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怪異口伝録 -明日天気になあれ-

#UDCアース #感染型UDC


●怪異口伝録『招喚主』
 はァい、ダァリン──よく見つけたね。
 そうとも、僕はベラトリクス・オリオン。
 呼ばれ求められたからには、応じよう。
 それじゃ、ダァリン。

 ──いっしょにいこう?

●邂逅者斯く語りき
 『招喚主』って都市伝説あるじゃん?
 ベラトリクス・オリオンって召喚士を見つけたら好きなとこに連れてってくれるってやつ。
 ……え? どこでって?
 どこでもいいんだよ。SNSでも、アプリゲーム内でも、現実でも。とにかく呼びながら探し続けたらいいってやつ。
 そう、簡単。けど当然確率は相当低いみたいで、実際会えたって話はあんまり聞かないんだよね。
 でもさ、アタシど〜しても『明日の世界』に行きたかったの。だからヨーコさんのアプリでオリオンを呼び続けたんだよね。
 そしたら、画面が黒くなって──そんで、現れたのよ。ベラトリクス・オリオンが。
 「いっしょにいこう」って言うから喜んでたら、今すげー周りに大量のヨーコさんが居んの!
 いやほんとなに言ってんの? ってアタシも思うけど事実なの! 助けて!
 場所は────。

●グリモア・ベース
「なんだかよく判んないの」
 憩・イリヤ(キミガタメ・f12339)は豊かな星空色の髪を揺らして首を傾げた。
「みんなは、『招喚主』って都市伝説、知ってる? イリあんまり知らなくて……都市伝説って言っても、きっと相当新参なの!」
 どうでもいいことをめいっぱい力説したあと、イリヤはこほんと咳払いをひとつ。
「……みんなはもう判るよね。この『招喚主』の正体は、アンディファインド・クリーチャー(UDC)。邪神なの」
 それも、と彼女はひと差し指を立てた。
「感染型UDC。もうみんな聞いたことある、よね? ひとの『噂』で増殖するUDCなの。見たひとや、噂話とかSNSで広めたひと、その広まった噂を知ったひとみーんなの『精神エネルギー』を糧にして、たっくさんの配下を生み出すことが出来ちゃうオブリビオンなの」
 なにかあればニュースより先にSNSに載るような時代だ。
 このタイプの邪神が広まるのは看過できない。
「この『招喚主』はね、どこでもいいから、呼びながら探して見つかれば、『好きなところに連れてってくれる』らしいの。
 今回の邂逅者は『佐々木・陽葵(ささき・ひまり)』ちゃん。天気予報アプリで、『明日の世界』に行こうとしたんだって。
 理由は……デートの予行演習、らしいの。好きなひとと一緒に過ごす時間、絶対失敗したくなかったんだって」
 いじらしいの、とイリヤは小さく微笑む。
「でもね、邪神がそんな優しいわけないの。『好きなところ』に行ったら、帰って来られないの」
 だからそんなの、阻止しちゃお! と。
 イリヤは両の拳を握った。
「まず陽葵ちゃんの元に駆け付けて、ヨーコさんって配下の邪神を倒すの。そうしたら、オリオンの潜む空間への扉が開くの。そこを突き進んで、オリオンを倒して来て!」
 あっさり簡単にそう告げて。
 よろしくなの! とイリヤは猟兵たちへと手を振った。


朱凪
 目に留めていただき、ありがとうございます。
 結局こういう話を書きたくなっちゃう。朱凪です。

 まずはマスターページをご一読ください。

 また、『怪異口伝録』はシリーズを予定していますが、各シナリオ間でのリンクは想定していませんのでお気軽に。
 同タイトル、同敵なだけです。

▼OP補足
 『明日』は『12/31夜〜1/1朝』です。
 つまり年明けの少し前から、その直後です。
 執筆に時間掛かってもそれは変わりません。

▼進行
 まったりペースで、書けるときに、書けるだけ。
 書きたいときにプレが無ければ積極的にサポートさんにも助力願います。
 プレの返戻は大抵タイミングの問題です。

 各章、幕間を追加してからの募集開始となります。

 では、招き招かれ楽しむプレイング、お待ちしてます。
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第1章 集団戦 『都市伝説『てるてる・ヨーコさん』』

POW   :    災害警報
自身が操縦する【雨雲 】の【降水確率】と【災害警戒レベル】を増強する。
SPD   :    今日のラッキーアイテム
いま戦っている対象に有効な【ラッキーアイテム 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    今日の天気は晴れのち・・・
【いま自分にとって都合のいい天気 】を降らせる事で、戦場全体が【その天気に応じた環境】と同じ環境に変化する。[その天気に応じた環境]に適応した者の行動成功率が上昇する。
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●天気予報アプリ
「は〜い、明日の天気は晴れだよぅ! 清々しい年明けを過ごしてね!」
「違うよぅ! 明日は雪! しんしんと粉雪舞う中での初詣! 素敵だね!」
「ううん、明日はしとしと雨だよぅ! 寒〜い中に小雨が降って、水溜まり凍っちゃうから転ばないよう注意してね!」
「なんとなんと、明日は千年に一度の赤気が見れちゃうよぅ! 真っ赤なオーロラが世界の破滅みたいカモ!」

「な、なんなの……?! オリオン、どこよ……?!」
 わらわらとアプリの中で見慣れた妖狐のヨーコさんが陽葵の周りに群がって好き勝手言うのに、当の彼女は当然パニックだ。
 「いっしょにいこう」って言ったのに、現れたはずのベラトリクス・オリオンは、
「此処だよ」
「!」
 ぴィ、と陽葵の傍の景色が切れた。まるでタペストリーを裂いたみたいに、景色の裂け目から、男の顔が覗いた。
「ごめんね? ダァリンの想いが素敵過ぎて、思わぬ輩まで集まって来ちゃったみたい。僕の力ではこんなに『明日の世界』には招べないから、倒してよ。助太刀お願いしてもちろんいいからさ」
「ちょッ?!」
 そう言って、裂け目はまた何事もなかったかのように閉じて、消えた。
「た、倒してって……どうすればいいの?!」
 例え何人か手助けに来てくれたところで、ヨーコさんの方が多いから一対複数のヨーコさん、という形になるだろう。
 いや、そもそもそんなひと来てくれるはずがない。
「え、SNSでもっと拡散して……!」
 混乱した陽葵は、スマートフォンに手を伸ばした。
山崎・圭一
邪神、かあ…確かにゴーストとは違ェな
まっ、やる事は能力者だった頃と一緒か

白燐蟲達にパニクった嬢ちゃん守らせて、と…
さて…調子に乗ンなよ、メスガキ共
俺のいた世界じゃ銀の雨が降っただけで誰かが傷つくんだ
シルバーレイン、万色の稲妻
あれ以上に恐ろしい天気を俺は知らねぇ
あの空に比べたら…怖かねンだよ!お前らの言う天気なんざ!

命捕網から投げ出す呪殺弾で応戦
白燐蟲達の光を背後に、俺の影が敵と重なる機会を待ってみるぜ
ンで、その機会が来たなら…
光があればどんな天気でも影は作れる
その影からUC発動
おっと、蟲達の食事が見たくねーなら
目を離した方がいいぜ!お嬢ちゃん

降らせてみろよ…多くの血が流れたあの…銀の雨を!


上野・修介
※連携、アドリブ歓迎
毎度のことではあるのだが……
「年の瀬でもお構いなしか」

呼吸を整え、無駄な力を抜き、戦場を観据える。
保護対象と敵と配置、周囲の状況を把握。

まず保護対象に極力丁寧に声を掛けて落ち着かせる。
「佐々木・陽葵さんですね?助けに来ました」
「いきなりで信じられないかもしれませんが、一先ずはあまり動かないで」
「直ぐに終わらせます」

UC:攻撃重視 メイン武器:徒手格闘
立ち回りは基本ヒット&ウェイ
合間にアサルトペンの投擲と流星錘で牽制を入れつつ、敵の懐から懐を移動するように常に動き回ってヘイトを自分に向けつつ被弾を抑制。
保護対象を巻き込まないように立ち位置と射線に注意しつつ速攻殲滅。



●そこに恐怖はない
 震える手で陽葵はスマートフォンの画面に指を滑らせる。
 なんとか、なんとかみんなに伝えて、それで──。
「!」
 スマートフォンの周囲が、きらきらと白く輝いている。意思を持つかのように揺らめいている。
 その光景に釘付けになった陽葵の前に飛び出した虫取り網のようなものを手にした少年、のように見える姿と、
「佐々木・陽葵さんですね?」
「?!」
 驚いて振り向いた先に居たのは、顔に傷のある青年。
 彼は、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は身を竦めた陽葵へ視線を据えた。
「助けに来ました。いきなりで信じられないかもしれませんが、一先ずはあまり動かないで」
 修介は周囲を見渡し、吐息をひとつ。毎度のことではあるのだが、と。
「年の瀬でもお構いなしか」
 そして、既にもうひとりの仲間──山崎・圭一(ザキヤマ・f35364)の立ち向かう邪神の群れへと駆け出した。
「直ぐに終らせます」
 力強い言葉を残して。

「嬢ちゃんは落ち着いたかよ?」
「おそらく、最低限は」
 修介の回答に、圭一は上等、と笑う。彼女には彼も自らの白燐蟲をつけている。こちらも最低限の守りは施せているだろう。
「ねぇねぇ、今は雨だよ。大雨!」
 邪気のない声でヨーコさん(の内のひとり)が言うが早いか、大粒の篠突く雨が降り出した。圭一と修平をビー玉のような粒が襲い、視界は悪く、濡れた服は動きを妨げる。ちなみにヨーコさんたちは素早く雨合羽を着ている。
 「さて……」動じず、圭一は手にした虫取り網──否、命捕網を振るった。じゃらん、と錫杖の如き環が雨音の中にも鈍く渡る。
「調子に乗ンなよ、メスガキ共」
 放るように打ち出す、呪い籠めた蟲の弾丸。きゃあと逼迫感の足りない悲鳴が上がる。
「俺のいた世界じゃ、銀の雨が降っただけで誰かが傷つくんだ。シルバーレイン、万色の稲妻……あれ以上に恐ろしい天気を俺は知らねぇ」
 撃ち放った白燐蟲たちはヨーコさんたちを叩きつけ蝕むだけに収まらない。
 圭一の背後に寄り集まり、豪雨の中でも揺るがぬ結束で生み出すのは、月のように静かな光。彼の前に影を生む光。
 相手は複数だが規則性もなくめいめいに別の天気を喚び出そうとしている。影に重なるんて、気にしてもいない。
──……確かにゴーストとは違ェな。
 危機感がない。飢餓感がない。
 だが例えそうだとして、一般人を害するというのならばやることは能力者だった頃と同じだ。
「あの空に比べたら……怖かねンだよ! お前らの言う天気なんざ!」
 ぞ わ り 、と。
 影の中から蟲が這い出た。それが蟲型のゴーストだと知る者はこの場には居ない。蟲冥墓穴。圭一のアビリティに代わる、新しい力。
「ひっ……!」
「おっと、こいつの食事が見たくねーなら目を離した方がいいぜ! お嬢ちゃん」
 蒼褪めた陽葵へと笑いかけて、口の中で呟く。さあ、喰え。
 白い燐光を纏う姿がキシキシと音を立てる。大きな身体を支える細い脚。それが突如、加速する。蠍が如き長い尾から放つ毒液が、進行路にいるヨーコさんたちを爛れさせ、追った牙が喰い散らす。
 開いた空間に、修介は嘆息する。
「しかし、強力です」
 息を吸って、吐いて。強張り掛ける肩の力を抜いて、凪いだ精神で見る。
 圭一の言葉に応じて、背後の陽葵は目を瞑って耳を塞いでいる。蟲が蹂躙した一線に、ふらふらと未だ絶命──否、消滅に到らない者が歩み出る。
 その姿が、弾丸が如き一閃に打ち倒された。なにが起きたか判らず目を白黒させる別個体への懐へと陽炎のように現れた姿。猟兵、と敵は認識もしなかっただろう。
 拳は手を以て放つに非ず。修介が自らの拳を握ったと自覚する頃には眼前の敵は昏倒し始め、彼自身の身体は次の標的を目指す。
 自らの足跡は踏まない。
「……まだまだ」
 群がるUDCへ呟く修介の後方で圭一は吼えた。
「降らせてみろよ……多くの血が流れたあの……銀の雨を!」
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

儀水・芽亜
『招喚主』ベアトリクス・オリオン、ですか。邪神も今時になるのですね。
直接送り届けてくれるとは、グリモア猟兵さんもお気遣いありがたく。
それでは、討滅を始めましょう。

こんにちは、陽葵さん。ちょっと後ろに下がっててくれますか。この都市伝説達を討滅しますから。

裁断鋏『Gemeinde』を開き、その間にナイトメアを召喚。
「全力魔法」夢の「属性攻撃」「蹂躙」で、ナイトメアランページ!
一直線上の都市伝説は、これで殲滅出来るはず。
いくら湧いてこようと、ナイトメアランページで蹴散らしてくれます。

陽葵さん、ちゃんと後ろに下がっていますね? あれらに近づいたら駄目ですよ。
さてそろそろ、玄関の扉を開けてくれそうです。


紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
陽葵のお嬢さん、藍ちゃんくんが来たからにはもう大丈夫なのでっす!
でっすので、ええ、藍ちゃんくんから目を離さず!
写真を取るのならどうか藍ちゃんくんをなのでっすよー!

というわけで!
お嬢さんを元気づける&拡散二次被害を出さないよう言いくるめちゃうのでっす!
手も繋いじゃうのでっす!
歌って踊ってスマホ操作も忘れる藍ちゃんくんライブの時間なのでっすよー!
やや、天候でっすかー?
そっちも大丈夫なのでっす!
どんな天気も藍ちゃんくんのステージを彩る演出にしちゃうのでっす!
雨も雪もオーロラも雷も!
藍ちゃんくんの歌を聞いて、一緒に踊ろうなのでっすよー!

スマホさんも、ええ、お願いなのでっすよー?



●悪夢と踊る
「『招喚主』ベラトリクス・オリオン、ですか。邪神も今時になるのですね」
 淡い緑の髪を揺らし、届いた他の猟兵の声に儀水・芽亜(共に見る希望の夢・f35644)は目を細めた。懐かしい、と言うには少し違う。
 送り届けてくれるとは、グリモア猟兵さんもお気遣いありがたく。と、かつての戦いを思い起こしては、彼女はすいと歩み出た。
「それでは、討滅を始めましょう」
 ふた振りの軍刀を重ね組み合わせた裁断鋏『Gemeinde』をすらりと抜き、既に戦い始めている猟兵たちの背後でスマートフォンを握り締めて震えている少女の傍へ。
「こんにちは、陽葵さん。ちょっと後ろに下がっててくれますか。この都市伝説達を討滅しますから」
「え、あ……」
「陽葵のお嬢さん、藍ちゃんくんが来たからにはもう大丈夫なのでっすよー! 安心安全なのでっす!」
 ぎゅっ、とスマートフォンを握る陽葵の手を包み込んだのは、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)。
 大丈夫。助けは来た。だからSNSの拡散は、必要ない。二次被害は、起こさせない。
「でっすので、ええ、藍ちゃんくんから目を離さず! 写真を撮るならどうか、藍ちゃんくんを、なのでっすよー!」
 ぽかんとする陽葵だったけれど、にっこりギザ歯を見せて笑う藍の言葉に、どうしてか抗う気持ちはすべて削ぎ落された。言いくるめる技量も、誘惑する手管も、コミュ力も。藍にとっては息をするように染みついた“藍”だ。
「さあさご注目! なのでっす! 歌って踊ってスマホ操作も忘れちゃうほどの藍ちゃんくんライブの時間なのでっすよー!」
「ダンス? そんなの大雪で見えなくなっちゃうよぅ!」
 ひとりのヨーコさんがそう言うと、ホワイトアウトするほどの横殴りの雪が場を包み込んだ。「あやー!」藍はしっかりと陽葵の手を繋いだまま、けれど慌てない。
 襲い掛かる冷気に縮み上がる陽葵に大丈夫なのでっす、と笑いかけて──それが見えたかどうかは判らないけれど──、きらと輝く紫の瞳を白の世界に差し向けた。
「どんな天気も藍ちゃんくんのステージを彩る演出にしちゃうのでっす!」
 その瞳は星の瞳──アイクルスイート。藍の歌やダンスやファンサービスが命中した相手、そう、自然現象すらも、友好的な行動を行うユーベルコードだ。
「さあさあ! 陽葵のお嬢さんも、妖狐のお姉さんも! 藍ちゃんくんの歌を聞いて、一緒に踊ろうなのでっすよー!」
 掛け声が歌となって響き渡る。豪雪は言葉通りに舞台装置と早変わりし、ヨーコさんたちがてんでばらばらに喚び起こしていた天候も、ただただ藍たちを彩る景色となる。
「なるほど、そういう手段もあるのですね」
 芽亜も小さく肯いて、そして手にした『Gemeinde』を再び強く握った。彼女も、彼女にできることをするのみだ。
「駆け抜けなさい、ナイトメア!」
 全霊の気迫を籠めた突貫と共に喚び出す『来訪者ナイトメア』が、一線に都市伝説たちの群れを縦断した。ナイトメアランページ。かつて奥義まで究めたその技の射程距離は、以前の比ではない。
 大きく割れたヨーコさんたちの群れは混乱し入り乱れ、
「藍ちゃんくんの歌で落ち着いて欲しいのでっす!」
 そこへ届くのは抗いがたい誘惑。
「陽葵さんは……ちゃんとそこにいますね。あれらに近づいたら駄目ですよ」
 芽亜も陽葵の存在を何度も確かめ、そして害が及ばぬことを確認して──更にナイトメアを放つ。
 疾走する“悪夢”はその精神を食らうかのように薙ぎ払い、その場に膝をつくと同時にヨーコさんたちは霞が如く消えていく。
 長らく続ける詠唱に小さく息を吐いて、芽亜はちらとなにもない中空を見遣る。
 あくまでも目指すは、『招喚主』だ。
「……さてそろそろ、玄関の扉を開けてくれそうです」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
明日、明日ね、知りたいモンかなァ
まァデートの予習なンて可愛いじゃん?
ぶっつけ本番にゃなるケド行ってほしいネ
鼻歌まじりにSNSから場所を探して
……えっこれ?これでイイやつ?
まァ多分イイやつ、迷うよりは駆け出して

はァいお待たせ、片手挙げてみるも
おっとなっかなか面白い光景
柄に手をかけかしげて見回して、さて

数には数かな
錬成カミヤドリでお相手しましょ
玩具は砕いて、なにラッキーアイテム?
運任せはよろしくないねと狙い打ち
可愛いナリにも気負うことなく
まっすぐ貫くのはたくさんあるうちの一つ
防ぐよりは向かう分だけ貫いて

――ああ、そう、目は瞑っておく?
ほらほら一人ずつは面倒でしょう
全員まとめて、かかっておいで


クロム・ハクト
完璧な予行練習ができればそれはたしかに確実だな。
噂好きを拡散が必要な状況に追い込むのもまた都市伝説には確実で効率的な話か。

複数相手にするならまとめて攻撃したいところだが、巻き込むわけにはいかないか(人狼咆哮断念)。
からくり人形の腕を大きく振るい爪で範囲攻撃。
(距離を取る、囲まれないように)

あれはああいう使い方をするものなのか?/使い方は何でもありか。/ある意味正しい使い方だが。
ラッキーアイテムは、物理的に使ってくるなら処刑道具で受け止めつつ。
発動できる状況(特にまとめて受ける事になる状況)なら、オペラツィオン・マカブルで排出。
ラッキーアイテムなんだろ?しっかり受け取りな。

アドリブ・絡みOK



●きみに幸運あれ!
「明日、明日ね、知りたいモンかなァ」
「完璧な予行練習ができればそれはたしかに確実だな」
 指の間で抓んだ携帯端末の画面を、逆の指先でついとなぞる。ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)の呟きに、クロム・ハクト(黒と白・f16294)は生真面目に肯く。
 その言葉に、ク、とユルグは口角を上げた。
「まァデートの予習なンて可愛いじゃん?」
 ぶっつけ本番にゃなるケド行ってほしいネ、と鼻歌まじりに細めた彼の紅い目が、ふと丸くなった。
「えっこれ? これでイイやつ?」
「……ああ、間違いない」
 彼の見せる画面を覗き込み、クロムも肯く。クロム自身はSNSに造詣深くないが、それでもその荒唐無稽なSOSはそうあるものではないだろうと知れる。
 視線を絡めたのは一時。
 そしてふたり、駆け出した。
──噂好きを拡散が必要な状況に追い込むのもまた都市伝説には確実で効率的な話か。
 オブリビオンは世界に応じてカタチを変える。
 クロムはこんじきの瞳をそっと眇めた。

 辿り着いた──同じ顔の少女たちがわらわらと群がる中に、SNSのアイコンに載っていた少女の姿を見つけた。
「おっとなっかなか面白い光景」
 彼の声に、他の猟兵に保護された少女・陽葵が振り向く。はァいお待たせ、とユルグは軽く片手を挙げて振りつつ、少女の無事を確認し腰の刃の塚へと手を添えた。
 視線は戦場を走る。
「さて、」
 数には数かな。ぽつり呟けばクロムも十指から伸びる糸を引く。くん、と白黒熊猫の人形が彼の傍に飛び立った。
「複数相手にするならまとめて攻撃したいところだが、彼女を巻き込むわけにはいかない、か」
 人狼咆哮。半径百m弱の範囲で無差別攻撃を行うユーベルコードは使えない。
 薄く唇に笑み刷いて、しゃんとユルグは“己”を抜いた。
 同時に彼を取り囲むよう、ずらと中空に居並ぶ刃。百を超えるそれらは情けも容赦もなく少女のカタチをしたオブリビオンへと差し向けられる。
「わぁこわぁい!」
「剣の雨だね、じゃあラッキーアイテム! じゃじゃーん!」
 嬉し気にそれぞれに取り出したのは──「なにラッキーアイテム?」「それは……」次々とユルグがヨーコさんたちを討ち払い、背を預けるように大きく爪を振るう白黒のからくり人形を繰るクロムが瞬く先でそびえ立つのは、

「「「「「「本棚ッッッ!!!」」」」」」

「嘘でショ」
「アイテム……アイテムでは、あるのか」
「そぉれっ!」
 ヨーコさんたちが細腕で軽々と本棚を掴んで投げつけ、あるいは振り回し、幾多の剣から身を守る。
「っ何でもありかッ……!」
 音を立てて破砕する本棚の木片が方々から飛来するのに皮膚を裂かれながらもクロムは跳んで致命傷を避け、襲い来るそのものは両手引きの鋸を噛ませて打ち払う。
 ひょう、と泳ぐ剣たちは眼前に降りかかる本棚を貫いて勢いを殺す。ずん、と重々しい音を立てて地面に落ちるそれに、ユルグも眉を歪めて微か口角を上げた。
「運任せはよろしくないね」
 閃く冴えた銀。
 突き出すひと振りは、確かに彼の手に握られて。
 本棚を貫いた刃は、その“アイテム”を出したヨーコさんごと穿ち抜いた。崩れるように都市伝説の一体は掻き消える。
 その傍ら、飛び込んで来る本棚の前に無防備で立ち塞がったクロムに襲った衝撃は、けれど微かの風圧を残して消えた。
「あれぇ?」
 三角の耳を震わせて首を傾げるヨーコさんに、クロムは己の前に相棒たるからくり人形を立たせた。
「ラッキーアイテムなんだろ? しっかり受け取りな」
 白黒熊猫のサイズを完全に無視して口から弾き出される本棚。発出される勢いそのままにヨーコさんたちを押し潰す。
 やるネ、と口笛吹く心地で告げたユルグは喧噪の向こうの陽葵に向けてひと差し指を唇の前に立てて見せる。
──ああ、そう、目は瞑っておく?
 なんて。
 言って更に彼は剣を振るう。
「ほらほら一人ずつは面倒でしょう。全員まとめて、かかっておいで」
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『偽りの怪異譚を破れ。』

POW   :    実地調査、人為的な痕跡を探れ。

SPD   :    潜入調査、隠された企みを暴け。

WIZ   :    周辺調査、情報を繋ぎ合わせろ。

👑11
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●年明けの空に
 最後のひとりであるヨーコさんが掻き消えると同時、空間が裂けた。
 裂け目は広がり──そして一気に猟兵たちごと世界を呑み込んだ。

 ざあっ──……、と。

 世界が『明日』に変わる。
 時は『2021年12月31日23時50分』。
 場所は『招かれた者の望む場所』。
 天候はさえ、先に戦った都市伝説・ヨーコさんたちの影響なのか望むままだ。

 この異空間を逃れる術はひとつだけ。
 答えは既に、示されている。
 だけど。

「少し愉しんだっていいんじゃない? ──ダァリン」
 
紫・藍
あやー、望む場所でっすかー。
藍ちゃんくん、特にそういうのはないといいまっすかー。
どこでも自力で望む場所にしちゃいまっすからねー。
ですが、ええ!
せっかくの年明け直前なのでっす!
なにもない年末年始では陽葵のお嬢さんにはもったいないのでっす!
というわけっで!
たどり着いたホールでの紅くて白い舞台ならぬ紫藍歌合戦の開幕なのでっす!
時間的に大トリ付近なので即閉幕なのでっすが!
なんとなんと、藍ちゃんくん、ちょうどいい衣装も持ってるのでっしてー!
というわけっで!
ファイナステエエエエエッジ!
ラスボスモードな藍ちゃんくんなのでっす!
怖かっただけでは終わらせない、素敵な年末年始をお嬢さんに!
心を込めて歌うのでっす!



●駆け込めラスト10分!
 空間の裂け目は、猟兵たちを呑み込んですぐに消えた。「あやー、」紫・藍は蒲葡色の瞳を瞬いた。
「望む場所でっすかー。藍ちゃんくん、特にそういうのはないといいまっすかー」
 どこでも自力で望む場所にしちゃいまっすからねー。
 ぽつりと零す。少なくとも36はあるのだという世界の中、18の世界が明らかになっており、藍はその内16の世界には自ら足を運んでいる。
「ですが、ええ!」
 繋いだままの手の先を振り返り、彼はにっこり笑う。手の先──陽葵は目をまんまるにするけれど、藍は気にしない。
 駆け出す先には彼の『望む場所』がある。
「せっかくの年明け直前なのでっす! なにもない年末年始では陽葵のお嬢さんにはもったいないのでっす!」
 というわけっで!
 そう。ふたりの向かうには紅と白──男女に分かれて年の最後を彩る歌合戦が行われている。時間的には大トリが華やかに舞台を飾る時間帯。
「なんとなんと、藍ちゃんくん、ちょうどいい衣装も持っているのでっしてー!」
 陽葵に片目を瞑って見せて、舞台にひらりと藍は飛び乗った。
 
「藍ちゃんくんファイナルステエエエエエッジ!」

 目も眩む程のスポットライトの下、現れたのは舞台装置と合体した超巨大衣装な大トリ姿の“藍ちゃんくん”。彼の意思ではないところで──所謂スタッフさんたちの総力で──超大ドレスの裾が舞台いっぱいに広がり、その背に大きな虹色の翼が広がる。
「ラスボスモードな藍ちゃんくんなのでっす! さあお嬢さんもお客さんも、聴き覚えがあればご一緒に! 心を込めて歌うのでっす!」
 ステージの横に並んだ巨大なスピーカーから流れ始める、『ある藍の歌:UDCアースVer.』。
「怖かっただけでは終わらせない、素敵な年末年始をお嬢さんに! こんなときのために、藍ちゃんくん、この世界のお祝いの言葉をちゃあんと覚えて来たのでっす!」
 最前列の陽葵に向けて、全身全霊で捧げる、言祝ぐ、藍の歌。

「3、2、1、──Happy new year!! なのでっす!」

成功 🔵​🔵​🔴​

上野・修介
※アドリブ、連携歓迎
「年明け前の夜か」

思い出すのは、高校3年の時か。
初日の出を見ようとふと思い立ち、海を目指して走るかと家を出たのは日付が変わる少し前。
あの頃は、ただただ鍛えることが楽しくて、先生達に色々教わったり、仲間と馬鹿やったり、しがらみ無く拳を振るえた最後の時。

「望む明日、望む年明けか」

それほど前では無いはずなのに、懐かしく思うのは、あの頃に帰りたいと望んでいるからだろうか。

「だが、俺は猟兵だ」

今望むのは自分の明日ではなく、助けを求められた『彼女の明日』だ。
故に今は走る。『明日』を奪おうとする輩に拳を叩き込む為に。



●いつか見たひかり
 世界が裂け、呑み込まれた先。
 ひとを食ったような都市伝説の声を聴いた気がした。
 上野・修介は暗い“線”へと視線を向けた。遠く、とおくで誰かが笑う声がする。学生の集団だろうか。
「年明け前の夜か」
 修介の脳裏に想起されるのは、彼が高校3年生だった5年前。猟兵にさえ成る前。
 あの頃の己を思い出したなら、思わず口角が微かに緩んだ。
 夜も更けた頃になって、突然『初日の出を見よう』と思い立ち、家を出た。海へ行こうと決めたのも全くの思い付きで、意味もなく走って目指した。
──ただただ鍛えることが楽しくて、先生達に色々教わったり、仲間と馬鹿やったり、
 なんのしがらみもなく修介が拳を振るうことができた、最後の時。
 そっと拳を握る。あの時より、逞しくなったそれ。
 ざざぁ、と波の音がする。
 月明りに照らされた“線”──水平線は暗く昏く沈んだまま、揺れてさざめいてそこにある。
「……望む明日、望む年明け、か」
 裂け目に導かれた先が海だったのは、それほど前ではないはずなのに懐かしく思うのは、あの頃に帰りたいと己が望んでいるからなのだろうか。
 あの頃に戻ることができたなら、また違う道を歩むことができたのだろうか。
 己はそれを、望んでいるのだろうか。
 だが。彼は小さくかぶりを振った。

「俺は猟兵だ」

 それは言い聞かせるようにも聴こえたし、揺らぐことのない矜持のようでもあった。
 修介はひたと視線を上げる。冴え冴えとした月は雲ひとつない空に輝いて、彼は静かに身を翻した。
──今望むのは自分の明日ではなく、助けを求められた『彼女の明日』だ。
 だから、彼は走り出す。他の猟兵達の庇護があるのは疑っていないが、それと己がなにもしないのとは別の話だ。
 決まっている。己の拳はただ、『明日』を奪おうとする輩に叩き込む為にある。
「……待っていろ」
 ただ我武者羅に走ったあの頃と、今はもう違うのだから。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ユルグ・オルド
お、ッと、なに、なに明日?
明日になったらこれが今日になんのかな
そっかァ、そんなら。そう、どうせなら
……明日居そうにないトコがイイかな

高いトコがイイな
天辺の、月にも手が届くような
星さえ手にとれるような夜の真ん中
ホントに明日とやらなのかなァ
サインしておいてまた見に来るとか?
とりとめのない考え事
ホントでもウソでもまァどっちでもイイんだケド
もとより何が昨日で今日かも、わからない
面白いほうがイイな
先が知れちゃア詰まらない

適当に時間見計らってさ
飛び降りたら、年超す瞬間に地面につけっかな
さァ、物は試し、ッてな!



●刻に墜つ
 ぴぃ、と。
 足許の地面が裂けた。
「お、ッと、なに、なに」
 『明日』?
 世界は歪んで、ひずんで、落ち着かない。ユルグ・オルドは紅い双眸を瞬く。
──明日になったらこれが今日になんのかな。
 今日は昨日になって、明日は今日になって、そして明日はまた明日。
「そっかァ、そんなら。そう、どうせなら」
 ひとりごちて、ユルグはそっと歪む世界に指先を伸ばした。感覚のないまま、なにかを掴もうと拳を握った。
──……明日居そうにないトコがイイかな。
 高いトコがイイ。天辺の、月にも手が届くような、星さえ手にとれるような夜の真ん中──。
 そう“望んで”、瞼を開いたその場所は。
「……ハハ」
 思わず笑ってしまうくらい高い高い、どこかの塔の上だった。吹きつける砂混じりの強風は足許を掬わんばかりで、見下ろす先にはちいさく煌めく街の輝き。
 傍を見遣れば、巨大な時計の針が0で重なり合おうとするところだった。
 どこか異国の時計塔。つ、とユルグの口角が上がる。
「ホントに明日とやらなのかなァ」
 時計塔の文字盤へ掌を添わせる。
 ココにサインしておいてまた見に来るとか? ならまずココがドコなのかを調べないとネ? なんて。吹きすさぶ寒風にもめげず、彼はとりとめもなく思考する。
 ここがどこかなんて、興味もないし。
「……ホントでもウソでもまァどっちでもイイんだケド」
 くつくつと喉奥で笑う。そもそも彼には、元より“なにが昨日で今日か”も、判りはしない。ひと振りの器物だった己は昨日? それとも今日も? そんなことは──どうでもいい。
「面白いほうがイイな」
 先が知れちゃア詰まらない。
 だから。
 彼は一歩踏み出す。爪先の下に、足場が無くなる。吹き上げる風圧をひしひしと感じ、身体が揺らぐけれど。ふつふつと肚の底から上がってくる感覚は、悦楽だ。
 時を計って飛び降りたなら。
──年越す瞬間に地面につけっかな。

 3、2、1、
「さァ、物は試し、ッてな!」

 踏み出し、飛び出す。風が、彼を呑み込んだ。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

山崎・圭一
やれやれ(煙草を咥えて火をつけ)
雨やら雪やら本棚やら色々降ってたけどようやく止んだか

んで何処よここ
なぁ、お嬢ちゃん。お前の行きたかった所なの?此処
ああ…そういやデートの予行演習だっけ?いいねぇ、初々しくて
いいじゃん。せっかくだし色々話聞かせろって
俺にもあったし。そういう時期が
懐かしくなっちまうのよ
…学園祭の後夜祭でさ
一緒に花火してキャンプファイヤーなんか眺めたりして
…って俺の話は別にいいじゃん

ほれ。もうすぐ年明けるぜ
失敗したくないなんて考えるなよ
好きな奴といる時間はさ、どんな事でもいいものじゃん?
面倒クセェ事考えてねーでその一瞬をちゃんと刻んどけや

…俺?今27歳だけど?



●とおくいとしい
 フリントを擦る音と同時に、オイルが燃える。
 紙巻の煙草を寄せて吸い込んだなら、ちりちりと小さく燻された煙を吸い込んで、──やれやれ、と嘆息と共に吐き出して。
「雨やら雪やら本棚やら色々降ってたけど、ようやく止んだか」
 すげぇ光景だったな、あれ。かそけく笑って山崎・圭一は「んで」と後ろに立つ少女・陽葵へちらと視線を遣った。
「何処よここ」
 見下ろすのは石段。何段も何段も続く、冷え切ったその石段の上に腰掛け、その膝に肘をついて圭一は下を見遣る。ちらほらと人々が登って来るのが見える。背後には鳥居。
「なぁ、お嬢ちゃん。お前の行きたかった所なの? 此処」
「そう。……初詣」
「ああ……そういやデートの予行演習だっけ? いいねぇ、初々しくて」
 ふ、と笑った息と共に、白い煙が千切れて飛んだ。莫迦にして、と拗ねたようにそっぽを向く陽葵に、「いいじゃん」と圭一は頬杖傾けて改めて陽葵を見た。
「せっかくだし色々話聞かせろって。俺にもあったし。そういう時期が」
「な、なんであんたに」
「懐かしくなっちまうのよ」
 そういうのがさ。猫のように眦を細めた圭一は石段を見下ろしもう一度煙を吐いた。
「……学園祭の後夜祭でさ。一緒に花火してキャンプファイヤーなんか眺めたりして」
 そんときそんときが楽しいわけよ。そこまで告げて、はたと彼は顔を上げた。
「……って俺の話は別にいいじゃん」
「あんたはそうだったかもしれないけど。失敗したくない。……嫌われたくないじゃん。好きなんだから」
「は、」
 すぐ背後の神社から、鐘の音が響いている。圭一はそちらを煙草で指した。
「ほれ。もうすぐ年明けるぜ。好きな奴といる時間はさ、どんな事でもいいものじゃん? 面倒クセェ事考えてねーで、その一瞬をちゃんと刻んどけや」
「なによ、大して年違わないのにエラソーに」
 でも、……そうかもね。
 小さく呟く陽葵に、圭一は「……俺?」瞬いた。
「今27歳だけど?」
「ウッソ。……今年イチの驚き」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・ハクト
一年を終えて新たな一年を迎える時は静かな場所がいいな、何もないという事じゃなく穏やかに過ごせる時間。
この日に限らず新たな一日に切り替わる夜更けなら穏やかな方がいい。
天気は、風が静かなら何でも。静けさだけなら雪も悪くないんだけど、な。
本番もこうありたいものだ、明日も、その先も。
アドリブ・絡みOK


夜鳥・藍(サポート)
生まれも育ちもサクラミラージュのクリスタリアン。誰かの願いで転生した元影朧。そのため影朧には同情しがち。
それなりの良家の出で言葉遣いは丁寧。だが両親とは違う種族で生まれたのを悩み高等部(高校短大相当)卒業を機に家を出ている。現在は帝都で占い師をしている。

もふもふ大好き。
実家ではいろいろ我慢してたのもあって、飼えなくとも一人暮らし&猟兵となったことで爆発しがち。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動は絶対にしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●ただ其処は静かな
 はぁ、と吐いた息は白く昇って行った。
 見上げた暗い空からは、ちらりちらりと雪が降っている。本棚の前に降っていたような強風を伴うそれではない。
 クロム・ハクトが掌を差し出してみれば、肉眼でもその結晶がはっきりと見える。こんなふうになっているのか、とクロムは思わずそれを凝視して──結晶は溶けて消えた。
 周囲は、青々とした森のはずなのだろう。けれどすべてが雪の白に覆われた、静謐の世界が広がっていた。隣に添う白黒熊猫の“黒”がより目立つ。
 視線を遣れば、ひとりのフードを被った女性が同じように雪に瞬いて空を見ていた。同じように、クロムを見る。
「……此処は?」
 小さな声で問うのは夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)。無論、クロムは藍の名前など知る由もないけれど。
「元はUDCアースだが。今は都市伝説……邪神の創り出した世界で、」
 偽物の年明けの瞬間だ。
 ぽつりと零した彼の揺れるもふもふの尻尾をこっそり横目で眺めて「偽物の年明け……ですか」藍が応じればクロムも肯く。
「望む場所に行けるとの話だったが。被害者の希望で『年明けの予行』ということだけは決まっていた」
「その上で、あなたが此処を望んだのですか」
「ああ。あんたは巻き込まれちまったみたいだな」
 すまない、と小さく告げたなら、いいえ、と彼女も応じた。そしてもう一度雪のちらつく空を見上げた。
 彼女の生まれはサクラミラージュ。雪の代わりに常に桜花が舞い散る世界だ。勿論全く知らない訳ではないだろうが、新鮮な心地がした。
 見遣る大地はすべて白一色。クロムの好きな色だ。
「……一年を終えて新たな一年を迎える時は、静かな場所がいいと願った」
 なにもないわけではなく、穏やかに過ごせる時間が良いと。
「この日に限らず、新たな一日に切り替わる夜更けなら、穏やかな方がいい」
「なるほど。……そうですね」
 彼の言葉に、藍も肯いた。騒がしいよりは穏やかな方が良い。それは彼女も同意できる。
 寒風がクロムの耳をそよがせ、彼は金色の瞳を微かに細めた。
「本番もこうありたいものだ。……明日も、その先も」
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

儀水・芽亜
望むところ……楽しく過ごせるところがいいですね。
二人きりで過ごす夜の遊園地なんてどうでしょうか。さながら夢の中の夢の如く。

カルーセルにティーカップ、フリーフォール。観覧車からはどこともしれぬ夜景を臨んで。
明日のデートの予行演習としてはぴったりでしょう?

園内を周りながら、いちごクレープやポップコーンを食べて。これ、黄泉戸喫にはなりませんよね。

私も童心に返って、陽葵さんと遊具を楽しみます。
最後はやっぱりあれですよね。ジェットコースター!

どうですか? 明日のデートに自信は持てました?
陽葵さんなら大丈夫。どんな男の子でも目を留めますよ。だから自信を持って、デートに行ってきてください。応援してます。



●夢の遊園地
 楽しく過ごせるところがいい。そう儀水・芽亜が願った世界。
 輝く電飾。夜の中、浮かび上がるのはカルーセルにティーカップ、フリーフォールに観覧車とジェットコースターに、点在するショップ。
「ふたりきりで過ごす夜の遊園地なんてどうでしょうか?」
 それは夢の中の夢。
 実際に実現できない予行だ、意味は成さない。陽葵の年明けデートは初詣だとはっきりしているから、尚のこと。ただ、そんなことは芽亜も理解している。わくわくと瞳を輝かせる陽葵の手を引いて、それでも園内を駆け出した。
 めいっぱいにティーカップの速度を上げたり、観覧車に乗っては見たこともない世界の夜景に釘づけになって。スタッフ以外はふたりきりだから、いちごと生クリームたっぷりのクレープを持ったまま、カルーセルの馬車に乗るのだって許される!
「ん~、おいし~」
「これ、黄泉戸喫にはなりませんよね」
「ヨモツヘグイ? なにそれ」
 ゆるゆる頬な陽葵の向かい側の席で、芽亜はじっと手元のクレープを見つめたり。
「これSNSに挙げてもいいかなあ?」
「懲りませんね……いえ、難しいのではないでしょうか」
 スマートフォンを握り締めて問う陽葵に小さく呆れを返したり。
 芽亜も一緒に、童心に返ってアトラクションをどんどん攻略していく。
「最後はやっぱりあれですよね!」
 指し示した先には、不自然に高い位置に据えられたレール。

「きゃーーーーーーーーっ!!」
 先程見たはずの夜景なんて再確認する余裕なんて全くない。諸手を上げて絶叫する陽葵の表情は愉し気だったけれど──芽亜のそれがどうだったかは、彼女だけが知る。

 ひと休みのココアを両の手に包んで、「どうですか?」芽亜は興奮の余韻でまだ口角を緩めている陽葵の横顔に問う。
「明日のデートに自信は持てました?」
「、」
「陽葵さんなら大丈夫。どんな男の子でも目を留めますよ。だから自信を持って、デートに行ってきてください。応援してます」
 だから。芽亜は視線を誰も居ない虚空へと向けた。
「此処から出て、本物の明日に進みましょう。……ベラトリクス・オリオン、聴いているんでしょう?」
 

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『『きみを喚ぶ』ベラトリクス・オリオン』

POW   :    お気に召すまま
【スマートフォンから喚ぶ『巨大獣型の怪物』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    テンペスト
レベル分の1秒で【スマートフォンから無数の『齧る小型怪物』】を発射できる。
WIZ   :    じゃじゃ馬ならし
攻撃が命中した対象に【スマートフォンから喚ぶ『怪物』の咬み傷】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と喚び出される『不可視の怪物』】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●『きみを喚ぶ』
 種々の年明けを過ごした猟兵達の前に、その男は現れる。
「はァい、ダァリン。ご機嫌いかが? 望む場所には至れたかな?」
 全ての『望む場所』が混在したカタチへと姿を変えた世界は文字通り混沌としていた。
 断崖絶壁の孤島。周囲は真っ黒な海と砂が混ざり合う漣で、真っ白な雪が覆い尽くす中に静々と山肌を這い上がる階段が続いている。階段を登り切った先には巨大な鳥居が立ち、それを潜ると煌びやかな屋外ステージと色とりどりの電飾輝く遊園地が広がっており──それらの中心には更に高く聳える時計塔がある。
 ベラトリクスはにィと嗤う。
「好きなだけやり直すと良いよ、ダァリン。永遠にね」
 邪悪な言葉ではあるが、そこに悪意は滲まない。
 あくまで"そう言うもの"として受け止めているのだと明白な──邪神の声音。
 しかしさすがに猟兵達の視線を前に、謳い続けることは難しいと判断したらしい彼は、スマートフォンを取り出した。
「邪魔をするかい、ダァリン達? なら僕も応じよう」
 巨大な獣型の怪物は、太陽の化身が如く燃える毛並みを持つ獅子となり。
 無数の小型の怪物は、雹や霰のような冷気を纏って飛び回り。
 不可視の怪物達は、まるでかまいたちのように縦横無尽に飛び交う。

「──明日天気になあれ、ってね」
 
姫神・咲夜(サポート)
 桜の精の死霊術士×悪魔召喚士、女性です。
 普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 片思いの人には「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

清楚で女流階級風の口調で、お淑やかな性格です。
基本的に平和的な解決を望みますが
戦わざるを得ない時は果敢に戦いに向かう勇敢さを持っています。

 あとはおまかせです。よろしくおねがいします!


大空・彼方(サポート)
《アドリブ、連携、苦戦描写、UC詠唱変更、その他何でも歓迎です》
「はじめまして。今回バックアップに回る舞姫です。未熟者ではありますがなんなりとご用命ください。」
UDC組織に所属する新人猟兵。戦闘経験は豊富。
一人称:私
口調:敬語で機械的
性格はクールでマイペース。そしてドがつく程の面倒くさがり。一見、常識人で冷静沈着に見えるが、どこか天然なところがある。獲物は日本刀。
前衛であれば未来視を用いて舞うように敵の攻撃を引き付けながら隙を伺う。
後衛では異界召喚により援護と回復役をこなす。
UCは指定した物をどれでも使用可能。基本的に情報を収集し、慎重に行動。命令や指示には忠実に従い他の猟兵をサポートします。


儀水・芽亜
危険ですから陽葵さんは上に登ってこないでくださいね。

ご機嫌よう、『招喚主』ベラトリクス・オリオン。今日と明日の狭間に潜むもの。
この偽りの明日をあなたごと裁ち切って、陽葵さんの未来を取り戻します。

「全力魔法」「範囲攻撃」衝撃の「属性攻撃」「衝撃波」「歌唱」で、ブラストヴォイス。
なるべく前方のみに範囲を絞りますから、皆さんはあまり私とあれとの間に入らないようにしてください。

デスメタルじみた歌声を響かせて、裁断鋏『Gemeinde』を振るいベラトリクス・オリオンに斬りかかります。手足の一本でも「切断」したく。

終わりましたよ、陽葵さん。2022年の初日の出です。
さあ、本当の明日へ歩いていきましょう。


紫・藍
ええ、ええ、ええ、ええ、その通りなのでっす!
明日というか、もう今日なのでっすが!
天気になーれ、なのでっす!
陽葵のお嬢さんの大事なデートの日でっしてー!
いえいえ雨の日のデートもまた乙なものなのでっすがー!
それはそれなのでっす!
というわけでっすのでお嬢さん、青空をプレゼントなのでっす!
藍ちゃんくんの歌ではちゃめちゃな天気を吹き飛ばしちゃうのでっすよー!
付与された噛み傷を吹き飛ばすのもありなのでっすが!
そもそも歌でっすからねー。
不可視だとか関係ないのでっすよー?
怪物さん達も邪神さんでっすらもまとめて藍ちゃんくんの歌の虜にしちゃうのでっす!
ではではお嬢さん良いデート日和を!
藍ちゃんくんでっしたー!


山崎・圭一
過去の産物たるオブリビオンが
明日の世界へ連れてってくれるたァ随分イカしたギャグじゃねーの
言っておくが俺は『旅人』
行きたい世界は自分の足で行かなきゃ意味ねーよ

とりま近付いちゃ危ねーだろうし
距離取って命捕網から呪殺弾を…
って痛ッ!!何ィ?咬み傷?
ちょ…やめ…いてーから!オイ!

…最悪…傷だらけだし…。あーァ…血だらけ
おかげで【紅蝶陣蟲】の発動条件満たせたわ
敢えて攻撃受けてる間に光を消した白燐蟲達が
俺の血を敵の周りに落とすよう指示してたんだ
あと俺の血猛毒だから。浴びてみる?
痺れててもらうか。動かれちゃ面倒だし

何も空から降るのは雨や雪だけじゃねンだぜ?
まだ隕石のがマシだったってモン、落としてやるよ…


上野・修介
※アドリブ、連携歓迎
「より良い明日を迎えたいという気持ち自体は否定しないが……」
何にせよ、UDCとの対話は無意味だろう。

――為すべきを定め、心は水鏡に

「推して参る」

調息、脱力、戦場を観据える。
敵戦力と味方、それと『佐々木・陽葵』さんそれぞれの位置関係を逐次確認。

UCは防御重視。
『佐々木』さんをガードする立ち位置をとりまずは雑魚を殲滅。
状況的に『佐々木』さんへの守りが十分なようであるなら殲滅優先。

粗方片付けたら本体へ。
まず手に持っている携帯端末狙いでタクティカルペンを投擲。
能力の起点はあの端末なら防御が優先されるはず。
その隙をついて間合いを詰め、UCを攻撃重視に切り替えてラッシュを叩き込む。



●異界の年明け
「あら、まあ」
「見覚えがある……かと思えば、そうでもありませんね」
 辿り着いた転送先の有り様は、奇想天外だった。
 大きな古い鳥居の向こう側に電飾煌めくステージに遊園地、その中央に聳える時計塔。姫神・咲夜(静桜・f24808)は口許に指先を添えて思わず感嘆符を零し、舞い散る雪に掌を差し伸べながら大空・彼方(眠れる神の巫女・f33087)も淡々とした口調で告げる。
「危険ですから陽葵さんは上に登ってこないでくださいね」
 鳥居の外にひとりの女子を留め置くように告げるのは儀水・芽亜。左頬に大きな傷持つ青年──上野・修介も厳かに肯く。危険な戦場から少しでも遠ざけることができるのならば、それに越したことはない。
 女子──佐々木・陽葵も素直に肯く。めいっぱい楽しんだ彼女も、もう理解している。このまま此処に居ても時は進まない。折角予行演習してまで万全に挑みたかった『明日』は、永遠に来ない。
 時計塔の長針は、年明けを迎えてから少しも動いていないのだから。
「……負けないでよね」
 これまでに言葉を交わした猟兵たちへ、陽葵は精一杯の応援を送る。彼ら彼女達は当然とばかりに口角を上げて、そして邪神を討つべく駆け出した。

「──明日天気になあれ、ってね」

 黒いキャスケットの影で紅桔梗の双眸が嗤う。
 だから紫・藍も笑った。
「ええ、ええ、ええ、ええ、その通りなのでっす! 明日というか、もう今日なのでっすが! 天気になーれ、なのでっす!」
 ふわりと長いスカートを揺らして両の手を広げて、すべてを藍すと全身で体現するかのような声音に一切の憂いも憤りもない。その表情に一切の曇りもない。
 裁断鋏『Gemeinde』を手にした芽亜も大きな瞳をひたと敵へと据えた。
「ご機嫌よう、『招喚主』ベラトリクス・オリオン。今日と明日の狭間に潜むもの。この偽りの明日をあなたごと裁ち切って、陽葵さんの未来を取り戻します」
「あア、過去の産物たるオブリビオンが明日の世界へ連れてってくれるたァ随分イカしたギャグじゃねーの」
 遊園地の隅っこにあった灰皿へ吸殻を押し潰し、山崎・圭一も虫捕り網の如き命捕網を肩に当ててベラトリクスへと笑みを向ける。嘲笑ほど冷え切ってはいないけれど、温度のない笑みだった。
「言っておくが俺は『旅人』だ。行きたい世界は自分の足で行かなきゃ意味ねーよ」
 『次の宇宙』へだって向かった彼は自らを恃む。圭一の言葉にベラトリクスは肯いてみせた。
「そうだねダァリン。その通り。僕もそう思うよ。……だからダァリン達は、僕の召喚に応じて自らの足で此処へ来たんだろう?」
 呼ばれて現れ、異界へ招び、喚ぶ。『招喚主』ベラトリクス・オリオンと称される邪神の在り様は揺るがない。
 やれやれと小さく修介はかぶりを振った。
「……UDCとの対話は無意味だな」
 より良い明日を迎えたいという気持ち自体は否定するものではないが、自らの力を超えた奇跡を期待し過ぎることは修介には遠い願いだ。日々の鍛錬により積み重ねたものが事実となる、そう信じたい。
 ──為すべきを定め、心は水鏡に。
 息を吸って、吐いて。肩の力も、拳の力も一旦すべてを抜いて。──拳は手を以て放つに非ず。
「推して参る」
「おいで、好きに嬲り貪るといい」
 まっすぐな修介の視線の先で、ベラトリクスはスマートフォンを触れる。途端に現れた太陽の如く燃え盛る毛並を持つ巨大な獅子が、灼熱の息を吐きながらその咢を大きく開いて修介へと喰らいつかんと飛び掛かった。
 防御力を強化した修介は怖じることなく左腕をその顎にわざと噛み込ませ、そのまま勢いと全体重を乗せて身を捻り、獣を大地に叩き付けた。
 獣の情けない悲鳴が渡る。けれど彼は気を抜かない。
 修介が召喚された怪物と戦うことで気を惹く間に、おっしゃる通りですねと抑揚のない口調で応じた芽亜は集まった猟兵たちへと振り返った。
「皆さん、あまり私とあれとの間に入らないようにしてくださいね」
 端的な忠告をひとつ。狙うのはベラトリクス・オリオン。そして息を吸って、喉を開く。
「――コワレロ、世界!!」
 響き渡った、絶唱。
 常の彼女の声からは想像もつかないような重低音──人間の声帯からこんな音が出るかと疑いたくなるほどの音による衝撃波が渡るそれはブラストヴォイス。およそ100m半径内の全員を高威力で無差別攻撃するとんでもないデスメタル。
 なるべく指向性を持たせ仲間たちを巻き込まぬように意識はするが、意識ひとつでユーベルコードの効力を捻じ曲げることはできない。
「近付いちゃ危ねーなこれはガチで」
 圭一は素早く距離を取り、さすがのベラトリクスも長い耳を塞ぎながら、苦々しく手にしたスマートフォンの画面をタップした。
「おいで、僕の愛しいテンペスト」
 画面から無数に湧き出て来るのは、暴風が如き荒々しさを纏った小型の怪物たち。此度は雹や霰のような底冷えする気配を纏い、歌い続ける芽亜へとその牙を剥いた。
「させません」
 ひた、と。絶唱と嵐の中にあって静やかな声音が告げた。咲夜の指先が舗装された大地に触れたと同時、石畳を押し上げ圧し折って、現れ出でたるは桜の大樹。束縛の桜花。
 大きく広がった枝の先端には春の訪れを早送りで映し出すかのように見る間にさくら色の花弁が次々と開き、そして風に舞う。枝や根そのものも成長を止めることなく驚異的な速度で伸び──ベラトリクスへと向かった。
「っ、」
 辛うじて根や枝を避けたところで、暴風に乗って更に軌道が複雑になった花弁までは完璧に回避することなど不可能だ。桜花の生命力に吸い取られるかのように、ベラトリクスの攻撃力が下がり、齧りつく怪物たちの牙も弱々しく転じる。
「言葉を交わすことのできる相手なのですから、他に方法がないかと……そう思う気持ちが無いではありませんが」
 さくら色の双眸に憂いが滲むが、咲夜の意志は視線に乗ってただまっすぐに敵を射た。
「戦うよりないのであれば、仕方ありません」
「すごいのでっす! よーし、藍ちゃんくんも負けないのでっす!」
 白い冷気の中に舞い散る花弁。響き渡る音楽。藍はほんの少しだけ、鳥居の方へと意識を向け──そしてベラトリクスを見た。
「邪神さん、愛しいとおっしゃったのでっす! ならきっと理解できるのではー? 明日は陽葵のお嬢さんの大事なデートの日でっしてー!」
 明日天気になあれ。その願いの大切さを。いえいえ雨の日のデートもまた乙なものなのでっすがー! それはそれなのでっす! 胸を張って、彼は振り返り謳う。
 今この戦場に足りないもの。
「というわけでっすのでお嬢さん、青空をプレゼントなのでっす! 藍ちゃんくんの歌ではちゃめちゃな天気を吹き飛ばしちゃうのでっすよー!」
 藍ちゃんくん、青空ステーッジ!!
 芽亜の音に重なりひとつになる、藍テール。青空のように澄んだ、圧倒的歌唱力。それは心無きものにすら感情を呼び起こす魂の歌。
 音は歌になり歌は音色になり、突き抜けた声は空へ墜ちる流星のように日付が変わったばかりの暗く黒い夜空へ貫いて──まるで超新星爆発。空は見る間に青空へと転じた。
「ッ、おいで、かわいいじゃじゃ馬たち」
 同じ歌でも芽亜の衝撃とはまた異なる方向からのダメージに、ベラトリクスは胸を押さえながらもまたスマートフォンの画面を叩いた。
 晴れ上がった青空の下、ひょうとなにかが風を切る。
「って痛ッ!! 何ィ? 咬み傷?」
 離れた場所で呪殺弾を射ち放とうと両の手で命捕網を握った途端、その手の甲にくっきりと見知らぬ傷があるのを確認して、圭一はぎょっと目を見開いた。
 そればかりではない。
「ちょ……やめ……いてーから! オイ!」
 四方八方、縦横無尽にその身が喰われる感覚に圭一は闇雲に手を振るったが、不可視の怪物たちはかまいたちのように鋭く切り裂き喰らいつく。
「不可視だとか関係ないのでっすよー?」
 そもそも歌でっすからねー、と藍は傷付くその身にも構わず歌い続ける。響かせるだけでいい。届かせるだけでいい。邪神だろうが怪物だろうが、藍テールはダメージを与えることができる。
「まとめて藍ちゃんくんの歌の虜にしちゃうのでっす!」
「では、私は支援を」
 ぽつりと告げた彼方は長い黒髪を揺らして、『禍津文』と呼ばれる魔導書を開いた。不可視の怪物たちが泳ぎ回る無作為の風の中でも、それはただ一定方向に頁を勝手に繰っていく。
 青い空に投影されたのは巨大な深紅の瞳。限定解放・緋色の夜。ぎょろりと開いたその瞳は戦場を上空から見下ろし──不可視の怪物に効果はなくとも、ベラトリクスは其処に居る。
 100秒以上を超える時間、対象に無意識的に友好的な行動を取らせるという彼方のユーベルコードによって「くっ……、」敵は“じゃじゃ馬”たちを仕舞い込んだ。
「……最悪……傷だらけだし……。あーァ……血だらけだしよ」
 手も腕も、顔すらも容赦ない痕が残る圭一は小さく零す。彼方が首を傾げ「回復が必要ですか?」と淡々と問うのに、けれど圭一は口角を吊り上げた。
「いいや。お蔭で発動条件満たせたわ」
 筋となって零れる血液は彼の周囲に滴り落ちた──だけではない。彼の視線に気付いたベラトリクスが己を囲むように転々と散っている血痕を見つけたときには、もう遅い。
「不可視とはいかねーが、俺の蟲達も隠密に向いてンだろ?」
 ひらと傷口から舞い上がった白鱗蟲の蝶。俺の血猛毒だから、と囁くよりも疾く、それは発動する。
「何も空から降るのは雨や雪だけじゃねンだぜ? まだ隕石のがマシだったってモン、落としてやるよ……」
 紅蝶陣蟲。そのユーベルコードの名を、誰も耳にすることは出来なかった。突如飛来した超大ななにかに呑み込まれ、爆音と共に桜の木によって盛り上がったはずの石畳は遍くすり鉢上に凹み粉々に砕け散ったのだから。
 それを巨大な呪殺弾と化した蟲の仕業であることを知るのは圭一だけだ。
「げほっ……、あー……確かに、とんでもないものを降らせてくれましたね、ダァリン」
 どろんと溶けるように融けるように黒い靄のように掻き消えた蟲の下、瓦礫の中で帽子も失ったベラトリクスが苦笑する。さすがに猟兵数人で戦わないと倒せない邪神だけはあるらしい。
 だが、それも虚勢だとその場にいたすべての猟兵が知っている。
 一体どれほどの強度だというのか、罅割れひとつないスマートフォンを取り出したその一瞬に修介が投擲する、タクティカルペン。それはこれまでの戦いでも破壊されなかった機械を壊すことはできなくても──ベラトリクスの腕を弾いて隙を生んだ。
 踏み込んだ芽亜の軍刀を重ねた鋏が彼の右腕を喰らい、スマートフォンごとその腕を切断した。吹き飛んだ腕。噴き出した血赤。咄嗟に咲夜が花吹雪を起こし、鳥居の方向からそれが見えぬようにした。
 まんまるに見開いた紅桔梗の双眸の前に飛び込んだのは、黒の癖毛。それが修介だと認識するよりも疾く連続で叩き込まれる拳に、息が詰まる。
 拳の先で骨がいくつか折れる感覚にほんの僅か修介が目を眇めたのも束の間、ざらりと砂が崩れるように邪神は消えた。否、文字通り叩き潰された。
 蒼天の夜が、ぐにゃりと歪む。邪神が生んだ空間だ、邪神が消えると同時に壊れる仕掛けなのだろう。
「終りか」
「無事戻れるんでしょうか、これ」
 零す修介に、彼方がいつもとなんら変わらぬ口調で呟いて、──そして。


「終わりましたよ、陽葵さん」
 すべてが元通りになった世界で、つまり『年明けを明日に控えた日』に戻ってきた芽亜は共に戻ってきた陽葵にそう告げる。
「さあ、本当の明日へ歩いていきましょう」
「ええ、ええ! ではではお嬢さん、良いデート日和を! 藍ちゃんくんでっしたー!」
 誰かを救い、誰かの為に戦う、猟兵たちにとってそれは日常光景。
 からりと笑い、頑張れよと圭一もひらり手を振り、修介も続いて去っていく。
 けれど救われた側からすればそれはどれだけ大きなことだろうか。
「──ありがとう! アタシ頑張るね!」
 後ろから届いたその声に、藍は振り返って大きく手を振った。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年01月22日


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#UDCアース
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#感染型UDC


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠憩・イリヤです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト