最後の幽世クリスマス
●『連理亭』
些細な切っ掛けひとつで、容易く世界滅亡――カタストロフの危機に瀕してしまうカクリヨファンタズム。
そんな世界でも猟兵達の活躍の甲斐あって、どうにかクリスマスの季節を迎えられていた。
――本当に、『どうにか』。
今日かも知れなかった滅びの日を一日、また一日。何とかやり過ごせただけだ。
それがたまたま、今日という日まで延ばせただけの話。
「仕方ないな。仕方ないね」
「もうお腹が減って飢え死んでしまうもの」
「これだから腹ぺこ妖怪は。わたくしはあんた達と一緒に滅びるなんて嫌よ」
双子の少年少女の東方妖怪が縮こまって座り込むのを、魔女風の西洋妖怪が腕を組んで見下す。
「ペコ知ってるー! ソレツンデレって言うんだー! いっつもお外気にしてたのペコ知ってるー!」
「お黙り!!」
自分をペコと呼ぶ、前衛芸術家が手掛けたような外見の新しい妖怪。
彼(彼女かも知れない?)だけは元気に魔女を茶化したが、事態が好転することはない。
「元の世界では……そろそろ、クリスマスという祭りではなかったかな。君達も、あれは好きだっただろう?」
竜神の女の言葉に、魔女は「あれは元々こっちの祭りだった」などと食いついたが、双子の妖怪は小さく頷いた。
「賑やかで、明るくて、皆楽しそうだったな」
「楽しそうだったね」
「でも、僕達は、忘れられちゃった」
「忘れられちゃったね。小さくて、汚れてたからね」
楽しいし、好きだけれど。そのせいで元の世界を追われる原因にもなった。
この時期になると、彼ら彼女らはそのような郷愁と切なさに襲われて――この、滅びの有様である。
ここは『連理亭』。
カタストロフに晒される住人達が集まる、妖怪と竜神の最後の遊び場だ。
●カクリヨファンタズムにて
今まさに、滅びを迎えている場所がカクリヨファンタズムにあるという。
原因は、そこに住まう妖怪達が糧としているあらゆる感情の枯渇だ。
その感情さえ補うことができれば、世界の均衡を取り戻すことができるらしい。
「驚きとか、喜びとか。あい、とか。信仰……というと難しいかもだが。彼らを頼って、必要とする気持ち、だな。
まだ、世界に存在していい、という。証が必要なのだと思う」
ちょっとわかるのだ、と語るのは城門のヤドリガミである出水宮・カガリ。
「くりすます、という時期に。忘れられてしまったもの達だから。
くりすますでも、彼らも共に存在していい、と。
一緒に楽しんだり、話を聞いたり。してやるといいと思う。
直接、話をせずとも。彼らの遊び場で、遊ぶだけでも。
必要とされている、と。感じてくれると思うな」
滅びから逃れた妖怪達が集まっている『連理亭』は、蓮の池の中央にコンクリート製の食堂が建つ不思議な立地だ。食堂から見える景色は、常であれば蓮の花が美しいが――カタストロフに晒された今は、その蓮池も枯れかかっている。
食堂の中では、何かを準備しようとした形跡がある。蜥蜴やカエルがことごとく黒焼きになった状態で放置されているようだ。
「優しい、魔女とか。竜神とか。いるようだから。
双子のために、何か。しようとしたのかもなぁ。
ひとの料理、というのは。とても難しいから」
彼らと、彼らの世界を助けるために。
少しの優しさを、届けて貰えないだろうか。
旭吉
旭吉(あさきち)です。
初カクリヨがクリスマスになりました。
●状況
カタストロフ(世界滅亡)真っ只中の『連理亭』。
双子の東方妖怪(猫又)、西洋妖怪(魔女)、新しい妖怪(美術室の妖怪)、竜神が集まって、双子の空腹を回復させようとしています。
『連理亭』でクリスマスの料理を作ったり、パーティーを楽しんだり、盛り上げたりすると、妖怪達の空腹が満たされてカタストロフも収まるでしょう。
お一人様でも、友人同士でも恋人同士でも、お気軽にご参加下さい。
(複数人でご参加の場合、共通のタグを【】で括って頂くか、お相手様のお名前をプレイングへお願いします)
元気になれば、彼らはお土産を渡そうとします。
希望のものがあればご記載ください。特になければ、似合いそうなものを勝手に見繕います。
(片手で持てる程度であれば可能です。アイテムとしての配布はできません)
●プレイング受付
27日朝8:30~システム的に可能な限りは受け付けます。
●その他
今回、転移を担当しているカガリもお呼びがあればリプレイに登場可能です。
また、このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。
ご了承ください。
第1章 日常
『カクリヨファンタズムのクリスマス』
|
POW : カタストロフを力ずくで解決して、妖怪達とクリスマスパーティーを楽しむ
SPD : カタストロフから妖怪達を救出して、クリスマスパーティーを楽しむ
WIZ : カタストロフの解決方歩を考えたり、クリスマスパーティーの企画や準備をする
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
尾守・夜野
(誰にも必要とされない
…必要としてくれた人達がいなくなるのは悲しいもんな)
「お邪魔しますよっと
お前さん達がこの店の店主って事でいいのかい?
立派な猫又さんに竜神様じゃあないか」
年を得るまで大事にされたのだろうと…
そこまで生きてると神威持ってそうだし竜神とか諸に神じゃん
家でやってる農作業的に拝んでおきたい
「魔女さんと素敵な見目のお方もいるのか…いい店じゃねぇか」
絵画観賞の心持ちで辺りを見渡し
「こいつは…黒焼きか!」
薬に詳しくないが漢方屋で見るのにそっくり
誰が用意したか知らんが凄く効きそう
「…可能ならいくつかの物品と引き換えに売ってくれまいか?」
そういいUCからご馳走やらもみの木出してクリスマス用意
桜雨・カイ
お土産:おまかせ
楽しいパーティにするなら、まずはお客様のお迎えの準備からですね。
せっかく蓮池があるので、これを生かしたいところです。
竜神さん力を借りたいのですが。
たしか竜神とは水や海を司ると聞いた事があるのですが、この池に水を喚んでもらえますか?
あ、少し待って下さい。先に池の掃除をしてしまいますね。
水はこれでよし。あとは花を用意するだけですね
【花影】発動
蒼い炎で過去の蓮の花の影を水面に映し出す。
炎は青のイルミネーションも兼ねて。
これで少しは華やかになったでしょうか?
池に水も入り、本物の蓮の花もいずれ以前のように咲き誇ると思います
どうか再び人が集まってきて、彼らが忘れられる事がないように
●必要とすること
大地は荒れ果てて、地平の果ては崩れ始めているのが見える。ここもこのままでは、長くは保たないのだろう。
この地に住まう彼らにとって、人間に必要とされない、ということは。それほどまでに悲しいことなのだ。
「お邪魔しますよっと」
枯れかかった蓮池の上にかかるボロ橋を渡り、コンクリートの食堂で錆びた引き戸をどうにか引けば、入口は開いた。
「ハァーイ! だれだれだれー!? ……人間? 人間かな!?」
尾守・夜野(墓守・f05352)は、その肉体からして『一般人』とは称しにくい。猟兵であること自体が既に埒外の存在ではあるのだが、埋め込んだ刻印が様々な人外の『モノ』を生じさせている。
「アリアちゃーん! ブチくんもタマちゃんも! ミズさんもはやく! 人間だよー!」
それでも、真っ先に飛び出てきた前衛的芸術センスを感じさせる何かは、夜野を『人間』だと言いきった。呼んだ仲間達が来る間に、その極彩色の何かは『ペコ』だと名乗った。
「こんにちは。入口はこちらで……、と。合っているようですね」
少し遅れて到着したのは、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)。夜野や妖怪達が集まっているのを見て、ここが入口に違いないと確信したのだ。
集まった面々を見て、夜野は感心するように声を上げる。
「へぇ……素敵な見目の、ペコちゃんか。それに魔女さん。立派な猫又さんに竜神様まで……皆すぐになれるものじゃないだろ? そこまで大事にされて……」
特に竜神に至っては、名実共に神だ。神力をほとんど失っているとはいえ、農作業に関わる者として、夜野はまず拝まずにはいられなかった。
「拝まれるのは、何十年ぶりだろうか。嬉しいぞ」
「では私からも。竜神さんには、お力を貸して頂きたいこともあるので……」
カイも夜野に倣って竜神を拝むと、竜神は嬉しそうに笑んだ。更にカイが必要としていると聞くと、話の続きを促す。
「楽しいパーティにするなら、まずはお客様のお迎えの準備からです。せっかく蓮池があるので、竜神さんのお力で水を喚んで、この池を蘇らせたいのですが」
竜神は水や海を司るものと聞いたことがある、と。そのような竜神なら、力を取り戻せば可能なのではと、カイは信じたのだ。
「確かに、この辺りが干からびたのは私の衰えによるところが大きい。力が戻れば、可能だろうが……今得た信仰の力だけでは、すぐにとはいかない。カタストロフに間に合わないかも知れないぞ」
「もちろん、私もお手伝いします。綺麗な水が流れやすいように、池やその周りのお掃除もしますから」
カイの決意を知ると、竜神の女(ペコからは『ミズ』と呼ばれていた)は承諾して、彼と共に池へと向かったのだった。
「じゃあ、俺は食堂の中を見せてもらおうか。今も引き戸固かったしな、ちょっと『期待』してるぜ?」
「食堂は駄目よ! 絶対!!」
夜野が食堂への案内を頼もうとすると、魔女風の女が突然立入禁止を告げた。
「あー……もしかして、見られるとまずい儀式、とか……」
「ペコ知ってるー! 食堂はね、アリアちゃんの失敗作がごろごろー!」
「お黙りったら絵画おばけ! 燃やすわよ!」
少しばかり気を遣った結果、却って火に油を注いだようだ。しかし、失敗作はそれはそれで気になる。
「アリアちゃん。お薬作るのは得意なんだ」
「得意なんだよ」
「でも、料理は苦手なんだって」
「苦手なんだよ。わたしたち、お腹すいてたから。頑張ってくれたのかも」
双子の猫又達の話を聞く限り、このアリアという魔女はとても優しい女性なのかもしれない。ますますその失敗作が気になったので、夜野はどうにか頼み込んで食堂を見せて貰ったのだった。
食堂でそれを目にした夜野は、黒焦げになったトカゲをひとつ拾ってまじまじと眺めた後。嫌悪するどころか感動していた。
「こいつは……漢方屋で時々見る、黒焼きってやつか! 本物の魔女のお手製なら、効き目もガチなんじゃないか!?」
「まあ……黒焼きとしてなら? 所詮魔女に料理なんて――」
「可能なら売ってくれ、俺はこれ『が』欲しい! 俺の世界からもパーティー用のご馳走やモミの木を持ってこよう」
トカゲやカエルの黒焼き達は、見た目も平和で華やかなチキンやサラダ達と交換されていく。モミの木が運び込まれたときには、猫又達も大層喜んでいた。
「お代は結構よ。等価交換は既に成立しているわ」
ここでのお土産にでも貰っておきなさい、と魔女のアリアが手渡したのは、小さなブーケのように束ねられたヤドリギ。お守りのような意味合いだったのだろうが、今のUDCアースでは恋愛的意味の方が強いことを彼女は知っているのか――。
カイが掃除をしていた池は、瓦礫などを取り除いた後に水が少しずつ沁みだしていた。池を満たすには程遠いが、水が薄らと一面を覆うようになると、カイは池を覗き込んだ。
『影が……ひらりと落ちていますね。ほら、そこに』
それは問いであり、詠唱でもある。カイが指さす方向に現れた複数の蒼炎には、在りし日の蓮花の影が次々と映し出される。
「おお……これは。これなら、この池にも花が咲くね」
「本物の蓮を、今すぐ咲かせることはできませんが……このように華やかなら、見た目も楽しめるのではないでしょうか」
「感謝しよう、ヤドリガミの君。未だ、滅亡の危機は去らないが……きっと、防いでみせよう。これは礼だ」
竜神のミズがカイへ贈ったのは、内へ蓮花を閉じ込めた小さな硝子玉。神力の加護などはないが、竜神の真心だけは確かに籠もっているだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ウィーリィ・チゥシャン
【かまぼこ】
せっかくのクリスマスだってのに腹ぺこってのも可哀想だよな。
という訳で『連理亭』で妖怪達のために【料理】の腕を振るう。
まずは水飴を塗って照りとパリパリ感を出したローストチキン。
ソースや肉汁も残さず味わえる様にバケットもセットで。
(食べ方は西洋妖怪の魔女にレクチャーしてもらう)
肉だけじゃなく野菜も食えよ、という訳でスモークサーモンのサラダ。
寒い日には暖かい汁物だよな、という訳でコーンスープ。
もちろん、双子だけじゃなく集まった妖怪達の分も用意してあるぜ。
手伝ってくれたシャーリーの分もな。
さぁ、召し上がれ!
今夜はクリスマスだからな!
シャーリー・ネィド
【かまぼこ】
腹ペコなのはお腹だけじゃない
きっと心も腹ペコなんじゃないかな
だからウィーリィくんが料理を作っている間、ボクは【パフォーマンス】で人形劇を披露して双子を【元気】づける
サンタ衣装のサメのぬいぐるみが元気にぴょこぴょこ飛び回りながらミニチュアの家を回ってプレゼントを配る様子を演じ、ギャラリーの目を集めたところで予め【罠使い】で双子妖怪の座ってる場所の近くに隠しておいた小箱がクラッカーの音と共に開いて中からサメのマスコットが!
「はい、サンタさんはここにも来てくれたね☆」
そろそろウィーリィくんの料理が出来上がる頃だからこの辺でお開き、と
ボクもお腹空いてきちゃったし
●おなかが減ること
肉体も心も、腹は減る。『腹』が満ちれば争いも滅亡も収まるというもの――その精神の元集ったのがウィーリィ・チゥシャン(鉄鍋のウィーリィ・f04298)と、シャーリー・ネィド(宇宙海賊シャークトルネード・f02673)だった。
「せっかくのクリスマスだってのに、腹ぺこってのも可哀想じゃないか」
「心の腹ペコもお任せあれ! きっと皆を元気にするよ」
力強く宣言すると、ウィーリィは早速食堂の厨房へ。シャーリーはその間に食堂に簡単な舞台を作ると、妖怪達を呼んで人形劇を披露した。
舞台に現れたのは、サンタの衣装を着たサメのパペットぬいぐるみ。
『メリークリスマース! この家の子は良い子にしていたかなー?』
舞台上をぴょこぴょこと呼び回りながら、ミニチュアの家を回っていくサメサンタ。
『ふむふむ。この家の子は親をよく手伝っていたな。望み通りのおもちゃをあげよう』
各家庭の子供達を少しずつ褒めて、希望のものを配ってはすぐ次へ。サンタはいつも子供達を見ているのだ――という様子で観客の注意を集めた所で、いよいよサメサンタはこの日最後の家へ向かおうと舞台から姿を消す。
「サメのサンタはどこへ行ったんだろう?」
「どこへ行ったの?」
「消えてしまったよ。サンタも消えてしまうのか?」
「消えてしまうの?」
双子の猫又達が不安そうにサメサンタを操るシャーリーを見つめる。シャーリーはその問いには答えずに――。
一方、厨房のウィーリィは大忙しだった。
「お前も人形劇を見てて良かったんだぞ? これくらいなら一人でできるって」
「技術としては可能でも、時間がかかってしまうでしょう。あの子達の腹ぺこは深刻なんだから」
何だかんだと理由を付けながら、厨房を手伝ってくれたのは魔女のアリアだった。
「そんなにか……じゃあ急がないとな」
「それに、わたくしも……魔女の薬は作れるけど、料理というものは……」
手は動かしつつも、アリアの声は次第に小さくなっていく。恥ずかしいのだろうか。
何はともあれ、ことは急を要する。
「まず、クリスマスと言えばローストチキンだ。そのままじゃなくて、表面に水飴を塗ってから焼くと……この通り!」
オーブンを開けば、広がる香ばしさ。水飴が照りとパリパリとした食感を出してくれる。
食べたときの味や健康はもちろんだが、料理は見た目も味のひとつだ。
「バケットもセットにすれば、ソースや肉汁も残さず味わえるだろ。その辺り、もし皆がわからなかったら教えてあげてくれるか?」
「ええ、まあ……それくらいなら」
「肉だけじゃなくサラダも食べやすいように、スモークサーモンを混ぜてみたよ。スープは温かいコーンスープだ」
コースが一通り出来上がると、アリアは純粋に見入って感動していた。彼女も西洋妖怪である以上は見た目以上に長く生きているのだろうが、このような料理はあまり見なかったのだろうか。
「きっと、これなら……あの猫たちも、いくらか腹の虫を収めてくれるのではないかしら」
「よし! シャーリーの人形劇もそろそろ終わるだろうし……出しに行くか! 手伝ってくれるか?」
再び食堂。
消えてしまったサメサンタを探して双子の猫又があたりを探していると、二人が座っている場所のすぐ近くに隠されていた小箱がクラッカーの音と共に開いたのだ。
「!?」
「!?」
まるで猫のように総毛立てた後、警戒しながら小箱を覗く。そこには、舞台にいたパペットのサメサンタよりは小さな、サメのマスコットが。
「はい、サンタさんはここにも来てくれたね☆」
シャーリーがハッピーエンドで人形劇を締めると、猫又達はサンタのマスコットを不思議そうに見つめていた。
「サンタ。子供達が大好きな、サンタ」
「サンタは、わたしたちの所にも来てくれるの?」
「優しいサンタだね。びっくりした」
「びっくりしたの」
妖怪の元に、西洋のサンタが来るなんて。あの魔女が聞いたら何と思うだろう――となって、その魔女のアリアが観客にいないことにようやく気付いた。
「アリア?」「アリア?」
「わたくしはこっちよ」
呼ばれて応えるように、アリアがウィーリィと共に厨房から出てきた。
二人の手にあるのは、できたての香りが食欲を誘うご馳走ばかりだ。
「さぁ、腹が減っただろ。心ゆくまで召し上がれ!
他の皆の分もあるぜ。手伝ってくれたシャーリーの分もな」
「やった! ボクももうお腹空いちゃったよ」
食堂に運ばれてきたパリパリのローストチキンと、スモークサーモンのサラダと、コーンスープと。心尽くしのご馳走に、一同はしばし舌鼓を打つのだった。
「ごちそうさま。これ、おみやげ」
「おみやげを、受け取って」
いくらか空腹が満たされ、感情も受け取った双子の猫又ブチとタマ。
二人がウィーリィとシャーリーへ差し出したのは、髷わっぱのような弁当箱だった。
「ご飯、おいしかったから。これに入れるといいよ」
「入れるとね、いつまでもおいしいの。これに入れるといいよ」
便利になったUDCアースでは、有り難みが薄れてしまった宝物かもしれないが。それでも猫又達の気持ちがこもった逸品だ。
二人は礼と共に、猫の弁当箱を受け取ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロキ・バロックヒート
【猫ひげ】
メリークリスマス!
滅びの気配がひしひしと
感情が食べ物って神様でもいいのかな
俺様猫大好きなんだよね
ご飯作るのは終夜くんと零時くんに任せて
猫又ちゃんたちを構う
すぐ仲良くなれるかな?ふふ
撫でたり抱っこしたり
かわいいってめろめろになったり
なんかいい匂いがしてきたねぇ
すごいことになってたらお腹抱えて笑っちゃう
零時くんならやってくれると思ってたよ、なんて
ふふふ、二人と一緒に来て良かった~
あとクリスマスといったらやっぱこれだよ
じゃーんと出したクリスマスケーキ
ふたりに切ってーって
他の妖怪たちとも皆で食べようよ
終夜くんほっぺに付いてるよって拭ったり
カガリくんにもケーキとカレーをお土産に
おつかれさまだよ
兎乃・零時
【猫ひげ】
○
メリークリスマース!
滅びの気配とか感じれるもんなのか……?
猫又が腹すかせてるんだよな…猫用のご飯…とかじゃなくてもいっか、妖怪だし…
そうだな!鍋物ならみんなに腹いっぱい料理用意できるし!
とりあえずカレーだな!嫌いな奴あんまいないはずだし!
空と協力して料理を作っていこう
普通に創ってる筈が、やけにバカでかいカレーになったり不思議な現象が発生するのが出来るかもしれない(魔力が勝手に入った影響)
…どうして……!!
笑うなよロキぃ!
…まぁ俺様も二人と来れて良かったけどよ!
おぉぉー!ケーキ!いいじゃん良いじゃん!
クリスマスといやぁこれだよな!
俺様も甘いのは好きだぞ!
口いっぱいに頬張って食べるのだ
空・終夜
【猫ひげ】
めりーくりすます…
ロキは…ロキ自身が猫っぽい時がある
猫とすぐに仲良くなれそうだよ、な…
…さて
腹減りのために俺達もひと仕事だ、零時
作るのは…煮込むやつだったか…?
思いがけない食材出てきたり
可笑しなことが起こったら
ぱちくりと瞬き
…不思議カレーだ
いや、これはこれで…カクリヨらしい現象だ
…ロキがとても笑ってる
心なしか猫又まで…
…俺も、2人と来れてよかったぞ
こんな楽しいからな…
ケーキが出てくると
目を輝かせる甘党精神な俺
切り分けは率先してやろう
…ああ…ケーキは皆で食べた方が格別だ
あ…、カガリも…、一緒にどうだ…?
ケーキ…美味しいな
柔らかな甘さが口いっぱい
頬にクリームがつくのも構いなし
夢中に食べる
レナ・シルベスター
あらあら、困っちゃうわ
世界が終わっちゃったら来年のクリスマスが楽しめなくなっちゃうもの
なので、連理亭のみんなと一緒にクリスマスを楽しみましょう
場にいる皆さんにお茶を次いでほっと一息ティータイム
猟兵の皆さんもいかが?
ペコさん達お二人はクリスマスに対してそれぞれ思い出があるみたいだからその話を聞かせてもらえないかしら?
楽しかった思い出には笑顔で頷き
悲しかった思い出にはそっと目を伏せ
辛い思い出に引きずられそうになったら「クッキーはいかが?」
今夜はみんなでクリスマス
少なくとも今夜は寂しくないでしょ?
●寂しくないこと
「んー、滅びの気配がひしひしと」
「そういうのって気配とか感じられるもんなのか?」
『連理亭』の周囲を見渡して、感じて。しみじみと口にするロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)に、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)は訝しげに問うてみる。ロキは神だから、そういうものもわかるのだろうかと。
(見た目にも……あまり元気な感じではない、かな)
空・終夜(Torturer・f22048)は、口にこそしなかったが。地平の端が崩れつつあって、空は不気味に赤黒くて。これが滅びだと言われれば、まあそうなのだろうな、と納得できる程度の景色だとは感じていた。
一方で、『連理亭』を囲む枯れかけた蓮池には再び水が満ち始めていて、そこには幻影とは言え蓮も花開いている。少しずつ、元気を取り戻し始めているのかもしれないが――何となく、地平が消える速さの方が速い、気がした。
楽しいクリスマスを、楽しく乗り越えるために。
三人は『連理亭』へ続く橋を渡った。
「メリークリスマス!」「メリークリスマース!」「めりーくりすます……」
少しばらばらではあったがご機嫌(※終夜はこれでも頑張っている)に挨拶をすれば、先に到着していたレナ・シルベスター(時計ウサギのプリンセス・f27193)と絵画の妖怪ペコが中から出てくる。
「メリークリスマス! 今、ちょうど皆さんとお茶をしていたところなの」
「今日はお客さんいっぱーい! おいでおいでー!」
ロキ達を手招きすると、ペコはすぐに引っ込んで他の妖怪達へ知らせていた。
「今、ブチさんとタマさん……猫又のお二人の話を聞こうとしていたの。クリスマスに対して思い出があるみたいだったから」
「例の腹を空かせてるって妖怪か」
レナの話に零時が反応すると、ロキも興味を示す。
「俺様も猫又ちゃんの話聞きたいかもー。猫大好きなんだよね」
「ロキは……ロキ自身が猫っぽい時がある。猫とすぐに仲良くなれそうだよ、な……」
「すぐ仲良くなれるかな? ふふ」
終夜とそんな希望を話ながら、食堂に顔を出せば他の妖怪達や猟兵と共に猫又の双子がいた。ブチとタマの名の通り、少年のブチには白黒ブチ模様の猫耳と二股尻尾が。少女のタマには、三毛ブチ模様の猫耳と二股尻尾が生えていた。
「おお、ほんとに猫だ……ご飯も猫用の方がいいか? 妖怪だから気にしなくていいか?」
「何でも食べるよ。好き嫌いすると猫又になれないんだ」
「何でも食べるね。猫又だからね」
双子が揃って零時に答える。猫は本来、食べてはいけないものがいくらかあるはずだが――彼らが自分でそう言うなら、そうなのだろう。
「……よし。腹減りのために俺達もひと仕事だ、零時。作るのは……煮込むやつだったか……?」
終夜が静かに確認すると、零時もこれに元気に応じる。
「そうだな! 鍋物ならみんなに腹いっぱい料理用意できるし! とりあえずカレーで大丈夫か?」
念の為、皆に尋ねる。カレーが嫌いな人間はそう多くはないと思っていたものの、皆からも特に文句は無かったためこの日の料理はカレーに決まった。
「おし、ちょっと厨房借りるぜー!」
「ご飯は任せたよぉ。楽しみにしてるねー」
零時と終夜を厨房へ見送ると、ロキは興味津々に双子の猫又を見つめていた。人間で言えば、10歳にも届かないような外見だろう。とにかく可愛い。あと猫である。猫又だけど。
「じゃあ、カレーができるまで。お二人の話を聞きましょうか。クリスマスは好きだった、と聞きましたけれど」
レナが改めてそんな猫又達に話を振ると、二人は揃って首を縦に振る。
「ブチとタマはね、同じ家にいたんだ」
「何年もいたんだよ。優しかったよ」
「猫又になっても、ずっといたんだ」
「優しかったから。楽しかったから」
二人は懐かしそうに、心から楽しそうに語る。聞いているレナも自然と笑顔になってしまう程で、ロキも「よかったねぇ」と軽く頭を撫でてやった。
「クリスマスもね、やってたんだ。賑やかで、楽しかった」
「楽しかったけど、昔遊んだ子供は大人になって。タマ達が家にいると、怒ったんだよ」
「汚くて、小さかったから」
「今はあの家も、もう無いと思うよ。ずっと昔のことだから」
悲しそうに、二人の猫耳が垂れる。
「だから、忘れられちゃったんだ」
「忘れられちゃったね」
忘れられても、二人は自分達を突然裏切った人間を怨んではいない。唯々、昔が懐かしくて、悲しくて。お腹が空くだけだ。
――心なしか。建物の外の、滅びの音が。少し強くなった気がした。
「もうじき、温かいご飯もできますから。どうしてもお腹が空いたなら、クッキーはいかが?」
レナが魚の形のクッキーを差し出すと、猫又達は二人で分け合ってさくさくと食べていた。
「少なくとも、今夜のクリスマスは。私達はあなた達と一緒ですよ」
今日は、寂しい思いをさせない――そんな気持ちが通じたのか、外の不吉な音も少し和いだようだ。
(……『連理』か。一見、この子達が一番幼く見えるけど。この場所の主は竜神でも魔女でもなく、この子達なのかな)
まるで、猫又達の情緒に連動するかのような滅びの速度。ロキはそんなことをちらりと考えもしたが――今はその小さく愛らしい頭を、何も知らない振りをして愛で続けていた。
「こんなに小さくて可愛いのに、忘れちゃうなんて勿体ないよねぇ」
「んなー」「んにー」
訂正。もう細かい理屈抜きでとにかく可愛い。
さて、厨房であるが。
終夜はそれを見て、二度、三度。瞬きをした。
「……まあ、カクリヨだからな」
「カクリヨだしな、西洋妖怪とかいるしな、ジャガイモが巨大化したって――違うッつーの!!」
皮を剥いて、一口大に切ろうとししたジャガイモが突如お化けカボチャ並の大きさに変容したのだ。鍋より大きいまである。
制御しきれない零時の魔力が零れた結果、マジカルジャガイモとなってしまったらしい。
「とにかく、食える大きさに刻めば味は大丈夫だろ。手伝ってくれ」
「わかった……ところで、この世界では……人参は、歩くのだな」
「そんなわけ……」
振り返れば、こちらも一口大に切るばかりだった人参。大きさ的にはもはや『人参さん』となったものが、二人の背後に『立っていた』。
「……どうして……!!」
「人参も……カレーを、食べたいのかも知れない……」
「人参はカレーに入ってて欲しいんだけどな!!」
ひとまず人参さんには台に寝て頂いて、こちらも小さく切っていこうかと思った矢先。
「あ……」
「今度はなんだよ! もう何が来ても驚かないかんな!」
「鍋が」
ボカン!!
爆発音をたてて空の鍋が破裂した――かと思えば、そこには。
「……鍋、というか」
「風呂桶みたいな大きさ、だよな……この量作れって?」
このジャガイモと人参さんなら、あとは玉ねぎも巨大化すれば作れるかも知れない。肉やルーがちょっと足りないかも知れないが。
「ぶっ、あっはははは!! 零時くんならやってくれると思ってたよ、ふふふ」
爆発音を聞きつけたのか、厨房の入口ではロキが腹を抱えて笑っていた。
「笑うなよロキぃ!」
もはや涙目で反論する零時。やりたくてやったわけではないのだ、これらのあれこれは。
(……ロキがとても笑って……、……)
ついロキに目が行っていたが、終夜が少し視線を下げれば、やはり爆発音が気になっていたのか猫又達も覗き込んでいた。二人の表情は、心配というよりは――楽しそうだ。
「いやー、二人と一緒に来て良かった~」
「それは俺様もだけどよ!」
「……俺も、だぞ。こんな楽しいからな……」
改めて、この地へ来てよかったと。三人はそれぞれに感じたのだった。
そんなこんなで、どうにか他の妖怪達の手も借りて風呂桶カレーは完成した。
完成してしまったのだ。風呂桶サイズで。
結果は猫又達はもちろん、廃小学校の美術室の妖怪ペコに特に大ウケであった。
「芸術は爆発ってやつー! ペコ知ってるー!」
「料理を、巨大化する……そういう使い方もあるのね……」
「今日の食事は温かいな」
魔女のアリアや、竜神のミズ、共にいた猟兵達にも概ね好評だった。
「皆、お腹の余裕はまだある?」
風呂桶カレーの中身がほどよく捌けた頃に、ロキが徐に尋ねる。テーブルの陰に隠しておいた箱をごそごそと探って、お披露目したのは。
「じゃーん! クリスマスといったらやっぱこれだよね。切るのはおまかせー」
「おぉぉー! ケーキ! いいじゃん良いじゃん! クリスマスといやぁそうだよな!」
「……!」
ロキが大きなホールのショートケーキを出すと、零時は子供のように、実は甘党な終夜も目を輝かせていた。それだけでなく、終夜はそのまま厨房からナイフを持ってきて率先して切り分けるほどだった。
「カレーをたくさん頂きましたし、その前にお茶もしていましたけど……やはり、ケーキも頂きたいですよね。私、またお茶淹れてきますね」
レナもケーキへの興味を隠さず、他の妖怪達も切り分けられるのをそれぞれ楽しみにしているようだった。ケーキの上のイチゴもしっかり皆へ渡り、お茶も行き渡れば、お楽しみのクリスマスケーキの時間だ。
「いただきまーす!」
上品に少しずつ。あるいは夢中で頬張って。皆でケーキを食べる様は、その様子だけでも更に味を美味しくしてくれる。少なくとも終夜はそう思った。
(柔らかな甘さがいっぱい……口の中に隙間なく……幸せ……)
「終夜くん、ほっぺに付いてるよー」
至福の時間に浸る終夜の頬を、ロキが拭う。終夜の向こうの零時のがっつき具合も大概で、あーあ、という様子で眺めはしたものの。その視線はどちらかと言えば、見守る者のものだった。
妖怪達、とりわけ猫又達の様子を見てみれば。
「皆でケーキ、囲んでたね。優しかった昔みたい」
「ごちそうで、お腹いっぱい。楽しかった昔みたい」
悲しそうに耳を寝かせていた姿はそこになく。楽しそうに二人が笑っていると、外の滅びの音もいつのまにか消えたようだった。
お茶会をして、風呂桶カレーを作って、ホールケーキを食べて世界を救う。思えば、何ともおかしな話だったが。
「カガリくんもおつかれさま。カレーとケーキ、どうだった?」
「びっくりと、満腹で。とても、とても、楽しかった」
今回のクリスマスを案内したグリモア猟兵の出水宮・カガリも、ずっとこの場にいた猟兵の一人だった。ロキが彼を労うと終夜も気付いて、せっかく拭って貰ったクリームをまた付けた顔で振り向いた。
「カガリも……ケーキ、もう一切れどうだ……?」
がっついていて口を開けられない零時も、うんうんと頷いてケーキを勧める。
「ん。では貰おうかな」
ケーキのおかわりは、もうしばらくは足りそうだ。『連理亭』のクリスマスパーティーは、まだもう少し続くのだろう。
滅びを免れた『連理亭』。その主である双子の猫又達が持たせてくれたのは、靴下だった。
欲しい物が手に入るらしい、クリスマスだけの――靴下だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵