迷宮災厄戦⑱-14〜PはPrincessのP
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――おのれ……おのれ「猟書家」どもめ!
書架牢獄の残骸、その奥で、虚の貌が憎しみに震える。
――このわたしを、「はじまりのアリス」にして「はじまりのオウガ」であるこのわたしを、このように巫山戯た牢獄に閉じ込め、あまつさえ、わたしのユーベルコードを奪い取るとは!
――ああ、くだらない猟書家どもめ。どこの馬とも知れぬ者どもが、わたしの崇高なるユーベルコードを奪うなどと!
――あの猟兵どもが猟書家どもを討ち取る事に依って、わたしの力の一部がここに舞い戻った。だが「はじまりのアリス」にして「はじまりのオウガ」に抗う愚かな者は、猟兵も猟書家も等しく滅ぶべきであろう。
――この力を視るが良い。この世で最も尊く、最も美しく、最も無限の可能性を秘めたわたしのユーベルコードを。
――現実は、わたしの手の中に。
●グリモアベース
「変身なんて次元じゃねえな。あれは真実、『成り代わってる』といっても過言じゃねえ」
集まった猟兵達に礼を述べながら、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は頭を掻いた。
「とうとうオブリビオン・フォーミュラ『オウガ・オリジン』への路が拓けたんだけどよ。現実改変ユーベルコードの力と、オウガ・オリジンの無限の想像力によって、あいつは猟書家のひとり『プリンセス・エメラルド』になっちまった。
思想も、目的も、戦場で使って来るユーベルコードも何もかも、プリンセスエメラルドそっくりだ」
プリンセス・エメラルドは、その名の通りエメラルドの身体を持つ、クリスタリアンのような見目麗しい女性である。
スペースシップワールドを狙う猟書家にして「クリスタリアンの最長老」。侵略蔵書「帝国継承規約」と、対象を透明化する能力で迎撃してくる。
「あんたらの中に、すでに『本物』と剣を交えた奴はいるか? いたとしたら、取るべき対策は『全く同じ』といってもいい。猟書家とバトるのが初めてって奴は、奴の繰り出すユーベルコードを纏めておいたから目を通しておいてくれ」
ファイリングされた紙には技と共に、プリンセス・エメラルド張本人としか思えぬ映像が添付されている。――『オウガ・オリジン』エメラルド、と記されていた。
「気をつけなきゃいけねえのは、奴が本物と同様、先制の術に長けているってこった。必ず相手のターンから始まるってのはちょっと腹立つけどよ、ばっちり対策しておけよ」
――ここまで来れたあんたらなら、問題ねえよな?
ジャスパーは笑って、猟兵達を見送るのだった。
ion
●お世話になっております。ionです。
オウガ・オリジンの戦場ですが、猟書家『プリンセス・エメラルド』戦です。ややこしいですね。
ちなみに精神までプリンセス・エメラルド張本人になっています。プレイングの台詞などを考える時のご参考までに。
例によって強敵ですが、戦況を有利に運ぶための道は示されております。
●プレイングボーナス
このシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。これに基づく行動をすると判定が有利になります。
=============================
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
=============================
『オウガ・オリジン』エメラルドは『必ず』先制攻撃をしてきます。
対策をし、素早く反撃に迎えれば、有効打を与えやすくなるでしょう。
(ボーナスが無くとも必ず苦戦・失敗になるとは限りませんが、ダイス一発勝負になるので確率は上がります)
●プレイングについて
おそらくのんびりペース・問題ないプレイングは全採用になります。
恐れ多くも私のキャパシティを超えた場合は、判定が良い人を採用させて頂きます。先着順ではありません。
OP公開からプレイング受付開始、終了日時はMSページにてアナウンスいたします。
それでは、皆様のプレイング、お待ちしております。
第1章 ボス戦
『『オウガ・オリジン』エメラルド』
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POW : プリンセス・エメラルド号
自身の【サイキックエナジー】を代償に、【宇宙戦艦プリンセス・エメラルド号】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【エメラルド色の破壊光線を放つ多数の砲】で戦う。
SPD : 侵略蔵書「帝国継承規約」
自身の身長の2倍の【皇帝乗騎(インペリアル・ヴィークル)】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : クリスタライズ・オリジナル
自身と自身の装備、【敵に被害を与えうる、半径100m以内の】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
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ヴロス・ヴァルカー
やっと手に入れた平和、かき乱されるわけにはいきませんから。
ここで止めます…貴方が本物か偽物かは関係ありません。
まずは天道さん(f12190)の船へ、砲撃の盾にします。
…長くは持たないでしょうが。
一瞬の時を活かして【ベイン・オブ・アイアン】の讃美歌による【ハッキング】を敵戦艦に仕掛けます…私一人では難しいでしょうが天道さんが共に歌ってくれますから。
上手く戦艦の砲が狂えば私が飛び込む隙が生まれるはず、船の大砲も活かし【ストーム・ウォーカー】で戦艦へ。
辿りつけさえすれば【永劫なる献身】が使えます。
敵戦艦を改造し、天道さんのための演奏ステージを作り…地面に叩きつけます。
…後はお願いしますね、天道さん。
天道・あや
ヴロスさんと(f03932)
成り代わり。こゆのって確かスワンプマンとか、ドッペルゲンガーって言うんだよね?…ま、それは置いといて。偽物だろうと倒すべきなのは変わらない!というか、成り代わりなら倒したらそれは本物も倒したって事になるのでは!?では、行きましょうヴロスさん!
あっちが戦艦ならこっちは船!船に乗って敵の攻撃を避けながら注意を引き付ける!(存在感、おびき寄せ、航海術、見切り)
そしてヴロスさんが突撃ハッキングを始めたら援護!幽霊さん達!セッションしまショータイム!(楽器演奏)
そしてヴロスさんがUCで戦艦を改造したら、船の大砲であたしも戦艦に突撃!
そんで、ステージでUC発動!(歌唱、ダンス)
テリブル・カトラリー
オウガ・オリジンだがプリンセス・エメラルド。ややこしいな。
ブースターで体を吹き飛ばし、ダッシュ。
情報収集、敵艦の砲向きから射線を見切り、回避
同時に装甲車による砲撃のおびき寄せ。
だがなんにせよ、倒さねばならないのは同じ事か。
早業、『邪神腕・世界矯正』破壊光線を邪神の片腕で武器受け、生命力吸収、敵超常能力、ユーベルコードに使われていたサイキックエナジーを吸収。
スナイパーライフルを構え、サイキックエナジーを失っているオウガ・オリジンに狙いを定める。
帝国継承はもちろん、この世界を奪わせる事も、認める訳にはいかない。
吸収したサイキックエナジーを込めた弾丸、鎧無視攻撃を放つ。
トリテレイア・ゼロナイン
精神までプリンセス・エメラルドになるとは…
この状態ではアリスラビリンスを滅ぼした上に故郷へ手を伸ばしかねません
二つの世界の人々の安寧の為、騎士として討たせていただきます
戦艦の砲の向きや発射タイミングをセンサーでの●情報収集で●見切り苛烈な光線を●騎乗した機械飛竜の●空中戦で回避
今度はこちらから仕掛けさせていただきます
UCを戦艦へ射出しフィールドに展開
際限なくサイキックエナジーを吸い上げるよう戦艦の機能を過剰強化
火器管制への●ハッキングも合わせて照準を狂わせつつ、砲の出力を際限なく上げて暴走させ戦艦を自滅させます
銀河帝国は滅びました
この世界も好きにはさせません
竜から飛び降りオリジンに剣を一閃
金白・燕
アドリブ・アレンジはお任せ致します
ああ、碧玉の姫
私の導くべきアリス、美しく尊いアリス
貴女を導く兎は此処に
さあお仕事の時間です
初手は【盾受け】と【激痛耐性】で受けましょう
……その後にある程度動けなくても構いません
レディから賜った大切なお薬を煽りましょう
さあ、骨兎
此処からは貴方の出番です
恐らくアリスからの受けた一撃の影響もありますから、
良い声で戦ってくれるでしょう
確かに貴方は不変だ
星の海を望むのに、一等相応しい
でもね、私は思うのです
星ならば煌めいて消えていく姿も美しいのですよ
貴女の道を開いて差し上げましょう
お別れです
……さようならアリス
ああ骨兎
もう泣かなくて良いんですよ
私たちのお仕事も終わりですね
小雉子・吉備
オリジンが討たれた本人に成り代わり……難しい事は後にして
何気に戦争のボスと交戦するの始めてだよね
〖POW:UC対策〗
【激痛耐性】で備え【空中戦】で加速しつつ【高速詠唱】で【オーラ防御・結界術・属性攻撃(重力)】込めた〖時の愚鈍「スロウフールハウル」〗と〖雉鶏精の羽針〗の同時発射の【弾幕】ばら蒔きつつ撹乱
【第六感】で【見切り】ながら【弾幕】の効果を回避や受け流しや【盾受け】にも利用し凌ぎ
エメラルド本人にも〖なまり〗ちゃん達に【動物使い】で強襲させ注意を分散
隙見て【高速詠唱】でUCを戦艦に仕込み『破壊光線の暴発をエメラルドに』と言う過去をねじ込み本人に破壊光線の直撃を
〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗
●Prologue
精神までも変貌させ、改変させるほどの力。
オウガ・オリジンと呼ばれた個体はそこには無く、己が憎しみを募らせていた筈の『猟書家』のひとりとして顕現する。
「うふ、うふふふふ……」
翠玉の身体を揺らし、満足そうに笑んでみせた。
『骸の海に還った猟書家の力を奪う』のならば、オブリビオン・フォーミュラほどの力量者ならば可能であるのかもしれない。但し本物の猟書家プリンセス・エメラルドは未だ健在。オウガ・オリジンを出し抜き、宇宙船飛び交う世界への侵攻するための手筈を整えている頃だ。
それでもオリジンは、いとも容易く彼女になってみせた。
それが現実改変ユーベルコード。どんな不条理も可能とする力は、『はじまりのオウガ』の無限の想像力を糧に、どこまでもその力を広げていく――。
●P-1
最初に繰り出されたのは『プリンセス・エメラルド号』。クリスタリアンの最長老を名乗る女がその力を解放し、巨大な宇宙戦艦を呼び起こす。
「不思議ですね。力が溢れてきます――何故か今宵は私の戦艦も喜びに打ち震えているようです」
自らと同じ、深い翠色をした戦艦を見上げ、眼を細めた。女の周りでオリジンと同質のトランプの幻影が現れては消えていく。
「不変なる私が、あの世界の長となるのは自然の摂理。何者にも手出しはさせません」
咄嗟に数えられぬほど無数の艦砲から、エメラルド色の破壊光線が幾重にも放たれる。鮮やかな色彩は、辺り一面を焦土と化す無慈悲の断罪。
それらを各々の手段で与し、躱し、猟兵達は刃を交える。
「こっちこっちー!」
戦場でもひときわ響く聲は、日々のトレーニングの賜物か。スタァ志望の少女、天道・あや(未来照らす一番星!・f12190)が、黒髪を揺らしながら乗っているのは幽霊船。少女との出会いにより、再び夢や希望を抱き未来への航海に向かう船、その名も『ドリームスター号』。
ちょこまか逃げ回る船を、エメラルドの光線が捉える直前、その光が見えない何かに阻まれて停止する。
「ヴロスさん、ナーイス♪」
「長くは持ちませんが、無いよりはいいでしょう」
「またまたー、謙遜しちゃって。大助かりだよ」
あやの船に寄り添うように走るもう一人、ヴロス・ヴァルカー(優しい機械・f03932)が身体を形成する触手から蒸気と共に讃美歌を奏で、不可視の盾を造り出していた。
巨大な宇宙戦艦に対し、あやが幽霊船を召喚したように、大きな車輛でのおびき寄せに尽力した者がもう一人。
大砲付きの装甲車が唸りをあげながらプリンセス・エメラルドへと走って来る。武骨で大型のそれは真っ先に破壊光線の餌食となったが、その中にはなんびとの気配もしない。
それはテリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)が遠隔操縦で操っていたものだ。機械仕掛けのマスクを装着した女性のような姿をしているが、その背は人間にしては不自然なほどに高い。彼女はウォーマシンなのだ。
「オウガ・オリジンだがプリンセス・エメラルド。……ややこしいな」
――だがなんにせよ、斃さねばならないのは同じ事か。
からくりに気づいたエメラルドがテリブル本体に狙いを定めるのを、砲向きから素早く察知する。ブースターが火を噴き、身体を吹き飛ばすようにして猛スピードで射線を見切り、回避していた。
装甲車は未だ動く。砲台が首をもたげ、砲撃が戦艦を拡散させる。
砲弾と光線飛び交う戦場を、雉の翼持つ少女がエメラルド目掛けて飛翔している。人懐こい光を讃えた赤い眸――小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)だ。
(「オリジンが討たれた本人に成り代わり……難しい事は後にして、何気に戦争のボスと交戦するの初めてだよね」)
グリモアベースを介し、妖怪たちの住まう幽世と、現世をはじめとする別世界との往来が盛んになってから未だ日が浅い。吉備にしてみても、これが初の戦争となる。
それでも彼女はこの地に舞い降りた。あらゆる英雄の話に、その追憶に触れた吉備は知っている。ヒーローはどんな世界でも分け隔てなく救い、その優しさと勇猛さに、人々があこがれを抱くことを。
(「キビはまだまだだけど、けどこの勝負、絶対勝ってみせる」)
「ああ、碧玉の姫。私の導くべきアリス、美しく尊いアリス」
恭しく首を垂れれば、金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)の金白混じる兎耳も揺れる。アリスを導く任務に携われるのが嬉しくて仕方が無いというように。
「貴女を導く兎は此処に。さあお仕事の時間です」
「アリス?」
エメラルドの言葉には嘲笑の気配がにじみ出ている。
「いいえ、私はエメラルド。次代の銀河皇帝となる者です」
眩い光線が放たれる。燕の懐から飛び出した懐中時計が、幾許か光線を逸らし、受け止める。
しかし銃弾程度ならば容易に跳ね返せるとしても、此度燕を襲ったのは銀河を統べる資質を持つ女の一撃。光の雨に刺し抜かれ、鮮血がびしゃびしゃと滴った。
機械仕掛けのワイバーンが苛烈な光雨の中を飛翔していく。その背に騎乗しているのはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。砲の向きを見切り、全身のセンサーで発射タイミングを感知、機械飛竜に指示を出す。
「能力だけではなく、精神までプリンセス・エメラルドになるとは……」
トレテレイアはウォーマシンだが、その容貌は機械生命体というよりも全身鎧の騎士のようにも見える。喪失した記憶データの代わり、組み込まれた騎士道精神を模倣し続けているトレテレイアだ。
「この状態ではアリスラビリンスを滅ぼした上に故郷へ手を伸ばしかねません。二つの世界の人々の安寧の為、騎士として討たせていただきます」
弱者を護り、仲間を守る清廉な優しき騎士として。今ここに高らかに宣言する。
●P-2
「成り代わり。こゆのって確かスワンプマンとか、ドッペルゲンガーって言うんだよね?」
幽霊船を的確に操りながら、あやがふと思いついたことを口にする。前者はいやに哲学的な話で、後者は命を奪う怖い話だった気がする。エメラルドとオリジンも敵対関係にあるのならば、後者の方が近いのだろうか。
「……ま、それは置いといて。偽物だろうと倒すべきなのは変わらない!」
「ええ。やっと手に入れた平和、かき乱されるわけにはいきませんから」
あやの気概に、ヴロスも赤い閃光またたかせ、大きく頷いてみせた。
「ここで止めます……あのお方が本物か偽物かは関係ありません」
「というか、成り代わりなら倒したらそれは本物も倒したって事になるのでは!?」
「なるほど。只の変身ではなく完全な成り代わりなら、そうとも言えますね」
少なくとも、オリジン・エメラルドを斃せるということは、猟書家プリンセス・エメラルドと対峙しても問題ないという事に繋がる。
「では、行きましょうヴロスさん!」
「はい、天道さん」
ヴロスの手繰る触手がかわっていく。噴き出す蒸気と共に、機械を狂わせる讃美歌が仕掛けられる。
「私のエメラルド号を、この程度で乗っ取るおつもりですか?」
「この程度じゃないんだな、これが! いくよ、幽霊さん達! セッションしまショータイム!!」
蒸気の讃美歌に合わせ、あやの背後で幽霊たちが各々の楽器で盛り上げる。勿論あや自身も、マイク携えエールを贈る。
「やはり、天道さんとのセッションは楽しいものです」
いつかの海底での共演を思い出しながら紡がれるヴロスの歌が、とうとう戦艦の狙いを崩す。空へ向けての無駄撃ちにエメラルドが歯噛みする。
「よっしゃ、とつげーき!!」
幽霊船が景気づけとばかりに大砲を打ち上げる。その爆風に乗るように、ヴロスの巨体が戦艦目掛けて舞い上がる。
「! この……!」
ヒトでいうところの脚にあたる触手で戦艦の外装に降り立ったヴロスが、局所的なハッキング以上の『改変』を戦艦に施していく。オリジンの力には及ばずとも、無機質であればヴロスの望むものに変化させられる力だ。
優しい機械の献身が作り出すのは、未来の一番星に捧げる演奏ステージ。触手でがっちり絡み取り、地面に叩きつける。
「後はお願いしますね、天道さん」
「ではでは!」
びしっとポーズを決めたあやが今宵歌うのは、心さえ揺さぶる魅惑の歌唱。
「……っく」
耳を覆い逃れようとするエメラルドだが、ライブステージに改造された戦艦から放たれる光線の破壊の狙いはてんでばらばら。鮮やかな翠であやのステージを盛り上げるステージライトに成り下がる。
●P-3
「……仕切り直しです」
翠の姫が再びサイキックエナジーを消費する。ステージが消失し、宙に投げ出された二人を宇宙船が受け止める。
新たに現れるエメラルド号を、迎え撃つのは吉備。巧みな羽さばきで光線を避けながら距離を詰め、繰り出すのは周辺の時間を鈍重にする重力弾。弾幕に紛れて飛来するのは雉鶏精の羽針。自身の髪の毛に霊力を流し、雉鶏精の羽毛へと転じて放つそれは、こちらも鈍足効果を持つ。
翠の光線が攻撃を迎え撃つ。一部は灼かれ、一部は届く。敢えて次の光線を撃たせながら、吉備はその効力を見定めていた。
(「ものすごく遅らせられるってほどじゃないね。でも、決して効いてないわけじゃない」)
本当に僅かに、プリンセス・エメラルド号の動きが鈍っている。降り注ぐ光の暴力は未だ熾烈を極め、並みの者ならば吉備の力に気づきもしないほどだろう。
(「でも、それでいい。キビは独りで戦っているんじゃないんだから」)
避け損ねた光線が肩を灼く。それでも吉備はプリンセス号を気丈に見据える。
そう、独りじゃない。それは吉備の作った僅かなタイムラグを活かしてくれる猟兵達であり、そして。
ちいさな狛犬がエメラルド目掛け虹色ビームを放つ。狙いを逸らさせるための牽制。眩さにエメラルドが目を細めた瞬間を逃さず、吉備が虹色の雉鶏精の羽を戦艦へと叩き込む。
オリジンが現実改変の力なら、吉備のそれはいわば過去の改竄。『破壊光線の爆発をエメラルドに直撃させた』という過去を、『捻じ込んだ』。
「――!?」
悲鳴を上げる暇もなく、理由すらもわからぬまま、エメラルドは全身を蝕む激痛に苛まれる事になる。
「く、エメラルド号……!」
名を受けた戦砲が一斉に吉備へと放たれる。その圧倒的な暴力に、吉備が後ろに下がるのと入れ替わるように、ひとりの青年がエメラルドに歩み寄ってきた。
「あら、まだ動けたのですね」
一番傷が深かった筈ですが、と女は嗤う。ぼろぼろの正装。燕だ。
時刻ダイヤは狂わせない。時計の針も狂わない。
但しそれら一秒たりとも狂わせぬために東奔西走する時計ウサギ本人には、法定労働時間の概念もない。
社則にそれが刻まれていたとしても、燕はにっこり笑って無視を決め込む。
――働けない自分に意味などない。身を粉にして尽くす以上の幸せなど考えられない。
レディから賜った大切な薬を煽る。
「さあ、此処からは貴方の出番ですよ」
まるでどんな病も解す妙薬のように、飲み下してみせたのは身を蝕む毒。至上の喜びに笑みを深める燕とは裏腹に、現れたる骨兎はがたがたと歯を鳴らし苦痛に泣き喚く。
身を灼く毒。『アリス』が放った光線の傷。嗚呼痛い、痛いいたいイタイ―――!!!
相手に痛みを齎す事だけが自分が痛みから逃れる唯一の術だとでもいうように、骨の兎は呪詛めいた慟哭と共に鎌を振るう。輝石の戦艦を砕き、女を砕き、泣き喚く。
「確かに貴方は不変だ」
静かに燕が告げた。
「星の海を臨むのに、一等相応しい」
――でもね、と付け加える。
「私は思うのです。星ならば煌いて消えていく姿も、美しいのですよ」
――永遠の美の象徴たる宝石も、きっと。
「貴女の道を開いて差し上げましょう」
骨の鎌が振り下ろされる。
その身体に罅が刻まれた直後、骨兎めがけて光線が放たれる。骨の身体が更なる痛みに苛まれる前に、立ちはだかった者があった。機械飛竜で骨兎を庇い、降り立ったのは白銀に蒼奔る機械騎士トリテレイア。
「今度はこちらから仕掛けさせていただきます」
特殊な磁場を戦場に展開、ひいては戦艦へ射出する。それはトレテレイアが纏うSSW軍需工場試作兵装。どんな強力なユーベルコードだろうと、そこには揺らがぬ共通項があり、対抗策がある筈という思想のもとに産み出された妨害力爆発揺器射出ユニット。
共通項――即ち、『どんなものでも無尽蔵に使用できるものではない』。その効果や破壊力を射出し続ければ、いつかは力の源が潰える。プリンセス・エメラルドの場合、サイキックエナジーが。
火器管制へのハッキングで照準を狂わせながら、砲の出力の制御をも解除し、暴走からの自滅を誘う。
「狙いを逸らされるのならば、狙いなど無意味な程の力で焼き払うのみです」
トレテレイアが解き放ったリミット。暴走し崩れ落ちていく戦艦の全てを集約させ、戦場ごと壊滅させんばかりの光が収束する。
「私ならばそれが可能です。自らの読みの甘さを悔いながら逝きなさい」
「読みの甘さ? 私は面白い試みだと思ったがな」
トレテレイアの力を瞬時に見定め、傍に降り立った機械種族がもう一人。
灰色髪に頑丈な身体。テリブルの翳した邪神の肉腕が、今まさに放たれんとする翠の光をそっくり吸収してみせた。だけではなく超常能力そのものを『無かったことにする』力が、戦艦の顕現すらも揺らがせる。
「……なんて事」
エメラルドが目を顰める。力の成り立ちこそ異なれど、現象そのもの、更にいえば世界そのものに干渉するかのような力は、オウガ・オリジンのそれとよく似通っている。
「只の機械種族が、よくそのような力を扱えるものですね」
「苦労したさ」
短く云い返す。実際一部とはいえ邪神を手懐けるのはテリブルでも骨が折れたものだ。随分云う事を聞くようになったな――肉腕を見下ろして呟くテリブルが、視線を上げて翠玉の女を睨む。
「私の知る銀河帝国は滅んだ」
「――それで?」
テリブルのスナイパーライフルが火を噴く。サイキックエナジーを失い、戦艦の制御を失っている女が、ひらりと身を躍らせて躱してみせた。その言葉もその攻撃も瑣末と切り捨てるように。
「それで貴女は? 皇帝の座を奪うわたしを憎んでいるのかしら?」
「まさか」
即座に合成音声が否定する。
信じるものの為に戦いに身を投じてきたテリブルは、その信じてきたものを失った。行く当てもなく彷徨い、眠りについていた機械は、『猟兵である』とされ強制起動された。――かつて帝国を滅ぼした猟兵であると。
「私が身を置いていた帝国は滅んだ。帝国継承はもちろん、この世界を奪わせる事も、認めるわけにはいかない」
本来争いを好まぬテリブルだが、長年稼働し続けている身体は戦う事だけが存在理由だと告げている。
淡々と繰り出された二撃目に、込められたのは吸収したサイキックエナジー。貴石の身体を粉砕する力が女を襲う。
「私も、彼女と全く同意見です」
剣を掲げるトリテレイアの宣言には、言葉以上の意味が込められている。彼もかつては銀河帝国の式典・要人警護機体だった。護る為の意志は、この機体の根幹といってもいい。身を置く場所が変わっても、力を揮う理由はひとつ。
「銀河帝国は滅びました。再建はあってはならないことです」
――この世界も、好きにはさせません。
竜から飛び降りるトレテレイアの手の中で、騎士の剣がきらりと瞬く。
見事な一閃が、女の身体に深い罅を斬り刻み、制御を離れた戦艦は崩れ落ちていく。
大成功
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火土金水・明
「猟書家のプリンセス・エメラルドに変身ですか。こちらも全力を出して戦わないと。」
相手の先制攻撃に対しては、【見切り】【野生の勘】【第六感】【カウンター】の技能を駆使して回避と最初の一撃を試みます。
【SPD】で攻撃です。
攻撃は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡め【限界突破】した【銀の流れ星】で、『『オウガ・オリジン』エメラルド』を【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】【見切り】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでも、ダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。
達磨寺・賢安
・オウガ・オリジン。原初のアリス。確かに、この能力ならあらゆる世界の「フォーミュラに成り代わる」ことができる。ここで止めないと猟書家が散らばるより大変なことになるね。
・先制攻撃は自己強化。なら、「第六感」と「見切り」で初撃をしのごう。可能なら「カウンター」で「体勢を崩す」ことで僕の初手に余裕を持たせる。
・僕は初手からUCを使い、彼女と速さ比べ。的が大きくなるから足への攻撃を積み重ねていけば速度を削ることもできそうだね。相手の攻撃は全て「第六感」で「見切り」回避する!
・それに生命力を共有してるなら乗騎への攻撃=本体への攻撃になる。さあ、僕が消耗するのが早いか、君が膝を突くのが早いか勝負だ!
霑国・永一
ははぁ、自己暗示みたいなものか。どっちみち敵だけども…うーん、偽物の宝石を掴まされるのは、分かっててもやや癪かもだなぁ
先制攻撃は、戦場の宝石で出来た壁やら窪みやらなんでもいいけど障害物になりそうなところを縫いながら逃げつつ、落ちてる石なり拾って顔目掛けて投げるかなぁ。顔を防ぐなりすれば一瞬でも追跡緩むかもだしねぇ
此方の番になったら狂気の使役を使うとしよう。皇帝乗騎が召喚されたものなら、その主導権を盗むまで
ここまでくれば分かるだろう?浜辺で恋人達がやる追いかけっこさぁ
ほーら、待て待て~。皇帝乗騎で1カラットのエメラルドに粉砕だよ~(笑)
隙あらば侵略蔵書を盗み攻撃で盗むかなぁ。戦場の宝石も土産に
鷲生・嵯泉
【紫電逸戦】呼称:魔術師
さて名目だけなら大将首だろうが……
では設えるとしよう。魔術師の独壇場と云う舞台をな
――伐斬鎧征、血符にて宿れ
……其の辺りはお互い様だ、目を瞑ろう
五感総てで得られる情報と第六感を以て攻撃起点と向きを先読み見切る
衝撃波をカウンターで当て、武器受けにて弾き落として後ろへは通さない
致命傷さえ防げれば後は構わん
余所見をする隙なぞ与えん、絶えず斬撃を加えて注意を引き続ける
お前程度で皇帝に成りあがろうなど、笑わせてくれる
彼の皇帝は『己独り』で敵前に立ち――潰えたぞ
――気付くのが遅い、愚か者
鳥が片羽根を失えば墜ちるが道理……共有した時点でお前の負けだ
其の残骸と共に骸の海へと墜ちるがいい
ヴィクティム・ウィンターミュート
【紫電逸戦】
さーて、オウガ・オリジンが相手だ
一応、大将首になるのかね
…ま、今回は多分イージーだ
"俺を相手にテクノロジーを引っ提げてきた"んだからな
──乗ったな
自己のニューロンを【ハッキング】、サイバネオーバーロード
奥歯のコンバット・ドラッグを噛み潰して【ドーピング】
強化された知覚と反射で初撃に備え、回避できるようにしておく
──始めるぞ
演算強化、限界突破。ヴィークルにアクセス
嵯泉、引き付けるのは任せる!
生命は削るが見逃せよな!!
生命力の共有、そいつは素晴らしいな
『ヴィークルを壊せば』、お前も終わりってわけだ
多重クラック、ヴィークルのコアを焼き切る
Arseneは戦艦だって掌握できるんだぜ
余裕さ
●S-1
――自慢の戦艦が鎮圧されていくのを、女は只眺めていたわけではない。
「では、今こそ解き放ちましょう。私の侵略蔵書、『帝国継承規約』を」
不変である事が、銀河皇帝の座に就く者の唯一の視覚。徹底的にシンプルで、だからこそ困難な条件。
条件を満たしたプリンセス・エメラルドを護るように、『皇帝乗騎』が召喚される。一言で云うのならば、エメラルドで作られたオープンスポーツカーといった様相。とびきり上等なエンジンが唸り、ハンドルを握るエメラルドと生命力を分かち合いながら驀進する。
「ははぁ、自己暗示みたいなものか」
眼鏡の奥の金瞳が、冷徹な光を讃えている。霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)が納得したように呟いた。改変した現実は、精神までをも成り代わる。敵を欺くには味方ならぬ自分から――というわけでは、ないのだろうが。
「どっちみち敵だけども……うーん、偽物の宝石を掴まされるのは、分かっててもやや癪かもだなぁ」
永一がもし宝石を手にするのならば、あくせく働いて得た金をこつこつ貯めて支払うような回りくどい真似はしないわけだが。それでも『盗む』のだって、他人が思っているほど手っ取り早くはないのだ。準備が要るし、技術も居る。それらすべてが無駄になれば、やはり気持ちの良いものではない。
戦場の壁や窪み、車輛の進むには障害物となる地点を見極め、縫うように逃げていく。そのどれもがエメラルドで、ぎらぎら瞬いている。中の不純物さえくっきり透けて見える透明さ、色の濃さ。
そのうちのひとつ、掌サイズほどもある『石』を拾って投げつけてやった。貌を狙った一撃はすぐさま女の手に弾かれるが、ほんの少しの隙が永一の追跡を困難とする。
「猟書家のプリンセス・エメラルドに変身ですか。こちらも全力を出して戦わないと」
代わりに、狙われたのは豊かな黒髪をポニーテールにした魔法使い、火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)。
黒い蠱惑的なローブに、魔法使いがよく身に纏っているような鍔広帽子。箒まで携えた正統派魔女は、”荒廃の魔王”アゼル=イヴリスの落とし子を自称する。
「私の魔法がどこまで通用するか、試させて頂きます」
箒が宙で軌道を変える。急発進からの体当たりを、戦場で培った力量と勘を動員して躱す。猟兵の中でもトップレベルの力量を誇る明の回避術。続いて漆黒のマントがはためき、明の周りに白銀の剣が顕現する。
「オウガ・オリジン。原初のアリス……。確かにこの能力なら、あらゆる世界の『フォーミュラに成り代わる』ことができる」
誠実さを讃えた涼やかなかんばせ。達磨寺・賢安(象の悪魔・f28515)が低く呟いた。
「ここで止めないと猟書家が散らばるより大変なことになるね」
ただでさえ、オリジンを討ち漏らす事は一つの世界の終焉を意味する。帰れぬ理由があるとはいえ寺で生まれ育ち、その教えを受けて生きてきた賢安にしてみれば、オウガ・オリジン=エメラルドの悪魔のようなその所業は食い止めなければならない。
(「――悪魔、か」)
零す笑みに自嘲が混じるのは止められなかった。
皮肉なものだ。悪を討つ賢安の力、その本性は、まさしく異端とされたギリメカラ――象の悪魔そのものなのに。
差し迫る車体を大きく跳んで躱す。ぱちり、と鳴らした指は、賢安の裡に眠る力を呼び覚ます。
「速さ比べと参りましょう。僕についてこられますか?」
「戯言を」
猛然と奔り出す賢安は、一瞬でトップスピードに達する。エンジン音がそれに追随する。
車体からのタックルを躱した隙を狙い、低く体勢を屈めて蹴りを放つ。タイヤを穿たれた車体が大きくよろめいた。的が大きく重たくなった以上、合気道の中でも基本となる投げ技や固め技で組み敷くことは出来ないが、それでも基本は変わらない。「小よく大を制する」という格言と、防御・反撃を狙う形。
人間の中ではすらりと背が高い方である賢安も、オブリビオンが相手となれば自分よりはるかに大きい者を相手どる事も珍しくない。修羅の群れをを渡り歩いてきた賢安だ。忌まわしき象の力を解放せずとも、出来る事はある。
「くっ」
『脚』を打たれたエメラルドが低く呻く。生命力を共有する車体を傷付けられ、女の脚にもまた亀裂が走っていた。
「さあ、僕が消耗するのが早いか、君が斃れるのが早いか勝負だ!」
「ええ、ええ。良いでしょう。轢き潰して差し上げます」
賢安目掛け猛進しようとしたエメラルドの車体が、流星の如く降り注ぐ銀の剣に阻まれる。
「私を忘れないでくださいね」
余裕たっぷりウィンクひとつ、明の手の中に再び編み出される奔星がふたつ。
ひときわ高く、ヴィークルが吼える。流星が繰り出されるよりも前に、そのまま明ごと吹き飛ばしてしまおうとする。――直撃を受けた明の身体が、霞のように揺らいで消えた。
「ッ!?」
「――残念、それは残像です」
今宵も綺麗にハマった作戦にキメ台詞。本物の明は、とっくにエメラルドの後方に回っている。
至近距離から放たれる流星が、エメラルドに降り注ぐ。
「ぐ、はッ……!」
剣に刺し抜かれて尚、女の眸に宿る闘志と野望の光は潰えていなかった。明も特に落胆は浮かべなかった。自分ひとりで斃せる相手だとは、最初から思っていない。
「少しでも、ダメージを与えて次の方に。私の役目は、それでいいのです」
「ではそれは、僕が継ごうか」
賢安の攻撃で車体が、明の攻撃で本体が。
弱ったところでここぞとばかり、行使されるは永一の『狂気の使役』。鮮やかに掠め取った主導権。車体は女を放り出し、永一の手には侵略蔵書が握られている。
「……卑怯者」
「随分と人間じみた事を云うんだね。なら、次のシチュエーションも分かってくれるかな?」
――ヴィークルが発進する。エメラルドめがけて。
「浜辺で恋人達がやる追いかけっこさぁ。ほーら、待て待て~」
本当に海辺のドライブでも楽しんでいるかのようなあっけらかんとした声音で、永一は巧みにハンドルを捌いてみせる。
「資格なき貴方が、皇帝乗騎を操るなど!」
「不満なら逃げ切ってごらんよ。逃げ切らないと1カラットのエメラルドに粉砕だよ~」
丸腰の女をヴィークルが撥ね飛ばす。元よりエメラルドは割れやすい。明たちが刻んだ罅も相俟って、その膚がぱきりと一気に砕け散る。
「あ、ああああァア……!」
「……君たちも要る?」
おおきな欠片のひとつを拾い上げながら、永一がにこりと無害そうな笑顔を浮かべた。
「いや、僕は」
首を振る賢安の傍で、魔法の触媒に使えないだろうかと明が思案を巡らせていた。
●S-2
然し女が――『プリンセス・エメラルド』と名乗るその女が生きている限り、侵略蔵書「帝国継承規約」は何度でもその手に舞い戻る。
今は身も心もエメラルドになっているとはいえ、元はオウガ・オリジン。この程度の小規模な『現実改変』ならばこの姿のままでも可能という事か。
それを阻まんと、現れたる男は二人。
「さて名目だけなら大将首だろうが……」
柘榴めいた昏い赤の眸はひとつ。片方の眼窩を眼帯で覆う青年、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が吐露すれば。
「一応はそうなるんだろうな」
改造済みのゴーグルを携えた青年、ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)がひとまず同調しつつも、続く言葉は。
「……ま、今回は多分イージーだ。“俺を相手にテクノロジーを引っ提げてきた”んだからな」
「ふむ」
異論はないとばかり、嵯泉は頷いた。
「では設えるとしよう。魔術師の独壇場と云う舞台をな」
「作戦会議はお仕舞いですか?」
見せつけるように侵略蔵書「帝国継承規約」を紐解いてみせながら、女が笑う。顕現する『皇帝乗騎』に乗り込んだ直後、猛然と突っ込んでくる。
「――乗ったな」
ヴィクティムの口ぶりは、既に勝利を確信したそれだった。日頃から自信家めかせて振る舞うヴィクティムだが、今日は何時もに増してその傾向がある。
電脳の魔術師は、その真骨頂を発揮するかのように自己のニューロンをも『ハッキング』、サイバネオーバーロードを引き起こしていく。畳みかけるように奥歯のコンバット・ドラッグを噛み潰せば、超常めいた感覚が己を包んでいくのがわかる。
相手の髪の毛一本一本の動きさえ知覚できるほどの鋭敏さ。その反動に構っている暇は、今のヴィクティムには――いや、死にたがりの男には、金輪際存在しない。
「嵯泉、引き付けるのは任せる! 生命は削るが見逃せよな!!」
「……其の辺りはお互い様だ、目を瞑ろう」
黒々と塗りつぶせた紙片たちに、吸わせるように血を与えてやり乍ら――許容量を超えて滴り落ちる前に、それを一斉に『燃やす』。
「――伐斬鎧征、血符にて宿れ」
どんなユーベルコードにさえ太刀打ちできる可能性を秘めた嵯泉の力もまた、自らの命を燃やすように行使されるもの。
命をくべて齎された力を、戦場で培われた感覚を、全て研ぎ澄ませて嵯泉は初撃を凌ぐ。避けるのではなく、敢えて向かい合い、最も的確なタイミングと角度から衝撃波を叩き込む。
「――ッ!!」
真っ向から食らい、制御を狂わされた乗騎が大きく旋回していく。エメラルドの憎々しげに歪ませた視線と嵯泉の視線が交錯した。
無論、次期皇帝となりうる力を秘めたエメラルドの愛機、その衝撃すべてを往なす事などできはしない。肩に焼けるような痛みが走るのを嵯泉は自覚した。
――だがそれが何だという。致命傷さえ防げれば、後は構わん。
すぐさま襲い掛かって来る巨大な鉄の塊に、嵯泉もまた向き直っていく。余所見をさせる暇など与えない。
特にその矛先がヴィクティムに向かう気配を感知すれば、文字通り身も顧みずその間に割入り、斬撃を見舞ってやった。
「かの魔術師を屠りたいのであれば、私を斃してからにするのだな」
「随分と仲間想いですこと。猟兵というのは群れなければ戦えないのかしら?」
「お前も同じだろう」
――ぴくり、とエメラルドの頬が引き攣った。
「何の事かしら?」
「猟書家が一斉に束になり、この世界に混乱を齎さなければ、侵攻さえも叶わなかった。今だってその機械に身を守らせている。お前程度で皇帝に成りあがろうなど、笑わせてくれる」
――彼の皇帝は『己独り』で敵前に立ち――潰えたぞ。
「……ふん」
エメラルドの透き通るかんばせから、笑顔が消えた。次の驀進は、殺意がそのまま具現化したように鋭く、嵯泉の身体を吹き飛ばした。
地面に投げ出される嵯泉を一瞥し、女王はもう一人へと乗騎を発進させようとする。その巨体が……ぷすん、とまるでエンストのような音と共に、止まる。
「何?」
「悪いな嵯泉、少し手こずっちまった」
「いや、いつも通りの鮮やかな手腕だったぞ、魔術師よ」
ヴィクティムがそう呼ばれる所以。極限まで研ぎ澄ませたニューロンにハッキング出来ないものなど存在しない。たとえそれが非電脳接続者の脳だろうが、唯一の皇帝の愛機だろうが。
「生命力の共有、そいつは素晴らしいな」
狼狽するエメラルドへ、ヴィクティムは最初に浮かべた笑みを改めて向ける。
「おやおや、聡明な『銀河皇帝サマ』はまだ気づいてないのか? 一心同体ってことは『ヴィークルを壊せば』、お前も終わりって訳だ」
「……待ッ……」
「……つわけないだろ」
――じゅ、といやに静かな音がした。ヴィークルのコアが焼き切れた音。
「『Arsene』は戦艦だって掌握できるんだぜ。余裕さ」
「――愚か者め」
嵯泉が静かに、地に斃れ伏す女を見下ろした。
「鳥が片羽根を失えば墜ちるが道理……共有した時点でお前の負けだ」
「聞こえてないみたいだぜ、嵯泉」
こつん、と翠玉の腕を蹴り、ヴィクティムが云った。
「ああ、そのようだな――」
ならばせめて。
其の残骸と共に骸の海へと墜ちるがいい。
成功
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ネーヴェ・ノアイユ
力を奪われたかと思えば今度は猟書家様の力を拝借とは……。私達『アリス』のはじまりはなんとも慌ただしい……。ですね。
姿を消すそのUC。確か物音や体温は消せないのでしたよね。
UCにて足元が雪原となっている氷の結界を展開することで……。エメラルド様が雪を踏む足音。また、結界内にて微量でも温度の変化が起きている場所などを探り当てていきます。
姿を消しているオリジン様の場所が特定でき次第リボンにて魔力溜めしていた魔力にて全力魔法で巨大な氷塊を作り出し……。次はオリジン様へと直撃させますね。
そういえば……。改変はオリジン様の得意分野でしたね。ですが……。此度は私が改変した世界にてお付き合いいただきます……!
夜霞・刃櫻
【アドリブ・連係歓迎】WIZ
やべぇーっす!?
これホントに三下の出る幕でやんすか!?
しょうがないからやるでやんすけど!
先制攻撃対策はUC【夜霞の爆窃】で召喚した幽霊蒸気機関車に搭乗して突撃することで、あえて幽霊蒸気機関車を透明にさせます
消させた後は無数の爆窃団の幽霊と共に『グレネード・ランチャー』『ナパーム・ランチャー』等の重火器を乱射し「爆撃」「焼却」「継続ダメージ」でひたすら燃やします
「時間稼ぎ」にもなり、他の味方と協力して仕留めてもらう
良い一撃が入ったらキメ顔をキメる
キメた後は「逃げ足」で即座に撤退!また「味方を盾にする」のも忘れない
失敗したら謝ってる暇あるんすかね?
日下部・舞
縹君(f25937)と参加
「前は任せて」
縹君は攻撃に専念してくれればいい
相手が透明化してくるのなら
【影時間】で私たちも姿を消せば条件は同じ
いいえ、私の【妖精眼】はあらゆる不可思議を見逃さない
さらに敵の音と気配の察知に五感を研ぎ澄ます
こちらも【目立たない】ように注意
攻撃は【夜帷】で受けて【怪力】で弾き返す
最悪でも縹君を【かばう】
ダメージは【肌】の機能で痛覚を遮断
「大丈夫。問題ない」
手で彼を制す
七星剣が降り注げば、敵はそこにいる
夜帷を振るい敵を斬り裂く
攻撃しつつもう一体の敵に警戒
ダメージと疲労が私を蝕む
でも、まだ戦える
【継戦能力】を発揮して縹君を守り抜く
オリジナルだからとレプリカに勝るとは限らない
縹・朔朗
日下部さん(f25907)と
初めて赴く迷宮災厄戦
翠玉の君に目が奪われる
美しい。
彼女の言葉にはっとする
…いけない
此処は戦いの場
集中しなければ
「承知。援護は私が」
先制攻撃への対処は
音や熱に細心の注意を払って
【第六感】が相手の隙を見つければ
カウンターで【なぎ払い】攻撃を当てます
UCを発動
――裁きの光です。
相手の動きを止めれさえすれば
後は彼女が。
私も後方から【衝撃波】で応戦
彼女の疲労に気付く
ここからは出来るだけ
前衛を彼女に任せきりにしないように
女性に守られるほど柔な男ではありませんから
サギリ・スズノネ
ミルラお姉さんと!(f01082)
お姉さん!お姉さん!
あちらがプリンセスに成り代わるなら、こちらも負けていられないのです!
火ノ神楽で炎の鈴をたくさん召喚
相手の攻撃を『見切り』、『第六感』も駆使し攻撃方向を推測
そちらの方並べて盾みたいに重ねます
敵の攻撃を炎の盾で『盾受け』して防ぐのです!
何とか攻撃を凌ぐことができたら反撃なのです!
「ゴージャス★エンプレス」を名乗って、ミルラお姉さんとびしっとポーズ!
オーッホッホッホと高笑いで張り合って
残った炎の鈴をバラバラに動かし『残像』を見せつつぶつけます
硬そうな体ですけれど、何度も攻撃をぶつけたらひび割れたりするかも
それが出来たら、そこを狙って行くのですよ!
ミルラ・フラン
サギリ(f14676)と!
ここは女同士の戦い、そう、マウント合戦だ!
(ここでキメ顔の2人に集中線バァーン)
透明とは厄介な
サギリ、あたしの後ろにおいで
こちとらには女の武器、ヒソヒソ話を聞き逃さない地獄耳と、女の勘があんのさ
聞き耳と第六感で察知した方へ、棘付き鎖鉄球にしたSignorina Torturaで攻撃
ゴージャス★エンプレスを名乗るサギリに続けて
「そしてファビュラス★クイーン。こっちが格上だ。平伏せプリンセス!」
(2人で高笑い)
マウントしつつ魔力溜め
La Tempesta di Rosaを放ち、神罰を乗せた花弁で蹂躙
ふっ、今回も美しい姉妹が活躍してしまったね
(ここで2人にスポットライト)
パウル・ブラフマン
▼先制対策
透明になれるって
ヘェ…現在のSSWから来たオレとGlanzに
そんな旧式手段が通じると想ってんの?超ウケる☆
行くよ、Glanz―サーモグラフィモード!
半径100m圏内であれば
物体の熱量や形状、軌道が把握できるよ。
【第六感】を研ぎ澄ませ
敵の接近の際の大気の流れを【見切り】、攻撃を躱したい。
▼反撃
Krakeからペイント弾を射出して
皆が狙いやすいよう、オリジンを被弾時に着色したい。
敵が激昂してドデカい一撃を仕掛けて来たら―…UC発動!
パクった技を更にパクられて浴びる気分はどう?
オレは最悪だね、とっとと失せなァ!
同戦場の猟兵さんの【援護射撃】は積極的に行いたいな。
Glanzの同乗も大歓迎だよ♪
●W-1
「良いでしょう、猟兵よ。あくまで私の目的を拒むというのなら、今ここで消し去って差し上げます」
体中から宝石屑を撒き散らしながら、女が吼える。
更に、クリスタリアンの最長老と名乗る『プリンセス・エメラルド』としての力も行使する。クリスタリアンが本来持ち合わせる力を更に高めて用いる事が出来る力を。
翠に光り輝く身体が透き通り、やがて見えなくなる。それに伴い、彼女のヴィークルもまた消えてゆく。
それは透明化の力。エメラルドの敵に危害を与えるものならば、共にその恩恵を受ける。
更には愛機を自動操縦に切り替えて、女は身を潜める。視えざる身体の最大限の利用方法。
●
「や、やべぇーっす!? これホントに三下の出る幕でやんすか!?」
乳白色の身体をパンクミュージシャンのような黒衣に包んだ霞の怪奇人間、夜霞・刃櫻(虚ろい易い兇刃・f28223)が慌てふためく。ユニセックスな服装と合わせて『三下』との自称に違わぬその口調は、刃櫻の性別をそれこそ霞のようにあやふやな印象にする。
「しょうがないからやるでやんすけど!」
オブリビオンさえ殺めれば己の不安定さも少しは和らぐ。楽しく生き抜くのがモットーの刃櫻だから、その相手は何も強敵でなくとも良いのだけれども。来てしまったのだから仕方ない。ロックンローラーに二言は無い。
「力を奪われたかと思えば、今度は猟書家様の力を拝借とは……」
大きなリボンに、氷のように透き通った白い髪と青い眸。服にも氷や雪をあしらった少女、ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)がぽつりと漏らす。
「私達『アリス』のはじまりは何とも慌ただしい……。ですね」
この地に呼ばれたアリスの例に漏れず、ネーヴェも過去の記憶を失っている。未だ自分だけの扉を見つけられぬまま、ともすれば世界ごと崩壊させられそうなこの状況。
「透明になれるって?」
刃櫻に敗けず劣らず陽気な聲。隻眼の運転手パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)は、愛機Glanzに跨ったまま、へェと含みのある笑みを浮かべてみせた。
「現在のSSWから来たオレとGlanzにそんな旧式手段が通じると想ってんの? 超ウケる☆」
流石『はじまりのオウガ』が『最長老』とやらに成り代わっただけのことはある。知識のアップデートが全然出来ていない。アリスラビリンスではちょっとした奇跡でも、魔法の代わりに文明が発達した宇宙世界では珍しくもなんともないのだ。
エメラルドの車輛が迫る気配に、刃櫻が同じく『車輛』を召喚する。但しこちらは幽霊たちが乗る蒸気機関車。しかも『幽霊機関車』というフレーズから連想されるものよりはかなり刃櫻の趣向に寄っている。幽霊たちが携えるのは荒々しい銃火器の数々。爆窃団もかくやである。
「そっちが透明化なら、こっちも透明化でやんすよ!」
搭乗した機関車と一緒に透明になりながら、刃櫻が叫ぶ。夜霞の爆窃が付け狙うは誰も見たことのないほど巨大なエメラルド。なるほどなかなか粋でやんすね、透明になっちまってるっすけど。
「エメラルド様のユーベルコードは、確か物音や体温は消せないのでしたよね」
戦場を暴れ回る車輛も透明化しているが、その利点を生かせぬほどにエンジン音をふかしている。わざとなのだろう、とネーヴェは踏んだ。そちらを派手に暴れ回らせる事で、本体の物音をより掻き消しているのだ。
「そうそう。……あ、ひょっとしてネーヴェちゃんって」
ネーヴェの衣服を見下ろし、彩を添える雪や氷を指して見せるパウル。
「はい。私の力、お役に立てるでしょうか?」
「ちょー助かるよ☆ 良かったら後ろ乗っていって」
攻撃が来ても護ってあげられるし、とGlanzの後部座席を指で示す。礼を述べ、座席についたネーヴェが力を解き放つ。
「そういえば……。改変はオリジン様の得意分野でしたね。ですが……此度は私が改変した世界にてお付き合いいただきます……!」
巨大な氷の塊が繰り出される。地面に落下した途端、戦場を覆い尽くす氷の結界を展開する。
「いいっすねえ! タイヤ跡が丸見えでやんす」
無敵の爆窃団が、暴走する車輛を撃ち抜いていく。グレネードランチャーにナパームランチャー。ありとあらゆる銃火器たちがひたすら辺りを燃やし尽くしても、氷の結界はすぐにその上に降り積もる。
しかし位置の判別がつきやすくなったのはあちらも同じ。ギュイン、とエメラルドの車輛が急カーブ。フェイントかけた動きで刃櫻に突き進む。
「うわわわわ、ご勘弁を!」
直撃したら刃櫻も車外に投げ出されかねない体当たりは、咄嗟に投げ飛ばした味方幽霊がクッションになってくれた。――なってくれたのだ。尊い犠牲なのだ。決して味方を盾にしたわけでは……うん。
「さて、行くよ、Glanz――サーモグラフィモード!」
派手に暴れ回る刃櫻たちが時間を稼いでくれているころ、ネーヴェを乗せたGlanzは戦場を駆けまわりながらエメラルドの所在をあぶりだす技術を解き放つ。宝石質の身体は普通の生物よりは冷たいかもしれないが、それでも本物の宝石の如く冴えきっているわけでもあるまい。
幽霊蒸気機関車とヴィークルに紛れる人型が浮かび上がり、パウルが笑みを深める。パウルの視線を追ったネーヴェも、その真下にぽつりぽつりと浮かぶ足跡に気がついたようだ。ヴィークルの作り出した轍を踏み、その足跡の判別を避けているようだが、眼を凝らせば判別は難しくない。更に。
「オレらに見つかったからには、今更逃げても無駄だよ☆」
パウルの触手から伸びる砲台。そこから発射されたペイント弾が、エメラルドの膚に付着し、その所在を誰の眼にもあらわにする。
「……くっ! ヴィークル!」
万能と信じた透明化を失い、最後の砦である乗騎へと命ずる。モンスターバイクGlanzですら撥ね飛ばせる巨体が迫る気配を察知しても、パウルは逃げもせず正面から迎え撃つ。
「行くよ――UC発動!!」
負の感情すら奪い去る悪魔との共鳴。二人を乗せたGlanzが『侵略蔵書』の力を借り受け、透徹な翠の光を放つ皇帝乗騎へと変貌する。
「っ……!」
「パクった技を更にパクられて浴びる気分はどう?」
パウルの内部を侵食する共鳴は、己を最も尊いと自負し、敬わぬ者どもに憤慨するオウガ・オリジンのものか。力を奪われ、奪い返すが如くその姿と力を模倣して――そして今、哀れにも一人の猟兵の手に渡る。
「オレは最悪だね……とっとと失せなァ!!」
遠い遠い過去。作られた命は、その能力を只酷使され続けてきた。確率をはじき出す力は他者から奪う為に利用され、後にパウルと呼ばれる事になる生命体も、それを自覚することもないままに様々なものを奪われ続けてきた。
蜂起される負の感情が爆発してしまわないように。代わりに炸裂させたのは、乗騎を驀進させての体当たり。
続けてネーヴェが頭のリボンに溜め続けた魔力を放出する。編み出された巨大な氷塊を、エメラルドに向けて落下させた。
(「エメラルド様……いえ、オリジン様。私も絶望に呑まれてしまえば、あなたのようになってしまったのかしら?」)
記憶なきアリスは心の奥底で問いかける。はじまりのアリスに。はじまりのオウガに。
たまたまネーヴェはアリスの中でも猟兵と呼ぶに値する力を得、日々を語り合う人々に巡り合う機会にも恵まれた。ひとりぼっちで異世界に召喚され、唯一の怪物に至るまでの絶望とは、如何程のものか。
(「いえ、今は……。この世界のために、集中しましょう」)
刃櫻がネーヴェに目配せし、にやりと笑う。氷塊が見えざる何かを押しつぶし、続く無数の銃声たちがそれを蜂の巣にした。
「あはははは、ざまーみろっすー!!」
甲高く笑いながら、キメ顔と共にさっさと退散する刃櫻なのだった。
●W-2
「お姉さん! お姉さん! あちらがプリンセスに成り代わるなら、こちらも負けていられないのです!」
本坪鈴のヤドリガミ、サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう・f14676)がぴょこぴょこ跳ねれば、簪の鈴もりんと揺れる。
「わかっているとも、サギリ」
蠱惑的な赤髪の女性、ミルラ・フラン(Bombshell Rose・f01082)が大きく頷く。
「さすがなのです、お姉さん!」
「ここは女同士の戦い、そう――……」
びしいッとその『プリンセス』ことエメラルドを指差す。
「マウント合戦だ
!!!!!!」
「なのです
!!!!!!!」
ここぞとばかりのキメ顔。二人の美貌を強調する集中線がバァーンと炸裂するのが確かに見えた。
「あら、マウントだなんて」
うふふ、とプリンセスは余裕の笑み。
「私がプリンセスなのは、自慢ではなく事実です。事実を述べているだけでマウントと取られるなんて、受け取る方が下民なのではないかしら」
流れるようにマウントしてきやがったこいつ。
「ふっ、そう云っていられるのも今のうちさ……って」
ミルラが全てを云い終わらないうちに、プリンセスの身体はすうっと透き通っていく。
「透明とは厄介な」
「云い逃げなのです」
「逃がすもんか。サギリ、あたしの後ろにおいで」
「はいなのです!」
ミルラの背に庇われながら、サギリは鈴を模る金色の炎を無数に浮かべる。
「こちとらには女の武器がある。舐めないでもらいたいもんだね」
――女の武器。それすなわちヒソヒソ話を聞き逃さない地獄耳と、女の勘。言葉では表現しきれない、第六感といってもいい感覚。エメラルドもプリンセスというからにはそれが無いとは云いきれないが、何せこちらは二人いる。
微かなエンジン音。目配せし合った二人は直後、それぞれ前と後ろに跳ぶ。視えざる『自動操縦の乗騎』が後ろに跳んだサギリめがけて突進するが、幾重にも重ねた炎が障壁となりそれを受け止めてみせた。
そしてミルラは既に、別の場所に潜んでいる女目掛けて肉薄していた。Signorina Tortura――ミルラの意志によって姿を変える拷問道具が模るのは棘付き鎖鉄球。虚空に向けて放ったようにしか見えない一撃が、確かに何かをしたたかに打った。くぐもった音が漏れ、プリンセスが姿を現す。
「くっ、私を見切るなどと……」
再びその姿が掻き消えてしまう前に、サギリの『炎』が続く。縦横無尽に空を翔け巡る炎の鈴たちを見切る事は叶わず、残像めいた動きに惑わされているうちにプリンセスは次々とその一撃に見舞われる事になる。
「プリンセス? 笑っちゃうのです。かた……?? あれ、ええと」
「片腹」
「そう、片腹痛いのです!」
炎の幾つかを自分の背後に回し、逆光気味のシチュエーションを創り出しながら、サギリは華麗にポーズを決める。
「サギリ……じゃなかった、わたくしは『ゴージャス★エンプレス』」
「そしてあたしが『ファビュラス★クイーン』」
バーン!!! 金の鈴が炸裂し、華やかさを一層際立たせる演出が入る。
「わたくしを差し置いて姫ごときが宇宙の覇者を名乗るなど、あってはならないことなのです!」
「そうだとも。こっちが格上だ。平伏せプリンセス!」
オーッホッホッホッ!! と二人の高笑いがこだまする。
「誰が平伏すものですか」
コケにされたプリンセスが歯噛みした。
「少し豪華なだけの只の女帝や女王ではありませんか。私が銀河を統べる者となるのです」
「そうかい。それならばあたし達を斃してみるがいい。まあ繊細なプリンセスさんは、可愛いお部屋で宝石箱でも眺めているのがお似合いだと思うけどね」
――ぷっちんとプリンセスの堪忍袋の緒が切れる音を、ミルラもサギリも確かに聞いた。
「調子に乗るのではありませんよ
!!!!!!」
操る凶器は最早不可視でも何でもない。やすやす避けた二人はそれぞれの武器を放つ。サギリは金の炎を繰り返し繰り返しぶつけ、そしてミルラは。
「お姉さ……ファビュラス★クイーン! あそこなのです!」
「おうとも、ゴージャス★エンプレス」
拷問道具がまた形を変えていく。深緋の薔薇の花弁が撒きあがり、神罰を乗せた嵐となって吹きあがる。狙うのはサギリの炎が繰り返し熱と衝撃を与えた事によって刻まれた、腹部の罅。どんなに硬い宝石でも、硬いからこそ繰り返しの衝撃に脆いという事もある。ましてやエメラルドという石は内包物を含む関係上、実際の硬さよりも割れやすいものなのだ。
薔薇の花弁が鋭利な刃物のように罅を抉り、更なる衝撃を与えていく。とうとうひときわ大きな音と共に、プリンセスの身体が大きく『欠けた』。
「あああああ……ッ!」
痛みにのたうち回る姫をさしおいて、スポットライトは勝者の二人へ。
「ふっ、今回も美しい姉妹が活躍してしまったね」
「美しさは罪なのです……」
ライトに照らされながら、姉妹は戦場を後にしていくのだった――。
●W-3
――初めて赴く迷宮災厄戦。
翠玉の名を冠す姫の玲瓏たる輝きを、縹・朔朗(瑠璃揚羽・f25937)も話には聞いて居たけれど。
実際に目にした彼女は、その何倍にも。
(「……美しい」)
人も妖も惹きつける整った容姿とは裏腹に、甘い言葉も黄色い歓声も、策の外に押しやりがちな朔朗だけれど。
生命の範疇を超えたつくりものめいた美貌に、つい目を奪われてしまう。
「前は任せて」
朔朗の横を通り、追い越しながら、日下部・舞(BansheeII・f25907)が短く告げた。頭の天辺からつま先まで、黒で統一した女性。こちらは紛れもなく皮膚や骨格、臓器にはたまた神経のひとつまで、極限目指して作り上げられた精巧なドール。地味な服装からも隠し切れない美貌とスタイルだけが、彼女の出自を匂わせている。
舞の聲に、ようやくはっと我に返った朔朗は頷いた。
「承知。援護は私が」
そうだ、此処は戦いの場。集中しなければ。
「『「帝国継承規約』に乗っ取り、私は次代の銀河皇帝となるのです。二度も阻まれる道理はありません」
エメラルドの身体が透き通っていく。同時に、彼女の武器たる『皇帝乗騎』――自立し動く車輛もまた、その範疇。
「相手が透明化してくるのならば、こちらも姿を消せば条件は同じ」
影は影に。舞の力が、舞と朔朗の姿を掻き消していく。
互いに目視が叶わぬならば、あとは他の感覚全てを使って見定めるのみ。耳を研ぎ澄ませた朔朗が横に跳んだ直後、空気を劈くような風が過ぎ去っていった。
同時に舞もあらゆる不可思議を見定める妖精眼で、戦場をくまなく見渡している。向かって来る重い暴力を、片刃の長剣が受け止め、流す。肌の機能で痛覚を遮断してみせながら、自己にかかった負傷を冷静に見定めた。
よろめく車体に、朔朗も追い打ちをかける。――グランシャリオ。ひとたびその射程に捉えられれば、降り注ぐは動きを封じてからの不可避の光。ななつ星から降り注ぐ、裁きの閃光。
「舞さ……」
今です、と聲をかけようとした朔朗が息を呑む。夜帷を振り続ける負荷。透明化を酷使し続ける負荷。そのどちらもが舞の身体を蝕んでいる。涼しい貌で立ち続けてみせる舞の微かな動きから、それを悟ってしまった。
しかし舞は、黒剣を振り抜いた。高い金属音が響き、車体がばらばらに崩れる音と、姿を隠した女がどこかで息を呑む気配が伝わってくる。おおよその方角に見当がついた。そちらに油断なく注意を払いながら、朔朗は視界の隅で舞の様子を伺う。
「まだ値を上げる程ではないわ」
透徹な聲に、滲む疲労。それでも根を上げる事なく舞は云った。
「後は本体だけです」
「見当はついているんでしょう? 縹君」
なら何の問題もないと、笑みが返ってきた。
「ええ。日下部さんの負担とならぬよう、早めに決着をつけましょう」
私も前に出ますよ、と朔朗。女性に守られるほど柔な男ではありませんから、と。
クスリと舞が笑んだ直後、二人はばらばらの方向に駆けだした。
無敵のプリンセス・エメラルド号を繰り出せるほどのサイキックエナジーは最早無く、となれば皇帝の象徴たる皇帝乗騎のみ。二人の力がそれより勝ると知りながら、エメラルドはそれを再び行使するしかない。
だが、朔朗と舞は、それすらも許さない。
再び皇帝乗騎が現れ場を搔き乱すよりも早く、朔朗が手に携えた氷輪を振り翳す。後ろに跳んで躱したプリンセス・エメラルドだったが。
「! しまっ……」
幾度も幾度も疵を刻まれた脚が、とうとう崩壊した。体重を支えるものを失い転げまわるエメラルドを、七星剣の裁きが捉える。
絶叫。地面に何かが落ちる音がした。エメラルドの一部にしては乾いた音。きっとそれは、彼女の新たなる力、侵略蔵書であった事だろう。それも光に焼かれていく。
「く、この程度で――私を止められると……!」
「いいえ、貴方は止まるのよ」
――黒剣の一閃。数瞬の静寂の直後、ごとり、と頸の墜ちる音がした。
「オリジナルだからと、レプリカに勝るとは限らない」
オウガ・オリジンとプリンセス・エメラルドの関係も。
『はじまりのアリス』と、それに続く猟兵の『アリス』達も。
●
――透明化の術はエメラルドの死によって解けた。
翠玉の身体が粉々に砕け、きらきらと瞬いて消えていくさまを、戦場に残る全ての猟兵が見届けた。
ああ、アリス、と誰かが呟いた。
――お別れですね。
●Epilogue
「ああ骨兎、もう泣かなくても良いんですよ」
その人は、未だ身体を震わす骨兎を、優しく宥めるように云った。
「私たちのお仕事も終わりですね」
ある者は静かに、ある者はこの戦争に更なる情熱を持って。各々の想いを抱いて帰還していく。
『オウガ・オリジン・エメラルド』を骸の海に送り返す事は成功した。しかしその根源たるプリンセス・エメラルドも、討ち取るべきオウガ・オリジンも、未だ存命。
――三つ巴の戦い。勝利をつかむのは、果たして。
成功
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