誰より速く! 踏破せよ、ラビリンス!
「アルダワ魔法学園において、新たなオブリビオンの活動が探知されたノダ」
グリモアベースに集まった猟兵たちの前でそう宣言したのは、山高帽を被った巨大なコーラ味のグミだった。
もちろん、グミは喋らない。
しかし、スペースシップワールドのブラックタールたちを見慣れない猟兵からは、そのような第一印象を持たれるのもやむを得ない姿のグリモア猟兵がそこに居た。
ジー・マー(ブラックタールのスターライダー・f00688)はそのぷるぷるさせた体を揺らしながら、存外に朗々とした声でブリーフィングを続けていく。
「オブリビオンは学園迷宮の内の一つに、フロアボスとして棲み着いたようなノダ。
オブリビオンの影響で迷宮は変成を繰り返しているノダ。最早既存のマップは布団に描いたおねしょ地図と変わらないノダ、ハッハッハ。
紳士ジョークなノダ」
コーラ味のグミ(12歳 女性)はブクブク笑って、ぷにぷにな表面に浮かんだ極めて簡素な顔らしき造形の目らしき凹凸を細めた。
「知っての通り、かの世界はワタシたち猟兵のことも把握し、転校生、として受け入れているノダ。
今回も事態は転校生に任せるように――と、学園から通知が出ているはずなノダ。が」
迷宮の一つが変化したらしい。
より困難な代物になったらしい。
試練に見合ったお宝があるらしい。
そのような噂が学園内を飛び交うまでに時間はかからなかった。
「学生たちも皆、世界を守る使命を持ったエリートなノダ。
実力の証明。富と名声。転校生に負けるものかという反骨心。
自信のある学生たちが何人か、学園の制止を振り切り、既に迷宮に潜り込んでいるようなノダ」
彼らも蒸気と魔法の技術に長けた、並ならぬ勇士である。複雑化した迷宮もどうにかして乗り越え、最奥部に辿り着いてしまう者も現れるだろう。
しかし、その時相対することになるオブリビオンに対抗する力を、彼らは持っていない。
学生たちをみすみす死なせるわけにはいかない。
猟兵である君たちが、何としても、彼らに先んじて迷宮を攻略し、フロアボスとして君臨するオブリビオンを倒す必要があるのだ。
「猟兵は超光速を尊ぶノダ。とある紳士の格言なノダ」
迷宮のスタイルは基本にして最難ともいえる、巨大迷路型。
地下十数階に及ぶ三次元的構造の巨大迷路だ。
危険なトラップ、手強い強敵というのは少なく、そういった障害があるとすれば最奥部付近。
その代わりに猟兵たちを待ち受けるのは、変わり映えのしないブロック壁と苔むした蒸気配管。数えきれない程の階段と分かれ道が体力と精神を削り取っていくだろう。
「それでも、キミたちの能力……そして超新星の如くキラめくアイデアがあれば!
――アーッ!
と言う間に踏破できるはずなノダ。紳士は皆を信じているノダ」
道中で学生たちに出会ったなら、彼らを遠ざける工夫も必要になるかも知れない。
何にせよ、状況は常に変化し続ける。ケース・バイ・ケース。臨機応変な対応が必要になるだろう。
「さァ、猟兵たちよ!
我と思わん者は、今こそ名乗りを上げるノダ!」
宝来石火
世界を渡る猟兵の皆様、新たなフィールドを楽しんでいらっしゃるでしょうか。
今度は私もその一人、宝来石火です。
今回、皆さんに力を借りたい世界は、アルダワ魔法学園。
白煙噴き出す銅管が、神秘を謡う魔導の調べが。
綴り紡いだ地下迷宮の奥底深くに湧き出す災魔。
見事退治て見せたなら、やんやの喝采間違いなし!
やあれ、猟兵達よ! 功立て、名を挙げ、世界を救え!
……どうもサムライエンパイアと間違ってるような謳い文句になってしまいましたが、さておいて。
今回は、地下に広がる巨大迷路を攻略するのがまず第一歩。
順調に、誰より先んじてボスの元へと辿り着ければ何よりですが。場合によっては猟兵ではない学生たちと迷宮の中で遭遇することもあるかもしれません。
功名心に急いた彼らを、どのようにしてオブリビオンから遠ざけるか。
そして、最奥で待ち構えるオブリビオンとの戦いで、どの様に勝利を得るか。
猟兵の皆さんの行動次第で、その全てが決まるのです。
なお、今回は初動のシナリオということもあり、総合的に判断して採用するプレイングを決めさせていただきます。
また、打ち合わせのない他PLとの共闘などについて、特にNGな場合、或いは積極的に希望する場合などありましたら、プレイング末に書き添えください。
そのプレイングを採用した場合、希望はなるべく、NGは必ず遵守させて頂きます。
新たな世界、新たな舞台で描かれる皆様の全く新しい活躍を期待しております。
以上、宝来石火でした。
第1章 冒険
『冒険競争』
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POW : 力技で迷宮を攻略する
SPD : 速度を活かして迷宮をショートカットする
WIZ : 競争相手の生徒達の行動を読んで出し抜き先行する
👑11
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ビスマス・テルマール
事前用意
クーラーBoxにさんが焼き(ノーマル、トマト味噌)を
持てる範囲で大量に詰めて用意
●迷宮攻略
【POW】を使い アームドフォートの砲撃で迷宮の壁に穴を開けて奥へと突き進みます
フードファイト・ワイルドも
併用可ならそれも使って
さんが焼きを食べながら
グルメツール(和武器)による白兵も併用し
最深部近くまで来たら罠ごと
砲撃で潰して突き進む事も視野に
●学生達と遭遇したら
自分が猟兵である事を明かし
貴方達では危険過ぎる事
今回はわたし達に任せて欲しいと説得します
口で言っても駄目なら
お腹空いてませんかと
持参した、さんが焼きを
ご馳走し満腹にして戦意を
萎えさせる事を狙おうかと
他の人が先行する時間稼ぎも含めて
オメガ・エイセス
地図が役に立たねぇとはまた面倒な任務だな。普段ならマッピングも嫌いじゃねぇが…時間もねぇしな、やっぱ真っ直ぐ進んだ方が速ぇよな!弾薬代ケチらずに手持ちの火器全部使ってやる。「フルバースト・マキシマム」で壁に風穴ぶち開けながら進んでやるか。最終的には敵の親玉を打ちのめさんとならん訳だ、上の階に行くときゃ後続が通りやすいようにスロープになるように天井をくり抜いてやろうじゃねぇか。どうせ俺が一番先頭だしなァ派手に音出しときゃ途中にいる学生とやらも気づくんじゃねぇの?
――ドゴォォォォン…………
ブロック壁を、配管を通じて、迷宮中に遠く、近く、破壊の音がこだまする。
学園の制止を振り切り迷宮内に突入していた学生たちは、すわ、恐るべき災魔の襲撃かと身構え、ピタリ、と息を潜めた。
その歩を止めて注意深く、辺りの警戒に勤しみ――
ズガァァァァンッッッ!!!
「うどぅわぁぁぁああああっ!?」
潜めたはずの呼吸ごとふっとばさんばかりの勢いで、彼らの眼前で迷宮の壁がいとも容易く吹き飛ばされた。
爆音とともにもうもうと立ち上がる埃と煙。その向こうには大小の人影らしき物が見える。
「だ……誰だっ!?」
「おや?」
「んあ?」
学生の誰何の声に答えるように、二つの影が向き直った。
虹色の輝きを揺蕩わせる蒼鉛の体を持つ少女が、肩掛けたクーラーボックスをよいしょ、と正しながらちょこん、と首を傾げてみせる。
「――あぁ、先に潜っちゃったっていう学生さんですね!」
「おぉ、コイツらがか。何だ、もう追いついちまったのか」
少女の隣では長毛に覆われた巨体を揺らしながら、祭りの仮面のような容貌の奥からカラカラと大男が笑い声を上げている。
二人は共に、蒸気機械とは明らかに仕組みの異なる巨大な砲台の如き代物を、その身に纏っているのだった。
「あ、あんたら……『転校生』か!」
「転校? ……あぁ、此処での猟兵の呼び名だっけか」
「話が早くて助かりますね」
そう言うと、ビスマスの結晶をその身に持つ少女――ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)は、学生たちのそばへと歩み寄った。
大事そうに抱えているクーラーボックスの埃を丁寧に払うと、その蒼鉛の眼差しで真正面から彼らを見据える。
「この先は、危険です。
ここからはわたし達に任せてもらえませんか」
「……っ、この世界は、俺たちの世界だ!
災魔の相手なら我々が何年も務め」
「そうですか!」
「え?」
納得していただけないならね、しょうがないですね、などとビスマスの呟きが聞こえる。そうして、いそいそとランチョンマットを広げると、その上にクーラーボックスの中から厳かに取り出した品を次々に並べ始めた。
貝の殻に詰められた、何かのミンチを調味し火を通したもの。学生たちの目には漠然とそのようなものに映った。
「なめろう……ご存知ですか?」
「ナ、メロウ……これが?」
「いいえ。これは、そのなめろうにネギと生姜、お味噌を加えて火を通した――その名もさんが焼き!」
「サ、サンガヤキ……!」
「今回はノーマルの味噌とトマト味噌バージョンをご用意しています」
よくわからない勢いになんとなく驚愕する学生たちに向けて、ビスマスはにっこりと笑いかける。
「お疲れ気味な顔、してますよ?
行くにせよ、戻るにせよ。お腹が空いていちゃどうしようもない。でしょう?」
「むぅ……」
蒼鉛少女の屈託のない言葉と笑顔。その前に学生たちも気勢をそがれ、誰からともなくさんが焼きに箸をつけ――。
「う、美味い!」
「でしょう!」
「肉じゃなくて魚だったのか――幾らでも食べられそうだ!」
「そうでしょう!」
「おぉ、こりゃつまみにも合いそうだ」
「そうでしょうそうでしょう……ん?」
ビスマスが横を見ると、当然のように学生たちに混じってご相伴に預かっているモサモサの大男――オメガ・エイセス(ソラを目指して・f04215)である。
「あの、美味しく食べていただけるのは嬉しいですけど。
私が説得している間に先に行く手筈……」
「わかってる、わかってるって。すぐ行くからよ、すぐ」
そう言うとオメガはビスマスと、学生たちから離れるように歩き出す。と言っても、向かう先はここからでも見える明らかな行き止まり。
しかして、それが当然のようにオメガは纏った武装の砲台のその全てをその壁に向けて、当たり前のようにその引き金を引いた。
――どごらずがぁぉぉぉぉおおおおおおんんんっっっ!!!!
近距離での爆音は狭い迷宮の中でこれでもかというくらい響き渡り、噴煙がビスマスや学生たちを襲うも、さんが焼きはさっ、と素速く彼女に守られ完全に無事だったことは言うまでもない。
「じゃ、先行ってるぜ」
「はい、わたしも後から」
オメガを見送ったビスマスは、平然と散らかった周囲の埃や瓦礫やらを払い除けている。
横紙破りならぬ、横壁破り。
ただこの一つの光景だけで、学生たちの気力は軒並み削ぎ落とされてしまった。
思い知らされる、存在の違い。
「ささっ、どうぞ召し上がれっ」
訪れる無力感を払うべく、学生たちはなにはともあれ、美味しいさんが焼きに舌鼓をうち、心を癒やすのだった……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
――迷宮の踏破を目指す猟兵の一人が、小さな蒸気機械を発見した。
小さな歯車と蒸気機関の組み合わされたようなネズミを模したその機械は、どうやら同時に何体も迷宮内に放たれて、内部のマップデータをリアルタイムで構築しているようである。
おそらくは、先に侵入した学生の一人が放ったものだろう。
猟兵たちがそれをどうするか。また、その機械を操る学生に出会った時にどう対応するか。
それは、彼ら自身に委ねられている。
ビスマス・テルマール
この機会仕掛けのネズミさんは……先行した学生さんが
わたし達の邪魔をするなら
【POW 】を持ってグルメツール(和武器)やアームドフォードの砲撃で
排除するしか無いですが
そうで無いなら
【WlZ】で機械ネズミの
やって来た方角から学生さんの居場所を推測して探索しましょう
敵は排除しつつ
壊れた機械ネズミが在れば
回収し、説得材料に
●機械ネズミの主
わたしが猟兵である事を
明かし、ここは危険で
貴方が挑もうとしてる相手が
無謀な相手だと説得
壊れた機械ネズミも見せ渡し
わたし達に任せて欲しいと
説得、敵が来たら
庇いながら
納得しないなら
フードファイト・ワイルドモード併用でグルメツールで
壁や敵を目の前で破壊し
解って貰います
シロガネ・フルーリア
お、あのおっさん(オメガ)、やるじゃねーか!
俺もやるなら派手に行きたいな! 学生追い払う意味も込めて、だけど。
へー、ネズミ型の蒸気機械か。けっこー可愛いじゃん!
そーだな、このネズミは見つけ次第回収できねーかな? 所有者に会ったら返すけど、マップ作られてそれを元に探索する学生増えんのも嫌だしな。
所有者に会ったらネズミを返すついでに探索を止めるように言いてーな。
迷宮は変幻自在で、マップを作ったとしてもすぐ使い物にならなくなるしな。
うだうだ言うようならトリニティ・エンハンスで炎の魔力を纏いつつ横壁に拳で穴開けてやれば分かってくれっかな?
――二人の猟兵が連れ立って迷宮深くを歩み征く。
一人はビスマス。そして、もう一人はオメガに代わりシロガネ・フルーリア(銀天の魔拳・f01500)が彼女の隣に立っている。
「どんなヤツなんだろーな、このネズミの持ち主!」
一見少女にも見間違えそうな顔を無邪気にほころばせて、手の中の機械を指先でうりうりといじる。
シロガネの手のひらの上でカタカタカタと機械仕掛けの四足を空回りさせているのは、彼が探索の道中見つけて拾い上げたネズミ型の蒸気機械だった。
――オメガと共に行動していたビスマスが今、こうしてシロガネと共にいるのもこの機械ネズミが切欠である。
学生たちとのさんが焼きパーティを終え、オメガと合流すべく先を急いでいたビスマスの眼前を通り過ぎたのがこの機械ネズミであり、その後を追っている道中で別ルートで探索していたシロガネと合流したのだ。
どうやら、先行した学生が放ったらしいこの機械。ガジェットに精通した猟兵がこの場にいればより詳しくわかることもあっただろうが、現状ではこの機械がどうやら迷宮を隈なく走り回るように作られていること。そして、誰かを害するようにはできていないことを察するばかりである。
「こんなものを作れるなんて、優秀な学生さんなんでしょうけれど。
それだけに、危険な目に遭わせるわけには――あ!
見てください、あそこにももう一匹いましたよ!」
「お、順調に近づいてるみてーだな!」
二人は何体も放たれているらしい機械ネズミの通ってきたルートを遡って、この蒸気機械の持ち主を辿ることにした。
二人の歩みは壁を壊さずとも自然と迷宮深くへと誘われ、合流した地点から既に数階層下へと降りてきている。
「ええっと、ここの曲がり角を――あっ」
「きゃっ!?」
二人が覗き込んだ曲がり角の向こう。行き止まりの壁を背には、ランプの灯りで大きく広げた紙に地図らしきものをペンで書き込んでいた一人の少女が居た。
輝く金の髪が美しい女性型のミレナリィドールだが、双眼鏡のようなルーペを眼鏡のように顔に掛けていて、ファーストインプレッションはどうしたってそちらに持っていかれてしまう。
「び、びっくりしましたわ……あなた達、災魔じゃないですわよね?」
「だったら、とっくに襲いかかってるぜ」
ここまで敵の出てくるようなことはなかった迷宮とはいえ、いかにも無防備に座り込んでいた彼女に少し呆れながら、シロガネは手の中の機械ネズミを少女に向けて地面に置いた。
飼い主の下へ帰るように駆け出していったネズミを、少女は慣れた手付きでひょいと抱えるように取り上げる。
「私たちは猟兵です。
……この先は危険ですよ。引き返してもらえませんか」
「それに、地図なんか作ったって迷宮は今も形を変えてるんだぜ?
そのやり方じゃ奥までは行けねーと思うけどな」
二人の言葉を聞いて、少女は手の中の機械ネズミのパーツの一部を外し、どうやら中のデータを確認したようだった。
「お二人は転校生でしたの……確かに、迷宮の形は安定していないようですわね。
そう言えば先程から上の方の階でも、壁を粉砕したような音が響いていましたわ……」
「いや、それはコイツとおっさんがやったんだけどさ」
「は?」
眼鏡の奥でよく見えないが、疑いの眼差しを向けられたらしいビスマスはえへへ、と後ろ頭を掻きながら答える。
「急いでいたものですから」
「い、いやいや。迷宮の壁なんて、そう簡単に破れるものではないはずですわ。
そもそも災魔を封じるためのものなのですし、そんなに脆くては意味が――」
少女の言葉を遮るように、ビスマスの箸じみたグルメツールがオーラを纏い、シロガネが握り込んだ拳をボゥッ! と激しい炎の魔力が包んだ。
「たぁっ!」
「ふッ!」
――ドガアァァァン!
――ヅガアァァァン!
……二人の一撃で、左右の壁がそれぞれ音を立てて崩れ落ちる。
呆然とその光景を見つめる少女の顔から、双眼鏡めいた眼鏡がずりっ、と滑り落ちた。
「帰る気になったか?」
「……………………はい」
ぺこん、と少女は頷いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
――少女の言葉はあながち間違いでもないらしかった。
変成を繰り返していた迷宮の上層部はともかく、その深層部では迷宮を構成する壁は硬く、猟兵たちであってもそうやすやすと壊せるものではなくなっていく。
それは同時に、奥深くに封じられた災魔――オブリビオンが未だ深層に留まっていることの証左でもあるのだ。
――今、猟兵たちの眼前には白いモヤが立ち込めている。
壁を伝う配管から噴き出す熱蒸気が行く手を阻んでいるのだ。
少し離れているこの場でも、サウナのような強烈な熱気を感じる。強靭な猟兵といえど、何の対策もなしに進めば少なからざるダメージを負うだろう。
迷宮の構造物の硬化。ただ歩むのも危険な道。恐らくはここが迷宮最深部への最後の難関なのだろう。
もう壁を壊す手は使えない。猟兵たちはこの危険な道をどのようにして切り抜けるだろうか?
空飛・空牙
はてさて
随分と面倒な仕掛けだがまぁ、なるようになんだろ
SPDで判定
「要はこの熱蒸気をどうにかすりゃいいんだろ?」
エレメンタル・ファンタジアを使用
通路に新鮮な空気を積もらせて
『空気の層』と『熱蒸気の層』で区分けする
「積雪ならぬ積エアってな。後は積もった空気の中を進めば大丈夫だろ」
温度調節までは出来てねぇから、その辺できる人いれば頼みてぇな
いなけりゃ水筒で水分補給しつつできるだけ早く進もう
風属性エレメンタルロッドから大気を生んでレガリアスシューズの駆動力に変換
起動力活かして飛ばしてくぜ!
「っと、罠には注意な。足元壁際気を付けろー」
クラム・ライゼン
【WIZ】
いやーみんな派手だな!さっきから迷宮の壁にドコドコ穴空いてんだけどどーなってんのコレ。すげー。
「ひとつ。調子に乗って凍らせすぎない。そんな可愛い目してもだめ。だめです。はい、ふたつ。俺たちと生徒の命が最優先。オッケー?……よっし、よろしく!」
呼び出した氷の精霊にウィンクして《エレメンタル・ファンタジア》。暴走しないよう心の底から細心の注意を払いつつ【氷の風】を発生させて通路の冷却を狙おうか。〈属性攻撃〉はそこそこ得意だし〈高速詠唱〉しながら適宜冷やしていけば他の猟兵たちも駆け抜けられるかもしれないし、な!
――多方面から迷宮へと踏み込んだ猟兵たちは、それぞれがほとんど同時に深層部へと辿り着き始めていた。
それは、偶然ではない。
一部猟兵たちの極めてダイナミックな攻略法は、巨大迷宮を単なる仕切りが多めの地下フロアへと変貌させてしまったのだ。
他の猟兵たちもその恩恵に預かって、迷いようのない道――時には単なる大部屋になっていたことさえあった!――をすいすいと進んで来られたのである。
道中で出会った学生たちも、そのあまりと言えばあまりな迷宮攻略を目の当たりにして、極めて快くお引取り願えた。
あとは後顧の憂いなく、眼の前の障害を乗り越えるばかりである。
「で……俺たちが一番乗り、ってわけじゃねぇよな?」
空飛・空牙(蒼天疾駆の自由人・f04480)は、道中で合流し、ここまで連れ立ってきたクラム・ライゼン(つぎはぎフリークス・f02003)へと尋ねるように呟いた。
「ココのすぐ上の階も、ドコドコ壁に穴空いてたっすもんね。
いやー、ホントみなさん派手っすわ」
このアルダワ魔法学園出身のクラムにとっても――だからこそ、と言うべきか――驚嘆に値する猟兵たちの迷宮攻略法である。
比較的真っ当に迷宮を降りてきていた二人より先に最奥部へ辿り着いた猟兵が居ても良さそうなものだったのだが、二人の眼前に広がるのは壁に伝う配管から噴き出すいかにも危険な高熱蒸気地帯。
立ち往生している猟兵もいないが、蒸気の噴出が止みそうな気配も今はなかった。
「ここ以外にもゴールに行けるルートがあるのか?」
「誰か先に抜けたけど、この蒸気止める方法は無かったとか?」
「……ま、どっちでもいいか」
「それもそうっすね」
どちらが正解であるかを探るすべは今の二人になく、また無理に追求する理由もなかった。
何故ならばこの危険地帯。
二人は悠々と抜けられることを既に確信していたからだ。
「俺から行くぜ」
返事を待たず、空牙はもうもうと立ち込める蒸気の前に一歩踏み出す。
クラムは小さく頷くも、余計な言葉をかけて集中を乱すようなことはしない。
彼が使おうとしている技の制御の難しさを、重々承知していればこそだ。
「要はこの熱蒸気をどうにかすりゃいいんだろ?」
空牙の顔に浮かぶ、自信に満ちた笑み。
その手の中で風属性のロッドがくるりと回れば――ごうっ、と迷宮の中に風が吹く。
風。それは即ち、大気の流れ。
背後に広がる地下特有の涼やかな空気が「風」となって「積雪」の如くに床の上に積もっていく。
――熱蒸気を天井付近へと追いやって。
「積雪ならぬ、積エアってな。
……じゃ、後は任せるぜ」
「りょーかいっす」
応えて、クラムも精霊術を披露する。己の世界で駆使する己の世界の技。本職として負けられない。
――ひょう、と寒気を覚えるほどの冷気が顕現する。
恙無く呼び出された氷の精霊が今にも飛び出していきそうなのを、クラムは慌てて顔の前へと引き戻した。
「えー、まずひとつ。調子に乗って凍らせすぎない。そんな可愛い目してもだめ。
だめです。
はい、ふたつ。
俺たちの――あと、もし近くにいるなら、生徒の命が最優先。オッケー?」
懇切丁寧な交渉の末、精霊が素直にこくこくと頷いたのを見て、クラムもにっこり微笑み返す。
「……よっし、よろしく!」
その声に応えて、ビュウッ、と吹き抜ける「氷」の「風」。
氷の精霊によって引き起こされたその「風」は、そう。
「風」が「積雪」のように積もる「積エア」として二人の眼前に広がっていく。
――やがて追いやられた熱蒸気さえも冷え付き、熱されていた配管にはうっすらと霜さえ降りた。
二人のエレメンタル・ファンタジアの相乗効果で果たした迷宮攻略は、自分たちだけでなく、後続の安全さえも完全に保証してみせたのだ。
「――じゃ、行くか」
「はいっす!」
二人は仕事を完遂した男の顔で、もはや危険ではなくなった通路をゆっくりと歩きだす。
やがてその歩みは少し足早になり――いつの間にか、二人は全力疾走で駆け出していた。
「風の勢いが強すぎたんっすよ!」
「そっちが冷やしすぎたんだろ!?」
後続の猟兵たちは皆、冷凍庫より少しはマシと言えなくもないこの凍てついた通路を足早に駆け抜けて行ったという。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『書物の魔物』
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POW : 魔書の記述
予め【状況に適したページを開き魔力を蓄える】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : ページカッター
レベル分の1秒で【刃に変えた自分のページ】を発射できる。
WIZ : ビブリオマジック
レベル×5本の【毒】属性の【インク魔法弾】を放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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――猟兵たちは遂に迷宮の最奥へと辿り着いた。
錆の浮いた重苦しい鉄の扉が、ギィィィ、と軋んだ音を立てて内へと開く。
彼らの目に一番に飛び込んできたのは、積み上がった書物の山。
棚に押し込められたものもあれば、無造作に散らばったものもある。いかめしい装丁に包まれたそれらの書に刻まれた知識こそ、学生たちが噂したこの迷宮の「宝」だったのだろうか?
部屋を囲う壁の造りは、これまで歩んできた迷宮と変わりないブロック塀と銅管である。が、棚が並べられ装飾が施されているだけで幾分印象は違って見えた。
扉はただ一つではなく、ここへと至る道はただ一つではなかったようだ。頼れる仲間がいつ駆けつけてくるか、過剰にならない程度に期待を抱いておきたいものだ。
この部屋の広さをこの世界とは異なる単位で表現するなら、おおよそ一反。あるいは31.5m四方とでも言ったほうがわかりやすいだろうか。
面積で言えば、ちょっとした体育館くらいはある。そしてそれに見合った天井の高さも。
無害な本や据えられた棚や机を邪魔と思うか、利用すべき地形と考えるかは各々によって異なるだろう。
何に、利用するのか?
決まっている。
バサバサと音を立てて舞い上がり、君たちに向かって殺到する災魔――本の姿を持ったオブリビオン『書物の魔物』の群れとの戦いに於いてだ!
ロジロ・ワイズクリー
【WIZ】
安全の保障された道中を有難く通り抜け、扉の向こうへと立ち入ろう。
「書架、――いやそれにしちゃ雑然としているか」
と、思っていたら何か飛んできた。
指先を噛み切り、眦に血で線を引きオーラの防御を素早く張ろう。
「本をいためつける趣味はないんだが」
背負ったマスケット銃『鳥銃』を構えれば、2回攻撃も交えながらスナイパーの如く飛ぶ書物を狙う。本ならばもしやと、刻印からの属性攻撃を補助に重ねて火属性を合わせて銃弾を撃ち込んでいく。
ビスマス・テルマール
●POW
ビルド・なめろうビームウェポンで攻撃力重視で
書物の魔物に対しては
本ならハサミ
ズワイガニのなめろうビームハサミで
書物の魔物の動きを
警戒(特に魔書の記述には)しながら
積み上げられた本や棚を
バリケードがわりに利用し
ページカッターとビブリオマジックを防ぎつつ
アームドフォードの砲撃の
『誘導弾』で牽制
魔書の記述に対しては
誘導弾の乗った一斉発射を
仕掛けるチャンスが在れば
机を盾がわりに構え
ユーベルコードで生成した
ので『2回攻撃』で挟み断つ
バリケードがわり以外の
防御には『盾受け』と『武器受け』の多用
余裕が在れば遠距離はアームドフォードで『誘導弾』『一斉発射』の組み合わせで味方の援護
白兵はユーベルコードで
――ロジロ・ワイズクリー(ブルーモーメント・f05625)が扉を開いた時、その部屋は書架と呼ぶにはあまりにも雑然と――否、騒然としていた。
その部屋の名は戦場。
魔力を湛えた無数の書物の魔物が飛び交い、猟兵たちは各々が積み上げられた本や棚を盾にしながら宙を行き交うオブリビオンに対し交戦している。
「危ないっ!」
誰が発したかも知れぬその声に、ロジロは咄嗟にその身を翻す。
同時、白くしなやかに伸びた指を口元へと滑らせる。
生まれながらに備わった血を啜るための機構。いと鋭き歯がその指先を裂いて鮮血を散らす。流れるように眦へと擦り付ける紅の血化粧。
飛び来る毒のインク魔弾を弾く黒鳥の羽で織られた外套には、薄赤のオーラが纏っているようにさえも見えた。
「――本を痛めつける趣味はないんだが」
反撃の銃弾を放つべく背に負った鳥銃へとその腕を伸ばす前に、蒼鉛の影が積まれた本の山から飛び出した。
「生成開始(ビルド・オン)っ!」
蒼鉛――ビスマスの声が高らかに響き、その手の中にユーベルコードによって生成された武装が握られる。
蒼鉛の少女はその手の中の輝きの名を朗々と謳い上げた。
「ズワイガニのなめろうビームはさみ!」
「……ん?」
書架としても戦場としても違和感を覚える単語と単語の組み合わせに、周囲が首を傾げるのも一瞬のこと。何故と言って、それは正しくその名の通りのものであったからだ。
決して一般的ではない、しかしその「ズワイガニ」と「なめろう」を知るものであればそんなの絶対美味しいに決まってると思える素材と調理法の組み合わせ。
そのオーラを煌々と纏ったビームウェポンは紛れも無くはさみの形状であり、はさみ以外の何物でもあり得なかった。
宙駆ける蒼き少女の姿が飛翔する書物の背表紙へと迫り、そして。
――ズァ。
重く、しかし高い音。それは、束ねた紙が鋭利に裂かれる風切の音。
分厚い背表紙からただの一太刀、もとい、ただ一裁ちで両断された書物の魔物は力をなくしはらはらと散った。
ロジロのちょうど眼前へと着地したビスマスは、にこり、とビスマス結晶の輝きを纏う笑みを向けた。
「と、増援の方ですねっ、助かります!」
「こちらこそ」
短い会話の終わるや否や、二人は左右に散るように跳ぶ。
数拍遅れて彼らの居た辺りの床に紙の刃が突き刺さり。
ページカッターを放った当の書物の魔物は、二人がほとんど同時に放ったアームズフォートの誘導弾と鳥銃から放たれた炎の弾に射抜かれて宙空で灰となり散った。
「参ったな……」
跳び隠れた書の山の陰で独りごちるロジロ。
鳥銃に刻まれた鳥の装飾を撫でる、左手の甲に浮かぶ白詰草の刻印。
狙撃の態勢を整えるその一方で、どうにも懐の三角パックを意識せざるをえない。
生命力に満ちた新鮮な魚介の食欲をそそる香りが、部屋一帯に充満しているような気がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クラム・ライゼン
本の姿のオブリビオンか。何が書いてあんだろうなあ。
気になるトコだけど…まぁ。読んでみるにしても全部倒してから、ってな!
・戦闘
「頼むぜ、ディア!」
広いとはいえ乱戦のこの空間で魔法ぶっ放つのは巻き込みそうなんで自重。
ディア(ドラゴンランス)に声を掛けて《スチームエンジン》。
蒸気機械の追加武装をグレイブの刃先に装着、破壊力を上昇させた上で
魔物を<なぎ払い>ったり<串刺し>に。
あんまり別の本に被害は出したくないんだけど…刃に変わったページが飛んできたりインク魔法弾が飛んで来たら机や棚を盾に回避できるならしたいトコだな。
・真の姿
毛先の赤色が侵食、拡大。首や手首に赤い竜麟が浮かぶ
ターニャ・ロクロリア
おっと、先客がいたようだね?
問題ない!主役は遅れてやってくるものさ。
戦闘では【リザレクト・オブリビオン】を使用。
おいで、私のかわいい死霊たち!
書物は宝だ、叡智の結晶だ。無害なものはなるべく傷つけずに終わらせたい。
飛べる蛇竜なら落ちている本を気にせず戦えるだろう?
騎士を蛇竜の背に乗せて、斬撃で切り刻んでさしあげよう。
ふふふっ、いいぞいいぞカッコいいぞ!
私自身は極力障害物の陰に隠れ、
インクや刃の攻撃から逃れるように気をつける。
戦闘終了後、或いは隠れている際に余裕があるようなら、
室内の本がどんなものなのか確認してみたい。
宝だと噂されるほどの書物なんて、気になって仕方がないじゃあないか。
月夜・玲
凄い量の本!一日中暇を潰せそうだねー
まあ。あの書物の魔物が居なければの話だけどさ。
さあ、あれを始末してお宝探しといこうか
●戦闘
【SPD】で速度重視
棚や机を足場にし飛び跳ねながら書物の魔物にヒットアンドアウェイ!
ユーベルコード【I.S.T.起動】を発動しよう
専用武器である4振りの剣のうち1振り【《RE》Incarnation】を抜いて斬撃による一撃で本を切り裂く
更に他の3振りの剣をパージして更に加速!身軽になろう
敵の攻撃は避けるか受け流すかして凌ごう
まともに当たっちゃうと痛いし嫌だもんね
他の猟兵と協力できるなら、私は囮になろうかな
だれかドカンと仕留めちゃってよ!
――書物は宝だ、叡智の結晶だ。
ターニャ・ロクロリア(はたらく大魔導師・f04912)は己の信条と心情に従い生きている。
一足遅れて辿り着いたこの戦場においても、彼女の有り様は変わりえない。
「さぁ、おいで。私のかわいい死霊たち!」
彼女にとって、この雑然とした戦場は何もかもが己にとって有利であるようにさえ思えただろう。身を隠す場所に困ることのない、書架の陰にあって彼女は悠然とその死霊術を行使できたのである。
嗚呼、主の求めに応えて骸の海より死霊が還る。
瞳亡き蛇竜が、貌亡き騎士が、声亡き叫びを上げて顕現する。
主の命に従って、蛇竜は飛び交う書物の頁の合間を縫うように飛ぶ。その背に跨った騎士はぬらりと妖しく輝く命亡き刃を縦横に振るった。
床に散逸した無害な書物を蹴り飛ばす心配のない死霊らの戦いぶりに、ターニャは満足気に笑う。
「ふふふっ、いいぞいいぞカッコいいぞ!」
死霊術とは即ち、オブリビオンの力を用いる禁呪。
その忌むべき力を使いながら彼女は笑う。
「いや、ホントに……皆さん、派手っすわー……」
つい先程も同じような事を言った気がする。
強烈なデジャブを感じながら、クラムは倒れた机の陰で苦笑いを浮かべながら頭上を舞う死霊のドラゴンライダーに目を向けていた。
「囮なら、あれで十分じゃないっすか?」
クラムがそう尋ねたのは、隣に並んで座り込む月夜・玲(スペースノイドのUDCメカニック・f01605)。
「そうかな? そうかも……って、いやいや。
クラム君はさ、アレと連携取れる?」
「あー……」
蛇竜に跨がり大暴れする騎士の死霊。今この部屋に飛び込むものがいれば、アレらこそフロアボスだと勘違いされそうな絵面である。
「ま、ここは予定通りおねーさんに任せときなよ」
赤く鋭い瞳を細めて、玲はサメのように笑う。
制止する間もなく、すっくと立ち上がった彼女は宙を飛び交う書物たちに向き合った。
大暴れする死霊たちにきりきり舞いをさせられていた、書物の頁が彼女を見た、ような気がする。
「I.S.T.起動」
必要なのは、速さ。
余計な装備はパージして、限界までその身を軽く。
書物の魔物がパラパラとめくれて、その頁が音もなく台紙から離れた、その刹那。
「Imitation sacred treasure……今こそその力を此処に!」
黒い長髪が黒い軌跡となって、宙を駆けた。
放たれたページカッターを置き去りに。
その手に握るのは、《RE》Incarnationと名付けた一振りの兵器。
「と、ほらっ! こっちこっちぃ!」
縦横無尽とは正にこのこと。棚に机に床に壁。足のつくものは全て足場と言わんばかりに跳躍を繰り返し、ますます戦場を掻き回していく。
「あ、こらっ! 私のかわいい死霊を踏んでくれるな!」
「あははっ、ごめんごめん!」
時に死霊騎士の頭も踏みつけながら、玲は時に攻撃を避け、時に受け流しながら部屋の中を一見して出鱈目に――しかし、その実、螺旋を描くように跳び渡る。
彼女を追う書物の魔物たちはやがてその中心へと引きつけられていく――全ては打ち合わせどおりに。
「ホント、派手な人ばっかりで……俺も負けてらんないな!」
腹の底から湧き上がる笑みを隠しもせず、クラムは抱きかかえていた小さな赤竜に語りかけ、立ち上がり、書物の魔物たちを真っ直ぐ見据えた。
「頼むぜ、ディア!」
小さく一鳴き、ディアと呼ばれた赤竜は見る間に姿を変えていく。
揺らめき猛る炎を思わせる刀身。細く、長く伸びたグレイブの柄を両の手に握り込む。
「そんで仕上げに――コイツだ!」
ぐっ、と腰を落とし、次の瞬間クラムもまた宙へと飛んだ。
その手の中のグレイブ、その刃先に据えられた蒸気エンジンが轟々と唸りを上げて蒸気を噴き出す。手の中に感じるエンジンの振動。唸りを上げて突き出される刃先が加速する!
――ズザザザッ!
横薙ぎに振るわれた重く速く、そして熱い刃が書物の魔物を纏めて薙ぎ払う。
魔物たちは無残な紙の切れ端と化して、はらはらと散り落ちる。
「クラム君、グッジョブ!」
「どもっす!」
インクの魔法弾を紙一重で躱しながら親指を立てる玲に、同じくサムズアップと笑顔で返す。
「――さて、次は……!」
散り果てる紙の嵐の中。次なる獲物に狙いを定めるクラムの髪の、その毛先を染める赤の色が緩やかに黒を侵し始めていた。手のひらで撫でる首元に、硬い鱗の感触がある。
「ほほう……あれが、彼の真の姿……あるいはその過程かな?」
クラムの姿を棚の陰から覗き見たターニャは、少しばかりの観察の後、手元の本に視線を戻した。
自分の体で戦場を駆け回らなくてはならない他の猟兵たちにほんの少し先んじられたのは、死霊術士の大きな役得かもしれなかった。
間もなく、戦場の宙空を舞う書物の魔物はただの一冊も居なくなるだろう。
フロアボスが姿を現す、その時は近い。
成功
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第3章 ボス戦
『錬金術ドラゴン』
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POW : 無敵の黄金
全身を【黄金に輝く石像】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : ドラゴンブレス
【炎・氷・雷・毒などのブレス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : アルケミックスラッシュ
【爪による斬撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に錬金術の魔法陣を刻み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑17
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――書物の魔物の最後の一体が倒された。
激しい戦いではあったが、猟兵たちの力と連携を前にしては役者不足であったと言わざるを得ない。
フロアボスはどこに居るのか。
この大量の本の中にヒントが?
棚のどこかに隠し扉でもあるのか?
それぞれが思い思いに考えたアイディアはしかし、試す暇さえもありはしなかった。
壁に飾られていた、装飾の一つ――くすんだ黄金の龍の頭が、苛立ちを隠しきれないように唸りを上げた。
忽ちにその黄金の首はまばゆいほどの輝きを取り戻し、雄叫びとともにその装飾が掛けられていた壁が崩れ落ちていく。
そう、それは装飾などではなかった。
猟兵たちの戦いを『無敵の黄金』と化した姿で見つめていたフロアボスが、遂にその全身を曝け出したのだ!
雄叫びを上げてその巨体を震わせ、猟兵たちを見下ろす錬金術ドラゴン。
このフロアボスを見事打ち倒したその時、迷宮の完全攻略が果たされるのだ!
月夜・玲
びりっびりくるねーこの感覚最高
ピッカピカじゃんこの竜
如何にもって感じのボスだね
●戦闘
【SPD】で戦闘
【第六感】を活用して敵の攻撃を回避!
動きで敵を翻弄するよ
【2回攻撃】や【空中戦】を活用して部屋全体を活用した戦闘で囮も兼ねて飛び回る
ブレスが来そうになったら注意をこっちに向けて他の猟兵が巻き込まれないように試してみよう
自分も当たらないようにするのは当然だけどね
ドラゴンの背中に乗れたらユーベルコードを使用
【プログラムド・ジェノサイド】を発動して連撃を叩きこむ!
羽を重点的に狙っていこうかな羽にダメージが行けば嫌がらせにもなるだろうしね
さあさあ、始めようか
存分に楽しんでいこうよ!
クラム・ライゼン
うわっ君動けたのっていうか君がフロアボスか!
今のずっと見てたのかぁ…趣味が良いんだか悪いんだか。
・戦闘
【WIS】
「虚構構築。簡易接続完了。ーー契言。『出番だぜ、我が愛しき激情の君!』」
ユーベルコード発動時は〈高速詠唱〉併用。
慟哭する女性型の精霊を呼び出し相手のユーベルコード発動の阻害を狙う。
他の猟兵と協力できそうなら動き止めてる間に集中攻撃を叩き込んで貰おっか。
ユーベルコード以外の攻撃はディア(ドラゴンランス)で〈串刺し〉にしたり〈属性攻撃〉で攻撃の属性を変えつつ戦う。
黄金の竜って何が有効なんだろな、属性。……強酸?ムリ。
――ウグォォォォォォオオオオオオオオ!
組み上げられた強固な壁を容易く突き崩した黄金の体。それは燦爛と煌めいて、地下深き迷宮の中、自ずから輝きを発しているようにさえ見える。
地下全体を揺るがさんばかりのドラゴンの咆哮。
その存在を前にして、なおも不敵の笑みを崩さない猟兵たちの姿がそこにあった。
「おー。びりっびりくるねー」
ただ一つ手元に残した《RE》Incarnationを軽く握り直して、玲は元より鋭い目を更に細めた。
「この感覚、最高」
「……趣味が良いんだか悪いんだか」
「何か言った?」
鋭い視線の矛先が自分の方に向けられかけたものだから、慌ててクラムは、手を振り振り、浮かべた笑みを苦笑に変える。
「いやいやいや、違うっすよ!
あのドラゴンの話」
くいっ、と立てた親指で指させば、黄金色の眼がギロリと此方に向けられた気がした。
「あぁ――ぴっかぴかで」
「今のバトルなんて、飾りのフリしてずーっと見てて」
「如何にもって感じのボスだよね」
笑い合う二人の眼前で、ドラゴンはぐるるるるっ、と喉の奥を鳴らしている。極低音の唸りがビリビリと響き、棚を揺らし、書物の山がバサリと崩れた。
声にも顔にも出しはせず、二人は静かに呼吸を合わす。
――3、2、1。
「ほら、こっちだよっ!」
「ディアっ!」
瞬間、玲は上へ、クラムは地を這うように、上下に分かれるように跳んだ。
迷わず竜は、玲へと狙いを定める。書物の魔物がきりきり舞いをさせられていたのを、竜はずっと見ていたのだ。
跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。
壁でも棚でも足場に宙を跳び交う玲を、蛇腹仕掛の首をもたげて巨大な竜の頭が追う。
前触れもなく、ガバァッ、と開かれた竜の口の奥で魔法陣が輝いた。
バチリ、バチリと宙空を奔る稲妻が見えたのは一瞬。
――ババババババチババババッ!!!
その口から放たれた雷光のブレスが、玲がその戦場とする部屋の宙空全体に向けて広く、隈なく、放射された。
一瞬、部屋中の視界が奪われるほどの雷光。
宙に跳んだ相手を確実に仕留める、必殺のはずのそのブレスは、しかし。
「サンダーブレス?
いやー、ますます如何にもって感じ」
第六感としか言いようがない。ブレスの放たれる直前、直感の赴くままに体を捻り、強引に崩れた天井の一角を蹴り上げ、玲は急激に方向転換、下へと跳んでいた。
その上、ギリギリを掠めたブレスは誰を穿つこともなく――その一瞬に、クラムが竜の足下へと潜り込んでいる。
――ぐるぅぅぅぅぅ!
竜は苛立ちに唸る。
視界の死角、巨体の下で突き立てられるであろうグレイブの一撃を竜は覚悟し――その覚悟がまた、隙になった。
気づいた時にはもう遅かったのだ。
クラムは、彼がディアと呼ぶそのグレイブを突き立ててなどいない。
「虚構構築。簡易接続完了」
クラムの狙いは、既に観察されていたグレイブでの攻撃ではなく、精霊術。
本来踏まえるべきステップを簡略化した、高速詠唱による契約精霊との簡易接続。
その召喚を妨害せんと、竜がその鋭い爪を振るおうとするも、しかし。致命的に、遅い。
「――契言。『出番だぜ、我が愛しき激情の君!』」
『――――――――――――――――ッッッッ
!!!!!!!』
呼び出された精霊。その名は、『断末魔の女神(ヒステリック・ハニー)』。
ドラゴンの耳に、体に響き渡る、魔力のこもった怨嗟の絶叫。
「……あー、こわっ。
ホントにギリギリだよ、もう」
振り上げた竜の爪は降ろされることはなく、痺れたようにクラムの眼前で固まり、震えている。
この術で、それほど長い時間、動きを縛っていられるわけではない。
けれど、戦場において致命的と言える程度には、その動きは縛られている。
「もう少し頑張ってね、ハニー」
呼び出した精霊に一声残し、今度こそグレイブでの一撃を置き土産に残しながら竜の体の下から飛び出したクラムは、その竜のがら空きの背に、既に玲が飛び乗っているのに気が付いた。
「――さぁさぁ、始めようか。
存分に楽しんでいこうよ!」
身じろぎすることすらままならぬ竜の背に乗り、その翼を狙って放たれる、そのユーベルコードの名は『プログラムド・ジェノサイド』。
虐殺の手順は、既に決定されている。
外しようのないその初撃が深々と竜の翼を斬り裂いたその時、クラムはほんの少しだけドラゴンに憐れみを覚えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ビスマス・テルマール
●真の姿
ビスマス結晶の竜騎士
●POW
ビルド・なめろうビームウェポンを
この錬金術ドラゴンに対しては
クサヤのなめろうビームハンマーで生成
ドラゴンブレスに注意しながら
周囲を動き回りながら
アームドフォードで『一斉発射』と『誘導弾』を併用し攻撃
無敵の黄金を使用して来た時は
詰め寄り、クサヤのなめろうビームハンマーで二回攻撃を繰り返した上で、無敵の黄金が解ける頃を見計らい
錬金術ドラゴンの口に
クサヤなめろうビームハンマーをツッコミ
ぶん投げる
アルケミックススラッシュに
対しては、クサヤのなめろうビームハンマーで『武器受け』
そのままカウンターに
『2回攻撃』で殴り返し
魔法陣に降りたったら
その地面を割り崩せないか試みを
ロジロ・ワイズクリー
予想外の場面で感じた餓えに呼応するように現れた黄金の龍。
「――お前が生き物で助かるよ」
マントを翻し、迫る爪をフェイントをかけながら避け。描かれた魔法陣の効果を察すれば相手がこちらに迫る前に飛び込んで行こうか。
先の感覚に呼ばれるように血統覚醒を使用。魔法陣が刻まれればその地形ごと抉り取り、敵が黄金に代わるなら動かないのを良いことに、求めている血の色が見えるまでは殴り尽くそう。
「命、――頂きますね」
至極当然、手加減無用。思い切りやり合おう。
戦闘後、無事討ち果たせればテトラパックのストローを咥えつつ補給。
――動きを封じられ、その背を翼ごと刻まれた竜が、僅かながらもその束縛から逃れられた時にどのような行動を取るか。
「――お前が生き物で助かるよ」
黒のマントを翻しながらそう呟いた、ロジロの言葉には幾つかの意味が秘められて居たようにも聞こえる。
……不動を強いられる危機の前に、竜は当然の防御反応として、己の持つ最大の防御機構――『無敵の黄金』のその身を覆う選択をした。
或いは、この錬金術で生み出された黄金の存在が、己の命も顧みず稼働を続けるただの機械であったならば。
「こう易々とはいかなかったかも、な」
その紫の瞳に、真紅が宿る。
いつだって抱え続けている『飢え』の、『渇き』の赴くまま。
覚醒めるのは、その血統。
「命、――頂きますね」
そう、生き物で助かった。
書物の魔物のように、紙とインクで綴られた存在ではない。
生き物であれば、その命を、啜れる。
「生成開始(ビルド・オン)っ!」
黄金に輝く石像と化した竜に向け、駆け出しながらビスマスは、その手に握っていたビームウェポンを新たに生成し直した。
シチュエーションに合わせて自在にその形状、纏うオーラを変えるビームウェポン……自在と言ってもオーラはなめろう縛りではあるのだが、ビスマスにとってはそれで全く必要十分なのだ。
「クサヤのなめろうビームハンマーっ!!」
裂帛の掛け声とともに、生成されるビームハンマー!
振りかぶったそのハンマーに纏うオーラはクサヤ渦巻く沖膾!
……クサヤは干物、なめろうは鮮魚のたたきであり全く無関係だと思われるかも知れないが、どちらも主な原料は青魚であり、特によくクサヤに用いられるクサヤモロはなめろうにしても大変美味である。
決して無関係ではない。
「動く気がないのなら……思いっきり、いきますよ!」
ビスマスの結晶が持つ独特の輝きは、黄金のそれに劣るものではない。
蒼鉛の少女はその名に恥じぬ輝きを持って、動きを止めた黄金へと飛びかかった。
ヴァンパイアの力を解き放ったロジロの腕が。
巨大なビームハンマーを掲げたビスマスの殴打が。
動きを止めた黄金竜を滅多打ちに打ち据える。
二人が打ち疲れるまでその無敵の黄金を維持し、隙を突いて反撃する――そんなドラゴンの企みを許しはしないほど、二人の攻撃は間断なく、いつ終わるとも知れなかった。
ヴァンパイアと化したロジロのスタミナは無尽蔵にさえ思えたし、ビスマスのなめろう愛は文字通り底無しである。
ならば。一撃を覚悟で、反撃を試みるしかない――。
覚悟を決めた竜がその顎を開いた瞬間を、ビスマスは見逃さなかった。
「ええい――召し上がれっ!」
振り上げたビームハンマーを二回転。ぶるん、ぶるんと振り回し、放り投げる!
叩き込んだのは――竜の口の中!
――んぐぅぉぉぉぉおおお!?
ブレスを中断させられ、竜は堪らずもがいて爪を出鱈目に振り回す。
狙いさえ定まらぬような爪の軌跡など、覚醒したロジロの目には止まって見えた。
いっそ哀れにさえ見える竜の醜態であったが――。
「当然、手加減無用です」
振り回す爪をいなし、ロジロが大きく腕を振るえば、錬金術ドラゴンにとっての鮮血が激しく噴き出す。
――ぎ、オォォォォォオオオオオ!!!
強烈な一撃にズン、ズン、ズンと地響きを立てながらよろめく竜は確かに大きなダメージを負った。
しかしながら、ロジロの表情は今ひとつ冴えない。
「これは……飲めないな」
それが錬金術で生み出されたドラゴンの本来の構造なのか、ドラゴン自身が錬金術で己を強化改造した結果なのかは知る由もなかったが。
錬金術ドラゴンの体の中を巡る血は、水銀でできていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ビスマス・テルマール
上手く決まりましたね
この様子なら……そろそろ
メインディッシュに移っても
良さそうですし
今の内に押しきりましょうっ!
●POW
トリニティ・チルドナメロウを
攻撃力重視で発動
可能から真の姿を併用で
冷やし孫茶バリアを
展開しながら体当たり
そこから
冷凍クロマグロソードで
『2回攻撃』で駆け抜け
一撃離脱ざまに
アームドフォードで
『誘導弾』と『一斉射撃』を
併用し叩き込む
仲間と連携し攻撃を
この繰り返しを仕掛ける
※ドラゴンが魔法陣に降りたったら魔物陣になめろうフォースセイバーを『投擲』し崩す
相手の反撃には
ブレスには冷やし孫茶バリアで
『盾受け』
アルケミックススラッシュには
冷凍クロマグロソードで
『武器受け』で対応
ロジロ・ワイズクリー
なめろうがどんな偉大な存在なのか気になり始めた(未体験)
「文字通り血も涙もない存在だったか」
流れ出た水銀に舌打ちをひとつ返す。
は、は、と荒い呼吸は笑い声にも似て聞こえたかもしれない。
「――ならば血肉あるもの達の為に消えろ」
バールのようなメイスを握り込めば自分の手首へと牙を立て、流れ伝う血が武器本来の凶悪を呼び起こそう。【殺戮捕食態】と化したコレなら、貴様でも食らう悪食だ。
ドラゴンの動きの鈍い内に致命傷を狙い、鎧であるその表皮を無視する攻撃で心臓を狙い突き立てよう。
月夜・玲
さて、まだまだいくよ!
あとちょっと、削り切るよ
いい加減倒れてよね!
【SPD】で戦闘
今度は距離を取ってブレスの射程範囲外へ退避
【高速演算】を用いて、遠距離からの衝撃波で削ってやろう
ドラゴンの周囲を駆け回りながら攻撃
ブレスを放ちそうになったら頭部を狙って衝撃波で攻撃
他の仲間に攻撃しようとしたタイミングで此方も遠距離から攻撃
攻撃の妨害を試みるよ
やーいやーい、こっちの方が射程範囲が広いんだよー
そっちのブレスは届かないよー
あ、他の皆は巻き込まれないように注意してね
――よろめく竜の傷口から零れ落ちる水銀の血液が、散らばる書物を、床を覆っていく。
鈍い輝きを放つ返り血を振り払えば、それは赤い血と違って未練がましい粘つきもなく、後には濡れた触感さえも残らなかった。
「文字通り血も涙もない存在だったか」
は、は、と漏れる荒い呼吸は笑い声にも聞こえる。だとすれば、それは自嘲か嘲笑か。その由来は怒りか虚しさか。
それを問い質す者はいよう筈もなく、ロジロ・ワイズクリーは、ふぅ、と小さく息を整えて、言った。
「――ならば血肉あるもの達の為に、消えろ」
「そろそろ、メインディッシュに移っても良さそうですね」
「あとちょっと、削り切るよ!」
玲は三度剣を携え、地を蹴り、棚を蹴り、高く戦場を舞い上がっていく。
その姿を見送って、ビスマスもまた決着への覚悟をその装いに纏う。
蒼鉛とも呼称されるその結晶は竜の黄金の輝きを虹色に反射する。真の姿――鎧の如く結実するビスマス結晶に身を包んだ少女は、更にその体を鎧装で覆ってみせた。その手に煌めくは、三枚のカード。
『Namerou Hearts Chilled!』
――ジュァキン! ――ジュァキン! ――ジュァキン!
ビスマスの装着する鎧装にカードが続けざまに差し込まれ、その度響き渡る機械音。音声ガイドが朗々と、料理名――もとい、武装名を謳い上げる。
「冷製なめろう武装転送っ!」
コールに合わせて、彼女を覆う外装が直ちに変形を行う。
餡になめろうを用いた冷製水餃子をイメージしたどことなく艶を感じる鎧を纏い、ビスマスは一直線に最短の軌道を駆け抜けて竜の眼前へと肉薄する。
――ぐるぅぅぅおおおおおおおっ!
決着を見据え、迫りくる猟兵たち。竜が唸りを上げてその顎を大開き、雷光のブレスで彼らを薙ぎ払う――その未来は訪れなかった。
眼下を駆けるロジロとビスマスに向け、狙いを付けたその瞬間。音もなく疾風の衝撃波が竜の横っ面を穿ち裂き、水銀の血しぶきが噴き出していたのだ。
否、音は鳴った。竜を斬り裂いたその直後に、遅れて。刃を振るう風切り音が。
「敵行動予測収束。合致率97%……もう少し、改良の余地があるかな?」
それは、玲の高速演算。I.S.T.を利用した状況予測を駆使し、高い精度の偏差射撃ならぬ偏差斬撃を最良のタイミングで放つ、ユーベルコード。幾つもの世界に通じたメカニックであり、剣撃に長けた彼女ならばこそ実用可能な理論上最良のインターセプト。
ニッ、と笑って竜を見下ろす、玲へと首をもたげた竜は憎らしげに呻く。
遠い。
「やーいやーいっ、ほらほら自慢のブレスはどうしたの?
まだだーれにも当てれてないよー?」
露骨な挑発に、竜は憎々しげな唸りを返すばかりだ。広範囲を稲妻で灼き尽くす必殺のブレスも、届かなければ眩いイルミネーションに過ぎない。
かと言って、彼女を追えば他の猟兵たちに背を向けることになる。もはや進退窮まった竜は――。
「っ、危ない!
そいつ、跳ぶよ!」
傷つけられた翼と脚では舞い上がることは叶わない。しかし竜はその巨体を後ろ脚で跳ね上げ、迫り来る猟兵たちに向けその巨体を倒れ込ませる。
自由落下の始まるその瞬間、その身を『黄金の石像』へと変えて!
「させませんよ……冷やし孫茶バリア!」
落ちる黄金に向け、蒼鉛が跳び上がる。
その身を包むは冷やし孫茶のバリア。
自由落下する無敵の黄金の、その巨体にも臆さずに立ち向かう少女の勇気に、ロジロは自然と浮かんだ疑問を投げかけた。
「マゴチャ……お茶? なめろうではなく?」
「もちろん、なめろうです!
孫茶は、なめろうのお茶漬けです!」
「なるほど」
「美味しいですよ!」
どうやらなめろうの偉大さが揺らぐ様子はないらしい。
なめろうとは、一体どれほどのものなのだろうかと。硬直した竜の巨体を見事に押し飛ばしてみせた小さな彼女の背中を見て思うのだ。
いずれ食べてみたいものだが、今から食らわねばならないのは目の前の、なんとも食欲の湧かないカナモノ製のドラゴンだ。
「だが、コイツは貴様でも喰らう、悪食だ」
ロジロがその手に握る、バールのようなもの。それは、バールではない。
持ち主の手首に牙を突き立て、血を啜るようなモノは、断じてバールなどではないのだ。
黄金の石像と化していたその巨体が吹き飛ばされ、竜は一拍遅れて黄金化を解く。その遅れた分だけ、崩れたバランス。
比較的装甲の薄い腹部が剥き出しにされていることに気づかないロジロではない。
「そこだ」
蛇腹状に織られたその隙間にねじ込むようにバールのような物が打ち込まれ、めきり、めきりと音を立てる。
どくん、とロジロの血が音を立てて吸い上げられ、ぐらりと寒気が我が身を襲えば、その刹那。バールのようなものはより深く、深くへと竜の奥まで食らい込んで、そのまま輝く装甲を弾き飛ばした。
ブラッド・ガイスト。
主の血を啜り、ソレは禍々しい殺戮捕食態としての力を思う儘に、振るう。
――アゴァァァァァアアアアアア!!
致命傷に絞り上げるような悲鳴を上げ、水銀の鮮血が怒涛のごとく噴き出した。
剥き出しになる金属で織られた肉と神経。正にちょうどその奥に、心臓――錬金術ドラゴンの炉が存在したのは、きっと、偶然ではないのだろう。
「冷凍クロマグロ、ソードっ!!」
水銀の飛沫を泳ぐように切り裂き、手にした巨大な一振りの冷凍クロマグロがその傷跡をより深く、深く切り裂く。
もがくように振り上げられた爪はまた。
――ザシュ。
「今のは、I.S.T.なしでも予想できたかな?」
玲が放つ斬撃の衝撃波で、狙いを大きく外れて床に食い込んだ。
最早。竜には、それを恨む唸りを漏らす余力さえも、無い。
「とどめだ」
「トドメです!」
開いた傷口を更に大きく広げるように、バールのようなものが再び、竜の装甲に食い込み、捻り上げ、跳ね飛ばす。
ビスマスはひと度斬り込んだ冷凍クロマグロソードを勢いそのままに回転させての、二回攻撃。
マグロの口が、錬金術ドラゴンの炉を喰らうように深々と突き立てられた。
かくして、猟兵たちによって迷宮のフロアボスは打ち倒され、アルダワ魔法学園は一つの危機を免れた。
驚くべき力技での迷宮の踏破。卓越した術の行使。脅威的な他世界の技術と、その武器。なめろう。
彼らの活躍は学生たちが語る「転校生」の噂話の一つとなり、その栄誉は長く讃えられることだろう。
大成功
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