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蒸気幻星

#アルダワ魔法学園 #猟書家の侵攻 #猟書家 #探求のオルガノン #ガジェッティア #災魔の卵

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●蒸気列車と災魔の卵
 かつて魔王戦争が行われた魔法学園を内包する世界、アルダワ。
 その一地域である、商会同盟にて。
 真白な煙で満ちる線路の先、大きな駅のホームに魔導蒸気機関車が停車する。
 黒い機体が美しい星光の絵や星座模様で飾られている其の夜行列車は、『幻星号』という名が付けられていた。
 駅構内には機関車に乗り込むために多くの人々が集っている。
「よくもまぁ、下等生物共がぞろぞろと……不愉快極まりない場所ですね」
 その光景を忌々しげに眺めているのは、少年の姿をした人形オブリビオン――名を『探求のオルガノン』という。
 幻星号に乗り込む人々を見遣る少年。その手にはオウガ・フォーミュラであるミスター・グースから受け取った『災魔の卵』がある。ミスター・グースの目論む作戦は魔導蒸気文明の災魔化。オルガノンはそれを実現すべく行動を始めていた。
 オルガノンが先ず目を付けたのが、この魔導蒸気の夜行列車というわけだ。

「さてと、発動は出発後が良いですね」
 機関車に近付き、災魔の卵を埋め込んだオルガノンは双眸を鋭く細めた。すると其処に煤だらけのオーバーオールを着たガジェッティアが駆けてくる。
「ちょっとキミ! そんなところに居ると危ないよ!」
「気安く話しかけるな、下等な人間が」
「あれ? ふふ、反抗したいお年頃なのかな。でもこんなに近くにいるってことはこの『幻星号』が気になるんだよね。特別に私が説明してあげましょう!」
 少女技師・メイは胸を張って蒸気機関車の詳しい話を語っていく。
 幻星号はその名の通り、プラネタリウム投影機構を搭載した観光用列車だ。客席や寝台車は紺色の座席で統一された落ち着いた様相になっており、運行開始と同時に天井や壁には星々が映し出されていく。
 更には魔導人形が給仕を行う食堂車もあり、快適な列車の旅が約束されている。
「なんと! この魔導蒸気機関車は私のお爺さまが設計したの! だから孫であり技師を継いだ私は幻星号のことを何でも知って……って、あれ!? さっきの男の子は?」
 メイが説明に夢中になっている間に少年は列車に乗り込んでしまったようだ。まったくもう、と頬を膨らませたメイも、常駐技師として機関車搭乗口に進む。
 今日もきっと良い運行になる。
 そんな予感を覚えていた少女技師だが――その日、幻星号は災魔化した。

●探求
 夜の帳が完全に下りた頃。
 不思議な災魔の卵が埋め込まれた蒸気機関車は暴走する。
 災魔化した列車。その内部に配置されていた給仕用の魔導人形達が操られ、食堂車から客席や寝台車に移動して乗客を皆殺しにしようとしている。
 そのような予知がアルダワ世界に視えたのだと語り、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は猟兵達に協力を願う。
「――探求のオルガノン。事件を起こすのは我とも縁深い、あやつじゃ」
 どのような縁があったのかは敢えて話さず、エチカは詳しい話を語りはじめる。
 幻星号は出発後、禍々しい金属で覆われた機械獣に変貌する。
 内部には星空や星座模様が投影されていて美しいが、其処はもう暴走した魔導人形が闊歩する危険な場所だ。
「オルガノンは先頭車両に陣取っておるようじゃ。皆は走り始めた機関車に飛び乗って、最後尾の車掌車から前方車両を目指して欲しいのじゃ」
 飛び乗った後に屋根を伝って進むことは不可能だという。何故なら外部に生えた魔導機械腕が屋根に乗る者を排除してしまうからだ。
 車内の道程は一直線であり、まるで星空の中を歩くような感覚になるだろう。
 壁に灯る星あかりのランプは道標。
 その中での戦いは幻想的だが、暗い分だけ敵が影に潜んでいる可能性もある。
「厄介なのは内部で暴れる魔導人形じゃ。乗客を守りながら人形を止め、オルガノンを目指す……やることが実に多いのう。しかし救いはあるのじゃ!」

 エチカは此処に乗車しているガジェッティア、メイという少女の存在を示す。
 彼女は幻星号を設計して製造した祖父譲りの腕の良い技師だ。厄介な魔導人形を止めるすべを知っているのもメイであり、彼女の協力を得られれば暴走人形による乗客への被害も抑えることができるはず。
「じゃが、技師のメイが現状で何処にいるかは分からぬ。後方の車両であることは間違いないのじゃが……」
 まずは彼女を探すことが重要事項となる。
 しかし、先んじて乗客を守りに行く人員も必要になるので、敢えて技師を探さないという選択も大切だ。どのように動くかは皆のそれぞれの選択次第だと告げた後、エチカは深い溜息をついた。
「チカはヒトというものは素晴らしい存在じゃと思っておる。ヒトが作った魔導蒸気文明も世界を支える良きものじゃ。しかし、オルガノンはそうは思っておらぬらしい」
 両者は同じ真理を探求する者。
 されど、エチカとオルガノンは猟兵とオブリビオンという正反対の道を進む存在。複雑そうな表情を一瞬だけ見せたエチカは首を振り、静かな笑みを浮かべた。
「機関車の暴走を止めるべく、オルガノンを倒す。それがやるべきことじゃ!」
 どうか頼んだ。
 猟兵達に初戦を託したエチカは転送の後方支援に回ると告げ、そっと願った。

 そして――魔導蒸気機関車『幻星号』は出発する。
 やがて、濛々と蒸気を噴き出す列車は禍々しき蒸気獣擬きへと変貌してゆく。


犬塚ひなこ
 今回の舞台は『アルダワ世界・商会同盟』!
 魔法学園を飛び出しての【二章構成】の新シナリオとなります。

●第一章
 冒険『星巡りの夜道』
 戦いの舞台は魔導蒸気機関車『幻星号』という列車の内部。
 皆様は走り出した機関車が通る線路に転送され、後方車両側から飛び乗ったところからリプレイが始まります。プラネタリウムめいた映像が投影された美しい車内では、操られた魔導人形が暴れ出そうとしています。
 自分の力で人形を倒す、或いは『ガジェッティア・メイ』を見つけ出して協力を仰ぎ、一気に魔導人形を止めてもらう、乗客を避難させるなどの方法をとって一般人を守ってください。
 皆様が思う避難方法や守護方法を思いっきり発揮してください。

 ※メイと接触できるのは少数の方のみとなります。複数の接触希望者がいる場合、プレイングの先着順で判定させていただきます。場合によってはメイに対するプレイングを採用できないことがあるのでご了承ください。万が一、メイと接触できなくても戦闘や避難プレイングがあれば格好良く活躍出来ますのでご安心ください。

●第二章
 ボス戦『探求のオルガノン』
 人間や他者を下等なものと断じ、真理の探究の為と称して蹂躙する、少年人形のオブリビオン。
 一章をクリアすれば、先頭車を乗っ取ったオルガノンとの戦いとなります。
 詳しい状況などは二章公開時に序文として追加致します。
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第1章 冒険 『星巡りの夜道』

POW   :    星明かりの導きに誘われて、まっすぐに歩む。

SPD   :    星の瞬きを見落とさぬように、前を見据えて歩む。

WIZ   :    星の位置を確かめて、行く先を定めて歩む。

イラスト:葎

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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●23:30 ⇔ 発車
 巡る時刻。夜行列車の出発の時間が訪れる。
 商会同盟の或る駅を出発した蒸気機関車『幻星号』。此度の車両は十五車両編成。煙の尾を引きながら進んでいく列車は夜の中を走る。
 疾走する機関車の内部には様々な星の煌めきが映し出されていた。
 まさに其処は星巡りの夜道。
 このまま、普段と変わらぬ穏やかな夜の行路が約束されている――はずだった。
 されど今夜、幻星号は狂乱に包まれていく。

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エメラ・アーヴェスピア
また商会同盟に戻ってくる事になるとは思っていなかったわよ
私もここで数年間、魔導と蒸気の技術を学んだわ…だから、ここで暴れる事は許さないわよ
魔導蒸気の技術者として、オルガノンとやらを残しておくわけにもいかないし、ね

猟犬に騎乗して突入、即座に『突き進め我が不屈の兵よ』を展開
重装兵を【集団戦術】で運用、乗客たちを守りつつしっかりと制圧、前進よ
そして私は【索敵】しつつメイを探しましょうか
それと私も魔導蒸気技術者の一人、メイほどでは無いとはいえ暴走人形を抑えられると思うわ
出来るなら協力して、一気に止めたい所ね
あまり時間をかけたくないわ、手早く行きましょう

※アドリブ・絡み歓迎


戒道・蔵乃祐
世界知識、程度ではどうにもなりませんね…

餅は餅屋。魔導工学は魔導工学者に任せた方が良い
メイさんの保護に注力します


聞き耳+読心術、息を殺して身を隠すガジェッティア・メイの気配を探る

三角飛びを発動
フェイント+早業で車内を駆け抜け、クライミング+残像のパルクールで障害物は擦り抜け
発見したメイさんを魔導人形からかばう

礼儀作法+コミュ力で説得を試みます
アルダワ魔法学園で起きた魔王戦争はご存じですか?
この事態は…、残党が起こした災魔テロです

由縁と想いの詰まった大事な機関車だと思います。なるべく、大破させることなく、修理が可能な範囲で事を収めたい
どうか…、貴女の力を貸して下さい

力仕事が必要なら、如何様にも



●十五車両目
 転送された先は蒸気が満ちる線路の上。
 エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は列車が走り去る前に素早く飛び乗り、最後尾の連結部に着地した。
 景色が流れていく様を見遣り、エメラは溜息をひとつ零す。
「それにしても、また商会同盟に戻ってくる事になるとは思っていなかったわよ」
 思い返すのは此処で過ごした数年間のこと。
 エメラは魔導と蒸気の技術を学んできた。学び以外にもこの地域ではたくさんの出来事があり、良いことも悪いことも経験してきた。
 懐かしいという気持ちが浮かぶが、今は過去に浸っている時間はない。エメラが前方車両を見据えると、異様な気配が伝わってきた。
 探求のオルガノンと呼ばれるオブリビオンによって、幻星号は蒸気獣もどきになっている。車体から生える金属の腕のようなものが蠢いている様を見遣り、エメラは魔導蒸気重装兵を召喚した。
 ――突き進め我が不屈の兵よ。
「思い出の地だもの、ここで暴れる事は許さないわよ」
 魔導蒸気猟犬に騎乗したエメラは一気に列車内に飛び込んだ。商会同盟への思いも勿論あるが、魔導蒸気の技術者としてオルガノンの跋扈を許しておくわけにもいかない。
 エメラは車掌室を抜けた先にある最後尾の車両を見渡す。
 其処には異変にまだ気付いていない人々がちらほらと見えた。
 幸いにも、まだ魔導人形はこの車両には到達していないようだ。重装兵を集団戦術で運用していくエメラは、乗客達に必要以上の不安を与えないようにしながら、いざという時は確りと守る気概を抱く。
 静かな制圧、そして前進。
 慎重に索敵を行いながら、エメラは技術者たるメイを探していく。

●十四車両目
 一方、その頃。
 大きく地を蹴り、蒸気が満ちる線路から列車に跳躍した影があった。
「さて、と」
 それは大柄な体躯の青年――戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)だ。確りとした身のこなしで蒸気機関車の連結部分に飛び乗った彼は、後方車両に目を向けた。
 猟兵の気配が感じられ、此処から後ろは何も被害が起きていないと察する。
 そして、先ず探すべき技師も後ろにはいないと考えた蔵乃祐は視線を前に向けた。轟々と響く列車の音に混じって、金属的な何かが蠢く音が聞こえる。
 少し上を見遣ると、蒸気獣もどきと化した列車に奇妙な金属腕が生えていた。やはり聞いていた通り、屋根を伝って一直線とはいかないのだろう。
 この暴走も列車自体をどうにかすれば止まる。されどこの件は幾ら世界知識があろうともどうにもならない。
「餅は餅屋。魔導工学は魔導工学者に任せた方が良いですね」
 蔵乃祐は技師のメイを探すことが先決だとして、前方車両へと踏み出した。
 扉を開けると何人かの乗客が振り向く。
 静かに扉を締めた蔵乃祐が後方から移動してきたただの客だと思ったらしく、人々はすぐに本を読んだり、目を閉じたりして蔵乃祐から視線を外した。
「何だか変な音がするね」
「どこか錆びてるんじゃない?」
 乗客の一部からそんな話し声が聞こえる。車体から機械獣の腕が生えている音だとは伝えず、蔵乃祐はメイを保護すべく歩を進めていった。
 後方車両の乗客は異変に気が付いていないが、おそらく技師の少女はこのおかしな状況を察しているだろう。
 蔵乃祐は聞き耳を立て、通常とは違う動きをしている人物を探す。
 息を殺して身を隠しているのか、それとも異変を抑えようと奔走しているのか。ガジェッティアのメイの気配を探ると――。

●発見
「おかしい……あの子達がこんな風に動くなんて……」
 十三車両目にて、ガジェッティアのメイは焦りを覚えていた。食堂車にしか配置していない魔導人形が後方車両に移動するという、おかしな動きをしている。
 しかし、乗務員でそのことに気付いているのは自分だけ。
「何か嫌な予感が――」
 メイが魔導人形の様子を確かめようとして、そちらに近付いたとき。
 人形が腕を振りあげ、技師の少女へと殴りかかろうとした。きゃあ、という悲鳴が上がった瞬間、ふたつの影がメイの前に立ち塞がる。
「下がって!」
 重装兵と共に人形の攻撃を受け止めたのは、猟犬に乗ったエメラ。そして、メイを庇う形で腕を広げているのは蔵乃祐だ。
 エメラは騎乗する猟犬の疾駆で、蔵乃祐はパルクールを用いた素早い移動で以て駆けつけた。二人共、後方に異常がないと確かめた後すぐに十三号車に飛んできたのだ。
「お怪我はありませんか?」
「え、ええ……。でも、今のは?」
 蔵乃祐が問いかけると、メイは頷きながらも魔導人形に目を向ける。攻撃されたことが信じられないようだ。
「暴走しているようね。私も魔導蒸気技術者の一人だから分かるわ。あなたほどでは無いだろうけど……少しくらいは抑えてみせる」
 今のうちに彼女に説明を、と蔵乃祐に告げたエメラは猟犬に素早く動くよう願って人形の殴打を避ける。
 彼女は同時に重装兵を敵の手先となった人形に突撃させた。
 蔵乃祐はメイに向き直り、事態を把握させるために先ずは確認をしていく。
「アルダワ魔法学園で起きた魔王戦争はご存じですか?」
「知っている、けれど……」
「それなら話が早いです。この事態は……残党が起こした災魔テロです」
「そんな!」
 驚いたメイは信じられない、といった様子だったが、安全なはずの魔導人形が妙な行動を起こしたことで納得したようだ。
 蔵乃祐は頭上を示し、見えない箇所は既に蒸気獣と化しているのだと伝えた。
「由縁と想いの詰まった大事な機関車だと思います。なるべく、大破させることなく、修理が可能な範囲で事を収めたいと思っています」
「お爺さまの幻星号が……」
「どうか……、貴女の力を貸して下さい」
 メイはショックを受けているようだったが、蔵乃祐は切実に願う。力仕事が必要なら如何様にも、と告げた彼の視線は真っ直ぐだった。
 するとメイは確りと頷く。
「わかった。お客様に危険が及ぶなら、私の腕の見せ所だよ!」
「こっちの人形は伸しておいたわ。それで、お手伝いはどうすればいいのかしら」
 その頃にはエメラと魔導蒸気重装兵が暴走人形を倒しており、自分達もメイに協力することを告げた。
 対するメイは前方を指差す。
「私を十号車の食堂車に連れて行って。其処に乗務員しか使えない緊急用指令用の魔導パネルがあるから、何とかしてみせるわ!」
 それを操作すれば魔導人形を一気に止められるかもしれない。そう語ったメイの言葉を聞き、蔵乃祐とエメラは絶対に送り届けると誓った。
「進みましょう」
「あまり時間をかけたくないわ、手早く行きましょう」
 二人がメイを先導しようとした、次の瞬間。
「誰か、誰か来て!」
「何よこれ、どうなっているの!?」
 前の車両から乗客があげる混乱の声が響いてきた。此処までは比較的安全だったが、そちらでは人々に危機が迫っているようだ。
 即座に視線を交わしあった一行は駆け出す。
 幻星号が蒸気の殺戮に飲まれぬように、早く、速く、疾く――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桐生・零那
神の作りたもうた星の光の再現……どの世界でも神の御業は模倣されるのね。
了解。偽りの星の光に惹かれたゴミ共を駆除しに行くとしましょう。

はぁ……一般人の保護も任務の内、と。仕方ない。
≪世界は色を失った≫
アグレアプト、代償の分しっかり働きなさい。
乗客に襲い掛かる魔導人形を優先的に不可視の鎖で束縛していく。
近寄る敵は二刀で切り伏せれば十分対処可能でしょう。

アグレアプトとの契約の代償、世界の半分右目が映す世界から色が失われていく。
煌びやかな星の光の美しさも半減。
けど、一向にかまわない。神敵であるオブリビオンを殲滅できるのなら、私の見る世界なんて、いくらでもくれてやる。


シャルロット・クリスティア
こうして仕事で学園外に赴くことになるとは思いもよりませんでしたが……。
オブリビオンも、だんだんとやることが派手になってきているようで……!

アンカーショットを後方車両に打ち込んで飛び移りつつ、私は先行して敵の排除に回りましょう。
銃の射程ならそうそう後手にも回らない。
夜空の下での戦闘のような錯覚もありますが、所詮は車内です。跳ね返す場所には事欠かない。
遮蔽は多い閉所ですが、私の視力なら遮蔽や境界線を見極めることは出来る。
跳弾も駆使して、乗客には当てずに正確に魔導人形を撃ち抜いてみせましょう。
なに、根本的な解決が叶うまでは抑え込んで見せますよ。



●十三号車内部 ⇔ 代償と守護
 星が映し出された蒸気機関車は走り続ける。
 夜行列車である幻星号は本来ならば静かに運行するはずなのだが、車内には悲鳴が響き渡り、混乱と騒乱に満ちていた。
「これが、神の作りたもうた星の光の再現……」
 桐生・零那(魔を以て魔を祓う者・f30545)は転送先である後方車両を進み、壁や天井に映し出された星々の光を見つめた。
 どの世界でも神の御業は模倣され、こうして美しく輝いている。時間さえあれば眺めていたいところだが、此度は観光目的で訪れたのではない。
「うわああ、人形が!?」
「ひっ……誰か助けて!」
 前方車両から聞こえた悲鳴を聞きつけ、零那は駆け出す。助けてという声を聞いたのならば、それに応えるのが今の自分の役目だ。
「了解。偽りの星の光に惹かれたゴミ共を駆除しに行くとしましょう」
 十五車両目から素早く移動して、一気に十三号車へ。
 其処には食堂車から訪れたであろう魔導人形が蔓延っており、その一体が乗客の首を締め上げながら片手で持ち上げていた。
 やめて、やめて、とその男の連れであろう女性が人形に縋って泣き叫んでいる。
「はぁ……一般人の保護も任務の内、と。仕方ない」
 零那は軽く肩を竦め、知の悪魔『アグレアプト』との契約を実行していく。刹那、ユーベルコードの発動と同時に無色透明の束縛の鎖が顕現した。
「アグレアプト、代償の分しっかり働きなさい」
 零那が紡いだ言葉に呼応する形で鎖が迸る。人形に不可視の鎖が絡みついた瞬間、掴み上げられていた男が解放された。
「げほっ……」
「ああ、アナタ! 良かった、本当に良かった……!」
 女性は男性に駆け寄り、零那に礼を告げる。下がって、と彼女達に告げた零那は腕を伸ばした。座席の合間を掻い潜って広がった鎖は瞬く間に広がっていく。
「後ろの車両は安全だから、動ける人はそっちへ」
 鎖は別に乗客に襲い掛かる魔導人形を優先的に狙い、これ以上は攻撃ができないように束縛していった。鎖をすり抜けて襲いかかってきた人形もいたが、零那は素早く影無と神威を振るうことで接近を阻む。
 その間に乗客達は零那の言う通りに後方に逃げていった。
 彼らの無事を確かめた零那は片目を押さえる。
 アグレアプトとの契約の代償として、世界の半分――右目が映す世界から色が失われていた。壁に映る煌びやかな星の光の美しさも先程より色褪せている。
 けれど、一向に構わなかった。
 これくらいで神敵であるオブリビオンを殲滅できるのなら、と零那が考えた瞬間。
 硝子の割れる音が響き渡る。
 車両の窓が外から蹴破られ、魔導人形が飛び込んできたのだ。そっちから来たのね、とちいさく言葉にした零那は更なる鎖を巡らせる。
 きっと自分の役目は、この車両から後ろに敵を行かせないことだ。
「いいわ。私の見る世界なんて、いくらでもくれてやる」
 だからアグレアプト、私に力を。
 そして――色を失う世界の代わりに、不可視の鎖が鋭く巡っていく。

●十三号車外部 ⇔ 撃墜
 濛々と蒸気を噴き出しながら走る列車。
 その後方、十三号車にあたる車両にアンカーショットが打ち込まれた。夜の最中に鋭く疾走った一閃は、星明かりを受けて鈍く光る。
 直後、小柄な少女が蒸気機関車の連結部に降り立った。
 ふっと息を吐いてアンカーを巻き取ったシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は流れていく景色を見遣る。
「こうして仕事で学園外に赴くことになるとは思いもよりませんでしたが……」
 続けてシャルロットは前方に目を向けた。
 黒い車体から伸びた金属の腕。それらが夜に絡みつくように蠢いている。汽車自体が蒸気獣もどきと化しているということなのだろう。
 それを行ったのは災魔の卵を埋め込んだオブリビオン。
 探求のオルガノンと呼ばれる存在だ。
「オブリビオンも、だんだんとやることが派手になってきているようで……!」
 シャルロットは連結部から見える前方車両の様子を確かめる。聞いていた通りに屋根側から首魁の元に向かうのは難しそうだ。
 それゆえに猟兵は車両内から進んでいくしかないのだが――。
「あれは……?」
 疾走する機関車。煙突から噴き出す蒸気の靄に混じって何かの影が見えた。
 目を凝らすと、この騒動の影響で暴走した魔導人形が屋根を伝って後方に移動してきていることが分かった。
 そして、続いて十三号車の中央辺りから窓を割る音が聞こえた。
 おそらく人形が内部に侵入したのだ。幸いにも車内には別の猟兵が居て、避難指示を行っているようだ。
 ならば自分のやることは――。
 己がすべき行動を察したシャルロットは銃を構えた。
 他に猟兵がいるとはいえ、このままでは屋根を走ってくる魔導人形が後方に移動してしまい、逃げた乗客を襲ってしまう。
「給仕のための人形さん達が人を傷付ける……そんなことはさせません!」
 シャルロットは決意を抱き、銃爪を引く。
 ――災厄の檻。
 狙いを付けたのは無論、屋根から移動してくる魔導人形達だ。
 銃弾を解き放つシャルロットは次々と標的を撃ち貫いていく。銃の射程ならそうそう後手にも回らないだろう。
 それにきっと騒動の根本を止められるのは技師の少女だ。
 他の仲間が技師を探して手を打ってくれていると信じ、シャルロットは人形の動きを止める攻撃に専念していく。
 車内に揺らめく星空の景色。そして、蒸気に覆われた夜空の下。
 人形達が厄災となるならば、シャルロットは銃撃で以てそれらを檻に閉じ込めていくだけ。連結部という場所柄、遮蔽は多い。
 されど自分の視力ならばある程度の境界線を見極められる。
「これより後ろの車両には行かせません」
 そして、シャルロットは更に銃爪を引き続けた。
 時には跳弾も駆使して、正確無比に魔導人形を撃ち抜いていく。そんな彼女は線路と夜空、蒸気の煙の流れを確かめた。
「なに、根本的な解決が叶うまでは抑え込んで見せますよ」
 それまでは此処で――この十三号車から後ろを守り、敵を防ぎ続ける。
 シャルロットの眼差しは真っ直ぐに、星を宿す列車が辿る未来を見据えていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
俺、学園からあんまり出たことなかったから
実は初めて乗るのだ…!
むむ、楽しく乗れたらよかったな…

屋根上のハッチからくるんとアクロバティックに着地
メイや乗客の元に押し寄せてくる人形たちの足元を【範囲攻撃】で凍らせて動きを止める
道は一方通行だから容易に凍らせられる筈

俺は足止めや気を引きつける役目に集中
この線からは一歩も入らせないぞ
床を凍らせ、素早く滑りながら敵の視線を引いて、【先制攻撃】の斬撃を繰り出す

メイや他の人が人形たちを止めたり壊してくれるのなら
【範囲攻撃】を載せた『風神の溜息』で周囲の人形たちを一気に凍らせてやる!

人形を利用するだけ利用して
大勢の人を巻き込もうとするなんて
猟書家、卑怯な奴だ!


キトリ・フローエ
すごいわ、乗り物の中に星空が広がっているのね
こんなに綺麗な乗り物を災魔に変えてしまうなんて
ひどいことをする子がいたものね
あたし達の力で絶対、元に戻してみせるんだから

メイとの接触は皆に任せて魔導人形を蹴散らしにいくわ
といっても、メイが何とかしてくれるまでの時間稼ぎのつもりで
無理のない範囲で頑張るわね
あたしは小さいから結構目立たないはずだし
星空に紛れて身を隠しつつ(迷彩)
動く気配があれば狙いを定めて夢幻の花吹雪を
複数いるなら範囲攻撃で巻き込んで
高速詠唱を重ねて少しでも長く動きを止めるわ
そうすれば乗客の人たちが逃げる時間も稼げるはずよ
もし近くにメイがいたら守ることを最優先に
全力で人形達を遠ざけるわね



●十二号車内部
 深い夜の狭間で翅の煌めきが輝いた。
 機関車の元へ参じたのは二人分の影。片方は蒸気交じりの風を受け、微かに空いた窓から飛び込んだキトリ・フローエ(星導・f02354)。
 もう片方は転送された直後に地を蹴り、屋根の上に着地したヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)だ。
 商会同盟を出発した汽車は徐々にスピードを上げていく。
「おお、これが蒸気機関車か」
 ヴァーリャは学園からあまり出たことがなく、列車に乗るのは初めてだ。流れていく景色を興味深く屋根から見ていると――。
 其処に奇妙なものが迫ってきた。
「むむ、まずいのだ!」
 蠢く金属製の獣腕がヴァーリャを狙って動いている。
 それは幻星号の車体から生えているようだ。このままではあれに穿たれると察した少女は咄嗟にハッチの取っ手を掴み、一気に引き上げた。そのまま身体を華麗に捻り、車内に降り立ったヴァーリャはくるりと回転しながら着地した。
「あら、大丈夫?」
「わ……っ、おっと!」
 ちょうど其処に居たのは、先んじて窓から車内に入ったキトリだ。
 二人は偶然にも同じ十二車両目に入ることになり、こうして邂逅した。機械腕が蠢く外の様子はキトリも気になっていたらしく、ヴァーリャが蒸気獣の腕から逃れてきたことで安堵している。
 ヴァーリャの周りをふわりと飛んだキトリは、車両内の壁と天井を示す。
「見て、すごいのよ。乗り物中に星空が広がっていて、とても綺麗!」
「アルダワ迷宮にもあった星のフロアみたいだな!」
 キトリが指を差した方にヴァーリャが目を向ける。其処には煌めく星図が淡く光っていた。この十二号車には元より人があまり乗っていなかったようで、まるで貸し切りのプラネタリウムのようだ。
「でも、こんなに綺麗な乗り物を奇妙な災魔に変えてしまうなんて、ひどいことをする子がいたものね」
「楽しい汽車の旅をめちゃくちゃにするのはいけないな」
「あたし達の力で絶対、元に戻してみせるんだから」
「うむ!」
 頷きあったキトリとヴァーリャ。二人の眸には輝き続ける幻星のひかりが映っており、その奥には真剣な色が宿っていく。
 そうして、二人が前方車両に向かおうとしたそのとき。
「助けて!」
「うわああ! 来るな、人形!」
 十一号車側の扉が開き、其処から乗客が何人か駆けてきた。はっとしたヴァーリャとキトリは彼らが暴走した魔導人形に追われているのだと気付く。
「皆はこの後ろの車両に!」
「後はあたし達にまかせて。向こうにも仲間がいるはずだから!」
 ヴァーリャは床を蹴り、座席を飛び越えることで乗客と人形の間に割り入った。キトリも翅を羽撃かせて人々の合間を縫うように飛び、後方車両を示していく。
 敵の気配は前方より後方のほうが薄い。
 それに後方車両を守ってくれている猟兵がいるということも感覚で分かった。逃げていく乗客を背にした二人はしかと身構える。
「一、二、三……五体か! 俺達はここで人形を食い止めるぞ!」
「ええ! 技師の子は他の皆にお願いしましょう」
 ヴァーリャは魔導人形を迎え撃ち、振り上げられた拳を避ける為に素早く後退した。空を切る拳が下ろされた瞬間、ヴァーリャは風神の溜息を巡らせる。
 刹那、絶対零度の吐息が広がった。
 瞬く間に床が凍りついたことで、この場はヴァーリャの独擅場になっていく。
 対応しきれなかった魔導人形が滑ったことを察したキトリはくすりと笑む。宙を飛ぶキトリと、足場をスケート場に変えるヴァーリャの相性は実に良かった。
 それにキトリはフェアリーであるゆえに座席の影や星照明の下に隠れやすい。
(――今のうちに!)
 キトリは即座に投影星空の中に紛れた。そして、人形に向けて花蔦の杖を向けたキトリは夢幻の花吹雪を広げてゆく。
 そうすれば光り輝く花弁が次々と魔導人形を穿っていった。
 対する人形は術者を探すように動きはじめたが、ヴァーリャがそうはさせない。
「お前の相手はこっちなのだ!」
 覚悟しろ、と告げた彼女は素早く滑りながら敵の視線を引き付け、スノードームの剣をひといきに振るった。
 斬撃が人形を斬り裂いていく中、キトリも花を散らしていく。
「やってしまいましょう」
「そうだな、一気に凍らせてやる!」
 キトリの呼びかけにヴァーリャが答え、星と花と氷の共演が披露されていった。
 風神の巡りと夢幻の花。
 重なりあった二人の力は魔導人形達を見事に止めた。だが、気配はまだ消えていない。屋根から何か来ていると察したキトリは、ヴァーリャを呼ぶ。
「気を付けて、さっきのハッチから変な音がするわ」
「うわわっ!? 新手が来たのか!」
 人形が屋根を伝って十二号車に訪れたのだろう。先程にヴァーリャが飛び込んできたハッチが空き、其処から敵が飛び込んできた。
 しかし、それだけではない。
「すみません、道を開けてください!」
 なんと後方車両側の扉がひらき、猟兵と技師らしき少女が駆けてきたではないか。
「ごめんね! 十号車にいけば人形を止められるはずなの!」
 猟兵に守られながら声を掛けてきた少女こそがガジェッティアのメイだ。すぐに状況を理解したヴァーリャとキトリは彼女に危害が及ばぬよう、魔導人形の行く手を阻んだ。
「わかったのだ、俺達が抑えている間に早く!」
「この車両はあたし達が担当するわ。だから気にせず行って」
「ありがとう、猟兵さん!」
 二人の間を通り抜けたメイ達は急いで走っていく。この先にも敵がいるだろうが、そちらは別の仲間に任せられるだろう。
 敵は列車の上からも訪れるため、未だ気は抜けない。
 しかもメイにとって魔導人形は大切な乗務員仲間でもあるはず。ヴァーリャは鋭い一閃で以て人形の動きを止めながら、この騒動を巻き起こしたオブリビオンを思う。
「人形を利用するだけ利用して、大勢の人を巻き込もうとするなんて……猟書家オルガノンは卑怯な奴だ!」
「きっと人のことなんて何とも思っていないのね」
 ヴァーリャの憤りに同意を示したキトリも、花を幾重も舞わせることで魔導人形を倒していく。完全に壊したわけではないので事が収まれば修理できるだろう。
 二人が敵を引き付けて時間を稼いだお陰で乗客も安全な車両に逃げられた。だが、まだ敵襲はあるとみて間違いない。
「敵の気配が消えるまで、この車両を守りましょう」
「二人一緒なら心強いし百人力だな!」
「ええ、その通りよ。頑張りましょうね!」
 星が揺らめく汽車内で少女達は明るい笑みを交わす。蒸気獣擬きと化した機関車の最中、映し出された星だけは変わらぬ美しさのまま煌めいていた。
 そして、列車は蒸気を噴き出しながら線路上を走り続け――刻と戦いが巡り之く。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朝日奈・祈里
ぼくの大好きなアルダワで暴れるとか
運が無いな
アルダワはぼくさまが守る!

アストライオス!ガジェッティアの少女を探せ!
足環に付けた魔導水晶で居場所はすぐ分かるからな
見つけたらおっきく鳴けよ!

魔導人形を相手取り、その原動力にルーンソードを突き立てる
来い、レム!
猟兵の目を灼かず、あいつらだけな!
仄暗い場所に居るんだ。閃光はよく効くだろう

ガジェッティアの少女よ
見ての通り大惨事だ
キミはあの人形の止め方を知っているのだろう?
キミとアルダワはぼくが守る
人形を止めてくれ!
……壊してしまうのは簡単だ
でも、それは違うだろう?
キミはキミにしか出来ないことをやってくれ!


ベイメリア・ミハイロフ
魔導人形から乗客の方々を避難させつつ、前へ前へと進みたく存じます
魔導人形の攻撃が乗客の方に向かうようであれば
オーラ防御・激痛耐性を活用しつつ身を挺して庇い
あわよくばカウンターを仕掛けます

後ろの方の車両の魔導人形を片付け制圧を致しましたら
皆さま、どうか後ろの車両へご退避を、と皆さまにお願いを
自身は前へと進みながら、確実に魔導人形のいる車両の数を減らして参りたく

折角の星空、このような時でなければ
もっと楽しむ事ができましたでしょうに
残念に思いつつも、今はその星空に導かれるようにしながら
花びらを散らして進みたく存じます
攻撃は早業・高速詠唱からの2回攻撃も狙って
魔導人形の数を一度でより多く減らすように



●十一号車にて
 夜を走る蒸気機関車に飛び乗り、車両内を駆ける。
 蒸気獣擬きと化した列車内。その影響によって魔導人形達が暴れ出した。
 敵の気配の多くが前方車両から感じられると察したベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)と朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は先を急いでいた。
「確か、オルガノンでしたか」
 この騒動を巻き起こしたオブリビオンの名を確かめたベイメリアに、そうだ、と答えた祈里はこくこくと頷く。
「ぼくの大好きなアルダワで暴れるとか、運が無いな」
「この事件、必ず無事に解決しましょう」
「おう。アルダワはぼくさまが守る!」
 祈里とベイメリアは視線を交わしあい、最後尾の十五号車から前進していった。十四、十三、と来て十二号車を通り抜ける。
 どうやら魔導人形は屋根からも伝って来るらしく、それぞれの車両に数名の猟兵が残って守護するという流れになっているようだ。
 ならば自分達も前へ進み、まだ避難や配置が済んでいない場所に向かうべきだろう。
 本当ならプラネタリウムめいた車内の光景を楽しみたいものだが、今は横目に見遣るだけで留めるしかない。
 そして、十一号車に辿り着いたベイメリア達は座席の裏にいる少年を見つける。どうやら暴れる人形から身を隠していたようだ。
「うう……何が起こっているの?」
「大丈夫でしたか? 怖かったでしょう」
 ベイメリアは少年に手を伸ばし、後方車両への避難を勧めていく。その間に祈里は前方から訪れた魔導人形を相手取っていった。
 携えた剣を抜いた祈里は素早く人形の構造を確かめ、一気に刃を振るう。
「来い、レム!」
 原動力であろう胸のコアを貫いた少女は精霊を呼んだ。魔導機械とはいえ、仄暗い場所に居るのならば閃光はよく効くだろう。
 敵にだけ眩い一閃を見舞った祈里。其処に合わせてベイメリアが援護に入る。
「お見事ですね。ですが、新手がいらっしゃったようです」
 身構えたベイメリアの視線の先には、言葉通りの新たな敵が現れていた。ベイメリアは即座に深紅の薔薇を舞わせることで敵の目を眩ませる。
 そうして、ベイメリアは息を潜めて隠れている乗客に声を掛けていく。
「皆さま、どうか後ろの車両へご退避を」
「ありがとう、助かったよ」
「あなた、坊や、行きましょう!」
 車内が暗いことが不幸中の幸いだったらしく、異変を察して身を潜めていた乗客が多かった。彼らが無事に車両から出たことを確かめ、ベイメリアと祈里は自らの身で魔導人形の行く手を塞いだ。
 そして、祈里は連れている白梟に願う。
「アストライオス! ガジェッティアの少女を探せ!」
 すると白梟は座席の合間を抜け、天井近くを飛ぶことで敵の頭上を抜けていく。足環に付けた魔導水晶で居場所はすぐに分かるはず。
「良い案ですね」
「見つけたらおっきく鳴けよ!」
 飛んでいくアストライオスを見送った二人は、周囲の気配を探る。
 ベイメリアと祈里はこのまま十一車両目を守ることになりそうだ。そのとき、不意に天井から何かが駆けてくる音が聞こえた。
 はたとして上を見上げた先には美しい星図模様が投影されている。
「折角の星空、このような時でなければもっと楽しむ事ができましたでしょうに」
「勿体ないが仕方ない。あのハッチから来るぞ!」
 ベイメリアが残念だと頭を振る中、祈里は次の敵が天井から訪れると悟った。まるで星に導かれるような敵の登場だ。
「星の光に誘われたのは貴方達だけではありません。星空に還して差し上げましょう」
 ベイメリアは素早く身構え、花弁で以て人形を迎え撃った。
 相手の攻撃は単純な殴打のみ。
 小柄な体躯を利用して魔導人形の足元を擦り抜けた祈里は、響き渡るアストライオスの鳴き声を耳にした。
「見つかったか! それならこいつを片付けるぞ」
「はい、合わせて参りましょう」
 祈里の剣が振るわれ、ベイメリアの放つ深紅の花が舞った。それによって魔導人形は倒れて動かなくなる。
 そして、白梟の足環と対になっている魔導水晶が光り輝いた。
『何? フクロウさん、これに喋ればいいの?』
 其処から少女の通信音声が聞こえはじめる。それがガジェッティアであるメイの声だと察した祈里とベイメリアは彼女に呼びかけた。
「ガジェッティアの少女よ、見ての通り大惨事だ」
「ご無事でしょうか。お怪我などはしていらっしゃいませんか?」
『ええ! 怪我もしていないし、今は猟兵さんに守ってもらっているところ!』
 元気な声が返ってきたのでベイメリア達は安堵する。祈里も良かったと話し、現状の確認と十一号車の状況を伝えていった。
「キミはあの人形の止め方を知っているのだろう?」
『そうよ! 十号車……君達の隣で絶賛作業中!』
「分かった。邪魔してすまないな。だが、キミとアルダワはぼくが守る。そっちには絶対に暴走人形は通さないから、事態を止めてくれ!」
 壊してしまうのは簡単だ。
 しかし、祈里もベイメリアもそれは違うと知っている。現に彼女達は人形を完膚なきまでに破壊はせず、動きを止めるだけに留めていた。
『わかったわ。他の車両の様子も気になってたから良かった!』
「どうかお気を付けて。この車両は私達が絶対に守りきります」
 通信越しにもメイの心強さが感じられ、ベイメリアは確りと宣言する。するとメイが何かパネルを懸命に操作している音が聞こえ、続けて質問が飛んできた。
『もうちょっとで出来そう! ところで、あなた達の名前は?』
「はい、ベイメリアと申します」
「ぼくさまは天才魔法使いの祈里ちゃんだ。どうして名前を?」
『そりゃあ知っておかないと! だってこの機関車を救ってくれるヒーローだもの。お願いね、ベイメリアさん! 天才の祈里ちゃん!』
 そんなやりとりが交わされる中、十一号車の天井からまた新たな魔導人形が入り込んできた。ベイメリアが危険を呼びかけ、通信を止めた方が良いと告げる。
 首肯した祈里はこれが最後の言葉になると向こうに伝え、互いの武運を願った。
「それじゃあな。キミはキミにしか出来ないことをやってくれ!」
「私達は私達に出来ることをやりますから……!」
 ベイメリアも隣の車両で頑張る少女を思い、自分達の決意を言葉にする。
 星の列車に花が舞い、眩い光を反射した剣が躍った。
 そうして、巡りゆく戦いの中で蒸気列車は走り続けていく。風に棚引く深い煙を吐き出しながら、轟々と――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィオレッタ・フルリール
アルダワ世界……私の故郷も機械がいっぱいですけど、こちらの世界の機械はなんだか、優しい輝きがありますわね
(きょろきょろと車両内を見回す。なんだかおのぼりさんみたいだ)
落ち着いて。落ち着くのよヴィオレッタ
世界は違っても、お母様が教えたことを思い出して

きっとメイ様にはどなたかもう接触しているでしょうから、私は乗客の皆様の安全確保に尽くしますわ!
私の操る、花のカタチの砲台や飛翔弾達で、暴れる魔導人形を食い止めます
全力の砲撃は列車を壊しかねないから、出力は最小から。周囲を見ながら調整していきます
花達は小さいながらも物理的な壁にもできますわ。壊れても直せますもの!
でも、人の命は壊れたら直りませんのよ!



●十一号車内部
 蒸気が満ちる世界、アルダワ。
 夜空の下で線路上を疾走する機関車。その最後尾に飛び乗って振り返り、流れていく景色を見遣る。この列車が停車していた駅のホームは見えなくなっており、魔導機械がひしめく光景が彼方に遠ざかっていた。
 ヴィオレッタ・フルリール(蛍石・f29984)は、風に靡く髪を押さえる。
 暗い夜の最中に黒い煙が解け消えていく光景は何だか不思議だ。
「私の故郷も機械がいっぱいですけど、こちらの世界の機械はなんだか、優しい輝きがありますわね」
 蒸気機関車内に向き直り、ヴィオレッタは中へと進んだ。
 最後尾だった車掌室を抜けて客席へと急ぐ。その壁や天井には魔導機械で投影された星々の輝きが煌めいていた。
 きょろきょろと車両内を見回すヴィオレッタは、何だか自分がおのぼりさんみたいだと感じている。しかし、それでは駄目だとして気を取り直した。
(落ち着いて。落ち着くのよヴィオレッタ)
 後方車両は比較的落ち着いており、未だ危険はない。だが、前方からは戦いの音が響き、避難してきたであろう乗客が次々と訪れている。
 あの先に敵がいる。
 しかも蒸気獣や操られた魔導人形という、ヴィオレッタにとっては何とも得体の知れない相手だ。
「――大丈夫」
 世界は違っても、お母様が教えたことを思い出して。
 自分に言い聞かせたヴィオレッタは蛍石を思わせる瞳を真っ直ぐに前に向けた。
 そして、一気に駆け出す。
 十四、十三、十二号車と車両を遡るように走れば、倒れて動かなくなった魔導人形があった。きっと先に到着した猟兵仲間の活躍の跡だろう。
 それならば、きっと技師であるメイにはもう誰かが接触しているはずだ。無理に少女を探す必要はないと悟り、ヴィオレッタは進む。
「私は乗客の皆様の安全確保に尽くせばいいのですわね!」
 そして、辿り着いた十一号車にて。
 其処では前方や屋根のハッチから訪れる魔導人形を相手取る猟兵達がいた。更には座席の影には逃げ遅れたらしい乗客がいる。
「お怪我はございませんか?」
「は、はい……。でもここから出たら襲われる気がして……」
「もう平気ですわ。私が人形を止めますから、今のうちにあの扉の向こうへ!」
「わかりました……!」
 すみません、と告げた女性客はヴィオレッタの背に隠れながら避難していく。その間に彼女は無線浮遊砲台を配置していった。
「アネモーヌ、フリジア、ジャンシアヌは天井を警戒して。ローズとグリシン、ピヴォワンヌは――今よ、一斉掃射!」
 司令塔たるヴィオレッタの指示のもとに、紫花の形をした飛翔弾達が迫り来る魔導人形に向かっていく。
 この場で暴れる魔導人形を食い止める。
 それが自分の果たす役目なのだとして、ヴィオレッタは次々と砲撃を放った。
 無論、列車を壊しかねないほどの威力にはしていない。逐一出力を調整するヴィオレッタは、それと同時に花達を壁として展開していった。
 これでもう車内から後方車両に魔導人形が進むことはないはずだ。
「人形や砲台は壊れても直せますわ。でも、人の命は壊れたら直りませんのよ!」
 だから絶対に誰も傷つけさせない。
 ヴィオレッタの思いは強く、花はその意志に応えるように華麗に飛翔してゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、何とか列車に乗ることができましたが、私たちはどうしましょうか?
一応私もガジェッティアではありますが、アヒルさんやガジェットショータイムが使えるだけで構造とか詳しくないんですよ。
でも、私にもできることはあるはずです。

そうです、お菓子の魔法で魔導人形さんの動きを遅くすれば、みなさんのお役に立てるはずです。
お菓子の魔法はお菓子を楽しんでいないといけないので魔導人形さんに襲われている乗客の方も動きが遅くなってしまいますから、避難には不向きですが襲ってくる魔導人形さんに何か仕掛けるのでしたら効果があると思います。



●十号車連結部
 夜の最中を疾走する機関車は濛々と煙を吐いていく。
 けほ、と軽く咳をしたフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は現在、十一号車と十号車を繋ぐ連結部分に掴まっていた。
「ふええ、何とか列車に乗ることができました……」
 転送された先は線路の脇だった。
 あっという間に走っていく機関車を追いかけたフリルはやっとのことで此処に辿り着いた。それはもう、命からがらと語っても良いくらいの物凄い列車追走撃があったのだが、それを知るのはフリルとアヒルさんだけ。
 深い息を吐いた少女は目を細め、蒸気の向こう側を見つめた。
「ふぇ……機械の腕がうねうねしています。アヒルさん、私たちはどうしましょうか?」
 見遣った先には蒸気獣もどきと化した機関車から、奇妙な腕が何本も生えている光景があった。フリルとて一応はガジェッティアではあるが、あれらをどうにかするほどの知識は持っていない。
 アヒルさんと共に行動していたり、運と状況任せのガジェットショータイムが使えるだけで、列車構造や魔導人形には詳しくはないと自分でも分かっている。
 それでも、とフリルは前方車両を見据えた。
「私にもできることはあるはずです」
 するとアヒルさんが勿論だと云うように反応する。フリルは何をするのが最善かと考えていき、或ることを思いついた。
「そうです、お菓子の魔法で魔導人形さんの動きを遅くすれば……ふぇ!?」
 他の猟兵の援護をしようと決めたフリルが、車内に踏み込もうとしたそのとき――頭上に幾つもの影が走っていった。
 それは屋根を伝って後方車両に向かう魔導人形だ。
 蒸気獣に同調しており、暴走しているそれらは屋根を走っていけるようだ。後ろには行かせないと決め、フリルは手にしたお菓子に魔力を紡ぐ。
 時を盗むお菓子の魔法――ブレイクタイム。
「あ、あの、お菓子を作ってきたんです。よかったら、おひとつどうぞ」
 人形へと声をかけるフリルだが、当然無視される。
 しかし今はそれでいい。
 フリルが趣味で作ってきたお菓子を楽しまない存在は動きが遅くなってしまう。車内では猟兵や乗客もお菓子を食べなければいけない状況になるが、この連結部分でなら対象を魔導人形だけに絞れる。
「これで、みなさんのお役に立てるはずです」
 少し寂しい気もするが、今はアヒルさんと一緒だ。
 フリルはお菓子を給仕しながら蒸気が登る夜空を見上げた。鈍くなっている人形は狙い通り、上手く動けないでいる。
「このまま、ここで魔導人形さんを足止めします……!」
 そうして全てが無事に終わったら、このお菓子を仲間や乗客に振る舞うのも良い。
 望むのは楽しい未来。
 そんなときが訪れることを切に願い、フリルは自分のやるべきことを行っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

ちっ
蒸気機関車も夜行も初めてだし
折角なら楽しみたかったぜ

一直線なら簡単だな
後方から安全確認終わらせて進めばいい訳だし
で、どうだろ?瑠碧姉さん
どん位の客乗ってんだ?
車掌さんに聞いてみるか
避難もさせやすくなるんじゃね?

車内の様子注意深く確認
座席の裏や陰になる部分、死角まで見る
人形見つければ素早く間合い詰めグラップル
暗殺用い急所狙い一気に倒す

おーさすが
…そうだな
あんま壊さないで済むといいけど

襲われてたり危ない場面見ればダッシュで間合い詰めカウンター
もう大丈夫だ
俺たち確認してきたからそっちに逃げて
安心して星空楽しんでてよ
鼓舞し

あーもう
マジ綺麗なのに
もっと楽しみたかったぜ
一緒にさ

また来れっかな?


泉宮・瑠碧
【月風】
理玖と
避難や守護

夜汽車は
以前に依頼で乗った事はありますが…
星空なのは、初めてです

そうですね…
一直線ですが
私達は後方から
人形達は食堂車から方々へ向かうので
安全確保はしつつ先へ急ぎましょう

まず招致小精で
大半の精霊達は先に真っ直ぐ食堂車の方へ抜けて貰い
乗客は攻撃から護り
魔導人形なら移動を阻害する様に
結界で時間を稼いでいてと

数名は一緒に索敵を願い
闇に慣れた暗視や精霊の囁きと気配察知の第六感で
理玖の補助を

人形の停止には属性攻撃の氷漬けで
なるべく傷付けずに済ませたいけれど…
後でメイにも謝って預けます

星空の車内は
ゆっくり周りを見れたら、良かったのですが
…はい
今度は、楽しみに来れると、良いですね
一緒に



●十号車:食堂車にて
 蒸気を噴き出しながら幻星号は走り続ける。
 後方車両から前方へ。各車両で避難誘導を繰り返しつつ、陽向・理玖(夏疾風・f22773)と泉宮・瑠碧(月白・f04280)は駆けていく。
 その際、理玖は小さく舌打ちをした。
「折角なら楽しみたかったぜ」
 車内の壁や天井には煌めく星や美しい星図が投影されている。
「夜汽車は以前に乗った事はありますが……星空なのは、初めてです」
「俺は蒸気機関車も夜行も初めてだ。けど、これじゃなぁ」
 桜舞う世界で乗った汽車のことを思い返す瑠碧の傍ら、理玖はこの状況を思う。本当は幻の星に手を伸ばしてみたり、楽しんでみたりもしたいが、今はそこかしこから悲鳴が聞こえ、恐怖に怯える気配がしていた。
 理玖は座席の裏に隠れていた少女を見つけ、瑠碧もそっと手を伸ばす。
「もう大丈夫だ」
「後ろの方は、安全です……」
「俺たちが確認してきたから、そっちに逃げて。安心して星空楽しんでてな」
「……うん!」
 そうやって二人は乗客を落ち着かせ、声を掛けてまわっていたので星々の投影をゆっくりと見ることが出来ないでいる。
 やがて、彼らは後方車両が一先ず落ち着いたことを確認した。
「一直線に進むだけなら、前に行くのは簡単だな」
 これまでも誘導と同時に襲い来る人形を倒して直進してきた。理玖が前後を軽く見遣ると、瑠碧がこくりと首肯する。
「そうですね、後方はもう避難場所になっているようですから……」
 十号車より後方は既に他の仲間が配置に付き、魔導人形から乗客を守護している。自ら残ると決めた仲間に感謝を抱きながら、二人は更に進んでいった。
「で、どうだろ瑠碧姉さん。どん位の客乗ってんだっけ?」
「車掌さんは百人くらい、と……」
 理玖の問いに答えた瑠碧は、少し待ってください、と告げてから小さな精霊達を召喚した。精霊達の多くを先に真っ直ぐに食堂車の方へ向かわせ、途中に乗客がいれば攻撃から護るように願った。
 見つけた相手が魔導人形なら移動を阻害し、結界で時間を稼いでいて欲しい。
 そう告げた瑠碧は残った数名の精霊と共に星の闇を見通していった。更には前方の状況を精霊達が囁きで以て告げてくれる。
「ざっと五十は十号車……食堂車より後ろにいるようです」
「それなら数えてきた人数と合うな。あと半分くらいは前の車両か」
 理玖もこれまでに乗客の数を確かめていた。
 精霊の情報と理玖の計算はしかと一致しており、これで間違いないようだ。
「それから、食堂車には技師が到着している……とのことです」
「おーさすが」
 どうやら先にメイを保護した猟兵が彼女を守っているらしい。だが、魔導人形は元より食堂車に配備されていたものだ。
 敵の尖兵となった人形達も激しく抵抗するだろう。頷きあった理玖と瑠碧は食堂車に急ぐ。そうして、其処で魔導人形の相手に専念するべきだと考えた。
 車両を抜け、二人は十号車に飛び込む。
 其処に見えたのは戦う猟兵達と、暴走を止めようとパネルを操作するメイの邪魔をするべく、魔導人形が次々と襲いかかっていく光景だった。
「理玖、あそこに……」
「分かってるぜ、姉さん」
 物陰からゆらりと現れた人形に気付き、二人は即座に其方へ駆けた。
 理玖は瞬時に間合いを詰め、魔導人形に拳を振るう。給仕用の服を着ているが、胸のあたりにコアらしき宝石が見える。
「――そこだ!」
 理玖は既に覚悟を抱いていた。振るった拳と同時に七色に輝く眩い龍のオーラが巡り、魔導人形を一気に吹き飛ばす。
 其処に合わせて瑠碧が氷の魔法を放ち、人形を氷漬けにした。
 此処までの乗客席とは違い、食堂車は見通しがいい。これなら戦いやすいと感じた理玖の傍らで、瑠碧は少しばかり心を痛めているようだった。
「なるべく傷付けずに済ませたいけれど……後でメイにも謝っておかないと、ですね」
「……そうだな。あんま壊さないで済むといい」
 本来なら人形達は給仕をしていただけのものだ。彼らに意志があるかは分からないが、戦いに使われる道具などではないはず。
 それゆえに出来る限りは壊さず、動きを止めるだけに留めたい。
「ってか、何でこんなに数が多いんだ?」
「それは……多分ですが、オルガノンが何かをしている、と……」
「やりたい放題だよな」
 理玖が純粋な疑問を落とすと、瑠碧が予想を声にする。そうでなければこれほどに給仕魔導人形が溢れている理由が付かない。
 その間にも技師のメイが緊急操作パネルを必死に入力している。
「みんな、もう少しだから……あと少し頑張って!!」
 食堂車全体に響く強い声が聞こえた。メイも懸命にやるべきことをしているのだと悟り、理玖と瑠碧は人形達へと視線を向ける。
 その際にも壁には煌めく星が映し出されていた。
「あーもう、マジ綺麗なのに」
「見ている暇が、ありませんね……」
 向かってくる人形から瑠碧を庇い、理玖は反撃の一閃を叩き込む。
 彼が纏う虹の力が星景と混ざり合ってとても綺麗だ。そのように感じてながらも口には出さない瑠碧もまた、じっくりと幻星を眺められないことを残念に思っていた。
「ゆっくり周りを見れたら、良かったのですが」
「本当、もっと楽しみたかったぜ。……一緒にさ」
「……はい。一緒に」
 戦いながらも二人は思いを重ねた。
 床を蹴った理玖が放つ龍神翔の一閃。人形を凍りつかせて動きを止める瑠碧の魔力。ふたつの力が巡る中、理玖はそっと問いかける。
「また来れっかな?」
「今度は、楽しみに来れると、良いですね」
 瑠碧は微かに双眸を細め、彼女なりの「また来たい」という希望を示した。頷いた理玖はここが男の見せ所だと秘かに感じて、次の人形へと一気に踏み込んでいく。
「よし、じゃあ列車を救えたら改めて来ようぜ」
「分かりました。あとで指切り、です」
 二人の間に約束が交わされた。
 それを叶えるためには、先ずは何よりも幻星号を猟書家の手から取り戻さなければならない。瑠碧と理玖は敵を見据え、戦いへの意志を強めた。
 やがて其処に技師の少女の声が響き、汽車内の状況は一気に変わっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

●23:45 ⇔ 新たなる脅威
「……出来た! これで――回路切断!!」
 十号車にあたる食堂車にて、技師・メイの声が大きく響き渡った。
 猟兵に守られ、それまで緊急停止用のパネルを操作していたメイが手を止める。彼女が行っていたのは魔導人形の動力にあたるコアへの魔力循環を停止する操作だ。
 ――ごめんね、少し眠っていてね。ごめんね。
 何度も繰り返し、操作中に呟いていたメイは全ての魔導人形の導力を切ったらしい。
 そして、それと同時に暴れていた人形の動きが止まる。
「守ってくれてどうもありがとう、猟兵さん達。これでうちの給仕係達が乗客を襲うことはもうないはず!」
 こうして、一先ずの危機は去った。
 だが――。

 一方、前方車両にて。
「人形達を止められてしまいましたか。……忌々しい下等生物共が」
 蒸気機関車と自らの融合を進めていた猟書家・探求のオルガノンは現状を察し、憎々しげな呟きを落とした。
「もっと時間稼ぎをさせるつもりでしたが、こうも早く止められてしまうとは」
 オルガノンにとってこの状況は予想外だったようだ。
 されど少年人形は表情を変え、不敵に笑む。所詮は下等生物が作り出した児戯の如き愚かな人形だ。ならば自分で作ってしまえばいい。
「しかし、もうこの辺りは僕の支配下にある。目に物見せてやりましょう」
 オルガノンは身体から伸びる金属管で列車と自分を繋いでいた。管は質量を増しながらじわじわと広がっていき、車内に魔導人形を模した金属人形が作り出されていく。
「さぁ、行け。蒸気獣もどき達……!」
 人間を殺せ。
 猟兵共を絶望に染めてやれ。
 そして――技師の停止操作など受け付けぬ、蒸気獣人形が動き出していく。

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
 
浮世・綾華
ディアナちゃん(f01023)と

ほんと、列車内が星空の中みてぇ
暗いから気を付けてな

操られた魔道人形…
ってことは、操られてなきゃただの人形ってことか?
んなら壊しちまうのは少し気が引ける
止められんなら壊さずに止めたい
ディアナちゃんはどう思う?
彼女の言葉に笑み礼を告げて

車内を注意深く観察
魔道人形を見つけたなら
ふわりと浮かべる花びらを扇で拡散し

多分、お前らの仕事は戦うことじゃない
後で一緒に遊ぼう、きっとそっちの方が楽しいよ
だから、あの人らを一緒に守ってくれない?

乗客を一緒に守るように提案しつつも常時人形の挙動を確認
戦わなきゃなら、一体ずつ鍵刀で眠らせるように

(怪我、させるわけにはいかないしな)


ディアナ・ロドクルーン
浮世(f01194)さんと

ありがとう、浮世さん。眼が慣れれば何とか大丈夫そう
こんな騒ぎがなければゆっくりと車内を楽しめたのに残念ね

…そう。貴方がそう言うのなら襲ってこない限りは手を出さない
壊さずに止められる手段があるのなら、私も助力する

狭い場所だから刻印で爪を強化していつでも戦えるようして
まずは乗っている人たちの安全を先に動くわ

不安から混雑が起きないよう、猟兵がいるから大丈夫と声をかけ安全な所へ
煤だらけのオーバーオールを着た女の子を見なかったかと余裕があれば乗客に問うてみるわ
早く見つけられればそれだけ人形も早く止められるでしょう?

人形が動いた場合は部位破壊で手足を破壊し動きを最小限に留める



●九号車内
 時は遡ること少し前。
 暴走する列車内にて、魔導人形が配置されていたのは食堂車としての十号車。
 蒸気獣もどきとなった機関車に操られて敵の尖兵となった人形達は、其処から前方や後方車両へと繰り出していた。
 車内から車内へ、或いは屋根伝いで移動する魔導人形を追い、猟兵達はそれぞれの車両に進み、乗客達を守っている。
 そんな中で後方車を他の仲間に任せた浮世・綾華(千日紅・f01194)とディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は、九号車まで訪れていた。
「ほんと、列車内が星空の中みてぇ」
「こんな騒ぎがなければゆっくりと車内を楽しめたのに残念ね」
 綺麗だと言葉にしながらも綾華とディアナは警戒を緩めずにいた。此処は夜行列車であるうえに、車内には魔導機械による星の投影が行われている。
 常に車内が暗いことで乗客もうまく隠れられているのは不幸中の幸いだが、敵も物陰に潜んでいる可能性がある。
 そして、座席があるゆえに足場や視界が良いとは言えない状況だ。
「暗いから気を付けてな」
「ありがとう、浮世さん。眼が慣れてきたから何とか大丈夫そう」
 振り返った綾華が気を使ってくれているのだと知り、ディアナは双眸を細めた。静かな笑みが重なる中、不意に二人の表情が真剣なものに変わる。
「ディアナちゃん、気付いた?」
「ええ、あそこに一体。向こう側にも一体いるわね」
 綾華は座席の影になっている場所に人形が隠れていることを悟る。ディアナも同時にもう一方の人形を気取り、身構えた。
「操られた魔導人形……ってことは、操られてなきゃただの人形ってことか? んなら壊しちまうのは少し気が引けるな」
「そうね、元は給仕用として配備されていたらしいし」
 綾華とディアナは言葉を交わしあい、相手との距離を取っていく。
「だったら、壊さずに止めたい」
 ディアナちゃんはどう思う? と綾華が問うと、彼女はちいさく頷いた。人形達も様子を窺っているのか、それとも別の要因があるのか、すぐには襲ってこなかった。
「……そう。貴方がそう言うのなら手を出さないわ」
 壊さずに止められる手段があるのなら自分も助力する。そのようにディアナが答えると、綾華はそっと礼を告げた。
 機関車に給仕魔導人形を配置するという設計も、技師が懸命に考えて施工したものなのだろう。相手は戦闘用ではないため、完膚なきまでに破壊しようと思えば可能だ。だが、簡単に出来るからといって安易にそうしたくはなかった。
 綾華は掌を胸の前に掲げる。
「お前らの仕事は戦うことじゃない。そうだろ?」
 ――後で一緒に遊ぼう、きっとそっちの方が楽しいから。
 言葉と共に蒲公英と向日葵が咲き溢れ、花弁がふわりと広がっていった。浮かべる花を扇で拡散した綾華に合わせ、ディアナも刻印で爪を強化していく。
「襲って来ないようね」
 綾華の舞わせた花の効果か。人形達は姿を見せはしても視線で花を追うのみ。綾華はこれは好機だと感じ、続けて呼びかける。
「だから、あの人らを一緒に守ってくれない?」
 答えはない。
 しかし唐突に人形達の動きが止まり、胸の魔導コアが光を失った。
 機能が停止したのだと察したディアナはその理由に気付く。先程に通ってきた十号車では技師の少女が魔導人形を止める為にパネルを操作していた。おそらくその行動が間に合い、こうして功を奏したらしい。
 共に守ろうという呼びかけは届かずとも、彼らを破壊せずに済んだ。
 されど、綾華達が安堵したのも束の間で――。

 そして、現在。
 魔導人形は沈静化したが、新たな展開が巡りはじめる。
 ディアナは前方から禍々しい気を放つ人影が現れたことに気が付き、首を傾げた。
「何かしら、あれ」
「別の人形かな。いや、機械……?」
 歯車で繋がれた四肢。鋭利な刃のような腕。蒸気機械人形と呼ぶに相応しい金属の身体を顕にしたものは、ゆっくりと此方に歩いてくる。
 それは明らかに人を害するもの。戦闘のために作られた異形の物だ。ディアナは本能的に危険を察し、機械人形に己の爪を差し向けた。
「綾華さん、さっきの言葉は無しにしていい?」
「分かってる。というより、アレは倒さないとな」
 おそらくはオルガノンの差し金だろう。魔導人形が使えなくなった為に、あのようなものを送り込んできたに違いない。
「この車両に乗客はもう居ないわね。それなら――」
「ディアナちゃん、先導は頼んだ!」
 床を蹴った彼女に続き、綾華も鍵刀を抜き放った。この相手は壊す壊さないではなく、ただ倒すべき存在であると二人とも理解している。
 鋭い爪の一閃が機械人形の肚を貫き、鍵刀が腕を切り落とした。車内は狭いが、それゆえに最小限の動きで素早い攻撃が出来る。
 敵を見据えるディアナの眼差しは鋭く、綾華の瞳にも真剣な想いが宿っていた。
(怪我、させるわけにはいかないしな)
 綾華は言葉にしない思いを抱き、一体ずつ鍵刀で眠らせるように刃を振るう。技師が魔導人形を止めたならば、後は猟兵たる自分達の番だ。
 蒸気機械人形を切り裂き、屠っていく二人は真っ直ぐに前を睨み付けた。
 この奥で悪意に満ちた者が動いている。そう感じながら、綾華とディアナは更なる先を目指して前進し続けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
こんなステキな
おじいさまから継いだ列車を愛している技師さんなのに
台無しになんてさせない

【POW】

メイさんを探すのはお任せして
ルーシーは乗客のひとたちをお守りしにいきましょう
乗客さんの声に耳をすませ
星あかりをたよりに前方車両へ急ぐわ
……ほんとうはゆっくり、見たかったな

オルガノンさんが居る前方が戦いは激しいはず
乗客さんを見つけたら後ろへにげてもらうわね

さあ
安心して走って
ルーシー達がお守りする
ふるえる人がいれば手を繋ぎ励ましましょう

魔導人形が居たら【勇敢なお友だち】で弾き飛ばすわ
ララ、ルル、みんなも協力して
おそわれそうな乗客さんが居たら間に割り入りかばう
痛みや覚悟の上
悲劇の舞台にするよりずっとまし


キアラ・ドルチェ
美しい星空の映像を眺めていたいけれど、そうも言ってられませんね
「この美しい光景をゆっくり見せてくれないなんて、無粋の極みです」

乗客さんを見つけたら、後ろの車両に逃げるよう声掛け
「後ろの車両へ! そちらなら安全ですっ」
攻撃を受けそうなら、身を挺して庇います

また影に潜む魔導人形を警戒しながら前の車両へ
いつでも森王の槍を撃てる態勢でゆっくり前へ
また出来るだけ遠距離から森王の槍を撃ち込み倒します
でも車体には傷をつけないように
「メイさんが悲しみますもの、ね」
受け継いだ物を大切に思う気持ち、私にも分かるから
母から受け継いだ「ネミの白魔女」の称号も、祖母から受け継いだ魔女帽も、大切な宝物、だから


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

とうちゃーっく!
おー!キラキラお星さま!
なるほどなるほど…投影機っていうのもなかなか乙なものだね!

さーてそれじゃあ探検開始ーっ!
人助けもいいけどー
もっと色々見てみたい!
だーっと奥に行けば人形くんたちもボクの方を追ってくれてちょうどいいんじゃないかな!
そこそこ狭い場所だけれどこれくらいならボクにはちょうどいい
勘【第六感】で避けて避けてー進路上の邪魔な子はUCでドーーンッ!!

客席も食堂もいいけれど
ボクはやっぱり先頭の機関車が好きだね!
だってかっこいいもの!



●八号車にて
 疾走る列車に飛び乗り、後方から前方車両へ。
 乗客を避難させ、前へ前へと進んでいく少女達――ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)とキアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)は今、八号車にあたる客室車両にまで辿り着いていた。
 既に事は運ばれており、技師の少女は無事に魔導人形を停止させている。
 だが、それを察した猟書家オルガノンが次の手を打ったらしい。先頭車両から次々と現れはじめたのは金属管が奇妙に組み上げられた蒸気機械人形だった。
 給仕用の魔導人形とは全く違う、機械剥き出しの姿をしたそれらは乗客を襲って殺そうとしているようだ。
「この美しい光景をゆっくり見せてくれないなんて、無粋の極みです」
「こんなステキな列車を台無しになんてさせない」
 キアラはこれまで通ってきた星々が投影された車両を思う。とても綺麗だったのに、と頷いたルーシーも決意を言葉に変えていた。
「美しい星空の映像を眺めていたいけれど、そうも言ってられませんね」
「おじいさまから継いだ列車を愛している技師さんの思い、確かに受け取ったもの」
「はい。これ以上この汽車が大変なことになると、メイさんが悲しみますもの、ね」
 二人はそっと頷きあう。
 今の自分達のすべきことは、迫り来る新たな敵を倒すこと。
 此処よりも後方の車両には猟兵がそれぞれに残っているが、まだこの先は未知だ。きっと逃げ遅れた乗客もいるに違いない。
「暗いけれど、星が導いてくれるみたいですね」
 キアラは目を凝らし、星影が揺らめく車内を見渡した。車内が薄暗いことを利用して、乗客は座席の影で息を潜めているようだ。
 そして、キアラは其処に互いを守り合うように縮こまっていた兄弟を見つけた。ルーシーも彼らの存在に気付いており、すぐに前へ踏み込んだ。
「ルーシーがあれを足止めするわ」
 少女が示したのは機械人形の方。だからそっちはお願い、と告げたルーシーは羊のぬいぐるみを掲げた。
 彼女が力を与えた勇敢なお友だちが突進していく中、キアラは少年達に手を伸ばす。
「後ろの車両へ! そちらなら安全ですっ」
「う、ぅ……本当?」
「でも駄目なんだ、兄ちゃんが足を怪我していて……」
 キアラの呼びかけに対して弟は兄を示した。言葉通り、少年は鋭利な何かで貫かれたような怪我を負っている。
「人形にやられたんですか?」
「うん、兄ちゃんはおれを庇って……」
 キアラが問うと、少年達は怯えた眼差しを返した。その不安を払拭するようにキアラは微笑み、もう大丈夫だと伝える。
「それならお兄さんは私が支えます。あなたは先導してくださいっ」
 よく頑張りましたね、と二人を勇気付けたキアラは兄の方に手を貸し、後方車両を指差した。すると一体目の機械人形を撃破したルーシーも彼らに声をかける。
「もうへいきよ。こうみえて、ルーシーたちは強いの」
 元より痛みは覚悟の上。
 此処を悲劇の舞台にするよりずっとましだから、こうして戦っている。
「――ララ、ルル、みんなも協力して」
 強いと語った言葉に説得力を持たせるべく、ルーシーは先程の羊のぬいぐるみに加えて、他のぬいぐるみを敵に突撃させていく。
 キアラもその通りだと同意しながら森王の槍を解き放った。
 瞬く間に植物の槍が機械人形を穿ち、ぬいぐるみ達が敵を後退させる。
「わあ、すごい!」
「助かるんだ、おれたち……」
 弟が瞳を輝かせ、兄は安堵の表情をみせた。ルーシーはこくりと頷き、後方車両に怪我の手当をしてくれる猟兵がいるはずだと伝える。
「さあ、安心して走って」
 ルーシー達が絶対にお守りする。
 もしも恐いなら、震えてしまいそうなら手を繋ぐから。ルーシーの言葉を聞き、兄弟もしっかりと頷いた。
 そして、キアラとルーシーは兄弟を自ら後方車両に連れていくことを決める。
 車内はまだ薄暗い。天井や壁に煌めく星あかりをたよりにして、後退するルーシーはぽつりと呟いた。
「……ほんとうはゆっくり、見たかったな」
「そうですね。メイさんがお爺様から受け継いた機関車の輝きを、もっと――」
 ルーシーの声を聞いたキアラも少しだけ瞳を伏せる。
 受け継いだ物を大切に思う気持ちはキアラにもよく分かった。自分が母から受け継いだ『ネミの白魔女』の称号や、祖母の魔女帽も、大切な宝物だから。
 しかし、今は何よりも乗客を守ることに注力すべき時。
 複雑な思いを押し込めたルーシーとキアラは急ぐ。されど、前方車両から現れた新たな機械人形が少女や少年達を追いかけて来て――。
 絶体絶命かと思われた、そのとき。
 
●八号車から七号車へ
「――とうちゃーっく!」
 九号車側の扉が勢いよく開かれ、元気な声が響き渡った。
 その声の主はロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)だ。蒸気獣もどきと化している機関車内にいるとは思えない様子の彼は、きょろきょろと八号車内を見渡す。
「おー! こっちにも違う形のキラキラお星さま!」
 瞳を輝かせるロニは興味津々。
 星の光を映した眼差しには、今の危機的状況をものともしない意思が宿っていた。
「なるほどなるほど。星図がぜんぶ別になっててすごい! 魔導投影機っていうのもなかなか乙なものだね!」
 ロニはこんな調子でずっと車内探検をしていた。
 もちろんこれまでに神撃の拳で魔導人形を倒してきたうえに、ちゃんと敵の気を引きつけることも行ってきた。
 そして、ロニは怪我をした少年達を庇うルーシーとキアラに気付く。すぐに現状を察した彼は、うんうん、と頷いてから前に踏み出した。
「大丈夫! ボクが来たからには安心していいよ。といっても、追いかけっこをするだけなんだけどねー」
 今のうちに後方車両へ、と少女と少年達に告げたロニは駆け出した。
 進む先は更に前。
 此処までの車両はとても綺麗だった。それならば、もっと色々と見てみたい! というのがロニの純粋な原動力だ。
 されど何も考えなしというわけでもなく、自分が派手に駆けることで人形の意識を向けさせるという狙いもある。
「ありがとう。お願いするわね」
「後はお任せします。さぁ、行きましょう二人とも」
 ルーシーとキアラは機械人形がロニの方に向かったことを察し、そっとお礼をしてから退避していった。
 ロニは笑みを浮かべ、そのまま勢いよく七号車の方に向かう。
「人形くんたち、ボクの方においで!」
 座席が並ぶ車内は狭いがロニにはちょうどいいくらいだ。ロニは襲ってくる機械人形を避け、時には躱しながら追走劇を巡らせていく。
 そして、機を見計らい――。
「どーんっ! ってね」
 神々しさを感じさせる拳の一撃で以て人形を貫き、二度と動けなくしていった。そうしてロニは更に前を目指す。
 客席も食堂もいいけれど、本当に見たいのは機関車の先頭だ。
「ボクはやっぱりあっちの方の機関車が好きだね! だってかっこいいもの!」
 それを独り占めしているという猟書家、オルガノンはずるい。
 そう考えた彼は絶対に格好良い車両を見てやるのだと決めた。導くように灯る幻星の光を見つめて楽しみながら、ロニは明るく駆けていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
戦争も終わってフォーミュラも倒したし、こういう状況じゃなきゃ夜空を眺めつつゆっくり夜行列車の旅、ってのも乙なんでしょうけどねぇ…

あたし誤射なんてしないけど、流れ弾とか考えると射撃は使いにくいのよねぇ。●要殺で警戒しつつ〇カウンターとグラップルでできるだけ対処するわぁ。ゴールドシーンにお願いしてルーンでの〇捕縛も併用すればどうにかなるでしょ。
陰に潜んでるって話だけど、これだけ明かりがあれば〇暗視で十分〇見切れるわぁ。こう見えて夜目は効くのよぉ?

あたし「そういうの」には慣れてるし。
こんな星空の下であたしに闇討ち仕掛けようなんて、ちょぉっと無謀じゃないかしらぁ?


クーナ・セラフィン
列車自体が災魔化するなんてね。まったくとても厄介だ。
技師のお嬢さんは…誰か行ってくれてるだろうし私はできる事、乗客の皆を護るとしようかな。

乗車したらUC発動、防御力強化した上で全力ダッシュ。
私に襲い掛かってくる人形達への対応は最小限にしつつ椅子や棚を利用し天井近くまで飛び跳ね乗客の位置を把握、
特に危険そうな人を護る為にランス構え飛び込むよ。
星空を飛んでるみたいで気持ちいいねと少し場違いなこと考えちゃうけども今は戦いに集中。
…守りは苦手だけどもね、体格的に押し切られやすいし。
でもそれを補う位には鍛えてるからね、と力逸らして人形をよろめかせつつオラクルで一閃。
さあ、急ごうか。

※アドリブ絡み等お任せ



●七号車内
「戦争も終わってフォーミュラも倒したし、こういう状況じゃなきゃ夜空を眺めつつゆっくり夜行列車の旅、ってのも乙なんでしょうけどねぇ……」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は溜息めいた言葉を落とし、星の輝きが投影されている車内を見つめる。
 その少し後方では、同様にクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)が肩を落としながら頷いていた。
「列車自体が災魔化するなんてね。まったくとても厄介だね」
 勘弁して欲しいよ、と話したクーナは白雪と白百合の銀槍を軽く振る。
 ティオレンシアも同意を示し、足元を見下ろした。
 其処には今しがた二人が倒したばかりの機械人形が倒れている。十号車までの車両に居た魔導人形とは違って、機械管で組み上げられた奇妙なドール。それはおそらく、オルガノンが遣わせた新たな敵だろう。
 後方の食堂車にて、魔導人形の緊急停止操作は既に終わっている。
 ガジェッティアの少女によって事が成されたことを受け、ティオレンシアとクーナは前方車両へと進撃している最中だ。
「それにしても、本当に戦い辛いわ。あたしは誤射なんてしないけど、流れ弾とか考えると射撃は使いにくいのよねぇ」
「座席があるからね。でも、キミの動きは見事だったよ」
 ティオレンシアの言葉を聞き、クーナは先程までの戦いを思い返した。
 要殺の力で最大限の警戒しつつ、人形が現れればカウンターを狙って動き、素早く鋭いグラップルで以て対処してきたティオレンシア。
 その判断力も動きも目を見張るものがあり、クーナは感心していた。
「お褒めに与り光栄よぉ」
「私も頑張らなくてはね。技師のお嬢さんも無事だったし、後は首魁を倒すのみだけれど……おっと、また人形が来たよ」
「そっちの察知力もなかなかねぇ。それじゃ、片付けてしまいましょうか」
 クーナは話しながらも前方車両から現れた敵を示す。
 カタカタと怪奇に揺れながら近付いてくる機械人形は、鋭利な刃と化した腕を振るいあげていた。来る、と察したティオレンシアはゴールドシーンを呼ぶ。
「お願いねぇ」
 彼女はシトリンが付いたペンの形をした鉱物生命体にルーンによる捕縛を指示する。そうすれば人形の動きが止められ、クーナが攻め込む好機が訪れた。
 状況を判断したクーナは防御力を強化しながら疾く駆ける。
 灰色の毛並みと尻尾がふわりと揺れた刹那、水の魔力が宿った一閃が機械人形の腕を斬り裂いた。水飛沫があがるように魔力が解放され、人形の腕が床に落ちる。
「また一体、と。上出来だね」
「気を付けてねぇ、そっちの影に潜んでいる人形がいるわぁ」
 ティオレンシアはクーナが機械人形を撃破したことを確かめながら、注意を促した。車内は薄暗いままだが、ティオレンシアにとってはこれだけの星明かりがあれば暗視で十分に見切れる。
「本当だね。助かるよ」
「こう見えて夜目は効くのよぉ? あたし、そういうのには慣れてるし」
「頼もしい限りだよ。それじゃあ、次々行こう」
 ティオレンシアの示した先。其処へ、ランスからオラクルに持ち替えたクーナが飛び込んでいく。刹那、投影された淡い光が揺れた。まるで星空を飛んでいるみたいで気持ちいいと感じた思いもあるが、クーナは戦いに集中していく。
 そして、ティオレンシアは突撃するクーナに合わせてダガーを投擲した。
 神託の細剣に一閃。刃の追撃。
 見事に重なった攻撃は機械人形を鋭く穿つ。
「これで終わりねぇ。こんな星空の下であたし達に闇討ち仕掛けようなんて、ちょぉっと無謀じゃないかしらぁ?」
「この車内の敵はこれで全部かな」
 七号車にいた乗客も避難しており、敵の気配も前方車両からしか感じられない。二人は軽く視線を交わしあい、先を見据えた。
「何だか妙な気配がするけれど、進むしかないわねぇ」
「さあ、急ごうか」
 そして、ティオレンシアとクーナは駆けていく。
 猟書家が企む悪行を阻止し、この蒸気機関車に纏る全てを救うために――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌺
アドリブ歓迎

見ろよ一華、めっちゃ綺麗だぞこれ!
確かプラネタリウムってやつだよな!
あ、はしゃいでる場合じゃないや
綺麗?そうか?(嬉し気
そういやあの人形どんな仕組みだ…?
(怖いけど気になる…後で聞こう、うん)

技師は他の奴らに任せて
俺様たちは魔導人形のほうへ行こうぜ!

あいつらか…!
見える敵全員の周りに光魔力のオーラ防御の壁で囲い攻撃と移動の阻害を試みる

乗客は安全な所に避難させつつ
その間に「藍玉の杖」を大剣に変形させて、光魔力溜め切り込み!
狭い所なら近接のほうが良いよなぁ…その手の魔術覚えねぇと…

大丈夫!
お前がやりたいように動いて問題ないぜ!
やっぱ最初は慣れるのが大事だしな!
俺様がついてるぞ!


誘七・一華
💎🌺

へぇ、すごい綺麗だな!
ぷらねたりうむ、ていうのか?零時は物知りだな!
俺は初めてだぜ
不思議な光景を見渡して、連れてきてくれた零時に笑顔を向ける
星が零時の髪に映ってるのも綺麗だと思うぜ
星空の欠片みたい

あれが……魔道人形?カラクリとはまた違うみたいだな……
怖い、不安に木刀を握りしめ―それでも今は横に零時が居るのだと奮い立つ
俺だって、やれるぜ…!
やらなければ
…俺もできることをするんだ

零時が前で戦ってくれる
俺は援護する
式を放ち周囲の情報収集
零時や他の人達を破魔のオーラを重ねた結界で守り避難させる
マコ、コマ!俺達もやるぞ
祓詞を唱えて動きを止める

母様、俺だって

零時みたいに
…兄貴みたいに強くなれるよね


朱赫七・カムイ
⛩神櫻

これが汽車?魔法かい?
初めての世界…不思議な光景
星空の中を駆けるような感覚が新鮮だ
カグラは好奇心のままに興奮ぎみでカラスが窘めてる…から任せていいかな
カグラ、観光ではないよ

カラスと一緒に技師の子を見つけたり、避難できる場所を見つけておくれ
技師の子を見つけたら協力を仰ごう
彼女の大切な汽車で、ひとを傷つけてはいけない
結界は彼らの為に張って、攻撃から守ってほしい

私達は大丈夫だよ…サヨは私が守るから
先へ行こう、サヨ
第六感に導かれるよう早業で切り込み駆けぬけていく
サヨの太刀筋はわかる
だから、二人で多くの人形を斬れるよう
補えるように立ち回る

桜が咲けばその全てが私の力になるからね
サヨ、一緒に切り拓こう


誘名・櫻宵
🌸神櫻

カムイはアルダワ初めてだものね
綺麗な星空でしょう
カグラと一緒にはしゃぎ色んなのを触りそうになるのを
咳払い一つで収め

そう観光じゃないのよ!

なるべく汽車も破壊しないようにしたいわね
大切なものを兵器なんかにさせないわ

偵察と守りをカグラ達に任せて
カムイ、私達は人形を斬りましょう
メイを見つけたら守りながら協力してもらって
見つからなくても他の乗客を守るわ

大丈夫よ
カムイは私が守るから
纏う桜花のオーラは彼の為に
さぁ、いきましょう
駆ける神の行く手
遮らせはしないわ

『喰華』

星空に桜はよく映える
神罰巡らせ人形散らして桜花と咲かせ
カムイの太刀筋に合わせ抉り薙ぎ払い斬り裂くわ

幾らでも咲かせて、割いて路を切り拓くわ



●六号車前方
「見ろよ一華、こっちもめっちゃ綺麗だぞ!」
「へぇ、すごいな。後ろの車両より明るい星がある」
 煙を濛々とあげて夜を駆ける機関車内。其処に響くのは少年達の声。
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と誘七・一華(牡丹一華・f13339)は敵が蔓延る車内を進みながらも、幻星号の美しい星景に瞳を輝かせていた。
 既に魔導人形は技師によって停止されている。
 あとは乗客の避難を行い、前方車両を進んでいくだけ。それゆえに少年達は少しばかり浮足立っていた。
「確かプラネタリウムってやつだよな!」
「ぷらねたりうむ、ていうのか? 零時は物知りだな!」
「一華は知らなかったのか?」
「俺はこういうの、初めてだぜ」
 一華は車両ごとに違う光が宿っている不思議な光景を見渡しながら、零時に笑顔を向ける。その際に彼の煌めく髪が目に入った。
 星明かりが零時の髪に映っているのも綺麗だ。そのことを本人に告げた一華は輝く光をじっと見つめた。
「星空の欠片みたいだ」
「綺麗? そうか? それなら……あ、はしゃいでる場合じゃないや」
 嬉しげに笑い返した零時だったが、此処が戦場であることを思い出す。これまでに通ってきた車両では多くの猟兵が戦っており、道を拓いてくれた。
 自分達が辿り着いた六号車の先にも何らかの危険が待っているはずだ。
 それに今は魔導人形ではなく――オルガノンが蒸気獣擬きの力から生み出した新たな敵、機械人形も現れている。
「零時! 前に何かいる!」
「あいつらか……!」
「あれが機械人形? カラクリとはまた違うみたいだな」
 一華と零時はとっさに身構え、奇妙な形をしている人形を見据えた。魔導人形はちゃんとした人間型だったが、今の敵は金属管が絡み合った複雑怪奇な見た目だ。
「あの人形、どんな仕組みだ……?」
 どちらも気になると感じた零時は、怖さを押し込めながら興味を示す。機械の方はオルガノンが答えてくれなさそうだが、魔導人形は技師が教えてくれるかもしれない。後で聞こう、と零時はひそかに決めた。
 そのためにも先ずはこの機関車の騒動をどうにかしなければいけない。
「一華、いけるか?」
 零時は光魔力のオーラを広げ、一華に問いかける。防御の壁が敵や自分達を囲っていく様を見つめつつ、一華は深く頷いた。
「多分……じゃなかった。大丈夫だ。やれるぜ!」
 本当は怖い。
 不安を隠すように木刀を握りしめた一華は勇気を振り絞った。
 恐怖を消すことは出来ないが、それでも今は横に零時が居てくれる。そう思えば気持ちも奮い立ってきた。
(やらなければ。……俺もできることをするんだ)
 いつまでもお飾りではいたくない。
 誘七の家に戻ってくると宣言してくれた兄を、胸を張って迎えられるように。
 一華が決意を抱く最中、機械人形は刃になった腕を振るってくる。即座に零時が藍玉の杖を大剣に変形させ、その一閃を受け止めた。
「お返しだ!」
 光の魔力を剣に注いだ零時は敵の腕を押し返し、全力で切り込む。
 幸いにも乗客は逃げた後のようだ。これならば思いきり戦えると感じ取り、零時は人形を床に伏せさせた。
 そして、大剣での戦い易さと普段の自分の攻撃方法を比べる。
(狭い所なら近接のほうが良いよなぁ……その手の魔術も覚えねぇと……)
 こうやって友人を守りながら戦う術も覚えていきたい。少年の志はどんな状況であっても高く掲げられていた。
 零時が剣で切り込む最中、一華も強くなりたいと願っていた。
 彼が前で戦ってくれるならば自分は援護に回るのが良い。一華は式を放ち、周囲に別の敵が居ないかを探っていく。
 そして、破魔の力を重ねた結界で零時を守る。絶対に友達を傷つけさせはしない。霊力を巡らせていく一華は真剣だ。
「マコ、コマ! 俺達もやるぞ」
 一華は自分が連れている狛犬達を呼び、祓詞を唱えた。
 そうすれば鈴に宿る鬼姫の霊が現れ、戦場に鋭い光矢を放っていく。
 ――母様、俺だって。
「零時みたいに、……兄貴みたいになれるよな」
 隠した不安を示すように一華から無意識の呟きが零れ落ちる。その声を聞きつけた零時は軽く後ろに振り返り、明るく笑ってみせた。
「大丈夫! お前がやりたいように動いて問題ないぜ! 俺様がついてるぞ!」
「そっか……。ありがとう、零時!」
 傍に友人が居てくれる。
 これ以上の心強さはないと知り、一華と零時は更なる力を巡らせていった。

●六号車後方
 その頃、列車内を移動している者達がいた。
 最後尾の車両から此処まで、共に駆け抜けてきたのは朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)と誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)だ。
「それにしても、これが汽車? 魔法かい?」
 初めての世界。
 そして、不思議な光景。
 一気に駆けてきたことで様々な車両を見てきたが、カムイは未だこの感覚と光景に慣れずにいた。天井や壁に投影された星図。導くような星のランプ。
 それらを見遣り、櫻宵は淡く笑む。
「カムイはアルダワ初めてだものね。綺麗な星空でしょう」
 星空の中を駆けるような感覚が新鮮で、カムイに続いて進むカグラも好奇心のままに辺りを見渡していた。そんなカグラはカラスが窘めているので一先ずは安心だ。
「カグラ、観光ではないよ」
「……そ、そうね。観光じゃないのよ!」
 カムイが告げた言葉を聞き、櫻宵もはっとする。櫻宵自身もカグラと一緒にはしゃぎそうになっていたが、伸ばしかけていた手を引っ込めて咳払いをひとつ。
 時折、カグラと櫻宵は同じような行動を取る。
 何だか不思議だったが、それも可愛らしいと感じているカムイは静かに笑った。
 二人は先に進んでいく。
 現状は少しばかり複雑だ。この状況を整理しようと決め、カムイと櫻宵は周囲の様子を探っていく。
 六号車へと続く連結部に出た彼らは、これまで通ってきた車両に振り返った。
「それにしても、技師の子が無事で良かったね」
「ええ。魔導人形も一時停止されたみたいだし……けれど、やっぱり変なのよね」
 技師の助力もあり、乗客の避難も大方は終えた。
 だが、まだ敵の気配がいくつも車内に感じられるのだ。此度の首魁であるオルガノンがいるのは承知しているが、それにしても気配の数が多い。
「カラス、カグラ。偵察を頼めるかい?」
 カムイが願うと、カグラ達が先んじて六号車へと踏み込んでいく。
 その際にカグラが此方を心配するような雰囲気を見せた。カムイは携えている喰桜の鞘に触れ、真っ直ぐな視線を返す。
「私達は大丈夫だよ……サヨは私が守るから」
「大丈夫よ。カムイは私が守るから」
 櫻宵も屠桜を握り、カラスに微笑みを向けた。
 その際に思うのは道中で目にした技師の少女。彼女がこの機関車を大切に思っていることは少し見ただけでよく分かった。
 だが、今の幻星号は蒸気獣擬きと化している。
「なるべく汽車も破壊しないようにしたいわね。受け継いだ大切なものを兵器なんかにさせたくないわ」
「そうだね。彼女の大切な汽車で、ひとを傷つけてはいけない」
「カムイ、私達も――」
 全力を尽くしましょう、と櫻宵が告げようとしたそのとき。
 六号車の扉がひらき、カグラ達が舞い戻ってきた。今しがた偵察に向かったばかりなのに、と驚く櫻宵達だったが、すぐに状況を把握した。
 カグラ達は告げている。危険な敵がすぐ其処にいる、と。
 それに――。
「サヨ!」
「そうね、すぐに行きましょう!」
 カムイの呼びかけに答え、櫻宵は床を強く蹴りあげる。ほぼ同時に鞘から抜かれた喰桜と屠桜の刃が、幻星の光を受けて鈍く輝いた。

●六号車内 ⇔ 共闘
 同じ頃。
 六号車で戦っていた零時と一華は苦戦を強いられかけていた。そうなった理由は、前方からかなりの数の人形が入り込んできたからだ。
「零時、俺もそっちに!」
「来るな! 俺様達だけで、止めて……みせるッ!」
 一華は自分も前衛として立つと告げるが、零時は大剣を振るいながら拒否した。
 コマとマコが零時の援護に入っているが、乱戦状態だ。戦いに慣れていない一華が其処に入れば守りきれなくなる。
 しかし、零時は決して一華を弱いと思っているわけではない。この状況なら一華は後方支援に回り続ける方が適任だと判断したからだ。
 しかし零時は徐々に押されていき、幾重もの斬撃が彼の身を傷付けていく。
「でも、零時!」
「これくらい何ともねぇ! 良いか、一華! 自分の役割を見極めて、それから動けば何だって乗り越えられる!!」
 零時は果敢に攻撃を受け止め、一華に呼びかけていった。
 そして、次の瞬間。
「良いことを言うわね、零時」
「噫、そなたの言う通りだよ」
 其処にふたつの影が割り込み、今まさに零時へと振り下ろされようとしていた刃が弾き返された。はっとした零時と一華は、聞き覚えのある声だと気付く。
 そう、二人の危機に参じたのは――。
「兄貴!」
「カムイか!」
 一華と零時がそれぞれの名を呼ぶ。
 返事の代わりに機械人形を斬り裂いた櫻宵とカムイは、少年達に笑いかけた。
「よく二人で頑張ったわね」
「ここからは私達も一緒に戦うよ」
 櫻宵達に対し、狛犬の片方が「遅い!」と云うように視線を向ける。ごめんなさいね、とコマにちいさく告げた櫻宵は刀を構え直した。
「さぁ、皆で力を合わせましょう」
「二人とも、私達が斬り込むからついておいで」
「おう!」
 二人からの呼びかけに零時が威勢よく答え、危機を救ってくれたことの礼を告げる。無論、零時と一華達だけであっても形勢を逆転できただろう。
 しかし今、カムイ達が加勢に来てくれたことで百人力、否、千人力にも等しい気分になった。一華は胸を撫で下ろしながら何度か頷く。
(やっぱり、零時や兄貴達みたいに強くなるには――)
 こうやって一緒に戦う経験も必要なのだと感じた少年は祓詞を巡らせた。鈴音が凛と響き渡る中、櫻宵はひといきに斬り込む。
 纏う桜花は隣を駆けるカムイの為。そして、守るべき者の為に。
「サヨ、この先への道を切り拓こう」
「行くわよ、カムイ!」
 蠱惑の龍眼が敵を捉えた刹那、カムイが舞わせた朱桜の花弁が広がった。櫻宵の太刀筋はわかるゆえに呼吸を合わせて斬り裂いていくだけ。
 其処に零時が続き、諦めぬ意志を示す。
「一華、俺達もやるぜ」
「ああ!」
 少年達が放つ光の力が煌めき、神と龍の放つ桜花が星空に巡っていく。
 眩い光と神罰。敵を花と咲かせる太刀筋が戦場を裂いていき――そして、この車両に訪れた敵はすべて屠られた。
「やった! すごいな、皆!」
 一華は倒れた機械人形を見下ろし、自分が一助になれたことを喜ぶ。カムイは少年に優しい眼差しを向け、これは皆で勝ち取ったものだと示した。
「子供達もよくやったね」
「俺様達の勝利だ! 櫻宵達の桜、すごく綺麗だったよな」
 零時は様々な意味でカムイのことがとても気になっていたが、今は褒められたことに胸を張る。一華も照れくさそうに笑み、櫻宵は少年達に微笑ましさを覚えた。
「ふふ。幾らでも咲かせて、割いて路を切り拓くわ」
 そうして、櫻宵達は前方を見遣る。
 この場は凌げても未だ騒動は終わっていない。徐々に首魁の気配が大きくなっていることを感じ取り、彼らは次なる戦いへの思いを抱いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
乗客の避難を最優先とする。
その中で必要とあれば魔導人形と対峙はするが、出来れば暴走が止まるまで動きを封じる程度の攻撃に留めたい。止められなければ本気で停止させざるを得ないが…
技師の人は何か居場所を知るきっかけや手掛かりがあれば探しに行くが、まあ…他の者に任せるな。

テュット、人を見つけたらすぐに知らせてくれ。
乗客を見つけたら保護を。
UC「piilo」使用し、ガーデンクォーツの中へ一時避難して貰う様に頼む。
人の生命の重みを感じ、庭園水晶を大切に懐へ…大切に仕舞う。

乗客を探し、車両の前へ前へと駆け抜ける。
怪我をさせる訳にはいかねぇ。テュット、ミヌレ頼むぞ
槍を手に、全力で駆けつける。人を庇い守る為に。


ユーディット・ウォーカー
幻星号とはなんとも洒落た名前じゃ。
はっはっは、星空の中を征くとはなんとも愉快な体験よ。

後方車両から前へと風景を楽しみながら進み、乗客と魔導人形の間に割って入ろう。
アンコールを呼び出すにはちょいとばかし狭いが……
まあ、我とあやつは一心同体。
搭乗せずとも魔導人形ごとき、物の数ではないというものよ。
我の前で影に潜むなどと、笑わせる。
暗闇の扱いなどは、何より我が長じておるさ。

元は役立つ魔導人形、破壊してしまうのはとても心が痛むが
遠慮なく尽くを斬り捨てようぞ。
……まあ、止める方法が判明しておるなら手加減はしておくとも。

ちゃんと乗客には優しく声をかけて、我に任せよと安心させておこう。


朽守・カスカ
なんとも好い雰囲気の車内だろうか
このような状況でなければ
揺られていたいものだが
悠長なことは言ってられない、な

彼女に会えればよし
会えずともやるべきことは変わらないさ
被害者が出ては意味がない
力を尽くそう

【幽かな標】
囮となるべく掲げるランタンは常より明るく灯し
車内を箒星のように前へと駆けてゆこう
さぁ、魔導人形達よ
その眼にこの光が届くなら
まっすぐ迷わず追いかけにおいで

囮として引きつけ時間稼ぎに専念するため
魔導人形と相対しても
避けてガジェットでいなすことで
撃破は目的ではない
ただ、流石に全てを相手には出来ぬから
避難誘導や撃破には手を貸して貰えるか
彼女の助けがあると
とてもありがたい、な



●五号車から四号車へ
 猛スピードで走り続ける列車内での攻防。
 その戦いも佳境に入りかけている。乗客を助け、襲い来る魔導人形達を蹴散らし、後方車両から一気に最前線に駆けてきたのは三人。
「それにしても、幻星号とはなんとも洒落た名前じゃ」
 前方から敵が訪れていないか確かめながら、ユーディット・ウォーカー(デイライトウォーカー・f30097)は車内に投影された星に意識を向ける。
「幻の星を映す機関車だからな」
「そうだね、なんとも好い雰囲気の車内だろう」
 ユーディットの言葉に答えたユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)と朽守・カスカ(灯台守・f00170)も同意を示した。
 このような状況でなければ、此処でゆったりと揺られていたいものだ。
「はっはっは、星空の中を征くとはなんとも愉快な体験よ」
 ユーディットにとっては昼間よりも夜の方が好ましい。この列車は偽物とはいえ、ずっと夜を体験できる場所だ。それゆえに彼女には此処がとても良いものに思えた。
 しかし、楽しむ時間は与えられていない。
 カスカ達も悠長なことを言っていられない状況だとよく知っている。
「厄介なものが出てきたね」
「ああ、魔導人形の次は機械人形とはな」
 カスカが前方を見遣ると、其処には奇妙な人形がいた。ユヴェンは即座に身構え、新たな敵を相手取る気概を見せる。
 現状はこうだ。
 乗客を襲っていた魔導人形――即ち、元から幻星号に配備されていた給仕用のドールは技師の助力によって停止させられた。
 だが、そのことを察した猟書家オルガノンが次の手を打ったのだ。
 金属の管が絡み合ったような身体を持つ機械人形達は、前方車両から次々と湧き現れている。三人が辿り着いた五号車から先は未だ誰も到達しておらず、どうなっているのか分からない状況だ。
「アンコールを呼べぬ状況じゃが、まあ、我とあやつは一心同体。これくらいならば凌げるじゃろう」
 ユーディットも身構え、普段から搭乗しているオブリビオンマシンを思う。狭い列車内であるゆえにアンコールでの戦闘は出来ないが、今は傍に猟兵仲間が居る。
「行くぞ、蹴散らしてやろう」
「そうしようか。援護は任せてくれるかい」
 ユヴェンが床を蹴り、カスカはランタンを掲げる。其処から幽かな灯が揺らめき、敵の動きを示してゆく。
 右から来るよ、と伝えたカスカの声を聞き、ユヴェンは竜槍を振るった。其処へユーディットも続き、暗黒の機械剣を解き放つ。
「機械人形ごとき、物の数ではないというものよ」
 ユーディットは既にすべての敵の位置を把握していた。闇に生きる彼女の前では影に潜む行動など無意味だ。カスカが揺らめかせるランタンの灯の力が巡っていることもあり、機械人形はすぐに発見されていく。
「次の敵はそこだね」
「笑わせる。暗闇の扱いなどは、何より我が長じておるさ」
 彼処じゃ、とユーディットが告げた箇所にユヴェンが素早く駆け、一気に槍を振り下ろした。相手にすれば不意打ちをくらった形になる。倒れゆく人形を見下ろしたユヴェンは槍を構え直した。
「こいつらはあの魔導人形と違って遠慮なく壊せるな」
 技師が作った給仕用ドール達とは違って、この機械人形は人を殺戮するために組み上げられたものだ。それゆえに遠慮は要らない。
 それに完膚なきまでに壊しておかなければ、再び蘇るかもしれない。
「遠慮なく尽くを斬り捨てようぞ」
 ユーディットもユヴェンに頷きを返し、他に敵が居ないかを探っていく。機械人形はそれなりに強敵ではあったが三人の力の方が遥かに強かった。
「これでこの場の敵は倒しきったかな」
 カスカは苦戦しなかったことに安堵を覚え、先の車両に目を向ける。
 そして、一行は四号車に突入した。
 
 だが、其処には――これまでとは違う光景が広がっていた。
 絡み合う真鍮の管。
 廻る歯車の数々に色褪せた金属装飾。そして、絶えず噴き出す蒸気。
「何じゃ、これは……」
 ユーディットは車内に満たされた蒸気機械の数々に驚きを隠せずにいた。普通の車両だったはずの機関車内部にはもう、あの星々は映されていない。
「魔導機械の巣、と呼ぶべきだろうか」
「まるで機械生命体の体内にでも入ったようだな。テュット、人を見つけたらすぐに知らせてくれ」
 カスカが冷静に状況を把握する中、ユヴェンは自らが連れている意志あるクロークと共に、乗客の捜索に乗り出した。
 ユーディットも気を強く持ち、彼らと共に生存者を探しに向かう。
「どうした。誰か居たか?」
「見るのじゃ、向こうに人が倒れておる」
 ユヴェンとユーディットは人影を見つけ、其方に急いで駆けていく。生存者がいたと察した彼らは、足を機械に絡め取られた男性を助け出して介抱を行った。
「う、ぅ……」
「怪我はそれほど深くないようだ。君の他に乗客はいるかい?」
 カスカが問うと、男性は首を振る。
「逃げてきたのは僕が最後で……いいや、乗務員さんがひとり残って――」
「そうか、教えてくれて助かった」
 ユヴェンは彼に礼を告げ、手早く手当を終えた。そして守護の力を持つガーデンクォーツを取り出し、この中へ一時避難するよう願う。
 ユーディットも彼を安心させるべく、力強く胸を張ってみせた。
「後は我らに任せよ。乗務員も必ず助け出そう」
「お願いします……」
 わかりました、と頷いた男性は内部に保護された。
 ユヴェンは宝石の中に人の生命の重みを感じ、庭園水晶を大切に懐へ仕舞う。そうして、カスカ達は機械要塞と化した前方車両の気配を探った。
「被害者が出ては意味がないからね。ここから先も力を尽くそう」
 カスカは標を掲げ、ランタンは常より明るく灯す。ユーディットとユヴェンも首肯し、灯が導く先へと思いを向けた。
 猟兵達には分かる。
 このすぐ奥にオルガノンが待ち受けているということを――。
「いよいよ首魁たる者との対面じゃな」
「気を抜かずに進むしかないな」
「皆で往こう、この先へ」
 ユーディットは腕が鳴ると意気込み、ユヴェンも竜槍を強く握った。カスカは皆を導くように、箒星の如く前へと駆け出す。
 まっすぐ、迷わずに。
 幻星号の美しい煌めきと輝きを取り戻す為に、猟兵達は決戦の場に踏み出した。
 
 
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●0:00 ⇔ 融合
 真夜中丁度。
 日付が変わった瞬間、オルガノンは顔をあげた。
 既に猟兵達が間近まで迫っている。そのことを感じ取った彼は肩を竦めた。
「……意外とやるものですね、下等生物の癖に」
 先頭車両に陣取るオルガノンは溜息をつくような仕草をする。猟兵が予想以上に早く進んできたせいで四号車の辺りまでしか融合することができなかったが、今はこの程度でも十分だろう。
「まぁ、いいでしょう」
 そう判断したオルガノンは猟兵達を迎え撃つ準備を整え、鋭く嗤う。
「奴らには特別に、僕と戦う栄誉を差し上げましょうか」
 冷淡な声が落とされたとき、後方車両に続く扉がひらかれた音が響いた。

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『探求のオルガノン』

POW   :    スチーム・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【魔導書から蒸気魔法】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
SPD   :    ビースト・ショータイム
いま戦っている対象に有効な【蒸気獣もどき】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    エレメント・カース
攻撃が命中した対象に【魔術印】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する炎や氷、風の魔法】による追加攻撃を与え続ける。

イラスト:らいらい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鴛海・エチカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●探求のオルガノン
 時刻は真夜中。時計の針が零を指す刻。
 蒸気獣機関車と化した幻星号は夜の狭間を疾走し続けていた。車体から生えた金属腕は尚も蠢いている。
 しかし猟兵達は技師の協力の元、操られていた魔導人形を止めた。
 猟書家自らが組み上げた蒸気機械人形も襲ってきたが、猟兵達は乗客を避難させながら、それらを倒して来た。
 やがて、猟兵が辿り着いた先には――。
 先頭の制御車から四号車辺りまでが、ひと繋ぎの空間となった光景があった。
 其処には座席などはなく、細長く広い空間の中に魔導金属や歯車、真鍮のパイプなどが張り巡らされた場所になっている。

「やっと来ましたか、猟兵共」
 其処から聞こえたのは慇懃無礼な少年の声。
 彼は猟書家のひとり、探求のオルガノンと呼ばれるオブリビオンだ。
「随分と遅かったですね。待ち草臥れたくらいですよ」
 事実とは裏腹に、彼は敢えて余裕ぶりながら嘲笑を向けた。
 その足元や腕は、壁や床から生えている金属管と繋がっていた。通常のオブリビオンから感じられる力よりも更に強大な魔力が彼と機関車から感じられる。
 オルガノンは災魔となった蒸気魔導文明と自分自身を繋げ、融合することによって己を強化したようだ。
「その証拠に、ほら――。乗務員とやらが尊い犠牲になりましたよ」
 オルガノンは車内の片隅を示す。
 人形めいた指先が差した方向には、血塗れで倒れている列車乗務員の姿があった。おそらく彼は乗客を先に逃がしていたのだろう。彼自身が避難する前にオルガノンに捕まり、見せしめとして血祭りにあげられたのだ。
 辛うじて生きているようだが、彼が虫の息であることは間違いない。
 そうして、少年人形は不遜な態度で語る。

「残念ですが、お前達の敗北は決まっています」
 それは妙な宣言だった。
 未だ戦っていないのに何故。そんな雰囲気を感じ取ったオルガノンは、特別に説明してやると告げてから、理由を話す。
「間もなくこの機関車は次の駅に到着します。そうすれば、どうなると思いますか?」
 蒸気獣擬きとなった列車はホームに突っ込む。
 駅ひとつを巻き込みながら広がる魔導機械の腕や金属管はやがて街に侵略していき、人々を容赦なく襲っていくだろう。
 オルガノンが蒸気機関車に災魔の卵を埋め込んだのは、自らを移動侵略要塞とするためであり、融合する時間を稼ぐためでもあった。
 次の駅を破壊する手筈は整っている。
 だからこそ猟兵の敗北なのだと語ったオルガノンは、金属管が絡まった両腕を広げ、手にしている本を開いた。
「タイムリミットはあと僅か。それまでに僕を倒せなければお前達の負け。どうですか、成し遂げられる自信などないでしょう。下等な者共よ!」
 出来るものなら対抗してみるといい。
 挑戦的で不敵な視線を向けたオルガノンは猟兵を見据えた。
 刻限は迫っているが、猟兵達は決して諦めたりなどしない。つまりはこの機関車が次の駅に辿り着くよりも早く決着を付ければ良いだけだ。
 そして、猟書家との戦いが始まる。
 
戒道・蔵乃祐
ミレナリィドールの猟書家…!

かの種族は連綿と受け継がれてきた魔導蒸気文明の申し子
その証左。自身を産んだアルダワ世界自体が彼の、耐え難き汚辱であるというのなら
その憎悪は最早誰にも。どうすることもできない


今最も憂慮すべきは「時間切れ」
遅滞戦術をまともに相手していては敗着になりかねない
故に速攻!

湧き出す護衛にクイックドロウ+早業の指弾でメダルを次々撃ち込み強制停止
ジャンプ+切り込みで懐に飛び込み
グラップルで掴んだ蒸気獣もどきを怪力+投擲でオルガノンに叩き付ける重量攻撃
双手背負投!

否定者、探求のオルガノン
貴方が下等と蔑むこの『幻星号』を必ず守り通し
先人達の遺した想いを未来へ繋げる
それが僕達の真理だ!



●戦いの幕開け
 機関車は低く唸りながら、蒸気を濛々と噴き出す。
 金属管が蠢き、歯車が犇めく空間は其処が汽車内だったとは思えないほど。窓だったらしい四角い枠の外には黒い煙が満ちており、外の様子は見えない。
 だが、線路上を疾走る機関車の轟音が次の駅に近付いていることを報せている。
 そして、異形と化した車内の中央には――。
「ミレナリィドールの猟書家……!」
 少年人形を見据え、蔵乃祐は拳を握った。今も敵意と悪意を向けている猟書家、探求のオルガノン。
 彼が手にした本を開いた瞬間、蔵乃祐は跳躍した。
 刹那、それまで蔵乃祐が立っていた箇所に鋭い金属管の腕が振るわれる。蒸気獣もどきになった機関車の腕が内部まで生え、攻撃してきているだろう。
「今の一撃を察知するとは忌々しいですね」
 オルガノンは蔵乃祐を軽く見遣り、次の攻撃を繰り出そうとした。
 その際に球体関節の手足がぎしりと小さく軋む。
 ミレナリィドール。かの種族は連綿と受け継がれてきた魔導蒸気文明の申し子。あの手足はその証左。
 オルガノンは人が営む文明を忌み嫌っている。
 その感情を持つ理由が、自身を産んだアルダワ世界自体であるならば。己の存在自身が、彼の耐え難き汚辱であるというのなら。
 その憎悪は最早誰にも、どうすることもできない。
 事実を聡く察した蔵乃祐は僅かな物音を聞く。一瞬後には更なる攻撃が来ると気付いた蔵乃祐は、そうなる前に動いた。
 ――置行堀。
 妖怪のっぺらぼうが描かれたメダルを指弾で素早く打ち込み、蒸気獣の腕を穿つ。そうすれば腕の一本ずつが強制停止に追い込まれていった。
 今、最も憂慮すべきは時間切れ。
 相手もそれを示した通り、蠢く金属腕で猟兵への攻撃を紡ぎ、移動や反撃容易にさせない戦法を取っている。
 敵からの遅滞戦術のすべてを、まともに相手していては敗着になりかねない。
「故に……」
 ――速攻!
 言葉と共に床を蹴った蔵乃祐は停止させた腕を足場にして、蒸気機械化した車内を駆けていった。未だ止まっていない腕が迫れば壁を蹴って反対側に跳んで避ける。
 そうしてそのうちの一体を巨腕で掴み、己の持てる限りの力を以てしてオルガノンへと一気に投げつけに掛かった。
 即ち、双手背負投。
「そうきましたか……!」
 叩き付けられた重量攻撃はオルガノンの身を穿った。かなりの衝撃がちいさな少年人形を襲ったはずだ。
 しかし、蔵乃祐も解っている。これではまだ足りない、と。
 何せ相手は機関車と融合した身。華奢な見た目以上の力を得ており、これ以上の攻撃を幾度も叩き込まなければ止められない。
 元よりそれを承知であった蔵乃祐は、新たに遣わされた蒸気獣もどきへとメダルを打ち放っていった。
「否定者、探求のオルガノン」
「気安く呼ぶな、下等生物」
 巡る攻防の中で蔵乃祐がその名を呼ぶと、オルガノンは冷ややかに答える。話すことなどないといった雰囲気だが、蔵乃祐は構わずに思いを告げていった。
「我々猟兵は、貴方が下等と蔑むこの『幻星号』を必ず守り通し、先人達の遺した想いを未来へ繋げる」
「くだらない。その先人とやらも高が知れているでしょう」
 その言葉をオルガノンは一蹴する。されど蔵乃祐は怯まず、己の中に確かに宿っている意志を強く宣言した。
「くだらなくなどない。それが僕達の真理だ!」
 少年人形は真理を探求するもの。
 彼の求める答えは出せずとも、今此処で自分達が抱く理を見せる。
 これが自分の示すものだとして蔵乃祐は再び床を蹴った。繰り出される拳は何よりも強く、暴走機関車を止めるために振るわれていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノイシャ・エインズワース
――――下郎が、見せしめに手にかけるとは。
…助かるかどうかは私にはわからぬ。だが、お前の終わりを私は
見過ごすことは出来ない。闇に紛れて乗務員の側へ、
素早く抱きかかえ結界を張り安全なところに移動させる。

列車がたどり着く前にお前をバラせばいいのだろう?
…狭い車内だ、やりにくい。悠長に詠唱するよりも
直接叩き折ったほうがいいだろう。
得物は久遠の鳥籠から久遠の秒針へ。お前を貫く時の針。
闇に紛れ、残像を残し、攻撃を交わしながら魔力を貯めた
切っ先で切りつけ、オルガノンを貫く。
常に自身に防御の結界を張り、破られるたびに高速詠唱で張り直す。
そこまで言うのだ、この瞳が赤い内に死んでくれるなよ。



●意志を護るもの
 黒い煙が外を覆い隠していた。
 蒸気獣となった前方車両に辿り着いたノイシャ・エインズワース(永久の金糸・f28256)は、黒一色に塗り潰された窓枠を見遣る。轟々と音を立てながら走る列車が進む度、不穏な気配が色濃くなっていくことが解った。
 煙が邪魔をしているせいで外の様子は見えないが、蒸気機関車が刻々と次の駅に近付いているのは誰もが感じていることだ。
「――下郎が、見せしめに手にかけるとは」
 他の猟兵達が蒸気獣と融合したオルガノンに立ち向かっていく中、ノイシャは車両の片隅に倒れている乗務員の方に向かった。
 彼の衣服は血まみれだ。
 床に広がった血液も大量のものであり、一目で瀕死と分かってしまう。しかしノイシャは彼を見限ったりはせず、その身を素早く抱きかかえた。
「う……ぅ……」
「……助かるかどうかは私にはわからぬ」
 呻き声を落とした青年乗務員に向け、ノイシャは瞳を伏せる。すると青年は途切れがちながらもしっかりとした声を紡いだ。
「乗客の……皆さん、は……?」
 瀕死に陥っても他の者を心配している彼の手を握り、ノイシャは頷く。
 これまで魔法の箒で以て駆けることで見てきた車内の状況を語っていった。暴走していた魔導人形はすべて停止させられた。元はドール達もこの汽車の乗務員のひとりだったので、猟兵達は出来る限りかれらを破壊し尽くさないないよう動いた。
 そして、乗客は全員無事だ。
 怪我を負った者もいるが、今頃は手当てを受けているだろう。
「安心しろ、何も心配はない」
「そう、ですか……良かった……」
 ノイシャの言葉に心から安堵したらしい青年は目を閉じた。もう痛みの感覚もなくなってきているのかもしれない。
 しかし、ノイシャは彼の死をよしとはしない。
「お前の終わりを私は見過ごすことは出来ない。もう少しだ、耐えてくれ」
 彼女は闇に紛れ、乗務員を物陰に移動させた。今は機械的に変貌してしまっているが、元は座席だったであろう遮蔽物の裏に彼を横たわらせる。
 この場所ならば流れ弾などを受けることはないだろう。せめてもの応急処置として止血を行い、仕上げに結界を張ったノイシャはそっと立ち上がった。
 この機関車には人の思いが宿っている。
 技師の少女、車掌、それにこの青年乗務員。その思いは理解している心算だ。
 青年を、ひいては後方車両の人々を守るようにして立つノイシャはオルガノンを見つめた。相手からは並々ならぬ悪意が感じられる。
「列車がたどり着く前にお前をバラせばいいのだろう?」
 必ず成し遂げてみせる。
 静かに決意したノイシャは、久遠の鳥籠から久遠の秒針へと視線を移した。
 四号車までが繋げられてしまったとはいえど車内は狭い。悠長に詠唱するよりも直接叩き折りに向かった方が早いと判断したノイシャは床を蹴り上げた。
 今が夜であり、窓の外に煙が満ちていることは好都合だ。車内の闇に紛れて残像を残しながら駆けるノイシャは、放たれる蒸気魔法を躱しつつ魔力を蓄積していく。
 そして――。
「此処まで近付いてくるとは、小癪ですね」
「これはお前を貫く時の針だ」
 双方の視線が衝突した刹那、ノイシャは得物の切っ先でオルガノンの腕を貫く。機械管が崩れ落ちたが、ノイシャは気を抜かなかった。
 新たな金属管がオルガノンの腕となり、その身が再生したからだ。
「蒸気よ、満ちろ!」
 更にはオルガノンが魔力を放つ。されどノイシャも自身に防御の結界を張っており、破られるたびに高速詠唱で以て張り直していった。
 其処から攻防が巡る。
 先程、オルガノンが言い放った言葉を思い返したノイシャは秒針を差し向けた。
「ああまで言うのだ、この瞳が赤い内に死んでくれるなよ」
「戯言を。全員まとめて八つ裂きにしてさしあげましょう」
 再び視線が交錯する。
 走り続ける汽車内。其処には激しい戦闘が巡る証である轟音が響き渡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

くっそ野郎…
瑠碧姉さんあの人…
乗務員ちらり見

こっから先は退屈させねぇ
…ぶっ壊してやる

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波飛ばし残像纏いダッシュで距離詰め
フェイントに管ごと足払いでなぎ払い
間髪入れずに後追い
この管邪魔だな
巻き込む様に攻撃し目晦ましに吹き飛ばし
拳の乱れ撃ち

俺が接敵して気ぃ引いてりゃ瑠碧姉さんもやりやすいだろうし
攻撃も届きにくいだろ
けど
後ろは任せた

本気の拳は
懐深く入るまで温存
見てれば成功率が上がるってんなら
見せなきゃいいんだろ
魔導書ごとぶっ壊す
蒸気魔法は直前で見切り
ジャストガードでオーラ張りそのまま距離詰め片手は魔導書狙い
片手で本体へUC
次の駅まで保たせやしねぇ


泉宮・瑠碧
【月風】

…大丈夫
まだ、助けられます

対の指輪へ、理玖を守ってと願い
魔法の類は
魔力の流れや精霊の囁きで発動を察し
私の方で対応出来るよう努めます

私は杖を手に天飛泡沫
大半の水鳥は相手の顔や魔導書を狙って行動の妨害
気が逸れたら乗務員へも水鳥を飛ばして治癒
都度、生成し
理玖や周りに怪我や異常があれば治癒を

魔術印は異常として浄化で治す様に試み
炎や水は水の
風は風の精霊達へ相殺や抑制も願います

蒸気魔法には風と氷の精霊による氷の風で
吹き散らしたり
気体の変化や蒸気の源を冷ますように狙い
魔法の結実を妨げます

被弾へは目視の見切り
死角なら第六感で回避
攻撃には氷の槍

オルガノン…今は、また躯の海へ
いつか、人も認められますよう…



●絆ぐ繋がり
 鉄の匂いが鼻先を擽った。
 それは周囲に満ちている蒸気魔導機械からのものではない。床に広がった血が発するものだと理玖と瑠碧は理解していた。
「くっそ野郎……」
 思わず悪態をつきたくもなる。あの血の痕は、今目の前にいる敵――探究のオルガノンによって作られたものだからだ。
「瑠碧姉さん、あの人……」
 他の猟兵に保護されていった乗務員を見遣り、理玖は瑠碧に目配せを送る。
 瑠碧はちいさく頷き、あの様子なら流れ弾などに当たる心配はないと判断した。
「……大丈夫。まだ、助けられます」
 瑠碧が手遅れではないと語ったことで、理玖は荒立ち掛けていた気を鎮める。しかし彼の胸の奥には轟々と燃える闘志があった。
「こっから先は退屈させねぇ」
 視線と言葉をオルガンに向け、理玖は手にしていた龍珠を弾く。そして宙に軽く浮いたそれを掴んで握り締め、ドラゴンドライバーに珠を嵌めた。
「――変身ッ!」
 刹那、理玖の姿は装甲に包まれる。
 変身と同時に衝撃波が巻き起こり、襲い来る機械腕が捻じ曲げられた。その勢いのままに駆けた理玖は敵との距離を詰めるべく強く床を蹴る。
 彼の内にある指輪が淡く光った。
 その理由は瑠碧が対の指輪へと、理玖を守ってと願いを込めたからだ。
「近付くな。何に変じようとも下等生物は下等なままです」
 魔導書をひらいたオルガノンは蒸気魔法を放った。そうすれば、理玖の元に霧のようなものが飛来していく。
 はっとした瑠碧は即座に魔力を放ち、理玖が蒸気に覆われぬよう動いた。
 瑠碧にとっては未知の魔法ではあるが、魔力の流れや精霊の囁きで察知できる。発動の機を見極めることで、理玖の助けになれるはずだ。
 瑠碧が蒸気を止めてくれたことを知り、理玖は心の中で礼を告げる。
 対の花綵もしかと理玖の護りになってくれているようだ。しかし、蒸気を避けるために飛び退いたことでオルガノンとの距離は開いた。
 その代わりに車両中に蠢く機械管の腕が理玖を捉えんとして迫ってくる。
「この管、邪魔だな。全部纏めてぶっ壊してやる」
 されど理玖はそんなものには怯みなどしない。足払いによって管ごと薙ぎ払い、掴もうとしてくる腕を圧し折る。
 オルガノンは動き回る管を操って自由自在に車内を移動していた。管を打ち砕いた理玖が敵を追う中、瑠碧も次の行動に入る。
 ――我が生成せし清き流れよ、鳥となりて羽搏き、浄化を成さん。
 詠唱と共に精霊杖を掲げ、浄化の水を迸らせる。鳥を模った水は泡沫のように浮かびあがり、敵へと迫っていった。
 狙うは相手の顔や魔導書。管の腕に散らされようと、避けられようと瑠碧は詠唱を止めなかった。同時に乗務員へも水鳥を飛ばし、治癒を試みる。
「理玖、あそこを……」
「向こうから回り込めば近付けそうだな。姉さん、後ろは任せた」
 理玖が金属管が邪魔をしてオルガノンに近付けずにいる状況の中、瑠碧は水鳥を重ねて飛ばすことで突破口を開いた。
 理玖は僅かに残っていた管をすべて巻き込みながら、自分を管の残骸に隠すようにして駆けた。其処から繰り出されるのは拳の乱れ撃ち。
 理玖の接近に気が付いたオルガノンは吹き飛ばされた金属管を腕で防御する。そのまま肉薄してきた理玖に向け、敵は舌打ちをした。
「小癪ですね。ですが、最初に死ぬのはお前のようです」
 オルガノンが振るった機械腕が、理玖の装甲ごとその身を貫かんと蠢く。だが、それよりも先に手を打った者がいた。
「――させません」
 瑠碧だ。言葉は静かながらも、その声色は真剣そのものだった。風と氷の精霊に呼びかけていた瑠碧は激しい氷の風で機械腕を阻む。
 更に氷の槍を紡いだ瑠碧は、理玖の邪魔をする腕をひといきに貫いた。
 背から真っ直ぐな眼差しを感じた理玖は敢えて振り返らない。彼女が自分のために作ってくれた機を逃すことになるからだ。
「喰らえッ!」
 理玖はそれまで秘めていた本気の拳を振るうべく、オルガノンの懐まで一気に駆けた。
 この一撃だけは見切られやしない。させるものか、と強く思う。魔導書ごと少年人形を壊すのだと決め、理玖は全力の一撃を振るった。
「……!」
 その瞬間、オルガノンの手から魔導書が落ちる。華奢な身体が大きくゆらぎ、一瞬は倒れそうになったが――。
「まだ、倒れるような相手では、ないみたいです」
「あぁ、そうみたいだな。手応えはあったけどしぶといってことも分かった」
 瑠碧と理玖は警戒を強めた。
 何故なら、取り落とさせたはずの魔導書は自ら浮遊してオルガノンの手に戻り、その身も機械腕に支えられて倒れなかったからだ。
 列車が疾走る音は尚も続いている。
「その程度で対抗しようなど、甘いにも程があります」
 蒸気獣もどきとなった機関車の力を得ているオルガノンは未だ倒れる気配がなかった。
 それでも、二人は戦いを諦めたりなどしない。
「次の駅まで保たせやしねぇ」
 絶対に。
 理玖は車内に満ちる蒸気を睨み付け、瑠碧も精霊達の力を巡らせていく。魔術印が放たれれば浄化を広げ、蒸気魔法は風で吹き散らす。気体の変化や蒸気の源を冷ますように狙い、瑠碧は魔法の結実を妨げていった。
 その間に理玖が蠢く管を破壊していき、遠ざかったオルガノンへの道をひらく。
 二人の思いは同じ。一筋縄ではいかないゆえに、常に全力を出すのみ。
 瑠碧は理玖の背を見つめながら、その先にいる少年人形への思いを抱いた。
「オルガノン……」
 今はまた、骸の海へ還すことしか出来ないけれど。
 ――いつか、人も認められますよう。
 祈るように魔力を紡ぎ続ける瑠碧と、平穏の為に悪しきものの破壊を志す理玖。
 二人の力は重なり、未来を繋げるものとなっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィオレッタ・フルリール
(髪飾りに手を当てる。その正体は通信アンテナ。この世界の駅の通信設備に波長を合わせハッキング)
『災魔となった列車がそちらに向かっていますわ!猟兵が食い止めますが、最悪を想定して避難の準備をしてくださいませ!』

……貴方様が猟書家、オルガノンですわね
(乗務員を見て絶句)
私に……他者を癒す力が無いのが悔しい
でも私は、戦うために生まれてきた戦闘人形
貴方様に一撃を食らわせて差し上げますわ!

左手の、銀糸のレースに偽装した鉤爪を起動
鉤爪で攻撃をいなし、他の皆様の付けた傷を抉るように攻撃
右手のチャロアイトの杖で、特大の魔法攻撃を叩きこんで差し上げますわ
属性は雷、ショートあそばせ!

乗務員様、大丈夫でしょうか……



●人形と人形
 疾走する暴走列車の内部は異形化している。
 金属管や壁から機械の腕がひしめく車内で戦いが巡っていた。蒸気魔法が放たれ、猟兵達に魔力の刻印が付与されていく中、ヴィオレッタは意識を集中させる。
 手を当てたのは頭部の髪飾り。
 一見はただのアクセサリーに見えても、その正体は通信アンテナだ。
(この世界の駅の通信設備に波長を合わせて――)
 絶えず揺れる機関車の中。ヴィオレッタは通信が出来る装置の在処を探る。この世界の蒸気魔導文明と自分の世界の遺失技術文明は異なるもの。しかしプログラムと魔術は似ているという持論を抱くヴィオレッタはそんな相違はものともしない。そして、魔力通信鉱石が機関車に備えられていることに気付いた。
『こちら……――、駅……の、緊急……』
 其処にアクセスすると、途切れがちではあるが通信が繋がった。
『災魔となった列車がそちらに向かっていますわ! 猟兵が食い止めますが、最悪を想定して避難の準備をしてくださいませ!』
『……!? 何……一体………応答………が、……求――』
 しかしどうやら通信感度が良くない。
 此方の言葉がすべて届いているかも定かではなく、向こうの声も不明瞭だ。されど緊急事態であることは伝わっているだろう。
 ヴィオレッタが髪飾りから手を離すと、鋭い視線が彼女を射抜いた。
「何をしているかと思えば避難誘導でもした心算ですか?」
「……貴方様が猟書家、オルガノンですわね」
 その眼差しの主が少年人形だと気付き、ヴィオレッタは身構える。オルガノンは魔導書を開きながら周囲の猟兵に魔力を放ち、彼女まで巻き込もうとしていた。
「無駄です。僕の領域と化したこの車内で、そんなことが罷り通るとでも?」
「なるほど、通信障害まで出来るのですか」
 先程のノイズはオルガノンが手を回していた所為でもあるらしい。乗務員が血祭りに上げられたこともあり、ヴィオレッタは掌を強く握った。同時に床を蹴り上げ、飛来してきた蒸気魔力を既のところで避ける。
「ええ、この機関車……いえ、蒸気獣擬きはもう僕そのものですから」
 不敵に笑ったオルガノンは更なる魔力を紡いだ。相手にとってはたった一撃を此方に当てればいいだけ。後は魔力の追撃が巡るだけなので、ヴィオレッタ達に攻撃を避けられても慌てなどしない。
 ヴィオレッタは間合いを計りながら、他の猟兵に保護されて手当を受けている乗務員の様子を確かめる。
 自分に他者を癒す力が無いのが悔しい。もし直接、彼を癒やしに行けたならばこの胸の奥に燻る焦りのような感情も少し晴れただろうか。
 でも、と身構え直したヴィオレッタは背後ではなく前を見据えた。
「私は、戦うために生まれてきた戦闘人形」
「お前も誰かに作られた……いや――」
 ヴィオレッタが己を見つめ直すように確かめた言葉を落とすと、僅かにオルガノンが反応する。しかしその言葉の続きは紡がれなかった。ヴィオレッタは今こそ反撃のときだと察し、左手を掲げる。
「貴方様に一撃を食らわせて差し上げますわ!」
 床を蹴り、銀糸のレースに偽装した鉤爪を起動させていく。
 その動きを察知したオルガノンが蒸気の塊を放出したが、ヴィオレッタは鉤爪で以て魔力を斬り裂いた。既に敵の身には仲間が刻んだ傷口がある。其処を狙い、一気に踏み込んだヴィオレッタは傷を抉るような一閃を振り下ろした。
「……!」
 少年人形が僅かに揺らぎ、声無き声があがる。ヴィオレッタは右手に構えたチャロアイトの杖に力を集わせ、特大の魔法攻撃による追撃を叩き込もうと決めた。
「まだ終わりませんわ。更にショートあそばせ!」
 雷撃が迸り、周囲の金属管を伝ってオルガノンを穿つ。確かな手応えを感じたヴィオレッタは、此方と距離を取った少年人形を見つめた。
 乗務員の為に。そして、次の駅の人々の為にも――。
 この戦いは、負けられない。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

キトリ・フローエ
その言葉、そのままお返しするわ
残念だけど、あたし達がこうしてここに居る時点で
敗北が決まっているのはあなたのほうよ!
災魔であるあなたの思い通りになんて、させやしないんだから!

乗務員さんは気がかりだけど
今はオルガノンを倒すことに集中を
どうかもう少しだけ待っていてね、すぐに治してあげるから!
近くにいる子達と連携して戦いましょう
あたしは空を飛びながら夢幻の花吹雪で攻撃
全力で詠唱を重ねて動きを鈍らせ
皆が攻撃を繋げるための隙を作ってみせる
魔術印を付与されたら破魔の力を込めたオーラ防御で
少しでも威力を軽減…できるといいけれど

下等生物だなんて侮ったのが運の尽きよ
オルガノンを倒せたらすぐに乗務員さんの手当てを


ベイメリア・ミハイロフ
早く相手を倒さねばならぬ状況ではございますが
お怪我をなされた乗務員の方を見過ごす事、わたくしにはできません
倒してから治療する、という手もございますが
これ以上、お辛い思いをさせる訳には…

第六感・野生の勘にて相手の攻撃を見切り
情報収集にて乗務員の方により早く近づく方法を見極め
フェイントも用い相手に動きを察知されぬように努めながら
ダッシュにて素早く乗務員の方に近づく事を試みます
激痛耐性・環境耐性を用いつつオーラ防御にて攻撃に耐え
乗務員の方をかばいながら治療を
どうしても近づく事ができぬようならば射線を見切り遠距離から治療します

不可能である場合、又はお仲間さまもお怪我をされた場合には
治療し援護いたします



●花に光、星に蒸気
 猟兵達に向けられたのは不遜な態度と言葉。
 自分達は敗北していると告げられた言葉を思い出し、キトリは頭を振る。その隣に立つベイメリアも何という驕傲さだろうと感じていた。
 機関車は走り続けており、一刻の猶予もないことが分かる。ベイメリアが自分のすべきことを確かめる中、キトリは指先をオルガノンに突きつけた。
「その言葉、そのままお返しするわ」
「へぇ……随分な自信があるようですね」
 キトリに気が付いた少年人形は鋭い視線を向け返す。それは此方を見下すような眼差しだったが、キトリ達は怯みなどしなかった。
「いいえ、自信があるかどうかではございません。成すべきことを行うだけです」
 ベイメリアも凛とした瞳を差し向ける。
 キトリも頷き、自分達の思いは揺らがないのだと語った。
「残念だけど、あたし達がこうしてここに居る時点で未来は決まっているわ。敗北が決まっているのはあなたのほうよ、オルガノン!」
「どうやら口だけは達者なようですね」
「口だけかどうかなんてあなたに分かる?」
 キトリとオルガノンの言葉と視線が交錯する。次の瞬間、魔導書をひらいた少年人形から蒸気魔法が解き放たれた。
 即座にキトリが、気を付けて、とベイメリアに呼び掛ける。
 翅を羽撃かせて魔術印の付与を避けたキトリは、其処から反撃に入った。
「災魔であるあなたの思い通りになんて、させやしないんだから!」
 ――花よ、舞い踊れ。
 振りあげた杖に魔力を集中させたキトリは夢幻の花吹雪を巡らせていく。周囲に光り輝く花が広がっていく中、ベイメリアは身を翻した。
 早く相手を倒さねばならぬ状況ではあるが、彼女は次の行動を決めている。
 乗客を先に逃がすことで怪我をした乗務員の青年。彼を見過ごすことなどベイメリアには出来なかった。
 キトリも乗務員が気掛かりであり、ベイメリアに全てを任せることにした。
 今のうちに、という旨の意思が宿ったキトリの目配せを受け、ベイメリアは乗務員の元へ向かった。彼は別の猟兵によって物陰に移動させられている。
 応急手当と軽い治療は受けていたが、放置すれば命が危ういことは変わらない。
「大丈夫ですか? お怪我の具合は……」
「……」
 ベイメリアは青年の意識があるか否かを確かめていく。返事はなく、視線のみが彼から向けられた。床に広がっていた血の痕から見るに、一度気絶してしまうと二度と起きられるかどうか分からない。オルガノンを倒してから治療するという手もあるが、それからでは間に合わない可能性もあった。
「これ以上、お辛い思いはさせません。もう暫し耐えてください」
 聖なる光が辺りに満ちる。
 ベイメリアが手をかざすことで青年の傷が癒やされていった。その代わりにベイメリアは疲弊していくが、目の前で命の火が消えるよりは良い。
「ありが、と……う、ござい、ます……」
 乗務員の青年は掠れた声でベイメリアに礼を告げた。治療が確かに巡っていることに安堵したベイメリアは、更に癒やしの光を施していく。
 その間にキトリは幾度目かの花舞を放っていた。
(乗務員さんはきっともう大丈夫。それなら、後は……!)
 思いを巡らせたキトリは、今はオルガノンを倒すことに集中しようと誓う。ベイメリアも自分の身を守ることは出来るだろうが、聖者が自身の力を消費して癒やしの奇跡を巡らせることはキトリも知っている。
 それならば彼女と乗務員を守護するのは自分の役目だと思えた。
「あんな下等なモノ、放っておけばいいものを」
「下等ですって? 自分の危険を顧みずに残ったのよ。それをあなたは――!」
 オルガノンが乗務員を示しているのだと察し、キトリは思いを声にする。相手からは次々と蒸気の魔力が放出されたが、キトリはそれらを躱し、時には受け止めながら破魔の力で相殺していた。
「ちょこまかと煩いですね。それに後ろのお前も無駄なことを」
 オルガノンは飛び回るキトリを忌々しげに見遣り、青年の治療を続けるベイメリアにも呆れたような言葉を向ける。同時に機械管がキトリの花吹雪を散らし、幾重にも絡まりながら迫り来ていた。
「そっちを狙おうったってそうはさせないわ!」
 キトリは敢えて自分から蒸気獣擬きの攻撃を受け、ベイメリアと乗務員に向かうはずだった一閃を肩代わりした。
 ちいさな身体が大きく穿たれたが、キトリは痛みなどないように振る舞う。
 はっとしたベイメリアは癒やしの光を彼女にも向け、聖なる力でその傷を癒やしていった。ありがとう、と告げたキトリは花蔦の杖を掲げる。
 ベイメリアもそっと頷いて応えた。
 こうして互いに護りあい、癒やしを交わしているように――自分達はひとりで戦っているわけではない。
 蒸気獣擬きと融合しているとはいえ、オルガノンはたったひとり。自分以外を下等なものと断じる少年人形は或る意味で孤独だ。
「わたくし達は決して屈しません。あなたの企みも凶行も止めてみせましょう」
「そうよ、その証拠にあなたは追い詰められているわ!」
 ベイメリアの言葉と援護を頼もしく感じながら、キトリは翅を更に羽撃かせた。言葉と同時に舞い上がった光の花が癒やしの光に重なって煌めく。
 身体に走る痛みが和らぐ中、キトリは一気に花達をオルガノンの元へ飛来させた。
「僕が、押されている……?」
 キトリが宣言した通り、オルガノンの身体が僅かに揺らいだ。ベイメリアもその通りだとして状況を確かめ、乗務員を守る形で立ち塞がった。
「下等生物だなんて侮ったのが運の尽きよ」
「誰の命も奪わせません。この機関車もいずれ停止いたします」
 必ず成してみせる。
 ――そう、自分達の手で。
 本当は幻想の星を映すはずだった機関車を在るべき形に戻すために。たとえこの汽車が壊れたとしても、この世界の文明を担う人々の命を繋げば良い。
 乗客を守った乗務員の青年。
 そして、必死に魔導人形を止めた技師の少女のためにも。
 戦いの終わりが訪れるのはきっと、もうすぐ。キトリとベイメリアは真っ直ぐに探求のオルガノンを見つめる。
 強い志を抱く二人の瞳には、全てを守り抜く覚悟と決意が宿っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エメラ・アーヴェスピア
ああもう、またよくある展開に…
そういう目論見なら先制した方が良いのだろうけれど…どうしても気になってしまうわね

念の為にこの手で行きましょう
『凍て付かすは我が極寒の巨人』、道を凍らせて滑る事で列車と並走しつつ機能は開放しておきなさい
列車を外部から凍らせることで列車から伸びる武器の動きを止めると同時に機関を冷やし、出力を下げましょう

戦闘に関しては「猟犬」に対して「武装群」から散弾銃を装備させ、前衛に
私は盾を展開、ガトリングとマスケットで援護射撃と行きましょう

倒しても止まる為の距離が足りないなら巨人兵で押しとどめましょう
…危険だから、あまりやりたくはないのだけれどね

※アドリブ・絡み歓迎


桐生・零那
アルダワの街がどうなろうと知ったことではないけど……神の敵たるオルガノンが目的を達成するすることはあってはならない。
ならば答えは一つ、私の全力を持ってその全てを骸と化すまで。

相手に攻撃を当てるために多少の無茶は承知で突撃。改造制服の各【耐性】に任せて傷は気にせず。
一撃を与えられたならば、もう私の術中。
《偽りの聖痕》
この術が与える痛みは物理的なものに限らない。その醜悪な精神そのものを傷つけることでしょう。

たとえ私の刃がその命に届かずとも。神の奇跡が一つ二つと動きを阻害するの。

残念だけど、神の代行者は私だけじゃないの。その苦痛に抗いながら、猟兵たちの猛攻を防げるかな?



●先への一手
 乗務員は見せしめに傷付けられ、乗客や次の駅の人々はいわば人質状態。
 夜の最中を駆けていく蒸気機関車は暴走中。前方車両に辿り着いた今は、この騒動の首魁が目の前にいる状況だ。
「ああもう、またよくある展開に……」
 エメラは敵のお決まりめいた台詞や展開に溜息をつき、放たれた蒸気魔法を見切る。魔導蒸気猟犬は床を蹴り、エメラを魔術から遠ざけた。同時に零那も遮蔽物の影に身を潜め、魔術印が付与されることを回避する。
「アルダワの街がどうなろうと知ったことではないけど……」
 零那にとってはそれは些事。
 しかし、だからといって何もしないという選択は取れなかった。神の敵たるオルガノンが目的を達成するすることはあってはならない。それならば、この手で止めるのが道理というものだと零那は分かっている。
 エメラは彼女の思いを感じ取り、力を巡らせていく。
「街を破壊するだとかいう目論見なら先制した方が良いのだろうけれど……どうしても気になってしまうわね」
 気に掛かることは多々あったが、エメラは或る手を打っていた。
 次の駅に機関車が到着するまで時間もない。しかし、エメラや零那をはじめとした猟兵がこれだけ集まっているのだ。勝利への道筋は見えていた。
 されど、念の為にしておくことがある。そう感じたエメラは氷冷兵器搭載魔導蒸気巨人兵を機関車の外に投下していた。
 ――凍て付かすは我が極寒の巨人。
 その力で以て、道を凍らせて滑ることで巨人は列車と並走している。列車に乗客がいることもあって慎重にいかねばならず、直接の攻撃は未だ行わせていない。
「氷冷機能は常に開放しておきなさい、いいわね」
 外部の巨人に告げたエメラは猟犬の背を撫でた。その動きに呼応するように猟犬は駆け、周囲から迫ってきていた金属管を避ける。
 極寒の巨人の役目は前方車両を外部から凍らせていくこと。列車から伸びる武器の動きを止めると同時に機関を冷やし、出力を下げていくのが狙いだ。
 エメラが戦いの先のことを見据えていると察し、零那も攻勢に入っていく。
 今の自分が何を成すべきか。
 その答えはひとつ。
「私の全力を持って全てを骸と化すまで」
 零那が思いを言葉にすると、オルガノンが此方に意識を向けた。へぇ、と口にして双眸を鋭く細めた少年人形は零那とエメラに語りかけてくる。
「骸となるのはお前達だというのに、滑稽なものです」
「下等だとか滑稽だとか、何をもって言えるのかしら」
 エメラは視線だけをオルガノンに向け、異形化した機関車内を見渡した。窓枠だったところから僅かに外が見える。
 魔導蒸気巨人兵はやや遅れてはいるが、しっかりと列車に並走し続けていた。
 巨人は控えさせるだけに留め、エメラは猟犬から飛び降りる。そして、猟犬に装備させていた散弾銃を放たせた。エメラ自身は盾を展開することで後衛となり、ガトリングとマスケットによる援護射撃に入っていく。
 同時に零那がオルガノンへと突撃していった。
 相手は機関車と融合しているものだ。周囲に蠢く金属管や機械腕が邪魔であり、近接することすら妨げられてしまうだろう。
 だが、オルガノンに攻撃を当てるためには多少の無茶はしなければならない。身が穿たれるであろうことは承知。己に宿る力を信じた零那は駆ける。
「自ら死に飛び込んで来たようですね。面白い」
 ふ、とオルガノンが嘲笑を浮かべた。だが、零那はそんな様子になど構わずに彼との距離を詰めていく。刹那、予想通りに金属管が身体を貫いてくる。
「たった一撃、あなたに届けばいいの」
 痛みなど無視して、ただ前へ。零那は神威の霊刀を振り上げた。それは神に仇なすものに苦しみと解放を与えるものであり――。
 次の瞬間、その刃がオルガノンの腕を斬り裂いた。手応えは薄かったがそれでいい。
 一撃を与えられたならば、相手は術中に嵌ったも同然。
 偽りの聖痕が少年人形の身に巡る。
「……小癪なことを」
「この術が与える痛みは物理的なものに限らないわ。その醜悪な精神そのものを傷つけることでしょう」
 たとえこれ以上、己の刃がその命に届かずとも。
 神の奇跡がひとつ、ふたつとオルガノンの動きを阻害していくだろう。忌々しげに表情を歪めた少年人形は零那との距離を取ろうとする。
 だが、其処にエメラの射撃と猟犬による散弾銃の追撃が入った。
「そっちに気を取られすぎじゃないかしら?」
「残念だけど、神の代行者は私だけじゃないの。その苦痛に抗いながら、猟兵たちの猛攻を防げるかな?」
 エメラの言葉に続き、零那もオルガノンに言い放つ。
 腕を抑えた災魔は唇を噛みしめるような仕草をしながら、何も言い返さなかった。憎悪と侮蔑が混じった視線を向けてくるだけだ。
 徐々に相手も押されてきている。
 そう察した零那とエメラは更なる攻撃を与えようと決め、其々に立ち回っていく。
 その中でエメラは戦いが終結した後を思った。列車に並走させている巨人はどうやら、外部についた機械腕に対抗しているようだ。
「外の方は大丈夫?」
「ええ、保たせてみせるわ。巨人兵の力は最後の仕上げに必要だから」
 零那の問いかけに答えたエメラは窓から見える巨人に目を向けた。そのためにも自分達が此処で倒れるわけにはいかない。
 蒸気獣擬きとオルガノンの攻撃に耐えて列車を必ず止める。それも次の駅に到着してしまうまでに成さねばならぬことだ。
「……危険だから、あまりやりたくはないのだけれどね」
「それでも、やるしかない。そういうことね」
 エメラと零那は頷きを交わし、少年人形を強く見据えた。
 そして、戦いは更に続いていく。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フリル・インレアン
ふええ、大変なことになりました。
白衣の天使で乗務員さんの応急手当をしたのですが、、戦場で敵さんに背を向けて応急手当をするのは無防備でして、私を庇ったアヒルさんが魔術印を受けてしまいました。
ふええ、アヒルさんごめんなさい。

アヒルさん、早くオルガノンさんから離れてください。
オルガノンさんから離れれば追加攻撃を受けなくて済みます。
ふええ、何でオルガノンさんに近づいていくんですか?
あれ?アヒルさんがオルガノンさんの周りを飛び回ることで追加攻撃の流れ弾がオルガノンさんに当たっています。
アヒルさんは追加攻撃を機敏に躱していますけど、オルガノンさんは機関車と繋がっているから避けられないのですね。


ティオレンシア・シーディア
あらあらありがとぉ、わざわざタイムリミット教えてくれるなんて優しいのねぇ?
…先人に曰く、「相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している」らしいわよぉ?

まあ〇挑発はともかく実際時間はかけてられないし、速攻あるのみよねぇ。●鏖殺で〇範囲攻撃の乱れ撃ちバラ撒くわぁ。
狙うのは…床・壁・天井・配管歯車その他諸々。
銃弾の通るラインを空間的に〇見切って、徹底的に〇地形の利用した跳弾で三次元飽和射撃を叩き込むわよぉ。
更に弾丸には魔術文字のおまけ付き。〇捕縛に呪殺に属性攻撃、各種付属効果ガン積みの不規則空間〇弾幕。単一術式で防げるもんなら防いでみなさいな。
…人間の研鑽、舐めんじゃないわよ?



●白衣の天使と弾幕と
 刻限は近い。
 次の駅が迫っていることを語る少年人形、オルガノン。
 その声を聞き、ティオレンシアは口許を薄く緩めてみせた。既に周囲には蠢く機械管が迫ってきている。
 床を蹴り、その軌道から外れたティオレンシアはオルガノンに意識を向けた。
「あらあらありがとぉ、わざわざタイムリミット教えてくれるなんて優しいのねぇ?」
「そんなことは微塵も思っていないでしょうに」
 ティオレンシアの声を耳にしたオルガノンは肩を竦める仕草をする。誰に対してもそうであるように、彼からは呆れと侮蔑の意思が見えた。
 しかし、ティオレンシアは相手の様子など気にせずに言葉を返す。
「冷たいのねぇ。……先人に曰く、『相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している』らしいわよぉ?」
「そうですか、その先人とやらも下等なものだったのでしょうね」
 ティオレンシアとオルガノン。
 二人は挑発めいた言葉を交わしている。ティオレンシアがそうした目的は、背後に猟兵の仲間であるフリルがいるからだ。
 彼女は現在、戦場を駆ける白衣の天使の力を使っていた。
 名の通りに怪我の手当を行うものであり、今のフリルは比較的安全な物陰に移動させられた乗務員の傍にいる。
 応急手当を受けている彼を更に治療をしたいのだが、この異形化した車両内では敵から意識を逸らすことは危険に繋がる。それゆえにフリルが乗務員の治療を終えるまで、ティオレンシアが敵の意識を引き付けているのが現状だ。
「ふええ、何とか手当が出来ました」
「すみません、皆さんにご迷惑を……」
 フリルは力の代償である疲労を覚えながらも、乗務員の傷を癒やした。彼も意識がはっきりしてきたらしく申し訳無さそうに謝っている。この戦場で戦う皆が自分を気遣い、助けてくれていると感じているのだろう。
「いえ、迷惑なんかじゃないです。当たり前のことをしているだけですから」
 フリルはそっと微笑んで首を振る。その姿は本当に白衣の天使のようだ。
 しかし、そのとき。
「猟兵さん、危ない……!」
「気を付けて、そっちに蒸気が――」
 オルガノンの方を見遣った乗務員と、敵と戦い続けていたティオレンシアの声が重なった。危険を知らせる声にはっとしたフリルだったが、オルガノンに背を向けて治療に専念していたので彼女自身は無防備なままだった。
 そして次の瞬間。
「ふえぇ、大変なことになりました」
 フリル自身や乗務員は無事ではあった。だが、彼女達を庇ったガジェットのアヒルさんが魔術印を受けてしまったようだ。
 アヒルさんの体に魔力文様が刻まれ、鈍く光っている。
「ふええ……アヒルさんごめんなさい。でも、守ってくれてありがとうございます」
 慌てながらもお礼を伝えたフリルは立ち上がった。
 もっと隅に隠れていて欲しいと乗務員に告げたフリルは、自分も戦うことを決める。ティオレンシアはフリル達も無事だったことを確かめ、更なる攻勢に入った。
「ひとつ懸念も消えたし、速攻あるのみよねぇ」
 もし誰かの命が消えてしまったら試合に勝って勝負に負けたようなもの。乗務員も当初と比べれば随分と回復しているようなので一安心だ。
 それならば後は何も気にせず動けばいい。
 ――鏖殺。
 ティオレンシアが放ったのは範囲攻撃の乱れ撃ち。銃弾をバラ撒くようにして狙うのは床や壁、天井に配管や歯車等その他諸々。
 つまりは目に見えるもの全てだ。
 銃弾の通るラインを空間的に見切り、ティオレンシアは徹底的に蒸気獣もどきの内部を駆けていく。ファニングと神速のリロードによる連射は鋭く、跳弾によって三次元飽和射撃が叩き込まれていった。
 その射撃は圧倒的。更に弾丸には魔術文字のおまけ付きのようだ。
 フリルは、すごいですと呟いてティオレンシアを見つめる。
 まずは何より魔術印を受けたアヒルさんを下がらせておかなければと考え、フリルは相棒ガジェットを呼んだ。
「アヒルさん、早くオルガノンさんから離れてください。そうすればあの魔術の攻撃を受けなくて済みま……ふえぇ、アヒルさん?」
 言葉とは裏腹にアヒルさんは何故かオルガノンに近付いていく。
 このままでは破壊されてしまうと危惧を抱いたとき、フリルはアヒルさんが敢えてそうした狙いに気が付いた。
「何ですか、この奇妙なガジェットは」
「あれ?」
 オルガノンは周囲を飛び回るアヒルさんを手で払い除けようとしている。そうやって周りを飛び回られると、自動追撃の流れ弾がオルガノンにも掠るというわけだ。
「あら、なるほどねぇ」
「アヒルさんは追加攻撃を機敏に躱していますけど、オルガノンさんは機関車と繋がっているから避けられないのですね」
 ティオレンシアが感心した様子で頷き、フリルも現状に納得する。
 ち、とオルガノンから舌打ちが聞こえた。予想外の攻撃をされたことで此方を憎々しげに思っているらしい。
 其処から少年人形は更なる魔術を解き放った。
 対するティオレンシアはきっちりと抵抗していく。捕縛に呪殺に属性攻撃、各種付属効果を最大限に積んだ不規則空間の弾幕。
「単一術式で防げるもんなら防いでみなさいな」
「なんて癪に障る人間達でしょうか……!」
 オルガノンの外套が翻り、刻まれた術式が様々な色に光り輝いた。其処から繰り出される攻撃は激しく、ティオレンシアやフリルをはじめとした猟兵を穿っていく。
 だが、誰も敵の攻撃に屈してなどいなかった。
 フリルはアヒルさんを信じ、ティオレンシアは自らの力を揮い続ける。
「ふぇ……絶対に負けません」
「人間の研鑽、舐めんじゃないわよ?」
 そして――鏖殺の力は疾走する戦場内に迸り、容赦なく敵を穿っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーディット・ウォーカー
狭くて困ったものじゃな。いっそ天井くらい突き破ってみたいものじゃが……
我はマナーを守る西洋妖怪じゃ。(今は)

4号車までの空間、とは、ああ、まさしくちょうどよい狭さじゃな。

空間の中央に陣取って、
真っ暗森の人食いの木々を再演しよう。

機械剣でオルガノンを全周囲から串刺しにするように飛ばそう。
刺さるならばそれはそれで良いが、本命はオルガノンが避けるなり弾くなりした後の蒸気機関車への着弾じゃ。

蒸気機関車と、金属管と融合しているというのならば
その環境を我が魔術で暗黒に浸食しよう。

くふふ。
お主の力、どれほどのものか我に見せておくれ。

瀕死の乗務員もちゃんと保護するとも。
使命を遂げられる強さ、好ましいものじゃ。



●穿く暗黒
 激しく揺れる列車。
 どうやら線路がカーブに入ったようだと知り、ユーディットは身構えた。
 見据えた先は四号車前までがひと繋ぎとなった場所。空間が細長いことには変わりなく、オブリビオンマシンのアンコールが活躍するには少々手狭だ。
「困ったものじゃな。いっそ天井くらい突き破ってみたいものじゃが……」
 ユーディットは車内を見渡す。
 これまでと違って周囲に星は投影されていない。蒸気獣擬きとなった機関車は異形と化しているが、元は人々にとって大切な列車だったはずだ。
「我はマナーを守る西洋妖怪じゃ」
 今は、と付け加えたユーディットは別の策を模索する。
 この後に巡るであろう展開を考えるとアンコールを呼ぶのは後で良い。此処が四号車までの空間ならば案がある。
「ああ、まさしくちょうどよい狭さじゃな。我の力を見せてやろう」
 ユーディットは揺れが収まった車内の中央に陣取った。そして、紡いだ言葉通りに己の能力を顕現させていく。
 浸蝕再演――真っ暗森の人食い樹林。
 渦巻く暗黒。其処から現れた機械剣が飛翔していく。その切っ先はすべてオルガノンに向けられている。ユーディットの動きを察した少年人形も金属管を蠢かせることで剣を阻止しようとしていた。
「邪魔です。砕けてしまいなさい」
「この剣が簡単に破れると思っておるのか」
 幾何学模様を描きながら迸る剣は蒸気魔導管と衝突しながら道をひらいていく。流石に全てが標的に辿り着くことは出来ないのは承知。だが、金属管を抜けた幾本もの刃が鋭く飛んでいった。
 狙うは串刺し。それも全周囲からの攻撃だ。
 ユーディットは単純にオルガノンだけを狙っているように見えた。しかし本命は少年人形ではない。オルガノンが避けるなり弾くなりした後の蒸気機関車そのものへの着弾がユーディットの真の狙いだった。
「ふむ、予想通りじゃ」
 彼は蒸気機関車と融合している。つまりはあの小さな的としての少年ではなく、確実に当てられる金属管から崩してしまえばいい。
 ユーディットはその環境ごと己が魔術で暗黒に浸食しようとしている。
「へぇ、そうきましたか」
「くふふ。次はお主の力、どれほどのものか我に見せておくれ」
「下等な策です。僕の力を見せるにも値しない」
 オルガノンは徐々に押されてはいるが、未だ余裕を保った態度を見せていた。強がりであるのか、それとも本気であるのかは今のユーディットには判断が出来ない。されど、そのどちらであっても構わない。
 ユーディットは更に力を紡ぎ、暗黒の剣を解き放った。
 それは暗い森の中に全てを包み込むかのように広がり、蒸気獣擬きの内部――ひいてはオルガノンを貫いていく。
 同時に暗黒の色が車内に満ちていた。ユーディットは力を緩めぬまま、他の猟兵達に手当を受けている乗務員を見遣る。
 車内をよく把握している彼は乗客よりも先に逃げられたはずだ。命の危機が迫っているとき、それを忌避する為に動くのは決して悪いことではない。
 しかし、彼は自分が最後になってまで他者の命を優先した。そうしたのは彼が乗務員としての志を抱き、強い覚悟を持っていたからだろう。
「使命を遂げられる強さ、好ましいものじゃ」
 今、ユーディットは彼や技師の思いを受け取っている。
 来たるべきときにアンコールを呼ぶ準備は既に出来ていた。ならば後はその意志を繋げる未来を引き寄せるのみ。
 そうして、疾走る列車は刻々と次の駅に近付いていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーシー・ブルーベル
時間が無い
敗北が決まっている?
それが何だというの

まだ終わっていない
やるか、やらないか
それだけでしょう

無事お客さんたちを逃がした後
前方列車へ急ぐわ

倒れている乗務員さんの元へ
お仕事おつかれさま
お客さまはあなたのおかげで無事よ
もうだいじょうぶ

【天蓋花の紡ぎ】

今の内に乗務員さんの傷をなおして
逃げられそうなら逃げて
難しいならお守りする
同時に糸と針で獣もどきとオルガノンを縫い付けましょう

地をかけるものは足を
空飛ぶものは翼を糸で絡めて
オルガノンへの道をひらき、あなたを針で縫い留める
全てが命中せずとも、少しでもそげればいいわ

この列車が到着する先は災いじゃないの
お客さんを夜明けにつれていくのよ



●星と夜明け
 時間が無い。敗北が決まっている。
 探求のオルガノンは自信満々に、嘲笑うように告げていた。棘のある言葉から感じるのは世界を憎んでいるということ。
 其処に悲しさを感じ取りながら、ルーシーは凛とした声で言葉を返した。
「それが何だというの」
「これを聞いても怖じ気付かないとは、度胸のあるお嬢さんですね」
 対するオルガノンは不敵に笑う。言葉の表面だけをなぞれば褒められているように聞こえるが、その声色からは蔑視の雰囲気が漂っている。
「まだ終わっていないわ」
 ルーシーが首を横に振ると、其処へ蒸気獣擬きの機械腕が迫ってきた。咄嗟に後方に下がったルーシーは既のところでそれを避ける。
 オルガノンとの距離が開いた。すると彼は薄く笑う。
「やるか、やらないか。それだけでしょう」
 ルーシーは周囲の様子を確かめ、他の乗客がもう誰も居ないことを改めて確かめた。そして、攻撃の合間を縫って血塗れになっていた乗務員の元へ向かう。
 彼は何人かの猟兵に守られ、傷もほとんど癒やされていた。失った血は戻っていないので油断は禁物だが命の危機は去ったようだ。
 ルーシーは自分の力を紡ぎ、彼へと更なる癒やしを施していく。
 指先から放たれる黄糸が乗務員の傷を塞ぎ、やさしい温かさを宿していった。
「お仕事おつかれさま」
「君は……?」
「お客さまはあなたのおかげで無事よ。もうだいじょうぶ」
 遮蔽物の後ろに隠れていた乗務員は顔を上げ、ルーシーを見つめる。ちゃんと確認してきたから、と告げたルーシーはこくりと頷いた。
 良かった、と安堵の声が青年から零れ落ちる。自分の傷が治っていっても、やはり乗客のことが気掛かりでならなかったのだろう。ルーシーの行動と言葉は彼の身体だけではなく心も救った。
「自分でにげられる?」
「いえ、ここから出ると流れ弾に当たる、と……」
 ルーシーが問うと乗務員の青年は動かない方が良いらしいと答えた。現に流れ弾以外にも危険は多く、蠢く蒸気機械腕が脱出を阻むだろう。
 自分が彼についていったとしても、オルガノンに背を向けることになってしまう。
「わかったわ、ルーシーたちがお守りするから安心して」
 ルーシーは状況を聡く把握し、少年人形を見つめた。相手は他の猟兵を相手にして蒸気魔法を解き放っている。
 青年を背に庇う形で立ったルーシーは片手を掲げた。
 天蓋花の紡ぎは、次は敵へと放たれてゆく。青糸がふわりと浮かび、銀の縫い針と共に蒸気獣擬きの機械腕を縫い付けていった。
 床から金属管が迫ろうとも、壁から機械の指先が伸ばされようとも、ルーシーは決して怯えない。的確に針と糸を放つことでそれらを生えてきた場所に縫い止めた。
「先程のお嬢さんですか。随分と無駄なことをしますね」
 敵の言葉と同時に糸を千切った機械腕が蠢きはじめる。しかし、ルーシーは糸を遣わすことを止めたりなどしなかった。
「むだかどうかは、もうすぐ分かることよ」
 オルガノンへの道をひらいたルーシーは真っ直ぐな敵意を差し向ける。少年人形とは違ってその視線には憎悪などはない。
「あなたを針で縫い留めるわ」
 たとえ全てが命中せずとも少しでも相手の力を削げれば良かった。オルガノンは単独で全てを担っているが、ルーシー達はひとりで戦っているわけではない。
 自分の一手ずつが弱くとも、糸が破られたとしても、仲間が進む道を拓き続けるものになっていくのだから。絶対に勝てる。
 ルーシーはオルガノンから視線を逸らさず、天蓋花の軌跡を紡ぎ続けた。
「この列車が到着する先は災いじゃないの」
「へぇ、では何処に?」
「この蒸気機関車、幻星号は――お客さんを夜明けにつれていくのよ」
 星々を煌めかせて、深い夜を越えて、更にその先へ。
 人々の思いと歴史が宿った汽車ごと必ず救ってみせる。少女が抱いた思いは強く、続く戦いの中に巡っていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

浮世・綾華
ディアナちゃん(f01023)と

随分といい趣味してる坊ちゃんだこと

勇気ある行動をした乗務員を狙うことで
恐怖で支配しようとするやり方も気に入らない

彼女のやる気な発言にはふと笑う
んいや?なんて聞こえていないふり

早くあの人を助ける為に
行こう、ディアナちゃん。全力で

とは言ったが、嗚呼
そーゆー戦い方なわけ、ねえ…!
(身を削るやり方を否定できる立場じゃねーが…)
彼女への攻撃を少しでも請け負えるように
連携を心掛け鍵刀を構え前に出れる用意を

座椅子等を盾にしながら戦う
魔術印でダメージを受けることがあっても
耐えつつ炎や風は鬼火に取り込み氷は熱で溶かし

守られるだけの女の子じゃないってか
…後で手当てくらいさせてくれよ


ディアナ・ロドクルーン
浮世さん(f01194)と

わざわざご丁寧に説明してくれるなんて余程自信があるのね
その調子にのった鼻っ面をへし折ってやりたいわ……ん、今の聞こえた?(思わずポロリした本音を

無論ですとも。死なせて、なるものですか
自らを省みず手に掛かったあの人を。必ず助けないと

宝石剣を引き抜ぬき、刃を握りしめて鮮血を流す。血を触媒とし黒狼を喚びだすわ
敵の攻撃は狼たちを盾にして
座椅子を蹴り、距離を詰めんと駆けて、傷を負う事も厭わず。
宝石剣でオルガノンに一撃でも与えんと降り下ろす

大きな口を叩くのは、物事を成し遂げてから言いなさい、―坊や
その身、その野望、全てを躯の海還してあげる。



●貳の刃
 汽車内は魔導機械化しており、歯車や金属管が蠢いている。
 それに加えて幻星号はこのままでは次の停車駅で更なる騒動を起こす。それを語ったオルガノンを見遣り、綾華は肩を竦めてみせた。
「随分といい趣味してる坊ちゃんだこと」
「本当ね。わざわざご丁寧に説明してくれるなんて余程自信があるのね」
 ディアナも不遜な少年人形を瞳に映した。
 それは人を下等と断じるもの。
 勇気ある行動をした乗務員を狙うことで恐怖で支配しようとするやり方も、他者を蔑む姿勢も綾華にとっては気に入らない。
 ディアナも思いは同じらしく、尾を静かに逆立てていた。
「その調子にのった鼻っ面をへし折ってやりたいわ」
「……ふ」
 彼女が思わず零した本音を聞き、綾華はちいさく笑う。その声に気付いたディアナは尻尾をそっと下げながら何とか取り繕う。
「ん、今の聞こえた?」
「いや?」
 綾華は首を横に振ったが、ディアナには分かっていた。彼は聞こえていなかったふりをしてくれているのだろう。
 優しい人だと感じたディアナだが、今はそのことを彼に告げる時間はない。
 自分達の間に金属管が迫ってきている。咄嗟に左右に散開した二人は其々の方向に跳び、視線を交わした。
「行こう、ディアナちゃん。全力で」
「無論ですとも。死なせて、なるものですか」
 自らを省みずオルガノンの手に掛かってしまった乗務員の青年も、後方車両に集っている何の罪もない乗客達も、全員。
 綾華が鍵刀を構え、ディアナも宝石剣を引き抜く。
 そのとき、ディアナの方にオルガノンが放った蒸気魔法が迸っていった。咄嗟に軌道を読んだ綾華は彼女の前に駆け、一刀のもとに魔力を斬り裂く。
 ディアナは綾華に礼を告げてから自分が持つ刃を握り締めた。それは鮮血を流すための行為であり、紅い雫が滴る。
「生を蹂躙する者 闇より出でし獣よ」
 滅びの声をあげ、血の嵐と共に葬り去れ――。
 ディアナの声と血に呼応する形で影から黒狼達が現れていった。綾華の横を狼達が擦り抜けていき、オルガノンが操る金属管を食い千切っていく。
(全力、とは言ったが、嗚呼)
 綾華はディアナの攻撃方法を目の当たりにして、僅かに歯噛みした。
「そーゆー戦い方なわけ、ねえ……!」
「あら、いけない?」
 掌から滴り続ける血はそのままに、ディアナは綾華に問いかける。いけなくはない、と首を横に振った綾華は周囲に鬼火を巡らせていった。
(身を削るやり方を否定できる立場じゃねーが……)
 綾華が何を告げようか一瞬だけ迷ったとき、前方から不遜な声が響いてきた。
「邪魔な犬共ですね。こいつらの主は……ああ、お前ですか」
 オルガノンに飛びついた黒狼が蹴散らされている。それを厄介だと断じた少年人形がディアナの存在を察知したらしい。
 綾華は即座に前に出ることでオルガノンの視線を受け止めた。
 ディアナが血を流すのならば、自分は彼女への攻撃を少しでも請け負えるように。鍵刀をオルガノンに差し向けた綾華は、近くにあった金属管の残骸を蹴り飛ばした。
 そのままの勢いで駆けた彼はオルガノンと壁を繋ぐ管を斬り裂く。
 するとディアナも座椅子だった部位を蹴り、綾華の隣に着地した。
「浮世さんだけに無理はさせないわ」
「そういうディアナちゃんだって」
 身を削り、自らが傷つくことも厭わずに戦わなければいけないときが今だ。再び眼差しが重なり、言葉と意思が交わされる。
「はぁ……実に面倒だ。仲良しごっこは終わりましたか?」
 其処にオルガノンが打った魔力弾が飛来してきた。ディアナを庇った綾華はその身に魔術印を受けてしまった。
「浮世さん!」
「こっちは構わなくていーよ。その代わり、今のうちに――」
 ディアナの呼びかけに敢えて軽く返した綾華は体勢を立て直す。その声に応じたディアナは前に駆け、反対に綾華は距離を離す。
 まずは炎の弾、次に氷の礫。更には風の一閃。次々と襲い来る魔力の奔流に自分以外の誰かを巻き込ませないためだ。
 綾華はそれらに耐えつつ、炎と風を鬼火に取り込んだ。氷は熱で溶かしきり、緋色の鬼火を解き放ち返す。
 その間にディアナはオルガノンの眼前まで迫っていた。
 ディアナにも蒸気魔法が向けられているが、傷を負うことなど今更だ。噴き出した煙の合間を抜け、宝石剣を一気にオルガノンに振り下ろす。
「大きな口を叩くのは、物事を成し遂げてから言いなさい、――坊や」
「――ッ! く、ぅ……見た目だけで、僕を判断しないことです。見えるものしか見ていない……。だから下等なんですよ、お前達は!!」
 白き刀身がオルガノンの腕を切り裂き、深い傷跡を残した。
 少年人形の背後から現れた蒸気獣擬きの腕がディアナを穿ち返す。その勢いに吹き飛ばされたディアナは壁に叩きつけられそうになった。されど彼女は身体を回転させることでその壁を足場にして受け身を取る。
 ディアナの手からは尚も血が流れ続けていた。
 しかし、血は触媒だ。その影から再び現れた狼達がオルガノンに飛び掛かっていく。その頃には綾華はすべての追撃魔法を無力化しており、ディアナの隣に参じた。
「守られるだけの女の子じゃないってか」
「そうね。でも守ってくれるのは嬉しいわ。ありがとう、浮世さん」
「……後で手当てくらいさせてくれよ」
「じゃあお願いしようかしら」
「それなら、まずは生き残ることからかな」
 綾華とディアナは其々に刀と剣を構え直し、同時に駆け出した。向かう先に待ち受けるのは探求のオルガノン。
 彼が何を探し求めているのか。その憎悪や侮蔑の感情は何が根源であるのか。その答えは見えないが、ディアナも綾華も戦いを諦めたりはしない。
「その身、その野望、全てを躯の海に還してあげる」
「お前がそうであるように、俺達にも戦う理由があるんでね」
 二人の鋭い視線が敵を貫いた。
 列車は疾走し続ける。
 次の停車駅に辿り着くまで。或いは辿り着く前に――。決着は間もなく、訪れる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

とうちゃーっく!
なかなか楽しいアトラクションだったよ!
ちょっと悪趣味だけどね!
このままみんなを楽しませるエンテーテイナーとして生きてくっていうんなら助けてあげるよ
願い下げだって?それは残念!
じゃあ壊すね!

●殴る。潰す。抉る。削る。齧る。焼く。照らす。
なるほど、これまで盗み見たUCはなおさら通じないってわけだね!
ならUC以外に頼るよ!みんな、出番だよー!
っと大小の球体くんたちをわっと放ってボクがUCを相殺してる間に彼や彼と蒸気魔導の連結部を攻撃してもらうよ!
球体くんそれぞれの得意技をわーっと浴びせかけちゃえ!

列車旅行の旅は楽しかった?ボクは楽しかったよ!ありがとう!



●神撃の進劇
 巡りゆく戦いが始まった直後。
 元気よく車両に駆け込んできたのはロニだ。
「とうちゃーっく! なかなか楽しいアトラクションだったよ!」
 袖をぱたぱたと振って、機械人形との攻防を思い返したロニは明るく笑う。その声を聞いたオルガノンは不機嫌そうに眉を顰めた。
「それはそれは、お眼鏡に適ったようで――」
「ちょっと悪趣味だけどね!」
「……そうですか」
 何かを語りかけたオルガノンの声を遮り、ロニは感想を告げる。少年人形は言葉を止め、呆れたような顔を見せた。
 その際に彼は魔導書から蒸気魔法を解き放つ。
 対するロニはひょいと身をかわし、これまでと変わらぬ調子で話しかけた。
「そうだなぁ、オルガノン。このままみんなを楽しませるエンテーテイナーとして生きてくっていうんなら助けてあげるよ」
「何を莫迦なことを。願い下……」
「願い下げだって? それは残念!」
 ロニはオルガノンの言葉を殆ど無視、もとい先回りして結論を出す。またもや最後まで台詞を言えなかったことで少年人形が唇を噛み締めた。
「此方が喋っているときに遮らな……」
「じゃあ壊すね!」
「話を聞け!!!」
 流石のオルガノンも調子を崩され、ロニを強く睨み付ける。しかし戦闘態勢に入ったロニはもう容赦などしない体勢だ。
 床を強く蹴ったロニは跳躍する。歯車の山を飛び越え、迫りくる機械腕を拳で打ち砕いたロニはオルガノンとの距離を一気に詰めた。
 そして、殴る。
 されどオルガノンは蒸気を噴出させることでロニの勢いを相殺した。
 それなら、と次の手に出たロニは金属管を潰す。其処から抉って削って、ときには齧る。更には焼いて、照らして――。
「無駄です」
 オルガノンはロニに言葉を遮られないように敢えて短く喋ろうとしているらしい。そんなに警戒しなくてもいいのに、と笑ったロニは敵の力を理解した。
「なるほど、これまで見た攻撃はなおさら通じないってわけだね!」
「今頃理解しても、遅」
「ならそれ以外に頼るよ! みんな、出番だよー!」
「だから僕の話を……!!」
 オルガノンがロニの相手に辟易してきたとき、周囲に大小の球体が飛び出していく。
「球体くんたち、いけー!」
 放たれたそれらは瞬く間に広がり、蒸気魔導の連結部を一斉に攻撃しはじめた。球体それぞれの得意技が次々と放たれていき、オルガノンの融合元である蒸気獣擬きが少しずつ解体されていく。
「明るくて煩いだけの相手だと思っていましたが、厄介な……」
「球体くん、もっと色々浴びせかけちゃえ!」
 少年人形そのものとも言える汽車自体を攻撃してしまう方法も有効的だ。やめろ、と抵抗するオルガノンに向け、ひらひらと手を振る。
「列車旅行の旅は楽しかった?」
「もう終わったような口を利いていますが、まだ戦いの途中で――」
「ボクは楽しかったよ! ありがとう!」
「勝手に締めないでください! どういたしまして!!」
 完全に調子を狂わされたオルガノンはもう突っ込みにしか回れない。最後は自棄になってロニに合わせてしまっている。
 そのような妙な一幕がありながらも、列車は走り続けていた。
 明るく笑うロニとて刻限が近いことを知っている。それゆえに彼はオルガノンの気を引きながら、球体達を絶えず遣わせていた。
 そして、運命の時が近付いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎迎桜
アドリブ歓迎

…ちょっと試したい事がある
その間…護ってくれねぇか?

UC起動

融合…
全部纏めて変えられないんだ
なら
災魔の力抜けば
制限時間も増えるはず

技師の大事なもん守りたいし

吸い取るのは呪で経験し
魔力変換の術も元の姿で覚え
なら
やれるはず
耐えれる!
【限界突破×生命力吸収×狂気耐性×呪詛耐性×気合】
取れる限り奪う!可能なら全部!
あの呪に比べりゃどうって事はねぇ!

奪った力
内に
外に
纏い力に

見とけ一華!
櫻宵!
…カムイ!

お前の力
俺様の力
一つ纏めて叩き込む!

光【魔力溜め×全力魔法×属性攻撃×捨て身の一撃×衝撃波】

即席必殺!

蒸気輝光拳!(殴

下等だとかうるせぇ馬鹿!
皆凄い奴なんだ!

そんなだからお前は負けんだ!


誘七・一華
🌺迎桜

兄貴と隣の――神斬さま……?
神斬……カムイさま……あの、俺!
撫でられて、褒められて、頬が熱くなる
たすけてくれた
いつだって、助けてくれる神様なんだ
そうして―かえってきてくれたんだと喜びが湧き上がる
よかったな、兄貴
…カムイ様は…脳裏に蘇った言葉に今はそれどころじゃないと頭を振る

よし!俺だってやるぞ!
零時の気合いに、奮い立つ
守るんだ、俺だって!
前に立つ3人を鼓舞しながら、七星の護符を巡らせる
俺の精一杯で、守るんだ!
こうやって戦って強くなるんだ

いいけど、無茶するなよな
そこが零時らしいけどさ
零時を守るようにオーラを纏わせ
その姿をしかとみとめる

そうだよ
俺達は弱くない、負けない!!
負けられないんだ!


朱赫七・カムイ
⛩迎桜

よく頑張ったね、イチカ
目線を合わせて優しく撫でる

レイジもとても頼もしいね
そなたを守ればいいのかい?
いいよ
カグラ、防護結界を子供達と汽車へ
技師の大切な宝を破壊させない
この汽車の中でいのちを奪わせない

…呪い
半分だからまだ良かったとはいえ一時でも耐えたそなたは偉……?
私は何を?

サヨ、子供達には負けていられない
私達もいこう
厄災を斬り祓う
誰も傷つけさせない

早業で駆け相手より先に攻撃を放ち切断する
巡る神罰は―不運
どんな攻撃も成立しない不幸
そのまま斬って、敗北を約してあげる

ねぇサヨ
きみの息子は
立派に育っているね
わかるに決まってるよ
密やかな声で龍に笑む

守ろう

ひとを甘く見てはいけないよ
彼らは強くうつくしい


誘名・櫻宵
🌸迎桜

一華を撫でるカムイを微笑ましく見守り
それから守っていてくれた零時に礼を
何か大技があるのね?
一華を守ってくれた恩返し
時間を稼いであげる

…カムイ?呪いがどうかしたの?
何も無いわ、大丈夫
愛呪かくして笑み、刀を構え

勿論よ
カムイ
いきましょう

自信に違わぬ力を感じるわ
けれど負けない
あいするものたちを守るの
私は護龍―その自信ごと祓い喰らい咲かせてあげる

カムイと合わせてなぎ払い
浄化を破魔で強化して桜化の神罰と共に衝撃波を放ち断つ

汽車も命も奪わせないわ
一華ったら前より頼もしく
零時の影響かしら
カムイの言葉に目を見開く
カムイ!何故知って……?!
秘密よ

守るわ

驕れる者久しからず 、というわ
足元を掬われてしまうわよ



●おかえり、神様
(兄貴と隣の――神斬さま……?)
 櫻宵達と合流し、機械人形達を退けた一華は少しばかり戸惑っていた。背格好は違うが、目の前にいるのは彼の神のように思える。
「神斬……カムイさま……あの、俺!」
「よく頑張ったね、イチカ」
 一華はカムイに聞きたいことがあったのだが、彼は此方に目線を合わせるように屈んでくれた。そのまま撫でられて褒められたことで一華の頬が熱くなる。それによって聞きたいことは何処かに吹き飛んでしまった。
 櫻宵は一華とカムイを微笑ましく見守り、淡く双眸を細める。
「零時もありがとうね。弟を……一華を守ってくれて」
「友達として当たり前だからな。二人だってすげーじゃん!」
「レイジもとても頼もしいね」
 零時と話す兄達から穏やかな雰囲気を感じ取り、一華はカムイを見つめた。
 たすけてくれた。
 いつだって、助けてくれる神様なのだと改めて思った少年は嬉しさを覚える。それに、かえってきてくれた。喜びが湧き上がり、一華はほっとする。
「よかったな、兄貴」
「ええ、本当に――」

●護りの志
 そんなやりとりがあった後、四人は首魁が待ち構える先頭車両にやってきた。
 時間はあまり残されていない。
 列車が次の駅に到着する前にオブリビオンを倒せなければ終わりだ。緊張感が満ちていく中、零時は皆に呼び掛ける。
「ちょっと試したい事がある。その間、護ってくれねぇか?」
「そなたを守ればいいのかい?」
「何か大技があるのね?」
 いいよ、と答えたカムイに続き、櫻宵も自分達が時間を稼ぐと答えた。
「頼んだぜ!」
「よし! 俺だってやるぞ!」
 零時の気合いに奮い立った一華もカムイと櫻宵の間に収まり、符を取り出していく。そして、三人は精神を研ぎ澄ませはじめた零時を守るように布陣した。
 既にオルガノンは動き始めており、周囲には金属管や機械腕が蠢き、蒸気魔法の奔流が渦巻いている。
 その中で零時は考えていく。
(――融合、か)
 どうやらオルガノンは全部を纏めて変えられないようだ。それならば災魔の力を抜けば、制限時間も増えるはず。つまり、列車のスピードを抑えられるかもしれない。
 技師の少女の大事なものを守りたい。
 そのために零時は夢の力を己に宿す。それは幻でありながらも現にも成るもの。
 少年の力が発動していく最中、一華が七星の護符を解き放った。
「守るんだ、俺だって!」
「噫。カグラ、結界を子供達と汽車へ」
「私だって護りの龍よ、これくらいは耐えてみせるわ」
 一華の符が巡りゆく機に合わせ、カムイの願いに応えたカグラが結界をつくる。櫻宵はカムイと同時に刃を振り上げ、二人は迫り来る金属腕を斬り裂いた。
 その姿を見つめる一華は、役割というものを強く思う。
 兄や神様のように刀を振るう力はまだない。母のように弓を引くのも良いかもしれないが、それも鍛錬を重ねなければならない。ならば、一華の役目は――。
「俺の精一杯で、守るんだ!」
 守護しかない。皆、こうやって戦って強くなるのだろう。
 カムイは一華の様子を見守りながら、魔導機械を両断した。この列車はもう蒸気獣擬きであるゆえ全力を振るえばいい。
 だが、技師の大切な宝を破壊はさせない。戦いに勝つことも重要だが、この汽車の中でいのちを奪わせないことが一番の目的だ。
 オルガノンの猛攻は櫻宵達を次々と襲っていった。
 しかし、誰もその力に屈しては居ない。櫻宵もカムイも子供達を守り、一華も敵の動きを封じようと狙っていった。
 そうして、零時の準備が整っていく。
 力を奪い取ること。それは以前に経験し、魔力変換の術も元の姿で覚えた。
 それならばやれるはず。たとえ対抗されようとも耐えられる。行くぜ、と三人に合図を送った零時は意気込みを言葉に変えた。
「取れる限り奪う! 可能なら全部! あの呪に比べりゃどうって事はねぇ!」
 そのとき、カムイが呪いという言葉に反応する。
「半分だからまだ良かったとはいえ、一時でも耐えたそなたは偉――」
「……カムイ? 呪いがどうかしたの?」
 それは無意識に溢れた言葉だったらしい。櫻宵は以前を思い出したのだと悟り、そっと自分に宿る愛呪を隠した。
「私は何を? それにサヨ、今……」
「何も無いわ、大丈夫。それよりも零時の援護よ!」
「そうだったね」
 前世の記憶に戸惑っていたカムイが呪に気付きそうだったことは何とか誤魔化せた。櫻宵はひやりとしたが、今は呪いの問題に構っていられない。
 すると零時の接近に気付いたオルガノンが冷ややかな眼差しを向けてきた。
「何かを試すつもりですか? ふぅん、愚かですね」
「愚かかどうかはやってみなきゃわかんねぇ!!」
 零時の目論見を知り、オルガノンは敢えて両手を広げてみせる。其処に飛び込んだ零時は相手の災魔の力を奪い取るべく力を紡いだ。
 そして、次の瞬間。
「う、ぐ……ああぁ、あ――!」
 零時の悲鳴が車内に響き渡った。腕を伸ばした零時は金属管に絡みつかれ、雁字搦めにされている。その腕が、身体が、首が潰されようとしていた。
「あははっ! やはり愚かだ。魔導とはいえ機械です。この力を奪おうなど無謀でしかありません。他の輩なら兎も角、この僕の――」
「出来やしねぇ、ことを……実現する! それが!! 俺の夢であり、力だ!!!」
「何ッ!?」
 オルガノンが勝ち誇った声をあげようとした最中、零時に絡みついていた金属管が腕に集中しはじめた。身体は締め付けられたままだが、零時は魔導機械の一部を制御しているらしい。はらはらと見守っていた一華だったが、彼の気合いを更に後押しする。
「いいぞ、零時! そのまま殴っちまえ!」
「おう!」
「この、下等な……宝石風情が!!」
 魔導機械の制御を奪われたオルガノンが表情を歪ませた。
 零時は奪った力を内と外に纏い、確かな力に変えていく。痛みはあるが、あの呪いに比べれば大したことはない。
「見とけ一華! 櫻宵! ……カムイ!」
「……ちっ」
「逃げんな! お前の力、俺様の力、一つに纏めて叩き込む!!」
 ――即席必殺! 蒸気輝光拳!
 零時は身をかわそうとするオルガノンを追い、ガントレットめいた見た目に変貌した魔導機械腕を振り下ろした。
 少年の全力が災魔人形を殴りぬく中で、カムイと櫻宵も敵との距離を詰めた。
「サヨ、子供達には負けていられない。私達もいこう」
「勿論よカムイ。いきましょう」
 厄災を斬り祓う。
 誰も傷つけさせないと決めた思いはカムイ達の確かな力となっている。一華もフルパワーを出し切った零時に守りのオーラを纏わせ、出来ることを確かに行っていた。
 櫻宵達が行く手を阻む管を斬り、逃げるオルガノンを追ったことで、零時の傍に駆けた一華は其処に絡みついていた管の残骸を千切ってやる。
 ああして最大限の一撃を叩き込んだのはいいが、零時はまだオルガノンの制御下にあった管の一部に足をやられてしまったらしい。
「くっそ……不覚だった」
「成功したからいいけど、無茶するなよな。そこが零時らしいけどさ」
 理想を現実にしたその姿はしかと認めた。
 すごいぜ、と告げた一華は零時の身体を支える。怪我はしたが、まだ戦えるらしい零時の横につき、少年は強く前を見据えた。
 同じ頃、櫻宵はオルガノンが巡らせた機械腕の相手をしていた。
「ああ、忌々しい……!」
「流石、自信に違わぬ力を感じるわね。けれど負けないわ」
 相手が放った蒸気魔法を避け、櫻宵は刃を振るう。
 あいするものたちを守る。先程に宣言した通り、己は護龍なのだから――。
「その自信ごと祓い喰らい咲かせてあげる」
「そのまま斬って、敗北を約してあげる」
 櫻宵の声にカムイの声が重なり、絶華の一太刀と赫華が齎す神罰が巡った。其の罰は不運。どんな攻撃も成立しない不幸の厄だ。
「汽車も命も奪わせないわ」
「下等な、ものども……め……」
 追い詰められていくオルガノンは悪態を吐く。すると、その言葉を聞いた零時が反論の声をあげた。
「下等だとかうるせぇ馬鹿! 皆凄い奴なんだ!」
「そうだよ。俺達は弱くない、負けない!! 負けられないんだ!」
「そんなだからお前は負けんだ! もう勝ち目なんてねぇ!」
 一華も零時に合わせて思いの丈を叫ぶ。それは誘七のしきたりや決まりを言われるままに守り続け、自分は弱い羅刹だと肩を落としていた少年ではないかのようだ。
 その強さを感じ取った櫻宵は思わず涙ぐむ。
「一華ったら前より頼もしくなったわね。零時の影響かしら」
「ねぇサヨ。きみの息子は立派に育っているね」
「カムイ! 何故知って……?!」
 その隣で、声を潜めたカムイが静かに頷く。目を見開いた櫻宵は慌ててしまったが、彼は穏やかに笑っていた。
「弟ではないことくらい、わかるに決まってるよ」
 少年達には聞こえぬ声で囁いたカムイは刀を構え直し、敵に切っ先を差し向ける。
 積もる話は後でいい。秘密よ、と答えた櫻宵に片目を閉じて見せ、カムイはこの機関車の行く末と未来を思った。
「守ろう」
「守るわ」
「俺達の力を見くびるんじゃねぇ!」
「もう終わりだ、オルガノン!」
 カムイと櫻宵、零時と一華の思いは真っ直ぐに向けられている。其処から振るわれるのは剣戟に力を封じる符、そして光の魔術。
 彼らに対抗するオルガノンは唇を噛み締め、喚くような声を紡ぐ。
「人間は醜いんだ。僕を捨てた主も、愚かなあいつらも……全てが……!」
「ひとを甘く見てはいけないよ」
「驕れる者久しからず、というわ。下に見ていると足を掬われてしまうわよ」
 彼らは強くうつくしい。
 カムイと櫻宵はひとを、他者をあいすることを知っている。その視線に耐えきれなくなったのか、オルガノンは子供のように頭を振った。
「煩い、黙れ。お前達に僕の求めるモノが解るものか! 解って欲しくもない……!」
 少年人形の力は明らかに衰えている。
 心なしか列車の速度も遅くなっているようだ。息を切らせるような仕草をした彼を見つめ、少年達は不思議な感覚をおぼえていた。
「なぁ、零時……あの子ってさ」
「ああ。きっとすげー悲しい思いをしてきたんだろうな」
 それでも、あれは葬るべき相手だ。
 どのような理由があっても世界を破壊するならば斃さなければならない。四人は然と頷きを交わし、もうすぐ訪れる最後への思いを強めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
何が下等な者共だ、この卑怯者!
俺たちはそんな言葉で屈したりなんかしない!
お前はただ怖がってるだけだ!俺たちに!

あいつは金属管が動力源なんだろうか?なんだか色々ついてるけど…
なら、あれを潰せば…!

隙を見つけるために【ジャンプ】で攻撃を交わし、逃げや受けに徹する
あれだけ人を下に見てる奴だ
自分が優勢だと勘違いすれば、慢心して油断を誘発することもできるはず

相手が油断して隙を見せたなら
それを見逃さず、すかさず肩の金属管に《スノードーム》で攻撃!そのまま『悪魔の鏡』を付与してやる!
これで金属管が凍って、自由があまり効かなくなる筈だ!

お前が自分が勝ってると勘違いして、慢心したからだぞ
これはお前が撒いた種だ!


朽守・カスカ
まだ失われてないのなら問題ない
下等生物と侮り蔑んだものに敗北し辛酸を舐めることが
上等なものの嗜みならば
私には興味ない、ね

皆が集っているからこそ
オルガノンの相手は任せ
命を助けることに勤めよう

乗務員を守るべく灯すとしよう
【星灯りの残滓】
さぁ憂いは取り除いた
乗務員はもう大丈夫だから、後は任せるよ

そのまま乗務員を
安全な客車まで連れだせば
もう一つ私に出来ることをするか

客車のランプの灯を
私のランタンに組み込み一つにして
これで私のランタンの灯と
この列車の灯りは同一のもの

改めて光を灯し
星屑で満たそう
私だけではなくこの幻星号ごと
さぁ、これで多少乱暴に止めようと
幻星号も誰も傷つかない、さ

あとは皆を信じて任せる、よ



●人形の思い
「何が下等な者共だ、この卑怯者!」
 戦いが巡りはじめた列車内に憤りの宿った声が響き渡った。
 それは真正面からオルガノンを見据え、拳を強く握ったヴァーリャの声だ。片目を閉じて、やれやれ、と呟いた少年人形は少女の方を見遣る。
「騒がしいですね。卑怯であることは認めますが、手段は選ばない主義でしてね」
 オルガノンの視線は鋭い。まるで此方を見下しているかのようだ。
 何にせよお前達は終わりです、とオルガノンは不敵に笑っている。しかし、ヴァーリャの隣に立つカスカはそんな言葉や態度に気圧されたりなどしなかった。
「まだ失われてないのなら問題ないさ」
「そうですか。ならばお前達は無駄な悪足掻きでもしていればいい」
 カスカとオルガノンの視線が重なる。
 それから、カスカは更に言葉を続けた。
「下等生物と侮り蔑んだものに敗北して、辛酸を舐めることが上等なものの嗜みならば、私には興味ない、ね」
 挑発めいたカスカの物言いに対し、オルガノンは眉を顰めるだけに留めた。その瞬間、ヴァーリャ達に向けて蒸気魔法が解き放たれる。
 噴き出した煙と共に周囲に蠢く金属管が襲いかかってきた。
 カスカは数歩下がることで煙を避け、ヴァーリャは素早く跳躍する。元は座席だったらしい歯車の塊を飛び越え、少女は毛を逆立てた猫のような威嚇の眼差しを向けた。
「俺たちはそんな言葉で屈したりなんかしない! お前はただ怖がってるだけだ! 俺たち猟兵に!」
「残念でしたね、僕は挑発になど乗りませんよ」
 対するオルガノンはヴァーリャを軽くあしらい、次にカスカに語りかけた。
「その雰囲気からして、お前も人形でしょう。ならばどうして分からない?」
「何がだい」
「作り手によってこの世界に生み落とされた不幸を。何も考えず、感情のままにのうのうと生きるだけの人の愚かさを。それから、この心が……いや、それが分からないから『そちら側』にいるのか」
 もういい、と頭を振ったオルガノンは周囲で蠢き続けていた機械腕を振るう。その狙いがカスカに向いていると察し、ヴァーリャは咄嗟に飛び出した。
「させるものか!」
 目にも止まらぬ蹴撃で以て機械腕を弾き返したヴァーリャは、その一撃を防ぐ。
「すまない、助かったよ」
 カスカは礼を告げる。だが、不意に異変を察して振り返った。
 其処にはオルガノンが動いた衝撃によって倒れかけている歯車の山がある。確か其処には他の猟兵に保護された乗務員が隠れているはずだ。
 ヴァーリャもそのことに気付いたらしく、カスカに呼びかけた。
「まずいな。そっちは任せてもいいか?」
「もちろんだとも」
「そのかわり、俺はオルガノンの攻撃を防ぐ!」
「ああ。くれぐれも無理はしないように、ね」
 カスカも彼女と同じことを思っていたらしく、すぐに乗務員の元へ駆ける。
 その間にヴァーリャにオルガノンからの攻撃を受け持って貰うことになるが、其処は信頼を寄せるべきところだ。
 任せろ、と告げたヴァーリャは凛とした佇まいで立ち塞がる。
 そして――其々のやるべきことを成す時が始まった。

●氷と勝利の欠片
 刻限が迫る中、攻防が激しく巡っていく。
 ヴァーリャは金属の管を躱し、機械腕を見切りながら縦横無尽に車内を駆け回った。
(あいつは金属管が動力源なんだろうか? なんだか色々ついてるけど……)
 敵の攻撃を自分の方に引き付けながらヴァーリャは考える。するとオルガノンから忌々しげな視線が差し向けられた。
「ちょこまかと小煩いですね。お前はハムスターか何かですか」
「違うのだ! そんなに小さくないのだ! お前こそ小さいくせに!」
「ハムスター娘の癖に生意気ですね」
「だから違うのだ!!」
 そんなやりとりを交わしながらも、ヴァーリャは金属管をどうにかすれば勝機が見えるはずだと読んでいた。
 相手は猟兵達の攻撃によって徐々に追い詰められており、隙を見せまいと必死だ。あの言葉遊びも此方を挑発して調子を狂わせようとしているのだろう。
 ヴァーリャは其処に隙を見つけるために跳躍し、逃げや受けに徹する。
 あれだけ人を下に見ている相手なら、自分が優勢だと勘違いさせてやればいい。そうすれば慢心が油断を誘発するかもしれない。
「ふん、やはり下等生物などこの程度ですか」
(――来た。今だ!)
 オルガノンが不敵に笑った瞬間を見逃さず、ヴァーリャは一気に駆けた。
 蒸気魔法が相手から解き放たれたが、それすら突破する勢いで疾く。接敵と同時にすかさず肩の金属管にスノードームの刃を叩き込む。
「な……ん、だと……?」
「そのまま凍えていけ!」
 慄くオルガノンに対して、ヴァーリャは悪魔の鏡の力を発動させた。砕けた氷の欠片が少年人形を侵食していく。
 これで金属管は凍り付き、相手の自由は効かなくなるはずだ。オルガノンに鋭い眼差しを向けたヴァーリャは強く言い放つ。
「お前が自分が勝ってると勘違いして、慢心したからだぞ」
「……ただ逃げ回っているだけではなかったということですか」
「そうだ、これはお前が撒いた種だ!」
 オルガノンは凍りはじめた箇所を押さえながら後退していく。少年人形を追うヴァーリャは、巡る戦いに終わりが近付いていることを確信した。

●星灯りの耀き
 皆が集っているからこそ、オルガノンの相手は任せられる。
 命を助けることに勤めようと決めたカスカは歯車が積み重なった裏側へと辿り着き、乗務員に声をかける。
「動けるかい、もうここも危険だ」
「う……はい、何とか……平気になってきました」
 乗務員の青年は他の猟兵の力を受け、当初と比べると随分と回復していた。こっちへ、と彼の手を引いたカスカは別の遮蔽物の裏に回り込む。
 しかし、まだ大きく動くには足りないと察したカスカはランタンの灯を燈す。その灯は癒しの力を帯び、輝く星屑となって溢れていった。
 ゆっくりとだが歩けるようになった青年。彼を連れたカスカは振り返る。
「さぁ憂いは取り除いた」
 乗務員の彼はもう大丈夫。戦場の猟兵達にそう伝えたカスカは、そのまま青年を後部車両に送っていく。
 協力してくれたヴァーリャの力により、オルガノンは後退――つまり更に前方の車両へと移動していった。それゆえに避難するならば今しかない。
 そうして、乗務員を導いたカスカは避難していた乗客の元へ彼を合流させた。
 後は頼む、と車掌に青年に託した彼女は連結部に出る。
「さて、もう一つ私に出来ることをするか」
 戦いには加わらない代わりにカスカは自分にしか出来ないことを選び取った。カスカは客車のランプの灯を己のランタンに組み込み、ひとつにしていく。
「よし。これで私のランタンの灯と、この列車の灯りは同一のものになった」
 改めて其処に光を灯す。
 そうすれば星屑が満たされていく。自分だけではなく、この幻星号ごと――。
「さぁ、これで多少乱暴に止めようと幻星号も誰も傷つかない、さ」
 カスカは予測していた。
 オルガノンに勝利しても列車の暴走がすぐ止まるわけではない。おそらく少年人形は、たとえ敗北したとしても列車に乗った人々や猟兵達だけでも殺せると考えているのだろう。
 そんなことはさせない。その思いから、カスカは汽車全体を己を繋いだのだ。
「あとは皆を信じて任せる、よ」
 どうか、頼んだよ。祈るような言葉を紡いだカスカは夜空を振り仰ぐ。
 星は輝いている。
 遥かな空の彼方に。そして、この地上にも――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朝日奈・祈里
ぼくたちの敗北が決まってる?
ふぅん、そうなんだ。
それを覆すのが天才だ。やりあおうじゃないか

乗務員は他の猟兵に任せて、ぼくはオルガノンに集中
強化魔法を身体に流し、ルーンソードを構える
なあ、おまえから見て、現在の勝率はどれくらいある?
ぼくさまには、猟兵の勝利の未来が見えてるけど!
下等生物と侮ったのが敗因かな
他者を下等だと断じるモノの方が下等で愚かだよ
ほら、どうした?下等生物にやられて言葉も出ない?
……結局、慢心したモノの負けだ
ぼくはおまえのようにならんよう、気をつけるよ

さあ、一気に決めよう!

……オルガノン、か。
文字通り、誰かの道具だった?


ユヴェン・ポシェット
僅かな時間さえ無駄には出来ない
ならば、飛ばしていくぞ…!
テュットに乗務員の保護及び守護へ回ってもらうように伝え、自身はUC「halu」使用。蔦へと変えた腕を広げて辺り伸ばし張り巡らす。
張り巡らした蔦のあらゆる場所からオルガノンへ狙いを定め蔦で絡みつき貫攻撃を展開。
これで抑えられる程相手が甘くない事等承知だ。
だがこちらもこれが全てじゃない。それに無視も出来ないだろう。もし蒸気獣もどきがくるなら蔦で絡めてそのまま投げ返す

次に繋げるため、奴に一撃を叩き込む為
探求のオルガノンへ一気に近づくその瞬間を見極め、派手に展開した蔦を収める。間髪入れずに叩き込むのはミヌレの一撃。
逃す訳にはいかない。行くぞ…っ!



●決着は程近く
 暴走列車が線路に火花を散らしていく。
 通常では出せない速度で疾走する幻星号は次の駅に近付いていた。オルガノンは追い詰められていたが、相手にとっては街にさえ辿り着けば勝ちのようなものだ。
 しかし、祈里は自分達が敗北するとは少しも思っていなかった。
「ぼくたちの敗北が決まってる? ふぅん、そうなんだ」
「もっと怯えるなり、慌てるなりすればいいものを……」
 平然としている祈里の様子に気付き、オルガノンは表情を歪める。
 そのやりとりを聞いていたユヴェンは祈里の背後から迫っていた金属管の軌道を見切り、蔦へと変えた腕で払った。
 どうもな、と彼に告げた祈里は感謝の視線を向ける。会釈で応えたユヴェンは、次に少年人形を見据えた。
「僅かな時間さえ無駄には出来ないんだろ? ならば、飛ばしていくだけだ……!」
「そうだ。それに不利な状況でも覆すのが天才だからな。やりあおうじゃないか」
 祈里はルーンソードを敵に突きつけた。
 既に強化魔法を身体に流してあり、地を蹴るだけで熟練の剣士ほどの動きで敵に向かえる。防護に回された金属を刃で切り裂き、祈里は問いかけた。
「なあ、おまえから見て、現在の勝率はどれくらいある?」
「教える義理などありませんね」
「そうか。ぼくさまには、猟兵の勝利の未来が見えてるけど!」
 オルガノンが解放した蒸気魔法を避け、祈里は剣を大きく振りあげた。同時にユヴェンが周囲に張り巡らせていた蔦を敵に放つ。
「逃しはしない。この蔦はもうアンタの一部に絡みついているからな」
 ユヴェンは戦いが始まったときから、じわじわと辺りに蔦を広げていた。オルガノンは蒸気機関車と融合しているので、この列車前方全体が身体のようなものだ。
「く……やられましたね。これ以上は後ろに下がれないか」
「下等生物と侮ったのが敗因かな」
「アンタは強いんだろう。しかし、その高慢さで周囲が見えていなかったようだな」
 オルガノンが歯噛みする中、二人は其々の得物を振るった。
 ユヴェンの蔦が動きを抑えたところへ、祈里の刃が周囲の機械腕を斬り落とす。無論、これだけ抑え続けられるほど相手が甘くないことは承知だ。
 されど、ユヴェンとしてもこれが全てではない。
 それに絡み続ける蔦も無視は出来ないだろう。油断はせず、着実に動きを止めていく作戦は上手く巡っていた。
「――ミヌレ!」
 手にした竜槍に呼びかけたユヴェンは一気に攻勢に入る。
 それまでオルガノンが防御として使っていた金属管はもう殆ど残っていなかった。ユヴェンが振るった竜槍は僅かに残っていた管をひといきに穿つ。
 其処へ祈里が駆け、オルガノンの腕に刃を振り下ろした。
「う、ぁ……」
 その瞬間、魔導書を手にしてた片腕が床に転がり落ちる。書を拾おうにも猟兵達の攻撃が激しく、オルガノンは呻き声をあげることしか出来なかった。
 他者を下等だと断じるモノの方が下等で愚かだ。
 そのように宣言した祈里は転がってきた腕を見遣った後、オルガノン本体にルーンソードを突きつけた。
「ほら、どうした? 下等生物にやられて言葉も出ない?」
「まだです、やられてなど……」
「結局、慢心したモノの負けだ。ぼくはおまえのようにならんよう、気をつけるよ」
 オルガノンは確かな力を持っており、蒸気獣擬きとなった機関車と融合したことでに強大な能力を手にしていたのだろう。
 だが、現状はこうだ。
 オルガノンは瀕死も同然。
 蒸気獣擬きも沈黙させられており、もう機械腕も金属管も動かない。
「どうやら終わりが近いようだな」
 ユヴェンは更なる一撃を叩き込みに駆けた。次に繋げるため、多大な被害を出さぬために、探求のオルガノン目掛けてミヌレの槍を差し向ける。
 そして、戦いは終わりに向けて急転していく。

●蒸気と幻星
「さあ、一気に決めよう!」
 祈里からの呼びかけが掛かり、ユヴェンは床を蹴り上げて跳躍した。
「ああ、行くぞ……っ!」
 されど、ただ向かっただけでは避けられてしまうと知っていた。それゆえにユヴェンは派手に展開した蔦を収め、其方に敵の意識を向かせる。
 其処から間髪を容れずに放ったミヌレと共に紡ぐ鋭い一撃。祈里が真正面から振るった剣が人形のもう片方の腕を穿つ中、ユヴェンの槍は胸を貫いた。
「そんな……僕が、下等な者共、に……?」
 がしゃ、と硬質な音がしたと同時に少年人形が崩れ落ちる。
 彼はもう動けないほどに破壊されているように見えた。祈里は猟兵との戦いの端々で聞こえていた彼の言葉を思い出し、ぽつりと呟いた。
「……オルガノン、か。文字通り、誰かの道具だった?」
「道具? う、ぐ……僕をその意味で呼ぶなッ! 僕はそんなモノじゃない……道具でも、失敗作、などでも……。違う、違う、違うんだ……!!」
 その瞬間、倒れたと思ったオルガノンが立ち上がろうとした。
 違う、と繰り返す少年人形は道具と呼ばれることが我慢ならなかったらしい。ほとんど錯乱状態になりながら、最期の力を振り絞ろうとしている。
 だが、それを猟兵達が許すはずがない。
「観念しなさい、オルガノン」
「お前の過去など知らないが、今の状況は慢心と傲慢さが招いた結果だろう」
 零那が鋭く言い放つと同時に聖痕の力を巡らせ、ノイシャが久遠の秒針を振るった。立ち上がりかけていた少年人形は再び倒れる。
「あらあら、もう動けないのかしらぁ? 大人しくしているといいわよぉ」
 ティオレンシアは弾幕でオルガノンの身体を穿ち、終わりへの布石を打った。其処に蔵乃祐が駆け、拳を強く握る。少年人形は何かの妄執に取り憑かれてしまっているらしいが、今は確実に終わりを齎すだけだ。
「探求のオルガノン、既に僕達の真理は示しました。後は……」
 目の前にある現実を認められるか否か。
 蔵乃祐の拳が正確無比に災魔を捉えた一瞬後、オルガノンの身体は打ち砕かれた。
「……どうして、僕が……。下等な彼奴より、僕の方が有能で、――」
 そうして、何かを呟いた人形は動きを止めた。

 その姿が消えゆく様を見つめ、ベイメリアはそっと両手を重ねる。
「愚かなのは、一体どちらだったのでしょうね……」
 決してオルガノン自身がそうだったとは言わない。きっと何が理由があったのだろうと考えたベイメリアは瞳を伏せ、骸の海に還されたものを思った。
 瑠碧も静かに祈り、消滅した少年人形が秘めていた思いを想像する。
「オルガノンは……最期に、何を……?」
「あいつ、ただ寂しかったのかな」
 理玖は瑠碧の傍につき、ただの道具として使われていたかもしれないオルガノンの過去に思いを馳せた。やったことは許せねぇけど、と理玖が言葉にしたそのとき。
 無機質な歯車ばかりが並んでいた列車内に、淡い星屑の光が満ちた。
 それはとても綺麗だ。
 しかし、ルーシーとヴィオレッタがふと異変に気付いた。
「変ね。列車が、とまらない……?」
「どうしてですの?」
 はっとしたロニも機関車のスピードが今までのままであると察する。猟兵の働きかけによって多少の速度は抑えられているが、それ以上は緩まる気配はない。
「そっか、これまではオルガノンが運転手みたいなものだったもんね! つまり今の列車はこのままだと、どーんって駅に突っ込んじゃうよ!」
 おそらくこれもオルガノンの策略だ。
 自分が敗北しようとも、ある程度まで次の駅に近付いていれば良かったのだろう。恐ろしい速度を出した列車が駅に突っ込めば大惨事が起こる。
 フリルは窓の外を見遣り、かなり街が近付いていることを確かめた。
「ふええ、もう街の明かりが見えてきましたよ」
「骸の海に還っても卑怯な奴なのだ! せめて乗客だけでも逃せれば……」
 ヴァーリャは何とかしてどうにか出来ないかと考えを巡らせ、何が最善かを導き出そうとしていく。しかし、其処に落ち着いた声が届いた。
「安心するといい」
 其処に現れたのは後方車両から現れたカスカだ。
 彼女は今、星灯りの残滓の力を列車全体に広げている。オルガノンを倒したと同時に汽車内に星が広がったのもカスカの力があったからだ。
 輝く星屑はカスカが非戦闘行為を行っている限り、外部からの攻撃を遮断する。
 それゆえに列車にユーベルコードを打ち込んでも衝撃を押さえられるだろう。カスカがそう説明すると、祈里が頷いた。
「わかったぞ。ぼくさまたちがもうひと仕事すればいいんだな」
 話を聞いていた綾華も納得する。
「なるほど。俺達の攻撃で、列車を傷付けずに速度だけ落とせるってことか」
「そういうことなら手伝えるわ」
 ディアナは影から黒狼達を呼び、攻撃の準備は万端だと示した。
 力を行使する者は極めて危険だが、機関車から飛び降りると同時に車輪や車体に攻撃を叩き込めばいい。そうすればその威力だけが殺され、列車を傷付けぬまま速度だけを落とすことができるはずだ。
「私は灯を燈し続けているよ。だから、ね」
 頼むよ、とカスカは願う。
 それなら任せて、と胸を張ったキトリは一番手とし妖精の翅を羽撃かせる。そして、キトリは窓から外へと飛び立った。
「あたしたちは兎も角、乗客の人まで巻き添えにさせたりしないわ! 絶対に!」
 舞う花が星色に耀く列車を包み込む。
 其処に続き、ユヴェンが仲間達を呼びながら連結部へ向かった。
「俺達も行くぞ。テュット、ミヌレ、ロワ!」
 ダークネスクロークを纏い、獅子と槍竜と共に飛び降りたユヴェンは列車への攻撃を行う。其処へエメラとユーディットが満を持して名乗りを上げた。
「押しとどめなさい! 失敗は許されないわ」
「アンコール、来るのじゃ! 我の力など幾らでも使えばいい、列車を止めるぞ」
 エメラが喚んでいた巨人兵が汽車前方に回り込み、ユーディットのオブリビオンマシンがその補助に入る。
 彼女達は当初からこの展開を予測していたので、行動もとても早かった。
 そんな中で一華は考える。
「俺達ができることは……そうだ、乗客を不安にさせちゃいけないよな」
「今の状況の説明か。行こうぜ、一華!」
 足を負傷している零時のことも考え、一華は後方車両に行こうと皆を誘った。カムイと櫻宵も良い案だと頷き、二人の後を追う。
「私達もいこう。ひとが怯える姿はみていたくないからね」
「ええ、いざとなったら守ってあげられるものね」
 彼らに更に瑠碧と理玖、ベイメリアも連れ立って客車へと向かう。
 万全に備えるため、猟兵の半分は其方に赴くことにした。万が一にでも車体が横転すれば、乗客を守る人員が必要になるからだ。
 それらは何の無駄もなく、すべて迅速に行われていき――。
「皆様、衝撃に備えてくださいませ!」
 ヴィオレッタが乗客達に呼びかけた刹那。
 零那が、ディアナが、綾華とヴァーリャが。ノイシャに蔵乃祐、ルーシーにロニと、猟兵達がそれぞれのユーベルコードを解き放ち、猛スピードで走り続けていた機関車の速度を少しずつ削いでいく。
 そして、夜の狭間に線路と車輪が擦れ合う音が鋭く響き渡る。
「行けそうじゃな」
「ええ、これで終わりよ」
 同時にユーディットのオブリビオンマシンとエメラの氷冷型魔導蒸気兵器が力を発動させ、暴走していた列車のが完全に停止した。

●名誉の星
 線路上には煙が上がり、その中に星の光を纏った機関車が止まっている。
 猟兵達は疲弊していたが、何の犠牲もなく騒動を解決できた。誰もが使命を果たしたと感じており、安堵を覚えている。
 其処に技師の少女・メイが駆けてきた。
「本当にありがとう。守ってくれて、助けてくれて。なんてお礼を言っていいか……!」
 少女は涙ぐんでおり、この奇跡に感動しているようだ。怪我を負っていた乗務員も今は車内で安静にしているらしく、人的被害はなかったらしい。
「でもな、機関車が……」
「崩壊はしていないが、内部はかなり酷いというか……なぁ」
 祈里とユヴェンは気まずそうに幻星号を見遣る。
 自分達もかなりボロボロだが、ひときわダメージを受けているのは機関車だ。何せ前方車両全体が戦場になっていたのだから。
 しかしメイは明るく笑い、線路上の機関車を尊そうに見つめる。
「壊れたものは直せるもの。でも、あなた達はね……」
 直せないものを救ってくれた。
 それは人の命。
 そのように語ったメイはかけがえのないものを守りきった猟兵全員達に、自分が持っている或るものと同じ品を作って贈りたいと申し出てきた。
 それは星の形をしたピンバッジであり、先頭車両に飾られた幻星号のマークと同じ印が記されている一品だそうだ。
「幻星号は暫く修理に入っちゃうけど、復活した時はぜひ乗車しに来てね。だって、あなた達は誰が何と言おうと、幻星号の名誉乗客なんだから!」
 技師の少女は明るく宣言する。
 その笑顔と声は暗闇を照らす星のように思え、猟兵や乗客達にも笑みが咲いた。
 
 いつか、夜を駆ける幻の星を見に来よう。
 今宵に繋いだ未来の先で――。再び、あの輝きに出逢うために。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月14日
宿敵 『探求のオルガノン』 を撃破!


挿絵イラスト