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迷宮災厄戦㉕~『書架の王』は蒼氷と共に

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #ブックドミネーター

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●『書架の王』、斯く語りき

 無数の『不思議の国』が並立する奇妙な複合世界。『アリスラビリンス』と呼ばれる世界の、その一角。
 その地は、至る所が氷結に覆われた地であった。
 全てを凍りつかせる絶対零度の空気は地だけでなく生命を、そして時間すらも凍らせる。そんな地であった。

『──そうか。来るか、「六番目の猟兵」達よ』

 そんな地に立つ青年が一人。
 青の髪に赤の瞳。胸には針の動かぬ懐中時計。見た目には年若い青年である。
 だが、彼を中心に渦巻く冷気と滲んで淀む魔力の重みを見れば……彼が只の青年でなど無いことは、一目瞭然。
 そう。彼こそがこの地の主。『書架の王』と呼ばれ、猟書家達から一目置かれる存在である。

『ヴァルギリオスに封印されし、美しき天の牢獄。彼の地に眠る答を得る事こそが、私の望み』

 独り淡々と呟かれるその言葉。彼には全て、視えていた。
 この呟きが、猟兵達に予兆の形で聞かれている事を。
 そしてそう遠からず、猟兵達と干戈を交える未来が待っている事を。
 故に、彼は忠告するのだ。

『……ゆめゆめ、油断せぬ事だ』

 私は強く、オウガ・オリジンは更に強い。
 何を守り誰と戦うか、常に考え続けるが良い、と。
 呟く書架の王……『ブックドミネーター』が、顔を上げた。

『戦場で会おう、「六番目の猟兵」達よ』

●書架の王『ブックドミネーター』

「お集まり頂きまして、ありがとうございます」

 グリモアベースに集まる猟兵達を、銀の髪のグリモア猟兵が迎え入れる。
 ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)のその表情は、緊迫感に引き締まった物。
 ……今回の相手となる存在を思えば、その表情は当然の事だろう。

「『迷宮災厄戦』は、ここからが本番。今回皆さんに赴いて頂くのは、こちら……」

 ヴィクトリアの指が、予知で得られた戦場図の一点を示す。
 絶対零度の空気に覆われたその地にいるのは……。

「書架の王『ブックドミネーター』が、今回の皆さんの討伐目標です」

 書架の王『ブックドミネーター』。強敵揃いの猟書家達にすら一目置かれる存在だ。
 圧倒的な知識量と氷を操りオブリビオンを創造する能力、更に時間凍結能力を持つ、難敵である。

「更に言えば。彼の強さの格は、私達のそれを大きく凌駕しています」

 予兆を見た者ならば、彼が己を指して『強い』と断言した事を知っているはずだ。
 ……確実に先手は取られると、そう思っていた方が良いだろう。

「ですが、敵がいくら強かろうと……怯む訳には、いきません」

 『アリスラビリンス』の危機だけを救うのならば、猟書家勢力は極論無視しても構わない敵である。
 だが彼らは、この世界を飛び出し他所の世界へ飛び出す事を狙っている。オブリビオンフォーミュラを打倒し、漸く平和が訪れた世界に、だ。
 そんな事を許してはならない。
 叶うなら、この世界にいる内に撃滅を。最低でも、ある程度の力を削ぐ事はしなければならないのだ。

「猟書家勢力の内で、恐らく最強の存在が相手となります。苦しい戦いとなるのは明白ですが……」

 この世界と、平和になった世界の為に。何卒、その御力をお貸し下さい、と。
 言葉を紡ぎ、深い礼をして。ヴィクトリアは猟兵達を現地に送り届けるのだった。


月城祐一
 8月も半ば。暑さは本番。
 どうも、月城祐一です。今年の暑さ、ヤバい……ヤバない?(二年連続の発言)

 迷宮災厄戦も山場に突入。
 以下、補足となります。

 このシナリオは、『㉕書架の王『ブックドミネーター』』攻略シナリオとなります。
 ボス戦の例に漏れず、『敵は必ず先制攻撃を行います』。
 敵の『先制攻撃』に対する対処が的確であれば、戦闘で優位を取る事が出来るでしょう。
(=的確な対処であれば、プレイングボーナスが与えられます)

 敵は『書架の王『ブックドミネーター』』、ボス戦です。
 猟書家達に一目置かれ、その実力も高い難敵となります。
 絶対零度の蒼氷や時間凍結能力、膨大な知識量が武器。
 ……ユーベルコードは攻撃的では無いように思えますが、油断はなさらず。
 自ら語った通り、彼は強敵です。
 素の状態でも猟兵を圧倒出来る程度には強いと、そうお考え下さい。

 戦場は、絶対零度の空気に覆われた時間凍結場の一角。
 極めて寒冷な地ではありますが、猟兵の戦闘に支障をきたす事はありません。
 また、色々と質問を投げ掛けたい方もおられると思います。
 ですがその質問に対し、彼が答える事は恐らく無いでしょう。
 戦闘に集中し、臨んで下さい。

 また今回は、月城のスケジュール上の都合で採用数を若干絞る形になるかと思います。
 有力なプレイングからの採用となりますので、ご了承下さい。

 時間すら凍らせる、絶対零度の世界にて。
 蒼氷を操る『書架の王』を、猟兵達は討ち果たせるか。
 皆さんの熱いプレイング、お待ちしております!
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第1章 ボス戦 『猟書家『ブックドミネーター』』

POW   :    「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
全身を【時間凍結氷結晶】で覆い、自身の【所有する知識】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    蒼氷復活
いま戦っている対象に有効な【オブリビオン】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    時間凍結
【自分以外には聞き取れない「零時間詠唱」】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

姫川・芙美子
強敵、なのですね。カクリヨから出で幾日、何とか戦い抜いてきましたが、時間に干渉する程の敵とは…。
ですが正義の為です。もはや是非もありません。

時間を停めての先制攻撃。私の能力では回避は難しそうです。ならば全方向防御。
「黒いセーラー服」を護符に変え【結界術】で防御障壁を展開。更に「鬼髪」「霊毛襟巻」を全身を包み込む様に伸ばし纏い【武器受け】。三重の防御で耐え凌ぎます。
凌ぎきれたら【生命子】発動。生命を凝縮して不死身の妖怪と化します。受けたダメージを瞬間再生。
「鬼髪」を伸ばし束ねて槍と化し【貫通攻撃】。封じられた鬼の力の【封印を解き】【リミッター解除】。【誘導弾】で伸ばし敵を追尾させ全力で貫きます。


卜二一・クロノ
 神のパーラーメイド×精霊術士、22歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、敵には「神(我、汝、~である、だ、~であろう、~であるか?)」です。

時間の流れを停滞させたり逆転させたりといった技を使う相手には容赦しません。
光陰の矢は、先制攻撃対応のユーベルコードです。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●時の流れは、流れる水が如く在れ

『──来たか、「第六の猟兵」達よ』

 グリモア猟兵の手引により転移したその先に、その男はいた。
 蒼の髪に、朱の瞳。針の動かぬ懐中時計を胸に抱く、線の細い年若い男。
 だが、直に見れば分かるだろう。その男から滲み出る、物理的な重みすら感じるような圧倒的な魔力を。
 彼こそが、書架の王『ブックドミネーター』。今回猟兵達が討つべき、猟書家勢力に与する男であった。

(強敵、なのですね)

 その圧倒的存在感に、姫川・芙美子(鬼子・f28908)の背は粟立ち、頬に冷たい汗が一筋流れる。
 忘れられし存在(モノ)が集まる幽世(カクリヨ)より出でて、早幾日。既に数度の戦いを経験している芙美子である。
 だが、目の前の敵の存在感は……既に刃を交えた猟書家のそれよりも、更に濃縮だ。伝え聞く所では、『時間に干渉する』程の力も有する強敵であるのだいう。
 芙美子でなくとも、慄きを覚えるのは至極当然の事であろう。

「時間の流れを停め、また逆転させる。そんな技を使う相手には、容赦はせぬ……!」

 だが物事には当然、例外という物がある。今回の戦いにおいても、慄きを覚えず猛る者がいた。
 卜二一・クロノ(時の守り手・f27842)の表情に浮かぶのは、強い怒りの色であった。
 トニーは、時空の守護神の一人である。そんな彼女にとって、時の流れとは不可逆であり、流れる清水の様に滞る事の無い神聖な物であった。
 ……故に、トニーは目の前の強敵に怒るのだ。

「神罰を与えてくれよう!」

 普段の女性的な口調とは打って変わった、神の威厳に満ちた毅然とした姿。
 それはトニーの内に宿る義憤の想いの顕れであるのだ。

「そうですね。慄いてなど、いられません」

 そのトニーの義憤が、芙美子の心に火を灯す。
 確かに、相手は難敵。だが、それがどうしたというのだ。
 この敵をこのまま取り逃がせば、漸く平和が訪れた一つの世界にまた大きな混乱の種が植え付けられる事になってしまう。
 この戦いは、正義の為の戦いなのだ。ならば、もう……!

「……もはや、是非もありません」

 戸惑う事も、畏れる事も無い。ただ、戦い抜くのみ!
 決意を固めれば、芙美子の纏う黒のセーラー服が解れて散って、護符へと変わる。
 組み上げるは防御障壁。更に髪と襟巻きが全身を包み込むかのように伸びて覆えば、まさに鉄壁の全周防御の構えである。

『成程、気概はあるようだ。だが……まだ、力不足は否めんな』

 だが芙美子のその姿を見ても、『書架の王』のその口ぶりは淡々としたままだった。
 そうして一言呟いて、手を軽く振るえば……ピキリ、ピキリと。青年の身体を、蒼く輝く氷が覆う。

 ──ゾクリ。

 その氷を目にした瞬間、芙美子とトニーの背筋が……いや、魂が凍る。
 グリモア猟兵は、言っていた。『彼の強さの格は、猟兵のそれを大きく上回るだろう』、と。
 そして『書架の王』自身も言っていた。『私は強い』、と。
 今、芙美子とトニーはその言葉の意味を正しく理解した。この圧力、この魔力……確かにコレは、格が違う!

『──往くぞ』

 呟く『書架の王』。全身を蒼氷で覆うその身体が掻き消える。
 だが、次の瞬間。

 ──轟ッ!!

 戦場に吹き抜ける、鋭い衝撃。
 そして直後、目の前に現れた拳を振り上げる『書架の王』のその姿に、芙美子は全てを理解した。
 そう、『敵は今の一瞬で物理的に距離を詰めたのだ』と。突き抜けた衝撃波は、敵の移動による物であったのだ、と。
 ユーベルコードによる強化の恩恵もあるだろうとは言え、素の実力が高くなければこうはならないはず。
 この一瞬だけで、敵の強さがどれほどの高みにあるのか……窺い知れようと言うものだ。

(回避は難しそう。ですが、その為の全周防御──!?)

 だが、芙美子とて無策であった訳ではない。
 芙美子は、己の能力では敵の攻撃を捌く事が難しいだろうと予想していた。
 故に、彼女は準備していたのだ。敵の攻撃を受け、耐え、凌ぐ為に。
 張り巡らせた鉄壁の守りは、まさにこうなることを予期しての物だったのだ。
 ……しかしその防御は、『書架の王』の言葉の通り。
 圧倒的な力を前にするには、まだまだ力不足であったらしい。

 振り下ろされた蒼氷の拳が、三重の盾の一段目に振れる。
 一段目は、護符で形成された防御障壁。強固なその障壁であるが、蒼氷が触れたその瞬間に割れる。
 突き抜けた拳が、二段目を作る襟巻きを叩く。
 妖怪の毛で編まれた伸縮自在のその襟巻きも、鋭い氷と拳圧の前に千々に千切れて無力化されるばかりである。
 残る壁は、あと一枚。鬼の力宿る芙美子の髪が作る壁に、拳が触れる──。

「退がれ!」

 その瞬間、飛び込んだ人影が芙美子をかばうかのように突き飛ばす。
 転がる芙美子。一瞬で体勢を立て直し、直後に見たのは。

 ──ゴッ!!

 殴り飛ばされ、地を揺らすかのような衝撃を受けて崩れ落ちるトニーの姿であった。
 一瞬で意識を失い、倒れ込むトニー。だがその表情は、何かを成し遂げたかのような晴れやかな物。
 一体、何があったというのか。

『──成程、やってくれる』

 その答えは、舌を打つ『書架の王』のその姿を見れば分かるだろう。
 全身に蒼氷を纏う青年。その急所となるべき部分に、いつのまにやら光の矢が突き立てられていた。
 【神罰・光陰の矢(パニッシュメント)】。トニーの持つユーベルコードの一つである。
 この技の最大の特徴は、自身に命中した敵のユーベルコードを敵自身の急所を貫く矢と変えるというその特性にある。
 今回の戦いにおいて、確実に先手は取られる。それはどう足掻いても変えられない、純然な事実である。
 ならばその事実を逆手に取って、『敵のユーベルコードを利用して攻撃すればよい』と。トニーはそう、考えたのだ。
 結果として敵の攻撃を甘んじて受ける事になってはしまうが、一矢は報いた。よし、としておこう。
 ……そんな己の傷を厭わぬトニーの姿を理解すれば。芙美子の内に灯っていた火が、炎と変わる。

「──今、この時の為だけに」

 手傷を負い、『書架の王』に僅かな隙が生まれる。その間隙を突くかのように、芙美子が動く。
 その姿は、いつの間にか変わっていた。今を生き抜く価値に覚醒(めざ)めたその姿は……正義の味方にして、不死身の妖怪のその姿である。
 うねる髪に宿る鬼の力を解き放ち、束ねて形造るは全て貫く無双の槍。伸長自在のその槍で、狙い穿つべきその場所は……。

(──彼女が突き立てた、光の矢!)

 それは、傷を厭わず、敵を畏れず。己の爪を突き立てた、トニーの成果。
 文字通り突き立てられた一矢を、槍で打ち付け更に深く食い込ませる──!

 ──ガッ! ググ……!

 伸びた髪の槍は見事、蒼氷と突き立てられた矢を叩き、更に深く食い込んで。

『ぐっ、クッ──!』

 『書架の王』のその肉に、深く突き立てられた。
 拳を振るい、槍を弾く『書架の王』。仕切り直すかのように一度距離を取り、猟兵達を睨みつける。

『……力不足と言ったのは、訂正しよう。認めよう、『第六の猟兵』達。お前達は、強い』

 故に、これから先は一切の油断はせぬ。冷たい力を漲らせ、蒼く輝く氷を纏う男がそう告げる。
 ……『書架の王』との激闘は、これからが本番となりそうであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アネット・レインフォール
▼静
ふむ…ここまで防御に秀でた敵も珍しい
剣戟や魔術の類もアレの前では意味を成さないだろう

つまり――お触りNGという事だ。

だが、俺も生き抜いた武人の一人。
ここで足踏みしていたら
故郷の仲間達に笑われてしまうからな(苦笑)

▼動
予め周囲に念動力で刀剣を展開。
高速で連続投射し先制を阻害するが
武器に結界術をダメ元で覆っておく

投射か一撃を放ち、能力の影響範囲を冷静に確認。
換装は…間に合わないと判断

【洸将剣】で黒騎士アンヘルの消えざる過去の刃を模倣。

無数の刃で包囲&相殺しながら貫くが
凍結されてもその上から刃を重ね掛ける

対策の併用&余裕があれば【竜騎兵へ至ル道】も検討

…しかし偶然の一致か。或いは――

アドリブ歓迎



●その剣は、知識に勝るか?

 一切の油断はせぬ。そう語った『書架の王』のその構えは、一見すれば無防備な物であった。
 だがこの場に居並ぶ猟兵達ならば、判る。彼の朱の瞳には、猟兵達を対等の敵であると認めた意思の輝きが浮かぶ事を。
 それと同時に、身体でも感じる。まるで猟兵を押し潰さんとするかように、彼の身体から吹き出る威が一層凄みを増した事を。
 ……付け入る隙が、見当たらない。『書架の王』のその姿は、まさに盤石の立ち姿であった。

(……ここまで防御に秀でた敵も、珍しい)

 一分の隙も無いその姿に、ふむと一声唸りを上げて、アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は考える。
 全身を蒼氷で覆い、その身体能力を飛躍的に高める『書架の王』。更には話に聞く時間凍結の術の力も控えている。
 下手に剣戟を放っても躱され防がれるだろうし、魔術も恐らく同様だ。仮に多少の手傷を負わせても、時間凍結の術で即座に回復されてしまうだろう。

(つまり──お触りNG、ということだ)

 冗談めいた言葉を頭で浮かべるが、その表情は固い。
 何せ、『書架の王』の前では並大抵の攻撃など意味を成さないのだ、と。アネットは自ら、そう結論付けてしまったのだ。
 一体どう攻略すれば良いやらと、溜息の一つも吐きたい気分であった。

(……だが、俺も生き抜いた武人の一人だ)

 胸中の底に淀む、諦念にも似た感情。だがその感情を表には欠片も出さず、アネットは剣を引き抜く。
 引き抜かれた刃が閃けば、周囲の時空に歪みが生じ。呼び出された数多の刀剣が独りでに浮かぶ。
 数多の冒険を、戦いを超えてきたアネットである。隙の無い強敵との戦いとて、過去には何度も乗り越えてきたのだ。
 そんな自分が、ここで足踏みなどしようものなら……。

(故郷の仲間達に、笑われてしまうからな)

 そう。共に数多の死線を乗り越えた頼れる仲間達に、合わせる顔が無いではないか!
 苦笑を浮かべ、構えるアネット。そんな剣士の姿に、『書架の王』が何かを示す事も無い。
 ただただ、正面から。だが圧倒的な格の違いを示すかの様に……蒼氷を纏う身体で滑るかのように動き始める。
 衝撃波を伴うかのような、圧倒的なスピード。一息に距離を詰めてこないのは、『油断などしない』というその言葉の表れか。
 逆を言えば、一瞬でも敵の姿を見落とせば。『書架の王』の鋭い一撃は、容易くアネットの身体を穿つだろう。

 ──往けッ!

 故に、アネットは敵の姿を注視し、見極める。
 同時に浮かぶ刃を念じて飛ばし、敵の動きの阻害を試みる。
 飛ぶ刃の刀身にはそれぞれ、結界術を纏わせている。この力が通じれば、敵の力の幾らかでも削げるだろうか。

『──侮るな、猟兵』

 いや、その刃は掠りもしない。矢継早やに、四方八方から襲っても、だ。
 『書架の王』には、視えている……いや、理解っているのだ。
 刃がどこから襲い来るかと。どの順番に躱せば良いかと。
 刃の僅かな煌めきや、風切音の全てを受けて。その膨大な知識で読み解き……全てを、理解しているのだ。

 ──だが、敵の動きを見極めているのは『書架の王』だけではない。

(視えた情報から一瞬で全てを理解し、最適な行動を採っているか──!)

 アネットも、ただ敵の行動を阻害する為だけにその刃を飛ばしていたのではなかった。
 能力の影響はどの程度か。その範囲は? こちらの攻撃の探知距離は? 反射速度は?
 ……彼もまた、『書架の王』のその力の全てを探っていたのだ。

(──鍵となるのは、視覚情報か。ならば、ここは……)

 振るわれる『書架の王』の腕。竜の爪を思わせるような鋭い無手を剣で受けつつ、勢いを利用して距離を取る。
 相手が視覚から情報を得て、活かしているのならば。ここで打つべき手は、一つだけ。
 刃を鞘へと収めつつ、瞳を閉じて。己に刻まれた『あの剣』を、思い出す。

「碌式──」

 思い起こすのは、かつて自分を斬り伏せたあの刃。
 銀河帝国の宿将の一人にして、消える刃の使い手。『黒騎士』と呼ばれた、あの剣士の黒剣だ。

「──洸将剣!」

 具現化するその刃を見て、『書架の王』の表情が変わる。
 空間を刻み不可視の斬撃を飛ばすその刃の力は、どうやら彼にとっても既知の物であるらしい。
 だがそれは同時に、この力の厄介さも同時に識っているという事であり……。

『──グッ、く……!』

 振るわれる不可視の刃を前にして、回避の手を探るには情報が少なかったか。
 アネットの振るう斬撃は、『書架の王』の纏う蒼氷を少しずつ、少しずつ。確実に削ぎ落としていく。
 そうして氷が削ぎ落とされる中、『書架の王』が遂に気付く。

『この斬撃、私のユーベルコードを封じる力も乗せているか』

 そう。アネットの振るうこの斬撃は、時空を斬るあの斬撃の模倣品のみに非ず。
 【碌式・洸将剣】のその真価は、『相手のユーベルコードを相殺する』というその特性にあるのだ。
 アネットが狙っていたのは、この状況だ。相手の蒼氷を剥ぎ取り封じ、後に動く者の礎となる。
 その為に、アネットは敵の全てを探り、見抜き……刃を振るったのだ。

『……時間凍結結晶は、大分削られてしまったか。まぁ、いい』

 そうして刃を振るい、どれだけの時が流れたか。
 飛び退き再び距離を取る『書架の王』のその身体が纏っていた蒼氷は、彼の言う通りに大部分を削り取られてしまっていた。
 ……これで、後に続く者は。随分と戦いやすくなるはずだ。

(だが、気になるのは……)

 『書架の王』のその姿に、己の使命を果たせたと。安堵の息を漏らしつつ、激しい消耗にアネットが膝をつく。
 だが彼の脳内に新たに湧き上がるのは、既知感に似た感覚。

 淡々と、己の結晶を剥がされた結果を受け入れる眼前の『書架の王』。
 その姿は、己の滅びを粛然と受け止め滅びていった『あの存在』と、余りにも似通ってはいないだろうか?

(……偶然の一致、か? 或いは──)

 新たに湧いた、小さな違和感。
 疑念を胸に抱きながら、アネットは一時戦場を離脱するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆行動
辿り着きましたよ、ブックドミネーター
全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます

念動力を以て私も空を飛び
積み重ねた戦闘経験と五感を研ぎ澄まして攻撃を捌き
重要な臓器はその位置をずらした上で即死だけは避けましょう
第一波を凌いだら反撃開始です

時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのは痛いぐらい理解しました
ですが覆って居るのはその身だけであり魂まではかないませんよね?
ならば逃げ惑いながらも
この地形を凍結させる力…生命力を略奪して構築した
【黒竜の道楽】を以てその傲慢を喰らいましょう

正直なところ貴方の思惑は判りません
ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ

※他猟兵との連携、アドリブ歓迎


テリブル・カトラリー
ただ知識欲を満たす為だけならどうでもいいが、オウガ・フォーミュラ。
…平和となった世界に、新たな火種を持ちこむならば、見過ごす訳にはいかん。

超重金属の盾を展開し、盾受け。
後方へブースターで体を吹き飛ばし、汎用機関銃で制圧射撃。
氷結晶の防御と膨大な知識からくる格闘術、ウォーマシンの怪力でどうにかなるものではないだろう。

だが、目眩まし程度にはなる筈だ。
アームドフォートのミサイル一斉発射。
爆炎で視界を塞ぎ、その隙に早業で『邪神腕・世界矯正』

邪神の力で奴の力を剥ぎ取る。時間は一瞬だろうが、
それで十分だ。クイックドロウ、自動拳銃を抜き放ち、
剥ぎ取った力を込めた弾丸で鎧無視攻撃。



●傲慢なる『智慧』を、穿て

 纏う蒼氷を大きく削られ、『書架の王』のその力は大きく減じていた。
 当然、その圧力も減じている。万全の時と比べれば、雲泥の差であると言えるだろう。
 だが、それでも。

『まぁ、いい』

 と、ただ一言。『書架の王』は一言呟くのみである。
 ……事実、彼の力は大きく減じられたとは言え。今もまだ、彼の力は猟兵達のそれを大きく上回る水準にあるのだ。
 故に、彼は動じない。油断なく向き合い、残る力を十全に振るうことが出来れば、己に敗北は無いと識るが故に。

「辿り着きましたよ、ブックドミネーター。正直な所、貴方の思惑は判りませんが……」

 そんな『書架の王』へと向けて、鋭く刺さる少女の声。
 黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)が、『書架の王』の前に立つ。

「今を生き、選び続けているのは私達です。貴方の自由には、させませんよ」

 告げて、戦意を滾らせるミコ。
 『屠竜の魔女』を名乗る、ミコ。その漆黒の瞳は長らく追い求めた敵を見つけたかのように、爛々と強い光を放っていた。

(ただ知識欲を満たす為だけなら、どうでもいいが)

 そんなミコの隣で、粛々と装備を展開する大柄な影。
 テリブル・カトラリー(女人型ウォーマシン・f04808)は、『書架の王』がこの世界の内に籠り知識を満たすだけであれば、別段放置しても構わないと。そう思っていた。
 だが、オウガ・フォーミュラとして世に出でて、別の世界へと渡ろうと言うのならば、話は別だ。
 しかも、彼らが渡ろうという世界は『オブリビオン・フォーミュラを討ち果たされた世界』であるのだという。
 長い苦難を終え、漸く平和が訪れた諸世界である。そんな世界に新たな火種を持ち込むというのならば……。

(……見過ごす訳にはいかん)

 機械の身体に宿るコアに浮かぶ、不可思議な想い。
 ヒトが『義憤』と呼ぶその感情のままに、戦いこそが存在理由のウォーマシンが武器を構える。

『成程。一人であれば私の力に及ばずとも、二人であればと考えたか』

 並ぶ、二人の猟兵。大小くっきりと分かれたシルエットを見ても、『書架の王』は揺らがない。
 そう、確かに一人を相手にするより、二人を同時に相手とする方が厳しくなる。敗北の可能性も、僅かばかり生まれるだろう。
 だが……。

『それならそれで、やりようはある』

 淡々と告げたまま、ふわりと浮かぶ『書架の王』の身体。
 身体を覆う蒼氷の大部分は剥がされて、その力を大きく減じているというのに……その飛行速度は、やはり早い。

「逃しませんよ。私達も……!」
「あぁ、続こう」

 そんな『書架の王』を追うかのように。
 方やふわりと念動力で、方やその背のブースターを唸らせて。ミコとテリブルの二人も、空を舞う。
 空を並走する二人。だがブースターの勢いの分、接敵はテリブルの方が僅かに早い。
 超重金属製の盾を展開するテリブル。勢いのままに叩きつけ、押し潰し、動きを封じようと試みる。
 だが、しかし……。

『──軽いな』
「むっ、ぐぅ──!?」

 正面からぶつかる、テリブルと『書架の王』。
 だが力負けしたのは、加速と盾の重さを味方に加えたはずのテリブルの方だった。

(……成程。ウォーマシンの怪力であっても、近接戦はどうにかなるものではないようだ)

 ……『書架の王』の力は、減じてはいる。だがそれでも、彼の力が猟兵に勝るという事も、また事実。
 その事を改めて認識しつつ、テリブルの目は冷静に戦況を見極める。
 確かに一対一の真っ向勝負、正面からの力比べでは勝機は薄いだろう。
 だが、こちらは二人。一人で正面から敵わぬのであれば、二人で挑めば勝ちの目は生まれるはずだ。
 ……敵の言葉を借りていうなれば。やりようはいくらでもあるのだ。

「援護を!」
「……了解した」

 今追いつき、追い越して行ったミコが『書架の王』に挑みかかる。
 すれ違いざまに交した言葉と視線。彼女の目は、何か一計を案じる様に輝くのが見て取れた。
 何をするつもりか。その詳細は分からぬが。

「──目眩まし程度にはなる筈だ」

 展開される大型浮遊砲台。
 内蔵された誘導弾の砲門が開かれて、無数の砲弾が空を舞い……炸裂。閃く爆炎が戦場を覆い、一寸の先も見通せぬ白煙が満ちる。
 その白煙の中へ、臆する事無くミコが飛び込む。

(全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます!)

 積み重ねた戦闘経験と、磨き上げた鋭い五感を研ぎ澄ませれば。敵の位置など手に取る様に判る。
 敵の懐に飛び込むまで、あと2、1……。

『──それは、予測の範疇だ』

 声が聞こえた、次の瞬間。
 ズンッ! と。ミコは自分の身体を貫く激しい衝撃を感じ取る。
 己の左胸に視線を送る。胸を貫く、青年の腕が瞳に映る。

(……まさか、『合わせられた』?)

 そう、敵には膨大な知識がある。その知識を以てすれば、白煙の中に僅かに動く風の流れから飛び込んでくる敵へと的確な一撃を見舞う事など、造作も無いことなのだ。
 その事に思い至り、理解し……かふっ、と。ミコの口から溢れる血潮。

『まずは、一人……?』

 飛び込んできた猟兵の胸を貫き、『書架の王』がポツリと呟くも、違和感を感じた様に表情が曇る。
 ……今、確かに自分の腕は『ヒトの左胸』を貫いた筈。それは間違いない。
 だが、妙だ。手応えが、薄すぎる。そこに本来あるはずの、『心臓』を貫いた手応えが無いのは、何故だ?
 それに、この女の血。『ヒト』の血としては、黒すぎる。これはまるで──!

『……貴様、まさか』
「──くっ、ふふ……」

 そうして疑念を抱けば、すぐに確信を抱くだろう。
 僅かではあるが驚きに目を開く『書架の王』のその姿を見れば、ミコは口から血を滴らせながらも、笑う。嗤う。
 ……いきなり手痛い一撃を受けてはしまったが。この状況は、ミコにとっての『想定通り』であるからだ。

「えぇ、位置をずらしたのですよ。私はブラックタール。『ヒト』ではありませんからね!」

 ガシリ、と。胸を貫いたままの『書架の王』のその腕を、ミコの指が掴み食い込む。
 まるで万力の様なその握力は、「絶対に逃しはしない」と語るかのよう。胸を貫かれ瀕死の人間が出せる物では決して無い。
 ……そう。ミコは、ブラックタールの猟兵である。今は人の少女の姿を模してはいるが、本来の彼女の姿は不定形。その臓器の位置だって、ヒトの身体の配置に縛られる物ではないのだ。

「貴方が、時間凍結氷結晶で全身を覆っているのは痛いぐらいに理解しました。ですが……」

 その魂までも、覆っている訳ではありませんよね?
 腕を掴み上げ、黒の血を垂れ流しながら。嗤うミコの身体から滲み出る、不穏な気配。
 それは、屠竜の魔女たるミコが宿す魔力の渦。数多の竜を喰らってきたミコが使役する、黒き混沌に眠る竜の力だ。

「いあいあ、はすたあ……拘束制御術式解放。黒き混沌より目覚めなさい、第零の竜よ!」
『ぐっ、お──!!??!?』

 声にならぬ悲鳴が響く。
 滲み出る魔女の力は影を産み、影は無数の黒竜の残滓となって『書架の王』の身体を……いや、その魂を。
 『求める答』に執着し、今と未来を生きる人々へと向ける、『書架の王』のその悪意を、侵していく。
 だが。

『この、程度で──!!』

 最後の抵抗を示すかのように、『書架の王』の身体を新たな蒼氷が覆っていく。
 ……この状況で彼が力を取り戻せば、追い込みつつある状況がひっくり返されるのは明白だ。
 だが、忘れてはいないだろうか。

 ──ズ……ッ!!

『カッ、ハ──!?』
「──いいや」

 この場にはもう一人、猟兵がいることを。
 響いた声の主は、テリブルであった。ミコが『書架の王』の腕を掴み動きを封じた隙を突いてその背を取り、刃を突き立てたのだ。
 突き立てた刃の名は、【邪神腕・世界矯正(ワールド・カウンター)】。超常能力の発動を無力化し、本来発動するはずであった力を攻撃力に転化する、邪神の腕である。
 その腕を、背に突き刺され……『書架の王』を覆う蒼氷が、消えていく。高まるはずだったその力も、消えていく。
 後に残るは、力を失い魂を侵され、満身創痍となった『書架の王』の身体だけ。
 ……『邪神腕』の効力は、そう長くは続かない。だが、ほんの一瞬でも敵の力が無力化される時間があれば。

「これで、終わりだ」

 テリブルにとっては、十分な時間である。
 引き抜かれた大型の自動拳銃が『書架の王』の蟀谷(こめかみ)に突き立てられて──。

 ──ズパァンッ!!

 響く炸裂音。青年の頭が砕かれて、その身体が塵へと消えていく。
 『書架の王』ブックドミネーター。
 猟兵達はこの強敵を、見事に打ち破って見せたのだった。

 こうして、猟兵達は難敵の一人を打ち破った。
 だが、『書架の王』はこう語っていた。『オウガ・オリジンはもっと強い』、と。
 そんな敵を撃滅せねば、この大戦の勝利は無い。『迷宮災厄戦』の本番は、ここからだ。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月18日


挿絵イラスト