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甘さなんて知らなければ

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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 ある日、いつもの様に庭園でアップルティーを飲んでいる時に子供が迷い込んできた。
 いったいどこから迷い込んできたのか。何より私の果樹園に近づきあまつさえ入り込むだなんて、怖いもの知らずどころではなく無知なのではないだろうか。
 折角のティータイムを邪魔された苛立ちで喰ってしまおうかと思ったけれど…その子供が手に持つ物に目が言った。
 綺麗な赤い林檎。私もあまり見つけた事がないようなおいしそうに実った林檎。
 子供は手をこまねけば近づいてきて、手を差し出せば林檎を乗せてきた。
 素直なものだと呆れながら林檎を一口齧ればやっぱりとても甘い。
 機嫌が直ったから適当に林檎を持たせて帰してやった。
 食べるなら林檎が一番である。

 子供が再びやってきた。……迷い込んだ訳ではもうないのだろう。
 その手にまた綺麗な林檎を持って。
 私の果樹園にそれほどあのような林檎があるのだろうか。
 今まで見逃していたかと思うとショックである。
 かわらず子供は家に帰す。
 そしてそんな事を何度か繰り返す内に私は、果樹園を拡げようかと、そう考えていた。

 林檎の木に囲まれた集落の中で、人々が笑いあっていた。
 少年は私に気づくと近付いて来て、もう随分と獣の被害にあっていないのだと。
 そう『×××××』と、そう言った。
 私はどんな顔をしていたのだろうか。
 けれど、彼らが恐れていたのは獣だけではなく…私もだ。

 青年は相変わらず美味しい林檎を持ってくる。
 それを私が受け取るとなぜか青年は笑っていた。
 それはともかく、人は幾つかの林檎以外の食物を作っているが林檎だけじゃダメなのかと聞いたら、青年は苦笑しながら難しいかなと言っていた。
 林檎だけじゃダメなのか。美味しいのに。

 彼が林檎を切っている。以前から丸齧りしているのが気になっていたらしい。
 その為にナイフの扱いを練習したのだとか。ダメなの? 丸齧り。
 じーっとその様子を見ていたら、ぽろりと以前から気になっていたことが口を出た。
 どうしてそんなにおいしい林檎を探すのがうまいの?
(聞かなければよかったのに)
 彼はきょとんとした様に一瞬動きを止め、そして笑って言った。
 初めのは偶然。けれど、その後は簡単だった。だって君の瞳の色と同じ色の林檎を探すだけだもの。
 私は……………。

 人が、死んでいく。木が、枯れていく。林檎が腐り、落ちていく。
 私の森が、領地が、呪いに朽ちていく。
 動けなくなった私を彼が引き摺る様に抱え逃げる。
 守れなかった私を。負けてしまった私を。
 遠くで羽が空を打つ音が聞こえる。遠くで知った声の悲鳴が聞こえる。
 森の中にひらひらと揺らめく白い腕が覗いている。
 彼は、振り返らない。荒い呼吸を繰り返しながら前だけを見て、逃げ続ける。
 逃げて、逃げて、悲鳴も聞こえなくなって、林檎の甘い匂いも無くなって、この世界にとって当たり前のただ暗い湿った空気の森の中でやっと…どさりと彼は倒れた。

 聞かなければ。知らなければ。思わなければ。××なければ。
 こんな思いはせずに済んだのに。
 もう少しであの森につく。
 もう私の果樹園はない。待つ者も居ない。待つ者は居ない。
 何の為に私はあそこに向かっているの?
 ずっと一人の、私一人だけの果樹園であったなら…。
 何も感じなかったのに。
 もう甘い香りはしない。


「やぁっほー。」
 酒臭い。様々な酒の匂いが混ざっていてなお臭い。
「オッケー? おっけー! ダークセイヴァーだよぉー! えへへ相変わらず元気な世界だよねぇ~。えっとねー今回はぁー今回も―? 同族殺しって言うのーねー。」
 同族殺し。何らかの理由でオブリビオンが狂い、オブリビオンを狙う存在になった者。
 それが強いオブリビオンを狙っているからそれに乗じて強いのを討伐。
 その後戦闘で弱った同族殺しを討伐。というのが基本的な策。
「で~~、その同族殺しぃー。マーシャぁー? どこかで聞いたことがある様な―……まぁ知ってても別存在だしいっかー。
 で~、まずそのマーシャがもうすぐで元果樹園に入るんだけれど、そこに野生のオブリビオンが居るんだよー。だから守ってー。」
 守る?
「あー……多分ほっといたら強いのに辿り着く前にマーシャそこで死ぬ? まー皆には周囲でそれらを狩りまくるーかー、あーあとそのオブリビオン…獣の特性として『一人になったら狙う』から、マーシャを一人だと認識させないとかー。5mくらい後ろなら静かについていけばマーシャは気づかないから楽かなー?」
 大丈夫なのかと不安が募る。
「でー、件の強いのの所まで護送がすんだら頑張って! グットラック!」
 軽い、短い。
「だってそこはもう各自判断じゃん。各々の特技次第じゃん。ふぁいとぉ~。」
 説明が終わったとばかりにへたる態勢のまま、なぜかその口が説明を継続する。
「今回の同族殺し。マーシャだけど、もしかしたら戦わずに還すことが出来るかもね。」 かもだけど。と付け足してグリモアが展開される。
「じゃ、行きたい人―?」


みしおりおしみ
 はーい。また同族殺しでーす。
 今回は真面目なシリアス予定です。
 同族殺しが前作の領主と同じですが繋がりはありません。
 ただ単に前作を執筆中に思いついたと言うだけです。

 第一章:もっとも簡単な解、5m後ろを着いていく。
 第二章:特殊環境になるけれど邪魔しない限り同族殺しはオブリビオンへ攻撃します。
 第三章:どうじます?

 プレイング:月曜から木曜朝までに提出してくださるとありがたいです。
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第1章 集団戦 『オルトロス』

POW   :    くらいつく
自身の身体部位ひとつを【もうひとつ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ほえる
【悲痛な咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    なかまをよぶ
自身が戦闘で瀕死になると【影の中から万全な状態の同一個体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 足を引きずる様に、前へ、前へ。
 視線は下を向き続け、両手で包み込む様に褪せた色の林檎を抱きしめる。
 決して早い等と言えない歩みでただ歩む。
 もしもそれを一般人が見たならば、吸血鬼であると思えない雰囲気であったがオブリビオンならばそうとわかる。
 常であれば襲う相手ではない。けれど、弱っているのならば、獲物だろうか?
 見る。品定めする。観察する。
 それがなんであるかを。
リーヴァルディ・カーライル
…同族殺し、ね。彼らの多くは大切な者を奪われた末に狂気に囚われた

…吸血鬼のお前に同情する気は無いけれど
お前も何か、大切な人を失ったのかしら、マーシャ?

第六感が危険を感じるまで同族殺しは警戒に留め、
UCを発動して"御使い、仮面、暗殺者、誘惑、動物会話、
道化師、軍略、闇夜、生命吸収、迷彩"の呪詛を付与

全身を●存在感を消す●迷彩の●オーラで防御して●闇に紛れ、
●動物と話す能力を使い魔獣の●演技を行い敵を●誘惑

"獲物が此方に来たぞ"

"独りでいる同族殺しは罠だ"

"応援を、応援を頼む"

●集団行動を乱して群から離れた敵を●だまし討ち、
●暗殺して●生命力を吸収し魔力を溜める

…次。ここは既に狩人の庭よ



「…同族殺し、ね。彼らの多くは大切な者を奪われた末に狂気に囚われた…。」
 ダークセイヴァーにおいて幾つもの戦いを経て、吸血鬼を狩り続けてきたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)にとっては、ある意味今となっては見慣れたと言ってもいい事だった。
 視線の先のそれだって、同族殺しではなかったそれと戦ったこともある。
 ヴァンパイアを狩る。それだけだったのであれば、今仕掛ければただ一度鎌を振るえば終わるだろう。グリモア猟兵曰く獣にも食い殺されるのだから。
「……術式換装。」
 けれど、だ。同族殺しの先に別の何かが居るのだ。
 後に倒す機会があるのなら、今はまだいい。
 リーヴァルディの礼装に施された呪詛が切り替わり、その姿を闇に溶かす様に姿を消していく。
 そして、今のリーヴァルディ同様に影に潜む様にしてマーシャを観察している獣に声を送る。
 人の言語でない言語を、魔獣同士の意思疎通の方法で、音無き言葉で伝達する。

  "独りでいる吸血鬼は罠"
                "獲物が此方に来たぞ"
 "応援を、応援を頼む"

 そうすれば、すぐに幾つもの言葉が飛び交い始める。
 今目の前に存在するのは普通であれば自分達など相手にすらならない存在。
 疑念も警戒もある。そして狡猾であるが故に、自分達を根絶やしにする気ならそれもあり得ると判断し、そうならばと動き始める。
 幾つかの気配が言葉で知らされた場所に移動し始める。
 そこに吸血鬼が居るのなら、獲物というのはその配下だ。
 ならばその数で足りるはず、と。

 獣は音も無く走る。我らが目的ならば先に見つけなくてはこちらが狩られる。
 陰鬱とした枯れ木の森の中でもいっそう闇が深い場所で立ち止まり、前足を上げ立つと周囲を見渡す。
 そう身を隠せる場所は無いはず…とそう思いながら、首がとさりと地面に落ちる。
「…次。」
 闇が動く。振るわれた鎌は獣の影を引っ掛け引き千切る様にしながら刃を回転させる。
 騙され散開し獲物を探すか、言葉を伝えてきた同族(リーヴァルディ)に場所を訊ねてくるものに闇に紛れて近付いては音を立てる事も無く鎌を振るう。
 そこは獣の縄張りなどではなく、騙されおびき出された時点で…
「ここは既に狩人の庭よ。」
 そうして、なんとなく判断した誘き出されただけの数の獣を狩りつくし、呪詛の効果を解く。
「…吸血鬼のお前に同情する気は無いけれど…お前も何か、大切な人を失ったのかしら、マーシャ?」
 マーシャが向かう先。その方向に顔を向け、呟く。

大成功 🔵​🔵​🔵​


『林檎が全て。林檎は全て。
 林檎だけあればいい。林檎さえあればいい。
 林檎にしか興味がない。林檎以外に興味がない。
 だって林檎以上に綺麗な物なんてなくて、
 林檎以上に美味しいものなんてないのだもの。
 そんなものなんて、ないのだもの。
 なかったのに。

 石は石。草は草。獣は獣。人は人。
 邪魔なら蹴る。邪魔なら切る。邪魔なら屠す。邪魔なら殺す。
 違いなんか分からない。目に入らなければ気にも留めない存在。
 そんな存在。
 そうだった。筈なのに。』
シエラ・バディス
なんというか……変わった依頼ですね?
ともかく依頼通り、まずは護衛だね。

とりあえずマーシャの方は誰かついてると思うから、見失わない程度の距離を取りつつオブリビオンには一人だと思わせる位置でついていきます。

上手く釣れたら左腕に噛みつきをさせて、スコップを短く持って選択UCを攻撃力に特化させて首を穿ちます。(怪力+部位破壊)
囲まれるようであれば、攻撃力を命中率に変えて、怪力任せに叩き潰します。

リンゴを抱えて、何か思い入れがあるのでしょうか?
彼女が何を考えているのか分からないけど、答えがこの先にあると良いのです。


久遠・翔
アドリブ絡み歓迎


まさかこの前マーシャを送ったのに違うマーシャ…しかも今度は同族殺しとしてっすか
なんか複雑な感じがしますね…

5m後ろをこっそり隠れながら追跡
時たまに出てくるオルトロスは選択UCで仲間を呼ぶ前に首を落とし即座に離脱しを繰り返します
仲間を呼ばれた場合も冷静に淡々と首を落としていきます

それにしても…何であんな林檎なんだろうか?
少し前に見た林檎に比べると思いふと思い出す

『あなたは不思議な人ね? とても不思議な人だけど、あなたは林檎にはなれないわ』

あの時は咄嗟に聞き返せなかった
どういう意味なんだろう…違う『マーシャ』だけど共通の認識もあるはず
俺は、その答えを求めてここに来たのだろうか…?



 マーシャへ近づこうとした獣の首が『すとっ』と何の前触れも無く落ちた。
 傍目には今、マーシャは一人だけで歩いていた。
 先ほど罠だなんだと聞こえ、同胞がそちらに向かったが特に戻ってきたものは居ない。危険があれば知らせに戻るはずなのだからあちらはあちらで獲物にありついたのだろうと、そう考え獣は動いたのだ。
 動いたものが、何も知らせる事無く、仲間に気づかれる事無く光を無くした。
「まさかこの前マーシャを送ったのに違うマーシャ…しかも今度は同族殺しとしてっすか……。なんか複雑な感じがしますね。」
 それを為したのはすでに戦闘準備を整え終えた久遠・翔(性別迷子・f00042)だった。
 久遠は付かず離れずの距離を維持しながら、マーシャからもオルトロスからも身を隠し、襲い掛かろうと姿を出したものを片端から圧倒的な速さでもって切り捨てて行っていた。
 一匹が襲い掛かりそれを群れが認識すれば、堰を切ったように攻撃が始まっていただろう。
 だから、この策はある意味自分の実力を信じたものだ。
 オルトロスを探して倒していては別の場所で攻撃の切欠が出る。
 対処的ではあるが、マーシャの周囲を視認できる位置を念頭に置き、そして姿を出したものをその初動作の内に黙らせる。
 自身の目と速度。それがこの後の先を制する策を可能としていた。
 一匹をまた仕留め、離れた枯れ木の側面に足を付け瞬きの間に状況を確認するその一瞬にマーシャの持つ林檎が目に入る。
 それは何度も目に入った。初めは光の加減かとも思ったが、明らかに色が悪い。
 言ってしまえば腐りかけであった。
 どうして、なぜ。以前の依頼で出会ったマーシャと姿形は同じはずなのにどうしても印象が一致しない。
 傲岸不遜である意味で領主らしく気品のあるしゃんとしたあの様と、今のどうしようもなく林檎に縋る様な小さく見える姿が。
『あなたは不思議な人ね?とても不思議な人だけど、あなたは林檎にはなれないわ』
 思い出すあの言葉は……その言葉の意味は、答えは得られるのだろうか。


「とりあえずマーシャは……大丈夫そうです。」
 マーシャの後方。その離れた位置でシエラ・バディス(死して彷徨う人形・f15798)はゆっくりついて行っていた。
 グリモア猟兵は言っていた。オブリビオンは『一人になったら狙う』と。
 だから簡単なマーシャの守り方は近くで付いて行く事だと。
 この距離ではマーシャはきっと一人だと認識される。けれどマーシャの方には誰かが付いてると思って、実際そうだった。早くてよくは見えませんが。
 何がしたいかと言えば要は…
 横合いから飛び出し左腕に噛みついてきた獣の首へ、短く持ったスコップのその先端を突き刺す。
 …要は囮であった。
 スコップが獣の首に沈み込む。骨などは無いようで固い物を削る感覚も無く深く沈み込んだ。
 スコップを横に引けば、食い込んだ歯が腕の肉を引っ張る感覚を作りながら、獣は皮一枚で首と胴体を繋ぐ様にして垂れ下がった。
 それも邪魔そうに腕を振るえば引き千切れ、胴体は飛んでいき頭部が地面に落ちた。
 自分の周囲に集い始めた気配に溜息をつく。
 シエラの見た目は悪く言ってしまえば、傷だらけで襤褸を纏った少女だ。
 たとえそれが猟兵なのだとしても、吸血鬼よりもよほど襲いやすい存在だと認識した。
 影から次々と獣が顔を出し始める。初めのが死んだが傷をつけた。
 ならそれほど強くない獲物だと…そう侮った。
 獣がシエラへ我先にと一斉に跳びかかる。
 集られるのは囮なのだからそうだ。
 シエラは棺桶を体から離し、そのベルトを両手で握り締めると「ふっ」と軽く息を吐きその怪力で振り回した。
 詰まった荷物。大きさ。十分すぎるほどのその質量は巨大な槌に等しく身を躍らせていたものは抵抗の余地なく纏めて叩き飛ばされ体を拉げさせた。
 そこから警戒してか、隙や死角をついて攻撃してくる獣をスコップで叩き、突き、切りながら思う。
 オブリビオンからオブリビオンを守る。それは変わった依頼だ。
 マーシャの様子もそう。
 抱えている林檎に何か思入れがあるのだろうか。
 シエラが思い巡らせ、考えても、彼女が考えている事はよくはわからなかった。
 ただ、
「答えがこの先に…あると良いです。』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


『私は林檎が好き! 林檎が大好き!
 林檎しか好きじゃない。
 林檎以外に意識を向けたくない。
 獣? 人? 私の果樹園に入ってこなければどうでもいいわ。
 私と林檎で私の領地は完結している。
 それが一番いいの。
 それが一番だったの。

 わからない。私が好きなのは林檎だけ。
 私はマーシャだもの。』
フォルク・リア
「放っておいたら辿り着く前に死ぬと。
自身はそれを分っているのか。
それでも行かなければならないのか。
俺には分かりはしないがやる事は一つ。」

マーシャの後ろ、約5mの距離を保ち追跡しつつ
死々散霊滅符を発動。符を周囲に展開。
オルトロスの動きを【見切り】襲ってくるもののみを符で攻撃。
攻撃は敵の脚部に集中して機動力を奪い。
その隙に符を頭部に集めてなかまをよぶ間を与えずに仕留める。
「自分たちは群れで単独の者を襲う。実に獣らしい行動だが。
此方もただの獣に喰われてやるほどお人好しではないんでね。」
自身の安全を優先して考えるが
マーシャの行動やその周辺の敵も観察し
近づきすぎない様に注意しながら同様の攻撃方法で守る。


九重・灯
表に出てる人格は「オレ」だ。

この前(シナリオ:ふり返る必要なんてなかったのに)のとは確かに別存在だな。気配が全く違う。

「だけどよ。戦力になんのか、アレ?」
同族殺しの体力を温存するために、前哨戦で雑魚を間引くなら分かる。だけど「守れ」とはねえ。

フン、必要だって言うならやってやるけどな。
UC【黒き群れの傭兵団】。
「オマエらには手頃な獲物だろ? 倒した分だけ持ち帰りゃあいい」
空間に「門」が開かれ、巨大な蟻の群れが這い出てきて敵に襲いかかり、倒した相手を引きずって元居た世界に帰って行く。

オレ自身はマーシャの後方で様子見だな。何かあれば守りには入れるようにしておく

「アンタは、何に狂わされたんだ?」



 マーシャは未だ俯いたまま死人の様に進む。
「放っておいたら辿り着く前に死ぬと。自身はそれを分っているのか。
それでも行かなければならないのか。」
 フォルク・リア(黄泉への導・f05375)はその自殺願望なのか、それとも執着なのか判断しかねる行動を思考する様に呟く。そして考えが放置し観察に移りそうになるのを打ち切る様に、
「俺には分かりはしないがやる事は一つ。」
 守れと言われたのだから守る。と方針を固定する。
「一つ、だけどよ。戦力になんのか、アレ?」
 フォルクの隣に九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)が疑問ありありの表情でマーシャの様を示す。
 以前戦った事がある故に、その酷い程の気配の差に疑念が頭をもたげて隠れない。
「同族殺しの体力を温存するために、前哨戦で雑魚を間引くなら分かる。だけど『守れ』とはねえ。」
 通常ならばそうだ。怒りか憎悪か悲哀か、自らを省みない同族殺しを領主の場所までサポートする為に有象無象を散らす。
 だと言うのにこの同族殺しは守らなければ死ぬと来た。
 釈然としない感情が九重の口をへの字に曲げる。
「その疑問は理解できる。だが、グリモア猟兵が必要だと言ったのだ。言ったのであれば、何かがあるのだろう。」
 その何かを見通そうとするかのようにフードに隠れた瞳を細めながら呪符を取り出す。
「フン。ああ…必要だって言うならやってやるけどよ。」
「やろう。死より出でて死を招く、呪いを携えしもの。中空に散じ、我が敵を闇に葬れ。」
 フォルクが詠唱し、呪符をばらまけば地面に落ちる事無く宙に浮き、漂う様に動き出す。
「数は凡そ五百。守るだけであればおそらくこれで十分だろう。そして俺達がマーシャとあわせ三人となれば滞り無く通り抜けられるだろう。グリモア猟兵の言うとおりであれば…。」
 その根拠を言った者の姿を思い出し、信用していいのか疑問が沸き起こったのかフォルクの語尾は濁ったが……結果としては言った通りとなった。
 周囲に気配はなんとなくするものの、襲い掛かってくる様子はない。
 マーシャに付いていくだけの時間が続く。
「自分たちは群れで単独の者を襲う。実に獣らしい行動だ。」
 フォルクは問題なく事態が推移している事に、呪符の操作の意識を緩める事はなくとも満足げな様子で顎に手をやる。
 そんな様子を見ながらふと思いついたのか九重が口にする。
「コイツらってほっといたらこの後の戦いに首突っ込んできたりしないか?」
「それは…そうだね。縄張りがあるだろうが絶対に無い、とは言い切れないだろう。
介入してくる可能性はあるね。」
 フォルクの推測の上ではほぼほぼ無いが、0でないのなら可能性はあるのだ。
「なら、出来る限り殲滅がイイよな? ハっ、オレには粛々とってのはやっぱ似合わねぇよな。」
 そう言うや否や九重が指を鳴らせば暗い世界に黒い穴が開いた。
 そして、カシカシと、キシキシと音が蠢き、その正体が溢れ這い出す。
 それは蟻の様な物の群。一体一体が2mほどはある怪物と言って差し支えない存在。
「周りに居る奴ら、オマエらには手頃な獲物だろ? ああ、あれはダメだからな。」
 ちゃんとマーシャは標的から外す様に言って、獣だけを標的とさせる。
 それが出た時点で危機を察知したのか狙っていた気配は消えていたが、蟻たちは何らかの方法で探知しているのか追走し、響く音は阿鼻叫喚、もしくはお祭り騒ぎの様相を呈した。
 フォルクはどこか呆れている様にしながらも、時々逃げる為か飛び出してきた獣へ呪符を動かし仕留めていく。
 そうして暫くして、最後の蟻が獣の死骸を咥えながら出てきた穴へ消えていくと獣の気配が消えた静けさを取り戻した。
「あいつ…。」
 九重が目を眇め、フォルクは興味深げに眺める。
 今の騒ぎは絶対に聞こえたはずだ。視界にも映ったかもしれない。
 だと言うのに、マーシャは一度たりとも視線を向けようとしなかった。
 気付いた所で……。
 これは守らなければ死ぬわけだ。
「アンタは、何に狂わされたんだ?」
 遅々とした歩みはもう少しで、終わる。



『わからない。分からない。判らない。解らない。
 私がわからない。私の何もかもがわからない。
 どうして私は変わってしまったの?
 ただ林檎だけが全てだった私が…
 どうしてあの景色が、言葉が、時間が、……。
 わからない。
 どうして私は歩いているの? 向かっているの?
 その意味がわからない。
 ただ、ただ、
 哀しいって。
 それだけがわかる。』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『外神禍梟』

POW   :    空から無音で掴み来る
【腹部の無数の腕の中に取り込む事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    無数の呪いを地に撒く
レベル×5本の【敵を追い続ける、呪い】属性の【切断した腕】を放つ。
WIZ   :    禍なる腕ですべてを穢す
【腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【魂を穢す呪い】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠紅月・知夏です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※プレイングは断章後にお願いいたします。
 マーシャがぴたりと足を止めた。周囲は変わらず枯れ木だけが拡がる。
 けれど、大きな風を打つ音がした。
 何所に居たのか、何時から居たのか。
 小山ほどはあろうかという大きさのフクロウが、僅かに届く光も隠す様に空に浮かんでいた。
 先ほどの羽ばたきは挨拶であったかの様にゆらゆらと音も無く揺れながら腹部から延びる白く薄い腕がそれぞれ枯れ木を掴み…巨大なる異端はこちらを見ている。
 ぶちゃりと音がした。
 音の方へ視線を少し向ければ腐った林檎が地面で潰れていた。
 ぶちゃり。ぶちゃり。ぶちゃり。ぶちゃり。ぶちゃり。
 ぐちゃり。ぐちゃり。ぐちゃり。ぐちゃり。ぐちゃり。
 それは周囲の枯れ木に“腐った”林檎が実りそして落ち、空からも次々と降ってきている音だった。
 一瞬で周囲をむせ返る様な気分の悪い甘い匂いが覆う。
 マーシャは顔を上げ、片手で大事に林檎を抱き、もう片方の手を梟へと向けていた。
「わからない…。きっともう私の果樹園は帰ってこない。………けれど…でも…。
 かえして…。」
 その手に外神禍梟の生命力であり、同時に呪いそのものである林檎が投影される。
 それが開戦の合図となる。

※マーシャは生命力を投影した林檎を齧り続けます。 
同時、マーシャのUCによりこの場所には腐った林檎が降りつづけるかつて果樹園であった場所になります。腐った林檎は猟兵、梟共に適応できれば行動成功率は上がります。また、出来なければマーシャ以外の成功率を下げます。(梟は必ず適応しないので、猟兵が適応せずとも特にマイナスはありません。実質フレーバー。)
久遠・翔
アドリブ絡み歓迎


…何が彼女をここまで駆り立てるのか
今はわからない
けど、こいつさえ倒せばわかるはず…

マーシャの攻撃に対して腕を伸ばした所に苦無をUCを使い投擲し無数の腕に突き刺します
顔を顰めていた以上この林檎に対応していないはず…俺はむしろ懐かしい匂いっすけどね
奴隷だった頃腐りかけの食べ物ばかり、でも食べないと生きていけない…その時の想い出にある匂いとそっくりだから耐えられるし対応できる
彼女から聞けるかわからないが答えが聞きたい
だからお前には悪いっすけど退場してもらうっす

上着を脱ぎ捨て服の中に仕込んで置いた苦無で彼女を守る
足りなければ愛用のククリナイフで駆け抜ける
マーシャ…今だけは貴女を守るっす


九重・灯
表に出てる人格は「オレ」だ
魔力で自身の耐性を補強して腐った林檎の影響を軽減。
『毒耐性5、オーラ防御3』

歩く死体みたいだったマーシャが息を吹き返したな。アレが標的か。
だが敵がデカすぎる。チマチマ表面を削るだけじゃ日が暮れちまうな。
直接生命を奪うマーシャの能力が有効か。
「仕方ねえ、さっきの続きだ。守ってやるよ」

UC【朱の獄界】。刃を左腕に押し当て、血を贄に魔炎を喚ぶ。
バケモノの腕を朱の魔炎でまとめて焼き落とす
『属性攻撃15、呪詛6、範囲攻撃5、部位破壊5』

本来のものとは違う腐った林檎の発現は、精神の傷の影響か、力が枯渇しかかっているせいか、その両方か
……アイツも、長くは持たないってコトなんだろう



 真っ白な濁流が何も残すまいと押し寄せる。失くしてもなお、何もかもを奪い取ろうと真白い腕が伸ばされる。
「朱の王よ、契約に従い力の一端を顕現せよ。その名の色を以て世界を染め上げろ……!」
 それを、人の血の色が押しとどめる。
 九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)が自らの腕を切りつけ、その血を中心に円状に展開した魔炎はうねり渦巻き白の侵略を許さない。そして、異なる赤色を焼く事も無く。
「歩く死体みたいだったマーシャが息を吹き返した。なら、アレが標的だ。」
「あれを倒せばわかるのか…? 彼女をここまで駆り立てる何かが…。」
 その場に立つもう一人の猟兵、久遠・翔(性別迷子・f00042)が小さく呟く。
「おいおい、戦場で物思いなんて余裕だな? おせっかい焼きの猟兵。」
 揶揄る様に九重が声をかける。
「油断はしてないっすから心配無用っすよ。けど…多いっすね。」
 魔炎の周囲は雪景色の様に白く染まりきり、蠢いている事でその全てがあの梟の腕なのだと知れた。腐った林檎が降った地点の腕はのたうち動きを鈍らせるが、それを補って余りある物量。
「ああ、敵がデカすぎるからチマチマ削ったところでって感じだし、ならコイツを守ってその能力で直接生命を削るのがイイと思ったんだが…。」
 九重がちらりとマーシャへ視線をやる。久遠もその言わんとしてることには気づいていた。
 マーシャが林檎を齧る。けれど、次の瞬間嘔吐く様に体を少し丸め震わせる。
 あの梟の生命の林檎は、あれの宿す呪いを押し固めた林檎と同意であった。
「時間が掛かるな。そんでもって、我慢比べは不利だ。」
 朱い魔炎は白い腕を完璧に遮断し、触れてきた腕を焼き尽くしていっていた。
 けれど同時にその呪いによって勢いを削がれ、補う為に血を次々に代償に取られていた。
 弱音は吐きはしない。それは『オレ』の担当ではない。
「だからアンタが行ってこい。」
 九重が浮かぶ梟を示し要求する。
「はぁ!? 無茶言うっすね?」
「アンタこの状況で体が少し怠いとか重いとか無いみたいだろう。」
 腐った林檎が降る、マーシャが作ったこの環境。
 オブリビオンですら影響が見て取れ、よくよく見れば九重も対策はしているとはいえ少なからず影響が見て取れる。
 なのに久遠はその対策をしなかった。必要性を感じなかったから。
 呼吸をすれば、記憶に流れ込んでくる匂い。
 湧き起る感情は不快などではなく、ただ懐かしく、慣れたという感覚だけ。
 奴隷であった頃に生きる為に必要であったから食べた、腐りかけの食べ物の臭い。
 適応などする必要も無い。ただ還っただけであった。
「そう……っすね。可能性はあるっすかね。」
「可能性があると思ったんなら行ってこい。道を開くのに協力は出来ないがこっちは守ってやるよ。だからアンタも。」
 それが可能か不可能かで言えば、可能ではあるが確率は低い。
 間違いなく危険な選択。
 久遠は手持ちの苦無の数を確認し考える。
 それの使い時を考えるのなら、今の状況では攻めるよりも九重に限界まで耐えてもらい、その撤退時の道を作るときに使う方が安全であり賢明だろう。
 けれど、自分は答えが聞きたいのだ。聞けるかはわからないけれど。
 彼女を守る。
 両の手に苦無を複数構える。
 加速する思考につれ、見える景色が遅くなってゆく。
 確実に、無駄に苦無を消費できる余裕はない。
 だから、苦無一つで腕を一つ消す。
 時間をかけてなどいられない。一斉に、一気に梟までの道を作る。
 腕が動く。一投、二投。もたつく事無く早業でもって三投四投。
「炎も乗せていけ。」
 そして二秒と掛からずに手持ちの苦無を投げ終える。
 魔炎を乗せマシンガンの様に飛んだ苦無は正確に白い腕を燃やし、僅かな道を作った。
 そして久遠は躊躇する事無く手に魔炎を乗せたククリナイフを持ち、そこへ飛び込んでゆく。
 真っ直ぐに全力でもって疾駆するも、作り上げた道が狭まってゆく。
 白い腕は果樹園の効力で動きを鈍らせているが、足りない。
 前を塞ぐ腕を切り払い進もうとするが、速度が鈍れば飲み込まれるだけだ。
 焦りが思考を覆い、捨て身で強引に突破するかと思いかけた瞬間、崩れる様に目の前を塞いでいた呪いの白い腕が消えていった。
 後ろから咳き込むような声が聞こえた気がした。
「マーシャ…今だけは貴女を守るっす。」
 久遠は跳び、木を足場にさらに跳ぶ。
 久遠は真っ直ぐに梟へと跳びかかりククリナイフを突き刺せば、重力のままに引き下ろしていく。
 異端なる存在に、朱い二本線が刻まれた。

 マーシャが口を押え咳き込んだ。
 九重はその様子を見て思う。
 今降り続けている腐った林檎も、正常であれば赤い毒林檎だ。
 今のその様子もそれも、精神の傷の影響か、力が枯渇しかかっているせいか、その両方か。
 その背を見て確実にわかる事はある。
「……アイツも、長くは持たないってコトなんだろうな。」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


『私は私を理解した。
 私は私と言う存在を理解した。
 どうして私にその資格があっただろうか。
 資格なんて初めから無かったのに。
 私は林檎が好き。林檎だけあれば十分だった。
 だから理解していなかった。
 私は吸血鬼で、そして世界を壊す存在。
 知らなければよかった。
 なにもかも。
 そうすれば、こんなにも。』
 
フォルク・リア
「あの林檎から放たれる気配は呪詛か。
このまま対応しないのは上手くないな。」
【オーラ防御】を纏った月光のローブと
【呪詛】を司る冥理影玉の力で林檎に対抗しつつ
冥雷顕迅唱を発動。
周囲の空間を雷で満たす。
「あの林檎からは確かに生命力も感じられるが。
あの呪詛と腐敗、取り込み続ければ
取り込んだ者も無事で済むとは思えない。
しかし、この場ではあの異形(外神禍梟)
から守る事に集中するか。」

雷で敵の腕を打ち払いつつ発生させた【残像】で
敵を攪乱、攻撃を回避。
敵の隙が出来たところで呪装銃「カオスエンペラー」で銃撃。
ダメージを与えたら反撃の間を与えず
【2回攻撃】で頭上から冥雷顕迅唱の雷を降り注がせる。



「腐った林檎が降ってくるとはね。」
 フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は可笑しな光景だと思いながらも観察し、その効力を見極める。
「これなら対抗は出来そうだ。なら、対応しないのは上手くないな。」
 フォルクは懐から一つの宝珠を取り出す。
『冥理影玉』呪いをかけるだけでなく打ち消すこともできる宝珠。
「今の状況ではあれに対しても効果はあるか。」
 その時、するりと木を縫う様にフォルクの背後から一本の白い腕が伸びていた。
 空気を掻き回す事も無く、地面を擦る事も無く、存在しないかの様な気配でそぉーっと伸ばされる白い腕に、
「上天に在りし幽世の門。」
 轟音を伴う純白が突き刺さる。
「秘めたる力を雷と成し。」
 一歩、一歩とフォルクは外神禍梟へと歩を進める。
「その荒ぶる閃光、我が意のままに獣の如く牙を剥け。」
 降り注ぐ白雷が数を減じさせた白い腕を討ち払い消していく中、マーシャよりも前へ出る。
「あの林檎…確かにあれの生命力だろうが…。」
 マーシャが投影した外神禍梟の林檎。
「あの呪詛。取り込み続ければ取り込んだ者も無事で済むとは思えない。」
 フォルク自身そういった事に造詣が深いからこそ懸念する。
「しかし……。」
 白雷で腕を討ち払いながら思考する。しかし、なんだろうか。
「この場ではあの異形から守る事に集中するか。」
 自身は研究者である。ならばその結果を見守るものだ。それがどんな結果であったにせよ。
 雷で打ち払い、呪装銃「カオスエンペラー」を取り出し迎撃しても間断なく白い腕は伸ばされる。
 このままでは消耗戦だ。それもいいだろう。
 しかし、賢人がそんな策であるはずがない。
「そろそろだな。」
 フォルクが呟いた時、周囲が仄明るくなるほどに大気中を雷が泳いでいた。
 降ってきた雷の残滓。それが漂っているのだ。
「準備は整った。見せてやろう。」
 周囲に漂う雷を操作し纏め、そして一気に周囲へ開放する。
 まるで衝撃波の様に周囲の腕を根こそぎ焼き尽くしていった。
 これが本命ではない。白い腕の襲来に空白が出来る。
「オーバー……」 
 フォルクは集中する。周囲に向けていた警戒も何もかもを消し去り、ただ一点、その一撃に精神を集中させる。
「ライトニング!」
 今まで降らせていた雷を、ただ一つに十重二十重と重ね縒り上げた極大の雷が、真っ直ぐに外神に突き刺さる。

大成功 🔵​🔵​🔵​


『暗い世界。
 冷たい世界。
 一人の世界。
 その中でそれは…』
リーヴァルディ・カーライル
…返して、か

…死んだ者は甦らない。壊れた物は元には戻らない
…この世界で生きていると嫌でも耳にする台詞だけど、
まさか吸血鬼の口から聞けるなんてね

第六感が捉えた敵の殺気や闘争心を戦闘知識に加え、
自身や同族殺しへの攻撃の軌道を暗視して乱れ撃ちを見切り、
怪力任せに大鎌をなぎ払う早業のカウンターで受け流し迎撃

…よもや、この私が吸血鬼の御守りをするとは

…隙は私が作ってあげる。復讐を望むなら、手早くしなさい

吸血鬼化した生命力を吸収して血の魔力を溜めUCを発動
眼前に展開した暴走魔法陣に黒炎鳥を纏わせて限界突破
超高速の空中戦機動で突撃させて敵の体内に切り込み、
呪詛を暴走させて自爆を誘い傷口を抉る2回攻撃を行う


シエラ・バディス
んー…飛んでいる相手だと出来ることは少ないんだよね……
でも、やれる事をやれる限りやろう。
こんな所で負けてらんないしね。

選択UCを発動させて命中率を重視。
斧を構えて、捕まえようとする無数の腕を確実に切り捨てて行きます。(怪力+部位破壊+切断)
直接殴ることが出来ないのであれば、こちらに意識を向けさせて味方の負担を減らすように動きます。
もちろん直接攻撃できる範囲内に近づけたら斧なりスコップで抉り、切り裂きますよ。

こういう時には遠距離武器が欲しいとは思うけど、無い物ねだりしても仕方ないもんね……出来る人に任せよう。



「んー…飛んでいる相手だと出来ることは少ないんだよね……。」
 初めに比べれば驚くほどに白い腕が減っており、その身に攻撃を受けながらも未だ空に鎮座するように浮かぶ梟を見ながらシエラ・バディス(死して彷徨う人形・f15798)は独り言ちた。
 武器を投げると言う選択を排せば遠距離武器を持っていないためだ。
「なら、マーシャの守りに専念してもらってもいい?」
 前に出るから…とリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が大鎌を携え横に並ぶ。
「ん、なら任せて。やれる事をやれる限りやる。こんな所で負けてらんないしね。」
 シエラが棺桶から斧を外し構えるのを確認すると、リーヴァルディは「任せるわ」と、そう言い残し迫る白い腕たちへ向け斬り込んで行く。
 リーヴァルディを標的にした様に伸ばされる白い腕を大鎌を振るい薙ぎ払う。
 横合いから伸びてきた腕を後ろに小さくステップし躱せば、大鎌を小さく回転させ切断した後に縦に切り裂く。
(返して…か。)
 リーヴァルディはそうしながらもマーシャが紡いだ言葉を思い返していた。
 それは、この世界で生きていれば嫌でも耳にする言葉。
 死んだ者は甦らない。壊れた物は元には戻らないのだから。
 リーヴァルディ自身何度聞いたかも分からないその言葉を、
「…まさか吸血鬼の口から聞けるなんてね。」
 あんな悲痛な声で。
 吸血鬼の自分に向けられる憎悪の声も怒りの声も多く聞いた。
 だから多分、耳に残った。
 そして、唇が滑稽そうに歪む。
 面白い事がもう一つあった。
「…よもや、この私が吸血鬼の御守りをするとは。」
 吸血鬼狩りが吸血鬼を殺すのではなく守るなど、と。
 そう哂いながら大鎌を振るう。

「すごい戦い方。」
 シエラは周囲に視線を走らせながらリーヴァルディの戦闘を見て言う。
 こちらにも白い腕は来るが、大半は向こうに流れているようで数は少ない。
 そんな最中もマーシャへ伸びてきていた腕を横殴りに斧を振るい諸共に木に叩き突け消す。
 こちらに流れてくる白い腕の大半…いや、全てはマーシャを狙っていた。
 シエラは気にめり込んだ斧を引き抜きながらマーシャへ視線をやる。
 マーシャが持つ林檎はもう少し…という程度ではあったが、齧る速度は遅くなっていた。
 歩いていた時よりも弱っている。
 体は震え、小さく揺れている。
 それでも、初めから抱いていた林檎は大事に、大切そうに抱えて…。
 かえして…とそう呟いた彼女が願ったものはきっともう返ってこない。
(シエラが取り戻したいものは…。)
 記憶を失くし、目的を忘れた『シエラ・バディス』がそれを取り戻した時、それは良き事だけなのだろうか。
 彼女と同じ様に返ってこないものもきっとある。
 もしかしたら今、目の前に居る彼女が抱く感情が将来シエラが抱く感情となるのかもしれない。
 けれど、それでも…なのだろう。
 それでも、
「いつか…全てを取り戻したいのです。」
 求めてしまったのなら、止められないのだろう。
 そんな時、リーヴァルディが勢いよく戻ってきた。
「大きいのやるから少し頼んでいい?」
 質問はするがすぐに準備に取り掛かってしまう。
「問題ないよ。やれる事をやれる限りやる。これがシエラの出来る事だから。」
 リーヴァルディが戻ってきた方向から幾本も白い腕が大蛇の様にうねりながら迫ってくる。
 斧を持つ手に力を込めながら呟く。
「まだ…終われない……ものね。」
 自分と、そして彼女の分も込めた覚悟。
 前へ出る。近くで守るのは手数が足りない。
 迫る白い腕の一つに斧を振るい、刃を突き立てる。
 そして、それを引っ掛けたまま次へ、次へ。
 逃れようと藻掻いても怪力で無理やり引き回し絡ませる。
 脇を抜けようとする白い腕に追い縋り斧を突き立て無理やり一つに纏め上げる。
 そして木に固定し、スコップを取り出せば白い腕を引き裂いた。
「……限定解放。」
 瞳を緋に染めリーヴァルディがUCを発動する。
「呪いを纏い翔べ、血の獄鳥…!」
 リーヴァルディの目前に血色の魔法陣。
 そして、頭上に黒い炎で形作られた鳥が召喚された。
 獄鳥はみるみると大きくなり、より強く燃え盛り始める。
 周囲の“呪い”を吸収しより強くなっていく。
 この場に呪いなど事欠きはしない。
 そして、獄鳥は魔法陣を飲み込み外神禍梟へ向け飛翔する。
「………復讐を望むなら、手早くしなさい。」
 でないと、燃え尽きるから。顔を向ける事も無くそう告げた時、巨大なその姿が黒い炎で包まれた。
 獄鳥が梟の腹を引き裂き侵入する。そして、魔法陣の効力が発動した。
 呪いによる自爆。
 白い腕が梟の元へ戻っていく。そして自分自身に絡みつき、自分で自分を奪っていく。
 あれは獣などではない。殺意も闘争心も無い。あれは奪うと言う呪いそのものだ。
 ただそこにあったから奪う。そこに居るから、在るから、奪う。
 あれは災厄だ。
 それが、黒い炎と白い腕に包まれ縮小していく。それと共に気配が薄れていく。
 そして、林檎を齧る音と共に姿が掻き消えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


『そうすれば、こんな想い。
 恋しい。
 哀しい。
 寂しい。
 こんな感情なんて知りたくなかった。
 分ってるのに、あの日々を、もう一度。
 もっと、もっと、もっと、もう一度。
 ずっと、ずっと、ずっと、あの日々を!』


第3章 ボス戦 『マーシャ』

POW   :    少し味見させて──ね?
【意識】を向けた対象に、【その生命力を投影した林檎を齧る事】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    七人のこびと
【危機が迫った時に現れる7人の犠牲者】の霊を召喚する。これは【好意を持つ人のキスでしか目覚められない毒】や【毒針】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    林檎滔々仇時雨
【優雅に踊りながら毒林檎】を降らせる事で、戦場全体が【お気に入りの果樹園】と同じ環境に変化する。[お気に入りの果樹園]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は奇鳥・カイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 異端の気配は消え去った。けれど、そこにはまだ一つ…過去の異物が。
 マーシャが崩れるように膝をつく。
 そして、嗚咽が漏れ始める。小さく、そしてだんだんと強く。
 終わり? いや。
 腐った林檎の雨は未だ続き、周囲から木が割れる様な音が響く。
 木の洞から、割れ目から、銀色の針が生えだし始める。
 外神禍梟が居なくなった今、自分の内と梟にのみ向けられていた感情の向け所を失い癇癪の様に周囲へ影響を及ぼし始めた。
 時間が経てば、小人の様なトレントが周囲を囲うだろう。
 ここは彼女の果樹園なのだ。

『好きな物は一つだけだった。けれどそれが増えていって…。
 大切って何?
 思い出って何?
 寂しいって何?
 哀しいって何?
 …好きって何?
 過去の私はそんなものは知らなかった。』
 幸せがこんなにも痛いのだと知らなかった。
「どうして? どうしてこんなに…苦しいの?」

 さぁ、今ならば……。
フォルク・リア
「俺はこの果樹園で過去に何があったのか
分かりはしないし。
知ったところで出来る事は一つだけ。」
真羅天掌を発動し、発火属性の雨を降らせ。
毒林檎を、果樹園を焼いていく。
「そう、この過去を滅する事だけだ。」

更にフレイムテイルの炎、スカイロッドの風を操り。
自分と敵を中心に空からは雨、地上からの炎で
余す事無く果樹園を燃やし続けて
自分が林檎の毒の影響を受ける前に
毒林檎を焼くと共に果樹園に適応する相手の
有利をなくす。

果樹園を焼いたら敵を炎の中に閉じ込める様に
炎と雨の範囲を徐々に狭め
降り続ける発火属性の雨で敵の攻撃手を妨害し
その隙を【見切り】炎風を集中させて攻撃。
「炎雨の中で終わりにしよう。
その過去も思いも。」



 「俺はこの果樹園で過去に何があったのか分かりはしないし。知ったところで出来る事は一つだけだ。」
 フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は手を打ち鳴らし詠唱する。
「大海の渦。天空の槌。琥珀の轟き。平原の騒響。宵闇の灯。人の世に在りし万象尽く、十指に集いて道行きを拓く一杖となれ。真羅天掌。」
 ぽつりと、暗い森に明かりが灯る。続く様に空から流れ星の様に明かりが降り暗い森に灯っていく。
 そして次第に周囲で爆ぜる音が大きくなり、それが森を赤く燃やす火の雨だとわかった。
「そう、この過去を滅する事だけだ。炎雨の中で終わりにしよう。その過去も思いも。」
 あれはオブリビオンで、自分は猟兵なのだから。
 単純な話だ。フレイムテイルとスカイロッドを手にさらなる行動を起こそうとした時、変化に気づいた。
 声が聞こえなくなった。
 嗚咽を漏らしていたマーシャが静かになっていた。
 変化が起きたのなら、確認するべきだ。
 向けた視線の先。マーシャが燃える木々に顔を向け、立ち上がっていた。
 そして両腕をゆっくりと広げ、ブーツを一度打ち合わせ、こつんと鳴らす。
 続く様に、ステップ。ターン。
 それは正当な林檎滔々仇時雨の手順。
 そして、
「ああ、まだまだ居たのね。果樹園を壊そうとするモノが…。」
 マーシャの視線がしっかりと、フォルクを捉えていた。
 行き場を失っていた感情…狂気がフォルクただ一人に、あの梟に向けられていた様にただ一点に、一心に突き付けられる。
 怖気が走る。足を引きずる様に歩いていた、押せば倒れてしまいそうな弱弱しさが消えている。
 マーシャは確かに弱っていた。猟兵がくる以前に梟と戦いその呪いに蝕まれ、そして呪いである梟そのものの生命力を食し……そして先の戦いの最後、マーシャを弱らせていた呪いの多くも纏めて梟へ返された。
 全盛とはいかない。未だ多少の呪いは残り、その精神は狂っている。
 地面にぶつかる林檎が粘着質な音を響かせる。
 それが直接当たったところで多少痛いだけであろうが…それはすでに毒林檎へと変わっている。毒が、撒き散らされる。
 フォルクはそれに目を眇め行動を急ぐ。
 フレイムテイルを使い火を放つ。
 マーシャの行動を狭める為に火の雨の範囲に入れる。
 火勢を強くし、相手の有利を潰すそうと。
 けれど、次々とへばり付く林檎のコーティングに勢いを弱められる。
 火が付き、消され。消えては付く。そんな様相であった。
 そしてそれ以上にフォルクを焦らせるのは、自身が降らせる林檎は全て踊りながら避け、火の雨を欠片も気にしていない事だった。
 燃えていながら、その動きに一切の動揺が見えない。
 それがそういった演舞であると言われれば疑問も抱かないような淀みのなさ。
 もう時間はかけられない。自分に毒が回る前に…。
 腐った林檎がぶつかろうとフレイムテイルとスカイロッドを合わせ、風で勢いづかせた炎の波を放つ。
「どの道一人では無理か…。」
 その結果を見る事無く、煙に紛れ姿を消す。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

九重・灯
……仕方ねえか。
一心不乱にここまで歩いて、仇を倒して、もう他にやるコトが無くなっちまったんだ。それでも何も帰ってこない。本人がそう言っていたとおりにな。

武器を握り直す。終わらせるか。
(「待って」)
もう一人の自分の声が頭の中に響く
・・・

マーシャに言葉を掛ける。
「苦しいのは、それはどうしようもねえ」
無くなっちまったもんが、それだけオマエの深い部分と結びついているってコトだ。苦しみも痛みも、大切なものがオマエの中で生きている証明なんだよ。
……って、もう一人の自分の言葉を伝えただけだケドな。

「人間だったら、こんなときは思いっきり泣く。それくらいしかできねえよ」
後は様子見だ。必要なら止め刺して終わらせる


久遠・翔
アドリブ絡み歓迎



嗚咽するマーシャの元に無防備で近づきます
今の彼女はオブリビオン…けど、同時に幼い子供だから
攻撃・拒絶されようとも無視して近づき傍に座ります

マーシャ
俺はアンタの昔の事なんて知らない
けどさ、その涙は本物だ…本当の幸せを持っているからこそ流せる涙だ

何故苦しいのかは人其々だが、多分マーシャのは後悔じゃないか?
手から零れ落ちた幸福を少しでも拾いたいが為にここに来たんじゃないのか?
俺はお前の過去の幸福にはなれない
だからせめてこれだけは

選択UCで彼女のUCに干渉
腐った林檎から思い出の林檎に変換…魂が更に汚され体中が痛む
けど少し読み取れた

青年は今でも感謝していると思う
ありがとうマーシャってね?



「どこ。」
「どこ。」
「どこ。」
「どこ。」
「災いはどこ?」
 煤で体を汚し、頬に一筋白い線を引いて枯れ木の森を彷徨う姿は幽鬼の様であった。
 けれど、感情の矛先が定まった事で小人の発生は停止し林檎の雨も緩くなっていた。
「……仕方ねぇか。」
 九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)はその様子を見て言う。
 一心不乱にここまで歩いて、仇を倒して、それでも何も帰ってこない。本人がそう言っていたとおりに。
 なら…。
「終わらせるか。」
 このまま彷徨わせるのはあまりに憐れで、もしもその彷徨う狂気が何も知らない民に向いたのならば危険であり…何より。
(人を襲う吸血鬼じゃなく、民を想った領主として最期を…。)
 そう思い、武器を握る手に力を込める。
(「まって。」)
「待って。」
 九重の心の内と外で声が重なりその動きを止める。
 九重の横を通り過ぎ久遠・翔(性別迷子・f00042)が真っ直ぐマーシャへと近づいてゆく。
 その行動を九重はまたか、と呆れた様に見送りはすれど止めはしなかった。
「マーシャ。俺はアンタの昔の事なんて知らない。けどさ、その涙は本物だ…本当の幸せを持っているからこそ流せる涙だ。」
 マーシャの前に立ち話しかける。けれど、聞こえていながら認識していないのか、無視しているのか、少なくともその瞳は目の前に居る久遠を映す事は無く脇を通り過ぎていく。けれど、語り掛け続ける。
「何故苦しいのかは人其々だが、多分マーシャのは後悔じゃないか?」
 幸福を知ってしまった後悔。けれどそれ以上の守れなかった事への。
「手から零れ落ちた幸福を少しでも拾いたいが為にここに来たんじゃないのか?」
 何もかもが奪われ失くした。けれどこの場所は思い出の場所で大切な場所。
「俺はお前の過去の幸福にはなれない。だからせめてこれだけは…。」
 久遠がUCを発動し、妖艶なドレス姿へと姿を変え、マーシャの背へ手を伸ばす。
 林檎は色褪せ腐りゆく。そして腐った林檎が赤い林檎に戻る事は無い。
 それは彼女が失くしたものがもう戻らないのと同じように。
 けれど…。
 マーシャが足を止めた。その視線は先の地面に固定され動かない。
「……少し読み取れた。」
 再び久遠がマーシャの前へと進み、その視線の先にある“赤い林檎”を拾い上げマーシャに差し出す。
「青年は今でも感謝していると思う。ありがとうマーシャってね?」
 それは思いだしたくなかった言葉。
 それは決定的で、致命的な、人と生きようと思った切欠となった言葉。
 それは後悔と、そしてそれ以上の溢れそうなほどの嬉しさを知った言葉。
 それは、忘れたくない大切な言葉。
 マーシャが周囲へ視線を向ければ幾つか赤い林檎が地面に転がり、また一つ空から赤い林檎が地面に落ち音を立てる。
 戻した視線は久遠を捉え、ゆっくりとした動作で林檎を受け取った。
 片手に褪せた色の林檎、もう片方の手に赤い林檎。
 その様子を見て九重はゆっくりと込めていた力を抜いていく。
 失敗であれば、必要であれば止めを刺そうとずっと警戒していたのだ。
「苦しいのはそれはどうしようもねえ。」
 言葉が通じる状態だと判断し九重が声をかける。
「無くなっちまったもんが、それだけオマエの深い部分と結びついているってコトだ。苦しみも痛みも、大切なものがオマエの中で生きている証明なんだよ。」
 ……って、もう一人の自分の言葉を伝えただけだケドな。そうぶっきら棒に付け加えながら、失くしても無くしていない物が残っていると告げる。
 マーシャが林檎を指で撫でながら口を開いた。
「人間だったら、こんな時どうするの?」
 その問いに、九重が黙したのは数瞬ですぐに答えた。
「人間だったら、こんなときは思いっきり泣く。それくらいしかできねえよ」
 腕を組み、針の消えた枯れ木に背を預けながらいう。
 その言葉を聞き、マーシャは林檎を持ったまま自分の顔に付いた涙の跡をそっと指でなぞり、
「そう、私と変わらない……。いいえ、私がいつの間にか変わっていたのかしら。」
 そう呟くマーシャの姿は、端から灰に変わり崩れ始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエラ・バディス
どうしましょう……
彼女が戦う意思を見せるなら対処はしますが、そうでないなら弔いの用意を。

ここは貴女にとって大切な何かがあった所なんですよね?
貴方達が死者をどうしてるかは知らないし知りたくもないけど、生きてる人達は弔って区切りをつけるのです。

……さて、貴女はどうします?
静かに眠るというなら、スッパリ終わらせますよ。



 髪が先から崩れていく。
 指先から段々と白く染まり、崩れていく。
 マーシャはそんな自分の姿を地面に座り眺めていた。
「どうしましょう…。」
 そんな時、自問と問いが混ざったような言葉が掛けられた。
 顔を上げれば、そこには黒いローブを着たシエラ・バディス(死して彷徨う人形・f15798)が立っていた。
「弔いは。」
 再び端的な問い。
 マーシャが分からない様な様子なのを見るとシエラは文を紡ぐ。
「貴方達が死者をどうしてるかは知らないし知りたくもないけど、生きてる人達は弔って区切りをつけるのです。」
 『人』はそう区切りをつけるのだと。
「ここは貴女にとって大切な何かがあった所なんですよね?」
 だから問うていると。
「……さて、貴女はどうします?」
 そんな優しい問いに、マーシャは顔を小さく綻ばせた。
「私はもう長くはもちそうになくて、道案内は出来ないから……。」
 マーシャが一方へ手を伸ばせば、導の様に木々が傾ぎ一本の道を作る。
「向こうに一人。」
 そして別の方向に手を伸ばし同じ事をもう一度。
「向こうに集落だった物が一つ。」
 そして肩で息をつくと二つの林檎を差し出してきた。
「これも一緒に。お願いが多くてごめんなさいね。お願いできる?」
 シエラはそれを受け取ると、何も言わずに道の方向へと歩を進める。
 その背に、
「ありがとう、優しい人。」
 振り返ればもうそこには姿は無く、白い灰が風に流されていた。
 まるで未練が消えた様に、消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月06日


挿絵イラスト