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鴇//花嫁は耽溺に踊る

#ダークセイヴァー #【Q】 #闇の救済者

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#ダークセイヴァー
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#【Q】
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#闇の救済者


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●花嫁という名の生贄
 夜と闇に覆われた世界でも、月と星を頼りに生きる者も少なくない。
 厚い雲が晴れ、冴え冴えとした月が浮かび星が瞬く。辺境の街、ルブローデの人々はそんな明かりを心の慰めにするのだ。
 けれど、そんな美しい月と星が見える夜の安寧でさえ支配者は奪い去る。
『月と星が美しく瞬く夜に、美しき花嫁を捧げよ』
 近隣の街や村を支配しているヴァンパイアの御布令が、とうとうこの街にまでやって来たのだ。
「ああ、なんてことだ……! 生贄だなどと!」
「しかし生贄を出さなければヴァンパイアの僕が街を襲うのだろう? 山向こうの村がそれで滅んだって話だ」
「美しき花嫁……女でも男でも良いとは聞くが……」
「祭りも近いというこんな時に……!」
 誰をどう選んだところで軋轢は生まれるだろうし、一度で生贄の要求が収まるとも思えない。いずれ街には若い者が消え、緩やかに街は滅びゆくだろう。
 どうしたって、この街の未来は暗闇に呑まれるしかない。それでも、今すぐ滅ぼされるよりは生贄を差し出した方がいい――。
 暗い顔をした街の長老と、自警団の団長は暗い顔で溜息を落とした。
「闇の救済者に助けを求めてみるのはどうだろうか?」
 それまで黙っていた若者が、意を決したように口を開く。
 闇の救済者――ダークセイヴァーと呼ばれる、ヴァンパイアに反旗を翻そうとする秘密組織の存在は風の噂でこの街へも届いていたが、ヴァンパイアに歯向かおうとする者が本当にいるのだろうか? と半信半疑でいる者も多い。
「本当にいるのか? そんな奴ら……」
「いや、この際だ。頼ってみるのもいいかもしれん」
 藁にもすがる想いで、長老が顔を上げる。
 それは今、彼らにとっての確かな希望でもあった。

●グリモアベースにて
「花嫁、とやらになりに行く気のある者はいるか?」
 集まった猟兵達に向けて笑みを浮かべると、深山・鴇(黒花鳥・f22925)がそう告げた。
「ダークセイヴァーのとある辺境の街に、吸血鬼から花嫁を寄こせと御布令が来たらしい」
 花嫁の数は何人でも構わないが、最低でも三名は差し出すこと、また男女は問わない――そんな、花嫁という名の生贄だ。
「だがな、この街は大人しく差し出すことを良しとせず、最近現れたというヴァンパイアに抗う人々で構成された組織に助けを求めたようでな」
 闇の救済者と名乗る組織の人々はある程度訓練をしているとはいえ、猟兵ではない。ヴァンパイアの僕と戦えば、ある程度の死傷者は免れないだろう。
 そこで、彼らと協力し花嫁に変装してヴァンパイアの僕を倒してほしいのだと鴇が話を続ける。
「花嫁を連れて行く為に、ヴァンパイアの僕が街外れの荒野までやってくる」
 ヴァンパイアの僕達は花嫁達を連れて行こうとするけれど、花嫁衣裳を着ている者には危害を加えぬように主から言い含められている。それ故、花嫁の変装をしている者へは、こちらが攻撃しない限りは襲ってはこないのだ。
「花嫁衣裳とは言うが、白い衣装であれば何でも構わないらしい」
 だから男性が無理に女装をする必要はない、勿論完璧を求めて着てもらう分には問題無いと鴇が言う。
「白いベールを被って、白っぽい衣装を着ていれば花嫁だと認識するようだ」
 花嫁の他に、護衛としての付き添いは認められている。ただ、こちらは攻撃をする素振りを見せるだけで敵と認識されるだろう。
「花嫁として潜り込んでも、その護衛として付き添ってもらっても構わない。上手くヴァンパイアの僕を倒して、街を守ってやってほしい」
 街外れには隠れるような場所もなく、花嫁として赴くか、その護衛として行くのが一番警戒されずに済むはずだ。
「守り切った後は、街の祭り――光夜祭を楽しんでくるといい。その日は丁度月と星の明かりを受けて、街の近くにある森の泉が光りに満ちるらしい」
 泉が光るだけではなく、蛍のように光る蝶が泉の傍を飛び回って、それは美しい光景なのだという。
「それでは、よろしく頼むぜ」
 そう言うと、鴇が転送ゲートを開く為にグリモアへ触れた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 今回はダークセイヴァーで花嫁の恰好をしたり、護衛になってみたり、ヴァンパイアの僕を倒して祭りを楽しんだりするお話です。
 三章のうち、どれかひとつだけのご参加もお一人様でもグループでも歓迎しておりますので、お気軽にご参加くださいませ!

●各章の受付期間について
 恐れ入りますが、受付期間外のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。各章、断章が入り次第受付期間(〆切を含む)をお知らせいたしますので、MSページ先のURLやシナリオタグをご確認ください(確実なのはMSページ先のURLです)

●第一章:冒険
 花嫁に変装、または花嫁の護衛という形で街外れへと向かいます。
 猟兵であることを闇の救済者へ伝えれば、難なく彼らと街の人々の協力が得られますので苦労をすることはありません(協力を求めるプレイングがなくても大丈夫です)
 花嫁衣装は街の貸衣装屋で借りられますので、どの衣装にするか悩むのもいいでしょう。男性の方も白いタキシードや、望めばドレスも借りることができます。
 辺境の街とはいえ、それなりのドレスが揃っているはずです。勿論、自前の衣装を持ち込んでも大丈夫です。
 護衛を担当する方は花嫁のドレス選びを手伝ったり、闇の救済者である彼らと話をするのもいいかと思います。ご自由に過ごしてみてください。
 花嫁は何名いてもかまいません、多ければ多いほど相手の油断を誘えるでしょう。また、花嫁になる方がいない場合は闇の救済者の一員が花嫁として囮になってくれます。
 POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。

●第二章:集団戦
 ヴァンパイアの僕である『ヴァンパイアの花嫁』との戦闘になります。
 数は参加された人数分はいる形になりますので、お一人様につき一名の花嫁と戦う形になります。
 彼女達は感情が希薄で機械的な、かつてはヴァンパイアに捧げられた花嫁達です。
 さほど強くはありませんが、OPにある通り護衛への攻撃を優先します。

●第三章:日常
 街の祭り、光夜祭に参加できます。
 街ではささやかながら、軽食が楽しめる屋台が出ます。ランタンが吊るされ、淡いオレンジの光りが街の広場を中心に灯されることでしょう。また、森の泉へ赴き、夜光蝶や光る泉を楽しむことができます。
 泉がある場所は開けていて、見上げれば真上に月があり星々も美しく見えます。夜光蝶は人を恐れないので、手を伸ばせば指先に止まってくれたり肩に止まったりするでしょう。POW/SPD/WIZは気にせず、思うようにお過ごしください。

●同行者がいる場合について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【花嫁3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『夜の花嫁』

POW   :    生贄を気絶させ、入れ替わる

SPD   :    自らの美しさで生贄となる

WIZ   :    言葉巧みに説得し、入れ替わる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●闇の救済者
 要請を受け、闇の救済者の組織より八名ばかりの若者がルブローデに訪れる。村の祭りに招かれた長老の知り合いとして、長老の家で街の現状と作戦の流れを確認するために打ち合わせを行っていた。
「では街の人々はヴァンパイアの僕がやってくることは知らないのですね?」
「ああ、祭りの前だ。無闇に不安を煽るのも……と思ってな」
 なるほど、と訪れた若者達のリーダーである男、ヨルクが頷く。
「では、街の人々には知らせないままで構いませんが、祭りの最中にヴァンパイアの僕が来ると言う街外れには来ないように見張りを立てましょう」
 万が一という事もあるだろう、とヨルクが言う。
「後はどれほどの敵が来るかだが……」
 花嫁のふりはヴェールを被れば問題ないだろうが、さて、とヨルクが街の簡易地図に目を落とした時だった。
「長老、余所者が長老に会いたいときていますが、どうしますか?」
「余所者? 祭りを見に来たのか……」
「彼らにも街外れには行かないように言うべきでしょう、通しては?」
 ヨルクにそう言われて、それもそうだと長老が頷く。
 そうして、長老に会うことが叶った猟兵達は、闇の救済者である彼らと長老達へ協力を申し出る。それは彼らにとっては願ったり叶ったりといったところで、一も二もなくその申し出に頷いた。
 必要な物があれば街の者に言って協力させること、特に白い衣装や花嫁衣裳などの貸し出しも無料でしてくれるとのこと。これくらいのことで街が守れるのであれば、安いものだ。
 夜が来るまでに身支度を整え、村外れへ向かう。闇の救済者である彼らは猟兵達のサポートをすると申し出てくれ、街の人々が来ないように見張りをしたり、猟兵達が動きやすいように取り計らってくれると約束をしてくれた。
 あとは確りと身支度を整え、夜を待ち街外れへ向かうのみ――。
黒田・牙印
ネフラ(f04313)と共に

・方針:POW

・じゃんけんで負けて俺が花嫁役……なのはいいが、女装するだけで本当に敵がひっかかるのかね……さて、俺に合うヴェールとドレスを服屋に頼まねぇと。

・生贄に選ばれた娘に近寄って「ああ、そこの嬢ちゃん。生贄に選ばれたんだって? 俺らと交替してくれねぇかな」と声をかけて入れ替わり、服を着替えて準備を整える。

・護衛のネフラの少し後ろを行く形で歩く。えぇと、少し身を小さくして内股歩きしたほうがいいか? とにかく、ガタイの割に淑やかな感じが出せるように頑張ってみるぜって、こらネフラ笑うんじゃない、写真をこっそり撮るんじゃない! ああ、こりゃしばらく弄られ確定だな……


ネフラ・ノーヴァ
牙印殿(f31321)と共に。

「花嫁役はじゃんけんで決めようじゃないか。」
というわけでワニビト族の姫様、私が護衛役だよ。
念のため私は男装しておこうか。 そうだ、花嫁ならばこれも必要だろうと白い花束を渡す。

牙印殿に疑いの声がかかれば一芝居、れっきとした花嫁であると真面目ぶって主張しよう。
さあ行きましょうと、後目に白い衣装で身を包んだ牙印殿を見ればつい肩を震わせて笑いを堪える。
ああ、せっかくだから携帯端末に姿を収めておこうか。



●じゃんけんは正義
 ルブローデの街に訪れた黒田・牙印(黒ワニ・f31321)とネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)の目に映るのは、今夜の祭りの準備をする街の人々の姿。
「辺境の街と聞いていたけれど、中々どうして立派なものじゃないか」
「そうだな、吊るすランタンの数もそれなりだ」
 これが夜になれば一斉に明かりを灯すのだろう、それはきっと幻想的で美しい風景に違いない。
「この祭りを惨劇に変えない為にも――」
 花嫁が必要だ、とネフラが牙印に微笑む。
「そうだな、ネフラが着るんだろう?」
 そう思って問い掛ければ、ネフラが薄い笑みを浮かべたまま牙印に拳を見せる。
「ネフラ?」
「牙印殿、ここで私が花嫁衣裳を着るのは簡単なことだ」
 うんうん、とネフラが拳を見せたまま頷く。
「……? そうだな?」
 だからネフラが、と言いかけた牙印の言葉を遮り、ネフラが笑って言った。
「花嫁役はじゃんけんで決めようじゃないか」
「……何故」
「平等だろう?」
 面白いだろう? という副音声が聞こえた気もするが、花嫁役を押し付けるのもなんだしなと牙印が渋々ながら頷いた。
「不正無し、恨みっこなしだ」
「いいだろう」
 じゃーんけーん……ぽん!
 男と女の声が重なり、両者同タイミングで手を出す。その結果は――。
「というわけで、ワニビト族の姫様」
「誰が姫様だ」
「私が貴殿の護衛役だよ」
 ワニ顔ながらも渋い顔をした牙印が、溜息交じりに頷く。
「勝負に負けたのは俺だからな、仕方ないが」
 身長284センチのワニ男が花嫁で通じるのか……? という無言の訴えは笑顔のネフラに黙殺された。
 花嫁衣裳を貸してくれるという服屋に向かい、緊張した顔で衣装を選んでいる娘に牙印が声を掛ける。
「ああ、そこの嬢ちゃん。生贄に選ばれたんだって? 俺らと交替してくれねぇかな」
 声を掛けられたのは闇の救済者の一員である生贄役の娘で、牙印を見上げて思わずといった風に問う。
「隣の方ではなく、あなたが……」
「ああ、じゃんけんで負けたからな」
「じゃんけん」
 オウムのように繰り返した娘に、ネフラが気にしないでいいと笑みを浮かべた。
「さて、俺に合うベールとドレスを頼まねぇと」
 本当に女装するだけで敵がひっかかるのかね……と、遠い目をしつつも並ぶ衣装を見遣る。どう見繕っても、牙印ほどの高身長向けドレスは見当たらないし、なんだったらウェストが通るようなものも見当たらない。
「ベールは何とかなりそうだが……ネフラ」
「うん、店の者に相談してみようか」
 花嫁役を代わるという考えはないようで、ネフラが任しておけとばかりに店主に声を掛けた。
「こちらの方に合う衣装でございますか」
 さすがプロ、牙印を見ても店主の態度は変わらない。ちょっと瞳が泳いでいたけれど。
「お貸しできる衣装の中にはございませんけれど、こう……白い布を良い感じにドレスっぽく見せることならできるかもしれません」
 いわゆる、現代地球におけるサリーのようなものを店主が提案すると、ネフラがそれで頼むと頷いた。
 そこからは辺境と言えど街一番の服屋の腕の見せ所、仕立てる前の白い布を何メートルと使ってそれらしく飾り立てる。布を留めるのは大きな花のブローチ、片腕が見える部分はレースを重ねたものを付けて誤魔化して、最後にベールを被せれば花嫁として押し通せなくもないワニビト族の花嫁の出来上がりだ。
「……なんとかなるものだな、礼を言う」
「いいえ、これくらいのこと……!」
 戦いに向かう皆様に比べればと店主が恭しく頭を下げ、他の者の手伝いへと向かう。その後姿にネフラも礼の言葉を述べつつ、手にした花束を牙印に渡した。
「花嫁ならば、これも必要だろう?」
「そうだな」
 色々吹っ切れたのか、牙印がそれを受け取りネフラを眺める。
「着替えたんだな」
「念の為、護衛らしく男装をな」
 そうか……と頷いて外に出れば、いつの間にか街は夕闇に包まれて、大通りに吊るされたランタンに火が点されている最中だった。
「さあ行きましょう、花嫁殿」
「ああ、よろしく頼むぜ。護衛殿」
 そう言って、人気の少ない裏通りに向かって、牙印がネフラの少し後ろを歩く。歩きつつ、ネフラに小声で話し掛けた。
「えぇと、少し身を小さくして内股歩きしたほうがいいか?」
「んん? ああ、そうだな、その方が女性らしく見えるかな」
 薄暗い中とはいえ、身長の高さは如何せん誤魔化せるものでもなく。なんとか楚々と歩いてみせるしかない。
「とにかく、ガタイの割に淑やかな感じが出せるように頑張ってみるぜ……って、こら笑うんじゃない」
「いや、うん、は、ふふっ」
 とうとう堪え切れずに笑い出したネフラを窘めるように、牙印がベールの隙間から軽く視線を寄こす。
「ネフラ」
 笑うだけではなく携帯端末を取り出して、花嫁姿の牙印をそのカメラに収めていく。
「写真をこっそり撮るんじゃない!」
 くつくつと笑うネフラと、ネフラの手元に残ったであろう花嫁姿に、ああ、こりゃしばらく弄られ確定だな……と牙印が嘆息を漏らすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

花嫁役の宵の護衛として参加
宵はどのような物でも似合うが…矢張り花嫁というならばこれではないか?
そう並ぶ貸衣装を眺めながら純白の花嫁衣裳を指さしてみる
内心を見透かされれば照れ臭げな咳ばらいをしつつ視線を逸らし応えとしようか

準備を終えれば【軍馬の進軍】にて呼び出した白馬に宵を乗せ、手綱を持ち進んで行こう
宵のその衣装では歩き進むに動き辛いだろう?
そう白いヴェールと白い衣装に身を纏った宵へ視線を向ければ思わず感嘆の吐息が漏れてしまう
…敵とは言えこの姿を見せねばならんのか…矢張りタキシードにしておけばよかったやもしれん
ついぞ声を漏らすも宵の笑みにはつられる様な笑みを
ああ…本当に美しい、な


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)
花嫁役として参加

……あの、ザッフィーロ
白いベールと白い衣装ならばよいとのことで
女性物である必要はないのでは……?
そう問いつつも
楽しそうなかれの声音と
これが良いと示してくれた気持ちを無下にはできず

……、ザッフィーロが喜ぶ、ので……
異性装の嗜好はないものの、愛しいひとには甘いと我ながら思いつつ
着替えればかれのユベコで召喚した大きな白馬に乗せられ
王子様の装いなら、絵本のとおりであったかもですがと呟きつつも
かれの言葉には思わず笑って

きみが花嫁役でも良かったですが
それはきっときみを困らせてしまいますね
ですからいまは、きみの選んだ装いに身を包む喜びに浸りましょう



●きみが選ぶものならなんだって
 今夜行われるという祭りの準備が進む街を眺めつつ、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が花嫁の衣装を借りる為に街一番の服屋へと向かっていた。
「祭りの準備か……街の者には知らせていないのだな」
「その方が要らぬ混乱を招かずに済むでしょうし、良いのでしょうね」
 大通りに面する店や家の軒に吊るされたランタンが灯れば、きっととても綺麗だろうと宵が思いながらふわりと微笑む。
「確かに宵の言う通りだな」
 祭りを楽しみにしている人々の表情を曇らせずに済むのなら、それに越したことは無いとザッフィーロが頷いた。
「ザッフィーロ、あそこでしょうか」
 すっと宵が指さす方を見れば、外観もやや華やかに見える建物が見える。吊り下げられた看板にも、聞いた通りの名前が書いてあるようだった。
「そのようだ。行こうか、花嫁殿」
「……そう言われると、少し照れてしまいますね」
 白いベールと衣装であれば問題はなく、また自前でもいいとは聞いている。けれど宵は白い衣装の持ち合わせは無く、白い衣装であれば聖職者である彼の方がよほど持ち合わせているのだけれど、さすがにそれを借りるわけにもいかない。ならば街で借りるか、という事になったのだ。
 少し重たい扉を開けると、扉に付けられたベルがカランと鳴る。すぐに店の者が出て来て、花嫁衣裳をと告げると心得たように奥へ通してくれた。
 衣裳部屋に並ぶのは様々な形をした花嫁衣裳を筆頭に、白い衣装にベールにタキシード。他にもちょっとした小物なども用意されている。
「沢山ありますね」
「そうだな、辺境の街と聞いていたが……これは中々」
 思ったよりも種類もある、とザッフィーロが笑みを浮かべ、ずらりと並ぶ白い衣装に目を通す。
「宵はどのような物でも似合うが……矢張り花嫁というならばこれではないか?」
 ザッフィーロが指をさしたのは、その中でも特に美しい純白の花嫁衣裳が掛けられた木製のハンガーラックの列。
「……あの、ザッフィーロ」
 控え目ながら、ほんの少しの戸惑いを込めた瞳で見つめて宵が続ける。
「白いベールと白い衣装ならばよいとのことで、その……女性物である必要はないのでは……?」
「ああ、だが……花嫁といえばウェディングドレスだ。これか……これも良いと思うのだが」
 ビスチェタイプでスカート部分がティアードデザインになっているものと、背中がぐっと開いていてデコルテ部分が見えるマーメイドラインのドレスの二つを手に取ってザッフィーロが宵の身体へと当てた。
「宵はどちらが好みだ?」
「……好み、と言われましても」
 宵には異性装の嗜好は無く、どちらがと問われても選ぶに選べない。けれど、楽しそうな彼の声音とこれが似合うと選んでくれた気持ちを無下にもできない。
 ううん、と悩んだ挙句、マーメイドラインの方が入りそうだという理由でそちらを指さした。
「着てくれるのか?」
「……、ザッフィーロが喜ぶ、ので……」
 愛しいひとには甘いと、宵が小さく溜息を零しつつドレスを受け取れば、内心を見透かされていることに照れ臭くなったのか、ザッフィーロがこほんと小さく咳払いをして視線を逸らした。
「特別ですよ」
 そう囁いて、宵がドレスを持って店員と共にもう一つ奥にある小さな部屋へと向かう。そんな彼を見送って、ザッフィーロが次はベールだなとそわそわとしたような動きで小物を選び始めた。
 着ていた服を脱ぎ、宵がドレスに着替えていく。腰まで入ればこちらのもので、あとは背のリボンで締め付けるのみ。
「あの、あまり締めないようにしていただけると……」
 動き難いと戦闘に支障が出てしまうかもしれないと、宵が頼めばそのように仕上げてくれる。胸の開いた部分にはふんわりとシフォンレースを飾って誤魔化し、あとはベールだけですねと部屋を送り出された。
「……ザッフィーロ」
「……やはり似合うな、宵」
 そう言って微笑むと、選んでいたベールを宵の頭にふわりと掛ける。
「ありがとうございます」
 恥ずかしさで耳がほんのりと熱いけれど、きみがそう言ってくれるのなら、と宵が前を向いて行きましょうと頷いた。
 外に出ると、ザッフィーロが煌びやかな馬鎧を身に着けた白馬を召喚し、宵を抱き上げるとその背に乗せる。
「わ、一人でも乗れますが……!?」
「宵のその衣装では歩き進むには、少し動き辛いだろう? 馬に乗るのも同じことだ」
 そう言って、手綱を持ったザッフィーロが馬上の宵を見つめる。
 ああ、と思わず零れ落ちた感嘆の吐息に、宵が首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いや……敵とは言えこの姿を見せねばならんのか、と思ってな。このまま連れ去ってしまいたい気分だ」
 美しく着付けた伴侶の姿を独り占めにしたいのだと囁いて、矢張りタキシードにしておけばよかったやもしれん、とザッフィーロが思わず零せば、宵がふふ、と笑みを零す。
「王子様の装いなら、絵本のとおりであったかもですが」
 どんな姿であっても、僕にはきみだけですと呟いた。
「さあ、街外れまでお願いしますね」
「任された」
 美しい花嫁を乗せて、白馬が裏通りを行く。馬上からザッフィーロを眺めつつ、宵がふと考える。
 もしも、きみが花嫁役であったなら――ああ、でもそれはきっと、君を困らせてしまいますね、とそっと被りを振る。それならば、いまは君の選んだ装いに身を包む喜びに浸りましょう、と宵が微笑んだ。
 その微笑みは、ザッフィーロにとってはこれ以上ないほど美しく、そっと覗き見た宵のその笑顔に、ああ……本当に美しい、とザッフィーロが笑みを浮かべて手綱を握る手に力を込めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
はーいっ、花嫁さんやるよお!ほらーおれもとから白い服だしい。じまえー! ベールだけ借りるね!
せっかくだからーにくたいかいぞー(技能ね)で女のひとになっとこっかなあ。どーせほんとのおれが男か女かなんてわかんねーし!
あれ、てーか、てーか、ひとかもわかんない……? やばー!あはは!
救済者のひとたちに聞きましょう。どーゆーふーにうごけば都合がいーい?
あとたぶんだけど武器とかこころもとないんじゃね?ダークセイヴァーだもの。おれのアサルトウェポンからいろいろ貸したげる。
終わったらちゃーんと返してね!これだけはぜったい守ってね。



●変幻自在
 楽し気な笑みを浮かべ、茜崎・トヲル(白雉・f18631)が祭りの準備で活気付くルブローデの街を歩く。
「わー、楽しそー!」
 いいね、いいな、とあちこちを見ては目を輝かせる。
「ランタン吊るしてるんだね、夜になったら綺麗だろーなー」
 楽しみだな、と鼻歌混じりに教えられた街一番だという服屋へ向かう。
「どうしよっかなーって思ったけど、おれも花嫁さんやろーっと」
 元々白い服だし、自前でいけるし。
 うんうん、と頷いて、到着した服屋の扉を一息に開ける。そして、何がご入用ですか? と訊ねてくれた店の人に、元気よくベール貸してくださーい! と言ったのだった。
 ベールだけでいいのですか? と、奥へ通してくれた人に頷いて、様々なベールが掛けられたトルソーの前に立つ。
「わー、綺麗だね!」
 ショートベールからロングベールまで長さも色々とあるし、細かいレース編みにしてあるものや刺繍が施されたものもある。
「角で破いちゃわないかな……」
 こんなに綺麗なのに、破いたらもったいないよねと独り言ちて、ふんわりとしたタイプのものを借りることにした。
「せっかくだからー、にくたいかいぞーで女のひとになっとこっかなあ」
 こう、ぼんっとしてぎゅっとしてぼんっとすればいいよね、とトヲルが己の肉体をもそもそと改造していく。
 どーせほんとのおれが男か女かなんてわかんねーし! えい、このくらいかなー? 胸もうちょっとあった方がいい? でも服がゆったりしてっから、そんなにあっても目立たないかなー? なんて考えつつ、もそもそと。
「あれ、てーか……てーか、おれ、ひとかもわかんない……?」
 ふっと気付いた己の事に、思わず目をぱちくりさせて、トヲルが鏡を見る。それから、女性っぽい曲線を描く自分を見て、笑った。
「やばー! あはは!」
 人かそれ以外か、それすらもわからないけれど。
 女の姿になったとしても、そうじゃなくても、おれはおれだもんね、とトヲルが笑った。
「よし、花嫁姿はこれでいーとしてー」
 後は救済者の人たちに話を聞くかと、トヲルが店の中にいた闇の救済者の男に声を掛ける。
「ね、どーゆーふーにうごけば都合がいーい?」
 そう問われ、男はこの後は裏通りを使って街外れまで向かう事、そこからは自分達がサポートに回るので好きに動いてもらえばいいと真面目な顔で説明してくれた。
「そっかー、わかった! あ、あとさーこれ貸したげるね」
 ここはダークセイヴァー、となれば大した武器は持っていないだろうとトヲルが自前のアサルトウェポンを取り出して――ぽんっと貸し与えたのだ。
「あ、終わったらちゃーんと返してね! これだけはぜったい守ってね」
 守れないと、めっだからね? そう言ったトヲルの無邪気な笑みの奥に底知れぬ何かを感じて、男は素直に頷いた。
 もうすぐ夜の帳が下りるだろう、その前に街外れに行かなくてはならない。
「それじゃー、しゅっぱーつ!」
 護衛役の男を連れて、トヲルが裏通りを歩く。
 街外れへ向かって――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・エヴァンズ
美しい花嫁…ですか
…端的に考えますと質のいい生贄だと言う事なのでしょうが…この村を守った後の事も考えておきませんとね

旦那様はお伺いを立てた際、物凄く嫌そうなお顔をされておいででしたけど…背中を押してくださいましたし、その信に応えられるよう張り切らなくては…!
花嫁衣装はお借りして潜入と致しましょう
一応白ならアラビアン衣装とかドレスがあるものの…片や露出が多すぎですし、片や重いですから…えぇ
えっと、ベールは地につかず、衣装もなるべく動きやすいものを見繕い…いや、いっそ要望だけ伝えて闇の救済者に見立ててもらいましょうか
その間に軽く情報交換とか向こう様の緊張なども解せたらいいですね

アドリブご自由に



●星の花嫁
 美しい花嫁とは何を指してのことであろうかと、ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)は祭りの準備で賑わうルブローデの街を服屋に向かって歩きながら考える。
「……端的に考えますと質のいい生贄だと言う事なのでしょうが」
 ヴァンパイアの価値観は私には些か理解できるものではありませんけれど、美しいものを好む個体は多いと聞きますし、と息を零す。
「この村を守った後の事も考えておきませんとね」
 ヴァンパイアからしてみれば支配する辺境の街一つや二つ、取るに足りぬものかもしれないけれど。
 それから、ふと思い出して小さく笑う。思い出したのはここへ来る前の渋い顔をした旦那様のこと。
「旦那様はお伺いを立てた際、物凄く嫌そうなお顔をされておいででしたけど……」
 あれは一人では危ないやら、俺も行くやらと考えているお顔だったなとステラは思う。しかしそこはステラも猟兵の一人、色々葛藤はしていたようだけれど、最後は背中を押してくれたのだ。
 そういうところが好きなのです、なんてちょっぴり心の中で惚気つつ、その信に応えられるよう張り切らなくては……! と、ステラが意気込んだ。
「さて、こちらですね」
 見つけた店は思っていたよりも大きく、ステラは軽く建物を見上げてから扉を開く。すぐに店主がやってきて、用件を伝えると奥の部屋へと通された。
「まあ、花嫁衣装にも色々あるのですね」
 もっと種類も少ないだろうかと思っていたけれど、それなりの数が飾られている。好きなものを手に取ってくださいと言われ、ステラがどうしましょうか? と、ずらりと並ぶ花嫁衣裳を眺めた。
「一応白ならアラビアン衣装とかドレスがあるものの……片や露出が多すぎですし、片や重いですから……」
 手持ちの衣装を思い出しつつ、適度に肌を覆い適度に軽いものをとステラがドレスを探す。
「どうせなら、お写真を撮ったのとは違うタイプのドレスにしましょうか」
 そう考えて見渡すが、如何せん数が多い。どうしましょう、と悩んだ時に目の端に映ったのは長老の家で見た闇の救済者の一員。
「丁度いいですね」
 すみません、と声を掛けてドレス選びを手伝ってもらうことにした。
「えっと、ベールは地につかず、衣装もなるべく動きやすいものを探しているのですが」
「それならさっきこっちで見たわ」
 そう言って、救済者の一員である女性が一緒に見てくれる。
「これなんか似合うんじゃないかしら?」
 差し出してくれたのは、レース袖のある、フィッシュテールタイプのドレス。裾はふくらはぎの辺りまでで、動きやすそうに見えた。
「ありがとうございます、これにしますね」
 着たことの無いタイプだったのもあって、ステラが即決して着替えて出てくると、髪を覆う程度の長さのベールを彼女が持ってきてくれて、重ねて礼を言う。
「これくらい、お安い御用よ」
 やや緊張していた彼女も、和らいだ笑みを浮かべて裏通りへとステラを案内してくれる。
「あとは他の人に交じって行けばいいですね」
 ちらほらと見える護衛役の猟兵に闇の救済者のメンバーに、ステラも笑みを浮かべ背筋を伸ばして歩き出す。
 向かうは、敵の待つ街外れ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戀鈴・イト
【硝華】


花嫁には憧れがある
だってそれは永遠の象徴
愛しい人と永遠を誓う姿
男の僕には縁がないものだとばかり思っていたけれど
生贄にでも何にでもなるよ
君の花嫁になれるのなら

ちっとも嫌じゃないさ
むしろ―――ふふ、何でもない
ありがとう
シアンが傍に居てくれるなら大丈夫だ

シアンもおめかししようよ
動きやすい伸縮性のあるタキシードを選ぶ
白いマーメイドドレスを身に纏おう
合わない視線が何故か嬉しくて
頬を淡く染める

ありがとう、シアン
飾りをなぞって咲う
どうだい?似合うかな
良かった
今は君の為の花嫁だよ
なんて、
ひらりスカートを舞わせてみせる
ヴェールがあるからかな
いつもよりちょっとだけ大胆になれるみたいだ


戀鈴・シアン
【硝華】


美しい花嫁
屹度イトが適任だ
けど形だけとはいえ生贄役なんて

イトは嫌じゃない?
……そう?
不安になったら直ぐに言って
傍にいるから

護衛の俺までこんな綺麗な衣装を借りていいのかな
大丈夫そうなら少し拝借
さ、イトの衣装を選ぼう
一番似合うものを

花嫁姿を見るのは二度目だけれど
前より綺麗に見えた気がして
つい視線を逸らしてしまう
少し大人びたせいかな

そうだ
徐に指先を動かして硝子片を操る
それはやがてきみの首元や腕に集い
花を象った装飾品と成る
うん、似合う。綺麗だ
……俺の為?
……?
今、胸がぎゅうと鳴ったような

――俺の為なのは、今だけ?
なんて、頭に浮かぶ言葉は口にできず振り払って
誤魔化すように手を
行こうか、花嫁さん



●君の為の花嫁
 美しい花嫁というのならば、それは間違いなくイトが適任だろうと戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)は思う。そして、自分の横を歩く彼を見てほんの少しだけ眉根を寄せた。
「どうしたんだい? 眉間に皺が寄っているよ」
 ぐい、と己の眉間を戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)に指の先で押されてシアンは正直に考えていたことを彼に話す。
「花嫁というからにはイトが適任だと思う、けど形だけとはいえ生贄役なんて……って思ってな」
 イトは嫌じゃない? と、シアンが問う。もしも嫌だったら、自分が花嫁になっても構わないと思いながら返事を待った。
「ちっとも嫌じゃないさ、むしろ――ふふ、何でもない」
 シアンには内緒だけれど、花嫁には憧れがあるのだ。
 だって、それは永遠の象徴で、愛しい人と永遠を誓う姿。自分は自分を作り上げた硝子細工職人の男性が、恋人へとプロポーズの際に作った硝子細工のスイートピーだ。
 ずっとずっと、運命の赤い糸で結ばれた持ち主である夫婦が憧れだった、花嫁姿だって、その一つ。一度は着たことがあるけれど、それっきり男である自分には縁がないものだと思っていたのだ。花嫁衣裳で君の隣に立つという憧れが再び叶うのなら、生贄にでも何にでもなってやるというのがイトの胸の内で。
「……そう? 不安になったら直ぐに言って、傍にいるから」
「ありがとう、シアンが傍に居てくれるなら大丈夫だ」
 彼が要らぬ心配をせぬように、イトが花嫁衣裳を貸してくれる店を目指しつつ、今夜のお祭りも楽しみだねとシアンに話し掛ける。
「そうだな、成功させる為にもヴァンパイアの僕とやらを倒さないとな」
「そうだよ、その為にも頑張ろうね」
 明るく笑ったイトにシアンが頷き、店の扉を開けてイトを先に中へと通す。すぐに店主が顔を出し、話を聞くと奥の部屋へと通された。
「わあ、いっぱいあるんだね……!」
 イトの目に飛び込んできたのは、様々な白い衣装。ドレスもあれば、タキシードだってある。こんなに沢山あると目移りしてしまいそうだと、イトの胸が弾む。それから、いいことを思いついたとシアンに振り向いた。
「ねえ、折角だからシアンもおめかししようよ」
「え、護衛の俺までこんな綺麗な衣装を借りていいのかな」
 少し迷ったけれど、店の者が構わないと頷いたのとイトがとても楽しそうにしていたので、シアンは衣装を借りることにする。
「シアンにはきっとこれが似合うと思うよ」
 イトが差し出したのは伸縮性のある動きやすそうなタキシード、白いスリーピースに水色のネクタイがシアンに良く似合いそうだと笑う。
「さ、イトの衣装を選ぼう」
 一番似合うものにしよう、とシアンが微笑む。
 あれでもない、これでもない、これはどうだと二人で選び、最終的にはシアンが選んだ二つをイトが選ぶ形になった。
「僕は……そうだな、これ、かな?」
 手に取ったのはビスチェタイプのマーメイドドレスで、動きやすいように膝丈から下がフィッシュテールになっているもの。
「早く着ているところが見たいな」
「ふふ、僕もシアンのタキシード姿が見たいよ」
 それぞれが衣装を手に取って、着替えの為の部屋へと通される。先に出てきたのはシアンで、続いてイトが出て来て二人で並び立つ。
「どう、かな?」
 ふんわりと頬を染め、イトが問い掛ければシアンが僅かに耳を赤くして押し黙る。
 シアンのその照れたような表情と、合わない目線になんだか嬉しくなってしまってイトが微笑む。
 ねえ、それって綺麗だって思ってくれてるってことだよね? なんて視線で問い掛ければ、シアンが軽く咳払いをして、似合うと頷いてくれた。
 シアンからすれば、去年に見たイトのウェディングドレス姿よりも綺麗に見えた気がして、なんだか落ち着かなくなってしまったのだ。
 きっと、少し大人びたせいだと頷いて、シアンが指先を軽く動かして硝子片を操る。それはまるで魔法のようにイトの首元や腕に集って、花をかたどった装飾品に成った。
「すごい……! ありがとう、シアン」
 飾りを指先でなぞって、シアンが咲う。
「どうだい? 似合うかな」
 綺麗な飾りを纏って、ベールを被ればどこからどうみても花嫁で。
「うん、似合う。綺麗だ」
「良かった、今は君の為の花嫁だよ」
 生贄などではなくて、と悪戯っ子のように笑ってイトがスカートを翻す。
「……俺の為?」
 そうだよ、とベールに隠されたイトの唇が動く。
 とくり、と体温が上がったような気がして、シアンが自分の胸へ手を当てた。
 今、胸がぎゅうっと鳴ったような。
 ――俺の為なのは、今だけ?
 そんな問いが頭に浮かぶけれど、それはイトには伝えられなくてシアンが被りを振って、何かを……自分を誤魔化すようにして、手をイトへと差し出した。
「行こうか、花嫁さん」
 その言葉にイトが笑みを浮かべ、手をのせてくれる。
 ヴァンパイアなどには決して渡さない――そう誓って、シアンは花嫁の手を引いて歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
花嫁という言葉で飾っているが、ようは奴等の家畜だろう
ヴァンパイア共の趣味の悪さは変わらんな

俺が着ているものに近い白い衣裳を用意
苦無や鋼糸のような暗器を忍ばせる、物を隠す
衣裳が無ければ、似たような類似品からリメイクするしかないか
手先が器用な者の協力を得、花嫁とやらに変装する準備を進めよう

行動の妨げになるような装飾品は必要ない
隠密を好む俺には花嫁と認識されるだけの衣裳と小物を揃えることができれば十分だ
…似合う似合わないは置いておく

完成後は実際に着替え、通常時や戦闘等行動に問題がないか、暗器を素早く取り出せるか、時間ギリギリまで防具改造、武器改造にて調整しよう

ヴァンパイアの企みなどブッ潰すぞ



●花嫁は暗器と共に
 花嫁といえば、それは幸せの象徴のような言葉だと薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は思う。それから、愛しい人の花嫁姿を思い浮かべて、知らず笑みが零れる。
 だが、今求められている花嫁はそんな幸せなものではないと、悟郎はその視線を厳しいものへと変えた。
「花嫁という言葉で飾っているが、ようは奴等の家畜だろう」
 ヴァンパイア共の趣味の悪さは変わらんな、と小さく独り言ちて、悟郎が辿り着いた建物の看板を見上げる。
「ここで間違いないようだな」
 扉を押せばカラン、とベルが鳴って店主が悟郎を迎え入れ、話を聞くと奥の部屋へと通してくれた。
 通された部屋は白い衣装がこれでもかと並んでいて、悟郎は望む衣装を探していく。
「できるだけ普段通りの恰好だといいんだが」
 着物に近い衣装をと探してみた結果、司祭が着る祭服のようなローブが一番それらしく、苦無や鋼糸……暗器と呼ばれる武器を忍ばせるには丁度良かった。
「フードも付いているし、これにするか」
 半魔半人の自分が聖職者のような姿をするのは些か抵抗もあったけれど、これしかないのであれば致し方ないと妥協して、衣装を手にして店主に声を掛ける。
「すまない。着替えを手伝ってほしいのだが、いいか?」
 悟郎の願いに快く頷いて、店の者が着付けを手伝う。
 実際に着替えてみればスカートのような裾を捌くのも袴で慣れたものだったし、暗器を隠す場所もそれなりにあって、悪くは無かった。
「あとは小物か……」
 このままでは少し花嫁としては認識されないかもしれない、と悩んだ悟郎が辺りを見回す。行動の妨げになる様な装飾品は候補から外すとして、さて何が良いかと考えた時にふと視界の端に映ったのは、白い花にエメラルドグリーンのリボンが飾られたブーケ。
「……これにするか」
 この中にも暗器を仕込めば、邪魔にはならないはずだと言い訳めいたことを胸の内で呟きながら、小さく笑みが零れる。
「彼女の色だな」
 ベルベットのような手触りのリボンを撫でると、すぐに表情を引き締めて戦闘に支障がないか念入りに確認をする。少し違和感がする個所は手慣れた者に頼み、動きやすいように改造を施して調整していく。
 そろそろ時間だと言われ、悟郎が裏通りへと向かう為にブーケを手にする。夕闇に紛れ、街外れまで向かうのだ。
「ヴァンパイアの企みなどブッ潰すぞ」
 確固たる意志を感じさせる声音でそう言うと、悟郎がその一歩を踏み出したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…吸血鬼の諧謔はいつもの事だけど、まさか花嫁になって潜入する日が来るなんてね…

…さて。折角の機会だから私は自前のドレスを使いましょうか
2年前の物だけど調整すれば着れるようになるはず…

………2年前の服が多少の調整でそのまま着れるのは喜ぶべきか、悲しむべきかしら…はぁ

…後、武器の類は持ち込めないから"精霊結晶"でどうにかするしか無さそうね

UCを発動して一般人並みに治下を封印して魔力を溜め、
街の服屋に衣装を持ち込み調整して貰うわ

…忙しい時にご免なさい。お願いしたい事があるんだけど…
この衣装の着付けを手伝ってほしい

…ええ。もうすぐ結婚式が行われるの
思い出の詰まった衣装だから汚れないようにしないとね…



●思い出のドレスと共に
 祭りの準備が進むルブローデの街を眺めながら、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)がこの街一番の服屋だという店を目指して歩く。
「……吸血鬼の戯言はいつもの事だけど、まさか花嫁になって潜入する日が来るなんてね……」
 本当にふざけた話だわ、とリーヴァルディが小さく溜息を落とす。それでも、ヴァンパイアの魔の手が迫った街を救う為であれば、やってのけるのが猟兵だ。
 リーヴァルディもその例に漏れず、人々を救う為であればと自前のドレスを持ってこの街を訪れた者の一人である。
「二年前の物だけど、調整すれば着れるようになるはず……」
 彼女にとっては大切な思い出の品だけれど、このままずっとお蔵入りさせてしまうよりも、もう一度着た方がドレスの為にもなるだろうと思っての事。
「……ここね」
 街の長老から聞いた通りの場所に、その店はあった。
 街一番の服屋であるという触れ込みの通り他の店よりも大きな建物だったし、中へ入るとすぐに声を掛けられて用件を告げれば奥の部屋へと通される。無駄のない動きはそれだけ気の利く者が店を回しているということ、リーヴァルディは通された部屋で小さく笑みを零した。
「……忙しい時にご免なさい、このドレスを着たいのだけど」
 二年前の物だと告げると、すぐにお針子が二名やってきてリーヴァルディのウェディングドレスを確認し、彼女をもう一つ奥の部屋へと案内する。
「……着替えればいいの?」
「はい、実際にどこが動き難いかお聞きしながらお直しする方がよろしいかと思いますので」
 なるほど、それもそうだとリーヴァルディが着ていた服を脱いでドレスを手に取った。
 ウェストまですんなりと入れば、デコルテの開いたハートシェイプのドレスを背中側からチャックを上げられる。
「どこかきついところはございますか?」
「……そうね、胸周りが少しだけ」
 意外と着られるものね、とリーヴァルディが鏡に映る姿を見遣る。そこには二年前と大して変わりのない自分がいて、思わず小さく溜息を零してしまう。
「どうかなさいましたか?」
「……いえ、何も」
 二年前の服が多少の調整でそのまま着られるのは、喜ぶべきか悲しむべきか考えていたのだなんて、言えやしないとリーヴァルディが微笑んで誤魔化す。そして、すぐに済んだ調整のあとで動きを確認しながら己の力を血の鎖錠によって封印し、魔力を溜めていく。
「武器は持ち込めないから、精霊結晶でどうにかするとして……」
 そう言いながら、ふと鏡を見る。
 そこには思い出の詰まったウェディングドレスを着た自分がいて、懐かしい記憶が蘇るかのよう。
「思い出の詰まった衣装だから汚れないようにしないとね……」
 ふわり、とドレスの裾を翻してベールを被ったリーヴァルディが薄闇の帳が落ちた裏通りへと向かう。
 ヴァンパイアの僕を倒し、この街を守る為に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティコ・ラクール
わたしは記憶喪失ですが
僅かに戻った記憶から故郷がダークセイヴァーだと思っています
いつかこの世界で戦う時が来る
その日のために一度この世界で仕事をするべきだと思っていました
行かせてください

花嫁に変装します
借りるのは白く丈の長いドレス
長袖、ゆったりとしたスカート
ドレスもベールもシンプルなデザインを選びます

黒ぱたさん…頭に乗ったら駄目ですよ
肩も駄目です
今日の私は花嫁なんです
だから花嫁らしくないものは持てません
…納得できないって顔していますね
簡単なブーケもお借りしてその中に黒ぱたさんを潜ませておきましょう

囮になるのは全く怖くないわけではありませんが
いつか乗り越えなくてはいけないものだと思うから頑張れます



●恐れを乗り越える為に
 わたしは記憶喪失ですが、とティコ・ラクール(つくりものの竜・f22279)が祭りの準備で賑わう街を歩く。僅かに戻った記憶から、恐らく故郷はダークセイヴァーであるとティコは当たりを付けていた。
 だからこそ、いつかこの世界で戦う時が来るという己の予感に備えて、ダークセイヴァーに一度は足を踏み入れねばならないと考えていたのだ。
「この依頼はわたしにとって、きっと糧になるはずです」
 そう思って志願したこの地は、どこか寒く冷たい。けれど、ヴァンパイアに支配されてもなお生きようとする人々がいるのだと、ティコはその目に焼き付けるようにして、教えられた服屋へと向かった。
 店へ入り、用件を伝えるとすぐに奥の部屋へと通され、好きな衣装を選んでほしいと店主が言う。
「ありがとうございます、お借りします」
 ティコが軽く頭を下げ、ずらりと並んだ衣装に目を通す。
「随分と沢山あるのですね」
 思わず目移りしてしまいそうになるけれど、これも任務だと丈の長いドレスへと手を伸ばした。
「長袖で首回りもレースで覆われていますし、スカート部分もゆったりとしていて……これなら尻尾も邪魔にならないです」
 いたってシンプルなウェディングドレスだけれど、その分レースの部分が細かく拘りが感じられる。
「これなら……ベールはこれがいいでしょうか」
 手にしたベールはティコの髪を覆うくらいの長さで、動くのも問題なさそうだ。
 これと決めたら後は着替えるだけだと、さっそく着替える為の部屋へ向かって店員さんに着付けを手伝ってもらって体裁を整える。鏡に映った自分はちゃんと花嫁に見えていて、思わずティコが笑みを零した。
 そんなティコの前に、手のひらほどの大きさをした黒い翼の可愛らしい精霊が現れて、さっそくティコの頭の上に乗ろうと翼をぱたぱたと動かす。
「黒ぱたさん……頭に乗ったら駄目ですよ」
 どうして? というような顔をして、それなら肩へと黒ぱたが視線を向ける。
「肩も駄目です」
 !? というような顔をして、黒ぱたが抗議するかのようにティコの周囲を飛び回った。
「今日の私は花嫁なんです、だから花嫁らしくないものは持てません」
 ぷくう、と頬を膨らませ、納得がいかない様子の黒ぱたにティコが困ったように微笑む。
「……納得できないって顔していますね」
 仕方ない、とティコが飾られていたブーケを指さし、あちらをお借りしても? と、店の者に問う。もちろん、と頷かれると、青と白の綺麗なブーケを手にして黒ぱたをブーケの内側に潜ませた。
「ここで我慢してください、ね?」
 こくんと頷いた黒ぱたに笑みを零すと、ティコが暮れゆく空を眺めて行かなくてはと花嫁達に続く。
 囮になるのが全く怖くないわけではないけれど――。
「いつか乗り越えなくてはいけないものだと思うから、頑張れます」
 それに黒ぱたさんもいてくれるし、と視線を向ければ、黒ぱたもこくこくと頷いてくれて。
 大丈夫、ちゃんとやり遂げてみせます。
 そう心に誓って、ティコは裏通りの道を歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン

ルクセンディアさんと(f24257)

吸血鬼は花嫁をお望みですって、ルクス
性別は問わないみたいだけど、どうする?
白い服に、ヴェールを被ったらOKですって。え?やらない?
(残念そうな顔しつつ)
貸衣装屋さんでドレスを選びましょうか

花嫁衣裳なんて着ることないと思っていたけど…
動きやすい方が良いかしら、いろんなタイプのがあるから迷うわね

ふわっとしたのも良いけど、すらっと体のラインを見せるタイプも素敵よね
ルクスの好みはどっちのかしら?ああ、こっちの方ね。ふふ、分かったわ

えっと、ベールはミドルでフラワーベールにして…どう?(くるりと回って)
さて、準備は整ったわね。行きましょうか。宜しくね、私の騎士様


ルクセンディア・エールハイム
ディアナと(f01023)

残念ながら花嫁というタイプではないのでな
あくまで俺は君を守る婿役になるとしよう、白ければ見分けはつかないらしいからな
なぜ残念がる、着ても面白いことはないぞ?
ではこちらもタキシードを着るとしよう

ドレスの種類だけでも結構あるからな、礼服しかり、ウェディング然り

なんでも似合う…というのはこの場合禁句だな?
基礎的にディアナは体のラインを見せるものが多かったからな、見慣れてるという意味では見せる方が似合いそうだ。

悪くない、よく君を彩っているよ
こちらも恥ずかしくない格好ができている事を祈ろう。

こちらも整えた、ではお手を拝借しようか、姫君。



●いつの日か、君と
 ルブローデの街に到着し、長老の家から花嫁衣裳を貸してくれるという街一番の服屋まで、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)とルクセンディア・エールハイム(不撓不屈の我様・f24257)が並んで歩く。
「吸血鬼は花嫁をお望みですって、ルクス」
「花嫁という名の生贄だろう?」
 碌なものではないな、とルクセンディアが溜息をつくとディアナがちらりと彼を見上げ、そうだけれどと唇に笑みをのせて話を続ける。
「性別は問わないみたいだけど、どうする? 白い服に、ヴェールを被ったらOKですって」
 どこか期待に満ちたような彼女の声音に、ルクセンディアがディアナを見た。
「何?」
「ディアナ、残念ながら俺は花嫁というタイプではないのでな」
「え? やらない?」
 俺は遠慮しておくとルクセンディアが静かに拒否をすれば、残念そうな顔をしてディアナが小さく唇を尖らせた。
「ちょっと見てみたかったのだけど、残念ね」
「なぜ残念がる、着ても面白いことはないぞ?」
 祭りの準備を進める街を眺めてルクセンディアがそう言うと、ディアナも同じように視線を移す。
「ルクスがいつもと違う衣装を着ているところが見たかったの」
 ランタンが大通りに面した建物の軒先に吊るされるのを眺め、夜になればきっと綺麗だろうと思いながらディアナが言うと、ふむと考えるような表情をルクセンディアが浮かべた。
「では、タキシードを着るとしようか」
「タキシード?」
「白ければいいのだろう? なら俺は君を守る婿役になるとしよう」
「婿……っ」
 思わぬ反撃を受けて、ディアナが頬を赤くして黙り込む。
「どうかしたか?」
「な、なんでもないわよ! あ、あそこが衣装を貸してくれるお店みたいよ」
 急ぎましょう、と早足になるディアナを不思議そうに眺めつつ、ルクセンディアも彼女に続いた。
 店に着くとすぐに話が通って、奥の部屋へと通される。そこにはウェディングドレスからタキシード、それ以外の白い衣装が所狭しと並べられ、手に取られるのを今か今かと待っているかのようだった。
「沢山あるのね……!」
「ドレスの種類だけでも結構あるからな、礼服しかり、ウェディング然り」
 ウェディングドレスだけではなく白いワンピースなどもあって、とにかく白い衣装を集めたという印象を受ける。
「花嫁衣裳なんて着ることないと思っていたけど……これだけあると、迷うわね」
 動きやすい方が良いだろうか、袖は無い方がいいか、あった方が良いか……ううん、と衣装を前にディアナが楽しくも悩ましいといったような表情を浮かべてドレスを選んでいく。
「ふわっとしたのも良いけど、すらっと体のラインを見せるタイプも素敵よね」
 うーん、と悩みながらも手に取ったのは。プリンセスラインと呼ばれるスカートがふわりとしたドレスと、マーメイドラインと呼ばれる体のラインにそったドレス。
 どちらが良いだろうかと身体に当て、並べて見比べ、最終的にルクセンディアに視線を向けた。
「なんでも似合う……というのはこの場合禁句だな?」
 視線を受け止め、ルクセンディアがそう口を開く。
「そうね、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、この場合は駄目ね」
 くすくすと笑って、ディアナが頷く。
「ルクスの好みで考えてくれてもいいのよ?」
 どっちの方が好きかしら、とディアナが言うとルクセンディアが真剣な表情で彼女が左右の手に持つドレスを見比べた。
「基礎的にディアナは体のラインを見せるものが多かったからな」
 言われてみれば、普段着ている服は丈も長めでルクセンディアのいうタイプの物が多い。
「見慣れてるという意味では見せる方が似合いそうだ」
「ああ、こっちの方ね。ふふ、分かったわ」
 手元にマーメイドラインのドレスを残し、ディアナがルクセンディアを見上げる。
「私のドレスは決まったけど、ルクスのタキシードは決まったの?」
「……まだだな」
 ディアナがドレスを選ぶ姿を眺めていたので、とは言わずにルクセンディアがタキシードの方へ視線を向けた。
 タキシードなんてどれも同じだろう、と自分に入りそうなサイズを見繕っているとディアナがこっち、と指をさす。
「では、こちらにしよう」
 フロックコートのタキシードを手に取って、ルクセンディアが笑う。それから、着替える為に別々の部屋へと入った。
 ディアナが着替えて出てくると、既にルクセンディアがタキシード姿で待っていて、白いドレスを身に纏ったディアナに目を瞠る。
「あとはベールだけね。そうね……ミドルでフラワーベールにして……」
 そんな視線には気付いていないのか、ディアナが花の刺繍が施されたふわりとしたベールを被り、ルクセンディアの前でくるりと回って見せた。
「どう?」
「悪くない、よく君を彩っているよ」
 綺麗だ、と素直に思う。それから、こちらも恥ずかしくない恰好が出来ているだろうかとディアナを見遣る。
「ルクスも恰好良いわよ?」
「ありがとう」
 ふ、と二人で笑うと、準備は整ったと頷き合う。
「行きましょうか。宜しくね、私の騎士様」
 花婿様、なんて恥ずかしくて言えやしないわと思いつつ、ディアナがルクセンディアを見上げた。
「ではお手を拝借しようか、姫君」
 そんなディアナに合わせるように手を差し伸べれば、自分の手よりも小さな手がのせられる。何があっても守りたい、そう思える彼女の手をルクセンディアが優しく握りこむ。
 夜の帳が下りるまではもう少し、二人は裏通りへ抜ける為に店の裏口へと向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
例によって私がヴァンパイアだということは伏せる。
無駄に私への詮索やら疑いをかけられては面倒だからな。
下手をすると組織の者達への不信に繋がる可能性もある。

「ふむ…。ドレスか…」
私がドレスを着て囮になり露がタキシードを着て護衛だな。
なるほど。確かにお互いの戦闘の手段からいって妥当か。
ドレスはいいんだが私はもっとシンプルな方が好みだ。
ん?似合っている?白のドレスも素敵?…そうか。ん。
「…ドレスは君の方が適任だと思うが…まあ、感謝する」
全く。露の素直さとこういうところは…苦手だ。

とりあえず戦闘に備えて街をぐるりと見回っておこう。
一方向からやってくるとは限らないからな。調べておく。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
この世界だと種族言わないんだったわねレーちゃん。
だからあたしもレーちゃんの種族のことは言わないわ♪

「えへへ~♥ レーちゃん可愛いわー」
レーちゃんが花嫁さんであたしは花婿さん?えへ♪へへー♥
改めてじっくりゆっくりとドレスレーちゃんを眺めるわ。
何時も黒色のゴシックドレスを着てるから白は斬新よねー。
「…黒もいいけど白も素敵ね。似合っているわ♪ 綺麗~」
あ。レーちゃんがお礼言ったわ。そして照れてるわ。可愛い♪
むすっとした顔止めてもっと素直だと高評価なのになぁ~。
「ねえねえ、白のゴシックドレスも着てみたらどう? どう?」
え?居心地悪くなって嫌だ?…むぅ。そんなものかしら。



●黒も白もぜんぶ君
 辺境の街、ルブローデ。今宵行われる祭りの準備で賑わうその街を、見た目だけなら小さな女の子と呼べる二人が歩く。
「露、私のことは他言無用だ」
「え? ああ、そうだったわね」
 シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の言葉に、わかったわ、と神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が頷く。シビラは人間とヴァンパイアの間に生まれた半魔半人の存在、ヴァンパイアの支配下にあるダークセイヴァーでは言わぬが花というもの。
 無駄に詮索やら疑いを掛けられては面倒だし、何より下手をすれば闇の救済者である彼らへの不信に繋がる可能性もあると、そこまでの事を考えてシビラは黙っている事を選んだのだ。
「黙っているだけだもの、噓をついているわけじゃないものね♪」
 レーちゃんがそう望むなら、露に否は無かったしわざわざ言ったりもしない。だから大丈夫だと、露はシビラの腕へ自分の腕を絡めて街を歩いた。
「この辺りのはずだが……」
「あ、あれじゃないかしら?」
 長老の家で教わった、花嫁衣裳を貸してくれるという服屋。確かに聞いていた通りの外観で、看板にも店の名前が刻まれている。
「ここだな」
「うふふ、ドレス、ドレス♪」
 楽しみね、と露が扉を開ければ、すぐに店主が用件を聞いてくれて奥の部屋へと通してくれた。
「わあ、ドレスがいっぱいよ、レーちゃん!」
「ふむ……ドレスか……」
 さてどちらがドレスを着るか、とシビラが露を見れば当たり前のような顔をして露がシビラのドレスを選んでいるのが見えた。
「……露?」
「なあに? ううん、レーちゃんだったらこれも似合うだろうし……こっちも捨て難いわね」
 ぶつぶつと大きな独り言を言う露に、私がドレスでいいのかと問い掛ける。
「もちろん! レーちゃんが花嫁で、あたしがタキシードを着た護衛の方がいいでしょう?」
 互いの戦闘手段から言っても、それが一番妥当だとシビラも頷く。
「でも……いいのか、ドレスは君の方が適任だと思うが」
「いいの! あたしは着たいと思ったらいつでも着れるけど、レーちゃんの白いドレス姿は見たいと思ってもすぐに見られるものじゃないし」
 何より露がシビラの花嫁姿を見たいのだと笑って、手にしたドレスをシビラの体に当てた。
「なるほど……? 露、ドレスはいいんだが、私はもっとシンプルな方が好みだ」
 身長のことを考えると大人用のウェディングドレスは難しかったけれど、子ども用のサイズでも白いドレスは幾つかあって、裾がふんわりと広がった小さな花嫁さんのような衣装や、膝丈の動きやすそうなドレスまでと様々な物が並んでいた。
「シンプルなのもいいけど、レーちゃんはレースがいっぱいついてるのも似合うと思うのよね」
「動き難いのは困る、いつも着ているくらいのにしてくれ」
 シビラのオーダーに、はーいと返事をして露が再びドレスに目を通す。
「それなら、これかしら」
 ビスチェタイプの膝丈の白いドレスは裾がふんわりとしていたが、他はシンプルでシビラの好みに合っているといえた。
「ではそれにする、露もタキシードを選んで着替えるようにな」
「わかったわ!」
 シビラが着替える為の部屋へ向かうと、露が自分の衣装を選ぶ。
「男の子用のタキシードで大丈夫そうね、胸のところは……押さえればいけるかしら?」
 そういえば、レーちゃんのドレスも胸のところ……後ろがリボンだからなんとかなるわよね、と頷いて露も着替える為に奥へと足を向けた。
 さて、着替えて出て来てみればシビラのドレスは胸の部分がこんもりと盛り上がる為、レースのショールを付けて何とか誤魔化し、露は布を巻いて誤魔化していた。
「レーちゃん、レーちゃん可愛いわー」
 そして、露はひたすら白いドレスを着たシビラに賛辞の言葉を贈り続けていた。
「ん? 似合っている? 白のドレスも素敵? ……そうか、ん」
 感謝する、と小さく呟くように言ったシビラに、露がぱあっと笑顔を浮かべる。
 レーちゃんがお礼を言ったわ、そして照れてるわ、可愛い♪ と、思わずにこにことすれば、露も似合っているとシビラが言った。
「うふふ、レーちゃんが花嫁で、あたしが花婿ね」
 えへ、へへー♪ と、露が上機嫌でシビラにベールを掛ける。
「花嫁さんはベールを付けてなくっちゃね」
 ああ、やっぱり綺麗だわ、可愛いわ、と露が満足気に頷く。
「ねえねえ、普段も白のゴシックドレスも着てみたらどう? どう?」
「……それは居心地が悪くなって嫌だ」
「……むぅ、そんなものかしら」
 残念、と呟いて、それなら今の姿を目に焼き付けておかなくちゃと露がシビラを眺めた。
「そろそろ時間だな」
「あら、もう?」
 意外に準備に時間が掛かるものね、と露が外を見れば薄闇に包まれているのが見える。
「ああ、ここに来る前に街をぐるりと見回っておいてよかった」
 戦闘に備え、地理を叩きこんでおくのは大事だからなとシビラが言って、裏口へと向かう。裏口から先は、祭りの行われる大通りとは違って、静かな裏通りに面していた。
「どうぞ、花嫁さん♪」
 そう言って、露がシビラに手を差し出す。
「……仕方ないな」
 そっとその手に己の手を乗せ、シビラが露のリードで歩き出す。
 ヴァンパイアの僕が待ち受ける、街外れに向かって――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
【箱2】◎
白いタキシード着る
男女逆?この方が面白いじゃん?
俺タッパあるし男装似合うっしょ?恋人のラファンは向こうでメイクアップなんで、待つ間に一緒する闇の救済者らとキャッキャお話して仲良くなる
共に闘う相手を知るって超大事
お、準備できたかラファ……うっはぁ美人ッ!肌白いし綺麗な髪だし似合うとは思ったが…え、すげ
晴れ姿見る花婿てこんな気分?…すげぇ、嬉し…つか照れる…ヤバイなコレ
で、パンツ何はいてんの?捲ってい?ちょちょちょ待て冗談んんん!
化粧?おっけ、俺好みにしてやんよ。ッ…紅をさすの…て、照れる
さ、お手を。エスコートするぜ、俺の嫁さん?誓いのキスの練習でもしとく?あ、そか指輪……さ、さんきゅ


ラファン・クロウフォード
【箱2】◎花嫁ドレスを着る。貸衣装屋の人にドレス選びと着付けを手伝って貰い、光夜祭の美味しい屋台や森でおススメの場所とかもリサーチ。胸に詰め物してパイポジ確認、ベールを下ろして、戒と合流。タキシードの戒、カッコよくて素敵だ。キラキラオーラがすげぇ。ベール降ろしといてよかった(赤面)パンツって……本気なんだか緊張してんだか、多分、後者だな。ここで確認するのか?と淑やかに恥じらう素振りで裾を摘んで捲ってみせる。なんてな。まだ最後の仕上げが終わってない。戒、手を貸して。化粧を頼む、と。誓いのキスの練習するなら、指輪の交換の練習が先だよな?紙縒りで作った輪を戒の左の薬指へ。手を取って誇らしげに街外れへ



●男女逆転花嫁婿さま!
 俺は白いタキシードを着る、そんな断固たる強い意志を持って瀬古・戒(瓦灯・f19003)は祭りの準備が進むルブローデの街を歩いていた。その隣を歩くラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)はといえば、そんな彼女の意思を尊重して花嫁ドレスを着ることを心に決めていた。
「俺、絶対似合うよな」
「……そうだな」
 何が? なんて聞かなくてもわかる、とラファンが頷く。
「男女逆だけどさ、絶対この方が面白いじゃん?」
 ナイスアイディアだよな! と、ご機嫌そうに笑う戒に、ラファンが戒の意見全肯定BOTみたいな感じで頷いている。何せ、念願叶って漸く手の中に迎え入れた恋人なのだ、正直目の中に入れても痛く無いんじゃないかとラファンは思う。思うだけで言わないけど。
「俺タッパあるし、男装似合うっしょ?」
 元々、男と間違われることも多いし、自分には女らしい恰好よりも男っぽい恰好の方が似合うしと戒が頷く。
「戒は何を着ても似合うと思うが」
 正月に見た晴れ着姿は可愛らしかったとラファンは心底思っているし、実際に合っていた。
 きっと、ドレスを着たら身長もあるしかなり映えるのは間違いない、間違いないけれどラファンは戒にドレスの方がとは言わなかった。
 だって――。
「お、ここじゃないか?」
「ん?」
 戒に服の裾を引っ張られて、ラファンが顔を上げる。そこには、聞いていた店の名前と同じ看板が掛かっていた。
「さ、行こうぜ!」
 楽しそうな戒の後ろについて、ラファンも店へと入る。すぐに奥へと通されて、二人が目にしたのはずらりと並んだ白い衣装。
「へぇ、いっぱいあるんだな」
「どれにしたらいいのか、さっぱりわからないな」
 多すぎる、とラファンが唸る。これが戒の衣装だというのなら、どれだけでも見て探すのだけれど、自分のだと思うとどれでもいいなと思ってしまうのだ。
「店の人に聞いてみるか……」
「なんだ、それなら俺が選んでやろうか?」
 ラファンは身長俺と同じくらいだから、肩幅とか色々考えて――なんて、楽しそうに戒が衣装を選んでいる。戒が選んでくれるならそれでいいかとラファンが大人しく待っていると、すぐに戒が衣装を抱えてラファンの元へやってくる。
「これとかどう?」
 戒がラファンに当てたのはデコルテがばっちり見える袖なしのドレスで、腰の部分は後ろのリボンで結ぶタイプだからサイズの調整ができ、スカート部分はすらりとしたラインだが、動きやすいようにドレープで余裕があるもの。
「それにする、戒はどうするんだ?」
「ん-、俺はこれかな」
 戒が手にしたのはネクタイタイプのタキシードで、ラファンの髪色のようなアスコットタイの付いたもの。
「じゃ、着替えてくるからラファンも綺麗にしてもらってこいよ」
 軽いウィンク付きでそう言って、戒が奥の部屋に消えていく。
 俺の彼女がこんなにもかっこいい……そう思いながら、ラファンも戒とは違う奥の部屋へ入る。そこには着付け担当の店員が控えていて、事情を知っているからか何も言わずテキパキとラファンの花嫁姿を整えてくれた。
 整えてもらう間に、光夜祭の美味しい屋台や森でおススメの場所をぬかりなくリサーチすると、女性も快く答えてくれる。屋台はどれもお勧めだけれど、キャラメルポップコーンのお店は子ども達に人気で大人も並ぶのだとか、森ならば泉の傍が一番だけれど恋人と見るのなら大きな樹の枝の上も穴場だとか――。
「さ、出来ましたよ」
 手伝ってくれた女性がそう言うと、ラファンが礼を述べて胸の詰め物を確認してからベールを下ろし、元の部屋へと戻る。そこには既にタキシードに着替えた戒が、闇の救済者である彼らと仲良く話をして待っていた。
「戒」
「お、準備できたかラファ……うっはぁ美人ッ!」
 その叫びに、ラファンが一瞬びくりと肩を揺らしたが、よく見ようと近付いてきた戒を間近で見て固まった。
 ヤバい、タキシードの戒がカッコいい。キラキラオーラがすげぇしなんかもう素敵すぎて倒れそう……ベールを下ろしておいてよかったと、心底思いながら赤くなったラファンが戒の方が素敵だと頷く。
「いやいや肌白いし綺麗な髪だし似合うとは思ったが……え、すげ」
 花嫁の晴れ姿を見る花婿ってこんな気分なのか? と思いつつ、すげぇ嬉し……つか照れる……ヤバイなコレ……と、ラファンと同じようなことを考えて戒が唸った。
「どうした?」
「いや、パンツ何穿いてんのかなって。捲ってい?」
 パンツ、という単語を聞いてラファンの頬の熱がちょっと引いた。
 本気なのか緊張しているのか、そう考えて多分後者だなとラファンは思う。なので、こう……淑やかな感じで裾を掴んで。
「ここで確認するのか?」
 ちらっと捲って、膝上を見せた。
「ちょちょちょ待て冗談んんん!」
 慌てる戒にふっと笑って、なんてな? とラファンが言う。それから、最後の仕上げが終わっていないと続けた。
「仕上げ?」
「戒、手を貸して。化粧を頼む」
「化粧? おっけ、俺好みにしてやんよ」
 ニィっと笑った戒が場所を借りて、ラファンに化粧を施していく。
「もともと白いし、軽く下地と粉を叩いて……あとは口紅でいいか」
 腹立つくらい整ってんな、と思いながら紅を小指に取ってラファンの顎を持ち上げる。
「ラファン、軽く口空けて」
「ん」
 薄く開いた唇に、小指の先で紅をのせていく。
 あ、これ照れるやつだ……そう思いつつ綺麗に紅を引いてやると、ラファンに鏡を見せた。
「どうよ?」
「さすが戒、ありがとう」
 準備は整ったと立ち上がり、戒が手を差し伸べた。
「さ、お手を。エスコートするぜ、俺の嫁さん? 誓いのキスの練習でもしとく?」
 なんて、軽口を叩けばラファンがふっと笑みを浮かべる。
「誓いのキスの練習をするなら、指輪の交換の練習が先だよな?」
 そう言って、化粧台の上の紙を紙縒にして作った輪を戒の左の薬指へと嵌めた。
「あ、そか指輪……さ、さんきゅ」
 カァっと赤くなった戒の手を満足気に取って、誇らしげに裏口から裏通りへと向かう。タキシード姿の戒が何か言っているけれど、幸せな気持ちでいっぱいのラファンには何一つ気にならなかった。
 ああ、もし戒が花嫁衣裳を着ることがあるのなら、決してヴァンパイアの花嫁になる為なんかじゃなく、俺の為に着てほしいと願いながら戒の薬指に嵌まる白に笑みを浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エメロア・エフェトゥラ
【数奇2】

俺の猟兵としての初依頼だ。
偉大なる魔女の息子としては完璧にこなさないとな。…?雪蘭も手伝ってくれるのか?…その…頼りにしてる。
(まっすぐに顔を見ては言えずごにょごにょと)
(聞き返されて顔を赤くしてやけのように)
うっ…雪蘭、頼りにしている!!

俺が花嫁役なのか!?
タキシードもあるんだろう?ドレスの方が油断させられる?それは確かにそうだな…従者が主人を差し置いてと言うのも分かる。
では、頼む。
(着飾られていく姿には最後には納得して)
流石俺だな女装も似合う!

あぁ、ここからは慎重に行こう。
必ず依頼は成功させてみせる。
お母様の名にかけて、そして手伝ってくれた雪蘭の為にも。


麟・雪蘭
【数奇2】◎

妾も長く現世を揺蕩うてきたけれど、猟兵として赴くのは初めてですよぉ
ちゃぁんと出来るかしら?
ご主人だけじゃ難しいでしょうけどぉ
偉大なる魔女様は見守っている事でしょう
その意気ですよ
安心なさって、従者である妾もおりますので
何です?もう一回言ってくれます?(本当は聞こえてた

花嫁を連れ去る吸血鬼だなんてまぁ!
ロア様、出番ですよ
護衛はこの雪蘭めにお任せを

吸血鬼を油断させる為、花嫁になりきってこそ真実味も増すと主人を言いくるめ
闇の救済者と話し主人に最も相応しい白ドレスを選び化粧する
身体測定は不要
胸元に鈴蘭を飾る

さぁさ、鏡で今のお姿をご覧下さいませ
…ええ、よく似合ってますとも(哀れな私の愛し子よ



●初めてのお仕事は花嫁から
 どことなく緊張したような面持ちで、エメロア・エフェトゥラ(偉大なる魔女の息子・f31575)が大通りを目指す店に向かって歩く。その後ろから、薄っすらと笑みを浮かべた麟・雪蘭(堕天使の魔女・f31577)が付き従うようにして歩いていた。
「街の者は祭りの準備をしているのだな」
「そうですねぇ、街の者には今回のお話は伏せているのでしょう」
「そうか……悪戯に混乱を招かぬようにということだな」
 ヴァンパイアか、とエメロアが小さく呟くのを聞いて、雪蘭が頷く。
「この世界はヴァンパイアに支配された世界ですからねぇ。妾も長く現世を揺蕩うてきたけれど、猟兵として赴くのは初めてですよぉ」
「そうなのか?」
 はい、と雪蘭が頷くのを見て、エメロアが表情を僅かに明るくする。
「俺の猟兵としての初依頼だが、雪蘭にとってもなのだな」
「そうなりますねぇ」
 ですが、ご主人様がお受けになったお仕事ですから、しっかりと務めて下さいと雪蘭が軽く釘を刺す。
「勿論だ、偉大なる魔女の息子としては完璧にこなさないとな」
「ちゃぁんと出来るかしら?」
 雪蘭の言葉に一瞬沈黙が生まれるけれど、当たり前だ! と、エメロアが虚勢交じりに言ってのける。
「その意気ですよ。ご主人だけじゃ難しいでしょうけどぉ、偉大なる魔女様は見守っている事でしょう」
 いついかなる時でも、と雪蘭がエメロアに微笑んだ。
「安心なさって、従者である妾もおりますので」
「……? 雪蘭も手伝ってくれるのか?」
「ええ、ご主人様をサポートするのが妾の役目です」
 そう頷くと、エメロアの視線が宙を彷徨う。
「どうかなさいましたか?」
「いや、その……頼りにしてる」
 ごにょごにょとしたその言葉に、雪蘭が口許を隠して笑う。
「何です? もう一回言ってくれます?」
 聞き返してくる彼女に視線を向け、顔を赤くしたエメロアが自棄になったかのように叫ぶ。
「うっ……雪蘭、頼りにしている!!」
「ええ、お力になりましょうとも」
 よくできました、と言わんばかりの雪蘭の笑みに、エメロアが行くぞ! と前を向く。
「そちらではなく、こちらですけどぉ」
「わ、わかっている!」
 雪蘭が指さす場所に向かって、エメロアが歩き出した。
 すぐに目当ての店に到着し、中へ入り用件を告げると奥の部屋へと通される。
「白い衣装ばかりだな」
「必要なのは花嫁だからでしょう。それにしても、花嫁を連れ去る吸血鬼だなんてまぁ! ロア様、出番ですよ」
「え?」
 俺? という少し間抜けな顔をしたエメロアに、雪蘭が頷く。
「俺が花嫁役なのか!?」
「護衛はこの雪蘭めにお任せを」
 きちんと務めてみせましょう、ですからご主人様はドレスをと雪蘭がテキパキと衣装を選び始める。
「待て、雪蘭! タキシードもあるんだろう?」
「ええ、ですがドレスの方が油断を誘えるというもの。きっとヴァンパイアの僕も油断するでしょう」
「それは確かにそうだな……」
 従者が主人に護衛をさせるのも、というのもわかる。むむ、と考えた結果、エメロアは素直に雪蘭の案に頷いた。
「では、頼む」
 あっさてはこのご主人様チョロいですね?
「お任せ下さいませ、完璧に仕上げて見せますとも」
 満足気に頷いた雪蘭が、さっそく闇の救済者である協力者たちと話をし、エメロアに最も相応しいであろう白いドレスを選び取る。
「ご主人様にはこちら、マーメイドラインのドレスです」
 デコルテと背中が大胆に見えるタイプで、膝より下はフリルレースがふんだんにあしらわれている。更にファーの付いたレースのウェディングマントで気品もアップだ。
 着替えますよ、と言われるままに雪蘭の後ろをひよこのように付いていき、あれよという間に着付けから化粧まで施されて立派な花嫁の出来上がりである。
「さぁさ、鏡で今のお姿をご覧下さいませ」
「流石俺だな、女装も似合う!」
 鏡に映る、予想外に美しく仕上がった己の姿に大きく頷くと、胸元に飾られた鈴蘭が揺れる。
「……ええ、よく似合ってますとも」
 哀れな私の愛し子よ。
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、なぁんにも。さあ、参りましょう」
「あぁ、ここからは慎重に行こう」
 被りを振った雪蘭に首を傾げつつ、エメロアが案内されるままに裏口へと向かう。
「必ず依頼は成功させてみせる」
 お母様の名にかけて、そして手伝ってくれた雪蘭の為にも――。
 そう決意して、エメロアは扉を開けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント

【狼と焔】
護衛役で結希に同行

何、どちらが似合うか?両方を見て悩み…
「…良い衣装を選んだな。どちらもお前によく似合いそうだ」
素直に答えたが却って迷わせるかと、助け舟は無いと知りつつ結希のwithへ視線を向ける
しかし衣装選びに付き合うのは嫌ではない、楽しそうに悩む様子は見ていて飽きない

ドレスを着て喜ぶ姿に自然と目元が緩む
…花嫁衣裳という物は、こうして花嫁の笑顔が咲いて初めて完成するのかもしれないな
「ああ、似合っている。とても綺麗だ」
世辞ではなく、そう思う

預かったwithをいつも結希がしているように背に負う
別れを惜しむ結希を宥めるが、大切な存在だとも十分に理解している
責任をもって預かる、任せてくれ


春乃・結希
【狼と焔】

ダクセは大嫌いな絶望の世界
旅するときはいつも闇に負けないように気を張ってけるど…
でも、今日は違います!
憧れてたウェディングドレスを着ることが出来るなんて…
デザインもレースがいっぱいのから、落ち着いた感じのやつまで…うわぁ迷う…
ねっ、シキさん、『with』、どっちが似合いますかっ?

テンション高めで選びつつ、着替えたらお披露目!
どうどうっ?今の私、最高に綺麗なのでは~?

でもこのドレスやと『with』はうまく振るえないし
花嫁が剣持ってるのも怪しいかもなので
恋人とのしばしの別れを惜しみつつ、シキさんに預かって貰います
うぅ…『with』…シキさんとも仲良くするんだよ…私のこと忘れないでね…っ



●いつかの為の
 キリッとした気を引き締めたような顔をして、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)がシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)と街の大通りを歩く。
「相変わらずこの世界は絶望の匂いがしますけど」
「ああ、そうだな」
 でも、と結希は祭りの準備に賑わう街を見渡し、それからシキを見上げた。
「今日はちょっと違います!」
 きらり、と瞳を輝かせて結希が笑みを浮かべる。
「街はお祭りの準備で活気がありますし、何と言っても」
 憧れていたウェディングドレスを着ることが出来るなんて……! そう言って、結希が小さくガッツポーズを決める。猟兵とは言え、結希はお年頃の女の子、ウェディングドレスという言葉に思わず笑顔が浮かんでしまうのも無理からぬことだった。
 護衛役として同行したシキも、そんな微笑ましい結希の笑顔に思わず笑みを零して頷く。
「仕事とはいえ、楽しめる部分は楽しむのが一番良い」
「うへへ、ありがとーシキさん!」
 花嫁衣裳も楽しみだけれど、夜に行われるという祭りも気になる。旅をする時はいつも闇に負けないように気を張っているけれど、今日くらいは少しだけ浮かれても許されるはず。
 いつになくわくわくとした気持ちを膨らませ、結希はシキと共に長老の家で教えられた街一番だという服屋へ向かった。
 カランというベルの音と共に扉を開けると、すぐに用件を聞いてくれた店主が奥の部屋へと通してくれる。そこは既に何人かの猟兵が衣装を選んでいたり、闇の救済者であろう人やお針子の女性たちがその手伝いで動き回っているのが見えた。
「わぁっ、ドレスがいっぱいですよ、シキさん!」
「思ったよりも種類があるんだな」
 花嫁衣裳だけでなく、男性用のタキシードやシンプルな白いワンピースなど、様々な要求に応えようとする服屋の意地が見受けられる。
「こんなに沢山あると、どれにしようか迷う……」
 レースが沢山付いているもの、落ち着いたデザインのもの、可愛らしいものまで、とにかくどれにしようかと目があちこちと彷徨ってしまう。
「時間までなら、どれだけ迷っても構わないから好きなのを選ぶといい」
「はい!」
 とてもいい返事をして、結希が片っ端からドレスを一つ一つ身体に当てては戻してを繰り返し、どれがいいか選んでいく。
「うーん、これか……こっちか……」
 真剣な表情で悩んでいる彼女の手には袖のないプリンセスラインのドレスと、付け袖の付いたAラインのドレス。どうしても決められないと、シキに向かってドレスを見せた。
「ねっ、シキさん、with、どっちが似合いますかっ?」
 突然の問い掛けに、シキが目を瞬かせてから両方のドレスをじっくりと眺める。袖のない方のドレスは胸元はシンプルだけれど、スカート部分はオーガンジーのフリルをたっぷりとあしらった可愛らしさのあるドレス。付け袖がある方は胸元にボリュームのあるフリルが付いていて、スカート部分はシンプルだけれど大人っぽさが見えるドレスだ。
「……良い衣装を選んだな。どちらもお前によく似合いそうだ」
 素直にどちらも似合うと答えたけれど、却って迷わせただろうかと結希の持つwith――漆黒の大剣へと視線を向ける。withが語ってくれるようなことがあるわけもなく、助け船は無いに等しいのだが結希からすれば、それはそれで参考になったようで。
「うーん、じゃあwithの言う通りで!」
 どちらにしようかな、で選び始めた結希にシキが小さく笑っていると、こっち! と、プリンセスラインの方のドレスを選ぶ。
「着替えてきますねっ!」
「ああ、ごゆっくり」
 意気揚々と着替えにいった結希を眺め、衣装選びに付き合うのも悪くないなとシキが笑った。
 暫くするとドレスに着替えた結希がwithと共に現れて、シキの目の前に立つ。
「どうどうっ? 今の私、最高に綺麗なのでは~?」
 テンション高めに喜んでいる結希に、シキの目元が自然と緩む。
「ああ、似合っている。とても綺麗だ」
 シキの心からの言葉に、結希が満足そうに笑う。その笑顔に、花嫁衣裳という物は、こうして花嫁の笑顔が咲いて初めて完成するのかもしれないな……とシキがしみじみと感じ入る。
「でも、このドレスやとwithはうまく振るえないし、花嫁が剣を持ってるのも怪しいかもだよね……」
「そこは仕方がないだろう、俺が預かろう。戦闘が始まったら渡せばいいか?」
「うぅ……」
 最愛の恋人である大剣を胸に抱き、結希がwithとの暫しの別れを惜しむようにして顔を上げる。
「with、シキさんとも仲良くするんだよ……私のこと忘れないでね……っ」
「ほんの少しの間だ、結希。それに隣にはいるのだから……な?」
 恋人との別れを惜しむ結希を宥め、シキがwithを預かると彼女がしているように背負う。
「うー……シキさんが女の人じゃなくて良かった……」
 もし女の子だったら嫉妬の炎が噴き上がるところでした、セーフ! と結希が頷く。
「俺も男でよかったと思う」
 大事な剣を預かる栄誉に預かれたんだからな、とシキが笑った。
「責任をもって預かる、任せてくれ」
「はい、シキさんにならお任せできます、よろしくお願いしますね」
 少し落ち着いたのか、結希がベールを被って準備を整えると、いざ出発! と声を上げて裏口から裏通りへ向かう。それに続くように、シキもwithと共に歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華恋》


この世界の人が「花嫁」を口にする時
意味は二つ考えられます
一つは祝福の言葉
もう一つは…生贄の隠語…

ありがとう
燦となら幸せになれると思う


純白のドレスを衣装屋さんと燦に仕立ててもらう
(綺麗な感じの詳細な描写希望)

着せ替え人形状態になるも
初詣の依頼『迎春に屍彩る雪化生』を思い出し微笑む

燦が楽しんでくれて嬉しいです

燦の覗き見は気付かないフリ
大目に見ます

燦は背が高いですしエンパイアラインはどうかしら?

燦のドレス姿と
微かな石鹸の香りに
以前なら何とも思わなかったのに
今は少しときめき

燦も野性的な魅力に溢れて
とても似合っていますよ

リボンと交換で私の髪の花を一輪
燦の髪に挿す

指輪交換みたいね
燦に主の加護を…


四王天・燦
《華恋》

一部の高位妖怪でも花嫁と呼ぶ贄はある
ただ幸せがないのは嫌だわ
シホは幸せにする―いや、一緒に幸せになろうぜ

さて花嫁作戦だ
二人で綺麗な衣裳を着たい

仕立屋さん顔負けでシホに衣装を勧めまくるぜ!
ゴスロリやノーブル、村娘風など
必要性?
アタシが見たいんです (≧◇≦)
可愛いもん!

下心で着替えをチラ見
綺麗…
でも格差も感じ偽乳を入れ直すぜ

シホの勧めるドレスを試着
髪をかき上げて決める!ふっ―
あは、シホの方が綺麗だね

最終的に二人とも純白で決めるよ(綺麗な描写希望)
口紅を差し、石鹸の香りをさせシホを誘惑
実際はアタシの方が魅了されてる

自分のリボンでシホの髪を結うぜ
指輪交換と言われてドキドキ
シホに稲荷神の祝福を



●幸せな花嫁になる為に
「この世界の人が『花嫁』という言葉を口にする時、意味は二つ考えられます」
 今宵行われるという、光夜祭の準備に活気を見せる街を歩きながら、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)が隣を歩く四王天・燦(月夜の翼・f04448)にそう囁く。
「一つは祝福の言葉、もう一つは……生贄の隠語……」
 ヴァンパイアに支配されたこの世界では、珍しい話ではない。
「……一部の高位妖怪でも花嫁と呼ぶ贄はある」
 でも、と燦が足を止めてシホを見た。
「幸せがないのは嫌だわ」
「そう……ね、花嫁は幸せであるべきだもの」
 シホの髪に咲く、エーデルワイスが揺れる。風で僅かに乱れた彼女の髪を手櫛で直して、燦が笑みを浮かべた。
「大丈夫、シホはアタシが幸せにする――いや、一緒に幸せになろうぜ」
 その言葉に、シホの唇にも笑みが浮かぶ。
「ありがとう、燦となら幸せになれると思う」
 あなたが私を幸せにしてくれるなら、私があなたを幸せにするとシホが心に誓って、再び歩き出す。目指すはこの街一番の服屋、そこで花嫁衣裳を借りるのだ。
「あれかな?」
「聞いた通りの建物だから、そうだと思いますよ」
 よし、と気合を入れた燦が扉を開けると、カランというベルの音が響いて店主がやってくる。用件を伝えれば、すぐに二人を奥の部屋へと通してくれた。
「へえ、衣装いっぱいあるじゃん!」
 選び甲斐がある、とシホを見て燦が笑う。
「……燦?」
「花嫁作戦だ、二人で綺麗な衣装を着るぞ」
 勿論、シホのはアタシが選ぶからな! と燦が言い切る。
「ええ、それは構わないけれど」
「よし、まずはこれからだ」
 さっそく、とばかりに燦が目に付いた衣装を鏡の前に立たせたシホに当てていく。
「白いゴスロリ風ドレスなんかどうだ?」
 クラシックなリボンにレースとフリルが胸元や袖を飾る膝丈のドレスに、頭にはフリルの付いたボンネットで完璧だぜ? と燦が言う。
「でもこれ、いつも着ているものとあまり変わらないし、花嫁とは少し違うような……」
「じゃあこっちだ!」
 高貴で上品に見えるノーブルドレスは袖がふんわりと膨らんで、ウエストで切り替えられたラインが綺麗だけれど。
「これも花嫁さはあんまり……?」
「ん-、こっちもシホに似合うぜ」
 村娘が着ていそうな、ディアンドル風の白いドレスも捨てがたいと燦が真剣な表情でシホの身体に当てる。
「……燦? 必要性が感じられないような」
「必要性なんて知らない! アタシが見たいんです!」
 にぱ! とした天真爛漫な笑みを浮かべて燦が言い切る。
「だって可愛いもん!!」
 シホは何を着ても可愛い、これはこの宇宙の真理だからと燦が頷いた。
「もう……燦が楽しんでくれて嬉しいです」
「アタシの嫁がこんなにも可愛い……!」
 ぐっと唇を嚙み締めた燦に、シホが笑う。それから、そういえばこんな風に着せ替え人形になったことが前にも……と、初詣に行った時のことを思い出して、また一つ微笑んだ。
「燦、私に似合う純白のウェディングドレスを選んでくれるかしら?」
「勿論だぜ!」
 そこからはウェディングドレスに的を絞って、燦があれでもない、これでもないと真剣な表情でシホにドレスを当てていく。そして、最終的に燦のお眼鏡に適ったのはレースのふわりとした付け袖の付いた、ビスチェタイプのAラインのドレス。
 幾重にも重ねられたボリュームのあるフリルのレースにはエーデルワイスの花が刺繍されていて、まるでシホの為に誂えたかのようだった。
「綺麗……ありがとう、燦」
「早く着ているところが見たい!」
「その前に、燦のドレスも選ばないとね」
 そう言って、今度は私の番だとシホが燦の為にドレスを選ぶ。
「燦は背が高いですし、エンパイアラインはどうかしら?」
 じっくりと一着一着を眺めていたシホが、これと決めたドレスを手に取る。それは胸元で切り替えられたハイウェストのウェディングドレスで、シフォンジョーゼットがとろりと流れるスカートのラインを出し、透け感のあるレースが美しいシンプルなのに気品のある一着だった。
「シホが選んでくれたなら、なんだって着る! 行こう、シホ」
 二人でドレスを手にし、着替えとサイズ調整の為の部屋へと入る。着替え始めれば気になるのはシホの柔肌で、燦が思わずチラ見をすれば目に眩しい白い肌が見えた。
「綺麗……」
 思わず呟いた言葉はシホに届いていたのだろう、けれど覗き見には気付かないフリをして、シホは大目に見てあげることにした。
「いやでも格差もすごい……」
 全部聞こえているのだけれど、燦は気付かないようでせっせと格差を感じる個所に詰め物を入れている。格差を無くして、さあどうだとばかりに髪を掻き上げて決めてみせた。
 それから、シホのウェディングドレス姿に目を細めて。
「あは、シホの方が綺麗だね」
「燦も野性的な魅力に溢れて、とても似合っていますよ」
 そう言って、二人で笑った。
 着替え終わると、今度は化粧をしようと鏡のある台の前に二人が向かい合わせになって互いに化粧を施す。シホが燦に口紅を差すと、今度はアタシがと燦が口紅を手にしてシホの唇に当てる。
 目を閉じれば微かな石鹸の香りがして、以前なら何とも思わなかったのに今は少しのときめきを覚えてシホが頬を僅かに染めた。
 そんなシホを見て、誘惑するつもりがアタシの方がシホに魅了されてると、燦が小さく笑う。
「シホ、髪を結うぜ」
 しゅるりと自分の白いリボンを解き、手早くシホの髪を纏め上げ、リボンで結ぶ。
「では、燦にはリボンと交換で私の髪の花を」
 エーデルワイスの白い花が燦の耳元へと飾られて、くすりとシホが笑う。
「まるで指輪交換みたいね」
「ゆび……っ」
 どきんと跳ねた胸を押さえて、燦が息を整える。そうして、最後に互いにベールを被せて鏡の前で額をくっ付けて祈った。
 どうか、燦に主の加護を。
 どうか、シホに稲荷神の祝福を。
「それじゃあ、行くとするか! お手をどうぞ、花嫁さん」
「ええ、行きましょう。ありがとう、花嫁さん」
 互いの手を取り合って、裏口から裏通りへと抜ける。
 行き先は教会ではないけれど、それは、いつかきっと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
花嫁衣装に身を包み、護衛役のヴォルフに守られて
思い出すのは嘗ての境遇

わたくしの故郷は、裏で領土を支配する吸血鬼に
花嫁という名目で若い娘を生贄に差し出すことで仮初の平和を得ていた
わたくしも例外ではなく、彼の許に差し出され……

しかし婚礼に至る前に、彼はわたくしの故郷を滅ぼした
「皆で平和に暮らしたい」と願う言葉に怒り
俺だけに愛を捧げろと
家族や故郷にすら愛を抱くことも許さぬと
家々を焼き払い、家族も領民も皆殺しにして

喪われた命は二度と戻らない
だけど、今ならまだこの街の悲劇は止められる

わたくしが操を捧げるのは最愛の夫、ヴォルフのみ
共に戦う覚悟は出来ています
もう二度と、暴虐に泣く人を増やさぬために……


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

ヘルガの護衛役として同行

今も思い出す
故郷を滅ぼされた後、命からがら追手から逃げ惑う彼女の姿
白いドレスは泥に汚れ、全てを失って憔悴していた
今にも折れそうなほどにか弱い雛鳥

それでも、逃げ延びることが出来ただけ彼女は幸運だったのかもしれない
逃げることすら叶わなかった『花嫁』たちの数は計り知れない
彼女たちの末路など……伝え聞いただけでも身の毛もよだつものばかりだ

ヘルガ、俺は騎士として、そして何より夫として
必ずお前を守り抜く
花嫁とは、愛する夫と人々に祝福され、
笑顔と幸福に包まれるべきものなのだ
俺と結ばれた日のお前のように

嘗てのような悲劇を繰り返さぬために
その想いを、決して踏み躙らせはしない



●あなただけに捧げる愛を
辺境の街、ルブローデ。この街に着いてから、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の表情は心なしか暗い。それを慮ってか、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は片時も離れぬよう傍にいた。
「ヴォルフ、あれは祭りの準備かしら」
「ん? ああ、そのようだな」
 大通りに面した建物の軒下にランタンが吊るされ、ささやかながら屋台のような物の準備がされている。
「この街にはまだ、希望があるのね」
「それを守る為に俺達が来たのだからな」
 はい、と漸く見せた妻の笑顔にヴォルフガングも小さく笑みを零す。そして、目的地である建物の前で足を止めた。
「ここのようだな」
「ええ、聞いていた通りの建物だわ」
 そこはこの街一番の服屋で、今回猟兵達に花嫁衣裳などの白い衣装を貸してくれるのだという。カラン、とベルの音を鳴らして中へ入ると、すぐに店主がやってきて話を聞くと奥の部屋へと二人を通してくれる。
「まぁ……」
 目の前に広がるのは白、白、白。何処を見ても白い衣装が並んでいて、辺境の街とはいえこの街一番だというのが見て取れた。
「選びきれないほどの衣装ね」
「ウェディングドレスだけではないのだな」
 タキシードに子ども用のドレスまで、猟兵達に合わせたかのように様々な衣装が用意されている。この中から一着だけを選ぶのは、中々に大変そうにも見えた。
「ヘルガ、好きなものを選ぶといい」
「ええ、少し待っていてね」
 そう言ってヘルガがドレスを手に取るのを、ヴォルフガングは穏やかな瞳で見守る。少々悩んだようだが、それでもヘルガが手にしたのは純白のウェディングドレスで、あの祝福された日を思い起こさせるような美しいものだった。
 ウェディングドレスに着替えたヘルガは美しく、思わずヴォルフガングが見惚れてしまうほど。
「ヴォルフ?」
「あ、ああ。綺麗だ、と思ってな」
 夫からの言葉に、ヘルガが花のような笑みを零す。
「ありがとう、ヴォルフ」
 ベールを身に着け、薄く紅を差す。準備が出来たと言えば、ヴォルフがヘルガをエスコートするかのように裏口へと向かい、そこから裏通りへと出た。
 裏通りは祭りの準備がされた表通りとは違い、ダークセイヴァーのどこか昏い空気を思わせる重さがあって、思わずヘルガがその腕を掻き抱く。
「ヘルガ?」
「ごめんなさい、あの時のことを思い出してしまって……」
 そう言われてヴォルフが思い出すのは、ヘルガが故郷を滅ぼされた時のこと。
 命からがら追手から逃げ惑う彼女の姿。白く美しいドレスは所々破けて泥に汚れ、何もかもを失ったと憔悴していたヘルガは今にも折れそうなほどにか弱い雛鳥のようだった。
 それは、ヘルガの悲しい過去であり、ヴォルフとの出会いの物語でもある――。
 ヘルガの故郷は裏で領土を支配するヴァンパイアに花嫁という名の生贄を捧げることで、仮初の平和を得ていた街。この世界では何も珍しいことではなく、そうやってしか生き延びる術がない村や街は幾つもある。
 若い娘は特にその犠牲になることが多く、ヘルガも例外ではなくヴァンパイアの許に差し出されたのだ。
 故郷を守る為であれば、と震える身体と心を奮い起こしていたけれど、ヴァンパイアはその約束を守ることなく婚礼に至る前にヘルガの故郷を滅ぼした。
 たった一言、ヘルガが漏らした『皆で平和に暮らしたい』と願う言葉に怒りを示したのだ。
『俺だけに愛を捧げろ、家族や故郷にすら愛を抱くことも許さぬ』
 あの時の冷たく悍ましい声を、ヘルガは生涯忘れることはないだろう。そして、その言葉の通りにヘルガの故郷を焼き払い、家族も領民も全て、女子どもも容赦なく皆殺しにした、あの男の顔を――。
 そして、ヘルガを救い出してくれたヴォルフガングの温もりを。
「ヴォルフ」
 寄り添うようにヘルガを支えていたヴォルフガングに、ヘルガがその身を預けるように凭れ掛かる。
「大丈夫だ、俺がいる」
 ヘルガの肩を抱き、ヴォルフガングがそう囁く。
 逃げ延びた彼女を救い、彼女の癒しの軌跡に助けらた自分は幸運だったのだと思う。逃げることすら叶わなかった花嫁達の数は計り知れず、その末路は伝え聞いただけでも身の毛もよだつものばかりだ。
「ヘルガ、俺は騎士として、そして何より夫として必ずお前を守り抜く」
「ヴォルフ……」
 花嫁とは愛する夫と人々に祝福され、笑顔と幸福に包まれるべきものだとヴォルフは力強く頷く。
「俺と結ばれた日の、お前のようにな」
「ええ、わたくしはあの日からずっと幸せの中にいるわ」
 一人ではない、あなたとならどんなに辛いことがあっても歩いてゆける。
 失われた命は二度と戻らないけれど、今ならまだこの街の悲劇は止められるのだとヘルガが顔を上げた。
「あなたと共に戦う覚悟は出来ています」
 わたくしが操を捧げるのは最愛の夫、ヴォルフのみ。
「ああ、嘗てのような悲劇を繰り返さぬために、共に行こう」
 もう二度と、暴虐に泣く人を増やさぬ為に。
 その想いを、決して踏み躙らせぬ為に。
 二人は手を取り合い、街外れに向けて歩き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠神・華蘭

うーん人間のものは……自分で用意しては駄目でしょうか?

装束を白無垢の和装に【化術】で変化させます。
頭にはベール付きの綿帽子を。
尻尾は小さくして服の中へ。綿帽子でたぬ耳も隠して人間のふりです。

折角だからUCでどばっと大行列といきたいところですが……。
既に列をなされる方がいらっしゃる様子ですし、五匹ほど人間の姿に化けさせて付き人召喚です。
夜ですから、四匹は明かりの提灯持ちでわたくし達の前後を照らしてもらいましょうか。
残り一匹はわたくしの傍に。鉈を袋に入れてついてきてもらいます。
嫁入り道具は大事ですよね、ふふふ……。

ついでに天気をちょっぴりの天気雪にしちゃいます。
雰囲気作りと鉈に力を込めるために。



●雪降る花嫁
 狸の尻尾をふるりと揺らし、隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)がルブローデの街を歩く。
「お祭りの準備ですかー、いいですねぇ」
 ヴァンパイアに支配されている世界でも、人は逞しく生きているんですねと華蘭が笑みを零す。
「でも、それに水を差すのがヴァンパイア……向こうは大したことだとは思ってないでしょうけど」
 支配者という者は得てしてそういうものだ、末端の村や街に大した興味などない。ただ順番だから使いを寄こしただけなのだろう。
「花嫁が来なくても、そう言えば来ないな? 程度な気がしますねぇ」
 そんな戯れで街が潰れるのはごめんですけど、と華蘭が呟いた。
「あ、こちらですねぇ」
 聞いていたお店の扉を開けて、こんにちはーと店の中へ声を掛ける。すぐに店主が出て来てくれて、用件を伝えると奥の部屋へと通された。
「あら、白い衣装尽くしです」
 白を基調とした洋服から、ウェディングドレスにタキシード、サイズも様々。けれど、一通り目を通して華蘭が腕を組んで小さく唸る。
「うーん、人間のものは……自分で用意しては駄目でしょうか?」
 それでも構わない、必要な物があれば使ってほしいと店主が言うと、礼を言って華蘭が着替えの為の部屋へと引っ込んだ。
「ウェディングドレスも素敵だとは思いますけど、やはりここは純和風で参りましょう」
 着ている装束を化術によってどろん! と白無垢の和装に変化させ、オーガンジーのような素材で作った透け感のある綿帽子を被る。
「尻尾は小さくして服の中へ、綿帽子でたぬ耳も隠して……これなら人間に見えます!」
 鏡を覗き込んで満足気に華蘭が頷くと、街外れに乗り込むぞと裏口から外へ出た。
「裏通りは表通りと違って寂しい感じですけど、ここならいいでしょうか」
 折角の花嫁御寮だ、付き人が欲しい。
「どばっと大行列といきたいところですが……護衛が多すぎても警戒されるかもですし」
 そう、五人ほどが丁度いいだろうか。そうと決まれば華蘭の力で、付き人を召喚するのみ。
「この怪異、狐だけが出来るわけではないのですよぉ、ふふふ……」
 そう笑うと、華蘭の喚び掛けに応じて人間の姿に化けた化け狸が現れた。
「四匹は提灯持ちですよ、わたくし達の前後を照らしてください。残りの一匹はわたくしの傍に」
 華蘭の命を受け、化け狸達が指示の通りに動く。華蘭の傍へと来た者へ、白い袋に入れた鉈を渡して華蘭が笑う。
「嫁入り道具は大事ですよね、ふふふ……」
 随分と物騒な花嫁道具だけれど、ヴァンパイアの僕相手には丁度いいだろう。
「そうです、ついでに天気をちょっぴりの天気雪にしちゃいますか」
 雰囲気作りもできて、鉈へ力を込めれるなんて、一石二鳥ですと華蘭が頷く。
 そうして、ひらりふわりと淡雪が舞い落ちる中、花嫁御寮が出立する――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◎
ったく相変わらずヴァンパイア共は悪趣味なことするよな…
まぁその悪趣味のおかげでこうして付け込む隙があるわけだが

俺たちの場合は護衛としてついていくのが無難だろうな
…お前、俺の話聞いていたか!?
俺の花嫁姿とか誰得だそれ!
あーもう…ならお前も花嫁やるって言うなら聞いてやる!

……と言えば引き下がると思っていたのに
お前の何がそんなに俺のタキシード姿を見ようと駆り立てるんだ
腹を括ってタキシード服に身を包む

綾は普段黒っぽい服しか着ていないから
真っ白いタキシード姿は何だか違和感がすごいな
…俺もこいつも、いつか本来の意味で
この衣装を纏う日が来るんだろうか…若干複雑な思い
うわっ!?(グラサン外され


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
元凶であるヴァンパイア本人は
今回は倒せないっていうのが正直歯痒いよね
ま、手抜いて下僕に任せたことを後悔させてあげようか

ねぇねぇ梓、花嫁やってよー
何となくその方が面白そうじゃない?
大丈夫、ドレスじゃなくても白っぽい衣装なら良いらしいし
見てみたいな~梓のタキシード姿~

そして仲良く一緒にタキシードを借りることに
梓のタキシード姿の為ならね、仕方ないよね

さすが梓、背高いからよく似合う
俺の目に狂いは無かったね
…でもそのグラサンは今回はマイナスだね
えいっと外してやる
真っ黒いレンズの奥には
鋭いけど優しい紅い瞳が隠れていることを俺は知っている
ああでも、俺だけが知っているのも悪くないな



●花嫁で、花婿で
 ルブローデの街はダークセイヴァーでも辺境に位置する街だが、街の規模としてはそれなりのもの。大通りは普段であってもそこそこの賑わいがあって、それがお祭りの当日ともなれば朝から準備でいつも以上の人が見受けられた。
「辺境だって言うわりにはそこそこ栄えてるな」
「だからヴァンパイアに目を付けられたんじゃない?」
 乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が何気なく漏らした言葉に、その隣を歩く灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が答える。
「ああ……なるほどな。それにしても祭りの当日に花嫁を寄こせだなんて……ったく、相変わらずヴァンパイア共は悪趣味なことするよな……」
「あいつらが悪趣味じゃなかったことなんかなくない? あーあ、元凶であるヴァンパイア本人は今回は倒せないっていうのが正直歯痒いよね」
 もういっそのこと本拠地まで行って叩けたらいいのに、と綾が不満を零す。
「まぁ、その悪趣味と手抜きのおかげでこうして付け込む隙があるわけだが」
「そうだね、手抜いて下僕に任せたことを後悔させてあげようか」
 そんなことを他の者に聞こえぬように、小声で話しつつ二人が街を歩く。目指すはこの街一番と言われる服屋、そこへ行けば白い衣装が借りれるのだという。
「何度も言うんだが」
「だめ」
「やっぱり俺たちの場合は、誰かの護衛としてついていくのが無難じゃないか?」
「だーめ、その話はさっきもしたからね」
 往生際が悪いよね、なんて綾が言うものだから、梓も思わず言い返す。
「俺の話を聞いていないのはお前の方だろ!」
「何言ってもだめー、梓が花嫁役をやるのは決定だよー。大丈夫、ドレスじゃなくても白っぽい衣装なら良いらしいし、タキシードとかなら抵抗ないよね?」
「俺の花嫁姿、もといタキシード姿とか誰得だそれ!」
 俺得です~、だって絶対面白そうだし、と綾が笑っている。
「この……あーもうわかった! なら、お前も花嫁やるって言うなら俺も黙って聞いてやる!」
 そう言えば引き下がるだろうと思ったのだが、綾がきらんとサングラスの下の瞳を輝かせて梓を見た。
「ほんと? 俺も花嫁役やるなら、梓もタキシード着てくれる?」
「う……まぁ……?」
「よし、言質取ったからね。俺と一緒にタキシードだよ梓」
 梓のタキシード姿を見る為なら、それも仕方のないことだと綾が頷く。
「……お前の何がそんなに俺のタキシード姿を見ようと駆り立てるんだ?」
「え? 好奇心……かな?」
 好奇心は猫を殺すんだぞ、という言葉を飲み込んで、梓が不承不承で頷いた。
 服屋に到着すると、すぐに話が通って奥の部屋へと案内される。そこにはずらりと並んだ白い衣装、もちろんウェディングドレスが多いがタキシードもしっかりと用意されていた。
「結構種類があるんだな」
「梓の身長にあうタキシードあるかなー?」
 どれどれ、と綾がタキシードが纏められているラックに手を伸ばし、梓に当てて選んでいく。
「これなんか良いんじゃない?」
 真っ白なタキシードに白いネクタイ、オーソドックスなタキシードだ。
「んじゃそれにするか。綾はどうするんだ?」
「ん-、俺は……これかな」
 同じような白いタキシードに、白いアスコットタイを手にして綾が梓に見せる。
「あんまり違いがわからんな」
「着てみればわかるんじゃない?」
 さあさあ、試着試着! と、綾が梓を引っ張って更衣室になっている部屋へと向かった。
 互いが着替えて出てくると、綾がキラキラとした瞳で梓を褒める。
「さすが梓、背高いからよく似合う。俺の目に狂いは無かったね」
 うんうん、と随分と満足気だ。
「俺はどう?」
「ん-、綾は普段黒っぽい服しか着ていないから、真っ白いタキシード姿は何だか違和感がすごいな」
 似合ってないわけではないが、見慣れない姿というのはどうも調子が狂う、ような気がすると梓が眉根を寄せた。
「そんなの、そのうち見慣れるよ」
 くすくすと綾が笑って、小物を取りに梓の元を離れる。その後姿を眺めながら、梓が思わず呟く。
「俺もこいつも、いつか本来の意味でこの衣装を纏う日が来るんだろうか……」
 それはそれで、なんだか複雑な気分だなと溜息を零すと、綾が戻ってきて首を傾げる。
「溜息なんかついてると、幸せが逃げるらしいよ?」
 そう言いながら、梓のタキシードの襟元に花の飾りを付けた。
「ほら、お揃い」
 同じものが、綾の襟元にも揺れている。
「あとはー……そのサングラス、今回はマイナスだね」
「え?」
「えいっ」
 梓がきょとんとしている間に、綾が梓の黒いサングラスを外す。
「うわっ!?」
「タキシードならそっちの方がいいよ」
 いつもはサングラスの奥に隠されている、紅い瞳。それが鋭いけれど優しいことを綾は知っている。
「無いと落ち着かないんだが!? それに、そう言うならお前も外せよ」
「俺のは赤いからねー」
 ああ、でも。その瞳は俺だけが知っているのも悪くないな、なんて考えながら綾は梓から奪ったサングラスを掛け直してやった。
「ベールを被ればサングラスは目立たない、かな?」
 そう言って、今度はベールに手を伸ばして梓の頭に被せ、自分も同じものを被る。
「タキシードにベールか……」
「ドレスにベールの方が良かった?」
「こっちでいい」
 渋々そう言った梓に、綾が笑う。
「そろそろ行こうか?」
 準備が整えば、後は街の外れへ向かうだけ。二人はタキシード姿にベールを被り、裏口から裏通りへと足を向けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
【花燭5】

吸血鬼より皆の花嫁姿見に行く
花嫁姿で戦うって素敵なんだろうなぁ

俺様も花嫁?花婿?っぽくするけど
肌の色とかでちょっと皆と違う感じかも
白を基調とした民族っぽい柄の布を纏う礼装
エキゾチックな感じにしてみよう
頭にも布を巻いて縁の飾りがしゃらりと鳴る
ぱっと見は男か女かわかんないかもね

わ~~みんな綺麗な花嫁になってる
写真撮らせて?ってパシャパシャ

ニーナちゃん気合入ってる
花嫁に抱く感想かわかんないけど、強そう
千鶴くんも綺麗だよ
ベールおし上げてみたくなっちゃう
ちおりちゃんの貴重な洋服!
レースも綺麗だし変じゃないよぉ
ヴォルフくんはドレス…じゃなかった(残念
スマートっぽくて似合う
みんなとっても素敵だねぇ


宵鍔・千鶴
【花燭5】

御所望なら成りきってあげるけど
俺から渡すのは死の口吻だけ

白のタキシードにベストとタイは淡い薄紅色
少しだけど、花嫁らしい華やかさを意識して
コサージュは誰かに見立てて貰おうかな
最後に長めのマリアベールで顔隠して

皆の純白の装いに感嘆して
ヴァンパイアにくれてやるなんて
惜しいくらい、綺麗だね?

ニーナは宵に咲く艶やかな赫色と白が色気あるね
千織も勿論似合ってる、上品なドレスが大人の
きみによく映えるし
ヴォルフは…あっ、(ドレスじゃなかった
身長高いし白服にベールが目立って綺麗だ
ロキ…!えきぞちっく、ってやつだね
異国風も素敵だなぁ
ニーナが見立ててくれたブルースター
青い花を胸元に飾り

花嫁5人で記念に一枚を


橙樹・千織
【花燭5】

ふふふ、頼もしいですねぇ
みなさんを吸血鬼なんかには渡しませんとも

あらあら
随分と色々種類があるのですねぇ
繊細なレースがあしらわれたアメリカンスリーブのものを選び
ヴェールを被って目線を隠す
えぇと…変ではないです?
慣れない洋装にそわそわ
ブーケは撫子とビスカリアを中心に

ニーナさん艶やかで素敵ですよ
白の中にある紅がとても映えますねぇ
ヴォルフガングさんは…あら、素敵なベストとコート
ヴェールの下が気になりますねぇ
千鶴さんもタキシード似合ってますよ
ネクタイの桜色も綺麗、あらブルースター、いいですね
ロキさんの異国風な衣装も素敵
神秘的ですし、ほんと美人さんですねぇ

みなさんとても魅力的ですよ、とふわり


ニーナ・アーベントロート
【花燭5】
相手の舞台に乗っかって、楽しみながら本気で戦う
そういうの好きなんだよね
形式だけとはいえ気合い入れてこ

身に纏うのは、大胆に肩を出すタイプの純白ドレス
首筋からデコルテにかけて美しく魅せて

ブーケはやっぱり白百合かな
可憐で清らかで…毒もある花
吸血鬼のお嫁さんにはぴったりでしょ
笑む口許には蠱惑的な紅ひいて
夜の帳と衣裳の彩に、よく映えるよう

大丈夫だよ千織さん、とっても似合ってる
愛らしさに眦緩めて
ヴォルフさんの装いも凛々しくてすてき
世界一綺麗な花婿さんかも
千鶴くんのコサージュ、ブルースターはどう?
青は花嫁さんのお守りになるんだよ
ロキさんのは異国風でミステリアスだね
あ! お写真は可愛く撮って、撮って


ヴォルフガング・ディーツェ
【花燭5】
死と添い遂げる婚姻衣装ってヤバいなー
俺は白のフロックコートに忘れな草色のベストとタイをアウターに
顔がこの通りだから誤魔化しも兼ねヴェールを被り
飾りは青薔薇のコサージュを添え
花嫁っぽい花婿を目指してみたよー

皆は…
ニーナのドレス、良く似合ってる!
シルエットもとっても綺麗だし、ブーケは良いスパイスだ
千織こそヴェールの下が気になるじゃないか、ドレスも良く似合っているよ、傾国もかくやだ

メンズ2人は何かがっかりしてる…!?
千鶴は白が似合うなぁ、ブルースターは美しさを引き立てそう!
ロキは…そうだ、エキゾチックな美形だった。その服、面白い形だね。良いじゃん!

写真撮影はどうせなら5人で!とぎゅう詰めだ



●白花の彩
 今宵行われるという夜光祭の準備で慌ただしい街の大通りに、楽しそうな声が密やかに響く。
「お祭りの日に生贄を寄こせなんて、ヴァンパイアも趣味悪いよね」
「花嫁だとは言うけれど、実質生贄だもんな。死と添い遂げる婚姻衣装ってヤバいなー」
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)の言葉に、ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)がうんうんと頷いて、趣味悪いよなと答える。
「でも、花嫁の幅がちょっと広すぎだよね」
「だからこそ、付け入る隙があるとも言えますけどねぇ」
 ニーナ・アーベントロート(赫の女王・f03448)と橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が顔を見合わせ、やっぱり趣味が悪いと結論付けた。
「ヴァンパイアが花嫁を御所望なら成りきってあげるけど、その代償はきっちりと払ってもらわなくてはね」
 皆の言葉にそう言って、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)が微笑む。
「でも、皆の花嫁姿が見られるならちょっとは悪くはないかも? 花嫁姿で戦うって、きっと素敵なんだろうなぁ」
 ヴァンパイアの僕退治よりも、どちらかといえば皆の花嫁姿が見たくてやってきたロキがふふっと笑った。
「確かに、皆の花嫁姿はあたしも見たいな」
「きっと素敵なんでしょうね、不謹慎かもしれませんけど……楽しみですねぇ」
「戦う時は戦う、楽しむ時は楽しむ、それくらいのメリハリがないとな!」
 ニーナと千織にヴォルフガングがそう言って、ウィンクをしてみせる。
「そうだな、またとない機会だからこそ……しっかり楽しませてもらうとしようか?」
「そうだよー、皆で楽しんじゃおうよ」
 千鶴の言葉にロキが楽しそうに頷いて、それからあそこと指をさした。
「あそこかな? 聞いてたお店。それっぽくない?」
「ほんとだ、吊るしてある看板の名前も合ってるから、あそこだと思うよ」
 そう言って、ヴォルフガングが先陣を切って扉を開ける。すいません、と声を掛ければすぐに店主がやってきて、用件を聞いてくれた。
「お伺いしております、どうぞこちらへ」
 すんなりと奥の部屋に通された五人の目に飛び込んできたのは、端から端までずらりと並んだ白い衣装。どれでも好きなものを借りていってくださいと、店主が頭を下げて部屋を後にする。
「これは……思っていたよりも衣装が多いね」
 千鶴が思わず呟いてしまうほどに、ウェディングドレスとタキシード、そして白いワンピースや少し余所行きに見えるものまで、身長を考慮してあるのか子ども用から大人用までと所狭しと並べられていた。
「ウェディングドレスも、種類が色々あるんだね」
 スカートがふんわりしてるのと、シュッとしてるのがあるよ、とロキが楽しそうにドレスに触れている。
「あらあら、本当に随分と色々種類があるのですねぇ」
「形式だけとはいえ、気合入っちゃうね」
 千織とニーナが楽しそうに笑い合う向こうで、千鶴とヴォルフガングは木製のハンガーラックに吊るされたタキシードをあれことれと眺める。
「スーツのジャケットの形も色々あるね」
「スタンダードな奴から、ちょっと長めの丈までマジで揃ってる……!」
 これは女子じゃなくてもちょっと迷うやつだと、ヴォルフガングが千鶴を見た。
「千鶴はどうするんだ?」
「シンプルなタキシードでって思っているけど、そうだな……花嫁としての華やかさが欲しいところだね」
 取り敢えず、着てから考えるよと千鶴が笑う。
「そっか、一応花嫁なんだよね」
 そう言われると難易度が上がる気がする、とタキシードを前にヴォルフガングが悩み出した。
「……ヴォルフ、ドレスじゃないのか?」
「何で??」
 えっドレスは着ないけど……!? とヴォルフガングが言うと、千鶴とロキが何故かがっかりして、そっか……と呟いた。
「俺様はどうしようかなぁ」
 花嫁? 花婿? っぽくするけど、肌の色とかでちょっと皆と違う感じかも? とロキが衣装を眺めて首を傾げる。
「ドレスでもいいけど、女の子がいるから今回はパスとして……んー、これかな?」
 ロキが手に取ったのは白を基調とした民族っぽい柄の布を纏う礼装で、体のラインを見せるロング丈のスカートと合わせてみればエキゾチックな雰囲気が漂う逸品。
「よーし、俺様これにしよーっと!」
「ロキさんはもう決めたのです?」
「早いね、あたし全然決まらないよ」
 ドレスを前に悩む千織とニーナが、衣装を抱えて試着用の部屋へと向かうロキに向かって声を掛ける。
「いーっぱい悩むといいよ、二人の衣装楽しみにしてるね」
 ひらひらと手を振って扉の向こうへ消えていったロキの言葉に、それじゃあ思う存分悩みましょうかと二人が笑った。
「うん、俺はこれにしようかな」
 千鶴がタキシードを手にして、隣で悩んでいるヴォルフガングに向かって言う。
「待って、俺も今……こっちかこっちかで悩んでるとこだから……!」
 ヴォルフガングが手にしているのは、フロックコートの衣装とテールコートの衣装。うーんと悩んで、こっちだ! とフロックコートの方を選び取る。
「決まったみたいだね、着替えに行こうか」
 千鶴の言葉にヴォルフガングが頷いて、共にロキが向かった部屋へと足を進ませる。
「千織さん、ヴォルフさんと千鶴くんも決まったみたいだよ」
「男の人はあまり悩まないものなのでしょうか? でも、ドレス選びに悩むのは女の特権……ということにして、存分に悩むとしましょうか?」
「そうだね、もっと悩みましょ!」
 ふんわりと微笑んだ千織に、ニーナも笑みを零してドレスに向き合った。
 男性陣よりも遅れること十分ほどで、ニーナがこれだと思うドレスを手にして鏡に向かう。軽く当てて、よし! とドレスを両手に抱えて振り向けば、千織もドレスが決まったようで手にしたそれを抱えてニーナに向かって微笑んだ。
「ニーナさんも決まったのでしょうか?」
「千織さんも?」
 こくりと頷いて、二人揃って男性陣とは違う部屋へと向かう。そこにはドレスの着付けを手伝ってくれる人もいて、後れを取り返すべくニーナと千織はドレスに袖を通していく。
「結婚式本番というわけではないですから、取りあえずドレスを着たら軽いお化粧だけして元の部屋へ行きましょうか?」
「そうしましょ、少しだけ待たせてしまうかもだけど、それくらいは許されるよね」
 くすくすと笑い合って、花嫁二人はいそいそと化粧品が並ぶ台へと向かった。
 さて、その頃の男性陣はと言えばしっかりとタキシードに着替えた二人が鏡の前で細かな乱れを整え、ベールを被る。ロキはどうー? とひらりとした衣装を楽し気に翻して千鶴とヴォルフガングに見せていた。
「ロキ……! えきぞちっく、ってやつだね」
「ありがとう、千鶴くんも綺麗だよ。ヴォルフくんはドレス……じゃなかった」
「何でドレス!? タキシードって言ったよ!?」
 びしっと決めて、ヴォルフガングがロキを見る。
「ロキは……そうだ、ロキってエキゾチックな美形だった。その服、面白い形だね、めっちゃくちゃ似合ってる」
 ふふー、とロキが笑っていると、そこへニーナと千織が合流する。
「じゃーん、どうかな?」
 楽しそうに笑うニーナのドレスは大胆に肩を出す、ビスチェタイプの純白のドレス。首筋からデコルテにかけてのラインが美しく、スカート部分はプリンセスラインでたっぷりの大きなフリルが揺れている。手に持つブーケは白百合で、可憐にして清らか、そして毒もある花。
「吸血鬼のお嫁さんにはぴったりでしょ?」
 そう微笑む口許は蠱惑的な紅色。いつもとは違うニーナの姿に、千織が艶やかで素敵ですよと頷く。
「ニーナのドレス、良く似合ってる! シルエットもとっても綺麗だし、ブーケは良いスパイスだ」
 花嫁さんらしいとヴォルフガングが褒めると、ロキがおおーと口を開く。
「ニーナちゃん気合入ってる、花嫁に抱く感想かわかんないけど、強そう」
「ニーナは宵に咲く艶やかな赫色と白が色気あるね、それが強そうなイメージに思えたのかな?」
「うん-、多分そう」
 千鶴の言葉にロキがうんうんと頷いて、千織に視線を移す。
「ちおりちゃんの貴重な洋服!」
「えぇと……変ではないです?」
「レースも綺麗だし変じゃないよぉ」
「大丈夫だよ千織さん、とっても似合ってる」
 ロキとニーナが太鼓判を押す千織のドレスは、繊細な刺繍が施されたレースが首元にあしらわれた、アメリカンスリーブのマーメイドドレス。ぴったりと身体のラインにそって、優美さが際立っている。ベールを被って視線を隠せば、どこかミステリアスな雰囲気も感じられて。
 そして手に持つブーケは撫子とビスカリアを中心にしたもの。花嫁の純愛と、ヴァンパイアの僕を罠にかける意気込みが形になったかのようだ。
「千織も勿論似合ってる、上品なドレスが大人のきみによく映えるし……綺麗だ」
「隠されたベールの下が気になるじゃないか。ドレスも良く似合ってるよ、傾国も斯くやだ」
「ふふふ、ありがとうございます。お二人もとっても素敵」
 千鶴はシンプルなスタイルのタキシードだけれど、花嫁らしさを意識してベストとタイを淡い薄紅色にしている。長めのマリアベールが、それをどこか神秘的にも見せていた。
「ベールおし上げてみたくなっちゃう」
 ロキが指先でベールを摘まんで、軽く持ち上げて笑う。
「ええ、ネクタイの桜色も綺麗」
 そう千織に言われて、そうだと千鶴が唇を開く。
「コサージュをつけたいのだけれど、どれがいいだろうか?」
「千鶴くんのコサージュ、ブルースターはどう? 青は花嫁さんのお守りになるんだよ」
 そう言って、ニーナが棚に置かれた青いコサージュを手にして千鶴の胸元へと付けてやる。
「はい、できたよ!」
「ありがとう、ブルースター……いい色だ」
 飾られた青い花は美しく、千織がいいですねと頷く。
「千鶴は白が似合うなぁ、ブルースターは美しさを一層引き立てる感じが良いじゃん!」
「ヴォルフは身長高いし、白服にベールが目立って綺麗だ」
「ええ、素敵なベストとコートですねぇ。私よりもヴォルフガングさんのベールの下が気になりますね?」
 千鶴と千織が褒めると、ヴォルフガングが背筋を伸ばして胸を張る。白のフロックコートに、勿忘草色のベストとタイをアウターにした組み合わせは確かに彼に良く似合っていたし、ベールがその美しさを引き立てている。
「うんうん、ヴォルフさんの装いも凛々しくてすてき、世界一綺麗な花婿さんかも」
「スマートっぽくて、ヴォルフくんに似合ってるよ」
 そう言うロキは、頭にも金糸の刺繍が入った布を巻いて、その上から装飾品を飾っている。どこかエキゾチックな王子様のような、お姫様のようなスタイルだ。
「ロキさんの異国風な衣装も素敵、神秘的ですし、ほんと美人さんですねぇ」
「異国風でミステリアスだね、性別もどっちかすぐにはわからないかも?」
 そう? なんて笑って、ロキがしゃらりと飾りを揺らして笑った。
「皆の花嫁姿、綺麗でいいよね。俺様来て良かった~~、写真撮らせて?」
 この為に来たと言っても過言ではないと、ロキが皆の花嫁姿を写真に収めていく。
「あ! お写真は可愛く撮って、撮って」
 ニーナが千織の横に並び、軽く身体を寄せて笑う。
「写真撮影? どうせなら五人で獲ろう!」
 ぎゅうっと横に詰めて、五人一緒にぱちり。
 後で焼き増ししてね、とニーナが笑って、写真の映像を覗いていた千織がみなさんとても魅力的ですよ、とふわりと微笑んだ。
「こんなに素敵な花嫁さん達をヴァンパイアにくれてやるなんて――惜しいくらい、綺麗だね」
 改めて皆を見て、千鶴がそう零す。
「みなさんを吸血鬼なんかには渡しませんとも」
「そうそう、それじゃあぶっ飛ばしにいくとしようか?」
 千織の言葉に頷いて、ヴォルフガンフが笑う。
「花嫁姿で戦う皆の姿、写真に撮ったらだめかなぁ」
 絶対カッコいいよね、とロキが言う。
「余裕があれば……?」
 この五人なら、余裕で倒してしまいそうだけれど、とニーナがくすりと笑った。
 最後に鏡で確認をして、五人が裏口から裏通りへと向かう。もう少しで、月と星が綺麗に輝きだすだろう。
 戦いの時までは、あと少し――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【花守3】◎花嫁役
ふふ、花嫁だなんて心踊るわ――またとない晴舞台だもの、一等着飾って押し掛けて差し上げないとね?
(生贄役と理解した上で尚、悠然と楽しむ様に衣装を身て回り)
まぁ、極上の褒め言葉を有難う
何なら伊織ちゃんにも花嫁衣装を見繕って、花嫁修行をつけてあげましょうか?
(にっこりと白タキシードを宛がってみるも――本当に何とも言えない絵面に、思わず笑ってしまい)
御免なさい、ふふ、余興としては最高だったわね?

(それから最終的に清楚なドレスで装って)
――さぁ、しおらしい乙女を守って頂戴ね?
(綺麗な微笑とベールの下、紡いだ言葉の裏に、“強かに尻に敷いて差し上げましょう”なんて本音と角を包み隠して)


佳月・清宵
【花守3】◎護衛役
じゃじゃ馬すら花嫁に迎えてくれるたァ、随分と良いご趣味な輩がいたもんだな
おう、角が隠し切れてねぇぞ、押し掛け女房
(それじゃ鬼すら泣いて逃げ出すだろ、上手くベールで隠せよ、なんて諧謔重ねて笑い)
おいおい、更にこんな不束者まで嫁入りさせちゃあ、相手があまりに哀れだろ
(伊織に宛がわれた白タキシードの絵面に、更に手を打って笑い)
っくく、その格好じゃ花嫁役どころか、余興の道化役にしか見えねぇだろ


(さんざ面白がった末、自らも護衛役として正装に身を包んだ後は、さらりと寡黙な付き人に化けてみせ)
さて――仰せの儘に
(全く、とんだ鬼嫁なこって――微笑とベールの裏の意に、心の内でまた一つ笑い)


呉羽・伊織
【花守3】◎護衛役
姐サン――ウン、(黙ってれば)すっごく映えてると思うヨ
でも言葉の節々に鬼嫁の角がコンニチハしてるから!押し掛けるって何!?
(コレホントに嫁に出して良いの?と、違う意味でひやひやしまくり)
――ゴメンナサイ、寧ろオレが良いコで黙ってマスネ
ちょっとヤメテー!似合わないから!
あとソレ花嫁修行って書いてスパルタ教育って読むヤツー!
(宛がわれた白タキシードに真顔になって)
……
おい何が不束者だ余興だ!(いや前者は地味に否定できないが)
オレは花婿なら兎も角、花嫁役なんて御免だっての!

(何とか気を取り直し、びしっと護衛の正装で取り繕い)
――お任せあれ
(しおらしい乙女と書いて強かな鬼嫁、かー)



●花嫁様の言う通り
「辺境の街っていうから何もないかと思ってたけど、意外とあるもんだな」
 光夜祭の準備で活気付くルブローデの街の大通りを歩きながら、呉羽・伊織(翳・f03578)がぽつりと零す。
「都心部から離れているってだけで、街としてはきちんと機能しているようね」
 花川・小町(花遊・f03026)がそう言って、辺りを見回す。規模は小さめだが一つの街としては完成されている、そんな印象を受けた。
「この世界の都心部なんざ、碌なもんじゃなさそうだな」
 ふん、と鼻を鳴らして佳月・清宵(霞・f14015)が笑う。
「ヴァンパイアに支配されてる世界だからなー……」
 憶測だけでものを言えば、強力なヴァンパイアが支配しているような、と伊織が呟く。それは恐らく、それだけそこに住む人々への支配と圧政も酷いということで。
「まぁ、それはそれよ。今はこの街の危機を救うことを考えなくちゃね?」
「そうだなァ、その方法が花嫁に扮してって言うんだからよっぽどだ」
 花嫁を寄こせだなんて、それは生贄を寄こせと言っているのも同義だ。
「花嫁、花嫁かー……」
 ちらり、と伊織が小町を窺う。
「ふふ、花嫁だなんて心が躍るわ」
 赤い唇を蠱惑的に持ち上げて、小町が笑う。
「またとない晴舞台だもの、一等着飾って押し掛けて差し上げないとね?」
 その上できっちり畳んであげなくちゃ、という副音声が聞こえた気がして、伊織が震え上がるようにして視線を背けた先に、何かを見つけて声を上げた。
「ほ、ホラ姐サン! あそこじゃないか? 聞いてた服屋っていうの!」
 ほらほら、と伊織が見つけた建物を指さした先には、大通りに面した立派な建物が見えた。
「聞いていた建物の特徴と合うな、多分あそこだろ」
「そうね、入りましょうか」
 少しだけ重たい扉を開けば、カランとベルの音が鳴ってすぐに店主が三人の前へと現れる。用件を伝えれば、奥の部屋にどうぞと手際よく通された。
「へぇ、思っていたより衣装が揃ってるな」
 清宵が零した通り、その衣裳部屋には端から端まで白い衣装がずらりと並び、手に取られるのを今か今かと待ち構えているように見える。
「ウェディングドレスにタキシード、他にも白い生地の衣装があるみたいね」
 その品揃えに小町も瞳を瞬かせ、どれがいいかしらとドレスが並ぶ方へと足を向けた。
「好きに選べよ」
「オレ達はここで待ってるからネ」
 あれやこれやと選び出した小町の邪魔が出来るはずもなく、男二人は黙って部屋の端で待機だ。
「お前も着ればどうだ? ドレス」
「冗談は顔だけにしとけよ」
 苦々しい顔をして、伊織が清宵を睨む。それにくつくつと笑い、清宵が小町が衣装を選ぶのを眺める。これは私には合わないわね、こっちはちょっと可愛すぎるかしら? と、小町は衣装選びに余念がない。
「どれも同じに見えるがな」
「アンタ、それ姐サンの前で言ったらぶっ飛ばされるぞ?」
 怖いもの知らずか? と、伊織が呟く。
「じゃあお前、違いがわかんのか?」
「……ワカリマスケド?」
 嘘つけ、と清宵が小さく笑うと、小町がくるりと振り向いて二人を見る。
「どうしたの、姐サン」
「決めたわ、着替えてくるからもう少し待っててね」
「ああ」
 ドレスを持って小町がもう一つ奥の部屋に消えると、清宵がくつりと笑う。
「さあ、どんな花嫁が出てくるんだろうなァ」
「……姐サンだからな、何着ても綺麗だろうけど」
 綺麗だろうけれど、それに見合う分だけ毒もあるからな……と言葉には出さず伊織が飲み込んだ。
 暫くして、小町が消えた部屋の扉が開く。そこから楚々と現れたのは首元からデコルテを細かなレースフリンジで覆った、ハイネックのようになっているマーメイドラインのウェディングドレスを着た小町で、引き摺るか引き摺らないかという長さのドレスを難なく着こなしている。
「どうかしら? これならヴァンパイアもイチコロでしょう?」
「おう、角が隠し切れてねぇぞ、押し掛け女房」
 飛んだじゃじゃ馬すら花嫁に迎えてくれるたァ、随分と良いご趣味な輩がいたもんだ、としみじみと清宵が言うと嫣然と微笑んだ小町が伊織を見遣る。
「ウン、すっごく映えてると思うヨ」
 黙っていれば、の話だけれど。
「あら、こういうのは先手必勝よ? 花嫁を生贄だなんて言う輩には――ねぇ?」
「そうだけど! 言葉の節々に鬼嫁の角がコンニチハしてるから!」
 そもそもこの人、最初に押し掛けるって言ってたな!? と、伊織が思い出して、コレホントに嫁に出して良いの? と、違う意味でひやひやしてしまう。
「それじゃ鬼すら泣いて逃げ出すだろ、上手くベールで隠せよ」
 鬼の角、と笑って、清宵が近くにあったベールを小町の頭へと掛けてやる。言葉とは裏腹に、優しい手付きに小町が小さく笑う。
「ふふ、極上の褒め言葉を有難う」
 毒はあれど、それでも美しいものは美しい。さすが姐サン、と伊織が着飾った小町を褒めていると、その視線が不意に合って。
「何なら伊織ちゃんにも花嫁衣装を見繕って、花嫁修行をつけてあげましょうか?」
「ゴメンナサイ、寧ろオレが良いコで黙ってマスネ!」
「おいおい、更にこんな不束者まで嫁入りさせちゃあ、相手があまりに哀れだろ」
 オレは花婿なら兎も角、花嫁役なんて御免だっての! とぎゃあぎゃあ言う伊織に、小町が適当に手に取ったタキシードを伊織の身体にあててみせる。
「ちょっとヤメテー! 似合わないから!」
 ホントにヤメテ! あとソレ花嫁修行って書いてスパルタ教育って読むヤツー! と慌てる伊織に、小町が耐え切れずにくすくすと笑う。
「……姐サン」
 宛がわれたタキシードに伊織が真顔になると、更に小町の笑い声が大きくなる。
「っくく、その格好じゃ花嫁役どころか、余興の道化役にしか見えねぇだろ」
「御免なさい、ふふ、余興としては最高だったわね?」
「おい何が不束者だ余興だ!」
 いや、前者は地味に否定できないのだけれど。
「まったく……人で遊ばないでくださいネ!」
 タキシードを戻して、気を取り直したように伊織が襟を正す。
「姐サンがこれだけ綺麗にしてるんだから、オレ達も護衛として正装するべき?」
「あら、良いわね。それなら、この辺り……羽織ってみたらどうかしら」
 護衛役と言えど、白い衣装を着ていれば敵の手も多少緩むかもしれないわよ、と小町が言う。
「いや、白は似合わないからね……」
「着るなら黒だな」
 黒いタキシードはないかと聞けば、こちらにと案内されて二人が黒のタキシード姿で小町の許へ戻ってくる。
「あら、似合うじゃないの」
 伊織はスタンダードなスリーピースのタキシードで、ベストはグレー。清宵はフロックコートに中のベストが赤と黒のストライプという、ちょっとした遊び心があるものだ。
「ふふ、準備はばっちりね?」
 小町の言葉に二人が頷く。
「そう、なら――しおらしい乙女を守って頂戴ね?」
 その言葉の裏には、確かに『強かに尻に敷いて差し上げましょう』なんて本音が見えるけれど、本音も角も全て包み隠してベールの下の紅い唇が笑みを浮かべる。
「仰せの儘に」
「お任せあれ」
 とんだ鬼嫁なこって、と清宵が小さく笑い、しおらしい乙女と書いて強かな鬼嫁か……と伊織が胸の内で呟いて。
 美しい花嫁と護衛の二人はその心の中に刃を秘めて、ヴァンパイアの僕が待ち受ける街外れへと足を向けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻3

サヨは私の花嫁だというのに…許せぬ…
私の愛し子だ
私の巫女だ
決して渡しはしない
そうだろう
リル…我が同志よ

サヨは白無垢という婚礼衣装が良いと思う
零れた願望に気づかないままに選ぶ
しゃららと桜が謳いきみの美しさを引き立ててくれるよ
思わず見蕩れて慌て視線をはずし
リルもとても美しい
白と白が重なり芸術品のようだ

2人とも私がしかと守らねばいけないね
黒の和装に黒い髪の姿に化けてサヨが連れていかれぬようその手を握る
リル、サヨの手を離してはいけないよ

婚礼、か……厄災には縁がなかった事だけど
こんな風にきみが─

な、なんでもないよ!
赤くなった顔を隠して、それでも何時かと
祝いの日に想いを馳せてしまうのをやめられない


リル・ルリ
🐟迎櫻3

そうだぞ
僕だって櫻の花嫁なんだから

なんて気合いを入れながら、カムイの零す独占欲が微笑ましくてにっこりしてしまう
本当に彼が大切なんだね
想う気持ちは同じ!
嗚呼カムイ
しっかり守ろうね

その前にドレスを選ばなきゃ!
僕は尾鰭だからさー、結構服を選ぶんだ
どれがいいかな、櫻宵
君に選んで欲しいよ
綺麗!僕はこれにする
君の選んだ、まめどらいんの白いドレス
ひとりでは着れないから手伝って
白のべぇるを被れば
どうかな?

褒められれば機嫌を良くして櫻の手を握る
櫻はどう見ても美しい傾国の花嫁だよ

白無垢がそんなに似合うなんてカムイも鼻が高いね
カムイ…?今何を考えてたの、なんて揶揄う
この衣装は幸せになる為のものなんだから!


誘名・櫻宵
🌸迎櫻3

キュン

カムイったら…照れるじゃないの
当然よ
私はあなたの巫女だもの
リルもかぁいいこと言ってくれて
あまりの嬉しさに角の桜も桜花絢爛よ

生贄を花嫁になんていつの時代にもある物語のようね
娶るなら大切にしたいものよね

私の衣装はカムイに選んでほしい
かぁいい神様が指し示した白無垢を纏う
あなたはこういうのが好きなのね
嬉しくて擽ったい心地

リルは……これがいいわよ
白い尾鰭にぴったりなレースとフリルが美しいマーメイドラインのドレス
リルの美しさには負けてしまうけれど
着せてあげる
護衛、と黒く変じた神の姿に柔く微笑む
愛しい神の手と人魚の手を握り
カラコロ歩む路の先

作戦ではなく
本当にこれを纏える日がくればいい、なんて



●麗しの花嫁達
 むう、と難しい顔をして朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)がルブローデの大通りを歩く。
「サヨは私の花嫁だというのに……許せぬ……私の愛し子、私の巫女だ」
 つまり、自分の為ではなく誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が婚礼衣装を着ることに、ちょっとした悋気を起こしているのだ。
「決して渡しはしない……そうだろう?」
「そうだぞ、僕だって櫻の花嫁なんだから」
 カムイの言葉に深い同意を見せるのはリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)で、彼も櫻は僕の夫なんだからね! と唇を尖らせて、尾鰭を揺らしている。
「リル……我が同志よ」
「想う気持ちは同じ! 嗚呼カムイ、僕らでしっかり守ろうね」
 気合を入れつつ、カムイの零す独占欲が微笑ましくって、リルが笑みを零す。
「リル……カムイ……」
 そんな二人にきゅんっと胸を弾ませて、櫻宵が微笑む。
「照れるじゃないの……私はあなたの巫女で、リルの夫だもの」
 当然よ、私は二人と共にあるわ、と櫻宵が頷く。
 カムイの悋気に満ちた横顔はかっこいいし、リルはかぁいいことを言ってくれるし……あまりの嬉しさに櫻宵の角の桜が桜花絢爛とばかりに咲き乱れた。
「それにしても……生贄を花嫁になんていつの時代にもある物語のようね」
 古くからある話だ、神や妖怪、怪異が生贄を求めて花嫁を差し出せという話はどの世界にも少なからずあるもの。異類婚姻譚と呼ばれ、語り継がれる話もある。
「でも、娶るなら大切にしたいものよね」
「櫻……!」
「ええ、もちろんリルは私が大切にするわよ」
 僕の夫がこんなにも綺麗でかっこいい! と、リルがへにゃりと笑うと、それを見てカムイも機嫌をどうにか直して微笑んだ。
「サヨ、私だって大切にしてみせるよ」
「ふふ、よろしくね? 私の神様」
 両手に妻と夫、これ以上に幸せな事ってあるかしら? と櫻宵が嬉しそうにして、とある建物の前で足を止めた。
「ここかしら?」
「うん、聞いていた外観とあうから、きっとここだよ!」
「では入ろうか」
 カムイが扉を開け、二人を先に建物の中に入れてから扉を閉める。すぐに店主が用件を聞いてくれて、奥の部屋へ通してくれた。
「まあ、衣装が色々あるわ!」
「すごいね、ドレスにタキシードに……目移りしてしまいそうだよ」
 ずらりと並んだ白い衣装に、櫻宵とリルがキラキラと瞳を輝かせている。
「花嫁衣裳というものは、どの世界も白が多いものなのだね」
 カムイがどれ、と衣装を手に取りつつ眺めて櫻宵を見た。
 そんなカムイの視線を受けて、櫻宵が胸の前で手を組んでカムイを見て言う。
「私の衣装はカムイに選んでほしいわ」
「サヨ……! 任せておくれ」
 愛しの巫女にそう言われて、カムイが張り切って衣装を端から端まで眺めていく。
「サヨには白無垢という婚礼衣装が良いと思うのだが……見当たらないね」
「ううん、ここダークセイヴァーだからね……和装はあんまりないかも?」
 リルにそう言われ、カムイの顔がまた悩ましいものになる。
「ええと、それなら櫻は白っぽい衣装だし、上から羽織るもので白無垢っぽくみせるとか」
 どうかな? というリルの助言に、カムイがそれならばと端の方に見えた白いレースが幾重にも重ねられた丈の長いウェディングケープを手にして戻ってくる。
「サヨ、サヨ、ここに白無垢はないけれど」
 きっと、自分との本番の為に無いのだと、はにかんだように微笑んでカムイがウェディングケープを櫻宵へと羽織らせた。
「あなたが選んでくれたものなら、なんだって喜んで纏うわ」
 白無垢とは少し違うけれど、羽織ったロングケープのフードを被ればそれはまるで綿帽子のようで。鏡に映る自分はいつもの衣装なのに、小さな桜のような花の刺繍が施された純白のレースが重ねられたケープのお陰で確かに花嫁のように見えて、櫻宵が微笑む。
「ああ、とても美しい……しゃららと桜が謳いきみの美しさを引き立ててくれるよ」
 私のかぁいい神様は、こういう雰囲気の白無垢が好きなのね、と嬉しくて擽ったい心地になって、思わず頬が赤らんでしまう。その表情に、思わず見惚れてカムイが慌てて視線を外した。
「凄く素敵だよ、櫻! 僕も櫻の隣に立つに相応しいドレスを選ばなきゃ!」
 僕は尾鰭だから結構服を選ぶんだよね、とリルがドレスを見遣る。
「どれがいいかな、櫻」
 君に選んでほしいよ、とリルが可愛く櫻宵にねだった。
 そう言われて、嬉しくないはずがない。あれもこれも、いいえリルの可愛さを引き立てるにはこっちが、でも美しさを引き立てる方が……なんて悩みながら、櫻宵が一着のドレスを選び取った。
「リルは……これがいいわよ」
 櫻宵がリルの身体に当てたのは白い尾鰭にぴったりな、可憐な刺繍が施されたレースとフリルが美しいマーメイドラインのドレス。
「綺麗! 僕はこれにする」
「リルの美しさには負けてしまうけれど、似合うと思うのよ」
 櫻宵が選んでくれたドレスを手に、着替えようと試着室へ向かおうとして、リルがふと気付いたように振り返る。
「ひとりでは着れないから、手伝って?」
「ええ、勿論よ。着せてあげる」
 少しだけ待っていてね、とカムイに声を掛けると櫻宵とリルが試着するための部屋へと向かった。
「ここかい?」
「ええ、そうよ。そこに尾鰭を……ええ、いいわ」
 手伝ってもらいながら着替えを済ませ、ふわりと白のベールを被せてもらう。
「どうかな?」
「素敵よ、とっても似合ってるわ! カムイにも見せてあげましょう」
 手に手を取って、カムイの待つ衣裳部屋へと戻れば、白と白が重なる美しい芸術品のような彼らに、カムイが眩しそうに目を細めた。
「とても美しいよ、リル」
「ありがとう、カムイ」
 君の選んだまめどらいんの白いドレスに白いべぇる、どれもよく自分に似合っているとリルが嬉しそうに櫻宵に抱き着いた。
「ありがとう、櫻。すごく嬉しい」
「私もよ、リル」
 私の選んだドレスに身を包む可愛いあなた、食べてしまいたいくらいに可愛らしい。
「二人とも私がしかと守らねばいけないね」
 美しい花嫁二人をヴァンパイアなどにくれてやるものかとカムイが頷くと、黒の和装に黒い神の姿に化ける。
「サヨ」
 美しい君が連れて行かれぬよう、その手を握る。
「リル、サヨの手を離してはいけないよ」
 カムイの言葉に頷き、リルが櫻宵の手を握る。
「櫻はどう見ても美しい傾国の花嫁だからね、一番に連れて行かれてしまわないようにしなくちゃ」
 愛しい神の手と人魚の手を握り、櫻が柔らかく微笑む。
 そうして三人連れだって、裏口から裏通りへと出るとカラコロと歩むは花嫁道中。
 花嫁姿の櫻宵を眺め、カムイが想うのは何時かと願う祝いの日。
 厄災には縁がなかった事だけれど、こんな風にきみが――。
「白無垢がこんなに似合うなんてカムイも鼻が高いね……カムイ? 今、何を考えてたの」
 うっとりと櫻宵を見つめるカムイをリルが揶揄うと、慌てたように彼が首を横に振る。
「な、なんでもないよ!」
 赤い顔を隠して、それでもきちんと白無垢を着た櫻宵が自分の隣に立つ日に思いを馳せるのはやめられない。
「ふふ、そうねぇ。作戦ではなく、本当にこれを纏える日がくればいい――」
 なんて、と微笑む櫻宵は儚くも美しくて、思わずリルが声を上げる。
「大丈夫! この衣装は幸せになる為のものなんだから! ね、カムイ!」
「噫、そうだとも。幸せにしてみせるよ」
 一足飛びにそう言ったカムイに、櫻宵が笑い声を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈


なんで生贄が花嫁限定なんだ…??
いやまぁ生贄自体むむっとしちまうが

確かに、こんだけ色々あるとついつい見入っちゃうよな

おー、すっげぇ綺麗じゃん!
あ、心結が花嫁の格好するってんなら…俺様は護衛って感じで付きゃ良いかな
念のため白い衣装のスーツを用意してみた!いわゆる…花婿的なイメージだな!(事前に故郷で仕入れてきた男

やっぱそーゆうの結婚式が良いもんか…
――結婚
そうか、そりゃ基本結婚式でしか聞ねぇもんな…心結と結婚かぁ(不思議な気分だぜ…)

じゃあ心結が結婚するときゃ純白の心結が見れるんだな、楽しみだな!(わくわく

故郷のピンチはやっぱ嫌だもんな!
あぁ、勿論!
今日は心結の新郎役、精一杯頑張るぜ!


音海・心結
💎🌈


……零時
いっぱい白のドレスが合って目移りしちゃいそうでしたよ

身に纏うはオフホワイトのドレスとベール
デザインは少し大人びたマーメイドライン

本当は結婚式の時に着たかったですけどねっ
この姿恥ずかしすぎるのです

……って、零時は白スーツ着るのですかっ!?
まるでみゆと零時が結婚するみたい

でもでも、これは純白ではないのでっ
みゆは結婚式で着るドレスは純白と決めていますっ
……結婚する予定も相手もいないですけどね

本当はオフホワイトとはいえ、
こんな姿を結婚する前に見せたくなかった

――でも、

故郷の世界のピンチと聞いたらそんなことゆっていられません
不幸な人を少しでも減らすために
新郎役よろしくお願いしますねっ!



●オフホワイトの花嫁
 藍色の髪の少年と、ミルクティー色の髪の毛先をカラフルに染めた少女が並んでルブローデの街の大通りを歩く。
「うわー、祭りの準備だよな、あれ!」
「軒先にランタンを吊るしてますねっ! あ、零時見てください、あっちは屋台の準備ですっ」
 いいなあ、絶対夜は祭りに参加して、お勧めの屋台とか食べ歩くんだ……! と、零時が瞳を輝かす。
「でも零時、その前にヴァンパイアの僕退治ですよ」
「おっと、そうだった! 大丈夫、忘れてないぜ」
 半分くらい忘れかけていたし、何だったら今も美味しそうなポップコーンの屋台に目が釘付けだけれども。
「でもさ、なんで生贄が花嫁限定なんだ……??」
 生贄だと言うのなら、別に何だっていいじゃん、いやまぁ生贄自体むむっとしちまうが! と、零時が首を傾げる。
「ヴァンパイアの考えることなんて、みゆにはさっぱりわかりませんけど」
 解りたくないし、解ってはいけないと、胸の内で呟いて。
「どうせ食べるのなら、ラッピングも綺麗な方がいい……くらいの気持ちかもしれないですね」
「ああー、ありそうだ……。俺様にも全然わかんねぇけど、そういうこと言いそうなイメージあるな」
 ヴァンパイアへの熱い風評被害だったが、あながち間違ってもいなさそうで、零時がむむむと顔を顰めた。
「あ、零時。あれでしょうか?」
「ん?」
 零時が心結の視線の先を追うと、そこには大通りの中でも立派な建物が見える。看板を見れば、長老の家で教えてもらった店の名前と一致していて、零時が心結を見遣った。
「聞いてた衣装貸してくれるっていう店か?」
「そうです、どんな衣装があるんでしょうね」
 ちょっと楽しみ、と心結が微笑んで店の扉を開ける。カラン、と鳴った扉に付いているベルの音を聞きつけて、すぐに店主が二人の用件を聞いてくれた。
 では奥の部屋に、と通された先にはずらりと並ぶ白い衣装。ウェディングドレスからタキシード、ちょっとしたお出掛け用のワンピースが所狭しと準備されていた。
「……零時」
「どうした?」
「いっぱい白のドレスがあって、目移りしちゃいそうです」
 心結の瞳がきらきら、わくわくと光っている。
「確かに、こんだけ色々あるとついつい見入っちゃうよな」
 どれにすればいいか迷うのもわかる、と零時が笑う。
「でも、心結が好きなのを選べばいいと思うぜ!」
「選ぶまで、待っててくれますか?」
「おう! 好きなだけ悩んで来いていいぜ!」
 はい! と元気よく答えた心結に頷いて、零時が辺りを眺めながら心結がドレスを選ぶのを待った。
「真っ白のは、今は置いておいて……そうなると、オフホワイトのドレスがいいですよね」
 ううん、と悩みに悩んで、心結が二つのドレスを持って鏡の前に立つ。
 一つは、プリンセスラインのふんわりとしたスカートが可愛らしいウェディングドレス。もう一つは、オフショルダーになっていてウェストから膝丈まではタイトだが、そこから下は波のように広がるマーメイドラインのドレスだ。
「……うん、こっちにしますっ」
 よし、と頷いて心結がマーメイドラインのドレスと花の刺繍が入ったベールを持って、試着室へと引っ込んだ。
 そこにはお針子さんがいて、心結に着付けと軽いサイズ調整をしてくれる。動きに支障がないことを確認すると、心結がお礼を言って零時が待つ部屋へと向かった。
「零時!」
「準備できたか……って、おー! すっげぇ綺麗じゃん!」
 ひらりドレスを翻して駆け寄ってきた心結に、零時が心からの感想を伝える。
「本当は、結婚式の時に着たかったですけどねっ」
「そういうもんなのか?」
「だって、結婚式とウェディングドレスは女の子の憧れですからね」
「やっぱそーゆうの結婚式が良いもんか……」
 それに、この姿はちょっと恥ずかしすぎるのです、と心結がベールの中で頬を赤くした。
「あ、心結が花嫁の格好するってんなら……俺様は護衛って感じで付きゃ良いかな」
「そ、そうですね、それが良さそうですっ」
 そうだよな、いやー念の為に白い衣装のスーツを用意してきて良かったぜ、と零時が笑う。
「……零時、白いスーツを用意してきたんです? って、零時は白いスーツ着るのですかっ!?」
「ああ、いわゆる……花婿的なイメージだな!」
 この為だけに、零時は故郷に戻って仕入れてきたのだと笑って、今度は彼が試着室へと消えていった。
「……零時が白いスーツ……タキシード……?」
 暫くの間理解が出来ず、心結が固まっている間にさっさと着替えを済ませた零時が戻ってくる。
「どうだ? 似合うかな?」
 きらりと輝くホワイトシルバーのタキシードに身を包み、タイは零時の瞳のようなブルーだ。
「似合ってます……! まるでみゆと零時が結婚するみたい」
 言ってから、はっと気が付いてあわあわとする心結に向けて、零時が笑う。
「――結婚」
 その言葉に、ぱちりと零時が瞬く。
「そうか、そりゃ基本結婚式でしか聞ねぇもんな……心結と結婚かぁ」
 なんだか不思議な気分だと、零時がふーむと考えていると、心結が慌てたように言葉を紡ぐ。
「でもでも、これは純白ではないのでっ! みゆは結婚式で着るドレスは純白と決めていますっ!」
「じゃあ、心結が結婚するときゃ純白の心結が見れるんだな、楽しみだな!」
 にぱっと笑って、零時がそれも見てみたいと頷いた。
「……結婚する予定も相手もいないですけどね」
 何時か、そんな時が来ればいいと心結も小さく笑った。
 本当は、オフホワイトとはいえ、こんな姿を結婚する前に見せたくなかったと、乙女心は言うのだけれど。
 でも、故郷の世界のピンチと聞いたらそんなことゆっていられません、と心結が拳を握る。
「故郷のピンチはやっぱ嫌だもんな!」
「はい! 不幸な人を少しでも減らすために、新郎役よろしくお願いしますねっ!」
「あぁ、勿論! 今日は心結の新郎役、精一杯頑張るぜ!」
 行くぜ! と、零時ががっしりと心結の手を繋いで裏口から裏通りに向かって歩く。
 目指すはこの街の平穏を脅かす、ヴァンパイアの僕が待つ街外れ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ヴァンパイアの花嫁』

POW   :    この心と体は主様のもの
自身の【感情か体の一部】を代償に、【敵への効果的な属性】を籠めた一撃を放つ。自分にとって感情か体の一部を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    全ては主様のために…
【肉体の痛みを麻痺させる寄生生物】【神経の痛みを麻痺させる寄生生物】【精神的な痛みを麻痺させる寄生生物】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    主様、万歳!
【自身が主人の脅威であると認識】を向けた対象に、【自らの全てを犠牲にした自爆】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花嫁は踊る
 花嫁へと姿を変えた者と、護衛として付き添う者が裏通りを歩く。一つ違えた道の向こうでは光夜祭が始まろうとしているのだろう、楽し気な声が聞こえてくる。
 この楽しそうな声を守る為にも、必ずヴァンパイアの僕を倒さなくてはと決意も新たに街外れへと向かった。
「確か……ここのはずだが」
 闇の救済者から派遣された若者達のリーダーである男、ヨルクがそう言って辺りを警戒する。周囲は荒野に近く、隠れることも難しいような場所。どこから来るのかと、猟兵達も警戒を強めた時だった。
「あれか……?」
 前方から、街のある方へ真っすぐに向かってくる真白の集団が見えたのだ。
 それは囮としてこの場にいる花嫁達と同じように白い衣装で、ベールを被る女性の集団に見えて、救済者の彼らは戸惑ったような声を上げる。けれど、猟兵達はその姿を見て一気に警戒を引き上げた。
 あれは人ではないと、そう猟兵の勘が注げるのだ。
 白い集団はすぐに猟兵達の前まで来るとその歩みを止めて、唱和するかのように告げる。
「我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました」
 それらはよく見れば同じ顔、同じ声、同じ姿形をしていて、手足は枷と鎖で繋がれているのがわかる。
「ヴァンパイアの配下か……!」
 恐らくは眷属に堕とされた――花嫁として生き残った少女達。
「さあ、こちらへ」
 感情が抜け落ちたような、どこか機械的な声が響いた。
 主の望みを叶える為だけに動く忠実な僕が、新たな花嫁達を手招いている。
 どう動き、どう彼女達を倒すかは猟兵達次第――。
ステラ・エヴァンズ
似たような敵とサムライエンパイアで相対した事がありますが…
あぁなってしまってはもはやできる事は一つだけ、ですね

UC起動、星珠を方々へ散らしつつ移動
救済者の皆さんもご一緒されてるとの事ですから彼らの被害が少なくて済むように敵を誘惑してタゲをこちらに取りましょう
それでも彼らに攻撃が行くようならかばうで
相手の攻撃は見切りつつ素早く避けますが万が一の為、自身に二重の結界を張っておきます
では、機を見計らって攻撃力5倍、移動力半分にて浄化と神罰を付与した攻撃を一斉掃射開始

人に戻る事は叶わず、この世界では転生と言う事もないのでしょう…ならば、せめて死後が安らかなものであるよう…祈りましょう

アドリブご自由に



●祈りは満ちて
 手招くヴァンパイアの花嫁を見て、ふっと既視感を覚える。
 どこかで似たような敵を見たような……と考えて、かつてサムライエンパイアで相対した敵を思い出し、悲し気に目を伏せて呟く。
「あぁなってしまっては、もはやできる事は一つだけ、ですね」
 安らかな眠りを与える、ただそれだけだとステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)は伏せた目を開く。それから、周囲の状況を把握する為に、心細そうな娘が救いを求めるかのような振りをして見回した。
 ここにいるほとんどは猟兵、となれば皆様はご自分達でなんとかなさるとして……闇の救済者の皆さんへの被害が少なくて済むように動くとしましょうか。
 そうと決まればステラの行動は早かった、口の中で小さく禍津星――変彩金緑石のように赤、緑と変色する笛に変身している光の精霊へと呼びかける。
「光の音は数多の星の煌めきへと変じましょう」
 星珠へと変形したそれらを方々へと散らして、花嫁が手招く方へと歩き出した。
『ようこそ、新たな花嫁。我らが主様の花嫁となる栄誉を授けられた、幸せな方』
 無機質な声は機械音声のようにも聞こえて、ステラが僅かに目を細める。
『さあ、こちらへ』
 くるりとステラに背を向けたヴァンパイアの花嫁に、今が好機とステラが指先を振るう。
 その動きに合わせて、星珠がくるくると踊るように舞い、攻撃力を高めた光線を一斉にその背へと放った。
『あ、あっ!』
 背に受けた攻撃は、じわりじわりと浄化と神罰の力で以って堕ちたる花嫁の身を灼いていく。
『主様に仇為す不届き者と、みなします。主様の許へは、連れてはいけません』
 連れて行けないのであれば、ここで朽ちよとヴァンパイアの花嫁が薄っすらと笑みを浮かべる。
「生憎と、信じて待っていて下さる方がいますので」
 お断りいたします、とステラがドレスの裾を翻し、花嫁からの一撃に備えた。
『心も体も主様のものとなれば、この上のない幸せが待っていますのに』
 すっと笑みすら消えた無表情とも言える顔で、花嫁がステラに迫る。
「もう、あなたは人に戻る事は叶わず、この世界では転生と言う事もないのでしょう」
 死こそが安らぎであるのなら。
「祈りましょう」
 ステラの言葉と共に花嫁が眼前へと迫るけれど、それは既に張られていた結界により阻まれる。そして、再び放たれた星珠からの光線によってヴァンパイアの花嫁は永遠の眠りへと誘われ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

茜崎・トヲル
むーむー。なんかかなしーなあ。
花嫁さんってさ、もっとゆめいっぱいしあわせいっぱいなものでしょう。
なのにい。こんながんじがらめで、むひょーじょーでさ。かなしくなっちまう。
ハーレムでも愛があればいーとおもうけどお。
どーせおれはしなねーんだ。お嫁さんのひとたちの手とか足とか首とかのわっかを壊したいな。
寄生生物もひっぺがしたい。
おれはいいんだ。ぐっしゃぐしゃのめっこめこになっていいよ。いいからお嫁さんのひとたちを助けたげたいんだよ。
このひとたちだって、もとは生きてたんでしょう。ひとに戻してなんていわないから、すこしでいいから、ひととして死なさせてあげたいよ。
そのためなら、おれはミンチになっていいんだ。



●人としての
 むー、と茜崎・トヲル(白雉・f18631)が小さく唸った。
 目の前にはヴァンパイアの僕だという花嫁達が並び、自分達の側には捧げられるという名目で花嫁の恰好をした囮である猟兵が並んでいる。
 片や、雁字搦めで薄っすらと微笑んではいるが感情の死んだ顔で。
 片や、好きな人や友人と共に、信念のある顔で。
 こんなにも、こんなにも差があって。
 花嫁さんってさ、もっとゆめいっぱいしあわせいっぱいなものでしょう? なのに、どうして目の前に並んでいるあんたたちは、しあわせそうに見えないの。
「かなしくなっちまう」
 ぽつりと呟いたトヲルの声は、誰にも届かない。
 届かないまま、目の前の花嫁がトヲルの目の前まで来ると、手を差し出した。
『主様の新しき花嫁となる方。さあ、我らとともに参りましょう』
「……ハーレムってやつ?」
『主様は等しく愛をお与えくださいます』
「ハーレムでも愛があればいーとおもうけどお」
 そうじゃないでしょ、とトヲルが眉を下げる。
 だって、愛に満ち溢れていたら、例えそれがヴァンパイアの歪んだ愛だったとしても、そんな顔をしたりはしないと思うのだ。
「いいよ、どーせおれはしなねーんだ」
 だから、お嫁さんのひとたちの手とか足とかの、嫌なわっかを壊したいと強く強く願う。
「ああ、寄生生物もひっぺがしたい」
 いやなもの、ぜんぶぜんぶ。
「おれはいいんだ、ぐっしゃぐしゃのめっこめこになっていいよ」
 どうしたって死なない身だから、痛いことされたって、痛くはないんだ。
 だから、ねえ。
「助けたげたいんだ」
 きみを。
 だから、身を削る。
『あなたは、何を』
 しているの、と問うヴァンパイアの花嫁の手枷が、足枷が、かちゃんかちゃんと音を立てて外れていく。
 ばきりぼきりと折れる指の先で、首枷にも触れる。
「だって、生きてたんでしょう」
 元々は人間だったはずだ、人に戻してとは言わないけれど。
「すこしでいいから、ひととして死なさせてあげたいんだ」
 首枷が外れて、寄生生物がべちゃりと潰れる。
『あ、あ、だめです、あなたは主様の脅威となる方』
 わたし、わたし、死ななくては。この人を道連れに、自爆して。
「いいよ、そのためなら、おれはミンチになっていいんだ」
 だから、抱きしめていてあげる。
 そうしたら、ひとりじゃないでしょう? さみしくないでしょう?
 それは正しく救いの言葉で、彼は聖者であった。
 どうか彼女に、人としての死を――。

成功 🔵​🔵​🔴​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
少女達に招かれるようにゆっくりと歩みつつ【禍の魔杖】を高速詠唱。
ある程度接近したら魔術を行使。一気に少女達へ『剣』を叩き込む。
全力魔法と範囲攻撃を加え破魔と2回攻撃と貫通攻撃も付与しておく。
封印を解いて限界突破で『剣』の本数をできるだけ底上げしておこう。
数の底上げをしておけば救済者達のフォローにもまわせると思う。
周囲の警戒などで常に視認確認する。

少女の攻撃を回避する為に私は可能な限り左右に動きたいが…。
むぅ。予想はしていたがやはりこのドレスは動き難い。裾が邪魔だ。
スカート部分を破…痛い。何をする。露。…可愛いのに破くな?
そういえば借り物だった。流石に破損させるのは不味いか。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
男の人が高笑いしながら空から来て攫うのかと思っていたわ。
…え?ヴァンパイアの基本的な攫い方ってそーなんでしょう?
蝙蝠引き連れて月夜の空…なんで呆れてるのレーちゃん。
…だって。あたしヴァンパイアしらないもん…。

可愛い女の子達に攻撃するのは本当に嫌だけど仕方がないわ。
あまり女の子達が苦しまない方法で一人ずつ倒そうと思う。
…首がいいかしら。それから心臓?うーん。やっぱり首で。
破魔の力を籠めた片刃の剣で戸惑いなく一気に首を狙うわ。
ごめんなさい。安らかに死の世界へ旅立ってね。
回避は第六感とか野生の勘と視認でやってみるわ。
それからレーちゃんと連携したり救済者さんのことも護る。



●安らかな眠りを
 ベールを被ったシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の隣で、タキシードを着た神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)がぽかんと口を開けている。
「露? どうかしたのか?」
「レーちゃん、ヴァンパイアって男の人が高笑いしながら、空から来て攫うんじゃないの?」
 こう、マントをバサバサーってして、と露が真剣な表情でシビラに問い掛けた。
「……映画か小説の見過ぎだ」
「……え? でもでも、ヴァンパイアの基本的な攫い方ってそーなんでしょう?」
 蝙蝠を引き連れて、月夜の空の下で大きな窓から美女を狙うのよね? と、露がオーソドックスな吸血鬼のイメージをシビラに小声で語る。
「……そういう輩もいるかもしれないが、そんなのばかりじゃないだろう」
 現に、己の僕に迎えに来させているじゃないか、とシビラが呆れたように露を見た。
「なんで呆れてるのレーちゃん!」
「いや、あんまりにも露の思考が物語で見るヴァンパイアで」
「……だって、あたしヴァンパイアしらないもん……!」
 それこそ、処女の血が好きで十字架とニンニクに弱くて、心臓に杭を打たれると死ぬ、現代地球に伝わるようなおとぎ話レベルの話しか知らないのだと露が可愛い頬を膨らませた。
「ああ、わかった、わかった」
 露を宥めるようにシビラが返事をして、人形のような笑みを貼り付けたヴァンパイアの花嫁を見遣る。
「この世界のヴァンパイアはそんな物語の中のように可愛らしい存在じゃない、それだけは確かだな」
「そうなの? 物語の中のヴァンパイアも結構あれだったけれど」
「でも、物語の彼らは人の前に堂々と姿を現したりはしない。隠れ住む存在だ」
 けれど、この世界のヴァンパイアは支配者であり、迫害される存在ではない。
「こうやって花嫁を集めて贄にして、気に入った者はああやって下僕にする……物語の中の方がよっぽどマシだろう?」
「……そうね、あの子達は自我を壊されているものね」
 可哀想だわ、と露が小さく零すと、ヴァンパイアの花嫁達がそれぞれ前に出て、新たな花嫁を手招いた。
「露」
 シビラが短く名前を呼ぶと、露が頷く。それを合図にして、シビラは彼女達に手招かれるままに、ゆっくりと歩を進めながら禍の魔杖の詠唱を口の中で済ます。
 あと三歩、二歩、一歩――。
「解き放つ」
 シビラの魔力を乗せた声に従い、紅の剣が顕現するとヴァンパイアの花嫁に向かって放たれる。
『く……っ危険、この花嫁は主様の脅威になる者』
 危険であれば、排除しなくてはならない。己が命を以ってして、主様を脅かすものを殺すのだ。
 かちゃり、と足枷を鳴らしてヴァンパイアの花嫁がシビラへと近寄る。
「あたし、可愛い女の子に攻撃するのは本当に嫌だけど、仕方ないわ」
 シビラを害そうというのなら、それはどうしたって許せるものではないのだから。
「でも、なるべく苦しまない方法で倒してあげるわね」
 シビラの盾になるように、露が冬の月のように青白く煌く片刃の剣を構えて立ち塞がる。
「……首が良いかしら、それから心臓? うーん、やっぱり――」
『主様、万歳!』
 首で。
 破魔の力を籠めて、露が戸惑うことなくヴァンパイアの花嫁の首を自爆する隙を与えることなく刎ねた。
「ごめんなさい、安らかに死の世界に旅立ってね」
 ころりと転がった首と、どうっと地面に倒れた花嫁の身体が風に攫われるように崩れ落ちていく。
『ああ、主様、全ては主様のために……!』
 もう一人の花嫁が露へ襲い掛かろうとすると、シビラがそれを防ごうと無数の紅の剣を操って牽制する。
『痛くないわ、なぁんにも痛くないのです、主様のためですもの……!』
 痛みの感覚を遮断した花嫁は人形のように笑って、シビラに向かってその手を伸ばした。
 それを避けるべく、シビラが左右へと動く、けれど。
「むぅ。予想はしていたがやはりこのドレスは動き難い、裾が邪魔だ」
 思い切ってスカート部分を破ろうか? と、スカートに手を掛ける。
「だめよ、レーちゃん!」
 花嫁の攻撃をクレスケンスルーナで受け流しつつ、めっとシビラの手をぺちんと露が叩いた。
「痛い。何をする、露」
「折角の可愛いドレス、破いちゃだめよ! それに、借り物なのよ?」
 レーちゃんが買い取って着てくれるなら話は別だけど、と露が花嫁の腕を飛ばして言う。
「そういえば借り物だった、流石に破損させるのは不味いか」
 ならば早いところ決着を付けるべきだなとシビラが頷き、目の前の花嫁に紅の剣を集中させる。
「さらばだ」
 ヴァンパイアの花嫁などではなく、好いた者と幸せになれるように。
 紅の剣をその身に受けて、地に倒れ伏した少女へとシビラが呟いた。
「さあ、露。救済者たちのフォローへ回るぞ」
 幾つかの剣はフォローに回していたけれど、攻撃を防ぎきれるわけではない。
 誰一人欠けることなく戻る為に、二人は人手が足りない方へと走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
花嫁共が並ぶ様子は不気味でぞっとするほど美しいが、俺の好みではないな

司祭が着る祭服風の白いローブで花嫁風に変装すれば、護衛と共に時を待つ
例の花嫁共の姿を目視後、護衛がいれば然り気無く合図し後ろに下がらせる
この護衛には俺が先制攻撃にて暗殺を仕掛けると同時にこの場所から離脱するよう事前に打ち合わせを

敵が近付くのに合わせ、服に仕込んだ暗器の攻撃可能範囲に入った瞬間に早業で一気に仕掛ける
出来れば脚を部位破壊し機動力を封じたい

技を使われるのは厄介だ
その前にUC発動し俺が使える技能全てで成功率を少しでも高め、敵の技を封じるよう試みる

止めは一気に首を落とす
俺に出来ることは苦しまず終わらせてやるだけだ



●一思いに終わらせて
「あちらもこちらも花嫁、か」
 ただし、あちらは人としての生を終わらされたもの、こちらは生きた花嫁ではあるが。
 白が並ぶ様子は不気味でぞっとするほど美しいけれど、自分の好みではないなと薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)が胸の内で呟く。
 司祭のような白いローブで花嫁として通るのかと考えるけれど、目の前に居並ぶヴァンパイアの花嫁は訝しむような様子もない。
 ……そんな意志が残されているのかもわからなかったけれど。
 視線を送り、護衛として付いてきた闇の救済者達を後ろに下がらせ、悟郎がさり気なく前へと出る。
『どうぞこちらへ、主様の新しい花嫁となるお方』
 一歩、また一歩と、ヴァンパイアの花嫁がその使命を全うする為に、悟郎へと近付いた。
 それに合わせ、悟郎も服の中に仕込んだ暗器をいつでも使用できるように、ローブの中の手を動かす動作へと入る。
 あと一歩、半歩。
 今だ、と己の勘が告げるままに、苦無を投げた。
「行け!」
 悟郎の鋭い言葉と共に、救済者達が悟郎の戦闘領域から離脱していく。予め打ち合わせた通りだと悟郎が唇の片端を持ち上げ、素早く鋼糸を伸ばす。
 それは髪の毛よりもずっと細く、蜘蛛の糸のように目立たないもの。
『ああ、あなたは主様に危害を加える者、です……!』
「浅かったか」
 否、機動力を削ぐ為に脚を狙った苦無は確かにヴァンパイアの花嫁の脚に刺さっている。動けるのは、主と崇めるヴァンパイアへの植え付けられた忠誠心によるものだろう。
『全ては主様のために……!』
 更なる痛みを捨てる為に、花嫁が動く。
「させない!」
 その力を封じる為に、悟郎が拘束具を放つ。更なる手枷が嵌められ、より一層動きが鈍くなるが他の二つは避けられてしまう。
『主様、主様……!』
 痛みの全てを寄生生物によって麻痺させた花嫁が、悟郎を倒そうと向かってくる。
「ならば、断ち切るまでだ」
 ひぅん、と音無き音が響く。
 瞬間、月明かりに煌いた一筋の光りがヴァンパイアの花嫁の首へと巻き付いた。
「せめて苦しまずに終わらせてやる」
 悟郎の指先がくんっと曲げられると同時に、花嫁の首が椿の花が落ちるかのように転がり落ちて、遅れて身体が地面へと倒れる。
 風に散っていくその残骸に僅かに視線を落として目を閉じると、悟郎はもう振り返ることなく救済者達の手助けをする為に駆けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

戀鈴・イト
【硝華】


花嫁は幸せの象徴だと思っていたけれど
哀しみに変わる事もあるんだね
同情は彼女達の為になるだろうか
それでもこのままの姿で良いとは思えないから

それに、
隣の片割れを見遣る
傷一つ付ける事は許さない
シアンは僕にとって何よりも誰よりも大切だから

攻撃を受け流すシアンに合わせて
どうして攻撃をしないのだろう
もしかして
彼女達を傷付ける事に躊躇いを覚えているのかな
シアンは優しいから

でもシアン
やっぱりこのままの方が可哀想だよ
僕たちの手で救ってあげよう

想刀と戀刀を一緒に突き立てる
おやすみ
本当に花嫁になりたかった人の元へ逝けるといいね

シアン?
ぼーっとしてどうしたんだい?
…いつか
君の花嫁になれたらいいな
と心の中で


戀鈴・シアン
【硝華】


まさかドレスを纏った女性の姿とは
花嫁は幸せの象徴
愛する人の隣で無垢に咲う姿
今の彼女達の姿からはかけ離れている

そんな風にされてしまうのなら余計に渡す訳にはいかない
それにこいつは、俺の為の花嫁なんだから

彼女達も眷属と化す前は、幸せな花嫁姿を夢見た時があったのだろうか
そう思うとドレスを傷付けるのは躊躇われてしまって
攻撃を受け流しつつ考える

イト……
そうか、そうだよな
俺に……俺達にしか、救えないのなら
イトの戀刀と俺の想刀
双方を同時に相手の胸へと突き立てて

ドレス姿の片割れを見る
いつかイトもこうして他の人の隣に立つかもしれない
そう思うと何故か胸が軋りと痛む
その日が来るまでこの笑顔は、俺に守らせて



●背中合わせの戀想
 花嫁達を迎えに来た花嫁――それはなんて悪趣味なのかと戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)が眉根を寄せる。
「花嫁は幸せの象徴であるべきなのに」
 愛する人の隣で無垢に咲う姿、それがウェディングドレスを着た者の本来の姿だろう。けれど、今シアンの目の前に立つウェディングドレスを纏った女性達は、一様に人形のような薄い笑みを浮かべ幸せとは程遠い場所にいるように見えた。
 生贄として差し出された花嫁達の末路はこうなのだと、ヴァンパイアが嗤っているような気さえしてしまう。
「花嫁は幸せの象徴だと思っていたけれど……哀しみに変わる事もあるんだね」
 シアンの隣で、戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)がぽつりと呟く。
 どうしたって助けてあげることはできない彼女達への、これは同情だと分かったうえでイトは助けてあげたいと思ってしまう。それは彼女達の為になるだろうかと考えて、それでもこのままの姿で良いとは思えなくて顔を上げた。
『さあ、どうぞこちらへ。主様の為の新たなる花嫁となるお方』
 ヴァンパイアの花嫁達が、ドレスに身を包んだイトを手招く。それを遮って、シアンがイトを庇うように一歩前に出た。
「そんな風にされてしまうのなら、余計に渡す訳にはいかない」
 それにこいつは、俺の為の花嫁なんだから。
 今は他の誰のものでもなく、俺の為の。
 そう、胸の内で囁くようにシアンがスウィートピーの華があしらわれた硝子細工の刀、想刀を手にして構えた。
『花嫁を連れて行く邪魔をなさるのですか、愚かな方』
 ヴァンパイアの花嫁が手枷の鎖をじゃらりと鳴らして、シアンに向かって身構える。
「愚かなどではないよ、君にも……君達にもいたでしょう?」
 イトがそう言って、シアンの横に並び立って隣の片割れを見遣る。
「自分を守ろうとしてくれた人が」
 だから、傷一つ付けることは許さない、シアンは僕にとって何よりも誰よりも大切だから。そう想いを込めて、スウィートピーの華があしらわれた硝子細工の刀、戀刀を構える。
『守る? わたし達が守るのは、主様ただお一人だけ。全ては主様のために……!』
 血の涙を流しながら、花嫁達がシアンとイトに向かって攻撃を繰り出す。花嫁らしからぬ手枷の鎖を鳴らし、ベールを翻して鋭く尖った爪を振るう。
「……っ」
 その攻撃を想刀で受け流し、シアンが考えてしまうのは血の涙を流す彼女達の事。
 ヴァンパイアの眷属と化す前は、幸せな花嫁姿を夢見た時があったのだろうか? 愛しく想う誰かの為に微笑みを浮かべて、ウェディングドレスを選んだことは――そう思うと、どうしてもドレスを傷付けることを躊躇ってしまう。
 いつもより鈍いシアンの動きに、同じように攻撃を受け流していたイトがちらりとシアンを見遣る。その表情はどこか精彩に欠け、何かを案じているようで、もしかして……とイトは彼の懸念に思考を巡らせる。
 ヴァンパイアの花嫁達を傷付けることに躊躇いを覚えているのではないだろうか、彼は優しいから。時に、優しすぎて自分が傷付くこともあるほどに。
 でも、とイトが戀刀を握る手に力を込めて思う。やっぱり、このままの方が可哀想だと。
「シアン、僕たちの手で救ってあげよう」
「イト……」
 彼女達への救い、それはすなわち安寧なる死に他ならない。
「そうか、そうだよな」
 俺に、俺達にしか、救えないのであれば。
 シアンが花嫁に向けて想刀を構える、その動きに応えるようにイトが同じように戀刀を構えた。
「イト」
「シアン」
 互いの名を短く呼んで、ヴァンパイアの花嫁に向かって鋭く一歩を踏みこんで、萌ゆる蕾を共に、萌す華を秘するままに、その胸に硝子の刃を突き立てた。
 その動きは美しいまでに同じ動きで、同時に突き立てた刃を引き抜くと花嫁達が渇いた土の上に倒れ込む。
「おやすみ、本当に花嫁になりたかった人の元へ逝けるといいね」
 イトの言葉が小さく響き、血の涙を止めた彼女達がさらさらと風に乗って散っていく。見送るイトの静かな笑みに、シアンがそうっと視線をやって目を伏せた。
 いつか、イトもこうして他の人の隣に立つのかもしれない。そう思うと、何故かこの胸が軋りと痛むのは何故だろうか。わからない、わからないけれど。
「シアン? ぼーっとしてどうしたんだい?」
 イトの呼び掛けに視線を上げ、何でもないと首を軽く横に振る。
「そう……? 何かあったら、僕に言ってね」
 その言葉に頷くシアンに、イトが笑みを返す。
 いつか、君の花嫁になれたらいいなと願って。
「ああ、もちろん」
 いつか離れるその日が来るまで、この笑顔は俺に守らせて。
 そう願って、シアンがイトの手を取り微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…来たわね。貴女達も吸血鬼の犠牲者なのでしょうけど、
今を生きる人達を害する存在になった以上、容赦する気は無いわ

今までの戦闘知識から敵のUCを先読みして見切り、
"精霊結晶"に吸血鬼化した自身の血の魔力を溜めUC発動

移動力を半分にして限界突破した"反射"の精霊獣を召喚
敵の陽光属性攻撃を魔鏡獣のカウンターオーラで防御して、
攻撃力を5倍に増幅して反射する太陽光線を乱れ撃ちして、
戦いが終わった後で犠牲者に祈りを捧げるわ

…私も貴女達と同じように吸血鬼になれるもの
ならば自ずと効果的な属性なんて決まっている

…そして来ると分かっていれば対処は容易い
さあ、お前自身が生み出した光に焼かれて眠りなさい。安らかに…



●光の中で
「……来たわね」
 聞こえた足音と鎖の音にリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が顔を上げれば、そこには生気のない花嫁達がずらりと並んでいた。
「……花嫁達の末路、と言ったところね」
 気に入った者は眷属にして、あとは食料となるのだろう。どちらがよりマシかなんて、どちらも最悪だとしか言いようがないけれど。
『さあ、おいでなさい主様の為の新しい花嫁』
 手招く花嫁にリーヴァルディが一歩を踏み出し、射抜くように彼女と視線を合わす。
「貴女達も吸血鬼の犠牲者なのでしょうけど」
『犠牲者? 違うわ、わたし達は主様の忠実な僕であり、花嫁よ』
 そう洗脳され、作り変えられたのだろうという言葉は飲み込んで、リーヴァルディが言葉を続けた。
「今を生きる人達を害する存在になった以上、容赦する気は無いわ」
 リーヴァルディの言葉が理解できなかったのか、ヴァンパイアの花嫁が軽く小首を傾げる。
「貴女達のようになってしまった者を、今までにも見てきたわ」
 使える主は違うだろうけれど、同じように洗脳され眷属に堕とされた者達を。
「だから、だいたいの動きはわかるのよ」
 己の戦闘知識と照らし合わせれば、それは容易いこと。
「……限定解放。血の契約に従い、始原の姿を此処に顕現せよ」
 己の血の魔力を触媒に反射の力を持つ精霊獣、魔鏡獣を召喚する。
『あなたを主様に仇なす者と断定します』
 敵対行動には粛清を、そう囁くように言うとヴァンパイアの花嫁の表情が完全に消え去った。
 喋ることもなく、ただリーヴァルディを屠る為だけに彼女が動く。己の身が滅びようとも構わないといった動きで、リーヴァルディに対して有効であろう属性を宿した爪先を放ち――。
「甘いわ」
 魔鏡獣がその爪を受け止め、リーヴァルディを守る。そして受け止めた属性、陽光のそれを増幅してヴァンパイアの花嫁へと撃ち放った。
「……私も貴女達と同じように吸血鬼になれるもの、ならば自ずと効果的な属性なんて決まっている」
 そして、来ると分かってるならばどう対処すればいいかなんて考えるまでもないこと。
 じゅうじゅうと焼け溶けていく花嫁を見下ろしながら、リーヴァルディが呟く。
「さあ、お前自身が生み出した光に焼かれて眠りなさい」
 永遠の安らかなる眠りを――。
 そう祈り、リーヴァルディは落とした視線を戻して前を向き、救済者達の手助けをする為に踵を返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
【軍馬の進軍】の白馬に宵を乗せた侭敵の花嫁達と対峙しよう
此方へ…?宵は俺のもの故、やる訳なかろうに
そう宵へ視線を向けた後、敵の花嫁と宵の間に盾になる様出つつ展開した光の盾とメイスを構えよう
戦闘時は白馬には宵を護る事を優先する様命を与えつつ
敵の攻撃を『盾受け』にて受けながら『怪力』を乗せたメイスを振るい攻撃をして行こう
強力な一撃には思わず眉を寄せながらも『カウンター』にて攻撃を
宵はやらぬと、言って居るだろう…!
その最中、美しく降る星々を見れば馬の上の愛おしい相手へ笑みをむけつつ一瞬の目配せを
…俺が宵を護る様、宵も俺を護ってくれて居るからな
さあ、疾く殲滅するとするか


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

ザッフィーロの召喚した白馬の背に乗ったまま、敵の花嫁たちを見渡して
ふふ、そういうことです
僕はかれのものなので、残念ですが諦めてください

敵からの攻撃には「オーラ防御」を付加した「結界術」を編み上げ
己とザッフィーロを包むように展開させましょう
敵の一撃を受けるかれには一瞬息を呑みつつ、目配せを受ければ頷いて

かれも僕のものなので
連れて行かせはしませんよ
「魔力溜め」「多重詠唱」を行った「属性攻撃」「全力魔法」をのせた【天響アストロノミカル】にて攻撃します

―――護る、ということはなにも攻撃を防ぎ庇うばかりではないのです
ええ、僕たちなりの護り方を、彼女らへ教えて差し上げましょう



●愛し君を守る為に
 目の前にずらりと並ぶヴァンパイアの花嫁を前に、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は白馬の手綱を強く握りしめる。それは恐れや逡巡などではなく、凛とした怒りだ。
 新たな花嫁をこちらに差し出せという要求は、分かってはいたが思っていたよりも腹が立つものだなとザッフィーロが馬上の花嫁、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)へと視線を向ける。
 その視線を受け、宵がベールの中で手を口許へとやって笑みを零した。
『花嫁をこちらへ渡すのです。渡さないのであれば、主様に仇なす者とみなします』
「此方へ……? 宵は俺のもの故、やる訳なかろうに」
 思わず口を衝いて出た言葉に、今度こそ宵が声に出して笑う。
「ふふ、そういうことです」
 ベールの中の視線をザッフィーロへと向け、それからヴァンパイアの花嫁へと向ける。
「僕はかれのものなので、残念ですが諦めてください」
「宵……」
 僅かに相好を崩しつつ、ザッフィーロが宵を守るように前へと出た。
『主様に仇なす者、ここで潔く散りなさい……!』
 そう言った花嫁から、感情の一切が消える。人形のように貼り付けていた笑みは無表情なそれへと変わり、握られた拳はザッフィーロへと定められる。
「白馬よ、宵を守れ」
 短く告げるとザッフィーロが淡く光る盾を展開しつつ、メイスを手にヴァンパイアの花嫁に立ち向かう。
「僕も守られてばかりいるわけにはいきません」
 敵を牽制する白馬の鬣を撫で、オーラの力を組み込んだ結界を編み上げる。それを自身が纏うベールのように、己とザッフィーロの守りとなるように展開させた。
「助かる」
 短い言葉なれど、愛しい人の背を守る喜びに宵が思わず笑みを浮かべた。
 ヴァンパイアの花嫁の拳を光の盾で受け、その力の衝撃を上手く横へと流す。体制が崩れたところへメイスを振り下ろそうとすると、もう一人の花嫁が庇うように前に出る。
『主様、全ては主様のために……』
 全ての痛みを麻痺させた花嫁は、血の涙を流しながらも攻撃を受け止めて主への愛を謡う。
 そんなものは愛でも何でもなく、ただの洗脳と支配だとザッフィーロが眉根を寄せた。
「可哀想な花嫁だ」
 幸せになる道もあっただろうに、花嫁と言う名の奴隷、生贄にならざるを得なかった者達。
「俺のものを渡すことはできないが、その命を天に返そう」
 聖者として、それが己にできることだとザッフィーロがメイスの柄に仕込んだ鎖を伸ばし、鞭のようにしならせてメイスの先をヴァンパイアの花嫁へと喰らわせた。
『ちがうわ、ちがうわ、全ては主様のもの』
『主様の望む花嫁を連れて行かなくては』
『主様は喜ばれないの』
『主様、主様に喜んでいただく為にも』
 さあ、花嫁を引き渡せ。
 傲慢なそれは主たるヴァンパイアのものだろうか。そう考える暇もなく、強力な一撃がザッフィーロを襲う。
「く……っ」
 ザッフィーロ、と息をのむ宵の声が聞こえ、平気だと示す為にザッフィーロが宵に瞬間視線を向ける。そして、光の盾で受け止めたまま、カウンターだとばかりにメイスを振り回した。
「宵はやらぬと、言って居るだろう……!」
「ええ、かれも僕のものなので連れて行かせはしませんよ」
 瞬間、宵の周辺に魔力の奔流が起きる。
 愛しい者を護ることは、攻撃を防ぎ庇うばかりではないのだと宵が微笑む。
「流星群を、この空に」
 魔力に呼び寄せられるかのように星が回り、宵の力に応じた星の力が花嫁へと降り注いだ。
 美しい星々が流れ落ちる中、馬上の愛おしい相手を束の間見つめ、ザッフィーロが笑う。
「……俺が宵を護る様、宵も俺を護ってくれて居るからな」
「ええ、僕たちなりの護り方を、彼女らへ教えて差し上げましょう」
 疾く、殲滅といこう――。
 星が舞い、光が弾ける。
 義務や命令などではない、互いを護る為の戦いこそが彼らが最も得意とするもの。それにヴァンパイアの花嫁が敵うはずもなく、あっという間に決着がつきザッフィーロが武器を納めた。
「願わくば、彼女達の魂が安らかんことを」
 そう囁くような祈りを落とし、ザッフィーロが宵を見上げる。
「戻ろうか、俺の花嫁殿」
「……ザッフィーロ」
 屈託のない笑みを向けるザッフィーロに、照れたように笑って宵も囁くように言葉を返した。
 ええ、僕の花婿さん、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファン・クロウフォード
【箱2】◎
戒の頬を撫でてベールで隠す。腕を絡め花嫁姿で共に無抵抗に敵意なく少女に歩み寄る。
機械的な動きは読みやすそうで、泣きじゃくられるより相手がしやすい。
従順な僕に無意味な拘束具。そこに魂が繋がれているようで辛い。
あるべき場所へ魂を導き、安らぎを与えるは俺の死神としての責務。
魂が光に向かって歩めるように。拘束から解放を。祈る様に少女の頭を撫でる。
少女の鎖をグラップルで掴み近くの少女に怪力でぶつけて体勢を崩す。
属性攻撃で氷結を強化した冥府葬送。
もう休んでいいよ。後は俺達に任せて。
氷の柩に捉えた少女がもう二度と立つことないよう拳で粉砕する。
残像で攻撃をかわし、軽口に楽し気に応じて戒を背に庇い戦う


瀬古・戒
【箱2】◎
タキシードでもベール被っときゃいーんだっけ? 一緒に花嫁のふりし不意を突きラファンと合わせ先制攻撃を
え、ちょ、腕組む???かわいいか貴様

手枷足枷て……っとに趣味ワリィ
幸せに包まれ着るはずの衣装を着、贄となった少女達…どんな思いだよ…、張り裂けそうだ。昔、村の為に贄になった兄貴…辛かった、よな。こんなん、もう、終わりにしなきゃなんねぇ
距離を保ち銃で撃つ。アキレス腱、間接撃ち抜き機動力を削いでから仕留める。一切容赦しない、ゆるせ
辛くて息が詰まるから軽口交えてく。ラファンー、パンチラすんなよ?背中合わせイイっすね
最後、消えゆく少女の手をとり祈りを…どうか、どうか、安らかに…
…泣いてねぇし



●ベールに隠して
 街外れに到着し、辺りを見回せばタキシード姿にベールを被る者もちらほらと見えて、瀬古・戒(瓦灯・f19003)がラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)のベールを指先でぴらっと捲って軽く唇を尖らせた。
「タキシードでもベール被っときゃいーんだっけ?」
「白い衣装でベールを被っていれば花嫁認定らしいからな」
 正確にはベールでなくとも白い布を被っていれば良いのだが、ぴらぴらとベールを摘まんで遊ぶ戒にラファンがどうした? と問い掛ける。
「んー、どうせなら俺もベールを被って花嫁の振りをしておけばよかったかなって」
 タキシードにベールもそれはそれで良いものではないだろうか、とラファンが閃いたような顔をして自分の頭に被さっているベールを取った。
「何してんだ、ラファン」
「ん」
 そっと戒の頬を撫で、ベールを広げて二人で被ると戒の腕に己の腕を絡めて笑う。
「え、ちょ」
「これで二人とも花嫁だろう」
「腕組むとか、かわいいか貴様……」
 しかもベールを一緒に被るって何??? 相合傘ならぬ相合ベールか??
「かわいいかよ」
 大事な事なので、二回目の可愛いが口から衝いて出たのは仕方ないことだった。
「このまま無抵抗で行こう」
 そうすれば、恐らく怪しまれることなくヴァンパイアの花嫁まで近付けるはず。
「あ? ああ、了解」
 ラファンの意図を読み取って戒が頷くと、迎えだと称する花嫁達がそれぞれに向かって近付き、手招く。
『さあ、おいでなさい。主様に愛される新たな花嫁達』
 手招く彼女達の手首には手枷、それから足枷と首枷が見えて戒が顔を顰めた。
「手枷足枷て……っとに趣味ワリィ」
 囁くような戒の言葉にラファンも頷いて、改めて花嫁達を見遣る。薄っすらと微笑んでいるように見える人形のような顔、そしてどこか機械的なように思える言葉。
 泣きじゃくられるよりは相手がしやすいけれど、だからといって気分が良いものでもない。それに従順な下僕となった者への無意味な拘束具は、そこに魂が繋がれているかのようでラファンは思わず奥歯を噛み締めた。
「終わりにしてやんなきゃな」
 そう、戒がぽつりと零す。
 幸せに包まれて着るはずだった衣装を着て、贄となった少女達の想いを考えれば胸が張り裂けるように切なく悲しい。
 昔、村の為に贄になった兄貴も、きっと辛かったはずで。
 だから、こんなのは、もう。
「戒」
 無意識に噛み締めていた戒の唇をラファンがなぞって、その強張りを解いてやる。
「ラファン」
「行こう」
 寄り添うように二人で歩き、ヴァンパイアの花嫁との距離を一歩、また一歩と詰めていく。
『どうぞ、こちらへ』
 二人の花嫁が機械的な笑みを浮かべ、ラファンと戒に背を向けて付いてくるようにと促す。それは先制攻撃を仕掛ける好機、二人が軽く目配せをすると、素早く戒が動いた。
 双子の水子霊スイとレンを放ち、隠し持っていた二丁の回転式小型拳銃を手にすると、地獄の炎で出来た弾丸を迷わず花嫁のアキレス腱、そして関節へと撃ち込んだ。
『何を……っ』
 倒れ込んだ花嫁に驚き、もう一人の花嫁が振り返る隙を突いてラファンが手枷の鎖を掴み、力任せに振り切ると体勢を崩した花嫁がたたらを踏む。
『主様への敵対行為とみなします、主様の脅威となる者は誰であっても排除します』
『全ては主様のために……!』
 戒に撃たれた花嫁が全ての痛覚を麻痺させて立ち上がり、体勢を崩した花嫁が全ての感情を捨て去ったような無表情な顔で二人を見る。
「一切容赦はしない」
 ゆるせ、とは口にせず戒が次を撃つために鉄紺と藍鉄を構えた。
「お前たちに光の道を示そう」
 あるべき場所へ魂を導き、安らぎを与えるは俺の死神としての責務だとラファンが拳を握り直す。
『わたし達の幸せは主様と共に』
 それは幸せなどではなく。
 ギリッと奥歯を噛んだ戒が蒼き炎の弾丸を撃ちながら、花嫁と拳を交えるラファンに声を掛ける。
「ラファンー、パンチラすんなよ?」
「お色気も少しは必要だろう?」
 はは、と笑った戒の顔色は少しだけマシになったようで、ラファンは軽く息を吐いて氷の力をその腕に纏う。そして、少しでも早くヴァンパイアの花嫁達を救う為に拳を振るった。
 その拳は迷いなく花嫁を捕らえ、触れた傍から凍結させて動きを奪う。
「もう休んでいいよ。後は俺達に任せて」
 氷の柩に眠るように閉じ込めた花嫁の頭を祈る様に撫で、もう二度と立ち上がらぬようにとその柩を粉砕した。
『主様に仇なす者は、わたし、わたしたちが』
 ころさなくてはいけないの。
 そう呟いて無表情なまま突撃してくる花嫁から戒を守るように背に庇い、ラファンが立ち回る。
「背中合わせに戦うってのもイイっすね」
「戒は俺のだからな」
 そうだっけ、そうだったわ、と笑って、戒がラファンの背後から銃口を花嫁へと向けて最後となるように蒼き炎の弾丸を放った。
 眉間と心臓を貫いたそれは、花嫁を蒼い炎で包んで。
「……どうか」
 戒がもう動かぬ花嫁の手を取って、祈る。
 どうか、安らかに、と。
「泣くな」
 ベールを戒に被せて、ラファンが言う。
「……泣いてねぇし」
 そうか、と戒の頭を撫でたラファンの手は優しく、戒はそうだよ、と呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルクセンディア・エールハイム
ディアナと(f01023)

いやはや、人の花嫁を奪おうとするというのも許しておくわけには行かないな?
(そっと自分の方に引き寄せつつ)

当然。奪われるのは俺は嫌いだ。
あくまで俺たちが、奪うのだから。併せていくぞ。

咎力封じを狙おう。それで行動を封じれればディアナもやりやすかろう。
俺は足を引く、殲滅は任せるぞ?

そのまま生きていても操りのまま、それでは忍びないな。
せめて安らかに眠れることは祈ってやる。
恨むならトータルでの運の悪さを恨むことだ。


ディアナ・ロドクルーン

ルクセンディアさんと(f24257)

よほど此処のヴァンパイアは花嫁姿のヒトが好きなのね
(傍らの彼に語り掛け)


…ルクス…っ!!!さらりと変なこと言わないで…!
(あわわはわわしつつ)

相手に対する返答は、言わなくても分かるわよね
私なら、どう動こうとするのか貴方なら―

ルクスの咎力封じで相手の攻撃を封じたのを見れば
死の舞踏で花嫁たちを葬り去るわ

反撃してきたのなら、第六感で回避を試みて
部位破壊で足を狙い相手の動きを封殺

ただの傀儡人形と化したのなら、解き放ちましょう
その鎖、を断ち切って
永劫の眠りへ、海へ、還りなさい

(終わったら)
…派手に立ち回ったつもりはないけど、汚れていないわよね
さあ、街に戻りましょう



●花嫁は誰のもの
 目の前に居並ぶヴァンパイアの花嫁を見て、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)はぱちりと目を瞬かせ、傍らのルクセンディア・エールハイム(不撓不屈の我様・f24257)の服の裾をちょいちょいと引っ張った。
 そうして、ほんの少しだけ屈んだ彼に、そっと内緒話でもするかのように話し掛ける。
「よほど此処のヴァンパイアは花嫁姿のヒトが好きなのね」
「美しいものを近くに置きたいということか」
 その気持ちはわからないでもないけれど、あれは美しくはないだろうとルクセンディアが小さく零す。
 生気を感じられない張り付いたような薄い笑みに、感情のない声。作り物と言えばわかりやすいのだろうか……と考えて、作り変えられたか、とディアナを見遣る。
 美しいとは、彼女のように感情を露わにした笑みや拗ねた顔、恥ずかしそうにする生きた人間を言うのだと思うのだが、とまじまじとルクセンディアがディアナを見つめる。
「……ルクス? あの、どうかした?」
「いや、美しい花嫁なら俺の隣にいるな、と思って」
 ほら、頬が赤くなるのも可愛らしいと、ルクセンディアが小さく笑った。
『さあ、主様のための新たな花嫁よ、こちらへ』
 ヴァンパイアの花嫁が手招きをして、こちらへ来るようにと促す。
 一歩を踏み出しかけたディアナの腰に手を回し、ルクセンディアが己の方へと引き寄せる。
「いやはや、人の花嫁を奪おうとするというのも許しておくわけには行かないな?」
「……ルクスっ!! さらりと変なこと言わないで……!」
 さっきだって、とあわあわするディアナに笑って、だが俺のだとルクセンディアは譲らない。
『どうしました、早くなさって。主様がお待ちです』
 お引き渡しを、とヴァンパイアの花嫁が二人に迫る。
「……あちらに対する返事は言わなくても分かるわよね」
「当然。奪われるのは嫌いだ」
 それが大事なものであれば、尚更。
「あくまで俺たちが、奪うのだから」
 併せていくぞ、と囁かれた声にディアナが頷き、ヴァンパイアの花嫁達の方へと歩き出す。
 私なら、どう動こうとするのか――貴方なら分かるはず。
 そうディアナが思うよりも早く、ルクセンディアが動いた。
「お前の動きを封じる」
 短くも力が込められた言葉と共に、手前にいた花嫁に三つの拘束具が飛ぶ。それは一つ一つ花嫁の自由を奪い、終いにはその力さえも封じてみせた。
「ディアナ」
 短く名を呼べば、心得たとばかりにドレスの裾を翻してディアナが自由を奪われたヴァンパイアの花嫁へと迫る。
「全てを壊し、全てを刻め。その身を赫く染め上げろ」
 ディアナが隠し持つ武器の全てが、その姿を鋭利で透明なガラスの薔薇の花びらへと変えて花嫁へと襲い掛かった。
 行動を封じさえすればディアナが殲滅を担うはず、と思った通りだと笑ってルクセンディアがもう一人の花嫁へと向かう。
「俺は足を引く」
「わかったわ!」
 もう一人の花嫁が血の涙を零しながら、高らかに謡う。
『全ては主様のために……!』
 全ての痛みを麻痺させて、己の命は主様のものとヴァンパイアの花嫁がルクセンディアに向かって駆ける。その爪先を避け、同じように拘束具を放つが一つ避けられてしまう。
 猿轡と手枷によって動きは大分制限できたが、とディアナを見れば美しい笑みを浮かべてそれに応えた。
「充分よ」
 動きを制限されたヴァンパイアの花嫁に向かって、足を狙ってガラスの花びらを飛ばす。土埃を上げて地面に転がった花嫁に、ディアナが瞬間、憐憫の表情を浮かべた。
「ただの傀儡人形と化したのなら、解き放ちましょう」
 その鎖を断ち切って、永劫の眠りの中へ。
「海へ、還りなさい」
 その言葉と共に、渦を巻くようなガラスの花びらが薔薇の形を模って、花嫁へと降り注いだ。
「あのまま生きていたとしても、ヴァンパイアの操りのまま、せめて安らかに眠れることは祈ってやる」
 ルクセンディアがヴァンパイアの花嫁の骸へ祈りを捧げると、風に攫われるようにその身体が解けていく。
「……恨むならトータルでの運の悪さを恨むことだ」
「運が悪かった、だけで済まされることではないけど……そうね」
 諸悪の根源はいつか、倒される日が来るだろうとディアナが顔を上げる。
「ルクス、少し見てほしいのだけど」
「何だ?」
「……派手に立ち回ったつもりはないけど、汚れていないわよね?」
「ああ、綺麗だ」
 ドレス、と聞いたはずなのだけれど、ルクセンディアが見つめるのはディアナの顔で。
 もう、と頬を膨らませたディアナが街へ戻ろうとそっぽを向けば、くつりと笑ったルクセンディアがその手を取って歩き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
【狼と焔】

服に慣れない結希に代わり敵を引き受ける
剣を渡し武装すれば結希が狙われるか…
withを借りるぞ、服を汚しても困る

結希の戦い方に倣って速度に大剣の重さを乗せて威力を増し、敵の強化を正面から叩き伏せたい
UCで増大した速度でのwithを構えた突進を、跳躍からの振り下ろしに繋げる
結希へ向かうなら遠心力を乗せて大剣のリーチで薙ぎ払い妨害
懐に潜り込まれたら刀身を盾に、銃の抜き撃ちで反撃
悪いな、花嫁は渡せない

剣を振るう勘は鈍っていないが、withの力に寄る所も大きいか
結希の声に応えようとしたのはwithと俺のどちらだろう
…何をしている、仕方のない花嫁だ
服は街に戻れば何とでもなる、怪我が無いなら良い


春乃・結希
【狼と焔】


うん…シキさんになら、貸しても良いよ
withも戦えた方が喜ぶと思いますし
withとはUCで心を繋ぐ
貴方に触れてなくても、これなら寂しくないから

拳振り上げ、声張り上げて応援します
シキさん、with、頑張れー!
…ていうかシキさん、withの使い方上手過ぎん…?
もしかしたら私より…う、ううんっ、そんな事ないっ。だって私彼女やし恋人の事は私の方がよく知ってるし…っ
なんてひとりで葛藤したりしつつ
わはー!2人ともかっこいいよー!

…でも、戦ってるの見てると、私も戦いたく…
うぅ…や、やっぱり私も…っ!?
駆け出そうするけど、ドレスの裾を踏ん付けて派手に転ぶ
…あああ…シキさんごめんなさい…どれすが…っ



●あなたと共に
『我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました』
 そう告げるヴァンパイアの花嫁達に、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が眉根を寄せる。
「人の気配ではないな」
 それに匂いも、とシキは思う。人狼ゆえか、人よりは利く鼻で感じる情報は確かに彼女らがヴァンパイアに列なる者であり、オブリビオンであると告げていた。
「気を抜くなよ」
 そう、隣の春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)へと声を掛ける。
「勿論、でもあの、やっぱりこの格好で戦うのって難しいような……!」
 何を今更、と言う様な顔をしたシキが小さく笑う。
「うう、ドレスの丈が短めのを選ぶべきでした……っ」
 ドレスの丈が短くとも、やはり慣れぬ服装で大剣を扱うのは難しいのではないかとも思うけれど、そこはそれ、というやつだ。
「安心しろ、俺が結希の分も戦ってみせる」
 そも、大剣を渡して結希が武装すれば花嫁の恰好をしていると言っても、狙われてしまうかもしれないと思うと安易に渡すわけにもいかない。
『さあ、新たなる花嫁よ』
 こちらへ、とヴァンパイアの花嫁が手招く。これ以上は時間稼ぎもしていられないかと、シキが結希を真っ直ぐに見つめて言う。
「withを借りるぞ、服を汚しても困る」
 withを借りる、というシキの言葉に結希が何度か目を瞬かせ、シキの目と彼が背負う己の愛剣であり恋人でもあるwithとを見て。
 そして、重きを決意するかのように、こくりと頷いた。
「うん……シキさんになら、貸しても良いよ」
 信用するシキだからこそ、withを預けたのだ。
「withも戦えた方が喜ぶと思いますし、それに」
 そう言って、結希が胸の前で手を組むとwithを見つめる。
「心はいつも、貴方と共に」
 囁く言葉は力となって、結希とwithを確かに繋いで。
「貴方に触れてなくても、これなら寂しくないから」
 結希とwithの見えない絆が確かに繋がれたのを確認し、シキが背からwithを下ろし、構える。
『……それは、主様に対する敵対行為とみなします』
 大人しく花嫁を渡さないのであれば、それは主様の脅威となるものだとヴァンパイアの花嫁が断定するようにシキを指さす。
「ああ、その通りだ。花嫁を渡してしまっては、この大剣に怒られてしまうからな」
 そう言って、シキが両手で構えたwithを花嫁に向かって振り下ろす。速度に大剣の重さを乗せ、威力を増すそれは結希の得意とする戦い方だ。
 それに倣うように、シキはwithを堂々と扱ってみせる。
『全ては主様のために……!』
 主様のために、主様のために。それだけでヴァンパイアの花嫁達の意識が埋まり、あらゆる痛覚が消え失せてシキへと駆けた。
「シキさん、with、頑張れー!」
 拳を振り上げつつ、結希が二人の応援に回る。そして、いつもは見ることのできない振るわれるwithの美しさにうっとりなんかもしたりして。
「――……ッ」
 ヴァンパイアの花嫁が接近するその瞬間、シキの瞳が鋭く光る。そして普段よりも早い速度でwithを振るい、その重さを叩きつけるかのように振り下ろした。
 花嫁の洗脳にも近い強化をものともせぬ様な、重く深い一撃は一体を迷わず地に伏せさせるほどの威力。
「with、シキさん、カッコいいよー! ……っていうか、もしかしなくてもシキさんwithの扱い方上手過ぎん……?」
 もしかしたら、私よりも……? なんて考えて、結希がぶんぶんと首を横に振る。
「う、ううんっ、そんな事ないっ! だって私、withの彼女やし、恋人の事は私が一番よく知ってるし……!!」
 なんて葛藤に身を捩るけれど、シキに振るわれるwithは確かに素敵でカッコよくて、私も普段あれくらいwithをカッコよく振るえているだろうかと真剣な表情で見入ってしまう。
 そうこうしている内に、せめて花嫁だけでもと考えたのかヴァンパイアの花嫁が結希へと向かおうと方向を変える。
「させるか」
 それを遠心力に乗せたwithの横薙ぎによって妨害し、こちらへ向かってきた花嫁をwithで防ぎながら胸元から抜いたシロガネによって撃ち抜いた。
「悪いな、花嫁は渡せない」
『おのれ、主様に仇なす者……っ』
 痛覚を切っている為か、その動きには躊躇がない。首を刎ねるしかないか、とバックステップを踏んで今一度withを振るう。首を狙ったその一撃は、確かにヴァンパイアの花嫁の首を刎ね落としてみせた。
「わはー! 2人ともかっこいいよー!」
 結希の声援に小さく笑い、剣を振るう勘はまだ鈍ってはいないが、withの力に寄る所も大きいかとシキがwithを撫でる。
「お疲れ」
 さて、結希の声に応えようとしたのはwithと俺のどちらだろうな? と大剣を見れば、物言わぬ剣が笑ったような気がして、シキが唇の端を持ち上げた。
「うぅ、カッコいいけど、戦ってるの見てると私も戦いたく……!」
 やっぱり私も、とまだ戦闘が続く場所があるかと、結希が駆け出す為に一歩を踏み出し――ドレスの裾を踏ん付けて、盛大に転んだ。
「……何をしている、仕方のない花嫁だ」
 withを背中に背負い、シキが結希へと手を差し出す。
「あああ……シキさんごめんなさい、どれすが……っ」
 ぴぃ、と今にも泣きだしそうな顔で結希がシキを見上げる。
「服は街に戻れば何とでもなる、怪我が無いなら良い」
 そう言ってシキが結希の手を掴んで立たせると、スカートに付いた土埃を叩いて落としてやるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四王天・燦
《華恋》

ドレス汚損防止に防具改造の符でオーラ防御を付与しておく

シホと手を繋ぐ時間は幸せだけど
少女を人として死なせてあげたい願いと、個を奪い『同じ』に作り変えた吸血鬼への怒りで猟兵の目になるぜ

少女に生前の想いが蘇るよう祈りを込めて声をかける
恋も独占欲も抱かれない偽りの花嫁を望んでいたのか、と

シホ、彼女達を救うぜ
シホとリンクし巡環を発動
舞う花弁の中、胸の谷間(詰物)から破魔符を抜いて貼り付ける
眷属の呪いを祓い、少しでも人としての意思を取り戻せますように

雷に合わせて聖光で加速し自爆より速く行動・決断だ
循環し稲荷符の加護を受けた花吹雪で包んで弔うよ

アンタ達の分まで幸せな花嫁になる
妬まず祝福して欲しいね


シホ・エーデルワイス
《華恋》


敵の装いを見て切なさを感じる

幸せで…あって欲しい花嫁が枷を嵌められている姿は悲しく痛々しいです
せめて最期の一時だけでも解放したいです


ドレスを破らないようオーラ防御で保護
もし破れたら戦後に『聖紗』で修復


敵の手招きに従い素直について行く演技で近づき
燦とリンクし【巡環】で先制攻撃

ええ救いましょう
燦!合わせます!

花吹雪に紛れて落ちる雷の閃光は麻痺と目潰しの気絶攻撃
奪った行動速度は祝福の光に還元され
その光は手向けの花畑を咲かす

その間私は
誘導弾で枷をスナイパーし部位破壊しつつ
自爆させないよう破魔の催眠術で生前の想いが蘇るよう祈りつつ
優しく浄化属性攻撃

この花畑は貴女達に捧げます
どうか安らかな眠りを



●幸せになる為に
 街外れ、と指定された場所はどこまでも続いているような空と見渡す限りの荒れ地が広がっていた。
 月と星の美しい夜というだけあって、今日ばかりは分厚い雲は晴れて星が瞬いている。そんな風に広がる空の下、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)と繋いだ手は温かくて四王天・燦(月夜の翼・f04448)の頬はどうしたって緩んでしまう。
「ああ、そうだシホ」
 何かしら、と首を傾げたシホも可愛いなと思いながら、燦がシホのドレスに触れる。
「折角のドレス、汚したらもったいないからね」
 力を込めた符をスカート部分の内側に貼り付ければ、ドレスを守るように符の力が張り巡らされた。
「ありがとう、燦」
 微笑むシホに頷いて、自分のドレスにも同じものを貼ると燦が顔を上げて目を凝らす。
「シホ、来たみたいだ」
「前方に、あれは……花嫁……?」
 こちらと同じような、白い一つの群れが見える。近付くにつれて分かるのは、確かに白いドレスを着てはいるけれど何処か薄汚れていたし、何よりも目立つのはその首と手足に付けられた枷。
「あれを花嫁とは呼びたくないな」
「ええ……幸せで……あって欲しい花嫁なのに、そうは見えないです」
 生気の感じられない、薄っすらとした笑みを同じように浮かべるヴァンパイアの花嫁達を見て、シホが目を伏せた。
 幸せの象徴とも言える恰好をしているのに、枷を嵌められている。それはなんて悲しくて、痛々しい姿なのか。
「シホ」
 燦が強く彼女の手を握り、強い意志を感じさせる声音で告げる。
「あの子達を元には戻してあげられないけれど、人として死なせてやることはできるはずだぜ」
 願いと共に思うのは、人としての個を奪い、『同じ』に作り変えたヴァンパイアへの怒り。
「はい、せめて最後の一時だけでも開放したいです」
 顔を上げたシホとそれを見つめる燦の瞳は、猟兵としての強い意志を湛えていた。
『我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました』
 無機質な声が響き、花嫁を引き渡すようにとヴァンパイアの花嫁達が手招く。その手招きに応え、二人は一歩を踏み出した。
『さあ、こちらです。主様が貴女方をお待ちです』
 薄い笑みを浮かべ、花嫁達が燦とシホを迎え入れる。
「なあ、アンタ達は恋も独占欲も抱かれない偽りの花嫁を望んでいたのか?」
『わたし達は主様のための花嫁、それ以上の幸福はありません』
 燦の問い掛けに、表情を変えぬまま花嫁が答えた。
「そこに愛はないだろう」
『わたし達は愛されています、主様の愛は不変なのですから』
 そう思うように、そう信じるように、させられている。
 ギリ、と奥歯を噛み締める音にシホが燦の手を強く握りしめ、名を囁く。
「燦」
「シホ……彼女達を救うぜ」
「ええ、救いましょう。燦! 合わせます!」
 シホの呼び掛けに、燦が頷いて彼女とのリンクを開始する。
 二人の周囲にエーデルワイスの花びらが舞い、閃光が迸って花嫁を攪乱していく。
『貴女方は、主様の脅威となる者……!』
『排除しなければならない、主様のために……!』
「遅い!」
 燦が胸元から詰めておいた破魔符を抜いて、動きが遅くなった花嫁へと貼り付けた。
「その眷属としての呪い、アタシが祓ってやるぜ!」
 少しでも人としての意識が取り戻せるようにと、優しい祈りを籠めて燦がその力を発動させる。雷の閃光が眩く光る中、エーデルワイスの花びらが祝福の光りと共に花畑を咲かせていく。燦の符と浄化の力が合わさって、ヴァンパイアの花嫁がたたらを踏んだ。
『わたし、わたしたちは、あるじさまの、ために』
『きょういとなるものを、はいじょ、しなくては』
 いけないのに、そうしなければいけないのに。僅かな逡巡は燦とシホには十分過ぎる程の時間で。
「想いを蘇らせて」
 シホが自爆をさせない為にと、破魔の力を込めて浄化の力を振るう。
「思い出せ、大事な記憶だ!」
 雷に合わせ、燦が駆ける。
『ああ、ああ、わたしたち、は』
『あるじさまの、ために……?』
 これ以上は長引かせられないと燦がシホの名を呼ぶと、応えるようにシホが心を重ね合わせた。
「「二人の想い、力となりて駆け巡れ!」」
 燦とシホの攻撃が、ヴァンパイアの花嫁に向かって放たれる。
 それは確かに、花嫁二人の心を救って――。
「手向けだ」
「どうか安らかな眠りを……」
 燦が稲荷符の加護を受けた花吹雪で花嫁達を包む。エーデルワイスの花びらに触れ、崩れゆく花嫁達が笑ったような気がして、燦が唇に笑みを浮かべる。
「アンタ達の分まで幸せな花嫁になるからさ、妬まず祝福して欲しいね」
 そう言って、燦がシホの手を握る。
「ええ、必ず幸せになってみせます」
 燦と二人で、と願いながらシホも手を握り返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
引き続き牙印(f31321)と共に

ヴァンパイアの手にかかれば雄ワニであってもあのような白く美しい花嫁と化すのか?
フフ、なんとも興味深いものだ、しかしああも違いがないのは好ましくないな。
奴らの白い姿、赤に染め上げてしまっても構わないだろう?
堕とされたものを元に戻す術は知らない。だが美しく葬ってやろう。
護衛の私に集中するようだから、UC想姿双愛で鏡写しの自身を喚び出しそれぞれ相対し翻弄しよう。
敵の手を、時に鎖を掴み、ワルツを踊るように刺剣を繰り出す。
さあ、赤い血の花を咲かせるが良い。
とどめは牙印にお任せしよう。


黒田・牙印
ネフラ(f04313)と共に

・なるほど。確かに全員同じ見た目、同じ思考ってなことにすれば老若男女問わず、というのも頷けるぜ。
ああなっちまったらもう倒すしかないか。

・さて、俺を護衛するネフラが狙われやすい流れになるか。ならばいつもとは逆の立ち回りをするとしよう。
ネフラが動き、翻弄した相手を俺がきっちり仕留めていく動きを基本にし、時には俺が先に動き、ネフラが横から仕留める。
あの眷属共は同じ動き、同じ反応しかできなくなっちまってるんだ、少し変化をつければ向こうの攻撃もしのぎやすかろうよ。

・ううむ、しかし折角借りたこの服をあまり汚すのは気が引けるな。俺は花嫁らしく淑やかに【一撃必殺】を決めていこう。



●ワニ嫁様と共に鉄槌を
 ふうん、と面白くも無さそうにネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)が現れたヴァンパイアの花嫁を見遣る。
「ああも違いのない花嫁を傍に置いて悦に入るなど、碌でもないな」
 今はこの場に居ないヴァンパイアに向けてネフラが辛辣な言葉を吐くと、隣にいる黒田・牙印(黒ワニ・f31321)も概ね同じ感想のようで目を細めて息を吐いた。
「確かに全員同じ見た目、同じ思考ってなことにすれば老若男女問わず、というのも頷けるぜ」
「……ヴァンパイアの手にかかれば、キミのような雄ワニであってもあのような白く美しい花嫁と化すのか?」
 それはそれで興味深いけれど、とネフラが牙印を見上げる。
 3メートル近い身長の巨躯を白い布で巧みに覆った彼は、ネフラを見下ろして嫌そうな顔をする。
「俺が、あれにか?」
 最早それは整形とかいうレベルではないな、と若干遠い目をして牙印が深い息を落とした。
「それはそれとして、牙印」
「何だ」
「あれを元に戻す術を知っているか?」
「いや、知らないな」
「うん、私も知らない」
 何故聞いた、という顔で見てくる牙印に小さく笑って、ネフラが言葉を続ける。
「だから、奴らの白い姿……赤に染め上げてしまっても構わないだろう?」
 そうするしかないのであれば、せめて美しく葬ってやろうとネフラが瞳を鋭くしてヴァンパイアの花嫁を見遣った。
「そうだな。ああなっちまったら、もう倒すしかないか」
 憐憫の情が無い訳ではないが、言ったところで詮無いことだ。
 それならば、安らかな死を与えるのがせめてもの――。
『さあ、我らが主様の新たな花嫁となる方々』
 こちらへ、とヴァンパイアの花嫁が薄い笑みを貼り付けて、生贄となる花嫁達を手招く。ちらりと互いに目配せをしあって、ネフラが牙印の手を取って前へと進んだ。
『花嫁でない方はここまでです、街へお戻りなさい』
 これ以上こちらに来るのであれば、容赦はしませんと花嫁が笑う。
「そうか、どうやらここまでのようだな」
 ネフラが緑色の髪を揺らして血棘の刺剣を抜き、切っ先を花嫁へと向けながら美しく微笑んで囁く。
「ならば、ふたり一緒にお相手頂こう」
 瞬間、鏡写しの自分が現れて、もう一人のヴァンパイアの花嫁へ刺剣の切っ先を向けた。
『これは主様に対する敵対行為とみなします』
『主様に仇なす者は粛清あるのみです』
 ヴァンパイアの花嫁がネフラを排除しようと、同時に動く。
「ふふ、粛清されるのはどちらかな?」
 寸分違わぬ同じ動きを見せながら、ネフラとその鏡写しの彼女がヴァンパイアの花嫁を翻弄するかのように刺剣で相手をする。
「いつもとは逆の立場だな」
 常であれば、牙印が敵を引き付け狙われやすいようにするのだが、これはこれで新鮮といえば新鮮か、と呟きながら牙印も動いた。
「おや、花嫁殿は大人しく守られていても良いのだが?」
「ハ、よしてくれ柄じゃない」
 揶揄う様なネフラの声に被りを振って、ベールを被ったままの牙印がネフラの攻撃によって体勢を崩した花嫁に向かって拳を繰り出す。
「おやおや、花嫁姿が台無しじゃないか」
 くつくつと笑って、ネフラがヴァンパイアの花嫁を前後左右に揺さぶるように刺剣の剣先を突き刺していく。
『この心と体は主様のもの……傷を付けるなど許さないわ』
『全ては主様のために……主様の意に添わぬ者は我らの敵』
 だから、殺さなくては。
 花嫁の一人の表情が全て抜け落ち、無表情のまま手枷の鎖を揺らす。
 花嫁の一人の瞳から血の涙が流れ落ち、全ての痛みを麻痺させたかのような動きで足枷を揺らす。
「ヴァンパイアの花嫁とはよく言ったものだ」
 二人の花嫁を相手取り、まるでワルツでも踊るかのような優雅さでネフラが刺剣を繰り出し、紙一重の距離で一撃を避ける。
「フフ、さあ、赤い血の花を咲かせるが良い」
 舞い散る血はまるで赤い花びらのように、花嫁のドレスを赤く彩っていく。
「あの眷属は同じ動き、同じ反応しかできなくなっちまってるのか」
 そうであれば、二人のネフラの動きについていくのは難しかろうよ、と呟いて牙印が拳を握る。
「牙印、そちらは任せた」
 体勢を崩した花嫁の手枷の鎖を掴み、ネフラが牙印の方へと投げ渡す。
「心得た!」
 なるべく借りた衣装を汚さぬように、相手を苦しませぬように一撃必殺で――。
 握った拳を花嫁のこめかみにぶち当てれば、まるで砂糖菓子を潰すかのように花嫁が崩れさる。
「貴殿は私が頂こう」
 私達かな? と笑ったネフラが刺剣を同時に心臓と額に突き刺した。
『あ、あ、あるじ、さま』
 あるじさま、と壊れたオルゴールのように繰り返し、ヴァンパイアの花嫁がどうっと倒れ伏し、さらさらと崩れていく。
「終わったようだな」
「そのようだ」
 頷いたネフラが一人に戻ると、刺剣を仕舞って辺りを見回す。
「街へ戻るとしようか、花嫁殿」
「……戻ったら着替えるからな」
 借り物だぞ? と牙印が言えば、買い取ってもいいんじゃないか? とネフラが笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◎
綾に腕を絡められて、何かあったかと聞いてみれば
相変わらずフリーダムだなこいつは…
俺たちの場合どっちも新郎じゃないのか
何やかや言いつつも腕を振りほどくことはせず好きにさせてやる

…お迎えご苦労さん
綾はヴァンパイアが手を抜いてこの下僕たちをよこしたと言っていたが…
これもヴァンパイアの巧妙な悪趣味の一つなのではと思う
目の前に現れたのが明らかな異形ではなく
かつて花嫁に捧げられた少女だったら…
いくら敵と分かっていても闇の救済者たちは攻撃を躊躇うだろう

こちらから攻撃しない限り、あちらは攻撃してこないのなら
「攻撃された」とすら感じさせないまま逝かせてやろう
UC発動し、零の優しい歌声を響かせる


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
梓と一緒に花嫁として歩きながら
何となく梓の腕に自分の腕を絡めてみる
ほら、新郎新婦ってこうやって歩くものでしょ?

お出迎えされたらゆっくりと手を離す
人一倍誰かを救いたいと思う闇の救済者たちにとって
かつての犠牲者である彼女たちを
容赦なく切り捨てるのは難しいだろうね
…そんな時の汚れ役を引き受けるのも猟兵の仕事さ

彼女たちの純白のドレスと、俺と梓の純白のタキシードを
血で汚すことはしたくないからね
UC発動し、紅い蝶を彼女たちに向けて放つ
胸元にとまればコサージュのように
頭にとまれば髪飾りのように
彼女たちに彩りを添えてあげよう
いずれ優しく眠りにつくだろう
夢の中では、本当の王子様と結ばれますように



●純白のまま終わらせて
 月と星の明かりに照らされる中、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)と灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が隣り合ったまま歩く。
「珍しいくらい晴れてるねぇ」
 綾がそう言って空を見上げ、星が瞬くのを見て笑う。
「ダークセイヴァーと言えど、たまにはこんな夜もあるだろ」
 夜と闇に覆われた、ヴァンパイア達が支配する世界であっても、光はあるのだ。
「ま、そんな夜に生贄を寄こせって言うヴァンパイアも相当趣味が悪いけどな」
「そうだよね、しかも花嫁だって言うんだもんね」
 そういえば、花嫁はこうやって……と、考えると同時に綾が梓の腕に己の腕を絡める。
「うおっ、何だよいきなり。どうかしたか?」
「ほら、新郎新婦ってこうやって歩くものでしょ?」
 ヴァージンロードってやつ? と、綾が笑う。
「またお前は……俺たちの場合、どっちも新郎じゃないのか。それにヴァージンロードじゃなく荒野だろう」
 相変わらずフリーダムだな、こいつは……なんて思いつつも、腕を振りほどくような真似はせずに綾の好きなようにさせてやる。
「気分だよ、気分」
 ふんふーふふーん♪ なんて、どこで覚えたのかチャペルでよく聞くようなウェディングマーチを綾が口遊む。
「楽しそうで何よりだな……」
 今からオブリビオンを倒しに行くんだがな、と梓が諦めたように呟いた。
 しばらく歩けば指定された場所に出たようで、闇の救済者達の足が止まる。どこから敵が来るのかと緊張も高まってきたところで、その集団は現れた。
『我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました』
 手枷と足枷、そしてご丁寧に首枷まで付けた花嫁が人形のような笑みを浮かべて、こちらに来るようにと手招いている。
「ヴァージンロードごっこはお終いだね」
 残念、と呟いて綾が名残惜しそうに梓の腕から手を離して前を向くと、熱を失った腕にどことなく寂しさを覚えつつ梓もヴァンパイアの花嫁達を見据えた。
「……お迎えご苦労さん」
 相手に聞こえない程度の声で梓が呟き、悪趣味だなと目を細める。
 綾はヴァンパイアが手を抜いて下僕を寄こしたんだと言っていたが……これもヴァンパイアの悪趣味の一つなのではないかと眉根を寄せた。
「ほんと、悪趣味だよね」
「お前もそう思うか」
 もしも自分達猟兵が来ず、闇の救済者達と街から選ばれた花嫁であったならば。
 目の前に現れたのが明らかな異形ではなく、かつて花嫁にと捧げられた少女だったら――。
「いくら敵と分かっていても、闇の救済者たちは攻撃を躊躇うだろうな」
「うん、人一倍誰かを救いたいと思う彼らにとって、かつての犠牲者である彼女たちを容赦なく切り捨てるのは難しいだろうね」
 そんな時の汚れ役を引き受けるのも、猟兵の仕事だけれどと綾が胸の内で呟き、言葉を続ける。
「何も知らずに花嫁になれって言われた子たちも、自分もこうなるんだって思うんじゃないかな」
「……マジで趣味が悪いな」
 絶望を顔に貼り付けた花嫁をどうするかは知らないが、どうせ碌なことにはなりはしない。
『さあ、花嫁の方々はこちらへ』
 無機質な声が響き、ヴァンパイアの花嫁が梓と綾を手招く。
「……こちらから攻撃しない限り、あちらは攻撃してこないんだったか」
「俺たち、花嫁だからね」
 綾が被ったベールをひらひらと揺らして、笑みを浮かべる。
「なら」
「そうなるよねぇ」
 互いに目配せをして、手招く花嫁に向かって歩き出す。
『どうぞこちらへ、さあ』
 自分たちの前を歩けと、道を指し示しながらヴァンパイアの花嫁が梓と綾に背を向けた。
 それを合図としたように、梓がベールの中で小さく呟く。
「歌え、氷晶の歌姫よ」
 その言葉と共に、氷竜である零が姿を現し、澄み渡った空へと響くほどの神秘的な歌声を上げる。それは相手を眠らせ、肉体を傷付けずに狙った相手の生命力そのものにダメージを与えるもの。
 それと同時に、綾も己の力を開放する。
「お前たちの純白のドレスと、俺と梓の純白のタキシードを血で汚すような真似はしたくないからね」
 そう囁くと、紅い蝶の群れがヴァンパイアの花嫁へと飛んでいく。紅い蝶は花嫁の頭に、胸に、腕にととまって翅を揺らす。
『何の歌……あ、わたし……』
『蝶……?』
 痛みはなく、花嫁達はただ首を傾げ蹲るばかりだけれど。髪飾りのように、コサージュのように、腕飾りのように彼女達を彩るそれは際限なく眷属となった命を吸い上げる。
「攻撃された、とすら感じさせないまま逝かせてやろう」
「おやすみ、花嫁さんたち」
 夢の中では、本当の王子様と結ばれますように――そう囁いて、綾が梓を見遣る。
「……街に戻るか」
「そうだね」
 綾が腕を伸ばして、梓の腕にそうっとくっ付く。仕方ないな、という顔をして、梓は綾を腕にくっ付けたまま街へ戻る道を歩き始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティコ・ラクール
足が動かない
恐怖もありますがそれ以上にどうすべきかがわからない
招かれるまま進めば、他の人の攻撃の邪魔になるかもしれません
でもわたしが動かずこの位置から攻撃を仕掛けると、大勢の彼女達から一斉に狙われるかもしれない
そんな葛藤で動こうとしては足を引っ込める状態が続きます
手を出さない限り彼女達が何もしてこないからいいものの
いつまでもこうしてはいられません

UCエレメンタル・ファンタジアを発動し、氷属性の雨を降らせます
氷の雨ではなく、冷え切った雨で彼女達に付着すると凍りつくものです
降雨範囲は狭くして暴走と他の人を巻き込むリスクを低くします

えっ、自爆?!
…黒ぱたさん
結界ありがとうございます、何とかなりました



●恐怖を乗り越えて
 ヴァンパイアの花嫁を見た瞬間、ティコ・ラクール(つくりものの竜・f22279)は自分の手が震えているのを感じ、ぎゅっと目を閉じる。
 オブリビオンと相対するのは初めてではない、大丈夫だと言い聞かせても足が竦んで動かない。
 どうすれば、と恐る恐る目を開けて周囲を見渡すけれど、他の猟兵達は攻撃に転じる隙を窺っているいるようで、いまだ動きはなかった。
『さあ、我らが主様の新しき花嫁となる方々。こちらへ』
 薄い笑みを貼り付けたようなヴァンパイアの花嫁が、そう言ってこちらへ来いと手招いている。
 招かれるままに進んでしまえば、他の人が攻撃する時に邪魔になるかもしれない。でも、わたしが動かずにこの位置から攻撃を仕掛ければ、大勢の彼女達から一斉に狙われるかもしれないし、そうなれば護衛として付いてきている闇の救済者の皆さんにも被害が及ぶかもしれない。
「……どうすれば」
 いいんでしょう、という呟きは地面に吸い込まれて消えていく。
 闇の救済者の方々を傷付けるわけにはいかないから、やはりわたしが動くべきなのだろうかと悩んでいると、小さな手がぺちぺちとティコの手を叩いた。
「黒ぱたさん……?」
 キリッとした眼差しで、黒ぱたさんがブーケの中からティコを見上げている。
「そう……でしたね、わたしは一人じゃないです」
 黒ぱたさんがいました、とティコが笑みを浮かべ、真っ直ぐに前を向く。
「いつまでもこうしてはいられません」
 それはティコの決意の言葉で、深く息を吸って彼女は手招かれるままに歩き出した。
『ようこそ、新たなる花嫁。さあ、こちらへ』
 ティコの案内……というよりは見張りのようなものなのだろう、一人の花嫁が薄く微笑んだまま自分の前を歩いてくださいと背中を見せた。
 今がチャンスです、とティコが己の力を発動させる。
 ぽつりぽつりと何処からともなく振り出した雨に、首を傾げてヴァンパイアの花嫁が空を見上げた。
『……雲などないのに、あ、あ?』
 冷たい雨は局地的な範囲でヴァンパイアの花嫁にのみ降り注ぎ、その身体を凍らせていく。
『あなた、あなたは主様に仇なす者……! 主様の脅威となる者は、わたし、わたしたちが、ゆるさな』
 凍りゆく身体を無理やりにティコの方へ向け、花嫁が叫ぶ。
『主様、万歳!』
 瞬間、閃光が辺りを包み込むとティコを巻き添えにするかのように花嫁の身体が爆発する。
「えっ自爆……っ!?」
 ぎゅっと閉じた目を恐る恐る開けば、黒ぱたがティコの眼前で両手を広げて結界を張っていた。
「……黒ぱたさん」
 ぱちぱちと瞬いて黒ぱたを見れば、どうだとばかりに黒ぱたが胸を張っているのが見えて、思わずティコが小さく笑って。
「結界ありがとうございます、何とかなりました」
 凍らせていたこともあって、爆発の規模は小さく他の人への被害もない。
「半分は黒ぱたさんのお陰ですけれど」
 深呼吸するように息を吸って吐き、わたしだって出来るんだとティコが前を向いて、黒ぱたに向かって微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エメロア・エフェトゥラ
【数奇2】

ハッ!何が主様万歳だ。自爆などさせる前に骸の海に返してやる…!それがせめてもの救いだろう?
光属性のUC【エレメンタル・フレッチャ】を【属性攻撃】で強化。さらに【祈り】をこめて。

(ふと、強制的に隷属させている訳ではないが自分に仕える従者を見て)
…雪蘭は俺に仕えるのは嫌ではないか?
いつも俺の事を揶揄っているだろう?そんな主人に仕えていて不満は無いのだろうかと思うのだが…。
俺はお母様の名に恥じぬ魔法使いになりたい。
それはきっと雪蘭が自信を持って仕える事のできる主人になることにつながるとそう思っている
(僕は雪蘭がいないと何もできないから)
なっ…!!
(キスをされて真っ赤になり)


麟・雪蘭
【数奇2】◎
ご主人、お怒りもご尤もですが一旦堪えて
今の貴方は花嫁
囮の役目をお忘れではなくて?
油断した彼女達を一気に葬りましょう
妾が必ずロア様をお護りします
信じて下さいませ

冷静に止めるも従者の役目
ヴェールだけ借り主人の横に並ぶ
祈り捧げる
敵が背を向けた瞬間UC使用

今です、ロア様!

翼から闇の魔法で援護攻撃
的確に敵の体引き裂く
自爆から主人をオーラ防御で庇う

ロア様はそんな事を心配されておいでで?
本当に…(可愛らしいお方

ヴェールは主人へ戻す

焦らないで
大丈夫ですわ
妾はロア様の穢れ無き志の高さを尊敬しているのですから

優しく抱き締め頬にキス
(いつまでも、私の愛しい幼子で居て
その為なら
全て手折って差し上げますわ)



●怒りは力に、思いは胸に
 街外れまで来ると祭りで賑わう街の喧騒はもう聞こえず、灯りだけが遠くに見えていた。
 星が瞬く夜空に浮かぶ月は綺麗で、こんな希望を抱くような日に花嫁を差し出せというヴァンパイアに対し、エメロア・エフェトゥラ(偉大なる魔女の息子・f31575)は憤りを隠せずにベールの中で端正な顔を怒りに歪めていた。
「趣味が悪い!」
「ご主人、お怒りもご尤もですが一旦堪えてくださいませ」
 今の貴方は花嫁なのですから、と麟・雪蘭(堕天使の魔女・f31577)が主の背を宥めるように撫でる。
「む……すまない」
 まだヴァンパイアの花嫁達と距離があるとはいえ、囮であることを忘れてはならないとエメロアが握った拳を緩めて居住まいを正す。
「ええ、ええ、それでこそロア様」
 敵のいかなる挑発にも乗らず、冷静に事を進めるのですと雪蘭が囁く。
「そして、油断した彼女達を一気に葬りましょう」
 花嫁であるというだけで、彼女達はこちらに疑いの念を抱かないのだから。
「わかった、必ずやこの俺が仕留めてみせる」
「はい、妾が必ずロア様をお護りします。信じて下さいませ」
 恭しく、それでいてさり気なく雪蘭が頭を下げる。それから、ベールをお借りしても? と、自身も花嫁に見えるようにエメロアからベールを借り受ける。
「ロア様はこちらのウェディングコートのレースを……」
 こうして、とてきぱきと位置を変えてエメロアの頭にレースを被せ、雪蘭が満足気に頷いた。
「お美しゅうございますよ」
「あ、ああ……」
 それは別に嬉しくはないのだけれど、雪蘭がそう言うのならいいか、とエメロアが前を向く。
『主様の新たな花嫁となる方々、歓迎いたします』
『さあ、我らが主様がお待ちです、こちらへ』
 ヴァンパイアの花嫁達が無機質な声で、新たな花嫁となる者達を手招いている。
「参りましょう」
 雪蘭の声に頷き、エメロアが彼女と共に前へと進む。
『ようこそ、新たなる花嫁』
『さあ、我らと共に参りましょう』
 生贄が逃げぬようにか、先に歩けというようにヴァンパイアの花嫁達が前を指し示し、二人に背を向けた。
 今です、ロア様! と雪蘭がエメロアにサインを送ると、祈りを捧げるように手を前で組み目を閉じる。それを横目で確認しながら、エメロアが魔法を行使した。
 光の矢がエメロアの魔力に応じて展開し、花嫁の背に向けて放たれる。そして、その動きに合わせるように雪蘭が白き闇の翼から、闇の魔法を放った。
『何を……っ!』
『く……、あなた方のそれは、主様への敵対行為とみなします。それに伴い、主様への脅威と断定』
 排除します、と背に受けた攻撃を堪えるように花嫁二人がエメロアと雪蘭の方へと向いた。
『主様、主様の脅威を排除いたします』
『主様、万歳!』
 無機質な表情と声が響き、花嫁達がカタカタと震えだす。
「ハッ! 何が主様万歳だ」
 自爆などさせる前に骸の海に返してやる、とエメロアがもう一度指先を振るう。せめてもの救いだと、祈りを籠めた光の矢が幾重にも重なってヴァンパイアの花嫁達に降り注ぐ。
「ロア様!」
 ヴァンパイアの花嫁の自爆を察知し、花嫁とエメロアの間に立ち塞がると防御膜を張り巡らせた。
 一瞬の閃光と共に、エメロアを道連れにしようとしたヴァンパイアの花嫁が弾け飛ぶ。
「雪蘭!」
 土煙の中、エメロアが雪蘭の名を叫ぶ。その声に、得も言われぬ高揚を感じながら雪蘭がはぁい、と答えた。
「無事か」
「ええ、妾が必ずロア様をお護りしますと申しましたでしょう?」
 信じて下さいませ、とも。
「俺が無事でもお前が……いや、何でもない」
「あらぁ、妾が? 何です?」
 くすくすと笑う雪蘭に苦い顔をして、エメロアがふと自爆した花嫁達の残滓に目を向ける。それから、強制的に隷属させている訳ではないが、己に仕える雪蘭に視線を移す。
「……雪蘭は俺に仕えるのは嫌ではないか?」
 思いがけぬ言葉に、雪蘭が目を瞬かせる。
「またどうしてそんな事を?」
「う……それは、その、いつも俺の事を揶揄っているだろう? そんな主人に仕えていて不満は無いのだろうかと思うのだが……」
「ロア様はそんな事を心配されておいでで? 本当に……」
 なんて可愛らしいお方なんでしょう、と雪蘭が胸の内で言葉を転がしながら、ベールをエメロアの頭に戻して微笑む。
「そんな事とは言うが、俺はお母様の名に恥じぬ魔法使いになりたい。それはきっと、雪蘭が自信を持って仕える事のできる主人になることにつながるとそう思っている」
 いるけれど、自分はまだまだお母様のような魔法使いには程遠い。であれば、雪蘭が自信を持って仕えるに足らぬということで。
 だって僕は、雪蘭がいないと何もできない。
「どうか焦らないでください」
 自信なく伏せられた瞳を上へと向けるように、雪蘭がエメロアの頬に手を当てて前を向かせる。
「大丈夫ですわ、妾はロア様の穢れ無き志の高さを尊敬しているのですから」
「雪蘭……」
 雪蘭が優しくエメロアを抱きしめ、その穢れない頬へと唇を落とす。
「なっ……!!」
 柔らかい感触に頬を赤くし、エメロアが忙しなく目を瞬かせる。
 ああ、どうぞいつまでも私の愛しい幼子で居てと、雪蘭が笑みを浮かべて願う。
 その為ならば、どんな障害であっても全て手折って差し上げますわ――。
「さあ、ロア様。街へ戻りましょお?」
「あ、ああ!」
 柔らかい感触が残る頬に指先で触れ、エメロアがくるりと街の方へ身体を向けて歩き出す。そして、その後ろ姿を見守るように雪蘭が付き従うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠神・華蘭

おやまぁ、主に恵まれなかったようで……。
人間狩りなら慣れております、疾く終わらせましょうか。

戦う前に連れの狸から鉈を返してもらって引き上げさせます。
後は衣装も普段着に。

鉈にて【切断】からの【体勢崩し】狙いです。
【逃げ足】も駆使して程々に動き回ります。

「貴女の主はお着替えも用意してくださらないのですか? 随分汚れているようですが。」
という【挑発】からUC発動。
【化術】で葉っぱの小判をUCとよく似た火の玉に変えまして【念動力】で動かし【範囲攻撃】しつつ本物と混ぜての【だまし討ち】です。
これならいくら強化しても躱しきれないでしょう?

一応、元の名前が分かりそうな装飾品でもあれば拾っておきますかね。



●花嫁にさようなら
 白と白ですね、というのが猟兵達の花嫁姿とヴァンパイアの花嫁の群れをみた隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)の感想であった。
「あちらはまぁ、だいぶ着古している感じですが」
 純白とは程遠い薄汚れた白に、布地も大分とくたびれているように見える。
「随分とまぁ、主に恵まれなかったようで……」
 お可哀想な事です、と華蘭が呟いた。
 わらわらと同じような顔と体格をした花嫁がいる様は、化け狸の妖怪である華蘭からしても異様でなんだか鼻がむず痒くなってしまいそうなほど。
 でも。
「わたくし、人間狩りなら慣れておりますから」
 疾く終わらせましょうか、と小さく笑った。
『我らが主様の新たなる花嫁よ、さあこちらへ』
 一人の花嫁が前に出ると、華蘭を促すように手招く。
「おや、わたくしですか」
 そう言いつつ他の者を見れば、同じようにヴァンパイアの花嫁に招かれている。
『わたし達は後ろを歩きます。道はご案内いたしますから、さあ』
 逃げ出さぬよう、傷を作らぬように花嫁を運ぶ為だろうか、そう言ってヴァンパイアの花嫁は花蘭に背を向けて前を行くようにと示した。
「そうですか、では……」
 連れの狸に目配せすれば、お付きの狸が恭しく華蘭に鉈を渡す。手にしっくりと馴染む柄を握って華蘭が目を細めて微笑むと、変化の術を解いて花嫁衣裳をいつもの衣装へと戻し――ヴァンパイアの花嫁の背に向けて鉈を振り下ろした。
『――ッ! あなた、何を……! それは主様への敵対行為とみなします、敵は排除しなければなりません』
 崩した態勢を元に戻そうと動く隙に、華蘭は花嫁から十分な距離を取る。
「時に、貴女の主はお着替えも用意してくださらないのですか? 随分汚れているようですが」
『汚れてなどいません、主様はいつもわたし達を美しいと褒めてくださいますから! そんなお優しい主様のために、全ては、我らの全ては主様の……!』
 だから痛みを忘れます、と花嫁が全ての痛みを麻痺させて血の涙を零しながら華蘭へと襲い掛かる。
「禄でもない主ですねぇ」
 そんな答えでは到底わたくし満足できません、と華蘭が溜息交じりに言葉を零す。
「燃えるがいい、この華蘭の気が済むまで」
 華蘭の体から無数の青白い火の玉が現れ、ヴァンパイアの花嫁へと放たれた。
「ついでにこれも」
 葉っぱの小判を青白い火の玉に変え、更に全方位から花嫁に向けて飛ばす。ユーベルコードによる力と、その炎に化けた葉っぱの小判、これを一気に食らってしまってはいかに痛覚を遮断し肉体を強化したところで一溜りもなく――。
「さようなら、花嫁さん」
 元の名前が分かりそうな装飾品でもあれば、と華蘭が崩れ去る花嫁に視線を落とすけれど全ては土塊と消えて。
「……まぁ、仕方ありません」
 闇の救済者さんの手助けでもしましょうか、と華蘭が尻尾を揺らしてまだ戦いの続く場所へと駆けだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
【花狼2】
現れたか、吸血鬼の僕よ

ヘルガ、下がっていろ
敵の目的が「花嫁」の確保なら、俺を優先的に狙ってくるだろう

俺への【効果的な属性】は恐らく精神への干渉、
それもヘルガを手酷く傷つけられることへの怒りを暴走させる類のものだ

目に映る幻は花嫁姿のヘルガ
しかしその四肢は鎖と枷に縛られ、
精神を壊され虚ろな瞳で、吸血鬼への悍ましい忠誠を誓う
やめろ、こんな運命など俺は認めない……!!

……ああ、「本物の」彼女の歌が聞こえる
命を尊ぶ慈悲の歌が
この温もりがあれば、呪詛も狂気も耐えられる

ヘルガへの自爆攻撃(敵WIZ攻撃)の兆候を野生の勘で察知したら
速攻で彼女を庇う
大丈夫だ、お前を守るこの魂は、決して手放しはしない


ヘルガ・リープフラウ
【花狼2】

あれがヴァンパイアの僕、「花嫁」の成れの果て
手枷に縛られた姿、生気の無い顔、なんて痛々しい……
眷属に堕とされるまでに、どれほどの悍ましい所業が彼女を苛んだのか
もしかしたら、わたくしも似たような末路を辿っていたのかもしれない

祈りを込め、歌う【涙の日】
既に壊れ、人に戻すことが叶わないなら
せめて彼女たちに今一度の安らかな眠りを
破魔の魔力を込めて
聖なる光よ、穢された魂を浄化せよ

そして、傷ついたヴォルフには癒しの光を
わたくしを庇って、身も心も何度も傷ついて
ごめんなさい、いつもあなたに心配をかけて……

大丈夫、わたくしはここにいるわ
何よりも大切なあなた
わたくしが必ず守るもの



●祈りの歌を響かせて
「現れたか、吸血鬼の僕よ」
 人狼ゆえか、鋭敏にその気配を察知したヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)が前方を見遣る。距離は大分とあるように思えたが、その群れが白い色を纏っているお陰かヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の目にもよく見えた。
「あれが……?」
 思ったよりも多い数だと思うけれど、万が一花嫁が差し出されなければそのまま街を滅ぼす為の数だと思えば納得もいく。目を凝らさなくても見える距離になって、ヘルガが小さく声を上げる。
「……そんな、あれは」
「趣味の悪い話だ」
 迎えも花嫁姿だとは、とヴォルフガングが眉を顰めてヘルガの肩を抱き寄せる。
「あれがヴァンパイアの僕、花嫁の成れの果て……」
 枷に縛られた姿、生気の無い顔、なんて痛々しい……とヘルガがヴォルフガングの胸に顔を寄せて目を伏せる。
「ここにいるのが、わたくし達で良かった……」
 もしこれが、何も知らぬ街の娘であれば、その恐怖は如何ばかりのものだろうか。自分達の末路とも言える姿が迎えに訪れるのだから。
 それに、あの花嫁達も眷属に堕とされるまでに、どれほどの悍ましい所業で苛まれたのか。絶望の中で、眷属へと作り変えられてしまったのではないか。
 ――もしかしたら、わたくしもあの時ヴォルフに助けられなければ、似たような末路を辿っていたのかもしれない。考えれば考えるほどにヘルガは胸が痛むのを感じて、小さく溜息を零した。
「大丈夫だ、ヘルガ。何があっても、俺がお前を守ってみせる」
「……ええ、ええ、あなた」
 大丈夫、わたくしにはヴォルフがいる。そう心を奮い立たせ、ヘルガは俯いていた顔を上げた。
『我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました』
 ヴァンパイアの花嫁達が、口を揃えて同じセリフを台本でも読むかのように紡ぎ出す。
『さあ、こちらへ』
 感情のない薄っすらとした笑みを貼り付けて、花嫁達がそれぞれ贄となる花嫁へ手招いた。
「ヘルガ、下がっていろ」
 奴らの目的が花嫁の確保だというのなら、攻撃を仕掛ける俺を優先的に狙ってくるはず。
 ヴォルフガングの読みは狙い通りで、ヘルガを下がらせたことに対しヴァンパイアの花嫁が一歩前に出てヴォルフガングに問い掛ける。
『何をしているのですか? さあ、花嫁を引き渡しなさい。そうでなければ――』
「そうでなければ、何だと言うのだ」
『主様への敵対行為とみなします』
「そうか、ならば俺はお前達の敵だ。ヘルガを渡すつもりはない!」
 主様に逆らうなんて愚かな、と言った花嫁が戦闘態勢に入るとヴォルフガングもバスタードソードを抜き誓いの言葉を口にする。
「我は誓う。牙無き者の祈りに応え、この身を盾と成し、命を懸けて守り抜くと」
 切っ先をヴァンパイアの花嫁に向ければ、感情を無くしたような顔で花嫁がヴォルフガングへと襲い掛かった。
『この心と体は主様のもの』
 それはリミッターを外す言霊のようなものなのだろう、花嫁が踊るようにヴォルフガングへと拳を突き出す。そして、彼はそれを己の誓いの為に甘んじて受ける――。
 瞬間、目に映るのはヴォルフガングが背に守っていたはずの花嫁姿のヘルガ。けれど、その姿は幸せに満ちたものではなく、四肢を鎖と枷に縛られ精神を壊された虚ろな姿で。
『ちかい、ます、あなたに、忠誠を……っ』
 ヴァンパイアへの悍ましい忠誠を誓う為、ヴァンパイアの口付けを受けようと目を閉じて――。
「やめろ、こんな運命など俺は認めない……!!」
『主様に仇なす者よ、苦しむがいい』
「ヴォルフ!」
 動きを止めてしまったヴォルフガングを守る為に、ヘルガが祈りを込めて歌う。
 既に壊れ、人の姿に戻すことが叶わぬならば、せめて彼女たちに今一度の安らかな眠りを――!
 高らかに歌い上げ、旋律に籠めるのは破魔の魔力。
「聖なる光よ、穢された魂を浄化せよ」
『きゃああ』
『主様、お前も主様に仇なす者……!』
 ああ、本物の彼女の歌が聞こえる。
 暗闇の中、その歌声だけを頼りにヴォルフガングが瞳を開いた。
「命を尊ぶ慈悲の歌が、この温もりがあれば、呪詛も狂気も耐えられる」
 何度同じ場面を見せられたとて、耐えてみせよう。
 一閃、ヘルガの歌に浄化され掛かっているヴァンパイアの花嫁の首を刎ね、返す刃をもう一人の花嫁へと向ける。
『主様の脅威になりえるお前達、ここで、死ね……!』
 主様、万歳! と叫ぶ花嫁からヘルガを守るようにヴォルフガングが抱きしめる。閃光が奔り、小さな爆発音と共に花嫁が二人を巻き込むように爆ぜた。
「ヴォルフ、ヴォルフ!」
「大丈夫だ、心配しなくていい」
 すぐに癒しをと、ヘルガがヴォルフガングに向けて癒しの光りを施す。
「わたくしを庇って、身も心も何度も傷ついて……ごめんなさい、いつもあなたに心配をかけて……」
「お前を守る事こそが俺の運命であり喜びだ、ヘルガ」
「あなた……」
 癒しの光りを受けながら、ヴォルフガングが優しく微笑む。
「お前を守るこの魂は、決して手放しはしない」
「ああ、何よりも大切なあなた」
 あなたがわたくしを守ってくれるというのなら、わたくしがあなたを必ず守ってみせる。
 そう胸に誓って、ヘルガは愛しい男を見つめて微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻3

片腕絡む、私の巫女
実に可愛く愛おしい
然るべき時は然るべき相応しい場所で…なんて
冗談とも本気ともとれる言を口にする

其れなのに之は私の為に纏ったものでは無いなんて
噫、腹が立つ
迎え……?
私の大切な巫女を
生涯たったひとりのサヨを
同志たるリルと共に連れていくと?
…これだけ花嫁が居るならいいではないか
リル、私は不機嫌などではないよ
気に食わないだけだ

私の巫女に近寄るな
朽ち果てる神罰で結び縛り千切る

指ひとつ
髪のひと房
触れさせはしない

疾く駆け切り込み、広範囲になぎ払い──切断する
悪しき厄を斬って解放してあげる
そなたらを縛る、望まぬ婚姻から

サヨは何を不安に?零された不安に鼓動が跳ねる
噫ほんとうに

かわいいな


リル・ルリ
🐟迎櫻3

花嫁が歩く道を、ばじんろど、というの?
僕はもっと綺麗なお花いっぱいの場所がいいな…桜並木とか!
ちらと見やる櫻宵の顔は嬉しそうで幸せそうだから、僕も嬉しくなってその腕にぎゅうと抱きつく

お迎え?ダメだよ
ついて行かないし櫻だって行かせないよ、ね!カムi…とても不機嫌だ!

花嫁…皆同じにみえるや
主様しか見えないようにされてしまった、だ
可哀想と憐れむのは傲慢かな
誘惑を絡めるように歌い
2人が戦いやすいように巡らせた水泡のオーラで櫻宵とカムイを守る

爆ぜるような愛も嫌いじゃないけど
砕けるなら君だけで
2人を傷つける前に巻き戻す─『薇の歌』

心配しなくても彼は君しか見てないよ
櫻も僕以外の花嫁を見ないでよね!


誘名・櫻宵
🌸迎櫻3

ヴァージンロードにしては薄暗い路地裏ね
カムイの腕に片腕を、もう片方はかぁいい花嫁のリルも絡めて歩む

空虚な花嫁がたくさん迎えに来てくれたわ
無数のひとつにはなりたくない
ついて行ったら主様しか見えなくなるのかしら?

かぁいい子達
私はあなた達の横にいたいのに

偽りのあいになんの意味があるの
赤い糸の代わりに繋がれた鎖を断ち切ってあげる
浄化を込めなぎ払い
破魔の衝撃波を放つ

「喰華」
何の味もしない愛(いのち)を喰べてあげる

旅立ちの餞は美しい花吹雪
廻ることが叶うなら今度は愛しいひとの花嫁となれますように
なんて綺麗事をうつくしく並べてあげる

裏に私のかぁいい神様の瞳に
…私以外の花嫁を映したくない

勿論よ!リル!



●ヴァージンロードには程遠く
 カラコロと、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が鳴らす下駄の音が月と星の輝く夜空の下に響く。
「ふふ、ヴァージンロードにしては薄暗い路地裏ね」
 朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)の腕に片腕を絡め、もう片方は可愛い可愛い花嫁のリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)と絡めて、櫻宵が唇を尖らせた。
 折角の衣装が台無しだわ、と櫻宵が言うとリルがこてんと首を傾げて問い掛ける。
「花嫁が歩く道を、ばじんろど、というの?」
「そうよ、本来ならチャペル……教会に花嫁が歩く道に赤い絨毯が敷かれていてね」
 花嫁が通ると祝福の花やお米を参列者が投げるのよ、と櫻宵が言う。
「お米? お花はわかるけど、お米……ばじんろど、僕はもっときれいなお花いっぱいの場所がいいな……桜並木とか!」
 桜は櫻のお花だからね、とリルが言えばカムイも笑みを浮かべて頷く。
「私の可愛く愛おしい巫女、然るべき時は然るべき相応しい場所で……望むなら桜咲く場所でも、サヨのいうチャペルでも、サヨの望むままに式を挙げてみせよう」
 間違っても、こんな薄暗い場所をヴァージンロードとして歩かせたりはしないと、冗談とも本気ともとれるような事をカムイが囁く。
「ふふ、カムイったら」
 櫻宵がカムイの言葉にあんまりにも嬉しそうに笑うものだから、リルは嬉しくなってその腕にぎゅっと抱き着いた。
 その姿を見て、こんなにも私の巫女は美しいのに之は私の為に纏ったものでは無いなんて、とカムイが胸の内で腹が立つと唸る。
「うふふ、素敵な旦那様にかぁいい花嫁さん、そろそろヴァージンロードも終わりそうよ」
 いつかの未来の話をしている間に裏通りから街外れに到着していたようで、他の花嫁達と闇の救済者達が指定された場所でヴァンパイアの使いが現れるのを今か今かと待っているのが見えた。
「花嫁を待たすなんて、きっと碌でもない男よ」
「そうだそうだ、櫻と僕を待たすなんて」
 小声で、ねー? と言い合う櫻宵とリルを見て、カムイが私の巫女と同志がこんなにも可愛い……と思わず天を仰いだ時だった。
「あらまぁ、お迎えも花嫁なのかしら」
 そう、櫻宵が呟いたのだ。
「あれは……確かに衣装屋で見たようなドレスを纏っているね」
「でも、僕や櫻が着ているのみたいに、綺麗なものじゃない」
 リルが瞳を僅かに険しくして、前方に見える白い集団を見遣る。
「空虚な花嫁がたくさん迎えに来てくれたわ……手枷に足枷、それから首枷……やっぱり、碌でもない男みたいね」
 彼女たちのご主人様は、と櫻宵が溜息交じりに言葉を落とした。
『我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました』
『さあ、どうぞ我らと共においでなさいませ』
『主様が首を長くしてお待ちです、お待たせしませんよう……』
 口々にヴァンパイアの花嫁達がルブローデの街から差し出されたと思っている花嫁……猟兵達に声を掛ける。
「花婿が来ないのはマナー違反ではないかしら?」
『主様はお忙しい方、花嫁からお目通りを願うのです』
「無数にいる花嫁の一人として?」
 呆れたように櫻宵が言うと、ヴァンパイアの花嫁達はそれが当たり前だというように頷いた。
「あら、でも私は無数のひとつにはなりたくないわね」
 リルは? と櫻宵が笑顔で問う。
「お迎え? ダメだよ。ついて行かないし、櫻だって連れて行かせないよ」
 ね、カムイ……とリルがカムイを見遣ると、そこには。
「迎え……?」
 その言葉に、表情を消したカムイが常より低い声で呟く。
「私の大切な巫女を、生涯たったひとりのサヨを? 同志たるリルと共に連れていくと?」
 カムイの周囲の温度が下がっているような気がして、思わずリルが己の腕をさする。
「……既にこれだけの花嫁が居るならいいではないか」
 これ以上新しい花嫁を増やしてなんとするのだ、とカムイが姿を現すことの無いヴァンパイアに悪趣味な、と吐き捨てた。
「……とても不機嫌だ!」
「リル、私は不機嫌などではないよ、姿も見せず思い通りになると思っているヴァンパイアが気に食わないだけだ」
 余計悪かったか……とリルが遠くを見るけれど、その意見には同意しかない。
「かぁいい子達、私はあなた達の横にいたいのよ?」
 カムイとリルの間に挟まれ、櫻宵が艶やかに笑った。
『……花嫁を引き渡す気がないと? それは主様への敵対行為とみなします』
『主様に対する脅威となるのであれば、この場で粛清を』
『主様は寛大です、思い直すのであれば主様のもとへ連れて行ってあげましょう』
「ふふ、あらあら。ついて行ったら主様しか見えなくなるのかしら?」
 それはちょっと、いいえちょっとどころではなく嫌ね、と櫻宵が浮かべていた笑みを消す。
「そうだよ、それに花嫁達……君達は皆同じにみえるや」
 ほんの少しずつは違うけれど、顔立ちも髪型も、衣装も同じ。それから、主様しか見えないところも――とまで考えて、リルが一つ訂正した。
「いいや、見えないようにされてしまった、だ」
 可哀想だと憐れむのは傲慢だろうか、けれど彼女達も犠牲者なのだとリルが尾鰭を揺らす。
『我らには主様がいる、それだけで幸せなのです』
『あなた方は主様の敵と認識しました』
『この場で粛清を!』
 ヴァンパイアの花嫁達が三人に迫る。
「私の巫女と同志に近寄るな」
 朽ち果てよ、とカムイが神罰でヴァンパイアの花嫁の身を縛り動きを制限すると、リルが誘惑を絡めるように歌を紡ぐ。大好きな二人が戦いやすいように、水泡のオーラを巡らせていく。
「ねぇ、花嫁さんたち。偽りのあいになんの意味があるの」
『いつわり、などでは』
『我らの忠誠は、主様のもの』
「忠誠をあいとは言わないの」
 赤い糸の代わりに繋がれた、その冷たく悲しい鎖を断ち切ってあげると櫻宵が浄化の力を込めた血桜の太刀を振るった。
『全ては、主様のために……!』
 カムイの神罰を断ち切るように、花嫁が全ての痛みを麻痺させて走る。血の涙を流す彼女の爪が櫻宵に届く寸前、カムイが疾く駆けた。
「指ひとつ、髪のひと房、触れさせはしない……!」
 朱砂の太刀を構え、低い位置からの抜刀。そして広範囲に向けて刃を振るえば、ヴァンパイアの花嫁の脚を切り落とす。
「悪しき厄を斬って解放してあげる」
 そなたらを縛る、望まぬ婚姻から――。
 朱の刀身が煌いて花嫁が一刀のもとに倒れ伏すと、櫻宵が続くように言の葉を短く紡いだ。
「喰華」
 何の味もしない愛を喰べてあげる、と囁いて、蠱惑の龍眼が開く。その視線は花嫁を桜獄へ捉え、存在も力も吸収して桜花として咲き誇らせた。
『ああ、主様、主様、万歳!』
 ならば道連れにしてくれようと、残されたヴァンパイアの花嫁が自爆の道を選びとる。その爆炎は確かに前に出ていたカムイと櫻宵を捉え――。
「爆ぜるような愛も嫌いじゃないけど、砕けるなら君だけで」
 二人を傷付けることは許さない、とリルが薇の歌を紡ぐ。
 蕩う泡沫は夢、紡ぐ歌は泡沫。
「――そう、何も無かった」
 それは爆発したという事象を巻き戻し、打ち消す歌。
「終わりだよ」
 リルの声を合図としたように、カムイと櫻宵の刃が交差し、花嫁が倒れ伏す。そのまま風に攫われるように崩れ去り、花吹雪と共に飛んでいく。
「廻ることが叶うなら今度は愛しいひとの花嫁となれますように」
 なんて、綺麗ごとを美しく並べてあげるけれど。
 揺れる櫻宵の瞳に、カムイが慌てたように抱きしめた。
「サヨは何を不安に?」
 ヴァンパイアの花嫁は倒したのにと、カムイが彼を覗き込む。
「……だって」
「だって?」
「私のかぁいい神様の瞳に……私以外の花嫁を映したくない」
 リルはいいの、リルは特別だものと言う櫻宵にカムイの鼓動がとくんと跳ねる。
 噫、ほんとうに、どれだけ私を君で満ち溢れさせるつもりなのだろうか。
「櫻、心配しなくても彼は君しか見てないよ」
 もう、とリルが言うと、櫻宵が本当に? とカムイを見上げる。
「勿論だとも、かわいい私の巫女」
「カムイ……!」
 ぎゅうと抱き合った二人に笑みを浮かべ、それから僕もとリルが抱き着く。
「あ、櫻も僕以外の花嫁を見ないでよね!」
「勿論よ! リル!」
 私のかぁいい子達、私にはあなた達だけよ、と櫻宵が咲き誇る花のように微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈


……なんで鎖と枷つけてんの?
そーゆう趣味なの?

ふっふーん
残念だったな
心結はお前らの主様の花嫁にはさせねぇよ
この俺様がいる限りな

さぁこっちを優先的に狙うってんなら逆に引き付けさせてもらうぜ!
やばい攻撃で気合で耐えるさ!
俺様が倒れりゃ心結に危害が及ぶしな

心結には指一本触れさせやしねぇよ!

俺様や心結には光と水の魔力の膜(オーラ防御)張り
残像すら見えぬ速度で駆けまわり翻弄し
敵の攻撃は光属性魔術の輝光閃《グリッターレイ》で薙ぎ払う!

何が来ようと俺様は絶対に負けない

地を蹴り宙飛び光と成って!
空から一気に急降下!

限界突破×捨て身の一撃×重量攻撃×踏みつけ×全力魔法!

これで終いだ!

輝光…踏脚…ッ!


音海・心結
💎🌈


……みゆを迎えに?
申し訳ないのですが、お前たちの希望通りにゆくことはできません
みゆはヴァンパイアの花嫁にはならないのですっ

彼の方をちらり

って、何をしてるのですかっ!?
相手の感情が体が消えていくのを感じる

い、痛くないのですか……?

失ったものが何で在れ元の姿には戻れない
そう知れば、戦うことを躊躇してしまうのも無理はなかった
昔のみゆなら気にせず戦うことが出来たでしょう

でも、今は――

自分と重ねてしまう
あの子たちの感情や体の一部が欠けたら
悲しむ人はいないのでしょうか、と

零時っ!
……そうですよね
戦うしかないのです
全てはこの世界――いや、ヴァンパイアのせい
貴方たちの死は無駄にはしません



●君を守る星の輝き
 裏通りを抜け街外れまでやってくると、祭の灯りが少し遠くに見えて、音海・心結(瞳に移るは・f04636)が綺麗ですと呟く。
「これが終わったら祭りだからな!」
「はい、零時! とっても楽しみですね」
 その楽しみを惨劇に変えぬよう、必ずここでヴァンパイアの魔の手を食い止めなくては、と心結と零時が頷き合った時だった。
 まだ遠いけれど、白い集団がこちらへ向かってくるのが見えたのだ。
「零時……あれ、でしょうか」
「ん-、他には何にも見えねぇから、多分」
 他の猟兵達もそちらの方を向いて警戒を強めているのを見て、零時が気持ち心結よりも前に出る。
「零時?」
「俺様は心結の護衛だからな!」
 守るのは当然だろ? と、屈託ない笑みを心結へと向ける。
「零時……」
 ありがとう、と心結が微笑むと、二人は白い集団がこちらへ来るのを待った。
『我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました』
『さあ、我らが主様が新しい花嫁をお待ちです』
 こちらへ、と有無を言わさぬような、感情と言うものを感じさせない口調でヴァンパイアの花嫁達が心結を促す。
「……みゆを迎えに?」
『ええ、あなたは新たな花嫁です』
『主様をお待たせするわけにはいきません、さあ、お早く』
 花嫁達が指で行き先を示し、二人に背を向ける。先に行けというのだろう、そして逃げ出さぬように彼女達は新たな花嫁の後ろを歩くのだ。
「なあ」
 ふと、零時が声を上げる。
『……なんでしょうか』
「……なんで鎖と枷つけてんの? そーゆう趣味なの?」
 心底不思議そうにしている零時に、ヴァンパイアの花嫁が視線を寄こす。
『これは主様から頂いた、大切な花嫁の証です』
「鎖と枷が? 普通指輪じゃねぇの?」
 もっともな問い掛けに、心結も思わず首をうんうんと立てに振った。
『これが主様の御心なのです』
 にべもなくそう言い切って、お早くとヴァンパイアの花嫁が心結を促す。
「申し訳ないのですが、お前たちの希望通りにゆくことはできません。みゆはヴァンパイアの花嫁にはならないのですっ」
 ちらり、と零時の方を見ながら、心結が毅然と言い放つ。
『……主様に逆らうと?』
『主様は寛大なお方、今すぐ言葉を撤回し共にくるのであれば、お許し下さるでしょう』
 さあ、おいでなさいと言う花嫁に向かって、零時が心結を背に庇うように立つ。
「ふっふーん、残念だったな! 心結はお前らの主様の花嫁にはさせねぇよ、この俺様がいる限りな!」
 零時がそう啖呵を切ると、花嫁達がくるりと向きを変えて二人に相対する。
『主様に仇なす発言とみなします』
『主様の脅威になる行為だと断定します』
 あなた方は、主様の敵――ならば、我らの敵だとヴァンパイアの花嫁が表情の一切を消し、躊躇いもせず互いの片腕を千切り取った。
「って、何をしてるのですかっ!? い、痛くないのですか……?」
 ヴァンパイアの花嫁が取った行動に、心結が慌てて声を上げる。
『この心と体は主様のもの』
『痛みも何もかも、主様がお与えくださるもの』
 痛みも苦しみも全て、主様の愛だと言う花嫁に、心結が体を震わせる。失ったものが何であれ、元の姿には戻れないのに。そう知ってしまえば、戦うことを躊躇うのも無理はない。
 ああ、昔のみゆなら気にせず戦うことが出来たでしょうと、心結が息を吐く。
 でも、今は――自分と重ねてしまうのだ。
 あの子たちの感情や体の一部が欠けたら、悲しむ人はいないのでしょうか、と――。
 心結が躊躇う間にも、ヴァンパイアの花嫁は力を込めた一撃を放とうと距離を詰めていく。
「心結には指一本触れさせやしねぇよ!」
 お前たちが狙うのはこっちだ! と零時が叫び、光と水の魔力の加護が込められた膜を己と心結に張り巡らせる。そして、残像すら残さぬ速度で駆け、ヴァンパイアの花嫁を翻弄していく。
「当たんなきゃ、意味はねぇからな! それに、何が来ようと俺様は絶対に負けない!」
「零時……!」
 そう、そうですよね、と心結は拳を握りしめる。
「戦うしかないのです、全てはこの世界――いいえ、ヴァンパイアのせいなのですから」
 心結が顔を上げ、ヴァンパイアの花嫁を見遣る。そして、彼女達の次の行動の予測を叩き出す。
「視えたのですっ! 零時、挟み撃ちがきます!」
「任せろ!」
 零時が地を蹴り上げ、宙へと舞う。その姿は光と成って、まるで流れ落ちる流星のように一気にヴァンパイアの花嫁へ目掛けて急降下した。
「これで、終いだ! 輝光……踏脚……ッ!」
 ヴァンパイアの花嫁を包むのは眩い星の光。そして、痛烈なまでの蹴りであった。
「零時!」
 駆け寄る心結に笑顔で応え、零時が消えゆく花嫁を見遣る。それに倣うように、心結も花嫁に視線を落とした。
「貴方たちの死は無駄にはしません」
 いつか、この世界を救ってみせると心結が決意を秘めて顔を上げる。
「零時、守ってくれてありがとうございます」
「約束だからな!」
 今日は俺が心結を守ってエスコートをするのだと零時が笑えば、心結も嬉しそうに頷いて微笑むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【花守3】◎
全く、花嫁の迎えに他の娘を遣わすだなんて良い度胸ね
伊織ちゃんも、刺されたくなければハーレムなんて諦める事よ?
(冗談混じりの言葉と対照に、ベールの下に一瞬だけ憐憫を滲ませるも――)
それじゃ、この場で三行半を叩き付けましょ
――ええ、徒花は此処で根刮ぎ終わらせるわよ

ドレスであろうと大胆不敵に大立回り
自らはUCで力高めると同時に、護衛二人の周囲には幽世蝶舞わせ、オーラ防御と結界術の加護にて援護
攻撃は自爆しそうな子から優先的に、眠りに誘う属性乗せた衝撃波見舞い静かな幕引を
そこまで尽くさなくて、良いのよ

貴女達も、良からぬ輩とは離縁なさい――せめて今、その身も魂をも縛る悪縁と鎖を、絶ってあげるわ


佳月・清宵
【花守3】◎
とことん良い趣味してやがる旦那だな
此方のじゃじゃ馬なら鎖付けても振り回して引き千切るだろうが、村娘にゃ酷な事だ
(枷や鎖を一瞥し、反吐が出ると吐き捨てて)
刺される?コイツに限ってその心配は無用だろ、小町
何せハーレムなんざ夢のまた夢だからなぁ?
ま、何にせよ、これ以上の無駄話は後だ――腐った縁談も、憐れな徒花も、全て絶つとするか

加護受けた礼と曲り形にも護衛の任を果たす様に、花嫁様を守りつつ立回り
UCの高速移動と早業で、伊織の攻撃から逃れた奴に対処
寄生生物がついた箇所が分ければ其処へ刃や冗談見舞い部位破壊
代償の苦痛も、狂った運命も、悉く終わらせてやる

とんだ主人に、これ以上何も捧ぐ必要はない


呉羽・伊織
【花守3】◎
ふざけたハーレムは大概にしろってな
いっそ鬼嫁を本当に迎えて、いっぺんぐっさり刺されちまえ――とか、いや冗談ダヨ?
俺はこんな心ないハーレムは望まない…っておい、失礼な!
くっ、ああ、アンタと遣り合うのは後にしといてやるよ!
今は役目を――花を散らすのは忍びないが、このまま放っておく方が尚更、いたたまれないからな

受けた加護の返礼がてら、キッチリ護衛を務めてみせよう
言葉は反発しつつも行動は揃え、抜かりなく一掃
早業でUC放ち先制攻撃重ねて――せめて、自爆より早く終わらせよう
散り際までも、虚ろな僕として身も心も使い果たさなくていい

ああ、花嫁を幸せにするどころか、幸せを奪い去った主人にゃ、絶縁状を



●悪縁を断ち切って
 ずらりと並んだ白を目にして、花川・小町(花遊・f03026)がベールの中でその美しい眦を釣り上げた。
「全く、花嫁の迎えに他の娘を遣わすだなんて良い度胸ね」
 しかも花嫁の迎えに花嫁をだなんて、下の下もいいところだわ、と小町がヴァンパイアを痛烈に批評する。
「全く、とことん良い趣味してやがる旦那だな」
 どんな感性をしていれば、こんな真似ができるのやらと佳月・清宵(霞・f14015)がヴァンパイアの花嫁を見れば、手枷足枷、おまけに首枷をしているのが見えて目を細める。
「此方のじゃじゃ馬なら鎖を付けても振り回して引き千切るだろうが、村娘にゃ酷な事だ」
 反吐が出る、と吐き捨てて、今はこの場に姿を現さないヴァンパイアを睨むように鋭い視線を敵へと向けた。
「あら、私ならその鎖ごと相手を締め付けてさしあげるわよ?」
 本当にやり兼ねないな、と思いつつ呉羽・伊織(翳・f03578)も一様に同じ表情で笑みを浮かべるヴァンパイアの花嫁に眉を顰める。
「ふざけたハーレムは大概にしろってな。いっそ鬼嫁を本当に迎えて、いっぺんぐっさり刺されちまえ……とか、いや冗談ダヨ?」
 隣からひんやりとした視線を感じ、伊織が慌てて首を横に振る。
「伊織ちゃんも、刺されたくなければハーレムなんて諦める事よ?」
 にっこりと笑う小町に、清宵がくつりと笑う。
「刺される? コイツに限ってその心配は無用だろ、小町」
「俺はこんな心ないハーレムは望まないし、こう見えても一途で――」
「何せハーレムなんざ夢のまた夢だからなぁ?」
「っておい! 失礼な!」
 途中までは珍しく持ち上げてきたと思ったら、最後でキッチリ落としやがって! と、伊織が憤慨してそっぽを向いた時だった。
『我らが主様の新たな花嫁となる方、どうぞこちらへ』
 ヴァンパイアの花嫁が、こちらへ来るようにと促したのだ。
「これ以上の無駄話は後だ」
「くっ、ああ、アンタと遣り合うのは後にしといてやるよ!」
「それじゃ、この場で三行半を叩き付けてやりましょ」
 美しいウェディングドレスを纏い、黙っていてもいなくても美しい女がブーケの代わりに椿で飾られた薙刀を手にすると、清宵が妖刀を伊織が黒刀を抜いた。
「腐った縁談も、憐れな徒花も、全て絶つとするか」
「ええ、徒花は此処で根刮ぎ終わらせるわよ」
「花を散らすのは忍びないが、このまま放っておく方が尚更……いたたまれないからな」
 そうね、と小町もその瞳にどこか憐憫の色をのせ、伊織の言葉に頷く。
『花嫁をお渡しにならない、ということですか』
『我らに武器を向けるという事は、主様への反逆行為とみなします』
『主様に逆らうのであれば、死を――!』
 刃を向ける三人に対し、ヴァンパイアの花嫁が警告を発すると小町が堂々と啖呵を切った。
「花嫁にする女を自分で迎えに来ない男なんて、願い下げよ!」
 それと同時に神霊体に姿を変えて、ひらりふわりと幽世の蝶を清宵と伊織に向かって飛ばし、見えぬ力の加護を与える。見えぬけれど確かに感じる暖かくも優しい力に小さく笑い、清宵が礼だとばかりに小町を守る為に妖刀を振るう。
「ありがと、姐サン!」
 護衛役としてキッチリ務めてみせるぜと、普段は反発しあう相手と動きを合わせ、伊織が黒刀の切っ先をヴァンパイアの花嫁に向けた。
『主様に歯向かう者は、我らの命を以てしてもここで死んでいただきます』
「命を賭けるほどの価値が、主様とやらにあるとは思えないな」
 女に命を賭けて守れだなんて、男の言う事でもないと伊織が無数の暗器を一斉に花嫁に向かって放つ。そして同時に踏み込むと、首を狙って切り込んだ。
『ああ、ああ、主様のお役に立つこそが我らの幸せなのです。主様、主様万歳!』
 狂信にも似た言葉を放つ花嫁の目はどこか虚ろで、そんな風に操られている――洗脳されているように見えて、伊織が少しでも早く終わらせてやるとヴァンパイアの花嫁に囁く。
「散り際までも、虚ろな僕として身も心も使い果たさなくていい」
 せめて死ぬ時くらいは誰かの手で、そう言った男は黒刀の刃を白い首に食い込ませ、一息に首を跳ね飛ばした。
 ころりと転がった首は、どこか安堵に満ちているようにも見えて。
『主様に仇なす者、脅威となる者は許しません。全ては主様のために……!』
 全ての痛みを麻痺させた花嫁が血の涙を流しながら、清宵へ見た目からは考えられない程の力を籠めた拳を放つ。
「遅い」
 妖刀の怨念を纏った清宵が花嫁を攪乱するかのように動き回り、伊織の暗器攻撃を耐え抜いた花嫁と対峙する。
「寄生生物を使っての強化とは恐れ入る」
 ああ、本当にどこまでも良い趣味をしたご主人様だな、と吐き捨てながら清宵が寄生生物の取りついた場所を探る。
「怪しいのは枷……か?」
 丁度場所も三か所と来てやがる、と唇の端を持ち上げて、清宵が狙いを定めて妖刀を振るい衝撃波を飛ばした。
「まずは一つ」
 手枷が一つ、音を立てて外れる。
「二つ」
 重たい音を立てて、ガシャンと両手から手枷が消えた。
『おのれ、主様からの贈り物に傷を!』
「指輪の一つもくれないで、枷をくれるようなご主人様とは縁を切った方が良いわよ?」
 小町がそう言って、清宵を手助けするように眠りに誘う衝撃波を放つ。
「全くだな」
 暗器を足元の枷に集中させ、伊織が姐サンご尤も、と頷いた。
『黙れ、黙れ! 我らの全ては主様のもの……!』
 強化が弱まったのだろう、花嫁の攻撃の手が弱くなっているのを感じ、清宵が止めを刺す為に妖刀を構える。
「とんだ主人に、これ以上何も捧ぐ必要はない。代償の苦痛も、狂った運命も、悉く終わらせてやる」
 ヴァンパイアの花嫁の懐に飛び込んで、最後の首枷諸共――首を刎ね落とした。
「残るは貴女だけね」
 ドレスの裾を翻し、小町が残る一人を相手取る。
『わたしだけになったとしても、主様への忠誠は変わらない』
「……そこまで尽くさなくて、良いのよ」
 そんな必要は一つもないのに、ヴァンパイアの花嫁が主であるヴァンパイアに尽くすのは洗脳、またはそれに近しい何かでしかあり得ないと小町は表情を曇らせる。
『主様のために、わたしができる事をするだけです。主様、万歳!』
 先ほども違う花嫁から聞いた言葉だ、トリガーとなる言葉なのかもしれない。そうであれば、この花嫁も……そう考えて、小町が眠りへ誘う力を乗せた衝撃波を花嫁へと振るう。
 一撃、それで足りなければもう一撃。
「良からぬ輩とは離縁なさい――せめて今、その身も魂をも縛る悪縁と鎖を、絶ってあげるわ」
 その身が爆ぜる前に、とドレスの裾から大胆に足を覗かせながら、小町が薙刀を一閃させた。
 ころころ、ころりと転がった首におやすみなさいと囁いて。
「終わったか」
「他も……もう終わるな」
 清宵の言葉に周囲を窺い、伊織が言う。
「そう、それじゃあ街へ帰りましょうか」
 悪縁は綺麗さっぱり断ち切ったことだしね? と、小町が艶やかに二人に向かって微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニーナ・アーベントロート
【花燭5】
身も心も『主様』に捧げて
只管に其の人のことだけを考えて
幸せそうだね、貴女達
(あたしには、良さが全っ然分かんないけど!)

千織さんがくれた糸桜の加護、頼もしいね
……ヴォルフさん、戦いが終わったら
ロキさんの刺激的な過去のこと詳しく訊いていい?

先ずは敵の油断を誘い、仲間をサポート
赫く色付いた唇から紡ぐのは
耳朶を擽るような甘い呪詛と毒使いのUCを
ね、もっと近くで聞いて?
『主様への脅威』だなんて、思わないでしょ
…ほら、掴まえた
隙が出来たなら仲間達に託して
自身も早業にて構えた弓矢で援護射撃
せめて最期は彼女達が苦しまぬよう
貫く時は一思いに

…大丈夫、千鶴くんは優しいよ
桜の餞を見送って、共に祈りを


橙樹・千織
【花燭5】

あらあら、盛大なお出迎えね
でも花嫁がその表情はどうなのかしら

新たな花嫁
一体何度…
その言の葉をその子達に言わせたの?
そっと味方に破魔を込めた糸桜のオーラを贈り
歌い、祈るは友の無事

重なる薄紅のオーラにふわり笑んで
私が優しくないこと、
貴方が一番よく知っているでしょうに
ロキさん…随分とやんちゃしていたのね
ニーナさんの聲は魅惑的ね

悪いけれど
大人しくしていられる花嫁ではないの
痛みへの耐性を纏い
作ってもらった隙を活かし少女達に接近
藍雷鳥は花弁として散らし、藍焔華でなぎ払う

私に堕ちた者を掬い上げる力は無いけれど
せめて
その魂を縛る呪を枷を断ち切って
彼女達に今度こそ安らかな眠りを


ロキ・バロックヒート
【花燭5】

え~~~
こっちの花嫁はバリエーションないんだ…残念…
ちょっと楽しみにしてたのになぁ
皆いい子だからにこにこ笑って黙ってるけど

ニーナちゃんの甘い囁きちょっと羨ましいな
もっと聞かせてあげてよ
人聞き悪いなぁヴォルフくん
爆弾でそこら吹き飛ばすとかしないから
夜の世界に【救済】の光を招いて
皆へ向かう面倒なものごと壊すだけ
ね?大丈夫でしょう
むしろそっちのがえげつないんじゃない
あぁ可哀想に

凛々しいちおりちゃんの花
やわく摘んでしまえたら良いのに
舞う花弁は白い花が香るよう
千鶴くんが散らせる赤は美しく鮮やかに映えて

ついつい皆のこと眺めちゃうね
花嫁同士戦うのも乙だけど
写真を撮るのは吸血鬼相手に取っておこうかな


ヴォルフガング・ディーツェ
【花燭5】
嗚呼、実に興醒めだ
生とは多様な心が紡ぐ歌劇
思うが儘に侵す等無粋だよ

【指定UC】を展開し支援
「この悪趣味な戯曲を終わらせる」…其はきっと共通の願い
優しい千鶴や千織、ニーナは心配ないけど…ロキ、昔みたく派手に壊し過ぎないでよ!
了解だ、ニーナ。寝物語には血生臭いけどね?

対峙する花嫁は魔爪で腹を抉り「ハッキング」「精神攻撃」
人格を破壊されても記憶は血潮に、脳に眠る
ならば一時でも偽りの支配を塗り替える事も叶う筈

さあ、微睡めよ曾ての愛し子
そして人として死に路を行け
爪に鎌鼬の力を纏わせ引き裂く

おや、千織も千鶴も優しさがないと?それは結構だ!
綺麗なだけでは務まらない、人生という独奏劇はそういうものさ


宵鍔・千鶴
【花燭5】

主君に凡てを捧げ白を纏う彼女らは
幸せ…、いや、此の侭で良いわけないね
だって花嫁は笑ってなきゃ

千織の糸桜を身に
自身も重ねるように薄紅のオーラを仲間へ
ヴォルフとロキは随分とやんちゃだったんだね?
爆弾は駄目だよー、ってやんわり笑み
ニーナの美しく甘やかな毒、頼もしいけど
敵にしたくないかなぁなんて

迎え討つ皆が戦場に咲く白い花の様で
ああ、うん、見惚れている場合じゃ無かった
…俺、優しくないよって
花嫁達を白刃で赫く染め上げ
今の方がずうと綺麗に感じるもの

せめて彼女らが散り際だけでも
自我が、心が、安らかに逝けるようにと
浄化し、桜で葬送り出そう

――おやすみ、花嫁
次はどうか幸せな花の道を



●悲しき白を眠らせて
 花嫁さんがいっぱいだー、とロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)が自分達以外の花嫁姿を楽しく眺めていると誰かの警戒を促す声がして、そちらに顔を向けた。
 見えたのは白い群れ、こちらと同等か、それより少し多いくらいの数の花嫁。
 わあ、向こうも花嫁さんなんだ、とその衣裳に視線を送れば、声にこそ出さないけれど一瞬テンションの下がった顔をした。
 え~~~、こっちの花嫁はバリエーションないんだ……残念……ちょっと楽しみにしてたのになぁ、なんてこっそりと心の中で思う。皆いい子だから、にこにこ笑って黙ってるけど、残念。
 なんて忙しなく考えていると、近い距離にまでやってきたヴァンパイアの花嫁がその声を響かせる。
『我らが主様の新たな花嫁となる方々、お迎えに参りました』
『さあ、我らと共に主様の許へ参りましょう』
『護衛の方々はここまでです、街へお帰りなさいませ』
 その声は感情もなく無機質で、どの花嫁の声も同じように聞こえた。
「あらあら、盛大なお出迎えね。でも花嫁がその表情はどうなのかしら」
 薄っすらと微笑んだ表情は作り物のようで、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が柳眉を顰めて仲間に聞こえるくらいの密やかな声で言う。
「精神的にも強力な支配を受けている……のだろうね」
 だたの人からそう作り変えられた彼女達にとってはその方がいいのかもしれないけれど、と溜息交じりに宵鍔・千鶴(nyx・f00683)が返す。
「下手に自我が残っているよりはマシかもしれないけれど」
 嗚呼、実に興醒めだとヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)がつまらなさそうに言った。
「生とは多様な心が紡ぐ歌劇、思うが儘に侵すなど無粋だよ」
 彼女達の主様とやらは相当に趣味が悪い、とベールの中で唇を尖らせる。
「身も心も『主様』に捧げて、只管に其の人のことだけを考えて……それはそれで幸せなのかもしれないけれど」
 あたしには、その良さが全っ然分かんないけど! と、ニーナ・アーベントロート(赫の女王・f03448)が彼女達が崇めるところの主様って、本当に趣味が悪いわね、とばっさりと切り捨てた。
「主君に凡てを捧げ白を纏う彼女らは幸せ……、いや、此の侭で良いわけないね」
 千鶴がヴァンパイアの花嫁を見て、被りを振る。
「だって、花嫁は笑ってなきゃ」
 彼女達は笑っているように見えるけれど、心底嬉しくて微笑んでいるわけではない。そうしろ、と言われたからしているような、そんな無機質な笑みを笑顔だとは認めたくない。
『さあ、新たな花嫁』
『どうぞこちらへ』
 ヴァンパイアの花嫁達が、五人を手招く。その数は丁度五人で、一人に付き一名見張りが付くような体制なのだろう。
「新たな花嫁、ね。一体何度……その言の葉をあなた達の主は言わせたの?」
 千織がそう問いながら、彼女達の招きを受け入れるように一歩を踏み出す。
『我らは主様の望みを叶え、尽くします』
『そのような些事、覚えてはおりません』
 そう、覚えていないほどなのかしら、と千織が冷たく微笑みながら破魔の力を込めた糸桜を思わせるような守りの加護を仲間へと贈る。ふわりと和らぐ気配に千鶴が小さく笑みを浮かべ、そこへ重ねるように薄紅色の守りの力を重ねた。
「千織さんがくれた糸桜の加護に千鶴くんの薄紅の加護、頼もしいね」
「ふふ、重なると桜のカーテンみたいで綺麗だね」
 心地よく感じるその守護の気配にロキが指先を伸ばして笑うと、ニーナもつられたように微笑んだ。
『さあ、花嫁の皆様』
『この先を進んでくださいませ』
 花嫁達が背を向け、道の先を指で示す。先へ行けと言うのだろう、背を見せたまま立ち止まっている。それは猟兵達にとっての好機、逃すはずもないとヴォルフガングが己の力を展開する。
「この悪趣味な戯曲を終わらせる」
 それはきっと、この場に居る皆の共通の願い。自身と戦う意志を持つ彼らとの能力を強化するヴォルフガングのコードだ。
「さあ、優しい千鶴や千織、ニーナは心配ないけど……ロキ、昔みたく派手に壊し過ぎないでよ!」
「えー、何それフリ? 人聞き悪いなぁヴォルフくん」
 フリじゃない! と叫んだヴォルフガングにロキが笑う。
「……ヴォルフさん、戦いが終わったらロキさんの刺激的な過去のこと、詳しく訊いていい?」
「了解だ、ニーナ。寝物語には血生臭いけどね?」
 ニーナが興味津々な顔をしながら頷いて、意識をヴァンパイアの花嫁の背中へと切り替えた。
 そして赫く色付いた唇から紡ぐのは、ぞくりと耳朶を擽るような甘い甘い呪詛と毒。
「貴方が望むなら、あたしの総て差し上げるわ。主様にもそうお伝えすればいいのでしょう?」
『……主様に、全てを捧げるのなら、ええ、そう。あなたは敵ではなく、主様の花嫁』
 くらり、と甘い言葉に絡め取られた花嫁がぼんやりと頷く。
「ニーナさんの聲は魅惑的ね」
「うん、ニーナちゃんの甘い囁き、ちょっと羨ましいな」
 千織に頷いて、ロキがもっと聞かせてあげてよとニーナに笑う。
「ニーナの美しく甘やかな毒、頼もしいけど……敵にしたくはないかなぁ」
 千鶴くんに敵対なんかしないよ、とニーナが言うと、千鶴が頼むよ? と頷いた。
『あなた方、何を』
 しているのですか、と言いかけた花嫁の言葉を遮るように、ニーナがロキのリクエストに応えて甘い囁きを落とす。その隙を上手く突いて、千織が駆けた。
「私が優しくないこと、貴方が一番よく知っているでしょうに」
 そうヴォルフガングに言葉を投げて、千織が黒鉄の刀身に藍色の装飾が施された日本刀、藍焔華をすらりと抜き放つ。
「汝の魂を縛る呪と枷を断ち切らん」
 薙刀は言の葉と共に花びらへと変えて花嫁の意識を攪乱するように舞わせ、首をめがけて藍焔華の刃を閃かせた。
「わー、ちおりちゃんの花も綺麗」
 やわく摘んでしまえたら良いのに、そうしたら俺様の傍に飾っておけるのにね? なんてロキが意識を向けると、千鶴も見惚れたように笑みを浮かべている。
「見惚れちゃうよねー?」
「ああ、うん、しまったな、見惚れている場合じゃなかった」
 ロキの笑顔に千鶴が困ったように笑い、でも迎え討つ皆が戦場に咲く白い花のようでつい、と呟いて月の光を弾くかのような血染め桜の打刀、燿夜を抜いた。
『これは主様に対する敵対行為とみなします、あなた方は主様の脅威になると断定します』
 ヴァンパイアの花嫁が鎖を鳴らして、千鶴へと襲い掛かる。
「……俺、優しくないよ」
 千織と同じような事を言って、千鶴が花嫁の攻撃を受ける前にその手首を手枷ごと切り落とす。そのまま、自爆するような隙すら与えぬように、白刃で赫く染め上げた。
「今の方がずうっと綺麗に感じるもの」
 赫いドレスの方が彼女達には似合うよ、と綺麗に笑った。
「おや、千織も千鶴も優しさがないと? それは結構だ!」
 ヴォルフガングが対峙した花嫁の腹を魔爪で抉り、綺麗なだけでは務まらないと言い切って。
「人生という独奏劇はそういうものさ」
 生きるとは綺麗ごとだけではないからな、と花嫁の腹を抉ったままハッキングと精神攻撃を仕掛けた。
「人格を破壊されても、記憶は血潮に、脳に眠る」
 それを探って、一時でも偽りの支配を塗り替える事も叶うはずだとヴォルフガングが記憶を探る。
『あ、あ、わたし、わたしは』
「最後ぐらいは人として死に路を行け」
 微睡めよ、曾ての愛し子と優しい声で囁いた。
 そうして、魔爪に風の力を纏わせて――苦しまぬように引き裂いて。
「俺様よりこっちのがえげつないんじゃない?」
 あぁ、可哀想にとロキが言えば、絶対人の事言えないだろうとヴォルフガングが言い返した。
『主様に仇なす者達、あなた方を倒します』
『主様の為に、ああ、主様! 主様、万歳!』
 ヴァンパイアの花嫁の目が狂気に染まるのが見えて、ロキが頭の飾りをしゃらりと揺らして前に立つ。
「大丈夫、爆弾でそこら辺を無差別に吹き飛ばすとかしないから」
「ロキさん……随分とやんちゃしていたのね?」
 千織が藍焔華を構え、糸桜の守りを強化しながら目を瞬かす。
「ヴォルフとロキは随分とやんちゃだったんだね? 爆弾は駄目だよー」
 千織に合わせ、千鶴も薄紅の守りを重ねてやんわりと笑う。
「えー、大丈夫だって。ちょっと夜の世界に救済の光りを招いて」
 カタカタと震え体を揺らすヴァンパイアの花嫁に向かって、ロキが概念、事象、魂を灼く破壊の光を放つ。
「皆へ向かう面倒なものごとを壊すだけ」
 自らの身体を爆発させ、全てを巻き添えにしようとしていた花嫁が目を見開く。
「ね? 大丈夫でしょう」
 ちょっと相殺するだけだし、とロキが笑った。
「うーん、ううん? 大丈夫は大丈夫……だけど」
 それって本当に大丈夫なのかな? と思いつつ、ニーナが構えた弓矢でロキが自爆を相殺した花嫁に向かって矢を射る。貫く時は苦しまぬように一思いに、という彼女の願いのまま矢はヴァンパイアの花嫁の額を貫通し、その機能を停止させた。
『主様、主様の脅威となるお前たち、わたし、わたしが!』
 最後の一人となった花嫁が主様万歳! と叫ぶ。
「ごめんね、その自爆はもう俺様見ちゃったから」
 ロキが光を放つと、千織と千鶴がベールを翻して手にした刃の切っ先を突き立てた。
「私に堕ちた者を掬い上げる力は無いけれど、せめて――その魂を縛る呪を、枷を断ち切って」
 今度こそ安らかな眠りをと千織が祈る様に刃を引き抜く。
「せめて、散り際だけでも」
 そう囁いて、千鶴が突き立てた刃を桜の花びらへと変えて、ひらり、はらりと舞い散る花びらが、花嫁達へ降り注ぐ。
「綺麗だな」
 ひらりと飛んできた花びらを手の平にのせ、ヴォルフガングが息を吹き掛けて花嫁へと飛ばした。
「桜の花びらに花嫁さん、ふふ、綺麗だね」
 ついつい皆のことを眺めちゃうなと考えて、そういえば写真撮るの忘れちゃったなとロキが思い出す。
「写真を撮るのは吸血鬼相手に取っておこうかな」
 なんて、こっそりと呟いた。
「……大丈夫、千鶴くんは優しいよ」
 ニーナがそう囁いて、桜の餞を見送って。
 おやすみ、花嫁。次はどうか幸せな花の道を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『きっと君のためのワルツ』

POW   :    豪快に光と戯れる

SPD   :    軽快に光と戯れる

WIZ   :    風流に光と戯れる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●光夜祭
 猟兵達が無事に街に戻ると、長老や自警団の人々が口々に感謝の言葉を伝えながら出迎えてくれた。
「何とお礼を言ったらいいのか……皆さんのお陰で街の者は祭りを楽しんでおります」
 何度も頭を下げ礼を言う彼らに頭を上げてもらうと、何もできはしませんがどうか祭りを楽しんでいって欲しいと皆が笑みを浮かべている。守り切ったのだという実感と祭りを楽しむ人々の声に、時間のある者は参加していくのもいいかもしれないと頷いた。
 借りていた衣装は返却するのも買い取るのも自由だと聞き、衣装を借りていた者は一度服屋へ赴くだろう。それから街の大通りへ出れば、昼間に飾り付けられていたランタンがオレンジ色の暖かな色彩を放っているのが見えるはず。
 屋台の種類は少ないけれど、揚げたパンに砂糖をまぶしたものやキャラメル掛けされたポップコーン、クリームが飾られたマフィンなどがあり、大人も子どもも楽しそうに口にしている。
 飲み物は大人であればビールがあるが、子ども達にはホットミルクにキャラメルを一つ落としたものが人気の様だ。
 そして、ランタンが続く道を真っ直ぐに行けば、街の近くの森にある泉に着くだろう。三日月と星の明かりを受けたその泉は、まるでたくさんの星が落っこちたかのように光りに満ちているし、その光りに引き寄せられたかのように蛍のように光る蝶が泉の近くを飛び回っているのが見えるはず。
 街の人々はその神秘的な光景に祈りを捧げ、叶えたい願いを想いながら泉の石をひとつ拾い上げるのだ。
 石はビー玉ほどの大きさで透明だけれど、月や星の見える夜には淡く光るので星光石と呼ばれているもの。願いは人それぞれだけれど、叶えたい願いがあるのなら真似てみるのも良いかもしれない。
 祭りの夜の楽しみ方は人それぞれ、猟兵達もどうか思いのままに楽しんで――。
ヘルガ・リープフラウ
【花狼2】

平和が戻った街で、笑いさざめく人の声を聴きながら
ランタンの灯りに導かれて二人歩く
ああ、これこそがわたくしの護りたかったもの

ええ、ヴォルフの懸念は尤もだわ
だけど今はこの貴重な時に感謝し楽しみましょう

そして……わたくしもいずれ「あの男」と決着をつけなくては
今はまだ目立った動きは見せていませんが
オブリビオンは「宿縁ある者」が倒さぬ限り何度でも甦る
惨劇の因果は、自らの手で刈り取らねばならないのだから

やがて二人の足は森の奥の湖へ向かう
降るような星灯りを受けながら

星光石に込める願いは
「吸血鬼への恐怖に怯えることのない平和な世界」
いずれ来る決着の時に勇気を奮えるように
大切な人との日々を守れるように


ヴォルフガング・エアレーザー
【花狼2】

ヘルガと共に祭りで賑わう街を歩く

ひとまずの危機は去ったが、完全に脅威が消えたわけではない
『主』たる吸血鬼は未だ健在
見下していた人類に歯向かわれ一敗地に塗れて
このまま引き下がることはあるまい

とはいえ、祝いの席でその懸念を示すほど俺も野暮ではないさ
こちらが相応の武力を示したことで、敵も暫くは警戒するだろう
奴の報復に屈せぬよう人々の士気を高めるためにも
今はこの時を楽しみ英気を養わねばな

ああ、ヘルガの宿敵ともいずれ決着をつけねばならんだろう
その時は俺も共に戦おう
お前が背負ってきた悲哀を灌ぎ、希望を取り戻すために

彼女と共に星光石に願う
この世界から悪の脅威が去り
人々に、そして彼女に幸せが戻る日を



●穏やかな日々を願って
 借りた衣装を礼と共に返し、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)とヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は祭りで賑わう街の大通りを歩いていた。
 オレンジ色に灯されたランタンは温かな光りを放ち、広場には屋台も見える。人々は久しぶりに晴れた空を見上げ、月と星が空にあるのを眺めては笑っているのが窺えた。
「ああ、これこそがわたくしの護りたかったもの……」
 ヴォルフに寄り添うように歩き、ヘルガが笑みを浮かべて呟く。そんな妻を優しい目で見つめながら、ヴォルフはこれが束の間の幸せにならぬようにしなくてはならない、と重く囁いた。
「ひとまずの危機は去ったが、完全に脅威が消えたわけではない」
 あの花嫁達の主であるヴァンパイアは未だ健在であり、今も何処かで集めた花嫁を己の思う儘にしているのだろう。それに、数ある街や村の一つだからこそ、今はまだ気付きもしていないのだろうけれど――彼らが支配し、見下していた人類に歯向かわれつつあるのだ。
「このまま引き下がることはあるまい」
 いずれ、この街ではないにしろ闇の救済者達を叩き潰そうとするはず。
「ええ、ヴォルフの懸念は尤もだわ」
 ヴァンパイアは容赦ない支配者であり、絶対の存在としてこの世界に君臨する者。
 それはヘルガが痛いほど知っていることだ。
「だけど、ヴォルフ」
 そっとヴォルフガングの手を己の両手で包み、ヘルガが微笑む。
「今はこの貴重な時に感謝し、楽しみましょう?」
 妻の青い瞳に見つめられてしまっては、ヴォルフガングに否はない。
「ああ、この祭りの最中にその懸念を示すほど俺も野暮ではないさ」
 猟兵という存在、それが大きな抑止力になりつつあり、立ち上がる者達が増えたのは間違いないこと。敵も暫くは警戒するはず、そしてヴァンパイアによる報復に屈せぬよう、人々の士気を高めるのは何よりの大事だとヴォルフガングは頷く。
「今はこの時を楽しみ、英気を養わねばな」
 こくりと頷くヘルガの手を繋ぎ、ヴォルフガングが広場を歩く。仄かに香る甘い匂いに、ヘルガの名を呼んで指をさした。
「温かい飲み物はどうだ? キャラメルを落としてくれるらしい」
「まあ、素敵ね」
 木製のコップに温められたミルクが注がれ、そこに手作りのキャラメルが一粒、ぽちゃりと放り込まれる。スプーンでくるくると搔き混ぜれば、まだ柔らかいそれはミルクへと溶けていく。
「温かいわ」
「うむ、丁度良い甘さだ」
 ほんのりとした甘さのあるホットミルクは、ヘルガとヴォルフガングの心までも癒やすかのよう。二人でホットミルクを飲み干して、コップを返すと広場から大通りへと足を向けた。
 ランタンに案内されるように小さな森を目指す、その道行きは暗くとも月と星の明かりに照らされていて、ヘルガはぽつりとヴォルフガングにだけ聞かせる声で囁く。
「わたくしも、いずれ……あの男と決着をつけなくては」
 あの男、と言われてヴォルフガングは僅かに震えたヘルガの手を強く握る。そして、話の続きを促すように僅かに歩調を緩めた。
「今はまだ目立った動きは見せていませんが、オブリビオンは何かしらの縁――宿縁を持つ者が倒さぬ限り何度でも甦るもの」
 惨劇の因果は自らの手で刈り取らねばならないのだと、ヘルガはヴォルフガングの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「ああ、いずれヘルガ自身が決着をつけねばならない時がくるだろう」
 それがどんなに困難で辛くとも、とヴォルフガングはヘルガの頬を撫で、言葉を続ける。
「その時は俺も共に戦おう。お前が背負ってきた悲哀を灌ぎ、希望を取り戻すために」
「ヴォルフ……」
 ええ、ええ、とヘルガが頷く。
「貴方が傍にいてくれるなら、わたくしはどんな困難にも立ち向かえるわ」
 頬を撫でる手に己の手を重ね、ヘルガが微笑んだ。
 瞬く星の明かりを受けて、二人が小さな森へと足を踏み入れると、そこには不思議な光りを放つ小さな泉が見えた。
 月と星のような青白い光は穏やかで美しく、周囲を飛び回る蝶も辺りを美しく輝かせている。
「まあ、なんて綺麗な……」
「美しいものだな」
 辛く苦しい日々であっても、こんな風に神秘的な光景が見られるのなら――それを頼りにこの街の人々は生きているのかもしれない。そんな風にも思える光景だった。
 人々が泉に向かって祈り、願う姿を倣ってヘルガとヴォルフガングも同じように泉の縁へと膝を突く。
 願うのはたった一つ。
 どうか、この世界が吸血鬼への恐怖に怯えることのない平和な世界になること。
 いずれ来るであろう決着の時に勇気を奮えるように、大切な人との日々を守れるように、それだけを願う。
 真摯に願うヘルガの横で、ヴォルフガングも願いを込める。
 この世界から悪の脅威が去り、人々に……そして彼女に幸せが戻る日を。
 そう願って二人は泉に指先を浸し、星のように光る石を掴み取るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈

スーツはもう少し来つつ
光夜祭の道を一旦通り過ぎ、森の泉に向かう

途中に見えるランタンの道もどこか神秘的でとても良い

だな、すっげぇ綺麗だ、キラキラしてて…此処自体が星空みたいだ
…え、俺様もか?
へへっ、あんがと心結

そんなに冷たいのか…
よしっ!俺様も入る!ひゃーつめてぇ…!
スーツ姿じゃズボンも濡れるけど、そんな事もお構いなしに突っ込むのだ

石かぁ、確かあるって聞いてたな…
ん?
あの石か!分かった!
拾った石はなんだかとてもいい輝きで、正直思わず目が惹かれる

はい、どうぞ!確かこれ星光石っていうんだっけ?

俺様も一つ…これかな!
金色な感じの石を取り
…願い…
夢は自力でかなえたいし…やっぱ友の幸せだろうか?


音海・心結
💎🌈


借りたドレスはもう少し手許に置き
光夜祭の先、出店を通って森の泉へ

蝶も泉も綺麗ですねぇ
勿論、零時も

傍から見れば小さな花嫁と花婿
ふたりだけの世界に身を包み
ドレスの裾を掴み、泉の中に素足を沈める

冷たいですけど、気持ちよいですねぇ
零時も入りましょうっ
至る所に石がありますねぇ
……ぁ
あの石、零時みたい
拾ってくれませんか?

透き通る青
其れは水色にも藍にも見える美しく強い石
星光石を月光に翳せば一際大きく煌めく

零時はその石がお気に入りなのですか?
むふふ
まるで、みゆの眸の色みたい
願い事、してゆきますか?
みゆの願い……

今だけは、零時を独占できますように

なんて、言えませんけどね
口では友の幸せを一緒に願うのです



●溢れて、零れて
 街へ戻ってから、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と音海・心結(瞳に移るは・f04636)が一番にしたことは、衣装を貸してくれている服屋に行って、もう少しだけ貸してください! とお願いしたことだった。
 店主はパチリと目を瞬いた後、祭りが終わるまでなら喜んでと笑ってくれて、零時と心結はパァっと表情を明るくしてお礼を言うと、大通りへと駆けだした。
「まずはどこに行く?」
 ランタンに照らされた大通りには、ささやかながら屋台が幾つか立っている。ほんのりとした甘い匂いも漂って、零時と心結の気を惹いているようだった。
「甘いポップコーンも、温かそうなホットミルクも素敵ですけれど」
 それは最後のお楽しみにするのも悪くない、と二人が笑う。
「だよな! 光る泉ってのを見に行こうぜ!」
「はい、零時!」
 どちらからともなく手を取り合って、ランタンに導かれるように二人は大通りを小さな森に向かって歩いた。
 それはまるで結婚式を内緒で抜け出した花嫁と花婿のようでもあり、教会へ向かう二人のようにも見えて、見掛けた街の人々は微笑ましそうに彼らを見送った。
「なんかこう、神秘的な感じがするな」
 オレンジ色の灯りは森までの道を教えてくれるように、ぽつりぽつりと星空の下で揺らめいている。
「そうですねぇ」
 まるでバージンロードの様だなんて、言わないけれど。そうだったらいいな、なんて思いながら心結は零時と繋いだ手に少しだけ力を込めた。
 小さな森へ足を踏み入れると少し先にぼんやりとした明かりが見えて、零時と心結が顔を見合わせる。
「あれだよな?」
「行ってみましょう、零時!」
 遠目からだって綺麗なのだ、近くで見ればきっともっと――。
「わぁ……!」
 まるで月と星の光を閉じ込めたかのように、小さな泉が青白く光っている。そして、その光りに誘われたかのように、同じように光る蝶がひらひら、ふわりと辺りを飛び交っているのだ。
「蝶も泉も綺麗ですねぇ……!」
「だな、すっげぇ綺麗だ。キラキラしてて……此処自体が星空みたいだ」
 上を見れば三日月と瞬く星々、下を見れば月のように輝く水面に星のように瞬く蝶々たち。綺麗だともう一度言った零時の横顔に、心結が笑みを浮かべる。
 だって、綺麗だ星空のようだと言う零時の瞳も髪も、光を受けてキラキラと輝いていたのだから。
「ふふ、零時もですよ」
「……え、俺様もか?」
 ぱちぱちと瞬く瞳に、心結が頷く。
「へへっ、あんがと心結。心結もドレスが光ってるように見えるぜ!」
 オフホワイトとはいえ、白い衣装だからだろうか。そう思っていると蝶が一匹、心結のドレスの裾へと止まった。
「本当に光っているみたいです」
 綺麗だな、綺麗ですね、とくすくすと笑って、二人は手を繋いだまま泉の縁へと歩を進める。円形になった泉の、人のいない方へと進んで足を止めて泉を覗き込む。
 そこには、小さな花嫁と花婿が映っていて、まるで二人だけしかいないような気がして心結が小さく笑って靴を脱いだ。
「心結?」
 靴を脱いでどうするのかと、そんな零時の不思議そうな声を聞きながらドレスの裾を摘まんで持ち上げると、素足の先を光る水面へと沈めた。
「ふふ、冷たいです」
「そんなに冷たいのか……?」
 でも、気持ちよいですねぇと心結が笑う。
「零時も入りましょうっ」
 一緒に、と心結がパシャンと足先を揺らす。
「……よしっ!」
 俺様も入る! と、零時がズボンの裾を捲り上げて膝まで上げると、心結と同じように泉へと足先を沈めた。
「ひゃー、つめてぇ……!」
 冷たいけれど、気持ちいい。心結の言った通りだと、零時が笑う。
「そうでしょう? でも本当に不思議です、こんなに光って……」
 そうして気付くのだ、至る所に光る石があることに。
「石が光っているから、でしょうか?」
「石かぁ、確かあるって聞いてたな……」
 ビー玉ほどの、普段は透明の。
 じっと泉の底を見ていれば、心結の心に優しく触れる色が見えて。
「……ぁ」
 まるで、零時みたいな石だと心結は思う。だから、顔を上げて零時にお願いをする。
「零時、あの石を拾ってくれませんか?」
 心結が指さす場所は少しだけ深くて、心結では借りたドレスを濡らしてしまう。
「ん? あの石か! 分かった!」
 きっとそんなことも零時は理解していて、躊躇いなく足を進めて自前のスーツが濡れるのも構わずに突っ込んだ。
 拾った石は他の石よりもどこか良い輝きを放っている気がして、零時も思わず目を惹かれる。けれど、この石を望んだ彼女が後ろにいることを思い出し、くるりと振り向いて近付くと、石を差し出した。
「はい、どうぞ! 確かこれ、星光石っていうんだっけ?」
「ありがとう、零時。ええ、そう言っていたと思います」
 手の中の石を見れば、それは水色にも藍にも見える美しく強い石。思わず月へと翳せば、より一層大きく煌いた。
「俺様も一つ……これかな!」
 なんとなく気になる場所に手を突っ込んで、零時がえいっと石を引き上げる。
 それは金色にも見える光りを放っていて、零時がいいじゃん! と満足そうに笑う。
「零時はその石がお気に入りなのですか?」
「ああ! なんかこう……特別な感じがした!」
 特別、と聞いて心結が思わずむふふと笑う。だって、まるで心結の瞳の色のようだったから。
「零時」
 ずぶ濡れに近い零時が石から視線を心結へと移す。
「願い事、してゆきますか?」
「ああ、いいぜ!」
 泉に足先を浸したまま、石を手にして願う。
 みゆ、みゆの願いは……今だけは、零時を独占できますように。
 口には出せぬ願いを、胸の中だけでそっと唱える。
「願い……夢は自力でかなえたいし……やっぱ友の幸せだろうか?」
 ぶつぶつと呟く零時にくすりと笑って、心結が目を開ける。
「零時は何をお願いしたんですか?」
「ん? 俺様は友達皆幸せになればいいなって!」
 心結は? と問い返されて、心結がふふっと笑う。
「みゆも零時と同じですよ」
 願い事は零時にも内緒なのだと胸の内で呟いて、心結は手にした石にそっと口付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
【花燭5】

皆おつかれさまだよー
最後辺りめっちゃ眺めてたけど
はいはーい俺様皆の花嫁衣裳買ってあげたーい
改めて撮っておきたいよね、記念に
戻ったら明るいきれーなところで写真撮る?
さくさくプランを立てつつ

星光石ってこれかぁ
きれいだね~
ニーナちゃんのお願いごとかーわいい
きっと強くて素敵なお相手ゲットしそうだよね
えー、ヴォルフくんは俺様より若いはずだよ?
今が一番得難いのは俺様もそうかもって
ふふふ、皆も結婚式には呼んでね~

俺様はひとの願いを叶える神様だから
お願いごとはないけどひとつ持って
ねぇこれ食べていい?なんて

いつもはこのままお酒でも飲むんだけど
ホットミルクにキャラメルを入れて
あまいふんわりしたひとときを


ニーナ・アーベントロート
【花燭5】

依頼は成功、皆の素敵な花嫁姿も見られたし
お祭りも楽しんでこー
ロキさん、衣装買ってくれるの?
なんて粋な…ありがとー、太っ腹!
ヴォルフさんの水魔法、すごい…
同じ魔術師として興味津々で覗いちゃう

まずは星光石に願いを
ふぅわり光を抱く泉が綺麗
…皆はなにをお願いするの?
あたしはいつか今日みたいな花嫁姿で
超かっこよくて超優しい旦那様の隣に立ちたいなって
えへへ、幻想的な景色の前だもん
いつもより乙女になってもいいよね
千鶴くんの優しい願いも絶対叶うよ
いつも皆の幸せ、考えてくれてるもの
…あ、それいいね千織さん!
また一緒にお出掛けしたい、したい

未来の恋と皆の笑顔を願って
キャラメル入りホットミルクで乾杯


ヴォルフガング・ディーツェ
【花燭5】
普段と違う衣装で戦うのは気を遣う、でも良い思い出になった
撮影には全力で乗っかり
カメラがなくても精霊君の光と水魔術で水鏡を作ってこの光景を刻印出来ないかな
ジベくん頼んだよ?(ジンベイザメの精霊を見上げ)

皆に倣い星光石を摘み上げ
本当に流れ星の様
ニーナは女の子らしい、星に願うに相応しい眩しい気持ちだ
千鶴や千織の願いは…そうだね、俺達は命を賭して戦う者だからこそきっと尊い
変わらぬ事は難しくもあるしね

俺の願いはさて何だったか、年寄りは忘れっぽい
良く言うよロキ、今は似たような肉体年齢だろう?
からから笑いミルクティーで乾杯を

人目外れた時に湖に星を放り投げ
…もう少しだけ人の真似をどうか、と声に出さず


宵鍔・千鶴
【花燭5】

花嫁衣装は、一寸名残惜しいから
皆の買い取って改めて写真に残して置きたいよね?
おお、ヴォルフのジベくん有能…!綺麗だ

淡く光る星光石をひとつ拾い上げ
本物の空の星に翳してみて
…願い事、かあ。
俺は皆でこうして
過ごす時間が続くのが一番かなあ
ニーナの願い、可愛いね。屹度叶うよ
好きな人の隣で今日よりもっと
素敵に着こなす花嫁衣裳楽しみだ
千織の願い事も良いと思う
でも幸せになるのは自分もだよ…!
また、一緒に出掛けようね
…え、ロキ??食べるの?

皆の願いが届きますように、ってカップを掲げて
甘いキャラメルミルクティーで乾杯を

そっと泉へ託した本当の願いは
未だ内緒のままに


橙樹・千織
花燭5】

みなさん無事で何よりです
ふふ、素敵な姿も見られて良かったですし…写真はぜひとも
え?ろ、ロキさん私は出しますよ??

あらまあ!
空にも泉にも星が沢山
星空の中に浮いているみたい
ヴォルフガングさんの魔術すごいですねぇ

これが星光石…綺麗ねぇ
お願いごと?
そうですねぇ…
……みなさんの幸せな姿を見ることかしら
緩く尻尾をゆらしてほわり

ふふ、ニーナさん可愛らしくていいですねぇ
きっと素敵なご縁がありますよ
千鶴さんのも大切ですよねぇ
こうしてまたお出かけしたいですねぇ

みなさんの願いごとが叶いますように
キャラメル入りのホットミルクで乾杯を

乙女の願いごと…眩しくて、少し羨ましいかも
目を細め、耳がはたりとはためいた



●星と笑顔が煌く夜に
 街への帰り道は皆笑顔に満ちていて、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)も行きはよいよい帰りは怖い、なんて言うけれどこの帰り道は良い帰り道だと笑みを浮かべる。
「依頼は成功したし、皆の素敵な花嫁姿も見られたし……」
「ええ、本当にみなさん無事で何よりです。ふふ、素敵な姿も見られて良かったですねぇ」
 大満足ですよね! とニーナ・アーベントロート(赫の女王・f03448)が小さくガッツポーズをすると、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)も大きく頷く。
「普段と違う衣装で戦うのは気を遣う、でも良い思い出になったよ」
 タキシードにベールを被っての戦闘なんて、中々あるものじゃないとヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)がベールの裾を軽く摘まんで笑った。
「皆おつかれさまだよー」
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)も、俺様は最後辺りは戦う皆が綺麗でめっちゃ眺めてたけどー、と言いながらご機嫌な笑みを浮かべている。そんな彼らを眺め、千鶴が思わず思いついたことをぽろりと零した。
「花嫁衣装は一寸名残惜しいから、できれば皆の分を買い取って……改めて写真に残して置きたいよね?」
 どうせならロケーションにも拘って、教会とかで撮ったらきっと綺麗なんだろうなと千鶴が笑う。
「……それ、すっごく見たいし、したいし、撮りたい!」
「まあ、みなさんで? それはきっと素敵でしょうねぇ。私も是非とも撮りたいです」
 ニーナと千織が顔を見合わせてはしゃぐと、ヴォルフガングも千鶴に向かって言う。
「いいね、撮影。それぞれのも撮りたいし、ペアになったり全員で揃って撮ったり……絶対楽しいだろうな」
 楽しい、という言葉にロキがぴくんと反応して、はいはーい! と手を上げた。
「はい、ロキ君」
 なんて、芝居掛かった風にヴォルフガングが言うと、ロキが手を上げたまま笑顔で宣言する。
「俺様、皆の花嫁衣裳買ってあげたーい」
 どうせ他に使うところもないしー、どうせなら自分が楽しいことに使いたいなー、ね? と、逆おねだりモードだ。
「改めて撮っておきたいし、戻ったら明るいきれーなところで写真撮る? 千鶴くんが言ったみたいに教会もいいよね」
 もうすっごい見たい、お願いお願い、とロキが畳み掛ける。
「ロキさん、衣装買ってくれるの?」
「えっと、それなら俺は自分で買い取るよ?」
「え、ええ。私も出しますよ??」
「え、だってもう俺様絶対見たいし、俺様が言い出しっぺだからね」
 なんて太っ腹な……! と、ニーナが目を瞬かせている内に、衣装を貸してくれた服屋へと到着した。
 そして開口一番、借りたお衣装全部買い取りたいんだけど、いーい? と、ロキが店主へ言ったのだった。
「ふ、くく、いいじゃないか、ロキに買ってもらうとしようよ」
 堪え切れずに笑いながら、ヴォルフガングが言う。
「そうそう、俺様に買ってもらって、ねー?」
 遠慮も躊躇いも必要ないと、ロキが頷く。
「こうやって言い出すと、ロキは引かないよ?」
 本当は、どうしたって譲れない事であればきちんと引いてくれるのだろうけれど、と思いながらヴォルフガングがもう少しと押してみせる。
「遠慮しちゃう気持ちもあるけど、うん、買って貰っちゃおうかな。ありがとー、ロキさん!」
 こんなに言ってくれるなら、買ってもらうのも悪くはないとニーナが笑う。そうして、なんだかんだとなし崩しに全員分の支払いを済ませ、ロキが満足気な表情で言うのだ。
「じゃあ、このままお祭りに行っちゃおうか~」
 鶴の一声ならぬ、神の一声である。
 千鶴も千織も、こうなったら仕方ないと笑いあって、ロキに礼を言うと店主にお祭りが終わったら荷物を取りに来ますと声を掛けた。
「ええ、お待ちしております」
 頭を深々と下げた店主の見送りを受けて、五人は白い衣装のまま大通りへと向かった。
 白い集団は少しばかり目立っていたけれど、お祭りだしと街の者もどこか納得しているようで騒ぎになるようなこともない。さて、どこから見て回ろうかと言いながらランタンが吊るされた軒下を見上げる。
「大通りから広場を回って、泉に行くのがスタンダードっぽいみたいだよ」
 ヴォルフガングが人の流れを見て、そう提案する。
「そうだね、そうしようか」
 千鶴が頷いて、広場の方へと向かうとささやかな飾り付けと、小さな屋台が幾つか見えた。
「ポップコーンに揚げパン、マフィンもあるよ!」
 美味しそう、どれにしようかな? とニーナが目を迷わせる。
「どれでも買ってあげるよー?」
「ロキはあれだ、孫に何か買ってあげるおじいちゃんみたいになってるね」
 ヴォルフガングがそう言うと、ロキがそう? おじいちゃんじゃないけど可愛い子には色々買ってあげたくなるんだよね、と笑う。
「なるほど……おじいちゃんの気持ちでしたか」
「其れは多少押しも強くなる、というやつだね」
 千織と千鶴が納得したように頷き、でも今回は俺達がロキに奢る番だねと、ロキをお留守番させて皆で分け合う分を買い求めた。
「えー、俺様が買うのにー」
「たまには良いんじゃないか?」
「そうだよ、ええと……持ちつ持たれつ、ね?」
 ヴォルフガングが揚げパンを渡し、ニーナが小さなマフィンを渡す。
「私達も何かしてあげたいって思いますからねぇ」
「うん、気持ち……かな。だから皆で分け合うとしよう、ね?」
 千織と千鶴がそう言って、キャラメル入りのホットミルクをそれぞれに配った。
「気持ち、気持ちなら受け取らないとね」
 ロキが納得したように揚げパンを齧ると、砂糖と揚げたてのパンが口の中でじゅわりと溶けて、思わず黙って二口目を齧る。
「揚げたてって、なんでこんなに美味しいのかな?」
 紙に包まれた揚げパンをぺろりと食べて、ニーナが口元を拭う。
「コロッケとかも揚げたては美味しいですからねぇ」
 小さめの揚げパンはあっという間に皆の手から消え、次はマフィンだとヴォルフガングが手を伸ばす。
「このマフィンもバタークリーム? かな、こってりしてるけどマフィンの生地と合ってて美味しいよ」
「おお、本当だ。しつこくなくて……甘過ぎないところもいいね」
 素朴な美味しさだと千鶴がヴォルフガンフと頷き合って、食べ終わった後のたゴミを片付けた。
「ホットミルクは持ったまま歩いても良さそうだよね」
 他の人も飲み物が入ったコップを持って道を歩いているし、とロキが言う。
「コップは後で返しに来ればいいかな?」
「そうですねぇ、皆さんそうしてらっしゃるみたいですし」
 じゃあコップは持ったままで、とニーナが立ち上がり、ゆるりと参りましょうか、と千織が笑った。
 ランタンに照らされた道を進むと、大通りから街の外へと出る。それはヴァンパイアの花嫁達と戦ったのとは逆方向になる場所で、すぐに小さな森が見えた。
 そこから先はランタンが無くとも薄っすらと明るく見えて、まるで煌く星が落ちているかのようにも見える。どこか神秘的な森を少し進むと、小さな泉が現れた。
「あらまあ! 空にも泉にも星が沢山……!」
「すごーい、きらきらしてるよ!」
 きゃあきゃあと、千織とニーナがその美しさに小さく声を上げる。
 小さな泉は内側から瞬くように青白い光を放っていて、水面がそれを揺らめかせて樹々に反射させているかのよう。そして、その光りに引き寄せられたかのように淡く輝く蝶が辺りをひらひら、ひらりと舞い飛んでいるのだ。
「へぇ、きれいだねー。写真じゃ納めきれないなぁ」
「残しておきたいけれど、この光景は中々難しそうだ」
 ロキがざんねーん、と言いつつカメラを泉や蝶へ向けるのを千鶴が小さく笑う。
「カメラじゃなくても、精霊君の光と水魔術で水鏡を作ってこの光景を刻印出来ないかな」
 ヴォルフガングが神秘的な光景をじぃっと眺めながら、ぽつりと呟く。
「え、ヴォルフくんできるの?」
 やってやって、とロキがヴォルフガングにねだる。
「多分できると思うんだよね」
 やってみようか、とヴォルフガングがジンベイザメの精霊を喚び出した。
「ジベくん、頼んだよ?」
 その声に応えるように、ぬいぐるみのような見た目のジベザベスⅦ世が額の王冠をぴかりと光らせて、大きな水鏡を作り出す。あとはカメラの仕組みの応用のようなものだと、ヴォルフガングが魔法の力を行使した。
「ヴォルフさんの水魔法、すごい……!」
 同じ魔術師として、ニーナが興味津々でその手順や魔力の流れを視線で追い掛ける。水流が巡り、青白い光が幾度か瞬いて、ヴォルフガングがどうだ、と水鏡を皆に見せた。
「あ、すごーい。ちゃんとまんまだね」
「おお、ヴォルフのジベくん有能……! 綺麗だ」
「ヴォルフガングさんの魔術すごいですねぇ」
 上手くいったと笑うヴォルフガングに、ニーナが小さく拍手を送る。
「ヴォルフくん、これ俺様達も映る?」
「同じ要領だから、出来ると思うけど」
 やって、と笑ったロキに言うと思ったと頷いて、ヴォルフガングがもう一度同じ魔術を行使する。
「皆並んで、もう少しくっついて……うん、良いかな」
 並ぶ中に自分も入り、ジベザベスⅦ世が合図のようにくるんと回れば、神秘的な泉と蝶を前に並ぶ花嫁達の写真……のような物の出来上がりだ。
 その出来に満足しつつ、あとで皆の分を複製しよーとロキが嬉しそうに笑った。
「泉での記念もばっちり……あ、泉にお願いをしなくちゃだよ」
 ニーナが思い出したようにそう言うと、順番を待って五人で泉の前に膝を突く。
「まるで光を抱いてるみたいな泉だね」
 思わずそう零しつつ、ニーナが皆は何をお願いするの? と問い掛ける。
「あたしはいつか今日みたいな花嫁姿で、超かっこよくて超優しい旦那様の隣に立ちたいなって」
 ちょっと乙女ちっくだったかな、とニーナは笑って言ったけれど、そんなことは無いとヴォルフガングが言う。
「ニーナは女の子らしい、星に願うに相応しい眩しい気持ちだ」
「そうだね、ニーナの願い、可愛いね。屹度叶うよ、好きな人の隣で今日よりもっと素敵に着こなす花嫁衣裳……楽しみだ」
「ふふ、ニーナさん可愛らしくていいですねぇ、きっと素敵なご縁がありますよ」
 乙女の願いごとは眩しくて、少し羨ましくもあり、と千織が笑みを浮かべる。
「うんうん、ニーナちゃんのお願いごとかーわいい。きっと強くて素敵なお相手ゲットしそうだよね」
 皆がそう言ってくれて、いつか、そうなればいいなとニーナが花が咲いたように笑った。
「俺は皆でこうして過ごす時間が続くのが一番、かなあ」
「千鶴さんのも大切ですよねぇ。私は……みなさんの幸せな姿を見ることかしら」
 千鶴に続いて千織がそう言うと、でも幸せになるのは自分もだよ……! と、千鶴が言って。ツシマヤマネコの尻尾がふわりと揺れた。
「千鶴や千織の願いは……そうだね、俺達は命を賭して戦う者だからこそきっと尊い。変わらぬ事は難しくもあるしね」
「千鶴くんの優しい願いも絶対叶うよ、いつも皆の幸せ、考えてくれてるもの! それに、千織さんの願いも素敵! あたし、また皆とこうやって一緒にお出掛けしたい、だってとっても幸せだもん!」
「そうだねー、今が一番得難いのは俺様もそうかも」
 ヴォルフガングさんは? と、千織に問われてヴォルフガングが泉を眺める。
「俺の願いはさて何だったか、年寄りは忘れっぽいからね」
「えー、ヴォルフくんは俺様より若いはずだよ?」
「良く言うよロキ、今は似たような肉体年齢だろう?」
 からからと笑い、さあ願いごとをしようとヴォルフガングが促した。
 泉の縁に膝を突き、そっと願いを心の中で想いながら泉に指先を伸ばす。掴み上げた石は星のように柔らかく光っていて、千鶴は思わず本物の空の星へと翳す。
 願い事、そっと泉に託した本当の願いは未だ内緒のままに、と星光石をポケットに仕舞う。
「俺様はひとの願いを叶える神様だから、お願いごとはないけど」
 そう言って、ロキが手にした石をまじまじと見て。
「ねぇ、これ食べていい?」
「……え、ロキ?? 食べるの? そっちよりも、ホットミルクの方が良いと思うよ?」
「そうそう、こいつで乾杯といこう」
 ほら、とコップを差し出され、五人が軽くコップの縁を合わせる。小さく乾杯と囁き合って、ほんのりと甘く優しい味のホットミルクを楽しんだ。
 街へ戻ろうか、と名残惜し気に泉を眺め、元来た道を歩き出す。その隙に、ヴォルフガングがそっと手にした小さな星を泉へと放り投げた。
 ぽちゃん、と小さな音を立ててヴォルフガングが拾い上げた星光石が、泉へと沈んでいく。それを見つめながら、もう少しだけ人の真似をどうか、とヴォルフガングが胸の内で願った。
「ヴォルフさーん? 置いてっちゃうよー!」
「ああ、今行くよ!」
 そうして、何もなかったかのように、ニーナの呼ぶ声に後ろを振り向かぬまま走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠神・華蘭
【月華3】◎
はぁ、結局元が誰なのか分かりませんでしたねぇ。
主のように人助けをするのも大変なのです……。
と、隅の方で使い魔の小女郎さんとお肉料理を分け合って食べています。
普段はまだしもこの人間の数はちときついので。

もう帰ろうと立ち上がろうとして……
あらスティーナ様!? こちらには来られない予定では?
え、ああそれはその、まぁ……。
は、はい! わたくしがんばりましたぁ! うふふふ♪

ルネ様まで、本当にありがとうございますぅ。
……まったく余計なお世話ですよあのふぉっくす(小声で)
ではでは、あちらに甘そうなお菓子売っていたのですぅ、あちらに参りましょう!
スティーナ様、ほらほら行きますよぉ!


スティーナ・フキハル
【月華3】◎スティーナ視点
★だけミエリで

この人の数……華蘭のやつ馴染めてないだろうなぁ。
あ、いたいた。やっぱり隅の方だったと。
ルネさーん見つけたよこっちこっち!

ちょい待った華蘭。帰るにゃ早いんじゃない? と腕を掴みながら。
アタシの代わりやってくれてたのはいいけど、何か上手くいかなかったか?
……んまーでも頑張ったんでしょ? お前が無事でよかったよ、撫でたげる。

★お姉ちゃん、人間嫌いのあの子にはやっぱりこういう話難しいんじゃないかな?
と布槍を通して姉と話します。

そりゃそう思うけどさ……出来たら仲良くしてほしいじゃないやっぱ。
ま、もしずっとダメでもそのときは面倒見てあげよう、アタシらで。

おー今行く!


ルネ・シュヴァリエ
【月華3】◎
華蘭ちゃんどこかな……ルネもそんなに人混み好きじゃないんだけど。
あ、すみません……お友達と来てますのでナンパはちょっと……。
スティーナちゃんの声……見つかったんだ、今行くね。
では失礼します、と二人のほうへ駆けていきます。

スティーナちゃんのお話が終わるまで待ってから華蘭ちゃんに。
大丈夫だった? 人がいっぱいいると怖いよね。
華蘭ちゃんが困ってたら助けてあげてって友達……黒狐に言われてるから。
これからルネも頼ってくれていいよ。

ん、案内してくれるの?
ならお願いするね。はぐれないように華蘭ちゃんの手を握って。
……すごい汗かいてる、緊張してたんだ。
それでも元気に振る舞えるんだ、いい子だね。



●繋いだ手の温もり
 衣装は何だかんだで化術を使って自前でなんとかしましたし、わたくし街に戻る必要は無かったのでは……? と隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)が気付いた頃にはもう街であったし、屋台で買い求めたウィンナーの串を狸の使い魔である小女郎さんと広場の隅っこで齧っている時だった。
「はぁ、結局元が誰なのか分かりませんでしたねぇ」
 溜息交じりに零れた言葉に、小女郎さんがウィンナーの串を噛みつつ顔を上げる。
「オブリビオンにも姿を残したまま死ぬ者もいるのですから、ちょっと根性出して姿を残してくれたらよかったのですけど……」
 ヴァンパイアの眷属という立ち位置になったからだろうか、灰のように崩れ去ってしまったのだ。
「まさか、着ている衣装やら何から何まで消えてしまうとは……」
 根性がありませんねぇ、とぼやきつつ華蘭はウィンナーを齧った。
「人間の食べ物ではありますけど、これ美味しいですねぇ」
 ねぇ、小女郎さん、と声を掛けると、小女郎さんがこくこくと頷く。
「美味しいですけど、この人の多さは……ちときついです」
 普段であればまだしも、と零しつつウィンナーは美味しい。パリッとしていて、齧るとじゅわっと肉汁が溢れて。
「あちち、でも熱いうちが美味しいんですよねぇ」
 食べ終わったら帰ろう、そう思いながらぼんやりと広場の人々に目を遣った。
「楽しそうで何よりですねぇ」
 何はともあれ、笑っていられるならそれが一番ですよぉ、と華蘭が笑って残りのウィンナーを噛み締めた。
 さて、そんな彼女を探して広場の方へとやってきたのはスティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)とルネ・シュヴァリエ(リリスの友想い・f30677)だ。
「大通りにはいない、となると後は広場かな? この人の数……華蘭のやつ馴染めてないだろうなぁ」
 スティーナがきょろきょろしつつ、華蘭を探す。ルネもスティーナを見失わない程度の距離を保ちつつ、華蘭を探していた。
「華蘭ちゃんどこかな……ルネもそんなに人混み好きじゃないんだけど」
 華蘭ほどではないが、ルネも人が多いのが得意ではない。けれど、お友達を探す為だもの、と頑張って辺りを見回しては華蘭を探す。
「お嬢さん、一人かい? あんまり見ない顔だけど、良かったら一緒に回らない?」
 きょろきょろしていたのがいけなかったのだろうか、ちょっと軽そうな男性に声を掛けられた。
「あ、すみません……お友達と来てますのでナンパはちょっと……」
 この手の輩ははっきりと断るべし、と言われているのでちょこんと頭を下げてスティーナの方を見ると、丁度華蘭を見つけたようでルネを手招いているのが見えた。
「いたいた、ルネさーん! こっちこっち、やっぱり隅の方にいたよ」
「見つかったんだ、今行くね」
 では失礼します、と礼儀正しく頭を下げてルネがスティーナのいる方へと駆け出した。
「はぁ、ウィンナーも食べ終わりましたし、そろそろ帰るとしましょうか……」
 よいせ、と華蘭が立ち上がろうとして、その腕を横から掴まれる。
「ちょい待った華蘭。帰るにゃ早いんじゃない?」
 聞きなれた声がして、パッと華蘭が顔を上げた。
「あらスティーナ様!? こちらには来られない予定では?」
「そのつもりだったけど、予定が空いたからルネさんと来たんだよ」
 そう言われて見てみれば、ルネが控えめにスティーナの後ろから手を振っているのが見えた。
「ルネ様まで……」
「で? アタシの代わりやってくれてたのはいいけど、何か上手くいかなかったか?」
「え、ああそれはその、まぁ……どうしてわかるんですかぁ」
「そういう、ちょっと浮かない顔してウィンナーの串食べてたからでしょ」
 そう言われて、華蘭が自分の頬を撫でる。
「そんな顔、しておりましたか?」
「してたわよ。ほら、話してみなさい」
 そうスティーナに言われてしまえば、黙っていることなど華蘭にはない。正直にあったことをそのままに、スティーナへと話す。
「と、いうわけでしてぇ」
「……んまーでも頑張ったんでしょ?」
「は、はい! わたくしがんばりましたぁ!」
 あの時の自分に出来る事は、きちんと遣り遂げたと華蘭が頷く。
「それならよし、お前が無事でよかったよ。撫でたげる」
 よしよし、とスティーナが華蘭の茶色の髪を撫で付けるように頭を撫でた。
「うふふふふ♪」
 すっかり気分が上向いた華蘭に、きちんと話が終わるまで待っていたルネが話し掛ける。
「大丈夫だった? 人がいっぱいいると怖いよね」
 その言葉に頷きつつも、華蘭がルネの顔を見てありがとうございますぅと笑った。
「ルネ様もお優しいですねぇ」
「華蘭ちゃんが困ってたら助けてあげてって友達……黒狐に言われてるから」
 だから、これからもルネを頼ってくれていいよ、とルネがはにかんだように笑みを浮かべた。
「……まったく余計なお世話ですよあのふぉっくす」
 誰にも聞こえないように小さく呟いて、それでも自分を気に掛けてくれるのは嬉しいことだと華蘭がルネの手を取る。
「ではでは、あちらに甘そうなお菓子売っていたのですぅ、あちらに参りましょう!」
 折角来てくれたのだ、もう少しだけお祭りを楽しんでいくのも悪くはないはず。それに、人が多いのは苦手だけれど、一人ではないのなら大丈夫だと華蘭が意気込んだ。
『お姉ちゃん、人間嫌いのあの子にはやっぱりこういう話難しいんじゃないかな?』
 布槍を通じて聞こえてきたミエリの声に、スティーナが小さく答える。
「そりゃそう思うけどさ……出来たら仲良くしてほしいじゃない、やっぱ」
『それはそうだけど……そんなに簡単にいくものかな』
「少しずつで良いんだよ、こういうのは。ま、もしずっとダメでもそのときは面倒見てあげよう、アタシらで」
『……本当にお姉ちゃんは仕方ないんだから』
 あはは、とスティーナが笑うと、華蘭の呼ぶ声が聞こえてくる。
「スティーナ様、ほらほら行きますよぉ!」
「おー、今行く!」
 手を振って華蘭の横に立つと、差し出された手に仕方ないかと繋いでみせて。そうして、ルネとスティーナが軽く目を合わせた。
 華蘭の手が、汗を搔いていたから。それはきっと、すごく緊張していたからに違いない。
 それでも元気に振る舞えるなんて、いい子だねとルネが笑う。その笑みにスティーナもいい子なんだけどねー、と笑い返した。
「??? 何のお話ですかぁ?」
「なんでもないよ、甘そうななお菓子ってどれなのかな?」
「そうそう、華蘭のお勧めなら美味しいんだろうね」
 二人にそう誤魔化され、華蘭がこっちですよぅ! と、繋いだ手に力を込めて二人を案内する為に歩き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸迎櫻3

纏う衣はもう少しこのままで

お酒、といいたいけど二人の目が怖いわ
皆でキャラメルミルクで乾杯よ!
うふふ
リルもカムイもかっこよかった
キュンとしたわ

星と月のひかりの路を、かぁいい人魚と美しい神の手をとり歩む
まるで光のバージンロードのよう
桜と翻るヴェールと共に咲む
灯る光より、左右で笑う黒い神と白い人魚の笑みが眩しくて綺麗だわ!

寄り添いたどり着いた泉

光る蝶を追うヨルは微笑ましい
結婚なんて
政略的なものばかりが舞い込んで
嘗て望んだそれは私自身が食い殺し
壊してしまった

結婚に、幸いな思い出も何も無いけれど
でも

美しい月の映る湖面をのぞき
手にした星光石を願いいれる

何時かちゃんと
幸せな祝言を……

え?!カムイ!


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻3

私の花嫁(巫女)

もう少しこのままで
隣合うきみの美しい艶姿を二つの瞳に刻み付けておかなければ

暫しこの姿のまま麗しい桜と月下美人を愛でていられるなんて幸いだ

……サヨ
お酒はいけない
代わりにこれをとキャラメルを溶かしたミルクを2人に渡す
乾杯だ

月明かりが門出を祝うようで
月が綺麗ですねと囁きたくなる
笑うきみが愛しくて、合わさったリルに眼差し通じる想い感じ頷く
私達の櫻が嬉しそうで幸いである、と

この石を泉に?
願いを叶える立場の私が、願ってもいいのだろうか
美しい石を月に翳して、きみを映す

私の願いなんて
何時だって同じ
意志を宿した石を掌に握り込み
サヨの願いに微笑む

きみのねがいは幸福な祝言?

ならば
聴き遂げたよ


リル・ルリ
🐟迎櫻3

櫻にうっとり見蕩れてるカムイの姿が微笑ましくて
そうなるよなぁなんて一人納得
カムイ、今からそれだと櫻が本物を来た時、泣いて立ち上がれなくなっちゃうよ

じゃあ僕もこのまま!
皆で泉へ……え?お酒?駄目!絶対だめ!
僕ら以外がいるとこで駄目なんだ!

カムイ、ありがと!
ヨルにも分けてあげながら乾杯するよ

月明かりのばぁじんろど!光の先は幸が咲いているんだから!
カムイだってそう思うでしょ?
同じ櫻を愛でるもの同士にしかわからないだろう、想いが巡る
僕らで守ろう

泳ぎたくなる泉
ヨルは無邪気に蝶々を追う

願いは決まってる
愛する君が幸いにさけるように
その時に傍に居られるように

カムイ
ちゃっかりしてるね!
それは是非叶えて



●満ち足りた幸福を
 無事に街へ戻ってきた三人は、衣装を貸してくれた服屋の前で立ち止まっていた。
「どうしたの、カムイ」
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)が誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)を見つめて動かなくなってしまった朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)に、何かあったのかと首を傾げて問い掛ける。
「……サヨが美しくて」
「それは知ってるけどさ」
「やだ、カムイにリルったら」
 きゃ、と頬に手を当てて照れる櫻宵を見て、そんな当たり前のことを今更? と、リルがもう一度カムイを見遣る。
「もう少し、この美しい艶姿を二つの瞳に刻み付けておかなければと思ったら」
「動けなくなっちゃったのか……」
 櫻宵にうっとりと見惚れてしまったカムイの姿が微笑ましくて、リルも櫻宵を見る。そうなるのも納得の美しさだったので、仕方ないなぁとリルが服屋の扉を開いた。
「ああ、リル……っまだ心の準備が」
「いいから、櫻を見てて」
 僕だって見ていたいけれど、そうしていたらお祭りを見逃してしまうからね、とリルが店主へ声を掛けた。
「すいません、あの、もう少し衣装を借りていても、いいかい?」
 せめてお祭りを見終わるまで、とリルが頑張って店主へと伝えると、快く店主が頷いてくれる。祭りを見終わったらお戻りください、それまでお荷物も預かっておりますからと言ってくれて、リルがお礼を言って櫻宵とカムイの待つ店先へと戻った。
「リル?」
「衣装、お祭りを見終わるまで貸してくれるって」
「まあ、リルったらそれを言いに行ってくれたの?」
「僕だって、桜のその綺麗な姿をもう少し見ていたかったからね」
 妻としては当然のことさ、なんてリルが笑うものだから、思わず櫻宵がリルをぎゅうっと抱きしめた。
「ありがとうリル……まだ暫しの間、この姿のまま麗しい桜と月下美人を愛でていられるなんて……なんて幸いだろうか」
 ランタンの灯りに照らされるサヨもリルも美しいよ、とカムイが幸せそうに微笑み、あまりの幸せに涙ぐんですらいる。
「もう、カムイ。今からそれだと櫻が本物を来た時、泣いて立ち上がれなくなっちゃうよ」
「本物を……それは、それはなんて幸せな未来なんだろうね」
 ほう、と胸に手を当ててカムイが幸せで切なげな溜息を落とした。
「うふふ、それじゃあ皆でお酒……」
「え? お酒? 駄目! 絶対だめ!」
「其れは駄目だよ、サヨ」
「僕ら以外がいるとこでは、駄目なんだ!」
 やっぱり? といった顔をした櫻宵に、カムイがすっと屋台へ出向いたかと思うと、キャラメルを溶かしたホットミルクを二人に渡す。
「代わりにこれを」
「キャラメルミルクね、ありがとうカムイ」
「カムイ、ありがと! ヨルにも分けてあげようかな」
 そうリルが言うと、ペンギンの雛の姿をした式神が姿を現し、きゅ! と鳴いた。
「ふふ、じゃあ……まずは乾杯よ!」
 櫻宵が笑って、ランタンの灯りの下で三人がコップの縁を重ね合わせ、ほんのり甘い幸せ味のミルクに口を付けた。
「うふふ、リルもカムイもかっこよかった。キュンとしたわ」
「本当かい? サヨにそう言って貰えるのは嬉しいね」
「僕も嬉しい! いつだって、僕は櫻をキュンとさせてみせるからね」
 だから見ていてよ、とリルが笑ってヨルにミルクをお裾分けする。
「勿論よ! リルの事も、カムイの事も、ちゃぁんと見ているわ」
 そう言って笑った櫻宵は美しくて、カムイは愛しさを籠めた瞳で見つめて笑った。
 乾杯が済むと、櫻宵を真ん中にして手を繋ぎ、泉がある森へと向かう。ランタンに案内されるように歩けば、空からは月と星の光が降り注いでいるようで、櫻宵がかぁいい人魚と美しい神の真ん中でふふっと笑う。
 その笑う顔が愛しくて、思わず月が綺麗ですねと囁きたくなるとカムイが熱い視線を櫻宵へと向けた。
「……月明かりが、門出を祝っているようだね」
「そうね、まるで光のバージンロードのようね」
 桜と翻るベールと共に、櫻宵が一層美しく咲む。
「月明かりのばぁじんろど! 光の先は幸が咲いているんだから!」
 それはきっと僕たち三人にとっても相応しいと、リルがカムイを見遣る。
 カムイの視線は、愛しい愛しいと言うように櫻宵へと向いていたけれど、ふっとリルへと視線を寄せる。互いに交わす眼差しには、同じ櫻を愛でるもの同士にしかわからない、そんな想いが巡っていてカムイが笑みを浮かべて頷いた。
 私達の櫻が嬉しそうで幸いであること、そして櫻を僕らで守ろう、と。
「ふふ、灯る光より、左右で笑う黒い神と白い人魚の笑みが眩しくて綺麗だわ!」
「それはそのまま、サヨに返そう」
「そうだよ、櫻の笑みがどれだけ綺麗か……は、僕らだけが知っていればいいか」
 そんな風に笑い合いながら月明かりの下を進めば、小さな森まではすぐ。真っ直ぐに進んできらきらと青白く光る泉を見つけ、その光景に思わず小さく唇を開いてしまう。
「美しい泉ね……」
「きらきら光って、綺麗だ! 泳ぎたくなるな……」
 ぽつりと呟いて、リルが尾鰭を揺らす。ヨルは無邪気に光る蝶を追い掛けていて、三人がふわりと微笑んだ。
「さあ、せっかくだものね? 願い事をしましょうか」
「願いを叶える立場の私が、願ってもいいのだろうか?」
 カムイが少し躊躇いがちにそう言うのを、櫻宵が郷に入っては郷に従えと言うでしょう? と納得させる。
 そうして、三人で泉の縁に膝を突いて、光る水面を覗き込んだ。
 結婚なんて政略的なものばかりが舞い込んで、嘗て望んだそれは私自身が食い殺し、壊してしまったわ、と櫻宵が胸の内でそう呟いて、冷たい水に指先を伸ばす。
 結婚に、幸いな思い出も何も無いけれど、でも。
 指先に触れた石を掴み、手にした星光石に櫻宵が願いをいれる。
 それを横目で見つめながら、カムイも同じように美しい石を掌に握りこんだ。
 私の願いなんて何時だって同じ、サヨが幸せであるように、サヨの願いであれば私がなんだって叶えてみせる、愛しい私の巫女。
 僕の願いだって、決まっているんだ。
 愛する君が幸いにさけるように、そして、その時に傍に居られるように。それだけが僕の願い、僕の望みだよ、櫻。
 願い、私の願いは――。
 何時かちゃんと、幸せな祝言を……。
「きみのねがいは、幸福な祝言?」
 囁くように、カムイが櫻宵へと告げる。
「ならば、聴き遂げたよ」
 ぱちりと目を開き、櫻宵がカムイを見つめる。
「え!? カムイ!」
「ふふ、それは私が叶えるべき願いだからね」
「カムイってばちゃっかりしてるね!」
 でも、うん、とリルが頷く。
「それは是非叶えて」
 幸せになろう、とリルが櫻宵とカムイに笑う。
 それに応えるように、二人が満開の桜のような笑みを浮かべて、幸せになりましょうね、私たち三人で――。櫻宵がそう言うと、カムイが深く頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【花守3】◎
(素敵な衣装に感謝しつつお返しして
あっけらかんと素に戻り)
さてと、花嫁ごっこも楽しかったけれど、やっぱり私は自由気儘が性に合うわねぇ
三三九度よりも、今はこの一仕事後の美酒こそが堪らなく魅力的だしね
(麦酒を手に上機嫌に笑んで)
あ、伊織ちゃんはこれね
(逃げの気配を察せば、すかさず盃を
――キャラメル入りのホットミルクを手渡して)
ふふ、自棄酒は心身に毒だから、ね?

(一頻り気楽にお酒や甘味類を満喫した後は
ランタンや蝶に誘われるまま泉へ向かい)
それなら貴方達の分も、偶には気紛れに無垢な乙女心を覗かせてみるのも一興かしら?
――なぁんて
(こんな風に心地好く煌めく時が続けば良い、と星光石を掬って)


佳月・清宵
【花守3】◎
(衣装を返し、いつもの空気を纏い直してゆるりと)
おう、あれ以上角生やして振り回されたら手に負えねぇとこだったからなァ
ま、式は立ち消えようが、代わりに祝勝――酒と祭はどうとでも楽しめるから問題ねぇな
(同じく早速麦酒を手にしつつ、甲斐性無しの退路を絶ち)
はっ、傑作だ小町!お子様にゃぴったりの一杯だな

(毎度の如く戯れに酒や肴を楽しんで暫し後
誰とも無しに灯や蝶が導く先へとふらり
――先程迄とは打って変わり、静かに佳景を楽しみ)
――俺ァ生憎と、可愛げのある願いや祈りの類は持ち合わせちゃいねぇからな
此処で適当に見守っといてやるよ、好きにしな
(小町が思い浮かべたであろう事に、否やはなく――)


呉羽・伊織
【花守3】◎
(すっかり普段通りに戻り――鬼の嫁入りごっこが終わった事に安堵しつつ)
ん、姐サンは何着ててもホント(黙ってしおらしくしてれば!)別嬪に違いはないし――静謐な祭が無事進められたなら何よりだな
んじゃ後はドーゾ二人で仲良く酒盛しててネ
オレはこのろまんちっくな夜を活かして自分の花嫁サマを探…
(ナンパという名目で逃げようとするも、渡された盃を二度見し)
…いや何コレ!玉砕して自棄酒なんてしないし!?お子様でもない!

(賑やかな酒の一時の後
いつしか静かな光満ちる泉で落ち着き)
俺も柄じゃないケド、見てるだけでも心洗われるよーな気分になるな
あ、じゃあ姐サンに任せた!(――何だかんだで、思う所はきっと)



●重なる願い
 たっぷりと暴れはしたが、大元が叩けなかったのだけが残念だと花川・小町(花遊・f03026)が衣装を貸してくれた店の扉を開く。
「出て来てたらたっぷりお灸を据えてやったのにねぇ」
「そればっかりはオレも同意だけどさ」
 だから出てこなかったんじゃないのか、なんて口が裂けても言えないなと呉羽・伊織(翳・f03578)がハハハと笑う。
「あれ以上角生やして振り回されたら手に負えねぇとこだったからなァ」
 丁度良かったんじゃねぇのかと、佳月・清宵(霞・f14015)がくっと口元を歪めて笑った。
「お前、なんてことを……」
 命知らずだな、と伊織が慄いている間に小町はドレスを脱ぐ為に奥へと向かったし、清宵はさっさとタキシードの上着を脱ぎながらその手前の試着室へと入っていく。
「マイペース過ぎない……?」
 いや、いいけど、知ってたけど! なんて言いながら、伊織ももう一つの試着室を借りて着替えを済ませた。
 タキシードなんかのスーツもたまには背筋が伸びていいけれど、やはりいつもの恰好が落ち着くと思いながら借りた衣装を店主へ礼と共に返却する。
「花嫁ごっこも楽しかったけれど、やっぱり私は自由気儘が性に合うわねぇ」
 ドレスも素敵だったけど、と笑顔で店主にドレスを返し、小町がしっかりとお礼を言ってから伊織の傍へとやってくる。
「ん、姐サンは何着ててもホント別嬪に違いはないし、静謐な祭が無事進められたなら何よりだな」
 黙ってしおらしくしていれば、とは言わず、伊織がランタンで照らされた大通りを見遣る。
「ま、式は立ち消えようが、代わりに祝勝――酒と祭りはどうとでも楽しめるから問題ねぇな」
 既に着替えを終えて、いつもの空気を纏い直した清宵がくいっと酒を飲む手付きをしてみせた。
「あら、いいわねぇ、わかってるわね」
 三三九度よりも、今はこの一仕事後の美酒こそが堪らなく魅力的だと小町も大通りの方を向いて口元に手を当てて笑う。そうして、もう一度店主に礼を言うと三人揃って大通りへと出た。
「あっちの方にあったわよね、麦酒」
「ああ、確かに見たな」
 頷き合う二人が伊織を連れて広場の方へと進み、お目当ての麦酒を手に入れて上機嫌で微笑んでいる。
「んじゃ後はドーゾ、二人で仲良く酒盛しててネ」
 オレはこのろまんちっくな夜を活かして自分の花嫁サマを探しに、なんて言いかけたところで小町に首根っこを掴まれるかのように杯を差し出された。
「あ、伊織ちゃんはこれね」
 渡された杯に注がれたそれは、金色の麦酒ではなくキャラメル色をしたホットミルクで。
「……いや何コレ!」
 そこはせめて酒デショ!? と伊織が抗議する。
「ふふ、自棄酒は心身に毒だから、ね?」
「はっ、傑作だ小町! お子様にゃぴったりの一杯だな」
 退路を断つように清宵が伊織の後ろに立って、喉の奥で押し殺すように笑う。
「玉砕して自棄酒なんてしないし!? お子様でもない!」
 キィ! と怒る伊織を揶揄い宥め、また揶揄ってと、まあ何時ものペースに飲み込まれるように伊織は別行動も儘ならぬままに、小町にあっちもこっちもと引き摺り回される。
「伊織ちゃん、あっちのキャラメル掛けのポップコーンも美味しそうよ」
「ウィンナーの串もあるな」
 どれも麦酒に合う、と酒飲みは豪語しては買い求め、はいあーん? なんてされながら食べたり食べさせられたりと、祭の夜が更けていく。
 広場の盛り上がりは最高潮に達しているのだろう、中央で輪になって老若男女の垣根無く踊っているのが見える。
「この世界、辛気臭いばかりかと思ったが……こういう祭りみたいなのもあるとはな」
「辛気臭いってやぁねぇ、でも……そうね、聞いていたよりも随分と人の顔が明るいわね」
「明るいっていうか……明るくなった、って感じるな」
 ヴァンパイアに支配された世界だけれど、猟兵が介入することによって闇の救済者と名乗る組織も現れた。それはきっと、この世界の人々にとっては救い以外の何ものでもなく。
「……そう、このまま人々の笑顔が増えるといいわねぇ」
 小町が笑う人々を眺め、杯に残った麦酒をくいっと飲み干した。
 そうして、誰からともなくランタンの灯りを頼りに歩き出す。広場から大通りへ、大通りから小さな森へ。三日月の明かりと、星の瞬きが綺麗な夜だと誰かが言って、誰かが楽しげに笑って。小さな泉に辿り着く頃には、誰もが黙ってその夜の空気を楽しんでいた。
「綺麗ねぇ……」
 水の中から青白く光っているような泉と、その光りに引き寄せられたかのように舞う蝶は幻想的で何処までも美しい。周囲にはその光景を楽しむ者や、泉に向かって願いをする者と様々だ。
 泉の近くの岩場に腰を下ろし、その摩訶不思議な光景をゆるりと楽しむ。
「そうだな、確かにこいつは綺麗だ」
「あら、清宵ちゃんもそう思う?」
 それは重畳、と小町が笑い、伊織に視線を向けた。
「オレ? そうだな、オレも柄じゃないケド、見てるだけでも心洗われるよーな気分になるな」
 静かな夜に、星屑を詰め込んだように光る泉。その泉の傍で楽しげに舞い踊る蝶、中々見られるものではない。それだけではなく、なんだか心を落ち着かせてくれるような気持ちにさえなってくる。
「私達も願いごと、しにいくかしら?」
 小町が二人を誘うと、清宵がくつりと笑って首を横に振った。
「俺ァ生憎と、可愛げのある願いや祈りの類は持ち合わせちゃいねぇからな。此処で適当に見守っといてやるよ、好きにしな」
「あら残念、伊織ちゃんは?」
「あ、じゃあオレも姐サンに任せた!」
「つれないわねぇ」
 まぁいいわ、と笑うと、小町がすっと立ち上がる。
「それなら貴方達の分も、偶には気紛れに無垢な乙女心を覗かせてみるのも一興かしら?」
 なぁんてね? と、くすくす笑いながら小町が泉の縁へと膝を突いた。
 目を閉じ、そっと願いを心の中で言葉にする。
 こんな風に心地好く煌めく時が続けば良い――そう願いながら、今ここにはいない大事な仲間達の顔も思い浮かべていく。そして指先を光る水面の中へと伸ばし、爪先に当たった石を掬い上げた。
「ふふ、綺麗な石ねぇ」
 濡れて光る石をそっと星空へ翳し、小町が微笑む。
 どうかこの光りの様に、見えない日があったとしても何時までも消えないように――。
 小町の願いは音にはしていないけれど、その表情を見ていれば伊織と清宵にだってわかる。そしてその願いに否は無く、ただ穏やかな笑みを浮かべて小町を見守るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン

ルクセンディアさんと(f24257)

ドレスは返却しいつもの姿に
やっぱり自分の服が落ち着くわ

ふふ、素敵よルクス

ねえ、みて。とても綺麗な光景ね。ランタンの灯りが綺麗
この先に泉があるんですって、行きましょう

彼の手を取って、早く行こうと急かす
神秘的な景色が広がっているであろうその泉を早く見てみたいと心躍らせながら

幻想的で綺麗ね、光る蝶なんて初めて見たわ
一緒に来た記念に石を拾う

(淡く光る赤い石を手に、どうか、時間の許す限り共に過ごせる事を―…そう願いを込めて)

ふふ、月明かりの下で踊るダンスもいいわね
私でよければお相手を。足を踏んでも、許してね?
(ドレスを裾を摘まんで一礼を。手を重ねてゆっくり踊り始める


ルクセンディア・エールハイム
ディアナ(f01023)と。

こっちはこのままでいようか、正装だとイカしているだろう?
ディアナはどんな格好をしてもかわいいな。落ち着くよ。

泉か、月明かりが綺麗そうだな。
足元に気をつけてな、心が逸るのもわかるがね。

その手に引かれながら、そうやってはしゃぐ彼女の姿を目に焼き付けて。
いつでも余裕を崩さないようについていきながら。

ひとつ、あとで加工するのもいいな?
君の瞳のように綺麗な石をみつけよう。


さて、こんな月明かりのいい場所だ。
観客はいないが…ダンスでもどうだ、ワルツでも一曲、な?

彼女をリードしながら、ワルツの曲を口ずさみながら。
月と泉に見せつけるように、優雅に踊って見せよう。



●月明かりのワルツ
 全てが片付いて街へ戻ると、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)とルクセンディア・エールハイム(不撓不屈の我様・f24257)の二人は、真っ直ぐに衣装を貸してくれた服屋へと来ていた。
 ドレスを返却したディアナは、ほうっと息を吐いて伸びをする。
「やっぱり」自分の服が落ち着くわ」
 黒をベースとした紫色交じりのドレスにショールを羽織って試着室から出てくると、ルクセンディアはタキシード姿のままでディアナが軽く首を傾げて問い掛ける。
「ルクスは着替えないの?」
「ああ、このままでいようと思ってな。正装だとイカしてるだろう?」
 確かにルクセンディアにタキシードは良く似合っていて、多少襟元を崩していてもだらしない印象は受けない。
「ふふ、そうね。素敵よ、ルクス」
「それに、君をエスコートするならこっちの方が良い」
 そう言って、ルクセンディアがディアナに手を差し伸べた。
「もう、ルクスったら……」
 気恥ずかしさはあったけれど、それでもディアナはルクセンディアの手に己の手を重ねる。そうして、そのまま二人で大通りへと出た。
「ディアナはどんな格好をしてもかわいいな。落ち着くよ」
「そんなに褒めても、何も出ないわよ」
 くすくすと笑って、ディアナが辺りを見回す。
「ねえ、みて」
 そう言われて、ルクセンディアがディアナから視線を外し、同じように辺りを見回した。
「とても綺麗な光景ね。ランタンの灯りが綺麗……」
「そうだな」
 確かにランタンの灯りに照らされた大通りも綺麗だったけれど、ルクセンディアにとってはオレンジ色の灯りに照らされたディアナの方がよっぽど綺麗で。けれど、そう言えばちゃんと見ていないわね? と怒られるだろうから黙っておくことにした。
「ルクス、この先に泉があるんですって」
「泉か、月明かりが綺麗そうだな」
 そういえば光る泉があると言っていたか、とルクセンディアが思い出して言う。
「きっと、神秘的な景色がひろがっているに違いないわ。行きましょう?」
 ルクセンディアの手を引いて、早く行こうとディアナが急かす。楽しそうにはしゃぐ彼女の姿を目に焼き付けて、ルクセンディアがその手に逆らうことなく歩き出せば、ディアナが彼を見上げて笑う。
「楽しみね」
「足元に気をつけてな、心が逸るのもわかるがね」
 いつになく楽しそうな彼女に向けて余裕を崩さぬようにしながらも、自身も少なからず楽しみにしているのはディアナが傍にいるからだろうか、とルクセンディアが目を細めた。
 月明かりの道を抜け、小さな森に入れば真っ直ぐに進んだ先に星の様に光る泉を見つけ、ディアナが小さく息をのむ。
「幻想的で綺麗ね……!」
 まるでその水底に星を湛えているかのように光る泉には、青白く光る蝶が引き寄せられてきたかのように飛び交っている。
「光る蝶なんて、初めて見たわ」
「ああ、随分と珍しい……この辺りにしかいない種なのかもしれないな」
 泉には祈り、願いを叶える為に石を拾う人々が見えて、ディアナがルクセンディアに視線を向けた。
「ディアナもやりたいのだろう?」
「ええ、今日……あなたと一緒に来た記念にしたいなって」
 そんな可愛いことを言われてしまえば、ルクセンディアも共に拾うしかない。繋いだ手をエスコートするように引いて、二人で泉の縁に膝を突く。
 祈るように願いを込めて、ディアナが泉の中へ手を伸ばした。
 淡く光る赤い石を手に、願うのはたったひとつ。
 どうか、時間の許す限り、あなたと共に過ごせますように。
 目を閉じた真摯な横顔に見惚れながら、ルクセンディアも彼女の瞳のような石へと手を伸ばす。淡く輝く紫色の石を手に、願い事は己で叶えると笑って立ち上がった。
「君の瞳みたいに綺麗だろう? あとで加工するのもいいな」
「またそういう事……加工? 何にするの?」
「まだ考えてはいないが……揃いで作るのもいいかもしれないな」
 お揃い、と聞いてディアナが照れたように微笑んで、そのはにかんだ笑顔が可愛らしくてルクセンディアが小さく笑った。
 そして泉から少し離れ、蝶がひらり、ひらりと舞う場所で立ち止まる。
「ルクス?」
「さて、こんな月明かりのいい場所だ。観客はいないが……ダンスでもどうだ、ワルツでも一曲、な?」
「ふふ、月明かりの下で踊るダンスもいいわね」
 誰が見ていなくても、あなたとなら。
「私でよければお相手を。足を踏んでも、許してね?」
 ディアナがドレスの裾を摘まんで一礼をすると、ルクセンディアが恭しく胸に手を当てて同じように礼をする。
 ルクセンディアがディアナの手を取り、彼女の腰に手を当てる。そしてワルツの曲を口遊んで、ディアナをリードするように一歩を踏み出した。
 月と泉に見せ付けるように、優雅に踊って。
 それに合わせるように、ひらり、ふわりと蝶が舞う。
 月明かりの下、あなたと二人――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
弟のグレイ(f24892)と

救いようのない最低な世界だと思っていたが、まだこのような希望が残されていたとはな
この世界が故郷という弟にも教えてやらねば

衣裳を返し、いつもの服に着替えてから合流
食べ歩きに不自由ない程度に食べ物や飲み物をグレイに押し付けつつ、俺が知る範囲で花嫁たちのことを教えるとしよう
何やら気になっていたようだからな

いつか、また彼女達と向き合う時がくる
グレイも強くならないといけないなと頭をわしゃわしゃ撫でて

星光石といったか
俺達も何か願ってみようかと提案
この世界の人々が安心して暮らせる日が訪れますようにと
俺も猟兵としてまだまだ頑張らないといけないな


グレイ・アイビー
悟郎(f19225)

良い思い出が全くないぼくの故郷ですが、アニキに聞きたいこともあったので着いてきました

この世界の残酷さを知っているからこそ、祭りを楽しむ住人達の様子に少々驚かされつつ

ところで…その、彼女たちはどうでした?
まだ向き合う勇気がなくて、任せっぱなしになっちまいましたが…

彼女たちをヴァンパイアのクソ野郎共から絶ち斬ることできたと知ってほっとしました
失ったモンは取り戻せねぇですし、治す方法が分からねぇ今は終わらせてやるのが一番だと思います
それが猟兵の手であったことは救いじゃねぇですか?

アニキを真似てぼくも一つ
いつか花嫁となった犠牲者の全てに安らぎが訪れますようにと



●星に光は満ちて
 ヴァンパイアの花嫁を倒して街へと戻れば、ダークセイヴァーであることを忘れてしまいそうになるほどの楽し気な人々の声が聞こえて、薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)はフードの中で瞳を瞬かせた。
「救いようのない最低な世界だと思っていたが、まだこのような希望が残されていたとはな」
 希望なんて、土足で踏みにじられるような世界――けれど、そんな世界にも希望の芽は残され、育ち始めているのかもしれない。
「……教えてやらねばな」
 この世界が故郷だという、弟にも。
 まずは衣装を返してからだと悟郎が服屋へ向かい、礼を述べながら衣装を渡す。
「こちらこそ、この街を……祭りを守っていただいてありがとうございました! どうぞ、お時間があれば祭りを楽しんでいってくださいませ」
 そう言って頭を下げた店主に軽く頭を下げ返し、いつもの服に着替えた悟郎が店を出た。
「アニキ」
 控えめな声で悟郎の背中に呼び掛けたのは、彼が弟だというグレイ・アイビー(寂しがりやの怪物・f24892)だった。
「グレイ」
 どこか眉毛を下げたような、それでいて何かを気にするようなグレイの表情に悟郎が笑って、その頭を軽く撫でる。
「活気があって驚いただろう?」
「……少し」
 この世界の残酷さはよく知っているからこそ、グレイも悟郎の問い掛けに素直に頷く。
「少しずつ変わり始めているのかもしれないな」
 闇の救済者と名乗る反勢力が現れたことも、その一つなのだろう。
「少しでも良い方向に変わるなら、それに越したことはねぇです」
 そうであればいい、と少しの願いを滲ませてグレイが頷いた。
「そうだな、まずはその一歩として祭りを楽しむとしよう」
 行こう、とグレイを促して悟郎が大通りを歩く。ランタンの灯りに導かれるように歩くと、決して他の世界のような品揃えではないけれど、良い匂いのする屋台が幾つか並んでいるのが見える。
「食べたいものはあるか?」
「えっと、俺は別に……」
 そう言いつつも、視線は甘い匂いをさせているポップコーンに向いていて、悟郎はあれかと小さく笑ってグレイを連れて列へと並んだ。
 どうせ欲しい物は素直に言わないだろうと、あれもそれもと悟郎が適当に買ってはグレイに押し付けてランタンの道を歩く。
「美味しいです」
 ありがとう、と笑ったグレイが少し言い淀みつつ、言葉を続ける。
「ところで……その、彼女たちはどうでした?」
 グレイが言うところの彼女たち、それはグレイと同じ奴隷であった彼女たちの変わり果てた姿――ヴァンパイアの花嫁たちに他ならない。
「まだ向き合う勇気がなくて、任せっぱなしになっちまいましたが……」
「そうだな、洗脳されているように思えた。ヴァンパイアに忠誠を誓ってはいるが、恐らくそのようにされてしまったのだろう」
 でも、と悟郎が告げる。
「倒されることで、どこか開放されたような表情を浮かべている者もいた、と思う」
「そう、ですか。彼女たちをヴァンパイアのクソ野郎共から絶ち斬ることができたと知ってほっとしました」
 安堵の溜息を落とし、グレイが悟郎に視線を向けた。
「失ったモンは取り戻せねぇですし、治す方法が分からねぇ今は終わらせてやるのが一番だと思います」
「……そうだな、それ以外にできることはなかった」
 それに、それが猟兵の手であったことは救いじゃねぇですか? と微笑むグレイの頭を悟郎がわしゃわしゃと撫でる。
「いつか、また彼女達と向き合う時がくる。グレイも強くならないといけないな?」
「わ、わかってます。あの、アニキ、もうそのくらいにして……」
 髪がぐちゃぐちゃになっちまうじゃねぇですか、と両手に食べ物を持っている故に抵抗できないグレイの頭を思う存分撫でた。
 ポップコーンを摘まみつつ、ランタンの灯りを頼りに進むと小さな森が見え、真っ直ぐに進むとすぐに聞いていた通りの泉が現れた。
「綺麗だな」
「こんな場所があったなんて」
 思いもしませんでした、と青白く光る泉と蝶にグレイが小さく息をのみ、人々が順に泉の小さな石を拾っているのに目を向ける。
「あれは?」
「星光石といったか、叶えたい願いを想いながら泉の石をひとつ拾い上げるらしい」
 願い、と呟くグレイに、悟郎が俺達も何か願ってみようかと提案する。頷くグレイと共に泉の中に手を伸ばしながら目を閉じ、願いを心の中で囁く。
 この世界の人々が安心して暮らせる日が訪れますように、と。
 悟郎を真似て、グレイも同じように目を閉じて冷たい水の中に手を伸ばし、心の中で願いを口にする。
 いつか花嫁となった犠牲者の全てに安らぎが訪れますように、と
「俺も猟兵としてまだまだ頑張らないといけないな」
「ぼくも……アニキに負けないように頑張ります」
 強い意志を胸に、二人はただ寄り添うように美しく光る泉や蝶を眺めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティコ・ラクール


衣装はほんの気持ちですが借り賃と共にお返ししてお祭りへ
少し甘いものを買います
今日頑張れたのは黒ぱたさんのおかげですから、お礼に
サイズ的にポップコーンが丁度よさそうです
わたしも甘い飲み物を一杯戴きます

泉へ行く途中のランタンですでにどきどきしていましたが
泉の美しい風景に呆気にとられます
こんな綺麗なところ、この世界にもあるんですね
なんだか嬉しいです
絶望の世界と聞いていたのに
希望はちゃんとあるという気がして

泉のほとりにポップコーンをマイペースに食べている黒ぱたさんを下ろして
今日戦った、助けられなかった人たちへの鎮魂の祈りを捧げます
そして叶えたい願いは…弟とまた会えますように
願いながら石を拾い上げます



●祭りの夜
 裏通りからそっと衣装を貸してくれた店へ戻ると、ティコ・ラクール(つくりものの竜・f22279)は衣装を返すと共に僅かだけれど、と借りた衣装のお金を渡そうと店主に話し掛けた。
「街を救ってくださった方々から、お金を頂くわけにはいきません」
 寧ろ、こちらがお金を払う立場です、と言われてしまってはどうすれば良いのかわからずティコが困ったように笑みを浮かべる。そうすると店主もティコの意を汲んでくれたのか、それなら……とお金を受け取る代わりにブーケのようなコサージュをティコの髪へ飾ってくれた。
 それは青紫と白い花のコサージュで、ティコの好きな桔梗の花のような形をしていて鏡を覗き込んだティコに笑みが浮かぶ。
「黒ぱたさんも気に入りましたか?」
 ティコの頭の上で、コサージュを触っている黒ぱたにそう言うと、ティコは店主に礼を言って店を出た。
「綺麗ですね」
 オレンジ色の灯りが灯った大通りは綺麗で、思わずそう呟く。足取りも軽く大通りを歩けば、ちらほらと屋台が出ているのが見えた。
「何か食べますか?」
 黒ぱたに聞いてみると、こくこくと頷くのでサイズ的にも丁度良さそうなキャラメル掛けされたポップコーンを一つと、自分用にキャラメルの入ったホットミルクを購入する。
「甘くて美味しいです」
 二人で少しずつ分け合って、優しい甘さに笑みを零しながら泉へと向かう。泉に近付くにつれてランタンの数が少なくなっていくけれど、まるで秘密の道を案内されているようでドキドキしながら前へと進んだ。
「……すごい」
 小さな森の中、開けた場所に湧き出る泉は月と星の光りを受けて青白く光り、ひらひらと舞う蝶も同じように発光している様子はこの世界とは思えないほどに綺麗で、ティコは呆気に取られたように小さく口を開いて見入ってしまう。
 黒ぱたさんにぺしぺしと叩かれて口を閉じると、そっと泉の近くへと寄った。
「ここで待っていてくださいね」
 こくんと頷いた黒ぱたはポップコーンに夢中のようで、ポップコーンを口にしながら容器を抱えてこくこくと頷いている。そんな黒ぱたに笑って、ティコは泉の縁に膝を突いた。
 胸の前で手を組んで、鎮魂の祈りを捧げる。それは、今日戦った……助けられなかった花嫁の魂が安らかであることを祈るもの。真摯に祈りを捧げ、それから願うのは――。
 弟と、また会えますように。
 たった一つの望み、願い。
 いつか叶うと信じ、ティコはそっと石を拾い上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
レースを返しに行くよお!ありがとーございまーした!汚れてないかな。だいじょぶ?
いちおー最期のときはクロークにしまってたからだいじょぶなはずだけどお。汚れてたら洗濯代出すよ!

いろんなステキがあるねえ。花とかー、酒とかー、いっぱい買おーうっ!
それから森にいってー……んーんー、泉はひといっぱい来るよね。
石だけ拾って、もーすこし奥に入って、人気のないところにこっそり墓つーくろ!
花嫁さんの墓だしい、おしゃれにステキに飾り付けるぜ!そのための花!そのための星光石!

からっぽで名前もわかんねーけど、顔は覚えてるし!あと気持ち!
そこにいるみてーに笑って、話して、酒飲んで、屋台飯食って!
転生したらまた会おーねえ!



●優しい夜の祈り
 気が付いたら元の身体に戻っていたし、なんだったら服も元に戻っていたので、茜崎・トヲル(白雉・f18631)は借りたベールだけ返しに行こうと服屋へ向かった。
「汚れてないかな、いちお最期のときはクロークにしまってたからだいじょぶなはずだけどお」
 クローク? とは思ったけれど、店主は顔には出さずベールの状態は綺麗なものです、と笑顔で返す。
「そお? ちょっとでも汚れてたら、洗濯代出すよ!」
 その言葉に静かに首を横に振って、店主はベールを受け取った。
 カラン、と扉のベルを鳴らしながら大通りへ出れば、武器を貸していた闇の救済者達がお礼の言葉と共にトヲルにアサルトウェポンを返してくれて、トヲルは皆いい人たちだなぁとそれはもうご機嫌な気分でランタンの灯された大通りを歩いた。
「いろんなステキがあるねえ」
 子ども達が作ったであろう、作り物の花も。
 大人たちが楽しそうに飲んでおる、お酒も。
 にこにこ笑顔が集まっている、ポップコーンの屋台も。
「ぜーんぶステキだねえ」
 くふくふと笑って、トヲルは自分が素敵だと思ったものを全部買うことに決めた。
 ちょっと両手いっぱいになってしまったけれど、エナジークロークの中に仕舞えば問題なかったし、何より楽しかったのでトヲルはご機嫌な気持ちでランタンの灯りを辿って、小さな森へと辿り着いた。
「わー、きれーなところだね」
 青白く光る泉は神秘的で、その周囲を飛ぶ蝶もまるで小さな光の妖精のように光っていて幻想的だ。
 きょろきょろと泉の周辺を見渡せば、多くの人々が岩や地面に腰掛けてその光景を楽しんでいるのが見えた。
「んー、んー、ここだと人が多すぎるよね」
 むむ、と考え事をしつつ、トヲルは人々に倣うように泉の縁に膝を突いて、星光石をひとつ手に取って立ち上がる。そのまま、もう少し静かな場所を探して奥の方へと足を踏み入れた。
 小さな森の中央から少し外れた、けれど見上げれば星が見えるような場所。
「あ、ここいいな!」
 ぱっと表情を明るくしたトヲルの前を、光る蝶が一匹ふわりと踊る。
「ちょーちょさんもここがいいと思う?」
 返事をするように明滅する光りにトヲルが笑って、形のよさげな石をちょいちょいと集めて木の根元に積んでいく。
 これは何だと問うように蝶が舞うと、石を積み終わったトヲルがエナジークロークから花を取り出して飾りながら言った。
「これはねー、お墓! 花嫁さんのお墓だよお、だからおしゃれにステキに飾り付けるんだー」
 その為の花と星光石だと、そっと積んだ石の一番上に星光石を置いて笑う。
「からっぽで名前もわかんねーけど、顔は覚えてるし! あと気持ち!」
 取り出したお酒とポップコーンを少しだけお供えして、あとはトヲルが食べて飲んで、時折お墓と蝶に話し掛けて夜空を見上げた。
「転生したら、また会おーねえ!」
 にぱぁっとトヲルが笑うと、まるで蝶が返事をするようにひらり、ふわりと飛んで、そのまま星空へと消えて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四王天・燦
《華恋》



零式の炎を零し大地を癒す
樹浄の木々が育ちますように
望まぬ花嫁とされた娘達への慰霊とさせてもらうよ
輪廻の先で幸せな花嫁となれますよう―

祈りを捧げたら幸せ全開でシホの手を引いて祭りに行くぜ
ドレスと一章で気に入った服は全部買う!
在庫不足なら受注生産
大人買いならぬ猟兵買いだぜ

屋台を巡って不意打ちでシホの口元に甘味を持っていく
シホの仕草に顔が綻んじゃう
幸せだ
この世界に当たり前の幸せが戻ってきている
夜に光は射しているよ

一通り回ったら泉に行こうか
手を繋ぎちょっと厳かに
バージンロードを歩むように泉へ行くぜ

シホが泉を見ている姿を見て「綺麗だね」と囁き、石を拾おう

幸せが続きますように
この幸せを護ると誓う


シホ・エーデルワイス
《華恋》


街へ戻る前に
吸血鬼の侵攻対策と犠牲者の弔いを兼ね
街を囲む様に【樹浄】で聖霊樹を植え破魔の浄化結界を張る

私達が吸血鬼の僕を退けた事で
街は僕の主に注目され大軍が襲撃して来るかも?

私の結界だけで守れるとは思わないが
察知と時間稼ぎに役立てばと思う


ドレスは在庫が十分なら購入
不足し困るなら返却
他の方が借りた物で破損があれば『聖紗』で修復


約半年前迄
私が知る限りこの世の人は
吸血鬼への恐怖で心が満たされ
他人を犠牲にし生きていた

けど
この街の人は抗いを選んでくれた

燦の不意打ち甘味に驚きつつも
嬉しそうに食べさせてもらう


夜明けは近い
そう思わない?


願いは
私の主が燦との仲を認める事
幸せになれるかは私達の努力次第



●きみと幸せ
 街へ戻る前に、とシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)が四王天・燦(月夜の翼・f04448)と繋いだ手を軽く引っ張る。
「できれば、この街に破魔の浄化結界を施したいの。少しだけ街へ戻るのを待ってくれるかしら?」
「ああ、勿論いいぜ。アタシも協力するよ、どうするんだい?」
「聖霊樹を使おうかと思って」
 シホの考えに頷いて、燦がドレスの裾を翻して生命の炎を大地へと零していく。それは癒しとなって、大地を浄化し荒れた地を少しではあるが蘇らせていく。
「樹浄の木々が育ちますように――これをアタシなりの、望まぬ花嫁とされた娘達への慰霊とさせてもらうよ」
「ありがとう、燦」
 ヴァンパイアの侵攻対策も兼ねていたけれど、犠牲者の弔いの意味が大きい行為。シホは街をぐるりと囲むようなイメージで、樹浄の力を行使する。
「シュよ、この地をお守り下さい」
 願いを形にするかのように、聖霊樹が燦の清めた大地へと根を張っていく。それは天然の要塞のように、不自然にならぬよう街を緑で囲んでいった。
「私達がヴァンパイアの僕を退けた事で、万が一にもヴァンパイアに目を付けられてしまってはいけないものね」
 この結界だけで守り切れるとは思わないけれど、察知と時間稼ぎには使えるはずだとシホが微笑んだ。
 その手を燦がぎゅうっと握りしめ、シホの顔を覗き込む。
「大丈夫、きっとこの木々が街を守ってくれるよ。それに、きっとあの子たちだって」
 だから祈ろう、と燦が言うとシホが頷き、二人で目を閉じる。
 輪廻の先で幸せな花嫁となれますよう――。
 そう祈って、どちらからともなく目を開いて笑い合う。
「街へ戻ろうか」
「ええ、戻りましょう」
 シホの手を引いて、燦が衣装を貸してくれた服屋へと向かう。裏通りから入って、店主の顔を見るなり燦が満面の笑みで宣言する。
「このドレスと、シホが試着した服を全部買わせてくれないか!」
「えっ燦!?」
 吃驚した顔でシホが燦を見遣ると、店主も少し驚いたような顔をして改めて燦の要求に応えるべく動いた。
「もう、私は返却しようと……」
 半分本当で、半分嘘だ。
 お店の在庫が不足するようなら返して、大丈夫そうなら燦が選んでくれた記念に買って帰ろうと思っていたのだ。
「だって、全部シホに似合ってたんだもん! 恋人として、好きな相手に服を買いたいって思うのは仕方ないことだぜ?」
 だから良いよね? とばかりに笑う燦に、シホが仕方ないわねと笑った。
 シホの了承を得て、大人買いならぬ猟兵買いだ! と、燦が店主の持ってきてくれた白いゴスロリ風ドレスにノーブルドレス、村娘風のドレスを確認して着替え終わったウェディングドレスと共に包んでもらう。
「祭りからお帰りになるまでお預かり致しますので、どうぞごゆっくり」
 そう言ってくれた店主の厚意に礼を言うと、二人で大通りへと駆けだしていく。
「シホ、見ろよ! 屋台があるぜ!」
「……!」
 燦の指さす先には、確かに屋台のようなものが出ているのが見えた。
 他の世界のように華やかでもなく、ずらりと並ぶほど多くもない。規模も小さいものだけれど、それでも。
「ねえ、燦」
「ん-?」
 シホが繋いだ手をぎゅっと握って、燦を見上げる。
「約半年前迄、私が知る限りこの世界の人は吸血鬼への恐怖で心が満たされ、他人を犠牲にして生きていた」
 けれど、どうだろう。この街の人々は抗いを選び、この空が晴れた日に決して多くはない蓄えを使ってささやかな祭を楽しんでいる。当たり前だけれど、当たり前ではなかった幸せを掴み取ろうとしていることに、シホは笑みを浮かべた。
「そうだね、アタシ達も幸せをお裾分けしてもらおうか」
 そう言うと、燦はシホを引っ張って屋台を巡る。どれが良いかと二人で選び、甘いポップコーンを買った燦があーん? とシホの口許にキャラメル掛けのポップコーンを寄せた。
「燦……!」
 驚きつつも照れたような顔をして、シホがあーんと口を開く。そこへポップコーンを放り込めば、口を閉じたシホが甘いと頬を緩ませる。その仕草に燦が思わず頬を綻ばせていると、お返しとばかりにシホがポップコーンを摘まんで燦の口許へと寄せた。
 アタシのシホがこんなにも可愛い……! と悶えつつ、ランタンで照らされた道をまるでバージンロードを歩くかのように手を繋いで進んだ。
 すぐに小さな森が見え、その先に淡く光る泉を見つけてシホが綺麗、と吐息交じりに燦へと囁く。
「ああ、すごく綺麗だ」
 シホが泉を見ている横顔が綺麗で、燦はそう囁き返す。
「燦、この世界の夜明けは近い……そう思わない?」
「ああ。この世界に当たり前の幸せが戻ってきている、夜に光は射しているよ」
 だって、人々は笑顔を浮かべているのだから。
 そんな彼らの真似をして、二人も泉の縁に膝を突いて願いを胸に泉の中へ指先を伸ばす。
 どうか、私の主が燦との仲を認めてくれますように。
 そう願うシホの横で、燦が願う。
 どうか、幸せが続きますように。
 二人が共にいる幸せを護ると胸に誓って燦がシホを見ると、シホが柔らかな笑みを浮かべて燦を見つめ返す。
「幸せになろう」
「ええ、一緒に幸せになりましょう」
 二人を祝福するように、淡く光る蝶がふわりと飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
牙印(f31321)と共に

おや、私の衣裳か、首周りや背中は大きく開いているものが良いな。早速着てみよう。いかがかな?
白い衣裳はつい赤く染めたくなるが、これは控えておこう。フフ。

さあ、踊ってみよう。なに、私だってそれほど得意なわけではないさ。しかし牙印のは踊りにもなっていないような。ほら、こうやって手をとって、回るだけでもそれなりになるものだよ。

ビールで喉を潤し、泉へ。美しい光景だ。三日月は涙を落としそうな表情をしていると思わないか?
この石が落ちた涙の結晶だとしたらロマンティックだな。
願い事、ああ、この身砕けるまで共にあらん事を。フフッ。(石を牙印の口先に当てその上からキスを)


黒田・牙印
ネフラ(f04313)と共に

・とりあえず服は返しに行こう。いつまでもワニコ・デラックスでいるわけにもいかねぇしな。
あー、ちょっと汚しちまったか……なら、えぇと。使える部分を使ってネフラに何か一着作ってくれ。代金は払うからさ。

・で、祭り……ん? あぁそうか、ネフラはダンスも得意だったな。俺はここで見……俺も踊れ、と?
ったく、俺は盆踊りの真似事しかできえねぇから指導頼むぜ、ネフラ先生(そしてタコ踊りをするワニが完成する)

・くそ、普段使わねぇ筋肉使ったからえらい疲れたな……買い食いがてら泉見物にでも行くか。
石への願い事か。そうだな……この身が朽ち果てるまでネフラと共に。お互いに長持ちしたいねぇ。



●願いごとはひとつ
 街へ戻ってきたネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)と黒田・牙印(黒ワニ・f31321)は祭りで賑わう人々の声を聞きながら、衣装を返す為に服屋に向かっていた。
「とりあえず服を返さないことには動き難いからな」
 いつまでもちょっと大きなワニ嫁でいるわけにもいかないと、牙印がネフラへと零す。
「そうか? 私はその恰好も似合っていると思うが」
 フフ、と笑ったネフラに、勘弁してくれと笑って牙印が服屋の扉を開いた。
 着替えを済ませ、明るい場所で見てみれば、やはり少し汚れてしまったなと牙印が衣装の裾を手にして考える。
「どうぞお気になさらず、汚れを落とすのも当方は得意でございますから」
 そう言う店主と衣装、そしてネフラに視線を移して、牙印が何かを決めたように店主に向かって口を開く。
「なら、すまないが使える部分を使ってネフラに何か一着作ってくれないだろうか? 勿論代金は支払うからさ」
「おや、私の衣装かい?」
 寝耳に水だとばかりにネフラが笑う。
「そう言うことでございましたら、お任せくださいませ」
「……本当に作る気か?」
「至って本気だが?」
 目を瞬いたネフラに笑って、店主に任せると言って牙印が部屋を出ると、お針子と店主が牙印の着ていた布をネフラの身体に当てだした。
「お客様は何かご希望はおありですか?」
「あ、ああ……そうだな、それでは首回りや背中は大きく開いているものが良いな」
 そこからはお針子と店主が総掛かりで布地を合わせ、ネフラの身体に合うようにと縫い上げていく。
「ノースリーブで……胸下で切り替えましょうか。お客様はスタイルが良いですから、スカート部分はすとんと落として」
「胸下は幅広のリボンを結びましょう、お客様の髪色に似たものがあります」
 その一つ一つに、ああ、うん、任せるよ、と返事をしてネフラが解放されてから暫くすると、仕立て直されたドレスが出来たとまた試着室へと通される。
「これは……素敵だな」
 ネフラの希望通り、首回りや背中は大きく開いていて、胸下に幅の広い薄緑のリボン、そこから下に広がるスカート部分はすとんとしているけれどシフォンが重ねられていて緩いプリーツになっている。長さも足首までで、引き摺るような事もない。
 肩にショールを羽織ればどこかの夜会にだって出掛けられそうなほどだ。
「ありがとう、大変だっただろう」
 本来なら何日も掛けるところだろうに、それを店員総出で二時間も掛からずに仕上げるとは、とネフラが感心したように笑って牙印に見せる為に部屋を出た。
「牙印」
「終わったか……」
 目を閉じていた牙印がネフラの姿を見て、ぱちりと円らな瞳を瞬かせる。
「いかがかな?」
「いや、似合っている。その、綺麗だ」
「ありがとう。白い衣裳はつい赤く染めたくなるが、これは控えておこう。フフ」
 そうしてくれ、と言いながら店主に代金を支払って、二人で大通りへと向かった。
「賑わっているじゃないか」
「あっちでは踊ってる奴らもいるな」
 笛と太鼓の音に合わせ、人々が踊っているのが見える。
「うん、よし。踊ってみようか」
「あぁ、そうか。ネフラは踊りも得意だったな。俺はここで見……」
「私に一人で踊れと?」
「俺も踊れ、と?」
 勿論、と頷いたネフラに視線を外しつつ、引く様子の見えない彼女に参ったと牙印が手を上げる。
「ったく、俺は盆踊りの真似事しかできえねぇから指導頼むぜ、ネフラ先生」
「なに、私だってそれほど得意なわけではないさ」
 さあ、と踊りの輪の中に入れば、牙印の踊りは踊りにもなっていなくてネフラが口元を押さえて言う。
「牙印のは踊りにもなっていないような……」
「だから言ったじゃねぇか」
 笑いを堪えるようなネフラをちらりと見て、ドレスが似合っているなとか、赤く染まっているのも悪くはないが白いのもいい、なんて考えていると、ほら、と手を差し出された。
「手?」
「いいから」
 促されるままに手をのせれば、その手を取ってネフラがひらりと踊りだす。
「ほら、こうやって……」
「おっと」
「手をとって、回るだけでもそれなりになるものだよ」
 ネフラがリードをしつつ、牙印と共に踊る。最初よりは大分とマシになったようで、周囲の人々が手を叩いて感心しているのが見えた。
 一頻り踊って、麦酒で喉を潤すと、今度はランタンの灯りを頼りに泉へと向かう。
「くそ、普段使わねぇ筋肉使ったからえらい疲れたな……」
「フフ、まあそう言うな」
 私は楽しかったよ? なんて言われてしまえば、牙印も大人しく頷くしかなかった。
「ああ、美しい光景だ」
 到着した泉は青白い光を放っていて確かに美しく、飛び交う蝶もまるで夢のような風景を作り出していた。
「三日月は涙を落としそうな表情をしていると思わないか? 泉を光らせる石が落ちた涙の結晶だとしたらロマンティックだな」
「絵本の世界だな」
 そう頷いた牙印と共に、ネフラが泉の縁に膝を突く。
「願い事か」
 ちらりと牙印の顔を見て笑うと、決めたと呟いて目を閉じながら指先を泉の中へ沈める。
 この身砕けるまで共にあらん事を。
 そんな彼女の横顔を見つめ、自分も同じように願いながら石を掴む。
 この身が朽ち果てるまでネフラと共に。
 立ち上がって人目の少ない樹の方へと向かい、口に出さなくても伝わっているのだろう? と互いが掴んだ石を手にして見つめ合う。
「フフッ」
 ネフラが石を牙印の口先に当て、そのまま石越しに口付ける。
「石が邪魔だな」
「人前だからな」
 そう笑うネフラを軽く抱きしめて、お互いに長持ちしたいねぇ、と牙印が甘く囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・エヴァンズ
無事にお祭りが開けたようで何より
衣装は買い取らせていただきましょうか
戦闘で使ってしまったものですし、使用済みのものを新しく花嫁になる方に…と言うのも抵抗がありますから

件の泉にも赴いてその景色をしかと目に焼き付けたく
…やはり一緒に見れなかったのは少し残念ですね
折角なので私もお願いを…えぇとまずはお祈り…
巫女らしく舞の一つでも奉納すると致しましょう
星とは縁ある巫女でもあります故に
『家族がこれからも健やかに過ごせますように』

さて、屋台も出ていたようですし家族に食べ物を手土産に買って帰りましょうか
我が家の男の子達は皆さん沢山食べられるので色んな種類を買って行っても問題なさそうですね

アドリブご自由に



●星の舞手
 街外れからの帰り道、明るく灯るランタンの灯りにステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)がほっと安堵したように吐息を零す。
「無事にお祭りが開けたようで何よりです」
 できれば、怖いことなど何も知らぬまま平和に過ごしてほしいと思う。
「きっと、そうはいかないのでしょうけれど」
 けれど、それが街の人々の戦う意志に繋がればと願いながら、ステラは衣装を貸してくれた服屋へと向かった。
 店主が出迎えると、ステラは衣装を買い取りたい旨を伝える。戦闘で使ってしまったものだし、いくら貸衣装だといっても新しく花嫁になる誰かにそれを着せるのは躊躇われたからだ。
 けれど、それを差し引いても今回ステラが借りた物は結婚式以外でも使えそうなドレス。長すぎない丈のドレスは羽織る物を変えれば、ちょっとしたパーティなどにも着ていけるはず。
「では、お荷物はこちらでお預かりしておきますね」
 祭りを楽しんだら取りに来てくださいと、店主がステラに深々と頭を下げた。
 その言葉に甘え、ステラは大通りへと出る。昼間に見た時も楽し気であったが、やはり夜が本番なのだろう。楽しげな声が聞こえてきて、ステラもつい笑みを浮かべてしまう。
 まずは泉に、と屋台に後ろ髪を惹かれつつもランタンの灯りを頼りに泉のある森へと向かう。小さな森の中央に位置する開けた場所、そこに件の泉はあった。
「……なんて綺麗なんでしょう」
 淡く光る泉は青白い光を湛えていて、月と星が泉の中に落っこちてしまったのだと言われても信じてしまいそうになるほど、優しい光りを放っている。それに引き寄せられるように、蛍のように光る蝶が辺りを飛び交っているのだ。
「蝶の翅が光って……? 不思議ですね」
 こんなに素敵な景色なのだから、忘れないようにしようとステラがじっくりと眺め、知らずのうちに小さく溜息を落とす。
「……やはり一緒に見れなかったのは少し残念ですね」
 一人でだってこんなに美しいのだ、家族と一緒であればそれはきっと、もっと美しく感じただろう。
 泉に祈る家族を見て、ふっと笑みを浮かべると気を取り直したようにステラが微笑む。
「折角なので私もお願いを……えぇと、まずはお祈り……」
 祈りといえば、巫女であるステラにとっては舞だ。
 簡易的なものですが、と星に縁ある巫女として泉の前で軽い舞を奉納してみせた。
 蝶と共に舞う姿は美しく、街の人々から小さな拍手が起こるほど。それに小さくお辞儀をし、ステラが願いを込めて泉の中の石を拾う。
 家族がこれからも健やかに過ごせますように――。
「さて、美味しそうな屋台も出ていたようですし、家族に食べ物を手土産に買って帰りましょうか」
 来た道を戻りながら、ポップコーンもマフィンも美味しそうでした、と屋台のラインナップを思い出す。
「我が家の男の子達は皆さん沢山食べられるので、色んな種類を買って行っても問題なさそうですね」
 それを一緒に食べながら、今日あった出来事と美しい景色の話をしよう。
 きっと一緒に笑ってくれるはず、とステラは笑みを浮かべて街へと戻るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

かれとともに衣装を借りた店へ向かいつつ
提案を持ちかけられれば、目を瞬かせつつも口をひき結び
かれが花婿の衣装も買い取るようすなのを見て
花嫁衣装はこれきりですからねと釘をさしつつ
次は僕も花婿衣装を選びたいのでと笑いましょう

そして手に手を取ってお祭りへ向かいましょう
屋台を見回っていればかれが買い求め差し出したのは楕円の色とりどりの粒
そのままぱくりと口に入れ咀嚼します
ええ、これからもきみは僕が幸せにしますからねと微笑みましょう

泉ではかれの御髪のような深い青の石を 声とともに手が強く握られれば頷いて
はい、ザッフィーロ
もちろんですよ
きみとともに、永く遠い時を過ごせますように


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
もう従者のふりをせずとも良いからな
宵と共に借りた衣装屋へと戻ろう
宵、その…なんだ。記念に買取らんか?そう照れ臭げな声を投げつつ
己の分の白い花婿衣装をこれも買い取る事は出来んかと、そう店主へと聞いてみよう
宵は俺の花嫁だろう?ならば俺も着用すべきだろうと思って、な?
可能ならば着用し宵と手を繋ぎ祭りへ

屋台ではアーモンドのドラジェを見れば買い宵の口元へと差し出してみよう
この菓子は幸運の種というと聞いたことがあるからな
これからも沢山の幸せを共に出来ればとな
泉では宵の瞳の色の紫の石を一つ拾おう
願いは…その、なんだ。言わずともわかるだろう?
そう声を投げながら宵の手を強く握り返せればとそう思う



●幸せ色をひとつ
 もう従者の振りをする必要もないだろうと、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の乗る馬の背へとその身を翻す。
「ふふ、これで白馬の王子様ですね?」
「タキシードではないが良いのか?」
「きみはいつだって僕の王子様ですよ」
 くすくすと笑って背を預けてくる宵の首筋に頬を寄せ、ザッフィーロが手綱を握るとゆっくりと馬を走らせた。
 すぐに衣装を借りた店に到着し、馬を還えすと二人で店内へと入る。
「衣装、助かりました」
 店主に向かってお礼を言う宵に、ザッフィーロが悩んだ末に声を掛けた。
「宵」
「はい?」
 なんでしょう、と首を傾げる宵に、ザッフィーロが咳払いをして言葉を続ける。
「その……なんだ。記念に買取らんか?」
 そのドレス、と言われて照れ臭そうにするザッフィーロに目を瞬かせながらも、宵がきゅっと口を引き結ぶ。
 そうしなければ、言い出したザッフィーロが照れている姿が可愛すぎて口元が緩みそうだったので。
「俺の分の白い花婿衣装とセットで欲しいのだが」
「ザッフィーロのも?」
「宵は俺の花嫁だろう? ならば俺も着用すべきだろうと思って、な?」
 どうだろうか? と店主にも問えば、お客様が求めるものでしたら如何様にでもと店主が微笑んだ。
「……宵は、どうだ?」
「仕方ありませんね、花嫁衣装はこれきりですからね?」
 そう釘を刺しつつ、ザッフィーロの望みとあれば、この衣装で共に並ぶのは吝かではないのだ。
「宵……!」
「次は僕も花婿衣装を選びたいので」
 ね? と笑えば、ザッフィーロがその表情を明るくする。
 その表情に僕は弱いのですよね……と小さく零しつつ、彼のタキシード姿はきっと格好いいのだろうと目を細めた。
 ご試着を、と促されてザッフィーロが少し待っていてくれと奥へと消える。そうして、はたと気付くのだ。
「……このままで、でしょうか」
 ドレス姿のままで待っていて欲しい、多分そういう事だろう。
「本当に仕方ないですね」
 そう呟いて、ベールの中の頬をほんのりと赤く染め、窓から外を眺める。祭りを楽しむ人々の姿を見ていればザッフィーロが戻るまでの時間はあっという間で、声を掛けられて振り向く。
「その、どうだろうか」
「……よく似合っています」
 褐色肌の彼に、白い衣装はよく映えるのだ。
「宵、できれば」
 このまま、と愛しい人に請われて否とは言えない。
 仕方のない人ですね、ともう一度呟いて請われるままに手を差し出し、白い衣装を身に纏ったまま二人は大通りへと向かった。
 手に手を取ってあちこちを見て回り、時折街の人々に結婚式かい、と声を掛けられもしたけれど皆一様に楽しそうな顔をしていて二人も笑みを浮かべて大通りを歩く。
「宵、ちょっといいか」
 何かを見つけたようにザッフィーロが屋台へと立ち寄って、宵の元へと戻る。そして口元へと差し出されたのは、楕円の形をした色とりどりの粒。あーん、と口を開ければその一つが宵の口へと放り込まれた。
「ふふ、美味しいですね」
「この菓子は幸運の種というのだと聞いたことがあるからな。これからも沢山の幸せを共に出来ればと……」
 そう言って、アーモンドのドラジェを一つ、ザッフィーロも口へ含む。
「ええ、これからもきみは僕が幸せにしますからね」
 ふうわりと微笑んだ宵に、ザッフィーロも笑みを浮かべて繋いだ手に力を込めた。
 二人で幸せを分け合いながら、ランタンの灯りを頼りに泉へと向う。青白い不思議な光りを放つ泉では人々が祈りを捧げ、願いを込めて石を拾っているのが見えた。
 小さな森の開けた場所、見上げれば月と星が見え、泉はまるでそんな星々が降り注いだように光り瞬いている。そして、その光りに引き寄せられたように、淡く光る蝶が舞って――。
「なんとも不思議で、綺麗な光景ですね」
「ああ、こんな場所があったとはな」
 寄り添うように前へと進み、二人が泉の前で足を止める。
「祈りを捧げ、叶えたい願いを想いながら石を拾うのだったか?」
「ええ、聞いたところ」
 では、俺達もと手を繋いだまま膝を突く。
 まるで結婚式で神に祈るかのようだ、と思いながら泉に向かって祈りを捧げ、繋いでいない方の手を泉の水へ浸す。
 二人、何も言わぬままであったけれど、願いを胸にそれぞれが泉の中の石を拾い上げた。
 ザッフィーロは宵の瞳のような紫の石を。
 宵はザッフィーロの御髪のような深い青の石を。
「願いは……その、なんだ。言わずともわかるだろう?」
 きっと間違いなく同じ願いであったはず、そう思いながらザッフィーロが宵に囁く。
「はい、ザッフィーロ。もちろんですよ」
 褐色の耳に唇を寄せ、誰にも聞こえぬような声で宵が言葉を紡ぐ。
 きみとともに、永く遠い時を過ごせますように――。
 今すぐにでも抱き締めたいと思う気持ちを押さえ、ザッフィーロは正解だというように宵の手を強く握り返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
【狼と焔】


withを結希に返して、結希とwithの写真をスマートフォンで撮影
そう気を落とすな、また機会はある

結希に同意して泉へ
星空のようだと言う泉は、厄介な存在である筈の月まで含めて美しい光景だと思う
一人では月の下を歩いて泉へ行こうとは思わなかっただろうが
結希を振り返り、来て良かったと素直に伝える
願い事?…ああ、一つ思い付いた

真剣に願い事をする結希に倣い、『結希の願いが叶うように』と祈って石を拾う
楽しそうな結希には「そうだな」とだけ返す
願い事の内容は黙秘する

自分の為の願いは思い付かない
満月ではないとはいえ、月があるにも関わらず人狼の自分を信じて側に置く者が居る
この信頼以上に願う物は、今は無い


春乃・結希
【狼と焔】


おかえり、with…うぅ…折角やから写真撮ってください…ぃぇーぃ…
凄くがっかりした顔でドレス姿を撮って貰ってから、お店に返します
汚してしまってごめんなさい…っ

本番でまた着れば良いと気持ちを切り替えて
お祭りやし、屋台回るのも絶対楽しい、けど…泉も気になります…
良かったら行ってみません?

わぁ…見てシキさん。泉が星空みたい……!
さりげなくシキさんの様子を伺ってみる。月は出てるけど…満月やないから大丈夫そう…?とほっとして
願い事、何かありますか?私は絶対叶って欲しいのがあって…
強く想い、ひとつ拾います
(withと一緒しぬまで一緒ずっとずっとずっ…)
…シキさんのお願いも、叶うと良いですねっ



●月明かり、願い事
 ヴァンパイアの花嫁を倒し、街へ戻る前にシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)に彼女の恋人であり愛剣でもあるwithを手渡す。
「おかえり、with……」
 ドレスの裾を踏んで盛大に転んだのがまだ糸を引いているのだろう、結希がしょんぼりとしつつwithに頬ずりをして顔を上げる。
「シキさん」
「何だ?」
「うぅ……折角やから写真撮ってください……」
 ずび、と鼻を啜って言う結希に、シキが黙って携帯端末のレンズを向けてやる。
「ぃぇーぃ……」
 凄くがっかりした顔で、ピースサインをしつつ結希がwithとのツーショットを撮って貰う。戦闘前との落差が激しいな、と思いはしたがそれはそっと心の中に仕舞ってシキが端末を戻した。
「そう気を落とすな、また機会はある」
「ありますかね……」
 ウェディングドレスを着る機会……とはいえ、もしドレス姿でwithを振るうようなチャンスがあれば、今度は膝丈くらいのドレスにしようと心に誓い、結希は顔を上げてシキと共に街へと戻った。
 それから、ドレスを貸してくれたお店へと向かい、店主に向かって頭を下げる。
「汚してしまってごめんなさい……っ」
「これくらい大したことありませんよ、ちゃんと落ちますから安心してくださいませ」
 店主が笑って、返却されたドレスを受け取った。
 いつもの恰好に戻って、うーんと伸びをして背負うwithの重みに結希がやっと笑みを浮かべてシキを見上げた。
「本番でまた着れば良いですよねっ!」
「ああ、そうだな」
 withとの結婚式なら、さっきみたいな長いドレスで。withを振るう場合は短いのにしようと思うんですよ、と話す結希に相槌を打ちつつ、大通りへと出る。
「お祭りやし、屋台回るのも絶対楽しい、けど……」
 ランタンが吊るされ、屋台がちらほらと見える大通り。広場の方へ行けば、笛や太鼓の音で踊る人々も見ることが出来るだろう。
「けど?」
 言葉の続きを促す様に、シキが言う。
「泉も気になります……!」
「光る泉というやつか」
 はい、と結希が頷いて、良かったら行ってみません? と、シキを誘う。
「構わない、行こうか」
 祭りも悪くはないけれど、泉の方がきっと静かだ。
 こっちですよー、と笑う結希の横に並び、二人ランタンが続く道を歩いた。
 大通りを抜け、街の外に向かって少し歩けば小さな森が見え、真っ直ぐに進む。ぼんやりとした青白い光りが見えて、それを頼りに向かえば、小さな泉がきらきらと光っているのが見えた。
「わぁ……見てシキさん。泉が星空みたい……!」
 泉の底に星を落としたような、不思議な光りを放つ泉に見入る様に二人で立ち尽くす。
 結希が星空のようだと言う泉は、シキにとって厄介な存在である筈の月まで含めて美しい光景だった。
 ちらりとシキに視線を遣って、月は出ているけれど、満月やないから大丈夫そう……? と結希が様子を窺う。三日月がゆらゆらと映りこむ泉を見ているから、多分平気だと少しだけほっとして。
「結希」
「は、はい!」
「来て良かったな」
「……はい!」
 一人では月の下を歩いて泉へ行こうとは思わなかっただろう、結希が誘ってくれたからこそ――それも含めてシキが笑みを浮かべた。
「そういえば、願い事をするんですよね」
 泉の縁に、何人か膝を突いているのが見える。
「シキさんは願い事、何かありますか?」
「願い事?」
「私は絶対叶って欲しいのがあって……!」
 真剣な表情で言う彼女に、シキが頷く。
「……ああ、一つ思い付いた」
「ほんとですか? じゃあ、一緒にお願い事しましょう!」
 結希に連れられ、泉の縁へと膝を突く。
 結希が目を閉じ、強く、強く願いを心に思い描いて指先を泉へと伸ばした。
 withと一緒しぬまで一緒、ずっとずっとず……っと一緒! そして一つだけ石を掴んで。
 真剣に願い事をする結希に倣い、シキも目を閉じて願う。
 結希の願いが叶いますように、そう祈って、願って、石を拾った。
「綺麗な石ですね」
 掴んだ石を星空に翳して、結希がシキを見る。
「……シキさんのお願いも、叶うと良いですねっ」
「そうだな」
 楽しそうな結希の笑顔に、シキが唇の端を僅かに持ち上げた。
 何をお願いしたんですか、と聞く結希には黙秘で通し、シキが空を見上げる。自分の為の願いは思い付かない、それならばと隣で笑う彼女の願いが叶うようにと願ったのだ。
 満月ではないとはいえ、月があるにも関わらず人狼の自分を信じて側に置く者が居る。
 シキにとって、この信頼以上に願うものは、今は無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
花嫁衣装があんなに動き難いとはな。物凄く疲れた。
人気らしいホットミルクを静かな場所で飲み休みたい。
…休みたい…。(露に引っ張られつつ無表情で飲む)

ふむ。街の者達の話題にのぼるだけのことはあるな。
月の光が心地がいい。露が好きなのも理解できる。
「…露。ここで泳ぐなよ? 噂になる可能性がある」
忠告のつもりだったが頬を膨らませてぽかぽか殴られた。
まだ怒りが収まらないから露に甘えろ?阿呆が君は。

「叶えたい願い? ……ないな。私にそんなのは」
一瞬私の一族のことが過ぎったが…知ってどうなるんだ私。
逆に露に聞いてみる。まあ答えは大体わかるんだが一応な。
私に関する何かだろう。恐らく…だが。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と。
森にあるってゆー泉にレーちゃんと行こうと思うわ。
飲み物は勿論人気の…えっと。暖かいミルクのやつで♪
「わぁ~♥」
目的地の泉は想像してたよりもとっても幻想的で。素敵で。
え?脱いで泳ぐな?…むぅー。今はそんなことしないもんっ!
「それはそーと、願いを叶えてくれる泉なんだって。ここ♪」
泉の石を拾い上げてからくるくる踊るようにまわって言うわ。
「レーちゃんは叶えたい願いってある? ある?」
言ってみたけど答えてくれそうにないから頬膨らませるわ。むぅ。
「え? あたし? あたしは…えへへ♥ 教えないわ~♪」
言ってからえいや…って石を泉に投げるわ。
『レーちゃんが幸せでありますように~』



●月光浴と君の願い
 街へ戻ると、まず真っ先に衣装を返却する為にと服屋へ向かった。
「花嫁衣裳があんなに動き難いとはな」
 ドレスを脱ぐ為に入った試着室で、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)が溜息交じりにそう零す。
「ふふ、ウェディングドレスを着て戦うなんてシチュエーション、中々ないものねぇ」
 でも、あたしは眼福だったわ~♪ なんて気楽な声で神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)がシビラの背を締め付けていたビスチェのリボンを解いていく。
「でも、丈が短い分、他の花嫁さん達よりは動きやすかったんじゃないかしら?」
「……あれでか?」
 後は自分で出来ると言うと、露が名残惜しそうに離れて自分もタキシードを脱ぎ始めた。
「そうよ? ドレスの裾が長かったら……もっと綺麗だったかしら……」
 長いのも着せるべきだったわ、なんて言う露に止めてくれとだけ言ってシビラがドレスを脱ぎ捨てて、いつもの恰好へと戻った。
「やはりいつもの恰好の方が落ち着くな」
「そう? イメチェンもたまには良いと思うわよ?」
「それは露に任す」
 先に着替えを済ませたシビラが試着室を出ると、露が首を傾げて、それからにこっと笑う。
「イメチェンコーデはあたしに任せてくれるって事ね~♪」
 違う、という声が聞こえてきたが、露の耳に届いたかどうかは定かではなかった。
 着替えを済ませ、礼を言って店を出る。目の前に広がるのはオレンジ色に灯されたランタンの穏やかな光り。
「物凄く疲れた」
 露が何か言う前に、とシビラが先手を取ってそう言った。
「あら、レーちゃん疲れてるの? 疲れてる時は甘いものと」
 心安らぐ風景よね♪ と、露がキャラメルが入ったホットミルクを二つ買い求めてシビラの元へ戻る。
「はい、レーちゃん」
「……ありがとう」
 これを静かな場所で飲み、休みたいと心底に思う。
「露、裏通りの」
 静かな場所で、と言い掛けたのを露が途中で遮った。
「レーちゃん、森にあるってゆー泉に行きましょう!」
「……いや、休みたいんだが」
「ええ! だからそこで休みましょう」
 行きましょ、と露に引っ張られながら、色々と諦めたように休みたい……と小さく呟いてシビラがコップの中身を一口飲んだ。
 嫌々ながらやってきた小さな森は中央が開けていて、そこにきらきらと星の様に瞬く青白い泉が見えて、シビラが小さく眉を動かす。
「わぁ~♥」
「ふむ。街の者達の話題にのぼるだけのことはあるな」
 想像していたよりもずっと綺麗だとシビラが思うと、露が想像してたよりもとっても幻想的で、素敵だわ~と、うっとりとした表情で言う。それほどに、青白く光る泉が美しく、その光りに遊ぶように舞う光る蝶も綺麗だったのだ。
「そうだな、綺麗だと思う」
 それに、上から降り注ぐ月の光が心地良く、露が好きだというのも頷ける。
「ここは落ち着く……」
 周囲に人はいるけれど、この空間の中で騒ぐ者はおらず、まるで他者とはどこか隔離されたような感覚があった。
「……露。ここで脱いで泳ぐなよ? 噂になる可能性がある」
「むぅー……今はそんなことしないもんっ!」
 レーちゃんのばかばかと露が頬を膨らませてシビラをぽこぽこと叩くのを、わかった、わかったからと宥める。
「本当にわかってるの~?」
「ああ」
「じゃあ、まだ怒りが収まらないから、あたしに甘えて!」
 何を言っているんだ、こいつはという瞳で見て、シビラが切れ味鋭く言い放つ。
「阿保か、君は」
「あほじゃないもん~!」
 レーちゃんのばか、と露がホットミルクを飲めば、ほんのりとした甘さと温かさにすぐに笑顔になって。
「それはそーと、願いを叶えてくれる泉なんだって。ここ♪」
 そう言って露が泉に近付いて石だけを拾い、くるくると踊る様に回って露が言葉を重ねる。
「レーちゃんは叶えたい願いってある? ある?」
「叶えたい願い?」
 一瞬、頭に自分の一族の事が過ったけれど、知ってどうなるというのかと小さく被りを振ってシビラが答える。
「ないな、私にそんなのは」
「ええ~教えてくれないの?」
 露がぴたりと踊るのを止めて、頬をぷくんと膨らませてシビラを見る。
「教えないんじゃない、無いだけだ。……露は何を願うんだ」
 逆に問い掛けられ、露がぱちりと目を瞬く。
「え? あたし? あたしは……えへへ♥ 教えないわ~♪」
 言われなくともなんとなく答えはわかるので、シビラはそうかとだけ言ってホットミルクを飲んだ。
 そんなシビラにふふっと笑って、くるりと回った露が手にした石を泉へと投げ入れる。
 レーちゃんが幸せでありますように、ただそれだけを願って、彼女は満足気に星が瞬くような泉を眺めて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エメロア・エフェトゥラ
【数奇2】

…無事終わったようだな
(緊張していたのか小さく息を吐き)
ドレスは戻すぞ。本来は幸せな花嫁が着るものだ俺が持っていていいものじゃない。

(賑やかではないが屋台自体が珍しくキョロキョロとして)
あ、俺はビールよりホットミルクの方が…なんだ子供ぽいとでもいいたげだな。
ビールは口に合わないんだ。ワインなら飲めないこともないが…それにマフィンを食べるならミルクの方が合うだろう?
(半分こと言われれば嬉しそうに頷き)

ん…あーん
(雪蘭が口に運ぶマフィンを当たり前のように食べた後ふと周りの視線に気付くも首を傾げ)
なぁ、俺は何かおかしいか雪蘭?

せ、せめて指で取ってくれっ!
(口は恥ずかしいと顔を赤くして)


麟・雪蘭
【数奇2】◎

初依頼、お疲れ様でした
お怪我がなくて何よりですわ
これもロア様のお力あっての事
よく頑張りましたねぇ~偉いですよぉ
…まだドレスを着たままでも…いえ、何でも
お着替え手伝います

主人の一歩後ろを歩き屋台へ

まぁ~美味しそうなマフィン
良い香りですねぇ
ふふ、どうして分かったのかしら?
そうですね、マフィンにはミルクが合いますわ
妾は揚げパンを頂きましょう
そうすれば半分こが出来ますよ

マフィン、揚げパン、ホットミルク2つを購入
主人へあーん
当たり前の様に受け入れる主人にほくそ笑む

いいえ?なぁんにも可笑しい事はありませんよ
さぁさ、覚めない内に揚げパンもどうぞ
あら、お口についてますわ(口で摘まんで取り悪戯の笑み



●甘い時間
 街へ戻ってくると、闇の救済者達から小さな歓声が上がった。
 それを聞いて、エメロア・エフェトゥラ(偉大なる魔女の息子・f31575)は全てが終わったという実感が湧いたのだろう、思わず、といった風にぽつりと零す。
「……無事終わったようだな」
 小さく息を吐いたエメロアに、麟・雪蘭(堕天使の魔女・f31577)が労わる様に声を掛けた。
「初めての依頼、お疲れ様でした。お怪我がなくて何よりですわ」
「……雪蘭のお陰だ」
 あら、と笑った雪蘭に何だとエメロアが返す。
「いいえ、これもロア様のお力あっての事。よく頑張りましたねぇ~偉いですよぉ」
「と、当然だ!」
 照れたエメロアがドレスを返すぞと服屋の扉を開く。すぐに店主がやってきて、試着室へと案内してくれる。
「……まだドレスを着たままでも」
「何か言ったか?」
「いえ、何でも。お着替え手伝います」
「背中のリボンだけ頼む」
 背を向けたエメロアの身体を締め付けるリボンをしゅるりと解き、小さく頭を下げた雪蘭が試着室を閉めて下がった。
 あとはドレスを脱ぎ、いつもの衣装を着るだけだとエメロアが白から黒い衣装へと着替えていく。タイを締め、コートを手に持って試着室を出ると、控えていた雪蘭がすかさずエメロアのタイに手を加えて位置を直し、コートを受け取って袖を通す様に広げる。
 慣れたように雪蘭が広げたコートに袖を通すと、エメロアが脱いだドレスを拾い上げて雪蘭が店主へと渡した。
「世話になった、ありがとう」
 エメロアがそう言うと、店主が深々と頭を下げて二人を見送った。
「何処へ参りましょうか?」
 主人の一歩後ろを歩く雪蘭が、エメロアへと問い掛ける。
「そうだな……」
 辺りをきょろきょろと見回して、あれは何だと雪蘭へと視線を遣れば、屋台ですねぇと答えが返ってくる。
「屋台……」
「あそこで色々なものを売っているのですよぉ」
 大抵は食べ物の場合が多いが、中には小物などを扱うものもあるのだと雪蘭が説明すると、エメロアが試しにと近くの屋台へと足を向けた。
「まぁ~美味しそうなマフィン、良い香りですねぇ」
 エメロアの後ろからひょこっと顔をだした雪蘭が、マフィンを見て笑みを浮かべる。並んでいるのは少し小さめのマフィンで、オーソドックスなものから木の実を使ったもの、ふんわりとしたバタークリームが絞られたものと、質素ながらも精一杯の工夫がみられるものだ。
「一つ貰おうか」
 エメロアがそう言うとすかさず雪蘭が財布を取り出し、好きなものを取ってくださいと言われ、バタークリームが絞られたマフィンを選ぶ。支払いを済ました雪蘭が、何か飲み物も買いましょうかと広場への道を歩きながら言った。
「飲み物か……何があるだろうか」
「そうですねぇ」
 ああ、あそこにと雪蘭が指をさした先にはビールと思われる酒を売っている屋台と、ホットミルクにキャラメルを落としたものを売っている屋台とが見えた。
「ビールに致しますか?」
「あ、俺はビールよりホットミルクの方が……」
 そう言い掛け、にやにやとしている雪蘭にエメロアが目を細める。
「なんだ、子どもっぽいとでも言いたげだな」
「ふふ、どうして分かったのかしら?」
 分からないわけがない、と眉間に皺を寄せつつも、ビールは口に合わないんだとエメロアが言う。
 ああ、苦いですものねぇ……とは口に出さず、雪蘭はただ笑みを浮かべて聞いている。
「ワインならいいが……それに、マフィンを食べるならミルクの方が合うだろう?」
「そうですね、マフィンにはミルクが合いますわ」
 ええ、と頷いて雪蘭がホットミルクを買い求めてエメロアの手へと渡した。
「雪蘭は何を?」
「そうですねぇ、妾は揚げパンを頂きましょう」
「揚げパン」
 それも美味しそうだというような顔をした主に、雪蘭がにっこりと微笑んで。
「そうすれば、半分こが出来ますよ」
 半分こという言葉に嬉しそうに頷き、エメロアが笑みを返した。
 そうとなれば揚げパンも一つと買い求め、広場の休憩できるような場所に二人で座る。ホットミルクを一口啜れば、そのほんのりとした甘さと温かさに自然と目が合って。
「さ、どうぞ」
 あーん、と口を開けるように促して、半分に割ったマフィンを指先で摘まんで口元へと差し出す。
 それに何の疑いも抱かぬまま、エメロアが口を開けて齧れば、まるで雛鳥のようだと雪蘭が満足気な笑みを浮かべる。当たり前のようにそれを受け入れ、音を立てぬよう上品に咀嚼して飲み込むと、ふと自分達を見る周囲の視線がどこか優し気で生暖かいような気がして、エメロアが首を傾げた。
「なぁ、俺は何かおかしいか? 雪蘭」
「いいえ? なぁんにも可笑しい事はありませんよ」
 ええ、これが然も普通だと言わんばかりに笑んで、雪蘭が揚げパンを取り出す。
「さぁさ、覚めない内に揚げパンもどうぞ」
 可愛い可愛い雛鳥に餌を与えるかのように、雪蘭がエメロアへと食べさせる。
「うん、これも美味しいな」
「そうでございましょう? あら、お口についてますわ」
 口の端に付いた砂糖の粒を雪蘭が顔を寄せ唇で啄むかのように取ると、慌てたようにエメロアが身体を引いた。
「せ、せめて指で取ってくれっ!」
 口は恥ずかしいだろう、と小さな声で抗議するエメロアに、そうでございましたかぁ? と、悪戯が成功した子どものように雪蘭が微笑むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戀鈴・イト
【硝華】

ドレスを着たままは何やら恥ずかしい
ありがとう
水面に浮かぶ三日月が時折揺らめく
星が沈んだ泉に思わず手を伸ばして
臆、冷たくて心地良い
此処で休もうか

集う蝶の綺麗な事
シアンの美しさに惹かれてやって来たのかな
なんて思っていたら似たような事を言うものだから
可笑しくなって密やかに笑う

瑠璃蝶はシアンにすっかり懐いている様子
優しくて綺麗だものね
花は僕だけれど華はきっとシアンだ

指先掲げ夜光蝶を留めたなら
翅に軽く吐息を吹きかけてみようか

エト
ふふ、僕の名前と響きが似てるって良いな
僕の分身みたいだ
エト、僕の代わりにシアンの事をよく守ってね
いつでもシアンの傍に居られるエトが羨ましくなってしまったのは
ここだけの秘密


戀鈴・シアン
【硝華】

ドレス、もう少し着ていてもよかったのに
なんて名残惜しさは噤む
ホットミルクを貰ったんだ
泉のほとりで飲もうよ

水面に浮かぶ月と、水底に沈む星
白い手でそこに波紋を作る姿がなんとも綺麗で
贅沢な景色だな
…あれ、蝶が集まってきた
微かに光ってる…不思議
イトと遊びたがってるのかもね
蝶は綺麗な花が好きだから

そうだ、と自分が連れている『瑠璃蝶』もひらり宙に泳がせた
夜空を背に夜光蝶と戯れる姿が愛らしい
イトが贈ってくれた大切な相棒

そういえばこの子にまだ名が無かったな…
名前…
「エト」なんてどう?
星という意味のエトワールから取って
響きがイトと似てるから俺も呼び慣れてるし
ふふ、分身か。いいね
エト、一緒にイトを守ろうな



●星が導く夜に
 人々の楽しげな声が響く中、戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)と戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)は裏通りから服屋の裏口へと回った。
 ドレスの裾を揺らし、ほんのりと頬を赤く染めたイトがドレスを着たままは何だか恥ずかしいからと試着室へと向かう。それをシアンは名残惜し気な瞳で翻るマーメイドドレスの裾を見つめ、自分もタキシードを脱ぐ為に違う部屋へと入った。
 互いに着替えて出てくれば、白い衣装ではなくいつもの服装で、見慣れた格好に思わず笑みを零す。
 本当はもう少しあの白いドレスを着ていてほしかったけれど、それは胸の内に隠してシアンがイトと共に店主へ礼の言葉を掛けて、大通りへと踏み出した。
「ランタンの灯り……! 遠目から見ても綺麗だったけど、近くで見るとまた違って綺麗だね」
 イトが微笑むのに頷いて、シアンが何処へ行きたいかと問い掛ける。
「そうだね……祭りも気になるけれど」
 楽し気な人々の声、自分達が守った街。
「僕は泉が気になるかな」
「うん、じゃあそうしようか」
 俺も光り輝く泉を見てみたかったんだと頷いてシアンが足を踏み出し掛け、少し待っていてと屋台の方へと向かった。
「シアン?」
 どうしたのかと首を傾げつつ、イトが言われた通り待っていると、シアンが両手に木製のコップを持っているのが見えて。
「ホットミルクを貰ったんだ、泉のほとりで飲もうよ」
「ありがとう、シアン」
 差し出されたコップを手にし、イトがじんわりと温かくなる手の温度に笑みを零した。
 ランタンに案内されるように、広場に背を向けて二人で歩く。少しずつ寂しくなっていく道でも、空を見上げれば三日月と星が瞬いていて、小さな森へはあっという間だった。
「光る泉……あれかな?」
 森の中央にぼんやりと青白く光る明かりに二人の足が少しだけ早くなって、開けた場所へと出る。
 そこに広がるのは、まるで流れ星が幾つも落ちたかのように光る泉と、その光りに誘われたかのように舞い遊ぶ蝶。
「綺麗……!」
「本当だ、こんな景色があるなんてね……」
 暫し見惚れて、二人がその場に立ち尽くす。ひらひら、ふわりと遊ぶ蝶が目の前を過って、漸く互いの顔を見た。
「……どこかへ座ろうか」
「うん、どうせなら泉の傍が良いな」
 イトの願いを叶えるようにシアンが彼の手を引いて、なるべく人がいない場所を探す。泉のほとり、他の人の邪魔にならないような場所まで来ると、その縁に腰を下ろした。
 水面に浮かぶ月と、水底に沈む星。時折揺らめく三日月がどうにも綺麗で、イトが思わず手を伸ばして指先を浸す。
「臆、冷たくて心地良い」
 白い手が泉に作る波紋も、その光りに照らされた姿もなんとも綺麗で、シアンはひたすらにイトを見つめて口を開いた。
「贅沢な景色だな」
 ああ、本当になんて贅沢な景色なのだろうか。そして、イトの横にいるのが俺で本当に良かったと、シアンはわけも分からず胸を撫で下ろすのだ。
「……あれ、蝶が集まってきた。近くで見ても微かに光ってる……不思議だね」
「本当だ、蝶が光ってるんだね」
 集う蝶が綺麗で、泉から顔を上げて蝶を見つめる。
 シアンの美しさに惹かれてやって来たのかな、なんて考えていたら。
「イトと遊びたがってるのかもね、蝶は綺麗な花が好きだから」
 なんて、シアンが言うからイトが可笑しくなって密やかに笑う。
「シアンに惹かれたのかもしれないよ?」
 そう返したら、きょとんとした顔をするものだから、イトは堪え切れずに破顔した。
「ああ、そうだ」
 思い出したように、シアンがイトが贈ってくれた大切な相棒である瑠璃蝶を宙へと泳がせる。それは他の蝶に交じる様にひらり、ひらりと戯れて。
「ふふ、瑠璃蝶はすっかりシアンに懐いたんだね」
 シアンは優しくて綺麗だもの、花は僕だけれど華はきっとシアンだとイトが強く思う。
 指先を蝶へと伸ばす。ひらり、と指先に留まった夜光蝶の翅に、臆、と軽く吐息を吹き掛けた。
 美しく舞う蝶と戯れるイトの姿に見惚れながら、シアンも瑠璃蝶を指先へと呼ぶ。
「そういえば、この子にはまだ名が無かったな……」
「名前を付けてくれるの?」
 イトが期待に満ちた瞳で、シアンと瑠璃蝶を見つめる。
「名前……エト、なんてどう?」
「エト」
「星という意味のエトワールから取って、響きがイトと似てるから俺も呼び慣れてるし」
「ふふ、僕の名前と響きが似てるって良いな。僕の分身みたいだ」
 分身、と言われてより一層瑠璃蝶……エトが愛しくなって、シアンが指先へ呼んだエトを見つめる。
「ふふ、分身か。いいね」
「エト、僕の代わりにシアンの事をよく守ってね」
 そう言ったイトに優しく笑って、シアンがエトへと囁く。
「エト、一緒にイトを守ろうな」
 口付けでもするかのような距離に、少しだけ羨ましくなってしまってイトがそっと視線を星空へと移す。
 いつでもシアンの傍に居られるエトに妬いてしまったなんて、ここだけの秘密だと、そっと吐息を泉へと零すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
このタキシード、買い取ることも出来るらしいよ?
ちぇー残念
これでいつでも梓のタキシード姿見られると思ったのになぁ
でも返す前に写真を撮るくらいならいいでしょ?
梓のタキシード姿を記念にパシャリ
服屋の人にお願いして俺と梓が並んだ写真も撮ってもらおうっと

そのあとはお祭りに参加
明かりが灯されて屋台があって…
この世界にもこういうお祭りがあるんだねぇ
ヴァンパイアたちに目を付けられるかも知れないから
やりたくても出来ないのかなって思ってた

他の世界のお祭りのような派手さは無いけれど
少ない材料で心を込めて作られた屋台の食べ物はどれも美味しくて
いつもなら屋台全制覇!と張り切る俺も
今日は一つ一つゆっくり味わう


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
いやいや、普通のスーツならともかく
白タキシードなんて持ってても使い道に困るだけだし
…まぁ、それくらいなら、仕方ないな
服屋で一緒に写真を撮る際に綾がまた腕を絡めてきて
店の人にどんな目で見られていたんだろうか…

こういった祭りが堂々と行えるようになったのも
もしかしたら闇の救済者たちの影響もあるのかもしれないな
人々はただヴァンパイアに怯えながら
隠れて暮らすだけじゃなくなったってことだ

タキシードは流石に買えないけど、これくらいなら
キャラメル入りホットミルクをご馳走してやる
普段は片っ端から俺に奢らせようとする綾も
今日は故郷の味をしっかりと噛み締めている
普段からこんな調子なら可愛いのにな…



●優しい味をご一緒に
 腕を組んだまま街へ入ると、そう言えばと灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)へ囁き掛けた。
「このタキシード、買い取ることも出来るらしいよ?」
 ベールの中の唇の端をにぃっと持ち上げて、綾が言うのを梓が目を細めて見遣る。
「いやいや、普通のスーツならともかく、白タキシードなんて持ってても使い道に困るだけだろ?」
 何かあるか? このタキシードの使い道、と梓が綾へと問い掛ける。
「ええ……記念? あとはほら、本番で着るとか」
「記念にタキシードは買わないし、そんな何時になるかもわからん本番の為に買い置きはしない」
 きっぱりと言い切られ、ちぇー残念と綾が唇小さく尖らせた。
「これでいつでも梓のタキシード姿見られると思ったのになぁ」
「俺のタキシード姿を見てどうするんだ……」
 何が楽しいかわからんな、と溜息を落とせば、あっと小さく綾が声を上げる。
「今度はなんだ?」
「買うのは無理でも、返す前に写真を撮るくらいならいいでしょ?」
 そう言われ、買うよりも写真の方が何倍もマシだな、と梓が頷いた。
「はい、じゃあ撮るよー」
 丁度辿り着いた衣装を貸してくれた服屋の前で、綾が梓のタキシード姿をパシャリと一枚。
「うーん、どうせなら一緒に写ってるのも欲しいな」
 すいませーん、と店の中へ綾が声を掛け、ここを押すだけだからと店主に写真を撮ることを頼む。
「ほらほら、梓! 笑って笑って」
 梓の隣に並び立ち、綾がするりと腕を絡ませて笑みを作る。いきますよ、という声掛けと共に、シャッターを切る音がして二人が写った写真が保存された。
「ありがとう、それじゃあ着替えるね」
 鼻歌混じりにそれを受け取った綾が、奥の部屋へと向かうのを梓も追い掛ける。
「しっかし……あいつ写真を撮る時にも腕を絡めてきて……」
 店の人にどんな目でみられていたんだろうか……と考えて梓が渇いた笑いを零し、考えるのを放棄した。
 いつもの衣装に戻った二人が店主へ衣装を借りた礼をして、大通りへと出る。
「さー、お祭りだよ梓!」
「はいはい、何を食べるんだ?」
 話が早いねぇ、と綾が笑ってランタンの灯りに照らされた大通りを広場に向かって歩く。
「明かりが灯されて屋台があって……この世界にもこういうお祭りがあるんだねぇ」
 今までに見た事ないよ、と綾が梓に内緒話をするかのように話す。
「こういった祭りが堂々と行えるようになったのも、もしかしたら闇の救済者たちの影響もあるのかもしれないな」
 今までは怯え、ひっそりと生きるばかりだった人々が反旗を翻し始めたのだ。
「ヴァンパイアたちに目を付けられるかも知れないから、やりたくても出来ないのかなって思ってた」
「ここが辺境の街だっていうのもあると思うけどな」
 密やかに行われる祭りであれば、直接の支配を受けていない街であれば可能だろう。ヴァンパイアの治める地が広ければ広いほど、緻密な管理は難しいはずだ。
「ま、人々はただヴァンパイアに怯えながら隠れて暮らすだけじゃなくなったってことだ」
 人類砦、地下都市、そして大規模な反逆の狼煙を上げようとしている闇の救済者達――。
 そのどれもに手を貸せたならば、いつかこの世界はヴァンパイアの支配から解き放たれるのかもしれない。
「そっか、そうだといいよね」
「ああ」
 他の世界のような派手さはないけれど、ささやかなお祭りを楽しむ人々の笑顔は何よりも輝いていて。
「あ、あれいいな」
「ん?」
 どれだ? と梓が綾の視線を辿れば、キャラメルを落としたホットミルクの屋台が見えた。
 眠れない夜に飲むような、そんな優しい味の飲み物を欲しがる綾に、タキシードは買えないけれどこれくらいならと梓が二つ買い求め、一つを綾へと渡す。
「ふふ、ありがとう梓」
 ふう、と木製のコップに息を吹き掛け、一口。仄かに広がる甘さに、思わず笑みが浮かぶ。
「美味しいね」
「ああ、ほっとするな」
 少しずつ飲みながら、次はあれがいいと綾が笑う。
「マフィンか」
 少し小振りのマフィンは、スタンダードなものと木の実を使ったもの、それからバタークリームが飾られたものがあって、綾が木の実のマフィンを選ぶ。
「一つで良いのか?」
「うん、一つで良い」
 いつもなら片っ端から奢らせようとする癖に、今日ばかりは故郷の味をしっかりと噛み締めるように一つ一つを大事に食べているのが窺えて、梓が小さく笑う。
「ほら、梓! 半分こだよ」
「ん、美味しいな」
 少ない材料で心を込めて作られた屋台の食べ物はどれも美味しくて、二人は一つを分け合っては次の屋台へと向かって歩く。
「素朴だけど、どれも美味しい」
「素材の味……ってやつか」
 それと、きっと今日という日を楽しもうという人々の想い。
 そう思いながら、二人は寄り添うように屋台の味を楽しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
【箱2】◎
生け贄の慣れ果てを倒しただけ…まだ元凶倒した訳じゃねぇ
もしまた何かありゃ力貸させてくれよ、皆おつかれ

そか、終わったしラファン化粧落としちまうのか、残念……あ!化粧落とす前にさ、頬にキスマーク付けてくれよ、一度されてみたくてさ…いーだろ?
衣装は街の財政の助けになりたいし買い取る。額が多い?ならまた素敵な祭り開催してくれ
歩きつつ、キスマーク自慢しちゃう。いいだろ?コレ彼の彼の
ポップコーン買い泉見える木の枝に腰かけ
うわぁ……きれー…あ、蝶
はは、みてみて髪に止まった
ええ、何匹俺に乗せんのよ…ッ!?わぁッ蝶飛んだじゃん…もう!
くっそ、やり返したる…おら、こっち向け、大人のキス…しよ?
…顔熱い


ラファン・クロウフォード
【箱2】◎花嫁ドレス。戒が着る日を夢見て言い値で買う。戒の頬に付けたキスマーク。誰それ構わず自慢て公開処刑っすか。ハズカシニソウ、手を掴みぐいぐい引いて歩く。買ったポップコーンの甘い香りにほわり。街の営みは慎ましく、灯りは温かく頼りない。ニューヨークより月と星が遥かに明るい。戒の生まれた世界。今宵はより明るく皆の心を照らせと天候操作。二人で木の上から光る泉を眺める。戒の横顔も美しい。戒の髪に止まった蝶に目を輝かせ、指先に蝶を止めて戒の髪に、肩にと乗せる。何匹止まるかな?戒。動くなよ、そのままそのまま。ついばむような軽い口付け。さっきの仕返しをしてやったりと笑って寄り添う。指を絡めて深く手を繋ぐ



●夜に溶ける
 街外れから温かな明かりが灯る街を眺めて瀬古・戒(瓦灯・f19003)が思わず頬を緩め、それからもう一度表情を引き締めた。
「生け贄の慣れ果てを倒しただけ……まだ元凶を倒した訳じゃねぇ」
「そうだな」
 ベールを被せた戒は綺麗だな、と思いつつラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)が頷き返す。
「もしまた何かありゃ力貸させてくれよ、皆おつかれ」
 戒が闇の救済者達に向かって、気さくに声を掛けて街へと戻る。ラファンはその隣を歩きつつ、そっと彼女の手を握った。
「何だよ」
「別に、俺が繋ぎたかっただけだ」
 はぁ~可愛いかよ……と呟く戒の手を引いて、ラファンが来た道を戻り裏通りから衣装を貸してくれた服屋へと入った。
「そういや、ドレス」
「買い取る」
「何で? お前着るの?」
 目覚めた? とクエスチョンマークをてんこ盛りにしている戒に、違うと首を横に振る。
「いつか戒が着てくれるだろう?」
「ばっかおま、お前……」
 うぐぐとなった戒が、着てくれないのか? と小首を傾げたラファンの頭に、垂れた犬の耳を幻視して軽く目を擦った。
 あれ、やっべーな俺疲れてんのかな、いやでも可愛いな……そう思ったら別に着るぐらい構わないかと思って頷いていたし、ラファンはこの世の春とばかりに微笑んでいる。
 おっかしーな、今度は尻尾が見える気がするな……でも可愛いからいいか、と戒はタキシードを買い取ることにした。
「俺がそっちを着るなら、ラファンはこっちを着ろよな」
「着る」
 即答だった。それはそれでいつもの事なので、構わずに着替え終わると着ていた衣装を店主へと渡し、支払いを済ませる。
「額が多い? このくらいが妥当だろ。ああ、それならまた素敵な祭を開催してくれ」
 街の財政の助けになるなら、これくらいはどうってことないさと戒が笑うと、同じように着替えて出てきたラファンが同じような事をしていて戒が思わず噴き出すのだが、それはまた別のお話。
「あれ、ラファン化粧落としちまうのか」
 化粧だけしたまま、いつもの服とかそれは苦行じゃないか? という顔をしてラファンが頷く。
「綺麗だったのにな……残念……あ! 化粧落とす前にさ、頬にキスマーク付けてくれよ」
「きすまーく」
 思わず平仮名にもなるというもの、ラファンが言葉を繰り返す。
「一度されてみたくてさ……いーだろ?」
 お願い、と請われてしまえばラファンに否はないし、他の誰かにされるくらいなら自分がした方がいいと判断して、ローズピンクの唇が戒の頬へと押し当てられた。
「へへ、ありがとな!」
 頬に綺麗に付いたルージュの跡に、鏡を見ながら満足そうに戒が笑う。
 化粧を落としいつもの恰好でラファンが戻ってくると、戒が頬のキスマークをそのままにして、そろそろ行くか? と声を掛ける。
「それを付けたまま……?」
「あったりまえだろ、自慢しちゃう」
 荷物は服屋に預け、意気揚々と大通りへと出るとランタンの灯りの下、人々が楽しそうにしている顔が見えた。それから、屋台を巡って頬のキスマークは何だと聞かれたら、戒が満面の笑みを浮かべて言うのだ。
「いいだろ? コレ彼の彼の」
 彼と言われた方のラファンは公開処刑か何かか? ハズカシニソウ! と、頬を赤くして戒の手を掴むとぐいぐい引いて次の屋台へ向かっていく。それを数度繰り返して、光る泉があるという森へと向かった。
「いや~楽しいな! な、ラファン!」
「ソウデスネ……」
 ポップコーンを片手にご機嫌な戒に片言で返事をしつつ、後ろに見える街をちらりと見遣る。祭と言えど、他の世界とは比べ物にならない程に質素で、けれど街の営みは慎ましく、灯りは温かい。
「ニューヨークより月と星が遥かに明るいな」
「何もないからな」
 いつもは雲が厚く掛かり、月も星も見えないくらいだけれど、たまにこんな日があるのだ。
 何もない、けれど戒の生まれた世界だと、ラファンは思う。今宵はより明るく皆の心を照らせと、僅かに掛かる雲を力を使って払った。
「うわぁ……きれー……」
 泉に到着し、戒が思わず声を零す。
 淡く光り輝く泉は、空の星が幾つも落ちたように光りを放ち、揺れる水面に反射していた。
「人が多いな」
 ラファンがちらりと辺りを見回し、あそこ、と指さす。視線で追えば、そこは大きめの樹の上で、枝も大人二人が乗っても大丈夫そうな太さだ。
 ポップコーンを零さぬように、ラファンと共に枝の上に飛び乗って腰を下ろす。
「上から見てもきれーだな……あ、蝶」
 ふわり、と飛んできた淡く光る蝶に言葉が止まる。
「はは、みてみて髪に止まった」
 その横顔も綺麗だと思いながら、戒の髪に止まった蝶にラファンが目を輝かせた。
「戒、動くなよ」
 それだけ言って、指先に蝶を止めて戒の頭や肩に、何匹か乗せていく。
「ええ、何匹俺に乗せんのよ……」
「いいから、そのまま……そのまま」
 ああ、綺麗だと目を細め、戒の唇に己のそれを軽く触れ合わせた。
「……ッ!? わぁッ蝶飛んだじゃん……もう!」
 戒の声と動きに、止まっていた蝶が一斉に飛び立っていく。してやったりと言った風な顔のラファンに、戒がくっそ、やり返したる……と頬を赤くしてラファンに顔を寄せた。
「おら、こっち向け」
「ん?」
 何だ? と戒の指に自分の指を絡めて手を繋ぎ、ラファンが笑う。
「……そんなんじゃなくて、大人のキス……しよ?」
 そう言って、戒が目を閉じる。
 目を瞬いたラファンが蜜に引き寄せられる蝶のように、戒の唇を何度か啄み、次第にそれを深いものへと変えていく。唇から溶けてしまいそうな触れ合いに、戒が甘い息を零した。
「……顔熱い」
「奇遇だな、俺もだ」
 ラファンの胸に顔を隠すように戒が凭れ掛かると、蒼い蝶が俺の胸に止まったとラファンが甘く笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月31日


挿絵イラスト