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「うおぉぉぉぉっ!」
雄叫びと共に繰り出された剣が、少年の頭を切り落とした。だがその屍を蹴り飛ばし、別の少年が剣を振り切って死に体の男にナイフを突き出す。
「はいやー!」
そのナイフを割って入ったチャイナドレスの少女が蹴り落とした。そのまま少女は素手となった少年の体を高速の拳で滅多打ちにし、最後に首に足を回し一回転させる。ごきりという音とものにその首は180度後ろを向いた。
「生きてるアルか、スライサー?」
「ビーター……済まない、助かった。ここはこいつで終わりか。そっちは?」
「なんとかなったアルよ。マッシャーおじさんは殺られちゃったけどネ」
「そうか……こっちもリッパーとカッターは揃って死んじまったよ。あっちに行くぞ。先にストラングラーが抑えてるはずだ」
「アイツの殺し方絶対乱戦向いてないヨ……」
そう会話をしながら別の場所へ向かう二人。その姿を、はるか遠くから一人の男が見つめていた。
「6:4……いや7:3て所か。『影の短剣』たちをあそこまで押し返すとは、さすがこの俺を狩ろうとするだけのことはある。さあ、もっと衝動を解放しろ。その上で俺が殺してやる。感謝するぞ、『鉤爪』の旦那よ……世界に捨てられた『六六六(ダークネス)』の居場所は、この『闘争(コロシアイ)』の中だけだ」
●
「あなたのメルでございます。皆様猟書家との戦いお疲れ様です」
そういってメル・メドレイサ(蕩けるウサメイド・f25476)は猟兵たちにシュニッツェル……叩いた薄切り肉のカツレツを配る。
「さて、本日皆様に向かっていただくのはアリスラビリンス。こちらのとある国に『鉤爪の男』の配下が攻め込んでおります」
オウガ・オリジンを倒したものの、アリスラビリンスでの戦いは終わらない。自ら宣言していた通り、猟書家の一人『鉤爪の男』がアリスラビリンスを闘争の世界とするべく動き出したのだ。
「まず尖兵として世界を襲っているのは『影縫い・シャッテンドルヒ』という集団。彼らは『影の短剣』と名乗る少年の集団で、その名の通り影と短剣を武器に攻撃してきます。さらには戦場に影の迷宮を作り上げ、その中に溶け込む暗殺戦法も会得しています」
冷淡に冷酷に、自らの命も顧みず相手を殺すために動く、まさに殺人集団と言える敵だ。
「ただ、この世界に愉快な仲間たちをはじめとする一般の住人は既にいません。代わりに殺人鬼の集団……この場合はジョブの殺人鬼ですね、彼らが住人を避難させ代わりに敵を迎え撃っています。彼らはこの世界に縁のある人たちで、普段は抑えている殺人衝動を今回ばかりは全開にし、敵を皆殺すべく戦っています。彼らは猟兵にこそ及びませんが、かなり強いです。ぶっちゃけ放っておいてもシャッテンドルヒは全滅させます」
それは頼もしい……と楽観していいわけではないようだ。
「ただ、先ほども言った通り彼らは殺人衝動を全開にして戦っています。勝負の結果に関わらず、彼らは戦後に衝動に飲まれ、そのままオウガと化してしまいます。これを防ぐため、彼らを制御しつつ共に戦ってください」
彼らとてオウガになりたいわけではないし、猟兵の強さは知っている。的確に指示を出す、あるいは彼らを上回る圧倒的な実力を見せることで、彼らの衝動を暴走させずに済むだろう。
「そしてシャッテンドルヒが全滅すれば、この事件の首謀者にして猟書家の一人『ディガンマ』が出てきます。彼は捨てられた存在だの六六六と書いてダークネスだの名乗っていますが、その本質は己の獣性に従って暴れまわりたいだけの暴れん坊さんです。彼はとてつもなく強く、流石の殺人鬼たちもかないません。とはいえ衝動に飲まれていればそれも顧みず殺しにかかるでしょうから、彼らを護りながら戦ってください」
相手の次元が違い過ぎる故、いかに彼らとて主戦力にはならない。シャッテンドルヒ戦でしっかり手綱を握っておけば言うことは聞いてくれるはずなので、援護に徹させる、ワンポイントでの攻撃のみをさせるなど的確に使うのが望ましいだろう。
「ディガンマはその獣性そのものを具現化させたような獣の左腕を武器とし、それによる力強い攻撃や相手に強引に恐怖心を与える爪の一撃、さらに『廃棄品』と一体化しての自己強化を用いてきます」
単純な強さのみならず精神攻撃も会得した強敵である。決して油断していい相手ではないだろう。
「ディガンマが倒れれば生き残った殺人鬼さんたちの衝動は自動的に収まります。既にアリスラビリンスはフォーミュラのいない世界。自分で言ってる通りこの世界に彼の居場所などないことを、その体に教えて差し上げてきてくださいませ」
そう言ってメルはグリモアを起動し、猟兵をアリスラビリンスへ送り出した。
鳴声海矢
こんにちは、鳴声海矢です。どこかで聞いたことがあるワードが満載の依頼でございます。
今回のプレイングボーナスはこちら。
『プレイングボーナス(全章共通)……殺人鬼達を適度に抑えながら、共に戦う』
殺人鬼たちは殺戮衝動を全開にしているため、放っておけば自分か相手が死ぬまで戦い続け、最後にはオウガになってしまいます。とはいえ実力は確かなので、やりすぎないように手綱を取れば頼もしい味方となってくれます。理屈で説明する、実力を見せつけるなど様々な方法で彼らの協力を取り付けてください。
以下殺人鬼詳細。
『キラーズ』と名乗る集団で、殺人方法にちなんだコードネームを持っています。メインジョブは殺人鬼で固定ですが、種族、サブジョブ、使用武器は様々です。オープニングに出ているのは一例なので、他にも様々なタイプのメンバーがいます。数は少ないですが補助、回復能力持ちもいます(捏造OK、面倒くさかったらオープニングの二人を使ってください)。
それでは、必殺のプレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『影縫い・シャッテンドルヒ』
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POW : これは君を飲み込む影の群れ
【紐付きのナイフ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【レベル×1の自身の影】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 僕らは影、君の命を刈り取る影
【漆黒の影】に変形し、自身の【意思や心情】を代償に、自身の【攻撃力と影に溶け込み影伝に移動する能力】を強化する。
WIZ : 僕らの狩場、君の墓場
戦場全体に、【影に覆われた暗い街】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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「ほら、三枚おろしだ!」
「あっはははは! 一蹴りで頭飛んでったアル!」
殺人鬼集団『キラーズ』と『影縫い・シャッテンドルヒ』との戦いは、徐々にキラーズ側に趨勢が傾きつつある。殺せば殺すほど彼らの技は冴え、その気分も高揚していくようだ。
だが彼らは気づいているだろうか。それと引き換えに自分の中の大切な何かが失われつつあるのを。そして敵は死を厭わず、まるで殺されることすら作戦の内のように攻めてきていることを。
「あ、皆、す、すごい、な……ボ、ボクも、いっぱい殺さない、と……ぎゅーって……」
狂気が伝播するかのように、一人が昂れば他の仲間も殺意を無尽蔵に湧き上がらせていく。
このまま放置すれば遠からずシャッテンドルヒたちは全滅するだろう。だが、それと同時により恐るべきオウガが生まれてしまうことを猟兵たちは知っている。
さあ猟兵よ、暴走する殺人鬼を制し、共に真なる敵に立ち向かうのだ!
隣・人
「ふむ。殺戮衝動の大安売りですねぇ。隣人ちゃんの内なる獣がぐつぐつ滾っていますよ。つまり。全部私のものだ。アンタ等全員引っ込んでろ。は、は、は」
拷問道具『コーヒーカップ』の大きさを限界突破させ、殺人鬼全員詰め込んでやります。そんで全速力でぶん回す!!! 行動制限して『殺意』よりも強い吐き気に苛まれリャこっちのもんです
ユーベルコード使用。『移動力』を五倍に『装甲』を半分に。接近して『触れ』遠くまで逃げればこっちの掌が上です
眩んでる敵に向かってバール投擲。
治まった殺人鬼さん達に声掛けましょうか
「判りますよ。解ります。ですけど人を殺す人だから鬼なのです。数字が人殺したらただの怪物じゃないですか」
大群を押し返し、徐々に抗戦から殺戮へと形を変えつつある『影縫い・シャッテンドルヒ』と『キラーズ』の戦い。その戦場に、また一人新たな殺人鬼が現れた。
「ふむ。殺戮衝動の大安売りですねぇ。隣人ちゃんの内なる獣がぐつぐつ滾っていますよ。つまり。全部私のものだ。アンタ等全員引っ込んでろ。は、は、は」
隣・人(🌈・f13161)はシャッテンドルヒよりもむしろ彼らを殺す殺人鬼たちに自らの存在を示すようそう言った。
突如現れた乱入者に、当然ながら殺人鬼たちは胡乱気な目と、殺意を向ける。
「なんだこいつ? 新しい敵……?」
「とりあえずぶっ殺してから考えれば考えればいいだろ!」
湧き上がる殺意のままにそう叫び、一斉に人に襲い掛かろうとする殺人鬼たち。人は彼らをいつもと変わらぬ、しかしどこか呆れをにじませたような表情で見ると、どこからともなく一つのコーヒーカップを取り出した。
カップと言えどそれは食器ではない。遊園地などにある回転する遊具だ。突然現れた人が乗れるサイズのそれに殺人鬼たちは一瞬鼻白むが、変わったものを武器にする者は殺人鬼には珍しくない。すぐに気を取り直し、人を殺しにかかろうとする。
「はいじゃあ皆さん纏めてここ入っててください。そんでまとめて全速力でぶん回す!!!」
元々巨大なカップがどういう原理化さらに巨大化、人は殺人鬼たちを纏めてそこに放り込み、そのまま高速回転させた。
「うわわわわわわ!?」
「ま、まわ、あぁぁ~~~……」
一見するとふざけているような光景だが、殺意を全開にしている殺人鬼……それも集団系とはいえオブリビオンを押し返せるほどの実力者たちを有無を言わさず拷問器具に押し込んで拘束できる、それはつまりそれだけ人の力が高いということの証。光速で回転させられながら、殺人鬼たちは朧げにそんなことを考えつつめまいと吐き気に沈んでいく。
「『殺意』よりも強い吐き気に苛まれリャこっちのもんです。さてお待たせしました。あなた方はもっとちゃんと殺してあげますよ」
そう言って人が向き直るのは、たった今まで殺人鬼たちと交戦していたシャッテンドルヒたち。
「誰かは知らないけど、来たからには殺す。これは君を飲み込む影の群れ」
この場に来たものなど彼らにとっては殺害対象でしかない。そう言わんばかりに、シャッテンドルヒの構成員である『影の短剣』たちは紐付きのナイフを投げつけた。
「外々大祭と生きましょうか――胎蹴って魅せろやこの狂気!!!」
それに対して人が放つのは、【六六六番外・隣人知案留殺人技芸変幻自在堂々眩愚理】。目隠しの布を変形させ、目眩ましと能力の一つを犠牲に自己強化に使う技。今回人が選んだのは『移動力』を五倍に『装甲』を半分に。その五倍となったスピードで、人はナイフを避けシャッテンドルヒたちへ接近した。
彼らのナイフは当たらなければ追加攻撃は出せない。しかし服の端にかすりでもすれば、高威力高命中の追撃が人を襲うことになる。例え一体ずつは遥か格下とはいえ、装甲の半分になった状態で高威力技の集中砲火を喰らえばどうなるか。だが人はそれを全く恐れる様子もなく、シャッテンドルヒたちの中へと走り込み、そして目隠しであった布を彼らに少しずつこすり付けた。
途端に影の短剣たちは一斉に体勢を崩し、その場に蹲り頭や口を抑えだす。それを確認した人は即座に離脱、彼らのナイフの狙いも定まらない場所で大量のバール……正確には『名状し難いバールのようなもの』を構えた。
「こうなりゃもうこっちの掌の上。さあ死ぬ時間です」
自身も布に触れている故のめまいに耐えながら、そのバールを滅茶苦茶に投げつける人。その狙いは荒いが元が重くて固い鈍器だ。どこに当たってもダメージはそれなりだし、うずくまっている相手は自然と頭を突き出す形になっており急所にも当たりやすい。そのバール投げは、一手しくじれば自身が殺される敵中での駆け回りをした価値のある殺人的な破壊の雨となってシャッテンドルヒの面々を地面に伏させ、その体を地面の染みへと変えていった。
敵の姿がなくなった所で、人はコーヒーカップから転がり出てぐったりしている殺人鬼たちへと歩み寄る。
「判りますよ。解ります。ですけど人を殺す人だから鬼なのです。数字が人殺したらただの怪物じゃないですか」
彼らの殺人鬼としての生き方、殺し方を否定するつもりは微塵もない。でも、だからこそ失ってはいけないものがある。彼らは殺人鬼という『人』であって、六六六などという『闇』ではないのだから。
自らもその数字をその身に負う人の言葉は、朦朧とする殺人鬼たちの心……魂の奥底に、深く刺さり彼らを繋ぎとめるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ベッジ・トラッシュ(サポート)
◆戦闘時
戦うのは怖い!
なのでボス戦ではだいたい逃げ回っている。
(味方の手助けになる行動や、囮になるなどの功績を得ることはあるがだいたい無意識)
「こ、ここ…怖いのではないゾ!ベッジさんは様子をうかがってイタのだ!!」
手の届かない相手にはパチンコで苦し紛れに絵の具弾を飛ばすこともある。
◆冒険時
基本的に好奇心が強く、巻き込まれ体質。
敵味方関係なく、言われたことには素直に従う。
怪しいような気がしても多少なら気にしない。
後先考えずに近づいて痛い目を見るタイプ。
◆他
口癖「ぎゃぴー?!」
お気に入りの帽子は絶対にとらない。
食べ物は目を離した隙に消えている系。
(口は存在しない)
性能に問題はないが濡れるのは嫌い。
青原・理仁(サポート)
人間
年齢 17歳 男
黒い瞳 金髪
口調 男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)
性格面:
やさぐれ、ぶっきらぼう
積極的な人助けはしないが、見捨てきれずに手を貸してしまう
戦闘:
武器は使わず、殴る・蹴る・投げるなど、技能「グラップル」「怪力」を生かしつつ徒手空拳で戦う
構え方は古武術風
雷属性への適性があり、魔力やら気やらを雷撃に変換し、放出したり徒手空拳の際に纏わせたりします
高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
スペースノイドのウィザード×フォースナイト、26歳の女です。
普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
ルネ・ロッサ(サポート)
【アドリブ歓迎】
「日常」では、ルネは遊ぶ事が好きです。普段の仕事での態度が真面目な分、休日ははっちゃけちゃいます。お気に入りのお菓子や愛読書もアイテムとして所有しています。
「冒険」では、ルネは頑張って調査や探索をしたりします。必要があれば魔導書などのアイテムを参照します。
「戦闘」では、ルネは黒騎士でありUDCエージェントですので、ややテクニカルな戦い方を好みます。イメージとしては、魔法剣士みたいなタイプの前衛キャラです。
ユーベルコードは、どれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
突如現れた援軍と思しき存在に戸惑う殺人鬼たち。それに誤魔化される形で先ほどまでの興奮は多少なりと薄れ、状況をある程度冷静に見ることができるようになっていた。
「貴方も読書、いかがですか?」
そんな彼らの勢いをさらに削ぐかのように、高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)が声をかける。そのおっとりした声色は殺伐としたこの状況にまるでそぐわないものであったが、その口調がまた彼らの暴走する殺意を抑えていく。
「私も本は好きよ。でも読むなら落ち着ける状況を作らないと」
それを受けて言うのはルネ・ロッサ(ダンピールの黒騎士&UDCエージェント・f27104)。ルネは肩に止まる八咫烏を一撫ですると、茉莉と並ぶよう殺人鬼たちの前へ出た。
「さ、それじゃ先陣よろしくね」
二人の声に、渋々といった様子でさらに先に進み出るのは青原・理仁(青天の雷霆・f03611)。
「別に俺はやりたかねぇんだ。勝手に突っ込んで勝手に死ぬ奴らなんざ放っときゃいいのに……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、理仁はシャッテンドルヒたちの前へ出て構えを取る。その古武術風の構えに隙はなく、彼がその言葉とは裏腹に一切戦いに手を抜くつもりがないことを示していた。
そして一方、殺人鬼たちのさらに後ろにこそこそと隠れているのはベッジ・トラッシュ(深淵を覗く瞳・f18666)だ。彼は小さい体をさらに縮めるようにして、その体を敵から見えないように隠している。
「こ、ここ……怖いのではないゾ! ベッジさんは様子をうかがってイタのだ!!」
震え声で言うベッジにさすがに殺人鬼たちも呆れ顔だ。だが、そのおどけた様子はさらに殺人鬼たちの心を砕けさせ、殺意が湧き上がるのを阻止していく。
「いくら増えても変わらない。僕らは君たちが死ぬか、皆殺されるまで戦うだけ」
影の短剣の一人がそう言い、シャッテンドルヒたちは一斉にひも付きの短剣を構える。
その構えに呼応するように、理仁は一瞬のうちに距離を詰め、敵の一人の顎を掌底で撃ちぬいた。
さらにそのまま包囲を許さぬかのように、別の一人を殴り、また別の者を蹴り、迫ってきた者を投げ飛ばす。
「ああ、強いんだね。でも僕らは影、君の命を刈り取る影。誰にだって影はある」
シャッテンドルヒたちのうち数人が、その体を陰に変え理仁の足元へと潜り込んだ。だが、理仁は慌てず呼吸を一度整える。
「影は照らせば消えるんだよ。厳つ霊の一端、見せてやるよ」
黄雷の石の力を借り、理仁が変じるのは雷電纏う八枚翼の幻鳥。その雷は影を照らし、シャッテンドルヒの隠れる場所をなくす。
そして理仁が降らせる雷鳴の中、影に取り残されたシャッテンドルヒたちをこつこつとつつく小さなもう一つの影。
「ご苦労様ルネ・ガラス。さあ、呪われてしまいなさい!」
ルネのその声と共に、その場から飛び去るもう一羽の小さな鳥。理仁の猛攻に紛れて差し向けられていた八咫烏の『ルネ・ガラス』はそのくちばしでシャッテンドルヒをこつこつとつついて回っていた。
もちろんその程度で敵にダメージはない。だが。
「うわっ……ナイフが……折れた……?」
「影が消える……作れるものが、ない……」
つつかれた者たちを次々と微細な不幸が襲っていく。それにも構わず強引に踏み出した影の短剣の数人が、自らのナイフについた紐に足を取られて転んだ。
「うぐっ
……!?」
倒れ込んだ彼らが一斉に呻き声をあげ、動かなくなる。その体には、転んだ時に向きの変わった自らのナイフが深々と突き刺さっていた。
たとえ猟兵や殺人鬼たちには劣ると言えど、暗殺を生業とするオウガがこのような間の抜けた死に方をするものなのだろうか。
するのである。僅かでもルネによって『消えない傷跡』を刻まれた、【連鎖するルネの呪い】の影響下においては。
「さあ、ちょっとでもつつかれれば呪いの中よ!」
八咫烏は神聖なる吉兆の鳥。されど味方にとっての吉兆は、敵には不幸を呼ぶ凶兆。八咫烏の嘴による『攻撃』を受けた者は、もれなくその凶の運命の中に置かれるのであった。
「……君の支配下にいるつもりはない。ここは僕らの狩場、君の墓場」
後方に控えていた影の短剣たちから大量に影が伸び、それは影に包まれた街を形成する。すでに攻撃を受けた仲間たちを見捨て、確実に獲物を捕らえるため戦場を己の絶対領域としシャッテンドルヒたちはその中へと消えた。
「ぎゃぴー?! 暗い怖い見えないうわー!」
その中で真っ先に騒ぎ始めるベッジ。この暗闇の中で大声を出せば、それは敵に的を教えるも同じ。案の定、影に紛れたシャッテンドルヒたちはその声を目印に一斉に狙いを定めていた。
「おい、あんた静かに……」
「ぎゃぴー!」
殺人鬼たちの窘めも聞かず暴れ回すベッジ。その動きに彼の持っている塗料や薬品の瓶があたりにまき散らされ、その中身があたり一帯にぶちまけられる。
「うわっ!?」
その次の瞬間に悲鳴を上げた者、それはベッジではなく、彼を闇に紛れて仕留めんとした影の短剣の一人だった。彼の体の下には今しがたベッジがぶちまけた塗料の池。それに足を取られ、彼はここで転倒してしまったのだ。
「ギャピーッ!?」
暗闇の中、と駆除視認できる位置に現れた敵の顔。それを見て恐怖が頂点に達したベッジは、半狂乱となって目の前に【グラフィティ・スプラッシュ】を思い切り撒き散らした。
攻撃能力のある塗料が影の短剣、さらに彼に続かんとしてシャッテンドルヒの一団を飲み込み、塗りつぶす。
「あ、なんだかんだ言って……後ろを守ってくれていたのか?」
塗料が彼の前にぶちまけられることで、手薄となっていた殺人鬼たちの後方は完全にベッジの領域となった。もちろんベッジ自身にそんなつもりは一切ないのだが、これにて後顧の憂いはない。
「さて、それじゃああとは前に進むだけですね。無限に連なる太古の呪文よ、その力で邪悪なるものを退けなさい!」
改めて前方へ向けて、茉莉が本を掲げて開いた。そのページに記された文字が輝きだすと、それはそのまま周囲に光線となって撒き散らされた。
もちろん作られた影の町は硬い。たとえどれほどの威力を持つユーベルコードだろうと傷一つつけることは能わない。だが、そこに隠れ潜むシャッテンドルヒは別である。前方に伏せて奇襲を図っていたシャッテンドルヒたちは、その姿を照らし出され、そのまま文字の光によって焼き尽くされて行った。
「まだまだ、ここから道を探しますよ」
さらに茉莉は本を掲げたまま左右にふり、広範囲に光を浴びせていく。影に包まれていることを武器にするその迷宮にとって強い光源はまさに天敵であり、その本に照らされた一角は最早何も隠せないただの街並みとなり、一行は茉莉を戦闘にただそこを悠々と進むだけであった。
無論その道中にも妖しい影あれば理仁の雷鳴が打ち下ろされ、哨戒するルネ・ガラスが呪いを振りまいていく。そして後ろは塗料塗れとなったベッジが歩くことで、来た道を既倒の領域へ塗り替え進んでいた。
やがて茉莉の光が路地の切れ目を照らし出す。そこにいるのは、最後の一人となったうずくまる影の短剣。
「ありました! 皆さん、あれが出口です!」
茉莉の声と共に、光が、雷鳴が、呪いが、塗料が、その最後の一人を捕らえ、無限の閃光の中にそれを飲み込んだ。
そして光が消えた時、影の町は消え、後にはシャッテンドルヒたちの屍の転がる不思議の国が残された。その骸も、影が光に照らされたようにすぐに消え失せる。
「あ、ああ……なんだ、何もできなかったな……」
最後まで猟兵たちの囲みの中戦況を見守るだけであった殺人鬼たちは、最早向けどころのなくなった殺意を己の中で萎ませていくのであった。
成功
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第2章 ボス戦
『ディガンマ』
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POW : 引き裂く獣腕
単純で重い【獣腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 恩讐の獣霊
【周囲の廃品や不用品と融合する】事で【獣性を露わにした姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 縫い留める獣爪
命中した【獣腕】の【爪】が【怯えや劣等感を掻き立てる「恨みの針」】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
👑11
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猟兵たちによって『影縫い・シャッテンドルヒ』は駆逐された。彼らと戦っていた殺人鬼たちも、獲物を横取りされたことよりもはるかに次元の違う戦いを見せられたことで、力や殺意への酔いも覚め平静を取り戻している。
「見事……見事だ。ああも完璧に殺しつくすとは」
そこに聞こえる男の声。殺人鬼たちは弾かれたようにそちらを見ると、一旦は収まった殺意をまた滾らせ始める。
「気を付けろ、あいつは……!」
殺人鬼が殺意と警戒心をあらわに忠告する。
ただ立っているだけでシャッテンドルヒ全員よりも遥かに強い威圧感を放つその男。彼こそが殺人鬼たちの本来のターゲットであり、この世界へと攻め入った猟書家の一人『ディガンマ』だ。
「殺人鬼どもよ、悔しくはないか? 誰とも知らぬものに獲物を取られあまつ役立たずだから下がっていろなどと命じられる……己の中の『六六六(ダークネス)』が泣いているぞ?」
馬鹿にしたようにディガンマが言うが、殺人鬼たちはあくまで彼にのみ殺意を向ける。
「悔しいさ。悔しいが俺たち全員がイカれてもお前を倒せないのはよくわかったよ。レベルが違い過ぎる。だから頼む……俺たちを道具にして、あいつを殺してくれ!」
殺人鬼たちから猟兵たちへの懇願。それをディガンマは笑ったまま聞く。
「情けない……いや、どんな手をも使うと言う点ではむしろ好ましいか。今しばし場を整えてやるつもりであったが……すまんな『鉤爪』の旦那。少し抜け駆けさせてもらう。さあ猟兵よ、闘(コロシア)おうか!」
その左腕を中心に、暴力的なまでの獣性が地を揺るがす。さあ、この力の嵐を超えディガンマを抹殺するのだ!
十文字・真(サポート)
14歳の中学生です。思春期なため女子に興味津々です
基本の口調は「厨二(我、貴様、だ、だな、だろう、なのか?)」、素で話す時は「男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」です。当て字、横文字、妙に難しい言葉が好きです
常に厨二な感じで喋りますが色々未熟な為、時折素の口調が出てしまったり、「それ厨二?」な事を言ったりもします。笑い方は「くくく…」です
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
舞莽・歳三(サポート)
真っ向勝負にならないように慎重に行動しよう。無駄な戦闘は避けていざとなれば逃げることも頭にいれておくのが基本的なスタイルだ
出来るだけ闇討ちでかたをつけたいところ。
卑怯で結構、勝ちゃいいんだよ!
(アドリブやその他全てお任せします!)
カズマサ・サイトウ(サポート)
普段の口調は「あっし、お前さん、でさぁ、ですぜ、だよ、ですぜ?」、お偉いさん「わたくし、~様、です、ます、でしょう、ですか?」
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、連携の際はライオットシールドで味方をかばう優先。
基本的に己の能力を武器として使用し手に負えない状況にUC使用。
防衛系の戦闘の場合は守備を優先。ただの殲滅の場合、単独または味方が援護系なら突撃する。
近接攻撃を主とする味方が多い場合はライオットシールドで防御しつつ囮になるように行動する。
ガスマスクを装備し耐毒能力を底上げ。
マリウス・ストランツィーニ(サポート)
助けが必要と聞いて馳せ参じた!
どんな理由であっても人々に害為す敵は許さん!いや、理由によっては許すかもしれないがとにかく全力で戦う!
我が一族の誇りに懸けて、私の剣で成敗してやる!もしくは銃で成敗してやる!
もちろん敵とは正面から堂々と戦う!
しかし必要とあらば隙を伺って死角から襲ったりもするぞ!これは戦いだからな!
うおおおおお!
はあはあ、どうだ……!まいったか!
……まいったよね?
(アドリブ連携等歓迎)
ついに姿を見せた『六六六(ダークネス)』を名乗る猟書家『ディガンマ』。その暴力的な威容の前に、真っ先に相対したのはマリウス・ストランツィーニ(没落華族・f26734)であった。
「どんな理由であっても人々に害為す敵は許さん! いや、理由によっては許すかもしれないがとにかく全力で戦う!」
一切姿を隠すこともなく、堂々と敵前にその身を曝しての名乗りにディガンマは薄く笑って答える。
「それは有り難い。殺しとは一期一会、殺した相手の全力を見る機会は二度と訪れないからな。死ぬ前に是非力の全てを見せてもらいたい」
言いながらその獣の左手に力が籠っていく。馬鹿にしているのではない。マリウスが宣言通り全力で来るつもりなら、それに全力をもって答えるつもりなのだろう。
「そう逸るもんじゃないぜお嬢さん。戦う前に潰されちゃせっかくの本気も台無しだ」
見るからに圧倒的な力を滾らせるその腕の前に、『ライオットシールド』を構えたカズマサ・サイトウ(長きに巻かれる、おにぎり大好き風来坊・f26501)が立つ。その巨体はただそれだけでも敵を圧し、ディガンマの暴力さえ跳ね返せそうな程に頼もしく見える。
「己は潰されぬ、とでも言いたげだな。その体がこけおどしではないことを願うぞ」
守りの構えを見せるカズマサにもディガンマは笑みを崩さない。攻めにかかるものと守りを固めるもの、その二人に注がれる殺意の視線を奪い取るように、さらに新たな男が進み出た。
「くくく……この十字神(クロス・ゴッド)を差し置いて死を振りまこうとは片腹痛い。徒に殺意を撒き散らすのは二流のすることよ!」
顔に手を当てそう宣言するのは十文字・真(十字神(クロス・ゴッド)・f25150)。このような発言をしてはいるが、別段彼は殺人鬼ではないし、そもそもそう言ったリアルな裏世界の話など全く知らない。猟兵であること以外はいたって健全なごく普通の中学生だ。しかし、その猟兵……それも経験豊富な手練れの猟兵であること、それこそが彼にこの場に立つに相応しい資格を与えていると、ディガンマは見抜いていた。
「俺を殺すのに殺意もいらぬ、と。その言葉、お前程の者が言えば冗談では済まんぞ?」
言ってみただけの厨二台詞を本職に大真面目に返され内心物凄くビビる真だが、ここに来て今更引くわけにもいかない。半ばやけ気味にではあるが、十字神としての仮面を押し通し真は含み笑いを崩さなかった。
「……で、お前は何か俺に言うことはないのか?」
そうして水を向けられた四人目、舞莽・歳三(とし・f30567)はつまらなそうに首を横に振った。
「別に……てか好きで来たわけじゃないし、見逃してくれるなら帰りたいくらいだし」
全くやる気のない様子で言う歳三の言葉に、ディガンマはただ笑みで返す。
「そうか……さて、俺の方からの自己紹介はいらんだろう。さあ、闘ろうか!」
これが挨拶だ、とばかりに獣の左腕を振り上げ、殴り掛かるディガンマ。その一撃目は、カズマサの盾に叩きつけられた。
「これは……なんと重い……!」
カズマサの巨体が後退し、その足が地に埋まる。さらに彼の両足を中心に地面には広くヒビが入り、その一撃の重さが周囲の仲間にも視覚的にこれ以上なく伝わっていた。
「我が一族の誇りに懸けて、私の剣で成敗してやる!」
そのカズマサを飛び越え、一直線に襲い掛かるのはマリウス。愛刀『八重霞ノ太刀』を構え、打ち下ろしでディガンマへと切りかかった。
「誇りで敵は殺せんぞ!」
ディガンマはその一撃を、左手で剣をつかみ取ることで防いだ。素手で日本刀を掴んで止めるという荒業だが、びくとも動かない剣が、それを可能にする腕力をその手が持っていることをマリウスに伝えていた。
「一つしか武器を持たぬなど愚か者のすることよ! 黒き騎士(ブラックナイト)よ! 我が意志を遂行せよ!」
そうして動きが止まったディガンマに、今度は真の召喚した【黒き騎士(ブラックナイト)】が襲い掛かる。3メートルを超える巨大な黒騎士の構えた剛剣が、ディガンマの頭上に振り下ろされた。即座に刀から手を放し、ディガンマは横に飛ぶことでその斬撃を回避する。
「神に挑みたければまず従僕を制してみよ、と……いいだろう!」
真の名乗りをあくまで真に受けているのか、黒騎士に向けて左手で殴り掛かるディガンマ。その一撃は重厚な騎士の鎧をひしゃげさせ、その内部に浅からぬダメージを負わせた。
「……お前、利き手しか使えない系?」
黒騎士の鎧に左手が深くめり込んだディガンマのその右側、そちらからぼそりと呟くような声が聞こえた。とっさにディガンマは空いている右手をそちら側に振り回すが、手ごたえは何もない。
「……いや、おちょくっただけだし、切りかかってると思った?」
怒涛の攻防に紛れディガンマの右側に潜り込んでいた歳三が、間合いの外で足を投げ出して立っていた。その外見と所作から、彼女が隠密やスピード勝負を得手としていることは容易に想像できる。だが、必ずしも出来ることを最良のタイミングで行うわけではない……そのあえての外したこうどうに、ディガンマの左右の腕はがら空きとなった。
「うおおおおお! 真剣勝負の途中によそ見をするな!」
その体に再び襲い掛かるマリウスの剣。とっさに左腕を騎士から抜いて防御に回すが、不完全な守りはマリウス渾身の【剣刃一閃】に切り裂かれた。
「ぐっ……やる……!」
自慢の左腕の毛皮すら切り裂く剣技に、ディガンマは感心しつつも歯を食いしばる。しかしそこにライオットシールドを構えたカズマサが、まるで肉の巨岩とでもなったかのように猛然とぶち当たった。
「盾とは防具、そして武器……防御力と攻撃力は表裏一体ってやつですぜ」
その硬さと重さは、剛力を誇るディガンマをして体勢を崩させる。そうしてがら空きになった体に、十字の裁断が迫った。
「神の裁きの時間だ。十字を抱いて眠るがいい!」
ポーズを取りながら振るわれる真の十字剣が、ディガンマの体を文字通り十字に切り裂く。一見すれば無駄な動きに見える格好つけた所作だが、彼の積んだ戦いの経験はそれを見切ること能わぬ無二の動きへと昇華させていた。
「正道、堅守、威容……これがお前たちが磨いた殺しの技か! 期待以上だ……」
血を噴き出しながらバランスを崩すディガンマ。殺し殺されるこの場に興奮する彼だが、この熾烈かつ独創的な戦いに飲まれ、殺しの場において最も好まれる姿勢の存在を失念していたか。
「……じゃ、俺は『卑怯』担当ってことで」
刻まれた十字の傷の中心、胸のど真ん中を一本の短剣が穿った。それは味方の猛攻に紛れ忍び寄った歳三が今度こそ放った、獲物を狩る一撃。仲間たちに派手な戦闘を押し付け、首級だけを掠めとる卑劣なる一撃。
「ただ隠密と観察を続け、美味しい所だけ自分のもの……か。確かに卑怯と言わず何と言おうか。素晴らしい」
「勝ちゃいいんだよ」
まさに勝つための恥も外聞もない戦法。これがマルチプレイのゲームならば非難の的となることだろう。だが、これはディガンマ自身が幾度となく言った通り、生か死かのどちらかしかない殺し合いなのだ。
この戦法を仲間たちがどう捉えているか……それは自陣に戻る彼女を迎える、三人の会心の笑みが物語っていた。
成功
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隣・人
回る。回る。その場で回る
「これがアンタの『殺り方』ですか。獣臭いですねぇ。全く世の中数字だらけで吐き気がしますよ。この感覚をめまいだと説かなきゃどう解けば好いのですか。あの大きな爪」
自らに催眠術をかけ『ディガンマ』がめまい・吐き気の原因だと思わせる。ふらふらと倒れそうな身体を支えつつもUC発動
殺人鬼が足りないならば殺人鬼を増やせば好い。各々素敵な殺意を持て。以って奴の脳漿をぶち撒けるのだ、圧殺だ
六六六などと数えている暇は無い。何が何でも『あの人型』を殺すのだ
治まるまではこの地獄、決して失せる事は無い
「行きましょう。逝きますよ。活かしてください。存分に『人間』を謳ってあげなきゃ……」
モザイク塗れ
望みである獣性あふれる殺し合いを堪能し、傷を負いながらも満足げな笑みを浮かべる猟書家ディガンマ。その前で、一人の女がくるくると回っていた。
「これがアンタの『殺り方』ですか。獣臭いですねぇ。全く世の中数字だらけで吐き気がしますよ。この感覚をめまいだと説かなきゃどう解けば好いのですか。あの大きな爪」
言いながら隣・人(🌈・f13161)は回る。回る。その場で回る。
後方で見ているキラーズたちは勿論、ディガンマもそれを止める様子もなく、かといって呆れてただ見ているわけでもない。
「それは眩暈などではない。お前の中の六六六(ダークネス)。分かっているだろう、お前も捨てられたもの……後ろの連中よりよほど濃い、俺と同じ匂いがする」
人を勝手に検分し、ディガンマは言う。その言葉は的外れな妄言か、あるいは彼にしか分からぬ何かを見抜いての事か。
だがそんな言葉は人の耳には届かない。何故なら彼女は強烈な眩暈と吐き気に襲われているから。その原因は紛れもなく、今自分の前で口を動かしている獣臭い男。回っているからではない、あの男がいるせいで、今自分は気持ち悪いのだ。
人は自らに催眠術をかけ、ディガンマへのあらぬ恨みを募らせていく。恨みとは殺しの動機において最も単純で純粋なもの。六六六などと数えている暇は無い。何が何でも『あの人型』を殺すのだ。治まるまではこの地獄、決して失せる事は無い。
「殺しの準備は整ったか? ならば、闘争(コロシアイ)の始まりだ!」
ディガンマは回り終えた人に向かい、爪を伸ばし鋭く切りつける。人はふらりとよろけるように体を揺らしその爪を躱すが、獣腕はその荒々しい見た目にそぐわぬ早く繊細な動きで方向を変え、人の肌にその先端が浅く突き刺さった。
そのまま爪の一本がぽきりと折れ、人に刺さったままになる。そしてそこから侵食していくように、人の心に怯えと劣等感……普段は無縁なはずの感情が湧き上がり始めた。
六六六に足りぬ番外が。使う主体なく隣人が勝手に動き回っていいものか。考えたこともない感情が、外付けされたかのように強引に湧き上がる。
こんな感情自分のものではないと人は理解しているが、ディガンマの強い力は例え縁ない感情であろうと強引に心にそれを押し付けてくる。
人がそれに抗し得る手段はただ一つ。回って、酔って、塗りつぶすだけ。
「足りないです。足りないのです。足りない……」
番外なら、足りないなら、殺人鬼を増やせば好い。まるで人に吐き出されるように、都合87人もの殺人鬼が現れ一斉にディガンマへと群がった。
「各々素敵な殺意を持て。以って奴の脳漿をぶち撒けるのだ、圧殺だ」
人の吐き気を擦り付けるかのように、殺人鬼たちはディガンマを殴る蹴る切る刺す撃つ噛む絞める。
「この数……雑魚の群れ、というわけではないな!」
無論ディガンマとてただやられるわけではない。その凶悪な獣腕を振るって人の呼んだ殺人鬼たちをなぎ払った。だが腕が当たった殺人鬼は確かに一撃の下葬られるが、それ以外は一切怯むことなくディガンマを殺しにかかり続ける。獣の左腕と無限の獣性が武器のディガンマにとって、大量召喚技は天敵とも呼べる相性の悪さであった。
例えば彼の想定通りキラーズが相手だったならば、実力差によって相性の不利も覆せたであろう。しかし単騎で彼ら全員を上回る猟兵……人が相手とあっては、能力相性の不利はそのまま敗北につながる。ディガンマは殺人鬼であり規格外の強者であるが、戦巧者の武人ではなかった。
「行きましょう。逝きますよ。活かしてください。存分に『人間』を謳ってあげなきゃ……」
次々詰めかかる殺人鬼の技が、ディガンマの命を削り取っていく。
「く、ははは……人間、これだけの殺しができるものが人間を名乗るか……俺の序列は何番だったか……とかく喜べ、これでお前は番外などではない。俺の一つ上、立派な六六六の一つだ……!」
凄惨に殺されることすら己の望んだ形の一つだとでも言うように、ディガンマは殺人鬼の群れに灼かれるように、その命を滅された。
殺す対象がなくなって殺人鬼たちは消えていき、人の眩暈も雲が晴れたように消え失せる。
「これで分かったでしょう。殺意に酔って数字を吐くなんて人のやるこっちゃない。人間を殺すのはいつだって、人間じゃなきゃいけないんです」
自分たちにかけられたその言葉の意味を、キラーズは正しくは理解できない。だが、人が道を誤った殺人鬼が堕ちる先の一端を見せてくれた。そのことだけは確かに理解し、決して暗き数字にはなるまいと心に誓うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年11月21日
宿敵
『ディガンマ』
を撃破!
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