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びいどろドロップス

#サムライエンパイア #戦後

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#サムライエンパイア
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#戦後


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●泡沫に溶ける
 暑さ和らぐ夕暮れ時。ちりん、ちりりんと響く鈴の音が、立ち並ぶ家々の間を通り、響いていく。
 その音を聞いて、子供たちはわっと駆け出し、大人たちもまた、微笑ましげにそれを追う。
 扇や団扇を手にしながら、まだまだ暑いねぇ、なんて笑い合って、人々は街の広場へと集まっていった。
 鈴の音は、サムライエンパイアのとある地域で、夏の終りに現れる水売りの知らせ。
 その水売りが売る水は、切子硝子に注がれて配られる。
 そうしてそこに、とんぼ玉によく似た透明な蜜の玉を入れるのだ。
 すると、水がしゅわりと音を立て、炭酸水へと変化する。
 甘くて冷たい炭酸水は美しい切子の中で、しゅわしゅわ、夏の暑さを乗り切った人々の談笑に心地よい音色を添えることだろう。
 ――これは、そんなひと時に起こりうる未来の話。
 夏の終りを感じながら炭酸水を楽しむ人々の耳に、しゃん、と。水売りが鳴らすそれとは違う音が聞こえて。
 物言わず人々を呪い殺す編笠の外法の呪術師が人々を殺し尽くしたその後に、ゆぅらり、透き通った漆黒の尾鰭を揺らした人魚が、切子硝子の水に、蜜を溶かす。
 ぱちんと弾ける気泡を眺めて飲み干して、水干を纏った少年人魚は、それきり、興味を無くしたように立ち去るのだった。

●甘色の溶ける
「防ぐことは、勿論可能だよ」
 信長軍を駆逐した後のサムライエンパイア。それでも未だ起こりうるオブリビオンに依る凶行を止めて欲しいとグリモア猟兵エンティ・シェア(欠片・f00526)は静かに語る。
 敵は、水売りの元に集った人々を狙って現れる。何より、この土地の人々の楽しみなのだ。
 ゆえに、水売りを追いやることはできない。
 出来るとすれば、水売りの水を共に味わい、敵を引き付けた上で、迎え撃つこと。
「敵の出現位置は把握しているし、水売りや人々を巻き込むことなく戦えるよう手筈も整えるよ」
 だから、安心して水を味わい、心置きなく戦って欲しいとエンティは言う。
「そうそう、その水に入れる蜜の玉なのだけれどね、色んな絵柄が描かれてて、どれを選んでも甘い炭酸水になるのだけど……水売りが言うには、その甘さには幾つもの意味があるらしいよ」
 例えば、愛しい誰かを思う甘さ。
 恋愛、友愛、家族愛。愛がもたらす甘さは格別で、夫婦や恋人、友人同士で互いに蜜を選び合い、相手の水へ入れる者も多いらしい。
 あるいは、勤めを果たした己を労う甘さ。
 夏の暑さにめげず、精一杯をやり遂げた己へのささやかなご褒美として飛び切りの一杯を求めるのだ。
 はたまた、なくした誰かへ思い馳せる慰めの甘さ。
 もう二度と逢えないと嘆く思いも、いつかを願って疲れた心も、とろりと甘い蜜で癒やされるならば。それは、水売りの願いでもあるのだろう。
 どんな意味を込めて蜜を選ぶかは、自由だ。そしてどんな意味を持とうとも、水は選んだ者の望む甘さになるのだ。
「――そんな、思いの集う場所だからこそ、彼らは引き寄せられてしまったのかもしれないけれどね」
 敵対者は、編笠を被った外方の呪術師集団と、それを率いる黒い人魚の少年。
「彼らがどのような攻撃手段を持つかは、相対すれば、自ずと分かるだろう。くれぐれも、油断のないように」
 折角味わった甘さが消えてしまわぬように。
 真面目な顔で言いつつも、最後には笑顔で道を開く。
 ――諸国漫遊、世直しの旅。
「旅は、楽しんでこそだろう?」


里音
 サムライエンパイアより諸国漫遊世直しの旅のご案内です。
 日常、集団戦、ボス戦の流れとなります。

●蜜の玉について
 見た目はとんぼ玉のような、透明な蜜の玉です。指で摘んでも融けたり潰れたりはしませんが、ちょっぴり柔らか触感。
 様々な絵柄があります。お好きなものを選んでいただいてもいいですし、特に選ばなくとも問題ありません。お任せも可能です。
 蜜を選ぶ際はどのような意味を込めるかを記載下さい。
 特に何もなくても、問題はありません。甘い炭酸水を味わいたい。それが意味となるでしょう。
 とびきり甘いから、ほんのり甘いまで、炭酸水は選んだ人のお好みの味となります。

●敵について
 戦闘は水売りの広場からは離れ、街の手前の街道で行います。
 二章、三章開始時点で断章を挟みますので、詳細はそちらをご確認下さい。

●大事
 第一章の受付は【8/5の8:31~】です。ご注意ください。
 二章以降も場合によっては日時指定がありますのでMSページ等をご確認いただけますと幸いです。
 日常章のみの参加、戦闘章からの参加も歓迎ですのでお気軽にどうぞ。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『夕涼みの会』

POW   :    水を浴びる等して涼む

SPD   :    飲み物や食べ物で涼む

WIZ   :    木陰等でゆったり涼む

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オズ・ケストナー
清史郎(f00502)と

わあ、セイシロウあそこ、あそこっ
水売りを見つけ手を引く
とってもたのしみにしてたんだもの

蜜の玉見て
ね、セイシロウ
わたし、セイシロウのをえらんでもいい?

だってとびきりのを見つけた
赤に青を一滴
桜咲く蜜を

お花見するセイシロウの瞳みたい
もちろん甘さは最上級に
あまいの大好きだってしってるもの
いつも微笑んでるセイシロウが
もっとにこにこしちゃうくらいの甘さを

選んでもらった蜜にうれしくなって
わあ、きれい、かわいい
飛び跳ねたくなるのをこらえる

グラスもとってもきれい
日に透かして
みてみて
影を指せば色が映って

かんぱいだねっ
影の色も合わさる

おいしい
セイシロウがえらんでくれたのも、すごくおいしいよっ


筧・清史郎
オズ(f01136)と

俺は甘い物が一等好きだ(とんでもない甘党
ふふ、俺も楽しみにしていた
オズに手を引かれつつ水売りの元へ
敵を誘い出す為にも、甘く弾ける水を共に存分味わおう

ああ、それは嬉しいな
では、俺がオズの蜜を

オズへと選んだのは、空色にタンポポ咲いた様な黄色の色合い混ざる彩
そんな春色の中、お昼寝する猫さん柄のものを
親しき友に、日頃の感謝を込めて
きっとオズの様な、優しい甘さだろうな

おお、しゅわしゅわとなっている(物珍し気
切子も美しく涼やかで良いな
オズの指先追えば、煌めく彩が

ああ、乾杯だ
互いのいろを重ね合い、口にすれば
オズの選んでくれた蜜のこれでもかという甘さに
とても好みの甘さだと、笑みも浮かぶな




 わあ、と。駆ける子供達に混ざって感嘆の声を上げたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、傍らでゆるりと歩む筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)の手をくいと引いた。
「セイシロウあそこ、あそこっ」
 急くように示した先には、水売りが掲げているのだろう、のぼり旗と涼やかな風鈴の音。
 既に街の人々が集まりだしているその場所を見つけてはしゃぐオズに、清史郎は素直に手を引かれる。
「あまり急ぐと、転んでしまうだろう」
「だって、とってもたのしみにしてたんだもの」
「ふふ、俺も楽しみにしていた」
 始めこそ嗜めるように言いつつも、俺は甘い物が一等好きだからな、と笑みを返した清史郎は、オズに倣って少しばかり歩みを早める。
 おそろいの気持ちに、オズもまたえへへ、とはにかむように笑って。
 ちりん、と鳴る風鈴に迎えられるようにして、綺麗に並べられた蜜の玉までたどり着いた。
 敵を誘い出すため――そんな大義名分もあるにはあるが、色とりどりを眺めていると、純粋に楽しい気分で一杯になるもので。わくわくとした瞳が清史郎を見上げる。
「ね、セイシロウ。わたし、セイシロウのをえらんでもいい?」
 ねだるような瞳は、すでにとびきりの一つを見つけていたのだ。
 赤に一滴、あしらうように落とされた青を更に彩る桜の花びら。
 それはまるで、花を愛でる清史郎の瞳のようではないかと、オズの感性が語るのだ。
 清史郎はそれに気付いているわけではない。けれど、オズがそうやって見つめてくるのに、否やなどと言うはずもなく。
「ああ、それは嬉しいな。では、俺がオズの蜜を」
 お返しにと、笑みを湛えて色とりどりを眺め始めた。
 やった、と嬉しそうにほころんだオズは、見つけたとびきりを大切そうに摘み上げて、一度光に透かしてみる。
 自分の知る清史郎の瞳の高さに合わせてみれば、やっぱり、とても良く似た色をしていて。
 これが溶ける水は、最上級の甘さでありますようにと、笑顔が願う。
 清史郎がとんでもない甘党なのはよく知っているのだ。だから、いつも優しく微笑んでいる清史郎が、もっともっとにこにこしてしまうくらいに。
 とってもとっても、あまくなぁれ。
 優しい友人への親愛を目一杯込めて見つめていると、つん、と肩を指先で小突かれる。
「俺も選べたから、水を貰いに行こう」
 にこりと微笑む清史郎に促され、揃って切子硝子に注がれた水を受け取った。
 向かい合い、せーので見せた二つの蜜。清史郎はオズが選んだその色に、なるほどと嬉しそうに綻んで。
 オズもまた、清史郎が選んだ蜜に、わあ、とまた歓声をあげる。
「きれい、かわいい」
 それは、空色をした蜜の玉。晴れ渡った青に、てん、と咲くような黄色は、風に揺れるタンポポの花のように散りばめられ、空に溶けている。
 そんな春色の中に、まぁるくなって眠る猫の柄。
 ぽかぽかと温かい陽気すら漂ってきそうなその蜜に、オズはつい飛び跳ねたくなってしまうが、水の入ったグラスを手にしているのだ。我慢我慢と気持ちを落ち着かせて、代わりにずいとグラスを差し出した。
 にっこり。笑った清史郎の手から水へと蜜が落とされて。
 オズの指先も、大切そうに清史郎の水に蜜を沈める。
「おお、しゅわしゅわとなっている」
「セイシロウ、みてみて」
 細かな気泡が幾つも弾け始めた水を、物珍しげに眺めていた清史郎の袖を引き、オズは日に掲げたグラスが作る影を指差した。
 硝子越しの影は、きらきらとして、色づいて。
 ころん、と気泡に揺れる蜜の玉が、楽しげに跳ねて見えた。
「かんぱいだねっ」
「ああ、乾杯だ」
 触れ合わせれば、涼やかな音。影の色も、重なり合って新しい色に。
 そうして瞳で楽しんだ水は、しゅわりと爽やかな刺激の後に、とびきりの甘さを清史郎に齎した。
「ああ……」
 これでもかというくらい、甘い。
 その甘さが、愛おしい。
「とても好みの甘さだ」
「セイシロウがえらんでくれたのも、すごくおいしいよっ」
 溶かした蜜のような、とろりとした笑みを湛えた清史郎が見たオズは、ひだまりのような笑顔で。
 清史郎が込めた、日頃の感謝を掬い取ってくれたような。そんな優しい甘さがそこにはあって。
 幸せな心地が、また、ほんの少しだけ蜜を甘くしてくれたような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

崎谷・奈緒
穏やかでいい街だなあ。折角の機会だし、イベントを楽しんでいっちゃおう!

どれどれ。いろんな色の玉があるなあ。えーと……ん。あのきれいな赤……あのお店のカクテルを思い出す色だなあ。彼と一緒に、よく飲みに行ったっけ。……別れてけっこう経つけど、元気にしてるのかな。お互い笑顔で別れて。最初は泣いたけど、だんだん思い出すことも少なくなってきて……ふふ、いい思い出かな。

あ、すいません。この赤いのください。

ふむ、甘いけどほんのり苦い。ふしぎなあじー。でも、今の気分にはちょうどいいかな。……せめて遠くから、幸せを願ってるよ。もしまた会えたら、笑ってお話できるといいね。

さーて、やる気が出てきたぞ。お仕事お仕事!




 たたっ、と駆けていく子供に追い越されながら、崎谷・奈緒(唇の魔術・f27714)は微笑ましげに表情を緩める。
 穏やかに時を過ごし、催事に皆が楽しげに赴く街。いい街だなあ、と呟きながら、奈緒もまた、今日のイベントを楽しむべく、広場へと足を向けるのだ。
「どれどれ。いろんな色の玉があるなあ」
 ひんやりとした容器の中に並べられた色とりどり。その一つ一つに違う装飾があり、違う色合いを持っているのをゆっくりと眺めていた奈緒は、ふと、きれいな赤い色を目に留める。
(あのきれいな赤……あのお店のカクテルを思い出す色だなあ)
 少し、以前の話だ。当時付き合っていた恋人と良く一緒に飲みに行った店。
 その店で出されたカクテルには、どんな名前がついていただろうか。
 その色をまだ思い出せるけれど、もう随分と以前のことだとも、認識している。
(……別れてけっこう経つけど、元気にしてるのかな)
 切っ掛けは、なんだっただろう。多分、その時はとても大事なことだったのだけれど、今思い返せば、些細なことだったなあと苦笑するのだろう。
 だけれど、お互い笑顔で別れたのだ。後腐れなく、爽やかに。
 それでも、恋人という肩書を無くしてすぐは、それはもう泣いたものだ。
 寂しくて恋しくて、他にどうすることもできなかったのかと嘆いて、泣いて……次第に、思い出すことが少なくなっていった。
 零した涙の分だけ、好きが消えていったのだろうか。いいや、そうではない。丁寧に折りたたんで、時折開く手紙のように大切にしまい込んだだけ。
「ふふ、いい思い出かな」
 くすり、笑ったのは口元だけで、瞳は、ほんの少し懐かしむように細められ。
 真っ直ぐに見つめた赤い蜜の玉。一度瞳を伏せて開けば、それが一等きらきらして見えた気がした。
「あ、すいません。この赤いのください」
 指先で示せば、どうぞ促す声と共に、切子硝子に注がれた水が手渡される。ちょん、と摘んで、たぷん、沈ませて。
 しゅわ、と音を立てた水で、乾いた喉を潤した。
「ふむ、甘いけどほんのり苦い。ふしぎなあじー」
 ふしぎ、だけれど。別れた恋人を思い起こした今の気分には、ちょうどいい。
 しゅわ、しゅわ。小さな気泡の底で転がる蜜の玉を眺めて、奈緒は誰も居ない正面へ向けて、切子を掲げてみせた。
「……せめて遠くから、幸せを願ってるよ」
 会えないわけじゃない。居なくなったわけじゃない。互いにとって良い経験だったと、彼もそう感じていたと、信じている。
「もしまた会えたら、笑ってお話できるといいね」
 笑って見つめた目線はまだ、彼の背丈を覚えているけれど。
 もう、少女のように熱を帯びてはいないから。
 きっと、キミの笑顔を真っ直ぐ見ることが出来るだろう。
 その時を楽しみにしているよと言うように、炭酸水を飲み干した。
 じわりと広がった苦さに、甘さが重なって、包んで、最後はしゅわり、爽やかに弾ける。
「――さーて、やる気が出てきたぞ。お仕事お仕事!」
 この穏やかな催しを、壊されないためにも。奈緒は空の切子をそっと置いて、足取り軽く離れるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
WIZ

綺麗な玉。溶かしてしまうのが勿体ない。
…これ自分でも作れないかな。炭酸控えめで小さく作るとそのまま口に含んでも良さそうな気がする。

蜜の玉はこの竜胆の花の絵がいいな。同じ色合い・五角形の花の桔梗も好きだけど、竜胆の方が微妙に青みが強いし。紫は好きな色だが俺には強すぎる。
紫水晶も好きだが、やっぱりちょっと強くて身に着けるより眺めて過ごす方が多いし。
グラスは好きな花である彼岸花を思い起こさせる真っ赤な硝子で。
意味はどうしようか。何があってもまっすぐに進めるように?甘さって感じがしないな。
想いは無いわけじゃないけど、通じあわなくてもってやつだから。それはきっとそれ程甘くない。




 とんぼ玉によく似た蜜の玉は、ひんやりと冷やされた硝子の器に色とりどりに並べられている。
 街の人々は思い思いにその蜜を選び、切子硝子に注がれた水へと、溶かしていく。
 なんだか勿体ないな、と。黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)はちらり横目に見やる。
 だけれど、これは水に沈めて、ゆるり溶けるまでを眺めるのも楽しみの一つなのだろう。
 弾ける気泡を、溶けていく蜜を、花火のような儚い美を瞳で味わって、甘さを舌へ。そういう、飲み物なのだろう。
(……これ自分でも作れないかな)
 このままよりも少し小さな、舌先で転がすのに丁度いい大きさになれば、そのまま口に含んでも良さそうだ。
 炭酸が含まれているのは水か蜜か。わからないけれど、控えめな刺激のある綺麗で甘い蜜飴なんて、きっと土産にだってできてしまう代物になるだろう。
 楽しげに思案しながら、瑞樹はふと見つけた竜胆の花に、目を留める。
(こっちは……桔梗か)
 青みを帯びた、五枚の花弁。似たような色と形を持つ二つの花を見比べて、瑞樹は竜胆へと視線を戻す。
 こちらの方が、青みが強い。桔梗の鮮やかな紫色もとても好きな色だが、自分には、些か強すぎると感じてしまうのだ。
 ああ、そういえば紫水晶なども綺麗で好ましい色をしているが、あれもやはり、身につけるには強すぎて。眺めている方が良いと、感じたものだ。
 だから、そう。選ぶのは竜胆。好きな色を、己でも飲み下せるほど柔らかくした、青紫の花の柄。
 蜜の玉を選んだ瑞樹は、水売りがせっせと水を注いでいる切子硝子の中から、真っ赤なそれを所望する。
 紫を好ましく思うのと同様に、瑞樹にとって赤は、好きな花を思い起こす色。
 そういえば、そろそろその花――彼岸花の咲く季節だ。
 竜胆も、桔梗も、秋に見頃を迎える花。折角だから、本物の花を拝みに行くのも悪くはないな、なんて。
 思案しながら受け取った水に、竜胆の蜜を沈めようとして。ぷに、と柔らかな弾力が返ってくるその玉を、指先であそぶ。
(意味は、どうしようか)
 この蜜の玉がもたらす甘さには、意味があると聞いている。
 どのような意味を持つにしても、その蜜を溶かした水は、その人の望む甘さになるのだとも。
 ぷに、と。もう一度指先で押して、見つめる。透き通った蜜に、己はどんな意味を求めるのか――。
(……例えば、か)
 この催しを案内したグリモア猟兵の言葉を、少し思い返してみる。愛とか、労いとか、慰めとか。何でもいいのだと言っていた言葉を。
 ――想い、は。無いわけではない。
 無いわけではないけれど、それは、きっと一方的で、通じ合うことを望まないものだから、どれだけ望んだって、甘くはならないのだろう。
 だったら、誰かに何かを託すものではなく、自分のために願う方が、ずっといい。
「……何があってもまっすぐに進めるように?」
 甘さ、と縁があるともあまり思えないけれど、自分に対する激励ならば、それはきっと、優しい味のするものだろう。
 ぽちゃん、しゅわり――。控えめな水音の後に、爽やかな音色。
 赤い硝子の内側でゆっくりと溶けていく青は、決して、混ざることはなく。
 気泡に転がされながら、やがて溶けて、消えるのだろう。
 冷たい内にと口をつけた炭酸の味は。何があってもと決めた心に沁みる味は。
 さて、どんな甘さだろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
面白いし綺麗な蜜やな、
飴ちゃんみたいやけど、流石にそのまま口に入れるのは無粋やし、
見てるだけでも楽しいわ。
まあ、騒ぎが起こるまではのんびりさせてもらおうか。
先月はそれこそ騒がしかったし。
いっときの休憩てやつや。

子供がおるんやったらサイギョウを動かして
軽く遊んでもらおかな。

そしてそれを壊す奴がおるんなら、
気合の入れ直しやな。
今度は友を誘いたいし、教えるにしても
ええ光景のほうがええやろ。




 水に入れればたちまち炭酸水へと変化させる不思議な蜜の玉。
 そんな面白い要素を持つその蜜は、どれもこれもがとんぼ玉のように綺麗な色と柄をしているのだ。
 不思議なものを見つめるような瞳で、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)はまじまじとそれらを眺める。
 まるで飴玉みたいだ、と。そう思えば、ひょいと摘んで口の中で転がしてしまいたくもなるが、それは無粋というものなのだろう。
 けれど見ているだけでも楽しいもので。ゆっくりと一つ一つの柄を確かめながら、絡新婦はのんびりと過ごした。
「どれにしよかな……」
 どの蜜も華やかで可愛らしい。あれやこれやと眺めた絡新婦は、最終的に戯れな指先が摘み上げた蜜を切子硝子の中に落とした。
 しゅわりと弾けた気泡に乗って、一度ぷかりと浮き上がってきたのは透き通った緑色。その中に、赤い蝶々が飛び交うのを見止め、うん、と楽しげに表情をほころばせる。
 夏の盛りには、騒がしい時間を過ごした。サムライエンパイアも通った、戦争という時間。
 世界一つを守る大掛かりな活動は、慌ただしくて、忙しいもので。
 だからこそ、それを無事に終えた今は、いっときの休憩の時間。
 幾つか並べられた丈の長椅子も風情ある代物で。そっと腰掛けて水売りの水を楽しむ人々を眺めていた絡新婦は、のんびりと過ごす大人の足元で、早々に水を飲みきってかはしゃぎまわる子供達を見つける。
 暑かろうが、寒かろうが、元気にはしゃぎまわる子供の姿は、微笑ましいもので。絡新婦はちょいと指先でからくり糸を操って、自身の持つからくり人形を彼らの傍へと歩ませた。
 狩衣を着た狐人の人形が、ひとりでに歩いて向かってくる様に、子供達は始めこそ驚いたように目を丸くし、少しの警戒心を滲ませていたが、それを操る絡新婦がにこりと笑って手をふるのを見つけて、恐る恐る近寄ってくる。
「この子、サイギョウって言うんよ。遊んであげてもらえんかな?」
 糸を繰る主と同じ仕草で小首を傾げる人形に、子供達は顔を見合わせて、楽しげに笑う。
 いいよ、遊ぼう。はしゃぐ声と共に伸ばされる手のひらからひょいと逃れててこてこと駆け出すサイギョウを、子供達は夢中で追いかけ、大人達はそれを楽しげに眺めている。
 穏やかで、長閑で、優しい光景。
 ――それを、壊そうという輩が現れるというのだから、聞き捨てならない。
 この催しに興味を惹かれる気持ちはわからなくもないが、だというのなら大人しく味わっていけばいいのに。
(なんて、言うても仕様のないことやけど)
 相容れないなら、阻むまで。
 なにせ今度は、一人ではなく友人と来たいと思ったのだ。
 教えるにしても、血の流れた後の復興などより、守り抜いた平穏の方が、良い光景だろうから。
「気合の入れ直しやな」
 ひょい。子供と一緒に駆け回っていたサイギョウを少年の頭の上に着地させて、そのままひょいひょいと自らの手元に引き戻し、絡新婦は悔しげな子供達をにこり見渡す。
「また今度、遊んだってな」
 その時がくるように。務めに行くのは、内緒の話だけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日東寺・有頂
夕辺(f00514)と

鬼の居ぬ間に心の洗濯やね
アレ?もしかすっとこい 俺達の初デートか?

ははあ、こらあ不思議なスイーツドリンクばい
お前ん世界じゃあ水売り言うんはメジャーな商売なんやろうか?
そがん語りつつ夕辺と肩寄せ蜜玉を選ぶ
オイはそうねえ こん、深く澄んだ藍色ん玉にしよか
摘みあげれば震え煌めいて 胸の奥が熱うなる涙色
切子硝子の水に落とす 何やソワソワしてしまう
シュワシュワ音が聴こえたらすかさず一口
…あま 涙色がすっかり、蜂蜜より尚甘か
涙粒拭って柔らかに微笑む蜜の味
俺の為に 泣いて泣いて微笑う狐っ娘の味


佐々・夕辺
有頂【f22060】と

鬼が来たらさっさと追い払わないとね
……。
ああ!
いつも貴方とお出掛けしているから気付かなかったわ!
恋人になって初めてのでーと!緊張するわね…

ええ、水売りさんはいたわよ
普通の水を売るんじゃなくて
こういう風に甘かったり美味しいお水を売る人だけど

言いながら、蜜の器をじっくり見つめる
これね、と手に取ったのは琥珀色の蜜
じっと日にかざしてみれば眩い
ええ、これが良い
貴方の目の玉のようだから

水に蜜玉を入れて溶けるのを待つ
一口含めばとっても甘いけど爽やかで、炭酸がよく判る
あまあましゅわしゅわって感じが貴方だわ
ねえ、美味しい?
そっと相手を覗き込み、笑う
その甘さは私の想いと同じほどよ




 鬼の居ぬ間に心の洗濯。綺麗にすすいだ心がまた汚れてしまわぬように、鬼が来たなら即退散と突きつけよう。
 そんな、仕事を兼ねた一時の休息に訪れた日東寺・有頂(手放し・f22060)は、ふと気づく。
「アレ? もしかすっとこい 俺達の初デートか?」
 何気ないようで、物凄い事に気がついてしまったと言わんばかりの有頂の言葉に、佐々・夕辺(凍梅・f00514)は暫し思案するように小首を傾げてから、ああ! と納得したように声を上げた。
「いつも貴方とお出掛けしているから気付かなかったわ!」
 二人が恋人と言う肩書きを得たのは、最近のこと。
 それ以前にも様々な場所で共に戦い、思い出を作り、同じ時間を過ごしてきたけれど、恋人として二人きりで出かけるのは、初めてのことなのだ。
 そういえばそうだ。納得すると同時に、夕辺はじわり、表情が固まるのを感じる。
 なんだかとても、緊張してしまうのだ。
 どんな距離で歩くべきかとか、手を繋いだりすべきかとか。恋人『らしさ』というものをあれこれ脳裏に過ぎらせては、少しばかりぎこちない所作で有頂を見る。
 けれど、隣の彼は。
「ははあ、こらあ不思議なスイーツドリンクばい。お前ん世界じゃあ水売り言うんはメジャーな商売なんやろうか?」
 並べられた蜜の玉を興味深げに眺めながら、ごくごく自然に夕辺と肩を寄せ合い、自分の知らない夕辺の世界を知ろうとして、いつものように、微笑むのだ。
 そんな彼の隣で、緊張なんてしている場合ではない。折角の時間が勿体ないではないか。
 すとん、と肩の力が抜けた夕辺は、ちょん、と触れた肩に寄り添って、同じように蜜の玉を眺める。
「ええ、水売りさんはいたわよ。普通の水を売るんじゃなくて、こういう風に甘かったり美味しいお水を売る人だけど」
 今日のような蜜ではなく砂糖を溶かした水や、白玉を入れた物だってあったのだと説明する夕辺に、有頂はなるほどと繰り返し頷いて。
 そうして会話を楽しみながらも、瞳は真剣に蜜の玉を選んでいた。
「オイはそうねえ……」
 ゆるり、一通りを眺めて。有頂が見つけたのは、深く澄んだ藍色の玉。
 ひょいと摘み上げれば、ちょっぴり柔らかなそれは、有頂の指先でかすかに震える。光を受けて煌めくさまは、まるで、涙を湛えた瞳のよう。
 なんだかとても、胸の奥が熱くなる。そんな、涙色。
 見つめていると、傍らでも「これね」と満足気な声。
 見れば、夕辺もまた、一つ選んだ蜜の玉を手にとって、光にかざしては眩しげ瞳を細めていた。
 日に透けてきらきら煌めく、琥珀色。
「そん色がええと?」
「ええ、これが良い」
 にっこりと微笑んだ夕辺が、蜜の玉を有頂の顔の横に並べる。
 見比べるような視線が左右を行ったり来たりして、嬉しそうに、ほころんだ。
「貴方の目の玉のようだから」
 嗚呼、と。有頂は夕辺の笑顔に胸中だけで感嘆を零す。
 考えることは、同じなんだなぁ、と。
 互いの瞳と同じ色を、ぽちゃん、と切子硝子の水に落として。ゆぅるり、溶けるのを待つ。
 なんだか、ソワソワしてしまって。有頂は切子の中でしゅわりと音が立つやいなや、すかさず口に含んだ。
「……あま」
 思わず零れたのは、笑みと呟き。
 切なく揺れる涙色が溶けた水は、すっかり甘くて。蜂蜜よりも尚甘い。
 涙粒の溢れる瞳を優しく拭って、柔らかに微笑むような、そんな蜜の味を、有頂が染み入るような心地で飲み下せば、ひょいと覗き込んでくる夕辺と、視線が合った。
「ねえ、美味しい?」
 真っ直ぐに有頂を見つめる藍色は、有頂のために泣いた、涙色。
「ん……甘くって、美味か」
 有頂の答えに、夕辺は満足気に微笑んで、蜜の溶けた水を大切そうに飲む。
 とっても甘いけれど、爽やかで。舌先で気泡が踊る炭酸が、よく判る。
「あまあましゅわしゅわって感じが貴方だわ」
 貴方の瞳の蜜は、貴方の味をくれたから。
 きっと、貴方の選んだその蜜は――。
「その甘さは私の想いと同じほどよ」
 泣いて、泣いて。微笑ってくれる狐の娘。
 その愛がとびきり甘いことなんて、貴方はきっと、知っていたのでしょうけれど!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉瀬・煙之助
理彦くん(f01492)と
せっかくみんなが楽しみにしている場所なのに…
壊されないように守ろうね、理彦くん

蜜の玉……凄い、柔らかいのに触っても壊れないなんて不思議だね
僕は牡丹色で狐が描かれているのにしようかな
んと、思いを込めると甘くなるんだっけ
僕が込めるのは……理彦くんを愛しい気持ち
大切に想う相手は居たけれど、
初めて愛しいと想ったのは理彦くんだけだから…
これからもずっと一緒に居たいし、支えてあげたい

交換…それって僕の気持ちを理彦くんが飲むって事…?
ちょっと恥ずかしいけど、理彦くんの気持ちが気になるから

ん…甘すぎるくらいだけど、僕はこの味好きだな…


逢坂・理彦
煙ちゃんと(f10765)
暦では夏は過ぎたけれどまだまだ暑い日が続くね…暑いのは苦手だからこうやって夕涼みができるのは嬉しいね。
蜜の玉は初めてだけだけどどれも綺麗だね。
色々あって悩んでしまうけれど…
んー…俺は翡翠色に小花柄のこれにしよう。
込めるのは伴侶への愛情。
男同士だから形だけだけれど夫婦の誓いをした人への愛しい思い。
いつも、俺の帰りを待っていてくれる人。
俺の大事な帰る場所。

じゃあ、選んだ蜜の玉を交換して入れてみようか。
お互いの思いが味になるのって素敵じゃない?
ふふ、この蜜の玉がどんな味になるのか楽しみだ♪

これが煙ちゃんの思い…美味しいね。
心に染みる優しい甘さだね。




 暦の上では夏は終わっているけれど、まだまだ夏の盛りであるかのように暑いのだから、堪えたものだ。
 だからこそ、夕暮れ時に少しばかりの秋の装いを感じるこんな時間が優しく感じてしまうのだろう。
「暑いのは苦手だからこうやって夕涼みができるのは嬉しいね」
 逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)の首元は、今日も傷を隠す襟巻きで覆われている。少し緩めて風を通しては肩を竦める理彦にくすりと微笑んで、吉瀬・煙之助(煙管忍者・f10765)は人々の語らう広場を見渡した。
 ちりんと揺れる鈴の音に誘われるように、秋の虫もそろそろ鳴き始めるのだろう。
 それを聞いては夏の終りを噛みしめるように切子硝子を傾ける人々を、見て。煙之助はほんの少し眉を下げた。
「せっかくみんなが楽しみにしている場所なのに……壊されないように守ろうね、理彦くん」
 返される頷きに、ゆるり、笑んで。守るためにもまずは楽しまねばと、水売りが並べる蜜の玉を揃って覗き込んだ。
 色とりどりはどれも綺麗で、一つ一つを眺めては、あれも良いしこれも良いと目移りしてしまう。
 悩んでいる傍らで、これに決めたと摘み上げられていくのを見ては、その不思議な弾力に煙之助は惹かれたように視線で追う。
「柔らかいのに触っても壊れないなんて不思議だね」
「確かに。それに、どれも綺麗だね」
 しげしげ、まじまじ。ますます、悩んでしまう。
 けれど、いつまでも悩んではいられないとばかりに、理彦は一つ、目についた蜜の玉を摘み上げる。
「んー……俺はこれにしよう」
 選んだのは、翡翠色に小花があしらわれた可愛らしい蜜の玉。
 あぁ、それもいいねと頷きながら、遅れまいと煙之助も一つを摘む。
 牡丹色に描かれた狐と目があって、くすり、また笑んで。
「んと、思いを込めると甘くなるんだっけ」
 蜜の玉が齎す甘さの『意味』を、考える。
 とはいえ、甘さに込めたい意味なんて、考えるまでもなく決まっているのだ。
(理彦くんを愛しい気持ち)
 狐の君は、初めて愛しいと想った相手。
 大切、だと想う存在は他にも居たけれど、愛しい、は唯一無二。
 これからもずっと一緒に居たいし、支えてあげたい。そんな思いを、煙之助は蜜に込めた。
 そんな煙之助を横目に見た理彦もまた、彼への愛しさを蜜に込める。
 今は、形だけ。それでも、煙之助は夫婦の誓いを交わした大切な相手だから。
 いつも、理彦の帰りを待っていてくれる人。
(――俺の大事な帰る場所)
 思いを込めるそれぞれの表情が、既に甘く、ほころんでいることにお互いが気付かないでいたのは、いつも、その人の前ではそんな顔をしているせいか。
 それじゃあ水に溶かそうかと顔を上げた煙之助に、理彦はにこり、提案する。
「じゃあ、選んだ蜜の玉を交換して入れてみようか」
「え」
 きょとん。一瞬瞳を丸くしてから、煙之助は気恥ずかしげに眉を下げる。
「……それって僕の気持ちを理彦くんが飲むって事……?」
「そういうこと。お互いの思いが味になるのって素敵じゃない? ふふ、この蜜の玉がどんな味になるのか楽しみだ♪」
 うきうきと、どこか楽しげに蜜の玉を差し出してくる理彦と彼の蜜を見比べて、煙之助は、おず、と切子硝子の水を差し出す。
 恥ずかしい気持ちが無いわけではないけれど、理彦の気持ちが気になるから。
 理彦の指先から落とされた蜜の玉をじっと見つめてから、自分も同じように、理彦の水に蜜を捧げる。
 そうして、しゅわしゅわ、音のする水を、そっと口に含んだ。
「これが煙ちゃんの思い……美味しいね。心に染みる優しい甘さだね」
 ゆっくりと、噛みしめるように嚥下した理彦の言葉に、恥ずかしさが一瞬膨れ上がったけれど、それを柔らかに包み込むような甘さが、煙之助の心にも沁みる。
「ん……甘すぎるくらいだけど、僕はこの味好きだな……」
 こんなにも、たくさん。甘い愛を抱いてくれているなんて。恥ずかしいからと断らなくて、良かった。
 互いに差し出した愛情を、ゆっくりと飲み干して。顔を見合わせては、笑い合って。
 そんな、ささやかで幸せな、夕涼みのひと時。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮
琴子ちゃん(f27172)と

選び手にした蜜玉にはお日様の絵
心に灯したのは家族への思い
大好きで大切で、いつだって私の背中を押してくれる
家族みんなの笑顔はいつだって私を勇気づけてくれる

きみの乾杯に笑顔で返して
ん?私?
私は家族を思って選んだよ
琴子ちゃんは…大切なお友達の、なんだね

ふふ、しゅわりと泡になっていく蜜玉
見ているだけでも涼しくなってくる
こくり舌を撫で広がった味は優しい甘さ
心にじんわり染み入る様な、それでいて弾ける刺激が楽しさも添えて
うん、美味しい!

あ、ねえねえ琴子ちゃんもう一杯飲めそう?
今度はお互いの蜜玉を選ぼうよ
(どうかきみが背伸びせず楽しめる様に)
透明の蜜玉には出会ったあの日の紫陽花模様


琴平・琴子
亮さん(f26138)と

遠い遠い何処かにいる王子様の貴方と
貴方に連れられて凛々しいお姫様の貴女
今の私は貴方がたの様になれているでしょうか
彼方にいる二人に思いを馳せ
王冠のついた蜂蜜色の蜜玉を選択

亮さん乾杯
どんな蜜玉を選んだんですか?
ご家族の?
私も家族は好きですけど
今回は家族の様な、友の様な
そんな方々の事を思って選びました
友達なんて恐れ多いかもしれないけど否定はせず

切子硝子に注がれた蜜玉を転がしながら溶かして
口に流し込めば甘酸っぱい蜜の味
控えめな甘さは慰める貴方の様で
酸っぱさは未熟と叱咤する貴女みたいだった

もう一杯?
それなら…
この紫陽花模様はどうですか?
あの日出会った出会った時の光景の様




 光に透ける、まぁるい玉。
 まだまだ暑さを齎し続ける陽射しは、幾らか傾いて来たけれど。天音・亮(手をのばそう・f26138)の手に収められた蜜の玉には、真昼のお日様が照っている。
 本物の陽射しを浴びて、きらきらと光る太陽の蜜。それを見つめる亮の心には、家族への思いが灯る。
 大好きで大切な家族は、いつだって亮の背中を押してくれる存在。
 その顔を一人ひとり思い起こせば、彼らは自然と笑顔を向けてくれて。それが、いつだって勇気を与えてくれる。
 たぷん。大切な家族と、家族へ込めた思いを湛えた蜜の玉を、そ、と水に沈めれば。
 しゅわ、と。小さく弾けるのは、まるで華やかな笑い声。

 蜂蜜色の柔らかを、ちょん、と摘んで持ち上げる。
 王冠のような絵が見せてくれるイメージは、御伽噺の王子様か、あるいはお姫様か。
 琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)にとっては、両方だったかもしれない。
 遠い遠い何処かにいる王子様と、その人に連れられた凛々しいお姫様。
 貴方と貴女は、今頃どこに居るのでしょう。
 今の、自分は。貴方がたのように、なれているでしょうか。
 問いかけるような言葉を思いに乗せて、琴子は蜜の玉へと込める。
 彼方にいる貴方がたへ――願う声に、小さな気泡がしゅわりと応えてくれた気がした。

「亮さん乾杯」
 そっと差し出された切子硝子と、その向こうに見えた笑顔に、亮は嬉しそうに乾杯と返す。
 しゅわ、しゅわと溶けていく蜜の玉を揃って眺めながら、ふと、琴子は亮を見上げて尋ねた。
「どんな蜜玉を選んだんですか?」
「ん? 私? 私は家族を思って選んだよ」
「ご家族の?」
 ころり、蜜の玉を転がしながら、亮は琴子と視線を合わせて笑む。
 切子の中でとろり溶け始めた蜜の玉を見せて、私のお日様、と告げる亮に、琴子は大きな瞳をぱちりと瞬かせ、つられたように微笑んだ。
「私も家族は好きですけど」
 今日選んだのは、家族を思い起こすものではなくて。家族のようにも思えるけれど、友のようにも感じているような。
「そんな方々の事を思って選びました」
「琴子ちゃんは……大切なお友達の、なんだね」
 友達なんて、恐れ多いような気がして。けれど、否定をしたくもなくて。
 こくん、と。少し間を開けて、それでもはっきりと、琴子は頷いた。
 そんな琴子に、微笑ましげに表情を緩めた亮は、しゅわしゅわと音を立てて存在を主張している水へと視線を戻す。
 見ているだけでも涼しくなってくるような、そんな爽やかさを感じて。くい、とひと口含んだ。
「――うん、美味しい!」
 こくりと喉へと流れるまでに、舌を撫でて広がったのは、優しい甘さ。
 心にじんわりと染み入るような甘さは、そればかりではなく、弾ける炭酸の刺激が楽しさも添えてくれているのだ。
 込めたのは、家族への愛だけれど。同時に、彼らに愛されているのを感じ入るようだった。
 ぱっ、と晴れやかな笑顔を見せた亮の傍らで、ちび、と口に流し込んでいた琴子は、しゅわしゅわとした炭酸に含まれた、甘酸っぱい蜜の味に、きゅ、と一度だけ唇を結ぶ。
 感じた甘さはちょっぴり控えめで、優しく慰めてくれる貴方のよう。
 ぴりと舌先を刺激する酸っぱさは、未熟と叱咤する貴女みたい。
 二人を思い起こせるその味に、琴子は懐かしむようにほんのりと笑んで、大切そうに、ゆっくりと飲み干していった。
 冷たくて甘い、美味しい炭酸水。なくなるのはあっという間で、ごちそうさまと空の切子を両手で包んだ亮は、ふと、思いついたように琴子を見やる。
「あ、ねえねえ琴子ちゃんもう一杯飲めそう?」
「もう一杯?」
「そう、今度はお互いの蜜玉を選ぼうよ」
 提案に、また、大きな瞳をぱちりと瞬かせた琴子もまた、楽しげに微笑んで。
「それなら……この紫陽花模様はどうですか?」
「あ、ふふ、私も紫陽花模様が気になったの」
 並んで覗き込んだ蜜の玉で、見つけた揃いの紫陽花模様。
(どうかきみが背伸びせず楽しめる様に)
 祈り込めて落とした亮の蜜が、たぷん、しゅわわ。音を立てる。
 真っ直ぐな笑顔が込めた出会いへの感謝もまた、同じように爽やかに弾けて。
「甘いね」
「美味しいです」
 顔を見合わせた二人は、揃って笑顔を咲かせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
こっちの水は甘いか〜
なんて、唄もあるらしいけれど
夏の終わりや暑い日に愉しむ
炭酸水は格別だろうねぇ、楽しみだ

ドラゴンランスのニールも肩に乗っけって
一緒に、蜜の玉とやらを楽しむよ〜
懐かしい夕暮れみたいな色合いを
選んだとんぼ玉に込める想いは…
珍しい炭酸水を味わえますように、と。
爽やかな甘さを楽しめたなら万々歳だねぇ
相棒にもお裾分けはするけど……
全部飲まれてしまうのは
困るなぁ、なんて笑いも交えて
美味しい報酬でやる気も補充したことだし
この後のお仕事も頑張らないとねぇ

アドリブも歓迎です




「こっちの水は甘いか~」
 ――なんて、唄もあるらしいけれど。
 全容は、どんな唄だっただろうか。ゆるりと思い起こしながら、鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)は傾き始めた太陽を見やる。
 暑さは続けども、確実に秋へと近づいているらしいと感じられるのは、夏の盛りよりは幾らか、日が短くなったのを感じるゆえに。
 そんな時期に愉しむ炭酸水は、きっと格別なのだろう。
「楽しみだ」
 はしゃぐ子供と同じように駆けることはしないけれど、その足取りは軽く、弾む。
 肩にはドラゴンランスから転じた白い竜も乗っている。ひょこりと顔を覗かせるその視線が何を見ているのか、ちらり見て。共に蜜の玉を楽しんだ。
「ニール、これが気になるのかい?」
 あれも、これも。綺麗で良いなと眺めつつも、白竜の視線を追いかけた先に見つけた蜜の玉に、エンデの興味も引かれる。
 それは、懐かしい夕暮れみたいな色の蜜。
 一日の終りに感じるほんの少しの物寂しさを感じさせるその色は、なんとなく、今日見ている夕暮れよりも深い色で。
 きっと、これから迎えようと言う秋の装いなのだろう。
 惹かれ、摘み上げたその色を、じっ、と見つめるのはふたりぶんの、四つの瞳。
 透明なとんぼ玉みたいなそれに、見つめる顔が二つ映るのだから、つい、顔を見合わせて見たりして。
 気軽な心地で水の中に沈めたエンデは、ころり、切子硝子を揺らして蜜の玉を溶かしていき。
「さて、どんな味がするのだろうねぇ」
 一口目は、己の口に。
 二口目は、相棒の口に。
 それぞれ少しずつ、含んでやった。
「ああ、これは……」
 なんとも不思議な味わいだと、エンデは笑みを深めてグラスを見つめる。
 珍しい炭酸水を味わえますように。込めた願いに応じて、水は期待が転じた甘さを彼らに齎した。
 弾ける気泡は爽やかに口の中で踊り、その度に、ほんのりとした甘さが広がっていく。
 控えめだと思った甘さは、けれど喉へと流す間際に、急に強くなるのだ。もう一口、と尾を引く後味に、先に誘われたのは相棒の方。
「あぁ、こら。ボクもまだひと口しか飲んでないんだよ。全部飲むのは困るなぁ」
 グラスに顔を突っ込んで飲もうとするニールからさらりと奪って二口目。満足行くように味わいながら、首を伸ばしてねだる相棒にくすりと笑って寄越してやる。
 ニールが炭酸の刺激にぴるぴると顔を振る仕草がなんだか可愛らしくて、思わず笑って。
 そうして分け合った水は、前払いの美味しい報酬と言えるものだろう。
「やる気も補充したことだし、この後のお仕事も頑張らないとねぇ」
 頼りにしているのだからね? と。濡れた鼻先を小突いて微笑うエンデに、ニールはその指先に擦り寄って応えてくれる。
 けれど、いまは。やっぱり炭酸水が気になって仕方のない様子なのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東海・豊彦
焔(f28047)と

此処は…記憶の中のあの村に似ています
だから、郷愁と慙愧とが一層胸を締めつける
焔に促されどこか覚束ない足取りで街へと

噂に違わぬ美しい蜜の玉ですね
水売り殿、青海波の柄を2つ
焔の蜜には不甲斐ない私を支えてくれる労いを込めて

ほ、焔…?
味見した焔の様子に慌て
けれど返る答えに小さく漏れる笑み
…それはよかった
では、ゆっくり味いましょう
キミは甘いものが好きだから…ね

弾ける泡の合間に
大人たちの他愛もない会話
走り回る子らの笑い声
ああ――そうだ、久しく忘れていました
人の子らの営みは、こうも愛おしいのだと

こんな穏やかな日が続けば良いのに…
いえ、続くように
今度こそ守り抜くために
私たちは戦うのですね


九紫・焔
主君(豊彦:f28052)と

何処か遠くを見ている主君
また、お心を痛めているのだろうか
…日が陰ってきたとは言え、まだ暑う御座ります
まずは水売りのところへ参りましょう

万一に備え
水売りとの会話の合間も辺りを警戒しつつ
ちらと覗いた蜜の玉は何とも美しく興味を引く

主君から有難く賜った水を眺め
斯様に弾ける水は初見ゆえ
まずは某が
面を浮かせ口にすれば喉で弾ける炭酸にびくり
咽るまではいかずも顔顰め
こ、これは…面妖な!
けれど続く清涼感と染み渡るような甘さに
じんと胸が熱くなるようで
息を整え主君に向き直り真面目な顔で
甘露甘露、に、御座りまする

先程よりも少し和らいだ様子の主君に
微か安堵を抱きつつ
改めて御守りせんと心に誓う




 東海・豊彦(わだつみのはらひ・f28052)にとって、その街は初めて訪れる場所であった。
 それは間違いないのに、その場所は、豊彦の記憶に残る村に、よく似ていると思ってしまった。
 人々の優しげで楽しげな雰囲気がそう思わせるのか。それとも、並ぶ町並みに面影を見つけてしまったのか。
 わからない、けれど、似ていると思ってしまった瞬間から、豊彦の胸中には郷愁と慚愧が疼いてしまって。
 きゅぅ、と、胸を締め付けられるのだ。
 物憂げな豊彦の瞳は、どこか遠く、古を見つめるよう。ふらりと覚束ない足取りですらある豊彦を支えるように手を添えて、九紫・焔(海碧に燃ゆ・f28047)はかすかに瞳を細める。
(また、お心を痛めているのだろうか)
 優しい主君がそれゆえに嘆く思いに満たされてしまいがちなのを、焔はよく知っている。
 だからこそ、何も言わずに。ただ傍に、仕えるのだ。
「……日が陰ってきたとは言え、まだ暑う御座ります。まずは水売りのところへ参りましょう」
「あぁ……そう、ですね」
 自身の声に、豊彦の心が現実へ戻ってきてくれる事実を、そっと、確かめながら。
 聞き及んだ水売りの広場には、賑やかでいながら穏やかな活気があった。まばらな人混みをするすると抜けてたどり着いたその場所には、ひんやり、冷やされた器の中に、幾つも並べられる蜜の玉。
「噂に違わぬ美しい蜜の玉ですね」
 静かな声が、視線と共に蜜の玉を撫でていく。一つ一つの意匠を眺める主の傍ら、焔は万一の襲撃に備えるよう、ちりちりと辺りに警戒を向けていた。
 ……けれど。
「水売り殿、青海波の柄を2つ」
「はい、どうぞゆるりとお召し上がりくださいな」
 切子硝子に注がれた水に、選んだ蜜の玉をちゃぷんと落としていく豊彦の指先に惹かれるようにちらと視線を向けた焔は、彼が持つ蜜の玉が、それが並んでいた器の中の色とりどりへ、興味が引き寄せられた。
 焔が興味深げに蜜の玉を見つめているのを横目に見て、豊彦は嬉しそうに微笑むと、受け取ったグラスの内の一つに、思いを込める。
 いつも、不甲斐ない己を支えてくれる焔への、ささやかな労い。
「焔」
 呼ぶ声と共に差し出された切子を、焔は両手で恭しく拝受すると、まじまじとそれを見つめた。
 しゅわしゅわと音を立てる炭酸水は、焔にとっても豊彦にとっても、初めて見るもの。
 ゆえに、深々と礼をした焔は、まずは某がと被った面を浮かせ、ひと口、口に含んだ。
「……!?」
「ほ、焔…?」
 びくり、と。目の前の焔の肩が震えた。綺麗な顔が、険しく顰められる。
 言いようのない感覚を耐えるように口元を抑え、むぐむぐと動かしている焔の様子に、おろおろと狼狽える豊彦だが。
「こ、これは……面妖な!」
 やがてごくりと焔の喉が鳴って、ぷは、とたまりかねたように息を吐いた彼の言葉に、きょとん、と目を丸くした。
 炭酸の刺激は焔に未知の刺激を与えた。咽ずに飲み干せたのは豊彦から賜ったものであるがゆえか。
 ともかく、心底驚いた焔だが、刺激の後に続いた清涼感と、そこに混ざった染み渡るような甘さは、飲み下した今でも口の中に残っているのだ。
 それは、豊彦が焔に与えた甘さであって。じん、と胸が熱くなるような心地に、焔はようやく、息を整えることができた。
 そうして、大丈夫なのだろうかと慮るような豊彦に、大事無いと言うようにまっすぐ向き直ると、真面目な顔で。
「甘露甘露、に、御座りまする」
 そう、告げたのだ。
 ぱちくりと、瞳を瞬かせた豊彦は、けれどすぐに破顔して、そう、と頷く。
「……それはよかった」
「しかし些か刺激が御座いますゆえに、少しずつ味わうのが良いかと」
「では、ゆっくり味いましょう。キミは甘いものが好きだから……ね」
 忠告は忠告として受け取って。それ以上に、焔が好む甘さならば、一息に飲み干すのは勿体ないだろうと微笑んで。
 豊彦もまた、初めての炭酸水を味わった。
 舌先に触れる刺激に焔と同じように肩を跳ねさせつつも、共に爽やかな甘みを味わって。
 促された竹の長椅子にそっと腰を掛けて、賑やかな広場をゆるりと見渡す。
 しゅわ、と。心地よく響く泡音の合間に、他愛もない話に花を咲かせる大人たちの声を聞き。その足元でくるくると走り回る子供達の笑い声を聞き。
(ああ――そうだ、久しく忘れていました)
 何気ない、些細な日常。人の子らが営む、穏やかな毎日。
 それが、こうも愛おしいものなのだと。
「こんな穏やかな日が続けば良いのに……」
 小さく呟いた豊彦の声に、焔はその横顔を見る。
 その顔は、先程よりも和らいでいた。それでもまだ寂しげだと思っていたその顔が、す、と引き締められるのを、見た。
「いえ、続くように。今度こそ守り抜くために、私たちは戦うのですね」
 一つ決意を口にしたその顔には、いつもの儚さはなく。
 それでも、変わらず慈愛に満ちた優しさを湛えていて。和らいだ顔に微かな安堵を抱いていた焔もまた、その感情を忠義に染める。
 この人を、御守りせん、と。心に誓うその手元で、しゅわり、泡が軽やかに弾けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

ふむ、水に蜜玉を入れて炭酸水にするか。この世界らしい風流な風習だね。まあ、招かざる客も来るようだが、まずは家族3人で水売りのご自慢の品を頂こうかね。

蜜玉の模様は姫百合を希望。蜜に込めるのは家族愛。瞬も同じ様だが、奏は違う意味の愛も加えるようで?(ニヤニヤ)炭酸水は後からくるほんわりとした甘さ。不思議なものだね。惹き付けられるのが多いのもわかるような。ゆっくり味わおうかね。ああ、こういう時間も貴重だ。後の事を考えれば、ね。


真宮・奏
【真宮家】で参加

透明な硝子の器に蜜玉を入れて炭酸水にして飲む!!最高じゃないですか。見た目もいいですし、涼むのにもいいです。そうですね、後から来る物騒なお客さんも気になりますが、今はこの風流な催しを楽しみましょう!!

蜜玉の模様は撫子を希望。蜜玉に込める愛は(小声で)恋愛にします。勿論炭酸水の味は恋のとても甘い味。(瞬に視線を)はい、甘いです・・・(顔真っ赤)楽しめる時は楽しむ、それは猟兵にとって大事ですよね!!(照れ隠しに腕をぶんぶんしつつ)


神城・瞬
【真宮家】で参加

ふむ、水に蜜玉を入れて炭酸水にすると。この世界らしいですね。見た目も美しい。それ故に危険な存在も惹き付けられるようですが。まあ、まずはこの炭酸水、満喫しましょうか。

蜜玉の模様は菫を希望。込める意味は家族愛。ほんわりとした柔らかな甘さですね。(奏の視線を受け)奏の水は甘いんですね。(微笑み)こういう時間こそ存分に満喫しなければ、ですね。その後の事を考えれば、尚更です。




 ちりん、風鈴の揺れる音に誘われて、真宮家の三人は水売りの広場に訪れていた。
 そこには既に大勢の人が各々に蜜の玉を選んでは、切子硝子の水の中に投じる様子が、見て取れて。
「ふむ、水に蜜玉を入れて炭酸水にするか。この世界らしい風流な風習だね」
「ええ、確かに、この世界らしさを感じます。見た目も美しいですし」
 真宮・響(赫灼の炎・f00434)の言葉に深く同意して頷きながら、神城・瞬(清光の月・f06558)は並べられた蜜の玉を眺めて微笑んでいる。
 落ち着いた様子の二人に対し、真宮・奏(絢爛の星・f03210)は些かはしゃいだ様子で、切子硝子の綺麗な模様や、蜜の玉に描かれた様々な意匠を、瞳を輝かせて見つめていた。
「透明な硝子の器に蜜玉を入れて炭酸水にして飲む!! 最高じゃないですか」
 とっても涼しげで、まだまだ暑いと感じる今の時期にもぴったりだ。
 風情ある催しは、こうして街の人にとっても季節の楽しみの一つとなっていて……それ故に、招かれざる客というやつも、惹かれてしまうのだろう。
 グリモア猟兵の予知では、後から無粋で物騒な客人がいらっしゃるとのこと。
 危険な輩がこの催しを壊してしまう未来を思うと、自然、三人の表情にも険しさがよぎる。
 けれど、今は愉しむことが大切なのだ。
「まずは家族3人で水売りのご自慢の品を頂こうかね」
「そうですね、後から来る物騒なお客さんも気になりますが、今はこの風流な催しを楽しみましょう!!」
 元気一杯な様子の奏に、くす、と笑みをこぼして。瞬もまた、同意するように頷いて。
 まずは、と。幾つも並ぶ色とりどりの中から、自分の好みの蜜の玉を探し始めた。
「どれも綺麗です」
「そうだね、ついつい目移りしちまうよ」
「こうして選ぶ時間も、楽しいものですがね」
 肩を寄せ合い、あれも良い、これも素敵だとそれぞれが好きなように口を出し、口を挟みながら、最終的には一つを選び出す三人。
 響は姫百合の柄を。奏は撫子の柄を。そして瞬は菫の柄を。それぞれが、違った花の柄を選んだのだ。
「どんな味がするんだろうね」
「甘いといいですね」
「……きっと、甘いです」
 ぽちゃん、ちゃぷん、たぷん。それぞれが蜜の玉に意味を込めて、切子硝子の中へと沈めていく。
 ぷかりと浮いたり、沈んだり、気泡に転がされたりしては、花の絵がくるくると舞うように動き、柔らかく溶けていく。
 その光景に暫し見入ってから、こくり、揃って炭酸水に口をつけた。
「ああ、爽やかでいいね」
 しみじみと呟いた響は、奏と瞬を、それぞれ見やる。
 生んだ子供と、拾った子供。どちらも分け隔てなく限りない愛情を注いで育ててきた響が蜜に込めたのは、当然ながら家族愛だ。
 それが齎す甘さは、ほんわりと柔らかい。暖かな家庭をそのまま味にしたような、穏やかな甘さが炭酸の爽やかさの後からしっとりと感じられて。思わず、顔がほころんだ。
「不思議なものだね。惹き付けられるのが多いのもわかるような。ゆっくり味わおうかね」
「人によって味が変わるというのは確かに不思議ですね」
 興味深げに頷く瞬もまた、響と同じような家族愛を込めて溶かしたのだろう。味の感想は響と同じようで、けれど響とは違った、育てられた側としての暖かさを感じているようだ。
 と、瞬がのんびりと炭酸水を味わっていると、不意に奏と視線が合った。
 ずっと、見つめられていたのだと。瞬はすぐに気が付いたけれど、告げることはせず。代わりに、にこりと微笑んで。
「奏の水は甘いんですね」
 朗らかに、尋ねた。
 その笑顔に、奏は真っ赤になって見つめていた視線をわずかにうつむかせて、はい、と小さく呟いて。
「甘いです……」
 消え入りそうな声で、そう言った。
 家族愛を込めた二人と違って、奏だけは、その蜜に違う意味を込めていた。
 それは、恋愛。密かで、ほのかな、恋心。
 義兄に当たる瞬への想いは、家族としての愛情とは少し、違うものなのだ。
 気付いているけれど、自分はまだ未熟だからと知らぬふりをしている瞬は、今日もまた、同じように見ないふり。
 甘酸っぱさすら感じる二人の様子に、響がグラスの影でニヤニヤと楽しげに笑っていた辺り、しっかり筒抜けの様子だけれど。
「た、楽しめる時は楽しむ、それは猟兵にとって大事ですよね!!」
 照れて真っ赤になった顔を隠すように、空いた腕をぶんぶんと振りながら言う奏に、そうですね、と瞬は穏やかに微笑む。
「こういう時間こそ存分に満喫しなければ、ですね」
「ああ、こういう時間も貴重だ。後の事を考えれば、ね」
 照れたり、和んだり、微笑ましくなったりしながらも、猟兵としてこの催しに参加している目的は、忘れていない。
 顔を見合わせ確かめ合って。家族一丸となって、務めに向かう、真宮家であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
自分の番が来て、まず目に留まったのは切子硝子
以前訪れたグリードオーシャンの彩煌島でも
こんな綺麗な硝子細工見たなぁと思い出す

蜜の玉、お互いのを選んで入れてみない?と提案
おぉ、さすが俺のことよく分かっているね梓
梓が選んでくれた蜜の玉、すぐ気に入って
きっと自分でもこれを選んだだろうなと思う

それじゃあ梓は…
少し悩んだけど、これかな
赤い花と青い花が描かれた蜜の玉を取り
君の大好きな、焔と零の色だよ
あはは、結局自分が選びそうなものを
互いに選んであげていたわけだね、俺達

蜜には「いつもありがとうね」と
ささやかながら感謝の気持ちを込めておいた
梓が選んでくれた蜜の炭酸水は
さっぱりと飲みやすい甘さ


乱獅子・梓
【不死蝶】
確かに、この切子硝子ごと買っていきたいくらいだな

お前だったら…これじゃないか?
手に取ったのは、赤地に白抜きの蝶が描かれた蜜の玉
赤に蝶だなんてこの上なくお前に合っているだろう

へぇ、良いチョイスじゃないか
綾が選んだ蜜の玉の柄を満足そうに眺め
俺も悩んだ末にこれを選んだかもしれない
どうだ、綺麗だろう?と、水の中に入れる前に
焔と零にも見せびらかしてやる

そんな改まって感謝されると若干こそばゆいな…
ま、そう思うなら無茶は程々にしろよ
そう笑いながら炭酸水を飲み干す
結構甘みが強い気がしたが、美味い

俺からは、アリスラビリンスでの戦争お疲れさん
という労いの気持ちを込めた
いやぁ色々あったな…しみじみ思い出し




 水売りの広場には街の人々に加え、猟兵達の姿も多く見られた。
 幾つかに分けて並べられていた蜜の玉が入れられた器にも、小規模ながら人だかりができてははけてを繰り返しているようで。
 周りの人々が思い思いの水を手に過ごしているのをのんびりと眺めて賑わいが一段落するのを待っていた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、ようやくその輪の中に立ち入った。
 色とりどりの蜜が並ぶ光景と、それを待ち構えるように備えられている幾つもの切子硝子。
 その光景は、つい最近、自分達が救いの一助を差し伸べ、復興への道を歩み始めたグリードオーシャンの島で見たものと、重なるものがあった。
「あの島でも、こんな綺麗な硝子細工見たなぁ」
「確かに、この切子硝子ごと買っていきたいくらいだな」
 繊細な意匠を眺めているのも楽しいが、今日は、選ぶのは硝子ではなく蜜の方。
 ひんやりとした器に並べられたそれを見ながら、綾はお互いのを選んで入れてみないかと提案した。
 そんな提案を既に予想していたのか、あるいは視線が勝手に探していたのか。梓は相槌を返しながらも、特段迷うことなく一つの蜜へと指を伸ばした。
「お前だったら……これじゃないか?」
 手にとった一つは、赤くてまぁるい透明な蜜。その表面に、白抜きの蝶々が舞っている絵柄をしていた。
「赤に蝶だなんてこの上なくお前に合っているだろう」
 どうだ、と窺う梓は、どことなく自信有りげな顔をしている。
 その指先が持つ赤色に舞う蝶々が、黒でも赤でもなく、白色なのは……綾のお気に召す所だった。
「おぉ、さすが俺のことよく分かっているね梓」
 きっと、自分でもその蜜を選んでいたことだろう。赤い蜜も蝶々の絵柄も沢山あるけれど、どれを見ても、梓が選んだもの方がしっくり来るのだ。
 満足気な梓に、綾もまた、彼にあった蜜をと眺める。
 梓の印象に合うものは色々あって、それ故に様々に目移りしていた綾だが、幾らかつけた目星から少し悩んで、これかな、と一つ、摘み上げた。
「君の大好きな、焔と零の色だよ」
 そう言って微笑んだ綾が持つそれは、赤い花と青い花が描かれた透明な蜜。
 焔も零も、勇ましいドラゴンではあるけれど、梓の肩で戯れる姿は、可愛らしい花に例えたって何らおかしくはない。
 そんな二色が同時に描かれた蜜に、梓もまた、気に入ったと口に出すより先に笑みを湛えた。
「へぇ、良いチョイスじゃないか」
 互いで選んだものを交換して、改めて、満足そうに眺める。
「俺も悩んだ末にこれを選んだかもしれない。ほら、どうだ、綺麗だろう?」
「あはは、結局自分が選びそうなものを互いに選んであげていたわけだね、俺達」
 まじまじと眺めては、焔と零に見せびらかすように掲げた梓にくすくすと笑いながら、二人分の水を受け取った綾は、水に落とす直前にもう一度見つめてから、ぽちゃん、とグラスの中に沈めた。
「梓」
「ん、サンキュ」
 手渡したそれに、梓の手から蜜が落とされる瞬間、
「いつもありがとうね」
 にこり、綾は微笑む。
 たぷん、と音を立てた水面に、しゅわ、と気泡が浮かぶ。そんなわずかの間だけきょとんとした梓に、綾は切子硝子を掲げて見せて、「ささやかだけど込めておいたから」と微笑う。
 ぱちりと瞳を瞬かせた梓は、気恥ずかしげに表情を緩め、同じようにグラスを掲げると、綾のそれに軽く合わせて。
「そんな改まって感謝されると若干こそばゆいな……ま、そう思うなら無茶は程々にしろよ」
 乾杯と交わして、ぐっと飲み干した。
 しゅわしゅわと弾ける炭酸の刺激の中に、強く感じる甘み。
 感謝にしては随分と甘やかしたような味で、けれど清涼感を齎すその水は、とても、美味かった。
「俺からは、アリスラビリンスでの戦争お疲れさんって言う労いを込めた」
 いやぁ色々あったな……としみじみした調子で思い起こす梓に、くすくす笑いながら口をつけた綾は、さっぱりとした味わいに喉を潤す。
 色々あったと言う割に、この飲みやすさとは。なんて、思わず溢れるのはやっぱり笑みで。
 甘いが過ぎるのは、一体どちらであるのやら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
ああ
良い夏の風物詩だねえユキエ(相棒の鸚鵡に話し掛けておでこをくすぐってやる)
オレらもご相伴に預かろっか
冷や水を貰って、と
落とす蜜玉はユキエが選ぶかい?
ユキエが『うん。ユキエあれが良い』と指すのは黄色に薄紫の水玉模様の物
じゃ、あれにしよっか
郷の菜の花とれんげ畑を思い出すなー
ねーちゃんとかお師さんとか…郷のみんなどーしてるかね
秋の彼岸にしれっと顔見に行くかな

炭酸も甘さもほんのり気味
はー甘い物には慣れてないからちょうどいいや
手に少し分けてユキエにも
お?気に入った?(飲み干して指まで舐めてくるのを頭を撫でて宥める)

さ、のんびりさせて貰った
…この団欒、皆殺しになんかさせちゃなんねーな

アドリブ可




 ちりんと音を立てる風鈴も、ひんやりと涼し気な器達も、それにつられて出てくる人々も。この季節にこそ見られる光景で。
「ああ、良い夏の風物詩だねえユキエ」
 伴った相棒である鸚鵡のユキエに声を掛けながら、くりくりとおでこをくすぐってやれば、ユキエはその指先に甘えるように擦り寄ってくる。
 そんな仕草に愛らしさを覚えながら、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は広場へと歩んでいった。
「オレらもご相伴に預かろっか」
 水売りから切子硝子の水を受け取り、今はまだ炭酸すら帯びていないただの冷や水を揺らしながら、蜜の玉へと視線を移す。
 幾つも並んだ色とりどり。どれにしたものかと悩み始めたトーゴに、ユキエはちょこちょこと彼の肩から腕へと移動しながら、身を乗り出して同じものを眺めていた。
「落とす蜜玉はユキエが選ぶかい?」
 尋ねれば、任せておくれと言わんばかりに軽く羽根を震わせるユキエ。そうして、じぃっとつぶらな瞳で蜜の玉を眺めた後。
 ちょい、と羽の先で一つの蜜を示した。
『ユキエあれが良い』
 追って確かめれば、とろりと甘い黄色に、薄紫の水玉模様が描かれている蜜の玉を見つける。
「じゃ、あれにしよっか」
 可愛らしい絵柄の蜜の玉をひょいと取り上げて、まじまじと眺めれば、それはどことなく、郷里の光景を思い起こさせる。
 一面に広がった菜の花や、小さく揺れるれんげの畑。
 そんな場所で、共に過ごした人々の姿も。
「ねーちゃんとかお師さんとか……郷のみんなどーしてるかね」
 郷では、色々あった。幼心には気づくことのできなかったほのかな恋や、それを自ら壊し、失う事となった顛末。
 傷心に出奔した身ではあるが、決して、郷が嫌になったわけではないのだと、しみじみ、思う。
(秋の彼岸にしれっと顔見に行くかな)
 驚くだろうか。怒るだろうか。想像すると、懐かしさも増すような気がして。表情を緩めながら、トーゴは蜜を水へと落とした。
 そうして眺めている内にしゅわしゅわと音を立て始めた水を物珍しげに眺めつつ、そっと口に含んで見れば。
 見た目ほど強烈ではない、ささやかな炭酸と、それに伴ってほんのりと味わえる程度の控えめな甘さが広がる。
「はー甘い物には慣れてないからちょうどいいや」
 望む味になるというのは本当だったのだなぁ、などと思いつつ、ちびちびとグラスを傾けていたトーゴだが、肩でまたちょこちょことユキエが動くのを感じて、蜜を選んでくれた彼女にもおすそ分けをと少し手に取り差し出した。
 くちばしでちょんと突けば、ほのかな炭酸。驚いたように一度ぴゃっと跳ねのいたユキエだが、再びおずおずと口をつける頃には殆ど感じないほどになっていたようで。
 控えめな甘さも気に入ったらしく、すぐさま飲み干して、物足りなさげにトーゴの指まで舐め始めた。
「お? 気に入った? はは、くすぐったいくすぐったい」
 頭をなでて宥めては、もう少しだけ手に分けて差し出して。
 今度は指を舐めている間に、自分の口にもまた少しずつ流していく。
 ユキエと戯れながら水を楽しむ光景は、周囲で同じように水を飲んでいた人々にとってもとても和む光景のようで、微笑ましげな視線がちらちらと向けられていたのに気が付いたのは、もうほとんど飲み干した頃。
「さ、のんびりさせて貰った」
 グラスを返しつつ、トーゴは改めて、水売りの広場を見渡した。
 大人も子供も、旅人である猟兵達も、皆が同じように水を楽しみ、お喋りに花を咲かせる憩いの空間が、そこにはある。
「……この団欒、皆殺しになんかさせちゃなんねーな」
 きりと表情を引き締めたトーゴに、ユキエもまた、決意を表すように大きく片羽根を広げるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペペル・トーン
ライラちゃん(f01246)と

貴方は甘いのはお好き?
私は好きよ
愛ってやわらかなことよね、きっと

私は目を閉じて、縁に任せるわ
どれも綺麗で可愛いもの

込める想い…いいわ、教えてあげる
私のゴースト達を想ってよ
友愛…それって…?
あら、不安なの?とてもステキなものなのに
貴方の想う友のお話
聞いてみたいわ、いつかね

ん、確かに友達よ
でも私達はきっと友愛とは違う
あの子達との間に友情はないもの
愛してるだけよ、お互いに水底くらい深く
そうね…溺愛に近い…かしら?
だから、とても甘いと思うのと笑んでみせ
蜜が落ち、無意識に混ざる愛惜の情

眩しいくらいに
そう、甘くなくてはいけないわ
でも偶に、さみしく思うの
幸せなのに、不思議よね


ライラック・エアルオウルズ
ペペルさん(f26758)と

甘味は何より大好きだとも
愛の甘さは初めて味わうけどね

選ぶ柄は花のものがいい
華やかで羨ましくもあるよな
込める想いに、相応しいもの

――貴方はどんな想いを?
つい問うて、野暮かと眉間押さえ
ええと、僕は親愛なる友を想う様な
大切を想う様な、友愛を込めたくて
とは云え、不安でもある
捧げる友愛の味がどんなものか
それを身を以て知るのが、少しね
苦味が混じるなら相応しくないし

おや、喜んで語るけれど
貴方にも友達はいるだろう?
友情の否定には眉下がれど
溺愛が紡がれたなら、綻んで
とても甘いのは羨ましいね
僕もそうあればと、蜜を杯に

幸せだから、だろうさ
満たされているからこそ
空になるのを想像するんだ




 綺麗でまぁるい色とりどり。彷徨うように一通りを眺めてから、ペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)はそっと傍らを見上げた。
「貴方は甘いのはお好き?」
 私は好きよ、と微笑む少女に、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は同じように微笑んで、頷きを返す。
「甘味は何より大好きだとも。愛の甘さは初めて味わうけどね」
 あい。ライラックの言葉を口元で反芻して、ペペルは再び、色とりどりを眺めた。
 彩り豊かなこのまぁるいものは、蜜でできていて。どんな甘さもお好み次第なのだという。
 そして、その甘さには意味がある。
 例えばそう、愛だとか。
「愛ってやわらかなことよね、きっと」
 よく、わからなけれど。めくる御伽噺から覚えた印象は、そうだったから。
 だから、ペペルは瞳を伏せて、柔らかで可愛らしい蜜を選ぶのは縁をたぐる指先に任せることにした。
 どれにしようかな、なんて口ずさむ歌が聞こえてきそうな少女を横目に、ライラックは一つ一つの絵柄を確かめながら、その中から花を探す。
 赤い花。白い花。黄色い花。様々な花を眺め見て、一等華やかで、羨ましくもあるような。
 込める想いに相応しい――薄紫色の花を、手にとった。
 ペペルの指先が選び取ったのもまた、花だった。
 ライラックの花と似た薄紫だけれど、彼のそれよりは小ぶりに見える花。くるりと指先で全体を眺め見れば、薄桃や白などもちらちら、散らすように描かれていて。可愛らしい、蜜の玉だった。
「やっぱり、どれも素敵ね」
 嬉しそうに微笑むペペルを真似て、ライラックもまた、くるりと蜜を回して。
「――貴方はどんな想いを?」
 つい、興味のような感情に唆されて口をついた問い。
 吐き出したことに気が付いてから、ライラックははたとしてやや眉を寄せ、皺の寄りそうな眉間を抑える。
 野暮なことを聞いてしまったか、とすぐさま湧いた後悔だが、そんなライラックの所作を一通り眺めていたペペルは、色の違う左右の瞳で彼を見上げ、くすり、微笑んだ。
「いいわ、教えてあげる」
 そ、と。蜜を目線より上の高さに掲げて、小さな花達が寄り集まっているのを見つめる。
「私のゴースト達を想ってよ」
 会ったことはなかったかしら。小首を傾げつつも、彼らの話は幾度かしたはずだと微笑むペペルの表情は、柔らかくて、ほの甘くて。
 彼女が口にしたように、やわらかな愛を湛えているように、思えた。
 見つめて、眉間を抑えていた手をそろりと口の下まで下ろしたライラックは、ええと、と言葉を濁してから、教えてくれたペペルに、自身の込めた思いを伝える。
「僕は親愛なる友を想う様な……大切を想う様な、友愛を込めたくて」
 友愛。なんだか聞き慣れない響きだと言うように首を傾げたペペルに、ライラックはふと笑んで、改めて蜜の玉に視線を落とす。
 ころり、指先で転がる紫色の花を、見つめる。
「――とは云え、不安でもある。捧げる友愛の味がどんなものか……それを身を以て知るのが、少しね」
 この蜜を溶かした水に。苦味は、混ざっていないだろうか。
 人々が妄想だと嗤う声に毒されて、親愛なる友への思いに澱みを作ってはいないだろうか――。
「あら、不安なの? とてもステキなものなのに」
 軽やかな声に、ライラックは再び顔を上げて、小首を傾げたペペルを見る。
「貴方の想う友のお話、聞いてみたいわ、いつかね」
 そう言って微笑んだ彼女に、つられたようにゆるり、頬を緩めて。
 まるで知らないものを知ることに瞳を輝かせているかのようなペペルに、ひょいと肩を竦めてみせる。
「おや、喜んで語るけれど。貴方にも友達はいるだろう?」
「ん、確かに友達よ。でも私達はきっと友愛とは違う。あの子達との間に友情はないもの」
 そういう言葉はしっくりこないの、と言いたげに首を振ったペペルに、ライラックの眉がほんのりと下がるのは、一瞬。
「愛してるだけよ、お互いに水底くらい深く。そうね……溺愛に近い……かしら?」
 友情を否定しながらも、ペペルの表情には変わらずほの甘い。
 共に在るのが当たり前で、そう在ることが幸せで。互いの存在を肯定することだけで世界が回る、深い愛。
 それを湛えた蜜は、きっととても甘いと思うと、ペペルは笑んで見せるのだ。
「とても甘いのは羨ましいね」
 紡がれる溺愛に覚えた微笑ましさと、言葉通りの羨ましさを孕んだ表情は、柔らかに微笑んで。
 僕もそうあればと、蜜を切子硝子へ託した。
 ぺぺルもまた、蜜を落として。しゅわ、とあがる気泡に、瞳を細めて見つめる。
 傾き出した陽射しを浴びながら、しゅわしゅわ弾ける気泡は、とても眩しくて、とても、儚くて。
「――でも偶に、さみしく思うの。幸せなのに、不思議よね」
 甘くなくてはいけないのに。
 無意識に混ざった愛惜の情には、ペペルの水にほんの少し、海のような塩辛さを混ぜている。
 不思議だと小首を傾げるペペルに、ライラックはまた、少しだけ眉を下げて。
「幸せだから、だろうさ」
 しゅわしゅわと音を立てる炭酸水は、あまくて、あまい。
 けれどそれも、飲み干せばからになるのだと、彼は知っている。
 知って、しまっているから。
「満たされているからこそ、空になるのを想像するんだ」
 そう言って、彼は捧げた友愛を味わって。
 少女は己の溺愛を、暫し見つめるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリエ・イヴ
【契】アドリブ◎
甘い蜜…
選ぶとしたら海賊らしく宝や海への愛かそれとも…
ふと見知った姿がうつった気がして
選ぶ蜜玉を変える

ああでも、ソレをすぐに捕まえる必要はない
きっと、すぐ出会うから

やっぱシェフィーだったか
じっくり味わえる場所を見つけると同時
シェフィーを見つけて捕まえる
1度目は見逃したが
2度獲物を逃がす趣味はねぇんだ
シェフィーはどんな蜜にしたんだ?
ひょいっとシェフィーの杯を奪い取り一口
素直に甘~い味を選べばいいのに
好きだろ、シェフィー
見せつけるように自分のグラスに蜜の玉をポトリと落とす
口をつけ飲み下す前に奪われたが
笑って尋ねる
味はどうだ?きっととびっきり甘いだろうよ
だってそれはシェフィーへの味だ


シェフィーネス・ダイアクロイト
【契】アドリブ◎
上着無し
蜜玉お任せ

確かこの世界は此れが作られた地(赤衣餓狼に触り
文献を漁るか

馴染みが薄い和の武器の書物を探す途中、水売りと遭遇
※水に関する物は落ち着くので好き

切子硝子?(メガリスとは違うが綺麗だ。留めておこう
一つ貰う

硝子越しに天敵の姿が見え、すぐ其処から離脱するが…

何故、貴様が此処にいるアリエ・イヴ(捕まる
此処に海は無いが
一度目?(噫…其の野生じみた嗅覚と”幸運”─)
な、勝手に…(杯を奪われ睨む
海賊が強奪されるのは好かぬだろう

彼の蜜玉入り炭酸水を乱暴に奪う
苛つきつつ飲む

(酷く甘ったるい…が、底に…)
私の?
嗤わせる

彼の杯を押し返す
充たされる前に

この味はまるで
愛など不要
ならば何故…




 その蜜は人によって甘さを変える。選んだ者が、望む甘さになるようにと、意味を込めるがゆえに。
 なんとも不思議な代物だと思いながら、アリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は蜜の玉をゆるり眺める。
 己が望む甘さなど、海賊らしい、宝や海への愛だろう。いや、あるいはもっと甘さに相応しい何かがあるかもしれない。
 思案する間も楽しいというやつだろうか。口角を上げて笑っていると、ふと、蜜の玉に――それを並べた硝子の器に、見知った顔が映った気がした。
 ぱちりと瞳を瞬かせ、顔を上げても、その姿が居るわけではない。
 けれど、確かに。そこにいたのだと。アリエは、不思議と確信を抱いた。
 しかし、ソレをすぐに捕まえる必要なんて無いのだ。きっと、すぐに出会える。
 だからこそ、先程よりもより深く笑みを湛えて、改めて蜜の玉を眺めるのだ。
 選ぶ蜜に与える甘さは、決まったのだから。

 ――何故あいつが。
 足早に広場の隅へと移動しながら、シェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)は苦虫を噛み潰したような顔をする。
 己の振るう得物、『赤衣餓狼』の作られた地であるとしり、サムライエンパイアという世界に興味があったのは事実。
 馴染みの薄い和の武器に関する文献でも漁ろうかと書物の所蔵が多そうな街を渡り歩いていた所だったのだ。
 時期と地域が重なって、この水売りに遭遇できたのは不思議な良縁だと思ったものだ。
 グリードオーシャンで海賊として海を渡るシェフィーネスにとって、水に関わるものは、落ち着く心地がして好ましいのだから。
 並べられた切子硝子とやらも、きらきらとして綺麗で。メガリスとは違うようだが、惹かれるままに、心に留め置くこととした。
 一つ貰う。告げれば、その水に入れるための蜜を促される。
 選んだ者の望む甘さになるということで、どれを選んでも結局の所、味は『変わらない』というのならと、目についた蜜を摘み上げてグラスへ落とす。
 海色の青に描かれた、波のような文様と、それに浚われ揺蕩うような薄紅の花が、気に入ったのだ。
 しゅわ、と気泡が浮き上がってくるのを物珍しげに眺めた、そこまでは良かったのに。
 硝子越しに見えたのは、天敵の姿。
 硝子を挟まずに確かめて、すぐさま踵を返して――今に至る。
 そう、広場の隅で隠れるように佇んでいたその場所に、ふらりと現れた愉快げな笑みと対峙した、今に。
「やっぱシェフィーだったか」
「何故、貴様が此処にいるアリエ・イヴ。此処に海は無いが」
 睨み据えるようなシェフィーネスの眼差しにも怯むどころか笑み深め、アリエは自身の手に握られた切子硝子を示してみせる。
 この場所へ来る目的なんてこれだろうと言わんばかりに。そうして、じっくりと味わえるところを探してたどり着いた先に彼が居たのだと、笑ってみせる。
 その手は、しっかりとシェフィーネスを捕まえているにも関わらず。
「1度目は見逃したが、2度獲物を逃がす趣味はねぇんだ」
 にぃ、と鋭利なほどに口角を上げて笑ったアリエに、同じ目線で刺せる程の視線を返したシェフィーネスは、彼の言葉に、その言葉が示す意味に、一瞬、思い馳せた。
 一度目、とは。そう、その野生じみた嗅覚と『幸運』によって齎された邂逅。
 望まぬままに雷を駆けて空へ、空から海へ、海の底へ。
 一蓮托生と笑った男が、その腕と雰囲気に引きずられた男が、何かを告げて、何もかも掻き消されたあの一瞬。
 その果ての『二度目』に、アリエの浮かべる笑みの意味とは――。
「シェフィーはどんな蜜にしたんだ?」
 ひょい、と。シェフィーネスが思考に陥った一瞬の隙をついたように、アリエの手があっさりと手の中のグラスを奪っていった。
 気安い調子でひと口。含んだその水は、炭酸ばかりが強くて、甘さは後にほんのりと広がる程度で。
 へぇ、と意外そうに呟いたアリエは、そのままクツクツとわらう。
「な、勝手に……」
「素直に甘~い味を選べばいいのに。好きだろ、シェフィー」
 そんなに睨むなよと笑えばますますシェフィ―ネスの眉間の皺は深く刻まれ、瞳は険しく釣り上げられる。
 海賊であるシェフィーネスは――そうでなくともこの男には――強奪されるなんて、好かぬことに決まっているのだから。
 挙げ句、奪い返そうと手を伸ばした時にはあっさりと手放すのだから、たちが悪いなんてものではない。
 笑ったままのアリエは、あーあと口だけで言いながら、見せつけるように、己のグラスに蜜の玉を落とした。
 しゅわ、と音を立てた気泡。それが、まるで、奪ってみろと言っているかのように聞こえて。
 アリエが口をつけて飲み下す前に、シェフィーネスは乱暴にそのグラスを奪い取った。
 仕返しのつもりだったのに、それを待ち構えていたかのように、また、あっさりとグラスが彼の手から離れる。
 奪ったはずなのに、受け渡されたかのようで。けれど突き返しては負けを認めたようで、苛つきながらも、同じように彼の水を飲んでやった。
 酷く、甘ったるい。
 けれど、それだけではなくて――。
「――味はどうだ?」
 とびっきり甘いだろうよとアリエがわらう。
「だってそれはシェフィーへの味だ」
「私の?」
 こくり。喉を流れて胃の腑に落ちていく水が、どろりと、いつまでも居座るような感覚に。ハ、とシェフィーネスの口元から皮肉げな笑みがこぼれた。
「嗤わせる」
 そう言いながら、グラスを突き返したのは。充たされてしまいそうな心地になったせい。
 飲み干してしまえば、あの甘ったるさに飲み込まれてしまいそうな、そんな気がした。
(この味はまるで――)
 形容し難い感情が、澱のように燻っている。
 愛など、不要なもの。そう、理解しきったつもりだったのに。
 何故、それを『愛』だと捉えたのだろう。
 こくり。己のグラスから、さして甘くない炭酸を流し込んでも、アリエの甘さは消えない。
 それどころか、甘ったるさの底に沈められた、どろりと重い何かを巻き上げるかのように。
 シェフィーネスの内側を、いつまでも侵食していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雅楽代・真珠
ちりり聞こえる鈴音に誘われにいこう

しゅわり弾ける泡沫が侍国にもあったとは
長く暮らしていても知らぬ事が沢山あるね
年中桜が咲く世界でさいだぁを飲んだ事がある
しゅわしゅわは美味しいね
好きだよ

僕が思うのは何時だってこの世界の安寧だ
僕の故郷であり、愛しい人の眠る土地
四季の彩に満ち溢れ
いついつまでも健やかに
弥栄を祈っている

店主、蜜玉を頂戴
床几があれば腰掛け頂こう
波文の描かれた蜜玉は恋にも似た甘い味
しゅわり弾ける泡沫なのに
喉奥が一瞬焼けるよう
如月が口に出来ないのは少し残念

猟兵の仕事は他の者たちがするだろう
人魚が出るそうだけれど僕は僕以外に興味はない
のんびり甘露を楽しむよ
店主、後からまた来てね

おかわりを、頂戴




 日が、随分と傾いてきた。
 その分、吹く風は幾らか心地よさを増したようで。ちりりと聞こえる鈴の音も、一層軽やかに響いてくる。
 誘われるようにして、雅楽代・真珠(水中花・f12752)はゆぅるりとその広場にたどり着いていた。
 人々が楽しむ水を、その水面に弾ける泡沫を横目に見ながら、少しばかり意外そうに、口元に袖を添えた。
(長く暮らしていても知らぬ事が沢山あるね)
 この世界にも、こんな物があったなんて。
 年中桜が咲く世界で、『さいだぁ』なるものを飲んだ事があるけれど、この世界ではとんと馴染みのないものだった。
 甘くて冷たいしゅわしゅわは、美味しいものだった。
 珍しくとも、この世界でも受け入れられるのは納得できるものでもあって。真珠は満足気に蜜の玉の前までたどり着いた。
 選ぶ蜜には意味を込める。願いを託す。思いを添える。
 けれど真珠が思うことなど、いつだって決まっていた。
 真珠の故郷であり、愛しい人の眠るこのサムライエンパイアという世界が、安寧であること。
 そっと手を伸ばした器の周囲は、冷やされているのか、心地よい温度で。それをそう感じるのは、夏の暑さがあってこそなのだろうと、真珠は柔らかく笑んだ。
 巡る四季が見せる彩は、いつだってこの世界を満たしてくれるもの。
 それが脅かされることなく、失われることなく、いついつまでも、健やかにあれ――。
 弥栄を願う真珠の瞳が、四季折々や風物詩、他愛もない日常さえも描かれている蜜の玉を一通り撫でて。最後には、店主を見つめた。
「店主、蜜玉を頂戴」
 その、波文の描かれたものを。袖口から微かに覗くだけの指先で示せば、店主は切子硝子に水を注ぎ、丁寧に取り上げた蜜を沈めて、手渡してくれる。
 受け取って礼を述べた真珠は、そのまま竹で作られた長椅子へと腰を下ろす。
 自立式のからくり人形『如月』が作ってくれる日陰に、鈴を鳴らす風がふわりと舞い込んできて。しゅわ、と泡沫がうたう。
 音と温度を楽しんでから、ひとくち。味わった水は、とても甘かった。
 恋にも似ているその甘さは、優しくて。けれどしゅわりと弾ける泡沫を伴って飲み下せば、一瞬、喉奥が焼けるよう。
 まるで、渇望するかのようではないかと小さく笑って、もう一口。慣れてしまえば清涼感として受け取れる刺激を楽しみながらも、傍らの如月が口にできないのが少し残念だとも、思ったりして。
 夕暮れ時の穏やかな時間を、ただのんびりと楽しんだ。
 ――この場所に、不届きな輩が現れるという話であった。
 けれどその仕事は、他の者たちがするだろう。
 一応話だけは聞いたのだ。人魚が出るらしいという、その話も。
 けれど、真珠は真珠以外に興味はない。愛しい人が可愛いと言ってくれた己が己のままあれば、それだけで良い。
 気負うことがないならば、のんびりと甘露を楽しむまで。
「店主」
 そろそろ、離れたほうが良いらしい。
 この広場がいかに戦場とする場所から離れていようとも、要らぬ不安を覚える必要はないのだから。
 促す声が聞こえてくる。穏やかな時間はそろそろ終わるのだろう。
 けれどきっと、この仕事は無事に解決されるだろうから。また後から来てねと真珠は微笑む。
「おかわりを、頂戴」
 空になった杯を示して、ふぅわりと笑んだ真珠に、店主は嬉しそうに頷いた。

 ――さぁ、心置きなく行っておいで。
 果たすべき仕事を終えたなら、きっとまた、憩いの時間は戻ってくるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『編笠衆』

POW   :    金剛力
単純で重い【錫杖】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    呪殺符
レベル×5本の【呪殺】属性の【呪符】を放つ。
WIZ   :    呪縛術
【両掌】から【呪詛】を放ち、【金縛り】により対象の動きを一時的に封じる。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夕闇に溶け込む
 日が落ちる。街並みを照らし、長い長い影を作りながら、沈んでいく。
 賑やかで穏やかな時間を過ごしていた街へ、しゃん、と錫杖の音が響く。
 幾つも幾つも、連なり重なり、響いてくる。
 ――けれど、編笠を被った彼らが、その街へ立ち入ることはない。
 そうなる前に、立ちはだかる者が居るから。
 寡黙な集団が、猟兵達を敵対者とみなし、錫杖を得物のように構える。
 大柄な体躯が振り回すそれは、単純に鈍器としての威力を侮ることはできぬのだろう。
 そしてそれ以上に、彼らが纏う不穏な邪気が、呪術的な攻撃手段を予期させる。
 広場からは、随分と離れた。水売りを名残惜しんでぐずる子供やお喋りが止まらなくて歩みの遅れる大人が居ても、彼らを巻き込むことはあるまい。
 ここを、通さねば。
「――退く気はないか」
 涼やかな声が、編笠衆の後ろから聞こえてくる。
 ならば仕方がないと、同じ声が紡ぐ。
「全て排除するまで」
 声を号令に、編笠衆は次々と、猟兵達へと襲いかかってくる――!
東海・豊彦
焔(f28047)と

穏やかな人の営み
愛おしく、慈しむべき、子らの日常
私は…今度こそ、それを守ると決めました
ですから、ここから先には通しません

頼みましたよ、焔
前に出る背に声をかけ
相手の呪詛を少しでも弱めるよう破魔の祈りを込めた結界術を展開
剣の花が舞ったら【矢絣】で駆け回る焔の援護射撃を
先程味わった「夏」の象徴――朱色の「火」を宿して放つ
焔が私に気を割かぬよう己はオーラにて防御を固め
必要ならば多重詠唱・念動力で焔の写しを動かし応戦
…手に持って振るう勇気は、まだ、無いから

人の子らを守るため
貴方がたを赦すわけにはいきません
ですが、どうか、荒ぶる御霊が浄化され
貴方がたもまた、穏やかに眠れますように――


九紫・焔
主君(豊彦:f28052)と

来たか、悪鬼ども
罪無き民草を無下に殺めるなど言語道断
退く気など毛頭無い
呪詛の一つも残さず斬ってくれようぞ

まずは頭数を減らさねば
初手は八仙花、数を調整して放つ
散った我が写しを辿るように移動し残った者に切り込む
海に還りたい者から前に出よ!
我が剣技を篤と味わえ

彼奴等の攻撃、特に呪詛は可能な限り見切って避け
食らえども某には幾分耐性がある
更には主君からの破魔の加護
金縛りに遭ったとて数歩は歩けよう
写しの散る結界の中ならその数歩で跳躍できるはず
無論、主君に危険が及びそうなら其方へ

貴様らの後ろにも主が居るのだろう
だからとて加減はすまい
某は主君を、主君が愛するものを守ると決めたゆえ




 表情の伺えない編笠の集団。その群れが、ただの旅の僧などではなく、明確な敵意と殺意を持った存在だということは、ひしと肌で感じていた。
 きっと恐ろしい存在なのだろう。それを理解しながらも、東海・豊彦はわずかもその足を引くことはしない。
 己が立つこの道の先には、穏やかな人の営みがあるのだ。
 愛おしく、慈しむべき、子らの日常。
「私は……今度こそ、それを守ると決めました」
 真っ直ぐな眼差しは、編笠衆達を捉えて。紡がれるその声に、震えはない。
「ですから、ここから先には通しません」
 そんな主の決意を汲み取り、九紫・焔はすかさず豊彦の前に立ち、すらり、刃を抜き払う。
 人の子らの元へ――それ以上に、主の元へ。たどり着かせる気など無いと言わんばかりに、鋭く一同を睨めつけて。
「罪無き民草を無下に殺めるなど言語道断。退く気など毛頭無い。呪詛の一つも残さず斬ってくれようぞ」
 言うや、素早く地を蹴る。
 頼みましたよ、と静かに告げられた主の声に背を押され、まずは、頭数を減らすべく肉薄した。
 駆け出そうとする最前線へ牽制がてら一閃切り込みながら、焔は本体たる己の刃の写しを幾つも紡ぎ出す。
「万物は是、流転無窮――我が妙技、いざやご賢覧!」
 霊力によって生み出されたその刃達は、目の前の編笠衆達を次々と切り刻んでいく。
 命を削ぎ落とす集中砲火と牽制のための剣閃。上手く調節しながら敵の出鼻をくじきつつ、焔は、しゃん、と音を立てる錫杖の音に、鋭い視線をそちらへ向ける。
 振るわれた写しが砕かれ、四散していた。けれど、弾けた霊力の欠片は足元へと刺さり留まると、彼の助けとなるべく、力を放つのだ。
「海に還りたい者から前に出よ! 我が剣技を篤と味わえ」
 た、と踏み込んだ焔の身体が、四散した破片達に導かれるように、一瞬で敵の前に出る。
 文字通り目にも留まらぬ速さで間合いを詰められた編笠の呪術師は、咄嗟に両掌から呪詛を放ち、金縛りによって焔の足を止めんとするが、豊彦が展開した破魔の祈りに阻まれ、完全には至らない。
 そうして一歩、踏み込めれば十分なのだ。
 破魔に重ねて、呪詛への耐性を持つ焔であれば、なおのこと。
 禍々しい悪鬼を斬り捨てるのに、大した障害とはならなかった。
 すぅ、と吸った息を、ゆっくりと吐き出して。豊彦は駆け回る焔の動きを目で追いかけながら、その背に加護を与えるように、妖力を練り上げる。
 ――矢羽根 とべとべ 魔をはらえ。
 豊彦の唄うような声に応えるように、その指先に、彼の周りに、炎が踊る。
 先程味わったばかりの、『夏』を象徴するような熱が、くるりと朱色の円を描いて、矢へと転じて。
 幾何学模様を描き、複雑に飛翔しながら、敵対者を次々と射抜いていった。
 豊彦が放つ矢の軌跡を辿るようにして、一度だけ振り返った焔は、主君が己の身を守るべくオーラでの防御をしているのを確かめ、彼へと通る射線をさり気なく妨げながら、また一体、編笠を斬り捨てる。
 いつでも主の元へと迎えるように神経を研ぎ澄ませながら、刃を構え、じりと距離を詰め。
「貴様らの後ろにも主が居るのだろう。だからとて加減はすまい」
 物言わぬ、傀儡のような彼らに、微かに瞳を細める。
「某は主君を、主君が愛するものを守ると決めたゆえ」
 踏み込む焔の剣戟に合わせるように、彼の写しが――ほんの少しのぎこちなさで――振るわれる。
 急所を狙うには甘く、剣士の目には単純な一閃は、焔ではなく、豊彦が操るがゆえ、だろう。
 けれど焔はそれを確かめない。振り返ればきっと、唇を噛み締め、微かに眉を寄せた顔を見ることになる。
 この、尊い人は、命を削ぎ落とすための刃を、躊躇なく手にすることなどできぬ、優しい人なのだから――。
 おおよその想定通り、少しの震えを諌めるように手を握った豊彦は、それでも俯くことをせず、戦場を見定めた。
「人の子らを守るため、貴方がたを赦すわけにはいきません」
 ですが、どうか。
「荒ぶる御霊が浄化され、貴方がたもまた、穏やかに眠れますように――」
 甘いと言う者がいるのを、豊彦だって知らないわけではない。
 けれど、焔はこれを優しいと言う。
 今はまだ、彼に甘えるばかりだけれど。だからこそ己が信念を貫き、豊彦は祈るのだ。
 穏やかなれ、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

崎谷・奈緒
【連携・アドリブ歓迎】
さーて、団体さんの到着だ。
悪いけど、ここは通行止め。楽しく過ごしてるみんなの街を、襲わせるわけにはいかないな!

と言っても、向こうだけ集団で数が多いのもずるいから、UCでバックコーラスのみんなに来てもらおう。あたしはマイクを持って、「楽しい一日が終わり、またすばらしい明日が来る」歌詞のあの名曲を歌おう!テンションを上げて上げて、衝撃波で範囲攻撃!コーラスのみんな、盛り上げていくから、よろしくね!

しかし、あたしは歌ってる中でもとってもクール!敵の呪詛攻撃は、落ち着いて見切る!踊るようなステップで回避できれば、ショーみたいでもっとテンションを上げられるかも!
よーし、行くぞー!


杼糸・絡新婦
逢魔ヶ刻にはまだ早いやろ、
あの子らには魔に逢わずに帰ってもらわなな。

鋼糸で【フェイント】いれつつ攻撃し、
【見切り】で回避、
絡め取るように動きを止めた【敵を盾にする】
動きを観察しタイミングを図り敵の攻撃を脱力し受け止める、
また味方への攻撃を【かばう】ことで受け止め
オペラツィオン・マカブル発動。

人を呪わば穴二つ、巡り巡って己に帰るもんやで、
排し、返せサイギョウ。




「さーて、団体さんの到着だ」
 禍々しい呪詛を纏わせる編笠の集団を前に、崎谷・奈緒はどこか楽しげな調子で対峙する。
 しかしその背はしっかりと道を塞ぎ、街に立ち入らせる気は毛頭ないのだと態度で告げていた。
 それに対し、編笠衆は憤るでもなく、ただ不気味に佇んでいるだけ。ふむ、と一つ呟いた杼糸・絡新婦は、やれやれと言うように肩を竦める。
「逢魔ヶ刻にはまだ早いやろ、あの子らには魔に逢わずに帰ってもらわなな」
 からくり人形と戯れてはしゃいだ子供達。彼らはそろそろ家路についた頃だろうか。
 知らなくて良い。こんな、おぞましい存在など。無垢な子らには無垢なまま、健やかに育ってほしいものなのだ。
「そう言うわけだから、悪いけど、ここは通行止め。楽しく過ごしてるみんなの街を、襲わせるわけにはいかないな!」
 高らかと告げた奈緒の声に、編笠衆達が臨戦態勢へと移る。
 その数はおおよそで把握しただけでも両手より多い。二人分の掌を合わせれば数え切れるかと微かに背伸びをして確かめるが、数えるよりも減らす方が早かろう。
 きゅん、と鋭い音を立て、空気を切った鋼の糸。操る絡新婦の指先が蠢けば、糸は刃と同じ鋭利さで敵を切り刻む。
 まじないごとを唱え始める敵が見えれば、そちらを妨げ――そう見せかけて、自在に張り詰めては弛みを繰り返す鋼糸で、踏み出そうとした一体の足を絡め取った。
「おぉ、こわ」
 くすり笑って敵の足を引きずり、飛び交う呪符の盾へと使って。しかし仲間を盾にされても憤るでもないさまに、絡新婦はふぅん、と喉奥だけで呟いた。
 そうやって単身挑むも時には必要、とは思うものの、あちらばかり数が多いのを『ずるい』とも、奈緒は思うわけで。
 数には数とばかりに、バックコーラスを呼び寄せる奈緒。
 実態のない、陽気で楽しい霊体達は、戦闘力のない存在ではあるが、奈緒の気分を盛り上げてくれる。
 今日も素敵な歌声を披露しておくれ。ウィンク添えて差し出された一本スタンドマイクを受け取ると、奈緒は任せて頂戴と口角を上げて、歌い出した。
 明るい調子の声が紡ぐのは、楽しい一日が終わり、またすばらしい明日が来る。そんな歌詞を織り込んだ名曲。
 希望に満ち満ちたその歌は、前向きな奈緒とはとびきり相性のいい音楽だ。バックコーラス部隊が全力で盛り上げてくれるのだから、テンションは上がる一方。
 歌えば歌うほど、声は一層高らかに、力強く、衝撃波となって敵を打ち据える。
「ええ声やね」
 殺伐とした戦場に響く歌声に、絡新婦はゆるりと口角を上げて笑う。
 呪符が飛び交うくらいなら、そう、きっとの声を妨げることは無いけれど。
 両掌が放とうとする呪詛。あれは、いけない。
 楽しげに歌う彼女の邪魔をするなんて、とんでもない。
 ぴん、と張り詰めた糸を引いて、からくり人形のサイギョウを歌に合わせるように踊らせる。
 当然その手足は敵をしばき倒しているわけなのだが、操る当人は鍵盤でも叩くような軽やかな指使いで。
 自身の歌に合わせてダンスパフォーマンスが繰り広げられる光景に、奈緒は思わず、声を上げて笑っていた。
「あっは! 随分、温まってきたみたいだね!」
 さながらライブ会場のように、応えてくれる観客が居るというのは、ワクワクするものだ。
 しかしテンションアップで挑みながらも、戦場であることは忘れない。クールな視界に映る敵からの攻撃は、落ち着いて見切る。
 とん、ととん、と軽いステップで下がりつつ、ついでにくるりと踊るように回った奈緒は、振り向きざまに、こちらへ放たれた攻撃の射線に、絡新婦が躍り出ているのを、見つけた。
 ――知っている。絡新婦のこれは、庇う行動であり、同時に、仕掛ける行動。
 重く禍々しい呪詛が絡新婦へと直撃する。その彼に、呪符が追い打ちをかけようとしているのも、見えたから。
 後退した身を前へと走らせて、絡新婦の頭上すれすれを横切るようにして、スタンドマイクをぶん回してやった。
 浴びせられようとした呪符を絡め取って地面に叩きつけた奈緒が、大きく息を吸い込むと同時。絡新婦が受けたはずの攻撃が、するり、飲み込まれるようにして、傍らのからくり人形へと移される。
「人を呪わば穴二つ、巡り巡って己に帰るもんやで」
 ――さぁ、ここが一番の見せ所!
「排し、返せサイギョウ」
 からくり人形から吐き出された衝撃と、奈緒の衝撃波が、ぴったりと重なって。彼らの前に立ちはだかった編笠衆達を、根こそぎ蹴散らした。
「っはぁ! 最ッ高!」
 決まった、と体を震わせて歌いきった奈緒が、ぱっ、と絡新婦へと右手を上げる。
 一瞬、きょとん、とそれを見た彼だが、あぁ、と一つ呟いて。
「これで良かったやろか」
 パンッ、と。同じ掌を、重ね合わせた。
 即興のセッションは大成功。けれどまだ、まだ、残る敵は多いのだ。
 もう怖いものはないとばかりにマイクを握る奈緒に、心地よい掌の感覚を一度握り締め、絡新婦もまた、糸を繰るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

想いに引き寄せられてって聞くと、改めてオブリビオンってのを考えてしまうな。
流れ去った過去の物だとは言うけれど、それしか違いがないみたいで。

確実に一体ずつ倒していこう。
存在感を消し目立たない様に立ち回る。そして可能な限りマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC剣刃一閃で攻撃。マヒは入れば上等程度。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。
呪符や呪詛はなるべく回避で、本体での受け流しは極力避ける。たとえ侵されそうになったとして鏡面が弾いてくれる。


鳥栖・エンデ
やぁやぁ、平和に過ごす街の夕暮れに
招かれざる客が現れたものだね
夏の終わりに麦わら帽子、なら
少しは可愛げがあったかもしれないけれど
……そうでもないかな?まぁいいや
編笠衆とやらには、さっさとお帰り頂こうか

自身は槍術を駆使して相手の攻撃を躱し
手近な敵から騎士槍を投擲してのドラゴニック・エンド
ふふ、ニールの火力を甘く見て貰っては困るよ
甘くて美味しい炭酸水の分きちんと働かないとねぇ
全て排除されるのは、君たちの方だよ

アドリブも歓迎です




 沈む夕日に照らされて、長ぁい影を伸ばしたのは、今日のこの場に居てはならぬもの。
 見渡し、眺めて。鳥栖・エンデは両手を広げ、小首を傾げた。
「やぁやぁ、平和に過ごす街の夕暮れに、招かれざる客が現れたものだね」
 夏の終りのこの季節だ、編笠でなく麦わら帽子で訪れたなら、少しは可愛げがあったかもしれないのに、なんて言ってみてから、想像を重ね合わせるようにして、また一頻り眺めて。
「……そうでもないかな?」
「そうでもないだろうな」
 軽く笑って同意を返す黒鵺・瑞樹と共に、肩を竦めた。
 可愛かろうが、可愛くなかろうが、どちらだって大した差ではないのだ。
「編笠衆とやらには、さっさとお帰り頂こうか」
 これに、尽きるのだから。
 共に炭酸水を楽しんだ白龍を、元の槍の姿へと転じさせて握ったエンデ。
 瑞樹もまた、両の手にそれぞれ別の刃を握り締めて、音を立てて振るわれる錫杖と対峙する。
 一触即発の雰囲気は、たん、と駆け出すエンデの力強い蹄の音に、早々に交戦状態へと切り替わった。
 大柄な体躯にはやや短い錫杖。屈強そうに見えるそれが振るわれる長さと速さよりも、エンデの槍の方が、早かった。
 ギン! と激しい音を立てて、錫杖が弾き飛ばされる。
 流石に手放してくれるほど容易くもないが、大きく開いた懐に、瑞樹がすかさず飛び込み、切断した。
 苦悶の声も、断末魔も。こぼさずにそのまま倒れた編笠衆を一瞥し、瑞樹は微かに、瞳を細めた。
(想いに引き寄せられてって聞くと、改めてオブリビオンってのを考えてしまうな)
 この、編笠の妖達は。何を思ってこの場に訪れたというのだろう。
 自身が得ることのできなかった平穏な日常か、それとも、思い思われながら置き去ることとなった誰かの面影か。
 ――そんな者は全く無くて、ただ、強者に付き従う習性があるのかも、しれない。
 けれど、ならばその強者たる存在は何を――。
 ふるり、瑞樹は一度、頭を振った。
 オブリビオンは、流れ去った過去のもの。けれど、そう定義づけられた以外に、自分達と何が違うのかなんて、考えてしまって。
 思考を切り上げて、前だけを見据えた。
 思案げな眼差しが一瞬だけ見えたから、エンデはちらと瑞樹を見た。けれど、何を言及するでもなく、くるりと回した槍の穂先で、錫杖を振り上げた編笠衆を下段から切り上げる。
 貫く事を得手とする槍の斬撃など大した牽制にもなりはしないとばかりに、振り上げた錫杖をそのまま叩きつけようとする編笠の男に、エンデはにこりと笑って、一歩、下がって。
「ニールの火力を甘く見て貰っては困るよ」
 雄々しく翼を開いたドラゴンへと、場を譲った。
 地を震わすような咆哮と共に吐き出されたブレスが、錫杖諸共消し炭に変えていく白竜の攻撃に、ふふ、と誇らしげに微笑んだエンデは、くるり、円を描くようにまた槍を回して、構える。
「甘くて美味しい炭酸水の分きちんと働かないとねぇ。全て排除されるのは、君たちの方だよ」
 穏やかそうな顔をして好戦的なエンデの、ドラゴンを共にした派手な立ち回りに潜むように、瑞樹は静かに立ち回る。
 影から影へ、足音を忍ばせて。踏み込むは、錫杖の音に紛れた一瞬に。
 剣刃一閃。右手の刀が敵の勢いを削ぐ内に、生まれ落ちる以前から共に在る己の本体で以て、両断する。
 正面突破よりも暗殺を得意とする瑞樹の戦い方は、手近な敵へ槍術からの追撃を放つエンデの立ち回りと、随分、相性がいいように思えた。
 お互い、なんとなくそう感じているのだろう。
 重たい錫杖を、本体で受け流しながら、瑞樹は薄らとした笑みで見上げる。
「ドラゴンを前に俺を構うなんて……余裕があるようだが、侮り過ぎじゃないか?」
「そら、そら。もっと力強く叩きつけにおいでよ。その隙を、ばっさりされるのを覚悟の上でね」
 くすりと笑ったエンデもまた、攻撃を誘うように槍を振るい、小首を傾げてみせて。
 視線一つ合わせることもないまま連携し、編笠の群れを駆逐していくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

本当に呪い殺しそうな敵だね。一般人はもちろんだがアタシ達猟兵も危なそうだ。被害が広がる前になんとかしようか。

手練れらしいから下手な隠密は通用しないだろう。正面からいく。【オーラ防御】でダメージを軽減しながら【残像】【見切り】で呪符を出来るだけ回避しながら赫灼の戦乙女と【衝撃波】【2回攻撃】で攻撃。アンタらの進撃はここまでだ!!平和なこの街はアンタらが踏み入れていい場所じゃないんだ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

こ、怖いです・・・私達も呪われそうです。絶対街に入るのは阻止しますし、存在自体が危険なので全部倒してしまいましょう。

飛んでくる呪符の数が多過ぎて接近出来なそうなので、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【呪詛耐性】で防御を固めて彗星の剣と【衝撃波】【2回攻撃】で呪符を迎撃しながら、あわよくば攻撃がヒットする瞬間を狙います。瞬兄さんの行動制限もありますし、母さんの攻撃もあります。ここで引く訳にはいきません!!街の平和な日々の為に!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

見た目と雰囲気から禍々しさが漂ってますね。しかも手練れの集団と見ました。僕達でも手を焼きそうですが・・・楽しい時間を過ごさせて貰った場所です。進撃はストップさせて貰いましょうか。

母さんと奏が攻撃しやすいようにフォローを。【マヒ攻撃】【鎧無視攻撃】【目潰し】【部位破壊】を仕込んだ【範囲攻撃】化した結界術とと裂帛の束縛で敵の集団の動きを制限。【誘導弾】【武器落とし】【吹き飛ばし】で追撃。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぐ。打てる手は打たせて貰います。平和な街は、護って見せますよ。行き場所は骸の海です!!




 怨嗟の塊、怨念の権化。編笠を被った彼らの操るそれが、禍々しさを帯びるのを見ながら、真宮・響は薄らと瞳を細める。
「本当に呪い殺しそうな敵だね」
「見た目と雰囲気から禍々しさが漂ってますね。しかも手練れの集団と見ました」
 神城・瞬もまた、訝るような眼差しを向け、身構える。
 そんな彼らから一歩だけ後ろに下がった位置で、真宮・奏はその気配の恐ろしさに小さく震えていた。
「こ、怖いです……私達も呪われそうです」
 あぁ、確かに、と。響は縁起でもないと言いつつ、懸念を口にする。
 一般人は勿論のこと、猟兵だから大丈夫なんてことは無いだろう、と。
 母である響の鬼気迫る言葉に、奏はますます身を震わせるが、同じ猟兵としてここに立つことを決めた以上、怯えてばかりもいられない。
 すぅ、と大きく息を吸って、そのままゆっくりと吐き出して。恐れる気持ちを宥めれば、残るのは、此処を通すわけには行かないという、決意ばかり。
「絶対街に入るのは阻止しますし、存在自体が危険なので全部倒してしまいましょう」
「ええ、僕達でも手を焼きそうですが……楽しい時間を過ごさせて貰った場所です。進撃はストップさせて貰いましょうか」
 子らの頼もしい言葉に、響は密かに笑みを湛え、けれどすぐさま引き締めて、さぁてと身構える。
「被害が広がる前になんとかしようか」
 三人で挑むのだ。どんな相手だって、きっと、退けられる。
 対峙する真宮家へと向けられ、飛び交う呪符の量は夥しいほど。四方八方から攻め立てようとするそれらをぐるりと見渡し、一先ずの防御としてオーラを展開させた響と奏。
 手練と見える集団に、下手な隠密行動で挑むのは逆効果と見た響は、最前線に立ち、正面からの迎撃を試みる。
「サポートは任せて下さい」
 武器を手に響が駆け出すと同時、瞬は周囲に結界術を張り巡らせた。
 それは敵の動きを阻害するための術式。氷の結晶のように透き通った杖から放たれた術は、敵の四肢を痺れさせ、その視界に暗闇を呼び、ダメージを蓄積させていくのだ。
「動きを縛らせて貰います!! 覚悟!!」
 更に瞬はアイヴィーの蔓、ヤドリギの枝、藤の蔓を呼び寄せ放ち、敵の動きを束縛する。
 しかし、それらは敵を封じても、呪符自体を防ぐことは、できない。
 そう、瞬が術者の行動を制限する間に、放たれた呪符を叩き落とすのは、奏の役目。
 三人の中で唯一呪詛への耐性を持った奏だからこそ、呪術の前にも果敢に飛び出せるのだ。
 そして無論、生身で挑むほど愚かではない。手にした剣に、守るという強く熱い信念を宿し、掲げた奏の周囲に、同じ刃が次々と複製される。
「かわさないでくださいね? 行きますよ~!!」
 念動力で操作される剣達は、響の障害となる呪符を狙い澄まし、斬り伏せ叩き落とし、道を開いていく。
 剣戟が、舞のように呪符とぶつかり合う中を軽やかに掻い潜り前進した響は、供として真紅の戦乙女を呼び寄せた。
「さあ、共に行くよ!!」
 響の声に、戦乙女は麗らかな容姿に戦意を湛え、響に追従する。
 瞬が足を止める術者を斬り伏せ、蹴散らし、戦線をお仕上げていく。
 そんな勇ましい響を追うように、瞬は次へ、次へと植物達を放ち、奏は呪符を叩き落としていった。
「アンタらの進撃はここまでだ!! 平和なこの街はアンタらが踏み入れていい場所じゃないんだ」
 響の一喝は、びりびりと空気を震わせ、同時に、奏を、瞬を、奮い立たせる。
(瞬兄さんの行動制限もありますし、母さんの攻撃もあります)
 恐ろしいと思った、相手だけれど。彼らが共に居るならば、どんな相手だって、怖くなんて無い。
 もう、気持ちを落ち着かせるための深呼吸は要らない。大きく息を吸った奏は、そのまま声としてぶつけるのだ。
「ここで引く訳にはいきません!! 街の平和な日々の為に!!」
 奏の強い意志に、呼応するように。複製された幾つもの刃が、呪符を貫く勢いのままに、術者をも切り裂いていく。
 しかし、奏の剣よりも呪符の方が多いのだ。全てを捌き切ることは難しく、一部が彼女の横をすり抜けて、邪魔な阻害行動を取る瞬へと向かっていった。
「瞬兄さん!」
「問題ありません」
 瞬とて、護られる立場ではない。共に、敵を討ち果たす立場なのだ。
 彼女らと同様に、オーラでの防御は備えている。呪符の一枚や二枚くらい、躱すことだって難しくはない。
 心配性な――それ以上の感情があることは知ってて知らぬと言い張って――奏に、無事を主張するように微笑めば、安堵を湛えた顔が、キッ、と敵を見据える。
 自身の後ろでそんなやり取りがされていることは、響とて感じている。
 だからこそ、奏と同じように安堵を湛え、同時に、子を害そうという敵対者に、苛烈な情を向けるのだ。
 サポートに徹することで、一歩引いた位置に立つ瞬は、彼女らのそんな力強い言葉を伴う背も、表情も、全て見えていた。
 だからこそ、つい、笑みが浮かんで。
 けれどすぐさま引き締めるその一連の動作が、子の逞しさを噛みしめる母、響とよく似ている辺り、彼女の影響は、強いのだろう。
 瞬が気付いているかは、定かではないけれど。
「平和な街は、護って見せますよ」
 そのために、打てる手はすべて打つ。
 穏やかな賑わいを持つこの街に、通しはしない。
「貴方達の行き場所は骸の海です!!」
 さぁ、どこまでも挑んでくると良い。我ら家族に、敵うと思うならば!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
清史郎(f00502)と

ひく気があったら、さいしょからいないよ
今日はたのしい日だったってみんなに思ってもらうんだもの

セイシロウ、いこうっ
手を取ってシャボン玉で包む
そのまま錫杖の攻撃を避け
素早く頭上へ

シャボンの泡に炭酸を思い出し綻んで
せっかくの空のおさんぽだもの
もっとゆっくり飛びたいけど
それはぜんぶおわるまでおあずけだね

声に出さず笑み浮かべ
おねがいねと蒲公英の武器飾りを託してセイシロウの手を離せば
上空からの強襲
着地をオーラ防御でお手伝い

わたしも斧構え
駆け抜けるように一撃
セイシロウっ

応えるようなきれいな太刀筋に見惚れるけれど
最後まで気は抜かず

かえるのはきみたちの方だよ
もうここにはきちゃだめだからね


筧・清史郎
オズ(f01136)と

オズの言う通りだ、退く選択はないな
平和な夏の終わりを血で染めることなど叶わない
俺達は、皆の楽しい日を守るべく此処にいるのだからな

名を呼ばれれば、伸ばされた手を確りと掴み繋いで
オズのシャボン玉に乗り、日が沈みゆく空へと

オズと空を歩けば笑み零れるけれど
勿論、成すべき事は忘れてなどいない
友と散歩するならば、平和を取り戻した空がいいからな

抜いた蒼桜に、託された蒲公英を寄り添わせて
空から奇襲を仕掛けよう
掌に残る優しい感触と託された春の彩りを手に
桜吹雪の残像で敵を翻弄しつつ
敵の群れの只中に降り立ち、桜嵐を巻き起こそう

オズの斧の一振りも頼もしく
届いた声には、閃く一太刀で確りと応えよう




 遠くから聞こえる声に、姿の捉えきれないその声に、オズ・ケストナーは毅然とした声をあげる。
「ひく気があったら、さいしょからいないよ」
 今日という日は、この街にとって楽しみだった日。
 夏の終りのこの頃に、鈴の音がちりんと誘う時を、彼らはずっと待っていたのだ。
「今日はたのしい日だったってみんなに思ってもらうんだもの」
「オズの言う通りだ、退く選択はないな」
 平和な夏の終りを、血で染めることなどあってはならない。
 そう、志すからこそ、この場所に立っているのだ。
「俺達は、皆の楽しい日を守るべく此処にいるのだからな」
 力強く告げる言葉に、それ以上の返答はない。相対するためには、まずはこの、物言わぬ編笠の集団を蹴散らす必要があるのだ。
「セイシロウ、いこうっ」
 一緒に、空の散歩をたのしもう――!
 振り返り名を呼んで、手を差し伸べた瞬間。オズの表情は戦場とは思えないほど楽しげに笑っていた。
 そうした、誰かと共にある喜びが、誰かを、守りたいと願う心が、オズの力となる。
 口角上げて微笑んで、清史郎が確りと手を取った瞬間、ふわり、シャボン玉が彼らを包み込んだ。
 単なる防御壁の類ではないそれは、オズが地を蹴れば、その柔らかな見た目からは想像できないほどの速度で飛び上がる。
 そうして、しゃんっ、と音を立てた錫杖をひらりと交わして、残されたのはべこりと抉られた地面だけ。
 七色を放つ泡が、ふうわり、長く影を伸ばす夕陽に照らされ、空の上で煌めいている。それをオズと共に体験すれば、清史郎の口元も穏やかに微笑んだ。
 オズとて、シャボンの泡に、飲み干した甘い炭酸の味を思い起こし、気持ちが綻ぶ。
 楽しい気分に揺られながら、このまま空の散歩を楽しめたなら――なんて、思うけれど。
 成すべきことを、忘れてなどいない。
 ――もっとゆっくり飛びたいけど、それはぜんぶおわるまでおあずけだね。 
 ――友と散歩するならば、平和を取り戻した空がいいからな。
 声に出さずとも、顔見合わせて微笑めば、考えてることが同じなんだってことくらい、判るのだ。
 くすり、微笑み合って。
「おねがいね」
 すらり、抜き払われた蒼き刀に、蒲公英の武器飾りをそっと寄り添わせ、託して。
 オズは繋いでいた清史郎の手を、ぱ、と離す。
 繋いでいた間はシャボン玉に覆われていた清史郎の身体は、そのまま重力に引きずられるように、落ちていく。
 けれど何も慌てることなんて無い。上空からの奇襲。そのために、彼らは飛んだのだから。
 君を守るように。そんな祈りを込めた蒲公英の飾りは、きらりと煌めく銀星を連ねて、清史郎の着地を手助けする。
 そうでなくったって、優しく握られた掌の名残と、託す声を聞いたなら、その身は軽やかに宙すら舞うことだろうけど。
 ふ、と笑んだ口元は、そのまま不敵な笑みを作り。ちらりと舞う桜を目隠しに、頭上高くから一閃、斬り込んだ。
 重く鋭い一撃が、足元の敵を一つ斬り伏せた直後、祈りの加護と共にふうわりと地に降り立った清史郎は、敵の只中に、桜の嵐を巻き起こす。
 ――否。それは、吹雪に至る花弁を華々しく纏わせた、嵐の如き刀の連撃。
 次々と繰り出される斬撃と衝撃波に翻弄されながら、振るった錫杖はただ地面を叩きつけるばかりで。気がつけば、錫杖の先端に足を掛けた桜色と、視線が合い――事切れる。
 舞い上がる桜の花弁がシャボン玉の中に飛び込んでくるのを捕まえて、逃がすと同時、今度はその手に斧を握りしめたオズもまた、清史郎を追うように、敵の只中へと飛び込んだ。
「セイシロウっ」
 駆けて、力強く振り抜いた斧の一撃は、桜纏う麗人の背を狙う敵を薙ぎ払って。
 血飛沫を掻き消すほどの花の中で、応えるような閃きが、夕陽を跳ね返して、煌めいていた。
 その太刀筋に、思わず見惚れてしまいそうになったオズだけれど。美しい太刀の切っ先からその向こう、敵の姿を捉えるならば、気を抜くことなく、再び斧を手に駆けた。
「かえるのはきみたちの方だよ。もうここにはきちゃだめだからね」
 願わくば、再びの相対などの無いことを。
 この地の平穏を思い描きながら、今はただ、骸の海への帰り道を、ひたすらひらき続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
敵さんも来なすったようだねぇ?
何を思ってこの街を潰しに来たのか知らねーが
信長の戦からやっと一年…せっかく町の連中がのんびりできるようになったんだ
言葉も意味もなく襲って殺すような奴らの好きにさせるかよ

…ユキエ、一緒に行くか
加勢してくれるかい
UCで相棒のユキエに猪を憑かせその機動力を使い敵陣へ走り込む
敵からの攻撃には【野生の勘/情報収集】で呪符から身を躱しながら
【武器受け/念動力】で【投擲】した手裏剣を向けられる呪符に撃ち束にして落とす【カウンター】
敵を【追跡】し手にしたクナイで【暗殺/串刺し】もしくは斬り付けて攻撃、被弾して消耗した場合は距離を取りクナイ・手裏剣【投擲】に切り替える




アドリブ可


逢坂・理彦
うん、やっぱり荒っぽいことになりそうだね。
…煙ちゃんには先に帰ってもらってよかった。
煙ちゃんは荒事は苦手だし…でも依頼の内容は知ってるから心配はかけちゃうけど。
サムライエンパイアの依頼はできるだけ解決の手伝いはしたいし。
無事に帰って安心してもらわないとね。

相手が呪詛を用いるのならば俺は【破魔】立ち向かおう。
UC【禊祓祝詞】
呪殺の呪符を【破魔】と【結界術】で防ぐ
墨染桜に【破魔】を載せて【なぎ払い】
【戦闘知識】と【第六感】で攻撃を【見切り】だ




 視線の上に掌掲げて見ることをせずとも、その姿はよく見えた。
「敵さんも来なすったようだねぇ?」
 何を思ってこの街を潰しに来たのかは知らない。けれど、オブリビオン・フォーミュラであった織田信長との戦から、ようやく一年経ったばかりなのだ。
 折角、街の人々も人心地ついて、のんびりとできるようになったというのに。
「言葉も意味もなく襲って殺すような奴らの好きにさせるかよ」
 嫌悪も顕に告げた、鹿村・トーゴに、白鸚鵡のユキエが身を寄せる。
「……ユキエ、一緒に行くか。加勢してくれるかい」
 問えば、うん、と。愛らしい声が応えてくれる。
 賢いこの鸚鵡が、戦場の空気を理解できないわけがない。それでも、そうやって二つ返事で応えてくれる事にひそりと微笑み、トーゴはユキエに、術を施した。
「寄せの術……依り代はここに、来い白猪」
 唱えれば、ユキエの姿が消え、代わりにトーゴの身の丈の二倍となる猪が召喚される。
 それはユキエと同じ白い被毛と赤い瞳を持ち、愛らしく喋る嘴の代わりとなるように、鋭い黒の牙と力強い蹄を持つ存在。
 トーゴと、生命力を共有する存在。
「さぁ、行こうユキエ!」
 戦線が開かれる。血腥さが、漂っている。
 街道を満たしつつあるその荒っぽい空気に、逢坂・理彦は、あぁと短く息を吐いた。
(……煙ちゃんには先に帰ってもらってよかった)
 荒事になる。その想定は初めからあったのだ。わかっていたからこそ、理彦は共に水を楽しんだ伴侶を先に返していた。
 あの人は、荒っぽいことは苦手だから。
 とはいえ、同じ依頼の話を聞いてはいるのだから、一人で戦地に残ることに、心配をかけないとも、思ってはいないけれど。
 ふぅ、と溜息を一つ。それで気持ちを切り替えて、理彦は目の前の敵対者に集中する。
 サムライエンパイアで起こる事件の解決は、できるだけ手伝いたい。そのために自分が出来ることを、務めるまで。
 理彦は敵陣に突っ込むトーゴと白猪の背を幾らか視線で追った後、その周囲を飛び交うような呪符へと瞳を向ける。
 禍々しい怨念を纏って放たれる呪符は、相手を呪い殺さんとする強烈な念を伴って飛ぶもの。
 相手がそのような呪詛を用いるというのなら、理彦は、それに抗う破魔の力で、立ち向かう。
「諸々禍事罪穢を払へ給ひ清め給ふと申す事の由を天つ神地の神八百万神々等共に聞食せと畏み畏み白す」
 文言は、紡がれるほどに理彦の破魔の力を、祈りの質を、呪詛への耐性を引き上げる。
 そうして改めて見た呪符が纏う呪殺の力は、さしたる驚異には見えなくて。ふ、と笑んで、薙刀を手に、敵陣へと切り込んだ。
 同じ戦場に切り込んできた理彦の、そこはかとない正常な雰囲気を感じ取ってか、ひくり、トーゴを乗せたユキエが鼻を鳴らす。
 同じ気配に気付き振り返ったトーゴは、呪符を跳ね除けるほどの破魔の力を纏った理彦の薙刀捌きに感心したような声を零した。
 しかし、理彦と同じような事を自分が出来るわけではなく、彼に呪符の全てを押し付けるなんてことも、できない。
「――ユキエ、大丈夫か」
 彼女が傷を負えば、己にも判る。今はまだ、掠める程度で済んでいるけれど、トーゴよりも大きなユキエを狙う呪符は、少なくないのだ。
 それでもふるりと身を震わせて健在を訴えるユキエに、ぽん、と首筋を撫でて、トーゴは再び、敵へと突っ込んでいった。
 己に出来るのは、ユキエに身を託し、呪符の軌道を読み躱すことと、念を込めた手裏剣で纏めて貫き叩き落とすこと。
 それから、猪の機動力を活かした強烈な突進に乗せた、クナイでの串刺しだ。
「どんどん倒そうな、ユキエ!」
 呪符を躱し、捌きつつ一体一体確実に敵を屠っていくトーゴらの動きをよく見て、その機動の妨げにならぬようにと、理彦は動く。
 使い慣れた刃は己の手足のごとく軽やかに振るわれて。放たれた呪符を薙刀の一閃で纏めて地に叩き伏せ、返しざまの一閃は、群がる敵を呪符同様纏めて薙ぎ払い。着実に、敵の数を減らしていった。
(今の所問題ないけど、迂闊に怪我はできないな……)
 心配をわかって、易々と傷をもらって帰るわけには行かない。
(無事に帰って安心してもらわないとね)
 己も、街も、護りきったのだと誇らしげに笑う己を、迎えてもらおう。
 自身で描いた『報酬』に笑み湛えた理彦はその瞬間、ほんの少しだけ祈りの力が増したように感じるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮
琴子ちゃん(f27172)と

退く気なんかあるわけないよ
せっかくみんながお祭りを楽しんで
終わりの切なさ感じつつ帰り道を歩いている素敵な夏の一幕だっていうのにKYだぞお兄さんたち

オブリビオン相手にそんな理屈通用しないのは百も承知
でも言いたい事は言うのが私

ここは通さないよ

言うが早いか先陣切って駆け出して
大人びたきみだけど
それでも私の方がお姉ちゃんだもの
やっぱり私が前に出なきゃでしょ?

速度上げた足跡とオーラ防御で呪符を避けつつ
相手の視線を誘導
きみが攻撃しやすくなる隙を作ろうと
今だよ!琴子ちゃん!

上手くいったなら笑ってピースサイン
心配して怒ってくれてるのがわかって
やっぱりついつい笑顔になっちゃうんだ


琴平・琴子
亮(f26138)さんと

お前たちの方が退きなさい
私たちの楽しみを
時間を
邪魔をしないで

言って通じるなら
争いなんて不要でしょうが
聞かないなら
倒すしかないですね

ここは通しませんから

もうっ亮さんったら先に出て…!
いらっしゃい私の兵隊たち
亮さんの後にダッシュで続きなさい!

がら空きになった私に向かい来る呪詛は
両手は兵隊たちに切り落としてもらい
飛んで来た呪詛を呪詛耐性で防ぐ

亮さんが作ってくれた道
無駄にするわけにはいきません
兵隊たち、頭を目掛けて撃ち落としなさい!

ピースサインをした亮さんに向かって行って
亮さん無鉄砲過ぎです!
何かあったらどうするんですか!
…もう、敵いませんね

笑った貴女に釣られて笑う




 この道の先には人々の営みがある。
 みんなで楽しみ、共に夏の終りを楽しんだ思い出がある。
 それを知っている我らが、退くことなどできようはずがあるものかと、彼女達は立ちはだかるのだ。
「お前たちの方が退きなさい。私たちの楽しみを、時間を、邪魔をしないで」
 清く、正しく、凛々しく。禍々しさを放つ相手にだって怯むことなく強い眼差しを向ける琴平・琴子と並び立ち、天音・亮もまた、笑み湛えつつ編笠の一団を見据える。
「そう、退く気なんかあるわけないよ」
 一年に一度の楽しみな日。お祭り感覚で集う人々の笑顔に幾つもすれ違ってきた。
 終わりの切なさ感じつつ帰り道を歩いている。素敵な夏の一幕だっていうのに、随分と空気の読めない男達だと呆れたものだ。
 無論、言葉だけで通用する平和な相手だなんて欠片も思っていない。
 けれど彼女達は、自らの意志を口にする。
 主義主張を訴え、争いなく平和的な解決を望み、それでも敵対する存在と、戦ってきた。
 此度も、同じ。ただ、それだけだ。
 ――ここは通さない。それぞれの口が、それぞれの言葉で告げた宣告。
 それを皮切りに、先陣きって駆け出したのは、亮。
 軽やかに地を蹴る電子武装のブーツが微かに土を蹴り上げたのを見つけて、あ、と琴子の小さな声が上がる。
「もうっ亮さんったら先に出て……!」
 ほんの少しだけ拗ねたような声を亮の背に飛ばせば、くすり、微笑む横顔がちらりとだけ見えて。
 もう、ともう一度だけ膨れて、琴子はいらっしゃい、銃剣を持った玩具の兵隊達を呼び寄せる。
 駆けていく背を、その先に群れる編笠達を確りと見据え、亮の後へと続くべく駆け出させた。
「亮さんの後にダッシュで続きなさい!」
 敵を倒すという琴子の強い意志に呼応した兵隊達は、号令と共に真っ直ぐに亮を追いかけて。
 守るものさえ置かずに全部隊を突撃させた少女の姿を御し易しと見たか、編笠の一人が琴子へ向けて呪詛を放つが、怯んでなんか、やらないのだ。
 突き出された両手は、次を放てぬよう切り落としてしまえば良い。
 放たれた呪詛は、耐性の助けを得ながら、耐えてしまえば良い。
「く……」
 金縛りぐらいなら、何の問題もない。多少のぎこちなさを振り払っている間にも、琴子の嫌悪と敵意は兵隊達を突き動かすのだから。
 ――無事、と言えども。琴子がそうやって何度も呪詛を食らうような状況は、亮にとっては望ましくない。
 とてとてと小さな足音が追いかけてくるのを背に感じながら、目の前へと飛来してくる呪符を見据え、駆ける速度をぐんと上げた。
 刻もう、ここに私が居た証――。
 体を掠めそうになる呪詛をオーラで弾き、ひらりと躱して、亮はステップをふむような軽やかな足取りで、敵陣へと踏み込んでいく。
 琴子はしっかりしていて頼もしい、大人びた少女だ。だけれど、亮の方が『お姉ちゃん』なのだから。
(やっぱり私が前に出なきゃでしょ?)
 ほら、ちゃんとこっちを見なさい。嗜めるような心地で、編笠衆の視線をさらうべく大きく手を広げ、しゃん、と指先で錫杖を鳴らしてあそび。
 見せつけるようにふわりと髪や服を靡かせては、触れぬ一でひらりと躱して。
 翻弄するように立ち回りながらくるりとターンすれば、足元で勇ましく戦う兵隊達と、それに原動力を与える強い琴子の眼差しと、目が合う。
 ぱちりと届けるウィンクはアイコンタクト。
「今だよ! 琴子ちゃん!」
「兵隊たち、頭を目掛けて撃ち落としなさい!」
 きみが攻撃しやすくなる隙を作ろう。
 貴女が作ってくれた道、無駄にするわけにはいきません。
 一斉に銃剣を構えた八十体もの兵隊達が、次々と放つ銃弾が、幾つも幾つも頭部を打ち抜き、編笠ごと風穴を開けていく。
 銃撃の射線から軽やかに離脱しながら、もうもうと上がる硝煙を見ていた亮は、どさ、と一つ倒れた音を皮切りに、次々と崩れ落ちていくのを見て、にっこりと、笑顔で琴子を振り返った。
「上手く行ったね」
 ピースサインで作戦成功を労う亮に、つかつかと歩み寄った琴子は彼女を見上げて眉を吊り上げる。
「亮さん無鉄砲過ぎです! 何かあったらどうするんですか!」
 じっ、と見上げた亮は、どこも傷ついていないようだ。そうだろう。あんなにも軽やかに駆けていたのだから。
 だけれど心配する気持ちが消えるわけではないし、それが、亮に伝わらないわけでもない。
 自分より小さな少女が一生懸命怒る理由が、判るから。亮は、つい、笑顔を浮かべてしまうのだ。
 嬉しそうなその笑みに、大きな瞳を丸くして。もう、と琴子はほんの少し膨れてみせた顔を、ついには笑みにかえる。
「敵いませんね」
 編笠の一団を退けたひと時の静けさの中で、二人の少女が、互いの無事を喜ぶように、笑い合っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『泥中花『黒蝶』』

POW   :    思い出など『びいどろ』のように儚いものだ
【記憶に干渉して改竄する洗脳呪詛】を籠めた【とろりと心に浸透する蠱惑的な声】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【最も失いたくない存在・想い・経験の記憶】のみを攻撃する。
SPD   :    煌めきへの葛藤(シアワセヘノニクシミ)
対象への質問と共に、【空気中やその地、目の前の人体の水分】から【思想・記憶に介入する酸の水檻】を召喚する。満足な答えを得るまで、思想・記憶に介入する酸の水檻は対象を【閉じ込め呼吸を奪い、幸せな記憶を溶かす酸】で攻撃する。
WIZ   :    闇彩(ビイドロノクラガリ)
レベル×5本の【全ての事象・存在を対象とした】【闇】属性の【触れたり目にした対象を水泡と化す闇がり】を放つ。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠雅楽代・真珠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●心溶かす
 傾いていた日が、山の影に差し掛かる。
 それでも、辺りはまだ、明るさを保っていた。
 長く長く伸びた影は、先程までは編笠の集団のものが大半だったけれど、今では、猟兵たちのものばかり。
 そんな夕暮れ時の街道に、ゆらり、尾鰭の靡く長い影が、伸びた。
「貴殿らは、何故私の邪魔をする?」
 ころりと鈴を鳴らしたような声が、影の向こうから響いてくる。
 きらきらとした蜜に硝子。同じくらいに煌めいた思いが幾つも集う場所。
 惹かれるままに味わうつもりだったと言うのに、その場に立ち入ることさえ許されぬとは。
「いや……良い。そう在るのが貴殿らなのだろう。相容れぬことを知らぬなどとは言うまい」
 残念だとでも言うように首を振り、衣の袖で嘆くように口元を覆ったのは、秀麗な顔立ちの少年。
 纏った水干の下から伸びた魚の尾は、透き通った鰭と、華やかな花弁を纏う漆黒色。
 陽の光すら吸い込むような黒であるにも関わらず、艶々とした煌めきを放つような少年人魚は、こぽり、蒸した周囲の空気から得た水を纏い、ことり、首を傾げてみせた。
「貴殿らは、硝子の蜜に何を込めた?」
 ゆっくりと瞬いていた瞳が、猟兵達を捉え、見据える。その瞳はどこまでも昏く、それでいながら蠱惑的な魅力を放つ金。
 見つめられ、その声に囚われたなら、心の内側から何かがおぼろげに溶けるような気がして――。
「もう一度聞こう。貴殿らは、硝子の蜜に何を込めた?」
 愛情か、恋情か、期待か、感謝か、慰労か、宣誓か――。
「貴殿らが縋るその儚きものを、聞かせてもらおうか」
 とろりと蕩けるような、甘い微笑。
 それこそが少年金魚――泥中花『黒蝶』の敵意の表れであることを、猟兵たちは感じることだろう。
 問いに答えぬならば、黒蝶が纏う水が、檻となって君達を襲う。
 そして答えたならば、彼は己が持ち得る手段で、それを奪い取ろうとする。
 記憶を、信念を、約束を――守るためには、彼を討ち果たすしか無いのだ。
崎谷・奈緒
【連携・アドリブ歓迎】
蜜に何を込めたか……聞かれたなら、答えてあげよう。あたしが込めたのは、大切な思い出さ。こんなところでキミにあげるほど、安いもんじゃないけどね!

敵の攻撃……おどろおどろしい感じだし、見たところ闇属性かな?
避けるのは難しそうだし、いっそ回避は捨てて、正面から撃ち合うことにしよう。ハーモニカを演奏して衝撃波攻撃……UCで光と熱の属性を上乗せ!相反する属性をぶつければ、敵の攻撃を無効化できるはず……たぶん!その後も怒涛の連続衝撃波で攻撃しよう。どっちが勝つか?いざ勝負!

どんなに激しい攻撃を受けても、気合とオーラ防御で耐え切ってみせるぜ。さあ、一日の総仕上げだ。絶対に……勝ぁつ!




 聞かれたなら、答えてあげよう。
 猟兵達の中で、真っ先に口を開いたのは崎谷・奈緒だった。
 黄昏色のような金色に向ける眼差しはどことなく誇らしげ。蜜に込めた思いが、奈緒にそんな顔をさせているのだ。
「あたしが込めたのは、大切な思い出さ」
 別れた恋人を思い出す切っ掛けとなった赤い蜜。それを沈めた切子硝子の水の泡が、脳裏をよぎる。
 確かな幸せを感じた日々も、別れの時に見せた笑顔も涙も、こうして、相手の無事や友人としての再会を願う今の気持ちも、全部ひっくるめた一つの恋の、物語。
 奈緒を奈緒たらしめる、幾つもの出来事の内の、大切な一つ。
「こんなところでキミにあげるほど、安いもんじゃないけどね!」
 真っ直ぐな言葉は、力強く、煌めいてすらいて。黒蝶は眩しいものを見るように瞳を細めてから、ふわり、掻き消すように掌を眼前に泳がせた。
 その夜色の袖が翻るのに合わせたかのように、虚空に浮かぶのは、闇がり。
 夜色よりも更に濃く、黒蝶が持つ澄んだ漆黒よりも重い闇が、じわり、世界を侵食するようにして、広がってきた。
 その、どことなくおどろおどろしい雰囲気に、奈緒は微かに瞳を細める。
 長く見つめてはいけない。眼鏡のレンズ越しにそれだけを確かめて、ぱっと視線を背けた奈緒は、同時に、自身のハーモニカに力を与える『武器』を搭載させる。
「秘密兵器、登場!」
 取り付けられたのは、マッチ箱サイズの小型アンプ。ノスタルジックで優しいハーモニカの音色を、どこまでも響き渡らせるための装備。
 そのアンプが持つ性能はそれだけではない、ユーベルコード製のそれは、音に攻撃属性を与える。
 これより奈緒が奏でるのは、ただの衝撃波ではない。
(闇に合わせるなら、光と……熱)
 脳裏で刻む、幾つものリズム。明るい曲、切ない曲、爽やかで癒やされる、恋心を奏でる楽曲。
 広がった闇が襲いかかってくるのを感じても、奈緒はそれを躱すことをしようとしない。
 むしろ、真正面から挑む気概で、ハーモニカを奏で始めた。
(相反する属性をぶつければ、敵の攻撃を無効化できるはず……たぶん!)
 尻込みしている場合じゃない。やってみなければ、わからないのだ。
 希望を乗せて奏でる曲は、夕暮れ時の街道に響き渡り――黒蝶の闇がりを、跳ね除けた。
「ほう……」
 びりびりと、空気の震える感覚にさらされて。それが、言いようのない熱を含んでいるのを感じて、黒蝶は興味深げに呟いた。
 細めた瞳が見つめる視界では、曲に集中するように目を閉じた奈緒の周囲で、触れたものを水泡と化す闇がりが、幾つも、幾つも、光の音によって弾けている。
 それはまるで、きらきら煌めく炭酸水のようで。
 飲みに行かずとも、見ることができたのだなと黒蝶はどことなく楽しげに、笑みをこぼす。
「もう少し、楽しませてもらおうか」
「ッ、は……望む所!」
 どっちが勝つか? いざ勝負!
 闇がりの圧が強くなったように感じて、奈緒は思わず引いてしまいそうになった足を諌める。
 息を継ぐ一瞬、奈緒は今日一日を思い起こす。
 前を向く優しい気持ちを与えてくれた炭酸水。即興のセッションで最高潮の盛り上がりを見せた戦闘。
 素晴らしい日常に新たな一日を刻んだ今日の奈緒に、退くなんて選択肢は皆無なのだ。
 万が一相殺しきれずに触れてしまっても良いように、オーラでの防御はしているのだ。それでいながら気合で負けていては、話にならない。
「絶対に……勝ぁつ!」
 一際激しくかき鳴らされた音色が、闇がりを穿って、貫いて、幾つも幾つも、弾けさせて。
 美しいな。短い声が音の合間を縫って奈緒の耳に届いた時、彼女を水泡へと還すような闇がりは、すっかり、消え失せているのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

逢坂・理彦
俺が蜜に込めた思いは『愛情』
愛しい思いを沢山込めた。
これで、満足してくれた?
それで終わるなら良いんだけどそう言うわけにはいかないよね。
ならば俺はこの気持ちを守らなきゃ。
何人たりとも侵させはしないよ。

【結界】に【オーラ防御】を展開
【祈り】で気持ちを強く持って戦う。
UC【日照雨・狐の嫁入り】
…これなら近付くこともできないでしょう?




 蜜に込めた思いが何か、なんて。
 問われてしまうと、否が応でも、思い起こされる。
 大切な人と過ごしたひと時。互いに捧げあった、かけがえのない味。
「俺が蜜に込めた思いは『愛情』」
 逢坂・理彦は、真っ直ぐに告げる。声に惹かれるようにして向けられた視線に、慈しみを込めた笑みを、向けてやる。
「愛しい思いを沢山込めた。……これで、満足してくれた?」
 わざわざ口にしなくたって伝わるくらいの顔をしていることだろう。
 小首を傾げる理彦に、黒蝶は「そう」と小さく呟いて、その顔を見つめる。
 視線が合えば、直感する。その昏がりを帯びた瞳は、聞くことだけで満足を得ることなどなくて。
 奪うことで、一種の慰めを得るのだろう、と。
「やっぱり、そう言うわけにはいかないよね」
 知らないものを知ってみたいだとか、そんな微笑ましい話であったなら良かったのに。
 そちらが奪うつもりで居るのならば、こちらは、相応の対応をしなければならない。
 守らなければ、ならない。
「何人たりとも侵させはしないよ」
 黒蝶の纏う水を拒絶するように、結界を張り巡らせる理彦。
 祈りの籠もったそれは、どことなく煌めいて見えて、見つめる金色が薄らと潜められる。
「愛情、愛、愛しい、か……」
 口元で繰り返す言葉は、理彦が紡いだそれを繰り返すもの。
 口遊むような声に呼応するように、あちらこちらで水の塊が浮き上がり、気泡のように、爆ぜる。
 飲み干した炭酸よりよほど強烈で、よほど邪悪な水は、やがて一つとなる。ふぅわりとした黒蝶の笑みと共に。
「其れが溶ける様は、美しかろうな」
「ッ、させないよ!」
 けしかけるような所作に応じて形を成そうとする水の塊から一度距離を置く理彦に、くすりと笑った黒蝶が無駄だと言わんばかりに新たな水を生む。
 理彦の身体にも少なからず存在する水分さえも利用しようというその技に囚われるより早く、仕掛ける。
「雨が降りそうだね」
 沈みゆく夕陽がくっきりと見えるほどに、晴れ渡った空模様。
 けれどなんだか、何故だか。ぽつり、明るい雨に打たれたような気がして、黒蝶は空を見上げた。
「傘が必要かな?」
 しと、しと、しと。
 晴れた日に降る雨のように、ざぁ、と音を立てて降り注ぐのは、無数の矢。
 無論、その身を貫いてくれることを願った一手だが、微かに目を剥いた黒蝶が大きく距離を置くようにして下がるのを見れば、してやったりという心地。
「……これなら近付くこともできないでしょう?」
 近づく必要はないのかもしれないけれど、と笑む理彦だが、彼は、きっと、水檻に囚われて喘ぐ様を、近くで見たいのだろうとも、思うから。
 にっこりと笑えば、薄ら、忌々しげに睨めつけられた。
(あぁ、でも、危なかったかな)
 油断なんて、できたものではない。あの一瞬の間に、耳の奥で、じゅぅ、と酸が音を立てている気がしてしまったのだ。
(欠けてなんか、いないさ)
 この、胸がざわつく心地は、きっと、なくしたくない物を奪い取られそうな感覚のせい。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

普段は気にしないんだけど、今回はなぜか偉そうな物言いにちょっとイラっとするな。

存在感を消し目立たない様に立ち回る。そして可能な限りマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC菊花で攻撃。代償は寿命で、マヒは入れば上等程度。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。

俺が込めたものは誓だよ。
誰が何と言おうが、育てた想い願う心全部ひっくるめて俺なのだから。
だから俺は俺自身に誓う。
お天道様に顔向けできない生き方はしない。何より俺自身が許せないのだろうから。




 ――なんだか、気に入らない。
 黒鵺・瑞樹の黒蝶に対する第一印象は、それだった。
 普段は敵がどんな態度を取ろうと、さして気にするものでもない。
 けれど、なぜか。今回は、その偉そうな物言いに、少しばかり苛立ちを覚えたのだ。
 それは、おそらく。思いを『儚きもの』と称されたせい。
 この胸の内にある思いを、そんな風に言われる覚えなど、ないと言うのに。
 苛立ちは、一呼吸の間に潜めて抑える。いつものように、右手に胡、左手に黒鵺。二刀を備えたこの身での立ち回りは、目立たないようにと務めているのだから。
 一歩目は、まだ苛立ちが先行した雑な踏み出し。けれど二歩目には静かな暗殺者の足さばき。
 悠々と游ぐ黒蝶が、他の猟兵の相手をしている隙にその死角に入り込み。踏み込む瞬間に、己の瞳を輝かせた。
「はっ!」
 瞬間的な殺意に、黒蝶は咄嗟に距離を取る。けれど、輝く瞳が繰り出す攻撃は常の九倍。その全てを躱すには、至らない。
 咲くように、赤い色が飛んだ。このオブリビオンも人と同じ色が流れているのかと認識したのは一瞬。
 その赤に、とろりと水が混ざり込み、見る間に降りが形成されていくのを見て、今度は瑞樹が身を引いた。
「貴殿は、答える気がないのか」
 それならそれで、構わない。そう言いながら、黒蝶は空気中から得た水分で、避けまわる瑞樹の傍に水檻を作り続ける。
 刀で弾いても、一旦散るだけで、すぐに寄り集まってしまう水の塊に、短い舌打ちが溢れるが、どうにも、その檻がすぐさま瑞樹を捕らえる様子も、なくて。
 与えた麻痺の効果が出たのか? いいや、違う。
 これはまるで、こちらが答えるのを待っているかのような――。
「俺が込めたものは誓だよ」
 睨み据える視線は、今はもう、輝いてはいない。攻撃の全てを敵に費やし、削った寿命の感覚を味わいながら、瑞樹は駆ける足を止めて、真正面から、黒蝶に対峙した。
 何があってもまっすぐに進めるように。それが、瑞樹が己に課した誓い。
「誰が何と言おうが、育てた想い願う心全部ひっくるめて俺なのだから」
 知らず、本体を握る左手に力が籠もる。
 ヤドリガミとしてこの身を得るまでにも、得た後にも、沢山の思いを見つめ、託され、抱えてきた。
 思いの形は色々あり、それを伝える言葉にも色々あることを知ったのは、そう最近の話でもない。
 長い年月の間に、記憶の海に流してしまったものもあるだろう。けれどそれも、自身の経験として根付いているもの。
 全部、全部があって、黒鵺瑞樹という存在なのだ。
「だから俺は俺自身に誓う。お天道様に顔向けできない生き方はしない」
 誰かを陥れることを望むものか。誰かの不幸など願うものか。
 守れるものには手を伸ばし、何より、倒すべき相手を間違えない。
 何もかも上手く出来る必要なんて無い。ただ、そう、志しているのだ。
「そうでなきゃ……何より俺自身が許せないのだろうから」
 夕陽を背に浴び、逆光の中に佇むと言うのに、黒蝶の表情ははっきりと見て取れる。
 とろりと蕩けるような、甘い甘い、敵意の顔。
「その誓い、全て溶かしてやろう」
「抜かせッ!」
 再び瞳を輝かせる瑞樹は、追いすがるような水の群れを振り切って、黒蝶に肉薄する。
 じりり、焼け付くような酸の音を、振り払うようにして。

成功 🔵​🔵​🔴​

杼糸・絡新婦
この質問、意味ある?
答えたところで、あんたさんの目的は別にあるんやから、
答え損な気もせんけど。
それも満足する答えてあんの??
ま、答えるだけ答えるけど、
お代は高いで。

錬成カミヤドリで鋼糸・絡新婦を召喚
張り巡らせるように展開し【罠使い】
【フェイント】をいれ動きを止めたり攻撃に使用。
【見切り】で回避、糸を織るようにして防御に使用。
糸をぶつけ相殺を狙う。
奪ったぶん返してもらおうか。

人の幸せな記憶を奪っていくなら、
残るのはあんたさんへの怒りだけちゃうかな。




「――この質問、意味ある?」
 不愉快である。そんな態度を隠しもせずに。それでも表情には苛立ちよりも淡白さだけを貼り付けて、杼糸・絡新婦は首を傾げて問い返した。
 ちらと視線が向けられれば、金色と目が合う。その昏がりを帯びた瞳には、興味すら垣間見えない。
 例え答えた所で、その回答に満足すると言うのだろうか。
「答えたところで、あんたさんの目的は別にあるんやから、答え損な気もせんけど」
「そう思うなら口を噤むと良い。貴殿の他にも蜜を投じた者は居るのだからな」
 けれど、答えぬ口に囀られるのは耳障りなだけだから。
 水の檻で蓋をして閉じきってしまうこととしよう。
 黒蝶の周囲の水が蠢くのを見止め、は、と絡新婦は声を上げた。
「勘違いしなや。損する気ぃがないだけや」
 聞きたいなら聞けば良い。それを奪いにかかろうと言うのなら、迎え撃つまで。
「お代は高いで」
 細く眇めた視線の前に、きりと糸を張り詰めさせて、絡新婦は黒蝶を睨み据える。
 たおやかな所作でそんな絡新婦を見つめていた黒蝶は、そう、と小さく呟いて、蠢かせるだけだった水を、ついにけしかけた。
 まるで生き物のように絡新婦へと迫る水は、ひゅ、と空気を切り裂いた糸をぶつければ、パァン、音を立てて弾け散る。
 だが、弾いても、弾いても、跳ね除けることができないのは、それが空気中の何処からでも得ることが出来る水分によって作られているからだろう。
「鬼ごっこは嫌いではないが――」
 こぽ、と。耳元で気泡がさざめく音がした。
 刹那、絡新婦の周囲を水の檻が覆う。
 ち、と舌打ちを零しつつも、絡新婦は自身の本体である鋼糸を量産し、黒蝶の周囲へと張り巡らせた。
 その間にも、どろり、水は思想と記憶に介入してくる。幸せな記憶を探っては、溶かすように、酸がじわり、広がった。
 相棒のからくり人形が、彼と戯れる愛らしい子達の記憶が、揺らいで、溶けて――。
 させまいと、張り巡らせた糸で黒蝶へと攻撃を仕掛けると、意外そうに目を丸くした彼は、網の外へと逃れるように泳ぎ、その過程で幾らか避けた水干を撫で付けた。
「……貴殿、その肉体は仮初のものか」
「せやね。お陰さんで、息苦しさに困らんで済んだわ」
 意識の乱れで、水檻を持続するのが叶わなくなったか。あるいは、奪い切ることが見込めなくなったか。
 いずれにせよ、疎ましい水が霧散するように消え、後には、大切なものに無粋な手をかけられた感触だけが、残っていた。
 不愉快である。今度は、眉を寄せて、苛立ちにも似た顔をして。濡れた髪を避けながら、黒蝶を睨んだ。
「人の幸せな記憶を奪っていくなら、残るのはあんたさんへの怒りだけちゃうかな」
 ぎちり。鋼同士がこすれる音が、まるで絡新婦の怒りを表すかのようで。
 ちらと見やり確かめた黒蝶は、袖口を添えたその下で、ゆるりと笑みを浮かべる。
「怒る理由も溶かしてやればいいだけのこと」
「やれるもんならやってみぃ」
 奪ったぶんは、返してもらう。
 游ぐ黒蝶を捕らえるべく、鋼糸の波が、幾つも幾つも、襲いかかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳥栖・エンデ
最後に堂々現れたアレが今回の親玉かなぁ、ふむ
硝子の蜜に込められた思いが知りたいなんて
美味しいもの味わえますように、は期待とか未来とか……ひかり?
奪い取りたいなら試してみたらいいさ、金魚の君

『骨噛み』で影の怪物を呼び出して
ボクは得物の騎士槍を構えよう
ふたつで抑えて仕留めるのが僕たちの流儀でねぇ
爪と牙は引裂き喰らって、槍は抉って貫いて
処刑するのが夜の獣のお仕事なんだよ
魚の影法師はいったいどんな味がするのかなぁ

闇色の容姿に金の眼に、君も夜空のようだけど
所詮オブリビオンは過去の存在であるならば
他から奪い取っても、自ら生み出せないものは朽ちていくだけさ

アドリブも歓迎です




 良く言えば、その存在は堂々とした佇まいをしていて。多分これを悪く言うなら、偉そうに見えるというところか。
「アレが今回の親玉かなぁ、ふむ」
 そしてその存在は問うてきた。硝子の蜜に何を込めた、と。
 問いに該当する答えを、鳥栖・エンデは思案する。
「美味しいものを味わえますように、は期待とか未来とか……」
 端的に語るにはやや長い願いに枠組みを作るなら何が良いか。エンデは思案する。
 相棒の白竜と二人で覗き込んだ夕暮れ色。その蜜に込めた願いは、珍しい炭酸水を味わえますように。
 果たしてその願いは期待通り叶って、一人と一匹は満足を抱いたのだ。
 だったらやっぱり『期待』と呼ぶのが良いのだろうか。
 それとも『未来』を望んだことになるのだろうか。
 どちらも正しいようで、しっくり来ないような気もする。悩ましげに空を振り仰いだエンデは、ふと、山間に沈みゆく夕陽の眩しさに、瞳を細めて。
「――ひかり?」
 あぁ、なんとなく、そう言うのが合っている気がする。
 至った答えに満足したエンデとは対象的に、黒蝶はどこか不満を湛えたような顔をしている。
 それは、そうだろう。人の話をいくら聞いても、それを壊すことを目的とした彼にとって、未だ何も壊せていない状況は不満でしかあるまい。
 拗ねた子供だと思えば愛らしくも思えるけれど、それにしては、随分と凶悪だと胸中だけでエンデは笑い。
「奪い取りたいなら試してみたらいいさ、金魚の君」
 おいでと言うように掌を掲げたエンデに応えたのは、泥と骨だけで創られた怪物。
 それは影から這い出るように産まれ、エンデの傍にピッタリと侍り、主と同じ敵を見据えている。
「ふたつで抑えて仕留めるのが僕たちの流儀でねぇ」
 すっ、と構えた騎士槍の先端を突きつけ、地を蹴った。
 一拍遅れて駆けた怪物と共に肉薄すれば、黒蝶はゆるりと尾を靡かせて退きながら、纏わせていた水をけしかける。
 エンデを包み込もうとした水檻は、しかし割って入った泥人形に掻き消されて。
 忌々しげに眉をひそめて掲げられた袖を、骨の爪が引き裂いた。
「爪と牙は引裂き喰らって、槍は抉って貫いて。処刑するのが夜の獣のお仕事なんだよ」
 にっこりと。覗き込むような距離で微笑んだエンデは、昏い金色と視線を合わせて。
「魚の影法師はいったいどんな味がするのかなぁ」
「――私を食らう気か」
「味見くらいはしてみたいと思ってしまうよね」
 なんてったって、美味しいものを味わえますようにと願ったのだから。
 突き出された槍が、水干を引き裂く。尾鰭に咲いていた花が、散る。
「悪食め」
 吐き捨てながらも笑った黒蝶の指先が、エンデの前に突き出されて、彼自身の肉体から得た水分で、水檻を作り上げた。
 瞬く間に飲み込まれたエンデは、自身の目の前が、自分の吐き出した気泡で白く染め上げられるのを見ながら、同時に、頭の端から何かが溶け落ちるような感覚に、陥る。
(ああ、いやだな……)
 苦しさよりも、何よりも、幸せな心地が溶かされていくその感覚が。
 だが、それは単純に消していくものであって。決して、黒蝶のものになるわけではないのだろう。
 闇色の容姿に金の瞳を持つ少年。それはまるで、夜空のような姿で、とても、綺麗だけれど。
(所詮オブリビオンは過去の存在であるならば――)
 それは、奪い取るばかりで自ら生み出せない存在。
 朽ちていくしか無い存在である金魚の君に、泥と骨の怪物が飛びかかるのを水面越しに見て。
 ふ、と笑み零したエンデの視界が、また白く、染まった。

成功 🔵​🔵​🔴​

九紫・焔
主君(豊彦:f28052)と

黒き童よ
貴様のような奴原は徒に主君の御心を惑わす
ゆえに此処で斬らねばならぬ
覚悟を決めて鯉口を切る

先制攻撃の暁光一閃
主君の思いを某如きが推し量るなぞ無礼だが
賜った甘味相当の貴きものに違いあるまい
易々と告げるものか

不意に現れた水檻
主君を庇い捕らわれて
某は捨て置き、疾くお逃げを…!
ちりと鋼の心身を焼く酸に眉寄せ
呼吸は構わぬ
だが、主命を
御守りせよと銘打たれた誉の記憶を
泡沫には…!

解放され咳き込み乍ら主君を仰ぐ
嗚呼、なんと、某が為に御身を削るなどと…

彼奴は思いを「儚いもの」と宣った
確かに其は儚く
ともすれば溶けてしまう
然れども
なればこそ
幾度も其を抱き直すこの御方は、貴く在るのだ


東海・豊彦
焔(f28047)と

深海の如く昏い瞳
何が貴方をそこまで堕としたのかと
憐憫に完全に蓋をするのは難しく

気付いたときには焔は前へ
慌てて破魔の結界術を編むも
心揺れ攻撃を躊躇い

…っ!
焔を捕らわれ取り乱す
彼ばかりを危険に晒し
眼前の敵ひとり相手に出来ないとは

ああ、童よ
私の友を、返してください…!
ふつふつ込み上げる感情は悲しみか怒りか
大粒の涙が零れると共に【饑宴】を

闇が放たれたら多重詠唱で浄化の力を八尋鰐に
少しでも泡化を遅らせ攻撃できれば…
鱗が剥げようと、身が溶けようと、今は怯まない

…キミを守れずして
どうして人の子が守れましょう

震える手
けれどいつもと少し違う
焔、私もキミを守りたい、と
強く思いを込めているから




 目が、合った。問いに答えたわけではなく、ただ、ゆるりと向けられた視線と目が合ったのだ。
 東海・豊彦がそこに見たのは、深海の如く昏い瞳。
 威風堂々とした姿は尊くさえ見えるのに、その存在には拭いきれない禍々しさが宿る。
(何が貴方をそこまで堕としたのか――)
 あるいは同じ立場として肩を並べていたかもしれないのに。どうして、相容れない存在となってしまったのか。
 豊彦の胸中に湧いたのは憐憫だった。昏がりを宿す少年人魚――黒蝶にとってそれは縁遠いものかもしれないけれど、豊彦は、自身に湧いたそれに、蓋をできなかった。
 嘆くような、悲しみの気配。それを、九紫・焔は感じ取っていた。
「黒き童よ。貴様のような奴原は徒に主君の御心を惑わす」
 金色の視線が、豊彦から焔へと移されて、ことり、首を傾げられた。
 何を言っているのかと問うような眼差しに、焔は一歩前に出て、金属同士がこすれる微かな音を立てて鯉口を切る。
「ゆえに此処で斬らねばならぬ」
「私を、斬ると?」
 そうか――。思案げに瞳が細められるのと、焔の足裏が地を蹴るのとはほぼ同時。
 距離を詰め、振り抜いたその一太刀は、瞬くほどの速さで。はっとしたように顔を上げた豊彦が見据えた時には、その刃は黒蝶へと迫っていた。
 けれど。そう、けれど、だ。豊彦はいつだって焔の背を見つめ、その助けとなるよう術を編んできた。
 だからよく判る。今の焔の一閃に、いつもならばある『集中』がない。
 その一閃をより素早く、鋭くするために対象へと向けられるはずだった焔の意識は、前に見据える敵対者と、後ろに控える主君とに、二分されてしまっていた。
「それで、私を斬ると?」
 嗤わせる。間近に見た黒蝶の唇が、言葉とは裏腹に不愉快げに結ばれて、焔の太刀をすり抜けるように躱す。
 翻る袖の隙間から見える瞳が、焔の脳裏に紡がれた問いを思い起こさせた。
 蜜に込めた想いは、なにか。
 焔は知らない。あれは、豊彦に与えられたもの。
 だから、推し量ることしかできない。主君が何を思ってあの貴いまでの甘露を与えたのか。
 それを無礼だと思う気持ちはあれど。感じてしまった主君の優しさは、見ぬふりなどできぬことで。
 悲しみの気配を感じてしまう。躊躇いが、迷いが、焔の背後で、攻撃する手を止めてしまっている。
 優しい主君の何一つ、奪わせなどするものか。
「易々と告げるものか」
「そう」
 ならば黙ると良い。聞こえたはずの声は、不意に耳元で聞こえた水音に掻き消される。
 気がつけば、水でできた檻が焔を捕らえていた。
「っ、焔……!」
「某は捨て置き、疾くお逃げを……!」
 紡いだ言葉ごと飲み込まれた焔を、その思想と記憶を、酸がじわりと侵食する。
 ヤドリガミであるゆえか、呼吸も身体への影響も、さしたる苦痛と感じない焔だが、拠り所ですらある幸福な記憶に干渉されては、心が、震えた。
 御守りせよと銘打たれた誉の記憶。
 傍で仕えてきた時間すら曖昧に掻き消してしまいそうな感覚。
(泡沫には……!)
 させまいと藻掻くも、逃れられなくて。
 そんな焔を見て、豊彦は息を呑んだ。
「焔……っ、焔ッ!」
 震える声を上げて、思わず手を伸ばした豊彦の指先が、冷たい水を掻いて、それだけ。
 引きずり出そうとも、水の檻は何処からでも現れては新たに焔を包み込んで、ままならない。
「ああ、童よ、私の友を、返してください……!」
 縋るような声と共にふつふつと込み上げてくる感情。それは、悲しみか、それとも怒りか。
 豊彦には判別できなかった。ただ、焔の身を案じて、彼が救われることを願って――大粒の涙を、零した。
 べべのお色は なじょしべか
 かわいやさかな ひだるきさかな
 さあさ待ち侘ぶ ご馳走ぞ
 負の感情が、八尋鰐を喚ぶ。剥落した鱗から生まれる黒きそれは、黒蝶と同じく、宙を泳ぎ回り、かの少年人魚へ、食らいつく。
 瞠目した黒蝶が逃れようとも、八尋鰐は執拗に追跡し、幾度も牙を突き立てるのだ。
 短い舌打ちと同時に、指先から放たれたのは光をも飲み込むような闇がり。
 それが八尋鰐を水泡へと変えようとするのを少しでも妨げるべく、豊彦は浄化の力を添えてやる。
 鱗が剥げ落ち、身を焼かれ、やがて泡沫へと帰す黒き群れを見つめながら、けれど怯まず、目を逸らさず。豊彦は、ただ眼前に存在する敵を討ち果たすべく攻撃を繰り返すのだ。
 そうして、黒蝶が新たに水を生み出すことができなくなっているのを見届けると、水檻から焔を引きずり出した。
「ッ、かはっ、は……主君……」
「焔、無事ですか」
 幾度も咳き込んで後、にこりと微笑む豊彦を仰ぎ見た焔は、その顔や身体を彩っていた美しい鱗が剥げ落ちているのを見て、瞳を震わせる。
「嗚呼、なんと、某が為に御身を削るなどと……」
 主君を守ることが務めだと言うのに、果たせぬなどとはとんだ体たらく。
 合わせる顔がないとばかりに目を背けた焔に、豊彦は安堵の笑みをこぼす。
「……キミを守れずして、どうして人の子が守れましょう」
 焔を支える豊彦の手は、震えていた。けれどそれは、いつものような、嘆きに満たされ、恐れ怯えるものではなくて。
「焔、私もキミを守りたい、と。強く思いを込めているから」
 だから、こんな私の側にいておくれ。
 そう、願われているような気がして。焔は溶けかけた記憶に、一層強く、主君の刃としての存在意義を刻みつける。
 思いを『儚いもの』だと言った黒蝶の言葉は、あながち間違っては居ないのだろう。
(確かに其は儚く、ともすれば溶けてしまう)
 然れども。
 ――なればこそ。
 そんな儚い焔を幾度も抱き直す主君は、貴く在るのだろう。
 気付きと共に得た思い。それこそが、再び焔に刃を握らせるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加

まあ、この人魚に取って人間達の感情など取るに足らないものですぐ消える儚きものらしいけど、人の感情はそう単純なものではないよ。まあ、正論は通用しないだろうから、荒療治が必要か。

蜜に込めたのは子供達への愛情だ。頑張ってくれている感謝と慰労も込めているね。

ただ、飛んでくる無数の闇はかわさないと危ないね・・・【残像】【見切り】で出来るだけかわすようにしながら、瞬と協力して【衝撃波】と【範囲攻撃】化した光焔の槍で闇を撃ち落して行く。もし闇を喰らって水泡になってしまってもまだ子供達がいる。信頼して子供達に後を託すよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

この人魚、微笑んで大事なものを奪うタチの悪い存在ですね。さて、貴方がいう通り心はそんなに儚いものでしょうか?身を持って、心の強さを示しましょう。

私が蜜に込めた感情は・・・(ちらりと瞬を見て)瞬兄さんを1人の男性として想う心です。

なんと言われようとその心を捨てる気はありません。【呪詛耐性】【激痛耐性】で心が蝕まれる感覚に耐えます。5歳の時に兄さんと初めてあった時から想う心を育ててきました。それは誰にも渡す訳にはいきません!!痛みに耐えながら、【怪力】で渾身の信念の拳を喰らわせます!!兄さんの傍にいつまでもいたいから、その試練、乗り越えてみせます!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

人の心って、そんなに儚いものではありませんよ。思う心は意外と頑丈で、したたかです。でも、盗人のように人の心を奪う輩は許しておけませんね。

僕が蜜に込めたのは家族愛です。日頃の感謝と必ず護るという宣誓も込めています。奏の想いはいつか応じたいと想ってますが、この事は心で誓いますね。僕が奏の人生を背負えるような男になるまで、待っててくださいね。

とにかく飛んでくる無数の闇に当ると大変なので【第六感】で出来るだけ回避を試みつつ、母さんと協力して【衝撃波】と氷晶の矢を【範囲攻撃】化して闇を撃ち落していきます。水泡になってしまったら、家族を信頼して、後を託します。




 対峙者は、微笑んで言った。思いを、儚いものだと。
 その笑みが、思いを奪い取ろうとしていることは明白で。だからこそ、真宮・奏は眉を寄せて、少年人魚――黒蝶を睨みつけた。
「この人魚、微笑んで大事なものを奪うタチの悪い存在ですね」
「まあ、この人魚に取って人間達の感情など取るに足らないものですぐ消える儚きものらしいね」
 皮肉げに笑みを浮かべてみせる真宮・響も、その物言いには思うところがあるようで。口調こそ軽いが、表情は険しい。
「けど、人の感情はそう単純なものではないよ」
「そうですね。人の心って、そんなに儚いものではありませんよ。思う心は意外と頑丈で、したたかです」
 そうでしょう、と家族二人をそれぞれに見やり、神城・瞬は微笑む。
 瞬の中に確信として抱かれているのは、家族としての絆。それぞれをそれぞれに思い合う気持ち。
 それが儚いものであるとは、決して思えないのだ。
 それは奏や響にとっても同じこと。だからこそ、それを軽んじるような黒蝶と、相対することとなる。
「盗人のように人の心を奪う輩は許しておけませんね」
「まあ、正論は通用しないだろうから、荒療治が必要か」
 ゆらゆらと尾鰭を揺らしているその存在は、真宮家の家族会議を愉快げに眺めていた。
 幾らでも確かめ合えば良い。繋ぎ合えば良い。それすらも、全て泡沫へと帰すものなのだ。
 どことなく愉悦を含むような眼差しを、奏は真正面から睨み続けている。射抜くほどに、強く。
「そう恐ろしい顔をせずとも良いだろう」
 気持ちを弄ぶような言葉には、耳を貸すまい。
 すぅ、はぁ、と。奏は大きく深呼吸をして、改めて、黒蝶を見据える。
 苛立ちや不愉快さを押し込めた、純粋な敵意で以て。
「さて、貴方がいう通り心はそんなに儚いものでしょうか? 身を持って、心の強さを示しましょう」
「そうか、それは楽しみなことだ。――それで」
 ふわり、水が漂う。
 少しずつ形を成して、まるで牢獄を作り上げるかのように、固まっていく。
「貴殿らは、硝子の蜜に何を込めた?」
 答えてくれるのだろう、と。小首を傾げた黒蝶に、響は子らより一歩前に出て、答える。
「蜜に込めたのは子供達への愛情だ。頑張ってくれている感謝と慰労も込めているね」
「家族愛とやらか。ああ、なるほど、母という存在はそう言うものだと聞く」
「僕が蜜に込めたのは家族愛です。日頃の感謝と必ず護るという宣誓も込めています」
「貴殿も同じか。その宣誓は、男児として産まれた矜持ゆえか」
 聞き齧る程度には知っている。そんな中身のない相槌が打たれて。
 貴殿は? と問う眼差しが奏へと向けられれば、奏は一瞬だけ、瞬を見た。
「私が蜜に込めた感情は……瞬兄さんを1人の男性として想う心です」
 見つめ合うことはない。とうに気付いていた瞬は、その言葉に動揺することもない。
「なんと言われようとその心を捨てる気はありません」
 その言葉は、黒蝶に向けられたものでは在るけれど……同時に、瞬へと向けられたものでもあるかのようだった。
 彼が、どう思っているかは、直接聞いたことがないからわからない。けれど、幾度拒絶をされようとも、捨てられない想いなのだと、奏は強く、語るのだ。
「愛、と……そうか、良く分かった」
 まるで尊い立場で下々の言葉を聞くような素振りで頷いて、黒蝶はその指先から闇を放つ。
 触れるものを、目にしたものを、水泡と化す闇がりが、辺りに広がる。
 躱さなければ危ない。響はそう直感するも、あまりそれを長く見つめるわけにもいかない。
 響は瞬と目配せし、自身の周囲に魔法の矢を展開させる。
 瞬もまた、同じように魔法の矢を紡ぎ出した。響は光、瞬は氷。それぞれに違う属性の矢は、ひしめき合うようにしながら、真っ直ぐ、闇がりへと放たれていく。
「さあ行くよ!! 避けれるものなら避けてみな!!」
「さて、これを見切れますか?」
 夥しいまでの矢を放ちながら、瞬はちらり、奏を見た。
 やはり、視線は合わない。けれど、その真っ直ぐな横顔を見て、瞬は微笑むのだ。
(奏の想いはいつか応じたいと想ってますよ)
 今は、知らない振りをしているけれど。
(僕が奏の人生を背負えるような男になるまで、待っててくださいね)
 言葉にはしない。もしも、こんな間接的な形ではなく、奏が直接告げてきたなら、きっとその時は、同じ言葉を告げるだろう。
 瞬がそうなれる時がいつかはわからない。けれど、その時までずっと、家族として傍で守り続けると、誓うのだ。
 いつかの、その時。それは奏も夢を見ている未来。
 五歳の時に初めて瞬と出会った時から育ててきた心。ずっとずっと、胸に秘めて、けれど一度も諦めようとは思わなかった気持ち。
 それを、誰にも渡すわけにはいかない。
「娘」
 闇を蹴散らされるのを眺めながら、黒蝶が奏に声をかける。
 とろりと蕩けるような、蠱惑的な声で。
「そう、思い悩むものでもないだろう」
 その感情はひと時の昂りが生んだまがい物。
 『家族』と恋仲になるなど、本当に願っているのか。
 記憶に干渉しようとする声。その記憶を、書き換えようとする声。
 それは洗脳の呪詛。それを、呪詛に対する耐性を持つ奏は理解できていたから。歯を食いしばって、耐えた。
「私、は……」
 奏、と。呼びかける声が、蠱惑的な声を、打ち払う。
「これは私の意志です!! 喰らえ~!!」
 全てを振り払うように、奏は駆ける。闇がりを貫き晴らしていく家族の矢を追い越して、黒蝶へと肉薄すると、怪力を込めた拳を、振りかざす。
「私は! 兄さんの傍にいつまでもいたいから!!
 その試練、乗り越えてみせます!!
 力強い信念の拳が、華奢な少年の胴を捕らえて、吹き飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

オズ・ケストナー
清史郎(f00502)と

あの姿を見かけるのは二度目
炭酸水を味わいたいということすら
叶えてあげられないのは少し心が痛むけど

でもたおさなきゃいけない相手だもの
頷き前へ

蜜にこめたのは
セイシロウにたくさん笑ってもらいたいきもち

いっしょにおいしいものを食べて
あそんで
たたかってきたけど
セイシロウはいつもやさしく笑ってくれる

わたしがその記憶を失ったとしても
セイシロウは変わらず笑ってくれるってしってる
でも、なくしていい記憶なんてひとつもないよ
ぜんぶぜんぶ、たいせつなんだ

声を阻むような気持ちで作るシャボン玉

炭酸水のあわみたいでしょ?
注意を引き
セイシロウの花霞が現れたらすばやく紛れて
手にした魔鍵で生命力吸収を狙う


筧・清史郎
オズ(f01136)と

俺は長年箱で在った為か、過去に拘りはない
けれど、オズとの沢山の思い出
先程の甘い蜜溶けた水の味も、確かに忘れたくはないな
だから

還るべき海へと送ろう、オズ

俺が込めたのは、親愛なる友への感謝
オズの優しい心は強く、そして春の如くあたたかい
その心と共に踏み出そう
これからも思い出を増やす為にな

声発する仕草みせれば、花霞に紛れ残像駆使し敵を翻弄
確り攻撃見切り、貰わぬよう躱そう
命中率重視の桜吹雪かせる刃で確実に斬り
弱った様子や隙を見切り、攻撃力重視の鋭き一閃を

また思い出は作れるが、全く同じものは作れない
故にオズの言う様に、どれも全て大切だと
箱で在った俺に教えてくれたのは、オズ達、友だから




 オズ・ケストナーがその存在と対峙するのは、二度目だ。
 以前の彼は、そう、紫陽花を眺めていた。そうして今度は、炭酸水を味わおうとしていたのだと言う。
 それすら叶えてあげられないのは少し心が痛む。
 けれど、敵意と悪意を感じてしまった。
 倒さなければならない相手だと、心で認識する以上に、明確に、鮮明に、知らしめられてしまったのだ。
 筧・清史郎にとっての対峙は、オズほど胸の痛むものではない。
 自身が長年箱で在ったが為か、過去というものに拘りはなく。大きく頓着するかと言えば否と言えるだろう。
 だが、人としての身を得てからというもの、沢山の思い出を作ってきた。
 勿論、傍らにいるオズとも。その幾つもの思い出も、先程飲んだ、甘い蜜溶けた水の味も、確かに、忘れたくはないと思う。
 だから。そう、だから――。
「還るべき海へと送ろう、オズ」
 紡ぐ言葉に、迷いはない。頷くオズにも、躊躇いはなく。
 前に出たオズは、よく知る誰かの面影が宿るその人を、真っ直ぐ、見つめた。
 聞きたいと、知りたいと。そう言うのなら、伝えよう。
「蜜にこめたのは、セイシロウにたくさん笑ってもらいたいきもち」
 とびっきり甘い、やさしいきもち。
 一緒に美味しいものを食べたり、遊んだり。勿論、共に闘ってきたりもした。
 その、どんな時にも、清史郎はやさしく笑ってくれるのだ。
 いつでも甘く微笑んでくれるやさしいひとが、もっともっとしあわせに笑っていてくれますように。
 そんな願いの味を、その甘さを。思い起こして、清史郎はふわりと微笑む。
「俺が込めたのは、親愛なる友への感謝」
 甘いものが好きな友人のために、とびきり甘くと願ったきもち。
 きっとオズは、あえてそんな風に願わなくたって、甘い甘い思いを蜜に宿してくれたことだろう。
 それくらい、彼の優しい心は強く、そして春の如くあたたかく感じるのだ。
 共に立つ戦場ですら、いつだってそう感じるのだ。
「その心と共に踏み出そう」
 これからも思い出を増やす為に。
 顔を見合わせれば、自然と和やかな気持ちになって、笑みが溢れる。
 微笑ましいくらいのやり取りを映す金色は、相変わらず昏いけれど。
「仲睦まじいというのは、良いことだろう」
 ころり。鈴を鳴らしたような声。袖を添えた口元を覗かせて、柔らかに微笑んだ黒蝶は、その唇に蠱惑を湛える。
 彼が紡ぐ声は、洗脳呪詛を伴うもの。知っているからこそ、オズは先んじて自身をシャボン玉で覆った。
 ぽん、とオズの体ごと跳ね上がる泡は、黒蝶の視線を引く。
「炭酸水のあわいたいでしょ?」
「そうか、たんさんすいとはそういうものか」
 見上げる黒蝶を見下ろして、にっこりと微笑んでみせたオズは、眼下に花霞が現れるのを見る。
 それを認めれば、素早く地に降り、花に紛れて。ぎゅ、と手に魔鍵を握りしめた。
(わたしが記憶を失ったとしても、セイシロウは変わらず笑ってくれるってしってる)
 あなたはだあれと問うたとて、微笑んで名乗り、今までと変わらず接してくれるのだろうと、オズは認識している。
 けれど、だからと言って、なくして良いわけがないのだ。
「ぜんぶぜんぶ、たいせつなんだ」
「全て抱えているのは、重かろう?」
 脳が痺れ、蕩けるような感覚に陥る、声。
 それを、ざぁ、と巻き上がる花の音が、紛らわせてくれるから。オズは自身の内側から何一つ取りこぼすことなく、黒き人魚の身に、鍵を突き立てられる。
 生命力を奪い取り、その声を濁らせれば、清史郎が自由に動けるようになろう。
 残像を駆使し、その姿を気取らせぬようにと立ち回りながら、その一閃を見舞う隙を確りと見極める。
 オズの鍵がその身を穿ち、零れた呻く声。その瞬間に、清史郎は踏み込んだ。
 命中率を重視した一閃は、威力こそ伴わずとも、彼が紡ごうとする声を妨げる。
 なれば、返しざまに見舞う一太刀は、威力を重視した一撃で。
「また思い出は作れるが、全く同じものは作れない。故にオズの言う様に、どれも全て大切だ」
 そう、教えてくれたのはオズ達、大切な友だ。
 友人一人ひとりの顔を思い起こしては柔らかに笑む清史郎に、黒蝶は皮肉を混ぜた顔で笑う。
「は……貴殿らは、随分と抱え込むのが好きなようだ」
「そうだとも」
 なにせ俺は、箱なのだから――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鹿村・トーゴ
蜜ねえ…さっきの水売りのか(相棒のユキエを離脱させ)
故郷や家族を、ね
ありきたりだろ
秘密にするもんでも無いがお前さんに細かに話す事でもないよな?

心根や記憶にちょっかいかけるのお得意みたいじゃん
あんま引っ掛かりたくねーなァ
オレ故郷とミサキへの偏愛ぶりは自覚してるもん
とはいえ…一番なくしたくなかったミサキはもういないし、愛すべきふるさとへの忠誠も最近は揺らいでんだがね
だからこそ、だ
この愛着に干渉する思惑には惑わされてやらねーぞ
違和感を感じれば【野生の勘】即座に敵UCの声を【追跡】
声との距離を詰め手裏剣を敵背後に【投擲】し退路を断ち正面から接近してUCの威力を手にしたクナイに乗せ攻撃【暗殺】

アドリブ可




「蜜ねえ……」
 さっきの水売りのか、と、鹿村・トーゴは思い起こして呟く。
 ばさ、と飛び上がった白鸚鵡のユキエは、賢い娘だから、危機が去ったと認識できるまで、きちんと避難していてくれるだろう。
 ちらりと見送ってから、トーゴは眼前の敵対者を見やる。
 猟兵達の攻撃を受け、幾らか疲弊した様子の少年人魚は、それでも済ました表情に優雅な所作を崩すことなく、トーゴを見るのだ。
「故郷や家族を、ね。ありきたりだろ」
「家族愛とやらは、先程聞いたな」
 それと同じものかと問う言葉には、ゆるりと首を振る。
 さてね、と紡いで肩を竦めたトーゴに、少年人魚――黒蝶は片眉を上げた。
「秘密にするもんでも無いがお前さんに細かに話す事でもないよな?」
 そんなにお喋りじゃあないんだと笑ってみせれば、そうか、と短く紡がれる声。
 思案するように薄く伏せた瞳は美しい造形をしている。それを認識すると同時に、その瞳を添えて湛えられた笑みが、どこまでも闇深く、おぞましくすらあるものであったのを、思い起こして。
 心の内側から何かがおぼろげに溶けるような感覚に、トーゴはひそりと眉を寄せる。
 心根や記憶にちょっかいをかけるのがお得意なご様子の彼の技。あまり引っ掛かりたくはないものだ。
(オレ故郷とミサキへの偏愛ぶりは自覚してるもん)
 最も失いたくない記憶にどちらが選ばれてしまうのか。あるいはどちらも含めた故郷の記憶そのものを消そうとするかもしれない。
 それはできれば避けたいものだと思う反面、一番無くしたくなかった幼友達を己が殺めてしまったこと、愛すべきふるさとへの忠誠も最近では揺らいでしまっていることを、自覚する。
 この世に存在せず、薄れてしまっているものならば忘れてしまって良いのだろうか?
 ――否だ。
(だからこそ、だ)
 二度と会えない存在を、忘れることで二度も殺すことなどしない。
 忠誠が揺らいだとて、故郷を愛している事実には何も変わりはない。
「この愛着に干渉する思惑には惑わされてやらねーぞ」
「どんなに強く志そうとも、変わらぬさ」
 美しい声が、紡がれる。
「貴殿の言う思い出など『びいどろ』のように儚いものだ」
 その蠱惑的な響は、トーゴの記憶に干渉しようと、潜り込むような不愉快さで耳朶に響いてくる。
 耳をふさいだ所で意味はなかろう。ならばその声に惑わされる前に、打って出るまで。
 侵食されるような心地を振り切るように黒蝶との距離を詰めたトーゴは、手裏剣を彼の背後へと投擲する。
 接近から身を引こうとしたその動きを一瞬引き止めた隙に、手裏剣の代わりに手にしたのはクナイ。
「“視ずの鳥其の嘴は此の指す先に”」
 ぎゅぅ、と。トーゴの手元で、空気が圧縮される。
 限界まで圧縮されたそれは、爆ぜる時を待つように、その手の中で震える。
「……穿て大鉄嘴」
 クナイを突き立てる瞬間、それは爆ぜた。
 周囲の地形を破壊するほどの威力を伴ったクナイの一撃は、黒蝶を刺し貫き、その美しく花咲かせた尾鰭を引き裂いた。
 喉を詰まらせたようなくぐもった声が零れて。
 もう、蠱惑的で不愉快な声は、聞こえてこなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリエ・イヴ
【契】アドリブ◎

ハッ、ムカつくな
誰の何が儚いって?
込めたのはシェフィーへの想いだ、感情だ
(それは…欲しいと思う気持ちだったり
綺麗なものを共有したいと思う心だったり複雑で)
名前なんざ、知るかよ
ただ他に変えの効かねぇこの感情を儚いとは
ずいぶんふざけた野郎だ
海賊から奪えるもんなら奪ってみろ
手出しはさせねぇけどな

そこにいる青が
俺の海が記憶を繋ぎ止める

シェフィーもいってやりゃいいのに
素直じゃないアイツは言わねぇから
【君の僕】
ここに本物の海はねぇが
水なら言うこと聞きやがれ
水の檻をほどき
シェフィーを守る
だから言ったろ
俺のもんに手は出させねぇって

シェフィーは手厳しいなぁ
素直にうれしい♡っていってもいいんだぜ?


シェフィーネス・ダイアクロイト
【契】アドリブ◎

…アリエ・イヴ、貴様未だそんな戯言を
私は蜜を適当に選び取った迄
何も込めてなどいない
故に略奪は不可能だ

息を吸う様に嘘を吐く

(何故、゛愛゛と形容したか
奥底に残り続ける甘さ(どく)、熱の正体は
たった一口で此れ程の
棄てたい感情が増えた元凶は
総て置いてきた筈が)

緋の彼を見る
自分が忘れたくないのは父の仇の息子と疑う為
事実ならいつか殺す
其れだけ
【金葩の禍】使用
二丁拳銃で散弾する
アリエ・イヴの蜜も結果的に守ってる

…実に下らぬ
私は誰の物でも無い
この程度の輩に壊される感情なら
私にとっては好都合なのだがな

(一度、貴様はあの部屋で私への記憶を失った
酷く面倒で
同時に
✕だった)

本当に癪に障る
無駄口を叩くな




 気に入らない。アリエ・イヴはただ率直に、そう感じた。
 オブリビオンの一方的な主義主張にいちいち目くじらを立てるものではないと言われればそれまでだろうが、聞き流してしまえるようなどうでもいい言葉ではなかった。
「ハッ、ムカつくな。誰の何が儚いって?」
「アリエ・イヴ」
 噛み付くようなアリエの言葉に、何を構う必要があると言わんばかりにシェフィーネス・ダイアクロイトが声を掛けるが、アリエは苛立ちに任せて彼を睨むように見た。
 短く零れるのは、小さな舌打ち。
「込めたのはシェフィーへの想いだ、感情だ」
 アリエの言葉にシェフィーネスが瞳を揺らしたことには、気が付かない。
 それは、黒蝶への苛立ちと同時に、胸中に確かにあるのに明確ではないものを、感じていたせいだろうか。
 アリエは、シェフィーネスが欲しいと思う。相棒だとか、友人だとか、そう言うわかりやすい括りではなく、ただ純粋に、手に入れたいと思う気持ちがある。
 それとは違うベクトルで、綺麗なものを共有したいだとかも、思っている。
「名前なんざ、知るかよ」
 複雑な胸中に、確たる名など与えられようものか。
 ただ、それでもここに存在していて、どうしようもなく強い感情。
 他の何かに変えられようもないこの感情を、儚いものだなどと言われる筋合いは、無いのだ。
 ああ、やはり腹立たしい。随分とふざけたことを言われたものだ。
「海賊から奪えるもんなら奪ってみろ。手出しはさせねぇけどな」
 そこにいる青が。俺の海が記憶を繋ぎ止める。
 海と例えた男を振り返り一瞥して、アリエは不敵に笑ってみせた。
 あまりにも真っ直ぐに己の心を語るアリエを、シェフィーネスは信じられないものを見るような目で見つめている。
 まだ、そんな戯言を――。
 言い募ろうとした口は、噤んだ。
 言葉を交わせばそれだけで己の内側の何かを乱されてしまいそうな気がして、ゆるり、かぶりを振って己を持ち直すと、シェフィーネスはアリエを飛び越して黒蝶を見る。
「私は蜜を適当に選び取った迄。何も込めてなどいない」
 たまたま居合わせ、興味を惹かれただけのもの。物珍しげに眺め、綺麗な見た目に誘われて選んだ蜜に、シェフィーネスは言葉通り、何も込めていない。
 込めた、つもりなど無い。
「故に略奪は不可能だ」
 息を吸う様に嘘を吐く。アリエとは対象的に、燻る何かに蓋をして。
 淡々と言葉を紡ぐシェフィーネスに、つまらないと肩を竦めたのは黒蝶ではなく、アリエの方。
「シェフィーもいってやりゃいいのに」
 軽口に、視線すら返されないのには愉快げに口角を上げて。素直じゃないなと胸中だけで呟いた。
 彼が黙ることを選ぶというなら、仕方がない。大人しく付き合って、彼の内側に自覚の有無を問わずに居座っているものを、守ってやるしか無いだろう。
「こいよ、受け入れてやる」
 ここに、本物の海はない。それでも、この世界にだって海があるのだから、その愛をアリエが感じ取れないわけがない。
 全て受け入れれば、アリエの存在は水精に近しいモノへと転じる。水を操ることを可能とするその身で以て、彼らに迫ろうとする水の檻を、堰き止めた。
「水なら言うこと聞きやがれ」
 横暴なほどの力強さは、黒蝶とせめぎ合い、何処からでも生み出せるはずの水檻を制止させる。
 眉を顰めた黒蝶と対峙するアリエを、まるで、守るように立ちはだかるその背を、シェフィーネスはどこか忌々しさのよぎる目で、射抜く。
 シェフィーネスにとって、アリエは父を殺した仇の息子。
 それ以上でもそれ以下でもなく、それが真実であるか否かが定かではないがために、その存在を記憶に残しているに過ぎない。
 事実ならいつか殺す。そうでないなら――。
(そうで、ないなら……)
 知らず、喉元に手を触れさせる。ひと口喉に流し込んだ、酷く甘い水の味が唐突に蘇って。
 その甘さがまるで愛のようだと、何故だかそう感じてしまったのを同時に思い起こして、シェフィーネスは苦い顔をした。
 後味すらも掻き消えたはずなのに、心の奥底で残り続ける甘さは、どくと、同じで。
 それなのに――。
(何故、゛愛゛と形容した)
 置いてきたはずなのに。棄ててきたつもりなのに。感情も、その元凶も。
 だと言うのに、意地になって飲み下したたったひと口が、まるで呼び水のように、熱を、燻らせる。
「名をつけられぬ感情か……」
 その熱に、じくり、声が沁みる。
 水檻の尽くをアリエに散らされ、不愉快げに息を吐いた黒蝶が、アリエを、シェフィーネスを見て、首を傾げた。
「曖昧なものなど、無くしてしまっても大差はあるまいに」
 そうでないなら、縋って見せるが良い。
 蕩けるような声に揺さぶられ、掻き消えようとしたのは、棄てたかった元凶ではなくて。
 目の前で不敵に笑う、緋色の――。
「ッ、──Loose lips sink ships.」
 聞こえる声を紛らわすように紡ぐと同時、シェフィ―ネスが放った弾丸が、黒蝶の尾鰭の花を散らす。
 その銃弾は黒蝶の核となる部位に、彼が今まで口にした言葉に応じて、彼を苛む棘を生やす。
 苦しむ声を零せばそれもまた棘となる銃弾に苛まれ、完全に疎かになった水の檻を解き、アリエは濡れた手を軽く払った。
「だから言ったろ。俺のもんに手は出させねぇって」
「……実に下らぬ。私は誰の物でも無い」
 結果的にアリエの蜜すら守ることとなったが、仮に守りきれずとも、この程度の輩に壊される程度の感情だならば、あってないも同然。
 下手に振り回されることもなくなって己には好都合だと言うシェフィーネスに、アリエは声を上げて笑った。
「シェフィーは手厳しいなぁ。素直にうれしい♡っていってもいいんだぜ?」
「本当に癪に障る。無駄口を叩くな」
 まだ敵を倒しきったわけでもないのだ。
 ――それに。
(一度、貴様はあの部屋で私への記憶を失った)
 あの時は酷く面倒で、同時に――、――だった。
(……何故、思い出す……?)
 好都合だと、そう言った、はずだったのに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

琴平・琴子
亮さん(f26138)と

甘く蕩けそうな声に
誘惑されない、揺らがない
貴方になんか教えたくない
私の込めた思いも全部
貴方に語らうつもりはない
亮さんと過ごした日々も
記憶も思い出も溶かさせない
私達の思い出も、全部大事ですもの

頭を撫でられ
嬉しくない訳ではないものの
目を丸くし瞬き
…敵いませんね、もう

水檻の出来上がりに備え
光を蓄えた輝石ランプを前にかざし
夕暮れの闇を濃くして狂気を呼び寄せる
その狂気は水檻を引き千切って
酸を包み込む手にさせる

亮さんの道を邪魔するものには
狂気の手で退ける
何人たりとも貴女の道を邪魔させない

今度は貴女の脚で
――さあ今、王手を


天音・亮
琴子ちゃん(f27172)と

きみの声
すごく甘やかで心が溶かされるような声だね
囚われる様なそんな声
でも、私は絡めとられたりしないよ
儚く見えたとしても
私たちはこの思い出を積み重ねて生きている
重ねた思い出は光に、強さになるから
きみに消されるわけにはいかないの

きみが大事だと言ってくれた思い出も
しっかり守らなきゃね、琴子ちゃん
柔らかで無垢な黒髪を撫でて
どこか照れた様子が可愛らしくて咲う

オーラ防御を纏い駆け出して
きみが作ってくれた道を駆けて、駆けて、思い出の先へ
溢れる思いが途切れる事の無いよう
力強く地を蹴った脚でどんな障害だって越えてゆくんだ

頷きを返す
きみの手で、私の脚で切り拓いた道
──さあ今、王手を




 甘い声がしていた。その声は度々にくぐもり、苦痛を交え、それでも優美に優雅に、響いてくる。
 硝子の蜜に何を込めた?
「――きみの声、すごく甘やかで心が溶かされるような声だね」
 ぽつり、呟いたのは天音・亮。
 それが心を砕くものだと理解していなければ、聞き入っても良かったのだろうけれど。
 琴平・琴子は、強い意志で跳ね除けた。
「貴方になんか教えたくない。私の込めた思いも全部、貴方に語らうつもりはない」
 大好きで大切な友人とのひと時は、今日しか得られない宝物。
 そんな宝物達を一つ一つ積み重ねた宝箱のような思い出を、琴子は亮と過ごしてきたのだ。
 それを、溶かさせることなんてしない。するものか。
「私達の思い出も、全部大事ですもの」
 強い意志を持った声に、うん、と亮は嬉しさを湛えた声で頷く。
 囚われるような、そんな声に。それでも亮は絡め取られたりはしない。
 この、過去にしか縋れない少年にとっては脆くて儚いものに見えたとしても、この思い出を積み重ねて生きていけるのが、未来を持つ存在だ。
「重ねた思い出は光に、強さになるから、きみに消されるわけにはいかないの」
 笑みの中に確かな意志を滲ませながら黒蝶を見据えた亮だが、不意に傍らの少女を見やり、その頭をぽんと撫でる。
「亮さん……?」
「きみが大事だと言ってくれた思い出も、しっかり守らなきゃね、琴子ちゃん」
 柔らかで無垢な黒髪は、琴子の象徴のようで、触れて撫でれば幸せな心地にしてくれる。
 撫でるその手の優しさは心地よくて、琴子はそれが嬉しくない訳ではないものの、気恥ずかしさには、耐えられなくて。
 まぁるくした大きな瞳で見上げてから、照れたように、はにかんだ。
「……敵いませんね、もう」
 気負って、肩に入りすぎていた力を抜いてくれる、年上のひと。
 そんな手のひらに素直に表情を変えてくれる、年下の子。
 視線が合えば咲い合う。そうして手のひらが離れる頃には、彼女達の間には思い出を確かめあった絆が生まれているようで。
 それが、どことなくきらきらして見えたのだろう。黒蝶は、血の味のにじむ唇を雑に拭っていた手を、眩しげに翳した。
「貴殿らが、それを余程大切だと言うのなら」
 ――抗ってみせよ。
 爆ぜるように辺りに湧いたのは、夥しいまでの水。
 まだ、こんなにも余力を残していたのかと思う反面、それが全てを注ぎ込むものであることも気取った二人は――琴子は、輝石ランプを眼前に翳した。
「いらっしゃい、此処に」
 幼い頃は、闇や影が怖かった。得体のしれないものが潜んでいるような不気味さに、ただ意味もなく怯えていた。
 けれど今は違う。これは、脅かすものではない。光を掲げて呼び寄せれば応えてくれる、そんな、狂気だ。
 酸性を伴う水だって、狂気の前ではただの液体。掴んで、引き千切って、ぎゅぅ、と包み込んでしまうような手のひらへと姿を変えさせれば、降雨をしのいでくれる屋根のように、からりと乾いた道を作り出してくれる。
 見止め、亮はオーラの防御を伴に駆け出した。
 琴子が作ってくれた道を、なんの憂いもなく、駆けていく。
「何人たりとも貴女の道を邪魔させない」
 琴子が、その力強い意志で守ってくれるから。そう、信じられるから。
 武装ブーツの超スピードモードを発動させた亮の足はどこまでも軽く、跳ねるように飛ぶように、駆けるのだ。
 他愛もないやり取り。笑いあった日常。特別なお出かけ。共に飲み干した炭酸水の爽やかな甘さ。
 全部全部引き連れて、その先へ。
 きみと過ごす明日を信じて、溢れる思いが途切れる事の無いよう、亮は力強く地を蹴った。
 編笠の群れを退けた時は、亮の足が拓いた道へ、琴子の兵隊が突き進んだから。
「今度は貴女の脚で」
「うん、ありがとう」
 きみの手で、私の脚で切り拓いた道。
 ――さあ今、王手を。
 超高速の連続攻撃を、黒蝶は避けなかった。避けられなかったのだろう。最後まで優雅に佇んでみせたその身は、醜く崩れることすらなく、泡のように、溶けて消えた。
 ふつり、と。沈んでいた夕陽の、最後のひとかけらが山の向こうに消えて。黄昏色の空に、星が瞬くのが見えた。
 次第に闇に包まれていく街道だが、振り返れば街の明かりが映るだろう。
 帰路を促す声に応えるように、一つ一つ灯り始める街灯りは。
 彼らが守り抜いた、その証であるかのようだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年09月26日


挿絵イラスト