●まだ見ぬ世界と愛しき故郷を繋ぐもの
がたん、ごとん。木造列車はゆっくりと進む。
静かに流れる窓の冬景色は、急かす気持ちを落ち着かせ、ふと思い出に浸る時間を与えてくれる。
思えばあっという間だった。と、乗客は各々の過去を振り返る。そう、この娘もまた、頬を赤らめながら遠くを眺めるのだ。
――八千代さん、僕と共に歩んでくれませんか。
そう伝えられたのは三ヶ月ほど前だったかしら。その言葉がどれほど嬉しかった事か。
私はやっと、準備を終えました。
今、私は親元を離れ、貴方の居る場所へ向かっています。
……この列車に映る風景は、どれも私に馴染み深いものばかり。
友達と遊んだ公園、お気に入りのお店、よく歩いた桜並木。そして、私の家。
永遠の別れという大袈裟なものではないけれど、新しい旅立ちがこんなにも楽しみで、そして寂しいものとは思いもしていなかった。
ごめんなさい。貴方に会えるまで、せめて今だけは……列車の旅を楽しむ事にしますね。
がたん、ごとん。木造列車はゆっくりと進む。
●ダニエルの情報
「サクラミラージュの木造列車ってのは、乗った事あります?」
知念・ダニエル(壊れた流浪者・f00007)は猟兵達に問い掛ける。
「まぁ名前の通り、木造の列車っすね。UDCアースとかにある電車よりもゆっくり走る乗り物っす。向かい合う赤いソファーのような座席に座って、大きな窓から見える景色を楽しむ事ができるっすよ。今は冬なんで、だるまストーブも稼働している頃でしょうっす」
何処か古くシンプルながらも豪華に見える列車の内装。そんな様子を背後に映し出しながら、ダニエルは説明を続ける。
「今回皆さんには、田舎町から都市へ向かって運行している木造列車『暁号』に乗って貰うっす。とある人に接触しつつ、まずは列車の旅を楽しんで下さいっす」
とある人、というのは今回の依頼の目的でもあるという。
「乗客の一人に『八千代』という女性がいるっす。黒くて長い髪に『椿の髪飾り』を付けた人なんで、一目で分かるはずっす」
彼女は婚約者の元へ向かう最中の乗客である。そんな彼女に――突然の不幸が訪れようとしている。
「えぇ、彼女に影朧が襲って来るっす。乗客に紛れて……ひたすらに彼女の命を狙ってくるっす。それを阻止して欲しいっすよ」
成る程、共に過ごすのは危険から守る為かと、猟兵達は理解しただろう。
「影朧が彼女を狙う理由は……『恋の嫉妬』、なんですかねぇ。恋は人を狂わせるとも言いますし」
影朧の正体は、恋に破れた女の怨念と、女が用意した刺客らしい。彼らは八千代を狙い――同じ列車の中に潜んでいる。
「敵が何処から現れるのかは分からないっす。だからこっちも乗客に紛れて、尻尾が出るのを静かに待つって訳っすよ。だからいつでも守れるよう、八千代の傍に居てあげて下さいっす」
恋の嫉妬なんて、底知れないものっすから。そうダニエルは呟いた。
「木造列車『暁号』は午前一〇時三〇五分発。もうすぐ出発っすね。準備ができたら俺に声掛けて下さいっす」
雪と桜を眺めるってのも、なかなか楽しいと思うっすよ、と、ダニエルは長い髪を揺らした。
ののん
明けましておめでとうございました。
今年もお世話になります、ののんです。
●状況
サクラミラージュにある木造列車『暁号』が舞台となります。
●1章について
ターゲットとなる人物に自然と近付き、のんびり列車の旅を楽しみましょう。車両はペットOKです。
何処か懐かしい雰囲気の町並みを眺める、お喋りをする、だるまストーブで何かを焼いて食べるなど、ご自由にお過ごし下さい。お弁当やお土産を売っている車両もあります。
尚、2章が始まり次第、列車は緊急停車、ターゲットを除く乗客は避難し始めます。
●ターゲットについて
婚約が決まった若い女性、八千代。
おっとりしていてお人好し。椿の髪飾りが似合う美人さん。
一声掛ければすぐに仲良くなれるでしょう。
●プレイングについて
受付期間は特に設けておりません。
キャラ口調ですとリプレイに反映しやすいです。
お友達とご一緒する方はIDを含めた名前の記載、または【(グループ名)】をお願い致します。
同時に投稿して頂けると大変助かります。
申し訳ありませんがユーベルコードは基本的に【選択したもののみ】描写致します。
以上、皆様のご参加お待ちしております。
第1章 日常
『旅客車に揺られて』
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POW : 食堂車両で何かを頂く
SPD : 展望車両で景色を眺める
WIZ : 客席車両でゆったりする
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ひんやりとした冬の風。木造の列車に乗れば、ふんわりと感じる温かい空気。
黙々と本を読む男性、景色を眺める親子、うとうと眠る女性など。客席車両に並ぶ綺麗な赤色の座席には、数人の乗客しかいなかった。元々利用客の少ない路線なのかもしれない。
だるまストーブに乗せられた網には、餅やスルメがこんがりと焼かれていた。小腹を空かせそうな良いにおいがしてくる。
そんな様子とは裏腹に、窓の世界を覗けば雪がちらりちらり、桜がひらりひらりと舞っている。サクラミラージュでは当たり前の風景ではあるが、これもまた幻想的だ。
『まもなく発車致します。ご乗車の方は列車の揺れにお気を付け下さい』
アナウンスが流れた後、木造列車『暁号』はゆっくりと動き出す。
静かに動き始めた窓の風景を、花柄の大きな風呂敷を抱えた一人の女性は寂しそうに眺めていた。
シルヴィー・ルルー
「おひとりですか、お嬢さん」
八千代さんに、低く作った声音でナンパ風の声掛けをしてみるわ。
こっちを見たところで、
「ごめんなさい、あまりに寂しそうな顔をしてたものだから。お邪魔なら退散するけれど」
と謝りをいれつつ、よかったらお話しませんかと。
こちらは気軽な旅の空と、自己紹介して出身地や都市の名物などを聞きつつ、
「そういえば、あなたは旅というわけでもなさそうね。お引越し、とか?」
と事情に踏み込んでみましょうか。
彼が待ってるなんて聞かされたら冷やかしながら、素敵ねと伝えるわ。
事が起きる前に仲良くなれたらいいかな。
さて、お昼くらいのんびり食べられたらうれしいけれど。
ところで駅弁のおすすめは?
今はまだ小さな家々と田畑が広がっているけれど、この風景も徐々に山と木々だけに変わり、そして短いトンネルを潜り抜けた先からは、待ち望んでいた都市が広がる事だろう。
それもまた楽しみであるような、ちょっと寂しいような。どっちつかずの複雑な気持ちがぐるぐると回っている。
そんな女性の隣へ、一つの影がぴたりと止まる。
「おひとりですか、お嬢さん」
ふと掛けられたその声に、はっと驚くように振り向く。そこにはすらりと立つ見知らぬ女性がいた。
「は、はい」
ぼんやりとしていたせいか、その低い声が一瞬男性に聞こえてしまった。頬を赤らめ慌てて頷く女性。
「ごめんなさい、あまりに寂しそうな顔をしてたものだから」
お邪魔なら退散するけれど、と、シルヴィー・ルルー(プラグマティック・ハッカー・f30358)は柔らかく微笑む。
「いえ、そんな事は……! ……故郷を離れるので、少し考え事をしていました」
「そう、通りで眉が下がっていると思ったわ。この辺りに住んでいたの?」
「はい。一人で町を離れるのは初めてで」
そわそわと風呂敷を触る指は、どこか緊張しているようにも見えて。あら、とシルヴィーは腰を少し曲げて笑顔を近付けた。
「よかったら、お話の相手になってくれないかしら。私もおひとり様なのよ。ちょっとした旅の途中で、ね」
そう問いかければ、女性もふわりと笑い、静かに頷いた。
女性は自らを八千代と名乗った。田畑に囲まれた田舎町で生まれ育ち、今日、両親の元を離れ都市に向かう所だという。
「へぇ、そうなの。一人旅……という訳でもなさそうね。お引越し、とか?」
シルヴィーが大きな風呂敷へ目を向けると、八千代は恥ずかしそうに頷いた。
「はい、実は婚約が決まったのです。この髪飾りをくれた彼と、駅で待ち合わせをしているんです」
「婚約? それはおめでたいわね、とっても素敵。それに髪飾りを送るなんて、彼も良いセンスじゃない?」
八千代の頭を彩る椿の髪飾りを褒めれば、彼女も嬉しそうに微笑んだ。既に心も和らいでいるようだ。
「あら、そういえば」
話に花が咲く中、ふとシルヴィーが車内の鳩時計を見る。もうすぐ正午だ。
「終点の駅まではまだ掛かるわね……あなた、お昼は?」
「お昼、あっ」
八千代が手で口を覆う。その様子にシルヴィーは思わず笑った。
「っふふ。ねぇ、駅弁のおすすめってある?」
「駅弁ですか? ここですと、桜でんぶを使ったお弁当が有名でしょうか」
「ふぅん? 桜でんぶのお弁当……なんだか気になっちゃう響き。いいわ、ちょっと買ってくるわね」
これも旅の縁よ、とシルヴィーはウインクを見せて席を立ち上がった。そして同じ車両に乗る仲間――猟兵達に笑顔を向けて合図を送ると、シルヴィーは隣の車両へと向かい、人数分の駅弁を購入してくるのだった。
大成功
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サリー・ヤナギバ
服装はブラウンのワンピースにタイツ、ブーツ、ベージュのマント
髪は下ろしてベージュのベレーを被ります
使い魔のビビを籐の籠に入れ暁号に。……旅行客に見えるかしら?
まずは目的の方を見つけましょう
あの方が八千代さん…ですね
その方の斜め向かいに腰を下ろし
食事用にコッペパンをストオブで焼きましょう
(さあビビ籠から顔を出して八千代さんに可愛く甘えてね)
八千代さんの気を引いたらビビを撫で
列車の旅は長く掛りますね
旅は道連れといいますもの
お喋りのお相手になっていただけませんか?
長旅にはお喋りとおやつがいいお供になってくれますよ(綺麗に焼けたパンを紙に包んで差出す)
「落ち着き、祈り、幸運」を活用
アドリブはお任せです
カツン、カツンと、ブラウン色に体を包んだ旅客が車内を歩く。緑色の混ざった青い髪を揺らしながら、八千代の斜め向かいの席へと腰を下ろす。
席の近くにはだるまストーブ。丁度良い温かさだと確認できれば、旅客、サリー・ヤナギバ(白い手のサリー・f30764)は藤の籠からコッペパンを取り出す。
「うん、美味しく焼けそうね」
ストーブの網の上にコッペパンを置く。ここなら特別美味しいパンが焼けそうだ。そう思うと少しわくわくしてくる。サリーの顔にも自然と笑みが溢れ出る。
(「次は……さあビビ」)
膝に置いた籠が、ごそごそとひとりでに動き出す。列車の揺れではないようだ。やがてひょこりと籠から顔を出したのは、緑色のリボンを付けた可愛らしい仔猫。
「にゃあ……」
「!」
向かい側の席に座っていた八千代と仔猫の目が合う。突然の仔猫の登場に彼女は驚き、そして静かに目を輝かせた。小さく鳴く仔猫に目が離せる訳がなく、八千代は口を開けたまま仔猫をじっと眺めていた。
その様子に、サリーはにっこりと自慢の笑顔を見せながら声を掛ける。
「ふふ、猫はお好きですか?」
「はっ! すみません、えぇ、可愛いなぁと思って、つい……」
慌てて恥ずかしそうに笑う八千代。
「撫でてもいいですよ、ビビは大人しい子なので」
「いいのですか? ビビちゃんって言うのですね。こんにちは」
寝起きなのか、少し動きが緩やかな仔猫ビビ。白色とクリーム色の小さな体をそっと撫でれば、ほわほわとした柔らかい冬毛が指から伝わってくる。くせになる気持ち良さだ。
「列車の旅は長く掛かるものですから。このままお喋りのお相手にもなっていただけませんか?」
ビビを撫でながらサリーが言えば、そうですね、と八千代も喜んで頷いた。
「ありがとうございます。では、これを。お近づきの印です」
隣から良い匂いが漂ってきた。ストーブの上で綺麗に焼けたコッペパンだ。その一つを紙に包みながら手に取ると、丁寧に包み直してから八千代に渡す。
「よければおやつに。あんこも焼けて甘くなってると思いますよ」
「わぁ……なんだか、パン屋さんで売ってるパンみたいです」
「一応パーラーメイドですからね」
バイトですけど! と付け足すサリー。
八千代は桜でんぶの弁当を隣に置き、サリーからコッペパンを受け取る。さくさくとしたパンと甘いあんこに笑顔が絶えない。おまけに仔猫もじっと見つめてくる。列車の中での思わぬ幸せに、彼女の中から寂しさが徐々に薄れていった。
「ビビはこっちよ」
もう一つの焼けたコッペパンを小さくちぎり、ふぅ、と息を吹きかけ冷ますサリー。手のひらに置かれたパンを、仔猫ビビも美味しそうに食べた。
大成功
🔵🔵🔵
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
列車に乗り込めばまず達磨ストーブの元へ行き手を翳そう
勿論目的の女性が何処に居るか把握はするが…何だ。先ずは身を温めんと動けぬ故に
宵、お前も冷えているだろうと己の手で宵の手を包まんと試みつつ暖まれば宵と共に女性の近くの席へと移動しよう
俺は怖がらせてしまうやもしれんからな
先ずは宵の隣から視線を向け二人の話を聞こうと思う
婚約の旨を聞いたならばそれは目出度いと祝いの言葉と共に
共に歩んで行ける相手という者はなんだ、掛替えのない物だからなと宵と繋いだ手に力を込めつつ宵へ笑みに細めた瞳を向けてみよう
後は、出会いやどのような相手なのか彼女が寂しく思う暇がない様話しかけ色々と談笑できれば幸いだ
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
いそいそとだるまストーブに近寄り暖をとるかれに小さく笑みつつ続いて
千代さんの席や列車内の構造をそれとなく確認してから
暖まったなら千代さんの方へ向かい声をかけてみましょう
こんにちは、ご婦人
ストーブ列車というものは暖かいですね
彼女の近くの席に座れたら、お話に花を咲かせましょう
どちらへお出かけですか、と訊ねつつ
婚約の話を伺えたなら、隣に座るかれの穏やかな声音に重ねて彼女への祝いの言葉を
ええ、大切な人とともに歩める喜びは筆舌に尽くし難いものです
かれと繋いだ手に力を込められれば握り返して
向かわれる地はどのようなところなのかなど、お話を伺ってみたいです
(「これが木造列車……」)
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が車内を見渡す。温度だけでなく色合いも暖かく、とても落ち着く空間だ。UDCアースの電車とは似ているようでまた異なる乗り物なのだと頷く。
旅客を装った他の猟兵達と話す八千代の姿を確認すれば、自分達もと近付こうと思ったのだが。
「?」
共に来たザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は八千代の横を素通りする。何処へ向かうのかと思いきや、彼はおもむろにだるまストーブの前へ行き、手のひらを近付けていた。
「ああ、寒かった故、先ずは……な」
確かに今日は冷えていた。窓に流れる風景は降り積もる雪景色。列車に乗るまで、駅のホームもそれだったのだ。ヤドリガミとて寒いものは寒い。
そんな姿に宵は思わず苦笑した。まぁ、その気持ちは分かりますよ、と。勿論ザッフィーロも考えがあっての行動ではあったのだが。
「先に俺が行っては怖がらせてしまうやもしれん。宵から彼女へ声を掛けてくれないか」
だがその前に、と宵の手を包むザッフィーロ。宵の手は冷たく、まずは体を温めてからでも遅くはないだろうと提案する。
「ありがとうございます」
――あなたの心はいつも温かいですね。……共に行動する度、常々そう感じますよ。
「こんにちは、ご婦人」
椿の髪飾りが似合う女性、八千代に声を掛ける宵。乗客が少なく、更には背の高い男性が同じ車両に乗っていれば、男性二人がだるまストーブへ向かった様子を八千代も気付いていた事だろう。
「あなた達も旅行ですか? 外、寒かったですよね」
「えぇ、思わずストーブに向かってしまいました。ストーブ列車というものは暖かいですね」
見られていましたか、と顔を赤らめる宵。
「僕は彼と二人で旅行中です。そちらはどちらへ? お荷物が大きいようですが」
やんわりとした彼の口調に八千代も疑う事なく(そもそも疑う事を知らない性格なのだろう)、恥ずかしそうに答える。
「実は、婚約が決まったので……故郷を離れた所なのです。終点の駅で彼と待ち合わせをしていて」
「婚約。それは非常におめでたい事ですね」
事前に知ってはいたものの、いざ本人の口から聞けば特別喜ばしい気持ちが強まった。宵の隣にいたザッフィーロも、八千代に怖がられないよう微笑んでみせる。
「目出度い事だ。共に歩んで行ける相手という者はなんだ、掛替えのない物だからな」
祝いの言葉を贈りつつ、ザッフィーロが宵の手を再び握り締めれば、まぁ、と八千代は静かに察した。
「……良いですね。私も、お二方みたいになれるでしょうか」
正直、期待と不安でいっぱいなのです。そう彼女は呟いた。ザッフィーロは説く。
「確かに最初はそう思う事だろう。無理はない。何においても新たな門出とはそういうものだ。だが、愛した相手を信じ、想い続ければ、幸は続くものだと……俺は信じている」
「そうですね。大切な人と共に歩める喜びは……筆舌に尽くし難いものです。新しい生活が始まれば、あなたもきっと……それが分かるはずです」
二人の言葉に、八千代の緊張は和らいでいく。ああ、素敵だなと、夢中になったのかもしれない。
「もし良ければ、どんなお相手であるのか聞いてもいいですか」
「ええと……そうですね。学生時代に知り合った方で……」
少し視線を逸らし、八千代は小さく話す。
「……そちらのお方と、少し似ているかもしれませんね」
おや、と声を出したのは宵。ザッフィーロが彼に顔を向ければ、なるほどと頷き。
「……それはさぞかし良い相手なのだろうな」
保障しても良いかもしれぬ、とザッフィーロは満足気に笑みを浮かべた。
大成功
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バルタン・ノーヴェ
POW行動 アドリブや絡みはOKデース!
「恋心、嫉妬……愛、でありますね」
結ばれようとしている二人を引き裂こうとは、あまりにも残酷であります。
影朧の方のお気持ちも辛いのでありましょうが……此度は、八千代殿に肩入れするでありますよ。
場所が場所なので、テンションを抑えて、お淑やか―に、乗車しマース!(※数秒ももたなかった)
食堂車両でオススメのお弁当を買って、八千代殿の近くの席でエネルギー補給デース!
ンー、風景も合わさって、とても美味しいデスネー! っと、ソーリー、騒々しかったデスカナ。
という具合に、自然に八千代殿に挨拶して接触しマース!
食事と団らんを楽しみながら、ハプニングを待つばかりデスネー!
雪と桜が舞う中、列車は静かに目的地へと進んでいた。そんな外の様子とは裏腹に暖かい色合いに包まれた車内は、古くも何処か高級感の溢れる雰囲気を漂わせていた。
ただ、そんな列車の中でこの先不幸が訪れようとしている。嫉妬に狂った影朧が現れるという予知。それは何としても阻止しなければならない。
「恋心、嫉妬……愛、でありますね」
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は呟く。愛の形とは様々なものがある、とはよく耳にする。しかし、今結ばれようとしている男女二人の中を引き裂こうと、ましてや命を奪ってまでも遂行しようとするその精神。それは愛であっても、あまりにも残酷であるとバルタンは認識した。
恋に狂う影朧も、死して尚、何かしらの想いがあったのだろう。辛い気持ちはあるだろうが……ここは今を生きる八千代という女性に味方をするとバルタンは決めた。
さて、この車両には乗客が少ない。故に騒ぐには場違いの空間。であれば普段のテンションは抑えめに、そしてお淑やかに過ごすべきだ。
……色々分析した結果、そう決めたはずなのに。
「ヤー! オススメのお弁当もお土産も気になってしまって! ついつい買い込んでしまいマシター!」
がらりと扉を開き、食堂車両から帰ってきたバルタン。袋を片手に満足そうに通路を闊歩し、八千代の近くの席に座り込む。
「さてさて、ちょっとお早いお昼ですがエネルギー補給デース! お弁当オープン! Wow、このピンク色がサクラデンブというものデショウカ? ご飯も玉子焼きもピンク色でソーキュート!」
一人盛り上がるバルタン。八千代の気を引く為とはいえ、勿論それは演技でもなく彼女の素の姿でもあった。
「ンー、暖かいのに窓の外は雪景色! なんとオモムキのある空間なのデショウ! 風景も合わさって、お弁当もとても美味しいデスネー!」
幸せそうにお弁当を食べるバルタン。実際、木造列車の旅は何を行っても楽しく感じられるものであった。このまま何も起こらなければいいのに! と思いもしたが、残念ながらそれは叶わないのだ。
「……っと、ソーリー、騒々しかったデスカナ」
ふと八千代の視線に気付いた(ふりをした)バルタンが彼女に声を掛ける。じっと見ていた八千代は急に声を掛けられた事に慌てた。
「いえ、全然! 楽しそうだなって思ってただけです」
「ええ楽しいデス! 何せワタシ、初めて木造列車に乗ったノデ!」
八千代との接触に成功したバルタンはそのまま会話を続ける。
「アナタもこの列車は初めてデスカ?」
「いえ、でも私も数回しか……。住んでた場所から離れる事なんて、あまりなかったもので」
「おやおや、それはわくわくするような、ちょっと心細いような……って感じデショウカ?」
ならば尚更! とバルタンはにっこり笑う。
「旅は楽しむものデス! 誰かと一緒にいれば、お弁当だってもっと美味しくなるものデース!」
全力で列車を楽しむその姿に、八千代も元気を貰ったようだ。そうですね、と微笑み、彼女もお弁当やコッペパンを食べ始めた。
明るくなる列車の車内。八千代も猟兵達も、一時の列車の旅を楽しんだ。
――ハプニングが起こるまでは。
大成功
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第2章 集団戦
『帝都斬奸隊』
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POW : 風巻(しまき)
【仕込み杖を振り回して四方八方に衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 神立(かんだち)
【仕込み杖】による素早い一撃を放つ。また、【インバネスと山高帽を脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 幻日(げんじつ)
自身の【瞳】が輝く間、【仕込み杖】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
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楽しい列車の旅も、あっという間であった。穏やかだった空気は、その一瞬にして消え去った。
――!
猟兵達は気付く。これは――殺気だ。
咄嗟に武器を構えた猟兵が、キン、と何かを弾いた。刃だ。
「……」
そこには、黒の装束に身を包んだ男がいた。杖に仕込んだ刃を光らせ、切り伏せようとしたのだ。
ここまで猟兵達に接近していたにも関わらず、殺気に気付くまで男に気付かなかった。……これはただの乗客ではない。手慣れた人斬りの影朧だ。
「……どけ」
低い声で男が呟けば、ぞろりぞろりと車両に黒の装束の者達が現れた。仕込み杖に気付けば、他の乗客は悲鳴を上げた。
『緊急事態により、この列車は緊急停車致します。乗客の皆様はお気を付けください』
慌てたアナウンスと共に列車は急停止した。開かれた乗車口から次々と逃げ出す乗客。しかし八千代だけは席に座ったまま体を硬直させていた。
「椿の女、お前に用がある」
男に刃を向けられていたからだ。
「お前を斬らせて貰う。……そう命じられたからだ」
一体誰から? どうして私を? 見知らぬ男達に命を狙われている事が理解できても、その心当たりは全く思い出せない。
声を出さずパニックに陥る八千代を、猟兵達はすかさず囲む。
「どけと言ったはずだ。お前達に用はない。俺達は女が斬れれば、それで良い」
冷たい視線は、八千代だけを見つめていた。
猟兵達は考える。八千代を逃がした所で、男達は彼女だけを追うだろう。
車両の中で戦うか、それとも外へ誘い込み戦うか。……彼女から離れずどう守り抜くか。
列車の戦いは今、始まろうとしていた。
サリー・ヤナギバ
か弱い女性に剣を突き付けなんという態度…!
なら私も武器を取らせて頂きます
籠からビビを出し私は銃の櫻柳を構えます
さ、八千代さん座席に身を隠し姿勢を低くなさって(敵との間に割り込み落ち着き、かばう、おびき寄せを活用)
私はパーラーメイド
悪漢等に戦わずして屈しませんよ(八千代さんを背後にかばい敵に制圧射撃して距離を取りたい。接近する敵には容赦なく部位破壊で剣を持つ手や腕を撃つ。ビビは八千代さんを励まし落ち着かせるように傍へ)
UCで「誰の命令?」と詰問
もし応えれば一緒にいる猟兵と情報共有、銃での攻撃は続行
それとも雇い主に忠実?応えなければ…
感情無くこの影は貴方たちを締め上げ苛むでしょう
アドリブ連携OK
バルタン・ノーヴェ
POW行動 アドリブOK、できれば絡み・連携を希望しマース!
「八千代殿には傷をつけさせないでありますよ!」
嫁入り前の柔肌に傷をつける訳にはまいりマセーン! しかしこの男、攻撃が速そうデスネー。
OK! 襲撃者の排除は他の猟兵の皆さんに任せて、ワタシは防御専念に回りマース!
「六式武装展開、金の番!」
UC《金城鉄壁》を起動して、八千代殿の全身を囲い守るシールドへと形態変身しマース!
ワタシが移動するのは無理デスガ運んでもらうのはイケルので、八千代殿の手で運んでもらえるよう軽量のためホバーもしておきマース。
色気を出して攻撃して隙を作っては本末転倒ゆえ、徹底した警護態勢でことが終わるのを待ちマース!
「どけと、言ったはずだ」
「いいえ」
仕込み杖から刃を見せつけ睨む男。しかしサリー・ヤナギバ(白い手のサリー・f30764)は屈する様子を見せず、八千代の前から一歩も動かなかった。
「私はパーラーメイド。これくらいの緊急事態には慣れています」
先までにあった笑顔は消え、片腕に握った機関銃の口を男に向けている。左手では姿勢を低くするよう八千代に指示を出していた。
「私達にお任せ下さい、八千代さん。さ、座席に身を隠し姿勢を低くなさって」
八千代は今にも口から心臓が飛び出そうなほど恐怖していたが、落ち着かせるようにそっと囁いたサリーの声に、真っ白になっていた頭をどうにか働かせ何とか体を動かしてみせる。
「そう、慌てずに。その場から動かないで下さいね。……っ!!」
戦場は止まってはくれない。八千代の身を案じながらも、敵の動きを察知したサリーはすかさず機関銃を放つ。男達が後ろへと引き下がる。
「か弱い女性に剣を突き付けるなんて、なんという態度……!」
彼女が悪事を行ったとは到底思えない。八千代と出会ってからほんの少ししか時間は経ってはいないが、それだけは分かる。
「うーん、嫁入り前の柔肌に傷をつける訳にはまいりマセーン! 断じてNOデスヨ!」
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)の調子は相変わらずではあるが、ただただ楽しそうにしているだけではない。彼女にとって戦場とは、非常に身近な庭だ。
「お気を付けくださいネ、この男達、なかなかの玄人と見たのデス。刃の動きに注意デース!」
「ええ、分かりました!」
歴戦兵の助言に、ならば、とサリーは再び射撃を行う。男達の足元を狙っては距離を離し、隙を見つけてはすかさず仕込み杖に弾丸を撃ち込み武器を弾いた。
「……」
一人の男が自身の味方の影に潜みつつサリーの射撃を冷静に避けていた。そして背を低くし、仕込み杖に力を込める。
「! しゃがむのです!!」
怪しい男に気付いたバルタンの警告に、サリーは咄嗟に身を縮める。
直後、頭上を掠めたのは刃の衝撃波。男が仕込んだ刃から無数の風の衝撃波を放ったのだ。男の周囲へと放たれる衝撃波は、車内の座席や窓、そして他の男達を斬り刻む。
なんという事だ、彼らには仲間同士という意識がないのか。などと脳裏に浮かぶ余地もなく。
「八千代さんっ!」
サリーは後ろを振り向く。壊れた座席の下敷きになっていないか。怪我はないか。――しかし、そう心配したのも束の間であった。
「大丈夫デース!」
八千代もサリーも驚いた。いつの間にか八千代は不思議なシールドを全身に纏っていたのだ。更にそこからバルタンの声が聞こえてくる気がした。
「六式武装展開、金の番! 八千代殿には傷をつけさせないでありますよ!」
それがユーベルコードによって無敵の姿へと変形したバルタンだと察したサリー。ほっと安心すれば再び戦場へと顔を向ける。あの男は皆殺しをするつもりなのだろう。衝撃波をすぐに止めなければ。
サリーは男の頭上に向けて射撃を行った。崩れた天井が男の気を逸らす。その瞬間、男は攻撃の手を止めた。否、『動けなくなった』のだ。
「――誰の命令ですか?」
サリーの質問と共に男を襲ったのは影。床を伝って男の足元から侵蝕した影が彼の動きを封じる。
男は質問に対して、こう答えた。
「……言った所で、無駄だ」
自身の末路を知った上か、否か。その真実は分からない。男は影に飲み込まれ、仕込み杖だけがからりと床に落ちた。
(「なんだか体がムズムズ……しマスネ
……?」)
自らが動けない代わり、八千代の防衛に徹底するバルタン。しかし不思議な気持ちに駆られる。
「にゃーん」
(「にゃーん
……?」)
それはサリーの仔猫ビビの鳴き声。バルタンに守られている中、八千代も仔猫を抱き締め守ろうとしていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シルヴィー・ルルー
あら、物騒ねえ
レディを前に無作法よ?
敵は多勢で、八千代さん以外に興味がないなら、こっちも数が必要ね
エレクトロレギオンで召喚した機械兵器で空間を埋め、彼我の間に壁を作るわ
足元も、背もたれの上も埋めてしまいましょう
網棚から襲わせてもいいかしら
私自身は抜いたダガーを手に、八千代さんの傍で壁を抜けてきた敵の攻撃を弾き、捌きましょう
どう動くにしても大事な時間、まずは稼がせてもらうわ
もちろん、私の機械兵器をただ突っ切ろうとするようなお間抜けさんにはズタボロになってもらうけれど
荒事は好きじゃないのよ、本当に。楽しそうだなんて失礼だわ。
でも美味しいお弁当を教えてもらったのだもの、受けた恩は返さなきゃね?
列車の中は相変わらず賑やかだ。賑やかではあるが、穏やかではない。
「あら、物騒ねえ」
シルヴィー・ルルー(プラグマティック・ハッカー・f30358)は慣れた手付きでダガーを回す。涼しげな微笑みを崩さないまま男達の前へ立ち塞がる。
「用があるのは椿の女だけだ」
「随分と一途なのね。どちらにせよ、レディを前に無作法よ?」
彼女にも私にも失礼じゃない? と言ってみせれば、男達は仕込み杖を構えて見せ付けた。
「嫌ねえ、そんなに私には興味ないって事かしら? 冗談のつもりだったけれど、本当に失礼じゃないの」
ひらりと手を動かせば、シルヴィーの背後の空間が歪み出す。歪んだ空間から現れたのは小型機械兵器の群れだ。
「残念だけど、そんな人の応援なんてしたくないわ」
機械兵器の群れは津波のように車内に流れ込む。圧倒的なその数に男達は飲み込まれた。シルヴィーと男達を阻むように機械兵器は厚い壁を生成していく。
「貴方も戦える方……だったのですか?」
座席の影へ身を潜める八千代が震える声でシルヴィーに問い掛けた。恐怖に押し潰されそうなか細い声だったが、シルヴィーへ向けるその視線は、微かな希望を信じた信頼の目であった。
シルヴィーは首を傾け微笑む。
「そうよ」
短い返答であっても、今の八千代にとっては希望をもたらす大きなものであった。
「美味しいお弁当を教えてもらった恩よ?」
なんてね、と言ってみせれば、八千代の顔から一瞬だけ笑顔が零れた気がした。
「小細工を」
機械の壁に行く手を阻まれた男は赤い瞳を輝かせた。仕込み杖から抜刀した刃を高速で振るい、機械兵器を薙ぎ払う。周囲に立つ仲間など興味がないと言わんばかり、彼らは無差別に刃を振るい続けた。
こんなもので視界を塞ぐなどと。そう苛立ったのかもしれない。互いを気にする事なく彼らは次々と機械兵器を破壊し、そして互いを傷付け合った。
座席の下や網棚に潜んでいた機械兵器がそんな様子を見計らうと、男達の死角からビームを放ち始めた。反撃だ。例え仕込み杖でビームを一度弾かれようとも、二度目以降は確実に傷口を貫く。
男達には隠れる場所などない。あるとすれば、それは仲間の影だ。とにかく今は、このうっとおしい壁を破壊しなければ。
一人の男は視界を覆う機械兵器の壁を破壊し続けた。一撃でぼろりと消え去ってしまう機械兵器を、斬って、斬って、斬り続けた。人を斬った時の感触とは程遠く、非常につまらないと感じた。
幾度目かの斬撃で、壁の向こう側が見えた。男が最後に大きく腕を振るえば視界は広がり、目的の女が映り込んだ。あと一歩踏み込めば斬る事ができる。はずだった。
「あら、まあ」
目的の女の前に、別の女が立っていた。
「あなたって……随分とお間抜けさん、ね」
気付かぬうちにボロボロとなっていた男の体を、楽しげに笑う女が短剣で引き裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
おやおや、物騒ですねぇ
女性に優しくない男は嫌われてしまいますよと笑いながら、彼らの斜線から八千代さんを遮るようにして立ちましょう
ここは僕たちにお任せください
貴女は必ずお守りします
周囲の敵への牽制はかれに任せ
敵の攻撃への対策に「オーラ防御」を付加した「結界」を八千代さんへ
また同時に「野生の勘」「第六感」「見切り」をもって敵の多段攻撃に備えます
それから八千代さんや自分、ザッフィーロに近づく敵を「衝撃波」で「吹き飛ばし」つつ
隙を見て「マヒ攻撃」「範囲攻撃」をのせた【ハイ・グラビティ】にて、敵を攻撃しましょう
ええ、ザッフィーロ
もちろんですとも、きみこそ怪我はないですね?
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
多勢で一人を囲むとは…しかも女性相手に恥はないのかと
そう眉を寄せつつ即座に光の盾を展開『かば』う様に八千代の前に出よう
敵の数が多い故故【狼達の饗宴】にて呼び出した狼にて八千代を囲み俺や宵を突破された時の護りにしようと試みる
宵の防御や結界がある故安心だが…敵意を向けられる事自体恐ろしいだろう故
近づく前に狼で牽制や攻撃を出来ればと思う
攻撃は八千代を狙う敵>宵を狙う敵>手近な敵の優先順位で『怪力』を乗せたメイスを振るって行こう
勿論八千代や宵に攻撃が向かう場合は『盾・武器受け』にて『かば』い『カウンター』反撃を
八千代を護る事が優先だが…矢張り宵の事が心配故時折視線を
宵、怪我はないな…?
突如現れた男達。一瞬にして消える楽しげな雰囲気。怯える八千代。
このような惨劇が起こる事は認知していた。いつか阻まれると知っていた。それでも、あの微笑ましい時間を突然壊された事への怒りは収まらない。
「……女性に優しくない男は嫌われてしまいますよ」
笑顔を見せながら男達にそう言い放つ逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)。
「彼奴等に好かれる要素など何処にも無かろう」
ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)のきっぱりとした発言にも、まぁそうですね、と宵は頷き。
「八千代さん、そのまま身を守る態勢を維持していて下さいね。貴女は必ずお守りします」
座席の影へ隠れる八千代へ優しく声を掛けながら、結界で彼女の体を包み込む宵。ザッフィーロも男達へと歩み寄りながら、足元の陰から狼達を呼び出す。狼は血肉を欲さんと男達へ牙を見せ付けながら八千代を囲む。
男達が仕込み杖を構えながらもザッフィーロと宵へ異様な視線を向けるのは、自身よりも体の大きい男達に圧倒された故か、それとも、人ならざる者と察知した故か。
「紛い物を斬った所でつまらん」
斬るべきは人間の肉のみであると、男達は赤い瞳を鈍く光らせる。
「紛い物と、そう言ったか」
車内にザッフィーロの声が低く響く。
「人の身を得る事の何が罪なのだ」
前進する脚は速さを増す。メイスを握り締める力が強まる。その正体は、怒りと悲しみだ。
目の前に立つ男が仕込み杖の刃を高速で抜刀してみせた。ザッフィーロは淡く輝く盾で斬撃を弾き飛ばすと、力の赴くままにメイスを振るう。重い音と共に、男の身体が人形のように簡単に吹き飛んだ。
「ッ!」
大きく響き渡った座席の破壊音と共に、男達は一斉に抜刀し総攻撃を仕掛けた。例え仲間が傷付こうと関係がない。仲間とすら、思っていないのだから。
「無駄ですよ」
ザッフィーロの背後から宵の声が聞こえる。杖の先を男達に向ければ、突如彼らは地面へと叩き付けられた。逆らう事のできない重力も、宵の感情の表れなのだろうか。
「物事も命も、もう少し丁寧に扱いなさい」
説教とも言える一言を強く吐き出しながら、男達の意識が事切れるまでみしりみしりと押し潰す。
しかし、一人の男が最後の力を振り絞り重力から抜け出した。狙いは椿の女、八千代。しかし今はその行く手を阻む長身の二人が邪魔だ。男はまずザッフィーロの横を横切ろうと、微かな隙間を駆け抜けようとした。
しかし、ザッフィーロや宵をすり抜け、八千代の首を刎ねるまでの体力を、男が持っているはずなどなかった。
「残念だ」
他者の声を聞かず、己が罪を認めなかったか。瞳を閉じたザッフィーロはメイスで男を薙ぎ払った。宙に浮かんだ男の身体を、すかさず宵の放った衝撃波が襲い掛かる。
吹き飛んだ男はボロボロとなった身体を再度動かそうとした。しかし、何者かによって男の視界は暗闇に包まれた。
なんだこれは。男がそう感じた直後、その耳に入ってきたものは、獣の声。――それが最後であった。
「怪我はないな……?」
ザッフィーロが振り向く。その言葉は間違いなく宵と八千代に向けたものであったが、彼の視線は自然と宵へと向いている。
「ええ、ザッフィーロ。もちろんですとも。……きみこそ怪我はないですね?」
傷付いて困るのは僕も同じなのですよ、と微笑み掛け。その様子を見た八千代は、ああ、と、彼らの絆を感じ取れたような気がした。
なるほど、これが――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『卒面ノ怨念『椿姫』』
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POW : 紅眼ノ煌
【紅色に輝く瞳で見定めること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【超高速で放たれる紅光線】で攻撃する。
SPD : 貴女ノ顔ヲ欲スル
自身が【女性として劣等感】を感じると、レベル×1体の【死んだユーベルコヲド使い】が召喚される。死んだユーベルコヲド使いは女性として劣等感を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : 血粧ツバキ
自身の装備武器を無数の【血液で出来た椿】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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嗚呼、椿の女! 椿の女!
あの人を奪ったのは貴女だったのね!
その椿の髪飾りは、あたしが手にするはずだったのに!
あたしが愛したあの人は、あたしの目の前から消えてしまった。
あの人は、あたしを選んでくれなかった。
だからあたしは、自殺した!
ねえ、恋に破れた『あたし達』。恋に恵まれなかった『あたし達』。
あたしは椿を付けた女が憎い。あたしから彼を奪った女が許せない。
だから力を頂戴。あの女を、殺すわ。
人斬りの男達が消え去り静まり返った車内に、一人の女学生がふらりと姿を現した。
女学生は八千代に言う。
「ふふふ……貴女、あたしからあの人も、その椿も、全てを奪って逃げていくのね……?」
八千代は目を見開いた。女学生の制服に見覚えがあったのだ。そう、自分が通っていた學校のものだ。しかし、その相手には見覚えがない。
「あたしはね……ずっとあの人を影から見守ってきたの。貴女よりもずっと前から、何年も前から!」
女学生は狂ったように笑う。
「貴女よりもあたしの方が詳しいのよ? なのに、何故貴女が椿を持っているの? ああそうね、あの人、騙されているのね!」
一方的な主張に八千代は混乱する。震える声で必死に声を絞り出すのだが。
「わ、私、そんな事……」
「嗚呼、嗚呼! あたしに椿を頂戴! あの人に会うのはあたしなの! あたしこそが、椿に選ばれた女!!」
彼女の声は、既に届かない。
「ふふふ……!! あたしは……あたしは……『椿姫』!!」
彼女は恋に溺れた怨霊の集合体。
たった一輪の椿を求めて、袴を翻す椿姫だ。
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
……陰から見守ってきて、それで、かの人の隣にいるための努力はしたのですか?
想いは、伝えなければ伝わりません
伝えられずに達成できなかったことを他人の所為にするのは、ご自分への裏切りです
敵を強く見据えながら 「オーラ防御」を付与した「結界」で八千代さんへの護りは万全に継続しつつ
「全力魔法」「2回攻撃」を使用し狭い車内で戦うために範囲を収束させた【天航アストロゲーション】で攻撃しましょう
ザッフィーロ、怪我をした相手に心をいためるのは僕も同じなのですよ
そう声をかければ、返ってきた応えには唇をへの字に曲げてから
仕方ないですね……
―――まぁ、かれに怪我など負わせませんがね
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
敵の姿が見えれば宵と八千代を護る様前に立とう
影から見守ってきた…か
一方的ながらも恋慕を抱いた相手ならば幸せになって貰いたいと思うのではないか?
辛い気持ちも解るがお前の為にもならんだろうと声を投げるが…きっと届きはせんのだろうな
戦闘時はメイスにて【stella della sera】
八千代と宵を『武器・盾受けにてかば』いながら射程を伸ばしたメイスにて敵が近づかぬ様牽制しつつ攻撃を仕掛けて行こう
多少俺は傷ついたとて、後で治せば良いからな…と
…宵…。同じ心持ちな事は解るが、この我儘だけは聞かせて貰おう
戦闘中は宵が動きやすい様に、そして八千代や宵に攻撃が行かぬよう行動出来ればとそう思う
椿姫は八千代が気に喰わなかった。どうしてこんな女が選ばれたのか? だからその取り巻きである猟兵も余計に気に喰わない。
「どうしてその女を守るの? そんなに良い女なの? あの人が選んだ女だから!?」
ひたすらに叫ぶ椿姫に、やれやれと逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は首を振る。
「僕は『あの人』とやらは知りもしないお方ですが……良い殿方なのだろうとは思いますよ」
だからこそ、この列車で彼女を目的地へ送り届け、その姿を見てみたいのだと。
「ほんの少しだけお話を聞いただけでも、彼の事はうっすらと分かったつもりでいます。あなたは……本当に彼の事を知っているのですか?」
「えぇ、あたしは彼の全てを知っているわ!」
「そうですか」
残念そうに宵は眉をひそめる。
「僕には、全く分かっていないように見えてしまうのですよ」
「なッ、何ですって
……!?」
椿姫はショックを受けた。それはまるで、生きた証を全否定されたような衝動と似ていた。
「確かにお前は、彼については詳しいのだろう。しかしそれが何だ。それ以上の行動は行ったのか?」
ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)も続けて椿姫に問い掛ける。
「影から見守ってきた……確かそう言っていたか。まさかその行動だけに努力を費やしたとでも言うのか」
「ええ、あなたは全てを知った上で……かの人の隣にいる為の努力はしたのですか?」
椿姫はこぶしを強く握り締めたまま、何も答える事はなかった。
「……辛い気持ちは理解しよう。だがその上で、そうであるならば……一方的ながらも恋慕を抱いた相手ならば、幸せになって貰いたいと思うものではないか?」
行動せずとも、行ったとしても、もし俺が彼女と同じだったとしたらば。……恐らくそう願うのではないだろうか。彼の者の目先の幸福を奪ってまで、何が幸せなものなのかと。
「……あたしは……」
ザッフィーロの言葉に、椿姫は隠し持っていた包丁を静かに取り出す。
「……あの人の事を考えた結果、これが幸せだと思ったのよ!」
辿り着いた先が、死だったと。だが死にきれなかったと。
「周りの女が! あたしの邪魔をしたのよ! だから近付けなかったのよ!!」
血濡れた包丁が砕けるように姿を消したかと思えば、それは無数の紅い花びらと化した。どろりと濡れた椿の花びらは容赦なくザッフィーロと宵を、否、八千代へと向かって襲い掛かった。
「きゃあっ!!!」
八千代が思わず悲鳴を上げる。しかし宵の結界が花びらから彼女を守る。すかさずザッフィーロも二人の前へと出でて盾となろうとしたが、不思議とその盾や自身の体には傷がついている様子がない。
「ザッフィーロ、怪我をした相手に心をいためるのは僕も同じなのですよ」
ザッフィーロの周囲にも八千代と同じ結界が展開されている事に気付けば、宵に向かって礼と共に一つ。
「……同じ心持ちな事は解るが、この我儘だけは聞かせて貰おう」
多少負った所で、自分に限っては後で治せばいいのだと。ザッフィーロはそう伝えると結界と共に前進し、椿姫に向けてメイスを振るった。
「仕方ないですね……」
想いを伝えて理解し合った所でそう上手くいかない時もあるのだと、後の宵は思う事だろう。
ザッフィーロは椿の花びらをメイスで振り払うと、じゃらりとメイスを変形させた。鎖で伸ばされたメイスの頭が椿姫の腕を狙う。痺れた片腕を痛そうに手で覆う彼女へ、更なる追撃が待ち受ける。
「全く……後に引けなくなったのか分かりませんが。他人の所為にするのは、ご自分への裏切りと同じですよ」
椿姫の頭上から降り注ぐそれは、流れ星。否。
「――さて願うのは、己の願望か、それとも他人の幸か」
はらり、花びらが燃ゆる。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ・連携OKであります!
「何とも悲しい姿でありますな」
愛を得られなかった女性たちの集合体とは……愛を知らぬワタシに同情されるのは厭かもしれマセンガ、禁じ得マセーン。
もし、縁があれば……。いえ、影朧となった身の上で、生ける方を傷つけようとするのは見過ごせないであります!
手前勝手でありますが、その無念! 鎮めさせて頂きマース!
真の姿(軍装)を開放、武装を構えて戦闘開始であります。
見抜かれるだけで穿つ光線。常態では回避や防御は困難であります。
であれば、見えぬようにすればよいのです。
UC《粉塵纏・破城槌》にて我が身を隠し、至近より一撃を撃たせていただくであります。
どうか、安らかに……。
死した後も誰かを追い求める。例えそれが他者を酷く傷付ける事となろうとも、亡者は己が欲望だけで動き続ける。
今目の前にいる椿姫を見るなりバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は静かに息を吐いた。
「何とも悲しい姿でありますな」
そう呟いた自分自身も、愛と言うものは知らない。愛知らぬ者からそんな事を言われれば、さぞかし椿姫も怒るに違いない。
「だからと言って見過ごす訳にもいかないのです。刺客の用意、それも暗殺のプロに頼むとは……まさに計画的犯行であります!」
そう、もはや気持ちや生き方の同情などで片付く出来事ではない。彼女はもう、許せない領域へと足を踏み入れてしまったのだ。
「それにアナタ……既に何人か殺していますね?」
八千代だけでなく、椿の花を持つ女性を。
「ええそうよ!」
椿姫は得意気に答えた。何処か誇らしげなその表情に、ああ、もう彼女は戻れないのだとバルタンは改めて悟った。
ならば、行うべき事は一つ。バルタンは軍服に身を包み武器を構える。
「手前勝手でありますが、その無念! 鎮めさせて頂きマース!」
目の前に目的の女がいるのに、どうして邪魔をされなければならないのか。それだけ自分が劣っているのか。自分が何か間違っているのか。……そんなはずない!
「あたしは……あたしは悪くない!」
ぎらりと輝く紅い瞳。大きく見開いたその目に、バルタンは瞬時に危機を察知した。
「六式武装展開……煙の番!」
バルタンが腕を床へと向けた瞬間、車内にいた全員の視界が真っ白となった。彼女の腕から勢いよく煙が噴射されたのだ。
驚いた八千代も身体を小さく丸めていると、何処からかそっと声が聞こえた。
「大丈夫デス、お任せクダサーイ!」
何も分からない空間の中に居ても、その言葉が不思議と八千代を安心させた。
「何よ! 逃げようっていうの!?」
一方、椿姫は苛ついた甲高い声で周囲を探す。至る所から響く足音や物音の方へ振り向くが、人影すら見つける事が出来ない。
それも当たり前だろう。彼女とて普通の乙女であり、戦闘においては素人なのだから。……戦場と共に育った者に勝るはずがないのだ。
「――ガラ空きであります」
背を低くしながら椿姫の懐へ転がってきたバルタンは、腕部に装着したパイルバンカーを彼女へ思い切り叩き付けてやった。
成功
🔵🔵🔴
マルコ・ガブリエル(サポート)
『初めまして、わたくしはマルコと申します』
『皆様を苦しめるのであれば、わたくしも情けは捨てましょう!』
『まあ、なんて美味しそう……! 宜しければ、一緒にいかがですか?』
笑顔が魅力的で朗らかな女の子です。実は故郷を滅ぼされて天涯孤独の身ですが、そうした悲壮感を仲間に感じさせることはなく、いつも明るく振る舞っています。
誰に対しても優しく、敵にさえ「できれば戦わず、穏便に事件を解決したい」と考えるような優しい性格ですが、無辜の人々を苦しめる悪い奴には心を鬼にして全力で攻撃をお見舞いします。
美味しいもの、特に焼肉をみんなで食べるのが大好きで、無事に事件解決した後はよく他の猟兵をご飯に誘おうとします。
サリー・ヤナギバ
アドリブ歓迎
八千代さん、あの人の言葉など
聞き流しなさいな
あれは自分で死を選びそれを幸福を得た人のせいにする為の詭弁、狂った恋の悪い終わらせ方
…消して貴女の責任などではない
声をかけ「おびき寄せ、落ち着き」を見せ八千代を「かばう」
椿姫には銃を向け
貴女は悲しい恋をしたのでしょう、死ぬ程に
けれど先程の言葉、刺客、恋の未練と呼ぶには余りにも物騒です
UC発動
椿姫の赤い眼と真っ向から睨み合い「一斉発射、貫通攻撃、爆撃」額を「部位破壊」狙う
相手の攻撃は
「見切り、受け流し、幸運」で極力避けましょう
負傷は「覚悟」の上ですもの
足や腕を撃ち抜かれてもこの戦闘が終わるまで怯みませんよ…!
八千代さんを死なせるものですか!
「八千代さん」
サリー・ヤナギバ(白い手のサリー・f30764)は背後に隠れる八千代に話し掛ける。
「あの人の言葉など、聞き流しなさいな」
「……その、私、本当に……」
本当に何も知らないのです。そう言いたかったのだろう。
「ええ、分かってますよ」
サリーは彼女に横顔を見せる。初めて顔を合わせた時と同じ笑顔がそこにあった。
「今更、貴女を疑うものですか」
八千代の膝の上で仔猫ビビも心配そうに見つめている。
「あれは、自分で死を選び、それを幸福を得た人のせいにする為の詭弁……狂った恋の悪い終わらせ方」
そう、貴女の責任などではない、と。
「ね、八千代さん」
彼女を包み込むように大きな翼を広げ、優しく肩に手を添えるのはマルコ・ガブリエル(焼肉天使・f09505)。
「あなたの清らかな心を、一体誰が疑うものでしょうか? あなたに刃を向けた行為そのものを、流石のわたくしも許す事などできませんわ」
本当ならば言葉だけで解決できれば良かった。しかし椿姫には届かない。それはもう仕方のない事なのだとマルコは悲しんだ。だが、八千代にはふわりと笑みを見せ。
「……事が落ち着きましたら、素敵な美味しいものをご紹介してくださいますか?」
美味しいものは人に幸せを運ぶ。あなたにも、それを感じて欲しいから――。
「椿姫、哀れな椿姫」
「あたしを……哀れと言わないでッ!」
椿姫はぎらりと睨んだ。しかしサリーはそんな事では怯まない。
「貴女は悲しい恋をしたのでしょう、それも死ぬ程に」
そこまでは分かってあげてもいいわと伝える。だが、サリーの顔に優しい笑みはなく。
「けれど……先程の言葉、刺客、恋の未練と呼ぶには余りにも物騒です。貴女は……やりすぎてしまったのです」
がちゃりと機関銃を構える。銃口は目標へ向けて真っ直ぐと、微動だにせず。
「何よ……あたしの方が醜いっていうの……? どうしてあたしが悪いのよ!!」
椿姫は吠えながら紅い瞳を輝かせた。溢れる殺意が光となって集結すると、鋭い光線となって発射された。
光線はサリーの右肩を掠めた。焦げる服、染みる赤い血。少しでも体を動かさなければ顔を貫かれていただろう。
「サリーさん!」
「問題ありません。例え何処を撃ち抜かれようとも……私は一歩も退きません! 八千代さんを死なせるものですか!」
サリーの強い決意が声から伝わる。それと共に響く銃の発砲音。銃弾は椿姫の額を見事に貫いてみせた。
額に穴が開いた所で彼女は人をやめた者。倒れそうになった体をぐいと踏ん張り、再びサリーを睨み付けた。
「あぁ、あたしの、顔に……!」
みしり。
「……!?」
耳元で、いや、頭の中から何か音がする。みしみしと、何かが大きくなって体内を侵食しているような。
「椿姫さん」
立ち上がったマルコが、椿姫へ憐みの視線を向ける。
「あなたは罪を重ねすぎてしまいました。わたくし達に今できる事は、悪霊となってしまったあなたを鎮め、来世では清き幸福に恵まれるよう、祈る事だけです」
「悪、霊……?」
みしみしとした音が頭から全身へと広がり、それは瞬時に痛みへと変わる。
「良いですか。その痛みは……あなたの悪意そのものですわ」
棘を生やした柳の樹枝と根が暴れ出し、体内から彼女を苦しめる。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シルヴィー・ルルー
八千代さん、過去の声に耳を傾けては駄目よ
操命行動解析法で列車外から、車内を異界に変える勢いで、片っ端から命あるものを呼び込む
蔦を絡ませ、鳥の嘴で突かせる等、あらゆる方法で攻撃
私自身は八千代さんの傍らで護衛
敵の攻撃に対しても、操った動植物で対応
妬みは怖いわ
でも暴力に怖気づくほど、可愛い女じゃないの
ごめんなさいね
生きて略奪愛をするなら、応援してもできるのに
貴方は一人芝居の果てで、勝手に絶望して死んだのね
哀れな人
見守っていたって、気持ちなんて伝わらないの
椿の花言葉は「控えめな素晴らしさ」らしいけれど
「控えめ」は、働きかけないことではないでしょう?
貴方に椿は似合わないわ
私にも似合わないでしょうけれど
椿姫はボロボロになりながらも尚その執着心を失う事はなかった。例え何と言われようとも、愛した人の椿を手に入れるまで暴走を止める事はないのだろう。
「八千代さん、過去の声に耳を傾けては駄目よ。それに、あの人の事なんて知らないのでしょう?」
だったら尚更よ、とシルヴィー・ルルー(プラグマティック・ハッカー・f30358)は言う。
「どうして……! どうしてあの女を殺せないの!? どうして椿に触れられないの!?」
手の届きそうな場所にいるのに、目の前にいるのに、どうしてこんなにも遠く感じるのだろうか? 椿姫にはそれが分からなかった。
「貴方の求める椿も愛も、届く事はないでしょうね」
「何よ、あたしが死んでいるから!? あたしがその女より醜いから!?」
「椿の花言葉をご存じかしら?」
「花、言葉……?」
シルヴィーの問い掛けに椿姫は言葉を詰まらせる。
「花言葉は確か……『控えめな素晴らしさ』だったかしら。『控えめ』というのは、何も働き掛けない事ではないでしょう?」
八千代へ椿を送った男が、花の意味を知らずして送ったとは思えない。
「見守っていたって、気持ちなんて伝わらないのよ。確かに貴方は恋をしたのかもしれない。けれど今の貴方は、一人芝居の果てで……勝手に絶望して死んだ哀れな人よ」
あの人との恋は始まっていなかった?
彼はあたしに気付いていなかったから?
じゃあ、あたしと彼との関係って――何だったの?
「嘘よ!!」
おぼろげな生前の記憶が彼女を拒絶した。彼女の叫びと共に、その周囲に邪悪なオーラを纏った死霊が召喚される。死んだ彼女と融合したユーベルコヲド使いの魂だろう。
ユーベルコヲド使いがシルヴィーに襲い掛かる。しかし、彼女は涼しい顔付きを崩さないままダガーで斬り付けた。
「暴力に怖気づくほど、可愛い女じゃないの。ごめんなさいね」
そう伝えると、シルヴィーは両腕を広げ指先を動かした。『外から何かを呼び寄せている』かのように見えるその動きに合わせ、割れた窓からバサバサと何かが車内に飛び込んできた。
「きゃああッ!!」
その悲鳴は八千代ではなく椿姫のものであった。鳥だ。様々な種類の鳥が集結して襲い掛かってきたのだ。
鳩や雀の群れがユーベルコヲド使いの視界を妨げ、アオサギが長い嘴で突く。消えゆくユーベルコヲド使いに苛立つ椿姫。しかし彼女自身も、その場から動く事ができなかったのだ。
彼女は鳥が苦手だった。しかし、足が動かないのは鳥に怯えているせいではない。みしりみしりと両足を縛るそれは、桜の根だ。
「あら、壊れた床から根を伸ばしてきたのね」
バサバサと最後に車内に飛び込んできたのは梟。動けない椿姫に向かって鋭い爪で飛び掛かった。椿姫は床に膝を着き、腕で梟を追い払おうとするが、振るう腕には力など入らなかった。
「恋の妬みは怖いものね。……ねえ、椿姫」
シルヴィーは椿姫の姿を見、そして目を閉じた。
「貴方に椿は似合わないわ」
ま、私にも似合わないでしょうけれど。
「た、たすけっ
……!!」
桜の根が椿姫の身体を力強く地中へ引き摺り込む。伸ばしたか細い手は、最後まで何かを掴める事はなかった。ただただ桜の根と共に、冷たい土の中へとずるりと沈んでいったのである。
『――まもなく、終点に到着致します。お出口は左側です。お忘れ物のございませんよう、お気を付け下さい。本日は木造列車『暁号』をご利用くださいまして、誠にありがとうございました』
影朧の襲撃によって車両が破壊されてしまった木造列車『暁号』。しかし猟兵達の働きにより乗客の中から怪我人は出なかった。
『暁号』の代わりとして用意された木造列車に乗り換えると、およそ一時間程で終点駅に到着した。乗客と猟兵達、そして八千代が列車からホームへと降りる。そこへ、一人の男が駆け寄ってきた。
事故があった事を知ったのか慌てて心配する男と、それを笑顔で返す八千代。
ああ、彼がそうかと、猟兵達は各々感じた事だろう。若い男女が向かい合うその様子を、彼らは静かに見守る。
真っ赤な椿の髪飾りは、凛と輝いていた。
成功
🔵🔵🔴