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迷宮災厄戦⑲〜この秘密結社はフィクションです。今は

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #サー・ジャバウォック


●竜人は猟兵の到来を嘆く。
「来ましたか、猟兵。まさかオウガ・オリジンではなく、まず私の所へ来ようとは」

 木々が焼け焦げた森の中で、片眼鏡をくいと直したドラゴンの部位を持つ壮年の男性、猟書家『サー・ジャバウォック』は嘆息しつつもその近づく気配を感じ取っていた。

「恐らくは我ら猟書家の力を削ごうという魂胆でしょう。やれやれ。そうすればオウガ・オリジンに力が戻り、カタストロフ以上の厄災に陥る可能性が高くなると言うのに、誠に度し難い」

 そうは思いつつも彼はそれを否定しようとは思わない。何故なら、彼がヒーローズアースに侵略し利用しようとする物も、同じ度し難い人間の性というものなのだから。

「そして更に言えば……よりにもよって、最初に選んだのが『書架の王』に次ぐ実力を持つ私とは。わかってやっているのか、無知故か」

 そう考えつつ、彼は片手に侵略蔵書『秘密結社スナーク』を、そしてもう片手に青き斬竜剣『ヴォーパル・ソード』を構えた。来るならば当然倒す構え。そうでなくて、何が書架の王を除く最強、などと嘯けるものか。冷静でいながら、容赦をしない眼がその片眼鏡から覗いていた。

「いいでしょう。かの強き人々の住む世界に赴く前に、我が力を証明する相手となっていただきましょう。何しろあの世界を破滅から救ったのは貴方方なのですから」

●竜人は虚構を語る
「てな訳で、ついに最初の猟書家戦だよ皆!」

 待ってました、とばかりに勢い込んで説明を始めたのは九十九・サイレン(再誕の18不思議・f28205)というピエロ風の少女だった。

「ハートの女王の城と、黄金卵領域を超えた先にいるのは、サー・ジャバウォック! ヒーローズアースに侵略して、秘密結社スナークっていう侵略蔵書であの世界にスナークを実際に作ろうとしてるんだって! なんでんなことするのかね! わかんないね!」

 虚構であるが故に人々に染みつき、影響を与える。やがては誰かがスナークとなり、平和が訪れた世界に新たにオブリビオンの脅威が現れてしまう。

「完全にはその侵略は防げないかもしれない。でも、今ここで叩いておけば、ジャバウォックの軍勢を減らすこともできるし、もしかしたらジャバウォックもここで倒せるかもしれないんだ。とはいえ倒せば、それだけオウガ・オリジンに力が戻るって事でもある。でも、少しでも脅威を減らす為にも皆、お願い!」

 手を合わせて頼んだサイレンは、改めて敵の説明を始めた。

「サー・ジャバウォックは木々が焼け焦げた森で皆を待ってるよ。罠とかは仕掛けず堂々とね。それだけ自分の力に自信があるんだろうけどね。

 武器はまずは手元の『秘密結社スナーク』って本。それを使って透明で見る事が出来ない架空の生物「スナーク」を召喚してそれで攻撃してくるよ。どう攻撃するかはちょっとわかんないかな。何せどんな架空の生物かわからないし。だからどんな生物でもいいように対策したりするしかないかな?

 それから斬竜剣ヴォーパル・ソード。これを巨大化させて周囲の敵を全員攻撃してくるよ。攻撃範囲はかなり広いから、まず攻撃されると考えた方がいいと思う。

 そして人間の『黒き悪意』を纏って、竜人形態に変身する技。この状態だと巨大化はしないだろうけどヴォーパル・ソードが強化されて、更にジャバウォックの翼に触れると五感が失われちゃうんだって。そして相手は凄い速度で空を飛んでくる。うん、すっごいいやすぎる。とにかく避けるか、何か対策するかしかないかなあ?

 更には、流石に最強を言うだけあって、これらの技を皆のユーベルコードより必ず先に使ってくるんだ。無敵になる技でも、ただやろうとするだけじゃそれが完了する前に相手の攻撃が当たるからダメだろうね。出来る限り、相手のユーベルコードにはユーベルコードを使わずに色んなもので対抗しなくっちゃいけないんだ。防御でも回避でもそれ以外でもいい。凌いでユーベルコードさえ使えれば反撃できる。そこが狙い目だよ!

 言っとくけど、今回の敵はちょい厳しいからね。いつもの仕事より、より隙が無いように対策や攻撃を考え抜いてくれないと痛い目に遭っちゃうかもしれないから本当に気を付けてね?」

 説明を終え、サイレンは手元に本を持って言った。

「物語ってやっぱ虚構が多いよね。でも、虚構だからこそ人々を楽しませるしワクワクさせる。でも、アイツは虚構だからこそ人々を悪にして世界に混乱を齎そうとしている。はっきり言うけど、大嫌いだ。本を馬鹿にするんじゃねえよ、あのクソモノクルじじい」

 一瞬、違う口調が混ざってしまい、慌てて口を閉ざしたサイレン。

「おっとっと……ま、そんな訳だから、スナークなんて話、出来る限り虚構にしといてやろうよ! はっきり突き付けてやろう! 『その秘密結社はフィクションです。実在の世界には全く関係しませんし、これからも全くしません』ってね!」

 そう檄を飛ばし、サイレンは猟兵達の転移を開始した。


タイツマッソ
 どうもMSのタイツマッソです。ついに初めての有力敵戦です。頑張ってやらせていただきます。
 難易度は普通の依頼より高めになりますのでご注意ください。

●注意事項
 敵は必ず先制攻撃をしてきます。先制攻撃は基本、猟兵側のUCより先に発動する為、その対策にはUC以外の要素が必要になります。
 よってプレイングボーナスは『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』となり、対策が良ければボーナスが付加されますが難易度は通常より高い為、厳しめの判定になりますので、具体性や説得性があると良いと思われます。
 また、複数UCを使う場合は敵も同数のUCを使用する為、1人で複数を使う場合はご注意ください。

●プレイング募集
 受付はオープニング開示から開始し、返却開始は14日からの予定となります。なるべくの採用を目指しますが、時間や内容によっては不採用も在り得ますのでご了承下さい。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『猟書家『サー・ジャバウォック』』

POW   :    侵略蔵書「秘密結社スナーク」
見えない【架空の怪物スナーク】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    ヴォーパル・ソード
【青白き斬竜剣ヴォーパル・ソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    プロジェクト・ジャバウォック
【人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態】に変身し、武器「【ヴォーパル・ソード】」の威力増強と、【触れた者の五感を奪う黒翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
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雷田・龍子

SPD
「情報によればヴォーパル・ソードの攻撃範囲はかなり広いようですが、それでも範囲外に居れば当たらないでしょう」
上空からアプリによって望遠機能を追加した丸眼鏡で様子を窺う龍子

巨大化したヴォーパル・ソードを振り回す
これは避け易いのでは?
そしてこちらの攻撃を当て易いのでは?

敵の攻撃は【見切り】や【残像】で避けようと試みる
そして構わずユーベルコード「忍殺」での攻撃を試みる
「当たらなければどうということはないです」



●万物斬り裂く斬竜の大剣

「貴方がサー・ジャバウォックですね」
「左様。そちらは……成程、一番手が竜の如き人でメイドの様相とは」

 先手としてジャバウォックの前に現れたのは雷田・龍子(人派ドラゴニアンの全力お姉さん・f14251)だった。ジャバウォックと同じく、竜の部位を持つ人間ドラゴニアン。そしてそのメイドの服装はジャバウォックの礼服と合わせてみれば、まるで戦場ではなく貴族の屋敷に共にいるような取り合わせだった。

「サーと仮にも付く方なら、世話をする者ですが、私は守護メイド長。この世界においての異物である貴方には、お帰り願うとします」
「何もせずとも、私は別の世界へと失礼しますがね。ですが、それでもこうして出向いたならば出迎えるのが礼儀という物。尤も」

 ジャバウォックはヴォーパル・ソードを構え、龍子を正面から見据えた。

「出迎えの形はこの刃で、となりますがね」
「こちらも同じ手段ですから問題無く。それでは」

 翼を広げ、前傾となった龍子にジャバウォックは接近の気配を感じヴォーパル・ソードに巨大化を発動する準備に入った。そして龍子が足を踏み込もうとした……次の瞬間、彼女は前ではなく、真上へと猛スピードで飛翔した。

「む?」

 それを訝しむジャバウォックだったが、龍子の様子を見て合点がいったような顔になる。

「成程、そういった腹積もりですか。しかし……」



「情報によればヴォーパル・ソードの攻撃範囲はかなり広いようですが、それでも範囲外に居れば当たらないでしょう」

 龍子はヴォーパル・ソードが巨大化し一定範囲を3回攻撃する仕様と知り、敵が繰り出す直前にその範囲外に出てしまえばいいと踏んだのだ。その為彼女が飛んだのは、真上。ジャバウォックから見て頭上方向。重力の関係上尤も狙いにくいと踏んだのだ。龍子は猛スピードで遠ざかりつつ、アプリで丸眼鏡で搭載した望遠鏡機能でジャバウォックを見た。その手元のヴォーパル・ソードが巨大になっていく。だが、ここで龍子は驚愕する。その巨大化の速度を。

(まずい、ここではまだ範囲に入る……!!)

 これに関しては目算が甘かったと見ざるを得ない。仮にジャバウォックのレベルが龍子の3倍と仮定するなら彼の射程は220m以上。龍子はこれを数秒で抜け出さないとならない。最初から範囲外にいたのではジャバウォックはいつまでも技を発動しないだろうし、そもそもあちらから近付いてくる筈だからである。故に接近するのは必要な行動ではあった。
 では数秒で220mを抜ける必要な速度はどれほどか。秒速で70m以上。時速ならば、252kmを出さなければいけない。ユーベルコードや補助の装備無しでは難しい速度。故に、範囲外でユーベルコードの発動を待ったり、範囲外に脱出するというのはどちらも難しかったと言える。

(ですがある程度は遠ざかった。ならば、避けやすくなる筈。いくら距離があっても、攻撃は出来るのですから)

 巨大な剣を振り回すならいくらかの大ぶりな動作になってしまう筈。ならば近距離よりも遠距離の方が起動の切り替えしも大きくなり、回避の範囲も広くなると踏んだのだ。龍子は離れるのをやめ、回避用の動作へと軌道を切り替えに行く。
 そして巨大なるヴォーパル・ソードが振り抜かれる。その軌道は龍子への直撃コース。龍子はそれを直前まで構え、そして残像が出る程のスピードでその剣を回避した。

(よし、後2回……!?)

 だが、そこで予期していなかった事が起きた。巨大な物体が振るわれた事によって起きた衝撃の風。それが回避した龍子を襲ったのだ。ドラゴニアンである彼女にとっては制動は困難ではない。だが、問題はその制動の間に切り返された第二撃が迫っている事だ。

(バカな、これだけ巨大な剣をこんなに素早く!?)

 物理法則を無視したような動作。だが、これこそがユーベルコードの力。そして何よりも相手は王を除いた猟書家の中でも最強の存在。離れていれば、巨大すぎる剣ならば避けられる、という目算はやはり甘かった。

(ですが……!)

 龍子はなんとか翼での動き、そして体を逸らすことで刃をギリギリでかわした。紙一重の回避。だが、その不安定な体に再び衝撃波が直撃する。

(う、ぐ……!!)

 今度は制動できず、姿勢を崩した龍子。そしてそこへ遂に即座に切り返された第3撃が迫り――

「カ、ハ!!」

 その身体を、ヴォーパル・ソードの刀身が捉え鮮血が空に舞い散った。



「終わりましたね。やれやれ。初手がこの程度とは。過大評価が過ぎたでしょうか」

 確かな手ごたえを得たジャバウォックは空に鮮血と確かな傷と共に吹き飛んだ龍子を見た。そしてその姿がふっと消え失せた。だがジャバウォックは驚く事は無かった。確か致命傷に近い傷を受けた者は強制転移させられ、本拠地へと戻っていく。猟兵にはそういった傾向があった筈。今までのオブリビオンとは違い、猟兵についても把握している事柄が多い猟書家ならではの思考だった。


 そう。だったからこそ、彼はこの時、確かに『油断』した。なまじ猟兵を知っていたが故に。


「ガハッ!?」

 突然の激痛にジャバウォックが自分の脇腹に目をやれば、そこには深々と突き刺さった銃槍。そしてそれを持っているのは……全身を血に染め、それでもなんとか立ちこちらをその眼で捉えている龍子の姿だった。

「暗殺……させて、いただきました……」


 斬撃を受けた瞬間、龍子の意識はそのまま途絶えそうになった。完全に深手。普通ならば意識を手放してしまっただろう。だが、運良く、彼女は意識を失わずに地上にいるジャバウォックを視認する事が出来た。
 そしてその瞬間、ユーベルコード【忍殺】を発動。これはレベル二乗m内の視認している対象の背後に一瞬で回り、高レベルの暗殺を実行するという技。いくらジャバウォックが実力者であろうと、このユーベルコードの射程距離よりはヴォーパル・ソードの距離は確実に短い。故に、彼女はこれで一瞬でジャバウォックの背後へと転移。ジャバウォックがそれを緊急時の強制転移と勘違いしたのも功を奏し、油断した背後から銃槍による暗殺を実行したのだ。

「それ程の傷で、意識を失わずやり遂げるとは……どうやら見縊ったのはこちらだったようだ」
「……お褒め頂いたと、受け止めておきましょう……」

 その身体へとジャバウォックが容赦なくヴォーパル・ソードを突き刺す前に、彼女の姿が再び消え失せた。今度は油断なく周囲を警戒するが、今度こそは完全に気配は消えていた。今度は本当に強制転移されたようだ。

「やれやれ……逆境からでも、少ない勝ちの目を手繰り寄せる。これこそが世界を救ってきた彼らの強さ、なのでしょうか……」

 腹部から滴る血も気にせず、ジャバウォックは次なる来訪者を待つことにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャーリー・ネィド
【かまぼこ】
どんな姿なのか、どんな攻撃をしてくるのかわからない敵かぁ
でも、ボクのやる事は一つ
いつもみたいに、今まで色んな強敵を相手にしてきた時と同じ様にウィーリィくんと【手をつなぐ】
お互いを信じ、二人分の【勇気】と【気合い】で見えない敵への怖れを乗り切り、そしてお互い死角をカバーし合いながら【視力】で僅かな前兆をも見逃さずに相手の攻撃を【見切り】、ウィーリィくんに合図して二人で回避するよ!

攻撃を凌いだら【エクストリームミッション】を発動させて反撃開始だよ!
【リミッター解除】させた猛スピードで【空中戦】を演じながら【クイックドロウ】+【スナイパー】でありったけの熱線をお見舞いしてあげる!


ウィーリィ・チゥシャン
【かまぼこ】
相手は正体不明の見えない敵。
能力も攻撃手段も分からないし、そもそも居場所すらわからない。
正直、無理ゲーもいいところだよな。
けど。
隣にシャーリーがいるから絶対に負ける気はしない!
その手を繋ぎ返し、【勇気】と【気合】を重ね合わせてお互いを【鼓舞】し合い、
互いの絆を信じながらフォローし合い、不可視の攻撃に備える。
姿が見えなくても、『敵の攻撃が存在するなら』何かしらの手がかりはある筈。
視覚はシャーリーに任せて俺は【聞き耳】で敵の攻撃を【見切り】、察知したらシャーリーに知らせて一緒に躱す。
そしてそのままジャバウォックの手の侵略蔵書を【神火の竈】で攻撃し、シャーリーの攻撃の隙を作る!



●不可視なりし架空の虚影

「ウィーリィくん、あれ!」
「ああ、いやがったな、サー・ジャバウォック!」
「おや。今度はお2人でしたか。随分仲睦まじそうな事です」

 次にサー・ジャバウォックの前に現れたのは、ぴったり隣同士でやってきた2名。アイパッチの上にサイバーアイを付けた海賊少女、シャーリー・ネィド(宇宙海賊シャークトルネード・f02673)。中華風の衣装に大きな包丁を握った料理人、ウィーリィ・チゥシャン(鉄鍋のウィーリィ・f04298)。数々の戦いを共に切り抜けてきた、まさに相棒同士といえる間柄の2人だった。

「このまま逃がしやしないぜジャバウォック! 戦いの歴史を繰り返すんだってな。やっとオブリビオンとの戦いが終わったあの世界をまた混乱させようだなんて、絶対させるもんかよ!」

 ウィーリィはかつて戦争で疲弊した人たちを見てきた。だからこそ、それが終わり世界の交流も始まって来たヒーローズアースにスナークという悪を振り撒こうとしているジャバウォックが許せなかった。

「あの世界もヒーローやヴィランはまだいるでしょう。どの道戦いの歴史は続く。私はそこに一石を投じようというだけです」
「例えそうだとしても、それはあの世界の中の事でしょ? 他の世界から介入して、ましてや市民の人たちを悪にするっていうのは違うと思うけど」

 シャーリーはウィーリィの憤りを助けるつもりでここに来た。彼が憤り、止めようとする相手は自分にとってもそうである、と。

「私は背中を押すだけですよ。悪は誰の中にでもあるのです。人はそれを見えない振りをしているだけです。自分の悪意に、見て見ぬ振りをしている。誰もが皆、見る事の出来ない怪物を心の中に秘めているのです。私はその怪物の表出に手を貸しているだけですとも」
「ふざけるな!! そんなのはお前の詭弁だ! 人間は悪意だけじゃ」
「ウィーリィくん!」

 ジャバウォックの言葉に頭に血が上り反論しようとしたウィーリィを突然シャーリーが手を握ると思いきり引っ張って共に地面に倒れ込んだ。

「シャーリー!? 一体何を……!?」

 訳が分からなかったウィーリィが目をやった空中。そこに倒れ込んだ拍子に舞い上がった彼の持っていた鉄鍋。それが突然何かに弾かれたようにして大きな音を立てて吹き飛んだのだ。

「なっ……まさか、もう『いるのか』!?」
「うん。残念だったね。不意打ちするつもりだったんでしょ」
「やれやれ……予備動作を見抜かれないよう、話術で気を引いてみたのですがね」
「生憎、ボクは『眼』には自信があってね。特に相手の挙動とかは目につくんだ」

 周囲を警戒し始めた2人に対し、ジャバウォックはその手に持った本。それをほんのわずかに指を入れて広げていた。注意しなければわからないような僅かな動作。それこそが、彼の侵略蔵書『秘密結社スナーク』の力を発揮するトリガーであった。そしてそれを、本来は相手の動作から未来の動きを計算するのが役目のサイバー眼帯、サイバーアイパッチが見抜いていたのだ。
 2人は手を握り合い、周囲を見回す。確実にいる筈。既にジャバウォックが召喚した不可視の生物、『スナーク』が。

「スナークは目に見えぬ虚構の怪物。虚構だからこそ人の心へと入り込み、やがては実在の怪物となるでしょう。人々が見ようとしない自らの悪意。それこそが、スナークの正体だからです」
「テメェ、まだ……!!」
「落ち着いてウィーリィくん。アイツが言った通り、虚構……ウソッパチだ。気にしないで」

 シャーリーが再びウィーリィの手を握る。そこから伝わる信頼、そして共に戦おうという意志。それはウィーリィの怒りを収めるのには十分だった。

「悪い、シャーリー」
「ううん。あそこで怒らない方がボクは嫌だし」

 そう言って2人は背中合わせになり、それぞれが周囲に目をやる。

(なるほど。スナークが踏んだものや僅かな動きを見逃すまいとしているようですね)

 先程のシャーリーの眼の良さを想えば、それは不可能ではないと思えた。ジャバウォックは2人の様子からそう判断した。しかし。

(スナークは架空の生物。故に、『浮遊する事が出来る』。そんな生物であっても、おかしくはありますまい?)

 既にスナークは浮遊状態になり少しずつ2人へ接近している。当然浮遊していれば、何かに触れる事は無い。目にのみ頼っていればその接近を感じる事はできない。そう……目にのみ頼っていれば。

「!! シャーリィ! お前の目の前だ!」
「わかった!」

 ウィーリィの言葉にシャーリーが熱線銃シューティングスターを目の前に向け、そして躊躇う事なく発射した。何もない筈の空間に熱線が命中し、何かが焦げた木々に激突した音が響いた。それに対しジャバウォックは彼にしては珍しく、目を見開いていた。

「まさか、見抜かれるとは」
「見抜いたんじゃない。『聞き抜いたのさ』。俺は料理人だ。炒め具合、焼き具合、それを判断する材料の1つが『音』だ。だから、耳には自信があるんだ。僅かな羽音、聞き逃さなかったぜ!」

 そう、スナークには虫の翅のような部位が存在していた。それがほぼ無音で動き浮遊させていたのだ。その僅かな羽音をウィーリィは聞き、位置をシャーリーに教えた。シャーリーは何も見えない事に躊躇う事無く銃を撃ち放った。二人の信頼、呼吸の連携、そして目と耳、それぞれで役割を分担し集中していた事が功を奏した。

「成程。彼女の目、そして貴方達の動作でまんまと騙されてしまいました」
「余裕してられるのも今の内だよ! 史上最大の凶暴すぎる竜巻、戦う覚悟はある? 【エクストリームミッション】!」

 シャーリーの体を自身の鮫型宇宙バイク「スペースシャーク」が変形したサメ型パワードスーツが覆っていく。

「最強っていうなら全力でやるよ! リミッターオフ!フルパワーだ!!」

 スーツの耐用を考えないリミッター解除モードにしたシャーリーがブースターで空を飛び、ジャバウォックへと迫り、シューティングスターを連射していく。

「中々だ。ですが、私も空を飛べない訳ではない」

 ジャバウォックも自身の片翼を広げると、空のシャーリー向けて飛翔した。連射を避け、ヴォーパル・ソードで斬りかかる。

「させるもんか!」

 それをフォースカトラスで受け止め、すかさずブースターで距離を取り再び熱線を連射していく。

「空中戦には慣れているご様子。流石と言っておきましょうか」

 褒めるような言葉を言いつつ、その指が書を開こうとする。それはスナークへの指示の動作。既に復帰したスナークは近くに潜んでいる。攻撃の指示でシャーリーに隙を作り、そこをヴォーパル・ソードで突き刺そうと言う狙いだった。
 だが、それを彼は見過ごしはしない。

「させるかよ! 【神火の竈(プロメテウス・レンジ)】!!」

 シャーリーが果敢に攻めたことによりジャバウォックの意識から外れたウイーリィ。彼は包丁をジャバウォックの手元の書に向けた。そしてそこから炎が放たれ、寸分たがわず書に命中した。

「ぬっ!」

 燃えだした書を流石に持っていられず、ジャバウォックが取り落とす。そして書と連動していたのか、何もない場所が燃え上がり何かがのたうつ音が聞こえた。スナークが本が燃えたのと共に全身が炎上してしまったらしい。

「お前だって勝手に生み出された生物なんだろうな。でも、お前を虚構から抜け出させる訳にはいかないんだ!」

 ウイーリィはどんな硬い食材でも切り裂く天霊大包丁を取り出すと、それで燃えている何かを一文字に切りつけた。確かな手ごたえ。料理人ならば逃れられない、命を奪う感覚。燃えてのたうつスナークへの、介錯の一撃だった。

「くっ、私のスナークが……ガッ!!」
「流石に異世界の侵略で大事な本を燃やされたら、動揺するよね!」

 注意が逸れたジャバウォックの片翼をシャーリーが見事に撃ち抜いた。体勢を崩し落下するジャバウォックにすかさず接近し、その胸元にシューティングスターを突き付けた。

「見えない悪意がどうのなんて知らない。私達は今、見える悪意を表しているキミを倒すだけ!!」
「猟兵……2人が連携するだけでも、これほどの力を……!」

 何かを見出したかのような顔のジャバウォックの身体を、最大出力の熱線が貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

地籠・陵也
【アドリブ連携歓迎】
人の悪意を使って戦いを呼び起こすなんて、俺たち猟兵からしたら止めるに値するからな。
だから俺たちはあんたを倒す、そしてオウガ・オリジンも倒す。これ以上関係ない人を巻き込ませない為に!

最初は敢えて攻撃を受け不利だと思わせる方がいいだろう。
【かばう】で仲間を護りつつ【拠点防御】【オーラ防御】【激痛耐性】で攻撃を凌ぎ【指定UC】で回復と強化を両立。その後【浄化】【破魔】【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】【属性攻撃(氷)】で弾幕を貼ろう。
人の悪意も言い換えれば心を蝕む"不幸"を呼ぶ"穢れ"……俺の力で少しでも相手の強化を破るきっかけになればいいんだが……!


九重・玄音
貴方が猟書家……そう、最強を自称するのね。
どうでもいい。私の目の前に立ちはだかるのなら、たとえ最強であろうと撃ち殺すわ。

相手が竜化を始めたのを見てから指定UCの詠唱を開始。フィアー・グレイザーを構えてオーラ防御と狂気耐性で攻撃をひたすら耐える。

ただひたすら最強の一撃を喰らおうとも、五感を奪われようとも、口を閉ざすことは絶対にしない。
私は感覚なんかよりも大事なものをオウガ・オリジンに奪われた。たかが最強を謳う男程度に、倒されてたまるものか。

詠唱完了。エーテルジャベリンに持ち帰えて、最大の狂気と復讐心を零距離で放つ!
唸れ我が怒り!帝竜の腹心たる我の前で最強など、笑止──『破砲:狂竜咆哮』!!


御魂・神治
☆共闘可

『天将』の【迷彩】で姿と足音の【存在感】を薄め
【戦闘知識・情報収集】により攻撃地点を予測してもらいつつ回避
ダメージと五感喪失デバフは【オーラ防御・呪詛耐性・破魔・結界術】で軽減
天将に収集してもらった情報も使い、敵の暴れ状態の隙をついて反撃や

悪意で強化してんのが運の尽きやトカゲのオッサン
生憎ワイは邪悪なモンを祓うのが仕事や

『森羅』と『天地』の陽【属性攻撃・破魔】銃弾の【乱れ撃ち】
『爆龍符』の【爆撃】追撃で攪乱
死角から『天誅』の【二回攻撃・スナイパー】で翼の付け根を打ち抜く
ヘタレてきたら【リミッター解除】のUC【神器霊弾『八咫』】をぶちかます



●悪意で羽搏く封翼の黒竜人

「まさか、スナークを損壊する事になるとは」

 身体を撃ち抜かれつつも、書の残骸を持ち離脱したジャバウォック。だがその眼はまだ諦めてはいなかった。

「ですが、この場をきり抜ければスナークも修復できる。かの世界に出向いてからでも遅くは無い」
「逃がす訳ないやろオッサン」

 そこに接近してくる3名の猟兵。声を掛けたのは白いコートを身に纏った青年、御魂・神治(除霊(物理)・f28925)だった。銃を構えて臨戦態勢の彼の後ろから、更にボディスーツで身を包んだアリス適合者、九重・玄音(アルターエリミネーター・f19572)が現れる。

「貴方が猟書家……そう、最強を自称するのね」
「ええ。正確には書架の王を除いて、ですがね」
「どうでもいい」

 ばっさりと彼女は表情変化の無い顔でそう言い切った。その眼には確かにジャバウォックはほとんど入っていない。彼女が見据えるのは、その先にいる絶対の標的。

「私はオウガ・オリジンを殺さないといけないの。私の目の前に立ちはだかるのなら、たとえ最強であろうと撃ち殺すわ」
「立ちはだかった覚えはありませんが。皆様はどうぞ我らなど無視し、オウガ・オリジンを倒せばよろしい」
「そうはいかないさ。人の悪意を使って戦いを呼び起こすなんて、俺たち猟兵からしたら止めるに値するからな」

 最後に現れたのは、黒髪に白い翼、白い鱗のドラゴニアン、地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)だった。彼はオウガ・オリジンを優先せよというジャバウォックの提案を真っ向から否定した。

「だから俺たちはあんたを倒す、そして勿論オウガ・オリジンも倒す。これ以上関係ない人を巻き込ませない為に!」
「せやな。悪意を振り撒くなんてされたら、わいの仕事が増えるやろ。あんまめんどい事さすなや」
「とにかく、貴方は邪魔だわ」

 3人が3人、それぞれの理由でジャバウォックの提案を無視し臨戦態勢に入る。それに対し、ジャバウォックは嘆息する。

「やれやれ……では、私も本気で貴方方を倒させて貰うしかなさそうだ」

 ジャバウォックがスナークの残骸を地面へと置き、その上に手を翳す。すると、書から黒い靄のような物が出てジャバウォックを包んでいく。

「何あれ?」
「……『悪意』や。わいでも中々見んほどの濃厚な奴や」
「ああ。凄い穢れだ……!そうか、悪意はあのスナークの本から湧き出ているのか!(人の悪意も言い換えれば心を蝕む"不幸"を呼ぶ"穢れ"……俺の力で少しでも相手の強化を破るきっかけになればいいんだが……!)」

「その通り。退廃、猟奇。それに満ちたスナークの書はまさに『人の悪意』を表現した書物。例え本来の力を使えずとも、こうして使えば……」

 そして悪意が纏わりつき、ジャバウォックの姿が変わっていく。黒き爪、黒色に染まったヴォーパル・ソード。そして頭部もまた人間から黒竜の顔に変わっていた。それはまさに人派ドラゴニアンが竜派ドラゴニアンに変わったかのような。ドラゴニアンである陵也はそう感じ、そして悪意を纏いし黒き竜の姿に、苦々しい顔に変化した。

「さあ。悪意の前に、その身の感ずるもの、全てを捨てなさい」

 ジャバウォックがその言葉と共に飛翔。一気に高スピードに至り、3人目がけて突っ込んできた。

「させるか!!」

 陵也がすかさず前に飛び出て、盾の機能を持つバールのようなもの、そして体からヴェールのように他2人ごと身を覆う「浄化の白き波長(ピュリファイ・ブランシュヴェール)」を展開した。

「ぐ、ううっ!!」

 ジャバウオックの突撃が炸裂する。だが、陵也の防御効果のある「浄化の白き波長(ピュリファイ・ブランシュヴェール)」はその機能を果たし、他2人へのダメージは免れた。しかし。

「ぁ…………」

 陵也もまたダメージは最小限に抑えたはずだった。だが、その全身から全ての感覚が消えていく。視界が、音が、舌の感覚が、匂いが、踏みしめていた筈の地面の感覚が、消えていく。

(消える、消える、消える……!?)

 陵也は何よりも喪失を恐れている。今まさに彼の五感は喪失され、他の2人の安否すら分からなくなっていく。そして訪れるのは……『恐怖』。喪失への恐怖、今自分の身体はどうなっているのか、仲間はどうなっているのか。その恐怖が、陵也を埋め尽くそうとしている。

(だめだ、いやだめだ、屈するな、やれ、やれ、やり続けろ、『今やっている事を』やり続けろ!!)

 それでも彼はなんとか堪えた。こうなる事は既に覚悟していた。そうなった時は、やり続けると決めていた。中断したなら、ほんとうに失われる。

(信じろ。信じろ!まだ失っていない!これから取り戻せる喪失なんだ!!)

 何も無い場所、何も感じない状態で、彼はただただ『やり続けた』。



「おい、あんちゃん!あんちゃん!やっぱダメかい、だが打ち合わせ通りやってくれてるようやな」

 神治は自分達の前に立つ陵也に呼びかけてみたがやはり反応は無かった。防御はできたが、ジャバウォックの翼は確かに陵也に接触し、その五感を奪い去ってしまっていた。だがしかし、彼らを覆うヴェールのようなバリアだけはそのまま残り続けていた。
 既に彼らは取り決めていた。防御の役割は陵也が担い、そして五感が失われても防御状態を保つ事を。とても少年が決める覚悟で出来る事では無かった。だが能力的にはこれが最善で最適。高スピードで動き回るジャバウォック相手には回避は難しく、防御でユーベルコードを使えるまで耐え抜くのが最良となった。そして残り2人の役割はというと。

「そっちも頼むでお嬢ちゃん。反撃の要はアンタやからな」

 防御バリア内で周囲を警戒する神治の横、そこには盾である「フィアーグレイザー」を構えつつ、一心に詠唱を続ける玄音がいた。彼女が今行っているのはユーベルコードの準備段階。ユーベルコード自体は先や同時に発動はできないが、その準備だけなら敵の攻撃中の今でも使う事が出来る。それの完了、そしてあるUCの発動を待つ事。それが今彼らにできる事だった。

「成程。その少女が要ですね。ならば」

 ジャバウォックが再び突進してくると、今度はヴォーパル・ソードを構えて突っ込んできた。それは陵也のいる方とは反対で、おそらく防御は一番薄い箇所。

「そんなとこ、読んどるわ!!」

 五感が封じられ、防御対応が出来ない陵也の代わりに玄音を守り抜くのが神治の役目。突っ込んでくるジャバウォック目がけてバリアの中から御札型爆弾「爆龍符」を投げ、吹き飛ばし距離を取らせようとする。ちなみにバリアを透過できるのは彼の嗜む結界術の応用によるものである。

「ええ、でしょうね?」

 だがジャバウォックはヴォーパル・ソードを投げて、爆龍符へと当ててきた。

「何!?」

 ぶつかりあい巻き起こる爆発。爆煙で周囲が包まれ、一瞬ジャバウォックを見失ってしまう。

「くそ、どこや……!!」
「はああああああ!!」

 神治が探していた隙を付き、横の防御バリアへと最大速度のジャバウォックが突撃してきた。ぶつかり合う、悪意の竜と穢れを祓う光。ジャバウォックも流石に相性が悪いそのバリアを完全に破壊はできず、腕が僅かに入っただけだった。

「チッ!出ろや!」

 神治がすかさずハンドガン「天地」と「森羅」を連射する。弾はジャバウォックの腕に当たり、その腕をバリアから追い出すことに成功した。

「おい、大丈夫か嬢ちゃ……! しもた……!」

 神治が玄音に駆け寄った時、その肩に何かが付着していた。それは、ジャバウォックの翼の一部。彼はそれを引きちぎり、腕を入れた際に玄音向けて投げたのだ。

「てめぇ……!」
「フッ……私も我が身を捨てる覚悟が無いわけではない。例え断片であろうとも、触れれば五感を封じます」

 外のジャバウォックは竜の顔を笑みにしつつも、その顔には苦痛が滲んでいた。引きちぎった翼からは血が流れ落ちているのがその証左だろう。

「何か唱えていたようですが、何も感じず見えず聞こえない。そんな状態で集中や詠唱などできる訳が無い。貴方方の反撃の目は、これで……」
「……それはどうやろうな、オッサン」
「何?」

 神治の言葉に訝しんだジャバウォックに、小さく声が聞こえてきた。それは間違いなく、玄音の口から紡がれる声だった。

「ば、バカな……!まさか、五感を封じられていなかったとでも」
「いや。ばっちり封じられとる。ワイが手を振っても全く目が動かへんかったからな」
 
 玄音は確かに何も見据えていない焦点の合わぬ目で膝を付き盾を構えたままで口だけが動き続けていた。常人ならばまず不可能の事だろう。

「ならば、何故……その少年もですが、何も見えず、触れず、聞こえず、嗅げない。そんな状態で動揺せず、恐怖せず、狂いもせずに何かをただやり続ける事など出来る訳が!」
「確かに、普通ならまずできへんわな」

 そう答えつつ、神治は思い出していた。ここに来る前、五感を失った場合どうするかという話で。陵也は『失いたくないから、俺はずっと守り続ける』と答え、そして玄音は。

『最強の一撃を喰らおうとも、五感を奪われようとも、口を閉ざすことは絶対にしない。私は感覚なんかよりも大事なものをオウガ・オリジンに奪われた。たかが最強を謳う男程度に、倒されてたまるものか』

 ほとんど表情の変化しない顔で、そう言っていた。感覚『なんか』と何気なく言い切ったその様子に、一体どれだけの物を奪われたのかと神治は思った物だった。『もう失わない為に防御し続ける陵也』、『もうそれ以上に失ったから詠唱し続ける玄音』。それは対極にある在り方にも思え、だが今は同じ方向を見据えている在り方でもあった。

「ならば、もう一度……!」

 ジャバウォックが再び空を舞い、突撃しようと旋回する。しかし。

「無駄や、もう充分データは集まった」
「ぐあっ!」

 その旋回地点に神治の放った銃弾が放たれ、命中したジャバウォックの動きを制動する。

「ドンピシャや。ありがとな「天将」」

 神治の隣に青色の人工AIの姿が迷彩を解除して現れた。彼女はずっと神治の隣でジャバウオックの戦闘データを収集していた。そして今それを元にした演算が完了し、その動きを予測可能になっていたのだ。
 しかもそれだけではない。

「わ、私のスピードが落ちている? いや、悪意が、減っている!?」
「悪意で強化してんのが運の尽きやトカゲのオッサン。生憎ワイは邪悪なモンを祓うのが仕事や」

 神治は外道除霊師。悪意や呪いの類はまさに浄化する専門家である。当然使用する銃弾にも破魔や浄化の加護がかかっており、命中して行けば悪意を浄化し、必然ジャバウォックのスピードもまた低下していく。更に動きを読みやすくなっていくのだ。

「もう近づけさせへん。……いや、もう充分のようやな」
「なん、だと……何ですこの光は!?」

 防御をし続けていた陵也の前に、竜の翼が生えた猫の使い魔「エインセル」が現れ、その身体から周囲に光を放ったのだ。その光が陵也や玄音を包み込むと、二人の目の焦点が段々と合っていく。

「っ……やっと届いた、か……ありがとうな」

 陵也が手元に来たエインセルを抱き寄せて軽く頭を撫でた。
 これは彼のユーベルコード【【昇華】恩恵を運ぶ白羽の猫(ピュリフィケイト・ギフトシャットエインセル)】の効果だった。使い魔エインセルを召喚し、放射した光が当たった対象を治療し戦闘力も強化する回復強化技。これで2人の五感封印状態を治療したのだ。
 そして彼は、防御しながらもずっとこれを使い続けていた。五感封印の影響、ジャバウォックの先制権利により中々成功しなかったが、ついにここで発動したのだ。

「ようやってくれたな!これで反撃に移れるわ」
「こっちこそ、わからなかったけど多分凄く手間かけさせたと思う、悪い」
「こちとら年長者や。そんくらいのめんどい事くらいなら請け負うたる」
「ありがとう……ここからは、俺も助力する!」

 陵也は魔術触媒である杖を取り出すと、それで高速詠唱し、多数の氷の弾を発射し弾幕を形成した。

「くっ!ですが、悪意を減らされたとはいえ、まだこちらの高速は続いている!」

 ジャバウォックは再び飛翔し、弾幕を回避していく。翼は欠け、悪意も減っているが、それでもその速度は圧倒的。氷の弾を回避し段々と3人へと再び距離を――

「もう近づけさせへん、って言ったやろ」
「グアアアッ!!」

 その翼の付け根に強烈な一撃が炸裂した。弾幕に気を取られ、注意をそらしてしまった神治。彼が取り出したスナイパーライフル「天誅」が天将のサポートを元にして、狙撃弾を命中させたのだ。
 落下していくジャバウォックの周りを陵也の弾幕が覆い、逃げ場を封じる。そして、神治は天誅のリミッターを解除し、エネルギーを充填していく。

「悪意を社会に振り撒くなんざ、御天道様は許さへん言うてるやさかい。【神器霊弾『八咫』】!」

 天誅から閃光を伴った、極超音速のレールガン弾が発射される。それは防御の暇も無く、ジャバウォックの身体を粉砕しようと迫り――

「グ、オオオオオオオオ!!」

 だが、ジャバウォックは寸前で身をよじると、その体勢を無理やり変え、レールガンの弾は彼の左腕と左足を消滅させるだけに及んだ。

(グ、ガ……で、ですが、まだ生きている。まだ、まだ、ここから、逃げおおせれば……!)

 ジャバウオックがここから逃げにまだ足掻こうとする。だが、彼は忘れていた。彼らの反撃の要と睨んだ少女が、ここまでずっと沈黙を守って来ていたことに。

「捕まえた」
「ッ!?」

 気づけば、彼の目の目には脚部を四脚の兵装でサポートしてここまで接近し、彼の胸に想像兵装「エーテルジャベリン」が付きつけられていた。その兵装には、ここまでずっと続けた詠唱により大量のエネルギーが詰め込まれていた。それは彼女のオウガ・オリジンへの復讐心。そして――

「唸れ我が怒り!帝竜の腹心たる我の前で最強など、笑止──」
「な……!? 帝竜!? ま、まさか、貴方は……ち、違う! 私は猟書家最強で」
「竜の姿でほざくな貴方は邪魔竜ならば即ち我らをもさしおいて私はオウガ・オリジンを殺すの最強と誇る事許すものか許さぬ許さないわ絶対に許さない」

 それは、狂気。玄音自身、そして他の何かが混じったかのような狂気。それが全てここまで行われた詠唱により、エーテルジャベリンに込められていて。

 ジャバウォックはここでやっと理解した。人の悪意を蔓延させようとした自分は、それ以上の……『狂気』によって殺されるのだと。



「だからお前は死ね。【破砲:狂竜咆哮(ヴァルギリオス)】!!」



 エーテルジャベリンから竜のような形の巨大な砲撃が発射され、辺りを光で包んだ。衝撃、音、全てが周囲に広がり、そして消えていく。

 そして、ジャバウォックの亡骸もまた、砲撃によって焼き尽くされて、そこには欠片も残ってはいなかった。



「良かった……失わずに、済んだ」
「ようやったな。後で飴ちゃんでもやろか?」

 ほっとして安堵した様子の陵也に、肩をぽんと叩く神治。そんな彼らの元に、ジャバウォックを倒した玄音が戻って来た。その顔は、何かをやり尽くした……とはとても思えない、無味乾燥な顔であった。

「お疲れ様。援護ありがとう。じゃあ、私は行くわね。またどこかで」
「え……あ、お、お疲れ様……」
「……おう、おつかれさん」

 形式的に挨拶をして去っていく玄音に、陵也は戸惑い、神治は何か察しつつも相槌を打って見送った。

「なんだあれ、さっきとはまるで違うような……」
「……ま、猟兵も色々おるってことやろ?」


(全く……きっとあの子には「しんどい」とか、無いんやろうな……1人の標的しかみえとらんくて、後は全部邪魔な遮蔽物ってとこやろうか……ソイツももうすぐ現れるかもしれへん頃合いや。果たして、どうするんやろうな……)

 陵也と神治は、焦げた木々の向こうへと、いや、見据える標的向けて歩みを進めていく玄音の背中をただ見つめていた――――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月14日


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト