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サクラツリヰの下で

#サクラミラージュ #お祭り2020 #クリスマス #プレイング期間【今この瞬間から送信できなくなるまで】


 サクラミラージュでは、春夏秋冬、絶えず桜が咲くという。
 クリスマスであっても、それは変わらず。
 場合によっては、満開の桜に雪が降り積もり、神秘的な様相を見せるのだという……。

 ◆

「桜の木の下で、秘密のパーティをしましょう」
 ニヒト・デニーロは猟兵たちに向けてそう告げた。

「サクラミラージュの、とある公園での催し物なのだけど……オーナメントで飾りつけをした、桜のクリスマスツリーが、たくさん生えているの」
 名付けて、サクラツリヰ。
 夜になればイルミネーションが色鮮やかに光り、普通のお花見とは一味違った美しさを見せてくれる。

「パーティの時間は夜。ツリヰの一つ一つはそれなりに距離があるから、参加者同士で姿が見える心配はないわ」
 大きなツリヰの下には小さなテーブルと、小洒落た料理や飲み物、寒くないようにと周囲を囲むついたてが用意されている。

 ただし、スペースの都合で、一つの木の下に入れる定員は二人まで。

 つまり。
 外から見られることなく。
 景色を独占しながら。
 二人だけの秘密のクリスマスパーティを。
 ……楽しむことができるのだ。

「勿論、公序良俗に反することは駄目。あと、あんまり大声の馬鹿騒ぎも。でも、せっかくのクリスマスなのだから……秘め事があってもいいと思うの」
 どうやって過ごすかは猟兵次第。

「素敵な思い出を、作ってちょうだいね。また、明日からを頑張れるように」
 そう言って、猟兵を送り出すのだった。



  


甘党
◆募集要項
 基本的にペア出のプレイングを想定していますが一人でツリヰの下でパーティをやりたい猛者は止めません。
 「知らねえ奴と一緒に盛り上がってやるぜ!!」というもっと気合の入った人はその旨をプレイングに書いてください。

◆注意事項
 本シナリオはオブリビオンが登場しない、日常章が一章のみで終わる特別なシナリオです。
 その分経験値が少なくなっております、ご注意ください。

◆アドリブについて
 MSページを参考にしていただけると幸いです。
 特にアドリブが多めになると思いますので、
 「こういった事だけは絶対にしない!」といったNG行動などがあれば明記をお願いします。

 逆に、アドリブ多め希望の場合は、「どういった行動方針を持っているか」「どんな価値基準を持っているか」が書いてあるとハッピーです

◆その他注意事項
 合わせプレイングを送る際は、同行者が誰であるかはっきりわかるようにお願いします。
 お互いの呼び方がわかるともっと素敵です。

◆章の構成
 日常フラグメントです。
 ちらちらと雪が降る夜のサクラミラージュで、ツリー風に飾られた桜の下、二人だけのパーティをお楽しみいただけます。
 一応カテゴリとしては野外になるので防寒対策はしたほうがいいと思います。
 公序良俗に反するようなプレイングでなければだいたい何でもいいと思います。

 それではプレイングをお待ちしております、メリー・クリスマス。
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第1章 日常 『サクラミラージュのクリスマス』

POW   :    カフェー特製のクリスマスメニューに舌鼓を打つ

SPD   :    カフェーのメイドさんやボーイさんと楽しく過ごす

WIZ   :    恋人や家族と共に、クリスマスパーティーの趣向を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
霧生・真白
○【221B】

また君は穴場を見つけたものだ
こうして静かに楽しめるところもあるとはね
それじゃ、乾杯でもしようか

ああ、そうだね
雪が降っているという違いはあるけれども
早いものだ

君の言う通り、今年は中々に充実した一年だった
あの学校での事件は忘れもしないさ
君が書籍化すればきっとベストセラーとなるだろう
…なんてね
それだけもう吹っ切れたということだよ
ああ、アリスラビリンスの事件も楽しかった
なにせ19世紀イギリスで推理が出来るなんてね
憧れの探偵に少し近付けた気分さ

ふふ、君も粋なことをするようになったものだ
ありがとう
それじゃ、僕からも
万年筆程の大きさの箱を渡す

――ああ
君が共にいる限り
約束を違えることはないだろう


霧生・柊冬
【221B】
姉さん、噂の桜のツリーが見えてきたよ
ここなら人も少ないし、丁度景色もよく見えそうだ。
ツリーの下でホットココアを飲みながら、サンドイッチを味わうとしよう。

思えば今年の春もこうして二人きりでお花見したよね。
振り返ってみるとあの学校の事件から色々あったね…
学校に潜入して偽物の記憶に紛れ込んだら、もう一人の姉さんと出会うし…
アリスラビリンスの世界で謎を解いたり、猟書家とも戦ったりね
なかなか去年以上に命懸けな一年だったかも。

景色を眺めながら姉さんにプレゼントを渡す。
これは僕からのクリスマスプレゼント。
…危険は多かったけど…約束通り、また次の春もお花見はできそうだね?



🌸

「姉さん、噂の桜のツリーが見えてきたよ」
 霧生・柊冬が、もこもこのマフラーとコートに身を包んだ姉にそう告げる。

 なんでこんなに寒いのに外に出る必要があるんだ。
 ツリーなんて家に飾ればそれで十分じゃないか。
 全く合理的ではない理由がわからないこの寒さは虐待に等しいのではないか。
 本当にこの先に僕を満足させるものがあるのかいもしなかったら承知しないぞ君のケーキの苺を食べてやる。
 そんな趣旨の文句と不満をつらつらと並べ立てていた姉も、立ち並ぶサクラツリヰを見ればあっという間に柊冬より早足になって、
 風を防ぐ衝立に囲まれたスペースにたどり着く頃合いには、すっかりご機嫌になっていた。

「また君は穴場を見つけたものだ。クリスマスには騒音と混雑が付き物だが、ここなら悪くない」
 心なし語尾が弾んでいるところを聞くと、感心してくれているらしい。
 普段は安楽椅子探偵よろしく、自宅から能動的に外に出ようとしない姉を外に連れ出すのは、毎回それなりの苦労が伴うものだが。
 ツリーを見上げて満足げにしている様をちらりとみれば、そんな労苦も吹き飛ぶというものだった。

「今年の春も、二人きりでお花見したよね」
「雪が降っているという違いはあるけれどね――早いものだ」
 並べたマグにホットココアを注ぐのも、当然のように柊冬の仕事だ。
 春の桜と、今見上げる桜は、随分と印象が違う。
 生命の気配を閉じ込めてしまう白い雪を積もらせながら、なお力強く咲き誇る花々。
 静謐の中にあって、あまりに華々しいそれを見上げながら。

「乾杯」
「乾杯」
 カチン、と響く音が、空気の中に柔らかく吸い込まれていった。

 ◆

「振り返ってみると」
 いつもの二人であっても。
 少し環境が違えば、やり取りする内容も変わるものだ。

「あの学校の事件から色々あったね」
 例えば、少し昔を振り返ったりする。
 もう年末年始が目の前に見えている、ということもあって、柊冬の口から出たのは、そんな言葉だった。

「まったくだ、手心というものはついぞ感じない一年だったね――推理するには事欠かなかったけれど」
「満足できた?」
「それなりにね、でもまだまだ。来年はもっと考えることが増えるよ、君も備えたまえ」
「はいはい、了解だよ」
「……今僕からの忠告をぽいと投げなかったかい?」
「そんなことないよ?」
「そうかい」
 時折サンドイッチに手を伸ばし、湯気を立てるマグから、甘い液体をすする。
 食べて、温まれば、口も舌も、頭も回っていく。

「もう一人の姉さんと出会うし……アリスラビリンスの世界で謎を解いたり、猟書家とも戦ったりね」
 指折り数えて見ると、なかなかの大冒険だった。
 去年以上に命がけで、波乱だらけで。

「でも、悪くはなかった――あの学校での事件は忘れもしないさ、君が書籍化すればきっとベストセラーとなるだろう」
 それは、軽口としては、少しばかり、受け止めるのに時間のかかる言葉だった。

「……姉さんってば」
 思わず、咎めるような口調になってしまう。

「……なんてね。まぁ、それだけ、もう吹っ切れたということだよ」
 そう言って。
 柔らかく。
 柔らかく微笑む、真白の瞳は、弟をじっと見つめた。

「僕にとっても君にとっても、大事なことだった」
「……そうだね、知るべきことだったよ」
「それがわかっただけで、十分だったよ、情報不足は推理の敵だ、知らないより、知っていたほうがいい」
「…………うん」
 少なくとも。
 あの出来事がなかったら、今の二人はもう少し、お互いを知らないままだった。
 何を思って、そばにいるのか。
 何を想って、二人でいるのか。
 その欠片を拾い損ねたままになっていたかも、しれなかった。

 要するに、姉の事を、弟は誰より大事に思っていて。
 要するに、弟の事を、姉は誰より大事に思っているという話だったのだが。

「――ああ、そういえば、アリスラビリンスの事件も楽しかった。なにせ19世紀のイギリスだよ! 探偵の聖地で推理ができるなんて――――」
 機嫌がいいと、真白は饒舌になる。
 つまり、退屈はしていないということだ。
 だから、今のこの形は。
 きっと姉弟が辿り着ける、最良のあり方だ。
 そうであってほしい。
 だって、楽しそうだから。

「少し、姉さんみたいなツリーだね」
 不意に、柊冬が言った。

「うん?」
「薄い紅色に、白い雪で」
「………」
 頭の花に、そっと触れて。
 それから、ふっと笑って、真白は弟の顔の顔を見た。

「……上手いことを言えるようになったじゃないか」
「そうでしょう?」
「それで、どっちが綺麗だい?」
「それはもちろん、姉さんです」
「よろしい」
 それから少しの間。
 他愛ないやり取りをして。
 お皿の上のものと、ココアのおかわりがなくなる頃。

「メリー・クリスマス、姉さん。これは僕からのクリスマスプレゼント」
 最後の最初に、包みを取り出したのは、柊冬が先だった。
 真白は、予測していたのだろう――けれど、やっぱり嬉しいのだろう。

「ふふ、君も粋なことをするようになったものだ、ありがとう。それじゃ、僕からも」
 ご機嫌のまま、それを受け取って。
 お返しのように、細長い包みを手渡した。

 去年より、近くなった二人だ。
 ラッピングされた箱の中には、きっと少し、相手に近づいたプレゼントを贈れたに違いない。

「約束通り、また次の春もお花見はできそうだね」
「ああ」
 今年の最後は、良い思い出だった。
 来年も、きっとそうなるだろう。

「君が共にいる限り」
 そう、二人でいる限り。

「――――約束を違えることはないだろう」
 二人で、いられる限りは。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジョウ・デッドマン
【まいご】
…クリスマスっていうかお花見じゃん
うるせーよ!(抑えた声)
(クソッこういうとこで女子と二人きりとか
誰かに見られたら恥ずかしいだろ!!)

しねーよアンタ一人で食ってろ…
…うるせーな!!(控えめな声)
前もとか言うな騒ぐな!
(死人の口の中は真っ黒だから晒したくないのに)
(根負けした)
…これで満足かよ
(なんでコイツ、僕が死体だって気付かないんだ?)

(綺麗なものと、華やかに笑う
その笑顔から目を離せない)
……い、いや
アンタの額に花びらが…
…!?
(硬直)
(静まれ僕のヴォルテックエンジン!!)

なんだよ
なんでもないじゃねーだろ、いつもいらねー話ばっかすんのに
……何考えてるか全然わかんねーよ


ヒマワリ・アサヌマ
【まいご】
みてみてジョウくん!!お~~っきい桜!!!
クリスマスなのに変なの~!
あっ、そっかおっきな声ダメなんだっけ……えへへ……

これ!このケーキ!甘くておいしいよ!
はい、あ~~……しないの?しようよ~~~!前もしたじゃ~ん!

前に二人で食べた時もおいしかったけど、今日はなんか……もっとおいしい気がする
なんでだろ?桜が綺麗だからかなあ~~?

ね、ほんと綺麗だよね……雪と桜なんて初めて見た………
ん?どしたのジョウくん。私の顔に何かついてる?
……って、ジョウくんがクリームつけてるじゃん!
よいしょ……んっ、あまあま~♡

──ねぇ、ジョウくん
……ん~んっ!なんでもな~い

この熱は、伝えるにはまだいいかなって。



「…………ていうかよー」
 ジョウ・デッドマンは、電飾で照らされる満開の桜を見上げながら、若干ブスッとした顔で言った。

「……クリスマスっていうかお花見じゃん」
 クリスマス感というのは、つまり緑色が担う役割が多いのだと言うことを実感する。
 だって桜だもん、いくらイルミネーションがあっても桜だもん。
 現地人からみたらどうか知らないが、いわゆる普通のクリスマスツリーを知っていると、やっぱり聖夜のお祭りと言うよりは、ちょっと変わったお花見に見えてしまうのだった。

「みてみてジョウくん!! お~~っきい桜!!!」
 けれどそんなことは、常に顔に夏を咲かせている少女の笑顔には関係無いらしい。
 ヒマワリ・アサヌマが両手を広げても、幹の幅に届かないぐらい、たしかにその桜は大きくて。

「クリスマスなのに変なの~! てっぺんの星ってどうやって飾ってるんだろうね~?」
 そしてやっぱり、ちょっとは変に見えるらしかった。
 要するに、綺麗で楽しければどっちだって良いのだろう。

「ばっ! うるせーよ! しぃーっ!」
「う?」
 ぽけ? と首を傾げるヒマワリに、ジョウは慌てて、声を抑えながら人差し指を立てて、口の前に持っていった。

「他の人の迷惑だろ……っ!」
 世の中には本音と建前という物がある。
 事前の説明では、ツリーとツリーの距離は結構あるし、衝立は防音性を備えているらしいので、実際は、これぐらいの声でやり取りするぐらいなら平気だろうけれど。

(こういうとこで女子と二人きりとか誰かに見られたら恥ずかしいだろ!!)
 思春期である。
 客観的に見て別に誰も気にはしないものである。
 たとえそこらのおばちゃんが見ても「あらまぁかわいいわねぇ」ぐらいのものだろう。
 けれどジョウ・デッドマンは死んでいても男子なのである。

 いやそれが嫌なんだよわかれよ。
 いや嫌っていうのもなんか違うけどつまりあれがこれでそうなんだよ。
 いやいやいやいやいや……。

「ジョウくん?」
「ぅおいっ!?」
「あ~、大きな声出しちゃダメなんだ~」
 人の気も知らないで(勝手に動揺して勝手に唸ってただけだけど)、名前通り、向日葵のような笑顔で。

「し~、でしょ?」
「………………おう」
 二人のクリスマス・パーティは、そんなふうに始まった。

 💀

 桜色のクリームに白いシュガーパウダーを散らしたケーキが、この世界の定番らしい。
 ツリーの標準が『これ』だというのなら、そうなるのは必然なのだろうが、初めて食べる人間からすれば、それは未知の味にほかならない。

「ん~、このケーキ! 甘くておいしいよ~! ふわっと桜の味がする~!」
 少女の口にはお気に召したようで、一口食べるや否や、またふわふわとした笑顔を浮かべた。

(……いつだって)
 幸せそうな顔をしている。
 名は体を表すというが、名が顔を表しているのがヒマワリだ。

「はい! ジョウくん!」
「…………んぁ?」
 太陽は大きすぎるから、井戸の底から見えるけれど。
 光を見上げているものまで、照らされているとは限らない。

「あ~~~~~ん!」
 そして、照らされていないものを、わざわざ照らしに来るのがこの少女なのだ。

「しねーよアンタ一人で食ってろ……」
 日陰に居たい理由があれば、それは大きなお世話なのだが。

「え~? しないの? しようよ~~~! 前もしたじゃ~ん!」
「うっ、…………うるせーな!! 前もとか、言うな騒ぐな!」
「どうして~? なんで~? ほら、おいしいよ~! こんなの初めてだもん! ジョウくんも気にいるよ~?」
 ぐいぐい来る。とにかく来る。

「うぐぐ…………」
 そもそも。
 ここにいる時点で。
 なんのために一緒に来たのかとか。
 そういうことを考えれば、勝てるわけもなく。
 最初から、そういうことだ。

「………………ぁー」
 この向日葵と一緒なら、それも悪くないと思えてしまうのだということ。
 死人の口の中は真っ黒だから晒したくないのに。
 なんでコイツ、僕が死体だって気づかないんだ?

「どう? どう?」
 おいしいでしょ? と言葉を待つ少女に。

「…………悪くは、ねーよ」
 そう言い返すのが精一杯だった。

 🌻

 良かった、おいしいって言ってくれた。
 無理してないことぐらいは、わかるよ。

「ん~」
「…………なんだよ」
「前に二人で食べた時もおいしかったけど、今日はなんか……もっとおいしい気がする」
「…………………………素材が良かったんじゃねえの」
「そうかも~? なんでだろ? 桜が綺麗だからかなあ~?」
 白は静謐。
 花は生命。
 相反する二つのものが、お互いの存在を調和させながら、そこにある。

「ほんと綺麗だよね」
 多分、この世界でなくては見れない景色。

「雪と桜なんて初めて見た………」
 でも、こんな景色があるのだから。
 夜に向日葵が咲く場所が、どこかにあって、きっといい。

「………………ジョウくん? どしたの? 私の顔に何かついてる?」
 何も言ってくれないものだから、つい隣人の顔を見る。
 桜を見ていなかった、じぃっとこっちを見つめていた。
 声をかけるまで、目があったことにすら気づいていないようで。

「……い、いや」
 取り繕うように。

「アンタの額に花びらが……」
 そう言った。

「? あ、ほんとだ~! あはは、とってとって~」
「はぁ!? 僕が!」
「ジョウくんが~!」
 取りやすいように顔を寄せると、慌てふためいて面白い。
 それでも、ん、と行為を求めれば、恐る恐る、ゆっくりと、指を伸ばしてくれるのだ。

「…………これで、いいかよ」
「ん! ……あ、ジョウくんジョウくん」
「今度はな――――――」
 ちろり、と。
 色の薄い肌に舌を伸ばした。

「クリームついてた! んっ、あまあま~」
 触れた感触は、冷たかった。
 きっと、冷えていたからだろう。

「なっ、あっ、おっ、まっ、おっ、ぐっ、あっ」
「ジョウくん、どしたの? おもしろい?」
「おまままままままっ、今っ、この――――――」
 言葉にならない言葉を、ジョウが吐き出すその前に。

 びゅう、と。

 強い風が吹いて、桜の木が、ざわわと揺れた。
 衝立が防いでくれたから、寒差を感じることはなかったけれど。
 桜吹雪が、冬の夜空を埋め尽くした。
 いのちが散ってつくる、あまのがわ。

「わ――――――きれー……………………」
 思わず見とれてしまうほど。
 二人で、同じものを見てしまうほど。
 幻想的な、光景だった。

「………………ねぇ、ジョウくん」
 桜色の吹雪が、少しずつ空を返してくれる最中に。

「あのね、私――――」
 向日葵は。

「……なんだよ」
「……ん~んっ! なんでもな~い」
 えへへ、と笑顔で続きをごまかして。
 もう一度、きれいだね、と言った。

「なんでもないじゃねーだろ、いつもいらねー話ばっかすんのに」
「そうかな~?」
「そうだろ」
「そうかも~!」
「っ、自覚があんならなぁ、直せよ! ったく――――」
 ブツブツ言いながら、少年はぷい、と顔を背けた。

「……何考えてるか全然わかんねーよ」

 🌻

 わからないのは、きっとお互い様。
 だって、自分だってまだぐるぐるしてる。
 心がぽかぽかするぬくもりも。
 嬉しさも、安心も、それから、胸の鼓動も。
 まだまだ、言葉にするには足りない、小さな小さなかけらたち。
 だから。

 この熱は、伝えるにはまだいいかなって。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三崎・瑠花
【みさきけ】○
…うん。本当に不思議だね、姉さん
雪と桜を一緒に見るのは初めてだけど、綺麗だなぁ…
こういうのは写真じゃ伝わりきらないのが残念だよね…せめて、沢山話せるようによく見ておこう

ありがとう、姉さん…!これも一生の宝物にする…
あ、そうだ…俺も…これ。
毛布…じゃなくて、ブランケットっていうんだっけ
ほら、丁度いいから今かけといて。暖かくしないと
まだ足りないかな…はい、オレのマフラーも巻いて
オレなんかより姉さんが冷えちゃう方が大変なのに

来年は…そろそろ姉さんも、彼氏とこういうのを見に来れるといいね。
オレ?オレはいいの。
オレみたいなのにはどうせ、できっこないし…
姉さんが居れば、それで十分幸せなんだ。


三崎・茉莉亜
【みさきけ】

ルカ、見て見て
ほんとに桜の木に飾り付けしてるのね
桜のクリスマスツリーなんてすっごい不思議
や~、パパとママもきっと見たがってるだろうなぁ
堪能していきましょ、ね

と、いうわけでクリスマスだからね
今年はお姉ちゃんからプレゼント
ほら、最近寒いから革のグローブね
気に入ってもらえるといいんだけど
あれ、ルカもくれるの?
くれちゃうの
へっへ~、やったぁ
ありがと、大事にするからね
そんなにしなくても!?
ルカも寒いでしょほら、私のが野生に近いんだから

あははは、探してるんだけどなかなかねぇ
まま、こういうのは運命だし
ルカこそいい子いないの?
こんなにかっこいいのに?
ほら、もっとしゃんとする
自信持つ
頑張んなさいよ



「ルカ、見て見て。ほんとに桜の木に飾り付けしてるのね」
「……うん。本当に不思議だね、姉さん」
 三崎・茉莉亜にとって、家族と過ごすクリスマスは日常だった。
 三崎・瑠花にとってもそうだろう。
 もし何か違うところがあるとすれば、それは両親がいないこと。
 家族勢揃いじゃないクリスマスは……多分、初めてだった。

「色々あったけど、ルカと見に来れてよかったわね?」
「う、うん! オレも姉さんと来れてよかった……!」
 背が高く、強面で、眼光鋭い黒の狼。
 それが、瑠花という人狼であった。
 あまりに目つきが尖すぎて、人から恐れられるのが――――いや。
 “人から”恐れられるのが嫌で。
 場合によっては不精とも見れるほど前髪を伸ばし、殻を作っている。

 ……そんな彼も、大好きな姉と二人きりで、喧騒と無縁のクリスマスとなれば、尻尾だってぶんぶんと振ろうというものだ。

「雪と桜を一緒に見るのは初めてだけど、綺麗だなぁ……」
 そして、見上げる景色は、未知の世界。
 白と桜は織り混ざって、この世のどこにもなかった景色を描き出す。

「や~、パパとママもきっと見たがってるだろうなぁ、写真でも撮っていこっか?」
「写真で見ても……あんまり、伝わらない気がする」
「そう?」
「桜も、雪も、動いてるから、綺麗なんだと思う。切り取っても、多分、冷たいだけだ」
 じぃ、と空を見上げる瑠花の目は、舞う粒の一つ一つが、どこへ飛んで、どこへ落ちていくのか、しっかりと捉えているかのようで。

「……だから、せめて、沢山話せるようによく見ておこう」
「ん、そだね。たーっくさん目に焼き付けよう」
 思い出話をお土産にするために。
 そんな姉弟のクリスマスパーティが、始まった。

 🐺

「というわけで、クリスマスだからね! 今年はお姉ちゃんからプレゼント」
 先に切り出したのは、茉莉亜の方だった。

「ほら、最近寒いから革のグローブね、つけてつけて」
 家族間でのやり取りだけあって、持って帰ってからとか、そういう間が一切ない。
 言われるがままに包みを(それはもう、丁寧に――)開けて、出てきた黒いそれを手に嵌める。
 指の先までしっかりと覆うレザー製、ぐーぱーと何度か指を開いて、フィット感を確認し。

「ありがとう、姉さん……! これも一生の宝物にする……!」
 目を輝かせながら、瑠花は言った。
 グローブが欲しかった、というよりは。
 姉が、自分のことを考えて、自分のために選んで、用意してくれたことが何より嬉しい。

「あはは、気に入ってくれてよかっ――――そんなにしなくていいんだよ!?」
「いやだ、する」
「強情!? ……もー」
 そんな事を言いながら。
 満更でもない表情をするのが、茉莉亜という女性なのだった。

「……………………」
「ん? どったの? ルカ。グローブ、きつかった?」
「う、ううん。ぴったり……あ、その、俺も」
 どことなくもじもじしているような。
 言い出すタイミングを伺っているような。

「俺も?」
 であれば、促すのが姉の勤めというものだ。

「…………プ、プレゼント、持ってきた!」
「あら、ルカもくれるの? ……くれちゃうの!
「う、うん、あげちゃうんだ!」
 がさごそと袋を漁って、取り出したのは、広げれば大きな布地。

「わあ」
「毛布…じゃなくて、ブランケットっていうんだっけ」
 茶色や薄い橙といった、暖色で構成されたチェック模様のブランケットだった。
 触ってみれば、肌に引っかかる感触もなく、ふわりとした暖かさが伝わってくる。

「ほら、丁度いいから今かけといて。暖かくしないと。風が来ないとはいえ、寒いんだから」
 座る姉の膝にブランケットをかけて、それから、顔を隠していたマフラーも解いて、ぐるぐると巻いていく。

「あはは、ほんとだあったか…………ちょっとちょっとちょっと」
「ん?」
「ん? じゃなくて! そんなにしなくてもいいよ、ルカも寒いでしょ?」
「オレはいいよ、オレなんかより姉さんが冷えちゃう方が大変だよ」
「よーくなーいよー、私のが野生に近いんだから、寒さには強いの」
「でも……」
「でもじゃなくて、ほら」
 ブランケットを大きく広げて、茉莉亜はにかりと笑った。

「一緒に温まりましょ」

 🐺

 姉弟で寄り添って、用意されたケーキや軽食をつまんで。
 景色を見上げながら、温かいココアを飲んで。
 桜にも見慣れて、心地よくなってきた頃。

「来年は…そろそろ姉さんも、彼氏とこういうのを見に来れるといいね」
 不意に、瑠花がそう言った。
 一瞬、きょとん、としてから。

「あはははははははっ!」
 けらけらと言う声が聞こえるぐらい、大きく笑って。

「探してるんだけどなかなかねぇ、まま、こういうのは運命だし」
「運命……」
「そ、びびっと来ないと。ルカこそいい子いないの?」
「オレ?」
 自分に返ってくるとは思っていなかったのか、今度は瑠花がきょとんとした。

「オレはいいの。オレみたいなのにはどうせ、できっこないし……」
「もー、もっとしゃんとする! こーんなにかっこいいのにできないわけない!」
「え、ええ……」
「もっと自信もって、胸張って、私にしてくれたみたいに、誰かにしてみな?」
「…………姉さんにするみたいに?」
「そ。そしたらカッコいいもん、彼女なんてすぐすぐ」
 ぐしぐしと、頭を撫でられる。ぼさぼさの髪の毛が、くしゃりと混ぜられた。

「頑張んなさいよ」
 どこまでも家族を信じて。
 どこまでも弟を信じて。
 そんなふうに言ってくれる姉の手の温度を感じながら。

「姉さんが居れば、それで十分幸せなんだ」
 瑠花の口から、気づけばそんな言葉が溢れていた。
 いつか姉の隣に、誰かがいるようになった時。
 そこに自分の居場所は…………なんて考えるのは。
 怖いから、やめた。
 少なくとも、今は、隣にちゃんといる。
 笑っている。
 触れ合っている。
 だから、それでいい。
 この瞬間だけは。
 この聖夜だけは。

 自分たちだけのものだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天樹・夢芽
【晴夢】


すごいです、セイ君っ
桜のツリーなんてお誕生日とクリスマスが同時に来たみたいですっ
って、今日はクリスマスですけど
ちなみにユメの誕生日は4月9日ですよ?

えへへ、と柔和な笑顔で誘ってくれたセイ君と雑談を
最近あった温泉や聖樹迷宮のお話を聞いて

……ふーん、へー

と、わざと少しすねた様子で相槌をうって

色んな女の子と沢山遊んでて楽しそうですねっ
もしかしてこれからカナちゃんたちも来るんでしょうか?

にこにこと笑顔で圧を
実際に来たら大歓迎なのでセイ君に意地悪してるだけです

しょうがないですねぇ、セイ君は
じゃあ来年
来年の一番最初がユメだったら許してあげますっ
だから元旦は一緒に朝日と初詣にいきましょうねっ?


西塔・晴汰
【晴夢】


夢芽を誘って来てみたっすけど、こりゃあ壮観っすね…
桜と雪を一緒になんて他じゃあ見られないっすよねぇ
そっか、夢芽の誕生日って春先なんっすね
そりゃ覚えとかないとっすね!

ここんとこ温泉は迷宮になるし、世界樹は迷宮になるしすげーバタバタしてたっすから、
なんか今すごいのんびり気分っすね
温泉も珂奈芽と鉢合わせちまって、まー慌てたっつーかー…

あれ、あの、夢芽?
いやほら、色々あったっつーか、うん
聖樹迷宮はちぃっと夢芽とタイミングよく会えなかったみたいなのもあってっすね?
か、珂奈芽はここにはきてないはずっすから!ね!
…たぶん

わ、わかったっす
来年一発目は夢芽と一緒っすよ
縁起のいい年はじめにするっすね!



「こりゃあ……壮観っすね……」
 風が吹くたび、花びらが舞う。
 サクラミラージュ自慢の桜は、それでも咲く花弁の数を減らしたりはしない。
 散るたびに蕾がついて、また咲く。
 そんな桜と、雪が混ざって、空を染めるマーブル模様は。

「すごいです、セイ君っ! 桜のツリーなんてお誕生日とクリスマスが同時に来たみたいですっ!」
 両手を広げてはしゃぐ少女の、お気に召したらしい。
 文字通り目を輝かせながら、天樹・夢芽は両手を広げ、くるくるその場で回って、振ってくる花びらに手を伸ばしては、掴み損ねて、それすら面白いのか、きゃいきゃいと笑う。

「そっか、夢芽の誕生日って春先なんっすね」
 そんな姿を見ていれば、自然とこちらもほころぶというものだ。
 保護者兼、えすこーと役(夢芽談)として付き添う西塔・晴汰は、少女を見守りながら言った。

「えへへ、そうです、ユメの誕生日は4月9日ですよ?」
「覚えたっす、覚えたっす」
「ホントのホントですかー?」
「ホントのホントっすよ!」
「じゃあじゃあ、プレゼント、たーのしみにしてますっ!」
 そんなわけで、二人のクリスマスパーティは、にぎやかにスタートしたのだった。

 👼🏻

「セイ君っ! このケーキ、おいしいです! すごいですっ!」
「どれどれ……お、ホントだ、桜の味がするっすね」
「これ、桜味なんですかっ!?」
「んー、そうっすねえ、桜餅とか、柏餅とか……そういうのと似たような感じっすかね?」
「そうなんだぁ……初めて食べましたっ! えへへ……んふふーっ」
 口いっぱいにケーキを頬張って、これ以上ないと言うぐらい顔を蕩けさせる。
 控えめに言って、夢芽は幸せだった。
 セイ君が横にいて、楽しいお話をしながら、素敵な景色を眺めて、おいしいケーキを食べる。
 こんなクリスマスは、ともすれば初めてかもしれない。

(…………はっ!)
 行けないいけない。
 蕩けすぎている。
 自制心自制心。

(あまり子供っぽいところを見せても、ダメですからねっ)
「オレのもちょっと食べるっすか? ケーキ」
「いいんですかっ」
 決意は秒で崩れて、おいしい一口を分けてもらう始末だった。

「はー……くつろぐつもりで言った温泉は迷宮になるし、世界樹も迷宮になるしすげーバタバタしてたっすから、なんか今すごいのんびり気分っすね」
 それでも、セイ君はリラックスできているようだった。

「温泉……迷宮、ですか?」
「そうっすよ、大変だったっす、温泉も珂奈芽と鉢合わせちまって、まー慌てたっつーかー…………」
「ほぇー、カナちゃんと………………………………温泉で?」
「…………あ、いや」
「…………セイ君?」
 じと、っ、と。
 幼い子供の眼光であるにも関わらず、もし気弱なものが見れば、それだけでたじろいでしまいそうな程の視線。
 それはすなわち、少女の――不信の目!

「いやほら、色々あったっつーか、うん」
「…………ふーん、へー」
「わざとじゃなかったし、ハプニングみたいなもんで」
「でも一緒にお風呂に入ったんですよね」
「それは、その、そう、です。そうっす」
「はぁー…………ほぉー…………」
「ゆ、夢芽?」
 名前を読んでも反応はない。
 数秒、数十秒。数分は、多分かからなかった。

「…………たーっくさん遊んでて、楽しそうですねっ」
 笑顔とは本来、攻撃的な表情である。という仮説がある。
 今の夢芽の顔は、まさしくそれだった。
 ゆぅっくり顔を上げた先にあるのは、ジト目からつながるコンボの、満面の笑み。

「もしかして、これからカナちゃんたちも来るんでしょうか? ケーキをとっておけばよかったですね」
 二人きりのクリスマスのはずではなかったのか、という、言外の責め。
 みるみる顔を表情を青くしていく少年の顔を、笑顔のまま見つめて――――。



 なんて。
 もし本当にカナちゃんが来たら、なんのことはない、単に嬉しいだけだ。
 でも、ちょっと意地悪するぐらいはいいだろう。
 楽しい時間を過ごしていたことを、夢芽は知らなくて、その場に入れなかったことが、ちょーっとだけ悔しくて羨ましいから。
 ほんの少し、困らせたいだけだ。
 そうすれば、ほら。

「夢芽~、悪かったっすから!」
 埋め合わせをしてくれようと、困った笑顔を浮かべて、自分のことを考えて、手を尽くしてくれるのだ。

「…………しょうがないですねぇ、セイ君は」
 そんな顔をされてしまえば、意地悪を続けることなんて、できやしない。

「じゃあ来年、来年の一番最初がユメだったら許してあげますっ」
 けど、もらえるものはきっちりもらう。
 そう、例えば初詣。
 新年一番の、一日だけは。
 ユメが独り占めしたって、いいですよね?

「元旦は一緒に朝日と初詣にいきましょうねっ?」
「わ、わかったっす」
 腕にぎゅうと抱きついてそう言えば、こくこくと頷く姿が見えた。



 …………困らせてないだろうか。
 …………ワガママじゃないだろうか。
 …………子供っぽくはないだろうか。
 ううん、いいのだ、それこそ、ちょっとぐらい。




「来年一発目は夢芽と一緒っすよ」
 大きな手を、小指を立てて。

「約束っす」
 差し伸べてくれる。まだまだ小さい手では、握るのも苦労する、少年の――だけど、少女から見たら大人の手。
 自分も小指を伸ばして、絡める。約束の感触が、しっかりと伝わった。

「約束、しましたからねっ」
「約束したっすよ、どこの神社に行くか考えないとっすね……」
「ユメは、甘酒が飲んでみたいかも知れませんっ、子供でも飲めるお酒って聞きましたっ」
「あー、いいっすねえ、甘酒、温まるっすし、ってなると……」
 聖夜のパーティは、次の約束へと。
 小さな嫉妬は、いつの間にか吹き飛んで、今はもう、次へのワクワクと、それを相談する楽しみで、胸がいっぱいだ

 メリー・クリスマス。
 仲良く言葉を交える二人を、サクラツリヰは悠然と見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
【冬梅】

簡素なラッピングだけ施した小ぶりなジュラルミンケースを片手に
悪い、ちょいと遅れたか?結構急いできたんだが

もうちょいしたら次の仕事行っちまうんだけどさ…何はともあれメリークリスマス
っかし、マジで互いに色気も何もねえなこりゃ
気遣いなのは分かってるけど、世間のクリスマスムードには合わないぜ

こっちも落ち着いたら、中を見させてもらう
本当はここでのんびりと過ごすのが良いのは分かってんだけどな
やるべきことが多すぎてさ
──上等なごちそうも、ケーキも用意できなくて…その、悪かった
お前は、何も予定無いの?…そか
友達とか、気になる野郎とかと過ごしててもよかったんだぜ
…じゃ、俺はもう行く
身体冷やさないようにな


徒梅木・とわ
【冬梅】

あたっしゅけえす片手に桜の下
お互い仕事合間の隙間時間、落ち合うのに都合がよかったとはいえ……
くふふ、これじゃあ怪しげな取引現場みたいだねえ?

ま、何はともあれお疲れ様
そして、ああ。めりいくりすます
くふふ、悪いね。煌びやかな入れ物じゃあなくってさ
だがキミには都合がいいだろう?

しかしまあ、中を見る暇もないとは
一息ついたら確認するするよ
まあ?
とわが忙しないのの半分は?
キミがあれこれ壊してくるからだけれど?
この後は工房でめんてだし?
……くふふ、別にそのために予定を空けたとかはないけれどさ
やりたい事をやっているだけだよ、気にすることじゃあない

次の帰りは知らないが、いってらっしゃい。気を付けてね



 ちらり、ちらりと桜舞う。
 ふわり、ふわりと雪が舞う。
 両手でマグを持ちながら、女は静かにヒトを待つ。

 ひゅうひゅう、風が鳴いている。
 さわさわ、花が鳴いている。
 焦らなくていいから、ゆっくりおいで。
 待つのは、“永遠”ではないのだから。
 わかっていれば、それは別に、辛い時間ではないのであって。




「悪い、ちょいと遅れたか?」
 ほうら、来た、来た。




「いいや、今さっき来たところだとも?」
 とわが狐で良かったね。
 ヒトなら、耳が真っ赤になってしまっているところだったよ。

 🦊

「ま、何はともあれお疲れ様、せめてあたたかいものでも飲んでいきなよ」
「いいよ、もうちょいしたら次の仕事行っちまうし……」
「一息も、一口も、つく余裕すらないのかい」
「…………一口ぐらいはあるかな」
 なら、ほら、と。
 男は、差し出されたマグを受け取って、促されるままにかちん、と小さな乾杯をした。

「めりいくりすます」
「ああ、メリークリスマス」
 本当に一口だけ中身をすすると、手に持っていたジェラルミンケースを、とんと地面に敷かれたマットの上に置いた。
 心ばかりのラッピングが施されていて――ジェラルミンケースにラッピングというのもどうなのか――それがどういう意図のものであるかは、見て取れた、わかった。

「あたっしゅけえす片手に桜の下……くふふ、これじゃあ怪しげな取引現場みたいだねえ?」
 それを今更、不格好とは笑うまい。
 誠意の形はヒトそれぞれで、彼の形を、女は知っている。
 だから、女も、用意していたものをそっと手渡した。

「くふふ、悪いね。煌びやかな入れ物じゃあなくってさ」
 簡素な布にくるまれた、色気もなにもないものだけど、男はそちらのほうが、都合がいいだろうとこしらえたものだ。

「そりゃあお互い様だ、っつーか、あー…………」
 頭をがしがし掻いて、申し訳無さそうに男は言う。

「……上等なごちそうも、ケーキも用意できなくて……その、悪かった」
 “できなかったこと”に対して、そんな事を言うのは珍しい。
 だから、男にとっては多少なりとも、気に病むことなのだろう。

「くふふ」
 けれど、そんな感情を抱く男とは裏腹に、女は、小さく笑ってしまう。
 ……そういう相手が自分であることは、なかなかどうして、悪くない。

「お前は、何も予定無いの? ……友達とか、気になる野郎とかと過ごしててもよかったんだぜ」
 そいでいて。
 
「お互い、仕事合間の隙間時間って言ったろ? とわもこの後、戻るさ――まあ?」
 気遣いのつもりか、そんな事を言うのだから。


「とわが忙しないのの半分は?」
 ちょっとぐらい。

「キミがあれこれ壊してくるからだけれど? この後は工房でめんてだし?」
 意地悪したくなる。

「……………………わーるかったって、埋め合わせはするよ」
「くふふ、いらないいらない」
 ころころ笑う、くすくす笑う。
 大事なのは、今日をどう過ごすかではなくて。
 ヒトの心に、誰が座っているのかなのだから。

「やりたい事をやっているだけだよ、気にすることじゃあない」
 別にそのために予定を空けたとかはないからさ、と。
 言葉を添えて、女はふぅ、と息を吐いた。

「もういくんだろう?」
「…………ああ、本当はここでのんびりと過ごすのが良いのは分かってんだけどな」
「どうせ、キミは落ち着けやしないよ、温泉でだってそうだったじゃないか」
「それは――――――それ、これはこれだろ」
「くふふふふ」
 あの様は、なかなかに面白かった。
 思い出し笑いをこらえていると、バツが悪そうに、男は踵を返した。

「……じゃ、体冷やさないようにな」
 頬を軽く示して、男は言った。

「大分待たせて、悪かったよ」
「――――――――」
 一瞬。
 言葉に詰まったことを、後から振り返って、悔しいと思うだろう。
 まったく、本当によく見ている。

「……うん、キミもね」
 ひらひらと、手を降って。

「次の帰りは知らないが、いってらっしゃい。気を付けてね」
「ああ」
 女は、男を見送った。

 🦊

 全く、なんて忙しない。
 お互い贈ったプレゼントの中身すら、確認する暇もなかった。
 今、それを知るのもなんとなく違う気がした。

 ちらり、ちらりと桜舞う。
 ふわり、ふわりと雪が舞う。
 両手でマグを持ちながら、女は静かに目を閉じる。

 ひゅうひゅう、風が鳴いている。
 さわさわ、花が鳴いている。
 焦らなくていいから、ゆっくりおいで。
 待つのは、“永遠”ではないのだから。
 わかっていれば、それは別に、辛い時間ではないのであって。

「だから、別に寂しくはないさ? ほんとうだとも」
 一口、マグの中身をすする。
 中身は、とっくに冷たくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月04日


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト