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迷宮災厄戦㉑〜落ちて割れても砕けぬ者が

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 父様、父様、聞こえますか。
 この音が、力強く律動する蒸気機関の音が。
 熱を、水を、高らかに竜の吐息のごとく吐き出して。
 世界を渡りましょう、かの地を蹂躙致しましょう。

 父様、父様、あなたの無念はわたくしが晴らします。
 わたくしの名はレディ・ハンプティ。
 魔法と蒸気の世界に住まう者よ、今しばらくお待ちなさい。
 あなた方を、酷く激しく甘く切なく、災いましょう。

 ●

「次なる猟書家の攻略が可能となった」
 ミコトメモリ・メイクメモリア(メメントメモリ・f00040)は、急いた表情で、集った猟兵に告げた。

「敵は大魔王アウルム・アンティーカの娘、レディ・ハンプティ。手にする猟書は『蒸気獣の悦び』。
 災魔を大量に積み込んだ魔導列車を召喚する……勿論、こんなものがアルダワに送り込まれたら、どれだけの被害出るかわからない」
 猟書家を倒せば倒すほど、オウガ・オリジンは力を取り戻す。
 ただ倒すだけでは『迷宮災厄戦』の解決にはならないかも知れない。
 けれど、断じて放っておくわけにも行かない。

「レディ・ハンプティにはその他にも、乳房の下に、牙だらけの大きな口があるらしい……いや、口で言ってもわからないかな、実物を見れば分かると思うよ」
 何にせよ。

「敵は猟書家、こちらが準備をするより先に、先制攻撃を仕掛けてくる。どう対策を練って応じるか、キミ達の対応に期待する」
 自分の予知ではここまでが限度、見送り、送り出すしか無い。

「頼むよ、一度救った世界を、もう二度と戦場にしないために」


甘党
 甘党です。
 レディ・ハンプティ戦です、乳房の下の口ってなんだ。

◆アドリブについて
 MSページを参考にしていただけると幸いです。
 特にアドリブが多めになると思いますので、
 「こういった事だけは絶対にしない!」といったNG行動などがあれば明記をお願いします。

 逆に、アドリブ多め希望の場合は、「どういった行動方針を持っているか」「どんな価値基準を持っているか」が書いてあるとハッピーです

◆その他注意事項
 合わせプレイングを送る際は、同行者が誰であるかはっきりわかるようにお願いします。
 お互いの呼び方がわかるともっと素敵です。

◆章の構成
 【第一章】はボス戦フラグメントです。
 レディ・ハンプティとの戦いです、例によって先制攻撃してきます。
 発想力にみちたプレイングで迎撃してやりましょう。

 なおこのシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
=============================
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
=============================

 採用人数は書ける限り、5~10名前後になると思います。
 どうかよろしくおねがいします。
262




第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリエル・ポラリス

おっきなお口だわグワー!!!
頭とかだけは食べられないように頑張るけど、そもそも手足を食い千切られたら戦えないわ……動けないしすっごく痛いもの……。

──そう、貴女以外が相手なら。
お父さんが好きなの? 私もよ、色々教えてくれたお父さんが好きだわ!
でもね、好きな人でも悪いことをしたならメッてしなければいけないの!
好きでもダメだよって言わないといけない……それが『恩返し』!!

お母さんから受け継いだ『紅蓮』で欠損した身体を補って、UCで馴染ませたならいざ突撃!
傷の痛みは消えないけど、恩返しで負けるわけにはいかないの!!
さあ、この自慢のナイフ『ノンメルト』!
悪い恩返しをする貴女にプレゼントよ!



 ぐじゃり、と。
 肉と骨を同時に噛み潰して砕く音を、多分、少女は初めて聞いた。

「っ、ぐ、ううううううううううううううう――――――――!?」
 叫んで、暴れて、転げ回らなかっただけで、褒められるべきだろう。
 アリエル・ポラリス(焼きついた想いの名は・f20265)の、右の肩から先が、食いちぎられて消え失せた。
 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃり、と。
 豊かな胸の下半球に敷き詰められた、大きなお口の大きな牙が、咀嚼を繰り返して、飲み下す。

「ああ、とっても美味しいわ。ええ、わたくしの口もそう言っていますわ」
 若い雌狼の肉は、レディ・ハンプティの好みにあったらしい。
 べろり、と二つの舌が唇を舐めて、赤い唇が艷やかに光った。

「う、ううううう…………」
「あら……まぁ、痛そうですわ、それに苦しそう。かわいそうに、すぐに残りも食べて差し上げますね」
 そうすれば、痛くないから、と。
 近づいて、少女の頭を掴んで、顔を起こして、じっくり眺める。
 痛みに眉をしかめる姿も、ボロボロと溢れる涙も、獲物として見るならばなんと愛おしいことか。

「あ、貴女…………」
「?」
 末期の言葉なら聞いてあげようかと、首を傾げたレディ・ハンプティに。
 アリエルは、歯を食いしばりながら問うた。

「お父さんが、好きなの?」
「ええ、勿論。この世の誰より、何より、敬愛しております。ああ、愛しきお父様」
 その言葉に嘘はないのだろう。瞳にみちた憧憬は、隠せ得ぬ本心だ。

 “だから”。

「…………私もよ、色々教えてくれた」
 生き方を。
 戦い方を。
 愛を教えてくれた。
 自分は大事にされていると、教えてくれた。

「でもね――――好きな人でも悪いことをしたなら、メッてしなければいけないの」
 ……だからこそ。
 大好きだからこそ、戦わなければならない時がある。

「――――――何? 熱い――――――」
 腕の断面から、炎が滲み出る。
 それは、母の忘れ形見。
 地獄という名前の愛。
 傷ついても、くじけても、体を失おうと。
 生きていられますように、という、祝福だ。

「――――私の体を、食べたわね」
「ええ、それが…………………………!?」
 レディ・ハンプティの、乳房の下の口。
 その内側から、地獄の炎がはぜた。
 アリエルに宿るそれを、レディ・ハンプティは無造作に食いちぎって、飲んだのだ。
 臓腑を焼かれ、思わずアリエルを手放した。
 そのときには、もうアリエルの失われたはずの腕は、新たな炎によって形成されている。
 何度でも何度でも。
 繰り返し。
 立ち向かえる。

「貴女の恩返しは――――間違ってるわ! レディ・ハンプティ!」
 《愛食む獣の革命火(レヴィリュシオン)》が燃え猛る。
 外も中も焼き尽くす、魔王の娘に叩きつけるは――――。

「これが、私の恩返しの、形だものっ!」
「この――――小娘がっ!」
 未だ炎が燻る手に携えたナイフ、ノンメルトに、熱が収束していく。
 その一閃は、確かにレディ・ハンプティの体を斬り裂き、焼いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンネ・エミル
【対アンティーカ・フォーマル】
敵がとにかく速く動いてくるなら、どうしよう……
きっと足を遅くするのが有効なはず

相手が蒸気を出したら、すぐに走って距離を稼ぎながら手持ちの拳銃で発砲
当たらなくてもいい、きっと避けられます
でも、相手がこっちに一直線に進めなければそれで十分ですから

時間を稼げれば、ユーベルコードで作ったトリモチを地面いっぱいに設置して機動力を奪います
武器じゃないから精巧に作れないけど、粘性さえあればいいと思うから
トリモチの間にこっそり地雷も作成。指向性のあるクレイモアなら巻き込まれないですよね

足止めさえできれば、あとは重火器を使って攻撃していきますよ

(今回別人格は登場しません)



 ああ、痛いわ父様。この子達はわたくしを否定する。
 けれどめげないわ、ええ、ええ、絶対に、あなたの無念を果たすのですから。
 さあ、纏いましょう、我がドレスの名はアンティーカ・フォーマル。
 熱と水が形作る、殺戮の一人楽団。

 ●

「あっつ」
 離れていても伝わる蒸気の熱に、アンネ・エミル(ミシェル・f21975)は眉を寄せた。
 今はまだ、向こうはこちらに気づいていない。けれど、少しでも殺気を向ければ、すぐさま戦闘が始まるだろう。
 その速度は、アンネを凌駕する。対策なしでは、即座にやられることは間違いない。

「でも、やるしかないですよね……」
 望んで来た、戦場だ。
 挑みに来た、戦争だ。
 まだ未熟で、拙い技術で、どこまで行けるか、迫れるか。

「…………よし、やりましょう」
 思考は固まった。後は実行するのみだ。
 アンネは、身体を翻して、レディ・ハンプティに背を向けて、走り出した。

 ●

「あら? あら、あら…………見つけましたわ、猟兵。ならば次は、こちらから」
 その気配を、敏感に察知したレディ・ハンプティは、肩の蒸気機関から煙を吹き出しながら、一歩目を踏み出した。
 アンネが十歩走った距離を、彼女の歩幅は一歩で飛び越えた。
 通常駆動とは根本的に違う、武装楽団形態となったレディ・ハンプテイの速度と反射は、もはや生物の域を遥かに超える。

 タン、タン、と背を向けながら、敵が拳銃を発砲した。
 鉛玉が向かってくるが、蒸気の鎧が受け止めて、弾く。小蝿ほどにも感じない。

「逃げるなんて酷い――お待ちになって」
 距離はみるみる詰まっていく。後二歩で、猟兵の背に追いついて、背中から心臓を貫ける。

「――――――!?」
 ぐに、と粘着質な感触が、脚と、裾の長いドレスにまとわりついた。

「何、べたべたします、これは――――」
「トリモチですけど」
 応じたのは、アンネだった。
 もう、背を向けていない。レディ・ハンプティを正面から見据えていた。
 両手で、重そうな金属の塊を抱えている。
 それは、UDCアースにおいて、俗に“ミニガン”と呼ばれる火器だった。

 余計な言葉はいらない。銃口が向いているのだから、あとはトリガーが引かれれば良い。
 7.62mm口径弾を秒間70発ばらまくそれは、本来ヘリコプター等に搭載して、地上を制圧するためのものだ。
 たとえ蒸気機関を纏った猟書家であっても、直撃すれば負傷は免れない。

 バラララララララララララララ、と途絶えない銃声が、鳴り響いた。

「あは――――――」
 レディ・ハンプティは即座に回避起動を取った。
 粘つく脚も、纏う蒸気の鎧が熱と水分でトリモチを削ぎ落とす。
 もともと、精度の良くないレプリカだったこともあって、あっさりと拘束を無効化する。

「けど、その先は――――」
 ぴん、ぴん、ぴん、と。
 ヒモを切るような音が連続で響いて、同時に指向性地雷――クレイモアが一斉に爆発した。 
 事前に仕込んでおいたとっておき、回避不可能の必殺――――――。

「遅い」
 どん。と軽く背中を押される感触。

「ですね」
 あれ? と認識したときには、腹部を、背中側から、腹に向けて。
 誰かの血で真っ赤に染まった、レースに包まれた手袋が貫いていた。

「――――――けほ」
 咳と共に、沢山の血が溢れ出た。人間の体には、こんなに色んなものが詰まっているんだな、と、こんな時に思ってしまった。
 身体が冷たくなっていく、大事なものがなくなっていく。
 その赤い液体のことを、誰かは命と呼んだこともある。

「わたくしの、この姿の速さを」
 ずるりと腕を引き抜くレディ・ハンプティは、血に染まった手袋をぽいとすてて、新たなそれを身につけながら。

「侮っていましたね?」
 そう告げて、その場から立ち去っていった。
 彼女にとって、アンネはもう終わった――殺し終えた対象だった。 
 実際、放っておけば死ぬだろう、助けが来るあてもない。
 幸いなのは、恐怖を感じるその前に、意識が途絶えたことだった。

 ●

 ヒビが入った蒸気を吹き出す筒を、一本引きちぎって、レディ・ハンプティは不機嫌に投げ捨てた。
 地雷の爆撃と、銃撃を受けて、形が歪んでダメになってしまった。武装楽団形態の稼働に若干の支障が出てしまう。

「ああ、ごめんなさい父様、父様が造ってくださった大事な身体を――――」
 嘆きの声を上げながら――――レディ・ハンプティは侵攻する。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

煙草・火花


これが異世界を襲わんとする首魁の一人でありますか……!
世界を守るのが學徒兵たる小生の使命!
些か不格好でも、突破口程度は開いて見せるであります!

狙うはあの大口による一撃
先に相対された猟兵殿と同じやり口では警戒されましょう
……捨て身というのは変わらないでありますが

軍刀にて立ち向かえば、まずは武器から喰らわれるでありましょう
あるいは腕ごとかもしれませぬが……どちらにせよ、一撃だけ気を逸らせれば十分
その隙に周囲に小生の体である可燃性ガスを展開
柄があれば軍刀の着火装置は使用可能
追撃がくるその前に着火して爆破、小生諸共【属性攻撃】にて焼いて差し上げるであります!

小生、最初から特攻覚悟でありますして!



「此処より先は、通しませぬ!」
 カツン、と軍刀の柄を両手で抑え、仁王立ちのまま道に立つ少女がいる。
 黒の色を広げる大きな外套。
 サクラミラージュを象徴する、桜紋のエンブレムを付けた軍帽。
 両腕に巻かれた包帯の上から、白手袋をしっかりと嵌めたそのヒトこそ。
 帝都桜學府所属、學徒兵、煙草・火花(ゴシップモダンガァル・f22624)であった。

「あらまあ、とても若い、若い娘。――――一人でこの私を止めようと?」
 小さな損傷をいくつかその身に刻んでいるものの、まだまだ余裕を残している。
 若く、未だ未熟な學徒兵一人、止められぬ道理も、破壊出来ぬ道理もない。
 がちがちと、乳房の下の口が、獲物を見つけた狗の様に牙を鳴らす。

「愚かというのならば、笑えばよいでありましょう。ですが! 世界を守るのが學徒兵たる小生の使命!」
「では、守れずに死んでくださいませ。わたくし、先を急いでおりまして」
 無造作に。
 レディ・ハンプティの細い腕が振るわれた。
 反射的に防御できたのは、日頃の訓練の賜物だろう。
 それでも、構えた軍刀がへし折られて、そのまま“ふっ飛ばされた”。

「軽いです、軽いですね。まるで蒸気で浮かぶ風船のよう」
 手応えがなさすぎます、と付け加えて、ザクザクと歩き出す。
 學徒兵には見向きもしない、殺すだけ労力の手間だし、だいたいもう動けまい、と判断したらしい。

「待つで――――あります」
 しかして、それが過小評価であったことを、すぐに知る。あら、と振り向いた蒸気の淑女は、ん、と困ったように首を傾げた。


 それで? お前に?
 何が出来るというのだ?


 仕草と、鍔広帽子の向こうに隠れた表情で、そう語っていた。

「例え、折れても、曲げられても、小生は…………學徒兵」
 折れた軍刀を、それでも構え。

「敵に背を向け退けとは、教わっていないであります!」
 煙草・火花は、吼えて、駆け出した。

「では、前菜としていただきましょう」
 突き出した腕が、軍刀ごと大きく開いた“乳房の下の口”に噛み砕かれた。

 ●

「――――――っ!?」
 ぞぶり、と牙が食い込む感触――――が、

「………………?」
 なかった。
 空気を噛んだように、何の反動も感じない。
 なにより、肘まで喰らわれて、どうして目の前の猟兵は笑っているのだろう。

「もとより一人で抑えきれるとは思ってないでおりませぬ」
 口腔内から、カチン、と何かが響く。
 それは、金属と金属が、打ち合う音だった。
 小さな小さな、火花を産む音だった。

 折れていても問題なく作用する。
 本当に大事なのは、刀身ではなく、柄から下だ。

「小生、最初から特攻覚悟でありますして」
 ――――レディ・ハンプティは知らない。
 眼前の少女が、ただ人間ではないことを。
 怪奇という名の異形であり、ヒトの形をしたヒトでないものであり。
 その体を構成するのは、可燃性のガスであり。

 ――――気体は噛み砕けないし。
 ――――蒸気を放ち続けるその身体では、臭いにも気づけないということを、まだ知らない。

 もはやそのガスは全域に満ちていて。
 たった一つの小さな火花で、全てを焼き尽くす災害になることを――――――知らない。

「些か不格好でも――――――」
 燃焼は迅速に。
 口腔内で生まれた爆発は、まずその粘膜を焼いた。
 外に飛び出した熱と炎は、そのまま火花の体そのものに燃え移り、
 ついで、レディ・ハンプティを取り囲むガスにも引火した。
 これら一連の現象は、時間にすると瞬き一回以下の刹那。

「――――突破口程度は開いて見せるであります!」
 高い高い火柱と衝撃、ついで、特大の爆発音。
 世界は、火花の爆発に包まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アロンソ・ピノ

蒸気纏って攻撃してくるなら、
蒸気ぶった斬りゃ良いんだろ。
ユーベルコードは冬唄。
最初の一撃を絶対もらう以上、【覚悟】【気合】【見切り】でどうにか耐える。
耐えたら、後は蒸気ぶった斬り続けて我慢比べだ。冬唄使ってる最中は体中痛えけど、向こうの寿命にも来るらしいしな。冬唄じゃ本体は斬れねえし。
蒸気斬って隙があるなら、【怪力】使った掴みで蒸気出してる管を狙っても良い。
てめえがどう考えようと、何が大切だろうと、お父様とやらがどんだけ凄かろうと
今は関係ねえ。関係ねえべ。
切った張ったしてる間は、斬るか斬られるかだろう。それだけだ。オレは自分に出来る限り上手く斬るから、お前も頑張れ。

―――春夏秋冬流、参る



 蒸気を纏って突撃してくる淑女。
 レディ・ハンプティというオブリビオンを端的に表現すると、そうなる。

 黄金色の蒸気機関から吹き出し、全身を包む高熱のそれは、そのものが殺傷力を持つ一つの兵器である。
 故に、突破は困難を極める。

 内燃機関を稼働させることによる尋常ではない速度と膂力が、莫大な質量を持って襲い来る。
 すべてを蹂躙し、なぎ倒す有様からつけられたあざなは『武装楽団形態』。
 誰も逃れ得ぬ、殺傷兵器である。

 ◆

「あら、あら、あら、あら」
 レディ・ハンプティが蒸気の尾を引いて走る。
 その速度は、UDCアースの文明で例えるなら新幹線並、と言った所か。
 勿論、線路などありはしないので、途中にあるものはすべてへし折りなぎ倒し、進んでいく。
 それが命であろうと、何であろうと。
 そんな彼女の視界の中に、一人の人間が居た。
 視界の向こう、このまま走れば十秒程度で“接触”する。
 男だろうか? 女だろうか? 長い髪の毛で一瞬判別がつかなかったが、それを考えても仕方ないことだ。
 なにせこれから踏み潰し、踏みにじって終わるのだから。

「淑女の道を塞ぐものではありませんわ」
 一撃。
 踏み潰すように踏み潰し、踏みにじるように踏みにじった。
 ぐちゃぐちゃの肉片になるはずだったそれは――――――。

「あら?」
 血反吐を吐き、片腕をひしゃげ原型を失い。
 内蔵をいくつか潰された上で――――。

「―――春夏秋冬流」
 喋り、

「参る」
 動いた。

 ◆

 尾を引く白を両断して、質量が転がり地を打ち据えた。
 痛い、ただただ痛い。右腕が使い物にならない、ちぎれかけている。
 肋が完全に折れた。内蔵にいくつか潰れたろう、折れた骨がどこぞに突き刺さってるやも知れぬ。
 見た目より何倍も重く、想像の何倍も勢いがあった。覚悟を決めてどうこうなるものではなかった。
 けれど耐えた。心臓さえ潰れなければ動けるものだ。

 どいつもこいつも、オブリビオンの大物は規格外だ――と、アロンソ・ピノ(一花咲かせに・f07826)はつくづく思う。

 それでも斬り伏せたのだから、まぁトントンと言って良いだろう。うむ、刃が蒸気機関に劣る道理なし。

「――――レディの道を塞ぐだなんて」
 ぶすぶすと音を立てながら、ゆぅらりと立ち上がるレディ・ハンプティ。
 流石に一撃で首は取れないようだが、身体の喇叭は不快な音を立てている。
 斬れた。
 斬れたのだ。

「お行儀が悪くてよ」
 一度斬れたのだから、二度目も斬れよう。
 出来るか否かの一刀目より、確信を得た二刀目が鋭いは道理。

「お互い様だべ、そりゃあ」
 どるん、どるん、と、再度、レディ・ハンプティの“蒸気機関”が唸りを上げる。
 再度の加速と共に襲いくる、高熱の蒸気。
 ああ、こりゃあ痛そうだ、と思いながら、アロンソは片手で刀を構え直した。

 ◆

 再度、蒸気機関を震わせて、レディ・ハンプティは再び目の前の猟兵に突っ込んだ。
 合わせて、敵の手が動く。
 こちらの再起動より、向こうの刃がわずかに速いようだ、だがそれが何になる?
 たかだか、細い刀一本。この身を断つにはあまりに脆い。
 まして、その一手はタイミングを誤ったのか、彼女の身体に届いていなかった。
 お話にならない――――今度は頭を潰そう、と一歩踏み出したところで。
 がくん、と身体が落ちた。いや、つんのめったというのが正しいか。
 頭が意識する速度に、体がついていかなかった。無様にも膝をつきかけた。
 何が起きた? と思って気づく。
 蒸気で白く染まるはずの視界が、今はしっかり通っている。

 両断されている。

 ――――蒸気を斬った?
 それに何の意味がある。
 いや、違う。
 敵が斬ったのは“蒸気”という概念そのものだ。
 “蒸気”が出ている、故にレディ・ハンプティの速度が上がる。
 ならばその“蒸気”を断てば、“蒸気”が消えてなくなれば。
 レディ・ハンプティの蒸気機関は“動いていない”ことになる――――――。

「てめえがどう考えようと、何が大切だろうと、お父様とやらがどんだけ凄かろうと」
 刀で断てぬもののみを断つ。
 春夏秋冬流、静寂を司る冬の型。
 名を弐の太刀 冬唄という。

「オレは自分に出来る限り上手く斬るから」
 何故動ける?

「お前も頑張れ」
 何故まだ戦える?
 その時、レディ・ハンプティはようやく、自分の首に、たしかに致死の刃がかかっていることに気づいた。
 気づいてしまった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア


そういえばあたし、「お父様」とやらとはやり合わなかったわねぇ…

ゴールドシーンにお願いして描くのは不動火界呪の真言、さらにそれをカノ(叡智)とアンサズ(聖言)で補助。●黙殺を起動して〇破魔と浄化の弾幕バラ撒きつつミッドナイトレースに○騎乗してガン逃げかますわぁ。

…当然これじゃ幽霊はともかく本体は対処できないもの、今までのは全部仕込み。カノの別側面は「炎熱」、真言が示すのもまた浄化の「炎」。戦闘駆動と弾幕で熱された蒸気機関にイサ(氷)とハガル(崩壊)のルーンを叩き込めば。暴発は無理にしても、ダメージくらいにはなるでしょ。

仮にも「ハンプティ」を名乗るなら。最期は地に落ちて砕けるのが作法でしょぉ?



「そういえばあたし、“お父様”とやらとはやり合わなかったわねぇ」
 不思議な世界の森の中に、甘ったるい音の独り言が溢れる。
 奇妙な形の、木の枝の上だ。もうすぐ目標がここを通る。
 成功も失敗も等しく、チャンスはたった一度。

「さぁーて…………ゴールドシーン? すこぉし無茶を聞いてくれる?」
 ちゃらり、と音を立てて、ペンに取り付けられた、黄金に光る宝石が揺れた。

 ◆

 虚空に生み出された線路を、いびつな形の汽車が走る。
 名前を魔導列車と言い、侵略蔵書から生み出されたレディ・ハンプティの「切り札」とも言える。

「やってくれましたね、全く」
 猟兵達のあがきは、どうしてなかなか、苛立たせてくれる。
 傷ついた自分の蒸気機関を、蔵書から呼び出したそれのものと換装しながら、レディ・ハンプティは大きく息を吐いた。
 己の命を脅かすにはまだ至らぬが、確かに削られるものは削られている。
 この列車も、まだ呼び出すつもりではなかったのだが、立ち止まっているわけには行かない。
 移動には、足が必要だ。

『―――――――キキキキ!』
「?」
 その時、列車内に騒がしい声が響いた。
 車内にいるのは、レディ・ハンプティだけにあらず、「蒸気獣の悦び」に記された災魔達も乗り合わせている。
 見張りと、邪魔者の始末を命じておいたはずだが――――――。

 パリン、窓ガラスが割れて、何かがレディ・ハンプティの顔面めがけて飛んできた。

「……―――――」
 素手で掴む。衝撃を殺す。光が溢れて消えていく。
 魔力で形成された、弾丸か、矢のようなものだ。

「そう、また来たのね」
 認識すると同時に、ぎぎゃあ、という災魔達の悲鳴が響き渡った。

 ◆

 空を、光の線が飛ぶ。
 複雑な幾何学模様を描きながら対象に向かう魔力の矢は、列車内に飛び込んでは災魔の心臓を貫いて仕留めていく。
 列車の数十m先を、“ミッドナイトレース”が走る。
 ゴールドシーンが叶えてくれた“お願い”に弾切れはない。一度に90発。
 撃ち尽くしたら、数秒のインターバルを挟んで再度装填される。

「お出ましねぇ…………!」
 そうやって削り続けていれば、やがて親玉が姿を表す。
 広い帽子のつばの向こう、表情は伺えないが、憤りと怒りが、確かに伺えた。

「お召し替えは終わったのかしら、レディ・ハンプティ」
「お陰様で、新しいドレスにホコリが付きましてよ、猟兵」
「じゃあもっと煤だらけにしてあげるわぁ、そっちの方がお似合いだもの」
「貴方には赤が似合うと思いますわ、臓物の赤など如何でしょう」
 ぶしゅぅ、とレディ・ハンプティの蒸気機関が唸りを上げると同時に、魔導列車が不快な汽笛を、更に大きく鳴らした。
 しゃご、しゃご、と空想のレールを噛む感覚が、さらに短く、強くなっていく――――。

「轢き潰して差し上げますわ」
「やってごらんなさいよ」
 あと一瞬、ミッドナイトレースを加速するのが遅かったら、向こうの言う通りになっていた。
 レディ・ハンプティの蒸気機関から動力をもらい、魔導列車は更に加速する。
 元より常識の範疇に収まる駆動をするものではない、直角に切り返せば、直角に曲がって追いかけてくる。慣性で後部車両が切り離され、中に乗っていた災魔達が潰れる音がした。

「速度が落ちていましてよ、猟兵」
「淑女がばたばた騒ぐものじゃないでしょぉ? はしたない」
 減らず口を叩きながら、次弾を放つ。レディ・ハンプティの纏う蒸気の鎧が、それらを身体に辿り着く前に相殺していく。

「当たると思って?」
 嗤いながら、更に速度を上げる。向こうのバイクはもう限界速だ。じわじわと距離を詰め始める。もう逃さない。
 一瞬でも触れれば、後は質量に任せて巻き込んで、ぐちゃぐちゃにすり潰された肉片が、後方に散らばることになるだろう。

「そんなの」
 その状況だと言うのに、女は。

「思ってないわよぉ」
 笑う。

 ボン、と音がして、レディ・ハンプティはつんのめった。
 何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
 敵の背中が遠くなっていく、速度を上げたのか。
 違う、こちらの速度が落ちているのだ。

「あれだけ大きな“穴”を見せびらかしておいて」
 女は、口の端を歪めて嗤いながら、銃を天に向けて撃った。
 相変わらず、複雑な軌道を描くそれは、余さずレディ・ハンプティの上を通り過ぎて、魔導列車の蒸気機関、その排出口に飛び込んでいった。
 ボン、とまた音がして、更に減速した、爆発音が響いた。体が熱い。

「狙うな、は嘘よねぇ?」
「――――――――キィサマァアアアアアアアアアアアアアアア!」
「お上品じゃないわよぉ、レディ・ハンプティ」
 追いつけない、遠ざかっていく、手を伸ばそうとする、もう遅かった。

「仮にも“ハンプティ”を名乗るなら。最期は地に落ちて砕けるのが作法でしょぉ?」
 自らが接続した魔導列車が、内側から炸裂していく。
 身体を切り離さねば、と思うより先に、炎が身体を焼いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


へぇ、アウルム・アンティーカねぇ
ま、どうでもいいよ
なにせ、奴は『敗北者』だ
その娘もまた、敗北しか取り柄の無い雑魚だろうよ

挑発はこれくらいで
超スピードに超反応、まともに攻撃は通せない
それが緩む一点──攻撃に被せるしかない

蒸気を纏った瞬間、出来るだけ最速でニューロン【ハッキング】
重点的に行動速度と【見切り】の眼を向上
接近される──【早業】と【見切り】【第六感】で回避、最悪は致命傷を避けて受ける

『左手』で抱き寄せ、逃がさない
保険に、ワイヤーアンカーを衣服に引っ掛ける
逃げようとすれば高速巻取りで引き寄せ
──『Resist Ban』
お前を殺せはしないが、死地に追い込むことはできる
これが、俺の『勝ち』だ



 ゆらり、と起き上がったレディ・ハンプティの姿は、控えめに言っても優雅ではなかっただろう。
 泥と煤で汚れたドレス、へし折れた蒸気機関、脱線した魔導列車の再構築にも時間がかかる。
 猟兵を侮って失ったものは、あまりに多い。

「ええ、それでも進むのです、進むのです」
 それが“お父様”の意思を継ぐということ。
 それが“お父様”への想いを示すということ。
 全ては、偉大なる――――――。

「へぇ、アウルム・アンティーカねぇ」
 軽薄とも取れる声が、背後から響いた。

「アレに娘がいたとは驚きだ。まずそんな精神構造をしてるってのが最高にクレイジーだね、でもまぁ――――」
 そこに居たのは、細身の男だった。
 蒸気機関とは異なる理の機構で動く、異世界の技術で構築された肉体。
 どういった戦い方をするのか。
 どう蹂躙すべきか。
 そういった、“まともな思考”は。



「――――どうでもいいよ。なにせ、奴は『敗北者』だ」



 そのたった一言で、終わった。
 次の瞬間、レディ・ハンプティは全思考を完全放棄し、全身の蒸気機関を総動員して、ただ目の前の存在を完全に消滅させるためだけに突っ込んだ。

 ◆

(随分と父親思いじゃねえか、ええ?)
 ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は、腹部に受けた衝撃のダメージを冷静に勘定しながら、頭の片隅でそう思った。

(いくつか――――やられたな。こりゃあ後でオーバーホールが必要だ。まぁたどやされる――――)
 高速化する思考。ヴィクティムの体感速度は、一秒を百秒に引き伸ばし、一瞬を永遠に拡張している。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
    、、、、、、
 なのに追いつけない。
 偉大なるオトーサマを侮辱するのは大層効果があったらしい。
 淑女らしい振る舞いはどこへやら。叩き潰し、捻り潰し、ねじり潰し、殺し潰す事しか考えていない、一個の暴力兵器が、ヴィクティムを文字通りのスクラップに変えるべく襲い来る。
 それでもまだ死んでいないのは、これが“想定内”の状況だからに他ならない。
 真っ白な蒸気が空間を埋め尽くす。まず持って、高熱の結界が周囲を取り囲み、焼く。皮膚があっという間に爛れて行く。

(そう、もともと正面から殴り合って勝てるような相手じゃあない――――)
 相手は猟書家。オブリビオン・フォーミュラーになろうとしている存在。
 格上だ――――だが、それは別に、始末できないという意味ではない。
 やり方は……そう、いくらだってあるのだ。

「肉を! 骨を! 脳を! 心臓を! 捧げて償いなさい! 偉大なるアウルム・アンティーカお父様を侮辱した、その罪を!」
 レディ・ハンプティからすれば、無抵抗な相手をただ蹂躙しているだけだろう。
 腕をへし折り、脚を砕いて、もう逃げられないと思っているだろう。
 いたぶって、なぶって、殺すだけだと思っている。
 だから、気づいていない、気づいていないのだ――――――。

「…………時間がかかったな、さすがだぜレディ・ハンプティ」
「――――あ?」
 頭を砕こうとする最後の一撃が、振り下ろされようとしている最中で。
 ヴィクティムはへら、と嗤いながら、指を突きつけた。

「十八秒もかかっちまった――――おっと、どうかしたか?」
 折れた腕を使って、ゆっくり立ち上がり、全身の被害状況を確認しながら。

「随分と動きがぎこちないが――――あんたンところの社交界じゃそれが最新のトレンドなのかい?」
 “もう終わった”と言わんばかりに、そう告げる。

「あ、な――…………身体、が…………」
 レディ・ハンプティは気づかない。
 一番最初、ヴィクティムを殴り倒したその瞬間に取り付けられた、雷の印が刻まれたメダルに。
 “それ”が効果を発揮するまで、計算以上に時間がかかった、“さすが大魔王の娘”だ。
 だが、もう遅い。機構は機能して、機会は失われた。
 レディ・ハンプティが勝利する機会は、永遠に。

 メダルの名前は《Seal Program『Resist Ban』》。
 関する役割は“権限剥奪”。

 これに支配されたものは、文字通り――――“あらゆる権限”を剥奪される。
 攻撃も防御も回避も回復も、移動も呼吸も発言も、全て、全て――――――。

「じゃあ、俺はもう行くわ。巻き込まれたくないんでね」
 やれやれと肩をすくめながら、ヴィクティムは砕かれた脚を引きずって、不格好に歩き出した。
 あまり長居はしてられない。ここにいるのは、危険がすぎる。

「どこ、へ――――い、く――――――勝負は――――まだ――――――」
「もう終わったよ、“俺の勝ち”だ」
 てめぇが何で動いてるのか、考えてみな。
 そう告げて、レディ・ハンプティの視界から、猟兵の姿が消えた。

 ◆

 動けないという屈辱。
 レディ・ハンプティの怒りは沸点を遥か越えて、呼応するように蒸気機関が暴れまわる。
 身動きできぬまま、白煙だけがもうもうと上がり続ける。ただひたすらに。
 やがて気づく。体温が上がり続けている。蒸気機関が止まらない。
  、、、、、
 止める権限が彼女にない。

 最大級の怒りでもって、激情と共に励起させた蒸気機関が、動かない身体にあって、止まらない。
 それは、延々と出力を上げ続ける。振るう相手も、もう居ないのに。

(あ、ああ――――熱い――――――――?)
 それは例えるなら、心臓の鼓動が加速し続けるようなものだ。
 それも、熱と動力を伴う心臓だ。エンジンをただ空吹かしし続けた先にあるのは――――――。

(あ、あああ、ああああああ!? お父様、お父様、お父様――――――――!?)
 破滅だけだ。

 暴走した自らの内燃機関が、限界を超えて爆裂し、レディ・ハンプティは自分の“体の中”から膨れ上がる衝撃を、たしかに感じ取った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リゥ・ズゥ

指針
目的のため汎ゆる痛手も手間も困難も度外視

価値
興味優先なので価値や意味というものに無頓着

行動
先制攻撃の乳房の下の口を激痛耐性、怪力で受け、UC発動。三倍に膨れ上がり丸呑みを脱し、捨て身の一撃によるカウンターで炎を纏いながら全身を大顎と化して喰らい返す。
全て灼き尽くす程に熱く荒々しい獣の接吻を、魔王の娘へ。
叶うならば、そのままその心(臓)まで奪い尽くす。

心情
大魔王の、娘。アレは喰らう機会を得られなかった、が。娘が居たのは、僥倖、だ
蒸気機関とやらは、不要だが、その肉、その血、その力……レディ・ハンプティ、リゥ・ズゥは、お前が、欲しい。
リゥ・ズゥの、ものと、なれ。



「ウ、ウウウウ、オォォォォォ………………」
 美しいドレスは襤褸く破れ。
 陶器の如き肌は醜く焼けただれ。
 ひび割れた蒸気機関はいびつな白煙を吐き出し。
 乳房の下の口は呼吸を荒げ、醜い音を立てる。

「殺す…………皆殺しに、する…………ああ、身体を、癒やさなくては――――」
 餌が必要だ。この体を癒し、機能を取り戻すための餌が。
 だから。

「――――――アハ」
 森の中で、新たな影を発見したレディ・ハンプティは、迷うことなくためらうこと無く、喰らいつくために飛びかかった。

 ◆

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――」
 咆哮を上げながら、リゥ・ズゥ(惣昏色・f00303)が豪腕を振るう。
 飛びかかってきたレディ・ハンプティに、グリモア猟兵から聞いた高貴な面影はもはやない。

「ああ! ああ! なんて美味しそうな! 肉の! ああ!」
 ただ身体を満たすための“食料”として、リゥ・ズゥを認識し、襲い来る。
 その異形と膂力に、全く動じること無く、レディ・ハンプティは『乳房の下の口』を大きく開いた。
 ずらりと並んだ牙が、黒の腕にかぶり付いて、貪ろうとする。

 ここに至るまで、猟兵との戦闘が幾度もあった。内側も外側も焼かれた。
 肉を食らうのは、その補填になる。レディ・ハンプティにとって、リゥ・ズゥは紛れもない極上の“餌”だった。

「いただきます! いただきます! ああ――――――――――」
 牙が更に食い込んで、ぐいと引き千切ろうとする。

「――――だ」
「……? あら、なにか?」
 レディ・ハンプティは首を傾げた。満たされる直前になって、思考が少しだけ冷静になる。
 普通、『乳房の下の口』で喰らわれたものは、絶叫を上げるからだ。
 けれど“これ”は、そもそもが異形だからだろうか、動じているようにも、痛みを感じているようにも見えない。

「――――僥倖、だ」
 めり。
 めりめりめり、と音がした。

「――――ぎゃあ!?」
 悲鳴を発したのは、リゥ・ズゥではなく、レディ・ハンプティだった。

「な…………あっ!?」
 喰らいつかれていたリゥ・ズゥの肉が膨れ上がって、肥大化していく。
 当然、それを上下から挟み込んでいた牙は、その拡張に引っ張られて大きく顎を開かれることになる。
 べきり、と『乳房の下の口』の顎関節が外れる前に、間一髪、牙を離して飛び退くことに成功した。

「ぉ。ぉおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおお――――――――――」
 喰らいつこうとした“それ”の持つ質量の、なんと大きな事か。
 けれど、一度始まった“食事”は、目の前の料理を平らげるまで終わらない。
 そう、終わらないのだ。

「ぎゃあああああああああ!?」
「大魔王の、娘。アレは喰らう機会を得られなかった、が。娘が居たのは、僥倖、だ」
 レディ・ハンプティが乳房の下に口を持つのなら、リゥ・ズゥは身体のどこをも口へと変じられる。

 それは、全てを灼き尽くす、荒々しい獣の接吻。
 ある意味で、究極の愛とも言える。
 食らうというのは、混ざるということ。
 一つになるということ、一体化するということ。
 相手を求め、交わろうとする行為が、生物の究極でなくてなんなのか。

「蒸気機関とやらは、不要だが、その肉、その血、その力……」
 レディ・ハンプティがリゥ・ズゥを餌であると認識したように。
 リゥ・ズゥもレディ・ハンプティをまた、餌と認識しているのだ。

「レディ・ハンプティ、リゥ・ズゥは、お前が、欲しい」
 喰らうつもりだったから、考えていなかった。
 自分もまた、喰らわれようとしているなどと。

「い、いや――――――やめて………………」
 身も心も消耗しきって、ただ“食事”をするつもりだけだったレディ・ハンプティと。
 ただこの一度の機会を余さず味わい尽くすために望んだリゥ・ズゥの。
 覚悟が、違う。

「――――リゥ・ズゥの、ものと、なれ」
 いただきます。
 その宣言と共に、“喰らいあい”は一方的な捕食となった。
 骨も、肉も、本も、記憶も、心も、感情も。
 すべてなくなるまで奪い尽くす、あるいは奪われる行為。

 尊いと言わずして、なんと言おうか。

 最後に残ったのは、もう役割を果たさない、蒸気を吐き出すだけの鉄塊。
 魔王の娘を取り込んだ異形は、満たされた腹の中から湧き上がる、新たな力の脈動に歓喜して、咆哮した。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月10日


挿絵イラスト