迷宮災厄戦⑱-19〜血に塗れたその腕で
●えぐられたもの
そこは、暗く陰鬱な病院だった。
そこには、それだけしかなかった。
窓という窓には鉄格子が嵌められて、外の世界になど出られやしない。
それは、無意識の悪夢の具現化。
オウガ・オリジンが秘めておきたかった、忌まわしき心象風景。
『あああ……ああああ……ッ!』
やたら広い病室と思しき空間のど真ん中に置かれたベッドの上で、無貌の少女が呻く。
膝を折って突っ伏した両の手首からは、あかいあかい血の色をした何かが止めどなく噴き出していた。
馬の形をしたソレは、嘲笑うかのように駆け回り。
狼の形をしたソレは、獲物を求めて赤い涎を滴らせて。
兎の形をしたソレは、耳をぴんと立てて辺りを見回す。
悪夢のような光景――いや、これこそが悪夢であった。
『おのれ……おのれぇ……ッ!』
己の裡より噴き出す悪夢に苛まれ、はじまりのアリスにしてはじまりのオウガは呻く。
最早、そうすることしかできなかったから。
●いきているあかし
「文字通りの汚れ仕事なんだけど……引き受けてくれる人はいるかしら」
ちなみにわたしはまっぴら御免だけど、とミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は肩を竦めながら告げた。
「みんなの頑張りで、迷宮災厄戦もいよいよクライマックス。だけど、ちょっと盛り上がりすぎちゃったみたい」
すいと片手をかざして展開するホロウインドウには、見るからに気分が滅入りそうな薄暗い病院らしき光景が映されていた。
「今回の戦争で何としても倒すべき『オウガ・オリジン』の中に眠っていた『無意識の悪夢』の具現化……これが、今回向かってもらう不思議の国の景色よ」
本来ならば有り得ないほどにだだっ広い病室のような場所、その真ん中にポツンと置かれたベッドの上に、半身を突っ伏した状態で震えているのが、まさか。
「……哀れみは不要よ、そう思うならいっそあなたたちの手で殺してあげて」
淡々と言葉を紡ぐミネルバの顔色には、感情も感傷もない。
「オウガ・オリジン本人はとても戦いどころじゃないわ、その代わりその手首から噴き出す真っ赤な『悪夢獣』が襲いかかってくるから、それを殺して頂戴――殲滅よ」
禍々しい一角獣、群れる狼、愛らしさとは程遠い兎。
それらはすべて、鮮血のごとき赤い色をしているという。
「攻撃すれば、当然返り血も浴びるでしょ? 血にまみれて戦えば戦うほど、みんなの刃は良く通るんですって」
どれだけ『深く踏み込めるか』、そういうことかしらねとどこか他人事のように。
ミネルバは雪の結晶を模したグリモアをかざして、戦場へと猟兵たちをいざなう。
「……服の弁償くらいはするわ、いい報告を待ってるわね」
かやぬま
●ごあいさつ
腕どころか全身血まみれになる勢いでどうぞ! かやぬまです。
オウガ・オリジン、その裡に秘められていた悪夢との戦いをお届けします。
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プレイングボーナス……鮮血にまみれながら、悪夢獣と戦う。
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※ここで言う鮮血とは、オウガ・オリジンから噴出する悪夢獣の返り血です。
※自傷はカウントされませんので、ご注意下さい。存分に殺し合って下さい。
※愉悦、慈悲、義憤、色々あると思います。是非プレイングに詰めて下さい。
●戦場について
とある病室が、不思議の国ならではのデタラメさでだだっ広くなっている感じ。
真ん中にベッドがひとつ、そこから悪夢獣が全方位に迫ります。
遮蔽物はないと思って下さい、真っ向勝負です。
●採用人数について
戦争も終盤のため、普段は再送をお願いしてでも全採用を目指していますが、今回は受付期間内に頂戴したプレイングの中から書けるだけ書くという形で参ります。
両手で数えられる分くらいがキャパシティの目安です、不採用を出してしまうのは誠に心苦しいのですが、万一の時は本当にごめんなさい。なるべく頑張ります。
●プレイング受付期間
MSページとツイッターでお知らせ致します、ご確認頂ければ幸いです。
同時に、MSページの記載も一通りお目通し下さいますと嬉しいです。
それでは、熱いプレイングをお待ちしております! かやぬまも頑張ります!
第1章 集団戦
『『オウガ・オリジン』と悪夢のアサイラム』
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POW : ナイトメア・パレード
【巨大な馬型悪夢獣の】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【一角獣型悪夢獣】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : 悪夢の群狼
【狼型悪夢獣の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 忠実なる兎は血を求む
【オウガ・オリジンに敵意】を向けた対象に、【鋭い前歯と刃の耳を持つ兎型悪夢獣】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:飴茶屋
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シキ・ジルモント
血にまみれるほど有利なら、こういう戦い方もある
…あまり好む方法ではないが
ユーベルコードを発動
狼獣人の姿に変身して敵の群れへ突っ込む
極至近距離での肉弾戦を挑み、爪で敵を貫き、引き裂く
被毛が濡れるのも構わずに、自ら血を浴びる
戦いながら敵の群れの行動パターンを確認
一斉攻撃のタイミングを『見切り』回避につなげたい
血にまみれた方が良いとはいえ無駄に傷を負う必要はないだろう
この姿では血の臭いを特に強く意識してしまう
それに煽られるように戦いつつ、それでも心に留めるのは、ここへ来た理由
…敵ではあるが、救われなかった最初のアリスを哀れに思う気持ちはある
せめてこの悪夢が終わるまで付き合ってやろうと、そう決めている
御桜・八重
◎
【SPD】
オウガ・オリジンの様子に胸が痛む。
何があったのか想像もつかないけど、
想像もつかないような悲劇があったことはわかるよ。
悪夢獣を葬ることが彼女の救いになるかはわからない。
だから今は全力で戦って、全力で感じる。
悪夢獣を通して見える、彼女自身の何かを。
「来た!」
鮮血色の狼の群れを待ち受け、【花筏】を発動。
複製された髪飾りが桜色のオーラを展開し、わたしを護る。
「そおれっ!」
第一波を凌いだら、髪飾りの半数を手裏剣の様に回転させ、
縁が薄く鋭くなったオーラで狼の体を切り裂く。
怯んだ狼は二刀を振るってとどめ。
返り血に怯んでなんかいられない。
血煙の中でも、悪夢獣を、オウガ・オリジンを見つめ続けるよ。
●八重桜
最早誰からも顧みられることのない、廃病院。
はじまりのアリスにしてはじまりのオウガ、『オウガ・オリジン』の悪夢。
『うぅぅ……ぁあああ……!!』
己でも制御が叶わないのだろうか、投げ出すように伸ばした腕の先から噴き出し続ける鮮血めいたものは、今は群れなす狼の姿を象ってベッドの周りを歩き回る。
廃病院に転移を受けて、病室に踏み込んだ御桜・八重(桜巫女・f23090)は、間合いを取りながらオウガ・オリジンの姿とその有様を認めて、沈痛な面持ちを隠さずにいた。
(「何があったのか、想像もつかないけど」)
――アリスがオウガになった、その事実だけで推し量るには十分だ。
(「……想像もつかないような悲劇があったことはわかるよ」)
だから、八重はきゅっと口を結ぶ。両の髪を飾る桜を、ひとつずつ外して。
『ゥルルルル……グルルル……』
うろついていた狼たちが、あからさまな敵意をぶつけるように、八重へと首を向けた。
それだけで気圧されそうになるも、負けじと八重は髪飾りを握りこんで睨み返す。
(「悪夢獣を葬ることが、彼女の救いになるかはわからない」)
わからないからこそ、今は全力で戦って、全力で感じようと。
(「――悪夢獣を通して見える、彼女自身の『何か』を!」)
『グオゥ……ッ!!』
鮮血で象られた狼たちが、文字通り群れをなして一斉に八重へと襲いかかる!
「来た!」
数に物を言わせて、最初の襲撃で組み伏せて、そのまま四肢を食いちぎる算段か。
津波のように迫り来る狼たちに向けて、八重は右、左と桜の髪飾りを宙に投げた。
髪飾りはたちまち八重と狼たちとの間で無数に複製され、それらひとつひとつが満開の桜のような防御障壁を展開し、重なり合って八重を護る盾となる。
『ガッ……ッ!』
『ギャンッ!!』
半透明の薄い桜色の護り越しに、べちゃり、べちゃりと汚らしく血が塗りたくられる。
おぞましい声が酷く近いが、怯んではいられない。
「そおれっ!!」
第一波が一斉攻撃だとは読めていた、だからそれをまともに受けるつもりはなかった。
――あんなもの、いちいち相手にしていてはさすがに身が保たないから。
だから、障壁を発生させている髪飾りの半数を手裏剣のように回転させて、間合いを取った狼の群れ目掛けて今度はこちらから攻め込むのだ。
『グォウッ!!』
『ヒッ……!!』
攻防一体、予想外の動きを見せた桜の障壁の縁は薄く鋭く狼たちの身体を切り裂く。
無軌道に飛び散る鮮血に――まるで自ら飛び込んでいくように、八重は二刀を抜き放ちながら、その身を真っ赤に染めて突き進む!
「やあぁぁっ!!」
桜の手裏剣による反撃を逃れたことは決して幸運だったとは言い難い。
それを逃すまいと、不退転の決意を抱いた八重自らが斬り捨てに来たのだから。
『ガ……ッ……』
鈍い手応えがした。直後、壊れたスプリンクラーのように噴き出した鮮血をまともに浴びて、八重が片腕で視界だけを辛うじて確保しながら――その、先を見た。
『ああぁ……うあぁああ……』
この悪夢をこのまま斬り捨てることが、オウガ・オリジンの救いとなるのか。
それとも、獣の痛みがそのまま直結していたりするのだろうか。
分からない、分からないが――。
八重は血煙の中、それでも悪夢獣を、そしてオウガ・オリジンを見つめ続けていた。
●銀狼
戦端が開かれたのを確認して、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)もまた決意を固めた。
(「血にまみれるほど有利なら、こういう戦い方もある」)
――その決意に至るまで、どれだけの葛藤があっただろうか。
(「……あまり、好む方法ではないが」)
シキ・ジルモントという男は、一度引き受けた仕事は完璧にこなすべく尽力する。
今回だってそうだ、例外はない。血にまみれろというのならば、最適解を選択する。
――それだけの、ことだった。
(「使える物はなんでも使う――『この姿』も例外ではない」)
『グルッ……!?』
狼たちが、異変に気付く。眼前に男の、明らかな異変に。
あるいは――『同族』の気配を感じ取ったのだとしたら、あまりにも皮肉だ。
――【サバイバル・ストラテジー】。シキを銀の毛並みの狼獣人へと変貌させる超常。
耳と尻尾というわずかな特徴だけでも『狼』であるという己を自覚させられる要素からは極力目を逸らしていたいと願うシキの、これこそが決意であった。
マズルが伸びた口を開けば、漏れるのは獣の荒い息遣い。
愛用の銃はホルスターに収めたまま、爪を振り上げて群れる鮮血の狼たちへと迫る。
『グルァッ!!』
『ギャウッ!!』
本能のままに、何なら勢いで同胞さえ噛みちぎりそうな勢いで、鮮血の狼たちが我先にとシキに向かっていく。
それを一撃、腕を突き出しまずは鋭く伸びた爪で深々と貫き、見せしめのように掲げる。
ボタボタと鮮血が雨のように降ってきて、銀の毛並みをべったりと濡らすけれども構うまい。もう片方の腕を伸ばすと、容赦なくその身体を真っ二つに引き裂いた。
まずは一匹、様子はどうか。
まるで血に酔ったかのごとく、悪夢獣たちはいっそう瞳らしき部位をギラつかせている。
(「……攻撃に予備動作があるな」)
数匹いなしていくうちに、シキは鮮血の狼たちのある特徴に気付く。
前脚で、二度ほど地面をかいていくのだ。
それと、唸り声で攻撃のタイミングを合わせているようにも見受けられる。
これなら――無駄に傷を負わずとも、戦局を優位に進められよう。
『ガウゥッ!!』
すべての要素が揃ったタイミングで、予想通り『それ』は来た。
数に物を言わせての、文字通りの圧倒。
しかしシキは、そうはさせじとギリギリのタイミングまで耐えた。
耐えて、耐えて――獣の息遣いが届くところで思い切り後方に身を投げ出した。
「……っ」
やや無理な体勢で身を放り出したためか、受け身を取り損ねて顔をしかめる。
そんなシキが見た光景は、本来の獲物を逃した腹いせか、互いを喰らいあう悪夢獣たちの凄惨な光景だった。
――ああ、血の臭いが、たちこめて。
(「『この姿』では、特に強く意識してしまう」)
共食いをしているというのならば放っておけば良かったかも知れない。
だが、受けた任務は『殲滅』だ。
決して、濃密な血の臭いに煽られてなど。
そうぼんやりと思いながら、再び自ら近づいては鮮血の狼を手近なものから引き裂いていく。血飛沫の向こうには、ベッドの上で苦しむオウガ・オリジンの姿があった。
(「……敵ではあるが、救われなかった最初のアリスを哀れに思う気持ちはある」)
こんな状況に陥ってでも、なお心に留めるのは、ここへ来た『理由』。
鋭い爪で引き裂き、牙を突き立て、悪夢獣を仕留めながらシキは思う。
(「せめてこの悪夢が終わるまで付き合ってやろうと、そう決めている」)
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と
げー、嫌な場所だなあ
牢屋思い出すっつーか、何つーか……
ま、全部壊せば出られるっていうなら簡単だ
さっさと済ませよう
術士としての力は血塗れになるのに向いてない
嵯泉と並んで切り込むぞ
幻想展開、【済生】
生憎と近接戦闘は得意じゃないし
上から急襲した後に飛び上がって攻撃を避けるようにしよう
地上にいる嵯泉は囲まれて危ないだろうし
上空から状況確認、氷の属性攻撃で殺すなり防ぐなりして嵯泉を庇う
血を浴びた嵯泉が強化されるんだし、まあ良いだろ
ん、こっちは任せとけ!
だだっ広くて寒くて暗い
好きじゃないけど、オウガに同情は出来ないな
私の心象風景も、牢屋になるんだろうけどさ
はは、そうなるように頑張るよ
鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
心象故に殊更酷くもあるのだろうが
こんな場所に長居は無用だ
ああ、早々に片付けて去るとしよう
連戦が目に見えているならば
――剣怒重来、糧と成さん
戦闘知識にて視線や向きから攻撃の方向と強弱を見極め
些末な攻撃は敢えて受け賦活へと回し
致命に至る、或いは行動に支障を来すものは見切り躱す
折角の援護だ、利用させて貰うとしよう
氷を目晦ましに使い叩き斬り、力を吸収して戦闘を続けてくれる
今更血に塗れるを厭うものか
其の侭、上は任せる――頼んだぞ
嘗てのアリスになら兎も角、今のオリジンに同情なぞ要るまい
……そう簡単に塗り替わりはしないだろうが
何時か、其の心象風景の変わる日が来る事を願うよ
●盟友たち
「げー、嫌な場所だなあ」
廃病院に降り立って早々、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は不快感を隠さずにうへえと言い捨てる。
「牢屋思い出すっつーか、何つーか……」
「……心象故に殊更酷くもあるのだろうが」
無理に言葉にせずとも良いとの心遣いのように、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が言葉を引き継ぐ。
「何にせよ、こんな場所に長居は無用だ」
「ま、全部壊せば出られるっていうなら簡単だ――さっさと済ませよう」
同感だ、と。盟友の契りを交わした二人の偉丈夫は一度顔を合わせて頷き合う。
「――ああ、早々に片付けて去るとしよう」
かつん、かつん。打ち捨てられた廃病院に響く靴音だけが響く中を進む。
そうしてデタラメな広さの病室にたどり着けば、静寂を破る不気味な呻き声。
『あぐぅぅぅ……っあああ……!!』
ポツンと置かれたベッドの上、身体を丸めるようにして打ち震えるオウガ・オリジン。
その伸ばされた手首から噴出する鮮血めいた悪夢が、兎の形を成して現れた。
「此処まで来ておいて何なんだけど、さ」
「どうした、改まって」
ニルズヘッグがぽそりと隣の嵯泉に向けて呟けば、即座に真剣な右の眼差しが返る。
存分に血にまみれてこい、とは言われたが。
生憎、術士としての力は『それ』には向いていない。
だから、と。ニルズヘッグが悪戯っぽい目配せを送れば、嵯泉もそれをすぐに察する。
察して、任せろと刀に手を掛ける。
真っ赤な兎たちは、鳴き声こそ上げないが注視すればすぐに気付く刃の耳が恐ろしい。
それと、前歯。噛まれれば腕のひとつは余裕で食いちぎられそうだ。
だからと言って、攻撃を躊躇う理由にはならない。
ニルズヘッグと嵯泉は、並び立って互いの得物を手にして、向かい合った。
『ぐうぅぅ……っ、お、の……れ……っ!!』
アレを、殺す。
殺して、終わりにする。
その意思が『敵意』と見なされた時、兎たちの襲撃が始まった。
(「連戦が目に見えているならば」)
嵯泉が「秋水」を抜き、構える。
――【剣怒重来(ケンドチョウライ)】、糧と成さん。
超常の発動を示す言葉が紡がれると同時、嵯泉の全身を『氣』が覆い尽くす。
それを見届けたニルズヘッグと共に、兎の群れへと斬り込んでいく。
手には黒い蛇竜が姿を変えた、良く馴染む長槍。これを掲げて、竜は吼えた。
――幻想展開、【済生(ホッドミーミル)】!
どんなに凄惨な光景を見せられようと、ニルズヘッグの信念は揺るがない。
――『世界は、愛と希望に満ちている』!
故に、血に備わる竜の力は、大切なものを守るために羽ばたくための翼を授ける。
(「生憎と、近接戦闘は得意じゃないし」)
竜の翼を広げて地を蹴って、舞い上がる姿を兎どもは認識できただろうか。
地上からは嵯泉の刀が、空中からはニルズヘッグの竜槍が、それぞれ迫り来る。
――びしゃり、と。刀に斬り払われ、槍に貫かれた兎どもが、鮮血そのものとなって二人を汚す。
本日二回目のうへえという顔で、すぐに飛び上がって反撃を躱すニルズヘッグと、地上に留まり次は誰だと鋭い視線を向ける嵯泉。
可愛らしさの欠片もない兎どもが、びょんこびょんこと跳ねながら、包囲を狭めた。
(「包囲をする程度には、知恵が回るか」)
ならばどれかしらの個体が『死角を突いて』迫るだろうことは明白。
案の定背後から迫った殺気を、目視することなく斬り捨てればまた身が血に染まる。
(「そうして、波状攻撃で隙を突き続けようという算段か」)
その全てを斬って捨てていなすのは、流石の嵯泉でも難しい。
難しいし、そうするつもりもなかった――今の嵯泉ならば、それが可能だった。
腕を、脚を、その辺りを狙う攻撃は、敢えて受けた。
その傷は先に発動した超常の効果で、むしろ嵯泉の力をより苛烈に増していくのだ。
しかも生命力を吸収する作用まで得るというのだから、この戦に於いては十全の効果を発揮すると言えるだろう。
だが、流石に首をかっ切られたらどうなるか?
――そんなの、流石の嵯泉さんでも死ぬに決まってるじゃないですか!
――そんなの、かの盟友が黙って見過ごす訳がないじゃないですかー!
ガガガガガガッ!!!
『……ッ』
鋭い耳の刃で、まるで女王に『首を刎ねよ』と命じられたかのように狙いを定めた小賢しい兎が、上空で状況を確認していたニルズヘッグの氷槍の雨によって血飛沫と化す。
(「地上にいる嵯泉は囲まれて危ないだろうとは思ったけど」)
「……」
嵯泉が、一瞬だけ頭上を見上げた。それに笑んで返すと、ニルズヘッグは親指を立てた。
「ん、こっちは任せとけ!」
「折角の援護だ、利用させて貰うとしよう」
絶妙な位置に叩き込まれる氷柱を目くらましに使って囲まれた不利を軽減させ、嵯泉は兎どもを叩き斬り、鮮血を浴び、力を増して、舞うように戦い続ける。
(「今更、血に塗れるのを厭うものか」)
血にまみれた腕で、身体で、嵯泉は踊る。
「其の侭、上は任せる――頼んだぞ」
「ああ、任せられた――存分にな!」
ニルズヘッグもまた、己の役目を十全に果たす。
そのための翼、そのための力だから。
(「だだっ広くて、寒くて、暗い」)
俯瞰できる状態なればこそ、病室の様子を一望できる。
ニルズヘッグが見たものは、とても好ましいとは言えないものだった。
(「……好きじゃないけど、オウガに同情は出来ないな」)
地上で刀を振るう嵯泉が、まるで心を読んだかのように呟く。
距離は離れているはずなのに、何故かその声が聞こえた気がしたニルズヘッグが目を瞬かせる。
「嘗ての『アリス』になら兎も角、今の『オリジン』に同情なぞ要るまい」
そっか、と。小さく応えて、ニルズヘッグは今度こそ声を発する。
「私の心象風景も、牢屋になるんだろうけどさ」
「……そう簡単に塗り替わりはしないだろうが」
氷柱が穿ち、刀が斬り、鮮血の飛沫が舞う中で、言葉は交わされる。
「何時か、其の心象風景の変わる日が来る事を願うよ」
――世界の幸せを謳うお前こそが、幸せであるように。
「はは――そうなるように、頑張るよ」
大成功
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六道銭・千里
心象風景なぁ
…まぁ他のあれとか聞く限りそういうことなんやろなぁ…
悪夢獣、まさにナイトメアってわけや
ほんじゃあ、全部祓って、この悪い夢を終わらせようか
六道銭・千里、参る!
真正面からってのは苦手でな、霊符を投げての『結界術』
ちょっとした遮蔽物とか攻めてくる方向を誘導する物になればいいわ
銭貫文棒を使っての突いて、払って、伸ばして…
護符の『弾幕』で攻撃しながらも場を整え…
その突進は受けられへんなぁ、棒高跳びの要領でひょいって回避ってな…
散らばった護符を見てそろそろか…
斉符結界、守銭土
ばら撒いた護符の一斉砲火、こいつで終いや
雷陣・通
ひでえもんだな
悪夢に縛られて、悪夢に苦しんで
だから――俺が来た
「紫電会初段、雷陣・通。治にいて乱を沈める武を以って夢を砕かん」
ごたくはいらねえフルスロットルだ
『紫電の空手』で攻撃回数を上げて
さらに【二回攻撃】でガンガン当てていく
細けえテクニックは要らねえ、【先制攻撃】で攻めていくぜ
防御?
【視力と見切り】でギリ避けて、喰らったもんは【激痛耐性】で我慢だ
血に塗れるのは、構わねえ
その為の空手だ
汚れるのは構わねえ
その為の武術だ
けどな、苦しんでいるのを放っていく気はねえ
その為の――俺だ
何度吹き飛ばされようが立ち上がって拳を握り言うのは一つ
「夢の時間は終わりだ、ライトニングに起床だぜ」
●雷の子と陰陽師
「心象風景、なぁ」
予知で聞いた通りの陰鬱な廃病院に降り立って、六道銭・千里(冥府への水先案内人・f05038)は無意識のうちに後ろ頭を軽く掻いた。
「……まぁ、他の『あれ』とか聞く限り、そういうことなんやろなぁ……」
オウガ・オリジンが猟書家から力を取り戻すにつれて、徐々に暴かれていく事象を鑑みるに、少なくともろくでもないことであるのは確実だ。
もしもオリジンが完全に力を取り戻したならば、その背景にあることの全てが詳らかになるやも知れなかったけれど――そこまでの余裕は、戦況が許さない。
だから、終わりにするのだと。
そのために、送り込まれたのだと。
「――ひでえもんだな」
雷陣・通(ライトニングボーイ・f03680)の翠玉の瞳は、ベッドの上で呻き苦しむオウガ・オリジンを見据えていた。
「悪夢に縛られて、悪夢に苦しんで」
オウガ・オリジンは視線ひとつも返せず、ただ呻くばかり。噴き出す鮮血の悪夢は、馬の形を作って威嚇するかのごとく前脚を上げた。
「だから――俺が来た」
革靴の底が、乾いた音を立てる。一歩、二歩。踏み込んで、名を名乗った。
「紫電会初段、雷陣・通」
ぱしん、と。テーピングが施された掌に、拳が打ち合わされた。
「治にいて乱を沈める武を以って、夢を砕かん」
それを見ていた千里も、そいじゃと一度腕を回して鮮血の獣へと向き直る。
「『悪夢獣』、まさにナイトメアってわけや」
今度は首を下げ、前脚で地を掻く仕草で身構える馬どもを眼光鋭く見据えた。
「ほんじゃあ、全部祓って、この悪い夢を終わらせようか」
指に霊符を挟みこんで構えると、高らかに己の名を告げた。
「六道銭・千里――参る!」
鮮血で出来た悪夢の馬がいなないて、涎の代わりに血を滴らせた。
馬の突進に対する、二人の猟兵の反応は対照的だった。
千里は手にした霊符を投擲し、結界を張って接近を許さず。
通はむしろこちらから攻め込んでいく勢いで構えを取った。
「真正面から、ってのは苦手でな」
突進してくる馬どものおよそ半数を引き受けて、結界にべちゃりとへばり付く鮮血を苦笑いで見遣りながら死角を突こうと移動する千里。
一方の通は、言うなれば『やられる前にやれ』の精神で、とにかく目についた個体から先手を取ってぶん殴っていく。
半数を千里が引き受けてくれているとはいえ、それでも馬どもの数は多い。腕二本で通が立ち向かうには、純粋に腕を振る回数を増やすのが最適解であったろう。
(「ごたくはいらねえ、フルスロットルだ」)
そう、己を顧みぬ捨て身の戦法。幸い、馬の図体は大きく動きも単調で見切りやすい。
それでも、いつかどこかで一撃を喰らう時は来る。分かっていた。
「っ……く……!!」
横っ腹に強烈な後ろ脚の蹴りを喰らって、通が盛大に吹き飛ばされた。
それでも壁など遥か遠く、地面に数度バウンドしてようやく止まった。
(「痛ってぇ……けど、我慢だ……」)
死ななきゃ安いとは良く言ったものだ、なんて思いながら。
かは、と一度血を吐いてから、通は戦場に戻るべく身を起こそうと力を込めた。
「大丈夫かいな、っと……人の心配しとる場合やなかったわ」
見るからにヤバそうな蹴りを喰らって吹っ飛んでいった通の方を見るも、すぐに悪夢獣へと対峙し直す千里。
通が戦場を一時でも離脱するということは、敵の狙いがその間己に集中するということを示すからだ。
霊符の結界を遮蔽物代わりにしつつ、間を縫って手にした「銭貫文棒」での突きをお見舞いする。変幻自在に伸縮するからとっても便利。
さらに、先程とは異なる種類の護符を素早く取り出しては馬どもへと投げつけて、行動を妨げる弾幕のように展開させながら、同時に攻撃をも行う。
戦場の流れは、数的不利にありながらも、千里が握りつつあった。
業を煮やした鮮血の馬が、蹄の音も高らかに突進を敢行してきた。
「おっと、その突進は受けられへんなぁ」
そう言って不敵に笑んだ千里が、一歩前に踏み出しながら「銭貫文棒」を床に付ける。
グッ、と力を込めれば、棒高跳びの要領で突進してくる馬どもをひょいっと飛び越す。
そうそう容易く勢いは殺せず、方向を変えることも出来ず。
悪夢の馬どもは、明後日の方向へと駆け抜けていってしまった。
(「血に塗れるのは、構わねえ」)
一歩、二歩。戦場へと戻るべく歩く通は先手を打った際に浴びた血に胴着を染めて。
――その為の空手だ。
(「汚れるのは、構わねえ」)
戦場――つまり、オウガ・オリジンがうずくまるベッドの近くへ。
――その為の武術だ。
(「けどな、苦しんでいるのを放っていく気はねえ」)
今のオウガ・オリジンは、苦しみにただ首を振ることしか出来ないでいる。
――その為の『俺』だ。
その苦しみがいかばかりのものか、どうすれば救えるのか、それは分からない。
ならば分からないからと言って捨て置くのか? 答えは、否だ!
また同じように吹き飛ばされるかも知れない? 上等だ。
ならば何度でもまた立ち上がって、拳を握ろう。
そして言うのはただ一つ。
「夢の時間は終わりだ、ライトニングに起床だぜ」
再び舞い戻った少年を、無慈悲にも蹂躙しようとする馬どもの足元を見よ。
散乱した霊符に護符は、最早お役御免か? とんでもない!
「【奥義・斉符結界・守銭土】――こいつで、終いや!!」
――ドドドドドドンッ!!!
爆ぜる護符や霊符の一斉砲火が、馬どもを血飛沫に変えていく。
通はもちろん、千里もダメ押しとばかりに血まみれになっていく。
『あぐぅっ……ぐぅぅ……っ』
オウガ・オリジンの呻きが、少しだけ。
ほんの少しだけ、弱まったような気がした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
白斑・物九郎
●POW
血飛沫にゃ事欠かねえと来た
イイ狩場じゃニャーですか
グールドライバー、白斑物九郎
俺めのコトはブラッド・ドリンカーと呼べ
・『ザ・レフトハンド』に「血にゃ事欠かぬぞ」と呼びを掛け、左腕へ【吸血/生命力吸収】の力を宿す
・【グールドライブ】発動
・悪夢獣の体表の色も、連中の返り血も、左手指/左掌からガンガン取り込み戦闘能力を高め続ける
・病棟内を堂々驀進
・敵のポップや襲撃予兆は片端から【野生の勘】で網羅し、その機先や後の先を適宜ブッ叩く
・突っ込んで来る敵は【怪力】を込めた腕で取り回す魔鍵でカウンター気味に穿つ
・懐に這入り込んで来た敵は、左手で直接捉え/掻き毟り/振り回しざまに引き裂き――【蹂躙】する
●猟団長
「血飛沫にゃ事欠かねえと来た、イイ狩場じゃニャーですか」
廃病院に降り立つや、おもむろに病棟内を下駄の音も高らかに闊歩するのは白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。
『うあぁ……あああぁ……!!』
敵対者の気配を感じたか、最早その余裕さえ失われたか。
オウガ・オリジンはベッドの上で苦悶の声を上げ、鮮血の悪夢を噴出させる。
馬の姿を取ったソレは、身を震わせいなないて物九郎を威嚇しようとするが、当の物九郎は全く意にも介さず、むしろ不敵に笑んで見せるのだ。
「『グールドライバー』、白斑・物九郎」
鮮血の馬どもが、一瞬気圧された様子を見せた。
――名乗りを上げただけなのに!
「俺めのコトは『ブラッド・ドリンカー』と呼べ」
鮮血にまみれてこい、そう言われた。
望むところよ、その意思表示であった。
利き手でもある左腕に、気がつけば刻まれていた虎縞模様の刻印「ザ・レフトハンド」に物九郎が呼び掛ける。
「――血にゃ、事欠かぬぞ」
ぞわ、と。それは気のせいであったかも知れないけれど、刻印の文様がひとつ蠢いた気がした。
間違いないのはひとつ、刻印が血と生命力を吸収する力を宿したことだ。
確かな手応えを感じて、物九郎は馬どもを見た。
敵対者を見る目か? 否、これは――獲物を狩る側の者が見せる目だ。
からん、からんからん、からん!
病棟に響き渡る下駄の音は、敵に向かって堂々と驀進する証に他ならない。
「デッドリーナイン・ナンバーワン――【グールドライブ】、発動」
突進してくる馬どもを視界に悠々と捉えながら、物九郎がニィと笑う。
噴き出す鮮血の『どこから』湧いて出て、『どこから』攻撃してくるか、尋常ならざる野生の勘が全て教えてくれるのだから、避ける必要などどこにもない。
身体の左側面に突如現れたモザイク状の空間に左腕を突っ込めば、握られてきたのは巨大な魔鍵。恐るべき怪力で以て、馬の突進の勢いを逆に利用して全力で穿ち抜く。
ばしゃあ、と。盛大に返り血を浴びるのも物九郎の計算のうち。
左腕の刻印が、血を啜り喰らって活性化し、より力を増していくのだ。
「……ほぉ」
それでも懐にまで這入り込んで来る輩はいるもので、いっそ感嘆の声を上げる。
これは褒美だ、そう言わんばかりに物九郎は魔鍵ではなく己が左手で直接むんずと捉えてやる。ぎり、と指先に力を込めて物理的に食い込ませ、簡単には抜けないようにして。
「ブチのめしてやりまさぁ」
ぶん! 馬の巨体を容易く振り回す。遠心力を利用して、突き刺した指で引き裂く。
――その様、まさに『蹂躙』と呼ぶに相応しく。
鮮血の返り血にまみれて、次の獲物を求めて金眼をギラつかせる物九郎は、最早オウガ・オリジンのこの場に於ける一番の恐怖であり、苦痛であったかも知れない。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
あー…これはまさに迷宮病院殺人事件の真っ最中だな
こいつが他の所で散々人命を踏みにじっているのは知ってる
正直いい気味だと思うが早く終わらせてやるよ
UC【第四の殺人】で迎え撃つ
無差別攻撃をかわし切る事は無理だろうが
敢えてそれを利用していく
俺が傷を追う毎に速くなる【なぎ払い】で
斬って斬って斬りまくる
奴の悪夢の加速を振り切って
探偵と犯人は紙一重の存在だ
私情に呑まれりゃ俺達は案外簡単に向こうへ堕ちる
アリスとオウガみたいにな
あんたが許されない事をしたからって俺の裁量で罰は与えない
普通に戦ってるぜ?聞いてないか
最近は返り血にも慣れてきたが
生温くて気色悪いだけだ
俺には殺人犯の気持ちは解んねえよ
…解ってたまるか
ユエファ・ダッシュウッド
おやおや、これはお可哀想に
ご自身の悪夢に呑まれたのですか?
それは大変ですね。では、殺して差し上げましょう
オウガオリジンたる貴女を裂いて、その中覗いてみたいものですが
それにはまず、あの狼が邪魔ですねぇ
UC使用
琥珀の眸は鮮血の色に染まる
ケダモノ風情では楽しみも半分と言ったところだが
この衝動の慰めくらいにはなるでしょう
八つ裂きでは生温い
千々と裂いてくれましょう
命を喰らって浴びる血のなんと芳しいことか
はは、足りませんよ
こんなものでは足りません
もっとボクに生を下さい
もっとボクに死を下さい
殺しても殺しても渇くこの喉を、お前の血で潤させて下さい
返り血に白兎が朱く赤く染まる頃
そこで嗤っているのは人外境の魔物
●高校生探偵と狂気の白兎
かつん、かつん。
二人分の足音が、廃病院の廊下に響き渡る。
目指すはオウガ・オリジンが居る――収容されている――囚われている――ああ、何と表現するべきか? 病室へと向かっていることだけは確かで。
「あー……これはまさに迷宮病院殺人事件の真っ最中だな」
誰が被害者で、誰が加害者か。それはまるで、読み手の目線が異なるだけでがらりと姿を変える邪道極まりないミステリィ。
けれどもここにやってきたのは柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)、れっきとした探偵だ。探偵は真実を暴くものと相場は決まっている。
「こいつが他の所で散々人命を踏みにじっているのは知ってる」
呻き声がうっすらと聞こえてくる所まで来た。病室は近い。
同時に、漂ってくる血の臭いに思わずはとりは顔をしかめる。
「……正直、いい気味だと思うが」
今やこの陰鬱たる不思議の国で、オウガ・オリジンは苦しみに呻くばかりだという。
ならば、己の所業に相応しい報いを受けるべきではないかとも思うけれど。
「早く、終わらせてやるよ」
――探偵は裁くものではない、暴くものだから。
はとりと連れ立って歩いていたユエファ・ダッシュウッド(千死万紅・f19513)は、病室に到着するまでうっすらと笑みを浮かべたまま、はとりの言葉を聞いていた。
大陸の衣装を身に纏い、白い兎の耳をぴょこんと立てたユエファは、予知で聞かされていた通りのだだっ広い病室と、その真ん中のベッドでうずくまるオウガ・オリジンを目にして、ほう、と蕩けるような声を上げた。
「おやおや、これはお可哀想に」
隣のはとりが、軽く眉間に皺を寄せる。こんなにも可哀想と思っていない可哀想がこの世に存在したのかと言いたげに。
無論ユエファもその気配には気付いていたけれど、どこ吹く風で言葉を紡ぐ。
「ご自身の悪夢に呑まれたのですか? それは大変ですね」
くつくつと嗤うユエファの表情には、恐るべきことに『本当に憐憫の情が浮かんでいた』。(「……味方で良かったぜ」)
苦虫を噛み潰したような顔になってしまうのを隠せずにいたはとりさえ受け入れて、赦しだの救いだの御託は一切抜きで、ユエファは鷹揚に両手を広げて宣言した。
「――では、殺して差し上げましょう」
『ぐうっ……っく……!!』
しねばらくになるのか。
らくになりたいのか。
しにたくないのか。
いたい、いたい、くるしい、くるしい、ああ、ああ――!!
ぶしゃあぁ、と。噴出していた鮮血の悪夢がひときわ勢いを増す。
オウガ・オリジンが手首を押さえていっそう身体を丸めると同時、鮮血は狼の群れと化して、はとりとユエファの前に並ぶ。
「オウガ・オリジンたる貴女を裂いて、その中を覗いてみたいものですが」
広げた鉄扇の正体は殺戮刃物、主に負けぬくらい血に飢えた「誘娥」の銘持つそれを構えてユエファがピンと立った耳を揺らす。
「それにはまず、あの狼が邪魔ですねぇ」
「……だな」
はとりも得物を構える――己を何よりも傷つけて止まない、しかし何よりも頼りになる偽神兵器『コキュートスの水槽』を。
「これより 【第四の殺人『切り裂き城』】を 発動します」
「……」
「よろしい ですね?」
「……頼む」
片刃の巨大な大剣の、氷のように透き通る青い刀身が輝き出すのが合図。
ユエファの琥珀色の瞳が、妖しく輝き出すのもほぼ同時。
「ご覧なさい、この双眸はこれより鮮血の色に染まるのです」
グルル……と唸る狼たちの声にも臆することなく、白兎は口の端をつり上げる。
「ケダモノ風情では楽しみも半分と言ったところですが」
『ギャウッ!!』
人の話の途中で無粋にも飛び掛かってきた狼を一体、こともなげに「誘娥」で斬り伏せれば、びしゃりと赤い血が華僑の青年が纏う白い衣を染め上げた。
「――この衝動の慰めくらいにはなるでしょう」
『グルオォォッ!!』
『ガウウゥゥッ!!』
自らが血で出来ているケダモノが、血を求めていっせいに群れを成して飛び掛かってくる。勇み足で屠られた同胞の死骸が鮮血に還るその前にと喰らい付く姿をはとりは見た。
(「案の定、無差別攻撃か……かわし切る事は無理だろうが」)
事実、四方八方から飛び掛かってくる狼どもを全てコキュートスで斬り払うのは至難の業だった。致命を避けて立ち回るも、腕や足を鋭い爪と牙で傷つけられる。
(「――これで、いい」)
コキュートスを振るう度に飛び散る血飛沫を浴びて、引き換えに痛みを得て、刃が振るわれる回数は加速度的に上昇していく。
蒼い刃が輝く限り、はとりが心身を傷めるごとに、コキュートスは唸りを上げる。
斬って、斬って、斬りまくる――鮮血の悪夢が加速するというのなら、それさえも振り切って!
「――まだです」
『ガッ……!?』
脚を断たれてバランスを失いどうと倒れた鮮血の獣を、どっかと踏みつけてユエファが『嗤う』。ググッと前傾姿勢になり体重を掛けると、嬲るように胴体を鉄扇で切り裂いた。
「八つ裂きでは生温い」
『ァアアアァア……!!』
踏みつけていた足を退けたと思うや、腹部を思い切り下から蹴り上げて狼の身体を宙に舞わせる。ぼたぼたと血が降ってきて、ユエファは存分にそれを浴びた。
「――千々と裂いてくれましょう」
鉄扇を左右に数度振るうと、言葉通り狼は原型も留めぬほどに引き裂かれ――血袋が破裂したかのようにユエファをしとどと濡らす。
(「命を喰らって浴びる血の、なんと芳しいことか」)
血の雨と呼ぶに相応しい飛沫を身体中で受け止めて、白兎は恍惚とした笑みを浮かべた。
『う、ぐうぅぅ……っ!!』
オウガ・オリジンから噴き出す悪夢は止まらない。
鮮血の狼も次々と湧いて出る。
二人の猟兵たちは、それぞれの思惑を抱いてそれを斬って捨て続ける。
(「『探偵』と『犯人』は紙一重の存在だ」)
はとりは見るも無惨な有様と化したが、たとえ死んだとしても――死ねやしない。
だからという訳ではないが、探偵として踏み止まり続けて刃を振るう。
(「私情に呑まれりゃ俺達は案外簡単に『向こう』へ堕ちる」)
ちら、と最早赤く染まりきった白兎の方を見て、すぐに視線を戻す。
(「『アリス』と『オウガ』みたいにな」)
呻くオウガ・オリジンには、届きそうで届かない。
(「あんたが許されない事をしたからって、俺の裁量で罰は与えない」)
眼鏡を一度外してべったり付いた血を拭おうとするも、服もすっかり血を吸っていて思わず苦い顔をしてしまう。
「普通に戦ってるぜ? 聞いてないか」
戯れにオウガ・オリジンに向けて声を上げるも、それどころではなさそうで。
「はは、足りませんよ。こんなものでは足りません」
ユエファは踊るように扇を振るい、一切の無駄のない動きで、しかし心底愉しげに鮮血の獣たちを屠っていく。
「もっとボクに、生を下さい」
生命を奪うという、生きていることをある種何よりも実感出来る行為。
「もっとボクに、死を下さい」
生命を奪うという、ならば奪われてもおかしくないと痛感出来る行為。
「殺しても殺しても乾くこの喉を――」
くるん、と。一回転した勢いで狼の胴を両断し、浴びた鮮血を舌で舐め取って。
「お前の血で、潤させて下さい」
――オウガ・オリジン!
(「最近は返り血にも慣れてきたが」)
何とか凌いだか、狼が最早群れを成せなくなってきていた。
慣れたとはいっても、それが心地良いだなんて一言も言っていない。
(「生温くて、気色悪いだけだ」)
――返り血に白兎が朱く赤く染まる頃。
(「俺には、殺人犯の気持ちは解んねえよ」)
そこで嗤っているのは――人外境の魔物。
(「……解ってたまるか」)
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
有栖川・夏介
……汚れ仕事ならば慣れているので、大丈夫です。いきます。
元々、返り血が目立たないように服を仕立てているため、服が汚れても気にしない。
目に入ってしまわないようだけ、それだけを気にしつつ敵を斬っていく。
赤い兎の姿が、かつて殺した兎の姿に重なって躊躇してしまう。
…でも、やらなければ。眼前の敵はあの子とは違う。
そう「紅く染めよと、女王が言った」のだから、殺さなければ。
【血を欲す白薔薇の花】を発動し、周囲の敵を排除する。
赤い兎に、赤く染まる自分。
昔を思い出させるようで……。
なるほど、これは確かに「悪夢」なのだろう。
リオネル・エコーズ
髪と花、翼は俺だっていう目印だから真っ赤になるのは困るけど…
ま、いっか
この世界を守る方がずっと大事だからね
て事で俺も君を倒すよ
オウガ・オリジン
UCで喚んだ白薔薇の彼女の手を取り獣へ
彼女の舞踏に合わせCelestial blueで
口内や胴、血が結構出そうな所狙いで遠慮なく攻撃
突いて貫いて、更に薙げば結構出血してくれるかな
白薔薇の彼女と大切な鍵が一緒だから大丈夫
勇気と覚悟はいつもより大盤振る舞い
オーラ防御はダメージ軽減の為だけに使用
オリジンを倒すっていう敵意を明確に持ったまま
血で翼や髪が重くなってもどんどん肉薄しよう
おいで
俺達と一緒に踊ろう
でも彼女に噛み付いたりするのは駄目
そんな口には魔鍵をあげる
●白い薔薇と赤い薔薇
「髪と花、翼は『俺』だっていう目印だから、真っ赤になるのは困るけど……」
深海色の髪と、そこに咲き誇るネモフィラの花。そして夜明けを告げる紺青と黄金を湛えた翼こそ、リオネル・エコーズ(燦歌・f04185)の証。
故に『血にまみれて殺し合って来い』だなんて物騒なオーダーは、本来避けるべきところなのだろうけれど。
「……ま、いっか」
存外あっさりと割り切って、リオネルは柔らかく笑んで廃病院の病室に立つ。
「この世界を守る方が、ずっと大事だからね」
君は? そう付け加えながら桃色の瞳を向けた先には、有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)の姿があった。
「……汚れ仕事ならば慣れているので、大丈夫です」
「それは頼もしいね」
まるで今日のこの日のためにこそと用意されたかのような「処刑人の剣」を構えた夏介が、リオネルの言葉に淡々とした表情を変えることなく頷きひとつで返す。
「――いきます」
「て事で、俺も君を倒すよ」
真っ赤な剣の隣に、天上の青の銘持つ大きな鍵が並ぶ。
「――オウガ・オリジン」
これから殺し合いをするモノの名を、呼ぶ。
『ぐううぅぅ……うあああぁ……!!』
ベッドの上でうずくまり、首を振るばかりのオウガ・オリジンの手首から、鮮血の兎たちがぴょんこぴょんこと生まれ出ずる。
小さきものと侮るなかれ、その耳はあまりにも鋭く、触れるものを切り刻むのだから。
服の弁償ならするとは言われたけれど、そもそも元々この服が『返り血が目立たないように』仕立てられているのだから、遠慮でも何でもなく全然気にする必要はなかった。
敢えて返り血を浴びろと言うならば、それが目に入ってしまわないように。
それだけに注意を払いながら、夏介は兎どもに斬り掛かっていった。
(「……っ」)
処刑人は、手を下す相手を選ばないし、選んではいけない。
分かってはいたけれど、真っ赤な兎の姿が、かつて殺した『トモダチ』の白い兎の姿に重なってしまうものだから。
――がつん!!
振り下ろした剣が、盛大に病室の床に叩き付けられた――空振りだ。
「しまっ……」
違う。
ちがう。
血が、ああ――。
「――かの白薔薇が放つ輝きをご覧あれ、【白薔薇の歌姫(ホワイト・ローズ)】!」
薄暗い病室と、真っ赤な獣。それしかなかった空間に、純白の薔薇が舞い踊る。
声の主たるリオネルが手を取り並び立つのは、白薔薇を纏った可憐なる歌姫だ。
かつん!
高らかに一歩踏み込むと、鋭く突き出された魔鍵「Celestial blue」が夏介の首を狙いに迫った悪夢獣の兎をぐしゃりと返り討ちにした。
兎の形を保てなくなった鮮血が、そのままばしゃりとリオネルを、歌姫までをも染め上げるけれど、既に覚悟は決めた身だから大丈夫。
(「突いて貫いて、更に薙げば――結構、出血してくれるかな」)
何ならどこを狙えばより多くの血を浴びることが出来るかを考えるまでに至るのは、ひとえに共に在る『彼女』と、大切な鍵とのおかげ。
グリモア猟兵として送り出す側にだって勇気と覚悟は要るものだけれど、今日のこの場では特に大盤振る舞いしちゃう、だって世界の存亡の危機だもの。
イメージした攻撃方法を、さあ、実際に試してみましょう!
牙を突き立てようとかっ開いたお口に、逆に鍵をぶち込まれる気分は?
柔らかそうなお腹を、まるで野球か何かみたいに鍵を振り抜いてみたらどうだろう?
遠慮なんていらない、向こうだって全力だもの。さあ、さあ、さあ!
(「こっそり防御障壁を張ってはみるけど、血までは防がないようにしないとね」)
四方八方から耳を振るわれたり牙を突き立てられると、さすがに避けきれない攻撃だって出てしまう。
あんまり痛いのはしんどいから、そっとそれを和らげる仕掛けを張って。
(「……しっかり、しないと」)
大一番で本領を発揮できないのは、きっと一生の後悔につながる。
処刑人が首を刎ねられて果てるなど、あってはならないことだから。
夏介はひとつ首を振って、剣を構え直す。まるできらきらと煌めきながら舞うように戦うリオネルとその同伴者を見る。
(「……やらなければ。眼前の敵は、『あの子』とは違う」)
血にまみれてなお美しく在るリオネルたちと、屠られていく兎たちに、現実を見た。
呻き声の方を見て、オウガ・オリジンの姿を見て、脳裏にある言葉が過っていった。
――そう『紅く染めよと、女王が言った』のだから。
殺さなければ。
殺さなければ。
殺さなければ。
すうっ、と。自分でも驚くほどに頭が冷えた気がした。
構えを解いて、だらんと腕を下ろすと、油断と捉えたか、兎たちが群がってくる。
刃と牙とが迫るなか、夏介は紅いあかい目で兎どもを見た。
「紅く染めよ、と女王が言った」
――【血を欲す白薔薇の花(ブラッディホワイトローズ)】!
ぶわっ!!
手にしていた剣が、一瞬にして無数の白薔薇に変わり、花弁が全方位に舞い踊り兎どもを切り裂いていく。
白い薔薇が、あっという間に『紅く』染め上げられていく。
夏介自身も、至近で浴びた鮮血に染め上げられていく。
(「赤い兎に、赤く染まる自分」)
それはまるで、昔を思い出させるようで。
頬を伝っていく血の感覚ひとつとってもそうだ。
(「……なるほど、これは確かに『悪夢』なのだろう」)
今度こそ呑まれてしまわぬように、夏介は再び手の中に戻った剣を握り直した。
(「君を倒すと言ったね、それは決して変わらないよ」)
敵意を明確に抱き続ける限り、悪夢獣の兎はリオネルに向けて攻撃を続ける。
望むところだと、リオネルは髪や翼が浴びた返り血で重くなろうとも、徐々に、徐々にベッドへと近づいていく。
後方で超常の発動する気配を感じたけれど、何だかとても近しい何かを覚えて。
あとで夏介に聞いてみようか、などとぼんやり思う余裕さえ見せて。
「おいで」
誘う。血にまみれた腕で――Shall we ダンス?
「俺達と、一緒に踊ろう」
手を取る代わりに、魔鍵をあげようね。
――おっと! 『彼女』に噛み付いたりするのは駄目だよ。
そんな口にも、魔鍵をあげる!
ばしゃあ!
ここでも、白薔薇が血で紅く染まっていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
楼・静鳳
アドリブ・連携歓迎
感情を知らず血も流れぬまだ数歳のヤドリガミ
敵を殲滅
剣と髪で敵に【範囲攻撃】の【なぎ払い】【串刺し】
敵の攻撃は【激痛耐性】で【武器受け】し【カウンター】攻撃を返す
血の向こうのオリジンに
「俺のぶんまで
流してくれるのだね」
血と命を
「苦しむ心
手に入れたなら
求めなければと後悔するかもしれない
けれど
大切なものだと俺の知る人は言った」
救いなき苦しみ
確かにその中で笑顔を残した人
なぜ俺は心を得ようとする
わからないが
あの時こうすべきだったとわかる
血濡れた己が衣服を捌きUCで敵を攻撃
俺という対象が後退してもこの炎は対象外ゆえ進む筈
叶うならオリジンをも
そう、葬るという儀式
炎よ―血と涙を抱き天まで昇れ
●あかがねのつるぎ
楼・静鳳(紫炎花燈・f18502)は、ひとのこころというものをまだ知らない。
元が器物であったが故の、致し方ないことであった。
静鳳は同時に、流す血を持たない。
正確には、流す血こそあるとしても、それをそれだと認識することが出来ない。
ヤドリガミという種族は、色々と大変なのだ。
だから。
オウガ・オリジンの苦しみも、境遇も、良くも悪くも理解出来なかったし、鮮血の悪夢で作られた馬どもを屠ることに躊躇することもなかったのだ。
(「敵を、殲滅する」)
紅玉の飾りも美しい、静鳳の本体たる銅剣でなぎ払い、間合いの外から迫る馬どもへは「紫霄舞華」の名を持つ美しい髪を振るって勢いのままに刺し貫く。
いななきと共に次々と突進してくる馬どもに、時折撥ねられることもあった。
宙を舞う己の身体を、静鳳はまるで他人事のように冷静に捉えていた。痛いようで、痛みという概念が今ひとつ掴めないでいるものだから痛くないようで。
でも、この肉の身体を保つには多少の痛みも必要だからということは理解していて。
故にこれ以上の攻撃は許さぬと、落下の勢いを利用して深々と剣を馬の胴体に突き刺してやるのだ。
みるみる返り血にまみれていく己を、静鳳はどのように認識していたのか。
――それが、これから明かされる。
血飛沫と化した馬の向こうに、白いベッドとうずくまるオウガ・オリジンが見えた。
「……俺のぶんまで、流してくれるのだね」
『っぐ……うぅ……』
際限なく噴き出し続ける鮮血は、尽きぬ悪夢の証左だろうか。
静鳳が理解できずにいる、血と命とを、オウガたるこの娘は持っている。
苦しいのだろう。
これが、苦しいということなのだろう。
「苦しむ心、手に入れたなら……求めなければと後悔するかもしれない」
悪夢に囚われ地獄の責め苦のような思いをするならば――けれど。
「それは大切なものだと、俺の知る人は言った」
救いなき苦しみのただ中で、それでも確かに笑顔を残していった人がいた。
知りたい。
理解したい。
――なぜ、俺は『心』を得ようとする?
分からない。
分からないけれど。
(「あの時、こうすべきだったと、わかる」)
背後から、そして前方のオウガ・オリジンから直接、鮮血の悪夢獣が馬となり迫り来るのを感じた。
サムライエンパイアとも少し異なる異国情緒を感じさせる衣はすっかり返り血に濡れて、それをばさりと無造作に上半身を晒すようにはだける。
濡れた衣服を不快と思うのは何故だろう、と頭の片隅で思いながら――静鳳は、バッと片腕を天井に向けてかざした。
「清め、熱き息吹よ此処に――【清炎(ヤイバキタエシフシノトリ)】」
――素肌を晒した理由は、これだ。
煌々と燃え上がる猛き炎が、ぶわっと広がり挟撃を目論んだ馬どもを包み込む!
(「これは、葬るという『儀式』)
すべてを焼き尽くして弔ってやりたかったけれど、この手はいまだ届かない。
ならばせめて、今この場の苦しみだけでもと、炎は鮮血の苦しみを包み込む。
(「炎よ――血と涙を抱き、天まで昇れ」)
『あぐ……っ、うああぁ……!!』
オウガ・オリジンが歯を食いしばったのは、如何なる感情ゆえか。
それは静鳳だけでなく、誰であっても、きっと分からなかったろう。
成功
🔵🔵🔴
穂結・神楽耶
★レグルス+神楽耶
獅子の星、猛る炎。
お噂は大変かねがね伺っております。
足を引かぬよう努めさせていただきますね。
悪夢の幕引きは、賑やかで鮮やかな方がいいでしょうから。
ロク様の咆哮、ジャック様の重力コントロールを待って抜刀。
悪夢獣たちの動きが止まったところに切り込みます。
いざや斬り果たせ、【神業真朱】!
敵が巨大であればあるほど刀は当てやすい。
そして当たれば、悪夢とて斬れる。
思い切り振り抜いて飛沫を雨と散らしましょう。
こうまで濡れて、濡らして。
いったい何を伝えたかったのでしょうか。
それでも助けたかった……なんて。
傲慢なのかもしれませんけど、ね。
ええ、刈り取りましょう。
徹底的に、何も残さぬように。
ロク・ザイオン
★レグルス+神楽耶
閉じ込められて、
血で獣を生みながら、
お前は。
…………うたっているのか。哭いているのか。
おれにはわからないから。
……やることは、ひとつだ。
できることはひとつだ。
ジャック。神楽耶。
あれを殺そう。
――あああァァアアア!!!
(「惨喝」よ遍く轟け
血を震わせ【恐怖を与え】獣どもを竦ませろ
勢いを殺してしまえば【ダッシュ、ジャンプ】で飛び込み
烙印刀、閃煌二刀の【早業】で【なぎ払う】
赤い雨や滑る床すら【地形利用】
此処はもう、己たちの狩場だ)
(血の匂い。味。
味わうたびに、性はけものに近付いた)
ジャガーノート・ジャック
★レグルス+神楽耶
(ザザッ)
共闘は二度目か。
頼りにさせて貰うとしよう、神楽耶。では、我々にできる最大限をしにゆこうか。
――任務を開始する。
(ザザッ)
ロクの雄叫びで敵が怯んだ隙に"MOON FORCE"起動。
最大容量83t迄の悪夢獣らの重力コントロールを剥奪。(操縦×範囲攻撃)
その勢いで向かって来るのだ。
少し進行方向をずらすように操作するだけでも互い同士ぶつかりクラッシュし合うだろう。
後は各々思う侭剣を振るのみ。
本機は「剣狼」を起動、破邪閃光を纏った槍に重力操作で集った血を交え獣を屠る。(破魔×ランスチャージ)
血の雨か。痛々しい。
――だがどうあれ斃さねばならぬ者。ならば容赦なく斃す迄。(ザザッ)
●王の星と焔の太刀
他に行き場もない廃病院など、誰も好んで思い出したりなどすまい。
ならば『これ』は、えぐり出されたものなのだろうと推測は出来る。
――出来るが、それはあくまでも『推測』の域を出ないから、グリモア猟兵も口にしなかったのだろう。
己が生きる『森』とは対極にあるとも言えるモノクロームの景色の中、ロク・ザイオン(月と花束・f01377)は青い目を少しばかり細めて思う。
(「閉じ込められて、血で獣を生みながら、お前は」)
……うたって、いるのか。
……哭いて、いるのか。
炎の刃を抱きながら、掠れた声で呟いた。
「おれには、わからないから」
ならばキミたちはどうか、と。ロクが燃える炎のような三つ編みを揺らせば、そこには相棒たるジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)と、数奇な縁で同道することとなった穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)の姿があった。
「――獅子の星、猛る炎」
視線が合うや、神楽耶はぺこりと一礼する。
「お噂は、大変かねがね伺っております」
ロクとジャックとが、天に輝く猛き獅子の名を冠して戦場を駆ける兵たちたることは、言葉通り聞き及んでいた。
「足を引かぬよう、努めさせていただきますね」
だから、その輝きをゆめ曇らせぬよう。
むしろ、良き力添えとなれますように。
神楽耶がそっと己が本体たる太刀に手を添えながら、あくまでも柔らかな笑みで言う。
「共闘は、二度目か」
最初は、異世界でわんこにべろんべろん舐め回されたり何だりと――最初にしてはいきなり色々と曝け出しあった気もするけれど。
「頼りにさせて貰うとしよう、神楽耶」
――ザザッ。
ジャガーノートの機械音声に時折混じるノイズにも、もう慣れた。
ロクは当然のこと、神楽耶も既に聞き返す必要がなく。
「では、我々にできる『最大限』をしにゆこうか」
ごきり、と。ものを掴む仕草で力を込めたジャガーノートの黒い指先が音を立てる。
「……やることは、ひとつだ」
ロクにはそれが、闇の中でたったひとつ輝く星のようによく分かった。
「できることは、ひとつだ――ジャック、神楽耶」
共に戦うものの名を呼ぶ。呼ばれたものたちは頷いて返す。
「あれを、殺そう」
「ああ――任務を、開始する」
ぞわっ、と。一気に血の気配が濃くなった気がした。
三人が言葉を交わすまで律儀に耐えていたのだとしたら大したものだが、最早それを知る術はない。
ベッドの上のオウガ・オリジンは、心底苦しげな呻き声を上げるばかりなのだから。
『ぐうぅぅ……っ、うぐ、っ……ぁああああ!!!』
噴き出す鮮血は、べちゃりと床に落ちては湧いて出るように馬の形をした悪夢獣を次々と生み出して三人の前に立ちはだかる。
真っ赤な涎をしたたらせて、身を震わせ、馬どもは身を低くして蹂躙せんと突撃の構えを取った。
(「させない」)
獣が相手ならば、なおのこと負ける気はしない。
すぅと息を吸い込んだロクが、眼前の禍々しい馬どもを見る。
(「【惨喝(ザンカ)】よ――遍く轟け」)
無機質な天井を仰ぎ、喉をかきむしるような仕草で、ロクは。
「 ―― あ あ あ ァ ァ ア ア ア ! ! ! 」
それは、敵対するものにとってはさぞや耳障りだったろう。
それが、弱きものならばたまらず逃げ出したくなったろう。
地を蹴って飛び掛かってしまった後だったことを後悔するがいい。
湧き起こる恐怖に怯み、竦んだ身体はそのまま体勢を崩せ。
――ザザッ。
ノイズが走れば、次はジャガーノートの番。
「【MOON FORCE(ムーンフォース)】、発動――反重力プログラム、作動」
『……ッ!?』
どさりと地に落ちるかと思われた馬どもが、無様な格好のままで宙に浮いていた。
ままならぬ身体をもがかせる姿を、赤く光るバイザー越しに淡々と捉えながら、ジャガーノートは両腕を軽く交差させる仕草を取った。
――ばしゃあッ!!
激突音の代わりに、鮮血が飛び散る音がした。
「その勢いで向かって来るのだ、このように少し進行方向をずらすだけで」
ロクの咆哮で自ら脚を止めたとて、それまでの運動エネルギーが霧散する訳ではない。
ソレの行き先を互い同士に仕向けたならば――ぶつかり合ってクラッシュは必然。
「悪夢の幕引きは、賑やかで鮮やかな方がいいでしょうから」
レグルスの初手を待ってから、遂に神楽耶が刀を抜き放つ。
鮮血に還る同胞を見て、しかし足掻くことしか出来ない馬どもを視界に捉え、一気に踏み込むと下から上へと刃を振るう!
「いざや斬り果たせ――【神業真朱(シンゴウシンシュ)】!」
敵の図体が巨大であればあるほど、刀は当てやすいというもの。
そして、当たればたとえそれが悪夢だろうが――斬れる。
深く入った刀身を、そのまま思い切り振り抜けば、馬の首元が斜めにズレて、程なくして鮮血の飛沫が雨のように降り注ぎ、神楽耶を赤くあかく染め上げていった。
まるでその赤い雨が合図のように、ロクとジャガーノートも再び動く。
燃える炎を曳くように駆けるロクの手には「烙印刀」と「閃煌」の二振り。
逆手に持った手に馴染む得物で、降り注ぐ血の雨を突っ切るように馬どもへと肉薄しては刃を振るってなぎ払い、生物であれば急所であろう箇所を的確に切り裂いていく。
「……っ、と」
一回転して着地した床はちょうど血溜まりになっていたものだから、足が滑る。
そこをすかさず狙おうとした賢しい馬どもも居ただろう、けれどそれさえ織り込み済み。
体勢を崩したと見せかけて、低いところから惜しげもなく二刀を投擲。
それぞれを頭部に突き立ててやれば、それでおしまい。
大事な武器だから、きちんと回収しなければ。ぐずぐずと原型を失い始めた馬どもの頭部から刃を引き抜けば、噴き出した鮮血がロクをしとどに濡らす。
(「此処はもう、己たちの『狩場』だ」)
そう、最早これは殺し合いなどではない。
――一方的な『蹂躙』。
それで良いと、送り出されたのだから。
機械鎧を身に纏うジャガーノートが、返り血を浴びるというのは如何なる感覚なのだろう。そもそも、そのような感傷めいた思考は不要なのだろうか。
己の不利を悟りながらもなお突進することしか出来ない馬どもを、ジャガーノートは「剣狼」の銘持つ刃で迎え撃つ。
刃は破邪閃光を纏いし槍と化し、飛び散り降り注ぐ血を重力操作で集め、鋭く穂先を突き出せば驚くほど呆気なく馬は血飛沫と化していく。
(「血の雨か、痛々しい」)
これほどの血を流すとあらば、その苦痛やいかばかりか。
ベッドの上のオウガ・オリジンに視線を向けて、ジャガーノートは思うけれど。
「――だが、どうあれ斃さねばならぬ者」
ザザッ。ノイズが走る。
「ならば、容赦なく斃す迄」
ザザッ、ザッ――。
血の匂いが立ち込める。口にだって入るから鉄の味が広がる。
身体中で『血』を感じて、おんなのさがはけものに近づいた。
「ああ――」
ロクは掠れた声を上げる。
(「そうだ、ジャック。容赦なく殺そう」)
すっかり『朱く』染まった身で、しかし己はほぼ無傷のままで、神楽耶はジャガーノートと同じく視線をオウガ・オリジンに向けていた。
(「こうまで濡れて、濡らして、いったい何を伝えたかったのでしょうか」)
無尽蔵に噴き出すように見えるあの鮮血の悪夢を、もしも己らが全て狩り尽くしたならば、そこに救いがあるとでもいうのだろうか。
「それでも助けたかった……なんて」
誰かが誰かをそうそう容易く救うだなんて、それは『傲慢』なのかもしれないけれど。
ザッ。
ノイズが聞こえて、しかし、それだけで十分だった。
「ええ、刈り取りましょう――徹底的に、何も残さぬように」
鈍い赤色の太刀筋が、またひとつ鮮血を斬って捨てた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ティオレンシア・シーディア
無意識の悪夢、ねぇ…どんな経験してどんだけ絶望したらこんなになるのかしら。
…まぁ、そこまで興味もないし敵だから殺すけど。
敵は後から湧いてくるし、これ殲滅戦のようで実質耐久戦よねぇ。状況的に結界も張りにくいし射程外から引き撃ちもしづらい…地味に面倒ねぇ。
最初はグレネードの〇投擲で、抜けられたら〇早業のリロードとオブシディアンの○乱れ射ちで、さらに近づかれたら牙と〇グラップルで。傷を受けたらジリ貧だし、とにかく片っ端から〇先制攻撃で潰してくしかなさそうねぇ。
接近戦のころには相当血みどろのはずだし、だいぶ攻撃通りやすくなってるんじゃないかしらぁ?
これ、さすがにクリーニング代くらいは請求したいわねぇ…
ヴィクティム・ウィンターミュート
───鏖殺しにすりゃいいんだろ?シンプルだな
人間狩るのも獣狩るのも、大した差はありゃしねぇ
効率的で、付け入る隙の無い駆除ってやつを見せてやる
セット、『Metamorphose』
戦闘に特化した姿を象り、義手の武装を全てアクティブに
自己【ハッキング】、サイバネ出力オーバーロード
奥歯のコンバット・ドラッグを噛み潰して【ドーピング】
中距離の獣は右腕のクロスボウで仕留める
接近してきたらナイフで首や目を狙い、適宜左腕の仕込みショットガンをぶっ放す
攻め続け、致命を避ければそれだけで俺は強くなる
殺しに対する感情は、『何もない』
愉しんだことも無ければ、哀れんだことも無い
血も死も絶望も、作業を止める理由にならない
●フィクサーと死にたがり
「『無意識の悪夢』、ねぇ……」
転移を受けてやって来た廃病院の、ベースのホロビジョン越しに見る以上の陰鬱さに、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は甘い声で嘆息する。
「どんな経験してどんだけ絶望したらこんなになるのかしら」
扉という扉には板が打ち付けられて。
窓という窓には鉄格子が嵌められて。
モノクロームの景色に、ベッドの上でうずくまって呻くオウガ・オリジンの手首から噴き出す鮮血ばかりがただただ赤く。
「……まぁ」
それを見て、ティオレンシアは糸目を揺るがすことなくこう言った。
「そこまで興味もないし、敵だから、殺すけど」
――グッド。
誰かが、そんな意味の言葉を呟いた気がした。
女が振り向いた先には――ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)の姿があった。知らぬ顔ではないが、まさかここで会うとは。
「――鏖殺しにすりゃいいんだろ? シンプルだな」
自らも『Nerry』のハンドルを持つグリモア猟兵からは、ただそれだけを依頼された。
分かりやすくて、実に良い。
(「人間狩るのも獣狩るのも、大した差はありゃしねぇ」)
情けなど、言われずともかけぬ。むしろ、誰に言っているのかとさえ思う。
「効率的で、付け入る隙の無い『駆除』ってやつを見せてやる」
ヴィクティムが、両の義手に紫の光を走らせる。
これはもしかして、その気になれば約1680万色に光ったりもするんでしょうか。ハイスペックマシンはことごとく光る宿命だからという理由からですが――んな訳ない? ですよねー!
『うぅぅ……うあああ……っ!!』
一際声を上げて首を振るオウガ・オリジンに呼応するかのごとく、噴き出した鮮血の悪夢は次々と狼の姿を取って群れを成す。
「これって……」
ティオレンシアは表情こそ変わらない――ように見えて、軽く眉間に皺が寄っている。
「敵は後から湧いてくるし、これ『殲滅戦のようで実質耐久戦』よねぇ」
遮蔽物がない、無闇に広い空間、相手は圧倒的多数。
とあらば、それこそ全身を覆い尽くす類の結界でも張らない限りは焼け石に水だ。
射程外からの引き撃ちをしようにも、それではオーダーのひとつ『血にまみれて来い』を果たせないからやりづらい。
「……地味に面倒ねぇ」
やれやれ、と。それでも女は役目を果たすべく、持ち込んだアップルのピンを引き抜いて鮮血の狼ども目がけてぶん投げた。
「おっと、もう仕掛けたか」
ならばとヴィクティムもバッとサイバネの両腕を広げて、狼どもを見据える。
「――セット、【Trick Code『Metamorphose』】」
何者にもなれないからこそ、何者にもなれるというのは、皮肉だろうか。
特殊戦闘兵にだって、データゴーストにだって、怪物にだってなれるけれど。
ガシャン! 両腕に仕込まれたありったけの武装が全てアクティブになる。
(「サイバネ出力、オーバーロード」)
出し惜しみなしの、オンパレード。最後のトリガーは、奥歯で噛み潰すカプセル型のコンバット・ドラッグ――ガンギマリである。
――ドゴォン!!
炸裂音と共に、血飛沫がものすごい勢いでティオレンシアとヴィクティムを染める。
爆ぜた獣たちは鮮血へと還り、残されたものどもや次いで湧いたものどもが迫る。
(「抜けられるか、やっぱ」)
だがティオレンシアの本命はやはり愛用のリボルバーである、六発分狙い違わず火を噴けば、倍の数は狼どもが血で返してくる。
常人ではおよそ為し得ない速度でのリロードで次弾装填、狙いを定めるまでもない『乱れ撃ち』である。何しろ、適当にぶち込めば何かしらには当たる程に群れているのだから。
ヴィクティムに向かった狼どもは、まず右腕に展開されたクロスボウの餌食となる。
正式名称、「右腕改造型攻撃用サイバーデッキ『ヴォイド・チャリオット』」。
数にものを言わせてそれでも攻め込んで来る無謀な輩にくれてやるのは、生体機械ナイフ。目や首といった急所を狙い、念には念をと左腕に仕込まれたショットガンをぶっ放す。
どれだけ鮮血を浴びて、むせ返るような臭いに包まれようと、ヴィクティムの表情は変わらない。
(「攻め続け、致命を避ければ――それだけで、俺は強くなる」)
そこには、感情の一切が入り込む余地などなく。
――『何もない』のだ。
どれだけ狼どもを穿ち、切り裂き、撃ち抜こうと、ヴィクティムの心は揺らがない。
(「愉しんだことも無ければ、哀れんだことも無い」)
しんしんと降り積もった雪の世界が、音を吸って『静寂』をもたらすかのように。
――『何もない』のだ。
撃つ。刺す。斬る。殺す。殺す、殺す、殺す。
血も死も絶望も、この作業を止める理由になんてなりはしないのだ。
「派手にやってるわねぇ……って!」
四方八方から攻め立てられるというのも厄介で、どうしても死角が生じてしまう。
故に接近を許せど、それ以上は許さない。「牙」と呼ぶ鋭い切れ味の短刀を逆手に持って殺気だけを頼りに思い切り振るって――更なる血を浴びる。
(「傷を受けたらジリ貧だし、とにかく片っ端から潰してくしかなさそうねぇ」)
愛銃を握ったままの手で脇を使って狼をいなしつつ、自然と発動していた超常の名は――【明殺(ポーラスター)】。
出来ることならば切りたくなかった切り札は今、十全にティオレンシアを助けている。
ゴリッという感触がするくらいに銃口を押し当てて、引鉄を引くレベルの接近戦。
当然、誰がどう見ても納得するほどの血みどろの姿になっていたものだから――。
「これ、さすがにクリーニング代くらいは請求したいわねぇ……」
シミ抜きで落ちますかね……血の汚れはしぶといですから……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
木常野・都月
人は平気なのか?
こんなに沢山、血の臭いを嗅いだら、野生の俺が出てきそうな。
それとも妖狐の部分が、血……
生命力、精気に反応してる?
でも、仕方ないんだ。
これは任務で。
俺は妖狐で。
妖狐には狐の要素があって。
狐は獣なんだから。
興奮するのは、仕方ないんだ。
ダガーとエレメンタルダガーで敵に挑みたい。
[野生の勘、第六感]全開で、敵の殲滅に集中したい。
風の精霊様には俺の空気抵抗を減らし加速をお願い。
エレメンタルダガーに風の精霊様を召喚した上でUC【全力一刀】と、かまいたちを同時に敵へ撃ち込みたい。
敵の攻撃は、致命傷が避けられれば、どうでもいい。
逆に風の精霊様の[属性攻撃、カウンター]でダガーを突き立てたい。
荒谷・つかさ
鮮血がどうのって言うけれど、結局のところいつも通りやればいいのよね?
私に任せなさい、ミネルバ。全て粉砕してあげるわ。
※なお服装は汚れてもいいように昨年の水着(黒色のさらし&褌)で出撃した模様
真っ向勝負なら私としても望むところよ
突っ込んでくる悪夢獣を正面から【螺旋鬼神拳】で迎撃
自分から私の拳の射程に突っ込んできてくれるんだもの、簡単ね
ダメージでの後退は「怪力」での踏ん張りで押し殺す
まあそもそもダメージ受けるまでもなく粉砕するつもりではあるけれど
振るう拳は鋭く冷徹に
悪夢の獣と、ただそれを生み出すだけの舞台装置と成り下がったオウガ
憐憫の念は無くもないけれど、それで我が拳が鈍ることは無いわ
●野生と筋肉
オウガ・オリジンの鮮血は、幾多の猟兵たちによって逆に利用され、ことごとくを粉砕され続けてきた。
それでもなお陰鬱なる廃病院を朱色と鉄の臭いでいっぱいにし続けるとは、その苦しみが尽きることを知らないとでも言うのだろうか。
『ぐうぅぅ……あ、ぁあああ……!!』
オウガ・オリジンを突き動かしてきた怒りさえ押しのけて、苦しみばかりが責め苛む。
投げ出された手首から噴き出す鮮血が、悪夢の化身だと言うのならば。
「鮮血がどうのって言うけれど、結局のところ『いつも通り』やればいいのよね?」
そう言い放って病室に踏み込んだ荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)の姿を見よ、黒いさらしに褌締めて、当然素足でぺたりと床を踏みしめる!
(「私に任せなさい、ミネルバ。全て『粉砕』してあげるわ」)
転移の直前、そう言い残してきたから大丈夫。つかさは自信満々の顔をしていた。
「……人は、平気なのか?」
いいえ、つかささんが特殊な訓練を受けているだけです。
木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の問いに、そう答えられるものは残念ながら誰もいない。
鮮血の悪夢は馬の姿を取り始め、滴る涎さえ血で出来ているものだから、ああ。
(「こんなに沢山、血の匂いを嗅いだら、野生の俺が出てきそうな」)
――くらくら、する。人として得たものの全てを、放り出したくなる。
(「それとも、妖狐の部分が、血……生命力、精気に反応してる?」)
理屈っぽくなるのは、努めて冷静であろうとするが故か。より人の姿に近しい妖狐としての本性が、精気を求めるモノであるのは確かだ。
都月が、おもむろに胸元をぎゅっと掴む。まるで、何かを堪えるかのように。
(「でも、仕方がないんだ」)
瞳孔が、キュッと細まる。
(「俺は妖狐で、妖狐には狐の要素があって」)
はぁっ、と。吐いた息遣いは荒く。
(「狐は、獣なんだから」)
歯を剥いて、鮮血の馬どもを見た。
「――興奮するのは、仕方ないんだ」
短刀を逆手に持って二刀流、いなないて突進してくる馬どもに向き直った。
つかさも悪夢獣の突撃を見て、ごきりと指を鳴らす。
「真っ向勝負なら、私としても望むところよ」
『ヒヒイィィィンッ!!』
鮮血を散らして迫る馬を真正面から受け止める形で――正拳突きが放たれた。
――ぶしゃあ!!
突進の勢いと拳圧とがぶつかり合って、一瞬にして悪夢獣が大量の鮮血と化してつかさを頭のてっぺんからつま先まで血まみれにする。
残心をする余裕さえなく、次から次へと迫る馬どもを片っ端から――『粉砕』する!
「【螺旋鬼神拳(スパイラル・オウガナックル)】……自分から私の拳の射程に突っ込んできてくれるんだもの、簡単ね」
淡々と拳を振るい続けるつかさが、至極単純で明快な己の有利を告げる。
時折死角から突進を受けたとしても、尋常ならざる怪力で踏みとどまる。
突進がその衝撃によってダメージを与えるものだとするならば、そもそも鍛え上げられた筋肉の鎧という加護を持つつかさには通る訳がないのだ。
こればかりは――相性としか言いようがなかった。
「風の――精霊様っ!」
身を低くして駆けようとする都月が、己の空気抵抗を減らして極限まで加速できるようにと精霊様に助力を願う。
風の精霊様はエレメンタルダガーに宿り、都月の願いに応えた。
「一撃で……倒すっ!!」
正面から突進してくる馬の頭上を思い切り跳躍して躱すと、そのまま一回転して両手の短刀を【全力一刀】の渾身の一撃で突き立てて、屠る。
びしゃあ、と。浴びる鮮血は生温くて、ああ、獲物を仕留めた時の感覚のようで。
振り返りざま、まだ終わりではないとばかりに精霊刀を振るってかまいたちを生じさせ、続く馬どもの首をまとめて刈り取った。
(「敵の攻撃は……致命傷が避けられれば、どうでもいい」)
血にまみれた腕で、それでも握りしめたダガーで、都月は鮮血を浴びて戦い続ける。
――まるで、それが己の本性であるかのごとく。
振るう拳は、鋭く冷徹に。
(「悪夢の獣と、ただそれを生み出すだけの舞台装置と成り下がったオウガ」)
つかさはふと、ベッドの上のオウガ・オリジンを見遣る。
(「憐憫の念は無くもないけれど」)
ここが本当に『アサイラム』だとして。
彼女が本当に『はじまりのアリス』だとしたら。
こうなるまでに、何があったかは想像に難くない。
けれど――。
「それで、我が拳が鈍ることは無いわ」
打ち砕け、その全てを。
それが、手向けとなるのならば。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
メアリー・ベスレム
メアリ、血を浴びるのは好きよ?
それが人喰いを愉しむオウガのものならなおさらね!
あぁ、だけれど
今のあなたには何かを愉しむ余裕なんてないかしら?
あなたに哀れみなんて、あげるつもりはないけれど
殺せというなら殺してあげる
【血塗れメアリ】で血臭まとって踏み込んで
殊更に敵の【傷口をえぐる】ように
首や脚、太い血管を狙って【部位破壊】
【野生の勘】で致命傷だけは避けながら
負傷は気にせず【激痛耐性】耐えてみせ
返り血で強くなるのを最優先
あぁ、なんてつまらないのかしら
報いを与えるまでもなく独り勝手に苦しんでいるだなんて!
メアリは人喰いのオウガを殺す為
こんなとこまで来たっていうのに
今のあなたはまるで哀れなアリスじゃない
●血塗れメアリ
廃病院には今やすっかり血が満ちて、むせ返るような臭いに包まれて。
そのただ中で尽きぬ苦しみに苛まれ、オウガ・オリジンは鮮血を撒き散らす。
『なんで……あぁ……! こんなっ……!!』
悔しいとか、腹立たしいとか、思わなくもないけれど。
それ以上に何より、暴かれた悪夢がただただ苦しくて。
――かつん。
「メアリ、血を浴びるのは好きよ?」
ころころと鈴を鳴らすような、愛らしい少女の声が病室に響く。
「――それが、人喰いを愉しむオウガのものならなおさらね!」
少女――メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は、けれどもすぐにがっかりしたような声音で言うのだ。
「あぁ、だけれど。今のあなたには何かを愉しむ余裕なんてないかしら?」
『……ッ、お、の……れ……』
この世でもっとも尊いと、己を称した娘の末路。
シーツに爪を突き立てるしか出来ないオウガ・オリジンを、メアリーは見据えた。
「あなたに哀れみなんて、あげるつもりはないけれど」
その手に握られたのは、かつて名も無きアリスが反抗のために振るった刃。
僅かに血がこびり付いたままのそれを構えて、アリスにしてメアリが告げた。
「殺せというなら、殺してあげる」
迫り来る兎たちは、鋭い刃と化した耳を振りかざして迫り来る。
「ふふ――来た来た」
メアリーにとって血の臭いは、浴びせられて与えられるものではない。
――【血塗れメアリ(ブラッディメアリ)】、発動。
既に立ちこめていた血の臭いよりずっと濃い、上書きしてしまうような血臭がメアリーを包み込む。
これにより、メアリーの勝利はほぼ決まったと言っても過言ではなかったろう。
だって――血を浴びれば浴びるほど、強くなって傷も癒えるのだから!
それまでは、ただひたすら斬って、斬って、斬りまくる。
一度付けた傷を敢えてもう一度えぐるように狙って、鮮血を噴き出させる。
首、脚、太い血管があるところ。そこを徹底的に狙っていけば、自然と返り血でしとどに濡れて舞うように刃を振るうメアリー・ベスレムの出来上がり。
耳に斬られても、鋭い前歯で噛まれても、致命さえ避ければ構わない。
痛みなど、いくらだって耐えてみせよう――じきに、吸った生命力で楽になるから。
『ど……して……、っああ……』
鮮血の悪夢は噴き出し続けるけれど、そこから生じる悪夢獣の兎たちの勢いが見るからに減じていく。
すっかり血にまみれたメアリーが、天井を仰いで声を上げた。
「あぁ、なんてつまらないのかしら」
芝居がかった声だった。オウガ・オリジンは打ち震えるばかり。
「報いを与えるまでもなく、独り勝手に苦しんでいるだなんて!」
バッ! と、鋭く「絶望の刃」のひとつをベッドの方へと向ける。
「メアリは、人喰いのオウガを殺す為こんなとこまで来たっていうのに」
悪あがきのように、一匹の赤い兎が、よろよろと生じて近寄って来る。
刃を落としてそれを無造作に刺し貫くと、今度こそ悪夢獣は沈黙した。
「今のあなたは、まるで哀れな『アリス』じゃない」
『……っ、ぅう……!!』
ベッドの上のオウガ・オリジンにくるりと背を向け、メアリーは病室を後にする。
愛らしいお尻が揺れ、そして暗がりの廊下に消えていく。
どうしたことか、オウガ・オリジンから噴き出す鮮血が止まり――そして、苦しみに呻くばかりだったその姿が、徐々にはらはらと崩れていく。
ひとつだけ分かることは、この廃病院で悪夢に苦しんでいたオウガ・オリジンは、もういないということ。
苦しみから救われたのか、単に力尽きたのかは分からないけれども。
猟兵たちは、見事役目を果たしたのだ。
大成功
🔵🔵🔵