●罪
声が聞こえる。今の今まで忘れていた、私の親友の声。
幼い頃から姉妹のようにいつも一緒で、聞き慣れた……柔らかく美しい少女の声。それが今は醜く湿り、軋んでいる。
――おねがい
それは多分なんてことのない、ありふれた現象だったのだ。世界のどこかでは今も起き続けているし、きっと命だって失われている。ただ単に崩れた崖から落ちた岩がその下にいた生き物を潰しただけ……たまたまそれが、あの子だっただけ。
――おねがい
あまりにも突然だった。揺れる地面、肩を掠めた痛み、不快な破砕音。気が付けばあの子は倒れていて……そこには上半身しか見えなかった。落ちてきた大岩と地面に挟まれ、何も分かっていないまま血を吐いていた。
助けを求めて伸ばされた手を咄嗟に掴み、引っ張りだそうとすればあの子は苦悶の声をあげる。岩をどうにかしようにも、それは大きく重すぎた。その下にあの子の体があるなんて到底信じられないくらいに。
どうしようもなくて、無駄な事をして、あの子はついに力を抜くとこちらに視線を向けて……弱々しく口を開いた。
――ころして
信じたくなかった。聞きたくなかった。しかし、その苦痛の大きさは如何程か。
助かる見込みは無く、自分では動くことも出来ない。その絶望の深さは如何程か。
皮肉にも、私にはそれを取り除く手段だけは幾らでも見つけることが出来た。枝払い用の鉈、草を刈る鎌、木細工の為のお揃いの短剣、一緒に落ちてきたであろう石でもいい。どれかを手に取り振り下ろせばあの子の望みは満たされる。薪を割るよりも余程容易い事だ。
しかし、出来なかった。私はあの子に縋り付き、泣き叫びながら抱きしめた。我ながらなんと残酷な行いだろう。
独り善がりの未練であの子の苦痛を引き伸ばし、あまつさえ痛む体に更なる辛苦を与えるなど。本当に彼女を想うならば一思いにそうするべきだったのだ。
――――ありがとう、グレシア
なのに何故……私が散々に痛めつけてしまったあの子は最期、その言葉を口にしたのだろうか。それは今となっては分からない、けれど……唐突に現れた少女の白い本を見た時に、この記憶と共に一つ分かった事がある。
友のためを思うなら、いつか訪れる苦しみの前に殺してあげるべきなのだ。
自身の体が変化する感覚も気に留めず、真っ赤に染まった視界に映るこの世界の友を見る。可愛らしい兎や、栗鼠や……私に優しくしてくれた大切な友達。先程までは無かった有刺鉄線に縛られ苦しそうな彼等の為に、いつの間にか持っていた鎌を首目掛けて振り下ろす……それだけの事が、どうしてか終ぞ出来なかった。
……ああ、この首を落としてやりたい。この愚かで情けない、私の首を。
「ざぁんねん、まただめだったのね……ふふっ」
●グリモアベース
「みんな、もう月は見たかしら……そう、突然現れたあの月ね」
グリモアベースに集った猟兵達を出迎えた人形の少女、アリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)は此処からは見えない月……先日現れた猟書家との戦いの証である骸の月を見るように視線を彷徨わせると、再び猟兵達へと視線を戻す。
「以前の大規模な戦いでも剣を交えた猟書家が平和の訪れた筈の世界で何かを企んでいる……っていうのはもう知っているとは思うのだけど、今回お願いしたいのは新手……以前の戦いの時には居なかった猟書家『ホワイトアルバム』の討伐なの」
それは以前の戦争でも姿を見せた『鉤爪の男』を頭目としてアリスラビリンスへと攻勢を仕掛けている配下である、一見無垢な少女のような風貌の猟書家。アリスは確認されているホワイトアルバムの姿絵を猟兵達へと提示すると、一度言い淀んでから言葉を紡ぐ。
「それと……それともう一つ。お願いしたいのはオウガ化したアリスの少女、グレシアさんの救出よ」
原則、既にオウガへとなってしまったアリスを救うのは非常に困難であり、少なくとも猟書家のような強大な存在との戦いが控えた戦場では更に現実的では無い。しかし今回の場合は例外なのだと彼女は語る。
「今回アリスがオウガになってしまった……正確には成り果てかけている原因は『ホワイトアルバム』の能力で、扉を見つけてもいないのに強引に辛い記憶を喚び起こされたせいなの」
過去に喰らったアリスの姿を借りて、一見友好的に近づき……記憶を喚び起して絶望に落としてから喰らう。そんな悪辣な存在がホワイトアルバムなのだと彼女は渋い顔で告げた。
「そしてそのアリス……グレシアさんは、かつて介錯を求める親友の望みを叶えてあげられなかったことへの罪の意識……自責の念かしら。それに囚われ、オウガ化による絶望と認識の歪みで友達はいつか訪れる苦しみの前に殺してあげなければいけないという衝動に駆られているみたいだわ」
故に、彼女のオウガ化の余波で変貌した不思議の国には茨のように有刺鉄線が張り巡らされ、彼女が記憶を失っている時に過ごしたこの世界の友達である愉快な仲間達か捕えられている。
「……今なの。今しかないの。もしも彼女が一人でも友達を手にかけてしまえば、もう彼女は戻ってこれなくなってしまうわ。その瞬間、天秤は完全に絶望に傾いてしまう。だけど逆に考えれば、今だけは……みんなの声は彼女に届く」
その証拠に、本来であれば譫言のように単語を放つだけの無感情なオウガの姿でありながら、まるで抵抗するように友達への攻撃を外しては逃げていく様を見送っているという。
この瞬間に彼女へと語り掛ける事で励まし、心を通じ合わせ、引き戻す事が出来れば……直後に控えるホワイトアルバムとの決戦でも力になってくれる筈だ。
「今の堕ちきっていない彼女の動きは鈍いし、きっと倒すだけならみんななら簡単だと思うわ。でも、難しい事を言っているのは分かっているけれど……どうかお願い。彼女を救ってあげて」
そうして目を伏せたアリスが、胸元に真鍮色のグリモアを浮かべて今一度猟兵達を見渡す。
「もしも上手くグレシアさんを助けることが出来れば、想定を崩されたホワイトアルバムがすぐさま襲いかかってくるはずよ。忘れないで、彼女の姿は借り物……だから遠慮せずにやっつけちゃってね」
そう告げたアリスのグリモアが真鍮色の輝きを放ち、不思議の国へと猟兵達を運ぶ。
予期せぬ来訪者に、誰のものとも知れぬ血に染った有刺鉄線が、耳障りな音をたてた。
真鍮時計
ごきげんよう、真鍮時計です!
今回の相手は猟書家『ホワイトアルバム』。一難去ってまた一難、平和が訪れたばかりの世界に再び騒動が……!
一章は無理やり失われた記憶を喚び起された結果、オウガ『断罪執行人』へと変貌してしまったグレシアとの戦いです。
オープニングにもある通り、彼女は憎しみではなく友達のために歪んだ善意で命を絶とうとしています。
本人の抵抗もあり戦闘中に猟兵達をそっちのけで愉快な仲間達へと攻撃しに行く事はありませんが、周囲の有刺鉄線に囚われた愉快な仲間達は彼女の友達なので、守護や救助をするのも決して無駄にはならないでしょう。
もしも彼女をオウガからアリスへと引き戻すことが出来れば、彼女はオウガと化していた時とある程度似た性質のユーベルコードを用いて『ホワイトアルバム』との決戦にて加勢をしてくれます。
何も指示を出さなければある程度独断で、指定したい行動があればそれに準じて、控えている事を命じれば自身や友達の防衛に徹する等、戦闘慣れはしていないなりに従順に行動するでしょう。
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プレイングボーナス……アリス適合者と語る、あるいは共に戦う。
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オウガとアリスの境目、その分水嶺は猟兵達の手に。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしています!
第1章 ボス戦
『断罪執行人』
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POW : 斬首刑、執行
【大鎌】が命中した対象を切断する。
SPD : 対象、捕縛
【有刺鉄線】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 酸雨、放射
【強酸性の血雨】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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猟兵達が足を踏み入れた、黒ずみ汚れた有刺鉄線に覆われた庭園……元は美しく愉快な仲間達の憩いの場となっていたそこには金属を擦り合わせる不快な音が断続的に響いていた。
その主はオウガに成りかけているグレシアであり……彼女が自身の片腕と一体化した大鎌を、金属製の墓のようなモノへと変貌した頭部を斬り落とそうとするかのように擦り続ける事で発生している音である。
そのままふらふらと彷徨いながら自身の首を掻き毟っていた彼女は訪れた猟兵を察知すると、緩慢な動作で大鎌を構え呟いた。
「今度こそやってみせるから、殺してあげるから――逃げて」
ドロラ・ルニウス
グレシアさんでしたね。私には分かります、アナタはまだ染まりきってはいない。
アナタの本来の色は、まだ失われていない。取り戻しましょう、色を塗りつぶす白は、上から塗り替えて仕舞えばいいのです。
UC発動
無骨な有刺鉄線もその血の雨も「アート」で塗り替えてしまいましょう。「部位破壊」で有刺鉄線が外れれば、愉快な仲間はお逃げなさい。
…あらいけない、残ってる私の「白」は守らないと。塗料の上に立って「オーラ防御」で防げるでしょうか。
私の声が聞こえますか?
アナタ自身にも分かっているはず
アナタの色は無意味な死を齎すものではない
少なくとも今のアナタが救う(殺す)べき色はここにはありません
自分の色を 思い出しなさい!
「今度こそ……今度、こそ……」
小動物に似た愉快な仲間達を拘束する茨のような有刺鉄線が張り巡らされた庭園の中で、大鎌を揺らしながら覚束ない足取りで進んでいたグレシアの歩みが不意に止まる。
それと同時に、人としての頭部を失った彼女の虚ろな意識は自身の眼前に現れた女性を見据えていた。
「グレシアさん、でしたね。私の声が聞こえますか?」
「……」
声の主は“黒”……グレシアに記憶を押し付けた少女を“何もない白”とするならば今グレシアの眼前に佇む彼女、ドロラ・ルニウス(染命を希う・f26060)は“何色でも無い黒”とも言うべき印象の存在であった。
肌や翼の白さより、不思議と黒が際立つ彼女の問い掛けに返されるのは沈黙。しかしこの場合において、耳を傾けるが如く立ち止まったことこそが何よりも雄弁なグレシアからの返答となる。
その様子からドロラは一つの確信を得ると共に、立ち竦むグレシアへと先程とは逆に彼女から一歩踏み出した。
「私には分かります。そして、アナタ自身にも分かっているはず……少なくとも今のアナタが救うべき色はここには無いと」
「そんな、こと……私は、皆を救けてあげないと。どんなに辛くても……!」
肉体は変貌すれど、彼女の心はまだオウガへと染まりきってはいない。彼女の色は失われていない。
故に、まだ取り戻せるのだと……“色”に固有の価値観を持つドロラは、彼女の色を無粋に塗り潰す“白”に対して複雑な感情を滲ませるように眉を顰めながらもグレシアとの距離を縮めていく。
「来ないで――」
アナタの本来の色は無意味な死を齎すものではなく、そしてそれはまだ取り戻せるのだと、ドロラから語りかけられる言葉に困惑した様子で身悶え……グレシアは自身の身体を抱く為に回した腕に一体化した大鎌の刃を執拗に自身の硬質な首へと打ち付けた。
その瞬間、ドロラのつま先よりもほんの僅か先の地面に雨粒のような血が滴り……物を溶かす異音と異臭を放つ。それはグレシアを苛む嘆きと拒絶を示す血涙の強酸雨。
このままでは自身だけではなく周囲に囚われた愉快な仲間達をも巻き込んでしまうであろう血雨に対抗して、ドロラは鋭く手を振り抜くと共にユーベルコードによる塗料を放った。
「――自分の色を 思い出しなさい!」
叱責のような強さを持ちながら激励の色を滲ませる彼女の声にグレシアが肩を揺らすのと全く同時。
ドロラの振るった手の軌跡から堰を切ったように噴き出した塗料と止めどない涙のような血雨がぶつかり合い、炸裂する。
お互いの中間地点で衝突したそれらは無作為に飛散し……塗料がグレシアのドレスの一部を染め上げ、血雨の飛沫は愉快な仲間達を背に庇うドロラの白い肌に触れる直前に彼女の放つオーラに弾かれ地を溶かした。
そして撒き散らかされた塗料が黒ずんだ有刺鉄線を塗り替えると、色が変わった箇所から形を保てなくなった有刺鉄線が崩れ去っていく。
それにより解放された愉快な仲間達はドロラにお辞儀をしてから慌ただしく逃げていき……戦いの邪魔にならない程度に距離を取ると二人の様子を遠巻きながらも心配そうに見守り始めた。
「そういえば……」
暫しの後、衝突の余波が落ち着いた頃……グレシアは自身の色褪せて汚れたドレスの一部を染める塗料を呆然と見つめていた。
青、柔らかく優しい空の色。在りし日の記憶の中で、自身の身に纏うドレスの本来の色でもあるそれを凝視していた彼女は軋む動作でふと空を見上げる。
「そういえば、あの子と……一緒に空を見上げるのが好きだったな……」
視線の先では彼女の心と呼応するように、黒々とした曇天に晴れ間が生まれていた。
――それは、抱かれたあの子が最期に見た……刃の黒でも血の赤でもない、吸い込まれるような空の色。
大成功
🔵🔵🔵
白峰・歌音
あんたは殺す事でなく、抱きしめる事で救ったんだ!殺せなかったのは勇気が無かったからではなく、優しさが強かったからだ!なのに誰かを殺してしまえば、あんたの友達を救った優しさまでも殺してしまう!
「無くした記憶が叫んでる!歪んでしまった優しさを元に戻せと!」
UCで力を上げ、殺そうと鎌を振るう彼女から愉快な仲間達を【オーラ防御】で固めた状態で【かばう】!
そのまま鎌を受け止めて【手をつな(ぐ)】ぎ、彼女が抱き続けた想いを【慰め】、殺さなかった事を弱さでなく優しさだったと【情熱】を込めて説得するぜ!
「誰かを殺したら、目の前の相手も、自分も、亡くなった友達の最後の救いも全部殺してしまう!」
アドリブ・共闘OK
僅かながらに日が射し込み、先程まで地を埋め尽くす程だった有刺鉄線の幾分かが砕け崩れた庭園。
そこではグレシアが朦朧としていた時に比べて確か足取りになってはいるものの……むしろその速度は躊躇するように遅めながら彷徨っていた。
不揃いな石畳に大鎌を引き摺りながら、囚われた愉快な仲間に歩み寄っては立ち止まり……また歩み寄り、立ち止まる。そうしてようやく彼女は友の側まで辿り着くと、緩慢な動作で大鎌を振り上げた。
「友達のわたしが、やらなきゃいけない……」
返答などは想定していない、ただ迷い続ける自身へと向けた呟き。
「友達のあんただから、しちゃいけないんだ」
故に背後から投げかけられた想定外の声にグレシアは驚愕し、苛立たしげに……そして心のどこかで待ち望んでいたように振り返る。彼女の視界に映るのはこれまで自身が大鎌により石畳へ遺してきた曲がりくねった躊躇い傷と、その向こうに立つ涼やかな青を纏い靡かせる少女。
少女……白峰・歌音(彷徨う渡り鳥のカノン・f23843)は数多の曲線を描く傷跡の上を真っ直ぐに歩みながら、グレシアへと語りかけた。
「あんたは殺す事でなく、抱きしめる事で救ったんだ!」
それは歪んだ彼女が今も抱えている、友を失ったあの日の彼女を慰めるように
「救えなかった。愚かで臆病な私は、あの子を苦しめた」
対するグレシアは手を震わせながらも、あの日の自分へと憎悪すら滲ませて吐き捨てる。
友を手にかける事に怯え、あの子に苦しみを押し付けて逃げていたのだと。
「殺せなかったのは勇気が無かったからではなく、優しさが強かったからだ! なのに……」
歌音もまた退くことなく言葉を紡いでいく。
歪んでも尚、未だに友を殺すことが出来ずにいた彼女の本来の優しさを奮起させるような熱を込めて。
「そんな……そんな都合のいい言葉……今の勇気さえあれば、今度こそ……!」
それらを受けたグレシアが遂に危機を……“勇気を得た筈の自分”を保つ事が出来なくなるという危機感に逆上し、足元の友へと大鎌を振り下ろした瞬間。
彼女が勇気と言い張る禍々しい意志を纏い殺傷力を増した大鎌は、オーラを纏って風のように飛び出した歌音の手により受け止められていた。
歌音の意志に応じて力や形を変えるオーラはグレシアの歪な意志を跳ね除け、素の大鎌を露にする。そして歌音は彼女の片腕と一体化した大鎌を片手で確りと刃ごと握りしめたまま、もう一方の手でグレシアと手を繋ぐと逃げ場を失った彼女へとあまりにも真っ直ぐな瞳で己の意志をぶつけていく。
「なのに誰かを殺したら、目の前の相手も、自分も、亡くなった友達の最後の救いも全部殺してしまう!」
「あなたに何が……あなたは、何で――」
どうしてここまで、関わりもなかったあなたが私の為に私を妨げてくれるのか。自身への憎悪すらも一時忘れ、困惑に満ちたグレシアの思考は……
「――無くした記憶が叫んでる!歪んでしまった優しさを元に戻せと!」
至近で放たれた、歌音の叫びに硬直した。
壊れかけた不思議な世界の片隅で、記憶を失ったまま世界を渡り歩く“アリス”である歌音と、記憶を得たが故に膝をついた“アリス”であるグレシアが向かい合う。
自身の危険も踏み越えて、救うために手を取る勇気。
終わりにするのではなく再び歩み出せるように手を引く優しさ。
それはどちらも在りし日の彼女が信じていた“意志”そのもので――
――グレシアの大鎌の歪な刃に、繋いだ少女の手を傷つけることを拒むように亀裂が奔った。
大成功
🔵🔵🔵
フォルク・リア
「そんな姿になっても誰かを救けようとする。
その気持ちは尊いものだけど。
今すべき事はまた別だよ。」
ディメンションカリバーを発動して有刺鉄線を切断。
愉快な仲間たちを脱出させ。
「救われるべきなのは君自身さ。
本当は誰の命も奪いたくない。そうじゃないのか?」
グレシアに近づいて、拘鎖塞牢を発動。
オウガの力を封じながら語り掛け
「もっと自由に、大切に思うものを大切にすれば良い。
仲間も、自分自身も。」
「だけど。こうしなきゃ止まれないって言うなら
少し手荒いが。我慢してくれよ。」
手が届く程に近づいたら
レッドシューターの炎とスカイロッドの風を混合して
威力を増して放ち、
血雨にぶつけて蒸発、相殺すると共に吹き飛ばす。
変わり果てた庭園の中央付近。
多くの愉快な仲間達が囚えられた場所に、焦燥した様子のグレシアが彷徨い出る。
「……苦しい、よね。すぐに、私が……」
彼女の視線を吸い寄せるのは有刺鉄線に絡みつかれた自身の友の、首。
丁度片腕の大鎌を振り下ろしさえすれば容易く両断できるであろう彼等の姿に暫しの間硬直した彼女は、決意を滲ませると有刺鉄線を踏み越える為に歩みを進ませ……ふと聞こえた男性の声に足を止める。
「広大なる大空の力を内包せし魔なる欠片。この手に宿りてその力を示し――」
詠うように唱えられた言葉は魔力を含み、彼の手中にいつの間にか現れていた杖から放たれた風は広場を翔ける。
「――聖も魔も、絹も鋼も等しく断ち切れ」
そして声の主である目深にローブで素顔を覆い隠した男性、フォルク・リア(黄泉への導・f05375)が紡いでいた言葉を結んだ瞬間、距離を超越する不可視の斬撃が空間ごと有刺鉄線を断ち切り、囚えられていたグレシアの友達を解き放った。
「あぁ、待って……」
解放された彼等は素早くその場から離れ……逃げ去ることはせずに、先に解放されていた仲間達と合流するとフォルクの邪魔にならない程度の距離を保ちつつグレシアの様子を見守り始める。
その光景に硬直していた彼女は今度こそ彼等を“救う”為に追おうとするが、その方向には既にフォルクが立ち塞がっていた。
「そんな姿になっても誰かを救けようとする。その気持ちは尊いものだけど。今すべき事はまた別だよ」
「退いて……!今しなきゃいけない……今しかないかもしれないの……!」
どこか超然とした雰囲気を漂わせながらも社交的に語りかけてくるフォルクに、グレシアは苛立った様子で大鎌を揺らして威嚇する。彼女の目的とする行為は、あくまで彼女の中では純粋に救うためだけのものであり、そこに自覚的な悪意は含まれていない。故に彼女は眼前の彼に対しても攻撃性を見せながらも刃を振るおうとはしていなかった。
そしてそれは、彼女の気取られたくないモノが滲んだ結果でもある。
「救われるべきなのは君自身さ。本当は誰の命も奪いたくない。そうじゃないのか?」
「……やらないといけないの。わたしが救わないと……今度こそ、わたしが……」
本心。フォルクに触れられたそれは紛れもない真実であり、だからこそ彼女は自身の望みではなく盲目的な義務感と後に引けない歪な決意を振り翳すしか出来ない。
彼に投げかけられた問いに答えることも出来ず、自分自身に言い聞かせるように呟き続ける彼女は……突如、フォルクの宣告に伴い現れた棺桶のような拘束具『拘鎖塞牢』に身を覆われて膝をついた。
「もっと自由に、大切に思うものを大切にすれば良い。仲間も、自分自身も」
「それが出来れば……!でも、もう、私はやるしかないの……!」
半ば成り果てる事で得た歪んだ力を封じられて大鎌の片腕を支えにようやく立ち上がったグレシアの周囲に、フォルクによる封印のせいか……それともその言葉で揺らいだ心も重なってか、本来の規模とは比べ物にならない程に弱々しい小雨のような酸の血が降り始める。
それはむしろフォルクへの攻撃の為というよりも……今も自身に歩み寄ってくる彼を拒絶する為だけに降っているような血雨。
対するフォルクは雨の瀬戸際、丁度お互いに手を伸ばせば届きそうな距離で足を止めると、風を束ねたが如き杖を構えた。
「だけど。こうしなきゃ止まれないって言うなら……」
杖を持つ手を覆う黒手袋、炎の幻獣が封じられた魔導書が再生成されたそれに静かに炎が灯り……指先へと這って風と混じり合う。
炎と風、二種の力はフォルクの手中でお互いの力を高め合いながら放たれ……
「少し手荒いが。我慢してくれよ」
弱々しい血雨を歯牙にもかけずに散らし、グレシアを呑み込み吹き飛ばした。
――地に伏せるグレシアに染み付いた血痕、拭えない強迫観念のようなそれらが焼け落ちていく。
大成功
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テイラー・フィードラ
人の死を強く嘆ける良き人よ。
お前を救いに来た。
……見るに奴の手の鎌は心情を表しているか、それ故に酷く鋭利である。
しかして触れなければ、良い。
己の影より具現化するフォルティに飛び移り、回避の足運びは我が友に任せん。
鎌が容赦なく振るうならば、剣に腕一つは犠牲にしてでも行動を続けん。
さて、グレシアよ。
今己が為さんとする事はそれで良いのか?死は救済などと嘯き、何時か来たる死を早め、優しく殺める事が己の義務と思い込んでいるか?
いいや、違う!
人を苦しみの中足掻き、今際の際まで愛し嘆く人が居たという安らぎを与えた貴殿の行動は私が名と血肉を賭しても決して否定させぬと保証しよう!
故に良き人よ、眼を開き覚醒せよ!
身に纏ったドレスは所々色づき、血痕は薄れ……それでも未だに酷く迷いを滲ませながら庭園を彷徨うグレシアは、近付いてくる足音に背を向けたまま呟いた。
「何しに、来たの」
自身とは違う確りとした、迷いのない足音。堅く力強い重みを感じるそれの主は男性だろうか……只々友を救うことを考えていた先程までと比べて雑多な考えが脳裏に過るほどに幾分か意識が仄明るくなった彼女は、だからこそ思い至った問いを投げかける。
いつか自身が恐れていた存在へと成った自分を討ちに来たのか……それとも友達の選択を誤った愉快な仲間達を助けに来たのか……このような歪んだ世界にまで何故、何のためにやってきたのかと。
「お前を救いに来た」
「救い……」
返ってきたのは低く、確固たる決意を滲ませる声。
予想もしていなかった答えにグレシアは狼狽を漏らしながらもようやく振り返ると大鎌を構える。
歪んだ刀身に、罅の入った刃。しかし脆さ故の鋭利さを持つ彼女の心を反映しているかのような大鎌に、足音の主……テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)もまた鋭い眼光を向けながら剣を抜き放ち、駆け出した。
対する彼女は足を止め大鎌を振り上げることで待ち構えるが……ふと自身に迫るテイラーの体躯相応に大きな影に違和感を抱き、直後驚愕の声を溢す。
「――“白”っ!?」
その衝撃はグレシアでは常に見上げる必要があるであろう偉丈夫であるテイラーの黒い影から、より巨大な白い馬が躍り出た事によるもの。加えて、忌まわしき記憶を押し付けられる直前に見えた一面の白が想起された故でもあるだろうか。
息を呑んだ彼女はそれでも咄嗟に大鎌を振るうものの、背に飛び移ったテイラーを乗せたまま靭やかに駆ける白き霊馬『フォルティ』を捉える事は叶わず空を切った。
二度、三度、グレシアはまるで八つ当たりのような出鱈目な動作で大鎌を振るうが、人馬一体の動きを見せる彼等は足を止めること無くそれらを躱して突き進んでいく。
「どうして……どうして当たらないの
……!?」
彼女がもしも、自身の腕として扱う大鎌を容赦なく振るうことが出来たならば。
その刃が触れた相手の苦痛の一切を思い浮かべず振る舞うことが出来たならば。
たったそれだけのことが出来ていればグレシアは彼女を救う為に行動を制限されているテイラーの隙を突き、その腕を捉える事も出来たかも知れない。
「さて、グレシアよ」
しかし、それが出来ない彼女だからこそ今の今まで友に“救い”を与えられず……彼の剣に大鎌を受け止められ、こうして言葉を交わす事になっているのだろう。
「今己が為さんとする事はそれで良いのか?」
「良いも……悪いもないわ、だって私は皆を……」
彼女は悔いる。自分の望みなど、考えてはいけないと。それであの子を苦しめたのだから。
「……死は救済などと嘯き、何時か来たる死を早め、優しく殺める事が己の義務と思い込んでいるか?」
「……そう……ええ、そうよ。しなきゃいけないの。私が、あの時みたいな!あの子のような思いをさせない為に――」
彼女は想う。愛する友が死を望むほどの苦しみを味わう前に、救ってあげなければいけないのだと。
あの時選ぶことが出来なかった選択、友を殺め失う苦痛を拾い集めていくことこそがグレシアにとっての償い。
「――いいや、違う!」
そんな脆弱な彼女の叫びを容易く打ち消し、庭園に響き渡る声は時に轡を並べ、時に後に続く者達を鼓舞する王の声。
「人を苦しみの中足掻き、今際の際まで愛し嘆く人が居たという安らぎを与えた貴殿の行動は私が名と血肉を賭しても決して否定させぬと保証しよう!」
玉座なくとも彼を王足らしめる在り方の証明。
常ならば背に負う者へと道を示す彼の声は、今この瞬間はただ一人の少女の道を正す為に放たれる。
「人の死を強く嘆ける良き人よ、眼を開き覚醒せよ!」
未練、呪い、自責。
それらを象徴する茨の冠のように頭部に絡みついていた有刺鉄線が崩れていく。
露になった墓のような頭部には、彼女があの子と呼ぶ友の名が刻まれていた。
――あの時の選択を、私はもう謝らない。だけど、一つだけ。自分で思い出すことが出来なくて、ごめんね……『アザレア』
大成功
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第2章 ボス戦
『ホワイトアルバム』
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POW : デリシャス・アリス
戦闘中に食べた【少女の肉】の量と質に応じて【自身の侵略蔵書の記述が増え】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : イマジナリィ・アリス
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【虚像のアリス】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : イミテイション・アリス
戦闘力が増加する【「アリス」】、飛翔力が増加する【「アリス」】、驚かせ力が増加する【「アリス」】のいずれかに変身する。
👑11
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雲は晴れ、有刺鉄線の茨は全て砕けて破片となり……歪みは残れど本来の面影を取り戻しつつある庭園では猟兵達と、一斉に駆け寄ってきた愉快な仲間達に囲まれたグレシアの静かに泣く声が響いていた。
猟兵達の呼びかけと尽力により、彼女はもうオウガでは無い。
彼女の変化していた頭部は元の少女の顔を取り戻し、丁度頭部を構成していた黄金と同じ色合いの髪が肩甲骨ほどまで真っ直ぐに伸びている。
ドレスは色褪せて所々破れていたような有様から元の柔らかく清潔感のある空色のドレスとなり……当然、両腕も紛れもない人のものとなっていた。
彼女の姿は、ほぼオウガへと変化させられる前のまま。
しかし、ただ一つ違うのは……グレシアが今その両腕で抱いている一振りの大鎌。
各所に花の意匠が施された……内側ではなく外側に刃がついた逆刃の大鎌は全体が純白だが、その色合いは空虚な白紙の色ではなく充足を滲ませるような柔らかい白。
グレシアとまるで幼い頃から共に在ったかのように彼女の手に馴染み……戦いの経験が少ない彼女でも十分に扱えると確信を持つことが出来るその柄の部分には、彼女があの子と呼んだ友の名と同じ……そして各所の花々の名でもある『アザレア』と銘が刻まれていた。
それは恐らく過去を忘れず連れて往く決意の表れであり、過去に置いてきた未練への決別の証。
暫しの後、泣き止んだ彼女が友との再会を喜び、申し訳なさそうに猟兵達へと礼を言おうと姿勢を正した瞬間。
新たな少女が、どこからともなく姿を表した。
愛らしい造形ながら感じる気配は人のそれではなく、浮かべた笑みは中身の無い……装丁だけを繕った白紙の本のように空虚。
彼女こそが今回の元凶、猟書家『ホワイトアルバム』であると猟兵達は名乗られずとも察知する。
「かわいそう。ふふっ、かわいそう。記憶があってもなくてもあなたは涙を流すのね。ねぇ、つらいでしょう?」
今まで喰らった誰かの顔で、彼女は笑いかける。
今まで喰らった誰かの声で、彼女は語りかける。
「ねぇ、たべてあげるね」
本来の姿が彼か彼女かも分からないコレは、借り物の姿に隠しきれない食欲を滲ませ迫りくる。
「――お断りよ!私は皆と、生きていくんだから……!」
猟兵達は彷徨う少女を手繰り寄せた。此処はもはや分水嶺を越えた先。
始まりすらも記されていない傍迷惑な白紙の本に、終わりを記す時である。
テイラー・フィードラ
……お前は只の外道なり。故、其の血で贖わさせてやろう。
グレシアよ、邪魔とは言わん。しかして奴の狙いは貴殿だ。
だからこそ防衛を基本として行動してくれると助かる。
奴の事だ、貴殿のみならず友すらも餌食にせんとするかもしれぬからこそだ。
故に、俺が剣となり戦わん。
奴が姿を変え、「アリス」として戦おうが、罪人が無辜の民の皮を被っているだけであろう。驚くも何もあるか。
フォルティ、分かっておろう。駆けよ!
馬上より奴へと追い縋り、長剣を振るわん。姿を転じ其れを躱そうものならば投擲し僅かであろうと傷を与えよう。
その傷を標とし悪魔召喚の起点とせん。
悪魔よ、許す。其の罪人が積み上げし財を元へと返す為、全て奪い取れ!
緩やかに、淑やかに。滑らかな動きで一歩一歩迫り来るホワイトアルバムに対してグレシアは純白の大鎌を構えて威嚇する。
それでも寒々しい笑みを崩さずに歩み続けるホワイトアルバムに対して彼女が意を決して駆け出そうとした時、彼女の傍らから白き霊馬……主であるテイラーを背に乗せたフォルティが諌めるように進み出た。
「グレシアよ」
放たれたのは憤怒の滲む声。
常より鋭い眼光も要因となり威圧的な印象を放っている上に、視線はホワイトアルバムから逸らさぬまま獰猛な怒りの表情を浮かべたテイラーの呼びかけによってグレシアは平静を取り戻す。
そして彼等は一瞬の沈黙の後、迫りくる彼女に聞こえない程の声量で言葉を交わすと、お互い小さく頷いた。
「……わかったわ」
「助かる」
その様子を声は聞き取れずとも眺めていた彼女は、会話の直後に不愉快さを滲ませた表情で後ろに下がるグレシアと、終ぞ振り向くことなく馬上にて長剣を抜き放ち自身を目掛けて駆け出したテイラーに対して今までと違うどこか喜色の混じった笑みを浮かべると立ち止まり……その姿を変える。
髪は亜麻色からより薄い色へと変わり、背中には妖精のものに似た翅。
以前自身が喰らったであろうアリスの姿へと瞬時に変じた彼女に、目指す目標の変貌を目の当たりにしたフォルティの瞳が僅かに揺れるが、
「フォルティ!」
背から響く主の声に、分かっているとでも言うように嘶くとさらに速度を上げた。
「あら、驚かないのね」
「罪人が無辜の民の皮を被っているだけであろう。驚くも何もあるか!」
まるで一振りの剣のように迷いなく襲い来るテイラーに意外そう、というよりは面白くなさそうに呟いた彼女の言葉に返されるのは刃。
それを向けられた彼女は宙を舞う木の葉のように飛び退くと、そのまま翅で風を掴んで飛翔する。
目掛けるはテイラーでもフォルティでも無くその後方、友と身を寄せ合いこちらを見守るグレシア達。
飛行手段を持たない彼等を飛び越え、その先へ。瞬く間に彼女との距離を詰めたホワイトアルバムは、象っている姿の影響かどこか快活に口を開く
「あはっ、あなた、記憶を思い出したのに、やっぱりお邪魔者なのね。お友達に慰めてもらってるのかしら?でもだいじょうぶよ。わたしが、たべて……」
その最中にふと、違和感を抱いた彼女が周囲を見回す。
自身の眼前で俯いたグレシア、その手に祈るように握られた大鎌の柄を伝って、いつの間にか辺りに咲いていた無数の白い花が――
「お断りだって!言ったでしょう!」
――爆ぜた。
正確には、一瞬にして爆発的に拡散した花弁の奔流がグレシアとその友を守り、ホワイトアルバムを吹き飛ばす。
それは心身を灼く血の涙を受け止め咲いた、不屈の心と勇気を乗せたアザレアの花々。
「あら、あら?おかしいわ。だってあなたは邪魔者の――」
「――否、邪魔ではない」
自身を襲う想像とはかけ離れた現象に笑みを浮かべながらも首を傾げる彼女の呟きに声が帰ってくると同時。その肩に勢いよく放られた長剣が突き刺さる。
「しかしてお前の事だ。彼女やその友をこうして餌食にせんとするかもしれぬと考え、備えていたのみ」
「まぁ、よく分かっているのね?わたしはわたしが分からないのに!うふふふっ、面白いわ」
肩に突き刺さった長剣を抜きもせずに手を口元に当てくすくすと笑うホワイトアルバムに、テイラーは辟易したように睨みつけ、告げる。
「……お前は只の外道なり。故、其の血で贖わさせてやろう……悪魔よ、許す。其の罪人が積み上げし財を元へと返す為、全て奪い取れ!」
その宣告と共に彼女の肩の傷に刻まれた『魔契之標』が活性化し、彼に喚び起こされた数多の悪魔達が罪を取り立てるべくホワイトアルバムへと殺到する。
ただ只管に罪なき者を喰らい続けてきた彼女が積み上げたのは、仮初の姿と……その罪業。
因果応報、悪因魔果。
自身を何かも理解していない彼女は、逆に悪魔に喰らわれることでこれまでに奪った姿を幾つも、幾つも奪われていく。
大成功
🔵🔵🔵
白峰・歌音
グラシアに下がるように促すふりをして小声で「隙を作るから、弄ばれた怒りを思いっきりぶつけてくれ」と最後の一撃を頼み、【ダッシュ】して【先制攻撃】、その後も【2回攻撃】の拳連打で猛攻。こっちに注意をひきつけUCで決めようとして相手のUCを誘い、【オーラ防御】全開でダメージの軽減を図る。それでもダメージ受けて吹っ飛ばされるだろうけれど
「他人の決め技を台無しにして、さぞかし優越感満たせただろうな…?けれどな、その瞬間が一番隙だらけなんだよ!」
「この場で一番お前に怒りを抱いているのはオレじゃない!やれっ、グラシアー!!」
とグラシアを【鼓舞】して大鎌の一撃を撃ちこまさせるぜ!
アドリブ・共闘OK
戦いの余波で巻き上げられた無数の白い花弁が舞う庭園にて蒼い少女、歌音とホワイトアルバムが衝突する。
弾かれたように加速し飛び出した歌音は距離を詰めながらその空虚な笑みを打ち据えるべく拳を繰り出し、対するホワイトアルバムはそれを風で捲れた本の頁を払うような手付きで往なしながら距離を取る。
そうして打ち、払い、打ち、躱し……数瞬の攻防の後、歌音はホワイトアルバムに渾身の一撃を見舞う隙を見出すが、同時に彼女が浮かべた不穏な色が混ざった空虚な笑みに眉を顰めると構えを崩さないまま勢いよく飛び退き仕切り直した。
そしてそこに、先程の二人の戦いに割って入る事ができずに様子を見ていたグレシアが駆け寄ってくる。
「わ、私にも出来ることは……!」
「いや、いい。グレシア」
白い大鎌を緊張した様子で抱え、どうにか戦いに助力しようと構えたグレシアに、歌音はそっと囁きかけると再び意識をホワイトアルバムを集中させ……グレシアはその彼女の言葉に頷いて友を連れて庭園の物陰へと去っていく。
当然ホワイトアルバムはそれを許さずそちらへ優先的に向かおうとするが、
「いかせねぇよっ!」
再び瞬間的に加速して迫りくる歌音の双腕により繰り出される拳撃に足を止めた。
その攻防は先程の焼き増しのような光景であったが……暫しの後、再びホワイトアルバムが笑みと共に不自然な隙を晒した瞬間、歌音は険しい表情で暴風を足に纏わせて、回し蹴りを放つ。
彼女のユーベルコードにより発生した風は流れるような動作で回転した脚を追いかけて渦を巻き、地に積もり始めた白い花弁を再び空へと巻き上げながらホワイトアルバムの腹部を捉え……微かに沈み込んで止まる。
その直後、ホワイトアルバムの隣から世界に滲み出したように現れた虚像の少女が歌音の動作をそのままなぞって回し蹴りを放ち……歌音はそれをオーラを纏った両手で受けて、自身の蹴撃の威力を証明するように凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
空中で体勢を整えながら地を蹴り勢いを殺していく歌音をホワイトアルバムは見送ると、機嫌良く口を開く。
「ふふっ……ねっ、わたし、あなたがすこしわかったわ。あなたも“アリス”でしょう?それなら、わたしが――」
「他人の決め技を台無しにして、さぞかし優越感満たせただろうな…?」
歌音はホワイトアルバムが記憶を見せたアリスではなくとも、この不思議な世界に縁のある“アリス”であり……彼女が食欲を抱く対象でもある。それならば逃げ出したグレシアの前に喰らうのも良いかもしれないと歌音の元へ歩みだした彼女の耳に、不快さを滲ませた歌音の声が届いた。
彼女は、それに笑みを浮かべたまま首を傾げる。
「あら……怒ってるの?」
「ああ、でもこの場で一番お前に怒りを抱いているのはオレじゃない!」
歌音と言葉を交わしていたホワイトアルバムから笑みが薄れる。その顔に浮かんだのは心底理解が出来ないと言った表情で、
「その瞬間が一番隙だらけなんだよ!やれっ、グレシアー!!」
――グレシアが友を連れて物陰へと逃げ去った時、歌音に囁かれた言葉は退避を勧めるものではなかった。むしろその対極……自身が作った隙に、今まで弄ばれた怒りを込めた渾身の一撃をぶつけて欲しいというもの。
彼女はそれを聞き、友を巻き添えにされない位置に連れて行く事を名目にその場を離れ……今の今までその隙が作られるのを待っていたのだ。
「私だって……!」
物陰から物陰を伝い、高所へ昇り……先程の蹴撃の応酬により発生した暴風に身を預けることで白い花弁に紛れて空中へと跳び上がった。
大きな一枚の花弁のような大鎌が陽光を反射し、その刃の存在を主張する。
「“私達”だって、怒る時は、怒るんだから……!」
そして今、歌音の攻勢を弾き返し優越により致命的な隙を晒したホワイトアルバムの直上より、純白の大鎌の逆刃がまるで断頭台のように落下する。
「往くわよ、アザレア――!」
グレシアの不慣れな激情と共に放たれた刃はホワイトアルバムの身を深々と刻み……その微笑を驚愕へと染め上げた。
大成功
🔵🔵🔵
フォルク・リア
元に戻ったグレシアの姿を見て
「どうやら。もう大丈夫の様だね。
さて、早速で悪いが。ゆっくりしている暇はない様だ。
手を貸してくれるかい?」
と心身共に戦える状態か気遣いつつ。
冥空へと至る影を発動。
飛翔力が増した敵に対して
レッドシューターの炎を空に巡らせ攻撃しつつ其れを囮に
スカイロッドを操り見えない空圧の壁を設置して罠を張る。
敵が空圧の壁に当たる瞬間を【見切り】それを
グレシアに伝えてそこを狙い攻撃して貰う。
「その姿。他の誰かから奪ったものか?
全く頭にくるよ。
お前にだけじゃないそれを防げなかった自分にも。」
グレシアの攻撃に合わせ炎を網の様に展開。敵を捕らえ。
「さあ、このまま決めるよ。」
炎で包み焼き尽す。
猟兵達とホワイトアルバムの間で繰り広げられる激闘の最中。
傷を負った彼女が不意に大きく飛び退き距離を取ったことで、一時的に庭園に静寂が訪れる。
不慣れながらも一員として参戦し息を切らしていたグレシアは、その空白の時間に暫しの間息を整えると再び大鎌を構え戦場を見据えた。
「どうやら、もう大丈夫の様だね」
オウガと化していた時とは異なり疲弊こそしているものの精神的な活力に溢れた様子の彼女の背後から、足音と共に気遣いの滲む声が近付いてくる。
その声の主であるフォルクに、幾分か呼吸が楽になった彼女が頷きながら振り向こうとした瞬間……かつて喰らったアリスへと姿を変じることで妖精に似た翅を得て、爆ぜるような勢いで空へと飛び上がったホワイトアルバムに視線を奪われた。
散漫となった意識が感じるのは空へと遠のく嗤い声と、背後から吹く力強い風。
「……さて、早速で悪いが。ゆっくりしている暇はない様だ。手を貸してくれるかい?」
「ええ、任せて。全力を尽くすわ!」
彼女が飛び出すと同時に風の杖『スカイロッド』を構えていたフォルクの言葉に、グレシアは今度こそ強く頷いて見せた。
「冥府への門たる忌わしき影よ」
忙しなく空を舞うホワイトアルバムをグレシアと共に視線で追うフォルクの声に、彼の足元の影が朧気に揺れる。
彼自身は微塵も揺らいではいないのに、その影だけがゆらゆらと。
「その枷を外し闇の力を我に届けよ」
そして彼が詠唱を終えた瞬間、揺らいでいた影……否、本来の影に重なって蠢いていたもう一つの影が陽光に逆らって地を染める。
それは正確には純粋な影ではなく、生死に関する呪術に関して行使と探求、どちらにも造詣が深いフォルクにとっては否応なく触れることになる冥界の門。
通常は現世のモノを飲み込むそれからこの一時魔力を引き出した彼は、冥府の力を宿して常より深く黒く染まった手袋『レッドシューター』とその手に握られたスカイロッドの力をホワイトアルバムへ目掛けて解き放った。
雲が散り、蒼が広がる空を紅い炎が迸る。それは我が物顔で空を翔けるホワイトアルバムを焼き墜とす為。
対する彼女は背の翅の形状からは想像出来ないような機敏さで旋回し、それらを躱していく。
そうして暫しの間、次第に空を狭めていく炎を掻い潜っていた彼女は遂に痺れを切らし、急激な加速と共にフォルクの背面で構えていたグレシアへと急降下するが……
「――かかった」
その指先は不可視の壁……炎の囮に隠された空圧の壁に阻まれて動きを止めた。
「お願い、アザレア……!」
直後、フォルクからの合図に応じてこの瞬間を……自身では見切ることの出来ない彼女の動きを無理に追うことを諦め、この瞬間だけを待っていたグレシアの大鎌から伸びた、純白の花を咲かせた数多の蔓がホワイトアルバムを何重にも拘束していく。
空中で雁字搦めに捕らえられ、それでも姿を変える前と同じ空虚な笑みを浮かべる彼女に、フォルクが静かに問いかけた。
「その姿。他の誰かから奪ったものか?」
「奪う……?失礼しちゃうわね。たべてあげたの。この子もだめだったから……ふふっ」
その答えにグレシアは唇を噛み、空に浮かんだ炎がローブに覆い隠され窺えない彼の表情を代弁するように、激しく揺らめき火勢を強めた。
「全く頭にくるよ。お前にだけじゃない……それを防げなかった自分にも」
炎達はいつしか繋がり合い、蝶を捕らえる網のように交差して空を区切っていく。
「さあ、このまま決めるよ」
彼が黒手袋を嵌めた手を空を掴むように握ると同時、待機していた炎の網がホワイトアルバムへと殺到し、彼女を拘束する花々諸共包み込む。
燃え上がった白い花弁が熱気で舞い上がり、また空中で灰になっていくその様子は……
――焚き火に放り込まれた一冊の本が、頁の切れ端を散らしながら燃えていく様によく似ていた。
大成功
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白峰・歌音
アリスの扉を見つける旅は、記憶と向かい合うための旅路なんだ!その旅を台無しにした挙句終わらせるお前の誘いなんて願い下げだぜ!
「記憶を弄ぶ白い悪意!このマギステック・カノンが打ち負かして終わりにしてやるぜ!」
グレシアはずっと休む間もなく色々あって疲れてるはず、あとは守りに徹して応援しててくれとお願いし、ホワイトアルバムと決戦を挑むぜ!さっきと同じく【オーラ防御】で固めての格闘インファイト!で、狙いは飢えているであろう敵がオレにかじりつく瞬間!【手をつな(ぐ)】いで動きを止めて
「今度は逃がさないぜ…お前が食べたアリス達の怒り、全部受けてもらうぜ!」
とUCのラッシュで決めてやるぜ!
アドリブ共闘OK
力の一部を失い、深い傷を負い、ドレスは所々灼け……満身創痍と言った様子で姿勢を歪めながらも執拗にグレシアを見つめるホワイトアルバムの視線上に、今再び歌音が割り込み立ち塞がる。
「……その子の記憶は、幸せじゃなかったわ。わたしが出会ったアリス達と、同じ。もう扉なんか要らないでしょう?」
「アリスの扉を見つける旅は、記憶と向かい合うための旅路なんだ!」
どうして理解できないのか、理解できない……そうありありと表情に浮かべて首を傾げる彼女に、歌音はだからこそ、と否定する。
「求めていた記憶を教えてあげたのに、幸せじゃなかったら……ダメだったなら、たべてあげないと。そうだわ、あなたにも教えてあげ――」
「――旅を台無しにした挙句終わらせるお前の誘いなんて願い下げだぜ!」
あくまで“アリス”のために教えた上に望まぬ結末に至った彼等を食べてあげているという主張を崩さず、歌音に対しても忌まわしき記憶の誘いをかけようとしたホワイトアルバムの言葉を彼女は拒絶し、拳を構える事で答えとした。
束の間の両者の会話が当然の如く決裂し、周囲の空気が張り詰めると同時。疲弊を滲ませながらも大鎌を支えにしたグレシアが歌音の隣に歩み寄る。
彼女の力は猟兵達には到底及ばずとも、此度のホワイトアルバムとの戦いに触れた時間ならばほぼ同等。たとえ多少なりともユーベルコードを扱えるとしても、そも戦いに不慣れな彼女が今この時に立っているだけでも健闘したと言えるだろう。
故に、その歩みを歌音は優しく呼び止めた。
「グレシア。後は、応援しててくれ」
「応援……でも、これ以上頼り切りなのは……!」
絶望の淵から救って貰い、更に諸悪の根源との決戦にもこれ以上頼ってしまってもいいのかと悩むグレシアに、歌音は笑みを浮かべると高らかに告げる。
「記憶を弄ぶ白い悪意!このマギステック・カノンが打ち負かして終わりにしてやるぜ!」
マギステック・カノン。それは記憶を失った歌音に染み付いた戦い方の本領であり、彼女が力を解放することで変じる姿でもあるヒーローとしての名。
そして世界を守るヒーローの名を背負った彼女は湧き上がる戦意を紫と紅のオーラとして全身に纏い、風と共にホワイトアルバムへと躍りかかる。
咄嗟に動くことが出来ないまま歌音を見送ったグレシアは一瞬の間躊躇し……彼女を信じて数歩後ずさると決着を目に焼き付ける為に見つめ始めた。
庭園の広場の丁度中央付近で、歌音とホワイトアルバムは目まぐるしくお互いの立ち位置を入れ替えていく。
拳を、脚を、オーラを乗せた打撃を次々と繰り出していく歌音と、それ等を俊敏とは言えずとも掴み所のない所作で往なしていくホワイトアルバム。
超至近の戦いの中で歌音の攻勢は加速していき、ホワイトアルバムは蓄積したダメージもあって次第に精彩を欠いていく。それは彼女の飢餓を刺激し……致命的な隙を生じさせた。
「今度は逃がさないぜ……」
「……っ!」
飢えを満たすために借り物の少女の姿に牙を隠し、振り抜かれた歌音の腕に口付けをするように唇を近づけた瞬間……歌音のもう一方の手に自身の手を握られ、動きを封じられる。
そのまま手を引かれて体勢を崩したホワイトアルバムに、涼風を纏った歌音の拳が突き刺さった。
「お前が食べたアリス達の怒り、全部受けてもらうぜ!」
その一撃は起点。嵐となりゆく旋風。
続く拳撃と蹴撃は次第に、急速に威力を増していき、ホワイトアルバムにかつて喰らったアリスに姿を変じさせる暇も完全な脱力をさせる隙も与えずに絶え間ない豪雨のような連撃を以て打ち据えていく。
そして最後には、各所を打ち崩され無防備になったホワイトアルバムの胸元を歌音の渾身の一撃が貫いた。
●あの日の言葉
「……あ」
その声は、誰のものだったか。
ホワイトアルバムが致命的な損傷にその存在を保てなくなった瞬間、彼女を起点として変貌した不思議の国が再び変わる。
歪んだ石畳は規則正しく並び、枯れた噴水は水を湛え、折れた柵は再び花々を守る。
姿を覆い隠す白布を取り払うように、絵本の頁を捲るように……世界の姿が変わっていく。
それはグレシアが己を取り戻すことで辺りに咲いた白いアザレアの花々も、例外なく。
喝采をあげる愉快な仲間達に囲まれながらも、空中で消えていく白い花弁をどこか寂しげに眺めていた彼女の肩を……彼女の手から自然と抜け出た純白の逆刃の大鎌が、内にある者を傷つけない峰で以てまるで腕のように……勝利を得て戻ってきた歌音の手と同時にグレシアの肩を優しく叩いた。
「みんな、助けてくれてありがとう。それに……それに、本当に遅くなっちゃったけど――」
――――ありがとう、アザレア
大成功
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