水鉄砲に撃たれたらしぬ
●とある男の最後
男は、歯を食いしばりながら腹に手を当てた。
濡れた感触。目を落とせば掌が真っ赤に汚れている。腹を撃たれたのだ、もう長くないのだろう。
振り返れば砂浜の足跡に赤色が点々としている。
「はは……」
男がいるのは小さな島だった。そこでは腕に覚えのある者たちが集まり、配られた銃で戦いを始めた。
きっと元々戦いをするために来た連中だったのだろう。自分もそうだ。
ひとりまたひとりと撃ち倒し、高揚感に身を委ね、自分の力に酔いしれ、スリルを噛み締めて、そして今に至る。
物陰から腹を撃たれた自分は、もう戦えない。
「……」
ポケットからタバコをひとつ取り出した。震える手はマッチの着火に難しく、火が付いた頃にはもう随分と意識が掠れてきてしまった。
タバコを咥える。
そして吸い込む。
「ああ」
男の瞳からゆっくりと光が失われていく。
「うめぇなぁ……」
やがて瞼が閉じられたとき、口からタバコが落ちた。
湿った砂へ落ちたタバコの火は、もう消えるしかない。
●実は死んでないです
「グリードオーシャンでイベントがあるんですよ」
水着に身を包んだ少女が水鉄砲を示しながら言った。
「水鉄砲大会です。でも、ちょっと珍しいルールがあるようですよ」
例えば、水鉄砲で使用する水はすべて赤色に着色されてるということ。被弾したときのリアリティを重視しているらしい。
そして、被弾したら全力で撃たれたふりをしないといけないこと。急所に被弾したら死んだふりになる。
「散り際がエモいほど芸術点が高いらしいです」
なお芸術点が高くとも特にメリットはないし、別に表彰されたりもしない。
「このイベントは、現地の人たちもたくさん参加する大規模なものとなってます。誰かと共闘したりしてみるのも楽しいかもしれないですね」
共闘をしたり、誰かを庇ったり庇われたり、あるいは裏切りが起きたり。様々な光景が水鉄砲大会で見られるかもしれない。どのように遊ぼうと、ルールさえ守れば自由だ。
「せっかくのイベントです。バカンスだと思って楽しんできてくださいね!」
グリモア猟兵は笑顔で手を振り、猟兵たちを見送った。
鍼々
鍼々です。
今回は第1章の【日常】だけで構成されるシナリオです。
『みんなで水鉄砲を撃ち合ってエモい散り様を演出して遊ぶ』というのが趣旨となります。
水鉄砲は事前に配布されますが、マイ水鉄砲を持ち込むのは自由です。あんまり突飛なものじゃなければ大丈夫です。
複数の参加者での合わせ参加は歓迎しますが、あまり参加人数が多いと採用率が厳しくなるかもしれません。ご了承ください。
このシナリオは既に猟兵達によってオブリビオンから解放された島となります。
このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。
第1章 日常
『猟兵達の夏休み』
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POW : 海で思いっきり遊ぶ
SPD : 釣りや素潜りを楽しむ
WIZ : 砂浜でセンスを発揮する
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【お知らせ】
プレイングの受付は7/25日(土)の朝8:30からになります。よろしくお願いします。
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【お知らせ2】
MSページを更新し、合わせ参加におけるお願いごとを記載しました。合わせ参加を検討されている方は確認のほうをよろしくお願いします。
甘甘・ききん
ヒッ…ヒッ…(浅い呼吸音)
ドジっちまった…ドジっちまったぁ…わたしも焼きが回ったもんだ…
逃げ足だけが取り柄だったのになぁ…もう変化する力も残ってないやぁ…
残りの弾は、と。一発分、かぁ…(こめかみに水鉄砲を当て目を閉じる)
「お前は生きろよ?」「生きて」「死にたくねえ、よぉ…」「諦めたらだめザウルス」「お嬢ちゃん、死んだらあかん!」「生きてれば必ず、良いことがあるんやで!」「おっちゃんが守護ったる!」(浮かぶ散っていった仲間たちの顔)
ハハッ、やめだやめ。馬鹿らしくって死んでられねえや!かかってきやがれ化け物共!わたしは負けねぇぞ!バアアアン!(物陰から飛び出す擬音)
甘甘先生の次回作にご期待下さい
●
林の暗がりに荒い息が繰り返される。
ひ、ひ、ひ。呼吸の合間に引きつった笑い声が漏れた。
甘甘・ききん(可哀想な 人の振りをする狐・f17353)は片側の太腿を赤く染めながら大岩に背中を預けている。自慢の逃げ足は被弾してこの有様だ。追手を撒くのに散々無理したせいで、もう一歩たりとも走れない。なんだろうこの状況は、惨めすぎて笑えてくる。
「ドジっちまったなぁ……」
掠れた声の、ひどく萎んだ弱音がこぼれ落ちた。
自分は何を失敗してしまったのだろう。足を撃たれたこと? それとも仲間を置いて逃げたこと?
あのとき俺が囮になるなんて言ったやつに頷いたりしないで、引っ叩いてでも一緒に戦ったら結果は違ったのだろうか。
「わたしも焼きが回ったもんだ……」
一緒に逃げた仲間も、一人ずつ追手に撃たれて倒れていった。もう残っているのは自分だけだ。その自分でさえこのザマだ。
「はぁ……、ふー……っ」
深呼吸。深呼吸。
もう。
もう、終わってもいいんじゃないかな。
疲れたし。足が痛いし、喉が渇いたし、前髪が汗で張り付いて気持ち悪いし。
仲間もみんなやられちゃったし、囮くんも犬死にだったし。
わたしだって、もうなにもできないし。
「ふー、ふぅ……」
このままここにいたって追手に追いつかれるし。
きっとろくな最後にならないし。
それなら。
「残りの弾は……。一発分、かぁ」
ほら、運命だってもう終わりでいいよと言ってる。
「……」
瞼を閉じて、こめかみに銃口を当てた。冷たい感触にまた引きつった笑いが出そうになった。
あとは指を引くだけ。体がさむい。心臓がうるさい。
指に力が入らない、どうして。
――――……。
不意に、風の音が聞こえた。人の声が混じったような音だった。
「……」
全身が強張る。ついに追手がやってきたのかと思ったが、どうも近づいてくる気配はない。
「いまの、は……?」
――お前は生きろよ?
ああ。
――生きて。
これは、そうだ。
――死にたくねえ、よぉ…。
幻聴だ。仲間たちの最後の声だ。
――諦めたらだめザウルス。
――お嬢ちゃん、死んだらあかん!
やめてほしい。そんな声なんて聞きたくない。
わたしはこのまま死にたいのに。
――生きてれば必ず、良いことがあるんやで!
――おっちゃんが守護ったる!
どれほど生を願っても叶わなかった彼らの声で、諦めようとしてるわたしを責めないで。
「う、く……」
あと人差し指を引くだけですべてから解放されるのに。
「……ハハッ、やめだやめ」
ききんは考えるのをやめた。ついに引き金を引いた。
ぱすん。
それで倒れたのは追手の一人だった。
ききんへ銃口を向けたままの姿勢で、横たわっている。
「馬鹿らしくって死んでられねえや!」
空の鉄砲を放り捨て、追手の銃を拝借する。
草の踏まれる音がした。追手はまだまだいるらしい。
「かかってきやがれ!」
足音が近い。数は複数。
「わたしは負けねぇぞ!」
ききんは引き金を引いた。追手も引き金を引いた。
鉄砲の音が連続し、人の倒れる音もした。
誰が倒れて誰が生き残ったのかは、わからない。
大成功
🔵🔵🔵
白斑・物九郎
【物九郎&エル】
●相方への二人称「エル」
どいつもこいつも祭り好きなこって
エル、オーダー
やかましい輩が湧いて出たら撃ってヨシ
・2020水着コンのナリでエントリー
・よさげな所に設置したビーチチェアで寝てる
・なんならぐっすり寝てる
・でも、猫尻尾の先っちょにガチキマイラで生やした獅子頭が【野生の勘】全開で周辺警戒しつつ水鉄砲咥えて構えてるので、敵襲来時にはうまいこと迎撃したりする
●んでエルが撃たれたら
・エルが沈黙した辺りでぼちぼち起きる
何ノリノリなんスかコイツ……
ソレ、ココで解禁していいシリアスだったんスか……?
ってゆーかコレで『感情が無ェ』とかぜってーウソでしょうわ完全に楽しんで遊んでんだろコイツ
エル・クーゴー
【物九郎&エル】
●相方への二人称…「マスター」
躯体番号L-95
当機はタワーディフェンスに高い適性を発揮します
・2020水着コンのナリでエントリー
・物九郎の近場に陣取り二挺拳銃装備
●んで撃たれたら
・寝てる物九郎に頽れそうな身で縋りながら、赤く染まった手を伸ばす
・先立った(※いや生きてる)主に寄り添う従者っぽく見えなくも
当機は――『私』は、感情も寄る辺も無く、タスク無くして動けない人形
そんな私に意味と価値と日々を与えてくれたのは、マスター、貴方でした
……新規オーダーが確認されません(寝てるからね)
自己判断に基き、既存常駐タスクの優先度を再定義します
第一位――『貴方の近場に居る』(んでパタッと逝く)
●
周囲に戦闘の痕跡が残る浜辺で、白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は目を瞑りながら寝転がっていた。
足を伸ばせる大きなビーチチェアがひとつ。大きく傾いて成長したヤシの木が直射日光を防いでくれる。加えて沖から吹き抜ける風が汗をさらってゆけば、これほど快適な時間があるだろうか。いや、きっとない。
2個設置したサイドテーブルは、ジュースのグラスやらスマートフォンついでに漫画雑誌を乗せており、一切動かずとも都度必要なものを取れるベストポジションを形成している。
無敵だ。無敵モードである。
王の贅沢を邪魔する不届き者がいれば瞬く間に野生の勘が感知し、獅子頭に変化した尻尾の先端が牙を剥くだろう。具体的には咥えた水鉄砲で射撃する。
完璧な防衛機構だった。
さらに防衛機構その2たるエル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)も周囲を哨戒している。
もはや完璧を通して絶対だ。王の惰眠は約束されたようなものである。
防衛機構その2がなんかバグってさえいなければ。
ヤシの葉に守られた程よい涼しさのなか、物九郎の耳が足音を拾う。
哨戒から戻ったエルを薄目で見やった。背中に定規でも差し込んだかのような直立姿勢。そして水着と同じく人間味が薄いほどに白い肌。そこにいくつかの赤い点描がある。
どこかで戦闘があったのだろう。果たしてあの赤は被弾かそれとも返り血(※血ではない)か。もっとも被弾したらそれっぽい振る舞いをしなくてはいけないルールなので、前者ではなさそうである。
「…………」
思考をやめながら再び目を瞑り、まどろみに身を委ねていくと、何やら近づいてくる気配。
「目を開けてはくれませんか」
まだ起きる気はニャーですからな。とりあえずスルーで対応。
更に近づく気配。耳が告げるエルの位置は物九郎の真横だ。
不意に、首筋を濡れた感触が襲った。エルが人差し指を当てたのだ。そして、その手には命のやり取りをしたばかりの赤い液体が付着していた。
脈をとったエルは静かに首を振る。汚れた手でゴーグルをずらし、金の眼差しを細めた。
「そう、ですか」
何が?
「マスター……」
ぼとりと、水鉄砲が砂に落ちる音。
また薄目で様子を伺う物九郎の頬へ、エルが手を伸ばした。
指先が触れるか触れないかのところで止まり、頬の数ミリ上を撫でる。永い眠りについた主の顔を決して汚してはいけないと思いとどまった動作。
「当機は――……」
沈黙。
「私、は」
いまなんで言い換えたんスか?
「感情も寄る辺も無く、タスク無くして動けない人形」
いよいよ物九郎はどうしたらいいかわからなくなった。なんか急に語り始めたぞコイツと内心思いながら、ここで起き上がったら何がどうなるかまったく予想できない。いまから何が始まるんスかこれ。
「そんな私に意味と価値と日々を与えてくれたのは」
エルの言葉が切られる。手は、いつのまにか彼女の目元へ当てられていた。そして力なく垂れ下がり、目尻から頬へと赤い筋を描く。
「与えてくれた、のは……」
数秒の無言。
「マスター、貴方でした」
続く、長い沈黙。
エルは静かに膝をつく。ビーチチェアに横たわる物九郎へ侍るように正座し、両手を膝に乗せた。
彼女に下された命令は『やかましい輩を迎撃しろ』ということ。しかしもう完遂不可能になっている。
しかし新しい命令が下されることはもう、ない。
ゆえに彼女は遠い昔に受け取った命令を掘り起こす。
『オブリビオンをブチ殺せ』
――もう戦闘は不可能です。
『団を保全しろ』
――長距離の移動も不可能です。
『俺めの近場に居ろ』
――はい、マスター。せめてそれだけは、必ず。
しばらくして、ひとりの男が浜辺にたどり着いた。
そこで彼は不思議な情景を目にし言葉を失う。
白亜の寝台に寝かせられた褐色の男。戦場にありながら穏やかな表情を浮かべ、あたかも世俗の全てから守られたまま永い眠りにつく姿。
その傍らで座したまますべての機能を停止した娘。俯いた顔から覗く目は虚ろで、もはや何の光も映していない。白い体に咲く背中の大きな赤が目を引く。
どこかストーリーを持つ絵画のような光景だ。
ああ。きっと彼女は背後から撃たれて致命傷を負い、せめて最後は亡き主の傍でとここまで来たに違いない。
「……」
男は瞑目し、彼女の永遠の忠誠を静かに悼む。
ばしゅっ。
そしてすぐに撃たれた。
「はぁ……」
海溝よりも深い深いため息とともに、倒れていたはずの男がもぞもぞ起き上がった。水鉄砲を咥えた尻尾の調子は上々。ただしもう片方の防衛機構が致命的。
「なんでノリノリなんスかコイツ……」
いやほんと。撃たれたなら撃たれたで構わないのだが、突然のシリアス独白にはツッコミが絶えない。
頭を乱暴にガリガリ掻く。
「もっとこう……」
こう。時とか、所とか、場合とか、あるじゃん……?
コメディ気味のエモ死演出で切っていい札じゃなくない?
「……」
ため息をもう一つ。エルの顔の前で手を振ってみるが反応はない。
「感情が無ェとかぜってーウソでしょうわ」
相変わらず表情こそないが、絶対に楽しんでいたはず。なんかもうそういうことにした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ハルア・ガーラント
【焼鳥】
相馬(f23529)と
水着姿で参加
開始の合図あるのかな?
護身銃サイズの水鉄砲を借り、その後思いつめた表情で相馬を見ます
相馬、この戦いが終わったら……聞いて欲しいことがあるの
よし、フラグOKです!
[第六感と視力]で水の軌道を予測、飛翔して回避し[空中戦]を交え目標を狙います
時には太陽の光の中から相馬の動きに合わせ[援護射撃]
彼を狙った銃弾を、翼を広げたその身で受け[かばい]ます
わたし……本当はあなたを罰する命を受けて近付いたんだ。でも出来なかった、だって相馬のこと――
儚い笑顔を作りつつ彼の腕の中で息絶え、同時にUC発動で白い羽根舞う空間を演出
あ、それ当たると痛いので気を付けて下さいね!
鬼桐・相馬
【焼鳥】
ハルア(f23517)と
水着で参加
大き目の水鉄砲を借り受ける
ノリノリのハルアに内心引き気味で返事
――分かった
[戦闘知識と野性の勘]を生かし銃弾を回避、[カウンター]を当てて行く
俺が標的となるよう立ち回りハルアが援護する手筈だ
俺を庇い避けられる攻撃に当たりに行き倒れたハルアを介抱
こいつ、翼が濡れると鳥くさいんだよな
だが指摘して怒らせるとエモい散り際ではなくなる、黙って看取ろう
その後は全てに絶望した体で冷静さを欠く隙だらけの攻撃を
体中に銃弾を受け満身創痍、膝をつき砂上に倒れ込みながら手を中空に
UC発動、燃え盛る紺青の炎の中息絶える
ハルア考案の振る舞いだが、色々生じる疑問
いや、考えたら負けだ
●
「相馬、この戦いが終わったら……聞いて欲しいことがあるの」
海と公園を隔てるフェンスを背に、ハルア・ガーラント(歌う宵啼鳥・f23517)が思いつめた表情で告げる。潮風に髪を遊ばせながら、小さな鉄砲を縋るように両手で握りしめていた。
「……」
お前は何を言っているんだと告げたいのを堪え、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)はわかったと返す。
たったそれだけのやりとりでノルマを達成したような顔をするのだから、乙女心というのはわからないものだ。
具体的には彼女がなぜこんなにもノリノリなのかがわからない。
そんな相馬が持つ水鉄砲は大きめサイズ。ボトルタンクの接続された両手持ち用だ。ハルアの選んだものとは威力も射程も違う。
満タンまで水を補充すれば相応の重量になるそれを肩に乗せると、再び何かを期待した瞳がこちらを突き刺す。
今度は何を求めているのかわからない。俺は彼女の中でどういう設定になってるんだ。
疲れたように、本当に消耗したように相馬は口を開く。
「それより」
これは彼女の期待するセリフではないだろうが。
ハルアの手を引く。
突然のことでよろめいた彼女の、いままで頭のあった位置を何かが通り抜けていった。
「敵だ」
片手で空を指差しながら、相馬は襲撃者に対して引き金を引いてゆく。二射。ひとりの敵が倒れ、もうひとりは腕を抑えて蹲る。
そしてサインを読みとったハルアは翼を広げ勢いよく上昇。全体をぐるりと一瞥し、すぐさま降下する。
負傷した敵が相馬を狙おうとしていた。だがハルアが許さなかった。下降した彼女が再び上昇する頃には地上で赤い花が咲き、相馬も新たにひとりを倒す。
「相馬!」
「わかってる。囲まれてるんだろ」
そして、敵の数はかなり多いに違いない。いまの三人組からは囮の匂いがした。
ならば本命はどこにいる? 匂う。公園のそこかしこが。遊具や木々の陰、そして看板の陰が。もっといるだろう。遮蔽物の少ない臨海公園でよくもこれだけ布陣できたなと感心する。
どん。羅刹の足が地面を強く踏んだ。恐るべき脚力は遊具までの距離を一息に詰め、さらには相馬の体を軽々と打ち上げ飛び越えさせる。
「な、なんだと!?」
狂乱した顔面へ至近距離から一発。背後からの射撃は上体を大きく反らして回避、体を捻ると同時に腕を掴んだ。敵を引き倒して額に銃口を突きつけてやれば、あとは人差し指を動かすだけだ。
それから相馬は遊具から公園の地図を映す看板へと駆ける。途中に身を隠せるものは何もない空間を走るのは敵からすれば良い的だろう。
だからこそ敵は気づかない。
自身の影が大きくなっていることに。太陽に隠れて上空から襲いかかるハルアに。
見事な手際だった。
最初の敵を含めれば、一分にも満たない時間で十人近い敵が制圧されたことになる。
だが、二人の敢闘も長くは続かない。
きっかけは公園樹に隠れていた敵の無茶な特攻だった。
「うわああああああああ!?」
全速力で接近しながらの滅茶苦茶な連射。
「ふん」
対して相馬は銃口を観察しながら回避に徹する。敵の撃ち切るタイミングをただ待つ。
そのときだ。
「相馬っ!」
空から彼女の声がした。
純白の羽が散る。
すべてがスローモーションに見えた。
凶弾と相馬のあいだに、手を大きく広げたハルアが割り込んだのだ。
倒れた彼女の花柄の胸と美しい翼の、赤く染まってゆく姿が痛々しい。
「…………」
受け入れ難い現実を突きつけられ、相馬は抱き起こす。驚きと困惑が肺を握り潰してしまって何も言葉が出ない。
俺完全に避けてたよな? という目を敵に向ければ。
いま完全に避けてたよね、という視線が返ってくる。
そして庇った本人はとても満足した表情で瞼を閉じようとしているではないか。
「そうま……そうま」
ふるふるとハルアの手が持ち上がった。そのまま名前を繰り返すのをじっと見ていると、手を握られたかったらしく自分から手を掴んでくる。
「わたし……、わたし、ね?」
「ハルア、それ以上しゃべるな」
「本当はあなたを罰する命を受けて近付いたんだ」
まるで聞いちゃいない。
一体どういう設定にしてるんだ。
「でも出来なかった」
「そうか……」
本当にそうかとしか言えない。感想なぞ『こいつ翼が濡れると鳥くさくなるから早く終わってほしい』くらいしか浮かばないのだ。怒るから口には出さないが。
さらに撃たれた間際にユーベルコードを使ったのだろう、彼女の翼と同じ羽毛が空から雪のように降ってくる。お前これ本来は攻撃に使うやつだろわかってやってんのか。
「だって」
少女の瞼がいよいよ閉じられる。力ない笑みは喜びと悲しみが入り混じっていた。
「だって相馬のこと――……」
「……」
相馬もまた目をつぶった。そのままゆっくりと十を数えた。そろそろ演出が終わっただろうと思って目を開けてみれば、完全に脱力しながらも薄目開けてこちらを伺っているのが見える。
リアクションを期待されていた。
心のなかで、深い深いため息をついた。
自分はおそらく、たったいま恋人を失ったらしい。
「く……っ」
歯を食いしばり、絶望と怒りを演出する。どことなく満足気に見えるハルアが憎らしい。
「うおお、おおおおお……!」
それらしく見えるかと大声を出す。ついでに全身から冥府の炎を昇らせながらハルアを撃った敵へ踏み出した。
「な、なんだコイツ……!? おいお前ら、撃て! 撃て!!」
すると敵も乗ってきた。ハルアの演出が終わるまで空気を読んで待っていたやつだ。お約束通りに怯え、後退しながら仲間に指示を飛ばす。
無数の銃撃が相馬を襲う。肩を足を、腹を背を、さらには頭まで。だが赤く染められながらも鬼は歩みを止めない。
いまの相馬は羅刹ではない。復讐鬼なのだ。
「お前、だけは……」
地獄から響く声が敵の心を折る。尻をついてしまえばもう逃げられない。
「終わりだ」
引き金を引く。
全てをやり遂げた復讐鬼は、体から力を抜き、そのまま大の字に倒れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
華舟・波瑠
【もふ堂】
なるほど、味方は桐葉殿、ただ1人。
しかし、経緯など些事…桐葉殿だけは、守り抜かなかんね!
桐葉殿とは背中合わせ、囲む敵を2人で円舞でも踊るかの様に躱しながら、銃を乱射し仕留めていく。
踊りながら、くるりとターン。
向き合い、銃を突き付け合う2人。
躊躇わずに引き金を引けば、2人の背後で崩れ落ちる影。
しかし、いつかは踊りも終わるもの。
咄嗟に庇えば、その代償に粗くなる呼吸、薄れる意識。微かに感じる桐葉殿の温もりの中で想うのは、もう、守れない悔しさと…その名を呼べない悲しみ。
『無理やよ…桐葉殿、なんやよ…?』 『伝えたいこと、あったんやけど……はは、その時間も、ない…。…きり、は……き…り、は…』
稲宮・桐葉
【もふ堂】
四方八方、敵ばかりなのじゃ。何故この様な状況に…。
いや、今は嘆いておる時ではないの。生き延びねばな…波瑠殿と共にの。
波瑠殿と背中合わせに周囲に視線を走らせるぞ。
猟兵ならではの動体視力で躱し放つ。
息を合わせ、お互いの死角を補いながら俊敏に動くのじゃ!…さながら舞を舞っている心持じゃな。
危険を察知し身を翻すも間に合わぬ…!
弾を放った敵の笑みが波瑠殿に遮られ…。
崩れ落ちる波瑠殿の体を抱く手に血糊を感じる。
『波瑠殿…何故…!わらわなど捨て置けばよいものを…!』
妙に時の流れを遅く感じながら、波瑠殿の仇を取らねばと、銃を拾い放つ。
『一人残されるのは嫌じゃ…生きるも…死ぬも…一緒なのじゃ…波瑠…』
●
現在、華舟・波瑠(華の嵐・f16124)と稲宮・桐葉(戦狐巫女・f02156)はカフェテラスの店内で身を寄せ合っている。
ふたりがいるのはカウンターの内側だ。波瑠が恐る恐る顔を上げると、途端に銃撃が襲いかかってくる。
「何故この様な状況に……」
慌てて頭を下げる様子を目にして桐葉は呟く。参戦してまだそれほど経ってないというのに、随分と苛烈な状況になってしまっていた。
「いま連中の顔見たんやけど」
カウンターのなかはそう広くはない。二人が並んで座れる程度で、顔を向かい合わせれば互いの吐息がかかりそうな距離になる。
「砂浜や道路でたむろしてた連中やったな」
桐葉の紫の瞳が細まる。それはつまり。
「まさかみな徒党を組んでおったとはのう……」
武装した物々しい集団がいくつもうろついてるのを見つけ、それを避けて進むうち、この店にたどりついてそのまま包囲されてしまった。見かけた集団はみなグルで、二人をここまで誘導していたというわけだ。
不幸中の幸いと言うべきか、店は無人であり戦いになろうと誰も巻き込まずにすむ。しかし敵はあまりにも多数。真正面から打ち合うわけにはいかない。
店の外からこちらを狙う敵がいくつもおり、二人はカウンター裏に釘付けにされてしまっているのだ。
「いや、今は嘆いておる時ではないの」
桐葉の呟きに、そうだねと波瑠が返す。
諦めるつもりはないし、互いに互いを守る強い意志がある。
「そろそろ敵が入ってくる頃やね」
「仕掛けるならそのときじゃな」
頷きあい、そして耳をそばだてる。
店の外から聞こえてくるのは風の音、微かな話し声。
そのまま息を殺していると、小さな足音が鳴り始めた。
こつ、こつ。
テラスから踏み込んでくる。
こつ、こつ。
近づいてくるのはおそらく二人。
「……」
「……」
音がカウンター前まで来て、二人は頷きあった。
「こっちや!」
まず波瑠が飛び出す。カウンター横から転がりながらテーブルを蹴倒し即席のバリケードを形成。敵の放つ攻撃はどれも彼には至らない。
次に桐葉が飛び出した。敵二人の意識が波瑠へ向いた瞬間、カウンターの上を飛び越えすぐさま二度引き金を引く。何も理解できないまま倒れる敵になどもう見向きしない。
そして今度は敵の手番だ。テラスで待機していた四人が一斉に引き金を絞り、店内を掃射した。
だがこんなものでやられるような妖狐たちではない。
壁に張り付いて張り過ごしながら、再び波瑠がテーブルを蹴り倒す。
「桐葉殿!」
「応とも!」
桐葉が合図に応じ、壁の際から銃を連射。これは牽制射撃だ。
本命は直後、波瑠がテラスへと蹴り出したテーブルにある。テーブルは天板を敵に向けたまま飛び上がり、そして四人の中心に落下。
まさか波瑠がテーブルの影に隠れていたとは誰も思うまい。ある者は咄嗟の対応ができず、またある者は彼が中心に位置するゆえに同士討ちを躊躇った。
ふたつの要因が明暗を分ける。敵の四人は、瞬く間に波瑠の銃が制圧してしまった。
しかし敵はこれで全てなのだろうか?
答えは否だ。
店内の桐葉、テラスの波瑠、二人は互いに銃を向け合いすぐさま引き金を引く。
するとどうだろう。店の裏口から回り込んでいた敵が、テラスに隠れていたもうひとりの敵が、二人の背後でそれぞれ倒れたではないか。
「……」
「……」
残心。目に見えるすべての敵を倒しても、二人は気を緩めない。
「あとどれほどいるかのう」
「そうやね……、たぶん店から出れないよう取り囲んでるのが何人かいるはずやね」
桐葉がテラスまで歩き合流する。
おそらくそれは、まったくの偶然だったかもしれない。
桐葉越しに店内へ向く波瑠は、ふと窓ガラスに映る建物から、小さな銃口を見つけてしまった。
「桐葉殿!」
咄嗟に彼女を突き飛ばす。スナイパーの射線から彼女をどけるのに無我夢中だった。
勢い余って茂みのそばへ倒れ込んだ桐葉は、痛む肘に目を瞑りながら状況把握に務める。
まずは同じく倒れた波瑠を起こすのが先だ。突然突き飛ばされたことには驚いたが、彼は意味なくそんなことをしない。
「波瑠殿……!」
おかしい。彼が起きない。
まさか気を失っているのかと体を揺すれば、手に濡れた感触が広がった。
「波瑠、殿……」
赤い。
何が起きたかわからない桐葉ではなかった。彼は狙撃から自分を守って、その身に受けてしまっていたのだ。
「ああ、ああああ……!」
この痛みと悲しみが満ちた声は一体誰のものだろう、とても自分から出た声とは思えない。
「なぜ、波瑠殿……何故!」
どうして彼が倒れなくてはいけないのか。
「わらわなど捨て置けばよいものを……!」
動かぬ彼を抱き寄せて、桐葉はひたすらに問う。
赤く濡れた体から熱い雫がこぼれ落ちていくのを感じる。この雫がすべて失われたとき、きっと自分は一人になってしまうのだ。そう思うと涙が止まらない。彼の命とこの涙を取り替えられたらどんなに良いか。涙だけで足りないのなら血すら捧げてもいいのに。
不意に、熱く濡れた桐葉の頬に弱々しい感触があった。
波瑠の手だ。
力のない笑みがまっすぐ桐葉に向けられていた。どこまでも澄み切った表情は殉教者のそれとよく似ている。守れた喜びともう守れなくなった悲しみを湛えたところまでも。
きりはどの。
微かに動く唇に音はない。悲しみを濃くしながら波瑠は繰り返す。
きりはどの。
きりはどの。
もう一度彼女の名を呼びたかった。そして、伝えたいことがあった。
だが、運命は残酷だ。
彼に何の慈悲も見せぬまま最後の時を奪っていってしまう。
やがて頬から手が離れたとき、桐葉はついに嗚咽を漏らすのだった。
亡き男の銃を手に、女は立ち上がる。
あれからどれほど時間が経ったかわからない。1時間過ぎた気がすれば、1分さえ経っていない気もする。
彼を撃った者はまだあそこにいるだろうか。いずれにせよ仇を取らなくてはいけない。
その後、男の銃が復讐鬼の得物になるのか、心中の道具になるのか。
きっと女自身にもわからない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桜雨・カイ
【払暁】アドリブ◎
一度クロウさんと勝負してもいいですか?
どうすれば「エモく」なるかはわかりませんが真剣にやるだけです
いつもクロウさんは前に出て自分を引っ張ってくれるから、
今日こそはあなたに追いついて…そして、超えます!……
そう言われて引き下がるわけにはいきません、行きます!
建物に身をかくしつつ隙を見て攻撃
こちらだって負けません、威力があっても当たらなければいい
【見切り】【早業】で躱していきます
水が尽きそうなら今がチャンスです!
銃(水鉄砲)を向けられてもひるまずに、多少撃たれても止まらず一気に距離をつめて至近距離から攻撃!
これで…少しはクロウさんに追いつけましたか?
(勝敗はおまかせします)
杜鬼・クロウ
【払暁】アドリブ◎
水着は全身参照
勝敗お任せ
・水鉄砲
持込み
噴出口が2個あるウォーターガン
水が沢山入る
飛距離は長め
男心擽るデザイン
重いが常に大剣持ってた為余裕
エモか…カイと行った戦争を思い出すなァ(ラビットバニー思い出し
俺と?へェ…イイぜ
ヤるからには手加減しねェ(水鉄砲構え
宣戦布告か?燃えてるなァ、カイ君よ
お前が超えるべき壁は高いぜ?
全力でかかってこいよ(挑発
一般人に妨害されぬ所へ
障害物あれば使う
身を隠し勢いよく水飛ばす
一ヶ所に留まらず走って連射
空中回転して回避
上から射撃
水が尽きパレオが落ちる
甘ェな、カイ
手札の数は俺が上だ
小型の水鉄砲で急所へ
勝負は一瞬
2個禁止って言われてねェし
愉しい刻は早く過ぎて
●
突然足を止めた同行者に、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は振り向く。
桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)とは共に海岸に並ぶ家の傍を歩き、敵を釣り出すところだった。
何が来ようとクロウには返り討ちにする自信があるし、カイがいれば何人でも相手できると確信している。
ここが遮蔽物の多い奇襲に適した場所であろうと二人にはきっと瑣末事で、だからこそ地の利で優位と思い込んだ敵がよく釣れるのだ。
半分程度まで減った水鉄砲の中身は、すなわち彼らのキルスコアを意味している。
「どうした」
放たれた問いに、カイは意を決したように口を開く。
「クロウさんと、勝負してもいいですか?」
それは随分と意外な提案だったに違いない。
クロウはしばらくまじまじと相手を見て、やがてクッと笑いを零した。
「へェ……」
イイぜ。全然イイ。ちょうどモグラ叩きに欠伸が出そうなところだったんだ。
「ヤるからには手加減しねェぞ」
クロウが突きつけるのはバレルをふたつ並列させた大型の水鉄砲。むしろウォーターガンと言い換えるべきそれは大容量ボトルタンクまでふたつ。さらにはポンプアクションで圧力を高め威力と飛距離を伸ばす機能付き。たった一丁でも重武装と表現できる一品だ。
日頃から大剣を振り回してきた男の膂力は、片手持ちであろうと銃口を微塵もブレさせない。
「……」
だが、そんなものを突きつけられていながらカイに言葉を取り消すつもりはない。
強い戦意と高揚。そして尊敬が水鉄砲を強く握りしめる。彼の銃は取り回しを重視したハンドガンタイプ。ボトルタンクこそ接続されているが、二連装ウォーターガンの暴力とは比べられない。
「もちろんです」
それがどうした。
「こちらも手加減しません」
釣り上がった口から音のない笑いが溢れた。
肩を揺らし、獰猛な表情を作った。
「燃えてるなァ、カイ君よ」
和柄と鱗柄の布が翻る。
カイは真横へ勢いよく跳び、クロウは大きく跳び上がった。一拍遅れて水が交差する。
カイは民家の隙間へと駆け込んだ。遮蔽物のない空間で真正面から戦うのは無謀というもの。超えるべき壁が高いからこそ冷静に、遮蔽物を最大限に利用できる環境を目指した。
対するクロウは跳躍したまま窓の棧を掴み、民家の屋根へと登る。屋根の上からカイを撃とうというのだ。そこで得られる広い視野と自由な空間は大きな優位を作り出す。
「……ッ!」
かくしてカイは路地の真上から銃撃を受けることとなった。ジグザグに走り、ときには壁を蹴るなどして方向転換。軒を見つけたならばすぐさま滑り込んだ。
クロウの射撃は苛烈だった。豊富な水量を生かし、身体能力を生かし、屋根から屋根へと伝いながら一秒たりともカイを休ませまいと引き金を引いてゆく。軒下に隠れられたならば向かいの家屋から撃てばいい。
「くっ!」
追い立てられたネズミの如くカイは走った。迫りくる攻撃は一向に緩まない。ちらりと振り返れば、いままさに隣の屋根へと側転で渡るクロウが見えた。回りながらも正確に撃ってきているのが信じられない。
しかしカイの胸に焦りなどない。荒い息をつきながらも冷静にクロウの撃った回数をかぞえている。
これは根比べだ。
クロウの水が尽きれば勝機が巡り、それまでにミスをすれば敗北する。
分の悪い賭けだと思うだろうか? カイは決して思わない。自分が越えようとしている壁の高さはよくわかっているのだから。
「どうした、カイ! 逃げてばかりか」
屋根から見下ろしながらクロウは挑発を飛ばす。すると不意に樽が飛んでくるのが見えた。苦し紛れに投げつけてきたかと片手で弾けば、その奥で銃を向けてくるカイがいた。
「ッ!?」
反射的に首を傾ける。水がほとばしりこめかみが微かに濡れる。
「……おもしれェ」
やるじゃねぇか。素直な称賛を隠せない。こちらをまっすぐ見てくる瞳は追われるネズミのそれでなく、虎視眈々と機会を伺う猛禽の瞳である。
そして気がつけばカイの姿はすでに、梯子を使ってクロウの立つ屋根まで登ってきていた。
「逃げるのはもう終わりか?」
終わりのはずだ。勝算を宿した眼差しがまっすぐこちらを射抜いてくるのだから。
「行きますよ」
短い応答。この場では何より雄弁な答えだ。
今度は屋根の上で二色の布が翻った。
二人の男が目まぐるしく立ち位置を変えて幾重にも水を交差させてゆく。
その流れを変えるのは、ずっと勝算を見据えてきたカイしかいない。
彼はクロウの水鉄砲の水勢が弱まった瞬間で一気に距離を詰める。目指すは回避不能な必殺の距離。
「そう来ると思ったぜ!」
クロウとて己の水の残量は把握している。カイの狙いさえも。だから空のウォーターガンを捨てて隙を見せつける。
海色のパレオが翻った。太腿に差した小型の水鉄砲こそがクロウの奥の手。
「2個禁止のルールなんてねェことに気付くべきだったな!」
水鉄砲が引き抜かれる。カイを迎える。驚愕に染まる彼の眉間へと引き金を引く。
だが。
「負けない!」
次に驚くのはクロウのほうだ。水の軌跡から体を捻り肩で受け、脚は決して止めない。被弾を物ともせず至近距離まで踏み込むのだ。
「カイ!」
引き金が引き絞られる。
「クロウさん」
同じく引き金が引き絞られる。
そして、屋根の上に赤い飛沫が舞った。
「……」
「……」
気がつくと、カイの視界は青空で埋め尽くされている。端のほうには胡座かいてこちらを覗き込むクロウが見え、自分が倒れていることを悟った。
負けたのか。
体のどこにも痛みは感じず、しかし胸の中心が赤く染まっている。
負けたのだ。
不思議と悔しさはなかった。己のすべてを出し切ったからか、結果を静かな気持ちで受け入れられた。
「クロウさん」
「おう」
私は。少しは。
「あなたに追いつけましたか?」
「……」
彼からの返事はない。
ただ数秒の溜めを作って、言葉の代わりに自身の腹を指差した。赤く染まった腹だった。
人は胸を撃たれれば間違いなく死ぬ。では腹はどうか。人間でない彼らにははっきり線引きし難い部分である。
相討ちと言えるかもしれないし、そうではないのかもしれない。
「そう、ですか……」
カイは静かな笑みとともに瞼を閉じる。
潮騒が聞こえる。海鳥の鳴き声が聞こえる。
「寝るな、カイ」
せっかく追いついたのにまた置いてくぞ。
そんな彼の声も聞こえて、そしてすべてが遠くなっていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジョン・フラワー
まあ待ってくれほら武器を捨てるからまずは武器を捨てるからね
こんなに可愛いおおかみをやっつけたって何の足しにもなりやしないさ
だからここはひとつ仲良くしていかないか!
僕とキミ、力を合わせたらより高みを目指せると思わないかい?
僕は耳がいいから誰か隠れててもすぐにわかるし、足も速いし力も強いよ
わあ頼りになる! 素敵! かっこいー!
共にてっぺん目指して走り切ろう!
まずは友好の握手だね!
ふふふ隙を見せたな!
バスケットの中に隠しておいたこの水鉄砲でキミの頭はいちころさ!
悪いけどこの勝負、勝たせてもらうのはこの
なんか水出ないけどこれ不良品?
あっ待ってこれには深い訳が
(おおかみは無残な姿で発見されました)
●
敵に追われていたジョン・フラワー(まごころ・f19496)は思い切って反転した。さらにもう全力で駆けた。
彼我の距離はおよそ50歩。
ズボンの裾を翻し、花冠を揺らしながら駆けていればもうあと25歩。
撃ち出された水のことごとくをときに屈んで、ときに跳ね、体を捻りながら回避し、残る距離は僅か5歩。
ジョンは砂を蹴った。強く、強く。最後の距離を一気に詰め、そして成し遂げるのだ。
「ごめんなさーい! 降参するー!」
すなわち、スライディング土下座を。
ざざーっと23歳男性の体が砂上を滑り、敵の10センチ手前という絶妙な位置で止まる。よく訓練された見事な降参のポーズである。これにはいかなる相手も毒気を抜かれよう。
「待ってほらほら見てこれ降参のポーズ。ね、降参のポーズ! すごいでしょこれ練習したんだよ」
そして展開されるのは雨上がりの川よりも激しい言葉の濁流。
「え、水鉄砲気になる? 気になっちゃう? しょうがないなあそれじゃ出血大サービス、ほらぽぽーい!」
これ見よがしにブン投げられる水鉄砲。
「見てよほら丸腰だよ。すごーい、こんなに無防備なおおかみ見るの初めてー! きっと近所のアリスにも大人気!」
どう? ジョンは期待にきらきらした目で相手を見た。
額をぐりぐりしてくる銃口が返事だった。
なんてことだ、よく見たら目の前のアリスは髭面じゃないか。無防備で可愛いおおかみの需要は薄いのか。
「ええとね、それならそうだ!」
オオカミイヤーは地獄耳。オオカミノーズは鼻セレブ。いかなる需要とてたちまち突き止める便利アイテム。
「僕とキミで仲良くしよう! 力を合わせれば思わないかい? 僕の耳は隠れてるものなんでも見つけられるよ!」
額を襲う圧がやや弱まった、気がする。
「足の速さにも自信があるよ。キミは振り切れなかったけどね!」
あ、また額にぐりっときた。いまのはちょっと失敗だったかもしれない。
でもいいのだ。おおかみはめげないのだ。おおかみだから。
「でもまあ大丈夫! 僕とキミならできるよ! 何ができるって? そうだなぁ、共にてっぺん目指すとか!」
ジョンは握手を求めて手を差し出す。
ぺちんと払われた。
命乞いって難しい。
「ううーん。キミはどうしたら僕を見逃してくれるんだい?」
今度は直接聞いていくスタイルをとる。聞いておきながら天啓を得たりと手を叩くのがおおかみの流行だ。絶妙に相手の話を聞かないのがポイントである。
「わかった! それじゃあこのバスケットもサービスしよう」
ぱぱーんと掲げたるは木で編んだファンシーなバスケット。主に女子女子したアリスにウケるデザインである。目の前のアリスは髭面だが、まあその程度の違いは些細なことだ。
「これの中身はねぇ……」
髭アリスの視線がばっちりバスケットに向いているのを確認し、ジョンは悪戯っこい笑みを作る。
「これさ!」
そして取り出した水鉄砲を向け、ためらいなく引き金を引いた。
引いた。
「……」
めっちゃ引いた。
「……?」
引きまくって、首を傾げながら銃口を覗き込んだ。
「あれ、なんか水出ないけどもしかして不良品? ちょっとまってね、いま直してみ……あっ、待って。これには深い訳が、待っ」
大成功
🔵🔵🔵