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蒼鱗の海賊船と宝の地図

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●海賊船と宝の地図
 快晴。穏やかな海を見渡して海賊船『アンダーティア』の船長『レディ・フラウス』が海に向かい声をかける。
「アンダーティア! エサの時間だよ」
 海が渦を巻き現れたのは巨大な水の大蛇。船の名を冠した大蛇は瞳に禍々しい光を宿しシューシューと息を吐く。
 レディ・フラウスが海賊船の部下に合図すると、部下の手により恐怖に震える奴隷が数人海へと投げ込まれた。海面に大きく波立てながら大蛇が奴隷を喰っていく。
「アハハハ! 美味しいかい!」
 レディ・フラウスは長髪を豪快にかきあげ、風に靡かせると大蛇へと愛し気に声をかけた。手には宝の地図があった。
「さあ、あたいたちをお宝の眠る洞窟へと導いておくれ」
 食事を終えた大蛇は潮を操り海賊船を洞窟へと誘うのであった。

●依頼
「奴隷を捧げ、海賊船が潮に乗り洞窟に向かうタイミングでの作戦開始となります」
 グリモアベースの一角で猟兵たちは机に広げられた海図を見ていた。説明するのはルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)だ。
「剣と魔法と竜の世界、その南の大海原を航海中の海賊船が転移先となります」
 海図の一部を示しながらルベルは言う。
「海賊船がオブリビオンである『水の大蛇』の求めるままに奴隷を餌として捧げているのです」
 ルベルは自身が集めた情報を共有する。
 海賊船はもともと商船を襲い略奪を繰り返す悪党集団だったが、大蛇とつるんで以来はさらに海岸線付近の村から人攫いをして奴隷にするようになったのだ。
 船長は女だてらに銃とサーベルを扱う剛の者。決闘の末に先代船長を倒し、実力で新たな船長となった女傑だ。彼女は先代船長の部屋で発見した宝の地図を手に、宝が眠っていると思われる洞窟へと向かっている。

「皆様に依頼したいのは、『水の大蛇』の討伐です。大蛇は移動中、姿を隠しています。水を操る海のモンスターです。海中にて戦いを挑むのはあまりに無謀。誘き出すのも困難。移動中の討伐は不可能といえましょう。
 ですが、僕は宝の眠るという洞窟の奥の大湖にて大蛇が姿を現すのを予知しています」
 ルベルはもう一枚紙を広げた。海賊船の見取り図だ。
「重ねてとなりますが、僕は皆様を海賊船に転移させます。数刻もすれば船は洞窟に辿り着きますので、洞窟の奥を目指し、大蛇を撃破してくださいませ」
 海賊に見つからないよう隠密するもよし、奴隷のふりをするもよし。あるいは、海賊の仲間や取引先を装うもよし。

 グリモアを淡く光らせ転移の準備を終えると、ルベルは頭を下げた。
「皆様ならばうまく立ち回ってくださると信じております。どうぞ、ご武運を」


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 今回はアックス&ウィザーズでの冒険です。

 1章は航海中の海賊船内部での自由行動です。
 2章は宝の眠るという洞窟の探検です。
 3章はボス戦です。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 冒険 『奴隷船の行く先は』

POW   :    奴隷のふりをして船に乗り込み、村人の解放に奔走する。

SPD   :    誰にも見つからぬよう隠密行動をとり、船内部の情報を収集する。

WIZ   :    奴隷商のふりをして船に乗り込み、取引先の情報を探る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

宮落・ライア
む。むー。むー!むぅ…。
暴れたい。制圧したい。ヒーローしたい。
とは思う物の他の猟兵の足は引っ張れないから大人しくする…
なんて思ったか!
【POW】
奴隷のふりして乗り込んで【怪力】で紐でも木製でも鉄製であろうと枷ぶっ壊してやらぁ! あ、騒ぎません騒ぎません。静かにやります。
他の奴隷の枷も壊すよ。
壊す前に口の前に人差し指を置いてしーってしながら
「ここは海上だし海賊は怪物も飼いならしてるからチャンスが来るまでしーだよ」
って言っておくよ。


ヘスティア・イクテュス
同じ海賊として気に入らないわ
奴隷は助けてお宝も横から頂かせてもらいましょう!


オプティカル・カモフラージュで姿を消して隠密ね
誰か他に隠れる人がいるならついでに対象に

奴隷の人は今助けていいのかしら…?
助けていいならビームセイバーで縄とかを斬って救助よ
牢とかに入れられてたら…焼き切ってなんとかなるかしら?


まだ駄目なら中の探索
こっそり海賊達の武器とか海に捨てれないかしら
無論お宝は見つけたらいただくわ


奴隷の人達が無事生きていくのにお金は必要でしょ?


リュイ・ヴェルデ
・心情
「この僕が奴隷役とはいささか不満だが、これも任務の為だ」
方針は奴隷のフリをして船内に侵入をする。

・行動
船内の調査をし、村人を解放するチャンスをうかがう。
しかし拘束されているのであまり大っぴらに動けないが色々見て回る
ユーベルコードは極力使わない
「あまり怪しまれる行動は禁物・・・だな」

しかし未熟さ故にスパイと発覚し逃走するも逃げ切れずに本当に捕らえられ、手枷、足枷、猿轡とさらに厳重に拘束され船倉の一番奥に監禁されてしまい他の仲間の救出を待つ羽目に・・・
「・・・僕が皆の足を引っ張ってしまうなんて・・・」
暗い船倉の中身動きも取れない、声も出せない状況に悔しさに沈むことに
(他PLとの絡みOKです)


ヴァリアクルス・プロディクト
こう見えても、ぼくはシーフです。隠れて行動するのは得意中の得意。
船というのは、特殊な空間です。外部からの目がなく、船長の命令には絶対服従…
前の船長に従っていただけで、今の船長に不満を持つ乗員も少なくないかもしれません。ましてや、怪物との取引をよく思っていない乗員がいても不思議はない。あるいは、派閥ができているかも。
可能なら、船長に対して不満を持つ幹部を探し出したいですね。この耳で聞き当てましょう。

船長がいかにやり手でも、一人で船は動かせません。
いざとなれば、ユーベルコードで誰もいないところに隠れます。


アベル・スカイウインド
【SPD】

略奪、殺人…賊というのは海でも山でも大した違いはないな。
オブリビオンのついでに奴らも葬ってやりたいところだが…フッ、自重しておくとしよう…今は、な。

隠密行動の心得はあるつもりだ。奴らの目をかいくぐってやるとしよう。【目立たない】【忍び足】【暗殺】
とはいえしらみ潰しに調査するわけにもいかんからな。ここは【野生の勘】である程度的を絞って調べるとしよう。
海賊に見つかりそうになったら猫の鳴き真似でもして誤魔化すか…いや、猫なんだがな。


リヴェンティア・モーヴェマーレ
【アドリブは大歓迎です】

海賊船に宝の地図だなんて…冒険者っぽいデス!

[目立たない]様に気を付けながら潜入して[情報収集]をしましょうカ…
上手く[ハッキング]しながら、船内を調べる事に徹しまス

出来れば宝の地図の詳細等知りたい所なので、その辺は入念に調べていきましょうカ
UCを使用しチンチラの藍ちゃんを召喚
私が通れなかったり、人気のある場所は藍ちゃんにお任せしマス
海賊船の見取り図をしっかりと記憶して2人でレッツ隠密探検…でス!
もし居れば攫われた方々を救出する方法も考えておきましょう

藍ちゃん、今回も頼りにしてますヨ
藍ちゃんの頭を撫でてもふもふします
上手くいったら大好きなイチゴの葉っぱあげマスね♪


桐府田・丈華
「大蛇や海賊の好きにはさせない為にがんばらないとね!」
まずは奴隷になりすまして海賊船に乗り込みます 村の人々の状態を確認し、見張りの人間がいなくなった隙を狙い行動開始します 隠れながら移動し、バトルキャラクター達と村人を解放して行きます 守りつつ脱出し 他の猟兵と共に海賊を退治をします


ラスベルト・ロスローリエン
洞窟に眠る宝の地図――浪漫溢れる冒険譚は好むところさ。
乗り込んだ船が悪辣な海賊船で無ければもう少し楽しみようもあったろうに。

◇WIZ 自由描写・連携歓迎◇
奴隷を商う真似事なんて業腹だけれど……一時の辛抱だね。
三角帽子を脱ぎ外套のフードを目深にかぶり尖り耳や顔を上手く隠しておくよ。
『やあやあ、海の友。最近の景気はどうだい?ちょうど活きの良い奴隷が欲しくてね』
【コミュ力】と【情報収集】で品定めと称して囚われた奴隷達に接触しておきたい。
彼らを繋ぐ鎖や檻の錠は“瞑捜の御手”の【念動力】でこっそり外しておく。
洞窟に到着すれば解放の算段も立て易いだろう。

船縁でパイプを燻らせながら今はその時を待とうか。



●奴隷部屋の少年
 奴隷部屋は昏かった。部屋の中には檻があり、人々は檻の中で鎖に手足を繋がれ、うなだれている。
「む。むー。むー! むぅ……」
 奴隷として潜り込んだ宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)が唸っていた。傍らには同様に奴隷になりすまし、心配そうな顔の桐府田・丈華(カードバトルゲーマー・f01937)がいる。
(「暴れたい。制圧したい。ヒーローしたい」)
 ライアは思う。しかし、ライアとて経験豊富な猟兵だ。
「他の猟兵の足は引っ張れないから大人しくする……なんて思ったか!」

 海賊たちのやりとりが聞こえてくる。見張りに立つ海賊は2名だ。
「お宝ってどんなのだろうな、金銀財宝の山かな」
「ああ、船長のお宝は楽しみだな。形見になるようなもんでもありゃあ、ウィル坊にも見せてやりたいが」
「『先代』、だろ。それに、ウィル坊の扱いは『船長』しだいさ」
「……ああ、そうだな」

 部屋の外で物音がした。見張りが気を取られている気配がする。
 ライアは自身の鎖をできるだけ音を立てないよう気を付けながら破壊し、他の奴隷の分も音を立てないよう気を付けながら破壊していく。吃驚している奴隷の口の前に人差し指を置き、自分たちが複数人の猟兵チームであること、奴隷を助けにきたことを告げる。
 静かにと囁けば事を理解した奴隷たちがコクコクと頷いた。
「ここは海上だし海賊は怪物も飼いならしてるからチャンスが来るまでしーだよ」
 自分も猟兵だ、と名乗りつつ丈華が明るい笑顔を向けた。
「おなかがすいてる人はいない?」
 ポケットからチョコレートを出して配れば、人々は甘い味に頬を緩める。
「坊や、チョコもらいなよ」
 おじさんが壁際で目を瞑っていた少年に言う。丈華と同じ年頃と思われる少年がムスッとしながら顔をあげた。少年は意思の強そうな目をしていた。
「冒険者? 海賊を退治するの?」
 少年が問う。その瞳にはなぜか敵意のようなものが浮かんでいた。
「うん。奴隷を助けに来たんだよ」
 丈華とライアが頷き、名前を名乗ると少年は律義に名乗り返した。
「俺はウィリアム。冒険者って金で雇えるんだよね? 僕があんたたちを雇うのってあり? 金は用意できるからさ」
 ウィリアムはそう言いながらチョコレートを齧る。そして目を丸くした。
「スッゲエ! 貴族が食うみたいな高級なチョコじゃん!」
 そして、ウィリアムは会話をするうちにボーイッシュに話す丈華が勇敢な女の子だと気付くのであった。

●仲間
 時は少し遡る。
 彼らは現地へ転移される直前、ほんの少しの顔合わせと打ち合わせをしていた。

「同じ海賊として気に入らないわ。
 奴隷は助けてお宝も横から頂かせてもらいましょう!」
 ヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長(自称)・f04572)が意気揚々と参戦した。
 ヘスティアは小型の宇宙船『ソードフィッシュ号』を船とする海賊団の船長(自称)だ。父も海賊であり、父のような海賊になりたいと故郷を飛び出した過去を持つ。幼少時から何度も眺めた絵本を見るたび彼女は思うのだ。海賊バツのような冒険を、と。

「大蛇や海賊の好きにはさせない為にがんばらないとね!」
 茶色い瞳を利発に煌めかせて丈華が言った。
 洞窟に眠る宝の地図――浪漫溢れる冒険譚はラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)の好むところだった。
「乗り込んだ船が悪辣な海賊船で無ければもう少し楽しみようもあったろうに」
 そう呟くと仲間が頷くのが見えた。
「海賊船に宝の地図だなんて……冒険者っぽいデス!」
 リヴェンティア・モーヴェマーレ(血も骨も、灰すら残さず・f00299)は目をキラキラさせた。

「こう見えても、ぼくはシーフです。隠れて行動するのは得意中の得意」
 加護の力が込められた黒き聖衣に身を包みヴァリアクルス・プロディクト(泣き虫クレリック・f08857)が提案する。
「可能なら、船長に対して不満を持つ幹部を探し出したいですね」
 仲間たちから視線が集まる。ヴァリアクルスは説明した。
「船というのは、特殊な空間です。外部からの目がなく、船長の命令には絶対服従……。
 前の船長に従っていただけで、今の船長に不満を持つ乗員も少なくないかもしれません。ましてや、怪物との取引をよく思っていない乗員がいても不思議はない。あるいは、派閥ができているかも」
「船長がいかにやり手でも、一人で船は動かせません」
 
「略奪、殺人……賊というのは海でも山でも大した違いはないな。
オブリビオンのついでに奴らも葬ってやりたいところだが……。
 フッ、自重しておくとしよう……今は、な」
 代々優秀な竜騎士を輩出している家の出であるアベル・スカイウインド(天翔ける稲妻・f12583)はしかし、束縛を嫌い自由きままに旅をしながら猟兵仕事を請け負っていた。
「隠密行動の心得はあるつもりだ。奴らの目をかいくぐってやるとしよう」
 頼もしい仲間へと視線を巡らせながらヘスティアはユーベルコードで光学迷彩を展開し、自身を透明化する。
「他に隠れる人がいるなら一緒に透明にするわ」
 これにより猟兵たち全員の隠密行動は大幅に成功度を上げたのであった。

●先代船長の日記
(「「この僕が奴隷役とはいささか不満だが、これも任務の為だ」)
 上流階級出身のリュイ・ヴェルデ(人間のUDCメカニック・f01108)は透明になりつつ、いざ見つかった時に逃亡奴隷だと思われるようにライアに砕いてもらった鎖を身に付けて船内に侵入していた。
「あまり怪しまれる行動は禁物……だな」

 リュイは一室に入り込む。鍵はかかっていなかった。人に使われている気配がない寝台があり、机と椅子があり、本棚がある。
「これは、日記?」
 机の上に日記らしき本があった。開きっぱなしになっているその日記をパラリとみる。

『1月1日 
 年明けを我が子同然の船員たちと祝い、今年もよき1年となるよう大海原と星に願う。
 1月3日 
 航海中に凶悪な大蛇モンスターを発見。奴隷を捧げてその隙に逃げたが、アイツは危険だ。
 1月5日 
 大蛇モンスターが船をつけている。味を占めたか。陸を目指して逃げている。
 1月10日 
 フラウスの様子がおかしい。モンスターに魅了されてしまったのだろうか? 
 1月20日 
 奴め、拾ってやった恩を忘れたか。返り討ちにしてやる』

「っこれは、先代船長の」
 リュイが読み進めているとガチャリと部屋の扉が開いた。透明になっているから大丈夫……、と油断をしていたが、海賊からすれば日記がふわふわと浮いているではないか。
「な、なんだ!?」
 警戒した海賊がサーベルの柄でガツンと日記に殴り掛かれば、衝撃にバサリと日記が取り落とされ、一瞬で透明化が解除された。
「しまった!」
「てめえ! 何してやがる!」
 海賊に見咎められ、リュイは慌てて日記を拾い懐に仕舞おうとするが、取り上げられてしまう。
「なんかおかしいと思ったら奴隷が逃げてやがった!」
 リュイは手枷、足枷、猿轡とさらに厳重に拘束され船倉の一番奥に監禁されてしまった。
「……僕が皆の足を引っ張ってしまうなんて……」
 暗い船倉の中、リュイは身動きも取れない、声も出せない状況に悔しさに沈む。

●船長室から盗み出した金の鍵
 「光無き燈火・円環の理・小さくも大きな刃を持つ我が子よ。この世界にその姿を見せよ」
 透明になり潜入しているリヴェンティアはチンチラの藍ちゃんを召喚した。
「藍ちゃん、今回も頼りにしてますヨ。2人でレッツ隠密探検……でス!」
 リヴェンティアは藍ちゃんの頭を撫でてもふもふする。ふわっふわのやわらかな毛がぬくぬくとした小さな体温を伝える。藍ちゃんはつぶらな瞳を嬉しそうに輝かせた。

 リヴェンティアは船長室の場所を掌握し、目立たないように船長室の様子を窺う。中には今、人がいないようだ。忍び込もうか迷っていると人の気配がした。
「!」
 サッと物陰に隠れて様子を見ると、船長レディ・フラウスが船長室へと入っていく。
 藍ちゃんが鼻をひくひくさせながら扉が閉まる寸前、船長室へと身を滑り込ませた。
 パタン、と扉が閉まる。リヴェンティアは周囲を窺いながらしばし待つ。
 そして、頃合いを見て扉をノックした。コン、コン、と。
「誰だい」
 レディ・フラウスが扉を開ける。サッと身を隠したリヴェンティアは息をひそめる。レディ・フラウスはきょろきょろと通路を窺うが人影がないのを見ると頭を振った。
「気のせいか? あたいも疲れてるのかね」
 その扉の隙間から藍ちゃんが脱出していた。扉がぱたりと閉まる。リヴェンティアの元に戻った藍ちゃんは金色の鍵を持っていた。
「この鍵は……」
 リヴェンティアは目を瞬かせる。何に使う鍵だろうか? 洞窟に眠る宝の鍵かもしれない。藍ちゃんを優しく撫でてイチゴの葉を与え労いつつ、リヴェンティアは仲間たちと合流すべく踵を返した。

●宝と救出と
 透明な状態で船内を探索していたヘスティアは海賊の武器庫を発見した。
「これを捨ててしまえばこの後の作戦がかなり有利に展開できるわね」
 
「これは、海賊たちが集めたお宝かしら」
 その一室を見てヘスティアは目を瞠った。ひとめで魔法の品とわかる大剣や短剣、盾、杖、指輪、腕輪、ネックレス……。
「いただいていくわ」
 ヘスティアは持ち運び可能なサイズの魔法の品を数点選び持ち出して懐に入れた。自ら役立てる道もあるが。
「奴隷の人達が無事生きていくのにお金は必要でしょ?」 
 そう呟く瞳は穏やかな色を宿していた。
 そして、その耳に声が聞こえた。
「逃げた奴隷を捕まえたぞ」
(「誰か、捕まった?」)
 ヘスティアは透明化を維持したまま慎重に通路へと出る。見れば、リュイが捕まっていた。
 男たちがリュイを拘束し、船倉の一番奥に連れていくのをヘスティアはそっと付いていき、少し様子を見た後で意を決するとビームセイバーを閃かせて見張りを無力化する。そして、リュイのもとへ膝をついた。
「今たすけるわ」
 ビームセイバーで拘束を解く。改めて透明化を施し、2人は他の仲間と合流することにした。

●海賊たちの会話
 野生の勘が囁くままにアベルは海賊たちの集まる一室の扉付近の樽影に潜んでいた。海賊たちは木製の丸テーブルを囲み酒を飲んでいるようだ。

 海賊たちの会話が耳に入る。
「船長を決闘で倒して新船長になったのはいいけどよ、あんな怪物とつるんで船と同じ名前までつけちまって、頭がイカれてるぜ。フラウスはどうしちまったんだ」
 年嵩の海賊がため息をつくように言うと酒を呷る。その海賊の右に座る禿頭の海賊が眉をひそめる。
「先代船長の息子だからってウィル坊まで縛り上げちまってよ。俺はあんな扱い許せねーぜ」

(「ふむ、代替わりしたばかりで統制は取れていないな。先代船長の息子か」)
 アベルはひげを撫でた。息子を救出するか、と考えを巡らせる。

「おい、樽んとこに何かいるぞ」
 海賊がふと気づいたようだった。立ち上がり警戒する海賊へアベルは樽から尻尾を見せて鳴いてみせる。
「にゃあ」
「なんだ、猫か」
「ちゃんとネズミ捕ってくれよ」
 海賊は猫だと信じた。いや、紛れもなく猫なんだが。

 そこへ、仲間が入ってくる。
 外套のフードを目深にかぶり尖り耳や顔を隠したラスベルトだ。
 樽影の仲間と一瞬視線が交差する。

「やあやあ、海の友。最近の景気はどうだい? ちょうど活きの良い奴隷が欲しくてね」
 手に酒を掲げて見せれば海賊たちは大喜びだ。
「奴隷商の旦那でしたか」

 ラスベルトはテーブルを回り込み男たちの視線を誘導した。男たちが扉に背を向け、ラスベルトを見るようにと。
 その隙にアベルは扉から脱出して他の仲間のもとへと駆けていく。
 やりとりすることしばし、彼らは打ち解けた。
 ふっと顔を曇らせる年嵩の海賊。
「オレは奴隷なんて」
「おい、飲み過ぎだぞ。ヘヘッ、すいませんねえ」
 年嵩の海賊を窘めつつ、禿頭の海賊がラスベルトへとへりくだる。
「活きの良い奴隷でしたっけか。そりゃあもう活きの良いのが取り揃ってますぜ」
 禿頭の海賊がラスベルトを奴隷部屋へと案内する。

●奴隷部屋
 品定めと称してラスベルトは奴隷たちにそっと目配せをする。
 奴隷部屋には猟兵の姿もあった。事前に仲間から説明を受けている奴隷たちは落ち着いた様子だ。
 ラスベルトは“瞑捜の御手”にて深遠の力のの欠片を手繰り寄せると奴隷たちの鎖と檻の錠を静かに外していく。
 そして、男に礼を言うと外の空気を吸うといって部屋を出ていった。禿頭の海賊男は部屋を出る間際にちらりとウィリアムへと視線を向け、軽く頭を下げた。
 ウィリアムはさっさと行けというように男へ手を振る。
「俺に構ってるのがバレたらあいつも危険だろうに」
 どこか嬉しそうにしつつも男を案じる声色の呟きを奴隷部屋のライアと丈華が聞いていた。

 海賊船がもうじき、陸に着く。
「ラスベルトさんがうまくやったみたい。見張りが減ってるよ」
 ライアが囁く。
 丈華はユーベルコードでゲームのキャラクターたちを召喚する。丈華の大好きなキャラクターたちが半数は奴隷を守るように立ち、半数が見張りの海賊を囲んで声を発する暇もなく気絶させた。

 奴隷部屋に仲間たちが合流してきた。彼らは奴隷を守るよう奴隷部屋を拠点とし、情報交換しながら、この後の計画を立てていく。

●勝負
 船縁でパイプを燻らせながら海を眺める。前方にはぽつりと島が見えていた。これからあの島に上陸するのだろう。
(「洞窟に到着すれば解放の算段も立て易いだろう」)
 考えを巡らせていると、隣に女性が立った。

「いい眺めだろ」
 長い髪がさらりと潮風を孕んで揺れている。レディ・フラウスだ。
「あたいはこういう晴れた海が好きなんだ。奴隷商の旦那はどうだい」
 ラスベルトはフードを軽く手で押さえながら頷いてみせた。
「ああ、海はよいものだね」
 レディ・フラウスは獰猛な笑顔を浮かべた。
「どこから乗り込んだか、何人いるか知らないが腕の良い冒険者のようだね。
 どうだい? あんたたち。あたいと勝負しないか」
 潜入に気付かれている。ラスベルトは息を呑むとレディ・フラウスは父親への悪戯が成功した小娘のようにケラケラと笑った。
「アハハハ! 奴隷たちを解放しにきたんだろ?」
「まあ、そんなところだね」
 ラスベルトは慎重に言葉を選んだ。相手には奴隷を解放しにきた冒険者だと思われている、と情報を整理する。
「ほら、見てごらんよ。あそこにぽっかり浮かんだ島を。あの島にある洞窟の奥にあんたたちとあたいらと、どっちが先に辿り着くか。勝負しようじゃないか」
 その瞳は挑戦的に輝いていた。

 そして、海賊船が島へと到着する。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『盗賊王のお宝探し』

POW   :    真正面から真っ向勝負。力技で障害物を乗り越える

SPD   :    敵対生物の気配を探る、隠された道を見つける、罠を解除する等

WIZ   :    宝の地図や隠された暗号を読み解く、快適な野営方法を提案する等

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●洞窟勝負
 猟兵たちは洞窟の入り口に立っていた。
 レディ・フラウスもまた配下の海賊を数人連れて洞窟の入り口に立っていた。

 洞窟は広く口を開け、彼らを待っている。
 レディ・フラウスは愉しそうに嗤う。
「先に行きな。あたいは10分後にスタートしよう。
 中でかち合った時は命がけの妨害オーケーさ。先に奥に着いた方が勝ち。
 あたいが負けたら言う事をなんでもきいてやろう」
 そして、猟兵が負けた際には。
「あんたたちが助けようとしてる奴隷は全部、水の大蛇『アンダーティア』の餌にする。目の前で何もせずにそれを見るがいい!」

 こうして猟兵たちは後ろから追ってくるレディ・フラウスを警戒しながら洞窟に挑むこととなった。
 洞窟は広々としているが、道が細かく分岐し、罠も予測される。モンスターも出て来るかもしれない。
 その奥には大湖と宝があるという。
宮落・ライア
ふぅん…………うーん妨害OKなら洞窟の入り口で待ってて蹴散らすのもあり? でもなーそれってなー…正々堂々じゃない気がするしなー。
うーん走るかー。
【ダッシュ】【ジャンプ】で全力疾走。
【野生の感】によってなんとなくで水の気配を察知してそっち方面に進んでいく。
モンスターは【殺気】で怯ませて、罠は【見切り】か【空蹴】か【薙ぎ払い】で対処する。

と言うか予知的に湖に蛇が来るなら海賊と蛇で挟み撃ちになるな?


ヘスティア・イクテュス
10分後……余裕ね…
それほど自信があるってことはよほど入り組んでいるか、秘密の通路でもあるのかしら?

とりあえず、この勝負負けるわけにはいかないわね…


ティンク・アベルを使って【情報収集】
風の通り方とか塵や埃の積もり方…
そういうのから隠し通路のありそうな怪しいところを探すわ
アベルよろしく頼むわ

罠はティターニアで低空を飛んで回避【空中戦】
可能ならミスティルテインで撃ち抜いて破壊ね
敵対生物もミスティルテインで撃ち抜くわよ


●ティンク・アベル
ヘスティア-お嬢様呼び
執事のような話し方


トリテレイア・ゼロナイン
「防具改造」で耐水し「怪力」で船底にしがみ付く形で乗り込みましたが潜入がバレていたとは…侮れませんね

島に着く前に「先代」の息子のウィリアム様からある程度の情報を手に入れられれば良かったのですが

「世界知識」で得た蝙蝠の真似事などしてみましょう
洞窟内で大きな音を立て、その反響をセンサーで拾い、洞窟の構造を「見切る」ことで探索に役立てましょう。
「暗視」で罠などを注意しつつ危険そうならUCを使いつつ味方を「かばい」、わざと罠に掛かり解除

もレディ・フラウスら海賊達とはち合わせしたら足止め役として戦いましょう
「武器受け」「盾受け」を使いつつ決闘です
海賊流「だまし討ち」など通じませんよ、私も得意なのですから


ヴァリアクルス・プロディクト
今度はクレリックらしい活躍で役に立ちますよ。
フラウス船長が洞窟と水蛇に気を取られている今がチャンスです。
さらわれたひとたち……特に、ウィリアムという少年の傷と疲れを癒やしましょう。
情報を総合すれば、彼は先代の船長の息子。彼と先代に義理を通したい乗員もいるはずです。
「洞窟の宝を半分を条件に、ぼくたちはウィリアムさんに雇われることにしました」
「そのぼくたちがフラウスとの勝負に勝てば、決闘で勝ったも同じ、でしょう?」

彼らが船を取り返せば、背後を気にせず戦えます。海賊と強力することになりますが、ここは彼らのルールを尊重しましょう。
「船の上のことは、船員が決めるべきです」


ラスベルト・ロスローリエン
目論見を見抜かれては仕方ない……三角帽子をかぶり仕切り直しだ。
彼女の挑戦に大人しく従い正々堂々と出し抜こう。

◇WIZ 自由描写・連携歓迎◇
宝の隠された洞窟を手探りで進むのは恐ろしいな。
“界境の銀糸”の蔦を洞窟の壁や足元に張り巡らせ【地形の利用】で女海賊殿を待ち受ける。
【高速詠唱】から解き放つ《古森の手枷》で彼女を拘束して宝の地図を失敬しよう。
『君達の流儀に従ったのだから文句はあるまい?』
首尾良く地図を奪ったら十分後に自然と解放されるよう術を施すよ。

【世界知識】を駆使して宝の地図に記された暗号や道順を読み解けるだろうか。
海賊の符牒に詳しい者がいれば智恵を借りたい。
――嗚呼。不謹慎ながら心躍るね。


アベル・スカイウインド
【SPD】

あの女の意図が読めんな。遊びのつもりかそれとも…いや、今は奥を目指すとするか。

洞窟内が多少暗くても俺は【暗視】が使えるから問題はない。さっさと先に進むとしよう。
道の分岐点では【野生の勘】を信じて進んでみるか。直感というのも案外バカにはできんからな。
モンスターの処理なら任せておけ。いち早く察知して【先制攻撃】してやるさ。フッ、もちろんあの女とかち合っても不覚をとるつもりはない。


緋神・美麗
【むにー】で参加
今回は追いかけっこしながらお宝を目指すわけね。上等、一番乗りしてお宝根こそぎ頂くわよ。さぁ、海賊の時間の始まりね!
洞窟探検の必需品、頑丈なランタンを3つ用意しておく。一つに明かりをつけてサイコキネシスでランタンを先行させる。残り2つは予備として携帯。
モンスターが出たら拡散極光砲やライトニングセイバーで応戦、撃退する。障害物はサイコキネシスでどうにかする。どうにもならないなら皆でどうにか対処する。
レディ・フラウスに追いつかれたら
「あちゃぁ、追い付かれちゃったかぁ。それじゃぁやるしかないわね」
全力で倒しにかかる


シノギ・リンダリンダリンダ
【むにー】と参加。
許せませんねぇ。このいかにも悪役な海賊像。我々の品性が疑われます。
ここはひとつ、我々が本物の海賊がなんなのかを教えてあげないといけませんね……さぁさぁ、海賊団シャニムニー。張り切っていきますよ!

ふむクルーの方々はすごく良い動きをしてくれています。
ここは船長らしく私はドーンと構えましょう。【飽和埋葬】でスケルトン死霊を呼び出し、我々の前方を歩かせます。これで罠を回避できますね。
安心してくださいモブ死霊達。お前たちの死は無駄にはしません。
フラウス達が追いついてきたら【コミュ力】全開で近づいて行き【だまし討ち】でぶん殴りますね。あくまで妨害、妨害で。深追いはしませんよ?


法月・フェリス
【むにー】で参加。
洞窟探検か、楽しそうだね!今回ぼくの役割は斥候かな。
【視力】【暗視】で視界は安心。目的地は大湖だろ?【情報収集】や【野生の勘】で水の気配を探して道を選ぼう。
罠はモブ死霊達に任せるから、索敵に集中できるね。
ランタンよりも先行して、モンスターを視認したらすぐ下がって戦闘は任せる。
うっかり行き止まりに行ってしまっても、ぼくのSPDならすぐに戻ってこれるよね。
先行中は『遠方よりの打開の声』で仲間達とこまめに連絡を取り合って、情報を共有するよ。
レディ・フラウスに追いつかれた時も、もちろんルート探索に力を入れるよ。進む道を決めることは、大切なことだから。


法月・志蓮
【むにー】で参加
「さて、俺は俺らしく動くか。命がけの妨害OKってお墨付きもあるしな」

●闇に溶け込む装備を着て、照明の範囲から少し離れた場所で『暗視』を始めとした各種技能とUC『夜陰の狙撃手』で闇に隠れ潜みながら近場の警戒と暗殺を主として動く。
進路はフェリが定めてくれるし、罠は死霊たちが見つけてくれる。味方を信頼して動こう。

●元々洞窟内に棲んでいるモンスターは暗闇に適応しているだろうし堅実に味方と連携して対処。
敵海賊が追いついてきたら闇の中から銃撃で撃ち抜いていく。あくまで妨害がメインなので撤退するようなら深追いはしない。

「……派手に光りながら戦って目立ってくれる味方がいると、やりやすいな」




「小娘め、拾ってやった恩を忘れたか」
 それは晴れた日の出来事。
 戦場にて壮年の海賊と長髪の女が斬り結んでいた。
「あんたはわかってないね! あの大蛇はあたいらの力になる。世の中は、力が全てなんだ。あれさえ味方にできればあたいらは敵無しだよ」
 海賊は呆れたように言いながら丸太のような腕でサーベルを揮う。
「あれは邪悪なモンスターだ。あんなもんを操れるなんて思うな」

「あたいらは荒海だってモンスターだって操れるさ! あたいらは」
 女はどこか夢見るように言った。
「あたいらは、世の中にイラナイって言われた孤児ばっかり。世界中に見放されてそれでも今日までうまくやってきた。そんな連中ばっかりさ。
 そのあたいらが、世の中の幸せな連中を全部生贄にしてやったらどんなに胸がスッとするだろう。きっと愉しいよ」
 海賊が侮蔑の色を露わに見返すと、女は激昂した。

 少年が一部始終を見ていた。

●『冒険者』は何人いる?
「10分後……余裕ね……。
 それほど自信があるってことはよほど入り組んでいるか、秘密の通路でもあるのかしら?」
 ヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長(自称)・f04572)が呟く。
「あの女の意図が読めんな。遊びのつもりかそれとも……いや、今は奥を目指すとするか」
 アベル・スカイウインド(天翔ける稲妻・f12583)が呟きを返した。
「ええ。とりあえず、この勝負負けるわけにはいかないわね……」
 ヘスティアとアベルが視線を洞窟に向ける。と、
「走るか―」
 宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)が元気に走り出した。背中が遠くなる。
「ひとりで行くのは危険よ」
 ヘスティアが声をかけるが、すでに姿は見えない。
 軽く笑う気配を感じて視線をやれば、三角帽子を被ったラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)がパイプを蒸かし口の端をもちあげていた。視線が合うと唇へ指をあて、囁く。
「彼女の挑戦に大人しく従い正々堂々と出し抜こう」
 ヘスティアが目を瞬かせる。そこへ、
「おい! 冒険者がもう1人来たぞ」
 海賊の騒ぐ声がする。
 後ろを振り返ると水を滴らせながら洞窟に向かってくるウォーマシンの巨躯があった。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)だ。

 レディ・フラウスは猟兵たちを見て楽しそうに笑った。
「これで5人か? 5人も潜入してたとはね」
「いや」
 ラスベルトが軽く首を振る。
「僕たちの仲間は、実はあと4人いる」
「ほう。どこに潜んでるんだい。お前たち――」
 レディ・フラウスは部下に船内を調べさせようとした。が、堂々とした声に遮られる。
「ここにいるわよ!」
 声に視線が集まる。
 そこには、猟兵向け多目的遊戯船、海賊幽霊船『シャニムニー』のメンバーが並んで立っていた。
「超弩級電脳蒸気複合動力式死滅回遊海賊幽霊船! ジャニムニー参上」
「それ、正式名称なんですか?」
 緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)、シノギ・リンダリンダリンダ(ロイヤルドレッドノート船長・f03214)、法月・志蓮(スナイプ・シューター・f02407)、法月・フェリス(ムーンドロップ・スポッチャー・f02380)の4人だ。
「アッハハハ! 隠し玉を匂わせといてそっちから姿を見せてくれるとは! それに、先に行った仲間は追いかけなくていいのかい」
 レディ・フラウスは腹を抱えて笑った。冒険者たちは数は多いが、統率が取れていない寄せ集めだ、それがはっきりした、と。
「おっと、作戦を立てたつもりが伝わっていなかったようだ。これはまいったな」
 ラスベルトが帽子を深くかぶり表情を隠す。それはレディ・フラウスには失態を恥じ悔しがる表情を隠すように思えたが、実際は逆であった。
「早く行かないと先に行った仲間がそろそろ罠に引っかかってるんじゃないか?」
 声に促され、一行は洞窟の中へ足を踏み入れる。
 10分後、レディ・フラウスは数人の部下を連れて洞窟へ入っていった。
「あいつらが道を拓いてくれている。あたしらはのんびりついていけばいいのさ」
 そんなことを言いながら。

●海賊船を掌握せよ
「フラウス船長が洞窟と水蛇に気を取られている今がチャンスです」
 奴隷部屋に潜んでいたヴァリアクルス・プロディクト(泣き虫クレリック・f08857)が人々に声をかけていた。
 ヴァリアクルスは太陽神の紋章を手にウィリアムの前に膝をつき、ホーリープレイにて怪我と疲労の治療を試みる。
「ぼくの仲間は今、洞窟を探索しに入ったところです」
「ぼく……オレにどうしろっていうんだよ。ぼ……オレはフラウスには勝てないぞ」
 どこか悔しそうな表情でウィリアムが言う。一人称を意識して変えている様子のは大人に対して背伸びする少年の気配だ。ヴァリアクルスは瞳に柔らかな色を浮かべた。
「ぼくたちはウィリアムさんに雇われることにしました。ですから、ぼくたちがウィリアムさんの『力』です」
 そう言うとヴァリアクルスは自らのダガーをウィリアムに貸した。
「船の上のことは、船員が決めるべきです」
 言えば、ウィリアムはしっかりとダガーを握り立ち上がる。
 ヴァリアクルスはウィリアムと共に海賊船を巡り、船に残っていたほとんどの海賊を味方につけた。ウィリアムの命によりレディ・フラウスが攫った奴隷たちは無事に事件を解決すれば村に送り届けてもよいと言う。

(「これで背後を気にせず戦えますね」)
 海賊と協力することになるが、ここは彼らのルールを尊重しよう、とヴァリアクルスは考える。
「ぼくは洞窟の仲間と合流します」
 そう言ってヴァリアクルスが洞窟に進もうとすると、ウィリアムは借りていたダガーを差し出した。
「オレたち海賊は、奪ったモノは返さないが借りたモノは返す」
 少年の脇を年嵩の海賊が固めていた。
「本来なら俺たちが戦うべきなんだが」
 ダガーを受け取り、ヴァリアクルスは笑む。
「では、そうするとよいでしょう」
「?」
 ヴァリアクルスはウィリアムと海賊を連れて洞窟の入り口へ入る。すると、数分もせずに拘束されたレディ・フラウスと海賊たちが発見された。
「こ、これは」
「フラウス!」
 海賊の声に猿轡を噛まされ手足を高速されて身動きの取れないレディ・フラウスが悔しそうな目を向けた。
「いったい、何があったんだ」
 その言葉にレディ・フラウスが思い出すのは憎き冒険者の声だった。

 『君達の流儀に従ったのだから文句はあるまい?』
 『すみません、私たちは騙し討ちが得意なのですよ』
 『あちゃぁ、追い付かれちゃったかぁ。それじゃぁやるしかないわよね』
 『ボクはね! 正々堂々じゃない気がするって思ったんだけど仲間がね!』
 『命がけの妨害OKってお墨付きもあったしな』

 エルフの術師が洞窟一杯に罠を張り巡らせ、仲間と共に洞窟内部で彼女を待っていたのだった。暗闇に潜んでいた狙撃手が彼女の部下を悉く無力化した。そして、全員を拘束して彼らは先に進んでいったのだ。

 ふるふると屈辱に震えるレディ・フラウスにヴァリアクルスが真っ直ぐに視線を向ける。
「洞窟の宝を半分を条件に、ぼくたちはウィリアムさんに雇われることにしました」
 女海賊の瞳は悔し気に歪んだ。
「そのぼくたちが勝負に勝てば、決闘で勝ったも同じ、でしょう?」
 言うと、長髪をなびかせてヴァリアクルスは背を向けた。

「では、ぼくは仲間のもとへ行きますので」
 あとは好きにするように、と言うとヴァリアクルスは協力体制にある海賊たちに後ろを任せて先へと進んでいった。

●宝の地図を手に
 洞窟の先で仲間たちが集まって火を囲んでいた。
 彼らの近くには扉がある。しかし、扉は硬く閉ざされていた。
 全員が揃い、作戦の成功を喜び合うと彼らは軽く情報交換をする。

 ラスベルトはレディ・フラウスから宝の地図を奪っていた。
「海賊の符牒に詳しい者がいれば智恵を借りたい」
「出番のようですね」
 シノギが地図を読む。
「目的地は大湖だろ?」
 斥候に出ていたフェリスが道情報を提供する。
「この先で道が3つに分かれていたよ。左と右は水の気が濃い」
「洞窟は広そうですね」
 トリテレイアは洞窟内を反響する音をセンサーで拾い、情報分析していた。
 ヘスティアはサポートAIであるティンク・アベルを召喚する。
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
 ティンク・アベルが恭しく声を発すればヘスティアは頼もし気に頷いた。
「アベル、情報収集よ。よろしく頼むわ」
 アベル、と呼ぶと同名のケットシー・アベルがぴくりと耳を動かす。AIを呼んでいるとは理解するものの、ついつい名前には自分が呼ばれているように感じて反応してしまうのだった。

(「――嗚呼。不謹慎ながら心躍るね」)
 ラスベルトは地図と地図に集まる仲間たちを見て目を細める。
「海賊、なのでしたか」
 トリテレイアが海賊団に話をきいていた。彼は子供が夢見るような御伽噺の騎士を行動模範としているのだ。御伽噺での海賊と目の前の海賊を照らし合わせるかのようにブレインを唸らせている。
「ふふ、ならず者の集まりとくればそれは取り締まり対象だが、そうではない。ぼくたちはロマンを求める海賊であり、冒険をする仲間なんだ」
 フェリスがニコニコと明るく言った。
「レディ・フラウスのようないかにも悪役な海賊像は許せないんですよねぇ、我々の品性が疑われます」
 シノギが重々しく言う。
「我々が本物の海賊がなんなのかを教えてあげましょう」
 キャプテンの言葉にメンバーたちがウンウンと頷いていた。

 やがて、地図と情報収集により彼らは知った。
 この洞窟は、3か所のスイッチを作動させることでお宝部屋に繋がる扉が開く仕組みである、と。
 3つの道に分かれた分岐まで進んだ彼らは互いの再会を約束して道を分かれる。

●4人は左を往く
 海賊幽霊船『シャニムニー』のメンバーはキャプテン・シノギを中心に左の道を攻略した。
「さぁさぁ、海賊団シャニムニー。張り切っていきますよ!」
 シノギが声をあげると、メンバーは士気高く応えた。
「上等、一番乗りしてお宝根こそぎ頂くわよ。さぁ、海賊の時間の始まりね!」
 美麗はランタンを用意する。煌々とした明かりを灯し、サイコキネシスでふわふわとランタンを先行させた。
 シノギはスケルトン死霊を呼び出して前方を歩かせた。
「罠は任せた。ぼくは索敵に集中するよ」
 フェリスが先行する。神秘的な青い瞳は暗闇を見通し、研ぎ澄まされた感覚は敵の気配を見逃さない。
「お頭、俺は俺らしく動くぜ」
 シノギが海賊らしい呼称に表情を明るくしているのを微笑ましく見て、志蓮は闇に溶け込む衣装に身を包み照明の範囲から少し離れ、隠れ潜む。暗闇を見通す赤の瞳は周囲を警戒した。

「ここはさっき見たけど、一応ね」
 地図の解析中にも通った道だ。フェリスは危なげなく暗闇を進み、ふと足を止める。先ほどは静まり返るのみだった壁際の水溜りからのそのそと這い出ているモンスター。まだ気付かれていない。フェリスはユーベルコードを発動させ、仲間へ声を届ける。
「さっきはいなかったんだけど、モンスターがいる、5体……6体。スケルトンだ」
 声が届くと後方の仲間は戦闘体勢に移る。
「了解だ。無理せず戻れ」
 志蓮の声が返ってくる。フェリスは視線をモンスターへ向けながら静かに後退し、仲間と合流した。

「ランタンで釣ろう」
 美麗がランタンを動かした。シノギは自身が呼び出したスケルトン死霊をランタンのすぐ後ろへと尾ける。
 ほどなくしてランタンの光に釣られたようにカタカタと音がし、現れたのは黒ずんだ汚れの目立つ白い骨人、スケルトンだ。スケルトンたちは手に持っているサーベルを振りかざし、シノギの呼び出していたスケルトン死霊を倒していく。
 赤の瞳が眇められた。
「…………仕留める」
 夜陰に紛れるように狙撃手が撃つ。
「敵も味方もスケルトンだからちょっと紛らわしいわね」
 美麗がライトニングセイバーを閃かせた。鮮やかに光刃を舞わせれば振るごとに骨が崩れ落ちる。仲間の隙を狙う敵がいれば暗闇からの狙撃が悉く撃ち落して守った。
「……派手に光りながら戦って目立ってくれる味方がいると、やりやすいな」
 暗闇の中、志蓮が頬を緩める。スケルトンは一掃された。
(「ふむクルーの方々はすごく良い動きをしてくれています」)
 シノギは船長らしさを意識してドーンと構えていた。若干敵味方が混ざり犠牲になったスケルトンもいたかもしれないが。
「安心してくださいモブ死霊達。お前たちの死は無駄にはしません」
 そんなスケルトンをキャプテン・シノギは優しく労うのであった。

「で、これを潜るのか」
 彼らは行き止まりに辿り着いていた。壁際には水溜りがある。
「少し潜ると水中にトンネルがあるんだよ。トンネルを抜けて浮上した先に通路が続いてるんだ」
 フェリスが説明する。
 隊列を組み、全員が順に水に入る。周囲を警戒しながら潜水すればすぐにトンネルが見えた。息を止め、足を動かし先へ進みながら彼らは水中で目配せをする。先行したフェリスが伝える。
(「敵影、なし」)
 トンネルを抜ける。少し息が苦しくなってくる。
 慎重に警戒しながら泳ぎ進め、頭上の光を目指していく。
 浮上すると通路が続いていた。
「プハァッ」
 水上に顔を出し息を吸い込み、呼吸を整えながらメンバーは通路前で火を起こす。火を囲みメンバーたちを見ながら、シノギはひとりひとりとの出会いを思い出すのだった。

「大冒険に出かけるって本当? 本当なら楽しそうだから一緒に暴れさせて欲しいな」

「なあアンタ、ここが本当の海賊船だって噂を聞いたんだが……本当か?」

「ぼくも海賊になるよ。人、集めてるんだろう?」

 『お宝』が私を呼んでいるんですよ!! 未知の冒険とワクワクですよ。分かりませんか? あくどい事ばかりが海賊じゃないですよ!』

 温かな火はひとりひとりの顔をやわらかに照らしていた。
「そろそろいこう」
 やがて休憩を終えて先へ進むと、小部屋があった。
 小部屋を探ると、手の平に収まるサイズの青色の宝玉とスイッチがあった。
「スイッチはこれか」
「ぽちっと」
「これは、お宝?」
 お宝を頂きつつ、一行は道を戻る。

●3人が右の道を往く
「さて、奥を目指すとするか」
 アベルが洞窟の闇を見通しながら言った。彼の野生の勘が告げている。この先にはモンスターがいるだろう、と。
「フッ、モンスターの処理なら任せておけ。先制してやるさ」
 ふ、と笑えばライアが意気揚々と大剣を構えた。
「モンスター出るの? ボクは荒事得意だぞ!」
 ヘスティアはティンク・アベルに声をかけ通路を探っていた。
「アベル、よろしく頼むわ」
 言うと、アベルが振り返った。
「……よろしく頼むわ」
 どちらのアベルも。そう心の中で付け足してヘスティアは微笑んだ。

「お嬢様、床に不自然な切れ込みがございます」
 ティンク・アベルが情報を教えてくれる。
「床、なにか仕掛けがあると思うわ」
 ヘスティアが情報を仲間に伝えるが。

 カチッ

「えっ、もう踏んじゃった」
 全力で走り抜けたライアが遠くから言う。
 前後左右から毒針が飛んでくる。
「そんな気がしていた」
 アベルはドラグーンウィングで地を蹴り、ひらひらと身を翻し毒針を避けた。着地地点に飛来する毒針もくるりと回転して避けてみせる。
 ヘスティアは妖精の羽を象ったジェットパックで推進力を得ると蝶のように低空を跳び回避した。
 ライアは楽しそうに飛び跳ねて避けていた。そして、再び音がする。

 カチッ

「お嬢様、床の落下する罠がございます」
 ティンク・アベルが警告を発する。
「アベルが床が落ちるって言ってるわ!」
 仲間に告げてヘスティアがふわりと舞う。
「俺はそんなことを言っていないぞ」
「ボクちょっとこんがらがってきたよ」
 アベルがピクリと尻尾を揺らし、ドラグーンウィングで床を蹴り跳躍した。一瞬後で床が抜けて落ちていく。落ちた先には剣山が見えた。
 ライアは虚空を蹴りくるくると跳んで避けた。
「……少し落ち着いたほうがよさそうね」
 ヘスティアは軽く頭を抑えた。

「川が流れてる」
 ライアが先を行き、川を見つけた。広い洞窟を流れる腰までの深さの川だ。
「向こうに通路が見えるわね」
 ヘスティアがふわりと飛んでいこうとした時、アベルが空を蹴り大きくジャンプした。ヘスティアを越し、天井付近まで。
「!?」
 何事かと上を見れば、身の丈を超す長槍を豪速で繰り出したアベルは天井からヘスティアを狙っていた巨大蜘蛛を撃破していた。
「ありがとう、助かったわ」
「ボクの分は?」
 ライアが戦意満々に大剣を空振りしている。アベルはふ、と笑った。
「出てきたぞ」
 見れば川の至るところから半魚のモンスターが姿を見せていた。ライアは張り切って大剣を振る。ヘスティアもミスティルテインで敵を討つ。アベルも再びジャンプし槍撃を披露した。そして、彼らは全てを薙ぎ倒した。

 川を渡った一行は通路を進む。すると、小部屋があった。スイッチがある。
「スイッチ押したよ! 戻ろうか」
「ああ」
 戻りかけた時、ティンク・アベルがヘスティアに情報を伝えた。
「待って、アベルが」
「俺か」
「ああ、違うの」
 小部屋には、小さな透明な瓶に入った赤い水があった。
「アベル、この水は何かわかるかしら?」
 ヘスティアが問うと、アベルが応える。
「わからんな」
「ああ……」
 執事のアベルも不明だと答えていた。
「とりあえず、持っていこっか?」
 ライアが提案した。そして、一行は道を戻る。

●3人が真ん中の道を往く
 広い通路だった。
 梯子状に組みあがった線路が道の先へ続いていた。線路の隣にはもう一列線路が敷いてある。線路の上、3人が揃って納まる大きさの四角い箱が車輪の上に乗っている。箱の前方には上下に倒す横長のレバーがあった。
「調べます、待ってください」
 ヴァリアクルスが罠を調べた。問題ない、と合図すると2人が興味津々で覗き込む。
「これは、手押しトロッコというモノでしょうか?」
 トリテレイアが世界知識のデータと照らし合わせて中に座る。
「そのようだね」
 ラスベルトも座った。ヴァリアクルスは少し躊躇いがちに座る。
「では、行ってみましょうか」
 トリテレイア、ラスベルト、ヴァリアクルスの3人はトロッコに乗り移動を開始した。トリテレイアがレバーを漕ぐとぐんぐんとトロッコが速度を増す。
「あっ、あまり速くすると壊れてしまいそうな気もします」
 ヴァリアクルスが慌てる。
「壊さないように加減しないといけませんね」
 トリテレイアは慎重にトロッコの限界を見極める。
 と、羽音がした。バサバサという音は群れをなし、一行を襲う。
「吸血蝙蝠だ」
「守りはお任せください」
 トリテレイアが大盾を翳して仲間を庇う。盾に庇われながらラスベルトが詠唱した。
「この手に構えるは森羅の大弓。番えたるは万象織り成す四大の矢」
 生成された炎の矢は大盾に集る吸血蝙蝠を残らず燃やし尽くした。
「たいしたダメージはないようですが、癒しますね」
 ヴァリアクルスがトリテレイアの傷を癒す。

 やがてトロッコは終点に到着し、止まる。トロッコを降りると、降りた先には復路用のトロッコも用意されていた。そして扉があった。
「調べます」
 ヴァリアクルスは扉を探り、聞き耳を立てる。そして、安全を保証して中へ入った。
「ほう」
 部屋の中は本棚がびっしりと配置されていた。古い本が棚に納まりきらず床に散乱している。
「スイッチがあります」
 ヴァリアクルスがスイッチを発見する。同時に、もう1つ発見があった。
「それは?」
 古びた木製の大テーブルにはやはり古い巻物が広げられていた。
 3人は目を通す。

「水を吸う青き宝玉。
 これを扱い、我々は古の水蛇を封印することに成功した。
 だが、封印は解かれた。
 蘇った水蛇は怒り、逆に宝玉を封印してしまった。
 封印を解除するため、我々は砂漠を旅して解呪の力を持つ蠍の涙を手に入れた。
 しかし、蠍の涙を持ち帰る途中で海賊に奪われてしまい」

 その後の文字は滲んで読めない。
 3人は顔を見合わせた。

●合流
 猟兵たちはそれぞれ道を戻り、扉の前で再会した。扉は開かれていた。
「いこう」
 扉を開け、中へ進むと。

「広い、ですね」
 そこは広々とした空間だった。天井は吹き抜け、空が見える。空は少し曇っていた。奥には黄金の扉があった。
 そして、中央には大きな湖があった。

「今のところ、敵の姿はないわね。待っていたら現れるのかしら」
 と、大湖が蠢いた。そして、水の大蛇が出現した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『水の大蛇』

POW   :    水の身体
【液体の身体により】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
SPD   :    口からの水弾
レベル×5本の【水】属性の【弾丸】を放つ。
WIZ   :    身体の復元
【周囲の水を体内に取り込み】【自身の身体を再生】【肥大化を行うこと】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は宇冠・由です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蒼鱗、牙を剥き
 光を反射し、きらきらと輝く水面がうねりを上げ渦が空高く蜷局を巻いた。そして、バシャリ、と水が口を開けた。開けた口には光輝く真白の鋭い牙があった。口の奥からは青々とした細長い蛇の舌が覗き、異形が瞳を開く。
 瞳は妖しい淡紅の光を帯びていた。漲るのは、敵意。そして危機感だろうか。
 異形の口からシュウシュウと爬虫類独特の息を吐くような音が漏れる。

「敵だ」
 水の大蛇が今、猟兵たちへと牙を剥いていた。
ヘスティア・イクテュス
さて、ようやく大蛇のお出ましね…
解決したら奴隷の人たちは村に送り届けてくれるみたいだし
さっさと倒して解決するわよ!

水の身体なら熱で蒸発させればどうかしら?
ミスティルテインを命中力重視のマシンガンタイプに切り替え
ティターニアを噴かして空中戦【空中戦+見切り】
ビームなら摩擦抵抗を減らしても無駄よ!


アベルサポートお願いね…
※スカイウィンドさんが参加していた場合
ああもう!ややこしいわね!二人共お願いね!

こちらの攻撃で気を引けたら後は
大きいのお願いよ!



全部終わったら1章で盗ったお宝を返すわ
無事送り届けてくれるならわたしが持っておく必要はないものね


アベル・スカイウインド
【SPD】

ほう、こいつが水の大蛇か…フッ、存分に振るえそうだな。
小部屋で見つけた小瓶や、宝玉の話も気になるところではあるが…謎解きは他の者に任せて俺はこいつと遊んでやるとしよう。

まずは様子見だ。いくら俺でも得体の知れない相手にいきなり突撃はせんさ。そういうのも嫌いではないがな。
【見切り】【ダッシュ】【ジャンプ】でまずは回避に専念する。仲間が謎を解くまでの【時間稼ぎ】の意味合いもあるな。
少しでもやつが隙を見せたらその時が好機だな。【ドラゴンダイブ】で必殺の一撃を叩き込んでやろう。


宮落・ライア
水の蛇かー。何を斬ればいいのかな?
蛇?水?湖?海?
ま、敵っぽいもの斬ってればいっか!

はっはー!
とか笑いながら【ダッシュ】【ジャンプ】で跳び
【剣刃一閃・空中戦・薙ぎ払い】で斬りかかる。
再生しようが手応えが無かろうが逃げようが関係なく
【二回攻撃・怪力】で追撃。
反撃がくれば【激痛耐性・カウンター・捨て身の一撃】で避ける気の無い攻勢。

む?そういえば、オブリビオンって以外にも倒す理由がるんだった。
海蛇。名前を返してもらうから。アンダーティアはあの海賊の船の名前だから。

ふん、海賊は往々にして悪のような気がするけれどボクはまだよく知らないし。悪なら正義のヒーローが切るけど、灰色で困ってるならボクは助けるのさ


緋神・美麗
【むにー】で参加
さて、ボスの登場ね。でかくてなかなか厄介そうね。宝玉を解放できれば弱体化させれるっぽいけど、そのためにも時間稼ぎは必要よね。ムニーの突撃兵として時間を稼いで見せるわ。「封印解除は任せたからね。あんまり手間取ってると倒しちゃうんだからね」
まずは遠距離から出力可変式極光砲を命中重視で使用して様子見。【誘導弾】で確実に当てて削っていく
効果的でなければ近接戦に切り替えてライトニングセイバーで【二回攻撃】【鎧無視攻撃】のダメージ重視で確実に相手を倒す姿勢
宝玉の開放が間に合えば
「全く、出待ちも程々にしてよね」
間に合わなければ
「船長、出オチお疲れ様ね」
後は戦利品をがっつり頂いて撤収


ラスベルト・ロスローリエン
宝探しの最後に怪物が待ち構えるのも冒険譚の定番だね。
水妖を封じた先人達の叡智に敬意を払い意志を引き継ごうじゃないか。

◇WIZ 自由描写・連携歓迎◇
『流水の身体とは中々に厄介だが……この魔法ならどうだい?』
【高速詠唱】で理力を漲らせた右手の“瞑捜の御手”から《蒼の再雷》を迸らせる。
【全力魔法】による雷の牢獄で蒼鱗を焼き焦がし身体を締め上げる。
動きを封じたら仲間に目配せ。皆ならこれで通じる筈。
口から発す水弾は蒼雷で蒸発させるか左手から放つ【念動力】で散らす。

しかし吸水の宝玉に蠍の涙か……実に興味深い。
本棚の書物も気になるし此処で暫く暮らして読み漁り研究したい位だ。
何しろ知識に勝る宝はないのだから。


ハウロン・ナイトフール
むにー】頃合いだ、私も参戦するとしよう
隠し玉とは不意を突かせる時に使うものだ

自身は岩や物陰の後方へ位置取り、標的になるのを極力避ける

幻影と破魔を付与した死霊幽戯を使用し、ランタン達に戯れさせよう
攻撃する部位は目、首、口の中
その時敵の動きを観測、一番痛手となる、または急所となる部位を特定する

宝珠の効果が効いた際、特定した部位へ破魔を呪詛へ変更したランタン達を向かわせ、自身は属性攻撃を遠距離から放つとしよう

宝の回収は棺に少し入る程度で済ませる

そうそう、遅れて来るであろうフラウス殿を驚かせてみるのも面白そうだ

通路の暗闇の中へとランタンを潜伏、通り過ぎる際に取り囲んでみよう
金の鍵の使い所を教えて貰おう


法月・フェリス
【むにー】
どうやら洞窟探検で水の蛇を無力化する手掛かりが得られたみたいだね。
志蓮達と協力して宝玉の力を取り戻そう。
『世界知識』や『情報収集』を駆使して、青い宝玉の『封印を解く』よ。
さて、封印を解いたところで、何も考えず使ってはまた失敗するかもしれない。
仲間達が水蛇を弱らせてくれる。時間が許せば宝玉の使い方を『情報収集』で調べ、どうにもならなければ『野生の勘』を頼ろうっと。
また封印が破られたら困るなぁ。力や水だけ封印できたら倒せるかもしれない。
部分的な封印が出来るか試してみよう。
どうか封印が成功しますように。『祈り』を込めて宝玉を使う。
後は皆に任せるよ。頑張って!
あ、もちろんお宝もいただこうね。


シノギ・リンダリンダリンダ
【むにー】
頭を使う仕事はみなさんに任せましょう。私はその間の【時間稼ぎ】を。美麗さんと共に、逆にやってけてしまうくらいの気持ちで。
宝は目の前! さぁお前たち、略奪の時間ですよ!!

体が水だと言うのなら、魔力を纏って殴れば問題ないですね。
攻撃など気にするものかと接近戦です。突然でてきたわんこさんにびっくりしつつも、【力いっぱい殴るだけ】殴ります。
「誰がセーラーおシノギちゃんですか!」

解除できるか相手が弱ってきたらトドメですね。
動かないでくださいね、当たりませんので。レベル+5発分のラッシュ相当の会心の一撃をぶちこみます。

お宝を前にしたらすごくハイテンションに。これだから海賊は止めれませんね!


法月・志蓮
【むにー】
「水で出来た大蛇に銃弾を撃ち込んでもまともに効く気がしないな……」

という訳で戦闘は仲間たちに任せ、宝玉の封印とやらを解いてみるか。使えれば戦いの助けになるだろ。

恐らく宝玉と赤い水がそれだと思うが、一応フェリに鑑定してもらう。ただ他に儀式などの手順が必要かもしれない。手早く情報収集だ。
まずは協力的な海賊たちに聞いてみて、知らなければフラウスを軍隊式で尋問。ついでに金の鍵についても聞く。
もし知らなければ……巻物があった部屋の本を一々読み解く時間は流石にないだろうし、諦めて火事場泥棒に精を出すとしよう。海賊らしくな!

情報が揃えばさっさと『封印を解く』。そして水の大蛇を弱体化させよう。


トリテレイア・ゼロナイン
あれが「アンダーティア」…近海の平和を護るため、騎士として怪物退治と参りましょう

「盾受け」で水の弾丸から味方を「かばい」つつ接近
「防具改造」で脚部にフロート(浮き)を装着、スラスターを点火することで水面を「スライディング」しつつ移動できるので沈むことはありません

「武器受け」で牙を防ぎつつ「スナイパー」「カウンター」で特殊弾頭を口内に叩き込み炎上させましょう。炎に触れたことなどないでしょうから驚くでしょうね

ですが決定打というには不足。やはり海賊の宝を使い万全を期すべきでしょう。水を吸う青き宝玉に「蠍の涙」と呼ばれる赤い水を浴びせ封印を解き、大蛇に直接触れさせることで効果を発揮すれば良いのですが


リヴェンティア・モーヴェマーレ
アドリブ大歓迎

これが…ボスさんですか…
水系だと機械系の私は苦手属性みたい感じになる…のでしょか…?どうなのでしょう…
攻撃や特徴を見極めようと必死に観察
藍ちゃんは、水だって負けない大丈夫と言いたげに踏ん反り返ってマス
可愛い…(きゅん

よーし!藍ちゃん!
藍ちゃんの力見せつけてやって下さい!
縦横無尽に避けて、隙を見て電気ショックですか!やりますネ!
余裕が有れば他の参加者さんが怪我をしていたら応急処置などして回復の援護
私自身も攻撃を受けないようにはからいます

ボス戦後は
以前手に入れた鍵が使える場所を探索する余裕があればしたい気持ち(ワクワクドキドキ
時間がなかったり何も無くても泣かない気持ち…(多分



●冒険の空
 船内の大人たちがカップを手に談笑している。カップからはゆらゆらと湯気があがっている。
 彼らが眺めているのは、紙の絵本。
 太い指がページをめくる。一冊を囲み、カップに口を寄せ。口元が緩んでいた。目は楽しそうな色を浮かべていた。

 小さなヘスティアが近寄ると大人たちは手招きをするのだ。そして、見せてくれる。読んでくれる。
 タイトルは『海賊騎士バツの大冒険』とあった。

「さて、ようやく大蛇のお出ましね……さっさと倒して解決するわよ!」
 SkyFish団の船長を自称するヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長(自称)・f04572)は空の色の髪を持つ少女だった。
 父は海賊だった。
 ヘスティアは水蛇を見る。水蛇はオブリビオンだ。オブリビオンは平和を奪う。だから。ヘスティアはティターニアを噴かして空へ舞う。
 高く、疾く。
 海賊は勇敢に戦うのだ。ヘスティアは空を見る。
 天より見下ろす少女は思う。想う。
 海賊は、誇り高く戦うのだ。
「アベル」
「はい、お嬢様」
 呼べばティンク・アベルが応えてくれる。それに励まされ、ヘスティアはぐっとミスティルティンの精度を上げた。ヘスティアはもう一度ティンク・アベルへと呼びかける。
「アベル、サポートお願いね」
 ふ、と笑む声がした。
「あまり当てにするなよ? 俺は猫なんだからな」
 弾かれるように見れば、仲間がいた。
 真っ赤な槍飾りが揺れている。
 ランスを手に跳びあがっていたのはケットシーの竜騎士。
 ほんの僅か、視線が交差する。ドラグーンウィングで高く跳躍したアベル・スカイウインド(天翔ける稲妻・f12583)がそこにいた。
「ああもう! ややこしいわね!」
 声はやわらかな音を伴い、笑みを浮かべ。
 2人のアベルへと少女が言う。
「二人共お願いね!」

 ヘスティアは竜騎士アベルと反対側へと急降下した。ミスティルティンをマシンガンタイプに切り替えて乱射すれば水が次々と飛沫をあげ、うねる。
 目障りな蝿だと言わんばかりに水蛇はヘスティアを睨め付けるとクワッと口を開く。口奥から弾丸めいて飛び出したのは水の魔力の塊――水の魔弾だ。
 轟と迫る水弾は高い威力を秘めている。
 ヘスティアはティターニアを噴かし妖精のようにひらひらと魔弾を避ける。避けながらもミスティルティンを撃ち続ける。
 反対側ではもう、竜騎士が『落ちてくる』。
 竜騎士、アベルは宙でくるりと回転しランスを構え。そして、天翔ける稲妻となった。
 眼下の水蛇めがけて騎士が槍そのものになったかのような雷電が一条、風を切り裂きビュンと落ちる。
「お願い」
 水蛇がヘスティアをじろりと睨み、なおも水の魔弾を吐こうと口を開く。
「天を仰げ」
 声は短かった。
 竜騎士アベルの稲妻の如き竜撃が水を貫き、水蛇の躰を縦に割る。割りながら落ちていき、槍先は地に着いた。アベルを中心に水が左右へと割れて波となる。
「やったわ!」
「だが、こんなものではあるまい?」
 アベルは素早く水の割れた地を蹴り、再び高く舞い上がった。その足元で水蛇が元の姿を取り戻していく。
「フッ、存分に振るえそうだな」
 不定形の水が模る敵に目を細め、アベルは再び空を蹴る。上空へとあがり、再び食らわしてやろうと。
 竜騎士を追う水の弾を妖精の如き海賊少女が撃ち落してくれていた。

 アベルは上空高く跳びあがり、下を見る。大湖ではヘスティアが飛び回り、陸地部分から海賊団が援護射撃を開始していた。
 水蛇はシュウシュウと息を吐きながら水を取り込んでいく。取り込むにつれ存在感が増していく。
「ああ、遊んでやるさ」
 ぽつりと呟く声は風に攫われて高く空へと昇っていく。

 その下では青いリボンが揺れている。
 楽しげに喧しく快活に。傷ついても苦しくてもその表情は変わらない。宮落・ライアは笑顔を浮かべていた。陽光のもと真っ直ぐと構えるのは小柄な躰に不似合いな無骨で大きな剣。幾多の戦場を共にした武器、敵の命を奪ってきた刃だ。

「水の蛇かー」
 大剣の切っ先を向けた相手は水の躰を揺らめかせていた。頭上に薄っすらと漂う雲の隙間から陽光が差し込めば水がきらりきらりと輝きを返す。
(「何を斬ればいいのかな?」)
 水。湖。海。蛇。ライアは考えかけて、やめた。
「はっはー!」
 地を蹴る。
 じゃり、と音がした。土だ。土が足元にある。筋力のままに全力で蹴るとグンと体が勢い付く。前傾気味に。剣を携え。ライアは走る。足を踏み出し、蹴るたび速度は増す。グン、グンと増して景色が流れ、クッと身を沈めるとバネのようにライアは跳んだ。体は軽い。ならば。
 戦う。
 斬る。
 叩き、抉り、振りかざし。
 斬ろう。
 ライアは笑む。
 接近する小躯へと水が伸びてくる。ふっと息を吐きライアは空を蹴る。蹴り、勢いをさらに増してくるくるくるりと廻転すれば水が後を追い螺旋を描く。
「はっはっはー!」
 ライアの目の前に水蛇の眼があった。禍々しく光るそれをライアは全身を叩き付けるようにして大剣で斬った。渾身。
 水を斬る手応えはいまいちだ。
 だが。

 『アァアァアアアァァ……』

 水蛇はゆらり、と身じろぎした。蛇型を取っていた身体がより柔らかなラインとなって型崩れをし、不定度合いを高めていく。
 攻撃がされてもやわらかに避け、あるいは向こう側へと素通ししてしまう。それは全く攻撃が堪えていないかのようにも見えた。
 水が音を立てていた。飛沫き。うねり。呻くような怨嗟に充ちた亡霊の如き声だ。

 ライアは優しく微笑んだ。
「お前、鳴けるんじゃないか」
 なら、話もわかるかな? と言いながらライアは空を蹴り跳ねるようにしながら銀髪を荒々しく舞わせ、斬撃を入れていく。二度。
 軽やかに陸地へ戻り着地しながら、ライアは大剣をぶんと振った。
「海蛇。名前を返してもらうから。アンダーティアはあの海賊の船の名前だから」
 名前は、特別なものだ。
 ライアの瞳がそう語っていた。

 と、ライアの視界に電気を放つチンチラの姿が見えた。ビリリと閃光を放ち、チンチラが気迫の篭った眼差しで水蛇を見ている。
「藍ちゃん! やりますネ!」
 見ると穏やかな海のような髪を気持ちよさそうに風に揺らし、リヴェンティア・モーヴェマーレ(血も骨も、灰すら残さず・f00299)がチンチラを応援していた。
 言いながら自身も腕を揮う。その手には薔薇の棘と青と紫の薔薇が咲き誇る鞭があった。振るたびに薔薇の花びらが咲き誇り、水の隙間を縫うように青と紫が舞う。
 明るい口調とは裏腹に瞳は水蛇の動きを見極めようと必死に見つめている。

(「機械系の私はチョット水系のボスさんは苦手な感じ……でしょか……」)
 リヴェンティアは注意深く水を避けた。しかし、水飛沫は至るところで上がっている。攻撃を避けても受けても、攻撃を仕掛けても水はかかるのだ。
 水のかかった機械の躰を気にしたようにリヴェンティアは己が腕を見る。この体は、博士が作ってくれた。ハンカチを取り出すとリヴェンティアはそっと腕を拭った。少しだけ距離を取り、後方から仲間へと声をかける。

「首が向いテいる方向にシカ、水弾は出ていまセン。
 皆さん、首の向きを見るようにしまショウ……!」
 仲間たちが応える声が聞こえる。リヴェンティアは負傷者の傷に視線を走らせた。
「傷の深い方は一度下がっテ」
 そんな余裕はないかもしれない、と軽く唇を噛み。けれど、言う。
「無理は、いけまセン。1人が下がっテイル間、他の人が前に。
 交代で足止めをしまショウ……!」

 藍ちゃんが水の押し寄せる水際を走っていた。小さなチンチラを舐めたようにかかる水の波へと藍ちゃんは強気な瞳を向けるとピリピリと電気を放ち、ショックを与えた。
「やるじゃん!」
 ライアが笑う。
 藍ちゃんは踏ん反り返る。水だって負けない、大丈夫だとその瞳が語っていた。
「可愛い……」
 リヴェンティアはきゅんとした。うちの子可愛い的な目をしてライアを見ると、ウンウンと頷いてくれる。

●盤上の遊戯
 大湖に到着してから水蛇が現れるまでの間を利用し、猟兵たちは外で待機していた海賊を洞窟へと呼んでいた。
 暗闇の中、ランタンたちがぼんやりと浮かんでいた。橙の灯が薄く周囲を照らす中、海賊と猟兵に囲まれて拘束されたまま連れてこられたレディ・フラウスが項垂れる。
「金の鍵の使い所を教えて貰おう」
 闇から染み出た亡霊のようにハウロン・ナイトフール(戯れ嗤うネクロマンサー・f02249)がカボチャ頭をずいと近づけ姿を見せると、フラウスはぎょっとした。しかし、首を振る。
 「鍵? ……知らないね」
 法月・志蓮(スナイプ・シューター・f02407)がハウロンの傍へ滑り込むように移動した。ハウロンは志蓮に尋問を任せ、静かに前線へ向かっていく。前線では仲間が戦っていた。
「行くのか」
「頃合いだ、私も参戦するとしよう」
 夜の名を持つローブを翻し、ハウロンは声に笑みの響きを乗せた。
「盤に一手差したくなってね」
 それは遊戯なのだと南瓜は笑う。
「封印解除は任せたからね。あんまり手間取ってると倒しちゃうんだからね」
 緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)も仲間へと声をかけ、水蛇の足止めに向かう。

●陽光、煌めき
 いつしか雲は散り、頭上には太陽が燦然と輝いていた。

 猫型の外装をした小型携帯情報端末が時間を数え始めた。
「宝は目の前! さぁお前たち、略奪の時間ですよ!!」
 声が上がる。

 風に吹かれ桜色の髪がさらりと流れた。陽光を反射して瞳は煌めく。
 朝の爽やかな空の色。夜の穏やかな海の色。
 歓びを伝えるような春花の色。洞窟を照らす松明の色。黄金の宝の色。
 キャプテン・シノギ、これにあり。
 シノギ・リンダリンダリンダ(ロイヤルドレッドノート船長・f03214)がキャプテンコートを風にはためかせ、するりと脱いだ。
「いろりろありましたが、あとは奪うだけです」
 独特の言い回しを使い敵を見る。おそらく言い間違いではあるまい。
 コートの下は黒色のセーラーとなっていた。不意打ちに仲間が茶化す声がして、シノギは視線を巡らせる。
「誰がセーラーおシノギちゃんですか!」
 声だけ放ち、言った者の姿は確認せずに歩み出す。誰が言ったかはわかっていた。戦いには参加しないらしい、そう思いながら頬を緩め。
「セーラーはここにもいるけどね」
 隣に緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)が並ぶ。
 その目には荒れ狂う波の如き水蛇と跳びまわる味方が見える。後方では仲間が宝珠を解放しようと動いている。
(「一緒に過ごすうちに、相手に対する印象は変わるものです」)
 シノギが振り仰ぐ空はいつも団員全員が共有する。

 空の下、水はキラキラと輝いていた。
(「これは雑魚とは比べ物にならなそうね、気合入れてかからないと油断してたら一瞬でやられちゃうかも」
 考え、美麗はサイキックエナジーを精度を優先しながら練り上げる。パリパリと電気を放つ球を極光の砲撃として放てば、水蛇の躰が大きく抉れた。
(「ムニーの突撃兵として時間を稼いでみせるわ」)
 仲間への信頼があった。そして、仲間も美麗を信じてくれているだろう。
 それが美麗にはわかっていた。
 水が迸り、陽光を反射してキラキラと輝く。
 美麗の金細工のような髪が濡れじっとりと頬に張り付く。拭う暇さえ惜しみ極光の砲撃を次々と撃っていけば、水が砲弾を嫌がり回避しようとうねる。しかし、砲弾もまた自ら進路を変えて水を追い、飛沫をあげていく。
 誘導弾だ。
 水弾を悉く撃ち落し、本体へもダメージを重ねようと美麗が弾幕を張る。
「体が水だと言うのなら、魔力を纏って殴れば問題ないですね」
 美麗に飛んできた水弾をシノギは力いっぱい水弾を殴る。
 渾身の拳に水弾が弾け只の水飛沫となり。
「ありがとう、おシノギちゃん」
 軽く水飛沫を浴びつつ礼を言う美麗に頷き、シノギは戦況を見る。
 と、声がした。

 『さぁ、ゲームを始めよう』

 赤き血に塗れたジャック・オ・ランタンが視界に揺れた。一体、空から舞い降りるように傅き。一体、地より染み出るように這い出て。一体、水が姿を変じたかのように水面を盛り上げ破り、躍り出た。
 見守る先、ランタンは増える。一体、また一体と現れ、さながら幻想劇の幕が開けたよう。

 これよりは夜の領域、昼空を追いやり陽光を死影で覆いつくして我らの宴を開こうぞ。
 水蛇がざわりと身を揺らす。押し込むように、囲むようにとランタンが迫り。嗤う。
「教授しよう」
 不定なる無機の異形へ。恐怖を。
 カタカタと背に負う棺桶を揺らし鳴らし、永夜の境界も曖昧に南瓜頭が戦場へと姿を現す。
 美麗が頼もし気に声をかける。
「ハウル、前線を」
 後方で怪我人をリヴェンティアが診ていた。疲労した者には息を整える時間が欲しい。そのための時間を。そう海賊仲間が言うと優雅に一礼する。心得た、と。その名はハウロン・ナイトフール。道化じみた振舞いからは真情の一切が窺えぬ。
 幻想めいた光景にヘスティアが感嘆する。
「まるで、アロウィーン」
「時々言われる」
 カタカタ、と棺桶が鳴った。戒めにゆるく絡まる鎖が冷たい音をたてる間にも、ランタンたちはご機嫌に舞う。戸惑う水を嘲笑うかのように揺らめき、揺蕩うように踊り、水蛇の注意を引く。
 その隙に、とヘスティアは陸地へ戻る。飛び回り続けた疲労があった。体にも幾つかの赤い血の筋が出来ていた。肩で息をしながら手当てを受けていると、視線の先で活き活きと跳びまわる青リボンと銀髪の少女が見えた。
「はっはー! 水よ水! ダメージちょっとは蓄積されてるのかー!?」
 ライアが荒い息を吐きながらも笑っていた。背に水弾が迫るが、天からの竜撃が降りてきて大きく波を割る。
 アベルは目を細める。
 波が再び水蛇へと戻る速度が先ほどよりも遅くなったようだ、と。
「効いてはいる。無駄ではない」
「そっか!」
 ライアが元気に大剣を振り回す。水蛇へと戻ろうとした水を叩き、斬り。
「手ごたえはあんまりない!」
 笑う。アベルは頷いた。2人を忌々し気に薙ぎ払おうと水波が寄せれば、共にくるりと跳ねて避け。
「んー。 ま! 時間稼ぎだしね!」
 ライアが気を取り直したように汗を拭う。
「そういうことだ」
 ふ、と笑む様子にヘスティアも再び地を蹴り、飛ぶ。
「交代するわ!」

●調査の赤
 水蛇を見て、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が今にも駆けだしそうな気配を見せていた。
「あれが『アンダーティア』」
 大盾はしかし、後方の解析チームを護る盾であった。時折飛来する水弾を弾き、撃ち落とし、時に長剣で切り伏せる。水弾そのものが水蛇であるかのように気迫を籠めて斬り。
「近海の平和を護るため、騎士として怪物退治と参りましょう」

 今は回避に専念し水弾を見切り飛び廻る竜騎士が見える。勇敢なる海賊少女が低空を飛び回っている。元気な青リボンの少女が大剣を水に突き立てている。
 幻想めいたランタンたちが水に取りつき動きを阻害しようとしていた。闇杖が指揮をするように踊っている。
 離れたところから美麗の砲撃が援護し、時折後方に発せられた水弾をセイバーで防いでいる。その彼女の隙を補うようにシノギの拳が閃いていた。

 彼のセンサーは戦況を細かく捉えていた。
 騎士の如く振舞おうとする心は御伽噺に出て来る騎士であればどうするだろうかと思う。その一方では冷静に戦況を分析し効率を計る機械のブレインがある。
「宝探しの最後に怪物が待ち構えるのも冒険譚の定番だね」
 ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)が浮酔草に火を灯し燻ぶらせながら同意した。腕に絡み付く若木“永久の白緑”を潮の香を含んだ風が吹き撫でていく。宿る樹霊は声もなく。
「足止めは順調なようだが、急がなければ」
 猟兵たちは事前の打ち合わせにより、宝珠の解析チームと水蛇の足止めチームに分かれていたのだった。

 少し離れた場所で法月・フェリス(ムーンドロップ・スポッチャー・f02380)が宝玉を鑑定している。
 鑑定を進めるフェリスの隣でトリテレイアが一行を護衛しながら並行してデータを照会し、ラスベルトが小部屋から持ってきた本を興味深そうに読んでいる。三角帽子の下で細長いエルフの耳が時折揺れる。
 フェリスはふと疑念を口にする。
「封印しても、また封印が破られたら繰り返しちゃうね」
「私達がその時にまた対処できるわけではないですから、できれば倒してしまいたいところですね」
 トリテレイアがセンサーを穏やかに光らせる。
「力や水だけ封印できたら倒せるかもしれない。部分的な封印が出来るか試してみよう」
 フェリスが赤い液体を鑑定し終えた。
「エリトロクルオリン……」
「ヘモシアニンではなく?」
 トリテレイアが情報と照らし合わせる。
「それであれば、これは蠍のものではないのでは」
「いや、それでいいんだよ」
 ラスベルトが本から視線をあげた。
「幻獣だ。それは砂漠の地中深くに眠ると伝承にある幻獣の血だよ」
 実在するなら見てみたいものだ、とその瞳が好奇に揺れていた。
「それをかければ、封印は解除できるだろう」
 フェリスは安堵した。ひとまず解除は問題ないのだ。あとは、宝玉の使い方だ。彼らはなおも鑑定とデータ分析を続けた。
 水に漬ければ自動で際限なく触れた水を吸い込み続ける宝玉。出た結論はそれだった。
「それにしても、見事な鑑定の腕前ですね」
 トリテレイアが言うとフェリスがはにかむ。
「ぼくは、観測手。戦いは不得手なんだ。海賊チームの中でサポーターとして、志蓮やみんながかっこよく活躍するための支援をするために日夜腕を磨いているんだよ」
 ラスベルトが問いかけるような視線を向けた。
 そっと唇に人差し指をあて、フェリスは悪戯めいて笑む。
(「なにより、ぼくが戦えたら、志蓮がぼくをかっこよく守ってくれないじゃないか」)
 それは乙女らしい理由であった。
 魔法使いは微笑ましく頬を緩め、再び本へと視線を落とす。

 彼らの背後では尋問が進められていた。
「一枚ずつ行こうか」
 フラウスの爪先にダガーの刃があてられていた。爪の隙間から滑らせるよう軽く切っ先を入れれば、軽く当たった柔肌がぷつと赤い雫を生む。志蓮が事務的とさえ思える口ぶりで告げる。
「一息にはいかない。5秒ごと、3ミリずつだ。切って5秒空ける。のち3ミリだ。お前の爪は何枚ある?」
 その眼光は迷いのない軍人の者だ。血の如き赤の瞳は鋭い。フラウスはゴクリと唾を飲み、ふるふると首を振る。そして、口を開いた。
「鍵は、宝部屋を開ける鍵だ」
 一行の脳裏に最奥にあった黄金の扉が思い浮かぶ。
 そして、顔を見合わせた。

 ●結末の青
「宝玉を使うよ!」
 封印を解除した青の宝玉を手に解析チームが前線の仲間に合流する。

 その影からトリテレイアもまた水上を滑り、水蛇の頭へと迫っていた。敵の水弾を幾つも受け止め、盾には亀裂が走っている。装甲は防水を施していたが、水しぶきを浴び続けてびっしょりと濡れ水滴を滴らせている。
 頭上から降り注ぐのは味方の砲撃で穿ち崩れ落ちる水波、竜騎士アベルが再び天へ跳びあがる。妖精の如き海賊少女がひらひらと水面近くを飛び回っている。
 何度目かになる頭上から降り注ぐ波を受け、機械のブレインが警告を発していた。これ以上は危険だと。しかし、それを冷静に受け止めながら『心』は思い出す。頭上から降り注ぐ嵐を。赤ん坊を彼に託し力尽きた母親を。
 浸み出した過去に今を侵され、未来をも奪われるなどということが、許されるはずがないのだと思った日のことを。
 騎士兜から水が滴るのを「まるで自分が泣いているかのようだ」と、そう思ったのだった。

 トリテレイアの眼前で水蛇がパックリと口を開けていた。青々とした深い口腔はそれ自体も水で形成されている。白き牙は光を集めたかのように眩い。
 御伽噺の騎士であれば。何を言うだろうか。
 ボディから軽く煙を吐きながらトリテレイアは牙を受け止める。ギリ、と音をたてて軋むのは自らか、それとも敵か。知覚の曖昧になる中を銃身を伸ばし。銃口は喉奥へ定める。
「、」
 何かを言いかけ、言葉を見失いながら発射した弾頭には特殊な化学物質が封入されていた。喉奥で爆発が起きる。超高温の化学物質は水中でも燃焼を続け、水蛇の躰を喰うように爆光を放つ。
 視界情報が一瞬途絶し、戻ってくる。陸地へと退避しながら自分は何を言おうとしたのだったか、と『ウォーマシン』が思う。
 一拍置いて、ああ、と得心した。
 己の戦い方が騎士らしくないと思ったのだった。
 
 『アァアァアアアァァ……』

 水が声をあげている。
 灰の魔法使いが瞑想めいて睫を伏せる。深遠の力の一片を手繰り寄せ右手に漲らせれば風もそこだけは避けて吹き。
「光影の狭間奔る理力の雷閃」
 理力を愛で語らうように囁く。外なる世界、銀の雨の彼方より轟き招来せよ、と。
「鳴る神の恐ろしき威声を以て汝が身は雷霆の牢に囚われたり」
 蒼き雷光が眩く輝く。光を反射し、水蛇がきらきらと光りながらも慄く様子を見せていた。
「流水の身体とは中々に厄介だが……この魔法ならどうだい?」
 睫があがり煌めく緑玉の双眸が敵を見る。それは数式の解を問うにも似て。眩い蒼雷の牢獄は水の鱗を焼き焦がし水蒸気を上げながら身体を締め上げる。
 ラスベルトは仲間へと目配せをした。
 彼の視線の先には戦闘により負傷し疲弊した仲間たちがいる。言葉は不要だと判っていた。
 隙を逃さず仲間が青の宝玉を触れれば、宝玉は眩く光る。

 『封印が成功しますように』

 祈りと共に捧げ持つフェリスの手を夫や仲間が支える。恐れ戦く水が小さな宝玉へと吸い込まれていく。
「そろそろ止めましょう」
 宝玉を持ち上げると、湖のあった窪みは水が減り所々地肌が見えている。底に這うのは質量を大きく減らし弱り切った水蛇だ。封印するのではなく滅ぼすのであれば、全てを吸いきってはいけない。
 水蛇は束縛をなんとか断ち切り、窪地の奥へ逃げていこうと身を捩る。水の減った窪地の奥には海と繋がっているのであろう、海水がゆるく流れ込む穴が視えていた。
 視線を切るようにランタンたちが押し寄せ、ハウロンが闇杖を振り暗闇が水蛇の両目を覆った。
「いかせませんよ」
 シノギは立ち塞がる。拳を握り、船が目的地に到着するのを知らせるかの如く告げた。隣には青々とした光を発するライトニングセイバーを携えた美麗がいる。
「さて、いっちょやりましょうか」
「それでは、殴ります。動かないでくださいね、当たりませんので」
 身動ぎする暇もなく渾身の魔力が篭った拳で会心の一撃が叩き込まれ、あわせて天からは竜騎士アベルが雷鳴の如く降りて竜撃を叩きこむ。槍が地すら抉る勢いで深々と水蛇の体を縦に割り。
 美麗が横に斬る。

 水の躰が爆散し、飛び散った水が消えていく。同時に青の宝玉がパキリと音をたて、割れた。そして、青の宝玉も共に消えていく。

 晴れた青空の下で歓声が沸いた。

●空の虹
「ワクワクドキドキの気持ち……」
 リヴェンティアがそっと金の鍵を差し込み、回転させると、カチャリと軽やかな音とともに黄金の扉が開いた。
 背後で仲間たちがワッと湧く。そして、中へと入っていく。

 宝部屋。
 そんな名称が正に相応しい小部屋だった。
 天井付近まで積まれたのはどこの国かわからないような古い金銀の丸い貨幣。古びた金属の香りとひんやりとした硬い手触りがそれが現実のものだと知らせていた。よく見ると控えめに銅貨も埋もれるように混ざっている。
 金銀銅の山を掻き分けると隙間から宝箱が顔を覗かせる。山に埋もれた宝剣や魔法のアクセサリーが次々と出て来る。
 藍ちゃんが金貨を抱えてリヴェンティアを見上げた。
「藍ちゃん、それが気に入りましたカ……?」
 金貨ごと藍ちゃんを抱っこしてリヴェンティアが花のように微笑む。
「下の方に何か埋まっていないか、探してミたい気持ち……♪」

 仲間たちは思い思いに洞窟を探索し、過ごす。
 癖のある灰銀の髪とその中から突き出た細長い耳を晒し、灰の魔法使いが瞳を好奇心に揺らしていた。
「本棚の書物も気になるし此処で暫く暮らして読み漁り研究したい位だ」

 海賊たちが猟兵に礼を言っていた。
 ヘスティアは海賊船から盗ったお宝を返そうとする。
「無事送り届けてくれるならわたしが持っておく必要はないもの」
 言えば、ウィリアムが首を振り断った。
「それはお前が奪ったものだ。返す必要はないぜ」
 ぐいと押し返すその瞳は頑固な色を宿していた。笑みは年相応に強がるように、ウィリアムは軽く背伸びするように言う。礼を言う、と。
 その声に独り言のように呟く声があった。
「ふん、海賊は往々にして悪のような気がするけれどボクはまだよく知らないし。悪なら正義のヒーローが切るけど、灰色で困ってるならボクは助けるのさ」
 ライアが伸びをしながら言った。表情はもちろん、いつも通りの笑顔だ。

「全く、出待ちも程々にしてよね」
 美麗が笑顔で言う。
 猟兵向け多目的遊戯船、超弩級電脳蒸気複合動力式死滅回遊海賊幽霊船『シャニムニー』の一行は戦利品をがっつり頂いて撤収した。
「これだから海賊は止められませんね!」
 キャプテン・シノギは宝の山に全身埋もれ、金貨を掬っては投げ掬っては投げ、金の雨を降らせていた。
「ハウル、それだけでいいの? もっと持っていきなよ」
 仲間の問いにカボチャ頭は棺に少しの宝で満足げに頷いた。
 笑っている船長の瞳を見てフェリスが思う。
 くどくなく、鮮やかで。
「とても綺麗」
 仲間たちは一斉に空を視る。
 空には、虹がかかっていた。

●結

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月07日


挿絵イラスト