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新しき日を言祝いで

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●思い出せない忘れもの
 なんだったかしら、どうしても思い出せないの。
 約束をしていたはずなのに、それが何であったかのか、わからない。わからないままに、とぼとぼと賑わう街を歩く。
『あの』
 どうして街がこんなに賑わっているのだろうか、誰かに聞いてみようかと、綺麗な晴れ着を着た女性に声を掛けるけれど、誰もが視線を合わせないようにして通りすぎていく。
 そんなに忙しいのかしら、そう、それなら仕方ないわねと、また歩きだすけれど、どうしても思い出せないと彼女……影朧はまた道行く人……晴れ着を着た女性に声をかけるのだ。
 私、何かを忘れてしまっているのだけれど、何を忘れてしまったのかしら、と。

●グリモアベースにて
「明けましておめでとさんやで!」
 明るい声で新年の挨拶をしたのは八重垣・菊花(翡翠菊・f24068)で、足を止めた猟兵達も口々に挨拶を返している。
「それでな、新年早々なんやけどサクラミラージュに影朧が出たんよ」
 桜咲く帝都に現れる影朧は様々だが、今回の影朧はいつもと少し違うのだと彼女が話を続ける。
「影朧いうんは、何かしら傷を持って生まれるもんなんやけど、今回現れた影朧はいつも皆が相手しとる影朧よりも弱くて儚い感じがするんよ」
 何を忘れてしまったのかすら、忘れてしまったような。
「名前も目的も、何があって影朧になってしもたんかも、忘れてしもとるんよ」
 そんな状態だからこそ、誰かを襲うような真似はせずに街を彷徨っているのだ。
 瑕疵を抱えたままの、影朧。忘れてしまった何かを探す彼女を救ってほしい、と菊花は言う。
「影朧にな、色々聞いて思い出させたって欲しいんよ」
 忘れてしまってはいるけれど、優しく根気強く聞いているうちに色々思い出すはずだ。
「ただな、聞いてるうちに影朧になってしもた理由も思い出してしまうやろから、多少の戦闘は避けられへんと思うんよ」
 とは言え、酷く弱っている影朧なので本格的な戦闘にはならないだろう。
「あとな、この影朧の女の子は晴れ着を着とる人が気になるみたいやよって、持ってる人は着てくんもええと思うんよ」
 そして、無意識ながらも影朧が向かっている先は帝都でも人気のある神社らしい、とも。
「ほな、あんじょうよろしゅうな!」
 ぱん! と柏手を打つように両の手を打ち鳴らすと、菊花が帝都への道を開いた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、明けましておめでとうございます、波多蜜花です。
 年明け一本目はサクラミラージュでのお話となります。このシナリオは第三章を初詣となるようにしております、第三章だけはイベシナのようなものだと思ってください。
 三章のうち、どれかひとつだけのご参加もお一人様でもグループでも歓迎しておりますので、お気軽にご参加くださいませ!

●各章の受付期間について
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。各章、断章が入り次第受付期間(〆切を含む)をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。

●第一章:ボス戦
 街を彷徨う影朧『血まみれ女学生』と相対し、彼女が忘れてしまっている様々なことを思い出させていただければと思います。その際、こちらでダイスを振って思い出せるか判定致します。
 思い出せなくても、思い出せてもちょっとした戦闘がありますが、UCを指定していただければそれで大丈夫ですので、心情寄りで構いません。
 また、晴れ着を着ていかれる方は指定があれば記載してください、お任せも可能です。

●第二章:冒険
 思い出せた内容次第で断章にて行えることが決まりますが、影朧に対し不安がる街の皆様を宥めたり、影朧を守りながら目的地へと向かいます。
 詳しくは断章にて。

●第三章:日常
 帝都でも人気の神社への参拝、こちらで有名なのは桜御神籤で今年の吉凶を占えるようです。桜御神籤を引く方はプレイングの冒頭に🌸と付けて占いたい運勢を一つ選んでください。恋愛なら🌸の後に恋、仕事運なら🌸の後に仕、対人運なら🌸の後に人、として文字数削減にお役立てください。例:🌸恋 🌸仕 🌸人 となります。それ以外の運勢を占う場合は🌸の後に何運かお書き添えください。
 結果はダイスで出しますが、結果の希望がある方はプレイング内に記載してくださいね。
 元旦の神社で出来ることは大抵できます、詳しくは断章にて。

●同行者がいる場合について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【明3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『血まみれ女学生』

POW   :    乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
SPD   :    血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●思い出したい忘れもの
 ざわざわと、騒がしい街を影朧が歩く。
「いやだ、あれ影朧じゃないの」
「正月早々、縁起でもねぇ」
 顔を顰め、影朧を遠巻きにした人々がひそひそと喋る。
「通報はしたのかしら」
「帝都桜學府にはもう連絡がいって……ああ、噂をすればだ」
 影朧救済機関である帝都桜學府の制服を身に纏った若者が、影朧を刺激せずにそっと人々を避難させるよう動いているのが見えた。
『変ね、人がいなくなったような……』
 影朧の少女が頬を手に当てて、考えるように立ち止まる。
『……全くいない、というわけではないものね』
 こんなに騒がしいのに、人がいないわけはないのだ。
 ほら、あそこにも人がいるわ。あの人なら知っているかしら、私、わたし。
 どうして、わたしのてはちまみれで。
 わたしのきものはぼろぼろで。
 がらすにうつったわたしのかおは、かなしそうで。
 どこへいくかもわからないのに、どこかにいこうとしていて。
 ああ、わたしのなまえはなんだったかしら。
『私、何を忘れてしまったのかしら……』
 影朧の少女の唇から、溜息が零れた。
袁・鶴
隠f31451と

晴れ着?着てる相手が気になるんなら着てった方がいいでしょ
って事で俺は袴を着てこうかな
隠ちゃんはどんな晴れ着来たのよ
そうUDCで組まされた相手へ軽口を
情報収集をしようと前に出る相手をみればほんと君硬いよねえ?とそう笑いながら声を

ターゲットの彼女を見つけたならば隠と共に向かうよ
彼女の視線や隠への言葉に注意しつつ晴れ着が彼女の視界に入る様に行動
これ、気になったりすんの?もしかして待ち合わせしてた相手が着てたとか?
そう声を投げながらももし敵対行動をとられた場合は【武器受け】しつつ【受け流し・武器落とし】
はいはい、後は任されましたよ
じゃ、少しおとなしくなってくれると嬉しいな、なんてね?


隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎、目の露出NG

晴れ着は着て行くよ(詳細お任せ)
……普通の袴だけど、問題あるの?
現地到着次第、前に出る
【情報収集】なら、僕の方が適任だからね

何も思い出せない様だけれど
『神社』って単語くらいは聞き覚えがあるんじゃない?
晴れ着姿を着たかったのか
それとも、着ている誰かに会いたかったのか
……袁、意外と的を射た意見だね

どんな記憶だったか
僕にとっては正直、何だっていいけど
でも……思い出した上で、誰も傷付けないと約束するなら
――僕は、必ず君に協力する

UC:決意の証
影朧の攻撃は召喚したタンチョウに乗り、飛んで躱そうと思うよ
袁、後は宜しく



●仕事始め
 ぴん、と背筋が伸びるようだと袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)は思う。和装に限らず、着物と呼ばれるものはどうしてか不思議と背筋が伸びるのだ。
「そうは思わない? 隠ちゃん」
「猫背だとかっこ悪く見えるからじゃない?」
 そう、隠・小夜(怪異憑き・f31451)が素っ気なく返すと、鶴がそんなもんかねえと笑う。
「影朧が着てる相手が気になるんなら、着てった方がいいでしょって思って着てきたけど、中々どうして」
 似合ってるでしょ、と店の窓ガラスに映った自分と小夜に鶴が笑う。
 鶴は灰青の着物に白と黒の仙台平の袴、それに濃紺色の羽織を羽織っていて羽織紐は青と銀の玉が連なるもの。洒落た感じが出ている。悪くはないと小夜は思う、思うが別に言う必要もないだろうと黙っていた。
「隠ちゃんも似合ってるよ」
 黒の着物に草紋様の入った薄墨色の袴、白鼠色から青藍へと色を変える羽織で羽織紐はシンプルながらも市松模様が洒落た大坪羽織紐だ。
「そう」
「そうだよ」
 素っ気ない返事にも、鶴はきちんと頷く。コミュニケーションは大事だ、例えUDCで組まされた相手であっても。
「いたよ、ターゲットだ」
 小夜が視線をやった先に鶴も視線を向けると、人の形をしているけれど人ではない――影朧がそこに見えた。
「報告通り、暴れるような様子はないねえ」
「そうみたいだね」
 まるで迷子のようにきょろきょろと辺りを見回しながら、ゆっくりと歩いている。
「僕が先に行く」
 まずは情報収集、そしてそれならば鶴よりも自分の方が適任だと小夜が前に出た。
「ほんと君、硬いよねえ?」
 そう笑う鶴に軽く視線を遣って、小夜は黙ったまま影朧へと向かって行く。
「ああ、待って待って、俺も行くよ」
 こう見えてもフォローは得意なんだよ、と鶴が小夜の一歩後ろをついて歩いた。
 さりげなく影朧の視界に入るように位置を取り、意識を自分たちへ向ける。小夜がそのまま、なるべく刺激しないようにゆっくりと近付いて声を掛けた。
「こんにちは」
『……こんにちは』
 挨拶は返せる、意思の疎通はできるようだと考えつつ、そのまま話を続ける。鶴はといえば、その後ろで笑みを浮かべ、彼女の視線や小夜へ向ける言葉に注意しつつ周囲の様子を確認していた。
「困ってるの?」
『……ええ、ええ、そうなの。私、どうしてかしら、色々忘れてしまっているみたいで』
 話を聞いてくれる人がいたと、影朧の不安気な顔が僅かに和らぐ。
「そう、何も思い出せない様だけれど……『神社』って単語くらいは聞き覚えがあるんじゃない?」
『じんじゃ……』
 じんじゃ、神社。どうだったかしら、と影朧が首を傾げる。
「この先……、君が歩いてる先にもあるよ」
『神社、が?』
 そうだと小夜が頷くと、影朧がそうなのね、と言って人々が歩いていく先を見た。
『神社で、なにがあるのかしら……』
 みんな、きれいなきものをきているわ。
「これ、気になったりすんの?」
 黙って聞いていた鶴が、羽織の裾をひらりと揺らして見せる。
『きれいな、きもの』
 どうだったかしら、きれいだから、きになって。
「晴れ着を着たかったのか、それとも着ている誰かに会いたかった?」
「もしかして待ち合わせしてた相手が着てたとか?」
『待ち合わせ……』
 その言葉に、影朧の瞳が揺れた。
「……袁、意外と的を射た意見だね」
「意外とは余計かな」
 軽口を叩きながらも、二人の注意は影朧へと向いている。小夜の視線は前髪で隠れて相手からはわかりにくいけれど、小夜からすれば慣れたものでよく見えるのだ。
 影朧の持つ記憶がなんであろうと、小夜にとっては正直何だっていい。
 でも、と彼は思う。
「君が忘れてしまった記憶を思い出した上で、誰も傷付けないと約束するなら」
『……わたし、なにをわすれたのかわからないの』
「うん、それでも。僕は、必ず君に協力する」
 それはとても真摯な声音で、影朧へと響く。
『おもい、だせないの、どうして、ああ、わたし、わたし』
 ぶわり、と彼女の背中に黒い百合の花が咲く。
「隠ちゃん」
「わかってる」
 影朧から少し距離を取ると、小夜が小さく呟く。
「力を貸して」
 喚びかけに応じて小夜よりも大きなタンチョウが姿を現すと、小夜がそれに乗って空を舞う。
 わからない、わからないの、と嘆く影朧が叫ぶ。それは衝撃波となって辺りに散るけれど小夜の乗ったタンチョウは、それをひらりと躱す。周囲への被害状況も、避難が済んでいる為特に見当たらなかった。
「袁、後は宜しく」
「はいはい、後は任されましたよ」
 じゃ、少しおとなしくなってくれると嬉しいな、なんてね? と笑って、鶴が影朧の前へ出る。
 わからないの、でも、じんじゃ、ああ。
 目から溢れ出す黒い涙で全身を覆い、影朧が鶴へ手を伸ばす。
「おっと」
 手にした祟り縄でその攻撃を軽く受け流し、優しく話しかける。
「思い出せないなら、無理はしなくていいよ。でも、気になるんだよね?」
 神社、と鶴がちらりと視線を神社のある方へと向けた。
『じんじゃ……神社、そう、ええ、気になるわ』
 黒百合が陽炎のように揺らいで消え、全身を覆っていた黒い涙が流れていく。
 そうして、すっかり大人しくなった影朧が再びゆっくりと歩き出した。
「神社が気になるのは間違いないみたいだね」
「ああ、あんなに執着しているのなら、本当に待ち合わせをした相手がいたのかもしれないね」
 しゅるんと縄を仕舞って、タンチョウから降りた小夜と視線を合わす。
「もう少し見守るとしようか」
 鶴の言葉に頷き、小夜が距離を空けて歩き出すと、今度はその隣に立って鶴も前を向いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御桜・八重
桜御神籤の神社は大盛況で人手が足りてないとか。
「だからって、ウチからお手伝い出さなくてもー」
まあ、影朧の件があるからちょうどいいけど。

思い出せないのは、思い出すことを拒んでいるから。
思い出したいのは、それだけ大切な想いがあるから。

なら、やることは決まってる。
苦しみに向き合う影朧の手を取り、その願いを叶える。

巫女服姿で影朧に話しかけます。
「ねえ、どうしたの?」
「どこかに行きたいんだけど、どこに行きたいのかわからない?」
こっちの方向で目ぼしいものと言うと、桜御神籤の神社かな?
わたし今からお手伝いに行くんだけど、行ってみる?

攻撃は身を花吹雪に変えて躱します。

ね、わたしも一緒に行くから、行ってみよう?



●巫女のお仕事
 帝都より南南西に位置する鎌倉にある古神社、それが御桜・八重(桜巫女・f23090)の家であり、家業だ。
 今は家を出て帝都桜學府に編入してはいるが、まさか正月早々手伝いに行ってこい、と言われるとは思わなかったと八重が小さく零す。
「桜御神籤が大盛況だからって、ウチからお手伝い出さなくてもー」
 人手が足りない大変さはわかる、わかるけど! と言いつつも、影朧の件があるから丁度いいかと引き受けたのだ。
「引き受けたからには仕方ない、きちんとお手伝いしてみせるんだからね」
 うん、と頷いて、八重が巫女服を翻して颯爽と歩き出した。
 お正月なのだから晴れ着、とも思ったけれど、お手伝いに行く身としては仕方ない。桜色の晴れ着を着る機会なら、今日以外にだってあるのだから。
「まずは神社に行く前に影朧だよね」
 既に帝都桜學府の生徒たちが市民の避難と誘導を行っており、通りには影朧の動向を見守る生徒や八重と同じように依頼を引き受けてやってきた猟兵たちが見えた。
「あの子が影朧ね」
 思い出せないのは、思い出すことを拒んでいるから。
 思い出したいのは、それだけ大切な想いがあるから。
「なら――」
 やることは決まっていると、八重は毅然と顔を上げて影朧へ近付く。
 苦しみに向き合おうとする影朧の手を取って、その願いを叶える為に。
「ねえ、どうしたの?」
『……私?』
 こてん、と首を傾げた影朧に、元気よく八重が頷く。
『よく、わからなくて。忘れてしまったことばかりで、何にも思い出せないの』
 それでも、神社が気になるのだと影朧が神社があると教えられた方を向く。
「神社が気になるの? こっちの方向だと……桜御神籤の神社かな?」
『桜御神籤……』
「わたし、今から桜御神籤の神社にお手伝いに行くんだけど、行ってみる?」
 さくらおみくじ、なんだかきいたおぼえがあるわ。
 ああ、ああ、でも、おもいだせない。おもいだせないの。
『わから、ないの……っ』
 ゆらり、と影朧の背に黒い百合が咲き、血塗れの手から長く伸びた爪が八重を襲う。
「ひらひら変われ、花吹雪」
 慌てた様子もなく八重が言うと、ひらり、ひらりと八重の肉体が桜の花弁へと変わる。爪は空を切って、はらはらと揺れて舞い散る花弁が踊る。
『綺麗、ね』
 桜、と影朧が呟くと、八重が姿を元へ戻す。
「ね、わたしも一緒に行くから、行ってみよう?」
『神社……』
 黒百合が消えた影朧が、再び歩き出す。
 八重の姿はもう目に入っていないようだったけれど、八重も彼女を見守るように少し歩き出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

オリオ・イェラキ
リュカさま【f02586】と
折角ですし髪を纏めて晴れ着を着ましょう
世界に合わせて夜桜をあしらって
似合うかしら?ふふ、ありがとうございますわ
さあ、新年初の冒険に参りましょう

ごきげんよう、可愛らしい方
ご紹介頂きましたオリオですわ
そう…何も思い出せないのね
でも想い出は必ず貴女の中に在りますわ
ひとつ、貴女の事を思い出せるならそれが切欠になれる筈
リュカさまの問いに何か脳裏に浮かぶ事はないかしら
わたくし達は貴女に時間を使いたいの
ゆっくり応えを待ちますわ

あら、…ふふ
リュカさまはやはりお優しいですわ
微笑ましそうに

攻撃も穏やかに受け流しを
リュカさまへの直接攻撃もさり気無く庇い
慌てないで、大丈夫と気遣いながら


リュカ・エンキアンサス
オリオお姉さんf00428と
取りあえずぶらっとしに来た風で
お姉さん、晴れ着似合ってるね
髪が何だか、新鮮な感じがする
うん、そういうのもいいかも…っと

…こんにちは、お姉さん
そう。名前は大事なものなのに、思い出せないの大変だね
俺はリュカ。この人はオリオお姉さんって呼んでる
あなたは?なんて呼ばれていた?
もしくは、何と呼んでほしかった?
愛称でも構わないよ。ほら、考えてみて
(攻撃は流しつつ基本丁寧に根気強く相対する
名前はとても大事で拘りはあるけれども名前以外でも何か思い出せれば幸い

可能なら自分のコートを影朧のお姉さんにかけておく
なんかぱっと見寒そうだから
優しい?
そうかな。意味のないことが好きなだけかもよ



●名を問う
 黒薔薇の咲く長く艶やかな髪を緩く纏め上げ、鉄紺色の夜を思わせるような美しい色の着物に桜が散った、まるで夜桜を思わせるような姿をしたオリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)がリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)にふわりと微笑む。
「似合うかしら?」
 そんな無邪気な問い掛けに、リュカはこくんと頷いて答える。
「お姉さん、晴れ着似合ってるね」
「ふふ、ありがとうございますわ」
 左手を口元に当てて笑えば、薬指の指輪がきらりと瞬いた。
「髪が何だか、新鮮な感じがする」
 上手い褒め方なんてわからないけれど、思ったことを思ったままに伝えれば、オリオの笑みが更に深まる。
「和装に合わせてみたのですわ」
「うん、そういうのもいいかも……っと」
 いつもは髪を下ろしていることの多いオリオにそう返して、リュカの瞳が影朧を映して言葉が止まった。
「あの方……ですわね」
「うん、影朧だ」
 ぼろぼろになった着物を着て、とぼとぼと歩いている少女とも呼べるような姿の。
「行こう」
「ええ、新年初の冒険に参りましょう」
 元旦に相応しい、幸せな物語となるように、とオリオが微笑むとリュカが頷いて一歩先を歩いた。
 よく見れば、周囲には帝都桜學府の生徒と依頼を受けた猟兵の姿も見える。一般市民は避難しつつ、遠巻きに見守っているような状況だ。
 自然体のまま、ぶらっと新年の街へ遊びにでも来た風にリュカが影朧に向かって歩くと、オリオも同じように歩く。時折ブティックのガラス窓を覗き、素敵ですわねと笑っている。華やかな笑い声に反応したのか、影朧がこちらを見ていることを確認し、二人で目を見合わせると影朧へと近付いた。
「……こんにちは、お姉さん」
「ごきげんよう、可愛らしい方」
『こんにちは』
 敵意の無い影朧に二人が挨拶をすると、影朧もそう返してくれる。そして、困ったように眉根を寄せて、二人に問うた。
『私、何かを忘れてしまっているのだけれど、何を忘れてしまったのかわからないの。あなたたちは、私をご存じかしら……?』
 零れた溜息は憂いが見えて、リュカが静かに答える。
「ごめんなさい、俺達はあなたのことは知らない」
 落胆する影朧に、だけど、と言葉を続けた。
「名前もわからないのかな?」
『ええ、名前も、何もかも……』
「そう。名前は大事なものなのに、思い出せないの大変だね」
 なまえ、だいじなもの。よんでもらうための、なまえ。
「俺はリュカ。この人はオリオお姉さんって呼んでる」
「ご紹介頂きましたオリオですわ」
 りゅか、おりお。
 教えられた名前を影朧が呟く。
 何も思い出せないのは大変だけれど、とオリオが影朧の背を撫でる。
「でも、想い出は必ず貴女の中に在りますわ。ひとつ、貴女の事を思い出せるならそれが切欠になれる筈」
 おもいで。わたしの。おもいだしたい、わすれたこと。
「あなたは? なんて呼ばれていた?」
 わたしは、なんてよばれていたの?
『わから、ないの』
 わからない、わたし、わたしのなまえ。
 影朧の背に黒百合が咲く。瞳から、黒い血の涙が溢れて彼女の姿を覆い隠してしまう。
「もしくは、何と呼んでほしかった? 愛称でも構わないよ。ほら、考えてみて」
『わたし、わたし』
 思い出せない焦燥に、影朧がリュカへ攻撃の手を伸ばす。それをオリオが影から咲かせた真夜中を彩る蔓薔薇で、やんわりと受け止めた。
「リュカさまの問いに何か脳裏に浮かぶ事はないかしら」
 よばれたい、なまえ。わたしも、だれかによんでほしい。
 攻撃を受け流しながら、リュカが根気強く声を掛け続ける。
「大丈夫、思い出せるまで待つよ」
「ええ、わたくし達は貴女に時間を使いたいの」
 わたしのために、まってくれるの?
「名前はとても大事だから」
 名前以外でも思い出せることがあればいいけれど、まずは名前をとリュカもオリオも頷く。
「あなたの名前を俺たちは呼びたいんだ」
『わたし、私、私の、名前』
 黒で覆われた影朧が姿を現す、困ったような顔は相変わらずだったけれど、それでも僅かな笑みを浮かべて。
『かのこ、花乃子と言うの』
 思い出せた、と影朧の少女が何度も自分の名を呟く。
「花乃子お姉さん、いい名前だね」
「花乃子様、ええ、とてもいい名前ですわ」
 名前を呼ばれて、嬉しそうに花乃子が頷いた。
「花乃子お姉さん、これ」
 リュカがコートを脱いで、花乃子へと羽織らせる。
『あなたが、寒いわ』
「大丈夫、これくらい平気だから」
 ありがとう、と花乃子が頷く。
「あら……ふふ、リュカさまはやはりお優しいですわ」
 優しい? とリュカが首を傾げると、オリオがええ、と微笑んだ。
「そうかな。意味のないことが好きなだけかもよ」
「この世に意味のないことなど、きっとないのですわ」
 オリオがウィンクをしてそう言うと、影朧の少女がまたふらりと歩き出す。
『名前、名前は思い出せたけれど、ああ、私はどうしたのだったかしら……』
 リュカとオリオは意識を違う方へと飛ばした彼女を見守るように、帝都の街を歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード

【愛染4】

行こう、ぼくのお嫁さんたち。プラチナちゃんは避難誘導の手伝いね。

メガリス『ソロモンの指環』で鳥と話し、影朧の居所を把握するよ。
影朧を見つけたら黄金魔眼で動きを封じ。
「想い出、見つけたくない?」って言って、「催眠術」で深層の記憶を引き上げる。
見たくないものかもしれないけど、覚悟はいいね?

「催眠術」で探らせてもらえないなら、言葉で記憶を呼び覚ますしかないね。「コミュ力」で明るく接しよう。
ねえ、お姉さん。君はどこから来たの? 側に誰かいなかった? 楽しいことだけしていたかったよね?
でも残念。世界はそんなに美しくなんてない。
君と誰かは凶事に襲われたはずだ。
それを思い出した時、君は君になる。


神代・みぃ
【愛染4】
だんなさまと、おともだちと
はじめましての子もいるから、すごく楽しみ!
今日はひとの足の姿で、
いつも着てる着物のなかでも、とっておきを着て、お出かけ!

影朧さんを見つけたら、話しかけるよ
忘れてしまうのって、かなしいよね
でも忘れたままの方がいいことも、ある気がする
もしあなたが忘れたままの方がいいのなら
それもひとつの選択だとおもうけれど…
あなたは、思い出したい?

もし暴れだしたら、UCと【神罰】で影朧さんを抑え込むよ。
新年のすてきな時だもの
痛いのも、こまらせるのもだめだよ
大丈夫、もしやりたいことがあるなら
みぃが手伝うから!
そっと影朧さんの手を取って
落ち着かせるように話しかけるね


チシャ・フェルメス
【愛染4】

だんな様のセシルと、「はあれむ」のお友達といっしょ。
着せてもらったハレギが可愛いくて、思わず小さくぴょんぴょんしちゃいます。
影朧さんを見つけたら、ユーベルコード「ベニ・ポロネパトロ」を使います。
旧い神様は姿がグロいから、みんなビックリしちゃうかなぁ?
えっと…とりあえずハレギの中に呼び出そっと。
ハレギの中から影朧さんを覗き見させて、「虚脱の魔眼」で抵抗しにくくしちゃいます。
影朧さん、何を約束したのか忘れたの?
私もキッチンまで行って、「あれ、何で此処に来たんだっけ」ってなるから、仲間だね。
約束なら、きっと誰かといっしょにした筈だよ。
約束の中身より先に、誰とした約束なのか思い出してみよー?


メイフィア・オベルト
【愛染4】
やれやれです、夫のセシル様と妻仲間の方々と一緒に依頼ですか。私は猟兵として積極的に活動するタイプではありませんのに
まぁ夫の願いを聞くのも貴族婦人としての務めですね
ともかく、晴れ着というものを着ていきますよ。しかし、なんですね
このメンバーで夫婦と言っても微笑ましい目で見られるだけの気がします、男女比狂ってますしね

影朧を見つけたら、皆と一緒に話しかけますよ
晴れ着が気になりますか?なら、その気になることから記憶を手繰ってみたらどうですか?
少なくとも手掛かりが何もないよりはマシかと
戦闘は、私はか弱い貴族令嬢、あ、今は貴族婦人ですが、なので不得意ですから【ウィザード・ミサイル】で援護だけです



●そう成った経緯を問う
 晴れた空の美しい、良い元旦だとセシル・バーナード(セイレーン・f01207)は満足そうに空を見上げる。それから、可愛くて大事なお嫁さん達と、帝竜プラチナの少女体である複製の可愛らしい彼女を見て、更に笑みを深めた。
「だんなさま」
 無邪気な声でセシルを呼ぶのは神代・みぃ(水底の朱・f30892)で、今日は旦那様とお友達と、そして初めましての子もいるからすごく楽しみだと笑みを浮かべている。普段は人魚のような尾をひらりと泳がせるのだけれど、今日は人の足だ。いつも着ている着物の中でも、とっておきの赤い晴れ着で褒められるのを待っている。
「だんな様」
 嬉しそうな声でセシルを呼ぶのはチシャ・フェルメス(捧げ唄・f28991)で、旦那様とはあれむのお友達と一緒だと笑みを浮かべる。それから、着せてもらったモダンな晴れ着が可愛くて、思わず小さく跳ねているのがまた可愛らしい。彼女も、旦那様に褒めてもらうのを待っているようだ。
「セシル様」
 そう呼ぶのはメイフィア・オベルト(オベルト伯爵令嬢・f17956)で、晴れ着にはオレンジの古典模様が可愛らしい着物、そして白地の袴にブーツとハイカラで大人びたものを選んでいる。けれど、その表情はやや冷めていて、クールさが際立っていた。
 夫と妻仲間の方々と一緒の依頼、あまり猟兵として積極的に活動するタイプではないメイフィアからすれば、望んだ状況とは言い難いのだろう。
 それに、と胸の中でメイフィアが呟く。
 しかし、なんですね。このメンバーで夫婦と言っても、微笑ましい目で見られるだけの気がします、男女比狂ってますしね、と。
 そう、彼も彼女達も、まだ齢も幼い少年少女なのだ。夫婦と言っても、きっと信じてはもらえないだろう。今も可愛い子達ね、と人々が通りすがりに囁き合うのが聞こえたくらいだ。
 けれど、そんなことは彼らにとっては些事に等しい、常識では測れない愛と絆があるのだから。
「皆、良く似合ってて可愛いね」
 セシルが甘く蕩けるような優しい言葉で今日の装いを褒めると、みぃとチシャが嬉しそうに頬を染め、メイフィアもまんざらでもなさそうに唇の端を持ち上げる。
「それじゃ、行こう。ぼくの可愛いお嫁さんたち」
 プラチナへは避難誘導の手伝いを頼み、和気藹々と四人が歩き出す。歩きながら、セシルがソロモンの指環によって鳥と会話し、影朧の場所を探る。その間はお嫁さんたちはお嫁さんたちで親睦を深めるように話をしていた。
 盛り上がるのはやはり今日の晴れ着の話で、メイフィアは少し引いた感じで相槌を打っていたけれど、褒められれば悪い気はしないもの。袴とブーツが大人っぽくて素敵だと言われれば、今の晴れ着の上に履くだけだと答える。
「わたしも、今度は袴にチャレンジしてみようかなぁ?」
「きっと似合うよ、みぃも一緒にチャレンジしたい!」
「お正月ですから、晴れ着を着る機会は他にもあるでしょう。その時に着ればいいかと」
 どこでもレンタルがありますし、と言えば今度見に行こうとまた二人がはしゃぐ。
 きゃあきゃあと楽しそうに笑う二人に、お嫁さん達の中でも私が一番年下なのですけれどね、とメイフィアが小さく呟いた。
「楽しそうなところすまないね、影朧が見つかったよ」
「さすがだんなさま! みぃ、影朧さんとお話してみたいな」
「わたしも、思い出すお手伝いがしたいなぁ」
「ええ、皆様に合わせます」
 三人の返事にセシルが微笑み、一人ずつゆっくりと頭を撫でる。
「ぼくのお嫁さんたちは優しい子ばかりだね。それじゃあ、最初は皆に任せるよ」
 はい! と、頭を撫でられて三人が返事をすると、影朧に向かって歩き出した。
 小鳥の案内ですぐに影朧を見つけたみぃとチシャとメイフィアは、それぞれ視線を合わせると行動に出る。まずはみぃが驚かさないように影朧へと近付いた。
「こんにちは、おねえさん」
『こんにちは、お嬢さん』
 意識がこちらに向いたことを確認すると、チシャがそっ袖の中にベニ・ポロネパトロを召喚する。チシャとしては慣れ親しんだ旧い神様だけれど、見た目が少し……いや、かなりグロいので皆が驚いてはいけないとの配慮だ。
 お願いします、とチシャが呟けば袖の中から影朧を覗く虚脱の魔眼が影朧の動きを少し鈍らせ、みぃが三人分の自己紹介をする。
『仲が、いいのね』
「おともだちなんだよ」
『そう、お友達、おともだち……わたしにも、いたのかしら』
 いたとおもうのだけれど、おもいだせないの。
「忘れてしまうのって、かなしいよね」
 忘れたままの方がいいこともある気がするけれど、とみぃが呟く。
「もしあなたが忘れたままの方がいいのなら、それもひとつの選択だとおもうけれど……あなたは、思い出したい?」
『わたし、わたしはおもいだしたいの、わからないのはいや、わすれてしまうのは、いや』
 みぃの言葉に、影朧が首を横に振る。その様子を見て、メイフィアが声を掛けた。
「晴れ着が気になりますか?」
『晴れ着……ええ、気になる……と思うわ』
「なら、その気になることから記憶を手繰ってみたらどうですか?」
 記憶……晴れ着の、記憶。
『わからない、わ。だれかと、やくそくをしていたような……していなかった、ような』
 少なくとも手掛かりにはなったようです、とメイフィアが考え込むと、今度はチシャが問い掛ける。
「影朧さん、何を約束したのか忘れたの?」
『やくそく……したかしら、それもわからないの』
「ふふ、私もキッチンまで行って、あれ? 何で此処に来たんだっけ? ってなるから、仲間だね」
 忘れちゃうことなんてよくある話だよ、とチシャが笑う。そして、思い出すことも、と。
「約束なら、きっと誰かといっしょにした筈だよ」
『だれか、と』
「約束が思い出せないなら、約束の中身より先に誰とした約束なのか、思い出してみよー?」
『だれと』
 だれとやくそくをしたのだろう。だれか、いたのだろうか。ああ、それすらもわからなくて。
『わからない、わからないわ』
 影朧の背に黒百合が咲く。瞳から溢れ出した黒い血の涙が影朧を覆い尽くすと、わからないという思いに囚われたように影朧が三人に向けて襲い掛かった。
「敵性行動を確認」
 メイフィアがセシルに向かってそう言うと、セシルがうん、と頷く。
「落ち着いて、大丈夫だよ」
 チシャが宥めながら袖の中の旧き神の魔眼で動きを牽制し、メイフィアが威力を落とした炎を点した魔法の矢を幾つか放つ。
「私はか弱い貴族令嬢、あ、今は貴族婦人ですが――なので、不得意ですから」
 援護に回ります、とセシルの後ろへと下がった。
「頑張ったね、みぃ、チシャ、メイフィア」
 旦那様! と声を上げて、二人も下がる。
「想い出、見つけたくない?」
『おもい、で』
 そう、思い出とセシルが笑って、影朧の瞳を見つめる。催眠術を掛けようとしているのだ。
「お姉さんの中に眠る、大事な思い出だよ」
 見たくないものかもしれないけれど、とセシルが微笑む。
『わたしのなかの、だいじな』
 わからない、わからない、わたしのなかにおもいでがあるの?
『わからない、わ!』
 叫びは周囲に響き、無差別攻撃を仕掛けてくるけれど既に弱り切った影朧の攻撃は彼らには大した脅威ではない。
「催眠術はだめか、仕方ないね」
 それなら、言葉で記憶を呼び覚ますしかないと殊更に優しく明るい声でセシルが影朧に問う。
「ねえ、お姉さん。君はどこから来たの?」
『どこから』
「側に誰かいなかった?」
『だれか? いいえ、だれも、だれもいないわ、わたしだけ』
 わたし、わたしだけ。
「楽しいことだけしていたかったよね?」
 たのしいこと、たのしいこと? いっぱいあった、そう、あったはずなの。
「でも残念、世界はそんなに甘くも美しくもない」
 そう、そうね。ざんこくだわ。
「君は凶事に襲われたはずだ」
 問答によって導き出した言葉をセシルは淀みなく影朧へと投げかけていく、それが残酷な言葉であっても。
『きょうじ、わたし、わたしは』
「それを思い出した時、君は君になる」
 わたしに? わたし、私は、ああ、嗚呼。
 すっかり動きを止めてしまった影朧が、訥々と語りだした。
『私、そう、私……急いでいたの、とても急いでいたのよ』
 セシルは優しく頷いて、先を促す。
『走っていたの、それで、躓いてしまって』
 車道に飛び出してしまったのだ。
『そう、私、自動車に』
 轢かれたのだ、そうして打ち所が悪く――。
「思い出したんだね」
『ええ、私が死んでしまった、理由を』
 さすが旦那様、と後ろで控えていた三人がほっと胸を撫で下ろす。
『ああ、でも』
 わたし、どうしてそんなにいそいでいたのかしら。
 そう、ぽつりと呟いて、影朧は再び歩き出す。
 そうしていれば、全てを思い出せるのではないかとでも言うように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
◎【箱2】
初詣誘っておきながら、影朧放っとけず依頼に付き合わせるて
告白の返事してねーのに悪い…けど、泣いてる女の子無視できねぇ

晴れ着、を、着てんの、は、…彼女の為で、けっっっっっしてラファン、お前の為じゃねぇ!にやにやすんな!
とにかく、影朧の少女を落ち着かせたげねーとな
おじょーさんお困りですか?優しく声かけ俺に注意を集める
遠巻きに見る人の目は気分良いもんじゃねぇ、見ないに限る
手を握り、俺の手も炎まみれ、血なんて大したコトねぇよ、と笑おう
大丈夫、頭で忘れても体はちゃーんと覚えてるもんさ
足、何処に行こうとしてる…?大きめに深呼吸してみよーぜ?…てか、ラファンが敬語とか違和やばくて腹痛……ん?手?


ラファン・クロウフォード
◎【箱2】羽織と着流し着用。戒の晴れ着を見れたは僥倖。何を言おうが目の前にある現実。にやける、うれしい、言葉にはしない。無視できないのは俺も同じ。黒百合のような女性なので、仮の名前はユリさんと呼ばせてもらう。柔らかな布で彼女の涙と血を拭う、傷を包む。社交的な性格のようだし友人も多そうだ。手当を忘れる程に急いでいるようですね。ユリさんもこの先の神社に初詣ですか?神社で誰かを待たせているのでしょうか?男性?女性?友達?恋人?ユリさんを心から大切に想う人ならば、必ず、待っています。嬉しい事に終わりがあるように、悲しい事にも終わりがあるから。どうか、諦めずに考える事をやめないでください。戒の手をにぎる



●行き先を問う
 片や仏頂面をした――正確には、恐らく照れ隠しの為に仏頂面になっている晴れ着の女、片や普段使いではあるが着流しによく見れば市松模様の入った粋な羽織を羽織った無表情――に見せかけて、にやけるのを必死に堪える男が隣りあって帝都の街を歩いていた。
 白地に薄い青と紺の花が肩から袖へと咲き誇る着物に青紫色の袴、そして黒のブーツ。いつも無造作に纏めている髪は癖毛を活かしたアレンジヘアに纏められ、着物の柄と同じ花の飾りが付けられている。よく男性に間違われる瀬古・戒(瓦灯・f19003)も、今日ばかりは誰にも間違われないだろう、それほどに美しく仕上げられていた。
 着付けはよくわからないと美容院に任せたのだが、美容師達の腕が鳴りに鳴った結果である。
「……初詣」
「うん?」
 ようやっと口を開いた彼女に、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)が頷く。
「誘っておきながら、影朧放っとけなくて依頼に付き合わせるって」
「ああ、戒ならそう言うだろうってわかってたから、問題ない」
 泣いている女の子を無視するような女ではないことをラファンは知っているし、自身もそうなのだから何の問題があろうか。
「でもほら、あー……告白の返事もしてねーのに、悪い……」
「いい、気にするな」
 返事をしていないことは気にしなくていい、けれど俺を気にしていることは嬉しいとラファンは思う。それに何より、戒の晴れ着姿を見ることができたのは僥倖以外の何物でもないのだ。
 それだけで、今日ここへ来ただけの価値……いや、それ以上のものがある。勿論、彼女に言ってしまえば照れて逃げてしまうかもしれないから、言わないけれど。さっきからにやけそうになるのを必死に我慢しているのだ、うっかり言ってしまったら絶対ににやける自信があると、ラファンは唇を引き締めた。
「そっか、じゃあその、返事はうん、あとで」
 あとで、便利な言葉だなと思う。でもある程度の逃げ道は必要かと思うので、いずれ貰える返事ならばそれでいいかとラファンが頷く。逃げ道は作っても逃がす気はないし、と神々の末弟である男が静かに前を向いた。
「似合うな」
「ん?」
 何が、と問おうとして戒が晴れ着のことを言っているのだと気付く。
「晴れ着、を、着てんの、は」
 頬が熱くなる、赤くなってなければいいと思うけれど、多分赤いだろう。
「……彼女の為で、けっっっっっしてラファン、お前の為じゃねぇ! にやにやすんな!」
「わかった、わかった」
 わかってはいるが、嬉しいものは嬉しい。にやにやはしていないと思うけど、ちょっとわからないなと思ってちらっと洋服店の窓ガラスに映る自分を見る。……大丈夫、セーフだと戒の方を見ると、先程までの勢いは消えていて彼女の視線の先を追った。
「影朧か」
「ああ、間違いないと思うぜ」
 まずは彼女を落ち着かせないと、とふらふらと歩く影朧へと近付いた。
「おじょーさん、お困りですか?」
 戒が優しく声を掛けると、影朧が振り向く。
『困る……ええ、そう、私困っているんだわ』
 足を止めた彼女が、こくんと頷いた。
「お名前はなんというのです?」
 ラファンが懐から柔らかな布を取り出しながら問う。
『名前……そう、私の名前は花乃子というの』
 名前は思い出すことができたのだなとラファンが考えつつ、そっと手にした布で彼女の涙を拭いそのまま手の血も拭ってやる。
「失礼、手が汚れていたので」
『親切な方ね、でも、わたし、こんなにちまみれで』
 拭っても拭いきれないそれは、影朧だからだろうか。
「俺の手も炎まみれ、血なんて大したコトねぇよ」
 花乃子の手を握り、戒が笑う。
『そう、そうかしら。ふふ、貴女もお優しいのね』
 眉を下げたまま笑う影朧は普通の少女に見えて、ラファンは社交的な性格で友人も多そうなタイプだと判断する。
「手当を忘れるほどに急いでいるようですね。花乃子さんもこの先の神社に初詣ですか?」
『じんじゃ。じんじゃに、ようじ……』
「誰かを待たせているのでしょうか? 男性、女性、友達、恋人……どなたであっても、花乃子さんを心から大切に想う人ならば、必ず、待っています」
 だから、急がずにゆっくりと思い出してとラファンが言う。
『だれか、と、じんじゃ……』
 わたし、じんじゃにいこうとしていたのかしら。わからない、わからないわ。
 影朧の背に黒い百合が現れると爪が長く伸び、わからないと嘆く花乃子が血のような爪を二人に向けて振り回す。それを難なく避けながら、戒が叫ぶ。
「大丈夫、頭で忘れても体はちゃーんと覚えてるもんさ!」
 影朧になってまで、行こうとしている場所だもの。
「足、何処に行こうとしてる……? 大きめに深呼吸してみよーぜ?」
『わたし、わたしのあしは』
 何処に向かっているのだろうか、あっちへ真っすぐに。
「大丈夫、嬉しい事に終わりがあるように、悲しい事にも終わりがあるから。どうか、諦めずに考える事をやめないでください」
 そう願うように言いながら、ラファンが戒の手を握った。
 考える、考える。
『そう、そうだわ、私、あっちへ。そう、神社へ行こうとしていたんだわ』
「行先、思い出せたんだな」
『ええ、ええ! 神社に行こうとして……でも、私、神社に何をしに行こうとしていたのかしら……』
 わからないわ、と呟いて、影朧はまたふらりと歩き出す。もう二人のことは忘れてしまったかのように、真っすぐに。
「行きたい場所を思い出せただけ上出来ってとこか。……てか、ラファンが敬語とか違和やばくて腹痛……ん?」
 なんか手があったかい、なんだこれと戒が己の手を見る。
「……っ! おま、どさくさに紛れてっ!」
 バレたか、という顔をして、それでもしれっとした顔でラファンがもう片方の手で影朧が行く先を示す。
「追いかけなくていいのか?」
「あっ」
 怒ればいいのか追いかければいいのか、混乱したような戒を引っ張って、ラファンが小さく笑ってゆっくりと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スティーナ・フキハル
◎ 口調はスティーナ
なんかいつもの衣装でも晴れ着で通る気がするよーな……まぁいっか。
その辺お任せで。

ある程度動きを観察してからなるべく【優しさ】通じるように話しかけるよ。
ねーそこのお嬢ちゃん……いやアタシの方がお嬢ちゃんみたいじゃなくて。

ずっとふらふら人に声かけてたけどさ、誰かと待ち合わせでもしてたの?
それも晴れ着のねーちゃん中心とか。あーもしかして友達とかと初詣?
代わりって言ったらアレだけど、アタシらで一緒に行ったげようか?

攻撃してきたら腕をUCの鬼の手で掴んで落ち着かせるね。
あんまり強く握らないように、安心させたいから上から左手も添えて。
ほーれどうどう、これ以上着物ボロくしても嫌でしょ?



●約束を問う
 普段の着物に袴姿でも、立派に晴れ着ではないかと考えたのだけれど、どうせなら新調してしまおうかと思って正解だったとスティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)は洋服店の窓ガラスに映った自分を見て笑みを浮かべた。
「レトロモダンの着物に矢絣の柄が入った袴、靴もブーツで動きやすい……」
 それに何より、大人らしくて可愛らしいと、口には出さないが満足気だ。
「っと、ファッションショーしてる場合じゃなかったね」
 そう呟いて辺りを見回しながら歩き出すと、帝都桜學府の生徒と思わしき制服姿がちらほら見えて近くにいるのだとスティーナが歩く速度を上げる。
「あの子……かな」
 遠目からだと普通の少女に見えなくもないが、動きが不安定でよくよく見れば着ている着物がぼろぼろだ。
 もう少し、と近付けばその手が血に濡れているのがよくわかる。少しだけ様子を見てみるかと、スティーナが影朧からやや離れた後ろから観察していると、特に暴れるような様子は見せない。
「ちょっとぼんやりしてる感じだね」
 まるで迷子のように、時折立ち止まっては何かを考えるような素振りを見せたり、呉服店の大きな窓ガラスに飾られた晴れ着を見ては悲し気にしてみたり。そして、時計を見ては誰かを探すようにきょろきょろとしている。
「何となく、わかったような……ま、あとは当たって砕けろよね」
 意を決したように、スティーナが影朧へと歩を進める。驚かさないように、自然を装って――。
「ねー、そこのお嬢ちゃん」
 迷子の女の子に話し掛けるような、そんな風に。
『お嬢ちゃん……私、かしら? ふふ、貴女もお嬢さんなのに』
「いや、そりゃアタシの方がお嬢ちゃんに見えるかもしんないけどさ」
 こう見えても二十四歳なんだけど、と少し低い身長を恨めしく思いながら隣に立って話を続ける。
「アタシはスティーナ、ずっとふらふら人に声掛けたそうにしてたけどさ」
『私は花乃子というのよ。そう、そうなの。でもこの辺りはなんだか人が少なくて……』
 それはそうだろう、帝都桜學府が手を回してさりげない避難誘導をしているのだ。
「そっかそっか、花乃子ちゃんね。誰かと待ち合わせでもしてたの?」
 名前を思い出せている、きっと他の猟兵が思い出させてくれたのだろう。
『まちあわせ……』
「それに呉服店でも晴れ着に気を取られてたでしょ? あー、もしかして友達とかと初詣?」
『はつもうで……神社に、行こうとしていたの』
 行先も思い出しているようで、これならば話は早いかもしれないとスティーナが優しく誘導する。
「じゃあ、誰かと一緒に行こうとしてたんだろうね。あんまり一人では行かないでしょ?」
 勿論、一人で初詣に行く人だっているだろうし、なんだったらスティーナも一人で行こうと思えば行くけれど。そんな風に鎌をかけてみれば、陽炎の少女は俯き、そして神社の方を眺めて。
『やくそく、だれかと、わたし、そう、おともだちと……おともだち……ではなかった、ような』
「じゃあ、お付き合いしてる人だったとか」
 ああ、おともだちだったかしら? ちがうきがする、でも、おつきあいもしていなかった、わからないわ。
 ずるりと影朧の背から黒百合が咲く。わからないと呟き続ける影朧が長く鋭い爪をスティーナに向かって振るうけれど、それは緩慢な動きでスティーナは慌てず右手を鬼の手に変え、優しくその手を掴んだ。
「友達でもなく、お付き合いをしているわけでもない、うーん、もしかして好きな人だった?」
 そっと左腕も添えて、優しく問えば影朧の動きが止まる。
『すきな、ひと』
「そうそう、好きな人だったら友達とは言いたくないし、まだ付き合ってなかったかもしれないし」
 それなら、これ以上着物をぼろぼろにしない為にも落ち着いて、どうどうとスティーナが言うと影朧の背中ら黒百合が消え、長く伸びた爪も縮んでいく。
『ああ、そうだわ。私、好きな殿方とお約束をしていたのだわ』
 ぽろりと黒い血の涙を流し、少女が言った。
 それはまるで恋する乙女そのもので、スティーナが慌てて持っていたハンカチでその涙を拭ってハンカチを影朧の手に持たせる。
『ありがとう』
 そう微笑むと、影朧がまた遠い目をしてぽつりと呟く。
『でも、私ったら好きな方のお名前もお顔も』
 すっかり忘れてしまったの、ああ、ほかにもたくさん忘れてしまって。
 そう言って、スティーナのことはもう目に入らないかのように、また歩き出す。
「完璧には思い出せなかったかな」
 仕方ない、代わりにはなれないけれどアタシらでよければ一緒に行くか、とスティーナは心の中で妹に声を掛けて影朧の後を追った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戀鈴・シアン


主人の形見の袴を着込んできた
一人でこの格好は少しお目出度過ぎたかな、と思ったけれど
さすがサクラミラージュ、思ったよりも浮いていなくて良かった

や、こんにちは
如何したの、そんな浮かない表情で
一人? 連れはいないの?
良ければ少し話そうか
行く宛てがないなら、一緒に神社の方にでも向かわない?
正月はお社で手を合わせ、新年の多幸を祈るそうだよ

先に此方の名を名乗って、簡単な自己紹介を
質問があれば全て答えよう
それで、きみの名前は?
見たところ学生かな
学校の話なんかも聞かせてよ
…思い出せそう?

忘れる、記憶を失くす
それは一体どんな感覚なのだろう
俺は過去を忘れることができないから、わからないけれど
きみは、哀しそうだね



●涙を拭って
 自分の姿が浮いてはいないかと心配していた戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)は、転送された先でほっと一息をつく。
「主人の形見の袴を着込んできて正解だったね」
 青く美しい硝子の花瓶のヤドリガミである彼の、造り手であった、かの人の大事な形見。
 洋服店の窓ガラスに映るシアンの姿は、普段から着ている白いシャツの首元を白と青のリボンで結び、白から紺へ徐々に色を変えていく袴。そして、腰までの丈のケープコートにややヒールのあるブーツという、洋装と和装をバランスよく組み合わせた姿だ。
「さすがはサクラミラージュの帝都だ」
 和装も洋装も、和と洋を合わせた洒落た格好も、この世界の流行を集めたような煌びやかさがある。街を歩きながら影朧が出現したという方向へ歩いていくと、沢山いた人々の姿がまばらになり避難誘導をする者の姿が見えた。
「とすると、この辺りだね」
 人がいなくなる方へと進んでいけば、それらしき後ろ姿が見える。誰かが肩にコートを掛けてくれたのだろう、それでもぼろぼろの衣服に血塗れの手は見間違えることもなく彼女が影朧なのだと知らせてくれる。
「や、こんにちは」
 気負わせないような気軽な、それでいて優しい声でシアンが影朧へ声を掛けた。
『こんにちは』
 ふらふらとさせていた足を止め、影朧がシアンへ視線を向ける。
「如何したの、そんな浮かない表情で。一人? 連れはいないの?」
『私、そうね、連れはいない……いないわ』
 そう、とシアンが頷いて、だったらと提案する。
「良ければ俺と話そうか。行く宛てがないなら、一緒に神社の方にでも向かわない?」
『お話するの? 私、私も……そう、神社へ行こうと、していたの』
 行先は思い出せているようだとシアンが笑い、では行こうかと影朧の歩調に合わせて歩き出した。
「正月はお社で手を合わせ、新年の多幸を祈るそうだよ」
『祈る……そう、そうね、お参りを、するのね』
 それから、なんだったかしらと首を傾げた影朧にシアンが名を名乗れば、影朧も花乃子だと名を返す。名前も思い出せているならば、あとは時間の問題かもしれないねとシアンは胸の内で呟く。そして、少しでも思い出す助けになればと積極的に話し掛けていく。
「君は……見たところ、学生かな?」
『がくせい……』
「学校の話なんかも、よかったら聞かせてよ」
『がっこう、わたし、どうだったかしら、わたし、の』
 ぶわり、と影朧の背に黒百合が咲く。
 ああ、おもいだせない。わすれてしまった、わたしのきおく。
 影朧の嘆きが響く、それは無差別に攻撃を仕掛けるけれど、弱った今の彼女では大した威力ではなくシアンもスウィートピーの華があしらわれた硝子細工の刀をゆるりと振るい、難なくいなす。
「忘れる、記憶を失くす――」
 それは一体どんな感覚なのだろうと、シアンはその表情を曇らせる。
「俺は過去を忘れることができないから、わからないけれど。きみは、哀しそうだね」
『……哀しい』
 そう、そうね。わたし、思い出せたこともあるけれど、思い出せないことが哀しいのね。
 シアンが大人しくなった影朧の瞳から零れる黒い涙を拭う。
「でも、思い出せる喜びもあるのだろう?」
『ええ、ええ、本当に』
 思い出せたことは嬉しいと感じる、それが苦しい記憶であっても。
『ああ、私はまだ、何を』
 わすれているのかしら……。
 影朧の背から黒百合は消え、またとぼとぼと歩き出す。
「大丈夫、きみは思い出せるよ」
 まるで彼女の想いを感じ取ったかのように、哀し気な顔をしたシアンがそう呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
全て忘れちゃってる影朧さんもいるのねー。
どーやったら記憶って思い出せるのかしら。
思いつかないから本人にアタックよ!うん!

ひょこっと影朧さんの前に出て聞くわ。
…あ。そうそう。まずは自己紹介からよね!
「ねえねえ? 名前覚えてるかしら?」
「じゃあじゃあ、どこから来たか覚えてる?」
順番に彼女に合わせてゆっくり聞いてみるわ。
うーん。連想するように聞くのがいいかしら。
思い出すのに時間かかるのを覚悟しておくわね。
「…思い出せそう? 大丈夫?」
中々思い出せそうになかったらそうね。
身につけてる衣服のことを聞くわ。
何かきっかけになるかも?

戦闘はレーちゃんのサポート。相手の力を削ぐわ。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
ふむ。
帝都に向う前に聞いた情報を元に聞こうと思う。
「いい色と柄の礼装だな。購入場所を覚えているか?」
「君が働いて購入したのか? それとも誰かが…?」
など身に纏う晴れ着のことを聞こう。
それでも記憶を辿れない場合は別のことを聞く。
「…そちらの方角が気になるようだが…?」
影朧から『なにがある?』と聞いてきた場合は答える。
「有名な神社がある。○○神社という…何か思い出したか?」
神社の名も出そう。きっかけになるかもしれん。
時間は可能なかぎりかける。さて。思い出すかどうか。

戦闘は露のサポートの元で遂行。その身を焼いてしまおう。
…この影朧の少女は転生できるのだろうか。…して欲しいな。



●慌てないで、ゆっくりと
 まだ幼い身体をぴったりとシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)にくっつけて、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が帝都を歩く。
「すべて忘れちゃってる影朧さんもいるのねー」
「そうだな、相当に弱っている個体なのだろう……それはそれとして露、くっつきすぎだ」
 歩き難いだろう、とシビラが言うと、だって寒いんだものと露が笑う。
「晴れ着っていうの、着てくるべきだったかしら?」
「別に構わないだろう、どうしても気になるなら開いてる服屋にでも寄ればいい」
 正月ではあるが、売り上げを見込んで開けている呉服店や洋品店もある。既製品やレンタルであれば直ぐにでも着付けてくれるはずだ。
「そうねー、あの影朧さんをなんとかしてから考えてみるわ」
 つい、と指先を右前方へと露が向け、シビラがその先を辿る。
「あれか」
「そうみたいね。ねえレーちゃん、どーやったら記憶って思い出せるのかしら」
「ふむ、皆目見当もつかないが」
 帝都に来る前に聞いた情報を元に聞いてみるかとシビラが答えた。
「そうよね、叩いて直るわけじゃなものね」
「ショック療法が効く相手ではなさそうだからな」
 間違っても叩くなよと含みおいて、シビラが腕に露を引っ付けたまま影朧の方へと向かった。
「じゃあ、まずはあたしが!」
 くっついていた手を放し、露がひょこっと影朧の前に出ると笑みを浮かべ、まずは自己紹介からと声を掛ける。
「こんにちは、あたしは露っていうの」
『こんにちは、私は花乃子というのよ』
 露が一瞬シビラに視線を向けると、シビラが頷いて応える。この影朧、名を思い出している、と。恐らくは、周囲にいる猟兵達が根気よく問い掛け続けた成果なのだろう。
「名前を憶えているのね! じゃあじゃあ、どこから来たか覚えてる?」
『どこから……どこから、だったかしら……気が付いたらこの辺りを歩いていたから……』
 わたし、どこからきたのかしら。
 ぽつりと呟いた影朧に、話を変えるようにシビラが口を開く。
「いい色と柄の礼装だな。購入場所を覚えているか?」
『礼装……私の着物のことかしら? どこで買ったのかしら……』
「では、君が働いて購入したのか? それとも誰かが?」
 影朧が自分の手を見て、首を傾げる。
『わたしが……かったの? だれかにかってもらったの? わたし、きっとこのきものがすきだったはずなのに』
 ああ、どうしておもいだせないのかしら。どうして、どうして?
 影朧の背に黒百合が咲き、瞳からは慟哭の黒い涙が流れ落ちる。
「レーちゃん!」
「わかっている」
 なるべく傷を付けぬようにと、露が金環、黒革、銀鎖を放つ。
『言葉を三つの力にして剥奪す!』
 金環が影朧の手を緩く拘束し、銀鎖がその身体を傷付けぬように拘束する。
「Flacăra deliberată……」
 シビラが魔力を帯びた紫色の炎を顕現させ威力を抑えたそれを影朧に向けて放つと、どろりとした黒い涙を焼き払った。
「大丈夫だ、名前を思い出したのだろう? 他にも思い出していることがあるはずだ」
『おもいだしたこと』
 ああ、そうだ、そうだわ。
 しんせつなひとたちが、おもいださせてくれたこと、あったわ。
 影朧を覆いかけた黒い涙を紫の炎が消し去ると、すっかり落ち着いたのか影朧の背からは黒百合の花が消えていた。
『ええ、ええ、私は神社にいこうとしていて、約束があって、待ち合わせの相手がいて……』
「それだけ思い出せているなら、大丈夫よ」
 露がそう笑いながら、拘束具を解いて影朧の手を取る。
『でも、約束をした方の顔も名前も思い出せないの』
 哀し気に俯いた影朧に、シビラが両手を頬に添えて顔を上げさせた。
「卑下することはない。何も思い出せないところから、思い出せたのだろう。露の言う通り、大丈夫だ」
『だいじょうぶ、なのかしら』
 不安に思う気持ち、思い出せない焦燥感に駆られてばかりだった影朧の顔がほんの少しだけ緩んで、笑みを浮かべる。
「ふふ、笑ってる方が可愛いわ」
「そうだな、哀しそうな顔をしているより、よっぽどいいと思う」
 露が励ますように影朧の手を握り、シビラが頬を撫でた。
「きっと……そうね、神社に着くまでに思い出せるわ」
 楽観的なことを言う露に、いつもならば窘めるところだけれどシビラもそうだなと頷く。
『そう、そうね……私、わたし……思い出せたら、いいと、思うわ』
 ありがとう、と呟いて、またふらりと影朧が歩き出した。
 その後姿を眺めながら、シビラがぽつりと呟く。
「……この影朧の少女は転生できるのだろうか」
「きっとできるわよ」
「ああ、……して欲しいな」
 うん、と頷いて、露がシビラの腕にくっついて、その肩に頭を擦り寄せる。甘える露に溜息をつきながら、シビラも露の頭に自分のそれを寄せるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒鵺・瑞樹


晴れ着っていったって男物は華やかさは女性に負けるからなぁ。
まぁ動きやすいいつもの格好で。

現場に向かう途中で女性物の羽織を調達してく。
影朧の女性の好みの柄はわからないけど、新年らしいものであれば今の時期あるだろうか。
まずは一声かけて羽織をかけてあげたい。
思い出す手助けは出来ないかもしれないけれど、女性なのだからぼろぼろのままというのもしのびないし、着替えできないのならせめてと思って。
男が着替えさせるのもどうかと思うから、羽織りかけるぐらいはできるんじゃないかと。
まずはどこへ行こうとしてるのか聞いてみようか。
言えるのならもちろん言えなくとも彼女に同行しよう。
当たり障りない会話から何か見えるかも。



●君に優しさを
 晴れ着か、と考えて黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は結局いつもの動きやすい恰好で帝都を訪れることにした。
「男物はどうしたって華やかさでは女性に負けるからなぁ」
 女物を着こなすのは自分には難しいし、と正月であっても駆け込みの需要はあるものと店を開けている大通りの呉服店へと足を踏み入れた。
 何をお探しでしょう、と店員に声を掛けられて瑞樹は女性用の羽織を、と伝える。案内された場所には様々な種類の羽織が掛けられていて、どれにしようかと目が迷う。
 レトロモダンな流行りの柄から、ケープ風のデザインを取り入れたもの、どれも華やかで女性なら好みそうなものばかりだ。
「……うん、これにしようか」
 新年のような明るく鮮やかな百合の咲く、白と紺のレトロモダン風の羽織を買って、値札だけ切ってもらうとそのまま店を出た。
 手にしたそれを大事に抱え、大通りを歩く。やがて人波がまばらになったその先で、影朧の姿を捉えた瑞樹が歩調を上げた。
 ゆっくり、とぼとぼと歩く影朧にはすぐに追いつき、一呼吸整えてから声を掛ける。
「こんにちは、お嬢さん」
『……こんにちは』
 振り向いた彼女が、瑞樹が手に持った羽織に目を止める。
「これ、気になるのかな?」
『ええ、素敵な羽織ね』
 貴方が着るの? と問われ、瑞樹が小さく微笑む。
「いいや、これは貴女に」
 そう言って、既に誰かが掛けてあげたのだろうコートの上からそっと真新しい羽織を掛けてやった。
『私に……? でも、悪いわ』
 貰えないわ、と影朧が困ったように首を傾げると、瑞樹が首をゆっくり横に振る。
「いいんだ、貴女にと思ったものだから」
 思い出す手助けは自分には出来ないかもしれないけれど、女性なのだからぼろぼろのままの着物ではあまりにも忍びない。
「俺の……そうだな、自己満足に付き合うと思って」
 着てくれないか、と微笑んだ。
『自己満足だなんて、思わないわ。ありがとう、貴方も優しい方なのね』
 やさしいひとが、いっぱいいるのね、と影朧が微笑む。
「よかった、喜んでくれたなら俺も嬉しいよ」
 そうして、影朧の隣を瑞樹も歩く。
「どこへ行くのかな」
『ええと、そう、私、神社へ』
 すんなりと出た答えに、他の猟兵が思い出させてくれたのだろうと瑞樹が当たりを付けると、そのまま横を歩いて当たり障りのない会話を続ける。
「約束でもしてた?」
『ええ、そう、約束をして。でも、わたし、あいてのかたの、かおも、なまえ、も』
 おもいだせないの、と呟いた彼女の背から黒百合が咲く。長く伸びた爪が、彼女の苦しみのままに動いた。
「そう、でも神社まで行けば思い出せるかもしれない」
『おもい、だせる』
 弱り切った影朧の動きは緩慢で、力を使う必要性さえ感じないほど。何度か振るわれた爪を軽々と避け、宥めるように声を掛ければ影朧の背からは黒百合が消えていく。
『そう、ね、そうね。このまま真っすぐ行けば、もう少しおもいだせるかも、しれないわね』
 ありがとう、と微笑んで影朧がまたふらりと歩き出す。
 瑞樹の贈った羽織の裾が、まるで優しい慰めのように揺れていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

月隠・三日月

硲さん(f01013)と共に

影朧は晴れ着を気にしているようだし、私も着ていこう(色柄等はお任せします)

あの影朧、何か目的がある様子なのだよね。どこかに向かおうとしているような……
影朧を驚かせないよう、そっと話しかけてみようか。
「もし、そこの方。もしや、道に迷われているのかな」
話すときは影朧と目線を合わせて、『貴方の話を聞く』と態度で示そう。
この影朧は、どこかに行こうとしているのだろうか? そうだとしたら、どこに向かおうとしているのだろうか? それを思い出せたら、この影朧の助けになるのではないかな。

戦闘では周囲の被害を抑えるよう立ち回ろう。なるべくあの影朧に人や物を傷つけさせたくないからね。


硲・葎

三日月さん(f01960)と。
晴れ着、せっかくだから着たいね。
黄色地に牡丹柄、裾に黒が入る着物。
帯は金に牡丹柄、帯留めは赤と緑の2色を使用。

悲しい気持ちが伝わってくる。
辛かったんだね。
貴女が大事にしてたこと、私が思い出せるお手伝い、してあげたい。
「貴女の大事な人、大切な友達、家族。思い出してほしい。貴女と一緒に幸せになりたかったはず」
コミュ力と優しさを使用して、彼女の気持ちに添うように。
思い出せなかったとしても大丈夫。
貴女が苦しくないように。
攻撃をしてきたら、見切りとダッシュでできるだけ回避。
「貴女の爪なら傷つけられても構わない。受け止めてあげる」
懐に入ったらUC発動。



●身寄りを問う
 その影朧は晴れ着を気にしているのだと聞き、それならばと月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)と硲・葎(流星の旋律・f01013)は晴れ着で出掛けることにした。
「聞いていたところ、戦闘能力は低いようだしね」
 酷く儚い存在に成り果てた、影朧。着慣れぬ衣装であっても、遅れを取るようなことはない。
 そう言うのは紺の着流しに同色の羽織を纏い、羽織紐には天然石を使った洒落たものを付け首元に黒の襟巻をしている三日月だ。
「そうだね、油断はできないけど出来る限りのことはしてあげたいよね」
 頷くのは黄色地に牡丹柄が美しく、裾に掃いた黒が鮮やかな晴れ着に金糸の帯は牡丹の柄で帯結びも牡丹のような大振りな花結び。帯締めは赤と緑で、なんとも鮮やかな晴れ着姿の葎だ。
「それでは行こうか、硲さん」
「よろしくね、三日月さん」
 新年のこのめでたき日に悲しきことのないように、と二人が街を歩き出した。
 大通りは人も多く賑やかで、正月の賑わいを見せている。けれど、ある程度進んだところで人通りがまばらになっていくのが見て取れた。そして、ふらりと歩く影朧も。
「あの子のようだね」
「避難誘導してる人も見えるから、そうみたい」
 影朧はそういったことにはどうも気が付いていないみたいで、ぼんやりと……それでいて前に向かって進んでいるように見えた。
「あの影朧、何か目的がある様子なのだよね」
 どこか、向かう先があるような。
「まずは話し掛けてみるところからだよね、三日月さん」
「そうだね。驚かせないよう、そっと話し掛けてみようか」
 元旦の街を謳歌する二人組のように見せかけつつ、二人が影朧に向かって歩く。すぐに追い付いて一瞬視線を合わせると、三日月が頷いて先に動いた。
「もし、そこの方。もしや、道に迷われているのかな」
『私、かしら?』
 振り向いた影朧の顔はどことなく不安気で迷子のように見えて、しっかりと視線を合わせて三日月がそうだよ、と頷く。
「行き先はわかるかな?」
『ええ、ええ、私、神社に向かっているの』
 行き先が思い出せているのなら、他のことも思い出せているかもしれないと三日月が話を聞こうと葎に視線を送った。
「そうなんだね、他に思い出せていることはあるのかな?」
 律がさりげなく声を掛けると、影朧が思い出せたことをつらつらと教えてくれる。
「そう、たくさん思い出せているんだね」
『ええ、親切な方が沢山いらっしゃったの』
 きっと自分たち以外の猟兵だろうと考えながら、二人は彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩きながら一つずつ頷いて答え、思い出せていないことを問い掛けていく。
『どうだったかしら……わたしの、おもいだしたいこと……』
 悲しげな表情を浮かべた影朧に、まるでその悲しい気持ちが伝わってくるようで葎が同じように眉根を寄せる。
「辛かったんだね」
 思い出せないままに街を彷徨うのは、どれだけ心細いことだっただろうか。
「私、貴女が大事にしてたこと……思い出せるお手伝い、してあげたい」
「私もだよ、一つでもいい。私たちと一緒に思い出してみないか?」
 真摯な二人の想いに、影朧がこくんと頷いた。
「貴女の大事な人、大切な友達、家族。思い出してほしい。貴女と一緒に幸せになりたかったはずだから」
『私の……わたし、そう、わたしおもいだしたくて』
 わたしといっしょにいてくれたひと、かぞくだったひと。
 ああ、ああ、わたし、わたし。
 思い出せないことが哀しいのだと言わんばかりに、影朧の背に黒百合が咲く。長く長く伸びた爪が、その哀しみを振りほどかんばかりに振るわれる。それは弱々しい動きで、猟兵である二人には大した攻撃ではなく。
「貴女の爪なら傷つけられても構わない。哀しみごと受け止めてあげる、大丈夫、大丈夫だよ」
 難なく動きを見切り、軽いステップで葎がそれを避ける。
「それほどに思い出したいことだ、落ち着いて記憶を探ってごらん。大丈夫、あなたならできるよ」
 三日月も周囲に被害が及ばぬように避ける先を選びながら、葎と共に優しい言葉を掛け続けた。
 だいじょうぶ、だいじょうぶよって、わたし、いわれたことがあるわ。
『だいじょうぶ、って、おとうさん、おかあさん』
 ほろりと流れた涙は黒く、けれど背に咲いた黒百合は掻き消えて影朧がぽつんと立ち尽くす。
「お父さんとお母さんがいたんだね」
「きっと優しい方たちなのだろう」
『ええ、ええ、私にもいたわ。家族が、いたわ』
 今も生きているかはわからないけれど、確かに居たのだと影朧が涙を流しながら微笑んだ。
「思い出せて良かったね」
「本当に良かった、家族を思い出せたのね」
『ありがとう、優しい方たち。ええ、ええ、私にもいたの、大事な家族――』
 ああ、けれどほかにも、おもいだせないことが、あるの。
 わたし、おもいだせるかしら?
 そう呟いて、影朧が再び歩き出す。
「大丈夫、思い出せるよ」
「ああ、必ず」
 葎と三日月が、その背に届くようにと願って、声を送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸】

晴れ着ではないですが、冬仕様の袴を
ふふ、ありがとうございます

影朧のお嬢さんへの対応は雲珠さまにお任せして。きっとその方が良いと思うのです
わたしは彼の様には出来ないでしょうし

彼が先導する影朧のお嬢さんの二、三歩後ろをそっと行き
彼とお嬢さんが話す会話に耳を傾けて
晴れ着には程遠い、痛ましいとも言える彼女の姿に思いを巡らせ
影朧になっていなければ、今頃彼女もそれを着てここにいたのかもしれません
そうはならなかったのですが
袖に仕込んだ千本の感触を確かめながら、彼女に妙な動きがあればいつでもそれを放てる様に

ああ、それでも。出来る事なら、この鋼の針を使う事がない様にと
少しばかり考えてしまうのです


雨野・雲珠
【鏑木邸】普段の和装

(瞬いて)…ヨシュカくん?
わぁ。とってもお似合いです!

自分が何者なのかすらも曖昧なんでしょうか。
寄り添うような気持ちで、さりげなく話しかけてみます。
後ろにヨシュカくんがいてくれるので安心です

こんにちは。
お怪我をなさってるようですけど…
よければ手当いたしましょうか。
血を拭うためのハンカチを渡そうとしたりしながら、
世間話めいて話を振ります。
年が明けましたねえ。初詣はもうお済みですか?
今日はどちらまでお出かけですか、などと。

その後も、彼女の側に同族がいなければ比較的近くに、
おられるなら先触れとしてすこし前を歩きます。
桜の精が見ていると知れれば、安心する方もおられましょうから。



●学び舎を問う
 一年中桜が咲き乱れる帝都のお正月はどの世界にも負けぬほどの華やかさがある、と雨野・雲珠(慚愧・f22865)は思う。晴れ着、と思いはしたけれど来るべき日の為に清貧と倹約を貫く彼はいつもの書生姿――麻の葉模様をした新橋色の長く着られる着物と、黒から紫鳶に色を変える袴に編み上げブーツに箱を背負った姿だ。
「お待たせしました、雲珠さま」
「いえ! 何も待ってな……」
 待ち人の声に雲珠が振り向いて、何度かその桜と空の混じる瞳を瞬かせる。
「……ヨシュカくん?」
「はい、ヨシュカです」
 そう言って笑ったのは、雲珠のよく知るヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)であるというのに、全く知らないヨシュカの姿をしていて。
「晴れ着ではないですが、冬仕様の袴を……変ですか?」
「いえ、とってもお似合いです!」
 抜けるような白に映える雪輪の模様の着物、その衿から覗くのは紫とピンクの粋な色。レースがアクセントのシャツが首元を飾るのも洒落ている。そして冬仕様だという紺の袴の裾には雪花が白く舞っていた。
「さすがヨシュカくん、和装のお洒落も抜かりない……!」
 では、何に驚いたのかと言えば、だ。
 彼が普段見ているヨシュカといえば褐色肌に白髪なのだが、今目の前にいる彼は健康的な白い肌に黒髪なのだ。
 その金色に光る瞳は変わらないけれど、全くの別人だと言われてしまえば信じてしまうだろう。
「ヨシュカくん七不思議のひとつですね……」
「ふふ、あと六つもあります」
 七つ見つけると何かあったりしますか? と思わず聞いてしまった雲珠に、ヨシュカはただ笑うだけだ。
「それでは影朧を探しに行きましょうか」
「はっ、そうでした! お役目に参りましょう、ヨシュカくん」
 そうして、人形と桜が連れだって賑わう街を歩き出す。目移りしてしまいそうになる賑わいも数分も歩けば人がまばらになって、二人が顔を見合わせる。
「人が少ないということは、影朧が近くに?」
 ヨシュカの言葉に、雲珠が避難誘導をする帝都桜學府の生徒を見つけて雲珠がそうみたいです、と頷いた。
「あ、あちらですね」
 普通より少し目がいいのだと笑うヨシュカが見つけた影朧に向かって、指をさす。
「聞いていた通りの方ですね」
「では、わたしは雲珠さまの後ろに控えておりますから」
 後ろに、と言われて雲珠が目を瞬かせる。
「ええと、影朧の対応は俺に任せて下さるということですか?」
「はい、きっとその方が良いと思うのです」
 わたしは桜の彼のようには出来ないだろうから、とヨシュカが思いながら頷く。
「その代わり、護衛はお任せください」
「ヨシュカくんの護衛……!」
 それは随分と贅沢ですね、と雲珠が表情を緩め、影朧に向けて真っすぐに歩を向けた。
「こんにちは」
『……こんにちは』
 振り向いた影朧の姿は確かに今までに見た影朧よりも儚く見えた。
「お怪我をなさってるようですけど……よければ手当いたしましょうか」
『ありがとう、でも、痛いとも思わないのよ』
 痛みすらも忘れてしまっているのだろう。そうですか、と言いながらも雲珠は取り出したハンカチをそっと彼女に渡した。
 素直に受け取ったそれで影朧が血を拭うけれど、すぐに新たな血が染み出すように現れる。それには気が付かない振りをして、雲珠が歩きながら世間話のような会話を影朧へと向けた。
「年が明けましたねえ、初詣はもうお済みですか?」
『初詣は、ええ、いまから……いくのだと、おもうわ』
 他愛のない会話をする二人の三歩後ろをヨシュカが歩く、何かあっても一足飛びに雲珠を庇える距離だ。
 影朧の一挙手一投足にまで気を配りながら、雲珠と影朧の話す会話に耳を傾ける。聞いていれば、ある程度のことは思い出せているようで、雲珠が嬉しそうな顔をしているのが見えた。
「そうなんですね、想い人の方と初詣に行かれる予定だったのですか」
『ええ、そう、そうなの。お付き合いは、していなかったのだけれど……』
「どちらでお知り合いになったのですか?」
 可愛らしい会話だと思う、そして雲珠の横を歩く影朧のお嬢さんも、影朧になっていなければ今頃ぼろぼろの着物ではなく綺麗な晴れ着を着てここにいたのかもしれない、とも。
 そうはならなかったから、今ここにわたしと雲珠さまがいるのですが、と袖に仕込んだ千本の感触を指先で確かめながら歩いた。
『どこで……どこで、しりあったのかしら……』
「学び舎ではないでしょうか、花乃子さんは学生さんに見えます」
『まなびや……いっしょに、かえって、ああ、どうだった、かしら、わたし』
 わからない、わからないわ。
 悲しげな瞳が揺れて、影朧の背中から黒百合が咲く。
「雲珠さま」
 ブーツの音も鳴らさぬ程の素早さでヨシュカが雲珠と影朧の間に入り込み、黒い涙で身を覆ってしまった影朧が繰り出す攻撃とも呼べぬようなそれを千本で弾く。
「ありがとうございます、ヨシュカくん!」
 庇われたまま、雲珠が影朧へと呼びかける。
「花乃子さん、大丈夫です! ちゃんと思い出せますから、落ち着いて考えてみてください。好きな方と、帰り道が一緒になったりしませんでしたか?」
 すきなかたと、まなびやのかえりみちで。
『ええ、そう……そうだったわ、わたし、私、あの方と一緒に帰れるのがとても嬉しかったの』
 背に咲いた黒百合が揺らいで消えて、身を覆い隠していた黒い涙も消えていく。
『私、初詣に一緒に行くお約束を、帰り道にしたのだったわ……』
 その言葉に、雲珠がきらりと目を輝かせてヨシュカを見る。ヨシュカも良かったですねと言わんばかりの笑みで応えた。
「思い出せて、何よりです」
「良かったですね、お嬢さん」
『ありがとう、思い出せて、嬉しいわ』
 ああ、でも、好きな方のなまえも、かおも、おもいだせないの、と影朧が溜息を零しながらまたふらりと歩き出す。
「雲珠さま」
「きっと思い出せるはずです」
 それまで、少し離れたところから見守りましょうという桜の彼に、ヨシュカが頷く。
「桜の精が見ていると知れれば、安心する方もおられましょうから」
「そうですね、それが良いと思います」
 雲珠の心遣いに小さく微笑んで、桜と人形は影朧を見守る為にまた歩き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
まあ、記憶を失って…
影朧といえど、気の毒な事でございますね
わたくしでは力不足やもしれませんが
何か思い出せないか、お手伝い申し上げたく

赤地に花柄のお振袖を着用
髪をアップにした恰好で参ります
もし、そちらのお嬢さん
お困り事でございますか?

まずは、お痛ましいお姿でいらっしゃるので
ショールをお掛けして、お怪我を空気に晒さぬように致したく

晴れ着の人にお話しをお尋ねになるという事は
あなたも晴れ着を着るご予定だったのでは?
そして神社にて、どなたかと待ち合わせをなさっている、ですとか
ただ、ここにおいでになる間に
大怪我を負われてしまわれたのでは
どうしてそのようになられたのか
思い出されたら、良いのでございますけれど


セフィリカ・ランブレイ
式典用のドレス来てる時位動きづらい!

『そも、セリカ。派手に動くための衣装じゃないわ』
けどシェル姉。晴れ着初めてなんだよ私
折角可愛いのレンタルしたんだもの、堪能させてよ

呆れ声で返す相棒の魔剣とやり取り


何を忘れてしまったかもわからない、か
感情って、人が動くために必要な一番大事なエネルギーだもの
ちゃんと思い出させてあげたいね

出来る限りお話、してみよう
町を巡れるなら、広範囲を見せて気になる場所を探ってみたい

この街並みを見て、何か感じたりすることある?
心が動き出すような場所とか、ある?
食べ物とか、本とか、そういうので気になったりは?

まずは、気になる場所とか、楽しかった事とか思い出してくれたらいいな


雷陣・通
ぎりぎり、間に合ったかな?

俺は……まあ、なんというか、君をおびき寄せ、そして他の猟兵を庇う役回り。
誰かが全力を出すために、あんたをここで釘付けにする役目さ

『前羽の構え』

空手における防御の構え、防刃加工のバンテージ、そしてタイミングを見切りさえすれば、時間は稼げる
怪我は付き物だけど

でもな、あんたは思い出さなくてはならない
何をしようとしたのか
何故、その姿になったのか
どうして、伸ばした手を拒む様に爪が伸びているのか

そして思い出したら――俺が受け止める
この爪を切り
伸ばした手を掴む役目は誰かに任せた!



●好ましきを問う
 赤地に金糸に縁どられた白薔薇と赤薔薇を咲かせた華やかな振袖に、上品な金の帯を結び黒と赤の帯締めを締めたベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)が影朧を探して帝都の街を歩く。緩く結い上げた金色の髪に挿した髪飾りがしゃらりと揺れていた。
「記憶を失った影朧……気の毒な事でございますね」
 人を襲うことなく彷徨っていると聞き及んでいるけれど、さてどちらに……とベイメリアが自然と落ちてしまった視線を上げると、随分と賑やかな声が聞こえて思わず振り返る。
「式典用のドレス来てる時位動きづらい!」
 ベイメリアの瞳に飛び込んできたのは白地に大輪の赤い牡丹を咲かせた鮮やかな晴れ着に、黒と金の配色のバランスの良い帯を結び白と赤の帯締めを締めたセフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)だ。
『そも、セリカ。ドレスも晴れ着も派手に動くための衣装じゃないわ』
 そして、セフィリカの声に答えたのは組紐を上手く組み合わせて腰に吊り下げられた――彼女の魔剣シェルファだった。
「けどシェル姉、晴れ着初めてなんだよ私! 折角可愛いのレンタルしたんだもの、堪能させてよ」
『その晴れ着にアタシを差してるのはどうなのよ……』
 真っ当な突込みにセフィリカが返事に窮していると、くすくすと笑い声が響いた。
「あ、申し訳ありません、笑うつもりは……」
 なかったのですけれど、とベイメリアが慌てて謝ると、セフィリカが気にしないでと笑った。
「そうなんだ、ベイメリアさんも影朧に会いにきたのね」
「ええ、わたくしでは力不足やもしれませんが、何か思い出せないか……お手伝い申し上げたく」
『アタシたちと一緒ね』
 自己紹介をして、同じ目的なら一緒に行きましょう! というセフィリカにベイメリアが快く頷いての道行き。思わぬ連れができたのは、お互い嬉しいものですねと乙女二人が笑い合った。
「でも、晴れ着がこんなに動きにくいとは思わなかったのよね」
「ふふ、確かに普段着ている物よりは動きにくいですわね」
 影朧に遅れを取るようなことはないけれど、いつもの動きができるかしらとセフィリカが悩んでいると、彼女の魔剣が声を上げる。
『セリカ、あの子見覚えがあるんだけど』
「え? 誰々?」
 セフィリカがシェルファの言う方角を見てみれば、視線の先には夕日のような色をした髪の少年が一人。
「あの子……丁度いいわ! おーい! 通くーん!」
 通くん、と呼ばれた少年がセフィリカの声に反応して振り向く。
「えっと、セフィリカ?」
 見たことがあるはずだ、とセフィリカが笑う。雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)とは、旅団を同じくする仲なのだ。
「お知り合いですか?」
「所属する団が一緒でね、規模が大きいところだから顔と名前くらいしか知らないってこともあるんだけど」
 ベイメリアにそう答え、立ち止まってくれた通へ追い付くために歩調を上げる。
「どうしたんだ、こんなところに……って聞くまでもないか」
 目的は同じなんだろう、と通が言うとセフィリカが頷いて隣にいるベイメリアを彼に紹介する。一通り自己紹介を済ませ、なるほどと通が頷いた。
「晴れ着では不安があるから俺に協力してほしいってことだな?」
「弱り切ってる影朧だっていうから、大丈夫だと思うんだけどね」
「ええ、遅れを取るようなことはないかと思うのでございますけれど……」
 二人の言葉に、通が笑みを浮かべる。
「いや、俺は説得というか思い出させるのは不向きだと思うから、渡りに船ってやつだな」
 引き受けさせてもらうぜ、と通が言うと、セフィリカとベイメリアが花が咲いたように笑った。
 では早速、と三人で連れだって歩き、影朧を探す。それはすぐに姿が見えて、ふらりと迷子のように歩く姿に通が思わずと言った風に零す。
「本当に、随分弱ってるんだな」
 あれなら、一撃で仕留められてしまいそうだと呟くと、セフィリカも同意を示すように頷く。
「それほどに、傷付き弱っている影朧なのでございましょうね」
 痛ましい姿だけれど、誰かが掛けてあげたのだろう、コートと羽織が肩に掛けられている。
「それじゃ、行くわよ」
「俺は二人の後ろで影朧がおかしな動きをしないか見てるぜ」
「お願い致しますね」
 通に一つ頭を下げて、ベイメリアが先陣を切った。
「もし、そちらのお嬢さん」
『……私、かしら?』
 ええ、とベイメリアが頷く。
「何かお困り事でございますか?」
『困りごと……ええ、ええ、そうね、私、困っているのね』
 そう言って視線を落としてしまった影朧に、ベイメリアがそっと肩に掛けていたショールを影朧の首元へと巻いてやる。
『これは?』
「首元が寒そうでしたので……よくお似合いでございます」
「ええ、とっても似合ってるって、私も思うよ」
 ベイメリアの言葉にセフィリカが言葉を重ね、影朧へと微笑む。何を忘れてしまったかもわからない、それはとても哀しいことだ。
 感情は人が動くために必要な、一番大事なエネルギーだとセフィリカは思う。ならば、ちゃんと思い出させてあげたい。そう決意して、出来る限り話をしてみようと試みる。
「この街並みを見て、何か感じたりすることってある?」
『感じること……ええ、そうね……どこか懐かしいけれど、私の知っている街並みと少し違うような……気軽のだけど、わからないの』
 何十年か先へ進んでしまったかのような、そんな。そんな気がするけれど、どうだっただろうか。
「そうなのですね……では――」
 ベイメリアとセフィリカが影朧に問い掛けるのを、通は黙って聞いていた。
 勿論、影朧の動きに注意しつつ、だ。
 オブリビオンの中でも桜の精の力で転生が可能だという、影朧。けれど、今までに相対したことのある影朧とあの影朧はどうやら少し違うということ。儚さすら感じてしまうような――。
「こんな影朧もいるんだな……」
 零した言葉は、誰にも届かないほどの小さな声だった。
「そうなのでございますね、そこまで思い出されていらっしゃったのなら、他のことも思い出せそうなのではないでしょうか?」
『ええ、でも、ぼんやりと霞が掛かっているような、感じで』
「じゃあ、心が動き出すような場所とか、ある?」
 通りを歩きながら、セフィリカが影朧に問い掛けつつあちこち指をさす。
「ほら、あそこのカフェのパンケーキとか、パフェとか美味しそうだな、とか」
『ぱんけえき……かふぇ、の』
「ケーキも美味しそうだよね」
 それはアンタが食べたいだけでしょ、とシェルファが突っ込むけれど、セフィリカは知らん顔だ。
『かふぇ、ああ、ああ、どうだったかしら、わたし』
 わからない、わからないの。
 顔を手で覆ってしまった影朧の背から、黒百合の花が咲く。
「下がって!」
 通が短く叫ぶと、二人が軽いバックステップで通の後ろへ下がる。
「どうか、どうか傷付けぬように……!」
 お願いでございます、とベイメリアが通の背に声を掛ける。
「承知した!」
 黒い血の涙を流し、ずるりと伸びた長い爪が緩慢な動きで通を襲う。
「俺はバカだから、あの二人みたいに色々聞いてやることはできないけど」
 両手を前に出し、通が構える。
 それは空手における防御の構えによる通の絶対防御。防刃加工のバンテージがされたその手で攻撃を受け止め、影朧の意識をこちらへ向けさせる。
「あんたは思い出さなくてはならない」
 思い出せたことがあるのなら、まだ思い出せないそれを。
 何が好きだったのか、それだってその人を作る想いの一つだ。
「セフィリカとベイメリアが問い掛けたそれを」
 できるならば、思い出してやって欲しいと通は思う。
『ああ、ああ、わたし、そう、かふぇ、みるくほーる、の』
 苦し気に顔を歪め、影朧が伸びた爪を通へ突き立てるように伸ばす。
「俺が、受け止める!」
 影朧の爪が、ぱきんと割れた。
 俺はその手を掴めないけれど、その手を掴んでくれる人はここにいるからと、通の唇が笑みを浮かべる。
「大丈夫、思い出せるよ!」
「ええ、お嬢さんなら、きっと……!」
 願うような二人の声に、影朧の動きが止まり黒百合が消えていく。
『わたし、ああ、わたし、ミルクホールでいただく、ミルクコーヒーが好きだったの』
 好きな方と、一緒に飲むそれは、とっても甘くて美味しかった。
「思い出せたんだね」
「何よりでございます」
『ええ、ええ、ありがとう……ありがとう、あなた、も』
 影朧が二人に微笑み、通にも視線を送る。通が構えを解き、それに黙って頷いた。
『ああ、だけど』
 わたし、やっぱりあの方のお顔も名前も、おもいだせなくて。
 思い出せたこと、思い出せないことを何度も考え、迷うような足取りで再び影朧が歩き出す。
 思い出せればいい、と願いながら、三人は影朧の背を見守った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時


晴れ着かー、俺様はもってねぇけど…いつか来た方が良いのかな、やっぱ…
カッコいい晴れ着欲しいな…


ん?聞きたい事か?良いぞ!俺様でわかる事なら……
(…何忘れたか俺様知らなかったわ…)
お前が何を忘れたかは正直わからねぇけど
話なら幾らでも聞くぜ!

忘れた事はやっぱ思い出した方が良いだろうしな!

なんで血まみれかはわかんねぇけど…

そうだな、何か後悔してることがあるかもしれねぇ
未練が……確か神社の道なんだよな

だったらもしかしたら初詣とか…なんだっけ、成人式?っつうのもあるらしいじゃん
それ関連かもしれないぞ!

正直悲しい顔より楽しい顔になったほうが気分も上がるはずだし…楽しい思い出とか其処にありそうじゃないか?



●一緒に歩いて
 サクラミラージュ、帝都。大正の世が七百年以上も続く街、和装が多く見受けられるが、勿論洋装の者も多い。正月ということで、晴れ着を着ている者が多いが、スーツで決めた人々もそれなりに見える。
「晴れ着かー、俺様はもってねぇけど……いつか着た方が良いのかな、やっぱ……」
 呉服屋の前で立ち止まり、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)がその大きなショーウィンドウを覗く。圧倒的に女性の晴れ着が多かったけれど男性のマネキンも立っていて、カジュアルなものから成人式に着るようなしっかりとしたものまでと様々だ。
「俺様もカッコいい晴れ着欲しいな……」
 自分ならばどんなものが似合うだろうか。
 飾られている黒の紋付き袴も格好良いけれど、白色の着物に白から黒へ色を変えていく生地の裾に星を散らしたような袴、羽織は紺から白へ色を変える、どこか星空を思わせるような――。
「っと、いけねぇ」
 思わず夢想してしまったけれど、零時が今着ている衣装だって彼の一張羅だ。
「晴れ着は人の数だけあるってな!」
 呉服屋から離れ、零時が人波に沿って進む。神社が近付くにつれて人が多くなるかと思ったけれど、人波は減る一方。
「となると、この辺にいるんだな」
 よく見れば避難誘導をしている者の姿も見える、ならばこの先で間違いないと零時は歩く速度を上げた。
「あいつ……だよな?」
 肩に色々羽織ってはいるが袴がボロボロだし、よく見れば血塗れだ。
「よし!」
 気合を入れ、影朧に向かって走り出す。
「なあ、なんか困ってたりするんじゃねぇの?」
『私、かしら?』
「そうだぜ、俺様が聞いてやる」
 胸を張った零時に影朧が小さく笑って、ありがとうと頷いた。
「聞きたい事とかないか? 俺様でわかる事なら答えるぞ!」
『聞きたい事……』
 そう言われて、影朧が首を傾げる。それから、ぽつりと話し出した。
 親切な人達のお陰で、色々なことが思い出せたこと。だけど、どうしても思い出したくても思い出せないことがあるということを。
「へぇ、色々思い出せたんだな」
 良かった、と思うと同時に何を思い出せないのかが気になって、零時が問うた。
『私が、好きな方のお顔と、お名前が、どうしても思い出せないの』
「そりゃ……」
 血塗れの理由は聞いた、神社へ向かうことも聞いた、それが好きな人との約束であったことも。
「俺様にもちょっとわかんねぇな……」
『ふふ、いいの』
 知っている人が、今も生きているかはわからないもの、と影朧が呟く。
「そ、そんな顔すんなよ! こう、髪が短かったとか長かったとか、そういうところから思い出せるかもしれねぇだろ?」
『かみの、ながさ』
「目が垂れてたとか、大きかったとか、身長が高かったとかさ」
『どう、だったかしら』
 ほんとうに、どうだったのかしら、わたし、どうしても。
 影朧の背から黒百合の花がぶわりと咲き、哀しみの黒い涙が影朧を包みこむ。
「ぱ、パル―――ッ!」
 傷付けたくはないと、零時が紙兎のパルを呼べば、影朧の攻撃を躱す手助けをしてくれる。瞬間移動のように移動を繰り返し、零時が影朧に声を掛けた。
「大丈夫だって! あんたなら思い出せる! それにあんたの好きな人だって、あんたが悲しい顔をしているより、楽しい顔をしている方が嬉しいに決まってる!」
『わたしの、すきなひと、も?』
「もちろん、俺様だってだ!」
 かなしい、かおよりも……。
 影朧の背から黒百合が消えると、覆っていた黒い血の涙も消えていく。
『おもいだせる、かしら』
「あんたが笑ってたら、きっと!」
 そう、そうね。
 泣き笑いのような笑顔を浮かべ、影朧がまたふらりと歩き出す。
 その背を見守る零時が、絶対だ、と呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

千家・菊里
【福3】晴着でお任せ
ふふ、清史郎さんは流石の着こなしですね
本当に、清新の気に包まれた様な心地で

伊織も其の儘黙っていれば良いものを――除夜の鐘も君には無意味でしたか(早速煩悩塗れの男見て笑い)

今日は奇しくもお嬢さんに声を掛けねばならぬ仕事
清史郎さんを見習って確り頼みますよ?

さてお嬢さん、お困りですか?
何方かとおめかしして初詣の約束等していたのでしょうか
――何にせよ、哀しいお顔の儘では忍びない

好きな物
楽しかった事
渾名や愛称
――街の光景の中、何か心の奥底が訴えたり、思い出が過る事はありませんか?
慌てず一緒に紐解いて行きましょう

哀哭さえも受け止め、血涙を拭い、心晴れる切欠を見出せる迄――付き合いますよ


筧・清史郎
【福3】
目を惹く明るめ上品な色味の晴れ着で

二人の和装は見慣れてはいるが
この様な装いは新年に相応しく、気も引き締まるな
ふふ、菊里もとても良く似合っている

女学生に声を掛ける任務か
伊織にはうってつけでは?
そうか、それは頼もしいな(微笑み

UC発動、柔桜の如き微笑み咲かせ
優しさ言いくるめコミュ力強化後、影朧へ声を
何か困り事だろうか?
…色々な物事を忘れてしまったと
ではゆっくりひとつずつ、些細な事でもいい
浮かんだ単語や風景など
君の心に在るものを、俺達に聞かせてくれないか

根気強く話聞きつつ、万一の事態にもそっと備えながら
切欠になりそうな言の葉探り、掬っては紡いでみたりと
二人と共に、柔い笑みや声を彼女へ向けよう


呉羽・伊織
【福3】晴着でお任せ
ウン、凛と新鮮な気分になるな
――然し今年もまた華のない絵面になったネ
いや変わらず皆で新春祝せるってのは幸いだが!晴着美人との春は遠い…

くっ、菊里こそ黙ってろ
俺だってやれば出来る多分!

(何気に二人して素でたらしでは?と思いつつ)
――お嬢サン、暫し俺達にヱスコヲトさせてくれる?
拙い乍ら――忘物を取り戻し、望む場所に辿り着けるように

懐に大事な物とか残ってたり、或いは心の裡に――自然と祈り願う事とか、想い当たらない?
例えば俺なら、友人が幸いであるよーに、とか――そーいう、自然と浮かぶ心
そうして皆で欠片を集め、紡ぎ直してこう

願わくは傷が癒える刻まで
皆で優しく寄り添い手と心を尽くそう



●想い人を問う
 新年、昨日の続きとはいえ元旦というのは良いものだな、と筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が穏やかに微笑む。
「ふふ、新しい年の始まりですからね。それにしても――」
 清史郎さんは流石の着こなしですね、と千家・菊里(隠逸花・f02716)が清史郎の装いを褒める。
「そうか? ふふ、菊里も良く似合っている」
 新調した甲斐があったと笑う清史郎は白が青に染まるように変化していく着物に落ち着いた紺の袴、羽織は薄桜から白へと変化する地に、雪花と桜の舞う気品のあるもの。
 菊里はといえば、赤と黒の切り替えが鮮やかな着物に黒の袴、袴の折り目に覗く紫が帝都に相応しいレトロモダンさを引き出している。菊の模様も美しい羽織、首に巻いた襟巻は紫紺色で、褐色の肌が際立つよう。
「この様な装いは新年に相応しく、気も引き締まるな」
「本当に、清新の気に包まれた様な心地で」
 頷き合う二人の横で、ウン、と呉羽・伊織(翳・f03578)が頷く。
「凛と新鮮な気分になるな」
「伊織も良く似合っているぞ」
 二人の和装は見慣れているのだが、やはり新年は別格だなと清史郎が褒めた。
 それを眺めつつ、伊織が小さく溜息をついて、ぽろりと唇から零す。
「――然し今年もまた華のない絵面になったネ」
 いや、変わらず皆で新春を祝せるってのは幸いだが! ネエ! でも晴れ着美人との春は遠い……そう言って遠い目をした伊織に菊里が呆れたような瞳で視線を遣る。
「伊織も其の儘黙っていれば良いものを……」
 そうであれば見目も悪くないというのに、というのは黙ったまま菊里が今日の伊織の装いを眺めた。
 赤に薄紅の差し色が入った着物に黒の袴、本紫と青紫の市松模様の羽織。一見地味にも思えるが羽織の裾がひらりと舞えば、羽裏に覗くのは華やかな桜模様。粋な晴れ着だ、そう、黙っていれば。
「除夜の鐘も君には無意味でしたか」
 早速煩悩に塗れた台詞を吐く彼を菊里が笑うと、さて、と口元に当てた扇子を袴に差して襟を正す。
「今日は奇しくもお嬢さんに声を掛けねばならぬ仕事、清史郎さんを見習って確り頼みますよ?」
 貴方にぴったりでは? と伊織に送られる視線が物語っている。
「くっ菊里こそ黙ってろ、俺だって――」
「女学生に声を掛ける任務か、伊織にはうってつけでは?」
 邪気のない、何の裏もない瞳で清史郎が伊織に微笑む。
「やれば出来る、多分! いや、完璧にこなしてみせる!」
「そうか、それは頼もしいな」
 さすがは伊織だ、と清史郎が小さく手を叩くと、伊織が先陣を切るように帝都の街を歩き出した。
「俺達も行こう、菊里」
「ええ、清史郎さん」
 見事な飴と鞭、であった。
 常であれば正月の、それも桜御神籤が人気だという神社に続く大通り。人でごった返しているはずなのだが、三人が進むにつれて人が疎らになっていく。
「人払いがされているな」
「影朧に気付かれぬよう、桜學府の者が動いているようですね」
「なら、この先に影朧がいると思って間違いなさそうだな」
 気合を入れなおして三人が道を進めば、影朧と思わしき女性がふらり、ふらりと歩いているのが見えた。
「ふむ」
 清史郎が袴の下に差した扇子を取り出し、一差し舞うように翻す。
「咲き香れ、柔桜」
 帝都に咲き乱れる幻朧桜ではない桜の花弁が、ふわりと舞い上がった。
「では、行こうか」
 柔らかな桜のように微笑みを咲かせると、清史郎が影朧へと声を掛ける。
「もし、何か困り事だろうか?」
『……私、かしら?』
「ええ、お嬢さん。何か困っているように見えましたので」
 清史郎に続き、菊里が影朧へと話し掛けた。
「……えぇ?」
 これ、もしかしたら俺いらなくない? と伊織が二人を眺めて思う。何気に二人して、素で誑しなのでは……? とも。
『私、色々なことを忘れてしまって』
「そうか、それは難儀だな」
「何も思い出せないのですか?」
 菊里の問いに、影朧がゆるりと首を横に振る。
『親切な方たちのお陰で、思い出せたことはあるのだけれど』
 それは全てではなく、一番思い出したいことが思い出せないのだと、影朧が悲し気に言った。
「思い出せたことがあるのか、それは何よりだ」
「何も思い出せていないより、良いですよ。ねえ、伊織」
 菊里が伊織に水を向けると、それまで黙って二人の手腕を眺めていた伊織が慌てて頷く。
「そうさ、お嬢サン。もしよければ――暫し俺達にヱスコヲトさせてくれる?」
『ヱスコヲト?』
「ああ、拙い乍ら……お嬢サンが忘れ物を取り戻し、望む場所に辿り着けるように」
『ふふ、ありがとう。親切な方々』
 やればできるじゃないですか、と言いたそうに笑う菊里に舌を出し、伊織が影朧の手を取った。
 歩きながら、名前や神社で待ち合わせをしていたこと、その相手が好きな人だったこと、家族のことや思い出の一欠けらを思い出せたことを聞く。
「そうでしたか、それでは尚更……哀しいお顔の儘では忍びない」
「そうだな、何故それほどに思い出せているのに哀しい顔をしているのか、俺達に聞かせてくれないか」
 菊里と清史郎がそう言うと、影朧――花乃子がそっと目を伏せた。
『私、どうしても好きだった方の顔とお名前が、どうしても、おもいだせなくて』
 それが哀しいのだと、花乃子が溜息をつく。
「好きな人の……そうか、キミはそれを思い出したいんだな」
 伊織が言うと、花乃子が血の気のない頬をほんのりと赤くして頷く。
「恋する乙女と言う奴だな、それはなんとしても思い出させてやりたいところだ」
「ええ、思い出せればきっと……笑顔になれますよ」
 三人が視線を交わし、思い出せるようにとゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ではゆっくりひとつずつ、些細な事でもいい。好きな人のことを考えた時に浮かんだ単語や風景など、君の心に在るものを俺達に聞かせてくれないか」
『私の心に、あるもの……』
「街の光景の中、何か心の奥底が訴えたり、思い出が過る事はありませんか?」
『好きな人を、思って、おもいうかぶ』
 おもいで、すきなひとをおもって、うかぶ。
 それは淡く記憶の水底から浮いてくるのに、どうしても掴むことができずに影朧の足が立ち止まる。
『ああ、わたし、わたし、そこにあるのに、おもいだせなくて』
 顔を覆った両手の爪がずるりと伸びて、影朧の背に黒百合が咲き、黒い血の涙が零れ落ちていく。
「慌てず、一緒に紐解いて行きましょう」
『でも、わたし、ああ』
 菊里の言葉に、影朧の嘆く声が響く。それは辺りを傷付けるように無差別に響き渡るけれど、弱り切った影朧の力では三人を傷付けることはできず、既に避難も済んだ通りに被害は一つも無い。
「大丈夫だ、ひとつ……思い浮かぶことがあるのではないか?」
『おもい、うかぶ』
「懐に大事な物とか残ってたり、或いは心の裡に――自然と祈り願う事とか、想い当たらない?」
 影朧の長い爪が己の懐を探るけれど、あるのは着物だけで。けれど、ふと彼女の動きが止まり、黒百合の花が消えていく。
『てがみ、やくそくのてがみを、わたし、もって』
 二人で神社に行こうと、誘ってくださった手紙。
「ほら、ひとつ浮かんだだろう?」
「手紙なら、名前が記してあったのではないですか?」
 なまえ、そう、あの人の名前。
『しょういち、さま』
 そう言った影朧の瞳からは、黒い血ではなく清らかな涙が零れ落ちて。
「キミの心に浮かぶその欠片を、紡ぎ直して」
 誰かの顔が浮かばない? と伊織が優しい声でそう囁く。
『りりしい、おかおで、そう、そうだったわ、わたし』
 あの方の学生帽を被った横顔が、一等好きだったのだわ。
「見事、思い出せたのだな」
「ええ、お顔も心のように晴れた笑顔を浮かべていますよ」
『ありがとう、親切な方達』
「キミが頑張ったからだな!」
 清史郎が天晴と笑えば、菊里も伊織も唇に笑みを浮かべ、影朧――花乃子の流す清らかな涙をそっと拭ってやるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●帝都、大通りにて
 思い出せた、一番思い出したかったこと――。
 そう微笑んだ影朧――花乃子からは邪気のようなものは一切感じられなかった。
 けれど、彼女が影朧であるということは無害となっても事実であり、帝都の人々からすれば恐れの対象である。しかし、意思の疎通ができる花乃子を実際に見れば暴れる様子はなく、周囲には帝都桜學府より派遣されたユーベルコヲド使い、そして何よりも猟兵達の姿がある……それは人々に絶大な安心感を与えていた。
 疎らになっていた人々は大通りへと戻ってきていて、元の賑やかさを取り戻している。時折不安気に影朧を見ている者もいたが、猟兵が声を掛ければ安堵したような表情を浮かべて笑って花乃子の横を通り過ぎていった。
 そんな、人々が元日を謳歌する大通りにはカフェや、初売りだと張り切る店舗が正月客を見越して多く開店している。特に人気なのは福袋で、様々な店舗が店先や店内で販売しているのが見えた。
 何とも賑やかな帝都の正月、大通り。
 猟兵である君達は神社へと向かいつつ、店を冷やかすのもいいだろう。猟兵が立ち寄る店に居る者はきっと影朧を見ても猟兵がいるならと安堵するし、正月早々縁起がいいと喜ぶはずだ。
 不安に思う人々を宥め、説得するのだって立派な役目。影朧である花乃子と話をしながら、神社まで向かうのもきっと楽しいはず。
 どうぞ、帝都の正月を楽しんで――。

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 思うように帝都の大通りを楽しんでいただければと思います、大抵の店は開いているのでお好きなお店で買い物もいいですし、カフェで一休みするのもいいと思います。カフェのメニューはカフェにあるものなら大抵あります。
 飲酒喫煙は可能ですが、未成年の方の描写できませんのでマスタリングが入ります、ご了承くださいませ。
 そういったことに興味がなければ影朧に怯える人々と話をしたり、花乃子と話をしながら神社へ向かうのもいいでしょう。どの行動を取っても、怯える人々に安心感を与え影朧を守る行為になりますので、お好きに過ごしてくださいね。
 【受付期間】はMSページに記載のURLを参照ください、受付期間前、受付期間後に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
黒鵺・瑞樹
◎WIZ

さてどうするか。
今のとこ特に欲しいものとかもう無いから買い物って気分でもないし、さりとて女性相手に時間が保てるほど話し上手なわけでもない。
こういう状況だと周りを見てた方が個人的には楽しいんだが…。

時折人々と、花乃子さんと話しながら神社に向かおうか。
適当な相槌ぐらいしかできなさそうだし、周囲を眺めて進む事になりそうだが。
影朧がいるそして元旦とはいえ、何でもない日常を眺めてるのはとても楽しい。
その中で何か面白そうな物、興味を惹かれるものが見つかれば幸い。
でも。
見つからなくてもいいかなとも思う。
興味をもってしまったらそれが俺の未練につながるんじゃないかと、不安になってしまったから。



●道すがら
 すっかり賑わいの戻った大通りを歩きながら、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が初売りだと呼びかける声に視線を向ける。
「初売りか……」
 ううん、と考えるけれど、今のところ欲しいと思うものも特になく、買い物という気分でもない。店を冷やかすのはどうだろうかとも思うが、欲しくもないものを眺めるのも時間の無駄のように思えた。
 さりとて、女性の話し相手を務められるほど話し上手というわけでもなく、神社までの道すがらをどうしようかと瑞樹が悩むように辺りを見回した。
 着飾った人々が楽しそうに歩いていく姿、家族でお参りに行く人々、初売りを目当てにやってきたのであろう若い女性達。誰もが楽し気な笑みを浮かべている。
「うん、俺はこうやって周りを見ていた方が楽しい、かな」
 そうと決まれば瑞樹の足も軽くなるというもの、花乃子を視界の中に入れて何かあれば即座に助けられるような距離を保ちつつ、この正月の風景を楽しむことに決めた。
 きゃあきゃあと、楽しそうな声を上げる子どもの姿に頬を緩ませ、時折聞こえてくる影朧に怯える声には優しく声を掛け、その不安を聞いてやる。
「だって、影朧なんだろう?」
「ああ、だが彼女は無害だ。心残りを断つために神社に向かっていて……それさえ無くなれば、桜の精が癒やしを与えるだろう」
 瑞樹がちらっと視線を向けた先には、帝都桜學府の制服に身を包んだ桜の精の姿が見える。
「なんだ、そうなのかい。それなら、危険はないんだね」
「ああ、もし何かあっても猟兵が多くいる、安心してほしい」
 猟兵という言葉を聞いた者は、それなら安心だなと頷いて笑顔で瑞樹から離れていく。ユーベルコヲド使いよりも強いとされる猟兵の名は効果絶大で、瑞樹から聞いた話をそのまま違う者へと話す者もいた。
「これで安心してくれればいいんだが」
 猟兵が近くにいるという安心感からか、花乃子への目も次第に柔らかくなっていく。ほっと安堵し、瑞樹が再び街を歩くと、着物にエプロンをした店員に呼び止められる。
「ちょいとそこのお兄さん、桜香る緑茶はいかが?」
 俺か、と足を止めれば試飲だと小さな紙コップが渡された。
 飲んでみれば、ふわりと桜の香りが鼻を抜けていく。聞いてみれば、緑茶に乾燥した塩漬けの桜葉と桜の花が入っているのだという。
「一つ貰おうか」
 お茶ならいいか、と思ったのだ。
 飲んで消えてしまうものならば、未練にも繋がらないだろう、と。
 商品を受け取って、賑わう道を歩く。帰ったら、伽羅と陸奥と共に飲むのも悪くはないと瑞樹が小さく笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
◎【箱2】
花乃子、無事に思い出せたみてーで何より………だが、俺が大問題、振り払うタイミング逃した
…どうしよう、手、繋いだままだ
…なぁ、手……その、冷たく…ねぇ?霜焼けになっちゃうぞ?俺の地獄の炎は冷たいから
平気なら良いけどー…

ああ、うん、そだな、花乃子ちゃんと護らないと
俺らが笑顔でゆるりしてれば花乃子も周囲の人も安心するよな
これは任務…手を繋ぐ仕事
やんわり手を握り返す
あったかい、安心する温度…絶対言わねぇけど、少し嬉しいの、かな俺

腹減る、アメリカンドッグ食べたいなー
ラファンのにマスタード山盛りかけ最後にケチャップで猫の絵描き
お客さんオマケしときましたよ?他のも買い食いしよ?奢ってくれんでしょ?


ラファン・クロウフォード
◎【箱2】思い出せてよかった。嬉しい。思い出すだけで笑顔になれる人……戒を見る。握ったままの手。柔らかいし、霜焼けにもならない。花乃子さんの見守りは終わっていないから。手を繋いで歩いて周りの気を引き続けた方がよくないか? 袖に小銭を忍ばせ片手で支払う。手を繋いだまま、ケチャップとマスタードをお互いにかけあったりして楽しむ。ケチャップたっぷり美味しいぞ。マスタードたっぷり、絶対やると思った。想定外の猫の絵、可愛くて逆に食べ辛い。甘さに助けられ完食。他も食べよう、奢らせていただきます。甘酒を見つけて口直し。熱いから気を付けて。両手で受け取り戒に渡す。離れた手は、また、繋げばいい。何度でも、繰り返し



●繋いだままで
 晴れやかな花乃子の顔を見て、瀬古・戒(瓦灯・f19003)とラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)はほっと胸を撫で下ろす。
「花乃子、無事に思い出せたみてーだな」
「ああ、思い出せて良かった」
 何よりだ、と戒が笑う隣でラファンも嬉しいと笑みを零している。
 影朧の大問題は消えた、あとは悔いが残っているであろう神社まで向かうのを見守ってやれば、きっとことは上手くいくはずだと戒は思う。そして、それよりこっちの方が大問題なんだけど、と視線を自分の手へと落とした。
 振り払うタイミングを逃した――! っていうか何気に握る力が強くないか? いや、痛いとかそういうことはない、今も優しい力で握られていると思う。けれど、そっと振り払ってやろうとすると絶妙なタイミングで力が入るのだ。
 そう、まるで絶対に逃がさないというかのように。
 ……どうしよう、手。
 若干途方に暮れつつ、それでも戒はこの状況からの脱出を試みる。
「……なぁ、手」
「手がどうかしたか?」
 あ、ほら、今もさり気なく手に力が入った。
「いや……その、冷たく……ねぇ? 霜焼けになっちゃうぞ? 俺の地獄の炎は冷たいから」
「冷たくないし、霜焼けにもならない」
 これくらい、あの極寒の地に比べたらなんということもないし、何より戒の手は柔らかくて気持ちいい。
「平気なら良いけどー……」
 いや、全く良くないのだが。全く良くないのだが、手を振り払うタイミングが掴めない。どうしようか、とまた戒が眉間に皺を寄せそうになった時だった。
「戒」
「ん、何?」
「花乃子さんの見守りはまだ終わっていないだろう?」
「そりゃ、まだ終わってないけど」
 それがどうかしたのか? と戒が小首を傾げる。それと同時に髪飾りがシャランと揺れて、口をついて可愛いという言葉が出そうになったのをぐっと堪え、ラファンが言葉を続けた。
「手を繋いで歩いて、周りの気を引き続けた方がよくないか?」
「え?」
「花乃子さんに視線がいくよりは、俺達で気を引き続けた方がいいだろう?」
「ああ、うん、そだな、花乃子ちゃんと護らないと」
 そう返事をしつつ、戒の頭の中は混乱していた。
 俺達が手を繋げば花乃子が守れる? 風が吹いたら桶屋が儲かる理論より色々すっ飛ばしている気がする。けれど、まぁ、うん。おかしいだろう、それと思うよりも、手を繋ぐ理由ができた方が彼女にとってはこのぐるぐると回る思考を打破する理由になったのだろう。
「俺らが笑顔でゆるっとしてれば、花乃子も周囲の人も安心するよな」
「そうだ」
 如何にもっぽく頷いたラファンに、戒も頷く。
 これは任務、手を繋ぐ仕事だと割り切ってしまえば、恥ずかしくない。そっと手を握り返せば、ラファンの唇が嬉しそうに持ち上がった。
 そういえば、人と手を繋ぐなんて何時ぶりだろうか。あったかくて、どこか安心できる温度。もしかしたら、俺は少し嬉しいのだろうか? 絶対に言わないし、悔しいからラファンの顔も見ないけれど。
「はー、なんか俺腹減ったな」
 耳が赤いのは寒さのせいにして、戒が言う。
「何が食べたい?」
「アメリカンドッグ、食べたいなー」
 もうすっかりいつもの調子だと言わんばかりに、繋いでいない方の手で戒が指さす。視線を向けた先にはアメリカンドッグの屋台が見えて、ラファンが頷いて手を引いた。
「二本ください」
 あいよ、という店主の元気のいい声が響き、耐油紙に包まれた揚げたばかりのアメリカンドッグが渡される。それをラファンが片手で一つずつ貰って店先の小さなスペースに置き、袖の中の小銭を片手で掴んで支払いを済ます。
「いやあの、手」
「繋いだままでも出来るだろう」
 できるけどさぁ、と言う彼女に笑って、ラファンがケチャップとマスタードを掛けて戒の方へと寄越した。
「ケチャップたっぷりで美味しいぞ?」
「ふぅん、じゃあ俺はーっと」
 まだ何も掛かっていないラファンのアメリカンドッグにマスタードを山盛り掛けて、最後にケチャップで猫の絵を描く。ちょっとばかり歪な猫だったけれど、会心の出来栄えだ。
「お客さん、オマケしときましたよ?」
 にやりと笑って戒が特性アメリカンドッグをラファンの方へと押しやった。
「……絶対にやると思った」
「はっはー、ちゃんと食えよ?」
 勿論、とラファンがそれを手に取れば、想定外に可愛い猫の絵。可愛くて逆に食べ辛いなと思いつつも、早くも半分を食べ切った彼女に負けぬようにラファンもそのアメリカンドッグを食べた。
 食べるのに夢中だった二人は知らない、そんな姿を店主は生温くも優しい目で見守っていたし、周囲の人々も仲が良いわねと微笑んでいたことを。
「はー、美味かった! でもまだ足りねぇなー」
 ちらっとラファンを見て、他のものを探すように戒が歩き出す。
「他のも買い食いしよ? 奢ってくれんでしょ?」
「ああ、他も食べよう、奢らせていただきます」
 何がいいかとあれこれ見ていると、甘酒を売る店が見えた。
 口直しに、とラファンが甘酒を買い求め、二つ渡されたそれを両手で受け取る。
「熱いから気を付けて」
 紙コップに入った甘酒は温かく、体の芯から温まるようだった。
 けれど、戒がひんやりとしてしまった手を手持ち無沙汰にしていると、すぐにラファンの手がその手を握る。
「行こうか」
「お、おう」
 離れたなら何度でも繋ぎ直して、冷えてしまったなら何度でも温めて。
 そうやって、二人は神社へと向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
オリオお姉さんf00428と

名前がないのは辛いから、思い出せたらそれだけでも、いい
道すがら、少しでも花乃子お姉さんを見守って、
それからお参りをしてこうか

…おみくじ?
いいよ
縁起がいいほうが勝ちね
俺、こういう運は…

…福袋?
いいよ。色々福袋にも種類があるんだね
武器福袋とか銃福袋とかないの?
ない?そう…
じゃあ
この家庭用雑貨にしよう
丁度マグカップが買い替え時で…
(マグカップは、出ない

……
(おみくじ、福袋共に内容はお任せ
何きても割と淡々と承るけれども、大凶とか出たら若干ショック

え?ああ、ありがとう
お姉さんの気づかいが…
って、これ女性ものじゃない?
気のせい?なら、いいけど
じゃあ、代わりに俺もこちらをどうぞ


オリオ・イェラキ
リュカさま【f02586】と

思い出されて何よりですわ
花乃子さまがこれより歩まれる旅路が、穏やかでありますように
神社迄宜しければ三人で雑談でも

リュカさま神社と言えばおみくじですわ
是非今年の運試しを致しましょう
どのような結果でも楽しく受け取りますわ

では折角ですもの
もう一つ運試し如何かしら
福袋というのを買ってみたかったの
まぁ武器福袋?わたしくも欲しいですわ
そう、ありませんの…では今日は服のを購入しましょう
中身はまたお任せで
あら。こちらはリュカさまの方が似合いそう
ふふ…きっとぴったりですわ
差し上げますと贈りますの

わたくしにも頂けますの?
嬉しい、交換こは憧れでしたの
マグカップは改めて見に行きましょうね



●福よ来い
 思い出せた、と喜ぶ花乃子の表情は明るくて、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)とオリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)はほっと息を吐く。
「思い出されて何よりですわ」
「そうだね」
 名前がないのは辛いから、誰からも呼ばれないのは寂しいから、思い出せたらそれだけでも、いい。リュカはそう思いながら初めて見た時よりもしっかりとした足取りで歩く影朧、花乃子を見遣る。
 まだ不安気にしている人々もいるけれど、近くに猟兵がいるという事実から影朧に対して怯えるようなことはない。
「道すがら、少しでも花乃子お姉さんを見守って、それからお参りをしていこうか」
「ええ、そうですわね。神社迄宜しければ三人で雑談するのも、良いかと思いますわ」
 これから花乃子が歩む旅路が穏やかであるように、その手助けを少しでもできたならとオリオが微笑んだ。
「花乃子お姉さん」
『あら、あら、優しい方』
 ええと、そう、リュカさんと、オリオさん、と花乃子が名を呼ぶと二人が頷く。
「宜しければ、少しご一緒できればと思いましたの」
『ええ、ええ、嬉しいわ』
 そうして、三人で並んで神社へ向かう道を歩いた。
「花乃子お姉さんは、神社で何をするの?」
『何を……そうね、そこまでは考えていなくて』
 ただ、約束を守る為に向かいたいのだと花乃子が微笑む。
「そうですのね。花乃子さま、リュカさま、神社と言えばやはりおみくじですわ」
「……おみくじ?」
 ええ、と楽し気にオリオが頷く。そして、おみくじとは何かを軽くリュカに説明する。
「つまり、その年の吉凶を占う、ってこと?」
「そうですわ、その結果も様々あるのですわ」
 大吉が一番縁起が良く、続いて吉、中吉、小吉、末吉、凶、大凶という順が一般的なのだという。
『神社によっては順番が違う、らしいですよ』
 思い出したように、花乃子がそう付け加える。
「是非、今年の運試しを致しましょう」
「へえ。いいよ、神社に着いたら引こうか。縁起がいいほうが勝ちね」
 楽しみですわ、とオリオが言うと、花乃子がくすくすと楽し気に笑った。
 賑やかさが戻った通りは活気に満ち溢れ、華やかな晴れ着を纏った人々が神社へ向かう道すがら、寄り道を楽しんでいるのが見える。
「あら、福袋ですわね」
「……福袋?」
 またしても馴染みのない言葉に、リュカが首を傾げる。
「ええ、新年の初売りで販売されるものですわ」
 様々な物を袋に入れて見えないようにし買う者に選び取らせるもので、基本的には販売金額よりもお得になる物が多数入っているのだとオリオが福袋を眺めて言う。
「これも運試しのようなものですわね」
「なるほど」
 確かにどの福袋も中身が見えないようになっている、一応どんな物が入っているかの系統のようなものは書かれているのが見えた。
「では折角ですもの、神社に着く前に運試しは如何かしら?」
「運試し……」
 確かに中が見えないのだから、運試し的な要素もあるのだろう。
「いいよ」
 二つ返事で頷き、ではどれにしようかとあちらこちらを見ては悩む。これも福袋を買う楽しみの一つだ。
「ふふ、悩むのも楽しいものですわね。わたくし、福袋というのを買ってみたかったの」
「色々、福袋にも種類があるんだね。武器福袋とか銃福袋とかないの?」
 迷うのに疲れてきたのか、リュカがそう零す。
「まぁ武器福袋? わたしくも欲しいですわ」
 あるかしら? と首を傾げたオリオに、花乃子も首を傾げつつ答える。
『武器福袋……聞いたことがないわ』
「ない? そう……」
「そう、ありませんの……では、今日は服のを購入しましょう」
 ないのなら仕方ないわ、とオリオが目に付いたお店の福袋に決める。
「じゃあ、俺はこの家庭用雑貨にしよう」
 では、と互いに福袋を買い求め、休憩所のようになっている場所のベンチに座ると、せーの! で福袋を開けた。
「丁度マグカップが買い替え時で……」
 何が入っているか、とリュカが福袋を探るけれどマグカップは見えない。中に入っていたのは曲げわっぱのお弁当箱に小さな置時計、お箸に箸置き、木製のスプーンとフォークのセットであった。
「……お料理しろってことかな」
 お弁当箱を手に取ってリュカが呟く。
『お料理をなさるの?』
「まあ、料理くらいは」
 そのやり取りをオリオは黙って笑みを浮かべて聞きながら、己の福袋を開けた。君子危うきに近寄らず、だ。
「まあ、素敵ですわ」
 小さめの物を買ったのだけれど、中にはオリオが普段着ているものにも合うようなブラウスやレースの手袋、ショールに薔薇のブローチ、それから――。
「あら。こちらはリュカさまの方が似合いそう」
「え?」
「失礼いたしますわね」
 そっとリュカの襟元を彩る星空のようなマフラーにオリオが手を伸ばし、パチンとそれを留めた。
「これは?」
「マフラーやショールを留めるクリップのようなものですわ」
 星空に浮かぶ月のような飾りが、首元で揺れている。
「お気に召しませんでしたら、外してくださいませね」
 差し上げます、とオリオが笑うと、揺れるそれを指先でリュカが触れた。
「ありがとう、オリオお姉さん」
 って、これ女性ものじゃ? と問うリュカに、オリオが気のせいですと微笑んだ。
「そう? じゃあ……代わりに、俺もこちらをどうぞ」
 福袋の中から、置時計を手に取ってオリオに渡す。それは手のひらサイズだけれど、レトロアンティーク風のフォルムの丸い物で、文字盤には星が鏤められていた。
「わたくしにも頂けますの? 嬉しい、交換こは憧れでしたの」
 嬉しそうに笑うオリオに、リュカの目が柔らかく瞬く。
「ふふ、マグカップはまた今度、一緒に見に行きましょうね」
「一緒に、選んでくれる?」
 勿論と頷くと、オリオが立ち上がる。
「さあ、それでは神社へ向かいましょう」
「そうだ、おみくじ勝負」
 ピカピカの福袋を提げて、再び神社を目指す。
 おみくじの結果がどうなるか、楽しみにしながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎
目の露出NG、隠れ?甘党

大分、賑やかだね
花乃子さん、人混みは大丈夫?
彼女に一般人がぶつからない様に立ち位置に気を付ける

は?袁、勝手に行動しないで……!
ああ、もう……相変わらず自由というか……
溜息を吐き出しつつ、念の為に周囲を警戒しておく
念には念を、って言うし

袁、遅い……って、鯛焼き?
花乃子さんはわかるけど、なんで僕にまで?
食べるなんて一言も言ってないし
まあ、でも……勿体無いから貰う(鯛焼きを受け取りつつ

ん、美味しい(はふはふ
袁もほら、一口食べれば?
この鯛焼き、結構美味しいよ(自分の分を差し出して
……その時は介抱くらいしてくれるんでしょ?
だから、別に気にしてない


袁・鶴
隠f31451と

色々な店があるんだと隠と店を眺めつつ花乃子と周囲の様子の観察を
不安げな人々の姿を捉えれば隠ちゃんにちょっと待ってて、と声を投げ甘味売りの元へ向かい鯛焼きを二つ買って来ようと思うよ

一つは花乃子ちゃんへ
折角だから楽しまないとね?と普通の女の子の様なのだと周囲へ示しつつ後一つは隠ちゃんへ
隠ちゃんも食べるでしょ?…って
本当に隠ちゃん素直じゃないんだからとそう思わず笑みを
俺は余り食べる事に興味がないから買わなかったけど
隠ちゃんに差し出されたならいいの?と笑いながら身を屈め一口貰おうかな
でも貰った後に我に返れば困った様に視線を
今は唾液に毒は無いと思うけど…体調崩したらすぐいいなよ?ね?



●自由気ままに楽しんで
「大分、賑やかだね」
 人通りが疎らだったなんて信じられないくらいの喧騒を見せる大通りを歩きながら、隠・小夜(怪異憑き・f31451)が思わずそう零した。
「この世界のオブリビオン対策機関も優秀なんだろうね」
 それに頷いて袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)がそう返すと、なるほどと小夜が辺りを見回す。さり気なくお正月を楽しむ人々に紛れつつ、帝都桜學府の制服を着た者が見える。
「UDC組織みたいなもの、かな」
「そうそう、俺と隠ちゃんみたいなもんだよ」
 要請があれば正月でも盆でも出動する、なるほど似たようなものだと小夜が前髪を揺らして頷いた。
「花乃子さん、人混みは大丈夫?」
『ええ、ありがとう、平気よ』
 小夜の気遣いに笑みを浮かべ、花乃子が歩く。彼女が街の人々とぶつからない様にと、小夜が立ち位置に気を付けながら賑わう街を眺める。
「色々な店があるんだね、隠ちゃんと花乃子ちゃんは気になるお店とかある?」
「気になる店? 特にはないけど」
 そう言いつつも、気になるか気にならないかと言われれば、甘味の店へと視線が向いて小夜が慌てて前を向いた。
『私も、特には……』
 無いわけではないけれど、今はそれよりも神社へと心が逸る。けれど、この神社へ向かう道行きも大切なもののように思えるの、と花乃子が笑う。
「そっか、じゃあもう少しこの時間を楽しもうか」
 そう鶴が笑って、周囲の様子を観察しつつ、良いことを思いついたとばかりに笑うと駆け出した。
「袁?」
「ちょっと待ってて」
「は? 袁、勝手に行動しないで……!」
 大丈夫、すぐだから! と笑う声が人波に消えて、仕方なく小夜は周囲を警戒しつつ花乃子と人々の邪魔にならないような場所で鶴を待った。
「ごめんね、袁のやつ、ちょっと自由で」
『ふふ、いいのですよ。こういうのも、楽しいって言うんだわ、きっと』
 花乃子が楽しいならば、まあいいかと溜息を零すと、ご機嫌な笑顔を浮かべた鶴が手に何かを持って戻ってくる。
「お待たせ、はい!」
「袁、遅い……って、鯛焼き?」
 白くて薄い紙に包まれていたのは、こんがり狐色に焼かれた鯛焼き。一つを花乃子に渡し、鶴が胸を張る。
「折角だから楽しまないとね?」
 さぁ、食べて食べてと勧めると、花乃子が一口齧って微笑む。
『甘くって、とっても美味しいわ』
 その年相応の女の子の笑顔に、警戒するように見ていた人もつい笑みを浮かべてしまう。
「美味しいでしょ? さ、あと一つは隠ちゃんに」
 どーぞ、と差し出されたそれを受け取る様子もなく小夜が鶴に問う。
「花乃子さんはわかるけど、なんで僕にまで?」
 食べるなんて、一言も言ってないし、と小夜がそっぽを向く。けれど、前髪に隠された瞳は鯛焼きに吸い寄せられているように思えて、鶴が笑みを零す。
「え? でも隠ちゃんも食べるでしょ? 折角花乃子ちゃんと隠ちゃんの為に買ってきたんだけどな」
 ね? だから受け取ってよと言うと、仕方ないなという風に小夜が受け取った。
「まあ、勿体無いから貰う」
「うん、ありがとう」
 礼を言うのは逆のように思えたけれど、素直じゃない小夜を見るのは嫌いじゃないと鶴が小さく笑った。
『貴方は、お食べにならないの?』
「ん-、俺は余り食べる事に興味がないからね」
 どちらかと言えば、誰かが美味しそうに何かを食べているのを見る方が好きなんだよと鶴が言うと、まだ熱い鯛焼きをはふはふと美味しそうに頬張っていた小夜が半分くらい食べた鯛焼きを鶴に差し出す。
「袁もほら、一口食べれば?」
「いいの?」
「良くなかったら言わないし。この鯛焼き、結構美味しいよ」
 これがデレってやつかな、なんて思いながら差し出されたそれを一口齧って、控えめながらもしっかりした餡子にカリッとした皮の食感に、うん美味しいねと言ってからハッと我に返ったように目を瞬いた。
「何、どうしたの」
 鶴が齧ったあとを躊躇いなく小夜が齧るのを見て、あー……と鶴が声を漏らす。
「もう一口欲しかった?」
「いや、そうじゃなくて……あの、ほら。今は唾液に毒は無いと思うけど……体調崩したらすぐいいなよ? ね?」
 そう言われて、今度は小夜が瞳を瞬かせる。その動きで前髪が僅かに揺れるのを見て、鶴がごめんねと呟く。
「……その時は介抱くらいしてくれるんでしょ?」
「そりゃ、もちろん」
「別に気にしてない」
 だから、謝る必要もないと小夜は鯛焼きをさっさと食べ切って口元を拭いた。
「隠ちゃん……!」
「うるさい、行くよ」
 そんな二人の様子に、花乃子が仲が良いのねと笑う。
「そうなんだよね」
「良くない」
 真逆のことを言う二人にまた笑って、花乃子の明るい笑い声が賑わう通りに響いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

硲・葎

三日月くん(f01960)と。
「少しでも彼女が思い出してくれてよかった……少しだけ疲れたね、あ、あそこのカフェで休憩していかない?」
せっかくのお出かけも兼ねてるから、
ゆっくり楽しみたいよね。やっぱりこういう格好は少し恥ずかしいな。
ちょっと慣れないから歩き方遅くて申し訳ないな。
「ちょっとだけ足痛いかな」
「三日月くんは何頼む?私はコーヒーと
イチゴのタルトにしようかな」
普段はイチゴのロリポップだけど、やっぱり
本物のイチゴも大好きだし!
「三日月くんって、食べ物だったら何がすき?」
せっかくなので、彼のことももっと知りたいし。
いっぱいお話したいな。
「じゃあ、今度美味しいチーズとサラミを差し入れるね!」


月隠・三日月

硲さん(f01013)と共に

あの影朧、大事なことを思い出せたようだね。よかったよ。
私は硲さんと一緒にカフェで休んでいこう。晴れ着は華やかで素敵だけれど、いつもとは違う衣装だと疲れてしまうよね。硲さんは足が痛くなったりしていないかい?

私は何を頼もうかな、サクラミラージュのカフェは洒落たメニューが色々あって目移りしてしまうね。うーん……迷うけれど、紅茶とパフェにしようか。
硲さんは苺が好きなのだね。甘酸っぱくて、私も好きだよ。
……私の好きなものかい? そうだな……チーズや、あとはサラミも好きだよ。それから甘い物も。
おや、差し入れをしてくれるのかい。楽しみにしているよ。私も苺の菓子等差し入れるね。



●穏やかな時間
 楽しそうに歩く花乃子の横顔に、硲・葎(流星の旋律・f01013)が笑みを浮かべて月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)に向かって振り返る。
「少しでも彼女が思い出してくれてよかった……!」
「そうだね、大事なことを思い出せたようでよかったよ」
 ずっと哀しい顔をしていた影朧が、今は微塵も感じさせないような顔をしていた。
 その事実だけで、ここへやって来た甲斐があると三日月が笑う。
「少しだけ疲れたね」
 ホッとしたら、甘いものが食べたくなっちゃったと葎が笑って、目に付いたカフェを指さす。
「ね、あそこのカフェで休憩していかない?」
「いいね、少し休んでいこう」
 やった、と喜ぶ葎の足元が少し覚束ないのを見て、三日月がそっと手を差し伸べる。
「大丈夫? 硲さんは足が痛くなったりしていないかい?」
 晴れ着は華やかで素敵だと思うけれど、いつもと違う衣装と履物とくれば、疲れてもおかしくはない。それを気遣っての言葉に、葎が素直に頷く。
「ちょっとだけ、足が痛いかな」
 慣れない履物だ、歩くのも少し遅くて申し訳ないと思っていたところ。ありがたい、と手を貸してもらってカフェへと向かった。
 大正浪漫溢れるアールデコ風の洒落たカフェは晴れ着を着た若い女性が多く、こちらも通りと変わらぬ賑わいを見せている。窓際の席に座り、メニューを覗き込んだ。
「三日月くんは何頼む?」
 どれも美味しそうで悩ましいと葎がメニューと睨めっこをしながら、三日月に問う。
「私は何を頼もうかな、サクラミラージュのカフェは洒落たメニューが色々あって目移りしてしまうね」
「そう、そうなの! どれにしようか本当に迷っちゃう」
 あれもいい、これもいい、こっちも美味しそうだし、とあれこれ悩んで葎がよし、と小さく呟いた。
「私はコーヒーとイチゴのタルトにしようかな」
「ふふ、硲さんらしい。うーん、私は迷うけれど……紅茶とパフェにしようか」
 そう言って三日月が指さしたのは、抹茶のレアチーズパフェ。手元のベルを鳴らすとすぐにメイドスタイルの店員がやってきて、注文を受けて去っていく。
「硲さんは苺が好きなのだね」
「そう! 普段はイチゴのロリポップだけれど、やっぱり本物の苺も大好きだし!」
「苺は甘酸っぱくて、私も好きだよ」
 赤くて艶っとしているところも可愛い、と律が言えば、三日月も丸い雫型のような形も素敵だねと笑う。そんな他愛もない話をしていると、頼んだ飲み物とスイーツがテーブルへと並べられた。
「美味しそう……!」
 白いお皿に載った苺のタルトはタルト生地がサクサクとした層になっていて、切り口にはクリーム色のカスタード、そしてその上にはカットされた艶々の苺がぎっしりと敷き詰められて、白い粉砂糖がまるで雪のようにトッピングされている。
「私のも美味しそうだよ」
 パフェグラスには底から黒蜜、レアチーズクリーム、抹茶ソース、餡、生クリームにソフトクリーム、抹茶のムースクリームと重なって天辺には抹茶が掛かっている。その上にキューブの形をした小さな抹茶レアチーズケーキが幾つも飾られて小豆と白玉が可愛らしく添えられていた。
「三日月さんのもとっても美味しそうだね!」
 早速いただきます、と二人で手を合わせて木の温もりが感じられる木製のスプーンとフォークで目の前のスイーツを食べていく。
「甘酸っぱくって、幸せの味って感じだよ!」
「こっちは甘さが控えめだけれど、しっかりと味があって抹茶がいいアクセントになっているかな」
 どちらも美味しい、とくれば交換をしようという話になるのも当然の流れで、一口ずつ交換して、また口の中の幸せの味について二人で笑い合う。
「本当だ、三日月さんのは甘さ控えめだけどこっちも美味しい!」
「硲さんのは甘さの中に苺の甘酸っぱさが効いていて、幾つでも食べられそうだね」
 すっかり食べ切ってしまうと、次はゆっくり紅茶とコーヒーを楽しむ。
「三日月くんって、食べ物だったら何がすき?」
 折角の機会なのだ、もっと三日月のことを知りたいと、葎がそう尋ねる。
「……私の好きなものかい? そうだな……チーズや、あとはサラミも好きだよ。それから甘い物も」
 パフェを頼むくらいだからね、と三日月が笑うと、葎がだから抹茶のレアチーズパフェだったんだねと納得したように頷く。
「じゃあ、今度美味しいチーズとサラミを差し入れるね!」
 それから、甘いお菓子も! と、葎が笑う。
「おや、差し入れをしてくれるのかい。楽しみにしているよ」
「うんうん、楽しみにしててね」
「私も硲さんに苺の菓子等差し入れるね」
 じゃあ、私も楽しみにしてる! と、葎の声が明るく弾けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
「また逢ったわね、花乃子おねーさん♪」
って笑顔で手を振りながら駆けよるわ。
でねでね。ぎゅーって抱きしめるわよ。
だってだって。とっても嬉しんだもの♪
「よかったわ♪ …うん。凄くよかった」

「ねえねえ。何処か寄り道したいところある?」
神社に行くのもいいけど寄り道も楽しいものだわ。
記憶はまだ完全ではなさそうだけど…でもねでもね。
花乃子さんが興味あるところに一緒にいきたいわ。
「何処でもいっしょに行くわ♪ えへへ」
ゆっくり悩んでね。あたしはじっくりと待つわ。

「うんv いこいこ♪ 花乃子おねーさん」
勿論神社に行きたいなら手を繋いで向かうわ。
…あれ?そーいえばレーちゃんは…?


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
ふむ。記憶が戻りつつあるようだな。
喜ばしいことだ。幸せそうでなにより。
…さて。
花乃子の相手は露に任せるとして。
こういうことは得意な者がするべきだろう。
私は露とは別行動で露のサポートをしよう。
…露には伝えてないが…まあいいか…。

猟兵が周囲にいれば問題回避はできそうだ。
それでも影朧に不安に思う者はいるだろう。
そういう者達を宥めるのが私の役目だ。
我々が周辺に居ることを伝えよう。
後は…どこにでも阿呆がいるからな…。
そういう者達が現われた場合の説得をする。
「…やれやれ…」
説得方法に暴力はない。話し合いで解決する。
監視とかなんとか言えば宥められるだろうか。
極力使いたくない単語だな。



●君と私の
 賑わいを取り戻した正月の大通りを楽しそうに歩く影朧――花乃子を見て、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が嬉しそうに笑みを零してシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)に視線を送る。
「ふむ、記憶が戻りつつあるようだな」
「本当に、よかったわ」
「ああ、喜ばしいことだ」
 困った顔でとぼとぼと歩いていた姿からは考えられないほどに、今の花乃子は幸せそうだとシビラが頷く。
「ん-っ! あたし、花乃子おねーさんに声を掛けてくるわね!」
 シビラの返事を待たず、きっと自分の後ろを付いて来てくれると信じて露が花乃子の元へ駆けだす。
「ああ、いってこい」
 特に後ろを追い掛けるでもなく、そう声を掛けてシビラが露を見送りながら辺りを見回した。
「……さて」
 花乃子の相手は露に任せておけばいい、とシビラは思う。こういうことは、得意な者に任せるのが一番だ。
「適材適所、という言葉があってな」
 その言葉通り、シビラは花乃子のケアよりも露と別行動で彼女のサポートをしようと別方向に歩きだす。
「……そういえば」
 露にはそのことをこれっぽっちも伝えていないことを思い出すけれど、既に花乃子の元へ走っていった露を追い掛けるのもなんだし。
「まあいいか……」
 露ならば上手くやるだろう、とシビラが思考を切り替えた。
「また会ったわね、花乃子おねーさん♪」
 そう声を掛け、露が振り向いた花乃子に手を振って駆け寄る。
『まあ、先程の親切な方、きゃっ』
 花乃子が笑みを浮かべたと同時に、露が花乃子の腰の辺りに抱き着いた。
 本当は花乃子の肩の辺りをぎゅっと抱きしめたかったのだけれど、身長差は如何ともしがたいところ。それでも嬉しいという気持ちを込めて、露はぎゅーっと花乃子を抱きしめた。
『ふふ、どうなさったの?』
 拒むでもなく、露の温もりを受け取るように花乃子がそっと抱きしめ返す。
「あたしね、とーっても嬉しいの」
『嬉しいことが、あったの?』
「そうよ、花乃子おねーさんの記憶が戻って嬉しいの。よかったわ……うん、凄くよかった」
 そう言って顔を上げ、露が花乃子を見る。
『ありがとう、私も、とっても嬉しいの』
 花乃子の言葉に、露が一層笑みを深めた。
 その笑い声にシビラは露が上手く……本人はそんなつもりはなくても、周囲に安堵を与えるという点では上手くやっているのだろうと確信しつつ、それでも尚不安を覚えるように苦々しい顔をして影朧を見る者へ声を掛けた。
「そんな顔をして、どうしたんだ」
「あ? なんだい嬢ちゃん、見りゃわかるだろ? あそこに影朧がいるんだよ」
 聞けば、以前に影朧によって被害にあったことがあるのだと言う。
「なるほどな、それでは不安に思うのも仕方がないが」
「そうだろう? あいつらは、人に危害を加える危険な存在なんだ。早くやっつけちまえばいいのに……」
 心無い言葉だとも思う、けれど被害にあったことがある……その心因的な恐怖を押さえつけてしまうのも得策ではない。
「君がそう思う気持ちもわかるが、あの影朧にはもう人を害するような力は残っていない」
「そんなの、わからないだろ」
「そうかもしれないな、だがそこは私達――猟兵の言葉だと思って信じてもらうしかない」
 猟兵、と言われれば強気で喋っていた男の勢いが弱くなる。男を影朧から救ったのもまた、猟兵なのだ。
「それによく見てみろ、あの影朧の顔を」
「顔……?」
 そう言われて、男がまじまじと影朧の顔を見る。
「……楽しそうだな」
 今までに見た影朧は、果たしてあんなに楽しそうに笑っていただろうか。狂ったような笑いを浮かべているものはいたかもしれないが――。
「あんな顔をする者が、人に危害を加えると思うか?」
「……いや、お嬢ちゃんの言葉を信じるよ」
 お嬢ちゃんではないのだが、とは思えどシビラは静かに頷く。話を聞いていた他の者達も納得したように不安気な表情から、安堵したような表情でその場を去っていった。
「やれやれ……」
 説得が上手くいって良かったと一息つくと、露と花乃子の少し後ろを歩き出す。
「他にも、納得していない者がいるだろうからな」
 どこにだってそんな阿保がいるものだと思うが、そういう者への説得は自分の役目だと楽しそうな笑顔を浮かべている露を見てシビラが柔らかく目を細めた。
「ねえねえ、何処か寄り道したいところとかある?」
 後ろの方でシビラが見守っているとは知らぬまま、露が花乃子と手を繋いで歩く。
『寄り道……そうね、そう思う場所はないのだけれど、露さんが行きたいところがあればご一緒するわ』
「あたし? う~ん」
 どこかへ寄り道するのも楽しいかと提案したけれど、そう言われてしまうと悩んでしまう。だって、あれもこれも、とっても魅力的に見えるのだから。
「じゃあじゃあ、一緒に歩いて、もしも興味があるものがあったら遠慮なくいってね。何処でも一緒に行くわ♪」
 えへへ、と笑った露に笑顔で返し、花乃子がわかったわと頷いた。
「うんv それじゃあ行きましょう、花乃子おねーさん」
 手を繋いで、神社までの道のりで気になるところがあったら寄り道をして。きっと絶対楽しいわ、と露が満足そうに笑う。
「……あれ? そーいえばレーちゃんは……?」
 歩き出して、シビラがいないことに漸く気が付いたけれど、レーちゃんなら大丈夫よね! と露は花乃子と共に歩くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
こんな風に話し合う事の出来る子ばかりだといいんだけどね
『それは逆にしんどいと思うわよ。セリカにとってはね』
まあそうかも、とシェル姉…相棒の魔剣に返す

今更これまでの罪悪感が芽生えるわけじゃないけど
もう少しどうにかなったらな、と思う相手だって、これまでにいたんだ

彼女…花乃子ちゃんの事は、満足いくまで付き合って、見送りたいな

さて湿っぽいのはここまで!
私が出来ることといえば…探してみようか、ショウイチさんの事。
学生帽の似合う青年ってだけじゃ難しいかもだけど、そこは誰かと協力してでどうにかしよう
証言を頼りに探し回る!

連れてくることができなくても、何かメッセージなんかあると、良いんだけど



●私にできること
 楽し気な花乃子の後ろ姿に、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)が小さく笑みを零す。
「こんな風に話し合う事の出来る子ばかりだといいんだけどね」
 もしもそうだったら、なんて言っても仕方ないのだけれど。
『それは逆にしんどいと思うわよ。セリカにとってはね』
「まあ……そうかも」
 相棒でもある魔剣シェルファの言葉に、セフィリカが過去に対峙したオブリビオンを思い出す。もう少しどうにかなったなら、歯車が嚙み合ったなら、救うことができた相手だって確かにいたのだ。
「今更、罪悪感が芽生えるわけじゃないけど」
 そうしなければならなかったから、そうでなければ救えない相手であったから。セフィリカは相棒と共に切り伏せてきたのだから。
「うん、でも……彼女、花乃子ちゃんの事は、満足いくまで付き合って、見送りたいな」
『セリカがそうしたいなら、そうしなさい』
 そうする、と笑ったセフィリカの表情は、すっぱりと割り切ったように凛としていた。
「さて、湿っぽいのはここまで!」
 ぱん、と手を叩いて気持ちを入れ替えると、これからどうしようかと考える。
「ねぇ、シェル姉」
『何?』
「私が出来る事って、何かあるかな」
『……あんたが出来るって思うなら、なんだってあるわよ』
 私が出来ると思うこと。
「私、花乃子ちゃんの為に何かしたい」
 記憶を取り戻した彼女に、何か――。
「……探してみようか、ショウイチさんの事」
 学生帽が似合う青年ってだけでは難しいかもしれないけれど、そこは誰かと協力してどうにかしよう。
「帝都桜學府の人に相談してみよっか」
『いいんじゃない? 現地の事は現地の人に聞くべきだわ』
 シェルファの後押しもあって、セフィリカが近くにいた桜學府の生徒に協力を仰ぎ、花乃子が影朧となる事件があった年代を調べたりとあちこち奔走する。
「ううん、これって……」
『どうしたの、セリカ』
 唸るように呟いたセフィリカに、シェルファが声を掛けた。
「うん、花乃子ちゃんが生きていた時代を調べたんだけど」
 どうも、七十年は前の話のようだ、と調べがついたのだと言う。
『七十年前……ってことは』
「ショウイチさん、もう亡くなってるみたい」
 しょんぼりと肩を落としたセフィリカに、しっかりしなさいとシェルファが声を飛ばす。
『きっとあの子も、薄々気付いてるんじゃない?』
 ここが、自分が過ごした時代よりも時間が経っていることに。
「建物とか、多少は変わってるだろうしね」
 知っているのに、知らない通り。
 それは、どんなに――。
『ほら、あんたがそんな顔しないの』
「……うん! 大丈夫、それならきっと、ショウイチさんも花乃子ちゃんを待ってるってことだものね」
 大丈夫、きっとそうだと信じて、セフィリカは花乃子に追いつく為に一歩を踏み出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
あちこちの店で売り出されている福袋に目を輝かせる
何が入っているかお楽しみって凄く心躍るよね
これは買うっきゃない

えーと、あのアクセサリの福袋とー
和菓子と洋菓子の福袋とー
あの雑貨屋さんの福袋もいいなー
えっ、なんで分かったの梓?もしかしてエスパー?
チェッ、じゃあ…あの文房具屋さんの福袋がいいな

便箋、封筒、インク、ペン、切手…
電子メールやSNSでのやりとりが当たり前の現代では
なかなか触れる機会の無い道具たち
何度か手紙を書く機会があって
それを選ぶ時間がまた凄く楽しいなって思ったんだよね

カフェで休憩しながら
買ってもらった福袋の中身チェックっ
まるで宝箱を開ける瞬間のようにドキドキワクワク


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
おい、迷子になるなよ
はしゃぎ過ぎると転ぶぞ
幼児相手のような注意をしながら綾を追いかけ

待て、そんなに沢山の福袋買えるほどの
金持ってきてないだろお前
どうせお年玉と称して俺にねだる気だろう
やかましい!何度目だと思っているんだ!
何でお前が譲歩してやったみたいな口ぶりなんだ

敢えて選ぶのが文房具屋の福袋というのも意外だな
そういえば俺も綾と一緒に手紙を書いたことがあったが
確かにメールでは味わえないような楽しさがあった
結局、その福袋を買ってやることに
…予想以上に値が張っててウッとなったが

福袋の中身一つ一つ手に取っては
俺に見せびらかしてくる綾
その姿に買ってやって良かったと思えるから
つくづく俺も甘いな



●初春ステーショナリィ
 新年、お正月。
 神社へ繋がる大通りは普段よりもずっと賑やかで、活気に満ち溢れていた。
「梓、梓、福袋がいっぱいだよ」
「おい、迷子になるなよ」
 あちこちの店で売り出されている福と書かれたぴかぴかの袋は、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の興味を引くには十分だったようで、目を輝かせてどれも素敵だと視線を彷徨わせ、あっちへふらり、こっちへふらりと蝶が舞うように綾が移動していく。
「はしゃぎ過ぎると転ぶぞ?」
「そんなヘマはしないよ」
 梓こそ転ばないでよね、と笑う綾を乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)はまるで幼児を相手する父親のような気持ちで綾を追い掛けていた。
「何が入っているかお楽しみって、凄く心躍るよね。ね、梓」
「まぁ、気持ちはわからなくはないけどな」
「だよね! これは買うっきゃない」
 福袋を買うのは使命! とばかりに、綾が指折り数えだす。
「えーと、あのアクセサリの福袋とー」
「と?」
「和菓子と洋菓子の福袋とー」
「菓子にも福袋があるのか」
「あの雑貨屋さんの福袋もいいなー。それから洋服にー、靴もいいよねー」
 あっという間に綾の指だけでは足りなくなって、梓の指まで使おうと綾が手を伸ばした。
「待て、ちょっと待て」
 掴まれそうになった指先を掴み返し、サングラス越しの視線で綾を睨む。
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃない。そんなに沢山の福袋買えるほどの金、持ってきてないだろお前!」
 えへへ、と笑った綾が、そっとサングラスの奥の瞳を逸らす。
「どうせお年玉と称して俺にねだる気だろう?」
 クリスマスの時みたいに!
「えっ、なんで分かったの梓……もしかしてエスパー?」
「やかましい! 何度目だと思っているんだ!」
 そんな綾に何度も色々買ってやっているということなのだが、新年早々甘やかしてばかりではいられないと厳しく梓が綾を追及する。
「チェッ、じゃあ……あの文房具屋さんの福袋がいいな」
 これ一つならいいでしょ? とばかりに綾が梓の手を引っ張る。それに付いていく形になりながらも、釈然としない梓が眉間に皺を寄せて言う。
「何でお前が譲歩してやったみたいな口ぶりなんだ?」
「え? だって譲歩したから」
 欲しい福袋は一杯あったけれど、一つにしたんだよ? 偉いでしょ、と笑いながら綾が梓に渡したのは赤と白の市松模様の艶々の紙袋。
「お前なぁ……」
 はぁ、と溜息を零して、それでも梓がその紙袋を受け取って会計を済ませる。なんだかんだ言ったって、最終的に梓は綾に甘いのだ。
 買ってもらった福袋を大事そうに提げて、綾がありがとうと笑う。いつもこんな風に殊勝な態度ならな……と思ったのも束の間、綾が梓の服の裾を引く。
「今度は何だ?」
「どっかカフェとかに入らない? 早く中身が見たいんだよね」
 子どもか、と笑いつつ、休憩するには丁度いいかと二人で近くのカフェへと入る。レトロモダンなカフェの奥の席に座ると、まずは注文とメニューを捲った。
「俺はコーヒーと……苺のパフェにするか」
「俺はどうしようかな、紅茶と……」
 ケーキにするか、パンケーキにするか、パフェにするか。ううん、と悩む綾に梓が助け舟を出す。
「半分こするか? それならパンケーキかケーキかで絞れるだろ」
「梓あったま良い、じゃあ……パンケーキはこの間食べたし、このショートケーキにチョコレートが掛かってるのにしようかな」
 注文を終え、さて福袋の中身はと綾が封を切った。
「それにしても、敢えて選ぶのが文房具屋の福袋というのも意外だな」
「そう? 言われてみるとそうかもね」
 でも、と綾が言葉を続ける。
「便箋、封筒、インク、ペン、切手……こういうのって、電子メールやSNSでのやりとりが当たり前の現代ではさ、なかなか触れる機会の無い道具だよね」
「そうだな」
 それはとても手軽で便利だけれど。
「でも、何度か手紙を書く機会があった時に、それを選ぶ時間がまた凄く楽しいなって思ったんだよね」
 送る相手の為にどの便箋と封筒にしようか、切手はどんなものにしようか、それはとても穏やかで素敵な時間で。
「だから、これにしようって思ったんだ」
 梓もその気持ちには覚えがある、綾と一緒に手紙を書く機会があったからだ。
 確かに、メールでは味わえないような楽しさがあって、書くのも受け取って読むのもメールとは一味違う趣があったし、受け取った手紙は今も大事に仕舞ってある。
「そうか。折角だ、大事にしろよ」
 買ってやった福袋の値段はあんまり可愛くはなかったけれど、今目の前で福袋を開けている綾が可愛かったから、まあいいかと梓が先に届いたコーヒーを口に含んだ。
「さて、何が入ってるかな」
 それはまるで宝箱を開ける瞬間のようなドキドキにも似ていて、綾が福袋を覗き込む。
「わ、綺麗な封筒と便箋だよ」
 シンプルな手触りの良い紙に桜の箔押しがされた綺麗な便箋と封筒のセット、気軽に書ける一筆箋、紅い万年筆にブルーブラックのボトルインク、空の色をした物や秋桜色の物も入っているのが見える。
「自分で選ぶのもいいけど、こういう福袋だと普段自分では選ばない物が入っていて、こういうのもいいなって思える発見があって楽しいね」
「良かったな」
 一つ一つ手にとっては嬉し気に見せてくる姿はいつもとは少し違う姿のように思えて、梓は買ってやって良かったと思ってしまう自分に、つくづく俺は綾に甘いと小さく笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ

※お仲間さまとの絡み歓迎致します


花乃子さまが色々と思い出されて、良うございました
しかしながら、しょういちさま…
果たして、まだご存命でいらっしゃるのでございましょうか
約束の神社に何か、何か手掛かりや目印等を
お残しになられていますれば良いのでございますけれど…

ところで、お話を伺っておりましたら
わたくし、カフェ「ミルクホール」の
ミルクコーヒーとやらに大変興味が沸きました
花乃子さまと神社までご一緒したい所ではございますけれど
少しばかり道を外れて、カフェへと足を運んでみたく
テイクアウトが可能であれば、花乃子さまの分も
ご用意して参りとうございます
しょういちさまとのお味を思い出し、堪能して頂きたく存じます



●想い出の味を
 思い出した、という喜びに満ち溢れた花乃子の声に、ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)はまるで我が事のように笑みを浮かべて手を祈る時のように組んで天へ感謝を捧げた。
「本当に良うございました……!」
 色々と思い出しただけではなく、本当に思い出したかったことも思い出せたのだ。
 それは花乃子にとってどれほどの喜びだろうか、とベイメリアは思う。それと共に、正一様と花乃子が呼ぶ男性のことも。
「しかしながら、しょういちさま……花乃子さまにとって大事な方。果たして、まだご存命でいらっしゃるのでございましょうか」
 花乃子の様子からすると、どうやら自分が生きていた時代とは建物などが変わっている様子。それを思うと、ある程度の年月が経っていると考えた方がいいのだろうとベイメリアは透き通るような緑の瞳を伏せた。
「約束された神社に何か……何か手掛かりや目印等をお残しになられていますれば良いのでございますけれど……」
 そうであったならば、花乃子の心もきっと救われるはず。
 しっかりとした足取りで神社へと向かう花乃子の後ろ姿を眺め、ベイメリアはそう祈った。
「何か、花乃子さまの慰めになるようなものがあれば……」
 そう呟いて、ハッと思い出す。
「そうですわ、お話を伺っていた時に聞いたミルクホールの……」
 ミルクコーヒー、そう花乃子が言っていた飲み物。聞いたときにもかなり興味をそそられた、そのミルクコーヒーを味わってみたいとベイメリアは思う。
「花乃子さまにも、ぜひ」
 神社まで一緒に歩いて行きたいところではあるが、少しばかり道を外れてカフェへと足を運ぶのも悪くない。急げば神社に到着するまでに共に飲むこともできるだろう。
「善は急げ、でございますね」
 ひらりと晴れ着の袖を翻し、ベイメリアが道行く人に声を掛ける。カフェ、ミルクホールをご存じでございますか、と。
 そこは百年と続く老舗のカフェらしく、すぐに場所も教えてもらえてベイメリアが向かう。中々に広いカフェで、テイクアウトも可能だと看板に書いてあった。
「まあ、丁度良うございます」
 そっと列に並び、順番を待つ。すぐにレジの番が回ってきて、ミルクコーヒーをホットで二つ、テイクアウトで注文すると断熱の細工がされた紙カップが二つ入った手提げが渡される。
「ありがとうございます」
 それを受け取ると、意気揚々とした足取りでベイメリアが花乃子の元へと急いだ。
「花乃子さま、もしよろしければこれを」
 どうぞ、と渡すと花乃子が首を傾げながらも受け取ってくれる。
『こちらは……?』
「花乃子さまの想い出の味、でございます」
 蓋をされたカップの飲み口に唇を当て、こうして飲むのですと教えると花乃子も同じようにカップを傾けた。
『……! この味、ああ、正一様と飲んだミルクコーヒーの味……あの頃のままで……』
 懐かしむような表情を浮かべ、また一口と花乃子がカップを傾ける。
「甘くて優しいお味でございますね」
『ええ、とても』
 心まで温まるような、優しい想い出の味。
 ありがとう、と花乃子がはにかむように微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スティーナ・フキハル
◎最初のみスティーナ 後はミエリで

皆が話してる間にちょっと買い物してたぜ。
紙袋とお茶入り水筒2本持って花乃子ちゃんとこに向かうね。
UCでミエリと分離してアタシは街の人に説明周り行ってくる!


こっちは任せたってお姉ちゃんこれ自分の分は……もう行っちゃった。

あの、花乃子さんと食べてって姉がベビーカステラ買ってきたんですが、
よければいかがですか?
何処か座れる所を探してちょっと一休みしましょう。

皆で思い出させる為とはいえたくさんお話して少し疲れました?
あ、でもまだ何か語りたい思い出があるなら聞きますよ?

さて、そろそろ先へ進みましょうか。
うちの姉が説明無双してくれてますし、問題無く神社に辿り着くでしょう。



●慌てないで、一休み
 新しい着物を翻し、ブーツを鳴らしてスティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)が早足で通りを走る。手にした紙袋とお茶の入った小さめの水筒二つを大事そうに抱えて、花乃子を見つけると笑顔を浮かべて駆け寄った。
「花乃子ちゃん!」
『はい、あら』
 名を呼ばれ、花乃子が振り向くとスティーナが手にした水筒を一つ花乃子へと渡す。
「はい、これ」
『こちらは……?』
「お茶が入ってるの、美味しいんだって!」
 抹茶入りの煎茶で、程よい温度の美味しいお茶。それから、と笑ってスティーナがえっへんと胸を張る。
「アタシの妹、紹介するね!」
 そう言うと、スティーナの身体から分離した、妹のミエリが姿を現した。
「この子がアタシの妹のミエリ! あとは任せたからね、アタシはちょいと野暮用ってやつで……行ってくる!」
 花乃子が穏やかに神社までの道を過ごせるように、不安そうにしている街の人々に説明に行くのを野暮用と一括りにして、手にしたもう一つの水稲と紙袋をミエリに渡してスティーナが走り去る。それは彼女なりの、花乃子への気遣いなのだろう。
「こっちは任せたって、お姉ちゃんこれ自分の分は……」
『もういませんね……』
 まるで嵐の様だと、花乃子が笑う。
「ほんと、しょうがないお姉ちゃんです」
『でも、とっても優しい人ね』
 そう褒められて、ミエリが嬉しそうに微笑んだ。
「あの、花乃子さんと食べてって姉がこれを」
 ミエリが見せたのは紙袋の中身で、そこには焼き立てのベビーカステラが沢山入っていた。
『ふふ、とってもいい香り』
 カステラの甘くて優しい香りが、紙袋からふうわりと漂う。
「美味しそうです、お姉ちゃんはこういう美味しい物を探すのが上手いんですよ」
 よければ何処か座れる場所で食べましょうとミエリが言うと、花乃子が頷いて二人でベンチを探す。大きな時計の近くに、休憩や待ち合わせ用なのだろう幾つかのベンチが見えて、ミエリと花乃子が座って二人で紙袋の中に手を伸ばした。
『ん、美味しいですね』
「絶妙な甘さ……さすがお姉ちゃん」
 幾つでも入ってしまいそうなベビーカステラを二人で摘み、あとはスティーナの分だと残して紙袋を閉じる。
「皆で思い出させる為とはいえ、たくさんお話して少し疲れました?」
『大丈夫よ、皆さんお話を聞いてくれて……私、とっても嬉しかったの』
「あ、もしもまだ何か語りたい思い出があるなら、私でよければ聞きますよ?」
 他にも思い出したことがあれば、とミエリが促す。
『そう、そうね……私もこうやってお友達とお喋りをしたり、食べ物を分けっこして食べたり……そういうことを、した記憶があるわ』
 ミエリはその話を聞きながら時折頷いて相槌を打ち、喉が渇いていないかとお茶を勧めたりと花乃子と穏やかな時間を過ごした。
 そんな時間はあっという間に過ぎて、そろそろ神社へ向かおうかとミエリが立ち上がる。
「そろそろ先へ進みましょうか」
『ええ、お話楽しかったわ』
 花乃子も立ち上がり、神社への道を歩く。先程と違って、花乃子を避ける人々が少ないことに気が付き、ミエリが小さく笑う。
 お姉ちゃん、しっかり街の皆に説明をして回ったのね、と。
 これで、問題なく花乃子は神社に辿り着けるはず。どうか憂いなく、あなたの望みが叶いますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
◎【愛染4】

花乃子ちゃんは無事に色々思い出せたみたいだね。
それじゃ、ぼくらは帝都のお正月を楽しもうか。
カフェでみんなで温まろう。プラチナちゃんも避難誘導お疲れ様。

紹介が遅くなったね。この子がぼくの魂の片割れのプラチナちゃん。さ、お嫁さんたちにご挨拶して。
皆優しい女の子達だから怖じ気づかなくて大丈夫だよ。こうして集まれる機会はそうそうないから、いっぱいおしゃべり楽しんで。

この後は神社だね。プラチナちゃんだけ普段着じゃ可哀想だ。お嫁さん達、晴着貸出のお店が開いてたら、選んだり着付けしたりを手伝ってあげてくれないかな? その辺り、さすがにぼくの守備範囲じゃなくて。

うん、皆が選んだだけあって素敵だよ。


神代・みぃ
【愛染4】
こうやって外のお正月を楽しむのって
初めてだからすごく楽しみ!
カフェって素敵なところだね!

えへへ、メイさんも?
みぃもちょっとなんで好きになったのかなって思う
なんてね。みぃもセシルのこと好きになっちゃったし、
好きになっちゃったらしょうがないかなってなったけど。
…あ、こういうのってコイバナっていうのかな
ふふ、たのしいな

着付けならまかせて
着物なら慣れてるもの、ばっちりかわいくしてみせるよ!
柄は…うーん、どんなのがいいんだろう?
プラチナさんはきれいだから、華やかな柄でも映えるかも?
でも、一番は着てみたい柄を選ぶのが一番かなって!
うん、とってもすてき!


チシャ・フェルメス
【愛染4】

花乃子さん、ちゃんと思い出せたのなら良かった良かったー!
大事な約束、もう忘れないようにねっ!

んー…、大切な人が沢山居るのは、いい事だと思うなー
それだけ慕われてるって事だもんね!
私はそんなセシルがカッコイイと思うし、好きだよー♪
これが「コイバナ」っていうの?
聞いた事のある言葉だったけど、意味は知らなかったんだよね!
えへへ…そうかー、これが「コイバナ」かー…

着付けは私もお店の人にやって貰ったからわからないや、
民族衣装の着方ならわかるのだけどー…
柄はお花とか似合いそうだね、プラチナさんは気になるのあるー?


メイフィア・オベルト
【愛染4】
これ一応は解決……で、いいのでしょうか?
まぁ問題ならそれでいいですね
異国の正月を楽しむ、ですか。では、エスコートお願いしますね、旦那様?
魂の片割れですか、まぁセシル様が女性侍らすのは何時ものことですからいいですけど。あ、女性に限りませんでしたね、頭の痛いことに
……なんで私、セシル様と結婚したんでしょうね?いや、嫌いではないですし、好きですけど

セシル様、晴れ着の着付けは私も守備範囲外ですよ
そもそも生粋の伯爵令嬢だった私に他人の着替えの手伝いなど出来るはずがないではないですか、私は使用人ではないんですよ?
まぁ選ぶのぐらいならいいですけど、それも私の価値観基準になりますからね?



●恋愛談義
 さて、とセシル・バーナード(セイレーン・f01207)がひとつ手を叩けば、彼のお嫁さんであるところの三人がすっとセシルへと視線を向ける。
「花乃子ちゃんは無事に色々思い出せたみたいだね」
 そうセシルが微笑むと、嬉しそうに笑ったチシャ・フェルメス(捧げ唄・f28991)が頷いて言う。
「花乃子さん、ちゃんと思い出せたのなら良かったー! 大事な約束、もう忘れないようにねっ!」
「これ、一応は解決……で、いいのでしょうか?」
 真面目な顔でそう言うのはメイフィア・オベルト(オベルト伯爵令嬢・f17956)で、その横にいる神代・みぃ(水底の朱・f30892)が可愛らしく首を傾げて、今は遠くを歩く花乃子を見遣る。
「大丈夫なんじゃないかな? 哀しそうな顔は、もうしていなかったもの!」
「まぁ、問題ないならそれでいいですね」
 後はこの世界の機関、帝都桜學府に任せてもいいでしょうとメイフィアが頷いた。
「うんうん、それじゃ……ぼくらは帝都のお正月を楽しもうか」
「異国の正月を楽しむ、ですか。では、エスコートお願いしますね、旦那様?」
 メイフィアがそう言うと、折角だからね、とセシルが笑って答える。そうしている内に避難誘導を終えたプラス・プラチナが戻ってくるのが見えた。
「プラチナちゃんも、避難誘導お疲れ様」
 セシルが手招くと、プラチナはセシルの後ろに隠れるように顔を出して三人を見ている。
「セシル様、そちらの方は?」
 メイフィアが問うと、セシルが笑顔で答える。
「この子はぼくが連れ帰ってきた、帝竜プラチナ本体の複製体の一人。今やぼくの魂の片割れと呼んでも差し支えない、可愛い子だよ」
 挨拶をして、と促されたプラチナが三人にぺこりと頭を下げる。
『初めまして、プラチナです』
「左から、みぃ、チシャ、メイフィア。ぼくの可愛いお嫁さん達だよ。皆優しい女の子達だから、怖じ気付かなくて大丈夫」
 そう紹介され、プラチナがおずおずと三人の前へと出た。
「プラチナさん、よろしくね!」
 みぃが嬉しそうに尾鰭を動かして、プラチナに手を差し出す。恐る恐る手を出して握手をすると、チシャとメイフィアも安心させるように握手をする。
「うん、仲良くしてあげてね。さて、神社へ行く前に少しどこかで温まろうか」
 どのカフェがいいかな、とセシルが辺りを見回すと、こぢんまりとしているが雰囲気の良さそうなカフェが目に入った。
「あそこにしようか?」
「わあ、素敵だね!」
 思わずチシャがそう声を上げるほど、そのカフェは綺麗な外観をしていて、メイフィアもこれは中々に素敵ですねと目を瞠る。
 小さな白い洋館を思わせる佇まいに、出窓を飾る白いレースのカーテンも趣味の良いもの。店内へと入れば、磨きこまれた木目の床にアールデコ風のテーブルセットが程よい感覚で並べられていて、大正浪漫といった風情を感じられた。
 一階席と二階席のどちらがいいかと問われ、二階の窓際を希望するとすぐに案内され、五人は大通りを一望できる窓際へと腰を下ろした。
「カフェって素敵なところだね!」
「メニューも落ち着きがあっていいですね」
 みぃが室内を見渡して言うと、上品さのある白い手帳のようなメニューを手に取ってメイフィアが開く。
 メニューは至ってシンプルで、コーヒーと紅茶、それからジュース類が並んだドリンク欄。ケーキとパフェが各種、それに軽食が少し。紅茶と本日のお勧めケーキセットに決めたメイフィアがメニューをプラチナへと渡した。
「メイフィアちゃん、決めるの早いのね! 凄いね、みぃは全然決まらないの、どれにしようか迷っちゃう」
 真剣な顔でみぃがメニューと睨めっこをしている横で、チシャもケーキにしようかパフェにしようかで迷っている。
「好きなだけ迷っていいからね。ぼくはコーヒーとチーズケーキのセットにしようかな」
 プラチナはどうする? とセシルが聞くと、プラチナがそっとクリームソーダを指差した。
「わたしは紅茶とパフェに決めたよ!」
「うう、ええとええと」
「どれとどれで迷っているのですか?」
 チシャも決めてしまい、最後の一人になったみぃが慌てるとメイフィアがそう声を掛ける。
「えっとね、苺のパフェかケーキかで迷ってるの」
「でしたら、本日のケーキが苺ですから、パフェにするといいです」
 分けっこすればいいでしょう? とメイフィアが言うとみぃが瞳を輝かせて、そうする! と笑みを浮かべた。
 注文した品物が届くまでに女の子が四人、とくれば会話に花が咲くのも道理で、セシルが笑顔でそれを眺めている。
「はあ、それにしても魂の片割れですか」
 メイフィアがプラチナを見遣ると、緊張したようにプラチナがはにかむ。
「まぁ、セシル様が女性を侍らすのは何時もの事ですから、いいですけど」
 女性に限ったことではありませんでしたね、頭の痛いことにとメイフィアがセシルをじとりと見つめる。
「ふふ、魅力的な可愛い子が多いのは良いことだよね」
 そんな彼女の視線などものともせず、セシルが甘い笑顔を浮かべた。
「……なんで私、セシル様と結婚したんでしょうね? いや、嫌いではないですし、勿論好きですけど」
 そんなツンデレ混じりなメイフィアに、セシルが楽しそうにくすくすと笑う。
「笑いごとではないですよ、セシル様」
「えへへ、でもみぃもちょっとメイさんの気持ちわかっちゃうな」
 向かい側に座るメイフィアを見つつ、みぃもそう言って笑う。
「みぃも、ちょっとなんで好きになったのかなって思うときがあるし」
 でもでも、とみぃがセシルを見つめて言葉を続ける。
「みぃもセシルのこと好きになっちゃったし、好きになっちゃったらしょうがないかなってなったけど」
 恋はきっと好きになってしまった方が負けなのかも、とみぃが可愛らしく唇を尖らせた。
「んー……、大切な人が沢山居るのは、いい事だと思うなー」
 人狼の耳をぴこぴこと揺らし、チシャが考えながら言う。
「だって、それだけ慕われてるって事だもんね! 私はそんなセシルがカッコイイと思うし、好きだよー♪」
「それはみぃもだよ!」
「私もです」
 三人がセシルを見つめ、可愛らしい愛を告げる。
「ありがとう、ぼくの可愛いお嫁さん達。ぼくも皆のことが大好きだよ」
 蕩けるような甘い声に、三人のみならずプラチナの頬まで赤く染まった。
「……あ、こういうのってコイバナっていうのかな? ふふ、たのしいな」
「これが『コイバナ』っていうの? 聞いた事のある言葉だったけど、意味は知らなかったんだよね! えへへ……そうかー、これが『コイバナ』かー……」
 してみたかったんだよね、とチシャが笑うと、みぃも楽しそうに頷く。
「……恋の相手が目の前にいる状況ですることでしたでしょうか?」
 メイフィアが小さく呟くが、まぁ皆が楽しければそれでいいですと口を噤んだ。
「おや、頼んだものが来たようだよ。さあ、皆で食べようか」
 テーブルに並べられた白いティーカップにコーヒーカップ、それからケーキにパフェ、バニラアイスに生クリームがのったクリームソーダ。彩も豊かなテーブルで、少女たちの楽しそうな声が弾けた。
 一口ずつ交換をしたりして、たっぷりとカフェのひと時を堪能すると、セシルが口元を拭きながら大通りを眺める。大通りはすっかり賑やかさを取り戻し、神社へ向かう人々が見えた
「この後は神社だね」
 そう言って、三人のお嫁さんを見てからプラチナを見遣る。
「うん、プラチナちゃんだけ普段着じゃ可哀想だ。お嫁さん達、晴着貸出のお店が開いてたら、選んだり着付けしたりを手伝ってあげてくれないかな?」
 プラチナの頭を撫でてセシルがそう言うと、セシルの頼みを断るという選択肢など最初からない三人が快く頷く。
「勿論、セシルの頼みだから頑張るけど……選ぶのはいいけど、着付けはお店の人にやってもらったからわからないや」
「セシル様、晴れ着の着付けは私も守備範囲外ですよ。そもそも生粋の伯爵令嬢だった私に、他人の着替えの手伝いなど出来るはずがないではないですか、私は使用人ではないんですよ?」
 チシャとメイフィアがそう言うと、セシルもさすがにぼくもその辺りは守備範囲じゃないなと困ったように笑う。そこへみぃがえっへんと胸を張って立ち上がる。
「着付けならまかせて! 着物なら慣れてるもの、ばっちりかわいくしてみせるよ!」
 では着付けはみぃに任せようと、セシルがみぃの頭を撫でて立ち上がる。善は急げだと、カフェをあとにすると当日受付も可能な衣装貸し出しの店へと足を運んだ。
「選ぶくらいならできますけど、それも私の価値基準になりますからね?」
「メイフィアのセンスなら間違いないね」
 そうセシルに微笑まれてしまえば、メイフィアも腕の見せ所だと彼女の目に適う晴れ着を幾つか見繕ってプラチナの元へ置く。それをプラチナの希望に合わせつつコーディネイトするのはみぃとチシャだ。
「柄は……うーん、どんなのがいいんだろう?」
「柄はお花とか似合いそうだね」
「あ、とってもいいかも! それにプラチナさんはきれいだから、華やかな柄でも映えるかも?」
 あれでもない、これでもない、これはどうかと、とうとう二つに絞った晴れ着をプラチナへと見せる。
「一番は着てみたい柄を選ぶことだとおもうから、プラチナさんが選んでみて!」
「そうそう、気になるのあるー?」
 自分の身体に当てられた晴れ着を見て、それからプラチナがセシルへと視線を送る。
「どちらも似合うよ、好きな方を選んでごらん」
 その言葉に後押しされるように、プラチナが晴れ着を指さした。
 それは彼女の白い肌、プラチナ色の髪を一層引き立たせるような白地に金糸で大輪の椿が刺繍されたもの。
「これなら帯はこちらがいいですね」
 黒と金の市松模様の帯に、セシルの瞳のような色の飾りがついた帯締めをメイフィアが持って合わせていく。みぃがそれを着付け、楚々と立つプラチナの姿はとても可愛らしくてセシルが満足気に微笑んだ。
「うん、皆が選んだだけあってとても素敵だよ」
「うん、とってもすてき!」
 セシルに続いてみぃが言うと、メイフィアも口元に小さく笑みを浮かべて頷く。
「これで神社に向かえるね!」
 明るい声でチシャが笑って、全員で通りへ出ると可愛らしくて華やかなご一行様に道行く人も目を惹かれるようで笑みを浮かべて通り過ぎていく。
「さあ、行こうか。ぼくの可愛いお嫁さん達」
 セシルの言葉に三人が頷いて、プラチナも小さく頷く。
 愛しく可愛い彼女達を連れて、セシルが神社へ向かう為に歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千家・菊里
【福3】福袋巡り
彼女にも人々にも笑顔が戻り、何よりですね
折角ですし、少し福を頂きながら参りましょうか
(清史郎さんに頷きつつ、視線は早速菓子福袋に釘付けで)
ふふ、本当にわくわくしますね

(人気和洋菓子が新春仕様で一際晴れやかになった福袋買い)
元日から此程の幸福と正義を得られるとは実に幸先が良いですね
帰ったらこれをぱあっと広げて、皆で福を分け合って、華やかに新年会も良いですね

あ、この福袋の縁起物、伊織の亀さんそっくりでは?
隣のぴよだるま福袋もお二人の雛さん達に似て、凄く福を招いてくれそうですね

(それから綺麗な羽織物も一つ
晴着代わりに、花乃子さんにお届け出来ればと)
貴女にも、どうぞ良き福が訪れますよう


筧・清史郎
【福3】福袋巡り

ああ、彼女が大切な事を思い出せてよかった
福袋か、初めて購入するな(わくわく
菓子の福袋は是非とも手に入れなければだな(超甘党
あとは、可愛い動物さん等の縁起物が入った福袋も見つけて購入

菊里と同じ菓子福袋を手に、にこにこご満悦
ふふ、後で分け合おう(微笑み
縁起物の動物さん達も愛らしいな(動物お任せ
やはり、甘い物と可愛い物は正義だ

おお、確かに亀さんに似ている
ぴよだるま福袋…(じっと見つめ
ああ、やはり買わねばだな、伊織(お買い上げ

福袋購入後は花乃子の元へ
では俺からは、希望を咲かせる紅白の彩りを貴女に
縁起物福袋に入っていた梅の花の髪飾りを可能ならば彼女につけてあげて
福のお裾分けができればと


呉羽・伊織
【福3】
ああ、彼女の記憶も新春の精彩も無事に返って一安心だな
この様子なら暫し店に目移りしても…ってホント目がないな(視線辿り思わず初笑い)
清史郎は初福袋となれば、わくわく感も一入だな

甘いのと可愛いのは二人に任せとけば完璧そーだな!
後で分け合って新年会も良いな~
ホントどの袋も幸福で満ちてて、良い一年の始まりを祝せそーだ

後はペット用福袋も…何ソレ?
(亀置物や雛達磨袋を二度見し――オマケに龍か鰻か謎生物の置物とも目が合い)
仕方ない…買うか、清史郎!
コレは絶対福招いてくれる縁起物…!

(花乃子も傷んだ侭でなく晴れやかな姿で行けるよう
菊里と合わせ良ければ羽織を)
身も心も晴れやかに――約束叶うよう祈ってるよ



●福を巡りて
 人々の笑顔と賑わいが戻った大通り、思い出せなかったことが思い出せたと喜び、笑顔を浮かべる可乃子の後ろ姿を眺めて千家・菊里(隠逸花・f02716)が口元に笑みを浮かべて筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)と呉羽・伊織(翳・f03578)を見遣った。
「彼女にも人々にも笑顔が戻り、何よりですね」
「ああ、彼女が大切な事を思い出せてよかった」
 本当に、と口元を綻ばせた清史郎の横で、伊織も目を細めて喜びの声を零す。
「彼女の記憶も新春の精彩も無事に返って一安心だな」
 花乃子の後ろ姿を視線で追って、彼女の近くに他の猟兵や帝都桜學府のユーベルコヲド使いがさりげなく控え、不安気にする人々を宥めては花乃子がもう危険な存在ではないことを説いているのを確認する。
「この様子なら暫し店に目移りしても大丈夫そうだな!」
 伊織が明るい声でそう言うと、菊里がぽんと手を叩く。
「折角ですし、少し福を頂きながら参りましょうか」
「おお、福か」
「清史郎、福の意味、わかってるか?」
 伊織がじっと清史郎を見つめると、清史郎がにっこりと笑って言い切った。
「知らぬな」
「知らないのかよ!」
「ふふ、この場合の福というのは、福袋のことですよ」
 切れのいい突込みを受けつつも笑う清史郎に、菊里が福袋の説明をする。
「ふむふむ、つまり中身が何かはわからぬが、値段以上の物が入っているお得な詰め合わせの袋を買うということか。運試しのようなものだな」
 それは楽しそうだと清史郎が目を輝かせると、伊織がうんうんと頷く。
「色んな福袋があるからな、これぞって物を買うんだぞ」
「良い物があるといいですね」
 初めての福袋に心を浮き立たせる清史郎にそう言って、では参りましょうかと菊里が歩き出す。その視線は鋭く、お目当ての一つでもある菓子の福袋へと向けられていた。
「……ホント目がないな」
 菊里の視線を辿った伊織が思わず笑い、これが初笑いになるのか? と首を傾げる。
「美味しい物を逃すわけにはいきませんからね」
「菓子の福袋か、これは是非とも手に入れなければだな」
 清史郎も同じように視線の先を辿ったようで、更に瞳を輝かせて笑う。
「さすが超甘党……」
「甘い物は大好きだぞ」
「ええ、きっと美味しいですよ」
 美味しい物が大好きな菊里と共に、いざいかん甘味福袋――!
 タッグを組んだ二人の後ろを伊織が追いかけ、和洋菓子店へと入る。店の外もだが、中も新春の飾り付けがされてなんとも華やかな店内、可愛い女性客も沢山。これは目の保養だと満足そうに笑んだ伊織を横目に、菊里と清史郎が人気の和洋菓子が新春仕様で一層晴れやかになったという福袋の列へと並んだ。
「どれも美味しそうだな、菊里」
「ええ、これは期待が出来そうですね」
 そうして二人が買い求めた福袋は赤と金の艶々とした袋に桜があしらわれていて、中には白い箱と赤い箱が入っているというもの。白い箱には練り切りなどの和菓子を含んだクリームどら焼き等が、赤い箱には洋生菓子を含んだクッキー等が入っているのだという。
「元日から此程の幸福と正義を得られるとは実に幸先が良いですね」
 無事に和洋菓子の福袋を手に入れた喜びに、菊里の頬がふうわりと緩んで笑みを作る。
「ああ、良い買い物をしたな」
「帰ったらこれをぱあっと広げて、皆で福を分け合って、華やかに新年会も良いですね」
「皆で分け合って新年会か、良い案だな」
「ふふ、後で分け合おう」
 菊里と伊織の言葉に、皆に福のお裾分けだと清史郎が微笑んだ。
「他に欲しい物はありませんか?」
「そうだな、俺は縁起物の……」
 と、そこで言葉を切った清史郎の視線を追うと、可愛い動物の縁起物が入った福袋が見えた。
「あそこですね、行きましょう」
「はは、甘いのと可愛いのは二人に任せとけば完璧そーだな!」
 伊織の笑いと共に、その雑貨屋でどの福袋が良いかと迷いつつ、一つ手に取って会計を済ませる。白い紙袋に可愛らしい動物があれこれと描かれた袋だ。
「良い物入ってたか?」
「どうだろうな、ちょっと見てみるか」
 やはり中身が気になるもの、邪魔にならぬ場所でそっと福袋を開ければ、中には達磨の被り物をしたひよこのぬいぐるみや、赤べこの置物、招き猫のストラップ、鶴と亀の絵が描かれたなんとも縁起のよさげな香立て……他にも細々とした可愛らしい縁起物が入っている。
「伊織よ、これは大当たりだ」
 縁起物の動物さん達が愛らしいと、清史郎が真顔で伊織に頷く。
「そ、そうか。それは何よりだ」
 微笑ましそうに見ていた菊里が、何やら見覚えがあるものが……と視線を違う福袋にやると、伊織の名を呼んだ。
「どうした?」
「この縁起物、伊織の亀さんそっくりでは?」
「……マジか」
「おお、確かに亀さんに似ている」
 太鼓判を押されるほど、それは伊織の亀に似ていて。更には、ぴよだるま福袋なんてものまで見つけてしまって、三人が視線を合わす。
「凄く、福を招いてくれそうですね」
 なんといっても、亀とぴよ達に似ているのだ。
「ぴよだるま福袋……」
 これは間違いなく運命、と清史郎がぴよだるま福袋に手を伸ばす。
「オレはペット用の福袋を買おうとしていたはずなのに……」
 しかし、亀の置物にぴよだるま福袋、これは買うべきではと伊織が唸る。
「……こ、これは!」
 ダメ押しとばかりに、龍か鰻かよくわからない謎の置物とも目が合ってしまって。
「これは……やはり買わねばだな、伊織」
 既にぴよだるま福袋を手にしていた清史郎が後押すように、伊織の肩をぽんと叩いた。
「仕方ない……買うか、清史郎!」
「ああ、買おう」
 新年早々、これは間違いなく福を招いてくれる縁起物である、と二人は会計へ足を向かわせるのだった。
「いやあ、良い買い物だったな」
「ええ、新春に相応しい買い物でしたね」
 手にはずっしりと嬉しい重み、笑顔を浮かべた三人が神社へ向かって歩き出す。
「ああ、ちょっといいですか?」
 菊里が呉服屋に寄り道をと言うと、伊織もと呉服屋へと入った。
「おや、同じ考えでしたか?」
「どうやらそうみたいだな」
 菊里と伊織が顔を見合わせ、ならばと晴れやかな羽織を一つ、二人で買い求めた。
 戻ってきた二人を全てお見通しだというような笑顔で出迎え、清史郎が道の先を指さす。
「花乃子だ」
「丁度いいですね」
「よし、行くか」
 歩く速度を上げ、花乃子に追いつくと伊織が驚かさぬように声を掛ける。
「花乃子」
『はい……あら』
 三人を見上げ、ふわりと花乃子が微笑む。
「良い顔になったな、花乃子。貴女に福のお裾分けをしたくてな」
 そう言って清史郎が手にした福袋から、梅の髪飾りを取り出して花乃子に見せた。
『とっても素敵ね』
「これを貴女につけても良いか?」
 喜んでと頷いた彼女の髪に、清史郎が希望を咲かせる紅白の彩を施す。優しく色付いたそれに手を当て、花乃子が嬉しそうに微笑んだ。
「オレと菊里からはこれだ」
「どうぞ、貴女にも良き福が訪れますよう」
 菊里がそっと花乃子の肩に白に梅の咲く羽織を掛ける。
『ありがとうございます、本当に……皆様優しい方ばかりね』
 はにかむ花乃子に、菊里と伊織も笑みを浮かべた。
「身も心も晴れやかに――約束が叶うよう祈ってるよ」
 肩に幾つもの優しさと彩をのせ、笑みを浮かべた花乃子が神社へと向かうのを彼らは見守るように後を追う。
 ただ、彼女に福あれと願って――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
【鏑木邸】
声が届くって嬉しいですね
學府の方々が固めてくださってるのでそれほど心配せず、
何かあれば聞こえる距離を歩きます

もう少し先の神社で皆さんと待ち合わせる予定なんですけど…
あ、シャララさんだ!(手ぶんぶん)

おふたりは福袋は買わないんですか?
そうそう、何が入ってるかわからない…
気に入ったものを選ぶのがお上手そうな二人ですから、
お召し物で博打はしないかな
わぁ、それは是非!ついていきたいです!

(漂う香りに気がついて)
ちょっと寄ってもいいですか?
と声をかけてお茶屋さんに。お茶の福袋を買います
お客様にお出しするし、先生もお飲みになるし。
最中…お茶菓子もいいですね…
(まんまとついで買いの罠にはまる)


ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸】
花乃子お嬢さん、思い出せたみたいで良かったですねえ
忘れてしまうのはかなしいことだもの
これはもう必要ないだろうと、鋼の針は袖にしまって

通りも随分賑やかになりましたね
夕時雨さまが?わー、こちらですこちら!
あけましておめでとうございます!

そうですねえ、あまり物を増やせない身なのもありますが
矢張り見て購入するのが楽しいなって!
お二人とも今度お召し物を一緒に選びに、なんて
お茶屋さん!わあ、行きます!玄米を茶買ってみたいのです

物珍しげに店内を眺め
夕時雨さま、お茶味の最中ですって!緑色です!
玄米茶は自分に、少し良いお茶はお世話になっている
ホテルのオーナー夫婦のお土産に
あ、最中もいただけますか?


夕時雨・沙羅羅
【鏑木邸】
ふたりとも、おつかれさま
ゆらり游いで、神社組より先んじて合流
あけましておめでとーの挨拶は馴染みが無いけど、めでたいのは良い
なんでもなくない日の挨拶だ

ふくぶくろ
色々入ってる…宝箱みたいな?
自分できれいなものを探すのは、生きる意味みたいなものだけど、
たまには運に任せるのも良いかもしれない
…そもそも、自分の服はあんまり拘ってないな
いっしょに選べるなら、楽しそう
今度行くなら、ふたりの好きなの、教えて

お茶
おお…緑のお茶だ
いつも紅茶だから、新鮮
良い匂い、深く薫る緑の香り
おかしもある?もなか、かわいい
お茶のお菓子は、福袋あるかな
あれも、これも、色々気になる
帰ったら、みんなで食べよう
大切に抱えて



●新緑色の福を詰めて
 迷子のように見えた影朧は、今はしっかりとした足取りで神社への道を真っすぐに歩いている。それはとても喜ばしいことで、思わず雨野・雲珠(慚愧・f22865)の頭の枝にひとつ、ぽんっと桜が咲いた。
「花乃子お嬢さん、思い出せたみたいで良かったですねえ」
 桜が一つ咲いているのは口に出さず、ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)が雲珠にそう言って、これはもう必要ないのだと口許に笑みを浮かべ、誰にもわからぬように鋼の針を袖へと仕舞う。
「はい、声が届くって嬉しいですね」
 どんなに言葉を尽くしても、届かぬ影朧がいることを雲珠は知っている。だからこそ余計に嬉しいのだと、軽やかな足取りで賑わいの戻った大通りを歩く。
「學府の方々が固めてくださってるので、心配はあまりないみたいですね」
「何かあれば他の猟兵の方も駆けつけるでしょうし」
 勿論、わたし達もですけれど、とヨシュカが頷く。
「ここからもう少し先が桜御神籤の有名な神社で、そこで皆さんと待ち合わせる予定なんですけど……」
「何かありましたか?」
「その、福袋が気になってしまって」
 福袋、と言われてヨシュカが通りを見渡す。確かにどの店も福袋を販売しているのが見えた。
「お待たせするのも悪いですし、どうしようかなと」
「はあ、なるほど」
 なるほど、ともう一度頷いてヨシュカが言う。
「大丈夫ですよ、雲珠さま。あの方達も大人なのです、寒ければ何処かに入って待っていると思います」
「ヨシュカくん……!」
 確かに、と雲珠も頷いて、ならば――と前を向いた時だった。
「あ、シャララさんだ!」
「夕時雨さまが? わー、こちらですこちら!」
 見知った顔が見えて、雲珠とヨシュカが大きく手を振って相手へと知らせると、それに気が付いたように夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)も手を振り返す。
「ふたりとも、おつかれさま」
 ゆらり、と游いで――文字通り、水の中のように地面すれすれを浮かんで游ぐように沙羅羅が二人の元へとやってくる。その装いは帝都のお正月に合わせたかのように淡い桜色に華やかな牡丹の花が咲き誇る綺麗な和装姿で、水の尾鰭はどことなく桜色だ。
「わあ、素敵なお召し物ですね」
「ありがとう、お正月? だっていうから」
 馴染みのない単語だけれど、新しい一年の始まりだ。それならば、華やかな恰好をするのもいいだろう。
「あけましておめでとうございます! 夕時雨さま」
「あっそうでした! 俺としたことが新年のご挨拶の方が先でしたね」
 雲珠もヨシュカに倣って明けましておめでとうございます、と軽く頭を下げる。
「うん、あけましておめでとー」
 これもまた、馴染みのない挨拶だけれど、めでたいのは良いことだと沙羅羅が頷く。
 だって、なんでもなくない日の特別な挨拶だ。
「シャララさん、俺達福袋を見に行こうかと話をしてて」
「ふくぶくろ?」
 首を傾げた沙羅羅に、雲珠が簡単に福袋の説明をする。
「色々入ってる……宝箱みたいな?」
「そうそう、何が入ってるかわからないんです」
「そうですね、何が入っているかわからないという点では宝箱みたいなものかと」
 雲珠とヨシュカがそう言うと、沙羅羅も納得したようにふくぶくろ、と頷いた。
「いいよ、せっかくここで会ったんだもの、いっしょに行こう」
「ありがとうございます! お二人は何か気になる福袋はありますか?」
 そう言われると、ヨシュカがううんと悩まし気な顔をする。
「そうですねえ、あまり物を増やせない身なのもありますが、矢張り見て購入するのが楽しいなって!」
 勿論、何が入っているかわからない、それこそ運試しのような気持ちで福袋を買うのも楽しそうなのですがとヨシュカが言うと、沙羅羅があちこちに視線をやりながら唇を開く。
「自分できれいなものを探すのは、僕の生きる意味みたいなものだけど、たまには運に任せるのも良いかもしれない」
 でも、どの福袋にしようかという点で考えてしまう、と沙羅羅が言う。
「福袋、本当に沢山の種類がありますもんね……うーん、気に入ったものを選ぶのがお上手そうな二人ですから、お召し物で博打はしないかな」
 そうなると服系の福袋は却下ですね、と雲珠が頷く。
「そうだ、お二人とも今度お召し物を一緒に選びに行きませんか?」
「わあ、それは是非! ついていきたいです! ヨシュカくん!」
「……そもそも、自分の服はあんまり拘ってないな。いっしょに選べるなら、楽しそう」
 そうなると、どの世界で買うのがいいだろうか、なんて楽し気な声が響く。
「今度行くなら、ふたりの好きなの、教えて」
「ええ、きっと楽しいですよ。お揃いとか、お互いの服を見立てたりとか」
「俺は自分のセンスに自信が無いので、見立ててもらえたら凄く助かります!」
 絶対に行きましょうと約束をすると、ふわりと鼻孔をくすぐるなんともいい香りに気付いて、雲珠が二人に声を掛けた。
「あそこ、ちょっと寄ってもいいですか?」
「何のお店ですか?」
 ヨシュカの問い掛けにお茶屋さんです、と答えると彼の金色の瞳がきらりと輝いた。
「お茶屋さん! わあ、行きます! 玄米茶を買ってみたいのです」
「玄米茶、美味しいですよね!」
「お茶」
 盛り上がる二人の後ろをついて、沙羅羅がくんっと嗅いでみれば確かに良い匂いがした。
 からん、とベルの音を響かせて店内に入れば、多種多様なお茶の葉が並んでいるのが見える。
「落ち着く匂いです……!」
 雲珠がすうっと深呼吸するように息をして、レトロモダンな可愛らしい店内を色々と見て回る。ヨシュカと沙羅羅もあちこち眺めていると、試飲だと緑茶の入った小さなカップを渡された。
「おお……緑のお茶だ」
 いつも飲んでいるのは紅茶だから、とても新鮮だと沙羅羅が薄く美しい緑色を眺める。
「良い匂い……深く薫る、緑の香り」
 口を付け、一口飲んでみるとすっきりとしているのに深い味わいで、ぱちぱちと目を瞬かせて、またもう一口飲んだ。
「気に入りましたか、夕時雨様」
「うん、おいしいね」
 店員にお礼を言って空になったカップを捨てると、ヨシュカの呼ぶ声が聞こえて視線を向ける。
「夕時雨さま、雲珠さま、お茶味の最中ですって! 緑色です!」
「おかしもある? もなか、かわいい」
 見れば四角の可愛らしい形の最中で、沙羅羅と雲珠が目を輝かせて見本を眺める。
「すごい、あんが緑だ」
「最中も薄っすらと緑色ですね」
 これは絶対美味しいですよ、とヨシュカが頷く。
「お茶の福袋に最中……お客様にお出しするし、先生もお飲みになるし、お茶菓子に丁度いい……」
 意を決したように雲珠が最中の箱に手を伸ばす。まんまとついで買いの罠にはまっているが、新年ですし、と魔法の言葉を呟いてお会計をお願いした。
「わたしは玄米茶と、少し良いお茶はお世話になっているホテルオーナー夫妻のお土産にして……」
 玄米茶、あれからずっと気になっていたんですよね、とヨシュカが笑う。
「あ、最中もいただけますか」
 二つ、と買い求めている横で、沙羅羅もお茶のお菓子の福袋を見つけて手にしている。
「あれも、これも、色々気になる」
 なるほど、こういう時に福袋は便利だと頷いて、お会計を済ませた。
「買いましたね……」
「初売りマジックというやつですね、雲珠さま!」
「帰ったら、これ、みんなで食べよう」
 大事そうに抱えた福袋を沙羅羅が二人に見せると、勿論ですと雲珠が頷き、ヨシュカが美味しいお茶をお淹れしますね、と微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雷陣・通


正月か……そういえばこっちの正月は初めてだな

流石に勝手が分からないし
――そうだ!

花乃子!
この街を案内してくれないか?
勿論、あんたが行くべきところがあるのは知っているから、その道すがらでいい
知りたいんだ、この帝都を

難しいかな?
難しいなら、誰か他の人、案内頼めない?

ああ、大丈夫。俺も用事があるんだ
花乃子が向かおうとしている神社にさ
だから、その途中まで知りたいんだ
この世界を
花乃子が生きていた道を
みんなが歩いていたサクラミラージュというところを!


御桜・八重


神社の家に生まれた以上、仕方ないことではあるんだけど…
「晴れ着、いいなあ…」
お正月はずっと巫女としてお手伝いだったから、
晴れ着を着る機会はあまり無かったんだよね。
道を行く華やかな着物の女性たち。
「ああいうのを着て、ステキな人と初詣行ってみたいねー」
桜御神籤の神社への道すがら、
賑やかに花乃子さんに話しかける。

憧れの人と晴れ着で初詣。
死んだ後も心惹かれるの、わかる気がするよ。
(モワモワと浮かぶ誰かの顔)
…って、まだそんなんじゃないんだからね、まだ!
(頭ブンブン)

「あ、もう時間。急がなきゃ!」
神社のお手伝いの時間が迫り、花乃子さんに一礼して別れを告げる。
「また、会おうね♪」
転生を果たしたら、ね。



●帝都を歩く
 世界が違えば、正月の賑わいもまた一つ違うもの。UDCアースの正月なら慣れているけれど、帝都とくるとそうもいかないと雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)が小さく唸る。
「むう、こっちの正月は初めてだからな」
 流石に勝手が分からない、さてどうしたものかと悩んでいると、反対側の通りに見知った顔が歩いているのが見えた。
 どうやらこちらには気が付いていない様で、店の窓ガラスを覗いている。
「よしっ」
 通は向かい側へ渡る為に、横断歩道を探そうと早足で歩きだした。
 そんな事とは知らず、呉服屋のショーウィンドウを覗き込んでいるのは御桜・八重(桜巫女・f23090)だ。
「晴れ着、いいなあ……」
 神社の家に生まれた以上、割り切ってはいるけれど……それでもいいなと思ってしまうのは年頃の女の子ゆえ。そんな八重が呉服屋の前で足を止めてしまっても、誰も咎めることはないだろう。
「お正月はずっと巫女としてのお手伝いだったから、晴れ着を着る機会はあまり無かったんだよね」
 ショーウィンドウに飾られた晴れ着も、道行く人が着ている華やかな着物も、どれも素敵に見えて思わず溜息が零れた。
「ああいうのを着て、ステキな人と初詣……行ってみたいねー」
 腕とか組んだりしてさ、なんて丁度目の前を行くカップルに重ねてみたりして。
「言ってても始まらないし」
 呉服屋を離れ、神社に向かって八重が歩き出すと花乃子の後ろ姿が見えて、おーい! と明るく声を掛けた。
「花乃子さん!」
『はい……あら、あら、親切な方』
 色々思い出せて良かったね、と話をしながら八重が花乃子の横を歩く。
「そっか、花乃子さんは憧れの人と晴れ着で初詣に行きたかったんだね」
『ええ、今となっては思い出せただけで嬉しいのです』
 だから、このまま神社へ向かうのだと言う花乃子に、わたしも! と八重が言う。
「死んだ後も心惹かれるの、わかる気がするよ」
 女の子であれば、一度は着てみたいと思う晴れ着。そんな素敵な着物を着て、好きな人と一緒に新年を歩く――。
 そこまで考えて、もわもわと浮かぶ誰かの横顔に八重が首をぶんぶんと振って掻き消す。
「そ、そんなんじゃないんだからね、まだ!」
「何がまだなんだ?」
 突然手前から降ってきた声に、八重がうわぁっと跳ね上がる。
「わ、悪い! そんなに驚くとは思ってなくて」
 通が目を丸くしたままの八重に謝ると、八重もなんとか冷静を装って大丈夫だと頷いた。
「って、どうしたの通くん」
 ここに通がいるということは、花乃子を救う為に彼も帝都に来ていたということなのだろうけれど。
「いや、それが……情けない話、こちらの勝手がわからなくてな」
 クリスマスの時に、八重に案内してもらったことはあるけれど、行き先が違えばわからなくて当然だ。
「それで、花乃子に案内をしてもらおうと思ってさ」
『まあ、私にですか?』
 驚いたような顔の花乃子に、通が頷く。
「勿論、あんたが行くべきところがあるのは知っているから、その道すがらでいい。知りたいんだ、この帝都って街を」
「さすが通くん、いいアイデアだね!」
 だろう? と嬉しそうに鼻の下を擦った通に、花乃子も控えめに微笑んで頷いた。
「難しかったら、八重に頼めないかなって思ったんだけど、良かった!」
「ごめんね、通くん。あたし、今日はちょっと急いでて」
 用事があるのだと表情を曇らせた八重に、通が用事? と首を傾げる。
「うん、今日は神社の……花乃子さんが行きたいって言ってる神社のお手伝いがあるんだ」
「そうか、正月から大変だな」
 神社の娘だからね、と八重が笑う。
『まあ、八重さんは神社の娘さんなのですか?』
「桜御神籤の神社ではないけどね。あたし、鎌倉の方にある神社の娘なんだよ」
 そうなのですか、と花乃子が頷き通へと視線を向ける。
『私も神社までの道しかわかりませんけれど……それでもよろしければご一緒致しましょう』
「ああ、大丈夫。俺も花乃子が向かおうとしている神社に用事があるんだ」
「そうなの?」
 ああ、と頷く通に、八重がふうんと相槌を打ってから通りにある大時計に目をやって慌てたような声を上げる。
「どうしたんだ?」
「大変、もう時間! あたし、行かなきゃ!」
 神社の手伝いの時間が迫っているのだと告げて、八重が花乃子と通に一礼をして顔を上げた。
「それじゃあ、またね!」
 また、会おうね。あなたが転生したら、きっと。
 そんな想いを込めて八重が微笑むと、神社まではこの道をまっすぐだから! と言って、真っ直ぐに駆けていった。
『私達も、参りましょうか』
「そうだな!」
 何を知りたいのかと花乃子が問えば、通がそうだなぁと腕を組む。
「何でもいいんだ。花乃子が生きてきた道を、この世界のみんなが歩いていたサクラミラージュってところが知れたら」
『ふふ、簡単なようでいて、難しいご注文ですね』
 それでも、花乃子は少し違うような気もするけれどあの店には見覚えがあります、と指を差したり、このお店は見覚えはないけれど皆さん楽しそうですと、通と眺めて笑う。
「ああ、神社が見えてきたな」
『ええ、もうすぐですね』
 穏やかな笑みを浮かべて、花乃子が頷く。
 神社まで、あともう少し――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『この善き日に』

POW   :    全力で楽しむ

SPD   :    静かに楽しむ

WIZ   :    優雅に楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●桜舞う、この善き日に
 見えた、と小さく呟いたのは誰だったのだろうか。
 幻朧桜が舞い散るその先に赤い鳥居が見え、鳥居の中央には花咲神社と書かれているのが見て取れる。
『ああ、そう、そうだわ……はなえみ、花咲神社というのだわ』
 そう言った彼女は悲壮感に満ちた影朧ではなく、花乃子という名を取り戻した一人の少女のように見えた。
 約束をした人はもういないけれど、私は確かに約束を守れたのだと、はらはらと涙を流す。それは哀しみではなく、喜びに満ちた涙で。
『ありがとう、優しい方達』
 花乃子が猟兵達に向かって、そう告げる。
 思い出させてくれてありがとう、優しくしてくださってありがとう、と笑みを浮かべて己の肩に掛けられたコートを手に取った。
『とても温かかったわ』
 そう言って、瞬く小さな星のような少年へコートを返す。
 貴女へ、と渡された羽織物やショールは己の肩に重ねたまま、白に紅にと揺れる髪飾りをしゃらりと鳴らして幻朧桜を仰いだ。
 転生の道を歩まれるのですか、と控えめに問うた桜の少年に、花乃子は頷いて返す。
『皆様のおかげで、私、とても満ち足りた気分なの』
 その穏やかな表情に、桜の少年が己の役目を果たさんと枝に桜を芽吹かせ、白い桜を花乃子へと送る。それに呼応するように、帝都桜學府の桜の精達も、一斉に花乃子の為に桜の癒しを施した。
『ありがとう……本当に、ありがとう、優しい方達』
 ああ、もう桜で何も見えないわ、と微笑む花乃子の視線の先に、優しく伸ばされた温かな手がひとつ。
『私を、待っていてくださったの?』
 学生帽に、あの頃のままのお姿で。
『ええ、ええ、時間は掛かってしまったけれど、わたし――』
 貴方との約束を守れたわ。
 桜吹雪が空へと舞い上がり、ふわりと消えて――花乃子の転生は成されたのであった。

 影朧の転生が果たされ、花咲神社の参拝客からは正月早々めでたい話だと歓声が沸き起こる。そうして、暫くすれば参拝客達は参拝を済まそうと鳥居の先へと向かって行った。
 赤い鳥居の先には砂利の敷かれた参道があり、少し歩くと手水舎が見える。ここで手と口を清め、大通りほどの広さのある参道を真っすぐに歩くのだ。
 そうすると、花咲神社の本殿が見え、参拝を済ませてぐるりと回ると社務所があり、ここでお守りや破魔矢、絵馬などが受けることができる。勿論、この神社一番人気の桜御神籤もここで引くことができるのだ。
 桜御神籤はその名の通り、桜の花の形をした可愛らしくもあり、美しくもある桜色の御神籤。
 今年の吉凶を占うには相応しいと、貰い受ける人は後を絶たない。
 御神籤を引いたなら、参道を少し戻って茶屋で一息つくのもいいし、無料で振舞われている桜甘酒をいただくのもいいだろう。桜色をした甘酒はノンアルコールで、子どもにも人気の優しい口当たりの甘酒だ。
 どうぞ皆さま、この善き日を思う存分に楽しんで――。

------------------------------
 皆様のご活躍で花乃子は転生の輪に入ることができました、ここから先は皆様の思うように花咲神社をを楽しんでいただければと思います。
 神社や、その周辺でできることは大抵できますので、ご自由に正月のひと時をお過ごしくださいませ。
 飲酒喫煙は可能ですが、未成年の方の描写できませんのでマスタリングが入ります。
 桜御神籤を引かれる方は、今一度マスターコメントの第三章を参照して頂いて、文字数削減の参考にしていただければと思います。
 【受付期間】はMSページに記載のURLを参照ください、受付期間前、受付期間後に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認ください。
 また、第三章に限り再送が発生する可能性がございます。一度の再送で済むかと思いますが、どうかご了承くださいませ。
青葉・颯夏
◎【ラボ5】
🌸総合運(結果はお任せ)

着ていくのは浅縹の地に水仙の柄の小紋
初詣だから鶴の帯飾りもつけていこう
皆さんの服装はらしい、の一言かしら

お参りするときはまず手水からですよ
それを済ませたら二礼二拍手、ここでお祈りをしてから最後に一礼してくださいね
あたしは皆さんの健康を祈っておきます

あとはおみくじですね
結果はどうかしら


パーヴォ・シニネン
◎【ラボ5】🌸人

我輩ってば和服は慣れてないんだヨネ(中性的着こなし
だが相棒が素敵に見えていればハッピーだとも!
そういう麒麟は派手派手ダネ
っと、そんなにはしゃぐと転んでしまうヨー

参拝の人混みで皆はぐれぬよう
特にティーシャや楓夏、レディは気をつけなくてはネ
(もちもち手招きの子供

四十五円で始終御縁
日本の洒落文化は面白いネ!
祈りの作法も様々…えーと確か二礼二拍手一礼だったヨネ
…アレッ違ったカナ!?
なにせ元傭兵マスクだから我輩疎いもので!

正純もおみくじを引いたのダネ、どれどれ
我輩は対人運を占ってもらうヨー
相棒は勿論、まだ見ぬこども達との出会いも楽しみだからネ!

皆との一年も、より良いものになりたいナ


納・正純
◎【ラボ5】🌸人
紺と灰の着物で参加しよう
聞けば麒麟は派手目な着物で行くって聞いたんでな、ここは一丁大人の着こなしって奴を見せてやろうと思ってよ
パーヴォの言うとおり、重要なのは派手かどうかじゃなく素敵に見えるかどうかだと俺も思うね。その点でいくと、お前ら全員素敵に似合ってるぜ

おやまあ、パーヴォは先導に女性陣のエスコートまでしてくれるのかい?
それじゃ、俺ははぐれるやつがいないか最後尾から確認しておこうかね はしゃぎ過ぎるなよ
俺も対人運を占ってもらったぜ。人との付き合いは大事にしたいんでね、験担ぎさ
まあ俺ともなれば対人運なんざ自力でどうにかできちまうんだけどな! 天運は俺の手の中にあるってワケよ


七々澤・麒麟
◎【ラボ5】🌸金

着物で参加!
黒と桃に桜柄の派手目な羽織を見せて
「どーよ、イケてっだろ~!!!」と小躍りするも
動き難っ!!と我に返る
おっ正純の兄貴の羽織もかっけーじゃ~ん!
パーヴォはお前七五三みてーだな!!

お参りは5円玉をぽーんして
えーっと…手叩くんだっけどうだっけ
こういうのは颯夏が詳しそうだし教えてくんね?
見様見真似で、それっぽく参拝!

あとはえーと、お御籤がまだだったな
んっティーシャ引いたことねーのか?
そんなら忘れねー内にやっとかねーと!ほらほら行くぜ!(手を引っ張りぐいぐい連れてく)
オレは何占って貰おっかな~恋愛運は大吉に決まってっしな~
とりあえず金運にしとっかな、どれどれ!(結果お任せ)


ティーシャ・アノーヴン
【ラボ5】🌸旅行運

お着物は動き難そうでしたので私は普通の格好で。
皆さんちゃんとお似合いですわね。ふふ。

お祈りに特別な作法があるのですね。
祈りは故郷でご神木様に捧げておりましたが、また違うようです。
その地の習わしに倣うのが良いとされますし、私も教えて戴きましょう。

お御籤と言うのは初めてです。
運勢を占って戴くのですね。人ではなく、紙で?
己で運勢を掴み取ると言うことでしょうか、なるほどなーですわね。
では冒険運……ええっと、旅行運でいいのでしょうか?
良い結果でも悪い結果でも、運勢と言うのはそこからどうするか、ですしね。

今年も楽しく、また素晴らしい出会いや冒険が出来ますように。



●新年最初の運試し
 新年、正月と言えば初詣だと誰が言い出したのかはもう忘れてしまったけれど、初詣を満喫するべく神社の前に集まった五人は思い思いのお正月に相応しい恰好をして新年の挨拶を交わしていた。
「どーよ、イケてっだろ~!!!」
 七々澤・麒麟(GoldyFesta・f09772)が薄桃から黒に変化する着物と、桃色から漆黒に変わっていく生地に桜が咲く艶やかな羽織を自慢するようにくるりと回る。
 俺が一番目立っちゃってるんじゃね? と、満面の笑みを浮かべる麒麟に、パーヴォ・シニネン(波偲沫・f14183)がうんうんと頷く。
「麒麟は派手派手ダネ!」
 吾輩ってば和服は慣れてないんだヨネ、というヒーローマスクである彼は、それでも己の相棒が素敵に見えるようにと選んだ晴れ着を相棒に着せて、自慢気にマスクを光らせている。紺瑠璃の着物に南の海色の被布コート、どこか中性的にも見える可愛らしい着こなし姿に、思わず麒麟が小躍りするのを止めてまじまじと見入る。
「パーヴォはお前、七五三みてーだな!!」
 可愛いぞ! という彼に、パーヴォはそうだろう、そうだろう、とご満悦だ。
「正純の兄貴の羽織もかっけーじゃ~ん!」
 話の矛先を向けられた納・正純(Insight・f01867)がニヤリと笑って麒麟を見る。
「そうだろう? 麒麟が派手目な着物で行くって聞いたんでな、ここは一丁大人の着こなしって奴を見せてやろうと思ってよ」
 紺と灰色でシックに纏め、中折れハットでモダンさを出した出で立ちだ。
「皆さんとっても、らしい……という感じですね」
 浅縹の生地に水仙の花が控えめに咲いた小紋、全体的に上品なスタイルだが帯揚げをリボン結びにしてさり気ない可愛らしさを見せている青葉・颯夏(悪魔の申し子・f00027)がそう言うと、隣に佇むティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)も笑顔で頷く。
「ええ、皆さんちゃんとお似合いですわね。ふふ」
 そう笑う彼女は、着物は動き難そうでしたので、と何時ものスタイルを少しアレンジしたアオザイのような格好に華やかな刺繍の施された厚手のショールを羽織っている。
「吾輩は相棒が素敵に見えていればハッピーだが、皆も素敵にみえているヨー」
「パーヴォの言うとおり、重要なのは派手かどうかじゃなく素敵に見えるかどうかだと俺も思うね」
 その点でいくと、と正純が豪快に笑う。
「お前ら全員素敵に似合ってるぜ」
「確かにそうだ! 俺もイケてっけど、皆も相当イケてんぜ!」
 俺はちょっと動き難いけどな、と麒麟が笑って、行こうぜ! と鳥居の先を指さした。
「参拝の人混みで皆はぐれぬよう、特にティーシャや楓夏、レディ達は気をつけなくてはネ」
 紳士な言葉を口にして、パーヴォが白くて可愛いもちもちとした手をティーシャと颯夏へと差し出す。
「まぁ、パーヴォさんは紳士ですわね」
「ええ、ではシニネンさんのお言葉に甘えて」
 二人が小さく笑みを浮かべてパーヴォの手を取る。パーヴォを真ん中に、ティーシャが左に、颯夏が右にと手を繋ぎ歩き出す。
「両手に花ってやつだな、パーヴォ」
 先導に加え、女性陣のエスコートまでしてくれるパーヴォを後ろから眺めて笑い、それなら俺ははぐれる奴がいないか最後尾から確認するかと正純が頷いた。
「どっちかっていうと綺麗なお姉さんと七五三って感じだけどな」
 正純の隣を歩きながら、麒麟がボソッと呟くけれど、人混みの喧騒に紛れて前の三人には届かなかったようだ。
「平和な正月って感じじゃないか」
 いいねえ、と正純が言って、はしゃぎ過ぎて迷子になるなよ? と麒麟に笑った。
「お参りをするときはまず手水からですよ」
「ちょうず? ですか?」
 颯夏の言葉にティーシャが首を傾げると、正純が手や口を洗い清めるんだと後ろから声を掛けた。
「神に会う前に清める、理にかなっているネ!」
 手水舎の前まで来ると、颯夏がお手本のようにやり方を見せてくれる。
「右手で柄杓を持って、汲んだ水を左手に掛けて」
 半分以上水を残し、次は右手を清め、最後に右手に持ち替えて左手に水を少し注いで口をすすぐ。そして最後に柄杓を立てて残っていた水を持ち手に流すのが正式な作法だ。
「へぇ、こういうのを知ってるってのは、さすが颯夏って感じだな」
「きちんと清めるという気持ちを持っていれば、ここまで細かくなくていいと思いますけどね」
 何となくでしかわからない、と麒麟が笑うと、颯夏も小さく笑って答える。
「手と口を清める、穢れを祓うという意味合いもあるのでしょうね」
 ティーシャが見様見真似で手水を済ませ、ハンカチで手を拭いて頷き、またパーヴォの手を取って行きましょうかと微笑んだ。
 はらり、ひらりと桜の花弁が舞う参道は賑やかさと静謐さが混在しているような不思議な感覚で、五人は新年早々桜が咲いてるというのも不思議なものだと笑いながら歩を進めていく。
「おっ、あそこが参拝場所だよな?」
 がらんがらん、と大きな鈴の音が響き、手を打つ音が聞こえる方を麒麟が見遣る。
「ご本殿、参拝所ですね」
 颯夏が頷き、正純が迷子になるなよ、と声を掛けて前へと進んでいく。
 人の流れは心地よい速度で進んでいて、すぐに参拝の順番が回ってきた。
「お参りは五円玉をぽーんして、えーっと……手叩くんだっけどうだっけ」
 大雑把ではあるが間違っていない麒麟の言葉に颯夏が笑うと、屈託のない笑顔で麒麟が教えてくんね? と颯夏に問う。
「その地の習わしに倣うのが良いとされますし、私にも教えて戴けますか」
 故郷でご神木に捧げる祈りとはまた違う作法なのだと興味深げにしているティーシャがそう言うと、パーヴォも二礼二拍手一礼だったヨネ? どうだっけ? と、期待するように彼女を見て、正純が俺もうろ覚えだから頼むと笑った。
「では、僭越ながら。まずは鈴を鳴らして、お賽銭を入れます」
 お賽銭は気持ちなので額は問わないもの、けれど語呂合わせをする者も少なくはない。
「五円でご縁がありますようにってな!」
「ということは、四十五円で始終御縁……日本の洒落文化は面白いネ!」
 麒麟の言葉に即座にパーヴォが合わせ、お賽銭をそっと投げ入れる。その仕草を真似して、ティーシャも五円玉を投げ、正純と颯夏もお賽銭を投げた。
「そして二礼……二度お辞儀をして二拍手です」
 颯夏の仕草を四人が真似し、二回手を叩く。
「ここでお祈りをしてから、最後に一礼してくださいね」
 五人が横並びになって、真剣な表情で祈りを捧げる。その内容はそれぞれで、各々の胸の内に秘されるもの。終わった者から顔を上げ、次の人へ譲る為に横へ避けていく。
「お参りって、なんか気分がこう……上向く感じがするよな!」
 麒麟が満足気に笑うと、パーヴォも笑みを浮かべて頷く。
「気分を新たにする、という感じだネ!」
「ええ、故郷の祈りとは違いますけれど、どこか似ているような感じがしましたわ」
「これぞ正月! って感じだな」
 本殿から離れ、案内の通りに歩くと、また違う建物が見えてくる。
「社務所ですね」
「社務所、お守りとか授けてくれる場所だったヨネ……アレッ違ったカナ!? なにせ元傭兵マスクだから我輩疎いもので!」
 パーヴォがどうだったかと唸っていると、正純が合ってるぞと笑う。
「間違っていなくて何よりダヨ!」
「他にはお神籤に絵馬なんかもあるはずだぜ」
「あ! お神籤がまだだったな!」
 御神籤を引くのは初詣の醍醐味だと、麒麟が力強く頷いた。
「おみくじ……ですか?」
「んっ、ティーシャ引いたことねーのか?」
「ええ、初めて聞きました」
 ティーシャが御神籤とはどんなものかと問えば、正純が簡単に説明してくれる。
「小さな紙を引くんだが、それにその年の運勢が書かれてるんだ」
「運勢を占って戴くのですね。人ではなく、紙で?」
「神社によって様々ですけれど、この神社のおみくじは桜の形をしているらしいですよ」
 風流ダネ! とパーヴォが笑うと、颯夏が楽しみですねと頷いた。
「そんなら忘れねー内にやっとかねーと! ほらほら行くぜ!」
 麒麟がティーシャの手を引いて、ぐいぐいと歩く。社務所は参拝所と同じように賑わっていたけれど、お正月ということで人員を増やし、臨時の場所も作って対応しているようで混雑というほどではないように見えた。
「オレは何占って貰おっかな~恋愛運は大吉に決まってっしな~! とりあえず金運にしとっかな」
「根拠のない自信ってやつダネ! 我輩は対人運を占ってもらうヨー。相棒は勿論、まだ見ぬこども達との出会いも楽しみだからネ!」
「では、私は冒険運……ええっと、旅行運でいいのでしょうか?」
「どこかに出かけるという点では旅行運で良さそうですね。あたしは選びきれませんし、総合運にしますね」
「俺も対人運を占うとするか」
 わいわいと、楽しそうに五人揃って御神籤の列に並び、それぞれが一つずつ受け取って邪魔にならない場所で立ち止まる。
「結果はどうかしら」
 颯夏がそう言うと、五人が顔を見合わせてそっと桜の花の形をした御神籤を開いた。
「俺は吉だな。対人運は身近な人との交友を深めるべし……ほうほう」
 身近な人、と正純が四人の顔を順番に見て、人との付き合いは大事にしたい自分にはぴったりだと笑う。
「俺は中吉だな! 金運は……近く上がるが、無駄遣いに要注意」
 上がるんだよな? と麒麟が首を傾げつつも無駄遣いしないように気を付ければいいんだな、と御神籤と睨めっこしている。その横で、ティーシャが結果を見て小さく笑う。
「私は吉でしたわ、ええと……遠方に良きことあり、怪我には注意、だそうです」
「吾輩、大吉であったヨ! これは幸先が良いネ、ええと何々……素敵な出会いあり、行動して吉。今年の出会いに期待ができそうだネ」
 ああ、でも皆との一年も、より良いものになりたいナ、とパーヴォが満面の笑みを浮かべて四人を見上げた。
「あたしは……シニネンさんと同じ、大吉ですね。ええと、思うようになりやすい時、次のステージへ進むのも吉……以上です」
 丁寧に元の形に戻し、颯夏が微笑む。
「新年早々、中々に縁起がいいな。験担ぎにしちゃ上々だ。まあ俺ともなれば対人運なんざ自力でどうにかできちまうんだけどな! 天運は俺の手の中にあるってワケよ」
「良い結果でも悪い結果でも、運勢と言うのはそこからどうするか、ですしね」
「たとえ悪い結果だとしても、そうならないようにすればいいんだもんな!」
 正純の言葉にティーシャが頷き、麒麟が笑う。
「その通りですね、これを指針としてこれからの一年をどうするかはあたしたち次第ですから」
「気負わず気楽に、いつも通りってやつダネ!」
 さあ、これからどこへ行こうか! とパーヴォが笑って天を仰ぐ。
 目の前にはどこまでも続く青い空に、新年を祝福するかのように幻朧桜の花弁が舞い踊っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
◎【箱2】
良い顔してた…よかった……花乃子無事還って…
で、何故まだ手を繋いでるのか…?まぁ、参拝の時に離すしいっか
二拝二拍手一拝他もろもろ、実は巫女の家系故慣れてて
でも信ずるは己だけ…ここに誘ったのも、神社の凛とする空気の中、素直に己と向き合いたくて
手を合わせ隣の彼の事考える
…怖いよ、大切を作るの、大切の喪失…でもー、隣歩きたい、傍いたい、もっと
てか他のヤツが隣いたらムカつく
…はぁ、やっぱ……惚れてる、な
ああクソ2文字が言えない病てコレか情けねー…いつかちゃんと伝えなきゃ…はぁ

お守り?…え?さんきゅ!?安産祈願…ネタととるべきか深読みすべき???煙草?良いぜ、いこ

道中、そろりラファンの手を握る


ラファン・クロウフォード
◎【箱2】会いたい人と会えてよかった。花乃子さん達、どうか来世でお幸せに。戒の手を握って見送る。神社を訪れるのは初めて、全てが物珍しくて興味がそそられる。お参りの作法は戒の真似を。洗練された動作に見惚れる。作法の看板に習って済ませる。神域特有の凛としていて温かな空気が居心地よい。戒の雰囲気によく似ている。願うのは苦手だ。だから。俺は戒と幸せになる(宣言)彼女は何を願ったのだろう。想い人が望む事なら叶えてやりたい。お守りの種類の豊富さに目が止まり手に取る。縁を結ぶのか。かっこいい漢字だな(安産祈願)。購入して戒に渡す。煙草が吸いたい。付き合ってくれるか?今更、願い事。その笑顔、俺だけに頂戴、と。



●蕾、綻ぶ
 桜と共に消えゆく花乃子を見守っていた瀬古・戒(瓦灯・f19003)が、ぽつりと零す。
「良い顔してた……よかった……花乃子、無事還って……」
「会いたい人と会えて、よかったな」
 そっと戒の手を握ったまま、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)がその呟きに囁くような声で返した。
「ほんとに……ほんっとによかった」
 横にいるラファンを喜びのままに戒が見ると、優しい紫色を湛えてラファンがこちらを見ていたことに気付く。なんだかそれが無性に恥ずかしくなって、戒が視線を前に戻しつつ唇を尖らせて言う。
「で、何故まだ手を繋いでるのか。花乃子が還ったんなら、もう必要ないよな?」
「いや、ある」
「えっあんの」
 ある? ともう一度ラファンを見れば、重々しく頷かれた。
「俺は神社を訪れるのは初めてなんだ」
「う、うん」
 それと手を繋ぐことに、どんな因果が? と首を傾げれば、繋いだままの手が絶妙な力加減で握られる。
「しかもこんなに人が多い、うっかりするとはぐれるだろう?」
「ああ……確かに……」
 それもそうか、と戒が頷くと、ラファンが満足そうに微笑む。
「まぁ、参拝の時に離すし、いっか」
「参拝の時に離す? 何故だ?」
「ん-、参拝する時は手を叩いたりするから、繋いだままじゃできないんだ」
 なるほど、とおよそ納得してなさそうな雰囲気ではあるが、ラファンが頷くと戒が繋いだ手を引くようにして歩き出す。
「ま、あとは俺の真似しとけばなんとかなるって」
「わかった。それにしても見たことないものばかりだな」
 鳥居に手水舎、和風なのはわかるけれど、何をする為の場所なのかがわからないとラファンが言う。それに一つずつ答えてやりながら、前へと進んでいく。
「お参りをする前に手と口を清める、理には適ってる」
「穢れを持ち込まないって意味だろうな」
 二人で手と口を漱ぎ、また手を繋いで冷たいと笑い合っているうちに参拝所の前までやってきていた。
「ここでお参りを?」
「そ、二拝二拍手一拝って言ってな」
 作法を教えながら、戒は己が巫女の家系であることを思い出す。信じるのは己だけだと思い、そう生きてきたけれど、身に染み付いた動きというのは忘れないものだ。
「なるほど、だいたいわかった」
「ん、じゃあ後は真似しといてくれ」
 二回頭を下げ、二度手を叩く。それから、手を合わせたまま神へ祈るのだ。
 手を合わせ、戒が隣で同じように手を合わせている彼のことを考える。ここに誘ったのも、この凛とした空気の中、素直に己と向き合いたかったから。素直に、ラファンのことを考えたかったから。
 一番に思うのは、大切だと思う誰かを作るのは、怖いということ。喪失するのを恐れるのなら、最初から作らなければいいと思ってしまう。
 だけど、だけど――ラファンの隣を歩きたい、傍にいたい……もっと、自分しか知らない顔が見たい。もしも隣に他の奴がいて、笑い合っていたら、絶対にムカつく。ああ、やっぱりこれって――。
 そんな風に隣の女がぐるぐると思考を巡らせている横で、ラファンは戒の洗練された所作の美しさに見惚れながらも、神域特有の凛としていながらも温かな空気を心地よく感じていた。
 そして、願うのは苦手だと手を合わせつつ思う。ならば願うよりも、宣言の方がいいだろうと考え――俺は戒と幸せになる、と見知らぬ神に堂々と告げる。ラファンの中では決定事項なので、改めての確認のようなものだ。
 すっと戒が顔を上げるのを気配で感じ、ラファンも顔を上げる。そして彼女の真似をして、もう一度礼をしてその場を離れた。
「随分と熱心に祈っていたな」
「ンッ!? ま、まあな!」
 声が若干裏返ったけれど、祈るというか考えていた内容まではわからないだろうと戒が平静さを取り繕いつつ頷く。そうか、とラファンも頷き、彼女が望むことならば、何であっても叶えてやりたいと思う。神に願うより、俺に言った方がいいんじゃないかとまで思ったけれど、それは黙っておくことにした。
「戒、あれは?」
「ああ、あれは社務所って言って、お守りだとか御神籤だとか、そういうのを授ける場所だな」
 見たいというラファンに付き合って、戒も社務所を覗く。桜をモチーフにしたお守りが多く、目を引くようなデザインもちらほらと見受けられた。
 その中でも、薄い桜色の地に白と桜色で桜の模様が刺繍されたお守りがラファンの目を引いた。縁を結ぶ為のお守り、彼が手に取った物には金糸で――安産祈願、と書かれていた。
「かっこいい漢字だな」
 これはきっと戒にも似合う、間違いないと頷いて巫女さんへと渡し受け取る。
「いいもんあったか?」
「ああ、やる」
 白い紙袋に包まれたそれを受け取って、戒が目を瞬かせる。
「お守り? ……え? さんきゅ!?」
 自分に貰えるとは思っていなかったのか、戒がわたわたしながらも受け取って、中を覗いた。
「……安産祈願?」
 ネタと受け取るべきなのか、深読みすべきなのか、あまりにもわからなさすぎて戒の頭の中がクエスチョンマークで埋まっていく。
「戒、煙草が吸いたい。付き合ってくれるか?」
「ん? え? 煙草? 良いぜ、いこ」
 この混乱した頭を元に戻す為にも、一服の休憩は願ったり叶ったりである。
 混雑した人混みを抜ける為、一度離れた手を今度はそっと戒が握って、喫煙所を目指して二人で歩く。
「戒」
「迷子にならない為だからな」
 早口でそう答えて、黙って歩く。
 はぁ、と戒が胸の内で溜息をつく。参拝所で手を合わせている時にも思ったけれど、やっぱり、俺は。
 ああクソ2文字が言えない病ってコレか、情けねー……いつかちゃんと伝えなきゃ……そう考えれば考えるほど、隣を歩く男への想いは募って。
 じわりじわりと赤くなる戒の耳をラファンが横目で眺め、くんっと手を引く。
「どうした?」
 振り向いた戒の僅かな笑みに、ラファンの笑みが深まる。
「願い事」
「え?」
「さっき、願いは言わなかったんだ」
「お、おう?」
 じゃあ何を祈ってたんだと、戒が笑う。
「でも、今願い事ができた」
「今から? 戻るか?」
 そう言った彼女に、ラファンがゆっくりと首を横に振る。
「俺の願いは戒が叶えて」
「俺が? まぁ、俺にできることなら」
 頷いた戒に言質は取ったと笑いながら、ラファンが耳元に唇を寄せる。
「その笑顔、俺だけに頂戴」
 そう言って、笑った。
 ほら、蕾が綻んで、花が咲く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【鏡花2】◎
🌸今年の運勢

黒い羽織袴
ブーツ

振袖似合ってるなァ、ニコリネ
新年早々良いモン拝めたぜ
足元、気ィつけろよ
お前は何願ったンだ?

今年初の御参り
神様に去年も無事に生きれた報告と本年も宜しくと祈る
次に御籤引く

ニコリネ大先生の恋愛運は俺も気になるわ
お前なら自ずと善き人が見つかりそうだが
倖せ掴んで欲しいぜ
今、恋に落ちたらお前どうなっちまうンだろ(くす
ニコリネの好きな男のタイプは?
へーえ?照れてやんの
俺は絶賛失恋中で燻った儘だからなァ…コレにしよ

結果や反応お任せ

お前のはどれどれ
ンー見たい?(上空で御籤ひらり

互いが望む途に幸あれと

ニコリネ
今日付き合ってくれた礼
お前にヤるよ(帰り道に恋愛成就のお守り渡し


ニコリネ・ユーリカ
【鏡花2】

🌸恋

茜色の振袖に物事の始まりを寿ぐ桜文を纏い、柏手ぱんぱん
夢の資金が貯まった事をご報告しつつ
今年も元気に働けるよう祈念を

本の貸借を切欠に恋バナをするようになったクロウさんと一緒だし
酸いも甘いも幼少期に経験した大先輩として良縁を引きたい!
(今は恋人も好きな人も居ない干物女)

お婆様が言ってた
女は愛される方が幸せだって
だからね、私を好きになってくれる優しい人と巡り合えたらって
あ、あんまり揶揄っちゃだめ
イケメンの接近を禁じます!(ぷい

それでミスターは?(チラ
んンッ背が高くて見えっないっ!

御神籤は大切に胸に寄せて
其々に歩む道の多幸を祈りましょ

わっありがと!
早速幸運に出逢えちゃった(ほこほこ



●桜色に願いをのせて
 じゃり、と心地よい玉砂利の音を響かせながら参道を歩くのは、茜地に物事の始まりを寿ぐ桜文の模様が鮮やかな振袖に金糸の帯を結び、肩に白いファーを掛けたニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)と、正月ならば黒の羽織袴だろうと笑いつつもブーツで抜け感を出している杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の二人。
「振袖似合ってるなァ、ニコリネ。新年早々良いモン拝めたぜ」
「あら、ありがとう!」
 クロウさんも素敵よ、と笑ってニコリネが参拝所の階段を上る。数段しかない階段を上り切り、賽銭箱の前に立つと鈴をがらんと鳴らして二回お辞儀をし、柏手をぱんぱん、と打ち鳴らす。クロウも同じようにして、二人揃って手を合わせて目を閉じる。
 ニコリネは自分の育てた花を売りたいという夢の為、農場を買うという資金が貯まった事を報告し、今年も元気に働けますように! と願い、目を開ける。
 クロウは去年も無事に生き残れたという報告と、本年も宜しくと祈る。他の事も頭を掠めたけれど、今はこれだけで充分だと目を開けた。
「お前は何願ったンだ?」
「願い事は人に言うと叶わなくなるのよ?」
 だから内緒! と、ニコリネが笑うと、そうかとクロウも笑って矢印が案内するままにぐるりと回るようにして歩く。
「足元、気ィつけろよ」
「ありがとう、慣れない恰好だと足元もちょっと不安定で。でも大丈夫よ!」
 持ち前の元気さと体力で草履だってへっちゃらよ、とニコリネが笑った。
 すぐに社務所の方へと辿り着き、二人が顔を見合わせる。
「神社と言えば」
「御神籤だな」
 引きましょう! と楽しそうに列に並んだニコリネに続き、クロウも並ぶ。
「何運のを引くンだ?」
「そりゃあ、ここはやっぱり恋愛運でしょ!」
 酸いも甘いも幼少期に経験した大先輩として、是非とも良縁を引きたい! と、今は恋人も好きな人もいないニコリネはこっそりと胸の内で意気込む。
「ニコリネ大先生の恋愛運は俺も気になるわ、お前なら自ずと善き人が見つかりそうだが」
「そう言うクロウさんは?」
 本の貸し借りを切欠に恋の話をするようになったのだ、クロウも当然恋愛運かと思いきや――。
「俺は絶賛失恋中で燻った儘だからなァ……」
「あら、悪いこと聞いちゃったかしら?」
「いや、俺はいいんだ。その分ニコリネには倖せ掴んで欲しいしな」
 掴めるといいな、とクロウが笑うので、ニコリネも笑顔で頷く。そうして、引いた桜の花の形をした御神籤をそっと相手に見えないように開いた。
「中吉だわ!」
「何て書いてあるんだ?」
「ええと……様々な可能性を検討せよ、道はその先にあり、だって」
 どういう意味かと首を傾げつつ、色んな可能性があるってことかしら? とニコリネがクロウを見上げる。
「そうだな、そんな感じだな。時にニコリネ、お前の好きな男のタイプは?」
「私の? どうして?」
「可能性を検討するってンなら、好みのタイプも必要だろ?」
 そう言われればそうかも、とニコリネがうーんと考えて目を開けた。
「あのね、お婆様が言ってたの。女は愛される方が幸せだって」
「へえ、良いこと言う婆様だな」
 でしょう、とニコリネが笑顔で頷く。
「だからね、私を好きになってくれる優しい人と巡り合えたらって……」
「なるほどねぇ……今、恋に落ちたらお前どうなっちまうンだろうな?」
 真剣に理想を語るニコリネに、クロウがくすくすと笑って覗き込む。
「も、もう! あんまり揶揄っちゃだめ! イケメンの接近を禁じます!」
 免疫がないのよと、ぷいっとそっぽを向いてしまったニコリネに、照れてやんのとクロウが笑う。
「それで、ミスターは?」
 クロウの結果を見ようとニコリネがちらりと視線を寄こすけれど、それより先にクロウが御神籤を高く持ち上げ、ひらりと翻す。
「ンー? 見たい?」
「んンッ背が高くて見えっないっ!」
「はは、ニコリネの結果よりは上だったぜ?」
 そう言って、クロウが自分にしか見えないような位置でもう一度御神籤に目を通す。
 吉、これからに希望が持てる時、努力すればなお良し。
「私より良かったなら、きっとミスターの今年は良いものになるわね!」
 屈託なく微笑むニコリネに、そうだと良いなと笑ってクロウが御神籤を胸元に寄せた。
 御神籤を結びましょうと、二人別々の場所に括り付け、ニコリネがまだ結んでいるのを横目にクロウが社務所で桜の花の形をした可愛らしいお守りを受け取り、手の中に隠したままニコリネの方へ足を向ける。
「ニコリネ」
 名を呼ばれ、綺麗に枝に括り付けたニコリネがクロウに向かって振り向いた。
「お待たせ、ミスター! さあ戻りましょう!」
 参道を戻って、甘酒を飲むのも良いし、お茶屋で休憩するのも良いわねと、来る時よりも軽い足取りで歩くニコリネの顔の前に、クロウが手にしたお守りをパッと揺らす。
「今日付き合ってくれた礼、お前にヤるよ」
「わっありがと! 可愛いお守り……!」
「ニコリネの望む途に幸がありますように、ってな」
「ふふ、早速幸運に出逢えちゃった」
 嬉しそうに受け取って、揺れるお守りをニコリネが眺めて笑う。
 どうか、互いに歩む道行きに幸いがありますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冬原・イロハ
【かんにき3】
🌸人
アドリブ歓迎

神社を歩きながらキョロキョロと
皆さんの晴れ着華やかですね
迷子にならない様に周囲の彩の流れを楽しみます

参拝を済ませてアキさんと杏さんと一緒に桜御神籤を
色がとても可愛らしく
私は対人運のものを引いてみましたが、これ猫さんも相手に入ったりするのかしら(わくわく)お友達がいっぱいできたらいいな
皆さん結果はどうでした? 私は――とお喋りをしながら
大事に持って帰りますね

あっ、甘酒、飲みたいです!
と、お誘いに賛成のポーズ
振舞われる甘酒と蓬生団子も頼んで楽しみます
お二人と分け合いっこ
美味しくって、楽しくって、桜も綺麗
幸せ時間ですね

(丁寧にブラッシングしてきたので毛並みはふわふわ)


駒鳥・了
【かんにき3】
🌸仕
オレちゃんことアキの人格で!
周りを見ると晴れ着もいいよねって思うケド
動き辛くなるのはオレちゃんは無理だ!
杏ちゃんポノちゃんは似合いそうだよね

お参りが終わったらお神籤!
楽しかったり美味しかったりなお仕事にありつけるかな?
まー悪くても今まで以上に目を皿にして依頼を探すけど!
二人はどんな結果だった?って聞きながら目はさっきの参道へ
甘酒とかあったよね、行ってみよっか

綺麗な色の甘酒だねえ
オレちゃんは塩っぱい系のおかきにしよっと
でもお団子も食べたいし、皆でちょっとずつ交換しよ!
って、うーん…不可侵条約で持ちつ持たれつ?
イロハちゃんは真っ白ふわもふで偉いなあ
やっぱ特別なお手入れしてんの?


木元・杏
【かんにき3】
🌸食
アキとイロハと初詣
桜が咲いてる…ふふ、何だか不思議
鳥居で一礼し境内へ踏み入れる足取りは、そわそわ楽しそう
ん、アキも振袖をばしゅっとキメてそう、きっと似合う
お喋りしながらも神様への参拝は真剣に

さ、御籤
わたしは今年の食などを
色んな美味しいとの出会いを占う…(ぐぐ)
うりゃ!(引く)

ん、甘酒
イロハと一緒に賛成のポーズ
お茶屋で一服、わたしはみたらし団子を頼み、皆で分け合いっこ

ひとつを分け合う…、アキ達みたい
ひとつの身体を分け合う人格達
こうして幸せを分け合ってるのかな

あ、イロハ、花びらついてる
そっと毛並に触れるとふわふわで
ふふ、もふもふであったか
ん、花びらも居心地良いみたい



●桜色、乙女日和
 初詣に行こう! と元気よく乙女三人が帝都の大通りを抜け、花咲神社の鳥居の前までやってきていた。
「大きな鳥居だね!」
 見上げて少し口を開いているのは駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)で、元気が満ち溢れて零れ落ちそうな笑みを浮かべている。
「鳥居を潜る前には、一礼するんだよ」
 了が一歩を踏み出す前に、そう教えてくれたのは木元・杏(メイド大戦・f16565)で、和風ロリータのようなミニ丈の着物にふんわり暖かそうなケープを羽織っている。
「杏さんは物知りですね」
 きょろきょろと辺りを見回しながら、杏を見上げて言うのは冬原・イロハ(戦場の掃除ねこ・f10327)で、ふわふわの白い毛並みを揺らしておっとりと笑う。
「お辞儀すればいいの? 教えてくれてありがと!」
 三人揃って鳥居の前で一礼し、参道へと一歩を踏み出す足取りはどこかそわそわとして楽し気だ。
 そのまま進むと手水舎が見えてきて、そこでも杏が作法を教えてくれて見様見真似で了とイロハが手と口を清めた。
「杏ちゃんってほんと物知りだね」
「たまたま知っていただけだからね」
 それに、作法を書いた看板だってあるんだからと杏が笑う。
「それにしても、本当に人がいっぱいですね。皆さん晴れ着姿でとっても華やかで素敵です」
 イロハが視線をあちこちに移しては、晴れ着の美しさに溜息を零す。
「うんうん! 周りを見ると晴れ着もいいよねって思うケド、動き辛くなるのはオレちゃんは無理だ!」
 了があっけらかんと言って笑うと、でも、と言葉を続ける。
「杏ちゃんポノちゃんは似合いそうだよね」
「ん、アキも振袖をばしゅっとキメてそう、きっと似合う」
「ふふ、今度お参りに行く時はポノさんも誘って四人で着物にしてみますか?」
 それも楽しそう~! と了が笑って、イロハを見る。
「イロハちゃん、参拝所まで行くの大変そうだけど、こう……抱っことかしてってもだいじょぶ?」
 そう言われ、イロハが参拝所へ歩く人の群れを眺める。ケットシーである彼女には、確かにハードルの高い道行きかもしれない。
「意外と大丈夫だとは思いますが……ご迷惑になってもいけませんものね、お参りが終わるまでお願いしてもいいですか?」
「オレちゃんは大歓迎だよ!」
 ではお願いしますと頭を下げたイロハを了が抱いて、杏と並んで参拝所までの道を歩く。
「いつもより高い視線というのは、どこか新鮮ですね」
「ふふ、わたしもイロハさえ良かったらいつでも抱っこするからね」
 杏が笑うと、イロハも笑って、それが嬉しくて了も笑顔を浮かべた。
「あ、足元階段になってるから気を付けてね」
 了の注意に従って足元に気を付けつつ、数段ある階段を上り切ると了がイロハを下ろす。
「参拝の作法はお賽銭を投げて二礼二拍手して、お祈りをしてからもう一度一礼だよ」
 杏が教えてくれた手順を見様見真似で行い、並んだ三人が手を合わせてお祈りをする。その横顔は三人三様だったけれど、真剣な表情そのもの。何を祈ったかはそれぞれの胸の内に秘め、また了がイロハを抱いて道順の看板に従うように歩いた。
「お参りも終わったし、そうとくればお神籤!」
 了がそう言うと、杏も頷いて桜御神籤を授けてくれる列へと並ぶ。
「オレちゃんは仕事運を占おうかな!」
「わたしは今年の食などを……色んな美味しいとの出会いを占う……」
 ぐっと握る拳にも力が入るというもの、杏は美味しいものが大好きなのだ。特に肉。
「私は対人運を占おうと思います、これって猫さんも相手に入ったりするのかしら?」
 こてん、と首を傾げつつも、結果が楽しみだね、と笑いながら御神籤を引き、少し離れた場所で三人で一斉に御神籤を開いた。
「オレちゃんは……吉! ええと、心を込めて働けば成果がでる。だって!」
「わたしは、中吉……理想の味に出逢う、食べ過ぎには注意、だね」
「私は末吉ですね、内容は忍耐が必要な事もあるが、マイペースに行けば良き出会いあり、です」
 おお……と了が御神籤の内容に感心しつつ、もう一度眺める。
「頑張ったら、楽しかったり美味しかったりなお仕事にありつけるってことかな?」
「わたしは、理想の味を追い求める……!」
「マイペースなのはいつものように、自分らしくってことですね。ふふ、お友達がいっぱいできたらいいな」
 御神籤の内容を自分なりに落とし込んで、御神籤をそっと元の形に戻す。
「お神籤どうする? 結んでく?」
 了の言葉に、イロハが少し考えてから大事に持って帰りますと手にした鞄へと仕舞う。
「色がとっても可愛らしくて、お守り代わりにしようかと」
「わたしも、そうする」
「そっかー、じゃあオレちゃんもそうしよう!」
 御神籤を大事に仕舞いつつ、了の視線は来る途中で見た茶屋に向いている。
「ね、甘酒とかあったよね?」
「あった、旗に甘酒って書いてあったよ」
 確かこの先、と了が指させば、杏が頷く。
「行ってみよっか!」
 きっと美味しいに違いないと了が笑うと、イロハが両手を上げて賛成のポーズを取る。
「甘酒、飲みたいです!」
「ん、甘酒」
 わたしも飲む、と杏がイロハと同じポーズで賛成だと頷いた。
 そうと決まれば善は急げだと茶屋まで向かうと、中々に繁盛しているのが窺える。二階建ての広い茶屋で外にも赤い毛氈の敷かれた床几台があり、少しだけ並んだけれどすぐに案内されて中へ入ることができた。
「オレちゃんは桜の甘酒と……塩っぽい系のおかきにしよっと」
「わたしは甘酒とみたらし団子にするね」
「私は甘酒と蓬生団子にしますね」
「ううん、そう言われるとみたらし団子も食べたいし、ヨモギもいいし……あっ、皆でちょっとずつ交換しよ!」
 シェアだよ、シェア! と了が言うと、分け合いっこもいいですねとイロハが頷いた。
 いいね、と杏が笑って、早速注文をすればすぐにテーブルへ運ばれてくる。桜色が綺麗な湯気を立てる甘酒に、艶々綺麗なみたらし団子、蓬生色も鮮やかな蓬生団子に香ばしい香りが漂ってきそうなおかき。どれも美味しそうだと三人が甘酒の入った湯飲みを手にする。
「んっ、甘いけど少しだけ桜の塩漬けの味がして、美味しいね!」
「ほっこりする……」
「とっても美味しいです」
 お団子とおかきを分け合って、これも美味しい、こっちも美味しいと軽やかな笑い声が響く。
「ひとつを分け合う……、アキ達みたい」
 ひとつの身体を分け合う人格達、こうして幸せを分け合ってるのかな? と杏が了を見る。
「うーん……不可侵条約で持ちつ持たれつ? って感じかな!」
 でも、分け合うって点ではそうかもしれない! と、了がおかきを摘まんだ。
「あ、イロハ、花びらついてる」
「どこですか?」
 ここだよ、と杏がイロハに付いた桜の花弁の場所を教える為にそっと毛並みに触れる。
「ふふ、ふわふわ……もふもふで、あったか」
「イロハちゃんは真っ白ふわもふで偉いなあ。やっぱ特別なお手入れしてんの?」
「そうですね、丁寧なブラッシングは欠かしませんよ」
 やっぱりブラッシングかぁ、と了が自分の髪を摘まんで弄る。
「ん、イロハの毛並み、花びらも居心地良いみたい」
 取らなくても、飾りみたいで可愛いと杏が微笑んだ。
「美味しくって、楽しくって……桜もとっても綺麗で」
 幸せ時間ですね、とイロハが笑えば、杏も了も楽しそうに頷いて。
 乙女日和を満喫中の三人の軽やかな笑い声が、桜舞う空に響くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳凰院・ひりょ
🌸恋
アドリブ歓迎

よし、新年になったし初詣に行こう!
まずはお参りに
猟兵になって初めての年越しなんだよな…
色々大変だったけれどこうして新年を迎える事が出来た
新年のお参りというのは
去年の報告と今年をどう過ごすつもりかの神様への報告だ」とどこかで聞いた事がある

去年無事に猟兵として過ごし新年を迎えられたことを感謝
今年は…そうだな…ぼっちを改善していけたらいいな…うん
どうか神様、俺の事を見守っていてください

さて…お参りの後は、せっかくだし桜御神籤を引いていこう
どんな運勢なのかな、ちょっとドキドキだ
こういう時に一緒に来られる特別な人が、出来ると…いいなぁ…なんて
俺は天涯孤独の身だけど、ここ最近特にそう思う



●新年に感謝を込めて
 新年といえば初詣、よし、初詣に行こう! と、思い立ったが吉日とばかりに鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)がやってきたのは花咲神社というサクラミラージュの神社であった。
「この世界は相変わらず桜が年中咲いているんだよな」
 通常の四季で考えれば正月の時期に桜が咲いていることは無いに等しいことだが、この世界では幻朧桜が年中咲き乱れているのだ。
「うーん、正月に桜、風流……かも」
 他の世界では見られない風景だと笑って、ひりょが参道を歩く。手水舎で手と口を清め、人波に任せて前へと進んでいくと参拝所が見えた。
「そういや、猟兵になって初めての正月なんだよな……」
 そも、新年のお参りというのは昨年の感謝と報告を述べ、今年をどう過ごすつもりか、そしてご利益を神様へ願うのだという話をどこかで聞いたことがある。
 そう考えると、無事に迎えられた新年のお参りにも力が入るというもの。
 自分の番が回ってくると、賽銭を投げ入れて作法に乗っ取って手を合わす。去年は色々大変だったけれど、無事に猟兵として過ごし、こうして年を越して新年を迎えることができたと、ひりょが感謝を述べた。
 そして、今年はぼっちを改善していけたらいいなと宣言し、どうか俺の事を見守っていて下さいと深く願を掛ける。それから、もう一度頭を下げて姿勢を戻した。
「よし!」
 ぼっちを改善するぞ、と意気込みながら後ろの人に場所を譲る為にひりょが横へ移動し、案内看板の通りに歩き出す。すぐに参拝所から近くの社務所前に辿り着き、賑わいを眺めた。
「桜御神籤か……せっかくだし引いていこう」
 どの運勢にしようか少し迷って、恋愛運の桜御神籤をひとつ引くと邪魔にならない場所まで歩く。
「ここなら、いいかな」
 桜の形をした可愛らしい御神籤をドキドキしながらそっと開くと、そこには大吉の文字が大きく記されていて。
「やった、大吉だ!」
 思わず出てしまった声に口元を押さえつつ、書かれている内容を読んだ。
「ええと……これからに期待できる年、直進あるのみ、か」
 もしかしたらもう出会っているかもしれないし、これから出会うのかもしれない。そう考えるとなんだか楽しくなってきて、ひりょの唇が笑みの形を作る。
「もしかしたら、来年はこういう場所に一緒に来られる特別な人が、できたりして……」
 出来るといいなぁ、と笑いながら御神籤を元の形に戻す。
「俺は天涯孤独の身だけど、そんな人ができたらきっと楽しいだろうな」
 ここ最近、特にそう思うのだと零しつつ、折角の大吉だからと枝に結ぶことはせずにお財布の中へ大事に仕舞う。
「ご利益がありますように!」
 そう言って、気の良い青年は来た道にあった茶屋で一服でもしようかな、と歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
◎SPD🌸恋

無事転生できたようで安心した。折角神社に来たのだし参拝して。
結構大きな神社だなぁ。どんな神様が主祭神なのだろう?
お参りがすんだら境内を歩いて…ここで有名なのは御神籤なのか。
綺麗だな、引いてみるか。
でも何を引けばいいんだろう。
猟兵としての仕事はやれることを頑張るだけだし、人との関わりは基本避けてるし…。
将来の事を見られない。いつ死んでもおかしくないって事だけはわかってるけど。
だからこそこうして人を害さない影朧の手助けをしたいと行動してるわけだが。
いっそ一番縁遠い恋御籤でも引くか。諦めたとはいえ悔いなくありたいし、死にたい。
結果がどうであれ確認したら甘酒でも飲みに行こう。



●桜舞い散る初詣
「無事に転生できたようだな」
 舞い散る桜の中で消えていった花乃子を優しい目で見つめていた黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が、ぽつりと呟く。その姿を見守っていたせいもあってか、安堵の気持ちが瑞樹の胸を満たしていた。
「……うん、折角神社に来たのだし、参拝していこうか」
 ほんのりと温かい気持ちを抱いたまま、瑞樹が鳥居の前で一礼して参道へと向かう。途中の手水舎で作法通りに清めると、玉砂利の敷かれた道をゆっくりと歩く。幻朧桜が至る所で咲いていて、なんとも華やかなお参りだ。
「結構大きな神社だなぁ。どんな神様が主祭神なのだろう?」
 そんな疑問に応えるように、参拝所の手前に看板が置いてあり、瑞樹がそっと目を通す。
「ええと、はなえみひめのみこと……花咲姫命、か」
 簡単な説明によれば生命や桜に恋愛事の神様のようで、慈悲深く優しい性質の女神なのだという。
 なるほど、と頷いて参拝所で手を合わせ、顔を上げると次の人に順番を譲って道順通りに境内を歩く。桜と社殿の織り成す美しさに笑みを浮かべつつ、社務所の前へ出た。
「随分と賑わっているんだな」
 よくよく見てみればお守りや絵馬も人気の様だが、御神籤を引く人々の列が一番多いように思える。
「ここで有名なのは御神籤なのか」
 少し近寄ってみれば、桜の花の形をした綺麗で可愛らしい御神籤が見えた。
「綺麗だな、記念に引いていくか」
 でも、と列に並んでから何を引けばいいのだろうかと考える。見れば様々な運勢が占えるようで、それぞれに特化した内容になっているらしい。もちろん総合運を占える御神籤も見えた。
「仕事運……は猟兵としての仕事はやれることを頑張るだけだし」
 対人運は、人との関わりを基本的に避けている今ではあまり関係ないだろうし、と悩みながら前へ進む。
「将来の事を見られない、いつ死んでもおかしくないって事だけはわかってるけど……」
 危険と隣り合わせな仕事だって多いのだ、いつ折れたっておかしくはない。
 けれど、だからこそ、こうして人を害さない影朧の手助けをしたいと行動していうるのだけれど。
 そんな事を考えていたらあっという間に自分の番が回ってきて、瑞樹はいっそ一番縁遠い恋愛運の御神籤でも引くかと小さく笑って御神籤を引いた。
「諦めたとはいえ、悔いなくありたいし」
 この恋心を死なせてやりたい、なんて。
「さて」
 少し離れた場所で御神籤を開いて、中を確認する。
「……大吉、か」
 まさか大吉が出るとは思わず、どこか複雑な笑みを浮かべながら内容を読む。
「心のままに動くべし、思いもよらぬ出会いが待つ、か」
 新しい出会いなんて、考えてもいないのにと笑って、瑞樹が御神籤を枝の高いところへと結ぶ。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦、かな」
 さあ、甘酒でも飲みに行こうか。
 そう笑って、瑞樹は新しい一歩を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
セリカ:🌸人
シェルファ:🌸人

花乃子ちゃん、最後は笑っていた。今度は、きっと幸せになれるよね

人間にとっての70年、エルフにとっても短くはない時間だ
70年あれば人の町並みは変わり、命は巡る

私、人間とエルフのハーフじゃん?
『今更ね。女王が人間の男を迎え入れる発表の時、荒れたわね王宮』
思い出して、相棒の魔剣…シェル姉は楽しそう

で、父さんは秘薬で老化遅らせて……いわば、人間の時間捨てちゃったわけで
それは結構重い決断だなって、時間の流れを見たら思っちゃった

ま、私にできるのは今精一杯頑張るくらいだよね!

お御籤ひこ、シェル姉も一緒に!
どっちの運がいいか勝負だよ!

『全く、手のかかる娘だこと』



●桜は咲いて、命は巡る
 桜が舞って、舞って、不意に途切れたその先で、花乃子は確かに笑っていたのだとセフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)が笑みを浮かべる。
「ね、シェル姉、花乃子ちゃん、最後は笑ってたよね。今度は、きっと幸せになれるよね」
『そうね、そうなれるといいわね』
 魔剣シェルファの返事に頷いて、セフィリカが空を仰ぐ。
 人間にとっての七十年、それはエルフにとっても短くはない時間。七十年もあれば、人の街並みは変わるし命だって巡っていく。セフィリカが今知っている人達だって、それは同じこと。
「ねー、シェル姉」
『何よ』
「私、人間とエルフのハーフじゃん?」
『今更ね。女王が人間の男を迎え入れると発表した時、荒れたわね王宮』
 あれは痛快だったわよ、と当時を思い出したのか相棒である魔剣が楽しそうに笑っている。
「で、父さんは秘薬で老化遅らせて……いわば、人間の時間捨てちゃったわけで」
『そうね、でもそれは望んでのことでしょ』
「うん、父さんの選択だったと思う。でも、それは結構重い決断だなって、時間の流れを見たら思っちゃった」
 時の流れは残酷で、けれど、だからこそ生命は美しいのだ。
「ま、私にできるのは今を精一杯頑張るくらいだよね!」
 よーし、今年も頑張るぞ! とセフィリカが笑って、腰に下げていた魔剣を手に握る。
『それとこの行動、どう関係があるのよ』
「まあまあ、折角のお正月じゃない。シェル姉も一緒に楽しもう!」
『あっこら、ちょっと!』
 シェルファの声は聞こえないとばかりに、セフィリカが魔剣シェルファの真の姿である蒼い髪の女性へ顕現させる。
「さ、行こ!」
『まったく……手のかかる娘だこと』
 セフィリカに手を引っ張られ、シェルファがやれやれというような表情で参道を歩いていく。二人で見様見真似で参拝を済ませ、絵馬やお守りを授ける社務所前までやってくると、セフィリカがあれ、と指をさす。
「お神籤ひこ、シェル姉も一緒に! どっちの運がいいか勝負だよ!」
『運に勝負も何もないでしょうに』
 そう言いつつも、付き合うのはシェルファの面倒見の良さだろうか。
 対人運を占う事に決め、二人で御神籤を引くと他の人の邪魔にならない場所まで下がる。
「せーの、で開けるんだからね!」
『はいはい』
 せーの! というセイフィリカの合図で御神籤を開き、二人で覗き込む。
「私は……吉だったよ! 大吉の次にいいやつだって」
『私は大吉ね』
 えっシェル姉すごい! というセフィリカの声に小さく笑いながら、内容を読み上げる。
『安定して良き縁に巡り合う、ですって』
「私のは、仕事関係で仲良くなると吉、だって!」
『丁度いいじゃない、今年も猟兵として頑張んなさいってことよ』
 なるほど……そういうことか! ともう一度御神籤を眺めるセフィリカに、シェルファが勝負に勝ったのだからお茶の一つでもご馳走してもらおうかしら? と笑った。
 桜舞う、この善き日に二人の花咲くような笑い声が響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

硲・葎

🌸人
三日月くん(f01960)と。
良かった。とても幸せそうで。
あんな風に恋を想い、転生できるって素敵だな。あの子の転生が幸多いものでありますように。
「うん、祈祷しに行こっか」
妖刀、彼岸花之葬。
時々乗っ取られるような感覚があるけど、うまく
折り合いをつけて、これからも共に戦えればいいな。祈祷をして反応を見ようか。悪いものじゃないよね。
「三日月くんの刀は大丈夫?」
と彼にも聞いてみよう。彼の刀も妖刀だったはず。
彼の返事を聞いて、安堵して。
「ふふ、家内安全祈祷かー。私は刀のことがなければ、健康祈願、かな?」
祈祷が終わったら、せっかくだし、彼を誘って御籤を引こうかな。


月隠・三日月

🌸勝負運
硲さん(f01013)と共に

これが影朧の転生……。あの人が旅立つ一助になれたなら幸いだよ。転生した先で、どうか幸せに。

私たちは神社で祈祷をしてもらいに行こう。
硲さんの妖刀について何かわかるかもしれないね。妖刀であれば、こういった祈祷や、あるいは神社という場に反応してもおかしくはないから。
ああ、私の妖刀はお気になさらず。家に伝わっている刀だから、得体の知れないものではないのだよ。祈祷にも反応しないさ。硲さんは自分のことに集中しておくれ。

せっかくだから、私も祈祷をしてもらおうかな。戦での勝利を願いたいけれど、正月の願い事としては物騒すぎるだろうか? 拙そうなら『家内安全』にしておこう。



●桜咲祈祷
 視界いっぱいの桜の花弁が舞い踊る中、花乃子が桜の中に消えていくのを月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)はただ静かに見守っていた。
「これが影朧の転生……」
「良かった、とても幸せそうで」
 同じように、彼の隣でそれを見ていた硲・葎(流星の旋律・f01013)も花乃子が差し出された手を掴んで消えていくのを見て、ふわりと笑みを浮かべる。
 あんな風に恋を想い、転生できるって素敵だなと感じながら、花乃子の転生が幸多いものであるようにと祈った。
「あの人が旅立つ一助になれたなら、幸いだよ。新年早々、善き日になったね」
 転生した先で、どうか幸せにと三日月が微笑むと、葎と共に桜の花弁が空に消えていくのを見送った。
「さて、私たちは神社で祈祷をしてもらいに行こう」
「うん、祈祷しに行こっか」
 普通の参拝ではなく、祈祷をと願うには理由がある。それは律の持つ赤い刃の妖刀、彼岸花之葬に他ならない。
「硲さんの妖刀について何かわかればいいのだけれど」
 妖刀であれば、祈祷や神社という神聖な場に反応してもおかしくはないと三日月が視線を彼岸花之葬へと落とす。
「私にもよくわからないんだよねー。時々乗っ取られるような感覚があるけど、うまく折り合いをつけて、これからも共に戦えればいいなって思ってるんだけどね」
 そう言って、葎が手にした妖刀、彼岸花之葬の柄をそっと撫でた。
 祈祷をしてもらって反応を見て、悪いものじゃなければ上手く付き合いをしたいと思うほどに、この刀ほど律の手に馴染むものはない。
「そういえば、三日月くんの刀は大丈夫?」
 確か彼の刀も妖刀だったはず、と律が三日月を見遣る。
「ああ、私の妖刀はお気になさらず。家に伝わっている刀だから、得体の知れないものではないのだよ」
 無名ではあるが、月隠家に伝わるもの。主の意に反することはないだろうと三日月が微笑む。
「祈祷にも反応しないさ。硲さんは自分のことに集中しておくれ」
「そうなんだね」
 その言葉にほっと安堵して、葎は三日月と共に初穂料を納めると祈祷場へ向かった。
 案内されたそこは、鴇に清浄な気に満ち溢れているようで、思わず背筋がぴんと伸びるような気がして姿勢を正す。
「お願いします」
 妖刀を宮司に預けると、ご本尊の前へと置かれる。
 始まった祝詞を聞きながら、何か反応しないかとじっと律と三日月が彼岸花之葬を見つめていた。
 けれど、二人の懸念に対してかの妖刀は特に反応も見せず、始終大人しいままで祈祷が終了する。妖刀を返してもらい、頭を下げて祈祷場をあとにし、二人で様子を見るけれど変わった点は見当たらなかった。
「これはこのまま使い続けても大丈夫ってこと、かな?」
「そうだね、注意するに越したことは無いけれど、悪いものではなさそうだね」
 良かった、と安堵したような笑みを浮かべる律に三日月も嬉しそうに微笑んだ。
「折角だから、私も祈祷してもらおうかな」
「何を祈祷してもらうの?」
「戦での勝利を願いたいけれど、正月の願い事としては物騒すぎるだろうか? 拙そうなら家内安全にしておこう」
「ふふ、勝利祈願か、家内安全祈祷かー。私は刀のことがなければ、健康祈願、かな?」
 くすくすと笑って、もう一度祈祷をお願いする為に初穂料を納めに二人で受付まで歩く。
 結局、勝利祈願であれば構わないとのことで、勝利祈願を祈祷して貰って境内へと戻った。
「さて、どうしようか。硲さんは何かしたいことはあるかな」
「あ、私御神籤が引きたいと思ってたんだよね」
 御神籤、という言葉を聞いて三日月が私も引こうと頷く。
 二人で御神籤の列へ並び、それぞれが目当ての運勢の物を引くと境内の端の方へと寄った。
「どれ、私は……中吉だね」
「私は……大吉だよ!」
 やったあ、と喜ぶ律におめでとうと笑い、三日月が御神籤の内容を読む。
「大きな勝負事は慎重に、ここぞという時に勝機あり。だそうだよ」
「三日月くん、それは何運?」
「ああ、勝負運だよ。硲さんは?」
「私は対人運だよー。ええと……順調、良い信頼関係を築ける時、だって」
 お守り代わりに持って帰ろうと葎が大事そうに御神籤を仕舞うと、三日月も記念だと笑って懐へと仕舞った。
 そうして、境内から参道へと戻り、あれも気になる、これも気になると目を引くものを見ては笑って、桜舞い散る帝都での初詣を桜甘酒で締め括ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
リュカさま【f02586】と

あぁ、転生の道へゆけましたのね
良かった…剣を抜かぬ戦いもたまには良いものですわね
晴れ着が汚れずにすみましたもの
ふふ。マフラーの飾り、似合っておりますわ

さぁリュカさま、改めておみくじと参りましょう
良い結果は置き時計と一緒に持ち帰りますの
確か悪い結果は…枝に括り付けるとか
どちらでも楽しそうですわ

神頼みはそうしませんけれども
これからの冒険がより楽しくなれるのなら、願ってみましょうか
勿論リュカさまと一緒のときも
…ええ、何が起こるか解らないから面白いですものね
次はどんな世界が待っているのかしら
わたくしも一緒に、旅のお祈りを

それと心の中で
リュカさまの笑顔が沢山、見られますように


リュカ・エンキアンサス
オリオお姉さんf00428と
まあ確かに。荒事はできればないほうがいいからね
確かに。お姉さんの着物、高そうだし
あー、うん、ありがとう(なんか照れるな

そうだね、おみくじを引こう
俺は良くても悪くても木に結ぶタイプかな…
何となく、持って帰ったら扱いに困りそうな気がして
(おみくじ内容は何引いても無表情

そうだねー。旅先で何に出会うかは、それこそ籤みたいなものだから
なるべく楽しい、と思える旅がたくさんできますように、お参りくらいはしておこうか
次の世界…それこそ、籤みたいなものじゃない
なるべく楽して楽しいところになるよう、普通よりもちょっと念入りにお祈りしておこう
こういうのは、気持ちとノリが、きっと大事なんだ



●桜色の運試し
 桜の精による癒しの御業により、花乃子の魂が転生の道へと向かったのを見届け、オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)が安堵の笑みを浮かべる。
「あぁ、転生の道へゆけましたのね。良かった……剣を抜かぬ戦いも、たまには良いものですわね」
 ねぇ、リュカさま? とオリオにそう問われ、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)が花乃子を見送った先へと視線をやって、静かに頷く。
「そうだね、荒事はできればないほうがいいからね」
「ええ、晴れ着が汚れずにすみましたもの」
 悪戯っ子のようにウィンクをしたオリオに目を瞬かせ、リュカが彼女の晴れ着に目を落とす。
「……確かに。お姉さんの着物、高そうだし」
 桜模様の縁取りが金色に光って、きらりと輝いている。
「ふふ。リュカさまもマフラーの飾り、とっても良く似合っておりますわ」
 三日月と星の揺れるそれに、オリオが目を細めて頷く。
「あー、うん、ありがとう」
 なんだか胸の内がむずむずとするような、そう、照れくさいような気持ちになってリュカが留め具にそっと触れた。
「さぁリュカさま、改めて神社への参拝とおみくじ勝負と参りましょう」
「そうだね、おみくじを引こう」
うん、と頷いてリュカとオリオが神社へと足を踏み入れる。凛とした空気が心地よく、参道の案内のままに進んで手水舎で看板を眺めながら手や口を清め、人波に任せて歩いた。
「お参りにも作法があるんだね」
「そうですわね、神様の前に行くと考えれば、不思議ではないかもですわね」
 そんな話をしているうちに、いつの間にか参拝所の前までやってきていて。
「……御神籤はどこかな?」
「先程案内図を見ましたけれど、参拝を済ませたあとの方にあるようですわ」
 なるほど、とリュカが頷く。
「参拝が先になるのかな」
「そうですわね、ご挨拶が先になるのかもですわ」
 人波に合わせて動いた方が合理的だし、言われてみればそれもそうかと二人で頷き合う。
「神頼みはそうしませんけれども、これからの冒険がより楽しくなれるのなら、願ってみましょうか」
 勿論、リュカさまと一緒のときもとオリオが笑う。
「そうだねー。旅先で何に出会うかは、それこそ籤みたいなものだから。なるべく楽しい、と思える旅がたくさんできますようにってお参りしておこうか」
「……ええ、何が起こるか解らないから面白いのですものね。次はどんな世界がまっているのかしら」
「次の世界……それこそ、籤みたいなものじゃない」
 先日見つかったばかりの世界も、想像もつかないくらいような世界だったし、とリュカが前を向く。
「なるべく楽して楽しいところになるよう、普通よりもちょっと念入りにお祈りしておこう」
「ふふ、リュカさまったら」
 そうして自分たちの番が回ってくると、これもまた見様見真似で参拝の作法をこなし、手を合わせてお祈りをする。この先の旅路が良きものであるように、と。
 オリオはそれに少し付け足して、リュカさまの笑顔が沢山見られますように、とも願う。
「よし」
「叶うといいですわね」
 二人で軽くお辞儀をし、また人の流れに任せて歩き出すと、すぐに社務所が見えた。
「あそこだね」
 御神籤やお守りを求めて並ぶ人々の列へと、二人で並ぶ。
「まぁ、桜の形をしたおみくじですのね」
 可愛らしい、と笑ったオリオが御神籤を引き、続いてリュカも同じように引く。それから、次の人の邪魔にならぬように境内の端へと移動して互いの手の中の御神籤を眺める。
「同時に開けましょうか」
「いいよ」
 せえの、と声を掛け合って、御神籤を開く。
「まぁ、中吉ですわ」
「俺もだよ」
 ほら、とお互い見せあって、お揃いですわねとオリオが笑った。
「良い結果でしたら置き時計と一緒に持ち帰ろうと思っておりましたの、リュカさまはどうなさいますの?」
「俺は良くても悪くても木に結ぶタイプかな……何となく、持って帰ったら扱いに困りそうな気がして」
 それも一理ありますわね、とオリオが頷く。
「では、一緒に結んでいきましょうか」
「うん、そうしよう」
 御神籤を結ぶ為の木の枝には、桜色の御神籤がまるで満開の桜のように沢山括り付けられていて、それも二人の目を楽しませた。
「これでよし」
「わたくしも、これで大丈夫ですわ」
 結ぶのも楽しいものですわね、とオリオが言うと、そう? とリュカがオリオを見る。
「ええ、色々な体験ができて、とっても楽しかったですわ」
「じゃあ、帰るまでに他も体験してみようか」
 そう言って、リュカが桜甘酒の方へと視線を向けた。
「あら、それも素敵ですわね」
 行こう、とリュカに促され、オリオも茶屋の方へと歩き出す。
 この元旦をどうか思い切り楽しんで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)とお散歩。

わぁ♪素敵ね素敵ね。…いいなぁ~v
レーちゃんも待っててくれるかしら?
…って思ったから隣に顔向けるけど…。
不思議そうに『どうした?』って。もぉー。
真面目な顔してからレーちゃんに言うわ。
「あたしが記憶失っても、待っててくれる?」

レーちゃん機嫌が悪そうだから少し心配だけど散策。
大丈夫ってゆーけど心配だわ。神気が多いところだし。
腕にぎゅっと引っついたら少しは緩和されるかしら?
あたしヤドリガミだからあたしのところに…え?違うの?
帰る時に茶屋で一息つくわ。レーちゃんのは奢るわ!
「妹に奢ってあげるわ! おねーちゃんだもの♪」

こっそり籤を引くわ。引くのは【🌸人】ね。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
転生も成就したようだし良い方向に進んで安心だ。
…ちらちら私をみてくる露が少しうっとおしいな。
「どうした? 花乃子達のことでまだ不安があるか?」
何故か頬を膨らます露の行動が読めん。何なんだ?
「記憶を甦らせてやる。人魚の仕事の時のようにな?」
?嬉しそうな期待外れなような微妙な表情だ。誤ったか?

心配してくれるのはいいのだが問題はないのは本当だ。
「…説明しただろう? 居心地が悪いだけだ。問題ない。
ヤドリガミだから無効化してあげる? …ん。そうだな」
私を気遣ってのことだろう。露のやりたいようにさせる。

途中露がどこかへ行くがその場で待っておこう。
茶屋で姉発言する露は流石に止める。



●君とお散歩日和
 神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が、わぁ♪ と小さく歓声を上げたのは花乃子を迎えに来た手が見えたから。
 がっしりとした男らしい骨ばった手が、伸ばされた花乃子の白く細い手を掴んで消えていく。
「素敵ね、素敵ね! ……いいなぁ~v」
 きちんと迎えに来てくれたのね、と露が柔らかい溜息をついてシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)をちらりと窺う。レーちゃんも待っててくれるかしら? そんな期待を込めてシビラの横顔をじっと見つめてみる。
「どうした? 花乃子達のことでまだ不安があるか?」
 花乃子も転生を成就させた、これ以上ない良い結果に進んで安心するところだろう? と、シビラがさっきからちらちらと見てくる露を鬱陶し気に横目で見遣る。
「もぉー、レーちゃんったら!」
「だから、何だ?」
 頬を膨らませる露に戸惑うような表情を僅かに浮かべ、シビラが問う。
「さっきのを見て、何かこう……思うところはなかったの?」
「思うところ? 花乃子が転生の道を歩めて良かった、以外に何があるんだ?」
 だめだわ、レーちゃんには乙女成分が足らない……! と露が膨らませた頬を元に戻し、今度は真面目な顔をしてシビラに伝える。
「レーちゃん」
「だから、何なんだ?」
「あたしが記憶失っても、待っててくれる?」
「待たなくても記憶を甦らせてやる。人魚の仕事の時のようにな?」
 そう、いつものシビラのトーンで言われ、嬉しいような期待外れなような、なんとも言えない微妙な顔をして露がシビラを見つめている。
 いや、さっぱりわからないが、誤ったか? と、シビラが思った時には、もう露の表情は仕方ないなぁと言うような笑みに変わっていて、シビラはやっぱりわからんな、と小さく零すのだった。
「レーちゃん、レーちゃん」
「今度は何だ?」
「お参りは行かないというか、行けないとして」
「行きたかったら待っててやるから、行ってくるといい」
 呪いをその身に受ける己には、神の前は些か居心地が悪いのだ。
 この神社という場所ですら、居心地がいいとは言えない。けれど、別に露が望むならそれくらいは我慢してもいいとシビラは思っているのだ。
 彼女には決して言わないけれど。
「ううん、お参りはいいの。ここの神様には悪いけど……でも、お散歩くらいはいいかしらと思って」
「ああ、構わない」
 だって、折角の正月なのだから。
「じゃあじゃあ、あっちに行きましょう!」
 ぱっと表情を明るくして、露がシビラの手を引っ張って歩き出す。参拝に向かう人の流れとは少し逸れて、参道をゆっくりと歩く。この空気はヤドリガミである露には心地良いと感じるものだけれど、やはりシビラには厳しいのだろうかと、普段より二割増しで機嫌が悪そうに見えるシビラを露が見つめる。
「本当に具合悪くない? 大丈夫?」
「……説明しただろう? 居心地が悪いだけだ。問題ない」
 心配してくれるのは構わないけれど、問題がないのは本当だ。
 だからそのままを伝えたのだけれど、露はやはり心配そうな顔をしている。そうして、良いことを思いついたと笑みを浮かべ、シビラの腕にぎゅっと引っ付いた。
「あたしヤドリガミだから、引っ付いてたらあたしのところに神気がくるわ」
「……ヤドリガミだから無効化してあげる、ということか?」
「そう!」
「……そうか、そうだな」
 ヤドリガミがくっ付いていたからといって、居心地が悪いのに変わりはないけれど、露の行動は自分を気遣ってのことだ。ならば好きにさせてやろうと、シビラは露をくっ付けたまま歩くことにした。
 それは意外にも効果があるような、ないような、なんとなく気が楽になったような、ならないような。要は気の持ちようだな、とシビラはあっちこっち見ては楽しそうにしている露を見て思う。
「レーちゃん、ちょっと待っててね!」
「ああ、ゆっくり見てこい」
 お守りや絵馬を見たいと言う露を送り出し、シビラは境内の壁にもたれる様にして彼女を待った。
 さて、その露はと言えばあれも可愛いわ、これも可愛いわ、とお守りを見て、一番目を引いた桜御神籤を引くことにして、列へと並ぶ。
「どうしようかしら、やっぱり対人運かしら?」
 悩みに悩んで、自分の順番が来ると対人運を選んで引く。それからすぐに横に逸れ、そっと御神籤を開いた。
「あら、中吉ね。ええと、人に優しくすれば、己にも返ってくる……ふむふむ、なるほど」
 レーちゃんに優しくすれば、その分返ってくるってことかしら? でもあたし、いつだってレーちゃんには優しいわよね? なんて、一人で考えつつ御神籤を元に戻してポケットへと仕舞った。
「うん、これは今日の記念に持って帰るわ♪」
 レーちゃんの所に戻らなくちゃ、と露がシビラの元へと向かう。
「レーちゃん、お待たせ!」
 さっきと同じようにくっ付いて、茶屋に行きましょうと露が提案する。
「茶屋か、少し休憩してから帰るのも悪くないな」
 でしょう? と笑う露を連れて、シビラは茶屋へと向かった。
 茶屋では少し待ったけれど、すぐに中に通されてメニューと睨めっこをする露を眺めながら甘酒でも飲もうかと帽子を脱ぐ。
「レーちゃん、レーちゃんのはあたしがおごるわ! 妹に奢ってあげるのも、おねーちゃんの役目だもの♪」
「な……っ誰が妹だ、誰が」
 あたし♪ と笑う露を全力で止めて、シビラがゆっくり甘酒を飲めるのはもう少し先の事――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スティーナ・フキハル
◎🌸人 基本スティーナ側 ★付けた所だけミエリで


ミエリと分離したまま二人で一緒にお参りするー。
花乃子ちゃん達の代わりにってカンジで。

★それで、お姉ちゃんは何てお祈りしたの?

んとね、花乃子ちゃんとお相手さんが次の生で幸せになれますようにって。

★また自分のことを抜きにして……私が今年も家族皆で楽しく過ごせますようにってお願いしたからいいけれど。

さっすがミエリ、察しがいいぜ。


御神籤引いたらぼちぼち帰るかねー。

★その前にお姉ちゃん、さっきのベビーカステラ少し余ってるから食べちゃって。
花乃子さんとわざと残したの。嵐みたいな姉に、ってね。

そう? 二人で食べきってよかったのに。
まいっか、いただきまーす!



●紅色藍色桜色!
 桜の癒やしに送られ、転生への道を歩んだ花乃子をスティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)と彼女から分離されたままの、妹であるミエリが肩を並べて見送っていた。
「良かったね、花乃子ちゃん」
「お迎えも来てくれて、迷うことなく行けたわよね」
 二人が視線を合わせ、笑みを浮かべて頷き合う。
「よーっし! 花乃子ちゃん達の代わりにお参りしにいこっか!」
「はいはい、言うと思った」
 さっすがミエリ、あたしのことをよく分かってる! と、スティーナが笑って参道を歩いて行く。その横に並んで、ミエリも玉砂利を踏みしめて歩く。
 適当に手水を済まそうとした姉を窘め、こうやるのよとミエリが作法を改めて口にすれば、ミエリは物知りだねーと呑気な声でスティーナが笑う。
「お姉ちゃんってば……」
 呆れたような声でミエリがそう言うと、気持ち、気持ちが大事だから! とスティーナが視線を泳がせた。
 参拝所では手水舎での出来事を踏まえ、スティーナが作法の看板を見つつ、ミエリの仕草を見様見真似で参拝を済ます。
「それで、お姉ちゃんは何てお祈りしたの?」
「んとね、花乃子ちゃんとお相手さんが次の生で幸せになれますようにって」
 次の人生ではまた二人巡り合って、今度こそ幸せになれたらいいとスティーナが笑みを浮かべる。
「自分のことは?」
「ん-? うん、それはほら、ね?」
「また自分のことを抜きにして……」
 そうだと思った、とミエリが小さく笑う。自分のことよりも、いつだって人のことを優先して。そんなところも大好きだけど、なんて思いながら仕方なさそうにミエリが言葉を続ける。
「私が今年も家族皆で楽しく過ごせますようにってお願いしたからいいけれど。ちゃんとお姉ちゃんの分もお願いしておいたから」
「さっすがミエリ、察しがいいぜ」
 あたしの妹は賢いね! と、スティーナが嬉しそうに言いながら看板の通りに境内を歩いて行くと、すぐに社務所が見えてきてスティーナが御神籤を引こうとミエリの手を引いて列へと並ぶ。
 どれにしようか迷うスティーナの横で、ミエリがすっと全体運の御神籤を引く。
「あ、あたしもそうしようっと」
 真似をするようにスティーナも同じ物を引き、結果を見ようと社務所を離れた。
「おっ大吉! やったね幸先ばっちり!」
「私は吉ね」
 大吉の次に良い結果なら、今年も上々だろうとミエリが御神籤を枝に結び付ける。
「ミエリは結ぶの? じゃあ、あたしは持って帰ろうっと」
 お守りみたいなもんだね、と大事そうに仕舞い込む。
「さ、御神籤も引いたし、ぼちぼち帰るかねー」
「その前にお姉ちゃん、さっきのベビーカステラ少し余ってるから食べちゃって」
 手にしていた紙袋をミエリがスティーナへと渡す。
「え? 残ってたの?」
「花乃子さんとわざと残したの。嵐みたいな姉に、ってね」
「そう? 二人で食べきってよかったのに。まいっか、いただきまーす!」
 一つ口に運んで、美味しいと笑うと、スティーナがミエリの口元へベビーカステラを寄せ、あーんと笑う。
「子どもじゃないんだから……まったく」
 それでも、あーんと口を開けるミエリも笑顔を浮かべていて。
 紅と蒼の視線を交わらせ、二人は桜の下で笑い合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雷陣・通

八重(f23090)と一緒に初詣

桜御神籤を売ってる社務所まで歩き彼女に声をかける
よお、忙しそうだな?

前にここで手伝いするって聞いたから、顔出そうと思ってな……
で、この後暇だったらお参りでもどうかなって?

勿論、御神籤も買うよ
えっと
金運、末吉。誰かに奢るのが吉だってさ?

ところで八重の運勢はどんな感じ? 大吉?

行きかう人手、彼女の視線の先にあるものを見てふと思い出す
この近くに貸し呉服屋さんがあること
花乃子が教えてくれた

なんだ……似合ってるじゃねえか?

晴れ着姿の八重に幾分、鼓動が上がりつつもお参りすれば
何を祈ったと問われて
深呼吸とちょっとの勇気

「また、来年もこうやってお参りできるようにって」

八重は?


御桜・八重

通くん(f03680)と初詣♪

花咲神社の社務所のお手伝い中、パタパタしてると通くんの声が。
「あ、どしたの?そう言えば何か用事があるんだっけ」

ふーんと頷き、今日のお手伝いはあと少しだからいいよーと即答。
はい、桜御神籤一回、まいどありー♪
ほほぉ、これはこれは♪

え、わたしも引くの?
んー、それじゃ…(🌸恋)
あ、結果はナイショったらナイショっ!

つい目を惹かれる晴れ着姿。
うん、着れるものなら着てみたいけど…
え、貸し呉服屋さんがあるの?

善は急げと駆け込んで、お召し変えれば馬子にも衣装。
花乃子さんと話したことを思い出して頬が染まる。

二人並んでお参り。
ね、何を祈ったの?

わたしの答えは、
「同じだよ、通くんと」



●夢咲結びて
 お手伝い、と言えば何やら軽い響きがあるけれど、元旦の神社の社務所での手伝いは中々に忙しい。お守りや御神籤を授与する場所でひたすらに初穂料を受け取って渡していくのだ。
 ここ、花咲神社でもそれは同じで、いつもより増やされた席に座って御桜・八重(桜巫女・f23090)も延々と参拝客にお守りを渡し御神籤を引いてもらいと大忙しだ。
「お疲れ様、八重ちゃん。もう少しで交代の子がくるから、もうちょっと頑張ってね」
「はい!」
 よーし、もうちょっと頑張るぞー! と、八重が次の参拝客から初穂料を受け取って絵馬を渡していると、なんだかつい数時間前に見た顔が見えた。
「よお、忙しそうだな?」
「通くん!」
 驚いた顔をした八重に笑うのは雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)で、お守りやお札を見ている通に八重がそっと話し掛ける。
「どしたの? そう言えば何か用事があるんだっけ」
「前にここで手伝いするって聞いたから、顔出そうと思ってな……で、この後暇だったらお参りでもどうかなって?」
 へへ、と笑った通に、ふーんと頷いて。
「今日のお手伝いはあと少しだから、いいよー」
 何となく、何となく胸がそわそわしするけれど、それは綺麗に押し隠して八重が即答した。
 そして、こほんと咳ばらいをして、改めて社務所のお手伝いを務める巫女として通に声を掛ける。
「では、何をお求めですか?」
「勿論、御神籤を貰うよ。金運にするかな」
 はい、と満開の桜のように敷き詰められた御神籤の中から一つ選んで、手の中に大事そうに包み込む。
「じゃあ、境内の端の方で待ってるから」
「はーい」
 手を振る通を見送って、八重は手伝いが終わるまでの暫しの時間をそわそわと過ごしたのだった。
 手伝いが終わると謝礼を受け取って丁寧にお礼をすると、一目散に通の待つ場所へと向かう。
「お待たせ、通くん!」
「いや、そんなに待ってないから大丈夫だ」
「ありがと、そういや御神籤の結果はどうだった?」
 そう聞かれ、まだ開いていない桜の形をした御神籤を八重に見せる。
「まだ見てないんだ」
「どうして?」
「八重と一緒に見ようかと思ってさ」
 その言葉にふふ、と笑って八重が御神籤を引いてくるから待ってて、と先程まで自分が座っていた社務所の列に並んだ。
 無事に御神籤を手に入れて戻ってくると、二人で御神籤を花開く。
「えっと、俺のは……金運、末吉。誰かに奢るのが吉だってさ?」
「その誰かは、間違いなくわたしだね♪」
 ご馳走様! と笑った八重に、御神籤の結果は? と通が聞き返す。
「わたし? わたしは……ナイショ!」
「ええ? 大吉だったのか?」
「だめ、ナイショったらナイショっ!」
 だって、言えるわけがない。恋愛運で、大吉で、行く手を阻むものは無し、想いを告げるのが吉、だなんて。
 どうして言えないのかは、なんだかまだよくわからなかったけれど。
「お参りに行くんだっけ? 先に御神籤引いちゃったけど、そこは広い心で許して貰っちゃおう」
「ああ、そういうもんなのか?」
 一応ね、と八重が笑って、参道を歩く晴れ着をきた女の子に目を向ける。
「いいなぁ……」
 思わず、ぽつりと呟いた八重の言葉と視線を通が拾う。
「そう言えば、花乃子が教えてくれたんだけどな」
 この神社の近くに、貸し出しもやっている呉服屋があるのだと。
「八重さえ良かったら、行ってみないか?」
「え? 貸し出しをしてくれるところがあるの?」
 少しだけ迷って、それから自分の気持ちに正直になって、行きたい! と八重が言えば、善は急げと二人で呉服屋へと駆けこんだ。
 あれもこれもと目が迷ってしまったけれど、桜色の振袖に淡い黄色の帯を締め、緑色の帯締めをして通の前に楚々と八重が経つ。
「どうかな?」
「なんだ……似合ってるじゃねえか」
「えへへ、ありがとう!」
 思わず花乃子と話したことを思い出して、頬が染まる。
 素敵な着物を着て、好きな人と一緒に新年を歩く――。
「八重? どうかしたか?」
「ううん! 何でもない、行こう!」
 ぶんぶんと首を横に振って、再び二人で神社へと向かった。
 晴れ姿の八重はいつもとはどこか違って、幾分鼓動が早くなるのを感じつつも通が参拝所の前に立つ。作法に乗っ取って二人でお参りをして、案内通りに歩いて境内を抜けていく。
「ね、通くんは何を祈ったの?」
「あー……」
 そう問われ、隠すことでもないけれど、言うにはちょっとの勇気が必要で。
 深呼吸をひとつ、それから通が八重の瞳を見据える。
「また、来年もこうやってお参りできるようにって」
 君と。
「八重は?」
 そう問い返せば、目の前の彼女の頬が桜のように染まって。
「同じだよ、通くんと」
 あなたと。
 来年も、一緒に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハーモニア・ミルクティー
【華纏2】◎
🌸恋
当たるも八卦当たらぬも八卦よ!
大吉でも大凶でも、ドンと構えて受け止めるわ!
……でも、大凶を引いたらちょっと固まっちゃうかしら

聖はどんな結果だったのかしら?
わたしたち二人で一人の作家だもの、気にしないでちょうだい

結果に関わらず、お神籤は結んで行くわ
勢い良く結びつけて
破れるなんてこと、無いわよね?
良いの、良いのよ……!
どうせ聖を前にしたら、大吉でも大凶でも、朴念仁過ぎて全てが無に還るんだから……!

お神籤の後は、桜甘酒で乾杯よ
新年早々、善い日になったわね
でも、こんな善い日にさえ、好きって伝えても通じるわけ無いのよね……
もう何度目なのかしら……
今年こそは落としてみせるんだから……!


曙・聖
【華纏2】◎
🌸総合運
花乃子さんにも皆さんにも、幸あれと思いつつ……私たちも行きましょうか、ニア

新年と言えばお神籤ですね
この1年、どのような年になるのでしょうか
私がこの身体ですので、取材がニア頼みになってしまっている分……作家として精進していきたいところですね
吉凶は導として、この1年も無事に過ごせますよう
お守り代わりに、桜御神籤は頂いておきます

茶屋で和菓子を購入したら、ニアの元に戻りましょう
桜甘酒に合いそうな物を買ってきました
この善き日を今年も二人で祝えることに、感謝して
甘味と桜甘酒の相性は絶妙ですね
ニア、何か気になることがありましたか?
それに……和菓子を食べないのなら、私が食べてしまいますよ



●春よ恋
 花弁が舞う、桜の精達の桜だけではなく、幻朧桜の花弁も風に巻かれるように空へと上がって影朧が消えていくのを、曙・聖(言ノ葉綴り・f02659)は花乃子にもこの場にいる皆にも、幸あれと願いながら視線をハーモニア・ミルクティー(太陽に向かって・f12114)へと向けた。
「私たちも行きましょうか、ニア」
「ええ、ええ、行きましょう!」
 ニアと呼ばれた彼女が、零れんばかりの笑顔でそれに答える。フェアリーである彼女も、今日は聖とのお出掛けだし、初詣だし……と、力を使い翅は生えたままだが人間の女性と変わらぬ姿で聖の隣を歩く。
 聖の真似をしながら手水舎で手と口を漱ぎ参道を進めば、参拝所までは時間も然程掛からずに辿り着いた。
「ここでお参りをするのね」
「そうですよ、参拝の仕方は……ああ、あそこに書かれていますね」
 二礼二拍手一礼の作法が絵と共に描かれた看板を見て、ハーモニアがわかりやすいわね! と笑う。すぐに自分たちの番が来て、看板の内容を思い出しつつ、聖の真似をして参拝を済ませた。
「しっかり願い事はできましたか?」
「ええ、ええ、それはもう!」
「ああ、内容は言ってはいけませんよ」
「そうなの?」
 諸説は色々あれど、願い事は人に話さない方がいいのだと聖に言われると、そうなのねと素直にハーモニアが頷く。
 聖が健康になりますように、とか、聖がわたしの気持ちに気が付いてくれますように、とか、色々願った内容はそっと胸に秘めてハーモニアが聖と共に案内通りに参拝所から境内へ戻る。
「聖、お神籤よ!」
「新年といえばお神籤ですからね」
 桜の花の形をした、可愛らしい御神籤を求めて並ぶ人の列を見て、聖が微笑む。
「聖、当たるも八卦当たらぬも八卦よ! わたしたちも引きましょう!」
「いいですよ、一緒に引きましょうか」
 見れば色々な運勢が占えるとあって、ハーモニアは恋愛運しかないわねと意気込んで桜御神籤を引き、聖は総合運を引いて、御神籤が結ばれている木の傍へと歩いた。
「さて、開けてみましょうか」
「ええ、結果が楽しみだわ!」
 桜の形をそっと解き、中を見る。
「さて、この一年、どのような年になるのでしょうか……と、中吉ですね」
 内容は、と聖が書かれた文を読む。
「身近な人に助けられる時、なるほど……」
 身近な人、と聞いてハーモニアがぱっと目を輝かせる。そんな彼女を見て、聖が小さく笑って言葉を紡ぐ。
「私がこの身体ですので、取材がニア頼みになってしまっている分……作家として精進していきたいところですね」
「わたしたち二人で一人の作家だもの、気にしないでちょうだい。それに、聖のサポートならわたしが一番適任なんだから!」
 胸を張るハーモニアに微笑んで、ありがとうと聖が頷く。
「ニアはどうだったんだい?」
「わたし? わたしも中吉よ」
 問われ、ハーモニアが手の中の御神籤の内容を心の中で読む。
 思いを貫く覚悟を持ち、耐え忍ぶこと。その先に道は開ける。
「うん、わたしは御神籤結んでいくわね!」
「ああ、私はお守り代わりに頂いておくよ」
 ハーモニアが勢いよく上の方の枝に結び付けるのを見守りながら、聖がそう言った。
 結びつけながら、ハーモニアが心の中で溜息をつく。
 良いの、良いのよ……! どうせ聖を前にしたら、大吉でも大凶でも、朴念仁過ぎて全てが無に還るんだから……!
 占いの結果は悪いものではなかったし、いつか気持ちが通じる日も来るだろうと信じてハーモニアが御神籤を結び終えた。
「ニアは何処か気になる場所はありますか?」
「そうね、桜甘酒が気になるわ」
 では、ニアは甘酒を二つ貰ってきてくれますか? と聖が提案をする。
「聖はどうするの?」
「私は茶屋で和菓子を買ってきますから、そうしたら休憩できる場所で一緒にいただきましょう」
 聖の案に素敵ね! と答え、ハーモニアは桜甘酒を貰いに、聖は和菓子を求めにそれぞれ歩を進めた。
「良い和菓子が手に入りました」
 包んでもらった中には、桜色の練り切りと今年の干支を模した上生菓子が入っている。ハーモニアの姿を探せば、すぐ近くにカップを二つ持って聖を待つ彼女の姿が見えて、手を振って近寄った。
「あっちに休憩できるところがあったの、そこで休憩するのはどうかしら?」
「いいですね、そうしましょう」
 二人で並び歩いて、赤い毛氈が敷かれた床几台へと腰を落ち着けた。
「わあ、美味しそう! いただきます!」
「いただきます」
 桜甘酒で乾杯をして、美味しい和菓子を二人で分けて。
「美味しいわね……! 新年早々、善い日になったわね」
「本当に。この善き日を今年も二人で祝えることに、感謝します」
 ふうわりと微笑む聖に、ハーモニアの手が止まる。
 ああ、やっぱり好きだわ。でも、こんな善い日にさえ、好きって伝えても通じるわけ無いのよね……。私も好きですよって返されて終わるのよ。もう何度目なのかしら……と、思わず溜息を吐きかけて、止めた。
「甘味と桜甘酒の相性は絶妙ですね……ニア、何か気になることがありましたか?」
 手を止めたハーモニアに聖が小首を傾げて問い掛ける。
「それに……和菓子を食べないのなら、私が食べてしまいますよ」
「なんでもないわ! あ、だめ、だめよ、わたしも食べるんだから!」
 賑やかな声が響いて、桜色の練り切りが二人の口に消えていく。
 今年こそは絶対に落としてみせるんだから、とハーモニアが決意も新たに桜甘酒を飲み干した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
ロキ(f25190)と
🌸全体

キレイだな
結果がどうであれ記念に持って帰ろう
引き過ぎるとソレ
全部凶にされたりしないか

境内をぶらり歩き
交通安全のお守りは買うとして
ロキの分は俺が選んでいいのか?
――では、コレを
黒鉄の指先で示すのは
子供の掌に収まる程の小さな守刀
開運と厄除けらしい
何より、格好いいからな

ロキの絵見たさに絵馬も書こう
本当にあんたは絵心があるな
……コレは、俺か?
ああ、男前で嬉しい
サイバーアイに焼き付けておこう

此方が綴った言葉は
「皆の願いが叶うように」
俺の分も、皆が幸せになると良い

甘酒いいな、飲もう
道中でまた目移りしそうな気がするが
ヒトの区切りはめでたいものだ
ロキの言う通り、目一杯楽しもう


ロキ・バロックヒート
ジャックくん(f16475)と
🌸全体

可愛い御神籤だねぇ
三つぐらい引いて
一つだけ持っておいてあとは結びの仲間入り
いっぱい引いたから同族に怒られるかもね
あははありそう

お守りも買っちゃう?
俺様はジャックくんが選んでくれたの持とうかな
君の祈りならきっと効くかも
わぁこれ良いね
可愛――かっこいい、ね。ふふ
あと絵馬っていうのに願いを書くんだって
自分の願いはないから絵を描くひやかし
ジャックくん描いて周りをキラキラさせて
かっこいいでしょーって満足気に飾る
君の願いはなぁに?
ひょいと覗き込んで―
なんとなくその絵馬をつっつく

あっちにお茶も甘酒もあるって
色々あって目移りしちゃうね
ひとの区切りをもっといっぱい楽しもうよ



●桜結び
 御神籤が引きたいのだと、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)がジャック・スペード(Jスペード️・f16475)に笑いながら言う。
「だって楽しそうだから、ジャックくんも引いてみたくない?」
「引くのは構わないが、参拝はどうするんだ?」
 参拝、と言われてロキが目を丸くしつつ、首を傾げる。
「しないとまずいかな」
 多分、とジャックが頷く。
「でもそうだよね、他所の神様のお家に行くんだものね」
 挨拶くらいはしとくべきかな、とロキが鳥居の先を見た。
「同族とは言え、礼儀は必要だね、うん」
 ここの同族は心優しい感じがするけど、とロキが言いながら二人で鳥居を潜り、人の真似をして手水舎で手と口を漱ぐ。
「こういうのも楽しいね」
「郷に入っては郷に従えと言うからな」
 そうそう、とロキが笑って、自分よりも……と言うよりは人の平均よりずば抜けて身長の高いジャックを見上げた。
 参拝所でも同じように人の真似をして、けれど祈ったり願ったりは少し違うのでロキはお邪魔します、ちょっと遊んでいくねとだけ告げて顔を上げる。
「もういいのか」
「うん、ジャックくんも?」
「ああ」
 彼が何を願ったのかはわからなかったし、もしかしたら願わなかったかもしれないし、今度教えてもらおうと思いつつロキがジャックを先導する形で歩いた。
 すぐに社務所が見えて、桜御神籤を引く人々が目に入る。
「わあ、ここの御神籤可愛いねぇ」
「ああ、キレイだな」
 桜花の形をした、桜色の御神籤。早速引こうと二人で列に並び、一つ引いて邪魔にならない場所でそっと開く。
「俺は……大吉だな」
「ジャックくんも? 俺様もだよー」
 ほら、とロキが見せた結果は大吉で、ジャックと同じもの。けれど書かれている内容は違うようで――。
「俺のは……大きな変化はないが、充実し満ち溢れる時、だそうだ」
「俺様のはね、受け入れられ、受け入れる時。思うように進むと吉、だって」
 新年早々めでたいね、とロキが笑って、もう二つばかり引いてくるとジャックの返事を待たずに列に向かって行く。そして、引いて戻ってくると満面の笑みを浮かべて桜の花を開いていく。
「引き過ぎるとソレ、全部凶にされたりしないか」
「あはは、ありそう。いっぱい引いたから同族に怒られるかもね」
 開いた中を見て、ロキがジャックを見る。
「凶だったか?」
「吉と末吉だった」
 ほら、と見せられたそれには確かに吉と末吉と書かれていて、凶は免れたかとジャックが小さく笑った。
「よーし、一つだけ持っておいてあとは結びの仲間入りさせよう」
「俺は記念に持って帰ろう」
 よいしょ、とロキが背伸びをして、二つ桜を結びつける。
「これでよし! 次は……あ、お守りも貰っちゃう?」
「そうするか」
 二人でお守りの列に並んで、見本にと飾られたお守りを眺める。
「ジャック君は何にするの?」
「交通安全のお守りだな。ロキは?」
「うーん……あ、俺様はジャックくんが選んでくれたのを持とうかな。君の祈りなら、きっと俺様にも効くかも」
 あ、ほら順番だよ。そう言われ、ジャックが交通安全のお守りを黒鉄の指先で示し、それから子供の掌に収まる程の小さな守刀を示した。
 二つのお守りを受け取って、ジャックが守刀をロキへと渡す。
「わぁ、これ良いね」
「開運と厄除けらしい。何より、格好いいからな」
「うんうん、可愛――かっこいい、ね。ふふ」
 嬉しそうにお守りを手に持って、それから落とさぬように大事に仕舞いこむ。
「他にロキがやりたいことは?」
「ん、絵馬っていうのに願いを書くのをやりたいんだよね、俺様は願いはないから絵を描くひやかしだけど」
 ならばそれもやろうと、二人で絵馬を受けて書く為の場所へと移動する。
「よーし、描くぞー」
 ロキがさっさと絵を描くのを横目で見つつ、ジャックも何やら絵馬へ書き込んでいく。
「でーきた!」
「どれ」
 出来上がった絵を見れば、黒い機械の顔が笑っているような絵に周囲がキラキラと輝いているようなものだった。
「……コレは、俺か?」
「正解! かっこいいでしょー」
 いい出来だと満足気に笑って、ロキが絵馬掛所に楽し気に飾る。
「ああ、男前で嬉しい。サイバーアイに焼き付けておこう」
 これは良い想い出だと、ジャックの金色の瞳が淡く輝いた。
「君の願いはなぁに?」
 ひょい、とロキがジャックの絵馬を覗き込む。そこには『皆の願いが叶うように』と、丁寧な字で書かれていて。
「俺の分も、皆が幸せになると良い……と思ってな」
 そう言って、ジャックもロキの絵馬の隣にそれを飾る。
「ジャックくんらしいお願いだね」
 そう言って、ロキがなんとなくジャックの絵馬をつつくと、からんと優しい音が響いた。
「よーし、ジャックくん」
「次は何だ?」
「あっちにお茶と甘酒もあるって。和菓子もあるのかな」
「甘酒か、いいな。飲もう」
 道中色々あったから、ロキは目移りしそうだなと思いつつジャックがゆっくりと歩き出す。
「色々あって目移りしちゃうね」
 案の定な言葉に、ジャックが小さく笑うとロキも楽しそうに笑って両手を広げる。
「せっかくだからね、ひとの区切りをもっといっぱい楽しもうよ」
 ロキにとっては昨日も今日も明日も、大した違いはないけれど。
「ああ、ヒトの区切りはめでたいものだ」
 ジャックにとっても、続く今日であったとしても。
 ひとがそう区切るのなら、それはきっと善いことで。
 ならば、それを目一杯楽しもうと、人ではない彼らは笑うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
◎レン(f00719)と

(辺りを見回し)正月とはめでたいものなんだな
正月を実感する機会があまりなく
でも、皆楽しそうなのは見ていて良いものだ
ふわりと目を和ませ手を繋ぐ

甘酒、実は初めて飲んだが悪くない
寒い中で飲むにはホッとするな
レンはどうだ?

話しながら先程引いた御神籤を開こうか
結果が良ければ素直に喜び、悪ければ顔を顰め
とはいえ表情筋は然程動かないだろうが
そう言うレンは、と表情を見れば分かろうか

願い事はしたのかとふと訊いてみる
私は決意表明に近い気もするが
私も神に期待等しないものだから
…となるほど内緒、な
(楽しい思い出を沢山増やしていきたい、どうせならレンと一緒に)
そんな想いは胸に秘めておく事にしよう


飛砂・煉月
有珠(f06286)と


辺りは賑やか、楽しそうだなぁって眺めてれば
横から聞こえる言の葉にうん、おめでたいみたい
オレも正月って年の始まりくらいの認識
同じだねって手繋いでもイイかなあ

甘酒にほっと一息
あったまるし美味しいよねコレ
オレも好きだよ
不思議と特別な気分にもなれるしね

御神籤かー(結果お任せ)
今年の運勢が分かるんだっけ?
良ければ素直に喜んで
悪いなら上がるだけと結局へらり笑って
ね、有珠はどうだった?
悪いのは結んでいくとイイらしいよ

神様は今も信じてないけど
いるならさ、
(――有珠と一緒に居させて)

ん、したよ
でも口にしたら叶わないみたいだから内緒
あっは
決意表明って有珠らしいや
イイね、好きだよそういうトコ



●願いごと
 元旦、それは新しい一年の始まりの日。
 初詣に向かう人達の顔は一様に明るく、誰もが楽しそうな声を上げている。
 なんて賑やかで、楽しそうなんだろうと飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が口元に笑みを浮かべて眺めていると、まるで煉月の気持ちをそっくりそのまま代弁するかのように、隣を歩く尭海・有珠(殲蒼・f06286)が言う。
「正月とはめでたいものなんだな」
「うん、おめでたいみたい」
 正月というものを実感する機会があまりないのはお互い様だったらしく、煉月と有珠がそっと視線を合わせた。
「オレも正月って年の始まりくらいの認識なんだよね」
「私もだ。でも、皆楽しそうなのは見ていて良いものだな」
「同じだね」
 穏やかな笑みを浮かべた有珠に、煉月が手を繋いでもイイかなあ? と心に浮かんだ想いをそのまま形にするように、有珠の指先に手を伸ばす。
 その指先に応えるように、ふわりと目を和ませた有珠が指先を絡ませて手を繋いだ。
 そのまま参道を歩き、手水舎で手を清めて冷たくなった手をもう一度繋いで参拝所まで向かい、参拝を済ませる。離れた手をどちらからともなくまた繋いで、道順を示す看板の通りに歩くと社務所が見えた。
「御神籤、引いていこうか」
「そうだな、折角だから引いていくとしよう」
 桜の花を模した可愛らしい御神籤を二人で引いて、邪魔にならないような場所までまた歩く。さて、どこで開こうかと考えた視線の先に、甘酒と旗を翻す茶屋が見えた。
「有珠、甘酒飲んでいかない?」
「甘酒……桜甘酒というのが気になるな」
「よし、行こう行こう」
 煉月が有珠の手を引いて茶屋へと入ると、丁度二人掛けの席が空いていたのかすぐに案内され、メニューを渡される。
「桜甘酒と、有珠は他に何か頼む?」
「そうだな……わらび餅が気になるな」
 写真で見ればぷるんとした半透明にきな粉がたっぷりと掛かっていて、それはそれは美味しそうに見えた。
「イイね、半分こする?」
「する」
 こくんと頷いた彼女に笑って、煉月が桜甘酒を二つとわらび餅を一つ注文する。すぐに湯飲みに入った甘酒と、漆塗りの器に盛られたわらび餅が二人の前に届けられた。
「ん、悪くない」
 実は初めて甘酒を飲んだのだと、有珠が煉月に告白する。
「体が温まって、ホッとするな。レンはどうだ?」
「あったまるし美味しいよねコレ。オレも好きだよ」
 不思議と、何故か特別な気分にもなれるしね、と煉月が笑う。
「特別?」
「寒い季節、特に正月になると飲む機会があるから、かな」
 なるほど、特別……と、有珠がまた甘酒を口に運ぶ。わらび餅も二人で分けて、不思議な食感だけど美味しいと笑い合う。
「そうだ、先程引いた御神籤を開こうか」
「あ、御神籤。今年の運勢が分かるんだっけ?」
 有珠がそう言うと、忘れてたとばかりに煉月が笑って仕舞っておいた御神籤を取り出した。
 それぞれの御神籤を開いて、二人が目を合わす。
「有珠はどうだった?」
「私は中吉だな」
 そう言うレンは? と有珠が彼の表情を窺うと煉月が御神籤から有珠へ視線を移した。
「オレは吉だったよ」
 そう言って、また御神籤へと目を落とす。
「未来に幸福あり、だって」
 良い結果かな、と煉月が笑って甘酒を一口飲む。
「成るべきように成る、そのまま受け入れると吉」
 良い結果なのか悪いのかよくわからなくて、有珠が難しい顔をする。とは言え、表情筋は然程仕事をせず軽く目が細まった程度なのだが。
「物事は自然の成り行きに従うもので人為でどうこうなるものではない、ということか」
「そのまま受け入れるといい方向に向かう、的な?」
 なるほど、そうかもしれないと有珠が頷く。
「悪い内容じゃないと思うけど、気になるなら結んでいくとイイらしいよ」
 どうしようか迷ったけれど、これも記念になるかと有珠が御神籤を綺麗に花の形に戻して仕舞いこんだ。
 そうして、ふと気になったことを口にする。
「レンは願いごとをしたのか」
「ん、したよ。でも口にしたら叶わないみたいだから内緒」
 神様は、今も信じていないけれど。
「そうか、私は決意表明に近い気もするが。私も神に期待等しないものだから……なるほど、内緒、な」
「あっは、決意表明って有珠らしいや。イイね、好きだよそういうトコ」
 そうか、と小さく頷いて有珠が桜色の甘酒を揺らす。
 できるならば、楽しい思い出を沢山増やしていきたい。どうせなら、レンと一緒に。
 思いを胸に秘めて、有珠が甘酒に口を付ける。
 そんな彼女を眺めながら、煉月が胸の内で呟く。信じてはいないけど、いるならさ。
 ――有珠と一緒に居させて。
 そうして、願いと共に甘酒を飲み干した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉2】🌸人

賑わってんなァ
はぐれんなよときじ
不安なら手ェ握っててやろーか?
…言われてみりゃそれもそーだな

お、御神籤だってよ
引いてくか?
いや、ときじこーゆーの
好きそーって思って

何運?ンー、お前と一緒のでいーよ
ま、何の運だろーと
絶好調だろうけどな!
俺、竜神だし!神様だし!(ふふん)

…げ、ときじ凶じゃん…
しゃあねェな
俺のとこーかんしてやるよ
ア?意味無い?いーんだよ
御守りで持ってなァ。俺の大吉。
それでプラマイゼロだ。

ンし、じゃー茶屋にでも寄って
帰るかァ
お前の好きな団子、食ってこ
俺ァ餡子とみたらしが
2個ずつ付いてンのにする
クク、欲張りだろォ?

ケラケラ笑いながら
足取り軽やかに茶屋へ向かった


宵雛花・十雉
【蛇十雉2】🌸人

さすが初詣
人の波に攫われちゃいそう…
だ、大丈夫だよ!
子供じゃないんだから
お互い背高くて目立つだろうしさ

よく分かったね
好きだよ、御神籤
運試しに引いていこうか

なつめのその自信はどこから湧いて来るの
たまに羨ましくなるよ
ホントにたまーにだけどね

ドキドキしながら広げた籤には『凶』の文字
呆然と籤を見つめて

あ、なつめは大吉だ
本当に絶好調なんだ、いいなぁ…
え、御守りに?
それってアリなのかなぁ
でも、うん…ありがとう

うん、茶屋にも行きたい
やっぱりオレはみたらしがいいなぁ

御守りの効果、さっそくあったかも
こっそりそんなことを思いながら
弾む足取りで茶屋へ向かって



●君と交換っこ
「さすが初詣、人の波に攫われちゃいそう……」
「賑わってんなァ、はぐれんなよときじ。不安なら手ェ握っててやろーか?」
 初詣の賑わいを目の前にして、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)が思わず零した言葉に、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が自分の手をひらひらとさせて笑う。
「だ、大丈夫だよ! 子どもじゃないんだから」
 慌てたように首を横に振って十雉が断ると、そうか? となつめが己の手の平を見遣る。
「それに、お互い背が高いんだし、万が一はぐれても目立つだろうしさ」
「……言われてみりゃそれもそーだな」
 確かに、十雉もなつめも身長190cm程で、他の参拝客から頭一つ分かそれ以上は抜きんでている。同じくらいの身長の者も見渡せばいるにはいるが、二人のように白い髪をした者は早々いるものではない。
「身長高くてよかったなァ、ときじ」
「お互い様だろ、万が一はぐれたら……そこの茶屋の前で待ち合わせにしとく?」
「そうだな。ま、はぐれることは無いだろうけどな!」
 こう見えて二人は猟兵だ、一般人の人波に流されて迷子なんてことにはなりはしないだろう。
「それじゃ行くとするか」
「うん」
 鳥居を潜り、手水舎で手と口を清め、人の流れに任せて参道を歩く。緩やかな流れではあったけれど、参拝を済ませて道順通りに歩いて行けば目の前に社務所が見えた。
「お、御神籤だってよ。引いてくか?」
 晴れ着を着た可愛らしい女の子達が楽し気に御神籤を引いて、その結果に一喜一憂しては御神籤を専用の木の枝に結び付けているのを見てなつめがそう提案する。
「御神籤?」
「ああ、ときじこーゆーの好きそーって思って」
 好きだろ? という目でなつめが十雉を見る。
「よく分かったね。好きだよ、御神籤」
 そう言うと、なつめがほらなという顔をして笑った。
「笑うなって。折角だし運試しに引いていこうか」
「ん、折角だからな」
 二人で列に並んで、何の運勢にするかと御神籤の看板を眺める。
「何運?」
「待って、今凄く迷ってるところだから……よし、対人運にする。なつめは?」
「ンー、お前と一緒のでいーよ。ま、何の運だろーと絶好調だろうけどな!」
 あまりにも自信満々なその様子に、十雉が呆れたような感心したような顔でなつめを見遣った。
「なつめのその自信はどこから湧いて来るの? たまに羨ましくなるよ」
 ホントにたまーにだけどね、と念を押すと、なつめがふふん、と胸を張る。
「俺、竜神だし! 神様だし!」
「はいはい」
 適当な相槌を打って、十雉が御神籤を引く。それに倣って、なつめも同じように引いた。
 さて、結果はどうだと少し離れた場所で二人して桜花の形をした御神籤を開く。
 ドキドキしながら広げた十雉の御神籤には――。
「……嘘」
「なんだ? どうした?」
 呆然と御神籤を見たままの十雉の横から、なつめが十雉の御神籤を覗き込む。
「……げ、ときじ凶じゃん……」
「悪し、軽はずみな行動は慎むべし、だって……」
 思わず十雉の唇から溜息が零れ、しょぼくれたような顔になる。
「しゃあねェな」
 頭を搔いたなつめが、ひょいっと十雉の御神籤を奪って、自分の御神籤をその手に持たせる。
「あっ、なつめのは大吉だ。良い縁に恵まれ、救われる、だって。本当に絶好調なんだ、いいなぁ……」
「俺のとこーかんしてやるよ」
「え? それだと意味がないんじゃないかなぁ」
「ア? 意味無い? いーんだよ、御守りで持ってなァ」
 お守りに、と言われて十雉が大吉の御神籤に視線を落とす。
「アリなのかなぁ?」
「アリだ、アリ! 俺が言うんだから間違いねェよ。俺の大吉、それでプラマイゼロだ」
 もしかしたら、プラスになってるかもなァ? となつめが笑う。
「うん……ありがとう」
 大事に持っとく、と十雉が笑うと、俺は枝に結んでいくかとなつめが一番上の枝に御神籤を括り付けた。
「ンし、じゃー茶屋にでも寄って帰るかァ」
「うん、茶屋にも行きたい」
 すっかり明るい表情になった十雉と並んで、なつめが茶屋に向かって歩を向ける。
「お前の好きな団子、食ってこ」
「何団子にしようかな」
 やっぱりみたらしだろうかと、十雉が呟く。
「俺ァ餡子とみたらしが2個ずつ付いてンのにする。クク、欲張りだろォ?」
 これぐらいで人生丁度いいんだよ、となつめがケラケラと笑う。
「俺もそれにしようかなぁ。それか俺がみたらしでなつめが餡で、半分こにするのもいいかもね」
「それも悪くねえなァ」
 さっきまでの暗い気分は嘘のように吹き飛んで、さっそくお守りの効果があったかもと十雉がこっそりとそんな事を思いながら、なつめと共に笑った。
 良いことも悪いことも、君と半分こできたらきっと楽しい――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】🌸恋
神社につくと、大通り以上に
晴れ着姿の人が目につく気がする
女性の振袖や袴は華やかでいいね

ねぇねぇ梓、俺たちも袴着てみない?
梓の袴姿、結構似合うと思うんだ
それであぐらかいて扇子とかあおいでたら
まさにワルの親分って感じ

あはは、俺もそこまで鬼じゃないよ
そんな梓に朗報
最近では着物レンタルってサービスがあるらしいよ
(検索したスマホの画面を見せ
それじゃあ来年は一緒に袴着て初詣だね
せっかく着るんなら色んな場所に出かけてみたいよねー
なんて早くも来年のことに思いを馳せる

参拝したり甘酒を貰ったりと一通り楽しんだあとは
わ、可愛い形のおみくじ
俺もひとつ引いてみようっと
なになに、俺の恋愛運はー…


乱獅子・梓
【不死蝶】◎🌸健康
夏祭りで浴衣姿になったことは何度かあるが
袴は着たこと無いなそういえば
おい、それ褒められている気がしないんだが

まさか袴まで俺に買わせる気じゃないだろうな?
浴衣よりはるかに高いぞ
…へぇ、こんなサービスがあるとは
まぁ、年に一回くらいなら奮発するのも悪くない

当然のように来年俺と一緒に
初詣に行く前提で話を進める綾
俺もまた当然のように受け入れている
一人や、他の誰かと過ごしているところなんて
もう想像つかないな

ふむ、俺も引いてみるか
気になるのは健康運
今年も綾の面倒見るからには
怪我したり風邪引いたりなんてしていられない
は?恋愛運?好きな人でもいるのかお前?
…何でこんなに食いついているんだ俺は



●この先も、ずっと
 福袋を大事そうに手に提げたまま、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)がご機嫌な笑顔を浮かべて到着した神社を見渡す。
「大通りで見た以上に晴れ着姿の人が多い気がする」
「そりゃまあ、晴れ着を着てる奴らの行き先は大抵神社だからじゃないか?」
「言われてみれば、そうかも」
 赤や青、橙に桜色……様々な彩を纏った女性客が楽し気に歩いて行くのを眺めて、綾が目を細める。
「女性の振袖や袴は華やかでいいね」
「そうだな、見ているだけでこっちも晴れやかな気分になる気がするな」
 そう言いながら、人波に任せて二人が参道を歩く。手水舎では看板を頼りに手と口を漱ぎ、また人の流れに合わせてゆっくりと歩く中、綾が梓に視線を向けた。
「ねぇねぇ梓、俺たちも袴着てみない?」
「袴? 夏祭りで浴衣姿になったことは何度かあるが、そういえば袴は着たこと無いな」
 でしょう? と綾が笑って、想像したことを綾へと話す。
「梓の袴姿、結構似合うと思うんだ」
 褒められて悪い気はしないな、と梓が頷きかけると綾が言葉を続ける。
「それであぐらかいて扇子とかあおいでたら、まさにワルの親分って感じ」
「おい、それ褒められている気がしないんだが」
 でも、絶対に似合うと思うんだよね、と言われてしまうと、思わず梓も自分の脳裏で言われた姿を思い浮かべる。
 羽織袴で、胡坐を掻いて、扇子をあおいで……あ、これ思ったより似合うな? 完全に正義に倒される悪人だけど。
「ね? 似合うと思わない?」
「いや……やっぱり無いだろ、もっと正義の味方っぽいのはないのか」
 正義の味方ー? と、綾も考える。
「着流しに刀を持って悪を斬る、みたいな?」
「……どこの時代劇だって感じだな」
 UDCアースのテレビドラマとか、サムライエンパイアに居そうだけれど。
「だからさ、機会があったら着てみようよ」
「まさかとは思うが、袴まで俺に買わせる気じゃないだろうな? 浴衣よりはるかに高いぞ」
「あはは、俺もそこまで鬼じゃないよ」
 さすがに、良い仕立ての物であればフルセットで三十万は下らないような物を買わせるつもりは綾にだってない。
「そんな梓に朗報、良いことを教えてあげるよ」
 良いこと、と言われると思わず身構えてしまうが、何だ? と問い返す。
「最近では着物レンタルってサービスがあるらしいよ。来る途中でもちらっと見掛けたんだけどね」
 綾が検索したスマホの画面を梓へと見せる。
「……へぇ、こんなサービスがあるとは」
 要は貸衣装って事かと梓が頷き、値段もちらりと頭に入れる。安くはないが、買うことを思えば充分に安い値段だ。
「まぁ、年に一回くらいなら奮発するのも悪くない」
「ほんと? それじゃあ来年は一緒に羽織袴姿て初詣だね」
 楽しみだな、と綾が笑う。
「気が早いな、今年が始まったばっかりだぞ」
「いいでしょ、楽しみなんだから。せっかく着るんなら色んな場所に出かけてみたいよねー」
 初詣の他に行くなら、どこがいいかと綾が真剣な顔で考えているのを横目で見て梓が小さく笑う。当然のように、綾の中では来年も自分と一緒に初詣に行く事を前提に話を進めているのだ。
 そして、自分の中でもそれは当然で、もう一人でいることも他の誰かと過ごしているところも想像がつかないな、と梓がしみじみと綾を見る。
「何、どうしたの?」
「いーや、今年もどうなるのか楽しみだが、来年も楽しみだと思っただけだ」
 そう言って、綾の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ちょっと、髪が乱れるってば」
「はは、悪い悪い」
 悪いとも思っていない口調でそう言って、綾が何か反論しようとしたところで参拝所が目の前だぞと言ってやると、綾が本当だと前を向く。順番が来ると、やはりこちらの作法も看板を頼りに何とか済ませ、無事参拝を済ませると社務所の方までやってきた。
「梓、甘酒があるよ」
「お、いいな。一杯貰ってくか」
 桜色をした桜甘酒は神社の境内でも受けることができ、それぞれ一杯ずつ貰うと境内の端の方で二人並んで紙コップに口を付ける。
「あ、ほんのり桜の味だね」
「ああ、なんて言うんだ? あの和菓子の味っていうか」
 塩漬けにした桜の葉で餅菓子を包んだやつ、と言うと桜餅だね、と答えが返ってきた。
「桜の花の塩漬けが入っているからだろうね、普通の甘酒も好きだけど、こっちも好きだな」
 温かい桜甘酒を飲み干すと、次は御神籤だと綾が梓を引っ張って御神籤の列へと並ぶ。
「わ、可愛い形のおみくじだね」
「桜の形か」
 梓が気になる健康運の御神籤を引き、綾は恋愛運の御神籤を引いて横へとずれる。邪魔にならない場所で揃って御神籤を開いた。
「中吉だな、何々……力に満ち溢れた時、規則正しい生活が吉……なるほど」
 今年も綾の面倒を見るからには、怪我をしたり風邪を引いている場合ではない。そう思うとこの言葉は正しいように思えて、梓が納得したように頷く。
「えーっと、俺の恋愛運は吉、吉だって」
「は? 恋愛運?」
 てっきり金運とかそういったものを引いたのだと思っていた梓にとっては、寝耳に水だ。
「のびのび楽しんで、思うように突き進むべし、だって」
「いやお前、なんで恋愛運? 好きな人でもいるのか?」
 聞いていないんだが、とばかりに梓が綾へと言い募る。
「え、いると言えばいるような、いないと言えばいないような……? っていうか、別に好きな人がいなくても引くものじゃない?」
 いるのかいないのかはっきりしろ、とは思うがそれ以上は言わず、それもそうかと梓が無理やり頷く。
 なんだか物凄くもやもやするぞ……、と思いつつ二人で枝に御神籤を結ぶ。
「よし、この後はどうしようか、何か食べてく?」
「神社に来る前に食べたばっかりだろう、お前」
 それより、お前の好きな人って、とさっきの話題を蒸し返す梓に、綾が何か美味しいもの奢ってくれたら教えてあげるよー、と悪戯っ子のように言う。
 知りたいなら鏡見てきたら? って言ったら怒るかな、なんて考えながら、何を奢ってもらおうかと綾がスマホを手にし、笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
🌸恋


またひとつ影が廻る天へかえれたようだね
―私もまたその廻りへ導かれた
いとおしい愛し子を
私の巫女を双眸と心にうつして手を差し伸べ

いこう、サヨ
新たなひととせを祝す路を

他の神の社へ赴くというのは新鮮な心地がするね
願いをきくではなく今日は私が願う番だ
歓迎してもらえるといいな

振袖姿のサヨが美しくて愛おしくて
私の巫女は今日もまた美しいのだと誇りたい

桜御神籤だって
一緒にやってみようか
……戀、か
未だ私はしらぬものであるけれど
…いいやきっと、もう
私は

秘密
と微笑んで桜の告を隠す

サヨは健康であるのが一番いい
甘酒を飲んでいこう
繋ぐ暖かな手と心と共に
新たにうまれ、初めて越したこの年も
素晴らしい巡りとなるように


誘名・櫻宵
🌸神櫻

🌸健康運

廻る天へかえる影をみおくって、晴れやかに笑う私の神に心が華やぐ
大切な私の神様
かえってきてくれた、私の

ええ、行きましょう
カムイ

ひと回り大きな手を握り
桜の振袖を揺らし参道をゆく
私の神は祝す日に映えるでしょう?
優しい体温に優しい言葉
全てが嬉しくて自然桜が綻ぶの
勿論!歓迎してくれるわ!

あら
御籤?いいわね
桜色をはらりとひいて―噫、私は今年も息災であるようよ!
風邪には注意かしら
なんて運をみる

カムイは何を引いたのかしら
秘密だなんて…気になるわ
神様の秘密を暴きたくなる

甘酒ね!私、好きよ

行きましょう、カムイ

あたたかい
しあわせ
あなたが、大切な人たちがいてくれるから

今年も皆が、幸いでありますように



●桜の温もりに触れて
 桜の癒やしに触れ、転生の道へと進んだ花乃子を見送って、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)が柔らかな笑みを浮かべ、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)を見遣る。
「またひとつ影が廻る天へかえれたようだね」
「ええ、何よりだわ」
 まるで我が事のように晴れやかに笑うカムイを見て、櫻宵の心が華やぐような温かな気持ちに満たされる。大切で、かけがえのない私の神様。
「――私もまた、その廻りへ導かれた……私の巫女、汝の元へかえるために」
 いとおしい、愛し子。
 かえってきてくれた、わたしの。
 二人の瞳が甘やかに細まって、カムイが櫻宵へと手を差し伸べた。
「いこう、サヨ」
 新たなひととせを祝す路を、とカムイが微笑むと櫻宵が自分の手より一回りも大きな手に指先を重ねる。
「ええ、行きましょう。カムイ」
 手を繋ぎ、赤い大きな鳥居をくぐり、二人で参道を歩く。
「他の神の社へ赴くというのは新鮮な心地がするね」
「ふふ、他所のお家を訪ねるような感じかしら?」
「そうかもしれないね、少し緊張するような……それに、願いをきくではなく今日は私が願う番だというのも不思議な気持ちだね。歓迎してもらえるといいな」
「勿論! 歓迎してくれるわ!」
 心の底からそう思って、櫻宵が力強く頷く。
「私の巫女は今日も心強いね。それに――振り袖姿がとても似合っている」
 美しくて、愛おしくて。思わず繋いだ指先に唇を落として。
「私の巫女は今日もまた美しいのだと誇りたい気分だ」
 そう言ってふわりと笑ったカムイに、櫻宵が頬を淡い桜色に染める。
「あら、私だって、私の神は祝す日に映えるでしょう? って自慢して回りたいくらいよ」
 艶やかに咲き誇る桜のように微笑んだ櫻宵に、カムイが繋いだ手を柔らかく握りしめた。
 優しい体温に、優しい言葉。全てが嬉しくて櫻宵の桜龍としての角と翼に咲く桜が自然と綻んでいく。ひらりはらりと花びらを舞わせながら、二人は人の波に沿って玉砂利の上を歩いた。
 手水を済ませ、参拝所の前まで来るとそっと手を離し、祈りを捧げる。顔を上げ、互いに見つめ合うと、どちらからともなく手を繋いで道順を示す看板の案内に従って歩を進めると、社務所の前に出た。
「サヨ、桜御神籤だって」
 そう言われ、櫻宵が視線をそちらへと向ける。
「あら、神籤? いいわね」
 桜花の形を模した御神籤は人気のようで、人の列が絶えることは無い。カムイと櫻宵もその列に並び、桜御神籤の案内看板を見上げた。
「色々な運勢が占えるようだよ、どれにしようか」
「迷ってしまうわね」
 全体運、対人運、仕事運に恋愛運……迷いに迷って、櫻宵は自分の番が来ると健康運の御神籤を引く。櫻宵が列を離れると、カムイがやや逡巡したように悩みつつ、恋愛運の御神籤を引き櫻宵の元へと足を向けた。
「ふふ、一緒に開きましょう!」
「ああ、では……」
 せーの、と笑って二人が手の中の桜色を丁寧に開く。
「噫、私は今年も息災であるようよ!」
 吉だわ、と櫻宵が笑みを浮かべて内容を読み解いていく。
「油断せず規則正しい生活をすると吉……風邪には注意ってところかしら」
「サヨは健康であるのが一番いい」
 一通り自分の運を読むと、気になるのは目の前で御神籤を開いているカムイの結果だ。
「カムイは?」
「私かい? 私のも吉だったよ」
 愛し愛される喜びに満たされる――そんな内容だったことは伏せて、カムイが答える。
 ……戀、か。未だ私はしらぬものであるけれど、そう思いながら櫻宵を見て、胸の内でそっと呟く。
 いいや、きっと……私は。
 遠の昔に。
「何を引いたの?」
 甘く優しい声がカムイの耳朶を響かせる。
「……秘密」
 そう微笑んで、カムイが手の中へ御神籤を隠す。
「秘密だなんて……気になるわ」
 ぷう、と可愛らしく膨らんだ頬にそっと手を当て、カムイが笑う。
「大したものではないよ」
「ますます気になってしまうわ! 私の神様の……秘密を暴きたくなってしまうでしょう?」
 妖し気に揺れた瞳はすぐに引っ込んで、なんてね、と櫻宵が自分も御神籤を大事そうに仕舞った。
「では、秘密を暴かれてしまう前に甘酒でも飲んでいこうか」
「甘酒! 私、甘酒は好きよ。行きましょう、カムイ」
 再び手を繋いで、参道へと戻る。来た道の途中で、桜甘酒と書かれた旗を見たのだとカムイが笑う。
「桜甘酒、なんだかとってもいい響きだわ」
 楽しみね、と微笑んだ櫻宵を眩しいものでも見たかのように、カムイが目を細めて頷く。
 繋ぐ手とその心、どちらもなんと暖かいことか。
 新たにうまれ、初めて越したこの年も素晴らしい巡りとなるようにと願ってやまない。
 目を細めて笑むカムイを見て、櫻宵が笑みを深める。
 あたたかい、しあわせ。
 あなたが、大切な人たちがいてくれるから。
 どうか、今年も皆が幸いでありますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード

【愛染4】
ここが彼女の心残りだった花咲神社か。祭神は誰だろう?
さ、みんな作法通りに参拝しよう。手水舎で手と口を清めて、二礼二拍一礼でお参りして。
今年もいい年になるといいね。

●プラチナ
(元気で思い込み激しいドジっ子タイプ)
さくら人
皆さん、こんな素敵な晴着をありがとうございます! これなら普通に幸せな人間に見えますよね? 
えと、にれいには……?
いいんです、形より心がけが重要なんです!
ヴェルギリオス様を初め、帝竜の皆さんが骸の海で安らいでいますように。
この鈴を鳴らすんです? わ、思ったより音大きい! もっと鳴らしてみていいですか!

皆さん、セシルさんのお嫁さんなんですよね? 私はどうなんだろう?


チシャ・フェルメス
【愛染4】
ここが、この世界の神様のおうちなの?
へー…。広いし、えらい領主さまのお庭みたいだね。

さほー?…うぅ。
(ちっちゃい声で)セシル、セシル。さほーって、なぁに?
やり方分からないから、教えて教えて。
見よう見まねでやってみる…けど、これで合ってるかなぁ?
プラチナさん、普通のヒトに見えるよ、可愛いね!
この紙は、占い?
一年の運が決まっちゃうの?わぁ、それは大変
がんばっていいのを引かなきゃね!
大きな鈴、紐でガラガラ鳴らすんだね…わわ、音おっきいなぁ。
狼の耳押さえてはしゃぎます、きゃっきゃっ。
あ、お願い事は、えーっとねー。
今年も、”アイ”にあふれた一年になりますようにー!


神代・みぃ
🌸恋

【愛染4】
ね、とっても不思議な世界ね
おねえさん、だいじょうぶだったみたいでよかったの
……えっと、ふつうの作法でいいのかな……確か…

ころころと、鈴を鳴らして…と
みぃは、みんなと……って、お願い事…言ったらだめなの?
それじゃ、これ以上は内緒にしようっと!
ふふ、叶うといいな。
プラチナさんも、とっても着物似合ってるの。

おみくじも一緒に引くよ
どんな運勢が出るかな、たのしみだな

プラチナさんも、セシルの大事なひとなんでしょう?
だったら、お嫁さんでいいんじゃないかなってみぃは思うの!


メイフィア・オベルト
🌸仕

【愛染4】
あれが影朧の転生ですか、此処も変わった世界ですね
まぁこれで完全に一件落着ですね
此方の神様は全然知りませんが、ご利益などあるのですかね?
はぁ、作法、作法ですか。ふむ、そういう順で行うのですね、分かりました。
願い?いえ、誰にも言わないとのことなので言いませんけど
御神籤、ですか。なんとも馴染みのないものですね、免罪符などではないのですね
これで運勢を占うとは、なかなか商売上手なことですね。なにより術者が個別に占うのではなく紙を引くだけとはお手軽で
おや、結んでいくのですか。なら内容は覚えて行かないといけませんね
まぁ今年一年どうなるかはわかりませんが、変わらず爛れた一年になるのでは?



●愛色模様
 目の前で舞い散る桜の癒やしは、初めて見るメイフィア・オベルト(オベルト伯爵令嬢・f17956)の瞳を瞬かせる程に美しく、桜の中で消えゆく影朧の姿は穏やかなものだった。
「あれが影朧の転生ですか、此処も変わった世界ですね」
「ね、とっても不思議な世界ね。おねえさん、だいじょうぶだったみたいでよかったの」
 お迎えも来てくれたの、と代・みぃ(水底の朱・f30892)が嬉しそうに微笑む。
「まぁ、これで完全に一件落着ですね」
 ここまで来た甲斐がありましたね、とメイフィアが言うとセシル・バーナード(セイレーン・f01207)が穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ここが彼女の心残りだった花咲神社か……とても綺麗なところだね。祭神は誰だろう?」
「さいじん?」
 聞きなれない言葉にチシャ・フェルメス(捧げ唄・f28991)が首を傾げると、セシルがこの神社に祭られている神様のことだよと教えてくれる。
「それでしたら、あちらの看板に見えるのがそうでは? 此方の神様は私も全然知りませんが、どのようなご利益があるのですかね?」
 メイフィアにそう言われ、セシルがプラチナの手を引いて看板の前に立つ。
「花咲姫命……生命や恋愛事の神様のようだよ」
「はなえみひめのみこと、難しい名前なの。ええと、ここがこの世界の神様のおうちなの?」
「この世界の神様の一柱だね、他にも神様が沢山いるんだよ」
 八百万と言ってね、とセシルが説明をすると世界によって色々違うのだと笑う。
「へー……。広いし、えらい領主さまのお庭みたいだね」
 チシャにとって神様はあまり馴染みがないけれど、皆が良いものだというのならきっとそうなのだと微笑んだ。
「さ、参拝をしに行こうか」
 迷子にならないようにね、とセシルがプラチナの手を繋ぐとプラチナが少し緊張気味に頷く。
「どうしたのかな?」
「ちゃんと人間に見えるか不安で……」
「大丈夫です、私達が見立てた晴れ着ですからね」
「そうだよ、プラチナさんも、とっても着物似合ってるの!」
「プラチナさん、普通のヒトに見えるよ、可愛いね!」
 セシルのお嫁さん三人にそう言われ、プラチナの表情がみるみるうちに明るさを取り戻す。
「ありがとうございます! 皆さんがこんなに素敵な晴れ着を選んでくださったお陰です!」
 そっか、これなら普通に幸せな人間に見えるんだと、プラチナがセシルを見て微笑む。
「ふふ、不安は取り除けたかな? それじゃあ改めて行こうか」
 セシルの言葉に四人が頷き、華やかな笑い声を響かせながら参道を歩く。途中、手水舎で手と口を清める為に立ち寄ると、初めて見るそれに首を傾げる者、目を丸くする者、作法を思い出そうとする者と、様々な反応を見せるお嫁さん達にセシルが笑みを浮かべる。
「作法通りにね?」
「セシル、セシル。さほーって、なぁに?」
 そっとセシルの袖を引っ張って、チシャが小声でそう問いかける。
「決まったやり方……マナーってところかな」
「まなー……やり方分からないから、教えて教えて」
「セシルさん、私もわからないから、教えて欲しいです」
 チシャとプラチナにねだられ、セシルがこうするんだよ、と作法を見せた。
「はぁ、作法、作法ですか。ふむ、そういう順で行うのですね、分かりました」
 メイフィアは一度で飲みこんだのだろう、戸惑うことなくセシルが行った通りに手と口を清めていく。
「えっと……確かこう、覚えてるのであってる……はず……」
 みぃもセシルの手本と覚えていた動きが同じだったようで、なんとか済ませてメイフィアの隣に立った。
「さほーって、難しいんだね……これで合ってるかなぁ?」
「えと、こうやって……こう、かな?」
 チシャとプラチナが初々しいながらも見様見真似で済ませ、セシルがよくできました、と二人を褒める。
「わあ、褒められました!」
「やったね、プラチナさん!」
 プラチナとチシャが向き合ってぴょんと飛び跳ねて喜ぶと、次は参拝だよとセシルが促した。
「さんぱいも、さほーがある?」
「チシャさん鋭いね……! お辞儀をしたり、手を叩いたりするんだよ」
 歩きながら、チシャが言った言葉にみぃが答える。
「作法ばかりですね」
「難しいんです?」
 溜息交じりにメイフィアが言うと、プラチナがセシルを見て首を傾げた。
「ぼくは難しいとは思わないけど、そうだね。でも、ちゃんと教えてあげるから安心して?」
 不安気な顔をしたプラチナをそう宥めていると、いつの間にか参拝所の前に到着していて、メイフィアはそっと看板に書かれた作法を読んで頭へと叩き込んでいく。みぃも看板があることに気が付いたようで、おさらいとばかりに眺めている。
「まずは鈴を鳴らして、お賽銭を入れるんだよ。それから二礼二拍手一礼といってね」
「にれいには……?」
 呪文みたいだと思いながら、形より心掛けが重要なんです! と、プラチナが言うとチシャもうんうんと頷く。
「二回お辞儀をして、二回手を叩いて、お祈りをして、終わったらもう一度手を叩くことを二礼二拍手一礼と言うんだよ」
 後は実践あるのみだとセシルが言うと、丁度順番が回ってきてセシルが綺麗なお手本を見せた。
「大きな鈴、紐でガラガラ鳴らすんだね……!」
「さ、やってごらん」
「この鈴を鳴らすんです?」
 そう言って、プラチナが鈴を鳴らす。がらん、がらん、と良い音がして、プラチナが目を輝かせる。一つ後ろにいるチシャも、狼の耳を押さえて、おっきな音! と、はしゃいでいる。
「わ、思ったより音大きい! もっと鳴らしてみていいですか!」
「また今度ね? 次はお賽銭と二礼二拍手一礼だよ」
 はい! と元気な返事をして、プラチナが言われた通りにやり、手を合わせる。
 ヴェルギリオス様を初め、帝竜の皆さんが骸の海で安らいでいますように……! そう願うと、一礼をしてチシャに譲った。
「ええと、こうやってこう……」
 チシャもたどたどしいながらも、きちんと作法を踏まえて参拝を済ませる。
「次はみぃです! 鈴を鳴らして……と」
 二礼二拍手一礼……と呟きながら、難なく済ませると横にずれ、メイフィアさんの番ですね! と笑う。
「では、失礼して」
 すっと背筋を伸ばしたメイフィアが、初めてとは思えないほど綺麗な所作で参拝を済ませると、チシャやみぃがすごいと褒める。
「さすがだね、メイフィア」
「これくらい、伯爵令嬢としてはできて当然です」
 大人びた、ツンとした態度だけれどその唇は僅かに笑みの形を浮かべていて。
「さ、では邪魔にならないように向こうへ行こうか」
 セシルが先導するように歩き、四人がそれに付いていくように道順通りに進んでいく。
「みんなは、何をお願いしたの? みぃは、みんなと……むぅ?」
 みぃが先程の参拝で願ったことを口にしようとして、そっとセシルの指先で唇を塞がれる。
「願い事は人に言ってはだめなんだよ?」
「お願い事……言ったらだめなの? それじゃ、これ以上は内緒にしようっと!」
 でもでも、皆のお願いが気になるとみぃが笑う。
「私は……いえ、誰にも言わないとのことなので言いませんけど」
「お願い事、いいたくなっちゃうけど、言わないね!」
 メイフィアが口を噤んだその横で、チシャが本当は言いたい願いを心の中だけでそっと零す。今年も、”アイ”にあふれた一年になりますようにー! そう思って、ふふっと笑った。
 少し歩くと、境内に社務所が見えてお守りや絵馬、御神籤などが見えて、物珍し気にプラチナが目を輝かせる。
「セシルさん、あれは何ですか?」
「あれはお守りや絵馬だね、桜の花の形をした御神籤もあるようだよ」
「おみくじ?」
「御神籤、ですか。なんとも馴染みのないものですね、免罪符などではないのですね?」
 どんなものかわからない、と言う三人に、みぃがえっへんと胸を張って説明する。
「おみくじはね、その年の運勢を占うものなんだよ! ええと、ここのは……運勢別になってるみたい!」
 みぃは絶対に恋愛運を引くのだと、楽しそうに言う。
「これで運勢を占うとは、なかなか商売上手なことですね。なにより術者が個別に占うのではなく紙を引くだけとはお手軽で……」
 なるほど、勉強になりますねとメイフィアが頷く。
「一年の運が決まっちゃうの? わぁ、それは大変! がんばっていいのを引かなきゃね!」
「私も、私も引きたいです!」
 はい! と元気よくプラチナが手を上げて、じゃあ五人で引こうかとセシルが笑った。
 桜御神籤を引いて、五人で邪魔にならない場所でそっと開く。
「ぼくは大吉だね」
「ええと、私のはしょうきち……で合ってます?」
 プラチナがセシルに問うと、合っているよと彼が頷く。
「みぃは中吉だよ!」
「私は吉ですね、これっていい結果なんですか?」
「わたしは……だいきち?」
 合ってる? とチシャがセシルを見ると、お揃いだねとセシルが微笑む。
「一般的には、大吉、吉、中吉、小吉、という順番でランクが下がっていくのだけれどね、大吉以外でも内容によっては悪くない結果だったりするんだよ」
 読んでごらん、とセシルが言うと、四人が御神籤を真剣な顔で覗き込む。
「私は仕事運にしたのですが、これでいくと専門性を高めていけば収入が上がる、といった感じですね」
 確かに結果的にはいいですね、とメイフィアが興味深げに頷いた横でみぃが口を開く。
「ええっとね、みぃのは恋愛運で、相手のことを考えて動けば仲良くできる、だって!」
「うーん、わたしのは愛する喜びに満たされる、かな?」
 わぁ、いいなぁ! とみぃがチシャの結果に小さく手を叩いている。
「私は対人運で、歩調を合わせていけば仲良くなる縁あり、です!」
 これって、良い感じですよね? とプラチナが笑う。
「ぼくはね、寛容な愛に満ちる時、傍にいる者を大事にするべし、だね」
 皆のことかな? とセシルが微笑むと、彼の可愛いお嫁さん達が笑みを浮かべて頷いた。
「そういえば、皆さんはセシルさんのお嫁さんなんですよね? 私はどうなんだろう?」
 ふと思い浮かんだ疑問をプラチナが口にすると、みぃが笑顔で言う。
「プラチナさんも、セシルの大事なひとなんでしょう? だったら、お嫁さんでいいんじゃないかなってみぃは思うの!」
「うん! プラチナさんもセシルのお嫁さんだね!」
「いいんじゃないですか? 今更もう一人増えても変わりませんし」
 チシャとメイフィアも同意をみせると、セシルがプラチナの手を取って指先に口付ける。
「ぼくはとっくにそのつもりだったよ? ふふ、きちんとした求婚はまた今度するとしようかな」
 セシルの言葉に、プラチナの頬が淡く色付く。
「さて、御神籤を結んでいこうか」
「おや、結んでいくのですか。なら内容は覚えて行かないといけませんね」
 セシルが結ぶのなら、と全員で枝に結び、セシルが笑みを浮かべて言の葉を紡ぐ。
「今年もいい年になるといいね」
 その言葉に、お嫁さん達四人も笑みを浮かべた。
 そっと、メイフィアだけは今年一年どうなるかはわかりませんが、変わらず爛れた一年になるのでは? と胸の内で思っていたのだけれど、それはそっと溜息と共に心に秘めて。
 旦那様とお嫁様たちのこれからが、どうぞ良きものでありますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ

幽兵さま(f20301)と
🌸人

幽兵さま!こちらでございます!
晴れ着のままぴょんぴょん跳び手をぶんぶん
まあ!幽兵さまは袴姿!
黒髪にとてもよくお似合いでいらっしゃいます!
そいえば少し髪形を変えられましたね
お素敵でいらっしゃいますとも

影朧のお嬢さんを、転生の輪へとお見送りしたのでございます
わたくしも、大切な約束を果たさぬまま絶命した場合は
あのように彷徨ってしまう事もあるのでございましょうか

幽兵さまとのお約束は、今生のうちに果たしておきたく
さしあたってまずは、神社にお参りをし、御神籤を引きましょう
待ち人とは、これからも、ちゃんとお会いできますでしょうか?

幽兵さま…今年もどうぞ宜しくお願い致しますね


花屋敷・幽兵
ベイメリア(f01781)と

おお、何か可愛いのが跳ねてるな。よく揺れとる…晴れ着なのにな(意味深)
待たせたなベイメリア、ヒーローは、遅れて現れる!
俺は決め顔でそう言った。マスクを脱いで爽やか笑顔にさらさらヘアー。
恰好は黒のシンプルな羽織にグレーの袴。イメチェンした俺には黒が似合う…そうだろベイさん。

影朧のお嬢さん…を転生の輪に送ったのか。
それは大変だったな。
俺は後悔しない様に好きに行動しているつもりだ。
ベイメリアも彷徨わせる様な事は無い様にするさ。
おみくじか…俺も引こう。
待ち人か…俺だったりしてなあ、HAHAHA!
それはそうと、今年もよろしくな。
あそこで甘酒でも飲みながら楽しく語らおう。



●待ち人きたる
 花乃子を見送ったあと、ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)はどこか胸がいっぱいになったような気持ちになりながら、神社の入り口横でできょろきょろと視線を彷徨わせていた。
「約束のお時間は……もうすぐですね」
 ちらりと見える時計に目を遣って、またそわそわと辺りを見回し――。
「幽兵さま! こちらでございます!」
 待ち合わせの相手の姿を見つけ、思わずぴょんぴょんと飛び跳ねて手を振った。
「おお、何か可愛いのが跳ねてるな」
 ぴょんぴょん、と跳ねる度に金色の髪が日の光を受けてきらきらと輝き、それに。
「よく揺れとる……晴れ着なのにな」
 何が、とは言及せず、揺れるそれを眩しそうに手を翳しながら見て花屋敷・幽兵(粗忽なダークヒーロー・f20301)が小さく笑った。
「待たせたなベイメリア、ヒーローは、遅れて現れる!」
 なんてな、と爽やかな笑顔で手を振りながら幽兵がベイメリアの前に立つ。
「まあ! 幽兵さまは袴姿! 黒髪にとてもよくお似合いでいらっしゃいます!」
 さらりとした黒髪に、黒のシンプルな羽織と灰色の袴、シンプルながらも際立つ姿にベイメリアが小さく手を叩く。
「イメチェンした俺には黒が似合う……そうだろ、ベイさん」
「そういえば少し髪形を変えられましたね、お素敵でいらっしゃいますとも」
 以前よりも少し伸びた髪を無造作に仕立てた髪型は、幽兵によく似合っている。
「さて、歩きながらベイメリアの話を聞こうかな」
「ええ、参りましょう」
 この神社に来るまでに弱りきった影朧の女の子を猟兵の仲間達と正気に戻したこと、街の人々の不安を取り除いたこと、それから。
「影朧のお嬢さんを、転生の輪へとお見送りしたのでございます」
「影朧のお嬢さん……を転生の輪に送ったのか。それは大変だったな」
 労わるような幽兵の声音に、ベイメリアが緩く首を横に振る。
「ありがとうございます、でもちっとも大変ではなかったのです」
 それはきっと他の仲間達と協力ができたから、とベイメリアが微笑む。
「わたくしも、大切な約束を果たさぬまま絶命した場合は……あのように彷徨ってしまう事もあるのでございましょうか」
 絶対にないとは言えないと、ベイメリアがそっと目を伏せる。
「俺は後悔しない様に好きに行動しているつもりだ。それに、ベイメリアも彷徨わせる様な事は無い様にするさ」
 だから大丈夫だと、幽兵がベイメリアに微笑んだ。
「幽兵さま……ええ、ですからわたくし、幽兵さまとのお約束は、今生のうちに果たしておきたく」
 ふん、とベイメリアが両手で拳を握る。
「さしあたってまずは、神社にお参りをし、御神籤を引きましょう」
「はは、いいな!」
 玉砂利が敷かれた参道を二人並んで歩き、手水舎で手と口を漱ぐとまた人波に任せる様に歩いた。
「お祈りをする時にお作法があるのは、幽兵はご存じでしょうか?」
「ああ、あんまり詳しくはないが……あ、あれだな」
 幽兵が指さしたのは参拝の方法が描かれた看板で、ベイメリアはあちらでございますねと頷く。
 サムライエンパイアで参拝した時に覚えたのだが、やはり毎日行うような作法でないと合っているか自信がなくなるというもの。看板でさっとおさらいをして、参拝へと挑んだ。
「きちんとできていましたでしょうか?」
「大丈夫だと思うぜ?」
 俺はあんまり自信がないけど、祈る気持ちに偽りはないからな! と幽兵が笑った。
 道案内の通りに歩けば、すぐに社務所の前へと出て御神籤を引こうと二人で並ぶ。
「何の運勢を占いましょう……対人運かしら」
「ベイメリアは対人運か? 俺もそうしようかな」
 桜の花を模した御神籤を二人で引いて、そっと境内の端で結果を見る。
「俺は吉だな。助けてくれる人あり、だとさ」
「わたくしは……まあ、大吉でございます! ええと、待ち人来たる……大事な縁となる、です」
 御神籤から顔を上げ、ベイメリアが幽兵を見て笑う。
「待ち人か……俺だったりしてなあ、HAHAHA!」
「……では、待ち人とはこれからも、ちゃんとお会いできますでしょうか?」
 下から窺うようにベイメリアが幽兵を見上げる。
「そりゃあ、もちろん」
 ふっと笑って、幽兵が頷いた。
「それはそうと、ベイメリア」
「はい?」
「今年もよろしくな」
「はい! 幽兵さま……今年もどうぞ宜しくお願い致しますね」
 ふうわりと微笑んだベイメリアに、甘酒でも飲みに行くかと幽兵が誘う。
「あそこの茶屋で楽しく語らうとしよう」
 それこそ、次の約束だって。
 今年は始まったばっかりなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
🌸これからどんな奴とあえるかとかそーゆうの!


おぉー、此処が神社!

アイツも無事転生とかできるようでよかったぜ……
ほんと良かった(うんうん

いつかまた会えたら良いなぁ…

それで…ここは花咲神社っていうのか……なんかめっちゃ桜舞ってる…!

俺様はどうしよっかなぁ

あ、御神籤とかあるんだ、折角だし色々占っていこう!!

何が出るかな~、吉かなぁ、大吉かなぁ……

おぉ、茶屋もあるんだ!折角だしよってこ!
此処団子とかあるんだ!
色々合って気になるな…

あ、甘酒とかももらえんの!?
ならくださいなー!

…この甘酒も美味いな……!神社って色々あって楽しいな…!!!



●縁を引き寄せて
 大きな赤い鳥居を見上げ、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)が口を開く。
「おぉー、此処が神社!」
 でかい、というのが一番最初の感想。それから、この世界特有の年中咲き乱れる幻朧桜と正月ってなんかすげー合うな! だった。
「アイツも無事転生とかできるようでよかったぜ……」
 桜の精の癒やしに送られ、消えていった少女の笑顔は、きっと忘れない。
「いつかまた、会えたら良いなぁ……」
 桜の花弁が零時の鼻先を擽って飛んでいく。
「それで、ここは……はなえみ、花咲神社っていうのか」
 その名の通り、どこもかしこも幻朧桜が咲き誇り、まるで春先のような雰囲気だ。
「めっちゃ桜が舞ってるってだけで、こう……気分が上がるな!」
 うん、いいな! と、すっかり気分がよくなった零時が鳥居をくぐって参道を歩く。
 神社にもお参りにも縁は薄いけれど、折角来たのだからきちんとしていこうかと零時が他の参拝客を真似しつつ、手と口を清めて人の流れに乗って前へと進む。
「人が多いんだな、さすが正月……」
 正月だからというのもあるのだろうけれど、この神社もかなりの人気の場所なんだと零時は思う。だって、どの人も楽しそうな顔をしているのだから。
 そうこうしている内に参拝所までやってきた零時が、これも見様見真似でなんとか恰好を付けて神様へ手を合わす。
 願いは色々あるけれど、大魔法使いになるという夢は自分で叶えるから違うし、じゃあ誰も泣かないように、ううん、あー、皆が幸せになれますように! と、願って零時が目を開ける。
「悪くない願いごとだぜ」
 うん、と満足気に頷いて、また人の流れに沿って歩くとお守りや絵馬、御神籤を授けてくれる社務所の前までやってきた。
「あ、御神籤とかあるんだ、折角だし色々占っていこう!!」
 何運がいいかな、と考えながら列へと並ぶ。
「やっぱ、これからどんな奴と会えるかとかそーゆうの! ええと……対人運? ってやつか?」
 肩の上に乗ったパルが、そうだよと言うようにぴょこんと飛び跳ねた。
 桜を模した御神籤を引いて、どれどれと開きながら端へと避ける。
「何が出るかな~、吉かなぁ、大吉かなぁ……」
 そわそわしながら見ると、吉の文字が見えた。
「悪くないじゃん! えっと……良く申し分のない縁あり、優しい態度で接すると吉、か」
 良い縁がある、という言葉に零時の唇に笑みが浮かぶ。
「よし!」
 折角だからこの御神籤は持って帰ろうとポケットに入れて、零時が境内から参道へと向かう。
「へへ、幸先いいなぁ……おっ茶屋があるじゃん! 折角だし寄ってこ!」
 桜色の旗を掲げた茶屋に寄って、団子にあんみつ、わらび餅と悩んだけれど、最初に目を惹かれた三色団子と甘酒を注文する。
「この団子も、甘酒も美味いな……!」
 桜色をした桜甘酒、ほんのりとした塩気が甘みを引き立たせていて美味しいし、しっかりと体が温まるようで。
「神社って色々あって楽しいな……!」
 今度来るときは、誰か連れてきてやろう!
 そう思いながら、零時は神社でのひと時を楽しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千家・菊里
【福3】🌸人
どうか二人仲良く幸いなる転生を――
清史郎さんの桜に祈り馳せ見送れば
後は花咲む一時を謳歌へ

(先ずは確り参拝し)
俺は“今年も皆で沢山美味しい物や楽しい事を満喫出来ます様に”と――其々叶うと良いですね
いや、寧ろ力合わせて叶えて参りましょうか
――伊織の夢ばかりはあれですが
(清史郎さんの笑顔につられて笑いつつ
自分も籤を一片頂き)

何が出ても泣いちゃ駄目ですよ、伊織
大凶なら大凶で、それ以上のドン底はないという考え方もありますし
(結果お任せ
何であれ楽しく解釈する気楽者)

(今度こそ桜甘酒頂きほくほく)
ふふ
本当に幸せ極まりない味わいで
ええ、宜しくお願い致します
今日の様に、今年も福と幸が咲き揃う日々を


呉羽・伊織
【福3】🌸人
(本当のヱスコヲト役――正一や桜の導きの下、幸いな道行祈り)

(少し考え参拝後)
俺は誓うってトコかな?
…いや、オレも女の子に花咲み向けてもらえますよーに!とかでは決して!
(本当は
友の願いが成就しますよう
――その力になれるよう、努めます
だったかは神のみぞ知る)
兎も角!ああ、きっと叶えよ…ってホント違うし~!

(結局籤は対人全般を――恋愛に絞り凶が出るのを恐れた訳ではない
多分)
誰が泣くか!不運には慣れてるし…!
(結果お任せ
ノリ良く一喜一憂)

で、早速一つ叶えたな?
(美味しい甘酒を手に楽しく笑い)
此程桜に祝された幸先だ
清史郎の祈りも間違いなく届くだろーさ
この調子でまた花咲く一年を、ヨロシク!


筧・清史郎
【福3】🌸人

俺もそっと掌に満開桜咲かせ花乃子達を見送ってから
二人と花笑神社へ

まずは作法通り参拝を
この1年もまた、楽しく過ごせるように
そして、様々な世界に赴いてくれる皆の無事を祈ろう
あとは…縁あるあの人が花乃子の様に転生を果たせるよう、と
ふふ、甘味などの美味な物も沢山楽しみたい
…少々欲張りすぎか?
ああ、ならば自分達の手で叶えようか
伊織は今年こそ、花のある年になると良いな(全く悪気のない微笑み

桜御神籤も引こう
ほう…成程
(結果お任せ、どんな結果でもにこにこ全然気にしない)

(菊里と共にほくほく、お楽しみの桜甘酒手に)
ふふ、早速祈りが届いたな
楽しく美味な新年に笑み咲かせつつ
今年もよろしく頼む、と二人へ



●花咲人咲
 影朧を転生の道へと送る、桜が舞う。
「桜か、どれ」
 手向けの花だと微笑んで、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)がそっと掌に満開の桜を咲かせ、息を吹きかける。それはふわりと風に乗って、確かに消えゆく花乃子へと届いた。
「どうか二人仲良く幸いなる転生を――」
 清史郎の桜にのせ、千家・菊里(隠逸花・f02716)が祈りの言葉を紡ぐ。その隣で、呉羽・伊織(翳・f03578)は垣間見えた男の手に、花乃子の元に本当のヱスコヲト役が来たのだと悟り、花乃子の幸いな道行きを祈った。
 桜吹雪が止んで少しすると、すっかりお正月の賑わいを見せる元の神社の鳥居前となって、人々が楽し気に行き来するのが見える。
「俺達も行くとするか」
「花乃子と正一の分まで参拝ってとこだな」
「ええ、行きましょうか」
 鳥居をくぐる前に軽く一礼をして、三人が参道へと入る。白い玉砂利を踏みしめて、人の流れに身を任せる様に進めば手水舎が見えた。
「ここにも桜が沢山咲いているのですね」
「花咲という言葉は伊達じゃないってことか」
「美しいな」
 手水舎の水面にも幾つか桜が浮いていて、風流だなと清史郎が笑う。
 作法通りに手水を済ませ、また人の波に乗って歩く。ゆったりとした流れは散歩に適したような速度で、皆急ぐでもなく笑顔で歩いているのが見えた。
「正月だな……」
 思わず、といった風にぽつりと呟いた伊織に、菊里が笑う。
「ええ、お正月ですよ」
「そうだな、正月だ」
 清史郎も笑みを浮かべて、伊織を見遣った。
「いや、ほら。誰も急いでないから、つい」
 正月なのは分かってるんだからな? と、伊織がついつい要らぬ言い訳をしてしまうのを、菊里がはいはいと聞いている。そうこうしている内に三人は参拝所の前まで辿り着き、階段になっている部分を上っていた。
「良い音だな」
 がらん、がらん、と鳴る大きな鈴に、清史郎が目を細める。
「ええ、空気が澄み渡るようです」
「あんまり聞く音でもないからな」
 鈴の無い神社もあるし、何よりお参りにこなければ聞く音でもない。からん、がらん、と楽し気に鳴っていたり、厳かに聞こえたりは、きっと鳴らす人の気持ちが響いているからだろう。
「ん、俺の番だ」
 清史郎がすっと背筋を正し、鈴を鳴らす。それからお賽銭を入れ、深いお辞儀を二回行い合わせた手を二回打つ。
 この一年もまた楽しく過ごせるように、様々な世界へ赴いてくれる皆の無事を祈る。それから、花乃子の迎えに来た彼が花乃子のように転生を果たせるように、ああ、甘味などの美味なる物も沢山楽しみたい……様々願い、欲張りすぎただろうかと頭を上げ、お辞儀をして次の者へ譲る為に横に逸れた。
 続いて菊里と伊織も同じように正しい作法に則って、祈りを捧げる。
 菊里が今年も皆で沢山美味しい物や楽しい事を満喫出来ます様に、と願い頭を上げると、同じようなタイミングで伊織も一礼をして清史郎の元へ向かった。
「無事に参拝が済みましたね」
 一年を始めるにあたって、どのような願いを? と菊里が言う。
「オレ? オレは願うというか誓うってトコかな? ……何その目! オレも女の子に花咲み向けてもらえますよーに! とかでは決して!」
「伊織……あなたって人は」
「違うって!」
「伊織は今年こそ、花のある年になると良いな」
「清史郎まで!?」
 邪気のない微笑みを向けられて、伊織が溜息と共にうなだれる。
 ――友の願いが成就しますよう、その力になれるよう、努めます、なんて。
 本当のことは、神様しか知らないのだ。
「俺は色々頼んでしまったのだが……甘味のことまで頼んだのは、願い過ぎたかと思っているところだな」
「ふふ、清史郎さんもですか? 俺も美味しいものを、と願いましたよ」
「甘味魔人どもめ……」
 小さいく呟いた伊織の声に、何か言いましたか? と菊里の声が飛ぶ。
「イイエなんにも! でも甘味なら願わなくても皆で色んなところに行けば食べられるんじゃないか?」
 即答した伊織が、だろ? と笑う。
「確かに、癪ではありますが伊織の言う通りですね。皆で力合わせて叶えて参りましょうか」
「ああ、そうだな、それは良い案だ。自分達の手で叶えようか」
 清史郎が伊織に向いて笑みを浮かべ、頷く。
「ええ、伊織の夢ばかりはあれですが」
「俺は手伝えたら手伝うからな?」
「ってホント違うし~!」
 賑やかな声を響かせて、三人が社務所の方へと向かう。参拝所と同じように賑わうそこは、お守りや絵馬を求める人の声や、御神籤の結果に一喜一憂する人々の声が響いていた。
「伊織、菊里、桜御神籤というのがあるようだ」
「どれどれ? へぇ、桜の形をしてるんだな」
「可愛らしい御神籤ですね、引きますか?」
 菊里の言葉に清史郎が引こうと頷き、三人で御神籤の列へと並ぶ。
「何運を占うか、少々迷ってしまうな」
「伊織は恋愛運でしょう? 何が出ても泣いちゃ駄目ですよ、大凶なら大凶で、それ以上のドン底はないという考え方もありますし」
「なんで大凶を引く前提で喋ってるんだ?? それに恋愛運とは限らないだろ! そもそも誰が泣くか、不運にはなれてるし……!」
 それはそれで切ない話なのだが。
「俺は対人運にするとしようか」
 口元を押さえて笑う菊里と、それに噛みつく伊織を他所に真剣にどれを引くか考えていた清史郎が笑顔でそう言うと、二人も同じものにすることに決めて、それぞれ籤を引いた。
 手の中にころんとした桜御神籤をのせ、三人が邪魔にならぬ場所で花を開く。
「皆対人運か、ええと俺は吉だな。人に優しく接すればそれ以上の何かが手に入る時、ほう……成程な」
「俺はえーっと、中吉だな。意に添わぬ縁も徐々に改善され上向く時、広く受け入れるべし。だってさ」
「俺は大吉ですね。人が付いてくる時、積極的に新しい出会いを求めても吉。ふふ、今年は良い出会いがあるかもしれませんね」
 内容を読み解くと、成程と思うこともあって三人が顔を上げる。
「菊里は大吉か、新年早々めでたいな」
「清史郎さんも吉ですから、幸先が良いでしょう」
「三人とも悪くない結果でよかったな!」
 恋愛運にしなくて良かったな、いやいや凶が出ると思っているわけじゃないけど、と胸の内で色々思いつつ、ほんと、大凶じゃなくて良かった、と胸を撫で下ろしつつ伊織が笑う。
「そうだな、三人とも幸先が良い、と言うことだ。ところで、俺は甘酒が飲みたいのだが」
 境内から来た道を視線で辿り、桜甘酒の旗に吸い寄せられるように清史郎の視線が向いている。
「ええ、御御籤も引きましたし、頂きに参りましょうか」
 御神籤はそれぞれの胸に仕舞い、桜甘酒を貰いに歩いた。
「で、早速一つ叶えたな?」
 桜甘酒の入った桜模様の可愛らしい紙コップを片手に、伊織が笑う。
「ああ、早速祈りが届いたな」
「ふふ、本当に幸せ極まりない味わいで……」
 菊里もその味に目を綻ばせ、清史郎と美味しいですねと笑い合っている。
「此程桜に祝された幸先だ、この一年清史郎の祈りも間違いなく届くだろーさ。この調子でまた花咲く一年を、ヨロシク!」
「そうだと良いな。ああ、今年もよろしく頼む」
「ええ、宜しくお願い致します」
 改めて、今年一年をまた共に過ごそうと三人が桜甘酒を手に微笑む。
 どうか、今日というこの善き日の様に、今年も福と幸が咲き揃う日々を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
【鏑木邸5】◎/🌸仕

去っていった方の幸福と満足のかけらを余韻に、
晴れ晴れとした気持ちで鏑木さん・ロカジさんとも合流。
いえ、この荷物は仕事とは…(目を逸らす)

先にご参拝しましょう!
こちらの神様にご挨拶と、
花乃子さまのため場所を貸してくださったことに感謝を捧げます。
神と人、双方のために開かれた神社の明るい清浄さ。
お約束の地がよい場所でよかった

もちろん桜甘酒も飲みます
つぶつぶしたやつ(麹)が好きです俺は。
ところで一杯目というのはまことでしょうか

そうそう。おみくじは持ち帰ってもよいそうですよ。
悪い結果の時は、枝に結びつけるといいと…
(良い結果なら持ち帰って栞に。凶の時はお頼みして結いてもらいます)


夕時雨・沙羅羅
【鏑木邸5】🌸人


風に乗る桜の花弁を眺める
向かう先には待ち合わせの人
うん、先に来てた
見て、良いもの買った
誤魔化す二人を気にせず福袋自慢
良いものは主張する、そして皆で分ける
後で

さんぱい
なるほど、ここに王様的なのがいるのか
それはあいさつだいじ
見よう見まねでたんたん、いちれい
えま、おみくじ…色々あるな
知らないものばかり、たのしい

桜のお酒?
良い香り、ほかほか
酔える酒なら、あっちかな
僕も呑めるが、あまいのが良い
うん、おいし

良い悪いがあるのだっけ、おみくじ
よくても、わるくても、持ち帰りたいな
かわいい
良い結果のひとには、おめでとうを
悪い結果なら、進んで楽しくなることをしたら良い
そこの茶屋に入るとか


ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸5】◎🌸仕
転生を見届けた後
荷物を片手に待ち合わせの花咲神社へ

あ!もうお二人共着いていらしてますね
待ってる間はお薬のお話などなさっていたのでしょうか?
仄かな酒精の香りは気のせいでしょう

お待たせいたしました。別に買い物に夢中になっていた訳では(斜め上を見る)
兎に角あけましておめでとうございます

作法に倣って参拝を
御神籤は枝に結ぶもの。わたしは識っています
エマ?絵のお馬?それは識らないです
ふむ、ベッピンさん

雲珠さま、夕時雨さま!桜甘酒はあちらです!
美味しいものは気になる訳で、わ、桜の香り!
おいしいですねえ

そういえば皆さま、御神籤はいかがでした?わたしはですねえ──
はい!高いとこ結んで下さい!


鏑木・寥
【鏑木邸5】🌸仕


お疲れ、若者達
無事終われたかい?買い物も楽しかったみたいで良かったな
別に、仕事が終わったら好きにやりゃいいじゃねえか
そうだな、こっちは大人の話をぼちぼち

王様とはまた違うんだが……いいか
こう言うのは礼儀さえ分かってりゃいい
絵馬の絵はでも、どれも同じじゃないか?
個体差とかあったか?覗く違いは分からない

桜の花弁を浮かべた酒はこっちでは割とあるぞ
あっちは甘酒で……大人のはあっちね
俺はこっちの方が好きかもしれん
いや今日はこれが一杯目だが

おみくじは皆が引くなら倣おうか
別にどんな結果が出ても気にゃしねえんだが
悪くても良くても、多分木に括っていく
他に括るやつは?上の方空いてるぞ、届くか?


ロカジ・ミナイ
【鏑木邸5】🌸恋


おお、きたきた、仕事熱心な若人たちが
大荷物だしきっと大変だったんだろう
ああ、そりゃまごう事なき福袋だね
お疲れさん……ん?僕らは何して待ってたかって?
そりゃあ真面目な話を真面目にさ
ねぇ?廖さんや

ヨシュカも雲珠くんも行儀がいいねぇ
僕も倣って参拝する
絵馬のことは僕が教えてあげよう
一番別嬪のお馬さんを選ぶといいよ

おやおや、次は甘酒かい?つぶつぶかい?いいね
桜甘酒があるなら桜酒なんてのもあったりしないのかね
さっきの酒も良かったがこっちのも……
いや今日の一杯目だけど
ねぇ?廖さんや

いい気分で恋占いすりゃ
何吉だろうがいい気分で懐にしまうが
…凶は辛いなぁ…括って無い無いしちゃおうねぇ



●新年の喜びを共に
 天地を埋め尽くさんばかりに舞った桜が影朧と共に消えていくのを見送って、ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)と夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)は雨野・雲珠(慚愧・f22865)へと駆け寄った。
「お疲れさまでした、雲珠さま」
 預かっていた福袋を差し出せば、雲珠がありがとうございますと受け取る。頭の枝に咲いていた白い桜も、今はすっかり散って背の箱宮にその名残を残すのみ。
「桜、きれいだった」
 薄桜色、白色の入り混じった桜吹雪は夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)の心に、灯火のようなほんのりとした温かさを残していた。
「それでは、鏑木さんとロカジさんのところへ行きましょう!」
 去っていった彼女の幸福な呟きと満足そうな笑みの欠片を胸に仕舞って、晴れ晴れとした気持ちで雲珠がそう言葉を紡ぐ。
「そうでした、どこにいらっしゃるか……」
 ヨシュカが神社の入り口から視線を赤い大きな鳥居へと向ける。
「あ! もうお二人共着いていらしてますね」
 鳥居の向こう側の端に、いつもの着物より少し良い物と袴を身に着けた鏑木・寥(しあわせの売人・f22508)と、和と洋を上手く組み合わせた正月らしく洒落た格好をしたロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)が見えて、ヨシュカが指をさす。
「ほんとだ」
 ふわり、風に舞う桜の花弁の先に二人が見えて、沙羅羅も頷く。三人で並び、二人の元へ急ぐと向こうも気が付いたようでこちらに手を振ってくれた。
「おお、きたきた、仕事熱心な若人たちが」
「お疲れ、若者達。無事終われたかい?」
 ロカジと寥がそう言うと、ぱぁっと三人の顔が明るくなる。
「はい、御勤めは無事に!」
「お待たせいたしました」
「いやいや、大荷物だしきっと大変だったんだろう」
 そう言われ、ぴかぴかの袋を提げた雲珠がそっと目を逸らし、ヨシュカが斜め上を見つつ答える。
「いえ、この荷物は仕事とは……」
「別に買い物に夢中になっていた訳では」
 もご、ともごついた二人の横で、曇りなき眼をした沙羅羅が手に持っていた福袋を見せた。
「見て、良いもの買った」
 中にはお茶のお菓子の詰め合わせ、なんとも美味しそうな洋菓子から和菓子までが見えて、ロカジがははぁと笑ってそりゃまごう事なき福袋だねと頷いた。
「あとで分ける」
 帰ったら、と満足気に沙羅羅が福袋の口を閉じる。
「買い物も楽しかったみたいで良かったな。別に、仕事が終わったら好きにやりゃいいじゃねえか」
 こっちなど、仕事は若い者に任せて好きにしていたのだし。とは、口には出さずに寥が言う。
「そう言って頂けると、こちらも気が楽です」
「お二人は待ってる間はお薬のお話などなさっていたのでしょうか?」
 そう言われ、寥とロカジがそっと視線を合わす。
「そりゃあ真面目な話を真面目にさ。ねぇ? 寥さんや」
「そうだな、こっちは大人の話をぼちぼち」
 ほんのりとお二人の血色が良いのは気のせいだろうか、と雲珠が思う。
「そうですか、では仄かな酒精の香りは気のせいでしょう」
 ええ、気のせいと言うことにしておきましょうとヨシュカが笑って、軽く咳払いをして姿勢を正す。
「兎に角、あけましておめでとうございます」
「あ、そうでした。明けましておめでとうございます!」
「おめでとー」
 三人三様、それぞれの新年の挨拶に、年長者二人組もきっちりと挨拶を返し、笑みを浮かべた。
「では、先にご参拝しましょう!」
 自分の神様ではないけれど、神社に来たのならばやはり参拝は欠かせないと雲珠が瞳を輝かす。
「さんぱい」
 またしても聞きなれない言葉に、沙羅羅が首を傾げる。
「参拝というのはですね……こちらの神社に住まわれる神様にご挨拶をして、日々の感謝や願い事の祈願などをすること、でしょうか」
 雲珠が簡単に説明すると、沙羅羅がなるほど、と神社の奥を見る。
「ここに王様的なのがいるのか、それはあいさつだいじ」
「王様とはまた違うんだが……いいか、こういうのは礼儀さえ分かってりゃいい」
「そうそう、大事なのは気持ちってね」
 作法も大事だけれど、気持ちが一番大事だとロカジが笑った。
 さても賑やかなご一行様が参道を歩き、手水舎で手と口を清める。こちらの手順も、雲珠が確りと説明してくれて沙羅羅とヨシュカだけではなく、大人二人組も成程と呟くほど。
「神様の前に行くので、身を清めるという意味があるんですよ」
「えらい人の前にいくときは、きれいにしていくのとおなじ」
 作法こそ違えど、そこは変わらない。分かり易いと沙羅羅が尾鰭を揺らす。
「この先が本殿、神様が住んでいる社です」
 ツアーコンダクターも斯くやとばかりに、雲珠が水を得た魚のように案内を務める。とはいえ、彼もこの神社に来るのは初めてなのだけれど、大抵本殿は最奥にあるものだし、道案内の看板も幾つか立っているのが見えたので。
「お参りにも作法があるんですよ」
「さほう」
「あ、わたしは識っています」
 ヨシュカが心なしか得意げに、二礼二拍手一礼です、と胸を張る。
「そうそう、二回お辞儀して二回手を叩いて、お祈りしてから最後にもう一回頭を下げるのさ」
「鈴を鳴らすのと、お賽銭を投げ入れるのもあるぞ」
 ロカジの言葉に、寥がそう付け足す。
「すず……はくしゅ……」
「あ、俺が最初にやって見せますから、シャララさんはそれを見て真似てくだされば!」
「わかった、そうする」
 見様見真似なら、なんとかなるはずだといつの間にか目の前にあった参拝所を見て、沙羅羅がこくりと頷いた。
「では、僭越ながらまずは俺が」
 雲珠が軽く一礼をしてからお賽銭箱の真ん中よりも少し外した場所に立ち、鈴を鳴らしてお賽銭を放り込む。
「いいおと」
 そして深いお辞儀を二回すると、手を二回打ち鳴らして手を合わせ、祈る。
 花乃子さまのために、場所を貸してくださってありがとうございました。花乃子さまのお約束の地がこの場所でよかったですと、雲珠は神と人、双方の為に開かれた神社の明るい清浄さを感じ取りながら礼を述べた。
 それから、己の願いを少しだけ込めて祈り、目を開けると再びお辞儀をしてその場を離れた。
「さあ、シャララさん」
 促され、沙羅羅が見様見真似で同じ動きをする。たんたん、と鳴らされる手はどこかリズミカルで、美しい音を響かせる。
 願い事はよくわからなかったけれど、いつか君に逢えますように、とだけ祈って雲珠の隣へと移動した。
 続いてヨシュカが参拝を済ませ、これもまたお手本のような所作で雲珠が小さく拍手をするほど。
「ヨシュカも雲珠くんも行儀がいいねぇ、ここは大人として僕も倣っていくとするかね」
 ロカジが参拝をするその横で、寥も時短だとばかりに一緒に賽銭を放り投げて祈る。
「さすが、お二人とも様になっていらっしゃる……!」
「大人ということなのですね」
「おとな、さんぱいが上手」
 端でひそひそと話す三人に、何を言ってるんだと寥が眉根を寄せると、ロカジがそうそう、大人だからねぇ! と笑って歩き出した。
「それにしても、シャララさんの参拝は初めてとは思えないほど綺麗でした! 鈴を鳴らすのも、手を鳴らすのも、どこかリズミカルで……!」
「ええ、さすがお歌が上手な夕時雨さまです!」
 褒められて、そう? と沙羅羅が微笑む。
「ねぇ、寥さんや。リズミカルな二拍手ってなんだろうね」
「知らん、俺に聞くな」
 リズミカルな二拍手……とロカジが呟くのを無視し、寥が先を歩いた。
「こちらは社務所です! お守りや絵馬、御神籤などを授ける場所なんですよ」
「御神籤! 御神籤は枝に結ぶもの。わたしは識っています」
「えま、おみくじ……色々あるな」
 知らない物ばかりで、楽しいと沙羅羅があちこちを見渡している。
「エマ? 絵のお馬? それは識らないです」
「絵馬のことは僕が教えてあげよう、一番別嬪のお馬さんを選ぶといいよ」
「べっぴん」
「綺麗ってことだよ」
「ふむ、ベッピンさん」
 覚えましたとヨシュカが言うと、沙羅羅も頷く。
「絵馬の絵はでも、どれも同じじゃないか? 個体差とかあったか?」
 そう言われ、寥が絵馬に目を遣るけれど、どれも同じように見えると首を振った。
「やだねぇ、野暮天かい? フィーリングで一番の別嬪さんを選ぶのさ」
 それは多分、どれも同じということだなと早々に絵馬を見比べるのを止めて寥が御神籤に目を遣る。
「ここのおみくじは桜の花の形をしているのか」
「へぇ、風流だね」
 人気があるようで、御神籤の列にはそれなりの人が並んでいる。
「まずはおみくじでしょうか」
「いいですね、引きましょう!」
「良い悪いがあるのだっけ、おみくじ。ひいてみたい」
「それなら俺も引くとするか」
「いいね、今年最初の運試しだね」
 列に並んで御神籤の看板を見上げれば、それぞれの運勢ごとになっているようで。
「俺は仕事運にします」
「わたしも仕事運で」
「……たいじんうん」
「俺も仕事運だな」
「色気がないねぇ、僕は恋愛運だよ」
 それぞれ引く御神籤を決め、順番になると一つずつ桜の花を引いていく。全員引くと、少し離れた場所で籤の結果を見ようと円になって桜を開いた。
「あっ大吉です!」
「わたしもです、お揃いですね雲珠さま!」
 きゃっきゃとはしゃぐ二人に笑みを浮かべつつ、沙羅羅が口を開く。
「きち、だって」
「僕のはどうだろうね、っと吉だよ」
 おそろい、と言う沙羅羅にロカジが笑って頷く。
「……末吉だな」
 この中では一番悪いが、別に内容が悪いというわけでもない。
 雲珠のは、利あり、売るに良し。
 ヨシュカのは、待ち人来たる、良い縁に恵まれる。
 沙羅羅のは、身近な人との交友で縁が開ける。
 ロカジのは、寛容な心で相手を包み込むと吉、楽しい関係を築ける。
 寥のは、過去の失敗に学ぶ時、そうすればこれまでの積み重ねが物を言う。
「皆さん色々な結果が」
「確かに悪い内容ではないですね」
 教訓とでも言うのだろうか、悪い結果にならぬよう導いてくれるような、そんな事が書き連ねられている。
「持ち帰っても、いい?」
「ええ、おみくじは持ち帰ってもよいそうですよ。悪い結果の時は、枝に結びつけるといいと……」
 それなら持って帰ると沙羅羅が福袋の中へと桜を仕舞う。
「僕も持ち帰るとするかな」
「俺は栞にしたいと思います!」
「俺は悪くても良くても括っていくが、他に括るやつは?」
 そう言いながら、既に寥は枝の先に桜色を結び付けている。
「はい! わたしも結んでいきます」
「大吉なのに、いいのか?」
「内容は覚えましたから」
 そう言うヨシュカから御神籤を受け取って、寥が何処へ結ぶかと問い掛ける。
「何処がいい、上の方空いてるぞ」
「高いところに結んで下さい!」
 希望通りに御神籤を結ぶと、ヨシュカがありがとうございますと頭を下げた。
「これくらい大したことじゃない」
 そう言って、さて戻るかと寥が参道へ向かおうと歩き出す。少し歩くと、桜色の旗が揺れているのを見つけてヨシュカが指をさした。
「雲珠さま、夕時雨さま! あちら、桜甘酒です!」
「桜のお酒?」
「あっ、飲みたいと思っていたんです!」
 わぁ、と三人がそちらへ寄ると、寥とロカジも歩み寄る。
「折角です、鏑木さんとロカジさんも飲んでいきませんか?」
「おやおや、次は甘酒かい? つぶつぶかい?」
 つぶつぶです! と目を輝かせて雲珠が答える。
「桜甘酒があるのなら、桜酒なんてのもあったりしないのかね?」
「桜の花弁を浮かべた酒はこっちでは割とあるぞ」
 どれ、と寥が店員に問えば、良い桜の日本酒がありますよと返事があった。
「よし、あっちは甘酒で……大人はこっちだな」
「良いね、最高だね」
 沙羅羅はどうする、と問われ、酔える酒も吞めるけれど、呑むならあまいのが良いと沙羅羅が答える。
 桜甘酒を紙コップに三つ、桜酒を二つ。それぞれが持って、口を付ける。
「うん、おいし」
「美味しい、美味しいです……! やはりつぶつぶ……!」
 麹のつぶつぶを味わって、雲珠がひとつ、ふたつと枝に桜を咲かす。
「わ、桜の香りがします! おいしいですねえ」
 甘酒に舌鼓を打つ三人を眺めながら、寥がロカジと日本酒を口に含む。
「む、さっきの酒も良かったがこっちのも……」
「ああ、俺はこっちの方が好きかもしれん」
 あの酒も旨かったがこちらの方が……などと話していると、視線が突き刺さるのを感じて寥とロカジが三人を見る。
「どうした?」
「いえ、そちらが一杯目というのはまことでしょうか、と思って」
「いや今日の一杯目だけど。ねぇ? 寥さんや」
「ああ、今日はこれが一杯目だが」
 しれっと答える大人二人に、雲珠がそう言うことにしておいて差し上げます、と甘酒に口を付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠・小夜
🌸人

袁(f31450)と
目の露出NG
自分が幼馴染本人である事は絶対に秘密

花乃子さん、良かったね
袁、探している人いるんだ
どんな人なのか、後で聞かせてよ
……探す手伝いくらいなら、してあげてもいいかと思っただけ

お参り?まあ、いいけど
だったら、桜御神籤も引いてみる
密かに、袁の……ううん
大好きなつるちゃんの幸せを祈った後、桜御神籤を確認

対人関係というよりは
いつか、昔の様に『つるちゃん』って呼べる日が来るかなって
もし本当に、そんな日が来たら嬉しいけれど……
良い結果でも悪い結果でも、大人しく受け止める

袁、勝手に見ないで
はあ……疲れたから、桜甘酒を飲んで帰ろうかな
袁にも一口あげる、それくらいなら飲めるでしょ


袁・鶴
隠ちゃんf31450と
🌸人


迎えに来た相手と天へ向かう花乃子を軽く手を振り見送る
俺も早く迎えに行きたいんだけど…何処に居るのかなあ…
幼い頃、獄卒に無理やり入れられた際生き別れた幼馴染の女の子を思い出し溜息を漏らすも、隠ちゃんの言葉には笑みを
ほんと?目が綺麗なちっちゃな…。…あ、でも俺と同い年だから小さくはないかな…?とそう声を投げつつお参りへ

お参りは勿論、幼馴染のあの子に会える様にお願いを
お御籤も真っ先に見るのは人運の所
結果が良ければ上機嫌
悪ければ落ち込みつつ隠ちゃんはどうだった?とお御籤を覗き込んでみたり
甘酒は大人だねと揶揄いながら一口貰うよ
まあ、偶には神様にお願いっていうのも、いいかもね?



●密か事
 前が見えなくなるほどの桜吹雪の中、花乃子に向かって差し出された手をしっかりと繋いで消えゆく彼女に、袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)が軽く手を振る。
 それが花乃子から見えていても、見えていなくても鶴にとってはどちらでも良かった。
「花乃子さん、良かったね」
 ぽつりと零された隠・小夜(怪異憑き・f31451)の声に、うんと鶴が笑みを浮かべる。
「俺も早く迎えに行きたいんだけど……何処に居るのかなあ……」
 幼い頃、処刑か従属を迫られ、結局獄卒に無理やり入れられた、あの日。生き別れになってしまった幼馴染の女の子を、ずっとずっと迎えに行きたいと願っていることを思い出して、思わず溜息交じりに言葉を零す。
「袁、探している人いるんだ? どんな人なのか、後で聞かせてよ」
 小さな呟きを拾ってくれた小夜に、鶴が目を瞬かせて彼を見つめ返す。
「別に…………探す手伝いくらいなら、してあげてもいいかと思っただけ」
「ありがとう、嬉しいよ。目が綺麗な、ちっちゃな……あ、でも俺と同い年だから小さくはないかな……?」
 目を見れば、きっとわかるんだけどな。そう鶴が笑いながら、お参りに行こうかと小夜を誘った。
「お参り? まあ、いいけど」
「よし、じゃあ行こうか」
 二人並んで鳥居をくぐり、参道を真っすぐに進む。人は多かったけれど、不思議と嫌な気持になるようなものではなく、手水舎で手と口を清めて先を歩いた。
「隠ちゃんは何を願うの?」
「袁、知らないようだから教えてあげるんだけど」
「ん?」
 何気なく鶴が話題にしたそれに、小夜が静かなトーンで答える。
「願い事って、人に言うと効果がなくなるらしいよ」
「それは信用してない人以外にじゃなかったっけ」
 知らないよ、と素っ気なく答えたけれど、信用されているのだろうか、と小夜がちらりと鶴を見遣る。
「どうしたの? もうすぐ着くよ」
「わかってる」
 わかっているのかいないのか、さっぱり読めない鶴の視線を避けて、小夜が前を向いた。
 参拝の作法に則って、まずは二礼二拍手をして二人で祈る。
 祈る内容は、誰にも秘密。そう思いながら、小夜は心の中で願う。
 袁の……ううん、大好きなつるちゃんの幸せを。
 鶴の願いはただ一つだけ。
 幼馴染のあの子に会える様に、ただそれだけ。
 顔を上げ、一礼をして二人で横道へと歩く。
 探している幼馴染の女の子が、自分だと知ったら彼はどんな反応をするだろうか。期待もあるけれど、怖いと思う気持ちもある。何せ、彼は幼馴染を女の子だと思っているし、自分はこうやって黙ったまま彼の隣にいるのだから。
「隠ちゃん、御神籤も引こうよ」
「御神籤? いいよ」
 列に並んで看板を見ると、様々な運勢が選べるという桜の形をした御神籤で、どれにしようかと目が迷ったけれど二人とも対人運を選んで小さな桜を引いた。
 手の中の桜を開く為に、列の邪魔にならない場所へと二人で移動してから、それぞれが御神籤の中身を確認する。
「どれどれ……やった、大吉だよ隠ちゃん」
「良かったね」
 ぱぁっと表情を明るくした鶴に、小夜が頷く。
「何々、ええと……懐かしき縁はすぐ近くにあり、ただ受け入れるべし、かぁ。見つかるって事かな」
 そうだと良いな、と笑う鶴をちらりと見て、小夜が自分の御神籤に視線を落とす。
 小吉、他者に主導権あり、されど己が道を迷わぬように進めば、善き方向に向かう。
 なるほど、と小夜は思う。対人関係というよりは、いつか、昔のように――『つるちゃん』と、そう呼べる日が来るかなと願って引いた結果だ。
 もしかしたら、そんな日が来るかもしれないと思えるような、そんな。
「どうしたの、隠ちゃん。結果はどうだった?」
 黙ったままの小夜の御神籤を覗き込むように、鶴が顔を寄せる。
「袁、勝手に見ないで」
「だって隠ちゃん、何とも言えない顔をしてたから」
「何でもない、結果は小吉だった。悪くない内容だったけどね」
 そう言うと、御神籤の結果を読んでいただけかと勝手に解釈し、鶴が御神籤が沢山結ばれている枝を指さす。
「気になるなら、結んでいったらどうかな?」
「……いや、いいよ。これはこれで、本当に悪くなかったから」
 そう言って、元の形に戻した桜を小夜が懐へと仕舞う。
「そっか。俺も持って帰ろう」
 何せ、あの子と会えるかもしれないご利益のある御神籤だと、鶴も大事そうに御神籤を仕舞った。
「はあ……疲れたから、桜甘酒を飲んで帰ろうかな」
「甘酒とは、中々に大人だね」
 その揶揄う様な言葉に一瞥を返し、小夜が桜甘酒を貰い受けて一口飲む。
「袁、馬鹿にしたものじゃないよ、これ」
 美味しい、と小さく呟いて紙コップを鶴へと向ける。
「袁にも一口あげる、それくらいなら飲めるでしょ」
「そんなに? じゃあ、一口貰うよ」
 そう言って一口飲んで、その温かさに鶴が微笑んだ。
「本当だ、隠ちゃんの言う通りだね」
 ああ、どうか全てが詳らかになる日が来ても、その笑みが変わることが無いように。
 そうひっそりと願った小夜の隣で、鶴が本殿を振り向いて言う。
「まあ、偶には神様にお願いっていうのも、いいかもね?」
「……そうだね」
 本当に、と頷いて、小夜は甘酒の紙コップを小さく傾けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月01日


挿絵イラスト