ハロー・サイドキッカー
●Ars Magna
白銀に煌めく飛行船が、鉛色の空のなかを優雅に泳いでいる。
企業国家『アルスマグナ』のプラントから飛び立った船は、其処で生産された資源を満載し、幾つものビルが並び立つ市街地へと向かっていた。
「今回の収穫も上々ですね」
タブレット端末で積み荷のチェックをしているのは、赤い髪を短く切り揃え、リムレスの眼鏡を掛けた女性レプリカントだ。
この船の責任者たる彼女は、資源の限られたこの世界において『物質の輸送任務』が如何に重要な役割を担っているのか、よく理解していた。
「これだけの資源があれば“我が社”は……いえ、“我が国”は安泰でしょう」
アルスマグナは、強大な財団に統括された企業国家である。それゆえ、こんな荒廃した世界においても、軍需産業を筆頭とした商業活動が盛んに行われているのだ。
その資金繰りの順調さから、錬金術のように最新兵器を作り続けるアルスマグナは、近隣諸国に一目置かれ、小国ながらも無事に独立を保てていた。
「偉大なる財団に、そして愛しきアルスマグナに、永久の栄光あれ」
国の更なる繁栄を夢見て、レプリカントは自然と口端を弛ませる。
嗚呼、彼女は未だ知らないのだ。
赤いモノアイを不気味に光らせたキャバリアたちが、彼女と資源を乗せた船を撃墜せんと企んでいることを――。
●monoeye
「モノアイって浪漫だよね」
グリモアベースに集った面々を見回しながら、ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)は、こくりと頸を傾けて見せる。
「君たちは一つ眼と双つ眼、どっちが好き?」
嗚呼、フルフェイスとか、バイザーフェイス、モニターフェイスなんかも良いよね――。
恐らくは「ロボット」の噺をしているのだろう。楽し気に言葉を重ねた蒼い男は、皆の答えを待たずに淡々と話を進めて行く。
「『アルスマグナ』という国の飛行船が、オブリビオンマシンに撃墜されそうなんだ」
クロムキャバリアにおいて、高速飛翔体は総て『暴走衛星「殲禍炎剣」』に破壊される運命である。ゆえに、プラントで生産された資源の輸送には「飛行船」を使うことも少なく無い。しかし近頃、狂乱した近隣諸国のマシンに其れが撃墜される事件も相次いでいる。
「飛行船を助けに行っておくれ。勿論、タダでとは言わないよ」
任務を無事達成できれば、彼らは猟兵たちにいたく感謝して、充分な報酬を支払ってくれるだろう。また企業国家たるアルスマグナは、新製品――兵器やキャバリアの開発に余念が無いのだ。
「欲しい商品が有れば、格安で売ってくれるんじゃないかな」
この機に相棒と成るキャバリアを買い求めても良いし、既に相棒を持つ者は愛機を彩るカスタムパーツを探してみても良いだろう。また、コックピット環境を良好に保つためのアイテムも充実している。
その他にも綺麗なメダイだとか、落としても割れないマグカップだとか。日常でも使えるお役立ちアイテムが揃っているので、キャバリアを持たない者も買い物を楽しめるだろう。
「それでは、良い旅を」
蒼い髪を揺らす男の掌中で、グリモアがきらきらと眩い輝きを放ち始めた。
向かう先は、鉄騎掛ける争乱の世界――クロムキャバリア。
華房圓
OPをご覧くださり、有難う御座います。
こんにちは、華房圓です。
今回はクロムキャバリアで、冒険譚をお届けします。
飛行船の護衛を成功させ、その報酬で相棒探しや買い物を楽しみましょう。
●一章<集団戦>
オブリビオンマシンの軍勢との戦いです。
空中戦を想定しています。飛行船に群がる敵を退けましょう。
敵機のパイロットはマシンに狂乱させられた一般人なので、なるべくトドメをささないよう気を付けてください。
コックピットさえ無事なら、敵パイロットは安全に生還できます。
●二章<ボス戦>
軍勢を率いる指揮官機との戦いです。こちらは地上戦を予定しています。
パイロットは同じく狂乱した一般人なので、コックピットを壊さないよう注意をお願いします。
●三章<日常>
市街地の中心に在る巨大なビル、軍需専門商社の本拠地にお邪魔します。
相棒となるキャバリアを探したり、キャバリアが装備する武器やパーツを探したり。
或いはコックピット環境を充実させるアイテムを探したりしましょう。
お声掛けいただいた場合に限り、グリモア猟兵のヴィルジールが登場します。
なおアイテムの発行はありませんので、ご了承ください。
●企業国家『アルスマグナ』
シンクタンク「ライデン・アルケミー財団」に統括された国です。
軍需産業を筆頭とした商業活動が盛んであり、資金繰りは良好な様子です。
新型キャバリアや最新兵器の開発に余念がありませんが、それを操縦するパイロットが不足していることが目下の問題です。
●キャバリアについて
ご希望の方は企業国家の量産機で出撃できます。可もなく不可もない乗り心地です。
なお、キャバリアは「当該ジョブ無しでも操縦可能」です。ユーベルコードはキャバリアの武器から放てます。
もちろん、生身で戦っていただいても構いません。
●ご連絡
プレイングの募集期間は断章投稿後、MS個人ページ等でご案内させて頂きます。
戦闘パートは早めに〆させて頂く予定です。
三章日常パートは、のんびり受付させて頂きます。
どの章からでもお気軽にどうぞ。日常章のみのご参加も大歓迎です。
またアドリブや連携の可否について、記号表記を導入しています。
宜しければMS個人ページをご確認のうえ、字数削減にお役立てください。
それでは宜しくお願いします。
第1章 集団戦
『ガーゴイル』
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POW : ランス・チャージ
【ビームランスでの突撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : デルタ・ストライク
【僚機と連携すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【三機のコンビネーションアタック】で攻撃する。
WIZ : RS-Sミサイルポッド
レベル×5本の【実体】属性の【誘導ミサイル】を放つ。
👑11
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●天使の居る船
猟兵たちが転送された先は、件の飛行船の内部だった。
恐らくはエントランスホールなのだろう。頭上では硝子の照明がきらきらと煌めき、床はよく磨かれたフローリングで造られている。乗り降り口付近にはまるで地上のホテルやオフィスビルのように、大きな観葉植物が飾られていた。
「御機嫌よう、皆さま。この度は協力に感謝いたします」
ヒールの音を響かせながら一同の前に姿を現したのは、黒いスーツに身を包んだ秘書然とした女性――この飛行船を統括するレプリカントだ。切り揃えた赤い髪をさらりと揺らし、彼女は深々と頭を下げる。
「私は財団より飛行船の管理を命じられました、トレンタと申します。どうぞお見知りおきを」
簡潔に自己紹介を済ませた彼女は集った面々を見渡したのち、淡々とした調子で船内の案内を始めて行く。操縦室に休憩室、食堂や倉庫など、一通り見学して回った一同が最後に通されたのは、キャバリアが眠っている格納庫だった。
「当船は皆さまを、全力でバックアップいたします」
眼鏡越しの双眸を上へ向けるトレンタに釣られて、一同も上を見上げる。果たして格納庫にずらりと飾られて居たのは、白い鎧を纏った騎士の如きフォルムのキャバリアだった。背中から生えた機械仕掛けの翼が、機体の優美さを一層引き立てている。
「こちらは、アルスマグナの最新機『グランピーエンジェル』です」
トレンタ曰く――この機体は空中戦と地上戦、両方の適性を持っている。更にAIが在る程度は勝手に動かしてくれる為、初心者にもお勧めの機体なのだと云う。
「必要でありましたら、どうぞご自由にお使いください」
生身で戦えると云う皆さまなら、必要ないかも知れませんが――。
秘書然としたレプリカントがそう云い掛けた所で、ぐらりと船が揺れた。予知の通り、襲撃が始まったのだ。けたたましい警報ベルが船内に成り響き、乗船者たちの鼓膜を揺らして行く。
「っ、敵襲ですね。敵機はガーゴイル。クラシックな機体です」
操縦室から届いた情報を速やかに解析しながら、トレンタは聲に焦燥を僅か滲ませる。彼女が腕に抱えた端末には、ビームの翼を生やしたモノアイの機体が何体も映っていた。
「皆さま、どうか宜しくお願いします」
再び深々と頭を下げるレプリカントの願いを聞き届けて、猟兵たちは飛行船の外へ向かう。ある者は愛機に乗って、ある者は鋼鐵の天使に乗って、そしてある者は生身で――。
●怪物は空に踊りて
飛び出した猟兵たちの視界に映ったのは、飛行船に纏わりつく幾つもの敵機の姿だった。ガーゴイルめいたフォルムの彼等はビームランスで飛行船を殴りつけ、誘導ミサイルで飛行船の運航を妨害している。
このままでは飛行船や資源はおろか、トレンタを始めとする乗組員の命も危うい。猟兵たちは急いでガーゴイルたちへと肉薄する。
――刹那、敵機が一斉に此方を向いた。
不気味に煌めく赤いモノアイが、猟兵たちを見つめている。センサー越しにも伝わって来るのは、明らかな殺気と、オブリビオンマシンに齎された狂乱だ。
『力無き者は地に堕ちよ』
『鋼鐵のハリボテは朽ち果てよ』
『戦力なきアルスマグナに介錯を!』
されど、オブリビオンマシンのパイロットたちも一般人。余計な遺恨を遺さぬためにも、コックピットの破壊は避けた方が良いだろう。
非殺による敵の無効化と飛行船の護衛。両方を遂行するのは並大抵のことでは無いが、数多の戦場を乗り越えて来た猟兵たちなら可能であろう。
空を舞う怪物たちがいま、一斉に羽搏いた。
≪補足≫
・アドリブOKの方は、プレイングに「◎」を記載いただけると幸いです。
→連携OKの場合は「☆」を記載いただけると更に嬉しいです。
・≪受付期間≫
1月3日(日)8時31分 ~ 1月5日(火)23時59分
鳳凰院・ひりょ
◎☆
SPD
専用機はまだ持っていない為、機体を借り受ける
キャバリア乗りとしての経験もまだまだ新米レベルを抜けない為、キャバリアの機動に体がついていけない可能性がある
【オーラ防御】で体に掛かる負担を軽減しつつ戦闘
操縦に慣れない中で射撃攻撃では運悪くコックピット命中なんて事もありえるので近接武器での対応を主とする
射撃は使っても敵のコンビネーションを崩す為の牽制用
僚機存在時は【援護射撃】も視野に
敵の攻撃は【落ち着き】冷静に状況を見極め【見切り】回避
一陣の風、疾風怒濤を発動
最大速度で敵一機へ一気に肉薄、近接武器での連続攻撃で敵機体の飛行ユニットを破壊
一体ずつ確実に無力化して飛行船への損害を減らすよう行動
アリエル・ポラリス
◎☆
#(シャティへの攻撃はアリエル『が』庇おうとします)
お、お空を飛ぶ敵ですって!?
どうしましょう……私のシャティは飛べないのよ!
私は飛べるけど、格納庫にシャティを置き去りになんてしたら可愛そうだわ!
どうにかしなくては……!
ここで頭のいい私は閃いたわ。
シャティのブレイズコアのお陰で、私の地獄は火力1000%の大出力。
──私がシャティを持ち上げて飛べば解決よ!!
シャティの背中に張り付いて、UCでびゅーん!
もうシャティの身体全体を炎で覆っちゃいましょう、私の可愛いシャティにランスなんか刺させないのよ!
さあ、飛行手段が解決したなら……そのおっきなお手々で敵を叩き落とすのよ、シャティ!!
●Giant & Angel
鉛色の空を往く飛行船はいま、ガーゴイルたちの襲撃を受けていた。オブリビオンマシンと化すと「悪魔が憑りつく」と言われているだけあって、その攻勢は苛烈なものだ。
「お、お空を飛ぶ敵ですって!?」
キャバリア用の射出口から飛行船の外に広がる光景を盗み見て、アリエル・ポラリス(焼きついた想いの名は・f20265)は慌てた様子で、背後に控えるジャイアントキャバリアを振り返る。
「どうしましょう……私のシャティは飛べないのよ!」
嘗て暴走している所をアリエルに止められたと云う、異色の経歴を持つジャイアントキャバリア“シャティ”。惜しむべきことに、彼には飛行機能が搭載されて居ないのだ。
「格納庫に置き去りになんてしたら可愛そうだわ!」
ジャイアントキャバリアは、脳無き巨人――つまり、生きているのだ。暴走もするし、きっと感情も持っているのだろう。そんな子を昏い所に閉じ込めておくなんて、こころ優しい少女には到底出来なかった。
「シャティも私みたいに飛べると良いのに……」
そう哀し気に呟いた所でふと、アリエルは閃いた。なにもキャバリアに“乗る”必要はないのでは――。
「そうよ、ブレイズコアの力を借りれば良いのだわ!」
シャティが其の身に秘めた地獄を生み出す機関“ブレイズコア”、それはブレイズキャリバーたるアリエルが纏う地獄の炎の出力を更に上げてくれる。
そうすれば彼女の火力は1000%にも至る。これなら何だって持ち上げられる筈だ。――そう、巨大なキャバリアさえも。
「いくわよ、シャティ!」
彼の大きな背中に飛びついたアリエルは、自身とシャティの躰を地獄の炎で包み込む。彼女に仇なす者だけを焼き尽くす其れが、愛機たる脳無き巨人の躰を焦がすことは無い。
シャティを大事そうに抱きしめた少女は、巨大な機体ごと外へ飛び出して行く。
彼女の華奢な躰の一体何処に、そんな力が眠っていたのだろうか。きっと兄姉からめいっぱい注がれた愛情こそが、彼女の原動力なのだ。
「まだ、慣れないな……」
企業国家の機体“グランピーエンジェル”に搭乗した青年、鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は、操縦桿を固く握りしめながらも何とか敵の動きに食らい付いていた。
キャバリアに乗るのは初めてではないが、操縦の腕は未だ新米レベル。初心者向きの機体とは言え、機動について行けず余計な怪我を負う可能性もある。ゆえに彼はその身にオーラを纏い、躰に掛かる負荷や衝撃を和らげていた。
「とはいえ、コックピットは避けるようにしないと」
操縦に不慣れゆえ、ビーム射撃だと誤って敵パイロットの命を奪ってしまう恐れがある。そこで青年はAIのアシストを頼りに敵へ肉薄、慎重にキャバリアソードを振るい、ガーゴイルの装備を切り裂いて行く。
しかし、厄介なことに敵は独りではない。
一機が体勢を崩したとみるや、すかさず敵の僚機がひりょの操る天使の許へと集って来る。金色に煌めくビームランスが強かに宙を切るが、青年は操縦桿を思い切り引いて機体を大きく傾ける。慣れぬ機体のなかでも彼は冷静さを損なわず、ただ黒い双眸で真っ直ぐに敵の動きを見つめていた。
「コンビネーションさえ崩せれば……!」
なるべくコックピットから遠い所へ照準を合わせ、牽制としてレーザー砲のトリガーを引くひりょ。鋼鐵の天使が構えた銃身から続けざまに発射されるレーザーは、一度敵機を空へと散ばらせた。長期戦も視野に入れながら、彼が反撃を試みようとした、その刹那。
「助太刀するわよ、シャティ!」
飛行船から飛び出して来た燃え盛るジャイアントキャバリア――を抱え、自身もまた炎を纏った少女が、空中戦に興じる一同の前へと現れる。或る意味で出鱈目な其の光景は、たいそう敵の度肝を抜いた。
『な、なんだアレは!』
『落ち着け、アレは生身の小娘だ』
『空も飛べぬ巨人など、恐れるに足りぬ!』
どうやら互角に渡り合って来る敵機よりも、撃破しやすそうな生身の少女へ敵の関心は向いたらしい。三機は金色のビームランスを構えながら、シャティの許へと突撃してくる。
「そうはいかないのよ!」
アリエルが吠えれば、シャティを包む炎が囂と燃え上がった。更に火力を上げた少女は空宙で、くるりっ。軽やかに躰の向きを変え、小さな背中を盾とするように巨人を凶刃から庇う。
「……っ」
ガーゴイルが構えるランスは対キャバリア用、生身の人間には過ぎたる代物だ。熱く煮え滾るような切っ先で背を穿たれ、少女は苦悶の聲を押し殺す。
「私の可愛いシャティに、ランスなんか刺させないのよ!」
たくさんの愛を其の身で受け止めて来た少女は、翠の眸で真っ直ぐに不気味に煌めくモノアイを見上げる。共に戦う仲間を護ってこそ、ヒーローだ。喩え、それがキャバリアであろうとも――。
「いけない、援護しないと」
キャバリアを抱えて登場した同朋に、敵と同じく度肝を抜かれていた青年もまた、急いでトリガーへと指を掛けた。碌に狙いを付けず牽制のビームを数発放てば、蜘蛛の子を散らすように再び敵機は逃げて行く。
「ありがとう、反撃の時間ね!」
また三機集う前に敵を無力化せんと、アリエルが散らばったうちの一機を追い掛ける。果たしてエンジンを其の身に組み込んだキャバリアが相手と言えど、速さに関しては生身の彼女の方が勝っていた。滑り込む様に肉薄すれば、彼女が抱えるシャティが大きく腕を振り上げて――。
「そのおっきなお手々で敵を叩き落とすのよ、シャティ!!」
彼女の指示通りに振り降ろした拳は、見事に敵のボディへヒット。電気系統が狂ったのか、バチバチと電磁波をまき散らしながら一機が地上へと堕ちて行く。
「よし、俺も……!」
仲間の活躍をモニター越しに確認した青年もまた、意識を操縦桿に集中させる。ゆっくりと双眸を瞼に鎖せば精神統一、のち、開眼。
一陣の風、疾風怒濤――。
アクセルを思い切り踏み込めば、時速9000㎞ものスピードで鋼鐵の天使は空を翔ける。瞬きをする間に彼は敵の前へと躍り出て、キャバリアソードを軽やかに振う。返す刀でもう一機のボディも、白銀に煌めく剣先で撫でつけて。
『いま、何が……』
『我らの翼がッ……』
果たして彼が切り裂いたのは、敵が背負う飛行ユニットだった。哀れ翼を喪ったガーゴイルたちは、地上へと真っ逆さま。
「なんとか、乗り切れたみたいだ」
地上へと墜落する前に脱出ポッドから逃げて行く敵兵たちを見降ろしながら、ひりょは安堵したように息を吐いた。
鉛色の空の下、アルスマグナの船は尚も、堂々とした佇まいで運航を続けている。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カグヤ・アルトニウス
〇ハロー・サイキッカー
アドリブ歓迎
SSWでの私の表の仕事は「輸送隊護衛任務」で、要領は得ているといっても油断は禁物ですね
(行動)
今回は空中戦なので…武装解除して撃退もしくは不時着させる事を目標にします
(UC)
「トゥインクルスター」の射撃支援に特化
(行動)
キャバリア(ホワイト・レクイエム)使用
まずは【第六感】で未来位置を掴み、テレポートで位置取りをします
そして、UCの支援下で敵機の至近に「トゥインクルスター」のゲートを開き、ビーム砲による【部位狙い】+【武器落とし】で飛翔機構と各種武装を破壊して離脱させます
撃ち漏らしは「ダイダロス」搭載の複合ライフルの散弾で怯ませ、ライフルで狙い撃って撃退します
●Hello Psychicer
煌めく白銀の装甲を纏う機体が、鉛色の空の下を飛び回っている。
サイキックキャバリア『ホワイト・レクイエム』のコックピットに居るのはスペースノイドの青年、カグヤ・アルトニウス(辺境の万事屋兼宇宙海賊・f04065)だ。
「要領は得ている、――といっても油断は禁物ですね」
星海を渡る船の世界、スペースシップワールドにおける彼の表稼業は、「輸送隊護衛任務」である。今回のような任務については、玄人と称しても過言ではない。されど、宇宙海賊としての貌も持つカグヤが敵を侮ることは無い。確りとモニターを見つめながら操縦桿を握りしめる彼の姿は、何処までも真剣そのものだ。
「武装解除からの撃退が出来れば御の字ですが……」
ちら、と黒い双眸でモニターに映る敵機の群れを見る。オブリビオンマシンなだけあって、彼等の闘志はまるで黒く煮え滾るように苛烈であった。
「どうしてもという時は、敵の不時着を狙いましょうか」
コックピットさえ壊さなければ、無事に脱出できるだろう。素早く脳内で作戦を組み立てた青年は、モニターに映る敵の動きを観察する。
ガーゴイルたちは彼が操る機体にランスを向けて、襲撃の時を今か今かと伺っていた。業を煮やした彼等は、きっともう直ぐ此方へ突っ込んでくるだろう。
――問題は、そのタイミングだ。
此方も今か今かと襲撃を待ち焦がれ、敵の一挙一動を眺めている内に。ふと、脳内にこれから起こるであろう光景が広がって往く。
ランスを構えた敵の突進。そして、現在地点に移動してくる数機の姿。彼らが愚直に突進してくるのなら、此方は後ろを取ればいい。幸い、ホワイト・レクイエムにはテレポート機能が備わっているのだ。
「オペレーション・モモタロウ――」
青年は機体の相転移システムに意識を集中させて時を待つ。軈て読み合いに業を煮やしたガーゴイルの群れが、此方へ推力移動を始めた、其の刹那。
――コード、承認。
白銀のキャバリアは一瞬で姿を消し、先ほどまで彼らが羽搏いていた地点へと瞬く間にテレポート。当然、ガーゴイルたちは彼の動きについて行けず、構えた槍は虚しく宙を切るばかり。一方で鮮やかに敵機たちの背後を取ったカグヤは、間髪を入れずに次の手へと移行する。
「トゥインクル・スター、展開」
次の瞬間、空間がぐにゃりと歪む。ごごご、と轟音を立てながらも其の歪みから現れるのは、機動兵装システムの「トゥインクル・スター」だ。敵機の傍に陣取った其れは今、幾つもの砲口をガーゴイルたちへ向けている。
『なっ、なんだあの砲台は……』
『一体どこから
……!?』
すっかりカグヤに主導権を握られて、戦況について行けずに狼狽する敵パイロットたち。トゥインクル・スターは、そんな彼らを容赦なく狙っていた。
「ビーム砲、発射します」
砲口は次々と熱線を吐き出して、ガーゴイルの飛翔機構を焼き尽くし、固い装甲を穿っていく。更に彼が愛機の傍に浮かせた雉のぬいぐるみ兵器――『Tometama』もまた、凍てつく波動の矢を放って敵の動きを封じ、撃墜率の上昇に一役買っていた。
その結果、飛べない機体は重力に従って次々と地上へと墜落して行く。喩え羽が無事でも、腕部に熱線の直撃を喰らった機体は、その衝撃に思わずランスを落として仕舞って居た。
『丸腰にされるとは、不覚ッ……!』
『砲撃に構うな、本体を叩け!』
宙に遺る敵機たちは其れでも、カグヤに食らい付こうとする。然し、場数を踏んでいる彼が、この状況を想定して居ない訳が無かった。
「矢張り来ますか。しかし、次の手は考えています」
飛行ユニット「ダイダロス」に搭載した複合ライフルを素早く抜き放った彼は、碌に狙いもつけずに散弾をばら撒いて行く。幾ら牽制の射撃と言えど、武装を解かれた彼等は流石に、慎重さを覗かせて立ち止まる。
――それこそが、彼の狙いであった。
「皆さんには、此処で退場して貰いましょう」
静止した其の隙に青年は今度こそ敵機へ照準を合わせ、残党たちの飛行ユニットを撃ち抜いて行く。羽を喪った哀れな怪物は、一機、また一機と地に堕ちて動かなくなった。這う這うの体でコックピットから這い出してくるパイロットたちは、空を見上げて感嘆を溢す。
嗚呼、白銀に煌めくあのキャバリアこそ「白き英雄」なのだ――。
成功
🔵🔵🔴
田中・夜羽子
◎☆
飛行船の護衛が任務、と……飛び回る羽虫を蹴散らすだけね。
【対空戦闘】は出来るからいいとして、誘導ミサイルはちょっと面倒ね。撃たれても【スナイパー】撃ち落とせればいいけど。
あれの中、一般人みたいだから……羽根かマニピュレータ、センサーを破壊して戦闘できなくすればいいわね。
にしても、チェーンガン以外の武器だとコックピットに直接当たらなくてもパイロットごと吹き飛ばしそうだわ、面倒……と言って殺すわけにもいかないから困るわ。
ふーん……力無き者は地に堕ちよ?って?
それならアンタ達全部、そのお望み通り地べたに叩き落してやるわ!
緋月・透乃
◎☆#
生身で出撃
生身での対キャバリア戦は結構やってきたと思うけれど、ここまで本格的な空中戦は初めてだね。
ま、だからと言って怯む私ではないし、いつものように戦うことを楽しんでいくぞー!
まずは手持ちの食べ物でお腹を満たし【沢山食べよう!】の効果を上げておくよ。そして飛行能力で戦場へゴー!
最高速度は出さずに攻撃しやすそうな敵へ近づき叩き斬る!
敵の突撃が見えた場合は最高速度で真正面から一気に懐へ飛び込んでやっぱり叩き斬っていくよ!
狙いはコクピット以外ならどこでもいいね。どこか欠ければバランスがとれなくなって飛べなくなるんじゃないかなー?
●False god & Gluttony girl
その機体は、嘗て「偽の神」と呼ばれていた。
然し全身に封印装甲を施された今、彼は「ヤルダバオート」と云う名のオブリビオンマシンとして使役されている。コックピットの中で鎖を其の身に絡ませた少女、田中・夜羽子(偽神装機・f31315)こそ、偽神の主なのだ。
「……飛び回る羽虫を蹴散らすだけね」
紫の双眸で状況を確認しながら、夜羽子は思考を巡らせる。今回の任務は、飛行船の護衛だ。そして空を飛び回る一つ目のガーゴイルたちは、あの船を落とす気でいる。狙うべき敵は明確だ。対空戦闘についても問題はない。しかし――。
「……っ」
飛行船から一つ目の怪物を引き剥がす為に肉薄すれば、ミサイルポッドから誘導弾が飛んでくる。逃げ切るのは難しいだろう。ここは纏めて撃ち落とす方が賢明だ。
大型電磁投射ライフルを両手で構えれば、此方へ次々と飛び込んで来るミサイルに照準を合わせ、――引鉄を引く。
「ちょっと面倒ね」
ライフルから勢い良く放たれた弾丸は先頭を飛ぶミサイルを見事に射抜き、派手な爆発を巻き起こす。その衝撃で次々に後続の弾丸たちも爆ぜて行った。
凄まじい威力だが、砲身には冷却が必要だ。夜羽子は武骨な花火に紛れながら、敵の群れと距離を取る。暫くはヒット&アウェイ戦法で対応すべきだろうか。
「隙を突いて、羽かマニピュレータを壊したいところね」
更にセンサーを狂わせられたら御の字だ。冷静に作戦を練りながら、少女は宙を翔ける。彼女の技術ならきっと、其れくらいの芸当は朝飯前。
されど問題は、其の隙をどう作るか――。
「わあ、花火みたい!」
キャバリア用の射出口に腰を下ろしながら、宙で連鎖爆発するミサイルを眺める娘がひとり。赤毛のポニーテールをふわりと揺らす、緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)である。
「これを眺めながら食べるお肉は、また格別だね」
こんがりと焼けた肉に被り付く彼女の姿は、呑気そのもの。しかし、フードファイターである透乃にとって、戦闘前の食糧補給は出撃準備と同じ意味を持つのだ。
「でも、そろそろ助太刀に行くべきかな?」
骨以外をあっという間にお腹に収めた娘は、デザートと謂わんばかりに生のニンジンに被り付く。サクサクとした歯ごたえと、新鮮な甘さはお腹とこころを充分満たしてくれるようで。内側から段々と力が湧いて来る。
生身での対キャバリア戦を何度も熟してきた彼女だが、ここまで本格的な空中戦は初めてのこと。翠の眸で見渡す戦場は何処までも広く、地上はこんなに遠いけど――。
「いつものように、戦うことを楽しんでいくぞー!」
今更そんなことで怯む透乃では無いのだ。
ぐっと背伸びをして立ち上がれば、足場ギリギリの所まで歩みを進める。そして風に身を任せるように、透乃は勢いよく飛行船から飛び降りた。
食欲をそそるような馨に包まれた娘は、満腹感でふわふわ浮いて空を往く。風は冷たいし硝煙の馨がするが、ゆるりと飛ぶこと自体は心地好いものだった。
地上では長身の彼女も、キャバリアが闊歩する空中では視認しにくい存在だ。ミサイルが飛んでくることも無い。裏を返せば、接近に気付かれること無く攻撃が出来るということでもある。
「まずは、あの機体から!」
刃に桜を刻んだ大斧を構えながら、彼女は一番守りが緩いガーゴイルへ肉薄した。存在を気づかれる前に急いで腕を振り下ろせば、斧に結わえた鈴が、チリン。戦場には場違いな程、涼しい音色を響かせる。
然し翼を叩き斬られた機体は、風流を感じる余裕もない。重力が手招く侭に地へ堕ちて行くのだから。
『くッ、新手か!』
『生身とは、舐めた真似を……!』
周囲の機体がすかさずランスを構え彼女の許に突撃してくるが、戦闘狂の気質がある透乃が怯むことは無い。熱を孕んだ切先が白肌を穿っても構わずに、ただ敵の懐へ最高速度で滑り込んで、再び斧を振り上げる。
「いっくよー!」
重厚な刃を横薙ぎに払うと同時に一機の片翼を切り落とし、返す刀の動きでもう一機の翼を薙ぎ払った。翼を喪ったガーゴイルたちは、成す術もなく墜落して行く。
『怯むな、ただの小娘だ!』
『力無き者よ、地に堕ちるが良い!』
生身で戦地に飛び込んだ娘の活躍は、敵陣に動揺を与えたらしい。敵機の意識は自分達から遠ざかったキャバリアよりも、彼女の方へと集中して居た。
それが、最大の過ちだとは知らずに。
「ふーん……『力無き者は地に堕ちよ』って?」
冷めた聲が、ふと響いた。
透乃の攪乱に乗じて、偽神は再び戦場へ舞い戻ったのだ。二挺のチェーンガンを其々の手に構えた其の佇まいは、ただ其処に居るだけで敵機たちを圧倒するほど――。
「それならアンタ達全部、お望み通り地べたに叩き落してやるわ!」
銃口が火を噴き、鈍い連射音が響き渡る。彼女が放った弾丸は、コックピットのみを避け、ガーゴイルのボディに降り注いだ。銃弾の雨は厚い装甲を貫き、マニピュレーターを穿ち、飛行ユニットを粉々に砕いて行く。
軈て戦場に静寂が訪れたあと、空に遺るのは生身の娘と彼女が操るオブリビオンマシン、そして守るべき飛行船のみ。
「ほんとに面倒……」
チェーンガンを背中のバックパックに収納しながら、夜羽子は溜息ひとつ。コックピットを避けるのは簡単だが、彼女が装備する武器は総て火力が強すぎる。
万が一の事態を避ける為、敵を叩き落とす際はライフルを仕舞い、チェーンガンを取り出すしか無かった。
いちいち動作を切り替えるのは面倒だが、一般人を殺す訳には行かない。
「まあいいわ、優しく牙を折ってあげる」
「次の部隊が来ても頑張ろうね!」
コックピットの中の少女はくつりと不敵に口角を上げ、生身で空を翔ける娘はおにぎり片手に愉し気に笑う。
――彼女達の戦いは、まだ終わらない。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ガーネット・グレイローズ
☆◎
案内ご苦労、トレンタ。あとは我々猟兵にお任せあれ。
(企業によって統治される国家か。国民総社員ってところかな)
ブラッドギア「夜の女王」で出撃。ガーネット・グレイローズ、出るぞ!
《推力移動》《操縦》で機体を加速させ、
PSDホーネットによる《遊撃》《レーザー射撃》で牽制。
フクロウさんEXに指示を与え、《暗号作成》と《ジャミング》を開始。
一機ずつの性能は低いようだが……連携されると面倒なんだ。
完成した暗号を僚機に送信しつつ、ジャマーで敵機の通信を妨害して
連携を乱す。白兵戦は【イデア覚醒】と《瞬間思考力》で回避力を
強化し、JOXブレイドで敵の武装を狙って《カウンター》一閃だ!
レモン・セノサキ
◎☆
げ、またウジャウジャと
多数戦特化のファランクスは残存弾数殆ど無し、参ったな
あーあ、奴らも衛星にサラっと撃墜されちゃえば良い……の、に
――閃いた、かも
敵に気付かれないよう生身で飛行船からダイブ
――イグニッション
思念で詠唱し、地面すれすれで「バステト」に搭乗
息を潜めつつ、敵側優勢の戦場に向けてUCを発動
……これは少し難解なプログラムだね
バステト、戦闘機能全休止
リソース再構築、全て演算能力に注ぎ込んで特化させる
解析(デコード)、間に合え!
解析完了と同時にハッキングを開始
コックピット防壁=強化
推進力リミッター=解除
範囲内敵オブリビオンマシン、「強制全力飛翔」!
さぁ暴走衛星、殲禍炎剣(オシゴト)だ!
●Queen of the Night & Black Cat
「案内ご苦労、トレンタ」
整備を済ませたブラッドギア『夜の女王』に乗り込む直前、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)はふと、案内役のレプリカントを振り返る。
「ご武運をお祈りしています、イェーガー」
「ああ、あとは我々猟兵にお任せあれ」
淡々とした様子でありながらも、ピシリ。確りと敬礼を返してくる彼女に片手を挙げれば、麗人は愛機に乗り込んでキャバリアとのシンクロを開始した。
――しかし、企業によって統治される国家か。
国の在り方が様々であることは、星海の世界に船を持つ彼女も理解して居る。されど、企業、しかも財団の下で統治される世界というものは、珍しいように思える。
――……国民総社員ってところかな。
ひとつの財団、しかもシンクタンクに支配された国なんて、ディストピアめいた趣もあるけれど。そう考えれば、失業者も殆ど出ず、豊かで良い国なのかも知れない。
そんなことを芒と思案している内に、ブラッドギアとのシンクロは何時の間にやら完了して居た。
「ガーネット・グレイローズ、出るぞ!」
体内に流れるナノマシンの昂りを感じながら、赫髪の麗人は咆える。刹那、彼女の意思に呼応するかの如く、キャバリアは格納庫から空へと飛び出して行く――。
夜の女王が出撃した後、レモン・セノサキ(金瞳の黒猫・f29870)は、キャバリア用の射出口に陣取って、ファランクスから砲弾を放ち続けていた。飛行船に纏わりつくガーゴイルは、重たい衝撃に一機、また一機と墜落して行くが――。
「……げ、またウジャウジャと」
再び視界に映り込むガーゴイルの群れに、少女は盛大な溜息を溢す。気付けばファランクスにはもう、殆ど弾が残って居なかった。
「参ったな……」
頸をぐるりと廻らせて、鉛の空を見上げるレモン。天気は余り宜しく無いものの、雨粒のひとつすら、降ってくる気配は無い。
「あーあ、奴らも衛星にサラっと撃墜されちゃえば良い……の、に」
――閃いた、かも。
独り言ちた科白にヒントを見出し、少女ははたと立ち上がる。ファランクスが沈黙した今、敵機の意識は此方から逸れていた。そのことを確認したレモンは生身の儘、飛行船から飛び降りる。
――イグニッション。
漆黒の髪を攫う風を感じ、重力に導かれながら、少女は意識の底で詠唱を紡ぐ。すると、地面に墜落するか否かの瀬戸際で、サイキックキャバリア「バステト」が彼女の下へ滑り込むように現れて、主の躰をコックピットに受け止めた。
地面に降り立ったバステトの中、少女は飛行船を見上げる。相変わらず、敵が纏わりついていて鬱陶しい。乗組員たちの安全の為にも、早くアレを止めないと――。
「擬似信号送信、ポート開放」
コックピットのなか、少女は魔法陣を構築していく。それは、あの敵機たちを絡めとる、ハッキングプログラムの演算術――。
「偽証コード励起。セキュリティ機構改竄、”ディセイブル”っと……」
されど、解析は未だ成らない。
ガーゴイルはクラシックな機体。最新式のキャバリアよりも、システムがアナログ寄りなのだろう。
「……これは少し難解なプログラムだね」
ハッキング技術が高度であるほど、アナログシステムは難攻不落と成る。プログラムを懸命に読み解く少女の上に、ふと影が差す――。
『敵機を発見』
『我らが居る所、安全圏など無し!』
上空からバステトの姿を目敏く見つけたのであろう。数機のガーゴイルが、彼女の愛機を取り囲んでいた。
「……もう!」
邪魔者の来訪に一旦ハッキングを止め、操縦稈を握り締めるレモン。なけなしの残弾が眠るファランクスのトリガーを引こうとした、その時。
「私が相手に成ろう」
戦場に堂々とし佇まいの女王が、――ガーネット・グレイローズが降臨した。
夜の女王はスライドする様に宙を翔けながら、腰部装甲をパカリと開く。其処から現れるのは、浮遊自走砲「PSDホーネット」だ。ガーネットのサイキックで操られた其れは、僚機を取り囲むガーゴイルたちへとレーザーを放ち始める。
『チッ、増援か!』
『いまのは牽制だ、怯むな!』
喩え当たらぬと云えども、敵機にとって遠隔射撃での牽制は煩わしいものだ。血気盛んな機体たちは、夜の女王の膝元へ向かって来る。
「フクロウさん、頼んだ」
広い空のなか猛スピードで後退りながらも、麗人は傍らのアシスタントロボに指示を出す。穏やかな稼働音を響かせたフクロウは、僚機へと暗号を送信する傍ら妨害電波を送信し、敵機の通信チャンネルを乱し始めた。
『こち、ク、ジャ――……!』
『応……よ……!』
息の合った連携には、細やかな通信が肝要である。そして、それを阻害された今、此方を追う敵機の統率は完璧に崩れていた。それでも敵機たちは、我武者羅に速度を上げ、夜の女王へ食らい付いて来る。彼女の懐へ不意に飛び込んできた一機が、ランスを振りかざした瞬間。
――……視える!
ガーネットのイデアは覚醒し、その攻撃の軌道を瞬時に見極めた。ランスの利点はリーチの長さ、されど其の攻撃は直線的でしかない。ならば、此方は「円」を意識するのみ。
夜の女王はドリフトめいた動きで、空宙を急カーブ。ランスの矛先が空しく宙を切ったと同時に、蒼い光を放つ剣を抜き放つ。そのまま推力飛行で敵の許へと飛び込んで、一閃。
「……やはり、単体の性能は低いようだな」
モノアイの機体は、その腕部から背中の飛行ユニットにかけてを一刀両断されて、儚くも地に堕ちて往く。ガーゴイルはクラシックな量産機。長く使用されている点を考慮すると粗悪な機体では無いのだろうが、如何せん相手が悪すぎた。
夜の女王の御前には、誰もが跪くしか無いのだから。
「さあ、次は誰が女王と踊ってくれるんだ」
コックピットの中、ガーネットは優美に笑う。夜の女王が構える剣は、オイルや硝煙に穢れることなく、相変わらず蒼い煌めきを放ち続けていた。
「あっぶな……」
突如現れたガーネットが敵機を引き受けてくれたお蔭で、バステトの周囲には再び静寂が戻っていた。コックピットのなかで安堵の息を吐く少女は、僚機から送られて来た暗号通信に視線を落とす。敵の殲滅は此方に任せて、安心して術式を組み立てるように、とのこと――。
「バステト、戦闘機能全休止」
ならば存分に、此方の手腕を発揮するのみ。リソースを再構築した少女は、自身の能力を総て演算に注ぎ込む為、キャバリアの動きを止めた。
≫デコード、スタート。
上空では未だに、飛行船が攻撃を受けている。あの中に居るトレンタを始めとした乗組員の運命は今、レモンが握っているのだ。
「……間に合え!」
祈る様な聲が喉の奥から零れた、其の刹那。
≫デコード、コンプリート。
難攻不落のプログラムは、遂に彼女の手中に堕ちた。
「よっしゃ、ビンゴ!」
歓声を上げながらも、少女はすぐさまハッキングに取り掛かる。ガーゴイルたちのシステムにアクセスしたなら、書き換えるのは、ほんの二箇所。
⇒ Cockpit barriers reinforced.
⇒ Propulsion limiter removed.
『な、システムが勝手に!?』
『リミッター解除だと、まさかッ……!』
⇒ Gargoyles, forced all-out flight!
「さぁ、暴走衛星――オシゴトだ!」
次の瞬間。
飛行船に纏わりついていた総ての機体が、全速力で空を翔け始めた。幾ら操縦稈を引いたって、荒ぶる怪物が動きを止めることは無い。
高速飛翔体と化したガーゴイルたちは今や、暴走衛星の格好の的である。間髪を入れずに、殲禍炎剣が容赦なく戦場に降り注ぎ、敵機のみを確実に撃ち落として行く。
凄まじい勢いだが、敵機のコックピットだけは強化されているので。命には別条ないだろう。機体は喪われるかも知れないが、敵の数が減るのは此方にとって僥倖だ。
苛烈な流れ星は天より零れ続ける。天を舞う怪物が総て、地に堕ちるまで――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
榛・琴莉
◎☆
【黒い骨】を発動。
Ernest、Hugoを起動させてください。迎撃しますよ。
飛行艇と、それから敵機のコックピットさえ壊さなければ、好きに暴れさせて構いません。
一機残らず叩き落として。
Hugoが派手に暴れ回っていますし、私が飛び立っても特に目立たないでしょう。
隙をつくには好都合。
狙うは敵機の背面、翼の付け根。
死角に回り込み、氷の『属性攻撃』で撃ち抜き落とします。
落ちずとも機動力は削げるでしょうし、そうなれば後はHugoが片付けるかと。
大した連携力ですが…Hugo、覚えましたね。
ならば崩すのは容易いでしょう?
天音・亮
◎☆
グランピーエンジェルかっこいい~!
──いたっ
不満気なモニターフェイス
コツンコツン頭を小突く球体の相棒
いつかのデジャヴ
ふふ、心配しなくてもきみが一番だよ
でもいいモデル機があればそれを参考に
アドくんのパワーアップも出来るかもでしょ?
ってわけで世の為人の為アドくんの為
亮、乗りまーっす!
慣れない操作も感覚で掴み
それでもやっぱり多様するのはいつもの癖で脚撃中心
流石にブーツの機能を連動は出来ないかな…?
相棒とも連携!アドくん!
私の思考を読み取る様ジャミングで電波妨害発生
狙うはレーザー翼を破壊し機動力を削ぐ事
さあ、まだまだ行くよアドくん!
キュイィと鳴る駆動音が勇ましい返事に聴こえる
ふふ、そうこなくっちゃ
●Grumpy Angel & Ernest & Hugo
「わあ、かっこいい~!」
格納庫のなか、聳え立つ白銀の機体を前に、天音・亮(手をのばそう・f26138)は碧眼をきらきらと輝かせて居た。
中世を舞台にした洋画で偶に見かけるような騎士めいたフォルムと、優美な機械翼が融合したその機体は、正しく天使の如き様相。
「――……いたっ」
コツン。
興奮気味に機体を見上げていた娘の頭にふと、ちいさな衝撃が走る。振り返れば其処には、まあるいフォルムをした小さな相棒の姿があった。
モニターフェイスに不満げな表情を浮かべたAI『アドくん』は、目が合うとやはりコツンコツンと、彼女の頭を軽く小突いてくる。
デジャヴのように蘇るのは、何時かの宇宙船の出来事。たしか梟めいたドローンを可愛いと褒めた時も、彼はヤキモチを焼いていた筈だ。
「心配しなくても、きみが一番だよ」
ふふっと笑みを零しながら、相棒の頭を優しく撫でる亮。するとAIは嬉しそうな表情をモニターに浮かべて、彼女の掌にすり寄った。
「でも――」
まるで仔犬のような其の姿に和みながら、娘は話を続けて行く。
曰く、もしも良いモデルになる機体があれば、それを参考にアドくんのパワーアップが出来るかも知れないのだと云う。それを聴いて、AIは心なしか貌を輝かせた。
「ってわけで、世の為人の為アドくんの為。亮、乗りまーっす!」
一応は相棒の同意を得られたので、娘はやる気満々と云った様子で鋼鐵の天使に乗り込んで行く。グレートヘルムめいた頭の中にあるコックピットに乗り込めば、機体に備わったAI主導の許、不機嫌な天使は空へ――。
「……賑やかでしたね」
同じく格納庫のなか、太陽みたいに明るい娘の出撃風景を何となく見守っていた少女、榛・琴莉(烏合の衆・f01205)は、ぽつりとそう呟いた。亮やアドくんとは対照的に、彼女のかんばせには、何の感情も浮かんで居ない。
「Ernest、Hugoを起動させてください」
まるで仮面を被るようにガスマスクを嵌めながら、琴莉は淡々と鳥の巣――ガスマスクに住まう戦闘補助AIに指示を出す。すると、たちまち周囲に電脳空間が展開され、AI『Ernest』が格納庫に眠るジャイアントキャバリア『Hugo』の意識を呼び起こす。ゆらり、ゆらり、此方へ歩んで来たHugoの鰐竜頭を見上げて、琴莉は静かに音頭を取った。
「さあ、迎撃しますよ」
視線をつい、と飛行船の外へと向ける少女。同朋たちが結構な数を撃墜したにも関わらず、飛行船には未だに何体もの敵機が張り付いている。
「好きに暴れさせて構いません」
ただし敵のコックピットと飛行艇は壊さないようにと、重要なことだけ言い添えて。少女は顎をくいと傾け、敵を示した。
「一機残らず、叩き落として」
電脳の身に宿した破壊衝動が赴く侭、巨人は飛行船から飛び降りる。彼がどれだけ手加減できるかは、Ernestの制御力に掛かっていた。
「へー、このレバー引いたら方向転換出来るんだ」
翼を広げて空を舞う天使のなかで、亮はひとり感心した様な聲を溢す。操作は未だ慣れないが、そこはデジタルネイティブな現代っ子。何となくの挙動は既に、感覚で掴んでいる。思い返せばヒーローズアースのゲームセンターにも、こういう箱型の筐体があったような……。
「でも、ゲームだとこういうことは出来ないよね!」
『こいつ、蹴りだけで戦う気か!?』
追い掛けて来る敵機のほうを振り返れば、すかさず其のボディへと重たい蹴りを叩きこむ亮。こんな時でも多用するのは、やっぱりいつもの脚撃だ。
「流石にブーツの機能は、連動出来ないかな……?」
蹴り飛ばされて地に堕ちて往くモノアイの怪物の姿を眺めながら、娘がぽつり。そんなことを呟けば、ふとモニターに文字列が表示される。
『ユーベルコードを連携しますか?』
「あっ、音声認識してくれたんだ。勿論、連携しまーす!」
モニターに表示された「はい」のボタンをぽちっと押せば、瞬く間に鋼鐵の天使の脚部に彼女が履いているものと同じデザインのブーツが装備される。
そして其れは、ぎぎぎと重たい稼働音を響かせながら変形し、キャバリアが乗れるほどに巨大なバイクの形を取った。
「おおー……」
予想外の展開にぱちぱちと瞬きながらも、取り敢えず其れに騎乗する亮。するとバイクはエンジン音を奏でながら、敵機の群れへと突っ込んで行く。
「アドくんも連携しよう!」
主の誘いがよほど嬉しかったのか、コックピットを跳ね回るAIのアドくん。彼は軈て亮の頭にぴとりと引っ付き、彼女の思考を読み取り始めた。
『そんな旧式のビークルで何が出来る』
『天使を自ら名乗る不敬者め』
『とっとと堕天するが良い!』
アイセンサー越しに捉えるのは、此方に向かってくる三機の姿。恐らくは連携技を仕掛けてくるつもりなのだろう。ならば、
――アドくん、ジャミングで邪魔して!
電波の妨害をしてしまえば、連携も取りにくく成る筈だ。キャバリア乗り同士のコミュニケーションは、通信機能が命であるゆえに。
彼女の思考を読み取ったAIは、コックピットの外へ向けて妨害電波を放つ。果たして、その効果は覿面だった。
『な、砲――……!』
『ラン……妨、畜……!』
通信にノイズが混ざり始めたのだろう。先ほどまで隊列を作っていた敵機は、今やバラバラの軌道で飛行して居る。隊列を崩してくれたなら、こっちのもの。あとは、各個撃破と行こう。
敵機へ肉薄しながら操縦稈をガチャガチャと動かす亮は、まるで格闘ゲームで遊んでいるようだ。されど、彼女は真剣そのもの。敵の翼めがけて、思い切り蹴りを入れる――。
パリン、と飛行ユニットが折れる音が響いた。
翼を為すレーザーは消え、ガーゴイルは地上へと落ちて行く。敵のコックピットが
無事なことを確かめた後、娘は遺る敵へと狙いを付けて、再び空を翔ける。
他方、鰐竜の巨人「Hugo」はモノアイの怪物相手に大立ち回りを繰り広げていた。鳥に至れぬ彼は翼の代わりに腕を振るい、敵機を地面へ叩きつける。果敢にも飛び込んで来た機体は、鰐めいた顎でパクリ、バリバリ。コックピットを除いて、総てバラバラに噛み砕いて仕舞った。
『なんだアレは……』
『まさに巨人じゃないか……!』
その容赦ない暴れっぷりに、敵機はすっかり気を取られている。飛行船のことなど、まるで忘れてしまったかのように――。
「行動を起こすなら、いまですね」
敵機はいま、混乱の中にある。隙をつくには好都合だ。少女は白き翼を広げ、高らかに天を舞う。まるで天使のように優美なその姿に、気づく者は独りも居ない。
琴莉はひらりと敵機の死角に回り込み、サイバーなデザインのライフルを凛と構えた。敵機の背面――翼の付け根に照準を合わせれば、トリガーを引く。
『ぐわっ、なんだ……』
『翼が、凍り付いて……!』
少女が放った氷の弾丸は、翼を凍らせ飛行ユニットを狂わせた。飛行手段を喪った敵機は、次々と重力に導かれるまま落下して行く。
『くっ、舐めたマネをッ……!』
運よく片翼のみ遺った機体が、アンバランスな軌道で少女に襲い掛かって来るが。スピードに欠ける獲物――討ち漏らしを見逃すHugoではない。巨人は大きな腕で思い切り、片翼のガーゴイルを地面へと叩きつけた。
『個別で動くな、連携しろ!』
『奴も生き物なら隙が有る筈だ!』
一機では歯が立たぬと見たか、次は三機で挑んで来るガーゴイルたち。一機目がランスで突撃し、二機目が避ける敵を追い掛け、三機目が誘導ミサイルを発射する。
一見すると完璧な連携だが、しかし。
「……Hugo、覚えましたね」
この鰐竜の巨人の前では無力。敵を破壊することに長けるHugoは、一度見た敵の動きすら確りインプットして仕舞うのだ。ゆえに、連携を崩すのは容易い。
再び飛び込んで来る機体を弾き飛ばし、追い掛けて来る敵機を叩き落とし、誘導ミサイルを払い除けた巨人は、最後の一機を踏みつける。
これほど苛烈に暴れても、敵のコックピットに傷一つ付けていないのは、Ernestの尽力の賜物であろう。
二体の戦果を視界の端に捉えながら、少女は再びトリガーを引いた。銃聲はまだ、途絶えない。
「わあ、あっちの機体すごいね」
バイクに跨った天使のなか、亮もまたHugoの暴れっぷりを見守っていた。恐るべき戦闘能力だが、アドくんにああいう鬼神めいた振舞は向いて居ない気もする。
パワーアップと言ったけれど、彼はやっぱりこのままの方が良いのかも知れない。ぼんやりそんなことを想いながら、娘は再び操縦稈を握りしめた。
「さあ、まだまだ行くよアドくん!」
ちいさな相棒をそう促したなら、彼の躰から「キュイィ」と駆動音が鳴り響いた。それが勇ましい返事に聴こえて、亮はふふりと口許を弛ませる。
「ふふ、そうこなくっちゃ」
飛行船を護る為、そして人々の暮らしを護る為。ヒーローは再び空を翔ける。
不機嫌な鋼鐵の天使と、太陽の名を冠するバイクに乗って――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
月白・雪音
…物資の移送、貿易はこの世界の生命線、
阻ませるわけには参りませんね。
私は間合いの変化が大きい機甲の扱いは不得手ですゆえ。
…そうですね、機甲の砲弾を一山ほどお貸し願えますか?
生身で出動
UCを発動、飛行船の甲板より見切り、野生の勘、瞬間思考力で相手の軌道を読みつつ、
怪力での砲弾の投擲により敵機を撃墜
弾が切れれば上記技能にて軌道予測してアイテム『氷柱芯』を敵に向けて飛ばし、
怪力にて引き寄せ、もしくは一気に間合いを詰めて残像、2回攻撃
も交え攻撃を回避しつつ、近接戦闘にて撃破
飛行船を中心に敵そのものを踏みつけ、ジャンプにて足場とし、
部位破壊にてコクピットを避けつつ敵機の飛行機構を優先して破壊する
トリテレイア・ゼロナイン
◎☆
※ロシナンテⅣ搭乗
資源が失われては国家間のパワーバランスが乱れ、新たな火種が燻る
そして、被害を被るのは力無き…
…オブリビオンマシンに落とさせはしません
●推力移動で飛行は可能
ですがこちらは陸戦が得手、地の利は相手にありますか
許容範囲内です
槍を剣盾で受け流し、センサーでの●情報収集で敵所在●見切り
機体装備のワイヤーアンカー射出し敵に絡め
振り子のように自機を動かし不規則に宙を舞い、時に敵機の背に跳び移り●踏みつけ移動を繰り返し
戦機故の機体と直結しての●操縦で繊細な姿勢制御と異常な挙動を実現
敵群を翻弄しつつ近接武装で飛行ユニット破壊
三次元挙動は故郷での必須事項
翼を持とうと重力に縛られ過ぎましたね
●Cold Flower & Mechanical Knight
何度目かの襲撃に、飛行船がぐらりと揺れる。格納庫の外をちらりと見遣った月白・雪音(月輪氷華・f29413)は、白い柳の眉を僅かに顰めた。
「……物資の移送、貿易はこの世界の生命線。阻ませるわけには参りませんね」
この船が道中で撃墜されたら、その生命線を喪うことに成る。結果としてアルスマグナが滅びの路を辿ったとしても、何ら可笑しくは無いのだ。
「宜しければ、我が国の新作をお使いに成りますか」
「私は間合いの変化が大きい機甲の扱いは不得手ですゆえ……」
専用機を持たぬ雪音に、気を利かせてそう問い掛けるトレンタ。されど少女は、やんわりとその申し出を辞退する。分かりましたと頷くレプリカントは、猟兵達へ確かな信頼を寄せているようだ。淡々と紡ぐ科白に、更に気遣いを滲ませる。
「何かお手伝いできることが有りましたら、お気軽にお申し付けください」
「では……機甲の砲弾を一山ほどお貸し願えますか?」
そんな遣り取りの後、すぐさま彼女の許にキャバリア用の砲弾が運ばれて来た。花火のような重量のそれを前に、少女は精神を統一する。
「……弱きヒトが至りし闘争の極地こそ、我が戦の粋なれば」
軈て大きく深呼吸をすれば、雪音は華奢な両腕でゆっくりと砲弾を持ち上げた。驚いた様な貌をするレプリカントに目も呉れず、少女はそのまま甲板まで至る。
赤い眸をよくよく凝らして、空を舞うガーゴイルたちの挙動を観察したところ、飛行船に肉薄して槍を奮う機体が多いようだった。
「これなら、当たりそうですね」
まるでボールでも投げるかのように砲弾を軽々と抱えた雪音は、先ずは手近な敵機へと狙いを付けて、想いきりそれを投擲する。果たして砲弾は見事に放物線を描き、敵機のボディに着弾した。突然の砲撃に訳も分からぬ儘、墜落して行くガーゴイル。其の姿を見送ることも無く、少女は次の砲弾を抱え上げた。
「この船は、必ず守ってみせます」
凛とした科白と共に、軽やかに投げられた砲弾が再び宙を舞う。それが生身の少女の手ずから投げられた物であるという事に、敵陣が気付くのは未だ先のことである。
空中では聖盾騎士めいた優美な装甲のキャバリアが、怪物たちの中ひときわ存在感を放っていた。白騎士の容をしたウォーマシン、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が操縦する機体――『ロシナンテⅣ』である。
「彼らの横暴、見過ごせないですね」
命綱たる資源が失われたことで、アルスマグナが凋落する可能性は十分に有る。いままで独立を保っていた小国が力を喪えば、周囲の国家間のパワーバランスが乱れることは明白だ。放って置けば、新たな火種が燻ることになるだろう。
――そして、被害を被るのは力無き……。
其処まで思考して、コックピットに長躯を収めた白騎士は静かに頸を振った。いまなら、悲劇を防ぐことが出来る。それこそ、御伽噺の騎士のように――。
「……オブリビオンマシンに、落とさせはしません」
アクセルを踏み込めば、搭乗者によく似た機体は凛と宙を翔ける。風に乗るように推力移動すれば、彼の動きを警戒するガーゴイルたちも同じ動きを鏡のように繰り返し、まるでダンスでも踊って居る様。
「こちらは陸戦が得手、地の利は相手にありますか」
出方を伺ってみた感触としては、ガーゴイルたちの方が、ロシナンテよりも聊か滑らかに宙を飛べるように見える。
正攻法で彼等を殲滅するのは、骨が折れそうであるが。
「――許容範囲内です」
常人よりも演算能力と戦況把握能力に優れた機人にとって、それ位の能力差は誤差の範囲。埋められぬ差が有ると云うのなら、機転で乗り越えて見せるとしよう。
『陸上機か、無茶をする』
『あるべき地上に堕としてくれよう!』
ランスを構えたモノアイの怪物たちは、スピードを上げてロシナンテへ突撃してくる。しかし、センサーで敵の位置取り等を解析して居た白騎士には、ガーゴイルの挙動などお見通しである。トリテレイアは冷静に操縦稈を動かし、剣盾を構えることで敵機の突撃を受け流した。
「墜落すべきは貴方がたです」
騎士の静かな聲が響くと同時に、機体からしゅるりとワイヤーアンカーが射出される。トリテレイアの意のままに動く其れは、突撃して来た数機の躰にぐるりと巻き付いて行く。
『くっ、外れん!』
『なんて頑丈なんだ……!』
身動き取れぬ怪物たちへ、トリテレイアがトドメを刺すことは無い。ただ、ワイヤーをぶらりと動かし、まるで振り子のように愛機を揺らすのみ。しかし其れだけの動作で、ロシナンテは高らかに宙を舞った。戒められた機体は騎士の重さを支えきれず、バキバキと半壊して制御を喪い、地上へと落ちて行く。
「肝要なのは現状を俯瞰的に捉える事」
軈て力学的最高点に達した機体は、ゆっくりと重力に導かれて下降する。されど、足場なら目の前に山ほど在るのだ。
「そして、走らずとも止まらぬ事」
手近な敵機の背を踏みつけて、ロシナンテの足場とする。衝撃で飛行ユニットが砕けた機体が沈む前に、騎士は再び周囲の“足場”へと飛び移って往く。
その動きは酷く繊細で、異常なほどにトリッキーであった。
「また、射線から外れる事」
ガーゴイルたちも反撃しようと槍を振り回すが、白き騎士の滑らかな動きにはついて行けず、結局されるがままと成って居る。
ロシナンテを己の手足のように操れるのは、戦機として造られた所以。機体と直結して居るからこそ、まるで生身で戦っているような挙動が実現できたのだ。
これこそ、機械騎士の戦場輪舞曲である――。
「……奇遇ですね」
そんな騎士の戦いぶりを遠目に眺め、雪音は瞬きをひとつ、ふたつ。手持ちの砲弾が無くなった彼女もまた、飛行船の外へ飛び出していた。しかし、護衛対象から離れることはしない。
白騎士と同じように、飛行船に群がる敵そのものを踏みつけて足場とし、狙われる前に軽やかにジャンプ。また次の機体を踏みつけることで、少女は宙を渡っていた。
とはいえ、キャバリアたる白騎士と違って彼女は生身のキマイラだ。踏みつける動作だけで、飛行ユニットを破壊できる訳では無い。
雪音は氷柱の装飾が揺れるワイヤーアンカー『氷柱芯』を敵に絡ませ、恐るべき怪力で敵機を己の方へと引き寄せる。
『生身の癖になんてパワーだ……』
『小娘に後れを取るなど……!』
戦慄するパイロットたちの反応を気にも留めず、少女は引き寄せた敵機の背中に乗り移り、飛行ユニットを探り続けた。
「ああ、これでしょうか」
軈て見つけた其れを片手で掴めば、ぎり、ぎり、と力を籠めて往く。ミシミシと機甲が軋む音が響き始め、遂に――。
『翼がッ!?』
『まさか、素手で……』
徒手空拳を極限まで練り上げた彼女にとって、拳は何よりの武器なのだ。粘土のように呆気なく壊された飛行ユニットは、最早うんともすんとも言わない。ガーゴイルたちは呆然としたまま、地上へと堕ちゆくのみ。
流石に敵機たちは逃げようとするが、少女が伸ばしたアンカーに捕らわれて、最早何処にも行くことは叶わなかった。
少女の拳武は、すべての敵を地に堕とすまで止まることは無いだろう。
「あちらも上手くいっているようですね」
自身と似た挙動で戦う少女の姿を視界に捉えつつ、トリテレイアはロシナンテの“足場”を思い切り踏みつけた。制御機構を破壊されて、足場とされた機体はまたしても堕ちて往く。彼の周囲に残存する敵は、あと数機のみ。
『まさか陸機に翻弄されるとは――』
「三次元挙動は、故郷での必須事項です」
嘆きにも似た聲を聴き届け、トリテレイアは淡々と事実を告げる。彼の故郷、星海の世界は無重力。ゆえに、トリッキーな動きも求められるのだ。
「翼を持とうと重力に縛られ過ぎましたね」
それだけ語れば、騎士は次の目標へ飛び移り其の背へ大剣を突き刺した。
よく磨かれた切っ先は敵機の背部パーツを飛行ユニットごと破壊して、翼を失くしたガーゴイルは、重力に導かれ真っ逆さま――。
ふたりの活躍により、飛行船は再び安定を取り戻した。鉛の空を進む船は、相変わらず優雅に空を泳いでいる。されど、本拠地は遠い。
猟兵たちの助力は、まだまだ必要なようだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ミスト・ペルメオス
◎
【無知】
機体の提供は不要です。鎧装騎兵の力、お見せしましょう。
愛機たる機械鎧をどこからともなく呼び寄せ、飛行船から飛び出しつつ搭乗し戦闘へ。
ヘルム等を介して念動力を活用、機体をフルコントロール。
スラスターを駆使して飛行…、先行していた彼女に外部音声で呼びかけ、敵勢に率先して向かう。
箒のレディ、聞こえますか! 前衛は当機にお任せを…!
敵味方そして飛行船の位置に留意しつつ突撃銃で牽制射撃。
彼女の支援を頼もしく思いつつ、隙を逃さず敵機を攻撃。
機を見てさらに上空へと飛翔、ヘルファイア・デバイス展開。出力調整、【バラージショット】。
敵勢にエネルギー散弾の弾幕を雨霰と放ち、敵機の撃破・戦線離脱を狙う。
リィン・メリア
◎
【無知】
キャバリアを借りることもできるの?
興味はあるけれど、私には必要ないわ
此れがあるもの
手許にある空飛ぶ箒を握って
戦場に赴けば先程とは違う動くキャバリアに圧倒され
そんな中、彼に声を掛けられるの
一緒に戦ってくれるなら心強いわ
後を追うように空飛ぶ箒に乗り
相手を翻弄するように距離を取って攻撃
符を使い、幻影で相手を惑わし
自然現象で相手の行動範囲を制限するわ
キャバリアと比べれば照準が小さいから中々当たらないんじゃないかしら
近付く敵機が増えればUC使用
これ以上、飛行船に近寄らないで
飛行船や彼を治癒し守りながら、
敵機には幾つものリボンで拘束
最後は自分より戦闘慣れしている彼に
敵の無効化をお願いするわ
●Witche & Armored Trooper
「キャバリアを借りることもできるの?」
格納庫のなか、聳え佇む機体を見上げながらリィン・メリア(帰還者・f28265)は、かくりと頸を傾ける。彼女の反応に、トレンタはちいさく首肯して見せた。
「ええ、必要とありましたら」
「興味はあるけれど、……私には必要ないわ」
此れがあるもの、と白いゆびさきで握りと締めて見せるのは、薔薇の装飾が施された空飛ぶ箒「ローズ」だ。魔法使いのようですね、と微笑むレプリカントに笑み返し、娘は射出口へと歩みを進めて往く。
いざ、外の世界へ――。
「鎧装騎兵の力、お見せしましょう。」
ミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)もまた、機体の提供は辞して生身で外へと飛び立とうとして居た。甲板に佇めば黒き愛機――実際は機械鎧である――『ブラックバード改』が何処からともなく飛んでくる。飛行船から飛び降りた少年は、落下点へ滑り込んできた其れに搭乗し戦場へと向かう。
スラスターを駆使して吹き付ける風に乗り、マシンヘルムを介して念動力を注ぎながら機体をフルコントロールすれば、宙でも滑らかに機械鎧は動いてくれた。
暫くそうして空の旅を楽しんでいる内にふと、視界に飛び込んできたのは、桃色の長い髪を揺らし、蝙蝠めいた翼で空を舞う娘の姿。恐らくは同胞であろう彼女は、自身の何倍も巨大なキャバリアに圧倒されているようだった。
「箒のレディ、聞こえますか!」
思わず外部音声を通じて、そう呼び掛けるミスト。戦場に似合わぬ可憐な乙女の危機を、見逃す訳にも行かない。彼女と敵の間に果敢にも割り込めば、間髪を入れずにビームアサルトライフルで牽制の連射を放ち、強制的に敵との距離を取る。
「前衛は当機にお任せを……!」
「一緒に戦ってくれるなら心強いわ」
その合間に助太刀を申し出た赤いバイザーアイの機体に、乙女はちいさく頷いた。実際に動くキャバリアの姿を前に、思わず圧倒されていたけれど。仲間が居てくれるなら、もう心配は要らない。
空飛ぶ箒に乗ったリィンは、すいと後退しながら神言が綴られた符を、懐から取り出した。充分に距離を取ったら、幻惑を齎す其れを敵機たちへ投擲して行く。
『くっ、いきなり突風が……!』
『バランスを取れ、飛ばされるぞ!』
リィンの符が巻き起こしたのは、狭い範囲で吹き荒ぶ突風。幾ら空中戦に長けた機体であろうとも、嵐の中では行動も制限されるだろう。飛び交う護符をミサイルで撃ち落とそうとする機体も居るが、如何せん的が小さすぎて当たらない。
「助かります、レディ」
リィンの攪乱により齎された隙を、易々逃すようなミストではない。彼は戦闘のプロ――少尉と云う階級を持つ軍人なのだ。突風にバランスを崩した機体に照準を合わせ引鉄を引けば、次々と彼らの飛行装甲を破壊して行く。
『貴様らの好きにはさせん!』
もう後が無いのだろう。
残存機たちは最後の悪あがきとばかりに、ふたりの猟兵に背を向けて、飛行船へと突撃して行く。
「これ以上、飛行船に近寄らないで」
然し、リィンはそれを許さなかった。彼女が虚空より紡いだリボンが、敵機たちに絡みつき、彼らの挙動を抑えつける。薔薇をあしらった愛らしい其れは、見目とは裏腹に頑丈らしく、彼らが幾ら藻掻こうと破れない。
「さあ、今のうちに――」
飛行船と愛機へ癒しの粉雪を降らせながら幕引きを促す娘に頷いて、ミストは天高く飛翔する。軈て太陽を背負う様に佇めば、特殊兵器を変形させた多連装粒子散弾砲『ヘルファイア・デバイス』を、上空で展開して行く。
「出力調整、バラージショット」
――捉えた。
機械鎧に搭載された火器管制システムの照準を、リボンに戒められた敵へ合わせた瞬間。ミストが装備する火器が、一斉に火を噴いた。
圧縮エネルギーの散弾が、遍く眼下へ雨霰と降り注いでいく。飛行ユニットを穿たれ、翼を折られ、装備をことごとく破壊されるガーゴイルたち。彼らはもう、空中に非ず。哀れ次々に大地へと墜落して、二度と宙に戻ることは無い。
これほどまでに苛烈な攻撃であるのに、コックピットが無事であることは見事としか言いようが無いだろう。この技はミストのパイロットとしての技量と、ブラックバードの機体性能あってこそ編めるものなのだ。
「どうにか退けたでしょうか。貴女のお蔭です、レディ」
「どういたしまして。ひとまずは、お疲れ様ね」
散弾の雨が止んだあと、漸く合流したふたりは互いの健闘を労い合う。今回の勝利は、正しくコンビネーションの賜物であった。
されど、危機は未だ去っていない。地上ではガーゴイルたちの指揮官が、不気味にモノアイを光らせていた。
満を持して、一つ眼の亡霊は動き出す――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『モノアイ・ゴースト』
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POW : バリアチャージ
【バリアを纏った】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【支援機】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : パルス・オーバーブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【オブリビオンマシン】から【光学兵器による一斉攻撃】を放つ。
WIZ : ゴーストスコードロン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【支援キャバリア】が召喚される。支援キャバリアは敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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●Monoeye Ghost
猟兵たちの活躍により、空にはひと時の安寧が訪れた。優雅に空を游ぐ飛行船の損傷は、殆ど無い。あとは本拠地まで辿り着くのみ。――されど、襲撃は未だ終わって居ないのだ。
不意に、轟音が鳴り響いた。
地上から放たれたプラチナパープルの光学熱線が、飛行船を掠ったのである。眼下を見降ろせば、荒れた大地の上に一機の大型キャバリアが佇んで居た。
先ほどのガーゴイルたちと同じく、一つ眼の貌を持つ其れは『モノアイゴースト』。射撃能力に長け、攻撃目標に確実な死と破壊を齎す機甲の死神である。
『戦士なきアルスマグナよ!』
オープンチャンネルから、指揮官の言葉が響き渡る。それは、若い男の聲だった。凛とした聲彩のなか確かに狂気を滲ませながら、指揮官は語り続ける。
『資本力で争う時代は終わりを告げた。これからは、武力こそが正義なのだ!』
発展した世界においては、資本力こそがパワーバランスの要。されど、「プラント」を国家間で奪い合うこの世界において、最終的に物を云うのは兵力や武力である。ゆえにこそ、アルスマグナは近隣諸国を牽制する様に、次々と新型機を製造し続けてきたのだ。しかし、機体を操ることが出来るパイロットの数が不足していることも事実。
いわゆる「張子の虎」で諸国と渡り合おうとするアルスマグナのやり口に、「舐められている」と感じる者も少なからずいるのだ。例えば、血気盛んな若き将など――。
「聞こえますか、イェーガー」
ふと、聞きなれた聲が響き渡る。飛行船の案内役、トレンタからの通信だ。危機の中にあれど、冷静沈着な彼女は淡々とした聲彩で情報の伝達を開始する。
「あの機体は隣国の軍事国家、ヒンデンブルク公国のものです。パイロットの聲にも聞き覚えがあります。恐らくは、――公国の若獅子でしょう」
曰く、敵機に搭乗しているのは公国機兵団の副団長であり、ヒンデンブルク公の第三子息なのだとか。貴公子を殺めてしまえば、国際問題は避けられないが。血迷った貴公子にみすみす撃墜される訳にもいかない。
「“命は奪わないように”と、財団理事からのお達しです。お手数をおかけしますが、宜しくお願いいたします」
敵パイロットには「捕虜」としての利用価値があるのだろう。申し訳なさそうに頭を下げたのち、貌を上げた女はほんの少し悪戯に微笑んで見せた。
「我らが財団は皆さまに、ご満足いただけるだけの報酬をお支払いするでしょう」
ともすれば、子息を救われたヒンデンブルク公も――。
この世界において、猟兵たちは中立な存在。時には敵陣にさえも感謝されることが有るのだ。「ご武運を」とだけ付け加えて、トレンタはぷつりと通信を切った。
国同士の事情は兎も角として、非武装の飛行船を撃ち落とすような卑劣な真似は、流石に見過ごせない。猟兵たちは地上に佇む敵機へと向き合った。
『我が公国の力、思い知るが良い!』
若獅子はオブリビオンマシンが齎す狂乱の儘に咆える。
一つ眼の亡霊は、確かな殺意を以て猟兵たちと対峙せんとしていた。
≪補足≫
・アドリブOKの方は、プレイングに「◎」を記載いただけると幸いです。
→連携OKの場合は「☆」を記載いただけると更に嬉しいです。
・本章は地上戦を想定していますが、敵機には飛行能力がありますので、空中で戦って頂いても大丈夫です。
≪受付期間≫
1月9日(土)8時31分 ~ 1月11日(月)23時59分
田中・夜羽子
◎☆
【WIZ】
ふん、丸腰の相手と分かって攻撃するなんて。
若獅子とか言われてるけど、弱い相手しか出来ない腰抜けの子猫ちゃんだったみたいね。
最初は距離を取って出方を見つつ、
空でも陸でもアンタの得意な場所で相手してやるわよ、ちょっとしたハンデだわ。
支援キャバリアが召喚された場合はバックパックのアームにマウントしたチェーンガンによる【範囲攻撃】で対処、敵本体には【スナイパー】でライフルによる狙撃。狙いはコクピット以外……細身だから当てづらいけど足か腕ね。
命を奪うなって、簡単に言ってくれるわ!
にしても、武力こそ正義?
札束で打とうが、銃を突きつけようが、勝利を得ない限り正義も何もないわ!
鳳凰院・ひりょ
〇☆
POW
引き続きキャバリア借受
同様に【オーラ防御】で機体の機動による身体への影響を緩和
あの機体、隣国の第三子息が乗っているのか…血の気が多いみたいだね、やれやれ
支援機が敵周囲に存在時、もし支援機が無人なら遠慮なく射撃武器での【乱れ撃ち】で撃破し隊長機の支援をさせない
支援機が有人なら近接武器での攻撃で無力化試みる
地上用なら足を、飛行可なら飛行ユニットを破壊試み
敵の突進に対し【リミッター解除】した操作性で攻撃を【見切り】回避試みる
突進後の硬直を狙い【ダッシュ】で間合いを詰め近接武器による灰燼一閃を叩き込む(敵機のバリアを突破する【貫通攻撃】)
その際は無論コックピットを外しての攻撃とする
●God and Angel in Frenzy
飛行船から借り受けた機体――『グランピーエンジェル』のなかで、レプリカントからの通信を聴いた鳳凰院・ひりょは、注意深く眼前に佇む一つ眼の亡霊を観察していた。
「あの機体、隣国の要人が乗っているのか」
公国君主の第三子息といえば、王子に相当する存在だ。戦場では互いの地位など関係ないが、国際問題が絡むとなると話は別だ。
コックピットへの攻撃は、引き続き避けなければ成らない。
先ほど同様、ひりょは其の身にオーラを纏わせ来る衝撃に備えながら、操縦稈を確りと握り締める。緊張感から背中に冷たい汗がひと筋、つぅと流れて行く。
「ふん、丸腰の相手と分かって攻撃するなんて。若獅子とか言われてるけど――」
オープンチャンネルから、ふとそんな聲が響いて青年は視線を巡らせる。モニターで照合したところ、僚機が操る『ヤルダバオート』からの通信のようだ。
「実は弱い相手しか狙えない、腰抜けの子猫ちゃんだったみたいね」
嘗て「偽りの神」と呼ばれていたオブリビオンマシンの操縦手――田中・夜羽子は、喩え相手が誰であろうとも、その卑劣な遣り口に軽蔑の彩を隠さない。
『子猫だと……私を愚弄するか!』
気位の高そうな敵パイロットは案の定、夜羽子の挑発に気色ばんだ。長躯に光学バリアを纏わせたモノアイゴーストは、殺気を纏わせながらもゆっくりとヤルダバオートへ歩み寄って行く。
「ちょっとしたハンデだわ」
高速具の鎖にゆびさきを絡めながら、夜羽子はにやりと口角を弛ませた。彼女の意思に呼応する如く、愛機は後退し続けている。
「空でも陸でも、アンタの得意な場所で相手してやるわよ」
勿論、これは撤退ではない。彼女は物理的に距離を取りながらも、敵の力量を見極めようとして居た。
「……血の気が多いみたいだね、やれやれ」
ふたりのやりとりに耳を傾けていた青年もまた、苦笑を浮かべながらもアクセルを踏み締めて機体を走らせる。敵のヘイトを一身に受けた、ヤルダバオートを支援する為に――。
『邪魔はさせん!』
若獅子が吠えれば、周囲にエンジン音が響き渡る。猟兵たちがふと空を見上げると、虚空から此方へ向かって来る支援キャバリアの姿が其処には在った。招かれた支援機の半数は偽神に纏わりつき、残りの半数は主と共に鋼鐵の天使へと突撃を試みる。
「結局は支援機頼りなのかしら」
夜羽子はそう煽って見せながらも、背部のバックパックから伸びるアームを操り、二梃の大型チェーンガンを握らせる。狙いを付けるのもそこそこに続々とトリガーを引いて行けば、纏わりつく支援機は炎上しながら、次々に地へ堕ちて行く。気づけば偽神の周囲に、敵機の影はひとつも無い。
あとは敵本体さえ無力化出来れば――。
そう想い、突進を続ける指揮官機に向けてライフルを構える夜羽子だけれど。亡霊の腕や足は細いため、動いている状態だと何とも狙いが付け難い。
「命を奪うなって、簡単に言ってくれるわ!」
現場を知らぬ財団理事からのオーダーに憤慨しながらも、少女は照準から目を逸らさずに、ただ好機を待ち続ける――。
「無人機か、遠慮は不要かな」
一方、敵機のコックピットを素早く確認した青年もまた、操縦稈を操りガトリング砲を構えてみせる。敵機に付き従う支援機に銃口を向けたなら、躊躇う事無くトリガーを引いた。
ドドドドド――。
重い音色が続けざまに響き渡り、無骨な銃弾は支援機たちを撃ち抜いて行く。飛行ユニットを穿たれた機体は地に堕ちて炎上し、全身を蜂の巣にされた機体は空中で派手に爆発した。
瞬く間に支援機を撃破した天使は、誇らしげに爆炎のなかで佇んで居る。
『雑兵を落とした位で、良い気になるなよ!』
しかし支援機を喪って尚、一つ眼の亡霊は突進を諦めない。痩躯で風を切りながらも駈ける其の様からは、思わず身が竦むようなプレッシャーが感じられた。
しかし、ひりょは此処で逃げたりしない。
「リミッター、解除!」
安全性を重視したAI頼りのオートモードから、マニュアルモードに操作を切り替えて、青年は力の限りに操縦稈を引いて見せる。オーラを其の身に纏って尚、負荷に骨がミシミシと軋むけれど、此処は堪え処である。
『なにっ……』
無理やり躰を捩じることで、鋼鐵の天使は間一髪。敵の突進から逃れて見せた。勢い余った機体を止める為、思わず急ブレーキを踏む公国の若獅子。
その一瞬の硬直こそ、絶好の好機。
「――武力こそ正義?」
『くっ……!』
少女の愛機が構えたライフルが、ここぞとばかりに火を噴いた。射撃種としての才覚を活かした正確無比な射撃は、動きを止めた亡霊の腕をバリアごと強かに射抜いて見せる。
「勝利を得ない限り、正義も何もないわ!」
喩え札束で頰を打とうが、銃を突きつけようが、最終的には得られた結果が総て。勝利した者こそが、紛れもない「正義」なのだ。
負傷した腕部から火花を放ちながらも、何とか銃器を構える敵機だが。偽神が招いた躯の海に阻まれて、トリガーを引こうともカチカチと虚しい音が響くのみ。
「一気に、畳み掛ける!」
少女が命を削って繋いでくれた好機を活かす為、鋼鐵の天使に乗ったひりょも戦場を駆け抜ける。敵の懐へ肉薄すると同時にキャバリアソードを抜き放ち、破魔の力を纏わせれば、灰燼一閃。亡霊のボディに、横薙ぎの一撃を叩きこむ!
『……ぐっ』
あまりの衝撃に敵機が纏うバリアは破れ、斬撃を叩きこまれた胴体もスパークした。ガリガリと地面を削りながら吹き飛んで行くモノアイゴーストへ、猟兵たちを乗せた二機が迫り来る。
若獅子が朗々と語った正義は、いま此処で覆されようとして居た――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
緋月・透乃
◎☆#
おおー!オブリビオンマシンの影響とはいえ、敵はやる気満々だね!
そういう相手のほうが遠慮なくかかってきそうだし、こっちも思い切って戦いやすくてこいつは楽しくなりそうだね!
生身の私の力とオブリビオンマシン頼りのあんたの力、どっちが強いか試してみようね!
武器は重戦斧【緋月】を使うよ。
真っすぐ突っ込み接近して、怪力任せの攻撃や小回りを活かしてうろちょろしたりして隙ができたところへ罷迅滅追昇を叩き込む!って狙いでいくよ!
敵の突進は、大きさの差を考えるとあえて敵へ向かって突き進み、足を間をスライディングなんかで潜り抜ける、って対処がよさそうだね!バリアは怪力で叩き割るよ!
●The joyous struggle
「……おおー!」
堂々とした佇まい、されど、明らかに禍々しいオーラを纏う一つ眼の亡霊を前に、緋月・透乃はきらきらと翠の双眸を煌めかせた。
「オブリビオンマシンの影響とはいえ、敵はやる気満々だね!」
ビリビリと肌に突き刺すような殺気すら、闘争を愛する娘にとっては心地好い。敵機のパイロットは、血気盛んな若獅子なのだと云う。
成る程、遊び相手としては理想的だ。
喩え生身であろうとも遠慮なく掛かって来そうであるし、その分こちらも思い切って戦えるというもの。
「――こいつは楽しくなりそうだね!」
にぃ、と口端を吊り上げながら、透乃はずしりと重たげな和斧『緋月』を軽々と抱えて見せる。そうして、ぶんっと思い切り振り回せば、それだけで周囲に激しい砂埃が舞い上がった。
『生身で私に挑む心算か、ふざけるな……!』
巨大な鉄機相手に重戦斧ひとつで挑もうとする彼女の姿に、舐められたと感じたのだろう。若獅子は激昂しながら、対キャバリア用の銃を構え、迷うことなく引鉄を引いた。
「そうそう、そうこなくっちゃ!」
遠慮も手心もないその攻撃に、娘の魂が熱く滾る。降り注ぐビームの雨を掻い潜りながら、透乃はただ真直ぐに駆けて往く。
『わざわざ撃たれに来たのか?』
正面から突っ込んで行く彼女の姿は、敵機にとって格好の的であった。燃えるように熱い熱線が、彼女の細い肩を、華奢な腕を、容赦なく撃ち抜いて行く。
然し、娘は止まらない。それどころか、垂れる赫絲すら拭わずに、一目散に敵機へと肉薄する。
「足許に来れば視えないよね!」
先ずは挨拶代わりの一撃。
重たい斧で、敵機の脚部を強かに穿つ。命の遣り取りに、小細工など不要。怪力任せのその攻撃は、幽鬼の如きシルエットの敵機にいたく効いたらしい。ぐらり、と一つ眼の亡霊は揺れた。
『くっ、うろちょろと!』
彼女を払い除けようと敵の腕が伸びるけれど、透乃は軽やかな身のこなしで其れをひょいと飛び避けて。着地と同時に反対側の脚部にも、重たい一撃を喰らわせる。ぐらぐらと、再び大きく揺れるモノアイゴースト。
すらりとした体躯であるとはいえ、曲がりなりにも敵機はキャバリアだ。生身で其れに衝撃を与える娘の怪力たるや、恐るべし――。
『ぐ、ぅッ……舐めるなよ!』
生身の人間に追撃を許したことが、よほど気に食わなかったのだろう。すかさず己と距離を取った娘に向けて、バリアを展開した敵機が勢いよく突進を繰り出してくる。
「残念、支援機も居たらもっと楽しかったのに」
風を切り突っ走って来る敵機の勢いたるや、まるで鉄砲玉の如き有様だ。されど、透乃は恐れることも無く、寧ろ其の技が完全でないことを惜しんでさえ見せながら、敢えて敵の方へと突進して行く。
『自分から轢かれに来るか!』
激突まで、猶予はあと僅か。目と鼻の先に敵機が迫った瞬間、娘の躰は敵機の視界からスッと消失した。字面に吸い込まれるような、あの動きは。
『滑り込んだか!』
透乃は敵機と激突する寸前に、キャバリアの脚の間へ勢いよくスライディングしたのだ。されど、それに気づいた所でもう遅い。
「生身の私の力とオブリビオンマシン頼りのあんたの力――」
消えた彼女の姿を探す為に敵機が立ち止まった、其の一瞬の隙を突いて、娘は高らかに地を蹴って飛び上がる。
「どっちが強いか、試してみようね!」
透乃は眼前に展開されたバリアに向けて、肩からぶつかって行く。全力を籠めた其のショルダータックルは、光学の障壁を易々と打ち砕いた。いま彼女の眸には、無防備な敵機の姿が映っている。
「罷迅滅追昇!!」
両手で抱えた重戦斧を下から上に打ち上げて、一閃。
――りぃん。
涼し気な鈴の音が、戦場に響き渡った。刹那、生身の娘から繰り出された重たい衝撃に、堪らず敵機は吹っ飛んで行く。一方の娘は、とん、と大地に着地したと同時――。
「うんっ、私の勝ちみたい!」
斧を抱えた侭の両手を挙げて、嬉し気にぴょんぴょん飛び跳ねて見せたのだった。亡霊を打ち倒すのは何時の世も、生気に満ちた人間なのだ。
大成功
🔵🔵🔵
カグヤ・アルトニウス
○暴走プリンスを捕まえろ
◎☆
まあ…
帰ったら重大な命令違反で拘束されるであろう「彼」には憐れみすら感じますね
(行動:WIZ)
キャバリア:ホワイト・レクイエム
装備:ダイダロス(背)・トゥインクル・スター(腰)・マルミアドワーズ(両手)
自らの敵意を鎮め、事務的に対処する様に心がけます
地表を距離感を失わせる【催眠術】を帯びた【残像】を残した【推力移動】で駆け、トゥインクル・スターのビーム砲とダイダロス装着の複合ライフルのビームカノンによる【弾幕】で【蹂躙】し、【体勢を崩す】を実行します
トドメは、マルミアドワーズによるUCの【部位破壊】・【二回攻撃】で飛翔機構と脚部を纏めて凍結・破砕して動きを止めます
ガーネット・グレイローズ
◎☆
どうやら、あれが指揮官機で間違いないようだね。姿を隠そうともせず堂々と…。
今回も「夜の女王」で出撃
機体を前進させ、まずは威嚇射撃を行う。その敵意に反応し、相手は支援キャバリアを呼ぶだろう。そこでこちらも【骸の援軍】を使い、オブリビオンマシンを召喚して援護させる!敵の戦力を削りながら陽動を行っている隙に、私は《推力移動》でフル加速して一気に敵本体との距離を詰める。
新しい時代を築くには、貴方のような若い力が必要だ。その曇りなき眼で、世界の真実を見据えるのです!
《念動力》でPSDホーネットを射出し、オールレンジからの《レーザー射撃》を浴びせて攻撃。勿論コックピットへの損傷は極力抑える。
●Blood is red, requiem is white
「どうやら、あれが指揮官機で間違いないようだね」
ブラッドギア『夜の女王』に搭乗した侭、ガーネット・グレイローズは赤い双眸でモニター越し、敵の機体を繁々と観察する。不気味に煌めくモノアイに、すらりとした――見様によっては幽鬼の如きフォルム。“モノアイゴースト”とは、よく言ったものだ。
「それにしても、姿を隠そうともせず堂々と……」
いっそ無謀さすら感じさせる指揮官の態度に、麗人は困惑したような呟きをぽつり。どうやら敵パイロットは余程、己の機体と才覚に自信を持っているらしい。
「まあ……」
彼女の傍らに佇む白銀の機体――『ホワイト・レクイエム』に搭乗する青年、カグヤ・アルトニウスも通信越しに麗人の呟きを捉え、コックピットの中で曖昧に頷いた。
「帰ったら重大な命令違反で拘束されるであろう『彼』には、憐れみすら感じますね」
「取り返しが付かないことに成る前に、止めてあげないとね」
機体とのシンクロ率を上昇させながら、ガーネットは改めて敵機へ向き直る。ダメージから回復したらしい一つ眼の亡霊は、再び殺気を纏いながら猟兵たちの前へと立ちはだかっていた。
「――では、行くぞ」
最初に行動を開始したのは、ガーネットだった。彼女は敵が漂わせる威圧感に臆すること無く、ゆっくりと機体を前進させて行く。勿論、悪戯に距離を縮めている訳では無い。前進する傍ら先ずは狙いを付けずにレーザーを照射して、敵にプレッシャーを与えながら肉薄しているのだ。
『そんな出鱈目な射撃、当たると思うのか』
彼女の攻撃から、敵意を感じ取ったのだろう。若獅子が溢した失笑を掻き消すように、けたたましい稼働音が何処からか鳴り響く。不意に虚空から現れるのは、無人の支援キャバリアだ。
『我らが武力の前に、ひれ伏すが良い!』
増援に現れた敵機たちは、夜の女王に膝を着かせんと蠅の如く纏わりつく。されど、これこそがガーネットの作戦であった。
「……矢張り、想った通りだ」
コックピットの中で片頬を上げた麗人は、不意に威嚇射撃を止めて其の場に立ち尽くす。其の姿に若獅子が疑問を抱く前、虚空から次々と大地へ降り立つのは13機にも及ぶ、彼等と同じオブリビオンマシンの増援だ。
『なっ、何処からそんな戦力が!?』
「其方と同じさ、ゲスト参戦という奴だ」
涼しい貌で若獅子の驚きを切り捨てる麗人の傍らで、増援機たちは纏わりつく敵機の群れと踊り狂う。
そもそも支援機は無人なのだから、遠慮は不要。彼等の正確無比なレーザー射撃は敵機のコアを破壊し、喩え反撃を受けようとも怯むことなく引鉄を引き続ける。狂戦士の如き其の様は、夜の女王本体よりも敵機の目をよく惹いた。
オブリビオンマシンの増援部隊を陽動として、猟兵が操るふたつの機体が、敵機目掛けて真直ぐに突っ込んで行く。
威嚇射撃を行った夜の女王には数機の支援機が未だ頑張って食らい付いているが。只管に敵意を鎮め、ただ事務的に戦闘に臨むカグヤに支援機の妨害は無い。
「よく見ていてください」
『くっ、なんだコレは……』
余りの速さに遺した残像へ催眠術を纏わせれば、敵機はあっという間に距離感を喪って右往左往。バリアだけは咄嗟に纏った敵だが、碌に防御姿勢すら取れない体たらくである。
そんな敵の状況を冷静に観察して、白銀の装甲を纏うキャバリアは、腰に備え付けた兵装『トゥインクル・スター』からビーム砲を。そして背部に備わったフライトユニット『ダイダロス』に装着した複合ライフルのビームカノンから、夥しい程の銃弾を弾幕として放つ。
『ガァッ……!』
展開されたバリアを貫いて、きちんとボディへ着弾する鉛の雨とビームの洗礼。それらに蹂躙されて、一つ眼の亡霊はぐらりと細い躰を揺らす。――刹那。
「さて、そろそろ正気に戻って貰いますよ」
一機に距離を詰めた白銀の機体が、体勢を崩した亡霊に向けて、両手で巨大な重対艦剣『マルミアドワーズ』を振り下ろす。白き煌めきを放つ剣筋が飛翔機構の一部へと辿り着けば、裂かれた其処は一瞬で凍り付く。返す刀でもう一太刀浴びせる先は、すらりとした脚部だ。飛翔機構同様、切り裂かれたパーツは瞬く間に凍り付き、敵の動きを鈍らせた。
『くッ、まだだ……!』
自由を奪われながらも如何にか銃を構えようとする機体の前に、纏わりつく支援機を壊滅させた夜の女王が、推力の儘に突進して来る。
「新しい時代を築くには、貴方のような若い力が必要だ」
敵の懐に潜り込むと同時に、麗人は念動力で腰部から浮遊自走砲を射出した。サイキックで制御された其れは、彼女の意思に呼応して全方向へ熱線をばら撒いて行く。
「その曇りなき眼で、世界の真実を見据えるのです!」
ガーネットが紡ぐ想いのように熱いレーザーの雨が、まるで狂気を濯ぐように敵機の頭上へ降り注ぐ――。
コックピットだけを巧みに避けた其れは、妖しく煌めく紫銀のボディを焦げ付かせ、如何にも恐ろし気な佇まいを穢して行くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アリエル・ポラリス
◎☆#
しほんりょく。
ねね、シャティ、資本力って何かわかるかしら? 私は親分だから知ってるのよ。
資本力はね……お金のことを格好つけて言う時の言い方よ! 若獅子さんはお金が嫌いなのね!
でもお金は大事なのよシャティ、お金が無かったら、私が一日中狩りをしてもシャティのご飯が足りなくなっちゃう。
お金があればご飯や水が手に入るってことはね、凄いことなの。
シャティの生まれたこの世界のご先祖様が、そういう世界にしようって頑張ったのよ。
さあ、だから私達は若獅子さんを止めなきゃ。
若獅子さんにえいって拳骨を落とすには、まずバリアを割るの。
シャティはこのUCが苦手みたいだけど──始めるわよ、お金への『恩返し』!!
天音・亮
◎☆
グランピーすごい!やるー!
私の技にも連動してくれるなんて最高すぎ!
…もしアドくんと合体とか出来たらさ
めちゃくちゃテンション上がりそうだよね。ね、アドくん。
くるくる同意するように回る相棒に笑顔返し
ふふ、じゃあ帰ったらさっそくメカニックの人に相談してみよ!
なんて話ながら
さてと、じゃあしっかりとお仕事はこなして行かなきゃね!
UCが連動できるならアドくん経由のUCも可能なはず
アドくんの通信回線をグランピーに繋いでAIのタッグ技だ!
グランピーSET!
アドくん!【ノエノエ】行くよ!
出力最大
──この途、止まれ!!
上手くいって相手の動きが鈍ったなら
その隙に腕か脚の接合部へ全力の蹴りをお見舞いしてやろう
●With Partner
「――しほんりょく」
先程まで抱きかかえていたジャイアントキャバリア『シャティ』を、とんっと地上に降ろした少女、アリエル・ポラリスは翠の眸をぱちぱちと瞬かせた。
「ねね、シャティ、資本力って何かわかるかしら?」
緩慢に頸を傾げるキャバリアに向かって、少女は「私は親分だから知ってるのよ」なんて、得意げに胸を張って見せる。
「資本力はね……お金のことを格好つけて言う時の言い方よ!」
何処か神妙な様子で話に耳を傾けるシャティへ、お姉さんぶってそう説明するアリエル。彼女の視線はいま、衝撃から回復して起き上がろうとして居る敵機へと注目して居た。
「若獅子さんはお金が嫌いなのね!」
なんでだろう、と少女は考える。オブリビオンマシンの所為で、そういう偏った思想に成ってしまったとしても。元々の性格にそういう素質が必要な筈だ。もしかしたら敵パイロットは元来、高潔な気性の青年なのかも知れなかった。
「でも、お金は大事なのよシャティ」
まるで幼子に言い聞かせるような響きで、アリエルはシャティに向けて言葉を紡ぎ続ける。
もしも世界に「お金」が無かったら――。
喩え彼女が一日中狩りをしても、自分の食糧は何とかなるかも知れないが。シャティのご飯、すなわち燃料などは幾ら頑張っても足りなく成って仕舞う。
その足りない分を入手する手段こそが、「貨幣制度」なのだ。
「お金があればご飯や水が手に入るってことはね、凄いことなの」
諭すように紡ぐ科白は、シャティだけでは無く、敵機を操る若獅子にも向けたもの。人類が支配された世界や、本当に荒廃した世界では、貨幣制度すらまともに機能しないことが有る。
「シャティの生まれたこの世界のご先祖様が、そういう世界にしようって頑張ったのよ」
貨幣制度が正常に機能しているのは、其の世界が有る程度は穏やかであるからこそ。そして其処に住まう人々の価値観や倫理観が、争って物質を奪いあうことよりも、貨幣で正当な取引の方を良しとするからこそ。
「……さあ、だから私達は若獅子さんを止めなきゃ」
先人たちが築いてきた穏当な制度を、オブリビオンマシンの狂乱に壊させる訳にはいかない。アリエルが視線を上げると、彼女の意を汲んだかの如く、シャティが掌を差し出してくれる。それにひょいっと飛び乗った少女は、一つ眼の亡霊の許へ駆けて往く――。
戦場に相棒と共に在るのは、アリエルだけではない。飛行船から借り受けた機体、グランピーエンジェルに乗る天音・亮の傍にも、愛らしい相棒が居た。
「グランピーすごい! やるー!」
自身が放ったユーベルコードと連動して太陽の名を冠するブーツを装着し、バイクのように姿を変えた其れに騎乗して戦場を駆ける。
そんな機体性能に感動する亮だけれど、矢張り一番の相棒は彼女の傍でふわふわと浮かんで居る丸いAIだ。
「……もし合体とか出来たらさ、めちゃくちゃテンション上がりそうだよね」
そんな感想を溢しながら、亮は相棒へちらりと視線を向けて頸を傾げた。金絲に輝く髪が、さらさらと揺れる。
「ね、アドくん」
くるくる、くるくる。まるで其の問いに同意するように、嬉しそうに彼女の周囲を飛び回る小さな相棒。ふふ、と笑みを零した娘は改めて背筋を伸ばし、操縦稈を確りと握り締めた。
「帰ったらさっそくメカニックの人に相談してみよ!」
ささやかな約束を交わすふたりが向かい合う先には、ゆらりと佇む一つ眼の亡霊の姿が在る。殺意と禍々しさを纏う敵機の佇まいは恐ろしいけれど、頼もしい相棒と一緒なら大丈夫。
『未だだ! 未だ、終わって居ない!』
吠えるモノアイゴーストが天高く腕を掲げれば、虚空より支援に舞い降りるは無人機の群れ。それらは、乙女たちが操る機体へ一目散に向かって来る。
「――さてと、じゃあしっかりとお仕事はこなして行かなきゃね!」
しかし亮は明るい笑顔を浮かべた侭で、綺麗に整えた指先でモニターを弄り、アドくんとグランピーエンジェルの通信回線を連動させてゆく。UCが連動できるのだから、AIの連動だって容易い筈だ。
彼女が試みるのは、AI同士のタッグ業。
「グランピーSET! アドくん!」
やる気満々の稼働音を響かせた相棒が、グランピーエンジェルのシステムとの共鳴を高めて往く。
シンクロ率20%、50%、75%、……コンプリート!
「行くよ!」
通信をオープンチャンネルに切り替えれば、出力と音量を最大にして。いま、世界に“ノエノエ”の音色を響き渡らせん。
「――この途、止まれ!!」
オープンチャンネルから流れ始めたのは、ノイズのような加工音。まるで音の衝撃波の如き其れは、敵機の動きを悉く封じて行く。勿論、指揮官機も例外なく――。
『ぐッ、頭がッ……』
コックピットの中、脳髄をぐらぐらと揺らすような音の波に、公国の若獅子は耳を塞いで苦悶する。操縦稈を手放し動きを止めた敵を、猟兵たちが見逃すはずも無い。
「よく分からないけれどチャンスね、シャティ!」
アリエルは決意を秘めた双眸で、自身を掌上に乗せて運ぶ愛機の姿を仰ぐ。彼女の眼差しに何かを察したのか、鉄の巨人は哀し気に頸を振った。
「大丈夫よ、親分は頑丈なの。さあ、思いっきり行きなさい!」
とんっと頼もし気に己の胸を叩いた後、少女は両腕を広げて何かを待つ。暫し躊躇していたシャティだが、軈て意を決したようにアリエルをぐっと掴み……。あろうことか、敵機に向かって勢いよく彼女を投擲した。
「――始めるわよ、お金への『恩返し』!!」
『お前も生身で来るかッ』
ズキズキと痛む頭を抑えながら、若獅子はせめてもの抵抗とばかりに、機体の全身へバリアを展開する。こうなると最早、勝負は生身の少女と光学の障壁の一騎打ち。
物凄い速さで風を切りながら、アリエルは思い切り握り締めた拳を振り上げる。巨大な敵機と衝突しようとしているのに、その貌に恐怖の彩は無い。
「分からず屋の悪い子には、拳骨だわ!」
ごつん――。
『なんだと……』
振り下ろした拳に、じりじりと電気が纏わりつく。少女の白い手は感電し、赤い熱傷が刻まれていく。
されど、障壁の損傷はそれ以上だった。
全力で繰り出された少女の拳骨は、バリアをミシミシと砕いて行き、軈て障壁はパリンと儚く割れる。軈て顕と成るのは、無防備な機体の姿。
バリアが弾けた衝撃で宙を舞う少女が重力に導かれる前、駈け付けたシャティが彼女を伸ばした掌で受け止めた。そして反対側の腕で、次は敵機そのものへ拳骨を振り下ろす。
『……ッ!』
キャバリアの拳もまた、重い。
まともに衝撃を喰らったボディにはミシリと罅が入り、細い脚はぐらりとふらつきバランスを崩す――。
「私たちのことも忘れないで!」
其処に飛び込んで来るのは、翼を広げた鋼鐵の天使――亮が操るグランピーエンジェル。操縦稈を巧みに操る娘は、助走をつけるように空を舞い、ふらつく敵の脚部へと思い切り飛び蹴りを入れた。
遂に転倒し、地面を削りながら吹っ飛んで行くモノアイゴースト。
相棒と戦場を駆ける乙女達は、死を招く亡霊を前にしても臆することなく、勝負を制したのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月白・雪音
◎☆#
この世界は未だ戦の世。武力によって事を為す、それも正しい答えなのでしょう。
それにより無辜の民の営みが害されるも戦の常。
…されど、それを許容するかは別です。
引き続き生身
UC発動にて野生の勘、見切り、高速思考力で相手の飛行軌道、攻撃を予測、
残像にて攻撃を躱しつつアイテム『氷柱芯』を飛ばし絡めて相手を怪力にて地面に引き落とす、
あるいはそのまま飛び乗り怪力、部位破壊にて飛行機構を破壊
地上戦に持ち込めば残像にて機動、怪力、グラップル、2回攻撃を用い打撃と投げによる
攻撃、拘束にて戦闘展開
…王の血を引く貴方が、御自ら戦場に立つのは何を守る為ですか?
少なくとも、武力を示し徒に戦を続ける道では無い筈です。
本・三六
◎☆
国同士の争いか
『Mr.』君の仲間も厳しい世界に在るらしい
先の損傷で調整に梃子摺ってね。遅れて申し訳ない
加勢させてもらうよ
Mr.搭乗&『試作八八號』で索敵・通信で情報共有
支援機が厄介だね、まず其方の足を
『黒賽子』でジャミング・弾幕に紛れ、UCで超接近
迷彩にした『勇魚』で先制し
多くの機関部を薙いで内面を露出させたい
攻撃に載せ『言綾根』のアンテナを埋め込みハッキングを試みるよ
敵も黙ってないだろう、侵入の間を稼ぐ為に応戦
『勇魚』を盾に衝撃を逃し
相手を支点に上へ飛ぼう
返す刀で、死角から機動力を落とす為の一撃を
君も武人だろう?
戦争に善悪なんてないけどさ
兵士が無いことを知って襲うなんてね
無粋じゃないかな
ミスト・ペルメオス
◎☆
・SPD
忌まわしい機械のせいとしても――代償は高くつくぞ。
愛機を駆って戦闘続行。
ヘルム等を介し念動力を活用、機体のフルコントロールも継続。
いわゆる「企業国家」には個人的に親近感を抱いている。
若獅子とやらに恨みはないが、“少し”痛い目に遭ってもらう。
スラスターを駆使することで立体的な戦闘機動を実施、基本的には飛行しつつの射撃戦を展開。
敵機も超高速戦闘に対応しているようだが、殲禍炎剣がある限り本領は発揮できないと判断。
制限内での戦いならばパイロットの腕がものをいう。
一分の隙も見せず、逆に僅かな隙を突いていく。撃ち砕き、蹂躙し、叩き墜とす。
【“黒い鳥”】が、忌まわしい機械に負けるものか。
●The struggle of three sides
酷く削れた地面にとつり、雪白の彩を纏うキマイラ――月白・雪音が降り立った。彼女の赤き双眸は、地面からよろよろと立ち上がる敵機を見つめている。
「この世界は未だ戦の世。武力によって事を為す、それも正しい答えなのでしょう」
闘争で他者を踏み躙り伸上がることが此の世界の習わしなら、それによって無辜の民の営みが害されるのもまた詮無きこと。何故ならそれが、戦の常だから。
「……されど、それを許容するかは別です」
健全に鍛え抜いた躰には、高潔な精神が宿るものだ。和服の袖から覗かせた白い掌を握り締め、少女は倒すべき敵へと意識を集中させて行く。
幽鬼のように佇む敵機の頭上を、ぐるりと舞う機体が在る。
正しくは、キャバリアめいた機械鎧と武装を其の身に纏った、ひとりの鎧装機兵の少年、ミスト・ペルメオスが飛翔しているのだ。
「忌まわしい機械のせいとしても、その横暴」
赤く輝くバイザーアイ越しに、少年は眼下へ鋭い視線を投げつける。サイキッカー船団の護衛を勤める彼にとって、「企業国家」は親近感の湧く存在だ。増してや、非武装の敵を撃ち落とそうとするなど……。
「――代償は高くつくぞ」
敵方の事情はどうあれ、一つ眼の亡霊はいま、打ち倒すべき敵として其処に在る。彼にとって重要なことは、ただ其れ丈けだった。
「国同士の争いか――」
緊迫の一途をたどる戦場に、新手の機体が舞い降りる。黒の機体に赤き光を宿したそのキャバリアは、本・三六(ぐーたらオーナー・f26725)が駆る鋼鐵の紳士。
「『Mr.』、君の仲間も厳しい世界に在るらしい」
コックピットの中、青年は頼もしき相棒にそう語り掛ける。真正面から敵の全力を受け止めた影響で、愛機が損傷したことは記憶に新しい。調整に梃子摺って仕舞ったが、再び彼とまた斯うして戦場に降り立つことが出来た。
「遅れて申し訳ない、加勢させてもらうよ」
巨大なサーフブレイドを構えた青年の、穏やかな聲彩が戦場に響き渡る。別々の戦闘手段を持つ猟兵たちが、いま一堂に会したのだった。
『何人来ようと同じことだ!』
若獅子は咆え、一つ眼の亡霊を駆る。
すらりとした幽鬼の如き躰がごごごご、と風を切る音を立てながら空へ浮かび上がると同時、虚空から無人の支援機たちが出現し、猟兵たちに纏わりつく。
「露払いはボクがやろう」
電脳ゴーグル『試作八八號』で双眸を覆った青年は素早く索敵を行い、撃破すべき支援機の数を把握する。其の軌道予測を僚機へ送信しながら、鈍彩のダイスを象った光線兵器『黒賽子』を宙にばら撒く様に飛ばし、其処から次々に光線を放ってゆく。
ビームの弾幕は見事に支援機たちのレーダーを狂わせた。狙撃対象を喪い宙を彷徨う敵機の群れへ、全身を黄金のオーラで覆った機体が一瞬の内に接近する。
「ほら、気づかなかっただろう」
鉛彩の空に溶け込んだサーフブレイド『勇魚』が描いた軌道は、三六だけが知っている。その切っ先は支援機の機関部を大きく薙ぎ、内に秘めたる導線部を露出させた。それでも尚、支援機たちは動いているが、その挙動は見事にバラバラだ。
よく見ると露出した構造部分からは、アンテナが生えていた。先ほどの一撃と同時、三六は支援機たちにハッキングツール『言綾根』を埋め込んだのだ。
狂った支援機は亡霊の助けに成らず、ただ虚しく宙を右往左往するのみ――。
鋼鐵の紳士を駆る三六が支援機たちの相手をしている間、雪白のキマイラと鎧装機兵の少年は空を翔ける指揮官機に集中して居た。
「若獅子とやらに恨みはないが」
頭部にがっちりと備え付けたマシンヘルムやサイキックオーラを通じて、念動力の出力を上げ、機体を自身の手足の如く動かして行くミスト。
「――“少し”痛い目に遭ってもらう」
スラスターから高出力のエネルギーを輩出し自身を押し上げることで、立体機動すら可能として居る彼に、もはや敵などない。宙を自在に駆けながら、ミストはアサルトライフルの弾丸を、敵機に叩き込んで行く。
『小癪な動きを……!』
敵の銃から放たれる光線すら、マタドールの如き動きでひらりと躱して見せる。高速戦闘機能を携えたモノアイゴーストが、何故これほど遅れを取って居るのか。
その原因は「殲禍炎剣」の存在だろう。高速飛翔物体を撃ち落とす、暴走衛星が空にある限り、若獅子も本領は発揮できないのだ。
こういう時、パイロットの腕前こそがものをいう。
ミストは若獅子よりも幼くは在るが、軍人としての場数は彼よりも踏み慣れて居た。経験と技術が、この勝負の勝敗を分けたのである。
『クソッ……』
何度も光線を避けられて滲んだ焦燥を、ミストが見逃すはずも無い。一機に肉薄すれば、ビームブレードを抜き放ち、固い装甲を撃ち砕く。
それは正しく、蹂躙であった。
コックピットだけを避けて、ブレードは何度も敵のボディを穿ち続ける。軈て亡霊の細い躰から黒煙が上がり始めれば、ミストは思い切りブレードを打ち付けて、敵機を地面へ叩き墜とす。
『舐めた真似を!』
されど、相手も機兵団の副長なだけある。重力の導きを何とか振り払い、空中で体勢を立て直した。敵機の腕の中、光線銃の口径がミストを捉えて――。
「そこまでです」
凛と響く聲は地上から放たれたもの。同時にしゅるりと伸ばされたワイヤーアンカーは、氷柱の飾りを揺らしながらも、くるりと敵機の脚に絡みつく。
自身の潜在能力を限界まで底上げした雪音は、其の赤い双眸で敵機の動きを只管に見極めていたのだ。彼女の白いゆびさきは今、捉えた敵を大地へ降ろす為、渾身の力でワイヤーを引っ張っている。
『お前も生身か……!』
敵の銃口がミストから逸れ、雪音を狙う。トリガーが弾かれれば、掠めた光線が華奢な少女の頰に赤い絲を引いた。それでも彼女は涼しい貌の儘、ただ敵機を引き摺り続けて行く。
『くっ、離せ――』
光線が何度も頭上から降り注ぐ。雪音は残像を遺すような速さで駆けながら、光線の雨の大部分を躱して行った。勿論、ゆびさきにはワイヤーを絡めた侭で。
彼女が駆ける程に、敵機はずりずりと引き摺り下ろされて行く。これではまるで、自分の頸を締めて居るような状態だ。
――若獅子がそのことに気づいた時にはもう、機体は大地へと激突して居た。
横転した一つ眼の亡霊の上に飛び乗って、雪音は思い切り拳を奮う。狙うは敵の背に備え付けられた、飛行機甲だ。それらしいものを見つければ、ぎりりと掴み恐るべき力で粉砕する。
「……王の血を引く貴方が、御自ら戦場に立つのは何を守る為ですか?」
敵の生殺与奪の権利を握っても尚、雪音は闘争本能を律しながら、ともすれば諭すような言葉さえ投げかけてみせる。
否、殺戮欲求を鍛錬により律することが出来た彼女だからこそ、狂乱した血気盛んな若獅子に最適な言葉を掛けられるのだろう。
「少なくとも、武力を示し徒に戦を続ける道を守る為では無い筈です」
『私が、戦う理由は……ッ』
言葉に詰まる彼を置き去りにして、背部を思い切り掴み、念入りにバキバキと壊して行く雪音。若獅子にいま最も必要なのは、頭を冷やして冷静に成ることだろう。
その為には、この鉄の機甲が邪魔であった。
「よく、考えてみてください」
最後に両手で敵機をほんの少し抱え上げれば、後方で待機する味方の許へと投げつける。これぞ人間業の究極、徒手空拳を極限まで練り上げた純粋武術の極致也――。
『くっ、次は何だ……!』
見事に投げ飛ばされてゆくモノアイゴースト。飛行機甲を壊された機体は、遠心力の導きの儘、地に堕ちるしか有るまい。されど、成す術のない機体に向けて、何処からかエネルギー弾が降り注ぐ。
それは、他ならぬミストが降らせた散弾の雨であった。
「“黒い鳥”が、忌まわしい機械に負けるものか」
彼もまた、潜在能力を限界まで底上げしていたのだ。
そもそも「其れ」は例外であり、異常存在であり、全てを焼き尽くすもの。遥か過去の伝説に記された怪物――或いは救世主――は、長き時を経て戦場に降り立ったのである。
『こうなれば――』
空中で無理やり機体を回転させた若獅子は、墜落先で待ち構えている黒き機体を注視して、敢えてアクセルを踏み始めた。
全身にバリアを張り巡らせたのは、衝突に備える為に非ず。寧ろ、
「……突進してくる気かな」
のんびりと状況を把握した三六は、サーフブレードを地面に突き立てて。操縦稈を確りと握り、片足でブレーキを思い切り踏み締める。
案の定、敵機は盾に見立てた勇魚に突進してきた。あまりの衝撃に、周囲に突風が吹きすさぶ。青年は鋼鐵の紳士の両手で盾を支え、衝撃を逃がす為に奥歯を噛み締め、ただ耐え忍んでいた。
軈て、突風が止んだ頃。
『まさか、アレを耐えるとは……』
敵機はどさりと崩れ落ち、対する鋼鐵の紳士はサーフブレードを引き抜いて。其れに飛び乗れば忽ち、敵機の頭上へと飛翔する。
「君も武人だろう?」
戦争に善悪なんてないことは、ヒーローである三六も分かって居る。しかし、だからこそ見過ごせないことも有るのだ。
「兵士が無いことを知って襲うなんてね」
無粋じゃないかな――。
鷹揚と響いた科白と共に、返す刀で真上から振り下ろされるは、勇魚から放つ重たい斬撃。其れは玩具の腕を捥ぐように、亡霊の片腕を難なく切り落とした。
孤独なコックピットの中、虚栄心と狂乱に振り回される若獅子は、手も足も出ぬこの状況を前に、悔し気に膝を叩くしかなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レモン・セノサキ
◎☆#
威圧感はモノアイのせいだけじゃなさそうだ
手を抜ける相手じゃない
「バステト」、戦闘機能再起――
エラー多数により再起完了まで20分?
半端な整備の代償が高くついたか
仕方が無い、アレは生身でやる
先程撃墜した敵機をUCの動力源に使いたい
ステルス状態で地上を探す
敵機の搭乗員が居れば手当てしてバステトに乗せ
自動航行でトレンタの元へ
さて
UCを発動、一つに纏めた巨大砲に敵機から動力吸収
敵機の無線機能で仲間のレーダーに注意表示
<-- "神槍" 照準データリンク -->
命中すれば一撃必殺、けどバステトの演算支援無しじゃ見込みは薄い
尤も、衝撃波だけでも兵装は全滅クラスだ
掠るだけでいい
<-- 着弾まで5秒 -->
トリテレイア・ゼロナイン
◎☆
※ロシナンテⅣ搭乗
燻る悪感情かもしれぬとはいえ、それをマシンの狂気で煽られるとは…
気の毒な方ではあります
騎士としてお救いせねばなりませんね
…両国の落とし処として『捕虜』という形となるのは致し方無きことですが
支援機の攻撃を防ぎつつ、剣盾やサブアームのライフルでの反撃で数減らし
やはり、対処している内に仕掛けてきましたね
突撃にUC使用
地に突き立てた盾を『あん馬』に見立て片手で機体を回転
ライフル射撃で支援機一掃
次に未来予測●乱れ撃ちスナイパー射撃でバリアの『只一点』に大量の銃弾叩き込み過負荷でダウン
防壁失った突撃●見切り回避
すれ違い様に剣を一閃し精密攻撃
機体のみ破壊
一連の動作を制限時間内に実行
榛・琴莉
◎☆
武力こそ正義、結構なことです。
けれど世の中、勝った方が正義という言葉もありまして。
『鳴管』で電脳空間を展開。
Ernest、Hugoの稼働状態を維持したままハッキングの準備を。
Hugoは敵機と真っ向から当たって。
倒さなくて構いません、ある程度、抑えておければ上出来です。
Haroldは私と、支援機の相手を。
理由はどうあれ、そちらは丸腰相手に殴りかかったわけですし?
ならばこれくらいやったって、文句はありませんよね。
Ernest、敵機にハッキングを。バリア機能を停止させてください。
同時にHugoは『貝殻骨』を最大出力で起動。
そのまま押し切って、打ちかまして。
コックピットは壊したら駄目ですからね。
●The final showdown
敵の転倒によって荒れた大地に、大楯を構える騎士めいた機体が降り立った。白騎士の容をしたウォーマシン、トリテレイア・ゼロナインが駆る『ロシナンテⅣ』である。
「燻る悪感情が原因かもしれぬとはいえ、それをマシンの狂気で煽られるとは……」
聴けば敵パイロットは、機兵団の副団長を務めているのだと云う。この世界において、機兵団は騎士の役割を引き継いでいるようなもの。ゆえに御伽噺の騎士に憧れるトリテレイアにとって、件の若獅子とやらはある意味で親近感が湧く存在だった。
「騎士としてお救いせねばなりませんね」
公国の第三子息として生を受けたにも拘わらず、戦場に立つことを選んだ若獅子。彼がキャバリアを駆る理由は、本当はもっと高潔なものであった筈だ。
それを汚されてしまって気の毒だと、純粋にそう思う。
「……両国の落とし処として『捕虜』という形となるのは致し方無きことですが」
猟兵はあくまで中立な存在。オブリビオンマシンの在る所に搭乗する、謂わば傭兵のようなものだ。国同士の外交に口出しすることは出来ない立場にある。
それが分かって居るからこそ、白騎士はコックピットのなかで、溜息めいた音を溢すのみ――。
リソースをハッキングに裂く為、沈黙させたキャバリア『BASTET』のなか。レモン・セノサキは、ゆらりと佇む敵キャバリアの姿を観察して居た。
「……威圧感はモノアイのせいだけじゃなさそうだ」
アレは、手を抜いて勝てる相手じゃない。
直感的にそう悟った彼女は、眠りについた相棒を叩き起こす為、愛機にコードを入力して行く。
「『バステト』、戦闘機能再起――」
しかし、モニターに映るのは「System Error」の文字ばかり。再起完了までの時間を確認して、少女はあちゃーと頬を掻く。
「……あと20分か」
どうやら、半端な整備の代償が高くついたらしい。先ほどのハッキングで、負荷をかけすぎてしまったことも、一因であるだろうが。いまは原因よりも解決法を探る方が先だ。
「仕方が無い、アレは生身でやる」
金の双眸に決意を秘めて、少女は愛機のコックピットから飛び降りた。そして、向かう先は――。
まだまだ暴れ足りぬ様子の獣めいたキャバリア『Hugo』を従えて、ガスマスクを付けた少女、榛・琴莉もまた戦場に佇んで居た。
「武力こそ正義、結構なことです」
レンズに映るのは、片腕を喪ってなお殺気を纏い戦場に君臨する、一つ眼の亡霊の姿。成る程、あれ程の機体を駆る者ならば、そんな誇大妄想に憑かれても可笑しく無いのかも知れないが。
「けれど世の中、勝った方が正義という言葉もありまして――」
武骨なマスクに隠された、少女の表情筋は固い。淡々と零す科白は、其の貌に違わず何処までも冷静だ。或いは、冷えた心臓が、彼女をそうさせているのかも知れない。
少女の背後で、Hugoの顎がガチガチと揺れる。もはや、「待て」にも限界があるようだった。
『まだだ、まだやれる!』
機体の片腕で銃を構え、若獅子は朗々と吠える。少し痛めつけた程度では、彼の暴走は止まらないらしい。
『戦争は数だ、まだ機体はある!』
ふと、戦場に数多のエンジン音が響き渡った。虚空から大地へ飛来するのは、無人の支援キャバリアたち。無機質な援軍は、倒すべき敵を即座に認識し、猟兵たちの許へ突撃してくる。
「――Ernest」
ガスマスクに内蔵されたアンテナ『鳴管』を弄り、琴莉は電脳空間を展開する。ブルーライトに照らされた世界で、ふわりと游ぐ小鳥は戦闘補助AI、Ernestのアバターであった。
「Hugoの稼働状態を維持したまま、ハッキングの準備を」
レンズ越しに黒い眸で其の姿を追い掛けながら、少女は淡々と指示を紡ぐ。すると、心地よさげに電脳空間を漂っていたアバターは、蒼い光と溶け消えた。本体は遊ぶのを止め、作業に集中し始めたらしい。
「Hugoは敵機と真っ向から当たって」
漸く主の許しが出て、Hugoは活き活きと大地を蹴った。砂埃を巻き起こしながら、ゆらりと佇む敵機の許へと突っ込んで行く。
「倒さなくて構いません。ある程度、抑えておければ上出来です」
そう付け足した科白は、聴こえているのかいないのか。どの道、やり過ぎそうな時はErnestが抑えてくれるだろけれど。
「Haroldは私と、支援機の相手を」
ばさり――。
少女が羽織るコートが、不意に風で広がった。刹那、ぼとり、ぼとりと、其処から地に堕ちて来るのは、歪な鳥の容をしたUDC『Harold』たち。彼等は折れた片翼でぎこちなく空を舞い、支援機に向けて飛び掛かって行く。
成り損ないの小鳥が、掠れた聲で鳴いた。
*
その頃、生身で戦場に駈けだしたレモンは、先ほど墜落させた敵機の残骸を漁っていた。敵の注意は二機のキャバリアに向いて居るが、油断は禁物だろう。念の為にステルスしながら、少女は堕ちた機体のなかでも損傷が少ないものを探して行く。
「あ、アレなんてどうかな」
きょろきょろと巡らせた金の眸が捉えたのは、飛行機甲を除いて殆ど無傷の機体だった。華奢な躰でえいっと、横たわる其れへよじ登れば、微かな呻き声が鼓膜を揺らした。思わず、レモンは目を丸くする。
「誰かいるの?」
「助けてくれ、脚が……」
返事が戻って来たところを見るに、取り敢えず未だ生きているようだ。急いでコックピットを覗き込むと、衝撃で崩れたフットレスト部分に脚を挟まれたパイロットの姿が在った。
「わわ、大丈夫? すぐに助けるから!」
崩れた破片やパーツを手で掻き分けて隙間を作り、何とか彼を引っ張り出す。改めて疵を確認してみた所、少し骨が折れているようだった。しかし、この侭の状態が続いていたら、彼の脚は使い物に成らなくなっていただろう。
「すまない、手を借りてしまって……」
「いいよ、怪我人は放って置けないからね」
レモンは応急手当てを施した彼をバステトの許まで運び、その掌へと乗せる。そうしてコックピットに潜り込めば、愛機へ自動航行を命じておいた。バステトが再起動した暁には、きっとトレンタの元へ彼を丁重に運んでくれるだろう。
「それじゃあ、気を取り直して――」
少女は先ほど見付けた機体の許へと、再び駆けて往く。彼女の頭の中には、とっておきの秘策が思い描かれているのだ。
*
「増援を呼びましたか、無人機なのは幸いでしたが」
ロシナンテⅣを駆る白騎士は、淡々と零す聲に僅か安堵を滲ませながら、サブアームでライフルの引鉄を引く。正確無比な射撃は、支援機の数を着実に減らしていた。
しかし、果敢にも銃弾の雨を擦り抜け、突撃してくる機体も居る。白騎士は其れが齎す衝撃を剣盾で受け止め、肝心の機体は返す刀で地面へ叩きつけた。
四つ腕を持つ騎士キャバリアには、恐らく死角など無い――。
『だが、混戦の中なら!』
さすがに一撃くらいは浴びせられる筈だ。そう考えた若獅子は機体にバリアを纏い、ひといきに彼の許へと突進してくる。
「やはり、対処している内に仕掛けてきましたね」
然し電脳の思考回路を持つトリテレイアにとって、そんなことは想定内。戦争兵器として組み立てられた彼のコアユニットは、こんな時こそ役に立つのだ。
「コード入力“ディアブロ”、戦域全体の未来予測演算を開始――」
白騎士の電脳は驚くべき速さで、敵の軌道を予測し、それを躱すに至る最適解を模索する。もはや其れは演算とは言えず、未来予知の領域に達して居た。まるで、あの騎士のような――。
『なッ……!』
突進を避ける為に彼が取った行動は、余りにも初歩的なものであった。
地にどすりと突き立て、固定した盾を片手で支え『あん馬』に見立て。片手で機体の体重を支え、ぶわりと飛んで見せたのだ。
「さて、そろそろ退場して貰いましょう」
そして、ロシナンテの手はあと三本残って居る。そのうちの二本に握り締めたライフルが火を噴けば、彼の周囲を飛び回っていた支援機は総て炎上し、墜落して行った。
機体が地面に着地すると同時、敵と距離を取った騎士がバリアに向けて連射を叩きこんで行く。とはいえ、我武者羅に銃弾をばら撒いて居る訳では無い。騎士はある一点だけを、正確に穿ち続けていた。
『ぐッ、障壁が……!』
幾ら堅牢な守りと云えど、それが電子の障壁である以上、過剰な負荷は厳禁である。案の定、一点だけに負荷を与え続けられたバリアは、バチバチとスパークし始めた。
ブンッ、と一瞬だけ障壁が消えた。
その瞬間を、騎士は見逃さない。今度は剣を構えたロシナンテⅣが地を蹴り、突撃する番だ。与えられた負荷に身動き取れぬ機体は、其処に留まったまま白騎士を待つしかない。
すれ違いざまに、一閃。
同時に、亡霊の躰がぐらりと傾いた。胴体の一部が削られた其の躰は、もはや立っていることがやっとの状態だ。
白騎士が敵の損傷を確かめる為に、ゆっくりと振り返ったその時、二機の間に割り込む影がある。白き装甲を纏った黒き獣のような其れは、Ernestに制御されたジャイアントキャバリア『Hugo』だ。
「あれは……」
『くっ、なんだお前は!』
暴走寸前の彼は、鰐めいた頭を振り乱し苛烈に敵機へ襲い掛かる。鋭い爪で肩を裂かれた亡霊は、残った腕でどうにかHugoを殴りつけ難を逃れた。
若獅子は機体に遺った僅かな力を防御に割き、もう一度、先ほどよりも頼りなさげなバリアを展開させる。見た目とは裏腹に、其の障壁は獰猛な突撃にびくともしなかった。しかし、一見すると絶望的な光景を、Hugoの主である琴莉は冷静に見上げている。
「理由はどうあれ、そちらは丸腰相手に殴りかかったわけですし?」
彼女のレンズにはいま、ハッキングコードが延々と展開されていた。Ernestの準備は、どうやら整いつつあるようだ。
「これくらいやったって、文句はありませんよね」
見上げる先には狂乱のマシンHugoと、威風堂々とした騎士のマシンがある。コードが完成するまでのあと僅かな時間は、きっと彼等が稼いでくれるだろう。
「加勢しましょう」
弱った敵機の守りが崩れるのも、きっと時間の問題だ。なにより、味方にだけ戦わせるような真似を、本当の騎士はしないから。トリテレイアは、再び引鉄を引き続けた。
「Ernest、バリア機能を停止させてください」
凛と響く少女の聲が、コードが為ったことを報せた。従順なAIは彼女の指示通り、造り上げたハッキングコードを敵機に流し込み、バリアを強制停止させる。
『クソッ、搦手か!』
「不法侵入失礼を。ですが、お行儀が良いだけでは生き残れませんから」
障壁が割れた瞬間、Hugoの背から絶対零度の翼が展開された。最大出力で開ききった其の『貝殻骨』で、鳥に成れなかった獣は空を翔ける。Ernestに制御されたまま蒼き首輪を揺らし、戦場に遺るHaroldを引き連れて――。
「そのまま押し切って、打ちかまして」
コックピットは壊したら駄目ですからね――。そう念押しせねば、彼の獣は何処までも暴れ狂いそうだ。
斯くして鳥擬きたちの群れから為る「烏合ノ衆」は、敵機へ突進して行く。
バリアすら失った亡霊は、気丈にも光線銃を放ち続け、放ち成り損ないの鳥を何羽か撃ち落としたものの。それだけでは最早、事態は好転しない。
Hugoを始めとした、鳥に成れなかった者たちの突撃をまともに受け止めて、一つ眼の亡霊は転倒した。
『認めん……。私が負けるなど、認められるか!』
されど、獅子のこころは未だ折れない。ぼろぼろに成った幽鬼は、尚も立ち上がろうとして居た。
*
「さて――」
先ほどまで敵陣が駆っていた機体、『ガーゴイル』のコックピットに収まったレモンは、ぐっと背伸びをひとつ。フットレストは崩れているが、コアと無線機能さえ無事なら問題ない。
「それじゃあ、始めようか」
彼女が乗る機体の周辺に、どすり、どすりと、固定砲が生えて来る。その数、全部で71体。みるみる内にそれらが集まれば、ナンバリングは「1」から「71」へと変化する。
それが意味することは、ただひとつ。
「射程距離は7100m……よしっ」
敵機は少し離れた所に居るが、これなら確実に当たるだろう。今や巨大砲と化した其れへ、ガーゴイルから動力を注入して行く。
<-- "神槍" 照準データリンク -->
「バステトの演算支援無しじゃ見込みは薄いけど……」
命中すれば、一撃必殺である。尤も、7100mも飛翔する大砲の威力たるや、その衝撃波だけでも兵装は全滅クラスだろう。
「掠るだけでいいんだ」
コックピットのなか、少女は祈る様に目を閉じた。
<-- 着弾まで、あと5秒 -->
*
『全友軍機、レーダー確認。衝撃波の影響予測範囲から退避せよ』
それは、突然の通信だった。
機体のなかで其の報を受けたトリテレイアと、電脳ゴーグルによる通信傍受で其の報を知った琴莉は、思わず後ろを振り返る。――遠くのほうで、眩い閃光が視えた。
「急いで離脱しましょう、榛様」
「Ernest、Hugoを離脱させて。さあ、行きますよ」
ただならぬ気配を感じ取った白騎士が促せば、ガスマスクの少女もそれに応えるように愛機たちへ指示を出して行く。
獣のように駆けるHugo、その後ろを護るように退避して行くロシナンテⅣ。全速力で駆けて行く彼等に、並々ならぬものを感じる敵機だが、総てが手遅れであった。
大地へ這い蹲る亡霊は、もはや何処にも逃げられぬ。
<-- 着弾 -->
猟兵たちが着弾範囲から抜けた刹那、巨大な砲弾が戦場に堕ちて来る。聊か狙いがずれた其れは、亡霊の装甲を掠り、敵機から大部離れた所で着弾した。
刹那、衝撃の波が襲い来る。其れはまるで、魚の鱗を剥がすように、バラバラと機体の装甲を外して行く。腕や足だけでなく、剥き出しと成った機関部まで――。
軈て安全装置が発動し、コックピットが敵機から発射された刹那。亡霊のモノアイがチカチカと明滅し、細い躰が爆発した。
「終わったようですね」
遠くで昇る黒煙を眺めながら、琴莉は静かにガスマスクを外す。戦場の外ではもう、此れは不要だろう。長い黒髪が外気に触れて、さらりと揺れた。
「ひとまずは、レモン様と飛行船へ報告を」
射出されたコックピットの軌道を確認しながら、トリテレイアは機体の無線を弄っている。彼が何処に堕ちたのか、演算は疾うに出来ていた。飛行船に報せれば、直ぐに回収されるだろう。
集った猟兵たちは、誰もが冷静だった。
そして誰もが、勇敢であった。
知略と勇気を兼ね備えた彼等は、狂気に肥大した貴公子のプライドを打ち砕き。死を招く亡霊すらも、打ち倒して見せたのである。
敵を退けた彼等を、アルスマグナの人々は讃えるだろう。
そして誰ひとり殺めなかった彼等を、ヒンデンブルク公国の人々は讃えるだろう。
いま此処にまたひとつ、猟兵たちの伝説が刻まれたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『これが我が社の新製品』
|
POW : 近接戦闘用の兵器を試す
SPD : 射撃戦闘用の兵器を試す
WIZ : 補助パーツや支援兵装を試す
|
● Welcome to Ars Magna
猟兵たちの活躍により危機を脱した飛行船は、無事にアルスマグナの市街地に到着した。
オフィスビルが立ち並ぶ其の街は、郊外の荒廃ぶりと比べると別世界のよう。
激戦のあと、敵の指揮官や治療が必要なパイロットを乗せて、飛行船は財団本部へと立ち寄った。
指揮官である若獅子をはじめ、捕虜となった彼等の怪我は、療養すれば充分に回復するレベルのものであった。
きっと今頃は適切な治療を受けていることだろう。公国の貴公子たる青年は、重要な外交カードである故に。
「公国のパイロット達は皆、感謝しているようです。あの若獅子さえも」
最終目的地である軍需専門商社の本拠地へ向かう、飛行船のなか。案内役のレプリカントは満足げに、皆へそう語り聞かせる。
命を奪い合うことが常である戦場において、猟兵たちは彼等を生かして帰したのだ。
彼等とてオブリビオンマシンによって、無理やり戦わされていただけ。それを救ってくれた猟兵たちは、公国兵たちにとっても恩人であった。
「そして勿論、私共も感謝しています。有難う御座いました」
赤い髪を揺らしながら、深く頭を下げるトレンタ。軈て貌を上げた彼女は、眼鏡の位置を整えながら、集った面々を改めて見回した。
「もうすぐ商社の屋上に着陸します。報酬はそちらでお渡ししましょう」
財団の幹部が奮発してくれたと付け加えて、レプリカントの女は薄らと微笑んだ。
● Leiden Industries
飛行船が着陸したビルは、市街地のなかでも一等立派で巨大なものだった。
軍需専門商社『ライデン・インダストリーズ』の本拠地である此のビルは、まるで聳え立つ山のようでもある。
地上60階にも及ぶビルのなかには、社員達が働くオフィス以外にも、自社ブランドの店舗が幾つも入っているそうだ。
ずらり、様々な新型キャバリアが飾られた、高級感溢れるディーラー。因みに此方はオーダーメイドも可能なのだと云う。
それから職人の拘りが光る、品揃え豊かなカスタムパーツショップ。また、キャバリア用と人間用、両方の武器を扱う店もある。
キャバリアを持たぬ者、コックピット環境を充実させたい者、或いは純粋に買い物を楽しみたい者には、雑貨を扱う店舗がお勧めだ。
チタンで出来たマグカップは、床に落とした衝撃でも割れない優れもの。きっとコックピットに持ち込んでも、激戦に耐えてくれるだろう。鞄の類なんてやけに頑丈で、何を入れても破れそうにない。
更に縁起を担ぐ者や、お洒落に気を使う乙女向けの商品も展開されている。
ロケットペンダントは、大切な人の写真をいれてお守りに。女性の横貌が描かれた、きらきら輝くメダイは、ポケットに入れておくと何か良いことがあるかも知れない。
陽射しや弾丸の破片から目を守る為のサングラスは、服装と合わせれば其の身を引き立てるアイテムとなるだろう。
良き旅の相棒、もしくは冒険の友となってくれる商品に、出会えるだろうか。
支払われた報酬は、キャバリアが一台買えそうな程の金額がチャージされた電子マネー。
尤も、使い切れなかった分は紙幣や金貨に変えてくれるそうなので、無理に使い切る必要もないだろう。
猟兵たちは期待に胸を膨らませながら、オフィスビルへ脚を踏み入れるのだった。
≪補足≫
・本章のPOW、SPD、WIZは、あくまで一例です。
→どうぞ自由な発想で、お買い物をお楽しみください。
・性的要素を含むプレイングは不採用とさせて頂きます。申し訳ありませんが、ご了承ください。
・アドリブOKな方は、プレイングに「◎」をご記載いただけると幸いです。
≪受付期間≫
1月14日(木)8時31分 ~ 1月17日(日)23時59分
鳳凰院・ひりょ
◎
だいぶキャバリアでの戦闘にも慣れてきた気がする
せっかくだから自分の機体が欲しいなと感じ始めた
キャバリアの機体を売っている店をブラブラと見て回る
その中で乗り手を選ぶというキャバリアに出会う
光と闇の疑似精霊の加護を得る事が出来る(逆に言うと二つの疑似精霊に認められて初めて乗り手として選ばれる)
「光・闇」を表す「ルクス・テネブラエ」
疑似精霊と縁のある俺が引き寄せられたのは偶然か必然か
光と闇の疑似精霊と交信し乗り手と認めてもらおう
俺が今回借り受けた機体と同じく飛行可能な機体のようだ
似た感覚で操作が出来るかもしれない
試運転出来れば試運転してみよう
契約を交わした二つの疑似精霊もサポートしてくれるようだし
●Lux Tenebrae
一仕事を終えた鳳凰院・ひりょは、オフィスビルの中にあるキャバリアディーラーへ、ふらりと足を踏み入れる。
――キャバリアでの戦闘にも、だいぶ慣れてきた気がする。
今回の任務でも、僚機と連携しながら見事に敵を退けることが出来た。そろそろ良い頃合いだろう。折角なので、自分の機体を探してみよう。
「本当に色々な種類の機体があるんだ……」
プラモデルよろしく、ずらりと並べられているのは、多種多様な造形のキャバリアだ。蝙蝠のような羽を持つモノアイの機体に、フルフェイスのヘルメットをかぶった剣士の如き機体。それから、バイザーアイがスマートな曲芸師めいた機体もいる。
斯うして眺めて視ると、アルスマグナで造られている機体は、造形重視のきらいが在った。とはいえ、彼らが造る製品の質が確かであることは、先ほど機体を借り受けた青年もよく分かって居る。相性がいい機体に出逢えれば、きっと、見た目以上の働きをしてくれる筈だ。
「……あれは」
ふと、青年は脚を止めて立ち止まる。見上げる視線の先には、戦機らしい逞しいフォルムの機体を黒と白でカラーリングされ、どっしりと其処に佇む、一台のキャバリアの姿があった。
光の燈らぬバイザーアイは、きらきらと透けた金色。飛行ユニットとして背部に取り付けられた翼は、片方が天使を模し、もう片方は悪魔を模しているようだった。
「――その機体は、乗り手を選ぶのだそうですよ」
皴ひとつ無いスーツに身を包んだ店員が、不意に脚を止めた彼の傍らに立ち、内緒話のようにそんなことを囁き掛けた。
「お客様はもしかすると、機体に“呼ばれた”のでは」
「このキャバリアは、一体……?」
まるで英雄譚の序章の如き展開に瞬きつつも、ひりょは訳知り顔の店員に問い掛けをひとつ。店員いわく、其れは「光」と「闇」の疑似精霊の加護を得られる機体なのだと云う。逆説的に云えば、ふたつの疑似精霊に認められ無い限り、乗り手に成ることは出来ないのだ。
「こちらは、『ルクス・テネブラエ』と申します」
それはラテン語で「光」と「闇」を現す言葉。
――疑似精霊と縁のある俺が引き寄せられたのは……。
果たして、偶然か。それとも、必然だったのか。それは神のみぞ知る所だが、無機物を疑似精霊として使役できる彼としては、此処で引き下がる訳にもいかない。
ひりょは一歩だけ脚を踏み出して、黒と白の機体にゆびさきを触れさせる。目を閉じれば、脳内に流れ込んで来るのは、混ざり合う光と闇のイメージ。軈て其れは、彼の「なか」へ溶けて行き“ひとつ”と成った。
「認めてくれたんだね、有難う」
青年は優しく微笑みながら、そうっと機体の表面を撫でる。ゆびさきに伝わるのは、冷えた鉄の感触だ。しかし、いまだけは其れも心地よく感じられる。
「良ければ、試し乗りしても?」
「どうぞ、ご遠慮なく」
店員の許可を得てキャバリアに乗り込めば、柔らかな黒い椅子が躰を包み込んでくれる。しゅるりと締まる円形の天井は、対照的に真っ白だ。
「グランピーエンジェルと同じように、飛行が出来るみたいだね」
少し毛色は違うけれど、同じ会社が造った機体だ。先ほどと同じような感覚で、操作が出来るかもしれない。アクセルを踏み込んで、青年は開いた大窓から空へと飛び出して行く。ばさりと広がった黒と白の翼は、ひりょが特に命じずともゆっくりと羽搏くことで、機体を安定させてくれる。契約を交わした疑似精霊たちが、どうやらサポートをしてくれているようだ。
「じゃあ、ビルの周りを一周してみようか」
青年は楽し気に操縦稈をぐい、と引っ張って見せる。風に乗って軽やかに旋回する様からは、ぎこちなさなど微塵も感じられ無い。
すっかり晴れ渡った空の下、心地好さと満足感を胸に、青年は暫し疑似精霊たちとの空中散歩を楽しむのだった。
大成功
🔵🔵🔵
本・三六
◎
洒落てるね
土煙ばかり想像していた…あぁ技術力を考えれば当然か
彼らも保護されて何より
何に逢えるかな
折角だ、御社の兵装を拝見するよ
特に補助や修復を施せるモノ——Mr.に恩返しをね
専門家程じゃないが、機械弄りは好きなんだ
素人も扱いやすい物はどうかな
アンカーに修復機構か…興味深いね。試しても?
…っ!驚いたな
調整は可能?カタログも貰えるかな
そうだ
遊びの品も?そう、トランプカード
暇潰しや見知らぬ相手と楽しむのにも重宝で
今のは擦り切れてね
内ポケットから覗かせる
流石だ、向こうだね
感謝するよ。あ…。良かったら今日の幸運に肖りたい
近くの兵器を指し
コレと、君の名前をお聞きしても? ※反応は一任
いいね――また来るよ
●Preparation technology
一歩脚を踏み入れた其処は、正しく近代的なオフィスビルだった。見晴らしの良い大きく広い窓に、清潔に磨かれた廊下。其の所々に飾られた、青々とした観葉植物。空調も確りして居て、照明もきらきらと明るい。周囲を見回しながら本・三六は、ぽつりと呟く。
「――洒落てるね」
クロムキャバリアは戦乱の世界と聞いていたから、市街地と云っても土煙に囲まれた細やかな街なのだろうと想像していた。しかし、実際に訪れてみるとアース世界の先進国のような有様で、聊か虚を突かれたような気持ちに成る。
――あぁ、技術力を考えれば当然か。
思えばこの世界は、アース世界よりも技術力が発達している。戦乱の世と云え、こういう建物を作ること自体は可能だろう。また資本力が有るアルスマグナだからこそ、こんなに豊かな都市が築けたのだとも云える。
「さて、何に逢えるかな」
敵兵たちも保護されたようだし、充分すぎる程に報酬も貰ったし、憂いは何もない。青年はぶらりと、宛らショッピングモールのように様々な店舗が立ち並ぶフロアを歩いて行く――。
「やあ、御社の兵装を拝見させてくれないかな」
軈て三六が脚を止めた先は、兵装の専門店だった。展示品のレイアウトを整えて居た若い男性店員に声を掛ければ、にこやかな笑顔が返って来る。赤い髪を後ろに撫でつけ、眼鏡を掛けた彼は、何処となくトレンタに似ていた。
「どうぞご覧ください。どのような物をお探しでしょう」
「補助や修復を施せるモノが良いね」
愛機――“Mr.”に恩返しをしたいのだと青年が言葉を重ねれば、店員は「畏まりました」と頭を下げて、店の奥へと引っ込んで行く。暫くして戻って来た彼の両腕には、幾つかのアンカーが抱えられていた。キャバリア用にしては小さすぎる為、恐らく此れはサンプルなのだろう。カウンターにどさりとそれらを置きながら、店員は三六へ丁寧に問い掛ける。
「お客様、機体の整備等はご自身でなさっておいでですか」
「ああ、機械弄りは好きなんだ」
とはいえ専門家ほどでは無いのだから、素人も扱いやすい物でどうか。そう希望を述べれば、店員は運んで来たものの中から最もスマートなアンカーを手に取って見せる。
「此方のアンカーには、自動修復機構が備え付けられています」
「……興味深いね、試してみても?」
アンカーを手に取りながらそう問いかける青年。頷いた店員はカウンターの下から罅や亀裂が入ったキャバリアの装甲――肩部パーツだろうか――を取り出し、カウンターの上へと乗せてくれる。青年が其処へ、そうっとアンカーを押し付けた、瞬間。
ギュイィンと云う音と共に、アンカーの先端が工具のように変形し、あっという間に装甲の疵を修復して行くではないか。
「……っ!」
眼前で繰り広げられる光景に、思わず三六は息を呑む。琥珀の眸を瞬かせながら、相変わらずにこやかな店員の貌を見た。
「驚いたな、調整は可能? カタログも貰えるかな」
「ええ、お客様のご希望通りに調整いたします。カタログも直ぐにご用意を」
青年の希望に応えるべく、店員はてきぱきと動く。三六は勧められた椅子に腰かけ、愛機には如何なるカスタマイズが適切か暫し店員と話し合った。
「――そうだ」
注文書を記入して居た三六が、ふと貌を上げる。Mr.のことばかりに気を取られていたが、他にも欲しいものが有ったのだ。
「遊びの品も、何処かに売っていないかな」
「――と、謂われますと」
眼鏡越し、店員の眸が穏やかに微笑み掛ける。青年は彼の貌と書類を交互に眺めながら、空白を少しずつ埋めて行く。
「そうだね、例えばトランプカードとか。今のは擦り切れていてね」
記入はあらかた終えたので、ペンを机の上に置いて。代わりに内ポケットへ手を伸ばし、ちらり、図柄が掠れたトランプを其処から覗かせる。
「ああ……パイロットの皆さんが、出撃前によく興じておられますね」
「そう、暇潰しや見知らぬ相手と楽しむのにも重宝しているんだ」
トランプは矢張り、どの世界でも身近な娯楽品として親しまれているらしい。賭けの道具にも成るし、出撃前の運試しにも“もってこい”なのだろう。
「それでしたら、下のフロアにある雑貨店に御座います」
「流石だ、下の階だね」
感謝するよ、と。言葉を重ねて、青年は椅子から立ち上がる。アンカーの調整には暫し時間が掛かるそうなので、暫し他のフロアで時間を潰すとしよう。
然し、踵を返し掛けた所でふと。
「あ……」
三六は立ち止まって、店員の方を振り向いた。店員のほうは相変わらず笑みを浮かべた侭、ちいさく首を傾げて彼の言葉を待っている。
「良かったら、今日の幸運に肖りたい」
青年は購入を決めたアンカーのサンプルを指差しながら、店員へと穏やかに問い掛ける。
「コレと、君の名前をお聞きしても?」
「此方のアンカーの銘は『アルベド』で御座います、お客様」
揃えた指先で兵装を指し示した店員は、其れから自身の胸に手を当て、真直ぐに腰を折った。
「そして私は40番目のレプリカント、『クアランタ』と申します」
「いいね、――また来るよ」
クアランタに軽く手を挙げた三六は漸く本当に踵を返して、下の階へと歩き始める。今日の良き出会いに、こころを弾ませながら。
大成功
🔵🔵🔵
ガーネット・グレイローズ
◎☆
少し、ライデン・インダストリーズの経営陣に挨拶しておこうか。
小規模ながら、会社を仕切る企業人でもあるからね。
トレンタ、時間は確保できそうかな?
挨拶を済ませたら、ショールームを見学して帰ろうか。
企業国家の最先端技術を結集した製品の数々、実に興味深いね。
……おや?
目に留まったのは戦闘服を専門に扱うブース。
そういえば、パイロットスーツを持っていなかったな。
どんなものがあるのかな……。スタッフに声を掛け、試着してみよう。
このスーツ、キャバリアやパイロットの特性に合わせて
カスタマイズできるかな? それから、上に羽織るジャケットと
ヘルメット、ブーツも見てみたい。……大丈夫、今なら予算は十分ある!
カグヤ・アルトニウス
○文化的活動
アドリブ・連携歓迎
私の国だけかもしれませんけど…
SSWって文明の進歩と引き換えに色んなものを失ってきた世界ですから、帝国の大乱が過ぎ去った今は生存圏の復興と文化・技術の回復が急務なので、ここでも資料になりそうな物は出来る限り手に入れたいですね
(行動)
まず、嵩張る書籍類…
新聞やキャバリアのマニュアルからこの地で手に入る伝承や創作の物語類に至る迄の本はリストを提出してここでの拠点に届けて貰います
あとは、音楽や動画のデータ化した物や画集とかを手に入るだけ買って持ち帰る事にします
…まあ、持って帰ったら専門の研究機関に送られて綿密な解析の後に資料館行きでしょうけど…文化史研究って無情な物です
●Coming from spaceships
「ライデン・インダストリーズの経営陣に、少し挨拶しておきたいんだが」
飛行船から降りたのち、ガーネット・グレイローズは開口一番そう呟いた。スペースシップワールドにおいて、宇宙船の開発や輸送業を手掛けている彼女は、小規模ながらも会社を仕切る企業人に変わりない。後学の為、或いは更なるビジネスチャンスの為、国の中枢に深く食い込む大企業の幹部には一目会っておきたかった。
「トレンタ、時間は確保できそうかな?」
「そうですね、10分ほどなら大丈夫でしょう」
秘書然としたレプリカントは、端末で幹部たちの予定を確認したのち、麗人の問いに頷いて見せる。経営陣としても、強大な戦力である猟兵と繋がりを得るに越したことは無い。
「社長室へご案内します、どうぞ此方へ」
「ありがとう」
カツカツと踵を鳴らし歩き始めるトレンタの後ろを、ガーネットは赤い髪を揺らしながら、静かに着いて行った。
一方、ガーネットと同じく星海を渡る世界からやって来たカグヤ・アルトニウスは、迷うことなくオフィスビルの中へ入って行く。既に彼の目的は定まっていた。
スペースシップワールドは――そのなかでも彼が居る“国”は――文明の進歩と引き換えに、居住可能惑星を始め色々なものを失ってきた世界である。
あの帝国の大乱が過ぎ去った今は、情勢もだいぶ落ち着いてきており、生存圏の復興と文化や技術の回復にも手を割けるように成った。
――ここでも資料になりそうな物は、出来る限り手に入れたいですね。
故郷と比べて戦乱が多い世界だが、ここの人々は大地に足を付けて生活しているのだ。何か興味深い文化や、参考になる技術と出逢えるかもしれない。僅かな期待を抱きながら、青年は資料室へと向かって行く――。
*
経営陣との面会は、10分という短い時間でありながら、濃厚なものと成った。国家の命綱である飛行船を守った猟兵に、社長を始めとした経営陣はいたく感謝しており、ガーネットはえらく歓迎された。
「財団の始祖ライデン氏が創業したから、ライデン・インダストリーズか」
お高いシャンパンで乾杯を交わした後に聞かされた、企業の歴史に思いを馳せながら、麗人は社長室の廊下を抜けて、店舗フロアへ繋がるエレベーターへと辿り着く。
「それに現在の財団トップがCEOとは、正しく国営企業だね」
会社の方針の決定権が国のトップにあるなど、自由主義的な国家では有り得ぬことだが。其処は企業国家、総ての企業の決定権は、恐らく財団に委ねられているのだろう。世の中、色々あるものだ。納得しながら降りて来たエレベーターに乗って、目当ての階へ麗人は向かう。
リン――。
軈て軽やかな音がして扉が開いた。其の先に広がって居たのは、様々な自社製品が綺麗に並べられたショールームの数々。
造形の美しさにやや偏り気味のキャバリアたちに、スポーツカーめいたスタイリッシュな浮遊自走砲の数々など、どれも見応えたっぷりだ。
正に企業国家の技術を集結させたような展示物たち。それらを興味深く眺めながら、ガーネットは静かに歩みを進めて行く。
「……おや?」
ふと目に留まったのは、ブティックの如き趣の一角だった。但し頸の無いマネキンが着ているのはドレスでは無く、急所を固い装甲で覆った無骨な服だが――。
どうやら此処は、戦闘服を専門に扱うブースらしい。
「そういえば、パイロットスーツは未だ持っていなかったな」
どんなものがあるのかな……。
凛とした企業人といえど、ガーネットも女性である。矢張り、服には関心があるし、ある程度は拘りたい。麗人は他のマネキンの服を整えていたスタッフを呼び止めて、パイロットスーツの所在を問い掛ける。スタッフは勿論にこやかに、彼女を女性用スーツのコーナーへと案内してくれた。陳列された華やかなパイロットスーツたちを前に、麗人はきょろきょろと頸を巡らせて。軈て或る一点に視線を集中させた。
「これは……試着しても?」
「ええ、此方へどうぞ!」
目当ての一着を片手に、フィッティングルームへ入って行くガーネット。しばらく時間を置いたのち――。
「……アリだな」
正しく自身を引き立てる為に造られたかのような造形に、彼女は思わず感嘆の聲を漏らした。
長い鏡に映るのは、上品なパイロットスーツに身を包んだ己の姿。伸縮性のあるスーツ部分は黒だが、急所を守る部分は女性らしい赤に彩られている。身軽さ第一のパイロットスーツにしては珍しく、ウェスト部分にはレースの裾が揺れるスカートが重ねられており、何処かゴシックな趣だ。
「このスーツは、カスタマイズも出来るのかな?」
「はい、キャバリアやパイロットの特性に合わせて、様々な機能をお付けできます」
「では此方を戴こう」
即決した麗人は、くるりともう一度ブースの中へ視線を巡らせる。スーツだけでは、まだ万全では無いのだ。
「それから、これの上に羽織るジャケットと、ヘルメットを」
「では、そちらのスーツに合うものをお見立てしますね」
「ああ、あとブーツも頼む」
かしこまりました、と品物を見繕いに行くスタッフの背中を見つめながら、少し買い過ぎただろうかとガーネットは眉を下げる。しかし。
――……大丈夫、今なら予算は十分ある!
この分だと、寧ろお釣りすら来そうである。そのうえ、国の危機を救ってくれたお礼として、猟兵割引まで付けてくれそうだ。
偶には思いっきり贅沢をするのも悪くは無いだろう。麗人は暫し、自身を引き立てる纏い探しを楽しむのだった。
「あちらは楽しそうですね……」
華やかなブティック風のブースを横目に、カグヤは淡々と歩き続ける。彼の腕には、文字がビッシリと連なるリストと共に、分厚いパンフレットが抱かれていた。此方は、先ほど資料室を訪れた際に貰ったものだ。中にはこの会社「ライデン・インダストリーズ」の歴史が綴られていた。
創業者のライデン氏がいかにしてこの会社を築き、ライデンアルケミー財団を造り上げたのかという話から始まって。財団のすばらしさや、この会社のすばらしさ、アルスマグナについて自分達がどれほど重要な存在か等々。だいたい知りたいことは、全部この一冊に綴られている優れものである。
「次は書店ですか」
エレベーターに乗って、少し上のフロアへと向かう。ボタンを押して到着を待つ間、青年はリストに改めて視線を落とした。其処に綴られているのは、資料室で聴きこんで得られた情報――つまり、この地に根付いた伝承や、創作の物語についてリストアップしたものだ。さすがは学芸員、興味深い話をたくさん教えてくれた。
企業国家たるアルスマグナには、夢のある御伽噺は少ないが。その代わり、人から不当に扱われた者が成功する物語が多いのだと云う。いわゆる、シンデレラストーリーというものだろうか。また、此の地に伝わる伝説というと、矢張り財団の創設者である「ライデン氏」に関する逸話が多いようだ。恐らくアルスマグナは、未だ出来て50年そこそこの、歴史の浅い国なのだろう。
勿論、その噺の出典が如何なる書籍なのかについても聞き取り済みだ。書店に行けば取り寄せて貰えるだろう。あとは、此の国や世界の情勢を知れるものと、キャバリアに関する書籍も欲しい。
エレベーターのドアが軽やかな音と共に開けば、足早にカグヤは外へと歩き出す。目の前には、大きな書店が広がって居た。先ずは地図を確認し、キャバリアのコーナーへと向かう青年。其処には、アルスマグナが生産した様々なキャバリアのマニュアル本が置いてあった。中身を幾つかぱらぱらと捲ったのち、タイトルをリストアップして次のコーナーへと進む。
彼が再び足を止めたのは、新聞コーナーの前だった。本来なら図書と新聞は流通経路が異なるが、この国では製造の大本が財団傘下の企業であるため、書店にも並べられているようだ。刊行されている其れらの名前をさらさらとリストに記入し、軈て踵を返す。
最後に向かうのは、画集のコーナーだ。この国は豊かであるが、あまり芸術は盛んでは無いらしい。棚に並べられて居るものは、そう多くは無かった。
ぱらぱらと捲ってみると、建物やキャバリアを描いた写実主義的なものが、比較的多い様な気がする。参考になるかは分からないが、これも持っていくとしよう。
棚に残って居る分だけ纏めて腕に抱き、青年はすたすたと会計へ向かう。一抱えの画集と一緒に差し出すのは、ずらりと書籍名が書かれたリスト。
「すみません、此方の本を購入したいのですが」
「えっ、これを全部ですか」
店員は差し出されたそれへ視線を落とし、眼をパチパチさせている。最早リストに乗せられた書籍の数は、個人が購入する範疇を超えているのだ。驚くのも、無理のないことだろう。
「在庫がないものも在りますし、お取り寄せまでお時間が掛かりますが……」
「構いません。纏めて此方へお願いできますか」
此方の世界の拠点の住所をリストの最下部へ、さらさらと記入すれば、どうにか話は纏まった。画集だけを抱えながら、青年は書店を後にする。
「あとは、音楽や動画のデータですね。雑貨屋に有るでしょうか」
エレベーターへと再び向かいながら、カグヤはひとつ溜息を吐いた。これらを持って帰ったところで、彼がそれを見て楽しむことは無い。彼が集めた資料は、恐らくは専門の研究機関に送られて、綿密な解析の後に資料館行きと成るのだろう。
「……文化史研究って、無情な物です」
しかし其れが、いつか未来を創る礎と成るのである。神妙な面持ちで、青年は開いたエレベーターの中へと飛び込んだ。未来の為に奔走する彼を乗せて、扉は締まる――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
トレンタ様、失礼ながら御社でこの機体は取り扱っておりますか?
(キャラページ宿敵の銀色のキャバリアの画像出し)
MCK04N-パラティヌス…各国でライセンス生産され私の機体のベースともなっている量産型キャバリアです
高い空戦適正持つグランピーエンジェルも良い機体ですが…
故郷に持ち帰っての改修や更なる慣熟訓練を行うには時間が足りません
近々、この世界以外で大規模戦闘に参加する公算が高いのです
やはり予備機は一機でも多く欲しいもので
古の騎士達も武具の工面に苦労したもの
御伽噺に無くともこの遣り取りは古今問わず変わらぬのでしょうね…
…世知辛、いえ、なんでも
後は…御社の製品をご紹介願えますか
ええ、水中戦用のものを
●Equipment procurement
白き騎士――トリテレイア・ゼロナインは、広いビルの中、レプリカントの案内人を探して居た。軈て淡い碧のアイセンサで、きびきびと廊下を歩く彼女の姿を捉えれば、早足で歩み寄り聲を掛ける。
「トレンタ様――」
「トリテレイア様、如何なさいましたか」
くるりと振り向いたトレンタは、眼鏡の位置を正しながら小首を傾けた。情報端末を取り出した騎士は、モニターに映る画像を彼女に見せる。
「失礼ながら、御社でこの機体は取り扱っておりますか?」
其処に映っていたのは、すらりとした体躯のキャバリア。銀彩に染められた装甲といい、両手に携えられた大きな盾や剣といい、何処か騎士めいたフォルムの機体だ。
「ああ、パラティヌスですね」
端末を覗き込んだトレンタは事も無げに、さらりと機体の名を言い当てた。それも其の筈、画像の機体『MCK04N-パラティヌス』は、其の騎士らしい優美なフォルムが人気の機体なのだ。搭乗者の技能は必要とされるが、機体性能も他の量産型に比べて高い名機である。その為、パラティヌスは各国でライセンス生産されており、国独自のカラーリングや装甲を施されて、すっかり様々な所で親しまれている。
「我が社では、“プラウドナイト”という愛称で親しまれて居ますよ」
「……それは何よりです」
秘書然としたレプリカントがゆるりと微笑めば、トリテレイアも穏やかに相槌を打つ。プラウドナイト――つまり、誇り高き騎士。悪く無い響きだ。
「あれは私の機体のベースともなっている、量産型キャバリアですので」
「まあ、そうなのですか。てっきりオートクチュールの機体かと」
眼鏡の奥の双眸を瞬かせるトレンタへ、騎士は静かに頸を振る。視界の端にちらりと映るのは、搬入されていく新型機――鋼鐵の天使の姿。
「高い空戦適正を持つ、グランピーエンジェルも良い機体です」
「有難う御座います、お褒めに預かり光栄です」
「しかし……」
賛辞に偽りはない。仲間が駆ったあの機体は、とても良い動きをしてくれた。それでも、故郷に持ち帰り専用機として改修したり、更なる慣熟訓練を行うには時間が足りないのだと彼は言う。
「近々、また大規模戦闘に参加する公算が高いのです」
それは此の世界の外で行われる戦争であり、更なる激戦が予想される。そうなると、矢張り予備機は一機でも多く欲しい所なのだ。
「そういう事でしたら、独自の彩色と装甲を施す前の機体をご用意しましょう」
ディーラーの方へご案内します、と前置いたのち踵を鳴らしながら歩き始めるトレンタに、騎士は粛々と着いて行く。
そういえば、古の騎士達も武具の工面には苦労したのだと云う。如何に騎士と云っても、無限に予算が湧いて出て来るわけでもない。それに、備えが万全な時だけ敵が攻めて来る訳でも無い。限られた予算内で武具を調達し、手に入る範疇の武具でなんとか敵を退ける。それこそが、騎士の実態なのだ。
――この遣り取りは古今問わず変わらぬのでしょうね……。
喩え御伽噺に記載が無くとも、現実として自分と同じ問題に直面して居たことは想像がつく。
「……世知辛、」
「トリテレイア様?」
ぽつりと独り言ちかけた所で、くるりと振り向いたレプリカントから、不意に聲を掛けられた。白騎士は咳払いめいたノイズを溢し、頸を振って見せる。
「――いえ、なんでも」
「そうでしたか。さて、ディーラーは此方ですよ」
秘書然としたレプリカントに誘導される侭、トリテレイアは新型のキャバリアが飾られたブースへ入って行く。トレンタの仲介もあり、機体の購入は呆気ないほど簡単に済んだ。電子マネーでの支払いを済ませた騎士は、傍らで待機していたレプリカントへ声を掛ける。
「後は……御社の製品をご紹介願えますか」
「畏まりました。それでは、カスタムパーツのショップへ」
引き続きトレンタに導かれて、白騎士は歩みを進めて行く。次の目的地はディーラーの直ぐ傍に在った。キャバリア用の様々な装甲が並ぶ様は、中々に見応えがある。
「どのようなパーツをご所望なのでしょう」
「そうですね、水中戦用のものを」
畏まりました、と軽く頭を下げたレプリカントは、店員を呼び止めて何やら申し付ける。そして待つこと暫し、彼らの前に現れたのは、バックパック型の水中機構。
備え付けられた双つのプロペラが、水中モーターの動力によって激しく回転し、その動作によってジェット噴射を行える優れものなのだという。
これを装備しておけば、きっと水中においても機動力が確保できるだろう。
白き騎士は勧められた装備へ手を伸ばし、確りと碧の眸で其の動作を検めて。来るべき大戦に備え、万全の態勢を整えるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
榛・琴莉
◎
せっかくの機会ですし、何か購入したくはありますが…
Hugoの装甲は破損無し
新しいパーツなんかも、基本的に嫌がりますしねぇ
…なんですかHarold、いきなり出てきて
お菓子?買いませんよ
貴方、飲食の真似事はすれど生命維持には必要ないでしょう
そもそもその体に消化器官なんて…ちょっと、それ何処から持ってきたんですか
戻してきなさい
Haroldをコートの内に押し戻して、ふと目に入ったのはキャバリアの手入れ用品
Hugoの装甲は汚れが目立ちますし、こういった物も良いかもしれません
すみません、これ一式お願いします
お菓子?いえ、それは求めていませんが
…Harold、それいつの間に持ってきたんですか
まったくも〜
●Little birds beg
アース系列にあるショッピングモールを想わせるフロアを、榛・琴莉はコートを揺らしながら歩く。様々な店舗が立ち並ぶさまは、漆黒の双眸を楽しませてくれた。
「せっかくの機会ですし、何か購入したくはありますが……」
右へ左へ、視線を巡らせる。ふと目に留まったのは、カスタムパーツが陳列されたショップ。然し、『Hugo』の装甲に目立った装甲が有る訳でも無い。
「新しいパーツなんかも、基本的に嫌がりますしねぇ」
拘束具を纏うジャイアントキャバリア――Hugoにとって、いま以上の装飾は寧ろ邪魔なのかも知れない。少女は悩みながらも、涼しい貌で歩み続けて行く。軈て辿り着いたのは、フロアの半分は占めそうな程の広さを誇る雑貨店だった。
文房具にスキンケア用品、飲食用品など、分かり易くブロックに分かたれた店内を、琴莉はゆるりと眺め往く。先ほどの戦乱がまるで嘘のように、此処は平穏で溢れていた。
――こてんっ。
菓子のコーナーに通り掛かった所で、脚にちいさな衝撃を感じて。少女は静かに立ち止まり、視線を下げる。いつの間に零れ落ちたのだろうか。其処には歪な容をした小鳥――小型UDCのHaroldが一羽。
「……なんですかHarold、いきなり出てきて」
まるで何かを主張するように、折れた片翼をぴこぴこ動かすHarold。軈て彼はゆっくりと羽搏いて、チョコレートを絡めたパイ菓子の周囲を飛び回る。
「買いませんよ。貴方、飲食の真似事はすれど生命維持には必要ないでしょう」
意図を察した琴莉は、ぴしゃり。小鳥の主張を一蹴した。コートの片側を開いて、逃げ出した一羽を懐へ呼び戻す。
幾ら予算に余裕があろうと、生命維持に不要な菓子を与える程、琴莉は甘い飼い主――もとい、使役主ではないのだ。
「そもそもその体に消化器官なんて……」
何処か残念そうに懐へ潜り込んで行くHaroldに、そんな小言を落とそうとした刹那。ことんっ。再び、脚許から小さな衝撃が伝わって来た。厭な予感をして下を見れば、不定形の羽で鳥の容のクッキーを掴む他の個体の姿が在る。
「ちょっと、それ何処から持ってきたんですか。戻してきなさい」
急いで水銀のような手触りの彼を抱き上げて、クッキーを取り上げる。菓子は売り場へ、Haroldはコートの内側へ押し戻し、小さく溜息を溢す琴莉。このコーナーには、余り長居をしない方が良さそうだ。
足早に菓子売り場を抜けた先、ふと目に入ったのは、キャバリアの手入れ用品コーナーだった。其処には艶を出す為のヤスリや、汚れを落とす為のクリーニング液や布のほか、キャバリア用に造られた大きめの工具セットまで並んで居る。
思えば、Hugoの装甲は汚れが目立つ。彼の暴れっぷりを想えば、仕方のないことかも知れないけれど。こういった物があれば、Hugoも少しは快適に過ごせるかも知れない。
「すみません、これ一式お願いします」
会計場所へ辿り着いた少女は、抱えて居た手入れ用品一式をカウンターへ置く。しかし、電子マネーを取り出そうとして懐を漁ったところで、店員から意外な科白を投げかけられた。
「こちらのバウムクーヘンもご一緒でしょうか」
「? いえ、それは求めていませんが」
視線をカウンターに戻せば、えいっと置かれたバウムクーヘンの箱の傍でぱたぱたと翼を揺らす、小鳥に成れぬUDCたちの姿が在った。
「……Harold、それいつの間に持ってきたんですか」
店員の微笑ましそうな視線を浴びながら、「まったくも~」と貌を覆う琴莉。今回ばかりは、聞く耳もなさそうだ。仕方ないので菓子も買ってあげよう。
結局少女は、お徳用バウムクーヘンとキャバリアの手入れ用品を抱えて、雑貨店を後にしたのだった。何処か満足そうに囀るHaroldと共に――。
大成功
🔵🔵🔵
アリエル・ポラリス
◎☆#
おやつを要求するわ!!
金ならあるわ、今貰ったから!
美味しいおやつを要求するのよ!!!
……なあにこれ?
こんなちっちゃなおやつで満足できるわけないでしょ?
おやつを──シャティも大満足のおっきなおやつを要求するわ!!!!
大きなドーナツをシャティにあげるの。
今日はよく頑張ったわねぇシャティ、親分として誇らしいわ!
んー、でもシャティが一人で戦うのが大変そうだってのが分かっちゃった日でもあったわ。
私が居ない時にシャティが虐められたりしたら……駄目だわそんなの!!
ドーナツを買った残りのお金でシャティの武器も探しましょ。
そうねぇ……手甲とか見てみましょ。
私の黄金の右拳を伝授してあげるわよ、シャティ!
天音・亮
◎☆
たくさんキャバリアが置かれているね
相棒はもうきみがいるから購入するつもりはないけど
カスタムパーツとかは見ているとどうしても興味惹かれちゃう
アドくんはどんなカスタムがご希望?
浮かぶきみはパワー増強の為の補助装置の上でピタリふよふよ
そのサイズ感はちょーっとミスマッチかな…?
明らかに大きすぎる2本のアームを見て首を横に振る
次には重量級(ゴリラの様な)キャバリアの上
…アドくんもしや脳筋AIだったりする?
うーんなかなか良さげなのは見つからなそうだし
手土産無しも味気ないから
アルスマグナの技術者さんと仲良くなっちゃおうか
これからの事を考えて
なんて、ちゃっかり売り込みに余念の無い私なのであった
ふふふ。
●Gift for partner
「おやつを要求するわ!!」
オフィスビルのカフェテリアのなか、少女の聲が高らかに響き渡る。それは人狼の少女、アリエル・ポラリスの切実なる訴えだった。
「金ならあるわ、今貰ったから! だから、美味しいおやつを要求するのよ!!!」
ストレートかつ抽象的な親分のオーダーに、シャティは後ろでおろおろしている。しかし、カウンター越しに彼女を接客する店員は、にこやかにメニューを差し示す。
「では、こちらなど如何でしょうか」
「……なあにこれ?」
しばしの沈黙の後、アリエルが笑顔でそう問い掛ける。沈黙の意図を察したキャバリアは、相変わらずあたふたしていた。対峙する店員は、にこやかな侭だ。
「業務の合間にも片手で戴ける、ショコラドーナツです」
「こんなちっちゃなおやつで満足できるわけないでしょ?」
次は店員が、頭に疑問符を浮かべる番。それも其の筈、店員とアリエルの遣り取りは、最初から主語がズレていたのだから。少女は思い切り、息を吸い込む。
「おやつを――、シャティも大満足のおっきなおやつを要求するわ
!!!!」
午後のカフェテリアに、少女の叫びが響き渡った。俄かに、厨房が騒がしくなって――。
暫くの後。アリエルとシャティのふたりは、テラス席でのんびりとおやつの時間を楽しんでいた。あの後、厨房のスタッフが総出でキャバリアのお腹も満たしそうなほど、巨大なショコラドーナツを作ってくれたのだ。
「今日はよく頑張ったわねぇ、シャティ。親分として誇らしいわ!」
ちゃっかりと自分も人間サイズの同じものを食べながら、アリエルは幸せそうに頬を弛ませる。ひと口頬張れば、口の中で広がるショコラの上品な甘さ。そして、さくりとしたドーナツの歯ごたえと、ふわっとした食感。食べれば食べる程、お腹もこころも満たされていくようで――。
シャティもまた、彼女と同じ気持ちなのだろう。はぐはぐと美味しそうに、巨大なドーナツを咀嚼している。
「美味しいわね、シャティ」
そんな子分の姿を見上げて、ふふりと笑うアリエル。いっぱいお金も貰ったし、ドーナツを買っても未だ十分余りは有るし、今日は何て良い日なのだろう。
けれど、先ほどの戦いで幾つか分かったことがある。それは、シャティは一人で戦うことに向いて居ないのでは無いか、ということだ。
――私が居ない時に、シャティが虐められたりしたら……。
そんな想像をした瞬間。アリエルのふわふわな毛並みが、ぶわわと逆立った。不吉なイメージを打ち払う様に、少女はぶんぶんと頸を振る。
「……駄目だわ、そんなの!!」
傍らのシャティは、彼女の様子に疑問符を浮かべながらも、相変わらずドーナツをぱくついていた。そんな相棒を見上げながら、アリエルはぐっと拳を握り締める。
「食べ終わったら、武器を買いに行くわよ!」
勿論、舎弟――もとい、シャティの口から否が出る筈も無かった。
一方。天音・亮は金絲の髪を揺らしながら、ビルの中をふらりと歩いていた。キャバリアが並べられたショールームに興味深げな視線を向けつつも、娘は其処を素通りする。
相棒なら、既に居るから必要ないのだ。
傍らに浮かぶ丸いAI『アドくん』を碧い眸で見つめれば、視線に気づいた彼は嬉しそうに彼女の周囲を飛び回る。
そうなると、自然と視線が向かうのは、カスタムパーツの類が並ぶ店だろう。現代っ子な亮は、電気屋に連れて行かれても余り退屈しないタイプの人間だ。
展示された最新機器やら、パーツやらは、どれもスマートな容をして居て。見ていると、どうしても興味を惹かれてしまう。
「アドくんは、どんなカスタムがご希望?」
そう、本日の目的は“アドくんのパワーアップ”にあった。先ほどの交戦中に、ふたりはそんな約束を交わしたのだ。彼女から問い掛けられた瞬間、アドくんはふよふよと宙を游ぎ、彼の体躯には見合わぬ巨大な双つのアームの上にピタリと留まる。
「そのサイズ感は、ちょーっとミスマッチかな……?」
何を隠そう、それはキャバリア用のパワー補強装置なのだ。アドくんの小さな躰では、きっと支えることすら難しいだろう。亮がやんわりと難色を示せば、アドくんは少し落ち込んだ様子で俯いた。
しかし、すぐにキリっと貌を上げて、再び宙をすいすいと游いで行く。何を想ったのか店を出て、アドくんはキャバリアが並ぶショールームへ。彼の後ろをのんびりと追い駆けて往く亮が、軈て辿り着いた先で目にしたものは――。
まるで武者のように逞しい佇まいの、やや胸部や腕部がゴツゴツと盛り上がった機体だった。此処まで来ると、いっそゴリラのように見える。
「……アドくん、もしや脳筋AIだったりする?」
確かに、見た目からして強そうだ。でも、亮の美的センス的に、これはイマイチである。モデルという職業柄、乗りこなす期待もお洒落じゃないと駄目な気がする。どうせなら、もっとスマートな方が良い様な……。
対するアドくんは何処か憧れの眼差しで、眼前の機体を見上げていた。説得には少し骨が折れそうだ。
「わあ、装備もいっぱいあるわね、シャティ!」
賑やかな聲がふと、鼓膜を揺らす。視線を巡らせると、モノアイゴーストとの対決時に共闘した機体が其処に居た。というよりも、パイロットに連れられて歩いていた。あまり見ない光景に、つい二度見してしまった娘の視線が、其方へと集中する。
「シャティには、コレとか良いんじゃ無いかしら」
ずしりと重たい手甲を難なく持ち上げた少女――アリエルは、愛機にそれを嵌めてみる。指の辺りにメリケンサックめいた突起のある其れを装備したシャティは、腕の感触を確かめる様に何度か拳を握っては離す。
「ピッタリね、やった!!」
人狼の少女は其の様を見て、我がことのように喜んだ。ぴょんぴょんと跳ねた彼女の腰では、狼の尻尾がふわふわと嬉しそうに揺れている。
「さあ、私の黄金の右拳を伝授してあげるわよ、シャティ!」
シュッシュと、シャドーボクシングを始めるアリエル。そして其れを素直に真似するジャイアントキャバリア。なんとも、仲睦まじい光景だ。
「……徒手空拳、流行ってるのかな」
アドくんと云い、機械にとっては、腕力こそパワーなのかもしれない。ふたりを眺めながら、亮は人知れず、そんなことを思うのだった。
「うーん、なかなか良さげなのは見つからなかったね」
そんなこんなで、店舗を巡ること小一時間。アドくんと、そして亮と相性が良さそうなパーツは、中々見つからなかった。電子マネーは現金化出来るから良いけれど、手土産無しも何だか味気ない。
「そうだ、アルスマグナの技術者さんと仲良くなっちゃおうか」
これからの事を考えて、ね。なんて、自分の肩に寄り添ってしょんぼりしている相棒に、ウインクを溢せば、アドくんの眸がきらきらと輝き始めた。
「ふふふ、じゃあ行こう!」
アドくんのことを売り込んでおけば、そのうち彼にも合うパーツを作って貰えるかもしれない。それに、自分も一緒に売り込んでおくことで、企業の専属モデルにも成れちゃったりして――。
ちゃっかりとそんな計画を立てながら、亮は相棒を連れて機体調整室へと駆け出して行くのだった。結果は多分、上々だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レモン・セノサキ
◎
パーツの造りや仕様を見て回る
それにしても凄い技術だ、此処なら愛機を託せるかもしれない
職人さんに取次いで貰える様、トレンタに頼んでみる
コイツは「ArX:UN-JEHUT」、氷河から発掘された古代のサイキックキャバリアだ
コアの部分は今の技術とそう変わらないけど
制御系の解析が困難で整備が全く手に負えないんだよね
更に、急場凌ぎで積んだ量産動力源は出撃するたびに焼き切れてしまう
難しいかもしれないけど、現代パーツでの換装込みで
コイツを万全な状態にして欲しい
動力源は……そうだなぁ、コレの技術を転用して貰えたら嬉しいね
予備の「仕掛鋼糸」から取り出した小型詠唱動力炉を渡す
分解、解析、好きなように使っていいよ
●Awaken the steel heart
レモン・セノサキは、店舗が立ち並ぶショッピングモールめいたフロアを探索していた。パーツショップに入っては、其の造詣を深く観察し。キャバリアのショールームへ入っては、其の仕様を熱心に見て回る。
――……凄い技術だ。
レモンの目から見ても、アルスマグナの機体製造技術は高水準だ。さすがは、張り子の虎で国のパワーバランスを維持できるだけある。もしかしたら、此処なら愛機を託せるかもしれない。一抹の希望を胸に抱き、少女は通り掛かった顔見知りへと聲を掛けた。
「トレンタ、ちょっと頼まれてくれる?」
「はい、レモン様。何なりとお申し付けくださいませ」
秘書然としたレプリカントは名前を呼ばれるなり、ぴたりと立ち止まり。深く腰を折って礼を返す。軈て貌を上げた彼女は眼鏡を整えながら、少女の願いが紡がれる時を待つ。レモンが願うことは、ただひとつ――。
「なんだこりゃ、見たことねぇ機体だな……」
少女はいま、愛機を連れてオフィスビルの下部にある整備工場へ通されていた。トレンタの計らいで『ライデン・インダストリーズ』の職人にアポを取って貰えたのだ。ゴーグルをずり上げて『BASTET』を見上げる老年の職人に、レモンは正確な情報を伝えて行く。
「コイツは『ArX:UN-JEHUT』、氷河から発掘された古代のサイキックキャバリアだ」
「はあ……そりゃ大層なヤツだなぁ、人間の手に負える代物かい」
「どうだろうね。コアの部分は今の技術とそう変わらないけど――」
其処まで語って、少女は檸檬彩の双眸を伏せた。己の愛機は、少なくとも彼女の手には負えない代物なのだ。理由は、其の制御系の解析困難さにあった。太古の機体を徒に弄るような真似は出来ぬ。ゆえに、解析可能区域しか整備できないのだ。
更に愛機は燃費も悪いらしい。急場凌ぎで積んだ量産動力源は、出撃するたびに焼き切れてしまう。正直、此処まで戦えたのが奇跡のようだ。勿論、パイロットであり整備士であるレモンの手腕あってこその奇跡であるが。
「現代パーツでの換装込みで、コイツを万全な状態にして欲しい」
「やれるだけやってみるが、動力源はどうするんだい」
「……そうだなぁ、“コレ”の技術を転用して貰えたら嬉しいね」
腕を組みながら機体と向き合う職人が溢した科白を受けて、レモンは静かに己の腕に嵌めた飾りを外す。其処から小型の詠唱動力炉を取り出せば、確かな信頼を籠めてそれを職人へと手渡した。
「バラしちまっても構わねぇかい、嬢ちゃん」
「うん、好きなように使っていいよ」
幾ら分解されても、分析されても、構わなかった。愛機が万全な状態に成るなら、出来る限りのことをして、出せるものは差し出そう。
「難しいかもしれないけど、宜しくね」
「応、任せときな!」
ベテランの風格を纏う老齢の職人は、とても頼もしい。笑みを交わした後、レモンは暫し作業場を後にする。
仕事の邪魔に成らぬよう、オフィスをもう少しぶらついてみよう――。
軈て、陽も沈んだ頃。カフェテリアで食事を採っていたレモンの許に、トレンタが現れた。短く切り揃えた髪を揺らし、レプリカントは穏やかに微笑み掛ける。
「お預かりしていた機体の調整、終了いたしました」
「えっ、ほんと?! 早く見に行かないと……!」
少女は急いで食事を済ませて、整備工場へと駆け出して行く。息を切らして職人の許へ辿り着いた彼女が目にしたのは、暝闇の中に凛と聳え立つ愛機の姿だった。
ゆっくりと歩み寄れば、所々パーツが換装されていることに気付いた。現代でも入手可能な素材に置き換えることで、手入れし易くしてくれたのだろう。
あとの問題は、動力源。コックピットに恐る恐る其の身を滑らせ、BASTETを起動させる。反応は、――滑らかだ。
システムの反応速度も上々、愛機の処理能力は明らかに上がっていた。否、元の調子を取り戻したと云えるのだろう。幾らコードを打ち込んだところで、フリーズすることも無い筈だ。
少女は整備室のなか、何時までも愛機を動かし続ける。されど、一向にエネルギーが切れる気配は無かった。
太古より出でしサイキックキャバリアは、遂に復活を遂げたのである――。
大成功
🔵🔵🔵
ミスト・ペルメオス
◎
【無知】
ふうむ。機体にも興味はあるけれど…それよりも。
フードコートに向かい、この世界の食事を求める。
異界の料理は個人的に楽しみのひとつ。「普通の料理」だろうと興味深いごちそうだ。
(ただ、流石にゲテモノや風味のきついものは無理)
おや…またお会いしましたね、レディ。
ぼくはミスト、あの黒い機体のパイロットです。
ええ。…リィンさん、ですね。
勿論ですよ。折角ですし一緒に食べましょうか。
では…そうですね。お勧めの料理をいただいてみましょう。
お勧めと言うからにはきっと美味しいはずです!
(美味しい料理を、何気ない会話を楽しむ。自然と笑みが浮かぶ)
(互いの文化や知識の違いというのも、それはそれで面白い)
リィン・メリア
◎
【無知】
随分と大きな建物なのね
中もすごく広いわ
……美味しそうな香り
ちょっと寄り道しようかしら
匂いの元、フードコートに辿り着き
まあ
世の中にはこんなに食べ物があるのね
これで物を買えると聞いたのだけれど、本当に買えるのかしら
電子マネーの使い方に迷ってる所
この声は
もしかして、助けてくれた人?
ええと、名前は……
ミストさん ミストさんというのね
私はリィンよ
貴方もご飯を食べるの?
ご一緒してもいいかしら
ええ、好き嫌いはないから合わせるわ
お勧めなんてものもあるのね
それにしましょう
どんなものが出来るか楽しみね
(作られていく料理を眺め、席について料理を頂く)
(初めての味、久しぶりの誰かとの食事に頬が緩む)
●Lunch in another world
市街地にどんと聳え立つオフィスビルの中は、迷子に成りそうなほど広々としている。硝子とフローリングに囲まれた無機質な世界に今、リィン・メリアは、ぽつんと佇んでいた。
――随分と大きな建物なのね、中もすごく広いわ……。
物珍し気にきょろきょろと頸を巡らせつつ、桃色の双眸をぱちぱちと瞬かせる乙女。斯う云う場所に訪れるのは初めてなので、何処から見たものか迷ってしまう。
彼女が途方に暮れかけた時。不意に何処からか漂って来た馨が、リィンの鼻腔を優しく擽った。
「……美味しそうな香り」
芳香が漂って来た方へ、自然と足が動き始める。初めての世界で、初めて見る敵と戦って、少しお腹が減ってしまった。ちょっとだけ、寄り道しても良いだろう。
雑貨が並ぶ店を素通りして歩くこと暫し、リィンは漸く匂いの許――フードコートへ辿り着く。大人を対象にした施設である所以か、其処はアース系列の世界の其れとは少し趣が異なっていた。
並べられた机は、透明で清潔感のある、少し大きめなスクエアタイプ。備え付けられた椅子も、黒塗りでスマートな印象だ。お昼を過ぎた頃合いと云えども、ぽつりぽつりと人の姿が在る。ペンネに赤いソースが良く絡まったアラビアータ。まあるいシルエットが愛らしい、ベーグルサンド。中身がどっしりと詰まったミートパイなど。其々が思い思いの軽食で腹を満たしていた。
「まあ、世の中にはこんなに食べ物があるのね」
ぱちぱちと、再び双眸を瞬かせる。先客たちが味わって居るものは、見た目からして鮮やかで、或いは繊細で、美味しそうなものばかり。
良い馨に食欲をそそられた娘は、懐から電子マネーがチャージされたカードを取り出す。アルスマグナでは、このカードがお金の代わりなのだと云う。
「これで物を買えると聞いたのだけれど……」
本当に買えるのかしらと、リィンはちいさく頸を傾けた。のっぺりしたカードには、一見すると大した価値は無さそうだが。どうやって使えばいいのだろうか。
「おや……」
支払方法に迷い、フードコートの入り口で立ち往生して居たリィンの鼓膜を、ふと聞き覚えのある聲が揺らした。振り返れば、其処に居たのは――。
「またお会いしましたね、レディ」
「もしかして、さっき助けてくれた人?」
戦場でキャバリアに圧倒されて居た時、僚機が助太刀に来てくれたことは、未だ記憶に新しかった。
「ええ、ぼくはミスト。あの黒い機体のパイロットです」
幼げな貌の少年、ミスト・ペルメオスは、物腰柔らかに自己紹介をする。戦場では会話を楽しむ余裕なんて無かったから、結局互いの素性は知らぬ儘なのだ。
「ミストさん――」
娘は彼の名前を記憶に刻み込む様に、ゆっくりと反芻する。そうして、ぱあぁと仄かに表情を煌めかせた。
「ミストさんというのね、私はリィンよ」
「……リィンさん、ですね」
彼女の名を確かめるように、ミストもまた反芻する。調査員として活動する機会も少なく無い彼だ、一度覚えた貌と名前は忘れないだろう。
「貴方も、ご飯を食べに来たの?」
「ええ、異界の料理は楽しみのひとつなんです」
どうやら、彼の目的も食事らしかった。何たる偶然だろうか。いま此処で、乙女が紡ぐべき科白はただひとつ。
「じゃあ、ご一緒してもいいかしら」
「勿論ですよ、折角ですし一緒に食べましょうか」
戦場の外で出逢えたのも、きっと何かの縁だ。ふたりは並んで、店員が待つカウンターへと向かうのだった。
「さて、何を選びましょう」
「沢山あって、迷ってしまうわね」
ふたり横に並んで、色々な料理の写真を並べられたメニューを見つめる。フードコートと云う性質所以か、軽食のラインナップが多いようだった。
「そうですね……。お勧めの料理をいただいてみましょうか」
「お勧めなんてものもあるのね」
少年が「まんぷくおすすめセット」なるものを指差せば、「それにしましょう」と、娘はかんばせに淡い笑みを咲かせた。
「好き嫌いはないから、合わせるわ」
ふたりで共にお勧めセットをオーダーすれば、店員は厨房へと下がって行く。リィンはカウンター越しに、厨房の奥を興味津々と云った様子で覗き込んでいる。
「どんなものが出来るか、楽しみね」
「ええ、お勧めと言うからにはきっと美味しいはずです!」
娘の言葉に、ミストもまた頬を弛ませた。戦場では寡黙な彼だが、プライベートでは年相応にお喋りらしい。
待つこと暫し。漸くカウンターに置かれた食事をトレーごと慎重に席へ運び、ふたりは漸く椅子へと腰を降ろした。
いま机の上に在るのは、少々ジャンクなご馳走たち。
皿の上にどっしり座すのは、揚げ焼きしたソーセージにケチャップと、カレーパウダーを塗したもの。付け合わせは在り来りなフライドポテトだ。
薄く切られて並べられたライ麦パンには、クリームチーズとスモークサーモン、輪切りのオリーブが乗せられており、目にも鮮やかなブルスケッタと成って居た。
小さなスープマグのなかでは、とろり蕩けるじゃがいものポタージュスープが湯気を立てている。パンともよく合いそうだ。
デザートはカリッと芳ばしく焼き上げられた筒状の皮のなかに、たっぷりのチーズクリームを詰め込んで、チェリーの砂糖漬けを飾ったカンノーロ。
「わあ、とても美味しそう」
「早速いただきましょうか」
一見すると“普通の料理”であるが、ふたりにとっては興味深い御馳走だ。
ソーセージをナイフとフォークで切り分けたり、スープを吐息で冷ましたりしながら、彼等は食事と会話を暫し楽しむ。
「……片手間で食事をする人が多いようですね」
「みんな、お仕事がんばってるのね」
周囲にふと視線を向ければ、誰も彼もがパソコンと向き合いながら、片手間で食事を取っていた。企業国家なだけあって、仕事に夢中になる人が多いのだろうか。
「だから、片手でも食べれるようなメニューが多いのかも知れません」
「そういえば、私たちが食べて居るものもそうね」
初めて訪れる土地で、意外な国民性と需要を発見するのもまた、知的で興味深い体験だ。クリームチーズの滑らかな舌触りと、スモークサーモンの芳ばしさを味わいながら、ミストは内心でそう想う。
美味しい食事に、穏やかな会話。それだけで、こころもお腹も満たされて、少年の頰は自然と柔らかく弛むのだった。
それは、カンノーロをぱくりと齧るリィンも同じこと。リコッタチーズが馨るクリームの甘さ、そしてよく揚げられた皮の芳ばしさは、何方も初めての味わいで舌が喜んでいる。それに、誰かと斯うして食事を共にするのは久しぶりだった。
何だかこころが温かくなって、彼女のかんばせにも笑みが咲く。
「美味しいわね」
「ええ、とても」
こうして感想を言い合えるのも、食事を共にする相手が居るからこそ。穏やかに流れる時間に身を委ねながら、ふたりは満たされた気持ちで、ご馳走に舌鼓を打つのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月白・雪音
…かように巨大な商業施設を目の当たりにするのは初めてです。
流石は商業国家という所ですね。
過剰な報酬を得過ぎることは些か気が引ける所ですが…、
断っては双方の国の名誉を傷付けることとなりましょうか。
私の戦は機甲も武器も用いぬモノゆえ、そういった店舗では有用な品は得られないでしょう。雑貨を見て回ると致しましょうか。
…これは…、虎の柄をモチーフとした端末の保護フレームですね。
私のスマホに対応可能なサイズも扱っているようです。購入させて頂きましょう。
あちらは服飾店でしょうか。
…む、この桜色のケープストール、目を惹かれるものがありますね…。
常ならば手が出なかった所ですが、これは良い買い物となりましょう。
●Colour in your life
広々としたフロアに、下駄の音が反響する。アルビノのキマイラ、月白・雪音は赤い双眸でぐるりと周囲を見回した。
――……流石は商業国家という所ですね。
こんなに大きい商業施設を目の当たりにするのは、初めてだ。つやつやと磨かれたフローリングには、鏡のように己の姿が映っていて。天井に嵌められた蛍光灯は、フロア中を眩く照らして居た。
「過剰な報酬を得過ぎた点については、些か気が引けますが……」
懐から取り出したカードを眺めながら、少女は僅かに溜息を吐く。折角の厚意なので、断るのもまた気が引ける。なにより此処で返礼を辞しては、双方の国の名誉を傷付けることに成りはしないか。「武」の精神を習得している雪音は、恩返しという概念をよく理解して居た。
しかし、何を買ったものだろうか。
右へ左へ、視線を動かしてみるけれど。其処に有るのは、キャバリア用のショップばかり。彼女の武器は己の躰、ただひとつ。機甲も武器も用いぬゆえ、ああいった店舗では有用な品も得られぬだろう。有り余る報酬を得たとは云え、無駄使いは戴けない。
「雑貨を見て回ると致しましょうか」
少女はキャバリア向けのショップ群を抜けて、目的地へと歩みを進み続けるのだった。
「これは――……」
そして今、彼女はワンフロア下の階にある雑貨店へと足を運んで居た。掌に抱いた“それ”を眺める眸には、ほんの僅かな熱が籠っている。
「虎の柄、ですね」
そう、それは端末の保護フレーム。アース系列の世界においては、スマホカバーなどと云った名称で親しまれているモバイル用品だ。黒い縞模様を刻んだ滑らかな金色のフレームは愛らしく、つるりとした触感で心地よい。
「私のスマホにも、対応可能でしょうか」
パッケージをよく読みサイズを確かめた所、ちょうどピッタリ収まりそうだ。虎柄という時点で、なんだか親しみを感じてしまった。それに、此処で出逢えたのも何かの縁だ。購入させて貰うとしよう。少女は躊躇う事無く保護フレーム片手に、会計場所へと向かうのだった。
――あちらは、服飾店でしょうか。
電子マネーで会計している最中。
雪音の視界にふと映り込むのは、雑貨店のすぐ傍に佇む店舗の様相。彩のうつくしい洋服を着せられたマネキンが店頭に佇んで居ることから、其処は女性向けの服飾店であることが察せられた。
求道者であるとはいえ、雪音も年頃の乙女。ああいう店には惹かれるものがある。下駄を鳴らして店内へ歩み寄れば、マネキンの頸に揺れる春彩に自然と視線が注がれた。
「む……」
彼女の眸を捉えてやまないのは、柔らかな桜彩をしたケープストール。いまは洋装のマネキンが羽織って居るけれど。カシミヤで編まれた其れは、装飾控えめな上品なシルエットをしていて、雪音が纏う和服にも充分似合いそうだ。
カシミヤの柔らかな手触りを確かめながら、少女は値札をちらりと覗き見る。良いお値段だ。常ならば手が出なかっただろうが、未だ電子マネーのチャージは残って居る。
「これは、良い買い物となりましょう」
表情を変えぬ乙女は零した科白に喜色を滲ませながら、柔らかな春彩を手に取ったのだった。
猟兵たちが手に取ったものは様々だ。
しかし、それらはきっと、今後の旅路に鮮やかな彩を添えてくれるだろう――。
大成功
🔵🔵🔵