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迷宮災厄戦㉑〜冀求

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 金と褐色で彩られた大都会。
 建築物からは時折煙が噴き出し、曇天を白く染めている。
「ああ、いとしい父様。いよいよこの日がやって参りました」
 がたごと、がたごと。
 魔導列車の駆け抜ける音を遠くに聞きながら、広大な街路に佇む人影があった。
 白皙の肌を黒衣で包んだ女性。
 その優雅な立ち居振る舞いは淑女と言うに相応しい。
「かの世界を災厄に巻き込む、この日が」
 だが手に持つ魔導書からは明らかな魔の気配。
 そして肩には、光る蒸気機関。
「わたくしの父様、どうか、見守っていてくださいね」
 俯いて、言う。
「あなたの無念、このわたくしが果たします」
 上品な口元の動きに合わせ、胸元の下にある口もまた、獰猛な形で笑みを作った。


「アリスラビリンスでの戦い……お疲れ様です」
 依然騒がしさを保つグリモアベース。そこでクララ・リンドヴァル(白魔女・f17817)は集まった猟兵達に向けてぺこりと頭を下げた。
「皆様の活躍で、二人目の猟書家のいる不思議の国への道が開かれました……大魔王アウルム・アンティーカ。覚えておいででしょうか」
 去るアルダワ魔王戦争において猟兵達が倒した大魔王。その第一形態だ。
「大魔王には息女がいたようです。その名も『レディ・ハンプティ』」
 魔女の肚から造り出した娘だという。
「かの世界を破滅に導くために動き出そうとしています……恐らくは、父の意思を継いで」
 彼女の狙いは『アルダワ魔法学園』ではなく、その西側、諸王国連合。
 蒸気魔道文明が最も華やかな形で存在するアルダワの要衝であり、もしかすると学園生徒の守りが届かないかも知れぬ地。
「大魔王の生みだした災魔達を、彼女は『蒸気獣』という存在と化そうとしています」
 彼女の思惑通り諸王国連合に『蒸気獣』達が解き放たれたが最後。大きな被害が出るだろう。
「このアリスラビリンスで……なんとしても仕留めなくてはいけません」

『レディ・ハンプティ』が潜んでいる不思議の国は、まるでアルダワの大都会のような国だ。
「彼女は今、広い道の真っただ中で一人佇み……皆さんを待ち受けています」
 敵の本拠地。しかも相手は手練れ。転送された途端に先制のユーベルコードを撃たれることはまず避けられないだろうと言う。
「これさえ何とか出来れば、だいぶ楽になると思うのですが……」
 近寄る者全てを噛み潰す牙。
 高速移動を可能とする肩の蒸気機関。
 そして彼女がしたためた侵略蔵書「蒸気獣の悦び」。
 参考になるかも知れないとクララが一つ一つ列挙するも、結局はどれも強力であることを確かめるに止まる。やはり相応の対応策が必要なのだろう。
 最後に、猟兵達にその瞳を向ける。
「激戦が予想されます。今『レディ・ハンプティ』を撃破して下されば、アルダワの被害は最小限に抑えられるかも知れません。どうか、お願い……します」
 それだけ言って、最後に再び頭を下げるのだった。


白妙
 白妙と申します。よろしくおねがいします。
 このシナリオは戦争シナリオです。
 1章だけで完結する、特殊なシナリオとなります。

●ボス情報:レディ・ハンプティ
 アルダワ魔法学園を狙う猟書家にして「大魔王アウルム・アンティーカの娘」です。
 侵略蔵書「蒸気獣の悦び」と、がばっと開く牙だらけの「乳房の下の口」で戦います。

●補足
 敵は猟兵側に対応するユーべルコードを使い、必ず先制攻撃して来ます。

●プレイングボーナス
『プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』
 以上に基づく行動を行えば、戦闘を有利に運ぶことができます。

●戦場
 魔導列車が走り回り、蒸気建築に埋め尽くされた、無人の大都会のような国。
 その中でも目立って広い街路。周囲に障害物が一切存在せず、公園のようになっています。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

箒星・仄々
アルダワを好きにさせて堪るものですか
レディさんを海をお還ししましょう

先制対策はシンプルに魔力の矢の弾幕です
矢で牽制・釘付けにしつつ
疾風で高機動回避したり
激流の盾で身を護ります

凌いだら
弦を爪弾き歌声響かせて世界へ助力を請い
魔法の根源から引き出した魔力で矢を生み出し反撃です

先程よりも速さ・威力・射程や自動追尾等
全てが段違いですよ♪

災魔を烈風で切り裂き
蒸気機関や魔導列車を爆炎で過熱させたり
超水圧で貫いたりして
故障を誘います

次いでに炎の矢でレディさんや
その蔵書も狙い焼却です

レティハンプティ落ちたよ~♪

楽しく賑やかな童謡を葬送として
海へお送りしましょう

戦闘後に安らかな眠りを願い
やっぱりハンプティDの歌♪



 アリスラビリンス『大都会の国』。
 その街路に降り立った箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)の背後から、汽笛の音がした。
 振り返れば遠方には煙を上げて疾駆する長い長い鉄の塊。仄々に向けて方向を転じ、徐々に近づいて来る。
 やがてその正体が仄々の目にも明らかとなる。
 それは侵略蔵書「蒸気獣の悦び」により召喚された魔導列車であった。
 客車の屋根には猟書家『レディ・ハンプティ』の姿。
「アルダワを好きにさせて堪るものですか。レディさんを海をお還ししましょう」
 仄々の呟きに答えるかのように、魔導列車は一際大きな汽笛を上げた。
 みるみる距離を詰め――轢殺。
「はっ!」
 その直前、地面を蹴った仄々の真横に、緑の魔法陣が展開された。
 撃ち出されたのは――風属性の矢の束。
 発生した風圧が仄々の小さな体を真横に飛ばすと同時に、蒸気機関から噴き出される熱い蒸気から守る。
 駆け過ぎる魔道列車。翻る帽子。見る者が見れば、仄々の姿は闘牛士を連想させたかも知れない。
 体勢を立て直そうとする仄々だったが、同時に車両の窓から此方を窺う者達の姿を捉えてもいた。
 災魔達の幽霊。全員が弓や投げ槍などの飛び道具を持ち、狙いを定めている。
 災魔達が仄々に向けて一斉射撃を行った、その時。
 ドドドドドォッ!!
『!!』
 轟音と共に地面に打ち下ろされたのは、大量の水属性の矢。
 蒼い激流と化し、盾となって全ての飛び道具を地に落とす。
「~♪」
 今度は余裕をもってリートを取り出し、仄々はそれを爪弾き歌う。世界へ助力を請うかのように朗々と歌い上げれば、生み出されたのは大量の色鮮やかな魔法の矢。
 蒼と緑の矢が拡散。そのまま光の尾を引きながら魔導列車を追い、牽制へと走る。
 精度も速度も先程とは段違い。真っ先に風の矢が客車に飛び込み、烈風と化して中の災魔達を切り裂いた。
『あら、お綺麗』
 足下から響く災魔達の悲鳴を涼しい顔で聞きつつ、『レディ・ハンプティ』は疾駆する車両の上で余裕混じりの賞賛を送る。
『レディ・ハンプティ』に蒼い矢が迫るも、それらは紙一重で躱された。高い水圧で鉄の車体を抉り――そのまま車両の最前部に飛ぶ。目で追う『レディ・ハンプティ』の視界には、何故か前方の機関車に纏わり付く、紅い炎の矢の群れが映った。
『――』
 咄嗟に車両から飛び降りる『レディ・ハンプティ』。
 次の瞬間、大爆発が起こった。
 水圧で断ち割られた隙間から炎の矢が侵入し、蒸気機関がオーバーヒートを起こしたのだ。
 車両から逃れ去ろうとする『レディ・ハンプティ』に向けて、追撃の紅い矢が飛ぶ。
 爆発。そして炎上。
「レティハンプティ落ちたよ~♪」
 仄々の演奏する楽しく賑やかな童謡。それは己が術を破られた『レディ・ハンプティ』への葬送の唄でもあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェイムス・ドール
こんにぃちわぁー。戦いましょー?

わぁ、大きなお口!
右手を突き出して上口を怪力で押し、後方へ跳ぶ。
右手が齧られた……うーん、痛い!

食い千切れた片腕をふらふら揺する。
右手の二の腕あたりまでなくちゃったかなー。
うーん、もうちょっと齧ってくれてもよかったんだよ?
その方が…よく燃えたし。『現回炎刃』おどろかす。

継戦能力、右手を再生させて、
相手が噛み潰し、丸呑みにした右腕から丸鋸を出して属性攻撃。
アハハ!すごいでしょ!私体の中に丸鋸たくさん入れてるんだ!

体から更に沢山丸鋸刃を出し、念動力回転。
もっともっと燃えてみる?
周囲に滞空する燃える丸鋸で逃げ道をふさぎながら、
相手を追跡する丸鋸を投げて攻撃。



 猟書家と猟兵達の間には明らかな実力差がある。油断はしないにしても、どうしても猟兵側は相手に先制を許してしまう。
 加えてその一撃が後々の戦況を左右しかねない程に強力であるのならば、初撃を外そうとするのは極めて自然な対応と言える。
 しかし。
「こんにぃちわぁー。戦いましょー?」
 ジェイムス・ドール(愉快な仲間の殺人鬼・f20949)の場合は少しばかり事情が異なっていた。
『いらっしゃい』
 ゆらり、と。
 ジェイムスの朗らかな呼びかけに答えると共に。
 黒い影が間合いに踏み込んでいた。
 猟書家『レディ・ハンプティ』その人である。
 既にその体を半ばから二つに折るように、胸元で巨大な口が鋭い牙を見せていた。
「わぁ、大きなお口!」
 反射的に右手を突き出すジェイムス。
『!』
 どん、と『レディ・ハンプティ』の上口を手で突き飛ばし、その反発力で後方に逃れ去る。だが。
 ガチィッ!
 辺りに響く咬合音。
 それに混じって……ぐしゃり、と骨と肉が断たれる音。
 ジェイムスの手が引かれるよりも一瞬早く、さらに踏み込んだ『レディ・ハンプティ』が、その超高速の噛みつき攻撃を成功させた。
 た、と後方に着地するジェイムス。
「……うーん、痛い!」
 深手は隠せない。軽い呻き声と共にそう呟く。
 怪我の状態を確認するように片腕をふらふらと揺すろうとするも、右腕は二の腕を半ば残して食い千切られてしまっていた。
 患部からは絶えず血飛沫が噴出し、整備された街路に今も赤黒い染みを広げている。
「うーん、もうちょっと齧ってくれても良かったんだよ?」
『うふふ、お粗末様』
 胸元の口で咀嚼を続けつつも勝利を確信した『レディ・ハンプティ』だったが、すぐにジェイムスのその言葉が虚勢ではなかった事を知る。
「その方が…よく燃えたし」
 ジェイムスがそう言うと同時に、今度は『レディ・ハンプティ』の胸元から大量の血と炎が噴き出した。
『――!!』
 舌が傷付くのも構わず、急いで咀嚼していたものを吐き出す。べちゃ、と音を立て、変わり果てたジェイムスの右腕が地面に放り出される――そこからは何と大量の丸鋸が回転しつつ火を噴いていた。
「アハハ! すごいでしょ! 私体の中に丸鋸たくさん入れてるんだ!」
『――!』
 見ればジェイムスの右腕は何時の間にやら再生を遂げていた。色々とめちゃくちゃである。
 バリィ! と燕尾服を割って、さらに大量の丸鋸がジェイムスの体から突き出された。
 刹那、それらが『レディ・ハンプティ』に向けて飛ぶ。
 ギャリィッ!
 火を噴きながら迫る回転刃に肩の蒸気機関を一本斬り飛ばされつつも、『レディ・ハンプティ』は残りを紙一重で回避する。
 無数の丸鋸は意思を持つように滞空しつつ『レディ・ハンプティ』を包囲。そのまま逃げ場を断つ。
「もっともっと燃えてみる?」
 この上なく苛烈。それでいて一切の悪意を感じさせないジェイムスの戦いぶりを前に、『レディ・ハンプティ』は胸元から滴る血を拭いつつ、ヴェールの下で一条の汗を流すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ等歓迎
猟書家……油断ならない相手だけど、やる事は変わらないわ
猟兵として貴女を倒す。ただ、それだけよ

さぁ、行きましょう。ヒルデ
死霊術士に死霊を使って戦う愚かしさ、教えてあげる

■行動
魔導列車……幽霊が攻撃してくるだけなら兎も角
列車の突進を防ぐのは流石に無理ね

ここは一緒に転送して貰った馬車に乗り込み、
御者の【操縦】技術を信じ、轢かれない様に列車から
逃げたり回避する事で【UC】発動までの時間を稼ぐ

【UC】を発動したら、内部の災魔の幽霊を強制的に従わせて列車を停止
そのまま使役に成功した幽霊による【集団戦術】で攻撃し、
私自身は【死霊障壁】で身を護りながら
隙を見つけ次第ヒルデの【怪力】を叩き込むわ



 パチン!
 前方から鞭の音が響けば、馬車は急旋回。次の瞬間、巨大な鉄塊が窓の外を駆け過ぎ、座席に腰掛けるレナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)の肌を温い蒸気が撫でた。
 客車の天井の上に佇む黒い人影……猟書家『レディ・ハンプティ』の姿を彼女の双眸が捉えたのは、これで幾度目だろうか。
「猟書家……油断ならない相手だけど、やる事は変わらないわ」
 列車は一気に窓の外へと駆け去り、馬車の背後につく。
 馬車もまた再出発。硬い街路の上を転がる激しい車輪の音と共に、弱めの上下の振動が座席のレナーテを包み込んだ。
「猟兵として貴女を倒す。ただ、それだけよ」
 十分程前。
 転送と同時にレナーテは、同じく転送された豪奢な馬車に素早く体を滑り込ませた。
 それからというもの死霊馬に曳かれたこの馬車は、小回りを活かして魔導列車と互角の追走劇を繰り返していたのだった。
 侵略蔵書「蒸気獣の悦び」。
 確かに強力なユーベルコードではある。少なくともこれを正面から受け止める手段をレナーテは持ち合わせていなかった。
 にも拘らず、この技には致命的な一点が存在する。あくまでレナーテを相手にした場合に限りという但し書きは付くが。
 背後から迫る魔導列車。そこから感じ取れるのは数多の敵意。そして――馴染み深い気配。
(「――あと、少し」)
 無人に見える御者席では物言わぬ死霊が今も馬車を操っていた。彼の腕を信じ、レナーテは時を待つ。
(「死霊術士に死霊を使って戦う愚かしさ、教えてあげる」)

 一方、車両の上に立つ猟書家『レディ・ハンプティ』は余裕を見せていた。
『うふふ、逃げ回ってばかりでは勝てませんわよ』
 魔導列車と馬車の間の距離は再び縮まり、今にも追いつこうとしている。
 その時――プシュウ、と大きな音を立て、列車が動きをゆっくりと停めた。
『……?』
 訝し気な様子を見せる『レディ・ハンプティ』だったが。
 次の瞬間、冷たい手に足を掴まれた。
 足下を見れば災魔の幽霊。だが様子がおかしい。
 二人、三人。此方の足を掴み、遠慮仮借なく引き倒そうとする。
 踏み止まろうと車両の下に目をやった瞬間――『レディ・ハンプティ』は自身の置かれている状況を初めて理解した。
 立ち込める蒸気に隠れ、無数の幽霊達が自身を待ち構えるような動きを見せている。
『……!』
 ――『使役』された。全て。
 今までのは時間稼ぎ。
 漆黒のヴェールの下を明らかな狼狽の色が走る。
 転倒。今度は無数の手が彼女の動きを封じ、たちまち地上に引き摺り降ろした。
 アルダワで父の宿願を果たそうとする彼女だが、別世界の術者の存在は、或いは盲点であったかもしれない。
 少なくとも死霊を操る術師としては、レナーテの方がまだまだ上手だ。
 地面に引き倒された『レディ・ハンプティ』。吸魂と呪縛の呪詛に侵されながらも何とか災魔の幽霊達を振り払い、体勢を整えようとする。
 だが。
「ヒルデ、行って」
 逃がさない。
 駆け抜ける巨骸の一撃。咄嗟に防ぐも、凄まじい衝撃が腕を走り抜けた。
 罅が入る硬質の留め金。歪む表紙。外れる綴じ。
 彼女の編んだ侵略蔵書「蒸気獣の悦び」はその手から滑り落ち、今や大半が只の紙片となって辺りに四分五裂する。
 守るものを無くした『レディ・ハンプティ』の腹部に向けて。
 剛腕が再び唸りを上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェルト・ユメノアール
遮蔽も無くて小細工のしにくいこの場所……
圧倒的に向こうに有利な状況だね
でも、負ける訳にはいかないよ!

真正面から戦って勝てる相手じゃない
最初から一撃狙い、その一撃に全てを賭ける!
相手の攻撃を躱す事に集中、多少のダメージは覚悟で『トリックスター』を構えて急所をガード
初撃を防いだら飛び退きつつ『ワンダースモーク』を使用
周囲を煙で包み込み、そのまま煙に紛れて反撃する!……と見せかけて

ボクはすでに【SPミラーマジシャン】の効果を発動していた!
煙は鏡に映した虚像を本物だと誤認させる為の罠だったのさ
相手が鏡に映ったボクを攻撃するその隙を突いて、背後からトリックスターで『カウンター』の一撃を決めるよ!



 耳をつんざく轟音に、しゃらん、と帽子のボールがぶつかる音がひとつ。
 転送完了と同時に、猟書家『レディ・ハンプティ』と対峙するのも待たず、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)は地面を蹴った。
(「遮蔽も無くて小細工のしにくいこの場所……圧倒的に向こうに有利な状況だね」)
 戦場は広く平坦。ならば戦い易いのは敵も同じ。
 加えて格上相手である以上、対等の条件では極力戦わない。フェルトの判断は、正しいものであっただろう。
(「負ける訳にはいかないよ!」)
 その後の細工は流々。どのような難局も鮮やかに覆して見せるのがフェルトだ。
 今はただ前だけを見据え、目の前の攻撃を凌ぐ事に全神経を集中させる。
『ふふ、せっかちさんね』
 噴き出す蒸気と共にぐんぐん迫る『レディ・ハンプティ』。対するフェルトは投擲用のダガー《トリックスター》を握り直す。
 超高速の突進に対して一本のナイフでは正面からは太刀打ち出来ない。
 フェルトは向かってくる『レディ・ハンプティ』の肩にある蒸気機関――そのやや側面を狙っていた。
「――今!」
 横薙ぎされる白刃。
 真鍮色の管を叩けば金属同士のぶつかる音と共に、びりびりと手元に凄まじい衝撃が響く。
「くうっ……!?」
 それでも僅かに敵の軌道をずらし、生じた空隙にフェルトは身体をねじ込んだ。
 轟音が駆け過ぎ、熱い煙が頭上を掠める。
 僅かな手元の狂いも許されない、紙一重の防御だ。
『――!』
 一方の『レディ・ハンプティ』も無傷では済まない。先制の一撃は盛大に空振り。遥か後方で着地する。
 脚から全身に伝わる衝撃を強引に殺すも、それは大きな判断の遅れを呼んだ。
 動きを止め、ようやく後方を振り向いた彼女が目にしたのは……辺り一面を包む、演出用と思しき鮮やかな煙であった。
 フェルトの姿は既に無い。
『……』
 おそらくは煙に身を隠した反撃が来るのだろう。
『レディ・ハンプティ』も手練れ。背後からであれ側面からであれ、フェルトの気配に反応する自信はあった。
 そんな彼女の思惑を御膳立てするかのように――煙の中に覗く人影。
『さっきは良く凌ぎましたけど……詰めが甘くってよ』
 くすくすと笑い声を立てながら、躊躇なく、砕く。
 びきり。
 妙な音が響いた。
『鏡……』
 思わず口からそんな呟きが漏れる。
 次の瞬間、背中には一本の短剣が深々と突き立っていた。
 前方につんのめる『レディ・ハンプティ』。
 振り返ればそこにはフェルトの姿があった。隣には色鮮やかな衣装を纏った長髪の奇術師。
「その煙は鏡に映した虚像を本物だと誤認させる為の罠だったのさ!」
 二段構え。今の今まで気付かなかった。
 否、それが真の狙いだったのだろう。
『やるじゃない』
 極めて限られた状況から、いつの間にやら対等の立場に。
 鮮やかな手並みを見せつけられ、『レディ・ハンプティ』は血の伝う唇を僅かに綻ばせるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ガルディエ・ワールレイド
亡き父の為に戦うという、その想いだけは否定しない。
だが、それ以外の全てを否定させて貰おう。
アリスラビリンスの為にも、アルダワの為にも退く事は出来ない。

◆武装
《怪力/2回攻撃》を活かす魔槍斧ジレイザと魔剣レギアの二刀流

◆先制対策
30cmという間合いを活かすために敵は踏み込んでくるはずだ。
《見切り/武器受け》で二つの武器を使い、簡単には踏み込ませないよう防戦し、できれば無理な姿勢からのUC発動を強いる。
その上で、敵UCに対しては、乳房の下の口に対して《串刺し》の要領で刺突を放って迎撃するぜ。

◆反撃
UC使用可能状態になれば【戦場の剛刃】
既に近接間合いであろう事を活かし、流れるように反撃の斬撃を放つ



 正面からの噛み付きを斧で横殴りに往なし、間髪入れずに突かれた穂先が牙と絡まり音を立てる。
 猟書家『レディ・ハンプティ』の奥の手とも言える噛み付き攻撃だが、射程が短いという大きな弱点が存在する。その間合い、僅か30センチ。
 ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は長柄武器である『魔槍斧ジレイザ』の利を存分に活かし、最初の一撃を防ぎ止めていた。
 その補助を担うのは、左手の『複合魔剣レギア』。
 牽制気味に口内目がけて切先を突き出せば、『レディ・ハンプティ』は牙を素早く閉じて跳ね返すも、たちまち後退。
『父様、父様。わたくしは何があってもやり遂げて見せます』
 先手を潰された『レディ・ハンプティ』だが、その後も絶えず間合いに踏み込み、突きの雨を繰り出すガルディエに対し一矢見舞おうとする。
「亡き父の為に戦うという、その想いだけは否定しない。だが、それ以外の全てを否定させて貰おう」
 ガルディエもまた己の意思を返す。父の意思を継ぐ。その一点のみを認めた上で、彼女の目的が自身等の使命とは決して相容れないものである事を、はっきりと伝えた。
「アリスラビリンスの為にも、アルダワの為にも退く事は出来ない」
 ガルディエはジレイザを力強く握り直し、向ける。
 再び、対峙。
 次には両者共に疾駆し、そして激突した。
 突きと思しき無数の直線と、噛み音と共に展開される純白の幕が、幾度も幾度も交差する。
 何合目だっただろうか。遂に『レディ・ハンプティ』が乾坤一擲の一撃を見舞おうと肉薄した。
 向けられたジレイザの柄を狙い、飛び付く。
 ただしその体勢は――自身を間隙に捻じ込もうとすべく頭を真横に向けた――実に不安定なものであった。
 胸に付いた口を自在にコントロールするためとはいえ、『レディ・ハンプティ』が初めて見せた、大きな隙。防戦に徹したガルディエを前にして焦りを見せたか――ともあれ、好機。
『――』
 次の瞬間には、迎撃の一突きが口の奥を貫き通していた。
 がくん、と『レディ・ハンプティ』の動きが止まる。
「――断ち斬る!!」
 否、止まらない。
 ガルディエは敵に突き刺さったままのジレイザから右手を放し、『複合魔剣レギア』の柄を両手で握り込む。
 黒い手甲と鍔がぶつかる音。
 ガシュッ!!
 次には、硬質なモノを断つ音。
 ガルディエの剛力で以って為された一閃。
 強敵との死闘を越えて編み出された、戦場の業だ。
 斬り飛ばされた『レディ・ハンプティ』の数本の牙は宙高く舞い、街路にカチリと音を立てて墜落した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルネ・プロスト
さて
アルダワを狙ってることもそうだけど、何より故意に事故を起こそうとしているところがいけ好かない
死者が多数出かねない行いを見逃すわけにはいかないね

『安寧』介し魔術行使、ルネを中心とした外向きの暴風を引き起こして敵の纏う蒸気を吹き飛ばすよ
蒸気を纏う事で変身するのなら蒸気を吹き飛ばして武装楽団形態を維持できなくしてしまえばいい
此方に突撃しようものなら向かい風でより効率的に蒸気を飛ばせるし、物理的な遠距離攻撃も同様に威力を殺せる
……非物理遠距離攻撃は回避or水の防壁で防御で

先制凌げたらUC
次は触れた瞬間身が削れる程の勢いで吹き荒れる砂嵐の中だ
紛いなりにも格上相手である以上、徹底的にやらせてもらうよ



「さて」
 遠方から凄まじい勢いで疾駆して来る『レディ・ハンプティ』を前に、ルネ・プロスト(人形王国・f21741)は呟く。
「アルダワを狙ってることもそうだけど、何より故意に事故を起こそうとしているところがいけ好かない」
 大魔王の娘。
 虫の好かない話だが、『レディ・ハンプティ』がアルダワを狙う動機は充分にあると言える。それよりも彼女が自らの意志で動こうとしている事の方が、ルネには気に入らない。
 彼女に諸王国連合に乗り込まれたが最後。アルダワの一般人に対して無差別に死が降り注ぐに違いない。それは紛れも無い大事故である。
 少なくともルネの目前で展開されるユーベルコード『アンティーカ・フォーマル』は、それに能う威力を見せつけていた。
「――死者が多数出かねない行いを見逃すわけにはいかないね」
 深呼吸を一つ。ルネは目前に一本の杖を翳す。
 月長石の飾られた、見る者に清浄さを感じさせる杖。その名も『安寧』。
 そこに宿る月の魔力を介し、ルネはとある魔術を行使する。
 ゴォッ!!
 刹那、ルネを中心に凄まじい暴風が巻き起こった。
 風の魔術。
 向かい風の中を突進しようとする『レディ・ハンプティ』だったが、その速度は目に見えて遅くなっていく。
 魔道蒸気機関から出ている蒸気が――排出されると同時に後方に吹き散らされ、動力源としての意味を為さなくなっていたのだ。
 持続する強い風は身に纏う蒸気をも吹き飛ばし、速度をさらに落とす。
 動力が蒸気なら吹き散らせばいい。ルネの思惑通りであった。
 ルネの目前で盛大に踏鞴を踏む『レディ・ハンプティ』は既に満身創痍。
『父様、父様。あなたの無念、わたくしは果たせないかも知れません』
 口調はあくまで淑やかに、しかしその奥には確固たる意志を覗かせてもいた。
『――たとえそうだとしても、わたくしは全力を尽くしましょう!』
 漆黒のヴェールに覆われた顔を上げると同時に、『レディ・ハンプティ』がルネに乾坤一擲の突撃を仕掛ける。
 巨大な胸元の牙がルネに迫る――直前。
「“舞う砂塵は大気の鑢。山を削り地を均す彼の猛威をここに”」
 ザザザザザザッ!!!
 視界に夥しい量の何かが、『レディ・ハンプティ』の全身を叩いた。
 砂嵐。
 威力の制御も中止も意識の埒外。触れた者全てを一瞬で粉微塵と化す、強力な風と土の複合魔術。
 手加減抜きのルネの魔術行使『砂塵風食』は、『レディ・ハンプティ』の全身をたちまち飲み込み――跡形も無く消し飛ばした。
 なおも放出され続ける砂嵐がようやく止んだ時、大都会の世界に、穏やかに動く蒸気機関の音が再び戻り始めた。
「これで仕留めたね」
 砂に沈んだ街路の一角の中心でルネはそう独り言ちる。
 手に持つ杖に飾られた月長石が、それに答えるように瞬いた、気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月17日


挿絵イラスト