不思議の国のアスレチック・アトラクション
「はぁ、はぁ、くッ……」
目はかすみ、膝はいまにも崩れ落ちそうだ。それでも手を伸ばし、握る。豆が潰れて血のにじむ手のひらは既に痺れきって感覚がない。
彼は汗が流れ込んでしみる目を細め、足元に広がる奈落をそっと覗き見た。
――少しでも足を踏み外せば、即死。もうやめたいと体が悲鳴をあげる。諦めるなと叱咤する心の声はもう随分と小さくなっていた。
「王子様が攫われたのは、アリスラビリンスにある不思議な国のひとつ。『愛獄人魚マリーツィア』 という幹部猟書家が作り出した死の遊戯場を擁する彼女の居城さ」
麒・嵐(東方妖怪の冒険商人・f29276)は順を追って説明する。まず、攫われたのは生まれも育ちも王子様の青年で、馬術と剣術に優れた将来有望な美男子であるらしい。
「当然、性格も高潔で婚約者の候補は数えきれず。でもどうやら、そういう資質がこの人魚は気に入らないみたいでね」
狡猾で嫉妬深い闇色人魚の歌姫は特に『王子様』に歪んだ愛憎を抱き、高潔な魂を穢し狂気に染めることで自分と同じオウガに変えようと企んでいる。
そこで用意されたのが、この一歩間違えれば奈落の底へ真っ逆さまのアスレチック型遊戯場というわけだ。
「暇なのかな? すごく凝っていてね、丸太で組まれた狭い足場のジャングルジムだとか急傾斜のボルダリングに三角跳びでしか渡れない水場。他にも谷の間に通したロープを滑車だけで滑り降りるジップラインみたいなやつとか、さすがに運動神経と体力に恵まれた王子様でも音を上げるような仕掛けがいっぱい」
マリーツィアは居城に捕らえた他のアリスを人質にして、王子様にこの過酷な『死の遊戯場』への挑戦を迫った。
彼は胸に抱いた『未来への希望』を力に変えて傷つきながらもアスレチックを攻略してゆくものの、最後に待ち受けるのは複数の人質の誰を犠牲にするかを王子様に選ばせるという最悪の選択である。
「この人魚の狙いはただひとつ、王子様から『未来への希望』を奪うことで狂気に陥れ、『超弩級の闘争』に相応しい強力なオウガに変えること。彼女が自分の謀略に酔っている間にこちらも死の遊戯場に乗り込んで、王子様とアリス達を救出しましょうっていう依頼だね」
王子様はジャングルジムを超え、ボルダリングの傾斜の途中でいまにも倒れそうになっている。
「他の人質はゴール地点で待っているみたいだ。人魚もそこにいる。さて、歪んだ嗜虐の企みを阻止された彼女がどんな顔をするのか、いまから見物だね?」
ツヅキ
プレイング受付期間:公開時~常時受付中。
リプレイはおひとりずつのお返しになります。
共同プレイングをかけられる場合は相手のお名前とID、もしくは団体名を冒頭にご記載ください。
●第1章
超人的な運動能力がなければ突破できない超難度のアスレチック型遊戯場です。傷つき倒れそうになっている王子様に『未来への希望』を取り戻させることができれば、そこそこの戦力になります。
アスレチックは以下の順番で設置されています。普通に挑めば時間がかかりますが、この際、律儀に従う必要はありません。
・丸太製ジャングルジム。
・急傾斜ボルダリング。
・水場の三角跳び。
・谷間のジップライン。
●第2章
幹部猟書家『愛獄人魚マリーツィア』 との戦いです。
※プレイングボーナス(全章共通)……王子様を励ます、あるいは共に戦う。
第2章の受付開始は前章完結の翌日が目安です。雑記でご案内するので確認をいただけますと幸いです。
第1章 冒険
『死の遊戯場を打ち破れ』
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POW : 死の遊戯を強引に破壊するなどして、人質を救出する
SPD : 死の遊戯を速攻で突破し、人質を救出する
WIZ : 死の遊戯の裏をかいて突破し、人質を救出する
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オズ・ケストナー
おうじさまのところまでいそごう
シャボン玉に乗ってばびゅんと駆けつけるよ
おうじさまっ、たすけにきたよ
おうじさまの手を取って
ひとまずシャボン玉の中で話を
ここまでおうじさまひとりでがんばってきたんだよね
おうじさまが望むなら、このままアスレチックをこえることができる
わたしはけがを治すことはできないけど
手当ならできる
おうじさまの望むように
ここまでこられたのはおうじさまのちからだよ
おうじさまががんばったから、わたしたちが間に合ったんだ
ありがとうっ
どんなにたいへんでもむずかしくても
みんなで行けばへいき
そうだよね
だいじょうぶ
おうじさまがつないでくれた道だもの
ハッピーエンドにつながってるよ
アリスたちをたすけよう
「も、もうだめだ……ッ」
血の気を失った傷だらけの指先が傾斜に取り付けられた突起から今にも離れようとしている。ぎりぎりでひっかかっていた人差し指と中指の先が少しずつ、少しずつ滑り落ちて……――遂に、離れた。
「――だいじょうぶっ?」
オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の伸ばした指先は、すんでのところで落下する王子様の手首を掴まえた。
「……君は?」
「私はオズ。おうじさまをたすけにきたんだ」
屈託のない笑みは相手を安心させ、乗ってきたシャボン玉の中に彼を引き入れてやる。オズは王子様の手を労わるように包み込み、血を拭い、白いハンカチで傷を覆った。
「ありがとう、私はシームルグという。君が来てくれなかったら私はあの時に死んでいた」
シームルグと名乗った青年はいまにも泣きそうなくらい憔悴している。それが痛いほどに伝わったオズは、勇気づけるように彼の手を握った。
「ッ……」
「あ、ごめん! いたかった?」
「いや、優しい手だな……おかげで痛みがなくなった気がする。魔法か?」
「ううん。わたしはけがを治すことはできないんだ。でもこうやって手当して、おうじさま望むようにするのを手助けすることはできる」
その時のオズの微笑みを、いったい何に例えたらいいだろう。それはとってもお腹が減っている時にもらった甘くて温かいブリオッシュであったり、あるいは寂しくて落ち込んでいるときに優しく寄り添ってくる子猫の柔らかさであったり。そういう、人の心を優しく和ませる効果があった。
「ここまでおうじさまひとりでがんばってきたんだよね。だから、わたしたちが間に合ったんだ。ありがとうっ」
「――――」
その時、孤独に戦っていたシームルグの頬を一筋の涙がつたわった。はっとして彼はそれを手で拭う。
「いかん、泣いている場合ではないな。私が行かなければ殺されてしまう命があるんだ。あの人魚はアリスたちを捕まえ、この遊戯場に挑戦しろと言った」
彼の視線の先には、人間には到底越えられないだろう難易度のアスレチックが幾つも待ち受けている。
うん、とオズは頷いた。
「アリスたちをたすけよう。だいじょうぶ、どんなにたいへんでもむずかしくても、みんなで行けばへいきだよ」
「みんな?」
オズは頷き、シームルグをさっきの傾斜のところまで送っていった。シャボン玉はほとんど天井のように急な傾斜に沿うかたちで高度を上げ、遊戯場の上方に向かう。
「わあ、泉があるっ」
ついに傾斜を越えた先には、空中庭園かと見紛うばかりに幻想的な水場があった。
「美しいな。だが、水に落ちればあの渦に飲み込まれる――か。難敵だな」
だが、ここを越えねばハッピーエンドには至れない。彼の繋いだ道が続いてゆくのをオズは心の底より願ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
桑原・こがね(サポート)
あたしを見ろォ!
登場は雷鳴と共に、派手に演出していきたいわね!
名乗りを上げて注目されたいわね!
囮役とかも嫌いじゃないわ。
こそこそしたり駆け引きするのは苦手だし、何事も正面突破の力技で解決したい!
戦うときは大体斬りかかるか、武器を投げつけるか、雷出すかのどれかね。徒手空拳も心得が無くもないわ!
さーて、雷鳴を轟かせるわよ!
「ふうん、死の遊戯場ねえ。面白そうじゃない!」
それまで晴れていた空が途端に雷鳴を轟かせ、稲光の逆光を背に桑原・こがね(銀雷・f03679)は件のアスレチック場へと降り立った。
「あんたが王子様? 池のほとりで何辛気臭い顔してんのよ」
「ああ、ここを渡る必要があるのだが、見ろ。池には落ちた者を水底へと引きずり込む渦が――」
皆まで聞かず、こがねは池を覗き込んで「なるほど」と頷いた。
「いい趣味してんじゃない。あたしね、こそこそしたり駆け引きするのは苦手なのよ。何事も正面突破! ほら、ぐずぐずしてないでいくわよ!」
「えっ、ちょっと、待っ……――」
頭の中で三角跳びのイメージトレーニングをしていた王子様の首根っこを掴み、こがねは思い切りよく跳躍。
「まずは1! そんでもって2!」
同時に壁を蹴り、「3!」の合図で向こう岸に着地する。
「ほら、できた!」
こがねは満面の笑みで王子様の背を叩いた。彼はまだ心の準備ができていなかったらしく、ばくばくする心臓を手で押さえている。
「た、ためらいもなくいったな……?」
「当ったり前よ! この先にも次の試練が待ってるんでしょ? ぼさっとしてないで次にいった!」
成功
🔵🔵🔴
尾守・夜野
…ちょっとこのアスレチックは好きかもしれねぇ
俺、外敵を招き入れちまった記憶を強く想起してるから自罰意識の強い人格
別に即死系の萎縮する必要がない
…というか別に落ちても地面に激突する前に味方の所にいけるし気にする必要一切ねぇなこれ
「助けにきたぞ?!くっ…これは…」
でもま、ジャングルジムの段階で苦戦してるように見せかけ
敵の目をこちらに引き付ける(誘惑・誘き寄せ・演技・かばう)
その間にスレイに王子様の所にいってもらい王子様をのせる
そしてUC発動
目標位置はスレイの背中
王子様とタンデムし一気にゴールを目指そうとするぜ
「よくやった!スレイ
助けにきた
もう大丈夫だぜ」
安心させるようにいい一気に突っ切る
――何も感じない。
アスレチックのスタート地点に立った尾守・夜野(墓守・f05352)は、足を滑らせれば真っ逆さまの奈落に赤い瞳を差し向け、ぽつりとつぶやいた。
「……ちょっとこのアスレチックは好きかもしれねぇ」
萎縮するどころか、むしろ――惹かれてしまうくらい。奈落の底に落ちる感覚は心底に刻み込まれた罪悪感の慰めになるだろうか?
「どのみち落ちたところで千里を駆ける扉を持つ俺には関係ねぇしな。ま、マイペースにいくとしますか」
「あら? まあ……ふふふっ。王子様に釣られて新たな犠牲者がやってきたわ」
一方のゴール地点である谷間の向こう側では、テラスに寄りかかった愛獄人魚マリーツィアが嗜虐の笑みで肩を震わせている。
「かわいそうに、ジャングルジムで苦戦してる。可愛い子ね、早く死ぬところがみたいわ――」
「助けに来たぞ!? くっ……これは……」
山のように聳え立つジャングルジムを見上げ、夜野はわかりやすく歯噛みする真似をした。
もちろん、敵の目を惹き付けるための演技である。既にスレイプニールは王子様のところへ向かわせた後であり、挑戦はマリーツィアにそれを気付かせないための策略であった。
そうとは知らないマリーツィアが見ている前で、夜野はわざと片足を踏み外して苦戦している振りを続ける。
「ああッ
……!!」
冷や汗がこめかみを流れ、両手で掴まった指先の感覚が少しずつなくなって――……耐え切れずに、落ちた。
「今行くぜ、スレイ」
空中に描かれた魔法陣に背中から吸い込まれるように落下して、
「え?」
最初に聞こえたのは驚きに満ちた王子様の声だった。
「君がこの馬の主か?」
突然、馬上に現れた夜野は「そうだ」と頷き、スレイプニールの首筋を撫でてやる。
「よくやった! スレイ。俺はお前を助けにきた。もう大丈夫だぜ」
「やはりそうなのか。この馬が来てくれなかったら、私は谷底へ真っ逆さまに落ちるところだった。感謝する!」
「行先は決まってるな?」
迷わず頷く王子様に夜野も親指を立て、スレイプニールの手綱を力強く引いた。嘶きが出発の合図だ。
今ごろ、マリーツィアは悔しがって地団駄を踏んでいるに違いない。出し抜かれた気分はどうだ、卑怯な人魚さん?
「一気に突っ切るぜ。しっかり掴まってろよ!」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『愛獄人魚マリーツィア』
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POW : あなたは私のもの。誰にも渡さない
【愛や誠意を嘲笑い冒涜する退廃の歌】が命中した対象の【心の隙間に生じた動揺】から棘を生やし、対象がこれまで話した【他者に向けた温かな愛と幸福の感情】に応じた追加ダメージを与える。
SPD : 私を愛しているのなら、そいつを殺して
【愛を憎悪に反転させる背徳の歌】を披露した指定の全対象に【大切な人や世界への嫌悪や殺意、破壊衝動の】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ : 愛も願いも、全ては闇に溶ける儚い泡……
命中した【愛や願いが報われぬまま終焉する悲劇の歌】の【聴衆の心を抉る残酷な歌詞】が【魂を侵食し破滅願望へと誘う昏い絶望】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
👑11
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「いったい、どういうことなの……っ!?」
マリーツィアは屈辱に震えていた。王子様は希望の光を失い、絶望の内に強大なる力を持ったオウガに成れ果てるはずだったのに。
「どういうことなのか説明なさい、猟兵とやら? わたくしの愉しみの邪魔をしておいて、よもや言い逃れができるなどとお思いではないわよね。こちらにはほら、この通り、人質がいるのよ? わかったらいますぐに王子様をそこの崖から突き落としなさい!!」
さもなくば、と顔を歪めるマリーツィアの後ろで人影のようなものが動いた。さらわれたアリスたちだ。魔術によって目と口、そして手足をテープのような物体で覆われ、五感を遮断された状態で囚われている。
「私の歌がこの子の心と体を傷つけるわ。ふふ、王子様がオウガにならないのならせめてこの子たちを残らずオウガへと堕として私の僕としてあげましょう!」
「人魚……いや、魔女め
……!!」
王子様――シームルグは自らを助けてくれた猟兵たちを見つめ、心の底からの望みを告げた。
「あの子たちを救うためなら、私は何でもしよう。この胸に希望の光を取り戻してくれたあなたたちと共に戦わせてはくれないか? 無論、微力であることはわかっている。それでも、ただ見ていることなど、私にはできそうにない……!」
尾守・夜野
…くそっ
こっちを狙ってくるなら兎も角人質か!
俺だけなら助けられなかった後悔・絶望とか今更だし人格かえてりゃ平気かもだが…
目線で合わせろと合図を送り…苦渋の決断っぽく演技しつつ
「…悪く思うなよ」
崖の近くまで王子には付き合って貰い
(足は呼び出す
隙を見て救出を頼む)と身長の関係上出来るか不明だが耳元を理想とする形で小さく呟きつつ
いくつか触媒と共に落ちて貰おう
「…言われた通りにした!
約束を果たせ!」
まぁ無理よな知ってる
怒り狂った様に敵へ残った触媒を投げつけ翼ある蛇やコカトリスを呼びだそう
王子の方は翼ある蛇オンリーの部隊
俺が敵に投げてる方は陽動
その間に救出をお願いする
歌にはコカトリスの声で対応
相殺を狙う
愛獄人魚マリーツィアの極悪非道なる提案は尾守・夜野(墓守・f05352)の怒りに火を付け、この場を切り抜けるための策を練らせるに至った。
自分だけならどのような修羅場であっても後悔や絶望に圧し潰されるようなことはないだろう――あまりにも、慣れ過ぎて。
「でも、あんたは……俺みたいに人格を変えてやり過ごすなんてこともできなさそうだしな」
「え?」
夜野が軽く顎をしゃくって『目で合わせろ』と合図すると、シームルグはぴんと来たのか無言のままこちらに身を寄せる。
「……悪く思うなよ」
そのままふたりは崖の近くにまで近づき、夜野はそっと彼の肩に手を添えた。
(「――足は呼び出す。隙を見て救出を頼む」)
マリーツィア向けに苦渋の表情を浮かべたまま、シームルグには作戦の打ち合わせを告げる。
騙し討ちなら、十八番だ。
シームルグは微かに目だけで頷いた。その肩を、思いきり――崖に向かって突き落とした。
「……言われた通りにした! 約束を果たせ!」
「あはははっ!! 本当にやったわね!? 最高だわ、あなた大好きよ」
マリーツィアは心底から喜び、身を捩らんばかりに笑った。
「いいわよ、誰かひとりだけ選びなさい。その子だけは助けてあげるわ」
「なんだと? ひとりだけじゃない、全員だ!」
「駄目よ、死んだのは王子様ひとりなのだから助けるのもひとりだけ」
勝利を確信してこちらを見下すマリーツィアを、夜野は悔しげに見上げ――彼女にはわからないように一瞬だけ笑った。
(まぁ無理よな、知ってる)
作戦成功の笑みは怒り狂った演技に上書きされ、夜野は激昂と同時に召喚用の触媒をマリーツィアに向かって投げつけた。次々と蛇になって襲い来るそれらをマリーツィアの残酷な歌声が捉え、魂を浸食せんと絶望の毒を染み渡らせる。
「ふん、そんなものが何になるというのよ」
「そんなもの? その言葉、そっくりそのまま返してやる! いけ、コカトリス」
鶏頭の蛇がけたたましく泣き喚き、マリーツィアの歌声をかき消してしまった。
「そんな、私の歌が
……!?」
今度はマリーツィアが悔しがる番だった。自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こす彼女を、夜野は軽蔑するような眼差しで見据えて告げた。
「悲劇? 絶望? そんなものは既に――……この体の全てに浸透しきってるのさ。ふちまで水がいっぱい入ったコップにそれ以上の水を注ごうとしたらどうなる? 零れるだけだろ? お前が俺にやろうとしてんのは、そういう無意味なことなんだよ」
一方、崖から落ちたシームルグを救ったのも彼と一緒に投げ落とされた触媒から召喚されし翼蛇たちであった。
「……何からなにまで、すまない。何としても人質たちは助け出してみせる……!」
彼はそのまま戦場を迂回し、バルコニーへと到達。マリーツィアが気付いた時には既に人質たちを翼蛇に乗せて逃がした後だった。
「私を騙したのね!?」
「自分のことは棚にあげてよく言うぜ。最初っから王子様をオウガにする気まんまんだった癖にな」
夜野は呆れたように告げる。
だが、マリーツィアは低く笑い、聞く者の不安を掻き立てるような歌声で憎しみの言葉を綴った。
「いいわ、あなたたちの力は認めてあげる……でも、そんなものは移ろいゆく花の色も同然の儚きもの……さあ、私の歌声によって全ての感情を反転させなさい。愛も、誠意も、願いも。その全てを絶望へと変えてあげるわ――!!」
大成功
🔵🔵🔵
ゲニウス・サガレン(サポート)
1対1はもっとも苦手とするところです。すばしっこくはあるので、「ゴーイング~」等で障害物がある空間ではちょこまかと逃げますが、長丁場では体力が尽きます。油断している相手ならなんとか立ち回れるかもしれません。相手が準備できていないうちに「ガジェット~」やアイテムでの先制攻撃か、「眠れる力~」や「ガジェット~」、アイテム等で後方支援に徹しての味方の援護の方が役には立ちます。
ミュー・ティフィア(サポート)
困ってそうですね。少しお手伝いしましょうか?
口調 (私、あなた、呼び捨て、です、ます、でしょう、でしょうか?)
基本的に誰に対しても友好的です。
時々うん、と相槌をしたり、敬語はやや崩れちゃったりします。
好きなものは紅茶です。
余裕があったら飲みたいです。
なるべくなら助けられる人は助けます。
復興のお手伝いとかは積極的に頑張っちゃいます!
現地の人達との交流やケアもしていきたいです。
もちろんオブリビオンや悪人には容赦なしです!
相手次第では手加減するかもしれないですけど。
ユーベルコードやアイテムは何でも使います。
いかなる場合でも公序良俗に反する事には関わりません。
不明点や細かい部分はお任せします。
早臣・煉夜(サポート)
どんな方だろうとも、容赦なんてしませんですよ
僕はそのために作られたんですからね
妖刀もしくはクランケヴァッフェを大鎌にかえて
それらを気分で使って攻撃です
妖剣解放を常時使用して突っ込みます
使えそうならアルジャーノンエフェクト
怪我なんて気にしません
この身は痛みには鈍いですから
死ななきゃいいんです
死んだらそれ以上倒せなくなるので困るです
僕は平気なのですが、なんだかはたから見たら危なっかしいみたいですので
もし、誰かが助けてくださるならお礼を言います
ありがとーございますです
勝利を優先しますが、悲しそうな敵は少し寂しいです
今度は、別の形で出会いたいですね
なお、公序良俗に反する行動はしません
アドリブ歓迎です
「あっ、あそこ。アリスさんたちが逃げてきます!」
マリーツィアの居城から翼蛇に乗って逃げてくるアリスを最初に発見したミュー・ティフィア(絆の歌姫・f07712)は声を上げ、急いで彼女たちの元へと寄り添った。
「もう大丈夫です。さあ、早くこっちへ!」
「でも、あの人魚の歌は――あっ」
背後から、人魚による禍つ歌の波動が迫る。
だが、ミューは焦らなかった。ゆっくりと羽搏き、その背にアリスを庇うようにして敵と向き直る。
――私には、歌があるから。
「え……?」
自分たちが無事であることに驚いたアリスは、すぐさまその理由がミューの歌声にあることを知った。
「とても、綺麗で透き通った旋律……これは、あなたの?」
おそるおそる尋ねるアリスに、ミューは満面の笑顔で答えた。
「はい! いまのうちに、さあ!」
そして彼女たちの指を引き、安全なところまで先導する。それに気づいたマリーツィアは歯噛みして竪琴を掴み、指先で激しくかき鳴らした――鳴らそうとして驚愕に顔を歪めた。
「なッ――なによ、あれは!?」
マリーツィアの指先が竪琴に伸びるより早く、どこからか飛んできた空飛ぶシュリンプの群れが彼女の手から楽器を弾き飛ばしてしまったのである。
「やれやれ、間に合ったか」
ゲニウス・サガレン(探検家を気取る駆け出し学者・f30902)はほっと胸を撫でおろし、次いで軽くなった鞄を逆さにして頭をかいた。
「今月は節約生活かなぁ」
「随分と奮発しましたね」
早臣・煉夜(夜に飛ぶ鳥・f26032)はゲニウスが金貨と引き換えに作った隙を無駄にする気はまるでなかった。
指先で踊る漆黒の流動体が大鎌に姿を変え、煉夜の手に収まる。ゆらりと陽炎のような妖気を発しつつ――人魚の頭上目がけて跳躍。
「それでは、参りましょうか。生憎と、この身は痛みには鈍いんですよ。愛を憎悪に反転させる背徳の歌……でしたか? なにそれ効くのって感じですかね」
煉夜はしれっとした顔で大鎌を薙ぎ払い、マリーツィアをバルコニーの隅へと追い詰んでゆく。
「くっ、このっ――!」
マリーツィアが焦ればあせるほど、煉夜の刃はより深く彼女の皮膚を裂き、黒いタールのような血をまき散らした。
「あなた、何をそんなに憎んでらっしゃるんです? 月並みな言葉ですけど、誰かを傷つけたところであなたの心は救われないですよ」
「わかったようなことをッ」
煉夜は空中で身軽に回転し、マリーツィアから距離をとるとゲニウスに耳打ちした。
「一瞬だけでいい、相手の動きを止められますか?」
「よし、なんとかしてみよう!」
ゲニウスは親指を立てて請負い、得意げな顔でガジェットを召喚する。稲妻をはらんだ爆発と共に現れたのは防音材であった。
「な――」
驚くマリーツィアの周囲を囲み、その歌声を閉じ込めてしまう。
「どうだね、私のガジェットは。なかなか有能だろう?」
「卑怯者……!」
「――どっちがですか」
煉夜は呆れ、死角から大鎌を振り下ろす。ついに、マリーツィアは逃げ場を失ってバルコニーの手すりにまで後退していた。いまや完全に手の届かない場所までアリスたちが逃げ切ったのを確かめ、時間を稼いでくれたゲニウスに礼を言う。
「ありがとーございますです」
ゲニウスもまた、肩をそびやかして唇の端を吊り上げた。
「どういたしまして、坊や」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
オズ・ケストナー
よかった、にげられたんだね
シームルグたちに大きく手を振って
次はわたしの番っ
わたしも歌うよっ
斧を構えオウガの前へ
おうじさまの望むように手助けするって約束したもの
シームルグがいっしょにたたかってくれるなら
わたしはそのおてつだいをするね
歌いながら派手に立ち回り引き付け
その隙にシームルグが攻撃できるよう
斧で武器受け
歌を塗り替え
全力でシームルグを守りながら応戦
むくわれないのがかなしいの?
あいしてもらいたかったからあいしたの?
よくわからない
わたしはすきなひとのことは、すきなままでいると思うから
しあわせそうに笑ってくれていたらうれしいから
それだけでいいんだよ
みんな笑顔でいられるように
ぶじにおうちに帰すんだっ
アリスたちを乗せた翼蛇が空の彼方へと遠ざかり、見えなくなってゆく。オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が大きく手を振ると、シームルグも応えてくれるのがわかった。
「次はわたしの番っ、わたしも歌うよっ」
斧を構え、オズはマリーツィアと対峙する。
――光と闇の歌声が真っ向からせめぎ合った。マリーツィアのそれは残酷なる絶望のそれ。昏く、淫靡で、後悔と妬み嫉みに彩られた旋律がシームルグを呑み込む前に、オズは勇ましく斧を振りかぶってマリーツィアの奏でる竪琴を弾き飛ばす。
「シームルグ、いまならいけるよっ」
「――心得た!」
猟兵のおかげで希望の光と取り戻した王子様にはもはや恐れるものはなにもない。白い手袋に包まれた右手が握るスピアの切っ先を避けるため、マリーツィアの歌声が途切れた。
その間隙に滑り込む、オズの清らかなる歌声。声変わり前のボーイ・ソプラノを思わせる透き通った声色は春の陽だまり。さあ、勇気を胸に歩き出すライオンの姿が見えるかい? 咲いた、咲いた。獣の牙持つ春の花が。
「はぁっ!」
「くっ……」
歌声に鼓舞されるシームルグとは対照的に、マリーツィアの動きは明らかに悪くなってゆく。
「こんな、おためごかしの歌などで……っ、真実は私の歌の方なのに。なぜその魂は堕落しないの? 破壊願望に打ちのめされてしまわないのよ」
心底から悔しがるマリーツィアの姿は、オズの心にひとひらの憐みを感じさせた。
「むくわれないのがかなしいの? あいしてもらいたかったからあいしたの?」
「当然でしょう! ただし、私の愛は破滅の愛。絶望に染まるあなたを見たいから、真実の愛に破れ、私の胸で泣き濡れるあなたが見たいから、私は愛し続けるの
……!!」
「そんなの、よくわからない」
低く唸るように訴えるマリーツィアのアルトを、オズの迷いなきボーイ・ソプラノが塗り替えた。
「わたしはすきなひとのことは、すきなままでいると思うから。しあわせそうに笑ってくれていたらうれしいから、それだけでいいんだよ」
光と闇のアンサンブルは終幕を迎え、アリアを歌い上げる権利を得たのはオズだった。
「私の歌が負けた? そんな、まさか
……!?」
愕然と目を見開いたマリーツィアが最期に見たのは、光り輝く黄色い花の大群。そこでは誰もが笑顔で、自分たちの家に帰ろうとする背中が楽しそうに跳ねて――彼らを見つめるキトンブルーの瞳が、優しく見守るように笑んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年12月21日
宿敵
『愛獄人魚マリーツィア』
を撃破!
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