5
Tear by Tear

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #『刀狩』 #妖剣士

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#猟書家の侵攻
🔒
#猟書家
🔒
#『刀狩』
🔒
#妖剣士


0




「あ……あ……あ……」

 女は、血に塗れていた。
 目の前にて屍を晒す、男と、幼子の身より溢れた血によって。
 男は、夫であった。腕っ節はからきしなれど、思慮深く、女のありのままを受け入れてくれた、最愛の人。
 幼子は、娘であった。悪戯盛りの年頃で、度々女を困らせはしたが、それでも何より大切な、宝と言うべき存在。
 だが。二人はもういない。死んだのだ。殺されたのだ。他ならぬ、女自身の手によって。

「なんで……どうして……私……私……」
 女は、妖剣士であった。
 世の安寧を、愛した者を守る為、妖刀を取り。世を侵す怪異に、何より妖刀の呪いに打ち克つために、心身を鍛え、錬し続けてきた者。妻となり、母となってからも、修練を欠かしたのは娘を産んだ直前直後の他に無し。
 それなのに。己は、その手の妖刀で以て、愛する夫を、娘を、斬り殺した。
 何故だ。女は自問する。
 妖刀を完全に御したという驕りか。
 修練不足による心の隙か。

 …否。いずれであれ事実は変わらぬ。
 夫を、娘を殺したのは、己だ。

「私……ああ、私…私は……ああ、嗚呼、アアアアァァァァーーーー!!!」
 その事実を認識した時。
 女の意識は、渦巻く羽音に飲まれ、闇に落ちた。



「……まあ随分と胸糞悪い手を使ってくるものですわね」
 猟兵達を前に予知を語り終えたグリモア猟兵、愛宕院・燐樹(紅珠媛・f06887)は、不快感を露としていた。
「彼女……『香』様が旦那様と娘御を斬殺したのは、彼女の咎に非ず。彼女の妖刀に憑依したオブリビオンが、彼女の意識を乗っ取った事によるものです」
 それはかつて猟書家『刀狩』が行っていた、妖剣士の正気を砕きオブリビオンの軍門に迎える作戦。既に『刀狩』は討たれたものの、その作戦を引き継いだオブリビオンが存在するのだと燐樹は言う。
「最早ご家族を救う事は叶いませんが、彼女はまだ間に合います。どうか、彼女をお止めくださいませ」

「香様は、自らご家族を殺めたことで絶望し正気を失い、オブリビオンの如き『鬼』と化しています」
 その姿は、無数の蟲が集り寄り合わさったかの如き異形。これら蟲の力と、正気失って尚衰えぬ剣技を以て、相対するものへ襲いかかる。
「狂気の源泉は、彼女の手にした妖刀ですので、これを取り落とさせる事が出来れば止める事は叶います……が」
 元より、弛まず心身を鍛え錬し続けてきた彼女。鬼と化した今、その力は最早猟兵達をも圧倒しかねぬ程。通常のオブリビオンを倒すつもりで当たらねば、返り討ちに遭う可能性すらある。相応の心積もりが必要となろう。

 そして、香を正気に返しただけでは終わりではない。
「妖刀に憑依し、彼女を狂気に陥れたオブリビオン。これが姿を現しますので、撃破をお願い致します」
 その些細は予知に見えなかった、との事だが、このような策を弄するオブリビオンである、悪辣な存在である事には相違なかろう。
「この戦いには、正気を取り戻した香様も参戦致します。…かのオブリビオンが黒幕、即ち旦那様と娘御の仇、と判じられましたが故に」
 その怒りと怨みは凄まじく、齎される力は猟兵にさえ匹敵する。なれど、怒り故に生ずる隙もあるだろう故、フォローは必要やも知れぬ。それが為せれば、心強い戦力となる筈だ。

 そこまで語り終え、燐樹は一時、目を伏せる。
「…オブリビオンを打ち倒したとて、失われた命は帰らず。香様の罪の意識も、完全には拭えぬやも知れません」
 彼女を更なる悲劇からは救えようが、そこまでだ。取り戻せぬ事実が、彼女の今後の生に落とす影の深さは、計り知れぬ。
「然れど、このまま捨て置くなどは論外。狂気は止めねばなりません。そして、それを齎したオブリビオンもまた」
 例えそれが救いとはならずとも。為さねばならぬ事であると。
「それでは、転送を開始致します。皆様、どうか宜しく、お願い致します」


五条新一郎
 裂けた心を、蟲が侵す。
 五条です。

 対猟書家戦サムライエンパイア編。
 此度の相手は、悲劇により心砕かれし妖剣士の成れの果て、そして悲劇を仕組んだオブリビオン。でございます。
 最早失われたものは取り戻せずとも。彼女を、止めてあげて下さいませ。

●このシナリオについて
 このシナリオは『対猟書家戦』のシナリオとなります。
 全二章にて完結となります。

●目的
 妖剣士『香』を正気に戻す。
 香を狂気に陥れたオブリビオンの殲滅。

●戦場
 サムライエンパイアのとある村の外れ、香の自宅付近。
 周囲は農閑期の田畑が広がるのみ、他の民家からは十分離れています。

●救出対象
『香』
 二十代後半、人間の女性。本来は物静かな性格。
 妖剣士として修練を積む傍ら、夫との間に娘を授かり、慎ましくも幸福な家庭を築いていましたが…。

●第一章
「常世神『トコヨノカミ』」と化した香との「ボス戦」です。
 ユーベルコードの他、妖刀による剣技を以て攻撃してきます。
 刀を取り落とさせれば元に戻りますが、その為には戦闘不能に追い込む必要があります。

●第二章
 香の妖刀に憑依し彼女を操っていたオブリビオンとの「ボス戦」です。敵詳細は第二章移行時に。
 此方の戦いでは香も参戦します。

●プレイングについて
 第一章はOP公開直後から、第二章は章移行後断章投稿時点からプレイングを受け付けます。

 第一章は「香を説得する」ことでプレイングボーナスがつきます。説得で彼女を正気に戻すことは叶いませんが、隙を作れる可能性はあります。
 第二章は「香と共に戦う」ことでプレイングボーナスがつきます。香は家族を殺させられた怒りと怨みによって大幅に強化され、猟兵と同等の戦闘力を持ちます。

 それでは、皆様の悲劇断ち切るプレイングお待ちしております。
199




第1章 ボス戦 『常世神『トコヨノカミ』』

POW   :    猪突猛進
単純で重い【巨体から繰り出される体当たり】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    脱皮転生
【脱皮をする 】事で【無数の翅で飛び回る飛翔形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    大量発生
自身からレベルm半径内の無機物を【 数多に蠢く蟲の群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:はるまき

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は仇死原・アンナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎

■行動
確かに不快な遣り口ですぅ。

『FBS』を四肢に嵌め飛行、『秘薬』を摂取して【往結】を使用し『テレポート』の能力を付与しますねぇ。
『FRS』『FSS』は上空に配置、上から[砲撃]を降らせて頭を押さえつつ攻撃しますぅ。
相手の攻撃は『刀』『体当たり』共『テレポート』で回避、最初の数回は『相手の後ろ』に出現し後方から『FMS』の光線で攻撃しますが、腕利きの剣士ならすぐにパターンを読まれるでしょうから、以降は左右や上への転移を混ぜて読みを外し、捕えられかけたら『FMS』のバリアで防ぎますねぇ。

語りかけとして、彼女の『何故』という疑問に答えましょう。
『妖刀』に憑いているものの存在を。



「アアアアアアアアア……」
 慟哭めいた呻き声が、無数の蟲の羽音に紛れて響く。全身を種々の蟲へと置き換えたかのような巨大なる異形。かつて人であったとは思えぬ、あまりにも悍ましき様相。なれどその手には、禍々しき気配を放つ刀が確と握られ。彼女こそが妖剣士『香』――正しくは『香であったもの』。
「……確かに不快なやり口ですぅ」
 妖剣士を利用しての虐殺、そして妖剣士自身をもこうして魔へと堕としめる、オブリビオンの悪辣なる計画。夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)にとっても、嫌悪の念を大きく惹起するものである。
「アアアアアアアア!!」
 そんなるこるに気付いた香だったものは、泣き叫ぶが如く雄叫びを上げて彼女を目掛け突進を開始。芋虫めいた蟲からなる脚は、然し侮れぬ速度にてるこるへ迫る。
 だが、無論そのような攻撃を受けるるこるではない。四肢に嵌めた戦輪を回転させ飛翔、上空へと逃れて巨体の突進をかわす。
「させませんよぉ!」
 追撃を行わんとする蟲女の頭を抑えるように、無数の熱線と炸裂弾が降り注ぐ。るこるの周囲へ展開した浮遊砲台群だ。
「大いなる豊饒の女神、その古の書に記されし知と力をお貸しくださいませ――」
 更にるこるは、その巨大に膨れた胸元より白磁の小瓶を取り出し、中身を一気に呷る。その身より、白き神秘的なオーラが立ち上りだす。
「アアアアアアアア!!」
 爆煙を斬り裂くように、香だったものが上空へと飛び出す。無数の翅を羽ばたかせ飛翔する先は、無論るこる。行く手を阻まんとした光盾砲台が、閃く光によって真っ二つとされる。彼女がその手に握る妖刀だ。
「そんなお姿になっても、ご自身の剣は忘れておられないのですねぇ…!」
 完全に理性を失っているとしか見えぬ姿となり果てても、尚鈍らぬその剣の業。るこるは驚嘆を禁じ得ぬ。その間にも蟲女は迫り、ついにるこるをその間合いへ捉え――
「……ア……?」
 呆けた声が漏れる。つい今しがたまでそこに居た獲物が、消えていたからだ。
「此方ですよぉ」
 響く声は背後から。香だったものが振り向いたそこには、るこる――のみならず。鏡めいて眩く輝く十枚の円盤。輝きは集束し、光線となって蟲女の肉体を焼き焦がす。
「アアアアアッ!!」
 肉の焼ける痛みに呻きながらも彼女は飛翔。再度るこるを斬り裂かんと刀を振るう。横薙ぎの斬撃が繰り出された直後、るこるの姿が再び消える……が。
「アアアアアア!!」
「くぅっ!?」
 刀を振り抜く勢いに従い、香だったものはそのまま身体を半回転。背後へ転移していたるこるへ流れるような斬撃を繰り出したのだ。先の円盤を展開し、発生された光の障壁で辛うじて斬撃を受けとめるるこる。
(判断力も衰えてはいないということですねぇ…!)
 先の秘薬によって得たテレポート能力、よもやたった二度で対応してこようとは。故に。改めて己に任ずる。
「――あなたがそんな風になってしまったのは、あなたのせいじゃありません」
 バリアを解除するるこる。蟲女、これを幸いと再び斬りかかる。
「その刀に取り付いているモノ――オブリビオンのせいです」
 横薙ぎに斬られたるこるの姿はかき消える。そのまま背後まで斬撃を繰り出しにゆく蟲女であったが――響く声は、頭上から。
「……どうか、お目覚めくださいませぇ!!」
 るこるの周囲に、鏡円盤に加え、再び砲台群が展開され。それらの一斉砲撃が、香だったものを地上へと叩き落とした。

成功 🔵​🔵​🔴​

桐崎・早苗
●心情
…伊吹(双子の姉)は私が殺した様なものです
あの時死ぬべきなのはきっと私でした
それでも、私にしか出来ないことがあるから、私は…

…修練を重ねた剣客であれば、剣を交えれば伝わりましょう
●戦闘
【武器受け】を交えて幾度か剣を打ち合います
大技の素振りがあれば【覚悟】と【気合い】を以て例え手足にヒビが入ろうと【怪力】で受け【激痛耐性】にて耐えて、【捨て身】のUCの一撃を
●説得
罪も後悔も、消えず、逃げられもせず
されど、力を持つ者の責務もまた消えず
貴女へ問う
何の為の修練か!何の為の力か!
怪異は未だに世に健在、成すべき事を成しませんか
きっと、そうやって体を動かすことは貴女自身のためにもなります

アドリブok


スコグル・ノルン
良き戦士は良き戦いを創ります
ですが、それを歪めてしまうというのは、許し難いことです
さて…私は味方の戦士たちの補助へまわりましょう
●戦闘
説得を中心に行う者がいれば、隙は私が埋めます
この赤い戦乙女のドレスは、きっと【悪目立ち】するから注意を引けるはず
まあ、単に戦いたい、という動機も無くはないですよ。ほんのちょっとしか

UCで戦神を降ろしたら、戦乙女の大鎌を、状況に応じて槍や手斧へ変化させて立ち回り相手の部位の【鎧砕き】を試みたり【体勢を崩す】のを狙ったりしてみます

今の貴女が振るう力に意志と誇りはありますか?
ぶっちゃけ暴れるだけなのは見苦しいので、どうか、自身を取り戻してください

アドリブok



「ア……アアア……!」
 土煙の中から身を起こす、異形の蟲。香だったもの。呻く声音に正気は感じられずとも、何処か哀しげな色を帯び。
(……あの声。分かる気がします)
 その様を見据える桐崎・早苗(天然風味の狐娘・f10614)の表情が曇る。脳裏を過ぎるは双子の姉を喪った過去。端を思えば、死ぬべきは己であったのに。何故己が生きている。罪の意識が胸を苛む。だが、それでも。
(……それでも、私にしかできないことがあるから、私は……)
 なればこそ、己が役目は果たさねばならぬ。侍刀と退魔刀、二刀を抜いて身構える。
「アアアアア……!」
 その気配を感じたか。常世神は刀を構える。ギチギチと外骨格の擦れるような音が響く。
(良き戦士は良き戦いを作るもの――ですが)
 見目こそ歪んでは居れど、その佇まいには確かな修練の痕跡が垣間見える。変わり果てて尚変わらぬ武の形。スコグル・ノルン(気ままな戦乙女の悪魔・f32014)は感嘆すると共に眉根を寄せる。
(本来の彼女は、きっと素晴らしき戦士。それを歪めてしまうというのは、許し難いことです)
 戦いにおける生命の輝き、貫く意志の発露。そうしたものを好む戦いの悪魔たるスコグル。その嗜好からしても、彼女の今の状態は看過できぬ。故に。
「…私が補助に回ります。あなたは攻めに集中してくれればと」
 早苗の傍らにつき、囁く。気付いた早苗、こくりと頷き。
「…ええ。必ずや。彼女を救いましょう…!」
 彼女も弛まぬ修練を重ねた剣客なれば。剣を交えることで伝わるものもあるはず。その信念のもと、二人は香だったものへと向かってゆく。
「アアアアアア!!」
 応じて彼女もまた動く。その巨体が迫る先は――スコグルだ。
「やはり、此方に来ましたか」
 彼女の身に纏う紅いドレスはよく目立つ。それ故にかの敵の視線を惹きつけたのだろうか。構えるは黒き戦乙女の大鎌。
「そこです!」
 だが迫り来る蟲女の横合いから、斬りかかる影がある。早苗だ。振り下ろされた剣を、香だったものは妖刀を頭上で構えて受け止める。
「アアア……!」
 見返す瞳は異様な輝きを帯び、彼女が完全に正気を失っていることが嫌でも理解できてしまう程。だか、それでも。
 香だったものは妖刀を押し上げ、その勢いで早苗と距離を取る。そして再びスコグルへ意識を向ければ。
「bbbbzbrbzbrbzbzzzzz――!!」
「っ!? く……これは!」
 彼女の上げた、無数の蟲の羽音じみた叫び声に応えるように。周囲の石や農具が黒く形を崩したかと思えば、それらは無数の羽虫の姿を取り。一斉にスコグルへと襲いかかる。
「くぅ、面倒な……!」
 大鎌を振るい羽虫を撃ち落とさんとするスコグル、だが蟲たちの数が多い。
「アアアッッ!!」
 それを以てスコグルの足止めとし、常世神は改めて早苗へとその剣を振るう。大振りな袈裟懸け、だがそれでも。
(速い……!)
 反応叶ったは警戒していればこそ。左腕の短刀『玖式』を掲げて受けるも、その一太刀、腕が痺れんばかりの衝撃を齎す。速いだけではない。この姿となって膂力も増したが故か、只管に重い。
「ですが!!」
 右手の侍刀『漣』を横薙ぎに振るい反撃。蟲女、身を退き刃の間合いを外れたかと思えば、退いた身を捻っての刺突を繰り出す。早苗、半身となって踏み込み躱し、そのまま斬り上げる。蟲女の身を浅く裂く感触。滴る血。
「……貴女へ、問います」
 横薙ぎに振るわれた妖刀を短刀にて受け、早苗は呟く。歪み切った、香だったものの貌を見据えながら。
「ア……ア……?」
 その視線を受け、常世神の表情が固まる。擦り上げた刃を再び逆袈裟に振り下ろす。早苗、今度は侍刀にて受ける。
「罪も後悔も、消えず、逃げられもせず……されど、力持つ者の責務もまた消えず」
 それは、己の責にて愛した家族を死に至らしめた身が故の理解。狂気へ逃避したいと願う事、理解できぬではない。だが、それでも。
「けれど……貴女が積み重ねてきた修練! 手に入れた力! 何の為のものですか!!」
 真正面から『香』を見据え、早苗は吼える。『香だったもの』の表情が歪む。早苗には、それは泣き顔のようにも見えただろうか。
「アア……アアアアアアアア……!!!」
 悲泣めいた叫びと共に妖刀を両手持ちとし、大上段に構える。背の翅が大きく広がり、震える。間違いない、大技が来る。躱し、反撃を撃ち込むは難しくなかろう。だが。
「……来なさい……!! その悲しみのままに……!!」
 早苗は敢えてその場で身構える。その一撃を、真正面から受け止めんとする。『彼女』を、受け止めようとばかりに。
「――アアアアアアアアアアア――!!!」
 咆哮は慟哭めいて。渾身の唐竹を、早苗目掛けて振り下ろす。早苗、二刀を交差させ身構えて――その一撃を、受け止めた!
「く……ぅ、あぁ……っ!」
 なれど、その一撃はあまりにも重く。踏ん張った早苗の両足が地にめり込む。己の膂力を全開として尚、押し潰されかねぬ威力。全身の骨格が軋みを上げる。いや、骨には罅すら入っているかもしれない。軋みは痛みとなって全身を苛んでいる。
 だが。だがそれでも早苗は耐える。激痛の枷を振り切り、一歩を踏み出す。それは、絶望の深き闇から踏み出す一歩にも似て。
「……っぐ、それでも……それでも!!」
 更に一歩――と同時、二刀から手を離す。そのまま振り落とそうとする常世神の力、それをも力と変えて跳躍する。眼前の、香だったものへ。
「私達は! 前に進むしかないのですッ!!」
「アガァァァァァ!?」
 突き出すは左肘、白き清浄なる霊力を帯びたそこが、蟲女の腹へと見事に突き刺さり。捨て身の一撃、彼女の巨躯をも大きく吹き飛ばす。
「アア……ア、アア……ッ!」
 呻く蟲女。負傷はそこまで重そうには見えず、なれど苦しむ様は、彼女の奥底に眠る香のものか。
「……アアアアアア!!」
 だが、未だ止まらぬ。香だったものは吼え、再び妖刀を構える。捨て身の反動で膝をつく早苗へ、止めを刺さんとばかりに。
「やらせませんよ」
「アガァァァ!?」
 しかしその横合いから閃く一閃。蟲女の脇腹を貫いたのは黒き槍。手にするはスコグル。先の蟲を振り切る為に、大鎌より持ち替えたものだ。
「私も、ちょっとくらいは戦いたいですし。それに、早苗さんの補助をすると言いましたので」
 闘争における輝きを好む以上、己が身でそれを感じたいという欲求はある。尤も、それより優先すべき事はあると彼女自身理解している。
「アアアアア!」
 スコグルを振り切ろうとばかりの横薙ぎ。なれどスコグルは跳躍。深紅のドレスが翻る。その手の槍がぐにゃりと歪む。
「少し、黙ってもらいましょう」
 空中にて一回転。逆転した天地が元に戻った時、スコグルの手にあったのは手斧。先の槍が変形――そのまた前には大鎌だったものが、形を変えてここまで至ったものだ。
 宙返りの勢いをそのままに、蟲女の腰へ叩き付ける。ぐしゃり、と砕け潰れる感触がスコグルの手へ伝わる。
「アギャアアアアア!!?」
 確かな痛打となったか、よろめく常世神。着地したスコグル、そんな彼女を見据えて。
「――今の貴女が振るう力に、意志と誇りはありますか?」
 その表情は何処か不満げで。狂気のままに暴れる敵が相手では、彼女の望む輝きは見えそうにない。寧ろ。
「ぶっちゃけ見苦しいので。……どうか、自身を取り戻してください」
「……スコグルさん、流石にそれは如何かと」
 言い切ったスコグルの後ろ、どうにか立ち上がった早苗が苦笑気味に割り込む。そして、呻く香だったものを見据えて。
「ですが……香さん、貴女に己を取り戻して頂きたい、というのは確かに」
 何しろオブリビオンを始め、エンパイアには未だ数多の怪異が跳梁跋扈している。猟兵達だけでは足りぬ、この世界の人々の力も必要な程に。
「それに――きっと、そうやって身体を動かすことは。貴女自身の為にもなる。そう思うのです」
 それは、実体験を伴う発言であるが故だろうか。スコグルの耳には、不思議な実感を伴った響きと聞こえたとか。
「アア……ア……アアアア……」
 未だ呻く香だったもの――その奥底の『香』には、届いたか、どうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

備前・編笠丸鬼矗
民草を救わねばならぬッッ!!!
エンパイアを脅かす刀狩りから救わねばならぬッ!!!!

民草を救うには只一つッ!!!

誉れを与えッ!!!
正気を取り戻させるッ!!!

【行動】
今救うぞ娘よッッッ!!!

何も知らぬ民草を傷つけるは武士の恥ッッッ!!!

ならば誉れ魂を使うッッッ!!


エンパイアに住まう全ての者達よッッッ!!!
民草を救うためッッッ!!!
某に誉れを貸し給エッッ!!!!


ゆくぞッッッ!!!

南無八幡大菩薩ッッッ!!!
願わくばッッッ!!かの娘を救い給えッッッ!!!

誉れ魂ッッッ!!!!
(金切声の様なチャージ音を響かせて両手で巨大な誉れエネルギーの塊を収束し、ぶん投げる)

攻撃は全て受け止め!
天命回生で蘇生するッッ!!



「民草を救わねばならぬッッ!!!」
 気魄と決意に満ち満ちた声を供に、歩を進める男が一人。編笠にてその貌は窺えぬが、その装い、かつて鎌倉に幕府の在った頃の武士と見え。そして、素性はその装いの通り。
 この男――備前・編笠丸鬼矗(鎌倉武士・f29057)。妖刀の呪いにて死を喪い、只々、妖怪変化、オブリビオンを狩り殺し続けてきた鎌倉武者である。
「エンパイアを脅かす刀狩りから救わねばならぬッ!!!」
 見据える先には、もがき蠢く蟲女。未だ己取り戻せぬ『香だったもの』。『刀狩』、その名を持つ猟書家は既に滅びたが、かの存在と同じ手法もて民草を脅かす輩は未だ絶えず。
「アア……アアアアア……!」
 迫る『敵』の気配に、常世神が立ち上がる。その手の中、妖刀がカチカチと鍔鳴りを響かせる。それは嘲るような笑いとも見え。
「民草の営みを嗤うか、妖怪めッッ!!!」
 鬼矗が吼える。その怒気に応えるかのように、編笠の隙間から赤き焔が漏れ出る。
 蟲女の顔を見据える。狂える笑みとも、深き悲哀とも見えるその表情。救いを求めている――少なくとも、鬼矗にはそう見えた。故に。
「今救うぞ、娘よッッッ!!!」
 両の腕を広げ、宣言めいて呼びかければ。
「アアアアアアアア!!」
 慟哭が如き叫びを溢れさせ、常世神が駆ける。巨体に見合わぬその速度、瞬く間に鬼矗の目前まで迫る。
 なれど鬼矗、抜刀せぬ。呪われし愛刀は未だ彼の腰に。何も知らぬ民草を傷つけるなどは武士の恥、故に彼は刀を用いぬのだ。
 常世神、刀を大上段に構え。疾走の勢いも乗せた、渾身の唐竹として振り下ろし、武士へ叩き込む。刃が肩口から深く食い込み、左半身が半ば裂ける。
「オオオオオ……!!!」
 なれど鬼矗は倒れぬ。死を忘れた肉体は、この程度では滅びぬ。真っ直ぐに、編笠越しに眼前の蟲女を見据え――徐に、その手を天高く掲げる。千切れかけた左腕も共に。
「エンパイアに住まう全ての者達よッッッ!!! 民草を救うためッッッ!!! 某に、誉れを貸し給エッッ!!!」
 そして吼える。空の果てまで届けとばかり、あらん限りの声を以て。果たして、その声が何処まで届いたか――鬼矗の両手の半ば、宙空に、輝けるエネルギーの塊が生じ。急速に拡大、膨張を開始する。
 それは『誉れ魂』。エンパイア中の命あるもの、その全ての誉を集めて武器と成すユーベルコード。香を救う為の術、誉見失った彼女へ誉れを与え、以て正気を取り戻させる。それこそが鬼矗の意図。
「アアア……アアアア……!!」
 次第に集まり、高まってゆく誉れの輝き。そこに恐れを抱いたか、或いは惹かれたか。常世神、妖刀を振り回し鬼矗を止めんとばかりに斬り刻む。
「効かぬッ!! 斃れぬッ!! 某は……死なぬ……ッ!!!」
 一撃一撃が深く食い込み、誉れに守られた鎧をも抜いて、鬼矗の全身へ幾つもの刃傷が刻まれる。なれど鬼矗は倒れぬ。その身に宿せし妖刀の呪詛が、斬られる傍から肉体を再生し、死を遠ざけゆく。彼は死なぬ。死なぬ肉体を以て、誉れの集うまでの時を稼ぐ。
 そして、その時は来た。集った誉れは鬼矗自身の身よりも巨大な球体と化し、今尚誉れを集める中心域が、金切り声の如き集束音を響かせる。
「ゆくぞッッッ!!!」
 今ぞ、この誉れを捧ぐ時。胴を両断せんばかりの、力強い横薙ぎに、腰を落とし耐えると共に、体勢を整える。
「南無八幡大菩薩ッッッ!!! 願わくばッッッ!! かの娘を救い給えッッッ!!!」
 掲げた両手を、一気に振り下ろす。体躯秀でる彼の身にも持て余しかねぬ程に巨大化した誉れ魂が、蟲に囚われし女の身へと叩き付けられ。
「アアアア……アアアアアア……!!?」
 極限まで集束した誉れのエネルギーが、一帯を白く染め上げんばかりの大爆発を齎し。女を、その爆心へと飲み込んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アビゲイル・ガードナー
【SPD】
※『ルラン』の鎧変化は次章

従妹のヘンリ(f31471)と双子の様に動くよっ
…にしても、なんなのさコレっ!?

すっごくグロいし悪趣味、このオブリビオン!
あーもうっ、許せない許せないっ!

香さん、ダメだよそんなのに負けちゃ!
旦那様と娘ちゃんが、もっと苦しんじゃう!

せめて、せめてっ!ヒトとして想って生きなきゃ!
二人も浮かばれないし、香さんも救われない…!

さ、アビー達もやるよヘンリっ!
胸元の『ゲイル・エメラルド』から『ルラン』出現
鞘を左腰に提げて抜刀っ

ヘンリと交互に切り結んで、足止め&大技準備
最後はヘンリが作った隙に、刀身へ竜巻を…
行けっ、【テンペスト・エグゼキューター】!
香さんを弾き出せぇ!!


ヘンリエッタ・アドミラドール
【SPD】
※『フレキ』の鎧変化は次章

従姉のアビー(f31470)と双子の様に行動しますが…
…愛に生きるモノとして、悲しすぎます

ええ、実に穢らわしい…アバドン気取りですか?
優しき母を堕とし、愛すべき人を殺め…!

香さん、確かに貴女の刃は血を啜りました…
ですが旦那様と娘さんは、尚もお二人は!

…貴女がバケモノに身を窶してほしい等と…
決して、決してっ!そんな事は願っていません…!

ええ…香さん、すみません…今一度痛みを堪えて下さい
胸元の『ボルト・サファイア』から『フレキ』を…

ランスの様な穂先に神代の紫電を纏わせて
解き放つは恩讐の雷撃【ライトニング・ネメシス】
速い動きを縫い止め、アビーの技を通す一助とします



「…にしても、何なのさコレっ!?」
「こんなこと…悲しすぎます」
 傷を負いながらも尚、羽音じみた唸り声を上げて立ち上がる、香だったもの、常世神。無数の蟲が寄り集まったかのような、その、あまりにも悍ましき姿に、よく似た二人の女性の声が、憤慨と悲嘆を口にする。
 今、かの蟲女と対峙している二人の猟兵は、種族は悪魔と堕天使、瞳の色は桃色と紫色と異なるものの、煌めく銀髪も背格好も顔立ちも、双子の如く瓜二つ。曰く、腹違いの姉妹であり、其々の母が双子であるのだという。
「すっごいグロいし悪趣味、このオブリビオン…! あーもうっ、許せない許せないっ!」
 香をこのような状態に追い込んだオブリビオンへの怒りを露わとするのは、姉、アビゲイル・ガードナー(ブライトテンペスト・f31470)。
「ええ、実に穢らわしい……アバドン気取りですか? 優しき母を堕とし、愛すべき人を殺め……!」
 一方の妹、ヘンリエッタ・アドミラドール(シャドウライトニング・f31471)も、声音には確かな怒りが滲む。
 そんな姉妹の怒りを嘲笑うかのように、常世神の手の中で妖刀がカタカタと鍔を鳴らす。それに突き動かされるかのように、蟲女は身構える。目の前の双子と見える姉妹をも、その刀もて斬殺せんとする。
「……! そんな、ダメだよ香さん! そんなのに負けちゃ!」
 気付いたアビゲイルの制止の声も届かず。香だったものはその背の無数の翅を広げ。
「――アアアアアアアアア――!!」
 慟哭にも似た雄叫びを上げると共に、その場へ傷ついたそれまでの外皮を捨てて。上空へと飛び立ち超高速での飛翔を開始する。
「やっぱりダメか……! アビー達もやるよ、ヘンリっ!」
「ええ……! 香さん、すみません……今一度、痛みを堪えて下さい……!」
 やはり言葉だけでは彼女を止めることは叶わない。覚悟を決めた姉妹、其々の胸元の宝飾――『第三の眼』たる宝石に指を添わせれば、其々が碧と蒼の光を放ち。
 アビゲイルが碧光から引き抜いたのは、鞘に収まった聖剣『ルラン』。腰に提げて鞘から引き抜けば、刀身に碧き風が纏わりつく。
 ヘンリエッタが蒼光から引き抜いたのは、長大なる聖槍『フレキ』。一振りして構えれば、穂先に蒼き雷光が迸る。
「アアアアア!!」
 戦闘準備を整えた二人へ、泣き叫ぶように鳴き叫びながら常世神が襲いかかる。狙い来たるはアビゲイル。長物を有するヘンリエッタへ高速突撃はリスクが伴う、との判断か。
「くぅぅっ!!」
 刀身ごとぶつかるような袈裟懸けの斬撃を、アビゲイルは己の剣で受け止める。速度と質量を乗せた斬撃は、アビゲイルの細身の肢体を吹き飛ばしてしまいかねぬ程だが、腰を落としどうにか耐え抜く。
「香さん……!私達の言葉、お聞きください……!」
 その横合いから騎槍を突き込みつつ、ヘンリエッタが叫ぶ。蟲女、半身を退き躱す。
「確かに、貴女の刃は、かけがえなきご家族の血を啜りました……ですが!」
 返しの斬撃を繰り出さんとした常世神を、騎槍から迸る紫電が制する。槍を介して繰り出す攻撃魔術だ。
「ですが旦那様と娘さんは――尚もお二人は……!」
 堪らず跳び退く蟲女、だがその翅が風に巻き込まれ姿勢を崩す。見下ろせば、そこに居たのは聖剣を突き出した姿勢のアビゲイル。その剣を介して繰り出した攻撃魔術が、飛行を阻害したのだ。
「そうだよ香さん! 旦那様と娘ちゃんが、もっと苦しんじゃう……!」
 堪らず着地する常世神へ、再度肉薄するヘンリエッタ。常世神、反応速度を利して身構えるが――アビゲイルの口から出たその言葉に、動きが一瞬、止まる。
「お二人は……貴女がバケモノに身を窶して欲しいなどと……決して、決してっ!」
 叫ぶ言葉の後半は最早涙さえ滲み。彼女に降りかかった不幸を我が事のように感じつつも、ヘンリエッタは得物の穂先へ紫雷を纏わす。
「せめて、せめてっ! ヒトとして、想って生きなきゃ……! 二人も浮かばれないし、香さんだって……!!」
 アビゲイルもまた、目尻に涙さえ浮かべながら叫ぶ。両者ともが、愛に生きる気質の持ち主。愛を踏み躙ったオブリビオンへの怒り以上に、踏み躙られた香への共感があったが故に。
 そんな二人の叫びが、『香だったもの』の内に残る『香』へと届いたのか。蟲女がもがき、苦しみだす。今こそ好機。
「今だよ、ヘンリ……!」
「ええ……わたしの本気、お見せします……!」
 アビゲイルの声に応えたヘンリエッタが、紫電迸る騎槍を蟲女へ向ける。輝く紫電が疾走し、かの敵を捉え。
「走れ……奔れ……!」
 動けぬ蟲女を見据え、紫雷が形作った巨刃を以てX字の斬撃を繰り出し。その刃を再度膨大な紫雷と戻して纏う騎槍を、ヘンリエッタは逆手で大きく振りかぶる。
「……疾れ……っ!!」
 そして繰り出すは、渾身の投擲。投げ放たれた騎槍は、動けぬ常世神へと過たず突き刺さり、その身を縫い留める。
「よぉし……! ここからは、アビーの本気だよ……!」
 それを見届けたアビゲイルもまた、持てる最大の攻撃の準備を整えていた。腰だめに構えた聖剣へ、碧き風が渦を巻く。
「跳べ……」
 渦巻く風は常より更にその密度を増して、剣の刀身を完全に隠す程となる。もがく蟲女へ、狙いを定める。
「飛べ……!」
 踏み込む。その勢いも乗せて、全身の力込めて剣を突き出す。圧縮された旋風が、解き放たれて。
「……翔べ……っ!!」
 そして撃ち出されるは、螺旋じみた竜巻の槍。瞬く間に常世神へと到達すれば、その身を穿ち、吹き飛ばしていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニコリネ・ユーリカ
悲しみや怒りに押し潰されては駄目
私達が迷えば、それこそ謀を巡らせた者の思うつぼ
巨躯の突進で躰が砕け散らないよう回避に集中し
初動や方向を見極められるよう異形の躯を観察――

ああ、でも
涙で世界が滲みそうね

震える心を宥めつつ、動きを最小に猛進を間際で躱す
破壊の衝撃に耐えたら擦れ違い様にシャッター棒で打撃を
彼女の中にある苦悩だけを叩きたい

ねぇ香さん
どの世界を渡ろうとも
私達は従わなくてはならない理がある

狂気に呑まれ闇に堕ちても過去は変えられない
殺めた人は、幸せな日々は、二度と戻らない
だから私達は現世から未来を変えるしかない
貴女を絶望に堕とした者が、貴女を從える非道に抗う為に
私、全力で未来を変えてみせます!


リヴィアン・フォンテーヌ
人を惑わす妖刀ですか、惨いことを……
いえ、人の運命を狂わせるという意味では聖剣も妖刀も同じかもしれませんね
ですが、聖剣を抱く湖の乙女の一人として、それを聖剣と同じとは認めらませんし、貴女にこれ以上の悲劇を繰り返させはしません

その刀は、既に貴女の妖刀ではありません。その刀を手放してください!
これ以上は戻れなくなりかねません。家族を愛し、家族が愛した貴女がいなくなってしまいます!
波紋と共に無銘の聖剣が無数に取り出されて【聖剣嵐舞】で、もはや数えるのも馬鹿馬鹿しい数に複製されて香殿を包囲して逃がさぬよう翅や蟲達を切り刻んでいきます
これら無銘の失敗作なれどすべて聖剣です。その呪いを切り裂いてみせます!



「アア……アア……アア……!!」
 数多の傷を負い、よろめきながらも。香だったその存在は止まらない。握り締め続ける妖刀に、突き動かされるが如く。
「人を惑わす妖刀ですか……惨いことを」
 元より油断ならぬ代物ではあったろうが、オブリビオンが取り憑いたとなれば、それは最早。リヴィアン・フォンテーヌ(湖の乙女・f28102)は沈痛げに一時、目を伏せる。
「――悲しみや怒りに押し潰されては駄目」
 そんなリヴィアンの隣、決然たる声音でニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は呟く。そうした感情で己等が迷えば、それこそ敵の思う壷と。己へ言い聞かせるかのように。
「……ええ。何より、聖剣を抱く湖の乙女の一人としても。彼女にこれ以上の悲劇を繰り返させはしません」
 西洋妖怪『湖の乙女』――聖剣を守り、然るべき担い手に委ねるを使命とする者であるリヴィアン。人の運命を変える剣、という意味では聖剣も妖刀も同じなのかも知れない、そう考えたが故に。
「――アアアアアアアア!!」
 そこへ迫るは常世神。翅を羽ばたかせ、凄まじい速度で二人を目掛け突っ込んでくる!
「くぅっ!」
「きゃぁっ!」
 左右へ散開し、辛うじて回避に成功する二人。態勢を立て直したニコリネ、上空へ上がり旋回するかの蟲女を見据える。
「あの巨体であの速度。まともに受けたら一撃で身体が吹き飛んじゃうわね……」
 故に、何としても回避せねばならぬ。その初動、その機動。見極めるべく、悍ましきその肉体を観察――
(――ああ、でも――)
 視界が滲む。瞬きを数度。晴れぬ。已む無く得物持たぬ手で拭う。
 あれ程の異形への変貌。在りし日はきっと、幸福な一家であったのだろう。そんな彼らが、何故、このような運命を強いられねばならなかったのか。
 心が震える。あまりにも無惨なる結末へ至った一家への悲しみと、其を強いたものへの怒りで。
(――駄目、駄目よ)
 其に呑まれてはならぬと。自らそう言葉にした舌の根は全く乾いていないのだ。流されそうになる心を律しつつ、再度向かいくる常世神を見据えて。
「……っ!」
 超高速の突進。最小限の動きで回避。すれ違いざま、得物たるシャッター棒を振るう。虹色の光を纏う一撃が蟲女の腰を捉える。蟲女、僅かに傾ぐも飛翔に障りなし――未だ浅いか。
「香さん! 待ってください、香さん!」
 リヴィアンの呼びかける声に、飛翔速度が僅かに緩んだ気がした。
「貴女のその刀は、既に貴女の妖刀ではありません! その刀を手放してください!」
 更に呼びかけるリヴィアン。これで刀を手放してくれる等とは微塵も思えぬが、兎に角彼女を止めたい、その想いがリヴィアンの口から言葉を走らせていた。
「これ以上は、もう戻れなくなりかねません! 家族を愛し、家族が愛した貴女が! いなくなってしまいます!」
 その言葉が、僅かでも響いたか。その飛翔がよろめき、地上近くまで降りてくる。妖刀がカタカタと震えるのが見える。
「……まだ煽るというの……!」
 思わず、ニコリネの口から漏れる憎々しげな声。ならば、とリヴィアンは杖を掲げる。
「まずは、あの飛翔を封じましょう…! でないと、私達の声を届けるのも一苦労です!」
 杖が輝きを放てば、空間に無数の波紋が波打って。そこから伸び出てくるのは、それぞれ少しずつ異なる意匠を有する無数の剣。元々幾つか存在した失敗作の聖剣を、ユーベルコードで複製したものだ。最早数えるのも馬鹿馬鹿しい程となったそれらが一斉に射出され、香だったものを包囲する。
「アアアア……!!」
 悲嘆めいた唸りを上げる、香だったもの。包囲から次々と飛び出てくる聖剣が、その背の翅を、芋虫じみた脚を斬り刻み、機動の要を封じてゆく。抵抗するように飛び出てくる蟲達も、聖剣が斬り捨ててゆく。
 それらは全て失敗作でこそあれど、確かに聖剣として作られたもの。呪いを祓う力も、確かに具えている。蟲女の肉体が斬り刻まれるごとに、纏う禍々しさが、少しずつ薄れているようにも見える。そして、抵抗しようとする妖刀の動きも。
「どうか……目を覚ましてください、香さん……!!」
 やがて動かなくなる常世神。致命には至っていないが、それでも、リヴィアンの呼びかけも虚しく、未だ香の目覚める気配はない。
「それなら……!」
 己の持てる業を以て決着としよう。ニコリネは駆けだす。構えたシャッター棒が、虹色の光を帯びる。雨上がりの虹の如き、未来への希望を宿した光。
 その光が、香だったものの額を打ち――その手から、震える妖刀が零れ落ちた。

「ねぇ、香さん。どの世界を渡ろうとも、私達には従わなくてはならない理があるの」
 世界の埒外たる猟兵であれど、逃れ得ぬ理。ニコリネは香に語る。
「狂気に呑まれ、闇に堕ちても。過去は、決して変えられない。殺めた人は、幸せな日々は、二度と戻らない」
 今の香にとっては、些かならず残酷なその事実。猟兵たる己にも取り返し得ぬ過去。だから。
「だから私達は、現世から未来を変えるしかない」
 例えば、彼女を絶望に堕とした者が、彼女を従える、非道な未来を。定められた其に抗う為に。
「――私、全力で未来を変えてみせます!」
 そして。力強き宣言と共に差し出す右手。ややあって、その手を取ったのは――紛いなき、香の手。異形ならぬ、全き人間の手であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『藍羽姫』

POW   :    鬼女の性
全身を【鬼の闘気】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    刃舞いの鈴
【鈴の音】を向けた対象に、【刃と変じた布】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    風鳴りの鈴
【鈴の音】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【風の刃】で攻撃する。

イラスト:寛斎タケル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠須辿・臨です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「……私……私は……」
 顎の高さで切り揃えた銀の髪を揺らし、己の身を確かめる女。紅き瞳が、戸惑いに揺れるが。眼前の猟兵達に気付いたならば。
「……嗚呼……。貴方達が……私を、止めてくれたのね……」
 得心と共に頷くも、その表情は未だ暗く。無理も無い。彼女は――
『残酷なことをなさいますのね、夫と娘を殺した妻に、その罪を背負って生きろだなんて』
 突如、その場へ響く、その場の誰のものでもない女の声。猟兵達の、香の視線が、一点に――香の妖刀に集う。
 妖刀から溢れ出す、かの刀が元より具えていたものとは全く異質の禍々しき力。立ち昇ったその先へと収束すれば、人に似たる形を取って――やがて、一つの人型となって現れ出る。
 艶めかしき肢体を強調する装いに身を包んだ女。頭部よりは曲がりくねった六本の角を生やすも、その存在、羅刹と称するにもあまりに異様。
「罪の意識で狂い暴れる彼女と、其を止めんとする猟兵様方の戦い。それなりには愉しゅうございましたが」
 陶然と微笑む貌は艶美なれど、その奥底に滲むは悪意。己の享楽の為に、人々に血と涙を流させしむ非道。
「愛する家族を殺めたる後悔から狂気に堕した殺戮の剣士。悲劇に彩られし手駒得られなんだ事、残念で堪りません」
「貴女は……そう、貴女が、ずっと私の頭の中に……!!」
 その声音に聞き覚えがあったか。全てを悟ったかのように香が叫ぶ。
「――ええ。然様にございます。貴女が、愛した夫と娘を手にかけたのは。全て、この私――藍羽姫(らんばひめ)の差し金ですのよ」
 陶然たる笑みと共に、その悟りを肯定するオブリビオン――藍羽姫。
「……許さない……許さないッ!! よくも……よくもあの人を、娘を……!!」
 香の表情が歪む。憤怒、怨嗟、そして悲哀。紅き瞳が爛と輝く。
「ええ、怒られませ、憎みませ。それでこそ、先程には及ばずとも、強き力となる事でありましょう」
 その様を見て尚、余裕の藍羽姫。その理由は。
「――事ここに至った以上。皆様との戦を思う様、愉しみとうございます故。――どうぞ、全力でおいでませ?」
 香を、猟兵達を。己の享楽の糧とするべく。手招きすると共に、辺りに鈴の音が鳴り響く。
「殺す……! 殺してみせる……!」
 怒りのままに吼え、その手を翳せば。地に転がっていた妖刀がひとりでに浮き上がり、飛翔し。香の手へと収まって。
「……猟兵さん達……どうか、私に……力を貸して……! この妖を、殺す為に……!!」
 そして猟兵達へ振り返り、助成を請う。応え、共にかの妖姫を討ち果たすべし。
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎

■行動
はい、承りましたぁ。
参りましょう。

『FBS』を四肢に嵌め飛行、『FMS』によるバリアを香さんの支援に回し、守りを固めつつレーザーによる[カウンター]を行わせますねぇ。
私自身は上に配置、『FRS』は私の上方に、『FSS』は隙間を空けない様前面に配置し[砲撃]を仕掛けますぅ。

そして、藍羽姫の【鬼の闘気】に対応して【処檻】を発動しますねぇ。
この『棘』の威力が『相手の強さ』に比例する以上、『棘のダメージが入るごとに相手が強化』→『その結果として棘も強化』となりますので、或る程度の時間拘束しておくことは可能でしょう。
後は香さんの剣撃に時機と狙いを合わせ、一斉に攻撃を行いますねぇ。


ニコリネ・ユーリカ
ええ、私達は折に他者に残酷を強いる
家族を殺めた香さんには生きて欲しいと思うし
彼女の運命を狂わせた鬼は罰を受けるべきと思う
貴女と同じ勝手を通すだけよ

もっと勝手を言うなら
出来れば香さんの手で訣別して欲しいと
全力で肩入れするわ

香さんは強い
でも憎しみや恨みで倒せるほど鬼は弱くない
常の鍛錬の成果が発揮できるよう冷静を
どうかその鋩が届きますようにと祈りを籠めて花冠を編む

香さん、被ってくださらないかしら
魔法で紡いだ月桂冠には無敵の力が込められてるの
貴女の為に編んだからピッタリだし
風の刃に飛ばされたり斬られたりしないわ

私は少しのお手伝いを
悲しみの血が染みた大地の精霊に呼び掛け、鬼を泥濘に足止める
――さぁ今よ!



「はい、承りましたぁ」
「ええ、全力で肩入れさせて貰いましょう」
 妖剣士、香の呼びかけに、夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)は緩やかに、ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は決然と。其々の言葉を以て同調を示す。
「……有難う」
 短く感謝の返答を返す香、再度オブリビオン――藍羽姫を見据えるや否や。
「――はああぁぁぁぁぁ!!」
 裂帛の気合は即座にかの鬼姫の前へ。迅速の踏み込みと共に、横薙ぎの刃を繰り出す。
「良き高揚です。その猛り、その怒り。大変心地良うございます――が」
 なれど藍羽姫、軽やかに身を退き斬撃を回避。伴って引いた白魚の指が、鉤爪じみて強張る。
「怒りゆえに致し方なき事とは思いますが、その刃は些か粗雑かと」
 刃が振り抜かれたその直後。踏み込みながら腕を振るう。指先に籠る力、形の細さが却って鋭利なる猛威を想起させ。
「っ……!」
 速い。香、咄嗟に身を退かんとするが、間に合うか――
「させませんよぉ!」
「!」
 両者の間を走り抜けた光芒が、鬼姫に咄嗟の後退を選ばせた。直後、香を守るように、鏡じみて輝く八枚の円盤が飛び来る。
「危なかったですねえ」
 振り向けば、四肢に戦輪を展開し浮遊するるこると、香のもとへ駆け寄るニコリネの姿。
「香さん、これを使ってくださらないかしら」
 追いついたニコリネは、香へ向けて何かを差し出す。
「これは……?」
 無数の葉を、円環状に編んだそれは、月桂冠。華美ではなくとも、神秘の力と高貴なる威風を感じさせる代物。
「貴女の為に編んだ冠よ。貴女の鍛錬の成果、正しく発揮できるようにと」
 それは、ニコリネがユーベルコードに祈りと魔力を籠めて編み上げた冠。
「貴女は強い。けれど、憎しみや恨みだけで倒せるほど、鬼は弱くない」
「………」
 故に冷静たれと。そして、その切っ先の、かの鬼へ届かんことを、と。
 だから、と。差し出すニコリネの貌と瞳を、その手の月桂冠を。交互に見据え、逡巡すること数瞬。
「……有難う。使わせて貰うわ」
 頷く香に、ニコリネは微笑み。冠を、かの剣士の頭へと捧げるように載せてゆく。
『我が王は剛く、賢しく、その足に遍く邪を組み敷き、手には栄光を掴み取る――』
 それと共に捧げられた、魔法と祈りの歌が、冠に最後の力を与え。其を被った香は、すぐに感じる。四肢に滾る力を。憤怒と憎悪に曇りかけていた視界の晴れる様を。
「……これは……」
 ニコリネを見る。似合っている、と彼女は請け負う。頷き、香は再度駆け出す。悪しき妖のもとへと。

 一方のるこるは、上空より藍羽姫を目掛けて攻勢に出ていた。
「思い通りにはさせませんよぉ!」
 頭上には砲台十六基、全面には光盾付砲台八基。間断なく降り注ぐ炸裂弾の雨が、鬼姫の機動を妨げていた。
「くぅっ、面白くない戦い方をなさいますのね!」
 苛立たしげな藍羽姫の声。彼女には、上空のるこるへの攻撃手段が限られている。殆ど一方的な攻勢。なれどそれ故に、鬼姫は巧みな体捌きで砲弾を躱し、負傷を避けていた。膠着状態。
 と、そこに。
「改めて勝負よ……藍羽姫!」
 月桂冠を授かった香が駆けて来る。るこるもそれに気づき、彼女の攻撃を助けるべく砲撃軌道を変更。藍羽姫への道を開き、その周囲へ砲弾を降り注がせることで離脱を阻む。
「……良いでしょう。なれば受けてご覧なさいませ……」
 退路を阻まれた藍羽姫は、右手を二人に向けて差し向ける。リン……と響く、涼やかな鈴の音。その音は次第に大きく広がり、やがて大気のうねる音と取って変わり。
「風よ鳴りませ、この鈴の音の導くままに!」
 直後、一陣の風と共に疾り飛ぶは風にて成る刃。無数のそれらが、るこると香を目掛け襲い来る!
「何のぉ!」
 るこるは光盾を積層させ、己の身との間を遮ることで防ぐ。そして香は。
「……この力……冠が、守ってくれてる……?」
 ニコリネから授かった冠が、温かくも強い魔力を放つ。吹き荒ぶ風を和らげ、襲い来る刃を退ける。いける。香の足が更に速まる。向かう先には藍羽姫。
「……な……!? わたくしの風を、正面から……!?」
 何等かの回避行動を取るものと予測していた鬼姫、その表情が驚愕と歪む。回避が間に合わぬ。
「こんなものに……私は、負けない……!」
 そして己の間合いにかの鬼姫を捉える。刃を振り抜く。右下から、左上。鬼姫の胸が裂け、鮮血が飛沫く。
「んぁぁっ!? ……く、ですが……この程度の傷ならば……!」
 よろめく藍羽姫、だがその身からは真紅のオーラが滲み出す。負傷を受ける程に力高める、鬼の闘気。だが。
「そこですねぇ! 大いなる豊饒の女神の名に於いて、仇なす者達に厳格なる裁きを!」
 それこそは、るこるが狙っていた最大の好機。己の祈りを以て、その身より放った波動が藍羽姫を飲み込み――そして。
「……ぐふぅ!? ぐ、こ、これ…は…ぁぐぅっ!」
 藍羽姫の身がびくりと震え、そして喀血する。何が起きたか理解するより先に、更なる痛みが彼女の体内を襲う。
 るこるが放ったそのユーベルコードは、敵の強さと、話したオブリビオンの数に比例する。己のユーベルコードにて戦闘力を高めたこと、それは即ちこのユーベルコードによるダメージも増すということ。そして負傷が更なる戦闘力強化とダメージを生む半無限ループ。
「ぐ……ぅっ。ですが……まだ、わたくしは戦える……!」
 追撃と振るわれた香の袈裟懸けの刃を、左腕を掲げ食い止め。右手を手刀と成して、香の胸を貫かんとする――が。
「あうぅっ!?」
 踏み込んだその足が滑り、その場に膝を付いてしまう。伸ばした手刀は力なく、香の左脇を擦り抜けるのみ。
「――大地の精霊よ、この地に染みた悲しみの血への贖いを、かの鬼へ――」
 それはニコリネの行使した精霊魔術。大地の精霊はその呼びかけに応え、藍羽姫の足元の土を泥濘と変じせしめた。突然のその変化に鬼姫は気付けずに足を取られ。
「享楽の報い……受けなさい……!」
 そして、改めて振るわれた香の剣によって、深く斬り裂かれることとなったのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桐崎・早苗
我が一族は古くより魑魅魍魎を討ち祓いし陰陽の一族
…故に、この羽織の桐紋に賭けて、負けるわけには参りません

●戦闘
まずはUCの治癒符による治療を
香さんの方も念の為
続けて香さんに『式神:こち』を付けましょう
こち、お願いします
以降の治療は必要に応じて

さて
風は五行においては木
則ち、金剋木
風の刃は鉄の刀で【武器受け】をし打ち消しましょう
防ぎきれないものは霊力の【オーラ防御】にて対処を
『呪殺符』も袖から飛ばし、敵の行動を潰すように追い込みたい所
近づけたなら一太刀入れます

●戦闘様式
・右を前に向けた半身の構え
・基本は片足を軸に円の動きで半歩動いての回避や受け流し
・右に刀、左に短刀の二刀流で蹴りや掌底も混ぜる


スコグル・ノルン
任務も残るはあとひとつです

怒りや憎しみも一貫した美はあるのですが
個人的には、もっと生き様や個性がほしいのです
というわけでして、はい
私は貴方と相容れません
猟兵としての契約の仕事、そして『趣味の違い』により、ここで倒させてもらいます

●戦闘
我は死を選別する者、戦の中に輝く英雄の魂と共に――……えーと、忘れたので以下略(UC発動
…ヴァルキュリア・フォーム!

風の刃は天使の翼の羽ばたきで【吹き飛ばし】できませんかね…?
あと速度で翻弄を狙いつつチクチク突いて【体勢を崩す】などで味方の支援を

隙が出来たら【槍投げ】で【貫通攻撃】も狙います
戦乙女、スコグルの名の元に――その身に刻め!

アドリブアレンジOK



 刃と手刀とが空を裂く。香と藍羽姫との打ち合うこと数合。
「…っ!」
 肩を押さえ後ずさる香。押さえたそこから滲み出る赤い血。やはりこの敵、強い。
「ふむ、悪くはないですが……まだまだ、ですね」
 指に纏わる血を振り捨て、失望したかのような様子を見せる藍羽姫。
「その程度の有様では、いずれご家族を失っていたのでは?」
「………!!」
 呆れたような調子で言ってのける鬼姫、それを聞いた香の貌が怒りに歪む。明確なる挑発、なれどそう受け流せるだけの精神の猶予は、今の彼女には無い。
 と。そこに飛び来た一枚の符。それが香の腕に貼りつくと、傷口の痛みが退いてゆくのが分かる。傷が塞がってきているのだ。
「香さん、私達も共に戦います」
「残るもう一つの任務。最後まで、お供しますよ」
 そして並び立つ二人の猟兵。香の傷を癒したのと同じ符を手にする桐崎・早苗(天然風味の狐娘・f10614)と、もう一人、スコグル・ノルン(気ままな戦乙女の悪魔・f32014)。
「さて、藍羽姫とやら」
 そのスコグル、香の様子を一瞥し確認の後、藍羽姫へと向き直る。何か、と小首を傾げる彼女に対し、スコグルは続けて語りだす。
 曰く、怒りや憎しみを以て戦う様にも一貫した美はあるが、彼女としては、もっと生き様や個性を見たいということ。
 即ち、激情による力を臨む藍羽姫と、信念による力を臨む己とは相容れぬと。故に。
「猟兵としての契約の仕事、そして何より『趣味の違い』により、ここで倒させてもらいます」
 大鎌を突き付け宣言するスコグル。そして早苗も。
「…この羽織の桐紋にかけて、負けるわけには参りません」
 桐崎家は古くより魑魅魍魎を討ち祓う陰陽師の一族。その使命を果たす時と。腰より抜いた二刀、その一方たる太刀を突き付ける。
「――良いでしょう、かかっておいでなさい!」
 あくまで余裕を保つ笑みのまま、迎え撃たんと両手を広げる藍羽姫。戦いの始まりである。

「こち、香さんをお願いします」
 早苗の声に応え、香のもとへ白い毛玉めいた霊体が纏わりつく。
「これは……精霊?」
 妖剣士として、霊的なものへの知識も一通り修めているらしく。香はそれを一目見て何であるかを理解した。
「はい。木の精霊です。敵は風を操るようなので、その護りにと」
 五行において、風は木行に属する。同じ属性に対応する精霊ならば、護りには有用であろう、との判断だ。
「我は死を選別する者、戦の中に輝く英雄の魂と共に――」
 そしてスコグルは、槍へと変形させた鎌を構え、戦闘形態を取るべく詠唱を開始する……が。
「――……えーと、忘れたので以下略」
 まさかの詠唱中途放棄である。だがそれでもユーベルコードは十全に発動した。戦乙女の悪魔である彼女の、戦乙女としての力を発揮する為の変身。その身は深紅のドレスに包まれ、背には天使の翼。槍もまた壮麗さを増した形状へと変化する。
「全力というわけですね、そうこなくては!」
 その様に歓喜を見せながら藍羽姫は駆ける。腕を振るたび、切り返すたびに鈴が鳴り、都度生ずる風の刃が三人を襲う。
「何の!」
 早苗は其に対し刀を振るい打ち払う。オーラを帯びた刀に打たれた風刃が、空気と化して崩れ消える。
 風、即ち木行に打ち勝つには、木剋金、即ち金行に属す力を以てすれば良い。鉄製の刀は元より金行に属するが、早苗はこれに金行の力帯びたオーラを付与。以て風刃を打ち払う力を与えたのだ。
「その程度の風、届きはしません」
 スコグルは背に負った天使翼を強く羽搏かせ、自らも風を起こす。逆巻く風が藍羽姫の起こす風とぶつかり合い、互いに相殺される形にて風刃を崩す。
「……今……!」
 そしてその風は、香を襲った風刃をも打ち払う。此処ぞ好機と香は駆けだす。藍羽姫、反応し更なる風を起こさんとするが、そこに突き出される槍。咄嗟に身を逸らしかわす鬼姫。
「援護します、香さん」
 それは無論スコグルのもの。反撃をと振るわれた手刀を飛翔で回避、負わんとする鬼姫を更に飛び来た符が制する。それは神秘を滅ぼす呪詛帯びたる符。早苗が放ったものだ。
「好き勝手はさせません、このまま抑え込ませてもらいます」
 藍羽姫を包囲するかのように符を展開し、動きを制限にかかりながら早苗は駆ける。藍羽姫、風刃を放ち斬り捨てんとするも、空いた穴はスコグルの槍が補う。巧みな二人の連携が、鬼姫を抑え込み。
「そこ……隙ありよ……!」
 そして彼女のもとへ香が到達。駆けてきた勢いも乗せて、妖刀を大きく振りかぶり――渾身の袈裟懸けを以て、その身を斬り裂き。
「悪鬼、疾く滅びなさい……!」
 更には早苗も横薙ぎの刃にて追撃を加え。よろめいた鬼姫を、スコグルはその上方から捉え。
「好機、ですね」
 徐に槍を逆手に構え、振りかぶる。それは、そう、槍の投擲姿勢――
「戦乙女、スコグルの名の元に――その身に刻め!!」
 叫ぶと共に放たれた槍は、狙い違わず藍羽姫の胸を貫き。その身を一時、地へと縫い付けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アビゲイル・ガードナー
【POW】
※アドリブ絡み連携歓迎
※香に前章同様の深い共感

従妹のヘンリ(f31471)と一緒

残酷?…ふざけないでよ!
香さんの愛を、旦那様と娘ちゃんの愛を、踏み壊して!
ソレをせせら笑う、悪魔でも滅多にいない外道が!
ヒトの…香さんの、愛を、罪を、騙らないでっ!

…ヘンリ、アビー達も手伝うよ
涙は、まだ止まらないけど…
香さんが立ち上がる為に!

『ルラン』覚醒、アビーを包んでっ!
※アシンメトリ(左半身重視)の軽装鎧姿、肌露出多め

地を駆ける香さんを空からの【切り込み】で支援
飛んで火に入る毒の虫…すぐに笑えなくしてあげるね、外道
コレが、アビーの【ストライク・ボルケーノ】っ!

香さん、譲ってあげる…旅路の始まり、だよ


ヘンリエッタ・アドミラドール
【WIZ】
※アドリブ絡み連携歓迎
※香に前章同様の深い共感

従姉のアビー(f31470)と一緒

わたし達は『悪』と定められし命
でも等しく『外道』にあらざるモノ
そして『愛』を尊ぶ異端の女です
ソレを残酷だと罵るなら…

ええ…殺りますよ、アビー
悪逆の法を以て外道を滅ぼし、
香さんの嘆きに…報いを!

『フレキ』覚醒、ヘンリを包んでっ!
※アシンメトリ(右半身重視)の軽装鎧姿、肌露出多め

インパルス・クレイモアで2人の背後から援護です
全ては白黒の磔で、致命の隙を作り出す為に…!
これが、わたしの【ディヴァイン・エクリプス】っ!

香さん、旦那様と娘さんの想い出を是非
貴女の大事な愛、その証人になりたいんです
長き旅路の出立前に…


リヴィアン・フォンテーヌ
藍羽姫、貴女のやり口は唾棄すべきものです、許すわけにはいきません
此処で討滅させていただきます!

無銘の聖剣ではなく双聖剣を手に持ち戦います
香殿をサポートするように動きます、仇を討つべきはやはり彼女以外にいないでしょうから
っ!?……これは、まさか!
先程使った無銘の聖剣の一つが香殿を主に選んだ?
……私が失敗作と断じても、立派に聖剣であったということですか
妖刀だけでは一手足りないでしょう、使ってください。そして、名を付けてあげて、それはもう貴女の聖剣だから
そして聖剣の力を見せてあげましょう、真名解放!【泉に眠る無辜の双剣(イリジスタード・イリティルド)】ぉぉぉぉ!!
大瀑布が如き水の刃で、香殿に繋げます



「……ふ、ふふ、ふ……」
 その身に少なからぬ傷を負いながら、藍羽姫は笑う。
「猟兵の皆様……その力の程、大したもの。ですが」
 続いて来る三名の猟兵達、彼らに伴われる香へ向けた笑みは、嘲笑。
「良いのですか? わたくしが唆したとはいえ、ご家族を殺めたのはあくまで彼女の手に他なりません。それを赦し、生きろなどとは、なんと残酷な――」
「だ――」
「ふざけないでよ!!」
 狂える鬼として生きる方が幸いだったのではないか、そう宣う鬼姫へ、怒りの反応を返さんとした香――だったが。彼女より早く反応した猟兵がいた。
「香さんの愛を! 旦那様と娘ちゃんの愛を踏み壊して! ソレをせせら笑う、悪魔でも滅多にいない外道が! ヒトの……香さんの、愛を、罪を、騙らないでっ!」
 双子同然の従姉妹、その姉、アビゲイル・ガードナー(ブライトテンペスト・f31470)が劇場のままに吼える。その桃色の瞳を、溢れる涙に濡らしながら。
「――わたし達は、悪魔と堕天使。『悪』と定められし命。でも等しく『外道』にあらざるモノ」
 妹、ヘンリエッタ・アドミラドール(シャドウライトニング・f31471)は、口調こそ冷静ながら、その紫瞳に宿る意思はアビゲイルと同じく。
「そして『愛』を尊ぶ異端の女です。ソレを残酷と罵るなら……!」
 従姉同様の、或いはそれ以上の激情。愛に生きるこの従姉妹達にとって、愛を踏み躙る存在とは何よりも赦しがたい外道であるが故に。
「藍羽姫、貴女のやり口は唾棄すべきものです、許すわけにはいきません」
 そんな彼女達とは異なる生き方、在り方を有するリヴィアン・フォンテーヌ(湖の乙女・f28102)にとっても、かの敵が必ず討滅すべき敵であるという認識は変わらず。
「……そう。私の最愛の夫と、娘を……己の愉楽の為に、死に至らしめた貴女……絶対に、赦しはしない……!」
 猟兵達もまた、己の怒りを共有すると知ったが故に。香の怒り、己を忘れる程には至らず。なれど怒りは怒りとして。激しく熱く、かの鬼姫へと向けられる。
「――ふ、ふふ。良い。良い怒りです。それでこそ、戦い甲斐が――」
 対する藍羽姫、一時俯いてくつくつと笑いを漏らし――その身より、紅蓮のオーラが立ち昇る。傷が徐々に塞がりだすと共に、その総身に、それまでにない力が滾りだす。
「――殺し甲斐があるというものですねぇ!!」
 くわ、と上げた顔は禍々しき闘志と殺意に溢れ。四人ともを皆殺しにしてみせんとする確たる意志を感じさせる。
「香殿、私達もお手伝いします。貴女の本懐、果たせるように……!」
 リヴィアンは香に告げる。頷く香。
「……ヘンリ、アビー達も手伝うよ!」
 溢れる涙を拭おうともせず、アビゲイルはヘンリエッタに呼びかける。香が再び立ち上がる為、その助成を成さんと。
「ええ……殺りますよ、アビー」
 ほぼ間を置かず、ヘンリエッタは頷く。悪逆の法を以て外道を滅ぼし、香の嘆きに報いを齎す為に。
「……行きましょう……!」
 そして香も、妖刀を構えて――戦いが始まった。

「『ルラン』覚醒、アビーを包んでっ!」
「『フレキ』覚醒、ヘンリを包んでっ!」
 アビゲイルとヘンリエッタ、両者が胸元の宝飾へ指を這わせ呼びかければ、其々の宝石から溢れ出す魔力。それらが二人の身を包み、弾ければ。
 アビゲイルは左半身、ヘンリエッタは右半身を重点的に固めた、アシンメトリの軽装鎧姿へと変化する。アビゲイルはその手に聖剣を、ヘンリエッタは長槍を。
「この無垢の刃を以て、お相手致します!」
 駆け出す香に並び、リヴィアンもまた、双の聖剣――イリジスタードとイリティルド、一度も人の手に渡ったことのない無垢の聖剣を手に駆ける。
 香が妖刀を振るう。身を退き躱す藍羽姫、そこへ更にリヴィアンが片手の聖剣以て斬り込む。堪らず跳躍する鬼姫、そこへ飛び込むはアビゲイルだ。
「すぐに笑えなくしてやるんだから…!!」
 振り下ろした聖剣を、藍羽姫は鍔元を狙って腕で受ける。流血も厭わず、そのままアビゲイルを跳ね飛ばしにかかりつつ。香を目掛け手刀を――
「やらせません!」
 だがそこへ繰り出されたのは、ヘンリエッタの雷刃。紫電によって形作られた巨大な刀身が、藍羽姫の攻撃を妨げる。そこへ。
「隙ありよ……!」
 香が刀による刺突を繰り出す。刃は鬼姫の右肩へ深く突き刺さり、確かな傷を彼女へ齎す。
 三人は、香を主力とし彼女の隙を補い、好機を作り出すという形を以て連携していた。繰り出される波状攻撃は、確実にかの鬼姫へ傷を重ねていく。
「ちぃ…っ! 忌々しい! 纏めて吹き飛ばしてくれましょう!」
 苛立たしげに叫びながら、藍羽姫は上空高く跳躍。鈴の音が鳴り響きだすと共に、周囲を猛烈な風が包みだす。
「我が鈴の音に応えて来たれ、逆巻く龍よ! 我が敵の一切を、斬り刻みそして食い尽くせ!」
 詠唱に応えて形作られる、無数の風刃。それらが嵐の如く荒れ狂い、四人へと迫る――!
「……? これは……」
 如何にこの攻勢を乗り越えるか、と思案するリヴィアン。と、そこに感じた奇妙な感覚。先の戦いで用いた無銘の聖剣の一つが、反応している……?
「……まさか、香さんを主に選んだ……!?」
「……え……?」
 突然のことに理解の及ばぬ香。だがリヴィアンはここに賭けた。
「香さん。この剣は貴女を主と選びました。どうか、妖刀と共に使って…そして、ここでその力を示してみてください!」
 取り出した無銘聖剣を差し出すリヴィアン。躊躇う香だが、逡巡の時間はない。意を決して、聖剣を手にする。
「ありがとうございます、では早速この力を……!」
 妖刀と聖剣とを二刀流にて構える香、彼女に力の使い方を示さんとばかり双聖剣を構えるリヴィアン。アビゲイルとヘンリエッタも二人に並ぶ。
「この剣は人の罪過を知らず水底で眠る双子、我が手を離れず、故に人に穢れぬ無垢の刃――」
 イリジスタードとイリティルド、双の聖剣が高密度に圧縮された水を纏う。
「昏く堕ちし愛よ、合判する慈悲の刃よ。裁きを創り賜え……!」
 ヘンリエッタの長槍から光が放たれて。その周囲に無数の魔法陣が展開される。
「誠心、凝縮。専心、発火。丹心、結実…っ!」
 アビゲイルが構える聖剣が炎を噴き上げ、それは次第に刃を形成してゆく。
「……あなた……恵……私に、力を貸して……!」
 香もまた、聖剣と妖刀とを構え。妖刀の妖気と、聖剣の聖気とが入り混じり、相反する力が共に奔流となって溢れ出す。
 四者四様の力の奔流が、迫り来る嵐と対峙し。そして。
「――真名解放! イリジスタード・イリティルドぉぉぉぉ!!」
 リヴィアンが振り下ろした双聖剣から、瀑布の如き水流が撃ち出され。
「これが、わたしの『ディヴァイン・エクリプス』っ!!」
 ヘンリエッタが槍を掲げると同時、周囲の魔法陣から、白と黒、無数の光条が放たれて。
「これが、アビーの『ストライク・ボルケーノ』っ!!」
 アビゲイルが炎の巨刃を振り下ろすと同時、地面からは熱き炎が溢れ出し。
「これで……全て、終わらせる……!!」
 香は聖剣と妖刀とを同時に振り下ろす。神々しき白光と禍々しき紫光とが、同時に噴き出して。
 四つの力と、渦巻く大嵐とが激しく衝突し――そして、爆ぜた!
「ああぁぁぁぁっ!!?」
 その力の余波をまともに浴びた藍羽姫、地に墜落して動けず。
「香さん!」「香殿!」
 香もまた、初めて使った力の反動でよろめきかけてはいたが。アビゲイルとリヴィアン、両者の後押しを受け。聖剣と妖刀とを構えて駆け出し。
「これで……終わりよ……!!」
 漸く立ち上がった藍羽姫、その身へと二本の刀剣による連斬を叩き込んでみせた。
「ぅ……あ、そん、な、馬鹿……な……。このわたくしが……猟兵ですらない、只人に……」
 その結末が、あまりにも信じられない様子で。悲劇齎せし悪辣なるオブリビオンは斃れ、骸の海へと還っていった。



 香の自宅の仏壇に、手を合わせる香と猟兵達。香の夫と娘、正式な葬儀は数日の時を要するも、猟兵達はそれまで此処には残れぬが故。こうして、簡易ながらに二人の冥福を祈ったのである。
 その後、香は猟兵達に対し、家族との思い出を幾つか語った。彼女の愛の証人になりたい、というヘンリエッタの望みによっての事だ。
 リヴィアンから香へ渡された聖剣は、そのまま彼女が持つこととなった。無銘であったその剣だが、銘は彼女につけて欲しいとのリヴィアンの提案を受け、付けた名前は。
「『栄恵』――夫の名前の一文字と、娘の名前を合わせて、付けてみたけれど……大丈夫、だったかしら」
 無論、異を唱える猟兵はおらず。

 香は、二人の喪が明けるのを待って、引き続き妖剣士として鍛錬の日々に戻るという。
 それが、オブリビオンの唆しがあったとは言え、自らの手で家族を殺めた己に為せること、為すべきことと。そう考えるが故に。

 猟兵達がグリモアベースへと帰還した後。彼女が如何な人生を送ったのか、知る者は居ない。
 ただ、彼女の未来に、僅かでも光が差せばと――そう祈ることが、唯一つの、成し得る事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月08日


挿絵イラスト