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羅針盤戦争〜終わらぬ花へと送る、愛の旋律~

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #メロディア・グリード #桜花島 #プレイング受付は19日(金)の08:31~20日(土)23時 #プレイング受付終了

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●桜花島



 これは決して。
 愛ではないのだ。
 魔法のように。呪いのように。
 美しくともその身に纏わり付く尽きぬ残滓のように。
 さながら咲き誇り、舞い散る桜花の花びら。
 美しい欠片たちは、彼女の身体から生まれて、そして剥がれて朽ちていく。
 儚く、なんという無常か。
 けれど、そんな当たり前の流れに、変化に彼女の魂と本質は触れる事さえ出来ない。
「ああ、無限とは――果てのない」
 甘い絶望の溜息をついて、彼女は、メロディア・グリードは瞼を伏せる。
 彼女の持つ『無限再生能力』が尽きるまで死ぬ事はなく。
 寿命というものさえ定かではない竜王の姫君は、奇怪な増殖をみせて、己がという花を狂い咲かせていく。
 全ては自分で。
 けれど、自分という本体は何処だろう。
 美しい残骸に囲まれたメロディアを包むのは、甘く穏やかな絶望。
「そう、こんな身を愛するものなどいないように」
 欲望で手に入れたいと思っても。
 口では麗しの姫君と言われても。
 所詮は珍しく、美しい花。宝石と変わらないのでしょう。
 故にメロディアも自らを娶った男をただ利用しようと思うのだ。
「これは決して」
 ふわりと残滓たちを踊らせて。
「愛ではなないのです」
 誰かに言い聞かせるように、自分しかいない島の中で歌うメロディア。
 あの男を思っての事ではなく、大天使の肉を得て、この忌まわしい『無限再生能力』を封じなければ。
 こんな姿――誰が愛してくれるというのか。
「あの男など利用しているに過ぎない。そして、それはお互いに。だから、この命を賭しても構いません」
 ええ、ええと。
 頷く残滓、つまりはメロディアの影。
「……私の目的は」
 忌まわしきこの呪いから、脱することなのだから。
 そうして愛されたい。
 甘い旋律の中で微笑みたい。
 けれど次々と残骸を生み出すこの身は、どれが真実、本体なのかさえ定かではないのだから。


 咲き乱れる残骸よ。これは罰、それとも罪、贖いなのでしょうか。


 こんな身では愛されないからこそ。
 残骸ではない私をこそ抱き締めて欲しいだなんて。
 この異能を利用せず、純然に愛して欲しい、愛したいだなんて。
 叶わない夢だと知って、絶望を心の裡に揺らしながら。

 ざわざわと。
 ざわりもざわりと。

 甘い匂いを伴って、歩み始めるメロディア。 
「ただ、まだ死なせる訳にはいかないのです」 
 まだ終わる訳にはいかないと。
 死なないというその身をもって、猟兵へと向かうメロディア。
 命を賭す覚悟は出来ていると。
 死なないだけでは夢は叶わぬと知る、絶望のいろを咲かせながら。

――故に、命を賭す竜王の姫と対峙するのだ。

 慢心も余裕もなく。
 死なないという、夢想の力を振るう『桜花』と。
 



●グリモアベース



 次なる本拠地は桜花島だと。
 それこそ花のように柔らかな吐息と共に、秋穂・紗織(木花吐息・f18825)は言葉を紡ぐ。
 決戦を意味するものが続くのは、それこそこの羅針盤戦争も佳境という事だろう。
「拠点となる島で待ち構えるのはメロディア・グリード」
 竜王にして、カルロス・グリードの妻。
 麗しの姫君とは恐らく彼女の事であり、何かしらの思惑を持つ。
「姿形こそ人のそれを取りますが、秘める異能は驚異の一言です」

――『死にません』

 無数の残滓を身から紡ぎ出し。
 どんな致命傷も瞬時に癒やすという、不滅とは別種の不死性だ。
「ただ、攻撃は通りますし、状態異常なども通る筈」
 故にと、メロディアの先制攻撃を避けた後に繰り出すのは。

「死ぬまで殺し続ける事。ただそれのみです」

 容赦の一切ない全身全力で殺し続ける。
 遊びはなく、全ては苛烈かつ熾烈に。
 不死というのならば、死ぬまで殺し続けてみせるのだと。
 一瞬でも途絶えれて、逃げたり、或いは防ぐ事を許せば。
 その身は花開くようにまた元に戻って全回復した上で反撃の一撃を繰り出すだろう。
「ましてや……その身から零れ続ける、『増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)』の波状攻撃も待っているのですから」
 故に必要なのはただ、無尽蔵とも思える『無限再生能力』が尽きるまで殺し続けること。
 先に尽きるのが猟兵たちの意思と力か。
 それともメロディアの『無限再生能力』か。
 ある意味で退かず、譲らぬという戦意の勝負。
「そうい意味でも、メロディアの戦意を挫く。或いは、意識を集中させないようにするというのは有効かもしれませんね」
 迷い、惑わせるように。
 或いは、怖がらせるように。

――求めている魂の渇きこそを、貫くように。

 その心こそを貫くべきなのかもしれませんと、秋穂は語る。
 不滅や不死など、何かを求めているからのこと。
 或いは、奪われたか、呪われたのか。少なくとも、魂にどうしようもない欠落があるのは間違いない。
「メロディアの命と魂を穿つのは武か、魔術か、毒か、異能か。それとも言葉と戦略かは問いません。いいえ、問う程の余裕はないのです」
 これは決戦なのだと、再度と念をおして。
 秋穂はゆっくりとお辞儀をするのだ。
「どうかご武運を。皆さんの勝利を。どうか竜王の姫の『死なない』という、終わらない旋律に、愛を求める歌に終止符を」
 勝利を信じる瞳で、猟兵たちを見送る秋穂。
 もはや強欲なる海の王、その妻にまで迫ったこの場で。
 如何なる戦を見せるのか。それはまだ誰も知らない。


遙月
 何時もお世話になっております。
 マスターの遥月です。
 戦争の幹部ボスが相手。
 ならばこそと、この敵に、このキャラクターなら何を思い、感情を懐き、どう戦うのか。
 そんな心情と戦闘が織り成すようなリプレイを書ければと思いながら。

 この度は七大海嘯の一角、『桜花』のメロディア・グリードとの決戦をお届け致します。

 『私は死なない』。なんとも呪いのような言葉と能力で、残滓に囲まれた彼女は美しくとも、何処までも呪われているのかもしれませんね。
 けれど、『無限再生』という『死なない』能力を持ち、かつ竜王でもあるメロディアは確かな強敵。余裕などはないでしょう。
 そんな存在にどう思うのか。
 そして、どう戦うのか。プレイングをお待ちしております。

 
 また、傍に纏う残滓たち自体は基本として攻撃や防御に参加する事はありませんので、メロディア一体への対策で十分です。
 ただし、攻撃の手が緩かったり、隙があれば反撃として『増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)』を含む強烈な波状と連続攻撃が待ち構えるでしょう。


 幹部ボスの常として、まずは敵の先制攻撃を凌ぐ事。
 続けて、残した余力でメロディアを殺し続ける事。
 決して反撃の糸口を与えず、そのまま『無限再生能力』が尽きるまで倒しきってください。


 つまりは先制攻撃対策と、相手に次の手番を与えない連続攻撃の両方が必要となります。
 或いは、相手の思いを揺らす事も、ひとつの手段ではあるでしょうが。
 難易度は『やや難』となっておりますので、どうぞご注意を。

 プレイングの受付は19日(金曜日)の08:31~20日(土曜日)の23時ごろまでとさせて頂く予定です。
 採用数は不確かで、確定で全員とはお約束出来ないのはご容赦くださいませ。


 それでは、どうぞ宜しくお願い致します。


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プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードを対処した後、殺して殺して殺しまくる。
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※先制攻撃対策はユーベルコードを持ちいらず、他の方法での対処のみとさせて頂きます。
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第1章 ボス戦 『七大海嘯『桜花』メロディア・グリード』

POW   :    スイート・フュージョン
【残滓達(スイート・メロディア)】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[残滓達(スイート・メロディア)]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    スイート・レイン
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【肉体】から【スイーツで出来た分身の群れ】を放つ。
WIZ   :    スイート・パフューム
【甘いスイーツの香り】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。

イラスト:hina

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

イコル・アダマンティウム
「僕は……武で、いく」

格闘特化の愛機に搭乗し出撃する、よ

【対スイートレイン】
「いっぱい、だ」
分身の群れ
まともに相手するには多い、ね
本体を狙いたい所
肉体から出てる、なら
「分身の先に……本体が、いる」

分身に<ジャンプ>で跳び乗る、ね
そしたら分身を<踏みつけ>て足場にして次の分身に、って
どんどん跳んでく、よ
「いやっふー……」
これで本体を追いかけて距離を詰める

【攻撃】
「捉えた」
距離を詰めれたら、殴りまくる
UC[閃光百裂拳]
腕の限界まで連打を繰り出す、よ
<暴力><限界突破>
限界が来たら蹴り飛ばす、ね

分身、分身……
「……お似合いの夫婦だ、な」
アレも、沢山分身してた
……二人で静かに過ごしてれば、よかったのに



 
 溜息は甘く、重く。
 花のように麗しくとも、何処か虚ろに。
「貴女は行く手を阻むというのですね?」
 言葉を向けるメロディア・グリード。
 カルロスの妻たる竜王にして、七大海嘯の『桜花』を前に。
「僕は……武で、いく」
 格闘特化の愛機に搭乗し、その巨体で立ちはだかるはイコル・アダマンティウム(ノーバレッツ・f30109)。
 軋みながら稼働する鋼鉄の音色こそ、尽きせぬ『桜花』を散らさんと。
「その武で……押し通るだけだ」
「そうですか。つまりは相容れぬ、道を譲れぬと」
ひらりと袖を翻すメロディア。
 ならば敵。向ける言葉はない代わりに、数多の残滓を身から放ちながら飛翔する。
 どれもが竜王の分身。
 耐久性は花のように儚くとも、秘めた力は恐ろしく。
「いっぱい、だ」
 それこそ狂い咲くかのようにイコルの周囲を覆う残滓たち。
 まともに相手にするには数が多すぎると、残滓たちの大元となった場所を探すイコル。
 あくまでこれはメロディアの『無限再生』から紡がれ、剥がれおちた欠片なのだ。
「分身の先に……本体が、いる」
当然のことであり、ならばと迷う必要はないと跳躍し、分身たちの上へと飛び乗るイコル。
 超格闘戦特化したクロムキャバリア『Tactical Armor-001:Last ONE』ならば、軽やかな動作とて容易なもの。
 砕け散る分身たちを更に足場として更に跳躍を重ねていく。
「いやっふー……」
 どんなに高速で飛翔しようとも。
 今いる場所へと、この分身たちを辿れば到着する筈なのだと。
 だが、それはメロディアの生み出す激流に逆らうということ。クロムキャバリアの装甲が分身たちの一撃を受けるごとに削られ、破損し、装甲の欠片を零し続ける。
 巨体であるという事がそのまま、夥しい数の攻撃を受けるという事に繋がり。
「ああ、止まりましたね」
 僅かな一瞬、イコルが受けた攻撃の衝撃で動きを静止したのを見つけたメロディアが殺意の吐息と共に飛翔する。
 その爪は竜のそれへと変じ、飛翔の速度を上乗せした一閃としてキャバリアのコクピックト、イコルそのものを狙って放たれる。
 装甲を無為と穿ち、その奥で鮮血を咲かせる竜王の爪。
「おや?」
 だが、たったそれだけで鼓動を止めるほどにニコルは甘くない。
 戦意は止まらず、滾り、キャバリアへの拳へと。
 操縦者のイコルの肉を斬り、骨を穿ち、内蔵を潰した感触を覚えながらも、致命には至らなかったのだ気づいた時にはもう襲い。
「捉えた」
 身を穿つ程に迫っているというのなら好都合。
 口から髪の毛より赤き鮮血を吐き出しながら、イコルは闘気を渦巻かせ、サイキックとしてキャバリアの両腕へと纏わせる。
「逃がさない。終わるまで、終わり果てるまで」
 故にとニコルから放たれるは超高速の拳撃の嵐。
 ひとつひとつが弾丸より速く、重く。
 メロディアの身を粉砕し、血を花びらのように周囲へと撒き散らす。
 幾度となく放たれた砲弾のような拳たちに身体は砕かれ、肉は弾け飛んで原型などありはしない。
 本来であれば死以外の何物でなくとも。
「まだだ……」
 瞬間で再生するその不死の身体。
 血霧と化した肉体へと、止まる事のない連撃を見舞うニコル。
 腕部が限界だと熱と悲鳴をあげるが限界を突破しても続けるのだと、アラートを無視して繰り出す格闘戦。
 それこそ花散らす鋼鉄の暴力の侭に。
 いいや、それでも終わらぬ花こそメロディアなのだから。
 周囲に漂うのは残滓たる分身。
 壊れ、砕かれ、それでもなお形残るものが周囲に漂い続ける。
 全ては分身。
 自分自身でさえ本体を見失うような幻影。
「……お似合いの夫婦だ、な」
 夫であるカルロス・グリード。
 あれもまた、沢山分身していた。 
 理由は分からない。どうしてこの夫婦が海と世界を渡ろうと思ったかなんて。
 ただ、あのメロディアの甘い溜息は。
 まるで自分以外を案じて、己が身などと思うかのようで。

 ……二人で静かに過ごしてれば、よかったのに。

 世界なんかより大切なものが、そこにあるなら。
 手を伸ばすべき先は、たったひとつの大切なものとして。
 そこにあったのだから。
 気づけず、擦れ違った悲劇が此処にあるのかもしれない。

……ああ、もう、戦いとなった今では何も言えないけれど。

 戦いとなってしまった今では、何も変わらないのだ。
 ならばせめて全力で、持てる力を注ぎ込んで。
 白煙をあげる腕部についに限界が来たと蹴り飛ばすイコル。
 だが、ならばと次は振るう脚にてメロディアを蹴り壊そうと、踏み込みながら。
 未だ『無限再生』にて瞬時に肉体を元に修復するメロディアの姿を捉えて、この決戦は始まったばかりなのだと知るのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
本当は弱い、戦うのだって好きじゃない、何を護っているの?、本当はひとりぼっち
弱い気持ちを全部この殻で覆い隠してしまいたい…!!
こんなちっぽけなわたくしが想いだけで強くなる。その為の槍とこの身を盾にする闘い方であります…!
わたくし、この戦争で沢山の想いと出会いもっと強くなることに決めました
覚悟を持ち、推して参ります

動きを見切り、槍によるオーラ防御と受け流しで先制攻撃を掃います
自分の迷いと共に薙ぎ払いそのままランスチャージと念動力で飛び、上からの重量攻撃で重い一撃を!何度も!
相手の攻撃は『星雲のゆりかご』で自らの身体から盾を作り護ります。そして【シールドバッシュ】でそのままぶつかってゆきます……!



 ほんとうは独りぼっち。
 誰を護るというのだろう。何を護りたいというのだろう。
 本当は弱く、戦う事だって好きじゃない。
 何を護れるというのだろう。
 独りぼっちの、自分なんて。
 こんな弱い気持ちを、全部この殻で覆い隠してしまいたいと、切に願うこんな私に。
 何が出来るのだろうと、問い続けるからこそ。
 透明なカルサイトの穂を持つ槍と盾を握り絞めるアイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿す・f20814)は、此処に立つ。
「こんなちっぽけなわたくしも、想いだけで強くなれる」
 ならば、それは貴女もではありませんか。
 どれだけ甘い溜息をついても、今戦うのは誰かの為なのでは。
 メロディア・グリード。尽きせぬ『桜花』たる身へと、問いかけるアイグレー。
 他人を思うからこそ、強くなれる。空虚で孤独な心に、星のような輝きを。
 それこそ身体中に星屑のような煌めきを宿すアイグレーの身は、その象徴のように。
「その為の槍とこの身を盾にする闘い方であります……!」
 だから、あなたはどうなのだと。
 決してこの人生、虚しさと呪いばかりではなかったはず。
「わたくし、この戦争で沢山の想いと出会いももっと強くなることに決めました」
 僅か一月にも満たないこの時間の中で。
 これだけの想いと強さを得られるというのなら。
 ねえ、あなたはどうなのでしょう。
 私は未だ、ひとりぼっちという迷いを持つけれど。
「覚悟を持ち、推して参ります――おなたの想いも、また強さと輝きのひとつして、未来に進む為に」
「…………」
 問いかけられた言葉に、視線を泳がせるメロディア。
 さあ、どうしてだろう。
 どうして。
「そんな真っ直ぐさが、私にあれば……など、今更遅いのかもしれません」
 残滓たちがざわめき、竜王たるメロディアの意思の統一が図れない。
 そもそも、戸惑い続けるメロディアの意思、想いが一点に定まらないのだ。生み出された残滓たちに、それに続けという方が酷だろう。
 ひとえに、アイグレーの想いを前にしたからの出来事。
 乱れる甘い旋律は、竜の爪を宿した腕の一振りとして現れる。
 速く、鋭く、何より重い竜爪の一撃。
 けれど真っ向から見据えるアイグレーに見切れない程ではなく、透き通る槍にオーラを纏わせ、受け流して強烈なる爪撃を掃い退けてみせる。
 響く激音。アイグレーの槍を握る腕が痺れている。
 迷わせ、躊躇わせたからこの程度で済んでいる。もしも全力での一撃であれば、腕ごと吹き飛ばされていただろう。
 いいや、迷うのはこちらも一緒。なら、それを何処まで払い、ただ突き進めるかが勝負。
 止まることのない思いと鼓動こそが、『死なない』メロディアを滅ぼすのだと。
 薙ぎ払う穂先がメロディアの腹部を斬り裂けば、そのまま念動力で頭上へと飛ぶアイグレー。
「ええ、何度も何度も。終わりが見えないとしても!」
 斬り裂いた筈の傷口はもうない。
 絶望的なまでの瞬間再生に、けれど切っ先を惑わせる事なく頭上から質量を乗せた剛の刺突を連続で繰り出すアイグレー。
 さながら、流星を瞬かせるように。
 その勢いと熱で、宿した重さで花を散らすように。
『皆さまをお護りする、わたくしだけの――プラネタリア』
 唇が零した詠唱は、想像より創造する星雲を模した防御殻。
 髪の毛を想像の力で何処までも硬く、硬く結び上げて、殻のように覆う守護たる星雲の盾。
 身を穿たれながらも反撃にと転じようとしたメロディアへと、自らの身体ごと突き進むアイグレー。
「少しでも止まれば、そこまで迷ってしまう身ですから」
 それこそ溜息を零せば延々と。
 この場から動けなくなってしまいそうだから。
 全てを振り切り、動けなくなってしまったメロディアへと穂先を向けて、頭上より降り注ぐ星雲と流星の槍。
「幾度でも、幾度でも、ぶつからせて頂きます!」
 迷う己を振り切るかのように。
 澄み渡るアイグレーの『宝石花』、護る意思にて貫くグレイブがメロディアの心臓を貫いて。
 それでも止まれない。
 まだ勝利は訪れないのだと。
 弱い自分を知るからこそ、アイグレーは再び跳躍して、頭上より無数の刺突を放ち続ける。
 走り抜いた先に、きっと輝きがあるから。
 まだ知らない星のような想いと出会う為に。
 この世界を終わらせないと、清冽なる星の輝きとなって穂先は瞬く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
愛も利用も、両立するのにね。

桜花の位置取り。残滓の陣…
取り得る策を知識より割出し。
各々の速度、間合い、行動の優先度、攻撃の前兆に癖…
視得る全てを見切り、回避に用い。

壱式
黒剣、開展

殺し方なら、よく識ってる。
桜花を間断無く、斬り刺し貫き抉り巻き断ち、
残滓も巻き込み強化を削ぎ乍…
戦意も殺ぐ。


異質では得られぬ?
彼は?利用してサヨナラ?
誰が相手でもいい?
ねぇ。
君の言う愛って結局、何?

心は見えない。
保証も無い。
それでも…
僕は、
唯一人の倖いを願う。
想いを信じる。
何を抱えていようと、全て引っ括めて、
共に、いきたい。

愛されたい?
愛されるか、知りたい?
なら…
君が浮かべたその相手に、
ただ「愛してる」と言えば良いのに



なんて不器用な思いなのだろう。
 そう思うのは想う侭に現在を生きるからか。
 それとも、このメロディアという女が余りに虚しいからか。
「愛も利用も、両立するのにね」
 思わず呟いたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は肩を竦めてみせる。 
 利他への願いと、利己の思い。
 それが両立し、愛が絡まっても壊れる事がないのが人の心。
 その天秤はあまりに複雑で、確かに戸惑い続ける事もあるのだろう。
「過去を呑み下し、今の全てを見つければ判る事だよ」
「さあ、人に言われても判らないわ。私の心、だもの」
 甘い溜息は、それこそ朽ち果てる寸前の花を思わせて。
 数多の残滓を侍らせるように纏い、ふわりとその場で回ってみせるメロディア。
 その微かな挙動で、まるで花が風に舞い踊るように周囲へと放たれる残滓たち。
 気づけばクロトを取り囲み、ふわりと甘い匂いを漂わせる。
 尽きせぬ桜花は、そのひとつひとつが驚異。
 ならばこそと、『桜花』たるメロディアの位置取りを、残滓たちの配置と陣形を。
 取り得る策を戦闘知識から割り出して。
 ふわり、ゆるりと揺れるメロディアとその残滓を待ち受ける。
 各々の速度、間合い、行動の前兆に癖と優先順位。
 全てがメロディアの残滓であれば、読み切るの容易く。
「さあ、では踊りましょうか。何処まで続くかは、心のように判らないままに」
「終わりを求められるダンスというのも、妙なものだけれどね」
 一気に迫るメロディアの疾走。
 竜王という強力に過ぎる力はそのままに。
 指先にあるのは触れれば命を掻き毟り、散らすだろう竜の爪。
 だが、クロトは視認できる全てを見切り、回避に用いて身を翻す。
 メロディアの動きは一言で言えば単純なのだ。尽きせぬ命と、膨大な力。その二つで正面から戦えば、まず間違いなく勝利を収める。
 故に攻撃を見切って避けるのは難しくない、筈なのに。
 クロトの胸部と脇腹を斬り裂かれ、腕を抉られた傷から噴き出す血が、見切った上でも避けられぬ速さと強さをメロディアが持つ事を示している。
 竜王の姫君。その言葉は偽りのない真実だから。
 ならばとクロトもまた、自らの力を曝け出す。 
『壱式――黒剣、開展』
 携える黒柄の長剣『Neu Mond』が、クロトの魔力を代償に封印を解かれ、刃を分割させて鞭のように扱える形へと変形させる。
 迷いの晴らし方も。
 終わらせ方も知りはしないけれど。
「殺し方なら、よく識っている」
 渦巻く刃の螺旋が刻むは死の旋律。
 喰らいて呑む刃の蛇となって、周囲を駆け巡る。
 花よりなお吹雪くように刃が瞬けば、メロディアを果断無く斬り裂き、刺して穿てば、そのまま巻きつけて断ち斬る。
 さながら死の風。
 花を散らせる、冷たき流れだ。
 大量の血飛沫こそが、花びらのように周囲に舞う。
 だがそれでも止まることなく、更には自らを取り囲む残滓たちへも奔る斬撃の旋風。
「これと意思を束ねるから強化されるのだろう?」
 ならばそれごと斬り裂いて、断つのみ。
 いいや、不死を歌う花ならば、その戦意ごとと。
 縦横無尽に駆け巡る斬刃の疾風は、周囲の残滓たちをも断ち斬り、再びメロディアの元へと殺到する。
 もはや強化する残滓はなく。
 ただ尽きせず再生する、その不死の身で刃を受けるのみ。
 幾度となく鮮血が飛び散るが、メロディアは薄く微笑んでみせる。
「この程度で死なないから、あの男は私を娶ったのだもの」
「その異質だから娶られた。……意思質では得られぬと?」
「違うかしら?」
 身を深く斬り裂く刃の鞭に、自ら飛び込んでズタズタに斬り裂かれながら。
 この身は虚ろ。いいや、果てる事はないのだと、メロディアは眼を細める。
「では彼は? 利用してサヨナラ? 誰が相手でもいい? 君は、どうだったのさ。娶られた君は、その手を握った彼をどう思った?」
「……っ」
 ただ摘まれた花ではあるまい。
 自ら望んだから、そこに、ここにある。
「ねぇ」
 自ら刃の嵐へと飛び込んだロメディアへとクロウが囁く。

「君の言う愛って結局、何?」

 心は見えず、掴めはしない。
 保証してくれる誰かも、何かの物体もありはしない。
 その指に挟まった結婚指輪だって、ただの美しい銀と宝石だけ。
 そうだとしても。 
何もこの心と、愛という感情を確かめる術はなくても。
「それでも……僕は、唯一人の幸せを願う」
 その想いこそを信じるのだ。
 何を抱えていても、どんな曇りと過去があったとしても、全てを引っ括めて。
「共に生きたい」
 君だってそうだろう。
 メロディア・グリードという魂が懐く願いは、今はただ独り生きるのではなく。
 呪いじみたその無限再生から逃れる事ではなく。
「共に、生きたい」
 ただそれだけの筈。
 それ以上を願う必要なんて、ないのだから。
 クロトの青い瞳は真っ直ぐに、刃と言ノ葉で斬り刻まれるメロディアの貌を見つめて。
 憂いより、痛みより。
 そうだと言葉に出来ない唇を噛み締める、メロディアへと突きつける。
「愛されたい?」
 もう遅いかもしれない。
 けれど、もしも骸の海の中でまた巡り会えたのなら。
「愛されるか、知りたい?」
 異質で異形で、異能の残滓ばかりの自分を。
 抱き締めて、愛してくれるのか。
 本当の意味で娶りて、麗しの姫君と歌ってくれたのか。
「なら……君が浮かべたその相手に、ただ『愛してる』と言えば良いのに」
 なんて簡単な事で。
 始まりであるそれすらしないからこそ、擦れ違うばかりで。
 こんな処まで来てしまっているのだから。
「君が口にしなければ……愛という言葉は、決して返ってこないよ」
 だからそう。
 もしもまた巡り会う瞬間があれば。
 まず、その言葉を贈るといい。
 ダメだったらと怖がるような弱い心なら、身を斬り刻む刃の蛇が巻き起こす嵐の中へと突き進んだりしないだろう。
 だからそう、最初の一言を。

――愛している

 その一言を。
 きっと海の色さえ変わる、想いの一滴を。
 思い浮かべた人に、囁いて。
 今だって、きっと遅くはないのだから。
「私は」
 メロディアの声は、緩やかに震えていて。
「泣いてなんて、いない」
「そうだね、斬り刻む刃の零した露だ。本当の涙は、彼と巡り会った時の為に残すといい」
 ただ共に生きる。
 唯一人の倖せを願い続ける。
 そんな幸福があるという事を、クロトは知っているから。

 間違い続けたせいで。
 奪い続けようとして。
 此処にて終わる花へと。
 刃が紡ぐ終わりの旋律が覆いて、散らす。

倖せを知るものと、知らぬ花の差。
 それが全てだと。
 はらり、ひらりと落ちて、消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニィエン・バハムート
・先制対策
残滓達がこれまでと変わらない耐久性なら【衝撃波】、電撃【属性・マヒ・範囲攻撃】で迎撃して対処。強化された本体が先制攻撃してきたら【オーラ防御】で備えつつ【カウンター】で【怪力】による【捨て身の一撃】を喰らわせます。

先制対処後UC発動し増殖し続ける爆鳴気炎の範囲攻撃で敵を焼き、その炎で爆鳴気が爆発する衝撃波で敵を砕き【蹂躙】します。敵が無限に再生し続けようがこちらの攻撃も無限に増殖する。残滓達が一掃されたらオーラ防御を応用して本体を炎ごと閉じ込める又は炎をなるべく本体に誘導する等し効率よく殺し続ける。

私が真なる竜王だと証明するために…あなただけは絶対確実完璧にぶっ殺してやりますの!



神秘的な紫の髪をするりと靡かせて。
 緑色の瞳に絶対的な敵意を宿すはニィエン・バハムート(竜王のドラゴニアン(自称)・f26511)。
 視線の先には七大海嘯の一角が『桜花』。
 カルロスの妻にして不死なる竜王の姫君、メロディア・グリード。
 美しくも異形と言える残滓を周囲に纏わせて。
 女王の風格をもって、ニィエンを見つめる。
「あなただけは」
 ニィエンの鋭い声に応じて、残滓たちが前へと躍り出る。
「私が真なる竜王だと証明する為に……」
 振るった腕から紡ぐは、雷撃を帯びた衝撃波。
 広範囲へと走り回る紫電の群れに迎撃され、儚く砕け散る残滓たち。
 力こそあれど耐久はなく。
 これらと意思を統一するからこそ力を増すメロディア。
 いいや、残滓たちがなくとも竜王だと、物憂うような瞳のまま、紫電を潜り抜けたメロディアの手が竜のそれへと変貌する。
 秘めたる暴威は言うまでもなく、直撃すればタダでは澄まないその竜爪を前に。
「あなただけは絶対確実完璧にぶっ殺してやりますの!」
 ニィエンはオーラを纏いながら自ら前へと踏みだし、交差するカウンターのように捨て身の一撃を繰り出す。
 流石に不死の身と削り合い、同士討ちを演じるとは予想外だったのか、メロディアが幾度か眼を瞬かせ、傷は瞬時に再生しても動きを止める。
 何しろ、目の前では遠くまで吹き飛ばされたニィエンの姿。肩口を捉えられた一撃は、オーラで纏っても骨も肉も挽き潰し、口からごぽりと血の塊を吐き出させる程。
 軽く見て重傷であり、捨て身の一撃を見舞った対価と言えるだろう。
「王とは」
 そんなニィエンに、瞳を揺らしながら語りかけるメロディア。
「自ら名乗り出るものではありません。僭称するは簒奪者という低俗なもの。誰かより、高みのモノより戴くが、王たる座と冠」
 その血統のように。
 或いは、勝ち得た功績を称えられて。
「ならば、真の竜王を目指すその姿は、ええ、確かに真実、王を戴かんとする輝かしい姿でしょう。……力が伴いさえすれば、ですが」
 作り出され、後から足されたものであれど。
 そこに真価を自ら紡ぎ上げれば、贋作などではない。
 むしろ至らんとする分だけの真実の輝きがあると告げるメロディア。
「もっとも、それでも竜王に届くかどうか別と言いたいのですわね」
「言ったでしょう。僭称ではなく、誰かに授けられてこその王の冠。それが欲しいのならば、この尽きぬ花の身より自らが王に相応しいと、世界に示してみなさい」
 あの男のように。
 全てを欲し、手に入れていった輝かしい姿のように。

 それでも決して――ああ、竜王の身とて全ては手に入らないのだけれど。

「何処を見ていらっしゃるの?」
 と、遠い視線を一瞬だけ送れば、ニィエンがその両腕に水と魔法と雷撃を纏い、負傷を意に介さず緑色の瞳で睨み付けている。
「どちらでも構いませんの。あなたが何を語っても存じ上げませんの……私が真の竜王、それをただ証明するが為に」
 水魔法と電撃で紡ぎ出されるのは特殊な爆鳴気炎。
 範囲へと放射された気炎は残滓たちを焼き、その脆い身を衝撃波でうち砕く。
 周囲一帯を蹂躙する爆炎。
 メロディアが無尽蔵に再生し、残滓を湧き上がらせるといえど、ニィエンの生成した特殊な爆鳴気炎もまた、無限に増殖するのだから。
 糧となるメロディアと、その残滓がある限り。
「今この瞬間と、この場を以て、勝利させて頂きます。さあ、ぶっ殺されてくだいませ!」
 残滓が一掃されるや否や、オーラ防御で自分ではなくメロディアの周囲へと展開して、本体と炎を閉じ込める結界のように張り巡らせるニィエン。
 後は連鎖して、増殖しながら爆裂していく炎がメロディアを殺し続けるだけ。
 力も不死も恐ろしいが、故にこそ、我が身を省みることも、守る術をも得意としないメロディアだからこそ嵌まる術。
 効率のいい殺戮と蹂躙。
 焼けて舞い散る麗しの花びらと。
 弾き砕かれて、欠片と散る残滓たち。
 だが、それを成し続けるには気炎とオーラ防御の両方が必要だからこそ、ニィエンの額に冷たい汗が滲む。
「さあ、後はどちらの気合いと力が先に尽きるか。竜王に相応しいかの、勝負ですわよ!」
 それでも求める理想が為に。
 ニィエンは眦を決して、爆裂し続け、メロディアを焼き続ける気炎へと視線を注ぐ。
 この身、この身体、ニィエンの魂は。
 ただ竜王という称号と輝きのみを求めて、焦がれるが故に。
 それを前にして、膝を屈する事などありはしない。
 終わらない花が、尽きせぬ命が、幾度となく乱れ咲いたとしても。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
やァレディ
随分と大変そうだな
僭越ながら、貴様が死ぬ手伝いをさせてもらおう

氷の障壁で本体を囲うよう努める
残滓どもと分断出来たら、呪詛の天幕で攻撃を防ぐに注力
防ぎきれない分は黒槍で逸らす
意識と命以外なら何が持っていかれても構わん
元より私は術士
戦いじゃ動く必要もないのさ

――【渇妄】を聞け
これは呪いだ
「貴様が貴様である限り、貴様は永劫、愛されない」

異能が理由だとでも思っているのか
――愚かなことを
真実の愛など世迷言
己しか愛せん化け物は
誰にも愛されやしないのさ
影の呪詛の暴威で、残滓ごと死ぬまで殺してやろう

……ひとらしく振る舞えど
所詮、化け物は化け物よ
最期は独り果てるが道理というもの
――愛とは、人間の特権さ



 愛と絶望の鬩ぎ合う、吐息の旋律の間に。
 灰燼色の忌み子が零すのは、魂を突き刺す呪言。
 どうしようもなく愚かだから。
 その愚かさに見合ったものを差し上げようと。
「やァレディ、随分と大変そうだな」
 金の瞳を燃えるように揺らめかせて。
 紳士的な態度にあわない、尊大な笑みを浮かべるのはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)。
「僭越ながら、貴様が死ぬ手伝いをさせてもらおう」
「いいえ、私が求めるのはこの尽きぬ『無限再生』の終わりだけですよ」
 深い溜息と共にニルズヘッグを見つめるメロディア。
 それこそが愚かな証だと笑みを強めるニルズヘッグは嘲笑うように一礼をしてみせて。
 それこそ先祖帰りの竜の因子と、竜王の血筋では違うのだと。
 より深い因果がメロディアの魂に絡み付いているのをニルズヘッグは見逃さない。
 メロディアもまた、一瞬にしてニルズヘッグという呪詛手繰る竜の力を見通して。
「それとも、私に麗しい呪い(ドレス)を見繕ってくれるのかしら?」
「さあね。私がレディへと贈れるのは、どんなに美しく飾っても、死装束さ。……死から逃れられると思うなよ」
 それこそ不死性を持つからの傲慢。
 メロディアは命を賭すといいながら、そこに生者の執念、熱を感じずにニルズヘッグは掌を握り絞める。
 逆に言えば、そこが付け入る隙でありながら。
 この有り様で生き残り続けたという、竜王の力は甘くない。
 まずは周囲に侍らせる残滓たちが邪魔だと氷の障壁を展開し、メロディアを囲い込む。
 分断さえ出来れば意思の疎通は難しく、事実、自らの主たる本体と切り離されて戸惑う残滓たち。
 だが、次の瞬間に撃ち砕かれる氷の壁。
 無数の氷の欠片を纏いながら疾走するのは、『桜花』にして竜姫の姿。
「あら、秘密の舞踏会でも開いて貰えるのでしょうか。ああ、だとしたら、折角ですから、しばし踊りましょう」
 咄嗟に呪詛の天幕を張り巡らせながら、蛇竜の黒槍を翻して迎え撃つニルズヘッグ。
 最初の激突。此処に力量、自力の差が現れる。
 竜の爪を宿した腕を黒い長槍で受け止めたと思った瞬間、凄まじい衝撃がニルズヘッグを襲い、そのまま後方へと弾き飛ばす。
「軽いのですね。ええ、とても、とても。その命のように」
 なのに、冷ややかなメロディアの声はすぐ傍に。
 身を翻して放たれる蹴撃はニルズヘッグの胸郭を撃ち据え、肋骨の幾つかを砕きながらなお遠くへと。
 踊るといったが、メロディアの動きにニルズヘッグはついていけない。力でも、速度でね。
「だが、元より私は術師」
 苦痛を堪えながら立ち上がるニルズヘッグの瞳は未だに燃えている。
 それは戦意か、愉悦か。それとも立ち籠める呪詛故にか。
 見極めようとするメロディアが動きを止めるが、それこそニルズヘッグの術中に落ちるという事。
 呪う相手の言葉など、ひとかけらても聞いてはいけないのだから。
「貴様に麗しの呪い(ドレス)をくれてやろう――【渇妄】を聞け」
 影が呪いの渦となって蠢き、ニルズヘッグからメロディアへと流れゆく。
 此処まで虚ろで、自らを省みない者には。
 それこそ真実の本音と向き合わない者には、呪いはあまりに深く突き刺さる。
 それを違うと振り払うことが出来ないから。
 私はこうだと示す光を持たないのだから。
 これは呪いだと、ニルズヘッグの言霊が何処までも響く。
「貴様が貴様である限り、貴様は永劫、愛されない」
 せせら笑うニルズヘッグはメロディアの胸を指さして。
 悪意と呪詛の滲む言葉をその中へと流し込む。
「異能が理由だとでも思っているのか――愚かなことを」
 たかが無限に再生し、残滓を生み出すだけ。
 そういう種族、そういう生き方と特性なだけだろうよ。
 翼があるからと、鳥はひとに愛されないのか。
 違うだろう。
「真実の愛など世迷い言」
 戸惑うメロディアは、呪いを払う事が出来ず、その渦中に身をおく。
 言葉など聞かず、ただニルズヘッグを暴力で砕けば済む……なんて事にはならない。呪いは、もうかけられているのだから。
 それがどんなモノであるのか。
 世迷い言と言われても求める身だから、その先を聞きたくなってしまう。
「己しか愛せん化け物は、誰にも愛されやしないのさ」
 いいえ、違う。
 そう否定出来れば、呪いを越えられれば、それこそ愛されるのではないかと希望を懐くから。
「わた、しは……」
 けれど、メロディアの喉から言葉が続かない事が全て。
 ニルズヘッグの呪いは正しく、メロディアに付きまとい続けたものなのだから。
 いきなり越えるなんて、出来はしない。
 誰かがその腕を取ってくれない限り。
 すぐ傍でと、笑ってくれる人がいない限り。

――ああ、私は貴方を愛しているのでしょうか。

 零れたメロディアの囁きは、身を包む影の渦に斬り刻まれ、撃ち砕かれていく。
 暴威を振るうニルズヘッグの呪詛。
 残滓も何もかもを巻き込み、破滅へと導く黒い奔流。
 その中心にいるメロディアは幾度となく死んでは蘇り、蘇っては受け取った呪いを反芻しては、影の呪いを強めていく。
 一度嵌まった呪詛から逃れる事など出来る筈はなく。
 ましてやこれは、愛を求める化け物殺しが為のもの。
 少なくとも、ニルズヘッグという存在は嘲笑いながら、愛を謳う空虚なものを屠るだけだ。
 少なくとも。
 愛するが故に涙を零したことのないモノなど。
「……ひとらしく振る舞えど、所詮、化け物は化け物よ」
 くつくつと喉の奥で愉快そうに笑うニルズヘッグ。
 自分と貴様の違い。
 どうしようもなく魂に絡む因果と宿業の相違点はそこなのだ。
 誰も愛した事がなく。
 ひとらしく振る舞う傀儡など、虚しく滅びるもの。
「最期は独り果てるが道理というもの」
 歌うように告げる言葉は、今でもまだメロディアの心と魂を蝕む呪いの言葉で。
 これに耳を傾けてはいけないと思いながら、愛と救いを求める竜の姫君は、生と死を繰り返しながら。
 愛と絶望の旋律の狭間に揺れながら。
 影に身を蝕まれ、斬り刻まれ、微塵と化して。
「――愛とは、人間の特権さ」
 ああと。
 ニルズヘッグの呪詛に、吐息を零した。
 ならば人になるにはどうすればいいのか。
 尽きせぬ残滓。無限の再生。死なない身体。
 そんなものがたかが特徴だというのならば。
 化け物のこの身は、一体。
 残滓ではない、真実のメロディアが愛するべきなのは。
「さあね、私が知るかよ。今はただ骸の海へと墜ちな。同類たちが待っているだろうさ」
 そこで愛とひとを語らうがいい。
 永遠に辿り着く事のない、その悩みと呪いの終わりへと。
「きっと契りを結んだ男も、すぐにそこにいくさ」
 嘲笑うニルズヘッグの言葉に、膝をついていた身体を起こすメロディア。
 あの男を死なせてはいけない。
 その思いだけで、次々と死んでいく身体を動かしていく。
 まるで妄念のように。
 自分でも気づかない願いと祈りのように。
 幾ら傷つけど。その姿はまさに人と化け物の狭間の侭に。
「ああ、そうだ」
 影の中で朽ちかけ、蘇生して再生し、千切れ飛んだ腕をまだだと伸ばす姫君へ。
「もう少しだ。もう少しで、その呪いを振り抜けるさ。影の渦から抜け出せる」
 愛して欲しいのだろう。
 影の裡で沈むなんて嫌だろう。
 せめてその腕でと、夢見る乙女のように。
「けれど――そこを出た処で、貴様は愛されない化け物だと知れよ。影の渦から抜け出せても、呪われた化け物である事には変わりない」
 膨大な残滓の欠片を後に残すメロディア。
 そう、まともなモノならばもうとっくに死んで終わっている筈で。
 ならばと暗く沈む思いは、そう。
 誰よりも自分が愛されない存在と知るのだから。
 冷たいニルズヘッグの笑い声が、死と花の残骸が渦巻くこの島に響き渡る。
 その腕を握ってくれる誰かがいなかった事こそが。
 そんな未来が訪れる事を思い描けないことこそが。
 化け物の証左だと、灰燼色の忌み子は深く知り、深く笑う。

――人間の特権でありながらも、愛とは、人間であっても手に入れる事は難しいもののだから。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…誰かを想う心を否定する気は無い。だけど…
この世を滅ぼす愛を認める訳にはいかないわ

…私の使命は過去の存在を討ち滅ぼし、この世界を救済すること
何処までも残酷に殺してあげるわ、メロディア・グリード

"精霊石の耳飾り"に魔力を溜め風の精霊に祈りを捧げ、
限界突破した風のオーラで防御して敵UCを受け流し、
"影精霊装"の闇に紛れ陽光を遮り吸血鬼化してUC発動

大鎌に時属性攻撃の魔力を溜めて怪力任せになぎ払い、
死亡した敵の未来へ進む時間を切断し、
再生した瞬間に時を巻き戻し再殺する"時の逆流"を放つ

…心なんて無ければ、その痛みを感じる事も無かったでしょうに…

…不死不滅。耳に聞こえは良いけど、実態はただの呪いね



本当に誰かを想うのならば。
 その心を否定する気なんてない。
 幸せを思い描き、誰かが笑う姿を思い浮かべる。
 それこそ常に闇に覆われた世界でも失われることのなかったものだから。
 誰かの為に。
 あなたの為にと、捧ぐ花の想いは美しいから。
 それはリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)も思い懐くのか、漆黒の大鎌である過去を刻むものの切っ先を揺らす。
「……誰かを想う心を否定する気は無い。だけど……」
 そう、だけれど。
 花が世界を覆い尽くして、滅ぼすのならどうだろう。
 あなたの為にと、世界にある他の花を毟り取り、あらゆる色彩と美しさを捧げるのならば。
 そう、捧げて渡すのは自分の身と心だけの筈。
 誰かを犠牲にして叶える幸せは歪つで、何処かが致命的に間違っているから。
「この世を滅ぼす愛を認める訳にはいかないわ」
「あら……」
 定まった黒い切っ先を向けられて、メロディアは微かに微笑む。
 それはなんとも儚く、おぼろげな貌で。
 瞼を伏せて静香に語る竜王の姫君。
「……私は愛してなど、いませんが。ただ、死なれては困る。胸が、痛むのです。死なない筈の、この身体の奥で」
 ああ、それこそが愛というのだ。
 その言葉を告げることこそ、本当に大切な事だったのだ。
 けれど、もはや戦は始まり、互いが退けぬ佳境へとなっている。
 いいや、元より世界を滅ぼそうという彼女達に、リーヴァディルができる事はただひとつ。
 そんな狂った愛など間違っていると、断罪の刃を向ける事だから。
「……私の使命は過去の存在を討ち滅ぼし、この世界を救済すること」
 いずれ、或いは。
 骸の海の底を漂った魂が、再び巡り会い。
 その間違いと狂気に気づいて、幸いへと結びつく事を祈りながら。
「何処までも残酷に殺してあげるわ、メロディア・グリード」
 さあ、ここに麗しの『桜花』を舞い散らそう。
 幾重もの残滓を掻き消して。
 その魂へと、死神の鎌刃を届けるのだと神秘的な紫の眸が決意を秘める。
「そうなのですね。ならば、仕方ありません」
 ふわりと周囲に漂うのは甘い菓子の香り。
 思いは綻び、全ては眠りと癒やしにつきなさいとメロディアの芳香が周囲一帯へと漂う。
 いけないと思うのと同時、リーヴァルディが反射で巡らせるのは魔力。
銀の髪の奥、精霊石の耳飾りがきらりと翠色に輝けば、風の精霊が捧げられた祈りにと応える。
 限界を超えた速度で疾風を渦巻かせて結界として匂いを遮断すれば、次はリーヴァルティの番。
 影精霊装の闇を纏いて陽光を遮り、ダンピールから吸血鬼へと変貌して繰り出すのは血の教義。
 限定を解放し、属性と自然現象を合成した奇跡を編み出すもの。
 或いは、闇を宿す血が成せる秘術のひとつか。
 吸血鬼となり、鮮血の赤を宿した眸が竜姫を見据える。
『……限定解放。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!』
そして疾走する闇の姿。
 夜の狩人にして、漆黒の死神。
 怪力任せに横凪ぎに振るう刃が、メロディアの身体を一刀の元に両断している。
 だが、そこから瞬時に蘇生して再生するのが不死を携える『桜花』のメロディア。
「あら?」
 その筈なのに、傷の治癒は進まず、なんとか胴がくっついた処で止まっている。
 リーヴァルディが振るった大鎌の斬閃に宿すのは時の属性を宿した魔力。メロディアが未来へと進む時間を切断し、再生した瞬間に瞬時に巻き戻して、幾度なく再殺する『時の逆流』だ。
 故に胴が斬られて、再生し、けれどまた斬られた瞬間に戻って、死と蘇生を繰り返すメロディア。
 花たるその身を散らす事なく。
 けれど無惨とも言える程に執拗に、残酷な殺し続けた方。
 一度嵌まれば、易々と逃げ出せない死の時間のループ。壊れたレコードのように、死ぬ瞬間と蘇生した瞬間を繰り返す。
 朽ちては咲いて。
 散ってはまた募って。
 けれど未来へと、望む想いと愛のある場所へは辿り着けない。
「……心なんて無ければ、その痛みを感じる事も無かったでしょうに……」
 リーヴァルディの呟きに、死の時間に囚われたメロディアが囁き返す。
「それでも、心があるのよ。……何処までも痛みに苛まれても、生き続けよう、願い続けようとする、この心は」
 けれど、切り返すリーヴァルディの言葉はあまりに鋭利。
「……その願いって、何……?」
 メロディアが眼を細め、応える事が出来ない。
 愛して欲しい。
 愛されたい。
 果たして、それが本当の願いなのか。
 確かめる方法は、直接、またあの男と出会うしかなくて。
 その為にはあの男も、そして自らも、生き残らないといけない。

――ああ、命を賭した時点で、間違っていたのかもしれない。

 そうなる前に、確かめるべきだったのだ。
 この思いと、真実を。
 永遠に生きると思い込んでいたから、聞く事も、告げる事も出来なかった。
 そうして今、こうして死に続けて、無限再生の力が削がれ続けている。
 もしも、この命が限りあるものだったら。
 脇目も振らず、ただ一途に、この想いの為に生きられたのだろうかと、メロディアの瞳が揺れ動く。
「……不死不滅。耳に聞こえは良いけど」
 死に続ける痛みより。
 もはや叶わなくなった願いに憂いのいろを乗せるメロディアの瞳を見つめて、リーヴァルディは小さく、小さく呟いた。
「……実態はただの呪いね。その身も心も、不滅と不死に縛られて」
 幸いなる処に辿り着けない。
 だからと、メロディアの首を切り落とすべく大鎌を振るうリーヴァルディ。
 もはや何も口にせず。
 耳にせず。
 絶望に落ちないように。
 残酷さの中に、せめての慈悲を滲ませて。
 吸血鬼となったリーヴァルディの血のように赤い眸が、『桜花』の竜姫の嘆きを見つめる。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
初撃は自身に【オーラ防御】を纏いながらも
【高速詠唱】で風魔法の【属性攻撃】
香りを吹き飛ばすついでに鎌鼬の攻撃にして
メロディアさんに送り返す
少しでも眠気に襲われたなら
自傷してでも耐えるよ

その後は【空中戦】と【多重詠唱】で
氷魔法と風魔法を組み合わせ
硬い氷の礫を弾丸のように打ち出していく連続攻撃

どことなく…僕と似てるんだよね
愛されたい
愛されるわけがない
ようやく得た繋がりは
例え命をかけてでも
…完全に同じではないけれど

【指定UC】で【破魔】を宿した炎の鳥をバラバラに突撃させる連続攻撃
消えない限り数は減らない
燃え移ればその身を焦がす

信じるのは怖い事だよ
でも、それでも
貴方は自分の想いを受け入れるべきだ



 この身と、この心が。
 愛される事はあるのだろうか。
 決して触れられない輝きのように思えるから。
 愛されたくても。
 愛されるなんてこと、ある筈ないと。
 何の根拠も無い裡では、ただ悩むばかり。
「ああ……でも、止まってはいられなんだよね」
 琥珀色の髪に咲く金蓮花の花を揺らして、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は静かな声色を揺らす。
「きっと、ああなってしまうから。確かめる事も、擦れ違う事も、何も出来ずに」
 見つめる先に佇むのはメロディア・グリード。
 カルロスの妻にして、七大海嘯の『桜花』。竜王の姫たる気品と威厳をもって、澪を見返している。
「何も……その中に確かなものを抱けずに」
 海の底へと消えてしまうなんて、嫌なのだと。
 澪は泡のように儚い囁きを唇から零して。
「そう、消えられません。あの男にもう一度、逢うまでは」
 逢った処で確かめる事など出来なくても。
 何度でも繰り返そう。
 擦れ違う事さえできなくとも。
「だから今は眠りなさい。痛みもなく、殺してあげますから」
 甘く、甘くと香るメロディアの芳香。
 恐ろしい範囲の対象を一度に眠りにつかせる術。『桜花』も、竜王も、その名は伊達ではないのだと広がり続ける甘い匂いが示す。
 まずいと睡魔に襲われた澪は自らの唇を噛みきりながら、高速で紡いだ魔法で旋風を紡ぎ出す。
 痛みでは耐えきれない睡眠への誘い。
 それこそ魔性の技であり、まともに吸い込めば死ぬまで眠り続けるだろう匂いを風と共に巻き上げて。
「息吹、転風、瞬天――お返しするよ」
 そのまま香りを吹き飛ばした風を鎌鼬と化して、メロディアへと放つ澪。
 するりと流れた竜の爪で切り裂かれて霧散するが、まずは最初の挨拶。そして、澪が初撃を凌いだという事に変わりはない。
「それなら、飛ばせて貰おうかな」
 オラトリオの翼をはためかせて空中へと飛びつつ、二重の魔法陣を描く澪の姿。
 携える者に加護を与える聖なる杖、Staff of Mariaは清浄な輝きを放ち続けて。
 触れた魔法陣より氷と風の魔法を組み合わせて放つは、無数の氷晶の飛礫たち。
 美しく煌めく欠片であれど、そのひとつひとつが殺す為の刃に他ならない。
 鋼より硬く、そして鋭い欠片たちが空中から次々と打ち出され、メロディアの身体を射貫き、抉っていく。
 舞い散る鮮血と残滓の欠片。
 けれど瞬きをする間もなく治癒を終わらせているのが、メロディアの持つ無限再生の能力だ。
 我が身の傷など厭わず。
 ただ一途に、想い侭に突き進むその姿。
「どことなく……僕と似ているんだよね」
 それは理解しているからかもしれない。
 成長して、覚えていっているからかもしれない。
 果敢に、儚く、その身を削ってでもと。
 願いの元、理想の先へと進もうとするその姿、確かに澪のようで。
 見る者に痛ましさと、切なる想いを感じさせる。
 甘い芳香なんて、ただ、涙の気配を消すかのような。
 風に揺れる金蓮花の花びらが、悲しい色を消すかのように。
 ただ一筋の道を往くのだと、ひとつの想いだけを抱き締めている。
「そう、似ているから」
 愛されたい。
 でも、愛される訳がない。
 確かなる証拠なんて何処にも無くて、心に触れる事なんて変わらないから。
 何も確かめる事も出来ずに、指先を掠めた温もりを追い求めるだけ。
 ようやく得た大切な誰かとの繋がりは、たとええ命を賭けてでも失いたくないのだと。
「……でも、完全に同じではないんだ」
 だってこの胸に宿る熱は確かにある。
 鼓動は脈打ち、甘くて重い溜息なんて零さない。
 決して空虚な想いは抱えず、澪は自分の心を否定などしない。
 だから、さあと。
 その違いこそが大切なのだと示そうと。
『鳥たちよ、どうかあの人を導いてあげて』
 
――世界に羽ばたけ、想いの炎。

 顕然するのは破魔を宿した炎の鳥たち。
 百を超える翼がはためき、火の羽根を散らしながら空を舞い踊る。
 それこそ澪の懐く思いのように。
 信じる心の強さと、暖かさのように。
 これは決して消える事のない炎。
 たとえ不死の桜花が前でも、何ら劣ることのないもの。
 視界を覆うような赤橙色の瞬きは、四方から連続してメロディアへと殺到していく。
 予測しての迎撃など不規則に飛翔する百を越える翼の前では不可能。
 幾つは竜爪を宿した手で斬り裂こうとも、触れれば燃え広がるのが炎なのだから。
 メロディアの身体を焦がして焼いて。
 新たに再生したその肌をまた焼き。
 赤い火と、『桜花』の残滓が咲き誇る。
消えない限り、その数が減らないのは心にある感情そのもの。
 燃え移れば身を焦がすのは、そう、理想のようで。
「信じる事は怖い事だよ」
 自らの裡から身を焼くような想い。
 それを抱き締めながら進められるのか。
 澪とメロディアの致命的な違いとは、まさにこの一点。
 燃えて焦げ付きながらも、愛していると求めれば。
 愛してくださいと、愛の炎を揺らめかせていれば。
 ただ相手と自分の心を信じるというだけで、それは成せていたのに。
 もはやそれは叶わない。
 炎に包まれ、不死の花は葬られる。
「でも、それでも」
 あと一瞬でもあるのなら。
 それこそ、不死の身だから一瞬、一瞬の命と想いの輝きに気づけなかったとしても。
 今、この刹那なら気づける筈だから。
「貴方は自分の想いを受け入れるべきだ」
 腕を伸ばすのは、さあ、誰の為?
 微笑んで欲しいのは。幸せであって欲しいのは。
 求めた愛(ユメ)は、狂おしい程に熱く、燃え盛って。
 その命と共にある。
 終わるその瞬間までに、メロディアが自らの想いを受け入れられるように澪は祈って。
数多の炎の翼をはためかせて、その身を焼きつくしていく。
 きっと。
 その灰の中からは、大切な心のひとかけらが残るだろう。
 これだけは誰に渡せないと。
 似ている他者から指摘されたから、見つけられた。
 本当に大事な、真実の想いという花のひとひらを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
不死、不滅、夢見る者は数あれど。
増え続ける己に苛まれるが其れとあらば、
なんと残酷な定めであることか。


野生の勘、高速思考力で飛翔の軌道を読み、
アイテム『氷柱芯』を投じ巻き付け、分身諸共破壊しつつ地面に引き落とす

初手の後UC発動
野生の勘、見切り、更に殺人鬼としての技巧で急所を正確に見極め、
怪力、2回攻撃、残像での高速戦闘で、確実に殺す一撃を継戦能力にて休まず入れ続ける


…異なものです。ただ利用し合う縁なれば、婚姻の契りなど不要でしょう。

貴女は愛されたい。
誰に?

微笑みたい。
誰と?


…私共は、貴女の夫を殺します。
その事に、動く心あらば。

――その『初恋』と、今一度向き合うが良いでしょう。
それこそ、死ぬ前に。



 月のように静かで。
 雪のように白い姿が、麗しき竜花の姫の前へと躍り出る。
 ふわりと。
 足音のひとつ、響かせることなく。
 体重の一切を感じさないのは、極限まで極めた武術によるもの。
 一切の異能なくとも。
 その力は竜王にも届くのだと、物静かな赤い眸をメロディアへと向けるは月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
 アルビノの身体は清く、美しき雪上の花として。
残滓という異質な桜花を纏うメロディアの姿と対峙するのだ。
「不死、不滅、夢見る者は数あれど」
 物静かな声色で紡ぐのは、メロディアへの想い。
「増え続ける己に苛まれるが其れとあらば」
 それはなんと悲しく、嘆かわしい事だろう。
 己に苛まれるのであれば逃げるなど叶わず。
 周囲と異なり過ぎて、共存さえ叶わない。
「なんと残酷な定めであることか」
 だが、それを言うのならば雪音もまただ。
 殺戮衝動という他と異なるものを宿しつつ、武と精神で律して。
 虎の因子を宿すキマイラなれど、爪のひとも用いぬ事で、己の理想を体現している。
 つまりは、自分がどうなりたいかは決められずとも。
 自分がどう在ろうかとする事は、決められるのだ。
「夢、夢、ええ、なんという悪夢を見ているのでしょう。大天使の肉を食まねば、その増え続ける身は何処までも」
 他と異なり過ぎて。
 増え続けて本当の自分の身体も判らなくなるほど。
「けれど、その定めだからよしとする訳ではない。私を止めようと、此処にいるのですね」
「ええ。……不死という悪夢、私の武をもって払いましょう」
 さらりと、粉雪が舞うように。
 雪音が構えを取った瞬間、竜王の姫君もまた、己が武威を解放する。
 高速で飛翔するのは音速を遥かに超え、衝撃波と分身たる残滓の群れを周囲へと放つ。
 視認出来るようなものではなく、ならばと雪音が頼るは野生の勘。
 命に触れ、奪うモノに対して魔性の如き鋭敏さを見せる雪音。加え、高速思考で飛翔の軌道を読む。
 極論、最後は雪音自身へと一撃を叩き込むのだ。
 殺意がある。戦意がある。
 隠す事がいっさいなのは、それこそ竜王たる矜持か。
 不死たる身の傲慢か。それらの一切は判らずとも。
 肌に突き刺さるそれらを捉え、先読みして放つはワイヤーアンカーたる氷柱芯。
 投擲して巻き付け、分身諸共破壊しながら地面に叩き落とさんとする雪音。
 見事にメロディアの身体へとワイヤーが絡み付くが、そこから先は流石は竜王というべきか。
 飛翔の勢いだけでワイヤーを手繰る雪音の掌がズタズタに裂けて鮮血が飛び散り、骨に罅が入る。
 恐ろしい力。竜たる身、そして王の血統の威をその身で感じながら、けれど、ワイヤーを手放すことなく、メロディアを地面へと巻き落とす雪音。
 血塗れの掌は握り込む事が出来るのか。
 いいや、そんな問いも激痛も、疾走の後に残して。
『……弱きヒトが至りし闘争の極地こそ、我が戦の粋なれば』
 呟き、花開かせるは人間業の極致。
 武器に爪牙、闘気も異能も一切なく、徒手空拳を極限まで練り上げた雪音の身体が、白い残像となってメロディアの懐へと入り込む。
 見切り、野生の勘で捉え、更には律した殺人鬼としての本能も利用して精密に見極めるはメロディアの急所。
 竜王、故に人体と作りが違うなどもあってはならない。
 怪力をもって叩き込むは、全てが一撃必殺の急所へ。
 心臓への抜き手の一突き。握った拳撃は頸骨を砕き、頭蓋を撃ち据え、跳ね上げた膝は内臓を破砕する。
 休む事のない真白き、純粋なる連続殺技の軌跡。
 此ほどまでに殺戮の技を振るった事があるのかと、止まることなく武技を重ねる雪音。だが、考えて迷う暇などないと、更に速く、鋭くと拳撃と蹴撃を重ねて、瞬時に蘇生するメロディアを、また次々と屠っていく。
 まるで花を散らすかのようだ。
 それなのに、花吹雪を相手するようにキリがない。
 思いと信念。殺意でははなく、殺し切るという意思こそが勝敗を分かつなのだと、雪音はその身で実感しながら。
「……異なものです」
 思考は明鏡止水の如く。
 無想の領域に達して神速の拳武に舞いながら、言葉を紡ぐ。
 まるで歌うように。
 透き通る声は、僅かにあった疑念を心の外へと吐き出していく。
「ただ利用し合う縁なれば、婚姻の契りなど不要でしょう」
 故により研ぎ澄まされる雪音の武。
「貴女は愛されたい――誰に?」
 問いかけに返答させることなく、一撃の元に殺しながら。
「微笑みたい――誰と?」
 それでも聞こえているのでしょうと、立て続けに繰り出す白雪の拳武。
 訴えるのは心だから。
 たとえ言葉ではなくとも、返事はあるはず。
 迷うばかりのメロディアの心に、死と真実を突きつけながら。
「……私共は、貴女の夫を殺します。その事に、動く心あらば」
 いいや、その言葉の瞬間、雪音の勘は跳ね上がるメロディアの鼓動を確かに捉える。
 死にながらも耐久戦。
 自らの不死の異能をもって、純然たる武術が尽きるのを待っていた竜姫の眸が、明確な敵意と殺意を以て燃え上がる。
 させない。
 ああ、あの男は殺させない。
 首の骨ごと気道が潰されているせいで声を紡げずとも。

――まだ、愛しているとさえ、言えていない。

 動く唇が、その言葉を零すから。
 死にながらも。
 いいや、死ぬのを一瞬堪えて放たれたメロディアの爪が、雪音の胴を深々と斬り裂く。
 零れ出る血潮。だが、致命には程遠く、まだ動けると。
 大地を踏み鳴らしながら、反撃の肘撃をメロディアの心臓の真上へと撃ち込む。
 幾ら、この心の臓が砕かれても。
 この心と思いがあるのならば。
「――その『初恋』と、今一度向き合うが良いでしょう」
 世界には、わたしだけがあればいい、と冷たく笑っていたメロディア。
それが変わったのは何時だろう。
 不死が途切れるのは、さあ、あとどれだけ先だろう。
 残されているのはそう長くない時間だと知るからこそ。
「それこそ、死ぬ前に」
 あの男の顔を。声を。思いを。
 腕と、ぬくもりと、笑顔を。
 思い浮かべながら、深雪の拳武の前に散りゆくメロディア。
 蘇る事がなくなるまで殺し続けるのだと。
 ならば――生き残りたい、魂の底からの願いをメロディアが抱き締めていたら。
 きっと殺し切る事は出来ないのだろうと、雪音は感じて。
「貴女の夫もまた、すぐに骸の海に。黄泉で、今度こそ擦れ違わず、真っ正面から話をしなさい」
 残酷な定めも。
 独りではなく、大切な誰かとなら乗り越えられる筈。
 殺戮衝動を律しながら、ただひとりの女を殺し抜く為、雪音は己が身が自壊するまで。
 いいや、筋肉が千切れ、骨が砕けても。
 その武を振るう事を止めはしない。
 脈打つ鼓動を、動く心を感じるから。
 心を持つものとして――決して、メロディアをもう、甘く見ない。
 全身全霊を賭す白き拳が、『桜花』のメロディアを葬る舞となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
全く――憐れなものだな。
死が訪れなければ、生きることに意味が無くなる。

……それくらい、俺にでも理解できるというのに。

飛翔する桜花から片時たりとも意識は離さない。
分身が放たれた端から拳銃で迎撃していく。
遠距離攻撃の手段を持たない脆弱な分身ならまだ対処は容易い。

……さて、死の舞踏を舞う時間だ。
その豪奢なドレスに足を取られても、死は待ってくれない。

携えるはダガーナイフと拳銃。
用いるべきは鋭く研ぎ澄まされた合理性。

――視る、見切る。一挙手一投足を把握しきる。

無拍子の歩み、無形の位。

眼前、後背、真横、直上。
河川の水が流れ続けるように、あるいは蝶の羽搏きのように。
知覚の間もなく死を与え続ける。



 全く、と。
 蝶の羽ばたきのように静かな吐息が零れる。
 思慮を湛えた瑠璃色の眸を揺らめかせて。
 雪月じみた銀の髪を、ふわりと風に靡かせながら。
 憐れなものだなと、流れるは冷たく静かな声色。
「死が訪れなければ、生きることに意味が無くなる」
 呟くのは緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)だ。
 今、この瞬間を生きようという必死な思い。
 駆け抜ける必要性がないから、強く、激しく求める事も。
 願う事さえ、次第に喪っていくのだ。
 メロディア・グリードの陥った病はそういうもの。
 未来を生きる事に意味を見いだせなくなる、絶望という病魔に他ならない。
「……それくらい、俺にでも理解できるというのに」
 白皙の美貌に微かな憂いを乗せて、『桜花』のメロディアを見つめる緋翠を前に。
「ええ。理解すればする程、この絶望は甘く、絡み付くんですよ。無限に増え続け、再生するこの身が、どれほど真実なのか。最初はどんな姿だったのか」
 今のこの顔も。
 何時か、何処かの残滓が変わって狂ったのかもしれないと。
 ひたりと冷たい絶望を滲ませて、メロディアは薄く笑う。
 だが、言葉はそれだけだと高速で飛翔するメロディア。音速の壁など何枚を突き破り、周囲には分身たる残滓も放って。
 それこそ絶望の波のように速く、そして恐ろしい数で迫るのだ。
 けれど、緋翠の眸は冷静なまま。
 むしろ戦いの中だからと揺れることを止め、翔るメロディアから決して意識を離さない。
 分身が放たれれば端から拳銃で撃ち抜き、迎撃していくだけだ。
「遠距離攻撃の手段を持たない脆弱な分身ならまだ対処は容易い」
 問題は竜王の力をその人の身体の形に秘め、更には不死性を持ったメロディア。単純な力押し、相打ち狙いの突貫でさえ成功すればメロディアの一方的な勝利となる。
 だが。
「……さて、死の舞踏を舞う時間だ」
 メロディアが飛翔する速度にも慣れてきたのだと。
 軽やかなタクティカルナイフ、『to be vengeance.』を拳銃と共に携える。

――貴方は私の復讐であり、私は貴方の復讐である。

 その通りに、目の前の存在へと速やかで冷たき復讐を。
 また緋翠もメロディアに復讐されて然るべき存在なのだから。
 相容れないということはそういうこと。
 戦争というものは、そういう怨念の絡み付く場所なのだから。
「その豪奢なドレスに足を取られても、死は待ってくれない」
「あら、私の知る死は……それこそ冷たく、静かで、容赦のないものだけれど」
違いない。それには同意して頷く緋翠。
 だから怜悧な刃で余計なものを削ぎ落とす緋翠。
 用いるべき鋭く研ぎ澄まされた合理性。

――視る、見切る。一挙一動、一挙手一投足を把握しきる。

 故に緋翠が構える事はなく。
 リズムを取ることもまたなく、穏やかな吐息を零すだけ。
 無拍子の歩みにして、無行の位。
 如何なる瞬間、如何なる動きにも即座に動けるように。
 備えた緋翠へと迫るメロディア。
 だが、眼前、後背、真横。そして直上であろうと関係ない。
 河川の水が絶えぬように流麗に。
 或いは、蝶の羽搏きのように。
 無音にして前兆なし。故に神速で翻ったナイフの切っ先が、メロディアの喉笛を掻き切る。
 のみならず、知覚する間も与えず。
 静謐そのままに、メロディアの動きを正確に予測し、機先を制する刃が、数多の死をその身に刻んでいく。
 それこそ『桜花』を鮮血と共に散らして。
 不死なる再生が尽きるまで、何度でも、幾度でも。
 メロディアが死んで蘇った回数を覚える事もなく。
 縦横無尽に、けれど繊細な蝶のように。
 終奏を紡いで奏でるナイフが、メロディアの魂へと触れる。
 絶望の香りを掻き消しながら。
 桜に似た甘い、死の匂いを滲ませて。
 終わりへの旋律を、ここに刻んでいく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
【RTA】
あらヤダ突っ込んできちゃう?
まあ俺今メガホンで喋ってるかんね

先制はまず俺にヘイトを向けようか
真っ直ぐ飛ぶなら弾丸と同じさ
よく考えて避けるよ。
棒立ちの分身たちはどーでもいいしさ

――さァて
30秒だけお話しよう
愛されてるんじゃないの?俺はそう思うけどね
オイオイまさか抱き締めるとかが愛だとか思ってんじゃねえよな
愛がなくてもできるぜ
この領域を任されて猟兵と戦ってるんだろ
その信頼って――愛なんじゃないの?
てめーの亭主の気持ちも汲んでやれねぇようじゃ
あんた一生報われない

【Ἀποκάλυψις】だ
うーん綺麗さっぱり俺が食っちまったよ
さあ、魔法は解けた
反省しな。――あとで旦那も沈めてやる


鳴宮・匡
【RTA】


前に出るハイドラとは対照的に闇に紛れる
本体の向く先をぶらさないのが目的だ
こちらへも分身が飛んでくるだろうが
本体ほどの速度はないだろう
十分に見切れるはず

……愛、とか、まだよくわからないけどさ
姿形だけじゃなく、心も、力も、過去も――痛みも
全てを背負ってここに在る、その姿を受け入れることを
きっと、そう呼ぶんじゃないかな
(少なくとも)
(この胸の裡にあるのは、そういうものだ)

ハイドラの攻撃の間隙――その30秒間を持たせるのはこっちの仕事
【無形の影】は連射に適した形状へ
間断なく射撃を浴びせ、相手が再生する傍から撃ち殺していくよ

――なあ
あんたは、多分
絶望する必要なんて、なかったと思うけどな



 憂いを帯びたメロディアの瞳に微かないろ。
 その感情は怒りか、呆れか、それとも警戒なのか。
 瞬きひとつ共に、高速で飛翔する姿は確かに竜王の力を秘めている。
 形こそ人だか、裡に秘めるものは桁が違うのだ。
 ただ、純粋に。
 死を思う事がないから、殺意というものを真っ当に抱けず。
 ああ、いいや。真っ直ぐな思いというのを、自分と他者に抱けず、ぶつけられず。
 こうして、此処に居る。
――あの男を死なせる訳にはいかない。
 そんなあやふやで、言葉の足りないものに、命を賭してと。
「あらヤダ、突っ込んできちゃう?」
 そうハイドラ・モリアーティ(冥海より・f19307)が呟くのも無理はない。
 何しろ彼女はメガホンをもって喋っているのだ。
 その声は戦場全域に行き渡り、当然、『桜花』たるメロディア・グリードの意識を引くことになるのだから。
「ハイドラ、任せた」
 言葉少なく告げた鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、ハイドラとは対照的に気配を消して闇に紛れる。
 それはハイドラのみへと意識と攻撃が向き、それがぶれないようにするのが目的。
 分身までもがハイドラへと殺到するのはむしろ、鳴宮たちの作戦からすれば成功以上だっただろう。
 問題なのは。
「――さァて」
 よく考えて避ければいい。
 真っ直ぐに飛ぶのならば弾丸と同じさ、と肩を竦めたハイドラが、メガホンで声を出して。
「30秒だけお話しよう」
「……それは、30秒の命乞い?」
 疑問を挟む事も出来ず、旋転を描いて飛翔してきたメロディアが既に眼前にいて。
 瞬くようにその竜の爪を宿す腕が、四度と振るわれる。
 噴き出すハイドラ鮮血。いいや、それよりも両の手足の骨と腱を断ち斬られ、その場で崩れ落ちる。
 動けず、ほぼ戦闘不能。避ければいいとタカを括った対価を求めて竜の姫は血濡れの爪を掲げる。
「お話をしましょう。ええ、お話を。手足を『お離し』しても、『お話』はできるでしょう?」
「でもいきなり斬り跳ばして『お離し』させずに、『お話』しているって事は、会話を続けるという事でオーケー?」
 ハイドラが稼ぐべきは30秒。
 だが、それがこれ程に困難とは思わず、苦笑いを浮かべる冥海の魔王。
 いいや、自分はまだ半人前という事だろうかと肩を竦めて、援護射撃に飛び出そうとした鳴宮を制する。
 言葉で稼げるだけ、稼ぐのがハイドラの役割なのだから。
 自分でまずやって、出来なければ鳴宮に任せる。何時も凪いだ笑顔と、『普通』を続ける彼ならば、失敗だってなんとかしてくれると。
 責任と信頼を視線に混ぜて放り投げながら。
「竜王の姫さま。実は、本当は、愛されてるんじゃないの? 俺はそう思うけどね」
 もはや四肢は動かずとも、ひらりと笑ってみせるハイドラ。
 金銀妖瞳の双眸は何処か楽しげに、困惑の表情を浮かべるメロディアを上げながら。
「オイオイ、まさか抱き締めるとかが、愛だとか思ってんじゃねえよな」
 愛がなくてもできるぜと。
 それこそ、腕を引いてやればいいのか。
 迷った時に背を押せばいいのか。
 それとも、犬や猫のように抱き締めて微笑んでやれば、それが愛かい。
 重ねて尋ねるハイドラに、メロディアは戸惑いを深めていく。
 どうなのだ。
 それこそ自分に向き合った事のない、向き合う必要もない不死だった自分の感情こそ、定かではない。
 湧き上がるものこそあれど。
 それに何と名前をつければいいか判らないから。
「この領域を任されて猟兵と戦っているんだろう」
 ハイドラという、地に倒れた存在の声を、言葉を、遮る事が出来ずに聞き入るだけだ。
「その信頼って――愛なんじゃないの?」
 そこでぴくりと、メロディアの頬が動いて。
 へらりと笑い、烟るように思いを隠して誤魔化すハイドラが告げる。
「てめーの亭主の気持ちも汲んでやれねぇようじゃ、あんた一生報われない」
 ああ。
 今、俺は竜の逆鱗を思いっきり踏んでしまったのだと。
 赫怒に燃えるメロディアの竜眼を前に、ハイドラは嘆息する。
 これだから拗れた女は面倒なんだよ。
 何処に地雷が埋まっているのかまるで判らない。
「貴様は、つまり。『鬼火』や『邪剣』、『三つ目』や『鮫牙』……七大海嘯への信頼と愛と同程度のものしか、『桜花』のメロディアにはないと」
 そう囀るのかと。
 あくまで部下として。妻ではなく。
 だから傍らではなく、余所の土地を守らされているのだと。
「そう私たちの関係を貶すか、下郎!」
 故に吼える竜の声は周囲を劈き、空間を揺らす程。
 紛れもないメロディアの真意であり、本人さえ自覚のない不満と怒り。
 何故、あの人の傍にいない。
 このいっとう大切な時に。そんな悲憤が噴き出し、ハイドラの命を奪おうとして瞬間。
 メロディアの後頭部を黒き影から紡がれた弾丸が穿ち、額から突き抜ける。
 それは鳴宮の操る無行の影にして召喚された銃器。
 扱いやすい自動拳銃はリロードの必要はなく、速射性にすぐれたもの。
 いわば、脆さは花のように。尽きせぬ命は竜の如くというメロディアを連続して殺す為のものだ。
 まさに間一髪という瞬間にハイドラは安堵の吐息をつき、鳴宮は揺らいだメロディアの身体へと弾丸を撃ち込み続ける。
 奔る影。穿つ黒。撃たれる度に、闇の火花が弾けて、生への渇望を謳い挙げる。
 これは破滅の影の一端なのだから。
 何度でも死をくれてやると、叩き込まれる戦場の死。
「……愛、とか、まだよくわからないけどさ」
 きっとこうだと、穏やかな声で。
 それこそ風のひとつも吹かない凪いだ姿で。
「姿形だけじゃなく、心も、力も、過去も――痛みも」
 弾丸と死をメロディアに撃ち込み、その身体と心を揺らさせる鳴宮。
 女は確かに地雷が多いのだろうけれど。
 それだけ、形のない大切なものが多いのだろう。
 その両腕で抱えてしまうのだろう。
 恐らく、何かしらの形に変えて、留めて、宿そうとする男には判らないこと。
 それこそ強欲たるカルロスが、ひとつの巨大な島を与えるなんて――最上級の思いの現れだろうに。
 それが伝わらない、或いは、擦れ違うのが男女の絆。
 けれど、それらを。間違いも何もかもを。
「全てを背負ってここに在る、その姿を受け入れることを」
 だからとても重たくて。
 今の激怒したメロディアは愛というのに相応しいのだろう。
 間違いなく、『桜花』は『王笏』へと向けている感情は。
 愛。
「きっと、そう呼ぶんじゃないか」
(少なくとも)
 ぽつりと言葉に零さず。
 トリガーを引いて、更なる弾丸を、そして時間を稼ぐ最中に、鳴宮はゆったりと思う。
(この胸の裡にあるのは、そういうものだ)
 適切に、蘇生のリズムに合わせて射殺を続けながら。
 胸の中に浮かんだ何かを、穏やかな笑みの裡に仕舞う鳴宮。
 そして。
「30秒。持たせたぞ、ハイドラ」
「ああ、後は綺麗さっぱり、食わせて貰うぜ」
 桜花の足下から現れるのは足許から生える竜の牙。
 巨大な竜の顎と化して、メロディアへと食らいつき、咀嚼するように何度もその牙が全身へと突き立てられる。
 それこそ、幾度も。
 何度も。『桜花』という不死身が乱れ咲いて、狂い咲く度に。
 メロディアを喰い散らかす、竜の牙たち。
 だが、真に驚嘆すべきはハイドラの精神性だろう。
 四肢を断たれ、動けず。けれど、ユーベルコードの効力が発動されるまで30秒を待たなければいけない。
 その間に何も勘ぐられないように自分を囮にして時間を稼ぎ、かつ最後は罠へと嵌めて殺しへと繋げる。
 半人前と嘯きながら、ハイドラの揺らがぬその気質はまさに魔王のそれ。
「さあ、魔法は解けた。反省しな。――あとで旦那も沈めてやる」
 未だ不死身。まだ再生能力は尽きず、致命傷を負った傍から蘇生し、治癒し、復元してまた喰われるメロディア。
 意思力の方が凄まじいと驚嘆すべきなのかもしれない。
 そんな思いを、心を抱いていられるなら。
 先ほどのような憤激を形に出来るというのなら。
「――なあ」
 言葉を投げかける鳴宮。
 それは、もしも。一歩を踏み出せていたらの。
 もしかしたらの話だけれど。
「あんたは、多分。絶望する必要なんて、なかったと思うけどな」
それだけの思いと力があって。
 一途に求めて願い続けていたのなら。

 たったひとつの幸せぐらい。
 きっと、どんな空虚な心と人生にだって築ける筈。

 いいや、そうだと。
 今の鳴宮は信じているから。信じているから。
 ひとつずつを、築いていこうと願うから。
 花のような残滓たち。
 咲き誇ることなく、思いが花開くことなく。
 けれど、思いはそこにあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フォルター・ユングフラウ
【古城】

ははっ、自ら殺害を望むとは…何とまあ、有難い玩具が現れたものよ
ではその望み、叶えてやる

先制で向かって来た分身の群れは、手近な一体を大鎌で串刺しにし、盾として活用してやろう

攻撃を防ぎ切れば、こちらの手番だ
毒を生成し、トリテレイアに手渡す
さて、メロディアと言ったか…貴様は、どんな毒が好みだ?
望む物を与えてやろう

しかしまぁ、愛に焦がれるオブリビオンとはな
ふざけた話だ
…と、笑い飛ばすのは簡単かもしれぬが
恋だの愛だのは、想いの数だけ様々な形が存在する
オブリビオンとしての貴様は唾棄すべき存在だが、同じ女としては少し羨ましくも思える

賢いよりも、愚かである方が進歩の余地もあろう
まぁ、そう気を落とすな


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
彼らの全てを悪しきと断ずる事、私には出来ませんでした
…往きましょう

かの王の奥方様ですね
人々の安寧の為、御覚悟を

銃器乱射と剣盾で分身迎撃
毒弾受け取り右腕装填
竜姫撃ち落とし

毒拘束後
只管剣盾、破損時超重フレーム鉄爪で殺害開始

(御伽噺で、数多の世界で
男、女、親、子、友…人
数多見たその感情の名を知っている
されど告げる資格などこの身には
騎士のそれを模倣するこの身には
黒の淑女に抱いたそれ…その種別を測りかねるこの身には)

けれど

我が身擲ち捧ぐ貴女の姿を…ヒトは愛と呼ぶのです
その感情は…間違いでは無いのです!


御伽では…愛を守護する騎士もいました
殺す相手にあの口上、罪滅ぼしのつもりだったのか
私は…愚かです



 愛と絶望と。
 命と死が織り成す戦の旋律へと、黒と白の姿が踏み込む。
 舞い散るは命の欠片。
 美しく、麗しく、けれど悲惨な翳りを見せて。
「ははっ、自ら殺害を望むとは……何とまあ、有難い玩具が現れたものよ」
 けれど暗鬱たる思いも、惑う感情も気にせず。
 黒き女帝たるフォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)は嗜虐の声色を揺らす。
 さて、どうしてくれよう。
 無限に再生する、呪いじみたその身体を。
 何かを求め続ける心に思う事はありはしても。
 道を譲る気など更々ありはしないのだ。
「ではその望み、叶えてやる」
 あくまで自らが求めるモノの為に黒き大鎌を構えるフォルター。
 血錆に塗れた鋸刃は拷問でいたぶる為にあり、今なお犠牲者の怨嗟を滲ませる。
 一方、その傍らで翠玉のようなセンサーアイを揺らすのはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 それは御伽の騎士を志す清廉な身だからこそ。
 感じずともよい懊悩をそこに見せるのだ。
「彼らの全てを悪しきと断ずる事、私には出来ませんでした」
全てが正しく、全てが悪い。
 そのように割り切れるものではなく、目の前にあるメロディアなど、一種の呪いに苛まれ、戸惑い続ける乙女の側面もある。
「だが、此処にいる。こうなった以上、汝の手で幕を引くことこそ騎士の務めであろう?」
 一度舞台に立ったが以上。
 分身とはいえ、その夫を殺めたのならば。
 もう退く事はできない筈と、見透かすようなフォルターの紅玉のような眸が訴えかけて。
 トリテレイアの思いをこそ貫いて、信念をも震わせて。
「……往きましょう」
 儀礼剣と大盾を構え、純白の騎士の如く進むトリテレイア。
 所詮は戦機。何をもって願いを成すかなど、たかが知れていると。
 迷いを振り切り、今も死と再生を繰り返すメロディア・グリードの前へと歩み出る。
「かの王の奥方ですね」
 王妃に対する礼を忘れる事はなく。
 けれど残滓をばらまき、海の世界に混沌を持たらした事は忘れないし、許せない。
 何故、そんな事をと思いを問えば、それこそ剣は迷うからこそ。
「人々の安寧の為、御覚悟を」
 トリテレイアが儀礼剣を構え、フォルターが鋸鎌に魔力を宿す。
 一触即発であり、戦い気配に包まれる中、それでもメロディアは小さく吐息をつくのだ。
 ああ、どうしてと。
 死なないモノは、生きる事が限られるモノと異なる精神を宿すから。
「私は死にたいのではありません。この尽きずに増える身体を、異質なるそれを止めたいだけ」
 何よりと、瞼を伏せて。
 甘くも、何処か絶望に翳る溜息を零す。
「あの男を、死なせたくない。まだ、今はまだ。何故かと思う時間すら、今は与えられていないのですから」
「戦い、殺し合っているのだ。時間など限られている。いいや、無限に生き続けるとタカを括ったから、その様だ」
 だから此処に散れ。
 無念を抱けど、それは自らのせい。
 同じ女として余計にその至らなさを、出来なかった悔やみを感じるから。

――ああ、私はまさか。
 同じように、女の痛みを感じているのか。

 まさか領民を殺し尽くしたこの黒血の魔女が。
 そんな事はある筈はないと頭を振るった瞬間、メロディアがその力を発言させる。
 彼女は『桜花』。尽きせぬ身なれど、それ以前に竜王。
 高速で飛翔する速度は視認出来るようなものではなく、音速など遥かに超えた域。
 加えて、分身たる残滓が放たれてその力を振るうのだ。
「フォルター様、下がってください!」
 声と共に進み出たトリテレイアが格納された銃器を乱射して迫る残滓たちを撃ち抜き、それでもと進み出る者は剣と盾で斬り砕く。
 前衛、盾のように、剣のように真っ直ぐにあるのがトリテレイア。純白の身に刻まれた薄紫の花の意匠は誇りの証。
 戦機の身なれど、ただそれだけではありはしない。
 鋼鉄に宿った心と、記憶が今を形作るから。
 いいや、それはフォルターも同じこと。
「いや、今回は……私も前へと出よう」
 手近な一体を大鎌で串刺し、盾として活用しながらトリテレイアの傍を離れないフォルター。
 今と過去は違うのだ。
 進み続けるのは、独りではないから。
 そこが絶対にあの王と王妃とは違うのだと。
 すれ違いなどしていない。共にあるのだと、白と黒の姿が、翠と紅の眸が、見えぬメロディアへと訴える。
 譲れない、退けない、お前には。
「それは、恐らく」
 視認出来ないメロディアの声が何処からか響いて。
 縦横無尽に飛翔する姿が、攻撃へと転じるのだと告げるのだ。
「互いに、この相手には負けたくない。屈したくないと思う処があるからでは」
 伴う者のいない竜姫が。
 嫉妬という言葉を使わず、その爪をもってトリテレイアへと強襲を仕掛ける。
 見えない、捉えられない、そも動きを読むなんてものではない。
 高速演算が危険を告げて大盾で身を隠した直後。
 竜姫の爪がトリテレイアの盾へと触れて、飛翔の勢いとその力で斬り裂き、破砕する。
 まるで鏡のように脆く、儚く砕け散る大盾の欠片たち。
 直撃すればどうなるかなど、考えずとも判る程にこの竜姫の力は強大。人型であれ、その身体に秘めるのは恐らく帝竜の一角と変わらぬもの。
 だが、初撃は凌いだ。
 ならばこそ、二人は流れるようにその技を振るう。
『悶えろ、その身を蝕む絶望に』
 フォルターの詠唱は短く。
 それはあくまで傍らのトリテレイアが為に。
『泣き叫べ、命尽きるまで』
 メロディアの命を尽き果てるその瞬間を生み出す為にも。
 生成されるのは猛毒の弾丸。
 まるで悪魔と誓い、必中の魔弾を繰り出す取引めいているが、こちらは更にタチが悪い。
 フォルターの作った弾丸は猛毒があれど。
 必中の効果はなく、そして、この黒き女帝が求めるのは必中そのものなのだから。
 それに応えてこその騎士。光に導く剣なのだと、トリテレイアは己を鼓舞する。
 元より迷い、恐れ、躊躇いなど一切ない。
 ただ突き進むのみ。
「さて、メロディアと言ったか……貴様は、どんな毒が好みだ?」
「そうね、今まで受けたものだと、長く苦しむのよりは、即効性のものがいいかしら。刺激的なお酒のように。そして、酔いもまた速やかに褪める」
 ならばと麻痺性をも忘れない。
 多少動きが鈍る程度でも構わないのだと、トリテレイアへと手渡す魔毒の弾丸。
 騎士たらんとしながら、毒という卑劣な手も厭わぬトリテレイアの手に触れた瞬間、なんとも可笑しくて笑ってしまう。
 まるでふたりならば煉獄とて天上のように。
 歌うかのようにフォルターはその頬を緩ませ、声を綻ばせて。
「望む物を与えてやろう」
「御意に。心の侭に振るえ、でしたね」
 繰り返すトリテレイアが銃器へと猛毒の弾丸を叩き込み。 
「私は戦機の身なれど、無辜の民と世界が為に、あの王を……貴方の夫を討ちます」
 その宣誓がもたらすのは、竜姫の赫怒。
 許さない。殺させない。今はまだ叶わない事がある。
「伝えていないこともあるのです」
 今だから、何度も殺されながらようやく気づいたのだと。
 高速飛翔の勢いを乗せて奔る竜爪はトリテレイアを一撃で殺す為に直進するから、視認できずとも戦機の身には読みやすい。
 あくまで純粋に過ぎて。
 激情故に短絡。そして、最大効率を最速でと狙うのならば、単純な機械と変わらない。

――ああ、心にこそ必中をと求められれば、私は苦労したでしょうが。
 それはかの黒き淑女が果たした故に、この白き戦機が続くもまた当然――

 放たれた弾丸はメロディアの心臓を撃ち抜き、そのまま地へと墜落させる。
 不死なる身を蝕むのは猛毒と麻痺。蘇生しては死に、死んでは蘇生しながら狂い咲き続けるその身は、けれど自由を失い。
「その前に貴女を討たねばならぬ事も、重々に承知の上で――いいえ、殺し尽くす必要があると、理解して、此処にいるのです」
 故に不死の竜姫、『桜花』を殺すべく機械の騎士は自壊の刃を携える。
 攻撃の動作は先んじて固定され、精密動作も限界制御も投げ捨てて。
 あらゆる護りをも強引に破る剛剣が連続で吼える。
 一閃でメロディアの胴を両断すれば、翻る二太刀目は逆袈裟に。
 瞬く間もなく繰り出されるは全てが鏖殺の技。幾度となく瞬時に蘇生するメロディアを殺し切るまで繰り出される滅刃の嵐。
 いいや、トリテレイアの抱く思いこそを投げ捨て。
 思いを馳せなように。
 考えず、浮かんだ感情をこそ殺しきるように。
 吼え猛る剛剣は、思いなど儚く、無常なのだと斬り伏せていく。


 御伽噺で、数多の世界で見て触れた。
 男に女、親に子、友と師弟……ああ、つまりは人。
 幾多と見たその感情の名を知っているのだ。


「ええ、知っていても」
 確かめる術はないのだと。
 愛される筈はないのだと、嘆くメロディアをまたも殺す騎士の剣。
 けれど、それはきっと違うのだ。

 されど、告げる視覚などこの戦機の身には。
 騎士のそれをも模倣するこの偽りの身には。

――黒の淑女に抱いたそれ。

 その種別を測りかねる、この身には。

――決して口にする事など許されないのだと、懊悩が過ぎる。

 それこそ自壊前提で振るう剛剣でなければ。
 迷い、戸惑い、切っ先が鈍り、メロディアが逃げて反撃する隙が生まれるほど、トリテレイアの心は乱れて、揺れて。
 稼働部から散る花火が、お前は愛に相応しくないと笑っている。
 花びらのように舞い散る竜の血が、瞬時に致命傷を癒やして蘇生する呪われた身は、どうして愛を受け取れると泣いている。
 どうして、自分達のような異なるものが、それを抱き締める事が出来るのだろうか。
 確かめる術はなく。
 心に触れて、その形を知る指先など在りはしないと判っていても。


「けれど」

 
 既に五十は殺し、なお止まらぬ鏖殺の剣を振るいながら。
 叫ぶトリテレイアは、騎士の心と誇りをもって断じるのだ。
 この『桜花』の竜姫、ただ嘆きの淵で沈むべきではない。
「我が身を擲ち捧ぐ貴女の姿を……ヒトは愛と呼ぶのです!」
 この戦機の身がどうかなど、きっと何れ、誰かが定めてくれる。
 だから今は迷いを捨て、心の儘に振る舞い、叫ぶのだ。
 尽きせぬ不死の竜の魂へと、安息をもたらすべく。
「その感情は……間違いでは無いのです! 罪など、罰など、幾らでも抱き抱えて進む黒き淑女を、私は知るのですから!」
 あなたもきっとそう。
 狂い咲く残滓よ。本当の己をも判らぬ王妃よ。
 誰しもが彷徨い、迷い、そして手を引かれて、光の下へと往くのだから。
「貴女は、愛している。そんな貴女は、愛されて当然なのですから!」
 それを聞き届けるが故に、不死の鼓動が誠の意味で脈打つ。
 ならば、まだ足掻いてもよいのかと。
 これほどに死んでも、死にきれない魂が、求めてもよいのかと。
「騎士よ。鋼なれど、杯を守るが如き清き騎士よ」
 その一言と共に斬殺されながら、やはり瞬きの間に蘇り。
 トリテレイアの肩へと、竜の爪を叩き込む。
 それは自壊前提のトリテレイアへ、またメロディアも絶命前提での捨て身の一撃。
 定めた攻撃が止まる事がないのだから、カウンターは恐ろしい精度で突き刺さり、肩口からトリテレイアの右腕を吹き飛ばして。
 自らの心臓を斬り裂かれ、鮮血を花びらのように舞い散らす。
「この身がどうあれ、その言葉が魂に届いたと、感謝しますよ。この先がどうなれ……」
 言葉を紡ぐ間もなく、翻るは黒き斬風。
 瞬間、メロディアの身を斬り跳ばしたのはフォルターの大鎌による一閃だ。
 ただ佇むだけではなく、隙あれば斬り殺す。
 騎士の窮地というのならばまた、動くのみ。
 跳ね飛んで転がるメロディアへと、別の猟兵が迫るのを流し見ながらフォルターが零す。
「しかしまぁ、愛に焦がれるオブリビオンとはな。……ふざけた話だ」
 と、そう笑い飛ばすのは余りにも簡単だ。
 だが恋だの愛だの、そういった類いの想いはその数だけ様々な形が存在する。
 或いは魂の触れ合う数だけなのか。
 いいや、それこそ身と心に痛く感じるのだ。
「我は我が身を擲ち捧ぐ、など出来ぬからな」
 オブリビオンとしての貴様は唾棄すべき存在。
 過去の残骸であり、残された思いに過ぎない。それこそ、未練がましく愛を求めた存在に過ぎないと、死霊を操るフォルターは笑い飛ばせたとしても。
「だが、だがな。同じ女としては少し羨ましくも思える」
だから負けたくないと想ったのだ。
 瞬間、トリテレイアへと一撃を繰り出したメロディアへと、大鎌の刃を走らせたのだ。
 何故、どうして。
 理由は分からずとも、白き戦機が傷付けられた時に浮かんだのはひとつの想い。

――それは、私のものだ。私だけが傷付けていいものだ。

 なんとも我が儘な小娘のようで。
 この想いを口になどしないと、笑みの下で覆い隠すフォルター。
 その傍らで、剣を杖のようにして立ち上がるトリテレイアが、何処か低く声を漏らす。
「御伽では……愛を守護する騎士もいました」
 聖なる槍と杯などではない。
 それよりももっとも尊い、愛というものを。
だが現実はどうだろう。トリテレイアは果たして、騎士などというものであれたのか。
「殺す相手にあの口上、罪滅ぼしのつもりだったのか」
 どのような形と敵であれ。
 殺すという事にもまた嘘偽りはない。
 その命と未来を奪い、可能性と夢を閉ざす行為。
 ああ、お前はその夢を見てはならないと、戦機の怪力で振るい続けたせいで罅割れた儀礼剣は告げていたのかもしれない。
 だからこそ、その夢はもう叶っているのだと。
 伝えたくて、教えたくて。
 出来るのならば、骸の海で再会した時にと。
「私は……愚かです」
 現実で触れ合い、抱き締め合う幸せを奪ったのだと。
 吹き飛ばされた右腕、そこに宿った罪と呪いをみるように、視線を落とすトリテレイア。
 だが、フォルターは柔らかく微笑んでみせる。
 嗜虐も加虐も、皮肉も何も一切なしに。
 それこそ、ただただ優しいといえる声色で。
「賢いよりも、愚かである方が進歩の余地もあろう」
 何かを求めるのではなく。
 捧げるように。受け取ってくれと、言葉と心を擲つように。
 献身とは程遠く、受け取らねばまた鋭い棘を生やす鮮血の薔薇なれど。
「まぁ、そう気を落とすな」
 それは自分達に先があるという事を示す。
 これからの未来にどうなるのか。
 愚かである事が、更なる幸せに続くのか。
 白と黒が複雑怪奇に、絡まるように織り成す物語は。
 まだ続く。この海の世界を越えて、更なる場所へ、遙かな時の流れへと。
 だから今は応えはいらない。

 フォルターが抱いた胸の痛みの名など。
 トリテレイアが測りかねる感情の種別など。

 今は――いらない。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
同じ不死者としてこのざまには同情するぜ
どっちが先に死ぬか根比べだな

敵の飛行速度を落とす為に氷属性攻撃/天候操作で吹雪を起こし
範囲攻撃/マヒ攻撃で纏めて凍らせる
やる事はそれ位だな…来いよ
カウンター狙いでUC発動
継戦能力活かし只管攻撃

動力を絶たれない限り再生するこの躰は
俺から痛みまでは奪ってくれなかった
痛い、辛い、苦しい
俺にはこいつの苦痛が解るし
こんな殺人鬼みたいな真似もしたくない
だが一々泣いてる余裕なんかねぇんだよ
違うか!?

俺に好きと言えば全員被害者か殺人鬼になれるぜ
それが『名探偵』って呪いだ
…重すぎんだよ
あんたはどっちがいい

諦めてんじゃねえよ
あんたの旦那もあの世に送ってやるから
ちゃんと話せ馬鹿



 戦いの旋律に乗って。
 舞い散るは死の花びらばかり。
 甘い命の残滓をはらり、ひらりと揺らめかせ、より一層に死の匂いを深く、深くと漂わせる。
 ああ、慣れ親しみ過ぎて。
 なんて忌み嫌うべきものに包まれているのか。
 戦場という命の鬩ぎ合いではない、死が麗しく舞うこの舞台で。
「同じ不死者として、このざまには同情するぜ」
 凍てつく氷のような青い眸に、鋭い光を宿すのは柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)。
その視線の先には、殺されても殺されても、なお生き返るばかりの狂い咲く『桜花』。メロディア・グリードが憂うような笑みを浮かべて佇んでいる。
 周囲に転がるのは死体の一部。
 その全てがメロディアから生み出され、そして、死んだからと落とされた花びらなのだ。
 甘い、甘い、死の匂いが漂うばかりの中へと、はとりは一歩、前へと踏み出して。
 不死のメロディアを睥睨し、氷の大剣たるコキュートスの水槽を構える。
 氷のいろは、はとりの眸と同じく。
 莫大な負荷を、その心と身にかけながら、死を産む冷たさを宿すばかり。
 持ち主にも、触れる者にも。
「どっちが先に死ぬか根比べだな」
 だからさあ、と。
「不死者のダンスですか? なんともそれは、また新しい死者を呼びそうな」
「探偵の前では死は並べて平等。誰にでも等しく、理不尽に来るもんだよ」
 必ず死ぬ。誰かが死ぬ。
 それこそが不死と探偵という宿業であり、呪い。
 何をしなくても、それは訪れるから。
「だから、何もしないより俺は、何かをするモノでありたい」
「なんとも痛い話。……ああ、私達には何故、痛みと苦しみが付きまとうのでしょうね」
 ふわりと花のように笑ったメロディアの姿が掻き消える。
 瞬間での高速飛翔は視認など不可能な領域にある。
 人の形に固められた竜王。例え戦う為の術、技、が未熟でも、不死とその力だけで押し切るのは、恐ろしい暴威に他ならない。
「だったら、出来ることはこれか」
 地面に突き立てたコキュートスの刀身から巻き上がるのは凄まじい程の冷気。
 天へと昇ればそれが更に渦巻き、氷雪を伴う吹雪を描く。
 全て凍れ。纏めて凍て付けと、生者で触れられぬ冷気が縦横無尽に駆け巡り、分身の残滓とメロディア本体を凍て付かせる。
 不死なる竜姫といえど、その身には肉があり血が通う。
 氷雪でつけられた傷は再生しても動きが鈍り、冷気の薄い地上へと逃れれば、そこには待ち構えたはとりの姿。
「結局、踊るぐらいしか出来ない私達ですね」
「ああ、刃と踊って死んで。死んではまた刃と踊って。今からやる事はそれ位だな……来いよ」
 両者は不死。
 何をしても死なないという事が、より動きを速く、鋭くと加速させる。
 故に迷いも躊躇いもなく、振るわれて交差するのは竜爪と氷刃の一閃。
 先にメロディアの爪がはとりの胸部を肺ごと斬り裂くが、激痛が走れど動きを止める事のないはとり。
 いいや、傷つく事によって発動するはとりのユーベルコード。
 鮮血を吹き上げながら、これが業だと偽神兵器『コキュートス』が輝けば、なぎ払う斬撃の回数は跳ね上がり。
 寿命を削れどその全て、九度に渡る氷の剣閃はメロディアの身体へと放たれ、その身を斬り刻む。
 痛い。苦しい。辛い。
 だから何だと喉よりせり上がる血を呑み下しながら、身を翻して更に九度とメロディアの全身を斬り裂くコキュートスの凍て付く刃と、はとりの眸。
「ああ。再生するこの躯は折れから痛みを奪ってくれなかった」
 痛い、辛い、苦しい。
 肺が斬り裂かれたせいで呼吸は侭ならず。
 けれどと刃を止める事は出来ず、見えない寿命の蝋燭を削って神速の氷閃を繰り出し続ける。
「俺には苦痛が判るし、こんな殺人鬼みたいな真似もしなくない」
 それこそ今、はとりが繰り出しているのは、彼が遭遇した第四の殺人事件。霧に包まれた館で、全身を斬り刻まれた被害者の死の再現に他ならない。
 その時の犯人、殺人鬼が何をしていたのか。
 どんな風に殺したのか。
 思い出して、思い描いて、この身で再現するから。
 痛くて、苦しくて、辛いのだ。
 誰かを斬り刻むことのほうが、はとりの心と魂を苛み続ける。
 なんでこんな事をしなければいけない。
 命を蝕んでいく魔剣コキュートスを手に、それ以上に心を削りながら。
 それでも、と。
「だが、一々泣いてる余裕なんかねぇんだよ」


――もう誰も死なせまい。

 ただその想いが、魂の叫びがはとりの躯を突き動かす。
 死んだ肉体へと巡る血が真っ当ではなくとも。
 宿る想いだけは、真実そのものだから。
「泣いて祈りや願いが叶うなら、探偵も王も、犠牲者も姫もいらないんだ。いいや、存在する必要さえない。違うか!?」
 それこそ殺人鬼へと身を堕とすものさえいなくなる。
 なんて優しく、そして、幸せなのだろう。
 いいや、幸せさえも霞んでしまう、楽園故に遠すぎて。
 決して何も考えなくなってしまう。
 必死に思いを叶えようとしなくなってしまう。

――願うことが無意味になる世界に、意味なんかあるのか。

 だったら足掻いて、足掻いて、足掻き抜いて。
 痛い、苦しい、辛い。
 けれどと、胸を張れるようでありたいだろう。
 そこで絶望の溜息をついているだけじゃ、何も叶わないだろう。
 言葉に仕切れぬ想いを、凍て付く斬閃へと変えてメロディアへと送るはとりの刃の旋律。
 流れる血をも凍て付かせ、振るう者の命も削りながら。
「俺に好きと言えば、全員被害者か殺人鬼になれるぜ」
 切っ先で数多の死を紡ぎながら、メロディアに告げるはとり。
「それが『名探偵』って呪いだ」
 誰もが死んでいく。
 不死という役割を担ったものは、どうしても。
 誰かの死を看取り、その理由を知り、秘密を暴いて。
 知りたくなかった心さえ、紐解きながら。
「……重すぎんだよ」
 軋む心。どうして殺されたのか、殺したのか。
 はとりを取り巻く想いは、それこそ知りたくなんてないけれど。
 精神に迫り続ける『死なせまい』という祈りは、止める事を許してくれない。
 何度でも。
 繰り返して。
 殺して、死んで。
 死んで、繰り返して。
「あんたはどっちがいい」
 受け取りながら死に続けるのか。
 何も手にせず、腕を伸ばさず生き続けるのか。
「私は……ええ、私は」
 そうだ。
「あなたを好きとは、彼の為に言えません」
「そうだろうさ。これで一件落着、だな。本来なら」
 聞けばいいだろう。たいした秘密じゃない。
 それこそ『名探偵』の出るような幕ではなく、真っ正面から向き合って話せば済む夫婦の話。
 殺し合いにさえ、なりはしない。
 多少の喧嘩なんて、誰も彼もが許してくれるから。
 そんな過去をコキュートスで斬り刻み、蘇り続けるメロディアという迷う花を散らしながら。
「諦めてんじゃねえよ」
 諦めてなどいないと、求めるように伸びた指先がはとりの腹部を斬り裂いて。
 再び輝くコキュートス。身と心は苛まれるが故に、幾らでも氷剣を瞬かせる。
 例え、メロディアの再生が尽きて、本当に死んだとしても。
 それでもまた、はとりの心は傷つくから。
 傷つく限り、命を削ってこの剣を振るうから。
「あんたの旦那もあの世に送ってやるから」
 その剣をお前の、『あの男』へと突き刺してやろう。
 死が救済なんて嘯くつもりはない。
 ただ、その先で。骸の海で再び巡り会えたら。
「ちゃんと話せ、馬鹿」
 冷たくも、心を救うことこそ『名探偵』の仕事。
 事件を解決するだけなら刑事でいい。
 その事件を起こしてしまった心をも紐解き、死と殺意に絡み付いた想いを解き放つ事こそ、『名探偵』。
 だから――この呪いは解けないのだけれど。
 永劫に溶けぬ氷の棺として、はとりの魂を縛るのだけれど。
 目の前のメロディアの魂を救うべく、言葉と氷刃を繰り出す。
 不死なる探偵は自らが救われる事などありはしなくても。
 繰り返す。死んでも、死んでも、例え、その記憶が薄れて掻き消えても。
 ひとつの願いだけを、その躯に宿して。
 或いは。
 躯と、頭に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
不死
人の道を外れたか、人で無いか
本体が壊れなければ私も不死同様でしょう

先制攻撃は視力による敵の動きから防御・回避を判断
手数の多いものは武器受けと衝撃波による武器落としにて弾く
威力の大きい一撃は見切りにて判断し、残像にて回避
反撃に備えられるように負傷を避け、負傷は激痛耐性

先制後は早業の抜刀術『神風』の2回攻撃
敵が再び攻撃する前に斬撃で牽制
そのまま抜刀術を繰り出しながら敵へ接近

本体を飾るのは命を奪う者として対等であること
そして……嘗てはいつ命を奪われても構わぬと
今は無くとも、己の終わりがどのようなものか
誰が終わらせてくれるのかと思う時はありました

己だけ朽ちず遺るのは
どうにも淋しいものです


篝・倫太郎
【華禱】
死なない、死ねない
それは呪詛のようだと、以前思ったことがある
他の誰でもない、俺の刃の在り方を知って

夜彦は無意識に『終わり』を求めた
終われない姫君が何を求めるのかを俺は知らない
ただ、終わらせる
それだけだ

先制対応
見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御を展開し
華焔刀で武器受けしてジャストガード
可能なら咄嗟の一撃でカウンター狙い
負傷は激痛耐性で凌ぎ、攻撃に生命力吸収を乗せてく
以降の回避も同様に

手をつなぐを代償に始神界帰使用
先制をやり過ごすと同時に
鎧砕きと吹き飛ばしを乗せた華焔刀で攻撃
分身体と本体を引き離すよう立ち回り
精神攻撃も乗せて意思統一の妨害
距離を取って分身体対応

終わらせてやるさ、俺達が



 終わらぬ旋律は、その身と心を苛むのだろう。
 ましてや異形。
 異質なる残滓を次々と生み出す、呪われた身なれば。
その身果てることなく、死なない。
 誰かと共に生き抜いた先で、死ねない。
 それは呪詛のようだと、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は思った事がある。
 他の誰でもない、倫太郎の刃の在り方を知って。
 彼は、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は無意識の裡に『終わり』を求めた。
「どうしましたか、倫太郎?」
 夜空のような藍色の髪をするりと揺らしながら振り返る夜彦。
 その翠玉のような眸はもう、『終わり』を求める事はないのだろうけれど。
 少なくとも倫太郎が傍にいる限りは。
生き続ける事をこそ祈るのだと、信じるけれど。
「終われない姫君が何を求めるのか」
 愛か。普通なる存在か。それとも幸せな結末か。
 生き続けた先故に、もはや己の真実の願いさえ霞んでいるのかもしれない。
「俺は死に無い。ただ、終わらせる」
 遙かな忘却のなかへと、祈りは潰えたのか。
 確かめる術など在りはしないから。
「それだけだ」
 華焔刀[凪]を振るって倫太郎が前に進めば、穏やかな声色で夜彦が続ける。
「不死」
 誰かの為にと鞘に納めた霊刀、霞瑞刀 [ 嵐 ]の柄にと指を絡ませながら。
「人の道を外れたか、人で無いか」
 義心を刃に宿し、慈しみをもって命に触れるが、ヤドリカミなる夜彦という侍の姿なれば。
 人より長き命は己もだと。
 憂いもまた、微かに滲ませて。
「本体が壊れなければ私も不死同様でしょう」
「けどよ、夜彦は独りじゃねえだろう。間違っているか、本当はどうなのか。迷うぐらいなら進んで確かめる」
 進む路が正しいかどうか。
 伴に在りしひとの心がどうなのか。
 決して違えたりなどしないのだと、信頼を寄せる倫太郎。
 ああ、だから嬉しさと同量の悲しさを覚えるのだと、夜彦が微笑むからこそ。
「さあ、では始めましょう。貴方達が、互いの為に死ねないように。私はあの男を死なせる訳にはいないのです」
 今はまだと言葉を残して、高速で飛翔するメロディア。
 姿を視認できるような速度ではなく、真っ当では止める手立てが見いだせぬのはまさに竜姫の飛翔。
 加えて残滓という分身が溢れかえり、それらと意思を重ねることで、メロディアはその力をより増すのだから。
「告げるべき言葉を。届けるべき言葉を。まだ、まだ見いだせない私は」
 抜刀と共に衝撃波を放つ夜彦だが、虚空をきってメロディアの言葉さえ切り裂けない。
 これだけの速度が乗れば威力は絶大。
 かつ、見切れるような速度ではなく、単純な受けに回れば詰んでしまう。
 ならばと連続で夜彦が霞瑞刀から衝撃波を放ってメロディアの軌道を制限し、避けられぬとみる倫太郎は夜彦の傍でオーラ防御を展開して華焔刀を構える。
 では直撃を悟れるか。
 これだけの速度で翔るメロディアに?
 一瞬でも迷えば、即、二人を穿つだろう竜の爪がメロディアの指先に現れて。
「来ますよ、倫太郎」
「応よ!」
 姿は見えず、気配も感じ取れない。
 だが夜彦が衝撃波を放つと同時に、体内の気を燃やし尽くすような勢いで、全身全霊を防御へと費やす倫太郎。
――我は刃、我は盾。
 その在り方に揺らぐ事はなく。
 刃たる夜彦が今だと告げるならば、盾たる倫太郎は迎え撃つのみ。
 何も見えず、感じれずとも。
 信じる事だけは、何時だって貫ける。
 故に跳ね上げた華焔刀の刃が、神速をもって奔るメロディアの竜爪を受け止める。
 戦場に響き渡る金属の絶叫。
 完全なタイミングで弾くように受けた筈なのに、後方へと吹き飛ばされる二人の姿。
 夜彦の首を狙っていた爪は、その威力を伝えるのみ。
 いいや、それだけでも全身が軋み、狙われた首筋からは赤い雫が滴るものの。
「流石は倫太郎。……竜の爪に狙われて、なお生きていられるのは奇跡でしょう」
「それを誘って、タイミングを見切った夜彦もな。ったく、腕の痺れがとまらねぇ」
 倫太郎の骨に罅が入っていても可笑しくない。
 だが初撃は凌ぎ、反撃の機を得たのだと二人が激痛を堪えてその技を振るうのだ。
 意思を重ねて、想いを連ねて、何処までも強くなるのは自分達もだと。
『今ここに戻れ、カミの力』
 倫太郎は構える華焔刀に封じられた神霊の力を取り戻し、災禍狩りの血統のの在り方を、その強さを溢れさせる倫太郎。
 目の前の竜姫は、死なぬという災禍。
 残滓を溢れさせ、甘い絶望の溜息と共に死の旋律を刻むものなれば。
「まずは、二度と飛翔などさせません」
 如何に距離があろうと、この抜刀の前では無意味と、鞘走るは蒼銀の刃。
 美しく、清らかに。
 流れ星を想わせる輝きは、けれど、見えぬ神速の斬撃となってメロディアの身を深く斬り裂く。
 常ならば致命傷。心臓ごと斬り裂いたと、ちりんっ、と鞘へと霞瑞刀を納める夜彦。 
「あら、自由に踊らせてくれないのかしらね」
「ええ。竜が空を翔る。これ程に恐ろしいものはないのですから」
 不死なるメロディアが傷を再生させた次の瞬間、再び奔る夜彦の抜刀がその身を今度は逆袈裟に斬り伏せる。
 握る手は逆手。太刀筋も、その種別も読ませないと瞬時に繰り出したそれは、メロディアの身体を、心臓をまた斬り裂いて死に至らせて。
「あなたに、自由はもう与えません」
 揺らぐメロディアの身体へと疾走する夜彦と倫太郎。
 二度と攻撃はさせないと斬撃で牽制する夜彦に対して、頭上で回転させた華焔刀を裂帛の勢いで振り下ろす倫太郎。
 余りにも脆い残滓は、霊力を伴う斬風で砕かれながら吹き飛ばされ、メロディア本体にも深い裂傷を刻む。
 刀身に宿した生命吸収で奪い取るのは、それこそ無限再生たる力。
 負傷の悉くを一気に治癒しながら。
「終わらせてやるさ、俺たちが」
 精神を蝕む力を乗せた一閃にて、他の分身との意思の統一を阻み、残滓たちを斬り散らしていく。
 さながら焔の刃に焼かれて、舞い散る花びら。
 美しく、麗しく、永遠に狂い咲くその実を鮮血のいろで濡らしながら。
「本体を飾るのは命を奪う者として対等であること」
 夜彦の逆手にもった斬撃は、下段より跳ね上がってメロディアの首を深く切り付ける。
 これで終わるような容易さが、不死性とは呼ばれぬと知るからこそ。
 二度、三度と翻り、急所を斬り裂く蒼銀の切っ先。
「そして……嘗ては、いつ命を奪われても構わぬと」
 まるで貴女のように。
 きっとこの戦争が始まる前の貴女のようにと、夜彦の翠玉のような眸がメロディアを見つめて。
「今は無くとも、己の終わりがどのようなものか」
 ちゃきりと鳴る鍔は、持ち手を順手に戻したと告げるもの。
 両の掌を添え、更なる鋭さを宿した霞瑞刀が美しい剣閃を瞬かせる。
 十、二十、三十と。
 剣光と斬風がが檻の如くメロディアを囲み、無尽の命を斬り散らせようと。
「誰が終わらせてくれるのかと、思う時はありました」
「私は終わりたいのではありませんよ。……この異形を、尽きせぬ残滓をああ、どうか止めて欲しいのだと」
「けれど、私達が求めるのはその先なのでは」
 刃よりなお鋭く、メロディアの心を斬り裂いたのは夜彦のその言葉。
 同じく不死性の携えるモノだから。
 それが終わるのではなく、どうして終わって、止まって欲しいのかと、思い描く理由と感情を知るのだと。
「貴女は――独りになりたいくないのです」
 あの男を死なせる訳にはいかない。
 命を賭しても。

――独りに、戻るなんて嫌なのです。

 裏返せば、悲しみを思い出して涙を零す女の情。
 絶望と終わらぬ生に阻まれて、それを激情として燃やせぬ、暗澹たる想い。
「何人の愛する人を見送ったのか。別れて、終わったのか。私は知ることも、想いはかる事も出ませんが」
「ならば」
 斬り伏せられ、殺され続ける竜姫の眸に宿る、魂の熱。
 それこそ夜彦に呼びかけられなければ、浮かび上がる事もなかった、願いと祈り。
 メロディアの光は、殺されながらなおその腕を振るわせる。
「ならば、私が此処で倒れ、あの男を独りに出来ないのも判るでしょう」
 竜姫の腕は触れたものを殺す暴威に他ならない。
 受ければ霊刀ごと砕かれ、避けようとすれば再び間合いを詰める隙が産まれる。
 そして、夜彦の瞳はそれらを、この場にいる三人を見切るが故に。
「それをさせられないから、俺たちは戦っているんだよ」
 翻った華焔刀が、夜彦の喉へと伸びようとしたメロディアの腕を斬り跳ばす。
 傷つけさせない。
 奪わせない。
 不死であるとか、そんな事はどうでもいいし関係ない。
「大切なひとが傷つく。大切なものが失われる。それが嫌だから、こうして戦い、命を奪い合ってんだよ」
 俺とアンタは。
 敵なのだと、倫太郎は琥珀色の瞳で訴えて。
「敵と戦い、命をやり合っても護りたい……命を賭すって意味と、重さが、アンタには判らないのかい」
 いいや、自分より大切なものがという前提が。
 自分が失われないから、その重さを定める事が出来なくて。
「きっと、それがアンタの中の『必死』という事だけは判るさ。だから、俺たちの『必死』も、その身で受け止めろよ。これは、戦いだ」
 故に華焔刀と霞瑞刀。
 対なる災禍を狩り払う刃が、メロディアの身を斬り刻む。
 幾度も、幾重にも。
 狂い咲くその身が尽きるまで。
「終わらせてやる。命の重さが、対等にならないその悪夢を」
 自分達の命は対等で。
 決して渡せない、対にして番いの魂である。
「俺たちが」
 今、その指にはなくとも。
 誓いと禱りの証は、倫太郎と夜彦の瞳に、心の底に、魂に宿るから。
 斬られて、舞い散り、終わり逝くメロディア。
 彼女を終わらせる事に、躊躇いなどなく。
「己だけ朽ちず遺るのは、どうにも淋しいものです」
 物悲しく微笑んだ夜彦が、斬閃を翻す。
 蒼銀の美しき星の道行きのように。
麗しの姫君と、それを迎える王もまた葬るように。
「すぐに、貴女とかの王は巡り会えましょう。この簪にかけて。叶わなかった、とある愛にかけて」
 二度とそうはさせない。
 もうあんな悲しく、やるせないものはと。
 夜彦が微かに目を細めて。
 今まで最も鋭く、速い斬撃にてメロディアの身を両断する。
 未練を断ち切り、骸の海でその魂たちが巡り会う事を祈るように。
 その為に、ああ、倫太郎の言う通り。
――終わりを、此処に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
無限に再生する。
なら無限に戦い、無限に壊すまで。

回点号・亡国の主を遠隔操縦
放たれるスイートメロディアへマシンガンの弾幕貫通攻撃を行い
動体視力と瞬間思考力でメロディアの機動先へ

やれ、主よ!!
主の怪力で自身を投擲させ、メロディアで向けて推力移動
『劫火戦塵』高速移動中、UCで自身の機動を変えて騎兵刀を振るい、メロディアを切断。壊す
早業、上空へ向けて神器拳銃を発砲しながら向き直り、天候操作、雷を落して壊す
手に持つ騎兵刀を念動力投擲。壊す!

興奮剤で負傷を無視し、心を闘争心で、壊す事だけに意識を集中させる
何度でも騎兵刀を蘇らせて、メロディアを壊す
壊れ失せるまで、いつまでだって続けてやる。

それが自分の夢だ。



 その心には。
 甘さも絶望も、愛もないから。
 虚ろに似る魂にあるのは、たったひとつ。
 戦って撃ち壊すということだけ。
 それが戦塵の世界の中で悪霊と産まれ、殺し合いを続けた朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)の想いの全て。
 単純明快で、低コストな脳の基盤となるもの。
「無限に再生する」
 それに脅威も怯みも。
 戦術的な打算や策も用意せずに。
「なら無限に戦い、無限に壊すまで」
 故にと回点号と亡国の主を遠隔操作し、高速飛翔するメロディアの身へと銃撃の弾幕を張り巡らせる。
 両機ともキャバリア。放たれる弾丸はいわば砲であり、人体を粉砕して貫通するには余り在る威力を秘めるもの。
 分身にして残滓たちは瞬く間に掻き消え。
 けれど、ではその本体は何処に。動体視力と瞬間思考でメロディアの機動を追おうとする小枝子だが、それは叶わない事。
「無粋な子ね。それとも、呪われた子かしら」
 歌うような声が響いた瞬間、回点号の頭部が粉砕された。
 飛び散る鋼とパーツ、火花。竜王の姫たるメロディアの爪と、高速飛翔の勢いを乗せて一撃が成した技だと理解した瞬間には、続けて回点号の腕と胴が斬り裂かれ、その機能を停止させる。
 それは単純かつ明快なこと。
 銃弾を越える速度を持つものにとって、弾幕など意味をなさない。
 それ以上の速度で自在に翔る者にとって、精密に動かす操縦士なくしては竜姫の前では戦塵の巨人は人形と変わらないのだ。
 だが、だとしても小枝子がやる事は変わらない。
 事実として弾幕で分身した残滓たちは掃討したのだから。
 いいや、小枝子は戦術よりも、ただ只管に壊す事を求めるのだから。
「やれ、主よ!!」
 破壊の石が宿る霊物質を内包するジャインアントキャバリア、亡国の主が小枝子を投擲する。
 目標は捉えられず、未だに高速飛翔中。
 だが、騎兵刀を構える小枝子の視線は揺るがない。
 そう、絶対に相手は来るのだ。用いるのが竜姫という力で振るわれるとはいえ、肉弾戦闘だというのならば。
 必ず、メロディアは攻撃の瞬間に小枝子に触れるという事。
「死を恐れないのね」
 その言葉と共に、神速で飛翔したメロディアが小枝子の腹部を斬り裂き、鮮血を周囲に撒き散らす。
 抜き手の一撃でありながら、その速度に押されて弾き飛ばされる小枝子。むしろ、投擲された空中だからこの程度で済んだのかもしれず。
 それで深手。人体への被害は甚大。
 いいやだからこそと、戦塵の怨嗟が此処に顕現するのだ。 
『尽く』
 小枝子が纏うは劫火戦塵。
己の非損傷個所を困難に応じた対価とする事で、あらゆる行動に成功するというもの。
 ならばこの竜姫に匹敵する程に応じた対価とは。
 莫大なまでの力量差を前に、けれど小枝子は喪うものへの考えなどなく。
 高速で反応し、メロディアが離れるより速く、担う騎兵刀を振るう。
 剛剣一閃。両断されたメロディアの上半身と下半身が地面へと崩れ落ちて。
「あら。それだけで随分と喪ったわね……」
 壊れたメロディア。だが、瞬きの瞬間にはその両足で地面に断っている。
 ああ、壊れても、壊れても。
 尽きせぬというのなら、幾度でも壊すのみ。
 早業で上空に向けて神器銃器たる雷降拳銃を上空に発砲すれば、雷雨の力をもって天候を操作し、メロデイアへと唐突な等クララ委を降り注がせる。
「喪った? ああ、壊す為なら。そして、まだ壊れないなら」
 ああ、なんて。
 夢のような存在が、今、目の前にいるのか。
 壊しても壊しても、更にただ壊し続けられる存在がいるだなんてと。
 念動力をもって手にする騎兵刀を投擲し、更に串刺しにしてその身を壊す。いいや、血飛沫と肉を撒き散らさせて、また殺して。
 興奮剤で負傷を無視し、心を闘争心で満たして更に壊す事のみに意識を集中させる。
 串刺しにした騎兵刀とは別の、悪霊の刃を生み出して、メロディアへと肉薄する小枝子。
 血肉と臓腑を撒き散らす姿はまさに戦場の悪霊そのもの。
 だが、では何故、ここまでメロディアに肉薄できるのか。力の差は明白で、全身を対価にしてもメロディアに迫る事など不可能に等しい。
 言うなればこれは相性。
「壊れ失せるまで、何時までだって……!」
 不死身のメロディアは、ここまでの想いと熱量を抱けない。
 踊るように動けば相手は死ぬし、自分を殺しきる存在などついぞ見たことがない。だから懸命に想いを、魂を駆動させた事がないのだ。
 故に油断も隙もなくとも――懸命という意味、その熱量と強さが小枝子にメロディアへと迫らせる。
 振り抜いた騎兵刀を、そのまま放り捨てて。
 新しく蘇らせた騎兵刀でまたもメロディアを壊し、殺し、壊して。
「いつまでだって続けてやる」
 だってそれが。
 壊す。ただそれだけが。
「それが自分の夢だ」
 故に狂乱の夢に踊る小枝子をメロディアは止められず。
 甘い絶望の吐息と旋律ごと、悪霊の刀に斬り刻まれて、幾度となく死を。
 麗しき竜姫の身体と命を壊されて、花びらと舞わす。
 それらさえ許さないと、地に墜ちる残滓を踏み砕き、蹂躙するが小枝子という戦塵の悪霊なればこそ。
「さあ、壊れろ!」
 全身に返り血を浴びて吼え猛る姿は、悪夢に他ならず。
 メロディアは尽きせぬ命を、再生を、その熱狂で削られていく。
 叶う願いと。
 叶わぬ祈り。
 そんな区別など一切なく。
 悪霊、いいや戦塵の悪魔の繰り出す雷撃が、巨刃が、自らを代償と捧げながらメロディアへと殺到し続ける。
 
――壊すという、狂った想念にだけ従って。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリエ・イヴ
アドリブ◎
なるほど、増えて集まって…
なら少しでも邪魔してやる
敵の全てが集まらないように
錨をぶんと振り回し
残滓たちを吹き飛ばし蹂躙する

踏み込んだら2回3回と連続で
覇気を纏わせた剣で切り続ける

愛して欲しいのだと宣うが
抱き締めて、愛を囁いてやれば満足か?
違うだろ
低く短く、言い切って
欲しい愛が、あるんだろ?
死なせたくないと思う唯一の
それが確かな愛でなくて何だってんだ

俺は、海を愛してる
家族を、俺が欲しいと思った全てを
俺が普通の人間だからじゃねぇ

俺が、俺だから
この心は揺らがない

ここは海だ
どうせやるなら、海賊らしく
信念と信念のぶつかり合いと行こうぜ、ハニー?
覇気を纏わせ限界突破
【獰猛な海】でたたみかける!



 終わる事なく狂い咲いて。
 幾らでも、幾重にも。
 纏わり付く残滓は尽きぬ生命の証にして、甘い死の香りを漂わせる。
 これが『桜花』。七大海嘯の一角、カルロス・グリードの王妃。
 麗しき竜姫たるメロディア・グリードの姿なのだ。
「なるほど、増えて集まって……」
 それこそ、自分自身さえ見失ってしまう程に。
 だからこそ、その意思が重なれば、本当の竜王たる力が振るえるのだと。
「なら少しでも邪魔してやる」
 赤銅色の髪の奥、榛色の眸に戦意を瞬かせ。
 果敢に踏み込むはアリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)だ。
 海賊という自由なる海の勇士そのままに、身ごと振り回されるは不思議な鎖に繋がれたアハ・ガドール。
 船の墓場が拾われたそれは、長さを変える鎖によって周囲一帯をなぎ払い、残滓たちを吹き飛ばして蹂躙する。
 残るは烈風。甘い絶望の匂いを掻き消して、ドレスを翻しながら突き進むメロディアへと真っ向から挑むアリエ。
「これで邪魔なのはいなくなったぜ?」
「ふたりでダンスに興じるには、あの男に不義理に過ぎるの。ご免なさいね」
 ましてや、貴方ほどの海賊ならばと。
 海賊の王たる彼に、申し訳が立たないでしょうと。
 交差する言葉と視線。なお怯まず踏み込んだアリエがレーシュと名付けられた剣に覇気を纏わせてを二度、三度と振るえば竜の爪を伸ばしたメロディアの腕が応じて激突する。
 澄んだ音色は美しく。
 奏でられる旋律はなお激しく。
 連続していく剣戟の音色は更に、止まることなく加速していく。
「愛して欲しいのだと宣うが」
 その最中、真っ向から向き合って微笑んでみせるはアリエ。
 自信も快活さも、楽天なまでに明るい想いをその貌に乗せて。
 何一つ、惜しむ事はないのだと無邪気な傲慢さで紡ぐその言葉。
「抱き締めて、愛を囁いてやれば満足か?」
「…………」
 瞬間、戸惑うように動きを鈍らせるメロディア。
 そういう蜜のように甘く、純粋な。
 少女のような夢を思い描いているのかと問われれば。
「違うだろう」
 短く、短く言い切れば、更に深く踏み込んで振るうアリエの剣閃がメロディアの胸を捉える。
 そこにある筈の心にこそ、切っ先を届けるべく。
「欲しい愛が、あるんだろう?」
 こんな剣(アイ)ではなくて、誰かの指先(アイ)が。
 触れて欲しい。抱き締めて欲しい。
 そう、身ではなく、心と魂を。求める愛情は激しく、炎のように。
 或いは静かに波打つ海のように。
 薄らと自覚するからこそ、メロディアが更に戸惑い、隙を晒すのだ。真実、心の本音に刃を突き立てられ、鮮血を流しているに等しい。
 痛むのだ。どうしようもなく。
 死ぬぐらいの傷なんて当たり前で、幾らでも微笑んでみせるけれど。
 
 この剣の刻む痛みだけは、どうしても乗り越えられなくて。

「死なせたないと想う唯一つの、それが確かな愛でなくて何だって言うんだ」
 果敢なる赤き軌跡を翻して、アリエの繰り出す斬撃が再びメロディアを捉える。
 絶えぬ不死性、竜王という力。
 圧倒的な存在であるに関わらず、隙だらけな姿はまさに、自らの心さえ知らず、暴かれて惑うようで。
「俺は、海を愛している」
 高らかに謳い挙げるアリエの動きを止められない。
 両腕を掲げて、世界を覆う海を祝福するように。
「家族を、俺が欲しいと想った全てを」
 誇るかのように。
 これほどの矜持として掲げる素晴らしさはないのだと、愛を詠う。
「俺が普通の人間だからじゃねぇ」
 故に続けて放たれた剣閃は鋭く、速く。
 何よりも、メロディアの深く、存在として大切な部分を斬り裂いて。
「俺が、俺だから。この心は揺るがない」
 更に揺らいで、惑い、流れるメロディアの心。
 自由に抱ける思いこそ愛。
 そして、それに殉じて生きる事ができるのも愛。
 それこそ生きる道としてこれ以上相応しいものはないだろうと、アリエが告げて、メロディアも同意するからこそ。
 まるで難破した船のように、メロディアの感情は揺れ動いて、ざわめいて。
 隙だらけの姿を見せるからこそ、アリエは後ろへと跳ぶ。
 こんな姿を斬るのではつまらない。
 想いを、決意を決めてくれ。
 花はその花だけの、色艶を湛えるから美しいのだ。
 そこ秘めた蜂蜜の甘さは、至宝の黄金なのだからこそ。
「ここ海だ」
 小さな黄金のコインを指先で弾いて。
 再び握り絞めながら、より一層と強い覇気を身に纏う。
 それが最初のひとつ。運命を形作るものならばこそ。
「どうせやるなら、海賊らしく」
 心に掲げた旗は決して折れないのだと。
 彷徨い、戸惑うメロディアと決着を付けるのではなく。
 七大海嘯の『桜花』と、ここに決闘を。
 俺はこいつに勝ったと、愛する家族に誇る為に。
「信念と信念のぶつかり合いと行こうぜ、ハニー?」
 限界を突破させ、身に溢れんばかりの闘気を身に纏うアリエ。
 赤銅色の髪をさらりと靡かせ。
 さあ、来いとメロディアの眸を真っ正面から見つめる。
「信念、信念など」
 メロディアより零れるのは、小さな笑み。
 けれどそれは暗澹たる絶望のそれではなくて。
 素晴らしき花のように、香り立つ。
「ああ、確かな愛を。確かな信念を。わたしひとりあればよい、など囀った過去を、流しきれる想いを込めて」
 いざと『桜花』が竜の爪を構える。
「信念など見つからずとも、想いさえ定まればよいのでしょう」
「それを信念というんだよ」
 成る程と、長く、永く彷徨っていたメロディアの眸が、海賊たるアリエの声に呼び覚まされて。
 互いに鋭く振り込み、その命へと爪と刃を奔らせる。
 鮮血を散らすふたり。
首筋を掠めたのは竜爪の一撃。けれど、アリエの一閃は掠めるに留めず、メロディアの喉を斬り伏せている。
 けれど、即座に治癒するのが不死のメロディア。
 まるで呪いのように。贖うことのできない罰のように。
「けど、まだだ」
 見つめるアリエの榛色の眸にあるのは希望と勇猛さ。
 決して消えない、黄金の煌めきのように。
 メロディアにも絶望のままで終わるのではないと、光を届けて。
「まだだ。一撃で終わるんじゃ、つまらないだろう?」
 故にバックステップを踏みながら、限界など知らぬと覇気を纏った斬撃を溜めて。
 すれ違い様に竜姫の身体を斬り伏せる程に迅く、そして鮮烈に。
 アリエの放った斬閃が、メロディアの心臓を斬り裂いた。
 すぐに癒える。すぐに蘇る。
 それでも殺されたという事実は確かなもの。
 信念の元で切り結び、負けたのは覆らない。
「ああ、彼に、あの男になんと詫びればいいのか……いいえ」
 身を翻したアリエの一閃を、再び身に受けながらも。
「まだ敗北してはいないのだと。あの男を死なせない為に戦えるのだと」
 切っ先にて我が身と命を散らす赤銅の男が告げたのだと。
 奮い立つ心にて、竜爪を振るうメロディア。
「それでいい」
 それでこそ。
 この海を渡り、制する海賊、アリエの歌劇の一幕に相応しいのだから。
 不死の竜姫の闇と絶望を晴らし、そして果てるまで、さあ、歌うが如く畳み掛けよう。
 この剣舞は続く。
 薔薇の花びらのように赤い鮮血を伴って。
 果てなく、けれど、終わりある世界と命が為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
無限に再生し続けるなぞ確かに始末の悪い呪いだ
永遠と繰り返し続ける身に、“真の本体”は残っているのやらな

刀1本に全て託す身なれば自ずと手立ては決まる
五感で得うる全ての情報に第六感を重ねて攻撃の方向と起点を計り
覚悟の専心で以って躱してくれる
“同一”を殺し続けるのならば――壱伐覇壊
些末な痛みなぞで此の刃を止める事は出来ん
瞬き1つの間とて与えはしない
死なぬなら死ぬまで斬る――蹂躙を示して遣ろう

其の身の呪いを識って尚、娶った心を愛とは認められないか
死なせたくない心とは、傍に在りたいという想いの齎す揺らぎ
其れから目を逸らし続けては欲しいものが手に入る筈も無い
お前がすべきだったのは――唯、信じる事だったのだ



 確かにそれはなんと始末の悪いものか。
 無限に再生し続ける身体。
 それこそ残滓を生み続けるは、狂い咲き。
 どれだけ麗しくとも、自然の摂理に反した呪いに相違ない。
 ある意味、悪質に過ぎるものだろう。
 他者と共有出来ない命への価値観こそが、もっとも根深いもの。
 失えば取り戻せないのだと。
 実感する事が出来なくなって、久しき竜の姫。
「永遠と繰り返し続ける身に、“真の本体”は残っているのやらな」
 鷲生の石榴のような赤い隻眼に見つけられて。
 淡い笑みを浮かべるメロディア・グリード。
「それをこそ探しているのですよ。私の、言うなれば希望です」
 優雅な装飾のドレスの裾を翻して。
 まるで罰当たりな娘のように、自らの残滓を踏み砕き。
「貴方が斬り続ければ、『本当の私』まで辿り付くでしょうか。この戦いの裡で、ええ、あの男に告げたい想いは定まりながら、それを告げる『私』が見らないのですから……」
「知らん。お前もまた、過去の残骸だ」
 故にと、鷲生の抜き放つ晶龍が、凍て付くような色合いの刃を以て。
 その身、尽きせぬ命と共に、尽くせぬ咎ありと鋭く輝く。
「故に同情もせん。全ては我が身、我が心の有り様だろう」
「素敵な剣士様ですね……ええ、高潔をもって鳴るが武門、士なのだと」
 けれどと。
「私が殉じますは、かの王。強欲に、力で世界を制することをよしとした男ですので……」
 甘い吐息をひとつ零して。
 竜王の姫としての力を顕し、高速で飛翔するメロディア。
 視認不能。音速を越え、影も残像も残さず自在に飛び交うのはまさしく竜の王。何者にも、何事にも囚われぬ強さの顕れだ。
「が、故に磨かれる事のない技。武と至る程の修練も、心も精神も在りはしない」
 鷲生には女だから、と甘くみるつもりはなく。
それこそ彼の知る女性の中には、見ているだけ誇らしさが蘇るような。
 苛烈で、熾烈で、けれど高潔とはかくたると志を持つ者とているのだから。
「速い。ああ、だがその程度で切っ先を惑わす程、私は甘くないぞ」
 刀一本に全てを託す身なれば。
 それこそメロディアのように迷う事など在りはしない。
 手立ても定まれば、鷲生が己を見失い、戸惑う事など微塵もあり得ず。
 五感で得る全ての情報を集束させる。
 全ては遅れて届く。この誤差を第六感で補い、予測し、肌に刺さる殺気の波から方向と起点を読んで。
 覚悟の専心。もって躱すは竜姫の爪撃。
 完全に、無傷など不可能。
 肩口を大きく、深く斬り裂かれるが、致命に至らねば意味はないと晶龍の柄を強く握り締めて。
「あら、その隻眼に更に穿とうと思えば……」
「ああ、そのように殺気が刺さり続けるならば、どのような熾烈な一撃とて躱してくれる」
 交差する一瞬に流れる言葉。
 けれど逃がさぬと閃くは晶龍の凍て付く鋭刃。
 メロディアの身を斬り裂き、骨を断って心臓を両断する。
 肉を切らせて骨を断つ。まさにその言葉通り、夥しい返り血を浴びながら、メロディアにまずひとつ目の死を与える鷲生。
 だが、これではまだ。
 無尽の再生の前では、地に転がる竜姫は幾度となく蘇り、その力を振るうのだから。
『壱伐覇壊――躱せし、逃げられると思うな』
 その歩み、速やかにして滑らか。
 ただ速いのではなく、無駄の一切を削ぎ落とした縮地の歩法をもって、地を這うメロディアの元へと迫れば、二の太刀がその胴を斬り伏せる。
 肩口が痛み、止まらぬ流血を傷口が零すがこのようなこと些末。
 過去の残骸を屠る為にと奔る刃、振るう心、止まることなく。
 瞬きのひとつ許さぬと、氷の斬閃こそがこの場に乱れ咲く。
 さながら氷雪が紡いだ八重の白椿。
 ひとつ、ひとつの花びらを斬撃で描きながら、全てメロディアへと繰り出す鷲生。
 斬り裂かれた肉が戻り。
 凍て付いた肌がまた美しい艶を取り戻そうとも。
「死なぬなら死ぬまで斬る――蹂躙を示して遣ろう」
 再び渦巻く剣風にて斬り裂かれるメロディア。
 冷たき刀光が翻る度にその身に死が訪れ。
 凍て付く剣影が過ぎれば、蘇ったその瞬間にまた刃が走り抜ける。
 終わらぬ再生と、果てる事のない剣撃。斬れば斬る程、鷲生が振るう一閃は研ぎ澄まされ、メロディアを殺し尽くす為に研ぎ澄まされていく。
 行動、思考、急所に弱点。
 全てを覚え、ただ斬り殺す為だけに奔る斬禍の氷嵐。
「其の身の呪いを識って尚、娶った心を愛とは認められないか」
 それでも死なない、死ぬ事のではないメロディアへと呟く鷲生。
 何の縁もなしに、これだけの痛みと死を受け入れ。
 なお戦うという事は、どんなに虚ろな絶望を抱えるものでも不可能だからこそ。
「死なせたくない心とは、傍に在りたいという想いの齎す揺らぎ」

――あの男を死なせる訳にはいかないのです。

 命を賭すといいながら、何処か空虚さを伴ったとしても。
 それは不死たる呪いが歪めた価値観のせい。
 真実、メロディアを蝕む病魔とはそこにはない。

 あの男に、彼にもう一度会いたい。
 告げるべき言葉を、告げたい。


 そう、何と言って良いのか判らないけれど。
 目を逸らし続けた時間が、光(アイ)の名を喪わせてしまったけれど。
 それでも確かに、この胸の中にはあるのだから。 
 

「其れから目を逸らし続けては、欲しいものが手に入る筈も無い」
 だからさあ、疾くと眼を開け。
 今、死の淵で思い描く姿こそ、誠に求めるもの。
 腕を斬り跳ばされてなお、それを伸ばして掴みたいと祈るものこそ。
「お前がすべきだったのは――唯、信じる事だったのだ」
 それがまた、伸ばした手を握り返してくれる事を。
 ただ信じればよかった。娶ったのは愛したからだと、子供のように、乙女のように。
 そこに強さも呪いも在りはしないのだから。
「故にもう迷うな。骸の海で巡り会う時、躊躇いなく、信じ抜け」
 その心を、想いを。
 愛を。
 今生では果たされぬ事なれど。
 鷲生の剣風が終わりし後、凪いだ海の底で。
 その手で取れ。倖せを。
 強欲なる王も、傍らの妃の倖せという至宝があれば――

――終ぞ、数多の世界の果てまで旅立とうなど、欲を立てる事もなかろう。

 鮮血と残滓を斬り払い。
 絶望の旋律を止めて、なお奔る晶龍の切っ先。
 雪晶繚乱。この女の咎と呪いの全て、斬り祓うが為に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・景近
【影】
(俺達は死が纏わり憑くこの身と刃を呪われたものとして、他者と距離を置くけれど――対極の不死たる彼女もまた、その身を呪いと捉え苦悩を秘めるか)
ああ、其はとても難儀な事だけれど――
呪いだと云うなら、切り払いに行こうか

二人周囲にオーラ防壁巡らせ直撃緩和
後は連携し分身散らし
得物に炎属性と生命力吸収の力乗せ
手裏剣で穿つ、唐傘で薙ぐ・受け流す等し
分身を溶かし此方の余力に変えて行く

反撃の機を得たらUCの速度と早業活かし
息つく間も与えず共に畳み掛ける

俺は――こんな身でも、命を賭して、愛してくれた人がいた
…代償も大きかった
なのに、厭わずに

君も、此方の海では叶わずとも――彼方の海で、安らぎを得られると良いね


呉羽・伊織
【影】
死なない事もまた呪い、か
(俺が軽口と裏腹に、本気で愛なんてものに手を伸ばそうとしないのは、この身に染み付く死の気配と呪詛を厭うから――
……“こんな姿、誰が愛してくれるのか”なんて――真逆の立場ながら、同じ様な心地を懐く存在がいるとは)
全く、お互い本当に儘ならないな
でも、ま、呪いだってんなら、放っちゃおけないな

彼の身と此の身、その呪いの双方に打ち勝つ覚悟で激痛への耐性強めて
第六感と見切りで痛手だけは防ぐよう分身の軌道探り、檠燈の焔で溶かし崩し、連携して被害軽減

機を掴めば早業とUCで反撃へ
先の覚悟を更に強く、烏羽や風に乗せ、呪い尽きるまで切り払い続ける

…俺はこの呪いも抱えて、足掻き続けるさ



ああ、と昏き溜息が零れるのは無尽の花なる身のみならず。
 死が纏わり憑くこの身、この刃を呪われたものとして。
 他者と距離を置き、近づく事も侭ならぬものなれど。
 身近なひとを傷つけ、呪い滲み移させ、澱みが広がらないようにと。
 濃密なる死の気配を纏いて、隠すふたりだからこそ。
「死なない事もまた呪い、か」
 軽口とは裏腹に、メロディア・グリードへと向ける紅い眸に同情のいろを乗せるは呉羽・伊織(翳・f03578)。
 それこそ本気で愛なんてものに手を伸ばそうとしないのは、この身に染みつく死の気配と呪詛を、自らでさえ厭うから。
 ならば、どうして、誰がその腕で抱き締めてくれよう。
 穢れた澱みに、自ら。
 それこそ呪詛の汚泥に、身を浸すなんて。
 在りはしない。幻想だと言い聞かせる故に。
(――対極の不死なる彼女もまた、その身を呪いと捉え、苦悩を秘めるか)
 決して単純なことはありはしないと。
 こちらは複雑な思いを、紅の眸に乗せる百鬼・景近(化野・f10122)。
「死に近づくものがいないように。過ぎる命に、近づくものもまたいない」
 異質にして異形。
 ある意味にしての、呪い。
「全く、お互い本当に儘ならないな」
 伊織の貌もまたメロディアの纏う呪いを、幾ら死が纏わり付き、身を刻まれても尽きぬ姿を見て。
 真逆でありながら、同じような心地を抱く存在なのだと瞼を伏せる。

“こんな姿、誰が愛してくれるのか”

 ああ、ならばこそ、この妖し刀と幽鬼の出番。
「全く、お互い本当に侭ならないな」
 けれど諦める身なれば、既に伊織は呪いに心も魂も食い殺されている。
 今生きているということ。それは、決して呪詛に屈しないという事であり、するりと懐から滑らせるは護身符たる檠燈。
「でも、ま、呪いだってんなら、放っちゃおけないな」
 それを解く方法はあれど、求められるは大天使の肉。
 つまりは数多の世界を侵略し、平穏を壊し、そうして得られるのならば。
 ああ、つまりは呪いをばらまく事に他ならないのだねと百鬼が薄く笑って。
「ああ、其はとても難儀な事だけれど――」
 かたりと唐傘を斜めに傾げ持ち。
 百鬼が一歩踏み出せば、そこは戦場。
 如何なる言い訳も通じぬ、刃の領域。
「呪いだと云うなら、切り払いに行こうか」
 続く伊織もまた速やかに、そして静かに。
 メロディア・グリードの眼前へと、夥しい死を浴びて、なお咲き誇る花が前へと歩むのだ。
「呪いじみたこの無限再生を、終わらぬ残滓たちを解けるというのなら、私にしても幸いですが……」
 何処か翳るはやはり呪いを受けたものなのか。
 けれど、と頭を振るうは悲しげに、物憂うように。
「私は死ぬ訳にはいません。あの男を、死なせる訳にも。あなた達の呪いは――殺す事でしょう」
 ならば近づかせない。
 その為にこの身を賭しているのだと、メロディアの瞳が揺れて。
 瞬間、掻き消えるように高速で飛翔するその姿。
 視認不可能なのは音速を超える竜王の力故に。姿形こそひとのそれでも、宿した力は紛れもなくかの帝竜たちにも匹敵するだろう。
 ならばと彼の身と此の身。
 苛みし呪いの双方に打ち勝つ覚悟を決め、激痛への耐性を……いいや、痛みという感覚を呪いで蝕む。
 第六感と見切りで痛手だけは防ぐようにと、放たれる分身たちの軌道を探るが。
「困ったね。力量が違い過ぎる」
 小さく笑った百鬼。
 見えず、感じず、殺気を肌で覚えし時には既に遅し。
 ふたりの周囲に気の防壁を巡らせて直撃を緩和させるが、何処まで役に立つか。
「……けど、何もせずに呪いにやられるのは、嫌に過ぎる」
 百鬼の言葉に頷き、伊織が檠燈から周囲へと放つは焔の群れ。
 分身たちを溶かして遠ざけ、無理に攻め込むものへは百鬼が生命を蝕む昏い炎を宿した手裏剣で穿ち、唐傘で薙いで撃ち砕く。
 連携したふたりの護りに隙はなく。
 ならばと強引にねじ伏せるが竜姫。武の鍛錬、術の研鑽など一切せぬ産まれながらの王者として。
 振るわれる爪はまさに神速。百鬼の気の防壁を斬り裂き、伊織の見切りをすり抜け、第六感で捉えられるより速く、その身へと。
 けれど、そこには不死故の鈍さがある。
 伊織と百鬼を取り囲む溶けた分身はさながら松明の篝火。
 燃え盛る中へと突っ込めばタダではすまない。
 メロディアの身を焼くふたりの炎と焔が攻撃の動作を僅かに緩め、気づいた二人が咄嗟に武器を掲げて受け流そうとする。
 一撃は余りにも強烈。二人がかりで重ねて防いだつもりが、後方へと吹き飛ばされる伊織と百鬼。
「流石に洒落になんない、って、これ」
「竜と正面から激突して、身が弾けていないだけ、マシ、かな」
「石榴みたいに弾けたらどうしようか?」
「……そんな戯けた事を言っても、女気は寄ってこないよ」
「ひどーい……ま、冗談いえるぶん、生きて、戦える、さ」
 起き上がる伊織と百鬼。
 余裕がある訳ではなく、ただ一撃の交差で著しい消耗があったというだけ。
 だが、それはメロディアも同じこと。
 咄嗟に放った百鬼の手裏剣が、伊織の千限が、命を蝕む呪詛と共にメロディアの身に突き刺さる。
「これ、は……?」
 生命を蝕む故に、無尽の再生と命を誇るメロディアの芯へと喰らい付く呪いたち。
 その感触に覚えはなく。
 痛みではない何かに、戸惑いを覚えて、メロディアの動きが止まった。
 この瞬間こそ好機。
 二度とありはしないそれを掴む為、二人して魂の奥底に根付く呪詛を纏う。
『――御してみせる』
武器の一式、身に宿す幽鬼や呪詛の効力を増幅させる伊織の鬼道。
 今ならば薙いだ気持ちで。
 何もかもを焼く尽くす憎悪に駆られることなんてないのだと。
「ああ、信じているよ」
 妖刀の怨念を身に纏い、高速で先んじるは百鬼。
 早業で振るった妖刀の衝撃波がメロディアの身を切り裂き、続く切っ先がその喉を貫く。
「……強い。けれど、人の身そのものの脆さと、守りへの意思の薄さ」
 いわば防御はザルなのだ。
 不死身にものを言わせるならば、守らずに常に捨て身の全力で攻めたほうがいい。武術といえるモノの欠片も習得していない以上、そして、竜の鱗など持たないのならば。
「斬れば死ぬ。ああ、死んでも蘇る呪いだからか」
 こちらも早業で冷ややかなる黒刀、鳥羽の妖刃を振るってメロディアの急所を斬り裂く伊織。
 体勢を整える隙を与えてはいけない。
 それこそ息を付く間もなく一気に畳み掛けるのだと、百鬼と伊織の紅い瞳が視線だけで意思を伝え。
 呪詛を、怨念を渦巻かせる妖刃が渦巻き、鮮血の花を狂い咲かせる。
 命を蝕むならば、そこに、メロディアという尽きぬ源泉がある。
 永遠に、永劫に、貪れるモノを前にして狂いて奔る妖しの想念。翻る切っ先はそれを御しながらも、触ればそれを十全にメロディアへと送り込み。
 喉、額、胸に鳩尾。
 首筋、太股に脇。
 考えられる急所へと、喰らい突く妖刀と呪詛の牙たち。
 だが、伊織は先の覚悟を更に強めて。
 冷ややかな黒刀に紛らせ、暗器たる風切にて捷巧に脈所を穿つ。
 ならばと高速の妖風と化した百鬼はただ、斬り捨てるのみ。
 斬り、穿ち、払う度に即座に再生するのならば、それが尽きるまでと縦横無尽に奔る妖しの赤き剣風。
 鏖殺が為の鬼剣が、死なずという呪いを抱えた女を殺す為、ただひとりの為に振るわれる。
「俺は――こんな身でも、命を賭して、愛してくれた人がいた」
 ぽつりと百鬼が零したのは、全力でこの呪いを振るっている今があるから。
 振るっても大丈夫だと、愛して、抱き締めてくれる人がいたから。
「……代償も大きかった」
 それは、メロディアを娶ると決めたかの王とて。
 なのに。
「なのに、厭わずに」
 それを愛と言わず、何というのだろう。
 呪われた異貌の身。隠しきれぬ呪詛の気配。
 まとめて抱き締めて、受け入れて、居場所としてくれる。
 そんな幸せ、すぐ傍にあった筈。
 ああ、ならばもう少しだったのだろう。
 悲しく、切なく、やるせなくとも。
 これこそが呪い。宿業と罰というもの。
「……俺はこの呪いも抱えて、足掻き続けるさ」
 だがと。メロディアの無限再生の呪いが尽きるまで、その呪いを切り払い続けると伊織の黒刃が、呪詛をもって呪詛を喰らい、斬り伏せんと斬風を巻き起こす。
 さながら、黒き刀身から迸る呪詛は紫焔の翼のように広がって。
 更に、更にとメロディアの身を、命を、魂に絡み付いた呪いを斬り祓い続ける。
 それは、そう。叶わぬ事。
 或いは、叶った瞬間に、死が訪れるという事に他ならずとも。
「君も、此方の海では叶わずとも」
 呪詛の翳りだけではなく。
 何処か祈りの光めいたものを、百鬼は声色の裡に揺らして。
「彼方の海で、安らぎを得られると良いね」
 救済と安寧。
 幽鬼が願うには程遠いものかもしれねども。
 それでも、希わずにはいられない。
 ある種の対極であれ、同類たるこの魂に、救いをと。

 あるいは、ひとひらの愛を。
 
切に求めた、その誠なる光の欠片を、この麗しの姫に。
 骸の海でいずれ巡り会う、かの強欲の王と。
 与えあい、愛し合うようにと。
 それこそが真実、尽きぬものなのだから。
 呪いという悪縁とて、いずれはあっても。
 それを断ち斬り、越える想いは確かにあるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユディト・イェシュア
不死不滅を望む人間はいるというのに
あなたはその力を封じたいのですね…
死なない…それは理想でしょうか
俺には呪いのように思えます
あなたもそう思っているのでしょう

俺は大切な人のためならこの命はいくらでも差し出せます
死を恐ろしいとは思いません
それは俺が愛を知らないからかもしれません
誰かを残すという心残りがないから…

メロディア
あなたには強くなれるだけ想える人がいる
あなたは確かに愛を知っている
正直羨ましいですが
負けるわけにはいきません

自分をナイフで傷つけ痛みで眠気に耐え
気力を振り絞ってUCで破魔の力を乗せて攻撃
意識ある限り手を緩めずその呪いごと滅してみせます
夢は叶わなくとも
せめてあなたに死という安らぎを



 
 人の欲望は尽きはせず。
 不死、不滅を望む人間は世に数多といる。
 それこそ闇夜に生きる不死身の化け物になりたいなど、歪んだ切望を抱くものとて。
 けれど。
「あなたはその力を封じたいのですね……」
 穏やかな声色をメロディアへと届けるのは、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)。
 月光のように物静かに、優しく。
 神聖で尊きものを、影の裡より示すように。
「死なない……それは理想でしょうか」
 神秘的な声にて思いを揺らめかせて、ユディトは告げる。
「俺には呪いのように思えます」
 この戦いの中で、メロディアは幾度死んだ?
 殺されても蘇り、蘇っては殺されて。
 百度では足りぬ数を殺され、殺され、殺し切ろうと殺されて。
 まるで修羅の道程のように続いた、この果てに。
「あなたもそう思っているのでしょう?」
 こんなものは沢山だと。
 ひとのように、普通に、一度きりの命と人生を、本当の意味で懸命に走り抜きたい。
 光と闇の入れ替わる世の中を。
 幸せだけではないと知る、この世界を。
「……そうね」
 尽きせぬ再生。無限に思える命も限りがあるのだと。
 瑞々しさを喪った花のように、弱く微笑んでみせるメロディア。
「そして、死んでも呪いが解けた訳じゃないの。呪いがない人生を、歩みたかったの」
 メロディアの心へと送られ、突き刺され、抉られた言葉の数々。
 なんて単純な事だろう。
 愛している。愛される理由と資格なんて、ただひとつだけ。

「自らが、誰かを愛すること。心の底から誰かを愛した時、メロディア、貴女もまた愛される」

 神に仕える者として祝福のような。
 或いは懺悔を聞き届けるように、ユディトは紡ぐ。
「俺は大切な人の為ならこの命はいくらでも差し出せます」
 ああ、そしてメロディアは違うのだろう。
「死を恐ろしいとは思いません」
 怖いと思う。恐怖を抱いている。
 自分は死なないから。そうした浮遊感とは別に、もしもあの男が死んだらと。
 命を賭して守りたい、阻止したいし。
 今ならばより切に願うのだ。共に生きたい。幸せになりたい。
 片方だけだなんて、嫌なのだ。
 孤独というものこそ本当の呪い。メロディアを蝕む病魔、或いは、悪魔の名前。
 そう理解しつつも、ユディトは自分がメロディアとは違うのだと首を振るう。
 これもまた、一種の浮遊し過ぎた命の在り方。
 光に蝕まれた魂なのだと。
「それは俺が愛を知らないからかもしれません。誰かを残すという、心残りがないから……」
「ええ」
 端的に言葉を句切るメロディア。
 心残りがあるのだから。
 あの男に、逢うまでは。
 今度こそ間違えずに言葉を伝えるまでは。
「死ねないの。死んだとしても、死にきれないの」
 故に周囲に漂うの甘い匂い。
 眠りへと誘い、更には命の最低限の維持さえ忘却させるような。
 死にも似た、甘く切ない芳香。
 絶望という。
 死に至る病そのもの。
 故にこそ、ユディトは躊躇わずに自らの掌をナイフで突き刺し、激痛で耐えてみせる。
 柔らかな茶色の眸は、変わらずに優しく、神秘的ないろを湛えていて。
 ああ、これが私への死神(ヒカリ)なのかと、メロディアに吐息を付かせる。
 死ねない。死んでなるものか。
 死に至る病魔を自覚したからこそ、そこからの脱却に必死になるのに。
 抜けだそうとすれば、そこに死神が現れる。決してこの呪いから逃さないと、笑っている。
 だというのに、ユディトは静かに声を紡ぐのだ。
「メロディア。絶望には程遠いのが、あなたです」
「遠いというの。これ程に、夢から離れてしまったものが」
 いいえと。
「今のあなたは、絶望から程遠い」
 だってと柔らかく微笑んで、破魔の力を乗せた光を指先へと集める。
 血の雫がその指に絡んでも。
 どんな痛みと眠りが、ユディトを苛もうとも。
「あなたには付くなれるだけ想える人がいる」


 負けたくないのだ。
 メロディア、あなたがそうであるように。
 私という、愛を知らぬ身が、知らぬからと敗れたくない。


「あなたは確かに愛を知っている」
 だから認めよう。その強さを。
 竜王という格より、七大海嘯の『桜花』という名より。
 カルロス・グリードが妻にして、麗しの姫と呼んだのは、きっとその美しい強さだから。
 今の今まで、孤独さで蝕まれ、霞んだとしても。
 こうして、目の前にある。
 故に、故に。
 祈りの言葉を並べよう。
 負ける訳には、いかないのだ。
「正直、羨ましいですが」
 愛を知らぬ身を恥じて、ここで膝を屈せない。
 それでは永遠に愛を知ることは出来ないから。
 かつて自分を救ってくれた、あの太陽のように眩しい太陽を永劫に見失ってしまいそうだから。
 故に祈ろう。願おう。
 何度も繰り返している通り、ユディトの思いはただひとつ。
「負ける訳にはいきません。あなたの、呪いに」
 故にと放たれるは破魔の光。
 月光のように静謐でありながら、ユディトの気力を振り絞って放たれるそれは余りにも清冽。
 受けたものの罪を焼き、呪いを撃ち砕く天からの光だ。
 これからは逃れられない。
 いいや、メロディアが天へと今、背を向けたら、この呪いが解けることなんてありはしないのだから。
 さあ、今こそ立ち向かえ。
 あの男に、愛していると囁く為に。
「ええ、意識ある限り手を緩める事なんてありません」
 光で焼かれる無尽の桜花。
 狂い咲き、咲き乱れ、夥しい残滓を連ねてその身が、光に灼かれていく。
 罪人のように。
 愛を知った咎人として。
「負けませんよ。負ける訳にはいかないんです」
 再び周囲に漂う甘い香りに、ナイフを再び掌に突き刺し、それでも足りなければと抉り、鮮血を零すユディト。
 さながら献身と償いのように。
 光を求め、願うことの対価を払うように。

「あなたのその呪いごと、その命、滅してみせます」

 そのまま骸の海を漂うのは余りにも酷だ。
 ただ無限再生が尽きて異形のまま。
 いずれかの王と出会って、愛を告げあい、幸せになったとしても。
 呪いは跡を引く。禍根として残る。
 そんな未来、求めてなどいないから。
「この天からの光は、罪と呪いを灼くもの」
「……ぁ」
 故にメロディアから零れた涙が、光の裡で煌めいて、掻き消える。
 敵たるものから幸いあれと。
 これほどに思われることなどあるだろうか。
 確かに死を願われ、骸の海へと還れと言われども。
 お前の最愛のひとを殺すといわれても。
「夢は叶わなくとも」
 ユディトの言葉に、脈打つメロディアの鼓動。
 そう、あの男を死なせる訳にはいかないけれど。
 きっとこのままだと、光に灼かれるふたりとして、世界を滅ぼす敵として、祝福は遠ざかるばかりだから。
 ああ、それでも。
 例え、この呪いが終わらずとも。

――あの男に死んで欲しくない。

 その一念だけで、指を伸ばすメロディア。
 この瞬間。
 鼓動が止まった刹那だけは、解かれる事ばかりを祈った呪いを探して、縋って。
 愛の為に殉じようとしたメロディアに、迷いはない。
 けれど、もう不死の呪いはないのだと。
 もはや安らぎの裡に眠ればいいと、光が微笑む。
 それは現実に叶わぬ夢を見た、女の人生の終わり。
 だからこそ、この先で祝福あれ。
 呪いと共に命は光に吸い込まれ、その身をはらりと。
 はらり、はらりと灰のように舞い散らせていく。
 風に乗り、それは何処までもこの海の世界を駆けていくのだろう。
 愛した男の最後に寄り添う為に。
 その跡に、呪いの消えた身を抱き締めて貰う為に。
 愛は凄いのよ。
 呪いを消した光でさえ、それを持つ事が出来ないと。
 悔しく、羨ましいと笑っていたと。誇らしく歌うだろう。
 まるで花嫁を飾る色彩のように。
 呪いと竜姫メロディアの命を光で掻き消したユディトは空を仰ぐ。
 そこにあるのは太陽でありながら。
 あの眩き救いではない。
「太陽のような眩い救いを、もたらせたでしょうか」
 呟く声に、応えはなく。
 

 不死を誇る『桜花』のメロディア・グリード。
 微かなる残滓も残さず、光の裡にその身と命を消す。
 魂だけは幸いなる場所へと導かれて。
 そう思うのはただの錯覚か。
 或いは、ただの夢見がちな願望か。


 ユディトにそれを理解する事は出来ない。
 誰も彼もが為に身と命を捧げるが為に。
 愛を知る事の叶わない、その優しすぎる心では。
 今は、まだ。
 そう、今はまだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月22日


挿絵イラスト