どうして街がこんなに賑わっているのだろうか、誰かに聞いてみようかと、綺麗な晴れ着を着た女性に声を掛けるけれど、誰もが視線を合わせないようにして通りすぎていく。
そんなに忙しいのかしら、そう、それなら仕方ないわねと、また歩きだすけれど、どうしても思い出せないと彼女……影朧はまた道行く人……晴れ着を着た女性に声をかけるのだ。
波多蜜花
閲覧ありがとうございます、明けましておめでとうございます、波多蜜花です。
年明け一本目はサクラミラージュでのお話となります。このシナリオは第三章を初詣となるようにしております、第三章だけはイベシナのようなものだと思ってください。
三章のうち、どれかひとつだけのご参加もお一人様でもグループでも歓迎しておりますので、お気軽にご参加くださいませ!
●各章の受付期間について
恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。各章、断章が入り次第受付期間(〆切を含む)をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。
●第一章:ボス戦
街を彷徨う影朧『血まみれ女学生』と相対し、彼女が忘れてしまっている様々なことを思い出させていただければと思います。その際、こちらでダイスを振って思い出せるか判定致します。
思い出せなくても、思い出せてもちょっとした戦闘がありますが、UCを指定していただければそれで大丈夫ですので、心情寄りで構いません。
また、晴れ着を着ていかれる方は指定があれば記載してください、お任せも可能です。
●第二章:冒険
思い出せた内容次第で断章にて行えることが決まりますが、影朧に対し不安がる街の皆様を宥めたり、影朧を守りながら目的地へと向かいます。
詳しくは断章にて。
●第三章:日常
帝都でも人気の神社への参拝、こちらで有名なのは桜御神籤で今年の吉凶を占えるようです。桜御神籤を引く方はプレイングの冒頭に🌸と付けて占いたい運勢を一つ選んでください。恋愛なら🌸の後に恋、仕事運なら🌸の後に仕、対人運なら🌸の後に人、として文字数削減にお役立てください。例:🌸恋 🌸仕 🌸人 となります。それ以外の運勢を占う場合は🌸の後に何運かお書き添えください。
結果はダイスで出しますが、結果の希望がある方はプレイング内に記載してくださいね。
元旦の神社で出来ることは大抵できます、詳しくは断章にて。
●同行者がいる場合について
同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【明3】同行者の人数制限は特にありません。
プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。
未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『血まみれ女学生』
|
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POW |
●乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
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SPD |
●血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
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WIZ |
●応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
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👑11 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 |
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●思い出したい忘れもの
ざわざわと、騒がしい街を影朧が歩く。
「いやだ、あれ影朧じゃないの」
「正月早々、縁起でもねぇ」
顔を顰め、影朧を遠巻きにした人々がひそひそと喋る。
「通報はしたのかしら」
「帝都桜學府にはもう連絡がいって……ああ、噂をすればだ」
影朧救済機関である帝都桜學府の制服を身に纏った若者が、影朧を刺激せずにそっと人々を避難させるよう動いているのが見えた。
『変ね、人がいなくなったような……』
影朧の少女が頬を手に当てて、考えるように立ち止まる。
『……全くいない、というわけではないものね』
こんなに騒がしいのに、人がいないわけはないのだ。
ほら、あそこにも人がいるわ。あの人なら知っているかしら、私、わたし。
どうして、わたしのてはちまみれで。
わたしのきものはぼろぼろで。
がらすにうつったわたしのかおは、かなしそうで。
どこへいくかもわからないのに、どこかにいこうとしていて。
ああ、わたしのなまえはなんだったかしら。
『私、何を忘れてしまったのかしら……』
影朧の少女の唇から、溜息が零れた。
袁・鶴
隠f31451と
晴れ着?着てる相手が気になるんなら着てった方がいいでしょ
って事で俺は袴を着てこうかな
隠ちゃんはどんな晴れ着来たのよ
そうUDCで組まされた相手へ軽口を
情報収集をしようと前に出る相手をみればほんと君硬いよねえ?とそう笑いながら声を
ターゲットの彼女を見つけたならば隠と共に向かうよ
彼女の視線や隠への言葉に注意しつつ晴れ着が彼女の視界に入る様に行動
これ、気になったりすんの?もしかして待ち合わせしてた相手が着てたとか?
そう声を投げながらももし敵対行動をとられた場合は【武器受け】しつつ【受け流し・武器落とし】
はいはい、後は任されましたよ
じゃ、少しおとなしくなってくれると嬉しいな、なんてね?
隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎、目の露出NG
晴れ着は着て行くよ(詳細お任せ)
……普通の袴だけど、問題あるの?
現地到着次第、前に出る
【情報収集】なら、僕の方が適任だからね
何も思い出せない様だけれど
『神社』って単語くらいは聞き覚えがあるんじゃない?
晴れ着姿を着たかったのか
それとも、着ている誰かに会いたかったのか
……袁、意外と的を射た意見だね
どんな記憶だったか
僕にとっては正直、何だっていいけど
でも……思い出した上で、誰も傷付けないと約束するなら
――僕は、必ず君に協力する
UC:決意の証
影朧の攻撃は召喚したタンチョウに乗り、飛んで躱そうと思うよ
袁、後は宜しく
●仕事始め
ぴん、と背筋が伸びるようだと袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)は思う。和装に限らず、着物と呼ばれるものはどうしてか不思議と背筋が伸びるのだ。
「そうは思わない? 隠ちゃん」
「猫背だとかっこ悪く見えるからじゃない?」
そう、隠・小夜(怪異憑き・f31451)が素っ気なく返すと、鶴がそんなもんかねえと笑う。
「影朧が着てる相手が気になるんなら、着てった方がいいでしょって思って着てきたけど、中々どうして」
似合ってるでしょ、と店の窓ガラスに映った自分と小夜に鶴が笑う。
鶴は灰青の着物に白と黒の仙台平の袴、それに濃紺色の羽織を羽織っていて羽織紐は青と銀の玉が連なるもの。洒落た感じが出ている。悪くはないと小夜は思う、思うが別に言う必要もないだろうと黙っていた。
「隠ちゃんも似合ってるよ」
黒の着物に草紋様の入った薄墨色の袴、白鼠色から青藍へと色を変える羽織で羽織紐はシンプルながらも市松模様が洒落た大坪羽織紐だ。
「そう」
「そうだよ」
素っ気ない返事にも、鶴はきちんと頷く。コミュニケーションは大事だ、例えUDCで組まされた相手であっても。
「いたよ、ターゲットだ」
小夜が視線をやった先に鶴も視線を向けると、人の形をしているけれど人ではない――影朧がそこに見えた。
「報告通り、暴れるような様子はないねえ」
「そうみたいだね」
まるで迷子のようにきょろきょろと辺りを見回しながら、ゆっくりと歩いている。
「僕が先に行く」
まずは情報収集、そしてそれならば鶴よりも自分の方が適任だと小夜が前に出た。
「ほんと君、硬いよねえ?」
そう笑う鶴に軽く視線を遣って、小夜は黙ったまま影朧へと向かって行く。
「ああ、待って待って、俺も行くよ」
こう見えてもフォローは得意なんだよ、と鶴が小夜の一歩後ろをついて歩いた。
さりげなく影朧の視界に入るように位置を取り、意識を自分たちへ向ける。小夜がそのまま、なるべく刺激しないようにゆっくりと近付いて声を掛けた。
「こんにちは」
『……こんにちは』
挨拶は返せる、意思の疎通はできるようだと考えつつ、そのまま話を続ける。鶴はといえば、その後ろで笑みを浮かべ、彼女の視線や小夜へ向ける言葉に注意しつつ周囲の様子を確認していた。
「困ってるの?」
『……ええ、ええ、そうなの。私、どうしてかしら、色々忘れてしまっているみたいで』
話を聞いてくれる人がいたと、影朧の不安気な顔が僅かに和らぐ。
「そう、何も思い出せない様だけれど……『神社』って単語くらいは聞き覚えがあるんじゃない?」
『じんじゃ……』
じんじゃ、神社。どうだったかしら、と影朧が首を傾げる。
「この先……、君が歩いてる先にもあるよ」
『神社、が?』
そうだと小夜が頷くと、影朧がそうなのね、と言って人々が歩いていく先を見た。
『神社で、なにがあるのかしら……』
みんな、きれいなきものをきているわ。
「これ、気になったりすんの?」
黙って聞いていた鶴が、羽織の裾をひらりと揺らして見せる。
『きれいな、きもの』
どうだったかしら、きれいだから、きになって。
「晴れ着を着たかったのか、それとも着ている誰かに会いたかった?」
「もしかして待ち合わせしてた相手が着てたとか?」
『待ち合わせ……』
その言葉に、影朧の瞳が揺れた。
「……袁、意外と的を射た意見だね」
「意外とは余計かな」
軽口を叩きながらも、二人の注意は影朧へと向いている。小夜の視線は前髪で隠れて相手からはわかりにくいけれど、小夜からすれば慣れたものでよく見えるのだ。
影朧の持つ記憶がなんであろうと、小夜にとっては正直何だっていい。
でも、と彼は思う。
「君が忘れてしまった記憶を思い出した上で、誰も傷付けないと約束するなら」
『……わたし、なにをわすれたのかわからないの』
「うん、それでも。僕は、必ず君に協力する」
それはとても真摯な声音で、影朧へと響く。
『おもい、だせないの、どうして、ああ、わたし、わたし』
ぶわり、と彼女の背中に黒い百合の花が咲く。
「隠ちゃん」
「わかってる」
影朧から少し距離を取ると、小夜が小さく呟く。
「力を貸して」
喚びかけに応じて小夜よりも大きなタンチョウが姿を現すと、小夜がそれに乗って空を舞う。
わからない、わからないの、と嘆く影朧が叫ぶ。それは衝撃波となって辺りに散るけれど小夜の乗ったタンチョウは、それをひらりと躱す。周囲への被害状況も、避難が済んでいる為特に見当たらなかった。
「袁、後は宜しく」
「はいはい、後は任されましたよ」
じゃ、少しおとなしくなってくれると嬉しいな、なんてね? と笑って、鶴が影朧の前へ出る。
わからないの、でも、じんじゃ、ああ。
目から溢れ出す黒い涙で全身を覆い、影朧が鶴へ手を伸ばす。
「おっと」
手にした祟り縄でその攻撃を軽く受け流し、優しく話しかける。
「思い出せないなら、無理はしなくていいよ。でも、気になるんだよね?」
神社、と鶴がちらりと視線を神社のある方へと向けた。
『じんじゃ……神社、そう、ええ、気になるわ』
黒百合が陽炎のように揺らいで消え、全身を覆っていた黒い涙が流れていく。
そうして、すっかり大人しくなった影朧が再びゆっくりと歩き出した。
「神社が気になるのは間違いないみたいだね」
「ああ、あんなに執着しているのなら、本当に待ち合わせをした相手がいたのかもしれないね」
しゅるんと縄を仕舞って、タンチョウから降りた小夜と視線を合わす。
「もう少し見守るとしようか」
鶴の言葉に頷き、小夜が距離を空けて歩き出すと、今度はその隣に立って鶴も前を向いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御桜・八重
桜御神籤の神社は大盛況で人手が足りてないとか。
「だからって、ウチからお手伝い出さなくてもー」
まあ、影朧の件があるからちょうどいいけど。
思い出せないのは、思い出すことを拒んでいるから。
思い出したいのは、それだけ大切な想いがあるから。
なら、やることは決まってる。
苦しみに向き合う影朧の手を取り、その願いを叶える。
巫女服姿で影朧に話しかけます。
「ねえ、どうしたの?」
「どこかに行きたいんだけど、どこに行きたいのかわからない?」
こっちの方向で目ぼしいものと言うと、桜御神籤の神社かな?
わたし今からお手伝いに行くんだけど、行ってみる?
攻撃は身を花吹雪に変えて躱します。
ね、わたしも一緒に行くから、行ってみよう?
●巫女のお仕事
帝都より南南西に位置する鎌倉にある古神社、それが御桜・八重(桜巫女・f23090)の家であり、家業だ。
今は家を出て帝都桜學府に編入してはいるが、まさか正月早々手伝いに行ってこい、と言われるとは思わなかったと八重が小さく零す。
「桜御神籤が大盛況だからって、ウチからお手伝い出さなくてもー」
人手が足りない大変さはわかる、わかるけど! と言いつつも、影朧の件があるから丁度いいかと引き受けたのだ。
「引き受けたからには仕方ない、きちんとお手伝いしてみせるんだからね」
うん、と頷いて、八重が巫女服を翻して颯爽と歩き出した。
お正月なのだから晴れ着、とも思ったけれど、お手伝いに行く身としては仕方ない。桜色の晴れ着を着る機会なら、今日以外にだってあるのだから。
「まずは神社に行く前に影朧だよね」
既に帝都桜學府の生徒たちが市民の避難と誘導を行っており、通りには影朧の動向を見守る生徒や八重と同じように依頼を引き受けてやってきた猟兵たちが見えた。
「あの子が影朧ね」
思い出せないのは、思い出すことを拒んでいるから。
思い出したいのは、それだけ大切な想いがあるから。
「なら――」
やることは決まっていると、八重は毅然と顔を上げて影朧へ近付く。
苦しみに向き合おうとする影朧の手を取って、その願いを叶える為に。
「ねえ、どうしたの?」
『……私?』
こてん、と首を傾げた影朧に、元気よく八重が頷く。
『よく、わからなくて。忘れてしまったことばかりで、何にも思い出せないの』
それでも、神社が気になるのだと影朧が神社があると教えられた方を向く。
「神社が気になるの? こっちの方向だと……桜御神籤の神社かな?」
『桜御神籤……』
「わたし、今から桜御神籤の神社にお手伝いに行くんだけど、行ってみる?」
さくらおみくじ、なんだかきいたおぼえがあるわ。
ああ、ああ、でも、おもいだせない。おもいだせないの。
『わから、ないの……っ』
ゆらり、と影朧の背に黒い百合が咲き、血塗れの手から長く伸びた爪が八重を襲う。
「ひらひら変われ、花吹雪」
慌てた様子もなく八重が言うと、ひらり、ひらりと八重の肉体が桜の花弁へと変わる。爪は空を切って、はらはらと揺れて舞い散る花弁が踊る。
『綺麗、ね』
桜、と影朧が呟くと、八重が姿を元へ戻す。
「ね、わたしも一緒に行くから、行ってみよう?」
『神社……』
黒百合が消えた影朧が、再び歩き出す。
八重の姿はもう目に入っていないようだったけれど、八重も彼女を見守るように少し歩き出すのだった。
成功
🔵🔵🔴
オリオ・イェラキ
リュカさま【f02586】と
折角ですし髪を纏めて晴れ着を着ましょう
世界に合わせて夜桜をあしらって
似合うかしら?ふふ、ありがとうございますわ
さあ、新年初の冒険に参りましょう
ごきげんよう、可愛らしい方
ご紹介頂きましたオリオですわ
そう…何も思い出せないのね
でも想い出は必ず貴女の中に在りますわ
ひとつ、貴女の事を思い出せるならそれが切欠になれる筈
リュカさまの問いに何か脳裏に浮かぶ事はないかしら
わたくし達は貴女に時間を使いたいの
ゆっくり応えを待ちますわ
あら、…ふふ
リュカさまはやはりお優しいですわ
微笑ましそうに
攻撃も穏やかに受け流しを
リュカさまへの直接攻撃もさり気無く庇い
慌てないで、大丈夫と気遣いながら
リュカ・エンキアンサス
オリオお姉さんf00428と
取りあえずぶらっとしに来た風で
お姉さん、晴れ着似合ってるね
髪が何だか、新鮮な感じがする
うん、そういうのもいいかも…っと
…こんにちは、お姉さん
そう。名前は大事なものなのに、思い出せないの大変だね
俺はリュカ。この人はオリオお姉さんって呼んでる
あなたは?なんて呼ばれていた?
もしくは、何と呼んでほしかった?
愛称でも構わないよ。ほら、考えてみて
(攻撃は流しつつ基本丁寧に根気強く相対する
名前はとても大事で拘りはあるけれども名前以外でも何か思い出せれば幸い
可能なら自分のコートを影朧のお姉さんにかけておく
なんかぱっと見寒そうだから
優しい?
そうかな。意味のないことが好きなだけかもよ
●名を問う
黒薔薇の咲く長く艶やかな髪を緩く纏め上げ、鉄紺色の夜を思わせるような美しい色の着物に桜が散った、まるで夜桜を思わせるような姿をしたオリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)がリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)にふわりと微笑む。
「似合うかしら?」
そんな無邪気な問い掛けに、リュカはこくんと頷いて答える。
「お姉さん、晴れ着似合ってるね」
「ふふ、ありがとうございますわ」
左手を口元に当てて笑えば、薬指の指輪がきらりと瞬いた。
「髪が何だか、新鮮な感じがする」
上手い褒め方なんてわからないけれど、思ったことを思ったままに伝えれば、オリオの笑みが更に深まる。
「和装に合わせてみたのですわ」
「うん、そういうのもいいかも……っと」
いつもは髪を下ろしていることの多いオリオにそう返して、リュカの瞳が影朧を映して言葉が止まった。
「あの方……ですわね」
「うん、影朧だ」
ぼろぼろになった着物を着て、とぼとぼと歩いている少女とも呼べるような姿の。
「行こう」
「ええ、新年初の冒険に参りましょう」
元旦に相応しい、幸せな物語となるように、とオリオが微笑むとリュカが頷いて一歩先を歩いた。
よく見れば、周囲には帝都桜學府の生徒と依頼を受けた猟兵の姿も見える。一般市民は避難しつつ、遠巻きに見守っているような状況だ。
自然体のまま、ぶらっと新年の街へ遊びにでも来た風にリュカが影朧に向かって歩くと、オリオも同じように歩く。時折ブティックのガラス窓を覗き、素敵ですわねと笑っている。華やかな笑い声に反応したのか、影朧がこちらを見ていることを確認し、二人で目を見合わせると影朧へと近付いた。
「……こんにちは、お姉さん」
「ごきげんよう、可愛らしい方」
『こんにちは』
敵意の無い影朧に二人が挨拶をすると、影朧もそう返してくれる。そして、困ったように眉根を寄せて、二人に問うた。
『私、何かを忘れてしまっているのだけれど、何を忘れてしまったのかわからないの。あなたたちは、私をご存じかしら……?』
零れた溜息は憂いが見えて、リュカが静かに答える。
「ごめんなさい、俺達はあなたのことは知らない」
落胆する影朧に、だけど、と言葉を続けた。
「名前もわからないのかな?」
『ええ、名前も、何もかも……』
「そう。名前は大事なものなのに、思い出せないの大変だね」
なまえ、だいじなもの。よんでもらうための、なまえ。
「俺はリュカ。この人はオリオお姉さんって呼んでる」
「ご紹介頂きましたオリオですわ」
りゅか、おりお。
教えられた名前を影朧が呟く。
何も思い出せないのは大変だけれど、とオリオが影朧の背を撫でる。
「でも、想い出は必ず貴女の中に在りますわ。ひとつ、貴女の事を思い出せるならそれが切欠になれる筈」
おもいで。わたしの。おもいだしたい、わすれたこと。
「あなたは? なんて呼ばれていた?」
わたしは、なんてよばれていたの?
『わから、ないの』
わからない、わたし、わたしのなまえ。
影朧の背に黒百合が咲く。瞳から、黒い血の涙が溢れて彼女の姿を覆い隠してしまう。
「もしくは、何と呼んでほしかった? 愛称でも構わないよ。ほら、考えてみて」
『わたし、わたし』
思い出せない焦燥に、影朧がリュカへ攻撃の手を伸ばす。それをオリオが影から咲かせた真夜中を彩る蔓薔薇で、やんわりと受け止めた。
「リュカさまの問いに何か脳裏に浮かぶ事はないかしら」
よばれたい、なまえ。わたしも、だれかによんでほしい。
攻撃を受け流しながら、リュカが根気強く声を掛け続ける。
「大丈夫、思い出せるまで待つよ」
「ええ、わたくし達は貴女に時間を使いたいの」
わたしのために、まってくれるの?
「名前はとても大事だから」
名前以外でも思い出せることがあればいいけれど、まずは名前をとリュカもオリオも頷く。
「あなたの名前を俺たちは呼びたいんだ」
『わたし、私、私の、名前』
黒で覆われた影朧が姿を現す、困ったような顔は相変わらずだったけれど、それでも僅かな笑みを浮かべて。
『かのこ、花乃子と言うの』
思い出せた、と影朧の少女が何度も自分の名を呟く。
「花乃子お姉さん、いい名前だね」
「花乃子様、ええ、とてもいい名前ですわ」
名前を呼ばれて、嬉しそうに花乃子が頷いた。
「花乃子お姉さん、これ」
リュカがコートを脱いで、花乃子へと羽織らせる。
『あなたが、寒いわ』
「大丈夫、これくらい平気だから」
ありがとう、と花乃子が頷く。
「あら……ふふ、リュカさまはやはりお優しいですわ」
優しい? とリュカが首を傾げると、オリオがええ、と微笑んだ。
「そうかな。意味のないことが好きなだけかもよ」
「この世に意味のないことなど、きっとないのですわ」
オリオがウィンクをしてそう言うと、影朧の少女がまたふらりと歩き出す。
『名前、名前は思い出せたけれど、ああ、私はどうしたのだったかしら……』
リュカとオリオは意識を違う方へと飛ばした彼女を見守るように、帝都の街を歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セシル・バーナード
◎
【愛染4】
行こう、ぼくのお嫁さんたち。プラチナちゃんは避難誘導の手伝いね。
メガリス『ソロモンの指環』で鳥と話し、影朧の居所を把握するよ。
影朧を見つけたら黄金魔眼で動きを封じ。
「想い出、見つけたくない?」って言って、「催眠術」で深層の記憶を引き上げる。
見たくないものかもしれないけど、覚悟はいいね?
「催眠術」で探らせてもらえないなら、言葉で記憶を呼び覚ますしかないね。「コミュ力」で明るく接しよう。
ねえ、お姉さん。君はどこから来たの? 側に誰かいなかった? 楽しいことだけしていたかったよね?
でも残念。世界はそんなに美しくなんてない。
君と誰かは凶事に襲われたはずだ。
それを思い出した時、君は君になる。
神代・みぃ
【愛染4】
だんなさまと、おともだちと
はじめましての子もいるから、すごく楽しみ!
今日はひとの足の姿で、
いつも着てる着物のなかでも、とっておきを着て、お出かけ!
影朧さんを見つけたら、話しかけるよ
忘れてしまうのって、かなしいよね
でも忘れたままの方がいいことも、ある気がする
もしあなたが忘れたままの方がいいのなら
それもひとつの選択だとおもうけれど…
あなたは、思い出したい?
もし暴れだしたら、UCと【神罰】で影朧さんを抑え込むよ。
新年のすてきな時だもの
痛いのも、こまらせるのもだめだよ
大丈夫、もしやりたいことがあるなら
みぃが手伝うから!
そっと影朧さんの手を取って
落ち着かせるように話しかけるね
チシャ・フェルメス
【愛染4】
だんな様のセシルと、「はあれむ」のお友達といっしょ。
着せてもらったハレギが可愛いくて、思わず小さくぴょんぴょんしちゃいます。
影朧さんを見つけたら、ユーベルコード「ベニ・ポロネパトロ」を使います。
旧い神様は姿がグロいから、みんなビックリしちゃうかなぁ?
えっと…とりあえずハレギの中に呼び出そっと。
ハレギの中から影朧さんを覗き見させて、「虚脱の魔眼」で抵抗しにくくしちゃいます。
影朧さん、何を約束したのか忘れたの?
私もキッチンまで行って、「あれ、何で此処に来たんだっけ」ってなるから、仲間だね。
約束なら、きっと誰かといっしょにした筈だよ。
約束の中身より先に、誰とした約束なのか思い出してみよー?
メイフィア・オベルト
【愛染4】
やれやれです、夫のセシル様と妻仲間の方々と一緒に依頼ですか。私は猟兵として積極的に活動するタイプではありませんのに
まぁ夫の願いを聞くのも貴族婦人としての務めですね
ともかく、晴れ着というものを着ていきますよ。しかし、なんですね
このメンバーで夫婦と言っても微笑ましい目で見られるだけの気がします、男女比狂ってますしね
影朧を見つけたら、皆と一緒に話しかけますよ
晴れ着が気になりますか?なら、その気になることから記憶を手繰ってみたらどうですか?
少なくとも手掛かりが何もないよりはマシかと
戦闘は、私はか弱い貴族令嬢、あ、今は貴族婦人ですが、なので不得意ですから【ウィザード・ミサイル】で援護だけです
●そう成った経緯を問う
晴れた空の美しい、良い元旦だとセシル・バーナード(セイレーン・f01207)は満足そうに空を見上げる。それから、可愛くて大事なお嫁さん達と、帝竜プラチナの少女体である複製の可愛らしい彼女を見て、更に笑みを深めた。
「だんなさま」
無邪気な声でセシルを呼ぶのは神代・みぃ(水底の朱・f30892)で、今日は旦那様とお友達と、そして初めましての子もいるからすごく楽しみだと笑みを浮かべている。普段は人魚のような尾をひらりと泳がせるのだけれど、今日は人の足だ。いつも着ている着物の中でも、とっておきの赤い晴れ着で褒められるのを待っている。
「だんな様」
嬉しそうな声でセシルを呼ぶのはチシャ・フェルメス(捧げ唄・f28991)で、旦那様とはあれむのお友達と一緒だと笑みを浮かべる。それから、着せてもらったモダンな晴れ着が可愛くて、思わず小さく跳ねているのがまた可愛らしい。彼女も、旦那様に褒めてもらうのを待っているようだ。
「セシル様」
そう呼ぶのはメイフィア・オベルト(オベルト伯爵令嬢・f17956)で、晴れ着にはオレンジの古典模様が可愛らしい着物、そして白地の袴にブーツとハイカラで大人びたものを選んでいる。けれど、その表情はやや冷めていて、クールさが際立っていた。
夫と妻仲間の方々と一緒の依頼、あまり猟兵として積極的に活動するタイプではないメイフィアからすれば、望んだ状況とは言い難いのだろう。
それに、と胸の中でメイフィアが呟く。
しかし、なんですね。このメンバーで夫婦と言っても、微笑ましい目で見られるだけの気がします、男女比狂ってますしね、と。
そう、彼も彼女達も、まだ齢も幼い少年少女なのだ。夫婦と言っても、きっと信じてはもらえないだろう。今も可愛い子達ね、と人々が通りすがりに囁き合うのが聞こえたくらいだ。
けれど、そんなことは彼らにとっては些事に等しい、常識では測れない愛と絆があるのだから。
「皆、良く似合ってて可愛いね」
セシルが甘く蕩けるような優しい言葉で今日の装いを褒めると、みぃとチシャが嬉しそうに頬を染め、メイフィアもまんざらでもなさそうに唇の端を持ち上げる。
「それじゃ、行こう。ぼくの可愛いお嫁さんたち」
プラチナへは避難誘導の手伝いを頼み、和気藹々と四人が歩き出す。歩きながら、セシルがソロモンの指環によって鳥と会話し、影朧の場所を探る。その間はお嫁さんたちはお嫁さんたちで親睦を深めるように話をしていた。
盛り上がるのはやはり今日の晴れ着の話で、メイフィアは少し引いた感じで相槌を打っていたけれど、褒められれば悪い気はしないもの。袴とブーツが大人っぽくて素敵だと言われれば、今の晴れ着の上に履くだけだと答える。
「わたしも、今度は袴にチャレンジしてみようかなぁ?」
「きっと似合うよ、みぃも一緒にチャレンジしたい!」
「お正月ですから、晴れ着を着る機会は他にもあるでしょう。その時に着ればいいかと」
どこでもレンタルがありますし、と言えば今度見に行こうとまた二人がはしゃぐ。
きゃあきゃあと楽しそうに笑う二人に、お嫁さん達の中でも私が一番年下なのですけれどね、とメイフィアが小さく呟いた。
「楽しそうなところすまないね、影朧が見つかったよ」
「さすがだんなさま! みぃ、影朧さんとお話してみたいな」
「わたしも、思い出すお手伝いがしたいなぁ」
「ええ、皆様に合わせます」
三人の返事にセシルが微笑み、一人ずつゆっくりと頭を撫でる。
「ぼくのお嫁さんたちは優しい子ばかりだね。それじゃあ、最初は皆に任せるよ」
はい! と、頭を撫でられて三人が返事をすると、影朧に向かって歩き出した。
小鳥の案内ですぐに影朧を見つけたみぃとチシャとメイフィアは、それぞれ視線を合わせると行動に出る。まずはみぃが驚かさないように影朧へと近付いた。
「こんにちは、おねえさん」
『こんにちは、お嬢さん』
意識がこちらに向いたことを確認すると、チシャがそっ袖の中にベニ・ポロネパトロを召喚する。チシャとしては慣れ親しんだ旧い神様だけれど、見た目が少し……いや、かなりグロいので皆が驚いてはいけないとの配慮だ。
お願いします、とチシャが呟けば袖の中から影朧を覗く虚脱の魔眼が影朧の動きを少し鈍らせ、みぃが三人分の自己紹介をする。
『仲が、いいのね』
「おともだちなんだよ」
『そう、お友達、おともだち……わたしにも、いたのかしら』
いたとおもうのだけれど、おもいだせないの。
「忘れてしまうのって、かなしいよね」
忘れたままの方がいいこともある気がするけれど、とみぃが呟く。
「もしあなたが忘れたままの方がいいのなら、それもひとつの選択だとおもうけれど……あなたは、思い出したい?」
『わたし、わたしはおもいだしたいの、わからないのはいや、わすれてしまうのは、いや』
みぃの言葉に、影朧が首を横に振る。その様子を見て、メイフィアが声を掛けた。
「晴れ着が気になりますか?」
『晴れ着……ええ、気になる……と思うわ』
「なら、その気になることから記憶を手繰ってみたらどうですか?」
記憶……晴れ着の、記憶。
『わからない、わ。だれかと、やくそくをしていたような……していなかった、ような』
少なくとも手掛かりにはなったようです、とメイフィアが考え込むと、今度はチシャが問い掛ける。
「影朧さん、何を約束したのか忘れたの?」
『やくそく……したかしら、それもわからないの』
「ふふ、私もキッチンまで行って、あれ? 何で此処に来たんだっけ? ってなるから、仲間だね」
忘れちゃうことなんてよくある話だよ、とチシャが笑う。そして、思い出すことも、と。
「約束なら、きっと誰かといっしょにした筈だよ」
『だれか、と』
「約束が思い出せないなら、約束の中身より先に誰とした約束なのか、思い出してみよー?」
『だれと』
だれとやくそくをしたのだろう。だれか、いたのだろうか。ああ、それすらもわからなくて。
『わからない、わからないわ』
影朧の背に黒百合が咲く。瞳から溢れ出した黒い血の涙が影朧を覆い尽くすと、わからないという思いに囚われたように影朧が三人に向けて襲い掛かった。
「敵性行動を確認」
メイフィアがセシルに向かってそう言うと、セシルがうん、と頷く。
「落ち着いて、大丈夫だよ」
チシャが宥めながら袖の中の旧き神の魔眼で動きを牽制し、メイフィアが威力を落とした炎を点した魔法の矢を幾つか放つ。
「私はか弱い貴族令嬢、あ、今は貴族婦人ですが――なので、不得意ですから」
援護に回ります、とセシルの後ろへと下がった。
「頑張ったね、みぃ、チシャ、メイフィア」
旦那様! と声を上げて、二人も下がる。
「想い出、見つけたくない?」
『おもい、で』
そう、思い出とセシルが笑って、影朧の瞳を見つめる。催眠術を掛けようとしているのだ。
「お姉さんの中に眠る、大事な思い出だよ」
見たくないものかもしれないけれど、とセシルが微笑む。
『わたしのなかの、だいじな』
わからない、わからない、わたしのなかにおもいでがあるの?
『わからない、わ!』
叫びは周囲に響き、無差別攻撃を仕掛けてくるけれど既に弱り切った影朧の攻撃は彼らには大した脅威ではない。
「催眠術はだめか、仕方ないね」
それなら、言葉で記憶を呼び覚ますしかないと殊更に優しく明るい声でセシルが影朧に問う。
「ねえ、お姉さん。君はどこから来たの?」
『どこから』
「側に誰かいなかった?」
『だれか? いいえ、だれも、だれもいないわ、わたしだけ』
わたし、わたしだけ。
「楽しいことだけしていたかったよね?」
たのしいこと、たのしいこと? いっぱいあった、そう、あったはずなの。
「でも残念、世界はそんなに甘くも美しくもない」
そう、そうね。ざんこくだわ。
「君は凶事に襲われたはずだ」
問答によって導き出した言葉をセシルは淀みなく影朧へと投げかけていく、それが残酷な言葉であっても。
『きょうじ、わたし、わたしは』
「それを思い出した時、君は君になる」
わたしに? わたし、私は、ああ、嗚呼。
すっかり動きを止めてしまった影朧が、訥々と語りだした。
『私、そう、私……急いでいたの、とても急いでいたのよ』
セシルは優しく頷いて、先を促す。
『走っていたの、それで、躓いてしまって』
車道に飛び出してしまったのだ。
『そう、私、自動車に』
轢かれたのだ、そうして打ち所が悪く――。
「思い出したんだね」
『ええ、私が死んでしまった、理由を』
さすが旦那様、と後ろで控えていた三人がほっと胸を撫で下ろす。
『ああ、でも』
わたし、どうしてそんなにいそいでいたのかしら。
そう、ぽつりと呟いて、影朧は再び歩き出す。
そうしていれば、全てを思い出せるのではないかとでも言うように――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
瀬古・戒
◎【箱2】
初詣誘っておきながら、影朧放っとけず依頼に付き合わせるて
告白の返事してねーのに悪い…けど、泣いてる女の子無視できねぇ
晴れ着、を、着てんの、は、…彼女の為で、けっっっっっしてラファン、お前の為じゃねぇ!にやにやすんな!
とにかく、影朧の少女を落ち着かせたげねーとな
おじょーさんお困りですか?優しく声かけ俺に注意を集める
遠巻きに見る人の目は気分良いもんじゃねぇ、見ないに限る
手を握り、俺の手も炎まみれ、血なんて大したコトねぇよ、と笑おう
大丈夫、頭で忘れても体はちゃーんと覚えてるもんさ
足、何処に行こうとしてる…?大きめに深呼吸してみよーぜ?…てか、ラファンが敬語とか違和やばくて腹痛……ん?手?
ラファン・クロウフォード
◎【箱2】羽織と着流し着用。戒の晴れ着を見れたは僥倖。何を言おうが目の前にある現実。にやける、うれしい、言葉にはしない。無視できないのは俺も同じ。黒百合のような女性なので、仮の名前はユリさんと呼ばせてもらう。柔らかな布で彼女の涙と血を拭う、傷を包む。社交的な性格のようだし友人も多そうだ。手当を忘れる程に急いでいるようですね。ユリさんもこの先の神社に初詣ですか?神社で誰かを待たせているのでしょうか?男性?女性?友達?恋人?ユリさんを心から大切に想う人ならば、必ず、待っています。嬉しい事に終わりがあるように、悲しい事にも終わりがあるから。どうか、諦めずに考える事をやめないでください。戒の手をにぎる
●行き先を問う
片や仏頂面をした――正確には、恐らく照れ隠しの為に仏頂面になっている晴れ着の女、片や普段使いではあるが着流しによく見れば市松模様の入った粋な羽織を羽織った無表情――に見せかけて、にやけるのを必死に堪える男が隣りあって帝都の街を歩いていた。
白地に薄い青と紺の花が肩から袖へと咲き誇る着物に青紫色の袴、そして黒のブーツ。いつも無造作に纏めている髪は癖毛を活かしたアレンジヘアに纏められ、着物の柄と同じ花の飾りが付けられている。よく男性に間違われる瀬古・戒(瓦灯・f19003)も、今日ばかりは誰にも間違われないだろう、それほどに美しく仕上げられていた。
着付けはよくわからないと美容院に任せたのだが、美容師達の腕が鳴りに鳴った結果である。
「……初詣」
「うん?」
ようやっと口を開いた彼女に、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)が頷く。
「誘っておきながら、影朧放っとけなくて依頼に付き合わせるって」
「ああ、戒ならそう言うだろうってわかってたから、問題ない」
泣いている女の子を無視するような女ではないことをラファンは知っているし、自身もそうなのだから何の問題があろうか。
「でもほら、あー……告白の返事もしてねーのに、悪い……」
「いい、気にするな」
返事をしていないことは気にしなくていい、けれど俺を気にしていることは嬉しいとラファンは思う。それに何より、戒の晴れ着姿を見ることができたのは僥倖以外の何物でもないのだ。
それだけで、今日ここへ来ただけの価値……いや、それ以上のものがある。勿論、彼女に言ってしまえば照れて逃げてしまうかもしれないから、言わないけれど。さっきからにやけそうになるのを必死に我慢しているのだ、うっかり言ってしまったら絶対ににやける自信があると、ラファンは唇を引き締めた。
「そっか、じゃあその、返事はうん、あとで」
あとで、便利な言葉だなと思う。でもある程度の逃げ道は必要かと思うので、いずれ貰える返事ならばそれでいいかとラファンが頷く。逃げ道は作っても逃がす気はないし、と神々の末弟である男が静かに前を向いた。
「似合うな」
「ん?」
何が、と問おうとして戒が晴れ着のことを言っているのだと気付く。
「晴れ着、を、着てんの、は」
頬が熱くなる、赤くなってなければいいと思うけれど、多分赤いだろう。
「……彼女の為で、けっっっっっしてラファン、お前の為じゃねぇ! にやにやすんな!」
「わかった、わかった」
わかってはいるが、嬉しいものは嬉しい。にやにやはしていないと思うけど、ちょっとわからないなと思ってちらっと洋服店の窓ガラスに映る自分を見る。……大丈夫、セーフだと戒の方を見ると、先程までの勢いは消えていて彼女の視線の先を追った。
「影朧か」
「ああ、間違いないと思うぜ」
まずは彼女を落ち着かせないと、とふらふらと歩く影朧へと近付いた。
「おじょーさん、お困りですか?」
戒が優しく声を掛けると、影朧が振り向く。
『困る……ええ、そう、私困っているんだわ』
足を止めた彼女が、こくんと頷いた。
「お名前はなんというのです?」
ラファンが懐から柔らかな布を取り出しながら問う。
『名前……そう、私の名前は花乃子というの』
名前は思い出すことができたのだなとラファンが考えつつ、そっと手にした布で彼女の涙を拭いそのまま手の血も拭ってやる。
「失礼、手が汚れていたので」
『親切な方ね、でも、わたし、こんなにちまみれで』
拭っても拭いきれないそれは、影朧だからだろうか。
「俺の手も炎まみれ、血なんて大したコトねぇよ」
花乃子の手を握り、戒が笑う。
『そう、そうかしら。ふふ、貴女もお優しいのね』
眉を下げたまま笑う影朧は普通の少女に見えて、ラファンは社交的な性格で友人も多そうなタイプだと判断する。
「手当を忘れるほどに急いでいるようですね。花乃子さんもこの先の神社に初詣ですか?」
『じんじゃ。じんじゃに、ようじ……』
「誰かを待たせているのでしょうか? 男性、女性、友達、恋人……どなたであっても、花乃子さんを心から大切に想う人ならば、必ず、待っています」
だから、急がずにゆっくりと思い出してとラファンが言う。
『だれか、と、じんじゃ……』
わたし、じんじゃにいこうとしていたのかしら。わからない、わからないわ。
影朧の背に黒い百合が現れると爪が長く伸び、わからないと嘆く花乃子が血のような爪を二人に向けて振り回す。それを難なく避けながら、戒が叫ぶ。
「大丈夫、頭で忘れても体はちゃーんと覚えてるもんさ!」
影朧になってまで、行こうとしている場所だもの。
「足、何処に行こうとしてる……? 大きめに深呼吸してみよーぜ?」
『わたし、わたしのあしは』
何処に向かっているのだろうか、あっちへ真っすぐに。
「大丈夫、嬉しい事に終わりがあるように、悲しい事にも終わりがあるから。どうか、諦めずに考える事をやめないでください」
そう願うように言いながら、ラファンが戒の手を握った。
考える、考える。
『そう、そうだわ、私、あっちへ。そう、神社へ行こうとしていたんだわ』
「行先、思い出せたんだな」
『ええ、ええ! 神社に行こうとして……でも、私、神社に何をしに行こうとしていたのかしら……』
わからないわ、と呟いて、影朧はまたふらりと歩き出す。もう二人のことは忘れてしまったかのように、真っすぐに。
「行きたい場所を思い出せただけ上出来ってとこか。……てか、ラファンが敬語とか違和やばくて腹痛……ん?」
なんか手があったかい、なんだこれと戒が己の手を見る。
「……っ! おま、どさくさに紛れてっ!」
バレたか、という顔をして、それでもしれっとした顔でラファンがもう片方の手で影朧が行く先を示す。
「追いかけなくていいのか?」
「あっ」
怒ればいいのか追いかければいいのか、混乱したような戒を引っ張って、ラファンが小さく笑ってゆっくりと歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スティーナ・フキハル
◎ 口調はスティーナ
なんかいつもの衣装でも晴れ着で通る気がするよーな……まぁいっか。
その辺お任せで。
ある程度動きを観察してからなるべく【優しさ】通じるように話しかけるよ。
ねーそこのお嬢ちゃん……いやアタシの方がお嬢ちゃんみたいじゃなくて。
ずっとふらふら人に声かけてたけどさ、誰かと待ち合わせでもしてたの?
それも晴れ着のねーちゃん中心とか。あーもしかして友達とかと初詣?
代わりって言ったらアレだけど、アタシらで一緒に行ったげようか?
攻撃してきたら腕をUCの鬼の手で掴んで落ち着かせるね。
あんまり強く握らないように、安心させたいから上から左手も添えて。
ほーれどうどう、これ以上着物ボロくしても嫌でしょ?
●約束を問う
普段の着物に袴姿でも、立派に晴れ着ではないかと考えたのだけれど、どうせなら新調してしまおうかと思って正解だったとスティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)は洋服店の窓ガラスに映った自分を見て笑みを浮かべた。
「レトロモダンの着物に矢絣の柄が入った袴、靴もブーツで動きやすい……」
それに何より、大人らしくて可愛らしいと、口には出さないが満足気だ。
「っと、ファッションショーしてる場合じゃなかったね」
そう呟いて辺りを見回しながら歩き出すと、帝都桜學府の生徒と思わしき制服姿がちらほら見えて近くにいるのだとスティーナが歩く速度を上げる。
「あの子……かな」
遠目からだと普通の少女に見えなくもないが、動きが不安定でよくよく見れば着ている着物がぼろぼろだ。
もう少し、と近付けばその手が血に濡れているのがよくわかる。少しだけ様子を見てみるかと、スティーナが影朧からやや離れた後ろから観察していると、特に暴れるような様子は見せない。
「ちょっとぼんやりしてる感じだね」
まるで迷子のように、時折立ち止まっては何かを考えるような素振りを見せたり、呉服店の大きな窓ガラスに飾られた晴れ着を見ては悲し気にしてみたり。そして、時計を見ては誰かを探すようにきょろきょろとしている。
「何となく、わかったような……ま、あとは当たって砕けろよね」
意を決したように、スティーナが影朧へと歩を進める。驚かさないように、自然を装って――。
「ねー、そこのお嬢ちゃん」
迷子の女の子に話し掛けるような、そんな風に。
『お嬢ちゃん……私、かしら? ふふ、貴女もお嬢さんなのに』
「いや、そりゃアタシの方がお嬢ちゃんに見えるかもしんないけどさ」
こう見えても二十四歳なんだけど、と少し低い身長を恨めしく思いながら隣に立って話を続ける。
「アタシはスティーナ、ずっとふらふら人に声掛けたそうにしてたけどさ」
『私は花乃子というのよ。そう、そうなの。でもこの辺りはなんだか人が少なくて……』
それはそうだろう、帝都桜學府が手を回してさりげない避難誘導をしているのだ。
「そっかそっか、花乃子ちゃんね。誰かと待ち合わせでもしてたの?」
名前を思い出せている、きっと他の猟兵が思い出させてくれたのだろう。
『まちあわせ……』
「それに呉服店でも晴れ着に気を取られてたでしょ? あー、もしかして友達とかと初詣?」
『はつもうで……神社に、行こうとしていたの』
行先も思い出しているようで、これならば話は早いかもしれないとスティーナが優しく誘導する。
「じゃあ、誰かと一緒に行こうとしてたんだろうね。あんまり一人では行かないでしょ?」
勿論、一人で初詣に行く人だっているだろうし、なんだったらスティーナも一人で行こうと思えば行くけれど。そんな風に鎌をかけてみれば、陽炎の少女は俯き、そして神社の方を眺めて。
『やくそく、だれかと、わたし、そう、おともだちと……おともだち……ではなかった、ような』
「じゃあ、お付き合いしてる人だったとか」
ああ、おともだちだったかしら? ちがうきがする、でも、おつきあいもしていなかった、わからないわ。
ずるりと影朧の背から黒百合が咲く。わからないと呟き続ける影朧が長く鋭い爪をスティーナに向かって振るうけれど、それは緩慢な動きでスティーナは慌てず右手を鬼の手に変え、優しくその手を掴んだ。
「友達でもなく、お付き合いをしているわけでもない、うーん、もしかして好きな人だった?」
そっと左腕も添えて、優しく問えば影朧の動きが止まる。
『すきな、ひと』
「そうそう、好きな人だったら友達とは言いたくないし、まだ付き合ってなかったかもしれないし」
それなら、これ以上着物をぼろぼろにしない為にも落ち着いて、どうどうとスティーナが言うと影朧の背中ら黒百合が消え、長く伸びた爪も縮んでいく。
『ああ、そうだわ。私、好きな殿方とお約束をしていたのだわ』
ぽろりと黒い血の涙を流し、少女が言った。
それはまるで恋する乙女そのもので、スティーナが慌てて持っていたハンカチでその涙を拭ってハンカチを影朧の手に持たせる。
『ありがとう』
そう微笑むと、影朧がまた遠い目をしてぽつりと呟く。
『でも、私ったら好きな方のお名前もお顔も』
すっかり忘れてしまったの、ああ、ほかにもたくさん忘れてしまって。
そう言って、スティーナのことはもう目に入らないかのように、また歩き出す。
「完璧には思い出せなかったかな」
仕方ない、代わりにはなれないけれどアタシらでよければ一緒に行くか、とスティーナは心の中で妹に声を掛けて影朧の後を追った。
大成功
🔵🔵🔵
戀鈴・シアン
◎
主人の形見の袴を着込んできた
一人でこの格好は少しお目出度過ぎたかな、と思ったけれど
さすがサクラミラージュ、思ったよりも浮いていなくて良かった
や、こんにちは
如何したの、そんな浮かない表情で
一人? 連れはいないの?
良ければ少し話そうか
行く宛てがないなら、一緒に神社の方にでも向かわない?
正月はお社で手を合わせ、新年の多幸を祈るそうだよ
先に此方の名を名乗って、簡単な自己紹介を
質問があれば全て答えよう
それで、きみの名前は?
見たところ学生かな
学校の話なんかも聞かせてよ
…思い出せそう?
忘れる、記憶を失くす
それは一体どんな感覚なのだろう
俺は過去を忘れることができないから、わからないけれど
きみは、哀しそうだね
●涙を拭って
自分の姿が浮いてはいないかと心配していた戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)は、転送された先でほっと一息をつく。
「主人の形見の袴を着込んできて正解だったね」
青く美しい硝子の花瓶のヤドリガミである彼の、造り手であった、かの人の大事な形見。
洋服店の窓ガラスに映るシアンの姿は、普段から着ている白いシャツの首元を白と青のリボンで結び、白から紺へ徐々に色を変えていく袴。そして、腰までの丈のケープコートにややヒールのあるブーツという、洋装と和装をバランスよく組み合わせた姿だ。
「さすがはサクラミラージュの帝都だ」
和装も洋装も、和と洋を合わせた洒落た格好も、この世界の流行を集めたような煌びやかさがある。街を歩きながら影朧が出現したという方向へ歩いていくと、沢山いた人々の姿がまばらになり避難誘導をする者の姿が見えた。
「とすると、この辺りだね」
人がいなくなる方へと進んでいけば、それらしき後ろ姿が見える。誰かが肩にコートを掛けてくれたのだろう、それでもぼろぼろの衣服に血塗れの手は見間違えることもなく彼女が影朧なのだと知らせてくれる。
「や、こんにちは」
気負わせないような気軽な、それでいて優しい声でシアンが影朧へ声を掛けた。
『こんにちは』
ふらふらとさせていた足を止め、影朧がシアンへ視線を向ける。
「如何したの、そんな浮かない表情で。一人? 連れはいないの?」
『私、そうね、連れはいない……いないわ』
そう、とシアンが頷いて、だったらと提案する。
「良ければ俺と話そうか。行く宛てがないなら、一緒に神社の方にでも向かわない?」
『お話するの? 私、私も……そう、神社へ行こうと、していたの』
行先は思い出せているようだとシアンが笑い、では行こうかと影朧の歩調に合わせて歩き出した。
「正月はお社で手を合わせ、新年の多幸を祈るそうだよ」
『祈る……そう、そうね、お参りを、するのね』
それから、なんだったかしらと首を傾げた影朧にシアンが名を名乗れば、影朧も花乃子だと名を返す。名前も思い出せているならば、あとは時間の問題かもしれないねとシアンは胸の内で呟く。そして、少しでも思い出す助けになればと積極的に話し掛けていく。
「君は……見たところ、学生かな?」
『がくせい……』
「学校の話なんかも、よかったら聞かせてよ」
『がっこう、わたし、どうだったかしら、わたし、の』
ぶわり、と影朧の背に黒百合が咲く。
ああ、おもいだせない。わすれてしまった、わたしのきおく。
影朧の嘆きが響く、それは無差別に攻撃を仕掛けるけれど、弱った今の彼女では大した威力ではなくシアンもスウィートピーの華があしらわれた硝子細工の刀をゆるりと振るい、難なくいなす。
「忘れる、記憶を失くす――」
それは一体どんな感覚なのだろうと、シアンはその表情を曇らせる。
「俺は過去を忘れることができないから、わからないけれど。きみは、哀しそうだね」
『……哀しい』
そう、そうね。わたし、思い出せたこともあるけれど、思い出せないことが哀しいのね。
シアンが大人しくなった影朧の瞳から零れる黒い涙を拭う。
「でも、思い出せる喜びもあるのだろう?」
『ええ、ええ、本当に』
思い出せたことは嬉しいと感じる、それが苦しい記憶であっても。
『ああ、私はまだ、何を』
わすれているのかしら……。
影朧の背から黒百合は消え、またとぼとぼと歩き出す。
「大丈夫、きみは思い出せるよ」
まるで彼女の想いを感じ取ったかのように、哀し気な顔をしたシアンがそう呟いた。
成功
🔵🔵🔴
神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
全て忘れちゃってる影朧さんもいるのねー。
どーやったら記憶って思い出せるのかしら。
思いつかないから本人にアタックよ!うん!
ひょこっと影朧さんの前に出て聞くわ。
…あ。そうそう。まずは自己紹介からよね!
「ねえねえ? 名前覚えてるかしら?」
「じゃあじゃあ、どこから来たか覚えてる?」
順番に彼女に合わせてゆっくり聞いてみるわ。
うーん。連想するように聞くのがいいかしら。
思い出すのに時間かかるのを覚悟しておくわね。
「…思い出せそう? 大丈夫?」
中々思い出せそうになかったらそうね。
身につけてる衣服のことを聞くわ。
何かきっかけになるかも?
戦闘はレーちゃんのサポート。相手の力を削ぐわ。
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
ふむ。
帝都に向う前に聞いた情報を元に聞こうと思う。
「いい色と柄の礼装だな。購入場所を覚えているか?」
「君が働いて購入したのか? それとも誰かが…?」
など身に纏う晴れ着のことを聞こう。
それでも記憶を辿れない場合は別のことを聞く。
「…そちらの方角が気になるようだが…?」
影朧から『なにがある?』と聞いてきた場合は答える。
「有名な神社がある。○○神社という…何か思い出したか?」
神社の名も出そう。きっかけになるかもしれん。
時間は可能なかぎりかける。さて。思い出すかどうか。
戦闘は露のサポートの元で遂行。その身を焼いてしまおう。
…この影朧の少女は転生できるのだろうか。…して欲しいな。
●慌てないで、ゆっくりと
まだ幼い身体をぴったりとシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)にくっつけて、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が帝都を歩く。
「すべて忘れちゃってる影朧さんもいるのねー」
「そうだな、相当に弱っている個体なのだろう……それはそれとして露、くっつきすぎだ」
歩き難いだろう、とシビラが言うと、だって寒いんだものと露が笑う。
「晴れ着っていうの、着てくるべきだったかしら?」
「別に構わないだろう、どうしても気になるなら開いてる服屋にでも寄ればいい」
正月ではあるが、売り上げを見込んで開けている呉服店や洋品店もある。既製品やレンタルであれば直ぐにでも着付けてくれるはずだ。
「そうねー、あの影朧さんをなんとかしてから考えてみるわ」
つい、と指先を右前方へと露が向け、シビラがその先を辿る。
「あれか」
「そうみたいね。ねえレーちゃん、どーやったら記憶って思い出せるのかしら」
「ふむ、皆目見当もつかないが」
帝都に来る前に聞いた情報を元に聞いてみるかとシビラが答えた。
「そうよね、叩いて直るわけじゃなものね」
「ショック療法が効く相手ではなさそうだからな」
間違っても叩くなよと含みおいて、シビラが腕に露を引っ付けたまま影朧の方へと向かった。
「じゃあ、まずはあたしが!」
くっついていた手を放し、露がひょこっと影朧の前に出ると笑みを浮かべ、まずは自己紹介からと声を掛ける。
「こんにちは、あたしは露っていうの」
『こんにちは、私は花乃子というのよ』
露が一瞬シビラに視線を向けると、シビラが頷いて応える。この影朧、名を思い出している、と。恐らくは、周囲にいる猟兵達が根気よく問い掛け続けた成果なのだろう。
「名前を憶えているのね! じゃあじゃあ、どこから来たか覚えてる?」
『どこから……どこから、だったかしら……気が付いたらこの辺りを歩いていたから……』
わたし、どこからきたのかしら。
ぽつりと呟いた影朧に、話を変えるようにシビラが口を開く。
「いい色と柄の礼装だな。購入場所を覚えているか?」
『礼装……私の着物のことかしら? どこで買ったのかしら……』
「では、君が働いて購入したのか? それとも誰かが?」
影朧が自分の手を見て、首を傾げる。
『わたしが……かったの? だれかにかってもらったの? わたし、きっとこのきものがすきだったはずなのに』
ああ、どうしておもいだせないのかしら。どうして、どうして?
影朧の背に黒百合が咲き、瞳からは慟哭の黒い涙が流れ落ちる。
「レーちゃん!」
「わかっている」
なるべく傷を付けぬようにと、露が金環、黒革、銀鎖を放つ。
『言葉を三つの力にして剥奪す!』
金環が影朧の手を緩く拘束し、銀鎖がその身体を傷付けぬように拘束する。
「Flacăra deliberată……」
シビラが魔力を帯びた紫色の炎を顕現させ威力を抑えたそれを影朧に向けて放つと、どろりとした黒い涙を焼き払った。
「大丈夫だ、名前を思い出したのだろう? 他にも思い出していることがあるはずだ」
『おもいだしたこと』
ああ、そうだ、そうだわ。
しんせつなひとたちが、おもいださせてくれたこと、あったわ。
影朧を覆いかけた黒い涙を紫の炎が消し去ると、すっかり落ち着いたのか影朧の背からは黒百合の花が消えていた。
『ええ、ええ、私は神社にいこうとしていて、約束があって、待ち合わせの相手がいて……』
「それだけ思い出せているなら、大丈夫よ」
露がそう笑いながら、拘束具を解いて影朧の手を取る。
『でも、約束をした方の顔も名前も思い出せないの』
哀し気に俯いた影朧に、シビラが両手を頬に添えて顔を上げさせた。
「卑下することはない。何も思い出せないところから、思い出せたのだろう。露の言う通り、大丈夫だ」
『だいじょうぶ、なのかしら』
不安に思う気持ち、思い出せない焦燥感に駆られてばかりだった影朧の顔がほんの少しだけ緩んで、笑みを浮かべる。
「ふふ、笑ってる方が可愛いわ」
「そうだな、哀しそうな顔をしているより、よっぽどいいと思う」
露が励ますように影朧の手を握り、シビラが頬を撫でた。
「きっと……そうね、神社に着くまでに思い出せるわ」
楽観的なことを言う露に、いつもならば窘めるところだけれどシビラもそうだなと頷く。
『そう、そうね……私、わたし……思い出せたら、いいと、思うわ』
ありがとう、と呟いて、またふらりと影朧が歩き出した。
その後姿を眺めながら、シビラがぽつりと呟く。
「……この影朧の少女は転生できるのだろうか」
「きっとできるわよ」
「ああ、……して欲しいな」
うん、と頷いて、露がシビラの腕にくっついて、その肩に頭を擦り寄せる。甘える露に溜息をつきながら、シビラも露の頭に自分のそれを寄せるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒鵺・瑞樹
◎
晴れ着っていったって男物は華やかさは女性に負けるからなぁ。
まぁ動きやすいいつもの格好で。
現場に向かう途中で女性物の羽織を調達してく。
影朧の女性の好みの柄はわからないけど、新年らしいものであれば今の時期あるだろうか。
まずは一声かけて羽織をかけてあげたい。
思い出す手助けは出来ないかもしれないけれど、女性なのだからぼろぼろのままというのもしのびないし、着替えできないのならせめてと思って。
男が着替えさせるのもどうかと思うから、羽織りかけるぐらいはできるんじゃないかと。
まずはどこへ行こうとしてるのか聞いてみようか。
言えるのならもちろん言えなくとも彼女に同行しよう。
当たり障りない会話から何か見えるかも。
●君に優しさを
晴れ着か、と考えて黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は結局いつもの動きやすい恰好で帝都を訪れることにした。
「男物はどうしたって華やかさでは女性に負けるからなぁ」
女物を着こなすのは自分には難しいし、と正月であっても駆け込みの需要はあるものと店を開けている大通りの呉服店へと足を踏み入れた。
何をお探しでしょう、と店員に声を掛けられて瑞樹は女性用の羽織を、と伝える。案内された場所には様々な種類の羽織が掛けられていて、どれにしようかと目が迷う。
レトロモダンな流行りの柄から、ケープ風のデザインを取り入れたもの、どれも華やかで女性なら好みそうなものばかりだ。
「……うん、これにしようか」
新年のような明るく鮮やかな百合の咲く、白と紺のレトロモダン風の羽織を買って、値札だけ切ってもらうとそのまま店を出た。
手にしたそれを大事に抱え、大通りを歩く。やがて人波がまばらになったその先で、影朧の姿を捉えた瑞樹が歩調を上げた。
ゆっくり、とぼとぼと歩く影朧にはすぐに追いつき、一呼吸整えてから声を掛ける。
「こんにちは、お嬢さん」
『……こんにちは』
振り向いた彼女が、瑞樹が手に持った羽織に目を止める。
「これ、気になるのかな?」
『ええ、素敵な羽織ね』
貴方が着るの? と問われ、瑞樹が小さく微笑む。
「いいや、これは貴女に」
そう言って、既に誰かが掛けてあげたのだろうコートの上からそっと真新しい羽織を掛けてやった。
『私に……? でも、悪いわ』
貰えないわ、と影朧が困ったように首を傾げると、瑞樹が首をゆっくり横に振る。
「いいんだ、貴女にと思ったものだから」
思い出す手助けは自分には出来ないかもしれないけれど、女性なのだからぼろぼろのままの着物ではあまりにも忍びない。
「俺の……そうだな、自己満足に付き合うと思って」
着てくれないか、と微笑んだ。
『自己満足だなんて、思わないわ。ありがとう、貴方も優しい方なのね』
やさしいひとが、いっぱいいるのね、と影朧が微笑む。
「よかった、喜んでくれたなら俺も嬉しいよ」
そうして、影朧の隣を瑞樹も歩く。
「どこへ行くのかな」
『ええと、そう、私、神社へ』
すんなりと出た答えに、他の猟兵が思い出させてくれたのだろうと瑞樹が当たりを付けると、そのまま横を歩いて当たり障りのない会話を続ける。
「約束でもしてた?」
『ええ、そう、約束をして。でも、わたし、あいてのかたの、かおも、なまえ、も』
おもいだせないの、と呟いた彼女の背から黒百合が咲く。長く伸びた爪が、彼女の苦しみのままに動いた。
「そう、でも神社まで行けば思い出せるかもしれない」
『おもい、だせる』
弱り切った影朧の動きは緩慢で、力を使う必要性さえ感じないほど。何度か振るわれた爪を軽々と避け、宥めるように声を掛ければ影朧の背からは黒百合が消えていく。
『そう、ね、そうね。このまま真っすぐ行けば、もう少しおもいだせるかも、しれないわね』
ありがとう、と微笑んで影朧がまたふらりと歩き出す。
瑞樹の贈った羽織の裾が、まるで優しい慰めのように揺れていた。
成功
🔵🔵🔴
月隠・三日月
◎
硲さん(f01013)と共に
影朧は晴れ着を気にしているようだし、私も着ていこう(色柄等はお任せします)
あの影朧、何か目的がある様子なのだよね。どこかに向かおうとしているような……
影朧を驚かせないよう、そっと話しかけてみようか。
「もし、そこの方。もしや、道に迷われているのかな」
話すときは影朧と目線を合わせて、『貴方の話を聞く』と態度で示そう。
この影朧は、どこかに行こうとしているのだろうか? そうだとしたら、どこに向かおうとしているのだろうか? それを思い出せたら、この影朧の助けになるのではないかな。
戦闘では周囲の被害を抑えるよう立ち回ろう。なるべくあの影朧に人や物を傷つけさせたくないからね。
硲・葎
◎
三日月さん(f01960)と。
晴れ着、せっかくだから着たいね。
黄色地に牡丹柄、裾に黒が入る着物。
帯は金に牡丹柄、帯留めは赤と緑の2色を使用。
悲しい気持ちが伝わってくる。
辛かったんだね。
貴女が大事にしてたこと、私が思い出せるお手伝い、してあげたい。
「貴女の大事な人、大切な友達、家族。思い出してほしい。貴女と一緒に幸せになりたかったはず」
コミュ力と優しさを使用して、彼女の気持ちに添うように。
思い出せなかったとしても大丈夫。
貴女が苦しくないように。
攻撃をしてきたら、見切りとダッシュでできるだけ回避。
「貴女の爪なら傷つけられても構わない。受け止めてあげる」
懐に入ったらUC発動。
●身寄りを問う
その影朧は晴れ着を気にしているのだと聞き、それならばと月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)と硲・葎(流星の旋律・f01013)は晴れ着で出掛けることにした。
「聞いていたところ、戦闘能力は低いようだしね」
酷く儚い存在に成り果てた、影朧。着慣れぬ衣装であっても、遅れを取るようなことはない。
そう言うのは紺の着流しに同色の羽織を纏い、羽織紐には天然石を使った洒落たものを付け首元に黒の襟巻をしている三日月だ。
「そうだね、油断はできないけど出来る限りのことはしてあげたいよね」
頷くのは黄色地に牡丹柄が美しく、裾に掃いた黒が鮮やかな晴れ着に金糸の帯は牡丹の柄で帯結びも牡丹のような大振りな花結び。帯締めは赤と緑で、なんとも鮮やかな晴れ着姿の葎だ。
「それでは行こうか、硲さん」
「よろしくね、三日月さん」
新年のこのめでたき日に悲しきことのないように、と二人が街を歩き出した。
大通りは人も多く賑やかで、正月の賑わいを見せている。けれど、ある程度進んだところで人通りがまばらになっていくのが見て取れた。そして、ふらりと歩く影朧も。
「あの子のようだね」
「避難誘導してる人も見えるから、そうみたい」
影朧はそういったことにはどうも気が付いていないみたいで、ぼんやりと……それでいて前に向かって進んでいるように見えた。
「あの影朧、何か目的がある様子なのだよね」
どこか、向かう先があるような。
「まずは話し掛けてみるところからだよね、三日月さん」
「そうだね。驚かせないよう、そっと話し掛けてみようか」
元旦の街を謳歌する二人組のように見せかけつつ、二人が影朧に向かって歩く。すぐに追い付いて一瞬視線を合わせると、三日月が頷いて先に動いた。
「もし、そこの方。もしや、道に迷われているのかな」
『私、かしら?』
振り向いた影朧の顔はどことなく不安気で迷子のように見えて、しっかりと視線を合わせて三日月がそうだよ、と頷く。
「行き先はわかるかな?」
『ええ、ええ、私、神社に向かっているの』
行き先が思い出せているのなら、他のことも思い出せているかもしれないと三日月が話を聞こうと葎に視線を送った。
「そうなんだね、他に思い出せていることはあるのかな?」
律がさりげなく声を掛けると、影朧が思い出せたことをつらつらと教えてくれる。
「そう、たくさん思い出せているんだね」
『ええ、親切な方が沢山いらっしゃったの』
きっと自分たち以外の猟兵だろうと考えながら、二人は彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩きながら一つずつ頷いて答え、思い出せていないことを問い掛けていく。
『どうだったかしら……わたしの、おもいだしたいこと……』
悲しげな表情を浮かべた影朧に、まるでその悲しい気持ちが伝わってくるようで葎が同じように眉根を寄せる。
「辛かったんだね」
思い出せないままに街を彷徨うのは、どれだけ心細いことだっただろうか。
「私、貴女が大事にしてたこと……思い出せるお手伝い、してあげたい」
「私もだよ、一つでもいい。私たちと一緒に思い出してみないか?」
真摯な二人の想いに、影朧がこくんと頷いた。
「貴女の大事な人、大切な友達、家族。思い出してほしい。貴女と一緒に幸せになりたかったはずだから」
『私の……わたし、そう、わたしおもいだしたくて』
わたしといっしょにいてくれたひと、かぞくだったひと。
ああ、ああ、わたし、わたし。
思い出せないことが哀しいのだと言わんばかりに、影朧の背に黒百合が咲く。長く長く伸びた爪が、その哀しみを振りほどかんばかりに振るわれる。それは弱々しい動きで、猟兵である二人には大した攻撃ではなく。
「貴女の爪なら傷つけられても構わない。哀しみごと受け止めてあげる、大丈夫、大丈夫だよ」
難なく動きを見切り、軽いステップで葎がそれを避ける。
「それほどに思い出したいことだ、落ち着いて記憶を探ってごらん。大丈夫、あなたならできるよ」
三日月も周囲に被害が及ばぬように避ける先を選びながら、葎と共に優しい言葉を掛け続けた。
だいじょうぶ、だいじょうぶよって、わたし、いわれたことがあるわ。
『だいじょうぶ、って、おとうさん、おかあさん』
ほろりと流れた涙は黒く、けれど背に咲いた黒百合は掻き消えて影朧がぽつんと立ち尽くす。
「お父さんとお母さんがいたんだね」
「きっと優しい方たちなのだろう」
『ええ、ええ、私にもいたわ。家族が、いたわ』
今も生きているかはわからないけれど、確かに居たのだと影朧が涙を流しながら微笑んだ。
「思い出せて良かったね」
「本当に良かった、家族を思い出せたのね」
『ありがとう、優しい方たち。ええ、ええ、私にもいたの、大事な家族――』
ああ、けれどほかにも、おもいだせないことが、あるの。
わたし、おもいだせるかしら?
そう呟いて、影朧が再び歩き出す。
「大丈夫、思い出せるよ」
「ああ、必ず」
葎と三日月が、その背に届くようにと願って、声を送った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸】
晴れ着ではないですが、冬仕様の袴を
ふふ、ありがとうございます
影朧のお嬢さんへの対応は雲珠さまにお任せして。きっとその方が良いと思うのです
わたしは彼の様には出来ないでしょうし
彼が先導する影朧のお嬢さんの二、三歩後ろをそっと行き
彼とお嬢さんが話す会話に耳を傾けて
晴れ着には程遠い、痛ましいとも言える彼女の姿に思いを巡らせ
影朧になっていなければ、今頃彼女もそれを着てここにいたのかもしれません
そうはならなかったのですが
袖に仕込んだ千本の感触を確かめながら、彼女に妙な動きがあればいつでもそれを放てる様に
ああ、それでも。出来る事なら、この鋼の針を使う事がない様にと
少しばかり考えてしまうのです
雨野・雲珠
【鏑木邸】普段の和装
(瞬いて)…ヨシュカくん?
わぁ。とってもお似合いです!
自分が何者なのかすらも曖昧なんでしょうか。
寄り添うような気持ちで、さりげなく話しかけてみます。
後ろにヨシュカくんがいてくれるので安心です
こんにちは。
お怪我をなさってるようですけど…
よければ手当いたしましょうか。
血を拭うためのハンカチを渡そうとしたりしながら、
世間話めいて話を振ります。
年が明けましたねえ。初詣はもうお済みですか?
今日はどちらまでお出かけですか、などと。
その後も、彼女の側に同族がいなければ比較的近くに、
おられるなら先触れとしてすこし前を歩きます。
桜の精が見ていると知れれば、安心する方もおられましょうから。
●学び舎を問う
一年中桜が咲き乱れる帝都のお正月はどの世界にも負けぬほどの華やかさがある、と雨野・雲珠(慚愧・f22865)は思う。晴れ着、と思いはしたけれど来るべき日の為に清貧と倹約を貫く彼はいつもの書生姿――麻の葉模様をした新橋色の長く着られる着物と、黒から紫鳶に色を変える袴に編み上げブーツに箱を背負った姿だ。
「お待たせしました、雲珠さま」
「いえ! 何も待ってな……」
待ち人の声に雲珠が振り向いて、何度かその桜と空の混じる瞳を瞬かせる。
「……ヨシュカくん?」
「はい、ヨシュカです」
そう言って笑ったのは、雲珠のよく知るヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)であるというのに、全く知らないヨシュカの姿をしていて。
「晴れ着ではないですが、冬仕様の袴を……変ですか?」
「いえ、とってもお似合いです!」
抜けるような白に映える雪輪の模様の着物、その衿から覗くのは紫とピンクの粋な色。レースがアクセントのシャツが首元を飾るのも洒落ている。そして冬仕様だという紺の袴の裾には雪花が白く舞っていた。
「さすがヨシュカくん、和装のお洒落も抜かりない……!」
では、何に驚いたのかと言えば、だ。
彼が普段見ているヨシュカといえば褐色肌に白髪なのだが、今目の前にいる彼は健康的な白い肌に黒髪なのだ。
その金色に光る瞳は変わらないけれど、全くの別人だと言われてしまえば信じてしまうだろう。
「ヨシュカくん七不思議のひとつですね……」
「ふふ、あと六つもあります」
七つ見つけると何かあったりしますか? と思わず聞いてしまった雲珠に、ヨシュカはただ笑うだけだ。
「それでは影朧を探しに行きましょうか」
「はっ、そうでした! お役目に参りましょう、ヨシュカくん」
そうして、人形と桜が連れだって賑わう街を歩き出す。目移りしてしまいそうになる賑わいも数分も歩けば人がまばらになって、二人が顔を見合わせる。
「人が少ないということは、影朧が近くに?」
ヨシュカの言葉に、雲珠が避難誘導をする帝都桜學府の生徒を見つけて雲珠がそうみたいです、と頷いた。
「あ、あちらですね」
普通より少し目がいいのだと笑うヨシュカが見つけた影朧に向かって、指をさす。
「聞いていた通りの方ですね」
「では、わたしは雲珠さまの後ろに控えておりますから」
後ろに、と言われて雲珠が目を瞬かせる。
「ええと、影朧の対応は俺に任せて下さるということですか?」
「はい、きっとその方が良いと思うのです」
わたしは桜の彼のようには出来ないだろうから、とヨシュカが思いながら頷く。
「その代わり、護衛はお任せください」
「ヨシュカくんの護衛……!」
それは随分と贅沢ですね、と雲珠が表情を緩め、影朧に向けて真っすぐに歩を向けた。
「こんにちは」
『……こんにちは』
振り向いた影朧の姿は確かに今までに見た影朧よりも儚く見えた。
「お怪我をなさってるようですけど……よければ手当いたしましょうか」
『ありがとう、でも、痛いとも思わないのよ』
痛みすらも忘れてしまっているのだろう。そうですか、と言いながらも雲珠は取り出したハンカチをそっと彼女に渡した。
素直に受け取ったそれで影朧が血を拭うけれど、すぐに新たな血が染み出すように現れる。それには気が付かない振りをして、雲珠が歩きながら世間話のような会話を影朧へと向けた。
「年が明けましたねえ、初詣はもうお済みですか?」
『初詣は、ええ、いまから……いくのだと、おもうわ』
他愛のない会話をする二人の三歩後ろをヨシュカが歩く、何かあっても一足飛びに雲珠を庇える距離だ。
影朧の一挙手一投足にまで気を配りながら、雲珠と影朧の話す会話に耳を傾ける。聞いていれば、ある程度のことは思い出せているようで、雲珠が嬉しそうな顔をしているのが見えた。
「そうなんですね、想い人の方と初詣に行かれる予定だったのですか」
『ええ、そう、そうなの。お付き合いは、していなかったのだけれど……』
「どちらでお知り合いになったのですか?」
可愛らしい会話だと思う、そして雲珠の横を歩く影朧のお嬢さんも、影朧になっていなければ今頃ぼろぼろの着物ではなく綺麗な晴れ着を着てここにいたのかもしれない、とも。
そうはならなかったから、今ここにわたしと雲珠さまがいるのですが、と袖に仕込んだ千本の感触を指先で確かめながら歩いた。
『どこで……どこで、しりあったのかしら……』
「学び舎ではないでしょうか、花乃子さんは学生さんに見えます」
『まなびや……いっしょに、かえって、ああ、どうだった、かしら、わたし』
わからない、わからないわ。
悲しげな瞳が揺れて、影朧の背中から黒百合が咲く。
「雲珠さま」
ブーツの音も鳴らさぬ程の素早さでヨシュカが雲珠と影朧の間に入り込み、黒い涙で身を覆ってしまった影朧が繰り出す攻撃とも呼べぬようなそれを千本で弾く。
「ありがとうございます、ヨシュカくん!」
庇われたまま、雲珠が影朧へと呼びかける。
「花乃子さん、大丈夫です! ちゃんと思い出せますから、落ち着いて考えてみてください。好きな方と、帰り道が一緒になったりしませんでしたか?」
すきなかたと、まなびやのかえりみちで。
『ええ、そう……そうだったわ、わたし、私、あの方と一緒に帰れるのがとても嬉しかったの』
背に咲いた黒百合が揺らいで消えて、身を覆い隠していた黒い涙も消えていく。
『私、初詣に一緒に行くお約束を、帰り道にしたのだったわ……』
その言葉に、雲珠がきらりと目を輝かせてヨシュカを見る。ヨシュカも良かったですねと言わんばかりの笑みで応えた。
「思い出せて、何よりです」
「良かったですね、お嬢さん」
『ありがとう、思い出せて、嬉しいわ』
ああ、でも、好きな方のなまえも、かおも、おもいだせないの、と影朧が溜息を零しながらまたふらりと歩き出す。
「雲珠さま」
「きっと思い出せるはずです」
それまで、少し離れたところから見守りましょうという桜の彼に、ヨシュカが頷く。
「桜の精が見ていると知れれば、安心する方もおられましょうから」
「そうですね、それが良いと思います」
雲珠の心遣いに小さく微笑んで、桜と人形は影朧を見守る為にまた歩き出すのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ベイメリア・ミハイロフ
まあ、記憶を失って…
影朧といえど、気の毒な事でございますね
わたくしでは力不足やもしれませんが
何か思い出せないか、お手伝い申し上げたく
赤地に花柄のお振袖を着用
髪をアップにした恰好で参ります
もし、そちらのお嬢さん
お困り事でございますか?
まずは、お痛ましいお姿でいらっしゃるので
ショールをお掛けして、お怪我を空気に晒さぬように致したく
晴れ着の人にお話しをお尋ねになるという事は
あなたも晴れ着を着るご予定だったのでは?
そして神社にて、どなたかと待ち合わせをなさっている、ですとか
ただ、ここにおいでになる間に
大怪我を負われてしまわれたのでは
どうしてそのようになられたのか
思い出されたら、良いのでございますけれど
セフィリカ・ランブレイ
式典用のドレス来てる時位動きづらい!
『そも、セリカ。派手に動くための衣装じゃないわ』
けどシェル姉。晴れ着初めてなんだよ私
折角可愛いのレンタルしたんだもの、堪能させてよ
呆れ声で返す相棒の魔剣とやり取り
何を忘れてしまったかもわからない、か
感情って、人が動くために必要な一番大事なエネルギーだもの
ちゃんと思い出させてあげたいね
出来る限りお話、してみよう
町を巡れるなら、広範囲を見せて気になる場所を探ってみたい
この街並みを見て、何か感じたりすることある?
心が動き出すような場所とか、ある?
食べ物とか、本とか、そういうので気になったりは?
まずは、気になる場所とか、楽しかった事とか思い出してくれたらいいな
雷陣・通
ぎりぎり、間に合ったかな?
俺は……まあ、なんというか、君をおびき寄せ、そして他の猟兵を庇う役回り。
誰かが全力を出すために、あんたをここで釘付けにする役目さ
『前羽の構え』
空手における防御の構え、防刃加工のバンテージ、そしてタイミングを見切りさえすれば、時間は稼げる
怪我は付き物だけど
でもな、あんたは思い出さなくてはならない
何をしようとしたのか
何故、その姿になったのか
どうして、伸ばした手を拒む様に爪が伸びているのか
そして思い出したら――俺が受け止める
この爪を切り
伸ばした手を掴む役目は誰かに任せた!
●好ましきを問う
赤地に金糸に縁どられた白薔薇と赤薔薇を咲かせた華やかな振袖に、上品な金の帯を結び黒と赤の帯締めを締めたベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)が影朧を探して帝都の街を歩く。緩く結い上げた金色の髪に挿した髪飾りがしゃらりと揺れていた。
「記憶を失った影朧……気の毒な事でございますね」
人を襲うことなく彷徨っていると聞き及んでいるけれど、さてどちらに……とベイメリアが自然と落ちてしまった視線を上げると、随分と賑やかな声が聞こえて思わず振り返る。
「式典用のドレス来てる時位動きづらい!」
ベイメリアの瞳に飛び込んできたのは白地に大輪の赤い牡丹を咲かせた鮮やかな晴れ着に、黒と金の配色のバランスの良い帯を結び白と赤の帯締めを締めたセフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)だ。
『そも、セリカ。ドレスも晴れ着も派手に動くための衣装じゃないわ』
そして、セフィリカの声に答えたのは組紐を上手く組み合わせて腰に吊り下げられた――彼女の魔剣シェルファだった。
「けどシェル姉、晴れ着初めてなんだよ私! 折角可愛いのレンタルしたんだもの、堪能させてよ」
『その晴れ着にアタシを差してるのはどうなのよ……』
真っ当な突込みにセフィリカが返事に窮していると、くすくすと笑い声が響いた。
「あ、申し訳ありません、笑うつもりは……」
なかったのですけれど、とベイメリアが慌てて謝ると、セフィリカが気にしないでと笑った。
「そうなんだ、ベイメリアさんも影朧に会いにきたのね」
「ええ、わたくしでは力不足やもしれませんが、何か思い出せないか……お手伝い申し上げたく」
『アタシたちと一緒ね』
自己紹介をして、同じ目的なら一緒に行きましょう! というセフィリカにベイメリアが快く頷いての道行き。思わぬ連れができたのは、お互い嬉しいものですねと乙女二人が笑い合った。
「でも、晴れ着がこんなに動きにくいとは思わなかったのよね」
「ふふ、確かに普段着ている物よりは動きにくいですわね」
影朧に遅れを取るようなことはないけれど、いつもの動きができるかしらとセフィリカが悩んでいると、彼女の魔剣が声を上げる。
『セリカ、あの子見覚えがあるんだけど』
「え? 誰々?」
セフィリカがシェルファの言う方角を見てみれば、視線の先には夕日のような色をした髪の少年が一人。
「あの子……丁度いいわ! おーい! 通くーん!」
通くん、と呼ばれた少年がセフィリカの声に反応して振り向く。
「えっと、セフィリカ?」
見たことがあるはずだ、とセフィリカが笑う。雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)とは、旅団を同じくする仲なのだ。
「お知り合いですか?」
「所属する団が一緒でね、規模が大きいところだから顔と名前くらいしか知らないってこともあるんだけど」
ベイメリアにそう答え、立ち止まってくれた通へ追い付くために歩調を上げる。
「どうしたんだ、こんなところに……って聞くまでもないか」
目的は同じなんだろう、と通が言うとセフィリカが頷いて隣にいるベイメリアを彼に紹介する。一通り自己紹介を済ませ、なるほどと通が頷いた。
「晴れ着では不安があるから俺に協力してほしいってことだな?」
「弱り切ってる影朧だっていうから、大丈夫だと思うんだけどね」
「ええ、遅れを取るようなことはないかと思うのでございますけれど……」
二人の言葉に、通が笑みを浮かべる。
「いや、俺は説得というか思い出させるのは不向きだと思うから、渡りに船ってやつだな」
引き受けさせてもらうぜ、と通が言うと、セフィリカとベイメリアが花が咲いたように笑った。
では早速、と三人で連れだって歩き、影朧を探す。それはすぐに姿が見えて、ふらりと迷子のように歩く姿に通が思わずと言った風に零す。
「本当に、随分弱ってるんだな」
あれなら、一撃で仕留められてしまいそうだと呟くと、セフィリカも同意を示すように頷く。
「それほどに、傷付き弱っている影朧なのでございましょうね」
痛ましい姿だけれど、誰かが掛けてあげたのだろう、コートと羽織が肩に掛けられている。
「それじゃ、行くわよ」
「俺は二人の後ろで影朧がおかしな動きをしないか見てるぜ」
「お願い致しますね」
通に一つ頭を下げて、ベイメリアが先陣を切った。
「もし、そちらのお嬢さん」
『……私、かしら?』
ええ、とベイメリアが頷く。
「何かお困り事でございますか?」
『困りごと……ええ、ええ、そうね、私、困っているのね』
そう言って視線を落としてしまった影朧に、ベイメリアがそっと肩に掛けていたショールを影朧の首元へと巻いてやる。
『これは?』
「首元が寒そうでしたので……よくお似合いでございます」
「ええ、とっても似合ってるって、私も思うよ」
ベイメリアの言葉にセフィリカが言葉を重ね、影朧へと微笑む。何を忘れてしまったかもわからない、それはとても哀しいことだ。
感情は人が動くために必要な、一番大事なエネルギーだとセフィリカは思う。ならば、ちゃんと思い出させてあげたい。そう決意して、出来る限り話をしてみようと試みる。
「この街並みを見て、何か感じたりすることってある?」
『感じること……ええ、そうね……どこか懐かしいけれど、私の知っている街並みと少し違うような……気軽のだけど、わからないの』
何十年か先へ進んでしまったかのような、そんな。そんな気がするけれど、どうだっただろうか。
「そうなのですね……では――」
ベイメリアとセフィリカが影朧に問い掛けるのを、通は黙って聞いていた。
勿論、影朧の動きに注意しつつ、だ。
オブリビオンの中でも桜の精の力で転生が可能だという、影朧。けれど、今までに相対したことのある影朧とあの影朧はどうやら少し違うということ。儚さすら感じてしまうような――。
「こんな影朧もいるんだな……」
零した言葉は、誰にも届かないほどの小さな声だった。
「そうなのでございますね、そこまで思い出されていらっしゃったのなら、他のことも思い出せそうなのではないでしょうか?」
『ええ、でも、ぼんやりと霞が掛かっているような、感じで』
「じゃあ、心が動き出すような場所とか、ある?」
通りを歩きながら、セフィリカが影朧に問い掛けつつあちこち指をさす。
「ほら、あそこのカフェのパンケーキとか、パフェとか美味しそうだな、とか」
『ぱんけえき……かふぇ、の』
「ケーキも美味しそうだよね」
それはアンタが食べたいだけでしょ、とシェルファが突っ込むけれど、セフィリカは知らん顔だ。
『かふぇ、ああ、ああ、どうだったかしら、わたし』
わからない、わからないの。
顔を手で覆ってしまった影朧の背から、黒百合の花が咲く。
「下がって!」
通が短く叫ぶと、二人が軽いバックステップで通の後ろへ下がる。
「どうか、どうか傷付けぬように……!」
お願いでございます、とベイメリアが通の背に声を掛ける。
「承知した!」
黒い血の涙を流し、ずるりと伸びた長い爪が緩慢な動きで通を襲う。
「俺はバカだから、あの二人みたいに色々聞いてやることはできないけど」
両手を前に出し、通が構える。
それは空手における防御の構えによる通の絶対防御。防刃加工のバンテージがされたその手で攻撃を受け止め、影朧の意識をこちらへ向けさせる。
「あんたは思い出さなくてはならない」
思い出せたことがあるのなら、まだ思い出せないそれを。
何が好きだったのか、それだってその人を作る想いの一つだ。
「セフィリカとベイメリアが問い掛けたそれを」
できるならば、思い出してやって欲しいと通は思う。
『ああ、ああ、わたし、そう、かふぇ、みるくほーる、の』
苦し気に顔を歪め、影朧が伸びた爪を通へ突き立てるように伸ばす。
「俺が、受け止める!」
影朧の爪が、ぱきんと割れた。
俺はその手を掴めないけれど、その手を掴んでくれる人はここにいるからと、通の唇が笑みを浮かべる。
「大丈夫、思い出せるよ!」
「ええ、お嬢さんなら、きっと……!」
願うような二人の声に、影朧の動きが止まり黒百合が消えていく。
『わたし、ああ、わたし、ミルクホールでいただく、ミルクコーヒーが好きだったの』
好きな方と、一緒に飲むそれは、とっても甘くて美味しかった。
「思い出せたんだね」
「何よりでございます」
『ええ、ええ、ありがとう……ありがとう、あなた、も』
影朧が二人に微笑み、通にも視線を送る。通が構えを解き、それに黙って頷いた。
『ああ、だけど』
わたし、やっぱりあの方のお顔も名前も、おもいだせなくて。
思い出せたこと、思い出せないことを何度も考え、迷うような足取りで再び影朧が歩き出す。
思い出せればいい、と願いながら、三人は影朧の背を見守った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
兎乃・零時
◎
晴れ着かー、俺様はもってねぇけど…いつか来た方が良いのかな、やっぱ…
カッコいい晴れ着欲しいな…
ん?聞きたい事か?良いぞ!俺様でわかる事なら……
(…何忘れたか俺様知らなかったわ…)
お前が何を忘れたかは正直わからねぇけど
話なら幾らでも聞くぜ!
忘れた事はやっぱ思い出した方が良いだろうしな!
なんで血まみれかはわかんねぇけど…
そうだな、何か後悔してることがあるかもしれねぇ
未練が……確か神社の道なんだよな
だったらもしかしたら初詣とか…なんだっけ、成人式?っつうのもあるらしいじゃん
それ関連かもしれないぞ!
正直悲しい顔より楽しい顔になったほうが気分も上がるはずだし…楽しい思い出とか其処にありそうじゃないか?
●一緒に歩いて
サクラミラージュ、帝都。大正の世が七百年以上も続く街、和装が多く見受けられるが、勿論洋装の者も多い。正月ということで、晴れ着を着ている者が多いが、スーツで決めた人々もそれなりに見える。
「晴れ着かー、俺様はもってねぇけど……いつか着た方が良いのかな、やっぱ……」
呉服屋の前で立ち止まり、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)がその大きなショーウィンドウを覗く。圧倒的に女性の晴れ着が多かったけれど男性のマネキンも立っていて、カジュアルなものから成人式に着るようなしっかりとしたものまでと様々だ。
「俺様もカッコいい晴れ着欲しいな……」
自分ならばどんなものが似合うだろうか。
飾られている黒の紋付き袴も格好良いけれど、白色の着物に白から黒へ色を変えていく生地の裾に星を散らしたような袴、羽織は紺から白へ色を変える、どこか星空を思わせるような――。
「っと、いけねぇ」
思わず夢想してしまったけれど、零時が今着ている衣装だって彼の一張羅だ。
「晴れ着は人の数だけあるってな!」
呉服屋から離れ、零時が人波に沿って進む。神社が近付くにつれて人が多くなるかと思ったけれど、人波は減る一方。
「となると、この辺にいるんだな」
よく見れば避難誘導をしている者の姿も見える、ならばこの先で間違いないと零時は歩く速度を上げた。
「あいつ……だよな?」
肩に色々羽織ってはいるが袴がボロボロだし、よく見れば血塗れだ。
「よし!」
気合を入れ、影朧に向かって走り出す。
「なあ、なんか困ってたりするんじゃねぇの?」
『私、かしら?』
「そうだぜ、俺様が聞いてやる」
胸を張った零時に影朧が小さく笑って、ありがとうと頷いた。
「聞きたい事とかないか? 俺様でわかる事なら答えるぞ!」
『聞きたい事……』
そう言われて、影朧が首を傾げる。それから、ぽつりと話し出した。
親切な人達のお陰で、色々なことが思い出せたこと。だけど、どうしても思い出したくても思い出せないことがあるということを。
「へぇ、色々思い出せたんだな」
良かった、と思うと同時に何を思い出せないのかが気になって、零時が問うた。
『私が、好きな方のお顔と、お名前が、どうしても思い出せないの』
「そりゃ……」
血塗れの理由は聞いた、神社へ向かうことも聞いた、それが好きな人との約束であったことも。
「俺様にもちょっとわかんねぇな……」
『ふふ、いいの』
知っている人が、今も生きているかはわからないもの、と影朧が呟く。
「そ、そんな顔すんなよ! こう、髪が短かったとか長かったとか、そういうところから思い出せるかもしれねぇだろ?」
『かみの、ながさ』
「目が垂れてたとか、大きかったとか、身長が高かったとかさ」
『どう、だったかしら』
ほんとうに、どうだったのかしら、わたし、どうしても。
影朧の背から黒百合の花がぶわりと咲き、哀しみの黒い涙が影朧を包みこむ。
「ぱ、パル―――ッ!」
傷付けたくはないと、零時が紙兎のパルを呼べば、影朧の攻撃を躱す手助けをしてくれる。瞬間移動のように移動を繰り返し、零時が影朧に声を掛けた。
「大丈夫だって! あんたなら思い出せる! それにあんたの好きな人だって、あんたが悲しい顔をしているより、楽しい顔をしている方が嬉しいに決まってる!」
『わたしの、すきなひと、も?』
「もちろん、俺様だってだ!」
かなしい、かおよりも……。
影朧の背から黒百合が消えると、覆っていた黒い血の涙も消えていく。
『おもいだせる、かしら』
「あんたが笑ってたら、きっと!」
そう、そうね。
泣き笑いのような笑顔を浮かべ、影朧がまたふらりと歩き出す。
その背を見守る零時が、絶対だ、と呟いた。
成功
🔵🔵🔴
千家・菊里
【福3】晴着でお任せ
ふふ、清史郎さんは流石の着こなしですね
本当に、清新の気に包まれた様な心地で
伊織も其の儘黙っていれば良いものを――除夜の鐘も君には無意味でしたか(早速煩悩塗れの男見て笑い)
今日は奇しくもお嬢さんに声を掛けねばならぬ仕事
清史郎さんを見習って確り頼みますよ?
さてお嬢さん、お困りですか?
何方かとおめかしして初詣の約束等していたのでしょうか
――何にせよ、哀しいお顔の儘では忍びない
好きな物
楽しかった事
渾名や愛称
――街の光景の中、何か心の奥底が訴えたり、思い出が過る事はありませんか?
慌てず一緒に紐解いて行きましょう
哀哭さえも受け止め、血涙を拭い、心晴れる切欠を見出せる迄――付き合いますよ
筧・清史郎
【福3】
目を惹く明るめ上品な色味の晴れ着で
二人の和装は見慣れてはいるが
この様な装いは新年に相応しく、気も引き締まるな
ふふ、菊里もとても良く似合っている
女学生に声を掛ける任務か
伊織にはうってつけでは?
そうか、それは頼もしいな(微笑み
UC発動、柔桜の如き微笑み咲かせ
優しさ言いくるめコミュ力強化後、影朧へ声を
何か困り事だろうか?
…色々な物事を忘れてしまったと
ではゆっくりひとつずつ、些細な事でもいい
浮かんだ単語や風景など
君の心に在るものを、俺達に聞かせてくれないか
根気強く話聞きつつ、万一の事態にもそっと備えながら
切欠になりそうな言の葉探り、掬っては紡いでみたりと
二人と共に、柔い笑みや声を彼女へ向けよう
呉羽・伊織
【福3】晴着でお任せ
ウン、凛と新鮮な気分になるな
――然し今年もまた華のない絵面になったネ
いや変わらず皆で新春祝せるってのは幸いだが!晴着美人との春は遠い…
くっ、菊里こそ黙ってろ
俺だってやれば出来る多分!
(何気に二人して素でたらしでは?と思いつつ)
――お嬢サン、暫し俺達にヱスコヲトさせてくれる?
拙い乍ら――忘物を取り戻し、望む場所に辿り着けるように
懐に大事な物とか残ってたり、或いは心の裡に――自然と祈り願う事とか、想い当たらない?
例えば俺なら、友人が幸いであるよーに、とか――そーいう、自然と浮かぶ心
そうして皆で欠片を集め、紡ぎ直してこう
願わくは傷が癒える刻まで
皆で優しく寄り添い手と心を尽くそう
●想い人を問う
新年、昨日の続きとはいえ元旦というのは良いものだな、と筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が穏やかに微笑む。
「ふふ、新しい年の始まりですからね。それにしても――」
清史郎さんは流石の着こなしですね、と千家・菊里(隠逸花・f02716)が清史郎の装いを褒める。
「そうか? ふふ、菊里も良く似合っている」
新調した甲斐があったと笑う清史郎は白が青に染まるように変化していく着物に落ち着いた紺の袴、羽織は薄桜から白へと変化する地に、雪花と桜の舞う気品のあるもの。
菊里はといえば、赤と黒の切り替えが鮮やかな着物に黒の袴、袴の折り目に覗く紫が帝都に相応しいレトロモダンさを引き出している。菊の模様も美しい羽織、首に巻いた襟巻は紫紺色で、褐色の肌が際立つよう。
「この様な装いは新年に相応しく、気も引き締まるな」
「本当に、清新の気に包まれた様な心地で」
頷き合う二人の横で、ウン、と呉羽・伊織(翳・f03578)が頷く。
「凛と新鮮な気分になるな」
「伊織も良く似合っているぞ」
二人の和装は見慣れているのだが、やはり新年は別格だなと清史郎が褒めた。
それを眺めつつ、伊織が小さく溜息をついて、ぽろりと唇から零す。
「――然し今年もまた華のない絵面になったネ」
いや、変わらず皆で新春を祝せるってのは幸いだが! ネエ! でも晴れ着美人との春は遠い……そう言って遠い目をした伊織に菊里が呆れたような瞳で視線を遣る。
「伊織も其の儘黙っていれば良いものを……」
そうであれば見目も悪くないというのに、というのは黙ったまま菊里が今日の伊織の装いを眺めた。
赤に薄紅の差し色が入った着物に黒の袴、本紫と青紫の市松模様の羽織。一見地味にも思えるが羽織の裾がひらりと舞えば、羽裏に覗くのは華やかな桜模様。粋な晴れ着だ、そう、黙っていれば。
「除夜の鐘も君には無意味でしたか」
早速煩悩に塗れた台詞を吐く彼を菊里が笑うと、さて、と口元に当てた扇子を袴に差して襟を正す。
「今日は奇しくもお嬢さんに声を掛けねばならぬ仕事、清史郎さんを見習って確り頼みますよ?」
貴方にぴったりでは? と伊織に送られる視線が物語っている。
「くっ菊里こそ黙ってろ、俺だって――」
「女学生に声を掛ける任務か、伊織にはうってつけでは?」
邪気のない、何の裏もない瞳で清史郎が伊織に微笑む。
「やれば出来る、多分! いや、完璧にこなしてみせる!」
「そうか、それは頼もしいな」
さすがは伊織だ、と清史郎が小さく手を叩くと、伊織が先陣を切るように帝都の街を歩き出した。
「俺達も行こう、菊里」
「ええ、清史郎さん」
見事な飴と鞭、であった。
常であれば正月の、それも桜御神籤が人気だという神社に続く大通り。人でごった返しているはずなのだが、三人が進むにつれて人が疎らになっていく。
「人払いがされているな」
「影朧に気付かれぬよう、桜學府の者が動いているようですね」
「なら、この先に影朧がいると思って間違いなさそうだな」
気合を入れなおして三人が道を進めば、影朧と思わしき女性がふらり、ふらりと歩いているのが見えた。
「ふむ」
清史郎が袴の下に差した扇子を取り出し、一差し舞うように翻す。
「咲き香れ、柔桜」
帝都に咲き乱れる幻朧桜ではない桜の花弁が、ふわりと舞い上がった。
「では、行こうか」
柔らかな桜のように微笑みを咲かせると、清史郎が影朧へと声を掛ける。
「もし、何か困り事だろうか?」
『……私、かしら?』
「ええ、お嬢さん。何か困っているように見えましたので」
清史郎に続き、菊里が影朧へと話し掛けた。
「……えぇ?」
これ、もしかしたら俺いらなくない? と伊織が二人を眺めて思う。何気に二人して、素で誑しなのでは……? とも。
『私、色々なことを忘れてしまって』
「そうか、それは難儀だな」
「何も思い出せないのですか?」
菊里の問いに、影朧がゆるりと首を横に振る。
『親切な方たちのお陰で、思い出せたことはあるのだけれど』
それは全てではなく、一番思い出したいことが思い出せないのだと、影朧が悲し気に言った。
「思い出せたことがあるのか、それは何よりだ」
「何も思い出せていないより、良いですよ。ねえ、伊織」
菊里が伊織に水を向けると、それまで黙って二人の手腕を眺めていた伊織が慌てて頷く。
「そうさ、お嬢サン。もしよければ――暫し俺達にヱスコヲトさせてくれる?」
『ヱスコヲト?』
「ああ、拙い乍ら……お嬢サンが忘れ物を取り戻し、望む場所に辿り着けるように」
『ふふ、ありがとう。親切な方々』
やればできるじゃないですか、と言いたそうに笑う菊里に舌を出し、伊織が影朧の手を取った。
歩きながら、名前や神社で待ち合わせをしていたこと、その相手が好きな人だったこと、家族のことや思い出の一欠けらを思い出せたことを聞く。
「そうでしたか、それでは尚更……哀しいお顔の儘では忍びない」
「そうだな、何故それほどに思い出せているのに哀しい顔をしているのか、俺達に聞かせてくれないか」
菊里と清史郎がそう言うと、影朧――花乃子がそっと目を伏せた。
『私、どうしても好きだった方の顔とお名前が、どうしても、おもいだせなくて』
それが哀しいのだと、花乃子が溜息をつく。
「好きな人の……そうか、キミはそれを思い出したいんだな」
伊織が言うと、花乃子が血の気のない頬をほんのりと赤くして頷く。
「恋する乙女と言う奴だな、それはなんとしても思い出させてやりたいところだ」
「ええ、思い出せればきっと……笑顔になれますよ」
三人が視線を交わし、思い出せるようにとゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ではゆっくりひとつずつ、些細な事でもいい。好きな人のことを考えた時に浮かんだ単語や風景など、君の心に在るものを俺達に聞かせてくれないか」
『私の心に、あるもの……』
「街の光景の中、何か心の奥底が訴えたり、思い出が過る事はありませんか?」
『好きな人を、思って、おもいうかぶ』
おもいで、すきなひとをおもって、うかぶ。
それは淡く記憶の水底から浮いてくるのに、どうしても掴むことができずに影朧の足が立ち止まる。
『ああ、わたし、わたし、そこにあるのに、おもいだせなくて』
顔を覆った両手の爪がずるりと伸びて、影朧の背に黒百合が咲き、黒い血の涙が零れ落ちていく。
「慌てず、一緒に紐解いて行きましょう」
『でも、わたし、ああ』
菊里の言葉に、影朧の嘆く声が響く。それは辺りを傷付けるように無差別に響き渡るけれど、弱り切った影朧の力では三人を傷付けることはできず、既に避難も済んだ通りに被害は一つも無い。
「大丈夫だ、ひとつ……思い浮かぶことがあるのではないか?」
『おもい、うかぶ』
「懐に大事な物とか残ってたり、或いは心の裡に――自然と祈り願う事とか、想い当たらない?」
影朧の長い爪が己の懐を探るけれど、あるのは着物だけで。けれど、ふと彼女の動きが止まり、黒百合の花が消えていく。
『てがみ、やくそくのてがみを、わたし、もって』
二人で神社に行こうと、誘ってくださった手紙。
「ほら、ひとつ浮かんだだろう?」
「手紙なら、名前が記してあったのではないですか?」
なまえ、そう、あの人の名前。
『しょういち、さま』
そう言った影朧の瞳からは、黒い血ではなく清らかな涙が零れ落ちて。
「キミの心に浮かぶその欠片を、紡ぎ直して」
誰かの顔が浮かばない? と伊織が優しい声でそう囁く。
『りりしい、おかおで、そう、そうだったわ、わたし』
あの方の学生帽を被った横顔が、一等好きだったのだわ。
「見事、思い出せたのだな」
「ええ、お顔も心のように晴れた笑顔を浮かべていますよ」
『ありがとう、親切な方達』
「キミが頑張ったからだな!」
清史郎が天晴と笑えば、菊里も伊織も唇に笑みを浮かべ、影朧――花乃子の流す清らかな涙をそっと拭ってやるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『はかない影朧、町を歩く』
|
|
POW | 何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る |
SPD | 先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する |
WIZ | 影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる |
👑7 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 |
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●帝都、大通りにて
思い出せた、一番思い出したかったこと――。
そう微笑んだ影朧――花乃子からは邪気のようなものは一切感じられなかった。
けれど、彼女が影朧であるということは無害となっても事実であり、帝都の人々からすれば恐れの対象である。しかし、意思の疎通ができる花乃子を実際に見れば暴れる様子はなく、周囲には帝都桜學府より派遣されたユーベルコヲド使い、そして何よりも猟兵達の姿がある……それは人々に絶大な安心感を与えていた。
疎らになっていた人々は大通りへと戻ってきていて、元の賑やかさを取り戻している。時折不安気に影朧を見ている者もいたが、猟兵が声を掛ければ安堵したような表情を浮かべて笑って花乃子の横を通り過ぎていった。
そんな、人々が元日を謳歌する大通りにはカフェや、初売りだと張り切る店舗が正月客を見越して多く開店している。特に人気なのは福袋で、様々な店舗が店先や店内で販売しているのが見えた。
何とも賑やかな帝都の正月、大通り。
猟兵である君達は神社へと向かいつつ、店を冷やかすのもいいだろう。猟兵が立ち寄る店に居る者はきっと影朧を見ても猟兵がいるならと安堵するし、正月早々縁起がいいと喜ぶはずだ。
不安に思う人々を宥め、説得するのだって立派な役目。影朧である花乃子と話をしながら、神社まで向かうのもきっと楽しいはず。
どうぞ、帝都の正月を楽しんで――。
------------------------------
思うように帝都の大通りを楽しんでいただければと思います、大抵の店は開いているのでお好きなお店で買い物もいいですし、カフェで一休みするのもいいと思います。カフェのメニューはカフェにあるものなら大抵あります。
飲酒喫煙は可能ですが、未成年の方の描写できませんのでマスタリングが入ります、ご了承くださいませ。
そういったことに興味がなければ影朧に怯える人々と話をしたり、花乃子と話をしながら神社へ向かうのもいいでしょう。どの行動を取っても、怯える人々に安心感を与え影朧を守る行為になりますので、お好きに過ごしてくださいね。
【受付期間】はMSページに記載のURLを参照ください、受付期間前、受付期間後に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
黒鵺・瑞樹
◎WIZ
さてどうするか。
今のとこ特に欲しいものとかもう無いから買い物って気分でもないし、さりとて女性相手に時間が保てるほど話し上手なわけでもない。
こういう状況だと周りを見てた方が個人的には楽しいんだが…。
時折人々と、花乃子さんと話しながら神社に向かおうか。
適当な相槌ぐらいしかできなさそうだし、周囲を眺めて進む事になりそうだが。
影朧がいるそして元旦とはいえ、何でもない日常を眺めてるのはとても楽しい。
その中で何か面白そうな物、興味を惹かれるものが見つかれば幸い。
でも。
見つからなくてもいいかなとも思う。
興味をもってしまったらそれが俺の未練につながるんじゃないかと、不安になってしまったから。
●道すがら
すっかり賑わいの戻った大通りを歩きながら、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が初売りだと呼びかける声に視線を向ける。
「初売りか……」
ううん、と考えるけれど、今のところ欲しいと思うものも特になく、買い物という気分でもない。店を冷やかすのはどうだろうかとも思うが、欲しくもないものを眺めるのも時間の無駄のように思えた。
さりとて、女性の話し相手を務められるほど話し上手というわけでもなく、神社までの道すがらをどうしようかと瑞樹が悩むように辺りを見回した。
着飾った人々が楽しそうに歩いていく姿、家族でお参りに行く人々、初売りを目当てにやってきたのであろう若い女性達。誰もが楽し気な笑みを浮かべている。
「うん、俺はこうやって周りを見ていた方が楽しい、かな」
そうと決まれば瑞樹の足も軽くなるというもの、花乃子を視界の中に入れて何かあれば即座に助けられるような距離を保ちつつ、この正月の風景を楽しむことに決めた。
きゃあきゃあと、楽しそうな声を上げる子どもの姿に頬を緩ませ、時折聞こえてくる影朧に怯える声には優しく声を掛け、その不安を聞いてやる。
「だって、影朧なんだろう?」
「ああ、だが彼女は無害だ。心残りを断つために神社に向かっていて……それさえ無くなれば、桜の精が癒やしを与えるだろう」
瑞樹がちらっと視線を向けた先には、帝都桜學府の制服に身を包んだ桜の精の姿が見える。
「なんだ、そうなのかい。それなら、危険はないんだね」
「ああ、もし何かあっても猟兵が多くいる、安心してほしい」
猟兵という言葉を聞いた者は、それなら安心だなと頷いて笑顔で瑞樹から離れていく。ユーベルコヲド使いよりも強いとされる猟兵の名は効果絶大で、瑞樹から聞いた話をそのまま違う者へと話す者もいた。
「これで安心してくれればいいんだが」
猟兵が近くにいるという安心感からか、花乃子への目も次第に柔らかくなっていく。ほっと安堵し、瑞樹が再び街を歩くと、着物にエプロンをした店員に呼び止められる。
「ちょいとそこのお兄さん、桜香る緑茶はいかが?」
俺か、と足を止めれば試飲だと小さな紙コップが渡された。
飲んでみれば、ふわりと桜の香りが鼻を抜けていく。聞いてみれば、緑茶に乾燥した塩漬けの桜葉と桜の花が入っているのだという。
「一つ貰おうか」
お茶ならいいか、と思ったのだ。
飲んで消えてしまうものならば、未練にも繋がらないだろう、と。
商品を受け取って、賑わう道を歩く。帰ったら、伽羅と陸奥と共に飲むのも悪くはないと瑞樹が小さく笑みを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
瀬古・戒
◎【箱2】
花乃子、無事に思い出せたみてーで何より………だが、俺が大問題、振り払うタイミング逃した
…どうしよう、手、繋いだままだ
…なぁ、手……その、冷たく…ねぇ?霜焼けになっちゃうぞ?俺の地獄の炎は冷たいから
平気なら良いけどー…
ああ、うん、そだな、花乃子ちゃんと護らないと
俺らが笑顔でゆるりしてれば花乃子も周囲の人も安心するよな
これは任務…手を繋ぐ仕事
やんわり手を握り返す
あったかい、安心する温度…絶対言わねぇけど、少し嬉しいの、かな俺
腹減る、アメリカンドッグ食べたいなー
ラファンのにマスタード山盛りかけ最後にケチャップで猫の絵描き
お客さんオマケしときましたよ?他のも買い食いしよ?奢ってくれんでしょ?
ラファン・クロウフォード
◎【箱2】思い出せてよかった。嬉しい。思い出すだけで笑顔になれる人……戒を見る。握ったままの手。柔らかいし、霜焼けにもならない。花乃子さんの見守りは終わっていないから。手を繋いで歩いて周りの気を引き続けた方がよくないか? 袖に小銭を忍ばせ片手で支払う。手を繋いだまま、ケチャップとマスタードをお互いにかけあったりして楽しむ。ケチャップたっぷり美味しいぞ。マスタードたっぷり、絶対やると思った。想定外の猫の絵、可愛くて逆に食べ辛い。甘さに助けられ完食。他も食べよう、奢らせていただきます。甘酒を見つけて口直し。熱いから気を付けて。両手で受け取り戒に渡す。離れた手は、また、繋げばいい。何度でも、繰り返し
●繋いだままで
晴れやかな花乃子の顔を見て、瀬古・戒(瓦灯・f19003)とラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)はほっと胸を撫で下ろす。
「花乃子、無事に思い出せたみてーだな」
「ああ、思い出せて良かった」
何よりだ、と戒が笑う隣でラファンも嬉しいと笑みを零している。
影朧の大問題は消えた、あとは悔いが残っているであろう神社まで向かうのを見守ってやれば、きっとことは上手くいくはずだと戒は思う。そして、それよりこっちの方が大問題なんだけど、と視線を自分の手へと落とした。
振り払うタイミングを逃した――! っていうか何気に握る力が強くないか? いや、痛いとかそういうことはない、今も優しい力で握られていると思う。けれど、そっと振り払ってやろうとすると絶妙なタイミングで力が入るのだ。
そう、まるで絶対に逃がさないというかのように。
……どうしよう、手。
若干途方に暮れつつ、それでも戒はこの状況からの脱出を試みる。
「……なぁ、手」
「手がどうかしたか?」
あ、ほら、今もさり気なく手に力が入った。
「いや……その、冷たく……ねぇ? 霜焼けになっちゃうぞ? 俺の地獄の炎は冷たいから」
「冷たくないし、霜焼けにもならない」
これくらい、あの極寒の地に比べたらなんということもないし、何より戒の手は柔らかくて気持ちいい。
「平気なら良いけどー……」
いや、全く良くないのだが。全く良くないのだが、手を振り払うタイミングが掴めない。どうしようか、とまた戒が眉間に皺を寄せそうになった時だった。
「戒」
「ん、何?」
「花乃子さんの見守りはまだ終わっていないだろう?」
「そりゃ、まだ終わってないけど」
それがどうかしたのか? と戒が小首を傾げる。それと同時に髪飾りがシャランと揺れて、口をついて可愛いという言葉が出そうになったのをぐっと堪え、ラファンが言葉を続けた。
「手を繋いで歩いて、周りの気を引き続けた方がよくないか?」
「え?」
「花乃子さんに視線がいくよりは、俺達で気を引き続けた方がいいだろう?」
「ああ、うん、そだな、花乃子ちゃんと護らないと」
そう返事をしつつ、戒の頭の中は混乱していた。
俺達が手を繋げば花乃子が守れる? 風が吹いたら桶屋が儲かる理論より色々すっ飛ばしている気がする。けれど、まぁ、うん。おかしいだろう、それと思うよりも、手を繋ぐ理由ができた方が彼女にとってはこのぐるぐると回る思考を打破する理由になったのだろう。
「俺らが笑顔でゆるっとしてれば、花乃子も周囲の人も安心するよな」
「そうだ」
如何にもっぽく頷いたラファンに、戒も頷く。
これは任務、手を繋ぐ仕事だと割り切ってしまえば、恥ずかしくない。そっと手を握り返せば、ラファンの唇が嬉しそうに持ち上がった。
そういえば、人と手を繋ぐなんて何時ぶりだろうか。あったかくて、どこか安心できる温度。もしかしたら、俺は少し嬉しいのだろうか? 絶対に言わないし、悔しいからラファンの顔も見ないけれど。
「はー、なんか俺腹減ったな」
耳が赤いのは寒さのせいにして、戒が言う。
「何が食べたい?」
「アメリカンドッグ、食べたいなー」
もうすっかりいつもの調子だと言わんばかりに、繋いでいない方の手で戒が指さす。視線を向けた先にはアメリカンドッグの屋台が見えて、ラファンが頷いて手を引いた。
「二本ください」
あいよ、という店主の元気のいい声が響き、耐油紙に包まれた揚げたばかりのアメリカンドッグが渡される。それをラファンが片手で一つずつ貰って店先の小さなスペースに置き、袖の中の小銭を片手で掴んで支払いを済ます。
「いやあの、手」
「繋いだままでも出来るだろう」
できるけどさぁ、と言う彼女に笑って、ラファンがケチャップとマスタードを掛けて戒の方へと寄越した。
「ケチャップたっぷりで美味しいぞ?」
「ふぅん、じゃあ俺はーっと」
まだ何も掛かっていないラファンのアメリカンドッグにマスタードを山盛り掛けて、最後にケチャップで猫の絵を描く。ちょっとばかり歪な猫だったけれど、会心の出来栄えだ。
「お客さん、オマケしときましたよ?」
にやりと笑って戒が特性アメリカンドッグをラファンの方へと押しやった。
「……絶対にやると思った」
「はっはー、ちゃんと食えよ?」
勿論、とラファンがそれを手に取れば、想定外に可愛い猫の絵。可愛くて逆に食べ辛いなと思いつつも、早くも半分を食べ切った彼女に負けぬようにラファンもそのアメリカンドッグを食べた。
食べるのに夢中だった二人は知らない、そんな姿を店主は生温くも優しい目で見守っていたし、周囲の人々も仲が良いわねと微笑んでいたことを。
「はー、美味かった! でもまだ足りねぇなー」
ちらっとラファンを見て、他のものを探すように戒が歩き出す。
「他のも買い食いしよ? 奢ってくれんでしょ?」
「ああ、他も食べよう、奢らせていただきます」
何がいいかとあれこれ見ていると、甘酒を売る店が見えた。
口直しに、とラファンが甘酒を買い求め、二つ渡されたそれを両手で受け取る。
「熱いから気を付けて」
紙コップに入った甘酒は温かく、体の芯から温まるようだった。
けれど、戒がひんやりとしてしまった手を手持ち無沙汰にしていると、すぐにラファンの手がその手を握る。
「行こうか」
「お、おう」
離れたなら何度でも繋ぎ直して、冷えてしまったなら何度でも温めて。
そうやって、二人は神社へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
オリオお姉さんf00428と
名前がないのは辛いから、思い出せたらそれだけでも、いい
道すがら、少しでも花乃子お姉さんを見守って、
それからお参りをしてこうか
…おみくじ?
いいよ
縁起がいいほうが勝ちね
俺、こういう運は…
…福袋?
いいよ。色々福袋にも種類があるんだね
武器福袋とか銃福袋とかないの?
ない?そう…
じゃあ
この家庭用雑貨にしよう
丁度マグカップが買い替え時で…
(マグカップは、出ない
…
……
(おみくじ、福袋共に内容はお任せ
何きても割と淡々と承るけれども、大凶とか出たら若干ショック
え?ああ、ありがとう
お姉さんの気づかいが…
って、これ女性ものじゃない?
気のせい?なら、いいけど
じゃあ、代わりに俺もこちらをどうぞ
オリオ・イェラキ
リュカさま【f02586】と
思い出されて何よりですわ
花乃子さまがこれより歩まれる旅路が、穏やかでありますように
神社迄宜しければ三人で雑談でも
リュカさま神社と言えばおみくじですわ
是非今年の運試しを致しましょう
どのような結果でも楽しく受け取りますわ
では折角ですもの
もう一つ運試し如何かしら
福袋というのを買ってみたかったの
まぁ武器福袋?わたしくも欲しいですわ
そう、ありませんの…では今日は服のを購入しましょう
中身はまたお任せで
あら。こちらはリュカさまの方が似合いそう
ふふ…きっとぴったりですわ
差し上げますと贈りますの
わたくしにも頂けますの?
嬉しい、交換こは憧れでしたの
マグカップは改めて見に行きましょうね
●福よ来い
思い出せた、と喜ぶ花乃子の表情は明るくて、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)とオリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)はほっと息を吐く。
「思い出されて何よりですわ」
「そうだね」
名前がないのは辛いから、誰からも呼ばれないのは寂しいから、思い出せたらそれだけでも、いい。リュカはそう思いながら初めて見た時よりもしっかりとした足取りで歩く影朧、花乃子を見遣る。
まだ不安気にしている人々もいるけれど、近くに猟兵がいるという事実から影朧に対して怯えるようなことはない。
「道すがら、少しでも花乃子お姉さんを見守って、それからお参りをしていこうか」
「ええ、そうですわね。神社迄宜しければ三人で雑談するのも、良いかと思いますわ」
これから花乃子が歩む旅路が穏やかであるように、その手助けを少しでもできたならとオリオが微笑んだ。
「花乃子お姉さん」
『あら、あら、優しい方』
ええと、そう、リュカさんと、オリオさん、と花乃子が名を呼ぶと二人が頷く。
「宜しければ、少しご一緒できればと思いましたの」
『ええ、ええ、嬉しいわ』
そうして、三人で並んで神社へ向かう道を歩いた。
「花乃子お姉さんは、神社で何をするの?」
『何を……そうね、そこまでは考えていなくて』
ただ、約束を守る為に向かいたいのだと花乃子が微笑む。
「そうですのね。花乃子さま、リュカさま、神社と言えばやはりおみくじですわ」
「……おみくじ?」
ええ、と楽し気にオリオが頷く。そして、おみくじとは何かを軽くリュカに説明する。
「つまり、その年の吉凶を占う、ってこと?」
「そうですわ、その結果も様々あるのですわ」
大吉が一番縁起が良く、続いて吉、中吉、小吉、末吉、凶、大凶という順が一般的なのだという。
『神社によっては順番が違う、らしいですよ』
思い出したように、花乃子がそう付け加える。
「是非、今年の運試しを致しましょう」
「へえ。いいよ、神社に着いたら引こうか。縁起がいいほうが勝ちね」
楽しみですわ、とオリオが言うと、花乃子がくすくすと楽し気に笑った。
賑やかさが戻った通りは活気に満ち溢れ、華やかな晴れ着を纏った人々が神社へ向かう道すがら、寄り道を楽しんでいるのが見える。
「あら、福袋ですわね」
「……福袋?」
またしても馴染みのない言葉に、リュカが首を傾げる。
「ええ、新年の初売りで販売されるものですわ」
様々な物を袋に入れて見えないようにし買う者に選び取らせるもので、基本的には販売金額よりもお得になる物が多数入っているのだとオリオが福袋を眺めて言う。
「これも運試しのようなものですわね」
「なるほど」
確かにどの福袋も中身が見えないようになっている、一応どんな物が入っているかの系統のようなものは書かれているのが見えた。
「では折角ですもの、神社に着く前に運試しは如何かしら?」
「運試し……」
確かに中が見えないのだから、運試し的な要素もあるのだろう。
「いいよ」
二つ返事で頷き、ではどれにしようかとあちらこちらを見ては悩む。これも福袋を買う楽しみの一つだ。
「ふふ、悩むのも楽しいものですわね。わたくし、福袋というのを買ってみたかったの」
「色々、福袋にも種類があるんだね。武器福袋とか銃福袋とかないの?」
迷うのに疲れてきたのか、リュカがそう零す。
「まぁ武器福袋? わたしくも欲しいですわ」
あるかしら? と首を傾げたオリオに、花乃子も首を傾げつつ答える。
『武器福袋……聞いたことがないわ』
「ない? そう……」
「そう、ありませんの……では、今日は服のを購入しましょう」
ないのなら仕方ないわ、とオリオが目に付いたお店の福袋に決める。
「じゃあ、俺はこの家庭用雑貨にしよう」
では、と互いに福袋を買い求め、休憩所のようになっている場所のベンチに座ると、せーの! で福袋を開けた。
「丁度マグカップが買い替え時で……」
何が入っているか、とリュカが福袋を探るけれどマグカップは見えない。中に入っていたのは曲げわっぱのお弁当箱に小さな置時計、お箸に箸置き、木製のスプーンとフォークのセットであった。
「……お料理しろってことかな」
お弁当箱を手に取ってリュカが呟く。
『お料理をなさるの?』
「まあ、料理くらいは」
そのやり取りをオリオは黙って笑みを浮かべて聞きながら、己の福袋を開けた。君子危うきに近寄らず、だ。
「まあ、素敵ですわ」
小さめの物を買ったのだけれど、中にはオリオが普段着ているものにも合うようなブラウスやレースの手袋、ショールに薔薇のブローチ、それから――。
「あら。こちらはリュカさまの方が似合いそう」
「え?」
「失礼いたしますわね」
そっとリュカの襟元を彩る星空のようなマフラーにオリオが手を伸ばし、パチンとそれを留めた。
「これは?」
「マフラーやショールを留めるクリップのようなものですわ」
星空に浮かぶ月のような飾りが、首元で揺れている。
「お気に召しませんでしたら、外してくださいませね」
差し上げます、とオリオが笑うと、揺れるそれを指先でリュカが触れた。
「ありがとう、オリオお姉さん」
って、これ女性ものじゃ? と問うリュカに、オリオが気のせいですと微笑んだ。
「そう? じゃあ……代わりに、俺もこちらをどうぞ」
福袋の中から、置時計を手に取ってオリオに渡す。それは手のひらサイズだけれど、レトロアンティーク風のフォルムの丸い物で、文字盤には星が鏤められていた。
「わたくしにも頂けますの? 嬉しい、交換こは憧れでしたの」
嬉しそうに笑うオリオに、リュカの目が柔らかく瞬く。
「ふふ、マグカップはまた今度、一緒に見に行きましょうね」
「一緒に、選んでくれる?」
勿論と頷くと、オリオが立ち上がる。
「さあ、それでは神社へ向かいましょう」
「そうだ、おみくじ勝負」
ピカピカの福袋を提げて、再び神社を目指す。
おみくじの結果がどうなるか、楽しみにしながら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎
目の露出NG、隠れ?甘党
大分、賑やかだね
花乃子さん、人混みは大丈夫?
彼女に一般人がぶつからない様に立ち位置に気を付ける
は?袁、勝手に行動しないで……!
ああ、もう……相変わらず自由というか……
溜息を吐き出しつつ、念の為に周囲を警戒しておく
念には念を、って言うし
袁、遅い……って、鯛焼き?
花乃子さんはわかるけど、なんで僕にまで?
食べるなんて一言も言ってないし
まあ、でも……勿体無いから貰う(鯛焼きを受け取りつつ
ん、美味しい(はふはふ
袁もほら、一口食べれば?
この鯛焼き、結構美味しいよ(自分の分を差し出して
……その時は介抱くらいしてくれるんでしょ?
だから、別に気にしてない
袁・鶴
隠f31451と
色々な店があるんだと隠と店を眺めつつ花乃子と周囲の様子の観察を
不安げな人々の姿を捉えれば隠ちゃんにちょっと待ってて、と声を投げ甘味売りの元へ向かい鯛焼きを二つ買って来ようと思うよ
一つは花乃子ちゃんへ
折角だから楽しまないとね?と普通の女の子の様なのだと周囲へ示しつつ後一つは隠ちゃんへ
隠ちゃんも食べるでしょ?…って
本当に隠ちゃん素直じゃないんだからとそう思わず笑みを
俺は余り食べる事に興味がないから買わなかったけど
隠ちゃんに差し出されたならいいの?と笑いながら身を屈め一口貰おうかな
でも貰った後に我に返れば困った様に視線を
今は唾液に毒は無いと思うけど…体調崩したらすぐいいなよ?ね?
●自由気ままに楽しんで
「大分、賑やかだね」
人通りが疎らだったなんて信じられないくらいの喧騒を見せる大通りを歩きながら、隠・小夜(怪異憑き・f31451)が思わずそう零した。
「この世界のオブリビオン対策機関も優秀なんだろうね」
それに頷いて袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)がそう返すと、なるほどと小夜が辺りを見回す。さり気なくお正月を楽しむ人々に紛れつつ、帝都桜學府の制服を着た者が見える。
「UDC組織みたいなもの、かな」
「そうそう、俺と隠ちゃんみたいなもんだよ」
要請があれば正月でも盆でも出動する、なるほど似たようなものだと小夜が前髪を揺らして頷いた。
「花乃子さん、人混みは大丈夫?」
『ええ、ありがとう、平気よ』
小夜の気遣いに笑みを浮かべ、花乃子が歩く。彼女が街の人々とぶつからない様にと、小夜が立ち位置に気を付けながら賑わう街を眺める。
「色々な店があるんだね、隠ちゃんと花乃子ちゃんは気になるお店とかある?」
「気になる店? 特にはないけど」
そう言いつつも、気になるか気にならないかと言われれば、甘味の店へと視線が向いて小夜が慌てて前を向いた。
『私も、特には……』
無いわけではないけれど、今はそれよりも神社へと心が逸る。けれど、この神社へ向かう道行きも大切なもののように思えるの、と花乃子が笑う。
「そっか、じゃあもう少しこの時間を楽しもうか」
そう鶴が笑って、周囲の様子を観察しつつ、良いことを思いついたとばかりに笑うと駆け出した。
「袁?」
「ちょっと待ってて」
「は? 袁、勝手に行動しないで……!」
大丈夫、すぐだから! と笑う声が人波に消えて、仕方なく小夜は周囲を警戒しつつ花乃子と人々の邪魔にならないような場所で鶴を待った。
「ごめんね、袁のやつ、ちょっと自由で」
『ふふ、いいのですよ。こういうのも、楽しいって言うんだわ、きっと』
花乃子が楽しいならば、まあいいかと溜息を零すと、ご機嫌な笑顔を浮かべた鶴が手に何かを持って戻ってくる。
「お待たせ、はい!」
「袁、遅い……って、鯛焼き?」
白くて薄い紙に包まれていたのは、こんがり狐色に焼かれた鯛焼き。一つを花乃子に渡し、鶴が胸を張る。
「折角だから楽しまないとね?」
さぁ、食べて食べてと勧めると、花乃子が一口齧って微笑む。
『甘くって、とっても美味しいわ』
その年相応の女の子の笑顔に、警戒するように見ていた人もつい笑みを浮かべてしまう。
「美味しいでしょ? さ、あと一つは隠ちゃんに」
どーぞ、と差し出されたそれを受け取る様子もなく小夜が鶴に問う。
「花乃子さんはわかるけど、なんで僕にまで?」
食べるなんて、一言も言ってないし、と小夜がそっぽを向く。けれど、前髪に隠された瞳は鯛焼きに吸い寄せられているように思えて、鶴が笑みを零す。
「え? でも隠ちゃんも食べるでしょ? 折角花乃子ちゃんと隠ちゃんの為に買ってきたんだけどな」
ね? だから受け取ってよと言うと、仕方ないなという風に小夜が受け取った。
「まあ、勿体無いから貰う」
「うん、ありがとう」
礼を言うのは逆のように思えたけれど、素直じゃない小夜を見るのは嫌いじゃないと鶴が小さく笑った。
『貴方は、お食べにならないの?』
「ん-、俺は余り食べる事に興味がないからね」
どちらかと言えば、誰かが美味しそうに何かを食べているのを見る方が好きなんだよと鶴が言うと、まだ熱い鯛焼きをはふはふと美味しそうに頬張っていた小夜が半分くらい食べた鯛焼きを鶴に差し出す。
「袁もほら、一口食べれば?」
「いいの?」
「良くなかったら言わないし。この鯛焼き、結構美味しいよ」
これがデレってやつかな、なんて思いながら差し出されたそれを一口齧って、控えめながらもしっかりした餡子にカリッとした皮の食感に、うん美味しいねと言ってからハッと我に返ったように目を瞬いた。
「何、どうしたの」
鶴が齧ったあとを躊躇いなく小夜が齧るのを見て、あー……と鶴が声を漏らす。
「もう一口欲しかった?」
「いや、そうじゃなくて……あの、ほら。今は唾液に毒は無いと思うけど……体調崩したらすぐいいなよ? ね?」
そう言われて、今度は小夜が瞳を瞬かせる。その動きで前髪が僅かに揺れるのを見て、鶴がごめんねと呟く。
「……その時は介抱くらいしてくれるんでしょ?」
「そりゃ、もちろん」
「別に気にしてない」
だから、謝る必要もないと小夜は鯛焼きをさっさと食べ切って口元を拭いた。
「隠ちゃん……!」
「うるさい、行くよ」
そんな二人の様子に、花乃子が仲が良いのねと笑う。
「そうなんだよね」
「良くない」
真逆のことを言う二人にまた笑って、花乃子の明るい笑い声が賑わう通りに響いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
硲・葎
◎
三日月くん(f01960)と。
「少しでも彼女が思い出してくれてよかった……少しだけ疲れたね、あ、あそこのカフェで休憩していかない?」
せっかくのお出かけも兼ねてるから、
ゆっくり楽しみたいよね。やっぱりこういう格好は少し恥ずかしいな。
ちょっと慣れないから歩き方遅くて申し訳ないな。
「ちょっとだけ足痛いかな」
「三日月くんは何頼む?私はコーヒーと
イチゴのタルトにしようかな」
普段はイチゴのロリポップだけど、やっぱり
本物のイチゴも大好きだし!
「三日月くんって、食べ物だったら何がすき?」
せっかくなので、彼のことももっと知りたいし。
いっぱいお話したいな。
「じゃあ、今度美味しいチーズとサラミを差し入れるね!」
月隠・三日月
◎
硲さん(f01013)と共に
あの影朧、大事なことを思い出せたようだね。よかったよ。
私は硲さんと一緒にカフェで休んでいこう。晴れ着は華やかで素敵だけれど、いつもとは違う衣装だと疲れてしまうよね。硲さんは足が痛くなったりしていないかい?
私は何を頼もうかな、サクラミラージュのカフェは洒落たメニューが色々あって目移りしてしまうね。うーん……迷うけれど、紅茶とパフェにしようか。
硲さんは苺が好きなのだね。甘酸っぱくて、私も好きだよ。
……私の好きなものかい? そうだな……チーズや、あとはサラミも好きだよ。それから甘い物も。
おや、差し入れをしてくれるのかい。楽しみにしているよ。私も苺の菓子等差し入れるね。
●穏やかな時間
楽しそうに歩く花乃子の横顔に、硲・葎(流星の旋律・f01013)が笑みを浮かべて月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)に向かって振り返る。
「少しでも彼女が思い出してくれてよかった……!」
「そうだね、大事なことを思い出せたようでよかったよ」
ずっと哀しい顔をしていた影朧が、今は微塵も感じさせないような顔をしていた。
その事実だけで、ここへやって来た甲斐があると三日月が笑う。
「少しだけ疲れたね」
ホッとしたら、甘いものが食べたくなっちゃったと葎が笑って、目に付いたカフェを指さす。
「ね、あそこのカフェで休憩していかない?」
「いいね、少し休んでいこう」
やった、と喜ぶ葎の足元が少し覚束ないのを見て、三日月がそっと手を差し伸べる。
「大丈夫? 硲さんは足が痛くなったりしていないかい?」
晴れ着は華やかで素敵だと思うけれど、いつもと違う衣装と履物とくれば、疲れてもおかしくはない。それを気遣っての言葉に、葎が素直に頷く。
「ちょっとだけ、足が痛いかな」
慣れない履物だ、歩くのも少し遅くて申し訳ないと思っていたところ。ありがたい、と手を貸してもらってカフェへと向かった。
大正浪漫溢れるアールデコ風の洒落たカフェは晴れ着を着た若い女性が多く、こちらも通りと変わらぬ賑わいを見せている。窓際の席に座り、メニューを覗き込んだ。
「三日月くんは何頼む?」
どれも美味しそうで悩ましいと葎がメニューと睨めっこをしながら、三日月に問う。
「私は何を頼もうかな、サクラミラージュのカフェは洒落たメニューが色々あって目移りしてしまうね」
「そう、そうなの! どれにしようか本当に迷っちゃう」
あれもいい、これもいい、こっちも美味しそうだし、とあれこれ悩んで葎がよし、と小さく呟いた。
「私はコーヒーとイチゴのタルトにしようかな」
「ふふ、硲さんらしい。うーん、私は迷うけれど……紅茶とパフェにしようか」
そう言って三日月が指さしたのは、抹茶のレアチーズパフェ。手元のベルを鳴らすとすぐにメイドスタイルの店員がやってきて、注文を受けて去っていく。
「硲さんは苺が好きなのだね」
「そう! 普段はイチゴのロリポップだけれど、やっぱり本物の苺も大好きだし!」
「苺は甘酸っぱくて、私も好きだよ」
赤くて艶っとしているところも可愛い、と律が言えば、三日月も丸い雫型のような形も素敵だねと笑う。そんな他愛もない話をしていると、頼んだ飲み物とスイーツがテーブルへと並べられた。
「美味しそう……!」
白いお皿に載った苺のタルトはタルト生地がサクサクとした層になっていて、切り口にはクリーム色のカスタード、そしてその上にはカットされた艶々の苺がぎっしりと敷き詰められて、白い粉砂糖がまるで雪のようにトッピングされている。
「私のも美味しそうだよ」
パフェグラスには底から黒蜜、レアチーズクリーム、抹茶ソース、餡、生クリームにソフトクリーム、抹茶のムースクリームと重なって天辺には抹茶が掛かっている。その上にキューブの形をした小さな抹茶レアチーズケーキが幾つも飾られて小豆と白玉が可愛らしく添えられていた。
「三日月さんのもとっても美味しそうだね!」
早速いただきます、と二人で手を合わせて木の温もりが感じられる木製のスプーンとフォークで目の前のスイーツを食べていく。
「甘酸っぱくって、幸せの味って感じだよ!」
「こっちは甘さが控えめだけれど、しっかりと味があって抹茶がいいアクセントになっているかな」
どちらも美味しい、とくれば交換をしようという話になるのも当然の流れで、一口ずつ交換して、また口の中の幸せの味について二人で笑い合う。
「本当だ、三日月さんのは甘さ控えめだけどこっちも美味しい!」
「硲さんのは甘さの中に苺の甘酸っぱさが効いていて、幾つでも食べられそうだね」
すっかり食べ切ってしまうと、次はゆっくり紅茶とコーヒーを楽しむ。
「三日月くんって、食べ物だったら何がすき?」
折角の機会なのだ、もっと三日月のことを知りたいと、葎がそう尋ねる。
「……私の好きなものかい? そうだな……チーズや、あとはサラミも好きだよ。それから甘い物も」
パフェを頼むくらいだからね、と三日月が笑うと、葎がだから抹茶のレアチーズパフェだったんだねと納得したように頷く。
「じゃあ、今度美味しいチーズとサラミを差し入れるね!」
それから、甘いお菓子も! と、葎が笑う。
「おや、差し入れをしてくれるのかい。楽しみにしているよ」
「うんうん、楽しみにしててね」
「私も硲さんに苺の菓子等差し入れるね」
じゃあ、私も楽しみにしてる! と、葎の声が明るく弾けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
「また逢ったわね、花乃子おねーさん♪」
って笑顔で手を振りながら駆けよるわ。
でねでね。ぎゅーって抱きしめるわよ。
だってだって。とっても嬉しんだもの♪
「よかったわ♪ …うん。凄くよかった」
「ねえねえ。何処か寄り道したいところある?」
神社に行くのもいいけど寄り道も楽しいものだわ。
記憶はまだ完全ではなさそうだけど…でもねでもね。
花乃子さんが興味あるところに一緒にいきたいわ。
「何処でもいっしょに行くわ♪ えへへ」
ゆっくり悩んでね。あたしはじっくりと待つわ。
「うんv いこいこ♪ 花乃子おねーさん」
勿論神社に行きたいなら手を繋いで向かうわ。
…あれ?そーいえばレーちゃんは…?
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
ふむ。記憶が戻りつつあるようだな。
喜ばしいことだ。幸せそうでなにより。
…さて。
花乃子の相手は露に任せるとして。
こういうことは得意な者がするべきだろう。
私は露とは別行動で露のサポートをしよう。
…露には伝えてないが…まあいいか…。
猟兵が周囲にいれば問題回避はできそうだ。
それでも影朧に不安に思う者はいるだろう。
そういう者達を宥めるのが私の役目だ。
我々が周辺に居ることを伝えよう。
後は…どこにでも阿呆がいるからな…。
そういう者達が現われた場合の説得をする。
「…やれやれ…」
説得方法に暴力はない。話し合いで解決する。
監視とかなんとか言えば宥められるだろうか。
極力使いたくない単語だな。
●君と私の
賑わいを取り戻した正月の大通りを楽しそうに歩く影朧――花乃子を見て、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が嬉しそうに笑みを零してシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)に視線を送る。
「ふむ、記憶が戻りつつあるようだな」
「本当に、よかったわ」
「ああ、喜ばしいことだ」
困った顔でとぼとぼと歩いていた姿からは考えられないほどに、今の花乃子は幸せそうだとシビラが頷く。
「ん-っ! あたし、花乃子おねーさんに声を掛けてくるわね!」
シビラの返事を待たず、きっと自分の後ろを付いて来てくれると信じて露が花乃子の元へ駆けだす。
「ああ、いってこい」
特に後ろを追い掛けるでもなく、そう声を掛けてシビラが露を見送りながら辺りを見回した。
「……さて」
花乃子の相手は露に任せておけばいい、とシビラは思う。こういうことは、得意な者に任せるのが一番だ。
「適材適所、という言葉があってな」
その言葉通り、シビラは花乃子のケアよりも露と別行動で彼女のサポートをしようと別方向に歩きだす。
「……そういえば」
露にはそのことをこれっぽっちも伝えていないことを思い出すけれど、既に花乃子の元へ走っていった露を追い掛けるのもなんだし。
「まあいいか……」
露ならば上手くやるだろう、とシビラが思考を切り替えた。
「また会ったわね、花乃子おねーさん♪」
そう声を掛け、露が振り向いた花乃子に手を振って駆け寄る。
『まあ、先程の親切な方、きゃっ』
花乃子が笑みを浮かべたと同時に、露が花乃子の腰の辺りに抱き着いた。
本当は花乃子の肩の辺りをぎゅっと抱きしめたかったのだけれど、身長差は如何ともしがたいところ。それでも嬉しいという気持ちを込めて、露はぎゅーっと花乃子を抱きしめた。
『ふふ、どうなさったの?』
拒むでもなく、露の温もりを受け取るように花乃子がそっと抱きしめ返す。
「あたしね、とーっても嬉しいの」
『嬉しいことが、あったの?』
「そうよ、花乃子おねーさんの記憶が戻って嬉しいの。よかったわ……うん、凄くよかった」
そう言って顔を上げ、露が花乃子を見る。
『ありがとう、私も、とっても嬉しいの』
花乃子の言葉に、露が一層笑みを深めた。
その笑い声にシビラは露が上手く……本人はそんなつもりはなくても、周囲に安堵を与えるという点では上手くやっているのだろうと確信しつつ、それでも尚不安を覚えるように苦々しい顔をして影朧を見る者へ声を掛けた。
「そんな顔をして、どうしたんだ」
「あ? なんだい嬢ちゃん、見りゃわかるだろ? あそこに影朧がいるんだよ」
聞けば、以前に影朧によって被害にあったことがあるのだと言う。
「なるほどな、それでは不安に思うのも仕方がないが」
「そうだろう? あいつらは、人に危害を加える危険な存在なんだ。早くやっつけちまえばいいのに……」
心無い言葉だとも思う、けれど被害にあったことがある……その心因的な恐怖を押さえつけてしまうのも得策ではない。
「君がそう思う気持ちもわかるが、あの影朧にはもう人を害するような力は残っていない」
「そんなの、わからないだろ」
「そうかもしれないな、だがそこは私達――猟兵の言葉だと思って信じてもらうしかない」
猟兵、と言われれば強気で喋っていた男の勢いが弱くなる。男を影朧から救ったのもまた、猟兵なのだ。
「それによく見てみろ、あの影朧の顔を」
「顔……?」
そう言われて、男がまじまじと影朧の顔を見る。
「……楽しそうだな」
今までに見た影朧は、果たしてあんなに楽しそうに笑っていただろうか。狂ったような笑いを浮かべているものはいたかもしれないが――。
「あんな顔をする者が、人に危害を加えると思うか?」
「……いや、お嬢ちゃんの言葉を信じるよ」
お嬢ちゃんではないのだが、とは思えどシビラは静かに頷く。話を聞いていた他の者達も納得したように不安気な表情から、安堵したような表情でその場を去っていった。
「やれやれ……」
説得が上手くいって良かったと一息つくと、露と花乃子の少し後ろを歩き出す。
「他にも、納得していない者がいるだろうからな」
どこにだってそんな阿保がいるものだと思うが、そういう者への説得は自分の役目だと楽しそうな笑顔を浮かべている露を見てシビラが柔らかく目を細めた。
「ねえねえ、何処か寄り道したいところとかある?」
後ろの方でシビラが見守っているとは知らぬまま、露が花乃子と手を繋いで歩く。
『寄り道……そうね、そう思う場所はないのだけれど、露さんが行きたいところがあればご一緒するわ』
「あたし? う~ん」
どこかへ寄り道するのも楽しいかと提案したけれど、そう言われてしまうと悩んでしまう。だって、あれもこれも、とっても魅力的に見えるのだから。
「じゃあじゃあ、一緒に歩いて、もしも興味があるものがあったら遠慮なくいってね。何処でも一緒に行くわ♪」
えへへ、と笑った露に笑顔で返し、花乃子がわかったわと頷いた。
「うんv それじゃあ行きましょう、花乃子おねーさん」
手を繋いで、神社までの道のりで気になるところがあったら寄り道をして。きっと絶対楽しいわ、と露が満足そうに笑う。
「……あれ? そーいえばレーちゃんは……?」
歩き出して、シビラがいないことに漸く気が付いたけれど、レーちゃんなら大丈夫よね! と露は花乃子と共に歩くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セフィリカ・ランブレイ
こんな風に話し合う事の出来る子ばかりだといいんだけどね
『それは逆にしんどいと思うわよ。セリカにとってはね』
まあそうかも、とシェル姉…相棒の魔剣に返す
今更これまでの罪悪感が芽生えるわけじゃないけど
もう少しどうにかなったらな、と思う相手だって、これまでにいたんだ
彼女…花乃子ちゃんの事は、満足いくまで付き合って、見送りたいな
さて湿っぽいのはここまで!
私が出来ることといえば…探してみようか、ショウイチさんの事。
学生帽の似合う青年ってだけじゃ難しいかもだけど、そこは誰かと協力してでどうにかしよう
証言を頼りに探し回る!
連れてくることができなくても、何かメッセージなんかあると、良いんだけど
●私にできること
楽し気な花乃子の後ろ姿に、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)が小さく笑みを零す。
「こんな風に話し合う事の出来る子ばかりだといいんだけどね」
もしもそうだったら、なんて言っても仕方ないのだけれど。
『それは逆にしんどいと思うわよ。セリカにとってはね』
「まあ……そうかも」
相棒でもある魔剣シェルファの言葉に、セフィリカが過去に対峙したオブリビオンを思い出す。もう少しどうにかなったなら、歯車が嚙み合ったなら、救うことができた相手だって確かにいたのだ。
「今更、罪悪感が芽生えるわけじゃないけど」
そうしなければならなかったから、そうでなければ救えない相手であったから。セフィリカは相棒と共に切り伏せてきたのだから。
「うん、でも……彼女、花乃子ちゃんの事は、満足いくまで付き合って、見送りたいな」
『セリカがそうしたいなら、そうしなさい』
そうする、と笑ったセフィリカの表情は、すっぱりと割り切ったように凛としていた。
「さて、湿っぽいのはここまで!」
ぱん、と手を叩いて気持ちを入れ替えると、これからどうしようかと考える。
「ねぇ、シェル姉」
『何?』
「私が出来る事って、何かあるかな」
『……あんたが出来るって思うなら、なんだってあるわよ』
私が出来ると思うこと。
「私、花乃子ちゃんの為に何かしたい」
記憶を取り戻した彼女に、何か――。
「……探してみようか、ショウイチさんの事」
学生帽が似合う青年ってだけでは難しいかもしれないけれど、そこは誰かと協力してどうにかしよう。
「帝都桜學府の人に相談してみよっか」
『いいんじゃない? 現地の事は現地の人に聞くべきだわ』
シェルファの後押しもあって、セフィリカが近くにいた桜學府の生徒に協力を仰ぎ、花乃子が影朧となる事件があった年代を調べたりとあちこち奔走する。
「ううん、これって……」
『どうしたの、セリカ』
唸るように呟いたセフィリカに、シェルファが声を掛けた。
「うん、花乃子ちゃんが生きていた時代を調べたんだけど」
どうも、七十年は前の話のようだ、と調べがついたのだと言う。
『七十年前……ってことは』
「ショウイチさん、もう亡くなってるみたい」
しょんぼりと肩を落としたセフィリカに、しっかりしなさいとシェルファが声を飛ばす。
『きっとあの子も、薄々気付いてるんじゃない?』
ここが、自分が過ごした時代よりも時間が経っていることに。
「建物とか、多少は変わってるだろうしね」
知っているのに、知らない通り。
それは、どんなに――。
『ほら、あんたがそんな顔しないの』
「……うん! 大丈夫、それならきっと、ショウイチさんも花乃子ちゃんを待ってるってことだものね」
大丈夫、きっとそうだと信じて、セフィリカは花乃子に追いつく為に一歩を踏み出すのだった。
大成功
🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】◎
あちこちの店で売り出されている福袋に目を輝かせる
何が入っているかお楽しみって凄く心躍るよね
これは買うっきゃない
えーと、あのアクセサリの福袋とー
和菓子と洋菓子の福袋とー
あの雑貨屋さんの福袋もいいなー
えっ、なんで分かったの梓?もしかしてエスパー?
チェッ、じゃあ…あの文房具屋さんの福袋がいいな
便箋、封筒、インク、ペン、切手…
電子メールやSNSでのやりとりが当たり前の現代では
なかなか触れる機会の無い道具たち
何度か手紙を書く機会があって
それを選ぶ時間がまた凄く楽しいなって思ったんだよね
カフェで休憩しながら
買ってもらった福袋の中身チェックっ
まるで宝箱を開ける瞬間のようにドキドキワクワク
乱獅子・梓
【不死蝶】◎
おい、迷子になるなよ
はしゃぎ過ぎると転ぶぞ
幼児相手のような注意をしながら綾を追いかけ
待て、そんなに沢山の福袋買えるほどの
金持ってきてないだろお前
どうせお年玉と称して俺にねだる気だろう
やかましい!何度目だと思っているんだ!
何でお前が譲歩してやったみたいな口ぶりなんだ
敢えて選ぶのが文房具屋の福袋というのも意外だな
そういえば俺も綾と一緒に手紙を書いたことがあったが
確かにメールでは味わえないような楽しさがあった
結局、その福袋を買ってやることに
…予想以上に値が張っててウッとなったが
福袋の中身一つ一つ手に取っては
俺に見せびらかしてくる綾
その姿に買ってやって良かったと思えるから
つくづく俺も甘いな
●初春ステーショナリィ
新年、お正月。
神社へ繋がる大通りは普段よりもずっと賑やかで、活気に満ち溢れていた。
「梓、梓、福袋がいっぱいだよ」
「おい、迷子になるなよ」
あちこちの店で売り出されている福と書かれたぴかぴかの袋は、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の興味を引くには十分だったようで、目を輝かせてどれも素敵だと視線を彷徨わせ、あっちへふらり、こっちへふらりと蝶が舞うように綾が移動していく。
「はしゃぎ過ぎると転ぶぞ?」
「そんなヘマはしないよ」
梓こそ転ばないでよね、と笑う綾を乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)はまるで幼児を相手する父親のような気持ちで綾を追い掛けていた。
「何が入っているかお楽しみって、凄く心躍るよね。ね、梓」
「まぁ、気持ちはわからなくはないけどな」
「だよね! これは買うっきゃない」
福袋を買うのは使命! とばかりに、綾が指折り数えだす。
「えーと、あのアクセサリの福袋とー」
「と?」
「和菓子と洋菓子の福袋とー」
「菓子にも福袋があるのか」
「あの雑貨屋さんの福袋もいいなー。それから洋服にー、靴もいいよねー」
あっという間に綾の指だけでは足りなくなって、梓の指まで使おうと綾が手を伸ばした。
「待て、ちょっと待て」
掴まれそうになった指先を掴み返し、サングラス越しの視線で綾を睨む。
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃない。そんなに沢山の福袋買えるほどの金、持ってきてないだろお前!」
えへへ、と笑った綾が、そっとサングラスの奥の瞳を逸らす。
「どうせお年玉と称して俺にねだる気だろう?」
クリスマスの時みたいに!
「えっ、なんで分かったの梓……もしかしてエスパー?」
「やかましい! 何度目だと思っているんだ!」
そんな綾に何度も色々買ってやっているということなのだが、新年早々甘やかしてばかりではいられないと厳しく梓が綾を追及する。
「チェッ、じゃあ……あの文房具屋さんの福袋がいいな」
これ一つならいいでしょ? とばかりに綾が梓の手を引っ張る。それに付いていく形になりながらも、釈然としない梓が眉間に皺を寄せて言う。
「何でお前が譲歩してやったみたいな口ぶりなんだ?」
「え? だって譲歩したから」
欲しい福袋は一杯あったけれど、一つにしたんだよ? 偉いでしょ、と笑いながら綾が梓に渡したのは赤と白の市松模様の艶々の紙袋。
「お前なぁ……」
はぁ、と溜息を零して、それでも梓がその紙袋を受け取って会計を済ませる。なんだかんだ言ったって、最終的に梓は綾に甘いのだ。
買ってもらった福袋を大事そうに提げて、綾がありがとうと笑う。いつもこんな風に殊勝な態度ならな……と思ったのも束の間、綾が梓の服の裾を引く。
「今度は何だ?」
「どっかカフェとかに入らない? 早く中身が見たいんだよね」
子どもか、と笑いつつ、休憩するには丁度いいかと二人で近くのカフェへと入る。レトロモダンなカフェの奥の席に座ると、まずは注文とメニューを捲った。
「俺はコーヒーと……苺のパフェにするか」
「俺はどうしようかな、紅茶と……」
ケーキにするか、パンケーキにするか、パフェにするか。ううん、と悩む綾に梓が助け舟を出す。
「半分こするか? それならパンケーキかケーキかで絞れるだろ」
「梓あったま良い、じゃあ……パンケーキはこの間食べたし、このショートケーキにチョコレートが掛かってるのにしようかな」
注文を終え、さて福袋の中身はと綾が封を切った。
「それにしても、敢えて選ぶのが文房具屋の福袋というのも意外だな」
「そう? 言われてみるとそうかもね」
でも、と綾が言葉を続ける。
「便箋、封筒、インク、ペン、切手……こういうのって、電子メールやSNSでのやりとりが当たり前の現代ではさ、なかなか触れる機会の無い道具だよね」
「そうだな」
それはとても手軽で便利だけれど。
「でも、何度か手紙を書く機会があった時に、それを選ぶ時間がまた凄く楽しいなって思ったんだよね」
送る相手の為にどの便箋と封筒にしようか、切手はどんなものにしようか、それはとても穏やかで素敵な時間で。
「だから、これにしようって思ったんだ」
梓もその気持ちには覚えがある、綾と一緒に手紙を書く機会があったからだ。
確かに、メールでは味わえないような楽しさがあって、書くのも受け取って読むのもメールとは一味違う趣があったし、受け取った手紙は今も大事に仕舞ってある。
「そうか。折角だ、大事にしろよ」
買ってやった福袋の値段はあんまり可愛くはなかったけれど、今目の前で福袋を開けている綾が可愛かったから、まあいいかと梓が先に届いたコーヒーを口に含んだ。
「さて、何が入ってるかな」
それはまるで宝箱を開ける瞬間のようなドキドキにも似ていて、綾が福袋を覗き込む。
「わ、綺麗な封筒と便箋だよ」
シンプルな手触りの良い紙に桜の箔押しがされた綺麗な便箋と封筒のセット、気軽に書ける一筆箋、紅い万年筆にブルーブラックのボトルインク、空の色をした物や秋桜色の物も入っているのが見える。
「自分で選ぶのもいいけど、こういう福袋だと普段自分では選ばない物が入っていて、こういうのもいいなって思える発見があって楽しいね」
「良かったな」
一つ一つ手にとっては嬉し気に見せてくる姿はいつもとは少し違う姿のように思えて、梓は買ってやって良かったと思ってしまう自分に、つくづく俺は綾に甘いと小さく笑うのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ベイメリア・ミハイロフ
◎
※お仲間さまとの絡み歓迎致します
花乃子さまが色々と思い出されて、良うございました
しかしながら、しょういちさま…
果たして、まだご存命でいらっしゃるのでございましょうか
約束の神社に何か、何か手掛かりや目印等を
お残しになられていますれば良いのでございますけれど…
ところで、お話を伺っておりましたら
わたくし、カフェ「ミルクホール」の
ミルクコーヒーとやらに大変興味が沸きました
花乃子さまと神社までご一緒したい所ではございますけれど
少しばかり道を外れて、カフェへと足を運んでみたく
テイクアウトが可能であれば、花乃子さまの分も
ご用意して参りとうございます
しょういちさまとのお味を思い出し、堪能して頂きたく存じます
●想い出の味を
思い出した、という喜びに満ち溢れた花乃子の声に、ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)はまるで我が事のように笑みを浮かべて手を祈る時のように組んで天へ感謝を捧げた。
「本当に良うございました……!」
色々と思い出しただけではなく、本当に思い出したかったことも思い出せたのだ。
それは花乃子にとってどれほどの喜びだろうか、とベイメリアは思う。それと共に、正一様と花乃子が呼ぶ男性のことも。
「しかしながら、しょういちさま……花乃子さまにとって大事な方。果たして、まだご存命でいらっしゃるのでございましょうか」
花乃子の様子からすると、どうやら自分が生きていた時代とは建物などが変わっている様子。それを思うと、ある程度の年月が経っていると考えた方がいいのだろうとベイメリアは透き通るような緑の瞳を伏せた。
「約束された神社に何か……何か手掛かりや目印等をお残しになられていますれば良いのでございますけれど……」
そうであったならば、花乃子の心もきっと救われるはず。
しっかりとした足取りで神社へと向かう花乃子の後ろ姿を眺め、ベイメリアはそう祈った。
「何か、花乃子さまの慰めになるようなものがあれば……」
そう呟いて、ハッと思い出す。
「そうですわ、お話を伺っていた時に聞いたミルクホールの……」
ミルクコーヒー、そう花乃子が言っていた飲み物。聞いたときにもかなり興味をそそられた、そのミルクコーヒーを味わってみたいとベイメリアは思う。
「花乃子さまにも、ぜひ」
神社まで一緒に歩いて行きたいところではあるが、少しばかり道を外れてカフェへと足を運ぶのも悪くない。急げば神社に到着するまでに共に飲むこともできるだろう。
「善は急げ、でございますね」
ひらりと晴れ着の袖を翻し、ベイメリアが道行く人に声を掛ける。カフェ、ミルクホールをご存じでございますか、と。
そこは百年と続く老舗のカフェらしく、すぐに場所も教えてもらえてベイメリアが向かう。中々に広いカフェで、テイクアウトも可能だと看板に書いてあった。
「まあ、丁度良うございます」
そっと列に並び、順番を待つ。すぐにレジの番が回ってきて、ミルクコーヒーをホットで二つ、テイクアウトで注文すると断熱の細工がされた紙カップが二つ入った手提げが渡される。
「ありがとうございます」
それを受け取ると、意気揚々とした足取りでベイメリアが花乃子の元へと急いだ。
「花乃子さま、もしよろしければこれを」
どうぞ、と渡すと花乃子が首を傾げながらも受け取ってくれる。
『こちらは……?』
「花乃子さまの想い出の味、でございます」
蓋をされたカップの飲み口に唇を当て、こうして飲むのですと教えると花乃子も同じようにカップを傾けた。
『……! この味、ああ、正一様と飲んだミルクコーヒーの味……あの頃のままで……』
懐かしむような表情を浮かべ、また一口と花乃子がカップを傾ける。
「甘くて優しいお味でございますね」
『ええ、とても』
心まで温まるような、優しい想い出の味。
ありがとう、と花乃子がはにかむように微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵
スティーナ・フキハル
◎最初のみスティーナ 後はミエリで
皆が話してる間にちょっと買い物してたぜ。
紙袋とお茶入り水筒2本持って花乃子ちゃんとこに向かうね。
UCでミエリと分離してアタシは街の人に説明周り行ってくる!
こっちは任せたってお姉ちゃんこれ自分の分は……もう行っちゃった。
あの、花乃子さんと食べてって姉がベビーカステラ買ってきたんですが、
よければいかがですか?
何処か座れる所を探してちょっと一休みしましょう。
皆で思い出させる為とはいえたくさんお話して少し疲れました?
あ、でもまだ何か語りたい思い出があるなら聞きますよ?
さて、そろそろ先へ進みましょうか。
うちの姉が説明無双してくれてますし、問題無く神社に辿り着くでしょう。
●慌てないで、一休み
新しい着物を翻し、ブーツを鳴らしてスティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)が早足で通りを走る。手にした紙袋とお茶の入った小さめの水筒二つを大事そうに抱えて、花乃子を見つけると笑顔を浮かべて駆け寄った。
「花乃子ちゃん!」
『はい、あら』
名を呼ばれ、花乃子が振り向くとスティーナが手にした水筒を一つ花乃子へと渡す。
「はい、これ」
『こちらは……?』
「お茶が入ってるの、美味しいんだって!」
抹茶入りの煎茶で、程よい温度の美味しいお茶。それから、と笑ってスティーナがえっへんと胸を張る。
「アタシの妹、紹介するね!」
そう言うと、スティーナの身体から分離した、妹のミエリが姿を現した。
「この子がアタシの妹のミエリ! あとは任せたからね、アタシはちょいと野暮用ってやつで……行ってくる!」
花乃子が穏やかに神社までの道を過ごせるように、不安そうにしている街の人々に説明に行くのを野暮用と一括りにして、手にしたもう一つの水稲と紙袋をミエリに渡してスティーナが走り去る。それは彼女なりの、花乃子への気遣いなのだろう。
「こっちは任せたって、お姉ちゃんこれ自分の分は……」
『もういませんね……』
まるで嵐の様だと、花乃子が笑う。
「ほんと、しょうがないお姉ちゃんです」
『でも、とっても優しい人ね』
そう褒められて、ミエリが嬉しそうに微笑んだ。
「あの、花乃子さんと食べてって姉がこれを」
ミエリが見せたのは紙袋の中身で、そこには焼き立てのベビーカステラが沢山入っていた。
『ふふ、とってもいい香り』
カステラの甘くて優しい香りが、紙袋からふうわりと漂う。
「美味しそうです、お姉ちゃんはこういう美味しい物を探すのが上手いんですよ」
よければ何処か座れる場所で食べましょうとミエリが言うと、花乃子が頷いて二人でベンチを探す。大きな時計の近くに、休憩や待ち合わせ用なのだろう幾つかのベンチが見えて、ミエリと花乃子が座って二人で紙袋の中に手を伸ばした。
『ん、美味しいですね』
「絶妙な甘さ……さすがお姉ちゃん」
幾つでも入ってしまいそうなベビーカステラを二人で摘み、あとはスティーナの分だと残して紙袋を閉じる。
「皆で思い出させる為とはいえ、たくさんお話して少し疲れました?」
『大丈夫よ、皆さんお話を聞いてくれて……私、とっても嬉しかったの』
「あ、もしもまだ何か語りたい思い出があるなら、私でよければ聞きますよ?」
他にも思い出したことがあれば、とミエリが促す。
『そう、そうね……私もこうやってお友達とお喋りをしたり、食べ物を分けっこして食べたり……そういうことを、した記憶があるわ』
ミエリはその話を聞きながら時折頷いて相槌を打ち、喉が渇いていないかとお茶を勧めたりと花乃子と穏やかな時間を過ごした。
そんな時間はあっという間に過ぎて、そろそろ神社へ向かおうかとミエリが立ち上がる。
「そろそろ先へ進みましょうか」
『ええ、お話楽しかったわ』
花乃子も立ち上がり、神社への道を歩く。先程と違って、花乃子を避ける人々が少ないことに気が付き、ミエリが小さく笑う。
お姉ちゃん、しっかり街の皆に説明をして回ったのね、と。
これで、問題なく花乃子は神社に辿り着けるはず。どうか憂いなく、あなたの望みが叶いますように――。
大成功
🔵🔵🔵
セシル・バーナード
◎【愛染4】
花乃子ちゃんは無事に色々思い出せたみたいだね。
それじゃ、ぼくらは帝都のお正月を楽しもうか。
カフェでみんなで温まろう。プラチナちゃんも避難誘導お疲れ様。
紹介が遅くなったね。この子がぼくの魂の片割れのプラチナちゃん。さ、お嫁さんたちにご挨拶して。
皆優しい女の子達だから怖じ気づかなくて大丈夫だよ。こうして集まれる機会はそうそうないから、いっぱいおしゃべり楽しんで。
この後は神社だね。プラチナちゃんだけ普段着じゃ可哀想だ。お嫁さん達、晴着貸出のお店が開いてたら、選んだり着付けしたりを手伝ってあげてくれないかな? その辺り、さすがにぼくの守備範囲じゃなくて。
うん、皆が選んだだけあって素敵だよ。
神代・みぃ
【愛染4】
こうやって外のお正月を楽しむのって
初めてだからすごく楽しみ!
カフェって素敵なところだね!
えへへ、メイさんも?
みぃもちょっとなんで好きになったのかなって思う
なんてね。みぃもセシルのこと好きになっちゃったし、
好きになっちゃったらしょうがないかなってなったけど。
…あ、こういうのってコイバナっていうのかな
ふふ、たのしいな
着付けならまかせて
着物なら慣れてるもの、ばっちりかわいくしてみせるよ!
柄は…うーん、どんなのがいいんだろう?
プラチナさんはきれいだから、華やかな柄でも映えるかも?
でも、一番は着てみたい柄を選ぶのが一番かなって!
うん、とってもすてき!
チシャ・フェルメス
【愛染4】
花乃子さん、ちゃんと思い出せたのなら良かった良かったー!
大事な約束、もう忘れないようにねっ!
んー…、大切な人が沢山居るのは、いい事だと思うなー
それだけ慕われてるって事だもんね!
私はそんなセシルがカッコイイと思うし、好きだよー♪
これが「コイバナ」っていうの?
聞いた事のある言葉だったけど、意味は知らなかったんだよね!
えへへ…そうかー、これが「コイバナ」かー…
着付けは私もお店の人にやって貰ったからわからないや、
民族衣装の着方ならわかるのだけどー…
柄はお花とか似合いそうだね、プラチナさんは気になるのあるー?
メイフィア・オベルト
【愛染4】
これ一応は解決……で、いいのでしょうか?
まぁ問題ならそれでいいですね
異国の正月を楽しむ、ですか。では、エスコートお願いしますね、旦那様?
魂の片割れですか、まぁセシル様が女性侍らすのは何時ものことですからいいですけど。あ、女性に限りませんでしたね、頭の痛いことに
……なんで私、セシル様と結婚したんでしょうね?いや、嫌いではないですし、好きですけど
セシル様、晴れ着の着付けは私も守備範囲外ですよ
そもそも生粋の伯爵令嬢だった私に他人の着替えの手伝いなど出来るはずがないではないですか、私は使用人ではないんですよ?
まぁ選ぶのぐらいならいいですけど、それも私の価値観基準になりますからね?
●恋愛談義
さて、とセシル・バーナード(セイレーン・f01207)がひとつ手を叩けば、彼のお嫁さんであるところの三人がすっとセシルへと視線を向ける。
「花乃子ちゃんは無事に色々思い出せたみたいだね」
そうセシルが微笑むと、嬉しそうに笑ったチシャ・フェルメス(捧げ唄・f28991)が頷いて言う。
「花乃子さん、ちゃんと思い出せたのなら良かったー! 大事な約束、もう忘れないようにねっ!」
「これ、一応は解決……で、いいのでしょうか?」
真面目な顔でそう言うのはメイフィア・オベルト(オベルト伯爵令嬢・f17956)で、その横にいる神代・みぃ(水底の朱・f30892)が可愛らしく首を傾げて、今は遠くを歩く花乃子を見遣る。
「大丈夫なんじゃないかな? 哀しそうな顔は、もうしていなかったもの!」
「まぁ、問題ないならそれでいいですね」
後はこの世界の機関、帝都桜學府に任せてもいいでしょうとメイフィアが頷いた。
「うんうん、それじゃ……ぼくらは帝都のお正月を楽しもうか」
「異国の正月を楽しむ、ですか。では、エスコートお願いしますね、旦那様?」
メイフィアがそう言うと、折角だからね、とセシルが笑って答える。そうしている内に避難誘導を終えたプラス・プラチナが戻ってくるのが見えた。
「プラチナちゃんも、避難誘導お疲れ様」
セシルが手招くと、プラチナはセシルの後ろに隠れるように顔を出して三人を見ている。
「セシル様、そちらの方は?」
メイフィアが問うと、セシルが笑顔で答える。
「この子はぼくが連れ帰ってきた、帝竜プラチナ本体の複製体の一人。今やぼくの魂の片割れと呼んでも差し支えない、可愛い子だよ」
挨拶をして、と促されたプラチナが三人にぺこりと頭を下げる。
『初めまして、プラチナです』
「左から、みぃ、チシャ、メイフィア。ぼくの可愛いお嫁さん達だよ。皆優しい女の子達だから、怖じ気付かなくて大丈夫」
そう紹介され、プラチナがおずおずと三人の前へと出た。
「プラチナさん、よろしくね!」
みぃが嬉しそうに尾鰭を動かして、プラチナに手を差し出す。恐る恐る手を出して握手をすると、チシャとメイフィアも安心させるように握手をする。
「うん、仲良くしてあげてね。さて、神社へ行く前に少しどこかで温まろうか」
どのカフェがいいかな、とセシルが辺りを見回すと、こぢんまりとしているが雰囲気の良さそうなカフェが目に入った。
「あそこにしようか?」
「わあ、素敵だね!」
思わずチシャがそう声を上げるほど、そのカフェは綺麗な外観をしていて、メイフィアもこれは中々に素敵ですねと目を瞠る。
小さな白い洋館を思わせる佇まいに、出窓を飾る白いレースのカーテンも趣味の良いもの。店内へと入れば、磨きこまれた木目の床にアールデコ風のテーブルセットが程よい感覚で並べられていて、大正浪漫といった風情を感じられた。
一階席と二階席のどちらがいいかと問われ、二階の窓際を希望するとすぐに案内され、五人は大通りを一望できる窓際へと腰を下ろした。
「カフェって素敵なところだね!」
「メニューも落ち着きがあっていいですね」
みぃが室内を見渡して言うと、上品さのある白い手帳のようなメニューを手に取ってメイフィアが開く。
メニューは至ってシンプルで、コーヒーと紅茶、それからジュース類が並んだドリンク欄。ケーキとパフェが各種、それに軽食が少し。紅茶と本日のお勧めケーキセットに決めたメイフィアがメニューをプラチナへと渡した。
「メイフィアちゃん、決めるの早いのね! 凄いね、みぃは全然決まらないの、どれにしようか迷っちゃう」
真剣な顔でみぃがメニューと睨めっこをしている横で、チシャもケーキにしようかパフェにしようかで迷っている。
「好きなだけ迷っていいからね。ぼくはコーヒーとチーズケーキのセットにしようかな」
プラチナはどうする? とセシルが聞くと、プラチナがそっとクリームソーダを指差した。
「わたしは紅茶とパフェに決めたよ!」
「うう、ええとええと」
「どれとどれで迷っているのですか?」
チシャも決めてしまい、最後の一人になったみぃが慌てるとメイフィアがそう声を掛ける。
「えっとね、苺のパフェかケーキかで迷ってるの」
「でしたら、本日のケーキが苺ですから、パフェにするといいです」
分けっこすればいいでしょう? とメイフィアが言うとみぃが瞳を輝かせて、そうする! と笑みを浮かべた。
注文した品物が届くまでに女の子が四人、とくれば会話に花が咲くのも道理で、セシルが笑顔でそれを眺めている。
「はあ、それにしても魂の片割れですか」
メイフィアがプラチナを見遣ると、緊張したようにプラチナがはにかむ。
「まぁ、セシル様が女性を侍らすのは何時もの事ですから、いいですけど」
女性に限ったことではありませんでしたね、頭の痛いことにとメイフィアがセシルをじとりと見つめる。
「ふふ、魅力的な可愛い子が多いのは良いことだよね」
そんな彼女の視線などものともせず、セシルが甘い笑顔を浮かべた。
「……なんで私、セシル様と結婚したんでしょうね? いや、嫌いではないですし、勿論好きですけど」
そんなツンデレ混じりなメイフィアに、セシルが楽しそうにくすくすと笑う。
「笑いごとではないですよ、セシル様」
「えへへ、でもみぃもちょっとメイさんの気持ちわかっちゃうな」
向かい側に座るメイフィアを見つつ、みぃもそう言って笑う。
「みぃも、ちょっとなんで好きになったのかなって思うときがあるし」
でもでも、とみぃがセシルを見つめて言葉を続ける。
「みぃもセシルのこと好きになっちゃったし、好きになっちゃったらしょうがないかなってなったけど」
恋はきっと好きになってしまった方が負けなのかも、とみぃが可愛らしく唇を尖らせた。
「んー……、大切な人が沢山居るのは、いい事だと思うなー」
人狼の耳をぴこぴこと揺らし、チシャが考えながら言う。
「だって、それだけ慕われてるって事だもんね! 私はそんなセシルがカッコイイと思うし、好きだよー♪」
「それはみぃもだよ!」
「私もです」
三人がセシルを見つめ、可愛らしい愛を告げる。
「ありがとう、ぼくの可愛いお嫁さん達。ぼくも皆のことが大好きだよ」
蕩けるような甘い声に、三人のみならずプラチナの頬まで赤く染まった。
「……あ、こういうのってコイバナっていうのかな? ふふ、たのしいな」
「これが『コイバナ』っていうの? 聞いた事のある言葉だったけど、意味は知らなかったんだよね! えへへ……そうかー、これが『コイバナ』かー……」
してみたかったんだよね、とチシャが笑うと、みぃも楽しそうに頷く。
「……恋の相手が目の前にいる状況ですることでしたでしょうか?」
メイフィアが小さく呟くが、まぁ皆が楽しければそれでいいですと口を噤んだ。
「おや、頼んだものが来たようだよ。さあ、皆で食べようか」
テーブルに並べられた白いティーカップにコーヒーカップ、それからケーキにパフェ、バニラアイスに生クリームがのったクリームソーダ。彩も豊かなテーブルで、少女たちの楽しそうな声が弾けた。
一口ずつ交換をしたりして、たっぷりとカフェのひと時を堪能すると、セシルが口元を拭きながら大通りを眺める。大通りはすっかり賑やかさを取り戻し、神社へ向かう人々が見えた
「この後は神社だね」
そう言って、三人のお嫁さんを見てからプラチナを見遣る。
「うん、プラチナちゃんだけ普段着じゃ可哀想だ。お嫁さん達、晴着貸出のお店が開いてたら、選んだり着付けしたりを手伝ってあげてくれないかな?」
プラチナの頭を撫でてセシルがそう言うと、セシルの頼みを断るという選択肢など最初からない三人が快く頷く。
「勿論、セシルの頼みだから頑張るけど……選ぶのはいいけど、着付けはお店の人にやってもらったからわからないや」
「セシル様、晴れ着の着付けは私も守備範囲外ですよ。そもそも生粋の伯爵令嬢だった私に、他人の着替えの手伝いなど出来るはずがないではないですか、私は使用人ではないんですよ?」
チシャとメイフィアがそう言うと、セシルもさすがにぼくもその辺りは守備範囲じゃないなと困ったように笑う。そこへみぃがえっへんと胸を張って立ち上がる。
「着付けならまかせて! 着物なら慣れてるもの、ばっちりかわいくしてみせるよ!」
では着付けはみぃに任せようと、セシルがみぃの頭を撫でて立ち上がる。善は急げだと、カフェをあとにすると当日受付も可能な衣装貸し出しの店へと足を運んだ。
「選ぶくらいならできますけど、それも私の価値基準になりますからね?」
「メイフィアのセンスなら間違いないね」
そうセシルに微笑まれてしまえば、メイフィアも腕の見せ所だと彼女の目に適う晴れ着を幾つか見繕ってプラチナの元へ置く。それをプラチナの希望に合わせつつコーディネイトするのはみぃとチシャだ。
「柄は……うーん、どんなのがいいんだろう?」
「柄はお花とか似合いそうだね」
「あ、とってもいいかも! それにプラチナさんはきれいだから、華やかな柄でも映えるかも?」
あれでもない、これでもない、これはどうかと、とうとう二つに絞った晴れ着をプラチナへと見せる。
「一番は着てみたい柄を選ぶことだとおもうから、プラチナさんが選んでみて!」
「そうそう、気になるのあるー?」
自分の身体に当てられた晴れ着を見て、それからプラチナがセシルへと視線を送る。
「どちらも似合うよ、好きな方を選んでごらん」
その言葉に後押しされるように、プラチナが晴れ着を指さした。
それは彼女の白い肌、プラチナ色の髪を一層引き立たせるような白地に金糸で大輪の椿が刺繍されたもの。
「これなら帯はこちらがいいですね」
黒と金の市松模様の帯に、セシルの瞳のような色の飾りがついた帯締めをメイフィアが持って合わせていく。みぃがそれを着付け、楚々と立つプラチナの姿はとても可愛らしくてセシルが満足気に微笑んだ。
「うん、皆が選んだだけあってとても素敵だよ」
「うん、とってもすてき!」
セシルに続いてみぃが言うと、メイフィアも口元に小さく笑みを浮かべて頷く。
「これで神社に向かえるね!」
明るい声でチシャが笑って、全員で通りへ出ると可愛らしくて華やかなご一行様に道行く人も目を惹かれるようで笑みを浮かべて通り過ぎていく。
「さあ、行こうか。ぼくの可愛いお嫁さん達」
セシルの言葉に三人が頷いて、プラチナも小さく頷く。
愛しく可愛い彼女達を連れて、セシルが神社へ向かう為に歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千家・菊里
【福3】福袋巡り
彼女にも人々にも笑顔が戻り、何よりですね
折角ですし、少し福を頂きながら参りましょうか
(清史郎さんに頷きつつ、視線は早速菓子福袋に釘付けで)
ふふ、本当にわくわくしますね
(人気和洋菓子が新春仕様で一際晴れやかになった福袋買い)
元日から此程の幸福と正義を得られるとは実に幸先が良いですね
帰ったらこれをぱあっと広げて、皆で福を分け合って、華やかに新年会も良いですね
あ、この福袋の縁起物、伊織の亀さんそっくりでは?
隣のぴよだるま福袋もお二人の雛さん達に似て、凄く福を招いてくれそうですね
(それから綺麗な羽織物も一つ
晴着代わりに、花乃子さんにお届け出来ればと)
貴女にも、どうぞ良き福が訪れますよう
筧・清史郎
【福3】福袋巡り
ああ、彼女が大切な事を思い出せてよかった
福袋か、初めて購入するな(わくわく
菓子の福袋は是非とも手に入れなければだな(超甘党
あとは、可愛い動物さん等の縁起物が入った福袋も見つけて購入
菊里と同じ菓子福袋を手に、にこにこご満悦
ふふ、後で分け合おう(微笑み
縁起物の動物さん達も愛らしいな(動物お任せ
やはり、甘い物と可愛い物は正義だ
おお、確かに亀さんに似ている
ぴよだるま福袋…(じっと見つめ
ああ、やはり買わねばだな、伊織(お買い上げ
福袋購入後は花乃子の元へ
では俺からは、希望を咲かせる紅白の彩りを貴女に
縁起物福袋に入っていた梅の花の髪飾りを可能ならば彼女につけてあげて
福のお裾分けができればと
呉羽・伊織
【福3】
ああ、彼女の記憶も新春の精彩も無事に返って一安心だな
この様子なら暫し店に目移りしても…ってホント目がないな(視線辿り思わず初笑い)
清史郎は初福袋となれば、わくわく感も一入だな
甘いのと可愛いのは二人に任せとけば完璧そーだな!
後で分け合って新年会も良いな~
ホントどの袋も幸福で満ちてて、良い一年の始まりを祝せそーだ
後はペット用福袋も…何ソレ?
(亀置物や雛達磨袋を二度見し――オマケに龍か鰻か謎生物の置物とも目が合い)
仕方ない…買うか、清史郎!
コレは絶対福招いてくれる縁起物…!
(花乃子も傷んだ侭でなく晴れやかな姿で行けるよう
菊里と合わせ良ければ羽織を)
身も心も晴れやかに――約束叶うよう祈ってるよ
●福を巡りて
人々の笑顔と賑わいが戻った大通り、思い出せなかったことが思い出せたと喜び、笑顔を浮かべる可乃子の後ろ姿を眺めて千家・菊里(隠逸花・f02716)が口元に笑みを浮かべて筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)と呉羽・伊織(翳・f03578)を見遣った。
「彼女にも人々にも笑顔が戻り、何よりですね」
「ああ、彼女が大切な事を思い出せてよかった」
本当に、と口元を綻ばせた清史郎の横で、伊織も目を細めて喜びの声を零す。
「彼女の記憶も新春の精彩も無事に返って一安心だな」
花乃子の後ろ姿を視線で追って、彼女の近くに他の猟兵や帝都桜學府のユーベルコヲド使いがさりげなく控え、不安気にする人々を宥めては花乃子がもう危険な存在ではないことを説いているのを確認する。
「この様子なら暫し店に目移りしても大丈夫そうだな!」
伊織が明るい声でそう言うと、菊里がぽんと手を叩く。
「折角ですし、少し福を頂きながら参りましょうか」
「おお、福か」
「清史郎、福の意味、わかってるか?」
伊織がじっと清史郎を見つめると、清史郎がにっこりと笑って言い切った。
「知らぬな」
「知らないのかよ!」
「ふふ、この場合の福というのは、福袋のことですよ」
切れのいい突込みを受けつつも笑う清史郎に、菊里が福袋の説明をする。
「ふむふむ、つまり中身が何かはわからぬが、値段以上の物が入っているお得な詰め合わせの袋を買うということか。運試しのようなものだな」
それは楽しそうだと清史郎が目を輝かせると、伊織がうんうんと頷く。
「色んな福袋があるからな、これぞって物を買うんだぞ」
「良い物があるといいですね」
初めての福袋に心を浮き立たせる清史郎にそう言って、では参りましょうかと菊里が歩き出す。その視線は鋭く、お目当ての一つでもある菓子の福袋へと向けられていた。
「……ホント目がないな」
菊里の視線を辿った伊織が思わず笑い、これが初笑いになるのか? と首を傾げる。
「美味しい物を逃すわけにはいきませんからね」
「菓子の福袋か、これは是非とも手に入れなければだな」
清史郎も同じように視線の先を辿ったようで、更に瞳を輝かせて笑う。
「さすが超甘党……」
「甘い物は大好きだぞ」
「ええ、きっと美味しいですよ」
美味しい物が大好きな菊里と共に、いざいかん甘味福袋――!
タッグを組んだ二人の後ろを伊織が追いかけ、和洋菓子店へと入る。店の外もだが、中も新春の飾り付けがされてなんとも華やかな店内、可愛い女性客も沢山。これは目の保養だと満足そうに笑んだ伊織を横目に、菊里と清史郎が人気の和洋菓子が新春仕様で一層晴れやかになったという福袋の列へと並んだ。
「どれも美味しそうだな、菊里」
「ええ、これは期待が出来そうですね」
そうして二人が買い求めた福袋は赤と金の艶々とした袋に桜があしらわれていて、中には白い箱と赤い箱が入っているというもの。白い箱には練り切りなどの和菓子を含んだクリームどら焼き等が、赤い箱には洋生菓子を含んだクッキー等が入っているのだという。
「元日から此程の幸福と正義を得られるとは実に幸先が良いですね」
無事に和洋菓子の福袋を手に入れた喜びに、菊里の頬がふうわりと緩んで笑みを作る。
「ああ、良い買い物をしたな」
「帰ったらこれをぱあっと広げて、皆で福を分け合って、華やかに新年会も良いですね」
「皆で分け合って新年会か、良い案だな」
「ふふ、後で分け合おう」
菊里と伊織の言葉に、皆に福のお裾分けだと清史郎が微笑んだ。
「他に欲しい物はありませんか?」
「そうだな、俺は縁起物の……」
と、そこで言葉を切った清史郎の視線を追うと、可愛い動物の縁起物が入った福袋が見えた。
「あそこですね、行きましょう」
「はは、甘いのと可愛いのは二人に任せとけば完璧そーだな!」
伊織の笑いと共に、その雑貨屋でどの福袋が良いかと迷いつつ、一つ手に取って会計を済ませる。白い紙袋に可愛らしい動物があれこれと描かれた袋だ。
「良い物入ってたか?」
「どうだろうな、ちょっと見てみるか」
やはり中身が気になるもの、邪魔にならぬ場所でそっと福袋を開ければ、中には達磨の被り物をしたひよこのぬいぐるみや、赤べこの置物、招き猫のストラップ、鶴と亀の絵が描かれたなんとも縁起のよさげな香立て……他にも細々とした可愛らしい縁起物が入っている。
「伊織よ、これは大当たりだ」
縁起物の動物さん達が愛らしいと、清史郎が真顔で伊織に頷く。
「そ、そうか。それは何よりだ」
微笑ましそうに見ていた菊里が、何やら見覚えがあるものが……と視線を違う福袋にやると、伊織の名を呼んだ。
「どうした?」
「この縁起物、伊織の亀さんそっくりでは?」
「……マジか」
「おお、確かに亀さんに似ている」
太鼓判を押されるほど、それは伊織の亀に似ていて。更には、ぴよだるま福袋なんてものまで見つけてしまって、三人が視線を合わす。
「凄く、福を招いてくれそうですね」
なんといっても、亀とぴよ達に似ているのだ。
「ぴよだるま福袋……」
これは間違いなく運命、と清史郎がぴよだるま福袋に手を伸ばす。
「オレはペット用の福袋を買おうとしていたはずなのに……」
しかし、亀の置物にぴよだるま福袋、これは買うべきではと伊織が唸る。
「……こ、これは!」
ダメ押しとばかりに、龍か鰻かよくわからない謎の置物とも目が合ってしまって。
「これは……やはり買わねばだな、伊織」
既にぴよだるま福袋を手にしていた清史郎が後押すように、伊織の肩をぽんと叩いた。
「仕方ない……買うか、清史郎!」
「ああ、買おう」
新年早々、これは間違いなく福を招いてくれる縁起物である、と二人は会計へ足を向かわせるのだった。
「いやあ、良い買い物だったな」
「ええ、新春に相応しい買い物でしたね」
手にはずっしりと嬉しい重み、笑顔を浮かべた三人が神社へ向かって歩き出す。
「ああ、ちょっといいですか?」
菊里が呉服屋に寄り道をと言うと、伊織もと呉服屋へと入った。
「おや、同じ考えでしたか?」
「どうやらそうみたいだな」
菊里と伊織が顔を見合わせ、ならばと晴れやかな羽織を一つ、二人で買い求めた。
戻ってきた二人を全てお見通しだというような笑顔で出迎え、清史郎が道の先を指さす。
「花乃子だ」
「丁度いいですね」
「よし、行くか」
歩く速度を上げ、花乃子に追いつくと伊織が驚かさぬように声を掛ける。
「花乃子」
『はい……あら』
三人を見上げ、ふわりと花乃子が微笑む。
「良い顔になったな、花乃子。貴女に福のお裾分けをしたくてな」
そう言って清史郎が手にした福袋から、梅の髪飾りを取り出して花乃子に見せた。
『とっても素敵ね』
「これを貴女につけても良いか?」
喜んでと頷いた彼女の髪に、清史郎が希望を咲かせる紅白の彩を施す。優しく色付いたそれに手を当て、花乃子が嬉しそうに微笑んだ。
「オレと菊里からはこれだ」
「どうぞ、貴女にも良き福が訪れますよう」
菊里がそっと花乃子の肩に白に梅の咲く羽織を掛ける。
『ありがとうございます、本当に……皆様優しい方ばかりね』
はにかむ花乃子に、菊里と伊織も笑みを浮かべた。
「身も心も晴れやかに――約束が叶うよう祈ってるよ」
肩に幾つもの優しさと彩をのせ、笑みを浮かべた花乃子が神社へと向かうのを彼らは見守るように後を追う。
ただ、彼女に福あれと願って――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雨野・雲珠
【鏑木邸】
声が届くって嬉しいですね
學府の方々が固めてくださってるのでそれほど心配せず、
何かあれば聞こえる距離を歩きます
もう少し先の神社で皆さんと待ち合わせる予定なんですけど…
あ、シャララさんだ!(手ぶんぶん)
おふたりは福袋は買わないんですか?
そうそう、何が入ってるかわからない…
気に入ったものを選ぶのがお上手そうな二人ですから、
お召し物で博打はしないかな
わぁ、それは是非!ついていきたいです!
(漂う香りに気がついて)
ちょっと寄ってもいいですか?
と声をかけてお茶屋さんに。お茶の福袋を買います
お客様にお出しするし、先生もお飲みになるし。
最中…お茶菓子もいいですね…
(まんまとついで買いの罠にはまる)
ヨシュカ・グナイゼナウ
【鏑木邸】
花乃子お嬢さん、思い出せたみたいで良かったですねえ
忘れてしまうのはかなしいことだもの
これはもう必要ないだろうと、鋼の針は袖にしまって
通りも随分賑やかになりましたね
夕時雨さまが?わー、こちらですこちら!
あけましておめでとうございます!
そうですねえ、あまり物を増やせない身なのもありますが
矢張り見て購入するのが楽しいなって!
お二人とも今度お召し物を一緒に選びに、なんて
お茶屋さん!わあ、行きます!玄米を茶買ってみたいのです
物珍しげに店内を眺め
夕時雨さま、お茶味の最中ですって!緑色です!
玄米茶は自分に、少し良いお茶はお世話になっている
ホテルのオーナー夫婦のお土産に
あ、最中もいただけますか?
夕時雨・沙羅羅
【鏑木邸】
ふたりとも、おつかれさま
ゆらり游いで、神社組より先んじて合流
あけましておめでとーの挨拶は馴染みが無いけど、めでたいのは良い
なんでもなくない日の挨拶だ
ふくぶくろ
色々入ってる…宝箱みたいな?
自分できれいなものを探すのは、生きる意味みたいなものだけど、
たまには運に任せるのも良いかもしれない
…そもそも、自分の服はあんまり拘ってないな
いっしょに選べるなら、楽しそう
今度行くなら、ふたりの好きなの、教えて
お茶
おお…緑のお茶だ
いつも紅茶だから、新鮮
良い匂い、深く薫る緑の香り
おかしもある?もなか、かわいい
お茶のお菓子は、福袋あるかな
あれも、これも、色々気になる
帰ったら、みんなで食べよう
大切に抱えて
●新緑色の福を詰めて
迷子のように見えた影朧は、今はしっかりとした足取りで神社への道を真っすぐに歩いている。それはとても喜ばしいことで、思わず雨野・雲珠(慚愧・f22865)の頭の枝にひとつ、ぽんっと桜が咲いた。
「花乃子お嬢さん、思い出せたみたいで良かったですねえ」
桜が一つ咲いているのは口に出さず、ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)が雲珠にそう言って、これはもう必要ないのだと口許に笑みを浮かべ、誰にもわからぬように鋼の針を袖へと仕舞う。
「はい、声が届くって嬉しいですね」
どんなに言葉を尽くしても、届かぬ影朧がいることを雲珠は知っている。だからこそ余計に嬉しいのだと、軽やかな足取りで賑わいの戻った大通りを歩く。
「學府の方々が固めてくださってるので、心配はあまりないみたいですね」
「何かあれば他の猟兵の方も駆けつけるでしょうし」
勿論、わたし達もですけれど、とヨシュカが頷く。
「ここからもう少し先が桜御神籤の有名な神社で、そこで皆さんと待ち合わせる予定なんですけど……」
「何かありましたか?」
「その、福袋が気になってしまって」
福袋、と言われてヨシュカが通りを見渡す。確かにどの店も福袋を販売しているのが見えた。
「お待たせするのも悪いですし、どうしようかなと」
「はあ、なるほど」
なるほど、ともう一度頷いてヨシュカが言う。
「大丈夫ですよ、雲珠さま。あの方達も大人なのです、寒ければ何処かに入って待っていると思います」
「ヨシュカくん……!」
確かに、と雲珠も頷いて、ならば――と前を向いた時だった。
「あ、シャララさんだ!」
「夕時雨さまが? わー、こちらですこちら!」
見知った顔が見えて、雲珠とヨシュカが大きく手を振って相手へと知らせると、それに気が付いたように夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)も手を振り返す。
「ふたりとも、おつかれさま」
ゆらり、と游いで――文字通り、水の中のように地面すれすれを浮かんで游ぐように沙羅羅が二人の元へとやってくる。その装いは帝都のお正月に合わせたかのように淡い桜色に華やかな牡丹の花が咲き誇る綺麗な和装姿で、水の尾鰭はどことなく桜色だ。
「わあ、素敵なお召し物ですね」
「ありがとう、お正月? だっていうから」
馴染みのない単語だけれど、新しい一年の始まりだ。それならば、華やかな恰好をするのもいいだろう。
「あけましておめでとうございます! 夕時雨さま」
「あっそうでした! 俺としたことが新年のご挨拶の方が先でしたね」
雲珠もヨシュカに倣って明けましておめでとうございます、と軽く頭を下げる。
「うん、あけましておめでとー」
これもまた、馴染みのない挨拶だけれど、めでたいのは良いことだと沙羅羅が頷く。
だって、なんでもなくない日の特別な挨拶だ。
「シャララさん、俺達福袋を見に行こうかと話をしてて」
「ふくぶくろ?」
首を傾げた沙羅羅に、雲珠が簡単に福袋の説明をする。
「色々入ってる……宝箱みたいな?」
「そうそう、何が入ってるかわからないんです」
「そうですね、何が入っているかわからないという点では宝箱みたいなものかと」
雲珠とヨシュカがそう言うと、沙羅羅も納得したようにふくぶくろ、と頷いた。
「いいよ、せっかくここで会ったんだもの、いっしょに行こう」
「ありがとうございます! お二人は何か気になる福袋はありますか?」
そう言われると、ヨシュカがううんと悩まし気な顔をする。
「そうですねえ、あまり物を増やせない身なのもありますが、矢張り見て購入するのが楽しいなって!」
勿論、何が入っているかわからない、それこそ運試しのような気持ちで福袋を買うのも楽しそうなのですがとヨシュカが言うと、沙羅羅があちこちに視線をやりながら唇を開く。
「自分できれいなものを探すのは、僕の生きる意味みたいなものだけど、たまには運に任せるのも良いかもしれない」
でも、どの福袋にしようかという点で考えてしまう、と沙羅羅が言う。
「福袋、本当に沢山の種類がありますもんね……うーん、気に入ったものを選ぶのがお上手そうな二人ですから、お召し物で博打はしないかな」
そうなると服系の福袋は却下ですね、と雲珠が頷く。
「そうだ、お二人とも今度お召し物を一緒に選びに行きませんか?」
「わあ、それは是非! ついていきたいです! ヨシュカくん!」
「……そもそも、自分の服はあんまり拘ってないな。いっしょに選べるなら、楽しそう」
そうなると、どの世界で買うのがいいだろうか、なんて楽し気な声が響く。
「今度行くなら、ふたりの好きなの、教えて」
「ええ、きっと楽しいですよ。お揃いとか、お互いの服を見立てたりとか」
「俺は自分のセンスに自信が無いので、見立ててもらえたら凄く助かります!」
絶対に行きましょうと約束をすると、ふわりと鼻孔をくすぐるなんともいい香りに気付いて、雲珠が二人に声を掛けた。
「あそこ、ちょっと寄ってもいいですか?」
「何のお店ですか?」
ヨシュカの問い掛けにお茶屋さんです、と答えると彼の金色の瞳がきらりと輝いた。
「お茶屋さん! わあ、行きます! 玄米茶を買ってみたいのです」
「玄米茶、美味しいですよね!」
「お茶」
盛り上がる二人の後ろをついて、沙羅羅がくんっと嗅いでみれば確かに良い匂いがした。
からん、とベルの音を響かせて店内に入れば、多種多様なお茶の葉が並んでいるのが見える。
「落ち着く匂いです……!」
雲珠がすうっと深呼吸するように息をして、レトロモダンな可愛らしい店内を色々と見て回る。ヨシュカと沙羅羅もあちこち眺めていると、試飲だと緑茶の入った小さなカップを渡された。
「おお……緑のお茶だ」
いつも飲んでいるのは紅茶だから、とても新鮮だと沙羅羅が薄く美しい緑色を眺める。
「良い匂い……深く薫る、緑の香り」
口を付け、一口飲んでみるとすっきりとしているのに深い味わいで、ぱちぱちと目を瞬かせて、またもう一口飲んだ。
「気に入りましたか、夕時雨様」
「うん、おいしいね」
店員にお礼を言って空になったカップを捨てると、ヨシュカの呼ぶ声が聞こえて視線を向ける。
「夕時雨さま、雲珠さま、お茶味の最中ですって! 緑色です!」
「おかしもある? もなか、かわいい」
見れば四角の可愛らしい形の最中で、沙羅羅と雲珠が目を輝かせて見本を眺める。
「すごい、あんが緑だ」
「最中も薄っすらと緑色ですね」
これは絶対美味しいですよ、とヨシュカが頷く。
「お茶の福袋に最中……お客様にお出しするし、先生もお飲みになるし、お茶菓子に丁度いい……」
意を決したように雲珠が最中の箱に手を伸ばす。まんまとついで買いの罠にはまっているが、新年ですし、と魔法の言葉を呟いてお会計をお願いした。
「わたしは玄米茶と、少し良いお茶はお世話になっているホテルオーナー夫妻のお土産にして……」
玄米茶、あれからずっと気になっていたんですよね、とヨシュカが笑う。
「あ、最中もいただけますか」
二つ、と買い求めている横で、沙羅羅もお茶のお菓子の福袋を見つけて手にしている。
「あれも、これも、色々気になる」
なるほど、こういう時に福袋は便利だと頷いて、お会計を済ませた。
「買いましたね……」
「初売りマジックというやつですね、雲珠さま!」
「帰ったら、これ、みんなで食べよう」
大事そうに抱えた福袋を沙羅羅が二人に見せると、勿論ですと雲珠が頷き、ヨシュカが美味しいお茶をお淹れしますね、と微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雷陣・通
◎
正月か……そういえばこっちの正月は初めてだな
流石に勝手が分からないし
――そうだ!
花乃子!
この街を案内してくれないか?
勿論、あんたが行くべきところがあるのは知っているから、その道すがらでいい
知りたいんだ、この帝都を
難しいかな?
難しいなら、誰か他の人、案内頼めない?
ああ、大丈夫。俺も用事があるんだ
花乃子が向かおうとしている神社にさ
だから、その途中まで知りたいんだ
この世界を
花乃子が生きていた道を
みんなが歩いていたサクラミラージュというところを!
御桜・八重
◎
神社の家に生まれた以上、仕方ないことではあるんだけど…
「晴れ着、いいなあ…」
お正月はずっと巫女としてお手伝いだったから、
晴れ着を着る機会はあまり無かったんだよね。
道を行く華やかな着物の女性たち。
「ああいうのを着て、ステキな人と初詣行ってみたいねー」
桜御神籤の神社への道すがら、
賑やかに花乃子さんに話しかける。
憧れの人と晴れ着で初詣。
死んだ後も心惹かれるの、わかる気がするよ。
(モワモワと浮かぶ誰かの顔)
…って、まだそんなんじゃないんだからね、まだ!
(頭ブンブン)
「あ、もう時間。急がなきゃ!」
神社のお手伝いの時間が迫り、花乃子さんに一礼して別れを告げる。
「また、会おうね♪」
転生を果たしたら、ね。
●帝都を歩く
世界が違えば、正月の賑わいもまた一つ違うもの。UDCアースの正月なら慣れているけれど、帝都とくるとそうもいかないと雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)が小さく唸る。
「むう、こっちの正月は初めてだからな」
流石に勝手が分からない、さてどうしたものかと悩んでいると、反対側の通りに見知った顔が歩いているのが見えた。
どうやらこちらには気が付いていない様で、店の窓ガラスを覗いている。
「よしっ」
通は向かい側へ渡る為に、横断歩道を探そうと早足で歩きだした。
そんな事とは知らず、呉服屋のショーウィンドウを覗き込んでいるのは御桜・八重(桜巫女・f23090)だ。
「晴れ着、いいなあ……」
神社の家に生まれた以上、割り切ってはいるけれど……それでもいいなと思ってしまうのは年頃の女の子ゆえ。そんな八重が呉服屋の前で足を止めてしまっても、誰も咎めることはないだろう。
「お正月はずっと巫女としてのお手伝いだったから、晴れ着を着る機会はあまり無かったんだよね」
ショーウィンドウに飾られた晴れ着も、道行く人が着ている華やかな着物も、どれも素敵に見えて思わず溜息が零れた。
「ああいうのを着て、ステキな人と初詣……行ってみたいねー」
腕とか組んだりしてさ、なんて丁度目の前を行くカップルに重ねてみたりして。
「言ってても始まらないし」
呉服屋を離れ、神社に向かって八重が歩き出すと花乃子の後ろ姿が見えて、おーい! と明るく声を掛けた。
「花乃子さん!」
『はい……あら、あら、親切な方』
色々思い出せて良かったね、と話をしながら八重が花乃子の横を歩く。
「そっか、花乃子さんは憧れの人と晴れ着で初詣に行きたかったんだね」
『ええ、今となっては思い出せただけで嬉しいのです』
だから、このまま神社へ向かうのだと言う花乃子に、わたしも! と八重が言う。
「死んだ後も心惹かれるの、わかる気がするよ」
女の子であれば、一度は着てみたいと思う晴れ着。そんな素敵な着物を着て、好きな人と一緒に新年を歩く――。
そこまで考えて、もわもわと浮かぶ誰かの横顔に八重が首をぶんぶんと振って掻き消す。
「そ、そんなんじゃないんだからね、まだ!」
「何がまだなんだ?」
突然手前から降ってきた声に、八重がうわぁっと跳ね上がる。
「わ、悪い! そんなに驚くとは思ってなくて」
通が目を丸くしたままの八重に謝ると、八重もなんとか冷静を装って大丈夫だと頷いた。
「って、どうしたの通くん」
ここに通がいるということは、花乃子を救う為に彼も帝都に来ていたということなのだろうけれど。
「いや、それが……情けない話、こちらの勝手がわからなくてな」
クリスマスの時に、八重に案内してもらったことはあるけれど、行き先が違えばわからなくて当然だ。
「それで、花乃子に案内をしてもらおうと思ってさ」
『まあ、私にですか?』
驚いたような顔の花乃子に、通が頷く。
「勿論、あんたが行くべきところがあるのは知っているから、その道すがらでいい。知りたいんだ、この帝都って街を」
「さすが通くん、いいアイデアだね!」
だろう? と嬉しそうに鼻の下を擦った通に、花乃子も控えめに微笑んで頷いた。
「難しかったら、八重に頼めないかなって思ったんだけど、良かった!」
「ごめんね、通くん。あたし、今日はちょっと急いでて」
用事があるのだと表情を曇らせた八重に、通が用事? と首を傾げる。
「うん、今日は神社の……花乃子さんが行きたいって言ってる神社のお手伝いがあるんだ」
「そうか、正月から大変だな」
神社の娘だからね、と八重が笑う。
『まあ、八重さんは神社の娘さんなのですか?』
「桜御神籤の神社ではないけどね。あたし、鎌倉の方にある神社の娘なんだよ」
そうなのですか、と花乃子が頷き通へと視線を向ける。
『私も神社までの道しかわかりませんけれど……それでもよろしければご一緒致しましょう』
「ああ、大丈夫。俺も花乃子が向かおうとしている神社に用事があるんだ」
「そうなの?」
ああ、と頷く通に、八重がふうんと相槌を打ってから通りにある大時計に目をやって慌てたような声を上げる。
「どうしたんだ?」
「大変、もう時間! あたし、行かなきゃ!」
神社の手伝いの時間が迫っているのだと告げて、八重が花乃子と通に一礼をして顔を上げた。
「それじゃあ、またね!」
また、会おうね。あなたが転生したら、きっと。
そんな想いを込めて八重が微笑むと、神社まではこの道をまっすぐだから! と言って、真っ直ぐに駆けていった。
『私達も、参りましょうか』
「そうだな!」
何を知りたいのかと花乃子が問えば、通がそうだなぁと腕を組む。
「何でもいいんだ。花乃子が生きてきた道を、この世界のみんなが歩いていたサクラミラージュってところが知れたら」
『ふふ、簡単なようでいて、難しいご注文ですね』
それでも、花乃子は少し違うような気もするけれどあの店には見覚えがあります、と指を差したり、このお店は見覚えはないけれど皆さん楽しそうですと、通と眺めて笑う。
「ああ、神社が見えてきたな」
『ええ、もうすぐですね』
穏やかな笑みを浮かべて、花乃子が頷く。
神社まで、あともう少し――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
その穏やかな表情に、桜の少年が己の役目を果たさんと枝に桜を芽吹かせ、白い桜を花乃子へと送る。それに呼応するように、帝都桜學府の桜の精達も、一斉に花乃子の為に桜の癒しを施した。
影朧の転生が果たされ、花咲神社の参拝客からは正月早々めでたい話だと歓声が沸き起こる。そうして、暫くすれば参拝客達は参拝を済まそうと鳥居の先へと向かって行った。
そうすると、花咲神社の本殿が見え、参拝を済ませてぐるりと回ると社務所があり、ここでお守りや破魔矢、絵馬などが受けることができる。勿論、この神社一番人気の桜御神籤もここで引くことができるのだ。
御神籤を引いたなら、参道を少し戻って茶屋で一息つくのもいいし、無料で振舞われている桜甘酒をいただくのもいいだろう。桜色をした甘酒はノンアルコールで、子どもにも人気の優しい口当たりの甘酒だ。
【受付期間】はMSページに記載のURLを参照ください、受付期間前、受付期間後に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認ください。