月魄円環~Clair de lune(作者 柚烏
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#UDCアース  #呪詛型UDC  #ループ  #月の兎 


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 ――彼の地を訪れた男がまず思い浮かべたのは、月夜を閉じこめた硝子の玉だった。
(「……月が綺麗ですね、か」)
 空と大地の境界である、凪いだ湖面は鏡のように澄み渡っていて――マリンスノーを思わせる星屑が、水底にゆっくりと広がっていくその先では、銀の月が深く靜かな眠りについている。
(「それはきっと、満ち足りた世界で」)
 ――そう。月に引き寄せられるように、満ちていく水に溺れて沈んでいくのは、心地良いはずだと誰かが囁く。
「ああ……今、そちら側へ行くよ」
 とぷり、と水鏡の向こうに手を伸ばせば、波紋が生まれて星屑が散った。ああ、弾けた月のかけらが降り注いだのは、空の果てか地の底か――瞳に映る景色が煌めきながら重なっていく様は、鏡合わせの万華鏡のよう。
 ――はぁ、と零した男の吐息が、白く凝って霧に変わる。湖面で揺れる舟が、岸に戻りたいのだと身じろぎしたように見えたけれど、構うものかとかぶりを振った。
「例えそれが、呪いだったとしても――」
 幾度となく同じ夜を繰り返してもなお、満ちた月は欠けることなく其処にある。決して届かなかったものに、手を伸ばせるのだと言う誘惑は、淡い恋のときめきにも似た甘さで彼のこころをくすぐっていった。
「何度もなんども、あなたを見つめて。……そうして、逆さまの世界に沈んでいくから」
 ――音もなく沈んでいった生贄を出迎えるように、夜の底で笑いさざめくのは、愛らしい姿をした獣たち。月光のヴェールが辺りに降り注いでいくなかで、その歪んだ世界は閉ざされたまま、終わらない満月の夜を永遠に繰り返していく。
(「月が、綺麗ですね」)
 それは、『愛している』なんて想いの伝え方のひとつだとされていて。もうひとつの愛のことばを、呪文のように口ずさむ男は――そのまま怪異が紡ぎ出す呪詛と、ゆっくり溶け合っていくのだ。
「ああ、もう――死んでも、いいよ」

 篝・燈華(幻燈・f10370)が真剣な顔つきで話すところによれば、それはUDCによる呪いのようなものらしい。とある街から離れた場所にある、うつくしい湖――外海とも繋がっていると言うその土地で、ひとびとが怪異に巻き込まれてしまう予知が確認されたのだ、と。
「それも……日常を満喫しているひと達を誘うように、突然起こってしまうみたいなんだよ!」
 付近に人家はないとは言え、潮の満ち引きが生み出す絶景は、SNSなどでも取り上げられる人気のスポットらしく、訪れる者も多いとのこと。
 なので、このまま放っておけば、被害がどんどん増えていってしまうだろうから。燈華が言うには、先に猟兵たち皆が囮になって、UDCによる呪いを引き寄せて倒しちゃおうと――つまりはそんな作戦らしい。
「えへへ、なので皆には全力で……月夜の湖畔でのひと時を楽しんで欲しいんだっ。ちょうど風もない穏やかな夜だから、湖面は鏡みたいに澄んでいると思うんだよ」
 それはさながら、奇跡の絶景として知られるウユニ塩湖のように。天と地には星空が何処までも広がって、見る者を幻想の世界へと誘っていくのだが、空に浮かぶ月が奇妙なうつくしさを見せ始めたのなら要注意だ。
「ループ、って言うのかなあ。ずっとずっと、終わらない夜が繰り返されて……月の光を浴び続けたひとは、ゆっくり精神を蝕まれて、それで」
 ――静かに狂い、やがて怪異とひとつになってしまうのだと、燈華の瞳は不安げに揺れていた。きっと彼が予知で目にしたのも、そんな犠牲者の最期だったのだろう。
「でもでもっ、その元凶となるものを何とかすれば解決できるし、先ずは楽しまないと呪詛を引き寄せることだってできないし!」
 だから燈華はにっこりと笑いながら、皆に向かって「行ってらっしゃい」を告げるのだ――浅瀬をゆっくり歩いてみるのもいいし、ちいさな舟で湖へ向けて漕ぎ出すのもいい。日常での月光浴ならば心身のリフレッシュにもなるだろうし、ついでに天体観測と洒落込んでみたり、皆で一緒に綺麗な写真を撮ったりして、今年の思い出を作ってみるのも良さそうだ。
「あ、でも、夜は冷えるからあたたかくして、飲み物なんかも持っていくと良さそうだよねっ」
 ひとり思いを馳せるのも、大切な誰かと分かち合うのも素敵だから。――さあ、終わらない夜を、終わらせに行くとしよう。


柚烏
 柚烏と申します。今回はUDCアースにて、呪詛型UDCに対処する依頼となります。フラグメントの構成上、戦闘要素は少なめですので、レベルや技能など気にせずにのびのびプレイングを考えて下されば嬉しいです。

●シナリオの流れ
 日常に潜み、ひとびとを怪異に引きずり込む呪詛型UDCに対処していきます。日常を満喫している者を狙うUDCの特性を利用して、第1章では『日常』を目一杯楽しんで怪異を引き寄せましょう。そうして第2章の『冒険』で生じた異変に挑戦し、第3章『集団戦』にて元凶である呪詛型UDCと対決します。

●第1章について
 月の光がとっても綺麗な湖畔で、楽しいひと時をお過ごしください。ウユニ塩湖みたいな雰囲気の、隠れた人気スポットとなっております。
 オープニング文章にもある通り、岸辺で過ごすもよし舟で湖へ向かうもよし。天体観測や写真撮影などなど、お一人様でもグループ様でも、ぜひぜひ思い出づくりを楽しんでみてください(全力で楽しまないと怪異が起きないので、そちらの対策は不要です)
 なお予知に出てきた被害者は、皆さんが代わりに向かうので難を逃れており、湖周辺もUDC組織が人払いなどを行ってくれているので特に気にする必要はありません。

●プレイング受付につきまして
 お手数かけますが、マスターページやツイッターで告知を行いますので、そちらを一度ご確認の上、送って頂けますと助かります。此方のスケジュールの都合などで、新しい章に進んだ場合でも、プレイング受付までにお時間を頂く場合があります。
 ※なるべく頂いたプレイングはリプレイにするよう頑張りたいと思いますが、こちらのキャパの都合もあり全ての採用をお約束することが出来ません。ご了承のうえで参加頂けますと幸いです。

 日常と非日常の対比、幻想的な雰囲気のなかでじわっと生じる異変や、透明で綺麗な狂気などファンタジックな感じでリプレイを書いていけたらいいなと思っております。それではよろしくお願いします。
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第1章 日常 『月光の下で』

POW大地から景色を眺める
SPD舟を漕ぎ湖へ
WIZ樹上から星達へ手を伸ばす
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


パルピ・ペルポル
月の光は狂気を呼び起こすとかいうらしいけど。
これだけ幻想的なこの場所だとわからなくもないわね。
ま、それを許すわけにはいかないけど。

せっかくだし湖の上を飛んでみるかしら。
月も自分の姿も湖面に綺麗に映って…羽根の模様までばっちり。なるほどこれは境目があいまいになるのもわかるわ。
とはいえ、わたしは波紋のひとつで簡単に揺らいでしまうようなものではないと。
湖面を眺めながらそう想うわね。

たっぷり月光浴したら、湖畔で邪魔にならない程度に他の人の様子を観察しましょ。
景色もいいけど人を眺めるのはやっぱり楽しいわね。


 ――その世界ではもう、妖精などと言う存在はお伽噺になって久しいけれど。透き通った翅が、月の光を受けてレースみたいにたなびいていけば、蒼銀の水面にちいさな影が踊って光が弾けた。
(「せっかくだし、湖の上を飛んでみようかしら」)
 風のない夜――深く澄んだ湖が、鏡の如く星空を映し出していくなかを、パルピ・ペルポル(見た目詐欺が否定できない・f06499)が滑るように飛んで、きらきらとした飛沫を散らしていく。
 奇跡のような絶景に舞い降りた、愛らしい姿の妖精を目にすれば、ひとびとは忽ち魅入られてしまっただろうけれど――今宵は彼女たちの貸し切りで、このひと時も怪異を引き寄せる為のものだった。
(「とは言え……『月が綺麗ですね』、だったかしら」)
 パルピが見上げた夜空に、一際大きく輝いていたのは銀の月で。その光は狂気を呼び起こすなんて言い伝えもあるらしいけれど、これだけ幻想的な光景を目にすれば分からなくもないと思う。
「ま、それを許すわけにはいかないけど」
 白い息とともに金糸の髪がふわりと舞うなかで、湖面に映るパルピが意味ありげに微笑んだような気がしたが、たぶん気のせいだろう。
 フェアリーの翅が微かに震える様子も、その模様までくっきりと見て取ることが出来るのも――なるほど、これでは境目があいまいになるのも無理は無い。
「とはいえ、わたしは――」
 ――天と地がぐるりと環を描いて、自分が空の月へと向かっていくのか、水底の月の元へ沈んでいくのかが分からなくなる。そんな不思議な感覚を振り払いつつ、パルピの瞳が魅惑的なひかりを灯せば、その爪先が軽やかに湖面を蹴って、鏡映しの世界を掻き消していった。
「波紋のひとつで簡単に揺らいでしまうような、そんな儚いものではないのよ」
 案外、逞しいフェアリーである彼女は、月光浴を堪能しちいさく伸びをすると、そのまま岸辺へ向かってゆっくりと羽ばたいていく。
「……さて、と。邪魔にならない程度に、他の人たちの様子でも観察しましょ」
 景色もいいけど、やっぱり人を眺めるのが楽しいから。ついでに誰かの肩や頭に乗っかったり出来れば、もっと楽しいかも知れない――そんなことを思いながら旅の導き手は、湖畔でのひと時をまだまだ楽しんでいくのだ。
大成功 🔵🔵🔵

旭・まどか
クラウン(f03642)と

月見と洒落込むだけで怪異を誘き寄せられるなんて
手が掛からなくて好いね

嗚呼、構わないよ
勿論君が漕いでくれるんでしょう?
誘いに応じ、当然の如くオールの無い方へと腰掛ける

水面を揺らす音だけが耳を打つのが心地良い
大口を開けた君の顔に
満月を初めて観る訳でも無いだろうにと苦笑を零し

満月……は、そこまでかな
明るすぎるのも痛いから、と

後ろ向きな答の僕とは打って変わって
君の答は明るい陽だまりの様

何だ、結局何でも好きなんじゃない
それなら僕は星の方が好いかなと満月の隣を指さし

差し出されたコップで指先がじんわりぬくまるのを感じる
“あの日”もそうだったけれど
案外物静かな夜を過ごす事も多いんだね


クラウン・メリー
まどか(f18469)と

ふふー、そうだね!

ね!舟に乗ってお月様見よう!
さあ、乗って!と漕ぐ気満々の笑顔で君をお誘い

わ、とっても綺麗だね!
下に映るお月様も上に浮かんでいるお月様もどっちも素敵で

口をぱかりと開けながら空を見上げる
ふふ、だってとっても綺麗だから!
君と見ているからそう感じるのかなぁ?

ね、君は満月好き?
そういえば、お日様が出ている時に
君の姿を見たことがないかも、と

俺はね、大好きっ!
あ、でもでも三日月も半月も大好き!

えへへ、全部違って全部好き!
お星様?ふふ、お月様に寄り添っていて素敵だよね!

そうだ、寒くない?じゃーんと水筒を取り出して
カフェオレ飲みながらお月様眺めよ!

静かな夜も好きだから!


 ――ふたりの過ごした世界とは違うけれど、密やかに駆けていく夜の森は、いつかの記憶を呼び覚ますような気がして胸が騒いだ。
「……月見、か」
 湖に向かって伸びている桟橋に、ちいさな舟があるのに目を留めた、旭・まどか(MementoMori・f18469)の唇が、不敵な笑みを形づくると――「ふふー」と柔らかな声が、白い吐息となって彼の背中を押していく。
「ね、まどか! 舟に乗ってお月様見よう!」
「嗚呼、構わないよ」
 軽やかな足取りで、ひょいひょいと足場を渡っていくクラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)は、そのまま小舟に飛び乗って、恭しくまどかのほうへと手を差し伸べた。
「さあ、乗って!」
「――勿論、君が漕いでくれるんでしょう?」
 そう言って当然の如く、オールの無い側へ腰掛けようとする彼だったが、そんな不遜な態度にもクラウンは慣れたもの。漕ぐ気満々と言った様子で櫂を取れば、舟は静かに沖へ向かって滑り出していく。
「わ、とっても綺麗だね!」
 近づく冬は、凍えるような寒さを辺りに振り撒いているけれど――風のない夜の所為か、湖の上は優しい静寂に満ちていて、鏡合わせの月が澄んだ輝きを放ってふたりを出迎えてくれた。
「ほらほら、下に映るお月様も――上に浮かんでいるお月様も、どっちも」
 ――ちゃぷ、ちゃぷと。やがて、そんな水面を揺らす櫂の音も聞こえなくなって。ただ舟がゆらゆらと浮かぶ心地良さに身を任せていたまどかだったが、不意に途切れたクラウンの声に顔を上げてみれば、ぽかりと口を開けた彼の姿が目に入ってきた。
「……別に、満月を初めて観る訳でも無いだろうに」
「あ、……っと、ふふ」
 銀色の月に見惚れていた友人に向けて、ふと苦笑を零してみるものの、普段よりも明るい夜空にじくりと瞳が痛みを訴える。
「だって、とっても綺麗だから! ……君と見ているからそう感じるのかなぁ?」
 それでも、無邪気に月を見上げながら――「君は満月が好き?」なんて訊いてくるクラウンに、今は後ろ向きな答えしか返せない自分が、何だか腹立たしく思えた。
「満月……は、そこまでかな。明るすぎるのも痛いから」
「ああ、そういえば……お日様が出ている時に、君の姿を見たことがないかも」
 ――夜と闇に覆われた世界で、呪われた血を宿して生まれ落ちて。その繊細な美貌が、月の光にも溶けてしまうんじゃないか、なんて不安が一瞬過ぎりつつも、クラウンはまどかに向かって手を広げてみせる。
「俺はね、大好きっ! あ、でもでも、三日月も半月も大好き!」
(「嗚呼、……君の答は、明るい陽だまりの様」)
 そうして道化みたいにおどけてみせた彼へ向かって、まどかも普段通りの高飛車な態度で――ふっと溜息を吐きつつ、静かに手を伸ばしてみるのだ。
「何だ、結局何でも好きなんじゃない。それなら、」
 ――その指先が指し示したのは、満月の隣に浮かぶちいさな星で。
「僕は、こっちの方が良いかな」
「お星様? ふふ、お月様に寄り添っていて素敵だよね!」
 全部違って、全部好き――そんな言葉とともに、じゃーんとクラウンが取り出した水筒からは、カフェオレの甘い湯気が立ち昇って凍える夜をあたためていく。
「寒くない? これ飲みながらお月様眺めよ!」
 ――かじかんだ手で包み込んだカップが、じんわりと指先を解していくのを感じながら、まどかが思い浮かべたのはいつかの記憶。
 こんな風に、月見を洒落込むだけで怪異をおびき寄せられるのなら、手が掛からなくて良いのだと。変わらぬ空を眺める瞳に、ふとちいさな星が瞬いて消えた。
「……『あの日』もそうだったけれど。案外、物静かな夜を過ごす事も多いんだね」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ミラ・ホワイト
【夢音】

小さな舟にあなたとふたり
漕ぎ出す先は満天の星揺らぐ湖面

すごいわエールさま、夜空を游いでるみたい…!
辺り一面煌き輝く星海の航海
どこもかしこもお宝だらけに見えますっ
ふふー、仲良くはんぶんこ

中でもとびきりはおおきなお月さま、ね
夜空にぽっかり浮かぶ月の、淡く霞んだ白光の円環
朧な形を確かめるよに伸ばした指先が触れたのは
水面にうつるふたつめの、
エールさまが攫われないよに、と思ったけれど
わたしも魅力に引き込まれてしまいそ

静かな世界に揺れる聲に
まどろむ意識も目醒めるよう
わたしも嬉しいです
きっと、もっと、ずっと
これから増えゆく想い出の奥で輝くのは
お月さまよりも、お星さまよりも
とびきり綺麗なあなたのひかり


エール・ホーン
【夢音】

ミラちゃんっ、船っ
船に身を預けて、きらきらの上に浮かぶ
すごい、すごいねっ
両手を広げて天の星を示し
下ろして、地平の星を

宇宙の中を旅しているみたい
ここが絵本の中ならボクらは星の海を旅する探検家かなぁ
へへ、お宝たくさんっ
ふたりで山分け、だね?とくすくすり

それでも一等不思議で魅力的だったのは
やっぱりまぁるいおつきさま
君の言葉に頷いてからふたつのお月さまを見比べる
ふふ、さわれちゃいそうだよ

ねえ、ミラちゃん
もし――ううん
きっとこれから、君とうんと仲良くなったら
ここがボクとミラちゃんのはじめての想い出の場所になるなんて
なんだかとっても嬉しいね

同じ想いを返してくれる君の傍ら
優しい福音が聞こえた気がした


 遠くに見えていた街の灯りも、いつしか影絵の世界に呑み込まれていって――ふと、櫂を握る手を止めてみれば、辺りはきらきらと輝く星屑たちで溢れていた。
「ミラちゃんっ、船っ、周りを見てみて!」
 水平線の向こうではきっと、星が生まれて遠い海に溶けていくのだと、今なら信じることが出来そうで。エール・ホーン(ドリームキャスト・f01626)がゆっくりと小舟に背を預けていくなか、鈴の音を思わせるミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)の歓声が、星々と共鳴するように辺りへ降り注いでいく。
「すごいわエールさま、夜空を游いでるみたい……!」
「ねっ、すごい、すごいねっ」
 澄んだ湖面を掻き混ぜる、舟のオールを魔法のスプーンみたいに操って、エールは波間で揺れる星の欠片を引き寄せようとしていたけれど。ミラがそろそろと頭上を見上げれば、其処へ一杯に広がるのは天の星――両手を広げて示したそれを、今度は地平に向けて慈しむように抱きしめていく。
「何だか、宇宙の中を旅しているみたい」
「星海の航海ってところかな、……どこもかしこもお宝だらけに見えますっ」
 ――夜空を映して煌めき、輝く湖は、何処までも広がり果てが無いような錯覚さえ覚える。ここが絵本の中なら、ふたりは星の海を旅する探検家で、虹のかけらを羅針盤代わりに、とびっきりの宝物を見つけに行くのだ。
「へへ、お宝たくさんっ。ふたりで山分け、だね?」
「ふふー、仲良くはんぶんこ」
 星座盤と睨めっこしながら、星の名前をひとつひとつ確かめて――そうして指さしていくエールの指先がふと、ミラのそれと重なった。
「それでも、一等不思議で魅力的なのは――」
「やっぱり、おおきなお月さま、ね」
 くすくすりと微笑む瞳と瞳は、微妙に色合いを変えた紅玉みたいに煌めいて、夜空にぽっかりと浮かぶ月を映し取っていく。
 ――満天の星が揺らぐ湖面で、ちいさな舟にあなたとふたり。淡く霞んだ白光の円環は、白い虹にも喩えられるのだと何処かで聞いた。
(「水面にうつる、ふたつめの――」)
 夢を彩る、その朧な形を確かめるように伸ばしたミラの指先が、ぱしゃりと音を立てて月の輪郭を掻き消していった時、白い吐息と一緒に現実が戻ってくる。
「ミラちゃん?」
「……エールさまが攫われないよに、と思ったけど」
 わたしも魅力に引き込まれてしまいそう――そんな風に微笑んだ乙女に、一角獣の少女が傅いてその冷たい手を取った。
「ふふ、……ねえ、ミラちゃん」
 静かな世界に揺れる聲は、まどろむ意識も目醒めるようで。
「もし――ううん、きっとこれから、君とうんと仲良くなったら」
 ここが、ふたりのはじめての想い出の場所になるなんて、なんだかとっても嬉しいねと。そんな囁かれたことばに、とくりと胸が弾んだ。
「はい、わたしも嬉しいです。きっと」
 ――吐息が白く染まったら、出会いがはじまり想いも紡がれるから。
(「もっと、ずっと」)
 だけど、これから増えゆく想い出の奥で輝くのは、お月さまよりも、お星さまよりも――とびきり綺麗な、あなたのひかり。
「ありがと、ね」
 ――遠い何処かで、優しい福音が聞こえた気がした。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ルーナ・オーウェン
【晴ル】
わ、幻想的な景色
(故郷にはこんなのなかったなぁと思いつつ)
湖面と夜空に挟まれて
とっても綺麗
うん、舟でもっともっと、奥の方まで行ってみよう

湖に映る月と星をスマホでぱしゃり
実際に見るのには及ばなくても、見返したら思い出せる
名前?
私の名前は月のこと
お月様が新月と満月を繰り返すように、何度死んでも記憶を継いでまた生まれる
そんな兵器だから、月型って呼ばれてた
ううん、もう培養槽は壊れたから、私もいなくなるはずだったの
晴汰の名前は、どうしてついたの?
いい名前
両親を継いで、光り輝く
晴汰、太陽みたいだもんね

せっかくだから、一枚撮ろう?
スマホのカメラで、ピース
私は笑顔は、できないけど
いい写真がとれたかな?


西塔・晴汰
【晴ル】
撮影するルーナが専念できるように
小舟を漕ぐ

湖に映る月とか星とかって煌めいて見えるっすよね
月に照らされるルーナも…
っと、オッケーもっと奥っすね!

そういやルーナの名前って月っすよね
何か由来ありっすか?

…じゃあ今のルーナも?
もし死んじまってもまた生まれるっすか?

そっすか…
じゃあ一つの命になったっすね
代わりなんてない、たった一つの命っす

オレは母さんが小晴、父さんが巫(タスク)で晴汰っす
晴れ男になるようにっすかね
オレが生まれたの自体奇跡的なモンなんで
前向きな光になるように、なんて意味もあるかもっすけど

写真っすか、いいっすよ!
…大丈夫っす、ちゃんと笑顔できてるっすよ?
オレにはそう見えてるっすから!


 ――ゆら、ゆらと。穏やかに揺れる小舟は、硝子越しに刻んだはじめての記憶を、ルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)の元へと連れてきた。
「……わ、幻想的な景色」
 彼女の居た場所とは違う――けれど、はじめて世界へ触れた時に確かに聞こえた、気泡の囁きが耳をくすぐったような気がして。いつしかルーナは、夢中でスマートフォンのカメラを辺りに向けていたのだった。
「故郷には、こんなのなかったなぁ」
「んー、湖に映る月とか星とかって……煌めいて見えるっすよね」
 気がつけば、こころに浮かべていた言葉がぽろりと零れてしまっていたらしい。何気ない彼女の呟きに、小舟を漕いでいた西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)が、のんびり答えていけば――鏡のような湖面に浮かぶ星が、ゆらゆら揺蕩いながら夜の底へと沈んでいくのが見えた。
「うん、湖面と夜空に挟まれて……とっても綺麗」
「そ、その――月に照らされるルーナも……」
 ぱしゃぱしゃと撮られていく写真の合間、カメラのシャッター音に紛れて、晴汰が何かもごもごと口にしたようだったけれど。がむしゃらに操る彼のオールが、水飛沫を立てた所為でうやむやになってしまう。
「舟でもっともっと、奥の方まで行ってみよう」
「っと、オッケーもっと奥っすね!」
 ――きっと晴汰は、とても優しいのだと思う。ルーナが撮影に専念できるように、こうしてさりげなく舟を漕ぐ役を買って出てくれている。
(「実際に見るのには、及ばなくても――」)
 携帯のメモリーに蓄積されていく画像を見返したら、こんな思い出やぬくもりも、いつかまた思い出せるだろうか。ふと手元のスマートフォンから顔を上げた時、ぽりぽりとくせっ毛を掻く晴汰とルーナの目が合った。
「そういや、ルーナの名前って月っすよね。何か由来ありっすか?」
「……名前?」
 ――それはたぶん、月が満ちては欠けていく様子になぞらえたのだろうと、淡々とした口ぶりで少女は言う。
「お月様が新月と満月を繰り返すように、何度死んでも……記憶を継いで、また生まれる」
 そんな兵器として『造られた』子どもだったから、月型って呼ばれてた――だけど、彼女の生まれた理由も守るべきものも、瓦礫のなかに消えていったのだ、と。
「……じゃあ今のルーナも? もし死んじまっても、また生まれるっすか?」
「ううん、もう培養液は壊れたから」
 ――クローンを造るすべは失われて、自分もいなくなるはずだったのに。今は遠い空の下、こうして晴汰とふたり月を眺めている。
「そっすか……じゃあ、一つの命になったっすね」
「一つの?」
「そう。代わりなんてない、たった一つの命っす」
 そう言って、にかっと笑った晴汰からは、仄かなオレンジの良い香りがした。確か、実家からよく送られてくるなんて話を聞いていたから、何とはなしにルーナも彼に尋ねてみる。
「晴汰の名前は、どうしてついたの?」
「えっと……オレは母さんが小晴、父さんが巫……タスクで、晴汰っす。晴れ男になるようにっすかね」
 オレが生まれたの自体、奇跡的なモンなんで――そんな晴汰の笑顔に刻まれた過去を、ルーナは知る由もなかったけれど、いい名前だなと素直に頷く。
「両親を継いで、光り輝く……晴汰、太陽みたいだもんね」
「前向きな光になるように、なんて意味もあるかもっすけど」
 ――こうして言葉を交わしたことも、ずっと覚えておきたかったから、記念に一枚撮ろうとカメラを向けた。
「……ピース。私は笑顔は、できないけど」
「大丈夫っす、ちゃんと笑顔できてるっすよ?」
 ふたり一緒のフレームに収まりながら、いい写真が撮れるようにとポーズを決める。
「――オレにはそう、見えてるっすから!」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

花澤・まゆ
【月見里美羽(f24139)ちゃんとご一緒に】
美羽ちゃんは仲良しのお友達
二人で浅瀬を歩いてみるよ

星空の中を歩いているみたい
ちょっと怖くなっちゃうね
美羽ちゃんの手を繋いで、ゆっくり星空散歩を

こんな景色を見ていると、悩みも吹き飛ばない?
えへへ、美羽ちゃん、悩んでるって顔してるもん
だから、此処につれてきたんだよ

今は全部忘れて
足元と頭上の星と月に抱かれよう
藍色の世界が煌めいて…ああ、本当に綺麗だね
こんな夜なら終わらなくてもいいのかも

美羽ちゃんの差し出した紅茶を一口
大丈夫、月光に飲み込まれたりしないよ
ただ、今だけは、この夢のような景色の一部になりたいだけ

アドリブ歓迎です


月見里・美羽
【花澤まゆ(f27638)さんとご一緒に】
まゆさんは大事なお友達
こうして誰かと一緒に出かけるのも、初めて

本当に…まるで星の海を歩いているみたいだね
頭上の月と足元の月
どちらが本物の月かわからなくなるよ
まゆさんの手を握って、少しだけ安心して

まゆさんの問いかけにどきっとするんだ
ボク、そんなに感情が顔に出るほうなのかな
悩み事は今は置いておいて
…ああ、確かに此処はとても美しい

耳の奥でメロディが聞こえるんだ
私を月へと連れていって
でもどちらの月へなんだろう
二つの月に挟まれて、ボクは困惑する

でも、夜は明けるから美しいんだよ
持ってきた紅茶のポットから紅茶を差し出して
消えたりしないでね、まゆさん

アドリブ歓迎


 ふたりで浅瀬を歩いてみないかと、そっと差し出された手を取りながら、月見里・美羽(星歌い・f24139)の素足が星の海へと降り立っていく。
(「……こうして誰かと一緒に出かけるのも、初めて」)
 隣で快活に笑う、花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)は、美羽にとって大事なお友達ではあるけれど――どうしても自分から一歩が踏み出せなくて、澄んだ瞳が迷子のように辺りを彷徨っていた。
「星空の中を歩いているみたい。……ちょっと怖くなっちゃうね」
「本当に……まるで、星の海を歩いているみたいだね」
 ――海と繋がっているのだと言う湖は、寄せては返すちいさな波が、微かにふたりの足元を攫っていこうとするけれど。しっかりと繋いだ手と手があるから、茫洋とした海に投げ出されても、恐くないのだと信じられた。
「頭上の月と、足元の月――」
 鏡写しのふたつの月が、銀砂糖のまぶされたような空でひときわ明るく輝いている。遠い昔、アースノイドと呼ばれた人類は、月の平原を海になぞらえたのだと聞いたことがあった。
 ――静かの海、なんて随分とロマンチックで。其処は人類が初めて月に降り立った場所なのだと、美羽は微かな記憶を手繰り寄せて呟く。
「どちらが本物の月か、わからなくなるよ」
「……こんな景色を見ていると、悩みも吹き飛ばない?」
 溢れた吐息は白く凍えていたけれど、ぎゅっと握られた手があたたかくて、安堵して――其処でぽつりと漏らされたまゆの言葉に、美羽の胸がとくりと小さな音を立てる。
「ボク、そんなに感情が顔に出るほうなのかな」
「えへへ、美羽ちゃん、悩んでるって顔してるもん」
 星空よりも明るい、青い空を思わせるまゆの瞳が、きょとんとした顔で此方を見つめている美羽の姿を、まっすぐに映していた。
「だから、此処につれてきたんだよ」
 繋いだ手を決して離さずに、素足が冷たい水を蹴っていく感覚を楽しみながら――ぱしゃりと跳ねた銀の水飛沫の向こうで、弾ける星屑を見つめていよう。
(「……悩み事は、今は置いておいて」)
(「そう、今は全部忘れて、足元と頭上の……星と月に抱かれよう」)
 ――ああ、藍色の世界が煌めく様は、本当に綺麗で。こんな夜なら終わらなくてもいいのかも、と夢みるようにまゆが呟けば、何処か懐かしい旋律を美羽もゆっくりと口ずさんでいく。
「ああ、……確かに此処は、とても美しい」
「美羽ちゃん?」
「耳の奥で、メロディが聞こえるんだ」
 私を月へと連れていって――その一途な恋心は、どちらの月へ向けてのものか。星の海で遊んで、この心を歌で満たして、ずっとずっと私を歌わせて。
 空と湖――ふたつの月に挟まれながら、困惑するように髪を揺らした美羽だったけれど、やがて吹っ切れたように顔を上げて、持ってきたポットから熱い紅茶を注いでいく。
「でも……夜は明けるから、美しいんだろうね」
 空が好きだと言ったから、そのままふわりと月へ羽ばたいていきそうなまゆの元へ、熱い紅茶を差し出してそっと呟く。
「消えたりしないでね、まゆさん」
「……大丈夫、月光に飲み込まれたりしないよ」
 ――だけど。ただ、今だけは。
「この夢のような景色の、一部になりたいだけなんだ」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

揺・かくり
【幽明】
此の目で見映せるものには限りが有れど
此の耳から聴こえるものは数多に存在するのだよ。

青黒い世界に点々と現る粒子の様な光
彼れが星たちかい?
私には正確に捉う事が出来ないのだよ。
なつめ、如何なる景色が拡がっているんだい
私に教えてお呉れよ。

白竜の背へと乗り移ったのならば
己の身の重みを委ねようではないか。
念力にて躯を持ち上げる時とはたがう感覚
とても、不思議な浮遊感を味わって居るのだよ。

茫とする視界の内へと捉うもの
ああ、彼れが月なのだろうね。
なつめ、此の光景は美しいかい?

眼を?ああ、こうかい。
幾万多色は想像し難いのだよ。

君の合図で双眸を開こう
……ああ、此れは、
私にも見映す事が出来る

真に、うつくしいね


唄夜舞・なつめ
【幽明】

…へェ、じゃあ耳は
いーほうなんだなァ?
っておおー!
きれーな星空じゃねェの!
ほら!みろよかくり!!!

そーそー!…ってそうかァ
かくり、目ェわりーって
今言ってたよなァ…
ンし!じゃあもっと
見えやすくなるよーに
もっと上まで連れてってやる!
(そう言いUCで完全竜体へ)
せっかくだァ、上に着くまで
目ェ閉じて想像してみなァ
一面真っ青な夜の海
そこにぽとんぽとんと落とされた幾万多色の宝石たち
真っ暗で何の価値も感じられねぇ宝石たちが突然の光で

ーーー輝く!!

今だ!パッと
目ェ開けてみなァ!!!
ッハハ、どーだ?
ほんの一瞬でも
キレーに見えたかァ?
そー。このでっけーのが『月』

あァ、何だか懐かしくて
超きれーだァ…。


 ――此の目で見映せるものには、限りが有るのだと。仄暗い水面を見下ろしたまま、揺・かくり(うつり・f28103)の指先がそっと、灰色の髪を撫でて頬をなぞる。
「されど……此の耳から聴こえるものは、数多に存在するのだよ」
「……へェ、じゃあ耳はいーほうなんだなァ?」
 月の光を浴びて銀色に輝いていく、その魂緒の如き御髪に手を伸ばしながら――にやりと白い牙を覗かせたのは、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)で。
 確か彼女は殭屍と呼ばれるあやかしであったから、生者の息づかいを辿って、月のない夜でも此方の居場所など、たちどころに突き止めてしまうのだろう。
「って、おおー! きれーな星空じゃねェの! ほら!みろよ、かくり!!!」
 微かな葉擦れの音と、鳥たちの羽ばたきを背に浅瀬のほうへと向かっていけば――遠い空から湖の奥深くにかけて、銀色の川がゆっくりと横たわっていて。夜の闇を仄かに照らす、その静かなひかりを微かに捉えたのか、かくりの手がぎこちなく伸ばされていった。
「青黒い世界に点々と現る、粒子の様な光……彼れが星たちかい?」
「そーそー! ……ってそうかァ、」
 そんな彼女の蒼褪めた肌と、何処か虚ろな瞳にちらりと目を遣ったなつめは、つい先ほどの会話を思い出して曖昧な表情で肩を落としたようだ。
「かくり、目ェわりーって、今言ってたよなァ……」
「ああ、私には……正確に捉う事が出来ないのだよ」
 ――なつめ、と相手の名を呼ぶ声と共に、彼女の指先で瞬いた星が、迷子のように思えて切なくなる。
「如何なる景色が拡がっているんだい、……私に教えてお呉れよ」
「……ンし!」
 直後、何かを思いついたらしいなつめが、一気に神力を解放して完全な姿へと変わっていった。白い鱗が肌を覆い、龍の角は真夏の雷を纏って――それでも、変わらぬ琥珀の瞳がかくりを不敵に見つめると、とぐろを巻く長い背に彼女を誘う。
「じゃあ、もっと見えやすくなるよーに……もっと上まで連れてってやる!」
 神々しい白竜に変化したなつめの元へと乗り移り、己の身の重みを委ねる感覚は、いつも念力で躯を持ち上げるのとは違い、不思議な浮遊感があった。
(「儘ならぬ手足は同じ、だけれど――」)
「せっかくだァ、上に着くまで、目ェ閉じて想像してみなァ」
 ぐんぐんと、天へ昇っていく――自分を連れていってくれる誰かの存在が、くすぐったくも頼もしいような気がして、肌を突き刺す冷たい風も心地良く思える。
(「茫とする、視界の内へと捉うもの――ああ、彼れが」)
 そんな霞がかった世界のなか、確かな光を捉えたかくりの瞳が瞬いていけば、優しい夏雨が雲のない空へと降り注いでいった。
「月、なのだろうね。……なつめ、此の光景は美しいかい?」
「あァ、一面真っ青な夜の海だ」
 そこに、ぽとんぽとんと落とされた、幾万多色の宝石たちがあるのだと彼は言う。真っ暗で、何の価値も感じられない宝石たち――それが突然の光を受けて、
「――輝く!! 今だ! パッと目ェ、開けてみなァ!!!」
「眼を? ああ、こうかい――」
 幾万多色は想像し難いのだと呟きながら、なつめの合図とともにかくりが瞼を開けば、眩い稲光が奔って辺りを真昼のように照らしていた。
「……ああ、此れは、私にも見映す事が出来る」
「ッハハ、どーだ? ほんの一瞬でも、キレーに見えたかァ?」
 ――白竜の角が示す先、夜空にひと際輝いている、でっけーのが『月』だとからから笑う彼へ、そっと身体を預けながら。かくりが零した吐息は、やがて湖と溶け合い、ゆっくりとひとつになっていくのだろう。
「……真に、うつくしいね」
「あァ、何だか懐かしくて、超きれーだァ……」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

百鳥・円
【揺籃】
なんともキレーな光景ですねえ
偽りじゃあない水辺で眺めるおじょーさんは初めてでしょーか
とても様になっていると言うか
いいですねえ
はしゃいで転んじゃあダメですよっと

星の空を溶かしたよーな空なんて
夢の中以外にも本当に存在するんですね
張り詰めたよーな水面をぱしゃんっとしたくなります
爪先を浸して遊びましょーか

おじょーさんは水の精霊さんなのでしたね
水に浸かったら溶けて消えちゃったりしませんか?
とろけてしまったら……そーですねえ、
水の中のおじょーさんを探しに底まで行けそうですん

んふふ。なあんて
おじょーさんはちゃあんと目の前にいましたね
このうつくしい景色ごとぎゅううっと
あなたを抱きしめてしまいましょうか


ティア・メル
【揺籃】

わわっ!見て見て、円ちゃん
すっごーく綺麗だよっ
くるくると踊っちゃう!
うん、こんなに素敵な光景は初めてかも
月も大きいね
あう!大丈夫、気を付けるよん

んふふ、夢みたいに綺麗だよね
円ちゃんと見てるからこんなにはっぴぃなんだろうな
浸した指先から水面の波紋が広がって
えへへへー冷たくて気持ちいね

んーん、消えないよ
円ちゃんと一緒に居るもん
もしぼくが蕩けたらどうする?
にゃはは
探しに来てくれるの?嬉しいな
蕩けそうな時は円ちゃんを引き摺り込んでいーい?
水底まで、その先も、一緒に居てほしいんだよ

なんてねっ
だいすきな温もりにひたる
円ちゃんも此処にいるよ
夢の中に溶けてしまわないように
ぎゅーっと抱き締め返そう


「わわっ! 見て見て、円ちゃん」
「うんうん。なんとも、キレーな光景ですねえ」
 月夜の湖へと駆け出していく、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)の足元で星屑が跳ねた。すっごーく綺麗だよと、はしゃぐ彼女に手を振りながら――空に浮かぶ砂糖菓子を指折り数えて、百鳥・円(華回帰・f10932)が笑う。
(「偽りじゃあない水辺で、眺めるおじょーさんは初めてでしょーか」)
 ――くるくると無邪気に踊るティアに合わせて、夜空へ散っていくちいさな水飛沫は真珠のよう。確か、人魚が零した涙なんて言い伝えもあったのだったか。
「とても様になっていると言うか、……いいですねえ」
 はしゃいで転んじゃあダメですよっと、狐の耳を揺らして円が声を掛ければ、「あう!」と可愛らしい答えが返ってきた。
 深海に生まれた泡がいのちを持った、うつくしき水の精霊が歌うのは、魂を惑わす甘美な調べであると言うけれど――混ざりものの娘が求める夢を、彼女ならば連れてきてくれるのかも知れない。
「……星の空を溶かしたよーな空なんて、夢の中以外にも本当に存在するんですね」
 張り詰めて、澄ましたように星空を映している水面を、ぱしゃんっと叩きたくなって翼を広げた。それでも踊るティアの邪魔をしたくなかったから、そろそろと爪先を浸して水に触れると、じぃんと痺れるような冷たさが円を包み込んでいく。
「うん、こんなに素敵な光景は初めてかも。……月も大きいね」
 ふと、しずくを滴らせながら伸ばされた手が、円の視線の向こう――ぽっかりと浮かぶ銀の月を指さした。
「んふふ、夢みたいに綺麗だよね」
 その白い肌は、月光に透けるように儚く見えて。なのに、桜色の唇は「円ちゃんと見てるから、こんなにはっぴぃなんだろうな」なんて――蕩けるような言葉を囁くものだから。
「……おじょーさんは、水の精霊さんなのでしたね。水に浸かったら、溶けて消えちゃったりしませんか?」
 ほっそりしたティアの手を取ったまま、彼女とふたりで戯れに湖の中へと身体を沈めていけば、透き通った水面にきらきらと長い髪が揺れて月光を弾く。
「んーん、消えないよ。円ちゃんと一緒に居るもん」
 えへへーと、浸した指先から生まれていく波紋を愉しそうに見つめながら、思わせぶりな表情で囁いたのはティアだった。
「……もし、ぼくが蕩けたらどうする?」
「とろけてしまったら……そーですねえ、」
 ちゃぷ、ちゃぷと耳朶を震わす水の音に、何処か心地よさそうに目を細めて円が頷く。いとおしい相手の輪郭を確かめるみたいに、伸ばした指が唇をなぞって、くすりと笑う。
「水の中のおじょーさんを探しに、底まで行けそうですん」
「にゃはは、探しに来てくれるの? 嬉しいな」
「……なあんて。おじょーさんはちゃあんと、目の前にいましたね」
「んー? じゃあ、ね――」
 ――そのままそっと水の中に顔をつけて、気泡越しに囁いたティアのことばは、果たして円に届いていたのだろうか。
(「蕩けそうな時は、円ちゃんを引き摺り込んでいーい?」)
 水底まで、その先も――ずっと、ずっと。
(「一緒に、居てほしいんだよ」)
 なんて――悪戯っぽく微笑みながら、だいすきな温もりにひたるように。うつくしい景色ごと抱きしめてしまおうと伸ばされた手のなかで、ティアもうっとりと微睡んでいくのだ。
(「ねえ、円ちゃんも、此処に居るよ」)
 ――だから、夢の中に溶けてしまわないように。ぎゅっと、ぎゅーっと。
(「抱きしめ返していくから、ね」)
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

砂羽風・きよ
【菊】

おー、月めっちゃ綺麗だな

ん、舟に乗って月を眺めんのもいいな
写メか、いいじゃん

よっしゃ、俺が漕いでやるから理玖は写メ任せた!
お、そんじゃ、帰りは任せた

下にも月が反射して、めっちゃ綺麗
この下の月も映すように撮るんだよな?

舟を良い感じの場所まで漕いで
――とれたか?

俺にも見せてくれよ
お、いい感じに取れてんじゃん

確かに。でも思い出に残るからいいんじゃね?

たまにはこんな静かな場所でゆっくり星を眺めんのも楽しいな
理玖は月、好きか?

そっか、俺も嫌いじゃない
ひっそり見守ってくれてるというかそんな感じが好きかね

理玖、もしかしたらうさぎが餅突いてるかもしれねぇぞ
なんて冗談を

はは、あったかい飲みもんならあるぜ


陽向・理玖
【菊】

おーすげぇわ、やべぇ
写メ撮りてぇ
舟の上から何もないとこでさ
えっマジで?
…帰りは俺が漕ぐよ
(ほんとは漕いでみたい)
嬉しげに頷き
だな、思った通りだぜ
湖面と空見比べ
おお!
…けど俺のスマホでいけるかな…
空や湖面に写る月撮ったりし
何度か首を傾げつつ写し

うんまぁまぁかも
満足げに頷き
…だろ?
でもやっぱ直接見た方が綺麗だわ

そっか
納得した様に

そうだな
静まり返ってちょっと怖い位だけど
でもいいな
都会と違ってよく見える
まぁ有名な星しか分かんねぇけど

うーん改めて考えた事なかったかも
でも今年は月見もしたし
…好きなのかな?

でも見守ってくれてるか
何か分かる気がする

吹き出し
やめてくれよ餅とか
腹減るじゃん

やったさすが兄さん


 おー、おーと視界を埋め尽くす星の海に、ふたりぶんの吐息が重なって、ちいさな波紋を生んだ。
「月、めっちゃ綺麗だな」
「すげぇわ、やべぇ……写メ撮りてぇ」
 どこかの街角で交わされるような、何気ない会話とともに「よっしゃ」と握り拳を作って――おもむろに舟のオールを構えたのはきよし、ではなく砂羽風・きよ(ナマケきよし・f21482)だ。
「舟に乗って、月を眺めんのもいいな。……なら俺が漕いでやるから、理玖は写メ任せた!」
「えっマジで? うん、舟の上から何もないとこで――と、」
 桟橋の上から、あれよあれよと言う間に小舟へと乗せられていった、陽向・理玖(夏疾風・f22773)の向かい側では、早速きよが櫂を手にして陸に別れを告げようとしている。
「……帰りは、俺が漕ぐよ」
「お、そんじゃ、帰りは任せた」
 ぐんぐんと離れていく岸辺を眺めながら、ほんとは漕いでみたかった――なんて、どうしても理玖は口に出来なくて。それでも滑るように進んでいく舟の周りで、夜空の星がゆっくりと広がっていく光景に笑顔が溢れた。
「……下にも月が反射して、めっちゃ綺麗」
「だな、思った通りだぜ」
 そっと湖のほうへ身を乗り出した理玖が、仄青く光る湖面と遠い星空を見比べている間にも、きよは上手くバランスを取りながら、良い感じの場所まで導いてくれている。
「おお! ここら辺り良い感じかも」
「この下の月も映すように撮るんだよな?」
「……けど、俺のスマホでいけるかな……」
 いつも使っている、濃紫のスマートフォンのレンズを辺りに向けつつ――首を傾げる理玖の手元で瞬くフラッシュを、何度か見守った後できよが訊ねた。
「――とれたか?」
「うーん……うん、まぁまぁかも」
「俺にも見せてくれよ、……お、」
 画像フォルダに保存されていった写真を、次々にスワイプしていく理玖の隣で、おおっときよが身を乗り出して歓声をあげる。
「いい感じに取れてんじゃん」
「……だろ? でも、やっぱ直接見た方が綺麗だわ」
「確かに。だけど――」
 ――写真から指を離した時。ちらりと見えた待ち受け画像には、こちらに下手くそな笑顔を向けた、少しあどけない理玖の姿があったような気がしたから。
「思い出に残るから、いいんじゃね?」
「……そっか」
 満足げに頷き、納得した様子でスマホを仕舞った理玖を眺めた後で、きよもオールを漕ぐのを休めてごろりと寝そべった。
「たまには、こんな静かな場所でゆっくり星を眺めんのも、楽しいな」
「そうだな……静まり返って、ちょっと怖い位だけど」
 でも、都会と違って星がよく見えるのだと。そう呟いた理玖だったが、有名な星ぐらいしか分からないと続けてちいさく笑う。
「なぁ、……理玖は月、好きか?」
「うーん、改めて考えた事なかったかも。でも、今年は月見もしたし」
 好きなのかな? と首を傾げた彼の様子に、「そっか」と頷いたきよの指先が、月を指し示してゆらゆらと揺れ動いていた。
「俺も嫌いじゃない。ひっそり見守ってくれてるというか……そんな感じが好きかね」
「でも、見守ってくれてるか。何か分かる気がする」
「……なぁ理玖、もしかしたらうさぎが餅突いてるかもしれねぇぞ」
 だけど――ほんのちょっぴり、しんみりしてきた空気を吹き飛ばすように。直後、悪戯っぽく囁いたきよの言葉に、吹き出した理玖の笑い声が続いて小舟が揺れた。
「やめてくれよ餅とか、腹減るじゃん!」
「はは、あったかい飲みもんならあるぜ」
「やった! さすが兄さん」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

頭上の月を仰ぐ
この上なく美しい月だね
見事だ

サヨのチョコ?
満月のようなそれを食べれば蕩ける甘さに瞬く
とても美味しいよ
食べたかったんだ

とける満月に重なる
私の月は永遠に満ちたまま
きみの月だけ欠けていく

サヨ
手をとり手の平に接吻を
抱きとめられた桜の馨の中
きみの熱を感じ瞳を閉じる
暖かいね

私も楽しくて幸せだ
サヨと過ごす時間は何よりも尊い

願ってはいけないことなのに消えない願いがある

(ずっとそばにいて
散ることなく永遠に
なんて

親友、巫女
約を縁を結んだいとしいきみ
あとどれだけ結び縛ったなら)

行こうか
君と共にならば何処までも
今度は私が漕ぐよ

サヨ
月が綺麗だね

…心にもあらでうき世にながらへば
恋しかるべき夜半の月かな


誘名・櫻宵
🌸神櫻

あなたと月を見上げるのは
生まれるずっと前からの習慣で特別

カムイ!
とびきりの月を魅せてあげる
漕ぎ出す湖上に丸い月
月鏡の上を揺蕩う様でしょう
喜ぶ親友…私の神の姿が嬉しいわ

カムイ
あなたの為にチョコを作ってきたの
満月のチョコを召し上がれ
あなただけの月
お口にあうかしら

切なげなあなたの頬を撫でる
そんな顔しないで
掌に触れた唇が擽ったくて
伝わる想いがいとおしい
抱きしめ背を撫でる

暖かいわ
寒さも忘れてしまう

あなたと過ごす一時は
奇跡のように楽しいわ

私の優しい神様
世界に願えぬならば私に願って

少し先まで行ってみましょ
上手に漕げるかしら!

ずっと一緒にみていてくれる?

…秋の夜の月の光はきよけれど
人の心の隈は照らさず


 一体どれ位――こうして空へ月が昇って、誰かとともに夜を過ごしたのだろう。もしかしたら其れは、自分の生まれるずっと前から続いていた特別な慣わしであり、仰いだ空の彼方に、降りしきる桜のまぼろしが見えたような気がした。
「この上なく美しい月だね、見事だ――」
「ええ、月鏡の上を揺蕩う様でしょう」
 漕ぎ出した舟にゆっくりと揺られながら、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が、静かな湖の上で綻ぶように笑う。とびきりの月を、魅せてあげる――そんな風に囁いて、朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)の手を取り沖へと誘えば、天と地の狭間でふたつの月がじっと此方を覗き込んでいるのが見えた。
「あなたと月を見上げ――ううん、これは見下ろしているのかしらね」
 銀の星々が湖上で瞬く、そのもっと奥底に沈む丸い月へ、カムイは興味深そうに手を伸ばそうとしているらしい。その桜色の瞳に散った朱砂の煌めきに、喜ぶ彼の意思を感じ取って、櫻宵の角にちいさな花が蕾をつけていった。
(「……私の、神」)
 カムイ、と――親友の名を呼んで、満月のようにまぁるいチョコレートを指先でつまむ。
「あなたの為に作ってきたの。あなただけの月を、召し上がれ」
「サヨのチョコ?」
 お口にあうかしらと、恥じらうように身を捩った櫻宵の指が、そっと彼の唇を撫でていくなかで、ほろりと甘美な塊が砕けてカムイが瞬きをした。
「――これ、は。とても、」
 蜜のように蕩けていくその菓子は、いつか手渡した柘榴の実よりも甘くて、指先に零れたしずくまでもが名残惜しく思える。
「美味しいよ、食べたかったんだ」
 そう――こんな風にとける満月にふたりを重ねて、無慈悲な時間をどうにかしようとしても、指をなぞっていく己の舌はただ虚しいだけ。
「私の月は永遠に満ちたまま、……なのに」
「カムイ、そんな顔しないで」
 切なげな貌をした彼の頬を、少し冷たい櫻宵の手が撫でていくなか、其処へぬくもりを与えたくて唇を落とした。
「きみの月だけ欠けていく――サヨ、」
 ――恭しく手をとって、その掌に接吻を。厄斬硃赫神の神威、巡り廻る縁のちからを息吹にこめて、優しい桜の馨のなかで瞳を閉じる。
「暖かいね」
「……ええ、暖かいわ。寒さも忘れてしまう」
 掌に触れた唇が擽ったくて、其処から伝わるカムイの想いがいとおしかった。そのまま、己を抱きしめ背を撫でていく櫻宵の、確かな熱を感じていくと――ふたりは天を巡る星々の元、ゆったりと穏やかな時間を過ごしていく。
「あなたと過ごす一時は、奇跡のように楽しいわ」
「ああ、私も楽しくて幸せだ。サヨと過ごす時間は何よりも尊い」
 ――だから、願ってはいけないのに。消えない願いがカムイの胸の奥で燻って、鬼灯みたいな目をした蛇が、禁忌など踏み越えてしまえと唆すのだ。
(「ずっとそばにいて、散ることなく永遠に――なんて」)
 親友、巫女――約を縁を結んだ、いとしいきみ。あとどれだけ結び縛ったなら、きみに相応しい神で居られるのだろう。
「行こうか、君と共にならば何処までも」
「そうね、もう少し先まで行ってみましょ!」
 今度は私が漕ぐよ、と告げて櫂を握れば、弾んだ櫻宵の声が彼の背中を押してくれた。
「サヨ、……月が綺麗だね」
 ――心にも、あらでうき世にながらへば、恋しかるべき夜半の月かな。
「ずっと一緒に、みていてくれる?」
 ――秋の夜の、月の光はきよけれど、人の心の隈は照らさず。だから私の優しい神様、どうか。
(「……世界に願えぬならば、私に願って」)
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

尭海・有珠
レン(f00719)と

星巡りがまたひとつ
月、大丈夫か?と心配を寄せつつ
どこまでも広がる星空がやがて精神を蝕むものとはいえ
今しばらくこの美しさを堪能したい…星の中に踏み出したい

行こう、とレンの手を引き浅瀬へ
私は手を離す気はまるでなかったから、
引き摺り込む妖のようでもあるな、とかすかに苦笑い

(終わらない夜が苦しかったこともあった
 終わらなければいいと思った夜もあった)
今は、レンと繋いだ手のぬくもりを感じるから
夜は、越えていければいいと、何となくそう思っている
それだけぽつりと零し。

レンの呟きを耳に留めて
愛の言葉も伝え方も色々なものがあるんだな
繋いだ手のぬくもりに、ただただ私はほっこりしてしまうんだ


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

満月ではには隠せない狼耳と尻尾
キミになら見せてもイイや

星巡り、またひとつ
何処までも広がる綺麗な景色に目を細め
手のぬくもりが嬉しくて頬を欠く
満月にこんな穏やかなのは初めてだ
正直月は怖い
病の衝動も有るけど

――有珠と握った手があるから、大丈夫

ゆるり浅瀬を歩く
その…手、離したくないし
イイよ、有珠なら引き摺り込んでも、なんて

綺麗な湖に小さな波紋を立てながらゆったり
早く終れと願った月夜が終わらないでなんて不思議な感覚
ん、越えて行けば良いんだよね
一緒に、越えてくれる?

――月が綺麗ですね、か
何でもないよって首を振る
そんな伝え方も悪くないけど
手の中のぬくもりが優しいから
今は此れでイイやって


 満ちていく月がこころを狂わせるのは、巡る血潮が引き寄せられていくから――なんて話を、何かの本で目にしたことがある。
「月、大丈夫か?」
 だけど――飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)を蝕む月の病は、生命を脅かし肉体までをも変異させてしまう恐るべきものだった。
「大丈夫、キミになら見せてもイイや」
「……そうか」
 頭上で輝く月と、湖面に映る月に挟まれて、真夜中だと言うのに周囲は酷く明るい。レン、とその名を呼ぶ尭海・有珠(殲蒼・f06286)にくしゃりと頷いて、漆黒の狼の尾が影法師のように踊った。
「星巡りが、またひとつ――」
「うん。何処までも広がる、綺麗な景色だ」
 そう言って微かに細めた煉月の瞳も、獣みたいに鋭く尖って有珠を映している。月が満ちる日、決まって姿を消す彼はたぶん、内なる衝動と必死に戦っているのだろう――それでも今しばらくは煉月とともに、この美しさを堪能したかった。
 ――この星空がやがて、精神を阻むものになろうとも。星の中に、踏み出したかったのだ。
「行こう」
 不安に思ったのは一瞬で、有珠の手が力強く煉月の手を引いていくと、ふたりの影が湖面に映って星々と溶け合っていった。
(「ああ、こんなに穏やかな夜は初めてだ」)
 蒼く深い、有珠の瞳が目指す先――浅瀬の向こうへ彼を誘っていく様は、まるで獲物を引き摺り込む妖のようだと苦笑いをするも、その手のぬくもりが嬉しくて頬を掻いた。
(「……正直、月は怖い。でも」)
 ――手を離す気など、まるでないと言うような、有珠の手が頼もしかったから。ゆるり浅瀬を歩きながら、鏡のような湖面をぱしゃりと蹴って煉月が笑う。
「イイよ、有珠なら引き摺り込んでも」
「いいのか?」
「その……手、離したくないし」
 ちょっぴり眠そうな顔つきのまま、じぃっと此方を覗き込んでくる有珠の姿を、まっすぐに見ることが出来なくなってそっぽを向いた。
「――有珠と握った手があるから、大丈夫」
 どくどくと煉月の胸を満たす病の衝動が、熱い血を啜りたいのだと彼に訴えても。綺麗な湖に立てるちいさな波紋が、火照った身体をひんやりと冷ましてくれるような気がして心地良い。
「何か、早く終れと願った月夜が……終わらないで、なんて、不思議な感覚」
「私も、ああ……終わらない夜が、苦しかったこともあった」
 ふたり並んで、手は握りしめたまま――落ちてきそうな星空を見上げ、吐息を漏らした。
「終わらなければいいと、思った夜もあった……でも、」
 ――今は、レンと繋いだ手のぬくもりを感じるから。ぽつりと零した有珠の頭上で、ちいさな星が流れて湖面を弾けば、青の境界が揺れて世界が交わる。
「夜は、越えていければいいと、……何となくそう思っている」
「……ん、越えて行けば良いんだよね。一緒に、越えてくれる?」
 月が、綺麗ですね――遠まわしの愛のことばを、微かに口ずさむ煉月に首を傾げ、存外柔らかな声音で応えたのは有珠だった。
「愛の言葉も伝え方も、色々なものがあるんだな」
「そんな伝え方も悪くないけど、でも」
 何でもないよとかぶりを振って、繋いだ手にぎゅっと力を籠めていく。そのぬくもりにただただ、ほっこりとしてしまう有珠へ向けて、優しいけものが狼の尾を揺らして呟いた。
「今は此れで――イイや、って」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

猫希・みい
黎くん(f30331)と一緒に

大好きな神様を独り占めするような感覚
綺麗な景色にも霞む事ない美しさを抱く神様
ふふ、うん
木の上で見よっか
繋いだ手を頼りにふわりと空へ浮かぶ
示されたのは世界一安心する腕の中
甘やかされてるとわかりつつ素直に体を預けて

湖面に映る月が風に揺れる
大好きな人が月の神様だから
やっぱり月は特別
耳に届いた声にくすりと肩を揺らして
何かに喩えないと落ち着かないくらいの気持ちがあるんだよ、きっと

っい、いま!
黎くん…今…!
神様の世界では意味が違うのかな?
ぎゅっと回された腕を抱きしめて
小さな声で甘く零す

―――月がずっと綺麗です

わ、私も嘘を吐いたりしないからね!
だから黎くんの好きにとらえて?


月詠・黎
みい(f29430)と共に

紡ぐは愛し猫の前だけの素の音
俺達は森に縁があるからな
場所は樹の上でどうだ?
心配は要らんと手を攫い
確りと繋いだなら空中浮遊で誘おう
太い枝の上、特等席だと自身の膝を示し
囲い、攫い腕の中

映るのは満ちた月
鏡の様な湖面の月と鏤められた星も映して
然し、月で愛を語るとは人間も面白いことをするな
いとしそうな音に成るのは
自身も愛し猫に同じ想いを抱くからだろうか

お前の傍
唇さえ触れてしまいそうな零で紡ぐ
みい、
――月が綺麗だな

好きに捉えると佳い
俺がお前に紡ぐ言の葉はいつも本心だがな
――噫、俺も好きに貰って之くとも
お前の蜜なる想いを

世界からも秘する様に
月彩で花びらだけ舞わせて
空の月にさえ教えぬ


 ひと払いのされた綺麗な湖は、清澄な気配を湛えて猫希・みい(放浪猫奇譚・f29430)たちを出迎えてくれた。両手を一杯に広げても、抱えきれないほどの星が瞬く空の下、魔法で生やした彼女の猫耳がぴょこりと揺れる。
「わわ、見てみて、黎くん!」
 愛らしくくるくると動く、その色違いの瞳に映し出されたものは――うつくしい景色にも霞むことのない、みいの大好きな神様の姿だった。
「ああ、今宵は満月か。共に過ごすのなら、そうだな……樹の上でどうだ?」
「ふふ、うんっ」
 ――俺達は、森に縁があるからな、と。囁く月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)と彼女が初めて出会ったのも、深碧に抱かれた古い社であったから、巡る月日を数える指がいとおしくて、その手を攫った。
「黎くん――でも、ちょっと樹に登るのは大変かも」
「何、心配は要らん」
 湖を囲む、黒々とした木々を恐る恐る見上げているみいに、大丈夫なのだと頷いた黎は――そのまま確り彼女と手を繋いで、ふわり星屑の空へと舞い上がっていく。
「わ、ぁ――……!」
 不思議な浮遊感を覚えて、咄嗟に目を瞑ってしまったものの、ゆっくりと瞼を開けば優しい月の瞳がみいを見守ってくれていた。
(「何だか、くすぐったいな。……大好きな神様を、独り占めしているみたいで」)
 月の光を受け、艶やかに輝く射干玉の髪も神々しいばかりだと言うのに――月詠の神が紡ぐことばは、愛しい猫だけに向けられた、素の音となって響いていくのだから頬が緩む。
(「うう、甘やかされてるかも」)
 ――ささやかな夜間飛行を楽しんでから、ふたり一緒に大樹の枝に腰を降ろそうとするも、黎が示した『特等席』にとくり、と胸が高鳴った。
「ほら、――みい?」
 おいで、と自身の膝へ手招きをして、世界一安心する腕のなかに抱きしめてくれるから、みいも素直に身体を預けたまま深呼吸をする。
(「やっぱり、月は特別」)
 大好きな人が月の神様だから、湖面に映る月が風に揺れる様にも、みいは目を奪われてしまう。ああ――冬の寒さも厳しくなっていく頃だと言うのに、樹上は不思議と穏やかで、さらさらとそよぐ葉が御簾のようにふたりを守ってくれていた。
「然し、月で愛を語るとは……人間も面白いことをするな」
「それは――何かに喩えないと、落ち着かないくらいの気持ちがあるんだよ、きっと」
 囲い、攫った腕の中――耳に届いた黎の声に、くすりと肩を揺らして応えるのは、こんな月夜に交わされた愛のことばについて。
 愛している、なんて真っ直ぐに伝えられない誰かが、こんな綺麗な景色に想いを託して囁いたもの。
「みい、――月が綺麗だな」
 映るのは満ちた月であり、その鏡の様な湖面の月と鏤められた星のもと、唇さえ触れてしまいそうな零の距離で、柔い黎の吐息がみいの其れと溶け合っていく。
(「っい、いま!」)
 猫の耳をぴくりと震わせて、彼のいとしそうな声にぎゅっと背筋を反らせつつも――回されたその腕へ、そろそろと緩めた指を伸ばしていった。
「黎くん……今……! 神様の世界では、意味が違うのかな?」
「好きに捉えると佳い。……俺がお前に紡ぐ言の葉は、いつも本心だがな」
 ちいさな声で甘く零して、小指に絡まる赤い糸に瞬きを繰り返すみいだったが、やはり年長者の余裕か、さらりと切り返す黎である。
「わ、私も嘘を吐いたりしないからね! だから黎くんの好きにとらえて?」
「――噫、俺も好きに貰って之くとも」
 その蜜なる想いを。世界からも秘する様に、月彩で花びらだけ舞わせて――空の月にさえ教えぬ、と黎が囁けば。降り注ぐ月下美人の雨のなか、みいの櫻椛がぱっと花開いて、消えぬ想いを大好きな神様のもとへと届けていったのだった。

「―――月がずっと、綺麗です」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

コッペリウス・ソムヌス
月夜の湖畔でひと時を、
良いねぇロマンチックだねぇ
一応眠りの神としては、綺麗な夜は好きだよ
……だからこそ
いずれは朝になる夜が人間には必要だろうから
事件解決の為にも頑張ろうねぇ

オレは舟を漕いで湖へと向かおう
月は光の反射で輝くと言うし、
水鏡は星たちの光を映しているし
ずっと暗いだけの夜なら
こういう景色にはならないんだろうなぁ
此処には居ない相方に、
お裾分けのため写真をパシャリ
……ふふ、一緒に眺められるのが一番だろうけど
叶わないならオレが覚えておこう、と

アドリブやアレンジ歓迎です


 ――月夜の湖畔でひと時を。そんな触れ込みで舞い込んだ依頼に、星のような瞳を煌めかせたのはコッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)だった。
「良いねぇ、ロマンチックだねぇ」
 ふわりと湖に舞い降りた彼の姿は、そんな絶景に魅せられた若者のひとりに見えたけれど――櫂を取ったコッペリウスの傍で、じぃっと虚空を見つめていた猫が不意に欠伸をする。
「一応眠りの神としては、綺麗な夜は好きだよ。……だからこそ」
 直後――桟橋の隅で、すやすや寝息を立てていく猫へさらりと手を振って、砂色髪をした若者は小舟に飛び乗り、そっと岸辺を離れていったのだった。
「いずれは朝になる夜が、人間には……生命あるものには、必要だろうから」
 事件解決の為にも頑張ろうねぇ、とマイペースに呟きながら、傍らに置いたランプを撫でて空を仰ぐ。黄昏色を思わせる、あたたかなその灯りに照らされながら――コッペリウスを取り巻く水鏡は、星たちの光を映して静かな煌めきを放っていた。
「……ずっと暗いだけの夜なら、こういう景色にはならないんだろうなぁ」
 ――一際大きな夜空の月は、太陽の光を受けて輝いているのだと言う。自らのちからでは輝けなくても、月はこうして夜に寄り添っていて、奇跡のような光景をひとびとに見せてくれる。
(「そう……今もこうして影のなか、『あいつ』は確かに、此処に居る」)
 舟にゆらゆらと伸びている、己の影法師へ目を遣りつつも、カメラを手にしたコッペリウスがパシャリとシャッターを切った。
「だから、お裾分けだ」
 ――ふたつで一柱。そんな謂れのある遠い世界の神は、虹色の砂を星屑の海に溶かしながら、眠れぬ夜の夢物語をゆっくり紡いでいく。
「……ふふ、一緒に眺められるのが一番だろうけど」
 だけど、叶わないなら――このオレが、覚えておこう。
大成功 🔵🔵🔵

杜鬼・クロウ
【蜜約】アドリブ◎
羅刹女からエリシャへと呼称変化
自分のみの特別な呼称から絶つ

次に逢ったら
伝えると決めていた
例え其れが届かなくとも

(想い通じる迄
振り向く迄
諦めたコトがなかった俺は
この感情を゛ちゃんと゛昇華出来るだろうか
最悪、また…か)

夜の湖へ誘う
舟に乗り暫く景色堪能

前に硝子の世界で天の川の桜を見たの覚えてるか?
今度は本物の星を羅刹女に見せたくてよ
楽しそうで何よりだ

…今日誘ったのは、もう分かってるよな

お前のことが好きだ
俺が、埋めたかった
お前の慾も
全部
欲しかった

あァ、知ってた
エリシャの視線の先に
俺はいねェ

俺の中で整理がつくまでは
お前とは会わない
会えない
でねェと…(声震え
ずっとお前を追っちまう

本当は、


千桜・エリシャ
【蜜約】
地上にもこんな景色があるなんて!
舟に揺られはしゃぎ
天にも地にも星が瞬いて
ふふ、本当
まるであの宙の桜の川のよう
勿論、憶えていましてよ
(あなたとの思い出はどれも宝物だから
…けれども)

…わからない、と言ったら嘘になるかしら
彼の告白を目を逸らさず耳を傾ける
すべて知っていましたわ
…本当はね
私は慾深いから
あなただって慾しいわ
けれどあなたはそれを望んでいないでしょう
それは“あなただけの私”ではないから
それにいつか
私はあなたの枷になる
(正道を歩む男に悪鬼たる外道は邪魔なだけ
あなたがいくら否定しても
必ず訪れる未来だから)

いいの
これは自業自得よ
(待っているとは言わない
それはただの我儘だとわかっているから)


 ――痺れるように冷たい水面が、白く凍っていくのよりも早く。降り注ぐ月の光が湖にそっと溶けていくと、ちいさな舟が星屑を掻き分けて、凪の世界をゆっくりと進んでいった。
「……地上にも、こんな景色があるなんて!」
 冬の足音もとうに聞こえてきた頃だと言うのに、蒼い夜空のもと咲き誇る桜は、うつくしき鬼姫の姿を取って艶やかに微笑んでいる。
「そうだ……前に、硝子の世界で天の川の桜を見たの覚えてるか?」
 手を伸ばした、彼女――千桜・エリシャ(春宵・f02565)の衣から覗く肌は、陽を知らぬように白く透き通っていて、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の瞳がわずかに眇められた。
「ふふ、本当。まるであの宙の桜の川のよう」
「……今度は本物の星を、羅刹女に見せたくてよ」
 ――いつかふたりで出かけた日のことを、何処か懐かしそうに振り返りながら。クロウの視線がすっと湖面の月に向けられて、やがてそろりと伏せられる。
「勿論、憶えていましてよ」
「はは、楽しそうで何よりだ――」
 無邪気に舟に揺られて、はしゃぐエリシャの指先をくすぐるように、豊かに波打っていくのは桜色の髪。枝垂れ桜のように広がっていくそれを、夢みるような星たちが彩っていけば、またひとつ思い出が生まれていくのだろう。
 ああ――天にも地にも、瞬くひかりは宝箱に眠る硝子玉のようで、ずっと閉じ込めておきたくなるような気持ちになったけれど。
「……今日誘ったのは、もう分かってるよな」
 次にエリシャと逢ったのなら、伝えるのだと決めていた。例え其れが届かなくとも、想いを昇華するのだと覚悟して、クロウは彼女を夜の湖へと誘ったのだ。
「わからない……と言ったら、嘘になるかしら」
 はぐらかすように首を傾げたエリシャだったが、その相貌は、彼の告白から目を逸らしはしないのだと訴えているようで。
「お前のことが好きだ。俺が、埋めたかった。……お前の慾も、全部、」
 欲しかった――白い吐息とともに吐き出したクロウの想いを、全て受け止めるように瞼を閉じてから、エリシャの瞳がゆっくりと開かれていく。
「すべて知っていましたわ。……本当はね、私は慾深いから」
 ――その奥深くで燻っている情念を、冷ややかな月光で掻き消そうと、何度も瞬きをして。あなただって慾しいわ、と呟いたのも彼女の本心だったけれど。
「けれどあなたは、それを望んでいないでしょう」
 それは『あなただけの私』ではないから。正道を歩む男に、悪鬼たる外道は邪魔なだけだと、聞き分けの良い女みたいな言葉を続けた。
「……それにいつか、私はあなたの枷になる」
 あなたがいくら否定しても、それは必ず訪れる未来なのだと、エリシャには分かっていたから。クロウとの思い出はどれも宝物で――だけど、何時までもその優しさに甘えてしまえば、エリシャの好きな彼は居なくなってしまう。
「あァ、知ってた。……エリシャの視線の先に、俺はいねェ」
 想い通じる迄、振り向く迄――諦めたことがなかったクロウは、彼女の名前を呼ぶことによって、ふたりの特別な関係を断つことにした。
 ――羅刹女、とちょっぴり口悪く声をかけることは、もう無いだろう。
「俺の中で整理がつくまでは、お前とは会わない。会えない」
「いいの、……これは自業自得よ」
 いつしか舟は岸へと辿り着いていて、ゆるゆると身を起こしたクロウより早く、背を向けたエリシャが静かに駆け出していく。
「ああ、でねェと……ずっと、お前を追っちまう」
 ――震える彼の声へ、「待っている」と答えてあげたかったけれど、それはただの我儘だとわかっているから唇を噛んだ。
(「本当は、――……」)
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

高塔・梟示
千隼(f23049)君と

まるでスノードームだな
足下に映る空に不思議な浮遊感を覚えて
綺麗な眺めだ…誘われれば抗い難かろう

澄んだ空気は冷え切って吐息も白く
大丈夫かい千隼君、寒くはない?
ああ、だから冬は好きだよ

舟を出そうか、夜の真中へ行こう
遥か遠くの、あの月や星にも
逆しまの世界なら手が届く

湖上に泊めれば幻想に包まれるよう
月が好きだと言っていたから、近くにと思ってね
行けるさ、何時かきっと
揺らぐ湖面を眺めて呟き
星も月も贈ることは出来ないが
共に楽しむことは出来る

銀の光浴びた髪が天の川のようで
月が綺麗だね、と思わず零れた言葉に小さく笑い
悪戯な声に瞬けば、照れ隠しに彼女の涙を拭い
今宵の月は忘れ難くなりそうだ


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

この景色に溶け消えてしまえたら
魅せられるのも解ってしまうのだわ

寒いけれど、冬の澄んだ空気は好きよ
極寒の地を知るなら、寒いのは慣れている?
首を傾げながら、舟に僅か瞳を輝かせ

行きたいわ、月の傍まで
湖面の月に手を伸ばす
指に触れるのは冴えた冷たさ、勝手に零れた涙が星月夜を揺らす波紋
…幼い頃は月に行きたかったの
ありがとう、空に届いた心地なのだわ
ふふ、同じ景色を覚えていられる事が贈り物ね

聞こえた言葉に柔く微笑み
死んでも良いわ、と今なら迷わず返せるけれど
魂の渡守たるアナタへは言葉を変えて
ずっと前から月は綺麗よ、なんて
悪戯に笑って泣けば、拭う指に頬を寄せ
忘れられたら、次はきっとワタシから


 ――ひょろりと長い足が湖へ伸ばされると、静かな波紋が生まれて、銀の星が花火みたいに散っていった。
「綺麗な眺めだ……まるで、スノードームだな」
 もう片方の足もゆっくり踏み出していけば、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)の身体は足元の空とひとつになって、不思議な浮遊感に包まれたまま夜の浅瀬を渡っていく。
「誘われれば、抗い難かろう――大丈夫かい」
「ええ、寒いけれど、冬の澄んだ空気は好きよ」
 その傍ら、気配も無く佇む宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)の名を呼んで、青白いひかりを纏いながらその手を取った。
「極寒の地を知るなら、寒いのは慣れている?」
 ――透明な彼女の声に耳を傾けつつ、冷え切った空気に、己の吐息が白く凝っていく様子を見つめる。忍びを生業としているからか、音も立てずに歩く千隼が今にも消えてしまいそうな気がして、咄嗟に手にした洋燈に目を遣った。
「ああ、だから冬は好きだよ。……千隼君?」
 黄昏の世界へと導く灯りが、ふたりの行く先を微かに照らしていくなかで、硝子越しに目が合ったみたいに千隼が瞬きをする。
「……この景色に、溶け消えてしまえたら。魅せられるのも、解ってしまうのだわ」
 スノードームのようだと、さっき彼が口にしたのをなぞるように。ふわり首を傾げる彼女を攫ってしまおうと、梟示の死神めいた外套が翻れば、湖に浮かぶ小舟がちいさく身震いをした。
「舟を出そうか、夜の真中へ行こう――ほら、」
 遥か遠くの、あの月や星にも――逆しまの世界なら手が届く。そう言って夢幻の星屑を掻き混ぜていくのは、梟示の握った古めかしいオールで。
「行きたいわ、月の傍まで」
 そんな神様の漕ぐ舟に揺られながら、瞳を輝かせていく千隼の頬では、涙のあとが月の光を受けてきらきらと雫を散らしていたのだった。
「……幼い頃は、月に行きたかったの」
 辿り着いた湖上は幻想に包まれており――深い眠りを揺蕩う地上の月のもとへ、千隼がそっと手を伸ばす。もっと傍にと力を籠めても、彼女の指に触れるのは冴えた冷たさだけで、勝手に零れた涙がその輪郭を滲ませてしまう。
「行けるさ、……何時かきっと」
 ――星月夜を静かに揺らしていく、哀しい波紋。だけど梟示が密かな呟きを落としていけば、漆黒の外套が優しく千隼を包み込んでいった。
「梟示、その――ありがとう」
「星も月も、贈ることは出来ないが。共に、楽しむことは出来るから」
 月が好きだと言っていた彼女と、こうして近くまでやって来たのだ。ああ、空に届いた心地なのだわ、と感謝を伝える千隼の髪が、ふぅわりと天の川みたいに夜空へ広がって――思わず零れたのは、実直な梟示に似つかわしくない、遠回しな愛のことばだった。
「……月が、綺麗だね」
「あら、ふふ」
 ――聞こえてきた彼の声に、柔く微笑む千隼もまた「死んでも良いわ」と迷わず答えを返せるけれど。魂の渡守たる彼へ、そんな風に想いを伝えることは出来ないから言葉を変えた。
「ずっと前から月は綺麗よ、……なんて。こうして同じ景色を覚えていられる事が、贈り物ね」
 悪戯な声に、何度も瞬きを繰り返す梟示の隣――銀の光を浴びて笑う千隼の頬を、ひとすじの涙が伝っていく。そのまま照れ隠しに涙を拭っていく彼の指へ、そっと頬を寄せていくと、いつしかふたりの影が重なって月夜に消えた。

「忘れられたら、次はきっとワタシから」
「……ああ、今宵の月は、忘れ難くなりそうだ」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第2章 冒険 『ループ』

POWループを引き起こしている元凶を排除する
SPDループが起きる条件を満たさぬよう切り抜ける
WIZループが起きる法則を見極めて潜り抜ける
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――月が綺麗ですね、と誰かが言った。
 そう――ありふれた世界のなかで、ふと奇跡のような光景を目にしたのだとすれば。愚かな願いを抱いてしまうのを、誰が責められよう。
(「……ほら、綺麗でしょう。満ちた月は、私のこころと同じで、二度と欠けることはない」)
 す、と指さした夜空には、いつか綺麗だと囁いた銀の月が、思い出と寸分違わぬ形のまま浮かんでいて。けれど、視線を湖の方へと向けてみれば――鏡写しである筈の湖面は、妖しい輝きに包まれていたのだった。
(「ああ、星屑が溢れ出してきたのだね。……何度もなんども、同じ時間を繰り返しているものだから」)
 広角レンズ越しに覗いた世界の果てでは、幾つもの星がぐるぐると渦を巻き、白い軌跡を空に描いていくけれど、湖に映る星屑はどんどんその数を増やしていっているらしい。
(「何度も、って……どのくらい、こうしているの」)
(「さあ、分からなくなっちゃった」)
 ――小舟に揺られる誰かが曖昧な表情で笑ったけれど、果たして彼、いや彼女は誰だったのだろう?
『この時と場所は歪み、閉じている』
 何度目かの夜、そんな焦燥感を抱いて必死に足掻いたような記憶もあったが――既に円環に囚われ、狂気に呑まれつつあるこころでは、抗うことも難しいのかも知れない。
(「いや……もう、ひとつになってしまえば、」)
 何処からか聞こえてくる獣の呪詛は、まるで愛のことばのようだった。月が綺麗ですね、綺麗ですね――そうして此方に「死んでもいい」と思わせて、夜の底へと引き摺り込んでいく。
 ――死んだら、埋めてください。そんな約束を交わす夢の噺も、何処かであった。
(「大きな真珠貝で、穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を、墓標に置いてください――」)
 はっ、と其処で瞳にひかりが灯って、舟の上に投げ出されていた櫂を取る。そうだ、このループを引き起こしている元凶がいるのだとすれば、それを見極めるなり切り抜けるなり、まだ方法は残されている筈だ。
(「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう――あなた、待っていられますか」)
 ――今回の場合は『月』だが、彼らは『待っている』のだ。自分たちが狂気に呑まれて、堕ちてくるのを。ならば、
「……百年待っていてください」
 否、百年も要らない。元凶のもとへ、此方から打って出ることだって不可能ではないのだから。
「逢いに来ますから。……きっと、逢いに来ますから」

 ――幾度目かのループの果てに、彼らは終わらない夜を終わらせにいく。


🌕🌕🐇🌕🌕🐇🌕🌕🐇🌕🌕🐇

●第2章補足
・素敵な日常を楽しんだあと、同じ月夜がずっと繰り返されるループの世界に囚われてしまいます。時間の感覚がどんどん無くなっていき、やがて怪異とひとつになることが幸せなのだと狂気に陥ってしまいますので、そうなる前にループから脱出してください。
・元凶を排除(POW)、ループ回避(SPD,WIZ)どちらでも大丈夫です。なお排除する場合、『敢えて狂気に身を委ねて、此方を狙おうとした所を返り討ちにする』なんて言うのもアリです。その場合、メリバ(メリーバッドエンド)みたいに悲劇的なノリでも大丈夫だよ、と言う猟兵さんは、プレイング冒頭に『◎』をご記入ください。UCで成否判定をした上で、内容に沿ったリプレイをお返しできたらと思います。
クラウン・メリー
まどか(f18469)と

舟の上でぼうっと君と満月を眺める

ずっとずっと見てられる
静かな世界、冷たい風がなんだか心地よくて
カップの中身はすっかり冷めてしまった

ねえ、まどか
まどかは満月、明るすぎるから
そこまでって言ったよね

それにお星様の方が良いって

掌をぐっと上げて満月を隠す
俺はお星様よりお月様より――
浮かんだ言葉にふるふると頭を振って

ずっと見ていられるくらい
ここの星空はとっても素敵だけれど

俺はねいろんな季節の星座を君といっしょに見たいんだっ
それに『あの星空』をもう一度いっしょに見たいな

だから、ね
そろそろ戻ろっか

ふふ、そうだね!
もちろん!君の為に披露するよ!

それで俺にも教えて!君がどんな星が好きなのか


旭・まどか
クラウン(f03642)と

揺れる波音に耳傾け
口を噤んで久しい君の息遣いさえ聞こえなくなる程
静寂に包まれている事を知覚する

僅かな温もりもすっかり失せてしまったから
そろそろ場所を移動しようかと口を開きかけた矢先
いつになく静かな語り口に返すは視線だけ

君がそう零した意図は解らない
けれど君の“望み”は解ったから

ゆっくりとした瞬きを一回

嗚呼、構わないよ
君が其を、望むなら

いつもの弾んだ声音に静かに応じる

――折角学んだんだもの
持ち帰った知識のひとつくらい、確かめないと損でしょう?
擬似星の元で得たものを僕に披露して

そうして、教えて
僕が未だ知らない、君にとっての一番星がどんなものなのかを
僕のはその時に――、ね?


 ――ぼぅっと舟の上に腰を下ろしたまま、大切な誰かと月を眺めている。
(「ずっと、ずっと見てられる」)
 金色のまなざしに過ぎる光が、すごく綺麗だなと感じた時にはもう、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)のこころは、夢幻の円環に囚われてしまったのかも知れない。
(「……だってここは、静かな世界で」)
 カフェオレの甘い香りも、あたたかな湯気も何処かに消えて――すっかり冷めてしまったカップの中身も、いつしか気にならなくなっていた。
(「冷たい風も、なんだか心地よいから――」)
 微かに湖面を震わせていく冬の吐息が、クラウンの頬から熱を奪っていくのさえ、口づけを交わしたみたいで「ふふ」と笑みが零れる。
 ――そうして。揺れる波音を、一体どれ位聴いていたのだろう。物静かな夜を過ごすのも多いのだと、灰色のファーに包まっていた旭・まどか(MementoMori・f18469)が、ふと思い出したように瞬きをした。
(「……静かだ、な」)
 いつもは他愛も無い話を振ってくるクラウンが、口を噤んで久しいからだと気づいたものの、彼にだって静かに過ごしたい時があるだろうと構わずにいたのだ。
(「何だか、世界にふたりで取り残されたみたいだ」)
 過度な干渉は、まどかも厭うところであったし――満月のひかりが眩し過ぎて、瞳を閉じたまま舟に揺られているのが長かったのも、あったかも知れない。
(「――……ああ、」)
 気がつけば、隣に居るクラウンの息遣いさえ聞こえない程。そんな、不可思議な静寂に包まれていることを知覚したまどかが、ぬくもりを探すように身じろぎをする。
 そろそろ場所を移動しようか、と――形の良い唇が言葉を紡ごうとした矢先に、クラウンの声が凍った空気を溶かしていった。
「……ねえ、まどか。まどかは満月、明るすぎるから、そこまでって言ったよね」
 そんな――いつになく静かな語り口と共に、クラウンが舟の上で器用にバランスを取って立ち上がる様子を、まどかは無言のまま見つめている。
「それに、お星様の方が良いって」
 ――彼がそう零した意図は解らない。だけど、彼の『望み』が何なのかは解ったから、ゆっくりとした瞬きをひとつ返した。
「俺はお星様よりお月様より――ううん、」
 そのまま掌をぐっと空に上げて、欠けることの無い月を隠したクラウンは、其処で浮かんだ言葉にふるふると頭を振りつつ、黄金色の瞳に新たなひかりを灯したのだ。
「ずっと見ていられるくらい……ここの星空は、とっても素敵だけれど」
 ――素敵なひと時を、心から楽しんで。そうして微かに過ぎった願いを、塗り替えるようににこりと笑う。
「……俺は、ね。いろんな季節の星座を、君といっしょに見たいんだっ」
 ずっとずっと、終わらない夜を繰り返していく世界に別れを告げれば、透明な硝子がひび割れていく感覚がして、思いっきり背中の羽を広げてみた。
「それに『あの星空』を、もう一度いっしょに見たいな。……だから、ね」
 嘗て厄災の象徴だと囁かれた、オラトリオの翼をふぅわりと揺らしつつ――この円環を滅ぼすのなら悪くはないかも、なんて呟くクラウンに、まどかも当然と言った様子で頷いてみせる。
「そろそろ、戻ろっか」
「嗚呼、構わないよ。――君が其を、望むなら」
 いつもの弾んだ声音に、静かに応じながら。折角学んだんだもの――と続けたまどかは、すっと夜空に浮かぶ星のひとつを指さした。
「持ち帰った知識のひとつくらい、確かめないと損でしょう?」
 ――擬似星の元で得たものを、僕に披露して。そうして、教えて。蠱惑的に細められた瞳の奥、クラウンの頬を彩る涙化粧が星屑みたいに輝くと、それは夜明けを告げるひかりに変わって世界を照らしていく。
「……僕が未だ知らない、君にとっての一番星がどんなものなのかを」
「ふふ、そうだね! ……もちろん!」
 おっきい丸の中に、星と涙が浮かんでいるような星々の連なりだって、何処かの世界にはあるかも知れない。いつか友の為に披露しようと誓いながら、差し出された手と手を取って――ふたりは閉ざされた世界の向こうへと羽ばたいていく。
「それで俺にも教えて! 君がどんな星が好きなのか」
「嗚呼、構わないよ」
 僕のはその時に――、ね?
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

尭海・有珠
レン(f00719)と

レンと過ごす星の輝きの中
穏やかで、痛みも苦しみもなく
これ以上喪う事も置いていかれる事もない
穏やかさに浸りこの侭終われるのならそれも良いと
少しだけ思ってしまったが

良くは、ないな。閉じそうになる目をあけ、息を吐く
これ迄もこれからも足掻いて生き、何度苦しい思いをしても
もっと色々なものを見、色々な処へ行き、新たな事に出会いたい
レンとの星巡りをこれきりで終わりにするなんて勿体なさ過ぎる
口の端だけで、ふ、と笑って

閉じた世界で、この侭終わるなんて私も嫌だ
そろそろ夢から覚めよう
そんなにレンの力になれているのなら嬉しいが
一緒に、とレンの手をぎゅっと握る
逆に夢から引っ張り出すよう強く引くんだ


飛砂・煉月
有珠(f06286)と

キミと過ごす今迄でいっとう穏やかな月夜
そして、星巡り
不思議と繰り返されていくその世界は“しあわせ”に思えた
畏れの薄い月夜
穏やかでキミがいる月夜
この気持のままなら――――死んでも、

ふるりと首を振る
有珠の話を良く聞こえる耳で聞きながら
オレはね、我儘なんだ
生きたいと必死に足掻いてきたし
之からも多分そう
新しいものを知りたい、キミと見たい
何より有珠との星巡りは未だ閉じたくない
終わらせるのは、嫌だ

夢は夢
巡る月夜も有珠居れば
オレはきっと大丈夫だから
繰り返しから抜けよ?
オレと、一緒にさ

差し出した狼の手を何処か震えていたけど
握られた手はあたたかくて
いつものキミのぬくもり
――行こう、ふたりで


 ――何気ない日常のひと時を、心から楽しんだものに怪異は牙を剥くのだと言う。
 星巡る夜空のもと、こんな素敵な時がずっと続けば良いのだと――恐らくは、そんな想いがループの引き金になってしまったのだろう。
(「穏やかで、痛みも苦しみもなく――」)
 行こう、と尭海・有珠(殲蒼・f06286)が手を伸ばせば、銀色に輝く湖面に新たな星屑が生まれていく。ひどく明るい満月の夜でも、彼女の手を取る飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)の表情は、不思議と穏やかなものに見えたから、止まることはしなかった。
(「これ以上、喪う事も置いていかれる事もない」)
 そうして星の輝きの中へ、ふたり一緒に飛び込んでいけば――ふと有珠の零した軽口に、人懐っこく狼の尾を揺らした煉月が笑う。
「まるで、獲物を引き摺り込む妖のようだな」
「……イイよ、有珠なら引き摺り込んでも」
「いいのか?」
 もう何度目かになるやり取りを交わしつつも、今迄でいっとう穏やかな月夜を、手放したくないと煉月は思ってしまったから。
(「あんなに早く終れと願った月夜が……終わらないで、なんて」)
 いつもは沸騰したように騒ぎ出す血も、今は靜かな湖面みたいに凪いでいる。同じ星巡りをずっとずっと繰り返す、不思議なこの世界に、いつしか彼は魅せられていたのかも知れない。
(「……それはたぶん、『しあわせ』なんだろう」)
 ――畏れの薄い月夜。穏やかでキミがいる月夜。しっかりと繋いだ有珠の手が、何度だって煉月を引っ張ってくれるから。
(「この気持のままなら――――死んでも、」)
 此方を誘うように揺れている、水底の月と溶け合ってしまいたい。そんな甘美な誘惑に、けれど煉月はふるりと首を振って、繋いだ手に力を籠めた。
「穏やかさに浸り、この侭終われるのならそれも良いと……少しだけ思ってしまったが」
 気づけば腰ほどまでの水に浸かっていて、痺れるようなその冷たさにさえ心地良さを感じてしまっていた。だから――すぅっと閉じてしまいそうになる瞳をこじ開けつつ、有珠もまた、此岸を見据えて息を吐く。
「良くは、ないな」
 全てを諦めたような素振りでいて、何一つ諦め切れずにいるのが彼女なのだ。これ迄も――これからも、何度苦しい思いをしても足掻いて生きるのだ、と。
「そして……もっと色々なものを見、色々な処へ行き、新たな事に出会いたい」
 ――靜か過ぎる世界に、幾つもの波紋を生んでいく有珠の言葉。それを一言も聞き漏らすまいと、良く聞こえる獣の耳をそばだてる煉月のほうも、凪を終わらせるべく唇を開いていった。
「……オレはね、我儘なんだ。生きたいと必死に足掻いてきたし」
 之からも多分そうで、もっと新しいものを知りたいと言う気持ちも多分にあって、それもひとりでは厭なのだとかぶりを振る。
「キミと見たい。……何より有珠との星巡りは、未だ閉じたくない」
「私も、同じだな。レンとの星巡りをこれきりで終わりにするなんて、勿体なさ過ぎる」
 そんな煉月の我儘にも、口の端だけで「ふ」と笑ってみせながら――海のいろを湛えた有珠の瞳が、彼と同じ輝きを宿して、終わらない円環を否定する。
「終わらせるのは、嫌だ」
「ああ……閉じた世界で、この侭終わるなんて私も嫌だ」
 ――夢は夢で。そろそろ夢から覚めよう、と。絡めた指のぬくもりを確かめつつ、そっと有珠が背伸びをした。
「巡る月夜も、有珠が居れば。……オレはきっと、大丈夫だから」
「ふむ、そんなにレンの力になれているのなら嬉しいが」
「ああ、だからさ。この繰り返しから抜けよ? ――オレと、一緒にさ」
 一緒に、と囁く声に応えるように、ぎゅっと握った煉月の手は微かに震えていたから――逆に夢から引っ張り出すように、有珠のほうから強く引いてみせた。
(「ああ、あたたかい――」)
 いつものキミの優しいぬくもりがあるから、もう恐くはないのだと、涯の青を越えていく。
「――行こう、ふたりで」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

花澤・まゆ
【月見里美羽ちゃん(f24139)と一緒に】

…厄介な罠にはまっちゃったみたいだね
美羽ちゃん、大丈夫?
…美羽ちゃん?

取り込まれかけている美羽ちゃんの頬をはたいて
正気に戻すよ
過去に囚われてたら駄目
あたしたちが進むべきは未来
そのためにできることは何?

――そう、こんなループ条件、破ればいい

美羽ちゃんの「過去に戻りたい」が
あたしたちを此処に引き止めている
先に進ませようとしない
それは、わかるよね?

だったら、どうすればいい?

答えを返す美羽ちゃんに笑う
辛いのは百も承知
でも、あたしたちは猟兵だから

過去を切り捨て、前に進む
さあ、こんなループ終わらせよう

アドリブ歓迎


月見里・美羽
【花澤まゆ(f27638)さんと一緒に】
――何度も、何度でもやり直せればいいのに

嗚呼、真珠貝で穴を掘って、ボクを埋めて
そして、降る星の欠片を墓標に置いて
ボクは、キミに会いに行くから
百年かけて、ボクを好きだった頃のキミに――

ぱん、と音がして、頬が痛くなって
気がついたらまゆさんが、怒った顔をしていた

これはループ
ボクが過去を願う限り続くループ
わかってる、歩きださなきゃいけないことは

だったらどうすればいい?とまゆさんが問う
わかってる、わかってる
でも、ボクにできるのかな

一人ででも歩きださなきゃ

覚悟を決めて、顔を上げる
終わらせなくちゃ、こんな未練は

アドリブ歓迎です


(「――何度も、」)
 あれから、銀の月をいくつ見送ったのだろう。茫洋とした瞳で辺りを彷徨いながら、月見里・美羽(星歌い・f24139)の指先が、波間に揺れる星屑を拾う。
(「何度でも、やり直せればいいのに」)
 ――嗚呼、真珠貝で穴を掘って、ボクを埋めて。そして、降る星の欠片を墓標に置いて。
 遠い昔の物語は、随分とロマンチックだなと思ったけれど、誰かに惹かれる気持ちも――その間に横たわる絶望的な距離も、美羽たち人類が宇宙に羽ばたくずっと前から、繰り返されてきた悲劇なのだ。
(「ボクは、キミに会いに行くから」)
 それでも。愛しいひとの未来に、自分の居場所はもう無いのだとすれば、何処へ向かえば良いのだろう?
 ――少しの間、考えて納得する。ゆっくり時間を遡れば良い。時間的閉曲線をたどって、閉じた世界のはじまりに向かえば、面倒なパラドックスも生まれない。
(「百年かけて、ボクを好きだった頃のキミに――」)
 マイナス384,400km、月が地球にキスをする様子を思い浮かべながら、美羽が歌うのは懐かしいメロディだった。私を月に連れていって――そんな一途な願いを胸に、ずっとずっと歌い続けていたかったから。
「ああ、……本当に」
 すっ、と頬を滑り落ちた涙が、何だか可笑しくて肩を揺らす。自分は幸せなんだと言い聞かせても、こころの何処かが軋んで、目に映る景色がじわりと歪んだ。
「月が、綺麗だね」

(「……厄介な罠に、はまっちゃったみたいだね」)
 一緒に月夜を楽しんだと思った直後、再び同じ夜が繰り返される――花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)の方は、直ぐにこの異変を察知していたらしい。
「美羽ちゃん、大丈夫?」
 初めは訳が分からないまま、何をしたら良いのか戸惑っている内にループが終わり、状況を整理し終わったと思ったら、友人の様子がおかしくなっていた。
「……美羽ちゃん?」
 透明な涙を流しながら、静かに歌を口ずさんでいる美羽が、そのままふっと湖の底に消えていきそうで。咄嗟に駆け寄ったまゆは、そのまま彼女の頬をはたいて、正気を取り戻させようと声をあげる。
「しっかりして! 過去に囚われてたら駄目!」
 ――ぱぁん、と静かな世界に乾いた音が響くと同時。美羽の頬が熱をもって、じわじわとした痛みが広がったと思ったら、ようやく焦点が戻ってきて瞬きをした。
「あ、れ――まゆさん? どうして?」
「美羽ちゃん、あたしたちが進むべきは未来なんだよ」
 怒った顔で、此方のほうを覗き込んでいるまゆだったけれど――心の底から心配している様子が伝わってきたから、美羽は何も言えずにいた。
「でも……美羽ちゃんの『過去に戻りたい』が、あたしたちを此処に引き止めている」
(「ああ、やっぱり、……そうなんだ」)
 ――これは奇跡でも何でもない、排除しなければいけない怪異。忌まわしいループなのだ。
「先に進ませようとしない。それは、わかるよね?」
(「ボクが過去を願う限り、続く――ループ」)
「だったら、どうすればいい?」
(「わかってる、……わかってるよ」)
 自分が悩んでいることに気づいて、こうして一緒に出掛けようと誘ってくれたまゆだって、責任を感じている筈なのだ。それに応えたいと、立ち上がろうとするのに――歩きださなきゃと思うのに、美羽の足は震えてしまう。
(「わかって、いるのに」)
 ふんわりとした幻朧桜の馨りを纏いながら、退魔刀を構えるまゆの隣に、胸を張って立てるようにならなければいけない。
「――そう、こんなループ条件、破ればいい」
「でも、……ボクにできるのかな」
 不安げな声を零す美羽に笑顔を返し、勝ち気な性格を覗かせたまゆは、更に一歩を踏み出してきっぱりと告げる。
「辛いのは百も承知。でも、あたしたちは――猟兵だから」
「うん、一人ででも……歩きださなきゃ」
 ――覚悟を決めて、顔を上げる。過去を切り捨て、前に進む為に。そうして刃を振るう友に追いつこうと、電脳精霊銃を手にした美羽が、深紅の花を咲かせるべく引き金を引いた。
「さあ、こんなループ終わらせよう」
「終わらせなくちゃ、――こんな、未練は」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

猫希・みい
🎑🐱

終わらない月夜
それはずっとあの綺麗な月を眺められるってこと
黎くんは月の神様だから
月をずっと眺めていたいって思ったりするのかな
死んでも良い?
それくらい大切ってことだよね、きっと

それはわからなくもなくて
助けてくれた黎くんの為なら死すら怖くない
むしろ大切な神様の為にこの命を使えるなら
嬉しいくらい

黎くんの手を迷わず取る
でも、黎くんはそんなの望まないよね
変わらない2人のとこしえは欲しいけど
変わっていくからこそ日々が愛おしいと知っている
他でもない黎くんが教えてくれたもの

黎くんも安心してね
私がずっと傍に居るよ
私の神様
あなたが月ならば私は太陽になる
2人でずっと猫たちと、みんなと、一緒に

柔く咲いて、


月詠・黎
🎑🐱

愛し猫と終わらぬ月夜をとこしえに、か
悪くはない、此の腕の中に閉じ込めてしまえるなら
悪くはない、俺しか映さないと謂うのも
死んでも良い…ふむ、成程
命尽きぬ神も此の空間ならば死も同義か
愛し猫の為ならば其れも構わんが

…否、其れでも俺は望まぬな
太陽の猫も月夜のみでは輝きも活きぬ
みいの手を攫って
お前の望みをと
変わらぬふたりだけのとこしえか
変わって之く猫達と過ごす日常か
何、心配ないぞ
俺が隣に在るのは変わらん故にな

いつだってお前の神が導こう
成長し変わりゆくお前を見る為、傍に在る為
何、お前は既に俺の、月の太陽だ
そして月はいつだって太陽に焦がれている
…噫、ふたりで猫達と共に、な

ふわり咲えば
愛し猫はきっと、


 ふわり――愛しい相手の腕に抱かれて、月夜を跳ぶ。
 遠いえにしを樹々の緑に感じながら、彼の示した特等席に、何度だって「とくり」と胸を高鳴らせた。
(「……終わらない、月夜」)
 甘やかされてると分かっているけど、猫希・みい(放浪猫奇譚・f29430)に、その手を拒める訳がない。攫って、囲って――巡り巡る糸がふたりの小指を結んでいたから。
(「それは、ずっと……あの綺麗な月を眺められるってこと」)
 ね、黎くん――色を違えるみいの瞳が、とろり蕩けて満月を映せば、長い睫毛に縁どられた月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)の瞳もまた、愛しい猫を見守るようにうっとりと細められていった。
(「黎くんは月の神様だから……月をずっと眺めていたいって、思ったりするのかな」)
 ころんと寝転がって、静かな幸せに浸るみいの髪を、ほっそりとした黎の指が梳いていく。その、ほんのりと桜色に染まる毛先が、月光を弾いてきらきらと輝いていくのを眺めながら――黎が思い浮かべたのは、誰からも忘れ去られた、孤独な神の半生だったのかも知れない。
(「……愛し猫と終わらぬ月夜をとこしえに、か」)
 ――悪くはない、と思った。此の腕の中に閉じ込めてしまえるなら。
(「悪くは、ない」)
 ――彼女の瞳に、自分しか映さないと謂うのも。思う存分甘やかして、けれど繋ぐ小指は決して離さずに。
「死んでも良い……ふむ、成程」
 月がずっと綺麗だと言うのなら、其れも悪くはないなどと。ふと戯れのように思ってしまったのは、閉じた此の空間に於いて、不老不死など何の意味も持たないことを理解したから。
「命尽きぬ神とて、囚われたら死も同義か」
「……死んでも良い? でも、それって」
 面白そうに口の端を上げた黎の、その微かな呟きが聴こえたのだろう――ぴくりと、みいの猫耳が動いて、膝の上で小さく身じろぎをするのが分かった。
「それくらい大切ってことだよね、きっと」
 それはわからなくもないのだと、微睡みのなかでみいは思う。ずっとずっと泣いていた、嘗ての自分を助けてくれた黎の為なら、この身は死すら怖くない。
(「むしろ、大切な神様の為にこの命を使えるなら――」)
 嬉しいくらいだよ、と迷わず黎の手を取って微笑むけれど――彼がそんなことを望まないのは、みいもちゃんと解っていた。
「永遠に繰り返す、幸せな時間――愛し猫の為ならば、其れも構わんが」
 そして――緩やかな円環に、ふっと生まれた綻びを、黎のほうも見逃したりはしない。偽りを囁く呪詛を振り払うように、艶やかな月下美人の花びらが夜に咲いた。
「……否、其れでも俺は望まぬな」
 ――太陽の猫も、月夜のみでは輝きも活きぬ。故に、この世界から攫ってみせるのだと手を取って、黎の長躯がふたたび空を舞う。
「お前の望みを。変わらぬふたりだけのとこしえか、変わって之く猫達と過ごす日常か」
 重力から解き放たれつつ天と地をぐるりと見渡せば、頭上の空と足元の空が、何処までも溶け合っていくようで眩暈がした。
「何、心配ないぞ。……俺が隣に在るのは、変わらん故にな」
「ふふ、変わらないふたりのとこしえは欲しいけど――」
 ずっと一緒に居てくれる。そんな神様のことばが嬉しくて、ぎゅっとその手を握り返したみいもまた、骸の海へ向けて櫻椛の花びらを舞わせていくのだ。
「変わっていくからこそ、日々が愛おしいと知っている。それは他でもない、黎くんが教えてくれたもの」
 ――安心してね、私がずっと傍に居るよ。夢幻の夜を裂く一夜の華が、いびつな硝子を砕いてループを終わらせていくなかで、ふたりは望む未来へ羽ばたこうと顔を見合わせた。
「……ならば私の神様、あなたが月ならば私は太陽に」
「いつだってお前の神が導こう。成長し変わりゆくお前を見る為、傍に在る為。……何、」
 ――お前は既に俺の、月の太陽なのだから。誓約を交わし微笑んで、共にふたりで夜を越えよう。
「そして、月はいつだって太陽に焦がれている」
「うん……ふたりでずっと猫たちと、みんなと、一緒に」
「……噫、ふたりで猫達と共に、な」
 ふわり柔く咲けば――愛し猫はきっと、いつかの言葉を囁いてくれるだろうから。
(「また、あした」)
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

朱赫七・カムイ
⛩神櫻


満月が欠けず
共に在る時が永遠に続く
世界(理)から君を奪い私の元に
絆ぎ止める甘美な誘惑

私は見守る者
流転する命(君)を見送り
再び迎える
君がどこにいようと
必ず君を見つける
どんな君も愛する

櫻の唇から零れた愛詞
如何して
君を閉じ込めるように抱き締める

『愛している』

私にとって
滅びの言葉に等しいと知っている?
前世より抱けど戒め
伝えなかったのに

欲しかった
ずっと

口にしてはいけない禁断なのに

愛してるよ

ずっとずっと
君が生まれる前から
君だけを愛している
欠月が満ちるように
何度廻ろうと
何度でも君に戀をする

でも私は
櫻宵がいい

之が狂気だと云うなら
遺さず狂ってしまえ

狙う?
私の愛し子を
赦さない
私の邪魔をするなら
朽ちて仕舞え


誘名・櫻宵
🌸神櫻


月は欠けるから美しく
桜は散るから美しい
だのに
あなたはなんて愛おしい

私を待っていてくれる神様
前世から私の側にいて
只管に密やかな愛を注いでくれた『親友』
決して慾をみせなかった
…自分は相応しくないと

ねぇカムイ

愛しているわ

甘い梔子が馨る
次の私もその次もきっと
あなたは愛して迎えてくれる
けど…其れは私ではない
妬けるわ
未来の私に

終わらぬ刻をあなたの腕の中
それもまた良いでしょう
神の愛が美味しくて
満たされる

過去よりも未来よりも
あなたと過ごす現在が愛おしいの

怪異などに私のかぁいい神も想いもくれてやりはしないわ
この倖もカムイも全部
私だけのもの
私に堕ちればいい
私を堕とせばいい

でも
怪異の所になど堕ちてやらない


 ――永遠不変のものと、儚くともうつくしいもの。神とひとの物語で、いつだって選ばれるものは決まっていた。
(「月は、欠けるから美しく――」)
 幾ら愚かだと嘲笑われようとも、瑞々しい果実を手に取って、咲き綻ぶ花びらを愛でることを誰が止められよう。
(「桜は散るから、美しい」)
 そう、木花之佐久夜を娶る神話のように、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の全てを求めてくれる神様が、いま目の前に居るのだ。
 本来ならば、ふたりに流れる時間は残酷なまでに異なっていて――うつろう櫻宵の姿を、朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)は、ただ静かに見送ることしか出来ない筈だった。
(「……だのに」)
 ――櫻宵の角に花ひらいた桜蕾は、今も散ること無く其処に在る。うっとりと微笑んだ唇から零れる吐息も、甘い熱を帯びた指先も、そう。
(「あなたはなんて、愛おしい――」)
 瞳を向け、己に愛情を向ける櫻宵の姿がまぼろしなどではないのだと、確かめるように輪郭をなぞって。蜜のような菓子を摘まんでいた彼の手が、不意に名残り惜しくなり頬を寄せた。
 ああ――満月が欠けず、共に在る時が永遠に続いていく。奇跡のように楽しいと、櫻宵が言ってくれたこの時間を、故にカムイは手放したくないと願ってしまったのだろう。
(「ならば、世界から――理から君を奪い、私の元に」)
 見目麗しい男神の姿を取っていても、カムイは未だ生まれたばかりの未熟な神だった。戦巫女として神を降ろし、全てを受け容れてくれる器を持つ櫻宵を、己で満たしてしまいたい――そんな恐ろしい慾が溢れ出していくのが、禁忌だと分かりつつも止められなくて瞳を逸らした。
(「私を待っていてくれる神様、只管に密やかな愛を注いでくれた……『親友』」)
 前世からの縁を辿り、こうして再び巡り合っても、カムイは決して慾をみせることなどなかったと言うのに。自分は相応しくない、そう言って距離を取ろうとする彼を絆ぎ止めたくて、櫻宵が甘美な誘惑を舌に乗せる。
「ねぇカムイ、……愛しているわ」
「――……っ」
 ちゃぷ、と小舟が揺れると、何処かで甘い梔子の馨りがした。繰り返す月夜の下で、いつしか櫻宵もカムイも、狂気に呑まれていたのかも知れない。
「……私は、見守る者。流転する命を――君を見送り、再び迎える」
「ええ、次の私もその次もきっと。あなたは愛して迎えてくれるのでしょうね」
「……君がどこにいようと、必ず君を見つける。どんな君も愛する」
「けど……其れは私ではない。妬けるわ」
 未来の自分を思い描き、「ふふ」と自嘲気味に笑う櫻宵を抱き締めて、熱に浮かされたようにカムイは言葉を続けていた。
「『愛している』」
 ――彼にとって、それは滅びの言葉に等しいものだと知っていたのか。前世より抱けど、きつく戒めて伝えることをしなかった想いなのに。
「……欲しかった、ずっと」
 口にしてはいけない禁断の言葉は、いざ口ずさんでみれば酷く甘い。愛しているわ、と囁いた櫻宵に応えるように、溺れるほどに深い愛を唇へと注いだ。
「愛してるよ。ずっとずっと、君が生まれる前から」
「ああ、ほんとうに?」
「君だけを、愛している」
 欠月が満ちるように、何度廻ろうと――何度でも君に戀をする。之が狂気だと云うなら、遺さず狂ってしまえと言わんばかりに、荒れ狂うカムイの神力が赫に変わって櫻宵を縛りつけていった。
「でも、私は――今、此処に居る、櫻宵がいい」
 ああ、神の愛が美味しくて、満たされる。櫻宵の裡に巣食う大蛇が、求められる悦びに打ち震えているのが伝わってきた。八塩折酒よりもきつい酔いに、くらくらと眩暈を覚えながら、左の足首の戒めをなぞって嫣然と微笑む。
「……終わらぬ刻をあなたの腕の中、それもまた良いでしょう」
 狂気と狂喜に身を浸して、死んでもいいと――最後の言葉を口にすれば、湖面が波打ち何かが顔を覗かせた。それが、水底へと手招く怪異の遣いであると悟った櫻宵は、不可視の剣戟を操り絶華を生む。
「過去よりも未来よりも、あなたと過ごす現在が愛おしいの。……でも、」
 ――怪異などに、私のかぁいい神も想いもくれてやりはしない。吐き捨てたその隣では、桜守ノ契を纏うカムイもまた、底冷えのするまなざしで白き獣を斬り捨てていたのだった。
「狙う? 私の愛し子を? ……赦さない。私の邪魔をするなら、朽ちて仕舞え」
「ええ、この倖もカムイも全部――私だけのもの」
 私に堕ちればいい、私を堕とせばいい。でも――。
「怪異の所になど、堕ちてやらない」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

砂羽風・きよ
【菊】

ほい、理玖
あったかいもんならあるぜ

…え、そうだったか?
とりあえず飲んどけ

あれ、写真さっき取ってたよな?
マ、マジかよ!!これってループしてんのか?!

確かにデジャヴにしてはリアルだなぁなんて思ってたけどよ!
怖い、くはねーけど!なんかぞわってするわ!

理玖こそ何か気付いたか?

まぁ、変わらず月は綺麗だな
…ずっと月の位置が変わっていないのは可笑しいのか
いや、いつも通りだよな?
や、やべー!感覚が可笑しくなってきた!

つか、腹減ってんのかよ!
そーいえば腹減ったって言ってたよな…

あ、あぁ、うさぎがいるんじゃねって言ったけどよ
マジで何かいるのか?!

最初の方が狙いやすいかもな
ふっと笑みを溢し

デッキブラシを投げた


陽向・理玖
【菊】

…あれ?
俺兄さんから飲み物貰わなかったっけ?
気のせい?
受け取り首傾げ

写真撮ったつもりだったけど
写ってねぇし…

だろ?
ってこれがループか!やべぇ!
鳥肌立って来た

えっ…ど、どうしよ
兄さん何か気づいた?

いやー全っ然分かんねぇ
相変わらず月はめっちゃ綺麗だし
何がおかしいんだ?

(…実はおかしくないのでは?
だって兄さんはここにいるし
ずっと一緒なら心配とか何もないし)

はっとし
いやいややっぱおかしいな
大体腹減ったし帰りたい

そういや兄さん
月に兎がとかさっき言ってた?
…何かいるんかな?
最初と最後
どっちなら狙いやすいと思う?
時間分かるなら狙えるだろ
貰った時計指差し
了解

もう月見は終わりだ
見切り元凶目掛け空駆け衝撃波


 ――何かがおかしくて、声をあげて笑ったような気がする。
 湖の上で揺れる小舟に手をついて、息を整えようとした陽向・理玖(夏疾風・f22773)の隣で、「ほい」と何かを手渡してくれたのは、砂羽風・きよ(ナマケきよし・f21482)だった。
「理玖、あったかいもんならあるぜ」
「やった! さすが――って、あれ?」
 ほかほか温かい缶コーヒーは、随分と長い間湖に居ると言うのに、さっきと変わらぬ熱を持って理玖をあたためてくれたけれど。
「……あれ? 俺兄さんから飲み物貰わなかったっけ?」
「……え、そうだったか?」
「気のせい?」
 さっき、とは何時のことだっただろう。妙な既視感を覚えて居心地が悪くなったが、きよから飲み物を受け取るうちによく分からなくなっていった。
「ま、とりあえず飲んどけ」
「うーん、前にもこんなやり取りがあった気がしたんだけど」
 首を傾げつつ、ほんのり甘いカフェインを堪能していく理玖を見つめて、ふときよの脳裏に何かが過ぎる。今とは違う、ちょっと幼い理玖の笑顔を何処かで見たような気がした。
 ――あれは確か、スマホの待受ではなかったか。夢中になってカメラを向け、ふたりで画面を覗き込んで歓声をあげたりして。
「あれ、写真さっき取ってたよな?」
「……ああ!」
 すっかり記憶が曖昧になっていたことに、驚きを隠せぬままスマホを取り出す理玖だったが――画像フォルダを開いたところで、不意にその指がぴたりと止まった。
「写真撮ったつもりだったけど、写ってねぇし……」
「え、マジかよ」
 ほんの一瞬――見覚えのある写真が、ちらりと映った気もしたけれど、直ぐに日付の表示がおかしくなって画面が消える。
「だろ? って……」
「なあ、ならこれって、ループしてんのか?!」
「これがループか! やべぇ!」
 思わず鳥肌がたって、スマホを落としそうになった理玖を支えつつ、思うところがあったらしいきよが辺りを見渡した。
「確かに、デジャヴにしてはリアルだなぁなんて思ってたけどよ! 怖い、……くはねーけど!」
 やっぱり狂気とやらが忍び寄って来ているのか、何だかぞわっとする。「どうしよ」と溜息を吐く理玖のほうも、何か気付いたことはないかと目を向けてきたが、永遠に続く時間はただ、不気味なほどうつくしいだけだった。
「理玖こそ何か気付いたか?」
「いやー、全っ然分かんねぇ。相変わらず月はめっちゃ綺麗だし」
「……まぁ、変わらず月は綺麗だな」
 ずっと月の位置が変わっていないのは、可笑しいのかも知れないが――いや、これはさっきから同じで、だからいつも通りのことなのだ。
「や、やべー! 感覚が可笑しくなってきた!」
「……何がおかしいんだ?」
 慌てふためき、金色の髪をわしゃわしゃかき回していくきよとは反対に、理玖は妙に落ち着いていた。
(「……実はおかしくないのでは? だって、兄さんはここにいるし。ずっと一緒なら、心配とか何もないし」)
 ――ループする世界を受け容れ、存在をひとつにすれば、終わることのない幸せを手に入れられるから。そうして、ふっと瞳のひかりが失われそうになった時、咄嗟に瞬きをした理玖がかぶりを振る。
「いやいや、やっぱおかしいな。……大体腹減ったし帰りたい」
「つか、腹減ってんのかよ!」
 切れのいいきよのツッコミが、静かな世界に響いていった刹那、ふたりの脳裏にいつかの会話が閃光みたいに弾けていった。
「つか、そーいえば腹減ったって言ってたよな……」
「そういや兄さん、月に兎がとかさっき言ってた?」
「あ、あぁ、うさぎがいるんじゃねって言ったけどよ――」
 ――なぁ理玖、もしかしたらうさぎが餅突いてるかもしれねぇぞ。
 ――やめてくれよ餅とか、腹減るじゃん!
「……何かいるんかな?」
「おい、マジで何かいるのか?!」
 輝きを増した月と、湖に溢れ出す星屑と。ふと湖面に揺れるひかりの間から、まぁるい月の石が顔を覗かせたのを確かめて、理玖ときよは顔を見合わせる。
「……最初と最後、どっちなら狙いやすいと思う?」
「最初の方が狙いやすいかもな」
「分かった、時間分かるなら狙えるだろ」
 ふ、とどちらからともなく笑みを溢したあと、理玖が時計の文字盤に目を落とした。
 ――それは、楽しい時を過ごしてほしいときよが贈ってくれたものだったから、二度と繰り返したりはしない。
「もう、月見は終わりだ――」
 再びループが始まる、その瞬間を狙って。きよのデッキブラシが翻り、綺麗な月夜に龍のオーラが駆けのぼっていった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

リル・ルリ
【朱華】

円い月に吸い込まれそうだね、七結
くるくる、廻る明けない夜が続いていく
おかしいね、七結
僕らは、凍てつくような明けぬ夜を超えあたたかな暁を迎えたはずなのに
胸に手を当て、歌う鼓動に己を刻む
まやかしなどではないよ、七結

この春の熱こそが、まこと

ふふ
僕は常夜の水底生まれ
君と同じ闇の住人
闇の安寧はこわくない
けど、このままではいけないね
そうだとも
往くべき愛しき春の穹がある
咲き誇る花がある
譬え、堕ちていようとも
欠けた月はまた満ちる

月はかけるから美しいんだよ
歌うよ
闇を切り開くように―『月の歌』
君のあかい春嵐に歌を添え

カナン、フララ
導いて

迎えに行こう、僕らの春暁を
僕らはとまってなんていられない
未来へ進むんだ


蘭・七結
【朱華】

なんと不可思議な光景でしょう
月の浮かぶ夜を越えたはずだというのに
幾度となくおんなじ夜を迎えているかのよう
じわりと胸裡に滲む静かな熱は、まやかしかしら

常なる夜に身を置く者同士
繰り返される夜など恐ろしくはないのだけれど
嗚呼、いけないわ
夜のいろに呑まれてしまうわけにはいかないの
わたしたちには、往くべき春の景色があるのだから
そうでしょう、リルさん

円かな月を仰ぐ夜に別れを告げて
わたしたちは春のぬくもりを目指してゆく
この景色を、元凶となる力を薙ぎ払う嵐を此処に
あかいいろを咲かせて、添えて
夜の先を目指すしるべを成しましょう
ラン、この月夜にひかりを

明けない夜は、何処にもないわ
共に黎明の空を眺めましょう


 ――何処までも広がっていくかに思えた夜空は、気がつけば閉ざされていた。ゆっくりと巡る星々は、瞬きの間に元通りになっていて、なのに湖の月だけが酷く明るい。
「円い月に吸い込まれそうだね、七結」
 ぱしゃり、と銀色の水滴を弾いて踊るのは、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の尾鰭で、その真夜中に生まれていくちいさな虹に、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の貌がほろりと綻ぶ。
「……なんと、不可思議な光景でしょう。月の浮かぶ夜を越えたはずだというのに」
 ついさっき、否、ずっと前のことだっただろうか――満月の下でうたうリルの姿を、見守っていたような気がしたけれど。
「幾度となく、おんなじ夜を迎えているかのよう」
 舟の上で揺られていたと思った直後、七結の素足は冷たい水に浸かっており、星屑が肌をくすぐっていく感覚に目を細めた。
「おかしいね、七結」
 くるくる、くるくる――廻る明けない夜が続いていくと感じたのは、リルも同じだったらしい。確かに自分たちは、凍てつくような明けぬ夜を超え、あたたかな暁を迎えたはずなのだと。
 ――そうしてふっと、湖に浮かぶ月に手を伸ばした時。じわり、七結の胸裡を冷たい焔が炙っていった。
「嗚呼――この静かな熱は、まやかしかしら」
「まやかしなどではないよ、七結」
 とくり、とくりと歌いはじめた鼓動を確かめていくように、胸に手を当てたリルが澄んだ声で応じる。
「……この春の熱こそが、まこと」
 鼓動に己を刻んで、忍び寄る狂気も糧にして歌うのだと言わんばかりに。そのまま静かな夜を見上げていく彼の隣で、七結のほうも奇妙な現実を受け入れたらしい。
「ええ、常なる夜に身を置く者同士、……繰り返される夜など、恐ろしくはないのだけれど」
「僕も、君と同じ闇の住人。闇の安寧はこわくない」
 ――半魔の娘と、常夜の水底生まれの人魚が、其処で狂える月の光を浴びて優雅に笑い合った。
「……けど、このままではいけないね」
「嗚呼、いけないわ。夜のいろに呑まれてしまうわけにはいかないの」
 鉄錆の味に溺れ、くれなゐの海に沈むことの無いように――真白の指先を踊らせた七結の周囲で、深紅の牡丹が嵐に変わる。
「わたしたちには、往くべき春の景色があるのだから――そうでしょう、リルさん」
「そうだとも」
 咲き誇る花がある。往くべき愛しき春の穹がある。譬え、堕ちていようとも、欠けた月はまた満ちる。
「それが世界の在り様で、……月はかけるから美しいんだよ」
 歌うよ、とリルが花嵐に息吹を吹き込んでいけば、闇を切り開く月の歌が世界に木霊していった。
(「君のあかい春嵐に歌を添え――カナン、フララ」)
 ――月は囀り泡沫散らす。壊れた歯車、砕けた硝子、折れた骨に崩れた未来。水底に沈んだ嘗ての匣舟が、春と歌を乗せてふたたび海に漕ぎ出していく。
(「導いて、そして――」)
 狂惑の月が微笑み、うつくしき華颰が咲き誇るなかで、砕け散っていく夜空の破片が、閉ざされた円環の終わりを告げるようだった。
「迎えに行こう、僕らの春暁を。僕らはとまってなんていられない」
「ならば――あかいいろを咲かせて、添えて。夜の先を目指すしるべを成しましょう」
 ――この月夜にひかりを。この景色を、元凶となる力を薙ぎ払う嵐を此処に。凛とした声を響かせる七結の足元で、妖しいひかりを放つ月の石が沸騰し、それも直ぐに消えていった。
「明けない夜は、何処にもないわ。共に黎明の空を眺めましょう」
「勿論だとも、七結」
 円かな月を仰ぐ夜に別れを告げて、自分たちは春のぬくもりを目指してゆくのだから。
(「――未来へ、進むんだ」)
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ティア・メル
【揺籃】◎

んにー?おんなじ景色がずっと続いてるんだよ
まるで迷路みたいだねっ
迷子になるのは慣れてるから大丈夫だよ
ぼくに任せて

歩いていれば必ず出口に辿り着く
どれだけ迷っても
それさえわかっていれば怖くない
って、思ってたのに
出口なんてなくてもいいと思うんだよ
円ちゃんと一緒に、このままずっと
ゆうらり揺蕩いたいなんて

円ちゃんと一緒に深海へいけたなら
円ちゃんの描く夢の涯へいけたなら
これ以上の幸せなんてきっとない
一緒に堕ちて溺れて
2人きりの果てへ
なんて甘美な夢なんだろう

繋いだ手に力を込める
ねえ、円ちゃん
堕ちる時は一緒だよ
円ちゃんを引っ張って堕ちるし、
円ちゃんもぼくを引っ張って

幻よりも現実に溺れてたいな


百鳥・円
【揺籃】◎

あれれ、おっかしーですねえ
さっきからずーっとおんなじ景色ですん
夜の迷宮に閉じ込められたんですかね?

此処から抜け出さなければ、と思うのに
動くまでに繋がらないのは何故でしょーね
あなたとならば、いっそ。このまま
なんて、澱んだ感情に支配されるようです

あなたと沈む海の底は美しいのでしょうか
わたしが魅せる夢の涯を気に入ってくれるでしょうか
堕落に誘う夢魔たるわたしが
落ちて堕ちて、溺れるかのようです

これはきっと幻。そうなのでしょう
けれども、今だけは。堕ちていても構わない
んふふ。そう思うのは何故でしょーね

ひやりと心地よいあなたと手を繋ぎましょう
ええ、もちろん。一緒ですよう
夢ではなくて現実のなかで、ね?


 ――星空の垂れ幕をくぐり抜けながら、ふたり一緒に夜明けへ向かっていた筈だった。
「あれれ、おっかしーですねえ」
「……んにー?」
 足元で跳ねる水飛沫は、いつか目にした真珠のようで。ふさふさと豊かな髪を揺らしつつ、不思議そうに辺りを見渡す百鳥・円(華回帰・f10932)の隣で、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)がとろんと甘い声を漏らして肩を寄せてきた。
「さっきから、ずーっとおんなじ景色ですん」
「それって、まるで迷路みたいだねっ」
「……夜の迷宮に閉じ込められたんですかね?」
 空のいろは移り変わること無く、ぽっかり浮かぶ月も瞬く星も、気づけば同じ場所でうつくしい輝きを放っている。
 夜の迷宮――円の呟いたそんな言葉が、気に入ったのだろうか。とん、と砂浜に足を踏み出したティアは、そのまま彼女の手を引っ張って、目の前の湖を突っ切るべく駆け出していった。
「迷子になるのは慣れてるから、大丈夫だよ。……ぼくに任せて」
「わわ、ゆっくりで構いませんよう」
 ――歩いていれば、必ず出口に辿り着くから。そう言って微笑んだティアの周りで、透明なくらげがダンスを踊る。ならば、蜃気楼が魅せたまぼろしのような光景を、彷徨い歩くのも一興だろうか。
「どれだけ迷っても、それさえわかっていれば怖くないから、――ね?」
 ふふ、と泡の如く弾ける彼女の嬌声を追いかけて、此処から抜け出さなければと思うのに。不意に、気怠い感覚が円を包み込んでいったと思ったら、足が止まった。
(「……何故でしょーね」)
「円、ちゃん……?」
 きょとんとした顔つきで、此方を覗き込んでくるティアが面白くて――その華奢な身体を抱きしめたまま、湖のなかに引き寄せていた。
「あなたとならば、いっそ。このまま――」
 戯れに囁いた筈のことばに、酷くこころを揺さぶられながら。円はゆっくりと、冷たい水の世界で大切なひとのぬくもりを確かめていく。
(「溺れて、沈んで、……堕ちて」)
 ――ああ、澱んだ感情に支配されるようだ。舌の上で転がす宝石菓子が蕩けて、仄かな甘さとほろ苦さが混ざり合っていく瞬間を、ティアとふたり分かち合いたい。
(「あなたと沈む海の底は、美しいのでしょうか」)
「……ぁ」
(「わたしが魅せる夢の涯を、気に入ってくれるでしょうか」)
 堕落に誘う夢魔たる円が、溺れるように堕ちていく姿が、余りに綺麗で――囚われてしまった。
「きっと――うん。出口なんて、なくてもいいと思うんだよ」
 陸へ戻らなければ、と言う使命感は直ぐに消えて、ティアは円の腕のなかへ身を踊らせる。水に溶けた自分を探しに、深い底まで行けそうだと言ってくれた彼女のため、ぎゅっと抱き締めそうと手を広げた。
(「円ちゃんと一緒に、このままずっと」)
 ――夢の中に溶けてしまわないように。だけど、ゆうらり揺蕩う誘惑に、紫彩の瞳が幸せな涙を滲ませていく。
(「……円ちゃんと一緒に深海へいけたなら。円ちゃんの描く夢の涯へ、いけたなら」)
 これ以上の幸せなんてきっとない。深海の泡から生まれた精霊が、享楽の夢魔と一緒に堕ちて溺れて――ふたりきりの果てへ向かうなんて、とっても素敵な物語に違いないのだ。
(「なんて、甘美な夢なんだろう――ねえ、」)
 忍び寄る呪詛に、ぞくりと身を震わせて。気も狂わんばかりの幸せに浸るティアが、円と繋いだ手に力を籠めた。
(「円ちゃん、堕ちる時は一緒だよ」)
 囁く声は甘えるように肌をくすぐって、すぐに泡沫へと変わっていく。これはきっと幻なのでしょう――と、微睡むような意識のなかで円は思った。
(「円ちゃんを引っ張って堕ちるし、……円ちゃんもぼくを引っ張って」)
(「ええ、もちろん。一緒ですよう」)
 ――けれども、今だけは。堕ちていても構わない。
 ひやりと心地良いティアの手を握り返して、んふふといつものように笑えば、湖の底で怪異が蠢く様子が伝わってきた。
「そう思うのは何故でしょーね。でも、」
 直後、飛び込んで来た生贄を取り込もうと、呪詛の声が大きくなったところで――辺りを包み込んでいたのは、円の生み出す獄魘夢だった。
「夢ではなくて現実のなかで、ね?」
 そうして、夢喰らう力を解き放った彼女に続くようにして、ティアの呼んだ溺飴の花びらが、偽りの世界すべてを夢幻の底に沈めていったのだ。
「……うん。ぼくも、幻より現実に溺れてたいな」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

西塔・晴汰
【晴ル】
うん……星も、月も、綺麗だけど何か違う――
違和感……何かわかんないけど違和感っていうか
何度見ても綺麗に見えるんっすけど
嫌な匂いがするんっすよ……それもどんどん濃くなってる

……ほんとっすね。月が変わってない
そうだ、月はもっと色んな顔を見せてくれるはず
そんで、月は沈んだら陽は登って、また入れ替わって違う顔を見せるはずっすから……
おかしいんだ、ここは
……変わらないままの夜からは、抜け出さないと
それにほら
夜が開けてくれないと、一緒に出かけらんないじゃないっすか

よっし。行こう、ルーナ。
嫌な匂いのする方に行きゃあきっと何か手がかりがあるはず
……この嫌な感じの夜を、終わらせて
本当の月夜を取り戻すっす


ルーナ・オーウェン
【晴ル】
気づけばまた湖上の船の上
眩い星空も、真ん丸の月も
湖が映したそれらもおんなじ
でも、なんだか分かる
ここにずっといちゃいけない気がする
とってもきれいな場所だけど、それだけじゃない

明るくて大きくて綺麗な月
ううん、でもこれは違う
月は満ちて欠けて、浮かんでまた沈む
だから私は作られた
けど、ずっと真ん丸のままの月は違う
このまま変わらなかったら、お月様じゃないと思う
明日になって、その次になって、そうじゃないとできないこといっぱいある

そうね、晴汰
私も探してみるから、きっと何か見つかるはず
早くこの夜を終わらせて、ちゃんとした月夜を見つけなくちゃ
二人で探せば、きっと大丈夫よね


 ――ぱしゃ。耳元で跳ねた水の音に、ルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)の意識が、ゆっくりと浮上していった。どうやらスマートフォンを握りしめたまま、ぼんやりしてしまっていたらしい。
(「……湖上の、舟の上」)
 また――繰り返したのだと、霞がかった彼女の記憶が囁いていた。眩い星空も、真ん丸の月も、湖が映したそれらもおんなじだと分かったのは、西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)との思い出を覚えておきたいと、ずっと夢中でカメラを向けていたからだ。
(「おんなじ――でも、なんだか分かる」)
 強張った指をどうにか動かして、携帯の画面に目を落としてみれば、あれほど撮った写真は一枚も残っていなくて。デジタル数字が不規則に点滅を繰り返した直後、ふつりと電源が落ちたのを確かめたルーナは、真っ直ぐに晴汰を見つめて声を発した。
「ここにずっといちゃいけない気がする。とってもきれいな場所だけど、それだけじゃない」
「うん……星も、月も、綺麗だけど何か違う――」
 明確にことばに出来ない違和感を、何とか彼に伝えようと試みたのだが、どうやら晴汰のほうも世界に潜む異変に気づきつつあるらしい。
「違和感……何かわかんないけど、違和感っていうか。何度見ても、綺麗に見えるんっすけど」
 ――嫌な匂いがする。鼻が利く彼らしい物言いに、不思議な頼もしさを覚えてちいさく頷いた。
「……匂い」
「そう、嫌な匂いがするんっすよ……それも、どんどん濃くなってる」
 湖の上でたったふたり、穏やかなひと時を過ごしていた筈なのに。今は、空転する時間がただただ虚しくて――だけど、それがいつしか当たり前に感じて、ゆっくり狂気に呑まれていくのだと思うと溜息が溢れる。
(「繰り返していく。何度死んでも……記憶を継いで、また生まれる」)
 ――月型と呼ばれた、嘗ての自分。その由来を晴汰に話して聞かせた思い出の夜は、繰り返すループに巻き込まれて遠くへ行ってしまった。
『……今のルーナも? もし死んじまっても、また生まれるっすか?』
『ううん、もう培養液は壊れたから』
『そっすか……じゃあ、一つの命になったっすね』
 色素の薄いルーナにとって、満月の明かりは眩し過ぎる。明るくて大きくて、綺麗な月――無意識のうちに、ループする世界を受け入れつつあった彼女だったが、其処で深紅の瞳が一杯に見開かれた。
「……ううん、でもこれは違う」
 ――月は満ちて欠けて、浮かんでまた沈む。だから自分は造られたのだと、あの時も晴汰に教えたのではなかったか。
「ずっと真ん丸のままの月は、違う」
「……ほんとっすね。月が変わってない」
 ぽつり、零されたルーナの呟きに顔を上げて、晴汰も満月を指さしながらそう続けた。月はもっと色んな顔を見せてくれるはずで――このまま変わらなかったら、お月様じゃないとルーナの拳が震える。
「そんで、月は沈んだら陽は登って、また入れ替わって違う顔を見せるはずっすから……」
『そう。代わりなんてない、たった一つの命っす』
 ――いつかの晴汰が掛けてくれたことばが、不意に蘇って息を呑んだ。ああ、そうだ。もうルーナは繰り返すことのない、たった一つの命となって此処に居るのだ。
「おかしいんだ、ここは。……変わらないままの夜からは、抜け出さないと」
「そうね、晴汰」
 直ぐにオールを握りしめた彼が、嫌な匂いのする方へ向けて舵を取ると、ルーナも周囲の手がかりを拾い集めるべく意識を集中させる。
「私も探してみるから、きっと何か見つかるはず。早くこの夜を終わらせて、ちゃんとした月夜を見つけなくちゃ」
 ――明日になって、その次になって、そうじゃないとできないことがいっぱいある。そう言って、吹っ切れたように前を向いたルーナが、綺麗な笑顔を浮かべているように見えたから、晴汰は照れくさそうに頬を掻いた。
「それにほら……夜が明けてくれないと、一緒に出かけらんないじゃないっすか。よっし、」
 ――奇跡を起こして、今度は光輝く太陽を見に行こう。
「行こう、ルーナ」
「うん。二人で探せば、きっと大丈夫よね」
 この嫌な感じの夜を終わらせて――本当の月夜を、取り戻そう。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ミラ・ホワイト
【夢音】

廻った夜は幾つめでしょう
降り積もる星屑はこわいほどに美しくて
求めた拠り所はしろい指先

…ね、エールさま。手を繋いでもいい?
見失いたくないの
あなたも、わたしも

包みこむ確かな温もりに溢れる安堵
そですね、ずっとこの夜を…なんて思いません
わたしの物語はまだまだ白紙のページがたくさん
それを色鮮やかに染めてゆきたいの

惑わされぬよう願い祈れば
プレゼントの箱から飛び出たノエルのお友達
賑やかな声援にふくふく微笑って
そうだわ、クリスマスも待ってますもの!

往きましょ、エールさま
繋いだ縁と芽生えた友情の先
2人でもっと、素敵な景色を見るために
わたしの倖せは終わらぬ月夜の中ではなく
夢色纏うあなたの隣にあるのですから


エール・ホーン
【夢音】

愛らしい君の聲
零れることのは

へへ、もちろんっ
うん、見失わないで
ボクも、ミラちゃんのことを絶対に見失わないよ

きれい
きれいなお月さま
でもね、この夜に身を委ねていたいなんて思わないんだ
だってだって、物語は1つのページに留まらない
絶対に未来があって、そこに向かってすすんでいく

それに何より
あたたかい君の手がそうさせるから

わあ、かわいいっ
一足早い、クリスマスだね
明るい気持ちが満ちて君の言葉に頷くんだ
うん、いこうっ
ね、ミラちゃん
ボクね
――この先にあるおつきさまがみたいな

これから君ともっと仲良くなったら――
そんな話をしたでしょう?

多分、きっと
その時一緒に見るおつきさまは
今よりもっともっときれいだよ


 ――優しい福音に耳を澄ませて、満ち足りた気分で目を開けてみれば。ミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)の前に広がっていたのは、あの時と変わらぬはじまりの風景だった。
(「廻った夜は、幾つめでしょう」)
 星海の航海へと漕ぎ出した小舟は、降り積もる星屑に阻まれていって――いつしか、同じ場所をゆらゆら漂うことしか出来なくなったのだろうか。
(「こわいほどに、美しい――でも」)
 靜かな湖面で揺れるひかりが、世界を凍らせていくみたいで身震いをする。微かに残るぬくもりを確かめたくて咄嗟に手を伸ばすも、妖しいまでに輝く湖面がミラのこころに忍び寄ってきた。
 ――月の光に溶けていく世界を、幸せのうちに受け容れてしまいそうで、怖くなる。想い出を、想い出のまま仕舞っておくのが名残惜しくなって、求めた拠り所は仲良しの少女の、細くしろい指先だった。
「……ね、エールさま。手を繋いでもいい?」
 星屑を受けてきらきら輝いている、真っ直ぐな一本角がゆっくりと此方に向けば、快活な瞳がミラの姿を映してにこりと微笑む。
「へへ、もちろんっ」
「見失いたくないの。あなたも、……わたしも」
「うん、見失わないで」
 いつだって笑顔を忘れずに。エール・ホーン(ドリームキャスト・f01626)はちいさく胸を張りながら、恭しくミラの手を取ってくれるのだ。
「ボクも、ミラちゃんのことを絶対に見失わないよ」
 ――愛らしい少女の聲に応えるように、零れることのはを重ねていくように。包みこむ確かなぬくもりが、ミラの瞼に潜む呪詛を優しく溶かしてくれたから、安堵が溢れた。
「……きれい、きれいなお月様」
 エールさま、と――舟の上でふたり、身を寄せ合って空と湖の月を見つめながら、繰り返す時間から抜け出すことを改めて誓う。
「でもね、この夜に身を委ねていたいなんて思わないんだ」
「……そですね、ずっとこの夜を……なんて思いません」
 こころの奥――ほんの僅か抱いてしまった、幸せなひと時への未練を、ことばにすることで振り切っていく。ふたりの想い出はここからはじまるのだと、顔を合わせて頷いて、これからの未来について想いを馳せるのだ。
「だってだって、物語は1つのページに留まらない」
「ええ、わたしの物語は、まだまだ白紙のページがたくさん」
「……絶対に未来があって、そこに向かってすすんでいくんだから」
「わたしのそれを、色鮮やかに染めてゆきたいの」
「なら、ボクも――一緒に、彩っていきたいな」
 大好きなみんなの、笑顔の為にエールは踊る。それが彼女の役目であったし、それに何より――あたたかいミラの手が、そうさせたから。
(「ならば、どうか……もう月に惑わされぬように」)
 硝子玉に閉じ込められた星々ではなく、それよりもとびきり綺麗なひかりを思い描いて。願い祈るミラの足元で次々と、可愛いプレゼントの箱が弾けた。
「わあ、かわいいっ」
「ノエルのお友達――ふふ、わたし達と一緒に」
「うんうん。一足早い、クリスマスだね」
 ――赤鼻のルドルフに、まんまるのスノーマン。ちいさなサンタクロースの隣では、ジンジャーブレッドマン達が手を繋いで踊っている。
「そうだわ、クリスマスも待ってますもの!」
 そんな彼らの賑やかな声援に、ふくふく微笑ったミラがぽんと手を叩けば、力強く頷いたエールの蹄が夜空を蹴った。
「往きましょ、エールさま」
「うん、いこうっ。――ね、ミラちゃん」
 明るい気持ちが満ちていくから、今なら夜の涯までだって羽ばたいていけそうだ。繋いだ手ごと少女を攫っていくように、閉ざされた環の向こうへ、翔んで。
「ボクね――この先にある、おつきさまがみたいな」
 ――繋いだ縁と、芽生えた友情の先。これから君ともっと仲良くなったら、多分、きっと。
「その時一緒に見るおつきさまは、今よりもっともっときれいだよ」
「まあ、楽しみですっ」
 ふたりでもっと、素敵な景色を見るために――硝子の殻を砕いて、降り注ぐひかりの元で夢を見よう。
 そう、ミラの倖せは終わらぬ月夜の中ではなく、
(「夢色纏う、あなたの隣にあるのですから」)
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

揺・かくり
【幽明】

何とも奇っ怪な事だね
景色は見えずとも解るとも。
先程から臭いが変わらない
なつめ、君の目には何が映る?

終わりの無い夜を繰り返すなどと
まるで終いに辿り着けぬ我らの様ではないか。
君は此の夜に沈みたいかい?
私は御免蒙りたいね。

ならば、越えようか
君の力を示しておくれよ。
私は自ら行える事は無いからね
使役する死霊諸君に助力を求めよう。

諸君、夜宴とは程遠いが君たちの力を拝借しよう。
終わりの無い月夜を切り裂く力をね
私の内に潜む呪詛ならば幾らでも喰らうと良い。
迅速に対処を願うよ。

何、此度は寿命まではやらないさ
其の気遣いに感謝しよう。
君こそ過度な解放で失速してはならないよ。

己の終わりは己が選ぶ
では、往こうか。


唄夜舞・なつめ
【幽明】
なぁ。これ
同じとこずっと回ってねェ?
…やっぱそうだよなァ…?
景色もさっきから全然変わんねェ
綺麗な星にでっけー月だァ

あァ、
まったくもってその通りだ
けど俺ァいつか辿り着いてみせる
今度こそこの命で、な。
だから……抜けるぞ。かくり。

お前確か
すっげー威力の技無かったか?
あれ使えよ
死霊にゃ俺の寿命でも
なんでもやりゃあいい
俺は『まだ』死ねない体だからなァ
…ヘェ、こんな技もあったのか

じゃあ俺ァ
雷をバンバン撃つとすっかァ!
数打ちゃそのうち
悪ィ事してるヤツに当たンだろ!
クク、神らしく天罰ってやつを
お見舞いしてやるぜ!

…フンっ、
俺ァ技の使いすぎで動きが
鈍くなるほど
落ちぶれちゃいねーっての!

…おー、行くかァ。


「……なぁ。これ」
「ああ、何とも奇っ怪な事だね」
 ――月夜の湖を見渡せる、木々に覆われた丘の上で。ふたりのあやかしが、顔を見合わせて静かに囁きを交わしていた。
「同じとこずっと回ってねェ? ……やっぱ、そうだよなァ……?」
 景色は上手く見えずとも、揺・かくり(うつり・f28103)の感覚が捉えたのは――冬支度を終えて眠りにつこうとしている、土と緑が入り混じった臭いだ。
「解るとも、先程から臭いが変わらない――なつめ、」
 其処に厭な感じで纏わりつく、甘ったるい水の馨りに鼻をひくつかせながら、かくりの指先が唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)の瞼をゆっくりとなぞった。
「君の目には、何が映る?」
「んーと、景色もさっきから全然変わんねェ」
 その琥珀色の瞳は、今も永遠の黄昏を映して夜空を彷徨っている。綺麗な星に、大きな月――繰り返す時間は、なつめにとって慣れたものだったから、今更狂うのだと言ったところで何も変わるまい。
「終わりの無い夜を繰り返すなどと、……まるで終いに辿り着けぬ、我らの様ではないか」
「……あァ、まったくもってその通りだ」
 かくりの声に混じって、遠くから蝉時雨が聞こえてきたような気がしたが、たぶん幻聴だろう。時折ループの間から顔を覗かせる、いつかの夏を振り切るようにして、なつめの尾が大地を叩いた。
「けど俺ァ、いつか辿り着いてみせる。今度こそこの命で、な」
 欠け落ちた記憶を、取り戻すすべは無いのだろうけど。止まることを許さぬ呪いが、足を踏み出せと彼の背中を押していくから。
「だから……抜けるぞ。かくり」
「ならば、越えようか。君の力を示しておくれよ」
 ――君は此の夜に沈みたいかい? 囁くかくりの手を引くことでその応えとしたなつめは、再び龍の姿になって空へと舞い上がっていった。
「私は御免蒙りたいね――とは言え、私自ら行える事は無いからね」
「あれ、でもお前確か、すっげー威力の技無かったか?」
 使役する死霊たちを引き連れて、百鬼夜行と洒落込むかくりを背に乗せながら。白い鱗に覆われた龍神の顎が、月を呑み込まんと大きく広がる。
「あれ使えよ。死霊にゃ俺の寿命でも、なんでもやりゃあいい」
 ――俺は『まだ』死ねない体だからなァ。そう呟いて自嘲気味に笑うなつめに、そっとかぶりを振ったかくりは、その背を撫でつつ新たな蛇竜を召喚していた。
「……何、此度は寿命まではやらないさ。其の気遣いに感謝しよう」
 夜宴とは程遠いが、諸君――君たちの力を拝借しよう。死霊の騎士がふたりを護るようにして先を往けば、呪詛の痕跡を辿る蛇竜は、獲物を見つけるべく牙を鳴らした。
「終わりの無い月夜を切り裂く力をね。だから、私の内に潜む呪詛ならば幾らでも喰らうと良い」
「じゃあ俺ァ、雷をバンバン撃つとすっかァ!」
 そんな、かくりの召喚した死霊たちを興味深そうに眺めつつ、なつめの方も激しい雷雨を呼ぶことにしたようだ。数打ちゃそのうち、悪ィ事してるヤツに当たンだろ、と――彼らしい豪快な脱出方法に、かくりの衣に垂れた長い髪が、笑声と一緒にさらさら波打っていった。
「クク、神らしく天罰ってやつをお見舞いしてやるぜ!」
「ああ、……君こそ、過度な解放で失速してはならないよ」
「……フンっ、俺ァ技の使いすぎで動きが鈍くなるほど、落ちぶれちゃいねーっての!」
 ――交わすことばが、閉ざされた円環を打ち砕く力になる。幾万多色の宝石たちが、眩いばかりの輝きを放つ世界で、やがて闇夜のあちこちに隠れていた獣たちが、その姿を暴かれて狼狽える様子が見えてきた。
 あれは――兎か。月夜に跳ねて、愛くるしい仕草で獲物を狙う。
「己の終わりは己が選ぶ。……では、往こうか」
「……おー、行くかァ」

 ――百年、否、それ以上の夜を越えて。ふたり過ごしたあの月夜へ、辿り着いてみせるのだ。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第3章 集団戦 『月の兎』

POW ●満月
【透明化】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮捕食態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD ●新月
自身と自身の装備、【騎乗している浮遊岩石】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ ●朔望
【油断や庇護欲】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【仲間】から、高命中力の【装備武器による一撃】を飛ばす。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ゆるやかな滅びへと誘うループが解けていけば、うつくしき月光の下で、幾千もの破片が降り注いでいく。
 手に取ろうとした先から、淡雪の如く消えていくそれは、呪詛の欠片――幾度となく繰り返された、いつかの夜の記憶だったのだろう。
(「……でも、それももう終わり」)
 現実に戻って来てしまえば、永遠だと思っていた時間も夢に変わる。急速に色褪せていく円環の想い出は、てのひらの雪と同じように――瞬きの後には消えて、その輪郭さえも分からなくなってしまうから。
(「それでも――覚えて、いるよ」)
 月に惹かれた魄が、水底へと沈んでいくよりも強く、確かに、此岸へと繋ぎ止めた想いがあったことを。
 忍び寄る狂気を振り切って、閉ざされた世界の向こう側へと飛翔する、揺るぎない意志が宿ったことを。
(「重力から解き放たれるように、跳ねて――」)
 ――呪詛の塊である岩を砕いた先、愛くるしい白うさぎ達が顔を見合わせ、無骨な杵を振りかざしたのが見えた。月の兎は餅をつくなんていうけれど、先端に散った赤い飛沫を見るに、何を叩き潰すのかは言うまでもない。
 そうして――姿を消していた彼らが、月夜のなか一斉に襲い掛かってくるのであれば。ちょっぴり愛らしい仕草に惑わされないようにしつつ、後は纏めて仕留めてしまえば良い。
「刎ねる!!」

 ――ああ、ほら。『今』はもっと、月が綺麗だ。


🌕🌕🐇🌕🌕🐇🌕🌕🐇🌕🌕🐇

●第3章補足
・ループから脱出し、怪異の元凶である呪詛型UDCと対決します。時間的には第1章が終わった直後となっており、第2章のループは現実世界に影響を与えていません。
・なので、第1章はきちんと『あったこと』になっています。一方で、第2章は夢を見ていたようなあやふやな感覚となっておりますので、PCさん次第で『はっきり覚えている』のでも『よく覚えていない』でも、どちらでも大丈夫です(プレイングの参考までにどうぞ)
・以上を踏まえて心情絡みで決着をつけるのでも、最終章を格好良く戦って決めるのでも、どちらでもお好きな方向でプレイングを書いてみてください。
花澤・まゆ
【月見里美羽ちゃん(f24139)と一緒に】

気づくとそこは元の綺麗な湖で
美羽ちゃんが泣いてて
ああ、あれは夢だったのかなとぼんやりと思う
でも、美羽ちゃんの目に生気が宿ってる
だとしたら悪くない夢だったのかな

まあ、こんな夢を見せたこの子たちを
許す理由はないんだけど

美羽ちゃんの綺麗な歌声に乗せてUCを起動
まずは一気に傷を負わせてから
【小夜啼鳥】で【切り込み】、【捨て身の一撃】を放っていくよ
後ろには美羽ちゃんがいる
あたしに負ける理由はない!

その首は、あたしが刎ねる!
跳ねるように飛び込んで、一気に切り裂くよ

アドリブ歓迎です


月見里・美羽
●花澤まゆさん(f27638)と一緒に

――忘れないよ
目には涙が残ってる
狂ったようにやり直したかった日々
でも、それは幻
あってはいけないことだった

心配そうなまゆさんに笑いかけて歌おう
ボクはもう歌える、戦える
前を向いて歩ける

【シングオーダー】でUCを歌おう
【歌声】で敵を【誘惑】して惹きつける
まゆさん、今だよ
【援護射撃】なら、ボクが【ノイジームーン】で引き受ける

お礼を言ってもいいかな
ボクに未来を教えてくれたキミたちに
ボクは進むよ、歌と共に
だから、キミたちはここでおしまい
ボクの未練と一緒にね

アドリブ歓迎です


 微かな――けれども高く澄んだ神鋼の声を、夜の果てで確かに聞いたように思う。
(「――忘れないよ」)
 精霊銃の引き金にかけた指の先、月見里・美羽(星歌い・f24139)の瞼の向こうにふわりと、深紅の花びらが過ぎっていった気がしたが、それも瞬きとともに消えていく。
(「でも、それは幻。あってはいけないことだった」)
 ――そう。終わらない夜は、既にまぼろしとなった。だけど美羽の目には、あの時流した涙が残っている。狂ったようにやり直したかった日々を、終わらせなくちゃと告げた熱い想いが、心音とひとつになって彼女の身体を駆け巡っていた。
「あ、れ……美羽ちゃん?」
 それに――さっきまで刀を握っていたような、不可思議な感覚に首を傾げる花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)が、月光を弾く湖を見渡しつつ問うのにも、美羽は笑顔で頷くことが出来ていたから。
(「ああ、あれは夢だったのかな。でも」)
 ぼんやりと想いを巡らせるまゆは、もしかしたら覚えていないのかも知れない。円環に囚われかけた友人の瞳に、ふたたび生気を灯したのは、自身の行動であったことを。
「……だとしたら、悪くない夢だったのかな」
「うん、まゆさん。……ボクはもう歌える、戦える」
 ――思い悩む素振りを、もう見せることなく。顔を上げた美羽は、そっと涙を拭ってまゆの隣に立ち、笑う。
「前を向いて、歩ける」
「あとは……こんな夢を見せた、この子たちのことなんだけど」
 一方で、怪異の罠をかいくぐった自分たちを取り囲むように、月の兎が姿を現していく光景にも、まゆは動じていなかった。慣れた手つきで刀を抜いて、その退魔の囀りを合図に、美羽に頷く。
「まあ、許す理由はないよね」
「――まゆさん、今だよ」
 直後、愛くるしい仕草で此方へ向かって来る兎たちを惹きつけるように、月夜に響き渡るのは美羽の歌。ヘッドセット型のマイクを通して増幅されていく声が、共に戦うまゆの力を高めていくなか――その手の刃が無数の花びらに変わって、辺り一帯に吹き荒れていった。
「まずは、一気に……!」
「後は、援護するから」
 油断を誘おうと近づいてきた兎が、鈴蘭の嵐に呑み込まれて消滅していくのを見届けながら、ブラスターを構えた美羽が直ぐに援護射撃を行う。
 先ほどの先制が効いたのか、召喚されていく仲間の兎たちもどうにか押し止められそうだ――月の光の如き熱線が降り注ぐ戦場を、その背の翼を羽ばたかせて突っ切っていくまゆは、朔望の一撃を見舞おうとしている兎目掛けて、退魔の刃を振りかざしていた。
「後ろには、美羽ちゃんがいる。……あたしに負ける理由はない!」
 ――捨て身の一撃を叩き込めるのも、確かな信頼を寄せる仲間が居てこそだ。そうして、大好きな空へ近づくように跳ねて、刎ねて――まゆが飛び込んでいった先でまた一羽、真っ二つに斬り裂かれた月の兎が、黒い呪詛の塵に変わって消滅していく。
「……お礼を言ってもいいかな。ボクに未来を教えてくれた、キミたちに」
 その時、夜明けを告げる小夜啼鳥のように、うつくしく終わりを囁いたのは美羽だった。
「ボクは進むよ、歌と共に。だから――キミたちはここでおしまい」
 ――何故なら、自分たちは猟兵だから。一人ででも、歩きださなきゃいけないから。首を刎ねるまゆの太刀筋に重なるように、ノイジームーンの光が夜を裂いて、微かに残った感傷ごと獣を葬っていった。
「……ボクの未練と、一緒にね」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

旭・まどか
クラウン(f03642)と

そうだね
君も偶にはあれくらい静かな日が在っても良いんじゃあない
でもまぁ今のままでいいかな

元凶は随分と愛らしい容姿なんだね
――かわいいだけで無い事は、言わずもがなだけれど

彼の一番星が何かを教えて貰う約束が出来たから
どれ程美しい月夜だったとしてもずっと其処に居続ける事は出来ない

僕も彼も
――そして、君も

君は君の在るべき場所へ
花弁に混ぜて飛ばすは夜空から零れ落ちた無数の星々

君が綺麗だと思う世界の中で逝けるのならば、或いは、
――なんて、あまり僕らしく無かったかな

この景色が僕を“こう”させたのかもしれない
おはよう
そして、おやすみ

君が今度見る夢はきっと
あたたかいものでありますように


クラウン・メリー
まどか(f18469)と

ふふー、とっても楽しかったね!
なんだか夢を見てるみたいだったな!
静かな俺も君は好き?

でもでも、君といるとはしゃいじゃうから
静かにするのは難しいかも!

わわ、うさぎさんだ!
君達がずっとお月様に閉じ込めていたのかな?

とっても綺麗でずっと眺めていたいくらいだったけど
俺はこの先のお星様やお月様を眺めたいって思ったんだ!

ね!と君に笑顔を向けて
俺はフリチラリアをいっぱい飛ばすよ

もしかしたら、ずっと幸せな気持ちでいてほしかったから
ループを繰り返していたのかもしれない
でも、違うこともしたくなっちゃうよね?

それに夜も好きだけど朝も好きなんだ!
うさぎさんも目を覚まして!

黒剣で夢を終わらせるよ


 透明な硝子がひび割れていく感覚と共に、回り続ける月夜が終わってしまえば――いつもの日常が、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)の眼前に広がっていた。
「ふふー、とっても楽しかったね!」
 両手を広げたまま、舟の上でくるりとポーズを決めてみせる間にも、彼方の記憶はゆっくりと失われていく。それでも、綺麗な景色をぐるぐる回っていく心地はメリーゴーランドのようだと思ったから、クラウンの表情は晴れやかだ。
「なんだか、夢を見てるみたいだったな! ……えっと、静かな俺も君は好き?」
 ――ふっと零した吐息には、カフェオレの甘い匂いが残っていただろうか。未だぬくもりを宿す指先をそっと解していくなかで、旭・まどか(MementoMori・f18469)の唇は、常と変わらぬ不遜なことばを放つ。
「そうだね。……君も偶には、あれくらい静かな日が在っても良いんじゃあない」
「でもでも、君といるとはしゃいじゃうから――」
 静かにするのは難しいかも、とちょっぴり前のめりになりつつクラウンが返せば、月夜の下でまどかが、音も無く立ち上がって湖面を見渡した。
「でもまぁ、……今のままでいいかな」
 ――円環は解けて、今は月の光にその微かな名残りを見出せるのみ。そうして星を呼ぶ彼の指先が、水鏡にちいさな波紋を生み出していくと、姿を消して近づこうとしていた兎たちが、次々に正体を暴かれて顔を突き合わせるのが見えた。
「わわ、うさぎさんだ! 君達がずっとお月様に閉じ込めていたのかな?」
「ふぅん、元凶は随分と愛らしい容姿なんだね」
 そう――ふわふわと浮遊する岩石に乗っかって、湖の底から仲間を召喚し続ける彼らこそ、今までの怪異を引き起こしていた元凶なのだ。
「――かわいいだけで無い事は、言わずもがなだけれど」
 つぶらな瞳を瞬きさせて、一緒に遊ぼうと首を傾ける仕草だって、此方を油断させる為のものでしかない。彼らの得物に飛び散る血飛沫を一瞥しつつ、そうまどかが吐き捨てれば、宵闇のなかで魔性の瞳が煌めいて光が弾けた。
(「ずっと、ずっと――」)
 月の引力が、魄を求めて何度手招きを繰り返そうと、もうふたりが囚われることは無い。木槌の猛攻を掻いくぐりながら、白い翼を羽ばたかせたクラウンが空を舞い、フィナーレの合図となるベルを高らかに鳴らす。
「……とっても綺麗で、ずっと眺めていたいくらいだったけど。でも俺は、」
 直後――フリチラリアの意匠そのままに、澄んだ音色を奏でる楽器が無数の花びらに変わって、吹き荒れる嵐が月兎たちを纏めてなぎ払っていった。
「この先のお星様やお月様を眺めたいって思ったんだ!」
 ――さあ、楽しいショーがはじまるよ! 道化師の手品を披露したクラウンが、「ね!」とまどかに笑顔を向けると、ひとひらの花を手にした彼も頷き、幾何学模様を描く星々を呼ぶ。
(「……嗚呼、彼の一番星が何かを教えて貰う約束が出来たから」)
 故に――どれ程美しい月夜だったとしても、ずっと此処に居続けることは出来ないのだ、と。手品に続く天体ショウは、銀の尾を引いて飛翔する星たちが、フリチラリアの花びらと繰り広げる一夜限りのもの。
(「僕も彼も――そして、君も」)
 夜空から零れ落ちた星の欠片が、邪悪な兎たちを次々に貫いていくのを見つめながら、まどかは彼らが在るべき場所へ還ることを、柄にもなく祈っていたのかも知れない。
「君が綺麗だと思う世界の中で逝けるのならば、或いは、」
 ほんの僅かな間、睫毛を伏せて。水鏡に映るこの景色が、自分を『こう』させたのかもと思いを巡らせつつ、新たな星々の煌めきを導いて朔望を防いだ。
「――なんて、あまり僕らしく無かったかな」
 もしかしたら、ずっと幸せな気持ちでいてほしかったから、ループを繰り返していたのかもしれないとクラウンは言う。それでも、ずっと同じじゃなくて違うこともしたくなっちゃうし――それに。
「夜も好きだけど、朝も好きなんだ! だから、うさぎさんも目を覚まして!」
 ――そう言って悪い夢を終わらせるべく、黒剣を手に突き進んでいくクラウンを導くように。まどかの放つ星々は湖面を弾き、きらきらと水飛沫を散らしながら兎たちを塵へと変えていったのだった。
「おはよう、……そして、おやすみ」
 君が今度見る夢は、きっと――あたたかいものでありますように。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

尭海・有珠
レン(f00719)と

詳細な言葉を私はもう覚えていない
けれどここで終わりたくないという強烈な感情と
共に逃れようと手を引いた感覚だけは残っている

「可愛い顔でなるほど、なかなか凶悪だな」
攻撃もだがどちらかといえばそのやり口がな
私もそう優しくはない…ことお前達のような相手ならば

レンが前に出るなら、私は守りを主軸に動こう
「なんだ」
レンの言葉の先を理解して尚「いいよ」と応えておこう
足を止めることなく、けれど存分に力を揮えるように
敵の攻撃は≪涯の青≫で綺麗に止めてみせる
とはいえ此方もあげて貧血を起こさぬ程度には済ませたい

障壁をお前ら如きに割らせはしないさ
回り込んでくる奴らは抜いた剣≪海昏≫で叩き切ってやる


飛砂・煉月
有珠(f06286)と
人狼病が出た状態

狼が色濃く出る満月の下では夢も鮮明
オレ達は選んだ、時進む今を
繋いだ手の感触はあたたかい

あっは、ホントだ。可愛いけど物騒
物騒なのは今のオレも同じだけど
兎は狼の得物
狩りの時間かなと笑う、嗤う

今は抑え無くてもイイ
破壊衝動は全部アイツらに
――ねぇ、有珠
オレ後で貧血でぶっ倒れるから血ちょうだ…
違う違う血液パックで対応宜しくなー?
へらりと笑えぬ狼の顔の代わり
手をひらり

喜々と前に出て景気よく手を裂き紅狼覚醒
竜槍のハクを紅狼にし
オレも刻印の力で暴れよ

護りは有珠に任せる信頼
オレは狩りに心傾け減る赤は吸血で補う
偽りだろうとひと時の幸せはアリガト
だから、
――何匹でも喰ってあげる


「――……っ」
 ゆらゆらと、穏やかに揺蕩う世界をふたりで越えて、踏み出した足が鏡写しの月を掻き消していく。
(「何が、あったのだったか」)
 引き摺り込まれた怪異――ループを抜けたのだと言う実感はあったが、其処で自分が何をしたのか、何を語ったのか、尭海・有珠(殲蒼・f06286)はもう覚えていなかった。
(「……置き忘れた心、か」)
 喪失の感覚には馴染みがあったから、今更取り乱したりなどしない。もしかしたら、隣にいる飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)であれば、鮮明に覚えているのかも知れないが――人狼病を発症している彼のことだ。こうしている今も、笑顔の下で狂気と戦っているのだろう。
「それでも、覚えていることはある」
 ――ここで終わりたくない、という強烈な感情と。共にループから逃れようと、煉月の手を引いた確かな感覚もそう。繋いだ手と手の感触はあたたかく、辺りに満ちていく呪詛も恐ろしくは無かった。
「レン、来るぞ」
「っと……兎か!」
 直後――月夜に溶け込んでいた兎たちが、透明化を解いて襲い掛かってくるのをひらりと躱して、有珠の爪先が湖面を弾く。そのまま、器用に水の上を渡っていく彼女に手を引かれていけば、煉月の瞳が獲物を捉えて面白そうに煌めいた。
「可愛い顔でなるほど、なかなか凶悪だな」
「あっは、ホントだ。可愛いけど物騒」
「うむ、攻撃もだが……どちらかといえば、そのやり口がな」
 殺戮と捕食の本性を剥き出しにした兎たちは、勢い余って湖に飛び込んでいったものの、直ぐに跳躍してふたりの元へ凶器を振り下ろしてくる。
(「あは」)
 ――だけど、物騒なのは今の煉月も同じだ。血を求める狼の性が、狩りの時間だと囁いて笑っていたのだから。
(「兎は、狼の獲物――だから今は、」)
 抑え無くてもイイのだと嗤い、破壊衝動を全てアイツらにぶつけてやるべく牙を鳴らした。
「私も、そう優しくはない……こと、お前達のような相手ならば、うん?」
「――ねぇ、有珠」
「なんだ」
 障壁を生み出し、守りを固めようとする自身の手を――その時ぎゅっと引き寄せた煉月の意図を、有珠は直ぐに察したらしい。
「オレ後で、貧血でぶっ倒れるから血ちょうだ……って、違う違う」
「ああ、……いいよ」
 血液パックで対応宜しくなーと、続く彼の言葉の先を理解してなお頷いた有珠は、涼しげな表情のまま藍の剣を構えて、朔望の猛攻を迎え撃った。
「来たれ、世界の澱――集えよ、凝れ、」
 召喚されていく兎の群れに向かって、立ちはだかるのは涯の青。空と海――ふたつの涯を重ねたその色彩もまた、いつか彼と目にすることが出来るだろうか。
「お前ら如きに、割らせはしないさ」
 その等身大の障壁を以て、死角から迫る一撃を相殺していく有珠の傍から、嬉々として前に出ていったのは煉月だった。完全に獣化した貌では上手く笑えずとも、ひらりと手を振り応えて――景気よく、その手を裂く。
「なら、オレも……暴れよう」
 相棒の竜の封印が解かれていくなかで、彼の首後ろの刻印はひどく熱を持ち、鮮血を求めて不気味に脈打っていた。ああ、赤を求めて、求めて、求めて――喰らい尽くしたい。
(「犠牲はオレでも、――……でも」)
 紅狼に覚醒した穿白とともに煉月が、跳ねる。誰のものかも分からぬ鮮血が、星屑となって零れ落ちていくのをうっとりと見つめながら、獣と化した人狼は狩りに心を傾けていく。
 ――護りならば、有珠が居れば大丈夫だ。足を止めることなく、けれど存分に力を揮えるようにと、円舞を披露するかの如く振るわれた海昏の刃が、回り込もうとした月兎の首を鮮やかに跳ねた。
(「オレ達は選んだ、時進む今を」)
 はっきりとそう告げた煉月に、有珠も全力で応えるのだと誓ったから。ならば、鮮血を代償に力を解放した彼のため――この身に流れる半魔の血だって捧げてみせよう。
「偽りだろうと、ひと時の幸せはアリガト。だから、」
 ああ、呪詛混じりの血肉を屠りながら、うつくしき満月の下で狼が嗤った。
「――何匹でも喰ってあげる」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ミラ・ホワイト
【夢音】
美しくて不思議な夢を游いでいたよな
そんな気分ですけれど
寄り添うぬくもりと
だいすきなあなたの笑顔は
やっぱり本物がいちばん!

あら、見てエールさま
なんて可愛らしいうさぎさん――でも。
惑わされちゃいけませんねっ

両手で模る一輪
ふぅと吹けば舞い踊る雪の雫
辺りを包む希望の花
誰も傷付けたくはないの
鋭利な心は柔くまるく
どうかその杵を手放して

あなたの煌きもとても綺麗
隣り合う聖なる光と輝く一本角
頼もしいわたしだけの騎士様
慈悲籠めた一振りが届くよう
祈り見送るその切先

忘れません、あなたたちのこと
エールさまとの思い出の場所をくださったこと
想い出を重ねてまたいつか
この月を見に来ましょ
確かな約束を小指に結んで


エール・ホーン
【夢音】

ミラちゃんとみる夢なら
きっときっと素敵な夢だったと思うな
えへへ、ありがとうっ
ボクもね、同じふうに思うよ

うん、とっても可愛いけれど
しっかり向こう側に送らなきゃ

君の花が舞う
――ミラちゃん、きれいっ
雪の名を持つのにあたたかな花弁たち
その優しさに思うんだ
彼らの心から溶け落ちていくもの
君たちがUDCじゃなければ一緒に遊びたかったな

それでも剣を取るよ
ボクはパラディン、今日は君だけの騎士になる!
お願い、ボクの星
重視するのは攻撃力
痛くないようになるべく一撃で

この先月を見る度、きっと君と見た今日の月を思い出すけれど
この先も君と一緒に、思い出を重ねていけたらなって思うから

うん、ぜったい、ぜったいだよ


 ――遠い記憶を震わせる鈴の音は、ミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)がいつか耳にした、優しい夢音のようで笑みが零れた。
「……美しくて、不思議な夢を游いでいたよな」
 怖いほどの幸せに浸って――それでも留まることを選ばずに、白紙のページを埋めていくのだと決意して。そんなミラの隣では、共に手を取って夢を越えたエール・ホーン(ドリームキャスト・f01626)が、軽やかに蹄を鳴らしながら湖に降り立っていた。
「でも、ミラちゃんとみる夢なら……きっときっと、素敵な夢だったと思うな」
「ええ、それでも寄り添うぬくもりと、だいすきなあなたの笑顔は――」
 凛々しい白馬を思わせるエールと言う存在は、絵本の中のものじゃなくて、こうして確かに触れることが出来るのだから。
「やっぱり本物がいちばん!」
「えへへ、ありがとうっ」
 ボクも同じふうに思うよと笑って、微かに降り始めた雪に手を伸ばそうとしたエールの袖を、その時ちいさくミラが引っ張った。
「あら、見てエールさま。なんて可愛らしいうさぎさん――」
 粉砂糖のような雪の切れ間、不自然に大気が揺らいだ辺りから、真っ白な兎たちが姿を現していく。その愛らしくも幻想的な光景は、さっきの夢の続きを思わせたけれど――殺戮武器の封印を解いた彼らに向かって、ミラの指先が浄化のひかりを生んだ。
「でも。……惑わされちゃいけませんねっ」
「うん、とっても可愛いけれど」
 ――魔除けの鈴を思わせる音色とともに、少女の両手が模っていくのは、スノードロップの花一輪。ふぅと息吹を其処へ吹き込んでいけば、舞い踊る雪の雫が優しい輝きに包まれて夜を照らした。
(「誰も傷付けたくはないの」)
 辺りを包む希望の花は、ミラの願いのままに悪意を打ち消して、鋭利な心を柔くまるく変えていく。
(「どうかその杵を手放して」)
「――ミラちゃん、きれいっ」
 雪の名を持つのにあたたかな花弁たちが、月兎たちの武器を封じ込めていくなか、歓声を上げたエールも思うのだ。彼らの心から溶け落ちた、氷の棘を――相容れぬ世界の敵、UDCじゃなければ一緒に遊びたかったのに、と。
(「……しっかり向こう側に、送らなきゃ」)
 だからそれでも、少女は剣を取って戦うことを選ぶ。ペガススの輝きを宿す刀身に、高潔な魂とともに誓いを立てる。
「ボクはパラディン、今日は君だけの騎士になる!」
 ――誰かを護るため、己の身を呈することを厭わずに。召喚した一角獣の群れが、呪詛を払おうと月夜を駆け抜けていく。
「お願い、ボクの星――」
 流星群に願いをかけて、痛くないようになるべく一撃で終わらせてみせるから。残像を重ねていくそのエールの切先を、祈り見送るミラもまた、彼らが安らかであるようにと花吹雪を舞わせていった。
(「忘れません、あなたたちのこと」)
 エールの慈悲籠めた一振りが届くよう、隣り合う聖なる光にそっと目を細めながら。
(「エールさまとの、思い出の場所をくださったこと」)
 ああ、輝く一本角はとても綺麗で勇ましくて――自分だけの騎士だと告げてくれたことが、嬉しくも頼もしい。
「……この先月を見る度、きっと君と見た今日の月を思い出すけれど」
 それでも――この先も君と一緒に、思い出を重ねていけたらいい。月に還っていく兎たちの魂を見届けながら、エールの小指に確かな約束を結んだミラが、白い吐息とともに言葉を発した。
「想い出を重ねて、またいつか。……この月を見に来ましょ」
 ――その時一緒に見る月は、今よりもっともっときれいだから。
「うん、ぜったい、ぜったいだよ」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

陽向・理玖
【菊】

…何だ?この破片
すごく長く兄さんといた気がしたけど
貰った缶コーヒーはまだ温かくて
不思議そうに首を振る

ってあれ?
マジでいたじゃん…兎
やるな兄さん
えっでもあれ…
何突いてたんだ?
餅じゃねぇだろ
…怖

さっさと倒そうぜ
腹減ったし
兄さんも俺も
帰らねぇとな

ほら遊んでやるよ
ダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴る
って意外と素早いな!?
足払いでなぎ払い
石と武器払おうと

見た目ちょい可愛いけど
その武器で台無しだなー
全然遠慮する気にならねぇわ…
えっやべぇな大丈夫か?
割り込み攻撃見切り武器受け
カウンターでUC

なぁ兄さん
兎って淋しいと死ぬんだっけ?
…淋しかったのかな

そうだな
みんな一緒だったら淋しくはないけど
遊べないしな


砂羽風・きよ
【菊】

…デッキブラシ
俺、いつデッキブラシ用意してたんだっけ?
まぁ、別にいいか

ってうさぎほんとにいやがった!!
お、おう、やっぱうさぎはほんとにいたんだな

うおお、血めっちゃ付いてるじゃねぇか!
そ、それで一体何をついているんだ…

そーだな
そんな物騒なもん持ってるのなら倒さねぇと
(俺も人(?)のこと言えねぇが)

はは、確かに腹減ったな
温かいもんでも食いてぇわ
ん、早く帰ろうぜ

モップをうさぎに巻き付けて
1匹ずつ叩きつける!

ゴミ袋を使いながら理玖のサポートしつつ
確かに可愛いがむしろちょっと怖いわ!
ほら!!急所狙ってくるところとか!こえー!

――あ、あぁ、よくそう聞くな

…そうかも知れねぇ
単に遊んでほしかったのかもな


「――……っと、何だ?」
 空を翔けのぼっていく龍が、衝撃波となって見えない壁を打ち砕いたと思った直後――陽向・理玖(夏疾風・f22773)の頭上から、雪混じりのちいさな破片が降り注いで、世界がゆっくりと現実の輪郭を取り戻していく。
「すごく長く、兄さんといた気がしたけど」
 龍のバックルに手をかけた理玖の、もう片方の手は缶コーヒーを握りしめたままで。あったかいもんならあるぜ、と砂羽風・きよ(ナマケきよし・f21482)が手渡してくれたそれを、随分前に飲み干したような記憶もあったのだが。
(「……まだ温かいよな。変なの」)
 そうして――不思議そうに首を振る理玖の向かいでは、きよの方もデッキブラシを構えた格好のまま、ゆらゆらと舟に揺られて黄昏ているようだった。
「俺、いつデッキブラシ用意してたんだっけ? まぁ、別にいいか」
「うん、兄さん。黄昏ているみたいけど、今は真夜中だから……ってあれ?」
 ひゅるるるる――幻想的な欠片が舞う月夜を、その時不意に白い塊が落下していった。ふたりが無言で見つめるなかで「ぼちゃん」と勢いよく湖に沈み、数秒ののちにぷかりと浮き上がってきたその正体は――。
「マジでいたじゃん……兎」
「って、うさぎほんとにいやがった!!」
「やるな、兄さん」
 ――衝撃波が直撃したみたいに、ふらふらしているもの。鈍器が後頭部に当たったと思しき、たんこぶを作っているものは、きよの方を睨みつけて武器の封印を解こうとしているようだ。
「お、おう、やっぱうさぎはほんとにいたんだな」
 ループの記憶は曖昧だったが、自分の用意したデッキブラシがどんな風に使われたのか、何となく理解出来たきよは目を逸らした。
(「うおお、血めっちゃ付いてるじゃねぇか!」)
 そうしている間にも、兎たちは続々に姿を現していき――その手に握られた杵が、殺戮と捕食にぎらついて不気味な唸り声をあげた。
「そ、それで一体何をついているんだ……」
「あれ、絶対……餅じゃねぇだろ」
 怖、と溜息を吐く理玖だったが、次の瞬間にはきよと顔を見合わせて「はは」と笑う。ほら――こんな大変な時だって、自分たちは相変わらずなのだから。
「さっさと倒そうぜ、腹減ったし」
「はは、……確かに腹減ったな。温かいもんでも食いてぇわ」
 直後、満月の一撃を繰り出してくる兎たち目掛けて、一瞬で間合いを詰めた理玖が、組み合った後に拳で殴る。
「ほら、遊んでやるよ――って、意外と素早いな!?」
 そのまま月の兎の一体を灰燼に変えたと思ったら、すぐに別の兎が襲い掛かってくるのに舌打ちしつつ、身を屈めたところできよが動いた。
「そーだな、でも、そんな物騒なもん持ってるのなら倒さねぇと」
 振りかぶったモップの房糸が、宙を舞う兎に上手く巻き付いたのを確認して――そのまま一気に地面へ叩きつける。
 俺も人のことは言えねぇが、と軽口を叩きながら、ゴミ袋を広げて兎を捕まえていく手際の良さは『屋台のきよし』の面目躍如と言ったところか。
「見た目ちょい可愛いけど、その武器で台無しだなー」
「確かに可愛いが、むしろちょっと怖いわ! ほら!」
 ――袋の中でぶるぶる暴れ回る兎たちが、未だ杵を手放していないようなのを、おっかなびっくり眺めつつ。
「急所狙ってくるところとか! こえー!」
 背後から迫る木槌を察知して、理玖が足払いを仕掛けたところを捕獲していけば、周囲の敵は大分数を減らしていた。
「確かに、全然遠慮する気にならねぇわ……」
 大丈夫か――ときよに声をかけ、更に割り込んで拳を叩きつけた理玖の、ぽろり零したことばが湖面を弾く。
「なぁ兄さん、兎って淋しいと死ぬんだっけ?」
「――あ、あぁ、よくそう聞くな」
 ぽとん、と。銀色の波紋が生まれたその直後、月の兎がまた一羽、灰燼と化して骸の海へと沈んでいく。
「……淋しかったのかな」
「……そうかも知れねぇ。単に遊んでほしかったのかもな」
 みんな一緒だったら、淋しくはないけど――それでも、ずっと遊ぶことは出来ないのだ。
「兄さんも俺も、帰らねぇとな」
「……ん、早く帰ろうぜ」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

誘名・櫻宵
🌸神櫻

月に棲む兎にしては物騒よ

甘やかな残穢はそのままに円な月が現を報せる
夢の様に甘やかで
獄の様に狂おしい
狂おしい赫の愛

忘れるわけがないわ
だってあんなに美味しかったのだもの
甘やかなあいを唱える神の愛しさときたら
夢すらも現にしましょう
あなたという神は滅茶苦茶にくらってやりたい程に、かぁいらし

かぁいい兎さん
喰らってしまって好いかしら
でも神様がヤキモチを妬いちゃうわね

跳んで跳ねて衝撃波と共になぎ払い
美しい月夜に桜をそえる―私の桜とお成りなさい
―喰華
カムイ、何かを超えたような晴れやかな顔をしてるわね
ひとつ心でも決まったの?

ええ
また明日も明後日も
一緒に月を愛でましょう

あら
足首の跡…こんなに濃かったかしら


朱赫七・カムイ
⛩神櫻

月には兎が棲むと言うけれど
誠であったのだね

愛している―サヨの紡いだ甘い言葉が離れない
私の慾が魅せた夢?
違う
あれは現実

狂おしい熱も
高揚も甘やかな狂喜も
凡て私のもの
忘れない
きみが誓えた滅び(愛)の詞
甘やかな馨
蕩ける表情に艶やかな仕草のひとつ
忘れたとは云わせない

離さない
愛しい
いとしい
いとおしい
サヨは確かに―是と約してくれた

私の愛し子に近寄るな
視界に入るなど烏滸がましい
―春暁ノ朱華
結界でサヨを守り
動き捉う神罰と共になぎ払い
槌ごと切断する

永遠をみせてくれて有難う
叶えるのは私だ

跳ねる鼓動に浮かされて
待ち遠しいと心が逸る

されど一番大切なのは
今この一時を共に過ごすこと

楽しみだね櫻宵
ずっと一緒に
月を観よう


 ――唇に残ったままの熱は、罪深さで溢れていたけれど、同時にひどく甘やかで心が痺れた。
(「ああ、まるで夢の様」)
 愛している、と互いに口ずさみながら、慾も露わにしるしを刻んで。巡る祝彩の赫が、残穢となって巫女の肉体を縛りつけていったのだとしても、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は、その想いを手放したりはしない。
(「獄の様に狂おしい――狂おしい、赫の愛」)
 ゆっくりと瞬きを繰り返している、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)のほうは、月夜の逢瀬を夢か何かだと思っているのだろう。未熟な神の、抑えきれぬ慾が魅せた夢――だけど。
「違う、……あれは現実」
 転生を繰り返していく魂を、ずっと己の傍に留めておきたいと願ってしまった。神とひとの禁忌を踏み越え、互いを慾したくて言の葉を交わした。
『ねぇカムイ、……愛しているわ』
 櫻宵の紡いだ甘い言葉が、頭から離れない。その狂おしい熱も、高揚も――甘やかな狂喜も。凡て自分のものだと言うように、きつく抱きしめてから手を離す。
「忘れない。きみが誓えた滅びの――愛の詞」
「ええ、私も、忘れるわけがないわ」
 甘く馨る梔子の花は、永遠の円環の残り香でしかないのだろうけど。現の月に見守られながら、櫻宵の裡に眠る大蛇が舌を震わせた。
(「だって、あんなに美味しかったのだもの」)
 ――甘やかなあいを唱える、己の神の愛しさときたら。
(「そう、忘れたとは云わせない」)
 ――巫女が自分だけに見せてくれた、その蕩ける表情と、艶やかな仕草のひとつひとつを。
 だから――湖面を蹴立てた月兎たちが、ふたりの元へ襲い掛かってくるよりも早く、月光を弾いて桜花が舞った。
「かぁいい兎さん、……喰らってしまって好いかしら」
 小舟を揺らして櫻宵が跳べば、屠桜の太刀が空を裂いて兎たちが纏めてなぎ払われる。浮遊する月の石が、新月の如く姿を消していくなかでも、邪を祓う桜龍の牙は貪婪に、獲物に喰らいついて彼らの力を啜っていく。
「ああ……でも、神様がヤキモチを妬いちゃうわね」
 直後、姿を消して忍び寄ろうとした兎の一体が、結界に弾かれて悲鳴をあげた。その焼け爛れた肉体は、神罰を受けてのものか――櫻宵をつけ狙う兎たちへ、赫の一閃を見舞っていくカムイの姿は、厄神と畏れられた存在と化している。
「私の愛し子に近寄るな――視界に入るなど、烏滸がましい」
「……あぁら、ふふ」
 獣たちが振るう木槌ごと、その存在を断ち切っていくカムイに続くように、桜花の呪を瞳に乗せた櫻宵がころころと笑った。
「カムイ、何かを超えたような、晴れやかな顔をしてるわね。……ひとつ心でも決まったの?」
「そうだね、そんな所だ」
 喰華咲き乱れる、うつくしき月夜にはらりと散った黒き桜は、厄神の権能の顕れであったのだろうが――カムイはもう、惑うことは無い。
(「サヨは確かに――是と約してくれた」)
 離さない、愛しい、いとしい、いとおしい――どんなに言の葉を連ねても足りぬほど、想いが溢れて鼓動が跳ねた。浮き立つこころが、待ち遠しいと逸るのも楽しくて、カムイの太刀が桜獄に更なる彩を加えていく。
「月には兎が棲むと言うけれど、誠であったのだね。……でも」
 ――絶ち、斬り。朱砂の神刀が、円環の向こうにある路を拓く。
「永遠をみせてくれて有難う、叶えるのは私だ」
「月に棲む兎にしては物騒よ。……ええカムイ、夢すらも現にしましょう」
 一番大切なのは、今この一時を共に過ごすことだと頷き合って。桜花と化した骸が月に昇っていくのを見上げたふたりは、どちらからともなく寄り添って指を絡めた。
「楽しみだね櫻宵、ずっと一緒に――月を観よう」
「ええ……また明日も明後日も、一緒に月を愛でましょう」
 ああカムイ、本当に――あなたという神は、滅茶苦茶にくらってやりたい程に、かぁいらしい。
 それでも。あら、
「足首の跡……こんなに濃かったかしら」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

唄夜舞・なつめ
【幽明】

やっと俺の天罰がぶち当たったかァ!
クク、ざまァねーぜ!
俺とかくりにケンカ売るなんて
命知らずなヤツだなァ…!
特にかくり怒らせたら
姿形なく消され痛ッてェ!!!
(小石が凄い勢いで顔面に飛んでくる)

なァにすんだてめー!
(ぎゃんぎゃん)
わーったよ!
倒しゃあいーんだろ!
フン、
あんなうさ公に潰されるほど
ヤワじゃねーよ。
丸焼きにして食ってやるっての!

『終焉らせてやる』

完全竜体になれば
抑えられた奴らに
激しい雷を撃ち落とし
群がるヤツらには
尻尾ビンタをくれてやる

いーぞかくり
よく分かってきてンじゃねーの!
どんなものも
偽より真が一番キレーなンだ
真の終焉りを迎えるため
俺もこの夜は
抜けさせてもらうぜェ…!


揺・かくり
【幽明】

廻る月夜は終わった様だ。
其処に居座る円かな怪異は何者だい
……彼れは白兎かい?
随分と物騒な物を所持して居るのだね。

君の声は鼓膜を穿つかの様だ
手早く取り掛かり給えよ。
念力を纏った小石を君へと投じよう

頭だけで無く此の身まで潰されるのは御免なのだよ。
君とて同じだろう?
返事は聞くまでも無いさ。
我々が往く道から退いて呉れよ。

白い塊が数多に分裂をした様だ。
君たちには呪詛を呉れてやろう
たんと食らうが良いさ。
逃げ出す輩は念動力で抑えてしまおう

捉うものを正確に見映せずとも
浮かぶ月は美しいのだと、星は耀くのだと識ったのだよ。
偽の月夜ではなく、真の月を眺む為
己たちの終焉を迎える為
私たちは此の夜を脱するのだよ。


 ――月夜に轟く万雷は、夏の終わりの花火のよう。静かな空に降りしきる雨が、稲光を弾いてきらきら輝いていく光景は、屍者の瞳にも鮮やかに映し出される。
 そんな、竜の神が魅せてくれたささやかな奇跡が、隠れていた元凶を暴き立てていくなかで――揺・かくり(うつり・f28103)の感覚は、世界があるべき姿を取り戻したことを捉えていた。
「……廻る月夜は、終わった様だ」
「あァ、やっと俺の天罰がぶち当たったかァ!」
 ぽっかりと浮かぶ満月を臨んで、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)の呼んだ雷が直撃してしまったのだろうか、白い塊が水面に落下していくのが見える。
「其処に居座る、円かな怪異は何者だい。……彼れは白兎かい?」
「んー、何かでっかい岩に乗ってるみてェだが……クク、ざまァねーぜ!」
 それでも一羽、また一羽と姿を現していく兎たちは、浮遊する岩石を操って、ふたりの元へ襲い掛かろうとしているようだ。
「は、俺とかくりにケンカ売るなんて、命知らずなヤツだなァ……! 特にかくり怒らせたら姿形なく消され、」
 と、直後――呵々大笑するなつめの顔面に、物凄い勢いで飛んできた小石が、続く言葉を悲鳴に変えた。
「っつ痛ッてェ!!! なァにすんだてめー!」
「君の声は鼓膜を穿つかの様だ。手早く取り掛かり給えよ」
 ガッ、と鈍い音を立てて仰け反ったなつめの隣、涼しげな表情で促した妖こそ、念力の主だと悟ったが――彼女を怒らせてしまえば消されると言った手前、大人しく従っておくことにする。
「わーったよ! 倒しゃあいーんだろ!」
「……頭だけで無く、此の身まで潰されるのは御免なのだよ」
 ――それは、君とて同じだろう? ぎゃんぎゃんと喚くなつめの返事を聞くまでもなく、かくりの躯がふわりと宙に浮かび上がって獲物と向き合う。
「フン、……あんなうさ公に潰されるほど、ヤワじゃねーよ」
「さぁ、我々が往く道から退いて呉れよ」
 丸焼きにして食ってやるのだと、なつめが牙をちらつかせてみせれば、その姿が見る間に完全な竜体へと変化していった。
『――終焉らせてやる』
 嘗て、ひとびとの信仰を一身に集めた龍が、邪神の眷属を一気になぎ払っていく。それでも数が多すぎて、群がる獣の勢いは未だ止まらない。
(「白い塊が、数多に分裂をした様だ」)
 ならば――かくりの指先にわだかまる黒が、指輪のかたちを取って呪詛を為す。
「君たちに呉れてやろう――たんと食らうが良いさ」
 ああ、呪詛を唱えていた筈の兎たちが、新たな呪詛に呑まれて身悶えていく。どうにかして其処から逃れようとするものもいたが、彼女の念動力がそれを許さない。
「随分と、物騒な物を所持して居るのだね。でも、」
「よッし、喰らいなァ!!」
 ――やぶれかぶれで杵を振り上げてきた兎目掛けて、激しい雷を落としたのはなつめだった。そのまま、かくりによって動きを封じられた兎の群れを、龍の尾が一閃していくと、辺りに一瞬、静寂が戻ってくる。
「捉うものを正確に見映せずとも、浮かぶ月は美しいのだと、……星は耀くのだと識ったのだよ」
「いーぞかくり、よく分かってきてンじゃねーの!」
 濁る世界がその時、微かに澄み渡って見えたのは――竜神が与えてくれた、澄の加護ゆえのことか。
「どんなものも、偽より真が一番キレーなンだ」
「ならば――偽の月夜ではなく、真の月を眺む為、」
 ――しらない。だけど、しりたい。幽世に木霊する屍者のこえが、月の兎を手招き呪詛の海に沈めていく。
「己たちの終焉を迎える為……私たちは、此の夜を脱するのだよ」
 そう、凡ては真の終焉りを迎えるため。黄昏の夏雨を呼ぶ龍が、眩い雷光とともに咆哮を轟かせた。
「俺もこの夜は、抜けさせてもらうぜェ……!」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

西塔・晴汰
【晴ル】
…戻ってきたんだ、オレたち
夢見てたみたいだけど、なんとなく覚えてるっす
うん、変わらない景色
光が溜まって綺麗な光景だったけど…
開けない夜も、夜の来ない朝もオレたちの世界にはないんだ
月夜も太陽も、いつだって昨日とは少しずつ違うんだから…
…ルーナ、寝ぼけたりはしてないっすよね?
終わらない夜を終わらせるために、やるっすよ!

姿は消えるわえげつないハンマー持ってるわで
厄介は厄介っすけど、こっちは耳と鼻は利く方なんっすよね
ルーナが囲って場所を特定しやすくしてくれりゃあ尚の事
ハンマー相手だろうとパワー勝負ならオレだって
黄金の炎を纏った大槍を叩きつける
この夜を終わらせるための、太陽の光を見せてやるっすよ


ルーナ・オーウェン
【晴ル】
帰って、きたね
不思議な夢だった、不思議な景色だった
ずっと変わらない景色、確かにきれいだけど、少しずつ変わっていくからきっともっときれいなんだと思う
明日はどうなってるのかな、ってわくわくするし
大丈夫、私は
ちゃんと夜を取り戻すために、もう誰も閉じ込められないように
ここで止めなきゃ、ね

敵がふっと見えなくなる
見えない相手は脅威、だけど
私は戦闘用の兵器だった、気配も空気の流れも、音も
大事な判断材料だから、見つけるのは得意
呼び出すのは分身、囲むように敵の周りを囲って逃げ場を抑えていくね
大丈夫、晴汰も見つけるのは得意だよね
それに力だって、あるから
夜明けの太陽を取り戻すために
よろしく、ね


「……戻ってきたんだ、オレたち」
 呪詛の匂いを辿って、舵を切ったと思ったら――何かを突き抜けるような感覚と共に、西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)の視界が、万華鏡の如く揺らいでいた。
「うん。帰って、きたね」
 ――だけどその違和感は、ほんの一瞬のこと。自分の手にしたスマートフォンに、撮りためていた写真が次々に表示されていくのを確かめると、ルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)の体躯が月夜に踊る。
「ルーナ……って、寝ぼけたりはしてないようっすね」
「大丈夫、私は――」
 そのまま闘衣の袖を優雅に払えば、仕込まれていた鋼糸がぴぃんと張って、忍び寄る兎たちの足を止めていった。どうやら向こうは、景色に溶け込んで不意打ちを狙っていたようだが――隠密行動に長けたルーナにとって、彼らの居場所を探る術は幾らでもある。
(「見えない相手は脅威、だけど。……私は、戦闘用の兵器だったから」)
 敵の気配も、空気の流れも。ほんの僅かな音だって、大事な判断材料になり得るのだ。透明化の力が消せないそれへ感覚を研ぎ澄ませつつ、ルーナの分身が一斉に暗器を放った。
「見つけるのは得意。見てるよ、……見えてるよ」
 ――新月の闇に対抗するのは、朧月影の少女たちで。ふっと姿を消すことで、態勢を整えようとした兎たちの元へ、間髪入れずに十二式飛刃の群れが襲い掛かってその逃げ道を塞ぐ。
「晴汰も、見つけるのは得意だよね」
「まぁ、こっちも耳と鼻は利く方っすから」
 包囲を狭めていくルーナに続いて、前に出たのは晴汰だった。透明化を代償に、武器の封印を解いた兎から彼女を庇うように、手にした大槍が焔を纏う。
「姿は消えるわ、えげつないハンマー持ってるわで、厄介は厄介っすけど――」
 立ち昇る黄金の闘気が、獣の咆哮をあげて月兎の一撃をなぎ払っていくと――返す勢いのまま槍を大地へ叩きつけて、地形ごと兎たちを吹き飛ばした。
「パワー勝負ならオレだって! 終わらない夜を終わらせるために、やるっすよ!」
「うん、晴汰にはその力だって、あるから」
 ――この夜を終わらせるための、太陽の光を見せてやろうとでも言うように。羅刹もかくやとばかりの力を発揮する晴汰のもと、俊敏さで迫るルーナも負けてはいなかった。
(「……夜明けの太陽を、取り戻すために」)
 月の満ち欠けを繰り返して迫る兎の居場所を特定し、彼らが追い詰められたのを悟る前に、黒塗りの鉈でその首を刎ねていく。
(「ちゃんと夜を取り戻すために、もう誰も閉じ込められないように。ここで止めなきゃ、ね」)
 黒い塵と化して消滅していく兎の最期――つぶらな赤い瞳が、ルーナの方を見つめたような気がした。失われた過去の化身であるオブリビオンは、嘗てのルーナと同じように、骸の海と言う名のフラスコでまた生まれてくるのかも知れないけれど。
(「……でも、違う。私にはもう、代わりなんていない」)
 ――たった一つの命となった月の少女が、銀色の湖面に静かに降り立つ。そのまま、灰となった兎たちを弔うように伸ばされた手は、いつしか晴汰の手と重なっていった。
「不思議な夢だった、不思議な景色だった」
「オレも……夢見てたみたいだけど、なんとなく覚えてるっす」
 ずっと変わらない景色は、光が溜まって確かに綺麗な光景だったけれど――それでも世界は、少しずつ変わっていくからきっと、もっと綺麗なのだろう。
「明けない夜も、夜の来ない朝もオレたちの世界にはないんだから」
「それに、明日はどうなってるのかな、ってわくわくするし」
 月夜も太陽も、いつだって昨日とは少しずつ違うんだから――そう言って笑った晴汰の顔は、やっぱり太陽みたいだなとルーナは思う。
「……あ、確か晴汰と、また一緒に出かける約束もしたよね」
 今度は、美味しいものを食べに行くのも良さそうだ。そんな風に考える少女の手を、勢いよく引いた少年が――直後、空を見上げて声をあげた。

「ほら、ルーナ! 夜明けっす!」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2021年01月21日
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵