迷宮災厄戦㉕〜蒼のクロニクル
●『零』の支配者
過去を凍らせ、永遠へと留めるもの。
それは書のみに非ず――だが。
「……全ての書を司る者である私は、全ての書の力を扱える」
猟書家達の主として。
蒼き凍結世界を統べるその『王』は書架の権能のみを振るう闘いを択ぼうとしていた。
其の行為に果たして如何なる意味があるのかは識る由も無く……。
「だが――ゆめゆめ油断せぬ事だ。私は強く、オウガ・オリジンは更に強い。何を守り、誰と戦うか、常に考え続けるが良い……」
――今『世界』へと刻限告げるは凍れるままの時計の針には非ず。
ただ、『六番目の猟兵』達の到来だけが絶対の『零』を解かし得るのだ。
●『六番目』達へ
アリスラビリンスにおける『迷宮災厄戦』は数多の激戦の末、遂に『猟書家(ビブリオマニア)』の頂点に君臨する『書架の王』ブックドミネーターへの道を切り拓くに到る。
そして……。
「見てるよねとかいずれ行くねとか会おうよとか、書架の王は予兆やグリモアをお気軽に一方的な伝言板代わりに使わないでほしーワケ。あ、そーいえば王サマ『帝竜戦役』でのみんなの戦いっぷり、めっちゃ褒めてたからソレは伝えておくね!」
グリモア猟兵である巳六・荊(枯涙骨・f14646)の前置きは長く、だがやっぱり彼女の結論は、倒して来てのシンプルな一語へと帰結するのであった。
「一切の熱を奪われた絶対零度の静謐空間……オブリビオン以外の何者も生み出さない、蒼い氷の世界が今回の王サマの戦場だよ」
戦場内で待ち受ける敵はブックドミネーターただひとり。
しかしそれは、時間を含めたあらゆるものを凍らせる秘法によって猟書家『最強』サー・ジャバウォックすら凌駕する域にまで自らを増強し、また、蒼氷からオブリビオンを創造する能力をも有する、隙の無い強大な敵である。
「それでもキミ達は決して負けないってボクは信じてる。残念ながらコレばっかりは予知じゃないんだけど……だってキミ達は『六番目』なんかじゃなくって、それぞれがとっておきのイチバンなんだから♪」
とびっきりの笑顔とともに荊はそう断言し、世界渡りの光を発するのであった。
銀條彦
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し「迷宮災厄戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●プレイングボーナス
今回は『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』です。
『書架の王』ブックドミネーターは必ず先制攻撃してくるので、これをいかに防御し反撃するかの作戦が重要となります。
ユーベルコード『●蒼氷復活』の【オブリビオン】は基本的に『これまでに1度でも猟兵の敵としてアリスラビリンスに出現した事のあるオブリビオン』から選びます。
ただしプレイング指定が有りそれが妥当であった場合、『その猟兵が他世界で実際に戦った事のあるオブリビオン』と再び戦う事も可能です。
御武運を。
第1章 ボス戦
『猟書家『ブックドミネーター』』
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POW : 「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
全身を【時間凍結氷結晶】で覆い、自身の【所有する知識】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : 蒼氷復活
いま戦っている対象に有効な【オブリビオン】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : 時間凍結
【自分以外には聞き取れない「零時間詠唱」】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
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黒玻璃・ミコ
※美少女形態
◆行動
辿り着きましたよ、ブックドミネーター
全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます
念動力を以て私も空を飛び
積み重ねた戦闘経験と五感を研ぎ澄まして攻撃を捌き
重要な臓器はその位置をずらした上で即死だけは避けましょう
第一波を凌いだら反撃開始です
時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのは痛いぐらい理解しました
ですが覆って居るのはその身だけであり魂まではかないませんよね?
ならば逃げ惑いながらも
この地形を凍結させる力…生命力を略奪して構築した
【黒竜の道楽】を以てその傲慢を喰らいましょう
正直なところ貴方の思惑は判りません
ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ
※他猟兵との連携、アドリブ歓迎
あらゆる生が、そして死すらも凍りつく蒼昏き世界。
「辿り着きましたよ、ブックドミネーター」
抗うように、印たる黄の長布をその細い首元に纏わせて少女は――佳麗たる少女の器に擬態した『それ』は真っ直ぐに氷原をひた走る。
「……越えて、来たか。『六番目の猟兵』よ」
「全てを知ったか如く語るその傲慢、打ち砕いてみせます!」
絶対零度に包まれた静寂を破るもの達の到来。『書架の王』の紅瞳は、掌中の時計からゆっくりとその『異物』へと移された。
歓待とも取れる呟きは冴え響く軋みを伴い、『王』の双肩から拡げられた氷翼。
「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
蒼き玻璃の如きそれらの煌めきは底知れぬ叡智湛えた『王』の力そのものの結晶であると黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)の全感覚が警鐘を鳴らしたその、刹那。
宣告に違うことなく、音無き『書架の王』の拳が少女の胸へと揮われる。
熟練に裏打ちされた全集中を掻き集め……それでも足らぬと少女は今自らのかたち保つリソースすらも投げうち臓器の死守に注力させ……そして。
――しゃらり。
懐中時計の鎖が擦れて揺れる音が耳へと響き、
少女は自らの生存を……第一波を凌ぎ切った事を悟る。
(時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのは痛いぐらい理解しました。ですが覆って居るのはその身だけ……)
そして。
ほぼ無我に近い状態で念動を駆使して宙翔け続けたミコは、連続回避から一転。
反撃の嚆矢たる詠唱が――【黒竜の道楽】が、凍れる静謐を燎き染めてゆく。
「いあいあはすたあ……拘束制御術式解放。黒き混沌より目覚めなさい、第零の竜よ!」
襲い来る氷結晶の一角を融かし吸収した『屠竜の魔女』に応え、幾多もの漆黒が昏き氷結世界から鎌首をもたげて一斉に『書架の王』へと襲いかかる。
「これは……」
超然が俄かに綻び、高みより硬き蒼氷に護られた筈の『王』がガクリと高度を落とす。
黒竜の残滓たる漆黒が、ブックドミネーターの肉体には傷ひとつ付ける事無いまま傲慢たるその負の想念めがけて喰らいつき啜り始めたのである。
「その蒼氷、あなた自身の魂まで凍らせる事はかないませんよね?」
少女は、くしゃりと、佳麗たるを取り戻して微笑む。
「正直なところ貴方の思惑は判りません。ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ」
書とはすなわち凍れる『過去』。
ならば畏れるべきは何もなく――『過去』を消費し私達という『今』はただ進み続けるのだ。
成功
🔵🔵🔴
天御鏡・百々
あらゆる書を司るとは何とも凄まじき力よ
しかしそれで我ら猟兵が臆することは無い
かの世界を再度戦乱に巻き込むなど許さぬぞ!
ここで成敗してくれる!
その治癒魔術は確かに脅威だが
それ自体が先制攻撃に寄与しないのであれば対処は容易い
初撃は神通力の障壁(オーラ防御103)にて防御
ユーベルコードを伴わぬ攻撃ならばこれで十分であろう
『真実を映す神鏡』にて敵のユーベルコードを封じる
本来は幻術や変化を暴くものだが
それらが無くとも封じる力は発揮されよう
もしも他に真の姿を持つならば…
その後は真朱神楽(薙刀)で防御の隙間を狙って斬撃だ
(破魔110なぎ払い35鎧無視攻撃9)
●アドリブ連携歓迎
●本体の神鏡へのダメージ描写NG
「あらゆる書を司るとは何とも凄まじき力よ……」
『書架の王』たる少年と対峙しその強大さを肌で痛感しながらも、天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は、きりり、毅然と一歩も退かない。
「だが、私の求める答は書の中には存在せず。なればアックス&ウィザーズに封じられし『天上界』を目指し、私自らが赴くしかあるまい」
「かの世界を再度戦乱に巻き込むなど許さぬぞ! ここで成敗してくれる!」
神鏡として過ごした太古から童女の姿かたち得て猟兵となった今に到るまで。
人々を助け導く為にこそ在り続ける百々にとって、私利私欲のままに略奪し戦禍を振り撒く彼ら猟書家らの所業は決して見過ごせるものではないのだ。
「……なるほど。選択は、それか」
睥睨する眼差しは、悠然と。
濃藍の袖が翻り、時の支配者たる『書架の王』が片腕を翳せば、万物凍てつかせる吹雪が百々へと放たれる。
「くっ、ユーベルコードですらない一振りでこの威力か……じゃが我が力、悪しきものには屈せぬ!」
抗するは、聖なる光の障壁。
ヤドリガミたる彼女から漲る神通力は、燦然と、太陽にも比すべき輝きと灼熱を発して吹き荒ぶ絶対零度を撥ね退けた。
(これほどの強者が治癒魔術携えるは確かに脅威だが……それ自体が先制攻撃に寄与しないのであれば対処は容易いはず)
百々の出撃よりも先んじて既に猟兵とこのブックドミネーターとの戦端は切られている筈だが、今、眼前に浮かぶ敵からは不自然なほどに交戦の痕跡が見当たらない。
おそらくは己には感知できぬ零時間詠唱が、いつの間にか、行われているのであろう。
治癒というよりもほぼ巻き戻しに近い威力のこのユーベルコードを、これ以上、自由に使わせてはならない。
そう判断した百々は、不動たる専守から神楽真朱の切っ先舞わせる攻勢へと果敢に転じた。
彼女が使おうとしているユーベルコードが如何なるものであるかを悟られる前に確実に命中させねば、敵もまた容易く対処を行ってくるに違いないからである。
「いずれにせよ徒労であると、理解らぬ愚昧ではあるまいに……」
鮮烈なる一刀一閃に破魔の力宿すこの戦巫女の薙刀術は、確かに、文字通り神業と呼べる域にも達していた。
時に、針に糸を通すかの様な精密さで防御の隙を脅かす事もしばしばである――故にこそ、ブックドミネーターはこの猛攻がただの布石に過ぎぬ事に最後まで気づけなかった。
「――我は真実を映す神鏡なり!」
決して外さぬ間合いへと踏み込んだその刹那。
本体たる神鏡を掲げたヤドリガミから照射された光は破魔の奔流と化して辺り一帯を包み込んだ。
真実を映し出すこのユーベルコードは、また、絶大なる封魔の楔打ち込む側面も備える。
「これは……時間凍結を阻害する力場、か」
「そのとおり、もはや零時間詠唱は何者にも癒しはもたらさぬ!」
裂帛の気合いと共に振るわれた横薙ぎが、破魔の奔流に更なる光重ねて、
今度こそ『書架の王』の肉体へ癒やせぬ深手を負わせたのであった。
成功
🔵🔵🔴
クーナ・セラフィン
…書架の王って時計兎だったのかな。ウサ耳っぽいし、時計だし。
何であれ逃したら群竜大陸とか大変な事になりそうだしここで食い止めたい所。
さあ兎狩りの時間と行こう。
可能なら他の猟兵と連携、本命の一撃は任せつつ書架の王の隙を上手く作る事を最優先に。
出てきたのは誰かな、此間戦った赤兎?
まあ何であれ復活怪人に負けるなんてのは嫌だしね。例え書架の王の助けがあったとしても。
只管走り跳び跳ね回避して体を温めつつUC発動まで時間稼ぎ。
止まるのは性に合わないからね!
準備が出来たら私とオブリビオン、書架の王の三者が一直線に並んだ瞬間に真っ直ぐ飛び込みUCで奥の書架の王ごと一気に切り刻んでやろう。
※アドリブ絡み等お任せ
果てなき蒼氷ばかりが続く風景へ次に降り立った猟兵はケットシーであった。
「とにかく……寒い、ね」
吐息さえ蒼白く凍える凍結世界。だが、堪える事は確かだが吐かれたことば程には難儀している様子は見受けられず、その所作はあくまでもしなやかで。
荒れ野に花ひらいた一輪の薔薇の如き麗しくも洒脱な騎士猫、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)が、ふるり、羽帽子揺らして敵の姿を求めようとしたその時。
剣呑な殺意に満ちた真っ赤な瞳が、爛爛と。
『不愉快な仲間達では無いようだがいずれにせよ野太刀・赤が斬り捨てる。キヒヒッ!』
「誰だっけ? たしか此間戦った……ああ、『赤兎』」
剥き出しの牙を意匠した悪趣味なマスクに『563』がナンバリングされた黒地に赤の兎耳フード装束。
つい先だっての『迷宮災厄戦』緒戦で撃破されたばかりのオウガ、『563部隊・隊長『赤兎』』が蒼氷纏う敵として突如クーナの眼前に召喚されたのだ。
なれば、この赤うさぎの剣士の間合いは体が覚えている。
「正直なところ、キミが来るんじゃないかなという予感は何処かにあったよ」
剣閃を紙一重で躱す、咄嗟のステップはあくまで軽やかに。
あとは只管、走って跳ねて跳ねて。猫と兎のおいかけっこの始まりであった。
『逃がすか、キヒヒッ!』
「止まるのは性に合わないからね!」
血に餓えた凶刃が繰り出す三日月の軌跡は、九重にも九連にも自在な【殺戮兎刀】。
同士討ちを織り交ぜねば寿命を削るというユーベルコードの制約も、使役される召喚体にはとってはなんら考慮に値しない。
『キヒヒッ!』
一方で、先の同敵に対して採ったヒットアンドアウェイ戦法とは大きく異なり逃げの一手を続けるクーナは、交戦の最中、薄暗く鎖された虚空へと話かける。
其処には、絶対の静謐破る足下の喧騒にも動かず睥睨する蒼き少年の姿があった。
「ふうん……書架の王、キミって時計兎だったのかな。ウサ耳っぽいし、時計だし」
あと、喚んだ仲間もうさぎだしと少し茶化してつけ加えたクーナに対し、猟書家達の主・ブックドミネーターからの答えは無い。
むろん、問い掛けた側もそんなものは期待してなどいなかった。
――『手を出すまでも無い』という少年の内心を確信する、其の為に投げられた軽口であった。
(今は『天上界』とやらにご執心だからようやく表舞台に出てきただけで。この兎くん、本来は自らの手をあんまり積極的には汚さないタイプじゃないかと睨んだのだけれど……うん、大きくは外してはいなかったようだ)
光射さぬ薄暗がりだが視界は良好。遮蔽となるような建造物も地形も排除され、一切を拒絶したかのような荒涼広がる凍結世界。
根っからの『猫』たるクーナにとって、此処はどちらかといえば闘い辛い部類の戦場といえるだろう。
そんな悪条件下にあってなお奇襲を仕掛けようとするのであれば……。
「復活怪人に負けるなんてのは御免。さあ――さあ兎狩りの時間と行こう」
脱兎猫から一転、美しき灰毛に力漲らせた騎士猫は銀槍ヴァン・フルールを、天高く、花咲かせる。
大上段の構えに入っていた『赤兎』の胸板めがけ、高速の初撃が吸い込まれ一撃の下、刺殺せしめたのを皮切りに。
クーナが此処に到るまで温存した大跳躍、けっして測らせなかった槍の間合い、
そして――【騎士猫は旋風のように(エレジー)】。
追い縋る『赤兎』のみならず『書架の王』の油断をも見透かす絶妙な呼吸で放たれた超高速の連撃は、砕け散る蒼氷を儚く散らし、見事に二兎への奇襲成功として結実する。
横たわった赤きうさぎの亡骸はやがて蒼き氷塊へと還る。響きわたる硬質な破砕音。
「遮蔽が無いのであれば作ればいい。いや、作らせれば、かな?」
『……なるほど……これが『六番目の猟兵』と闘うという事か……』
虹架けるような軌跡で着地を果たしたクーナの頭上、零れたのは感嘆。
机上ではない戦場の只中、
穿たれた喉元を押さえる『書架の王』を再び仰ぎ見、雪華の如き猟兵騎士はなおも挑み続ける。
成功
🔵🔵🔴
コノハ・ライゼ
はぁ~、寒くてやってらんないケド
ご期待には応えましょってトコねぇ
素早い相手は苦手なのよ
すぐに距離詰められると踏み
*第六感で気配読み*残像残すよう飛び退きつつ回避試みる
躱しきれぬ分は*オーラ防御展開し威力削ぎ*激痛耐性で凌ぐわ
負傷しても表情変えず笑んだまま
……苦手ダケド、追えない訳じゃナイのよ
己の返り血の匂い辿り敵の動き*見切り追い
受けた傷から流れる血を「柘榴」に与え【紅牙】発動
刃を巨大な獣の牙状へ変え丸呑みする様に喰らいつき*捕食するわ
*2回攻撃で咀嚼すようもう一噛み
*傷口をえぐって*生命力をいただこうか
時を凍てつかせようと生きてれば等しくオレの餌
その覆いごと丸呑みにしてアゲル
卜二一・クロノ
六番目の猟兵。それでは五番目の猟兵の成れの果てが汝らオブリビオンか
語らぬか。まあよい。こちらで見定める
奴は我を害するために、奴は必ず我に近づくことになる
その一撃は【激痛耐性】【オーラ防御】で耐え凌ぐしかあるまい。しかし、我が髪より繰り出される【カウンター】および【捨て身の一撃】にユーベルコード【神罰・時間操作の代償】を載せる
【騙し討ち】、軽機関銃を持っていて、髪の毛も武器として使うとは思うまい。
ただの一撃、それだけで神罰は執行される
これまで当然のように使えていた、頼りとする時間操作が容易に使えなくなる中、どれほどの事ができるのか、見定めさせてもらおうぞ
「『過去を凍らせ、永遠へと留める』……時を乱すそのような歪みは赦さない」
時間凍結能力を乱用する『書架の王』ブックドミネーターと対するにあたり。
卜二一・クロノ(時の守り手・f27842)は、時空の守護神の一柱として激しい怒りを覚えずにはいられない。
蒼く昏きこの『零』の世界のすべてを拒絶するかの様に……異界より来たる女神の長き濡羽髪は、闇では無く光を孕む高貴を纏わせていた。
「はぁ~、寒くてやってらんないケドご期待には応えましょってトコねぇ」
肌刺す極寒にからりと毒吐いて。
コノハ・ライゼ(空々・f03130)はいかにも緩く紫雲の色に染められた容良き頭部を傾げて身を竦ませ……けれどその双眸は、戦場と標的とを素早く値踏みする。
蒼き『時』の支配者――『書架の王』ブックドミネーター。
「『六番目の猟兵』。それでは五番目の猟兵の成れの果てが汝らオブリビオンか」
冷ややかな嘲笑とともにトニーは揶揄を吐きつけたが、『書架の王』は不可思議な微笑湛えたまま、自らの全身をまた蒼氷化した『時』の内へと覆い包んでゆく。
「……凍るも流るるも、其れは只、物質としての時が見せる状態変化の一つに過ぎない」
時間もまた質量を持つ物質。
故にこそ『骸の海』は無限量に堆積し続けてゆくのだと見せ付けるかの様に。
浮遊での静止を止め、上空から低空へと滑った少年の姿がブレたのは、羽ばたきの強さいや増す氷翼の尋常ならざる機動の為。
「予測の通り――だが……っ!」
鋭い呼気と共に、護身の障壁が展開される。
敵から仕掛けてくるならば近接戦との読みが当たったトニーは、早々に回避行動を放棄しカウンター戦法に専念したのである。
だが、気がつけば護壁もろともに彼女はしたたか跳ね飛ばされていた。
神たる意地に懸け呻き声一つ漏らす事こそ無かったが……圧倒的たる此敵を相手に耐え凌ぎ反撃の糸口掴むは難事であると改めて痛感させられていた。
(だが……ただの一撃、それだけでいい)
神罰の執念に支えられて歯をくいしばり、軽機関銃を手にトニーは立ち上がる。
揺れる、黒髪。
一方で、同時攻撃に晒される事となったコノハもまたトニーと同様の戦闘予測を立てて臨んでいた。
「素早い相手は苦手なのよ」
飛来する暴虐に対しても飄々たるを崩さぬ青年は、五感情報の全てとその先の第六感を駆使して紙一重を躱し、残像踊らせて逸らす。
しかし、出さぬ尻尾を掴ませぬ妖狐の技量は却って蒼き翼を加速させてゆく。
気配を読んで見切った心算と薄氷色のオーラの護りを超えて、いつしかコノハの肌には殴打の衝撃と斬性の痕が幾多と刻まれ始めた。
「……苦手ダケド、追えない訳じゃナイのよ」
滴る鮮紅に塗れた、笑み。
大きく飛び退きながら嘯く青年へと追い撃たんと、刹那、動作を溜めた『書架の王』の背中に突如浴びせられた弾幕。
トニーである。やや煩わしげに旋回しこの挟撃を排除せんと迫ったブックドミネーターと交差した瞬間。
「見定めさせてもらおうぞ」
まるで、それ自体が意思持つ刃であるかの反応を見せたトニーの黒髪から放たれた捨て身の一撃は――【神罰・時間操作の代償(パニッシュメント)】の執行。
「これまで当然のように使えていた、頼りとする時間操作が容易に使えなくなる中、汝がどれほどの事ができるのかを」
神としての宣告の通りに。
『書架の王』からまず氷の翼が喪われ、氷結晶にもピシリとヒビ走り出す。
それは時間操作を禁じ、罪の重さに応じた光の裁きを下し続ける時空の守護神としてのユーベルコードであった。
「そうか……まさか、時に触れ得る者だとはな」
しかし。
トニーが持てる全霊を注ぎ尽くした一方で、ブックドミネーターにはまだ猟書家の頂点たる本来の戦闘力が残されている。
当然の帰結として無防備となった女神めがけ、断頭の手刀が振り下ろされる寸前。
『王』の片腕に突き立てられたのは、暴食たる【紅牙(ベニキバ)】。
「…………っ!?」
「蒼くて冷たい覆いごと丸呑みにしてアゲル、つもりだったのにぃー! まぁ、イイワ。トニーちゃんの力も刺激的でステキだもの」
万象映す刃へ自らの血を吸わせて煽り解放し……コノハが握る『柘榴』はもはや短剣には非ず。貪欲たるコノハの餓えを満たす為のもう一つの口だ。
(たとえ時を凍てつかせようと。生きてさえいれれば、等しく、オレの餌……)
護り無き『書架の王』の片腕を、遂には強引に噛み千切り、
嫣然と、
咀嚼を繰り返す。
――イタダキマス。
氷結の大地に『王』の血は流れ……、
凍れる筈の時計の針は、ゆっくりと、時を刻み始めようとしていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
朧・紅
アドリブ歓迎
紫目がお嬢様《紅》
金目が殺人鬼《朧》
わぁ、あなたご本の王様なのです?
ご本は素敵で溢れてるの!
最近知ったのですよ
だいすきっ
本の持つ力をどう使うかは読んだ方次第
あなたの力の使い方は、本当にそれでよいのです?
オイタにはセッカンです!
体に染みついた戦闘知識で刃をふるいますね
先制は第六感で致命傷は避けるです
ダメージで僕が意識失えば朧へ
対象に有効、それは紅に有効ッてこッたろ?
俺に通じんのかねェ?
拙かッた紅とは段違の殺人鬼術
血糸で動きを封じ紅朧月で切り刻む
自身へのダメージも愉しくてしかたねェ
嗚呼
テメェも存外熱いじャねェか
もッと、燃えナ
その方が愉しいだろォ?
嗤いながら殺し愛を愉しむ
――そこは、蒼くて静かな『零』の世界。
降り立ったのは、ひとりの赤い髪の少女。
ふぅわりと、
跳ねる、跳ねる。大きなリボンと、バニラのかおり。
「わぁ、あなたご本の王様なのです?」
招待主であるらしいと話に聞いた『書架の王』とさっそくのご対面叶い、朧・紅(朧と紅・f01176)は可愛らしく紫眸を瞬かせた。
片腕を喪くしたままの『王』は、沈黙。
先までの闘いの渦中に打ち込まれた『禁』が解けるまでは、あとわずか。
そんなタイトロープな自らの幸運を知ってか知らずか、
すっかりとはしゃぐ《紅》のおしゃべりはますます弾むばかり。
「ご本は素敵で溢れてるの! 最近知ったのですよ。だいすきっ」
きゅっと可憐なにぎりこぶしのポーズで、そのまま、たのしいたのしい大図書館での(お菓子の)想い出を熱く語って聞かせようとした《紅》だったが、
「……『素敵』の定義など、書の数、読み手の数だけ揺らぐ……儚きものだ」
王様からの思いも寄らぬ返事。
つまりそれが素敵でたいせつってことなのですよ、と。少女はにっこり微笑んだ。
「本の持つ力をどう使うかだって、読んだ方次第。あなたの力の使い方は、本当にそれでよいのです?」
「中々に興味深い問答ではあるが――」
淡々といっそ穏やかとも言える声音で、ブックドミネーターは少女に告げる。
時間切れであると。
物語の次の頁を手繰るようにして、『書架の王』の指先は【蒼氷復活】を紡ぐ。
『あなたは私のごはん? それともおともだち? あははっ、まあどっちでもいいや!』
蒼氷に包まれて現れた少女は、純白の毛並みの獣部位が人狼を想わせる元・アリス。
絶望とともに正気も名前も失われた人狼オウガは白きアリスを意味する『アリーチェ・ビアンカ』の仮称を与えられ、これまでも何度か『骸の海』へと送り還されて来た。
無造作に破り取られたそんな物語の断片を《紅》が知るはずも無い。
「わぁ、それはちっともどっちでもよくはないですよぅ。僕っおともだちっ」
『じゃあ遊ぼっか!!』
オウガと猟兵の少女達はトントン拍子に友情を深め……られなかった。
鎖された世界は【狂気感染(パンデミック・ルナライト)】の月光に照らされ、持ち前の純真をみるみるうちに侵蝕された《紅》をオオカミの爪は容赦なく責めたててゆく。
「オイタには………っみゃ!? ……ぅや
……??」
『ぐるるるぅ!!』
獣の本能全開の猛攻に対し、体へと染みついた戦闘術だけが《紅》の意思とは無関係に致命傷を避けさせていたが……戦場全体を満たすこの月下の狂気に適応できない以上それは先延ばしでしか無い。
積み重なるダメージに意識手放した少女を待つ運命はもはや惨たらしい死あるのみ。
「対象に有効ッてそれは『紅に有効』ッてこッたろ? 俺に通じんのかねェ?」
――突然の哄笑は、酷く獰猛で血腥く。
月下、降り立ったのは、ひとりの赫い髪の少女。
二人目の、『ひとり』。
少女の双眸はいつしか満月すら圧する黄金色に――《朧》の虹彩に取って変わる。
先に《紅》がごく一端を発揮したその力も元々はこの《朧》にこそ備わるもの。
『――がるるるっぁあ!!』
「テメェも存外熱いじャねェか」
跳ねれば、刎ねる。
【双響魂(ハウリング・プシュケー)】によって加速する狂気と呼応し、刃糸と化した『紅血』が爆ぜるように人狼オウガの蒼氷を貫く。
互いを獲物と捉えた衝動と衝動は、嗚呼と嗤い合い、相喰らい合う。
「クはハッ、愉しくてしかたねェ!」
『がぁあああああああ
!!!!』
《朧》のそんな殺し愛は、紅閃一刀、野性剥き出しの『白きアリス』の首を断ち落とした後もとても余燼とは収まりそうも無かった。
次なる獲物は、無論……。
「多重人格者とは、盲点だったな」
「いつまでも澄ましたツラしてねェで、もッと燃えナ『書架の王』ッ! その方が愉しいだろォ?」
――そこは今や何処までも、赤く赫き、戦狂いたちの戦場。
成功
🔵🔵🔴
スティレット・クロワール
六番目、ねぇ
うん、とても興味深いけれど——、まずはこちらを示してからじゃないと君は話しもさせてくれそうもないなぁ
聞き手でも読み聞かせでも無い
会話のために一度——見て貰おうか
君の言う「六番目」の力だよ
私に有効なオブリビオンの姿も気になるけれど、貰ってしまおうか
さあさあへびくん、本気の時間だよ
輪廻の顎にて、敵の攻撃を受け止めようか
展開より先に攻撃が来ても構いやしないよ
腕のひとつ分くらい、上げよう
まぁ、食べたところでお腹壊しちゃうと思うけれどねぇ
私の業を、お前が飲み込めるとは思わないことだよ
さぁ、私も君に届かせてもらおう
召喚物を戦わせ、私はサーベルにて斬り込もう
一撃でも、貴方へ届けましょう。書架の王
加々見・久慈彦
『これまでに1度でも猟兵の敵としてアリスラビリンスに出現した事のあるオブリビオン』のデータを集めた上で任務に臨みます(【情報収集】)。
先制攻撃、大いに結構。今からご覧に入れる手品は、先に攻撃していただかないとタネが仕込めませんのでね。
敵がオブリビオンを召喚したら、勘を働かせて動きを見切りましょう(【見切り】【第六感】)。オブリオンのデータは判っていますから、動きを予測しやすいはず。
そして、♦9のカードで攻撃を受け、UCをコピー。対ブックドミネーター用オブリビオンを召喚します。
半ズボンの坊やに有効なオブリビオンというのはどんな姿をしているんですかねえ。
※煮るな焼くなとご自由に扱ってください。
辿り着いた猟兵達の頭上、遥か高空より見下ろす眼差しは紅く凍てつき……。
アリスラビリンスという書の頁が『書架の王』によって次々と捲られてゆく。
蒼氷兵とでも呼ぶべき、今度の召喚オウガは同時2体。
「先制攻撃、大いに結構!」
全身白の高級(古着&偽)白スーツを洒脱に着こなし、颯爽登場したのは誰が呼んだか『怪紳士KK』こと加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)。
ぐちゃぐちゃに巻かれた包帯の隙間からちろちろ噴き出す炎の下の脳細胞の色は灰とも炭ともつかぬがフル稼働。予めインプットされた膨大な『現時点までのアリスラビリンス内に於ける全オウガ情報』群から2件をヒットさせていた。
「先ずは『『薔薇園の番兎』ローゼス』。見た目の通り、時計ウサギだったオウガ。招待客の生き血を啜る薔薇薗の管理者。ふむふむ。使用ユーベルコードは……」
『ちょ、ぶしつけになんですの貴方!?』
ピンクを基調にしたゴシックアンドロリータなドレスの各所に真紅のリボンや薔薇飾りを配した麗しき兎の貴婦人は大いに慌てた様子でリボンの杖ふるい、あたふたとユーベルコードを編み上げる――すると、たちまちに。
辺りの風景はすっかりと茨壁に遮られ、蒼氷の大地には無数の薔薇咲く迷宮空間が出現したのであった。
『ふ、ふふふ……私の薔薇園へようこそ』
ローゼスが得意とする、『迷い込んだ者の生き血を啜る迷宮に敵を閉じ込める』というユーベルコードはその性質的にネタバレされる・されないに左右されるとも思えなかったが、まあ、美学とか沽券とかオブリビオンにだってそういうものも有るのだろう。
――おくびにも出さぬがその実、久慈彦にとってこの敵は手痛く有効的であった。
折角、対ブックドミネーター用に仕込んだ手品の『ネタ』が残り1分たらずで霧散するという状況下で破壊不能な空間内へ隔離されてしまったのだから。
「そしてもう1体は」
「……此方の令嬢の素性なら、私にだって理解る。言われてみれば成程、アリス適合者を屠るにこれ以上の適任は居ないだろうね」
即席の共闘と相為った猟兵、スティレット・クロワール(ディミオス・f19491)の形整う唇から漏れた淡い溜息。
――蒼氷『オウガ・オリジン』。
『おのれ……おのれブックドミネーターめ! どこまでこのわたしをコケにするつもりか!? そこのアリスの肉を喰らい血を啜った後には眼にモノみせてくれるわっ!』
「いや、そこは食欲に屈せずもうひと頑張りしましょうや……」
【蒼氷復活】自体に召喚されたオブリビオンを操作する効果は無く、ここまで召喚体を彼の望み通りに戦わせてこられたのはあくまでもオウガとしての本能や『書架の王』自身の実力に因る所が大きい。
そして『オウガ・オリジン』は文句なし最強のオールマイティカードではあるが、『王』自身も認めた通り、このアリスラビリンスに於ける数少ない『格上』である。
『書架の王』にとっても危険極まりないこの諸刃の剣は対アリス以外でおいそれと多用できないのであろう。
『この世界でもっとも尊いこのわたしの力、思い知るがいい!』
どうやらこの場に召喚されたのはまださほど力を取り戻せていない時点での『オウガ・オリジン』であったらしく、現実改変のユーベルコードは迷宮をそっくりそのまま空とぶほうきの国へと造り変えてゆく。
(『六番目』かぁ……うん、とても興味深いけれど……)
藍の瞳がすっと怜悧に細められる。
これを好機と判断したスティレットは、『アリス』たる自らを『オウガ・オリジン』やローゼスを惹きつける陽動に用いてここから離脱するよう久慈彦に促した。
「腕のひとつ分くらい、差し上げよう」
『足りぬ。満ちぬ。もっとだ。もっともっともっと血と肉を――!』
真白の司祭服の下に渦巻く毒深き業すらも、『はじまりのアリス』にして『はじまりのオウガ』たる少女の腹にとっては極上の調味料。
(――まずはこちらを示してからじゃないと君は話しもさせてくれそうもないからなぁ)
焔たなびかせて蒼氷の天翔けたそれはさながら彗星で。
床を失った迷宮から1本のほうきを強奪して脱出はたし、再び『書架の王』と対峙した男がカウントゼロから切った手札は♦の9――【CURSE OF SCOTLAND】だ。
「半ズボンの坊やに有効なオブリビオンは……勿論、コレですよねえ」
『おのれ……おのれブックドミネーターめ! どこまでこのわたしをコケにするつもりか!?』
屈辱的な蒼氷復活を受けて召喚された別個体の『オウガ・オリジン』の怒りは、喚び手となった猟兵などには眼もくれずまっすぐ猟書家達の主のみに向けられた。
無数のトランプ巨人へと変身した『オウガ・オリジン』による包囲からの一斉攻撃が、凍りついた世界すらも大きく揺るがせる。
『許せない、許せない!』『許せない、許せない!』『許せない、許せない!』『許せない、許せない!』『許せない、許せない!』『許せない、許せない
!』……。
そして、迷宮に独り留まった『アリス』もまた劣勢を覆そうとしていた。
久慈彦とスティレット。全くタイプを異にする猟兵2名は白纏う以外にもう一つ、共通点が存在する。
――後者の行使するユーベルコード【輪廻の顎(ツァディー)】もまた、受け止めた敵ユーベルコードを複製するのである。
「さあさあへびくん、本気の時間だよ」
袖元から這い出た白蛇型UDC<ヘルメス>へ艶やかにそう囁けば、現実改変の力すらも映して放つ魔方陣が展開され……今やスティレットもまたアリスにしてオウガたる存在として縦横にその力を駆使し不思議の国の迷宮を突破したのである。
出口は、さぁ、もうすぐ其処に。
掲げたサーベルの輝きが、目覚めよと、昏き凍結世界に光を齎す。
「この刃はきっと凍れる貴方へと届けましょう、『書架の王』」
――『六番目』の力はこれだと示す為に。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ケルスティン・フレデリクション
あなたが、おうさま?
…ふしぎな、ふんいきのひと。
……みんなをきずつけたら、だめなんだよ。
みんながいたいことは、しちゃだめなの。おうさまは、わからない?
すぐに回復をしてしまうのなら、それ以上の攻撃を。
【全力魔法】【範囲攻撃】【属性攻撃】
炎の魔法を使うね。氷を全て、溶かしてしまうくらいの、熱い熱い、火の魔法…!
人の形をしているものを、燃やすのには抵抗があるけれど…
でも、倒さなきゃいけないなら、倒さなきゃ…。
続いて【ひかりのしらべ】で攻撃を続けるよ
きらきら。
相手の攻撃には【激痛耐性】と【オーラ防御】
いたいけど、まけない…。
みんなに、いたいことをするのは、だめなんだから、ね。めっ、だよ!
冷たく暗い凍結世界。
生者は死し、死者は蒼氷纏うオブリビオンとしての器を得て蘇るという連鎖。
何も無い、えいえん。
恐いような、哀しいようなこの蒼き不思議の国を、翼無きオラトリオは往く。
――チクタク、チクタク……。
「あなたが、おうさま?」
そんな風に問いかけながらも、
ケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)は、この少年こそがいま彼女を取り巻く凍結世界の主である事を何処かで既に確信しているのであった。
(………ふしぎな、ふんいきのひと)
蒼い髪に赤い瞳、そして兎の耳を垂らす『書架の王』ブックドミネーター。
時を刻む懐中時計へ、少年の視線は落とされたまま。
彼はアリスラビリンスの各所で暗躍続けた黒い猟書家達の主であり、
フォーミュラなき平和な世界の一つ、アックス&ウィザーズを侵略すると自ら明かして命を賭ける。ケルスティンにはそんな彼がわからない。何ひとつ。
けれどどうしても彼に伝えたい言葉が……想いが、彼女には有った。
「……みんなをきずつけたら、だめなんだよ」
「あらゆる世界の、あらゆる歴史より、それが途絶えたことなど一度も無い」
だからこそアリスラビリンスが在り、『骸の海』は今も世界を過去で埋め尽くそうと、現在や未来へ押し寄せ続ける。けれど。でも。
「みんながいたいことは、しちゃだめなの。おうさまは、わからない?」
――チク
……、……タ……。
再び凍りつく時計の秒針。
喪われた片腕がいつの間にかまったくの無傷で取り戻され、
より大きさを増した蒼氷色の翼は空覆わんばかりに広がって、
……少年の体はより高みへと遠ざかる。
その意味する所は『零時間詠唱』の行使――拒絶だ。
「だったら、炎を。氷を全て、溶かしてしまうくらいの、熱い熱い、火の魔法……!」
俄かに熱を帯びた少女の想いは、その小さな体から、迸る焔獄を噴き出して世界を飲み込んでゆく。
一切の感知も関知も不可能な【時間凍結】での回復に対し、ケルスティンは持てる魔力の全てを振り絞っての広域殲滅魔法で上回り『零』をゼロへと帰そうと試みたのだ。
(人の形をしているものを、燃やすのには抵抗があるけれど……。でも、倒さなきゃいけないなら、倒さなきゃ……)
『書架の王』からの攻撃は止まない。
凍気纏う拳が、翼が、一切の容赦を廃した殴打を連続で浴びせ続け……けれど、少女は身動ぎもせずただ『零』の世界ごとその王を焦がさんと祈る。
(いたいけど、まけない……)
か細い体へ凛然と決意を点した少女の熱は、いつしか焔すら超えて――きらきらと、
ひかりのしらべを奏で始める。
くるくると、少女の指先にいざなわれた圧倒的な光は、陽も星も無いはずの虚空から『書架の王』へと降り注いで、貫き、射抜く。
灼け落ちる氷の両翼。
無数の蒼氷片を振り撒きながら、少年の体は、地へと叩き墜とされる。
「みんなに、いたいことをするのは、だめなんだから、ね。めっ、だよ!」
「……無垢ゆえに傲慢たる猟兵よ――その叫びは、おそらくは、正しい」
――チクタク、チクタク……。
再び動き出した秒針。
そこにもはやえいえんはなく、
今を生きる者達の発する熱の前に『零』の世界はいまやすっかり溶かされ、喪われようとしていた。
成功
🔵🔵🔴
クロト・ラトキエ
匡(f01612)と
さて、何が出ますやら?
私的には飛び道具乱用とか嫌ですけど…
でも。
最高の射手は此処――共に居るのですから。
如何な蒼氷も役者には不足でしょうよ。
書架の王、蒼氷、何れも視野に収め。
視線に体捌き、四肢の挙動に速度等見切り、知識に照らし狙いを掴めたなら、
避けるか、急所や戦う為の手脚は守れる、と。
――UC励起。
刃で受け流し、鋼糸で絡げ、カウンター交え己と匡の被弾を防ぎ、より反応精度を高く。
蒼氷は止まれば上々。
あくまで狙いはドミネーター。
ご自身が死なない方法はよくご存知の様子。
…けれど、
生ある限り、死は道理。
鋼糸を広範に拡げ捕らえ、巻き斬り断つ2回攻撃。
当然、
これで終わりじゃないですよ?
鳴宮・匡
◆クロト兄さん(f00472)と
兄さんなら何が出たって平気だろ
もちろん俺も
数えきれないほどの戦場を越えてきた
今更、得意だ苦手だ言ってられない
戦場全体を常に見据えながら戦う
視線、体勢、息遣い
あらゆる情報から動きを見切り
自身の戦闘知識と照らし合わせ
場に即応した行動を選択、履行
有利不利は状況次第で簡単に引っ繰り返る
それを見切る眼には自信があるよ
動き出しを叩く、攻撃の起点を潰すなど
自由に動かさないよう立ち回りつつ
命中を重ねて相手の動きを覚え
飽く迄も狙いは首魁
僅かな隙を逃さず狙撃
一瞬の隙があれば、兄さんなら討てる
勿論、任せきりじゃないぜ
鋼糸の斬撃に合わせ即座に追撃
骸の海へ叩き返すんだ
徹底的にやらないとな
「さて、何が出ますやら?」
今日も今日とて雇われ兵稼業、遠くはるばる異世界へ。
クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の飄々は常の事だが、すべての書の力を扱えると豪語する『王』の手管から何が繰り出されて来るのかと、本心から期待しているかのようでもあった。
「兄さんなら何が出たって平気だろ、もちろん俺も。
今さら戦場で、得意だ苦手だ言ってられない」
たとえ敵が誰であれ、戦場で鳴宮・匡(凪の海・f01612)がなすべきにはさほど変化は無い。その程度で揺らぐものなど何も無い。
「いえ、私的には飛び道具乱用とか割と嫌ですけど?」
当然と衒いなく向けられた信頼に、韜晦まじりの冗句で応じてクロトは眼を細める。
(……でも、最高の射手は此処――今、私の眼前で共に居るのですから。如何な蒼氷も、役者には不足でしょうよ)
そんな彼らふたりの前に、早速、蒼氷を纏ったオブリビオンが召喚される。
それはまるでおとぎ話の絵本から飛び出したかのような外見で。
見目麗しい双角の金髪女性の上半身と碧鱗の魚の下半身を併せ持った人魚型オウガで、背中からは白い翼を生やしている。
飛翔して猟兵達から大きく距離を取った人魚オウガは、纏う氷と同じ色の空の上で一度だけ大きく旋回してみせた後に金のトライデントを構えた。
『全ては泡沫、幸福は来世にこそ在り……』
唄うような甘い美声は、何処か憂いすら滲ませて。
途端。
蒼き世界が海底へと没したかと錯覚する勢いで水泡が湧き上がり、猟兵ふたりを完全に包み込み……揺らぐ視界越し、二射、金色の閃光が飛来する。
猟兵両名ともに咄嗟の回避で射線を外し、蒼氷オウガの初撃はただ敵に手の内を明かす材料としてのみ消費されるに終わる。
役割を終えた泡群は霧散し、翼の人魚はいまだ遥か上空に有り。
「無数の泡の煙幕を目標周囲へ展帳させる事で視界を阻害、拡大させた死角から繰り出す三叉槍はライフル並みの長射程、と。どうやらこれは私に対して放たれた蒼氷オウガなのでしょうね」
「スナイパーというよりマークスマンに近いユニットか」
敵を分析すべく交わされる遣り取り。多少厄介ではあるが、泡で包むという前兆が付随するならばむしろ逆に其処が突破口であるとの認識が両者間で合致する。
(攻撃直前に見せた視線の運び。発動条件の一つは恐らく『視認』……)
そう判断したクロトは既に自身と匡を守るように張り巡らせ潜ませてあった鋼糸を指先の動きのみで滑らせ大地をしたたか削って迷彩へと利用。
匡もまた同様に、立ちこめた氷砕片の中へ完全に己を溶け込ませた状態から悠々ヘッドショットの人魚狩り……を実行する直前、
(――来る)
唐突に――卓越した匡の感覚を以ってしてもなお唐突と感じる『ありえぬ』タイミングで――地面に開いた大穴は蒼氷に包まれた巨大ナマズの口だった。
より正確に言えば地面からではない。地面スレスレ数センチ程の空間から飛び出しがてら、あんぐりと、繰り出された牙の一噛み。
(見落としていたわけじゃない。気配も存在も、直前まで何処にも『無かった』)
だが、戦場における有利不利など状況次第で如何様にもなるもので、数多の戦場を見続けてきた自らの眼ならばその潮を必ずや見切る事ができるとの自負が、彼にはある。
まったく動揺せず、紙一重、回避成功と同時に銃口の先を移した匡だったが……唐突にあらわれたその蒼氷オウガの巨体は空中で、また唐突に、消失する。
その神出鬼没ぶりは透明化や幻術などでは無い。
「亜空間移動というやつですか」
氷片迷彩の維持に織り交ぜて人魚への牽制を続ける合間、伊達眼鏡を僅かにズラして大魚を凝視したクロトがあっさり奇術のタネを明かして告げた。
つまり、
『戦場においての弱点がこれと見当たらない匡に有効なのは戦場外からの闇討ち』
と、いった処なのだろう。2体の敵がどちらも海洋繋がりなのは単にたまたまで。
ちなみに。
人魚オウガは『泡沫の天使』、巨大な魚型オウガは『クラーケン』という呼び名をそれぞれに持つが、名乗り合う作法も酔狂も存在せぬ戦場で猟兵達がそれを知るすべは無く、必要も特には感じられなかった。
制空権握っての精密狙撃と自在な次元移動を駆使するゲリラ奇襲のコンビネーション。
その上ここまでの蒼氷オウガ戦と大きく異なって『書架の王』当人も戦闘態勢にあり、隙を見せたが最後、その猟兵は一撃のもと倒されるであろうこと予想に難くない。
――だが、それこそクロトと匡の狙う処でもあった。
人魚の射程と精度は匡の銃に遠く及ばず。
大魚の神出鬼没もすぐにパターンを見抜いたクロトの先読みで対応可能となり。
マッチアップを入れ替えてさえしまえば、やはり、役者としては不足という他なかったのである。
((だが、あくまでも狙いは首魁(ブックドミネーター
)……))
「ご自身が死なない方法はよくご存知の様子。 ……けれど、生ある限り、死は道理」
クロトの糸術と匡の支援射撃、双方を剛き攻性の盾として、
戦端切られた対『書架の王』。
(一瞬の隙さえあれば、兄さんなら討てる)
時の支配者たる『王』はユーベルコードを使わずとも蒼く凍らせた時間そのものを攻防自在に用いる事が可能であった。
しかし、そんな程度のものならば、耐え凌ぎ、往なし、そして超えられる。
ふたりでならば。
「それもまた、正しいのだろう『第六猟兵』。
……歴史が決して失われない、とは、私にはもう思えぬ」
そして――多くの猟兵との激闘を経て、
『零』は既に絶対たりえぬ程にこの世界から喪われつつもあったのだ。
「書が、ヒトの魂が、大地の記憶が、どれほど『過去』を留め置こうともそれらすべては只だ廃棄されるばかりなのだから」
「研鑽は裏切らず……『修成』」
クロトの鋼糸は振るわれる都度に【拾弐式(ツヴェルフ)】の業術のせて、
より鋭く深く、
鮮やかな軌跡は少年然と華奢な『王』の体を捕え、その四肢を次々に巻き斬ってゆく。
「当然――これで終わりじゃないですよ?」
視線すら遣らずのままの阿吽で熾る――背後からの【静海響鳴(フォール・イン・ザ・サイレンス)】。
今際に零した敵の独白になどなんら興味を引かれない匡による死角からの零距離連射。全弾すべてを少年の顔面へと撃ち込み終えた後なおも得物を換えて、
更に抜き撃たれた自動拳銃。
「骸の海へ叩き返すんだ。徹底的にやらないとな」
ユーベルコードによって極限まで強化された『異邦人』の弾丸がそのまま王殺しの一射となった。
急速に蒼が失われまるで氷像のように真白なただの塊と化した『書架の王』の亡骸は、自らヒビ割れ、跡形無く崩れていった。
同時、既にふたりの手でほぼ無力化されつつあった2体の蒼氷オウガ達もまた蒸発するかのようにあっけなく泡と消えれば、ようやく任務完了。
ひとならぬモノをして『書架の王』への評はたった一言。
――教本だのみで戦場を生き抜けるのであれば苦労はしない、であった。
こうして、
此処にまた蒼き史録書(クロニクル)の一篇が歴史の彼方へと散逸されてゆく。
――其の標題をブックドミネーターと謂う。
成功
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