サンタクロースは荒野を駆ける
●飛ばないサンタクロース
「姉ちゃん、寒いし、お腹すいた……」
「そうだね……次の配給では温かいココアを振舞って聞いたから、もう少し頑張ろう?」
「えっココア! うん、頑張る!」
他の世界ではクリスマスイブとも呼ばれる日。
今もなお暗黒の竜巻が世界を切り裂き、破壊したものをオブリビオンへと変えていくこの世界――アポカリプスヘルにも、等しく冬は訪れる。
その荒廃した教会の跡地に建設された拠点でも、空腹と寒さに耐えていた子供たちが生活の糧を得るべく、冬場で更に乏しくなった食材や燃料を運ぶ大人たちを手伝っていて。
物質が乏しいこの世界。小さな荷物1つと言えど細心の注意を払う中、甘いココアの支給は姉弟の心を大いに昂らせていた。
「ココアかあ……チョコレート系の配給は何ヶ月ぶりになるかしら」
「……僕、雪合戦したい」
音も無く降り積もる雪をぼんやりと眺める姉の隣で、弟が目を輝かせたのも一瞬。
微かに芽生えた幼子心は、すぐに現実へと呼び戻されてしまう。
「えっ!? ダメよ。そんな薄着で雪合戦なんて、凍死してしまうわ!」
「ちえっ、わかってるよ! ……ただ、言ってみただけさ」
姉弟のお揃いのマフラーと手袋はボロボロで、何度も縫い直した痕が残っている。
でも、もしかしたら……と、姉は夢物語にも似た呟きを、ぽつりと寒風にこぼした。
「他の拠点から来た人から聞いたんだけど、最近、とても強い奪還者(ブリンガー)さんが現れたんだって。その人たちなら……」
「姉ちゃんなに言ってるんだよ、この世界にはサンタクロースなんていないよ」
今日はクリスマスだね、と呟く子供は此処には1人もいない。
誰もが生きるために必死な状況。少年少女すら大人とほぼ同じような仕事を受け持ち、懸命に働くしか生きる術がないこの世界。
日々過酷な状況を過ごす少年の胸の内には、サンタクロースなんて、飛んでいなかった。
●サンタクロースは荒野を駆ける
「アポカリプスヘルでは常時物資が不足しておりますじゃが、冬場はそれがさらに乏しくなり、凍死や餓死してしまう方も多いと聞きますのじゃ」
――そんな状況を過ごす子供たちに、夢のひとときを届けたいっ!
と、集まった猟兵たちを意気揚々と迎えたのは、サンタクロースの姿をした、ユーゴ・メルフィード(シャーマンズゴースト・コック・f12064)。
けれど、この世界では大量の物質を運び込んだ場合、オブリビオン・ストームが発生してしまうので、強力な支援を施すのは難しいという。
ゆえに、持参する物質は個人で持ち運べるものに限られ、また治安も良くないので高価すぎる物を贈ることも避けた方がいいと、ユーゴは付け加えた。
「ちょっとしたお菓子やおもちゃ、絵本や実用書を贈るだけで構いませんのじゃ。日々労働力として扱われている子供たちにとっては、それだけでもとっても嬉しくて幸せになってしまう出来事なのですじゃー」
サンタクロースになりきるのは、ちょっと……な、猟兵さんでも大丈夫!
他にも一緒に雪合戦をしたり、絵本の読み聞かせや教会で祈りを捧げるという、共に一緒に過ごすという体験も、少年少女たちにとっては至福のひと時になるだろうと、ユーゴは穏やかに微笑む。
「アポカリプスヘルの皆様は、わしらのことを廃墟から食料や資材を持ち帰る、奪還者(ブリンガー)と呼んでおりますのじゃ。なので、基本はどこでも歓迎されますのじゃ」
もちろん、子供以外……腹を空かせた大人たちに向けて炊き出し等を行っても構わない、けれど。
「せっかくのサンタクロースさんなのじゃ、皆様は子供たちを楽しませることを1番考えて欲しいのじゃ」
プレゼントを貰った子供たちの笑顔が、ふと脳裏に浮かんだのだろう。
ユーゴはつぶらな瞳を更にゆるりと柔らかくほころばせて。
「子供たちの笑顔こそ、大人たちにとっても掛け替えのない、クリスマスプレゼントになると思いますのじゃ!」
ユーゴの手に顕現したグリモアも、彼の声に応じたように輝きを増していく。
同時に。猟兵たちの視界に一面の銀色世界が広がり、肌を突き刺すような寒さが肌を、頰を、鋭く突き刺していく。
「人手が足りなかったらわしも手伝いますのじゃ、あとはちゃんと温かい格好をして現地に向かって下さいなのですじゃー」
――サンタさん、よろしく頼みますなのじゃー!
両手を元気良くぶんぶんと振るユーゴの頭の上では、小さなサンタ帽子も楽しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
御剣鋼
御剣鋼(ミツルギ コウ)と申します。
本シナリオは1章のみの構成となります。
このシナリオは「アポカリプスヘル」世界での、クリスマスイベントとなります。
皆様のプレゼントで子どもたちの笑顔を取り戻したあと、一緒にクリスマスを楽しむリプレイになる予定です。
(寝静まった頃に枕元にこっそりプレゼントを置くというのも、大丈夫ですー!)
舞台は荒野にぽつんと孤立した教会の跡地に作られた、中規模な拠点になります。
時間帯はクリスマスイブ、雪も深く積もっております。
冬場というのもあり、物資の蓄えは必要最低限のものしかありませんので、基本はご自身で持ち込む形になると思います。
大量の物資を持ち運び込むとオブリビオン・ストームが発生しますのと、教会跡地とはいえ治安はよくないので高価な贈り物は推奨できません、ご注意ください。
●プレイング受付期間:12月26日(土)9時〜12月28日(月)8時59分まで
期間内に頂きましたプレイングは可能な限り採用する方針でおります。
進捗はマスターページ、ツイッターでもご案内しておりますので、合わせてご確認頂けますと幸いです。
●ユーゴ(サンタクロースのすがた)も同行します
隅の方で、得意料理の温かいシチューを振舞っていると思いますが、
お誘いがありましたら、初見問わずどなたでも嬉々とお手伝いします。
●その他
ソロでの描写をご希望の方はプレイングの冒頭に「★」をつけてくださいませ。
ご一緒したい方がいる場合は【相手のお名前】を明記して頂けますと助かります。
旅団の皆様でご参加の場合は【グループ名】で、お願いいたします。
サンタクロースな皆様のご活躍、楽しみにお待ちしております!
第1章 日常
『アポカリプスヘルのクリスマス』
|
POW : 子供たちに、ちょっとしたお菓子や食べ物をプレゼントする
SPD : 子供たちに、手作りのおもちゃ等をプレゼントする
WIZ : 子供たちに、絵本や実用書などをプレゼントする
|
荒珠・檬果
同胞のお誘いとあらば。参上した私です。
暖かい格好して。あれ、この世界に降り立つの、初めてでは。
UDCアースで仕入れたのは、チョコレート菓子。大袋に小袋入ってるタイプのです。大袋三つ分くらいですかね。
さすがに大量だと、買い占めになっちゃいますし。オブリビオンストームあれそれなので…でも、サンタさんといえば『白い袋(作ってきた)』。雰囲気作りのUC【無限袋】なのです!(どーん!)
それで配りまして。…うん、やはり子どもたちの笑顔はいいものです。
厳しい環境でも、今日くらいは楽しんでほしいと思う、檬果サンタです。
村瀬一・鵺宵
過酷な状況に身を置く子供たちにも、素敵な時間を過ごして欲しいですね
微力ながら、そのお手伝いが出来ればと思います
(サンタ帽をかぶり)
僕が用意した贈り物はアイシングクッキーです
以前、UDCアースを訪れた時にアイシングクッキーを初めて見まして
色とりどりの甘く可愛らしいお菓子なので、子供たちも喜んでくれるかなと
種類は、サンタクロース、トナカイ、雪だるま、天使、4種類ほど用意してみました
一応手作りですが……
慣れない作業でしたので、見た目は少しいびつだと思います
ですが、心は籠めましたので……!
メリークリスマス
いつも頑張っているキミたちに、ささやかながら贈り物です
子供たちの笑顔が見られれば、僕も嬉しいですね
●冷たき銀世界に咲く笑顔
「この世界は大人にとっても過酷な環境ですね」
「私もこの世界に降り立つの、初めてです」
猟兵たちが足を踏み入れた世界は、見渡す限りの一面の銀世界。
その中にぽつりと浮かぶ荒れた教会跡地の拠点を見上げながら、村瀬一・鵺宵(奇談ヲ求ム者・f30417)がサンタ帽を頭に乗せ、グリモア猟兵と同じ種族のよしみで銀世界に足を下ろした、荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)は、傍らに積もる真新しくて柔らかい雪の塊を、褐色の指先で掬い上げる。
しんと音無く降り積もる雪。
檬果なりに暖かい格好をしてきたけれど、殺風景な荒野に強く吹く寒風は肌を刺すように冷たく、指先に乗せたふわふわな雪すらも、じわりじわりと身体の熱を奪っていく。
余程の体力と装備がなければ、外で遊ぶことなんて、夢のまた夢だ……。
「ひとときとはいえ、素敵な時間を過ごして欲しいですね」
飢えに加えて厳しい寒さが、この世界に生まれた子供たちの心身を蝕んでいる。
そんな少年少女たちに、暖かな思い出を灯す手伝いが出来れば……と、鵺宵は静かに双眸を細め、檬果も力強く頷くと、背負っていた大きな白い袋を担ぎ直した。
自分たちのような大人でも、此の世界はとても残酷であると思っている。
ならば、子供たちにとっては、この世界は何だろうか?
もしかして、絶望に等しいものだろうかと思いながら、鵺宵は冷たくて頑丈な鉄の扉を叩いた。
「嗚呼、奪還者(ブリンガー)さまですね、お待ちしておりました」
猟兵たちを出迎えたのは、この拠点の指導者だという、牧師風の男。
グリモア猟兵が事前に話を通していたのだろうか、猟兵たちの姿を一目見ると厳しい口元を緩め、ありがとうございますと深々と頭を下げた。
「大変ご足労だったと思いますが、子供たちが待っております。……さあ、中へ」
「えっ、うそ!」
「も、もしかして……サンタさん?!」
教会の中心部に集められていたのは、ココアで束の間を過ごす子供たち。
子供の数は100もいなかったけれど、最初は戸惑いを抱いていた多くの視線と好奇心は、すぐに檬果の持つ白い袋へと注がれていく。
おとぎ話でしか聞いたことがなかった、白くて大きな袋が目の前にある。
子供たちの暗い眼差しに僅かな灯火が宿った瞬間、鵺宵は煤竹色の袖から包みを取り出すと、檬果も背負っていた白い袋を、目立つようにどーんっと床に下ろした。
「メリークリスマス、いつも頑張っているキミたちに、ささやかながら贈り物です」
「――!」
鵺宵が優しく包みを広げると、中から甘い香りと共に、色とりどりのアイシングクッキーが煌めいて。
以前、UDCアースを訪れた時に初めて見た、甘くて可愛らしいお菓子。その優しい味わいと色合いはきっと子供たちも喜んでくれるだろうと、慣れない作業で苦戦しながらも、鵺宵が心を籠めて作ったものだった、が。
「――!! うわぁ可愛い!!」
その甘い香りと彩りは無機質な拠点内で一際強く輝き、初めは「?」だった子供たちの瞳がすぐに「!」となり、瞬く間に大歓声へと変わっていく。
「すごい!! これ、サンタさんが作ったの!?」
「はい、見た目は少しいびつだと思いますが、心は籠めましたので……」
「嬉しい!! サンタさんの手作りなんて、夢みたいだわ!」
種類もクリスマスをあしらえた、サンタクロースにトナカイ、雪だるま、天使という、バランスが取れた4種類のラインナップ。
まるで、絵本や童話から飛び出したような幻想的で可愛らしい鵺宵のクッキーは、あっという間に多くの女の子たちを虜にし、一方で男の子たちは――。
「大量だと買い占めになっちゃいますけど、サンタさんといえばコレでしょう!」
「うわぁ、どのお菓子も新品だあああ!」
「袋からプレゼントが出て来るの、本当だったんだッ!」
檬果が袋の中から取り出していたのは、UDCアースで仕入れたチョコレート菓子。
大袋に小袋入ってるタイプのが大袋3つ分くらいだろうか。けれど、どの包装にもシワや折れのようなものはなく、買ってきたばかりのような真新しさを保っていて。
「どれも美味しそう! 俺、この棒みたいなお菓子にするよ!」
「ぼ、僕、選べないよ……サンタさんのお勧めのチョコレート、どれ?」
「そうですねえ、このもっふもふな味わいのチョコですかね」
――無限袋(ヨクアルベンリナフクロ)。
あくまで雰囲気作りにと檬果が白い袋に施したユーベルコードは、袋の中に入れたチョコレートを適温なもっふもふのふかふかパラダイスで保護するだけでなく、外袋を綺麗な状態でキープすることにも繋がっていたのだ!
「雪だるまさんのクッキー、食べるのもったいないなあ」
「ねえサンタさん、ぼくのチョコレート、お父さんと半分っこしてもいい?」
鵺宵の可愛らしいアイシングクッキーも、檬果のチョコレート菓子も、普段は味気のない固形物や、パサ付いた保存食を口にすることが多い子供たちにとっては、早くも掛け替えのない宝物のようなものになっていて。
「弟の嬉しそうな顔は久しぶりです、ありがとうございます!」
「サンタさんありがとうッ!!」
――美味しそうなお菓子をありがとう、来てくれてありがとう!!
子供たちの笑顔に鵺宵は優しく目尻を和らげると「もう1つお知らせしたいことがあります」と、勤めて穏やかに告げる。そして、子供たちの注目が自分に集まったことを確認すると、再びゆっくりと口を開いた。
「キミたちがとても良い子なので、空からもサンタさんが来てくれました」
「「――えっ!!」」
猟兵たちの――否、サンタさんのサプライズは、まだまだ始まったばかり♪
鵺宵が教会内部の一番大きい窓を指差すと、チョコレート菓子を配り終えた檬果も同じ方向に視線を動かし、にっこりと微笑む。
その先には、窓から飛び、駆け下りて来る別働隊のサンタさんたちの姿が――!
「……うん、やはり子どもたちの笑顔はいいものです」
イブという夢から覚めた少年少女たちには、変わらぬ厳しい明日が待っている。
それでも、今日くらいは楽しんで欲しいと、檬果は強く思う。
次々と到着するサンタさんたちに子供たちは嬉々と歓声を上げ、檬果は漆黒の瞳を柔らかく、ほころばせるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
バルタン・ノーヴェ
POW型 アドリブ歓迎 他の方との絡み・連携OKデース!
「メリークリスマス! お届け物デース!」
高価なものや大量物資はよろしくないとのことなので、手作り料理を持参しマース。
子どもたちに新鮮な炭酸水とドライフルーツを、瓶詰でお届けデース!
日持ちできるように砂糖漬けしてマスゆえ、今宵中に食べきらずとも大丈夫デスヨー(ウィンク)
そして、事前にお駄賃は支払っておいて、UC《秘密のバルタンズ》でミニ・バルタンたちを召喚デース!
ユーゴ殿や他の方々のお手伝いや、子どもたちの遊び相手になってもらいマショー。
「ひと時でも、胸に希望を抱く思い出になってくれたら幸いデスネー」
『バルル♪ バルル♪』
ヴィクトル・サリヴァン
トナカイ役としてUCで空シャチを2体位に纏め召喚。
角とか赤い帽子とかでアレンジしつつ絵本とかサバイバル系実用書を詰めた袋を乗せて。
俺もちゃんとサンタ服(つけ髭付き)に着替えてさあ行こー。
何故シャチかと問われたら南の方から来たからと誤魔化したり。
海のトナカイはシャチなんだ、とか冗談めかしたり。
それはさておきプレゼント渡してお帰りは物足りないよね。
さー雪合戦、やろう。大人げなく怪我無い範囲で全力で。
保護者の人には俺が見て護るから大丈夫、といいつつ大人にも実用書をプレゼント。
雪合戦の後にはユーゴ君(f12064)のシチューが待っているからね。
今日位は存分に、楽しもうじゃないか。
※アドリブ絡み等お任せ
神崎・伽耶
サンタ帽子にマントを羽織り。
どこかで見たようなメガネを掛けて。
愛用のバイクに跨がって空から登場!
はあい、誰か呼んだ?
サンタはいるのよ、キミが呼ぶならね!
ココア、いいわよね!
元気出るしあったまるし。
入れたげるから、おじさんにあったかミルクをもらっといで♪(ユーゴを指し)
あとはね、お菓子入りサンタブーツ!
せっかくだし、普通に履けるサイズにしといたわよん♪(魔法鞄から人数分を出し)
食べた後も、もこもこであったかいからね?
さてと、メインイベント!
あたしのこのメガネ……なんと、マーブルチョコだったのだー!✌️
駄菓子は心の薪。
いっぱい投げ付けたげるから、回収してみんなでいただくといいわよぅ☺️
当たり年ね!
●サンタクロースは宙を駆け、希望を灯す
「はあい、誰か呼んだ? サンタはいるのよ、キミが呼ぶならね!」
愛用のバイクのエンジンを吹かせ、神崎・伽耶(トラブルシーカー・ギリギリス・f12535)が、先発隊の合図に合わせて窓辺から飛び降りた瞬間、サンタ帽子がふわりと揺れ、少し遅れて宙に靡いた赤色のマントが、光筋を描くように疾駆する。
「サンタさんが空を飛んでる?!」
「やっぱりサンタクロースは……飛べるんだッ!!」
その光景は、まるでサンタクロースが、宙を駆け抜けるかのよう……!
カラフルな装飾付きのメガネを煌めかせて疾走する伽耶の横を、宙を優雅に泳ぐシャチに乗って現れたヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)が併走すると、子供たちの間から一際大きな歓声が、わぁと湧いた。
「良い子の皆、メリークリスマス!」
ヴィクトル本人もシャチのキマイラだけど、恰幅のいい体格はサンタ服で包み、頭に被っているのはサンタ帽。顎の下にも白いフサフサのつけ髭が付けられていて。
彼の後ろにはトナカイ役のシャチが2体ほど追従しており、その頭にもトナカイの角が付けられた徹底ぷりに、子供たちも興奮したように声を上げる、が。
「バイクとシャチ? なんでトナカイじゃないのかな?」
「トナカイさん、風邪をひいたのかしら?」
年長の子供たちの中には、ふと疑問を感じる子もいたようで……。
けれど、それは想定内。地面に足を付けたヴィクトルは柔和な笑みを浮かべ、背負っていた袋から絵本を取り出すと、子供たちに向けてゆっくり開いた。
「俺が来た南の方の海ではトナカイはシャチだけど、別の海ではサーフィンをしながら登場することもあるんだ」
「え〜、本当?」
初めは冗談だと思っていた子供たちも、本をめくり「あっ」と短く声を上げる。
一拍置いて。ヴィクトルと伽耶に向けられた笑顔は、とても晴々としたものだった。
「本当だ、サンタってサーフィンもできるんだ!」
「もしかして、世界中の子供たちにプレゼントを配るため、いろんな乗り物を乗りこなしてるの?」
尊敬の眼差しを向けられたヴィクトルは小さく頷き、伽耶は満面の笑顔を返して。
「スリリングあっていいでしょ? あとはね、お菓子入りサンタブーツなんてどう?」
「「な、なんだって!!」」
「「まさか、本の中でしか見たことがない、あのサンタブーツ?!」」
お約束通りの反応を見せた子供たちに伽耶は明るく頷き、上質な背負い鞄から取り出したのは、お菓子がぎゅっと詰められた、モコモコな靴下たち。
「せっかくだし、普通に履けるサイズにしといたわよん♪」
「――!!!」
子供たちが手にした靴下は触れるだけでも心地良くて、とても温かくて。
にっこり微笑む伽耶に、子供たち――特に、お洒落を諦めていた女の子の瞳が、みるみるうちに涙で潤んでいく。
お菓子と温かな靴下がセットになったサンタブーツが、この過酷な環境を生きる少年少女たちの心を優しく抱擁し、解きほぐしたのは間違いないだろう。
そして。音もなく窓辺から着地した緑髪の少女――バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)が、さらに強力な援護射撃をすることになる。
「メリークリスマス! お届け物デース!」
バルタンの右手と左手の銀盆の上でキラキラ輝くのは、彼女お手製の手料理で。
新鮮な炭酸水とドライフルーツを瓶詰めにした透明感のあるお菓子は、彩り豊かに煌めき、水の中でふわりと揺れる様子は、まるで宝石箱のよう。
見た目も楽しいお菓子に、子供たちは「本で見たスノードームみたい」と口を揃えると、瞳を輝かせながら、恐る恐る手を伸ばした。
「とても綺麗……なんだか夢を見ているみたい」
「食べるのもったいないね、ずっと見ていたいなー」
口に入れることを躊躇した子供たちは、瓶詰めをじーっと見つめたまま。
バルタンは子供たちの視線に合わせて膝を屈めると、心配ないデスヨと告げるようにパチンとウィンクを決めてみせて。
「日持ちできるように砂糖漬けしてマスゆえ、今宵中に食べきらずとも大丈夫デスヨー」
「えっ、本当!? 大切に大切に食べるね!」
保存できると聞いた子供たちの瞳が一斉に輝き、瞬く間に歓声が飛び交う。
もう一度ウィンクを決めたバルタンの緑色の瞳に、たくさんの笑顔が花咲いた。
「サンタさん、もう帰っちゃうの?」
「もう少し一緒にいたいよぅ」
心温まるプレゼントの受け渡しもひと段落つき、子供たちは互いのプレゼントを見せ合ったり、あるいは猟兵もといサンタさんたちに甘えようとする子もいて。
「そうだねー、どうしようかな?」
ヴィクトルを取り囲む子供たちも揃って笑顔を浮かべ、生きる活力で漲っている。
今の彼らは一労働者ではなく年相応の子供。お腹が満たされたら、次は身体を思いっきり動かしたいと思うのは当然であり、彼らの権利だと、ヴィクトルは理解していた。
――ならば。返す返事は、自ずと決まっている。
「プレゼントだけ渡してお帰りは物足りないよね」
首を縦にして頷くヴィクトルに、周囲の猟兵からも「否」と言う声はなく。
一瞬。ぽかーんと口を開けた子供たちにヴィクトルは穏やかに微笑み、今度は拠点全体に響かせるようにして、声を張り上げた。
「さー雪合戦、やろう。大人げなく怪我無い範囲で全力で」
「「やったあああああ!!」」
喜ぶ子供たちを周囲で見守る大人たちが「大丈夫かな」と、心配そうにしていたけれど、ヴィクトルは「俺たちが見て護るから大丈夫」と笑みを浮かべ、大人たちにもサバイバル系の実用書を手渡していく。
「それに、雪合戦の後にはユーゴ君のシチューが待っているからね」
「えっ、シチューもあるの?」
「あの恰幅のいいおじさんは料理人で、中でもシチューが得意なんだって!」
瞳を大きく見開く子供たちにヴィクトルは微笑み、伽耶が教会の片隅を指差す。
その先には、サンタクロースに扮したユーゴ・メルフィード(シャーマンズゴースト・コック・f12064)が、シチューの仕込みをしているところだった。
「雪合戦の前にココアもいいわよね! 元気出るしあったまるし。入れたげるから、あのおじさんにあったかミルクをもらっといで♪」
「うん!」
「サンタさん、ありがとう!」
伽耶の笑顔に後押しされた子供たちは、一斉にユーゴの元へ走っていく。
その光景を視界の端に捉えたバルタンは給仕の手を止め、口元を柔らかく緩めた。
「料理に雪合戦、ユーゴ殿のお手伝いと、子どもたちの遊び相手が必要デスネー」
どちらも人手はたくさんあった方が、もっともっと楽しくなる!
子供たちに囲まれて楽しそうにミルクを準備するユーゴに視線を留めたまま、バルタンは右手を鋭く宙に掲げた。
「カモン、バルタンズ!」
バルタンの声と呼応するように次々と現れたのは、無数の小さなバルタンたち。
――秘密のバルタンズ(シークレット・サービス)、バルタンのユーベルコードだ。
『バルバルバルバル♪』
その数、82体。
お駄賃をもらうことで変動する能力を持つミニ・バルタンたちは、十分な時間があれば城や街を築くことも可能な、持久力を持ち合わせていて。
ちなみに、お駄賃は事前にバルタンが支払い済み。
見た目は清楚な身なりでも、バルタンの思考回路は熟練の兵士のもの。彼女もまた雇用者の要望を聞き届け、依頼を完遂するために全力を費やすプロなのだ!
「さてと、雪合戦の前に、あたしもこれを投げ付けないとね」
「???」
そして、伽耶にとってのメインイベントも、まさにこれから♪
UDCアースの者なら何処かで見たことがあるメガネに軽く触れると、ニヤリと不敵に白い歯を煌めかせた。
「あたしのこのメガネ……なんと、マーブルチョコだったのだー!」
「ええっ!?」
子供たちの頭に「どういうこと?」と疑問符が駆け巡る中、再びバイクに跨った伽耶は一気に宙を駆け上がり、マーブルチョコを豆撒きの如くばら撒いていく。
駄菓子は心の薪。
ならば、味わいと一緒にちょっとした悪戯心も加えれば、さらに楽しい思い出となって、子供たちの心を照らす希望の灯火になってくれると、伽耶は思う。
「いっぱい投げ付けたげるから、回収してみんなでいただくといいわよぅ」
「「やったあああああ!!」」
伽耶のマーブルチョコメガネは二重三重になっていて、すぐに尽きる様子はなく。
その間、ヴィクトールを始め、手が空いた猟兵たちが雪合戦に参加したいとはしゃぐ子供たちに、温かい格好をさせていく。
子供は風の子、元気な子と言う。
外は変わらず一面の銀世界が広がり、肌を刺すような寒さだったけれど、心温まる贈り物で心身が満たされた今なら、少しの間は跳ね返すことも出来るだろう。
「今日位は存分に楽しもうじゃないか」
楽しそうにチョコを集める子供たちにヴィクトールは優しく微笑み、伽耶の靴下で足元を温かく補強した子供たちから、外の世界へ引率する。
今日まで過酷で絶望でしかなかった、外の世界。
ほんの1日でも、楽しい思い出に彩られるよう、祈り、願いながら――。
「ひと時でも、胸に希望を抱く思い出になってくれたら幸いデスネー」
『バルル♪ バルル♪』
元気良く外に飛び出していく子供たちにバルタンは瞳を細め、調理の手伝いに残ったミニ・バルタンたちも嬉しそうに拠点内を駆け回り、笑顔という名の彩りを灯していく――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
乱獅子・梓
【不死蝶】
雪合戦をやりたがっている子供が居たよな…
よし、やるか!雪合戦!
その心配については俺にいい考えがある
UC発動し、炎属性のドラゴンを多数召喚
拠点を囲むように周囲に配置させ
炎のブレスを吐いて空気を温めてもらう
あとは雪合戦で動き回っているうちに
身体の中から温まってくるだろう
そして熱気で程良く雪が溶けて雪玉も作りやすくなる
…は!?
いやお前、何勝手なルール作ってんだ!
うわっ早速雪玉飛んできた!
焔、零!俺を守れ!
フッ、こいつらの鉄壁の守りの前では
そう簡単には当てられな…グハッ(直撃
豪華賞品…じゃあ、成竜の焔の背に乗せて
空の旅をプレゼントしてやろう
他の子供達にもクッキー(アイテム)を1つずつ渡す
灰神楽・綾
【不死蝶】
楽しそうだねぇ、雪合戦
でもここの子供達は良い防寒具を持ってないようだし
この寒さの中、外に呼ぶのは危なくない?
うわぁ、名付けてドラゴンヒーターだね
雪合戦だから何かゲーム性があった方が楽しいよね
よし、いいこと思い付いた
皆ー、誰がこの梓お兄さんに一番たくさん
雪玉をぶつけることが出来るか勝負だよー
一番になった子には豪華賞品があるよー
ほら、子供たちvs猟兵の俺たちで普通に雪合戦だと
力の差がありすぎて不公平でしょ?
誰が何回当てたかはちゃんと俺が
カウント取っておくから安心してね
ちゃっかり自分は審判に回ることで
雪合戦の的になるのを回避
子供たちも梓もとっても楽しそう
子供と遊ぶの上手いんだよね梓って
●竜が舞う白銀の雪合戦!
サンタさんたちのプレゼントとサプライズで心が満たされた子供たちは、揃って若鳥が羽を伸ばすような、弾む足取りと笑顔を見せていて。
中には元気良く駆け回る子も出始め、子供らしさを取り戻した少年少女たちにとっては、拠点の中という場所は、誰の目から見ても窮屈そうだった。
「雪合戦をやりたがっている子供が思っていたよりも居たな……よし、俺達もやるか! 雪合戦!」
「うん、楽しそうだねぇ、雪合戦」
……けれど、肝心の外の様子はどうだろう。
拠点を出たら一面の銀世界。雪が積もる前も決して安全とは言い切れぬ荒野の偵察も兼ねた、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の足がピタリと止まり、頰を打ち付ける雪の痛みに、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)も鋭く双眸を細める。
この寒さは子供が遊ぶレベルではない、それが綾の正直な感想だった、が……。
「ここの子供達は良い防寒具を持ってないようだし、この厳しい寒さの中で、外に呼ぶのは危なくない?」
「その心配については、俺にいい考えがある」
厳しげな眼差しを浮かべる綾に、しかし梓は唇をニヤリと不敵に歪ませると、激昂の気合いとともに、渾身のユーベルコードを発動させる。
「集え、そして思うが侭に舞え!」
――竜飛鳳舞(レイジングドラゴニアン)。
宙に顕現した炎属性のドラゴンたちは、拠点をぐるっと取り囲むように散開する。
その数96体。周囲に再配置したドラゴンたちは無慈悲な冷たさを帯びた空気を温め、解きほぐすように、一斉に炎のブレスを吐き出した。
「うわぁ、名付けてドラゴンヒーターだね」
一瞬、雪ごと溶けないかなと綾は思うものの、すぐに杞憂へ変わる。
相方は竜使い。彼のドラゴンたちは、程よい距離を保っていた。
「あとは雪合戦で動き回っているうちに、身体の中から温まってくるだろう」
程良く雪が溶ければ、握力が弱い子供たちでも、雪玉作りが楽になる。
下準備は上々。綾の口元に笑みが綻ぶと、梓も力強く頷き、頑丈に作られた拠点の扉を2回ほど叩く。
「外は大丈夫だ、さあ出てこい!」
一拍置いて。
堅牢な扉が重い音を立てながら開き、中から元気良く子供たちが飛び出した!
「なーんだ、全然寒くないじゃんっ!」
「何いってるのよ、きっとサンタさんの魔法よ! お外を甘く見るな!」
浮足立った男の子に女の子が注意をする光景は、子供ならではの楽しさがあって。
子供たちが外の世界に眩しそうに瞳を細め、恐る恐る雪に足を付けたのは、ほんの数分の間だけ。今は皆揃いも揃って、銀世界を楽しそうに駆け回っていた。
「雪合戦だから何かゲーム性があった方が楽しいよね」
せっかくの機会。子供たちも猟兵も、揃って楽しめるようなものがあれば……。
弾むように跳び回る子供たちを見やり、ふと綾の脳裏に名案(?)が過ぎる。
「よし、いいこと思い付いた! 皆ー、誰がこの梓お兄さんに一番たくさん雪玉をぶつけることが出来るか勝負だよー」
「…は!? いやお前、何勝手なルール作ってんだ!」
綾が遠くまで声を響かせた瞬間、梓が慌てながら飛んできたけれど、気にしない♪
綾の唇はクリスマス直後のタイムセールもびっくりしてしまう勢いで、淀みない言葉をすらすらと紡いでいて。
「1番になった子には、梓お兄さんから豪華賞品があるよー」
「ちょっと待て! なんで俺が豪華賞品を用意――うわっ、早速雪玉飛んできた!」
――何故、的が俺1人だけなんだッ!!
――モノで釣ったり集中攻撃を仕掛けるなんて子供の情調教育に良くないぞ、綾!
……と、精一杯の視線で抗議する梓に、綾は涼しげな微笑みを浮かべるだけ。
「ほら、子供たちvs猟兵の俺たちで普通に雪合戦だと力の差がありすぎて不公平でしょ? 誰が何回当てたかはちゃんと俺がカウント取っておくから安心してね」
「綾、逃げたな! 焔、零! 俺を守れ!」
確かに子供と猟兵では力量差があるよなあ、なーんて絶対に頷かないッ!!
ちゃっかり自分は審判に回ることで雪合戦の的になることを回避した綾の目論見なんて、梓はとうの昔に理解していたからだ。
「あー! 子供相手に援軍呼ぶなんて、ずるいぞー!」
「よーし、みんなであのお兄さんを狙って、豪華賞品を山分けだ!!」
「――っ、そう来たか!」
もちろん、子供たちが大人相手に手加減なんてしてくれるはずはない。
しかも、豪華賞品を山分けするという発想ですかそうですか。こんな状況でなかったら「偉いな!」と頭を豪快にガシガシ撫でるところだけど、シーン的には空虚になった自分が空を仰ぎ見る感じだと思うし、今そんなことをしたら格好の的になるから、絶対にしないけどなッ!
「キュー」
「ガウ」
そんな梓の残念な心情を察したのだろう。仔竜の焔と零も半ば同情するような形で、向かってくる雪玉を炎で溶かし、氷のブレスで次々と撃ち落としていく。
「梓、頑張ってー」
「フッ、こいつらの鉄壁の守りの前では、そう簡単には当てられな……グハッ」
昨日の味方は今日の敵♪
綾の応援(?)で梓の気が一瞬だけ逸れた刹那、顔面に雪玉が直撃する。
その瞬間。梓に向けてたくさんの雪玉が集中砲火の如く襲い掛かるのでした、合掌。
「一番たくさん雪玉をぶつけた奴に豪華賞品だったな…じゃあ、成竜の焔の背に乗せて空の旅をプレゼントしてやろう」
「やった!!」
思いっきり雪合戦を楽しんだあとは、お待ちかねの集計タイム♪
ずぶ濡れになった梓を代償に豪華賞品を勝ち取ったのは、グリモア猟兵が予兆で見せてくれた、あの姉弟の弟の方だった、けれど。
「あっ……姉ちゃんも一緒に乗ってもいい? 投げたのは僕だけど、雪玉を作ってくれたのは、姉ちゃんだから」
「そうだな、焔が問題なければいいだろう」
梓が傍らで黙したままの姉に視線を向けると、少女の手袋は誰よりも濡れていて。
――姉ちゃんの方が作るのうまいから、あんたは投げることに専念して。
弟の手が凍えないよう、そんなやり取りが、きっと姉弟の間にあったのだろう。
「姉ちゃん、ドラゴンさんも大丈夫だよって頷いてる。さあ、一緒に乗ろう!」
「……! うん、ありがとう」
手と手を取り合った姉弟が焔の側に立つと、他の子にも「参加賞だ」と手作りの桜型クッキーを1つずつ手渡し終えた梓が、慎重に2人を焔の背中に乗せていく。
「子供と遊ぶの上手いんだよね、梓って」
何だかんだ言いながらも全力で相手をしてくれる梓に子供たちも揃って楽しそうな笑顔を向けており、思い思いに懐いでいて。
白銀の世界を炎の竜が力強く羽ばたく。
姉弟を支えるべく後方に騎乗した梓の横顔は頼もしく、綾は保護者のような温かい眼差しを浮かべながら、その様子を静かに眺めていたという。
大成功
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駒鳥・了
人間が持てる範囲ならセーフかな
ってコトでオレちゃんことアキで参戦!
限界近くまで目一杯着込んで
お菓子やドライフーズ、マグやポットはリュックに満杯
ミニユーゴさんみたいな体形かも!
今日は皆にアキを幸せにしてもらいに来たよ!
ユーゴさーん、良かったらコレ読み聞かせしてくれる?
(幸福な王子の絵本)
ルビー代わりに真っ赤な手袋
サファイア代わりに青いもこもこマフラー
金箔代わりに何枚も着込んでる防寒着
サイズの合う子は誰かな?
いつもの服装に戻ったら終了!
ぷっはー暑かった!涼しくて幸せ!
最後はちょっち悲しいお話だけど皆で幸せになるんだよ
リュックは置いてくから仲良く分けてね
さて元気のある子は一緒に雪合戦しよか!
●The Happy Xmas and Children
「オレちゃん参戦! ユーゴさん、人間が持てる範囲ならセーフだよね?」
「アキどのもありがとうなのですじゃ、丁度サプライズと雪合戦がひと段落つきましたところなのですじゃー」
「あー、タイミングを逃しちゃったかあー」
「大丈夫なのですじゃ! 子供たちはまだまだ元気いっぱいなのですじゃー!」
限界近くまで目一杯着込み、個人が持てるギリギリの範囲まで、お菓子やドライフーズ、マグやポットをこれでもかとリュックに詰め込んできた、駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)――アキは、ほっと胸を撫で下ろす。
その出で立ちは、恰幅の良いユーゴ・メルフィード(シャーマンズゴースト・コック・f12064)と良い勝負。あたかもミニユーゴとも呼べる体型になっていたアキは、すぐに子供たちの目に付く形となった。
「お姉さんも、サンタさんなの?」
「うわあ、すごい荷物! みんな、またまたサンタさんが来てくれたよー!」
ユーゴのシチューで冷えた身体を温めていた子供たちの視線がぱっと輝くや否や、数多の視線がわぁとアキに集まっていく。
期待に満ちた眼差しを一身に受けたアキは軽く咳を払うと、芝居めいた仕草で深々と一礼した。
「今日は皆にアキを幸せにしてもらいに来たよ!」
「えっ、ボクたちが?」
「私たちが、サンタさんを幸せにする、の?」
不思議そうに顔を見合わせる子供たちにアキは優しく微笑むと、ユーゴに1冊の絵本を差し出した。
「ユーゴさーん、良かったらコレ読み聞かせしてくれる?」
「合点承知なのですじゃー」
本の表紙には、黄金色の王子像が、大きく描かれていて……。
ゆっくり腰掛けたユーゴが絵本を開くと、すぐに2人に興味を持った子供たちが集まり、ぐるっと取り囲むようにして、ちょんちょんっと座っていく。
「ある街に、豪華な宝石で彩られた黄金色の王子像が立っておりましたのじゃ。その像には王子の魂が宿っており、心優しい王子像は足元で羽を休めていたツバメに、この場所から見える不幸な人々に自分の宝石をあげて欲しいと、頼みましたのじゃ」
ユーゴの語りに合わせて、アキは黙々と着込んでいた衣服を脱いでいく。
その光景は、まるで自らの宝石を分け与える、物語の中の王子像のよう――。
アキは剣に付いたルビーの代わりに真っ赤な手袋を脱ぐと、ボロボロの手袋を身に付けた少女にポンと投げ、両目のサファイア代わりに巻いていた2枚の青いマフラーを、それぞれ一番痩せていた少年と、一番幼い少女の首元に、ふわっと掛ける。
「王子の願いを叶えるため、街に残ることを決意したツバメは街中を飛び回り、両目をなくした王子に、街の人々の話をたくさん聞かせましたのじゃ」
その話を耳にした王子は大変悲しんで、今度は自分の身体の金箔を剥がして分け与えて欲しいと、ツバメに頼みましたのじゃと、ユーゴは涙ぐむ。
アキは金箔の代わりに何枚も着込んだ防寒着を次々と脱ぎ、それぞれサイズが合いそうな子供たちを選んで、優しく被せていく。
「ぷっはー暑かった! 涼しくて幸せ! ……って、ユーゴさん?!」
「うわーんとっても悲しいけど、とっても素敵なお話なのですじゃああ!!!」
いつもの服装に戻った開放感で大きく背伸びしたアキが見回すと、ユーゴは滝のような涙を流して号泣。話を中断される形となった子供たちが苦笑しながら「早く早く!」と、先を急かす光景が広がっておりまして……。
その時だった。アキの服の端を小さな手がちょんちょんと引いた。
「サンタさんは、わたしたちと一緒にいて、幸せになった?」
「もっちろん! 周りをよーく見てごらん、みんなの笑顔に大人たちも揃って嬉しそうに笑ってる。……1人だけ泣いてるけど」
「うん、あのおじさん、泣き虫だね!」
未だ号泣しているユーゴにアキと少女は顔を見合わせると、クスクスと笑い合う。
続きの語り部は、拠点の大人たちにバトンタッチした方が良さそうだ♪
「最後はちょっち悲しいお話だけど、皆で幸せになるんだよ」
ふとアキが外を見ると、黄昏色の空に夜の帳が落ち始めていて。
アキは食料を目一杯詰め込んだリュックを目立つように置くと、1人1人の顔を見回しながら、満面の笑顔で微笑んだ。
「リュックは置いてくから仲良く分けてね、さて元気のある子は一緒に雪合戦しよか!」
「「やったあああああ!!」」
夜が更けても、星が瞬いても、イブが終わるまで思い出作りは終わらない。
胸に刻まれた思い出が過酷な世界を生きる子供たちの心を強くするだけでなく、見守る大人たちの安らぎにもなることを、誰もが強く願っていて。
一夜限りのサンタクロースとなった猟兵たちは時間が許すまで、少年少女たちと共に楽しく過ごしたという。
大成功
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