じで寄ってみて下さい。
今回はシリアスっぽくないですね。真面目に不真面目です。
ギャグもシリアスもどんと来い。
……えっ、オープニングを一ナノメートルも読んでない? ご安心を!
以下を読めばそれで解決、流れを再確認もできます。
「プールを調べるぞ!」「噂の出元を調べるぞ!」「首謀者をボコすぞ!」
……あ、あと一つ。
POW,SPD,WIZはあくまで一例です。皆さんの信じるプレイング道を貫いて、やりたい事をやり倒しちゃってください。
プールを楽しむもよし、UDCを処するもよし、噂に興じるもよし、いっそのこと新たな噂をでっちあげるもよし……あ、でも事件解決はしてくださいネ。
さて、以下はアドリブや絡みについてです。一読しておいて貰えると助かります。
『アドリブについて』
※OKとあれば、アドリブが多めに入ります。
※NGとあれば、プレイングに従い、出来る限りアドリブを排します。
何も無ければ少しアドリブが入ります。
『絡みについて』
※絡みOKとあれば、私の一存で他の猟兵さんと絡ませたりします。
※絡みNGとあれば、一人で対処してもらいます。
協力してプレイする! という場合は、「この旅団の人とやる!」とか、「この猟兵さんとやる!」というのをプレイングに書いてもらえると助かります。
第1章 冒険
『プールの底から』
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POW : 取りあえずプールで楽しみ、巻き込まれるのを待つ
SPD : 噂の屋内プール施設を調査し怪しいところが無いか探る
WIZ : インターネットで更に詳しい情報を探したり、施設の利用者に噂の聞き込みを行う
👑11
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白神・杏華
アドリブ、絡みOK
普通のビキニと水中メガネを着用
こ、怖いなぁ……でも放っておくわけにもいかないよね……
やばい時にサッと動けるように、あんまり寒くならない温水プールでしばらく待つよ。
そして常に片手にビート板を持っておいて、プールの監視員さんが見つけやすい位置でウロウロしてるね。
それと、もし引きずり込まれた時に本当にまずいのは排水口の近くにいる時。
なので、まず排水口には近寄らないようにしよう。
実際に手に引っ張られた時は、水の中を目視して手がどこから来ているのかを確認。
ヤバそうだったらビート板を引き寄せたり監視員さんを大声で呼んで助けてもらおう。
私に自力だけで振りほどけるほど力はないしね、多分……。
ガルメル・パルパイ
すごい!神殿のような建物の中に色んな泉が広がってる!
それに中は暖かい!市民プールっていうの?
この世界の人たちが羨ましいねぇ!
噂の死者の腕が現れるまで思う存分アタシもいろんなプールを泳いでみるよ!
「こりゃすごいね!今度は子供たちも連れていきたいなぁ~」
もし死者の腕とやらに掴まれたりしたら溺れたふりをしてだまし討ちを
してみるよ
亡き夫のラグジャを呼んで逆にそいつの腕を掴んで引っ張ってやる!
「アンタなんか怖かないよ!アタシにはラグジャが憑いてるんだ!死者は襲うだけじゃなくて護ってもくれるんだ!舐めるんじゃないよ!!」
アドリブOK!絡みもOK!
十六夜・月
プールだ!とりあえずプールが楽しめればどうでもええねん(
紐で縛って止めるタイプのビキニを着てすべての施設を楽しみます。
とりあえずはしゃいで楽しんでそのうえで依頼も解決できればいいかなって(本末転倒である
紐のビキニだけどまあ、問題ないよね。引きずり込まれてポロリもあるよなんてそんなことないよね。ポロリなんて!
(アドリブOK
●凄いぞ市民プール
『死者の手がプールの底に引きずり込んでくる』……この手の噂が流行るのは、屋外の小さなプール、特に学校などに併設されているものに多い。
しかし今回その噂が流行っているのは、屋内で、しかもかなり大きなプールだった。
夏は冷たく冬は暖かく、たとえ外が台風でも豪雨でも豪雪でも、年中いつでも楽しむ事が出来る中々に素晴らしい施設だった。
中にあるプールも一般的な25mプールから、子供用に浅めに作られたプール、そして流れるプールに波の出るプールなどなど多種多様だ。極めつけはウォータースライダーだろう。夏の盛況な時期ならかなりの行列が並んでいる。
……まあ。今は冬なので盛況とは言い難いが。
とは言え、屋内プールで外の気候に関係なく泳ぐことが出来るので、人はそれなりに居る。
そしてそんな中に……水着姿の猟兵が混じっていた。
●水着だ! プールだ!
「すごい! 神殿のような建物の中に、色んな泉が広がってる! それに中は暖かい!」
辺りを見渡しながら、感動した様子で言うのは、ガルメル・パルパイ。
健康的に日に焼けた褐色の肌に、普段着に似た赤い色のビキニが良く映えている。
アックス&ウィザーズ出身、そして森の中で暮らしていた彼女にとって、この『屋内プール』というモノは殊に珍しい。
「ここまで大きな市民プールは、中々珍しいけどね。見事な施設だ」
そう呟くのは、十六夜・月。
ガルメルとは実に対照的な、透き通るような色白の肌が、照明を受けてきらきらとしている。
「市民プールって言うの? この世界の人たちが羨ましいねぇ!」
「だね。あー、ワクワクしてきた!」
「え、えぇ……死者の手ですよ。こ、怖くないですか?」
期待高まりワクワクするのが伝わってくる二人の後ろで、ぽそりと尋ねるのは白神・杏華。
ガルメルや月とは違い、実にUDCアースの市民プール、という風景に溶け込んでいる彼女は、UDCアース出身の至って普通の女子高生だった……猟兵である事を除けば、だが。
ビート板を胸に抱いて怖がる杏華を振り向いて、ガルメルと月は言った。
「アタシは怖かないよ。護ってくれる死者もいるから安心さ! それに、楽しめる時に楽しんどかないとね!」
「折角プールに来たんだから、怖がってないで楽しまなきゃ損だよ、杏華! ほら、ちゃんとビキニに水中メガネも持ってきてるじゃないか」
「それはほら、プールに入る為で……ってちょっと、わあ!」
「まずはウォータースライダーだよ!」
「おー、あれかい。いいねぇ、一緒に行こう!」
杏華はガルメルと月に引っ張られ、ウォータースライダーへと連行されていった。ビート板はぽーんとその場に置き去りにされた。
ウォータースライダーは施設内で高台に作ってあり、三人は階段を登っていく。盛況時では大分並ぶことで有名なウォータースライダーだが、今はそれほど多くない。三人は順番待ちの苦痛を感じる事もなく、すんなりとウォータースライダー入口までやってきた。
「おー、これは凄いねぇ! 滝みたいだ、これを流れていくのかい?」
「そうそう。スリルがあって楽しいよ!」
「確かに、ウォータースライダーは人気ですよね……スピード出過ぎたりしませんか?」
「問題なーい、それじゃ行こう二人とも!」
月の言葉を皮切りに、三人ともウォータースライダーへと入っていった。
ぐねぐねとうねる筒の中を、温水と共に流れていく……中々の速度が出て、実にスリルと爽快感がある。
「アハハハハ!」「いやっほー!」「きゃー!」
三者三様の声をあげて、三人はざばあんとプールに突っ込んだ。
水しぶきが跳ね上がり、照明の光を受けてキラキラと輝いている。彼女たちの笑みもまた眩しい。
「よーし、まだまだ楽しめるものはあるぞ。全部堪能しなきゃ!」
「いいねぇ。敵が来るまでは思う存分泳いでみよう!」
ガルメルと月は大変楽しんでいる様子。
杏華は敵と聞いてちょっと不安そうな顔をしたが、すぐに思い直した。
(よく考えたら、みんなで固まって動いていた方が安全だね……それに、死者の手が出てきてからじゃないと、対処も何もないもんね)
そう考えた杏華も、楽しむことに決めた。勿論、警戒は怠らず……ビート板を再び手に入れて。
●プールの怪奇現象だ!
波の出るプールではしゃぎ、一般的な25mプールで様々な泳法を試してみたり……とした彼女たちは、やがて流れるプールへと辿りついた。他のプールよりも少し温度が高く、寒くはならずかなり快適に過ごせる。浮輪やビート板などの浮き具を使ってゆっくりと流れを楽しむもよし、流れに乗って高速遊泳して魚の気分を味わってみるもよし、いっそのこと流れに逆らう形で泳ぎを試してもよし……遊び方は多種多様だ。
「ふぅ、こりゃすごいねぇ……今度は子供たちも連れていきたいなぁ~」
ゆっくりと流れに乗りながら、ガルメルが呟いた。
「いいねえ。子供と来ても楽しめそう」
月はぷかぷかと浮きながら、ガルメルに返した。
「子供と来るためにも、この噂を調べないと」
楽しむ間にいつの間にか敬語が抜けた杏華が、ビート板と共に浮かびながら呟いた。
実はガルメルと月は年上とは言え三歳上、思った以上には歳が離れていない。
それに、楽しむことで、杏華の本来のフレンドリーな性格が表に出たのだった。
「それにしても、死者の手なんて、どうしてそんな噂が流行ったんだろう?」
「溺死事故が起きたりしたんじゃないの。分かんないけど」
杏華の疑問に、月が返した。
火のない所に煙は立たぬ……そして『死者の手がプール底に引きずり込む』というのなら、溺死事故が起きたと考えるのが普通だ。
しかし、そう考えると、少し他の疑問も浮かんでくるのだ。
「アタシは詳しくないけどさ。ここって市民プールって言うんだよね? つまり、街の人の為のプール」
「そうだよ。年中使える最高の市民プール」
「って事は、そういう死人が出る事故が起きたら困るんじゃないの。だから、ここを閉鎖したり……なんてこともあると思うんだけどねぇ」
「……んん、そう言えば確かにそう。溺死事故が起きたなら、調査の為に閉鎖とかは有り得そう」
ガルメルの言葉は正鵠を得ていた。
確かに溺死事故が起きたなら、原因究明のために閉鎖されていてもおかしくはない。それに溺死事故があったプールに人なんて来ることもないだろう。
しかし周りを見渡してみれば、人はそこそこ入っている。それにそもそも閉鎖されてなどいない。
「え、でも噂が起きてるって事は、本当に何かあったんじゃないのかな?」
杏華はそう返す。
火のない所に煙は立たぬ……しかもこんな大きな市民プールだ。
普通なら、そんな噂は流行るはずもない。だからこそ、おかしいのだ。
何かがあったに違いないと考えるのが普通なのだ。
「……何かがあったとすれば……何があったの?」
「ん、私は分からな……うわ、足に何か触った!」
ふと杏華が叫んだ。
ぬるりと何か冷たいものが、彼女の足に触れた……。
そしてそのまま、ガッと彼女の足を掴んだ!
「わ、わあちょっと!」
杏華は慌ててビート板を抱きしめる。
足を掴んだ手は……そのまま彼女を水底へ引きずり込もうとしていた!
そして同時に、他の二人にも怪奇現象が襲い掛かっていた!
「うわっと!?」
「確かに……『何かある』ねぇ!」
二人も水底に引きずり込まれていく……が、ただ引っ張られるだけでは無かった。
最初に動いたのはガルメルだ。
「アタシにはラグジャが憑いてるんだ、舐めるんじゃないよ!」
そう叫ぶと、彼女の目の色が変化した。
亡き夫の戦士ラグジャ……ガルメルに憑依した霊が、身体の主導権を握ったのだ。
「こんな場所で人を襲うなんて……卑怯だとは思わないのか、お前たちは!」
男の声でガルメルの身体が喋る。その声は、勿論ラグジャのものだ。
ラグジャは逆に水に潜って腕をつかみ返し、引っ張りあげていく。
……その土気色のした人の腕は、水から出ると、煙のように消えてしまった。
「二人共、水の外に出すんだ!」
「了解……私も力には自信があるんだ」
月は身をよじり、腕の力に対抗して引っ張り上げる。
やはりその腕も、水から出ると消えてしまった。
「わ、助けて! 振りほどけない!」
一方杏華はビート板を握りしめてそう叫んだ。
普通の高校生である彼女は、それほど力強い訳ではない。水底へ引きずりおろそうとしている人の腕は、一般的な成人男性よりは力強かった。普通の女子高生が対抗できるような力ではない。
「待っていろ! オレたちがすぐ助けるぞ!」
「しっかりとビート板を握ってて!」
ラグジャと月が杏華の方に向かって泳ぎ、加勢した。
杏華の身体を支え、腕を掴んで引きずりあげる。やっぱり腕は消滅した。
「……はぁ、はぁ……助かった」
「大丈夫かい、水を飲んでたりはしてない?」
ラグジャはまわりを見渡し警戒し、月は杏華の身体を支えて声をかけた。
「大丈夫……それにしても……何か変だった」
杏華は息を整えながら、そう呟いた。
「変? 変って?」
「腕に違和感があったっていうか……なんて言うか……」
「その事についてはガルメルも何か意見があるみたいだ。ちょっと変わるぞ」
そう言うと、ラグジャは目をつぶり……ガルメルが戻った。
「これは死者の手じゃない。作り物だね」
「そう、それが言いたかったの」
ガルメルの言葉に、杏華が頷いた。
「作り物?」
「少なくとも、水で死んだ者の手じゃないね。『たまたまそういう形をとらざるを得なかった』何かの力……って言う風に感じたよ」
「確かグリモア猟兵の予知では、『やがてUDCとなる都市伝説』だったかな。となると、別に溺死事故なんて関係ない……そういう噂があったから、そういう形をとったっていうだけの事なのか」
ガルメルと月は考え込んだ。
溺死事故ではなく、勝手に死者の手の噂が生えてきた……となれば、新たな疑問が生まれてくる。
「じゃあ一体、誰がこの噂を流したんだろう。大元があるはずだよね」
「次はその調査だねぇ。他の猟兵にも伝えないと」
三人はそのままプールから上がろうとした。
そこでふと、ガルメルが気付いた。
「……アンタ、水着は?」
「……ん!?」
言われて月も気付いた。紐のビキニが、腕との戦闘でポロリとどこかに流れて行ったのだ。
あわわわわ、と杏華が月の胸を隠す。
「……これはいけない。探さなきゃ」
「アタシらも手伝うよ」
……暫しあと、三人が流れるプールを泳ぎながら探し回り、ちゃんとビキニは見つかった。何の問題も起きなかった。
大成功
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グルクトゥラ・ウォータンク
【WIZ】【アドリブ絡みOK】
この世には…目には見えない闇の住人がいる。奴らは時として牙を剥き
破ぁっ!
やっぱり寺生まれは凄かった。
そんなTさん小話に気をとられつつ、わしはネットで噂の調査じゃ。電脳妖精を電子の海に送り込み噂の出所や詳しい情報を追跡させるぞい。【ハッキング】や【情報収集】、【世界知識】や【追跡】などネットだけでも大分情報は集まる気がするのう。電脳妖精もいるし。なんかわし安楽椅子探偵っぽい。
情報収集のついでに、噂へのカウンターとして怪異狩りの噂を流してみるぞい。得体の知れないモノも対抗手段があるなら恐怖の価値は落ちるからの。【罠使い】【おびき寄せ】でネット上の釣りというわけじゃ。
霧生・柊冬
市民プールで人が溺死する…こんな真冬の時期になんとも奇妙な噂が流れてるんですね
とはいえUDCが絡んでるとなれば、大きな事件になりかねないです
そうなる前に止めなくちゃ…。
とりあえずまずはその噂の市民プールに向かってみましょうか。
最近そのプールを利用したことのある人とか、施設の関係者に話を聞いてみて、噂について聞いてみましょう。
その噂が起こると言われている時間帯とか、有力な情報はすかさずメモを取って忘れないようにします。
それとネットのほうにも何かそれに通じる書き込みがないかチェックしてみます。
もしかしたらチャンネルのほうにも何かその噂に関するコメントがあったりするかも
※アレンジ、絡みは共にOKです
●真冬のプールの謎
屋内プールというものは、年から年中使える。たとえ外が大吹雪であろうとも、ゲリラ豪雨であろうとも、とりあえず泳ぐことは出来るのだ。春夏秋冬、オールシーズン問題なし。
……とはいえ、真冬の時期に『溺死者の腕が引きずり込む』という噂は、いくらなんでも季節外れすぎる。プールも怪談も、本来は夏の風物詩だ。
「奇妙な噂ですよね、これ」
「そうじゃなあ」
市民プールの前に立ち、二人の男が言葉を交わした。
一人は中性的な顔立ちの少年だ。
彼は霧生・柊冬。サファイアのような蒼い瞳と、やや青みを帯びた銀髪が特徴的だ。
銀髪は後ろでポニーテールにまとめてあり、遠くから見れば少女に見間違えるかもしれない。
もう一人は、柊冬よりなお背の低い、しかしそれでいて豊かな髭を蓄えたおっさんだ。
彼はグルクトゥラ・ウォータンク。ドワーフの猟兵だ。故に人間である柊冬よりも背が低い。
焦茶色の瞳に、赤茶の髪が、真冬の空の下で中々に目立っていた。
「先にプールを調べた方によれば、『水の中の腕は死者の腕ではない』そうです」
スマートフォンを起動して眺めながら、柊冬は呟いた。
『溺死事故という事実』があり、『溺死者の腕が引きずり込む』という噂が生まれた……猟兵たちは、最初はこういう構図だと思っていた。しかし調査を進めると、そうではないことが判明した。
『水の中の腕は死者の腕では無い』……つまり『溺死事故という事実』は怪しいものになった。
加えてここには一つの大きな疑問がある……誰が一体噂を広めたのだろう?
恐らく、この大きな疑問にこそ、UDCが絡んでいる。
大きな事件になる前に止めたい……柊冬はそう思っていた。
「ふーむ、問題点は『溺死事故の事実』と『噂の大元』じゃな」
豊かな髭をもしゃもしゃと掻きながら、グルクもそう言った。
電脳魔術士であるグルクは、電脳の空間投影を始めながら柊冬を見た。
「わしはネットで噂を調査してみるが、お前さんはどうやって調べるつもりじゃろうか?」
「僕は聞き込みをしてみます。利用者や関係者なら、噂の事を知ってるでしょうから」
ふむ、と柊冬の言葉に、グルクは頷いた。
利用者や関係者であれば、プールの噂は身近な話題だろう。それは確かに、有効な捜査だ。
なのでグルクも、一旦そちらの方へ行くことにした。
「よし、わしもついていこう。聞き込んだ内容を元に調べる方が、結果は早そうじゃしな」
「良いですね。僕も、聞き込みが終わればネットで検索してみます。ではお互いに協力し合いましょう」
そうして、二人は市民プールへと入っていった。
●現実と電脳の狭間・現実での聞き込み
屋内プールという事も有って、真冬でありながら利用者はそこそこ居た。
二人は手分けして利用者や関係者に聞き込みを行っていく。
水着姿の人々、事務員、清掃員、受付の人、などなどなど……聞く相手は沢山居た。
そして暫し後……二人は休憩所の中で顔をつきあわせた。
「何か分かりましたか?」
「そうじゃな、いくつか分かった事がある」
「ではグルクトゥラさんからお願いします」
柊冬の言葉に、グルクは頷き、ホログラムを投影した。
「わしが気になったのはとにかくこの二点、『溺死事故の事実』と『噂の大元』じゃ。それに注力して聞き込みしたところ、『溺死事故の事実』の方がいくつか分かった」
ぽん、とグルクがホログラムを弾くと、ホログラム化された市民プールが映し出された。
「結論から言うと、このプールで『溺死事故は起きていない』。過去に子供がおぼれた事故はあったが、それくらいじゃの。じゃから利用者や関係者は、死体の腕が云々いうあの噂は、かなりたちの悪い悪戯と思っとるみたいじゃ」
「なるほど。僕が調べたのは『噂について』です」
今度は柊冬がメモを取り出しながら話し始めた。
「これは基本的に根も葉もない噂のようですね。ある休日から流行り始めたんだとか……特に人の多い時間、学生を中心として流行っていたようです」
「ふむ、なるほどのう。となると、学生たちの間に、この噂を流行らせた張本人が居るかもしれんという事じゃの」
「そうなりますね。次はネットを調べてみたいと思います。これだけ大きな市民プールの、季節外れの噂です。何か分かるかもしれません」
柊冬が言うと、グルクはにかっと笑った。中々に悪そうな顔で笑うと、それだけで悪役のように見えるが……勿論、悪事を考えている訳ではない。
自分のテリトリーであるネットでの噂調査……それが楽しみなのだ。
「ふっふっふ……確実に捉えてみせるからのう」
●現実と電脳の狭間・電脳ネットサーフィン
電脳魔術士にとって、ネットでの調査などお茶の子さいさいである。
「取り敢えず数だけは揃えたから、直に情報は集まるじゃろ」
グルクは電脳世界の中に無数の電脳妖精を召喚した。彼のユーベルコードである【探査電脳妖精多重召喚】だ。
召喚された電脳妖精は、その数なんと361体。これだけあればいくらでも調べ上げられるというものだ。
「僕は書き込みを探してみますね」
「了解じゃ、わしは噂の出所を追跡するぞい」
グルクは頷くと、電脳妖精に様々なハッキングをさせた。妖精たちは電脳世界を自由に跳び回り、無数の情報を彼に持ち帰ってくる。
……余りにも多すぎて、関係のない小話なんかも持ち帰ってくる。
(この世には……目に見えない闇の住人がいる。奴らは時として牙を剥き…………破ぁっ!!)
寺生まれだとか、ぽぽぽと唸る巨大な女や複数の手を持つ女の怪異など、多種多様な都市伝説が流れ込んでくる。
(……検索ワードに『都市伝説』って入れちゃったのう。ちょっと膨大すぎるのう、ワード書き換えっと)
ちょっと操作すると、妖精たちは、今度こそきちんと噂の情報を仕入れてきた。
動かずして情報を得て真相に辿りつく……なんだか安楽椅子探偵のようだ。
「……ふむ、僕は終わりました。グルクトゥラさんはどうですか」
「こちらも終わったぞい。噂の出所が出てきたのじゃ」
二人は手に入れた情報を映し、見せあう。
二人共に共通してあったのは、市民プール付近にある高校の学生……という情報だった。
ところが、肝心な所が欠けていた。どんな学生が噂を流しているのか、というのが錯綜しているのだ。
「ふーむ奇妙じゃのう。ここまで分かっておいて、何故特定しきれんのじゃろ」
「おかしいですね。最後の一手だけここまで錯綜するなんて」
二人は顔を見合わせて考え込む。
……ふと、柊冬が顔をあげて呟いた。
「そうだ、なりすまし……というのは考えられませんか」
「なりすまし?」
「ええ。悪意ある誰かが、学生に紛れ込んで噂を流しているとすれば、特定しにくいのも納得がいきます。本当は学生じゃないのですから」
「なるほどのう……それは面白い考えじゃ」
豊かな髭をもしゃもしゃと掻きながら、ふとグルクはにやりと笑った。
「よし、じゃあ釣りをしてみるかのう」
「釣り、ですか?」
「おうよ。『溺死者の腕が引きずり込む』という噂を駆逐するように、こちらから別の噂を流すのじゃ。そうじゃのう、怪異に対抗できる存在が居る、という感じの。ネットの怪談でも、対抗できる存在はよく見るし変な話じゃないはずじゃ」
「それで、元の噂が駆逐されれば……噂を流そうとしている犯人は、何らかの行動を起こすはず、ですか」
「その通り」
グルクは電脳妖精たちを指揮し……直ちに噂を広め始めた。
●ユーモア・ルーモア!
かくして、その街には瞬間的に『怪異狩り』の噂が流行り始めた。
溺死者の腕、という恐るべき怪異を倒すため、寺生まれだとか教会育ちとか陰陽師だとか拝み屋だとか、そういうミステリアスなパワーを持った怪異狩りがやってきた……と言うのだ。
こうなってしまえば、都市伝説などけちょんけちょんである。いくら得体のしれないモノでも、対抗手段があればそんなに怖くない。対抗手段のある怪異なんぞ、面白話ではあっても怪談にはなり得ない。
噂を流した張本人は……この事態を受けて非常に焦った。
噂が都市伝説となり、本物の怪異とする……それが計画だというのに、その噂がただの面白話に堕してしまっては計画が崩れ去ってしまう。
故に犯人は、焦りを抱いて噂をばら撒き始めた。
ネットの掲示板を通じ、SNSを通じ、怪異としての強さを補強するような噂を喋り始めた。
……しかし、それは罠だった。
「お、見事餌に引っかかってくれたのう」
電脳妖精から情報を受け取り、グルクは笑った。
「直ぐに反応してきましたね。相手の書き込みの量も多いです……これは、複数人ですか?」
「じゃろうの。学生に紛れ込んだUDC群……と言ったところかの」
「直ちに情報を共有しなければ」
柊冬はスマホを用いて、得た情報を猟兵たちへと送信した。
……次なる相手は、噂を流した犯人。
大成功
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第2章 集団戦
『噂語り』
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POW : 自分ソックリの妖怪『ドッペルゲンガー』の噂
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使ってきた猟兵のコピーを生み出し、操り】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD : 学校の七不思議『動く模型』の噂
戦闘用の、自身と同じ強さの【動く骨格模型】と【動く人体模型】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ : 予言をする妖怪『くだん』の噂
対象のユーベルコードに対し【使ってくるユーベルコードを言い当てる言葉】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
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●ルーモア・フェイカー!
街の高校の近くにある、小さな倉庫。そこには無数のモニターが置かれ、なんだか秘密基地のようになっていた。
そこにいたのは、学生服を着た十数人の生徒……いや、UDC『噂語り』たちだ。
彼らはモニターに映る無数の噂を見て、多種多様な反応をしていた。
「ぎゃはははは! 怪異狩りの噂おもしれえ!」
「うーん、この溺死者の腕クソ雑魚じゃん。ざっこ」
「怪異狩りの噂の出所はどこなんだよ! 誰が流しやがった!」
「ちょっと待って、これじゃあタダの面白話じゃん!」
「ヤバイヤバイ、どうすんの、都市伝説とか夢のまた夢じゃん」
「やっぱ溺死者の腕とかいうテキトーな噂立てたのが良くねえんだ」
「じゃあ何だ!? プールの中でサメが出るとかの方が良かったか!?」
「ぎゃははははははは! ジョーズな噂!」
「流行りに逆行してタコにしよう」
「仄暗い水の……」「やめろ、おいやめろ、それは噂じゃない」
「……うーん、怪異狩りつっよ。チート設定かよ」
無数の声が飛び交うその倉庫は……しかし、既に猟兵たちの知る所となっていた。
やがて彼らもその『怪異狩り』と戦う事になろうとは、誰も思っていなかった。
十六夜・月
プールもそれなりに楽しませてもらったし、お仕事も少しはしないとね、少しは。
とりあえず最初は様子見兼味方の支援。[スナイパー]にて[援護射撃]を行う。
相手の動きが把握出来次第接近戦へ。
[範囲攻撃]にて一掃。噂が広まる前に潰してしまえば消えてなくなるだろうと考えた。うまくいくかは分からないけど、試す価値はあるだろう。
情報戦であせった感覚があったから[殺気]も動揺するかもしれない。
これも試す価値はある。
それらが駄目ならいつも通りにするだけ。[早業]での[先制攻撃]。
攻撃されたら[第六感][見切り]での回避。[カウンター]も忘れずに!
・・・もし、水着のまま戦ってるんだとしたらポロリはないはずだ違いない
白神・杏華
絡み、アドリブOK
随分楽しそうだけど……それのせいで、危険な目に遭う人が出るんだよ!
か、怪異狩りとして、UDCは成敗します!
(とはいえ、直接戦闘とかは苦手だけど……)
【地形の利用】で、倉庫内の「死角になり、ある程度広範囲が見渡せる場所」(ロッカーの上とか?)を見つけよう。
そしてそういう場所を複数発見したら、そこにレベル1のままのバトルキャラクターズを潜ませるよ。
狙いは相手が人体模型とかを出した時。
襲いやすい位置にいるバトルキャラクターズに、死角から飛び出しての攻撃を命じるよ。
たとえレベル1でも、ちょっとした傷は負わせられる。そして、そうすれば模型は消えるよね!
怖いけど、やれる事をやらなきゃね。
グルクトゥラ・ウォータンク
【SPD】【アドリブ絡みOK】
いつまでも学生気分で遊んどるんじゃないぞいコスプレイヤーども!貴様らもお洒落系怖い話にしてやろうか!
外でこっそりボールズ(散弾銃装備)を召喚しておき、突入と同時にUDCに総攻撃じゃ。突入は壁をぶち破るだの爆竹鳴らすだのなんでもいいので【先制攻撃】でビビらせてダイレクトエントリー!ボールズは【武器改造】済みで、銀色着色の非殺傷ゴム弾が撃てるぞい!誤射が怖いからのう!銀色なのは怪異狩りの演出で、特に効果はない!
わし自身はバレットドネーターで弾丸ばらまき、誤射に注意して味方を【援護射撃】じゃ!
ちなみに親玉がいる場合に備えて、捕まえて情報聞けたらいいなとも思っておる。
ガルメル・パルパイ
アンタたちが死者の手を騙ったやつらだね!
ただじゃあ済まさないよ、本物の死者たちがお怒りさ!
とりあえず衝撃波と捨て身の一撃で連中を吹っ飛ばすよ
骨格だか人体だかの模型も壊してやるさ
予言だって?
オルタナティブ・ダブルと思わせてフェイントをかけて
サモニング・ガイストでだまし討ち!
『死者や霊だって牙を向くもんだ、こんな感じでな!』
ラグジャの魂と一緒に古代の戦士の霊で敵をボコボコにするつもりだよ
アドリブOK!絡みもOK!
●ルーモア・フェイカー・リーダー
「ハァ……しんど……」
学生服を着た青年が、倉庫の中でふと呟いた。
彼はUDC『噂語り』のリーダー。彼の前には十数人のUDC『噂語り』が居て、口々に喋っていた。
彼らは「都市伝説を流行らせろ」という任務を受けていたのだが……『怪異狩り』なる奇妙な噂が流行ってしまい、彼らが流行らせた噂はどんどん駆逐されていったのだ。
曰く、溺死者の腕を狩る為にやってきた、異界からの使者。
曰く、怪異そのものを相手取る猟兵団。
曰く、無数の技能を持つ狩人たち……云々。
「こんなんじゃ仕事にならねえよ……笑ってられるのも今のうちだぞ、今に大目玉喰らうんだから……」
リーダーは頭を抱えて悩み悩んだ。
彼に任務を与えた者……つまり彼の上司、彼のクライアントは、中々に恐ろしい存在だった。任務に失敗した彼らは一体どうなるのか……そう思うと胃が痛み、頭痛もするのだった。
「プールに腕、いい噂だと思ったんだがな……」
プールに溺死者の腕。
それは確かに良い取り合わせだった。
ホラー映画によく出てくるし、何より水底は恐怖を喚起させる。「水は異界」とする神話も数多く、人類の無意識の奥底には、水は異質な場所という認識があるのだ。
無意識の奥底から浮かび上がる恐怖のイメージが、都市伝説と結びつき、やがてはUDCと化す……はずだったのだ。
「ハァ……」
リーダーはため息を吐き、立ち上がった。
外の空気でも吸ってくるか、なんて思いながら、倉庫のドアに手をかける。
そしてドアを開こうとする……が、そんな事をせずともドアは勝手に開いた。
いや、吹き飛んだ。
大きな爆発音とともに。
●『怪異狩り』のカチコミだ!
「いつまでも学生気分で遊んどるんじゃないぞいコスプレイヤーども!
貴様らもお洒落系怖い話にしてやろうか!」
物凄い音と共に現れたのは、グルクトゥラ・ウォータンクと、彼が召喚したコマンダーボールズ部隊だ!
ふよふよと浮いたボール状のガジェットが、グルクの周りを随伴しており……ガチャリと噂語り達に銃の照準が合わせられた。
そしてグルクの持つバレットドネーターと共に、演出効果を狙った銀色着色の非殺傷ゴム弾が発射された!
「あばばばばばばば!? 何だ!?」
「や、ヤベエよ!? なんでこんな所にカチコミなんて!」
「ぎゃはははははは!! ドアが吹っ飛んどあ!」
グルクのドア破壊と先制攻撃に、噂語り共は狂乱状態に陥った。
それもそうだ、誰もこんな所に人が来るなんて、砂粒ほども思っていなかったのだから。
そしてまさか複数人だとも、思っていなかった。
「アンタたちが死者の手を騙ったやつらだね!
ただじゃあ済まさないよ、本物の死者たちがお怒りさ!」
そう勇ましく叫びながら突入するのは、ガルメル・パルパイだ。
ゴム弾の中を走って敵に肉薄し……そのまま衝撃波で相手を吹き飛ばす!
「ごふぅ!?」「うぐああ!?」
倉庫の備品をなぎ倒しながら、噂語りたちが壁や床にたたきつけられていく。
事ここに至って、ようやく噂語りたちは正気を取り戻した。
「ッチィ! 奴ら『怪異狩り』か!?」
「噂を流したのはお前たちだな! 許さん!」
「うーん、怪異狩りとかチート設定じゃん」
口々に噂語りは喋り……そして猟兵たちを睨んだ。
「対抗しろ、為す術も無くやられるわけにはいかない!」
リーダーのその言葉を合図に、噂語りたちは詠唱を始めた。
「……動け動け骨格模型」「理科室恐怖の人体模型」「模型よ模型よ何故動く」「動かぬはずの模型たち」「一人で勝手に動き出す」「怖いか怖いか模型たち」「謎の校内七不思議」「さあさあ出番だ模型たち」「我等怪異が呼び寄せる」「現れ出でよ模型たち」「今ここの敵を打ち倒せ!」
詠唱は輪唱となり、複数人で別々の部分を詠唱するという荒業によって短縮される……!
やがてボンと、二体の模型が現れた。
UDCアースにはお馴染み、理科室で恐怖の的となる骨格模型と人体模型だ。
それが一人の噂語りにつき二体……噂語りは十数人なので、おおよそ三十体ほど現れた!
「行け、学校の七不思議の動く模型たち!」
リーダーらしき男がそう叫ぶと、模型たちはぴしぱしと、ぎこちないながら非常に不気味な動きで猟兵たちに向かってきた。
……が、その模型たちがいきなり数体ほど消滅した。
「随分楽しそうだけど……それのせいで、危険な目に遭う人が出るんだよ!
か、怪異狩りとして、UDCは成敗します!」
倉庫のロッカーの上から、震えながらも勇ましい言葉が飛んでくる。
声の主は白神・杏華。
直接戦闘が苦手な彼女は、先のグルクとガルメルの先制攻撃によって混乱する噂語りたちの目を掻い潜り、倉庫内に忍び込んでいたのだ。
戦場となる倉庫内を広く見渡せ、かつ死角となる場所を探し――『特殊な伏兵』を倉庫中に忍び込ませる為に。
そして噂語りが動く模型を展開したその瞬間が、彼女の狙ったところだった。
「なっ、何が起きている!?」
「リーダー、何かが居ま……がはっ!?」
噂語りが何者かに攻撃され……そして模型が消えて行く。
召喚された模型は、召喚者が傷を受けると消滅するのだ。どんなに傷が小さくても……だ。
戦場を小さな3Dキャラクターが飛びまわり、アチョーと掛け声をあげて噂語りを攻撃していく。
白神杏華のユーベルコード、『バトルキャラクターズ』によって召喚された、ゲームのキャラクターたちだ。
「ええい奴らは小さい、どうにか捌けば何とかなるだろ……っと!?」
ふとリーダーの足元に銃弾が撃ち込まれ、リーダーはよろめいてそのまま後ろに倒れた。
その後、ダンダンダンと断続的に発砲音がし、模型に穴が開いていく。
「私も忘れないでね……っと!」
倉庫の外から『1610L-BFS』を構えた十六夜・月が、そう言いながら引き金を引いた。
ダン、と再び音が響き、模型が撃たれ倒れ伏す。
模型はあくまで召喚した人の強さに依存する……と、外から観察していた月は理解していた。
噂語りたちは、肉体能力は殆ど人と変わらない。であるならば、いくら数をそろえようとも、猟兵たちには敵わないのが道理だ。
「さあ行くよ……」
月がゾッ……と凄まじい殺気を放つ。
肌が泡立ち生存本能が刺激されるほどの強い殺気だ。
「や、ヤベエよ、ヤベエよ」
「怪異狩り……おそろし……」
「ぎゃははははは! うちらの負けかも!」
「笑い事じゃないぞ!? ええい出会え出会え!」
やっと起き上がったリーダーは手を振りそう言うが……しかし応える者はいない。
グルクの銀色ゴム弾、ガルメルの衝撃波、杏華のバトルキャラクターズ、月の狙撃弾……それらが乱舞する倉庫内で傷を負わぬなど不可能だ。模型はどんどん数を減らし、噂語りたちは再び慌てふためき倉庫内を駆け巡った。
「……ッ、ならばこれでどうだ! お前たち!」
「……鏡よ鏡よ何故歪む」「夢と現の狭間にて」「現れ出でるは人の影」「影より出でし怪異たち」「姿も同じ怪異たち」「嘘か真か鏡像か」「然して影は語るだろう」「我に出会えば汝は死す」「故に我等も呼ぶだろう」「姿かたちを真似るがいい」「己の影に怯えるがいい」「現れ出でよドッペルゲンガー!」
再び輪唱が始まり……今度は宙に黒い靄が現れた。
それはグルクの銀色ゴム弾を受け止めると……なんとグルクのボールズ部隊へと変化した!
「自分自身の技に溺れてしまえ! 喰らえ喰らえ!」
リーダーの言葉にドッペルゲンガーボールズが無数のゴム弾を放った!
……そう、ゴム弾である。
バラタタタタタタタと大層な音を立てて発射されるは銀色ゴム弾。猟兵たちに効くはずもない。
「な、何故だ!?」
「ゴム弾に改造してあるからじゃよ!」
グルクがゴム弾を身体で受け止めながら言うと、リーダーは脱力して膝から崩れ落ちた。
「なんてこった……! しかしまだだ、逃げて再び噂を流せば……!」
「させないよ!」
逃げようとするリーダーの前に、ガルメルが立ちはだかった。
「っくう、邪魔をするな!」
「死者の尊厳を冒すような事をしておいて、無事で逃げられると思わないことだね!」
ガルメルはその言葉と共に、ぞわりと不思議な空気を放った。
それはユーベルコードの前兆だ。リーダーは思わず叫んだ。
「させるものかァ! 予言者よ、俺に応えろォ!」
リーダーの傍らに一瞬奇妙な人面牛が現れ……何事かを囁く。
「お前は何かを召喚する……自分だな!? その大胆不敵な笑みは自分を召喚するんだな!?
俺の言葉に縛られろ、予言は俺に応えてその未来を覆すッ……!」
「……違うね。召喚までは正解だけど……!」
ガルメルはにやりと笑った。
彼女の傍らにぼう、と炎が浮かび上がり……一人の戦士が現れた。
「呼ぶのはアタシの夫さ!」
ガルメルの言葉に、戦士――ラグジャは頷いた。
『死者や霊だって牙を剥くもんだ、こんな感じでな!』
ラグジャは槍を振り回してリーダーを叩き、同時にガルメルもリーダーに飛びかかった。
特に戦闘能力のないリーダーは、為す術も無かった……。
●フー・イズ・フェイカー・メイカー?
数分後、ボコボコにされて縛り上げられた噂語りたちがそこに居た。
「痛ぇ……痛ぇよ……」
「怪異狩りつぇえ……溺死者の腕が弱かった訳じゃ無かったんだな……」
「ぎゃはははははは! ヤベエ! うちら負けたじゃん!」
「そうだよ負けたんだよ! お前らがアホだからだぞ!?」
「アホって何だこのリーダー、もっとましな噂考えてから出直せ!」
「そーだそーだ」「反省しろ」「UDC各方面に失礼だよね」「ぎゃははははは!」
縛られてなお噂語りたちは口々に騒ぐ……が、ごんごん、とグルクがガジェットアームで地面を叩くと、彼らは皆口をつぐんだ。
「えーっと。噂語りのリーダーはお前さんか?」
「……そうだ。何だ、何か話でもあるのか?」
リーダーは腫れあがった頬をもごもごと動かし、グルクを睨む。
「お前さんたちに命令を出してる奴を教えて欲しいんじゃが」
「……言って何になる」
「そりゃ、その命令出してる奴を捕まえに行くんじゃよ。わしらは怪異狩りじゃからな」
グルクがそう言うと、リーダーはふてくされて俯いた。
「何、流した噂が駆逐されて怒ってるの?」
「呆れた。あんな変な噂流しといて、怒るなんて逆ギレも良いとこだよ」
月とガルメルがそう言うと、リーダーは顔を真っ赤にして怒りだした。
「んぐううううう! 言わせておけば! 俺たち噂語りには噂を流す位しか取り得がないんだぞ!
アイデンティティを奪われた俺たちはどうなる! 路頭に迷って野垂れ死にだ!」
「……UDCなのに戦闘能力が高くない……だからそのアイデンティティは大事なのですか?」
杏華がそう言うと、リーダーははっとした。
「……そうだよ。俺たちには噂を流す位しか取り得が無い。だからこそ、逆らえない」
「一体誰に?」
「……隙間女。そう言う怪異が……UDCが居るんだよ。休日学校に行けばいい、会えるぞ」
リーダーはそう言うと、ふんとそっぽを向いた。
この後噂語りたちはUDC組織に連行され、しかるべき対処をされた事は言うまでもない。
しかし猟兵たちにはまだ仕事がある……。
この噂を流そうと画策した張本人、隙間女を討伐するという仕事が!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『都市伝説』隙間少女』
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POW : 領域
【蜘蛛の巣の様に空間の裂け目】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 恐怖
【周囲に作り出した多数の空間の裂け目】から【今まで異空間に捕われていた一般人】を放ち、【その感情を操り、猟兵達に抱き着かせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 移動
小さな【空間の裂け目を作り、その裂け目】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【異空間で、別の場所に裂け目を作る事】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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●フェイカー・メイカー!
「はぁー、つまんないの」
休日のとある高校……そこには一人の女子高生が居た。
開いていないはずの教室に一人……ぽつんと座って黒板を眺めていた。
「……怪異狩りかぁ」
少女は一人呟いた。
怪異狩り。怪異を狩る者……溺死者の腕を討伐しにやってきた何者か。
その噂が流行ってしまったせいで、少女が流行らせようと思っていた噂は、何処かへ消えてしまった。
……正確には消えていない。面白お洒落怖い話になってしまっただけだ。
しかしそんな親しみのある話に堕してしまえば、恐怖など起きようもない。
「……世界がUDCで埋め尽くされる、とてもとても素敵な夢も……そんな怪異狩りが居たら成り立たないわね。だって生まれるUDCが全部全部、その怪異狩りに狩られちゃうんだから」
つまんなさそうに、不満げに少女は言う。
少女の目的はただ一つ。
UDCがUDCを生み、世界がUDCで埋め尽くされるようにする事。
そして噂を流行らせたのは、その目的の手始めといったところだった。
噂が都市伝説と化し、都市伝説がUDCと化し、その恐怖で新たに都市伝説が生まれていく……そういうループを作ろうとしていたのだ。
「はぁー、つまんないの」
少女は再び呟いた。
少女はゆっくりと手を動かし、指を立てて虚空を撫でた。
すると、虚空がぱきりと音を立てて割れ……空間に奇妙な裂け目が出来た。
裂け目に手を入れ引き出すと、そこにあるのはチョークだった。
少女は立ち上がって黒板の前に立ち、かつかつと何かを書いていく。
「怪異よ怪異よ何故踊る……きっとそれは、人が求めるから。
恐怖は生存本能に根ざした感情……忘れてしまえば生きてはいけない。
だから人は恐怖を求め、都市伝説を流行らせてしまうの」
呟きながら少女が描いたのは……人が隙間に呑み込まれる絵だった。
「私たち怪異は……いやUDCは、その恐怖を依代に生きていく。
ならば都市伝説は、格好の餌とは思わない?」
誰にも届かぬ演説を、少女は一人呟いた。
「だからこそ私たちは怪異なの……だから私は、怪異狩りを狩りましょう」
ぱん、と手を打つと、少女の周りに無数の亀裂が生じ始めた。
がたがたがたと空間に亀裂が入り、教室の机も、窓も、壁も割れていく。
「私は贋作を作る者。或いは隙間に住まう者。怪異狩りたちは、どんな人なのかしら? くふふふっ、ちょっと楽しみかも」
教室を無差別に砕き、破壊しながら、少女は一人嗤う。
『都市伝説』隙間少女は、ただ嗤う。
轟・富士王
都市伝説かあ、おじさんも昔は夜の帝王とかそういう都市伝説を作ったことがあったりなかったりしたんだよ、うんうん。
とりあえず尖兵として布石だけでも打っとくかね。
飛閃・流れ星で飛び込み、体当たりだ。一般人に抱き着かれるより前に、こっちが抱き着いちゃうよ。
あと10年経ってからならストライクゾーンだったんだけどねえ(熟女大好きおじさん)
とにかく少女から嗤い以外の表情を引き出してみたいね、怒りでも羞恥でも侮蔑でも欺瞞でも軽蔑でも悪意でも、恐怖でも。
そう、恐怖。恐怖をおじさんにむけることで隙を作って後の猟兵に道を作りたいのさ。
さあ、おじさんに見せてごらん、君という名の万華鏡を!
●戦場を駆け抜けろ、嗤う仮面を引き剥がせ
(都市伝説かあ)
休日の学校、『都市伝説』隙間少女が居るとされる場所だ。
そこへ足を運びながらもの思いに耽るのは、轟・富士王。
(おじさんも昔は夜の帝王とかそういう都市伝説を作ったことがあったりなかったりしたんだよ、うんうん)
煙草を吹かしながら、富士王は学校へと足を踏み入れる。
校舎の中は、余りにも音が無かった。
休日とはいえ、普通学校には教師や事務員が居るものだ。
体育会系の部活があれば、休日に練習する事も有る。
しかしその校舎には、あって当然の音が一切なかった。
(ふうん、誰もいないみたいだね)
富士王は警戒は怠らず、校舎内を見て回った。
そこで彼は、度々奇妙な跡を見つけた。
有り得ない場所に存在する亀裂といえばいいだろうか。
人が日常的に使っている校舎だというのに、床や壁、窓に奇妙な亀裂が入っているのだ。ちらりと教室を見やれば、机や黒板の隅などにも亀裂があった。
(生徒たちがつけた傷……にしちゃ多すぎるね)
富士王はそのまま足を進めていく。
そして彼の目の前に、ふと、人影が現れた。
「あらこんにちは。このような場所で奇遇ですこと」
富士王にそう声をかけるのは、セーラー服を着た女子高生だ。
校則にも違反していない制服に、学生カバン。
どこからどう見ても、至って普通の女子高生だ。
しかし無音、無人の校舎においては、その『普通』が異常に際立っていた。
「奇遇だねえ。学校内を歩けば高校生に会うのは普通なはずだけどね」
「『普通』なら、ね。くふふふっ」
少女は嗤う。
嫌味に嗤う。全てを見下げ果てたように、傲慢に嗤う。
「おじ様は怪異狩りのお方? 話ではもう少し若いとかって聞いたのだけど」
「怪異狩り、というか猟兵には色んな人が居るからねえ」
富士王の言葉に、少女、『都市伝説』隙間少女は笑った。
「一人じゃないのね。これは失敬……くふふふっ」
すると、突如として、パキリと何かが割れる音が響いた。
ぞわり、ぞわりと、少女の周囲に空間の裂け目が生じていく。
「怪異狩りは怪異を狩るもの……なら、普通の人は襲えないわよね」
空間の裂け目からは、人の姿が覗いていた。
「皆、あの人を止め――えっ!?」
「さあ、星になってみようか!」
隙間少女が更に行動を起こす前に、富士王の方が動いた!
18分の1秒という刹那の瞬間で、富士王自身が飛び出したのだ!
【飛閃・流れ星】。自分自身を発射する、富士王のユーベルコードだ。
富士王は隙間から出てきた一般人に、自分から抱き着きに行った。
「ん~、あと10年経ってからならストライクゾーンだったんだけどねえ」
残念。彼女は富士王のお眼鏡には適わなかったようだ。
富士王はそのまま凄まじい速度で飛びまわり、一般人たちに抱き着いていく。
だが、誰も富士王を繋ぎとめる事は出来なかった。
「な、な、何なんのよ!?」
隙間少女は思わず叫んだ。
彼女は一般人の感情を操作して、富士王の動きを止めようとしていた。
しかし、富士王は自分から抱き着きまくっている。
その上誰の腕にも絡めとられる事はない。
「なんでそんな事をしてるの!? その速さがあれば他の事だって!」
隙間少女は、富士王の行動が理解できなかった。
そんな彼女に向けて、富士王が止まって微笑みを向ける。
「うーん、君は流石に若すぎるな。少女だもんね、隙間少女」
「ッッッ!? 意味、意味わかんない!」
隙間少女は、笑みも嗤いもかなぐり捨てて叫んだ。
彼女には富士王が理解できない。理解できないのだ。
これだけの力を持ちながら、攻撃をするでもなく、まるで遊んでいるかのような彼が。
そこでふと、隙間少女は思い至った。
(私は今、弄ばれている……?)
その事実は、プライドの高い彼女の心に深く響いた。
それと同時に、今まで自分より強い相手に直面したことのない彼女は、体験したことのない感情に襲われた。
「そう、そうだよ。嗤い以外の表情を、感情をおじさんに見せてごらん」
胸中で無数の感情が蠢く隙間少女に、富士王が声をかけた。
隙間少女の表情は、嗤い、無表情となり……そして怯えを見せた。
「さあ、おじさんに見せてごらん、君という名の万華鏡を!」
富士王はただそう言った。
その言葉は、隙間少女から一つの概念を引き出した。
(あ、ああ……これは
……!?)
隙間少女は、生まれて初めて恐怖していた。
大成功
🔵🔵🔵
白神・杏華
隙間女、結構有名な都市伝説だよね。
おそらく相手が戦闘の主軸として使うのがワープ能力……
それを封じるために動くよ。
裂け目から異空間に入って、そしてもう一度裂け目を作って出てくるんだよね。
それって、異空間に入ってる間は外の様子が確認できないんじゃないかな?
その性質を利用して、異空間から出てくる時に裂け目に向かって石とかを投げて攻撃しよう。
それが命中したら、「異空間から出る瞬間は外を確認できない」という弱点を実証し【透破抜き】を発動。
移動能力を封印するよ。
発動後はしばらく後ろに下がってるよ。
●弱点は証明された!
(隙間女、結構有名な都市伝説だよね)
隙間少女の居る学校へと急ぎながら、白神・杏華は考えていた。
一体どうやって戦うか、一体どう動くかを。
(おそらく相手が戦闘の主軸として使うのがワープ能力……それを封じれば……)
杏華は得た情報から、ざっくりと相手の行動パターンを考えていた。
隙間に潜み人を見続ける隙間女。
UDCとして彼女が持つ力は、空間に裂け目を作り出すというもの。
空間の裂け目は他の場所と接続され、自由にテレポートが出来るのだ。
戦闘においては、これほど有用な能力はない。
(問題は、どうやって封じるか……かな)
杏華は暫し考えて、道に落ちていた石ころを拾い上げた。
(……よし、これで試してみよう)
杏華は、校舎の中へと走って向かった。
「あなたも怪異狩り……?」
隙間少女は、戦場にやってきた杏華を見て呟いた。
予知では嗤いが印象的だった彼女は、しかし、今は笑ってはいなかった。
怯えと焦りが綯い交ぜになった、どこか不安げな表情だ。
「……怪異狩りとして、あなたを止めに来たよ」
杏華は、そんな隙間少女をじっと見据えた。
隙間少女は、その瞳から思わず目を逸らした。
「……っ、どうしてあなたたちは皆、私を見ても怯えないのよ!」
「それが怪異狩り……いえ、猟兵の使命だから」
「鬱陶しい……! 人は皆UDCに呑まれて消えるべきなのよ!
この世界はUDCの物であるべきなの!」
隙間少女はそう叫ぶと、周囲の隙間へ飛び込んで消えた。
(……ここからだね)
消えた隙間少女を見て、杏華は周囲に注意を払い集中した。
元より警戒を怠ってはいないのだが、今からは相手の行動へきちんと反応しなければならないのだ。警戒をした上で、更に対応するため集中しなければならなかった。
(裂け目から異空間に入って、そしてもう一度裂け目を作って出てくるんだよね)
来る前に調べていた情報を元に、杏華は思考を始めた。
(異空間に入ってる間は外の様子が確認できないんじゃないかな?
それが正しいかどうかは……今から分かる)
先ほど拾い上げていた石ころを取り出して、杏華は周囲に気を払う。
ほんの少し、その場を静寂が支配する。
そして。
ピシリ、と虚空が再びひび割れた。
(……そこだっ!)
杏華はその罅に向かって石を投げつけた。
石が宙を飛ぶ最中、罅は亀裂となり、そこから隙間少女が顔を出す。
「いたいっ!?」
ごつん。
そんな鈍い音と共に、隙間少女の額に石ころが命中した。
当たったところは赤く腫れて、隙間少女は思わずそこをさする。
「何するのよ! 痛いじゃない!」
「あ、ごめんっ」
隙間少女が涙目で睨みつけるので、思わず杏華は謝った。
「じゃなくてっ」
しかし、すぐに気を取り直して、杏華は隙間少女を見据えた。
「あなたは、異空間から出る瞬間は外を確認できない。違う?」
「っ!? 何で分かったの!?」
隙間少女は驚愕の表情を顔に浮かべた。
「あなたは裂け目を通じて移動する時、一度異空間に入らないといけない。
でもその異空間から外の様子は確認できない。そう推測したの。
そしてその石ころが、その証拠」
ぴしっと杏華は隙間少女を指差した。
「あなたは、私が投げた石ころを避けられなかった!
その弱み、抜かせてもらうよ!」
杏華が宣言すると、周囲にビビビビビ、と広告のホログラムが無数に表示された。
『外の様子が分からない!』『お互いに不干渉!』『回避ができない!』
そんな風に、広告は隙間少女の弱点を喧伝した。
【透破抜き】。弱点を実証すると、広告のホログラムにより対象のユーベルコードを封じる事が出来る、杏華のユーベルコードだ。
「何よ……何なのよ……!」
石ころが当たった額を押さえながら、隙間少女はホログラムに圧倒される。
隙間少女は再び空間に亀裂を走らせて移動しようとする。
だが、その亀裂の上にも広告ホログラムが現れる。
亀裂を出現させるたびに、広告ホログラムが上書きしてくるのだ。
この状況に、隙間少女は焦りを隠せなかった。
自らの能力が、存在意義の一つが実質消滅しているのだ。
顔には冷や汗が浮かび、同時に青ざめていく。
唇は震え、かちかちと歯が鳴り始める。
それは、今まで自分より上の存在を知らなかった彼女には、慣れない感情だ。
即ち恐怖といわれる感情だ。
「な、なんで……! なんで……!?
わ、私はUDC……あなた達は人……!
何で、私の力が使えなくなるのよ! 怪異狩りって何なのよ!」
無数のホログラムに取り囲まれながら、隙間少女は叫ぶ。
「私たちは猟兵。UDCを成敗するためにやってきたの」
ホログラムの壁の向こうから、杏華は答える。
二人の少女は見つめ合う。
ホログラムの壁を挟んで。
隙間少女はふらふらとしながらも、しかし、まだ闘争心を失いきっていなかった。
「まだ、終わってない。逃げられなくなっただけで……私はまだ戦える!」
隙間少女は涙目になりながらも、叫んだのだった。
大成功
🔵🔵🔵
グルクトゥラ・ウォータンク
【アドリブ絡みOK】
おのれ、流行に敏感な最近の女子高生風UDCめ!二度とバズったファッション垢の丸コピコーディネートなど出来んようにしてやる!
【攻性電脳妖精多重召喚】発動!ヤバイ数の電脳妖精を投入して「LOVEサンダー」で相手を痺れさせるぞい!【先制攻撃】【マヒ攻撃】じゃ。自身は「バレットドネーター」を【武器改造】して非殺傷ゴム弾にした上で遠慮なく弾丸をばらまくぞい!一般人に当たったらごめんなさい!
ボールズも密かにばらまいておき、【罠使い】で催涙スプレーやグリースなどによる行動阻害じゃ。出来るだけ近付かず対処したいのう。
次からはお洒落系怖い話になって愛されモテカワUDCにでもなることじゃな!
霧生・柊冬
この人が…今回の事件の黒幕。噂を流した本当の犯人…。
その恐怖が色んな人達を危険に晒すなら、僕達で止めないと…ですよね。
直接的な戦闘はあまり得意ではないので、僕は皆さんの後ろに回りつつサポートしながら戦闘を有利に運べるようにします。
相手は空間の裂け目を作ることで移動したり、他社を召喚させたりすることができるみたいです。
【情報収集】で現れる空間の裂け目を読みつつ、次に相手がしてくるであろう行動をある程度予想してみましょう。
行動の際の隙を見て、【早業】と【2回攻撃】を兼ねた【初歩的な一筆】で相手にダメージを与えて動きを少しでも止めてみましょう。
※アドリブ、他猟兵との絡み歓迎
●ユーモア・メイカー!
「この人が……今回の事件の黒幕。噂を流した本当の犯人……」
他猟兵から回ってきた情報を確認しながら、霧生・柊冬は呟いた。
彼の前には、ぽわぽわと、ホログラム状のデータが映し出されていた。
そこに映るのは、赤いセーラー服を身に纏った女子高生だ。
どこからどう見ても、普通の女子高生にしか見えない。
しかし、その正体は『都市伝説』隙間少女というUDCなのだ。
「その恐怖が色んな人たちを危険に晒すなら、僕たちで止めないと……ですよね」
「全くじゃ!」
怒りに満ちた様子で柊冬に頷くのは、グルクトゥラ・ウォータンクだ。
彼もまた、ホログラムデータの隙間少女を見ていた。
「おのれ、流行に敏感な最近の女子高校生風UDCめ!
二度とバズったファッション垢の丸コピコーディネートなど出来んようにしてやる!」
なるほど、確かに隙間少女はオシャレなアクセをつけている。
現代に生まれた都市伝説らしい感性だろうか? いや、やはり丸コピか?
「そもそもこんな姿で恐怖をばら撒こうなどと言うのが甘い! 甘いわ!」
「けれど、この姿になってしまったからこそ、噂を流すという手段を取ったのかもしれませんよ」
校舎へと急ぎながら、柊冬とグルクは話す。
「この姿で隙間から現れても、余り怖くはないような気はします。
だからこそ、噂や都市伝説という回りくどい手段を使って、恐怖をばら撒きUDCを作ろうとしたのかも」
「ふむ……それは確かに道理かもしれんのう!
この姿で表舞台に出れば、ラブコメ系隙間女怪談待ったなしじゃろうしな!」
「UDCとのラブコメですか……物語としては面白いかもしれませんね」
微笑みながら、柊冬は答えた。
しかし校舎の中に足を踏み入れると、二人は真面目な顔に戻った。
ここには件の隙間少女が居るのだ。何が起こるかわからない。
だからこそ二人は警戒しながら、校舎の中を進んでいく。
グルクはこっそりとボールズを召喚し、催涙スプレーなどの非殺傷武器にしていく。
柊冬は、不思議な力を秘めた万年筆『Scar:let』を取り出し、辺りを警戒する。
そして二人は、ようやく見つけた――。
――広告のホログラムに取り囲まれた、隙間少女を!!
『移動中に外は見られない!』『回避できない!』『異空間は移動だけ!』
そんな弱点を喧伝するホログラムが、隙間少女を取り囲む。
「ハァ……ハァ……まだ、まだ私は戦える……!」
そう言う隙間少女は、涙目だった。
「さては、既に大分絞られたのう? 隙間少女ちゃん?」
「涙目だ……予知では笑っていたのに……」
二人は隙間少女を見て、思わず呟いた。
予知や送られてきたデータから受ける印象とは、大幅な乖離があった。
前情報ではお高くとまったナマイキ女子高生、或いは底知れぬ悪意を抱えた少女型UDC、そんな感じの印象を抱いていた。
しかし今はどうか。
自分より強いモノが居る事を知り、能力を封じられ、困り果てたUDCがそこに居た。
「絞られてない! 私はまだ能力を一つ封じられただけだもの!」
隙間少女は涙目で叫ぶが、もはや強がりにしか聞こえない。
「見たところ移動が封じられてますね。となると、今の彼女は逃走手段がありません」
「良し! ならばたっぷりオシオキしてやるとするかのう!」
グルクの言葉に、柊冬はボールズの影へと退避した。
「行くぞい電脳妖精たち! ガッツリ電圧あげとるからの、電撃で焼き鳥になりたくなければ降参した方がいいぞい!」
グルクの言葉が終わると同時に、周囲の空気がかき乱され始めた。
「な、何? 何か居るのに、見えない……!」
もはや怯えを隠せなくなった隙間少女は、虚空に亀裂を走らせようとした。
しかし。
「あ、ああああっ、し、痺れる!?」
「LOVEサンダー!」
隙間少女は見えない何かの攻撃を受け、びりびりと痺れてしまった!
グルクのユーベルコード、【攻性電脳妖精多重召喚】だ!
今この戦場には、目に見えない速度で動く400体の電脳妖精が飛び交っているのだ!!
「まだまだ終わらんぞい、ほれゴム弾じゃ!」
今度はグルク自身の持つバレットドネーターから無数の弾が飛び出た!
バラタタタタタタタ!! と飛び出したるは非殺傷ゴム弾!
「いたいっ、いたいっ!!」
隙間少女は腕で頭を守り丸くなる。
しかし突如として空間に亀裂が入り、人が何人も現れた。
今まで隙間少女が異空間に捕らえていた、一般人たちだ!
「お、おう!? 弾は急には止まらない!!」
グルクは即座に射撃を止めたが、しかし弾の幾つかは一般人に命中した。
だが大丈夫。非殺傷ゴム弾だ。
一般人は特に目立った傷を負う事も無かった。
「いきなさい、あなた達! 怪異狩りだろうが猟兵だろうが、一般人は襲えない!!」
隙間少女は一般人の影に隠れて、再び亀裂を走らせようとする。
しかし、今度は宙に描かれた光の軌跡が、彼女の手を止めた!
「その証拠には触れさせませんよ……!」
放ったのは柊冬。
これは彼のユーベルコード、【初歩的な一筆】だ。
万年筆を向けた相手に、光の軌跡で攻撃を行ったのだ!
「さてボールズくんたち、行っておいで」
そして柊冬は、グルクのボールズたちに声をかけた。
それを理解したのか、ボールズたちは前に出て、武器を構えた。
そこから発射されるのは、催涙スプレー!
プシュウウウウウウウ!! と催涙スプレーが一般人に襲い掛かった!
「うわああああ、目が痛い!」
「な、何だこれはァ!?」
召喚された一般人たちは、催涙スプレーの一撃を受け、目を押さえて転がり始めた。
滂沱の涙を流す者もいれば、ずびずび鼻水塗れになる者もいた。
しかしその結果、一般人は無傷ながら無力化されてしまった!
「な、何……なんで、傷一つないのに……!」
一般人は襲えないから、盾になる。
そう思い込んでいた隙間少女は、がくんと膝をついた。
非殺傷武器だけで完封されるとは、夢にも思っていなかったのだ。
「っくうううううう!! もう嫌だ!!」
隙間少女はとうとうキレた。怒り心頭、怒髪天を衝く勢いだ。
自分より強い人たちが現れて。
自分の策が何から何まで完封されて。
何より彼女のプライドがけちょんけちょんにされて。
彼女はキレた。ブチギレだ。
「もう全部ぶっ壊れちゃえ! くふふふっ、最初からそうしてしまえば良かったのよ!」
隙間少女は、蜘蛛の巣のように空間の裂け目を放ち始めた。
がたがたっと空間に亀裂が入り、床も窓も壁も、揺れて割れていく。
「敵も味方も世界も、みんなみんなみんな……!!
全部全部ぶっ壊れてしまええええええええええええ!!」
隙間少女は叫んだ。
亀裂が入り壊れゆく空間の真ん中で、無数の感情を込めて叫んだ。
「キレましたね」
「キレたのう。キレる若者じゃ」
柊冬とグルクは顔を見合わせた。
そして、持てる力を持って、隙間少女を止めにかかった。
「ボールズ! 妖精たち! やるぞい!」
グルクはボールズと妖精たちに指示し、全力で攻撃を命じた。
電撃と催涙スプレーと非殺傷ゴム弾が、弾幕となって隙間少女に殺到する!
「もう一度……その証拠には、触れさせません!」
柊冬は再び万年筆を向け、ユーベルコードを展開するため詠唱した。
描かれた光の軌跡が、間違いなく隙間少女へと飛んでいく!
「あっ……あああああああああ!!」
ドウン、と爆発にも似た勢いで攻撃を叩き込まれた隙間少女は、倒れた。
空間に生じていた亀裂は消え、元通りとなっていく。
「ふう、危ないところでしたね……一般人に被害が出るところでした」
「出なかったからセーフじゃな。全く、人騒がせな奴じゃ」
柊冬とグルクは、倒れた隙間少女へと近づいた。
隙間少女は、受けた攻撃で凄まじい恰好になっていた。
髪は電撃でチリチリに。
服は非殺傷ゴム弾でくしゃくしゃに。
リボンは光の軌跡で形は崩れ。
そして少女の顔は、催涙スプレーでぐずぐずになっていた。
「うっうっうっ……何なのよぉぉぉぉぉ」
催涙スプレーだけではない涙が、ボロボロと零れ落ちていく。
もう彼女のプライドはバキバキに砕けていた。
戦闘する意思も何もないだろう。
「ううう……もうやだあ
…………」
「全く。嫌なら最初からせんことじゃ。
次からはお洒落系怖い話になって愛されモテカワUDCにでもなることじゃな!」
「親しみある話なら、別に咎める理由は無いでしょうからね。
人を襲わなければそれで万歳、なのですが」
グルクと柊冬は顔を見合わせ、微笑んだ。
「さて、後はUDC組織に報告かのう。一般人やら何やらは、流石にわしらじゃどうしようも出来ん」
「そうですね。僕は彼らの仕事を手伝ってから帰ります」
「……うぅ……ぐすっ……ぐすん」
こうして、奇妙な噂の事件は解決した。
噂語りも、主犯の隙間少女も、UDC組織に引き渡された。
彼らは然るべき処置をされ、然るべき対処法を以て収容されるだろう。
小さな噂から始まる恐るべき未来は、猟兵たちの手で摘み取られたのだ。
大成功
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