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キミはダレ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●ラウールとジョゼフィーヌ
 オブリビオンの影におびえ続ける世界。悲しいかな、村々ではその圧政を甘んじて受け入れることがもはや当たり前になっていた。
 どうせ搾取されるとわかっているもののために土を耕す毎日――。100年ほど前に始まり、今尚続くこの時間を形容するには、苦しみという言葉以外見つからない。
 彼女がやってきたのは、そんな中だった。

 聞けば、物だけでなく人までもが攫われ、オブリビオンへの供物となることを強いられた辺境の村から、命からがら逃げ出してきたのだという。
 辛い境遇からか多くを語ろうとしない彼女だったが、それでも前を向き、過去よりもこの先のことを案じる気丈さがあった。一目惚れなどという現を抜かすには余りにも苦しい世の中だろう。それでも、俺とジョゼフィーヌの距離が縮まるのにそう時間はかからなかった。
(いずれこの村もそうなるかもしれない。でも、彼女だけは俺が守る。)

 何の希望もなかった世界なんだ。気まぐれにこんな幸せがあったっていいよな。
 労働に追われる日々で束の間の息抜き、久方ぶりにまた彼女に会える――。
 だが、そんな気まぐれがいつまでも許されるはずなどなかったのだった。

●攫われた男
「みんな、集まってくれタルーーーっ!」
 シルクハットを目深にかぶり、どこから声を出しているのかいまいちわからないそいつ、グリモア猟兵のギャンビット・メレナス(変幻自在の怪盗紳士・f05402)は、大声で猟兵たちを呼び集めた。
「今回は、圧政が蔓延るダークセイヴァーの世界で、村々に押し寄せる更なる悪夢、人攫いの元凶を討伐してほしいタル。」
 だが――。とギャンビットはひとつ咳払いをしてこう続けた。
「気をつけロ、みんなの力を持ってしても、今回の一件はすんなりとはいかないかもしれないタル。」

 まず、彼が視た予知内容はこうだ。
 感覚からして、おそらくそれは極々近い未来。ひどく濃い霧に覆われ、鬱蒼と生い茂る木々。視界不良もいいところで、村から少し外れに位置すると思われるその領域は、まさにこの地を支配するオブリビオンの根城そのものに違いなかった。
(ザーっ、ザーっ......。)
 そんな五里霧中にあって、篝火を持った異形のモノに無残にも引き摺られる男がひとり――。気を失っているのか、そのなすがままの男が着ている衣服からして、彼はどこぞ村人だとわかる。村から連れ去られたと見られるその男は、途切れる意識の中で「ジョゼ......ヌ」といううわごとを発している。
 そして、時間的にはその少し後だろうか、引き摺られる男の後を追うようにして、異形どもと同じ方向へ急ぐ女性の姿。この闇のテリトリーにあって、それでも一切の迷いを感じさせないその歩みからは、並みならぬ決意が見て取れる。おそらく、先ほどの男と関係があるのだろう。彼が視たのは、ここまでだった。

 しかしその情報だけでは動きようがない、と声が続く。だが、ギャンビットはそれを制した。
「慌てるナ。この人攫いという事案。以前同じダークセイヴァーの世界で横行した人攫い事件とその元凶『エルシーク』の名を知っている者はいないカ?」
「ッ! まさか、あの『往生集め』と呼ばれたオブリビオンか?」
 風の噂で耳にしたことがあるぞ、という反応にギャンビットが無言で頷く。
「そうタル。彼の往生集めという通り名は、死した者のその遺体や遺品を蒐集するという奴の性癖に由来すル。だが、実際問題として遺体を意のままに操るその術はかなりの脅威だったと聞くタル。」
 特徴からみて、今回の出来事が奴の仕業であることは間違いなさそうだ。
 だから用心してくれ、とギャンビットは念を押す。知っての通り、奴らオブリビオンは何度でも蘇る。エルシークもかつて同志が討ったはずだが、また顕現したのだろう。そんな折だ。猟兵に対しては相当な殺意を持っているはず。今や操る以上の、遺体を利用した能力を身につけていても何ら不思議はない。例えば、遺体の外骨格を用いて遺体そのものに擬態するような――。

「今から開くゲートは村から程近い森の入口に続いているガ、あれは極々近い未来だったタル。生憎こうしている間にも予知は現実となりつつあル。時間的には男が連れ去られ、それを女性が追いかけてからまだ間もないはずタル。まずは各々の方法で森を進み、その女性を見つけてくレ。そしてその後森を進めば、男を連れ去った一向と遭遇するはずタル。状況を見ながら集団と戦えば、エルシークにも何らかの動きがあるはずダ。」
 尚、予知内容から察するに、その女性は相当な決意で男のことを追っているようだ。仮に猟兵たちが引き返すよう説得しても、頑なに拒否し、むしろ道なき道の先導を依頼してくるだろう。ともすれば、猟兵は合流後も女性を護衛しつつ先へ進むことになる。いずれにせよ多少の消耗は免れないが、それでも適切な装備や技能があれば役に立ちそうだ。

「断片的な予知ダ。みんなの経験から、全てを疑い、注意してかかってくれタル。」
 さて、歯がゆいが後オレに出来るのは送り出すことだけだ、と恭しく左手を胸元に添え、右手をシルクハットに乗せると、頭を下げ、改めて猟兵たちに力を貸して欲しいと願った――。応じて、ある者は元気よく、ある者は音もなく、それでも皆一様に席を立ち、ゲートへと向かったのであった。


ルブラン
 1章は森の中を進み、まずは女性を見つけて頂くことになります。見つかるタイミングは皆様から頂けるプレイングに応じますので、比較的早く見つかり、護衛をしていく形となる可能性もあります。よって、護衛に重きを置いたプレイングも、その逆の捜索に重きを置いたプレイングも大歓迎です。

 そしてここからが重要ですが、第2章では、そこに登場しているであろうとある対象への猟兵の振る舞いに応じて、それ以降の物語が大きく変化します。ここで何かを見抜けなかった場合、或いはズレた行動を取ってしまった場合、第3章では苦戦を強いられることになるかと思います。(ボスの強さに補正をかけます)エッセンスは散りばめさせて頂きましたので、少しばかりのスパイスと共に、冒険をお楽しみ頂けたらとても嬉しいです。

 #ロマンスとミステリーが入り混じる珠玉の冒険譚を目指して!
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第1章 冒険 『五里霧中』

POW   :    大胆に行動する

SPD   :    慎重に行動する

WIZ   :    冷静に行動する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夷洞・みさき
疑念は表に出さない

警戒を解く様に、笑顔で

希望が湧いた後に、そこから突き落とされると、すごくショックだろうね。
そんな趣味の悪い人に事欠かないのがこの世界だけどね。

【WIZ】
予知だと、女性でも追いかけられる程だし
慎重に追いかけよう。
合流したら女性の名前は確認しないとね。
足跡から数は判るかな。

護衛に同胞達を周囲に潜ませる
自分以外全てから隠す
今は暴力的な事は抑えて

君についた咎は嘗ての村の人達かい?
護ってくれているのなら感謝しておかないとね。

疑似餌か撒餌か幸運の産物か
この霧の中、良く見えないよね。

五里霧中、灯台頼りに追いかけて
けれど、灯台下暗し、なんてね

そうそう、只人でもそんな趣味に堕ちる場合もあるよね


小読・灯
いったい二人はどういった関係なのかしら?
気になるわね。
気になるけど、まずは森を探して女性を見つけ、障害となるものは消しましょうか。

【WIZ】
まず私は幻を身に纏って森の色に紛れ込む様に【迷彩】しましょうか。
そして木の上のように少しでも高いところから森を見てみて、大体の大きさが分かれば見てみましょう。

そうしたら【仄明かりのカンテラ】に火を灯して、探索開始よ。
罠のありそうな場所が有るか【罠使い】としての経験で目星をつけて【木製の竿】で先の安全を確認しながら進んで行きましょう。

女性を見つけたら姿は現さずに幻で敵の目を眩ませ惑わせたり、女性が怪我をすれば【癒しの幻燈】で癒したりして、支援に徹するわ。


エルネスト・ポラリス
件の女性、まあ攫われた男性と親しいと考えるのが自然ですけど……
行動がどう考えても不自然なんですよね。
オブリビオンに攫われた人間を助けに行くのが女性1人?
そんなの、自殺行為でしかないって、あの世界に生きる者なら知ってて当然だと思うのですが。

まあ、怪しくても見殺しにはできません。
人狼としての嗅覚や野生の勘を使いながら、彼女を探しましょうか。
森の中なら、動物の話を聞くのもありかもしれませんね。

正直こんな状況じゃなきゃ、縛り上げてでも女性は村に返したいんですけど……今は一刻も早く男性も追わねば。
無敵城塞やバスタードソードを使いながら、女性を守りつつ先を急ぎましょうか。

アドリブ可


聖護院・カプラ
【WIZ】
『往生集め』……。一度、関わった事があります。
かのオブリビオンの行いは看過できるものではありません。
私も協力させて下さい。

男性を追う女性を見つけねば、女性に大変な危険が及ぶ可能性が高い。
『後光』を照らしながら女性を探しましょう。
オブリビオンと間違われ逃走される可能性はありますが、
この暗い森の中で闇雲に走れば音や痕跡も残しましょう。

追いついたなら手を取り、予知の内容を知らなかったかのように振る舞い
(エルシークを討伐にきた、ここに居ては危ないと告げ)
『説得』を行います。

説得に矛盾が出ないよう、他の猟兵の説得に矛盾が出ないよう要所要所で
話に補足や調整をしましょうか。


ロベリア・エカルラート
【SPD】で行動

●心情
ふむふむ……さらわれた男を追いかける女性、ね
大した覚悟だよね。中々出来るもんじゃない……

けどま、私も随分と擦れてるもんだから、信用出来ないんだよねぇ
私の取り越し苦労で、ホントにその女性が男のためだけを考えて動いてるなら、それに越したことはないんだけど……


●行動
女性との接触は他の仲間に任せて、私は霧の中に潜みながら、遠目にその女性を観察するよ
怪しいところがないか、見逃さないように監視を続ける

途中で見つかったら何食わぬ顔をして猟兵に合流するけどね

……ま、普通の人間にそう簡単に見つけられるとは思えないし、見つかったら逆に怪しいかな

女性と接触するまでは他の猟兵についていくよ



●五里霧中を行く 
 異質な空気がそこにはあった。静けさが支配する中で、時折吹きつける風が樹に音を立てさせる。何かが呼んでいる。吸い込まれる――。そんな不気味さを湛えていた。
 
 それを鋭敏に感じ取り、用意周到に森に挑もうとする者がいた。小読・灯(灯売り・f01972)は、まず自身に森をイメージした迷彩を施すべく、『幻の絵具』を展開した。実体はそこにあるはずだが、注意深く見なければその存在に気づくことは難しいだろう。まさに森に溶け込んだ彼女は、今度は可能な限り森を掌握しようと試みる。高さのある手近な樹に登ると、じっと目を凝らした。
「さすがにこの霧じゃ、見渡すのは難しいようね。」
 狭い視界では目での情報に限界があったが、それでも収穫はあった。遠くからも草木のざわめきが聞こえてくるのだ。かなりの距離まで森が広がっていることがわかり、灯は一層気を引き締め森へ足を踏み入れる。『罠使い』としての経験から、常に不意の仕掛けにも注意を向けていた灯だったが、幸い悪質な罠はなく、せいぜいまだこの地に村人が入り込めたであろう大昔に設置したらしきトラバサミがある程度だった。『仄明かりのカンテラ』を頼りに進むそんな彼女の道程は順調だったが、それは後に予想外の驚きをもたらすことになる。

 灯が森へ踏み入る少し前、一足先に森を行く聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)は先を急いでいた。後光で視界を可能な限り照らしながら、道なき道を進む。ミシッと無機質に枝が裂け、折れる音が続く。あの女性を見つけねば、大変な危険が及ぶ可能性が高い。何とか見つけて説得を試みたいと願っていた。そんな矢先、カプラは声をかけられる。
「あなたもエルシークを?」
 カプラが歩みを止めると、そこに合流したのは人狼だった。
(さっきあっちに決死の形相で走る女と、でっかい機械が向かうのを見たよ!)
 『野生の勘』を頼りに同じく森を進み、野生の小動物と会話することで事前に情報を仕入れていたエルネスト・ポラリス(いつか満月の下で・f00066)は、カプラの発する光とその巨体から間違いなく同じ猟兵だと考え、声をかけてきたのだ。
「はい、かのオブリビオンの行いは看過できるものではありませんから。」
 その言葉にエルネストは頷くと、共に前線を行く者として同行することにしたのであった。
「少し休憩しましょうか。」
 大分飛ばしていましたね、と同意した矢先だった。ザッザッと小さな足音と共に、何かが迫ってくる――。思わず振り返ったカプラは、目を疑った。
「とうとう見えてしまいましたか。これも仏の勤め、受け入れるしか......。」
 ただのカンテラが宙に浮いていたのだ。
「お二人も猟兵ね? 合流できてよかった。」
 自らに迷彩を施し、森と一体化していた灯だったが、道行きを照らすカンテラはそうはいかない。結果、カンテラが森を行くというホラーが行われていたのだった。合流したことで迷彩を解いた灯を見て、カプラは漸く合点がいったようだ。
「驚かないのですね。」
 あまりの御心の広さに逆に驚き、思わず笑ってしまったエルネストに、カプラが答える。
「もしも人魂が肉体を持たずにやってきても、きっと私は応じますよ。......?」
 
 む、と今度はその場の全員が反応した。磯の香りと今度も明確な足音。徐々にその姿が照らされると、それは夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)であった。この暗闇の中でもわかるような色白の肌に、やや不健康な顔立ちの彼女は、軽く自己紹介をする。
「僕は夷洞・みさき。君たちも今回の一件に挑む猟兵だね。宜しく頼むよ。」
 宜しく、と新たな仲間を歓迎する一同であった。
「しかし、ここはやけに多いねぇ。」
 挨拶の延長といった軽い空気でみさきが呟く。
「え?」
 何が?と反応に皆が一様に顔を見合わせる。
「僕は死霊術士だからね。見えるんだ。」
「......。」
 そしてまたみさきを除く全員が、今度は伏し目がちに辺りを見渡すのだった。

●ジョゼフィーヌの決意
「いったい二人はどういった関係なのかしら? 気になるわね。」
 道すがら灯が切りだすと、待っていましたとばかりに思いを打ち明け合う。
「希望が湧いた後に、そこから突き落とされると、すごくショックだろうね。そんな趣味の悪い人に事欠かないのがこの世界だけどね。」
 とみさきが応じる。彼女の言葉には、これまでも見てきた、という形容しがたい重みがあった。そして、いぶかしむ者も一人。
「件の女性、まあ攫われた男性と親しいと考えるのが自然ですけど......。」
 エルネストもまた、救いたいという思いと、この世界の厳しさ故に抱かざるを得ない疑念の狭間にいるようだった。そして、一人沈黙を守っていたカプラには、何か考えがあるようだった。

 話題をさらっていた件の女性に4人が追いつくのに、そう時間はかからなかった。村からある程度離れた所で、その女性は樹の幹に寄りかかってうずくまっていたのだ。猟兵はあえて足音を立てて駆け寄る。すぐさまその女性は警戒し距離を置こうとしたのか、動きが鈍い。どうやら、怪我をしているようだ。
「あなた、大丈夫? 名前は?」
 みさきが警戒を解く様に笑顔で尋ねる。
「私はジョゼフィーヌ......。あなたたちは? 一体どうしてこんなところに。いたっ......。」
 見れば足には鋭い切り傷が幾つもあるようだ。これまでの道中でついたのか、見るからに痛々しい。それを見た灯が、即座に『癒しの幻燈』を発動する。
「傷が......! こんなことって。」
 これだけの傷だ。代償として消耗し、肩で息をする灯だったが、その表情に安堵の色が浮かぶ。
「私たちはここへオブリビオンを討伐しに来たのです。あなたはここにいては危ない。」
 カプラの言葉に、ジョゼフィーヌの目の色が変わった。
「っ! あの人は! ラウールのことはご存じありませんか!? 待ち合わせの場所に彼は来なかったんです、探し回ると、村の外れに引き摺られた後が......。彼はきっと攫われたんだわ。まるで私の故郷......、だから、私はここへっ!」
 落ち着いて下さい、とエルネストが制する。
「状況はわかりました。ですが、女性一人では余りにも危険すぎます。それはあなただってわかるでしょう?」
 そこで再度前に出たのはカプラだった。エルネストの言葉と同じように危険を伝えるものであったが、その声色には明確に力が乗っていた。『説得』を発動したのだ。
「私もそう思います。ここに居ては危ない。何とか無事に送り届けますから、あなたは引き返すべきです。オブリビオンは私たちが討伐しますから。」
 じっと見据えるジョゼフィーヌは、カプラの優しい言葉を受けて一瞬表情を変えたように見えた。だが、それでも血が滲むほどに唇を噛みしめると、涙ながらにこう訴えた。
「私の故郷にはもう何も残っていない。それがここへ来て、やっと光を見つけたの。彼とは恋仲だった。彼に何があったか出来るだけ早く知りたいのよ。彼の無事を確かめたいの。万が一彼がその、もう帰らないとしたら......、私だって生きている意味はないわ。だからお願い、私も連れて行って。」
 まさかこれ程とは......。皆の沈黙は、そんな声を代弁しているかのようだった。
「わかりました。そこまで仰るのであれば、お連れしましょう......。」
「正直こんな状況じゃなきゃ、縛り上げてでもあなたは村に返したいんですけど......。今は一刻も早く男性を追わねばなりませんからね。」
 ここまでの決意となると、カプラもエルネストも頷かざるを得ないのであった。

 時は少し遡る。4人がジョゼフィーヌと遭遇する前、死霊話で盛り下がる中、物陰から距離を取って周囲の様子を窺う者がいた。最後尾から前を行く者を追ってきた彼女だったが、前の4人が合流するのに費やしているわずかな時間を利用して、その斜め前方に回り込んでいたのだ。ともすれば怪しい行為ではあるが、彼女、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・f00692)が慎重にことを進めるのには、明確な理由がある。
「さらわれた男を追いかける女性、ね。けどま、信用出来ないんだよねぇ。」
 中々できることではない大した覚悟だよね。と思いつつも、私も随分と擦れてるもんだから、と思わず独りごちる。この先を考えると、安全を確保できる範囲内で別行動をすることで、何か得られる情報もあるのではないか。彼女はそう判断していたのだ。
 そうこうしているうちに、仲間4人が同じ方向に歩みを進め始める。それを横目に見ていた彼女は、気を引き締め直した。この状況だからこそ、自分にできることがある。そう言い聞かせると、ロベリアはそのまま4人のやや前方という位置取りを心がけ、同じ方向へ向かった。

 ややあって、前方でかすかな物音が聞こえた。否応なく心臓の音に気づかされる。まだ後方の4人は気づいていない。物音に最も近い場所にいるのは自分――。それでもロベリアは確かめたくなる気持ちをぐっとこらえてそのギリギリまで近づき、物陰に潜む。今回ばかりは、霧が好都合だった。
 何も見逃さない!と、これでもかと目を凝らす。
(女性? あれは予知で知らされた.......。順当にいけばジョゼフィーヌなんだろうけれど。)
 どうやら先ほどの物音は、うずくまり、樹にもたれかかる際に発せられたものだったようだ。
(うずくまって何をしているの......。足を痛めた? もう、草が邪魔で、後少しなのに見えないじゃないっ!)
 立ち上がるか、いや、それではこちらの姿が見えてしまう可能性が高いし、まだ万が一ということもある。移動して見えやすい位置を探すか、しかしそれでは時間がかかる――。葛藤していた。まさにその時だった。
(っ!? 気づかれた......?)
 彼女が大きく目を見開き、こちらを見た、そんな気がした。ぞわぞわっとした何かが背筋を走る。行くしかない、そう思うのとほぼ同時だった。ざっざっと、あからさまな足音がうずくまる影に近寄る。
 
 その後の成り行きを見て、ロベリアはひとまず胸を撫で下ろすことになる。だがその一方で、モヤモヤした疑念が心のどこかを掴んで離してくれないのであった――。ロベリアはそのまま、ジョゼフィーヌとも猟兵とも距離を保って歩みを進めることに決めた。あれは単なる偶然だったのか、自分が前方に集中し過ぎるあまり、斜め後方から来る猟兵の大きな足音に気がつくのが遅れただけのか、はたまた......。それは今回、彼女にはわからなかった。

 ジョゼフィーヌとも合流し、彼女を先導することにした4人は、着実に歩みを進めていた。喫緊の目的がジョゼフィーヌと合流することから、ラウールを追うことに変わったからだ。ここまでの道中同様、大きな障害もなければ敵襲もなかったが、そんな中でも自然の猛威は休むところを知らない。特に活躍したのは、みさきとエルネストだった。
 みさきは密かに、同胞六人の咎人殺しの霊を召喚していたのだ。護衛としての彼らの能力は凄まじく、風で折れた大枝がどこからともなく飛ばされてこようが、それらは途中で向きを変えていた。そして、自然の猛威を防ぐ音はまた、自然の音によって掻き消されていく――。猟兵の能力を悟られない、そのカモフラージュの術をみさきは心得ていた。
 だが、それでも不慮の事故は起こり得る。そこでまさしく野性的な反応を見せたのがエルネストであった。風によって稀に飛んでくる弾丸のような小石を『バスターソード』で薙ぎ、ある時は根元から腐っていたらしく不意に倒れてきた大樹を『無敵城塞』で受け止める。その勇ましさを発揮する度、背後からは歓声が上がるのだった。
 しかし、そんな護衛の最中、みさきは意識して、ジョゼフィーヌに聞こえぬほどの声でぼそりと呟いた。
「彼女に憑いている数、やけに多いな......。嘗ての村の人達だろうか。灯台下暗し、なんてね。」
 
 こうして猟兵たちとジョゼフィーヌは、森をある程度行ったところで、開けた場所に辿り着いた。霧もおよそ晴れ、眼前が広く見渡される。だが、その予想外の光景に、猟兵たちは皆思わず息を呑んだのだった――。

 待ち伏せ......られていた!?

 猟兵たちの判断が今、試される。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『篝火を持つ亡者』

POW   :    篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●猟兵たちの選択
 無事ジョゼフィーヌと合流を果たし、松明を持った異形のモノに連れ去られたと思われるラウールを追っていた猟兵たちは、やがて森の中で開けた場所に辿り着く。だが、霧も晴れ、視界が見渡せるようになったとき、そこには驚きの光景が広がっていた。予知として知らされた件の異形どもが、最初からこちらを睨み、広く半円状に取り囲んでいたのだ。そして、前方やや手前に転がっている影――。
(積み重なっているあれは......骨!?)
 猟兵たちの誰かがそうつぶやこうとしたが、異質な光景に思わずその口が塞がれる。だが、それは紛れもなく人骨だった。既にかなりの日数が経っているであろうその骨は、もはや原型を留めていない。まるで数匹のスケルトンが討ち捨てられているかのようだった。

 そんな中、いち早く叫び声をあげたのはジョゼフィーヌだった。
「ラウール!!」
 目を凝らすと、その視線の先、敵の最中やや後方に縛り付けられた人間と思しき存在がいた。どこから拾ってきたかわからない木製のボロ椅子に座らせられ、腕足を拘束されている。そして、その頭には中身が見えないようにか、袋が被せられている。幾度となく名前を叫ぶジョゼフィーヌであったが、反応は返って来ない。気絶しているのか、はたまた最初から鼓動が止まっているのか。この距離では判断が難しい。それでも決死の形相で走り寄らんとするジョゼフィーヌを、猟兵たちは何とか制していた。
 
 そんなとき、とある言葉が思い出される――。
「今や操る以上の、遺体を利用した能力を身につけていても何ら不思議はない。例えば、遺体の外骨格を用いて遺体そのものに擬態するような――。」

 集団と戦うことを強いられた猟兵たちの未来は、今まさにそれに付随する選択によって左右されようとしていた。
小読・灯
過去になくなってしまった者が今を生きようとする人を縛り付けようとするなんて悪趣味よ

だから、亡者の皆さん
どうか道を、開けてくださいな

駄目なら押し通りましょう
ジョゼフィーヌさんの進む道は私が照らすわ

マッチを擦って【属性攻撃】付きの【ブレイズフレイム】を一直線にラウールさんの方まで伸ばして亡者を凪ぎ払ってから

燃え盛る炎の中心部だけ炎を消して【カンテラ】を持って前へ前へとみんなを先導するわ

亡者の炎に一番晒されるのは私かもしれないけど私、炎は得意なの(【炎熱耐性】)

ラウールさんに近付けたら、ジョゼフィーヌさんが近付くより前に安全確認を行いましょう

【木製の竿】で袋を遠くから取りましょう
対応はそれからよ


夷洞・みさき
ここは遊び終わった玩具を捨てておく所かな。

ラウール君だったかな。亡者化の前に助けたいけれど、やらせてくれるかな。
既に操られているかな。

【WIZ】
本人確認の為、人質救出優先、道すがら亡者の顔も晒す。こっちに紛れているかもしれないし。

UCは攻撃控え、地形変形にて敵行動阻害と速度強度を重点

敵確認完了した亡者を【盾に】したり【恐怖】と【呪詛】をまき散らして、
猟兵以外の行動を制限

攫われた人の救出後、攻撃に転換
倒した亡者は再生抑止に車輪で手足を破壊

救出後、操られている可能性を嘯いてジョゼフィーヌは近寄らせない

亡者の動きを観察、観戦者の特等席は何処か

死して咎を禊いだ生者は身軽に海に還るべきなんだよ

アド歓


聖護院・カプラ
【POW】
遺体を擬態させる事。
できすぎているタイミングで取り囲まれた事で罠を疑わざるを得ない事。
留意はしていましたとも。

ですが、あれがラウールさんで気絶されているだけかもしれない。
灯りを付けて急いだ事でオブリビオンが私達に気付いて先手を打っただけかもしれない。
私は希望を信じたいのです。

後光ユニットを全方位に最大限照射し、『経法』を唱えます。
浄化の光は業を抱えた存在でなければ効果はありません。
ラウールさんごと光に包み込んでしまっても、彼がヒトであるのならその姿を変える事はありません。

ただ……彼が浄化されてしまったら。
彼の偽物かもしれない。そうジョゼフィーヌさんには言い聞かせ先へ進もうと伝えます。


エルネスト・ポラリス
待ち伏せられてましたよねぇ、コレ……
エルシークは以前他の猟兵と交戦した経験もある。ゆえに、私たちを狙った罠を仕掛けていても不思議ではないのですが……

結局、ラウールやジョゼフィーヌの存在を信じるかどうかってことですか。
生きているのか、死んでいるのか。敵なのか、味方なのか。

まあ、どっちにしても助けますけどね、死んでたら死んでたで弔う必要あるでしょう!
そこで見捨てるようなら猟兵になんざなってませんよ!

剣を手に戦場を駆けます。
積極的に前に出て、敵集団に肉薄、攻撃の予想なんて関係ありません、人狼咆哮でなぎ倒してやりますよ!
あ、ラウールさんに当たらないように範囲を見切る必要はありますね?

アドリブ可


ロベリア・エカルラート
●心情
気づかれたのか……やっぱり馬鹿正直に姿を出すのは危ないかな
このまま姿を隠しつつ、猟兵を援護するよ

フォースオーラの茨を伸ばして、霧に紛れて敵を各個捕縛。私の居る森の陰に引きずり込んで剣でとどめを刺すよ
出来るだけ味方にもばれないように敵を減らしていく

流石に見つかったら素直に合流するけどね

また、味方がダメージを受けて危ないようならシンフォニックキュアで回復させる
歌を使えば見つかるだろうけど、流石に味方を見捨てるような人間にはなりたくないんでね

「さて、あとは捕まった人か……」
「仕方ない。確実に減らしていくよ」

その間も可能な限りジョセフィーヌって女の人からは注意を逸らさないように気をつける



●可能性があるのなら
 猟兵たちの脳裏に、グリモアベースでの言葉が思い起こされる。だが、それでも誰一人としてわずかな可能性を捨てる者はいなかった。何としても確かめる――。異形の集団が迎え撃つ中にあって、各々ができる最善を尽くそうとしていた。
 
 まず、仕掛けたのは夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)だった。
(亡者化の前に助けたいけれど、やらせてくれるかな。既に操られているかな。)
 わからない、それでも今はまだ可能性がある!と真っ先に動き出したみさきは、即座に詠唱を開始した。
「彼方より響け、此方へと至れ、光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ。我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう。」
 すると足元から突如海水が溢れ出で、敵の集団が足をつく地面を瞬く間に変形させる。そして、同時に足元方向から吹き荒れた強い海風は、ある敵の顔をさらし、またある敵のボロ衣を丸ごと剥ぎ取った――。そう、彼女は最初から攻撃ではなく、相手の行動を阻害し、何よりその顔をあらためることを目的としていたのだ。
「やはり全員亡者!」
 さらされた相手の顔は、まさしく全員が亡者のそれそのものだった。みさきは安全かつこちらが有利となる方法で、見事ひとつの迷いを潰したのである。すると、今度は正面に対する亡者の一体が、お返しとばかりに松明を握る手に力を籠める。『新たなる亡者』、戦場で倒れる者を操る技を発動しようとしているのだ。
「っ! まずい......!」
 この戦場において、亡者の姿に変えられ、操られる可能性が最も高いのはラウールだった。まだ椅子に縛られたその存在がラウールかはわからない、だが、これを発動されたら希望それ自体が潰えてしまいかねない――。その、刹那だった。
 シュッ......! 小気味いい音と共に、後方で静かに、それでいて力強く、希望を繋ぐ火が灯される。反応したのは小読・灯(灯売り・f01972)だった。
「ブレイズフレイム!!!」
 放たれた炎はうねりをあげて襲いかかると、その亡者は声にならない断末魔をあげる。あまりに凄まじいその火力は、連なっていた亡者もろとも一気に薙ぎ払ったのであった。そして、彼女の選択はみさきが放った技と大きな相乗効果を生むことになる。みさきが行動阻害に重きを置いて威力を調節したこともあり、その炎は走った部分のみ水を蒸発させた。すると、たち消えた蒸気の下にはまさに活路が浮かび上がっていた。彼女たちの見事な連携だった。
 これぞ好機とばかりにカンテラを携え前へと躍り出る灯であったが、両脇の亡者がみさきの放った海水を何とかしようと必死に篝火を焚く最中にあって、そのカンテラはよい目印だった。カンテラの光をめがけて亡者たちがが杖を振りかざすと、焚かれた篝火の炎が容赦なく放たれる。複数の赤々とした邪な炎が緩やかな放物線を描いて、灯に命中してしまう。
「灯さん!」
 控えていたエルネスト・ポラリス(いつか満月の下で・f00066)の声が響く。だが、炎が止むと、そこには外套にすっぽりとくるまり、ほとんど無傷の灯が立っていた。
「私、炎は得意なの!」
 仲間から安堵の声が漏れる。そして、未だ多く残る敵と眼前に開かれた活路を賢明に進まんとする仲間の姿に、エルネストの思いも交錯する。

●ラウールの身体
 エルネストは思う。明らかに待ち伏せられていた、と。
(エルシークは以前他の猟兵と交戦した経験もある。ゆえに、私たちを狙った罠を仕掛けていても不思議ではないのですが......。)
 今縛られているもの、それを追いかけていたもの、その彼女を護衛していた自分たち、そして、待ち伏せ――。森での出来事や眼前の状況を思い返しても、結論が見出せない。だが、仮に真実がどうであれ、と彼はその片手半剣に手をかける。
(結局、存在を信じるかどうかってことですか。生きているのか、死んでいるのか。敵なのか、味方なのか。)
 故郷を出た今の自分は猟兵なのだ、だから必ず助けに行く。そう一気に剣を引き抜くと、彼は戦場を駆ける。
「まあ、どっちにしても助けますけどね、死んでたら死んでたで弔う必要あるでしょう!
そこで見捨てるようなら猟兵になんざなってませんよ!」
 当初の陣形に風穴をあけられた残りの亡者のうち数体は、みさきの海水を突破していた。這い出て来た個体に一気に肉薄すると、目にもとまらぬ剣撃を見舞った。やっと海水を抜け出したと思った亡者は、瞬く間に再び帰らぬ存在となった。道が広がる。これなら、行ける――。助力を求めた相手は、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)だった。
「カプラさん!」
「承りました!」
 ウォーマシンの身体が大きな駆動音をあげ前に躍り出ると、押し寄せる残りの亡者を一気に押し戻す。その凄まじい勢いに、戦線が押し上げられていく。すれ違いざまに、稀に突っ込んでくる亡者はエルネストが巧みに片手半剣でいなしていた。そして、射程に入る。
「今です!」
 エルネストの合図と共に、その背後から何かが伸ばされる――。それは、戦況を見やり、灯が構えていた竿だった。カプラを越え、亡者を越え、椅子に縛れたものの袋を掴み、剥ぎ取る。
「!!! 亡者ではありません、人間です!」
 カプラが叫んだ。それは、明らかに篝火の亡者の外見とは違っており、少なくとも身体が人間の男であることは間違いなかった。そして、この状況下で人間の男となれば彼しかいないだろう。またひとつ、猟兵たちは迷いを潰すことに成功したのだった。
「「「ラウールさん!」」」
 しかし、身体がラウールであるとわかっても、まだそれが正真正銘のラウールだと結論付けるのには早い。生死さえもわからない状況の中、3人が何とか反応を返して欲しいと呼び掛ける。だが、その時だった。状況の進展に目を奪われていた隙をついて、迫っていた亡者が一気になだれ込む――。

●第5の仲間と、暴かれた正体
 後少しなのに......! そう感じた刹那はまるで永遠のように感じられた。だが、それを現実に引き戻したのは、みさきが放った大車輪と、影を進んでいた仲間だった。既になぎ倒された亡者の手足を大車輪で破壊することで再生不能にしていたみさきは、いつ不測の事態が起きてもいいように常に前へ出た仲間とその周囲に注意していたのだ。
 助かりました、とみさきに礼を述べるエルネストであったが、先ほど眼前に迫った亡者の合間から、もう一つの敵への攻撃を捉えていた。
(今のみさきさんのものとは異なる攻撃......、明らかに敵を狙っていましたね。ということは、味方?)
 エルネストのその視線は、未だ霧に包まれる木々の奥に向けられた。
 ある亡者は茨の形をしたフォースオーラによってその身を砕かれ、またある亡者はその茨に巻きつけられて森へと引き摺りこまれていく。引き摺りこまれたら最後、その亡者が二度と戻ってくることはなかった。それは明らかに、第5の仲間が存在することを示していた。そして、エルネストはこの機を逃さない。
 瞬時にラウールから距離を取り、巻き込まないギリギリの射程で、大地が震えるような咆哮を放つ。それは思わず立ちつくした亡者の身体に響き、こだまするかのようにその骨を軋ませる。叫びの波動に押しつぶされるように、大半の亡者がバラバラになって地に崩れた。残る亡者は、後僅か――。だが一方で、猟兵たちには何か決定打が必要だった。

 このラウールの身体に宿るのは本当にラウールなのか、もしや、今か今かと眼前の者を刺し殺すチャンスを窺うエルシークが、中に入っているのではないか――。助けなければ、だが、もしエルシークだったら......。無防備に近寄って手を差し伸べるのはまさしく自殺行為であった。未だ、その拘束を解く踏ん切りがつかない。そんな最中だった。ある猟兵の願いが、ついに隠された闇を照らす。
(できすぎているタイミングで取り囲まれた事で罠を疑わざるを得ない事。留意はしていましたとも。ですが、あれがラウールさんで気絶されているだけかもしれない。ここまでの道中灯りを付けて急いだ事で、オブリビオンが私達に気付いて先手を打っただけかもしれない。)

「私は希望を信じたいのです。」
 カプラが全方位に後光を最大限照射し『経法』を唱えたのだった。浄化の光に運ばれた手向けの言葉が業を抱える存在のみを攻撃し、残りの亡者が跡形もなく消え去るのと同時に、ひとつの叫び声が上がるのだった。

 時は少し遡る――。木々の合間、霧でかろうじて姿が見えないギリギリの場所から目を凝らすようにして、目の前で戦いを繰り広げる猟兵たちを見やる。道中の森から単独行動を取っていたロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・f00692)は、ジョゼフィーヌに疑念を抱いていた。森でのあの視線。確実とは言えない、でも、もし気づかれていたとしたら。4人は、今まさに椅子に縛られた存在の素顔を明かそうとしている。あれがラウールなら、大きな収穫になる。そう思い、顔の袋が外された瞬間だった。
「!!! 亡者ではありません、人間です!」
 声が聞こえ、ほっと胸をなでおろす。だがその目には、一気に押し寄せようとする亡者の姿が映っていた。視界の端に、同様にその動向を注視し、大車輪を構える仲間を捉える。
(そっちは任せたよ!)
 彼女が放った大車輪とは反対側に、茨を模ったフォースオーラを放つ。紛れもない猟兵の力、茨が見えたエルネストは、その存在に気づいたようだ。そしてもう一方の敵を倒したみさきも。みさきは直後、『恐怖』と『呪詛』を亡者にまき散らし、動きを封じることで、第5の仲間の攻撃を支援していた。
(ありがとう!)
 ロベリアは休む間もなく、次の亡者にも茨を命中させ、致命傷を与えづらい位置にいる相手は茨で絡め取って一気に引き寄せた。剣でとどめを刺す。そして、エルネストが放つ咆哮に倒れる亡者を見て、そろそろ私も姿を見せるか、そう思い、ふと視線を移した瞬間だった。

(っ!!!!!!)
 ジョゼフィーヌは今度こそ、明確にこちらを睨んでいた。未だ前に出ず、森の陰に隠れて猟兵の能力で攻撃していたこの私を! その目は森の時以上に大きく見開かれ、その奥には明らかな殺意が宿っていた。
(やっぱり! やっぱり!! 私は間違っていなかった! みんな――!)
 道中とこの戦いで疲弊した仲間が、もしこの後背後から襲われたら、勝てない――。思うと同時に、その身を投げ出す覚悟で仲間の元へ飛び出す。ジョゼフィーヌもまた、最初に気付いたロベリアを殺そうと、関節を捻じ曲げながら明らかに人のそれではない異常な早さでこちらに迫っていた。それでも、ロベリアは歌声を紡ぐ。希望を繋ぐために、仲間を救うために。その時だった。あたり一面が光で包まれる――。

「シンフォニック・キュア!!!」
「ギャァアァアアアアアア!!!」

 癒しの歌声は届けられ、仲間の傷が癒えていく。残りの4人が振り返るその目に映っていたのは、窮地を救ったロベリアと、正体を暴かれたエルシークだった。そして、その背後では、光に焼かれず姿を保った一人の男。そう、彼は正真正銘、ラウールだったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『往生集め『エルシーク』』

POW   :    賢者の双腕
見えない【魔力で作られた一対の腕】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    蒐集の成果
自身が装備する【英雄の使っていた剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    幽暗の虫螻
【虫型使い魔】の霊を召喚する。これは【強靭な顎】や【猛毒の針】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エルディー・ポラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●エルシークの標的
(なんだコの光ハ!? 痛イ、痛イ! これハ、コイツの身体ヲ抜けて私だケを!!)
 そのモノは擬態を解かざるを得なかった。ジョゼフィーヌの亡骸が、どさりと倒れる。もがきながらもジョゼフィーヌの中から出てきたのは、紛れもないエルシークだった。

「オ前らああぁあア! せっカく後少しダったノニ! 消耗しキったお前らヲ、後ろから一人ずつ殺してやロウと思ってたのにいいぃイィ!!!」
 はぁ、はぁと肩で息をするエルシークだったが、怒りを鎮めると、不敵な笑みを浮かべる。
「まァ、また復讐ノ機会が得らレタんだ......、よしトしようじャなイか......。」
「まサか、説得にまで力を乗セテくるとハ思わなかっタけドね......。あれニハ思わず必死に踏ん張っチマったよねェ!? でも、残念だったねぇ、あのジョゼフィーヌはとっくニ、私だったンだかラ!!!」
 目を見張る猟兵たちをしり目に吐き捨てられたのは、衝撃の真実だった。エルシークの標的は、最初から猟兵たちだったのだ。
「この恨ミ、たっぷりト味ワウがいイ!!!!!!!!」

 今、最後の死闘が始まる――。
夷洞・みさき
君がジョゼフィーヌで無かった事が残念だよ。
せめて彼が何時か死ぬ迄、平和に君がジョゼフィーヌをやっていくなら、目を逸らしていたかもしれないね。
でも、もう駄目だね。

同胞達、咎人が姿を顕したよ。
だから、いつもの様に、僕は、僕等は、己の業のままに、君を咎毎削り潰し、海に還そう。

【WIZ】
虫対策【UC冷気呪詛】で空間攻撃
本体は【UC六同胞】と自分自身で近接戦闘
虫が狙ってくる場合は、エルシーク自体が【盾になる】様に位置取り

同胞達が認識されていない場合は、自身は正面から、他同胞が死角から
主として【傷口をえぐり】つつ囮行動

恨みを持って帰って来る気持ちは解る様な気もするけど、
人を犠牲にするのは見過ごせないよね。


聖護院・カプラ
おお、なんという…後ろに猟兵が控えていなければ、今頃私達は骸と化していたかもしれません。

そして私に悲しみが募ります。
ラウールさんはジョゼフィーヌさんという恋仲の人物を喪ったことになるからです。
それも、このような罠を仕掛ける為に殺されてしまった可能性が高い。
彼には何と告げればいいか……。

エルシークの行いを改める事は難しいでしょう。
既に業が積み切れない賽の河原と化しています。
であれば、その心身を天に還させる事しかできません。

幽暗の虫螻は霊体ですが、虫に浄化の光は届きません。
ですが功徳の徳位相差により存在感で押し潰す事はできます。
エルシークの手数を減らす事で味方の助力となりましょう。


小読・灯
まあ、あなたひどいのね
そしてなかなかの役者だわ
私たちを騙したんだから

けどやっぱりひどい人よ
もう亡くなってしまっていたジョゼフィーヌさんの体を弄んだんだから
塵も残さず燃やすわ

【WIZ】
マッチを一本擦って【ウィザードミサイル】で炎の矢を無数に作るわ
炎の扱いには自信があるの(【属性攻撃】)
エルシークの出す虫型使い魔を炎の矢で燃やしていくわ

まずは一斉射撃で面を制圧してできるだけ数を減らしましょう
そのあとは炎の矢を束ねてエルシークに向けて放つわ
そのまま私は束ねた炎の矢の後ろからフランヴェルジュを鞘から抜いて敵に向かって駆け出すわ

考えさせる余裕なんて与えないの
そのまま炎をまとわせたフランヴェルジュで追撃よ



●対峙する者たちの力
 その受け入れがたい真実に、悲しみが募る。ラウールはジョゼフィーヌという人物を喪ったことになるからだ。
(それも、このような罠を仕掛ける為に殺されてしまった可能性が高い。)
 聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)は心を痛めていた。
「彼には何と告げればいいか……。」
 しかし、その元凶であるエルシークは、さも当然とでも言いたげだった。

「お前ラは、いつモ突然現レる。まルデ私の行イヲ覗き見ていたカのようニ。だっタらこちらニ何がでキる?」
 ならばいつ来てもいいように、毎回姿を変えて村人を攫い、そのまま待ち伏せをさせるのが最も裏をかけると思わないか? と嘲るように言い放つ。そんな最中も、ジョゼフィーヌの姿をしていた時とは比べものにならないスピードで爪による攻撃を繰り出してくる。
「ある村デは村長に擬態し、その次ノ村デは子ドもニ。そしテ今回ノ村でハ、ってナァ!?!?」
 ヒヒヒィっと厭味な笑い声を響かせる。先ほどの光に正体を暴かれたことによほど腹を立てているのか、執拗にカプラを狙い、言葉を吐き捨てるエルシークだが、幾らスピードがあっても、ウォーマシンの体躯には中々攻撃が通らない。

 そして、そんなラウールを憂うカプラと全く噛みあわないエルシークの主張を聞いて首を横に振るのは、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)だった。
(君がジョゼフィーヌで無かった事が残念だよ。)
 もう駄目だね、と呟くとともに、そっと呼びかける。
「同胞達、咎人が姿を顕したよ。」
 その呟きはエルシークに向けてのものではなかった。どこからともなく同胞六人の咎人殺しの霊が現れる。だが、まだエルシークは眼前の六人に気がついていない。
「おマエたち猟兵ハ、そウやッテ毎度毎度とドこからともなく群ガってきヤがッテ!!」
 1対2であることに脅威を感じたのか、一気に後方に飛び退くエルシークもまた、即座に詠唱を行う。『幽暗の虫螻』、虫型の使い魔を召喚したのだ。その一体一体が大きく口を開け、そこから覗く牙と毒針を誇示するように、一気にみさきに迫りくる。
 だが、突如その虫の表面がピシッ......という音ともに冷気で覆われると、途端に動きが鈍くなる。何体かは、移動そのものの動作に氷結した甲殻が耐えきれなかったのか、赤からぬ体液を噴き出して動かなくなった。

「おイお前タち、くソっ、こレハ呪詛カッ!」
 この私に呪詛とは、ええい、忌々しいと悪態をつくと、エルシークは更に虫を呼び出す。たちまち呪詛の冷気に覆われていくが、それでもずりずりと数の暴力で虫たちがみさきに向かって這っていく。その時だった。

 シュッ......と再び小気味いい音が鳴らされる。小読・灯(灯売り・f01972)の『ウィザード・ミサイル』だ。
「チッ、あの時の炎か、ダが何度モ同じ手ガ通じルと思......!?」
 これまで『ジョゼフィーヌ』として猟兵の技を背後で見ていたエルシークは、マッチを擦る音に一瞬で反応する。しかし、そちらを向くとそこには予想外の光景が広がっていた。灯は、先の戦闘とは異なり、無数の炎の矢を創り出していたのだ。
「ジョゼフィーヌさんの体を弄んだんだから塵も残さず燃やすわ。」
 炎の矢がまるで雨のように降り注ぐと、多くの虫に命中する。
「ダがこれで使イ魔たちの冷気モ......!」
 エルシークは肉を切らせて――、と陰湿な笑みを浮かべた。だが、その期待はまたもや裏切られることになる。冷気に覆われた虫に命中した炎は、勢いが衰えることはなかった。みさきはやれやれ、と告げる。
「これは、澱んだ昏い海底で生を羨む呪詛。眩しいほどに激しい炎は、まさに生に属するような力といっても過言ではない。ならば、呪詛はそれをも羨み、益々力を増すのさ。」
 矢が命中した虫は強まった呪詛にもはや動くこともできず、ただ燃やしつくされるのを待つだけだった。そして炎の矢は、エルシークの右脇腹にも突き刺さっていた。しかしそれに構うことなく、エルシークは怒りをこそ滾らせる。
「小娘ええぇエェえェ!!」
 何とかしてみさきを排除する必要がある。そう考えたエルシークは身を燃やしたまま、ならば自らがと今度こそみさきに肉薄する。鋭く伸びた爪で薙ごうと手を振りかざす。しかし――。

「みさきさん!」
 一瞬で爪の軌道が変わる。それはまるで、上から何かが圧し掛かったかのようだった。カプラが『功徳』を放ったのだ。エルシークの表情が歪む。そして振り返れば、呪詛に苦しみながらも幸い炎の雨に曝されず、何とか這い寄っていた残りの虫も、皆押し潰されてしまっていた。それは、カプラの『大宇宙修験宗』、その象徴としての圧であり、仏として祀られたその存在そのものが持つ凄みであった。そして、残る2人も、その隙を逃さない。
 みさきは、さももうないも同然とばかりに自身に伸ばされた手と爪を無視して灯が放った炎の矢が命中した右脇腹を取りだした八寸釘で深く抉ると、何とか重みに耐えるエルシークが、ガラ空きのみさきの胴体目がけて今度こそ横薙ぎの狂爪を繰り出す。だが、またしても爪が届くことはなく、その片腕は何の前触れもなく引きちぎられたのだった。
「君に、虐殺された者の姿が見えるのかい? その気持ちがわかるのかい?」
 もしそうなら、このような非道を働けるわけがない、との思いは、みさきとその同胞のものだった。咎人殺しの六人は、仲間に襲いかかるその爪を、腕ごともいだのだった。
 そして、カプラの凄まじい存在感によって背後への注意を疎かにしていたところに、更なる攻撃が繰り出される。灯が炎の矢を降らせた勢いそのままに、今度は矢をひとつに束ね、エルシークの身体に向けて放ったのだ。同時に、自らもフランヴェルジュに炎を纏わせ、駆ける。余りの熱風に危険を察知したエルシークは賢明に身をよじるが、避けきれない。残った左腕が丸ごと炎のうねりに持っていかれると、振り向く間もなくその背を斜めに切りつけられる。

「グウウゥ......っ。」
 形勢が悪い、と挟まれていた格好から抜け出すと、そのまま脇にうず高く積まれた人骨のもとに飛び込んだ。すると、その山は嵩を減らし、中から腕を再構成したエルシークが苦悶の表情で現れる。その顔にはもはや、対峙した直後の余裕はどこにもなかった。
 そこへズン......と抗いきれない圧を纏って、大きな体躯が進み出る。
「あなたのその行い......、人の死を冒涜するその深き業。私たち猟兵が必ず止めてみせましょう。」
 エルシークは、その横に並ぶ猟兵たち共々カプラを見据え、思わず後ずさりするのであった。狡猾な手段を用いられても尚敢然と立ち向かう猟兵という存在が、今回もまた、確実にエルシークを追い詰めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

聖護院・カプラ
その行い、改められないというのなら――。

エルシークは1度見たユーベルコードに対策をその場で行います。
浄化も功徳の重みによる成仏も既に視られた以上、有効な手ではありません。
であれば、これは……重金属弾に高速の徳が付与されているとはいえ所詮兵器。用いたくはありませんでしたが致し方ない。
賢者の双腕ごと敵に『マニ車レーザーチェーンガン』を撃ち放ちこの事件を落着させる事を望みましょう。

事後。
ジョゼフィーヌさんの亡骸を村で丁重に葬る手筈を整えます。
ラウールさんに、村の方に悲しい報せを届けねばならないのが誠に残念です。
エルシークのようなオブリビオンの行いを赦せはしない。改めて誓いを立てる事になるでしょう。


ロベリア・エカルラート
「ふふっ、骸の海から湧いて出た連中が随分とまあ……」

やっぱりアイツだったわけね。予想通りと言えばそうだけど、既に殺されちゃってた人がいたか……

ま、仕方ない。割り切れなくても割り切ろう。
ここで私達が後悔なんかしたら、それこそ彼女の死を冒涜するだけだから差

「とりあえず、お前は絶対に逃さない」
ユーベルコード【眠り姫の夢】で茨の壁を作って、敵を閉じ込めるよ

その後は自己強化した身体能力を利用して白兵戦。

愛用の剣はユーベルコード発動のために投擲しちゃうから、武器は拷問具の鋸を使うよ

「ま、いいや。何度湧いて出ても、その度にバラバラにしてあげるからさ」

「とりあえず今は消えちゃってよ」



●果てぬ狡猾さ
 虫型の使い魔を用いた攻撃に失敗し、近接戦闘でも深手を負ったエルシークは、人骨の山に飛び込んだ。死後の遺体を操る能力を利用して、両腕の再生を図ったのだ。だが、再び人間の亡骸を弄ぶその姿は、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)をして、やはり行いを改めることはできないと思わせるのに十分だった。
「徳が付与されているとはいえ所詮兵器。用いたくはありませんでしたが致し方ない。」
 カプラはこれまで浄化の光や徳によって戦ってきた。だが、ジョゼフィーヌに擬態をしていた道中からここに至るまで、エルシークには多くの手の内を見られている。確実に天に還すために残る手段は限られていた。カプラは、ウォーマシンとしての力に手をかける。だが、敵の狡猾さは留まるところを知らない――。

 突如として、カプラの体躯は何かに持ち上げられると、そのまま地面に叩きつけられる。90度反転した世界を横目に見れば、エルシークがほくそ笑んでいた。
「っ......。これは、魔力......ですか。」
 だが、そんな技を繰り出す時間はなかったはず。思う中、カプラは気付く。そう、エルシークは先ほど両腕をもがれた直後に飛び込んだ人骨の山で単に腕を再構成したと見せかけて、『賢者の双腕』を繰り出していたのだ。カプラがその実体を捉えようと、体勢を崩しながらも拳を繰り出す。しかし、それはむなしく空を切るだけだった。目に見えない攻撃を突破する難しさに、その場の猟兵たちも皆、口端を噛む。厄介だ――、そう思った時だった。

「ふふっ、骸の海から湧いて出た連中が随分とまあ......。」
 そう発したのは、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・f00692)であった。不意に嗤う姿に、エルシークまでもが目を見開く。
「オ前!! ナにがオかシイ!!」
 だが、そんな声を無視して、ロベリアはあはは――、と声を上げる。それは、汚いやり口で猟兵たちを騙し、ラウールに悲劇をもたらし、あげく執拗に狡猾な攻撃を繰り出してくるエルシークに対して、彼女の不機嫌さが臨界点を突破した証だった。そして、彼女は唐突に茨に巻かれた鋏状の剣を取りだすと、勢いよく振りかぶり、全力で投げつける。
「ハ......オ、オ前、何カと思えバ、そんナ見エ見エの攻撃当タるわけガないだロウ!!」
 剣はエルシークの脇腹を掠めるように飛んでいき、近くの地面に深々と突き刺さる。だが、ロベリアはまたもやエルシークの言葉を無視すると、こう呟いた。
「お前は絶対に逃がさない。」
 刹那だった――。突き刺さった剣から茨が噴出し、地面を抉ると瞬く間に地に根付き、辺り一面を取り囲む。それは、ロベリアが放った『眠り姫の夢(レーヴ・ドゥ・ターリア)』の力であった。彼女の狙いは最初から、エルシークに逃げ場を与えず、白兵戦に持ち込むことだったのだ。拷問具と思しき鋸を取り出して、エルシークの元へ走り出す。
「こいツ......! こンな力を、しカも何テ速さをしてヤがル!」
 ロベリアの戦闘能力は明らかに上がっていた、必死に身をかわすエルシークであったが、一か所、また一か所と、鋸で切り刻まれていく。だが、エルシークはふと陰湿な笑みを浮かべた。茨の中に取り残すことに成功していた見えぬ双腕で、ロベリアに攻撃を仕掛けたのだ。その腕に、先に鋸を持つ右肩を強打されたロベリアが、茨の壁に向かって派手に吹き飛ぶ。
「ロベリアさん!」
 同じく茨の戦場で対峙しているカプラが呼びかける。だがロベリアは、脱臼したらしいぶらりと垂れ下がる右腕に構わず、無言で鋸を左手に持ち替える。鋭い眼光で睨みつけたまままたも一直線にエルシークに向かっていくと、今度は大振りに鋸振るった。
「馬鹿ナやつメ!! 怒リで我を忘れタカ? こレだかラ猟兵なドというオ人好しハ!」
 凄まじい威力だが、大味の攻撃をかわしつつエルシークは他のことに意識を集中させているように見えた。そう、先ほど用いた双腕での攻撃を、再びロベリアに浴びせようとしているのだ。だが、上手なのはロベリアだった。左手で大きな攻撃を自身の目線の高さに繰り出すと同時に、右方向で攻撃の機会を窺うカプラに目配せをする。エルシークにはそれが見えていない。
(......!!)
 悟られるわけにはいかない。カプラもまた、一瞬だけロベリアに目配せをすると、即座に視線を移した。同時にカプラの体躯が何かを装填しているような駆動音をあげる。ロベリアが繰り出す風を切るような攻撃は、その終止符へのカウントダウンすら、エルシークに聞かせてやらないのだった。

●終止符
 ブンっ、ブンっ......と、風を切る音と共に横薙ぎの攻撃がエルシークを襲う。だが、五度目のそれをかわすと、必死に堪えていた笑みの端が、思わず零れ出す。口端があがる――。こいつは怒りに我を忘れている。ヒヒ、私の魔腕でバラバラになれ......。
 ザッ......。
 だが、次に鳴り響いたのは、ロベリアの悲鳴ではなかった。呼び寄せていた双腕の攻撃は何も捉えない。エルシークの眼前には、さっきまでいたはずのロベリアはもういなかった。一気に飛び退いた? これは罠か。そう思ったときには、もう遅い。

「デリート。」
 ガガガ......! と地を震わすようなチェーンガンの轟音が鳴り響く。短いようでいて身を粉砕されるその時間は永久にも感じられた。そして、重金属弾によるカプラの総攻撃が止んだ瞬間に、鋸が視界に映る――。
 気づけば、はねられた首が一回、いや、二回、三回と回る。地面が見えたかと思うと、鈍い音と共に転がり、視界一面がダークセイヴァーの黒空になった。
「何度湧いて出ても、その度にバラバラにしてあげるからさ。」
 でも――、と一呼吸おいて、ロベリアは言った。
「とりあえず今は消えちゃってよ。」

 それはついに、猟兵たちとエルシークの戦いに、終止符が打たれた瞬間だった。

●キミはダレ
 茨の壁が解かれると、そこでは、戦いの終わりを察知した他の猟兵たちがラウールを介抱していた。そして、漸く彼は手放していた意識を取り戻す。しかし、そこへ待っていたのは余りにも辛い現実だった。

「ッ! 頭が。ここは......。あ、あぁ......!!!!」
 頭がジンジンする、そうだこれは夢だ、現実じゃない。そんな、こんなことが起こっていいはずがない。ラウールの目に飛び込んできたのは、壮絶な戦いの跡と、地に横たわり、辛うじて人としての原形を留めていたジョゼフィーヌの亡骸だった。猟兵たちに肩を支えられながら痛む身体をおして何とか彼女のもとに辿り着くと、大粒の涙を流す。
「あぁ......、ジョゼフィーヌ。俺は、俺は! 君を守れなかったのか......!」
 既に動かないとわかっていても必死にジョゼフィーヌをゆすり、額をその身体にうずめるラウールの姿を、猟兵たちは忘れない。

 そして――。

「いつからですか?」
 それは虫の息も終わりに近づき、まさに死を迎えようとしていたエルシーク、その転がった首に対して向けられたカプラの言葉だった。濁り、曇っていく目が、その先で横たわるジョゼフィーヌと、彼女に向かって叫ぶラウールに向けられる。
「こ、ノ......私ガ......、言ウとデ、モ......思うノか......。」
 死に瀕して尚、自分はオブリビオンであると言わんばかりの物言いに、カプラは目を伏せる。だが、息絶えるその瞬間の言葉がカプラの耳に届くのであった。

「ラ、ウー......ル......。」
 光を失うその時にエルシークの目に映っていたのは、自分には目もくれず、最後までジョゼフィーヌを心から想い、嘆き悲しむラウールの姿だった。

 エルシークは、いつから『ジョゼフィーヌ』だったのか。
 なぜ、ラウールを殺さなかったのか。
 なぜラウールを攫った以外に、一人もラウールと同じ村の人間を襲わなかったのか。

 ある日のジョゼフィーヌはダレだったのか、それは残された誰にもわからなかった。

 その後、ジョゼフィーヌの亡骸は、村で丁重に葬られた。一部始終を猟兵から聞き、悲痛に暮れる村人であったが、その元凶は倒され、漸くジョゼフィーヌを弔う機会を得られたのだ。そして、ラウールは微笑みあった彼女の姿を思い浮かべ、かつてそうしたように、最後にジョゼフィーヌの横顔にキスをした。
 ラウールの涙が零れ落ちたのだろうか、既に動かぬジョゼフィーヌの目元にもまた、一筋の涙が流れていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月05日


挿絵イラスト