迷宮災厄戦㉑〜第1楽章:貪食の奏鳴曲
●グリモアベース:予知者、ムルヘルベル・アーキロギア
「多くの者があの予兆を見ているであろうから、いまさら説明は不要かもしれぬ。
が、改めて言おう――このままでは、アルダワ魔法学園の世界が危険なのだ」
少年めいた賢者は、呼びかけに応じた猟兵たちに言った。
「猟書家の一、"レディ・ハンプティ"。かのものはあの大魔王第一形態の娘であり、
『蒸気獣の悦び』なる不可解な物品を使って、西方諸王国を侵略するつもりだ。
……残念ながら、ここで彼奴を止めても侵略を防げるわけではないが……」
しかし、強大な猟書家を侵略前に滅ぼすことは、その後の戦いに大きな意味を持つ。
奴らがオウガ・フォーミュラになってしまえば、もはや直接攻撃は遠くなるのだ。
「ゆえにワガハイは、オヌシらの力を借りたい。彼奴を滅ぼすために。
……あるいは滅殺までいかずとも、ここで力を削いでおけば今後のためになる。
オウガ・オリジンが力を取り戻すのは業腹であるが、無意味ではないと思いたい」
これまでの戦いは、すべてそのオブリビオンを完全滅殺するためのものだった。
けっきょく世界侵略を止められないという事実には、賢者も歯がゆそうではある。
……しかし、より大局的に戦いを見なければ、この戦争は『勝利』出来ない。
送り出すものとしての平静を深呼吸で取り戻し、ムルヘルベルは各々の目を見た。
「ワガハイの転移に付き合ってくれるものは、ここに残ってくれ。
送り出すものとして、オヌシらの健闘と生還を祈る。けして気を抜くなよ」
あらゆる攻撃に先んじる強大なオブリビオンの攻撃を、いかに凌ぎ反撃するか。
猟兵たちの機転と底力が試される。第1楽章の音が、ここに鳴り響いた。
唐揚げ
カスタネットです。戦争シナリオいってみましょう!
本シナリオは『やや難』のためちょっと難しめです。
敵の先制攻撃をどう対処するか、ぜひ考えてみてください。
なお本シナリオは完結を最優先してやっていきます。
おそらく次のシナリオも承認されれば出していくと思いますので、
なんかまあそんな感じで気軽によろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『猟書家『レディ・ハンプティ』』
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POW : 乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
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●アリスラビリンス:蒸気の国
もくもくとスモッグが立ち込める、近世的町並み。
そこかしこを無数のパイプが這い回るさまは、巨大な獣の体内を思わせる。
そんな蒸気帝国じみた不思議の国で、レディ・ハンプティはひとり踊る。
ステップを踏みながら、朗々と即興歌を吟じるのだ。
「ああ、父様! うるわしの父、黄金の御方様! もう少し、もう少しですわ。
わたくしの書は世界を捻じ曲げ、蒸気の獣で王国を蹂躙いたしましょう。
さすればわたくしも、この胎でいとおしき災魔を産み落とせるのですわ……」
かちかちと巨大な口がわななく。邪悪な喜悦に。
「楽しみでなりません。嬉しくてなりません! ああ、父様!
あなたに代わって、必ずや世界を破滅させてみせましょう――!」
須藤・莉亜
列車で轢かれるのは勘弁なので、全力で逃げよう。
Ladyと深紅を持たせた悪魔の見えざる手にフォローしてもらいながら、周囲に展開したArgentaや、災魔を足場にしながら全力で逃げる。
凌げたら、UCで吸血鬼化。んでもって、魔導列車の魔力を吸い上げ僕のモノにし、奪った魔力を自身の強化と再生に充てる。
動力を奪っちゃえば、少しの間なら列車を止められるでしょ。急停止した列車はエラい事になりそうだねぇ。ぐちゃぐちゃな感じ?
そんな列車事故の隙に敵さんへ突貫。強化された力を駆使して最短距離で接近し敵さんを全力で殴る。
負傷は即再生、魔力は湯水のようにあるしね。
「幽霊は不味い。でも、貴女の血は美味しそうだねぇ。」
●一小節目:須藤・莉亜
歌い踊っていたレディ・ハンプティは、はっと我に返った。
「……感じます。来ましたのね、猟兵! ついにわたくしのもとまで!」
遠くより近づく殺意。猟兵。生命の祝福者にして永遠の天敵。
……我らの父君の、憎き仇!
「赦せません。赦せません! さあ、来なさい災魔たちよ。父様の名のもとに!」
レディ・ハンプティは侵略蔵書『蒸気獣の悦び』を開き、高らかに叫んだ。
するとどうだ。世界内を走り待っていた魔導列車がにわかに金色に変わり、
飛びつく無数の災魔たちを乗せ、猟兵のもとへと自らレールを作り疾走する!
「さあ行きなさい、我が愛しの子ら――そして、何もかも真っ平らにしてしまいなさい」
レディ・ハンプティの二つの口が、喜悦に歪んだ。
……そして、魔道列車が走る先!
「うっわ、いきなり質量攻撃とか勘弁してほしいなあ!」
全速力で疾走しながら逃げるのは、莉亜であった。
接近を気付かれることは想定内であったが、よもやいきなり列車攻撃とは。
しかも列車の車両からは、無数の災魔が顔をのぞかせぎちぎちと牙を鳴らす。
列車に轢殺されれば死、さりとて取り付いても災魔の暴威が彼を襲うだろう。
ガシュ、ガシュ、ガシュガシュガシュガシュガシュ……!
「――あー、さすがに列車と追いかけっこってのはきつかったかなあ」
莉亜がつぶやいた直後――魔導列車が、彼の身体を轢き潰した。
「ふふ、ふふふふ! うふふふふふ!」
無残な轢殺現場に、レディ・ハンプティはスキップで現れた。
これでまずひとり。憎き猟兵を、この手で抹殺することが出来たのだ。
「父様、見ていてくださいますか? わたくしは立派にやっております!
この調子で、すべての猟兵を殺しましょう。そして父様の仇を――え?」
レディ・ハンプティは、端的に言えば油断してしまっていた。
それゆえに、『列車の下から飛び出した手が足首を掴む』のを、避けられなかった。
「は?」
素っ頓狂な声は、弓なりに放り投げられ地面に叩きつけられる轟音にかき消えた。
レディ・ハンプティを投げ飛ばした者が、血のシミから再生していく。
「あー……さすがにこれは効いた。うん、でもさあ」
それは莉亜である。吸血鬼化によって魔導列車の動力から魔力を奪い取り、
以て轢殺状態から再生していく、恐るべき吸血鬼の姿であった!
「そう簡単に死ねないんだよねえ、僕。それじゃあ第二ラウンドといこうか?」
「……ふ、ふふふ……ふふふふ……!」
レディ・ハンプティは立ち上がる。その周囲に蔓延る無数の黄金災魔。
「いいでしょう。ならば千度縊り殺してさしあげるのみ!」
「幽霊は不味い。でも、あなたの血は美味しそうだねぇ。口直しにはよさそうだ」
莉亜はちろりと赤い舌で口元をなぞる。まさしく怪物同士の戦い。
そして襲いかかる波濤に対し、莉亜は鬼の力でもって迎え撃った――!
苦戦
🔵🔴🔴
蓮見・津奈子
蒸気機関。私の故郷(サクラミラージュ)でも馴染み深いですが、かの世界のものはまた違う雰囲気ですね。
…故にこそ。破壊や破滅のために使わせるのは、許せません。
敵の速度は圧倒的。まともに追いかけても、その間に消耗させられるのみでしょう。
とはいえ、接近時のカウンター狙いと見られては攻撃機会を得られない。まずは追うより他に無いでしょう。
敵の攻撃を障害物を用いかわし、【激痛耐性】で耐え。しかしいずれは疲弊し、膝をつくことに。
尤も、それは【演技】。止めを刺そうと近づいてきた処で【限界突破】、肉鉤で敵の身を掴んだ上で変異・圧搾巨鉤を発動。【怪力】も併せ、敵に対し握撃で攻撃。あわよくば蒸気機関の破壊を試みます。
●二小節目:蓮見・津奈子
吸血鬼との死闘により、レディ・ハンプティは消耗していた。
「……猟兵……油断ならない敵ですね……けれど!」
ここで倒れていらいでか。ここで父の夢を終わらせることなどできようか!
「向かってくるというのなら、すべて喰らいつくしてさしあげるのみ。
――さあ、いらっしゃい? わたくしはここですよ。猟兵、猟兵!」
オペラめいて歌う声音に応じ、肩の蒸気機関ががなり立てた。
噴出する蒸気をドレスめいてまとうさまは、まるでトップスタアのようだ。
「なんて禍々しい執念……あれが、猟書家レディ・ハンプティなんですね」
津奈子は強大な猟書家を前にして、顔をわずかに顰めた。
すでに彼女は"最強の猟書家"サー・ジャバウォックと交戦したとはいえ、
それがレディ・ハンプティを弱敵たらしめることにはならない。
むしろ彼奴は、単体火力に特化したサー・ジャバウォックはまた別の強敵。
蒸気纏うその姿は、オペラハウスじみた黄金の楽団装備を纏う姿に変じた!
「黄金の楽器たちよ、蒸気とともに謳い奏でなさい! 魂奪う皇狂曲を!!」
「……っ!!」
無数のパイプオルガンから放たれる音波は、津奈子の耳朶から脳をかき乱す。
武装楽団。それは、音と蒸気によってあらゆる敵を滅殺せしめる強大な形態だ。
加えて強化された能力により、レディ・ハンプティは高速移動を得ている!
(やっぱり追いつくことは出来ない……それに、カウンターも、難しい……!)
津奈子は途切れかかる意識を意志力でかろうじてつなぎとめ、
少しでも音波の影響を逃れるために、無数の蒸気都市群に身を隠した。
「どこへ逃げようというのです? わたくしの前に立っておきながら!」
レディ・ハンプティは片手を薙ぎ払えば、音の刃がばっさりとビルを叩き斬った。
津奈子が隠れていた建物は真っ二つに両断され、瓦礫が彼女に迫ってくる!
「デタラメですね……きゃああっ!!」
そして瓦礫に呑まれ、津奈子は意識を失った……。
「……他愛もないですね」
もうもうと煙がたちこめるなか、レディ・ハンプティが地に降り立つ。
しかし油断はならない。猟兵は死からも立ち戻ると彼女は識ったからだ。
「確実にとどめを刺すといたしましょう。さあ、これでおしまいです――!」
「……!!」
槍めいて尖った黄金の刃が放たれた瞬間、津奈子は閉じていた目を開いた。
そしてばね仕掛けのようにバック転を打ち、とどめの一撃を回避したのだ!
「やはり! 生きていましたね!!」
「お見通しでしたか? ですが――こちらはどうでしょうか」
「!?」
津奈子はそのしとやかな見た目にはそぐわぬほどの速度で間合いを詰めた。
そして鉤爪めいて手を強張らせ、レディ・ハンプティの身体を掴む!
異常なまでの握力。この女、体内を異常なまでに改造している……!?
「あなた、一体……あ、あああああっ!!」
レディ・ハンプティは、肉を引き裂かれる苦痛に悶え苦しんだ。
そして津奈子は、そのすさまじい握力でレディ・ハンプティを抉ったのである!
「こ、の……父様から頂いた、わたくしの身体を、よくもっ!!」
「ふふ……羨ましいですね。生身の身体を大事になさっているのは」
女の姿をした怪物は掴み合い、尋常ならざる力で喰らい合った。
津奈子の目が炯々と燃える。それは、おとなしいスタアにあらざる人外の目色。
彼女はもはや人ではない。しかしその力が、今は世界を守る糧となるのだ……!
成功
🔵🔵🔴
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
あのふざけた大魔王を父さん呼ばわりするとは
この世界から逃すものか!
ふざけたところに口がありやがるが
ほぼ密接しないと噛みつけない所が隙とも言える
あえて「ダッシュ」でギリギリまで密接し
口が開くタイミングを「視力、見切り」で見極め
バックステップで距離を取りながら「属性攻撃」で氷を宿した投擲用ナイフを口内にばら撒くように「投擲」
どうだ? 人肉ではなく凍り付いた鉄の味は
ナイフの味を堪能している間に「早業、ダッシュ」で再度接近
「2回攻撃、怪力、部位破壊」+【憤怒の解放・両断剣】
そのふざけた口を一気に叩き割って食えなくしてやる
どうだ? 食いたいものが食えなくなった気分ってのは
●三小節目:館野・敬輔
「"父さん"だと? あのふざけた大魔王を、お前はそう呼ぶのか」
「……ふざけた大魔王、とは。わたくしを前によくもほざいたものですね」
敬輔とレディ・ハンプティは、互いに殺意を漲らせて相手を睨んだ。
しかし、敬輔の怒りはもっともだ。なにせ彼女が父と敬愛するのは、
あのアルダワ魔法学園を破滅に陥れかけた、強大なる大魔王の第一形態。
いわば人外の怪物であり、敬慕を抱く対象などにはなりえない。
……しかし、その化け物を敬慕することこそ、目の前の女怪の人外性の証左。
オブリビオンを相手に躊躇や容赦を抱くことは滅多に無い敬輔だが、
今回ばかりは怒り心頭である、必ずや、この邪悪を討たねばならぬと決めた。
「この世界から逃すものか。お前に世界を脅かさせはしないッ!」
「ええ、ええ、そうでしょうとも! ですが!!」
敬輔が仕掛ける。レディ・ハンプティはそれを大きく手を広げて迎え撃った。
「わたくしの父様を莫迦にした者を、わたくしは許しません
……!!」
そして胸元の巨大な口が、まるで招き入れるようにがばりと開かれる!
敬輔はそのタイミングを見極め、ナイフを投げ込んだ……が!
(噛み付く速度が、予想以上に疾い……っ!?)
牙だらけの大口は、そのナイフごと彼の片腕を飲み込んだのである……!
「……ぐっ」
かろうじて丸呑みの恐怖をかわした敬輔は、肩口を抑えて呻いた。
ナイフを投擲した片腕は、牙に引き裂かれて無残な有様である。
頸動脈をずたずたに裂かれ、だくだくと大量の血が足元を濡らしていた。
だが、レディ・ハンプティも無傷ではない。
「あ、ああああ……!! 身体が、体が内側から切り裂かれるよう
……!!」
投げ込まれたナイフが口蓋をずたずたにしているのだ。その苦痛は相当のもの。
敬輔は気絶しそうなほどの痛みを意志力でねじ伏せ、ユーベルコードを発動。
右目を発光させ、今度こそ斬撃を与えるために再び接近する!
「そのふざけた口を、一気に叩き斬って喰えなくしてやる……ッ!」
「あなたこそ! その嘗めた口を、今度こそ噛み砕いてさしあげましょう!」
牙だらけの口が敬輔を丸呑みしようと開かれ、恐るべき速度で閉じた!
敬輔はあえて身を投げ込み、黒剣を口蓋に突き立てることで支えとする。
悲鳴。敬輔の背中と腹部に牙が食い込む。全身が燃えるほどに痛みで熱い。
「味わわせてやる……俺たちの、世界の怒りをっ!!」
そして敬輔は――口蓋に突き立てた剣を、思いきり横薙ぎに引いた!
苦戦
🔵🔴🔴
ヒルデガルト・アオスライセン
父の意に沿うそれが望みだろうか
星に願うような、切なく儚い
叶えた果ては空虚よ
終生を親一人に拘りますか、不自由な女
認めたくありませんが、私も神殿のコネと財と継承によって今の仮初の自由がある
そこには恐らく愛も含まれていたのでしょう
感謝はしています。けれどそれで道を狭めたりはしないわ
親でも、神命でも、誰に託されたわけでもない
私は私の選択で不死存在を根絶させる
挑発で正面衝突を誘い、オーラと盾受けで前面のみを一点防御
煙を伴った攻撃を低姿勢で捌き
影と身代わり聖者で超反応に対して一瞬の三択強要
ダミーに持たせた、限界まで浄化を込めた瓶で煙を晴らしUC
お父様の処へ送ってあげる、それが貴女への
光芒で地形ごと轢きます
●四小節目:ヒルデガルト・アオスライセン
己が自分のみの力で生きてきたなどと、彼女は冗談でも言いはしない。
所詮いまのこの自由は仮初のもので、若者がかかりがちな風邪めいたものだ。
一種のモラトリアム。多くの人が、わがままを許してくれているに過ぎない。
……認めたくはない事実を冷静に俯瞰できる程度には、ヒルデガルトは"大人"だ。
ゆえにこそ。
「終生を親一人にこだわるだなんて、どこまでも不自由なものね」
ヒルデガルトの声音には、呆れたような、どこか憐れむような色があった。
「……わたくしが父様を敬愛することを、無駄だとおっしゃるのですか?」
「オブリビオンが誰を敬愛しようと変わりないけれど、まあ、そうね」
ヒルデガルトは怒気を漲らせるレディ・ハンプティを見やりつつ、言った。
「亡き父の意に沿う。その遺志を汲む。それで? "その先"には何があるというの?
……あなたたちは未来を見ない。創ろうとせず、築こうとせず、生み出さない」
それはオブリビオンの常。理解できてはいる。
けれども言わずにはいられなかった。己もまたそれを拒絶したのだから。
「星に願うような想いを叶えたとしても――果てにあるのは、ただの空虚よ」
ヒルデガルトは、"そんなもの"で自分の可能性を狭められたくなかった。
広い世界を知らぬまま終わるのは嫌だった。自由を失いたくなかった。
だから、ここにいる。その結果、たとえ生命を賭けることになったとしても。
「私は私の選択を後悔しない。たとえ倒れたとしても、"それまで"の話だわ。
……さあ、あなたはどうかしら? あなたは、後悔せずに、やりとげられる?」
「――愚問ですね」
レディ・ハンプティの体を蒸気が覆い、黄金の楽団がその身を鎧った。
「わたくしは父様に替わります。そして、世界を! あなたたちを根絶せしめる!!」
「……やっぱり、不自由ね。"そうせずにはいられない"というのは」
ヒルデガルトはわずかな悲しみを込めて、迫りくる暴威に光の盾を掲げた。
黄金の楽団が奏でる音は、それ自体が矛であり盾だ。
音の刃。加えて無数の蒸気楽器を槍とし盾とした殲滅攻撃。
超スピードを得た本体は捉え難く、超広域の破壊をばらまく災禍と化す。
ならばどうするか。ヒルデガルトはまず、真正面からの攻撃を全力で受け止めた。
光の盾はガラスめいて割れて砕け、破滅的な威力をかろうじて減衰する。
全身を裂かれ、血を迸らせながらも、ヒルデガルトは膝を突くことはしない。
「倒れなさい! 猟兵ッ!!」
「いいえ。私はそれを望まない」
決然たる面持ちで蒸気の向こうの女を睨みつけ、ヒルデガルトは銀貨を弾いた。
「三秒だけ付き合ってあげるわ。あなたのその癇癪に」
次の瞬間、ヒルデガルトは文字通りの光と化し、レディ・ハンプティを撃ち抜いた!
「かは……っ!?」
光速プラズマは音をも超える。その代償は、彼女自身のいのちだ。
いずれ寿命尽き果てるとき、己はこの選択を後悔するだろうか。
――わからない。けれども、ひとつだけたしかなことがある。
「私は、私が生きることも、死ぬことも、私自身で決めるのよ」
親の愛でもなく、
与えられた使命でもなく、
猟兵という責務からでもなく。
死を与え、光をもたらす。慈悲ではなくエゴでもって。
だが、今は。
「――消えなさい、レディ・ハンプティ。あなたが逝くべきは、父の身許だわ」
少女はたしかな慈悲を以て、手向けのように光の槍を繰り出した。
いのちを糧とした光は、レディ・ハンプティを貫き大地に縫い止める。
光が迸る。大地は抉れて砕け、クレーター状の跡を残した……。
成功
🔵🔵🔴
鳴宮・匡
必ず先んじられるとわかっている
下手に動かず肚を決めて迎え撃つよ
全知覚を以て相手の動きを捉え、行動を予測
噛みつくという動きなら
予備動作でタイミングを見切れるはず
とはいえ相手はこちらより格段に強いし、速いだろう
見切れたとしてもかなりシビアだ
――怖くない、って言ったら嘘になるだろうな
いつ擦り切れて死んだっていいと思ってたのに
今は、それが何よりも怖くて
……だからこそ、自分が生きていることを感じられる
この先も生きよう、と思える
だから、ここで死ぬわけにはいかない
ギリギリまで引き付けて躱し
攻撃後の隙をついて全弾を撃ち込む
勢いでバランスを崩す、ほど弱くはないだろうから
本当に一瞬が勝負だ
絶対に――外さない
●五小節目:鳴宮・匡
一切表情を変えず、震えることもなく、淡々と敵を見据え、殺す。
それはけして、匡が恐怖を抱いていないことを意味しない。
人らしさの欠片を萌芽させたいまでも……抑え込んでいたかつてですらも。
違いがあるとすれば、それは『無理していることを自覚した』かどうかだ。
いつだって恐怖はそこにあった。己のうちに、ヘドロめいて凝っていた。
かつて匡は、人間性を薪めいて犠牲とすることで闇を敷いていた。
誰もが抱く恐怖や悲しみを押し殺し、見ないふりをしてごまかしていた。
今は、違う。隠せているだけで、恐怖はいつでもそこにあるのだから。
ただ……抱く恐怖の中身が変わったことは、大きいのかもしれない。
「……わたくしを前にして、ぴくりとも震えていませんのね」
まるで西部劇の決斗めいた状態で、匡はレディ・ハンプティと相対する。
レディ・ハンプティの胸元の大口からは血がしとどに溢れていた。
おそらく先遣の猟兵による手傷だろう。しかし、奴はまだ死んでいない。
ならば彼が手を汚さねばならない。そのために名乗りを上げたのだから。
「……怖くない、って言ったら嘘になるよ」
敵としゃべる趣味など持たない匡だが、半ばひとりごちるように言った。
そうとも、怖いのだ。もはや、己はその恐怖から目を背けはしまい。
生命を失う恐怖。
苦痛を味わう恐怖。
……大切な人たちと、もう会えない恐怖。
自分が"人でなし"でなければ、膝が笑って銃を構えることも出来なかったろう。
あれだけいのちを奪っておいて、いまさら死を怖がるなど何様のつもりだ。
冷笑する自分自身の声が、感じない痛みと絶望をひきつらせる。
けれどもそれは、生きていることの証左だ。
痛みがあり、悲しみがあり、苦しみがあり、死を恐れ怖がるからこそ。
この心臓の脈動を、血が全身を巡る感覚を、生きる実感を得ることができる。
「――……お前に殺されるつもりはないよ。俺は、生きるためにここに来た」
悔いなく、守るべきものを守って、殺すべきものを殺すために。
「わたくしから父様を奪っておいて、何を……! 猟兵、憎き父様の仇!!」
レディ・ハンプティは怒りを漲らせ、すさまじい速度で匡に喰らいかかった。
まさしく風のよう。牙は血の混じったつばを撒き散らして大口を開いた。
一瞬でも遅れれば膝から上が喰らわれるだろう。全身はバラバラになるだろう。
匡はその一瞬に、生命を置いた。――生きるために!
その覚悟が、彼に致命的一瞬を捉える好機をもたらした。
牙が閉じようとする瞬間。猟兵が刻みつけた口蓋の傷が見える!
(絶対に――外さない)
意志と同時にトリガが引かれる。無音の銃声とマズルフラッシュ!
放たれた終幕の雨は、狙い過たずその傷口に吸い込まれ、爆ぜた。
匡を飲み込むと見えた牙だらけの口は、開いたまま……すなわち、苦痛に。
「ああああああああっ!!」
悲鳴。匡は身じろぎせず、トリガを引き続ける。引き続ける!
「そろそろ終わりにしようぜ。お前のその妄執も、何もかもな」
弾丸は肉を裂いて彼方へ飛んでいく。レディ・ハンプティはのたうち回った。
その弾丸は、刻まれた傷を通じて女怪の体を貫きせしめたのだ!
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
お父上の敵討ち…いえ、遺志を継ぐことが貴女の原動力ですか
ならば私は大魔王と呼ばれた彼の存在を討った数多の猟兵の一人として。
そして、騎士としてアルダワの安寧の為に立ち塞がらせていただきます
噛み付きに対して●怪力で大盾を大口を避け脚部目掛け●投擲
回避しても、直撃しても攻撃の勢いは削げる筈
脚部スラスターを吹かした●スライディング滑走で回避
淑女としてその食事の作法は戴けませんね
UCの緩やかな挙動で攻撃誘発
誘導したことで動きを●見切り紙一重で回避しつつ
すれ違い様ワイヤーアンカー射出し●操縦
●ロープワークで操り足払い
なにせ大口を開けては下方が見えないのですから!
体勢崩した猟書家の手を掴んで支えつつ剣で一閃
●第一のフィーネ:トリテレイア・ゼロナイン
「ああ……ああああ……!」
レディ・ハンプティは、嘆いていた。ほろほろと涙と血を流していた。
父様。いとしき父。わたくしにすら正体をあかさなかったひと。
あなたもこうして苦しみ、そして無念の中に倒れたのでございましょう。
なんと口惜しや。もはやわたくしも、ここに死を迎えようとしている。
猟兵。猟兵! 忌まわしき天敵。我らを滅ぼさんとするものども。
……レディ・ハンプティはしかし、立ち上がった。血まみれの有様で。
「わたくしは死にません。あなたたちなどに殺されたりはしない。
父様の仇を討ち、今度こそ災禍を以て世界を滅ぼすためにも……!」
「……遺志を継ぎ、仇を討つ。それが、あなたの原動力ですか」
対するは白亜の騎士、トリテレイア。
「ならば私は、大魔王と呼ばれたかの存在を討った数多の猟兵のひとりとして、
……そして騎士として、アルダワの安寧のためにあなたを討ちましょう」
「……感じますわ」
レディ・ハンプティはトリテレイアを睨んだ。
「あなたは、父様を討ちましたね。そのための一助となりましたね」
「……ええ。大魔王アウルム・アンティーカ。私はかの大魔王と相対しました。
そして、この刃を以て討つために戦った。いわば、仇のひとりということです」
レディ・ハンプティの敵意が膨れ上がる。トリテレイアは構えた。
敵はあの傷だらけの大口で、憎き仇……己を引き裂こうとするだろう。
つまり、チャンスは一瞬。その好機を捉え損ねれば、己はスクラップと化す。
「喰らいつくしてあげますわ、猟兵!! さあ、死になさい――!!」
予想通り、レディ・ハンプティは大口を開いて襲いかかった。
その速度は魔猪もかくや。あらゆる獣を超えるほどの勢いである。
トリテレイアは避け……ない!代わりに大盾を勢いよく投擲した!
「淑女として、その食事の作法はいただけませんね!」
「!?」
大盾は大口ではなく、その上、すなわち胸部に叩きつけられた。
大口は鬱陶しげに大盾に噛みつき、そして振り払う。……騎士の姿がない!?
「ここですよ」
下! トリテレイアは地を這うほどに低く身を伏せていたのだ!
「大口を開けていては、下方が見えないでしょう? ――これで、終わりです」
大魔王の娘は逃れようとした。が、その手首を万力めいて掴まれていた。
トリテレイアは立ち上がりながら、全身全霊の斬り上げを放つ。
その斬撃は、大口を……いやさ、蒸気機関を、女の全身を逆袈裟に裂いた!
「と、父様……父様、あああああ――っ!!」
悲鳴じみた断末魔。レディ・ハンプティは血と蒸気に呑まれて消えた。
トリテレイアは血を払い、蒸気きえゆく跡をじっと見つめる。
「……たとえあなたが父を心から慕っていたとして、私は容赦いたしません。
それが世界を、人々を守ると決めた、騎士としての私の責務なのですから」
かくして女怪に、第一の滅びがもたらされた。
侵略蔵書もまた、風にさられて消えていく――。
成功
🔵🔵🔴