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“Lost” child

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #マーダー・ラビット #時計ウサギ

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#時計ウサギ


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●置き去りのラビット・ホール
 は~い、それではさようなら、かわいらしい『アリス御一行様』!
 来世では自分の扉が見付かるといいですね!
 え? はい、ばいばいですよ。ばいば~い。
 僕ですか? 僕は皆さんをこのウサギ穴の中に置いていきます!
 出口で一応待ってますけどね。
 ほら、僕ってマーダー・ラビットって呼ばれてるでしょう?
 マーダー、意味判ります? そう人殺し!
 ですから出口まで来られたら、ご褒美に殺してあげますからね!

 アリス適合者の少女は、身を翻して消えた時計ウサギの後ろ姿をぽかんと見送って。
 オウガブラッドの少年は、不安気に歪み始めた周囲を見遣って。
 ふわふわのティディベアな愉快な仲間の少女は、アリス適合者の少女の手を握った。
「……うさぎのおにーさん、どこに行ったの? 帰ってくる?」
「な、なあ、どんどんぐにゃぐにゃ歪んでんだけど……あっ、なんか居る!」
「どこぉ? ……え? あれ、ニナにそっくり……?」
 そして少女達は、彷徨い出す。

 白く欠けた石畳。白く欠けた天使像。
 白い蔦の生え伸びた草むらに、どこへ続くかも判らない白く繊細な螺旋階段。
 その奥に広がるあおい森。
 死角や物陰のたくさんある世界は、ゆがんで、ひずんで、影を生む。
 迷子のカゲを、──喪った、こどものカゲを。

●“Lost” child
「せーっかく平和んなったかと思ったのに、猟書家ってヤツらは忙しねーですねぇ」
 吐息零してセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)はつまらなそうにくるくると青い鳥の羽型のグリモアを回した。
 アリスラビリンスのウサギ穴は、時計ウサギの先導がなければ──どうやら、不安定に時空の絡み合った異世界となるらしい。それを悪用して、猟書家である鉤爪の男が目論む『超弩級の闘争』を実現せんとしているひとりがマーダー・ラビットだ。
「……ほんとですかねぇ」
 ただ純粋な殺意を愉しんでいるように見えるのは気の所為だろうか。
「ま、どちらにせよやることは一緒です。幸いおれ達が予知できたので閉ざされたウサギ穴ん中にみんなを無事に送り届けることができます。迅速に『アリス御一行様』を救けてください」
 結果、『アリス御一行様』を連れてウサギ穴を抜け出すことができたなら、マーダー・ラビットが待ち構えているので撃破する。流れとしてはそれだけだ。
「問題は歪んだウサギ穴ん中なんですけど。どうやら『アリス御一行様』以外に見える影は、『過去の自分』のカゲなんだそうですよ」
 きみが成長する存在なら、幼い頃のカゲ。
 きみが成長しないなら、過去の記憶までしか持たないカゲ。
 きみに記憶がないなら、もしかしたら記憶がある時期のカゲ──かもしれない。

 出逢ったカゲは問うだろう。
『ねえ、“わたし”は倖せ?』

「もちろん、『アリス御一行様』だけを探すことだってできますとも」
 どうしたいかは、あんた達に任せますがね。そう言って、セロはグリモアを消した。
「さぁ、──いってらっしゃい」


朱凪
 目に留めていただき、ありがとうございます。
 気付けばアリスラビリンスに偏る。朱凪です。

※まずはマスターページをご一読下さい。

▼全章を通して
 プレイングボーナス……アリス御一行にも手伝ってもらう。
【アリス御一行様】
・アイ:アリス適合者の少女。8歳。状況がよく掴めていない。光属性の魔法での支援が可能。
・ルイン:オウガブラッドの少年。12歳。状況把握が得意。ダガーでの支援が可能。
・ニナ:ティディベアの愉快な仲間の少女。10歳。炎属性の魔法での支援が可能。

▼1章について
 ちょうゆっくりペースで書きます。
 3日間のプレ期間で、朱凪が『動かせる!』ってなった方を『ひとりずつ』描写していきます。
 先着順ではありませんが、早め送信の方のほうが考える時間が長くなるので採用率は高めかもです。
 👑の数に🔵が到達したら〆切ですが、時間切れで返却になっちゃっても、お気持ちにお変わりがなければ再度投げてもらっても大丈夫です。
 今回、採用人数はそんな多くはできないと思います。
 『過去の自分と向き合う』場合は『アリス御一行様』との絡みは薄くなるかもしれません。ご了承ください。
 あるいはお任せも歓迎ですが、ギャンブル要素高いです。
 POW/SPD/WIZはフレーバーです。

▼2章について
 マーダー・ラビットとの戦闘になります。
 募集開始には幕間を追加しますので、そちらをお待ちください。

 では、迷子を楽しむプレイング、お待ちしてます。
201




第1章 冒険 『迷子の迷子のおともだち』

POW   :    手を引いて連れて行こう

SPD   :    障害を先に取り除いていこう

WIZ   :    こっそりと行き先を示してあげよう

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
親玉を倒して平和になったと思ったのに、またこんなことが起こるなんて…
でも、何度だって俺たちが助ければいいよな!うむ、やるぞ!

ウサギ穴を警戒しつつ、アリスたちと合流しようと駆け出せば
誰かのすすり泣く声が耳に届いて足を止める

目の前には一人の少女が立っていた
腰までの長さの髪に、白い飾り気のないドレス
髪と瞳の色は俺とそっくりそのままで
もしかして、これは過去の俺なのか?

驚きと動揺で身体がふらつく
何故か胸が苦しい、辛い

『こわいよ、あにさまがいないの』
『“わたし”、このままずっと辛いまま?』

ちがう…違う!
俺は幸せだ
兄を失くしても
例え何もかも忘れてても
でも今はあの子たちを助けなきゃ
だから…そこを退いてくれ!



●白く閉じた氷の奥
「親玉を倒して平和になったと思ったのに、またこんなことが起こるなんて……」
 こつり、こつり、欠けた石畳にブーツの踵の音を響かせてヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)は吐息混じりに零すけれど。
「でも、何度だって俺たちが助ければいいよな! うむ、やるぞ!」
 獣の耳のように跳ねた薄氷の髪を揺らして顔を上げ、いつもどおりの明るい声音で拳を握って駆け出した。
 と。
 ────ひ、く。……ひっ、く。
「!」
 ひとりの少女の泣き声に、彼女は足を止めた。腰まである白い髪に、白い飾り気のないドレス。探し求める『アリス御一行様』のうち、人型の姿の少女は、
「……アイ?」
 ヴァーリャの問い掛けに顔を上げた少女の瞳は彼女と全く同じ、菫色で。
 そう意識したならば、白い髪も薄氷のそれだ。
 どくんと大きく心臓が跳ねた。
──もしかして、これは過去の俺なのか?
 『過去の自分』のカゲが現れるのだという場所。事前に聞いてはいたけれど、いざ目の前に現れたそれは『影』とは思えぬ姿で、真っ赤に泣き腫らした目でヴァーリャを見る。
 なにかが競り上がって来る感覚に、息が、胸が、くるしい。
『……こわいよ、あにさまがいないの』
 カゲが言う。視界が回るみたいな感覚に、ヴァーリャの足がふらついた。あに、さま。脳裏に揺れる、ネモフィラの花。──『あなたを許す』。
「っ、」
 かつて想像した己が今、目の前に居る。己に、問う。
『“わたし”、このままずっと辛いまま?』
「ちがう……違う!」
 咄嗟に彼女は反駁した。震える手が、水晶の種から咲いた花の髪飾りに触れる。
「俺は幸せだ。兄を失くしても、例え何もかも忘れてても……!」
 涙に濡れた菫の双眸が、強く首を振る娘をただ見つめる。それがくるしくて、辛くて。
「でも今はあの子たちを助けなきゃ。だから……そこを退いてくれ!」
 ヴァーリャは少女の肩に触れることもできず、その傍を過ぎた。
 ……過ぎて、数歩。
 足を止めた。
 それがあるべき姿であるかのように、少女のすすり泣きが再び鼓膜を揺らしている。
「……」
 きつく彼女は瞼を伏せた。幻覚を見せられたときに現れる姿。向き合ったんだ。だから届いた、あの、手紙。
 そしてヴァーリャは、振り返る。泣き続ける少女の後ろ姿に、小さく告げる。
「……幸せなんだ。ほんとうに、それは、──嘘じゃない」
 彼女の声に、幼い姿も振り向いてから消えた。
 微笑んだように見えたのは、ただの願望だったろうか。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
随分、放任主義なツアーだね
好奇のままに先往く僕でも、
客を放っては往かないよ?

声や気配を頼りに《情報収集》
少年を見付ければ、声掛け

迷子を避ける賢い方法
貴方は知っているね?
少しばかり、僕に隠れて
僕たちの冒険に差す影を、
払わなくてはいけないから

ぼんやりと立つ、影を見る
病気がちで頼りない子供の影
幸福の眩い光で、作られた影

大人になって、欲張りになって
沢山を抱えた僕の腕からは、
君が抱えた“幸せ”は溢れ落ちた
だけれど、喪ったとは思わない

新たな友と往く世界も
新たに裡に抱く想いも
僕の選んだ“幸せ”だから

僕たちは、変わらず幸せだ
だから、戻っておいで、僕の影
僕は子供の時間に縋るままでは
ピーター・パンでは、いられない



●ロストボーイ
 随分、放任主義なツアーだね。丸眼鏡を押し上げ、けれどうすらと笑みを口許に刷いたまま──どこか楽し気なまま、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は瞬きをひとつ。
「好奇のままに先往く僕でも、客を放っては往かないよ?」
 物語を最後まで導くのが語り手だろう? なんて。誰に聞かせるでもなく、彼は穏やかな足取りで進んでいく。
 耳を澄ませ、目を凝らして、あおい草葉を掻き分けたところで男は少年を見つけた。他のふたりとははぐれたのだろうか。不安げに蒼褪めた表情はライラックを見付けて怯えたいろを宿した。
「ああ、心配しないで。僕は貴方たちの戻る道を教える、パンの欠片だよ。迷子を避ける賢い方法、……貴方は知っているね?」
 腰を屈めて視線を合わせ、低くやさしい声音が告げれば、少年・ルインは僅かの逡巡のあと首肯した。良い子だねと囁いたライラックはそのまま身を起こして──ルインの肩へ軽く触れて自らの背後へと押し遣った。
「では少しばかり、僕に隠れて。僕たちの冒険に差す影を、払わなくてはいけないから」
 告げたリラ色の瞳が、茂みの向こうに立ち竦む姿を見据える。
『、』
 びくりとカゲの姿が震えた。細い四肢。僅か癖がかった白い髪と、リラ色の瞳は不安の中に好奇心を隠し切れない。その“変わらぬ”色合いにライラックはちいさく苦笑する。
 病気がちで頼りない、けれど幸福の眩い光で創られたカゲ。
 胸に抱いた絵本を握り締め、カゲは問う。
『ねえ、“僕”は……倖せ?』
 こほ、と小さく咳込むカゲの視線に、声色に、滲むのは純粋な疑問。きっとまみえた男さえも、“彼”からすれば親愛なる友人で、物語の一端で、──そしてそれはライラックにも同じだった。
 かつて、たくさんの友人が居た。彼らの存在を、嘘だとは思っていない。
 彼らは確かに、ライラックの傍に居た。
 “――だけれど、最後まで残っていたのは。”
 自らの記した著書の一文が脳裏を掠める。ライラックは軽く首を振ると歩を進め、茂みの中に片膝をついた。「……大人になって、欲張りになって」ひたとリラ色の双眸が見つめ合う。
「沢山を抱えた僕の腕からは、君が抱えた“幸せ”は溢れ落ちた。だけれど、喪ったとは思わない。新たな友と往く世界も、新たに裡に抱く想いも、僕の選んだ“幸せ”だから」
 真摯に告げる彼の言葉を、カゲは静かに聞く。
 その姿に、ライラックは口角を緩めた。そっと両の腕を開く。
「僕たちは、変わらず幸せだ。だから、戻っておいで、僕の影」
 僕は子供の時間に縋るままでは、──ピーター・パンでは、いられないから。
 ……いられない、けれど。君を置いていくつもりも、ないから。
 満面の喜色を浮かべたカゲは彼の胸へと飛び込んで、そしてそのまま掻き消えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

千波・せら
そっか。これは過去の私だね。
小さいのに罠を仕掛けて笑っているんだ。
皆を困らせる私の影だ。

過去は過去だよ。
私は過去も含めて私だから。
ほら、みて私。
ここには海は無いけど取り残されたアリスたちは居るよ。
この穴を抜け出して、悪い兎を懲らしめないと!

アリスたち、大丈夫?!
私たちが来たからもう大丈夫だよ!
過去の自分を見ている場合じゃない
訳も分からずに、この穴に取り残される方が怖いと思うんだ。

両脚を海属性に変えて歪んだ障害物も軽々よけるよ。
アリスたち、しっかり私に捕まってね!
もう一回!そーれ!
水は自由自在に歪むけど真っ直ぐ進む事もできるよ。

ほら、みて。出口まであと少し!



●さがしもの
 少女はあおく透明に輝く髪を揺らして、しゃがみ込んだ木蔭でなにかをしては、たまに顔を上げてとおくを見つめる。
 そのマリンブルーの瞳と、横顔。
「そっか。これは過去の私だね」
 微笑ましさと、ちょっぴりの困惑に千波・せら(Clione・f20106)はちいさく笑った。
 小さいのに罠を仕掛けて笑っているんだ。皆を困らせる、私のカゲだ。
 かさり。立てた足音にカゲがぱっと振り向く。仕掛けが終る前に見付かっちゃった! ぱぱっとなにかを背後に隠そうとする悪戯っ子の瞳が雄弁に語るから、見ぃちゃった、とせらは悪戯に眦を緩める。
 少し恥ずかしそうに視線を落としたカゲは、上目遣いに、ぽつり。
『ねぇ、“私”は倖せ?』
 こんな、海の無い場所にまで駆けて来て──さがしものは、みつかった?
 問いたげなマリンブルーを、せらはまっすぐに見つめる。
──過去は過去だよ。
 そう思う。けれど同時に、こうも思う。
──私は過去も含めて、私だから。
 マリンブルーの瞳を輝かせて、螺旋描く階段の上へとひらり跳び乗った。
「ほら、みて私。ここには海は無いけど取り残されたアリスたちは居るよ。この穴を抜け出して、悪い兎を懲らしめないと!」
 大きく手を広げてあおい森の向こうへといざなったなら、カゲも瞳にめいっぱいの正義感と好奇心を宿して輝かせ、
『うん!』
 階段に飛びつき伸ばされた手は、重なる直前で消えてしまったけれど。指先には確かに感触が残った気がしてせらは指を握り込み、それから走り出す。
──訳も分からずに、この穴に取り残されたアリスたちは怖いと思うんだ。
 だから先を急ぐ。立ち止まらない。
 私はせら。探索者のせら。さがしものは、まだまだあるんだ。それが答え。
 「!」駆け抜ける茂みの向こうに見つけた、茶色のふかふか。
「アリスたち、大丈夫?!」
 飛び込んだそこには、ティディベアの少女がひとり居るばかりだった。驚くせらに構わず、ティディベアの少女──ニナはせらにしがみついた。
 そのちいさな身体が震えているのを感じて、せらは自らの想いが間違っていなかったと知る。だからぎゅっとニナを抱き締めた。
「もう大丈夫だよ。よく頑張ったね!」
 しっかり私に捕まってね、と忠告したなら、せらの脚は荒々しく渦巻く潮風を纏った。うねり帯びる海の香りに押し上げられるように、
「そーれ!」
 軽く蹴っただけの跳躍が、梢の上まで届く。まんまるのニナの瞳が更にまんまるになるのを見て、ふふ、とせらも笑みを零す。
──水は自由自在に歪むけど、真っ直ぐ進むこともできるから。
「ほら、みて。出口まであと少し! さあ、もう一回!」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

榛・琴莉
こんにちは、アリス御一行の皆さん。
まだ歩く元気はおありで?

幸せか、なんて、小さい子にする質問としては微妙かと。
そうですねぇ…今が、と言うよりは、どんな時に幸せだと思うかを考えてみては?
楽しい時、嬉しい時…
友達と遊んでいる時とか…ああ、美味しいケーキを食べている時なんてどうでしょう。
丸くて大きいホールケーキに、イチゴが沢山のっていたり。
あとは…もうすぐクリスマスですし、サンタさんからのプレゼントを開ける時も良いですね。
それから、おうちに帰って、ただいまを言う時も。

さぁ、頑張って帰りましょうか。
ウサギがいないなら、青い鳥を追えば良いんですから。

…というわけでErnest、ウサギを追ってください。



●標
『ねえ、“わたし”は倖せ?』
「え? え?」
 現れた鏡写しの姿に、少女は戸惑う。
 うさぎのおにーさんが『自分の扉』を探してくれるって言って、ルインとニナがついてきてくれるって言って。そしたらおにーさんが居なくなって、ルインとニナともはぐれてしまって。
 目の前に現れた“わたし”が訊いてる。
「し、しあわせ……?」
「幸せか、なんて」
 かさ、とかそけく草を鳴らして現れたのは榛・琴莉(ブライニクル・f01205)。深く青を帯びた黒い瞳がカゲを揺らぐことなく見据える。
「小さい子にする質問としては微妙かと」
 その声音は冷たいというよりも平坦で。ちらと少女──アイに視線を落として、琴莉は軽く首を傾げる。
「こんにちは、アリスのお嬢さん。まだ歩く元気はおありで?」
 すとん、とアイの傍らにしゃがんで。困惑しつつも肯く少女の顔を見上げつつ、それは良かったと彼女は少女のカゲと相対す。
「そうですねぇ……今が、と言うよりは、どんな時に幸せだと思うかを考えてみては?」
「え?」
「楽しい時、嬉しい時……お友達と遊んでいる時とか……ああ、美味しいケーキを食べている時なんてどうでしょう」
 多くの家族に囲まれて育った琴莉は自然と知っているのかもしれない。幼い子供が不安で竦んでしまいそうなとき、なにを心に灯してあげたなら歩き出せるのか。
 あるいはその燈火は──彼女の凍える心臓の奥底にも、揺れたことがあるのだろうか。
 表情らしい表情を浮かべない彼女のかんばせからは読み取ることはできないけれど。少なくともアイへと語り掛ける声音は、冷たくはない。
「丸くて大きいホールケーキに、イチゴが沢山のっていたり。あとは……もうすぐクリスマスですし、サンタさんからのプレゼントを開ける時も良いですね」
「わぁ、ケーキ? プレゼント?」
 アイの強張った表情が、琴莉の誘導でどんどん明るくほころんで来る。あたたかな希望を胸いっぱいに想像した少女へ、琴莉は静かに告げた。
「それから、おうちに帰って、ただいまを言う時も」
「……!」
 ぱあ、と光を灯した瞳がなによりも雄弁に語る。少女のカゲはいつしか姿を消していて「さぁ、」琴莉は膝を伸ばして前を向く。
「頑張って帰りましょうか。ウサギがいないなら、青い鳥を追えば良いんですから」
 青い鳥はいつだって、家に居るものと決まっている。
 「うん!」と元気いっぱいに肯いたアイがぎゅっと手を握ってくるのに、僅か瞠目した琴莉だったけれど。冷えた指先に伝わる子供体温に違和感はあったけれど。
「……というわけでErnest、ウサギを追ってください」
 咽頭マイク越しにUDCに伝えたなら、青い鳥のアバターが白い世界にふわりと浮いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
大丈夫
そなた達を殺させなんてしない
しっかり守るよ
安心して
視線を合わせ優しく微笑んで
安心させるようアリス達を鼓舞していく
怖いなら手を繋ごう
決して離さない
約束だよ

私は約神なんだ

影が揺らぐ
影、朧

私は記憶が無い
廻り転生し還った神
故に過去がない

なのに
『私』だ
厄神…硃赫神斬
前の私

三つ目が私を捉え問う
幸せかと

幸せだ
もう二度と喪いたくない位
倖せだ

何かを悔やみ訴える眼差しが私を射る
私は己の幸と引き換えに何を忘れた?

救うと心に決めていた
なのに私は親友(あの子)の呪いを

私はしあわせだ
その幸せは
誰の犠牲の…

知らぬ記憶が溢れ苛む

歩みはとめない
過去は現在に繋がり
私は望まれ此処にいる
この子達を救うんだ

あの子(親友)も
絶対に



●櫻香、誘う
 ひとりは、男が連れて。ひとりは、娘が抱えて。ひとりは、青い鳥がいざなって。
 出口を目指したならひと処に寄るのは必定。『アリス御一行様』が揃う場所には、神が待っていた。
 神は──朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)は彼らを柔い笑みで迎える。
「大丈夫。そなた達を殺させなんてしない。しっかり守るよ。安心して」
 膝に両手をついて子らと視線を合わせ、しかと伝える。
「怖いなら手を繋ごう。決して離さない、約束だよ」
 私は約神なんだ。
 子らを安堵させるべく告げる名乗りは、誇りか。あるいは己自身に言い聞かせるための鼓舞か。
 隣に隣に並んだ少年の姿が、微かに記憶を揺らす。
──まさか。
 ちいさく苦い笑みを浮かべる。桜の祝福を受けて転生し廻り返った存在であるカムイには過去がない。故に記憶と呼べるものも未だ多くはない。
 なのに。
 あおい木蔭にゆらりと佇んだのは墨色。
「──」
 カゲ。影。朧。
 知るより先に解る。あれは『私』だと。厄神、硃赫神斬の姿であると。
『“私”は倖せかい?』
──幸せだ。
 三つ目の厄神の問い掛けに、カムイの心が揺らぎなく応じる。その言葉がじわりと胸に広がるのを感じながら、彼はゆっくりと声を紡ぐ。
「……もう二度と喪いたくない位、倖せだ」
 そのさいわいの音に、赫い三つの眸がカムイを見つめる。そこに宿る、悔恨。再び揺れた記憶に、胸に満ちたぬくもりの中にぽたりと冷たい一滴の疑念が墜ちた。
──私は己の幸と引き換えに何を忘れた?
『救うと心に決めていた』
 カムイの疑念を掬い取るようにカゲが言う。手にした赫い刀をきつく握り締める。
『なのに私はあの子の呪いを』
「あの子……?」
 私はしあわせだ。間違いなく断言できる。だが過去は嘆く。なにかを果たせなかったとそう悔やむ。
──その幸せは、誰の犠牲の……。
 混濁した記憶が渦巻いて溢れ出す。櫻。華火。鴉。誘。大蛇の。噫、噫──……。
「……だいじょうぶ……?」
「、」
 少年の窺う声に、カムイは我に返る。隣の少年の姿に瞬時重なって見えた、師匠と呼び慕ってくれた少年の姿。しんゆうっていうんでしょ? そう問うた顔。
 ぎり、と音がするほどカムイは『喰桜』の白い柄を握り締めた。
──噫……、
 微笑みを浮かべて、神は「大丈夫だよ」と少年に応じて見せる。三つ目のカゲは、もう見えない。きつく、きつく柄を握り締めたまま、彼は少年の歩速に合わせて歩き出す。
──歩みは、とめない。
 過去は現在に繋がり、望まれ此処に居る。桜が救ってくれたのだから。今はこの子達を救う。それを胸に確かめる。
 そして、いつか──あの子も、……絶対に。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘルガ・リープフラウ
置き去りにされたアリスたちをこのままにしておけないわ
大丈夫。わたくしがついています
不安を慰めるように、手を繋いで、優しい歌を歌って

目の前には過去のわたくしの影
吸血鬼に支配された故郷
仮初の平和と引き換えに払われる犠牲
幼い頃のわたくしは問いかける
「父様も母様も、みんな優しくしてくれるけれど
みんなどこか寂しそう
ねえ、わたくしはしあわせなの?」

ええ、あなたは……わたくしは倖せよ
本当は故郷は怨敵に滅ぼされ
父も母も民も皆、わたくしを置いて死に絶えた

それでもわたくしには、守り支えてくれる人がいた
今は夫となった愛しい人
暖かな人の温もりがあれば、どんな苦難も耐えられる
今度はわたくしが、あなたを護り導く光になるわ



●闇中の雛鳥
──置き去りにされたアリスたちをこのままにしておけないわ。
 他の猟兵たちの働きもあり、『アリス御一行様』は再び三人全員集まることができた。孤独と恐怖に耐えていた少年少女たちは抱き合って再会を喜び合い、そのさまを目にしたヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は胸に強く意志を秘めた。
 “置き去り”にされる感覚は、形こそ違えど彼女にも憶えがある。
 すべてを喪い、唯一と出逢った、そのときに。
「大丈夫。わたくしがついています」
 三人の傍にふわと膝を折って彼らの手を取り視線を合わせ、澄んだ青の瞳を和らげる。
 そして前でくるりと弧を描いて飛び往く青い鳥──他の猟兵のUDCが生み出した電子アバター──を追って、彼女は歩き出す。ニナにしがみつくアイの手を繋いで、やさしい讃美歌を慰めに歌いながら。
 最初こそ遠慮がちに握り返されていた手が、道行くほどに力が込められていく。
 そこに感じるのは信頼と、強まっていく不安なのだろう。
 そっと窺いながらもヘルガはそれ以上敢えて声は掛けない。先を急ぐことがなによりの解決だろう。その想いは、他の猟兵たちも一様に同じだ。
 だが。
 歌が、止まる。
 ヘルガの目に留まったのは、上品な仕立てのドレスに身を包んだ少女。草むらに佇んだ蒼いカスミソウを髪に咲かせた少女は、ゆっくりと振り返る。
 ふっくらとした頬は豊かな生活を思わせるけれど、長い睫毛の下の澄んだ青は、どこか哀しげに彼女を見た。
『父様も母様も、みんな優しくしてくれるけれど、みんなどこか寂しそう……』
 長い雪色の髪がさらりと肩を流れる。
『ねえ、“わたくし”はしあわせなの?』
「──、」
 それは過去のカゲ。かつてのヘルガそのひと。
 夜と闇に閉ざされ、吸血鬼に支配された世界で、愛されて育った頃。けれどその日常が誰かの犠牲の上に成り立っていることを幼心に気付いていた。仮初の平和の中で育まれた無垢の雛鳥。
 ヘルガは静かに腰を折る。
「ええ、あなたは……わたくしは倖せよ」
 知っている。
 “彼女”はこのあと、故郷を怨敵に滅ぼされ──父も母も領地の民草も皆、彼女を置いて死に絶えた。
 それでも彼女は倖せだと断じる。そこに迷いはない。
 脳裏に浮かぶのはいつだって藍の狼の姿。想うだけでいつでも、胸が温かくなる。
 独りになったヘルガを救ってくれたひと。そのあとも守り支えてくれたひと。今は夫となった、愛しいひと。
 アイに断りの視線を送ってから繋いだ手を離し、ヘルガは問いを投げたカゲの小さな手をそっと自らの両手で包んだ。
「あたたかな人の温もりがあれば、どんな苦難も耐えられる。今度はわたくしが、あなたを護り導く光になるわ」
 だから、疑わないで。
 運命を呪わないで。
 包んだはずのカゲの手は、なんの感触も返しはしなかったけれど。
『……うん』
 少女の姿は、白い世界にやわらかな声を残し、融けて消えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

隠神・華蘭
『……おい貴様、いつまで人間にへらへらしている? さっさと怨みを晴らへぶっ!?』
はぁまた昔のわたくしがそういうことを言う……面倒なのでぱんちして消すのですぅ。この穴への幽閉といい、全くくだらない術ですねぇ。

UCにて狸召喚、まぁ戦闘ではないので十そこそこも出せばよいですねぇ。
ここにはわたくしのような猟兵か子どもたちしかいないはず。
狸の嗅覚で探ればどちらかにすぐ会うでしょう。

あぁそうでしたぁ、喚んだ狸らは化け狸ですので三匹ほど兎に変化させましょう!
そして子らの前を先導して出口まで行きますねぇ。
皆さん、あの兎さんがちゃんとしたごーるまで連れて行ってくれますよぉ。
ほら、もう一息ですぅ!頑張りましょう!



●迷いなき今
『……おい』
「う~ん。こっちでしょうかぁ?」
『おい貴様』
「あぁ、ちょっとばらばらに動かれたら困りますぅ」
 ぴこぴこ、狸の耳を動かして。ゆらゆら、狸の尾を揺らして。
 隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)は乱舞・狸囃子──ユーベルコードで喚び出した化け狸たちのあとを追いながら白とあおの世界を進む。
 そんな彼女の傍で低く告げる、金色の瞳のカゲを全無視して。
 本来なら三百を超す数の化け狸を喚ぶユーベルコードであるが、戦闘ではないから──ということで十ほどに苦労して抑えたはずだったが、それでも戦闘に特化した狸たちは敵を探して自在にうろうろ。それを追う彼女もきょろきょろ。
『おい貴様。いつまで人間にへらへらしている? さっさと怨みを晴らへぶっ?!』
「はぁまた昔のわたくしがそういうことを言う……」
 おっとりゆったり告げて、そっと左手を頬に添える。と同時に右拳が瞬息で奔り、カゲの頬をまっすぐに打ち抜いた。鋭い金色の目こそすれ、愛らしい顔つきのカゲから可愛げのない悲鳴が零れて、掻き消える。
「この穴への幽閉といい、全くくだらない術ですねぇ」
 華蘭にとって過去は過去だ。黒い妖狐に追われる前の凶暴だった時代の己と向き合っている場合ではなく──そしてそれは未だその身に宿る“己”であり、彼女はきちんとそれも理解している。だからこそ、なおのこと、今は、必要ない。
「……」
「あらぁ?」
 ふんふんと鼻を鳴らして他者──ここには猟兵か、あるいは子供たちしか居ないはずだからと──化け狸たちが探す先。ティディベアのはずなのに唖然とした表情なのが判る、少女がひとり。
「あぁ見られちゃいましたぁ?」
 『ぱんち』。ちょっぴり照れ隠しに笑いつつ、華蘭は『アリス御一行様』を連れた猟兵たちへと合流した。こっくりと肯くニナはけれど、おずおずと告げる。
「……強いんだね、お姉ちゃん」
「はぁい、強いですよぉ。だから安心してくださいねぇ」
 妖怪とは伝承。伝承とはひとの間を伝わってこそ力を持つ。東方妖怪である彼女は迷いなく肯いて、そしてあぁそうでしたぁ、とこっそり茂みの蔭に居る化け狸たちを三匹ほど変化させた。
 小さな褐色の身体は、白い三匹の兎のそれへとどろんと形を変え、茂みから駆け出して先を行く。華蘭はそれを指差して歩き出す。
「皆さん、あの兎さんがちゃんとしたごーるまで連れて行ってくれますよぉ」
 居なくなった時計ウサギの代わり。そして同時に兎は幸福の伝承を持つ存在だ。
 きゅっと両の拳を握って『アリス御一行様』へと笑って見せる華蘭の姿に、道を示すという兎の姿に。子供たちは表情を綻ばせ、つられるように迷いなく足を踏み出した。
「ほら、もう一息ですぅ! 頑張りましょう!」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
アリス御一行さま方を出口へとお導きを

まずは落ち着いて頂けるよう
持参した手作りのクッキーをお渡しして
ここは危険でございます
すぐには状況を把握できぬやもしれませんが
どうか共においでくださいませ

お疲れの際には必要に応じてUCを使用しながら
念動力にて赤薔薇の花びらを舞わせて見せたり
お歌を歌ってさしあげたり致します

…あら?あちらに見えますのは
裕福な家庭に囲まれていた頃の、幼いわたくしでは…
倖せか、と尋ねられたなら
ここに至るまで、辛い事も
自分の不幸を嘆く事もございました
しかしながら、多くの方々に出会う事ができ
今は、とてもしあわせでございます
わたくしの幻影よ、安心してください
あなたはしあわせになります、と



●魔女と呼ばれた、更に前
 どれだけの時間、歩いただろう。
 歩けど歩けど同じような景色が続く世界に、『アリス御一行様』の表情にも疲労の色合いが滲む。
 ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は紅い頭巾を揺らし、すいと膝を折った。
「少し、甘いものでも食べませんか? わたくし、お腹が空いてしまいました」
 取り出した真白の手巾を開けば、そこには素朴ながら香ばしくあまい香りのクッキー。ベイメリアがこのために焼いてきたものだ。
 『アリス御一行様』はわぁっと喜んでめいめいに手を伸ばす。その機を計って、彼女が使うのは生まれながらの光。自らの疲労を代償に、対象を治療するもの。怪我らしい怪我はもちろん負っていない子供たちだが、彼らの疲労なり脚の痛みなりが僅かであれ軽減されたなら良いと願いを籠めて。
 そして食べ終わるのを見てゆるりと碧の目を細めて微笑む。
「さあ、ここは危険でございます。まだ共においでくださいますか?」
 三人分の疲労を肩代わりしたことなどおくびにも出さず、ベイメリアが問うたなら彼らはクッキーのお蔭だとすっかり思い込んで元気いっぱいに肯いて。
 前を行く白い兎を──他の猟兵が喚んだユーベルコードであることは、彼女には判っていたけれど──追って、歩き出す。
 幼いアイが飽きてしまわないよう、絶望を実感してしまわないよう、念動力で赤薔薇の花弁を舞わせたり、他の猟兵と共に讃美歌を奏でたりしながら。
 そして。
 猟兵たちは、辿り着く。
 ウサギ穴の終り、出口の場所。
「……あら?」
 『アリス御一行様』と他の猟兵たちがその出口の様子を確認している後ろ。ベイメリアは視線を感じて振り返る。
 そこに居たのは、碧の目に金の髪。薔薇色の頬をした少女。
 仕立ての良い、けれど極寒の地にも耐えうるような厚地のドレスは確か、あの頃お気に入りだったそれ。──裕福な家庭の中で、なに不自由なく過ごしていた頃の、カゲ。
『“わたくし”は、倖せでございますか?』
 つたない声音が、無邪気にそう問う。
 ベイメリアはその声に、胸が締め付けられる思いがした。
「ここに至るまで、辛い事も……自分の不幸を嘆く事もございました」
 当たり前のように享受していた全てを失って、あるいは自分のことすらすべて忘れた頃すらくぐり抜けて。
 それでも女は、唇に笑みを刷く。
「しかしながら多くの方々に出会う事ができ、今は、とてもしあわせでございます」
 じわりと胸に広がる温かさは、嘘偽りのない真実だ。
 ベイメリアを呼ぶ声が聞こえて、彼女は「今参ります」と応じて身を翻し──、けれどふと思いついたように再びカゲへと振り返る。紅い修道服の裾が躍った。
「わたくしの幻影よ、安心してください。あなたはしあわせになります」
 真っ直ぐな碧の視線には、確信に満ちて。
 カゲは安堵したように微笑んで、そして消えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『マーダー・ラビット』

POW   :    きす・おぶ・ざ・です
【なんとなく選んだ武器】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    ふぁんとむ・きらー
【糸や鋏、ナイフ等】による素早い一撃を放つ。また、【使わない武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    まさくーる・ぱーてぃ
自身の【殺戮への喜びによって瞳】が輝く間、【自身の全て】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠終夜・嵐吾です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ウサギ穴の終着点
 そして。
 猟兵たちは、辿り着く。
 ウサギ穴の終り、出口の場所。
 それは大きな縦穴。文字通りのラビット・ホール──ただし、大きさは本来のそれとはだいぶ違うけれど。
 集まった猟兵たちにとってそれぞれに、あるいは協力し合いながらそれを昇ることなど容易だろう。
 ある者は翼を広げ、ある者は風を纏い、──辿り着いた、“物語の始まり”の場所。
 そこは、アリスラビリンスのどこかの世界であることは想像がついた。鮮やかな彩りの花々が咲く草原だ。その花々は意思を持って、これから始まるであろう戦闘の空気をいち早く感じ取って、小さくささめくようにお喋りしている。
 宣言通りそこで待っていたらしい兎は、特に驚いた様子もなく笑って、継ぎの当たった両手を広げた。
「わあ~、おめでとうございます! よく辿り着きましたね『アリス御一行様』!」
 素晴らしい、素敵です、最高だね! そんな言葉達を連ねる彼はマーダー・ラビット。その手には赤黒く変色した鋏。その他にも幾つもの武器を扱うことができるのだろうと、言われなくても伝わる──殺人鬼の気配。
 おそらく彼は情け容赦なく武器を振るうだろう。場合によっては猟兵達の手にしたそれを奪われることもあるかもしれない。
 よほど巧みに行動しない限りは、負傷を免れることは至難だ。
「本当に出てきてくれて嬉しいよ! ご褒美をあげましょう、さぁ、」
 赤い瞳が、嬉しそうに妖しく光る。

「きみを殺します」

 
ロラン・ヒュッテンブレナー(サポート)
『あの…、ぼくロラン…、よ、よろしく…。』
 人狼の電脳魔術士×ウィザード、10歳の男です。
 普段の口調は「内気な男の子(ぼく、~くん、~さん、だね、だよ、だよね、なのかな? )」、戦闘中は「勇気を振り絞る(ぼく、~くん、~さん、だね、だよ、だよね、なのかな? )」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●イカレた殺人兎と心優しき人狼
「あぅ……」
 言葉に偽りなく嬉しそうに両手を広げ、歓待の意思を示す時計ウサギの手にある鋏は血に塗れ、台詞のとおり実行するつもりであることがひしひしと伝わって来る。
 つまり、──こちらを殺す、と。
 振り返ればそこにいるのは、自分と同じくらいの年頃の子供たち。ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は義姉から贈られた翼のチャームにそっと触れる。そこに籠められた、祈りを胸に抱く。
 そして彼は目を瞑る。脳内に駆け巡る感覚はもはや、慣れたもの。
「……殺されるわけにも、殺させるわけにも、いかないの」
 ふかふかの毛並みの狼の尾が、彼の中で増幅していく魔力に応じるかのように逆立っていく。
 ──対消滅術式展開、マジカ圧縮、臨界、高密度魔術弾装填完了。レディ。
 そして開く、澄んだ藤色の双眸に恐れはなく。振り絞る勇気に後押しされて、彼は鋭く地を蹴った。低く駆けたロランの掌には光さえも吸い込む、渦巻く魔力の塊。それは飲み込み喰らい尽くす破滅の鉄槌──デストロイ・ロランバースト。
「面白いですねぇ!」
 応じて殺人兎も相対す。手にしていた鋏の切っ先を拘束で繰り出した。超高速、かつ大威力の一撃はロランの突き出した腕を裂き、紅を散らす。
 ロランは走る痛みに僅か顔を歪めつつ、それでも速度を落とさない。斬り裂かれながらも突き出した掌の魔力。どん、と衝撃が弾けて、マーダー・ラビットの鋏ごと腕の一部を消滅させた。
「……おやおや」
 一拍遅れて血が噴き出した、欠けた手を見つめて。
 けれど兎は舌なめずりをひとつ。腰のホルスターからナイフを抜くと、ロランへ向けてにっこりと微笑んだ。
「楽しませてくれますね!」
「……っ、」
 狂った兎に、狼は更に身構えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘルガ・リープフラウ
あの兎は、笑いながらこの子たちを「殺す」と言う
捕らえた虫の手足を捥ぐような無邪気さで

ああ、あの悍ましい微笑は「混じり気のない狂気」
わたくしの故郷を滅ぼしたあの吸血鬼も同じ貌をしていた
踏み躙られ苦痛に喘ぎ死にゆく者を、高みから見下ろして嗤う残酷さ

わたくしの道行きは、この悪意から人々を守るためにある
悲劇を繰り返さぬために
アリスたちには指一本触れさせはしない

歌うはレクイエム【怒りの日】
解き放たれた聖なる光は全ての武器を叩き落し
殺戮に酔いしれる瞳の輝きを、それ以上の眩さでかき消すだろう

信じる心を踏み躙り裏切りを重ねてきたこの男に
寿命を削る宿命を逃れることは叶わない
神罰の光に灼かれ消えなさい



●終らないダンスを貴女と
 左の手指を失いながらも笑みを絶やさず、次の獲物を残った指で握り締めて標的を探すマーダー・ラビットの姿に、ヘルガ・リープフラウは我知らず身を震わせた。
 再び握ったアイの手を離さず、純白の翼を広げて『アリス御一行様』の視野を遮りつつヘルガは苦々しい思いで敵を見据えた。
 あの悍ましい微笑にも、憶えがあった。否。マーダー・ラビットとまみえるのはこれが初めてだ。けれど、その『混じり気のない狂気』を知っている。
 笑いながら子供たち
を「殺す」と言う──捕らえた虫の手足を捥ぐような無邪気さで。
──ああ。
 つい先刻。幼き日の己に逢ったことも記憶の鍵を開きやすくしてしまうのだろう。笑顔が、狂気が、狂喜が、ヘルガの身を竦ませた。
──わたくしの故郷を滅ぼしたあの吸血鬼も同じ貌をしていた……。
 俯き嘆きながらも、その日その日をなんとか暮らしていた者を。気まぐれに踏み躙り、恐怖と苦痛に喘ぎ死にゆく様を高みから見下ろして嗤う残酷さを隠しもせず。
「おねーちゃん……?」
「、」
 血の気の引いて更に白くなった頬を見上げ、アイが呼ぶ。その思わし気な声音にヘルガも我に返った。そう。目の前に居るのは吸血鬼ではない。ただの、殺人鬼。
「お心遣い感謝いたしますわ。……大丈夫」
──わたくしの道行きは、この悪意から人々を守るためにある。
 澄んだ青をひたと差し向けた彼女に、狂った兎は足りぬはずの指でくるとナイフを回転させて駆け出した。愉し気な赤い瞳に対して胸に湧き上がるどうしようもない嫌悪感を、ヘルガはそのまま力に変えていく。
「──無辜の願いを冒涜し命を愚弄する者よ。何者も因果応報の理より逃れる術は無し。今ここに不義は潰えん。……神罰の光に灼かれ消えなさい!」
 歌姫の紡ぐ音色はレクイエム。怒りの日──ディエス・イレ。
 信じる心を踏み躙り裏切りを重ねてきたこの男に今、裁きの光を。
 澄み渡った蒼天から、音を置き去りにする速さで光がマーダー・ラビットを貫いた。
「おや、」
 にこり、笑って見上げた彼の視界いっぱいに広がる──八十を超える光の矢。あははと笑い声を上げて、兎は跳ねる。妖しく輝く瞳が矢を避けんと見定める。けれど。
「聖なる光から逃れることは叶わない」
 凛と告げたヘルガの言葉どおり、光は男を追尾する。「なるほど! いいですねぇ!」男は笑ってナイフを振るう。ひとつ、ふたつ、みっつ──殺戮の衝動のままに限界を超え手数を増やしている殺人兎は、刃の腹で光を弾いた。
 そしてヘルガと『アリス御一行様』へと肉薄してナイフを振り翳す。
 しかし、そこまでだ。
「悲劇を繰り返さぬために、アリスたちには指一本触れさせはしない」
 空から降り注ぐ光は殺人兎の手数を大きく上回り、そのナイフを叩き落し、幾多の穴をその身に穿つ。
「悪逆の徒に、報いあれ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

隠神・華蘭
調子に乗るなよ兎ごときが……あ、怖い顔してないですよぉはいにっこり。
本気もーどの化かしを見せてさしあげましょう。

穴から出る前に少々仕込み。
全力で喚んだ狸達をお子達の姿に化けさせます。質量が足りなければ組み体操させて、およそ百も作れば十分かと。

本物のお子達はわたくしの【化術】で姿のみ他の猟兵っぽく変えておきましょう。
皆さんわたくしが悪い兎めを目一杯びびらせますのでお仕置きしましょうねぇ!

偽のお子をわんせっと連れていきわざと兎めに倒させ、
呆気に取られた所で残りの偽お子を一気に穴から飛びかからせます!
どうした兎よ、貴様の稚拙な術でお子が増えたではないか!

本物は程よいところで変化を解除させますねぇ。



●拮抗
 他の猟兵の攻撃により、その身にいくつもの穿孔を得たマーダー・ラビットは、溢れる血にも構わず隠神・華蘭へと視線を向けた。ぼたぼたと滴る鮮血は草原の緑に落ちて黒く染める。
「さぁ、あなたはなにを見せてくれるんですか?」
「ご所望なら、本気もーどの化かしを見せてさしあげましょう」
 にっこり笑み返した華蘭が手を広げて見せる。乱舞・狸囃子。みぃんな出て、こいこいこいです! 彼女の声に応じてラビットホールから飛び出してきたのは──数セットの『アリス御一行様』。
「おや、おや」
 片眉を跳ね上げた殺人兎に華蘭は笑う。隙を逃さず、数十人の『アリス御一行様』が敵へと躍り掛かる。
「どうした兎よ、貴様の稚拙な術でお子が増えたではないか!」
 その『アリス御一行様』はもちろん、彼女のユーベルコードで喚んだ化け狸たちが変化した姿だ。だが。
「皆さんわたくしが悪い兎めを目一杯びびらせますのでお仕置きしましょうねぇ!」
 余裕の態度を崩さず攻撃を仕掛け続ける蔭で、本物の『アリス御一行様』に化術を用い他の猟兵たちの姿へと変えながらも、華蘭は想定可能だった想定外に素早く敵へと視線を走らせる。
 偽の『アリス御一行様』は百体も生み出せば良いだろうと思った。彼女は現在、三百を優に超える数の化け狸を喚ぶことができる。だから大丈夫だろうと。
 けれど同時に、華蘭は気付いてもいたのだ。喚び出せるのは『小型の』化け狸であり、ひとひとりに一匹で化けさせるには質量が足りないのではないかと。
 だから化け狸たちを組ませ、質量を補った。百を生むには最高でも子供ひとり分につき三から四程度の化け狸しか割り振ることができない。けれどいかな子供と言えど、八歳の少女から十二歳の少年。小型の狸三頭で補える質量ではない。つまり。
 彼女の想定よりもずっと、偽物たちの数は少なかったのだ。
 なおかつ敵は爛々と赤い瞳を輝かせ限界を超えて手数を増やすうえ、化け狸たちは一撃で消滅する。
 結果。偽の『アリス御一行様』はそれなりにマーダー・ラビットに傷をつけた。しかし殺人兎は千切れた手首にナイフを縛り付け、次々と偽物たちの数を減らしていく。
「確かに『アリス御一行様』には手出しできません、悔しいですね! でも全部消し潰したら、どうでしょう?」
「調子に乗るなよ兎ごときが……」
 あ、怖い顔してないですよぉはいにっこり。微笑む殺人兎に笑み返して、華蘭はすべてを消して、再び喚ぶ。こいこいこい。兎は更なる狩りへの殺戮衝動に双眸を光らせた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ベイメリア・ミハイロフ
アリス御一行の皆さまを、むざむざと
傷つけさせる訳には参りません
その為にわたくし達は参りました
彼らの明るい未来を、閉ざさせたりは致しませんとも

真の姿開放
相手の攻撃に対しては
フェイント・ダッシュを活用し
念動力にて赤薔薇の花びらを散らせ目くらましを試みながら
狙いが定まらぬよう動きつつ間合いを取りつつ、
第六感にて見切り武器受けしカウンターを
攻撃にマヒ攻撃を付与し武器落としを試みます
先制攻撃にて先に攻撃できますようならば
瞳を狙って高速詠唱から全力魔法を2回攻撃で

但しアリス御一行さま方の安全を最優先に
皆さまに攻撃が向かうようであれば
オーラ防御・激痛耐性を使用しかばう、を
その場合負傷もやむなし、でございます



●聖翼と狂兎
「あははっ! いいですね! たくさん殺せるのは楽しいです」
 身体には穿孔。左の手首は吹き飛んで、その疵口にナイフを縛り付けて振り回し、他の猟兵のユーベルコードで生み出した“姿”を消していくマーダー・ラビット。
 『アリス御一行様』へと与えられていた化術も解かれ、子供たちは猟兵たちの背後で身を竦ませる。
 兎の赤い瞳が彼女たちを捉えた、その瞬間。
 光の翼がその視界を遮った。
「アリス御一行の皆さまを、むざむざと傷つけさせる訳には参りません」
 鋭い踏み込みと共に紅の修道服が翻り、振り翳された刃が柔い肌を裂いて血を散らす。翡翠の瞳が瞬時痛みに歪むが、呼吸をひとつ──ベイメリア・ミハイロフはその感覚を身の裡に鎮めた。
 そして『アリス御一行様』へと僅かに振り返り、微笑みかける。
「……その為に、わたくし達は参りました。皆さまの明るい未来を、閉ざさせたりは致しませんとも」
 だから安心していいと。暗に伝えて彼女は再び駆ける。
 光の翼を負うベイメリアの真の姿が、赤薔薇の花弁を散らして“壊れた”姿のマーダー・ラビットへと一線に向かう。
 対する殺人兎は狂気に瞳を輝かせ踊るように刃を振るう。ひょう、と風斬る音がひとつふたつ──ここのつ。あるいは、それ以上?
 けれどベイメリアも、身軽なステップを踏むかの如く足さばきでその切っ先を捉える。無論、すべてを回避することはできない。鮮やかな斬り傷が頬、腕、肩やその他に刻まれていき──あかい華が空に咲いた。
「裁きの光を受けなさい……!」
 Judgment arrow。中空から降り注ぐ数多の属性の光の矢がマーダー・ラビットへ狙いを定め、そして一斉に降り注いだ。
 ずるり、と継ぎのあたった殺人兎の身体が崩れる。
 だが。
「あはははははっ!」
 突然顔を上げたマーダー・ラビットは哄笑し、そしてぐらん、と重い頭を傾げた。その口角は吊り上がって──腰のポーチから針を取り出すと、目にも止まらぬ速さで己の捥げかけた首を縫いつけた。
「……ひひ。楽しいですね。やっぱり僕はきみを殺したい!」
 その常軌を逸した狂気に思わず嫌悪にベイメリアの表情が微かに歪む。
「貴方様は……お救いすることも難しいようでございますね」
「そうですねぇ……。きみが殺されてくれたなら、救われるかもしれませんよ?」
 再び刃を振り上げる狂った兎の台詞に、ベイメリアは眦に、そして足に力を籠めた。
「誠に──残念です」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

千波・せら
絶対に殺させないよ!
私も絶対に殺されない!

片手には雷属性の魔法
今日の天気は大荒れです、傘も貫通するでしょう!
お出かけの際は頭上にご注意下さい。いっけー!

全力魔法で威力をあげた雷はすごいんだ。
それに雷属性の雨は色んなものを貫通しちゃう槍のような雨だよ。
鋭い雷雨で周りに雷の檻を作って兎を閉じ込める。

檻から出ようものなら、ビリッて感電しちゃうんだ。
オーラ防御も駆使するよ。
一筋縄では行かない相手だけど、強い相手なら沢山見てきたからね。
飛んでくるナイフもあのドラゴンの攻撃に比べたら全然平気だよ。

今のうちに全力魔法を打ち込む……!



●霹靂
 空と海の色を写し取ったような娘は、兎と共に花畑の中をひた駆ける。
 あくまで穏やかな笑みを浮かべている兎、マーダー・ラビットの身体に刻まれた傷は生々しく、喪われた左手首に縛りつけられたナイフが禍々しい。
 千波・せらはひとつ指立て、晴天へと差し向ける。
 ばちっ──、と空へと駆け上がった小さな稲光。
「今日の天気は大荒れです、傘も貫通するでしょう! お出かけの際は──頭上にご注意下さい!」
 いっけー!
 彼女の掛け声が響き渡った途端、あおい光が空を覆った。
 降り出したのは“雨”。
 雷の属性を帯びた雨は槍の如き鋭さで戦場を覆い尽くし、当然避けようとした殺人兎の脚を射抜き腕を叩き付け、不可避の檻を構成した。彼女の全力を乗せた魔法。
「がっ……!」
 傘どころか身を護るものをなにひとつ持たず、むしろナイフに鋏に、といくつもの金属を忍ばせたマーダー・ラビットを狙い討つかのように雷の雨は降り注ぐ。
「あ──はは、はははっ!」
 兎は笑った。
 せらは微かに顔を顰める。
「……なにがおかしいの?」
「可笑しい? いいえ、楽しいんです。いいえ、嬉しいんです」
 雷帯びて明滅する指先。痺れるはずの舌は構わずに動く。超高圧の電流に灼かれた脚で彼は、それでも踏み出した。
 絶え間なく檻が彼を灼き、けれど兎は頓着しない。毀れる身体を、厭わない。
 赤い瞳が、輝いた。
「これなら──『超弩級の闘争』も派手に幕開けできそうでしょう!」
「っ!」
 声が聞こえたかと思った瞬間には、眼前にその赤があった。咄嗟にあおいオーラを纏い身を護るが、限界を超えて手数を増やした敵の狂演をすべて防ぐことができない。
 耳を叩く硬質な音。幾多と鋭く打ち付けられる刃と同時に走る痛みはこちらも、豪雨の中に放り込まれたかのようで。
──でも!
 これまでの冒険の中で、強い相手なら沢山見てきた。“雨”のような攻撃も、これまでにも経験している。
──あのドラゴンの攻撃に比べたら、全然平気だよ。
 『超弩級の闘争』がなにかは判らない。
 それでも、この殺戮兎が望むそれが碌なものではないことくらい、容易に想像がつく。
「絶対に殺させないよ! それに、」
 私も絶対に殺されない!
 せらの青い瞳が強い意志を帯びて光る。至近の距離で兎も赤い目を細めた。
「なら勝負だね!」
 電熱帯びた刃が横薙ぎに奔った。高く跳んだ彼女は空を泳ぐあおい光へと呼びかける。手を貸して。
「負けないから!」
 全力で叩き付ける霹靂は彼女の翼であるかのように眼下にあるすべてを覆い尽くした。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
此処がそなた達の始まりの場所になるのかな
美しい場所であるのに
噫、終わりの場所になどさせないよ

子供たちを庇うように前へでる
先に見た少年の姿が重なる
頭から離れない
私は散らぬ身
神たる身
傷つこうが構わない……守ってみせる
私は、厄ではなく守るものなのだから
此のいのちたちをあの様なものに狩らせはしない

――きみを、守るよ

いつかの笑顔が私の背をおす
カグラ、子供達に守護の結界を!
『春暁ノ朱華』
疾く駆けて第六感を頼り
見切り躱しながら切り込んで武器を弾きなぎ払い
切断する
未来を刈るそなたを枯らす、神罰を
降す神罰は厄災の黒桜
殺戮遊ぶその身を枯らせ散らし斬る

ひとりだって殺させはしない
そなたを斬らねば、あの子だって救えない



●混交、而して未だ朱
 そこは青い空に花咲く場所。
 埒外同士の戦いが繰り広げられ、閃光が降り注ぎあおい稲光が駆ける戦場の空へと変貌してなお、神はその場所を美しいと思う。
 他の戦いに巻き込まれることがないよう『アリス御一行様』の前に立ち朱赫七・カムイは桜花色の双眸を細めた。
「此処がそなた達の始まりの場所になるのかな」
 兎穴の出口であり、すなわち入口の場所。
 振り返れば、不安気に身を寄せ合うこども達。噫。胸に灼けるような感覚がある。白い兎穴を巡った折に脳裏に過った少年の姿と重なった。
「……終わりの場所になどさせないよ」
「そうですか。では限界まで狂宴といきましょうか」
 カムイの台詞を拾ってマーダー・ラビットが笑う。その身は既に全身が灼け焦げて、尚且つ肢体に欠けた部分さえあるのに瞳だけが変わらずに静かに狂気を湛えて輝く。
 くん、とその身が沈んだ──そう思った瞬間には、肉迫した刃が『アリス御一行様』へと振り翳される。焦げた匂いが、鼻を掠めた。
「神を呼ぶには、供物が必要でしょう?」
 巫山戯た台詞が鼓膜を打った。

──きみを、守るよ。

 こえが、聴こえた。いつかの笑顔が朧な記憶を掠めて、湧き上がる想いが力になる。
 刃は深々と突き立った。
「へえ、」
 楽し気な声音を零し引き抜く際にご丁寧に兎は手首を捻り、肉の絡む感覚が──カムイの視界を揺らした。ひととの距離は未だ測りかねる。だから覆い被さるような不器用な身の呈し方で、神は子らを庇護した。
──私は散らぬ身。神たる身。
 傷付こうが構わない。……守ってみせる。
「カグラ、子供達に守護の結界を!」
 カムイの声に桜竜神の荒御魂が宿る人形が素早く応じる。視線を交わしたかの如き馳せ違いは改めて確認する必要すらない。抉られた肩にも構わず、細く息をひとつ吐く。
──私は、厄ではなく守る者なのだから。
 知るからこそ、その身に降ろすのは厄災の黒桜。じわりと朱の髪が黒に染む。
「約のため。未来を刈るそなたを枯らす厄を」
 白い柄に手を添えて、放つは一閃。
 春暁ノ朱華。あらゆる理、存在、事象を断ち斬る赫は、悪しか為さぬ兎の残った手首を落とした。瞬きすら許さぬ刹那の攻撃に、朱い刀身は既に鞘の内。
「……ひとりだって殺させはしない。そなたを斬らねば、あの子だって救えない」
 緩やかに朱にいろを取り戻す髪。マーダー・ラビットは飛んだ右手首に糸を巻いて止血して、ナイフを横ざまに噛んだままにぃと口角を上げた。
「“その子”を殺すのも楽しそうですねぇ」
「できないよ。そなたは此処で尽きるのだから」
 笑わぬ桜花がそう返す。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
お前がまたアリスたちを脅かしてるやつか…!
正気なのか正気じゃないのかわからないけど、でもこれだけは言える
お前の満足いく結果になんか絶対させない

《凜然》で居合切りを仕掛け【先制攻撃】を狙う
早いし手数が多いし、まともに正面からやり合ったらきっと持たない
地面に氷を張って滑りつつ、素早い攻撃を【ジャンプ】で避けながら攻撃を交える

お前に俺は殺せない
なんでだかわかるか?
お前が俺のことを見縊ってるからだ!

真の姿を解放して、氷のドレス翻す雪姫の姿に
纏う強い冷気を巧みに操り、敵の腕や足にぶつけ
『風神の溜息』を相手に吹きかけていき
凍らせれば、相手の好きな戦いも上手くできなくなるはず

さあ、ウサギは大人しく冬眠しろ!



●しろいドレスの娘
 しゃりッ、と氷の欠片が削れて飛んだ。
 ブーツの底に生んだ氷のブレードが、花畑の上に張り巡らせていく氷の層を噛む。
 お前がまたアリスたちを脅かしてるやつか、と。問うたヴァーリャ・スネシュコヴァへ寄越された返事は、煌々と光る赤い瞳だった。
 マーダー・ラビットの身体にはいくつもの穿孔、落雷に灼かれた身は焦げ、左手首は既になく、右の手首と頸を乱雑に糸で縫い合わせているのが見てとれる。
 それでもなお、笑う姿。
 正気なのか正気じゃないのかわからないけど、と奥歯を噛み締めるヴァーリャは、更に氷を蹴って高く跳んだ。
──でも、これだけは言える。
「お前の満足いく結果になんか、絶対にさせない!」
 優麗に走る湾れ刃の刀が閃いた。相手の手数の多さは理解している。油断しない。刃は過たず深々と兎の胸を斬り裂いて血を溢れさせたが、マーダー・ラビットも怯まない。
 腕に直接縫い付けられた敵のナイフが幾多と襲うのを跳んで躱す。こぉん、と氷を叩く音が、遅れて耳に届くほど。
「あははっ! 実に佳いですね! 実に──殺し甲斐があります」
「っ、」
 飛び出すナイフ。躱したかと思った途端に眼球目掛けて繰り出された縫い針も咄嗟に身を捻って避け、その回転を利用してブーツの底の氷のブレードで敵の手首を蹴り裂く。
「……お前に俺は殺せない。なんでだかわかるか?」
 じりじりと胸に募るは嫌悪感。ヴァーリャは理不尽を嫌い、自由を愛す。ただ殺すために殺す、目の前の殺戮兎の在り方は、認めることができない。
「判りませんねぇ、どうしてですか?」
 継ぎだらけの身体は痛みを感じないのだろうか。そんなことはないはずだ。なのに享楽だけを映し出す彼は笑って首を傾げる。ヴァーリャは菫色の双眸に強く力を籠めた。
「お前が俺のことを見縊ってるからだ!」
 咆哮と同時、周囲が白に覆われた。
 足許から湧き起こる冷気が、花畑を覆う氷の層を更に厚くしていくのを、殺戮兎はただ見つめる。
 ふぅわりと兎の前に浮かび上がったのは、雪姫。氷華咲くヴェールにティアラ。澄んだ氷のドレスの裾は硬質ながらも風に泳ぎ、その姿は──兎はもちろんのこと、ヴァーリャ自身も気付いているかどうかは不明だが、白い兎穴の中で出逢った“少女”に近付いて。
 けれどひとつ大きく違うのは、怜悧なる氷の内側に宿るヴァーリャの意志。
 きん、きぃん、と中空の水分を操り、氷の粒を生んではそれを蹴って兎耳の狂人へ肉迫した雪姫は息吹を届けた。風神の溜息──ストリボーグ・ヴズドーフ。
 途端に凍り付いた手足に「おお、」とマーダー・ラビットは純粋に目を丸くして、雪姫は更に氷結の範囲を広げるべく冷気を繰る。
「さあ、ウサギは大人しく冬眠しろ!」
 物語は終りへと向かい、止まらない。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
途中で放り出した癖に
最後はきっちりと、なんて
虫の良い話だとは思わない?
そんな御褒美、貰う前から返品だ

睨め付けて、燈籠を手に
傍の少年へと小さな導きを
君は無理に多くを成さずとも良い
ただ、良く狙って、必ず成すんだ
一度だけ、意趣返しする為にね

それでは、今宵に語るのは
――『勇気ある少年の話』

少年に語る立場とあるのも、
今の“幸せ”だなと微笑み
少年を勇気づける為にも、
語り語って威力を上げ乍ら
影と具現した短剣たちを放ち
視界妨害/行動妨害も交えて
少年のひとつが確り通るように

危うい時はオーラ纏うまま、庇い
少年たちには傷を与えはしない

飴と鞭にしても、飴は甘くないとね
子供たちから嫌われてしまうよ?

ばいばい、殺人兎さん



●『勇気ある少年の話』
 舞台は物語よりも荘厳で壮麗な様相を呈した。
 青く晴れた空からは眩い閃光とあおい雷光が降り注ぎ、花畑を覆うように氷の層が大地を創り上げている。
 ライラック・エアルオウルズは光景を目に焼き付けながらも、舞台の中央で氷の層からそれ自身が生えたかのように氷で足許から腰まで凍りついている殺人兎へとひたと視線を合わせた。
「途中で放り出した癖に最後はきっちりと、なんて。虫の良い話だとは思わない?」
 そんな御褒美、貰う前から返品だ。リラ色の瞳が珍しく強い光を帯びて睨め据える。
「あははっ、物語というのは、あくまで作者に都合よく出来ているんですよ?」
 知りませんでした? 氷に動きのほとんどを封じられ、全身は焦げ付きいくつもの孔が穿たれた身で、縫い合わせたはずの糸も千切れかけた所為で頸も手首も捥げ落ちそうな身で、兎は笑う。
 兎は知らないだろう。ライラックが紡ぎ手であることを。「ああ、」彼と手を繋いだ少年──ルインはかそけきその声を聴いた。……そうかも、しれないけれどね。
 振り向いたライラックは変わらぬ穏やかさで夜の名を持つ燈籠をルインへ差し向けた。手伝って欲しいんだ、と。
「君は無理に多くを成さずとも良い。ただ、良く狙って、必ず成すんだ。一度だけ、意趣返しする為にね」
 内緒話のように口許にひと差し指を添えて告げられた言葉に、ルインはその手にある刃を初めて強く意識する。意趣返し。見るのは、氷漬けの兎。
 ご褒美に、殺してあげます。そう言った兎。幼いアイの扉を探すなんて言って、アイを傷付けただけの、あの兎。
 彼の眼に宿った意志に「飴と鞭にしても、飴は甘くないとね。子供たちから嫌われてしまうよ?」ライラックは小さく笑みをひとつ。
「それでは、今宵に語るのは──『勇気ある少年の物語』」
 『千夜を語りて』──アルフ・ライラ・ワ・ライラ。
 低くやさしく、紡ぎ上げる物語は燈籠の灯りを通して少年にも染み渡るようで。
(ねえ、“僕”は……倖せ?)
 好奇心に輝いたリラに思う。こうして少年に語る立場と在るのも今の“倖せ”だなと。
 淡く和らいだ口許もままに物語は続いていく。此度の影で具現化する友人は、無邪気な短剣たち。少年はよじ登った氷の舞台を強く蹴った。
「足が塞がれた程度で、僕が子供に殺し返されるとお思いですか?」
 まだ手は動くんですよと言わんばかりに、崩れかけた右腕に鋏を握り兎が嗤う。少年を狙う刃に、作家は返す。
「物語というのはあくまで作者に都合よく出来ているんだよ。……知らなかったかい?」
 幾多と喚んだ短剣たちが敵の目を裂いて視界を奪い、手の甲を貫いて氷に磔にして。
 それでも足りない攻撃はライラック自身の身で以て少年の路を切り拓く。
 少年のダガーがほんの僅か、動きを完全に封じられたマーダー・ラビットの腕を裂き、「よくできました」そんな男の声が聞こえたかと思うと同時、一斉に残った短剣たちが敵へと襲い掛かった。
「そして少年は、迷いと共におそろしい怪物をやっつけたのでした」
 めでたし、めでたし。そんな結びを告げて、男は静かに霞が如くさらさらと消えゆく敵を見下ろした。

「ばいばい、殺人兎さん」

 ──はい、ばいば~い。
 そう、聴こえた気がした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月28日
宿敵 『マーダー・ラビット』 を撃破!


挿絵イラスト