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迷宮災厄戦㉕〜アフターワー【ル】ド

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #ブックドミネーター


●時間凍結城、揺らめきの文庫
「来たか」
 紅蓮の瞳に宿すは遍く書の記述。真っ直ぐに捉えた視線の奥は、人間では到底理解不能な領域が広がる。じっと、値踏みするように『こちら側』を見詰め――壁一面に広がる本棚から一冊の書物を抜き取った。それは。

 血塗られた歴史書。人の争いがうみ出すもの。
 恋人たちの愛の詩集。人の営みがうみ出すもの。
 心躍る冒険譚。人の好奇心がうみ出すもの。
 未知なる論文。人の願いがうみ出すもの。
 後世への伝言の栞。人の真心がうみ出すもの。

「六番目の猟兵達よ。貴様らに相応しい書を与えよう。私からの選別だ――」
 時は止まらない、常に未来へ進み続ける。故に、書架の王は託す。己が持つ全ての知識と権能を以って、時間を止め、オウガ・オリジンへの路を凍らせた。何れ必ずや来る猟兵の為に。
 ブックドミネーターは過去の存在。オブリビオンであるからして、遡ることは出来ず、進むこともまた儘ならず。天上界に行くには、嗚呼、『時間が遅すぎた』。であれば、今更追いつこうとは思わない。先にあとがきから読むとしよう。ブックドミネーターは書物の頁をぱらぱらと捲り、視線を落とす。
「さぁ、見ているだけではつまらないだろう。『お前の物語』を、私に語ってくれ」
 迷宮災厄戦という結末を、この瞳で、身体で、存分に味わおう――。
 手にした書物の次の登場人物は、あなたの名が刻まれていた。

●グリモアベースにて
「来たか」
 予知とは似ても似つかぬ声で、しかし同じ文面で、グリモアを弄るトート・レヒト(Insomnia・f19833)は集った猟兵達に話しかけた。アリスラビリンスで起こった戦争は熾烈を極め、オウガ・オリジンと猟書家と猟兵の三ツ巴の戦いに発展していた。その危うい均衡を崩すのはやはり猟兵で、今回の予知は猟書家の一人を掴んだ。
「ブックドミネーターと言うらしい。絶対零度の凍結世界に君臨する、書架の王だ。アックス&ウィザーズにあるという天上界を目指しているらしいが、詳細は不明。聞き出すのも難しいだろうな」
 氷からオブリビオンを作りだし、時間すら凍らせる領域結界術でこの戦争を勝ち抜く心算のようだが……トートの予知に引っかかったブックドミネーターの在り方は、少し希薄で。あくまで『書架の王』であることに誇りを持っているのだとか。――本とは探究心の塊。彼の王が望むのは、あなたの物語。
「舞台は時間凍結城・玉座。視界は良好、障害物は少ない。天上も壁もある。戦うに支障はないだろう。問題があるとすれば、相手の能力かな」
 相手に先制で攻撃を仕掛けるといったことは出来ない。此処ではブックドミネーターこそが王。王より先に頭を上げてはならないのだから。相手の思考と、技を『読んで』、対応する必要がある。出来なければ、あなたはこの物語の登場人物になることすらできない。
「君達の先を読む行動速度と反射神経、自らを癒す理、状況に応じた判断力とその具現……すべてが揃った強敵だ。くれぐれも、油断せず」
 トートは一冊のノートを取り出して、未記入の最初の一頁にグリモアを置いた。まっさらな其処に筆を入れるのは、屹度あなたが相応しい。


まなづる牡丹
 オープニングを読んでいただきありがとうございます、まなづる牡丹です。こちらは戦争シナリオにつき、1章で完結致します。いよいよボス級という事で、頑張ります。

●プレイングボーナス
 ……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
 技能の羅列より文章で解説して頂けると、より描写が鮮明になると思います。

●プレイング送信タイミングについて
 公開されたタイミングで送って頂いて構いません。
 執筆は先着順でなく、8/17より予定しています。失敗判定なプレイングは不採用とさせて頂きます。
 万が一執筆許容量を超えました場合、期間いっぱいまでお時間を頂く場合がございますのでご容赦下さい。
 (基本は全採用を目指す所存ですが、全てのプレイングを採用をお約束するものではありません)

 以上。皆様のプレイングを心よりお待ちしています!
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第1章 ボス戦 『猟書家『ブックドミネーター』』

POW   :    「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
全身を【時間凍結氷結晶】で覆い、自身の【所有する知識】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    蒼氷復活
いま戦っている対象に有効な【オブリビオン】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    時間凍結
【自分以外には聞き取れない「零時間詠唱」】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
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緋翠・華乃音
書物は人類の叡智だが、所詮は過去や空想を記したもの。
これから先の未来を読むことはできない。

……オブリビオンというのは悲しい存在だな。
何処へも行けないその在り方は、一冊の本にも似ている。

――或いは、自分も。


どんなオブリビオンを召喚しようと万能と呼ばわる個体など存在しない。
近接戦に有効な、
遠距離戦に有効な、
剣に有効な、
同じく銃に、ナイフに、鋼糸に、弓に、素手に――

圧倒的な技を持たない俺は武術を揃えるしかなかった。
だから、一つや二つの技や戦法が通用しなくとも困ることはない。

拳銃がダメならナイフで、
ナイフがダメなら狙撃で、
狙撃がダメなら剣で。

最初に召喚されたオブリビオンに対応できれば――反撃開始だ。




 知恵あるものは歴史を記す。それが現実であれ虚構であれ、所詮は過去の事。如何な叡智を以てしても、これから先の未来を読む解くことは出来ない。予言書や占い本なんてものが売れるわけだ、人は知恵ある故に予測したくなる。自らの行いが正しいのか、幸せになるにはどうしたらいいのか、確認したくなる。
「(……オブリビオンというのは悲しい存在だな)」
 何処へも行けないその在り方は、一冊の本にも似ている。書かれたことをただ繰り返し、過去に囚われている。なんて、当のオブリビオンはそんな事すら考えてないのだろうけど。
「――或いは、自分も」
 俯き気味に呟く緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)に、答えは返って来ない。だがひとつ言えるのは、華乃音は生きている。それだけで未来を歩んでいる。その足で、想いで、何処かに行って、誰かの心に入ることが出来る。どんなに読まれたくても本棚の中でじっと耐えているだけの本とは違う。
 しかし、囚われているのもまた事実。どう足掻いてもついて回る出自も、纏わりつく死の香りも。『華乃音』という本があったなら屹度注意書きに載っているかもしれない。自嘲気味に一度目を閉じて、改めて玉座に君臨するブックドミネーターを鋭く睨んだ。
『決心は済んだか、猟兵』
 こちらの一瞬の躊躇いを、書架の王ブックドミネーターは気付いていたと言わんばかりに問いかける。その答えを聞く前に、手にした書物を緩やかに捲り、本から真っ黒な闇色のブラックホールにも似た虚無を召喚し華乃音へと嗾けた! ゆっくりと両手を広げるように巨大化する闇が近づく。
『お前のその細やかな苦悩ごと、全てを食らってやろう』
 慢心を――。華乃音は僅かに生まれた感情を押し込めて、モルフォ蝶の意匠が施された拳銃を構えた。挨拶代わりの一発、二発。命中しているはずなのに、その弾丸は闇に吸い込まれてしまう。当てた感触がまるでない。これは遠距離からの攻撃は向いてないなと、即座に戦闘スタイルを切り替える。
 他を圧倒する突き抜けた技を持たない華乃音は、武術を揃えるしかなかった。だから、ひとつやふたつの技や戦法が通用しなくても困ることはない。拳銃がダメならナイフで、ナイフがダメなら狙撃で、狙撃がダメなら剣で。鋼糸に、弓に、素手に――あらゆるものが手の内に。
「本ばかり読んでいる割には、想像力に欠けているな」
 ピク、と眉を動かしたブックドミネーターに、華乃音が気付くことはない。言葉を掛けることで揺らぐような敵だとも思っていない。しかし思いの他言葉は鋭利なナイフとなり、操る虚無を鈍らせる。瑠璃色の刃文を抜き、十分に引き寄せたなら……一閃! 虚無が空間ごと引き裂かれ、二つに割れる。再びひとつになる前に、是空の鋒が編み出した狙撃弾がそれぞれに噛みつけば、じわじわと、それでいて一瞬で虚無は蒸発したように消え去った。
 どんなオブリビオンを召喚しようと、万能と呼ばわる個体など存在しない。それが出来たなら、今頃相手は此処に居ないだろう。故に、隙がある。さぁ、いくらでもオブリビオンを呼べばいい、対処法はもう解かった。此処からは反撃のターン。華乃音の物語はまだ始まったばかり――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆行動
辿り着きましたよ、ブックドミネーター
全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます

念動力を以て私も空を飛び
積み重ねた戦闘経験と五感を研ぎ澄まして攻撃を捌き
重要な臓器はその位置をずらした上で即死だけは避けましょう
第一波を凌いだら反撃開始です

時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのは痛いぐらい理解しました
ですが覆って居るのはその身だけであり魂まではかないませんよね?
ならば逃げ惑いながらも
この地形を凍結させる力…生命力を略奪して構築した
【黒竜の道楽】を以てその傲慢を喰らいましょう

正直なところ貴方の思惑は判りません
ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ

※他猟兵との連携、アドリブ歓迎


ケルスティン・フレデリクション
ほんは、すき。
あなたは、ほんのおうさまなの?
…わたしのものがたりが、あなたにとどくといいな。

先制の大きな攻撃には【ひかりのまもり】をつかうよ。
これは、みんなをまもるむてきのたて…!
みんなの前に立って守るよ!
私が無敵だと信じる限り、無敵なの。
だったら、すべての攻撃を防ぎきるよ!
攻撃が出来るチャンスがあるのなら【全力魔法】【範囲攻撃】【属性攻撃】で炎の魔法を使うよ。
炎の雨を作って、敵に沢山降らせるね。

自分への攻撃には【オーラ防御】と【激痛耐性】
いたくても、がんばるの。
わたしは、りょうへいだから!

【アドリブ&連携OK】




 時間凍結城、玉座。やんわりと、しかし強い意志を湛えた瞳で、ブックドミネーターは猟兵の物語を聞いていた。ある者は拳で語り、ある者は剣で、ある者は歌で、ある者は癒しで――己を主張する。その道程に同じものは一つとしてなく、知識欲がゆるり、とくとくと過去を生きる心に満たされていった。王の心は民には分からない、そうして逆もまた。
「辿り着きましたよ、ブックドミネーター。全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます」
 しなやかな肢体を操り、黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)は王へ反逆の意を示す。所詮は蔵書の知識を頼る頭でっかち、実戦に於いて経験に勝るものはなし。ミコの持つ手札と、王が覚えている本の中身、どちらが多く、応用性があり、より今に適しているかの勝負!
 印を組み精神を統一したなら、ふわりと浮き上がるミコの身体。地から足が離れるより先に、王は超音速の拳を叩きこまんと、凍結した時間の中をフっと一息吐く間もなく攻め入る! 速い――っ! 積み重ねた戦闘経験と研ぎ澄まされた五感が、ギリギリのところで凶手を捌く。圧倒的な力の差……過去を生きた分、その力は昇華され己のものとして変換される。急所だけは渾身の反射で身体を捩じり、被弾の位置をズラして即死だけは避けているものの……やはり分が悪いか。いや、まだいける。肉も千切れていない、腱も切れていない、多少の負傷は覚悟の上。であれば、気で負けて等いられない!
『ほう、見事だ猟兵。名を聞いておこう』
「私はミコ。幻想を鏖殺せし極黒の、屠竜の魔女。覚えておくなら今のうちですよ」
『しかと胸に刻もう。ではミコよ、私からの最大の賛辞を受け取るがいい』
 来る、と思った瞬間。既に結果は出ていた。ミコの顔面を狙った、王の目にも留まらぬ重拳は――光の障壁に食い込んでいたから。
「これは――」
『ほう……』
 其れは、皆を、仲間を、全てを護る無敵の盾。光はキラキラと収束し拳を弾き返すと、ブックドミネーターはチッと舌打ちをしつつ一度引き下がった。飛翔するミコもまたしゅっと着地すれば、駆け寄ってきたのはまだあどけない少女であるケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)。
「だいじょうぶ?」
「はい、あなたのお陰で。その盾、すごいですね」
「ええ! 私が無敵だと信じる限り、無敵なの。素敵でしょう」
 朗らかな笑みを浮かべるケルスティンに、ミコもまた微笑み返す。先ほどの凶撃を耐えるどころか、王を退かせるほどの盾。まさに無敵、向かうところ負け無しの防壁。範囲が狭ければ狭い程、信じる心が強い程、より一層強力な力を発揮する【ひかりのまもり】は、素手相手には絶対的優位を持つと言っても過言ではないだろう。
「護って下さってありがとうございます。次も、頼って良いですか?」
「まかせて!」
 じっと睨んでくる王の視線を受け、ケルスティンは再び盾を構え対峙する。無敵の盾と、無限の蔵書。どちらが上か、その勝負。加えてケルスティンにはミコという鉾が居る。ならば――その拳、破ってみせよう! ヒュッと瞬間転移にも似た高速移動で、ブックドミネーターに駆け寄るミコ。その身体はケルスティンが産み出した光の防壁に覆われている。相手が時間凍結氷結晶でその身を覆うのならば、こちらも同等の防御を重ねればいい!
『来るか。良いだろう、無謀に応えるのもまた王たる者の度量よ!』
「ほんっと、傲慢ですね! 慢心は死を招きますよ!」
「っ、ミコっ!」
 相手は素手とはいえ、使ってくるのは腕技だけではない。拳が通らないならと、当然のように足払いもしてくるが……それは光の盾によってばちっと弾き返される!
「まんしん、ミコもだめなの。私がいなかったらどうするの」
「面目ない。ありがとうございます」
『……邪魔だな。先に其方から潰そうか』
 矛先がケルスティンに向けられる。いくら無敵の盾を持っていても、想像力が追い付かなければ意味がない。引き絞られた重拳がケルスティンの脇腹に命中し、大きな音を立てて吹き飛ぶ。
「~~ッ!」
 大丈夫、まだ生きている。身に纏った微弱なオーラと、生来持った激痛耐性が痛みを緩和したが……それでも痛い事には変わりない。でも、でも。いたくてもがんばるの。
「わたしは――りょうへいだもの!」
『成程、その心意気や良し。言い残すことは? 盾の娘』
「ふふ」
『?』
「ゆだんたいてき、よ!」
『なにを……、!!』
 この場にいる猟兵はケルスティン独りではない。もう一人、頼れる仲間が居る。だから、絶対に負けない。そう信じて、魔女の渾身の力に、少女は懸命な祈りを乗せて――ミコの拳がブックドミネーターの頬に炸裂した!!
『ガッ……!』
「続けて!!」
「はいっ」
 宙へと浮いた王へ追撃を掛けるように、ケルスティンは炎を雨を想像し、逃げ場を奪う。どこに着地したとしても、全身を覆う氷が剥がれるだろう。同時に、ミコの【黒竜の道楽】が起動し、方向転換すら叶わぬ王のどてっ腹に第零の竜を宿した一撃を喰らわせる!! 肉体を傷つけず、王の所持する財産、即ち『知識量』を攻撃することによって、一時的に王を王たらしめる自由と権能を奪いつくした!
 ごろごろと転がり、地に伏す王は、初手とは打って変わり怒りを瞳に宿している。そうだ、もっと現してみるがいい。本に書いてあったものでなく、ブックドミネーター自身の感情を!
『猟兵風情が……』
「まだまだ元気みたいですねぇ。いけますか?」
「しんぱいしないで。わたしのそうぞうりょくは、むげんだいだから!」
「心強いです」
 ミコはケルスティンに信を預け、ケルスティンはミコに武護を与え……心に想像力を、身体に沸き立つ意思を携えて。二人、勇ましく王へと次の一手を浴びせに向かう。
「正直なところ貴方の思惑は判りません。ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ」
「ほんのおうさま。わたしのものがたりが、あなたにとどくといいな」
 また一つ、書架の王の蔵書が増える。それはある猟兵たちの、瞬く間に組み上がった鮮烈なるコンビネーションのおはなし――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
葉釼くん(f02117)と

ああ、この氷の世界もその主もとても美しいね
葉釼くんもそう思わない?なんて
君はそういうのに興味なさそうだもんなぁ

こんにちは王
六番目ってどういう意味?とか聞いてみるけど
やる気ならふらりと葉釼くんの前へ出て
初手をこの身で受ける
助けてあげるわけじゃないよ
【影法師】に後を任せるため
あぶなーい、なんて云うけどさ

運ばれてちょっとびっくり
そんな気なさそうだけどありがとって
影法師もこの分じゃあんまりもたないから
早くやっちゃってよと囁く

影法師が操る光と影が
一瞬、ほんの少しだけ葉釼くんの姿を晦ます

勝負が着くまで氷の世界の冷たさに微睡んで眺め
葉釼くんが怪我して保護者とやらに怒られないと良いな


真白・葉釼
ロキ(f25190)と

オブリビオン――過ぎ去ったものに興味はない
こういう光景はある種“ロマンチック”と呼ぶのだろう、違ったか?
…だが、ここは寒すぎる

刀に手を掛け身構えて
しかしそれを抜く必要はない
瞬き一つで同行者が初撃を受けるのを見た
意図を判断すれば後は迅速

生まれた影に場を任せるように
倒れたロキの身体を戦闘に巻き込まれぬ位置まで移動させる
別に気を遣ったわけではない
ただ敵に“そう”と思って欲しかっただけだ
今なら死角に入りやすい

[目立たない]ことは容易い
息を合わせるでなく天使の形をしたそれの作る隙を読み取って
――――《澹絶》
ただ一息に、凍てる間も無く
手には五指、刃は五枚、両の手分
終わるには十分だろう




 吐息すら凍る絶氷の城にて、仄かな闘志を掲げる者が二人。コツコツと凍てついた床を踏み鳴らし、王へと一歩、また一歩と近づく。
「ああ、この氷の世界もその主もとても美しいね。葉釼くんもそう思わない?」
 なんて、君はそういうのに興味なさそうだもんなぁ。と、共に歩む真白・葉釼(ストレイ・f02117)の心奥をよむロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)。表情こそ朗らかだが、己の髄は見せぬロキに葉釼は少し物言いたげにしつつ、言の葉に花を返す。
「――過ぎ去ったものに興味はない。こういう光景はある種“ロマンチック”と呼ぶのだろう、違ったか?」
「間違いではないと思うよ。ただ、書架の王が君臨するには此処は少し、寂しいね」
「ああ。ここは、寒すぎる」
 寒い――その言葉の中にどれほどの意味が込められているのか、伝わるのは相手にだけで良い。もちろん寂しい、というのも含まれているだろう。そしてそれ以上に、ブックドミネーターの孤独を、葉釼とロキは感じ取っていた。独りぼっちで書架に君臨する王、誰も近づけない、近づかなかった玉座へと、ロキは視線を移した。何が来ても良いように、葉釼は刀に手を添えて。
「こんにちは、王。ねぇ、六番目ってどういう意味?」
『答えるとでも?』
「そう。なら、それでイイけど」
 相方に手は出さないで欲しいね――なんて。君には通用しないだろうね。ロキは苦笑しながらふらりと宙を舞う。
 殺る気満々の王の拳は、隣で黙っていた葉釼に向かった。其れを遮ったのはロキの柔らかなからだ。葉釼を助けたわけじゃない、後に続く影法師への布石だけれど。君を護れたなら、越したことはないね? ニっと笑うロキにぞわっとしたものを感じたのは、王だけではなかった。瞬きひとつでロキが初撃を受けるのを見て……意図を判断するまでコンマ数秒。刹那の示唆を読み取って、葉釼は迅速に行動する。
「あぶなーい」
 言うが早いか。天使を模った幾つもの黒い影が、ロキの陰からぐわっと沸き立った。黒とも紫紺とも言えぬ闇色の影が場を支配する。生まれた影に場を任せ、代わりに倒れたロキの身体を戦闘に巻き込まれぬ位置まで移動させる葉釼。殊更ロキに対し気を遣ったわけではない。ブックドミネーターに“そう”と思って欲しかっただけ。しかしその行動は、それ以上の意味を二人の間に持たせたこと、この場ではお互い気付くわけもなく。戦場の隅に運ばれて、少し驚いたロキも、そんな気はなさそうな相方に小さく謝礼を述べる。葉釼に伝わったかどうかは分からないが、言葉にすることが大事だと、この神様は識っているから。
「この子もこの分じゃあんまりもたない。早くやっちゃってよ」
 囁いた声は微か乍ら確りと伝わったようで、葉釼は声も出さず頷く。ふふっと、ロキは心の中で笑った。そうだ、それでいいんだ。俺様と葉釼くん、おんなじものを見ているようで、本質は違うだろうからね。……本人に伝えないのは、優しさか、意地悪か。それはさておき。
「余所見は死を招くぞ、オブリビオン」
『――――。御忠告、痛み入る。恩返しが必要か?』
「結構!」
 目立たないことは容易い。息を合わせるまでもなく、天使の形をした影法師の作り出す闇間と逡巡。ほんの少しだけ姿を晦ませれば、一瞬の隙を見計らい、周囲に溶け込んだ宵色に自身を重ね断ち斬る。ただ一息に、凍てる間もなく。手には五指、刃は五枚、両の手ぶんの一刀にして薄蒼い残刃が、王の衣を滅多矢鱈に斬りつけ放った!
『グッ……!』
「まだ、足りない」
 下へ向けて斬りつけた刃を翻し、柄へ逆手を置く。そのまま勢いを殺さず上へ突くように跳ね上げれば、ブックドミネーターの肩をグっと深く抉る無骨で鋭利な骨断。ぶしゃっと、噴き出るは蒼――。紛うことなき異形の血!
『これが、おまえの、物語か』
 溢れる血を手で拭い、じっと掌を見つめ呟く王。小さく頷いたのはロキか、葉釼か、あるいはどちらもか。物語というにはあまりにも短く、それでいて本人たちには密度の濃い時間に、二人はすぅっと視線を交わす。
「俺様の物語の一部になれて良かったね、王」
「方時だったが、有意義な時間だった。あんたは、それを誇ればいい」
『ふ――。私の手記<ノート>に刻んでおこう』
 じゅわっと蒸発するように消えた王は、跡形も残さず。凍り付いた時間城は再び時を刻みだす。氷の冷たさに微睡んで、しばし『時の流れ』に身を任せるロキ。嗚呼、葉釼くんが怪我して保護者とやらに怒られないと良いなとは思いつつ。――もし怒られそうになったら助け船でも出せばいい。一人では屹度乗り切れなかった、二人だから王の膝を地につけられた。それを今は誇ろう。
「葉釼くん、いい言い訳を思いついたよ。聞いてくれる?」
「ロクなもんじゃなければな」
 軽口を叩く葉釼の、目尻に寄った微かな皺。ロキの悪戯っぽい笑み。……書架の王よ、感謝します。彼のこういった姿を見れたのは、紛れもなくあなた/あんたの、お陰だから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

卜二一・クロノ
六番目の猟兵。それでは五番目の猟兵の成れの果てが汝らオブリビオンか
語らぬか。まあよい。こちらで見定める

奴は我を害するために、奴は必ず我に近づくことになる
その一撃は【激痛耐性】【オーラ防御】で耐え凌ぐしかあるまい。しかし、我が髪より繰り出される【カウンター】および【捨て身の一撃】にユーベルコード【神罰・時間操作の代償】を載せる
【騙し討ち】、軽機関銃を持っていて、髪の毛も武器として使うとは思うまい。
ただの一撃、それだけで神罰は執行される

これまで当然のように使えていた、頼りとする時間操作が容易に使えなくなる中、どれほどの事ができるのか、見定めさせてもらおうぞ




 六番目の猟兵。それでは五番目の猟兵の成れの果てが汝らオブリビオンか? ――語らぬか。まあよい、こちらで見定める。汝は我に託すがいい、此度の戦の行く末も、綴られたる結末も。我がその全てを語ろう。
 卜二一・クロノ(時の守り手・f27842)は神でありながらメイドである。誰かに奉仕するのがその役目だが、しかしてその実、クロノ<じかん>の名に於いて審判を下すことも多かった。即ち、従い遵う者である。
「やれ、どうしてか――汝には少し、親近感が沸く」
 ブックドミネーターは時間凍結を用いて、自らにしか聞き取れぬ凍てついた時の詠唱と紡ぎ出す。それは1秒、一分、あるいはもっと短く、長く、凡そ人間には感じ取れない時間であったが……此方は神、常人と同じに見てもらっては侮りすぎというもの! 王はトニーを阻害する為にグイっと踏み込んで、その一撃に凍結時間の渦を乗せ、ブラックホールのような暗黒の重撃を繰り出す! 逆巻く次元渦を薄いオーラで耐えようと両腕を交差させるが、とても凌げるものではない。バンっと大きな音を立てて弾かれたトニーは、宙に舞いながら追撃に身を引き締める。同時にその身に降りかかった災難を反転させるかの如く、【神罰・時間操作の代償】を発動。長く延びた髪から繰り出される反撃も一矢は、王の腕に、腹に、足に巻き付いて動きを鈍らせた。
「驚いたかね、書架の王」
『まさか。あの程度で沈んだのでは私もつまらぬ』
「強気でな。悪くない――」
 着地より早く軽機関銃を構え、弾丸が王を貫いたように見えたが、立ち上がる硝煙が現実を隠す。王に味方するか、嗚呼否、最初からそうだったな。此処は『王の根城』なのだから。
 着地と同時に走り出したトニー、向かう先は玉座。王が王たる居所。そこを突けば必ず、ほら。
『私の居場所を穢すな、猟兵』
 王は、――オブリビオンは。自らを拝する戦場に姿を現さざるを得ない!! 玉座の座板に突き立てるように見せかけて、しなやかな髪は後方へ真っ直ぐ伸びブックドミネーターの肩を射抜いた!
『ぐぁっ……!』
 ただの一撃。それだけで神罰は執行される。肩から溢れ出る血は人のものとは相容れぬ色を垂れ流し、現実を……『今を生きるもの』を拒否する。詠唱は紡ぐ先からぼろぼろと崩れ、形を成さない。それどころか、紡げば紡ぐほど胸を締め付ける時の逆流が王を襲う!! 沸騰する血液、痛みを繰り返す肉体、刹那より素早く動いた代償に体の一部は付いていけず削げる。
『……っ、副作用とでも言うのか』
「然様。気付いたところで『遅い』がね」
 当然のように使えていた時間操作を封じられ、どう戦うのか。はて楽しみだと、トニーは誰にも見えぬように、小さく……ほんの僅かに微笑んだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
蒼氷を“再び”討ち砕け。
心に響く声は、誰のもの?
顔を上げ、書架の王を視線で射抜く。
「……来たよ」

敵と自分の間に「光を屈折させるだけの[結界]」を展開。
間合いの目算を狂わせ僅かに逸らせた攻撃を、
更に[第六感][咄嗟の一撃]で直撃を防ぎ、
返礼に斬撃の[カウンター]を返す。

対策の搦め手は二度は通じない。このUCに全てを懸ける。
"燃料"は出し惜しみ無し、蒼氷を溶かすなんて生温い。
蒸発するまで、敵の過去(知識)ごと灼き尽くす。

斬撃に[焼却]を上乗せして積極攻勢。
徐々に隙を見せて攻撃を誘い、[騙し討ち]・[カウンター]の抜刀術で両断。

災禍が持ち込まれれば、沢山の犠牲が出る。
だから――貴方は、此処で斬る!!




 ――蒼氷を“再び”討ち砕け。心に響く声は、誰のもの? 脳を直接揺さぶるような、激しくも懐かしいような。けれど思い出せない……いいえ、屹度この魂が覚えている。
 顔を上げ、書架の王を視線で射抜く。クロム・エルフェルト(半熟仙狐の神刀遣い・f09031)の藍染めの瞳が、王の赫灼たる眼光とぶつかった。
「……来たよ」
『待っていたぞ。第六の、いや――ふふ、そうか』
「?」
 くつくつと笑うブックドミネーターの真意は分からない。感じるのは圧倒的な存在感と、時すら凍らせる無尽蔵の竜魔力。冷やりと嫌な汗が流れる。優雅な所作でありながら暴力的なまでに強烈な風格に、畏怖すら覚える。それでも、立ち向かわないわけにはいかないのだ。胸を焦がすこの熱い想いを――王に叩きこまねばいけないから。
 先に動いたのは王。動いた、というよりも、最早『動いていた』と表現するのが正しいか。目で追っていたのでは到底間に合わない! 飛翔しながら右手をぐいと思い切り引き、左手は掌をクロムに向け盾としながら、一直線に突っ込んでくる! 奔った力はそのまま時間を凍らせて、空間ごと切り取ったかのように一瞬で迫る。
 早い――ッ! でも、その攻撃。身体が、心が――覚えている! クロムは王と自身の間に、光を屈折させるだけの結界を展開。極狭い範囲だからこそ、その屈折率は大きく、目にも留まらぬ王の拳は僅かに目測が狂い急所を逸れる。腕が伸びきって、獲物を逃がしたことに王自身が驚いている今が最大にして最高のチャンス。もう『二度と』逃さない!
 咄嗟の直感が余波すら防ぎ、返礼に手にした刀から俊敏な斬撃をお見舞いする。ぶしゃっと溢れ出た血の蒼いこと。嗚呼、あなたは何処までも、蒼氷のロードなのですね――。……胸に湧き上がるこの感情は何だろう、クロムは頭を振って再び刀を構える。搦め手は二度は通じない。決めの一太刀に全てを懸ける。
「熾きて、憑紅摸。お前の識る劫火を、此処に――」
 "燃料"は出し惜しみ無し、自分の寿命で賄えるなら安いもの。この決意は業火の如く、蒼氷を溶かすなんて生温い。蒸発するまでブックドミネーターの過去<知識>ごと灼き尽くす!! 刃に燃え上がる力を被せ、一歩踏み込んで前へ、前へと突き進む。王は刃を手で弾き返すが、その度に凍てついた時と常に前進する時がぶつかり合い凄まじいまでの衝撃を生み出した。
 言葉少ななクロムは、想いをすべて剣戟に乗せる。時に退いてわざと隙を見せながら、王の隙を徐々に徐々に大きくしていって。思い切りしゃがんで王の腹に拳を一発ぶちこんだら、勢いを殺さぬまま手は刀の柄に。前傾姿勢になって重力の赴くままに抜刀すれば、王の腕は縦に引き裂かれた!
『――――ッ!!』
「――貴方は、此処で斬る!」
 災禍が持ち込まれれば沢山の犠牲が出る。だから、見過ごせない。私に出来る唯一にして一番の、世界への貢献。知識に敵うのは人の想いだと、身をもって識れ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベリル・モルガナイト
私は。盾の。騎士
どれだけ。強大で。あろうと。決して。引きは。しません
故郷に。災禍を。もたらす。というのなら。尚の。こと

私への。オブリビオンの。召喚
防御を。撃ち砕くか。意味を。為さない。毒の。類か
耐えることが。許されない。そういう。手合い。でしょう
ならば。私は。共に。戦う。方々に。勝利を。託します

【オーラ防御】と。魔力障壁を。展開した。盾による。【盾受け】で。攻撃を。受け止め。致命傷は。避けるよう。【見切り】ます

そして。その痛みを。恩讐へ
受けた。ダメージを。反射するのは。ブックドミネーター
目の前の。オブリビオンへと。隙を。晒すことに。なろうと。他の。誰かが。貴方を。討てば。それで。構いません


木霊・ウタ
心情
嗚呼、存分に俺を謳ってやる
後悔すんなよ

先制対処
凄い速さで飛行しても
限られた空間で
しかも素手で来んなら
やりようがある

獄炎纏う焔摩天で体ごと円弧を描き
同心円状に広がる幾重もの高い炎の壁を生む

高熱が氷を弱め
生む気流が飛行を阻害

最遠の炎がかき消えたタイミングで
軌道と拍子を察知
爆炎噴出のバーニア機動で回避&炎の壁で防御

万が一喰らったら返り血の炎

戦闘
で間近の王へ
回避の反動も相乗し
カウンター気味に
爆炎で加速した刃を叩き込む

未来へ進む意志を媒介に
大量の時間を急速燃焼して生まれた炎が
時間を解凍
紅蓮が王を灰燼に帰す


任せろ
あんたの分まで
俺達自身が創り上げた未来を
この目で見てやるさ

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに




 過去を糧とし、糧を喰らいて力と成す。過去に生きる身でありながら、今を生きるものを脅かす存在。オブリビオン――猟書家・ブックドミネーター。その強さは書架の蔵書に比例し、今もなお人々の歴史を啜り強くなり続けている。それを看過するわけにはいかないと、ベリル・モルガナイト(宝石の守護騎士・f09325)は盾を手に前線へと駆けた。
「私は。盾の。騎士。どれだけ。強大で。あろうと。決して。引きは。しません。故郷に。災禍を。もたらす。というのなら。尚の。こと」
『私から全てを護るか。良いだろう、やってみせよ猟兵!』
 両手の指を広げ交差させ、花の様に印を刻めば、王の背後に巨大な魔法陣が展開される! 現れたるは過去の遺物。ベリルの防御すら打ち砕き、意味を為さない万毒の類。耐える事が許されない手合いに、どう応えるか――王は試している。ならば、と、ベリルは共に戦う者へ勝利を託す。後ろに控えたる仲間に――木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)に、合いの手を任せる! タイミングを見計らったかのように玉座への扉を勢いよく開け、転がりながらベリルに合流するウタ。手には焔摩天を手に掛け、受け身と同時に王に相対した。
 背後の召喚陣から襲い来るは無数の毒手、影のよりも濃い触腕がぐわっと延びて、ウタ目掛け凶爪を立てるが……肉を抉ることはベリルの盾が許さない! ガチンと高い音を鳴らして盾が攻撃を弾けば、踏ん張るベリルの横を駆け抜けてウタの焔摩天が翻る! 業炎を纏った刃はくるりと身体ごと円弧を描き、同心円状に広がる幾重もの高熱にして高壁の炎を生み出した。それは、一瞬の攻防。巻き上がる灼熱の炎が、ブックドミネーターを護る炎を弱め、熱によって生まれた気流が王の飛翔を阻害して次なる一手を殺す。
「俺は熱いぜ。ブックドミネーター、あんたの知識<闘志>を焼き尽くすくらいには!」
『ふ――、ではお前から消えて貰おう、詩撃使い!』
 遠く、近く。最早感覚でしか賄えない戦場の状態を鋭い感覚で見極める。最遠の炎が王の時間氷結能力でかき消されたタイミングで、軌道と拍子を察知。ウタは爆炎を噴出する事で回避しつつ、炎の壁で防御を固める。それをより強固にするのが、ベリルの鉄壁の盾。オーラを纏った魔力障壁を炎壁に重ねることで、属性にも物理的にも強い強固な城壁を作り出す。それは王が攻め込めぬよう、自らの国を守る栄光の柵。誰にも踏み入み入らせはしない。今を生きるものを、過去が踏み荒らすなんてこと、絶対に受け入れられないから――!
「来ます。構えて。あなたなら。奴を。退け。られる」
「任せろっ!」
 ウタは間近の王に接近し、剣の柄を両手で握りしめる。息を沈めて、一息に吐き出せばそれは回避の反動に相乗しカウンター気味で王へと叩きこまれる!! 爆炎で加速した刃を受け止める王の拳は、ギチギチを圧され……ついには綻びて決壊した!
『グッ……貴様――!』
「あんたの、」
「あなた。の」
「「負けです/だ。ブックドミネーター!」」
 絶氷の時間凍結はベリルの盾の前に脆くも崩れ去り、割れた氷の隙間にきらりと光る知識の結晶。それ目掛けて、ウタは爆熱の焔を王に向かい刻みつけるべく振るう! 一太刀目は氷に阻まれた。しかし、二度目は通用しない。未来へ進む意思を媒介に、大量の時間を急速燃焼して生まれた炎が、氷結の柱となった時間を溶かし、紅蓮が王の瞳に迫る! 朱を携えた王の眼に映ったのは、人々が産み出す可能性という灯火――。
『アッ。う、アアアア!! お前、は。過去を――未来で上書きするというのかッ』
 憎々しげに吐き出したブックドミネーターは、片目を失いふらりとよろめく。しかしその闘志を失わないところは、流石一世界を侵略するに相応しいと言うべきか。
「あんたの分まで、俺達自身が作り上げた未来をこの眼でみてやるさ」
「私の。世界も。あなたの。世界も。全ては。同じ。同時に。見ることは。出来ない。から。此処は。譲れない」
『……ならば、せめてお前たちという『可能性』を滅ぼそう。それが、私に出来る最大限の――未来への嘱望だ――』
 ブックドミネーターの召喚した影手がベリルとウタにするすると絡みつく。痛みこそ無いもののじわじわと侵食され体力を奪われる感覚は毒に近い。急速に腕力を奪われたウタに対し、ベリルはその闇をすべて引き継ぐべく盾から光を発する。時間の流れを無視する淡光が影をすべて引き受け、じわっと心の奥底まで浸みるが……負けない。ベリルは、盾である。誰かを護る、その為に、今を、未来も、その先すらも、護ると誓ったのだから。
「痛みは、恩讐へ。あなたに。ブックドミネーター。掛かって。来てください」
 侵食はついにベリルの深奥まで――届かない! 王の手はウタによって遮られた! 舌打ちする王に切迫したウタは、同じように、それでいてどこか楽しそうに鼻を鳴らす。この状況。楽しまずにいられようか!
「焼き尽くすぜ……あんたごと、過去を!!」
『うぁ、あ。アアアア!!』
 ザシュっと弾けた一閃は光よりも速く。気付いた時には王の腕からは蒼い血がだらりと垂れていた。忌々しげにウタとベリルを睨む王は、まるで異世界侵攻する者には見えない。その姿、まるで唯のオブリビオン――。
 血が舞い上がるのも構わず、王は毒手が絡むベリルを攻撃するが。それすら悪手。受けたダメージはそのまま返す反逆の盾が、王の身体を蝕んだ! 盾を王に押し付けることで自身が隙を見せることになろうとも構わない。今は頼れる猟兵仲間が隣にいる。自分以外の誰かが、王を討てるのならば、それに構う事はない。毒手は聖加護の下にゆっくりと行く手を遮られ、次第に行き場を無くししどろもどろ、右往左往。停滞。先へ進めない。
『――なるほど。守る、とは。未来をおぼやかす過去すら否定するか』
「私は。盾。あらゆる。過去。未来。想像から。『今』を。護る。あなたからも。脅か。せない」
『そうか――。ふっ、これは、少々見誤ったな。仕方ない、せめてお前たちの物語を、しかと味合わせてもらおう』
 毒手は時を逆流しブックドミネーターの中へと侵食する。どくどくと、ベリルに向けたはずの毒は自分へと返ってきて。これが因果応報かと笑いたくなる。じわりと熱い毒にふらつく王へ、ウタは切っ先を向けた。今より先の自分と、未来を生きる全てのものへ、託す言葉を刻んで。
「存分に俺を謳ってやる。聞いてから後悔すんなよ!」
『その言葉――胸に刻もう』
 詩には奏でる曲が必要だ。王が崩御した暁には、きっと一等の鎮魂歌を奏でてやろうと、ベリルの盾に身を任せ、ウタの刃が閃いた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三嵩祇・要
時間をかける程メンタル削られて不利になるだろうな…
【雷神の尾】を当てに行く

敵の先制はオレに有効な敵
だとしたら、あいつが召喚されるはずだ
以前依頼であった未来の親友の姿をしたもの
敵の盾にされる可能性が高い

先制の対処として
何を言われても動揺しない様に、あらゆる想定で心構えをしておく

気の弱そうな笑みで懇願されるかもしれない
命を投げ出す様に敵の盾となるかもしれない
けどそれは全部偽者だ
本当のあいつは今も見守っているはずだ

目の前の偽者を気遣ってる場合じゃないんでな
俺はちゃんと、あいつと一緒に戦ってるって見せてやらねぇと

盾になるなら、そいつごと
ブックドミネーターにくっそ重い一撃を喰らわせてやる




 先手を取られることは分かっていた。書架の王が何を覗き見て、こちらに対し有効な手段をとってくるのかも、凡そ予測がついている。それが現実になったらば、果たして己は冷静でいられるだろうか。――なんて、答えは考える間もなく、出さねばいけないようだ。
 ブックドミネーターは何処からともなく取り出した本をぱらぱらと捲り、其処に書かれいることを流暢に音読していく。聞き覚えどころか、身体が覚えている。三嵩祇・要(CrazyCage・f16974)の過去という歴史を、王は本という形で識り得た。だからこそ今此処に召喚されたるオブリビオンは……『あいつ』を形容している。
「成程、時間をかける程メンタル削られて不利になるって寸法か」
『お前にはよく効くだろう? なぁ、猟兵』
 以前依頼で出会った、未来の親友の姿をしたもの。所詮ガワだけの産物かと思いきや、困ったようにきょろきょろと周りの様子を窺ったり、じっとこちらを見つめる視線は『あいつ』そのもので。無性に、胸を掻きむしりたくなった。心臓が痛い。背筋にひやりとしたものが流れる。こいつは違うと頭で分かっていても、心が拒否する。
 ――何を言われても動揺しないように、あらゆる想定で心構えをしたはずだった。気の弱そうな笑みで懇願されるかもしれない、命を投げ出す様に敵の盾となるかもしれない、こちらを信じ切った目でただ手を伸ばしてくるかもしれない。けど、そんなものは全部偽物だ。本当の『あいつ』は、今も必死に、此の戦場を見守ってるはずだから。
 超高圧の電流が要の周りに集まる。バジュっと音を立てて電子同士が反応し、火花を散らした。『あいつ』の偽物はこちらに不和の意図を読み取ると、巨大な縫い針のような槍を通勤鞄から引き抜いて構えた。ああ、俺が教えたんだっけ。オブリビオンのくせに、どこまでも『あいつ』らしい。ムカつく。
『君を屠るのは本意ではないが……主の命だ。悪く思わないでくれ』
 そう言うと、オブリビオンは地を蹴り直線を描いて要に突っ込んだ! 避けられるほど鈍くはない、であれば、受け止める他に道は無い。掌に力を込めて、グっと開いた拳のド真ん中に、縫針槍がぐさりと突き刺さる。痛みで神経が其処に集中するが、却って都合がいい。突き刺さったままの槍を張り詰めた筋肉で握りしめ、引けばよろける『あいつ』の偽物。こんな弱っちいところまで再現しなくて良いのに。
「――いいや。悪いが、偽物に気遣ってる場合じゃないんでな」
 よろけた身を片手で抱きとめる。ここにきて偽物はようやっと槍を手放したが、もう遅い。抱いた手に集めた電流を一気に流し込んで、放電。体中の血液が一気に沸騰するほどの電圧を浴びて、偽物はガクっと倒れ伏した。原型を保っているのは、そこまで非情に徹しきれなかった要の甘さか。
『お気に召さなかったか?』
「……気分が悪ぃ。お前、あまり――」
 オレを怒らせるなよと。呟いた言葉は果たして王に届いたか。要は掌に刺さったままの槍を引き抜いて、王へと向ける。これは礼だ。『あいつ』とオレの間に割り込んだ罰を、しっかりお前に喰らわせてやる――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

天星・零
【戦闘知識+世界知識+情報収集+追跡】をし、戦況、地形、弱点死角を把握し、敵の行動を予測し柔軟に対応

※防御は【オーラ防御】で霊力の壁を作って威力軽減、防御

先制は上記技能を駆使しいつ使われてもいい様に把握しておき、十の死の感電死、毒死、凍死の骸などで落雷、毒の霧、氷の刃や吹雪など状態異常攻撃を狙う(アレンジ可)
万が一の為【第六感】も働かせる

遠距離は十の死とグレイヴ・ロウで戦況により対応
近接はØ

『とある夜に霧に包まれた街のお話です。ふふ、あくまでも噂話ですが』

指定UCを発動し強化、回復効果のプラス効果を反転する霧を戦場全体に
零時間を使ってもダメージ、POWの効果が残っていれば弱体効果にもなる




 世界は知識で出来ている。少なくとも、この狭くて広い時間凍結城の中ではそうなのだ。外の世界の常識は通用しない。郷に入っては郷に従え、ルールは守らなければ。……でも、ルールを守る事と、逆手に取ることは相反しないね? なら僕は――。
「噂話をしてみよう。どう聞こえるかは、王。あんた次第だよ」
 情報は事前に収集済み。友人知人からかき集めた戦場の把握、先に戦った猟兵達への対処、グリモア猟兵が予知した相手の動き方。分かっているならあとは自身を情報に沿わせればいい。天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)が操る骸はあらゆる死を内包し、仲間を増やそうと前へと躍り出る。
 王はこれまでの戦いで大なり小なり負傷していた。時間凍結能力により、相手よりも確実に先手を打てる今……肉体を癒す事が先決だろうと、無詠唱の術式を唱える。何を言っているかはまるで聞き取れやしなかったが、手や肩に負った傷やぼろぼろの装束がじっとりと治癒されていくのが分かった。このまま放っておいたら、今までの皆の苦労が水の泡。
「ここまできて回復されちゃあ困るんだよね」
 骸『十の死』は、右手に稲妻・左手に毒を宿し、両手を合わせてよぉく揉み込むと、ばちばちと火花を散らす雷塊を産み出した。深い紫に色付いたそれは、電気だけでなく危険な毒の彩。効果の程は喰らってみてのお楽しみ。骸は紫電の一撃を王に加えるも、回復の方が早い! あらゆる毒が、麻痺が、骨折が、破裂が、じっくりじっとり確実に治っていく。
「ふぅん、状態異常はあんまり効かないか……じゃあ、これはどうかな?」
 相手が回復し続けるというのなら、それを利用すればいい。ルールは守っている。時は来た、今こそ反転せよ理! 握りしめたφで虚空を切り裂き、中から溢れ出た濃密な霧が急速に戦場全体に噴霧される。癒しを壊しに、強化を弱体に逆転させる霧は王を包み込むとその効能をすぐに発揮した。
『――これは』
「驚いた?」
 零時間詠唱だろうが時間が凍結していようが、負傷を癒している以上反転すれば自壊するは当然。ぼろぼろと剥がれゆく爪、傷口はぐじゅっと爛れ蒼い血がどくどくと止まらない。加えてこれまでに積み重ねた知識量による戦闘能力向上が、ぐずぐずと萎んで逆に力を奪っていく。
『これが、お前の物語か』
「そうだよ。とある夜に霧に包まれた街のお話。ふふ、あくまでも噂話だけどね」
 ブックドミネーターは崩れゆく身を奮い立たせ、一冊の手記<ノート>に血の文字を刻む。其処には『王故の慢心。奴隷は持たざるが故に王に打ち勝つ』と記されたとか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
負傷◎

俺の生き様(はなし)は時間が幾らあろうと尽きはしねェが
…語らえというなら
その書物によーく刻んでおけ
己が正義を貫く或る男の譚を

書架の王として俺の前に立ち塞がってくれて礼を言うぜ

素手の敵に片眉上げるも
莫大な知識量に比例した戦闘力にまずは回避一点特化
城の中走り狙い定めさせず
御守り握り【誓炎誇謳】使用
炎の刀で武器受け・かばう
どの攻撃なら通るか色んな角度から常に刀振り下ろす

(速さも力もアイツが上
俺が勝っているのは)

書物には記せない未来
けれど俺には

標が
背負うべき宿命が
往く先がある

凍りつく刻を意思の強さと勝利への貪欲な思いで花炎燃え盛らせ
揺り動かす
穿つ刃は遥か涯まで
この瞬間だけ敵を読み超越し
致命傷与え




 伝記とは、どんな人物でもそうであるように、ある種の伝奇である。寸分違わぬ轍を踏む者はいない。人そのものが、奇怪で、空想にも勝る物語だと、ブックドミネーターは考える。あらゆる書を記憶し、内包したその身が唯一恐れることがあるとすれば、小説より奇なる現実なのだ。だが、恐れは同時に好奇心を擽り、心躍らせることも書架の王は識っている。相手が猟兵であるなら殊更、物語<じんせい>に不足はないと期待し、王は杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)へと声を掛けた。
『――お前の物語は、何を紡ぐ? 何を求め、語り、託すのか。語ってみせてくれ、猟兵』
「俺の生き様<はなし>は時間が幾らあろうと尽きはしねェが……語らえというなら、その書物によーく刻んでおけ。己が正義を貫く或る男の譚を」
 瞬時、旋風と共に巻き起こる拳圧。王の放った拳は床にヒビを入れ、めきめきと音を立てて地に食い込む。そのまま地に手をつけ軸として続けざまのハイキックがクロウの太腿にぶつかった! グキっと嫌な感覚が奔る。しかし、ここで倒れ伏すわけにはいかないと片足で踏ん張れば、振りかぶった王の裏拳が米神を襲う!
「ってェな……!」
 素手の相手だからと、侮っていたわけではない。恐らく、相手も後が無いと踏んだからこその凶拳。普通に相手をしていたのでは敵わない。まずは避けて、必殺の一刀を浴びせる機会を伺うべきだと――脱兎の如く戦場を走り回る! 駆ければ着地の度に太腿がびりりと疼痛が響く。嗚呼、痛いな。お前の持つ知識というのは、こんなに『痛くて』『苦しくて』……『やり場のないもの』なのか? クロウは追いかけてくる王に想いを馳せた。玉座の間を狙いを定められぬよう縦横無尽に動き回り、ぎゅっと御守りを握りしめる。灯である『炎連勝奉』は炎の刀となってその手にきらり、光を帯びた。
 フと追い詰め寄ってくる足音が消えた。どこへいった、後ろ、左、右――否、上だ! 咄嗟に構えた炎刀で王の踵落としを受ける!! 接点から生じる凄まじい爆風で、玉座は吹き飛び城を構成する美しい硝子たちは悲鳴を奏でて崩れ落ちた。ざしゅっと炎をまき散らして刀を引けば、王もまたくるっと身を翻し立ちはだかる。両者一歩も譲らない。様々な角度で踏み込んでも、その炎の太刀筋は燃えカスとなって王には届かない!
「(速さも力もアイツが上。俺が勝っているのは)」
 書物には記せない未来。けれど俺には――。
「(過去も未来も、関係ない。唯、今を見届けるが標<しるべ>。背負うべき宿命<さだめ>と、往き先がある。であるなら、過去を生き、今を否定し、未来を摘み取るお前に――)……お前に、俺は倒せない」
 凍てつく氷刻を、全てを打ち破る程の意志の強さと勝利への貪欲な思いを込め穿つ。花炎は燃え盛り、時間をどろりと溶かしてゆく。揺り動かすは遥か涯まで、刃の閃きは王の先を行くッ! 不退を誓い、誇りを謳えば、猛き義侠が連なり燃ゆる。顕現するは鎹鳥へ奉る花炎の一振り。深く、深く。過去<ちしき>ごと時を抉り、渾身の力で刻枷を断ち斬った!!
『……ぐっ……嗚呼。そうか、これが、おまえの。時の流れにすら勝るちからか』
 腹から胸にかけて斬りあげられた王は、どさりと倒れ込み溢るる鮮血に染まる。その蒼はまるでどこかで見たことがあるような美しい青だった。ボッと肉体に火が付き、蒼血を油として燃える王のなんと美しいこと。
 解放された時はゆっくりと時計の針を動かす。ピシャっと血を払った炎連勝奉は、いつの間にか普段通りの灯火の容を為していた。
「人も、オブリビオンも。過去に囚われる者が、未来に勝てる道理はない」
 ちらと一瞥した王は、最早肉片すら残さず燃え朽ちていた。
 勝者、猟兵。超刻者よ、その身を誇れ!!

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月25日


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#アリスラビリンス
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト