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羅針盤戦争〜Kill life

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #メロディア・グリード #桜花島


●I make use of you.
 嗚呼、死を望むほどに。私はあの男の邪魔をしたいというのですか。

 花唇が舞う空は蒼く、退紅が墜ちる緑化の草原はもともと石畳で、人や物を運ぶという役割を果たしていたのだろうか。
 メロディア――七大海嘯『桜花』、メロディア・グリード。
 その女はただ座っているだけだった。姿勢よく、微笑みを絶やさず。額縁の中にいる肖像はピタリと時を止めて、桜花島の中心に鎮座していた。
 姫君の傍には、潮風に揺れる海を閉じ込めたティーカップが一つ。手の付けられていない甘菓子が複数。周りには桜花と同じ形姿を持つ誇りの紫と、喝采の青。
 残滓の薔薇が咲き殖える。私よ私、カルロスを助けなさい。
 残滓の薔薇が咲き殖える。私よ私、カルロスを死なせてはなりません。
 残滓の薔薇が咲き殖える。私よ私、カルロスを想い続けるのです。

 命を落としてでも、かわいい人へ。貴方に私なりの愛を誓います。

●We kill the princess.
「七大海嘯の一体である『桜花』。メロディア・グリードの本拠地が割れました。島の名は『桜花島』……外壁は桜の木々に覆われ、中央には真四角の建築物が一つ。
 なのですが、建築物への手入れを怠っているのか内部の緑化は激しく、建物としての機能は働いていないとウチは考えます」

 グリモアベースにて。
 ジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)は、これからメロディア・グリードとの決戦へと向かうであろう猟兵たちに彼女の特徴を告げる。
 無限の再生力を持つメロディアは、死なないという特性を持っていた。

「いいえ、正確に言えば『中々に死ににくい』。
 再生能力が途絶えるまで何度も殺し続ければ、永遠を称える生命体は必ず破壊されます」

 無限に限りを付ける。限界を持たない女が限界を持つまで、攻撃をし続ける。
 死に続けても生き続ける女に終止符を打つことは、気の遠くなるような時間を要請されるだろう。しかし、途方もない永遠に魂が抜けかけようものならば。
 瞬く間に全快となるメロディア・グリードから、無敵ともいえる強力な一撃が飛んでくる。
 メロディアの周囲に咲く残滓たるスイート・メロディアも同じこと。メロディアと同等の力で、猟兵を桜花島の下へと葬ろうと手を伸ばす。
 猟兵たちは殺し続けなければならない。
 敵の攻撃を掻い潜り、苛烈なユーベルコードを叩き込み、繰り返し、繰り返し。延々と、永遠とも呼べる時の中を息途切れることなく駆け抜けねばならないのだ。

「敵に攻撃は通ります。ならば、メロディア・グリードは無敵ではありません。再生が途絶えるまで殺してください。
 終わりは必ず来ます。ですが、その終わりを引っ張ってくるには皆さんの力が必要となります」

 ご協力をよろしくお願いいたします。手本のような一礼をしたジェリッドはグリモアを展開させた。
 猟兵たちの前に立ちぼうけるメロディア・グリードは、本物だ。分身であるスイート・メロディアと違って、姫君には確かな実力が存在する。
 だが、それは猟兵も同じこと。我々は此処までやってきた。桜花を打ち倒し、羅針盤戦争に勝利をおさめ、グリードオーシャンの海を獲り戻す。
 この世界での猟兵は海賊なのだから、強欲の海が奪い合いを咎めることなど、有りはしないのだ。


拳骨
 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードを対処した後、殺して殺して殺しまくる。

●採用について
 人数によっては全員書き上げることが難しいです。ご了承いただけたらと思います。

●雑記
 拳骨です。8作目です。戦争シナリオ2本目です。今回は無理せずに、頑張ります。よろしくお願いします!
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第1章 ボス戦 『七大海嘯『桜花』メロディア・グリード』

POW   :    スイート・フュージョン
【残滓達(スイート・メロディア)】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[残滓達(スイート・メロディア)]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    スイート・レイン
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【肉体】から【スイーツで出来た分身の群れ】を放つ。
WIZ   :    スイート・パフューム
【甘いスイーツの香り】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
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ラリー・マーレイ
女性を殺し続ける…想像しただけで気が滅入るけど、やらない訳にはいかないんだ。

大気を操る魔術具「空の杖」の魔力を解放。旋風の防御壁を形成する【結界術】。
放たれるスイーツの香りを風で【なぎ払い】吹き飛ばす。毒気の類なら吸わなければ良い筈だ。
風の結界による【盾受け】で攻撃を受け流しつつ【ダッシュ】して接敵。

先制攻撃を凌げたら【迅雷の呪文】を【高速詠唱】し発動。ダメージを受けていたら回復し、同時に自身を強化し加速させる。ここからが勝負だ、【気合い】を入れろ僕。
杖に仕込んだ刀「スラッシング」を抜き【早業】の【切断】攻撃。
反撃を加速した【瞬間思考力】で【見切り】回避しつつ息の根を止めるまで連続攻撃だ。



●Devote truth word to Aria.
 アルダワ魔法学園は智慧の箱庭であり、宝玉である学生たちは暗がりで眠る紙束を取り出しては文字を追い、脳髄に綴りて新たな保管庫へと叡智の結晶を蓄え広う。
 その学び舎にて術を学ぶ冒険者――ラリー・マーレイ(冒険者・f15107)は、「殺すなかれ」と説く書物を目にしたことはあっただろうか。
 生命とはかけがえのないものである。誰かに教わらずとも、自然と、本能として、人は道徳規則は学ばざるを得ないものか。
 故に、ラリーはこれからを想像した。桜花島に降り立った今、島の中央にて群生する薔薇の姫君を、彼は殺し続けなければならない。

(女性を殺し続ける。……)

 メロディア・グリード一人だけであれば、まだ気は滅入ることもなかったのだろうか。彼女を模倣する女性の形をした甘菓子をも人と視認してしまえば。緑眼に暗闇を差し込み、重たい瞬きをしたくもなる。
 それでもラリーは魔術具である杖を握り締める力を解くことはなかった。精霊宿る空の杖の魔力を解放させたラリーは、大気を操り旋風の防御壁を形成する。空の中に混じる薄桃は桜の花弁だ。でも、植物の匂いは一切しない。
 甘い毒の先には七大海嘯の一体である『桜花』、メロディア・グリードが存在していた。
 波打つ金髪は潮風に揺らがない。まるで時が止まっているかのような女は、静やかに笑んでいた。口を結んだラリーは草原を駆け出すと同時に装束で顔を深く覆う。女は瞬かない。ゆったりとした様子で首を傾げ、ラリーの顔を覗き込もうとしてみせた。
 途端、直ぐに大気が押し寄せてくるのをラリーは理解する。一息で詠唱を完了させたラリーは防御壁の形を変えた。渦巻く風は羽となりスイート・パフュームを羽ばたき返す。
 メロディア・グリードに接近するにつれて猛毒は眠気を誘って来るだろう。だが、吸わなければいい。吸わないようにすればいい。
 迫りくる甘いスイーツの香りは薙ぎ払って吹き飛ばせ。席立たない姫君の足元には、鉄球と鎖でも転がっているとでもいうのだろうか。兎にも角にも彼女を殺す、……殺す為には。彼女と接触せねばならない。

(――やらない訳にはいかないんだ)

 風の結界を維持したまま、ラリーは矢のような速さで詠を唱える。ミームザンメ・ラーイ・ターザンメ。真鉄の火花よ、風となれ。嵐と鳴りて迅を命せ。雷光の我が身はかの女人を貫くために此処に在り。
 ユーベルコード【迅雷の呪文】。身体能力だけならず、思考速度をも強化したラリーはメロディア・グリードの視界から消え失せた。はた、と女は止まっていた時を動かさざるを得ない。揺れたドレスは先ほどよりも甘い香りを周囲に振りまいた。
 だが、遅かった。警戒の念を持たぬ者は首を獲ってくれと言っているようなものなのだから。空に舞うのは美しき花びらだけだと思ってくれるな。鉄火を伝って迅雷は、風と共に花の頭を切断しに落ちてくる。
 草原に転がったのは首から上、即ち頭部だ。確かな手ごたえは感触としてラリーの脳に刻まれる。しかし、これで終わるわけがない。これをずっと続けねばならない。
 首のない女が白い指を向けてきた、顔か? 口を潰しに来ている、ここからが勝負だ気合いを入れろ僕。
 メロディア・グリードの攻撃を見切ったラリーは首を引いて空を見上げる。そのまま一回転をして後ろへ下がるも、今度は突剣らしき得物が見えた気がした。加速する迅雷に女は食らいついてくる。
 道術のフードが暴かれた。はらりと落ちる髪はラリーの最期でも喩えているとでもいうのか。否、ならばもっと速く動けばいいだけのこと。
 風の結界を解除したラリーは杖に仕込んだ刀、スラッシングを再び抜いた。耳を刺す金属の高い音は響けど、重い。その中に女の甘香がラリーを微睡ませようと大気を染める。だがラリーが眠るはずがない。雷光が脳を駆け巡る限り、思考をやめない限り。

「やられる筋合いもない」

 突剣を絡めとったラリーは縮地。お互いの瞳にお互いが映っている距離にて、ラリーは長細い刀身の短刀をその虚ろ目掛けて腕を振るう。表情を堅くさせたメロディア・グリードは薔薇に埋もれようと画策するも、暗殺者の武器には防御を貫く魔力が込められている。
 スティレットが薔薇を引き裂いた。ラリーは素早くその先へ仕込み刀を向かわせる。息の根を止めるまで繰り返せ。一つ、また一つを殺し続けろ。
 女性を殺し続けるの気が引ける。だが、僕は冒険者なんだ。引き受けた依頼は必ず達成しないと。
 まずの一歩すら、足を運べないだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
命を賭せる程の愛を得た貴女を少し羨ましく思う
でも狂愛は世界を滅ぼすか己を滅ぼすかしかない
想いを貫くなら其でいい
間もなく王は倒される
無窮の貴女にも終りが来る

🌸先制対策
音速の何倍にもなる飛翔体を捉えるのは至難の業
初撃はエプロンを構えて防禦に集中
魔力を籠めて刺繍した布を盾に緩衝を図り
痛撃や状態変化は各種耐性で凌ぐ

🌺反撃
UCでコピーした敵UCを発動
敵と同じ速度で対抗しつつスイーツ製の分身を放つ
何度も何度も腕が千切れそうになるまでエプロンを振る
それいけ量産型ニコリネ!
シャッター棒をぶんぶん、チョコディアを粉砕し
超速を得ていない桜花本体も攻撃!

愛を知らない身だけど
私は私の信念を貫き、貴女を殺し続けるわ



●花むす花ふらう
 七大海嘯の一体である『桜花』、メロディア・グリードは重い腰をやっと上げた。首を刎ねられても身体を砕かれても再び姿を構築し、猟兵へと猛攻を振るうのは何の為か、誰が為か。
 桜花島に降り立ったニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は、メロディア・グリードを、少し。少しだけ、羨ましく思えてしまった。命を賭せる程の愛を得た彼女は、おそらくは。本当に。王笏の名を持つこの世界のオブリビオン・フォーミュラを、愛しているのだろう。
 しかし、己に一つしかない命を落としてでもたった一人を助けようとする狂愛は残酷かな、世界を滅ぼすか己を滅ぼすかしかないのだ。
 戦場から離れようとメロディア・グリードが飛翔を開始する。ニコリネではなく、前線していた猟兵の方向へとスイート・メロディアが放たれた。すかさずニコリネは間に割って入る。痛撃を包うエプロンを構えるのは忘れない。
 メロディア・グリードの肉体から顕れたスイーツで出来た分身の群れは各々得物を持ちて、青紫のローズシャワーを降り注いできた。晴天が見えなくなる密度は、受け止める者に不安を煽る。
 だがニコリネ・ユーリカは花売り娘。花を好み、花を売り、花を育てる熱情の彼女が。
 愛の言葉を持つバラの花に臆する事など、有りはしないだろう?

「どーんときて頂戴……ぜんぶ、受け止めてあげる!」

 ニコリネの勝負エプロンには彼女の務め先である店名が刺繍されている。一針、一針、細糸が千切れないように重ね重ねて丁寧に。真心と魔力を籠めて縫われた布地には『Floral Fallal』と。訪れるお客様だけじゃあなく、花だって花やぐように。
 私はまだ愛を知らない身だけど、私なりに愛を込めて織ったエプロンは凄いのよ? ポケットだって付いているんですから!!

「でもっ……重、たっいわね! お菓子を拾い集めても、食べずにはじき返すだなんてちょっと勿体ないかしら!」

 布製の盾で緩衝を図るニコリネは、甘菓子の群れを作り出したメロディア・グリードのダークローズが小さく動いたのを見逃さなかった。
 減らず口を? ……そう、貴女は虚ろな表情をしているけれど、ちゃんと中身はあるみたいね。
 其処に詰まっているのは肉塊だろうか。それともエプロンに群がる甘菓子と同等か。どちらにせよ、その身にはきっと愛が詰まっている。

「想いを貫くなら其れでいい。間もなく王は倒されます」
「――いいえ。王は倒されません」

 否定。目前の女から発せられたその声色には、静かな怒りを含まれる。しかし、その怒りはすぐに悲しさへと変化したようにニコリネは思えた。
 防禦の手は緩めない。それでもニコリネは、女の言葉を待った。

「……ああ、私を竜王と呼ぶならば。私は貴方に倒されるのかもしれません。私に終りが来るのかもしれません」

 ですが。それでも私は殖え続ける。花売り娘が薔薇の姫君へ、律儀に何故かと問うてみれば。

「カルロスに、一秒でも長く、多くを、生きてほしいからです」

 ただ、助けたい。そう言葉を告げた女は自ら生み出した分身をも砕く速さを持つ飛翔体となり、口封じだと言わんばかりにニコリネへと突進した。
 速度は音速を越えている。ニコリネ一人でメロディア・グリードを捉えるのは至難の業だろう。
 だが、焦っていけない。怯んでもいけない。コレは反撃の兆しである。手を明かした彼方と違い、此方はまだ手を見せていないのだから。
 メロディア・グリードから放たれるであろう狂愛を、この手で量ろうだなんて思わない。だからニコリネは布盾を翻す。向かい風に混じる甘香は、元であるメロディア・グリード自身へと向けられた。

「私、お菓子作りの時についつい摘み食いしてしまう事があるけれど……貴女はどーおっ?!」
「っ! ……さあ。長らく。勝手には回っていないものですから!」
「あら、じゃあ教えてあげるっ! 食べきれないクッキーは床にじゃなくて机上のお皿に置いておくべきだってことを!」

 ユーベルコード【Mappa】。ニコリネのとってもスっゴイエプロンから飛び出てきたのはニコリネそっくりの甘菓子たちだ。スイーツ製の分身はメロディア・グリードに体当たりしては愛毒に耐えきれず溶けてしまう。それでもニコリネは何度も何度も、腕の疲労を気にも留めずエプロンを振り続けた。
 それいけ量産型ニコリネ! メロディアは駄目でもチョコディアは粉砕できている。のみならず、彼女本体の速度だって落ちてきている。
 無窮の貴女にも終りは来るの。後は私が貴女に追いつくだけ!

「それはどうも貧乏性の小娘さん。その震える手がいつ千切れるか見ものですね」
「む。貧乏性ですって? 私は私の夢の為にお金を貯めているにすぎないわ。将来を見据えている!
 此処で倒れる事なんて想定していないの。倒されるかもしれないだなんて、そんな事言う貴女に想像できる!?」

 虚ろな眼光を開いたメロディア・グリードに金属棒の先端フックが引っかけられた。そのままねじ込み掴んだまま、ニコリネは両手に怪力を込めて甘香雑じる風を鋭く切り始めた。
 シャッター棒を勢いよく振り回し傷つけても、草原に打ち付け傷つけても。女はすぐさま再生する。矢先に反撃をとチョコレートを投げつけてきた。だが今のメロディア・グリードは音速とは程遠いただの女人。

「私は私の信念を貫き、貴女を殺し続けるわ」

 両の足を地面に付け立つニコリネが、浮いた女の飴玉を撃ち落とす。夢を貫くものに敵いたければ、自らの時を進めるべきだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
限界を持たない相手が限界を持つまで殺し続ける。ハッ、無茶な注文だぜ。
戦争も佳境。お疲れの所にこの依頼だ。――けど、まぁ。期待されちゃあな

スイーツで出来た分身の群れに【範囲攻撃】で魔剣の黒銀の炎の【属性攻撃】をぶつける。キリがねぇのは分かってる。単なる挨拶代わりと…【挑発】さ。空を飛んで分身に任せるだけで俺達は殺せる程、甘くはねぇ、ってよ。

こっちもUCで空を舞うメロディアを強引に捕まえる。捕まえた後は二丁銃で【クイックドロウ】を叩き込むぜ。
アンタの分身体と戦ってる時だったか。『スピードを緩めた場合、動かない的は貫かれておしまい』なのさ。
最も。アンタを骸の海に送り返すのはちょっと手間そうだが。



●QUICK DRAW
 七大海嘯の一体である『桜花』、メロディア・グリードは空を舞う。落ちてくる雨からペトリコールが発せられたら気がラクになれるんだよなあと、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は甘菓子のしつこいフレーバーに悪態をつかざるを得なかった。
 限界を持たない相手が限界を持つまで殺し続ける? ああ言葉じゃあ理解したさ。まったく無茶な注文を寄越してきたもんだとな。それでも口角を歪ませてしまう俺は傍から見れば可笑しなヤツなんだろうか。

「ハッ、戦争も佳境。お疲れの所にこの依頼だ。――けど」

 まぁ。期待されちゃあな。逃げ出す者も居ればこうして抗う者も居る。それらを追って狩って片付けるのが便利屋Black Jack――即ちこの男、カイム・クローバーである。
 天から降り注がれるスイーツは見てくれは良けれど可愛らしいものじゃあない。カイム目掛けてミサイルのように突撃してくる甘菓子の群れに向け、魔剣を構えたカイムは黒銀纏いし斬撃を、迫りくる空塗り替え切り潰す勢いで敵中へと飛び込ませる。
 炎に焼かれ溶ける個体はチョコレート。砕かれた個体はビスケット。メロディア・グリードとよく似た分身たちは装甲は薄れけど数は多く、黄昏をぶつけても滅ばないのは敵らが神ではないからか。
 応、そりゃそうだ。相手は菓子だぜ。それにしても相変わらずな甘香にはいい加減に飽きてきた。
 高みの見物してるお姫さんよ。アンタ、菓子で人は殺せると思うか?

「アンタの愛は可笑しいな」
「何を、」
「殿が居ないと何もできないか?」

 虚ろな表情に怒りが現れた。
 カイムの周囲に居た女人らも瞳孔を開いて拳を振るおうと瞬時に迫る。魔剣の柄で受け止め、わざわざ拳で返したカイムはメロディア・グリードに向けて紫眼を歪ませ笑い返す。逆上する程に俺を不快に思ったか? なら効果覿面だ。
 分身を一斉に斬りつけ、黒銀の灯篭を点すカイムは神殺しを地へと突き立て、メロディア・グリードに向けて追い打ちのハンドサインを送った。
 風が吹く。メロディアがこちらに接近するのだろう。空気が重い、重圧の中には変わらず甘い匂いが雑じっている。初速と比べて加速を止まない相手は音速を超えるか? なんだ、長考しているわけでもないのにもう目と鼻の先まで来やがった。だがなぁ、視えているんだよ。
 お生憎様と挑発を重ねよう。此処はもう既に蒼い便利屋の舞台。先ほどに燃べた灯篭の中では黒銀が風に吹かれて踊っている。

「な――っ!?」

 災いを封じに、地の底から貪り食うものが喚ばれて生いた。間髪入れずにカイムは双頭の魔犬の咆哮を、拘束に抗うメロディア・グリードに叩き浴びせる。
 狙う個所は頭と心臓の二点。人間の急所がメロディア・グリードに通じるかは定かではないが、己の感を信用して核は此処だろうと、カイムはオルトロスの標準を合わせ撃ち続ける。
 ユーベルコード【過去を封じる鎖】。黒銀の魔力と封印の術式で編まれた強靭な鎖は過去を縛り、自由を奪う。

「空を飛んで分身に任せるだけで俺達は殺せる程、甘くはねぇ、ってよ」

 ただの女人になれど再生能力は健在か。足掻くメロディア・グリードはひどくカイムを睨みつけてきた。自慢の甘香も封じられた気分はさぞ最悪であろう。しかし、動かない的を撃ち続けるのもキリがないとは困ったもんだとカイムは表情を変えることなく狙いと共に固定した。
 手ごたえを感じながらも減りゆくのは時と、マガジンの束。増ええゆくのはメロディア・グリード。それと、壊れた籠の数。

「カルロスが居ないと何もできない? ……貴方にそう見えるなら、そうなのでしょうね」
「流すにしては随分と時間が掛かったな。相手に動けるようになったと宣言をするのは悪手だぜ?」
「黙りなさい」

 過去を縛られ、過去の柵から解放された女人が手を出してきた。ところでメロディア・グリードの戦術は明らかに消極的な行動が多い。最適化を求めた結果の香りと攻撃は、再生を繰り返すメロディア・グリード本人とよく似て型通りであった。ならば、速さに劣れど出方を知っていれば此方のもの。
 クイックドロウとは拳銃をホルスターから早く抜くことが主流である。だが、刀を鞘から抜くのもまた同様。
 魔剣が渇望する者を求めている。神をも殺す両刃の持ち手を再び掴んだカイムは一度蒼空を斬りつけ炎を従えた。黒銀に怯まぬメロディア・グリードが深く眉間に皺を刻み込む。青と紫の花弁を吹かせて対抗を開始する。
 もう一撃、また一撃。繰り返し。繰り返し。繰り返してひっくり返せ。

「最も、アンタを骸の海に送り返すのはちょっとどころか相当手間そうだ!!」
「ならば諦めなさい。しかし立ち去ってはいけません。ここで死ね!!」
「先の再開を諦めてるアンタの言葉は響かねえなあ!!?」

 挨拶とは繰り返すものだ。そうして募った怒りに突如冷や水を掛けてやれ。メロディア・グリードの僅かな動揺をカイムは見逃すはずがない。
 それは隙だ。かの分身と戦っている時を思い出す。スピードを緩めた場合、動かない的は貫かれておしまい。ああ、それと。

「俺は甘い物は好きだが、もう少しビター寄りが好みなのさ」

 魔剣が柔らかな布地の先を突き抜けた。カイムは容赦なくこれを発火。串刺されたメロディア・グリードは内部から再び未来を押さえ付けられる。
 マガジンの残り数は四。惜しみなく全弾解き放つ。弾が尽きたらまた切り刻めばいい。何度だって、繰り返して。
 殺してやるさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
これは大変な不公平だね
こっちは脆い人間の出来損ないが独り
あっちは不死の軍勢
でも人を殺すのだけは得意な筈だからやってみるよ

人間だから高速飛翔なんてできないし
まともにやり合っても勝ち目はない
【早業/逃げ足】で一目散に逃走
目標は島中央の建築物内
閉所であの速度を制御できるとは思えないからね

【サバイバル】知識を利用して遮蔽物や植物の影に隠れ
鴉達に妨害もして貰いつつ本体と分身を撒く
敵が僕を見失ったら【万有引力】発動
本体も分身も片っ端から標本針で【串刺し】にする

本体を狙う際はまず手足を壁等に縫い留め
逃げられないようにするよ
何回急所を貫けば死ぬのかな
そもそもどこが急所なんだろう
判らないから飽きる迄付き合ってね



●よどんだ空気は吸いづらい
 通常、ヒトという生物に飛翔能力はない。羽根や翼といった空を飛ぶための器官が備わっていないからだ。
 それでも人類は自身の肉体を飛ぶことは諦めても知力を尽くして空を移動する方法を編み出した。しかし、猟兵であれば。脚の力だけで跳ねることができれば浮くことも可能である。
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は猟兵の以前にヒトであるつもりだ。己が浮かないように地に足を付けて生きている。
 だから空は飛ばない。ましてや高速で飛翔するだなんて。同じ人の形をしているのに、これは大変な不公平な事象だと思えてしまう。
 果たして鵜飼・章という青年は幼少期、空に憧れたことはあっただろうか。ああ、でもカラスやカブトムシが飛ぶ世界に可笑しの出来損ないが居るのはいただけない。

「まともにやりあったら勝ち目もないや」

 北西から潮風が、可愛らしい桜花弁と一緒に黒銀の炎に焼かれる女からの甘い異臭を一緒に運んできてくれた。焼かれても、撃たれても、斬られても刺されても貫かれても。何度も飽きることなく、諦めることなく己の細胞を活性化させて、形を取り戻して再生する。七大海嘯の一体である『桜花』、メロディア・グリードは不死の身を持っている姫君だと表現しても然りである。
 だが、首は横に振るべきだろう。鵜飼はメロディア・グリードを歩きやすくて平たい緑地へと墜とすために、私物の銛を投擲した。注意が此方に向いたと思えばメロディア・グリードは拷問具によって底へ叩き落とされる。
 どうやって銛を回収しようかなんて呑気に考えていたけれど、向こうで誰が拾ってくれるみたいだ。便利だなあ、なんて。悠長に構えていられるのもここ迄だ。

「猟、兵。貴方。貴方も、カルロスの邪魔をしますか。私はそれを望みません」

 何かを話しているようだが、鵜飼は聞く耳持たずに背を向けた。背けたあっちには不死の軍勢。こっちは脆い人間の出来損ないが独りときたものだ。それに存在感を主張するお菓子の香りは、自身が人であると主張するために掛けられた香水のようで。
 偽りの分身には少しだけ。ちょっぴりだけど、気さくに対応できるのかもしれないと鵜飼は一目散に丹塗りされた島中央の建築物へと逃走した。ぽっかりと空いた真暗な洞に侵入してみれば、其処に広がる空間は神社の賽銭箱の先の風景と酷似しているように思える。野夜に鴉象を放つ鵜飼は友人とともに偵察と警戒を行う。途端、先ほどの白陽から甘菓子だったものが噴き出てきた。
 高速だった故に勢い余ってぶつかったのか。それともわざと、怯えさせる為か。気にも留めない鵜飼は生存知識を思い浮かべてハイドポジションとなる闇影へと足を踏み入れた。
 鴉が鳴いた。音を出さずに嘴を開閉すると、また別の鴉がメラニン色素を覗かせる。鵜飼の目でも視認できる距離に居る鴉が同じように口を開いた。右翼を開き、メロディア・グリードの位置を種族異なる朋へと告げる。
 鴉の懐を読み解いた鵜飼は新たな遮蔽物へと移動する。お礼は後でいいから。そうかなあ、今の方がいいと思うけれど。でも、空気は読まないといけないね。
 徘徊する分身は、背の高い植物の影でやり過ごした。いいね、ちゃんと見失ってくれている。でも楽しくないかくれんぼはごめんだ。虫じゃない何かの標本を作るのも……いや、興味はある。彼女と仮定する何かが、果たして何なのかが分かるかもしれない。
 人が好奇心を持つのは普通の事である。根源的欲求を満たせば人生が豊かになるからだ。だから子供は夏休みの研究に昆虫の標本を作るのだろう。だから鵜飼はメロディア・グリード本体へ、少年の日を思い出しつつ標本針を精妙に投じた。右手、左手。両足にと、銀素材の虫ピンを撃ち放す。
 虫と比較すればメロディア・グリードは大きいサイズだ。甲を埋める太さを持っている針は、レイピアの剣身と呼ぶにふさわしい。
 ユーベルコード【万有引力】。物好きに縫い留められたメロディア・グリードは逃げられない。薄暗くも白き壁に血液は飛び散らない。香るのは甘ったるいスイーツの匂いだけ。

「さっき、急所らしき箇所を何度も貫かれていたけど。まだ死なないんだね」
「っ貴方達、この猟兵を殺しなさい、殺しなさい!」
「懇願しないでよ。そもそも何処が急所なんだろう」

 姫君の警報が境内に響き渡る。喉を潰そうにもすぐさまに再生するから厄介だ。でも。やるに越したことはなかったな。今更だけど喉元にも打ち込んでおこう。

「がっぁ……!? か、……っ猟、兵!! 猟兵!!!」
「わあ。血は出ていないのに。空気に溺れてるね」

 成程、再生する箇所を塞げば再生したくてもできないんだ。でも押し戻そうとする。ふうん、換気したくなってきた。
 囚われたメロディア・グリードを救出しようと、影から分身体が爪を立てて鵜飼を襲う。風を切る音は、一つではない。それは分身が大量に居るからか? 否、鴉は風を切って飛ぶ生き物である。趾の先端にある鉤爪で菓子を掴めばいともたやすく砕かれた。
 故に鵜飼に掛かるのは食べかすのような粉末だけ。常に鵜飼の周囲を徘徊する鴉もまた、クッキーの砕ける音で知的好奇心を満たしているのだろうか。

「僕ね、人を殺すのだけは得意な筈なんだ」

 だから殺してみよう。殺し続けてみよう。ところで君は本当に人と仮定できるほどに人なんだろうか。判らない。

「でも、判る迄。飽きる迄。付き合ってね」

成功 🔵​🔵​🔴​

ギュスターヴ・ヘクテリオン
死なず増え続けるか、1人静かにも過ごせぬとは休まらぬな
我はラスボスであるが執事
他者に安らかな時間をもたらすのも仕事のうちなのだ

香りを吸っては勤めも果たせぬ
上半身の口元を布で覆い息を止め風上へ逃れよう
翅による羽ばたきで香気を吹き飛ばすのだ

香気が飛べば胴に複数の獣口を生やし【肉体改造】
絶えぬ【多重詠唱】によって詠唱を短縮、UCの威力を迅速に高めるぞ
速やかな破壊光線で奴を滅ぼしつくすのだ

しかし口が増えると香気も吸いやすくなるというもの
羽ばたきと対策は続けるが、くう…ねむい
しかし仕事中に寝る執事など下の下ですらないのだ
執事としての【覚悟】でもって意識は手放さぬ!

おぬしの永遠に、ここで暇をもたらすのだ!



●witness
 桜花島の中心部にて。
 ギュスターヴ・ヘクテリオン(よくはたらく・f31680)は温もりなんて最初から存在しなかった椅子に、白布で覆われた浅黒い指先を掛けた。定位置はこうではなかったはず。
 次に、机上に置かれた手付かずのティーセットに橙を向ける。カップの取っ手は向こうを向いている。傍に居る甘菓子は、その向こう側から見た方が見栄えがいい。

「死なず、増え続けるか」

 一人静かにも過ごせぬとは休まらぬな。だが、そう遠くない終を想えば無理もない事なのだろうか。
 ギュスターヴは桜花島唯一の建物を北として、南西の方角に白銀の四つ脚を進ませる。そして振り返ってみてみれば、まるで己が歓迎を受けているかのような美しき景趣が現れる。
 見方を変えれば悪行は善行ともなり得よう。全体を見るのとはまた違う。一方から見て、また一方から見てみると。この世はまだ分からない事ばかりだと気づかされることもある。しかし、目撃したとてギュスターヴは何を為す?
 七大海嘯の一体である『桜花』、メロディア・グリードを殺す。殺し続ける。それが猟兵として受けた依頼内容だ。
 ギュスターヴは猟兵以前にしてラスボスだ。生まれて間もない身ではあるが、過去には魔王としてとってもワルな強烈非行を遂げてきた。だから、養っていた魔物たちがドン引きしかねない殺しだってやってのけるだろう。
 だが、以前にして我は執事でもある。他者に安らかな時間をもたらすのも仕事のうちなのだ。

「故に我は悪事を働こう。真の悪とは、人類を甘やかし堕落させる事。それこそ最高のワルに違いない」

 その為に下界へと飛び出した。魔王業を放棄するという、もうどえらいとんでもんっゴい悪い子スタートダッシュをキメた彼は最高に悪いお方だろう。
 途端、北の建築物から飛び出てくる人影がギュスターヴの目前へと投げ込まれた。
 肩で息をする女人――メロディア・グリードは、獣のように唸りを上げて獣の大口を捉え、ギュスターヴが猟兵であると認識する。乱れた髪を気にも留めずに、獣はぶわりと毛を逆立てるかのように甘菓子の匂いを強く食わせてきた。刺すような香りに大口は舌を仕舞いたくなるも臨戦態勢をとる。

「おぬし、喉を――」

 痛めておるのか。そう言葉を続けたかったギュスターヴだがそれは叶わず。人型である上半身の口元を覆い息を止め、風上へと逃れようと草原を蹴り弾んだ。

(香りを吸っては勤めも果たせぬ!)

 桜花弁が舞う蒼空へと跳躍したギュスターヴは燈火灯る光翅を広げて大気に雑じる甘毒を吹き飛ばす。
 そして半身を覆う白銀の胴に、新たな獣口を複数生やす。こうしている間にもメロディア・グリードは癒えていく。それは今までの猛攻が全て水の泡と化すこと。それは絶対に在ってはならない事だ。
 魔言を放つ口は更に増える。白銀の面積を無くすかのように顕れる口たちは同じ唄を繰り返し詠う。詠う。詠い重ねられた火光は桜を橙色に染め上げた。

「ゆくぞ」

 世界を真白く滅ぼす光束が地上へ放たれた。直線を描く数は生やした獣口の数を超え、聖炎は外壁たる桜木々を燃やし尽くす。破壊光線は止まらない。ギュスターヴが口を閉ざすまで威力は無限に上昇し続けるのだから。
 しかし、ギュスターヴに追い風が吹いた。鼻をくすぐるのはスイート・パヒューム。

(後ろから、だと)

 香気はメロディア・グリードから発せられることをギュスターヴは理解していた。一方方向からやってくるように動き、余所へと払えば吸わなくて済むし、距離を置けば薄れるものだと。
 まさか、香り――大気自体を操れることを隠していたとは。だが、何故今までそうしなかった? 風向きは西から、いいや南西。南西から……何処へ? 何処へ、向かっているというのだ。
 羽ばたきを続けるギュスターヴの思考に霞が生じた。欠伸を噛み殺す上半身はあれど、獣口たちの中にはうまくいかない者も居たようで。余計に甘香を吸ってしまい、脳に酸素を送るために毒を身体に取り入れたくもなってしまう。
 ……くう、眠い。しかし、仕事中に寝る執事など。…………――っ下の下ですらないのだ!!!
 目を閉じたギュスターヴは両の手を空に広げた。大きく広げた平を勢いよく自らの頬へと打ち付ける。バチリと音が鳴ると同時に痛覚が身体中に喝を入れ、執事は覚悟を今一度口に出す。

「我はラスボスであるが執事! 我はおぬしに安らかな時間をもたらすと決めたのだ!!」

 ギュスターヴ・ヘクテリオンに二言はない。我がそう決めたからにはそうなのだ。執事としての覚悟を持って、魔王としての誇りを忘れずに。実の悪であるこのラスボスは意識を手放さぬ!!

「何故、その香気を南西へと届けない」

 メロディア・グリードが虚ろな瞳を小さくさせた。香りは桜花島に充満している。大気を操るメロディア・グリードはずっと、最初から。自身から発せられる甘菓子の香りをずっと。桜花島へ閉じ込めていたのだ。
 だが、外壁たる桜の大木が無くなった今。メロディア・グリードは自力で香気を押し込めねばならなくなっていた。残滓を咲き殖やしたのはメロディア・グリード自信なのに、何故そのような行動を取る?

「どうして想いをカルロスへと届けない。あの茶会は、おぬしが独りで楽しむものでも、最後の晩餐でもないだろう!」
「黙れ!! 黙りなさい!! 貴方には関係のない事。知ってなにをする、余計な事を。
 っ余計なお世話をする執事なんて首を切られて終ればいい!!!」
「頑なな姫君だ! 執事にとって余計な世話とは誉め言葉であるぞ!!」

 少々強引な手ではあるが、致し方無い。瞬きが止まない視界の中、ギュスターヴは再び閃光を輝かせる。獣口たちはこの間にもずっと多重詠唱を続けてくれていた。我が身ながら天晴だ!

「おぬしの永遠に、ここで暇をもたらすのだ!」

 桜花島全体に、魔王からの警告と激励が送られた。白くも輝く橙は潮風の向こうへと吹き荒れる。拒絶の女は想いを取り戻そうと聖炎に触れるもその身を焼き焦がし、焼き尽くす。
 この甘香は届くだろうか。眠気を噛み殺すために歯をきしませるギュスターヴは、かの姫君が本当の眠りに付くまで、奉仕を続けるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニィエン・バハムート
・先制対策
全身のメガリスから【衝撃波】放ち香りを散らす。【オーラ防御】で以降の香りを遮断する。眠気には電撃【属性攻撃】を自分に放ち覚醒。足りなければ爪で自傷を。痛みには【激痛耐性】で耐え行動継続。

対処後にUC発動。雷を纏った何かたちによる【マヒ攻撃】【捕食】の波状攻撃で敵本体を【蹂躙】。私自身もマヒで動きを鈍らせた敵に【怪力】による【部位破壊】や【切断】で攻撃を仕掛け再生を阻害しながら殺し続けます。何かたちが尽きようとも【限界突破】して殺して殺して殺しまくります。

あなたが愛を謳うなら私は夢を謳う!
真なる竜王バハムートに至るという野望のため!
私はあなたたちの愛を踏み躙ってでも進み続けますわ!



●夢(ヨクボウ)の儘に死に克たれ
 果たして此処は本当に桜花島であるか、どうか。ニィエン・バハムート(竜王のドラゴニアン(自称)・f26511)は、桜の大木の消え失せた青空を海の中からじっと眺めていた。最初こそはメロディア・グリードの先制攻撃かと思ったが、どうやらスゴク悪だけどスゴク味方な猟兵のユーベルコードだったらしい。
 海へと飛び込んでまで逃げなくても被弾はしなかっただろうが、陸地より海面の方が、昂ぶる気持ちを整え瞑想する場としては丁度良かったのだ。
 竜王。ニィエン・バハムートは竜王だ。だってカッコいいじゃありません? 私は竜王です。しかし、七大海嘯の一体である『桜花』、メロディア・グリードも竜王でした。なんてことでしょう、二人居ますわ。竜王を名乗る女が二人も居ますわ!!?
 帝竜ならまだしも、竜王。だがニィエンが嘗て信仰していた世界魚『バハムート』とは違う。異世界で『竜王』として扱われるバハムートとも、違う。なら、つまり。
 ニィエンの緑眼に映る竜王とやらは、嘗てニィエンが削り潰したスイート・メロディアと同じ顔を持つ本体は。
 ニィエン・バハムートが自身を竜王だと高らかに謳いあげる為の、大願叶う切符である。
 蹂躙の時は来た。しかし用心深く在れ。アンドヴァリの首飾りが煌めくと同時にニィエンは全身のメガリスから衝撃波を放ち、メロディア・グリード向かって歩を進めた。メロディア・グリードは大気を操りスイート・パヒュームの旋風を作り出す。ただ香りを散らすだけでなく、風の鞭を振るってきた。

「ごきげんよう、メロディア・グリード。竜王なんですって? 奇遇ですね、私もなんですの」
「そうですか。ですが、王は一人だけです。カルロス・グリードただ一人」
「カルロスを王と持ち上げる為ならば、自らの名を捨てると言っていらっしゃる?」
「ええ。しかし貴方は竜王を名乗るならば、私は今だけは竜王として振舞いましょう。鯰如きが、カルロスの座を求めるな」
「ハッ、その鯰娘に今から踏み躙られる恐れで……あら。震えている理由は怒りではなく其方かしら!」
「細切れなさいな」

 見えない鞭が鎌となってニィエンに襲い来る。ニィエンは悠然とした歩みを走りに変えた。バハムートのオーラがニィエンを竜だと自覚させる。そう、私は竜。香りを遮断すると攻撃の方向がわからなくなるけれど、眠気を付与されるよりはずっとマシですわ。
 それに痛みには強いんですの。かまいたちに悲鳴を上げる柔肌など、持ち合わせていないんですのよ!!

「現れよ! 雷纏いし竜王の眷属――サンダー・バハムート・レギオン!!」

 初撃をモノともしないニィエンは鮫魔術師たる鱗片をメロディア・グリードに見せつけた。鯰と呼ぶなら呼ぶといい。鮫と捉えればそれは鮫だ。だが、雷を纏ったコレはドラゴンだ。ニィエン自身もよく分かっていないが、術師本人がドラゴンと定めたならば、『何か』とは『ドラゴン』の四字が当てはまるにふさわしかろう?
 ユーベルコード【ナマズ流鮫魔術奥義・ビリビリナマズ航空ジョーズ】。海底から這い上がってきた雷竜は、甘菓子を捕食しに蒼空を舞泳ぐ。蹂躙だ、我が王と同じ号を持つ者の自由を奪え!!

「あなたが愛を謳うなら、私は夢を謳う! 真なる竜王バハムートに至るという野望のため!!」
「ならば夢を見るがいい。夢の中では何にだってなれるのですから!! 深き海底に睡り死ね」

 嘗て、何処かの世界線で竜王と呼ばれたメロディア・グリードの風格は飾り物ではない。確かな重圧がニィエンを圧し潰そうと甘香と共に差し障る。
 メロディア・グリードは本気だ。ビリビリとした感覚は自らの雷撃のせいか、それとも己のプライドにスイートメロディアのプレッシャーが刺さってしまったか。
 ニィエンは遮断していた香りを吸ってしまう。突風に見栄を剥がされた少女は、嘗ては竜に憧れる深海人だった。
 自分とは違う竜王を目にした時、ニィエンは何を思っただろうか。本物だと思ったか。自称は自傷へと至らなかったか。
 否、ニィエン・バハムートは決して偽物ではない。翼を持たぬ天使は蝋を固めた翼によって空を飛んだ。その天使は太陽に接近しすぎて墜落して死を迎えたが、コレを愚かと笑う者いれば勇気の象徴として讃える者も居る。
 ニィエンはヒレがついた手を斬り落とした代わりに万物を切り裂く竜の爪を身に着けた。尾鰭を切り取った代わりに己を竜をもたらす尻尾を移植した。鯰の口髭に当たる皮膚を切除し竜へと変わる角だって移植した。背鰭も切除して、竜の翼で空を飛んだ。
 初めて空を飛んだ時を思い出せ。痛みを堪えて姿を変えた己はニィエンであることには変わりない。其れと比べれば肌に食い込む爪だなんて痛くない。
 ニィエン・バハムートは私の名前。ナマズ目の深海人だって私の一部――いいえ。

「私そのものですわ」

 メガリスボーグは欠損した身体部位をメガリスで補う、狂気の海賊だ。肉体へのメガリス移植は正気を削る。だが、精神が保つ限りは無尽蔵に強くなる。
 その特徴はニィエンに当てはまる。己に雷撃を放った竜王の目が醒めた。
 竜に竜属性を付与して竜とする。雷は波状に動き回って香を包囲し食い荒らした。王が通るぞ。踏み躙られたくなければ道を開け。
 立ち塞がるならば殺すまで。雷竜たちが尽きてもニィエン・バハムートは立ち止まらない。

「付け焼き刃の分際で、王に楯突いてくれるなよ狂人が!!」
「その声帯、邪魔ですわね」

 切除してあげないと。
 頸動脈を狙うニィエンは大地を踏みつけ、空を飛んだ。限界を超えた雷撃で助走をつけた滑空は速い。右拳を振るえば白き細指に苛まれた。左拳を使うと右の手に封じられる。

「次は脚でしょうか。我が香に誘われたお嬢さん、どうかこのまま踊ってくださらない?」

 ニィエンの両手を封印したメロディア・グリードはたおやかながらも冷ややかに笑う。対し、手骨をきしませてくるメロディア・グリードの両腕を塞いだニィエンも笑う。さあ、メロディア・グリードさん。次は何だと思います?
 地を這う蛇は毒を持っている。地を這う竜は雷を宿している。ゆらりと動いたのは鯰の影。

「切れ味の悪い刃物でも、刺すことは可能ですのよ」

 竜の尻尾が姫君の首へと食らいついた。嘗ての竜王は吠える。ニィエンは膝を折ってメロディア・グリードの腹部に一撃を入れた。緩んだ力を掻い潜り、ガントレットで喉笛を切り裂けば、切除は完了だ。
 血は噴き出ない。耳を澄ませば代わりにぼこぼこと泡が鳴る音がする。まるで、深海で聞いた海の音色のように。

「その音、もっと聞かせてくださる?」

 捨て身の一撃を力のままに。麻痺を付与して連撃を。動きが遅ければ遅くなるほどに切断すべき箇所が見える。再生をする箇所が解る。
 生き返るな。いえ、やはり生き返ってください。何度も阻害してやります。何度も殺し続けます。殺して殺して殺しまくります。
 私はあなたたちの愛を踏み躙ってでも進み続けますわ。だから、夢を謳いましょう。夢を称えましょう。泡となり地獄へ送られても真なる竜王バハムートは私、ニィエン・バハムートなのですから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【証人】
愛しているのなら命を落としてでも、なんて
言うべきじゃないけどね
私だったら、世界のすべてを蹂躙し
山積みになった死体の上で――愛していると叫ぶけれど
まあ、その程度の想いなんでしょう。「甘い」お嬢さん
ご機嫌麗しゅう。犯罪王です

有象無象を集めてくれるのね
ありがたいわ――ならば「これ」を奮いがいがある
匡、レースをしましょう。どちらがあの女の心臓を砕くか
ああ、腹が立つ。生半可な「覚悟」で王ぶるな
【黄昏】
圧倒的な怒りと怪力で――拳圧で海すら砕いてあげる
何度でも、何度でもあなたたちを屠る
死ぬまで「殴る」ただそれだけよ
言ったでしょう。「犯罪王」なの
――殺すのは、得意中の得意でね
さあ、ここで――絶えて死ね


鳴宮・匡
【証人】


――命を落としたら、終わりだろ
それ以上傍にはいられない
支えることも、手を伸ばすことも
……想うこともできない

だから、そんな“愛”に負けてはやれない
俺がもし、約束の先、そこに辿り着く日があるとしたら
生きて果たし続けたいと思うから

初撃の着弾まで周囲に蔓延る残滓を砕きつつ
本体から目を逸らさない
残滓を砕けばその分能力は落ちる
回避の隙を見切ることもできるはずだ

砕いても復活するんだし
どっちが多く砕けるか、の方がいいんじゃない?

ハティが残滓を砕いた直後
残滓の数が減り、能力が低下した瞬間が狙い目
観察するのは得意なんだ、好機を見誤るようなことはない
本体を狙い撃つよ――心臓よりは頭かな
確実に殺せるだろうから



●Uncontrollable Heart
 愛に形はあるのだろうか。誰かが勝手に型に当てはめているだけにすぎない感情を証明するには行動が必要である。
 例えば、コミュニケーション。気持ちや意見を言葉で伝えるのは簡単に見えて難しい。人間に限らず、生きものは身振りや音声で情報の伝達を行っては脳に刺激を与えて生きようとする。不思議なことに個体個体、何故か手を取り合いながら。だが手を払いたくにも、払う相手が居なければその事象は成立しない。
 それは世界が全である故。全の中に個はあり、個が集って全となる。詰まる所――少なくとも、ヒトという生命体は一匹では成立し得ないのだ。
 予兆を知る猟兵は、膝を突こうとする女ことメロディア・グリードが、昔は良くこう言っていたとされる言葉を得ているはずだ。

 世界には、私だけが有ればいい。

 その女が愛と呼ばれる現象を強欲の海にて想起した。やれカルロスを助けろだ死なせないだ想い続けろだ、命を落としてもかわいい人へ? 私なりの愛を誓います?

「愛しているのなら命を落としてでも、なんて。言うべきじゃないけどね」

 私だったら。世界のすべてを蹂躙し、山積みになった死体の上で――愛している、と。

「叫ぶけれど」

 けれども、腹が立つ。ヘンリエッタ・モリアーティ(悪形・f07026)は銀眼に怒りを秘めれど表出さない。だがその瞳はかの女を捉えている。七大海嘯の一体である『桜花』、メロディア・グリードを己が視界に入れたからには逃がさない。
 焦茶に死を認識す鳴宮・匡(凪の海・f01612)もまた、メロディア・グリードを完全に撃ち殺す為に愛銃のサイトを定めては初撃を放つ。
 ヒット。しかし、戦況に変化は無し。其れは『中々死なない』メロディア・グリードの再生能力は未だ健在であることを証明した。
 だが、終りももうじき近い。蒼空に橙と藍が差し掛かって来たからだ。
 鳴宮にとって、愛とは未だよくわからないものである。それでも、少しは。今では。よくわからないものだという事を知っているのであれば。

「――命を落としたら、終わりだろ。それ以上傍には居られない。
 支えることも、手を伸ばすことも。……想うこともできない」

 だから、そんなメロディア・グリードの愛の誓いには、負けてはやれない。負けてなるものか。俺がもし、約束の先に――其処へ、辿り着く日があるとしたら。

「生きて……生きて果たし続けたいと思うから」

 リロード。鳴宮の吐露に口を挟まないヘンリエッタの無言は、肯定とも取れる。
 スイート・フュージョン。メロディア・グリードは残滓達――スイート・メロディアを、自身の元へと集らせ始めた。此方に向かい来る個体も居るが、さあ賭けるか。勝負の決め手はどうしよう?

「匡、レースをしましょう。どちらがあの女の心臓を砕くか」
「どっちが多く砕けるか、の方がいいんじゃない?」

 砕いても復活するんだし。鳴宮の言葉を最後まで耳にしたヘンリエッタが飛び出すと同時に、鳴宮は間を置かずメロディア・グリードの周囲に蔓延る残滓を砕きにアサルトライフルの銃口を向けた。嵐の銃音が桜花島へと反響する。
 ユーベルコード【死神の咢】。小銃弾より小さく、拳銃弾より大きい弾薬はスイート・メロディアの脳天を貫き破壊を促す。眉間を撃たれてもなお生きようとする個体には、もう一発を再び命中させる。体勢を崩しておらずとも、死神の眼が狙いを違えることはない。そして、因果を見通すそれはメロディア・グリードを逃しはしない。
 これまで、鳴宮は愛銃の照準器を覗いた時からずっと。メロディア・グリード本体から灰降る暗き黄赤の瞳を逸らしたことは一度もなかった。鳴宮がメロディア・グリードを視認する限り、回避の隙なぞ無しに等しい。
 メロディア・グリードを中心に捕らえたまま、鳴宮は残滓を砕き馬を走らせる。初速はまずまずか。ハティは直ぐに追いついてくるだろうな。
 その暴風の中、雨が降るだなんて気にも留めないヘンリエッタは銃弾の遮蔽にならないルートを駆けて追い抜き、宙を飛ぶ。食べかすだけじゃあ馬の腹は膨れない。

「ご機嫌麗しゅう、『甘い』お嬢さん」

 犯罪王です。マジックアワーを滑走したヘンリエッタの右拳が青白く光ったかと思えば途端、メロディア・グリードの頭部がひしゃげて歪む。弾けた先から再生するも、其れは馬が駆ける為の生き餌に過ぎず、あなたたちが『死ぬ』まで殴るただそれだけの事。

「――殺すのは得意中の得意でね」

 先ずは撲殺。次も撲殺。不快な言葉を発するであろうダークローズは摘み取ることなく、枯れ果てろと握り絞めては滅びを与え。甘香の代わりに甘菓子が飛び交った。されど其れ等の背後には死神が付いている。海がそっと陸地から身を引くように鎌で頸を撫でれば、烏合は凪の先にて衆と化す。有象無象は匠が集めてくれるから、ありがたいわ。――ならば『これ』を奮いがいがある。
 追い上げようと馬を蹴る代わりにヘンリエッタはメロディア・グリードを蹴殺する。今回の犯罪はいたってシンプルに殺人だ。暴力を振るわれど、傷害に巻き込まても尚再生能力を止めないメロディア・グリードは、虚ろな目に生気を点して愛を謳う。

「――大天使の肉なんて手に入らなくていい」

 ヘンリエッタは己の耳を疑った。黒薔薇が言葉となり得る音階を発したのは今となってはどうでもいい。
 何を。この女は何を言った。何を言っている?

「――無限再生能力を封じなくてもいい」

 何処迄、何処迄気に障る言葉を吐き散らす? ……まあ、その程度の想いなんでしょう。そう、なんて『甘ったれた』お嬢さんだ。
 だが此奴は余りにも度を越えている。纏わりつくような、縋りつくようなデザイアには反吐が出る。

「貴方が死ななければ、それでいい」

 ――それでいい? 其れを愛と、この女は言うのか。敗北を受け入れる中で愛を誓うと言ってのけたのか。ああ、腹が立つ。腹が立つ。抑えきれぬ怒りが我が身を駆け巡り判断を下す。
 空赤染まる逢魔が時が訪れる。桜花島に顕現するは憤怒纏し魔王であった。

「死にぞこないの敗者が生半可な『覚悟』で王ぶるな」

 ユーベルコード【黄昏】。円環竜の逆燐には決して触れてはならない。邪魔をすれば最期、忽ち激憤と憎悪を代償に凶悪な暴力を振るって来るのだから。
 メロディア・グリードは圧倒的な怒りと怪力を受け止めなければならない。それがお前の愛なのだろう。それがお前の誓いなのだろう。竜王よ、嘗て竜王と呼ばれた女人よ。お前は引き裂かれる運命を凪に定められている。
 その様子を観察していた鳴宮は気づくだろう。メロディア・グリードがヘンリエッタに恐れをなしたことに。メロディア・グリードが円環から免れようとしていることに。
 竜王の行動は恥ずべき行為だろう。動物本能に従い、生存競争に負けた生命体は死か逃走かの二択である。
 だが、本当に。ハティの言った言葉を借りるならば本当に『生半可』だ。未熟で、不十分で、中途半端な愛。
 それも愛なのだろう。愛だとメロディア・グリードは決めつけてしまったのだから。届けるべき相手に告げずして、命を落とすだなんて終わりを告げられるのだろうか。
 だが好機な事には変わりはない。ハティの拳圧によって夕闇暮れる海が砕かれた。跳ねる魚の鱗を撃ち剥がして狙い引き裂き崩して殴り殺す/屠る。
 何度でも、何度でも。踊り吐かれても夜明けを求めて小鳥よ狂え。愛を謳えよ聞かせて見せろ。証人らに証言への異議を唱えぬならば、死に絶える他に術はない。
 半壊したメロディア・グリードがヘンリエッタの脚を掴んだ。粘つくような感覚は、つかの間我慢してやろう。固定されたメロディア・グリードの頭部を粉砕したのは鳴宮だ。心臓よりも頭を狙い撃った彼、匡は確実に殺すために観察をし続けた。ならば、私は心臓を。首のない女の心臓部を抉り盗っては圧砕しましょう。内臓部は――ハティが。俺は足を撃って逃げられないように。
 散った残滓はどうする? それは早い者勝ちだ。桜花、七大海嘯の姫君よ。さあ、今ここで。

 ――耐えて死ね。

 其れは、実にあっけのない終りだったかもしれない。メロディア・グリードに中身は詰まっていなかった。
 女人であったことは証明できよう。しかし、助けたいと口にするには動かない。咲き殖えても返り咲くことを諦めた者に勝機は見えるものか? 解剖しても血は一滴も零れず、風向きを見ないふりして無視続け、夢を見るのは命を賭けても落とさず放さず、持ち続けて走り続けるイカしてイカれたイける者たちだけだった。
 真っ二つに割れた桜花島に死体は残らない。だって、

「言ったでしょう。『犯罪王』なの」

 潮風が証人を凪ぐ。夜に染まった海色からは甘香は感じられない。割れた小麦菓子は水分を吸って、海に溶けて還るのだろうか。

「そういえば、馬の調子はどうだ?」
「ああ。そういえば」

 レースの結果はどうなったのだろうか。引き分けなのは味気ない。さてさて。いや、しかし。此処で証明するのも情緒がない。証言は証拠品として見えるように提出すべきだ。ならば帰路に就こうか。桜花無き無人島に、もう用はないのだから。
 七大海嘯の一体であった『桜花』、メロディア・グリードは猟兵の手により殺されて死んだ。強欲の海は欲望は求めれど、甘きは欲しなかったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月24日


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト