羅針盤戦争〜七の王笏島決戦。無限の屍を超えて
●無限の屍
砂塵を巻き上げる風は黒かった。比喩的な表現ではない、真に黒い嵐が荒涼たる大地に鎮座している。
「汝らの王たる我、カルロス・グリードが命ずる。立て、新たなるコンキスタドールよ」
廃墟となったビルの屋上から黒い嵐を見下ろしているのは、この世界のオブリビオンフォーミュラーたるカルロス・グリード、その一形態だ。王の言葉に従うように黒い嵐の中からはい出てくる影がある。
それは、骨だけとなって尚欲望に支配された者達の骸。五体満足な者は少なく、ある者は右腕を失いながら残った左腕に曲刀を携え。ある者は失った片足の代わりに長い槍を支えに進む。下あごが無い者、頭が砕けている者もいる。現れる屍達は尽きることなく。砂の大地を埋め尽くしていく。
「聞け、コンキスタドール共。猟兵がこの七の王笏島にもやってくる。貴様らは迎え撃つのだ。その刃で猟兵共の心臓を貫け、その咢で喉笛を噛み切れ、殺せ。殺せずとも押さえつけよ、そうすれば私がオブリビオンストームの力で猟兵を斃そう。お前達も共に砕かれるかもしれないが恐れる事は無い。このオブリビオンストームの力を得ているわれが、そしてこの七の王笏島が健在である限り貴様らは不滅である!」
声なき歓声と共に骨のコンキスタドール達は拳を振り上げる。
●黒き嵐を超えて討て
「七の王笏島のカルロス・グリードとの決戦に向かわれる方はこちらへどうぞ」
真月・真白(真っ白な頁・f10636)はグリモアベースで呼びかける。猟兵達が集まったのを見て、真白は本体である本を開いて説明を始めた。
「カルロス・グリードを倒すには8つの本拠地を制圧する必要があります。今回の七の王笏島はアポカリプスヘルの力を具現化した本拠地です」
その為、この地にいるカルロス・グリードはオブリビオンストームを操れるのだという。それを用いて多数のコンキスタドールがこの島で生み出されていた。
「皆さんが向かえばカルロス・グリードは骨だけで動く屍のコンキスタドールの大群をけしかけるでしょう。それと同時に先制してユーベルコードを放ってきます」
つまり、猟兵達はコンキスタドールの集団と先制攻撃ユーベルコードの二つに対処しなければならない。
「屍のコンキスタドール達は、所持する武器も近接武器の刃物だったり、銃や弓矢のような射撃武器だったりと色々ですが、同時にその体も殆どが欠損や破損をしています。上手くやれば無力化は難しくないでしょう。そして先制攻撃ユーベルコードはこちらがユーベルコードを使うより早く撃たれてしまうのでそれ以外の対処法が望ましいと思います」
無論、自らが傷つくのを厭わず差し違える心算で攻撃することも不可能ではないだろう。だが一つの世界を滅ぼした力、オブリビオンストームを手中に収めたカルロス・グリードを決して侮るべきではないだろう。
「戦いもいよいよ大詰めと言った所です。敵にとって七の王笏島はコンキスタドールを増産する重要施設ですからしっかりと制圧をお願いいたします」
本を閉じると真白は深く頭を下げ、転送準備に取り掛かった。
えむむーん
閲覧頂きありがとうございます。えむむーんと申します。
戦争シナリオなので早い完結を優先し、全てのプレイングが採用出来ない可能性がある事をご留意ください。
●シナリオの概要
一章のみのボス戦。やや難です。
オブリビオンストームを操りコンキスタドールの集団を従えたカルロス・グリードと戦います。
●ギミック
敵は先制攻撃ユーベルコードを放ってきます。対策が無い限りは確実に攻撃されダメージを受けます。
また周囲には無数の骸骨コンキスタドールが蠢いています。襲ってくる彼らへの対処もあった方がよいでしょう。
これらの対処を行うことでプレイングボーナスが確実に発生します。
●合わせ描写に関して
示し合わせてプレイングを書かれる場合は、それぞれ【お相手のお名前とID】か【同じチーム名】を明記し、なるべく近いタイミングで送って頂けると助かります。文字数に余裕があったら合わせられる方々の関係性などもあると嬉しいです。
それ以外の場合でも私の独断でシーン内で絡ませるかもしれません。お嫌な方はお手数ですがプレイングの中に【絡みNG】と明記していただけるとありがたいです。
それでは皆さまのプレイングをおまちしております、よろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『七大海嘯『七の王笏』カルロス・グリード』
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POW : ティフォン・コンデンサシオン
自身の【制御下にあるオブリビオン・ストーム1つ】を代償に、【凝縮されたオブリビオン・ストーム】を籠めた一撃を放つ。自分にとって制御下にあるオブリビオン・ストーム1つを失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : ヴェルダデラ・トルメンタ
【オブリビオン・ストーム】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : プラン・デストルクシオン
【「『王笏』に仇為す者よ、砕け散れ」】という願いを【島内のコンキスタドール達】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
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名張・辿
偉く散らかしたようだが、死体の片付けは鼠の仕事の範疇だね、こっちも連れに手伝ってもらおうか
できるだけ窪地等を選んで地形の利用を図り、周囲の骸骨を挑発したうえで鋼糸の意図切糸で纏めて拘束、オブリビオンストームに対して敵を盾にする
そうやって骸骨に対応しながら、攻撃への防御を試みようかい
そうなってまで良いように使われるたぁ、惨めだね旦那方、なんて言えば通じるかねぇ
その後は隙を見て動物使いとして連れの“目付役”や鼠か、他の猟兵に頼んでカルロスまでこっそり走ってもらう
自身は骸骨を減らして防御に専念していると思わせて、鼠や味方がカルロスの傍まで辿りついたら【鼠回廊】で転移、鼠の群れに紛れて奇襲をしかけるよ
クルル・ハンドゥーレ
連携アドリブ歓迎
また衣装替えてるやん…着道楽なん?
ファッションショーは
骸の海でしとき
WIZ
クロムキャバリア搭乗
カルロスが願いを呼びかける間に
マヒ攻撃・毒使い・破魔・地面に叩き付けるべく吹き飛ばしをのせた範囲攻撃で
可能な限りコンキスタドールを掃討、賛同人数を減らす
敵UCは可能な限り見切り
私自身より「仇なすもの」として目立つキャバリアを囮にし武器受け・オーラ防御
UCで戦士召還
迷彩で彼等に紛れ忍び足・暗殺にて素早く死角つきカルロスに接近
フェイントで翻弄しマヒ攻撃・毒使い・鎧無視・破魔のせ攻撃
あちこちの世界で自分等の想いと力で世界の命運変えよいう私ら猟兵とあんたと
ほんまはどっちが欲張りなんやろね?
月影・このは
大量の躯の者たちを従える王
まさに悪の首領といったところでしょうか…
しかし、それでも負ける気はしません!
そう!この胸のオーラエンジンが熱く熱を生み出し続ける限り!
対ヴィラン用量産型戦闘ロボ518号!これより戦闘に入ります!!
レーザー照射機から放つ『レーザー射撃』
そして戦闘支援戦鳥機・月光の『援護射撃』(目からのレーザーにミサイルの『爆撃』)にて周囲の彼らを近づかれる前に倒していきます
UCはソリッド・モビリティ・デバイスのアンカーを地に打ち込み【捕縛】
姿勢を低くクリスタルウォール【盾受け・オーラ防御】にて耐えます…
嵐が過ぎたら後は晴れるだけです!
『エネルギーを充填した』オーラブラスター!これで!
●
赤茶けた大地の上を風が吹き荒び砂を運ぶ。遠目には何もないように見えるここも、足を踏み入れれば起伏に富んだ地形だ。もっともその起伏を産んだのは長い時間をかけた自然の妙技などではなく、人の業と欲が生み出した兵器の破壊力だったのだろう。
欲と業の残滓の中を、名張・辿(鼠遣われ・f04894)は足早に進んでいた。渡世人と呼ばれる人々が好む旅装束に身を包み、頭を隠して砂塵から守る。
やがて彼の眼前には禍々しい黒い嵐と、その周辺を埋め尽くす骸骨の大群が現れる。咄嗟に手近な窪地に身を潜める辿。その傍らを大質量の鉄騎が通り過ぎる。クルル・ハンドゥーレ(逆しまノスタルジア・f04053)が駈る人型兵器キャバリアだ。
「とんでもないのも出てきたなぁ。や~、おじさんには荷が重いねぇ」
砂塵を巻き上げて進む鉄の騎士を見送りながら独り言つ辿。だが彼は直ぐに自分の背後に冗談冗談、と手を振ると隠密接近を再開する。
「また衣装替えてるやん…着道楽なん?」
機械仕掛けの神の名を持つキャバリアの中で、望遠カメラを拡大して捕えたカルロス・グリードの姿に、クルルは何処か呆れたような声を上げる。この戦争において彼女は既に、別の島にいた別のカルロス・グリードと一戦交えているのだ。
「ファッションショーは骸の海でしとき」
染み一つ見えない白く美しい顔に乗せられた唇から紡がれた言葉の語気はやや強い。風がさらうがまま世界を放浪する彼女にとって、世界を害する存在に向けるべき好意等あるはずもない。
「現れたか猟兵! その鉄の鎧、手足を潰し貴様の棺桶にしてやろう!」
接近するクルルのキャバリアに気付いたカルロスは、両手を大きく広げると願う。そして周囲の骸骨達にも賛同させようとする。その数が多ければ多い程、王笏に仇為す者が砕け散る事を願う力は強まるのだ。
だが骸骨達が声なき声を上げる前に、手が残っているものがその手を上げるよりも早く、薄紅と白の花が咲き乱れる。その花々がふれると、その瞬間に骸骨達は、ぴったり動きを止める。次いで無数の符が、あでやかに赭い赭い花が漉き込まれた霊符が骸骨達に触れると、まるで操り人形の糸が切れたかのようにその場に崩れ落ち、砕け散る。
「賛同人数が多い程ええんやろ? なら可能な限り掃討したらええやん?」
マイペースなクルルの声に合わせてキャバリアが手にした薙刀を振るう。それはキャバリアの手には居笹垢小さなサイズ。けれどそれが振るわれる度に先ほどの花が咲き誇り、霊符が舞う。周囲の骸骨達が纏めてその動きを止めさせられ、骸を動かす魔の力を破壊され崩れ落ちる。
「おのれ……だが、遅いっ!」
獅子奮迅の働きで骸骨を減らしたクルルだが、それでも全てを倒しきれたわけではなく、カルロスの掲げた両腕の上には破壊の力が集まる。すると骸骨に向かって振るわれたキャバリアの右腕が、見えない何かに捕まれたかのように途中で止まり、間をおかずにひしゃげ捻じれ、潰れ、砕けた。
異常事態に思わず背後に飛び退ろうとするがその力を込めた足がひざの関節から引千切られ、キャバリアはその鋼の躯体を砂塵の大地に横たえた。
「囮作戦成功、と」
先ほどまでキャバリアの中にいたクルルの姿は、突き出したコンクリート壁の裏側にあった。自身の姿を見せずキャバリアのままで向かった事で、願いの対象である『仇なすもの』を目立つキャバリアに集中させたのだ。
その結果キャバリアは暴力にさらされ無惨な姿となった……だが、事前に骸骨を減らした事で願いの力は削がれ完全破壊は免れている。この戦いが終わった後回収して修理すれば再び使えるだろう。
また、自身は破壊されていくキャバリアから脱出し、破片などを武器で受け流しオーラで防御した事で完全に無傷だ。反撃する為のリソースは十分にある。
「幽世に過ぎ去りし耀きよ、」
クルルの口から紡がれる力ある言葉は、いにしえの戦士の幽霊達を呼び起こす。それぞれに魔剣や魔杖で武装した彼らと共に今度は砂塵に紛れる迷彩を行って、カルロスや骸骨達の目をかいくぐって進んで行くのだった。
「偉く散らかしたようだが、死体の片付けは鼠の仕事の範疇だね、こっちも連れに手伝ってもらおうか」
窪地等を活用してここまで敵に見つかる事無く進んできた辿は、無惨な姿となったキャバリアと破壊された骸骨達とそれを超える未だ健在な骸骨達、それらに周囲を警戒させているカルロスを、その鋭い黒曜の瞳で捉える。
「どこに隠れようと無駄だ周囲をまとめて吹き飛ばせばよいのだからな」
カルロスはそう言い放つと周囲に従えたオブリビオン・ストームの一つを巨大化させていく。嵐の中心にいるカルロスに変化はないが、黒い嵐に飲み込まれた骸骨達は一瞬で砕かれ雲散霧消していく。
「やれやれ敵も味方もお構いなしたぁ、旦那方は構わねぇのかい?」
隠れていても無駄だと姿を現した辿は周囲の骸骨達に言葉を投げかける。その挑発に殺到する骸骨達だが、辿に刃や弓矢が届く前に急に引っ張られるように一か所に密集うし動かなくなる。否、動こうともがくが動けない。見れば骸骨達をぐるりと取り囲むようにワイヤ―が巻かれている。恐らく獣の毛が材料であろうそのワイヤーは信じられないほどに固く、骸骨達を自由にしない。
ワイヤーの端を手に握る辿はまるで尻尾の様に器用に骸骨達を迫りくる嵐へと投げつける。
一集団では直ぐに塵と化す。二集団目、少し嵐の侵攻が遅くなった? 三集団目、辿の目の前で、骸骨達を飲み込みながらとうとう黒い嵐が消えていく。耐えきったのだ。
「そうなってまで良いように使われるたぁ、惨めだね旦那方、なんて言えば通じるかねぇ」
従う王に顧みられることなく、倒すべき敵である自分にいいように盾として使われ消えていく骸骨達を辿は複雑な表情で見送る。勿論同情もしないし手も抜かない。
黒い嵐の暴虐が過ぎ、あれほどいた骸骨達が皆消えたのを確認し、再び隠れた辿は誰もいない筈の自身の背後に声と手振りを行う。そこにはいつの間にか鼠たちが居た。鼠達は辿の言葉がわかるかのように、その小さな体を砂に塗れさせながらカルロスの方へ向かっていく。
準備が整うまでの少しばかりの時間を辿は、鼠に遣われていると自称する辿は、ただ使われて消えていった骸骨達に思いをはせた。
「(今の一撃で死んだか? ……だが、仮にそうだとしても、奴ら猟兵は大抵数人から十数人の集団で来る。一人二人と言う事はあるまい)」
味方の存在も厭わぬ全体範囲攻撃に自身はあったが、その射程外から残党が現れる可能性は高い、果たしてそのカルロスの読みは当たる。あっけない程に。真正面に新たな人影が現れたのだ。
「大量の躯の者たちを従える王……まさに悪の首領といったところでしょうか」
静かな口調で、瞳を閉じ独り言つのは月影・このは(自分をウォーマシーンと思いこんでいる一般ヤドリガミ・f19303)。その体は月影重工の技術力により開発された対衝撃対防刃ボディスーツに包まれ、その上から架空金属装甲を纏っている。その上で多種多様な武装をしている彼はウォーマシンだった。誰が何と言おうと、彼がウォーマシンであると信じる限り、彼は確かにウォーマシンなのだ。
「しかし、それでも負ける気はしません! そう!この胸のオーラエンジンが熱く熱を生み出し続ける限り!」
きっと黒真珠が如き瞳を開くこのは。オーラエンジン戦闘駆動開始。出力安定89%。全駆動オールグリーン、戦闘モードに移行!
「対ヴィラン用量産型戦闘ロボ518号! これより戦闘に入ります!!」
「マシーーーン! ウォーーー!」
勇ましい掛け声とともに真正面のカルロス向けて突撃を開始するこのは。そのあまりの正々堂々っぷりに一瞬罠を考えるカルロスだったが、どのみち倒すべき脅威である事に変わりはない、と再び骸骨達をこの世に呼び戻し迎撃させる。
「ターゲットロックオン! いきます、レーザー!」
じっと骸骨を見つめた(ロックオン)このはが叫ぶと、その黒曜石の瞳が赤熱、一瞬ルビーへと変ずして高出力のビームが放たれた。二条のビームは狙い過たず骸骨の頭部を貫き焼き尽くす。
「月光! 援護要請!」
――了解しました我が主。
このはの視界に文字が浮かぶと背後から深紅の鳥が飛び発つ。それは全長1m程もある鋼鉄の鳥。
――戦闘支援戦鳥機・月光、これよりミサイルによる支援を開始します。
鋼鉄の鳥、月光に内蔵されたミサイルが発射体制に入る。
――ターゲットマルチロックオン完了。発射。
火を噴き放たれるミサイル達は次々に骸骨達に着弾、爆発して周囲の骸骨もろとも吹き飛ばす。
主と従者の鳥、双方が射撃武器を駆使して骸骨達を近づかせようとしない。けれどカルロスには釘づけにしているだけで十分だった。自らが制御していたオブリビオンストームの一つを凝縮させていく。巨大な黒い嵐はカルロスの手に平に収まる程度にまで凝縮され、周囲には黒い電光が走り始める。
「粉々に消し飛ぶがいい」
放たれた黒弾は直ぐに巨大な闇の塊となって一直線にこのはに襲い掛かる。
「来ましたね……月光! 退避して! ソリッド・モビリティ・デバイス作動! アンカー射出!」
体に装着していた装置から、地面に向けてプラズマが射出されこのはを固定する。
「クリスタルウォールっ!!」
掛け声と共にベルト型の装置から、青いクリスタル状のバリアが展開される。身を低くして構えた矢先に闇の塊が直撃した。
「ぐうううっ!!!」
このはの全身を襲う衝撃、そして激痛。各種装備は一斉に警戒アラートを鳴らし耐久限界を知らせる。頼みの綱であるクリスタルウォールも無数のヒビが走りはじめ、装置から報告されるデータはあと数十秒しか持たない事を示している。纏っている装甲もダメージを受け始め、その奥のボディスーツも突破し闇の塊から発せられる黒い雷撃がこのはを傷つける。
圧倒的不利、絶体絶命の状況下で、しかしこのはは、苦痛に顔を歪める事はしても、決して絶望を浮かべる事は無かった。
このはの脳裏(メモリー)に甦るのは、かつて損傷した自分を保護してくれた一般人の夫婦。直接言葉を交わす事はしなかったが、彼らの様な非戦闘員の人々が平和に暮らす世界を守り維持する。嵐は彼らの元へたどり着かせない、嵐を抑え込む、それがウォーマシンだ。
「いやぁ……あれが若さって奴かねぇ、大したもんだ」
辿はこのはの助けに入る事無く隠れて観察を続けていた。心苦しくはあるが、今飛び出せば全てが水泡に帰すのだ。
辿の視線は再びカルロスへと向かう。一撃で仕留められない事に業を煮やしたのか、二つ目のオブリビオンストームを代償にして放とうとしている。流石にあれは不味い。
その時、小さな鳴き声が傍でした。一匹の鼠が傍にいた。それは準備の完了を示す知らせ。
「根を喰い腐らせた小路の管理者よ、ここにその図を開示せよ」
瞬間、暗転。
悪臭がしたら、それが合図だ。
戦場に向かう前に同道した猟兵の一人が言った言葉。カルロスの近くで潜伏していたクルルがそれを思い出したのは、実際に鼻が曲がりそうな悪臭が漂って来たからだ。
「……鼠?」
カルロスもそれに気づき、今まさに放とうとした二発めの闇の塊を手にしながら、空いている左手で鼻を抑えると辺りを見回す、するとそこに鼠が居た、不快な鳴き声を上げる鼠が一匹、二匹、三匹……?
「なんだ、これは!?」
気づけばそこかしこに大量の鼠が這い回る、カルロスが別の方を向いている。
「っ!」
その隙をついてクルルは手裏剣を投げる。それに気づいたカルロスは右手に凝縮した闇で、襲い来る手裏剣を消し去る。
けれどその投擲はフェイント、既にクルルは薙刀を構えカルロスの死角に回り込む。
カルロスもそれに反応して、対応しようと意識をクルルへと向けるがその瞬間、傍らに辿がいた。気配など感じ取れなかった。なのにいつの間にか、当たり前のようにすぐ隣に立っていた。
「それはどこへでも入り込む訳ではない、どこへでも入り込むモノの中に入り込む、なんてな」
辿は無造作に手にしていた短剣を、カルロスの胸に突き刺した。同時に背後からクルルが袈裟懸けに斬る。
荒野に赤黒い血の花が咲いた。
「ぐおおおぉっ!! っのおれえぇぇぇぇぇっ!!!」
激痛に吠えるカルロスは、このはへの追撃のつもりだった闇の塊を投げつけるが、そこには辿もクルルも、そして先ほどまであれだけ蠢いていた鼠達も、何もいなかった。
「は、はぁ……はぁ……」
激しい黒の嵐が終った時、このはは立っていた。がらんがらんと、装甲が落ちる。各種装備も最早使い物にならない。スーツも所々が破損している。だが、死ななかった。嵐に耐えきった。
オーラエンジン出力上昇、90%、95%、97%、100%、110%、120%、フルドライブ!
「嵐が過ぎたら後は晴れるだけです! 」
かっと目を開くこのは。遥か前方のカルロスを視認。ターゲットロックオン。
「エネルギー充填! これで!」
胸部に備え付けられた砲に、動力からのエネルギーラインが接続され、光を放ち始める。
「オーラッブラスタァアアアアアアアア!!」
先ほど闇の塊が蹂躙した大地を、逆方向に光の奔流が翔ける。カルロスもそれは気づく。痛む体に鞭打って避けようとする。ところが、そのカルロスを羽交い絞めにする影があった。幽霊だ、手にしていた魔剣や魔杖は放り投げ、ただただカルロスを逃がすまいと組み付いてくる。
「カルロス・グリード」
「貴様っ!」
幽霊を振り払おうともがくカルロスの耳に届いたのは女の声。少し離れた場所にクルルが立っていた。
「グリード、強欲。御大層な名前やね。でも……」
あちこちの世界で自分等の想いと力で世界の命運変えよいう私ら猟兵とあんたと、ほんまはどっちが欲張りなんやろね?
クルルの問いに答えるよりも早く、光(想い)の奔流がカルロスを包み込み吹き飛ばした。
月光がカルロスの消滅を確認し報告すると、そこでようやくこのはは膝をつき倒れた。動力炉は限界を超えた反動で最低限の稼働となり、意識を保つのがやっとで四肢は全く動かせそうにない。
ふと、嗅覚センサが悪臭を、そして聴覚センサが動物の鳴き声をとらえた。次の瞬間動かぬ自らの体は誰かに抱え上げられる。
「いやぁお疲れさん」
視界にうつりこんだのは男。共に戦地に赴いた仲間の辿だった。
「おつかれ、さまです。カルロス・グリード、撃破を確認しました」
「あぁ、ただこの島を制圧しない限りは直ぐにまた出てくるらしいが……全く鼠みたいな奴だねぇ」
直後、背後に向かって一緒にするな? へぇへぇごもっとも、と独り言つ辿。
「といっても、私らも結構消耗したし、後は他の皆さんにお任せや」
気づけばクルルもやってきていて、壊れたまま放置されていた自身のキャバリアを輸送する準備に入っていた。
そう、グリモア猟兵によってこの地に今回送り込まれた猟兵は七名。半数にもみたない人数でカルロスを撃破できたのは、彼ら三名の作戦、技術、そして覚悟が高いレベルで備わっていたからだ。まごうこと無き大金星である。
このはは抱きかかえられたまま空を見上げる。、嵐は一時は去ったがまだ完全に晴れては無い。けれど大丈夫。共に来た猟兵の仲間が、別の任務を受けてくる猟兵達が、必ず全ての嵐を防いで、気持ちの良い晴天を迎えさせてくれると信じているからだ。
大成功
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シリン・カービン
このUCは、骸骨たちを強化して敵に殺到させるもの。
ならばそれを利用して一網打尽を狙います。
周囲を見渡しビルの廃墟を見繕い、
残像やフェイントで攻撃を躱しながら駆け込みます。
家、闇、風の精霊に呼びかけ、構造の弱い部分をチェック。
火の精霊弾をそこに仕掛け、ビルの屋上に移動します。
骸骨がビルに群がり中を埋め尽くした頃合いで屋上からダイブ。
風の精霊が吹かせてくれた強風をマントに受けて着地。
さらに私の声を拡声してもらいます。
「爆ぜろ!」
爆薬代わりの精霊弾がビルを崩し、骸骨の群れを葬ります。
粉塵に紛れて影を分離。
見えるようにカルロスを狙う私を囮に、影が急所を狙います。
この機は逃さない。
「あなたは私の獲物」
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と
まつりん、このカルロスの衣装、知ってる?
なんだかとても似合ってないね…
見た目はあれだけど、骨だけになった死者をなおも使役する所業は「生命」の冒涜
例え死者が欲望に支配された者だったとしても許されない行為
猛省頂く
骸骨達には大岩を怪力でぶん投げ一気に倒す
骨だから単純に力技には弱い筈
まつりん!
第六感でUC発動を感じ取れば声を掛け
廃墟のビルや岩の陰を利用し、オーラで地点も防御を施しストームを凌ぐ
…一度目、骸骨も巻き込む?
【あたたかな光】
巻き込めば残り二度を凌いでから
一度のみならそのまま一気に
オーラを纏い、幅広い大剣にした灯る陽光を手に間合いを詰め、ジャンプ
叩き斬る!
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。
わー、トゲトゲ。ぱんく? っていうんだっけ。
カルロスは、ろっく?
オブリビオンストームは普通の人には危ないから。
人のいないところへおびき寄せないと!
竜巻を避けるなら、地下シェルターがいいって聞いたよ。
おいらたちが入れるサイズの穴を掘るか、穴の多い場所を探しておいて。
カルロスー!
大声で呼……パンクな歌を歌って、注意を引こうー!
先制攻撃してきたら、しゃっと穴に隠れる!
頭上はこたつ毛布でシャットアウト!
ゆべこやり過ごしたら。
舞扇を乱舞させ、骸骨たちを絆で縛って、盾にしながら前進!
アンちゃんが突進するのに合わせて、カルロスにも扇を。
今回はおいらたちの勝ちだよ。また会おうね!
鈍・小太刀
七の王笏ねぇ
随分トゲトゲしくなっちゃって
いわゆるヘビメタな感じ?
ヘビーなメタルと言えば…(アイテムの天気雨見て
わー、溶けないでにゃーん!?
地形を利用
窪地に目立たぬ様に身を屈め
嵐の攻撃をやり過ごす
でも今回の本命はトンネル堀り
正直使い所が謎だった技能だけど
今こそ活躍の時!
モグラの様に掘り進み
地下から骨達の壁を突破するわ
見なさいこの華麗な技を…地味だよ!めっちゃ地味だよ!
(仕方なくセルフツッコミ
ふふふ、この辺ね?
地面に伝わる振動を野生の勘で見定めて
罠使いで罠設置
雨音の先で読んだ未来にタイミング合せ
いざ、落とし穴!
フェイントに天気雨も投げ付けて
死角から刀で急所を斬る
ふう、やっぱり外の空気は美味しいね♪
ヴィクトル・サリヴァン
数で押してくるタイプは厄介だよね。
だけどこれまでも何度も乗り越えてきた、だから今回もそうするだけだよ。
配下達には高速詠唱からの土属性魔法で周囲の地面を隆起或いは陥没、地形を破壊してオブリビオン達をクレバスに落としたりしつつ、敵数を只管減らすことに専念。
願いの賛同者をとにかく減らさないとね。
向こうのUCが発動し何かしら起きたらこっちもUC起動、近くにいるオブリビオン殴り飛ばし生命力奪って回復しつつカルロスに向けて全力ダッシュ。
思い切り殴り掛かると見せかけてフェイント、向こうのリーチに入る寸前に高速詠唱で土の魔法を使い向こうの足元を崩し体制崩した所を銛で串刺しにしてやろう!
※アドリブ絡み等お任せ
●
「まつりん、このカルロスの衣装、知ってる?」
再び骸骨を呼び出し始めているカルロスの姿を、離れた所で見ていた木元・杏(メイド大戦・f16565)は双子の兄に問う。
「わー、トゲトゲ。ぱんく? っていうんだっけ」
「随分トゲトゲしくなっちゃって……いわゆるヘビメタな感じ?」
耳をひくひくさせながら興味深げに観察する木元・祭莉(まつりんではない別の何か・f16554)。その背後から鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)が少し呆れた声色で続ける。
「カルロスは、ろっく?」
「なんだかとても似合ってないね……」
ヘビメタ。その言葉にうーんと少し唸って考え事をした祭莉が出した祭莉が口にすると杏が残念そうに結論付けた。
「わー、溶けないでにゃーん!?」
一行に漂う残念な空気の中、ヘビーなメタルと言えば、と自らの道具袋を覗いた小太刀は、シリアスな空気の中でしか硬度を保てない謎の金属塊(たぶん猫)がぐでぐでになっているのを見て慌てる。
シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は知り合い達の楽しい会話を笑顔を浮かべて眺めていたが、直ぐに真剣な表情に戻り気を引き締め直す。珍妙な恰好のカルロスだが、その力は折り紙付き、油断は禁物だ。
「数で押してくるタイプは厄介だよね」
カルロスが骸骨を増やす姿を監視していた四人に、その誰とも異なる声がかけられる。振り返った四人が見たのは二足歩行する大柄なシャチだった。
人とは異なる顔立ちでもわかるその柔和な表情のまま彼、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は、追加で送り込まれた八人目の猟兵だとその名を告げる。四人も簡単に自己紹介を行う。
「だけどこれまでも何度も乗り越えてきた、だから今回もそうするだけだよ」
ヴィクトルの力強い言葉に首肯する四人。彼らはお互いの手札を開示すると、一つ作戦を思いつき行動に移すのだった。
「来たか猟兵」
先ほどの敗北の直後ということもあってカルロスは周囲を強く警戒していた。そのため近づいて来るヴィクトルにいち早く気づく。早速両手を掲げてヴィクトルを砕こうと願いをかけ始める。
「願いの賛同者をとにかく減らさないとね」
ヴィクトルは己が魔力を練り上げると、骸骨達がいる周囲の大地へと干渉を始める。
「さあさ寝てる子は起きるんだよ。そうそう、大きく腕をあげて背伸びをして、大きく口をあけてあくびをひとつ」
途端に周囲の大地が隆起し骸骨を天高く突き上げ、あるいは陥没し低くなった地面に叩きつけ、そして大きく地割れを起こし、そのクレパスへと骸骨達を飲み込んでいく。
そうしてヴィクトルが敵数を只管減らすことに専念した事でカルロスの願いは非常に低い範囲で叶えられる事となる。生き残った骸骨達が隆起や陥没を紙一重で避けたりクレパスを飛び越えるほどの跳躍を見せてこちらへ襲い掛かってくるのだ。
「このUCは、骸骨たちを強化して敵に殺到させるもの。ならばそれを利用して一網打尽を狙います
「OKOK! キミのプランに任せた!」
姿を現したシリンに声を掛けてヴィクトルは全力で後方に駆け出す。シリンもその後を追うように走り始める事で、強化された骸骨達は彼らを追跡し、その先にあるビルの廃墟群へと向かっていく。
追いかけながら放たれる銃弾や矢を、シリンは背後を確認もせずに的確に回避していく。フェイントをかけて無駄玉を撃たせたり、時に命中したように見せかけてそれは残像だったりと、危なげなく骸骨達を誘導していく。ヴィクトルはいつの間にか姿を消していた為、骸骨達のターゲットは完全にシリン一人に絞られていた。
「家に宿る子、影に潜む子、内と外を駆け巡る貴女、力を貸して」
一つの廃ビルへと入るシリンと、彼女を追ってなだれ込む骸骨達。シリンは階段を駆け上がりながら精霊達に語り掛ける。
家の精霊が朽ちて脆くなってしまっている場所を、闇の精霊が人の目の届かぬ闇に沈んだ個所の詳細を、風の精霊が自らが通り抜け出来る穴の開いた場所を、それぞれシリンに教えてくる。
集まった情報から構造の弱い部分を割り出したシリンは
そこに自らの猟銃に用いる火の精霊弾を仕掛けながら屋上までたどり着いた。追跡してきた骸骨達の先頭も間をおかず屋上に飛びだす。
シリンは迷うことなくビルの縁まで走り、全力で蹴って跳躍、飛び出した。重力に従い地上へと落ちていくその体を風の精霊が抱き留める。彼女が吹かせる強風がマントを膨らませ、落下の勢いを緩める。
「爆ぜろ!」
十分な距離を取ったのを見計らってシリンは仕掛けた弾丸を爆発させる。要所要所に仕掛けられた弾丸のもたらす破壊が、廃ビルの構造に致命的なダメージを与え、彼女を追って入った骸骨達を巻き込んで一気に崩れ落ちていく。
「おー、綺麗にバラバラだー」
倒壊していくビルの様子を、祭莉は少し離れた地面から頭を覗かせて見ていた。そこは結構な広さの穴の中の様だ。
竜巻を避けるなら、地下シェルターがいい。祭莉が依然聞いたその話が、今回の作戦の根幹に据えられた。ヴィクトルが兆月し、シリンが誘導してビルトラップで骸骨達をまとめて葬る。その間に他のメンバーは隠れる為の穴を準備していたのだ。
「といっても全部の骸骨を巻き籠めたわけじゃないだろうから、直ぐに次の段階にとりかかろう」
「ん、行ってくる」
穴の中にはシリンに先んじて隠れていたヴィクトル。彼の言葉を受けて杏は穴の外へと飛び出す。
「あんちゃんふぁいと!」
祭莉の声援を背に受けながら進む杏は、早速ビルトラップを逃れた骸骨の一団を見つける。直ぐに手近にあった巨大なコンクリートの塊を、華奢な見た目からは想像もつかない怪力を発して持ち上げ、投げつける。
「骨だから単純に力技には弱い筈」
彼女の読み通り、頭上から大質量を叩きこまれた骸骨達はそのまま下敷きになり粉々に砕かれる。
「まつりん!」
成果を出せない骸骨達に業を煮やしたのか、カルロスの周りにあるオブリビオンストームが急速に拡大を始めた。
それを第六感で感じた杏は踵を取って返し穴へと向かう。
途中でシリンも合流し共に穴に滑り込む。
「シャットアウト!」
それを見届けると祭莉はこたつ毛布を取り出して穴を塞いだ。
「んっ!」
祭莉が支える毛布に杏も手を添える。彼女の白銀のオーラが注がれ強度を増していく。やがて恐るべき破壊の黒い嵐が到達するが、強化された毛布がしっかりと盾になる。
「……一度目、骸骨も巻き込む?」
杏は独り言つ。恐らく是だ、ならば一度では終わらないだろう。彼女は今は耐える時とじっとオーラを注ぎ続ける。
穴の中では他の面々も準備を進めていた。
「闇よ来たれ、影よ行け」
倒壊させた廃ビルからお引越しをすることにした家の精霊達を肩に乗せつつシリンは分身として影を召喚する。
「ステゴロもたまにはやらないとね」
ヴィクトルはその全身が金属で覆われる。
「見なさいこの華麗な技を…地味だよ! めっちゃ地味だよ!」
穴内部に掘られた横穴の奥からセルフ突っ込み入りの小太刀の声が響いていた。彼女は最初に祭莉がこの隠れる穴を作った時から、ずっとカルロスに向けてのトンネルを掘っていたのだ。
正直使い所が謎だった技能だけど、今こそ活躍の時! と張り切る彼女は順調に地上の骸骨も嵐も潜り抜けていったのだ。
やがて嵐が止む。祭莉が布団をはぎ取ると同時に皆が動き出す。
「光よ、皆を守れ」
杏から放たれたあたたかな光は全員の体を優しく包み込む。守りを貰った面々は次々に外に飛び出して駆け出す。反撃開始。
「観念して出てきたか、猟兵」
カルロスが最初に見つけたのはシリンだった。距離はあるが先ほどの嵐で廃ビル群は吹き飛ばした。もう逃げも隠れも出来ないだろう。カルロスは獲物に狙いを定める、その時銃声が響いた。
「なっ!? ぐっ……」
「この機は逃さない」
自分を狙っていたカルロスが片膝を付くのを見て、シリンは作戦が成功した確信を得る。自分自身が囮になっている間に、召喚した影が別方向から急所を狙って発砲したのだ。
「あなたは私の獲物」
カルロスが膝を付いた隙を逃さない猟兵はいない。一斉に駆け出して間合いを詰める。
「そぉれっ!」
祭莉が放つ舞扇の幻影は乱舞し、未だ僅かに残る骸骨達を夢色の絆で縛り付け、その枷を逃れた骸骨達を押しのける盾とする。
「ふっ、ほっ、しゃっ!」
その間をヴィクトルは真っすぐ駆け抜け、行きがけの駄賃に骸骨達を鋭い拳で殴り壊す。その体を強固にし、敵から触れられた際に生命力を吸い取る彼の異能は、同時に自ら行う格闘戦でも有効だ。骸骨を攻撃しながら生命力を奪い戦闘力を高めていく。
ヴィクトルが地上ならば杏は空から。暖陽の彩が如き花弁を、振るうたびに舞い散らす白銀光の大剣を手に全力で跳躍。
妹の突進に合わせ祭莉はカルロスにも扇を飛ばす。急所を撃ち抜かれたダメージも相まってカルロスはその場から動けなくなっていた。
「ぐっ、くそっ!」
「今回はおいらたちの勝ちだよ。また会おうね! 忘れない、覚えとく!」にかりと邪気の無い満面の笑みを送る祭莉。その祭莉を隠すように前に踊り出たヴィクトルはそのまま殴りかかるように見せかけつつ、それをフェイントに詠唱を開始する。
「散れ散れ散れ。そこは今から地面じゃない、去れ去れ去れ。誰も彼もが立っていられない」
カルロスの足元が崩れる。バランスを崩したその胸に鋭い銛を繰り出す。
カルロスに届かんとする刃は地上と空だけではなかった。ずっと穴を掘り続けていた小太刀は、遂にカルロスの足元にまでたどり着いていた。
「ふふふ、この辺ね?」
不敵な笑みを浮かべ天井を見ていた小太刀は、直ぐに真剣な顔つきになって瞳を閉じる。自身をただ一振りの刀として、その意識を切先の様に鋭く研ぎ澄ます。その先の境地において小太刀は閉じた瞳の中に、少し未来(さき)ぼ光景を『視る』
手にしていた刀を鞘のままで天井に激しい突きを穿つ。本来ならば地上までの厚さでどうなるはずもないそれは、ヴィクトルの魔法によって崩されていたそのタイミングで穿たれ、壊れる。地上の光が崩れた土や石と共に落ちてくる。そしてカルロスの体も。
「いざ、落とし穴!」
おまけとばかりに謎の金属塊(たぶん猫)もフェイントに投げつけると跳躍し抜刀! 煌めく刃が急所を狙う。
かくして、頭上より振り下ろされる白銀光の大剣、眼前より突き出された太く重い三又銛、足元の地中より飛び出した日本刀が、それぞれカルロスの心臓を破壊する。
「見事だ、猟兵……」
小太刀の飛びだした穴は、そっくりそのまま落ちていくカルロスの墓穴となった。消滅していくカルロスを確認して、一行はほっと息を付き緊張を解いた。
「ふう、やっぱり外の空気は美味しいね♪」
地面を掘り続けた対価として、灰色の髪を始め服や体のあちこに泥を付けた小太刀が笑って言うと、皆も笑顔で首肯を返す。
この地を覆う欲望という名の暗雲は未だ完全に晴れてはいないが、それでも彼らは確実にその一部を消し去る事に成功したのだ。その満足感と達成感を胸に、一同は他のメンバーと合流し帰還するべく歩き出した。
大成功
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