猟書家の侵略~常春の森は紅蓮に包まれ~
『……よいしょっと、おじゃましま~す!』
朝露輝く常春を想わせる様な美しい森に、陽気な女の声が響く。
ここは、アックス&ウィザーズ世界に暮らすとあるフェアリーが生み出した小世界。『フェアリーランド』と呼ばれる世界である。
『うんうん、壷の中とは思えないぐらい、広くて素敵な場所だね!』
周囲を見渡し、感動しきりといった風情の女。
だが、女はただこの地に観光に訪れただけではない。
『さてさて。それじゃあ早速、フェアリーランドを解除出来ないようにして──』
女の目的は、フェアリーランドの内に眠るという『天上界の鍵』を探すこと。
その為に、女はフェアリーランドを扱える程に優秀な冒険者であるフェアリーに狙いを付け、その小世界の中に飛び込んで……。
『──世界を、悪夢に変えちゃおう!』
その美しい世界を悪夢に落とし、『天上界の鍵』を燻り出そうと企んだのだ。
……女が指を鳴らせば。瞬間、美しき森に炎が上がる。炎はたちまち燃え広がって、小世界を紅蓮の色へと包んでいく。
『さーて。フェアリーが病弱死する前に、ササッと鍵を見つけるぞ~!』
おー! と楽しげに拳を振り上げる女。
女の名は、『レプ・ス・カム』。世界を超えて侵略を始めた、猟書家に連なる存在であった。
●
「お集まり頂きまして、ありがとうございます」
グリモアベースに集まる猟兵達を迎え入れる艷やかな銀の髪。
いつもは穏やかな笑顔を浮かべるヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)のその表情は、硬い。
どうやら今回も、中々に面倒な案件であるらしい。
「今回皆さんに赴いていただくのはアックス&ウィザーズ世界。冒険者を務めるとあるフェアリーの女性を、救って頂きます」
冒険者を、救う? 首を傾げる猟兵達に、ヴィクトリアの説明は続く。
何でもこのフェアリー(フーガ、と言う名であるらしい)は『フェアリーランド』、つまりはユーベルコードを使える程に、優秀な存在であるらしい。
だが、その優秀さが仇となった。フェアリーランドを付け狙う、とある存在に狙われているのだという。
「敵の名は、『レプ・ス・カム』。迷宮災厄戦を生き延びた猟書家に連なる存在です」
迷宮災厄戦を生き延びた猟書家達が、各世界にその食指を伸ばしているのは既に周知の事実である。
この『レプ・ス・カム』という猟書家も、例外ではない。彼女も己の目的の為、動いているのだという。
その、目的とは……。
「フェアリーランドに眠るという、『天空界の鍵』を探し出す事。それが敵の目的です」
元来フェアリーとは、『旅の導き手』とも言われる種族である。
そんなフェアリーが具現化した小世界になら、この剣と魔法と竜の世界に悪意を向ける存在が求める物があると。
『レプ・ス・カム』はそう考え……。
「『スーパーウサギ穴』なる能力を利用し、小世界に侵入。世界を悪夢に染め上げているようなのです」
『レプ・ス・カム』は壷の中の世界を悪夢に変える事で、その中で唯一不変である『鍵』を燻り出すつもりであるらしい。
だが、壷の中の小世界は世界を造り出した主であるフェアリーの生命力と連動した物。このまま小世界が悪夢に染まり続ければ……やがてフェアリーはその生命力を消耗し尽くし、命を落とす事になるだろう。
そんな事を、許して良いはずが無い。猟書家達の目的を挫くのもそうだが、理不尽な理由で危機に陥った者を見過ごす訳には、いかないのだ。
……決意に瞳を燃やす猟兵達の顔を見て、ヴィクトリアも一つ大きく頷いた。
「……この後、皆さんを直接救助対象であるフーガさんの下へと転移します。皆さんにはそのまま、猟書家が侵入した小世界の中に飛び込んで貰う事になります」
猟書家に狙われた小世界は、本来は朝露に濡れる常春の森を想わせる様な美しい森であるのだという。
だが猟書家により悪夢と変えられた世界は……至る所が炎に包まれ燃え上がる、煉獄の世界と変じているのだとか。
そんな世界を探索し、時に炎を掻き消して。『鍵』を探して潜む猟書家を見つけ出す事。まずはそれが、猟兵達の最初の務めとなる。
「とは言え、悪夢に変わる世界は猟書家の領域。闇雲に探しても猟書家は見つけられないでしょう」
故に、悪夢に変わりつつある世界を食い止める為の手立てが必要となる。
その為の手段とは、『創造主であるフェアリーに、楽しいことを考えてもらう』という事。
フェアリーが『楽しいこと』を想像し、心が前向きとなれば……悪夢の侵食は、抑えられるのだという。
その『楽しいこと』は何でも構わない。元の美しい風景を思い描かせるも良し、炎を逆手に取ってみるも良し。何ならまるで無関係な事でも、構わない。
何にせよ、フェアリーランドへと飛び込むその前に。一言、フーガを勇気づける事が何よりも重要となるだろう、と。ヴィクトリアは、そう語る。
フェアリーを勇気づけ、燃え盛る世界を踏み越える事が出来れば……敵のその尻尾を掴む事が、出来るはずだ。
「世界を渡り、悪意を振り撒く猟書家勢力。その狙いを挫く為にも……」
皆さんの御力を、お貸し下さい。
丁寧に頭を下げて、ヴィクトリアは猟兵達を現地に送り出すのだった。
月城祐一
●マスターより
少しずつ、冬の寒さが近づいて参りました。
どうも、月城祐一です。皆様体調は崩されておりませんでしょうか。
月城はちょっと不安です(季節の変わり目に弱い勢)
今回も、二章構成の猟書家シナリオ。アックス&ウィザーズでの戦いです。
フェアリーランドを狙う悪いウサギ娘を退治して頂きます。
以下、補足となります。
第一章は冒険。
舞台とはなるのは、フェアリーが生み出した小世界『フェアリーランド』です。
OPの通り、本来は朝露に濡れる常春の森がモチーフの美しい世界。
ですが猟書家の悪夢化の力により、森は炎に包まれる煉獄の世界と化しています。
そんな大火の中を探索し、踏破していただく事になります。
なお、本編中にも猟書家の悪夢化の力は進んでいますが、これを食い止める事が出来れば踏破は非常に楽になります。
食い止める条件は、フェアリー(フーガ)に『楽しいこと』を想像させる事。
気持ちを前向きにさせる事で、小世界の悪夢化は食い止められます。
『楽しい事』を思い起こさせフーガを励ましつつ、壷の中での冒険に飛び込む事になります。
『楽しい事』を思い起こさせる手段は、OPを参考にするも良し。自由に考えるも良し。
何ならその辺は無視しても構いませんが……悪夢の侵食を止める貴重な手段です。是非御一考下さい。
(上手くフーガの心に響けば、プレイングボーナスが与えられます)
第二章はボス戦。敵は幹部猟書家『レプ・ス・カム』。
言葉巧みに他者を欺く話術が武器の猟書家ですが、詳細は不明。
章の進展時に情報公開がなされますので、ご了承下さい。
光溢れる小世界を狙う、詐術使いの時計ウサギ。
猟兵達は惑わされる事無く、敵を討つことが出来るだろうか?
皆様の熱いプレイング、お待ちしております!
第1章 冒険
『燃える森』
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POW : 樹々を切り倒し、延焼を防ぐ
SPD : ありあわせのもので消火装置を作り出す
WIZ : 魔法の力で消火活動
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●
「──なんでっ……熱っ!?」
グリモア猟兵の案内で猟兵達が降り立った部屋には、一人の女フェアリーがいた。
年の頃は、20代半ばだろうか? やや童顔ではあるが叡智を湛えた瞳をした、才女然とした妖精である。
だが今、その叡智に輝く瞳は焦燥に揺れて……猟兵達が降り立った事にも、気付かない。
それというのも、己の故郷を模した壺の中の小世界『フェアリーランド』が、突然業火に燃え上がる煉獄の世界へと変じたからだ。
このままでは、世界が燃えてしまう。愛する郷里を模した、心の支えが燃えてしまう。
だけれど、彼女には何も出来ない。何がどうしてこうなったのか、見当が付かぬが故に。
──落ち着いて。
そんな彼女の様子を見て、声を掛けた猟兵にバッと振り向くフェアリー……フーガ。
「誰ッ!?」と。誰何の声は、非常に鋭い。構える姿にも、隙は少ない。
成程、ユーベルコードを使える程に優秀な冒険者というのは、確かであるらしい。
そしてそれだけ優秀であるということは。
──大丈夫、助けに来た。
状況判断力も、相応に優秀であるという事で。
静かに、だが力強い猟兵の言葉を受ければ、フーガの態度も僅かに落ち着いて。
……事情を説明すれば、フェアリーランドへと飛び込む許可を快く与えてくれるだろう。
「お願い! わたしの世界を、助けて……!」
懇願し、壷の口を差し出すフーガ。
そんな彼女に力強く頷き、また『楽しいこと』を思い起こさせる言葉を掛けながら。
猟兵達は、悪夢に変わる小世界へと飛び込んでいくのだった。
ロッテ・ブラウ
『ーーっ、コレはヒドイ!!』
『ここはボクに任せて、同族(仲間)に手を出したこと後悔させてやる!!』
激おこモード
愛機『禍津血』を召喚
術の効果範囲をブースト
UC【霧に潜む悪魔の影】を発動!!
術の暴走?気にしない!!生半可な威力じゃコノ煉獄の炎は消せないでしょ!!
さぁボクの全力!くらえー!!
((水分をたっぷり含んだ世界を白く染める濃霧、何処かにいるウサギにもコレで嫌がらせしてやるよ!!))
さぁ、ウサギ狩りに行ってくるね。
フーガさん安心して待ってて
(握手しながら不安を除く幻術を掛けてから、濃霧の中へ進んで行きます。)
●
轟々と赤く、紅く燃え上がる森。
その火勢は収まる所を知らず、今もその勢いを増していくばかりである。
「──っ、これは、ヒドイ
……!!」
そんな風景を目の当たりにして、ロッテ・ブラウ(夢幻・f29078)の口から溢れたのは怒りの声だった。
この森は、壺の中に生み出された小世界。創造主であるフェアリー、フーガの故郷である森を模した世界であったのだという。
そんな森が、燃えている。面識は無いが、同族(仲間)であるフーガの心の支えが、燃えているのだ。
……ロッテが怒りを抱くのは、当然の事であろう。
「──来い、『禍津血』!」
怒りを心に滾らせて、その名を喚べば。ロッテの背後の空間が歪み、顕れ出るのは一体の巨兵。
その名は、『禍津血』。ロッテが愛機とする、サイキックキャバリアである。
「同族に手を出したこと、後悔させてやる!」
背の翅を羽撃かせて機体に飛び乗れば、ロッテの魔力を吸い上げて起動する『禍津血』。
魔力を吸い上げられるその感覚に、ほんの僅かな気怠さを覚えるが……そんな事は、気にはしない。
壷に飛び込むその直前、握ったフーガの柔らかな、だが不安に震えていた掌の感触を思い出す。今も外では、フーガがその心を焦燥の念に苛まれているはずだ。
……そんな不安に震える同族の心に平穏を取り戻す、その為ならば。
全力を振り絞る、その理由には十分だ!
「さぁ、ボクの全力! くらえーッ!!」
裂帛の気合と共に放たれたのは、属性と自然現象を合成した術であった。
普段であれば、その制御に細心の注意が必要な術である。だがしかし、今回ばかりは話が別だ。
……森を包む、煉獄の炎。この火勢を前にしては、制御された力など生半可なものにしか成り得ない。
今はとにかく、術の威力を。森全体を包み上げる程の効力が、必要だ。
そんな想いの下、術の暴走を気にする事無く放たれたその力は……。
「白に、沈め──……!」
ロッテの呟いたその言葉の通り、小世界を白く染め上げていく!
……ロッテが放ったのは、水分をたっぷりと含んだ世界を白く染め上げるかのような濃霧。
これだけ広がりつつある大火である。空気中に含まれる水分はとうに蒸発し、空気は乾燥しきってしまっている。そんな状態では、燃え上がる火を鎮める事など出来はしない。
故に、ロッテは小世界の隅々まで水分が届くかのような勢いで、真白い霧を生み出したのだ。
……この世界のどこかに潜んでいるであろう、性悪なウサギに対する嫌がらせも兼ねていたりもするようだが。
「さぁ、ウサギ狩りに行ってくるね!」
努めて明るく、声を上げるロッテ。
壷の外に響けと言わんばかりのその明るさを垣間見れば、フーガの不安も少しは和らいだのか。
濃霧の中を進んでいくロッテと『禍津血』の行手を遮る炎の勢いは、僅かばかりに落ち着いた物となるのだった。
成功
🔵🔵🔴
セフィリカ・ランブレイ
じっくり話をしてみよう
素敵な気候で、過ごしやすい森だったんだよね。私もそういうの好きだな
色々旅をしたけど、森の中って色々な事が起きるよね
生き物の息吹。夜、明かりが落ちて、音だけでも変化だらけで私、好きだったな
夜が明けて、澄んだ空気を胸一杯に吸うのも、これは一つの贅沢だな、なんて思ったりね
あなたはどんな瞬間が楽しかった?
何が好きだったか、楽しい思い出があったか、私に教えてくれないかな
心配しないで。信じて待ってて!またそんな時間を過ごせるようにあなたの世界、取り戻すから!
希望を持ってもらえるように、自信満々に告げて壺の中に!
【赤杖の魔女】を呼び出して、温度操作で消火活動を行いながら先に進んでいくよ
●
炎が踊る森に、白の霧が満ちる。
(これは……他の猟兵がやってくれた、かなっ?)
その様子に、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)の口の端に笑みが浮かぶ。
燃え上がる炎を喚び出した魔導ゴーレムの力で掻き消しながら、セフィリカは森を進んでいた。
だが、その行動には問題が一つ。その問題とは、セフィリカの喚び出した魔導ゴーレム、【赤杖の魔女(フェイムツェール)】にあった。
実はこの機体、温度操作という強力な能力を操るが、その反面セフィリカに多くの消耗を強いるという欠点がある機体でもあるのだ。
氷に包まれた森の一件以後その欠点は改良してはいるが、それでもまだ、消耗は中々に重い。
だがそれでも、この事態に最適なのはこの機体だとその力を使っていたのだが……。
「──お願いね、【赤杖の魔女】!」
空気中に水分が漂い始めた事で、温度操作の効率も良くなって。結果セフィリカの負担も、ほんの僅かに軽減される事となった。
……霧を撒いてくれた猟兵に、感謝したい所である。
(……それにしても)
魔導ゴーレムが消火活動を行うのを横目に見つつ、セフィリカの目が森を見やる。
森の各所は、まだ炎に包まれている。本来の朝露に濡れる美しい姿は、影も形も見つけられない。
だが、しかし。
(きっと、素敵な場所だったんだろうな)
森を形作る樹木や、そこに生きる者達の息吹、営み。
夜となれば明かりは落ちて、音だけとなる中でも。様々な音が満ちる森の中という環境は、数多の旅をしてきたセフィリカも気に入る世界である。
きっと、フーガの故郷も。そしてそんな故郷を模した小世界も。自分の琴線に触れる森であるだろうと、セフィリカは確信を持っていた。
何故ならば……。
(あんなに意見が一致して……ふふっ)
何が好きだったか。どんな思い出があって、どんな瞬間が楽しかったのか。
フーガの心を励ますように。楽しい感情を沸き立たせるようにと。言葉を交わして行くその中で……セフィリカとフーガの二人意見が、多くの一致を見たからだ。
特に、夜の森で一夜を明かして……夜明けの澄んだ森の空気を胸一杯に吸うその瞬間を一つの贅沢だと感じる感覚が一致したその瞬間には、お互いににんまりとした笑みと浮かべた程である。
……願わくば、共に。あの贅沢な時間を満喫してみたいものである。
「……その為にも、今はやることをやらないとね!」
そんな想いを胸に秘めながら、セフィリカが前を向く。
……そうだ。今はまず、この炎を掻き消して前へ進まねばならない。
そうして同好の士が、心安らぐ時間をまた過ごせるように。本来の美しい小世界を、取り戻さねばならないのだ。
「心配しないで、信じて待っててね!」
励ますように、そして満ちる自信を示すかのように。セフィリカの声が森に響けば……柔らかなそよ風が森に吹き、周囲の炎を和らげていく。
……その柔らかな風に、セフィリカは同好の士の後押しを確かに感じていた。
成功
🔵🔵🔴
黒城・魅夜
軽々しく悪夢と口にする愚か者
真なる悪夢の恐ろしさをその身に刻み付けてあげましょう
「悪夢の滴」たるこの私がね
ユーベルコードを使って身に迫る炎を回避しながら
「ロープワーク」「早業」で鎖を舞わせることにより
「衝撃波」を発生させ、「範囲攻撃」を行います
この旋風によって火災を鎮めていきましょう
そうですか
ここはあなたの故郷を模した世界なのですね
妖精さん、あなたの本当の故郷も多分、何度か危機に逢ってきたのでしょう
嵐や地震、寒波や猛暑、そして火災などが
けれどそれを乗り越えた強さという名の美しさがその地にはあったはず
それならばこの世界もまた強いはずです
あなたが立ち向かえば、世界もまたあなたに応えてくれるでしょう
●
白い霧に覆われた、燃え盛る森。
そんな霧も、炎も吹き飛ばすかのように。先端に鈎が付いた鎖を振り回して、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)が森を往く。
空間を薙ぎ払うかのように振るわれた鎖は、空気を撹拌させ猛烈な旋風を引き起こす。
そうして引き起こされた風の力を使い、魅夜は炎を掻き消しながらここまで歩みを進めていた。
……だが森の木々は今も燃え、炭化し……僅かな衝撃で崩れる程に、脆くなっている。
そんな所へ、この猛烈な旋風が吹き荒べばどうなることか。
──バキッ、ガサッ!!
今まさに、懸念された危険が引き起こされた。吹き抜けた旋風に耐え切れず、魅夜の頭上の樹木が崩れて落ちたのだ。
樹木は今も煌々と燃え上がり、火の粉を盛大に撒き散らしながら魅夜へと落ちる。
逃げ場は、無い。このままでは良くて大火傷か、悪ければ……。
「──倨傲なる運命を嘲弄せよ、53枚の死神札……」
だがそんな事態を、魅夜が予想していないはずが無い。
53通りの怨念が宿る、ジョーカーのみで構成された絵札をその手に手繰れば。魅夜(悪夢の滴・f03522)に燃え盛る倒木が降り掛かるという運命は捻じ曲げられて……魅夜の立つ場所だけがすっぽり何かに覆われたかのような安全地帯となって、燃え盛る樹木や火の粉は周囲に落ちる。
……普通ならば、こんな都合の良い現象などありえない。だがそんな現象を引き起こす事が出来るのが、猟兵達を始めとした生命の埒外が振るう力、ユーベルコードなのだ。
「……ふぅ」
燃え盛る炎のせいか、額に浮かぶ汗が止まらない。
一つ息を整えて、浮かぶ汗を軽く拭って。魅夜の視線が、周囲を探る。
……紅蓮に燃えるこの森は、フーガという名の妖精の郷里を模した小世界なのだという。朝露輝く常春の森は、きっと鮮やかな自然の美に満ちた世界であるのだろう。
だが、しかしだ。そんな森とて、最初からそんな姿であったはずでは無いはずだ。
嵐や地震、寒波に猛暑、そして火災……様々な苦難を乗り越え、その息吹を繋げてきたからこそ。『強さ』という名の命の光輝く美しさを持つ森となったはずだ。
──それならば、あなたの世界もまた強いはずです。
魅夜が嘆きに心を弱らせていたフーガに掛けた言葉は、励ましだった。
様々な苦難を乗り越えてきた郷里の森の様に。目の前のこの苦難に立ち向かってこそ……世界もまた応えてくれるはずだという、激励であった。
ただ、楽しさを思い起こさせるだけではない。より強く、より美しく。未来に眼を向けさせる魅夜のその激励は……冒険者でもあるフーガの精神を揺らし、奮い立たせるに足る物であった。
──サァァァァァ……。
先程吹き抜けた旋風を追い掛ける様に、今度は柔らかな微風が魅夜の黒髪を撫でていく。
風が向かうのは、森の中央。きっとそこに、今回の黒幕が……一人の妖精の心の支えを踏み躙ろうとした邪悪がいるはずだ、と。
そんな不思議な確信を、魅夜は抱くだろう。
「軽々しく悪夢と口にする、愚か者……」
魅夜にとって、悪夢とは振るう力の本質であり、切っても切れない関係である。
その力故に、悩み、苦しみ……心を狂わせかけた事すらある程である。
そんな『悪夢』などという言葉を、軽々しく口にする愚か者には……その恐ろしさを、知らしめてやらねばならないだろう。
「──『悪夢の滴』たる、この私がね」
呟くその声に籠もるのは、決然とした意思。
希望を踏み躙ろうとした愚者への敵意を滾らせながら、魅夜の脚は森の中央へと進んでいく……。
成功
🔵🔵🔴
シホ・イオア
「輝石解放、サファイア! 浄化の雨よ、降り注げ!」
魔法の雨で火を消しつつ元凶を探すよ。
シホの体の光を水に反射させてみたりして
朝露を連想させる……とかできるかな?
さて、消火も重要だけどフーガちゃんのケアも必要だよね。
この世界が元々はどんな場所だったのかを聞きましょう。
そして彼女の故郷がどんな場所だったのかを教えてもらう。
この世界を作った時の気持ちを思い出してもらえれば
その時の楽しい気持ちもよみがえってくると思うんだよね。
大丈夫、フーガちゃんの思いの詰まった場所。
一緒に取り戻そうね!
●
「輝石解放、サファイア!」
悪夢と化して燃え上がる世界。行く手を遮るかのような炎を前にして、少女の声が響く。
宝石剣を掲げたシホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)のその声に応えるかのように、剣に宿る魔力が躍動すれば。青く輝くサファイアが顕れ出て、剣の周りをふわりと浮かぶ。
この輝石に宿る力は、浄化の力。眼の前の炎が、猟書家の操る悪夢による物であるのなら……。
「──浄化の雨よ、降り注げ!」
掻き消し、洗い流す事が出来るはずだ、と。
シホの頭上目掛けて放たれた浄化の力が込められた無数の水球が、天高く舞い上がり……魔法の雨となって、炎を包んで掻き消していく。
「……ふぅ」
当然、炎を掻き消すような雨を降らせればシホの体も濡れてしまうが、その辺りは気にしない。
浄化の力はシホにとって悪影響を与える事は無いし(むしろ口にすると美味しいのだ)、このくらいで風邪を引くほど軟でもない。
それに、何より……。
(シホの体の光を水に反射させれば……朝露を連想させたりとか、出来ないかな?)
この行いが、フーガに元の森の姿を思い起こさせる可能性があるのなら、試してみる価値はあるはずだ。
この世界に飛び込む直前、シホがフーガと語らったのは、彼女が作った小世界と、その元となった故郷の事。
そこは、どんな場所だった? どんな植物があって、どんな生き物が居て……シホは事細かに、教えて貰っていた。
……この世界は、フーガの故郷を模した森なのだという。その故郷を、フーガは心から愛している事をシホは気付いていた。
(だから、きっと。この世界を創った時も……)
愛する故郷の姿を思い描きながら、ああでもない、こうでもないと試行錯誤をしたのだろう。そしてその時間は、何よりも楽しかったはずだ。
……その時の気持ちを、思い出して欲しい。そうすればきっと、自然と楽しい気持ちも蘇ってくるはずだ、と。
そう考え、言葉を交したシホの行動と想いは。フーガの心に、確かに届いていたらしい。
「──あっ」
さぁぁ、と。爽やかな風が吹く。
風に揺れる、シホの髪。青く艷やかな濡髪が風に揺れれば、シホの体から放つ光を受けて幻想的な輝きを放つ。
……その風景は、まるで朝露に濡れる新緑の様に見える事だろう。
「……うん。大丈夫、フーガちゃんの思い出の詰まった場所だもん」
吹き抜けた爽風に宿る仄かな意思の力を感じ取り、力強く頷くシホ。
大事な場所を一緒に取り戻そうね! と、その瞳は強い使命感に輝くのだった。
成功
🔵🔵🔴
アネット・レインフォール
▼静
小世界が森で良かった、と言うべきか。
…いや、良くはないのだが。
(眼鏡を着用し)
よし。たまには教師らしい事をしてみるか。
だが心配なのは彼女の体力だな。
いっそ酔うか寝てくれれば消耗も避けられるのだが…
▼動
先ずは落ち着けと。
平静を装い珈琲か紅茶を差出し豆知識で安心させよう。
必要なら微量のワインも混入を。
通常、手入れの無い森は、
生育が阻害されたり土砂崩れが起きやすくなる。
間伐や焼畑農法の後には、より強き森となる筈だな
突入後は木々を居合で間伐を行う。
手頃な木があれば葬剣を剪定バサミに変え
盆栽の如く枝葉を整えておく。
…しかし正直、鍵の在処の噂は疑惑の方が強い。
これが陽動でなければいいが…。
アドリブ歓迎
●
業火に包まれる森の小世界。そこに微風が吹き抜ける度に、その炎の勢いは弱まっていく。
更に飛び込んできた猟兵達の行動も相まって、少しずつではあるが……火の手は鎮められている様に、アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は感じていた。
(……この小世界が『森』で良かった、と言うべきか)
力量のある妖精が生み出す小世界『フェアリーランド』。生み出される小世界は、術者によって多種多彩であるらしい。
下手をすると一般常識が通じない様な世界である可能性もある事を考えると……今回の様な、割と普通の世界であったのは運がいい、と言えるのかもしれない。
……その事を口にすると色々と語弊が生じそうな気がするので、口にはしないが。
「しかし、ふむ……」
身に付けていた眼鏡を外しながら、周囲を見る。
アネットが立つこの地は、火の手は鎮火し大分落ち着いた状態であったが……それでも木々は焼け爛れ、崩れ落ち炭化した無数の残骸が転がり、地には灰が散り積り、様々な物が焼け焦げた匂いが充満していた。
……有り体に言えば、酷い有様と言った状態であった。
「これでは、間伐のしようも無いな」
呟き、腰に佩く愛剣の柄からその手を離す。
この小世界に飛び込む直前、アネットが妖精と交したのは……簡単な講義であった。
通常、手入れの無い森という物は、栄養や日光の奪い合いによる木々の生育阻害であったり、根張りの問題から来る土砂崩れが生じやすくなる物である。
それらを防ぐ為、人里の森などは例えば間伐であったり焼畑農法などの手入れや管理が施される物である。
──お前の郷里の森も、完全に手つかずという訳では無いのだろう?
焦燥に震える心を落ち着かせるようにと茶を振る舞いつつの講義は、殊の外フーガの心に響いたらしい。
人里の森と、フーガの郷里。どちらもヒトの手が入っている事を指摘し興味を惹かせるなど、その辺りの話題の運び方の上手さは教導者の面目躍如と言った所か。
……最初は眠らせるか、いっそ酔わせるかとも考えたが。悪夢に対する抵抗を考えれば、フーガ自身の意志の力も必要になるかも知れぬので、そこは止めておく事とした。
そうして興味を惹かせつつ……。
──いいか、逆に考えるんだ。森が燃えて終わりじゃない。より強き森とする為の、一助にするんだ。
アネットはフーガに向けて、今回の事件を奇貨とするようにと一石を投じてもいた。
具体的には、先に触れた焼畑だ。燃え上がり灰となった木々は土に染み入り、新たな生命を支える土台となってくれるはずだ。
今回の事件は、確かに痛ましい。けれど、森は再生出来る。時間は掛かるかもしれないが……より強く、より美しく。取り戻す事が出来るのだ。
──だから、前を向け。嘆きに屈せず、戦おう。
フーガの心を震わす強気の言葉を言い残し、アネットはこの小世界に飛び込んでいた。
……そんな強気の言葉があればこそ。
「……良い風だ」
再び吹く微風が、周囲に立ち込める焦げ臭い空気を洗い流していく。
穢れを祓うかのような清廉さすら感じるこの風こそ、本来この世界に満ちていた空気なのだろう。どうやらもう、フーガの精神状態を心配する必要は無さそうだ。
……後は、この風の向こうに潜む黒幕を。『レプ・ス・カム』なる幹部猟書家を討ち果たすのみだが……。
(……正直、鍵の在処の噂については疑惑の方が強いんだが)
この世界に踏み込んできた連中は、『天上界』に至る事を目的としているらしい。
その道を開くための鍵とやらの可能性を、敵はフェアリーランドの内に見ているようだが……そんな物が実在するのだろうか?
「これが陽動で無ければいいんだが、な……」
一つ呟き、歩みを進める。
目指す先は、森の中心部。清廉な微風が向かう先に、詐術の使い手が潜んでいるはずだ。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『レプ・ス・カム』
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POW : ミラージュ・ラパン
自身と自身の装備、【自身がしたためた招待状を持つ】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD : 兎の謎掛け
【困惑】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【鬼火の塊】から、高命中力の【蒼白い炎の矢】を飛ばす。
WIZ : 素敵な嘘へご案内
【巧みな話術】を披露した指定の全対象に【今話された内容は真実に違いないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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●
業火に包まれた、美しき小世界。
だが今、その炎の勢いは随分と弱まっていた。
それぞれの手段を尽くした猟兵達が森を踏破し、また世界の主の心を救い、支えたからだ。
このまま行けば、遠からずこの世界から悪夢を駆逐する事が出来るはず。
『──このぉ! 良くも邪魔してくれたなぁっ!』
だが、そうなる事を望まぬ者がいる。
吹き抜けた微風に導かれる様に、森の中心部へと脚を踏み入れた猟兵達の耳に響く、女の声。
瞬間、虚空に大きな穴が空き……飛び出してきたのは、ランタンを携えた兎耳の女。
この世界は、創造主の許可が無ければ入れぬ小世界。そんな場所に、突然現れるとは。
そう、この女こそが……。
『『鍵』もまだ見つからないし邪魔も入るしで、もう最悪だよ!』
今回の討伐目標である、幹部猟書家『レプ・ス・カム』で間違いない!
……何やらプンスカとお怒りの様子だが、その振る舞いや雰囲気は強者のそれではない。
だが、だからこそ不気味であるとも言える。油断せずに、挑むべきだろう。
『このイライラ、君達の命で晴らさせてもらうからね!』
猟書家の掲げるランタンが怪しく輝く。
美しき森を悪夢に染めた詐術の使い手との戦いが、始まろうとしていた。
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●第二章、補足
第二章、ボス戦です。敵は『レプ・ス・カム』となります。
「あるものをないと、またないものをある」と思わせる幻術と、言葉巧みに人を欺く詐術の使い手です。
成功条件は、『敵の撃破』です。
直接的な戦闘力に関して言えばそれほど高くない(と設定している)敵ですので、戦闘自体は難しくは無いでしょう。
……幻術や詐術に惑わされる事の無いよう、ご注意下さい。
また、判定は通常のボス戦に準拠したものとなります。
確実に先手を取られるという事もありませんので、ご安心下さい。
悪夢を操る猟書家。
性悪な女兎を、猟兵はしっかりと懲らしめる事が出来るだろうか?
皆様の熱いプレイング、お待ちしております!
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ロッテ・ブラウ
WIZ・アドリブ歓迎
『あるものをない、またないものをあると思わせる幻術』
あぁ、すごくよく分かる
だって―ボクも「嘘つき」だから
だからこそかな?
同族嫌悪が半端ないんだよねー
▼対策
わざわざはじめっから敵に姿を見せる必要が無い
離れた場所で「禍津血」の「ステルス装甲」で姿を消して潜伏
代わりに幻属性の「属性攻撃」で作った囮の分身を先行させます
お話は囮にどうぞ♪
さぁて…狙うのは
どんな些細な傷でも攻撃が当たれば発動するUC【幻魔の瞳】
「暗殺」&「目立たない」のコンボ攻撃
完全勝利の「幻」を見せてから、一気に「悪夢」で叩き落す
どこからどこまでが現実で夢なんだろうねぇ
今どんな気分かな?
ね、妖精舐めてんじゃねぇぞ♪
シホ・イオア
どんな嘘かがわからないと暴きようがないけど
「フェアリーランドの持ち主を苦しめたこと」は事実だよね。
どれだけ話しても侵略の正当化はできないよ!
存在感とコミュ力と呪詛耐性を生かして悪い言葉に対抗だ。
幻術は破魔で抵抗かな。
体から光をまき散らしつつ悪夢なんて吹き飛ばそう☆
フーガちゃんのためにも負けない心と勇気をアピールだ!
炎は炎でもシホの炎は一味違うよ!
「輝石解放、ルビー! 愛の炎よ、舞い踊れ!」
ガトリングで弾幕を張りつつ炎を誘導して確実に当てていく
神罰とか使えそうなスキルは使っちゃおう。
連携アドリブ歓迎!
●
幹部猟書家『レプ・ス・カム』が持つランタンが、怪しく輝く。
その光を目にすれば、猟兵達は己の心がどこか浮足立つような。そんな不思議な感覚を得るだろう。
ロッテとシホ、二人のフェアリーの心もまた、例外ではなかった。怪しい光に、その心を少しずつ掻き乱されていた。
……恐らく、これも敵の力の一端だ。心を浮足立たせ、判断力を低下させる事で、幻術や詐術を通し易くするのだろうか。
この状況から、どんな嘘が飛び出してくるか。それについては、相手が動くまでは暴きようが無い。
だが、そこに関してはそこまで重要な事ではない。今回の戦いで大事な事は……。
「あなたが何を言おうと、『フェアリーランド』の持ち主を……フーガちゃんを苦しめたことは、事実だよ!」
そう。相手が明確な悪意を以て、小世界を創る妖精達を狙ったという事実だけだ。
どんな高尚な目的であろうと、他者を害する様な行動は到底許容出来る物ではない。それに何より、平和を取り戻しつつある世界を侵略するという行為を正当化する理由には、成り得ない。
大事な一点……『目の前の悪を、許さない』。その一点をしっかりと心の芯に据え置けば、心を揺り動かされる事は無いはずだ。
キッと性悪な女兎を睨みつけながら、シホはその体から正義の意思に輝く光が撒き散らされていた。
『……あったま固いなぁ。フェアリーの一匹や二匹くらい、世界から見たら小さいものだよ~?』
そんなシホが示す決意を受けて、猟書家は口を尖らせて不満げな様子。
『大体さ、この世界を創ったフェアリーだって冒険者だよ? 冒険者だったら未知なる物を追い求めなきゃ。『天上界』っていう、未踏の地をさ!』
──その未踏の地に挑む為の礎になれるんだから、むしろ感謝して欲しいんだけど?
告げる猟書家のその言葉は、その声色も相まって耳に甘く染み入るかのようだ。
けれど、決意を固めたシホの心にはもうその言葉は響かない。
そして、ロッテの心にもまた……。
(薄っぺらいなぁ……)
そんな薄っぺらい『嘘』が、通じるはずがない。
上手な嘘という物には、ほんの僅かに真実が混じっているものである。
告げる猟書家のその言葉は、聞けば確かにと頷ける部分もあるだろう。
だけれど。いや、だからこそ。ロッテには、よく分かる。
その言葉の内に、『誠』が無いという事を。
(だって──ボクも『嘘つき』だからね?)
……確かに、猟書家のその言葉は巧みだ。けれど、ただ巧いだけ。
そんな巧いだけの嘘を吐く相手に対して……ロッテが感じたのは、同族嫌悪と。
「……まぁ、その高尚なお話は囮にどうぞ♪」
囮にも気付いていない滑稽な相手に対しての、嘲笑であった。
実はロッテ、その体の本体は少し離れた所にある。愛機のステルス装甲で姿を消して潜伏し……代わりにロッテの力で作り上げた分身を、敵の目の前に送り込んでいたのだ。
相手は、目の前にいるフェアリーの片割れに実体が伴っていない事に気がついていない。注意が目の前だけに向いているのが、その証明だ。
幹部猟書家という肩書を持ち、幻術や詐術を扱う技術はある厄介な相手。だがその戦闘能力自体は、そう高くは無いのだろう。
……ならば。
「さぁて、狙うは……」
乗機の右腕を目立たぬ様に僅かに振れば。悪魔を連想させるかのような鋭い爪持つ腕が伸びる。
その爪を、相手の背後へと忍び込ませて…… 死角から一息に、爪を突き入れる!
『──あぶ、いたっ!?』
だが、その爪が女兎の体を貫く直前、第六感的な何かが働いたのか。ハッと体を翻した猟書家が、攻撃を躱す。
しかし、完全に躱せた訳ではない。爪は女兎の脇腹を抉り、小さくない傷をその体に刻む。
……一撃必殺、とはいかなかったが。だが、十分だ。
「……さぁ、夢の世界にご招待、ってね」
『なっ──くっ! これ、幻術
……!?』
ロッテの本体のその瞳が輝けば、発動するのは強力な幻術。その対象は攻撃が命中した相手、『レプ・ス・カム』。
……爪の一撃は、あくまで攻撃の発動条件。どんな些細な傷でも攻撃が当たりさえすれば、それで良かったのだ。
『──あっ、『鍵』見っけ……ちがっ、意識を……』
「へぇ、抵抗するんだ?」
まさか、自らが幻術を掛けられるとは思っていなかったのだろう。身悶える女兎から、余裕が消える。
そんな姿を遠くから見つめながら、ロッテの口の端がニヤリと曲がる。
ロッテには、判っていた。敵に生まれた大きな隙を、もう一人の妖精が見逃すはずが無いと。
「輝石解放、ルビー!」
響き渡る、シホのソプラノボイス。振るう宝石剣から具現化したのは、真紅に輝く美しいルビーだ。
その輝石に宿るのは、燃え上がるかのような愛。悪を許さぬ正義と勇気も組み合わせれば……燃え上がる愛は炎となって。
「愛の炎よ、舞い踊れ!」
降り注ぐ魔弾となって、女兎に殺到する!
その勢いは、まさに驟雨。弾幕の様に隙間のない炎の雨が、女兎の薄っぺらい嘘と幻術の力を焼き払う!
『うっわわわわっ!? ちょっ、まっ……あつぅーい!?』
そんな猛烈なシホの魔弾の前に、幻覚に苦しむ女兎が対抗する術などありはしない。
一発、二発。被弾して炎に巻かれると、女は無様な悲鳴をあげて、空間に穴を造り出し飛び込んで……。
『──危ないな! 火傷しちゃう所だったじゃないかー!』
再びポンっと、距離をとった位置に顕れる。
どうやら、『スーパーウサギ穴』に緊急避難して難を逃れたようだ。
「妖精の一匹や二匹、って言ったっけ? ──妖精、舐めてるんじゃねぇぞ♪」
「フーガちゃんのためにも、悪夢なんて吹き飛ばそうね☆」
そんな無様な女兎に、指を突きつける二人の妖精猟兵。
妖精の創る小世界を巡る戦いは、猟兵が優位を取って幕を開けたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
敵はどうやら搦め手を得意とするらしい。
…さて。
姿形の見えない相手にどう戦うか。
1.心の眼で斬る
そんなもので斬れれば苦労しない
2.此方も透明になる
…泥試合になるな。それに出来るのは斬撃ぐらいだ
3.人参で誘う
いや。兎だが、そも好物なのか?
▼動
とりあえず念動力で刀剣を周囲に
高速旋回させておけば致命傷は避けられそうだ。
…ただ敵も寄って来ないだろう
影・草や地面の凹み、臭い等は手掛かりにするが
素早さを考えると後手に回る可能性が高い。
折を見て【雷帝ノ太刀】で斬ったフリをしつつ
斬撃を周囲に設置&旋回も解除。
接近時をカウンターの要領で狙おう。
必要なら自身の血や香水等を投擲し印を付ける事も検討。
アドリブ歓迎
●
戦いの序盤は、猟兵優位という形で進んでいた。
詐術使いの女兎は逆に幻惑に惑わされ、炎の力でその身を焼かれて手傷を負っていた。
『うー……こうなったら仕方ないね。ちょっと本気、出しちゃうぞー!』
そんな手傷を負った女兎が口にした瞬間、その姿が掻き消える。
どうやら猟兵の力を警戒したのか。その姿を掻き消す事で、不意打ち狙いへと戦い方を切り替えたらしい。
……悪夢化を筆頭とした幻術と良い、言葉巧みな詐術と良い、この不可視の術と良い。
敵の戦い方は、搦め手特化であるらしい。
(……さて。姿形の見えない相手に、どう戦うか)
そんな相手を迎え撃たんと、アネットが念動力で自身の周囲に浮かべたのは刀剣の数々。
自身の周囲を舞い踊るかのように高速旋回させておけば、もし背後を奇襲されたとしても致命傷は避けられるだろう。
……その事を相手も理解しているだろうから、近寄る事は無いだろうが。
(このままでは先日手だが。この状況を打破する為には……)
姿が追えぬ以上、こちらからは手が出せぬ。
だが相手の側も、守りを固めたこちらに手を出す事は困難だ。
このままでは、まさに先日手。ただ睨み合いが続くだけとなってしまう。
そんな状況を打破する為の手を、アネットは考える。
(『1.心の眼で斬る』……そんなもので斬れれば、苦労はしない)
アネットは、卓越した武人である。豊富な戦歴と鋭い武技を持つ剣士である。
そんなアネットであれば、当然『心眼』という概念に理解もあるが……事はそう、簡単な物ではない。
周囲の影や草、地面の僅かな凹みや流れる空気に乗る臭い。それら全てに気を配り、朧気に敵の尻尾を掴むのが今のアネットの精一杯だ。
……それだけ出来てれば十分だろう、という気もするが。
(『2.此方も透明になる……泥仕合になるな』)
お互いに姿を掻き消せば、とも思ったが……この状況が好転するとは思えない。むしろ泥沼一直線の未来しか見えない。
それに何より、今のアネットが不可視化出来るのは斬撃程度の物だ。出来ない事を頭に浮かべるのは、時間の無駄か。
(そうなると、『3.人参で誘う
』……?)
いや、兎ではあったが。そも、ヤツの好物なのかと首を傾げる。
……ちなみに兎は草食性で確かに人参も食べはするが、特別人参を好むという訳ではないらしい。
(……いかんな。手詰まりでしょうもない事を)
頭に浮かんだくだらない考えを、頭を振って打ち消す。
とは言え、そんなくだらない考えが浮かぶ程に状況は手詰まりだ。
ならば、ここはやはり……。
(──『誘い出す』、か)
自分から動いて、釣り出すべきだろう。
すぅ、と細く深い息を吸う。肺に、体に。酸素が行き渡り、その力を最大限に引き出せる状態として……。
「──シッ!」
鋭い呼気を吹き出しながら、刃を鞘走らせて銀閃一閃。
同時に迸ったのは、刃に乗った稲妻だ。不可視の電撃が斬撃となって虚空を灼いて。
「……ふぅ」
刃を収め、僅かに息をつく。同時に体の周囲に漂う剣の数々もその動きを止めていく。
……敵を、斬ったのだろうか。大きすぎる隙を晒すアネットの姿に、第三者はそう見るだろう。
『──ざ~んねん! 斬れてないよ!』
瞬間、アネットの背後から響いたのは女兎の声。
どうやらアネットの斬撃は、見当違いの方向を斬っていたらしい。女の嘲るかのような声が、その事実を示していた。
……だが、そんな事は。
「──承知の上、だ……ッ!」
『はっ? ひっ!?』
アネットのその言葉の通り、承知の上の事。
聞こえた声の方向へ向けて振り向けば、そのまま居抜かれた刃が再び空間を切り裂いて。
──パッと、薄い赤の筋が虚空に浮かぶ。
『いたっ!? う、腕斬られたぁっ!?』
虚空から浮かぶ悲鳴。まさか捉えられるとは思ってもいなかったのか、明らかな動揺の声だ。
そんな心を揺るがす声の、見えない姿に向けて……。
「土産だ、持っていけ──!」
『ぎゃんっ!? なにこれ、クサっ!?』
小瓶を一つ取り出して、投擲。割れて溢れた液体が、女兎を濡らす。
……アネットが投じたのは、香水の小瓶だ。適量ならばともかく、一瓶分を丸ごと浴びてしまえば……その臭いは、暫く体からは離れないだろう。
『うぅー、酷い目にあったぁ……!』
気配が、臭いが、アネットから遠ざかる。再び距離を取って仕切り直しを図るらしい。
……だが、仕切り直したとてその臭いが消える事は無い。これでまた姿を消して奇襲を狙っても、対処しやすくなったはずだ。
アネットの行動は、敵の強力な武器の一つを潰す結果となったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
あら、怒りは相手の命で晴らしていいわけですね?
では私もそうしましょう
あなた自身がそれを望んだのですから、ふふ
ところで私は確かに「困惑」しています
その兎耳とは別に、顔の横にも耳があるのですか?
その兎耳を引き裂いたら音は聞こえるのですか?
ならばその兎耳はただのくだらない飾りですか?
これはぜひ実験しなければなりませんね
炎の矢の攻撃をできるだけ「第六感」で「見切り」ますが
命中率が高いならかわしきれないでしょう
ならば「オーラ防御」で威力を軽減させつつ受けるのも一手
ええ、受けた傷自体が私の戦術
噴き出した血が霧となって戦場を包み
あなたが姿をくらまそうが関係なく
体の内側から引き裂きます
その兎耳もろともね、ふふ
セフィリカ・ランブレイ
全ての感覚がアテにならない厄介な相手
『で、どうするの? 面倒な相手だろうけど』
相棒の魔剣、シェル姉との会話は声ではなく思念で
自分の感覚が信じられないの困るね
勢い込んで飛び込んだけど、相手の攻撃が全く見えないし攻撃が届かない!
周りの景色の全てがあてにならない!!
流石の私も年貢の納め時!?
こんな事なら恋人の一人でも作って人生謳歌しとくんだった
私の旅もここで終わり……ごめんね、父さん……
【夕凪神無-柳布式】
いくら攻撃が見えなくても、勝てるとわかった一撃にはわかりやすい意識が乗るものだよね
そんな意識なら、幻覚に満ちた世界でも感じるのは容易い
渾身のカウンターを叩き込む
私の負けたフリも中々のものでしょ?
●
『本当に、もう酷い……うぅ、くさぁい……』
鼻をスンと鳴らし、顔を顰める女兎。
情けないその姿を見れば、心優しい者であれば絆されてしまうかもしれない。
だが、猟兵達は知っている。この女が、幻術と詐術の使い手であると。
この情けない姿も、きっと欺瞞。今もその心根では、猟兵達が隙を晒す時を虎視眈々と狙っているはずだ。
故に、進み出た二人の猟兵……魅夜とセフィリカには、一切の油断もない。
「……怒りを相手の命で晴らす。そう言いましたね?」
では、私もそうしましょう。薄い笑みを口の端に浮かべた魅夜の目は、冷たい光に満ちていた。
女兎は、確かに言った。物事が上手くいかないイライラを、猟兵達の命で晴らす、と。
ならば魅夜が、この女の行いに……悪夢という言葉を軽々しく使ったというその愚かさに抱いた怒りを晴らすという行為も、正当化がされるはず。
『……なるほど、成程。そう簡単には引っ掛からないか』
そんな魅夜が向ける冷たい殺意を浴びて、女兎の表情が変わる。
目に浮かべていた涙が、鳴らしていた鼻がピタリと止まり……浮かび上がるのは、冷酷な笑み。
獰猛な猛獣が獲物に向けて牙を剥くかのようなその表情を、魅夜とセフィリカが目にした瞬間。
『それならもう、本当に遠慮はいらないね──ッ!!』
二人の意識に襲い掛かる、激烈な奇声と意思の波。
その叫びを、思念を受ければ。視覚聴覚嗅覚触覚味覚、そして第六感に至るまで。魅夜とセフィリカは自身の全ての感覚が狂ったかのような、そんな猛烈な違和感に襲われる。
……女兎は、幻術の使い手だ。恐らくコレは、その力の一種であるのだろう。
猟兵の感覚をこうも容易く狂わしてくるとは、幹部猟書家の肩書は伊達ではないという事か。
──で、どうするの? 面倒な相手だけれど。
魂に直接響く姉と慕う存在。相棒である魔剣の思念すらも、セフィリカには遠く感じられる。
自身に絶対の自信を持つ天才肌のセフィリカである。そんな彼女にしてみれば、こうまで自分の感覚が信用できないという事態はそうあることではない。
有り体に言えば……セフィリカは今、非常に戸惑っていた。
『ふふ、判る。判るよぉ……キミ達が戸惑ってるのが!』
そしてその戸惑いが、女兎……『レプ・ス・カム』の武器となる。
蒼い光を灯すランタンが一際強く輝けば、浮かび上がるのは鬼火の塊。
そんな炎の存在すらも、セフィリカには曖昧に見える。むしろそれが炎であることすら、認識するのも難しい。
……更に高まる困惑の念。その感情を燃料として、鬼火が更に燃え立てば……蒼白い火矢が放たれて。
「っ、ぁ──!」
「くっ……」
セフィリカと、同様に感覚を狂わされた魅夜の体に降り注ぐ。
抜き放った魔剣で、また纏うオーラの壁で。二人はそれぞれに防御を試みるが……感覚が狂った状態で、防ぎ切る事は難しい。
防ぎきれなかった火矢が一つ、二つと二人の身体に突き刺さり、身体に深い傷を刻みつける。
「これは……流石の私も、年貢の納め時かな……」
傷の痛みすらぼやけて感じる中、セフィリカの口から漏れたのは深い嘆息と弱音だった。
周りの景色が全てアテにならないこの状況。相手の攻撃は全く見えないし、こちらの攻撃を届ける事も出来はしない。
普通に戦えば、まさに八方塞がり。そんな状態だ。
「こんなことなら、恋人の一人でも……私の旅もここで終わり……ごめんね、父さん……」
ポツリ、ポツリとセフィリカの口から溢れる言葉は、どれも悔恨の念に満ちたもの。
だらりと脱力したその姿は、もう完全に抵抗の意思を手放してしまったかのように見えるだろう。
『そうそう、それで良いんだよ。それじゃ、まずは一人──!』
『レプ・ス・カム』も、まさにそう思ったのか。一際強く鬼火が輝けば、今まで最も熱く燃える炎が撃ち放たれる。
きっとその炎を浴びてしまえば、肉は焼け、骨は焦げ……全てを塵へと、還す事だろう。
そんな猛烈な業火が、セフィリカに迫り──。
「──それを、待ってた」
瞬間、ゆらりと魔剣が揺れ動けば。
まるで吸い込まれるかのように、業火が魔剣へと吸い上げられて。
『……はっ?』
呆気に取られたような声を漏らす『レプ・ス・カム』。
そんな相手を気にする事無く、今度は魔剣を振り上げて。
「お返し、だよ──!」
気合を乗せて、振り下ろせば。
剣が吸い上げた業火が、『レプ・ス・カム』目掛けて撃ち放たれる!
……セフィリカは自身の感覚が狂ったその瞬間から、ずっと待っていた。相手が勝利を確信するという、その瞬間を。
『勝負を決める』というその一撃には、知らず判り易い意識が乗るものだ。
そしてそんな意識を察知出来れば、後は簡単だ。攻撃を吸い上げ、打ち返す。幻覚に感覚を狂わされた状況であっても、それだけならば難しい事では無い。
『──っぁ!? ァァァァアアア!?』
まさかのタイミングでの完璧な返し技に、反応が遅れた女兎が燃え上がる。
自らが生み出した炎に巻かれるその姿は、この世界を炎に落とした事も含めれば正しく因果応報と言った所か。
「……私の負けたフリも、中々のモノでしょ?」
「えぇ、実に見事でしたよ」
女兎がダメージを受けた事で幻術が解けたのか。二人の感覚が、元に戻る。
だがまだ違和感が僅かに残っているのか。大きく肩で息をしつつのセフィリカの強がりに微笑みを向け、魅夜が女狐に向き直る。
その身体に纏うは、鮮血の濃霧。受けた傷すらも力に変えて、魅夜が言葉を紡ぎ出す。
「さて、私も確かに『困惑』しています──貴女にはその兎耳とは別に、顔の横にも耳が有るのですか?」
その兎耳を引き裂けば、音は聞こえるのですか?
そうでないのならば、その兎耳はただのくだらない飾りなのですか?
纏う濃霧が戦場に満ちる中、淡々とした口調で問いが重なる。
だが畳み掛けられたそんな質問に、女兎は答えない……いや、答えられない。
ただただ燃え上がる己の身体に生じる痛みに、悲痛な叫びを上げるばかりだ。
「……答えられませんか。では──」
これは、ぜひ実験しなければなりませんね。
呟き、その掌を女兎に向けて翳す魅夜。するとその手首を飾る鎖が淡く輝き掻き消えて……。
『ギッっ!? ッ────
!?!?』
悲鳴が、止まる。
炎に包まれた女兎のその姿を見れば、その身体の内側から無数の鎖が突き出て纏わり付き……その身体を、締め上げている様子が目に映るだろう。
「──喰らい尽くせ汚濁の魂。体の内側から、引き裂かせて貰いましょう。その兎耳もろともね、ふふ……」
氷のように冷たい微笑を絶やすこと無く、魅夜が手元の鎖を手繰れば。一層強く、女兎を縛る鎖はその身を締め上げていく。逃れる術など、ありはしない。
……遠からず、女兎のその姿は千々に千切られ。炎に灼かれて塵となり、『躯の海』へと還っていく。
幹部猟書家『レプ・ス・カム』。幻術と詐術を操る女兎は、こうして討たれ──。
「……あら?」
その光景に気付いたのは、この世界を悪夢に沈めた猟書家をその手で討った魅夜だった。
塵へと還っていく猟書家の立っていた、その場所に……気付けば一本の鍵が、突き刺さっていたのを目にしたのだ。
「これ、もしかして……」
「あの兎が探していた、『鍵』でしょうか」
覗き込むセフィリカの言葉に一つ頷き、『鍵』を手に取る魅夜。
この鍵が、果たして本当に『天上界』へと通じる鍵であるのかどうかは判らない。
だが、このまま放置しておけば……まだ完全にその存在を討てたとは言えぬ女兎が、性懲りもなく狙いに来る可能性は十分ある。
ここは回収しておくべきだろう。
「一端、持ち帰り……グリモア猟兵に預けましょうか」
「フーガちゃんに許可をとって、ね!」
鍵を手に取り、猟兵達は小世界を後にする。
……その後姿を、新たに芽吹き出した草木の新芽が見送るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年11月18日
宿敵
『レプ・ス・カム』
を撃破!
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