人は、自分の知るモノでしか、世界を知らない。
●
民衆にとってのそれは、褒美である。
あるいは、報酬でもある。
恐れ、苦しみ、その他辛苦の想いに囲まれた人生に与えられた、ただ一つの救い。
たくさんの幸せを、彼らは見送ってきた。
一生懸命に働いた終生の時。
多大な功績を見せた褒賞として。
または、ただの気紛れに。
選ばれた者は皆に見守られながら、彼女の元へ誘われる。
「さあ、息を吐いて。そう、限界まで、肺の中を空っぽにするの」
そう命じられ、両手を腹に押し当て、無理矢理に気体を吐瀉する。
すると、彼女はとても満足そうに笑って、優しく口へ手を添えてくれた。
呼吸を止めるようにと言われ、酸欠で倒れそうになりながら我慢し、そうしてようやく許される。
「では、ゆっくり、ゆっくりと。口を開いて、酸素を食むように、舌を転がすように、吸いなさい」
それは甘い。
染み込む様で、溶け込む様に、しかし決して無くならない。
「さあ、吸うのです」
香りだ。
とてつもない濃度の香りが注ぎ込まれている。
有無を言えぬその強制に、心は刹那の警鐘を鳴らした。
だが、そんなものは無意味だ。
次の瞬間には、身体中を多幸感が駆け巡り、心は天国に訪れた心地良さに満たされる。
「ゆめゆめ、忘れることの無きよう」
そんな結果を通りすぎて彼女は集まった民衆に告げる。
「何物にも代え難い幸福は、ここにのみあるのです」
人々は熱狂した。
この世界に救いは無かったからだ。
吸血鬼の存在を怯え、神の気紛れに怖れ、ひっそりと、息を殺して生きていくしかない人生だと思っていた。
けれど、彼女は違う。
暗闇に射し込む光なのだ。
そうして民衆はやがて、地上ではなく地下世界へと繋がれ、長い年月の隔絶を経る。
限られたコミュニティの中で、飼われる幸せに思考を止め、地上の存在を忘れ去った人々とオブリビオンの、可笑しな共生が出来上がった。
「こんなの変だ」
だが、疑問を抱く者も、中にはいる。
定められた人生は、与えられた幸福は、果たして本当の最善だろうか。
本当はもっと。
そう、もっと自由で――
「ああ、いけません、行けません。なんたる不敬、なんたる無謀でありましょう。ですが、ご安心ください、赦されましょう、許しましょう、贖罪の行いを以て」
●
グリモアベースの片隅に、肆陸ミサキ(DeityVamp・f00415)は居た。
「お疲れ様、時間ある?」
気楽な雰囲気を演出して猟兵達に声をかけたミサキは、
「解決してきて欲しい事件があるんだ」
そう言って、目を細めながら笑う。
「ダークセイヴァーの地下に、実は地底都市があったのがわかったんだけど、ま、地上の例に漏れず、そこも支配されちゃっててね。厄介なことに、とびきり強力な敵が陣取ってるっぽいんだ」
覚えている?
と、一言入れて、ミサキは人差し指を立てる。
「覚えているかな、辺境伯の紋章というのを埋め込まれて、とんでもない強さを得たオブリビオンが現れたこと」
数度、案内をした経験もあると加えつつ、
「今回はまた違った紋章を与えられたオブリビオンがいる。それも、門番の役割を兼ねた存在にね」
突破しなければ地底都市へは入れないし、入れたにしても倒さなければ出ることも叶わない。
相対せねばならない必須の敵ということだ。
「いい?」
それは、額に埋め込まれている。
それは、オブリビオンを途轍もなく強大に仕上げている。
「紋章への直接攻撃以外、まともに傷を付けられると思わないで欲しいんだけど、実はこのオブリビオンにはもう一つ、厄介な能力が備わっててさ」
能力の正体を、香りと言う。
五感でいう嗅覚に最も影響があるそれは、しかし、実際には少し違う。
「例えばの話、鼻を摘まんで匂いを防いでも、口から、目から、耳から……いや、体内に入ってしまえば、匂いの元である特殊な成分が、皆を相手の術中に誘う可能性が高いね」
攻撃の工夫と、能力に対する防御策。
その二つがあれば、もしかしたら優位に立てるかもしれない。
「ま、でも、傷付けるだけが攻撃じゃあないしね? 歴戦の猛者である君達なら、なにかしらの突破口を見つけるとは思ってるよ。だから、頑張っていってらっしゃい」
他人事の様に軽くいって、ミサキはグリモアを使って世界を繋いだ。
ぴょんぴょん跳び鯉丸
そんなわけでシナリオです。
一章はボス戦です。
額の紋章を攻撃する。
敵の能力への対策をする。
など、その他、敵の特徴に対する手立てが有効であればあるほど、良い戦果を得られるかと思います。
二章は集団戦、三章は地底都市の人々を地上へ連れていく日常になります。
では、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『調薬師・エーブル』
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POW : ユーフォリアドラッグメーカー
【幸せかつ無気力になる香の霧】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を対象にとって幸せな幻影を映す霧で覆い】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : ゴートリック・セラピー
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【強制的に幸せな気分にする香を喫煙器】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : ディザブルコンダクター 10
【ダークセイヴァーの領民の理性】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【領民に薬を放ち、戦う事で幸せになる狂戦士】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
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地底都市への入り口は無い。
いや、存在はしているのだ。しかし、住民が知れる位置には無く、仮に運良く――いや、運悪く見つけてしまったなら、門番の手により隠匿される。
長く、永く、繰り返してきた事だ。
門番として、幸福の伝道者として。
与えられた力に背かぬ様にと丁寧に。
自身が信ずるモノの為にと全力で。
だから、これからも、そうするのだ。
「妨げるおつもりですね、私たちの幸福を」
突如転移してきた猟兵達の前に立ちはだかり、彼女はその力を解放した。
エウロペ・マリウス
その先に救うべき人々がいる以上、避けるわけにはいかないね
行動 WIZ
匂いならば、空気よりも重いかも知れないので、
狂戦士にされた領民との不要な戦闘も避ける意味でも、まずは【空中浮遊】と【空中戦】で空中での戦闘を心掛ける
それでも指向性を持っている可能性もあるので、
自身は【オーラ防御】の上に、【結界術】を用いて防御を固める
更に、防御を抜けてくることも考えて、【呪詛耐性】【毒耐性】で備えようかな
そして、とにかく攻撃を当て、
「廻る骸。潰滅へ向かう刻の輪唱。杜絶せし氷の抱擁。刻み、停滞する生を嘲笑え。骸は刻の中で嘲笑う(スケレトゥス・テンプス)」
86m半径内を保ち、凍傷による追加攻撃メインで戦闘
セフィリカ・ランブレイ
門番が最強なのは理に適ってるか
・強力な一撃を一点に集中
・近接は匂いの餌食
との話。
遠距離から一点集中が出来ればよかったけど…相性悪いね
『遠くからほど精度が落ちるからね、アンタの手札。なら、どう攻める?玉砕覚悟はやめときなさいよ』
シェル姉…相棒の魔剣も声が硬い
持久戦になるけど、相手の強さは未知数
慎重に行こう!
【橙弓の森人】を後方に配置
私が匂いでイカれかけたら回復効果のある矢を撃たせる
他にもおかしくなった仲間がいたらその矢でフォロー
領民を操るなら速やかに黙らせていこう。治療は後でするよ、ごめんね!
相手に近づいて、耐えて、渾身の一撃!
これが理想だね
『優雅さに欠けるわね…』
今必要なものじゃないからね!
●
立った位置は、風下だった。
身体を緩く押している感覚は、地底都市側からやってくる風によるものだ。
エウロペは、軽く跳ねる動きで土を踏み蹴って、空中へとその身を投げ出した。
「……と」
瞬間、足先を掠める感触がある。身体をくの字にして、腰が上へ行く様に体勢を変えながら下を見れば、複数の人が自分を見ていた。
「領民の方達、か」
血走った瞳は正気を感じられない。瞳孔は開き切っていて、もしかすると脳機能すら変化させる効果があるのかもしれないと思い。
「これは、救わなければいけないね」
視線を動かして門番を見る。
調薬師のエーブル、という名前らしい。
人の様に立ち、しかし人ではない容姿をした女性は、薄い微笑みでエウロペを見返している。
そして、その口が何か言葉を発する動きをした瞬間。
「!」
エウロペは急速に上昇をした。
「やれやれ、乱暴に扱うな……!」
攻撃が来たからだ。先程見た領民が、他の手を借りて大ジャンプしてエウロペに到達しようとしていた。
上昇した事で捕まる心配は無くなったが、逆に言えば高度を下げると捕まるという実証でもある。
「捕らえましたよ」
と、エーブルの声が不意に届く。
大声と言うわけではないのに、離れた自分に届くという不思議に眉を寄せながらも、言葉は続いた。
「安堵なさい。貴女にも、幸いはあるでしょう」
「何を――!?」
彩りが眼前にある。
それは自然とは思えない、青と蒼の入り交じった色で、発生源は件のエーブルからだ。
「香りの可視化ってわけかい!」
それも、ご丁寧に領民が跳べる範囲から上、自分が動ける間合いより本の少し広めに散布しているのが認められた。
手慣れている。
もしかしたら、自分と同じような、空中を動く相手と幾度も交戦しているのかもしれない。
軽く分析して、追い詰められた状況の中、エウロペはしかし笑みで行動を起こす。
「見せたのは悪手だって教えてあげようか」
まず、身体にオーラの膜を。それから、少し間隔を開けて重ねる様に結界の庇護を張る。
そうしてゆっくりと、領域を圧していくイメージで範囲を広げると、色付いたそれらは自身に寄ってはこれない。
「反撃、行くよ……!」
作り出すのは無属性の魔力塊。
「廻る骸。潰滅へ向かう刻の輪唱」
先端を楔型に尖らせ、分裂させ、乱雑に配置させて。
「杜絶せし氷の抱擁。刻み停滞する生を嘲笑え」
一息。
「骸は刻の中で嘲笑う(スケレトゥス・テンプス)」
射出した。
降り注ぐ、というよりは、斜めの横殴り、という風に。
一斉射はエーブルの全身を叩き、その身体を勢いだけで後退させた。
が。
しかし。
「……無傷か」
直撃したはずの肌には、傷は勿論、痣すら残っていない。
まるで埃が掛かった様な気軽さで肩を払ったエーブルは、変わらない微笑みでエウロペへと広げた手を向け、ゆっくり握る。
すると、防御の領域が香りの圧で狭まっていった。
再度の射撃を行いつつ、エウロペは苦笑いで。
「見た目より物理的だね、この匂い……!」
●
合理的な配置だと、セフィリカは感嘆の息を吐く。
……うん、そうだよね、最強を門番にしておけば安全だもんね。
『感心してる場合じゃないでしょ』
「あはは、やだなぁシェル姉、わかってるって」
相変わらず相剣は厳しい。とはいえ、今回は相手も厳しいのは理解していて。
『どうする気?』
と、返答に困る問いを投げていく。
セフィリカは、んー、と苦しげに呻いて思考する。
「遠距離からの一点集中……出来れば良かったんだけど」
ふい、と見上げた視線の先にはエウロペがいる。
攻撃しながら、圧し潰されない様に位置を変える動きだ。エーブルにダメージは通って居ない様だが、その表情には余裕がある。
考えがあっての事だと、そう信用出来る位の力量も感じられた。
『距離があればあるほど精度の落ちる手札しかないアンタじゃ、ああはいかないものね。どうする? 玉砕覚悟で突撃、だけはやめときなさいよ?』
「しないってば。――玉砕はね」
剣をその手に、セフィリカは静かに息を整える。
安全な空気を吸うのはこの先暫く無理そうだと、そう思いながら深く吐いて、強く吸い、もう一度吐いて。
「来て、エイルキュリア」
後方、離れた位置にゴーレムを召喚して配置する。そうして、踏み出した足へ体重を乗せながら前傾。
「イカれたらよろしく……!」
『ちょ』
行った。
自身が出来る最速で、一直線にエーブルへと接近するコースだ。
その間に、操られている領民がいるが、そのほとんどは上空のエウロペを見ている。
その為、急速に突撃していくセフィリカに気付くものは少なく、そして遅い。
だから、
「後で治すから、ね!」
ドロップキックの容量で顔面を蹴り跳ばした。
きりもみ回転で吹き飛ぶのは放置して、空いた道をセフィリカは進む。
『いや、やりすぎなんじゃ』
呆れた様な苦言に、チラリと様子を見ると、顔面血だらけの領民はなんと嬉しそうな笑みを浮かべて起き上がろうとしている。
「……イカれてるけど問題なし!」
『問題しか無い……!』
行く。
エーブルが気付いて、瓶から伸びたノズルを向けるが遅い。
懐に入り込み、魔剣の一振りを腕にぶちこんで大きく狙いを逸らす。
「斬るつもりだったのにかったいなぁもう!」
握り手に返る痺れの感覚に、理不尽な防御力を痛感する。だが、それはわかっていたことだ。
さして大きなショックもなく、体勢を崩したエーブルの、髪の合間から覗く額の紋章部分へと、振り上げた一刀を叩き込みにいく。
「困りましたね」
「っ」
躱された。首を曲げ、一撃を肩で受け止める形だ。
刀身の上へ手を乗せ、肩の肉と挟み込んで固定し、捕まえたと言わんばかりに笑みを深めたエーブルは言う。
「貴女も幸いが足りていない」
「余計なお世話、だ、っ、て……の!」
腹へ蹴りを打ち込み、突っ張る動きで剣を引き抜いて後退、から迂回する様にノズルの先端から距離を離す。
『優雅さに欠ける攻防ね……』
「それ今言うかなぁ!」
軽口は誤魔化しだ。
今の一撃を外したのは痛い。
先手を得たアドバンテージは無くなり、香りを操るという敵の攻撃手段に対する対策はゴーレムの癒し矢しか無い。しかし、射から到達までの時間差もある。
後手に回ってしまえば、敵の術中にハマってしまうだろう。
なんとかしなければ。
「……ん?」
めまぐるしく回る思考に、おかしな情報が入ってきた。
それは、不似合いな存在がそこにいたからだ。
エーブルの背後、そう、丁度剣を受けた肩の反対側辺りからひょっこりと顔を見せる、
「頭蓋、骨……?」
懐中時計を開いた歯の間に嵌めた人骨だ。
かた、かた、かた、と。
分針が時を刻んでいて、それが今、0の位置へ回り切る。
「ぁ――ぎぃあぁぁ!?」
そうして起きるのは、エーブルの苦悶だった。
頭を手で挟みながら悶え、苦しむという姿は、先程までの余裕が一切無くなっている。
「これは……」
『セリカ!』
「!」
相剣の声に、セフィリカは我に還る。
恐らくは、先に戦っていたエウロペの仕込みだろうと当たりは付くが、それを確かめている暇は無い。
今一度、攻撃を叩き込むために踏み込む。
「いっ――」
両手に握り、渾身を込めた一撃。
「けぇ!」
それが、エーブルの額に直撃すると同時。
「……ぇ」
セフィリカの身体は、宙を泳いでいた。
とてつもなく大きな力に押し出され、受け身を取ることも出来ない。
いずれ、岩壁に叩き付けられてしまうだろう。そんな刹那の予感に、ギュッと目を閉じる。
「……?」
しかし、やってきたのは、予想に反した柔らかな感触だ。
恐る恐る目を開けると、そこには青い瞳がある。
「大丈夫かい?」
「あ、うん……あれ?」
エウロペだ。
どうやら、ナイスキャッチされたようだと理解するまで数瞬。それから、大分遠くまで跳ばされてしまったと気付くまで数秒要して。
「紋章の防御機構か何か、かな……でも、かなりのダメージは通ったはず」
「そうだといいけど……ほんと、門番としては百点だなぁ」
着地した二人は、遠く見える入り口を見て、同時に新鮮な空気を取り込んで、吐き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ハロ・シエラ
中々厄介ですね、毒ガスと言うものは。
回避する事は難しいでしょうから、少々強引な手を使わざるをえませんか。
と言う事で、周囲を炎の【属性攻撃】による【範囲攻撃】で燃やします。
火勢は強い方が良いでしょう。
少しは香りの成分を【焼却】し、空気を【浄化】出来るかも知れません。
残り香は【毒耐性】で何とかするしかありませんが、後は【ダッシュ】で接近して攻撃するのみ。
レイピアで腹部を刺す、と見せ掛けておいてダガーで額に斬りつける、と思わせる【フェイント】をかけ、ユーベルコードを込めた【早業】の蹴りで紋章を攻撃します。
二重のフェイントで完全に脱力する事を難しくし、必ず一撃入れて見せます。
ヴェル・ラルフ
君がそれを幸福というのなら
僕とは意見が合わないようだね
そも、君の幸福をみんなのものと言うその性根が
好きじゃない
香りの攻撃は厄介だね
強制的な幸福感などまっぴらだから
投擲用のナイフを構えて
敵が脱力状態にならないように、ナイフ放ち牽制しながら、同時に詠唱開始
【残照回転脚】で爆風と共に香りを蹴散らしたい
炎の軌道が狙うは吸煙器
高温と爆風とで割ってしまいたい
壊せば他の仲間も動きやすくなるかな
僕は、誰かに強制的に感じさせられる幸福ではなく
僕自身の心で、しあわせを感じられるようになりたい
そして、この地下の人々にこそ
「しあわせ」をつかんでほしい
★アドリブ・連携歓迎
●
暴力的な爆発があった。
それは、一定量、もしくは致命的に成り得ると紋章が判断した際に起きる、一種の防衛だ。
「っ、はぁ……!」
エーブルは、意図せず発生したそれから立ち直り、頭を振って佇まいを直す。
見る先に、新たな敵が現れようとしていた。
●
「厄介ですね」
微かに香る、風に乗った匂い。
袖で口と鼻を押さえ、ハロは遠く対峙する。
敵の間合い、そのギリギリ外に立っていた。
自身の間合いにするには離れすぎていて、ここから近付く為にはどうするべきかの問題がある。
「遠いね」
隣に転移してきたヴェルが、短く呟く。
「どうしようか」
と。
視線は真っ直ぐ、エーブルへと突き立てたままで問う。
「どうしたらいいでしょうね」
と。
ハロは質問に疑問を返した。
それから、一息を挟んで、
「では、焼きましょうか」
「なるほど、じゃあそうしよう」
自然と、ハロが先に行く動きになった。
軍服のボタンを片手で外しながら、帽子を後方へ放って、前へ。
「行きますね」
行った。
脱いだ上着を前へ広げる動きで振って捨てる。軌道に沿って生じる炎熱の発生は、半弧状にうねりを上げて、空気中に漂っていた香りの成分を焼き尽くす。
「……不十分でしょう」
その動きを、落ち着きを取り戻したエーブルは見ていた。
余りにも足らないと、そう思っている。
ハロの行う対策は正しい。だが誤りだと。
香りは、物理的に存在する。だから燃えや、または急激な冷えに弱い。
しかし、その成分は自身が持つ源泉から補充し、散布が可能だ。それに、元々可燃性ではないそれは、延焼して破壊される事もない。
故に。
「その程度では、私の幸いに程遠い……!」
直射する様に、香りの飛沫をエーブルは放った。
「意見が合わないな」
相違があると、ヴェルは言う。
「君のそれが幸福だ、と。いや、その幸福こそがみんなの幸いなのだと言い切るその性根が、僕は好きじゃない」
ハロに遅れる事数歩分。踏み込みに溜めを作り、後ろにした脚へ力を込める。
「染まる緋、灰と化せ」
詠唱、同時に放つのは、脚の振り上げだ。
纏わせた地獄の炎撃は、縦の弧を描いて一直線に飛んでいく。それが、香りの充満を開き、ハロの道筋とした。
「――!」
行く。
加速は既に最大だ。
間合いまであと二歩。
手にしたレイピアは腰に添え、刺突の前段階に。
エーブルはそれを迎える様に、半身を引いて自然体の構えを取っている。
……受けるつもりですね。
狙いはわかっている。
わざと受け、カウンターを叩き込むつもりだ。そういうユーベルコードがあることも知っている。
だから、ハロはその通りにするのだ。
「いきますよ」
全力で、最速で、レイピアの線をエーブルの鳩尾へ。
「……っ」
刃を置きにいったのだ。
速度も気合いも全力のモノ。だが、その握り手に力は入れていない。故に、激突した得物はあらぬ方向へと弾き飛び、同時。
「これは」
逆の手に忍ばせたダガー。それを、エーブルの額へ向かわせる。
軽い跳躍で、山なりの軌道を描いた身体の行く末としてだ。
だが、まだエーブルの体勢は完璧な状態だ。
「まだだよ」
崩す必要がある。だからヴェルは、ナイフの投擲を先んじて行い、ハロの二撃目に合う様にしておいた。
狙いは額、それから、香りの根源である瓶だ。
それらは必ず守らなければならない、エーブルにとって弱点と言える箇所。
「やはり足りません」
とはいえ。
ではそれが脅威となるかと言われれば、答えはNOである。
何より、ハロの方が先に当たるだろう。そしてそれが、ユーベルコードである限り、自身のカウンターが何より速く二人を捉える事が出来る。
傲りでも、慢心でもなく、事実としてそうなると、正しく理解していた。
だから、彼女は判断を誤ったのだ。
「え」
振り抜かれたハロの一撃は、エーブルをすり抜けた。当たったのは、ヴェルが放ったナイフの先端だ。
何かおかしい。
そんな筈はない。
そう思えば、つい確認してしまうのが思考する者の定めだ。
「なに」
振り返る眼前に、迫る影が直撃した。
速く、重い。
上体が後ろへ折れていく。
その霞む視界の向こうに、脚を振り抜いているハロを、エーブルは見た。
接近よりも速い。
跳躍時よりも速い。
まるで、行動毎にギアを上げていた様に、その動きはキレを増していたと今更ながらに気付いた。
「――そう、ですか」
共通するのは、身軽さだと理解する。
「服と得物を捨てて加速したのですね!」
単純だが、これが存外に効く。
自然体、脱力状態の解除の為に二重、三重に行われたフェイントも見事だっただろう。
だが。
「しかし、この距離、捉えられます」
ノズルから放射状に放出すれば、逃れる術は無い。そして、捉えてしまえば流れはエーブルのモノになる。
「貴女も、幸福に――」
「そんなものは不要だ」
しかしそれを許さない存在がいる。
当然、ヴェルだ。
脚に燻る炎の滾りは、踏み込みの余波で香りを一時的に払拭。次いだ振り上げの構えから放たれる一撃は。
「しあわせは、自身の心が感じるもの。強制されて与えられたものではないしあわせを、地下の人々につかんでほしい。その為に」
瓶から伸びるノズルの管を焼き切った。
燃え広がる熱が、内部の成分をも焦がす。
「ソレは邪魔だよ」
「やってくれましたね……ですが」
もう使い物になら無いと、エーブルは門前へと身体のみで飛び退く。
そうして、魔力で作り出した香りを充足させ始めた。
「先程までとは違います。濃度も、強度も。もう、燃やせません」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サエ・キルフィバオム
アドリブ等歓迎
「幸せ、ねぇ。ふぅん」
オブリビオンの言い回しに心底呆れたような表情を見せます
「幸せになるお香、それほんとぉ?」
【ユーフォリアドラッグメーカー】を回避して幻影を見つめながら問いかけます
「本当にそれを吸うのが幸せなら、この幻影も、お香を吸ってる姿が映るはずなんじゃないかな?」
「それにそもそもそれが幸せなら、あんた自身がそれで満足できるはずじゃない?」
【挑発】【言いくるめ】で香りによる幸せを否定して、ユーベルコードの矛盾点を突こうとします
「結局、それは依存性の高い香りに過ぎないよ」
「そんなに言うなら、自分自身が食らってな」
【怠惰ナ信号ノ超越】で香を奪い、オブリビオン本人に食らわせます
七那原・望
妨げてるのはどちらですか。
そんなふざけたもので人を廃人化させて。
こんなのは幸福感もどきを無理矢理脳に叩き込まれているだけです。
だから彼らは誰も幸せではないですし、ふとした拍子に自分は幸せではないと容易く気付くのです。
【第六感】と【野性の勘】で敵の行動を【見切り】回避を。
敵のユーベルコードは霧を風【属性魔法】で敵に押し返しつつ、【オーラ防御】【結界術】【呪詛耐性】【浄化】【呪詛耐性】で自らを霧から守ります。
戦闘開始直後から【魔力を溜めて】おき、敵の隙を突いて【限界を超えて】攻撃力を高めた【クイックドロウ】【スナイパー】【誘導弾】【全力魔法】【Lux desire】で敵の額の紋章を狙い撃ちします。
●
彼女は相手を、幸福の妨げだと言った。
それは、自身のもたらす結果に、強い自負があったから言える事だ。
「ふぅん……幸せ、ね」
基点となるエーブルから発された、香りの威圧感。それを正面から受けるサエは、呟くように吐き捨てた。
怒り、と言うよりは疑念。若しくは、呆れの感情がこもったものだ。
いや、むしろ、もっとシンプルに。
「それ、ほんとぉ?」
疑問符を付けつつも、サエは確信がある。
エーブルが放つのは、幸せの幻覚を見せる成分だ。それなら、吸うと言うその行為こそが幸せに繋がっているということ。
なら、なぜ、人はその"吸っている自分"の幻覚を見ないのか。
「……ふふ」
「……なにかおかしなこといったかな」
割りと確信を突いたつもりだっただけに、そこで可笑しそうに笑うエーブルの反応が、サエにはわからなかった。
いえ、と、前置きの一息を入れ、調薬師は微笑む。
「ここに来て舌戦をされるとは、思わなかったもので」
ごり押しにごり押しを重ねて追い詰められ、そうして構えたところに言葉が来てつい。
そんな落差に、変な話、緊張が抜けたのだ、と。
さておき。
「さて、本当かと問いましたか」
「そ。ていうか、その行為が幸せなんだっていうなら、あんた自身、もう満足出来てる筈じゃない?」
「満足……」
何をもって満足と思うのか。
問われ、エーブルは刹那、深い回顧に襲われた。
確かに、人々へ施術していく中で、自分は良い事をしているのだという満たされた感覚があって、しかしそれは永く経た今、少し違うものになったと、そう感じている。
だから。
「いいえ、満足はありません。これは義務ですから」
最早この所業は、もって生まれた力は、人々を苦しみから救うための最善だ。
それを邪魔するのだから、間違いはサエの側にこそある。
「わかってるの? それは、ただの依存症だよ」
「それが悪い事かどうか、味わって知ってください」
平行線だ。
サエの言葉ではエーブルの思想は揺るがない。
逆もまた然り。
そして、それはサエの狙いを挫く事に繋がる。
「さあ、幸福のはだかりを払いましょう」
故にエーブルは、香りの放出をサエに集中させた。
相手は一人なのだから、収束させた力ならば決して逃さず、飲み込める。
「妨げているのは、どちらですか」
そう思っていた。だから実行した。
なのに、それは届かなかった。
「ふざけた代物です。無理矢理に脳へと叩き込んだ夢幻の幸福で、沢山の人を廃人にしている」
サエの後ろから歩いてきた望の力だ。
発生させた指向性の風で押し返し、流れを生み出している。エーブルが押してくる力を分散させ、拮抗するのではなく、外へ逃がす流れだ。
「彼らは幸せでしょうか。いいえ、彼らは誰も、幸せではないでしょう。だから、ふとした拍子に気付くのです」
「なぜ、そうだと?」
とはいえ。
紋章の力を引き出したエーブルは、離れて行く香りを操作出来る。それに、新たに産み出すなど造作もない事だ。
その証拠に、望が生んだ流れの外側は、すっぽりと二人を包み込む程の密度が渦巻いている。
後は、握り潰すようにしてやれば、二人を幸せの底へ導けるだろう。
そう思っているのに、しかしエーブルはそうしなかった。
「なぜ私の幸せは幸福ではないと言うのでしょう」
揺らぎはしない。だが、気にならない訳ではない。
もしかしたら、それは、オブリビオンとしてではない側面によるものかもしれないが。
間違いなくそれは、エーブルの優位を引っくり返すモノになる。
「わからないの?」
サエは呆れを隠さず、薄ら笑いを張り付けて言う。
「あんたの力は強いかもしれないけど、でも、気付いてる? この霧は今、何も映してないって」
「――!」
揺らぐ。
香りが、エーブルを支えていたモノが、グラグラと。
なぜならそれは有り得ない事だったからだ。
自身から産み出した香りは、嗅がずとも発動する能力がある。
相手にとって、幸せな幻影を投影する力だ。
なのに、二人の周りには、香りがただ香りとしてあるだけ。
つまりそこに、幸せなんて――
「ユメは終わり、バラすまでも無く、ね」
瞬間、香りは霧散した。
同時に、サエの指には蒼色のピアスが生まれていて、
「自分自身で確かめてみなよ」
緩い山なりの放物線でそれは投じられる。
くるくると回りながら落ちていくピアスは、エーブルの眼前でひび割れ砕け散る。吹き出す淡い乳白色の霧は、幸福を見せる香りと同等のモノ。
「ぁ……」
その時、彼女が何を見たのか。
それは二度と明かされることは無く。
「全ての望みを束ねて」
望の掲げる金色の果実から放たれた光が、鋭く、精確に、紋章を焼き貫いた。
大成功
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第2章 集団戦
『罪を背負いし聖女』
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POW : 抵抗してはなりません、それは罪なのです。
【直接攻撃をしない者との戦闘に疑問】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【凄惨な虐殺の記憶】から、高命中力の【戦意を抹消させる贖罪の嘆き】を飛ばす。
SPD : 私が犯した罪は許されません。
【自身が犯した罪】を披露した指定の全対象に【二度と領主には逆らいたくないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ : あなたの罪を浄化します。
全身を【流血させ祈ると、対象を従順な奴隷】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
👑11
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●
門番を撃破した猟兵達は、地底都市の中へ踏み込んでいく。
普通の町並みに見えた。だが通りのどこにも人の気配は無く、しかし猟兵達を伺う様な気配だけはあるという、不思議な感覚だった。
そして、なにより奇怪な点が一つ。
「……」
道の所々で、祈りを捧げる者達がいたのだ。
膝を付き、両の手は合わせられ、頭を垂れる姿は恭しいとすら見える。
「ああ、なんと言うことでしょう」
彼女らは嘆きに哭く。
「強き者に、我ら弱き者は、蹂躙されようとしています」
「我ら弱き者、強き意志無き者」
「ああ、いけません、いけません、なんたる不幸、なんたる悪夢でありましょう」
「これよりは、不安と、恐れに支配され、死に捕らわれるその日まで、怯えて暮らすでしょう」
「おまえたちのせいで」
徐に立ち上がった彼女らは、しかしなにもしない。
ただ祈るのだ。
襲ってきた不幸の使者を、退けられますように、と。
――――――――――――――――――
第二章は集団戦です。
敵は直接攻撃をしてきません。
が、その分、ユーベルコードを理不尽な理論と祈りで発動させてきます。
対策を全くしていないと負けちゃうかもしれないので、対策を全くしていないプレイングは流してしまうかと思います。
よろしくお願いいたします。
七那原・望
自業自得でしょう?
彼らの思想も幸福も支配して、彼らを廃人にして、死の瞬間までその人生を台無しにして。
彼らはお前達のお人形じゃないのですよ。
【Laminas pro vobis】を発動。
精神を支配するユーベルコードを操るお前達が弱者であるはずがないでしょう?
人々をこんなに好き勝手に支配しておいて、被害者面がまかり通るはずないでしょう?
直接肉体を傷付ける攻撃を行わないからなんだというのです?
精神攻撃のスペシャリストであり、人々をお人形にするお前達に攻撃を躊躇する必要性は感じません。
彼らが本当の幸福を求め、自由に行動出来るように。
わたしが望むのは此処の人々の解放。
【全力魔法】で敵を【蹂躙】します。
●
肉だったものが飛び散る。
ほんの一瞬前まで、生物であったものだ。
鮮血の赤を振り撒き、欠片となったそれらは、びちゃびちゃと音を立てて地面を跳ねる。
「自業自得でしょう?」
抑揚少なく望が言うのは、結果についてではない。
「思想を奪い、幸福を植え付け支配して、廃人となった後は死の瞬間まで生を台無しにする。
だから、わたしたちに倒されるのですよ」
これまでの行いについてだ。
門番であったエーブルはもちろんのこと、今、相対している集団だってそうだ。
こいつらは、口でわめく程には、弱者ではない。
「スペシャリストでしょう」
精神を破壊する、もしくは操作する。
そういった手段に特に長けた者達。そんな強者に対して加減や躊躇いを、望は抱かない。
だから。
「蹂躙します」
相手は祈るだけだ。
ただ両の手を合わせているだけ。
望が思うままに振るう破壊的な魔法を受け、そのまま絶命に至っている。
「ああ」
そして言うのだ。
「世界は、あなたみたいに、強い人ばかりではないというのに」
大成功
🔵🔵🔵
ヴェル・ラルフ
ただ嘆くだけ
ただ祈るだけ
それではなにも得られない
──ごめんね
たとえ貴女方がほんとうに
理不尽に
弱者だからこの世を去ったのだとしても
僕にはどうしても得たいものがあるから
──貴女たちのいない、平和な世界を
戦いが始まると同時に【残光一閃】を発動、彼女たちを捉えて技を封じる
闘気の鎖は繋いだまま早業で
ナイフで掻き切ってゆく
覚悟をもって、落ち着いて
確実に切りつけ、串刺しに
次々と、感情を挟まずに
僕は自分の信じることをなすだけ
オブリビオンの殲滅こそ、この故郷のほんとうの平和に繋がると
…せめて、貴女方が骸の海に還るときに、心穏やかであればいいと、祈りながら
●
初動を許さず、ヴェルは力を振るう。
鎖だ。
横薙ぎへの一撃。火の様に、光の様に、色付いたそれを振り抜いていく。
それは、オーラで出来ていた。
物理的な慣性を受けないそれは、相手の集団を撫でる様に総じて捉え、数珠繋ぎの要領で拘束をする。
「ただ嘆き、ただ祈る。それでは何も変わらないし、なにも得られない」
そうして自由を奪い去ったのちに、彼は手にした刃で敵を切り裂いた。
一人は喉を裂く。
一人は額から、頭骨を貫いて。
一人は胸に、鼓動の核となる急所を潰す。
「――」
言葉にしない想いは、ただ、ごめんね、と、胸に秘める。
もしかしたら彼女らは、理不尽にこの世を去ったのかもしれない。
もしかしたら、本当に弱者を救いたかったのかもしれない。
有り得ないことではない可能性の想像は浮かぶが、しかし、それでも。
「ほんとうの……僕が信じる平和な世界の為に」
オブリビオンとなった、目の前の存在は殲滅をするのだ。
せめて心穏やかに、骸の海に還れたらいいと思いながら、
「――」
生暖かい返り血に塗れ、ヴェルはただ、戦おうとしない相手を倒す作業を行っていく。
大成功
🔵🔵🔵
セフィリカ・ランブレイ
自分に良い事が他人の良い事ではない
理解も経験もしてる
自分のため作ったゴーレム技術が、国の軍事化を加速させた時みたいに
私はこの人達に責任が持てないし、
この世界を今すぐ平和にもできない
私がかけられる言葉は…
【シェルファ顕現】
『緩やかに死にながらラリれなくなったのがご不満?
アテが外れたんなら別の奴に会いにいけば?
他に趣味悪い奴いくらでもいるでしょ
恐怖感じる前に殺してくれる奴もいるかもよ
閉じこもるだけ、口だけでよくもまあ喚く』
私が口籠るうちに、シェル姉…相棒の魔剣は無抵抗の相手を問答無用で叩き伏せた
ごめん、なんか、考えちゃって
『変な所で真面目になるのやめときなさい。これ以外の結末はなかったでしょ』
●
踏み出した。
そのつもりで前へ行こうとする身体が動かない。
……あぁ。
セフィリカは、目の前で祈る相手を見て、内心の溜め息を吐き出した。
頭では理解していても、心が躊躇っている。
迷っている。
自分にとっての良いことが、他人にとっての良いことではない。
それを知っているし、経験もある。
いつか見た光景が、蜃気楼の様に現実とダブって見えた気がした。
たくさんの命無き身体が、命有る者を破壊しようとする思惑の景色を。
「私は」
何を言えば良いのだろうか、と、浮かんでは消える単語の雪崩が、彼女の動きをさらに阻害する。
だから、祈るそれらの眼差しから逃げることも、しかし受ける事も出来なくて、そうして、
『緩やかに死へ向かいながらラリれなくなったのがご不満?』
目の前で、祈りが飛んだ。
比喩ではない。
空へ舞い上がる様に、聖女の身体が吹っ飛んでいったのだ。
『アテが外れたんなら別の奴に会いに行けば? 他に趣味の悪い奴、いくらでもいるでしょ』
次いで、きりもみ回った身体が壁にぶつかっていく。
「シェル姉……」
唖然とセフィリカが呟く名前は、普段、自分が腰から下げている魔剣だ。それが今、人の形となって現れ、フルスイングのアッパーと回し蹴りで相手をぶっ飛ばしている。
『……変な所で真面目になるの、止めときなさい。これ以外の結末なんて無かったのよ』
どちらもだ。振り乱れた蒼い髪を払って言い切るシェルファに、セフィリカは微かに頷いた。
「ごめん、なんか、考えちゃって。……もう大丈夫、行こう」
踏み出す足は、前へ進む。
大成功
🔵🔵🔵
ハロ・シエラ
なるほど、こう言う相手は私の苦手とする所ですね。
ですが相手の言いなりになる訳にもいきません。
ユーベルコードで【先制攻撃】をかけて凍らせ、その祈りを封じてしまいたいですね。
全身から流血している上に動けないのなら狙うのは簡単でしょう。
相手は複数。
集まっているならユーベルコードを【範囲攻撃】としても良いし、離れた場所にいる敵には【早業】でワイヤーを【投擲】し【捕縛】するのも良いでしょう。
後は【破魔】の力を込めたレイピアで仕留めます。
場合によってはダガーを槍に変形し、祈られる前に【槍投げ】で倒してしまいましょう。
自分の罪を浄化して貰おうなんて思いません。
抵抗する意志が無いなら、そのままご退場願います。
●
祈り。
それが、どの場合にそう呼ぶのか。
心で念じた時。神事の祭具の前。
時と場合で変わるその定義は、人の心の様でもある。
ただ、地底都市、かの聖女達を当てはめた場合、また異なる意味があった。
技なのだ。
震える両手、指を絡めて合わせ、それに伴う自傷の発現。そうして起きる対象への強制力が、抗わない彼女らの抗う術となっている。
「なるほど、こういう相手は私の苦手とする所ですね」
だが技のタネは明らかになっている。それに対処することは、さほど難しい訳ではない。
故に、ハロの取った行動は、シンプルなものだ。
手の平を前へ。
ほんのり朱色の肌から赤いモヤが透かして現れ、まさに今、祈りを行おうとしていた聖女達を一撫でにする。
「――!?」
手が震えている。
それは、元々あったものとは違う。ハロが起こしたモヤ――冷気によるものだ。
人体を凍てつかせる程のソレは、祈る行為を認めずにフリーズさせる。
「ァ」
トン。
と。
聖女の額に丸い点が空く。
「自分の罪を浄化して貰おう、なんて思いません。抵抗する意志がないなら、そのままご退場願います」
大成功
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エウロペ・マリウス
長引くと厳しいだろうから、誰かと共闘できそうなら共闘しようか
行動 WIZ
「揺り椅子の哲学者。慟哭律する静寂。その罪を我が身に刻み、罰に溺れよ。戒律に叛く華は静寂を尊ぶ(プロースティブラ・ペッカートゥム)」
背中の紋章に強引に魔力を通して、服従の茨が全身を這い熱を帯びる身体
今のボクでは、これに逆らいながら敵を無力化しての戦闘は約1分半が限界
【リミッター解除】して【全力魔法】
氷の【属性魔法】で強化
【多重詠唱】を【高速詠唱】して手数と回転率を上げて
【誘導弾】で【範囲攻撃】するよ
戦闘後は艶っぽい吐息を深呼吸して抑える
未だに怨敵の呪いが我が身を縛る、か
ボクも、人々のように叛くために戦わないとね
アドリブ歓迎
●
地底都市の街並みは乱雑だ。
家屋は低く、最低限の大きさな物が敷地ごとにぎゅうぎゅうと詰め込まれている。
通りは狭く、路地が多い。
「長引くと厳しいかもしれないね」
仲間は、既に散った。
各所で敵を排除している頃合いだろうと、エウロペは思う。
しかし、潰しながら移動していくしかないだろう事に、不安もあった。
最善手ではないにしても、最効率で倒していく方法を選んでおくべきだろう、と。
「およそ90秒、か」
ふぅ、と、重たい息を吐き出して、彼女は目を閉じる。
頭の中で、カチッ、カチッという針の音を想像して、カウントダウンを行う。
――90秒だ。
「揺り椅子の哲学者」
それは、自分自身のタイムリミット。
「慟哭律する静寂」
超過する代償は、己の命そのもの。
「その罪を我が身に刻み、罪に溺れよ」
一秒も無駄には出来ない。
だから。
「プロースティブラ・ペッカートゥム」
熱い。身体が芯から、温度で融けてしまいそうな程に熱い。背中の紋章が、まるで縛り付けるように描かれた茨が、拡がり、侵し、自身を蝕む感覚がある。
「行って」
放出する熱は、薔薇の形をしていた。戦場となった街を駆け巡るそれは、エウロペに敵対の意志を持っている聖女達への強制力が発動する。
祈りの封殺だ。
同時に、細雪の様な粒を無数に産み出し、同じように放った。儚い見た目のそれは、印象に反して高い殺傷力がある。
辺りを通り抜け、聖女達の肉体に癒えない凍傷と肉裂きを作り出して倒す。
それを、徐々に範囲を広げていき、約90秒後。
「ん、ぅ」
膝から崩れ落ちたエウロペは、見上げる岩盤天へと吐息を吐き出す。
潤んだ瞳をゆっくり閉じて、空気を吸い込み、一息。
「……はふ」
廃熱に、急激な冷えを感じていた。
「未だに、怨敵の呪いが我が身を縛る、か」
その心地に笑みを浮かべ、エウロペは目を開けた。
「ボクも、人々のように、叛くために戦わないとね」
聖女の気配は無く、それに比例して、人々の視線が、猟兵達に集まっていった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『月明かりの下で』
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POW : 語らい合って過ごす
SPD : 空を見上げて過ごす
WIZ : もの思いにふけり過ごす
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【断章を今日載せるのでそれからプレイング受け付けます】
声が聞こえた。
目が覚めてから、形だけの祈りを模倣して、決められた時間に眠る。
そんな、生きているのか、死んでいるのか、幸せなのか不幸せなのか。
なんて。
そういう、疑問すら抱かない様な人生にいながらにして、声が聞こえた。
怒りの声だった。
いや、憐れみの声だったかもしれない。
もしかしたら、嘆きの歌が、そうであるのかもしれなくて。
気が付けば、赦しも無いのに外を見ていた。
それは周りの者達も同様で、窓や戸の隙間から、窺うようにした覗きだ。
見咎められる行為だとわかっている。
それでも、気にならずにはいられなかった。
だって、その声は、何故だか全て、自分達の事を言っている気がしたから。
だから見て、そして知った。
絶対の存在だった者達が倒されて行く。幸福は幸せではないと謳う者達によって。この世界の絶対が否定されていく。
――いいのだろうか。
疑問を抱き、無知を恥じ、思い描く幸福の形を求めてもいいのだろうか。
もし……そう……許されるというなら……。
ならば、ここから、這い出る事を、望みたい。
ここではない、どこか、もっと自由な世界へ。
●
地底都市の人々と合流した猟兵は、門番の居ない門を通って地上への通路を行く。
のんびりとはしていられないが、急きすぎることも無いだろう。
先に出るもよし、人のペースに合わせるもよし。
地上へのエスコートさえ完遂出来れば、後は人類砦からの迎えが後を継ぐだろう。
セフィリカ・ランブレイ
実際、どうすればいいんだろうね?
この世界が楽しくやれるようにするにはさ
強者が弱者を虐げるための世界だって言われたら、頷くしかない
『今すぐどうこうってのは、無理でしょうね。ただそれでも……どうしようもなく弱いのが人間で、その逆も然りなのよ』
剣に戻ったシェル姉は、何時もの通りだ
そういうもの、かな。うん、諦めたりとか、そういうのだけはよくないもんね
とにかく、今はここから出て新しい場所を目指す人を応援しよう
どこか状況のよさそうな人類砦に合流できるまでは面倒見ないとね
望むようだったら、少しでも自分の身を守れるように剣の振り方なんかを伝えておこうかな
少しでも、自分の欲しい未来に向けて自分の足で歩けるように
七那原・望
人々のペースに合わせて移動しましょう。
彼らの質問にも答えられる範囲で答えましょうか。
きっと知りたい事がたくさんあるでしょうから。
それ以外にも雑談とかもするのです。
ただお話するだけでもきっと楽しいでしょうし、彼らには色々と溜め込んでいた思いもあるでしょうし。
アマービレでねこさんをたくさん呼んで護衛に参加させます。
……もふもふしてみます?とっても気持ちいいのですよ。
事前に【望み集いし花園】の中で採っておいた果物の数々を歩きながら人々に振る舞うのです。
食の中ではやや嗜好品の分類なのですけど、こういう生きる為に必要だからではなく、ただ美味しいから食べるというのもきっと幸福の形の一つなのです。
エウロペ・マリウス
行動 WIZ
地上の世界は、幸福で満たされているわけでもない
それでも、この地下よりは自由を求めることが許される世界ではあると思うよ
地上も、未だにオブリビオン達の支配が色濃く残っていること
だけれど、その支配から逃れて、手を取り合って過ごす人々もいること
ちゃんと言っておかないとね
自由には、責任が存在し、他者に依存することではないのだから
「豊穣の調律者。繰り返す死への拒絶、盲愛の癒し、訪れる生命の凱歌。謳い、咲き誇れ。清浄なる魔力の調和(クラルス・コンコルディア)」
氷で創られた桜が舞い、人々を癒やす光景
キミ達の新たな門出への祝福だよ
季節外れだけど、趣深く美しい桜だという自負はあるからね
地底の街には、明るさがある。
死闘、からの掃討があり、終わるまで気にしていなかったそれらは、よくみれば地面から壁へ生え揃った苔から生まれていた。
ザリザリとしたたくさんの踏み荒らしが葉先を散らし、空中へと飛ばしては明暗の揺らぎを起こしている。
「いいペースですね」
先導する望は、バラツキのある進行の中でも前の方にいた。
中程、殿と、他の猟兵がそちらにもいて、特に打ち合わせるでもなく自然と隊列が出来たのだ。
前の方になると、子供や若い女性の比率が多かった。
体力的な面もあるだろうが、一番の理由としては望がいるから、というのが大きい。
いや、本人というか、連れているものが目的というかで。
「にゃー?」
高い音で鳴くのは猫だ。一つ起きた声音は連鎖するようにあちこちから響き、ふらふらと子供を引き寄せる力を持っていた。
望が護衛のつもりで呼んだ群れだ。
「もふもふ、してみます?」
気持ちいいですよと、そう続けて言う。
「もふもふ?」
だが、地底で生まれ、人生を管理されていた彼らは動物の事など知らず、もちろん「もふもふ」なる行為の意味が理解は出来ない。
だから、望は歩みは止めないままに猫を抱き上げ「こうです、こう」と実演してみせた。
そこからは――夢中で猫を抱き上げる姿が散見される。
「すごい、ですね」
人が、ポツリと漏らした。
それは猫の事なのか、それとも戦っていた猟兵の事なのか、あるいはどちらもか。
聞けばわかるだろうが、それよりも望は林檎を一つ取り出して静かに差し出した。
「ええ、すごいのです。だから、生きましょう。きっと、違う幸せもあるのですから」
●
歩みが悪いと、セフィリカは観ていて思う。
特に成人以降の男性は顕著だ。怪我をしているとかそういう風でも無く、ただただ足取りが悪い。
その表情からは不安が感じられる。そう、いつか見たことがあるような、将来を憂いているような、そんな顔だと思う。
これから、どうするべきかを考えているのだろうか。
家族を持つ者なら、その思考は特に重たいものだろう。
「どうするのがいいんだろうね、実際」
他の世界以上に、この世界のパワーバランスは異常だ。
強い者が弱い者を踏み潰す。それが日常で、それが摂理。
神も悪魔も、人さえもそう思っているのだから根は深い。
『今すぐどうこうってのは無理でしょうね』
セフィリカが思考を絡ませる事柄を、腰に納まったシェルファは一言で終わらせた。
別に彼女が達観しているとか、冷酷な人格であるとか、そう言うことでもなく、ただそうであることだと理解しているだけだ。
『どうしようもなく弱いのよ、人間って』
ただ。
『ただ、その逆もまた然りなのよ』
「うん、わかってる」
そういうものか、とも思うし、諦める事だけは良くない、とも思う。
「うん」
切り替えの一息を入れて、セフィリカは改めて人を見る。
後ろ向きな感情もあるだろうが、それでもここから出ていくことを選んだ人達だ。その姿勢があればきっと、大丈夫だと信じるしかない。
●
「必ずしも地上が幸福に満ちているというわけではない」
闇が濃く、光は未だ届かない。
「それでも、あの地下とは違って許されている」
自由であること。考えること。立ち向かうこと。
とても厳しい事だが、一切出来なかったこれまでとは雲泥の差があるだろう。
「未だオブリビオンの支配は強いけれど、その目を掻い潜って手を取り合い、戦って過ごす人々もいる」
ただしその結果、良くなるのか悪くなるのかはわからない。
選ぶのは自分で、選んだからには責任がある。
エウロペが言うのは辛い現実だ。
それでも、地上へ向かう背を押す言葉でもあった。
もう、他人に命は委ねない。
そう決めた人達だからこそ、正しい現状を知る必要がある。
「囚われは大変だものね」
誰に伝えるでもない感情を吐露して、見上げる出口の薄明かりに目を細める。
立ち止まり、前へ進む人々へ。
「キミ達の創る未来へ祝福を」
光があった。
苔からの頼りない光が、キラキラとした空中に映される光りだ。
それは、微かな結晶の漂いで、エウロペの紡ぐ言葉によって生まれ変わっていく。
「豊穣の調律者。繰り返す死への拒絶、盲目の癒し、訪れる生命の凱歌。謳い、咲き誇れ。清浄なる魔力の調和」
その日、地下の人々が見たのは、名も知らない花弁の舞いだ。
地上へと旅立つ己らを送り出すその光景は、彼等に強い想いを抱かせる事になる。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年10月27日
宿敵
『調薬師・エーブル』
を撃破!
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