●アルダワ魔法学園
二人の少女が、地下迷宮の一つを訪れていた。
地下といってもごく浅く、敵もほとんど出ないため、戦闘が不得意な生徒でも気軽に来られる場所であった。
「え、なにこれ」
「な、なんで、こんなことに……」
少女たちが驚きの声を上げる。
このエリアでは学園内でよく使われる薬草が採集できるのだ。特に今の時期は、青々とした薬草が生い茂っているはずだった。だが、少女たちの目に映る薬草たちは、そのほとんどが萎れ、一部は枯れかけているものもある。
異常はそれだけではない。
「な、なんか寒いね」
「う、うん」
本来ならばありえない状況に、二人は警戒をあらわにし、原因を探ろうと周囲を見渡す。
まだまだ弱い二人だが、それでもこの学園にいるものは全て戦うすべを、覚悟を持つ者だ。異常があるのならば、原因を取り除く、または情報を手に入れる。それが自分達のなすべきことだと知っている。
そして、少女たちは見つけた。
壁にあいた縦横2メートルほどの穴から、冷気が噴出しているのを。
二人は何度かこのエリアに来ているが、こんな穴があった記憶はない。
「これって、新しい迷宮の入り口?」
「たぶんね」
「先生に知らせよう!」
「うん!」
二人は慌ててその場を後にした。
●グリモアベース
「まずは、集まってくれたことに感謝を」
長身のエルフが、猟兵たちにむけ軽く頭を下げた。グリモア猟兵のプレケス・ファートゥムだ。
「『アルダワ魔法学園』に向かい、新たな迷宮を作り出したフロアボスを撃破してもらいたい」
蒸気機械と魔法で創造した究極の地下迷宮からの脱出を図る災魔たちと、それを防がんとする学生たちが日夜戦い続ける世界。それが――『アルダワ魔法学園』。
「フロアボスは、ドラゴンだ。もともとは、遥か北方にいた冷酷な若いドラゴンだったのだが、倒されたあとオブリビオンとして蘇った。奴は、かつての栄光を取り戻すために、下僕を集め迷宮内に自分の王国を築こうとしている」
すでに、フロアボスは、苦役の果てに死んだ囚人や罪人を骸の海より蘇らせ、死霊兵として使役している。今はまだその数も少ないが、放置すれば数を頼んで学園へ侵攻してくる可能性もある。それを食い止めるために、早急にフロアボスの元へ向かい、速やかに討伐しなければならない。
また、その迷宮から漏れ出す冷気により、薬草エリアがダメージを受けていることも問題となっている。長期にわたれば、薬草の不足という事態に陥るだろう。
「迷宮の奥へと続く通路なのだが、現在水没している。うむ、通路というより、水路というべきだろうな」
そういうと、プレケスは予知を元に書き出した、水路の地図を猟兵たちに配る。
地図で見る限り、その水路は、いくつか分岐しているが、あくまでも通路が水没しているだけなので、迷うような構造ではない。また地図には息継ぎのできるポイントがいくつか書き込まれており、泳ぎが苦手なものでもこれをうまく使えば、踏破することは可能だろう。
また、壁や、本来なら天井に当たる部分が発光しているため、視界に関しても問題はない。
「注意すべき点は二つ。まず一つ目。どうも水路がどこかで外部と繋がっているらしく、きつめの水流がある。流されないように気をつけてほしい」
なお、流れの元がわからないため、水流をあらかじめ止める事は不可能だ。
「二つ目。水路の水の温度が、かなり低い」
フロアボスの影響で冷たいのかどうかは不明だが、わかったからといって対処はできない。何しろボスは、水路の奥にいるのだから。
「水路を抜け少し歩けば、広い空間がある。そこに、フロアボスのドラゴンによって呼び出された死霊兵がいる。最初は整然と並んでいるが、こちらに気づけばすぐさま襲い掛かってくるだろう」
そこは天井も高く、戦闘に支障が出ることはない。
「そして、その奥に、巨大な氷の塊がある。中は空洞になっている。それこそ氷のホールと言った様相だな。……そこにフロアボスがいる。奴はホール中央で、待ち構えている。逃げも隠れもせずに、悠然と、強者として、侵入者を打ち滅ぼすために」
ふうと、プレケスが一つ息を吐く。
「私が君たちに告げられる情報はここまでだ。敵は強力だが、君たちなら切り抜けられるだろう。……目的を果たした君たちの、無事の帰還を待っている」
白月 昴
お目を通していただきありがとうございます。
白月・昴です。
今回はシナリオの流れは、
一章 『水路の攻略』
二章 『死霊兵との集団戦』
三章 『ドラゴンとの戦闘』
となっております。
一章は致死的なトラップなどはなく、ただひたすら泳いで(潜って)いただくだけです。ただし、水はとても冷たいです。
一章から二章までの間に、猟兵たちの服や体はなぜか乾いてしまいますので、二章から参加の方も、濡れているかは気にせずご参加ください。
皆様のプレイングを心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『水没した通路』
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POW : 体力や肺活量に物を言わせて、泳ぎ切る
SPD : 乗り物や効率的な泳法を用いて、すばやく泳ぎ切る
WIZ : 水流を正確に読み、流れに乗って速やかに泳ぎ切る
👑11
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猟兵たちがテレポートした先は、フロアボスによって作られた迷宮の中。
目の前には、発光する壁に照らされ、きらきらと輝く水面が広がっている。見ているだけならば、綺麗な光景だといっても良いだろう。
だが、水は凍りついていないことが不思議なほど冷たい。
この水路と化した通路を抜ける以外、最奥のフロアボスに到達する道はない。
イーファ・リャナンシー
つ、冷た…こーんな小っちゃいイーファちゃんを掴まえて泳げだなんて鬼ね
最初は真面目に泳いでるけど、だんだん馬鹿らしく…っていうかしんどくなって水流を読みながら流れる方針に切り換えるわ
ほら、私って軽いからいっそ流されちゃった方が速いんじゃないかって思うの
もし流れに任せるだけで切り抜けられない事態に直面した時は、目の前の水を壺から【フェアリーランド】に吸い込んで前に進んだり、逆に壺を後ろに向けて水を出して進んだり…みたいな方法が使えたら良いなって思うわ
それにしてもなんて寒さなの…早く帰って温かいスープが飲みたいわ
贅沢は言わないけれど、熱ーいお風呂に暖炉で暖めた部屋が待ってたとしたら最高かなって思うの
フェアリーのイーファ・リャナンシーは、その小さな手をそっと水の中に差し入れる。
「つ、冷た……こーんな小っちゃいイーファちゃんを掴まえて泳げだなんて鬼ね」
そう言いながらも、イーファは覚悟を決め、水の中に身を躍らせた。
覚悟していても冷たいものは冷たい。できる限り早くこの水路を抜けようと、イーファは真面目に泳ぎだした。
だがだんだん馬鹿らしく、いやしんどくなってきた時、イーファは思いついた。「私って軽いからいっそ流されちゃった方が速いんじゃないか」と。
水流を正確に読み身を任せれば、イーファの体は時折くるくると水の渦に巻かれながらも、順調に出口へと運ばれていく。
(それにしてもなんて寒さなの……早く帰って温かいスープが飲みたいわ)
内心ぼやきつつ流されていたイーファの目に、分岐点が映る。
地図に照らし合わせると、右側へ行くとかなりの遠回りになるはずだ。
そして、イーファの捕まえた流れは、遠回りの右側へと流れている。イーファの小さな手の推進力だけでは、今の流れを脱して、左へ流れる水流を捕まえることは難しい。だが、この冷たい水の中に長々といるなど論外である。
それならと、イーファは小さな壺を取り出し、周りの水を吸い込み始めた。壺は、その大きさからありえない量の水を吸い込んでいく。イーファのユーベルコード【フェアリーランド】だ。
とはいえ、水路の水を全て吸い込もうというわけではない。
水を吸い上げたため、右への水流がわずかに弱くなり、イーファの体が左側への流れのほうへと引き寄せられる。最も近寄った瞬間、イーファは壺に吸い込んだ水を、今度は勢いよく右への流れに叩きつけるように吐き出した。
壺から噴出す水の反動で、イーファの体は右の流れを振り切り、見事に左側への流れに乗ることが出来た。
(やったわ)
目的を達し、壺をしまおうとしたイーファは、その手を止めた。
(そうだ。今みたいに、後ろに向けて水を出して進んだりすれば、もっと早くぬけられるわ)
もう一度水を吸い込み、今度は流れに対して後方へと水を発射すれば、イーファの体はどんどんと水路を進んでいく。
幾度かそれを繰り返し、イーファは一番乗りで水路の出口へとたどり着いた。
「贅沢は言わないけれど、熱ーいお風呂に暖炉で暖めた部屋が待ってたとしたら最高かなって思うの」
冷たい水から開放されたイーファは、空気の暖かさにほっとしながらも、ある意味最も贅沢な望みを口にするのだった。
大成功
🔵🔵🔵
枦山・涼香
この冷たい水の奥で力を蓄えているのですね
そのような企みは全て燃やし尽くさねば
しかし水、水ですか…
あまり濡れたくは無いのですが
WIZを使って冷静に進みませんと
服を脱いで、下着姿になりましょう
髪もまとめておきます
服は畳んで袋に仕舞い持参
水路の地図を暗記するほど読み込んで
息継ぎポイントとその順序を考慮しておきます
あとは覚悟を決めて、自らを鼓舞し進むだけ
地図では水流まで読みきれないでしょうから、
事前準備にはこだわらず水流に逆らわず流れに乗れる道を
体力はここぞというショートカットに投入
水流が如何に強くても、いまこの一瞬だけなら乗り越えてみせます
…水から出たら絶対焚き火(無理でも狐火)で暖をとりますから
「この冷たい水の奥で力を蓄えているのですね。そのような企みは全て燃やし尽くさねば」
妖狐の枦山・涼香は、強い意志を宿した瞳で、冷ややかな水面を見る。
「しかし水、水ですか……あまり濡れたくは無いのですが」
だが、潜っていかなければならないという事実に、いつもぴんとたっている自慢の耳も、今は少ししょんぼりして見えた。
「いえ、そんなことを言っている場合ではありませんね。流れを見極めながら、冷静に進みませんと」
だがすぐに覚悟を決め、涼香は服を脱ぎ、下着姿になる。脱いだ服はきちんと畳んで、防水加工の袋に入れると、流されないようにぎゅっと腰のあたりにくくりつける。
最後に邪魔にならないように髪も纏め、準備完了だ。
事前に渡されていた水路の地図は、読み込んで暗記済みだ。息継ぎポイントとその順序も把握している。とはいえ、さすがに水流についての情報は記載されていないため、それについては臨機応変に対応するしかないだろう。
「参ります!」
自分を鼓舞し、涼香は水の中へと軽やかに飛び込んだ。
水に入れば、襲い来るのは刺すような冷たさ。
これだけ冷たければ、体温もだが、体力もかなり消耗するだろう。
(体力はここぞというショートカットに投入するべきですね)
涼香は流れに無駄に逆らわず、体力を温存しながら水路を進む。
移動そのものは順調だ。だが、流れる水は、留まる水よりも遥かに早く体温を奪っていく。
(……水から出たら絶対狐火で暖をとりますから)
そんなことを考えていた涼香の目に分岐点が映った。どちらの水路も出口へ繋がっているが、右は、左の倍以上の距離があった。狙うべきは当然左なのだが。
(これは……)
地図上では、水路の大きさには差はなかったため、水流の強さもさほど変わらないと思っていたが、実際は右へ向かう水流のほうがかなり強い。
涼香の体も、右へと通じる流れに捕まっていた。
(水流が如何に強くても、いまこの一瞬だけなら乗り越えてみせます)
涼香はこことばかりに、温存してきた体力を使い、右へ続く水流を振り切らんと体を動かす。腕を伸ばし水を捕らえ、足を動かし流れを蹴る。体を引き込もうとする流れに力いっぱいあらがい続け、ふと体が軽くなる。そして、今までとは違う方向へと体が押し流される。
(やりました!)
涼香は無事、左への流れを捕まえた。
ここさえ乗り越えてしまえば、出口まではもう一本道だ。最難関というべき場所を通り抜けた涼香は、ほっと力を抜き、水流に体を預けた。
何度かの息継ぎを挟み、ついに涼香は水路の出口へとたどり着いた。
寒さで動きの鈍くなった体を、引き上げるようにして、水から抜け出す。チャームポイントの、ピンとたった狐耳とフサフサの尻尾が、水に濡れてぺったりとなってしまっていた。
涼香はすぐさま自身の周りに狐火を生み出した。
狐火のもたらす暖かさを味わいながら、涼香は奥に巣食うオブリビオンたちを必ずや焼き払うと、強く心に誓うのであった。
成功
🔵🔵🔴
アシェラ・ヘリオース
「やれやれ。迷宮内で寒中水泳とはな」
黒衣をパックに仕舞い身軽になると、【オーラ防御】を纏って水に入る。
この迷宮だと、飛翔して進むのは逆にリスクが高いだろうと言う判断だ。
「奴等に頼むのも不安だが……是非もないか」
黒騎を召還する。
『指揮官殿の生足ヨシ!!』
召還された黒騎達は浮かれた声でガッツポーズする。
冷ややかに睨まれたので任務に戻る。
1.探索ルートを広域探索
2.数騎を流して水流を読む
3.泳ぎ切るゴールの設定
等のための【情報収集、撮影】を【迷彩】で行う。
戦闘回避し情報の入手を優先順位の上位におく。
指揮官殿を長く冷水につける訳にもいかない。
他の猟兵達にも会えば援助を行おう。
【アドリブ、連携歓迎】
オーガスト・メルト
水かぁ…苦手なんだよな。
とりあえず、デイズとナイツは懐に入ってろ。
『うきゅー』『うにゃー』
寒いのは我慢しろ。俺だって嫌なんだ。
【POW】連携・アドリブ歓迎
水路突入前に【蜘蛛の手甲】のフック付きワイヤーをどこかに引っ掛けておく。
後から続く奴や帰る時のガイドになるかもしれないからな。
水温は懐の【竜焔石】の熱と【オーラ防御】で耐える。
後はひたすら水中を【ダッシュ】するように泳ぐ!
無理をせずに息継ぎポイントも活用して確実に突破しよう。
ふぅ!水路を抜けたぞ!デイズ、ナイツ、大丈夫か?
『うきゅきゅきゅきゅきゅ…』『うにゃにゃにゃにゃにゃ…』
…あ、凍えてる。しっかりしろー!竜焔石カイロに抱きつくんだ!
「水かぁ……苦手なんだよな」
人間のオーガスト・メルトが、ひやひやとした水面を見つめ、憂鬱そうな声をだした。
『うきゅー』
『うにゃー』
オーガストの肩にいる、白と黒の小さな竜(ただし体は饅頭型)二匹が声を上げる。
「寒いのは我慢しろ。俺だって嫌なんだ」
どうやら、寒いという苦情だったらしい。
とはいえ、水が嫌だとか、寒いからといって自分達のすべきことを、放棄するつもりはない。ただ、ちょっと文句が出てしまうだけだ。
「やれやれ。迷宮内で寒中水泳とはな」
スペースノイドのアシェラ・ヘリオースが、あまりの寒さにため息を漏らした。その息は寒さで白く染まる。
「奴等に頼むのも不安だが……是非もないか」
少し迷いつつも、アシェラはユーベルコード【黒騎招来(サモン・ダークナイツ)】を発動させる。
大量の小さな黒い騎士が現れた。それは、小型の戦闘用兼広範囲偵察用の闇鋼製騎士ユニットで、情報収集には大変役に立つ。必要とあれば迷彩も可能だ。
「うわ、なにこれ?」
「戦闘兼偵察用のユニットだ。これから、これに探索ルートを広域探索、および敵の捜索を行わせる」
アシェラが、自分の周囲を取り巻く大量の黒騎を指さす。
「ん?地図があるし、大体のルートはわかるだろ。敵も出ないんじゃないのか?」
「確認のためだ。あと、さすがに水流まではわからない。最短ルートをとっても、強力な水流で通れない、となっては意味がないだろう」
「確かに。けど水流なんてどうやって調べるんだ?」
「ああ。黒騎を数騎流す」
さらっと告げられた内容に、
トが目を瞬かせる。結構雑な扱われ方をされているようだが、黒騎たちは気にした様子もなかったので、オーガストは何も言わなかった。
アシェラは黒衣をパックに仕舞い身軽な姿になりながら、黒騎たちに指示を飛ばす。
『指揮官殿の生足ヨシ!!』
召喚された黒騎達は浮かれた声でガッツポーズをした。黒衣を脱いでいるアシェラに、テンションがあがってしまったようだ。
「何をしている?」
アシェラの生足に目を奪われている黒騎に、アシェラが冷たい目を向けると、黒騎たちは慌てて任務にもどっていく。
黒騎たちの様子に、オーガストが「大丈夫なの、これ」的な視線をアシェラに向ける。その視線を受け、アシェラは深々とため息をついた。
「頼れる部下達だ。その軽薄さまで再現されたAIだがな」
そうこうする間にも、黒騎たちから集められてくる情報がアシェラによって纏められていく。
「ここまでは、特に問題がない。問題はこの大きな分岐点だな」
地図の上をアシェラの指が走る。
「ふむふむ」
「さして通路の大きさは変わらないが、実際は右側への流れがかなり強い。右側でも出口へと到達できるが、右側は左側よりも距離が倍以上あるな」
「左だな!」
オーガストは即答した。無論アシェラに反論はない。
「方針も決まったことだし、行くか」
「そうだな。と、そうそう」
オーガストが、『蜘蛛の手甲』のフック付きワイヤーを、通路の壁の突起部分にひっかける。
「ん、それは?」
「ああ、後から続く奴や帰る時のガイドになるかも、と思ってな」
「なるほど。確かに、用心するにこしたことはないな」
アシェラが感心したように頷いた。
準備万端とばかりに、二人はオーラ防御を張る。さらに、オーガストは『竜焔石』――火竜の喉にあるとされる発火の魔力を秘めた宝石――をカイロ代わりに懐に入れた。
「とりあえず、デイズとナイツは懐に入ってろ」
竜焔石がある懐が一番暖かいだろうと二匹を誘う。二匹も大急ぎで、オーガストの懐へと入り込む。
二匹が懐に入ったのを確認すると、オーガストは勢いよく飛び込んだ。
水の中に入った瞬間、オーガストの脳裏を埋め尽くしたのは「冷たい」という言葉だった。懐の竜焔石カイロのおかげで、多少なりともましだが、指先や足先など、体の末端はどんどんと冷え始めてくる。
(よし、いくか)
オーガストは水を勢いよく蹴り、先程示された最短距離を、ひたすら水中をダッシュするように泳ぐ。
続けて、アシェラも水の中に飛び込んだ。
水の冷たさに顔をしかめる。これ以上冷えていけば、水路全体が凍りつくかもしれない。そうなれば、フロアボスの企みを止めることが難しくなるだろう。それは阻止しなければならない。
そして、オーガストのはったガイドのワイヤーをみながら、アシェラもしっかりと泳いでいく。
息継ぎを入れつつ、二人は順調に進んでいく。
そして、問題の分岐が見えてきた。
二人はまだ流れが分岐を始めていない手前の段階で、水路の左壁に寄るように泳ぎ始める。それにより二人は問題なく、左への流れを捉え分岐を抜けた。
あとは、もう一本道だ。今までと同じように、息継ぎを挟みながら、進んでいきついに、水路の終わりへとたどり着く。
「ふぅ!水路を抜けたぞ!デイズ、ナイツ、大丈夫か?」
さばさばと音を立てながら、オーガストが水からあがる。
『うきゅきゅきゅきゅきゅ…』
『うにゃにゃにゃにゃにゃ…』
懐の二匹からは、弱弱しい鳴き声が。
「……あ、凍えてる。しっかりしろー!竜焔石カイロに抱きつくんだ」
大慌てで二匹に、しっかりとカイロを抱かせる。
少し遅れてアシェラも水の中からあがってきた。寒さに顔を青くはしていたが、元銀河帝国の近衛をつもめていただけあって、足取りもしっかりしている。オーガストたちの様子に気づいて、彼らのほうへと足を進めた。
「大丈夫か?」
二匹に視線をやりながら、アシェラが問いかける。
「ああ、凍えただけのようだから」
「そうか」
その返答に、アシェラもほっとした顔をした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
トール・ペルクナス
水中の迷路か
少々手間だが踏破できないということもあるまい
UCを発動して創り上げるのは電動の水中スクーター
動力は機械帯から供給される電気でいいだろう
ついでに取り込んだ水を電気分解して酸素を作り出す機構も内蔵
これで息継ぎの必要もなく泳ぎ続けることができる
「確かに水は冷たいが……」
身体が冷えきる前に泳ぎ切れば問題あるまい
最高速度で突っ切るとしよう
「……とは言った物の流石に冷える」
水の冷たさに曝され凍えた身体ではこれからの活動に支障をきたすな
水中スクーターのスクリューを再度改造して温風を出せるようにして暖をとるとしよう
「この歳だと寒さは堪えるな……」
「水中の迷路か。少々手間だが踏破できないということもあるまい」
人間のトール・ペルクナスが冷気を漂わす水面を眺める。
地図はあるため、そうそう迷うことはない。水流もあるが、泳いで渡れるというのであれば、そこまで危険視する必要もない。
ならば、問題はやはり水の冷たさだろう。
「確かに水は冷たいが……」
トールはユーベルコード【ガジェットショータイム】を発動させる。
召喚されたのは水中スクーターである。
なお、この水中スクーターは電動だ。蒸気魔導文明が発達したアルダワ出身でありながら、電気と物理に魅せられたトールゆえ、生み出されるガジェットも電動なのだ。電力は『機械帯』――トールの開発した電力制御装置――から得ているため、充電切れはない。
トールはスクーターの運転席に座ると、ヘルメットをかぶる。
スクーターには、取り込んだ水を電気分解して酸素を作り出す機構を内蔵しており、これで息継ぎせずに進み続けることが出来るのだ。
「身体が冷えきる前に泳ぎ切れば問題あるまい」
そういうと、トールはスクーターを水路へと進ませた。
流れを切り裂き、スクーターは順調に水中を駆けていく。
(……とは言った物の流石に冷える)
いくら早く駆け抜けても、冷たいものは冷たい。特に体の末端、ハンドルを握る指先などが急速に冷えていく。
耐えるしかないとトールは覚悟を決め、スクーターのアクセルを全開にする。
(む?)
トールの目に、大きな分岐点が見えてきた。最短距離を取るなら、左側へとコースを取るべきだ。だが、強い水流が右側に流れ込んでおり、スクーターはその流れに囚われかけている。
右側に流されれば、確実に体が芯から冷え切ってしまうだろう。
(そのような事態はごめんこうむる)
トールはスクーターを器用に操り、後輪を横滑りさせ、車体を真横に向ける。そして、流れに対し垂直にスクーターを進ませ、一気に右側への流れを振り切った。
危なげなく左側への流れを捉え、水中スクーターは進んでいく。
そうしてトールは水路の終わりへとたどり着いた。
「ついた、な」
スクーターと共に、トールは水路から上がる。
最短距離を駆け抜けてきたが、それでも水の冷たさに曝された体はかなり冷え切っている。
「このままでは、まずいな」
凍えた身体ではこれからの活動に支障をきたすと判断し、トールは水中スクーターのスクリューを改造する。
「よし」
出来上がったのは、温風を吹き出す機械。電動ファンヒーターと言ったところか。
スイッチを入れれば、温かい風が吹き出し、じわりじわりとトールの体を温めていく。
「この歳だと寒さはこたえるな……」
不老の呪いにより体は若々しいままだが、中身は良い年なトールには、この冷たさは骨身にしみたようだ。
成功
🔵🔵🔴
佐藤・和鏡子
SPDで行動します。
普段からスクール水着とセーラー服の上着に看護帽姿なので、看護帽だけ脱いでそのまま水に入ります。
水が冷たいのと、長距離になりそうなので、救急箱に温かい飲み物やチョコなどを用意して入れて補給しながら泳ぎ切ります。
(救急箱はビート板にくくりつけて沈まないようにします)
ルートは地図などであらかじめ把握しておきます。(情報収集・学習力)
ビート板の浮力や流れを利用して、たとえゆっくりとしか進めなくてもあまり体力を使わずに泳ぐようにします。
(実は、普段から水着姿でも和鏡子はあまり泳ぎが得意なタイプではないため、体力の消耗を抑えて泳ぎ続けることを重視しました)
「私も準備しないと」
ミレナリィドールの佐藤・和鏡子は、普段からスクール水着の上に、セーラー服の上着を着て、看護帽をかぶった姿でいる。なので、看護帽を脱げば、水に入る準備は万端である。
ただし、今回はもう一つ準備がいる。
それは、手にしたビート板に、愛用の救急箱をくくりつけることだ。
普段から水着姿の和鏡子だが、実はあまり泳ぎが得意ではない。そのため、補助としてビート板を用意したのだ。
そのビート板に、きゅっきゅっと、救急箱を外れないようにしっかりと固定する。
「できましたね」
こうしておけば、大事な救急箱が水の中に沈んでしまうことはない。
「では行きましょうか」
そう言うと、和鏡子は水の中へと静かに飛び込んだ。途端、全身がひやりとした水に包まれる。
(これは予想以上に体力を消耗しそうですね)
ビート板にしっかり掴まると和鏡子はぱちゃぱちゃと泳ぎだす。
途中の息継ぎの場所で休みつつ、速度よりも体力消耗の少ない泳ぎ方を意識しながら、和鏡子は水路を進む。
(あれは……)
和鏡子の目に、大きな分岐点が見えた。
(確か、左通路へ向かったほうが距離は短いはず)
だが、泳ぎが得意ではなく、ビート板を持っている和鏡子では、右へと向かう強い水流に抗う力はなかった。
下手な抵抗は、余計に体力を削るだろうと判断し、和鏡子は流れのまま右側の通路へ。
右側の通路の息継ぎポイントもしっかりと覚えているため、それについては心配はない。その後もぱちゃぱちゃと泳ぐ。
(そろそろ、辛くなってきました)
ビート板を持つ指がかじかんでくる。
和鏡子は、息継ぎポイントで、水から上がれる場所を見つけ、長めの休憩を取ることにした。
救急箱から温かい飲み物を取り出し、一口飲めば、芯から冷えていた体がふわりと温かくなる。かなり体力も使っているだろうからと、今度はチョコレートを取り出しかじる。
泳ぎの苦手な自分は、時間も掛かるだろうし、手間取るだろうと予測していた。だから、それに備えてこれらを持ってきていたのだ。
体温と体力を回復して、再び和鏡子は水の中へ。
いくつかある息継ぎポイントで、回復しつつ、和鏡子は泳ぐ、ひたすらにまっすぐ。
苦手ながらも、くじけることなく一生懸命前に進み、ついに和鏡子は、ゴールへとたどり着いたのだった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『死霊兵』
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POW : 剣の一撃
【血に濡れた近接武器】が命中した対象を切断する。
SPD : 弓の一射
【血に汚れた遠距離武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : 連続攻撃
【弓の一射】が命中した対象に対し、高威力高命中の【剣の一撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
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水路を潜り抜け、しばし歩くと発光していた壁は途中で消え、土壁へと変化した。
ところどころが凍りついた通路を少し進み、カーブの手前で猟兵たちはほぼ同時に足を止める。
無言で交わされる視線。誰もが理解していた。このカーブの先に、フロアボスの集めた死霊兵たちがいると。
見つからないように細心の注意を払い、様子を伺えば、土壁の広いホールのなかには、整然と並ぶ死霊兵たちの姿が見て取れた。
フロアボスの元へ向かうには、これらを蹴散らす以外に方法はない。
イーファ・リャナンシー
あらら…私、こういう見た目の敵、あんまり得意じゃないの
でも、そんなこと言ってたら先に進めないわね
弓からの攻撃が厄介ね
骨が折れるけど、地道にやっつけながら進むしかないわ
【スピリット・アウェー】で姿を消しつつ、他のみんなより小さい体だって活かしながら敵の攻撃を掻い潜るわ
相手もこの世界には元々あんまりいない類の大きさの侵入者だから、どっちかといえば対応し辛いんじゃないかしら
時に姿を現したり消したりしながら、敵同士で誤射を起こさせたりできたら面白いわね
ま、でも隠れてこそこそばっかりも面白くはないから、敵の後ろを取ったら【全力魔法216】で吹っ飛ばすわ
そうやって少しでも効率的に先へ進んでいくことにするわ
オーガスト・メルト
さて、冷えた体を温めるのに丁度いい相手だ。
デイズ、ナイツ、少し派手にいこう。
『うきゅー!』『うにゃー!』
【SPD】連携・アドリブ歓迎
ドラゴンランス形態のデイズを構えて真正面から【ダッシュ】で突っ込む。
ナイツは肩の上でUC【アームバレル】を起動!
こっちに飛んでくる飛び道具を複写して相殺してくれ。
『うーにゃー!』
【見切り】【残像】【オーラ防御】で近接攻撃をかわしつつ、ランスで敵を【なぎ払い】、【吹き飛ばし】する。
デイズ、ついでに【属性攻撃】で燃やしてやれ。
『うっきゅー!』
おいおい、俺たちにばかり気を取られてていいのか?
こちらにも仲間はいるんだぞ?
「弓からの攻撃が厄介ね」
死霊兵に気づかれないように様子を伺っていたイーファ・リャナンシーは、嫌そうな顔をした。
イーファの種族であるフェアリーはもともこの世界には存在しない。もっとも小さなケットシーですら、フェアリーの1.5倍の大きさだ。さらに、空中を飛び回っているために、彼らが自分を狙うのは、難しいだろう。
だが、この場所から、彼らのいるホールへ入った瞬間、一斉に矢を放たれたとすれば回避は至難の業だ。ユーベルコードを使い姿を隠すつもりだが、音や体温は消せない。そして、それらに、あの死霊兵たちが気づくかもしれない。
「初弾の対応は俺に任せてくれ」
人間のオーガスト・メルトが、悩むイーファに声をかけた。
オーガストの肩には二匹の丸いシルエットの竜が乗っている。
「お任せしていいのかしら」
「もちろん」
気負うことなく了承するオーガストの姿に、イーファは策があるのだろうと判断するとにこりと笑う。
「ならお願いするわ」
場を譲るようにイーファは少し下がり、それを受けオーガストがイーファの前に出た。
「さて、冷えた体を温めるのに丁度いい相手だ。デイズ、ナイツ、少し派手にいこう」
『うきゅー!』
『うにゃー!』
二匹のドラゴンが、元気な鳴き声で答える。
下がったイーファは、ユーベルコード【スピリット・アウェー】を発動させた。
イーファの体がすうっと消えて、見えなくなる。
「さーて、隠れんぼの始まりよ」
姿は見えないが、そのどこか楽しげなイーファの声に、準備は整ったようだと判断したオーガストは、肩の竜を呼ぶ。
「デイズ!」
『うきゅー!』
オーガストの声に答え、10cm程のヘンテコ饅頭の形をした白竜のデイズの体が、瞬く間にドラゴンランスへと変貌を遂げる。
ドラゴンランス形態のデイズを手に、オーガストは死霊兵のたむろするホールの中へと踊り出る。
侵入者に反応し、死霊兵たちがオーガストにむけて、一斉に血塗られた矢を放つ。
オーガストは逃げようとはしなかった。
「ナイツ、眼前の全ての武器と攻撃を一斉複写!相殺して撃ち落とせ!」
『うーにゃー!』
オーガストの声に答え、肩に乗っていたナイツがユーベルコード【鏡面迎撃砲陣(アームバレル・リフレクション)】を起動させる。
オーガストに向かって飛んでくる矢が、全て複写される。複写された矢は、まったく同じ威力で、飛んでくる矢の軌道を逆に進み、その全てを相殺する。
死霊兵たちが新しい矢をつがえる前に、オーガストはダッシュで距離を詰め、最前列にいた死霊兵たちをドラゴンランスでなぎ払う。
前方の死霊兵たちはこの距離では弓が役に立たないと判断したのか、剣を抜き、オーガストへ向け切りかかってくる。
その攻撃を見切り、ドラゴンランスで受け、剣ごと死霊兵を押し返し、吹き飛ばす。
死霊兵たちの注意が、オーガストとその竜たちに全て向いた。その様に、オーガストがにっと笑う。
「おいおい、俺たちにばかり気を取られてていいのか?こちらにも仲間はいるんだぞ?」
その言葉に、相対していた死霊兵が反応できたかはわからない。
なぜなら、ユーベルコード【スピリット・アウェー】で姿を消していたイーファが、その死霊兵へと、背後から強力な魔法を打ち込んだからだ。
「背後ががら空きよ」
イーファの姿に気づいた死霊兵が狙いを定めようとする。だが、その背の羽で自由に空を飛び回るイーファに狙いをつけるのは、なかなかに難しい。
何体かがそれでも矢を射ろうとするが、イーファは再びその姿を消した。イーファを見失い、死霊兵が攻撃の手を止める。
「どこ狙ってるの。私はここよ」
不意に姿を現したイーファに向け、慌てたように死霊兵が矢を放つが、イーファは空を軽やかに駆け、回避する。
ただ避けただけではない。イーファの背後には、別の死霊兵が存在していた。
同士討ちを狙ったイーファの目論見どおり、矢はその死霊兵へと突き立った。
「ふふ、残念でした」
小さく笑って、くるくるとイーファが宙を舞う。
「おいおい、余所見してていいのか?」
仲間に当たったことは気にも留めず、さらにイーファに向け矢を放とうとした死霊兵に、オーガストのドラゴンランスが突き立った。
「デイズ、ついでに属性攻撃で燃やしてやれ」
『うっきゅー!』
任せろと、デイズが声を上げれば、ドラゴンランスが炎に包まれ、死霊兵の体が燃え上がる。槍を振るえば、矛先から抜けた燃え盛る死霊兵は、別の死霊兵にぶつかり、それを巻き込みさらに燃え上がる。
イーファは小さな体を活かし、敵の攻撃を掻い潜っていく。イーファに気を取られた死霊兵たちを、オーガストのドラゴンランスが吹き飛ばす。
そして、オーガストにばかり注意を向けた死霊兵を、今度は姿を消したイーファが背後を取り、全力魔法の餌食とした。
二人は着実に死霊兵をしとめていく。だが、かなりの数を打ち倒しても、死霊兵は次から次へとわいてくる。
「骨が折れるけど、地道にやっつけながら進むしかないわ」
「そうするしかないな」
オーガストは、イーファに向け矢を放とうとした死霊兵をなぎ払うと、イーファの言葉に同意した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トール・ペルクナス
ここを突破せねばボスには会えぬのか
であれば仕方がない
迅速に対処するとしよう
ホールに足を踏み入れると同時にUCを発動
一筋の稲妻となって空を舞うようにこのホールを駆け抜ける
骸骨どもが持っている遠距離武器なら雷速には追いつけまい
駆け抜けながら【属性攻撃:雷】を纏った拳で骸骨たちを薙ぎ払っていく
基本は速度に任せて回避をするが防げるものは籠手による【武器受け】で防ぐ
「数ばかりいるのは手間だが……」
この程度の相手ならば数が集まった所で倒せぬ通りはない
最後に【力溜め】した雷撃を【範囲攻撃】で放ちホールの骸骨たちを一掃してしまおう
「これで後はボスを倒すだけか」
アドリブ連携歓迎
アシェラ・ヘリオース
「やかましい。仕事は終りだお前達」
着替えを覗く黒騎達に小石をぶつけて退場させ、奥へ進む。
直面したのは統制の取れた動きの死霊達だ。
個々の力は弱いが、恐れを知らぬ統制された集団の脅威度は高い。
「今回は大技は控えた方が良さそうだな」
そして土壁の通路、戦術を考慮する必要がある。
・戦闘
背後に赤光の槍を多数展開させてから置き去りにし、腰の黒刃の軍刀を抜いて交戦し【念動力、オーラ防御、時間稼ぎ】。
事前の【情報収集】と現在の位置情報を照合し、要所要所で支援火器の要領で赤光の槍を放って死霊兵を2~4体纏めての【串刺し】を狙う。
出来るだけ視野を広く保ち、【鼓舞、庇う】で味方の援護も行いたい。
【アドリブ、連携歓迎】
「死霊兵たちは、かなり統制が取れているようだな」
気づかれぬように死霊兵の配置や動きを伺っていたスペースノイドのアシェラ・ヘリオースは、目の前の集団をそう評価した。
個々の力は弱いが、恐れを知らぬ統制された集団の脅威度は高い。決して侮ってはならない相手だ。
「ここを突破せねばボスには会えぬのか」
同じように死霊兵の動きを伺っていた、人間のトール・ペルクナスが、眉をひそめる。
「そのようだ。抜け道があるようには思えないし、またこの死霊兵を放置したまま探すのは至難だろう」
アシェラがトールの言葉を肯定する。
「であれば仕方がない。迅速に対処するとしよう」
「ああ」
なお、アシェラの傍に黒騎はすでにいない。
少し前に、着替えを覗く黒騎たちに、「やかましい。仕事は終りだお前達」と小石をぶつけて退場させていたりするが、特に問題はない。本当に彼らは、その軽薄さまで再現されているなとしみじみ思い、アシェラは思わずため息を一つつく。
「どうした?」
「ああ、いや、なんでもない。……今回は大技は控えた方が良さそうだな」
アシェラの言葉に、トールが首を傾げた。
「確かに土壁だが、そこまでもろいということもないと思うが?」
「ああ、私の業は細かい制御が難しくてね。下手をするとこの空間ごと破壊してしまいかねない」
ここは、地下。限りのある空間だ。天井などが抜ければ大惨事となる。
アシェラの言葉に、トールもなるほどと頷く。
「こちらはそれを気にする必要はないので、好機とみなせば大技でいかせてもらう」
「承知した。では行こうか」
アシェラの言葉を合図に、二人はホールへと足を進める。
「今、ここに輝きはある」
ホールに踏み込むと同時に、トールはユーベルコード【雷電王(ライトニング)】を発動させた。
(骸骨どもが持っている遠距離武器なら、雷速には追いつけまい)
トールの読みどおり、死霊兵が矢を放つが、それらはトールの駆け抜けたあとにしか到達することはない。偶然トールの軌道に割り込んだ矢も、トールが身につける『機械籠手』で受け流され、ダメージを与えることは出来ない。
素早い動きで敵を翻弄するトールの姿は、まさしく雷光のごとし。
トールは、死霊兵の脇を駆け抜けながら、雷気をまとわせた拳を振るう。雷速から繰り出される拳は、相手を打ち砕き、なぎ払っていく。
トールに一歩遅れ、アシェラが動く。
「細やかな制御は苦手でな。雑に行かせてもらう」
アシェラのユーベルコード【黒撃槍(ダークランス)】が発動し、百以上もの赤く光るフォースランスが生み出された。
だが、それらは動き出さない。滞空したままのフォースランスを置き去りにし、アシェラは腰の『黒刃』を抜く。
トールを狙い、後方への注意を怠っている一体に、背後から切りつける。
「背後の警戒を怠るとはな」
敵とはいえ不甲斐ない。そんなことを思いながら、返す刃でさらにもう一体を切り捨てる。
もう一人の敵に気づき、数体の死霊兵が、アシェラへ向け弓を構える。アシェラがそれらを切りに向かうには、今切り倒した死霊兵が邪魔となる。
表情を持たないはずの死霊兵が、にやりと嗤った様に見えた。
だが。
「細やかな制御は苦手だが、この程度はできるのでな」
先程生み出しておいたフォースランスが、アシェラへと矢を射ろうとしていた数体を串刺しにする。
常に視野を広く持ち、敵の配置を的確に見抜き、豊富な戦闘経験を活かし、死霊兵を的となる場所へと誘導したのだ。
予想外の攻撃に動揺したのか、死霊兵が足を止める。その隙を見逃さず、アシェラが距離をつめ、流れるような動きで死霊兵をしとめる。
空を舞うかのごとく戦場を駆け抜ける一陣の稲妻と、赤光を操る黒き騎士に、死霊兵たちは翻弄された。
だが、それでも数の差は圧倒的だ。
ましてや、アシェラの危惧するとおり、彼らは恐れを知らない。どれだけ味方がやられようが、気にすることもなく押し寄せてくる。
「数ばかりいるのは手間だが……」
自らの攻撃により作られた敵の空白地域で、トールは足を止めた。
それを好機とみなした死霊兵が、トールに向け矢を放とうとしたが、させぬとばかりにアシェラが切る。
そのことに、トールは礼を言わない。そしてアシェラも求めない。それが当然のことだからだ。
「この程度の相手ならば数が集まった所で倒せぬ道理はない!」
拳に溜め込んだ雷が、強力が雷撃と成りホール全体へと広がっていく。
雷の嵐が収まったあと、そのホールに立っている死霊兵は存在していなかった。
「やったか」
「いや、まだだ」
アシェラが油断なく見るその先、死霊兵たちがいなくなり見通しの良くなったホールの奥の壁には穴があった。高さは5、6メートルと言ったところか。
そこからわらわらと死霊兵があふれるように出てくる。
「あそこが、ボスの居場所といったところか」
見た限り、このホールの出入り口と思われる場所は、自分達が通ってきた場所と、死霊兵が出てきた場所以外にはない。
あれが最後の抵抗だろう。
二人は強いまなざしで、死霊兵たちを見据えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
枦山・涼香
まだまだ死霊兵は残っているようです
しかし、指揮するものすらいない雑兵に負けてやるわけには参りませんね
大太刀を抜き、周囲に狐火を浮かべてホールへ足を踏み入れます
狐炎誅滅陣で兵を狙います
外れた狐火が己の領域を作り出したならその位置を中心に戦い、
己の領域を広げていきましょう
寄せて来る兵は飛び来る矢ごと太刀でなぎ払い
太刀に破魔の狐火を纏わせ浄化を狙います
距離が空いたら狐炎誅滅陣を使用
目立たず戦うのは不得手です
むしろ殺気を振りまき存在を示して注意を引きましょう
皆がわたしを倒すという意志を持ったなら行動が読みやすくなります
そして観察して得た最適な軌道へ重い太刀を振るう
手数が少ない分、一刀一刀に意味を込めて
佐藤・和鏡子
今回は一緒に戦う方が多いので、その方たちの援護を中心に立ち回ります。
けが人が出た場合は医術や救助活動や生まれながらの光を使って回復させたり、攻撃に回る方の援護(救急箱から砲丸投げの砲丸やボウリングの球など硬くて重い物を撃ちだして攻撃します)を行います。
(援護射撃・範囲攻撃・二回攻撃を併用して広範囲に球や砲丸をばらまきます)
相手は骨なので刃物よりは打撃で行った方が効きそうですから。
『援護します!!』
「まだまだ死霊兵は残っているようです。しかし、指揮するものすらいない雑兵に負けてやるわけには参りませんね」
妖狐の枦山・涼香は、その強くまっすぐな視線を、死霊兵に向ける。戦いを前に、頭上の狐耳もピンと立っていた。
「私、がんばってサポートしますね」
看護帽をきちんと直し、ミレナリィドールの佐藤・和鏡子が涼香に告げる。
「頼りにしています」
「はい!」
和鏡子にやさしく微笑みかけた後、涼香は再び死霊兵へと視線を戻す。
「参ります」
涼香は『朱の大太刀』を抜き放つと、周囲に青白い狐火を浮かべてホールへ足を踏み入れる。
和鏡子も遅れぬように、愛用の救急箱をしっかり持ち涼香の後を追う。
「我が妖気を以て、徴を刻む。――その身に受けるもよし、受けぬもよし。受ければ徴が汝を刻み、受けねばこの地は我が領域となりましょう」
青白い狐火が、清明桔梗を描き出す。涼香のユーベルコード【狐炎誅滅陣(フォックスファイア・エンハンサー)】だ。
晴明桔梗は、迷いなく死霊兵にむかい、数体を焼き滅ぼす。
その攻撃により、死霊兵は明確な敵の存在を認識した。涼香もあえて殺気を振りまき存在を示し、死霊兵たちの注意を引く。
(皆がわたしを倒すという意志を持ったなら行動が読みやすくなります)
それは危険な戦い方かもしれない。
だが、涼香は目立たず戦うのは不得手だ。
そもそもするつもりもない。
自分はこういう戦い方しか出来ない。だから、今もそのように戦うだけなのだ。
続けざまに、涼香は二発めの【狐炎誅滅陣(フォックスファイア・エンハンサー)】を放つ。だが、これは警戒していたらしい死霊兵たちに躱される。
だがそれはそれでかまわない。
落ちた狐火は消えることはなく、地表を走り青白い狐火が五芒星を描き出し、結界を張る。
五芒星の内側は涼香の領域へと変化し、その中心めがけ涼香は疾走した。
手にする大太刀の刃に青白い狐火が宿る。それは破魔の力を宿した炎。駆け抜け様にその大太刀に切り付けられた死霊兵は、破魔の火に焼かれながら崩れ落ちた。
涼香の動きに反応し、死霊兵たちが矢の雨を降らせるよりも、涼香が己が領域にたどり着くほうが早かった。
涼香の領域と化した場所で振るわれる、大太刀による見事な刃の舞。それは飛び来る矢をなぎ払い、押し寄せる死霊兵を切り裂いた。
だが、それでも数は力となる。
「く!」
矢の一本が、涼香の腕を掠める。
走る痛みに、刃の舞が乱れた。
それは、数を頼みに、無尽蔵の体力で襲い来る相手にとっては、千載一遇の好機。死霊兵たちが一気に涼香に押し寄せる。
だが、死霊兵たちは忘れていた、小さな、けれど心強い仲間がいることを。
「援護します!!」
和鏡子が涼香をかばい、前に出る。和鏡子が得意とするのは治療だが、もちろんそれだけではない。和鏡子の救急箱から、砲丸投げの砲丸が勢いよく撃ちだされる。
それを選んだのは、相手は骨なので打撃が効きそうだったからだ。
一つだけにとどまらず、いくつもの砲丸が、時にはボウリングの玉が、涼香に剣を振り下ろそうとしていた死霊兵を、さらに矢を射かけようとしていた死霊兵たちにぶつかっていく。頭に、足に、腕にとぶつかり、死霊兵たちを吹き飛ばす。
「回復しますね」
死霊兵がひるんだ隙に、和鏡子が涼香にユーベルコード【生まれながらの光】を発動させる。
「ありがとうございます」
「手当ては私の役目ですから」
治療することにより発生する疲労など見せず、和鏡子は傷を癒していく。
それほど傷が深くなかったことが幸いし、敵が態勢を立て直す前に、治療が完了した。
「治療終了です」
「助かりました。……不覚を取りましたが、次はありません」
言うが早いか、和鏡子に剣を振り下ろそうとしていた死霊兵を、横なぎに切り捨てる。死霊兵は上下二つに断ち切られ、地に倒れた。
「さあ、あと少し、頑張りましょう」
「はい!」
和鏡子は涼香の言葉に、ぎゅっと救急箱を抱く。
三度目の狐火を、涼香が放つ。
それが、戦いの再開の合図となった。
遠くより矢で狙おうとする死霊兵には、和鏡子が救急箱から打ち出す砲丸やボーリング球が、飛んでいく。
一撃で仕留める威力は、それにはない。
だが、死霊兵たちの腕を折り、足を折り、弓を使えなくした。さらに転がった玉たちは、死霊兵が涼香たちへ近寄るのに十分な障害となった。
涼香の狐火を避けようとした死霊兵が、砲丸を踏み、体勢を崩して自ら狐火に突っ込み、転げ回り炎を広げる。死霊兵がうまくよけたとしても、今度は地に落ちた狐火が涼香の領域を広げることとなる。
そこにさらに、和鏡子が、敵の動きを抑え込むように、広範囲に弾をばら撒く。
死霊兵たちと違い、涼香は軽やかな足捌きで落ちた弾を避け、そして観察して得た最適な軌道へ重い大太刀を振るう。結界により攻撃力を増した大太刀は、その刃で数体の死霊兵を纏めて切り裂いていく。
最後の一体が、涼香の大太刀に袈裟斬りにされると、周囲が静寂に包まれた。
「これで終わりのようですね」
「はい!」
大太刀を収め、涼香が表情を緩める。それに答え和鏡子も柔らかな笑顔を浮かべる。
だが涼香はすぐに表情を引き締めると、視線を和鏡子からぽかりとあいた穴へと移す。そこからは強い冷気が噴出していた。
「残るはフロアボスだけです」
涼香の鋭いまなざしが、今はまだ見えぬフロアボスへと向けられる。和鏡子も同じように視線を向ける。
「ここで立ち止まっているわけにはまいりません。行きましょう」
「はい」
二人は、学園に起こった異変を収めるため、そして、オブリビオンの野望を打ち砕くため、冷気のあふれる穴へ向かうのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『『慈悲なき』ニドアーズ』
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POW : 冬の暴風
【氷のブレス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 石の記憶
対象のユーベルコードを防御すると、それを【頭部の宝石に吸収し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ : 凍てついた魂達凍てついた
【かつて使役した下僕たちかつ】の霊を召喚する。これは【槍】や【炎】で攻撃する能力を持つ。
👑11
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死霊兵のいたホールの穴をくぐれば、その先は今までとは比較にならないほどの冷気を漂わせるエリアだった。
広さは死霊兵がいたエリアの数倍はあるだろう。
壁は、もしかしたら先程と同じ土壁なのかもしれない。だが、全て厚い氷に覆われて、確認することは出来なかった。
氷の壁に覆われた空間の中央に、まるで城のごとく聳え立つ氷の塊が存在していた。その中は、大きくくりぬかれ、どこからともなく差し込む光が乱反射し、氷の城の大ホールといわんばかりである。
その中央に、竜はいた。
かつて北方に存在していた氷の竜が。
大きさは、数メートルと言ったところか。
巨大とは言わない。だが、決して侮っていい相手ではないだろう。
「ホウ、アレラヲウチタオシテキタカ。コレハコレハ、ナカナカノモノダ」
竜は猟兵たちの姿を認めると、機嫌のよさそうな声を出した。
冷酷な竜だと聞いていたが違うのだろうか、そう思った猟兵もいたかもしれない。だが、そうでないことはすぐにわかる。
「オマエタチナラバ、ツヨイヘイニナレルデアロウヨ。カンシャセヨ。ソシテソノミヲ、ワレニササゲルガイイ」
竜は新たな強き配下を得るために、猟兵たちに襲い掛かる。
トール・ペルクナス
ドラゴン退治か……これで私もドラゴンスレイヤーというわけだ張り切っていくとしよう
召喚された配下たちは邪魔だな
まず先に片づけてしまうとしよう
【力溜め】をして最大限に電力をチャージしたUCの【範囲攻撃】で一掃してしまおう
「開幕の雷電といこう!」
この場所で光が乱反射するならばこの雷光も反射するだろう
それに竜の眼が眩んでいる隙に懐へ入り込み【属性攻撃:雷】を拳の纏ったアッパーでカチ上げる【先制攻撃】
おまけにそのまま電流を流し【マヒ攻撃】で身体の自由を奪ってしまおう
もちろん完全に止まるとは思っていないが多少は鈍るはず
そのまま電界の剣から雷刃を伸ばし【二回攻撃】の乱舞で斬りつける
〆は五本全てで串刺しだ
イーファ・リャナンシー
真の姿:イラスト参照
身長6倍、人間大に変化
妖精姫のような姿
寒さの原因はあんたのようね
寒くて寒くて体が縮むかと思ったわ
イーファちゃんがこれ以上小さくなったらどうしてくれるの
敵の配下に対応するために190人の小型戦闘用妖精たちを呼び出すわ
攻撃させながらちょこまか動き回らせて翻弄するの
私自身はリーチや移動距離を確保するために真の姿を開放するわ
邪魔になる敵の配下をやっつけつつニドアーズへの攻撃を目指すわ
手の空いた妖精は一緒にニドアーズを攻撃
私自身は【全力魔法287】で思いっきり力をぶつけるつもり
下僕を手に入れるためにこんなことを?
何も知らない一般生徒だっていたでしょうに…許さないわ
ここで私たちが止める
アシェラ・ヘリオース
【アドリブ、連携歓迎】
「やはり対話は不可能な手合いか……」
黒の軍刀を抜く。
「3分ほど時間が欲しい。頼めるか」
尋常ではない相手だ。
強烈な大技を叩き込んでペースを掴む必要がある。
【礼儀作法、コミュ力】で他猟兵に協力を依頼する。
自身も黒騎を展開し【拠点防御、時間稼ぎ】だ。
黒剣を風車手裏剣に変え、両掌の間で収束させた黒気と連動させる。
チャージが進むほどに、風車は回転と大きさを増していく。
奴を相手に大打撃を狙うなら、直径3m程の旋刃にまで育てたい。
威力は凄まじいが当てにくい技だ。
【戦闘知識】で戦機を見切って放つ。
天井に向かう軌道で油断させ、【念動力、誘導弾】で急降下させて不意を狙おう。
「抉れ、黒渦!!」
フロアボス、≪慈悲なき『ニドアーズ』≫の言葉に、フェアリーのイーファ・リャナンシーは険しい顔をしてニドアーズを睨みつける。
「下僕を手に入れるためにこんなことを?」
もしかしたら、先程倒した死霊兵の中には、この学園の生徒であった者がいたのかもしれない。
いや、そうでなくても、このままこの竜の勢力が広がれば、犠牲になるものも出てくるだろう。
「そんなこと許さないわ。ここで私たちが止める!」
本当ならば、真の姿でこの敵とはあたりたかったが、条件が整わなかったのは残念だ。だが、だからといって、負けるつもりはさらさらない。
ニドアーズの周辺は、このホールの入り口より遥かに氷が厚い。このダンジョンの寒さの原因が、ニドアーズなのは間違いないだろう。
「やはり対話は不可能な手合いか……」
スペースノイドのアシェラ・ヘリオースは黒の軍刀を抜く。対話できる期待はあまりしていなかったが、こちらを死霊兵にしようなどという相手では、論外という他ない。
「そのようだ」
人間のトール・ペルクナスがアシェラに同意を返す。
「ドラゴン退治か……これで私もドラゴンスレイヤーというわけだ。張り切っていくとしよう」
軽い口調。
けれど、トールの目は、鋭い光を宿しニドアーズを捉えていた。
人を守ることを家訓とするトールにとって、命を弄ぶニドアーズの存在は許せるものではない。
「3分ほど時間が欲しい。頼めるか」
アシェラが二人に声をかける。
ニドアーズは尋常ではない相手だ。見た目からしても、その体力はかなりのものだろう。ゆえに強烈な大技をもって、その体力を削り落としたいというのがアシェラの考えだ。
先程の場所より遥かに大きく、氷によってある意味強化されたここならば、アシェラが大技をだしても問題はないと思われた。
「よかろう。ただし、倒してしまっても文句は言うなよ」
「そうそう。イーファちゃんの全力魔法はすごいのよ」
「感謝する。ああ、無論だ」
そういうと、アシェラは二人の後に下がる。
さらにユーベルコード【黒騎招来(サモン・ダークナイツ)】を発動し、黒騎たちを召喚する。
「防衛は任せる。なんとしても防げ」
『了解!』
黒騎たちもさすがにボスを前にしては、真面目に対応するようである。
「黒気収束……加減はなしだ」
アシェラがユーベルコード【黒気収束(ダークチャージ)】を発動させる。さらに、アシェラは風車手裏剣へと変化させた『黒刃』を、両掌の間で収束させた黒気と連動させる。
黒騎に守らせているとはいえ、完成まで無防備な姿をさらすことになる。
だが、アシェラは気にせず集中を続ける。
トールとイーファが、3分を必ず稼いでくれると信じて。
「オオグチヲタタク」
トールとイーファの言葉を聞きとがめ、ニドアーズが不機嫌そうな声を上げる。アシェラの動きに対してもあまり興味はなさそうだ。
その高慢な態度は、負けるはずがないという自信の表れなのだろう。
「ショウショウシツケガヒツヨウカ」
ドンと、ニドアーズがその前足を、氷の大地にたたきつければ、無数のおぼろな影が呼び出された。シルエットは先程の死霊兵に似ている。だが、その手には、弓ではなく、炎を宿した槍があった。
それらは、ニドアーズのかつての栄光、かつての支配の証。
死してなお、使役され、還ることを許されぬ者たちが亡霊となり、嘆きの声を上げながら猟兵たちに槍を向ける。
「邪魔だな。まず先に片づけてしまうとしよう」
嘆く姿に、同情はしても、自分は倒す以外に救う方法を持っていない。だから、トールは淡々と言い切った。
イーファとアシェラにだけ聞こえる声で「目をかばえ」と告げながら、トールが一歩前に出る。
「開幕の雷電といこう!」
トールが声を張り上げる。
「雷の力をその身に刻め」
トールのユーベルコード【発雷(イグニッション)】が発動する。この氷のホールに踏み込んだときより、ため続けられていた雷は、最大の力をもって、トールの視界いっぱいに広がり、敵を打ち据えていく。
トールの近くにいたものはその一撃で形を失い、遠くのものも麻痺して動けなくなっていた。
「メ、メガアアア!」
ニドアーズが悲鳴を上げる。
攻撃自体はニドアーズには当たっていない。だが、光を乱反射する壁は、当然のごとくトールの放った雷光をも乱反射し、ニドアーズの目を眩ませた。
そんな隙を、見逃す手はない。
拳に、新たな雷気を纏い、トールが駆ける。
無論イーファもその隙を逃したりはしない。
雷光が収まると同時に、イーファはユーベルコード【フェアリーズ・プリマヴェーラ】を発動させた。
「みんな、ちょっとの間力を貸して」
イーファがそう呼びかければ、190体もの小型戦闘用妖精たちが呼び出された。
「ちょこまか動き回って翻弄するのよ」
ふわりと、イーファが飛び立てば、それにあわせ妖精たちも宙に飛び立ち、トールの攻撃を何とか耐え抜いた亡霊たちに攻撃を仕掛けた。
炎の宿る槍を振りかざし、亡霊たちは妖精たちに襲い掛かる。小回りのきく空飛ぶ妖精を、いまだ麻痺の残る彼らは、なかなか捉えることが出来ないでいた。
そして、イーファ自身はトールを追って、ニドアーズへと向かう。
目が眩んだパニックで、頭を振り乱し暴れるニドアーズの、頭が下がった瞬間を狙い、トールは顎に強力なアッパーを入れる。
「ガ
!!!!!」
トールのアッパーを受け、上へと振りあがった頭の側頭部に、上へと移動していたイーファが、強力な全力魔法を叩きつける。
「ふふふ、小さいからといって侮らないでね」
「グ、オオオオ、オ!」
その連続攻撃に、ニドアーズが足をふらつかせる。
ダメージはかなりのものだが、致命傷にはまだまだだ。
ニドアーズは、再び亡霊たちを呼び起こそうとするが、うまく足が動かない。その様子に、にっとトールが笑う。
「きいているな」
先程の拳から伝わった雷気が、ニドアーズをしびれさせているのだ。無論、ニドアーズの巨体を完全にしびれさせることは出来なかった。だが、明らかにその動きを鈍らせていた。
「どんどんいくわよ!」
気合を入れるイーファの元に、亡霊たちを全滅させた妖精たちが集まった。さすがに数は減っているが、それでも150体ほどはいるだろうか。
「いくよ、みんな」
イーファの号令に、妖精たちは飛んでいき、ニドアーズを上から攻撃し始める。
ニドアーズの攻撃があたれば、妖精は消滅するが、数が多い上に小さく、さらに空まで飛んでいる。視力が回復しようと、攻撃を当てづらいことこの上ない。
「おっと、遅れるわけにはいかんな」
イーファと妖精たちの対処に追われるニドアーズに、トールが『電界の剣』――雷電で構成された光の刃を持つ剣を使い、ニドアーズの硬い皮膚をやすやすと切り裂く。
痛みに怒り、足を振り上げトールを踏み潰そうしたニドアーズを、イーファがその全力攻撃で妨害する。
トールとイーファ、二人の攻撃により、ニドアーズはその場に釘付けとなる。
そして、3分が過ぎた。
アシェラの両掌の間でフォースが超圧縮され、アシェラはそれを幾度も傍らの風車手裏剣へと重ね続けていた。チャージが進むほどに、風車手裏剣はその大きさを増していく。
すでに直径3m程の旋刃にまで育てていた。
ニドアーズ相手に大打撃を与えるならばそれぐらいは必要だろうとの判断だった。
「頃合か」
アシェラが、風車手裏剣から目を離し、ニドアーズへと視線を移す。
戦場の3分がどれだけ貴重か、長く戦い続けてきたアシェラは知っていた。そして、トールとイーファはその3分を稼いでくれたのだ。それに報いるためにも、これを当てることだけを考えなければ。
アシェラは、息を潜め、敵の動きを見つめる。もっとも躱されづらいタイミングを計り、そして。
「抉れ、黒渦!!」
アシェラが渾身の力を持って投げつけた風車手裏剣は、何度も重ね超圧縮させたフォースの影響により、すさまじい回転をしながら飛んで行った。
だが、風車手裏剣はニドアーズの頭上の遥か上、天井へと向かう軌道を取った。
一瞬警戒したニドアーズだが、攻撃が大きく逸れたのを見るとすぐさま自分の周りを動くトールとイーファへ視線を戻した。
しかし、それこそがアシェラの狙い。天井へと向かった風車手裏剣は、念動力により、ニドアーズの頭上で急降下する。
迫る気配に、遅れて回避しようとしたニドアーズだが、それを二人が許すはずもない。
「逃がさないわよ!」
イーファが残っていた妖精たちを指揮し、ニドアーズの顔を一気に襲わせ、一時的にその視界をふさぐ。
「逃がさぬ!」
トールが『電界の剣』ママラガン、トラロック、タラニス、インドラ、ユピテル、五本全てをニドアーズの前足に突きたて、その場へと縫い付ける。
巨大な風車手裏剣は、ニドアーズの頭部、王冠のような飾りを切り裂き、その額の宝石を砕き、右目を抉り取った。
『グオオオオオオオオオ!』
ニドアーズが絶叫をあげて暴れまわる。
さらに追撃を、と向かう猟兵たちに向け、ニドアーズが暴れながらも氷のブレスを放つ。それは、ホール全体を襲う氷の嵐となり、猟兵たちを襲う。
「くっ!」
「きゃ!」
「ちっ!」
至近距離にいたトールは、危険と判断し目をかばいながら、せり出していた氷塊の影に何とか身を隠す。
「無事か!」
ブレスが収まると同時に、トールが氷塊の影から飛び出る。
「こちらは大丈夫だ」
黒騎たちを盾として、ブレスを防いだアシェラが呼びかけに答える。黒騎たちは良い仕事をした。
「寒くて寒くて体が縮むかと思ったわ。イーファちゃんがこれ以上小さくなったらどうしてくれるの!」
上から、イーファが怒りの声をもって、無事を伝えてくる。
咄嗟に妖精たちがかばってくれなければ氷漬けになるところであったが。
「ナマイキナ、ナマイキナハムシドモメエエエエ!」
宝石のあった場所からだらだらと血を流しながら、その目に爛々と怒りの炎を宿し、ニドアーズは猟兵たちへと殺意をたたきつけた。
もちろん、そんなものにひるむような猟兵たちではない。
まだ倒れぬのならば、倒れるまで攻撃を続ければいいだけだ。
成功
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オーガスト・メルト
あんなセンスの悪い雑兵の仲間入りなんて御免だね。
しかし…お前なら、さぞかし強い武器の素材になれるだろうさ。
だから感謝して、その身を全て俺たちに捧げてもらおうか。
【POW】連携・アドリブ歓迎
デイズをランスにして装備、ナイツをバイクに変形させて【騎乗】する。
今迄の道中で獲得した【氷結耐性】と【オーラ防御】、【見切り】を使って敵の攻撃を避ける。
敵が氷塊から出ないのなら、丁度いい。
UC【竜槍追爆撃】を放ち、閉所内を爆炎で蹂躙してやろう。
だから、デイズが必ずしも敵に命中する必要はない分、楽だな。
さあ、UCの【二回攻撃】だ、デイズ。今度は急所を【鎧無視攻撃】で【串刺し】にしてやれ!
『うきゅー!』
枦山・涼香
あなたの配下などあまりに役不足
所詮あなたは、洞穴の奥で氷の中に引き籠っているのがお似合いの蜥蜴ですよ
姿勢を低く保って走って
太刀を手に真っ向から距離を詰めます
他の猟兵たちとは離れて動き
全周のブレスを誘います
多少の傷を受けるのは覚悟の上
氷のブレスを狐火を纏わせた太刀でなぎ払い、
効果を減じた上で竜の足元を目指して駆け抜けます
接近したなら相手の身体を盾にブレスを避け
足を斬りつけます
狙いは足元の敵を排除するために重心を下げてくること
踏みつけなどに来たらしめたものです
下がってきた首を目掛けてカウンターを狙い、狐炎歪曲斬で斬り上げましょう
この火はあなたを骸の海へと送る葬送の炎
野望ごと斬り捨てて差し上げます
「あんなセンスの悪い雑兵の仲間入りなんて御免だね」
冗談ではないとばかりに、人間のオーガスト・メルトはニドアーズの言葉を却下した。
「あなたの配下などあまりに役不足」
論外だと妖狐の枦山・涼香も、切り捨てる。
「少々派手に行くつもりなんだが、かまわないか?」
「あの敵に手加減は無用。わたしのことを気にする必要はありません」
「了解。じゃあ、デイズ、ナイツ、行くぞ!」
『うきゅー!』
『うにゃー!』
二匹の竜は任せろといわんばかりに、声を上げる。
10cm程のヘンテコ白竜饅頭のような形のデイズは『ドラゴンランス』へと、ヘンテコ大福のような形のナイツは、『竜核二輪乗騎』――空陸対応型の宇宙バイクへと、それぞれ姿を変える。
ドラゴンランスと化したデイズを手に、ナイツへまたがると、オーガストはニドアーズに向け、疾走する。
涼香もニドアーズへと向かう。ただし、オーガストとは違う方向からだ。
「コザカシイ!」
額の宝石を破壊され、片目を抉られても、ニドアーズはいまだ健在であった。向かい来る二人に対し、ニドアーズが咆哮を上げる。
「敵が氷塊から出ないのなら、丁度いい。閉所内を爆炎で蹂躙してやろう」
オーガストは槍を振り上げる。
「飛べ、デイズ!そして蹂躙せよ、竜の焔よ!」
『うきゅー!』
オーガストがユーベルコード【竜槍追爆撃≪蹂焔≫(チャージング・ブレス)】を発動させれば、ドラゴンランス・デイズが声を上げながらニドアーズに向け飛んでいく。
飛来するドラゴンランスを、ニドアーズが尾ではじく。
回避したと、ニドアーズは思っただろう。だが、槍が着弾した場所から爆焔が広がる。
「ナ、ナニイイイ!」
「デイズが必ずしも敵に命中する必要はない分、楽だな」
氷の塊の中、充満する焔に呑まれるニドアーズに追い討ちをかけようと、オーガストはナイツを加速させ、ニドアーズに迫る。
「ウオオオオオオ!コシャクナアア!」
だが、相手はそう容易くやられる相手ではない。
ニドアーズが、全方位に向け氷のブレスを撒き散らし、デイズの焔を押さえ込む。
「へえ、さすがボス。一筋縄ではいかないな」
焔を飲み込み、襲い来る氷のブレスの、最も薄いところを見切り、さらにオーラ防御を行いながらナイツにより駆け抜ける。今迄の道中で獲得した氷結耐性のおかげもあり、ダメージは最小限に食い止められた。
一旦、ニドアーズから離れるオーガストと入れ替わるように、姿勢を低く保ち、涼香が『紅の大太刀』を手に、真っ向からニドアーズとの距離を詰めていく。
「所詮あなたは、洞穴の奥で氷の中に引き籠っているのがお似合いの蜥蜴ですよ」
「その通り!」
涼香の挑発に、オーガストが乗る。
「しかし……お前なら、さぞかし強い武器の素材になれるだろうさ。だから感謝して、その身を全て俺たちに捧げてもらおうか」
竜の遺物を様々な武具に加工する技術を持つオーガストが、少々楽しげな顔をする。オーガストにとって、ニドアーズはすでに倒されるのが当然の存在なのだ。
「キサマラアアア!ユルサヌ、ハイカニスルコトナク、タマシイマデモホロボシテクレル!」
ニドアーズは怒りに任せて、氷のブレスを撒き散らす。
オーガストは回避するが、涼香は逆にそれを真っ向から受ける。
「はあ!」
気合一閃。
大太刀を振るえば、狐火を宿す刃が氷のブレスをなぎ払う。
完全に消し去ることは出来ず、多少の傷を負うが、それは涼香も覚悟の上だ。速度を緩めることなく、涼香はニドアーズをめがけ駆ける。
ニドアーズもまさかブレスを切り裂かれるとは予想しなかったのか、攻撃の手が止まる。
その隙に、涼香が一気に距離を詰めた。
バイクのナイツにまたがり周囲を走り回るオーガストと、足元に入り込んだ涼香を追うことに、気をとられたニドアーズは気づかない。投擲された槍、デイズが静かに動いていることに。
オーガストと涼香を押さえ込むため、さらにニドアーズが氷のブレスを放つが、オーガストにはその機動性を持って躱され、涼香にはニドアーズ自身の体を盾にされることによって防がれる。
さらに涼香が、ニドアーズの足を大太刀で切り裂く。
ニドアーズの硬い皮膚に防がれ、致命的なダメージは与えられないが、涼香はかまわず足を狙い続ける。
その上、オーガストがバイクのままジャンプし、勢いよくニドアーズに飛び移り、その背を頭から尻尾まで駆け抜けた。その衝撃にニドアーズが後ろへ数歩たたらを踏む。
「クソウ、イマイマシイハムシドモガ!」
ニドアーズが苛立ちの声を上げる。
それを見た、オーガストが口元に笑みを浮かべた。
「デイズ、いまだ!」
『うきゅー!』
ニドアーズが後方へ下がったことにより、狙い通り巨体の真下に位置をとったドラゴンランス・デイズが、オーガストの声に答え動く。ドラゴンランスはニドアーズの体の中で、唯一やわらかい腹へと深々と突き立った。内臓へと到達すると同時に、その場で再び【竜槍追爆撃≪蹂焔≫(チャージング・ブレス)】の炎が発動する。
『ギャアアアアアア!』
内臓の燃え上がる痛みに、ニドアーズがすさまじい絶叫を上げながら、頭を振り乱し暴れ回る。
「大成功、ってところだな」
オーガストが、自分の仕掛けの成功に満足げな顔をする。
痛みに悶え苦しむニドアーズの目に、大太刀を構え、こちらを鋭い目で見据える涼香の姿が映った。
「オマエモ、オマエモミチヅレニシテクレル!!!」
ただでは死なぬと、ニドアーズが涼香を踏み潰そうと前足を上げる。必殺の一撃たれと、長い首を振り上げ、それを振り下ろすことでさらに加重をかける。
それこそ、涼香が狙っていた千載一遇の好機。
「狐火よ、刃に集いなさい。我が妖気を糧として、いっそう燃え上がりなさい。――是、理外の炎を以て、理を歪め断つ刃なり」
涼香がユーベルコード【狐炎歪曲斬(フォックスファイア・ディストーション)】を発動すれば、大太刀に幾多の狐火が集まり、その刃に業火を宿す。
「この火はあなたを骸の海へと送る葬送の炎。野望ごと斬り捨てて差し上げます」
涼香は青白い狐火を纏う刃で、横を過ぎていく首を切り上げた。
凍土の王竜の首が、その巨体から切り離され、ドンと音を立て地面に落ちた。少しして、その巨体もまたすさまじい音を立て大地へと沈んだ。
大太刀を収める涼香のもとへ、オーガストがナイツを横付けにする。
「お疲れさん」
「ええ、お疲れ様でした。……寒さも緩んできたようですね」
「みたいだね」
オーガストの攻撃で溶け出した氷が水となって流れ出す。それが再び凍りださない様子をみて、二人は今回の異変の終了を確信する。
冷気の吹き出しがなくなれば、荒れてしまった薬草の園も、回復していくだろう。
「さーて、じゃあ、素材確保と行きますかね!」
楽しげな声を上げ、オーガストが竜の遺骸へ駆け寄っていく。デイズとナイツも、もとのまん丸な竜へともどり、ぱたぱたと後を付いていくのだった。
大成功
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