●
異変は、ある冬の朝に起こった。
気づいたのは近江屋の丁稚、重助である。昨夜蔵の鍵をかけ忘れたことに気づき、彼は目覚めるとすぐに蔵に駆けつけたのであった。
「大丈夫だよな」
重助は年のために蔵の中を確認しようとした。が、扉が開かない。いくら力をこめようと扉はびくともしなかった。
「誰か中にいるのか? もしや――」
盗人かと思い、重助は息をひいた。が、違うと思い直した。
もし盗人なら昨夜のうちに蔵の中のものを盗んで逃げてしまっているはず。蔵の中にいるはずがなかった。
それでは誰だ。蔵の中に潜んでいるものは。
「妖かも」
重助は、ふと呟いた。急に冬の冷気の冷たさが増したようだ。
何かが蔵から覗いている。そのような錯覚にとらわれて怖くなり、重助は番頭に知らせるべく駆け出していった。
●
「サムライエンパイアに赴いてほしいの」
グリモアベース。女がいった。まるで夜が凍結したような妖しく美しい少女だ。名をシモン・ブリリアント(ダンピールの剣豪・f11966)という。
サムライエンパイアとは島国で、関ヶ原の戦いで戦国時代が終わったばかり。現在は江戸幕府が治めている。治世者は将軍で、名を徳川家光といった。
首都は江戸。その江戸の近くには様々な宿場町があった。
「事件はそこで起こったの」
近江屋という反物問屋。その蔵に何者かが潜んでいるらしい。
「状況から考えて盗賊であるとは考えられない。不逞浪人か魑魅魍魎に妖怪変化。考えられることは色々あるわ。代官に届けようとも思ったらしいのだけれど、たいしたことがなければ騒ぎを起こした不届きとばかりにお仕置きを受けるかもしれず。また、もし潜んでいるものが魑魅魍魎であったなら、人の手ではもうどうしようもない。それで途方にくれているらしいの」
蔵の中を調べてちょうだい。そう、シモンはいった。
「事が終われば笑い話ですむようなものでしかないのかもしれない。けれど、私にはどうもそのようには思えないの。何が大きな闇が背後で蠢いているような……手遅れにならないうちに事件を探って」
シモンはいった。
雪村彩乃
紫村ともうします。
今回はサムライエンパイアに赴いていただきます。
場所は近江屋の蔵。何が中に潜んでいるのかわからないので、慎重に行動する必要があります。
商売ができなくて困っているので、近江屋を助けてあげてください。
第1章 冒険
『天岩戸』
|
POW : 蔵の扉をこじ開ける
SPD : 扉以外の蔵への侵入方法を探す
WIZ : 店の者や蔵の中の者から情報を得る
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
モモイ・ヴァライス
【ワイルドハント】
【WIZ】
分からぬことがあるというのは据わりの悪い。しかし箱を開ける前に中身を探る事もできるかもしれんな。
使用人に探りを入れ、【誘惑】してみようじゃないか。才気のありそうなお方でいらっしゃる等の世辞であるとか、怪我人があると聞けば【生まれながらの光】で治癒をする等で恩を売る最中にも、【催眠】で此方への信用度を少し上げさせてから本題に入る。
「私はね、一介のまじない師の狐なのだ。猟兵でもあるので幕府からの書状も賜っている。……この所、妙なことがありはせなんだか。大事になる前に話してみないか。どうも仕事も捗らぬようだし」と持ちかけて、蔵に纏わる話を重点的に掘り下げていこう
「分からぬことがあるというのは据わりの悪い。しかし箱を開ける前に中身を探る事もできるかもしれんな」
そう呟くと、妖艶かつふてぶてしい様子の女は近江屋の暖簾をくぐった。
モモイ・ヴァライス(日曜日よりの使者・f04217)。妖狐である。
近江屋の主人に会いたいと告げると、すぐに小太りの男が出てきた。主の惣兵衛だ。
ややあってモモイは奥座敷に通された。猟兵のことは知っているらしい。
「私はね、一介のまじない師の狐なのだ。猟兵でもあるので幕府からの書状も賜っている」
モモイがじいっと惣兵衛の目を見つめた。その金茶の瞳が金色に光る。催眠だ。
強ばっていた惣兵衛の顔がわずかに緩んだ。そう見てとったモモイが問う。
「……この所、妙なことがありはせなんだか。大事になる前に話してみないか。どうも仕事も捗らぬようだし」
「妙なことといわれましても」
惣兵衛は声を途切らせた。嘘をついている様子はない。本当に心当たりはないようであった。
「私どもにも店にも何も。ただ……」
「ただ? なんだ?」
「近在の村のことで」
惣兵衛は苦く笑いながら続けた。
「祟りがあるというのです」
「祟り?」
モモイは眉をひそめた。祟りなど俄かには信じられぬ話である。
が、一笑に付すことはできなかった。サムライエンパイアは魑魅魍魎の跋扈する世界なのだから。
「はい。噂ですが」
「噂、か。で、どのような祟りなのだ?」
「詳しくはわかりません。ただ、これも噂なのですが、村が幾つも滅んだとか」
「祟りで村が滅ぶ、か」
モモイの瞳がぎらりと光った。
大成功
🔵🔵🔵
白斑・物九郎
【ワイルドハント】●SPD
「やり慣れないな」と言いつつ、その流れるような手練手管は何事ですかよ……?
ま、モモイのババアの相変わらずの狐ッぷりはさておき
そしたら俺めはモモイが情報収集してる間、分身(色白カラー)と二人がかりで蔵の周りを練り歩いて――俺めの方は時計回りに半周、分身の方は反時計周りに半周――何かしら目に付くようなモンか【野生の勘】が疼くトコでも無いか探ってますわ
●イケそうな窓の有無
●地下道が通ってたりしないかとか
何かしら発見成果があってもまだ手は出さないどく
まじない師の弟子のフリでもして後程モモイと合流、情報交換
情報集約結果から、ここぞと思われる所を勘がより疼いた順に改めて掘り下げる
赤倉・杏奈
魑魅魍魎ねぇ。本当にそうだったら、さっさと何とかしないとね。
ハズレならハズレで、世は事も無しってやつ?
とは言っても扉が開かないとどうしようもないよねー。
扉叩き切るのも手だけど……それは最後の手段ってことで、まずは【扉以外の蔵への侵入方法を探す】かな。
窓とか床下とか、探してみよっと。
神守・鈴音
慎重に行くならまず店の者に蔵には何があるかを聞いておく。後は蔵に何かいると察した後、蔵から何か聞こえたりしないか、店の物が無くなったりしていないか、おかしなことが他になかったかを聞いておこうかのぅ。
蔵の中にいるのが生き物ならば、店から食料を取っているかもしれん。後は…そうじゃな。まずないとは思うが蔵の中に声をかけてみるかのぅ。適当に「誰かおるのかー?」と扉を開けずにな?
「やり慣れないな、とか言いつつ、あの流れるような手練手管は何事ですかよ……?」
野生の猫を思わせる少年が、ふん、と鼻を鳴らした。
白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。キマイラの少年だ。
「ま、モモイのババアの相変わらずの狐ッぷりはさておき」
物九郎は蔵に目をむけた。見たところ、不審なところは何もない。しんと静まり返っていた。
「魑魅魍魎ねぇ。本当にそうだったら、さっさと何とかしないとね。ハズレならハズレで、世は事も無しってやつ?」
蔵を見つめたまま赤倉・杏奈(妖狐の妖剣士・f04209)はいった。天真爛漫という言葉が似合う快活そうな少女である。モモイと同じ妖狐であった。
「この蔵じゃが」
三人めの猟兵が口を開いた。神守・鈴音(妖狐の人形遣い・f13791)というのだが、年齢は三十五歳。が、冷たい風に白い髪をさらりとゆらせたその姿は少女にしか見えなかった。
妖狐である鈴音は、さきほど店の者から聞いたことを口にした。
「中には反物か千両箱がしまってあるらしい」
鈴音は蔵に近寄った。耳を澄ませる。蔵からは物音がしないと店の者はいっていたが――。
「確かに物音はしないのう」
「だよね」
杏奈が蔵の戸に手をかけた。力を込める。が、戸は開かなかった。
「扉が開かないとどうしようもないよねー。扉叩き切るのも手だけど……それは最後の手段ってことで、まずは扉以外の蔵への侵入方法を探す、かな」
「それしかなさそうじゃが」
うなずくと、鈴音はどんと戸を叩いた。
「誰かおるのかー?」
大声で鈴音が呼びかけた。
刹那だ。もぞり、と何かの気配が動いた。はじかれたように三人の猟兵たちが顔を見合わせる。
「やはり、中に何かが潜んでおるようじゃの」
「みたいっすね」
物九郎は蔵の上部に目をむけた。小さな明り取りの窓がある。
物九郎は窓に飛びついた。中を覗き込む。が、暗くて何も見えなかった。
「蔵の外を調べてみるっす」
窓から降りると、物九郎はいった。
次の瞬間だ。異変が起こった。もう一人の物九郎が現出したのである。違いは色白ということくらいで、他はそっくりであった。
二手にわかれると、物九郎は蔵の周囲を歩き出した。壁を調べる。
漆喰の壁は古いものの、異常はなかった。侵入できそうな穴などはなかった。
「ここにも何もないよ」
床下から杏奈がもそもぞと這い出してきた。艶やかな黒髪に蜘蛛の巣がからみついている。
「そうなると、やはり戸を破るしかなさそうじゃの」
鈴音が蔵の戸を見つめた。
戸を破ることなど、猟兵たる彼らにとっては造作もないことだ。問題は、その後であった。
蔵に潜むもの。それは鬼であるのか蛇であるのか――。
三人の猟兵たちは蔵の戸を蹴り破った。爆発的な衝撃に戸が吹き飛ぶ。差し込む陽光に、もうと舞う埃が見えた。そして――。
蔵の奥。人の姿があった。
十人近い女だ。若い。十代後半といったところか。怯えているのか、抱き合うようにして身を縮めている。
「出たのは娘っすか」
物九郎が目を丸くした。
「逃げてきたのです」
娘の一人がいった。春菜という名の娘だ。
先日のことだ。村の矢文が射込まれた。娘を生贄と差し出さねば祟りがある。文には、そう書かれていた。
無視した村は滅びた。従った村は残った。だから村は年頃の娘を生贄にしようとした。
しかし、娘たちの親は逆らった。密かに娘たちを逃がしたのである。
「宿場まで逃げてきました。でも、これからどうしてよいかわからず……怖くなり、蔵の中に隠れたのです」
春菜はいった。そして、助けてください、と懇願した。涙を目にためて。
「祟りが……落ち武者の亡霊が襲ってきます」
娘たちのすすり泣く声が蔵の中に響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『落武者』
|
POW : 無情なる無念
自身に【すでに倒された他の落武者達の怨念】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 欠落の決意
【武器や肉弾戦】による素早い一撃を放つ。また、【首や四肢が欠落する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 妄執の猛撃
【持っている武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
神守・鈴音
(・・・とりあえず蔵の前で戦闘始める事にならんで良かったのじゃ)
あらかじめ敵と戦う場所を決めておかねば。最初から都合よく周りに家等無い所で戦えれば上々じゃな。
「わしはか弱い故、誰か守ってくれると助かるんじゃが?」
といいつつフォックスファイアを出せるだけ出して、味方の攻撃チャンスを作れるようにそれぞれ別の敵へぶつける。後は弱り方を見て一番元気そうな奴に全部合体させたフォックスファイアをぶつける。
「簡単にやられるわしではないぞ?」
寄ってきた敵にはからくり人形に持たせたなぎなたでのなぎ払い。
「祟りか…。村をいくつも滅ぼすような物は聞いた事がない気がするのぅ?なんにせよ元を断つ必要はありそうじゃな」
白斑・物九郎
【ワイルドハント】
潔く腹も斬れずに娑婆をウロ付いてやがるってんなら、今ココでその首だけ介錯してやりまさァ
●POW
モモイの前衛へ立つ
蔵や商品に飛び火でもして商売出来なくさせちまってもなんですしな
まずは敵群を表に引き付けまさ
【獣撃身・黒】
足すことの、胴・四肢・爪・牙・尾・眼光に炎を纏う【属性攻撃】
罪人の骸を地獄に運ぶならこいつが一番ですわ
魑魅魍魎にゃ魑魅魍魎
これぞ化け猫・火車モード
片ッ端からブチ殺してやりまさァ
(【野生の勘】を滾らせた巨大な化け猫姿で【グラップル】
モモイに伸びそうな敵攻撃は胴でも尾でも使ってガード)
首を介錯って言いましたわな
ありゃ嘘でしたわ
面倒ですしこのまま荼毘に付してやりますでよ
モモイ・ヴァライス
【ワイルドハント】
なるほどねぇ、大体得心は行った。大体はね?
しかし幾つも村を潰すとなると……おそらくまだ役者が出揃ってないな。
●WIZ
私は争いに向かんのだが、白斑君の後ろから援護することにしよう。
深い穴を掘る体力はないが、荼毘に付すことと祈ることくらいはできる。
敵以外に延焼させぬように加減しながら【フォックスファイア】でもってじわじわと落ち武者を焼きつつ、
【祈り】と【呪詛耐性】で陰ながら白斑君を守り、【鼓舞】しよう。荼枳尼天の加護ぞある。
「ふふ、格好いいぞ白斑君。いいねが稼げてしまうなあ」
取りこぼし程度はフォースセイバーの【2回攻撃】で片付けるとも。
魂諸共綺麗さっぱり焼き清めてやろうぞ。
赤倉・杏奈
何が出るか分からない、なんてのに比べれば気は楽だけど。
その落ち武者の亡霊ってのは、どんだけ強いのかしら。
まぁ、戦えば分かる話か。
真剣勝負も悪くないけど、まずは炎で様子見!
って言うか亡霊なんて火葬よ火葬!
出せる全部の狐火を一つに束ねてぶつけてやるわ!
月のない夜であった。
ねっとりとした濃い闇が村を包んでいる。村人たちは戸をかたく閉ざして息をひそめているようだ。
「……とりあえず蔵の前で戦闘始める事にならんで良かったのじゃ」
巫女のものに似た衣服をまとった、十代半ばほどに見える女が独語した。人間ではない。妖狐であった。名を神守・鈴音(妖狐の旅芸人・f13791)という。
「落ち武者の亡霊ねえ」
ふふん、女が笑った。モモイ・ヴァライス(日曜日よりの使者・f04217)という名のもう一人の妖狐である。が、印象はまるで違った。鈴音にはどこか謎めいた厳かな雰囲気があるが、モモイにはあるのは幻想的な妖しさである。
「なるほどねぇ、大体得心は行った。大体はね?」
「大体?」
聞き咎め、白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)という名の少年は、浅黒い生意気そうな顔に訝しむ表情をにじませた。
「大体ってのはどういうことっすか。祟りの正体は落ち武者の亡霊で、そいつらを叩き潰せば事は終わるはずっすけど。違うんすか?」
「矢文さね」
モモイはいった。
矢文で生贄を要求するとは随分人臭いやり口である。亡霊にはできない。
「おまけに、そいつらは幾つも村を潰している。と、なると……おそらくまだ役者が出揃ってないな」
「黒幕がいるってことっすか。なあるほどね」
物九郎の金色の瞳が妖しく光りだした。かれは猫のキマイラであるのだが、その様子は黒豹を想起させる凄みがある。
「が、まあ、とりあえずは亡霊どもの始末っすね」
そう物九郎がいった時だ。彼は背を冷たい手が這うような寒気を覚えた。はじかれたように振り返る。
「出たようね」
あっけらんかんとした声音で女はいった。
三人めの妖狐。年齢は十七歳ほどで、好奇心で紫瞳をきらきらと輝かせている。
少女――赤倉・杏奈(妖狐の妖剣士・f04209)の眼前、闇の奥に青白く浮かび上がっているものがあった。
鎧をまとった武者。亡霊だ。手に刀を掴んでいた。
●
「何が出るか分からない、なんてのに比べれば気は楽だけど……。その落ち武者の亡霊ってのは、どんだけ強いのかしら。まぁ、戦えば分かる話か」
杏奈から十を超える数の赤黒い炎の塊が噴出した。狐火である。
闇を灼いて疾ったそれは空で融合、さらなる巨大な狐火となって亡霊を飲み込んだ。
おおお。
亡霊が怨嗟の声を発した。恐るべき火力により、さしもの亡霊も霊体そのものの構成を解かれてしまう。
「やっぱ亡霊は火葬よね!」
ニッと杏奈が笑った。
刹那だ。ぬうっと亡霊が彼女の眼前に迫った。
あっ、と杏奈が思った時は遅い。亡霊の刀が杏奈を袈裟に斬り下げた。血煙に包まれた杏奈がよろめく。
ニィと、今度は亡霊が笑った。再び刃を振り上げる。そして杏奈めがけ――。
ズズン。
衝撃が地を揺らせた。火をまとった巨大な猫の前足が亡霊を叩き潰したのである。
「これぞ化け猫・火車モード。片ッ端からブチ殺してやりまさァ」
巨大な猫がいった。声は物九郎のものだ。
「ふふ、格好いいぞ白斑君。いいねが稼げてしまうなあ」
ひらひらと手を振りながら、モモイが笑いかけた。褒めているのか、からかっているのか、良くわからない。が、態度は不真面目でも、その目は油断なく亡霊の姿をとらえている。
「ハッ!」
モモイは狐火を放った。乱れ飛ぶ炎が亡霊を灼く。が、ばらまく狐火では止めは刺せなかった。
次の瞬間、ひゅうと風が鳴った。虎落笛のごとき音を発しつつ疾った衝撃波がモモイを襲う。
ビシィ。
鼓膜を鬱な音が響いて、物九郎の腹が裂けた。モモイを庇い、亡霊が放った衝撃波を受け止めたのである。
「わしもか弱い故、誰か守ってくれると助かるんじゃが?」
軽口を叩きつつ、鈴音もまた狐火を放った。十四に別れた炎塊をあわせ、一体の亡霊を灼き尽くす。
刹那、炎を割ってするすると滑るように亡霊が鈴音に迫った。刀が炎の光をはねる。
ギィン。
横からのびた刃が亡霊のそれを受け止めた。
刃は薙刀のものであった。携えているのは――おお、人形だ。
「そういえば、わしにも守ってくれる者がおったのう」
鈴音の指が動いた。すると人形が亡霊の刃をはじいた。驚くべきことに、鈴音は十指につけた糸を操り、人形を自在に動かすことができるのだった。
次の瞬間だ。火柱が立ち上った。葬送の炎のごとく亡霊を燃やす。
「おしまいよ。心残りなんかないようにみんな焼き尽くしてあげるわ」
杏奈が血笑を顔にうかべた。
異変に気づいたのは、やはり獣の感覚に優れた物九郎であった。
亡霊が滅んだ後、走り去る人影が一つ。その後を追って物九郎は走った。
やがて人影は豪壮な屋敷にたどり着いた。木戸をくぐれ、中へ。
「ここは――」
屋敷を見つめ、物九郎は声を途切らせた。
「お代官様」
声がした。物九郎が追っていた人影が発したものだ。すると寝屋で男がむくりと身を起こした。でっぷりと太った脂ぎった男である。名を田代甚兵衛という。横では若い娘が死んだように横たわっている。
「村は始末したか?」
「しくじりました、邪魔がはいって」
「なんだと」
甚兵衛は怒声を発した。妖気のごとき殺気がその身から漂い出している。
「今まで亡霊どもを使い、上手くいっていたのに……ええい、わしの邪魔はさせん」
甚兵衛は唸った。黒幕は彼であったのだ。
彼は好色であった。祟りと称して集めた女は地下牢に閉じ込めてある。飽きたので色里にでも叩き売るつもりであった。
「邪魔者め。きっと始末してくれる」
甚兵衛はいった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『悪代官』
|
POW : ええい、出会え出会えー!
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【部下の侍オブリビオン】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
SPD : 斬り捨ててくれる!
【乱心状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ : どちらが本物かわかるまい!
【悪代官そっくりの影武者】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
白斑・物九郎
【ワイルドハント】
巣は割れた
後は狩るだけですわ
●POW
湧いて出る敵勢は【野生の勘】で警戒しつつ、屋敷へ真っ向乗り込まん(先制攻撃)
格闘(グラップル)
得物は鍵束ナックルに鍵型メイス、【クイックドロウ】で操る拳銃
そこいら辺の地形や調度で、石灯籠でも火鉢でも(地形の利用)
使える技・物、目に付く物、なんでも駆使して片ッ端からブチ殺してやりまさァ
額刻印が「1」の輩は回数重視で
回数重視で一撃一殺が取れない域の数字の手合いは、命中重視で下肢を潰してから攻撃力重視で心臓か頭蓋をブッ潰してやりまさァ
地下牢の様子見はモモイに任せまさ
あの手の対処は野郎よか同性が行っといた方が無難でしょうし、何より得意そうですしな
モモイ・ヴァライス
【ワイルドハント】
天下自在符を取り出し
「やはり黒幕が居たようだな。貴様の企み、お天道様が見逃しても我ら猟兵は見逃さんぞ。神妙にそこになおれ」
などと見得を切りたくもなるよね。お約束として。
●WIZ
【誘惑】で「こいつは生け捕りにする」と思わせたい。殺すより手間もかかるだろう。
この人数だ、白斑君の背後を守り【鼓舞】しつつ【2回攻撃】やら【全力魔法】で兎に角敵の数を減らし、味方のダメージが蓄積されてきたら【生まれながらの光】でもって回復していく。
カタがついたら捕まった乙女たちを助けに行くとしよう。
「助けに来たよ。怪我などしていないか?」
【存在感】を出しつつ【救助活動】、ケガをしてたら回復等。
赤倉・杏奈
蓋開けてみたら悪代官とか。
亡霊だ落ち武者だ言ってたときの方がまだワクワクがあったや。
「まぁ、逃がす気も許す気もないんだけどね?」
妖剣解放、一気に行くよ。
ただの脂ぎった男だったら私を捕まえられるとは思わないけど、
この人、殺気は凄いし、油断してると足元すくわれるよね。
斬撃と衝撃波とフェイントをおりまぜて、相手を撹乱しつつ確実に当てていく!
少しでも隙を見せたら、バッサリいきたいな。
神守・鈴音
この紋所が目に入らぬかーとかやりたい者はおる?
・・・冗談じゃよ?
「典型的な悪代官じゃなぁ。・・・過去にこんな奴がおったのか」
人形を前に出し薙刀のリーチを生かして先制攻撃。
「馬鹿者が。本物と偽物。両方同じ場にいるならばどちらも攻撃すればいいだけじゃ」
フォックスファイアを両方にぶつける。もしくは人形に持たせた薙刀でのなぎ払い。
強力な一撃が来そうなのを察したら人形でかばい武器受けで何とか止めようとするかの。
月のない夜であった。
濃い闇に紛れて、四つの影が塀を躍り超えた。音もなく着地。広い中庭を疾風のように走り抜けると、雨戸を蹴り破り、豪壮な屋敷内部に飛び込んだ。
「何奴じゃ!」
廊下の奥から誰何の声が響いた。
「そこっすか」
ニヤリと浅黒い肌の少年が笑った。野良猫のような物騒な笑みだ。
白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。キマイラの猟兵であった。
「蓋開けてみたら悪代官とか。亡霊だ落ち武者だ言ってたときの方がまだワクワクがあったや。まぁ、逃がす気も許す気もないんだけどね?」
同じく猟兵である赤倉・杏奈(妖狐の妖剣士・f04209)がつまらなそうに鼻を鳴らした。そして、妖狐であるその少女は腰におとした刀の柄にすうと手をかけた。怨嗟により使い手の命を縮める、呪われた妖刀である。
すると廊下に男が姿をみせた。でっぷりと太った脂ぎった男である。
「曲者ども。ここを代官である田代甚兵衛の屋敷と知っての乱入か?」
「そうじゃよ」
巫女姿の女がうなずいた。少女のように見えるが、態度は落ち着いており、堂々としている。
「典型的な悪代官じゃなぁ……過去にこんな奴がおったのか」
女――神守・鈴音(妖狐の旅芸人・f13791)が呆れたように苦笑した。
「この紋所が目に入らぬかーとかやりたい者はおる?」
「ここにいる」
ふふん、とふてぶてしく笑うと、モモイ・ヴァライス(日曜日よりの使者・f04217)は左手で帽子のつばをついと上げた。そして右手で天下自在符をかざす。
「やはり黒幕が居たようだな。貴様の企み、お天道様が見逃しても我ら猟兵は見逃さんぞ。神妙にそこになおれ」
モモイは甚兵衛を睨めつけた。
「ううぬ」
怒りに甚兵衛の顔が歪んだ。
「うぬらか。ようもわしの邪魔をしてくれたな。ええい、出会え出会えー!」
甚兵衛が叫んだ。すると甚兵衛の背後に幾つもの影が浮かび上がった。
帯刀した侍だ。硬玉のような目をしており、額に壱や弐という文字が刻印されている。
「わらわらと面倒なことじゃの」
鈴音の指が動いた。すると彼女の傍らに佇んだ女がすうと薙刀を薙ぎつけた。
無表情だが美麗な面。身形は女武者だ。が、女は人間ではなかった。十指に繋いだ糸により鈴音が操るからくり人形であった。
薙刀の一閃。袈裟に斬られた侍が消滅する。物九郎は空間から掴みだした巨大な鍵で殴りつけた。杏奈はたばしらせた刃で袈裟に侍を切り捨てた。
「ええい、何をしておる。早く始末せんか!」
甚兵衛が叱咤した。その怒声にはたかれたように侍たちが襲いかかる。
が、その攻撃を薙刀ではじき、あるいは猫族の身軽さでくぐり抜けて打ちのめし、または刃の一閃で斬り下げ、猟兵たちは侍たちを屠ってのけた。
「やはり雑魚は雑魚だね」
物九郎に迫ろうとした侍を十字槍状の光の刃――ガンドラ・ウェル、古エルフ語でいうところの『空からの贈り物』で切り裂いたモモイがふっと息を吐いた。
「雑魚は雑魚か。なるほどのう」
甚兵衛がニンマリと笑った。
●
「よかろう。ならば、わし自らが斬り捨ててくれる!」
甚兵衛の顔がどす黒く染まった。目が赤光を放つ。口からは黒霧のような瘴気の息が流れ出した。
「ぬっ」
杏奈が息をつめた。甚兵衛から放散される圧倒的な妖気のためだ。
「この人、殺気は凄いし、油断してると足元すくわれるよね」
「先手必勝じゃ」
鈴音が叫んだ。
刹那、からくり人形が動いた。薙刀の刃が行灯の光をはねて疾る。
ギイン。
甚兵衛の刀が容易く薙刀の刃をはじいた。のみならず、その勢いのままからくり人形を切り捨てる。恐るべき攻撃力であった。
「やってくれますね」
杏奈の身が黒い炎のようなものに包まれた。妖刀の怨念をまとったのである。
次の瞬間、杏奈の姿が消えた。一瞬で間合いを詰める。
はじかれたように甚兵衛が杏奈に向き直った。が、間に合わない。
「ぬんっ」
杏奈が舞わせた刃が甚兵衛を薙いだ。どす黒い鮮血がしぶく。
が、甚兵衛は倒れなかった。唐竹に杏奈を切り下げる。
「なんて化物だ」
戦慄しつつ、しかしモモイは冷静だ。闇を切り払う曙光にも似た眩い光を放ち、杏奈の傷ついた肉体を数瞬で再生する。
「があああ」
獣のように吼えると、甚兵衛は杏奈の眼前で刀を振り上げた。
「お前さんの相手はこっちっすよ!」
猫族特有の身軽さで物九郎は甚兵衛の背後に躍り上がった。渾身の力を込めて鍵を甚兵衛の頭蓋に叩きつける。ぐしゃりと甚兵衛の頭蓋が粉砕された。
「ううううぬ」
骨片と鮮血、脳漿をばらまきつつ甚兵衛は刃をはねあげた。物九郎を逆袈裟に斬り上げる。
「ええい。なんというしぶとさじゃ」
叫ぶ鈴音の頭上で小太陽ともいうべき巨大な炎塊が揺らめいている。幾つもの狐火を一つにしたものだ。
鈴音の手が甚兵衛を指し示した。炎塊が火流をひきつつ疾り、甚兵衛を飲み込む。
「やったかの。――あっ」
鈴音の口から愕然たる声が発せられた。炎が刃で切り裂かれたからだ。ぬう、と全身の皮膚を炭化させた甚兵衛が足を踏み出す。
「勝機だ。もうそいつは堕ちる!」
モモイは清浄なる光を放った。直後、がくりと膝をつく。とてつもない疲労感が彼女を襲っていた。
苦く笑うと、
「少し疲れたようだ」
「モモイ。後は任せろっす!」
「がああああ」
甚兵衛が無造作に刃で横薙ぎした。唸る刃は物九郎を切断し――いや、刃はそれた。空を裂いて翔けた衝撃波が甚兵衛の腕に炸裂したからだ。
「もう終わりにしよう。しつこい男は嫌われるよ」
妖刀を薙ぎ下ろした姿勢のまま、杏奈がニッと笑った。
直後のことだ。物九郎の鍵が再び甚兵衛の頭蓋を粉砕した。
「が……ああ」
甚兵衛の口から断末魔の呻きがもれた。もはやその目に光はない。
ゆっくりと。糸の切れた人形のようにどうと甚兵衛は倒れた。
地下に通じる隠し戸はすぐに見つかった。床の間の掛け軸の裏に隠されていたのである。
階段を降りたのはモモイであった。やや広い空間が蝋燭の淡い光に浮かび上がっている。
地下牢があった。襦袢一枚という無残な姿の娘たちの姿が見える。
モモイは唇を噛んだ。このような地獄で、いったいどれほどの間、彼女たちは耐えてきたのだろう。
「助けに来たよ」
モモイの声が、夜明けを告げる鬨の鐘の音のように響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵