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迷宮災厄戦⑰〜昨日を超えて、今日を超えて

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦


●相対する者。
 ゆらり、と影が浮かんだ。
 日の降り注ぐ、円形の闘技場。
 静寂の中、二つの視線は交わり、自然と闘いの気配が強まる。
 一人は猟兵で、一人はオウガ。
 さて、「わたし」はどっちだ?

●現れる者。
「諸君! 迷宮災厄戦も、戦況が刻一刻と変化しているな! 明日の戦いに進む前に、向かってもらいたいところがある!」
 ゴッドオブザゴッド・ゴッドゴッドゴッド(黄金存在・f16449)が叫びを上げた。明日の戦いに向かう前に。どういうことだろうか。
「戦場は、過ぎ去りし日の闘技場! この地に侵入したものは、「昨日の自分」と出会うのだ!」
 この国は、いわゆるローマ風の闘技場。
 足を踏み入れた猟兵の前には、自分自身と同じ姿をしたオブリビオンが現れるという。
「これは、諸君と全くの同一存在と言っていい! 思考も、嗜好も。記憶や戦術さえも同様だ!」
 自分自身との戦いに打ち勝て、などということは良く言われるが実体として現れるのだからとんでもない話だ。使用するユーベルコードも昨日の自分と全く同じ。強敵に間違いない。
「逆に言えば、昨日不調だったものなどは、今日容易に勝利できるかもしれんな……しかし、そう都合良くそんな者もおるまい!」
 ああ、誰かいないだろうか、そんな人が。
 偶然を引き寄せ、昨日に勝利する者が。

 昨日の自分より今日の自分は強いと豪語する者は少なくない。だが、きっとそれは僅かな差だ。
 その薄氷を踏み越えて勝利し、その言葉が真実であると言うことを証明して見せよう。
 何か無いだろうか。昨日の自分ではできなかった何かが。
「諸君には難しい頼みをしてしまっているとわかっている! だが、この地を突破せねば戦いに至れぬ猟書家が存在するのも、また事実なのだ! どうか、この試練を乗り越え昨日の自分より強い今の自分を、そしてそれよりも強い明日の自分を見つけ出してくれ! 期待しているぞ!」


納斗河 蔵人
 お世話になっております。納斗河蔵人です。
 今回は迷宮災厄戦、過ぎ去りし日の闘技場での戦いになります。
 闘技場に現れる昨日の自分に勝利しましょう。
 フラグメントは冒険ですが、基本的に戦闘です。

 このシナリオでは、以下のようなプレイングボーナスがあります。

 プレイングボーナス……「昨日の自分」の攻略法を見出し、実行する。

 ぜひこちらを意識してみてください。
 OP中にもありますが、「昨日は調子悪かったけど今日は絶好調」とかでも大丈夫です。
 昨日を超えた自分の戦いをお見せください。舌戦とかでもOK。
 それでは、プレイングをお待ちしています。よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『昨日の自分との戦い』

POW   :    互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ

SPD   :    今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う

WIZ   :    昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ

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ティラル・サグライド
ああ、ああ!こんな日が来るなんて!
まさか、まさか、己のような悪でなく、己自身も頂く機会があるなんて!

さあさあ待ちきれない!だからこそ、一服。
袋から多量の草花を煙管に入れ着火。痺れるような香りが肺に入れ、血管が切れてしまう程の毒性で満たしたらパーティーの時間だ。
掌や腹部の刻印が服を引き裂いて現れた、それを相手の私に向け、容赦なく抉り貪っていこうか。
相手も同じことをする?それは知っているさ。存分に味わうと良い。私も味わうからね。

おや、立ちくらみかい?出血したにしては同じくらいだけど?
――ああ、そういえば昨日はあのバッグに『補充』を行ったんだったね。
それじゃちょっともったいないけど、頂きます。



 過ぎ去りし日の闘技場。
 この地を訪れたものが、昨日の自分と出会う場所。
 姿形も全く同じ。記憶も、心も。ほんの一日、違うだけ。
「ああ、ああ! こんな日が来るなんて!」
 高らかに声が響く。
 それを想うと、ティラル・サグライド(覆水盆に逆集め・f26989)は天にも昇る心地である。
「まさか、まさか、『己のような悪』でなく、『己自身』もいただく機会があるなんて!」
 敵はオウガだ。
 しかし、オウガブラッド……その身にオウガを宿した彼女にとっては、オウガとなった自分はとてもとても『自分らしい』。
 オウガは、喰らうためにアリスを呼ぶ。
 しかし、ジャバウォックはティラルを喰らうことなく今も共にいる。
 彼女だって食われたいわけではない。
 だが、だからこそ。そんなにも焦がれた自分自身を喰らうことはどれほどに甘美だろう?
 それはきっと、悪党や、そこらのオウガとは比べものにはならない。
 そして同様に、闘技場の反対側から響く声。
「ありがとう、明日の私! 本当に、本当に、私が来るのを待っていた!」
 ティラルと、昨日のティラルはその時の訪れに心を弾ませる。
 待ちきれない、待ちきれない。
 さあさあ待ちきれない!
 
 ぽわ、と火が浮かんだ。
 これほどまでに昂ぶる気持ちは、もっともっと刺激的であるべきだ。
 二人の煙管にはこぼれ落ちそうなほどの草花。
 ゆったりとした動作で火をつけると、煙はまっすぐに立ち上る。
「だからこそ」
 煙を追うように見上げると、吸い口を近づけ、まずは一口。
 痺れるような香りが辺りに漂う。
「だからこそ、一服」
 いや、文字通り。この香りを嗅いだものは痺れて果てるに違いない。
 袋に、煙管に詰められていたのは毒草だ。
 彼女は時にこの草でティータイムを楽しみ、煙管をくゆらせる。
 そして今このときも、廃毒煙管を通して吸い込んだ煙がじんわりと体にしみこんでいく。
 焼けるような喉。ざわざわと肺を刺す刺激。
 速くなる鼓動に合わせて、血はその毒を全身に巡らせる。
 ぶつ、と何かが切れたような音がした。
 ティラルの手のひらが赤く染められていく。
 口元が、緩んだ。
 それと同時に左目を覆い隠すレースがめくれ上がり、その下の瞳をさらけ出した。
 まるで涙を流すようにこぼれ落ちた赤い血が頬を伝う。
「さあ、パーティの時間だ」
 その声を合図に、二人の腹が引き裂かれた。

「さあさあ、貪り食おう! 私を!」
「その血で喉を潤し、肉を抱き、自分自身を見つめよう!」
 黒いドレスは真っ赤に染まり、外道之刻印から解き放たれたオウガが互いに牙を突き立てる。
 二人のティラルが考えたことは同じだった。
 自分自身を、喰らいたい。
「当然、私はそうするだろう。知っているさ」
「この奇跡を見逃すなど、私はしないさ」
 肉を裂き、血を吹き、その雨を浴びる。
「存分に味わうと良い」
「私も味わうからね」
 この時をもっと楽しみたい。もっともっと楽しみたい。
 しかし、どんな出来事にも終わりは来る。
 ふらりと体を揺らめかせたのは、昨日のティラルだった。
「あ……」
「おや、立ちくらみかい?」
 出血量はほぼ同じ。二人が全く同じであるのならば、片方だけが無事であるはずもない。
 昨日から、今日に至る間に、一つだけ。差はあったのだ。
 ブラドバッグを撫でながら、ティラルは笑う。
「――ああ、そういえば昨日はあのバッグに『補充』を行ったんだったね」
 もともと体内に流れていた血の量が違うならば、この結末も必然だ。
「ほんの一晩前の事も忘れていたのかい、明日の私」
 昨日のティラルが、目を閉じ、待ち受ける運命を想う。
 自分を喰らうことはできなかったけれど、自分に喰らわれるのもまたとない体験だ。
 その姿を見下ろしながら、ティラルはこの一時と食事に感謝を込めて言った。
「それじゃちょっともったいないけど、頂きます」

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私/我ら 冷静沈着
対応武器:白雪林

人格と武器も対応するのですな。
昨日の私。悩みがあると、既に構えに出ていますよ。
ええ、悩んでいましたよ。『疾き者(第一人格。唯一忍者)』の潜入暗殺の『鬼』に、それに付随する悩みに気づかなかったのかと。
一番付き合いが長いのは私であったのに。

しかし、それは仕方のないこと。彼だけが忍者で、知りようがなかったのですから。

今の私に悩みはなく、彼をそのまま受け入れた。
早業にてUC付きの射撃を二回攻撃で行いますよ。

私が九、彼は十七歳。その頃からの付き合いだったのですから。

※現年齢は『疾き者』の享年。



 ほう、とため息を漏らす。
 過ぎ去りし日の闘技場に立つ馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)は目の前に現れた存在と、半ば驚きをもって相対していた。
「人格と武器も対応するのですな」
「無論でしょう。明日の私」
 彼は、その身に四つの人格を宿した多重人格者として通っている。
 もっとも、それは表向きの話。
 四つの人格が宿っているのは本当だが、それぞれは皆悪霊だ。
 閉じた目の中に宿したものは、外部からうかがい知ることはできない。
 だが、昨日とは既に通り過ぎた過去。
 昨日も、今日も。『静かなる者』が表に出ているのは、既に知っていることである。
「昨日の私。悩みがあると、既に構えに出ていますよ」
「む……悩んで、いたのですか」
 昨日の自身からの問いかけに、今日の義透は静かに応える。
「ええ、悩んでいましたよ」
 悩んでいた。それは、共にこの体に宿る悪霊の内の一人、『疾き者』についてであった。

 戦場を駆けた四人は、今体を一つとしながらも、元々全員と面識があったわけではなかった。
 だがその中でも『疾き者』と『静かなる者』は過去の事件で知り合い、三十と三年という間を共に過ごしてきた。
 ところが、それほどの長い時の中でも、知り得ぬ事はあったのだ。
 潜入暗殺の、『鬼』。
 普段はのほほんとしたあの男の、その笑みの裏に隠された真実に。死して一つになるまで気付きもしなかったのだ。
「一番付き合いが長いのは、私であったのに」
 昨日の義透はつぶやく。
 視線の先の、今日の義透の姿。この姿の基になったのは、当の『疾き者』である。
 その姿を目の当たりに、後悔と、懺悔は尽きることはない。
 彼は、『疾き者』は悩んでいたのだ。己のもう一つの顔に。
 気付かなかった。
 その事実は彼の心に重くのしかかり、戦いを前にしても振り切れずにいる。
 その姿に、今日の義透は首を振った。
「しかし、それは仕方のないこと」
「仕方のないこと?」
 昨日の義透は問い返す。
 そんな一言で片付けていいほど、『疾き者』の悩みは軽いものではないはずだ。
 それともたった一日で、開き直りのような答えに至ったというのだろうか。
「彼だけが忍者で、知りようがなかったのですから」
「だからといって仕方のないことと片付ける……片付けたというのですか」
 昨日の義透にはわからない。
 そこに至るまでに、どのような出来事があったのか。
 今日の義透は知っている。
 答えに至り、この国を訪れた『静かなる者』は。

 響いたのは、一つの銃声だった。
「な……」
 続いて、もう一つ。
 その銃口に迷いは無く、彼の心臓にピタリと合わせられていた。
『連鎖する呪い』が昨日の義透を蝕む。
 この悩みは、癒えない傷跡。そうであったはずだ。
「私が九、彼は十七歳」
 義透は倒れ行く自分自身へと向けて言葉を投げかける。
「その頃からの付き合いだったのですから」
 いろいろな出来事があった。言葉では語り尽くせぬほどに。
 まさか死した後までの付き合いになるとは思わなかったが、本当に長い時を共に過ごしてきたのだ。
「今の私に悩みはなく、彼をそのまま受け入れた」
 友の悩みを勝手に慮り、心を閉ざすのは友のすることではない。
 ただ、あるがままに。
 昨日と、今日を分けた一夜はとても長く、そして晴れやかなるものであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シズホ・トヒソズマ
自分のオブリビオンとか凄く相手したくないんですけど……仕方ない
少し無茶ですが、勝てる方法でやりましょうか

UCを発動し
時蜘蛛の糸で昨日の私を雁字搦めにきつく縛り付けます!
私は回避できでもできない
なぜなら私の被虐快楽本能が糸の拘束から逃れるだなんて勿体ない事できないから! 避けた時点で私ではない!
あっちも同じ糸でやり返しても無駄です
先述通り私も避けませんが、お互いに時間を糸に吸われれば最後は1日分私が勝ちます!貴方が『昨日』である限り!

あ、縛られながら時間を吸われる感覚気持ちいい……
あぁ、せいしんもこどもになってきちゃいまちた、でもUCは維持でちゅ

だうー

ふう、生後1日の体は流石に危険でしたね…



「自分のオブリビオンとか、すごく相手したくないんですけど……」
「そりゃそうですよ。私だって相手したくないです」
 二人のシズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)が、げんなりした様子でお互いを見つめる。
 過ぎ去りし日の闘技場。昨日の自分と今日の自分が出会う場所。
 違いはほんの一日。このほんの僅かな差が命運を分けるとも言えた。
「相手したくないですけど……今の私はオウガですので。明日の私と戦わなきゃいけないんですよー」
「……仕方ない」
 戦いの中、そのたった一日の差にシズホは身を委ねる事になる。

「集めに集めた時の蜘蛛糸!」
「そして過去喰らいの概念を媒介に作り上げた変身形態!」
 先に動いたのは今日のシズホだった。
 だが、自分自身の技だ。昨日のシズホも追従する。
 これは『過去喰らいの時蜘蛛(タイムイートスパイダー)』……己の体を、時蜘蛛へと変える力。
 放つ糸は触れたモノの過去を喰らい、幼児化させる……というのが群竜大陸で現れた時蜘蛛の能力であったが。
 このユーベルコードは少し違う。触れ続ける限り、さらなる過去へと触れたモノを誘うのだ。
「生物は幼く、機械は部品に」
「そして過去は無になり骸の海へ」
 一瞬だけ早く術を完成させたのは当然、今日のシズホだ。
 瞬時に指先を向ければ、時蜘蛛の糸が吹き出す。
「ふっ、甘いですね明日の私! その程度の攻撃を回避できないとでも思いましたか!!
 昨日のシズホも実力は同等。吹きだした糸を躱せないほど鈍くはない。
 だが、今日のシズホは自信満々に言ってのけるのだ。
「ええ、できません!」
「あっひゃあああああ! そのとおりでええす!」
 彼女の被虐快楽本能がそれを許さないから!
 時蜘蛛の糸はぐいぐいと食い込み、雁字搦めに昨日のシズホをきつく縛り付ける。
「だって、糸の拘束から逃れるだなんて勿体ない事できないから!」
「そうです! 避けた時点で私ではない!」
 ……なんとも反応に困る状況だが、先手を打って動くという作戦は功を奏した。
 後はこのまま、糸が過去を喰らい骸の海へと還っていくのを見守るだけでいい。
「でも私はオウガなので! 攻撃します!」
 しかし過去のシズホは最後の力を振り絞る。時蜘蛛の脚が糸を吹き出し、今日のシズホへと迫る!
「あっひゃあああああ!」
 ……避けない! 糸の拘束から逃れるだなんて勿体ない事できないから!
 二人のシズホはちょっと説明できない状態で闘技場に吊るされていた。
 
「あ、縛られながら時間を吸われる感覚気持ちいい……」
「からだがちっちゃくなってちょっとゆるんできちゃたでちゅ」
「もっかい糸だしてきつくするでちゅ。ちょっとまつでちゅ」
「あー、これがたまらんでちゅー」
「だうー」
 そうして、しばらくの時が流れたあと。
 今日のシズホ(生後一日のすがた)は糸の拘束から逃れ地面へと落ちる。
 時蜘蛛の糸が時間を吸う速度は当然、昨日も今日も同じである。
 勝敗を分けたのは、この一日の差でしかなかった。
 昨日のシズホは「ゼロ」となり、彼女が放った糸が喰らった時も今日のシズホへと戻っていく。
「貴方が『昨日』である限り、私の勝ちは決まっていました!」
 だんだんと成長し、もとの姿へ。
 しかし、ギリギリまで吸い取られた時の影響は小さくない。
 散らばる糸を前にふらりと体をよろめかせ、ため息をついた。
「ふう、生後1日の体は流石に危険でしたね……」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヤニ・デミトリ
うーんまさに過去の化身の業…
って観察してる場合じゃないっスね

昨日より成長している保障なんてものはないが、
一つだけ違うものがある
そいつは俺には今日の記憶があるってことっス
昨日よりも新たな物事を見聞きして感情を抱き思考する
自我を持たなかった身にそれらは楔であり印だ

つまりは…これ(UC)で殴り合えば
俺の方が体力ゲージが長いって寸法っス…フッ、勝ったっスね!
たった1日の差、そう易々と覆りようもない
でも「俺」はその差に一瞬だけ躊躇するだろう
それを取られるのが死ぬほど嫌って解ってるっスからね
その一瞬に踏み込んで、泥ごと全ての感情を喰らいとる

何もかもまだ先が見たい
意地汚さは、今日の俺に譲って貰うっスよ



「うーん、まさに過去の化身の業……」
 スクラップの尾。泥の肌。間違いようもない、その姿はヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)である。
「どこをどう見ても寸分の違いもない。あ、そこの泥がちょっと乾いてたりするか」
「ブラックタールだって日によって体調が違ったりするっスからね」
 向かい合う二人は全くの同一。どちらが昨日のヤニで、今日のヤニか。
 過ぎ去りし日の闘技場。昨日と今日が出会う戦場。
「って、観察してる場合じゃないっスね」
「そうっスよ、明日の俺。ぼやぼやしてると俺に食われちゃうっスよ?」
 にへら、と昨日のヤニが笑う。
 どうやら考えることは同じようだ。
「味見するだけじゃ、終わらないっス!」
『密やかな午餐(タベスギニチュウイ)』によって変質した尾が口を開き、互いに歯を突き立てた。

「昨日より成長している保障なんてものはないが、一つだけ違うものがある」
「はっ、なんだって言うんっスか」
 ヤニはかつて、自我や倫理を持たない泥の兵器に過ぎなかった。
 そんな自分をまだヒトの勉強中と称し、様々なものを見て、聞いて、感じ、考える。
 それこそが違い。昨日の自分が持たず、今日の自分が持つもの。
「そいつは、俺には今日の記憶があるってことっス」
「そうっスね。おかげで一日分、俺のほうがいいモノ食えてるっス」
 昨日の自分は笑うが、気付いていないはずもない。
 日々を生きること。昨日よりも新たな物事を見聞きして感情を抱き思考すること。
 自我を持たなかった身に、それらは楔であり、印だ。
 明日へと向かうための。

「つまり、俺の方が体力ゲージが長いって寸法っス」
「どうっスかね、俺の方が回復量が多いかもしれないっスよ」
 辺りは泥にまみれ、互いの肉体は抉られる。
 昨日の、今日の泥を喰らい、自分を取り戻していく。
 もはやその泥がどちらのモノであったのか、わからないほどに混ざり合った二人。
 だが。
「ふっ、勝ったっスね!」
「それは、どうっスか……ね!」
 今日のヤニは勝利を確信し、昨日のヤニは焦りを見せ始めた。
 確かにたった一日の差だ。
 だが、それは彼にとってそう易々と覆るものではないのだ。
 自分というモノが少ないからこそ、ほんの少し増えた感情は決定的な差となる。
「ちっ……」
「躊躇したっすね」
 にい、と今日のヤニは笑う。
「ほんの少しだって取られたくない。それは死ぬほど嫌って解ってるっスからね」
 相手が自分である以上、この結末は必然だった。
 ヤニは、”明日の自分“に勝つことができない。
「さあ、喰らわせてもらうっスよ、俺自身を」
「ああ、もっと喰いたかったっスね……俺が知らない明日を」
 開かれた顎門は、昨日のヤニの喉元へと食らいつき、引きちぎる。
 飛び散る泥を浴びながら、ヤニは知らなかった自分を感じていた。
「俺の体験しなかった昨日、敗北という感情まで……意地汚さは、今日の俺に譲って貰うっスよ」

 しばらくして。
 飛び散っていた泥は地面にひとさじほども残さず、闘技場は訪れたときの姿を取り戻していた。
 口を拭いながら、ヤニは思う。
 何もかも、まだ先が見たい。それこそが自分と対峙して芽生えた感情だ。
 ――もしも。ヤニが”明日の自分”と出会うことがあったならば。
 その時はどのような感情を得て、どのような結末を迎えるのだろうか。
 それはまだわからない。彼は扉を開き、明日へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月代・十六夜
やる前にちょっと話そうぜ俺。あーどっこいしょ。
お互い分かり切っちゃいるだろうが【パターン化】の特性上、最も【情報収集】して観察しきってる相手ってのはつまる所自分自身になるわけで。
そっちがやるってんなら付き合うけど、壮絶に千日手なんだよなぁ。
何らかの攻撃UC採用しようものなら【見切って】【霞む幻刀】で【カウンター】して終わり。
【フェイント】も【時間稼ぎ】も【見切って】るから勝負に付き合う道理もなし。
攻め手に対しての防御手段が万全すぎてなー。
そこまで踏まえてさて、昨日の俺、やる?
個人的にはおとなしく消えてくれると苦労が無くて助かるんだけどねぇ?
なんならじゃんけんでもする?間違いなく決着つかねぇけど



「やる前にちょっと話そうぜ、俺」
「ああ、わかってるぜ、俺」
 あーどっこいしょ、と声をあげながら座り込み、対峙するのは月代・十六夜(韋駄天足・f10620)である。
 双方気だるげに、あぐらに頬杖。
「お互いわかりきっちゃいるだろうが……」
「パターン化の特性上、もっとも観察しきってる相手ってのは詰まるところ」
 過ぎ去りし日の闘技場で出会った昨日の自分は、笑えるくらいに同じ動きで言葉を続ける。
 考えることは同じだ。
「自分自身になる訳で」

 十六夜は、戦いにおいて自ら先手を打って攻撃することは少ない。
「そっちがやるってんなら付き合うけど」
「間違いなく、壮絶に千日手なんだよなぁ」
 自分にとれる手段はわかっている。そしてその対処法も。
 攻撃が来たとしても十分に見切れるし、カウンターの一撃だって放てる。
 そしてその一撃にもまた対処があって、さらに反撃が来ても受け流せる。
 攻撃はするだけ無駄、とまで言い切る自分の攻撃を避け損なう、受け損なうなんてことはあり得ないだろう。
「フェイントも、時間稼ぎも」
「見切ってるから勝負に付き合う道理もなし」
 はーっ、と深いため息。
 決着はつきようもない。
「攻め手に対しての防御手段が万全すぎてなー」
「俺が俺に負けるのはあり得ないけど、勝ちもあり得ないんだよなー」
 もう一度ため息が二つ。
「そこまで踏まえてさて、昨日の俺、やる?」
「いやわかってるけどさ、でもオウガだからなー、俺」
「わかってるんなら、大人しく消えてくれると苦労がなくて助かるんだけどねぇ?」
 いっそランダムばらまきの運試しで行くか。
 しかし別に十六夜はギャンブラーというわけではない。運に身を委ねるという選択はお互いに選べなかった。

 そんなとき、ふと何処かの誰かの言葉が浮かんだ。
 たかがじゃんけん、そう思っていないか?
「なんなら、じゃんけんでもする?」
「マジで言ってる? 間違いなく決着つかねぇけど」
 だが、こうして顔をつきあわせているだけでも時間はどんどん過ぎていく。
 この様子では迷宮災厄戦が決着して、過ぎ去りし日の闘技場がその力を失うまで続きそうだ。
「いや、わからねぇよ? 意外と一発で勝ってコーラで乾杯とかなるかも」
「多分俺が勝ってもコーラもらえねぇんだよなぁ」
 何で負けたか、明日まで考えておいてください。そうしたら何かが見えてくるはずです。
「明日ってのは、今さー! それ、最初はグー!」
「最初はグー!」
「じゃーんけーん」

「長く苦しい戦いだったぜ……」
 日は沈み、辺りには夜の帳が降りる。
 人差し指と中指、二本の指を天に掲げ、十六夜はひとり立っていた。
 これは勝利のVサイン。
 数え切れないほどの勝負の末、ほんの僅かな揺らぎが彼に味方した。
「ありがとう、Kスケ・Hンダ」
 そしてそれをネタにした誰かよ、ありがとう。
 やるやん、明日は俺にリベンジさせて。
 だがオウガに明日はやってこない。
 十六夜は確かにこの闘技場で勝利を手にしたのだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ポーラリア・ベル
【陽のあたる家】をお誘いして参戦。

らんららー♪らんららー♪
きのうのあたしときょうのあたしで、あたしが2倍
夏にも負けないダブルウィンターにご招待♪
なおなお(尚人)あいあい(アイシャ)にくっついて、甘えイチャイチャを昨日の皆に見せつけるの!
お二人一緒にちゅーしたり、昨日の自分ににっこりすれば、踏み出せなかったなおなおもたじたじ。今だよ!

わきゃー♪(あいあいに飛ばされ)【属性攻撃】の吹雪で勢い強くして突撃するよー!
(なおなおの頭に掴まりながら)

ふぇ?昨日のポーラ元気ない?暑さでばたんきゅーだったのね。
冬の寒さも夏の暑さも楽しめないと。手伝うよ!
【終焉を告げる凍氷の銃剣】!特大吹雪乱舞、やっちゃって!


アイシャ・ソルラフィス
【陽のあたる家】で参加

【WIZ】

昨日の自分とか、また変なことが始まったね
尚くんとポーラちゃんに相談した結果、幼馴染以上恋人未満の尚くんにいちゃいちゃして、動揺している昨日のボクたちを速攻でやっつける作戦で決まりました
いちゃいちゃは恥ずかしいし苦手だけれど、がんばるよ!
だってボクと尚くんは、こんな風に動揺させられれば、びっくりドギマギあれ?愛ってなんだろう?状態になって、戦いに集中出来なくなっちゃうんだから!

…自分で言っててなんだか虚しくなってくるね…

ともあれその隙きに、照れ隠しでボクのユベコ発動!
それで尚くん、ポーラちゃんを敵陣に吹き飛ばして、さらにそこで氷鐘が発動!

あ〜恥ずかしかったぁ(赤面


日野・尚人
【陽のあたる家】

昨日の俺たちに勝利する秘策「イチャイチャ大作戦」を決こu・・・はぁっ!?

あ、あー?
記憶や思考が一緒なら俺たちがイチャイt・・・
ベタベタしてる姿を見せれば混乱するはずって訳か、なるほど。
ま、まあ確かに?
(昨日の尚人は動揺し、2人を意識し過ぎて連携もガタガタになる予感!)

これは演技これは演技・・・って、俺まで混乱してどうすんだよ!
えぇい!腹括った!
昨日の俺に見せつけてやるぜ!
あーちゃん(f06524)もポーラ(f06947)も俺のもんだーってな!
(赤面しつつも腹は括り、勢いで本音も漏れ出た)

うわっと!
(受け身を取ってUC発動!)
行くぞ!昨日の俺!・・・って、動揺し過ぎだろ。(汗)



「昨日の自分とか、また変なことが始まったね」
 アイシャ・ソルラフィス(隣ん家の尚くんを毎朝起こす当番終身名誉顧問(願望)・f06524)がグリモア猟兵の告げた戦場の内容に苦笑する。
 過ぎ去りし日の闘技場。足を踏み入れた猟兵の前には、自分自身と同じ姿をしたオブリビオンが現れるという。
「でもね、あたしはちょっと楽しそうだと思う!」
 しかし、ポーラリア・ベル(この夏はかき氷冬告精・f06947)はご機嫌だ。
「らんららー♪ らんららー♪ きのうのあたしときょうのあたしで、あたしが2倍ー♪」
 歌声が辺りに広がった。
 彼女にかかれば、この異常な事態も楽しみの内。興味と、期待に気持ちもあがるというもの。
 そんな二人と共にこの不思議の国へと足を踏み入れた少年、日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)はうーんと考え
込む。
「ポーラはなんもなさそうだけど、あーちゃんは何か無いか?」
 昨日の自分。いや、三人で訪れたからには昨日の自分たちが相手だ。
 いくらオウガとはいえ、昨日の彼女たちと戦うなんて、尚人も気がすすまない。。
 でも、彼女たちにそんなことをさせるのも嫌だ。
「二人と同じ姿をした相手を傷つけたくはないけど、仕方ないよなぁ」
「そりゃあ、僕も尚くんと戦うなんて嫌だけど」
 アイシャだってその気持ちは同じだ。
 だが、この一晩でいきなりパワーアップしました、などと都合のいい展開は彼女たちにおきていない。
 この戦い、実力の差はほぼゼロと言っていいだろう。何らかの策が必要となる。
「何かないかな、昨日とは違う何か……」
「精神的に揺さぶるとか? いや、どんなことすればいいのか思いつかないけど」
 二人は唸る。
 しばらくの沈黙の中、ポーラリアの歌だけが辺りに響く。
「夏にも負けないダブルウィンターにご招待♪」
 くるりと回ってポーズを取る。尚人とアイシャも思わず拍手。
「ポーラちゃん、ご機嫌だね」
「そこがポーラのいいところだよな。で、何か思いつかないか? オウガと戦う作戦」
 そんな二人の言葉に、ポーラリアはふふん、と鼻を鳴らしてみせる。何か案があるというのだろうか。
「あるよ、あるよ! なおなお、あいあいにくっついて、甘えイチャイチャを昨日の皆に見せつけるの!」
「なるほど、僕とポーラちゃんで尚くんを……」
「え? どういうこと?」
 尚人は理解が追いついていないが、アイシャとポーラリアは顔を見合わせ、笑う。
 つまりこういうことだ。
 そんな光景を目の前にした尚人が冷静でいられるはずがない、と。二人はそれをよく知っている。
「名付けて、イチャイチャ大作戦!」
「それで決まりだね!」
 いえーい、と手を打ち鳴らす二人。
「昨日の俺たちに勝利する秘策「イチャイチャ大作戦」……はぁっ!?」
 その光景と作戦名に、彼もようやく理解が追いついてきたようだ。
 ちょっと挙動不審になりながらも、二人の作戦の糸を考える。
「あ、あー? 記憶や思考が一緒なら俺たちがイチャイt……ベタベタしてる姿を見せれば混乱するはずって訳か、なるほど」
 わかるさ。自分のことだもの。
 確かに昨日の自分は二人とイチャイチャなんかしていなかった。
 そしてそんな光景を見たら思うに違いない。『いったい、この一日で何があったんだ』と。
 いやいやそれだけじゃない。イチャイチャというからにはその……いろいろあるに違いない!
 でもそんなのに今の俺耐えられる? 
「ねっ、ねっ、ぜったいうまくいくよ!」
「多分ボクも混乱すると思うし……そうしたらきっと勝てるよ!」
「ま、まあ確かに?」
 尚人は煮え切らないが、実際この作戦は有効に違いない。
(幼馴染み以上恋人未満の尚くんにいちゃいちゃ……うう、恥ずかしいけど頑張るよ!)
(もっともっといちゃいちゃするのー)
 二人の思惑と、尚人の困惑と共に、闘技場の扉は開かれる。

「来たな、明日の俺! たった一日の違いくらい俺がひっくり返して……」
 昨日の尚人は侵入者の気配に意気をあげる。
 あーちゃんとポーラも一緒だ。誰にだって負ける気はしない。たとえそれが自分自身であっても!
「やる……ぜ……?」
 と、そこまで言ったところで異変に気付く。
 闘技場に現れた三人は体をぴったりとくっつけ……いちゃついていたのだから!
「えっ、ちょっと待て! 何があった!?」
「ボボボボ、ボクも理解が追いつかないよ!」
「あー、あついーあつあつだよー」
 昨日の三人に動揺が走る。この一日で自分たちに何があったというのだ。
「ねぇ、尚くん。もっとぎゅっとしてよ」
「お、おう」
「なおなお、あいあいだけじゃなくてポーラのこともー」
「わ、わかってるって」
 そんなオウガ達をよそに今日の三人はイチャイチャ空間を繰り広げる。
(これは演技……これは演技……)
 顔を真っ赤にしながら尚人も全力だ。
 こんなものを見せつけられたら混乱せずにはいられない。
 あーちゃんのことも、ポーラのことも。
 大切に思っているからこそ、この急展開にはついてこられないはずだ!
「昨日の俺……人生って何があるかわからないな」
「いや本当にわからないよ!? 何があったんだよ!」
「その……いろいろだ」
「いろいろ!」
 今日と昨日の尚人の会話に、昨日のアイシャから湯気が上がる。
 イチャイチャは恥ずかしいし苦手。
 そんな自分があんな風に尚くんとくっついているのだから、本当にいろいろあったに違いない。
 いろいろの内容について考えてしまうが、まとまらない。
 尚くんの事は毎朝起こしに行くけれど、おはようからおやすみまで生活を見守るご飯にするお風呂にするそれとも――
「あれ? 愛ってなんだろう?」
「あいちゃんが壊れた!? しっかりしろー!」
「あつい……かおまっかだよー」
 昨日のアイシャの目がぐるぐる回る。もう一息だ。
 今日のポーラリアが目配せする。
 アイシャは覚悟を決めたように頷き、そして。
「尚くん……」
「なおなお……」
「なぁっ!?」
 ここでダメ押しの一手! 二人が左右から、尚人の頬に口付ける。
 同時に襲い来る感触。
 全身に電流が走ったかのような刺激。
 覚悟を決めた。
 作戦とはいえ、ここまでさせておいて恥ずかしがっている場合ではない。
 二人の体をぎゅっと抱き寄せ、尚人は昨日の自分に宣言する。
「おい、昨日の俺! あーちゃんもポーラも、俺のもんだー!」
 やっぱり顔は赤いままだけれど。言わずにはいられない。
 この心は、もう止まらない!
「本当に何があったんだよ、俺ー!」
「ボクが、尚くんのもの……」
「あたしはあついよー」
 昨日の三人の混乱は最高潮。もはや戦いどころではない。

「うう……」
 そして、今日のアイシャの顔もこれ以上ないほどに真っ赤になっていた。
 いちゃついて、頬にとはいえキスして、自分のもの宣言されて。
「もう駄目、ボク限界ーーーっ!」
 突然に巻き起こる嵐。
 アイシャの恥ずかしさが限界を超え、エレメンタルファンタジアが暴走する。
 そして、今回の『嵐の中の犠牲者(オーバーストーム・サクリファス)』は尚人だ。
「うおおおおおっ!?」 
「わきゃー♪ とんだとんだ!」
「うわぁぁぁっ! またやっちゃったーっ!!」
 はっ、と我に返るがもう遅い。既に尚人と、頭にしがみついたポーラリアの体は宙にある。
 だが、この力はいつも彼女たちの力となってくれた。
 吹き飛んだ『誰か』は何故か敵に向かって飛んでいくのだ。
「ポーラ!」
「うん! 受け取って、あたしの想い……」
 そして、これはチャンスでもあった。ここで一気にたたみかければ!
「その身は冬の代行者、素敵な無垢なる、あなたに伝えます。静寂超えて、凍てつく、力を――!」
 それは『終焉を告げる凍氷の銃剣(ポーラリア・ウルティマ・アルテス)』。
 ポーラリアの想いに合わせて、尚人の手には氷の魔剣と魔銃が現れる。 
「よし、行くぞ! 昨日の俺!」
 地面が近づく。
 視線の先には、昨日の自分。その姿は明らかに動揺していて心ここにあらず。
「……って、動揺し過ぎだろ、っと」
 手にした剣を振るえば、勢いのままに一太刀。
「げえっ」
 なんともあっけなく、昨日の尚人は斬り伏せられた。彼らの作戦勝ちである。
「すべてを凍てつかせる氷の警鐘……」
 残された昨日の二人も動かない。
 アイシャはともかく、ポーラリアにそこまでイチャイチャが効いたのかと思うと不思議な気もするが……
「ふぇ? 昨日のポーラ元気ない?」
 と、そこで今日のポーラリアが気付いた。
「暑さでばたんきゅーだったのね。冬の寒さも夏の暑さも楽しめないと」
 ふふっ、と笑う。
 彼女の力は、尚人が使ってこそ。だから遠慮はない。
「特大吹雪乱舞、やっちゃって!」
「へへ、俺たちを真似したことを後悔しながら冬眠(ねむ)るんだな!」
 叫びと共に魔銃から凍てつく吹雪が撃ち出される。『終焉を齎す清冽なる氷鐘(ウルティマ・カンパーナ)』がこの戦いの終わりを告げる。
 白く染まった視界が晴れた後、そこに残されていたのは今日の三人だけだった。

「強敵だったぜ……」
「なおなおもあいあいもおつかれさま! ポーラの作戦勝ちだったね!」
 冷静になってみれば、とんでもない戦いだったように思える。
 物理的なダメージは少なかったが、精神的なダメージが大きい。
「ごめんね、尚くん、ポーラちゃん」
 アイシャもそうだ。またしても二人を魔力の暴走に巻き込み、吹き飛ばしてしまったのだから。
「いいって、おかげで戦いにも勝てたしな」
「楽しかったよー♪」
 だが、その悲劇の引き金となった出来事について、聞いておかねばなるまい。
「ねえ尚くん、あのさ……どさくさに紛れて、何かすごいこと言ってなかった?」
「えっ?」
 すごいこと。確かに言った。はっきり言って本音だ。
 しかし同時に、あの場の勢いで言ってしまった感も否めない。少なくとももういっかい言えといわれたって無理だ。
「な、なんかいったっけ? もうあいちゃんとポーラがくっついてくるから俺も必死でさ」
 ははは、と頭を掻く。
 まあ、そんなところだろう。ごまかすように振り向くと、早足で尚人は距離を離していく。
「あーあ、踏み出せたのはあのときだけだったね」
「うん……」
 帰路を焦る尚人の後ろ姿を見つめながら、二人は笑った。
 と、そこでアイシャはため息を一つ。
「あ~、恥ずかしかったぁ」
 あれもこれもそうだが、やはりあの一言。忘れるはずもない。
 ”「あーちゃんもポーラも、俺のもんだー!」”
 耳に残る声に顔を赤らめながら、アイシャは尚人を追いかけた。
 答えは、焦らなくてもいいかもしれない。だって彼らには明日があるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月13日


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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