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弱さの代償

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 生温い風が吹く。それだけで、幾人かが悲鳴じみた声を上げた。
 フクロウの鳴き声も、木々のざわめきも、彼らにとっては恐怖の予感でしかない。
 首尾よく村を逃げ出せたはいいものの、物資に対して逃走者の割合が多いことに、どうして誰も気づかなかったのだろう。
 食料は四日前に底をついた。草をむしって煮て食う日々に嫌気が刺し、村人は徐々に互いを責め合い始める。
 焚火を囲んでいた男女が、肩がぶつかっただけでいがみ合い、やがて声は荒くなり、怒鳴り合いに発展する。
 しかし、闇の奥から聞こえた獣の遠吠えに、怒り狂っていた男女は怯えて、座り込む。
 逃げる時に領主に抵抗した屈強な若者たちがいれば、きっと安心できただろう。だが、彼らは約束の場所に現れなかった。殺されたに違いない。
 もう村には帰れない。戻れば、自分たちも殺される。だが、荒野や森で野宿を続けていれば、いつかは魔獣に食われてしまう。
 どちらがいいかなどという愚問は、誰も発しなかった。
「もう、いやだ……助けてくれ……」
 誰かが呟いた。皆が俯いていたので、誰の言葉かは発した本人しか分からなかった。
 村から逃げ伸びたときに抱いた希望は、彼らにはもう、ない。



「集合だ、命知らずども! 俺の声が聞こえたら二秒で集まれ!」
 金属製のごみ箱を警棒で打ち鳴らしながら、マクシミリアン・ベイカー(怒れるマックス軍曹・f01737)が厳しく叫ぶ。
 特に急ぐでもなく集まった猟兵を一人一人睨みつけてから、マクシミリアンは変わらぬ口調で言った。
「仕事だ! 今回はクソを殺す仕事ではないが、必要があれば殺せ!」
 そう言って、彼はどこからか持ってきた自前のホワイトボードに予知の内容を書き出していく。
「貴様らが行く世界は、ダークセイヴァーだ。辛気臭い世界だが、その原因はオブリビオンのクソどもにある。遭遇する可能性は極めて高いが、今回の主目的は殺すことじゃない」
 ホワイトボードには、様々な文字列が書かれているが、ほぼ放送禁止用語の羅列なので、ご想像にお任せしたい。
 実際、任務の要領はマクシミリアンの口頭説明で事足りていた。
「小川近くの林の中で、村から逃げた連中がキャンプをしている。しかし連中は兵士ではない。放っておけばすぐに死ぬ。今この瞬間にもな!」
 冷たい言いようがだが、ダークセイヴァーにおいてはそれが真実だ。猟兵たちは頷いて、先を促す。
 その反応に満足したらしいマクシミリアンが、目を光らせた。
「貴様らを、林からわずかに離れたところに転送する。突然目の前に貴様らが現れたら、逃げ延びた連中が失禁しながら死ぬかもわからんからな! 行動は即座に開始のこと。素早く村民に合流し、クソに襲われても多少は生き延びられるだけの環境を構築しろ」
 林という地の利を活かしてもいいし、建築資材として使ってもいいだろう。あるいは、それだけのスキルがあるのであれば、地下に住んでもいいかもしれない。
 猟兵の力ならば、簡易な施設以上のものを作り上げられるはずだ。
 逃げた村民が平和に暮らせる場所を作ることが出来れば、猟兵たちの仕事は終わりだ。帰路につくことができる。
「無事に、終わればな」
 意味ありげに、マクシミリアンが言った。
「俺の予知では、クソどもがボウフラのように涌いて連中を殺す場面は見ていない。が、奴らはどこにでもいる。便所の隅だろうが関係なく染み出す過去というウジ虫、それがオブリビオンだ」
 襲撃は、いつ起こるか分からない。建築中かもしれないし、全ての作業を終え、油断をした瞬間かもしれない。
 ともかく、村民との密な連携と早急な拠点建設が必要となる。己の安全のためとなれば、村民は快く協力してくれるだろう。
「繰り返すようだが……」
 マクシミリアンは、重々しく口を開いた。
「くれぐれも、油断はするなよ。クソどもならいくら殺しても構わんが、貴様らや村民から死人が出ることは許さん」
 一同を見回し、その目を確認していくマクシミリアン。猟兵たちの目に迷いはない。何としても、迷える人々を救いたい。その気概で満ちていた。
 小さく鼻を鳴らして、マクシミリアンが美しく、凛々しく敬礼した。
「地獄を愛してやまない馬鹿どもに、敬礼! 命を懸けるのは勝手だが、ギャンブルに負けて仲間に迷惑をかけてみろ! 俺が一から扱き倒してやるからな!」


七篠文
 どうも。七篠文です。

 今回はダークセイヴァーです。
 大枠は、マクシミリアンが説明した通りです。必死に生きる道を探す人々を、助けてあげてください。
 資材や食料を確保し、彼らが生存可能な環境を作り上げ、心に希望を持たせることができれば、彼らは多少の困難にはくじけないで生きられるかもしれません。

 ブリーフィングでは「建築が終われば帰れるよ」みたいなことを書いてありますが、そんなわけないですね。
 皆さんは猟兵ですから、敵が出たらどうするか、言わずともお分かりですよね。
 ボコボコにしましょう。
 ただし、戦闘はダイス判定辛めです。苦戦が出たらダイス目のせいです。

 七篠はアドリブが多く、連携もどんどんさせます。あと文章が長いです。
 「アドリブ少なく!」「連携しないで!」「文章短く!」とご希望の方は、プレイングにその件を一言書いてください。そのようにします。

 グループで参加の場合は、合言葉のようなものを入れてください。

 それでは、素敵な冒険を。
 皆さんの熱いプレイング、お待ちしています!
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第1章 冒険 『流浪の民を守れ』

POW   :    建材や食料の調達や運搬をする。

SPD   :    外敵に見つからず、住みやすい環境を整える。

WIZ   :    人々の健康を心身ともにケアする。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

胡堂・充
【WIZ行動】
またオブリビオンに苦しめられている人が……医者として、これは見過ごせません!
「僕は医者です。怪我や病気、それ以外でも困ったことがあれば何でも言ってください」
【医術】【鼓舞】【コミュ力】を活用し、人々の心身をサポートします。
村から逃げ出し、生活基盤を失った彼らは非常に心細いはずです。少しでも勇気付けることが出来れば……
また、重病・重傷者がいる場合には【他者治癒能力】の使用も厭いません。僕の頭痛より患者の命が優先です。
……倒す必要はない、そう言われたけど、特にこの世界のオブリビオンは許して置けない……必ず罪を償わせてやる……!
(アドリブ・連携歓迎です)


露木・鬼燈
食足りて礼節を知る、とゆーけど…ひどねこれは。
生きていける環境を整えるのは大事。
だけど住む人間がこれだと、ね。
先にケアが必要っぽい。
秘密之箱庭で心身を癒すのです。
この中にいる間は安全で食料も十分。
まぁ、依存されても困るから環境整備が終わるまでだけどね。
回復した時点で外に出て働いてもらうですよ?
もちろん休息に使うのは構わないけどね。
自分たちの暮らす場所を作るんだから、自分たちも作業する。
当然のことっぽい!
猟兵にも開放することで作業効率がよくなるっぽい。
いい仕事をするにはちゃんとしたバックアップがいるよね。
今回は料理をしたりとか、裏方をがんばるっぽーい。
でも一人は辛いのでお手伝い募集なのです。


シア・ブランシュ
村をせっかく逃げ出せたのにこんな状況だと…怖いし、苛つきもするよね。
少しでも皆が安心出来るように出来ることをしよう。

リュックに食料を沢山詰め込んで持って行くね。
おにぎりとかサンドイッチとかお腹を満たせるものが良さそうね。あと、日持ちするゼリードリンク系も持って行こう。

「初めまして。あなた達を助けに来ました。」
「折角、みんなで逃げだせたのだから…ここは協力して一緒に頑張りましょう?」
優しく声をかけながら渡した方が、きっと安心するだろうから。

まだ不安が大きいかもしれないけれど…皆一緒なら大丈夫。
皆が笑顔で過ごせるように、出来ることを精一杯するね。




 逃げ延びた村人たちが身を寄せる林は、転移した場所から歩いて数分もかからないところにあった。
 そして、絶句する。彼らの足音に反応して恐怖に縮こまる村民たちの、その瞳。絶望に塗りつぶされている。
「……あ、あんたらは」
 立ち上がった中年の男は、片手に木の棒を握っている。武器のつもりだろうか。
 震えるその手を見て、シア・ブランシュ(SugarLess・f13167)は悲し気に目を伏せた。悟られないよう感情を飲み下し、顔を上げる。
「初めまして。あなた達を助けに来ました」
「助けに? し、信じられるか! こんなところに、助けなんてくるわけない!」
 木の棒を両手に握って中年の男が怒鳴る。しかし、そこには怒りよりも恐怖が色濃く宿っていた。
「皆さんの不安ももっともです。信じてもらえないかもしれませんが……」
 胡堂・充(電脳ドクター・f10681)は一歩前に出つつも、必要以上に距離を詰めることはしなかった。
「……あんたは」
「僕は胡堂・充、医者です。怪我や病気、それ以外でも困ったことがあれば何でも言ってください」
「……」
 中年の男は身構えたままだが、その目には迷いが見えた。木にもたれる人々も、虚ろな目にわずかな希望が見え隠れしている。
 もしかしたら、というわずかな光だろう。その光を太くするためには、彼らの心に余裕をもたらせてやらねばならない。
 子供に話しかけるような優しい声音で、シアは言った。
「折角、みんなで逃げだせたのだから…ここは協力して一緒にがんばりましょう?」
「がんばるって、なにをよ」
 一番奥で項垂れていた若い女が、低い声で呟いた。その目は睨むようにシアを見ている。
 持参したリュックからサンドイッチを取り出し、シアは若い女のもとへ向かう。村の人々が警戒するも、あえて歩みは止めない。
 後ずさる女の前にしゃがみ込み、サンドイッチを差し出す。
「生きることを、よ。たくさん持ってきたから、食べて」
「……毒とか」
「ないよ。私も一緒に食べるから」
 一つ取り出し、頬張って見せる。何の変哲もないタマゴサンドだが、草を煮詰めて食べていたという彼らにとって、どれほどの御馳走に見えることだろう。
 女が生唾を呑む。シアはそっと、サンドイッチを差し出す。
 それでも躊躇する女に微笑むと、ようやく手に取って、狂ったように貪り始めた。
「ッ……くっ……」
 食べながら、女は涙を流した。ようやく食べられた文明的な味に、生きている実感を取り戻しているのだ。
 号泣しながらサンドイッチを食べる女の頭を撫でて立ち上がり、シアはリュックの中身を広げた。
「さぁ、皆さんも」
 未だ警戒を解かないながらも、食欲には逆らえない。人々は這うようにしてシアが持ち込んだ食料を手に取り、口に詰め込む。
 その背後で、動かない者がいた。草むらに横たわったり木や岩に背を預けたりしたまま、力ない呼吸を繰り返している。
「彼らは?」
 充が尋ねると、木の棒を持った中年の男が、舌打ちした。
「この状況だ。弱るのは当たり前だろう」
「僕が見ます。失礼……」
 横たわる壮年の女性を診察する。容態を見てすぐに分かった。肺炎だ。
 相当重症化している。早急に治療しなければ、まず助からないだろう。
「……」
 女性の首元に触れる。呼吸が荒く、苦し気だ。
「安心してください、すぐに治します」
 充の手がほのかに輝き、光が女性を包み込む。
 女性に癒しの力を送りながら、充は激しい頭痛に襲われていた。力の代償だ。しかし、人命には代えられない。
 程なくして、女性の呼吸は落ち着いた。充は頭痛を深い呼吸で追い出し、額の汗を拭った。
「もう大丈夫。とはいえ……」
 この女性もそうだが、疲労困憊の者が多い。この状態では、隠れ里を作る手伝いなど、とても難しいだろう。かといって、屋外で休ませても回復には限度がある。
「どこか、安静にさせられる場所があれば」
「それなら、僕のこいつを使うといいです」
 そう言ったのは、辺りを観察して隠れ里建設の目途を立てていた露木・鬼燈(竜喰・f01316)だった。小箱を手に持っている。
 その中は特殊な空間となっており、中は癒しの温泉旅館が広がっている。
「こいつの中なら、疲労回復には打ってつけっぽい」
「すまない、助かります」
 頷いた充が、女性を抱えて小箱に触れる。途端、光に包まれて二人が消えた。
 面食らった中年の男が、鬼燈に掴みかかる。
「お、お前! 何をしやがった!」
「あぁ、この小箱、別空間に繋がってるです。湯治って意味では、病院っていえるっぽい?」
「わけのわからんことを……! 危険がない保証があるのか!?」
「少なくとも、魔物に食われる心配はないですよ。何なら、おじさんも他の病人を連れて行ってみればいいっぽい。温泉に入って、少し心を落ち着けるですよ」
 にこやかに言われては、男も悩まざるを得なかった。
 病人はこのままでは死んでしまうだろうし、あの医者は信用できた。それに、突然現れた彼らを頼らなければ、遠からず全滅する。
「……わかった、信じよう」
 男は頷いて、数人の病人を連れて小箱に触れた。光に包まれ、中へと消える。
 内部の環境は整っているので、疲労を癒すには丁度いいだろう。今シアの食料を食べている彼らも、あとで連れて行ってやってもいいかもしれない。
「まぁ、依存されても困るから、環境整備が終わるまでだけどね」
 自分たちが暮らす場所だ。自分たちで作業することは当然のことだ。それに、この苦しい世界では、他に依存しては生きていけない。
 いつもは率先して力仕事をする鬼燈も、今回は料理などのバックアップに回るつもりでいた。裏から支えることで、村民に活躍させ自信を持たせることもできるはずだ。
 鬼燈は小箱を持ったまま、シアに歩み寄った。彼女はまだ、必死に食料を胃に詰め込む人々を慰めている。
「シアさん」
 顔を上げたシアは、あまり表情こそ変わらないが、瞳に悲しみが宿って見えた。村民の不安を受け切っているのだろう。
 隣にしゃがみ込んで、並んで村民を眺める。
「……よく食べるなぁ」
 鬼燈な素直な感想は、村民に聞こえたのだろうか。誰もこちらを見もせず、人らしい味に涙を流している。
 今、彼らは生きているのだ。この過酷な世界を、必死で生き抜こうとしている。
「村をせっかく逃げ出せたのに、こんな状況だと……怖いし、苛つきもするよね」
「そうだね。戦えない人の気持ち、僕には分からないけど、めちゃくちゃ怖いっぽい」
「まだ不安が大きいかもしれないけれど……皆一緒なら、大丈夫」
 薄く微笑むシアに、最初にサンドイッチを食べた若い女が、やはり不安と恐怖を表情に張り付けたまま、呟く。
「なんで、助けるの」
「……?」
「こんな場所で、私たちみたいな死にぞこないを助けて、なんのつもりなの? そんなことして、あんたたちに何の得が――」
「やめろよ。助けてもらっといて、ンなこと聞いてどうすんだ」
 おにぎりを貪っていた青年が、若い女を睨みつける。
 空腹は満ちても苛立ちは消えなかったらしい。女は立ち上がり、青年に怒鳴りつけた。
「わかんないのよ! この状況でご飯もらって、そりゃ嬉しかったけど! いつ死ぬかもしれない状況は変わってないの! 何の意味があるの、なんで私たちに優しくするのよ!」
「……それは」
「それが仕事だからっぽい」
 しゃがんだ膝に頬杖をついて、鬼燈が女を見上げる。
「みんなを助けて、住める場所作って、オブリビオン――吸血鬼とか魔物が来たら倒す。それが僕らの役目。だから、信用しろとまでは言わないけど、安心するです」
「そんな仕事……あんたら、聖職者かなにかか?」
 青年が問いかけた瞬間、小箱が輝いた。手当を終えた充が戻ってきたのだ。
 光が消えると、充は青年に振り返り、首を横に振った。
「いいや。僕たちは、猟兵です」
「猟兵……なにそれ」
「説明は難しいけれど、みんなの味方。それは間違いないよ」
 シアと鬼燈が立ち上がる。こちらを見つめる村人たちの視線には、もう不信感はない。
 そこには、一抹の希望を見出した、暖かな光が宿りつつあった。
「僕らが来たからには絶対大丈夫、とまでは言わないけど。力になるですよ」
「今日まで生きてくれたんだ。その命、僕たちが必ず守ります」
「うん。皆が笑顔で過ごせるように……私たちも、出来ることを精一杯するね」
 そう言った三人の背後に、眩い光が天から降り立つ。
 そこから現れた新たな猟兵たちは、シアと鬼燈、そして充と同じく、強い志を瞳に宿していた。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

御手洗・花子
わしらが作業をすると言っても…実際に暮らし、生きて行かねばならるのは彼らじゃな、先ずは彼等を前に向かせる事に注力しようぞ。

「そちらも難民かの?、相談した事があるのじゃが…」
予め持ってきた食料を材料に交渉、一緒に定住地を作って欲しいと『コミュ力』、『言いくるめ』を用いて交渉する。

先ずは猟兵達の力を見せて安心感を与えた後。

「皆の出来る事を教えて欲しいのじゃ」
難民の人達のスキルを聞き作業計画に組み込む、貢献させる事で自信を、共同作業させる事で信頼関係を取り戻し、作業計画を見せる事で未来への希望を与える。

「多少なら医術の心得もある、怪我人はおるか?」
医術で健康面もケアする。

*アドリブ、連携など歓迎




 小さな体に巨大なリュックを背負って現れた御手洗・花子(人間のUDCエージェント・f10495)は、村民の顔色に安堵した。
 先行した猟兵のケアにより、僅かずつでもその心に明るさを取り戻せている。
「これならば、交渉もうまくいきそうじゃな」
 きょろきょろとあたりを見回す。突然現れた童女に面食らっている人々の中に、中心人物らしい中年の男を見つけた。歩み寄って、声をかける。
「お主が難民の長かの? 相談したいことがあるのじゃが……」
「長なんてもんじゃあない。というか、お嬢ちゃん。こんなところに一人で……死んでしまうぞ」
「あぁ、その心配には及ばん。先に来とった連中の仲間じゃ。それに、わしゃこう見えて二十八になるんじゃぞ」
「そ、そうか……」
 猟兵はその容姿特徴を不審がられることはないが、花子の場合は種族の特徴で幼いわけではないためか、どうにも子供に見られてしまう。
 中年の男は納得したのかしないのか、頬を掻いた。しばし考えてから、岩に腰を下ろす。
「まぁ、聞こう。相談とは?」
「うむ。他でもない、この地に皆の定住拠点を作ろうと思うてな」
「それは、先に来た連中からも提案された。しかし、ここにか? 林と川しかないぞ」
 周囲を見回す中年の男に釣られて、花子も辺りを見てみた。確かに林しか見えず、川のせせらぎは聞こえる。
 だが、花子はきっぱりと言った。
「水源と資材があるのじゃ。何も問題なかろ」
「……しかし、食料確保の目途がない。種もないんじゃ、自給自足だってままならない」
「当面の保存食は持ってきておる。作物の種もな。こんな世界でも日照りは多少あるようじゃし、ここは土壌も悪くない。作物も育つじゃろうし、いつかは家畜を飼えるかもしれんぞ」
 湿った土を救い上げ、パラパラと落ちるそれを見ながら、花子は頷いた。
 その様子を見ていた中年の男は、腕組みをし、感心したように言った。
「お嬢ちゃん、年の割りにしっかりしてるな……」
「だから、わしは二十八歳じゃって。人の話、聞いとるか?」
 項垂れ気味に言うも、中年の男は「娘が生きてれば、見習わせたかった」などとぼやいている。
 咳ばらいを一つ、花子はリュックをパンパンと叩いた。
「ともかく、こいつの中には今言った物の他に、建築用の釘やら大工用具やらも入っておる。お主らが望むなら、これを譲ってやっても構わん」
「なんだって? いや、しかし……」
「もらいにくいじゃろうな。まぁタダとは言わぬよ。わしらも仕事で来ておるのでな。お主らがしっかりと立ち直ってくれなければ、叱られてしまうのじゃ。というわけで――」
 花子は、この場にいる村民を見回した。食事を済ませ、風呂などにも入れたからか、かなり生きる気力を取り戻している。
「皆の出来ることを、教えてほしいのじゃ」
 花子の問いを受けて、中年の男は少し唸ってから、立ち上がった。一人一人連れてきては、花子と話をさせていく。
 中には、自分の得意分野が分からないという者もいた。圧政の中で何もできず、ただ家に閉じこもっていたという、若い女だった。
「何もしなかったとはいっても、なんかしとったじゃろ。生きとるわけじゃし……」
「そんなこと言われても、仕事なんて与えられていなかったわ。いわゆる餌枠だったのよ、仕方ないでしょ」
「んまぁ、今まではの。でもこれからは違う、お主はもう餌ではない」
 迷いなく告げる花子の言葉に、女は黙り込んだ。それは嬉しさであり、不安でもあるのだろう。自分で道を決めねばならないのだ。
 俯く女に、花子は致し方なしと頷いた。
「よし、質問を変えよう。お主の『やりたいこと』はなんじゃ」
「やりたいこと……?」
「そうじゃ、何がしたい。どうありたい。どんな人生を過ごしたい?」
 女はまた黙り込んだ。しかし、花子は待つことにした。女の瞳の中に、明確な答えを持っていながら言えないといった感情を読み取ったのだ。
 程なくして、女は花子に顔を近づけた。耳打ちを、ということだろう。耳を差し出すと、女はかすれた小声で言った。
「お、およめさん」
「……ほう」
「お嫁さんに、なりたいのよ」
 見れば、女は真っ赤な顔で一点を見つめている。そこには、こちらに来てからずっと言い争いをしていたらしい青年がいた。
 なるほど、これは。花子はついニヤニヤしてしまった。
「そうかそうか。嫁にのぅ。いやいや、子孫繁栄は超重要じゃ。いいと思うぞ」
「ちょ、声大きいわよ!」
「おっとと、すまん。ま、今の環境じゃそれもままならん。じゃが、修行はできるの。お主は炊事手伝いで決まりじゃ」
 びしりと指さされ、女は断れるまでもなく、ゆっくりと頷いた。
 こうして花子は、次々に村民のスキルに合わせた仕事を振っていった。
 木こり、水汲み、畑作業、炊事、建築……仕事内容は多岐に渡り、そこに猟兵も加わり、談笑など挟みつつ作業計画を進めるつもりだった。
 一人一人の得意分野に仕事を割り振ることは、作業の効率化を図るばかりではない。
 貢献をさせることで自信を、共同作業によって信頼関係を取り戻し、着実に建築を進める過程を見せることで、未来への希望を与える。
「これは、皆が奪われたものを取り戻す行程なのじゃ」
 誰にでもなく呟いて、花子は立ち上がった。一度伸びをしてから、歩き出す。
「さてと、わしは何をするかのう」
 腰の後ろで手を組みながら、始まった作業を横目に、そんなことを呟いた。
 花子の足取りは、どこか楽し気だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルセリア・ニベルーチェ
アドリブ歓迎ですの

(ベイカーさんの話を聞き)ルセリアさん、把握しましたわ。
つまり、クソ共は好きに殺って良いのですね!!

それはさて置き、希望を失った村人さん達に
再び希望をデリバリーしに行かねばですね。

先ずは、腹ごしらえが優先かしら
空腹では希望も気力も沸かないでしょうし
仲間同士での争いも起こってしまう
ルセリアさんも、ダークセイヴァーの出身ですし
飢えの苦しさは理解してるつもりよ。

生命力吸収・範囲攻撃で生命感知のレーダーとして使い
見つけた獣を仕留めて肉を確保するわ、ついでに
枯れ木があれば切断して怪力で運搬しようかしら
何に使うかと言われたら、建材や料理する時の火の為ね

村人さんに、希望が戻りますように。




 隠れ里の予定地から離れた林の奥へと、ルセリア・ニベルーチェ(吸血鬼嬢は眠らない・f00532)は木に道しるべの印をつけながら進んでいた。
 後ろには、村人の中でも数少ない青年がいた。彼は猟師の息子らしく、弓の心得があるという。
 この青年が狩りを担当してくれたなら、肉類の確保と同時に村周辺の警戒も行なうことができる。
「なぁ、あんた」
 弓矢を担いだ青年に、ルセリアは振り返った。若さのおかげか、顔色は良い。
「その、怖くないのか? 吸血鬼とか……魔獣とか」
 問われたルセリアは、立ち止まって考える。オブリビオンは油断ならない強敵だ。そういう意味では、怖いと言えるかもしれない。
 だが、恐怖よりも強い思いが、ルセリアにはあった。
「怖さよりも、許せない気持ちの方が大きいですね」
 それは、ルセリアの偽らざる本音だった。青年にも同じ気持ちはあるだろう。だが、戦える者とそうでない者の差は、あまりにも大きい。青年は頬を掻いた。
「薄々感じてたけどさ。あんたら……やっぱり強いんだな。吸血鬼を倒せたりするのか?」
「そうですね、倒せるわ。吸血鬼のクソどもは好きに殺っていいって言われているし」
「……すげぇな」
 青年が苦笑する。彼の表情には、憧れや羨み、非力な自分への悔しさが感じられた。
 だから、ルセリアはなるべくあっさりと返した。
「それが、ルセリアさんたちの役目ですの。でも、あなたの仕事も大切よ。空腹では、希望も気力も湧かないでしょうし、村人の間で争いも起こってしまうわ」
 すでにそのことを経験している青年は、飢えの恐ろしさを身に染みて実感しているはずだ。
 それはルセリアも同じだった。ダークセイヴァーで生まれた彼女もまた、飢えの苦しさは十二分に理解している。
 ほどなく林を進み、ルセリアと青年は足を止めた。一見すれば変わらない林だが、青年の鼻は獣の臭いを感じ取っていた。
「なにか……いるな」
「鼻がいいですね。近いわよ」
 生命力吸収の力を薄く広げることで、ルセリアは付近の生物を探っていた。小物が数匹、近くに感じられる。
 ルセリアの隣で、青年が緊張から唾を飲んだ。
「あ、あのさ……俺、弓矢は使えるけど、狩りは、初めてなんだ」
「あら! でも大丈夫ですよ。いつも通り狙えば、きっとうまくいくわ」
 汗を拭いて頷く青年に微笑み、ルセリアは感知した生物の正体を探る。あの小ささで魔獣ということは、恐らくないだろう。
 草むらが揺れ、青年が矢を番える。誘い出そうかとも思ったが、黙って見守ることにした。
 数秒の時が流れ、草むらから不用心な兎が飛び出してきた。
「今だッ!」
 叫んだ青年が、矢を放つ。しかし、兎は凄まじい速さで逃げてしまった。
 ルセリアは額に手を当てた。
「なんで叫ぶんですのー?」
「わ、悪い。つい……」
「仕方ないですね。次、いきましょう」
 茂みに隠れつつ、目印から離れすぎない距離に移動する。
 生命探知で獣の場所は分かっていたが、青年の成長のため、あえてルセリアは問う。
「どのあたりにいると思いますか?」
「……」
 青年は静かに空気を吸い込み、臭いを探る。実に狩人向きだなと、ルセリアは内心で感心した。
 周囲を見回し、青年が指をさす。倒れかけた木々が交錯した、その下だ。高い草が茂っている。
「たぶん、あそこだ」
 ルセリアの生命探知でも、そこに大きな獣がいることを捉えていた。草を食べているらしく、魔獣の類ではなさそうだ。
 青年が弓を構えた。草を食べている獣が頭を上げた瞬間を狙うらしい。ルセリアも黙って時を待つ。
 そして、獣が顔を上げた。草を加えた鹿は、耳を立てて辺りを見回している。
 こちらに気づかれるより早く、青年が矢を放つ。一直線に進んだ矢は、鹿の首に突き刺さった。
 激痛と苦しさに、鹿が暴れる。草むらから飛び出し逃げようとしたところに、さらに一射。腹部に突き刺さり、鹿は数メートルを走ってから転倒した。
 血を流しながら倒れる鹿に、青年は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに表情を曇らせる。
「……」
「おめでとうございます。いい猟師になれるわよ、あなた」
「あぁ……」
 青年の気持ちは分かっている。仕留めた鹿を、吸血鬼に追われた自分たちと重ねているのだろう。
 弱肉強食という概念は、確かに存在する。しかし、今を生きるための狩猟と、染み出した過去の理不尽な振る舞いとでは、そこにかける想いが雲泥の差だ。
 それを彼に説明したところで、理解はしてくれまい。だから、ルセリアはせめてもの慰めを口にする。
「素晴らしい狩りでした。村人さんも、きっと喜びますよ」
「そうだな。……あぁ、そうだ。俺は皆のためにやったんだ」
 震える右手を左手で抑えて、青年が必死に笑おうとしている。命を奪った感触は、彼が克服していくしかない。
 頼もしい青年だと、ルセリアは胸中で拍手を送った。彼がいれば、きっと大丈夫だろう。
「血抜きの仕方とかは、村人の先輩に聞きましょうね」
「あぁ。でもこいつ、どうやって持って帰る?」
 息絶えた鹿は大きい。大人二人がかりでも一苦労だろう。
 だが、ルセリアは腕力に自信があった。青年が目を丸くしている前で、鹿を軽々と担ぎ上げる。
「よいしょ。じゃあ、帰りましょうか」
「お、おう。……一人の時は、バラして持って帰るしかねぇかな……」
 ブツブツと呟いている青年とともに、ルセリアは拠点へと足を向ける。
 未来のことなど分からない。気休めにしかならないことをしているのかもしれないが、それでも、青年が取り戻した自信が、彼らの新たな希望となってくれることを、願ってやまなかった。
 いつかきっと、村人たちに希望が戻りますように。
 薄曇りの空を見上げて、ルセリアは一人、心から祈った。

成功 🔵​🔵​🔴​

エーカ・ライスフェルト
数日生き延びているということは水は確保できているということ
なら必要なのは燃料と住処と食料

・燃料
宇宙バイクに片方を括り付けた【フック付きワイヤー】を、ほどよい太さの枝か幹に巻く
そしてバイクの力で引き千切る
火種は【属性攻撃】の炎の矢
「前衛が協力してくれるなら、私はバイクで輸送に専念するつもり」

・住処
枝を幹に立てかけるとかして日差し避けと雨避けを
寝床は葉っぱ
幹を使ったバリケードや、枝を使った偽装はその後よ

・食料
伐採中、見かけた動物を悉く殺戮するわ。無害な獣は殺さない
延焼が怖いので【属性攻撃】は水属性攻撃(超凄い水鉄砲
「外敵が気付かない位に徹底的に殺して外へ情報を漏らさないようするの」
【医術】は食料よ


トリテレイア・ゼロナイン
避難民の窮状、なんとかして救わねばなりませんね
機械馬に「騎乗」し「礼儀作法」を使いつつ、通りががった遍歴の騎士を名乗り、人々の窮状を見て助力しにきたと伝えましょう

まずは風雨を凌げる生活拠点の確保ですね。「怪力」を活かし周囲の林から材木を集めて建築物の材料を集めましょう。機械馬も運搬に役立つはずです。「世界知識」で得た簡易住居の作り方を男手にも伝え一緒に作業します

次は食料確保。林の中に分け入り「暗視」を使いつつ獣道や糞、痕跡を「見切り」獣を発見、「スナイパー」技能で銃で仕留めて確保します

子供達相手には騎士道物語から模倣した「優しさ」を持って「手をつなぐ」等の触れ合いをして精神のケアを図りましょう




 林の外れに、木を斧で打ち付ける音が響く。
 隠れ里を築くにあたり、木材が大量に必要だった。建築だけではない、最低限の防御としての柵も作らなければならない。
 そのために必要な資材を調達しているのだ。エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)とトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、その指揮に当たっていた。
 大量の木材を運ぶのも、二人の役目だ。エーカは宇宙バイクで、トリテレイアは機械馬で、隠れ里の予定地へと運搬している。
 枝の落とされた大きな木を担ぎ上げたトリテレイアに、初老の男が声をかけた。
「すまねぇな、騎士さん。こんな野良仕事させちまってよ」
「いえ。皆さんのお力になれるのであれば、これもまた騎士の務め」
 トリテレイアは、他の猟兵とは別方向から村民に合流した。機械馬に跨った彼は、人々の窮状を見て助力にはせ参じた遍歴の騎士を名乗っている。
 民を助ける騎士という存在は、彼らにとっても非常に心強い。それはあるいは、猟兵という名よりも力になるだろう。
 とはいえ、なり切っているトリテレイアを見ていると、エーカは不思議と笑いがこみ上げてしまうのだった。
「ふふ。すっかりその気ね」
 宇宙バイクから伸びたワイヤーを運搬する木に巻き付けながら、その様子を伺う。
 猟兵のケアを受けて、村人たちの心はだいぶ回復したようだった。動ける者は、こうして率先して仕事に励んでくれている。
 共同作業がもたらす信頼関係の回復は、人々の心の安定に深く携わっていた。そういう意味では、騎士として振る舞うトリテレイアの役割は、正解と言えるかもしれない。
「私なら――通りすがりの良い魔法使い、とかかしら」
 冗談めかして言いながら、エーカは大きく手を叩いた。一同の視線が集まる。
「休憩にしましょう」
「そうですね。皆さん、こちらへ」
 トリテレイアに促され、村民たちがエーカのもとにやってくる。乾いた枝を手早く組み立てて、エーカが魔法で火をつけた。
 皆が火を囲んだところで、エーカが一切れの肉を取り出した。まだ新鮮だ。切り分けて枝に指し、火に当てていく。
「エーカ様、それは先ほどの」
「えぇ。あなたが獲った兎よ。他の人も狩りをしてるっていうし、これはここで食べてもいいでしょう」
 村に木を届けるついでに、年配の村民に捌き方を教えてもらったのだ。当然、その老人らにも肉を分けてきた。
 肉が焼ける匂いに、村民たちが目を輝かせる。男衆にとっては、こうした野性的な味もそそるのだろう。
 しっかりと焼いて、多少硬くなってから、エーカたちはそれぞれ手に取って、口へと運ぶ。
「ん……んめぇ!」
 男たちが次々に声を上げ、肉にかぶりつく。その様子を、トリテレイアは微笑ましい想いで見つめていた。
 こうした小さなことでも、人は幸せを感じられるのだ。少しずつでもいい、当たり前の幸福感を取り戻していってほしいと思った。
 ふと、トリテレイアの前に肉の刺さった枝が差し出される。先ほど声をかけてきた初老の男だ。
「騎士さんも、ほら。食ってくれ」
「いや、私は――」
「こんな野蛮なもんは食いたくないかもしれないが、な。俺からの礼だ」
 にこやかに言われては、受け取らざるを得ない。手に取ったものの、食べる機能を持たないトリテレイアは、ほとほと困ってしまった。
 しばらく肉を見つめた後、にやにやしながらこちらを見ているエーカへと、肉を差し出す。
「エーカ様、どうぞ召し上がってください」
「あら、いいの? 騎士様」
 茶化した様子のエーカに、トリテレイアはは一瞬沈黙してから、頷いた。
「……レディに譲るのも、また騎士の在り方ですから」
 我ながら苦しい言い訳だと思ったが、苦笑しつつ、エーカは受け取ってくれた。
 焼けたての硬い肉を噛みしめながら、ふとエーカは気になっていたことを口にした。
「そういえば、逃げてきた人の中に、子供はいるのかしら」
「あぁ、いる。二人だけだが」
 初老の男が答えた。姿が見えなかったのは、猟兵たちによる治療を受けているからだろうか。
 若者もいるので、数世代は繋ぐことができるかもしれない。しかし、この世界でどこまで生き残れるだろうか。冷静になればなるほど、難しいと言わざるを得ない。
 男たちは木こりを生業としていただけあり、筋肉質だ。しかし、オブリビオンが相手となれば、女子供とそう大差はない。
「……少しでもいい里を作りましょう。吸血鬼たちが来ても、耐えうるように」
 エーカはおもむろに立ち上がり、草むらに人差し指を向けた。指先に水が結集し弾丸となり、放たれる。
 草むらから上がった悲鳴は、狼のものだった。群れを持たない狼が、皆を狙っていたのだ。
「はぐれ、ですね」
 頷いたトリテレイアが、驚いて腰を抜かしている男衆に向き直る。
「今は、こうして我らが皆さんをお守りします。ですが、私たちが去ったあとは、皆さんで脅威と戦わねばなりません」
「何も正面切ってやり合う必要はないの。今の野獣だって、避けられるならそうすべきよ」
 男衆は顔を見合わせて、女子供を守っていく必要性を再認識しているようだった。
 重い音を立てて、トリテレイアが立ち上がる。
「さて、そろそろ再開しましょう。あと少しで切り上げますよ」
 各々が手に斧を持って、木を切り倒しにかかる。その甲高い音を聞きながら、トリテレイアは倒れた木材を軽々と担いで、機械馬に乗せていく。
 ざっと見積もった必要数が集まったころ、エーカは自分のバイクにも数本まとめた木を括り付け、エンジンを噴かした。
 撤収だ。男衆の歩調に合わせて、機械馬とバイクを駆る。
「いやぁ、こんなに気持ちいい思いで仕事したのは、初めてかもしれねぇな」
 禿げた男が、顎髭を撫でながら言った。村にいる間は、領主の圧政に苦しめられ、しぶしぶ働いていたということだろう。
 この世界の、なんと理不尽の多いことか。トリテレイアは手綱を握る手に力が入るのを感じた。
「騎士さんはよ、俺らみたいな連中を見たら、みんな助けてるのかい」
 髪の長い男に聞かれ、トリテレイアはわずかに考える。しかし、出てくる答えは一つだった。
「私の、手の届く範囲なら」
 それが、トリテレイアにできる精一杯の答えだった。
 叶うならば、オブリビオンに苦しむすべての人々を救いたい。しかし、それは不可能だ。
 それでも髪の長い男は満足したようで、しきりに頷いていた。
「そうかぁ。大したもんだなァ。姉ちゃんも、騎士さんみたいなことをしてんのか?」
 問われて、エーカは風になびく髪をかき上げながら、わずかに微笑を浮かべる。
「そう、かもね。ま、好きでやってることよ」
「かーッ! カッコいいねぇ。うちの若いのにも見習わせたいぜ」
 額に手を当てて、禿げた男が笑う。機械馬の上から、トリテレイアは静かに首を横に振った。
「いいえ、私たちを見習う必要はありません」
「……そりゃまた、なんでだい?」
「あなたたちは、もう十分勇敢ということよ。ねぇ、トリテレイアさん」
 エーカの言葉に、トリテレイアは頷いた。男衆は意味が分からないらしく、お互いの顔を見合っている。
 オブリビオンから逃れるために林へ迷い込み、飢えと不信感に苛まされながらも、彼らは生きていたのだ。
 残酷すぎるこの世界で生き抜こうとすることほど、勇気のいる行為があるだろうか。
「そう。皆さんは、強いのですよ。だからこそ私たちは、手を貸したいと思うのです」
 優しいトリテレイアの声音に、初老の男は斧を担いで笑みを浮かべた。
「へへ、そうかい。まぁよく分かんねぇけど、あんたらが言うんなら、そうなんだろうな。誇りに思うよ」
 男衆は一様に頷いていた。その顔を見て、エーカは任務の成功を確信する。
 いくら猟兵が手を貸して拠点を作ったところで、そこに生きる人々に強い意志がなければ、意味がない。
 だが、その心配は、もういらなそうだ。
「まだまだ、忙しくなりそうね」
 呟いたエーカの言葉は、柔らかな風に乗って、空へと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リリト・オリジシン
ひとまずは村人達が休める場を作らねばな
疲れた体と心では人を人たらしめる芯も腐り落ちよう
それでは逃げてきた意味もない
それに、この者達の未来を助くために散った者達も浮かばれまいよ

今は多少見目が悪くともよい
雨風凌げる小屋を作ろうではないか
そのための材料ならば、その辺りの樹々をへし折るなりすれば出来よう
妾が怪力の、得物の振るいどころであるな
ついでに、何かしらの食べられる実や獣の肉など得られればなお良しといった所か
1つ、2つと小屋でも出来れば、そこで村人達の身体を休ませよう

樹々すらへし折る力
分かりやすい武力の片鱗は先程見せたろう
その力が今は汝らの安全を守り抜こう
故、しっかりと眠り、心身を休ませるが良い


ルーチェ・アズロ
アドリブ大歓迎

一先ず落ち着いたか
林で雨除けはある程度できるが
豪雨がくれば体力を奪い病を起こす

村一つ分だ。狩人や大工の1人くらいいるだろ

外からの視界を開かせない所の木を大剣使って怪力となぎ払いで数本スパッ
大工道具も貰ったようだし乾燥してない生木で悪いが建材にして貰う
枝葉と木材がありゃ迷彩効果の高い小屋は作れるしな

小器用な口は一切持ってないが一軒作れれば証拠になるだろ
やる気になるだろ
論より証拠ってやつだ

狩人がいれば木が乾燥すれば弓矢を作ることもできるぞと
肉食いたいだろ皮欲しいだろと

怖がられるだろが化物が居るんだ。ガキの力持ちくらいマシだろ
林には木々、其処には獣
あんたらの生き甲斐、ここにもあるな




 隠れ里の予定地に残された人々は、一様に不安な顔をしていた。
 今までとは質の違う心配だ。これからこの辺りの大岩や木を根こそぎ撤去しなければならないというのに、現れた猟兵なる連中のうち、ここにいるのは、少女二人なのだから。
 桃色の長い髪を風になびかせながら、リリト・オリジシン(夜陰の娘・f11035)は一本の木をペチペチと叩いた。
「ふむ、なるほどの。これは確かに、骨の折れる仕事ぞな」
「そうか? あたしたちだけでやっちまえば、そんなにかかんないだろ」
 リリトの隣に立つルーチェ・アズロ(血錆の絆と呪い・f00219)は、同じようにして木を見上げながらぼやいた。
「な、なぁ」
 二人に遠慮がちに声をかけてきたのは、村民たちをまとめる中年の男だった。
「お嬢ちゃんらが、ここを拓くのかい?」
「あぁ、もう時間もないしな。せめて小屋の一軒でも建てないと、全員野宿だぞ」
 さも当然とばかりに言うルーチェに、男は戸惑っているようだった。
 どう説得しても、二人が少女である事実は変わらない。理解はしてもらい辛いだろう。ならばと、ルーチェは背中の大剣をに手をかけた。
「リリト、やるぞ。論より証拠ってやつだ」
「よかろう。汝らは危険故、下がっておるのだ」
 村民たちが離れるのを確認し、リリトは満足げに頷いた。そして、手に握ったモーニングスターを振り回す。
「そぉいッ!」
 回転が十分に達したところで、先端の鉄球を木の根元に叩きつけた。
 メキメキと内部が崩壊する音に合わせて、木が傾いでいく。そして、土煙を上げて倒れた。
 中年の男を始め、人々がどよめく。まだ十歳かそこらにしか見えない少女が、巨大な鉄球のついた鎖を振り回すのは無論のこと、ただの一撃で木を倒してしまうとは。
 しかし、彼らの驚愕はそれだけでは終わらなかった。ずかずかと別の木に歩み寄ったルーチェが、血錆のついた大剣を構えたのだ。
「おらよッ!」
 軽々と振るわれた大剣は、木の中に吸い込まれるように切り込み、通り抜けた。一瞬遅れて、木が倒れる。
 口を半開きにしてその様子を眺めていた人々に、ルーチェは振り返った。
「なぁ、この世界には化け物だっているんだ。ガキの力持ちくらいマシだろ」
「いや、力持ちっていう範疇じゃないと思うぞ、君たちは……」
「んなことどうでもいいから、手伝えよ。ちと重いが、お前ら全員が協力すれば一本ずつ運べるだろ」
「あ、あぁ。そうだな。動ける奴は手を貸してくれ! 木を一旦運び出すぞ!」
 中年の男を筆頭に、男連中が倒れた木に集まり、合図を出し合って持ち上げる。
 巨木というほどではないが、持ってみれば相当な重さだ。幹も細くはない。
「これを、あの娘たちが切ったのか。それも、たった一回で……」
 猟兵という存在が不可思議な力を持っていることは感じていたが、これほどとは。中年の男は木を運びながらも、二人の少女への驚愕を消すことができなかった。
 ちょうど隠れ里の中心になるであろう場所の大岩に、リリトがモーニングスターを叩きつける。大きく崩れるも、なかなか壊し切れずにいた。
「うぅむ。七面倒な。どれ、もう一発――」
 渾身の一撃を叩きこむため、回転数を増す。持ち前の腕力をもって、鉄球を叩きつけた。
 落雷でもあったのかというほどの轟音が響き、鉄球が岩に食い込み粉砕していく。舞い上がった粉塵が晴れたころには、石ころの群れとなった巨岩があった。
「ふむ。こんなものであろう」
「へぇ、やるじゃん」
 声に振り返ると、ルーチェがいた。彼女の背後にあったはずの木は、根こそぎ倒れている。
「汝もなかなかの腕よの。あれほどの木を、妾が巨岩を砕くうちに切ったのであろう?」
「あのくらいなら余裕だ。一通り切り開いたから、さっさと運び出すぞ。家も建てなきゃならないんだからな」
「うむ」
 大の大人が集まって一本ずつ必死に運び出す傍らで、ルーチェとリリトは二人で一本を軽々と持ち上げ、所定の場所に運んでいく。
 冗談のようなその姿にも、村の人々は段々慣れてきたようだった。
「いや、助かるよ。君たちがいてくれてよかった」
「仕事でやってるだけだ。それより、そろそろ建築に入るぞ。大工はいるのか?」
「……すまん。あいつは村に残った」
「他にも、残っている者はおるのか? よもやこれで全員、などということはあるまい」
 リリトの問いに、中年の男は顔を曇らせた。恐らく、ここに逃げ延びたのは一部の村人で、あとは残されたままなのだろう。
 もしかしたら、彼らが脱走したことで、酷い仕打ちを受けているかもしれない。しかしそれは、今考えても仕方のないことだ。
「いないんなら仕方ないな。あたしらが手本を見せるから、そこで待ってろ」
 ルーチェは大剣を構えた。倒した木々を適当な大きさに切る。皮をはいで乾燥をと行きたいところだが、そんな悠長なことをしている暇はない。
「当面は、生木の掘立小屋だ。湿気もするだろうし虫も湧くかもしれないが、吸血鬼よりマシだろ」
「多少見目が悪くとも、文句は言うでないぞ。汝らが雨風を凌げるだけでも、だいぶ違うであろう?」
 二人に問われ、中年の男は頷くしかなかった。この林の中でゼロから始めるのだ。一日二日で立派な家屋に住みたいなどとは言えない。
 ルーチェが刻んだ丸太を、男たちが手分けをして運んでいく。リリトも一本持ち上げて、小走りで建築予定地へ向かった。
 男たちが立ち上げた丸太を、リリトが上からメイスで叩きこんでいく。しっかりと地に刺さったところで、次のものに取り掛かる。
 やがて木々に囲まれた空間ができ、猟兵が持ち込んだ茣蓙を床に敷けば、風を凌ぐ場が出来上がる。
 扉などという上等なものはないので、やはり猟兵が持ってきた布切れを紐で吊って垂らす。ないよりはいいだろう。
 屋根には苦心したが、太い枝を組み合わせた上に茣蓙を敷き、その上に葉をかけた。林の中でのカモフラージュも兼ねている。
 ようやく完成した最低限の小屋を見上げて、リリトが額の汗を拭う。
「ふぅ。まぁこんなものであろう。どれ、さっそく」
 布をかき上げて中に入り、靴を脱いで茣蓙に上がる。ゴロンと寝転がり天井を見上げ、リリトは満足げに頷いた。
「うむうむ、急ごしらえにしてはなかなか悪くないぞよ。中に入ってみれば、思いのほか温かい。隙間風の工夫さえすれば、こいつで冬も越せるやもしれぬ」
「そうか。まぁでも、この広さじゃ一家族がせいぜいだな。もっと数を増やさないとならん」
 中年の男が言うと、疲れが見える男連中は力強く頷いた。彼らもまた、家族を支える大黒柱なのだろう。
 その後、ルーチェとリリトが手伝い、もう一戸を建てた。先ほどより広いが、一軒目と合わせても、全ての人を収容することはできないだろう。
「先は長いな。でも今ので、建て方の要領は分かったろ。あんたらだけでもやらなきゃならない時が来るんだからな」
 突き放すように言うルーチェだが、それは真実だった。猟兵は、いつまでもここには留まることはできないのだから。
 それは百も承知なのだろう。中年の男は少々複雑な顔をして頷いた。
「あぁ、そうだな。君たちがいないとなると、時間もかかるだろうが……」
「言ってられないだろ。あんたらが生きるためだ」
「分かっているさ。君たちが拾ってくれた命、無駄にはしない」
 それは、村民たち全員の代弁と言ってもいいだろう。リリトとルーチェは、中年の男や村の人々の顔を眺め、頷いた。
「今日はもう切り上げるとしよう。続きは明日にせよ。お主ら全員がそれなりに暮らせるようになるまでは、妾たちも帰らぬ」
「了解した。女子供を中で休ませて、男は野宿だ。皆に伝えてくれ」
 中年の男の指示を受けて、男連中が家族のもとに向かう。その後ろ姿を見て、中年の男が呟いた。
「何度も言うが、君たちがいて本当に心強いと思う。だが、皆不安なんだ。いつ、奴らが現れるかと思うとな」
「なんだ、そんなことか。あたしらがいる間は、あんたらの命は保証する」
 どこか不機嫌そうに聞こえるルーチェの言葉には、揺るがない自信が籠っていた。オブリビオンが来るのなら、倒すのが猟兵の役割だ。
 リリトもまた、同じ思いだった。頷いて、中年男の背中を叩く。
「ルーチェの言う通りじゃ。妾たちの武力の片鱗は、先程見せたろう。その力で汝らの身の安全を守ってみせる故、しっかりと眠り、心身を休ませるがよい」
「……そうか。本当に、何から何まで、すまない」
 頭を下げる中年の男に、リリトとルーチェは目を合わせ、肩をすくめた。
 日が、落ちていく。激動の一日が終わろうとしていた。明日もまた、忙しい日となるだろう。
 あるいは、心地よい忙しさがあるからこそ、人は生きている実感を持てるのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルト・カントリック
な、なんかすごかったな……(ホワイトボードの羅列を一瞬思い出す)

誰かが拠点作りを手伝ってくれるかどうか分からないけど、僕は僕の出来る事をしよう。

「丸裸の拠点で敵を待つなんて良くないよ。是非、僕に手伝わせて欲しい」

僕は敵襲に備える為、ユーベルコード【希望の塹壕】で、猟兵や猟兵以外の人々の行動を予想して、作業を邪魔しない・道を塞がない・落とし穴にならない塹壕をドリルランスで周囲に掘るよ。
なるべく、敵の行動や攻撃も考えながら作ってみようかな。難しいかもしれないけど……

堀として活用してもアリかもね。




 猟兵たちが逃げた村民のもとに駆け付けてから、一週間が経った。
 急ごしらえの隠れ里は、生木の小屋が立ち並び、周囲を丸太の壁で覆うにまで至った。
 できれば乾燥した木材を使いたいところだが、生木ならば多少の迷彩効果があることも踏まえて、今のような形を取っている。
 丸太壁の外周を歩きながら、アルト・カントリック(どこまでも竜オタク・f01356)は悶々としていた。
 ブリーフィングで見たホワイトボードの羅列が、時折頭にチラつくのだ。
「な、なんか……すごかったな……」
 意味の分からない言葉がほとんどだったが、中にはハッキリと分かってしまうものもあった。
 そうした言葉が、アルトの脳裏に過ぎるのだ。頭を振って、邪念を打ち消す。
「ダメダメ。今はこんなことを考えてる場合じゃない」
「どんなことを考えてたって?」
 声にハッと顔を上げると、狩りの帰りらしい青年がいた。兎を仕留めたようだ。
「お帰り。今日は収穫ありなんだね」
「今日はってなんだよ。昨日だって魚釣ってきたろ」
「弓を持って出かけたくせに」
 笑いながら肩を叩くと、青年はバツの悪そうな顔をした。彼とは、ここに来て話すうちにだいぶ打ち解けた。
 一週間も経つと、人々はかなり明るさを取り戻していた。今では、猟兵が持ち込んだ酒で夜な夜な酒盛りが開かれるほどだ。
 とはいえ、緊急事態であることに変わりはない。青年もこうして狩りをしながら、辺りの様子を伺ってくれている。まさしく全員総出なのだ。
「で、何か見つけた?」
 アルトの問いは、怪しい者について、ということだ。今のところそうした気配はないが、オブリビオンは神出鬼没なので、油断はできない。
 青年は、わずかに眉を寄せた。
「狩りの時、少し妙な臭いを感じたな。懐かしい感じというか……」
「懐かしい、ね。警戒しておいた方がよさそう。ところでさ、この外周、どう思う?」
 アルトは丸太壁を叩いた。
「どうって、頑丈そうにしか見えないぜ」
「うん、これはね。たぶん吸血鬼の配下が来ても、多少は持ちこたえると思う。でも、僕にはまだ丸裸に見えるんだよね」
 腕組みをして、青年が考え込む。より強固な拠点とするには、塀の外に新たな工夫が必要になるかもしれない。
 しばらく唸ってから、青年が言った。
「じゃあ、塹壕とかか? 少し壁側に余裕持たせて、でけぇ穴をだーっと掘るとか」
「おぉ、それいいね! さっそく作ろう」
 手を打って、アルトは槍を構えた。円錐型のドリルランスだ。
 青年があっけにとられている前で、地面に槍を突き刺し、ドリルを回転させた。
 アルトの背丈よりもわずかに低いほどの穴が、あっという間に出来上がった。あとはこれを、外周全体を覆うように作り上げるだけだ。
「あっ、君は危ないから、離れてて」
「お、おう」
 青年が穴から離れたところで、アルトは腕まくりをしてドリルランスを構えなおした。
「いっくぞぉぉッ!」
 ドリルを回転させ、里の入り口となっている箇所は避けつつ、穴を外周に沿って掘り進めていく。ドリルの威力は凄まじく、あっという間に塹壕を作り上げていった。
 壁との間に空間を作ることにより、丸太壁の強度は落ちていない。深さを利用して堀を作ってもいいが、それは彼らが決めることだろう。
 隠れ里が大して広くないこともあって、堀はあっという間に完成した。
 土だらけになって穴から出ると、青年がまだ待っていた。
「お前、すげぇな……」
「へへ、まぁね。僕にかかれば余裕だよ!」
 土をはたき落としながら、アルトは自慢げに答えた。
 これで、防御は多少マシになった。塹壕を見ながら、アルトは額の汗を拭う。
「まぁ、使わないに越したことはないんだけど……」
 そう呟いた、その時だった。青年が顔を上げ、臭いをかいでいる。
「まただ。さっきの臭いがする。……そうだ、懐かしいこの臭い、これは、おいおい嘘だろ」
 徐々に混乱していく青年に、アルトは戸惑った。
「どうしたの? 何の臭い?」
「これは、俺の村の、香りだ。でも、どうして――」
 青年の問いには、草むらをかき分けて現れた人物が、その存在で答えた。
 現れた男は、血に塗れた鎧を纏い、同じく血みどろのフレイルを握っていた。
 血塗れの男の顔を見て、青年が絶句する。
「あ、兄貴……?」
「なんだって!?」
 アルトは驚愕した。村の人が、またここまでたどり着いたというのか。同時に、その男から嫌な気配も感じる。
 警戒するアルトをよそに、青年は男に駆け寄った。
「兄貴! 俺たちを逃がすために、死んだのかと思ってたぜ。生きてたんだな、よかった――」
 今にも抱き着きそうな青年が、男へと手を伸ばした時だった。
 男のフレイルが、ゆっくりと持ち上げられているのを、アルトは確かに見た。
 体は、自然に動いていた。青年を抱えて、その場から飛び退る。直後、振るわれたフレイルが地面に叩きつけられていた。
「ッ……。あ、兄貴? どうしたんだよ」
「これは、まずいな……」
 アルトが舌打ちして、立ち上がる。槍を構えて、男を睨みつけた。
「おいアルトよせ! そいつは俺の兄貴だ!」
「周りを見て」
 冷静に告げるアルトに従い、青年が周囲に目を凝らす。そして、言葉を失った。
 草むらから、次から次へと新たな鎧が現れた。
 皆、同じ鎧を着ていた。武器も同じフレイルだ。だが、兜はしていなかった。若い男女が中心だが、老人や、子供までいる。
 アルトの背後で、青年が震えていた。振り返り、短く尋ねる。
「彼らを知ってる?」
「あ……うそだ……なんで、みんなが……」
 それ以上聞く必要はなかった。もう間違えようがない。
 この鎧を着こんだ人々は、青年たちが逃げてきた村の人々だ。
 青年の手を引いて、隠れ里の入り口に向かう。すでに猟兵たちが集まり、得物を構えていた。
 隠れ里に青年を押し込み、アルトが槍を構えたところで、鎧を着こんだ村人の足が止まる。その背後から、新たな人影が現れた。
 豪華な衣服をまとい、すべての指に指輪をはめた、痩せ細った男だ。肌は青白く、目は血のように赤い。
「吸血鬼……!」
 アルトが憎々し気に言うと、絢爛な衣装の男がニヤリと笑って、一礼をした。
「いかにも。猟兵の諸君、ごきげんよう」
 顔を上げた吸血鬼の顔は、愉悦に歪んでいた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『朱殷の隷属戦士』

POW   :    慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「突然村の若い方々が楯突いてきた時、妙だとは思ったんですがねぇ」
 痩せた吸血鬼は、くつくつといやらしく笑った。
 吸血鬼の周りには、血塗れの鎧を纏った村人が複数いる。皆一様に、目に光がなかった。
 死んでいる。そう感じることに、猟兵はなんの疑問も抱けなかった。
 しかし、村人は違った。
「か、母ちゃん」
 隠れ里から顔を出した少年が、震える声で言った。視線の先には、フレイルを引きずるまだ若い女がいる。
 他の人々も、家族の顔を見つけては名前を呼んでいる。そのたびに、吸血鬼がニタニタと笑うのだ。
 兜をつけていないのは、これが狙いか。まさしく、外道の所業であった。
「猟兵の皆さん、そんな怖い顔しないでください。これは罰ですよ、バツ。私に逆らった者と……私から逃げられると思った、皆さんの後ろにいる連中への、ね」
 鎧を着た村民――隷属戦士たちは、すでに隠れ里を包囲している。素早く展開して戦う必要があるが、まだ門が完成してない入口を守らなければ、里の人々が死ぬ。
 歯噛みする猟兵を嘲笑し、吸血鬼は隠れ里の人々へと、さも楽し気に言った。
「どうしたんですか? 喜びなさい。家族の感動の再会じゃないですか!」
「黙れッ!」
 叫びとともに矢を射かけたのは、狩人となった青年だった。彼は怒り、涙を流していた。
「お前らのやり方は知ってんだ。こうなりゃもう逃げ場がないってことも、もう、兄貴が死んでるってことも!」
「そうお思いなのは、あなただけかもしれませんよ。ま、すぐに分かることです」
 受け止めた矢をへし折って、 吸血鬼が冷笑を浮かべる。
「始めなさい」
 青白い手が上げられた。隷属戦士たちが、侵攻を始める。声なく進むかつての村民。その影に消えた吸血鬼の哄笑が、林に木霊する。
 隠れ里の人々にとって、家族であり隣人であった人々を、斃さなければならない。それも、なるべく早く。当然そこには、凄惨な状況が生まれる。
 逡巡する猟兵たちの背後から、声が上がった。
「やってくれ!」
 里長に就任した、中年の男だった。彼もまた、目を赤く晴らしている。
「頼む。彼らを……人に戻してやってくれ!」
 それは、隷属戦士を倒すことを意味している。この場の誰もがそれを理解し、中には中年の男に食ってかかる者もいた。若い女だ。
「ダメよ! あの中には私のお父さんもいるの、そんなのダメ!」
 中年の男が振り返るより早く、狩人の青年がその手首を掴んだ。
「じゃあこのまま殺されろってのか? もう死んでるんだよ! 俺の兄貴も、お前の母親も! 俺たちが――逃げたせいで!」
 若い女は、言葉を返せず泣き出した。それを皮切りに、すすり泣く声が聞こえてくる。
 塹壕と壁に阻まれた隷属兵士たちが、重々しい足取りでこちらに向かってくる。決断しなければならない。
「そう、これは俺たちの罪だ。彼らを殺したのは、俺たちだ」
 中年の男は視線を落とした。しかし、すぐに顔を上げる。毅然とした目で、猟兵たちに言った。
「君たちにばかり嫌な役割を押し付けて、申し訳ないと思う。だが、俺たちは――生きねばならない。頼む。力を貸してくれ」
 里の人々の泣き声が、いよいよ大きくなる。隷属戦士の中から我が子を見つけて泣き叫ぶ者もいる。
 だが、猟兵はもう迷わなかった。武器を構える。
 呪われた世界で生きる人々のために。生かそうとした人々のために。
 戦いが、始まる。
ルセリア・ニベルーチェ
アドリブ歓迎

【心情】
(村の人々や、狩人となった青年へ向け)
後は、ルセリアさん達に任せなさい
人に戻すという頼み、請け負ったわ
……私から逃げられると思うなよ、吸血鬼

【作戦】
最重要は完成していない門の入口の死守
そして、隷属戦士となった者達を苦痛なく
人に戻すという事、であれば……本気を出す

【戦術】
初手で真の姿となりしUC【吸血鬼嬢は眠らない】で
戦闘力を爆発的に増大、【過去と未来の狭間】発動
目指す果ては栄光か破滅か──"剣を極めし"未来。
真の姿を更に強化し、自身の未来の剣戟を再現

敵の攻撃を見切り、透過と実体化を繰り返しながら
十二刀流で首を的確に狙い【剣刃一閃】にて一撃で仕留める

所持技能は自由に使ってOK


リリト・オリジシン
罰。あの吸血鬼は罰と言ったか
ならば、その者達は罪を背負っておるということなのだな
……よかろう
であれば、その罪を喰らうは妾が役目
それが嫌な役目であるものか
それに、汝らの安全は、妾達が守るとしたしな
汝らは小屋の中か、物陰か、安全な場所に隠れるが良い
血と罪に塗れるは汝らの役目ではないのだ

村人達を隠し、庇うように前面へと立とう
存在を見せつけるように血染めの流星を振るい、なぎ払えれば、その意識の先を村人達より切ることも叶おう
そうなれば、あとは鎧事に呪縛を打ち砕き、全て平らげてやろうぞ
最後には天よりの光(ジャッジメント・クルセイド)も賜そう
嘆きも慟哭も妾へ捧げよ
そして、呪縛より解き放たれ、天へと還るが良い




 金属がこすれる音を立てながら、隷属戦士は虚ろな目で村の入り口に向かう。かつて共に暮らした人々を、殺すために。
 命を冒涜され、吸血鬼の道具と成り下がった家族の姿に、隠れ里の人々が怒り、嘆く。
「罰――。あの吸血鬼は、罰と言ったか」
 隷属戦士の後方にいる痩せた吸血鬼を、リリト・オリジシン(夜陰の娘・f11035)は怒りに燃える瞳で睨みつける。
「……よかろう。ならば、その罪を喰らうは我が役目よ」
「お嬢ちゃん、すまねぇ。俺たちのせいで……」
 頭を下げる中年の男に、リリトは微笑んで首を横に振った。
「何を言う。汝らの安全は、妾たちが守ると約束したであろう」
「そうです。皆さんの、家族を人としてあるべき形に戻すという頼み、確かに受け取ったわ」
 十二の黒剣を召喚したルセリア・ニベルーチェ(吸血鬼嬢は眠らない・f00532)が、今も弓を構える青年の肩に手を置いた。
「後は、ルセリアさんたちに任せなさい」
「汝らは小屋の中か物陰に隠れるがよい。血と罪に塗れるは、汝らの役目ではない」
 血染めのモーニングスターを地面に一打ち、リリトが一歩、前に出る。
 その足音が、合図となった。
 突如として機敏になった隷属戦士が、入り口に殺到する。
 里の人々を守るように立ったリリトが、ルセリアへと叫ぶ。
「ルセリア! ここは妾が引き受ける、お主は前に出よ!」
「分かったわ。そこを頼みます!」
 高く跳躍したルセリアは、里の人々の視界から外れたことを確認してから、その身に秘めた力を解き放つ。
 重力を殺し、ゆっくりと着地したルセリアの肌はいよいよ白く、その口元には牙が見えた。
 人々がヴァンパイアと呼ぶその姿こそが、彼女の真の姿だ。
 ゆっくりと立ち上がるルセリアの横から、血に染まったフレイルが振るわれる。彼女はそれを見ずに、右手の黒剣を突出した。
 老人の隷属戦士の胸を貫き、引き抜く。隷属戦士は、力なく倒れた。
「あなた達をあるべき姿に戻すため――本気を出す」
 紅蓮の旋風に包まれ、ルセリアはその身に遙か未来の己、剣を極めしルセリア・ニベルーチェの力を宿す。
 今の身に過ぎた力は、彼女の寿命を削る。それでも、止まるつもりはなかった。
 ルセリアの体を打ち砕かんと迫るフレイルは、覚醒した力により、全て体をすり抜ける。
 十二の黒剣が動いた。飛び、刺し、回転し、次々に隷属戦士を打ち倒す。
 隷属戦士たちから吹き出した血の噴水に、里の人々が悲鳴を上げる。中には、猟兵たちを止めようと罵倒する者さえいた。
 未だ、身内の死を受け入れられていないのだ。ならば、その意識を断ち切るのみ。リリトはモーニングスターで隷属戦士を薙ぎ払い、その鎧ごと打ち砕く。
 五人、六人と死した村人が積み重なっていく。残酷な光景に、人々の中には嘔吐するものさえいた。
 だが、リリトが受け止める悲しみは、彼らだけのものではない。彼女自身が手にかける、隷属戦士とされた村民もまた、嘆いているのだ。
 その声なき声が、リリトにははっきりと聞こえていた。
「苦しかろうな。辛かろう。だが案ずるな。妾には分かる。汝らに――罪はない」
 幼子をあやすような声音で、しかしモーニングスターを振るう手を止めることはない。
 突如上がった銃声に、身を捻る。かすめた弾丸は、マスケット銃のものだった。
 撃った反動でよろめく老婆の隷属戦士を、鎧ごと砕く。
 血をまき散らして倒れる老婆が、どこか穏やかな顔に見えるのは、気のせいなどではないはずだ。
「そうだ。安心して逝くがよい」
 それこそが、彼らのあるべき姿なのだから。
 想いを同じくして戦うルセリアも、激戦の渦中にありながら、その表情には深い悲しみが宿っていた。
 一切をすり抜ける透過の力をもってしても、フレイルに宿る闇の力を、ルセリアはその身に感じていた。なんと冷たく、おぞましい力か。
 彼女もまた、身の内に吸血鬼の血が流れている。しかし、この不快さは、種族由縁のものだけでは決してない。
「断ち切らなければ」
 呟いて、赤い旋風を纏う黒剣を振り抜く。若い女の隷属戦士が掲げた盾ごと、その身を引き裂く。虚ろな顔が倒れ、土と血に塗れる。
 彼らが何をしたというのか。お互いを支え合って慎ましく生きていた彼らが、どうして。
 この世界に、何の罪があるというのか。罪を犯していたとして、この仕打ちが正しいものか。
「絶対に、許さない」
 ルセリアはその目に、吸血鬼を捉えた。猟兵の思わぬ猛攻に困惑している。
 痩せた吸血鬼は、目が合うなり逃げようとした。その背に、念動力で操る黒剣を向ける。
「あなただけは、逃げられると思うなッ!」
「う、うわぁぁぁッ……」
 高速で迫る黒剣が、痩せた吸血鬼の背を貫く。貫いたと、ルセリアは確信した。
 しかし、無数の蝙蝠となった吸血鬼は、黒剣をすり抜け、木の上に再び現れる。
「なんちゃってェ! 半端者のダンピール風情が、この私に傷をつけられると本当にお思いですか?」
 勝ち誇った挑発を、ルセリアは冷たく燃える瞳で受け流す。いかにあの吸血鬼を殺すか、それしか考えていなかった。
 ガチャリと、金属音がする。見れば、ルセリアの周囲を隷属戦士が囲んでいた。
 危機的な数ではない。しかし、下手に動けば吸血鬼に狙われかねない。油断なく構えながらも、ルセリアは足を止めていた。
「半端者か。いかにも妾とルセリアは、吸血鬼と人の狭間に生まれた者。だが――」
 声とともに、天から幾本もの光が降り注ぐ。輝きは聖なる力をもって、隷属戦士を穢す闇を浄化していく。
 邪悪な血に塗れた鎧が、光の粒子となって溶けていく。隷属戦士の亡骸もまた、光と消えた。
 リリトだ。フレイルも衣服も血に塗れながら、迷いのない眼光が、吸血鬼を突き刺す。
「狭間の者だからこそ、闇にも光にも染まることができる。妾のようにな」
「馬鹿な……! 何をしたのです!」
「たわけが、分からぬのか。呪縛より解き放ち、天に還した。それだけのこと。やっていることの本質は、ルセリアらと変わらぬわ」
 新たな隷属戦士を切り伏せたルセリアが、息をついて顔を上げた。
「リリトさん、入り口は?」
「安心せよ。他の者に任せてある」
 ルセリアとリリトは、同時に吸血鬼を睨みつける。
「降りてきなさい。次はあなたを――斬る」
「くぅっ……」
 歯噛みした吸血鬼は、木から飛び降り、黒い霧と化して消えた。
 魔力を伴う声が、木々に反響する。
「あなた方の相手などしていられません! 彼らとお遊びなさい!」
 茂みが動き、二人が構える。現れたのは、やはり隷属戦士だった。
 しかし、その姿。あまりにも、幼い。
「そんなっ……!」
「幼子まで駒とするか、外道め」
 金色の柔らかな髪を揺らす童女を先頭に、幾人もの子供が現れる。一様にフレイルを振り回し、その重みに転倒する者さえいた。
 闇の力に支配されている彼らの攻撃も、当たれば脅威だ。だがそれ以上に、心を抉る光景だった。
「ルセリアよ。汝には重荷であろう、ここは妾が引き受ける」
 前に出ようとしたリリトの肩を、ルセリアはそっと掴んだ。
 子供すらも、心からはしゃげない世界。変えなければならないと思った。そのために、心をより鋭く研がなければならないとも。
 黒剣を握る手に力を込めて、ルセリアは言った。
「やります。私に、やらせて」
「……任せる」
 リリトに背中を押されて、ルセリアは子供たちへと歩み寄る。
 子供たちが振るうフレイルは、次々にルセリアの体を通り抜けていく。透過していても感じる冷たさに、涙が流れそうだった。
 しゃがみ込む。虚ろな子供たちの目は、ルセリアを見ていない。もう何も、見えていないのだ。
「可哀そうに。怖かったわよね。でももう、終わりですよ」
 微笑んだルセリアの右手が、かすむ。同時に他の十一の黒剣が瞬時に振るわれ、直後、子供たちの首が地面へと転がった。
 小さな音を立てて倒れていく幼子の隷属戦士たちを見つめながら、リリトは脳裏を過ぎる様々な言葉の中から、ただ一つだけを選び取る。
「……よくぞ成した」
「えぇ。ありがとう」
 長く重く息を吐いて、ルセリアが立ち上がる。リリトは彼女の顔を確認し、いつもの調子で言った。
「入り口は他の者に任せてよいであろう。妾はこのまま遊撃に移るが……、汝はどうする」
「ルセリアさんも行くわ。この姿では、里の人たちを怖がらせてしまいますから」
 黒剣を一振り、血を払い落として、ルセリアが歩き出す。
 戦いの中へと去る背中を見送って、リリトは空を見上げた。
「相も変わらず、暗い空よな」
 すべての罪咎をこの身に背負い、数多の穢れを雪ぐことができたなら――この空は晴れるのだろうか。
 まるで少女が描く夢物語のようだと、リリトは一人、苦笑を零す。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルト・カントリック
うん……彼等が希望を掴み取る為に!僕は手加減しないよ。

塹壕に身を潜ませて、そこから狩猟用狙撃銃を構えて撃つよ。容赦はしないけど人相が崩れすぎないよう努力するよ。

接近されたら狙撃銃で殴るけど、銃には良くないかな?いざという時はドリルランスでお相手しよう。


トリテレイア・ゼロナイン
手の届く限り、私は力なき人々を救うために戦うでしょう
そして今、人々は私の背に
決して眼前の哀れな亡骸達ではありません、全力で戦います

後ろの村人達を弾丸から「かばう」ため機械馬に「騎乗」し、敵中に突撃して村人へ攻撃する余裕を奪います
歩兵に対する騎乗兵のアドバンテージを活かし、「怪力」で槍や盾を「なぎ払い」、騎馬の「踏みつけ」で敵の腕や脚、胴体を潰し、へし折り、砕きます

敵の攻撃には「武器受け」「盾受け」で対処、慟哭を聞いて攻撃を止めはしません。その慟哭こそが私が戦う理由なのですから

遠間の敵には「スナイパー」技能を使った銃器で手足を封じます

…頭、顔を潰すのは避けます。最期の別れを遺族が伝えられるように



「アルト様、下がるのです! 里の中へ!」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の叫びに、アルト・カントリック(どこまでも竜オタク・f01356)は塹壕を飛び出した。
 なるべく隷属戦士を寄せ付けないように戦っていたが、状況がそれを許さなくなったのだ。
 塹壕を迂回して入口に向かう屍の群れは、アルトの姿を確認するや、次々に武器を振るってきた。
 トリテレイアが守る入口まで、まだ距離がある。すでに囲まれている状況を突破して、駆け付けなければならない。
 少年の隷属戦士が打ち付けてくるフレイルを避け、狩猟用狙撃中で殴りつける。
「っ……ごめんね。でも、手加減はしないよ」
 アルトは銃を背中に回し、ドリルランスを構えた。槍が回転を始める。
「彼らが希望を掴み取るために……僕たちは、止まれないんだッ!」
 回転するドリルランスを正面に、一気に駆け出す。気迫の一撃が、敵陣を貫く。
 気圧されたわけではないだろうが、隷属戦士たちがわずかによろめいた。吹き飛ばされた他の者の巻き添えを食っているのだ。
 もう少しで、入口につく。ここを死守できれば――。
 そう思った瞬間、アルトは宙を舞っていた。何が起きたのか、理解ができない。
 林方面へと吹き飛び、地面に叩きつけられた。なんとか立ち上がり、額から流れる血を拭う。
 揺らぐ視界の先で、棘のついた盾を構える隷属戦士がいた。まだ十の半ばに届かない、少女だ。
「盾に、やられたのか……」
 不覚を取った。棘が刺さらなかったのは、不幸中の幸いだ。
 しかし、状況は最悪だった。まだ足元が覚束ないというのに、完全に包囲されている。
「これは……まずいな」
 覚悟を決めてドリルランスを構えた、その時だった。
 地鳴りとともに現れた巨大な機械馬が、隷属戦士を蹴散らす。その馬上から、トリテレイアが手を伸ばした。
「こちらへ!」
 即座に掴み、トリテレイアが引き上げる。そのまま彼の前に座らせられて、機械馬は猛スピードで里の入口へと引き返した。
 途中、フレイルを振るう隷属戦士が多数いたが、機械馬は全く意に介さない。
「ありがとう、助かった!」
 ようやく鮮明になってきた意識の中で、アルトが言った。しかし、トリテレイアは返さない。
 怒っているわけではない。トリテレイアは、大いに焦っていた。今、入口は無防備となっているのだ。
「アルト様。降りると同時に内部へ侵入した者の殲滅と、人々の安否確認を」
「わかった。トリテレイアさんは?」
「防ぎます」
 問答を終えると同時に、入口に到着する。予想通り、すでに幾人かの隷属戦士が侵入し、狩人の青年が必死に応戦していた。
「来るな! 畜生が、来るんじゃねぇッ!」
 必死に矢を射かけているが、そのことごとくを盾と鎧に阻まれている。顔は、狙えないようだ。
 機械馬の背から飛び降りるアルトに、トリテレイアは叫んだ。
「皆さんを頼みます!」
「任せて!」
 フレイルが振り上げられるより早く、アルトの銃弾が隷属戦士の脳天を貫く。
 そちらを振り返らずに、トリテレイアは馬上から槍と大盾を振り回した。
「私の背後に、もはや誰一人として通しません。私の手の届くところにいる人々は、私が――このトリテレイア・ゼロナインが救ってみせる!」
 金属の馬が機械音声で嘶いて、前足を持ち上げた。そのまま超重量を持って、踏みつける。足元の隷属戦士が肉塊と化し、その振動で多くの敵がバランスを崩した。
「はぁぁぁッ!」
 トリテレイアの体躯に相応しい巨大な槍を、横薙ぎに振るう。幾人ものかつての村人が、まるで人形のように跳ね飛ばされた。
 頭部の格納機銃が開く。直後に放たれた銃弾で、立ち上がった隷属戦士が撃ち抜かれ、倒れていく。
 圧倒的質量を武器としながらも、トリテレイアは隷属戦士の頭を潰すようなことはしなかった。遺族が最後の別れを伝えられるよう、せめてもの配慮だ。
 応戦しながら、トリテレイアは疑問に思った。彼らが住んでいた村というのは、こうも人口が多かったのだろうか。
 答えは否だ。恐らく、他の村や町の人間も混ざっている。腐敗が進んでいる者は、墓から掘り返したか。
「……」
 機械の心に、沸々と怒りがこみ上げる。マシーンの冷酷さを超えた激しい魂の律動が、トリテレイアの巨体をわななかせる。
「トリテレイアさん! 里のみんなは無事だよ!」
 後方から、なおも矢を放つ青年と並んで銃を構えたアルトが叫んだ。侵入していた程度の隷属戦士では、アルトの相手にならない。
「援護を願います!」
「了解! 今度はしくじらない!」
 狙撃銃を構え、アルトは瞬時に標的を定めて撃鉄を引いた。放たれた弾丸が、隷属戦士の鎧を貫き、心臓を撃ち抜く。
 次弾を装填しつつ、隷属戦士を観察する。耐久力はない。普通の人間を殺す要領で、倒せてしまう。これなら、ゾンビの方がよほどタフだ。
 しかし、道具を使う。これは厄介だ。何よりすぐ死ぬことが、里の人々に「人間」として認識させることに役立っているのだろう。いやらしい精神攻撃だ。
 一瞬背後を確認すると、里の子供がアルトを見ていた。当然その先の惨状も、見えているはずだ。
「くそ……」
 こんな幼い子供にまで、地獄を経験させなければならないのか。悔しさに唇を噛みながら、アルトはそれでも撃鉄を引き続けた。
 入口で縦横無尽に戦うトリテレイアは、その視界の端に、違和感を覚えた。どこからか、こちらを覗く何者かがいる。
 あの吸血鬼か。即座に方向を特定し、格納機銃で銃撃を仕掛けるが、気配は一瞬で消えた。
「逃がしましたか」
 隷属戦士を槍で突き刺し、大盾で敵を薙ぎ払う。もう一度辺りを探るが、違和感の主は見つからなかった。
 ふと、背後から声が上がる。悔し気な、青年の叫びだった。
「くそッ! なんで通じねぇんだ! 俺たちの里なのに、何もできねぇのか!」
 どれほど矢を射かけても、敵の一人も倒せない。かつてともに畑を耕した仲間を、あるべき姿に戻せない無力感が、青年を襲っていたのだ。
 まして、猟兵たちの激しい攻防を見てしまった後だ。己の弱さを、嫌というほど痛感しているだろう。
 弓を地面に叩きつける青年に、アルトが狙撃銃を構えたまま言った。
「君たちが里を守るのは、この先だよ。今は僕らに任せて」
 撃鉄を引く。発砲音が響く。余韻が消えてから、青年が呟いた。
「俺たちじゃ――何もできないのか?」
「今はね」
 例え冷酷と捉えられようとも、構わない。ここで無理に彼らを扇動して戦わせでもしたら、最悪の事態になるのだ。
 中途半端なやる気なら、へし折った方がいい。
「ごめん、はっきり言うね。今ここで戦われても、足手まといなんだ」
「……そうかよ!」
 地面を殴りつけ、青年は弓を拾い上げて小屋の方に向かっていった。
 アルトの胸に友人を傷つけた切なさがよぎる。それを、銃弾を放つ振動で掻き消した。
 一連のやり取りを聞きながらも、トリテレイアの攻撃は続行されていた。大薙ぎの槍が隷属戦士を一網打尽にする。
 その数が、徐々にではあるが減り始めていた。どうやら頭打ちらしい。それでも、数は依然として多い。
 ふと、足元に小さな隷属戦士を見つけた。まだ五歳かそこらの、男の子だ。
 思わず手を止めた、その時だった。里の方、アルトの後ろから悲鳴が上がる。
「ジョン、ジョン! ダメ、お願い、その子を助けて!」
「もう無理だ! あの子は死んでる!」
 アルトが止めるが、母親はその腕を振り払う。
「嫌よ……そんなの嫌! あぁ、私のジョン!」
 母親の叫びに、トリテレイアはしかし、躊躇せずに小さな体を槍で貫いた。女の悲鳴と罵声、慟哭が、巨体に突き刺さる。
 それでも、迷わない。彼女たちの慟哭こそが、トリテレイアの戦う理由なのだ。
 ライフルを背に回し、ドリルランスを構えたアルトが、入口に立つ。
「アルト様」
「ここからは、僕も前に出る。少しでも、みんなの目隠しになれたらと思って」
「分かりました。私の攻撃範囲は広いですから、巻き込まれないようご注意を」
「オーケー。じゃ、いくよッ!」
 背にいる人々を守るため。例え冷酷な戦士と思われようとも――。
 二人の鉄壁の意思は、いかなる城塞よりも堅く、強い。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ルーチェ・アズロ
アドリブ大歓迎

間違ってんじゃねえ
あのバカがバカやったから逃げてきて
あのバカがバカやったからあいつら死んで
あのバカが連れてきたから此処に居る
何処にお前らの責任ある

すまねえが死体を綺麗にってわけにゃいかねえ
そいつは我慢してくれ

あと嫌な役割じゃねえよ
ああいうバカをぶっ殺すのがあたしの生き甲斐だ

・全身の包帯が千切れ飛び傷が顕になり瞳が金色に

敵が密集なら怪力となぎ払いで範囲制圧
傷口をえぐるで追加ダメージを狙う
相手のUCをUCで見切って速さを合わせる

この辺に埋葬してもらえ
近くいられるさ

すぐ後ろのバカぶっ殺すからな
幽霊でもいい。みてろよな

死人は死んでるもんだ
其ればっかりは曲げちゃいけねえ

ようバカ
次はお前だぞ


エーカ・ライスフェルト
隠れ里の人々の苦悩は想像する事も難しいわ
「今は生き延びることを考えて。ここで死んでも喜ぶのはアレだけよ」(吸血鬼を指さす

今回の吸血鬼は、実態以上に自分が賢くて強いと思い込んでいるタイプだと思う
悲劇の演出だ! という思考で幼児や結婚間近の少女を前に立てたり、知将を気取って草の残った場所から犠牲者を隠れ里へ接近させたりね
「三流以下の演出家ね」

こういうときに有効なのは単純な力と速度よ。救援や防衛が必要な場所へ、バイクに【騎乗】して全速で突っ込むわ
攻撃は【属性攻撃】で撃ち出した氷玉を起点にした【精霊幻想曲】
吹雪の中に砕けた氷玉の破片が舞う感じ……に精霊がしてくれるといいのだけど
制御が甘くて髪が乱れそう




 剣戟の音が林に満ちる中、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は小屋から外へ出た。
 家族を目の前で失った人々を、慰めていたのだ。ある程度落ち着いたので、戦いに向かうため宇宙バイクに跨る。
 と、丸太壁を飛び越えて、ルーチェ・アズロ(血錆の絆と呪い・f00219)が帰還した。まっすぐに水桶へ行き、カップに掬った水を一気に飲み干す。
 エーカに気づいて、ルーチェが歩み寄る。
「遅い出陣だな」
「猟兵の仕事は多岐に渡るからね」
 冗談めかして答えて、エーカは手の中に水の弾を作り出す。魔力の調子は良さそうだ。
「なぁアンタ、あのバカがわざわざ女子供を選んだ理由、どう見る」
 ルーチェの問いに少し考えて、髪を掻き上げながら答える。
「そうね、酷い演出だわ。幼児や結婚間近の少女を前に立たせたのも、悲劇を盛り上げようとしてるのでしょうけれど、まぁ三流以下ね」
「ハッ。学芸会のお遊戯かよ」
 年齢だけを見れば、ルーチェもそうしたことをしていてもおかしくない。しかし、すでに血塗れの大剣を担ぐ彼女を見ていると、とても想像できなかった。
「それでも」
 小屋を見ながら、エーカが言った。
「彼らには効果てきめんだったみたいね。みんな、相当落ち込んでいるわ。私たちに対しても、申し訳ないって、何度も」
「……なにを間違ってやがる」
 ルーチェは吐き捨てた。なぜ彼らが謝る必要があるのだ。拳を握りしめて、歯ぎしりをする。
「あのバカがバカやったから逃げてきて、あのバカがバカやったからあいつらが死んで、あのバカが連れてきたから此処に居る。……どこに連中の責任がある」
「ごもっともだわ」
 その真理は今、彼らに聞かせたところで、聞いてすらもらえないかもしれない。
 戦いで示すしかないのだ。彼らの未来を、今一度切り開くしかない。
「行きましょうか」
 エーカが後ろを示す。ルーチェは誘われるまま、バイクに跨った。
 方向転換した宇宙バイクは、切り株に向かって直進した。衝突の一瞬、軽く前輪を浮かせ、高く跳躍する。
 丸太塀と塹壕を飛び越え、着地の衝撃で隷属戦士を轢き潰す。アルトがバイクから飛び降りた。
 バイクを暴れさせて隷属戦士を撥ね散らかし、エーカも素早く降りる。敵が体勢を立て直すより早く、氷玉を空中に放つ。同時に、両手を広げた。
 大気に満ちる精霊を感じ、精神を集中させる。
「精霊よ……力を貸して」
 穏やかな風が、次第に冷気を伴い、やがて局所的な吹雪を発生させる。その最中、氷玉が砕けた。
 猛吹雪と砕けた氷玉が渦を巻き、隷属戦士を巻き込んでいく。その中に、ルーチェの怒声が聞こえた。
「おいアンタ! あたしのこと忘れてるだろ!」
「あら、ごめんなさい。これ、制御難しいのよ。辛かったら塹壕にでも避難してくれる?」
「ハッ! 余裕に決まってんだろッ!」
 氷の礫をものともせず、ルーチェは力を解放した。全身の包帯が千切れ飛び、小さな体についた傷が露になる。黄金色に変化したその瞳は、吹雪の中にありながら輝きを失わない。
 背丈に似つかわしくない大剣を、小枝のように振り回す。吹雪が、血で赤く染まった。
 猛烈な風と雪、氷に足を止められた隷属戦士は、ルーチェの猛攻を前に、なす術もなく倒れていく。
 この状況下でもなおマスケット銃を構えるものもいたが、ルーチェが撃たれるよりも早く拘束ロープを投げ、その身を縛ってから首を飛ばした。
「死体を綺麗にってわけにはいかねぇ。そいつは我慢してくれ」
 誰ともなく呟いて、ルーチェは吹雪の中で剣を振るい続ける。
 一方、精神を精霊とリンクさせ集中しながらも、エーカは不快な何かを感じ取っていた。
 雪と風に隠れて見えないが、林の奥だ。あの吸血鬼が、近くにいるのだろうか。無防備となっているエーカが狙われると、危険だ。
 しかし、気配は仕掛けてこなかった。こちらを観察しているようで、気味が悪い。
「……ルーチェさん、分かるかしら?」
「あぁ、気づいてる。だがほっとけ、あのバカは後でちゃんと殺す!」
 隷属戦士のフレイルを大剣で受け止め、蹴り飛ばして斬り捨てる。動く屍たちは、吹雪に順応してきていた。
 あるいは、その力を増しているようにも思える。気配のせいだろうか。
「おいエーカ! もうちょっと吹雪強められないのか!」
「無茶言わないでよ。精霊の御機嫌取りも楽じゃないの」
 軽口を叩きながらも、エーカは吹雪の中にありながら、汗が滲むのを感じていた。天候すらも操る魔法は、精神への負荷が凄まじい。
 もう長くはもつまい。力を使い果たす前に、術を解く。
 突如として風と雪が止み、氷の礫が水となって地に落ちる。敵に囲まれる前にバイクに跨って、エーカは水弾で応戦を始めた。
 ルーチェにも多数の隷属戦士が群がり始めている。少なくなりつつあるとはいえ、その数が多い。
 大剣を振るって胴を両断し、ルーチェは呟いた。
「この辺に埋葬してもらえ。連中の近くにいられるさ」
 すでに、彼女が築いた屍の山は相当な数に上っていた。それでも、隷属戦士は恐れることを知らない。
 油断なく大剣を構えて、うつろな瞳を真っ向から受け止める。
「待ってろよ。すぐあのバカをぶっ殺すからな。……幽霊でもなんでもいい。見てろよな」
 踏み込み、振り回す。回転の一撃が、周囲の隷属戦士をなぎ倒し、切り刻む。
 上がる血飛沫を全身に浴びながら、ルーチェは後方に跳んだ。水弾で隷属戦士を撃ち抜くエーカに合流し、顔の血を拭う。
「おでましだぜ」
「そのようね」
 水弾を手の中に遊ばせながら、エーカが頷く。
 隷属戦士の足が、止まった。その背後に立つ、豪奢な服に身を包む、痩せた吸血鬼。挑発的に拍手などしている。
「いやはやお見事。さすがは猟兵、といったところでしょうか。想像していた以上です」
 足元の死体を蹴り飛ばし、鼻を鳴らす。警戒する二人に対しても、汚物を見るような目を向けた。
「ずいぶんと汚い身なりになりましたねぇ。私のおもちゃと大差ないように見えますよ」
「ごちゃごちゃ着飾ってるだけの木偶の棒には言われたくねぇな」
 金の瞳で睨みつけるルーチェに、痩せた吸血鬼は奇声を上げた。
「おぉぉぉ! あなたのその瞳、美しいですねぇ。抉り出してペンダントにしたいくらいだ」
「高くつくぜ。お前の命が対価だ」
 大剣の切っ先を向けると、痩せた吸血鬼はわずかに身を引いた。
 エーカはもう見抜いていた。この吸血鬼は、恐れるほどの力を持っていない。奴が強者でいられるのは、弱者を虐げている間だけだ。
「ねぇあなた。わざわざ姿を現したってことは、私たちに勝てるつもりってこと?」
 あえて聞くと、痩せた吸血鬼はおどけたように肩をすくめてみせた。
「逆に聞きましょう。あなた、私に勝てるとお思いですか? 吸血鬼たる、この私に」
「そうね、勝てるんじゃないかしら。吸血鬼は厄介な相手だけど、あなたは不思議と怖くないもの」
 くつくつと笑うエーカの横で、ルーチェが吐き捨てる。
「この状況見てまだ分かんねぇのか? バカが。次はお前だ」
 闇の力を付与された人々であっても、猟兵には殺すどころか致命傷を負わすことすらできていない。
 それでも、この自信。何かがあると見て間違いないだろう。
 睨み合うこと数秒、エーカが口を開いた。
「吹雪の外からといい今といい、あなた、人間観察が趣味? 吸血鬼のくせに」
「吹雪ぃ? はて、なんのことやら」
 とぼける痩せた吸血鬼に、ルーチェが舌打ちをした。
「もういいだろ。こいつ、ここでやっちまおう」
「……そうね。大した情報も引き出せなさそうだし。用済みよ」
 水弾を召喚し、ルーチェが駆け出すタイミングに合わせて、放つ。
 大剣と水弾が触れる瞬間、吸血鬼は霧となって消えた。手ごたえは、ない。
「まだ祭りは終わっていませんよ。もう少しお楽しみになってはどうですか」
 耳障りな哄笑が、風に消えていく。仕留めそこなった感触に歯噛みしたが、隷属戦士が再び動き出したことで、対応せざるを得なくなった。
 二人して、構える。
「ルーチェさん、まだやれるかしら?」
「当たり前だ。さっさと終わらせるぞッ!」
 同時に、動き出す。隷属戦士がフレイルを上げ、水弾が、大剣が、鎧を穿ち、切り裂く。
 死臭に塗れた戦いは、まだ続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

露木・鬼燈
こうなる前に終わらせるのが最良だったんだけどなー。
でも、こーなっては仕方ないね。
吸血鬼との戦いもあるだろうしね。
労力は最小に、遺体の損傷までは気を回せないのです。
とゆーか、みんな気にし過ぎっぽい。
僕らは仲良くなるために来たわけじゃないのです。
こーゆー妨害が入れば、感情面の問題が残ることもある。
でも過程がどうあれ、お仕事が終われば去るんだしね。
仲良く終わるのが無理なこともあると割り切るのです。
とはいえ、だれもが僕みたいにどー思われても全く気にしない…とはいかないか。
精彩を欠いている人の代わりにやるしかないね、これは。
こーゆー役回りも必要ってね。
僕はいつも通り全力で戦うだけっぽい!
イケルイケル!




 猟兵の動きが精細を欠いているように思え、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は複雑な顔をした。
 吸血鬼の心理戦により、少なからず感情を揺さぶられている。敵のやり方が相当姑息なので、無理もないことではあるが。
「みんな、気にしすぎっぽい」
 何も仲間たちが里人と馴れ合っていると言うつもりはない。誰もが鬼燈のように割り切れるものではないし、彼らの優しさを弱さとは思わない。
 だがこの状況下において、感情に引っ張られて力配分を間違えるのは、得策ではない。
 大剣を振るう鬼燈の動きは、最小限だ。疲労をためないよう、コンパクトな立ち回りで隷属戦士を倒していく。
 隷属戦士は大した相手ではない。死体の損壊について気を回さなければ、力を出し切ることなく十分に戦える。
 加減をしているわけではない。必要な力を、必要な分だけ出し切る。それもまた全力の戦いというものだと、鬼燈は戦士としての経験から知っていた。
「この後もあるだろうしね」
 あの吸血鬼は、恐らくそれほどの強敵ではない。しかし吸血鬼であり、オブリビオンだ。油断はできない。
 それにしても、防衛戦が長引いている。大剣を逆袈裟に振り上げ隷属戦士を両断し、鬼燈は周囲を見回す。
 三十人ほどしかいない隠れ里を、これほどの隷属戦士を従えて襲う理由が分からなかった。その数は、村一つ分の人口をゆうに超えている。
 裏の意図があった場合を考えると、やはり長期戦は望ましくない。
「早く終わらせた方が、いいみたい」
 嫌な予感を晴らすため、鬼燈は決断した。体力の温存は、ここまでだ。
「いつも通り……いや、いつもより、かな。全力で戦うっぽい」
 黒い大剣の柄から、強烈な思念が流れ込む。それは、かつて竜に滅ぼされた聖騎士の怨念だ。
 体に流れる竜殺しの血が、思念に呼応して脈打つ。共鳴して膨れ上がる念が、鬼燈の体を縛り付ける。
「きたきたッ……!」
 漆黒の大剣から流れ込む強大な思念を、喰らい、呑み込む。背筋が凍るほどの力が湧き上がり、鬼燈は笑みを抑えられない。
 頭蓋を砕かんと迫るフレイルを、振り下ろした大剣で腕ごと切り落とす。一瞬だった。
 巨大な刃を突き刺し、振り上げた。隷属騎士は腹部から頭部までを裂き砕かれ、全身からおぞましい量の血を吹きあがらせる。
 その傷口に、呪詛が蠢く。百足の如く傷を這い、血を、肉をむさぼる。
「もっと、全部! 喰らい尽くすっぽい!」
 狂気じみて叫んだ鬼燈は、体の自由を奪う呪縛をも力に変えて、隷属戦士へと襲い掛かる。
 棘のついた盾を構えた少女の隷属戦士を、その盾ごと刺し貫き、少女ごと持ち上げて、別の隷属戦士へと叩きつける。
 鬼燈が剣を振るうたび、血の嵐が巻き起こった。怨念と呪詛に喰いつくされた遺体は、もはや人かどうかの判別もつかない。
 仲間が見たら、なんと言うだろう。冷静な自分がふとそう告げるが、鬼燈は笑って理性を打ち消す。
「こーゆー役割も、必要ってね。……ん?」
 痺れるような呪縛の感覚が残る中、鬼燈はふと足を止めた。隷属戦士が、攻撃をしてこないのだ。
 振り返り、見上げる。木の枝に腰かけて、吸血鬼がいやらしく笑っていた。
「いやはやお見事。有象無象が相手とはいえ、ここまで容赦なくやれるものですか」
「ずいぶん楽しそうだけど、お前もすぐこうなるですよ。それとも、今すぐがいいっぽい?」
 血だまりの中、鬼燈は殺意に満ち満ちた眼光を向ける。まだ殺したりないと、黒の大剣から呪怨の籠った声が聞こえてくる。
 凶悪な殺気を受けて、吸血鬼の肩がびくりと震えた。
「……狂犬め。あなたの相手は目の前にいるでしょう」
「死体と遊ばせたいならいくらでもしてやるけど、これだけの数をかき集めたの、まさか里の人たちを殺すためだけじゃないよね。何を考えてるです?」
「……?」
 吸血鬼は、何を言っているのか分からないとでも言いたげに首をかしげた。まさか、本当に嗜虐欲求を満たすためだけの隷属戦士なのか。
 残虐なエゴにはさして興味がないが、それにしても考えがなさすぎる。鬼燈は頭痛すら覚えた。
「まぁお前の相手は後でしてやるです。せいぜいおもちゃを壊されるのを見てるっぽい」
「癇に障る口をききますね。好きなだけ強がりなさい。最後にまとめて殺して差し上げますよ」
 やかましく笑いながら、吸血鬼は蝙蝠となって消えた。
 動き出した隷属戦士を瞬時に血肉と変えながら、鬼燈は眉間にしわを寄せる。
「あいつ……正真正銘の馬鹿なのかな」
 疲弊したところを狙って猟兵を倒すつもりだとしたら、あまりにも考えが甘すぎる。確かに多少の消耗はあろうが、それでも三下の吸血鬼風情に負ける気はしない。
 それとも、まだ裏が。そこまで考えて、鬼燈は思考を拒否した。
「まぁいいや」
 心からどうでもよさそうに言って、鬼燈は大剣を横薙ぎに振るった。黒い軌跡に沿って、血が噴き出す。
 すべて倒してしまえば、嫌でも事態は変わるものだ。あの吸血鬼に振り回されてやる必要もない。
 どうせ、全部喰らってしまうのだ。なくなってしまうものに気を使う意味など、ない。

成功 🔵​🔵​🔴​

モリオン・ヴァレー
囲まれている里のさらに外側から
里と挟む様な形で介入
あえて姿を晒し
彼らの一人に彼らのと同じ型の銃からの銀の弾丸を

横槍失礼
猟兵はそこに居るので全員とは限らないわよ

食糧確保や力仕事
ちょっとあたしには荷が重かったから
腕に覚えのある他の猟兵に託すつもりだったわ

<殺気>そこの下衆なガリガリの報告を聞くまではね

眼帯を取り<情報収集><暗視>義眼の霊力解析を元に地形把握し
【アクセラレイタ】発動
<忍び足><目立たない><地形の利用>絶えず移動を繰り返し
<見切り><誘導弾><スナイパー><破魔><鎧砕き><2回攻撃>
一思いに頭を狙い銀弾での射撃を繰り返すわ

あなた達の遺志に応える為にも
こうしないといけないのよ……


御手洗・花子
「よう覚悟を決めたのぉ、お主達は立派じゃ…」
彼等を生かすために命をかけた者、その命を受け止め前を未来を歩むと決めた者…皆、必死だった…それを嘲笑うのが目的ならば、その筋書きを台無ししてやろう。

「このままでは無念じゃろう…最後まで抗う力をくれてやろう、のぉ『長谷川さん』!」

UCを発動、『破魔』で吸血鬼の支配を弱め、『呪詛』で死した村人に最後の抵抗の力を与える…【死への渇望】…即ち、村人達を守るために、吸血鬼に抗うために…傀儡となった身体を止める意思を呼び起こす。

「かくして…逆らった者は最後まで屈せず、逃げた者は生き延びた…滑稽じゃの吸血鬼、既に終わっている者の支配なぞ、この程度なのじゃ」


シア・ブランシュ
そうやって罪悪感を生み出して、さも皆が悪かったかのように思わせて。
ー…ほんと、悪趣味。

意思はもう無いんだろうけど、彼らもきっと、皆を傷つけたりなんてしたくないと思うから。
…傷つける前に眠らせてあげよう。

【WIZ】
リザレクト・オブリビオンで死霊騎士と死霊蛇竜を召喚。
後衛で皆のサポートをするね。
蛇竜には爪で切り裂いてもらったり、尻尾で薙ぎ払ってもらったり、入口まで近づくことと銃弾回避の為に翼で起こす風で吹き飛ばしてもらったり。
騎士には、私の護衛と前衛の攻撃をくぐり抜けた敵との戦闘をお願い。
鎧無視攻撃と2回攻撃で苦しまない様に。

私が受傷したら消えちゃうから、少し離れて見切りとか回避行動に努めるね。




 吸血鬼は、残存の戦力を集結させた。なんとしても里を落としたいらしく、入口付近に隷属戦士が所狭しと蠢いている。
 なおも猟兵と里の人々の心を抉ろうというのだろう。だが、すでに防衛線は完成しており、猟兵たちもとっくに覚悟を決めている。
 戦いは、最終局面となった。猟兵たちの喊声が、林に響く。
 生い茂る草の奥で歯ぎしりする吸血鬼に、シア・ブランシュ(SugarLess・f13167)は侮蔑の視線を向けた。
「そうやって罪悪感を生み出して、さも皆が悪かったかのように思わせて。……ほんと、悪趣味」
「チッ……! もうあなた方に用はないんですよ! さっさと死になさい!」
 苛立った吸血鬼の声を合図に、隷属戦士たちが一斉にシアへと襲い掛かる。
 手を突き出す。途端、その眼前に霊体の騎士が現れた。死霊騎士は、シアに忠誠を誓うように捧げ剣の姿勢を取る。
「お願い。ここを――皆を、守って」
 シアの懇願を受け、死霊騎士は隷属戦士たちへと方向を変える。
 やかましく金属をこすり合わせながら迫りくる隷属戦士の只中に飛び込み、死霊騎士は剣と盾を構えた。
 振るわれるフレイルは、死霊騎士の体をすり抜ける。召喚主のシアが攻撃を受けない限り、死霊騎士の猛攻が止むことはない。
 しかし、敵も一筋縄ではいかなかった。銃声とともに飛来した弾丸が、咄嗟にかがんだシアの髪を焼き切る。
「銃……!」
「外したましたか、やはり無能ですねぇ! ならば数ですよ!」
 吸血鬼が奇声を上げ、隷属戦士が横に並び、マスケット銃を構える。
「撃ち殺せェ!」
 号令を受け、一斉に撃鉄が引かれる。連続した発砲音とともに、闇と血に塗れた弾丸が放たれる。
 しかし、それらはただの一つも、シアに届かなかった。吹き荒れた風が、そのすべてを吹き飛ばしたのだ。
 嵐のような突風だった。隷属戦士たちは、なす術もなく倒れていく。
 上空からの咆哮。現れたのは、死霊蛇竜だった。翼を上下に羽ばたかせるだけで、呪われた鎧を纏うかつての村人は立ち上がることができない。
 突風に髪を抑えて、シアは凛とした声音で言った。
「彼らにもう意思はないのかもしれない。けれどきっと、里の皆を傷つけたりなんてしたくないと思うから」
 着地した死霊蛇竜が、凶悪な霊体の爪を振るう。隷属戦士の鎧が、布切れのように切り裂かれていく。
「……傷つけてしまう前に、眠らせてあげる」
「チィッ! この数を相手に、お前たちだけで何が出来る! さっさと死になさいぃッ!」
 半狂乱の吸血鬼が叫ぶ。その声は、シアには届いていない。死霊騎士と死霊蛇竜によって討ち倒されていく隷属戦士から、目を逸らさない。
 すでに、雌雄は決していると言っていいだろう。例え隷属戦士の援軍が現れたとて、今のシアたち猟兵を討ち倒すことなど、決してできない。
「くそっ、くそ! 早く殺せ! 殺さないと――殺されるだろうが!」
 もはや余裕もなくなった吸血鬼は、それでも猟兵たちに直接手を下そうとしない。勝ち目がないと分かっているのだ。
 少なくとも、猟兵と離れた今の位置ならば脅威はない。そう踏んだのだろう。
 それすらも、浅はかな考えだった。
 猟兵の武器とフレイルがぶつかる音とマスケット銃の銃声が乱れ飛ぶ中で、突然吸血鬼が絶叫を上げた。
「ぐあああああッ! 腕、腕がッ!」
 吸血鬼が抑えた右腕から、黒い煙が上がっている。聖なる武器によるダメージを受けた証拠だ。
 隷属戦士の裏切り、などではなかった。血眼になって敵を探す吸血鬼は、離れた木の上に人影を認めた。
「横槍失礼。猟兵は、そこに居るので全員とは限らわないわよ」
「きっ……さまァ! いつからそこにいた!」
 怒りに任せて声を荒げる痩せた吸血鬼に、その女――モリオン・ヴァレー(死に縛られし毒針・f05537)は、マスケット銃に銀の弾丸を詰め込みながら答える。
「里を作るなんて仕事は、ちょっとあたしには荷が重かったからね。今回は皆に託すつもりだったわ」
 弾を込め終えたモリオンは、その眼光から強烈な殺気を放つ。
「あなたの、ふざけた話を聞くまではね」
「ちぃッ……! あの女を撃て! 殺せ!」
 隷属戦士のマスケット銃が、一斉にモリオンへと向けられる。木から飛び降り、モリオンは素早く木の後ろに隠れた。
 放たれた弾丸が草木を削る。発砲音が止むと同時に飛び出し、銀の弾丸を放つ。隷属戦士が倒れたところで眼帯を外し、霊力による解析を行い地形を把握した。
 そこからの行動は素早かった。木々や草むら、岩陰に次から次へと足音もなく移動し、破魔の弾丸を確実に当てていく。
 シアの死霊騎士や死霊蛇竜に挟み撃ちにされた隷属戦士は、痩せた吸血鬼の混乱も反映して、統率を失くしていく。
 死霊蛇竜の影に身を置くシアへと、フレイルを握った隷属戦士が近づく。気づいたモリオンは、即座に射撃し、これを撃ち倒した。
 撃たれた隷属戦士の鎧は、その身にこびりついた闇の力を浄化させ、消えていく。倒れた肉体は、もう二度と動かない。
 あたかも自分が射殺しているような錯覚に、モリオンは悲し気に零した。
「あなたたちの遺志に応えるためにも、こうしないといけないのよ……」
 一抹の悲しさが心に過ぎろうとも、モリオンは躊躇わず、引き金に指をかける。
 隷属戦士の行進は、猟兵の猛攻を前にしても止まらない。シアは、死霊騎士を身近に下げざるを得なかった。
 倒れた死体をもう一度穢して、痩せた吸血鬼が最後のあがきに出る。倒れたはずの隷属戦士が立ち上がり、数が持ち直し、一気に押され始めた。
「このままじゃ、里が――」
「やらせるかぁぁッ!」
 声を荒げたのは、弓を持った青年だった。例えその矢が通用しなくとも、この里のために戦うと決めた、戦士の顔をしていた。
 里の男連中が続く。手に石や木の枝を持って、無謀にも投げ始める。
 隷属戦士のマスケット銃が、里の人々に向けられる。即座に頭を撃ち抜いて、モリオンは毒づいた。
「何をしてるの!? 自殺行為だわ!」
 彼らの気持ちは痛いほど分かる。だからといって、このままでは、里の人々を死なせてしまうことにつながる。
 必死に石や枝を投げつけ、弓矢で応戦するも、到底敵う相手ではない。吸血鬼の力を付与された死体は、猟兵か熟練の戦士でもなければ、相手にならないのだ。
「みんな、ダメ! 私たちを信じて!」
「信じてるさ! だが、ただ黙って見てるなんて、出来るか!」
 中年の男の叫びに、シアは返す言葉がなかった。ここに生きると決意した彼らの意志は、固い。
 隷属戦士がマスケット銃を一斉に構える。死霊蛇竜が羽ばたけばその銃弾を跳ね返せるが、全てというわけにはいかないだろう。
 仲間の猟兵たちも奮戦している。援護に回ろうとしている者もいるが、数の利を再び手に入れた吸血鬼の勢力に手を焼いていた。
 血に塗れたマスケット銃の撃鉄が引かれる、その瞬間だった。
「よう覚悟を決めたのぉ。お主たちは、立派じゃ……」
 里の人々の間を縫って現れたのは、御手洗・花子(人間のUDCエージェント・f10495)だった。彼女の額は、汗に塗れていた。
 シアとモリオンは、背筋に強烈な寒気を感じた。それは、人ならざる巨影の気配。
 何かを抑えるように腕を抱きながら、それでもにこやかに、花子は里の人々に振り返る。
「十分じゃ。よう戦った。お主らも、あやつらもな」
 里の人々を見、隷属戦士たちを見、次いで、花子は吸血鬼に視線を突き刺した。マスケット銃を撃つ合図を出そうとしていた吸血鬼は、花子から漂う何者かの気配に凍り付いている。
「彼らを生かすために命を懸けた者。その犠牲の上に未来を歩むと決めた者。皆……必死じゃった。それを嘲笑うための筋書きならば、わしらがそれを塗り替えてやろう」
「だっ……黙りなさい! ええい、撃て、殴れ! 殺せぇぇぇッ!」
 目を剥いて腕を振り下ろし、吸血鬼が隷属戦士に合図を出す。しかし、その声は虚しく林に木霊するばかりで、死した村人は動かなかった。
 何度腕を振っても、声を荒げても、隷属戦士は痙攣しているかのように身を震わせるばかりだ。
「う、動け! なぜ動かん! なにが起こった! 私の兵隊が――」
「彼らもこのままでは無念じゃろう。最期まで、抗う力をくれてやろう。のぉ、『長谷川さん』!」
 風が渦巻く。花子から吹き上がった巨大な気配があたりを包み、その得体の知れない力に触れた隷属戦士が、顔を上げて、声を発した。
「ア――コロシ――テ」
「これは、一体」
 中年の男が、握っていた石を落とす。隷属戦士が次々に武器から手を放し、同じようなことを口にしていた。
「タノ――厶――コ――ロシ――」
「……えぇ、そうね、そうよね。今終わらせるから、待っていて!」
 闇の力に抗う亡骸へと、シアは手を向ける。死霊騎士と死霊蛇竜が、一斉に隷属戦士を睨みつけた。
「彼らを、解放して!」
 彼女の声が、最後の攻撃の合図となった。すべての猟兵が、持てる限りのユーベルコードを駆使して、隷属戦士の鎧を破壊し、その身を打ち砕いていく。
 抵抗しない隷属戦士を倒すことは、あまりにも容易だった。その数が、驚くべき早さで減っていく。吸血鬼は頭を掻きむしって悲鳴をあげた。
「やめろぉぉぉッ! なぜだ、なぜ私の兵隊が!」
「浅はかなのよ、あなたは」
 真後ろだった。吸血鬼の背後からマスケット銃を突きつけたモリオンは、一時も瞬きせずに、吸血鬼の心臓を狙い続ける。
 振り返ることもできずに立ち尽くす痩せた吸血鬼へと、冷たく宣告する。
「あなたは弱い。恐らく吸血鬼の中でも、相当に。人間の死体を兵隊にすれば、天下を取れると本当に思った?」
「私が――弱い?」
 眼前で、隷属戦士の最後の一人が倒れた。痩せた吸血鬼は、声すら出せない。
 猟兵たちが、痩せた吸血鬼を取り囲む。先頭に立つシアが従える死霊騎士が、剣の切っ先を吸血鬼の喉元に突きつけた。
「終わりよ。私たちの勝ち。せいぜい惨めに浄化されなさい」
「私が――終わり?」
 おうむ返しに呟く吸血鬼は、青白い顔をさらに白くさせ、血走った目でぐるりと猟兵を見回した。
 遅れてやってきた花子が、小さな体を猟兵の間に滑り込ませて前に出た。額の汗を拭い着物を手ではたいてから、おどけたように肩をすくめる。
「かくして、命を冒涜された者は最後まで屈せず、明日を求めた者たちは、見事に生き延びた。……滑稽じゃのう、吸血鬼よ。既に命を終えた者の支配なぞ、この程度なのじゃ」
「……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だッ!」
 枯れた声で叫び、吸血鬼が体を霧に変える。シアの死霊騎士が剣で突くが間に合わず、霧へとモリオンが銀の弾丸を浴びせるが、それすらも通用しない。
「しまった、里が!」
 モリオンが叫び、猟兵たちが走る。この期に及んで、まだ抵抗をしようとは。
「ええい、往生際の悪い!」
 里の入口へと急ぐ花子の叫びは、猟兵たち全員の気持ちの代弁だった。



「てめぇ! その手を放しやがれ!」
 青年が叫ぶ。見れば、痩せた吸血鬼が若い女の首を掴んでいた。
 まだ殺してはいないが、吸血鬼の腕力をもってすれば、いつでもへし折れるだろう。
「もういい、こいつらだけでも殺してやる! 生き血を呑めば、私はまだまだやれるのだ……」
「たすっ――けて――」
 女のか細い声に、猟兵たちが手を伸ばす。武器を構える。しかし、間に合わない。
 吸血鬼の腕に、力が込められる。誰もが惨劇を予想した。
 その、刹那。
「えっ」
 それは誰の声だったのか。猟兵か、里の者か、あるいは吸血鬼か。
 いきなり解放された女がふらつき、青年に支えられる。そして、絶句した。
 二人の眼前で、吸血鬼が、燃えていた。
「あっ――ああぁぁぁぁッ!?」
 痩せた吸血鬼の腹部に、大剣が突き刺さっている。炎はその刀身から溢れていた。
 湧き上がる無限の炎――太陽の輝きを宿すその剣は、まさしく吸血鬼殺しの剣であった。
「見苦しい真似をするな。貴様はもう、敗者だ」
 声に全員が振り向く。そこには、いつの間にか男が立っていた。
 若く凛々しいその男は、痩せた吸血鬼に歩み寄り、大きな刃をさらにねじ込む。
「あがッ!」
 痩せた吸血鬼は黒い血を吐き、信じられないといった様子で、目を見開いていた。
 猟兵たちに緊張が走る。痩せた吸血鬼を太陽の炎で浄化するその男に、警戒せずにはいられなかった。
 透き通った銀の髪、美しくも凛々しい顔は、病的なまでに白い。鋭い眼光の奥底からは、手にした剣とは裏腹な程、闇の波動を感じる。
 間違いない。この男もまた、吸血鬼だ。 
「な、ぜ……! あなた、が、私を――」
「貴様が、弱者だからだ」
 太陽の力を宿す聖剣が引き抜かれ、痩せた吸血鬼が一層激しく燃え上がる。剣に纏わりつく闇の力は、即座に炎で浄化されて消えた。
「ア……リ……卿……」
 痩せた吸血鬼が崩れていく体で発した最期の言葉に、その男は鼻を鳴らした。
 完全に灰と化した痩せた吸血鬼が、風に巻き上げられて散っていく。それを見もせず、さらには里の人々にすら目もくれずに、男は猟兵たちへと向き直った。
「さて――猟兵諸君。死合い願おう」
 男から感じる純粋な戦意が、猟兵たちの体を自然と闘いへと誘う。
 誰もが感じていた。このオブリビオンは――間違いなく、強いと。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『残影卿・アシェリーラ』

POW   :    我が終生の敵手の力を見よ
【刀身に封じられた『太陽の炎』を纏った剣 】が命中した対象を燃やす。放たれた【吸血鬼を浄化する太陽の力を秘めた】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    我は既に死者である故に
【オブリビオンとして復活させた自分の分身 】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    我が闘争の果に
【オブリビオンとなる前からの戦闘経験により】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はランゼ・アルヴィンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「所詮死者を操る程度しか出来ぬ男だ。貴様たちに敵うなどとは思っていなかった」
 猟兵たちへと歩み寄りながら、その男は言った。
「弱者を従えいい気になるのがせいぜいの小物だが、貴様たちを誘う程度の働きはしてくれたらしい」
 淡々とした独白。里には異様な静けさが漂っている。風の消えた大地に、血の臭いが満ちていく。
「村から人間どもが逃げれば、この男は血眼になって追う。それを猟兵とやらは放ってはおくまい……結果は、見ての通りだ」
 一瞬、男が面白そうに目を光らせた。全ては計画通りだと言わんばかりに。
 毛髪の一本も残さず消えた、痩せた吸血鬼。あのオブリビオンは、ただの駒だったとでもいうのか。
 言葉には発さない猟兵たちの疑問を、男は汲み取って頷いた。
「そうだ。村の人間を逃がしたのは私だ。残った人間を隷属戦士に仕立て上げ、この里を攻めるよう進言したのも。まだ説明がいるか? 猟兵よ」
 猟兵たちは答えなかった。
 この男の言うことが正しいのならば――村人が林に逃げ延び飢えに苦しんだことも、残された人々の末路も、猟兵の出現さえも、すべて計画通りだったということになる。
 なぜだ。そう問う者は、いなかった。
 吸血鬼殺しの剣を、男が持ち上げる。風が吹いた。男の外套が靡く。
「全ては、貴様たちと死合うため。より強き者との闘争こそが、私のあるべき時、いるべき所。貴様たちの血をもって、私はさらなる高みへと至る」
 戦意が膨れ上がる。誰しもが、戦いの始まりを予感した。
 剣に揺らめく太陽の炎に照らされた目は、まさしく刃のように、鋭い。
「我が名はアシェリーラ。再度願おう、猟兵よ。私と死合え」
 極度の緊張の中、舞い落ちた葉が、アシェリーラの剣に触れて発火した。
 火に包まれた木の葉が地に落ちて、燃え尽きた瞬間。
 それが、戦いの始まりとなった。
エーカ・ライスフェルト
興が冷めた目で吸血鬼を眺めるわ
私がその立場なら憤死確実よ。強敵を呼び寄せるため弱いものをいたぶる?
それが目的ではなく手段だとしても、美学も野心も全く感じられないわ
まあ、実力と美学と野心がある吸血鬼なら既に村人が全滅していただろうから、不幸中の幸いかも

最低限の仁義だから名乗りは返す
「エーカ・ライスフェルト。始めましょう」

今回は【属性攻撃】の土塊を起点とした【精霊幻想曲】。土煙の突風ね
精霊さんには目を開けるのも難しい程の強風をお願いするわ
吸血鬼の視界が遮られているうちに村民に避難してもらう。他の猟兵が来るか敵に仕掛けるまでの【時間稼ぎ】でもあるわね
肌や服に土埃が張り付いて動きが鈍くなる……といいな


露木・鬼燈
僕の進む道、その成れの果てって感じですか。
なるほどなー。いいねっ、面白い!
喰らい尽くして、糧にして…僕がさらなる高みに至る!
だけど悲しいことに僕が骸を晒す未来しか見えない。
剣の腕は届かず、真の姿でも技量差でバッサリかな?
最適解はムカデのセンサーなどをフル稼働、すべての処理を観測と分析に回して戦わせない。
結果は僕のサイバーアイに転送。
…情報量が多すぎて気持ち悪い。
長くはもたないけど、そもそも長く打ち合える相手じゃないから問題ないね!
こいつの武を引き出して記録する。
得たデータは全て他の猟兵に転送するです。
勝利の為の礎となるのも悪くない、猟兵だからね。
僕が勝つのではない、僕たちが勝つのだ!
なんてね。




 明らかに異質な雰囲気を醸し出すアシェリーラを前に、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は自身の心が凍てつくのを感じた。
 魔力に煽られて、長いピンクの髪が揺らめく。酷く興ざめした目で、アシェリーラを見つめた。
「私がその立場なら、憤死確実よ。強敵を呼び寄せるために、弱者をいたぶるですって?」
 アシェリーラがエーカを見る。鋭い目の奥に、こちらの力を推し量るような意志が感じられた。
 それもまた、気に入らない。それすらも、自己陶酔に見えるのだ。
「それが目的ではなく手段だとしても、美学も野心も、全く感じられないわ」
「美学、野心か。……貴様は何か、勘違いしている」
 剣を構えるでもなく、切っ先を下げたまま、アシェリーラは淡々と言った。
「これは、私の渇望だ。貴様たちも渇きを癒すために井戸を掘るだろう」
 その言葉に感情はない。あたかも、ただの真実であるとでも言わんばかりの口ぶりだった。
「人間もあの恥ずべき同胞も、水が湧くまでの土に過ぎない。貴様たちは、掘り進む過程の土に思いを馳せるのか?」
「彼らは……その程度の存在だと?」
「そうだ。弱者は平等に、価値がない」
 言い切った。それは、世界を――人々を守るために命を賭して戦う猟兵への、明確な宣戦布告であった。
 もはや、言葉は必要ない。エーカはその身に宿す魔力を解放し、せめてもの仁義として、名乗る。
「エーカ・ライスフェルト。……始めましょう」
「来い」
 アシェリーラが構えた瞬間、エーカは漲る魔力を地面に叩きこんだ。彼女を中心とした土が盛り上がる。
 土塊を大剣の一撫でで破壊して、アシェリーラが迫る。あまりにも、速い。
 しかし、振りかぶった剣の軌道を読むことは、難しくない。試されているとすら感じた。無論、その程度で感情を動かされるエーカではない。
 半歩身を引いて躱し、空間に満ちる精霊に意識を向ける。
「精霊さん、力を貸して」
 呟いて、土と風の精霊と力を交わす。
 精霊はエーカの感情に感化されて荒れ狂い、土塊が砕け、渦巻く風が大気をかき乱す。
 吹き狂う砂塵の嵐に、アシェリーラは視界を奪われた。冷静さを奪うには至らないだろうが、二撃目は襲ってこなかった。
 砂塵の奥に、仲間たちが里の人を避難させるのが見えた。このオブリビオンが里人に興味を示すとも思えないが、万が一がある。エーカは第一の目的を達した。
「精霊魔術か。大した魔力だ」
 マントで砂塵を防ぎながら言うアシェリーラの声は、まるでそよ風の中にいるように落ち着いていた。
 だが、それはエーカも同じだ。精霊に意識を繋ぎながら、口元に笑みを浮かべる。
「お褒めに預かり光栄ね。その余裕、いつまで持つかしら」
「崩してみせろ。それが私の望みだ」
「らしいわよ」
 砂塵が和らぐ。張り付いた砂をそのままに、アシェリーラが剣を背後に回した。
 重い金属の衝突音が響く。不意打ちを受け止められ、漆黒の鎧に包まれた露木・鬼燈(竜喰・f01316)はしかし、兜の奥で笑った。
「はっ、やるね」
「いい一撃だ。だが――まだ遅い」
 振り返りざまの斬撃をかがんで避け、振り下ろしを受け止めてから、間合いを取る。
 鬼燈はただの数合で、歴然とした力量の差を感じ取る。たまらない、と思った。
「……いいね、面白い!」
 サイバーアイにより鬼燈にのみ見える数値の数々は、待機させてあるサイボーグムカデから送られてくるものであり、また鬼燈が送信しているものでもある。
 独りで戦っても勝ち目はない。だが、力を推し量ることはできる。鬼燈が自分に課した役割だった。
 間合いを離す。エーカと鬼燈に挟まれた形のアシェリーラは、どちらを見るでもなく切っ先を地につけた。
 刹那、アシェリーラの姿が消える。
「ッ!」
 咄嗟の反応だった。太陽の炎を纏う剣が、鬼燈の首をかすめる。わずかでも大剣で首を守っていなかったら、躯を晒していたかもしれない。
 何合打ち合えるかも分からないが、その敵の実力、無慈悲さが、鬼燈にはたまらなく面白かった。
 まるで、彼の目指す道の、成れの果てを見ているようなのだ。
 押し負けてふんばり、黒い剣を連結剣にして振るう。リーチが瞬時に伸びた刃は、吸血鬼殺しの剣に絡め取られ、弾かれる。
 攻撃に転じようとしたアシェリーラを、突如砂塵の嵐が包み込んだ。
「いつまでも無視されるのは、つまらないわね」
 エーカと精霊の契約は続いていた。土塊を砂塵に変えて、敵だけを砂嵐で包み込む。
 その砂塵が、発火した。太陽の炎だ。砂嵐を燃やし尽くして強引に視界を取り戻し、アシェリーラがエーカを見る。
 凍るような殺気を感じ、エーカは大地から堅牢な土壁を生み出しながら即座に後退した。土壁は布切れの如くあっさりと切り裂かれ、アシェリーラが一瞬で眼前に迫る。
 死の予感が脳裏を過ぎるが、エーカは瞳を逸らさない。剣が動くより早く、持てる魔力を風にぶち込む。
 凝固した空気の塊がアシェリーラを吹き飛ばすも、優雅に受け身を取って、隙を突いた鬼燈の大剣をやすやすと受け止めた。
 エーカと鬼燈は、同時に感じていた。まだこの吸血鬼は、本気を出していない。
「……僕らが相手じゃ、物足りないっぽい?」
「いや。これまで多くの強者と死合ったが……やはり貴様らは、別格だ」
 言葉の割に、その表情は動かない。一度間合いを離して、鬼燈は兜からエーカに目配せした。彼女もまた、こちらを見ている。
 何としても本気を引き出したい。その力を計り、仲間に伝えるのだ。敵の力を削ぐことが得意な猟兵が、策を思いつくかもしれない。
「最後に僕が――ううん、僕たちが勝てればいい。そのためなら、なんでもするですよ」
「いかなる手段も卑怯とは思わん。私に戦いの充足を与えてくれれば、それでいい」
「自分勝手も、ここまで来ると笑えるわね」
 エーカは余裕をもって答えながら、自分に残された力を冷静に分析していた。精霊との契約は、やはり消耗が大きい。
 次の一撃で、敵の速さを奪う。わずかでもいい、想定外の事態を生み出すことができれば、必ず期は生まれる。
 アシェリーラが動き、鬼燈が剣を横薙ぎに振るう。白と黒が衝突し、混ざり合った力がはじけ飛ぶ。
 鬼燈の脳には、許容量を超えた莫大な情報がサイバーアイからもたらされ続けている。
 頭痛がする。吐き気もする。しかし、そんなことは言い訳にもならない。
「はぁぁぁッ!」
 大剣を小枝のように振るい、高速の斬撃を浴びせる。その悉くを相殺されるが、鬼燈は手を止めない。
 まだ、敵から本気を感じない。ひりつくような殺気がない。余裕があるからだ。
 それでも、諦めてはいなかった。つば競り合いとなった瞬間、エーカに目を向ける。
「エーカさん!」
「おまたせ。いくわよッ!」
 再び吹き荒れる砂塵。その場にいる全員の視界が、砂に染まる。鬼燈を弾き飛ばし、アシェリーラがマントで身を守る。
「芸がないな。エーカ・ライスフェルト」
「どうかしら。何度も同じ手が通じないなんて、百も承知よ」
 この強大な吸血鬼は、精霊の動きが見えていない。それこそが、エーカの掴んだ機だった。
 荒れ狂う砂嵐の中に猛る土の精霊がいることに、それらが自分を襲っていることに、アシェリーラは気づかない。
 全身に砂が、土が付着し、それはあまりにもわずかではあるが、敵の動きに支障をきたしつつある。
 砂塵が止む。エーカは叫んだ。
「チャンスは作ったわよ!」
「確かに受け取ったです!」
 待ち構えていた鬼燈が、渾身の一撃を振り下ろす。余裕の表情で剣を持ち上げたアシェリーラは、ほんの些細な腕の重みに、目を見開いた。
 襲いくる黒の大剣を、一瞬の判断から左の小手で防ぐ。それは今までにない、明確な防御だった。
 その瞬間を逃す鬼燈ではない。サイボーグムカデに大量の情報を送信しつつ、一気に畳み掛ける。
「せやぁぁぁッ!」
「……チッ」
 縦横無尽に振るわれる大剣を避け、防ぎ、間合いを離したアシェリーラの顔に浮かんでいたのは、焦りだった。
 瞬間、鬼燈は吹き飛ばされた。あさっての方向から強烈な突きを受けたのだ。直感から大剣で防いでいたが、衝撃は抑えきれない。受け身も取れず、地面に倒れた。
「……」
 アシェリーラは、絶句していた。そこには、もう一人のアシェリーラが立っていたのだ。
「まさか、この私が」
 咄嗟に作り出した己の分身を見て、呟く。
 エーカは確信した。この術を、アシェリーラは使うつもりがなかったのだ。つまり、今の一撃こそが、この吸血鬼が隠していた本気だ。
 ふらつく頭を叱咤して立ち上がり、鬼燈は笑った。敵の手の内を引き出せた、会心の笑みだった。
「やっと、その気になったですか?」
「……貴様たちを侮っていたようだ。まさか、私が召喚に頼ることになろうとは」
 悔しげに、しかしどこか満足そうに、アシェリーラが言った。鬼燈とエーカは、役割を見事に達した。
 アシェリーラの体にこびりついた砂と土が、闇の魔力によって燃え尽きる。それは、敵がいつでも本気になれることを意味している。
「嬉しい誤算だ。私がそうだと思っていたより遙かに、貴様らは、強い」
 重なった二つの声は、歓喜のそれだった。渇望を満たせるかもしれない期待を、隠そうともしない。 
 二人となったアシェリーラが、それぞれ別方向に剣を構える。
 鬼燈とエーカは再び体勢を整えた。この戦いはまだ、序章が終わったに過ぎないのだ。
 本体に握られた吸血鬼殺しの剣が、さらに激しく燃え上がる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御手洗・花子
回りくどい、強き者と死合したいならば、この世界に溢れている吸血鬼どもと存分に死合えば良かろうに…だが、それは出来ぬのじゃろう?、それが貴様の限界じゃ

「莫迦め、貴様のあるべき時は過去、居るべき場所は骸の海、御手洗の御技をもって、貴様を仄暗い水底に沈めてくれようぞ!」

正面からUCを当てられる程温い相手ではない、情報収集とコミュ力で味方の動きを把握し、連携を図る。
自身は敵とある程度の距離を保ち援護射撃、衝撃波で敵の回避方向を塞ぎ、折り紙に毒使いとマヒ攻撃の呪詛を込めて、少しでも敵の力を削っていく。

完全に足を止めた時、或いは何かを呼び出そうとした時、その召喚対象にUCを発動し骸の海へ流す。


胡堂・充
……お前の身勝手でどれだけの人が苦しんだのか、その罪の重さを理解していないようだな。
ならば、こっちからもかける言葉は無い。そして容赦もしない。
――お前の運命はここまでだ、オブリビオンッ!!

バイクの『マックス』を召還、【騎乗】し、【高速突撃形態】を発動後、敵に突撃する。
その勢いのまま【大型身体強化鎧】も発動。【グラップリング】による格闘戦に移る。
そして、相手に隙ができたら、【加速強襲戦術】を叩き込む!
人々の苦しみ、悲しみ…その想いをこの一撃に込めるッ!!

「お前の最期……それは予測できたか?」

(アドリブ、連携についてはお任せします)


モリオン・ヴァレー
とんだ戦闘狂ね
不必要な犠牲をこんなに出して……
まあさっきの下衆は必要な犠牲だったけれどね

<ダッシュ><地形の利用><忍び足><目立たない>
死角と距離を保ちながら移動しつつ
【ナムネス・スティング】使用
<投擲><誘導弾>機を見て一気に針の投擲を

<情報収集><見切り>
避ける仕草をみせたらそれに合わせ
<ロープワーク>指から伸ばした霊糸
それが後ろに付着した数本の本命針
指を動かし、糸を通じて針の軌道を変え回避行動に捻じ込むわ
<毒使い><マヒ攻撃><気絶攻撃><鎧砕き><傷口をえぐる>
ただの針と思わない事ね
霊力で護られた針には鎧なんて紙同然
そして化物の意識すら霞ませる毒

彼らが受けた苦しみ
その身に刻みなさい


シア・ブランシュ
あなたの欲求のために何かを駒にするのは気に入らない。
敵を一つ滅ぼす結果に繋がったとしても、皆を傷つけたことに変わりはないから。

だから、骸の海に沈んで?

【SPD】
君誘死で死神を召喚。
大鎌で薙ぎ払い、2回攻撃、傷口を抉るを死神と私で交互にやって、相手を揺さぶれたら。
他の人も戦いやすくなるかな?

咎力封じも使えたら、攻撃力をそれなりに減らせるはず。
相手の攻撃は見切り、第六感、オーラ防御等で避けたり受け流していくね。

攻撃は躱すけど、受傷した場合は吸血して、生命力吸収。

戦況が厳しい場合、真の姿を。
深紅の瞳に金と桃の混ざった髪が足先まで。
ー…あまりコレ、好きじゃないの。人間じゃないって、思い知らされるから。




 回りくどい。それが御手洗・花子(人間のUDCエージェント・f10495)の率直な感想だった。
 二人に別れたアシェリーラを睨み、冷たさに満ちた声で言った。
「強き者と死合いたいならば、この世界に溢れている吸血鬼どもと死合えば良かろうに。それができぬのであれば、それが貴様の限界じゃ」
「……連中とは、私が骸の海に呑まれる以前に死合っている。確かに我が同胞は強い。だが――」
 本体のアシェリーラが、燃え盛る吸血鬼殺しの剣を掲げた。
「私を殺した者は吸血鬼ではなく、人間だった」
「……その剣は、お主を殺した者の得物か」
「そうだ。故に、私は人間との闘いを望んでいる。人の身を超えし、猟兵との闘いを求めて、躯の海から蘇ったのだ」
 自身に止めを刺した剣を、あえて己の武器とする。そこにはアシェリーラの美学があるのかもしれないが、花子はそれを理解する気はなかった。
「蘇った? 莫迦め、貴様のあるべき時は過去、居るべき場所は骸の海。御手洗の御技をもって、貴様を仄暗い水底に沈めてくれようぞ」
「やってみせろ」
 二人のアシェリーラが動こうとした瞬間、同時に仕掛けた二つの影が、行く先を遮る。
 胡堂・充(電脳ドクター・f10681)とシア・ブランシュ(SugarLess・f13167)だ。
 充はバイクを高速突撃形態に変化させて体当たりを仕掛け、シアは大鎌の薙ぎ払いで、それぞれ一体ずつに仕掛けていた。
 攻撃は受け止められた。だが、それでいいのだ。彼らもまた、この程度で強大なオブリビオンを葬れるなどとは思っていない。
 分身したアシェリーラは、その実力を割いたわけではない。能力はそのままに、二人になったようなものだ。
 しかし、猟兵たちは恐れない。充は叫んだ。
「お前の身勝手でどれだけの人が苦しんだのか、その罪の重さを理解しながら滅びろ! オブリビオン!」
 バイクが変形し、充を包み込む巨大な鎧となる。身長の二倍に達しようかというロボットを纏い、鉄塊の拳を叩き込む。
「罪。それは貴様の価値観に過ぎない。私がそれに付き合ってやる謂れはない」
 拳はしかし、小手であっさりと受け止められた。押し込めど、びくともしない。
「感情に揺さぶられているそれが、貴様の弱さだ。そして私の価値観では、貴様の弱さこそが――罪となる」
 拳が弾かれた刹那、充は右腹を襲う激痛に絶叫した。
「ぐあぁぁぁッ!」
 斬られたのだ。あまりにも速い斬撃だった。鎧と化した愛機のおかげで、致命傷は免れた。
 だが、傷は浅くない。わき腹を抑えながらも、迫る斬撃を拳で受け止め応戦する。
「充さん!」
 もう一人のアシェリーラと応戦していたシアが、血が溢れるわき腹を抑える充を見て叫ぶ。
「シアさん、こっちはいい!」
「でも、くっ!」
 鋭い突きを大鎌で受け止め、よそ見をしている余裕がないことを知る。
 分身体の剣に炎は宿っていないが、その剣技は本体となんら遜色ない。守りに徹すれば、いつかやられる。
 剣から迸る死の気配を避け、シアは攻勢に転じた。
「甘やかな眠りを、あなたにあげるわ」
 むせ返るほどの甘い香りを纏って現れた死神が、シアと同じく大鎌を振るいだす。
 一対一では勝ち目がないと見て、召喚したのだ。
 連携して繰り出す大鎌の斬撃を、分身体は的確に捌いていく。
 シアと死神から同時に振るわれた大鎌を剣と小手で防ぎ、アシェリーラの分身体はシアを正面から見据える。
 気圧されそうな殺気に負けじと、睨み返す。
「欲求のために何かを駒にする……その考えが気に入らないわ」
「ならば、その武をもって否定してみせろ」
 二対一にも関わらず、アシェリーラはびくともしなかった。弾かれて、シアは間合いを離すことを余儀なくされる。
 機械と合体し力を得ても、数で勝っても届かない強敵に、充とシアは焦り、しかし諦めない。
 防戦一方となりつつあった充が、苦しげに呻く。
「動きを止められたら――!」
「やってみましょうか」
 突如飛来した無数の針に反応して、二人のアシェリーラが即座に回避する。
 声はすれど、姿は見えない。モリオン・ヴァレー(死に縛られし毒針・f05537)は、里の建築物などを使って死角に回り込み、敵の立ち回りを思い出す。
「とんだ戦闘狂ね」
 それは、アシェリーラというオブリビオンを端的に表す言葉だった。
 敵はこちらに気づいていないはずだ。素早く身を乗り出し、針を放とうとした瞬間、凍りついた。
 目の前に、アシェリーラがいる。なぜ位置が分かったのか、なぜもうここにいるのか。
 なぜ、剣を振るっているのだ。モリオンは思考が止まった。
「させぬわ!」
 叫んだ花子が放った衝撃波が、間一髪のところでアシェリーラを吹き飛ばす。即座に建物の陰に身を隠し、モリオンは吹き出す汗を拭う。
 凄まじい反応速度だ。もし衝撃波がなければ、死んでいたかもしれない。
「……」
 深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。不要な犠牲となった人々の怨念を晴らすために、勝たなければならない相手なのだ。
 剣戟の音が響く。充とシアが接近戦を挑んでいるのだろう。一瞬の隙をつくしかない。モリオンは一人、機を伺う。
 咄嗟の機転でモリオンを救った花子は、アシェリーラの速度に脅威を覚えていた。剣速、敏捷性、反応速度。どれを取っても、危険だ。
 逆に言えば、あの速度さえ殺せれば、大きな隙を作ることができる。それは、緒戦で仲間の猟兵が証明していた。
「ならば、いちかばちか」
 呟いて、折り紙を放る。色とりどりの折り紙は、呪いの力を受けて鶴へと形を変えて、宙に留まった。
 充が渾身の蹴りを放ち、剣を受け止めた本体のアシェリーラが後退した。その瞬間を狙う。
「ゆけ! 動きを封じるのじゃ!」
 一斉に放たれた多数の折鶴が、アシェリーラを襲う。
 やはり、反応が速い。即座に振り返って斬撃を振るい、太陽の炎で多くの折鶴が消えてなくなった。
 残った鶴は三つ。避けるために跳ぼうとしたアシェリーラの足元に、立て続けに衝撃波を放つ。
「ちぃッ!」
 足を止められ、アシェリーラが剣を振り抜いた。さらに二つの折鶴が、両断されて塵と化す。
 呪いの折鶴にだけ集中している隙を、充は逃さない。
「うおぉぉぉッ!」
 雄叫びを上げて、拳を振り下ろす。アシェリーラは、無視できない威力を受け止めざるを得ない。
 その背中に、とうとう折鶴がたどり着いた。
 弾けた折鶴から放たれる呪縛が、アシェリーラの体に呪いの痺れをもたらす。
「……」
 不快気に眉を寄せて、充の拳を弾く。その動きが緩慢になっていることに、充は気が付いた。
 効いている。これは、またとないチャンスだ。
 そう思ったのは、充と花子だけではなかった。死神とともに猛攻をしかけるシアもまた、分身体が本体の影響を受け、動きがわずかに鈍くなった隙を逃さない。
 シアは、その身に宿る力を解放した。
「骸の海に、沈んで」
 燃え上がる真紅の瞳、足先まで伸びた、金と桃が入り混じった美しい髪。
 それは、彼女の真の姿。ダンピールの半身たる吸血鬼、その本性だ。
 大鎌を受け止めたアシェリーラの分身体へ、驚くべきスピードで掴みかかり、首筋に噛みついた。血を啜り、己の生命力を満たしていく。
「ぐッ……!」
 振り払われて、血に塗れた口元を拭いもせずに、即座に大鎌で攻撃を仕掛ける。先ほどよりも遙かに鋭く速い攻撃が、アシェリーラの分身体を襲う。
 心を停止して攻めに集中するシアに、分身体が防戦を強いられる。敵の弱体化もあるとはいえ、初めての優勢と言えた。
 一方、動きが遅くなったとはいえ未だ強力な本体を相手にする充は、斬撃を手で掴み取って、怒りに燃える瞳をアシェリーラに向けた。
「お前は、俺の想いを弱さと言ったな。その想いこそがお前たちを打ち砕くことを、教えてやるッ!」
「笑止。現に貴様は、この私に勝てない」
「あぁ、恐らくそうだ。俺だけではな。だがさっきも仲間が言っただろう。俺たちは、一人で戦ってはいない!」
 その声を合図に、アシェリーラの背後から凄まじい量の針が襲った。屋根の上に立つ、モリオンだ。
 針は仲間を確実に避け、二人の吸血鬼に降り注ぐ。本体と分身体が、それぞれ回避に移る。
 待っていたとばかりに、モリオンは笑みを浮かべた。指を動かし、そこから伸びる霊糸を操る。
 無数の針に紛れた霊糸に繋がれた針が、突如として軌道を変える。それらは一斉に、アシェリーラの本体へと迫り、未だ回避動作にある体へと突き刺さった。
「なっ……に……」
 鎧を貫き筋肉を抉り体内に侵入した針が、体の自由を奪い、その意識までもを一瞬で侵していく。
 アシェリーラが、とうとう膝をついた。
「今よ、充さん! やって!」
 モリオンの声を受けて、充は飛び上がった。バイクのエンジンが唸り、凄まじい推進力をもった飛び蹴りを放つ。
「お前の運命はここまでだ、アシェリーラッ! イジェクトォッ!!」
 山をも砕かんとする威力を持った蹴りが衝突し、轟音と共に砂塵を巻き上げる。
 充を中心に起こった突風はすぐに消え、巻き上がった砂が晴れていく。
 そして、猟兵たちは絶句した。
「惜しかった、と言っておこう」
 分身体だった。見れば、シアは血が流れる左腕を抑えて、鎌を取り落している。死神も、消えていた。
 充が叫んだ一瞬に見せた隙を突き、死神を葬りシアを負傷させ、本体を庇ったのだ。ふざけていると思ってしまうほどの、早業だった。
 つま先を防いだ分身体の小手が、砕け散る。反撃を警戒して飛び退り、充は歯噛みした。
「くそッ! なんて奴だ」
「充さん、落ち着いて。チャンスはあるわ」
 小屋の上から降り立ったモリオンが言った。彼女は緊張の面持ちの中にも、確信を持っていた。
 封じたのは本体だ。分身体がいかに本体と同等であっても、所詮はまがい物に過ぎない。
「ここからはスピード勝負じゃ! この分身体を『流す』ぞ! 皆、もう少し気張ってくれい!」
 意識を混濁させている本体を衝撃波で吹き飛ばし、花子が叫んだ。
 分身体が、負傷したシアを狙う。即座に充が割って入り、その剣を受け止めた。そこに、モリオンが毒針を放つ。
 充を蹴り飛ばし、モリオンの針を回避したアシェリーラは、よろめき立ち上がったシアへと高速の突きを放った。
 シアか真紅の目を見開き、わずかに体をひねった。頬をかすめた切っ先を気にもせず、剣を突きだした右腕を掴む。真の姿を解放した彼女の腕力は、まさしく吸血鬼のそれであった。
「捕まえたわ」
「くッ」
 左腕で殴りつけようとした分身体は、そちらも動きを封じられた。充だ。
「逃がさない!」
 骨が軋むほどの力で、左の腕を掴み上げる。
 本体の力が弱まった今、分身体もまた少しずつ弱体化していた。シアと充に掴まれて、もがけど動けない。
 そこへ、モリオンが歩み寄る。手に持つ一本の毒針を、分身体の首筋に刺す。
「彼らが受けた苦しみ、その身に刻みなさい」
「がッ……」
 呻いた分身体が、崩れ落ちる。毒が体を駆け巡り、充とシアは掴んだ敵の腕から力が抜けていくのを感じた。
 分身体が倒れ、その地面が渦巻く。まるで水面のようになった大地から、無数の白い手が浮かび上がった。
「分身体とはいえ、半身を奪われるとなれば、あやつもただではすむまい」
 その身に宿す邪神「長谷川さん」を解き放った花子は、黒髪を霊力に揺らめかせながら言った。
 白い手に引きずられて、アシェリーラの分身体は地面――そこから繋がる骸の海へと流されていく。毒のせいで抵抗もできず、最後に一瞬顔を上げて、充とシア、モリオンを恨めしそうに見つめた。
 引きずり込まれた分身体が消え、白い手も消滅した。渦巻いていた地面は、何事もなかったかのようにもとの大地となる。
 四人は振り返った。吹き飛ばされていたアシェリーラが、膝をついて立ち上がっていた。
「まさか、ここまでやるとはな……。ふ――ふふ」
 笑っていた。小さくだが、アシェリーラは肩を震わせている。
「この状況で、まだ余裕だって言うつもり?」
 呆れと怒りが入り混じった顔で、モリオンが言った。彼女はいつでも針を飛ばせる体勢にある。
「余裕などない。だが――だからこそ、愉しい」
 剣を構えたアシェリーラの足は、麻痺の毒を感じさせない。混濁した意識も定まり、二つの目はしっかりと猟兵を捉えていた。
 充は身構えながら、シアを見た。負傷は治りつつある。鎌を振るう余力は、果たしてまだあるだろうか。花子は大きな術で消耗している。モリオンは余裕がありそうだが、残弾が心配だ。
 対して、アシェリーラ。未知数だ。消耗していると思いたいが――。
 刹那、思考が中断する。敵が消えたのだ。
「うあぁっ!」
 短い悲鳴は、背後からだった。花子が、斬られた。胸を逆袈裟に、大量の血が宙を舞う。明らかに致命傷だ。
 速い。あれほどの毒を打ち込まれながら、まだこれほどの速さがあるのか。
「花子さん!」
 咄嗟に手を伸ばしたモリオンが、直後に苦痛に顔を歪める。
「あぁっ!」
 目にも止まらぬ斬撃。背中に、横一文字の傷が走っていた。
「やらせませんッ!」
 膝をついたモリオンを庇おうと、シアが大鎌を振るう。しかし、万全ではない状態からの大鎌は、アシェリーラにとってあまりにも、遅い。
 鎌の斬線を潜り抜けた敵が、目の前にいる。シアは回避を考えたが、間に合うはずもなかった。
 肩口が燃え上がる。吸血鬼殺しの剣は、真の姿を解放したシアにもその猛威を振るった。
「いっ――やあぁぁぁぁッ!」
「シアさん! アシェリーラァァァッ!」
 充が憤怒の飛び蹴りを放つ。シアに止めを刺さんとしていたアシェリーラの背中に、重く鋭いつま先が突き刺さった。
 派手に吹き飛び、アシェリーラは建築資材の山に突っ込んでいった。積まれた材木が崩れ、土煙が起こる。
 着地と同時に、充は膝をついた。バイクの鎧が変形を解く。限界だ。
「みんな……無事か……?」
 振り返り、見回す。シアの炎は消え、肩口に深い傷を負っていた。花子の意識はない。モリオンも重症だが、最も傷の重い花子の止血をしている。
 皆重症だが、医者である充は全員の命に別状はないことを確認した。力が戻れば、癒すこともできる。
 消えゆく土煙から、アシェリーラが現れる。白い髪は汗で額に張り付き、その表情に、もはや余裕はない。
 蓄積された毒により、本来の力を発揮すればするほど、消耗しているらしい。それでも、たった一瞬で四人の猟兵を戦闘不能に追いやったのだ。
 侮ったわけではない。だが、敵は一瞬たりともこちらの隙を逃そうとしない。
「……退きましょう。もう、十分です」
 シアはアシェリーラを睨み付けながら言った。悔しいが、吸血鬼殺しの剣による一撃は、あまりにも痛烈だった。
 意識がない花子は無論、大きな傷を負ったモリオンと力を出し尽くした充にも、戦う力は残っていない。後のことは、味方に託す他なかった。
 四人が追い詰めたオブリビオンを、きっと仲間が倒してくれる。そう信じることも、また戦いなのだ。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

アルト・カントリック
えっ、えっ、えっ?一体どういうことなんだい?まさか、こんな事になるとは……。

戦うしかないようだね……。謎は多いけど、あの浄化の炎は危険そうだ。

相手は竜ではないけれど、右腕の“竜殺し”に頼ってしまってもいいよね……。まだ未熟、でごめんね……。今は僕に貴方の強さを貸して欲しい!

相手の隙を伺い、攻撃するチャンスを狙うよ。チャンスは相手が剣を使おうとした時。そのタイミングで真の姿“竜殺し”にバトンタッチ。使わせまいと剣を鷲掴みにして、【金剛竜の呪詛止息】で炎を封じるよ。
できれば相手毎掴んで【スカイステッパー】で飛んで隔離するよ。危ないからね。
真の姿“竜殺し”
●一人称バラバラのさっぱりとした男口調。


ルーチェ・アズロ
アドリブ歓迎
真の姿継続

ご大層な武人ごっこしたいのかもしんねーが
弱い者いじめが本質なのは変わってねえな
あたしら呼ぶ為にあいつら殺して、本質は只の外道だ

お強いお仲間に喧嘩売りに行く気概もねえただのいじめっ子の名前なんざ
覚えてやる気も聞く気もねえよ!

POW
怪力で押しつぶすような斬撃の嵐
鎧砕きで防具破壊を狙う
武器受け吸血気合生命力吸収で持久

「それでも」生きるって選択した、ここの奴らの爪の先ほども!
テメエに強さなんざねえ!

UC使用
気取った色使ってんじゃねえよ弱虫があ!
陽光を想起させる炎と真逆の、血の夜の炎を燃え盛らせてぶち当てる
完全否定して燃やす

聞こえるか!お前らの選択は勇気だ!
そいつは強い!忘れんな!


リリト・オリジシン
妾達と死合いたいが故とは、随分と迂遠なことだな
些か理解に苦しむものである
だが、そういうものなのであろうな
汝には、そうするだけの意味があったのだろうよ
では、喜ぶが良い。汝の願いはここに叶おう
そして、ここに終わるのだ

血染めの流星を怪力と遠心力を活かし叩き込む
一撃、二撃と機を見計らい、態勢を崩せば本命の一撃を
もしくはそうさな
敵の攻撃を敢えて受け止め、怪力でもって動きを強制的に抑え込んでしまってから、というのも良かろうよ

嘆きの声の冷たさ
それがその程度の熱さで消えるものか。痛みなぞで忘れるものか
妾が身に捧げられし数多の嘆き、怨嗟、憎悪
汝が犠牲として齎したものも、勿論、ここに
さあ、その一端を開帳してやろう




 事態に頭が追いつかない。この吸血鬼の言っていることも、理解できない。アルト・カントリック(どこまでも竜オタク・f01356)は、仲間が戦い傷つく姿を見ながら、呆然としていた。
「一体……どういうことなんだ?」
 右手が震える。なぜ身の内に宿す竜殺しが、これほどまでに激昂しているのか。
 なぜ、アルト自身もこんなに怒っているのか。そして、どうして立ち尽くしているのか。
「僕は……無力なのか?」
 己の未熟さを痛感する。仲間の足を引っ張るかもしれないことを、恐れているのだ。
「アルト。汝の思いは分からぬでもない。が、それでも妾らはやらねばならぬぞ」
 そう言って、リリト・オリジシン(夜陰の娘・f11035)が、こちらを見据えるアシェリーラへと進む。
「此度のことがすべて、妾たちと死合いたいが故とは。随分と迂遠なことだな。些か理解に苦しむものである」
「理解を求めるつもりはない」
 アシェリーラは、臨戦態勢だ。いつまた高速の斬撃を繰り出してくるか、油断はならない。
 それでも、リリトは血濡れのモーニングスターを握り締めて、対話するかのように頷いた。
「そういうものなのであろうな。汝には、そうするだけの意味があったのだろうよ」
「貴様の言うとおりだ。闘争こそが、私を満たしてくれる」
「そのようだな。そして、その充足はここに終わる」
 血染めの流星が、ゆっくりと回転を始める。徐々に速度を増し、遠心力とともに空気を割く音が大気に満ちていく。
 アシェリーラが動いた。光の如き瞬速で、リリトに接近、天日の炎を纏う剣を振りかぶる。
 だがリリトは動かない。血染めの流星は回り続ける。
「よう」
 真横からの声に、アシェリーラが足を止める。リリトを狙う斬撃を、即座に防御に切り替えた。
 血錆に覆われた両手剣が、炎を纏う吸血鬼殺しの剣とぶつかり合う。振るったルーチェ・アズロ(血錆の絆と呪い・f00219)は、金色に覚醒した瞳で、アシェリーラの顔面を睨み付ける。
「ご大層な武人ごっこだな、おい」
「……」
 打ち合った剣を弾き、互いの横薙ぎも衝突と同時に跳ね返る。次いで、ルーチェは下から、アシェリーラは上段から、斬り合う。
 怪力で押しつぶすような斬撃に、アシェリーラが後退する。ルーチェは追撃せずに、その場で構え直した。
「……テメエは確かに強い。だが本質は所詮オブリビオンだ。弱い者いじめが、テメエのできるせいぜいなんだよ」
「侮辱のつもりか。下らん」
「黙れよ外道。あたしら呼び出すためにあいつらを殺した、その行動がテメエの本質の証明だ」
 ルーチェとアシェリーラの問答を聞きながら、リリトはアルトへと振り返った。
 その目で告げる。怒りを解き放て、仲間を信じて戦いに飛び込めと。
「……そうだ。そうだね」
 戦わねば。猟兵として、皆の仲間として。止まってなど、いられない。
 アルトは、この身を竜殺しに預けることを決意した。
「相手は竜じゃないけど……未熟でごめん、貴方の強さを貸してほしい」
 鼓動が早まる。意識が深く潜っていき、同時に別の何かが浮上していくのを、アルトは感じた。
 ルーチェがアシェリーラと切り結ぶ。斬撃の嵐を見極め、リリトが血染めの流星を回転から解き放った。
 一瞬のつば競り合いを、アシェリーラはルーチェを蹴り飛ばすことで無理やり終わらせた。
 迫る血まみれの鉄球を跳んで躱し、着地と同時に地面を蹴ってリリトとの間合いを詰める。
 血染めの流星を手元に戻すより早く、リリトに吸血鬼殺しの剣が襲い掛かる。
「ちぃっ!」
 舌打ちをして一撃目を避ける。しかし、バランスが崩れた。リリトは負傷を覚悟した。
 結果として、二撃目はリリトを斬ることはなかった。その刃が、燃え盛る炎ごと受け止められている。
「ヨォ、吸血鬼。お前いい腕してンダッテナァ!」
 竜殺しに体を預けた、アルトだ。彼女は竜爪を装着した右手で、吸血鬼殺しの刃を掴んでいた。
 内なる竜殺しが、殺意に満ち満ちた顔で笑う。
「特別出張だ。テメェはドラゴンじゃネェガ、遊んでヤルヨッ!」
「竜を屠る者……不足はない」
 刃を押し込まんと力を込めるアシェリーラを、アルトは剣ごと持ち上げた。そのまま、ルーチェが構える方向へと放り投げる。
「ほらよ、嬢ちゃん! 受け取レッ!」
「おらぁぁぁぁッ!」
 跳躍し、ルーチェは血錆の剣を見舞う。アシェリーラは空中で受け身を取り体勢を立て直し、素早くこれを受け止めた。
 斬り合いながら着地したところに、リリトが回転し切ったモーニングスターを叩き込む。
「ふんっ!」
 風を斬って迫る鉄球を、アシェリーラが身を逸らして回避した。
「ここからは、妾も少々激しくいくぞ!」
 引き戻した鉄球を振り回しながら、リリトは走って敵との距離を詰める。アルトも同時に仕掛け、斬り合うルーチェも含めた三人の少女が、同時にアシェリーラを攻め立てる。
 爪と鉄球、両手剣の猛攻に、さしものアシェリーラも受けきれなかった。両手剣が外套を裂き、爪が脚甲を破壊し、鉄球が鎧を砕く。
 それでも、アシェリーラは反撃を仕掛けてきた。アルトの顎を左拳で殴り飛ばし、素早い剣捌きでルーチェの両手剣を弾き、腿を斬りつける。
「くぁッ!」
 痛みに顔をしかめるルーチェ。軽傷だが、機動力を削がれた。
 リリトは状況を即座に判断し、不利ながら斬り合っていたルーチェを抱えて投げ飛ばした。割って入ったことにより、アシェリーラの主な狙いがリリトに映る。
 モーニングスターでは、高速の斬撃を受けきることができない。一撃目を鉄球で受け、返す刃を避けたところで、三撃目の突きを左腕に受けた。燃えるような痛みに、視界がちらつく。
 痛覚を無視するも、力が入らない。モーニングスターを振るう右手でなかったことが、不幸中の幸いか。
 さならる斬撃は、リリトを守るために突き飛ばしたアルトが、右手で受け止めた。アシェリーラの腹部に左の拳を放り、くの字に体が折れたところへ膝蹴りを叩き込む。
 大きくのけぞったアシェリーラへ追撃の拳を振り上げた瞬間、敵は体勢を一瞬で整えた。
「ナニッ!」
「遅い」
 静かな断言とともに、横薙ぎの一撃。アルトは咄嗟に、振り上げた拳を剣にぶつけていた。
 剣の軌道は致命的な胴体から逸れたが、斬線に沿う太陽の炎が、アルトの体を包み込んだ。
「あぁッ!」
 悲鳴を上げたのは、竜殺しか、内なるアルトか。咄嗟に身を離して地面を転がり、火を消す。
 立ち上がろうと膝をついた瞬間、頭上から影が落ちた。気づけば目の前に立っていたアシェリーラが、剣を振り上げている。
 狙いは、アルトの首だ。死が、近づく。
「やらせねぇよ!」
 怒号とともに飛び込んできたルーチェが、アシェリーラの剣を弾いて顔面を蹴り飛ばす。
「せぇぃッ!」
 リリトのモーニングスターが追撃で放たれ、それを避けられたことで、敵との間合いが大きく開く。リリトとルーチェは攻撃の手を止め、アルトへと駆け寄った。
「おいアルト、無事か!」
「アァ。すまんな」
 三人で固まって、構える。それぞれに負傷してしまったが、こちらの攻撃が徐々に当たるようになってきてもいる。
 アシェリーラが切っ先をこちらに向けた。その動作だけで、凄まじい緊張が駆け抜ける。
「ルーチェ、アルト。もうわかっておるな。奴の力を削がねばならぬ」
「おう。それと速さだな。ちょこまかと鬱陶しい」
「後は、あの炎も邪魔ダ」
 最後に勝利するために、強烈な一撃を見舞いたい。三人の少女は、目的を同じくした。
 体勢を低くしたと見えた瞬間、アシェリーラの姿が掻き消える。真横からの殺気に、リリトは咄嗟に身をかがめた。
 剣が頭上を通過する。かがんだリリトを飛び越えて、小さな体のルーチェが巨大な両手剣を振り抜く。
 わずかな動作で刃を躱し、アシェリーラが再度攻勢に出た。燃え盛る剣が、ルーチェの剣と激しく打ち合う。
 一対一にこだわる理由などない。アルトとリリトは側面に回り、同時に得物をアシェリーラへと振るう。
 素早い剣で双方向からの攻撃を防ぎ、アシェリーラはおもむろに、吸血鬼殺しの剣を地面に突き刺した。
 赤熱化する地面に、アルトが声を上げる。
「跳ベッ!」
 三人はそれぞれ別方向に跳び退った。直後、アシェリーラの足元から、燃えて溶けた土が吹き上がる。
 炎に包まれた土が降り注ぐも、そちらに注視はしていられない。アルトは正面に迫ったアシェリーラを、降りかかる赤い土ごと殴りつけた。
 振るわれた剣と爪が打ち合い、三合目で剣の刃を掴み取る。竜をも屠る腕力は、吸血鬼の力と拮抗していた。
「動きを封じたつもりか」
 掴まれた剣を力を込めて引き戻そうとしながら、アシェリーラが言った。それに、アルトは笑って答える。
「イイヤ。これはこの体の女が出したアイディアだが――封じるノハ、そのいけ好カナイ炎ダ!」
 急速に空気が冷え、巻き上がった赤い土がただの土に戻っていく。
 空中の水分が凍りつき、アルトの体は輝くダイヤモンドダストに覆われる。その強烈な冷気が、吸血鬼殺しが纏う太陽の炎すらも凍てつかせていく。
 さすがに予想外の事態だったのだろう、アシェリーラは目を丸くした。
「……」
「さっきカラ腹立つンダヨナァ、テメェのソノ、ナメタ態度!!」
「同感だぜ、アルト!」
 声の方向に、アルトはアシェリーラを押し込んだ。バランスを崩したところへ、ルーチェが斬りかかる。しかし、受け止められた。敵の反応はやはり早い。
 数合の打ち合いを経て、つば競り合いとなる。お互いに全力で押し込み合う。
 ルーチェはわずかに押されていた。それでも彼女は、敵を睨み付ける。
「弱者に価値はない――そう言ったな?」
「そうだ」
「ここで生きるって決めた奴が、本当に弱いと思うのか?」
 弾きあい、再びぶつかり合う。刃の奥に見えるアシェリーラの表情は、変わらない。
「現に、恥ずべき我が同胞に操られた死体にすら勝てぬ連中だ。奴らの弱さは、真実だ」
「ハッ。馬鹿言えよ。あいつらはな、このふざけた世界で、住む場所を奪われて家族を殺されて……『それでも』生きるって選択をしたんだ」
「……」
「断言するぜ。ここの奴らの爪の先ほども――」
 徐々に、押し返す。金の瞳が強く輝き、ルーチェは今、持てる力の全てを解き放っていた。
「テメエに強さなんざ、ねえッ!」
 血錆の剣が、燃え上がる。それは例えるなら、夜と血の色をしていた。ルーチェの意志に呼応する復讐の炎が、太陽の炎を侵食していく。
 小さな体からは想像もできない力と覇気に、アシェリーラが押し込まれる。
「馬鹿な――!」
「鬱陶しいんだよ! 吸血鬼の分際で、キラキラキラキラと気取った色で燃やしがって!」
 吹き上がる血色の炎が、とうとう吸血鬼殺しの剣を飲み込んだ。
 それは一瞬のことではあったが、ルーチェの剣を通して顕現した猟兵たちの想いが、アシェリーラを凌駕した瞬間だった。
「くっ」
 後退して剣を振るい、血と夜の色に燃え上がる炎を打ち消すアシェリーラ。その焦りを、リリトは待っていた。
 アルトとルーチェのコンビネーションが、この機を作り上げたのだ。リリトは胸を張り、尊大に言う。
「汝ら、よい働きであったぞ。次は妾が見せてしんぜよう。はぁぁぁっ!」
 空気すらも砕いて回転する鉄球が、渾身の力で放たれる。
 避けることができずに、アシェリーラは咄嗟に剣で受け止めた。吸血鬼殺しの剣はそれでも折れず、鉄球をしっかりと止めてみせる。
 その鉄球に、血が滴っていた。乾いていない、新たな血だ。それは、リリトの左腕から流れ落ちたもの。
「嘆きの声の冷たさ。それが、その程度の熱さで消えるものか。痛みなぞで忘れるものか」
 滴る血が、突如として蠢く。彼女が身に受けた嘆きと混じりあい、血液はある種の呪いと化して、竜へと姿を変える。
 鉄球を弾いて下がろうとしたアシェリーラへと、食らいつく。
「妾が身に捧げられし数多の嘆き、怨嗟、憎悪――汝が犠牲として齎したものも、勿論、ここに」
 血の竜を切り裂くも、太陽の炎を掻き消して、再び竜の姿を取る。その咆哮は、無念を叫ぶ人々の声が入り混じったものだった。
 我らが何をした。生きることがなぜ罪となる。答えよ、吸血鬼――。声にならない叫びが、アシェリーラに呪いをかけていく。
「さぁ、今その一端を、開帳してやろう」
 剣に裂かれた血の竜が、アシェリーラの背後で形を取り戻す。
 竜と戦うことは無意味と判断し、アシェリーラがリリトを狙う。突きの構えだ。
 鋭い突きを、首を横に倒して避ける。首筋から舞う血を無視して、リリトは敵の腕を怪力をもって掴みとった。
 不愉快気に眉を寄せるアシェリーラへと、笑みを浮かべる。
「喰いつくされるがよいわ」
「おのれ……」
 呟いた瞬間、アシェリーラは血と呪いの竜に飲み込まれた。大量の血が大地にぶつかり、染み込んで消えていく。残されたのは、血まみれの吸血鬼のみ。
 全身に呪いを受けたアシェリーラは、魔力をもって呪いを押し殺し、今もなお立っている。その顔に、初めて、怒りを浮かべていた。
「……もはや、許さぬ」
「何を許さないって? テメエが負けそうなことか?」
 赤黒い炎を纏う剣を担いで、ルーチェがにやりとして言った。彼女は、アシェリーラが焦りを覚えていることがたまらなく愉快だった。
 ようやく、この吸血鬼から余裕の皮を剥ぎ取りきることができた。戦いの中で仲間たちと積み上げ、ようやく得た、勝機だ。
 竜殺しと入れ変わったアルトが、右手の爪を握り締める。
「お前が僕たちを許さない以上に――必死に生きる人々を苦しめたお前を、僕らは絶対に許さない」
「あり得んことだ。強者が、弱き人間風情に心を傾けるなど……」
「それはそうさ。僕たちも、人間なんだから」
 力強く断言するアルトに、アシェリーラは不快を露わにする。しかし、そんなことは毛ほども気にしない様子で、リリトが肩をすくめた。
「何度も言っておるであろう。あの者たちもは強い。汝の定規で計れぬものを弱者と断定してしまう、それこそが汝の弱さよ」
 だから我らに負けるのだ。リリトはそう付け足した。
 呪いを封じ込めながらも、アシェリーラが剣を握り直す。その目は血走り、本来吸血鬼が持つ残虐な性格を隠しもしなくなっていた。
 戦いが再開する前に、きっと今も小屋で怯えているのだろう人々へと、ルーチェは叫んだ。
「聞こえるか !お前らの選択は勇気だ! そいつは強い! 忘れんな!」
 力を込めて剣を握り締め、その想いに呼応して、血色の炎が激しく燃える。
「今からそれを、証明してやるからな」
 彼らの想いこそが、猟兵の武器。ルーチェの血錆の剣も、アルトの竜爪も、リリトの血染めの流星も、それらを宿す器なのだ。
 だから、戦える。例え仲間が傷つき倒れ、最後の一人になろうとも、世界に生きる人々がいる限り――。
 激闘は、最後の時を迎えようとしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
弱者を全て己の糧とし踏みにじる…私と貴方は対極の存在のようですね
ですがあの修羅の剣、紛い物の騎士の剣でどれほど食らいつけるか…
銃器での「だまし討ち」など牽制にもならないかもしれません

降りて遠隔「操縦」する馬や我が身で後衛の味方を「かばい」つつ、近接戦闘を仕掛けます

相手は格上、「武器受け」や「盾受け」で攻めを凌ぐのが精一杯でしょうが機を待ちます。

相手の必殺の剛剣を「見切り」、無敵城塞で防御、刃が止まった瞬間解除し、片足のパイルを軸としてもう片方のスラスターを点火し「スライディング」しながら「怪力」で振るう大盾殴打での「カウンター」の一撃に全てを賭けましょう

亡骸の葬儀には村人から許可を貰えれば参加


宙夢・拓未
初めまして、だな……アシェリーラ
俺は今、怒ってるんだ
俺の知り合い(花子のこと)を、よくも……!

『フォームG-O-S』で防御力を強化
宇宙バイクに【騎乗】、『ゴッドスピードライド』
『ガジェットショータイム』で二振りのバトルアックスを出す

【2回攻撃】バイクですれ違いざま、斧を敵の持つ剣に当てに行く
空中にかち上げられれば上々
そうでなくても、刀身がぶれて奴の体に炎が少しでも当たればいい
吸血鬼を浄化する炎……なら、吸血鬼である奴自身にも効くはずだ
【属性攻撃】聖・炎属性ってとこか

『指定UC』
このまま燃え尽きるか?
俺達の手にかかって死ぬか?
さあ、選べ!

アドリブ・共闘・負傷描写歓迎




 盾に走る衝撃。手負いながら、アシェリーラの斬撃はなお重い。
 否、剣速や立ち回りこそ遅くなっているように思えるが、一撃の威力は増している。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、大盾に伝わる太陽の炎に、一時後退を余儀なくされた。
 追撃はない。アシェリーラも息を整える必要があるのだ。味方がもたらした傷や呪詛、毒により、確実に消耗してきている。
 決着は近い。しかし、それは必ずしも勝利を意味するものではない。
「まさしく、修羅の剣ですね」
 ふらつきながらも、アシェリーラの切っ先はこちらを向いている。戦意はまるで衰えていない。
 どこまでも強さを欲し、その糧となるのであればいかなるものも踏みにじる。
 アシェリーラという吸血鬼は、騎士としての生き方を目指すトリテレイアの、対極と言える存在だった。
 互いの間合いを見計らっていた、その時。突如としてけたたましいエンジン音が響き渡った。
 グリモアの力で転移してきたのは、仲間の危機を知り応援に駆け付けた宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)だった。
 宇宙バイクのブレーキをかけ、敵を確認し、即座に仲間の状況を見る。
 そして、見つけた。彼の知人である御手洗・花子(人間のUDCエージェント・f10495)の姿だ。仲間に介抱されているが、重症だ。意識は、ない。
 荒い呼吸で上下する胸に、深手を負っている。着物にこびりついた血の跡に、拓未は自身の中の糸が切れた音を聞いた。
「……これは、お前がやったのか」
 額の汗を拭いもせずに、こちらを見据えるアシェリーラへと、拓未は呟いた。
 返答は、ない。
「初めまして、だな。アシェリーラ……。俺は今、怒っている」
「拓未様、冷静に。感情の昂ぶりで勝てる相手ではありません」
 トリテレイアの忠告を、拓未はありがたく思いながらも、かぶりを振った。
「いいや、ダメだ。俺はもう止まれない。止まれるわけがない」
 小さくも強い友人が、死の間際に追い込まれた。その事実が、拓未の心を突き動かす。
 ガジェットにカードを差し込み、機械の体が強固に固まっていくのを感じながら、昂る感情のままに唸る。
「よくも花子を……よくも!」
「その怒り、武で示せ」
 鋭く言い放ったアシェリーラの声に、拓未は宇宙バイクを変形させ、猛スピードで発進した。
 変形するガジェットが二振りのバトルアックスとなり、両の手でそれを握る。
 大質量が高速で接近しても、アシェリーラは動かない。その切っ先も、拓未に狙いを定めている。
「うおぉぁぁッ!」
 すれ違いざまに、バイクの上から斧の二連撃を見舞う。金属がぶつかる音が耳をつく。
 手ごたえがない。渾身の攻撃は、防がれた。
「くそッ――」
 反転しようとして振り返り、驚愕に目を見開く。すれ違ったはずのアシェリーラが、そこにいた。
 突き出された切っ先が、咄嗟に躱した拓未の頬を斬り、焼く。
「ぐ、あッ!」
「拓未様!」
 大盾を構えたトリテレイアが、アシェリーラに突進を仕掛ける。格納機銃で牽制を計るが、そのことごとくを剣で弾かれた。
 だまし討ちが通用するとは思っていない。だが、拓未が一時距離を取る時間は稼げた。そのままの勢いで、体当たりを敢行する。
 アシェリーラがそれを黙って受けることはなかった。速度を奪ったとて、なお速い。そのスピードは、今もトリテレイアを超えている。
 体当たりはあっさり避けられた。しかしそれも、計算済みだ。背後から追いかけてきていた機械馬が、前足を振り上げる。
 顔を上げたアシェリーラが、前足を前転で回避する。即座に立ち直り振り抜いた剣が、機械馬の後ろ脚を斬った。
 倒れる機械馬の横から、反転してきた拓未が狙う。バイクのシートから、高速の慣性を保ったまま、飛び掛かった。
 二本のバトルアックスは慣性の力を得て、拓未の怒りも合わさり、これ以上なく重い一撃となる。
「くらえッ!」
「ふんッ!」
 珍しく気合いの叫びを上げたアシェリーラが、刃の腹を左手で支えて、二本の斧を受け止める。
 衝突の勢いを殺し切れず、地面に足が食い込み、刃に宿る太陽の炎がアシェリーラを焼く。
「む、くッ」
「吸血鬼殺しの炎……お前に効かないはずはないよな、アシェリーラ!」
「小癪ッ!」
 全力をもって拓未を押し返し、アシェリーラは剣の炎から受けた凄まじい苦痛に、舌打ちしていた。
 拓未の指摘は正しかった。剣が纏う天日の炎は、かつてアシェリーラを葬ったものだ。今も効き目がないはずがない。
 己を屠った剣で戦うことは、彼なりに意味があったのかもしれない。しかし、その矜持こそが――。
「お前の、弱点だ。……証明は終了だぜ」
 口元を笑みに歪ませ、拓未が斧をアシェリーラに向ける。直後、上空に数字が表れた。
 彼のユーベルコードだ。百八十秒のカウントが始まり、吸血鬼殺しの剣から、炎が消える。
「これは、一体――」
 トリテレイアが呟いた。同じ疑問はアシェリーラも抱いているようだが、彼は一瞬目を見張り、しかし即座に剣を構えた。
「それで、我が力を封じたつもりか」
「そうだ。もっとも、お前がまた炎を出すというなら、今度はその炎で、もう一度お前を焼き尽くすのみだがな」
 残り百六十秒。拓未は眼光鋭く叫んだ。
「太陽の炎で燃え尽きるか、俺たちの手にかかって死ぬか。さぁ、選べ!」
「断る」
 即答だった。アシェリーラが地面を蹴る。同時に動いたのは、トリテレイアだった。
 剣を二合打ち合い、三撃目は盾で受ける。盾から伝わる落雷の如き衝撃に、思わず唸る。
「それほどの腕を持ちながら……なぜ強者を求めるのです」
「愚問。より高みを目指す、それだけだ。そのために、貴様ら猟兵の血を呑まねばならない」
「……骸の海で狂人と化したか、あるいは昔からそうなのか……。どちらにせよ、あなたは、惨めだ」
 残り百二十秒。アシェリーラが大盾を切り裂いた。表面だけだが、その威力はトリテレイアの巨体をも押し返す。
 アシェリーラの背後に、バイクを繰る拓未が見えた。トリテレイアと挟み撃ちをする形だ。
 炎の消えた剣が、さらに襲い来る。トリテレイアは、自身の体を超防御モードに切り替えた。両足のパイルを地面に突き刺し、一切を切り裂かんとする一撃を、剣で受け止める。
 先ほどのように押し込もうとして、アシェリーラが顔色を変える。斬撃はトリテレイアの剣にひびが入るほどの威力を発揮していたが、まるで鉄の山を斬りつけたように、その巨体は微動だにしない。
 直後、パイルを戻した左足のスラスターが火を噴いた。固定された右足を軸に凄まじい速度で半回転し、振りかぶった左の大盾が、反応しきれないアシェリーラの右半身を捉える。
「かッ――」
 急激に加速した超重量の大盾が直撃し、アシェリーラは息も出来ずに跳ね飛ばされる。
 残り六十秒。倒れてすぐに立ち上がるアシェリーラへと、拓未のバイクが迫る。
 再び跳躍、今度は真正面から、バトルアックスで斬りかかる。
「取ったぁッ!」
「甘いッ!」
 血を吐きながらも、アシェリーラは剣で斧を弾いた。即座に放たれた蹴りが、空中にいる拓未の顎を捉える。
 残り四十秒。吹き飛ばされ、着地と同時に拓未は斧を交差させた。アシェリーラの剣をすんでのところで防ぎ、そのまま激しい打ち合いとなる。
 残り二十秒。斧が二本とも押し返され、拓未はバランスを崩した。その一瞬、吸血鬼殺しの剣が袈裟斬りに振るわれる。
 拓未の胸が切り裂かれる。奇しくも、花子が負った傷と同じ箇所だった。
 だが、違う点があった。彼はサイボーグであり、そして戦いの初めに、守りの力を強化していたのだ。
「この程度かよ、ヴァンパイアッ!」
「なに――」
 笑う拓未に、アシェリーラが焦りを浮かべる。
 残り十秒。スラスターによるスライディングですぐ背後に迫ったトリテレイアに、アシェリーラが振り向く。儀式用の剣を避けずに受け止めたのは、条件反射にも近い動きだった。
 それが、致命的となった。連戦の消耗から来た判断ミスもあったのかもしれない。
 そんなことはどうでもいい。拓未は、その勝機をがっちりと掴んだ。
「これで、終わりだぁぁぁッ!」
 クロスさせた二本のバトルアックスが、振り下ろされる。アシェリーラの背中をX字に切り裂いた。
 残り五秒。黒い血が舞い、アシェリーラが倒れる。トリテレイアと拓未には、その様子がスローモーションのように見えた。
 零。
 風が、吹いた。
「……やったな」
「えぇ」
 息をつく拓未に、トリテレイアが頷く。戦いは、終わったのだ。
 誰もがそう思った。しかし、トリテレイアは気が付いてしまった。
 吸血鬼殺しの剣が、燃えている。まだ持ち主の力を受け続けているのだ。
「まさか……拓未様!」
「嘘だろ、畜生!」
 二人して後方へ退避した瞬間、血を撒き散らしながら立ち上がったアシェリーラの回転斬りが、巨大な炎を引き連れて繰り出される。
 今までにない威力だった。拓未の一撃は、確かに致命傷だったはずだというのに。
「まだだ、猟兵――!」
 恐るべき執念で、アシェリーラが猟兵たちを睨みつける。何が彼をここまで突き動かしているのか、その真因は、誰にも分からない。
 剣と盾が故障寸前のトリテレイアと、防御力を向上させたとはいえ深手を負った拓未は、これ以上の戦闘は難しいと判断した。
「ここまで来て、悔しいところですが――」
「いや、これ以上の結果は望めない。退くべきだ」
 冷静さを取り戻した拓未は、バイクを反転させた。決着をつけるために前へ出る猟兵とすれ違い、拳を突き出す。
「すまん。あとは、頼む」
 拳を打ち返され、その力強さに安堵する。傷つき倒れた友人のもとへと、バイクを走らせた。
 スラスターを噴かして後退しながら、トリテレイアはよろめきながらも闘いを望むアシェリーラを見て、考える。
 戦うとは。騎士とは、剣に生きるとはどういうことか。
 強さに対する価値観が人によって違うのならば、その価値観が分かり合えないものならば、強さに一体どれほどの意味があるというのか。
 戦いの中において、その答えは未だ、見えそうにない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

露木・鬼燈
十分休めたので戦線復帰、イケルイケル!
って、ヤバいねこれ。
守りに徹して時間を稼ぐって方法もあるけど…
それをするのは惜しすぎるんだよね、武芸者としては。
休んでいる間に解析はできたし…今度はイケルっぽい?
あの動き、吸血鬼の力があればこそって感じかな。
でも…羅刹だって戦闘に優れた種族、ましてや僕は猟兵。
少しばかりアレンジすれば、劣化と消耗の増大はあるけどできなくはないね。
慣らしと改善は必要だけど、まぁ、それは生き延びてから。
化身外装・真の姿・黒風鎧装…
この刹那だけで後のない全力での強化を。
まぁ、負けても僕が死ぬだけ。
こいつの終わりは確定しているってね。
楽しい闘争の終わりは死。
僕とお前、どっちかな?




 肩で息をしながら、背を丸めて必死に立つアシェリーラ。しかし、その身から迸る殺意は、未だ鋭い。
「いや、違うかな」
 黒い大剣を担いで、つま先で何度か跳躍しながら、鬼燈は独り言ちる。
 敵から感じる殺気は、武に生きる者のそれではなくなっていた。例えて言うならば、追い詰められた肉食獣のそれだろうか。
 口から流れる黒い血を拭い、アシェリーラが鬼燈を睨む。
「貴様が――」
「お前の最後の相手です。十分休めたからね、全力でいくっぽい」
 大剣を構えた刹那、吸血鬼殺しの剣を燃え上がらせながら、アシェリーラが迫る。
 その炎は、黒く変質していた。吸血鬼の血の影響か、それともアシェリーラの底力か。
 振り下ろしを受け止めて、鬼燈は迷わず後方に跳び退った。
「はは、すごいな」
 思わず零れた笑いは、乾いていた。
 緒戦で打ち合った時にも、まともに戦える相手ではないことを感じていた。だが、それとはまた違う、異質な強さを感じるのだ。
 なりふり構わなくなった狂人ほど、恐ろしい敵はいない。猟兵の血を啜り高みを目指すという志を捨て、今のアシェリーラは、猟兵を殺すことだけに重きを置いている。
 打ち合っては距離を取り、また打ち合い、すかさず離れる。そうせざるを得ない状況なのだ。
「これは、ヤバいね」
 休んでいる間にも敵の動きは解析していた。しかし、これは予想外だ。鬼燈はひりつく殺気の中に、確かに感じていた。
 これが、吸血鬼の力なのだ。世界を牛耳る悪魔の本性が、アシェリーラの一撃にある。
 炎を噴き散らかす横薙ぎを受け止め、その衝撃を利用して跳躍、距離を取る。即座に追撃するアシェリーラから目を離さず、鬼燈は乾いた唇を舐めた。
「でも……羅刹だって戦闘に優れた種族。ましてや僕は、猟兵」
 敵と同じく全てを出し切れば、届かないことはないはずだ。
 空中で闇色の鎧に包まれた鬼燈は、その全身を漆黒の風で包み込む。極端な身体強化に、骨がきしむ。
 着地と同時に、大剣を振り下ろす。黒い炎を纏う剣と打ち合い、再び距離を置く。
 アシェリーラが染み込んだ呪いと毒により、片膝をついた。即座に立ち上がるが、その瞬間に鬼燈はさらなる強化を己に施す。
 両の目から血が流れ、口にも鉄錆に似た血の味が広がる。体は呪縛により締め付けられるように痛み、体内から現れた毒により、吐き気も催す。
 呪詛を吐く英霊と無数の足を持つ大妖、竜をも屠る呪いを身に宿した今、鬼燈は絶大な力を得る。その代償は、彼自身の命だ。
 アシェリーラと目が合う。相手も満身創痍だ。しかし、どちらも闘う意思は強い。
 動いたのは、鬼燈だった。体がバラバラになるのではないかという痛みを従えて、緒戦のアシェリーラに匹敵する速度で迫る。
 迎え撃つアシェリーラは、黒い炎を纏う剣を突き出した。鬼燈の攻撃も、突きだ。
 切っ先が衝突し、衝撃波が吹き荒れる。木々が暴風にざわめく中、二人はすでに打ち合いに入っていた。
 切り払い、振り下ろし、何度も打ち合う。そのたびに、鬼燈は自分の命が大地に吸われていくような感覚を覚えていた。
 死が迫ってくる。しかし、止まらない。
 数秒の唾競り合いの最中、鬼燈は鎧の奥から血に湿った声で言った。
「負けたって、僕が死ぬだけ。お前の終わりは確定しているっぽい」
「そうか」
 短い答えに、鬼燈はアシェリーラの狂気に満ちた覚悟を感じた。それを楽しいと感じるのは、なぜなのだろうか。
 互いに押し込み合い、剣が弾かれる。黒い大剣を連結剣に変えて、振り下ろす。
 突如伸びたリーチに対し、アシェリーラは横跳びにこれを回避、地面に左手をついて、右手に握る剣に力を籠める。
 連結剣を再び大剣に戻し、敵が跳んだ方向に振り返る。アシェリーラの跳躍回転斬りが、鬼燈を襲う。
 剣こそ回避したが、そこに纏う黒い炎が、鬼燈の視界を奪う。
「ッ!」
 一瞬ながら、それは致命的ともいえる隙だった。即座に後方へ跳んだが、そこに、アシェリーラがいた。
 縦一文字に振るわれた吸血鬼殺しの剣が、鬼燈の背を鎧ごと切り裂く。
「ガッ、あッ――!」
 ふらつき、しかし踏ん張る。今更この程度の傷がどうしたというのか。どうせ生きるか死ぬかなら、命が燃え尽きるまで戦うのみ。
 振り返りざまに放った大剣の斬撃は、黒い軌跡に暴風を纏ってアシェリーラを襲う。
 大剣を受け止めたアシェリーラが、吹き飛んで小屋に激突する。崩れる天井に里の人々が慌てて逃げ出した。
 立ち上がったアシェリーラは、人々に目もくれない。猟兵しか、見えていないのだ。
「最後に死ぬのは――僕とお前、どっちかな?」
 鬼燈は呟いた。
 羅刹という種族で猟兵とはいえ、人の身に宿せる力の許容を遥かに超えている今、残された時間は、少ない。
 アシェリーラもまた、虚ろな目で鬼燈を睨んでいた。その限界が近いことは、誰の目から見ても明らかだった。
 あまりにも楽しい闘争だった。その終わりに待つものが死であるからこその充足。鬼燈は今、アシェリーラという吸血鬼と想いを同じくしている感覚があった。
 お互いに、同時に血を吐き出す。鬼燈は赤く、アシェリーラは黒い。
 そして同時に、顔を上げた。目が合った瞬間、二人は大地を蹴っていた。
 吸血鬼殺しの剣と堕ちた聖剣が、同等の力で振るわれる。赤黒い火花が飛び散り、鬼燈とアシェリーラは無心で剣を振るい続けた。
 十数合の打ち合い。互いに血を吐き散らしながら命を取り合うその姿は、まさしく悪鬼羅刹の戦いだった。
 突き出そうとした大剣が、アシェリーラの逆袈裟により弾き上げられる。
「いただく」
 目を見開いたアシェリーラが、鬼燈の首へと剣を振り抜く。しかし、鬼燈は弾かれた反動で剣を頭上に放り投げ、体を前へ押し込んだ。
 剣が届くよりも早く、伸ばした左腕がアシェリーラの顔面を掴む。そのまま地面に叩きつけ、鬼燈は兜の奥で満面の笑みを浮かべる。
 大剣を掴み取り、抵抗されるよりも早く、巨大な切っ先を心臓に深々と突き刺した。
「がっ――はぁッ!」
 黒い血を激しく吐いて、アシェリーラが大きく痙攣する。鬼燈は突き刺した剣をそのままに、覚束ない足取りで数歩離れた。
「僕たちの、勝ち、っぽい」
 大地に縫い止められたアシェリーラは、二度三度剣を握りしめ、そして、その手を離した。
 猟兵たちを見回して、再び黒い血を吐き出してから、呟く。
「見事だ――猟兵――また、相まみえたい――ものだ――」
「こっちは、もう、ごめんっぽい。骸の海で、おとなしく――してるです」
 息も絶え絶えな鬼燈の言葉は、届いていたのだろうか。アシェリーラは目を見開いて空を見つめたまま、絶命していた。
 吸血鬼殺しの剣から吹き上がった炎が、アシェリーラの体を燃やし尽くし、剣そのものも灰となって、やがて消えた。
「は、は。やれる、じゃない、か。僕も――」
 笑いながら二歩、三歩と歩いて、鬼燈は倒れた。黒い鎧が消え去り、血塗れの体を大地に預ける。
 仲間が駆け付ける足音と声を聞きながら、こんな状態でも死にはしないのだろうなと、他人事のように考えた。
 誰かに抱きかかえられた感触を最後に、鬼燈の意識は途絶えた。



 吸血鬼が死んだことにより、里の外に満ちていた死体の数々も、鎧ごと灰となった。
 親族や友人の墓も建てられないことに、里の人々は酷く悲しんだ。そして、この里を一つの墓とすることを決めた。
 猟兵たちは、役目は全て果たした。この隠れ里に生きることを決意した人々に見送られ、振り返らずに去っていく。
 これから先は、彼らが畑を耕し、狩りをし、里を大きくしていかねばならない。子を産み、育て、未来に希望を繋いでいくのも、この地に住む人々の道だ。
 彼らが幸せに暮らすのか、再び吸血鬼の支配下に置かれ圧政に苦しむのか、あるいは魔獣の襲撃に合い全滅するのか――。
 それはまた、別の物語である。

苦戦 🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月09日


挿絵イラスト