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迷宮災厄戦⑰〜イエスタデイ・ユアセルフ

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦


 円形の台座を取り囲むように設えられた観客席に、巨大な柱がぐるりと聳え立つまるで神殿のような場所。
 その名を闘技場、と言う。
 名前が示す通り、戦うための場所のはず。しかし、その相手はライオンでも特定のオウガでもなく、『昨日の自分』がオブリビオンとして現れるのだと黒弗・シューニャ(零・f23640)は言った。

「それは皆さま自身の、1日だけ昔の姿をしておりますの。もちろん、性格も能力もそのまま映したかのように同じ。ただし、今日ではなくて、昨日の、ですわ」
 たった1日、されど1日。
 それがどれほどの差を生むのか、きっと自分自身にしかわからない。
「あるいは、ほとんど変わらないからこそ考えが読めるという場合もありますわよね。シューニャは昨日、我慢できなくてアイスを2個食べてしまいましたの。だから今日は我慢なのですわ。……昨日のシューニャの方が、満足感いっぱいで強いかもしれませんの」
 しょんぼりと肩を落としつつ、闘技場の説明に移る。
 戦場となる石造りの台座は広い真円形で、一度足を踏み入れると勝負がつかない限り外には出られない。
 まさに決闘だ。
 相手も全力で向かってくる。
 闘技場において、勝者はどちらかひとりにしか与えられないのだから。

「それでは、皆さまを闘技場の国にお送りいたしますわ」
 シューニャは、「準備はよろしいですか?」と猟兵たちに向かってたずねた。
「ここを抜ければ猟書家たちの元へ攻め込むことができますわ。己に打ち勝ち、この先へと進みましょう……!」


ツヅキ
 プレイング受付期間:公開時~8/10 昼12:00頃迄。

 個別に判定・リプレイをお返しします。
 共同プレイングをかけられる場合はお相手の呼び名とID、もしくは団体名を冒頭にご記載ください。

 普通に戦ってもOKですが、「昨日の自分」の攻略法を見出し、実行するとプレイングボーナスです。
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第1章 冒険 『昨日の自分との戦い』

POW   :    互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ

SPD   :    今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う

WIZ   :    昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ

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菱川・彌三八
好いねえ、面白ェ
よう俺、退屈そうな面ァしてやがんな
怠惰に昼から寝こけて、未だちいと寝惚けやがるか
此方ァ一転、朝から動き通しで暴れ足りねえのサ
あゝ、だが
持て余してんなァ同じだよな
相手してやるから、相手しつくんな!

派手にやろう
大浪同士がぶつかり消える
大凡同じ動き
其の間に距離詰めて拳を打ち出すも同じ
波に乗り、水柱をぶつけ、その隙に殴り合う
勝ち負けよりも互角の喧嘩を楽しむ顔も亦同じ
何せ俺だからな

だが今日の俺がちいと速ぇ
特別な事ァ何もねえが…教えてやるヨ
“彼奴”の声を聞いたのさ
そうさ、お前ェが待ってたモンさ
な、そりゃあ俺のが強ェって噺だろ

安心しな、明日は退屈しねえ
今日の俺が云うんだ、間違いねェヨ



 砂塵を含んだ風が両者の間を吹き抜けてゆくのを菱川・彌三八(彌栄・f12195)は心底から面白がる心持ちで見送った。
 童心に帰ったかのようにわくわくしている。朝から動き通しにも関わらず、一向に暴れたりない興奮。おっぱじめるなら今しかあるまい。
「よう俺、退屈そうな面ァしてやがんな」
 先に声を掛けると、“俺”は面倒くさそうに首をかいた。
「折角の昼寝が台無しさナ。態々起こして、一体何の用だい?」
 あくび混じりの返事に彌三八曰く、
「いいから起きろよ、持て余してんなァ知ってンだ。相手してやるから、相手しつくんな!」
 開戦の合図は真っ向からぶつかり合う波濤の青だった。筆で描く速度はほぼ同じ、描かれる大浪の意匠も見た目には変わらない。
 当然、好む戦術も同様である。
 頬を掠める獰猛な拳が、ただでさえ乗っている彌三八の闘争心に火をつけた。
「よ、っと。さァ、なにせ“俺”が相手だ。遠慮なんか要るめェよ。初っ端から全力でいくぜ」
 左右対称に浪が弾け、水柱が砕ける。まるで魂のこもった筆致で描かれる絵画のような光景であった。波に乗った彌三八が着物の襟を掴んで強引に殴りつければ、返す拳で脇腹を深々と抉られる。
「随分と愉しそうじゃねェか、“俺”よ?」
 問われた方は声を上げて笑った。
「お前ェもいい顔してるぜ。だが相手が悪かったな」
 幾度も拳を交えているうち、徐々に彌三八の方が押し始める。僅かに速いのだ。ほんの紙一重の差がいつしか大きな違いとなって戦局を左右する。
「ちッ――」
 苛ついたような舌打ちを彌三八は聞いた。
 たった一日。
 その間に、二人の勝敗を分かつ『何か』があったのだ。故に昨日の“俺”は今日の“俺”に敗北し、闘技場を明け渡して道を譲らねばならない。
「“俺”とお前ェを分かつ理由……――もしや、」
 何かに気付いたかのように、“俺”が小さく息を呑んだ。
 彌三八は得意げに頷き、
「そうさ、お前ェが待ってたモンさ」
 足元の大浪が“俺”のそれを越える。彌三八は乾いた闘技場の空と逆光を背に負い、止めの一発を繰り出しながら種明かしをしてやった。
「特別な事ァ何もねえが……あゝ、そうよ。“彼奴”の声を聞いたのさ。な、そりゃあ俺のが強ェって噺だろ」
 見る間に“俺”の両目が見開かれてゆく。
 頬は腫れ、唇は切れ、腹には痣が浮き。今まさに敗北して消え去ろうとしながらも、その顔には歓喜の色が滲んでいるように見えた。
「……安心しな、明日は退屈しねえ」
 浪を消し、勝者として闘技場に降り立った彌三八は“俺”の消えた過去に向かって告げた。
「“今日の”俺が云うんだ、間違いねェヨ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
出てくる敵は、昨日の私…ねぇ…
……昨日の私は今日の私と戦うことを知らない、でも私は私と戦うことを知っている…となれば…
…昨日の私の装備のセキュリティを知っているから…浸透破壊術式【ベルゼブブ】でセキュリティを突破して昨日の私の電子製品を無力化するウィルスを流し込む…
……
…これで電子製品の補助はなし、ウィルスによって【アルゴスの眼】の遮光モードをONにして簡易目つぶし…
…じゃ、そういうことで…【撃ち貫く魔弾の射手】を昨日の私に撃ち込んで倒すよ…
…本来の私ならまず交渉か解析から入ったのだろけど…オブリビオンの本能というのも厄介なものだね…



「……昨日の私は今日の私と戦うことを知らない、でも私は私と戦うことを知っている……となれば……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は電子型解析眼鏡のディスプレイに昨日の自分に纏わる情報を呼び出した。
 戦の基本は敵を知り、己を知ること。
 だとしたら、過去と未来における情報格差はそれだけで勝負を決するほどの違いを生み出すだろう。
「……特に重要なのは装備セキュリティ……これを突破して、昨日の私の電子製品を無力化するウィルスを作成……」
「……? 来ないなら、こちらからいくよ……」
 攻撃を仕掛けてこないメンカルを不思議そうに見た“メンカル”だったが、刹那、驚いたように後ずさった。
「……アルゴスの眼がコマンドを拒否……再起動失敗、アウローラ、リンドブルム、マルチヴァク、アルヴィス……以下、装備の全てが使用不能……これは、ベルゼブブによるウィルス感染……あっ……」
 突然、眼鏡の遮光モードだけが暴走。簡易的な目つぶしをくらった“メンカル”は悲鳴をあげてよろめいた。
「……これで電子製品の補助はなし……」
 表情ひとつ変えることなく、メンカルは透徹した青い双眸を過去の己へと差し向ける。
「本来の私ならまず交渉か解析から入ったのだろうけど……オブリビオンには、難しかったようだね……」
 刹那、周囲で閃光が爆ぜた。
 愕然と呟いたのは――“メンカル”。
「……フライ、クーゲル……」
 白衣の胸元を貫いたのは、肉眼では補足不可能な速さで迸った魔弾。あらゆるものを穿ち、貫通せし魔の一閃。
「……ご存じの通り、この魔弾は徹甲そのもの……電子製品の補助なしに防ぐのは……不可能に近い……」
 斃れ、消えてゆく己を見送ったメンカルは白衣の裾を靡かせて歩き始める。最初から勝負はわかっていたのだ。
 過去には越えられぬ、未来へと続く道を歩めるのは今の自分だけに与えられた権利。
「……じゃ、そういうことで……“私”は先に行かせてもらうよ……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
昨日の自分を倒さねばならないとは実に面妖な
これが未来に対してなら迂遠な自殺の気もしますが
過去の自分ならばまあ、良しとしましょう

「当面ご披露する気は毛頭なかった」のですが
「そう考えていた」私が取るはずない手段を選ばなければね
この一分一秒が過ぎるうちにも私自身は過去の自らを凌駕している
例え同じ手段をとられても負ける気はいっこもない

自分に邽山の悪神をけしかけるとは、まあ、
何ぞ変わった苦行みたいな気ぃしますけど
同じ見た目の皮かぶったナニかと思えばええんやろし
なら間違いなくけったくそ悪ィばけものに違いないわ

まったくええ趣味の闘技場や
さっさ負け認めるのが得策や思うけど
俺はそんな事しいひんわな 堪忍や



 昨日の自分と戦うという面妖な事体を前にしてなお、水衛・巽(鬼祓・f01428)の横顔にはいつにも増して余裕が見えた。
「なにしろ、既に過ぎ去った過去の自分ですからね。これが未来に対してなら、迂遠な自殺の気もしますが……なあ、昨日の俺もそう思いますやろ?」
 ふと巽の口調が変わった。
 くすりと微笑する相手もまた、気安い言葉遣いで答える。
「おや、そうなると俺にとったら気ィの進まん戦いになりますな」
「さっさ負け認めはる?」
「わかっとうくせに」
 思わず、巽は吹き出すように小さな笑い声を立てた。やはり、これは自分だ。予想通りの反応を前にして、ならばやることはひとつきり。
「なら、決まりやわ。手加減せえへんけど、堪忍な」
 指に挟んだ霊符が白虎を呼ぶ。納得したような顔で自分も朱雀で対抗しようとした相手の目がはっと見開かれた。
「それは――」
「まさか、こないな手段選ばんと思うとったやろ? なにしろ『当面ご披露する気は毛頭なかった』さかいに」
 巽が召喚した白虎に覆い被さるように、もう一体の霊獣――否、怪物が姿を現した。
「四凶が一、窮奇。自分に邽山の悪神をけしかけるとは、まあ、何ぞ変わった苦行みたいな気ぃしますけど――」
 こともなげに巽は続け、一体化した二体を嗾ける。
「同じ見た目の皮かぶったナニかと思う事にしますわ。さ、遠慮なく喰らうとええわ。そないなもん間違いなくけったくそ悪ィばけものやろしな」
 羽搏く朱雀の炎を、窮奇の力を得た白虎は力尽くで捻じ伏せる。爪で裂き、牙で喰らって嚥下する。逆剋され、地に墜ちた翼を踏み越えて過去を屠るために白虎は跳んだ。
「たった一日の差で、これほど……?」
 獰猛な牙に喉笛を噛み砕かれながら発せられた疑問に巽は平然と答える。
「十分やろ。まったく、ええ趣味の闘技場や」
 過去の自分に優るなど、一日すらも不要だ。
 自分の元に戻った白虎を労わり、巽は開いた出口の扉を目指して一歩を踏み出す。この一分一秒が過ぎるうちにも、自分自身は過去のそれを凌駕しているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
これまた美男のお出ましで!
…なぁんて。普段なら言うんでしょうが。

俺ならば。
己を…
世に二人と在る事を赦さぬ者を消すのなら。
刃一振りとて出し惜しまない。
呼吸一片さえ逃さず見切り、知識と実力を以て打倒し――生還する。

鋼糸を用いた攻撃も罠も、
空陸お構い無しの足場も…
思考、読み、狙い、速度、戦術…
一日で変わりやしない。
それは己が業の積み重ね。
“生きて”きた証。
故に。
何れも必殺の一手であり、
決定打とはならぬだろう。

…唯一。
互いに決定的な違いがあるなら。
オブリビオンと只の人である事。
生きる為に死なない者と、
帰ると…死なないと誓った者である事。

勝負はUC。
アレは命を選ぶだろう…
一手も余さず呉て遣る
――唯式・幻



「これまた美男のお出ましで! ……なぁんて、言うとでも思いました?」
 眼鏡を引き抜いたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は裸眼で己と瓜二つの敵を見据え、返事を待つことなく鋼糸を迸らせた。
 ――空気の裂ける音が響く。
 それは相手も同時に鋼糸を操っていたからだ。御互いに一歩も引かぬどころか、容赦なく首を狙って攻撃を繰り出す。
「奇遇……いや、必然でしょうね。あなたが私の存在を赦さぬように、私もあなたの存在を決して赦しはしない」
 過去の自分が微笑する。
 そう、俺ならば。
「出し惜しみはなし、ですね」
「ええ。全力でやりましょう」
 鋼糸が擦過し合う度、小さな火花が弾け咲いた。柱に巻き付けたそれを巻き取り、宙返りして背後を取ったクロトを振り向きざまの刃が襲う。
 隠密性に優れた暗器による必殺の突きは、しかし着地と同時に仕込まれていた罠――鋼糸の一閃によって阻止され回転しながら宙へと跳ね飛んだ。
「さすが、己……なんて自画自賛に過ぎますかね。同時に首まで狙った心算なんですが、躱すとは」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。これで決める心算でしたのに、よくぞ」
 護身用の扇で鋼を絡め取り、際どい所で致命傷を避けた相手の誉め言葉すら空々しい。ありとあらゆる要素の拮抗。思考、読み、狙い、速度、戦術……一日で変わりやしない。それは己が業の積み重ね――即ち“生きて”きた証そのものだから。
「けれどね、違うんですよ。ただ一点だけ、俺たちには違いがある」
 細まった瞳の青が深さを増して深淵へと沈む。視界内に捉えるはただひとり。即ち、己の命を代償に捧げ、それを討つ結果が確定する。
「!!」
 一瞬、相手の瞳に迷いが生じた。
 ――唯式・幻。
 踊る鋼糸が九重となって襲いかかる。抗うには全く同じ技で対応する他あるまい、が――果たしてそれを“あなた”はできますか。
「オブリビオン――?」
 己、ではなくクロトは敢えてそう呼んだ。答えは聞かなくても分かっている。音もなく切り裂かれた体が弾け飛び、舞台に血の跡を残して滅した。
「生きる為に死なない者と、帰ると……死なないと誓った者。前者であるあなたは命を選ばざるを得ないだろうと分かっていました」
 血糊を払い、鋼糸を収めたクロトの前に勝者の扉が開かれる。眼鏡をかけ直し、いつも通りの笑みを浮かべつつ闘技場を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
これはまた剣呑な敵です
心して臨みましょう

もし私が明日の私と対戦するなら
当然過去の自分には勝ってほしい
勝てなきゃ嘘ですよね?
という気持ちで
だからこそ手を抜かず全力で挑みます

協奏するように弦を爪弾き魔力練り上げ
属性宿した音色を放ち相殺したり
剣戟を響かせたり
明日の私の力量を
自分の成長を見出そうとする筈

受けて立ちましょう

互角の戦いですが
最後に倒れるのは過去の私

勝因は多分ほんの些細な事
髭が伸びてより知覚が敏感になったとか
少しだけ背が伸びて間合いが1/100m位伸びたとか

けれどきっと過去の私は
そんな些事を積み重ねて未来へ歩む自分を知って
嬉しくて満足して
竪琴を爪弾きながら逝くでしょう

私も協奏して送ります



 なぜ、人は成長することを喜ばしいと思うのか。箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)はその答えを知っている。
「それは、私が明日の私と対戦するなら当然過去の自分には勝ってほしいと思うからです」
 弾き語るは魔法の旋律。
 紡がれた音色はそれぞれの属性の色の魔力を生み出し、殺風景な闘技場を美しい魔法陣で彩り始めた。
「ふふ、相変わらずで安心しました。でも少しは不安だったんですよ。明日の私がまるっきり違う猫に見えたらどうしようって」
 もうひとりの仄々も竪琴を爪弾いた。
 自前の爪で一音ごとを大事そうに響かせる。やがて二つの旋律は協奏するように絡み合い、少しずつ互いの魔力を削り合うように激しさを増していった。
「――ッ」
 真っ向から、小細工なしに高め合う合奏。
 試すようにアッチェレランドしてゆく音色を、仄々は僅かに被せるように超えてみせる。抜き去った瞬間、薙ぎ払った魔法剣同士が激しく鍔迫り合った。
 小さく、もうひとりの仄々が笑った。
 いったん距離を離れ、緩んだ弦を調整する。だが、仄々の方はまだこのままいける。渾身の魔力を込めながら、旋律は遂に最後の楽章へと突き進んだ。
「こうして自分の成長を目の当たりにするというのは、嬉しいものですね」
 時には追い合い、重なり合い。
(「だって、勝てなきゃ嘘ですよね?」)
 互角と思われたはずの音色も、いまや仄々が明らかに上回っていた。それは多分ほんの些細な差。昨日よりも髭が伸びた分、知覚が敏感になったとか。やっぱり少しだけ伸びた背によって間合いが1/100m位有利になっていただとか。
 あまりにも些細な違いだけれど、それは確かな成長の証。
「それならきっと大丈夫ですね。昨日の私よりも少しだけ強くなって、明日にはもう少しだけ強くなって。そうやって未来へ進んでいける。なんだか安心しました」
 それまでリードを奪い合うように協奏していたふたつの音色のうち、片方が自ら旋律を譲る。最後の小節をふたりで演奏し終えた時、もうひとりの仄々は消えていた。
「さようなら、昨日の私」
 帽子を胸に抱き、お辞儀する。
 いつしか闘技場の扉は開かれ、勝者を待ちわびるように光が差していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
目の前にもう一人の俺が立っている
変な気分だ
仕事が立て込んでいる時にもう一人自分がいたら…と思ったことは何度もあるが
いざ目の前にすると気持ち悪いな

攻撃を仕掛けてみる
うん、向こうも同じ動作をしてくる
昨日の俺が今日の俺とはどう違うのか
見た目からは全く判別できないが
違いがあるというならば
昨日の俺は仕事で徹夜していたが
今日の俺はちゃんと睡眠(※寝落ち)を取ったくらいか
だがきっと今日の俺の方が調子がいいはずだ
休息は大事だからな
昨日の俺の動きを注意深く観察し…集中…集中……今だ!
早業&部位破壊でヤツの得物を弾き
反応される前に
UCで撃ち抜く!

いやー、昨日の俺もだいぶ強かったな
さすが俺
…仕事は溜まったままだけど



「変な気分だ。仕事が立て込んでいる時にもう一人自分がいたら……と思ったことは何度もあるが……」
 城島・侑士(怪談文士・f18993)は首を捻り、鏡映しのように同じ武器を構えて佇む自分の姿を見つめた。
 うん、やはり気持ち悪い。
 無造作に弾を撃ち込んでみると、同じように愛用の散弾銃の弾丸が飛んできた。
「ほんとに全く同じなんだな、と。しかし昨日の俺ってことはまるっきり今の自分とそっくりってわけじゃないはずだ。見た目からは全く判別できないが――」
 侑士の脳裏に昨夜の出来事が甦る。
 そう、締切が近くて徹夜で仕事をしていたのだった。よく見れば昨日の侑士の目元には可哀そうになるくらい目立つくまができている。
(「年だな……」)
 そんな実感も加わってしみじみと思ってしまう。
 若いころは一晩の徹夜なんてどうってことないものだったのだが。まあ、そのおかげで活路が見いだせたのでよしとしよう。
 結論を叩き出すなり、侑士は今度こそ本格的な殺意をもって銃を構えた。勿論敵も同様に――だが、侑士の方が僅かに早く相手の得物を弾き飛ばした。
「――もらった」
 既に集中は終えている。
 迸る矢に自分が貫かれる光景を複雑な気分で見送り、侑士は倒した相手の元へと歩み寄った。
「いやー、昨日の俺もだいぶ強かったけど、さすが今日の俺。圧勝だったな」
「……ひとつ聞きたい」
 粒子へと帰りながら、昨日の侑士が言った。
「なんだい?」
「俺の敗因だ。仕事が溜まっていて必死で徹夜していたはずなんだが……なぜ、次の日のお前はそんなに元気なんだ」
「そりゃあ――」
 侑士はばつが悪そうに頭をかき、帰ったら待っている仕事の山を思って口ごもる。よくよく考えたら、こんなところで戦っている場合じゃなかった。早く帰って続きをやらないと。
「……寝落ちしたからだよ。おかげで今日の俺の方が調子よかった。休息は大事だからな!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【証言】
昨日の私と匡相手なら
間違いなく私は匡を守りながら今日の匡を殺す
飛び道具は厄介だと意識に刷り込まれてる
あらゆる可能性を考えて、ただ――使わない手も考えてる

それは、彼を無意識で見下げていたから
誰にも痛みなんてわかってもらえない
私が世界で一番不幸せだと
――彼の抱いた喪失が、その傷が
自分と似た物だとは思わずに
侮っていたんだ

私は彼に真名を
【物語の書き手】と言えるけど
昨日の私は言えないよね
孤独な秘密主義の寂しがり屋な王様
友達を失うのが怖いから、守れないのが恐ろしいから
「シャーロック」以外に信じられる人がいないとした

明日の私は――もうちょっとだけ
彼を信頼してる
「書き換えて」あげるから
楽しみにしててよ


鳴宮・匡
【証言】


なくしたものが痛くて
癒えない傷が苦しくて
……そんな風に思うのは、自分が弱いからだと
ずっと、思ってた

俺とハティなら、明らかに俺の分が悪い
自分同士の戦いでも五分だ
十中八九、昨日の自分なら
二人がかりで俺を潰そうとするだろう

“自分”の抑えに回るよ
ハティは、昨日の自分を超えるから
邪魔をさせないよう、そちらを撃たせることのないよう
銃に注意を向けるだろうから、射撃は牽制に留めて用いる
本命は接近してのナイフと格闘
発砲後の隙に接近して抑え込むよ

未来が欲しいんだ
まだ、今はいないひとの影を追い求めているばかりでも
いつかは届きたいと思うから

……超えていくよ
この傷の痛みは弱さじゃないと、
今日は、知ってるから



「こんにちは、明日の私」
「ごきげんよう、昨日の私」
 予め打ち合わせたかのような問答が殺風景な闘技場を舞台に繰り広げられる。ヘンリエッタ・モリアーティ(悪形・f07026)には昨日の“私”の考えが手に取るように理解できた。
「けれど、あなたは“私”の考えを理解することはできないよね。だから『書き換えて』あげる。楽しみにしててよ。――匡?」
「わかってるよ、ハティ」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)にも言いたいことはたくさんあるだろうに、一言で了承してくれる彼の優しさに笑みが零れる。
 ――昨日の私と匡相手なら、間違いなく私は匡を守りながら今日の匡を殺すだろう。
 予言にも似たヘンリエッタの言葉通り、過去のふたりは同時に匡へと狙いをつけた。だが、わかっていれば対処もできる。
「俺とハティなら、明らかに俺の分が悪いからな」
 トランス状態へと入り込んだ匡の思考演算速度は留まるところを知らず、驚異的な情報量を搭載した電気信号がシナプスを迸る。
 例え自分同士の戦いでも五分。
 となれば十中八九、二人がかりで“俺”を潰そうとするはず。展開を読み切った匡は銃を構え、相手が引き金を引くより先に牽制の弾幕をばら撒いた。
「!」
 ぴくりと、昨日のヘンリエッタが反応する。
「使わない手もあると思った?」
 匡の援護を受け、ヘンリエッタは迫った。超えるために。昨日の己の欺瞞など残酷な言葉のナイフで剥き取り、中身など書き換えてしまえ。
「それはね、彼を無意識で見下げていたから」
 誰にも痛みなんてわかってもらえない。
 “私”が世界で一番不幸せだと――彼の抱いた喪失が、その傷が自分と似た物だとは思わずに。
「侮っていたんだ」
 心の奥底でひた隠しにしていた真実を暴き立てる、容赦のない筆致。
「ッ――」
 アサルトライフの弾丸に武器を弾かれ、ホルダーの拳銃を引き抜こうとする自分の腕を匡は強引に捻じ伏せた。マウントを取って急所に膝を打ち込む。呻き声。それでも銃口を向ける諦めの悪い自分へと、ナイフを――振りかざして。
「……超えていくよ」
 それは、過去の自分との約束。
 ――未来が欲しいんだ。まだ、今はいないひとの影を追い求めているばかりでも。いつかは届きたいと思うから。
「そっか」
 昨日の匡が微笑った。
「うん」
 今日の匡は頷き、音も無く振り下ろしたナイフに手応え。
 ゆっくりと顔を上げれば、そこには真名を晒してオブリビオンへと変貌したヘンリエッタが己の首に指をかけて喉笛を潰そうと力を籠めるところだった。
「……か、なッ……」
「信じられない? そうだね、私は彼に真名を【物語の書き手】と言えるけど昨日の私は言えないよね」
 間近まで顔を寄せ、甘ささえ感じる声色で酷く詰って。
「孤独な秘密主義の寂しがり屋な王様。友達を失うのが怖いから、守れないのが恐ろしいから『シャーロック』以外に信じられる人がいないとした」
 でも、明日の私は――もうちょっとだけ、彼を信頼してる。
「だからほら、そのもうちょっとがあなたを殺す」
 骨の砕ける音がして、抵抗が止んだ。
 消滅してゆくそれを手放して立ち上がると、匡が軽く手を挙げている。ヘンリエッタは変身を解き、あっけらかんと言った。
「いい顔してるじゃない?」
「ああ。今日は、知ってるから」
 この傷の痛みも、あるいは誰かを信頼できるということも。それらは決して弱さではないのだと、ふたりは知っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月12日


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト