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花睡

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●眠りゆく世界、果たされなかった約束
 或る日、異変は突然に起こった。
 至る所に様々な花があらわれ、蕾がひらいて咲き乱れていく。
 其処から巡っていくのは甘い香りと共に、眠りを誘う不可思議な蜜。
 蜜と花の香に導かれることで誰もが抗えぬ微睡みに囚われる。幽世に広がっていくその光景はまるで、やさしい世界の終わりのようだった。

 ――花が咲く頃に、迎えに行くよ。

 雪原に佇む或る雪女が、遥か遠い昔の約束を思い出していた。
「何故じゃ。何故に約束を違えたのかえ……」
 自らが散らす氷雪によって真冬の如き雪原となった場所で雪女は嘆く。
 手を伸ばしてみても氷の花が咲くばかりで誰にも届かない。彼女は悲しみに暮れた声で誰かを呼びながら、絶望の思いを言葉にしていった。
「お前様。何処にいるのじゃ、お前様……」
 雪女は誰かを探しているらしい。だが、探し人は幽世の何処にもいない。お前様と呼ばれる者は既に死した人間だからだ。
 広がる氷は留まることを知らず、数多の花を凍らせながら世界を覆い尽くしていく。
 やがて幽世は崩壊するだろう。
 静かな眠りに包まれ、永遠に閉じた世界となって――。

●花巡り
 辺りは見渡す限り何処を見ても花、花、花。
 一見は美しい情景に思えても、これらは骸魂の影響によるものだ。
 幽世はしょっちゅう、それはもう頻繁にカタストロフに巻き込まれる。今回もそのひとつであると語り、花嶌・禰々子(正義の導き手・f28231)は猟兵達に事件解決のための協力を願った。
「色んな花がね、それはもうたくさん咲き乱れているの!」
 右を見れば春の花。左を見れば秋の花。
 前を見れば夏の花が見えて、後ろは冬の花。
 向日葵の横に雪割草が生え、コスモスの隣には蒲公英が咲く。梔子の木や椿の樹が混在しているといった様子だ。
 花が大量発生した領域には無数の骸魂が飛び交い、妖怪達が次々と飲み込まれている。数多の花に覆われた幽世は眠る蜜に満ちた『眠りの世界』となってしまった。猟兵ならばこの眠りにすぐにやられてしまうことはないが、放っておけば世界は崩壊する。
「今回の異変の中心になっているのは雪女さんみたい」
 根源となった骸魂妖怪は雪原と化した平野に佇んでいるようだ。
 雪原に向かうためには『蓮華の池』を抜けて『桜の古木迷宮』を突破しなければならない。詳しく話すわね、と告げた禰々子は今回の戦場を順番に語っていく。

「まずは蓮華と月の池の区域ね」
 はじめに通ることになるのは睡蓮や蓮華が咲いている池付近。その辺りには季節を問わず滅茶苦茶に咲く、花の路が出来ている。
「そこの花には骸魂が宿ってしまっているの。暴れたいだけの好戦的な骸魂、新しい命に変わる途中だった優しい骸魂、怯えて迷っている骸魂、それはもう色々よ。みんなにはその子達を浄化しながら進んでほしいの!」
 好戦的な魂は一撃を入れることで浄化され、その他の骸魂は鎮魂や慰めなどの優しい思いを向ければ救われる。どちらと出会うことになるかは向かったもの次第だと告げ、禰々子はその次の領域について語っていった。

「次に続くのは桜並木の迷宮よ」
 池の先にあるのは古木が複雑に折り重なる迷宮。
 その付近に咲くのは桜だけだが、様々な種類の桜が咲き乱れている。枝垂れ桜に八重桜、彼岸桜や血の如く紅い桜。其処には雷獣に意識を奪われた古桜の精達が待ち受けており、通ろうとするものに襲い来る。
 古桜の精は倒せば骸魂から解放されて助かり、迷宮も消えるので思いきり戦えばいい。

「最後は雪原。この騒ぎの元になった骸魂妖怪がいるわ」
 そして、その更に奥――雪原と化した大地には氷の華が広がっている。吹雪が吹き荒れる中心には身体を骸魂に乗っ取られた雪女がいるようだ。
 宿っている骸魂も嘗ては雪女だったらしく、哀しげな声を響かせながら世界を嘆き、異変を巻き起こしている。
「どうして骸魂が嘆いているのかは断片的にしか視えなかったけれど……とても恋しい人がいて、果たされなかった約束をずっと求めているようね」
 彼女の元に行けば、もう少し事情も分かるかもしれない。
 何にせよ、このままでは幽世が花に包まれて眠りの世界と化してしまう。そうさせないためにも猟兵達の力が必要だ。
「悲しい花なんて、きっと咲かせちゃいけないから! お願いね、みんな!」
 禰々子は仲間達を送り出す。
 花を巡る戦いから、皆が無事に帰って来られるよう願って――。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『カクリヨファンタズム』
 花に満ちた「眠りの世界」と化した場所での戦いとなります。

 こちらのシナリオは特に締め切り日時を設けず、頂いたプレイングを順次執筆していきます。システム上でプレイングが送れなくなった時点が締め切りとなります。
 ニ章、三章開始時にはマスターページにて受付状況などを明記しますので、お手数ですがご確認ください。

●第一章
 冒険『蓮華と月の池』
 静かな月が浮かぶ領域に形になれなった骸魂が彷徨っています。
 魂は周囲に咲く花に宿り、眠りの力を更に広げてしまいます。その前に花を摘むか触れるか散らすかして、魂を天に送ってあげてください。優しい思いを向けるか、或いは一撃を入れれば骸魂は花から抜け出て浄化されます。
 攻撃プレイングであれば好戦的な骸魂と、攻撃をしないプレイングであれば穏やかな骸魂と出会うことになります。どちらも必要なので皆様なりの行動をどうぞ!

 基本的には手の届く位置にある睡蓮などに骸魂が宿っていますが、周囲には季節問わず様々な花が咲き乱れています。お好きな花、思い入れのある花があればそちらをご指定して頂いて大丈夫です。

●第二章
 集団戦『雷獣古桜』
 戦場は様々な桜の古木が折り重なって出来た迷宮めいた場所。
 戦う相手は雷獣の骸魂に飲み込まれた、古桜の妖怪達。妖怪は男性も女性もいます。雷獣に乗っ取られていて侵入者を見つけると問答無用で襲いかかってきます。

●第三章
 ボス戦『白霧嬢子』
 戦場は古桜迷宮を抜けた先に広がる雪原。
 雪女に飲み込まれた妖怪が吹雪を放ち、周囲に六花の華を咲かせながら眠りと花の世界を広げています。意識は完全に骸魂のものとなっており、悲嘆の声をあげながら近付くものを凍らせようと狙ってきます。

 どの敵も骸魂を倒せば、妖怪を無事に解放できるので思いきり戦ってください。
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第1章 冒険 『蓮華と月の池』

POW   :    勢いのままに通っていく

SPD   :    周囲を探りながら通る

WIZ   :    敢えてゆっくり進んでいく

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ハウト・ノープス
花、眠り、至れなかった魂
……何故だろうな、聊か、疼く
まあいい、まずは進もう

花に魂が潜んでいるのだったな
形あるものを壊す事は私の延命になるのだが、花は感触が薄すぎる
今は動力消費も抑えたい、ひとつずつ摘み取ろう
すぐ近くの蓮華に手を伸ばす

骸魂が現れたならば、死に逃しから言葉を
何故ここに留まる
ここで為すべき事があるというのか?
あるのならば、そして己では為せぬのなら引き継ごう
ないのならば、この地を離れた方が良い
一人旅立つのが恐ろしいのなら、私がお前を見送ろう

……少し眠いが、ただの動力不足だろう
まだ死ねない、まだ眠れない
私は立って歩かねばならない
花をもう少し摘んだなら先へと進もう
それが私の、為すべき事だ



●眠りの先へ
 春夏秋冬。ひととせの彩りが一堂に会した場。
 そのように表せば美しいものだが、此度の異変はそれほど生易しいものではない。
 花、眠り、至れなかった魂。
 様々な花が広がりゆく幽世に降り立ち、ハウト・ノープス(忘失・f24430)は赤の双眼に情景を映し出す。その瞳には月の池と蓮華が映っていた。
「……何故だろうな」
 聊か、疼く。
 浮かんだ疑問の最後は言葉にしないまま、ハウトは池の先へと歩を進めていく。
 今、この場は眠りの世界と化している。いずれは全てが眠りに落ちて死すだけの場にならぬよう解決するのが己の役目。
 そのためにまず、辺りにいるものを浄化しなければならない。
「あれが骸魂か」
 ハウトは池畔の近くに咲いている蓮華が、妖しく光っていることに気が付いた。あれが骸魂が宿っている証なのだと察した彼はゆっくりと近付いていく。
 これが形のある化け物などであったなら、躊躇なく壊せただろう。
 そうすることが己の延命になるのだが、花では感触が薄すぎる。無論、手にした黒剣で薙ぎ払って浄化することもできるが今は動力消費も抑えたい。
「摘めばいいのか」
 地に片膝をついたハウトは手を伸ばした。
 花は可憐に咲いているが、元より世界の異変が起きたことで咲いたものだ。いずれ消えてしまうなら、ひとつずつ摘み取ってやればいい。
 すぐ近くの蓮華を摘み取り、ハウトは指先から滴る雫を払う。
 そうすれば花に満ちていた光が淡く明滅した。
 攻撃の意思が見えないことから、異変に巻き込まれて花と同化してしまっただけのやさしい魂であることが分かる。
 この骸魂はあらたに生きようとしているものだ。そう感じながら立ち上がったハウトは、死に逃しである自分とはまるで正反対の存在だと思った。
「何故ここに留まる」
「――」
「ここで為すべき事があるというのか?」
 骸魂に呼び掛けると、声無き声が返ってきた。言の葉にはなっていないが、それは意思となってハウトに伝わってくる。
 ――還りたい。
 そう感じ取ったハウトは摘んだ花を隠した口許に寄せた。己では為せぬことならば引き継ぎたいと思ったが、それは骸魂にしか成せぬことだ。
 何処へ、或いは誰の元へかえりたいのかまでは分からないが、このまま此処で花となっていては戻れるものも戻れないだろう。
「ならば、この地を離れた方が良い」
 そっと花に囁いたハウトが静かな思いを向けると、蓮華から光が浮かびあがった。
 還りたくとも少しの恐れがあった。それが迷いとなってこの骸魂は花に閉じ込められてしまったのかもしれない。
「一人旅立つのが恐ろしいのなら、私がお前を見送ろう」
 ハウトはゆっくりと花を空に掲げた。
 そうすると安心したような雰囲気が光からあふれて、魂は天に昇っていく。
 その光景を見送ったハウトは幾度か瞼を瞬いた。
 少しばかり眠い。しかし、これはただの動力不足だろうと判断したハウトは池の様子を見渡した。見れば、行く先には幾つもの魂花がある。
「私は――」
 まだ死ねない、まだ眠れない。立って歩かねばならない。
 それが自分の為すべきこと。
 今のように花を摘んで行こうと決めたハウトは月下を進んでいく。
 静かな池の水面には、昇りゆく魂のひかりと美しく輝く月が映っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

亞柳・水雷
(敢えてゆっくりと進む)

池、か。
水は私の領域だからか何処か少し落ち着く気がする。

骸魂…私が守りたかった者達も何処かでこの様に彷徨っているのだろうか…。
救いもなくただの害悪と成り果てて。

花を一つ一つ観察しながら歩みを進める。

身は滅び神器を飲み込み悪霊となった私に未だ感情の揺らぎは戻らねど、行き場を見失った者を救いたいと感じる心が少しは残っているようだ。

非力な身だが天候を操作し恵みの雨を、慈雨を与えるくらいは出来るだろう。
どうか迷い無く。どうか優しき雨に罪も、悔いも、迷いも全て清められて先に進むと良い。
道を示すことは出来ないが見守る事なら出来るだろう。



●慈雨と魂
 水面にはひとつの曇りもなく、耀く月が映っている。
 本来なら風がそよぎ、魚などが泳いで水を揺らすのだろうが、今は何も起こらない。その理由は此処が眠りの世界となっているからだ。
 すべての生き物は眠りについており、この場で動けるのは猟兵や骸魂のみ。
「池、か」
 亞柳・水雷(祟ノ蛇龍・f28343)は鏡面のような水面を覗き込んだ。
 元より畔の社に住まう龍であったゆえ、水は己の領域。それだからか何処か少し落ち着く気がする。水雷は指先を池に向け、そっと手を浸してみた。
 そうすれば波紋が起こり、水に映っていた月が揺らめく。
 暫し水を見つめていた水雷は、顔をあげた。
「骸魂……私が守りたかった者達も何処かでこのように彷徨っているのだろうか……」
 思い浮かべるのは社の傍にあった都市。
 大切だったはずのもの。失くして、亡くしてしまったものたち。それらが救いもなく、ただの害悪と成り果てて何処かに――。
 胸裏に浮かんでは消える過去の情景を奥底に秘め、水雷は歩みを進める。
 そうして花をひとつひとつ観察していく。
 菫に向日葵、雪割草に雛罌粟。
 咲く花は今の季節にも、隣り合うにも不釣り合いなものばかり。それでも花としては綺麗に咲いているのだから不思議だ。
 ずっと甘い香りがしているのも、眠りを誘うものなのだろう。
 水雷は表情を動かすことなく更に歩いてゆく。
 身は滅び、神器を飲み込んで悪霊となった水雷に感情の揺らぎは見えない。その心はまるで目の前に広がっている眠りの世界のようだ。
 未だ感情は戻らないが、彼の心の奥底には行き場を見失った者を救いたいと感じる気持ちが少しは残っている。
 やがて水雷は睡蓮の花々の前に辿り着く。
 それらは淡く光っており、骸魂が宿っているのだろう。戦う意志や敵意が感じられないことから、花に囚われた魂だと解った。
 其方に歩み寄った水雷は静かに片手を掲げる。
 未だ非力と解っているが、彼の魂たちに少しでも癒やしを与えたかった。すると其処に、ぽつり、ぽつりとちいさな雫が降りそそぎはじめる。
 池に浮かぶ花だけに降りゆく恵みの雨。
 それは慈雨となり、魂を少しずつ癒やしていった。
 この魂は守りたかった者たちのものではないが、放っておくことは出来ない。
「どうか迷い無く」
 優しき雨に、罪も、悔いも、迷いも全て、清められて先に進めるように。
 何も語れぬ魂たちの行く先は知れず、自分では道を示すことも出来ないと解っているからこそ水雷は願っていく。
 ただ、やさしい雨と祈りを。見守ることなら出来るだろうから。
 そして、解放された骸魂たちは天に昇っていく。
 眠りの世界の力がほんの少しだけ弱まり、魂の光は月を目指して飛んでいった。
 光は感謝を示すように何度か明滅する。
 宛ら星が瞬いているようだと感じながら、水雷は浄化された魂を見送った。魂が見えなくなり、月の池に映る姿が消えるまで、ずっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロシ・ギアルギーナ
(赤い天竺牡丹の花飾りを身につけ、スチームパンク風のドレスに身を包んだ少年はゆったりと花の中を歩く)

眠りの世界、ある意味素晴らしい世界なのかも知れませんね。
微睡んでいれば何にでもなれる、欲しいものも手に入る…まやかしでも、目覚めなければ真実と同じでしょうから。

けれどわたくし、そういったモノは好みではありません。
ですから全て壊して差し上げましょう。

浮遊させた魔法剣で周囲全ての花を散らしていこうとする。
死なない身…否、すでに死んだ身なので防御は欠片も意識になく、反撃されようが優雅に華麗に舞うように全てを刈り取る。

…ボクを散らせると思ったか?ボクを枯らせられるのはこの世にただ二人だけだ。



●死せぬ花
 空で静かに耀く月の下。
 夜の最中に印象的に映える赤い天竺牡丹の花飾りを揺らし、ロシ・ギアルギーナ(愛求哀散・f29735)は池の畔を歩いてゆく。
 蒸気機械の雰囲気を感じさせるドレスを身に纏った少年は花の中を進む。
 風は吹いていない。
 池にいるはずの魚が泳いでいる様も見えない。花は咲いていても、どれもが睡っているかのように静謐だ。
 この景色が広がっている理由は、此処が眠りの蜜香に満ちているゆえ。
「眠りの世界、ある意味素晴らしい世界なのかも知れませんね」
 ロシは足元を見下ろす。
 其処にはクローバーの葉があり、白詰草の花が咲いていた。季節外れではあるがこれも眠りの世界の産物だ。
 爪先に触れたクローバーを見つめたロシは考える。
 この世界では微睡んでいれば何にでもなれるだろう。夢の中でならば欲しいものも手に入るはず。たとえまやかしでも、目覚めなければ真実と同じ。
 憧憬にも似た考えが浮かぶ。
 だが、ロシはすぐに頭を横に振った。
「けれどわたくし、そういったモノは好みではありません」
 求めた理想は所詮、本当には手に入らないもの。
 それゆえにロシには微睡みの夢など不要だ。ですから、と口にして周囲に魔力を満ちさせていったロシは前を見据える。
「全て壊して差し上げましょう」
 言の葉を向けた先には池に浮かぶ蓮華の花があった。
 それらは足元の白詰草とは違う禍々しい雰囲気に満ちている。好戦的な意志を感じ取ったロシは自分の周りに魔法剣で浮遊させた。
 見ればあちらこちらに危険な骸魂の気配がある。それならばこの魔法剣ですべてを散らすのみ。なかには無害な花もあるが、それらも幽世の異変によって生まれただけの異物とも呼べる。
「……蹴散らします」
 ロシが宣言した刹那、剣が四方に飛翔する。
 刃は周囲すべての花を散らし、骸魂ごと花を貫きながら迸っていく。力の弱い骸魂達は瞬く間に、優雅に華麗に舞うように振る舞うロシによって刈り取られた。
 魂が消滅していく様を見つめ、少年は冷ややかな声を落とす。
「ボクを散らせると思ったか? ボクを枯らせられるのはこの世にただ二人だけだ」
 その口調は先程とは違う。
 されど、落とした言葉を聞くものはもう何処にもいない。足元で可憐に咲いていた白詰草も既に散らされ、蓮華や他の花も跡形もなくなっていた。
 ――私のことを考えて。私を見て。
 白詰草に宿っている花言葉のことなど考える間もなく、ロシは踵を返していく。
 ただ二人。自分で言葉にした彼らのことを考えながら。
 その後ろ姿は暫し月の池に映っていたが、先に進む少年の背はいつしか其処から消え去っていた。ただ、花を散らせた名残だけを残して――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・ファルチェ
(絡み/アドリブ歓迎)

風景としてはとても綺麗だよね。
けれど救うべきモノがあるなら僕は救いたい。

救いたい(救助活動)想いを花達に伝え(コミュ力)、結界術を用いて自分の力が及ぶ範囲を仕切りその中を破魔の力で満たす(範囲攻撃+属性攻撃+破魔+全力魔法)。
どうか天に還って穏やかな時が過ごせますように…そう祈りをを込めて。

浄化が叶ったらまた歩みを進めて別の場所へ。
計画性なんて無い、勢いのままだけど僕の力が及ぶ範囲の全てを救ってあげたいんだ。

無謀なのは理解してるし、自己満足だって言うのはわかっていても『守りたい、助けたい』想いは僕の行動理念の1つだから。

自分を疎かにしない程度に進んでいくよ。



●祷り
 月の夜。咲き乱れる花。
 春夏秋冬の花々が狂ったように咲いている景色を眺めると、不思議な心地がした。
「風景としてはとても綺麗だよね」
 アルバ・ファルチェ(紫蒼の盾・f03401)は視線を巡らせながら、思ったままの言葉を口にする。幽世に広がる情景は美しいものだ。
 しかし、眠りの世界へと変貌することを放っておくことは出来なかった。
「救うべきモノがあるなら僕は救いたい」
 静謐に満ちた世界ではすべてが眠ってしまう。既に近くに暮らしている妖怪達は倒れており、池の魚も動かない。更には夜風すら吹いていない。
 アルバはこんな世界のままにしてはおけないと感じ、歩みを進めた。
 救いたい。
 その想いを花達に伝えるべく、まずは結界術を用いて自分の領域を創る。
 そうして、己の力が及ぶ範囲を仕切ったアルバは、もう一度周囲を見渡した。蒲公英に菫、勿忘草や胡蝶蘭。季節を問わず様々な花が見える。
 おかしなほどに咲く数多の花々。
 それらはアルバによって瞬く間に結界の中に取り込まれた。
 アルバは両手を重ね、領域の中を破魔の力で満たしていく。範囲攻撃に属性攻撃、全力魔法と自分が持てるすべてを込めて、アルバは自らの力を広げた。
「どうか天に還って穏やかな時が過ごせますように……」
 祈りを込めて浄化していく。
 そうすれば花に宿っていた骸魂が其処からふわりと浮かび上がり、淡い光となって天に昇っていった。結界を解かなければかれらが空にいけないと察したアルバはそっと力を緩め、領域を解除する。
 月に向けて浮遊する骸魂は、きっと救われた。
 そして、一帯の浄化が叶ったらまた歩みを進めて別の場所へと向かう。
 其処に計画性など無いと自覚していた。ただ勢いのままであっても、アルバは自分の力が及ぶ範囲の全てを救ってあげたいと思っている。
「無謀なのは理解してるし、自己満足だよ……でも――」
 それが分かっていても『守りたい、助けたい』という想いは己の行動理念のひとつ。
 そしてまたひとつ、アルバは結界を創る。
 次は福寿草に芍薬、ルピナスなどが咲き乱れている空間だ。中には好戦的な骸魂もいたが、相手は形になれなかった弱いもの。こうして結界を張れば逃がすことなどない。
「願わくは、安らかに……」
 相手を思いながらも自分を疎かにはせず、アルバは願いを込めていく。
 ――願い、浄め、空へと還す。
 それは神への祈りを籠めた盾の騎士としての信念。その力は骸魂に宿る無念の想いのみを掬い取り、攻撃による浄化へと導いていった。
 やがて、アルバの力によって辺り一帯の骸魂が天に昇る。
 その軌跡を眺める彼は魂の行方を静かに見送り、煌々と輝く月を見上げた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
過去なんて抱える気も無かった癖に。
――花言葉。
戯れに、覚えた。
実に己らしく無い事に。

『清純』や『清浄』の意を持つ睡蓮、
『苦痛が和らぐ』と云われる蓮華。
それらに骸魂が宿るとは何とも皮肉な…

月皓の下。
鮮やかな赤が、歩みを阻む。

花の様に笑って少女が言った。
花には意味があるのだと。
最初に教わったそれを焼き払ったのは、
彼女の命を摘んだのは、己等であるのに――

暗器使い。
我が身一つに数多の得物を潜ませる、その中に造花がある事。
不思議だと、理由を尋ねられたのは幾度か。
…正直に答えた事は、零。

――君は、幸せな処にお還り。
この手はきっと怖ろしいだけの物だろうけど…
ゼラニウムに触れて、声に。

…感傷。
本当、らしくない



●幸福の路
 花々が狂おしいほどに咲き乱れる幽世。
 此処は過去も未来もない、誰にも等しい眠りが訪れる世界。
 そのように表せば美しいものではあるが、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は眠りたいとは思わない。破滅が先にあると分かっている眠りなど魅力的ではないからだ。
 季節など関係なしに咲く花は綺麗ではあった。
 されど此処まで滅茶苦茶であるならば荒唐無稽というしかないだろう。
 ただ、この景色を見て懐う。
 過去なんて抱える気も無かった癖に。
 ――花言葉。
 戯れに覚えたそれは、実に己らしくないものだと分かっている。畔に立つクロトが見下ろした先には睡蓮と蓮華が同時に咲く池がある。
 睡蓮には『清純』や『清浄』の意味があり、蓮華は『苦痛が和らぐ』と云われる。
「これらに骸魂が宿るとは何とも皮肉な……」
 頭を振ったクロトは思いに耽った。

 月皓の下――。
 鮮やかな赤が、歩みを阻む。花のように笑って少女が言った。
 花には意味があるのだと。
 最初に教わったそれを焼き払ったのは、彼女の命を摘んだのは、自分等であるのに。

 暗器を使うクロトはその身ひとつに数多の得物を潜ませている。その中に造花があること。それが不思議だと、理由を尋ねられた機会は幾度かあった。
 そのことに正直に答えた数は、零。
 其処でクロトは顔をあげ、骸魂が宿っている花を探しはじめた。少し遠くの池畔では別の猟兵が魂をやさしく空に還している景色が見える。
 自分もそのようにすればいいと悟り、クロトは歩みを進めていく。
 幸いにも周囲は静けさに満ちていて戦いの喧騒は聞こえない。此処が眠りの国ならば、慟哭も憤怒も静かな微睡みに落ちていったのだろう。
 やがてクロトは、或るひとつの花に宿っている骸魂を見つけた。
 それはゼラニウムのちいさな花だ。赤い色をした花は不思議と可憐に思えて、クロトはその傍に片膝をついた。
 攻撃的な意志は見えず、ただ花に閉じ込められてしまっただけの魂だろう。
「――君は、幸せな処にお還り」
 伸ばした手でそっと花に触れる。この手はきっと怖ろしいだけのものだろうけれど、それを言の葉にするのはやめた。
 代わりに静かな眼差しを向け、クロトはこの魂が巡るように願う。
 そうすれば優しい思いを受けた骸魂が花から離れ、天に浮かびあがっていった。魂の姿を見上げて送ったクロトは、双眸に耀く月を映す。
 その胸に宿っていたのは過去への感傷。
「……本当、らしくない」
 それだけを呟いたクロトは暫し空を振り仰ぎ続けた。あの魂は昇華されていったが、送り出した自分は未だ――。
 そんなことを考えながら彼は考えていく。
 あの魂にとって、或いは自分にとって。幸せな処とは何処にあるのだろうか、と。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
見事な絢爛の花園だこと
見とれてしまいそう
桜に小町藤にサネカズラ、彼岸花まで…
美しいけど奇怪だわ
ひととせをひっくり返したようだもの

甘い梔子の香りがしてふいに胸がいっぱいに
師匠はいつも、甘い梔子の香りがしたから
……神斬…今頃ちゃんと、廻る天に還れたかしら…
幽世にも旅できたのかしら

舞う桜を見て前を見据える
…また、逢えるもの
約束だもの

今、私がすべきはこの骸魂達を救うこと

浄化の桜吹雪舞わせて
新しく廻る魂も怯える魂も
浄化して在るべき天に返しましょう

前なら全部散らしてたけれど

もう大丈夫
怖くない
ちゃんと掬うわ
私が守るから―大丈夫

花散らさずに
再び咲くように祈るわ

そうだ
神楽でも舞いましょう

桜吹雪と共に
還れるように


朱赫七・カムイ
此処が幽世?
美しい花々が咲いているね

カグラ
まだ怒っているの?
私がそなたの命名案を却下したから
黒助や赤坊はちょっと…
そなたの名付けセンスは昔から―昔?

桜だ
私は桜がいっとう好きだ
けれど
私の捜す桜ではないね
…何処に在るのだろう
私の

兎に角
花を傷付けたくはないな
優しく慰め魂を還そう
花を散らさぬよう―

カラス!

牡丹一華にローダンセ、二輪草…随分摘んできたね
カグラにあげたかったの
私の話は聞いてなかったんだね

好戦的な魂が向かってきたようだ
一緒に宥めよう
カグ…

?!

何で桜枝を斬ったの
カラスをとまらせたい?

そう…

一撃食らわせるどころか喰らいそうだ
骸魂だけ狙うよう精一杯やるけど
ごめんね
刀が馴染まなくて上手く戦えないんだ



●迎えの桜舞
 花は咲き、世界は睡る。
 桜に小町藤に実葛、彼岸花まで。季節の彩を混ぜたような景色を見渡し、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は双眸を細める。
 八重に咲く桜の花の薄紅。小町藤の花の微かな紫。
 実葛の紅い実に、真紅の彼岸花。その色はどれも美しいと感じられた。
「見事な絢爛の花園だこと」
 暫し見惚れてしまいそうな情景ではあるが、後に浮かぶのは奇怪だという思い。まるでひととせをひっくり返した光景から伝わってくるのは、これが異変でしかない事実だ。
 眠りの世界となった幽世には風すら吹いていない。
 止まってしまった世界なのだと感じ取り、櫻宵は歩を進めていく。
 そのとき、不意に甘い香りがした。
「あれは……?」
 梔子の香だと気付いた櫻宵は胸がいっぱいになる。胸元を押さえた櫻宵は、ずっと押し隠していた喪失感が浮かびあがってきたような感覚をおぼえた。
(――師匠)
 櫻宵は心の中で、もういない彼の神を呼ぶ。懐かしい気持ちを感じた理由は、彼からいつも甘い梔子の香りがしていたことを思い出したからだ。
 師匠である硃赫神斬を送ってから、彼らのことを考えないときはなかった。
 確かに救った。すくうことが出来た。
「……神斬……今頃ちゃんと、廻る天に還れたかしら……」
 共に行った彼と旅ができたのか、転生という巡りに無事に辿り着けたのか。自分が知れない彼らの行方を考える度に切なくなる。後悔はしていないが、それでも――。
 俯いていた櫻宵は顔をあげた。
 そして、舞う桜を眺めてから然と前を見据える。
 感傷は追い払った櫻宵は、狂い咲くと呼んでも過言ではない花々の景色を瞳に映す。
 今、自分がすべきはこの骸魂達を救うこと。
 守るために刃を振るうのだと教えられたのだから、その決意は揺らがない。
 櫻宵はそっと屠桜を鞘から抜く。
 それは邪を祓い、屠り咲き誇る桜龍の牙。血桜の太刀は桜を纏い裂き咲かす、守る為の神刀となっている。
 其処から浄化の桜吹雪を舞わせた櫻宵は周囲の花骸魂を浄化してゆく。
 睡蓮に宿る骸魂が淡く光る。
 新しく廻る魂も、怯える魂も。どうか、在るべき天へ。
「以前の私なら、全部散らしてたかしら」
 怖くない。大蛇の呪は己の中にあれど、これは悪龍として振るう刃ではないゆえ。
 櫻宵は花筏の池へと花を鎮めてゆく。
「ちゃんと掬うわ。私が守るから、大丈夫」
 花は散らさず、再び咲くようにと祈っていけば魂は明滅しながら消えていった。それを見送りながら、櫻宵はふと思い立つ。
 祷り葬送るならば向こうに続く桜並木の下で神楽を舞おう、と。
 そして、櫻宵は桜吹雪と共に浄華の舞を踊る。
 還れるように。或いは、此処にあの魂達が帰って来られるように。

 きっと、『そのとき』が訪れるのはもうすぐ。
 櫻宵の裡には不思議な予感が巡っていた。だって、そう――。
「……また、逢えるもの。約束だものね」
 櫻宵の頭上をふいに牡丹一華などの花を咥えた黒い鴉が横切っていく。普通は不吉だとされる鴉だが、今の櫻宵にとっては予感を更に強くさせるものだった。

 ――烏とふ、大をそ鳥の、まさでにも、来まさぬ君を、ころくとぞ鳴く。


●輪廻転生
「ありがとう。もう向かえるよ」
『いや、やはりお前ひとりでは送り出せない。私も行く』
「……良いの? それなら一緒にいこう。長い、永い旅の続きをしようか」
『噫――』

 ❀✤

 ひとつの旅を終えて、またひとつの旅が始まる。
 覚えていたのは桜霞に漂うような朧気な感覚のみ。自分が新たな神としてうまれたのだということだけを識り、『彼』は世界に降り立った。
 彼には名前がない。
 己が何かの生まれ変わりだという漠然とした思いしかなく、記憶もない。
 けれども何も困りはしなかった。何故なら、傍にはカグラ――桜竜神『イザナイカグラ』の荒御魂が宿る人形が付いてくれているからだ。
「美しい花々が咲いているね」
 彼の神は傍らのカグラを見下ろし、花が咲き乱れる世界を見渡した。
 しかし人形からは何の反応も返ってこない。
「カグラ、まだ怒っているの?」
『……』
 もしかすればまだ拗ねているのだろうか。彼に名前がないことで、カグラが様々な命名案を出してくれていた。黒助、赤坊、桜太楼、紅左衛門、ペン汰と並べられていった名前はどうにもしっくり来ず、彼はすべてを却下していたのだ。
「そなたの名付けは昔から……昔?」
 無意識に過去のことを語りそうになり、神は首を傾げた。今の自分にはカグラと旅をしているという記憶以外はないのに不思議だ。
 そのとき、彼はふと近くに咲いている花に気付く。
「桜だ」
 どうしてか桜がいっとう好きだ。何故かいつも桜を探している。
 けれども此処に咲く花は自分の捜す桜ではないとも分かった。カグラも彼と一緒に桜の花を眺めている。
「……何処に在るのだろう。私の――」
 紡ぎかけた言葉の続きはなく、彼は骸魂が放つ淡い光に目を遣った。
 花を傷付けたくはないゆえに優しく慰めて魂を還す。花を散らさぬように、と彼がそっと意気込んだとき。黒い羽がひらりと空から落ちてきた。
「カラス!」
 それは彼らに、もといカグラに付き添っている三つ目の鴉だ。
 黒鴉は嘴に何かを咥えている。牡丹一華にローダンセや二輪草と、周囲の花々をカグラのために摘んできたようだ。自分には懐いていないらしい鴉に対し、私の話は聞いてなかったんだね、と口にした彼は肩を軽く竦めた。
 するとカグラが少し離れた位置にある桜の樹を示す。
「あれは……好戦的な魂が宿っているようだね。一緒に宥めよう、カグ……?!」
 神が呼び掛けるよりも先にカグラが動き、瞬時に桜枝を切り落とす。
 されどその身は人形。
 骸魂を祓うには枝を斬っただけでは足りないようだ。
「何で桜枝を斬ったの?」
『……』
「カラスをとまらせたいんだね。そう……」
 桜の枝を肩に担いだカグラは顔布で顔を隠しているゆえに表情は窺えないが、とても得意気だ。黒鴉もその枝に悠々と止まり、あとはお前の頑張り次第だ、とでもいうように骸魂桜と神を交互に見遣った。
 わかったよ、と答えた彼は刀を構える。
「痛かったらごめんね。刀が馴染まなくて上手く戦えないんだ」
 そして、振るわれる鋭い一閃。
 幾つかの攻防が巡った後、骸魂は刃によって鎮められた。良かった、と安堵した彼はふと桜並木が続く先に目を向ける。どうやら其処が次の戦場になるという桜迷宮の入り口に繋がっているらしい。
 月影の下、その先に人影が見えた。其処で美しい神楽が舞われているようだ。
「見て、カグラ。誰かが舞を踊っているのかな」
 桜彩が舞う。
 噫、とても懐かしい。
 はっきりとした理由は解らなかったが、彼の神はそう感じていた。
 風もないというのにひとひらの桜がふわりと浮かび、彼を導くように舞っていく。

 そして――咲き誇る桜の下で、約が果たされる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
ヨルー!待ってよー!
四季とりどりの花の海をかけてくヨルを追いかける
春の香りも夏の香りも、秋と冬の香りもするね
桜に彼岸花に、月下美人も咲いている!
カナンとフララも楽しそうだ

花の海を泳いでいるようで心地よいけれど
このお花は、迷子のお花なんだね
天へ還り、廻る――そして、また地に芽吹いて花開くんだ
かえってきて、くれるといいね
逢うべきひとの元へ
あいたいひとのもとへ
祝福が降るように
待っているひとのもとへ
…なんて愛しい櫻の心を想う

よーし!ヨル!
僕らも迷子の魂を天におくるよ
歌うのは「水想の歌」
たくさんの愛と一緒に、穹に咲くといい
旅路が愛に溢れたものになるように
想いをこめて歌うよ

静かにお眠り
優しい愛の、子守唄だ



●夜と花の歌
 四季とりどりの花の海。
 其処に両羽を広げた仔ペンギンが、とててて、と駆けていく。
「きゅー!」
「ヨルー! 待ってよー!」
 花におもいっきり飛び込んだヨルを追い、尾鰭を揺らして宙を泳いでくるのはリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)だ。
 月の下、ふわふわの花の地に倒れ込んだヨルはころころと転がっている。
 リルは花まみれになったヨルに手を伸ばして抱きあげ、眠っちゃだめだよ、とそっと語りかけた。けれどもヨルの気持ちも分かる気がする。
 季節を問わずに咲く花。
 春の香りも夏の香りも、秋と冬の香りもするものだから、ひととせを一度に手に入れたかのような心地良さもある。
「ヨル、すごいよ。桜に彼岸花に、月下美人も咲いている!」
 リルが示した先へ、幽世蝶のカナンとフララが飛んでいった。まずは桜の方に向かっていく二羽は楽しそうだ。
 ふわりと桜の花弁と共に舞った蝶々達は、次は月下美人の花へ行くらしい。
 リルもヨルを抱いたまま、二羽の後についていく。
「きゅ!」
「綺麗だね、みんな」
 こうして揺蕩っていると花の海を泳いでいるようで良いものだ。しかしリルは本来の役目も忘れてはいない。
 するとカナン達がリルを導くように翅を羽ばたかせた。その先には淡く光る黒い薔薇が咲いている。其処には骸魂が宿っているようだ。
「このお花は、迷子のお花なんだね」
 天へ還り、廻る――そして、また地に芽吹いて花開くための準備をしていた子。
 そんな風に感じたリルは花の浄化を行うことを決める。
 何処の誰なのか、誰の魂なのかはリル達に知ることは出来ない。それでも、魂が迷って囚われてしまったのなら還る手伝いくらいは出来る。
「かえってきて、くれるといいね」
 逢うべきひとの元へ、あいたいひとのもとへ。
 僕達のようにまた出逢えて、縁を繋げるように。そして、祝福が降るように。
 待っているひとのもとへ。
(……櫻)
 願いながら想うのは愛しい桜龍の心。けれどきっと大丈夫。何故なら先程から桜の樹が優しく囁いている気がする。もうすぐだから、と。
 リルは双眸を細め、行く先にある桜並木に目を向けた。
 鴉が飛んでいて、神楽の舞が紡がれていく景色が少しだけ見える。そちらに向かう前に先ずは黒薔薇に宿った魂を救おう。
「よーし! ヨル!」
「きゅきゅう!」
「僕らも迷子の魂を天におくるよ」
 意気込むリルに合わせてヨルも両手を大きく広げた。指揮をはじめるようにヨルが両腕を振れば、睡りと花の世界に人魚の歌が響きはじめる。
 魂がまた巡るようにと考えて、謳いあげるのは重なった軌跡と奇跡の詩。

 眞白の緋から、揺蕩う水葬へ。
 未だ明けぬはずだった物語は結んで、桜への想いを迎えて綻びゆく。
 月を抱いて彷徨う黒燿を、導く果てはあいの漄。
 リルルリ、リルルリルルリ――。

「静かにお眠り」
 大切なものに向けた想いを歌にして、リルは優しい子守唄を響かせていく。
 たくさんの愛と一緒に穹に咲くといい。旅路が愛に溢れたものになるように。
 麗らかな春を、夜に咲く桜を示すような歌声と共に愛と戀の詩が紡がれる。魂のひかりが天に昇っていく様を見つめたリルは、次に桜と黒薔薇を眸に映した。
 そして、想いを言の葉にのせる。
「――結んで、ひらいて。ここからまた、はじまるんだ」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
【春嵐】

嗚呼。ナツがやけに気にしていると思ったら
なるほど、魂が彷徨っているのか。
ならば、還るべき場所へと連れて行ってあげないとね。

四季折々の花
思い入れのある花は数多く、君に送った花
いのちの花、いつもそばにある花
思えば花に囲まれて生きているのだと実感をする。

紫苑の花。最近、私の中に増えた花だ。
まずはそこで送ろう。
迷子かな?君たちの向かうべき場所は此処では無いよ。

優しく声をかけ、優しく触れる
なゆ、そっとだよ。できるかい?


此処に残っても、きっと触れる事は出来ない。
私は覚えているよ。
君たちのような優しい魂が、花と共に眠りにつこうとしていた事もね。

また会おう。


蘭・七結
【春嵐】

ランがナツの様子を気にしているよう
嗚呼、あなたも気掛かりだったのかしら
彷徨う彼らの御魂を
還るべき場所へと送りましょう

手のひらの内で小瓶を転がす
硝子の中で生けるしろいツバキのひとひら
かつて水葬された街にて標としたもの
あのお花が、そのお花かしら

花々の中で咲き誇るいのちのあか
鮮烈な紅を宿す牡丹一華
白や紫、桃色や青紫まで存在するのね

白いひとひらと共に眠る小花
あかいいとを結いだシオンの彩
やさしく、大切に、きゅうと抱いて

ええ、そうっとね
繊細な魂は、とてもむつかしいけれど
温度を灯した指のさきで
彼方へと導く標を示してみせましょう

どうかお気をつけてお還りなさい
彷徨うことなく、彼の地へと辿りつけますように



●穹華
 花に満ちた世界には睡りと静謐が巡っている。
 咲き乱れる花の並びは滅茶苦茶で、夜風すら眠ってしまったらしく無風だ。美しくはあっても季節が織り混ざった景色はどうにも不思議だった。
 其処に一羽の真白き蝶が舞い、紅の光を散らしながら花の周りをまわる。その下では白い仔猫が花の香りをかいでいる。
 ランはナツを気にかけており、ナツは花の様子を注意深く探っているらしい。
「嗚呼。なるほど」
「あなたたちも気掛かりだったのかしら、ナツにラン」
 榎本・英(人である・f22898)と蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は仔猫と蝶の様子に気付き、不可思議に咲く雪割草や向日葵の向こう側を見つめる。
 幽世生まれの使い魔猫であるナツだからこそ、彷徨う魂が気にかかるのだろう。
 主と大好きなひとに巡り会えた自分と違って、形になれなかった骸魂が花に宿っていることで仔猫も何かをしたいのかもしれない。みゃあ、という鳴き声から仔猫の想いを察した英と七結はそっと頷く。
「ならば、還るべき場所へと連れて行ってあげないとね」
「彷徨う彼らの御魂を還るべき場所へと送りましょう」
 英は仔猫を抱きあげ、七結は伸ばした指さきに白蝶を止まらせた。そして、視線を交わしあったふたりは骸魂が宿る花を探していく。
 歩を進めれば、更に多くの四季折々の花が見えた。
 いのちの花、いつもそばにある花。
 思えば花に囲まれて生きているのだと実感する。何気なく通っている煙草屋の横にだって鉢植えがあり、近所の庭木にも花がついている。
 思い入れのある花は数多く、その中には英が七結に贈った花もあった。
 英が見ている先に咲いている花に気付き、七結は手のひらの内で小瓶を転がす。硝子の中で生けるしろいツバキのひとひら。
 それはかつて水葬された街にて標としたもので――。
「あのお花が、そのお花かしら」
「嗚呼、そうだとも」
 実際に幽世に咲いている花々を見つめ、ふたりは其方に歩み寄っていく。
 花々の中で咲き誇るいのちのあか。
 次に見えたのは鮮烈な紅を宿す牡丹一華。それだけではなく白や紫、桃色や青紫まで存在する花はとても綺麗だ。
 七結がランと共に花を眺める最中、英はふと紫色の小花を見つける。
 紫苑の花。
 それもまた最近、英の中に増えた思い入れのある花。どうやら其処には魂が宿っているらしく、まずはそれを送ろうと決めた。
 英の後に続き、七結も花の元へ向かっていく。
 硝子の小瓶の中、白いひとひらと共に眠る小花がある。それはあの水の中で受け取った、あかいいとを結いだ紫苑の彩。
 やさしく大切に、きゅうと抱いた七結は英の後ろから野に咲く花を見つめる。
「ちいさな魂なのね」
「迷子かな? 君たちの向かうべき場所は此処では無いよ」
 英は淡く明滅する紫苑に手を伸ばす。
 攻撃的な意志は見えないことから、世界の異変と共に花に閉じ込められただけの骸魂のようだとわかった。
 英は自分の隣に七結を招きながら、花に優しく声をかけて触れる。
 小花が揺れた。それは風のせいではなく、ナツがすりすりと花に頬を寄せたからだ。英と仔猫が花に振れている様を、七結は暫し眺めている。
 すると、ランも花のまわりをくるりと回るように飛んだ。
「なゆ、そっとだよ。できるかい?」
「ええ、そうっとね」
 英は、君も触れてみるといいと言うように七結の手を取る。摘み取って壊すことは簡単でも、繊細な魂を慰めるのはとてもむつかしい。
 けれども温度を灯した指のさきで、彼方へと導く標を示してみせる。
 今の自分にはそれが出来るのだと思うと、なんだか不思議な気持ちにもなった。七結が慰めと鎮魂の想いを向ける中、英も言の葉を送ってゆく。
「此処に残っても、きっと触れる事は出来ない」
「大丈夫、何もこわくないわ」
 掛ける思いは骸魂への優しい気持ち。英と七結に添うナツとランも、魂が浄化されるようにと願っているようだ。
「私は覚えているよ。君たちのような魂が、花と共に眠りにつこうとしていた事もね」
「どうかお気をつけてお還りなさい」
 留まっていても先には進めないから。行くべき場所へ。戻るべき彼方へ。
 すると紫苑の花々から淡いひかりが浮かびあがった。
 そのなかのひとつがナツの額にそうっと触れるように揺らいだ後、ゆっくりと天に昇っていく。ランは途中まで見送る心算らしく、魂のひかりに添って舞う。
 そうして仔猫が、みゃあ、と鳴いた。
 ――また見つけるよ。
 どうしてかナツがそう語った気がして、英と七結は静かに顔を見合わせる。やがて、ふたりは其々の思いと言葉を月の穹に向けた。
「彷徨うことなく、彼の地へと辿りつけますように」
「また会おう」
 ひとつの物語が結んでも、生きて、往きてゆく限りは人生という頁は続いていく。
 縁が巡ればいつか何処かで廻り逢うこともあるはず。
 かの魂が望む処で、きっと。
 空で耀く月は静かに、ひかりと想いが重なる光景を見守っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
冬の花見に来てみたものの
何とも暴れる花ばかりが多いこと
刀を見せるのがいけないのか知ら

まあ花吹雪も悪くないわね
戦いに散るその意気やよし
それに丁度良かった、梔子は好かないの。
待つ雪の試し斬りにもなりましょう

赤錆びた刀を片手もち
白い花をひとひらふたひら散り散りに
空いた手に花片が触れても受け止めることなく
手を翻して地に降らす

この花の降りゆく果ては池か知ら
水面の月が綺麗だこと
嗚呼、花見と思ったけれど
十五夜が近いならば月こそ見事
お供えが要るわね

白い白い花の骸をたんとお食べ
何をも咲かす優しい池よ
おもてに抱くお月様の為に

あら、梔子に紛れて白蘭が一羽飛んでいる
あれも堕とそう
今直ぐに。



●白花
 季節を問わず咲く花。
 ひととせの花が出鱈目に見えるその中には、もちろん冬の花もある。一足先に静謐な花々を見ようと訪れたものの、其処には妖しく揺らぐ光が満ちていた。
「何とも暴れる花ばかりが多いこと」
 刀を見せるのがいけないのか知ら、と言葉にした鈍・しとり(とをり鬼・f28273)は辺りを見渡してみる。
 どうやらこの辺りには凶暴な意識を宿した骸魂が多いようだ。
 水仙に金盞花、山茶花、梔子。
 どれも静かに咲くものだが、荒ぶった魂が其処にあるゆえに不気味な雰囲気になっている。禍々しい気配を放つそれらを眸に映し、しとりは身構える。
「まあ花吹雪も悪くないわね」
 そう語れば、呼応するように骸魂の揺らぎが大きくなった。
 屹度、それらはしとりに勝てないと踏んでしまっている。それでも敵意を向けてくる姿は妙に憐れでもあった。
 されど、戦いに散るその意気やよし。
「それに丁度良かった、梔子は好かないの」
 待つ雪の試し斬りにもなりましょう。しとりは赤錆びた刀を片手に持ち、その刃を花骸魂に差し向ける。
 刹那、地を蹴ったしとりが刃を振り下ろした。
 明滅するひかりを散らすように、白い花をひとひら、ふたひらと散り散りに斬る。
 身を翻して更にもう一閃。
 散った花の欠片が空いた手に触れたが、しとりはそれを受け止めることなく流し見るだけに留めた。そのまま手を翻して地に降らせれば、花からひかりが消える。
 ひら、ひらりと花片が月が映る池に舞っていく。
 この花の降りゆく果ては池の底か。
 水面に浮かぶ月は美しく、花の様相と合わせると実に好いものに思えた。
 奇しくも十五夜が過ぎた夜。
 ならば月こそ見事だと感じ乍ら、しとりは骸魂を葬送するための刃を振るう。舞う骸魂の欠片が花と共に散りゆく最中、しとりは空に目を向けた。
「お供えが要るわね」
 なんて、と戯れに呟いたしとりは次々と骸魂を葬っていく。
 ――白い白い花の骸をたんとお食べ。
 ――何をも咲かす優しい池よ。おもてに抱くお月様の為に。
 詠うように、謳うが如く、しとりは千代砌を振るった。そんな中でふと気付く。
「あら、」
 梔子に紛れて白蘭が一羽、飛んでいるのが見える。再び地を蹴りあげたしとりは考える前に動いていた。
 あれも堕とそう、今直ぐに。
 そして、刃がふりあげられ――池に映る月の上に白い軌跡がひとつ、落ちた。
 やがて周囲の骸魂の殆どが斬り伏せられた。
 戦いの最中にかれらが放った光に僅かに目を灼かれたが、しとりにとっては些事だ。幾度か瞬きをした後にしとりは刃を収める。
 池に浮かんでいた花はいつしか、水の中に沈んでいた。
 御霊も花のように鎮められたのだろうか。その答えは、誰も知らない儘――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
これだけ多くの種類の花を一度に見る事などなかなか無いからな。不思議な感覚がある
ミヌレも花達が気になるのか、俺の上着のフードの中から顔を覗かせきょろきょろしている。その様子に和み、自身も周囲を見渡す

月の下、睡蓮は睡る事なく咲いているのか…それは睡蓮だけに言えた事では無いが。
蓮華を見ると高さに驚いた昔の事を思い出すし、向こうに咲くチューリップを見ればアリスラビリンスで世話になった花を思い出す

…この花まで咲いているのか。
ふと、目の前にはスイートピーの花。
何故だか、昔からこの花を見ると守らなければと思ってしまうんだ
怖がらなくて良い、大丈夫だ
だから出てきてはくれないか?
そう言い聞かせて、花にそっと触れる



●花への思い
 春と冬、夏と秋。
 隣り合うことのない季節の花々が今まさに此処で咲いている。
 ユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)は眠りの世界と化している幽世に降り立ち、静かに歩を進めていった。
 周囲には梔子、桜、向日葵などの花々が咲いている。
 ひとつずつを見れば美しく可憐なものだが、それらが並んでいる様子はやはり不思議でしかなかった。ユヴェンの上着のフードの中から顔をのぞかせているミヌレも、きょろきょろと花々の景色を見つめている。
「ミヌレも気になるのか?」
 ユヴェンが問いかけると、ミヌレはぴょこんとフードから飛び降りた。
 足元に咲く背の高い花に埋もれてしまったが、仔竜は気にせず尻尾を揺らしながら歩いていく。その様子に和みを覚え、ユヴェンは暫しミヌレと共に歩いた。
 空には煌々と輝く月。
 ふたりが歩くのは池の傍。其処に咲いている睡蓮は、睡ることなく咲いている。
 無論、花々が満ちる眠りの世界なのでこの花だけに言えたことではない。それでも、すぐ傍にあることでそのように思ってしまう。
 睡蓮の傍にはよく似た花である、蓮華も浮かび咲いていた。
 それらを見ると高さに驚いた昔の出来事を思い出し、池から離れた向こう側に咲いているチューリップを見れば、アリスラビリンスで世話になった花が胸裏に浮かんだ。
 花には思い出が宿る。
 共に過ごしたひとと一緒に花を見たとき。はじめて見た花の名を知ったときや、何気なく歩いていた路に咲く花を見たことで記憶が印象付けられる。
 そして、暫し歩いた先。
「……この花まで咲いているのか」
 ふと、ユヴェンが見つけたのはスイートピーの花だ。
 どうしてだろう。何故だか、昔からこの花を見ると――守らなければ、と思う。
 そして、偶然にも花には骸魂が宿っていた。弱々しい光を放つスイートピーの中にいる魂はただ異変に巻き込まれただけらしく怯えているようだ。
 ユヴェンはそっと傍に膝を付き、ミヌレと一緒に花を覗き込む。
「怖がらなくて良い、大丈夫だ」
「きゅっ!」
 彼に合わせてミヌレもスイートピーに呼び掛けた。すると花の周囲のひかりがふわりと、ほんの少しだけ光る。
「だから出てきてはくれないか?」
 何も怖いことはしない。恐ろしい出来事が起こる前に解放できる。
 そう告げたユヴェンは花に優しく触れた。
 すると明滅した光が花から抜け出し、宙に浮かびあがる。ミヌレの傍をくるりと回った魂は、次にユヴェンの頬に触れてから天に昇った。
 ふたりの優しい思いに浄化されたようだ。
 あの光が何処へいくのかは分からないが、きっと望む場所に行けるだろう。そんな予感を覚えながら、ユヴェンとミヌレは光が行く先を見守った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朝日奈・祈里
う、わぁ。
一面の花々に目をぱちくりさせ、感嘆の息を吐く
なんて、綺麗な。魔法みたいだ。

視界の端にその花色を見つければ、一目散に駆けていく
……実物、初めて見た
ぺたんと座り込んで、瑠璃唐草をつん、とつつく
嗚呼、入っているのかな
今出してやるからな

ひとつひとつ、摘んで集めて
キミは次に進もうとしてたんだな
大丈夫。恐れず進め
おまえは?そうか、揺蕩っていただけか
うん、出してやるぞ
丁寧に、優しく摘んで
いくつか集めて一つにまとめたら、空に指で魔法陣を描く
そこから無造作に真白のリボンを出して、花を花束に
…ん、ちょうちょむすびって、難しいな……!



●白から瑠璃へ
 鈴蘭に百合、スノーフレーク、プルメリア。
 其処は真っ白な花が季節に関わらず咲き乱れる不可思議な空間だった。
「う、わぁ」
 その景色を瞳に映した朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は、一面の花々に幾度も瞼を瞬く。感嘆の息を吐くと共に、少女の帽子の上に止まっていた白梟のアストライオスが羽撃いていった。
 真白な花の景色に白い翼が舞うと、紛れて見えなくなってしまいそうだ。
「遠くまでいかないようにな、アストライオス」
 少女は白梟に手を振る。
 けれどもアストライオスは周囲を一巡すれば戻ってくるだろう。緩やかな信頼を抱きながら白梟を見送った祈里は、ゆっくりと歩を進めていく。
「なんて、綺麗な。魔法みたいだ」
 もしかすれば、たとえ魔法であってもこれほど白い花ばかりは集められまい。
 そんなことを考えながら歩いていくと、視界の端に或る花色を見つけた。白い領域から抜け出して進む祈里は、白と薄青に彩られた花のもとへ駆けていく。
 一目散に目指したその花は――瑠璃唐草。
「……実物、初めて見た」
 その場にぺたんと座り込んだ祈里はネモフィラとも呼ばれる花に指先を向けた。
 つん、とつつけば花がふわりと淡く光る。
 どうやら其処には骸魂が宿っているようだ。世界の異変に巻き込まれて花に閉じ込められただけの魂らしい。
「嗚呼、入っているのかな。出られないなら、今出してやるからな」
 祈里はちいさな花々のひとつずつに、これまたちいさな魂が入っていると悟った。きっと小動物のような魂なのだろう。
 手を伸ばして、ひとつひとつの花を摘んで集めていく。
 摘むといっても必要以上に傷付けぬように、壊れものでも扱うように気をつけて、やさしく――ほんの少しだけ覚束無い仕草で、そっと。
「キミは次に進もうとしてたんだな」
 魂は巡る。
 その道筋に美しい花があって、引き寄せられたのならば仕方ない。
「大丈夫。恐れず進め」
 ひとつ摘んでは言葉を掛け、またひとつ摘んでは思いを告げていく。
 祈里の手の中には少しずつ花が増えていった。白くちいさな掌には薄青の花がたくさん、たくさん集まる。
「おまえは? そうか、揺蕩っていただけか」
『…………』
「うん、出してやるぞ」
 声は聞こえないが、何となく意志のようなものは感じ取れた。そうして、頷いた祈里は丁寧に丁寧に花を纏めていく。
 その手の中に出来上がったのは、ささやかな花束。
 片手に花を抱えた祈里はもう片方の腕を空に掲げた。そのまま空に指で魔法陣を描けば、祈里の前に真白のリボンが現れる。
 花束に結んで美しく飾るためのものだ。これが自分に出来る餞だとして、祈里はリボンを結んで、否、結べない――。
「……ん、ちょうちょむすびって、難しいな……!」
 するとアストライオスが祈里の頭の上に戻ってきて、応援するように見守った。
 それから少し後、四苦八苦しながらもなんとか花束のリボンは形になる。優しい思いの籠もった瑠璃唐草から、ふわり、ふわりと魂のひかりが舞いあがった。
 月を目指して飛ぶ光。手の中に残った白瑠璃色の花。
 残った花束は誰かへのお土産にしようか。
 そんなことを考えつつ、祈里は夜色の空に耀く月を暫し見上げていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリステル・ブルー
とてもきれいで心惹かれる光景なんだけど…カタストロフもあるし被害も出ているし、解決に力を尽くそうか
それにしても……どうしてこうなっちゃったんだろうね

そうだね、僕は目についた手の届く範囲にあるあの睡蓮に手を伸ばしてみるよ
できれば攻撃はせずにいたいかな
ねぇ君を助けたいと僕は思っているんだ。手荒なことはしたくないとも。僕からは攻撃しないよ安心して
優しく呼びかけながらそっと花に触れるよ
つぶしたり不必要に力を入れて傷つけないように細心の注意を払って、両手の手のひらの上に優しく乗せてるね
どうか君が安らかに、天にかえれますようにって祈りながら左手の聖痕の浄化の力を使うね
君の魂が少しでも癒やされますように…。



●空に還る
 静謐に満ちた眠りの世界。
 咲き誇る花の姿と、甘く漂う蜜の香り。
 アリステル・ブルー(果てなき青を望む・f27826)は周囲の景色を眺め、確かめながら先へと進んでいく。
 季節を問わずに咲いている花は美しく、可憐なものも多かった。
「とてもきれいで心惹かれる光景なんだけど……」
 この世界はしょっちゅう訪れるというカタストロフの最中。周辺に住む妖怪が眠りに落ち、骸魂までも花に閉じ込められたり暴れたりするという被害も出ている以上、解決に力を尽くすのが猟兵としてのアリステルの役目だ。
「それにしても……どうしてこうなっちゃったんだろうね」
 花が咲き乱れると表すに相応しい情景を見遣り、アリステルは歩いていった。
 そこかしこに魂の揺らぎが見える。
 それらに猟兵が向かい、それぞれの方法で骸魂を浄化していた。好戦的なものに対して戦う者、怯えている魂に向けて歌をうたう者、花を摘んで花束にして魂を空に送り還していく者と様々だ。
「そうだね、僕もああしてみよう」
 アリステルは仲間の様子を暫し見つめた後、誘われるように月の池に向かう。
 其処には先程から気になっていた睡蓮の花が咲いていた。池畔で立ち止まったアリステルはそっと手を伸ばす。
 睡蓮は淡く光っており、中には骸魂が宿っている。其処から攻撃的な意志は見えないので、おそらく穏やかな魂だ。
「――ねぇ」
『…………』
 アリステルが呼び掛けると、声無き声のような意思が花から伝わってきた。
 何と言っているかは分からないが、敵意はない。アリステルは相手を驚かせないように静かな声で語りかけていく。
「君を助けたいと思っているんだ」
 手荒なことはしたくない、決して傷付けたりはしない。
 優しい思いを向けたアリステルは、そのままそっと花に触れた。指先が水面に触れて冷たさを感じる。
 アリステルは両手で花を包み込んで持ちあげていく。その際も必要以上に傷つけないように細心の注意を払い、自分の胸元まで花を掲げた。
 そうすれば弱々しかった光が強くなり、アリステルを照らしながら明滅する。
 願い、祈り、送りたい。
 真っ直ぐな想いを込めて、アリステルは花を見つめた。
(どうか君が安らかに、天にかえれますように)
 祈りを捧げれば左手に宿る聖痕の浄化の力が巡り、睡蓮を包み込む。花から光が溢れたかと思うと魂が解放された。
 御礼を言うかの如くふわりと舞った魂の光は、月を目指して昇ってゆく。
「君の魂が少しでも癒やされますように……」
 光はきっと、往きたい場所へと還っていくのだろう。
 その姿を見送ったアリステルは少しの間、夜空と月の向こう側を思っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

天狗火・松明丸
月の池に咲く花々とは
随分と風流なことだが
妖の身の上で浄化なぞ

鼻で笑って、嗤って
甘い香りの誘う儘に
行き着く先に咲うは
清洌なる真白の睡蓮

寄り添う魂の色たるや
甘ったるく絡む癖して
何故だか剣呑に思えた

何にも成れず
何にも為らず
微睡むばかり

皆で睡れば心地好かろうが
いっときの夢を見るよりも
ゆっくり休めば良かろうよ

白を染める火で舐め尽くす
焼け焦げて見る間に茶から
黒へと変わり果てるだろう
骨すら在らん火葬の代わり

我等は夜に棲む者
誰の何にもなれずとも
眠ることの暇が許されるのなら
…ちいとばっかし、羨ましいよ



●灼かぬ炎は真白に
 水面には煌々と輝く月が映り込んでいる。
 周囲辺は昏い。それゆえに月光は眩しいと感じるほどに明るく思えた。
 月下に咲く花は色とりどり。
 されど今の季節には不釣り合いな花まで見えて、奇妙さを感じさせるばかり。冬の花の横に夏の花が並んでいるのは何だか滑稽だ。
 その中で池に浮かぶように咲き誇っている花々を眺め、天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)は片眼を静かに細めた。
「随分と風流なことだが、こうも眠りの蜜が満ちているとな」
 幽世はそれはもう様々な崩壊に巻き込まれる。
 此度もそのひとつだと思うと少しばかり辟易もした。それに、妖の身の上で魂の浄化なぞ、と松明丸は肩を竦める。
 自嘲するように鼻で笑って、嗤う。
 それから彼は甘い香りが誘う儘に歩を進めていった。
 月の池に添うように進んだ松明丸が行き着いた先。其処で巡り合ったのは真白に咲う、清洌なる睡蓮の花々だ。
 見れば花は淡く、弱く明滅している。
 寄り添う魂の色はなんだか妙に甘ったるく絡む。その癖に何故だか剣呑に思えた。
 この魂は弱い存在だ。
 何にも成れず、何にも為らず、微睡むばかりで花に沈んでいる。
 勞るべきものなのかもしれない。哀れみ、尊び、鎮魂の思いを掛けるべきものであるのだろうと、考えの上では分かる。
「皆で睡れば心地好かろうが、いっときの夢を見るよりもゆっくり休めば良かろうよ」
 思いを言葉にした松明丸は歩を進めた。
 一歩、踏み出せば足元が水に浸かる。浅瀬から花へと手を伸ばした彼は反転の呪詛を紡ぎ、其処に炎を作り出していく。
 白を染める火は瞬く間に迸り舐め尽くすように花を覆っていった。
 焼け焦げる睡蓮。花が、葉が炎に灼かれる。
 それらは見る間に茶から黒へと変わり果てていく。其処に宿っていた魂ごと燃やされ、睡蓮は跡形もなく水の中に消えた。
 それは松明丸なりの、骨すら在らず、遺さぬ火葬の代わり。これもまた浄化の形と呼べるものであり、魂は苦しむことなく消えていった。
 ――我等は夜に棲む者。
 月が映る池を見下ろしながら、松明丸は澄んだ水面の奥を見据えた。
 あの魂達はもう何処にもいない。
 けれども、誰の何にもなれずとも眠ることの暇が許されるのなら――。
「……ちいとばっかし、羨ましいよ」
 零れ落ちた言葉には僅かな切実さと羨望めいた想いが宿っていた。
 そして、松明丸は歩き出す。
 背にした池に花はなく、ただ静かな月の光だけが彼の背を照らしていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎

Zz…はっ!
寝てないぞ!!

浄化…、そーゆう魔術はまだ使えねぇしな…
あ、でも浄化って呪いを解くのと似てる気しないか?
え、ない?
そっかなぁ…
でも、もしそれが出来りゃぁ
前みたいに呪いに負けずに…動くぐらいは出来るかもしんない
…それぐらいできる様になりたいし!
死にかけたぐらいで俺様立ち止まるもんか!

まぁともかく!まずは進もうぜ!パル!ルビ!

攻撃しない方向で!

…怖いのか?
大丈夫!怖いんなら俺様が一緒に進む手伝いするさ!
何せ俺様の夢は最強!最高!そんな魔術師だからな!
道を照らすぐらい簡単さ!(多分!

花に触れ
杖から《光の道》を描く
…成仏の道に実際なる訳じゃねぇけど
光がありゃ迷わず行けそうだしな!



●光路
 甘い香りが世界に満ちる。
 花に満たされた場所では少し気を抜くと微睡んでしまいそうなほど、美しく綺麗だ。
「……はっ!」
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)はそのまま眠りに落ちてしまいそうな感覚に陥り、はたとして身体を起こす。
 少年は今、白詰草が咲き乱れる原っぱで横になっていた。
 どうして寝転がったのかは定かではないが、眠ったらとても気持ちよさそうだと感じたことだけは覚えている。しかし、今は寝てはいけない時間だ。
「寝てないぞ!!」
 自分に言い聞かせるように首を振り、零時は立ち上がった。
 白詰草の草原に骸魂はいなかったのでつい休んでしまったが、此処からは浄化すべき魂を探しにいくとき。それにしても、と辺りを見渡した零時は頬を掻く。
「浄化……、そーゆう魔術はまだ使えねぇしな……」
 歩きながら骸魂を探し、零時は考えを巡らせていった。
 魂にやさしい思いを向ければいずれ浄化されるらしいが、全世界最強最高の魔術師を目指すものとしては魔術でどうにかしたいところ。
「あ、でも浄化って呪いを解くのと似てる気しないか?」
 少年はふと浮かんだ考えを言葉にする。同意を求めるように傍らに付いていたパルに聞いてみるが、紙兎は首を振る仕草をしてみせた。
「え、ない? そっかなぁ……」
 ううん、と頭を悩ませる零時の帽子の上には猫又のルビもいる。くぁ、と欠伸をした猫又の尻尾が揺れていた。二尾に灯った赤と青の炎が仄かに夜道を照らす中、零時はずっと浄化について考えていく。
「でも、もしそれが出来りゃぁ――」
 前みたいに呪いに負けずに動くことくらいは出来るかもしれない。そう思い立った零時の裡に渦巻いているのは、以前の出来事だ。
 桜を迎える戦いの中、強烈な呪いを己の中に呼び込んだのはいいものの、堪えられずに倒れてしまった。あの一連の流れについては後悔はしていないが、もっと強くなりたいという思いが募る。
 一瞬、死を垣間見たくらいで怖じ気付く少年ではない。
 この世を去ったあの黒い神のように、呪いに耐えながらでも戦えるようになりたい。零時が抱く思いはひたすらに前向きだ。
「そうだよな、死にかけたぐらいで俺様が立ち止まるもんか! まぁともかく! まずは進もうぜ! パル! ルビ!」
 言葉に勢いをつけた零時は、一気に駆け出した。
 その先には池に咲く睡蓮の花がある。其処に骸魂が宿っているらしい。相手からは攻撃的な意思はなく、どうやら怯えているようだ。
「……怖いのか?」
『……』
「大丈夫! 怖いんなら俺様が一緒に進む手伝いするさ!」
 静かな意思だけを向けてくる魂に向け、零時は大きく胸を張ってみせる。
「何せ俺様の夢は最強! 最高! そんな魔術師だからな!」
『……?』
「道を照らすぐらい簡単さ!」
 多分、という言葉は胸の奥に仕舞い込み、零時は腕を伸ばした。そうして杖先で花に触れ、そっと光の道を描いていく。
 空に伸びていく光の軌跡は、言葉通りに道を照らすものになった。
「これを辿って行けばいいぜ!」
 実際に成仏の道になるわけではないが、こんな昏い夜の目印にはなる。花から飛び出した光は、うん、と頷くように一度ふわりと揺れた。
「よし、迷わず行け! 月まで一気に飛んで――うわ、速い!?」
 すると魂の光はひといきに翔ける。
 元気になったのか、と笑った零時は暫し、光の道筋を振り仰いでいた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
静かで…美しい景色……
美しいだけなら、良かったのに

さて、見入っている場合ではありませんね
止まっていた足を花々へと進めてそっと触れてゆく
睡蓮に始まって、山吹、八重桜
そして…枝垂れ桜……
触れてゆるり揺らして
骸魂達を花から誘い出す

さぁさ、此処で眠るにはまだ早いですよ
此処が美しく居心地が良いのは分かりますが、もう少し先まで頑張ってくださいな
花から出てきた骸魂をゆうるり撫でて浮かべれば
先程まで虞美人草と撫子にじゃれていた颯が寄ってきて
ふわり、包み込むような優しい風をおこして天へと送り出す

(このまま、優しく穏やかな眠りにつけますように…)
そう心で祈り、子守唄を歌いながら見送りましょう



●風に送る
 花々が広がり、甘い蜜が満ちる情景。
 すべてが眠りについた世界は眺めているだけならば静謐で美麗なものだ。
「静かで……美しい景色……」
 橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は幽世に広がる異変の光景を見つめながら、そうっと頭を振った。
 胸に抱いているのは、美しいだけなら良かったのに、という感慨。
 されど、此の場所をこのまま放っておけば崩壊の一途を辿るだけ。それは何としても止めなければならないという思いが千織の中にある。
 竜胆に向日葵、薔薇に胡蝶蘭。
 それらが一堂に会する景色は不可思議なものだ。そのどれもが眠りの蜜を振り撒いているのだと思うと千織の心境も複雑なものになる。
 暫し景色を瞳に映していた千織は、静かに己を奮い立たせた。
「さて、見入っている場合ではありませんね」
 可憐に華美に咲く胡蝶蘭を見下ろしていた千織は顔をあげ、骸魂を探しはじめる。止まっていた足を花々へと進めて、淡く光るものにそっと触れてゆく。
 どうやら幽かにでも光が見えるものに魂が宿っているようだ。
 先ずは池へ。次は山へ。
 其処に咲いていた睡蓮から始まり、野の方へと歩みを進め、山吹や八重桜へと触れていく千織。偶然にも、彼女が巡ったのは思い入れのある花ばかり。
 そして、千織が最後に辿り着いたのは枝垂れ桜の傍。
 先程の花々のように触れて、ゆるりと揺らして骸魂達を花から誘い出す。
「さぁさ、此処で眠るにはまだ早いですよ」
 千織は魂達に呼び掛けた。
 そうすると明滅する光が彼女の周りに浮かびあがる。形のない骸魂はおそらくこういった光にしかなれないようだ。
「此処が美しく居心地が良いのは分かりますが、もう少し先まで頑張ってくださいな」
 呼び掛けながら千織は手を伸ばした。
 花から出てきた骸魂をゆうるりと撫でていけば、先程まで虞美人草と撫子にじゃれていた颯が寄ってきた。
 其処に、ふわりとすべてを包み込むような優しい風が巻き起こっていく。
 それは朝焼け色の精霊猫の力だ。この世界は眠りについており、これまでは風すら眠っていて何もなかった。
 すると魂達は風と共に天へと送り出されていく。
 月を目指すその姿を見送りながら、千織は祈りを紡いで両手を重ねた。
(このまま、優しく穏やかな眠りにつけますように……)
 心で願った千織は花唇をひらいた。
 そして、彼女は子守唄を歌っていく。辿り着く先が望む場所であるように。
 魂を見送る千織の眼差しは静かに、優しく光り輝く月へと向けられていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
眠いときに寝るのが一番だとかはよく言ったりするけど、さすがにここで眠るのはね
色だらけでうるさいくて落ち着かないし
いつの季節に何の花が咲くとか、知りやしないけどさ
どこぞのずっと桜が咲いてるとこよりむちゃくちゃなのは、まあわかる
ヒマワリだのコスモスだの椿、……

ふと目に入った椿に手を伸ばして、じっと花を眺める
……何とかってのが宿ってんだっけ
こうやってさ、どこだって、魂みたいのが花に宿るんだったら――なんて考えたとこで、そういいモンでもないんだろうな

こんなとこでいつまでもウロウロしてないでさ、楽になれりゃいいのにね……
一旦止めた指を伸ばして首から手折ると手のひらに転がして
まあ、イイトコ行けるといーね



●魂の在処
 夜の静けさは冷たい。
 そのように感じた理由は定かではないが、此処に漂う空気は普通ではない。
 誰もが眠りに落ちるという蜜の香りで満ちた場所。その最中に立った芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は肩を竦めようとして、止めた。
 これまで通ってきた途中には眠ってしまった妖怪が何人もいた。あれもこの世界に満ちた花と蜜の所為なのだと思うと何だか不思議だ。
「眠いときに寝るのが一番だとかはよく言ったりするけど……」
 さすがにここで眠るのはね、と呟いた有は花が咲く周囲を見渡していく。
 何処を見ても花、花。
 色彩が統一されている箇所もあるようだが、今の有が立っているのは様々な花がごちゃまぜになった場所だ。
 ラナンキュラスにストケシア、ディモルフォセカ。
 色だらけでうるさくて落ち着かない、というのが有の感想だ。それに有はその花の名前をよくは知らない。
 いつの季節に何の花が咲くかということすら知らない彼女は、ただ綺麗だとか面白いだとか、或いは今のようにうるさいとしか思えない。
 何処に骸魂が宿っているのかと探していく有は、再び辺りを見遣った。
 その際に思うのは桜が一年中咲く世界。
「ここはあの桜が咲いてるとこよりむちゃくちゃなのは、まあわかるかな」
 荒唐で無稽。奇異で不稽。
 そんな思いを抱きながら、有は歩を進めていった。
 すると次第に有でも名前が分かる花が見えてくる。ヒマワリにコスモス、チューリップや菜の花。それから――椿の花。
「……、ツバキ」
 ふと目に入った椿に手を伸ばした有は何気なしに、じっと花を眺める。
 其処には骸魂が宿っているらしく、淡い光が見えた。
「そっか、何とかってのが宿ってんだっけ」
 赤い椿と白い椿が同時に咲いている様を見比べ、有は指先で花弁をなぞる。そうすると呼応するように花が明滅した。
 この中に魂が、と思うと妙な気分になる。
「そうだね、こうやってさ、」
 どこだって、魂みたいものが花に宿るんだったら――なんて考えたところで有は思考を止めた。分かりやすくていいかも、と一瞬だけ思ったがきっと思うほどいいものでもないのだとも思ったからだ。
「こんなとこでいつまでもウロウロしてないでさ、楽になれりゃいいのにね……」
 おいで、と呼び掛けた有は花を手折る。
 花に魂が閉じ込められているのならばこうしてやればいい。首から折った椿を手のひらの上で転がすと、光だけが其処から浮かびあがった。
 そのまま天に昇っていく骸魂を見上げた有は、空いた片手をひらひらと振る。
「まあ、イイトコ行けるといーね」
 それを手向けの言葉として、有は手の中の椿をそっと握った。
 月に照らされて昇りゆく魂の光。
 その行く先は知れないが、きっと沈む眠りの世界よりは良い場所のはずだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
果たされなかった約束
叶わぬ願いがあるように、果たされない約束も少なくはない
……それでも言葉というものは、人を容易く縛ってしまう
それも、理解はしているのです

彼と手を繋ぎ、花の路を進む
全ての季節が在るということは、どの季節にも強く残る想いが在る
数々の思い出がこの地には咲いているとも言えるのかもしれませんね

綺麗ではありますが、この花の数だけ還れない者が居る
優しく触れて、少しずつ手折る
倫太郎も同じように手折るようですね

触れるは勿忘草
星のように散らす、小さな花々
忘れないで欲しいと投げかけるような言葉
そして、他には……
花言葉といっても色々あるのですね

魂を見送り、先を往く


篝・倫太郎
【華禱】
叶わなかった約束の果てがこれじゃ
余りにも哀しい

主と共に待ち続けた夜彦には他人事じゃないだろうな
夜彦の本体でもある花簪は約束の証
主をとうの昔に喪っても、それは変わらないみたいだし

そんな事を想いながら、手を繋いで花の路を進む
季節、本当に滅茶苦茶なんだな……
でも、どの花も綺麗に咲いている
そして多分、解放されたがってる

足を止めて手を伸ばしたのはスズランの花
綺麗に咲いているから惜しい気もするけど
縛り付けて良いものじゃないから、手折る

確か……スズランの花言葉って
約束に纏わる花言葉だった気がする

夜彦が手折った花を見て小さく笑う
そだな、色んな意味が込められてる

解き放たれた魂を二人で見送って
先へと進む



●花の先へ
 果たされなかった約束。
 叶わぬ願いがあるように、果たされない約束も少なくはない。
 月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は此度の異変を起こしているという雪女の心を思い、月が浮かぶ夜空の下を歩いていく。
「叶わなかった約束の果てがこれじゃ、余りにも哀しいな」
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)も同じ思いを抱き、花と眠りの世界を往く。
 彼の声に頷きを返した夜彦は静かに考える。
「……それでも言葉というものは、人を容易く縛ってしまいます」
 それも、理解はしていた。
 けれども割り切れないのが心というものだ。人を好ましく思い、好いてしまった存在が抱える思いはきっと酷く辛いものだろう。
 苦しい思いを抱き続ける者を思うと胸の奥が痛む。
 特に主と共に待ち続けた夜彦にとっては他人事ではないはずだ。倫太郎はそうに違いないと考え、夜彦の本体を思い浮かべる。
 花簪は約束の証。
 主をとうの昔に喪っても、彼の中ではそれは永遠に変わらない事実だ。
 そうして二人は互いの手を繋ぎ、花の路を進んでいく。その先には季節が滅茶苦茶になったような出鱈目な景色が広がっていた。
 此処には全ての季節がある。
 そのように感じた夜彦は、どの季節にも強く残る想いが在るのだと思った。
「季節、本当に滅茶苦茶なんだな……」
「数々の思い出が、この地に咲いている。そうとも言えるのかもしれませんね」
 自分達の考えを言葉にした二人は骸魂が宿っているらしき、淡く光り輝く花の方に向かっていった。
「どの花も綺麗だ。そして多分、解放されたがってるんだな」
「綺麗ではありますが、この花の数だけ還れない者が居るのでしょうか」
 頻繁にカタストロフが起こるという幽世ではこうして花が咲き乱れることも多い。流石にすべての花に骸魂が入っているわけではないが、そこかしこに魂の光が見える。夜彦はそのひとつずつを解放しようと告げ、倫太郎に呼び掛ける。
「行きましょう、倫太郎」
「ああ!」
 名前を呼ばれた彼は呼び方も様になってきたと感じて、穏やかな笑みを浮かべた。
 そして夜彦は花々に優しく触れ、少しずつ手折っていく。倫太郎も同じように手折るようだと知り、夜彦も次々と花を摘んでいった。
 そんな中、倫太郎がふと足を止める。
 気になる花があったからだ。其処から彼が手を伸ばしたのはスズランの花。
「綺麗だな……」
 美しく咲いているから折るのは惜しい気もしたが、魂をいつまでも縛り付けて良いものではない。花を摘んだ倫太郎は手の中のスズランを見遣った。
「確か……スズランの花言葉って、約束に纏わる花言葉だった気がする」
「花言葉といっても色々あるのですね」
 そう答えた夜彦が触れていたのは勿忘草。
 星のように散らす、小さな花々。それに宿っているのは忘れないで欲しいと投げかけるような言葉だった気がする。
 そして他には、と考えた夜彦は暫し無言のまま花を見つめた。
 倫太郎は夜彦が手折った花を見て、小さく笑う。
「そだな、色んな意味が込められてる」
 やがて周囲の花骸魂を殆ど摘み終わった二人は、解放されていく花を見送った。
 月を目指して飛ぶ光。
 自分達だけではなく他の猟兵が解放したものもあるようだ。
 天に昇る魂が見えなくなるまで空を見上げていた夜彦と倫太郎は、そっと頷きあう。
「そろそろ先に往きますか」
「そうだな、進もう」
 そして、意思を重ねあった二人は次なる戦場に向かって歩き出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

さて、件の雪女も気になるが、まずは花に憑りついた骸魂を天に送ってやらないとね。いつまでも彷徨うのは可哀想だし。

目に付くのは頭の方に咲いている藤の花。女性の美を表す花も彷徨う魂が宿っているなら、【歌唱】【破魔】で優しく子守唄を歌って穏やかに魂を解き放ち、天に送るよ。さあ、もう迷子は終わりだ。あるべき場所に還るんだ。


真宮・奏
【真宮家】で参加。

あ、迷子の骸魂さんがお花さんに宿っているのですね。そうですね、私は暴れん坊の骸魂さんにメッとしましょう!!

目の前には元気そうな向日葵。なんか暴れたそうに震えてますので、【破魔】を併せた眩耀の一撃で一閃!!暴れたい心を鎮めます。もう悪戯しちゃダメですよ~!!(天に還っていく魂を手を振って見送る)


神城・瞬
【真宮家】で参加。

これ程季節感を無視した花道は珍しいですね。まあ、この世界らしいですが。今は形無き骸魂でも今後危険な存在になる可能性がありますし、存在が希薄なまま彷徨う魂は放って置けませんね、

いい香りがして見上げれば金木犀の花が。銀製のフルートで【破魔】を併せた清光のベネディクトゥスを奏で、穏やかに彷徨う魂に天に還って貰いましょう。呼び出す精霊に寄り添われて天に還っていく魂に、安らかに、と祈ります。



●葬送の音と想い
 花と蜜の香りと、眠りが広がる世界。
 幽世の一角に降り立った真宮家の面々は周囲を見渡していた。
「これ程に季節感を無視した花道は珍しいですね」
 神城・瞬(清光の月・f06558)が見つめる先には朝顔が咲いており、その隣に雪割草が生えているという不思議な光景があった。
 真宮・奏(絢爛の星・f03210)も同じ方向を見遣り、咲き乱れる花に意識を向ける。
「迷子の骸魂さんがお花さんに宿っているのですね」
 中には淡く光り輝く花もあった。其処に骸魂が宿っていたり、閉じ込められていたりするのだと気付いた奏はぐっと拳を握る。
 意気込む奏の隣で、瞬も世界の様相を確かめていった。荒唐無稽とも呼べる状況の中でも瞬は幽世らしさを感じている。
「まあ、この世界らしいですが。今は形無き骸魂でも今後危険な存在になる可能性がありますし、存在が希薄なまま彷徨う魂は放って置けませんね」
 その言葉に、ああ、と答えた真宮・響(赫灼の炎・f00434)も花に入ってしまっている骸魂のことを考えていく。
「さて、件の雪女も気になるが、まずは花にいる骸魂を天に送ってやらないとね」
「そうですね、私は暴れん坊の骸魂さんにメッとしましょう!!」
「いつまでも彷徨うのは可哀想だ。二人とも、気をつけるんだよ」
「はい、母さん」
「まずは骸魂の花を見つけるところからですね!」
 響の呼び掛けに瞬と響が答え、三人はそのまま散開していった。この場の魂はそれほど強くはないらしく、どれだけの数を倒せるかが勝負。
 花を見つけて骸魂を葬送するならば、分かれて行動するのがいいと考えたからだ。
 そして、三人は花を探していく。

 花畑を抜けて駆けていく響は、月の光を頼りに進んでいった。
「おっと、早速見つけたかな」
 其処に明滅している光を発見した彼女は相手の様子を窺うために賭けるスピードを緩めていく。目に付いたのは藤棚に咲く紫の花。
 頭上に咲いている藤の花の一房が光り輝いている。
 藤の花には女性の美を表す意味があると響は知っていた。其処に彷徨う魂が宿っているなら、そっと送ってやるのが道理というものだろう。
「さあ、もう眠りな」
 破魔の力を込めた子守唄を紡ぎ、響は穏やかな思いを魂に向けた。娘達が子供の頃に歌ってやったように、静かに優しく。
 それによって魂は解き放たれ、天へと送られていった。

 一方、奏はというと――。
 彼女の目の前には元気に明るく咲く向日葵があった。だが、元気であるゆえに何だか妙に暴れたそうに震えていた。
 このままではきっと、何の罪もない周囲の花まで散らされてしまうかもしれない。
「見つけました! 暴れる前にやっちゃいますよ!!」
 シルフィード・セイバーを構えた奏は其処に破魔の力を乗せていく。相手が動く前に剣を振り被った彼女は、眩耀の一撃でひといきに一閃する。
「暴れたいその心を鎮めます!」
 かなりの力技ではあるが、それが奏なりの魂の静め方だ。
 見事に振り下ろされた一撃は向日葵に宿る骸魂を追い出し、葬送となって巡る。

 その頃、奏の元気な声を聞いていた瞬はふと顔をあげた。
 いい香りが漂ってきたのでそちらに目を向けると、金木犀の花が見えた。其処にも魂の光が宿っており、骸魂が暴れたそうにしている。
 されど瞬は慌てることなく、そっと銀製のフルートを口許に当てた。
「――貴方の歩む道のりは祝福されていますよ」
 言葉の後、破魔を併せた音色が戦場に響き渡る。奏でられるのは清光のベネディクトゥス。どうか穏やかに、と願う彼は鎮魂の音色を響かせ続けた。
 そして、彷徨う魂は天に還っていく。

 やがて合流した三人は睡蓮の池へと集っていた。
 其処にも魂がたくさん彷徨っており、皆で力を合わせるべきだと考えたからだ。
「さあ、もう迷子は終わりだ。あるべき場所に還るんだ」
 響が子守を歌をうたいあげ、瞬がフルートを吹いていけば、魂は次々と空へと昇っていった。月を目指す光は瞬が呼び出す精霊に寄り添われながら天に向かう。
 安らかに、と祈る瞬と響。
 二人の隣では奏が骸魂達を見送り、大きく手を振っていた。
「もう悪戯しちゃダメですよ~!!」
「さて、この辺りはもう大丈夫かね」
「先に進むためにも、もう行きましょう」
 そうして三人は次の戦場に向かうべくして歩き出す。桜が咲く並木道の向こう側に広っているという迷宮を思い、彼女達はしっかりと気を引き締めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

死、それは永遠の別れ
それでも逢いたいと願うのはツライね
でも少しでも解き放つ事を手伝う事が出来れば
えぇ、進みましょうか、ルーシーちゃん

月が幻想的に煌めく
確かに綺麗だねぇ

春夏秋冬、季節問わず咲き誇る花々達
一際気になる花
彼女がそれを指差す
嗚呼、同じ目線は同じ花、向日葵
僕と彼女の華
彼女と手を繋ぎ導くままに

一撃でも解放出来る
でもこの花にはそれは出来なかった
彼女の優しい言葉に微笑んで
僕もそっと触れる
もう大丈夫ですよ
ゆっくりおやすみ

彼女に言われて屈むと髪にあの花が咲く
ありがとうねぇと御礼を言って
お返しにそっと彼女の髪へと飾る

とても良く似合う、可愛いよ
ふふっ、お揃いだね


ルーシー・ブルーベル
【月光】

もう死してしまった、会いたい人
無理と分かっていても
あきらめる事はとてもむずかしい
解き放つためにも
まずは進みましょう、ゆぇパパ

水面に月がゆらいで
キラキラしていてキレイ

色々な季節のお花たち
あのお花もあるかしら?
あ!みてみて、パパ
ヒマワリよ!
繋いだ手を引いて
月明かりに咲く太陽の花にふれましょう
パパとの想い出の花だから
出来るだけ優しく
そっと

どうしてここに?
迷子かしら?
ルーシー達が送ってあげる
おやすみなさい
いってらっしゃい
ひとつひとつに声をかけて

ねえパパ、かがんで?
魂が去った小さめのヒマワリを
パパの髪にそっとさす
ふふ、とってもかわいいわ
なんて

髪に柔らかな重み
おそろいの花
……ええ!ありがとう、パパ



●太陽の花
 死、それは永遠の別れ。
 もう死してしまった、会いたい人。それを求めることは悪いことだろうか。
 この世界に異変を起こしている雪女の骸魂を思い、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)とルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は花が咲く路を歩いていく。
 花に満ちた場所であっても、眠りの世界は何だか寂しい。
「会えないと、無理と分かっていても、あきらめることはとてもむずかしいわ」
「それでも逢いたいと願うのはツライね」
 ルーシーとユェーは視線を交わした後、それぞれに思いを巡らせた。悲しいけれども少しでも解き放つことを手伝えれば、猟兵冥利に尽きるというもの。
「解き放つためにも、まずは進みましょう」
「えぇ、進みましょうか、ルーシーちゃん」
 ゆぇパパ、と呼ばれたことに笑みを返したユェーはそっと頷く。そうして二人は月が映り込む池の傍に辿り着いた。
 月が幻想的に煌めく様を見上げたユェーに対し、足元を見下ろしたルーシーは水面にも空と同じ光が映っていることに気付く。
「水面に月がゆらいで、キラキラしていてキレイね」
「確かに綺麗だねぇ」
 池の周辺に骸魂はいないらしく、二人は暫し月と花の情景を眺めた。
 春夏秋冬、季節問わず咲き誇る花々。
「あのお花もあるかしら?」
「あると良いねぇ」
 それらは見ているだけならば美しくて可愛らしいものだ。そして、その中にユェーがひときわ気になる花があった。
 するとルーシーも同じ花を見つけたようで、嬉しげに指を差す。
「あ! みてみて、パパ。ヒマワリよ!」
「おや、僕も同じものを見ていたよ」
 二人の視線の先にあるのは愛らしく咲く向日葵だ。
 それは自分達の花と示すに相応しい、明るい色の花。繋いだ手をぎゅっと握って進んでいくルーシーに続き、ユェーも月明かりの下に咲く向日葵へと近付いていく。
 しかしどうやら、其処には骸魂が宿っているようだ。
「あなたもヒマワリが好きなの?」
 太陽の花に入り込んでいる魂に気付き、ルーシーが問いかける。
 すると小さな光がふわふわと明滅した。何を言っているのかはユェーにもルーシーにもわからなかったが、敵意がないことだけは理解できる。
「どうしてここに? 迷子かしら?」
『…………』
 返ってくるのは光のみ。
 それでも、そう、と頷いたルーシーは花に柔く触れた。
 向日葵はパパとの想い出の花。だから傷付けないように、出来るだけ優しく――。
 その姿を見ていたユェーは取り出しかけていた武器を仕舞う。花に一撃を入れるだけでも解放が出来ると聞いていた。
 しかし、この花にはそうすることは出来ない。
 ユェーが少女と向日葵に宿る骸魂を見守っていると、ふと柔らかな声が聞こえた。
「ルーシー達が送ってあげる」
 彼女の優しい言葉に微笑みを浮かべたユェーは、同じくそうっと花に触れる。思いを向ければ送れるのだと思い出し、ユェーもそうすることに決めたのだ。
「もう大丈夫ですよ」
「おやすみなさい。それから、いってらっしゃい」
「ゆっくりおやすみ」
 ルーシー達は骸魂が眠っていた花のひとつひとつに声をかけていく。そうやって魂の光は少しずつ天に昇っていった。
 まるで蛍が空に舞うようだと感じたユェーはその姿を見送る。
 そのまま暫し夜空を眺めていたとき、ルーシーが彼の服の裾を軽く引っ張った。
「ねえパパ、かがんで?」
「うん?」
「あのね、これ。ふふ、とってもかわいいわ」
 屈んだユェーの髪に、ちょこんとちいさな向日葵の花が乗せられる。思い出の花が咲いたと感じた彼は、ありがとうねぇと御礼を告げた。
 そうして、そのお返しにそっと彼女の髪へと別の向日葵を飾ってやる。
 髪に柔らかな重みを感じた少女は、わあ、と瞳を瞬かせた。おそろいの花が嬉しいというように微かに笑むルーシーは愛らしい。
「ルーシーちゃんもとても良く似合っていて、可愛いよ」
「……ええ! ありがとう、パパ」
「ふふっ、お揃いだね」
 こうして自分達の証でもある花と一緒に微笑みが咲いていく。咲いあう二人の眼差しはとても快く、あたたかなものだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
菱川さんと/f12195

そういえば…
水辺に咲く睡蓮を摘もうとすると、
魔物に引きずり込まれると本で読んだことが――
(池につるっと落ちそうになって)
…なるほど!

触れるだけで骸魂が抜けるならと、
【花吹雪】でゆるり風を起こして彼らを誘います。
怖いことなんてないからと。
まどろんでいる方をそっと揺り起こすように、
あるいは寝かしつけるように。
散り際の花びらたちも旅路に誘い出し、
月まで届けと天高く。
…極楽浄土に宵があるなら、きっとこんな風でしょう。

白詰草、蒲公英。向こうに向日葵、こっちは秋桜。
いちばんお好きな花はなんですか?
俺は…桃に梅。藤に百木蓮。紫陽花、金木犀、椿…
ふふふ。いちばんがたくさんあるもので!


菱川・彌三八
雲の字と/f22865

月と睡蓮が同じ刻に見られるたァな
落ちるなよと云おうとした矢先、転げ落ちそうな腕を引く
…成程じゃねェや

さて、此の花総てに触れる訳にもいかねえ…と思っていたところ
眠りの花に眠りの桜たァ乙なモンだ
四季の交わらねェ花に桜吹雪てのも存外悪かねェな
月灯りにもよう映える
辿り着かなかった魂も、此の様に送られるンなら浮かばれるだろうさ

後は漫ろに歩いて行こうぜ
彼方には春、此方には夏
見た事のねえ花も幾つか
名を訪ね、気まぐれに触れ、浮かんで往く光を見送り乍ら
消えねえってンなら手控え用に知らぬ物から手折る
花ァ何でも好きだが、矢張り其の季節に愛でるのが一等好いやな
桜のお前ェさんは、何かあるのかい



●桜雪月花
 月光が射す花の世界。
 何もかもが眠りについた静寂の世界は、物語に描かれるようなあの世そのものだ。
 しかし、其処彼処に咲き乱れる花は美しい。
 池に映る月明かりを頼りに進む雨野・雲珠(慚愧・f22865)と菱川・彌三八(彌栄・f12195)は、水面に咲く睡蓮を眺めていた。
「月と睡蓮が同じ刻に見られるたァな」
 彌三八が双眸を細め、こりゃあ良い、と月と花の様相を見つめる。此処に風か雪でもあればもっと風流だっただろうか。
 その少し先を歩く雲珠は興味深そうに花が揺らめく池を覗き込んでいた。
「そういえば……」
 ふと思い出したのは以前に読んだ本の内容。
 水辺に咲く睡蓮を摘もうとすると魔物に引きずり込まれるのだという。雲珠はそれが本当かどうか確かめたくなり、屈み込んで睡蓮に手を伸ばす。
 へぇ、と雲珠が語った内容に頷いた彌三八が、落ちるなよと云おうとした矢先。
「……!」
 雲珠が均衡を崩して滑った。言葉よりも先に転げ落ちそうになった彼の腕を、咄嗟に彌三八が掴んだことで事なきを得る。
「なるほど! 滑りやすいからあんな話が生まれたんですね」
「……成程じゃねェや」
 池に落ちそうになったことよりも謂れの理由を知ったことに感心する雲珠。肩を竦めた彌三八は好奇心でいっぱいの少年の腕をそっと離した。
 放って置けねェな、なんて思いは言葉にしないまま、雲珠の隣にさりげなく付いた彌三八は歩みを進める。
 その先にはこれまでとは違う、淡く光る睡蓮の花が見えた。
「あれが骸魂かい?」
「そのようですね。敵意は見えませんが……」
 二人はその魂の光が穏やかなものだと感じ取り、ゆっくりと歩み寄っていく。
 見ればひとつだけではなく、弱々しい光が幾つもの睡蓮に宿っていた。きっとどれもが眠りの花に閉じ込められてしまった形なき魂なのだろう。
「さて、此の花総てに触れる訳にもいかねえか」
「それなら任せてください!」
 彌三八がどうするか考えようとした矢先、雲珠は名案があるといって一歩前に踏み出した。触れるだけで骸魂が抜けるなら、自分の力を使っていけばいい。
 片手を池の方に伸ばした雲珠。
 また落ちそうになるなよ、と告げた彌三八は空いている片手を彼に添える。支えてくれる彼の手の熱に安堵を覚えた雲珠は、花吹雪を巡らせていった。
 雪の如く白い桜が池の上に舞う。
 水面に映る雪色が月の光を受けて煌めいているかのようだ。夜風すら睡っている世界で、桜の精が散らす緩やかな風は骸魂をそうっと誘っていく。
 その光景はまさに雪月花。
「眠りの花に眠りの桜たァ乙なモンだ」
 彌三八は雲珠の力に称賛を送り、桜吹雪が宿す癒やしを肌で感じ取っていった。
 四季の交わらぬ花に桜吹雪。不可思議な情景ではあるが、存外悪くはない。月灯りにも映える光景は実に美しい。
「怖いことなんてないから、大丈夫」
 雲珠は微睡んでいるものたちをそっと揺り起こすように、更に花風を舞わせた。起こすだけではなく、或いは寝かしつけるように。散り際の花びらたちも旅路に誘い、天高く月まで届けと願う。
「……極楽浄土に宵があるなら、きっとこんな風でしょう」
「辿り着かなかった魂も、此の様に送られるンなら浮かばれるだろうさ」
 言葉を交わす二人に見送られ、数多の骸魂は月へと飛んでいく。望む場所に辿り着けると良いと思い、雲珠達はその姿を暫し見つめていた。
 彼らの役目は其処で一先ず終わる。
 さて、と月をもう一度振り仰いだ彌三八は雲珠達をいざない、未だ歩いていない池の向こう側へと進んでいく。
「後は漫ろに歩いて行こうぜ」
「はい、行きましょう!」
 何せ彼方には春、此方には夏の花が見えている。振り向けば冬も、更には秋も感じられる花の世界は興味深い。
 彌三八が見たことのない花もあり、雲珠も目に映る花をひとつずつ確かめていく。
 白詰草に蒲公英。向こうには向日葵があって、こっちには秋桜がある。綺麗ですね、と楽しげに目を細める雲珠にもまた、笑みが咲いている。
 彌三八は楽しげに花の名を語る雲珠に知らぬ植物の名を訪ね、気まぐれに花に触れ、空に浮かんで往く光を再び見送っていく。
 そんな中で雲珠も、彌三八にふとした思いを問いかけた。
「いちばんお好きな花はなんですか?」
「花ァ何でも好きだが、矢張り其の季節に愛でるのが一等好いやな。桜のお前ェさんは、何かあるのかい」
 答えた彼が問い返したことに対して雲珠は暫し考え込む。その間にも二人は歩みを止めず、様々な花を眺めていった。
「俺は……桃に梅。藤に百木蓮。紫陽花、金木犀、椿……」
「そいつァ多いな」
「ふふふ。いちばんがたくさんあるもので!」
 可笑しそうに口許を緩めた彌三八に向け、雲珠は得意気な笑顔を見せる。そうして、彌三八は自分が知らぬ花――ディモルフォセカを手折った。
 どうしてか、その花の元気の良さが雲珠と重なって見えたからだ。
 それから暫し後、二人はもう一度だけ月が映る池へと戻ってきた。今しか見られないこの景色を、ひとつの思い出として収めるために。
 花に月光、桜と風。
 重なりあう色は唯静かに、眠りの世界を彩っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フルラ・フィル
かくり/f28103

フフ、花達が咲き乱れ騒いでいるよ
かくり
嬉しくて堪らないとも
私は楽しみでならないのさ

彼らはどんな蜜になるだろうか、とね
踏み躙って散らせたら
それとも、優しく愛でてやろうか
フフ
どちらが美味しいだろうかね

絢爛の花の海を泳いでいるようだね
キミの纏う黒がよく映えて美しいよ
かくり
キミは春に咲く花を探しているの?
きっとそれは、地に這いつくばるように健気に咲いているのかもしれないな
……私は、私の求む花の名など……わすれたよ

此方は白、此方は青
どれも美しいね
骸魂かい?みえるとも
フフ、それはいいね
花に宿る前に
甘やかな一撃をくらわせてやろうか

そうさ
蜜になりたくないならお還りよ
還らないなら―わかるね?


揺・かくり
フルラ/f28264

四肢に貼り付ける呪符は無い
此度は宙を游いで往く事としよう。

四季の花が咲き乱れる一面の花畑
此れはまた、奇っ怪な事象だね。
君にとっては喜ばしい事なのだろうか
如何なる蜜を仕立てるつもりかな。

彼方は赤、此方は黄
何方を眺めても、何と眩い事だろう。
彼の鮮烈な彩の花は、何処かで
冬に耐え忍び春に咲くと云う花
花の名は……
ああ、思い出せない

其れは其れだ。構わぬとも
数多の花弁に紛れて浮かぶ骸魂が見えるかい?
ああ、私は言葉を交わす事が得意ではないのだよ
言葉に変わって、良い一撃をくれてやろう

念力を纏わせるのは大きな石
花々を散らさぬよう細心の注意は払おう
彷徨う魂たちよ
君たちの住まう場所へと還ると良い。



●春巡る花蜜
 冴え冴えとした月光が射す花の地。
 眠りの世界と化した幽世の景色には静謐な空気が満ちていた。普段ならば妖怪達で騒がしいはずの地も、今は時が止まってしまったかのように静かだ。
 妖怪の代わりに騒いでいるのは様々な花々。
 かれらは言葉を発したりはしていないが、色とりどり――否、出鱈目なほどに花ひらいている様は喧騒にも似ていた。
「花達が咲き乱れ騒いでいるよ、かくり」
 フルラ・フィル(ミエルの柩・f28264)は隣に浮遊する揺・かくり(うつり・f28103)を呼び、芽吹きを思わせる新緑の瞳を細めてみせる。
 今のかくりには四肢に貼り付けられた呪符は無い。宙を游ぐように進むかくりは、茫洋とした瞳を花に向けた。
「此れはまた、奇っ怪な事象だね。君にとっては喜ばしい事なのだろうか」
「嬉しくて堪らないとも。私は楽しみでならないのさ」
 四季の花が咲き乱れている一面の花模様の中で、かくりの静かな眼差しとフルラのあえかな微笑みが交差していく。
「楽しみと云うと?」
「彼らはどんな蜜になるだろうか、とね」
「成程。如何なる蜜を仕立てるつもりかな」
 花蜜の魔女たるフルラにとって、魂が宿る花々こそ格好の獲物のようなもの。淡い見目とは裏腹に、魔女の思考は闇に傾いている。
 踏み躙って散らせたら。それとも、優しく愛でてやるべきか。
「フフ、どちらが美味しいだろうかね」
「どちらも試してみるかい?」
「ああ、それは良いね」
 魔女と悪霊は何でも無いことのように花を惨む算段を立てていく。されどそれを実行に移すのは件の魂を見つけてから。
 かくりは緩慢に首を動かし、周囲の花を改めて確かめていった。
 彼方は赤、此方は黄。
 此方は白、向こうには青。
 何方を眺めてもかくりには眩く思えてならない。己の身にはそのような色彩を纏わぬからだろうか。彼の鮮烈な彩の花は、何処かで見たことがある気がしたが――。
「花の名は……ああ、思い出せない」
 冬に耐え忍び春に咲くと云う花だということは分かったが、それ以外は浮かばない。
 額を軽く押さえたかくりだったが、そのまま游いで往く。フルラは彼女の少し先を歩いており、辺りの花に目を向けていた。
「絢爛の花の海を泳いでいるようだね。ねえ、かくり」
 振り向いたフルラは、キミの纏う黒がよく映えて美しい、とかくりを称する。そして、先程の言葉を聞いていたらしいフルラは徐に問いかけてみた。
「どれも美しいね。ところで、キミは春に咲く花を探しているの?」
「どうだろう、記憶にはないな」
「きっとそれは、地に這いつくばるように健気に咲いているのかもしれないな」
「そうであれば見付かり辛いか。君には、探す花はあるのかい」
 これほどに花が咲いているなら探しているものも見つかるかもしれない。二人はそのような会話を交わしていく。
 その中でかくりが問うた言葉を聞き、フルラは首を横に振る。
「私は……私の求む花の名など……わすれたよ」
「……そうか」
 会話は一度その場で途切れた。しかし、その理由は別にある。
 かくりとフルラは樹々の向こう側に咲いているラナンキュラスを見つけた。そして、その中に淡く明滅している魂があることに気が付いたのだ。
「数多の花弁に紛れて浮かぶ骸魂が見えるかい?」
「骸魂かい? みえるとも」
 どうやらそれは敵意めいた意思を宿しているらしい。言葉を交わすことが得意ではないかくりであるゆえ、それは好都合なことだ。
 禍々しい気を満ちさせて浮かび上がる光の数々。それらを瞳に映したかくりは念動力を周囲に巡らせていく。
「言葉に変わって、良い一撃をくれてやろう」
「ああ、それはいいね」
 フルラも杖を構え、花に宿る前に甘やかな一撃を、と狙いを定めた。かくりが念力を纏わせたのは近くにあった大きな石。
 何も罪のない花々は散らさぬよう繊細に石を操り、かくりは骸魂を見据える。
「彷徨う魂たちよ、君たちの住まう場所へと還ると良い」
「そうさ、蜜になりたくないならお還りよ。還らないなら――わかるね?」
 魂を穿つ剛の石。
 そして、振るわれる魔女の杖。
 ふたつの力はラナンキュラスに宿っていた悪しき骸魂を貫いては導き、或いは新たな蜜へと変えてゆく。
 やがて、辺りに元あった静けさが再び満ちた頃。
「眠りも覚めてしまったかな」
「フフ、幾つかは良い蜜になってくれたよ」
 かくりとフルラは鎮めた魂が還っていく様を見送っていた。その一部はフルラの花蜜小瓶に閉じ込められていたが、それはそれで屹度良い。
 魂から解放されたラナンキュラス達はそんな二人の傍で、静かに揺れていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柚木・眞衣
花が、咲いてる

彩り豊かな花々に一瞥をくれ
月光に照らされる花の路を進む

惹かれるのは、夕顔

自身に宿るのも夕顔の花姫
だから、同じ花が気になって

ふと夕顔の隣に目を遣れば
朝にしか咲かない朝顔が

ふたつ並んで咲くのは珍しい
屈み込んで近くで見れば
ひとつは、ぷるぷる震えてる

もしかして、骸魂?

何も宿ってない朝顔へ
縋るような夕顔の様子に
目を細めて、暫く見詰めた

──大丈夫、

静かにぽつり呟いて
優しい手つきで花を撫で
骸魂をそっと天へ還す

それを見送って溜め息ひとつ

骸魂が、朝顔に縋る様子は
昔、双子の片割れに縋り付いた
そんなわたしの記憶と、重なった

──大丈夫、なんて
わたしが言っちゃいけないのに
あの子を✕✕したのは、わたしだから



●双つ花
 花が、咲いている。
 それも今の季節に咲くものだけではない、夥しいほどの花が。
 柚木・眞衣(Evening・f29559)は歩を進め、彩り豊かな花々を一瞥した。月の光が照らす花の路はあまりにも綺麗であるがゆえに、世界の終わりへの道筋に思える。
 冬の花と夏の花。
 それから春の花と秋の花。
 隣り合うことのないものたちが並び咲く様を瞳に映し、眞衣は暫し進んだ。眠りを誘う蜜の香りが其処ら中に漂っていたが、彼女はそのようなものには屈しない。
 その中でふと、惹かれるのは――夕顔。
 気付けば視線が其方に向いていることを自覚して、眞衣は立ち止まった。
 自身に宿るのも夕顔の花姫。
 そのため同じ花が気になってしまうのは宿命めいている。眞衣は夕顔の隣に目を向け、其処に朝顔まで咲いている様を眺めた。
 朝にしか咲かない花であるそれと、夕顔が並んでいる。
 季節も問わず花ひらく世界では、こうして時間すら関係なく花が咲くらしい。美しく珍しくあっても此処が異変の最中であることを示しているようだ。
 しかし、現実では有り得ない花模様は一概に悪いものとは呼べなかった。
 眞衣はそっと屈み込む。
 近くで見てやっと気付ける程度ではあったが、花の片方が僅かに光っていた。そして、どうやらぷるぷると震えているらしい。
 この世界では風すら睡っているので、何かに揺らされているわけではない。
「もしかして、骸魂?」
 軽く首を傾げると、震えが少し強くなった。
 何も宿っていない朝顔へ縋るような夕顔。その様子に目を細めた眞衣は、暫し花を見つめていた。そして、そうっと告げる。
「――大丈夫、」
 静かに、恵みの雨のひとしずくを降らせるように呟いた眞衣は手を伸ばした。
 指先で花弁に触れて、優しい手つきで花を撫でる。そうすれば夕顔から光が零れ落ち、ふわりと浮かびあがった。
 こうして思いさえ向ければ葬送に多くの言葉は要らない。花から解放された骸魂が天へ還っていく様を見送り、眞衣は月の空に視線を向けた。
 魂の光が見えなくなってから、眞衣はちいさな溜め息をひとつ落とす。
 少しだけ似ていた気がした。
 あの骸魂、夕顔が朝顔に縋る様子は自分達のようだ。
 眞衣も昔は双子の片割れにああして縋り付いた。過去の記憶と花の在り方が重なり、眞衣は眼差しを地面に向ける。
(あの言葉は、わたしが言っちゃいけないのに)
 だって、そう。
 あの子を✕✕したのは、わたしだから。
 言葉にはしない思いと共に眞衣は歩き出した。並んで咲く朝顔と夕顔に背を向けて、朧気な月明かりが示す花の路の先へ――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢海・夾
知らない花ばかりだな…ま、知ってるもんなんてそう多くねぇんだが
どれも綺麗だしいい香りなんだけどな
だが、オレは操ろうとしてくるものは嫌いだ
…こんな所で寝てる訳にはいかねぇんだよ、オレは
守りたいものがある、だから止まる訳にはいかねぇんだ

好き好んで燃やしたくはねぇけどな、こういうのも必要なんだろ
遊んでやるよ、何もかも綺麗さっぱり燃やし尽くして軽くしてやる
さぁ、踊れ、舞い上がれ、火で照らして――輝かせてやるよ、燃え尽きるまで
迷うなよ、まっすぐ昇れ



●狐火と花
 月明かりに照らされた花の世界。
 其処には静けさが満ちていて、美しい情景だというのに奇妙さも宿っている。
「知らない花ばかりだな……」
 眠りの世界と化した幽世に訪れた逢海・夾(反照・f10226)は周囲に咲く花々を見渡し、感じたままの思いを言葉にした。
 譲葉に菖蒲、蓮華に百日紅、浜柃。
 季節など関係なしに咲き乱れている花や樹が並ぶ様相はやはり違和がある。
「ま、知ってるもんなんてそう多くねぇんだが」
 歩きはじめた夾は名前の知らぬ花を見遣り、感心めいた思いを抱いた。異変の最中であるとはいえど景色だけは良いものだ。
 どれも綺麗で良い香りだと感じるのは悪いことではない。
 だが――。
「オレは操ろうとしてくるものは嫌いだ」
 この場には眠りに誘う蜜の香が漂っていた。猟兵であるがゆえに、この世界で暮らしている妖怪達のように倒れてしまうことはないが、蜜の香りを完全に受け入れてしまった場合は夾とて眠りに落ちるのだろう。
 無論そんなことにはならないし、なりたくもないと思っているので何もせずに昏睡してしまうことはない。
「……こんな所で寝てる訳にはいかねぇんだよ、オレは」
 微睡みは心地好く良いものだ。
 此処に来るまでに見てきた、眠っている妖怪達にも苦痛は見えなかった。ただ皆が平等にやさしい終わりに向かっている。そのような印象がした。
 されど夾には矜持がある。
「守りたいものがある、だから止まる訳にはいかねぇんだ」
 決意を宿した言葉を落とし、夾は花に宿るという骸魂を探していく。既に他の仲間達がそれぞれの方法で骸魂を解放していた。
 大人しい魂もいるようだが、好戦的な魂もこの場には存在している。そして、夾の目に止まったのも禍々しい雰囲気を纏う骸魂だった。
 それは月が映る池に咲く睡蓮に宿っているらしく、妖しく明滅している。
 身構えた夾は敵意を受け止めた。
「好き好んで燃やしたくはねぇけどな、こういうのも必要なんだろ」
 遊んでやるよ。
 そう告げて、赤く光る骸魂に意識を向けた夾は周囲に狐火を浮かべてゆく。
「何もかも綺麗さっぱり燃やし尽くして軽くしてやる」
 ――さぁ、踊れ、舞い上がれ。
 火で照らして輝かせて、燃え尽きるまで遊びつくそう。
 炎の灯が瞬く間に花骸魂を包み込み、好戦的な意思ごと焼いて落としていった。夾への攻撃もあったが、弱い魂からの一撃など簡単にいなせる。
「迷うなよ、まっすぐ昇れ」
 そうして魂を燃やした夾は空を見上げる。
 天に還るであろう骸魂を見送る彼の双眸はほんの少しだけ、遥か遠くを見ていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

葉山・鈴成り
今日は月が綺麗っスねぇ。
こんな日は眠るのが少しばかり惜しいっス。
見上げた空と覗いた池に映る同じ月
それだけでなんだか気分も上がるし心が踊る

咲き乱れる花の路を軽やかな足取りで歩いていくよ
どこを見ても花、花、花!それもたくさん
季節なんて関係ない、椀飯振舞いじゃないっスかぁ

骸魂の宿った花を優しく手に取るっス
だって俺たちもこうなってたかもしれないし。
俺と鈴成はたまたま運が良かっただけで、
キミは辿り着けなかったンすねェ。

でも大丈夫っス。
ほら見てこんなに月が綺麗。
幽世の月、キミにもちゃあんと見えてるっスか?

安心して眠るといいよ。
だってここにはもう怖いものなんてないんだから。
眠るまで、俺が見ててあげるっスよ。



●貳の光
 今宵は月が綺麗だ。
 静かな夜空に浮かぶ煌々と輝くもの。眠りの花と蜜に満ちた大地に薄い光を降りそそがせる月を眺め、双眸を細める。
「こんな日は眠るのが少しばかり惜しいっス」
 葉山・鈴成り(左魂・f28040)は空を見上げ、口許を軽く緩めた。
 そして、視線は夜空から足元へ。
 振り仰いだ空と覗いた池には同じ色をした月が映っている。今の幽世は夜風も睡りについているので、水面を揺らすものはなにもない。
 それゆえに水鏡には何の揺らぎもなく、月の姿が美しく映り込んでいた。
 空の月と水面の月。
 その輝きはどうしてか、二人でひとつとして存在する鈴成り達にも似ている。そう思えば、それだけで何だか気分も上がって心も踊った。
 それに月だけではなく、周囲には様々な花も咲き乱れている。
 崩壊に傾いた今の世界では、狂い咲くと称した方が相応しいかもしれないが――花を美しく綺麗だと思う心は変わらない。
 鈴成りは軽やかな足取りで花の路を歩いていく。
 足元には芝桜が咲いていた。少し先を見遣れば、秋桜と鈴蘭が隣り合っている。
 それだけではなく、芍薬や霞草、花水木など。どこを見ても花、花、花。たくさんの色彩に満ちた夜道は絢爛とも呼べる様相だ。
「季節なんて関係ない、椀飯振舞いじゃないっスかぁ」
 楽しげに歩を進める鈴成りは周囲を見渡していく。そうすれば花の中に淡く光り輝くものが見えた。月明かりに照らされているのではなく、自ら発光しているようだ。
 その花は真白な金魚草。
 多くの花を咲かせる中のひとつに骸魂が宿っているらしい。
 鈴成りは骸魂の宿った花を優しく手に取り、おいで、とそっと呼び掛けた。不安気にも感じる光の明滅が少し早くなる。
 大丈夫っスよ、と花に告げた鈴成りは花を撫でた。
 もしも運命の巡りが悪ければ、自分達もこの骸魂のように彷徨い、花に閉じ込められて怯えていただけかもしれない。鈴成りと鈴成はたまたま運が良かっただけで、きっとこの魂と何も変わらないはずだ。
「キミは辿り着けなかったンすねェ。でも、もう心配ないっス」
 ほら見て、と鈴成りが花に示してみせたのは夜空。
 こんなに月が綺麗で美しいのだから、何も怖いことなどない。睡りと蜜に満ちた世界の異変だって自分達がもとに戻してみせるから。
 そんな風に告げた鈴成りは手にした花をそっと天に掲げた。
「幽世の月、キミにもちゃあんと見えてるっスか?」
 安心して眠るといいよ。
 だってここにはもう怖いものなんてないんだから。
 花にだけ伝える思いを巡らせて、鈴成りは魂に呼び掛けた。すると金魚草からふたつの光がふわりと飛び立つ。何だ、と幽かに笑った鈴成りは花に宿っていたのも自分達に似たふたつでひとつの魂なのだと知った。
「眠るまで、昇るまで、俺が見ててあげるっスよ」
 月を目指して舞う魂の光は、寄り添いながら高くへと昇ってゆく。
 新たな旅路についた魂達はこれから何処へ行き、何を見ていくのだろうか。その最初の軌跡を眺める鈴成りの眸には優しい思いが宿っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『雷獣古桜』

POW   :    桜の枝の先には、桜の樹の下には
【首吊り紐や短刀】で武装した【呪われた自決者】の幽霊をレベル×5体乗せた【妖怪桜】を召喚する。
SPD   :    紫電一閃
自身の【雷光】が輝く間、【雷獣が変化した片刃剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    桜の癒やし・狂い花
【心地よい電流を帯びた桜の花吹雪】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●桜の迷宮へ
 眠りに満ちた花の路の先。
 形になれなかった骸魂を見送った猟兵達は、桜並木の奥にある迷宮めいた場所に訪れていた。其処は古木が折り重なって出来た不可思議な場所だ。
 辺りには桜しか咲いていない。
 世界に異変が起きているからか、咲く桜の種類も様々だった。
 枝垂れ桜に豆桜や山桜、八重桜に彼岸桜、寒緋桜。真白に近い花もあれば、血の如く紅い花弁を宿す桜まである。
 迷宮になっているだけあって此処には月の光も届かない。
 天井に重なった桜や枝が光を遮っているらしい。不思議と仄かな灯はついているが、一歩でも進めば方向感覚が失われるようだ。
 桜はとても美しいが、此方を更に迷わせるかのように妖しく揺れていた。
 
 注意して進まなければいけないと感じたとき、猟兵の前に何かが迸る。
 闇を裂き、咲いていくかの如き鋭い光の筋。それが雷撃だと気付いたときには、目の前に幾つもの人影が現れていた。
「おいでませ、おいでませ」
「桜の枝の先には、桜の樹の下には、何が睡っていると思いますか?」
「ふふ……そう、死体ですよ」
 虚ろな言葉を並べた妖怪達――古桜の精が猟兵達の路を阻む。
 眠りの世界の最中にいながらも未だ微睡みにすら落ちていない様子からすると、どうやら骸魂に身体を乗っ取られているようだ。彷徨う雷獣の魂を宿しているらしい古桜の精達は、此方に並々ならぬ敵意を向けている。
「さあ、斬り合いましょう」
「我らの雷撃で木葉微塵に散らして差し上げます!」
 どうやら話は通じず、倒すことで沈黙させるしかない。そうすれば骸魂だけを滅して送ることができ、桜の妖怪達も助けられる。
 雷獣古桜達は手にした剣を構え、今にも襲いかかって来そうだ。
 周囲には絶えず桜の花が散っており、淡い彩を宿した雷撃が空気中に疾走っている。

 救うために。この先に進む為に。
 桜舞う迷宮にて、花と雷が躍る戦いが始まってゆく。
 
芥辺・有
どこもかしこも、ってやつかい
中々目が回りそうな景色だけど……さて
迷ったついでに歩き回ったりすんのはさ、嫌いでもないけどね
邪魔されんのは好きじゃない

桜の下には……って映画なんかでも聞いたことあったかな
ほんとかどうかは知らないけどね
なにかが眠るってんならお前らが眠るといい
好きに斬りかかっておいで
斬り返す刀はないけど、そうだね、……椿なんかどうだい
生憎コレみたいにきれいなモンじゃないけど
言うが早いか握っていた椿をポンと放って
傷口の血をすくい上げる

椿というにゃオコガマシイな……
それでも血腥い方がお似合いかもね
お前たちが斬りかかってくるほど
おかげさまで、たくさんくれてやれるから
見逃しはしないさ



●紅椿
 何処を見ても桜の花が満ちている。
 白い花、薄紅の花、または赤い花。色と形は違っていても、どれも桜だ。
「どこもかしこも、ってやつかい」
 桜迷宮を眺めていた有は、美しさよりも奇妙さを覚えていた。桜は誰でも知っている儚い花ではあるが、これほどまでに入り組んだ迷宮を形成しているのならば別。
 古枝が互いに絡みつき、赤い花が白い花を汚すかのように零れ落ちている光景。それは不気味さを感じさせる。
「中々目が回りそうな景色だけど……さて」
 歩き出した有は其処彼処から放たれている殺気を察していた。
 普段ならば迷ったついでに暫し歩き回って、周囲を散策するのも悪くはないと思っただろう。されど今は此方を狙っている者達の気配が濃い。
 有は桜の樹の後ろにいるであろう妖怪に呼び掛け、誘うように手招きをした。
「邪魔されんのは好きじゃないんだ。出ておいでよ」
「この先、罷り通ることは許されぬ」
「そうかい、それでも通らせてもらうけどね」
 姿を現したのは紫電を纏った桜の精達だ。その様相からは鋭さが感じられ、明らかに何かに乗っ取られている雰囲気がした。
「桜の枝の先には、桜の樹の下には……」
 ――何が睡っている。
 雷獣古桜は問いかけるような言の葉を紡いだ。対する有は身構えながらも、その声に付いて考える。桜の下には死体がある。そのようなことが物語や映画などで語られているのを聞いたことあった気がする。
「死体だっけね。ほんとかどうかは知らないけどね」
「眠りませ、睡りませ」
「話が通じないね。なにかが眠るってんならお前らが眠るといい」
 此方の言葉を聞いているのかいないのか、古桜達は片刃剣を差し向けてきた。どうやらあれが桜の精に取り憑いている雷獣の化身のようだ。
「好きに斬りかかっておいで」
 敢えて敵の先制攻撃を許した有は、迸る雷光を見据えた。
 刃を振り下ろしながら紫電を巡らせた骸魂妖怪は一気に有を穿とうとする。しかし、即座に身を反らして避けた有は反撃に移っていく。
 直撃は免れたが、肌に薄い刃の線が走っていた。痛みはあるが血は少量。相手の太刀筋と癖は大まかではあるが理解できた。
 それなら、と血を拭った有は力を紡ぎはじめる。
「斬り返す刀はないけど、そうだね、……椿なんかどうだい」
「――!」
「生憎コレみたいにきれいなモンじゃないけど」
 有は言うが早いか、握っていた椿を放り投げた。傷口の血をすくいあげたそれは杭となり、赤い軌跡となって桜の精の身を貫いていく。
 地を蹴り、花を迸らせれば、其処に紅の一閃が咲いた。
「嗚呼……!」
「椿というにゃオコガマシイな……。それでもそっちには血腥い方がお似合いかもね」
 一体の古桜から雷獣の剣が落ちる。
 一人目が骸魂から解放されたと知った有は次の標的に目を向けた。敵はまだ多いが構わない。次々と斬りかかってくるほどに己の血が流れ、椿を咲かせられるからだ。
 有は双眸を鋭く細めながら、雷獣を蹴散らしていく気概を抱いた。
「誰も彼も、見逃しはしないさ」
 桜と椿。
 紫電が舞う古木迷宮にて。ふたつの異なる花が、咲いては散ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
ただ花を愛でる……という訳にはいきませんね
今のこの景色は、世界を崩壊させるものなのですから
相手も説得には応じないようです
ならば……刃には刃を、御相手致します
――往きましょう、倫太郎

まずは召喚された妖怪を片付けましょう
倫太郎の拘束術より広範囲の複数の敵を拘束
中心に居る拘束された対象に向けて二刀流剣舞『襲嵐』の一撃目を発動
その敵を起点に嵐を繰り出して一掃

その後、駆け出して古桜に接近
霞瑞刀の破魔の力を刃へと宿し、早業の2回攻撃
妖怪の残りは倫太郎に任せて、そのまま接近戦に持ち込む

雷は雷撃耐性にて軽減
古桜の攻撃は刃がぶつかる瞬間に衝撃波と武器落としにて弾く
落とせないならそのまま軌道をずらして回避


篝・倫太郎
【華禱】
舞う桜に雷なんて春雷の趣きだけど
そんな風流なモンでも風情があるモンでもねぇか

紡がれる虚ろな言葉の数々にそう小さく零して
往こうぜ、夜彦

拘束術・弐式使用
憑りつかれた古桜も、召喚された桜も
放った神霊で先制攻撃と同時に拘束を指示
同時に破魔と衝撃波を乗せた華焔刀でなぎ払いの範囲攻撃
拘束から逃れた桜には再度弐式使用

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防いで凌ぐ
雷撃に関しては電撃耐性でどうにかなんねぇかな
夜彦への雷撃は確実に庇う事で対処

霞瑞刀は華焔刀と対になる宝だからかな
蒼銀の斬撃は怖くはないし痛くもないんだろう
寧ろ救済の為に振るわれているのが嬉しいらしい
神霊の気配に小さく笑って継戦



●霞瑞刀と華焔刀
 目の前に広がっているのは桜の古木迷宮。
 桜の花が舞う景色は美しいが、其処彼処から奇妙な気配がしていた。
「ただ花を愛でる……という訳にはいきませんね」
 夜彦は迷宮に舞う紫電の筋を見遣る。倫太郎も同じものを瞳に映し、頭を振った。
「これは中々すごいな。舞う桜に雷なんて春雷の趣きだけど、そんな風流なモンでも風情があるモンでもねぇか」
「ええ、今のこの景色は、世界を崩壊させるものなのですから」
 二人が見据えた先。
 大きな桜の樹の後ろからは雷獣に乗っ取られた桜の花精達が現れている。骸魂に操られている彼女達には説得などには応じない。
「倒す……殺す……生きとし生けるものすべてに死を――」
「やれやれ、酷いモンだな」
 紡がれる虚ろな言葉の数々にそう小さく零した倫太郎は肩を竦めた。片刃剣を構えた敵に対し、夜彦と倫太郎も其々の獲物を構え返した。
「ならば……刃には刃を、御相手致します」
「往こうぜ、夜彦」
「――往きましょう、倫太郎」
 名を呼びあった二人は地を蹴る。それと同時に雷獣古桜達が動いた。
 首吊り紐や短刀で武装した呪われた自決者。その幽霊を引き連れた妖怪桜が出現した瞬間、夜彦の表情が鋭くなる。
「まずは召喚された妖怪を片付けましょうか」
「やっちまうしかないな」
 夜彦の声に応えるように、倫太郎が力を紡いだ。
 ――拘束術・弐式。
 憑りつかれた古桜も召喚された桜も問わず、放った神霊で以て先制攻撃と同時に拘束するように指示する倫太郎。
 その拘束術より、広範囲かつ複数の敵が拘束されたことを確かめた夜彦が動く。
 狙うのは中心に居る拘束された対象。敵を掻い潜って攻撃を受けながら、それに向けて二刀流の剣舞――襲嵐の一撃目を発動する。
 そうすれば、その敵を起点に嵐が繰り出される。
 一掃された妖怪桜と自決者が倒れていく中、倫太郎は更に攻撃に出た。
 夜彦と同時に、破魔と衝撃波を乗せた華焔刀での薙ぎ払いを敵に見舞う。範囲攻撃となった一閃が敵を次々と穿っていく。
 万が一に拘束から逃れた桜が板としても、再度弐式を使って行けばいい。
 桜の枝の先には、桜の樹の下には――。
 雷獣古桜は再び妖怪桜を呼び出す。対する夜彦は駆け出し、自決者の魂をすり抜けながら古桜へと接近した。
 振り上げた霞瑞刀の破魔の力を刃へと宿し、早業からの二回攻撃を打ち込む。
「倫太郎、頼みました」
「任せておけ!」
 妖怪の残りは倫太郎に任せ、夜彦はそのまま接近戦に持ち込んでいった。
 倫太郎はというと、敵から攻撃を見切りと残像で回避していく。それでも回避が不可能なときはオーラの防御で防いで凌ぐ。
「おっと、雷撃が厄介だな」
 電撃耐性でどうにかなんねぇかな、と呟いた倫太郎は一気に前に出た。
 それは夜彦への雷撃は確実に庇うためだ。鋭い痛みが走ったが、倫太郎は果敢に夜彦を守りながら戦った。
 夜彦もまた、雷を耐性にて軽減している。
 古桜からの攻撃は刃がぶつかる瞬間に衝撃波を散らし、武器を落とすが如く弾いた。されど、相手の片刃剣は雷獣が変化したもの。即ち、桜の精に取り憑いている骸魂そのものであるがゆえに簡単には落とせない。
「落とせないなら――」
 夜彦はそのまま軌道をずらして一閃を回避した。
 その姿を見つめる倫太郎は、夜彦の流麗な動きに感心していく。
(夜彦……何だか綺麗だな。霞瑞刀は華焔刀と対になる宝だからかな、蒼銀の斬撃は怖くはないし痛くもないんだろう)
 寧ろこうやって救済の為に振るわれているのが嬉しいらしい。幽かに感じる神霊の気配に小さく笑い、倫太郎は継戦していく。
 そして、二人の戦いは周囲の骸魂をすべて祓い落とすまで続いていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハウト・ノープス
雷、そうかお前達が敵か
斬り合うことが望みと言うのなら、為そう

桜とは死体と関わりのある花なのか
いや、私は記憶が抜けているものでな
そも荒れた世界の出身だ、花の名を知っていても実物は知らなかった
こんな花であったのだな、と溢しながらも剣を構える

呼吸、一閃
私のすべきことはそれだけだ
何が何体現れようと為すべき事は変わらない
傷を負えども痛みは薄い
首を括れど死には至らない
一度朽ちた身だからだろう
負傷の酷い四肢は自ら切り落とし、代わりを敵から奪い取ろう
長さは合わずとも使えればいい
この場でお前達を斬れればいい

お前達を壊す瞬間、そこに私は生を見出だす
その感触で教えてくれ
私は今、この花の下で尚、生きているはずなのだと



●花の証
 昏い世界に紫電が疾走る。
 鋭い一閃の軌跡に重なるようにして、目の前に現れたのは古桜の精達。
「雷、そうかお前達が敵か」
 桜の妖怪達が手にする片刃剣からは雷獣の気配がした。それらが精霊を操っているのだと察したハウトは静かに身構える。
「さあさ、斬り伏せませう、斬り果たしませう」
 雷獣古桜は生気のない声で淡々と語りかけてきた。おそらくその言葉は雷獣の意思によるものであり、桜の精霊本人が発しているものではないはずだ。
「斬り合うことが望みと言うのなら、為そう」
 雷獣を斬り伏せることが妖怪達の救いになるのならば、ハウトはそうするだけ。
 闇き刃を構え、その切っ先を標的に差し向けた彼は隙を窺う。その際に雷獣古桜は奇妙なことを口走った。
「桜の枝の先には、桜の樹の下には――亡骸が睡っているのでございます」
 その途端、戦場に妖怪桜が現れる。
 首吊り紐や短刀で武装した呪われし者達がハウトの前に立ち塞がった。それらは桜の下で命を絶った者なのだという。
「ふむ、桜とは死体と関わりのある花なのか」
「あらあら、御知りでない?」
 実感がなさそうに軽く首を傾げたハウトに対して雷獣妖怪はくすくすと笑った。小馬鹿にされていそうだったが、ハウトは気にすることなく答える。
「いや、私は記憶が抜けているものでな」
「まぁ御可哀そう」
「そもそもが荒れた世界の出身だ、花の名を知っていても実物は知らなかった。そうか、こんな花であったのだな」
 桜を改めて眺めた彼は、そう溢しながら剣を構える。
 それなら教えてさしあげます、と雷獣古桜は剣を振り上げて駆けてきた。その一閃を見切ったハウトは、相手が自分を桜の下に眠る亡骸にしようとしているのだと察する。
 同時に桜妖怪に集う呪われた者達も次々と迫ってきた。
 しかし、ハウトは慌てることなどない。
 ――呼吸、一閃。
 己がすべきことはそれだけだと心得ていた。断在の一撃は雷獣刃を受け止めて弾き、舞い散る桜を斬り裂いていく。
 たとえ何が何体、どれほど現れようとハウトが為すべきことは変わらない。
 呪われた者達が呪力を向けてこようとも、体勢を立て直した桜の精が振るう刃と紫電が傷を刻めども、痛みは薄い。首を括られても死には至らない。
 それは彼が一度は朽ちた身であるゆえ。
 たとえ負傷が酷くとも、自ら四肢を切り落として代わりを敵から奪い取ってもいい。
 力の弱い相手からは其処までの傷を受けることはなかったが、もしものときでもハウトはそうするだけの力を持っている。
「何でもいい、この場でお前達を斬れればいい」
 ハウトは動かぬ表情のまま、黒剣を振るい続けた。この世を乱す骸魂を断罪するかのように、此処に在るものを――断つ。
 彼女や彼を壊す瞬間。其処にハウトは生を見出している。
 巡りゆく戦いと攻防。やがて亡霊や妖怪桜は散らされ、彼の目の前には一体の雷獣古桜が残るだけとなっていた。
「さあ、その感触で教えてくれ」
 ――私は今、この花の下で尚、生きているはずなのだと。
 言葉と同時に振り下ろされた剣閃が桜を貫き、一呼吸の静寂と共に骸魂を滅する。不意に桜が舞い、ハウトの肩にその一片が落ちた。
 生の証はきっと、幽かな欠片であってもいま此処にある。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

葉山・鈴成
鈴成りは上手くやったっぽいなァ。
それじゃあ次は俺の番。

ヒャハハ!
すっげーバチバチしてるっス!
痺れるねェ〜。

俺と鈴成りの秘密教えてあげるっスよ。
俺たちは新参妖怪『ナリキリ』
どんなモノにも"なりきる"ことで
その力を使うことが出来るンす。

指で弾いた一枚のメダルが
月明かりを反射して手の中へ落ちる
それは開幕の合図

俺の目的はアンタっスよ、雷獣さん。

メダルを狙った雷獣へ貼り付ければ
意識の全てが雷獣へ
普段の軽快な様子と変わって
超集中

"視るため"にここへ来た
雷獣の動きを、稲妻を、その魂を
全てを瞳に焼き付けて、全身で感じて、
なりきる姿をイメージする

頂いたッスよ、アンタの奔る雷

イメージを力として
迸る紫電が降り注ぐ



●成り為す者
 金魚草のちいさな花が桜の迷宮に混じって消える。
 妙に不気味な桜の花ばかりが舞い散る中で、葉山・鈴成(右魂・f28041)はふたつでひとつの片割れのことを考えていた。
「鈴成りは上手くやったっぽいなァ。それじゃあ――」
 次は俺の番。
 そう言って紫の双眸を細めた鈴成の視線の先。其処には雷獣の力を纏った桜の精達が何体も現れている。
「さあ、斬り伏せましょう」
「ヒャハハ! すっげーバチバチしてるっス!」
 雷獣が変化した片刃剣を構えた古桜達に対して、鈴成は笑ってみせた。彼女達は此方の様子を気にすることなく刃を差し向け、紫電を散らしている。
「電で焼き尽くしましょう」
「痺れるねェ~」
 骸魂に乗っ取られているためか、古桜の妖怪達は淡々とした言葉を返すのみ。されどこれもまた痺れるのだと揶揄った鈴成は地を蹴った。
 それまで彼が立っていた場所に雷光が迸っていく。軽い身のこなしで以て紫電一閃を避けた鈴成は片目を眇めた。
「俺と鈴成りの秘密教えてあげるっスよ」
 不敵に笑ってみせた鈴成は桜妖怪達を見遣り、片方の人差し指を口許にあてる。そのもう片手には妖怪メダルが握られていた。
「俺たちは新参妖怪『ナリキリ』なンすよ」
 どんなモノにも“なりきる”ことで、その力を使うことが出来るのだと語った鈴成は、メダルを指で弾く。
 既に次の紫電を纏った敵が迫ってきていたが、それもまた彼にとっては丁度いい。
 宙に舞ったメダルが月明かりを反射して手の中へ落ちた。それが此方側からの開幕の合図だとは知らず、妖怪は鈴成へと斬り掛かっていく。だが――。
「俺の目的はアンタっスよ、雷獣さん」
 刃を敢えて受け止めた鈴成が、その刃にメダルを貼り付けた。
 流石に鋭い痛みが走っているが、そんなことなど関係ないとばかりに鈴成は素早く身を低くする。メダルの効果によって周囲の敵の意識すべてが雷獣の刃に向かった。
 傷口を押さえながら、鈴成は敵の視界から逸れる。
 そして、彼は普段の軽快な様子と変わって真剣に集中していった。
 そう、“視るため”にここへ来たのだ。
 雷獣の動きを、稲妻を、その魂を。すべてを瞳に焼き付けて、全身で感じて――己が其れへと成ることを想像していく。
 次の瞬間、鈴が鳴るかの如きちいさな音が響いたように思えた。
 それは錯覚だったのかもしれない。しかし、鈴成は既にイメージを得ていた。
「頂いたッスよ、アンタの奔る雷」
 巡らせた己の力を纏った鈴成の周囲には雷が起こり始めている。
 モノにしたのならば後はこれを行使するだけ。行くっスよ、といつもの調子に戻った鈴成は片手を掲げた。
 刹那、迸る紫電が雷獣古桜へと降り注いでいく。
 先ずは一体。次にまた一体と倒れる妖怪達から骸魂が離れていく様を見遣り、鈴成は最初の時のように双眸を鋭く細めた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

天狗火・松明丸
花見酒と洒落込みたい程
見事な桜だが賑やかな事
元気が良いよなあ、全く

とはいえ、枝の先に人の首
根の下には死体が睡るとは
寝かせておけば良いものを
養分でも吸っておるのかね

己の首を結んだ者や
自ら命を断った者も
此方の朱い祟り縄で繋いでおこう
叩き起こされて怒っとるんだろう

さて、折角の盛りだ
桜の木の葉を借りるとするか
どろんと化けた姿は火の怪鳥
鷹の形に炎を纏いて夜を征く

天狗火を降らせ灯りをつけてやろ
火の葬いなぞ妖怪らしくもないが
為すべきは変わらず灼いていこう

焦げ付く匂いに消ゆ花の香り
桜の色香は焼くには惜しいが
雷獣の戯れに付き合う道理は無い



●灼雷
 数多の桜が折り重なる古木の迷宮。
 薄ぼんやりとした魂の光が照らす景色は悪いものではない。もし此処が悪い骸魂の巣窟でなければ、花見酒と洒落込みたいほどだ。
「見事な桜だが、賑やかな事」
 松明丸は周囲に感じる気配から意識を逸らすことなく、花の天井を見上げた。
 はらはらと散る桜花はまるで命が舞い落ちているかのように思える。その理由は紫電を纏った桜の精が松明丸を取り囲むように現れているからだ。
「元気が良いよなあ、全く」
 あの雷撃で他の命を散らす心算なのだろう。
 桜の精妖怪は完全に雷獣に乗っ取られており、刀を振るう身体も敵意を向ける眼差しも完全に操られてしまっている。
「……とはいえ、」
「桜の枝の先には、桜の樹の下には、何があると思いますか?」
 松明丸が頭を振る中、一体の雷獣古桜が不可解なことを問いかけてきた。おそらく悪趣味な言葉を用いることで此方を揶揄っているのだろう。
「枝の先に人の首、根の下には死体、か」
 そんなものが睡っていると語られるのは物語の中だけでいい。雷獣はおそらくその謂れを本当にするために此方に襲いかかってくる。
「寝かせておけば良いものを」
 養分でも吸っておるのかね、と肩を竦めた松明丸は軽く身構えた。
 すると相手の妖怪達が何らかの淀みを召喚する。それは首吊り紐や短刀で武装した、呪われた自決者の幽霊達だ。
 妖怪桜に連なる霊はおどろおどろしい雰囲気を纏い、松明丸に怨嗟の視線を向ける。
 己の首を結んだ者。自ら命を断った者。
 それらを纏めて朱殷色の標縄で繋いだ松明丸は片目を閉じた。きっと彼らは松明丸への恨みや辛みがあるわけではない。
「おおかた叩き起こされて怒っとるんだろう」
 真っ当な言葉を落とした松明丸は桜の精の方を見遣った。
 祟り縄で幽霊達が縛られている間に桜妖怪を押し留めてしまえば此方の勝ち。
「さて、折角の盛りだ」
 一部で葉桜になっていた樹の下に駆けた彼は、其処から木の葉を拾いあげた。そのまま念じて、どろんと化けた姿は火の怪鳥。
 鷹の形に成った松明丸は炎を纏い、昏い夜へと飛び立つ。迷宮を征くその姿は凛としており、広げた翼から天狗火が巻き起こっていった。
 炎を降らせて周囲に灯りをつけていくかの如く、松明丸は桜の天を舞う。
(火の葬いなぞ妖怪らしくもないが、)
 為すべきことは変わらない。骸魂を祓い、灼いていくのが今の己の役目だと松明丸は確りと理解していた。
 焦げ付く匂い、消ゆ花の香り。浮かぶ魂と消える霊。
 桜の色香は焼くには惜しくとも、この花景色は異変と崩壊の証。それに――。
「雷獣の戯れに付き合う道理は無い」
 静かな一言を落とした松明丸はもう一度、翼を大きく広げる。それによって周囲に走っていた紫電までもが天狗火に燃やされ、骸魂が散った。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

兎乃・零時
アドリブ歓迎

桜の迷宮…
なんか前行った迷宮思い出すな…

死体!?
怖…くはないぞ!

そんな目で見んnあぶな!?
雷撃!?
俺様まだ使えないやつぅ!

全身と武器に光属性付与!
速さ上げて
光の魔力のオーラ防御
ダッシュで避ける!
パルたち
援護射撃よろしく!

くっそぉ、こうなったらとっておき!
UC
杖(Ⅰ型)を銃(Ⅱ型)に!
装甲半分
射程五倍!

そっちが雷飛ばすなら!
光届かぬこの迷宮に光の雨を落としたらぁ!

攻撃当たても気合で詠唱!

照準を天井へ
魔導書伝って出した魔法陣を天井へ転写
詠唱!

光属性攻撃×全力魔法×串刺し×範囲攻撃

光降れ!
天から落ちるは光雨!
地を穿つのは勝利の灯り!
轟け!
叫べ!
降り注ぐは輝光也!

オーバーレイン
極大光雨!



●花散る迷路の極大光雨
「桜の迷宮……なんか前に行った迷宮を思い出すな」
 幽世の最中、零時は次に行くべきだとされる領域を歩いていた。
 其処に現れたのは雷獣古桜達。彼女達が手にしている片刃剣は雷獣が変化したものらしく、その刃を差し向けた妖怪は妙な言葉を投げ掛けてくる。
「桜の枝の先には、桜の樹の下には、何が睡っていると思いますか?」
「死体!?」
 相手からの問いかけに思わず答えた零時は、戦きながら身構えた。
「ええ、その通りです」
「怖……くはないぞ!」
 くすくすと笑う古桜達は妖怪桜を召喚したかと思うと、其処に首吊り紐や短刀で武装した呪われた自決者達が現れた。
 彼らは一様に死んだ目をしており、零時を見つめている。
 死んでいるから眼差しにも生気がなくて当たり前なのだろう。零時はじりじりと敵と距離を取り、相手の出方を窺っていた。
「そんな目で見ん……あぶな!?」
 刹那、敵から紫電が迸ってくる。後方に跳ぶことで、間一髪でそれを避けた零時は魔力を己に満たしていく。
「雷撃!? 俺様まだ使えないやつぅ!」
 使いたいけど、と零した零時だが、押し負ける心算は微塵もない。
 全身と武器に光属性を付与した少年は速さを上げ、魔力のオーラを防御陣に変えた。そのまま一気に駆けた零時は相棒に呼び掛ける。
「パルたち、援護射撃よろしく!」
 紙兎達がその声に応えて動き始める中で幽霊や古桜達も次々と攻撃を放ってきた。
 スピードを上げているゆえに雷撃は避けられる。だが、このまま回避に転じているばかりでは追い詰められるばかりだ。
「くっそぉ、こうなったらとっておき!」
 藍玉の杖を高く掲げた零時は自身の意思を高めていく。
 そうすれば杖が銃へと代わり、装甲が半分になると同時に射程が五倍になった。銃を構えた零時は敵を見渡した。
「そっちが雷飛ばすなら! 光届かぬこの迷宮に光の雨を落としたらぁ!」
 敵の紫電が身を掠る。
 されど零時は痛みなど無視して気合いで詠唱を続けていった。
 照準を天井へと向け、魔導書を伝って出した魔方陣を其処へ転写していく。更に詠唱を重ねて、ひとつずつ力を陣に宿す。
「光降れ!」
 天から落ちるは光雨! 地を穿つのは勝利の灯り!
 轟け! 叫べ!
 降り注ぐは輝光也!
 紡がれていく強い言の葉はやがて、確かな力となって戦場に広がっていく。
「極大光雨――オーバーレイン!」
 そして、零時がめいっぱいに魔力の光を打ち放った瞬間。折り重なった古木の天井に描かれた魔方陣から光の雨が降り注いだ。
 それらは幽霊や妖怪に憑いた骸魂を浄化していくかのように、眩く迸った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

色んな艶やかな桜達
嗚呼、血の様に真っ赤な彩まで
ルーシーちゃん一緒にね
この子が迷子にならない様に手を繋ぐ

雷撃が落ちる、彼女に当たらない様にくぃと避けさせる
大丈夫ですか?と覗き込む
君が無事で良かった

骸魂を滅しないと
桜の子達を助ける為にね、ねぇルーシーちゃん

嘘喰
妖怪達を傷つける事なく滅するものだけを喰い尽くす

ルーシーちゃんの強さは優しくていつも暖かい
ありがとうねぇ


ルーシー・ブルーベル
【月光】

あんな赤い桜もあるのね
桜は好きだけれど
此処は酔ってしまいそうね
ぎゅうとゆぇパパの手を繋ぐ
何だかはぐれてしまいそうで

雷光に目がくらむ
気付けば二つのお月様がこちらを見ていて

ええ、ええ。ありがとう
ルーシーは無事よ
あなたが守ってくださったもの
目を合わせて頷く
パパはぶじ?

そうね
桜の妖怪さんたちだって
望んでこんな事をしているんじゃない
助けなくちゃ
『ふわふわなお友だち』

パパには雷も花びらも届かせないわ
ふわふわとすべてを包んでしまいましょう
さあパパ、今よ

どういたしまして
お安いごようよ
なんて言いながら
先へ進む前にもう一度強く、手を

……例えばこの手をなくすこと
なんて、恐ろしいの



●繋ぐ気持ち
 広がる彩は薄紅に白、紅。
 様々な色を宿す、艶やかな桜達。その花景色を眺めたユェーは頭上を振り仰いだ。
「あんな赤い桜もあるのね」
 傍らで聞こえたルーシーの声に頷き、彼はその視線の先にある花に目を向ける。
「嗚呼、血の様に真っ赤な彩まで」
「桜は好きだけれど、此処は酔ってしまいそうね」
 花の迷路が続く世界で、少女は何処か不安そうに呟いた。そのことに気が付いたユェーはそっと手を伸ばした。
「ルーシーちゃん、一緒にね」
 この子が迷子にならないように、と手を繋ぐユェー。ルーシーもその手をぎゅうと握り返して強く掴まった。
 こうしていないと何だかはぐれてしまいそうだ。けれども、手さえ繋いでいれば怖い気持ちだって消えてしまう気もしていた。
 そして、二人は奥へと進む。
 古木が入り組んだ桜の路を暫し歩いていた、或る一瞬。
「……!」
 二人の前に眩い雷光が迸り、目が眩むような感覚が襲ってきた。雷撃が落ちたのだと察したユェーはルーシーを庇うように前に出る。
 光が収まったとき、彼の前には雷獣古桜達が現れていた。ユェーは敵への意識を逸らさないままルーシーを覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ええ。ありがとう」
 雷光に目が眩んでいた間に、気付けばふたつのお月様がこちらを見ていた。それがユェーの瞳なのだと気が付いたルーシーはこくりと頷く。
 何ともないようだと知ったユェーは安堵の籠もった言葉を落とした。
「君が無事で良かった」
「ルーシーは無事よ。あなたが守ってくださったもの」
「間に合ったようで安心したよ」
「パパはぶじ?」
 目を合わせてくれた少女からの問いかけに、ユェーも平気だと答える。しかしその間に再び、雷獣古桜から雷撃と花吹雪が放たれた。
 はっとしたユェー達は繋いでいた手を離し、それぞれに身構える。
 桜の癒やしにも似ている力だが、骸魂の力が宿ったそれは狂い花となって電流を帯びた桜の花吹雪となっていた。
 眠りに誘われそうになりながらも、ユェーは隣の少女に語りかける。
「骸魂を滅しないと」
「そうね」
「桜の子達を助ける為にね、ねぇルーシーちゃん」
「桜の妖怪さんたちだって、望んでこんな事をしているんじゃないもの」
 助けなくちゃ、と言葉にしたルーシーはふわふわなお友だちをぎゅっと抱き締めた。すると其処から丈夫な伸びる綿が放たれ、瞬く間に妖怪を包み込んでいく。
 彼女の御蔭で隙ができた。
 そう察して動いたユェーが、嘘喰の力を発動した。その力は妖怪達を傷つけることなく、滅するものだけを喰い尽くしていく。
 ルーシーも綿を広げていき、自分も彼を守るのだと決意していた。
「パパには雷も花びらも届かせないわ」
 骸魂も、きっと無念があって苦しんでいるのだろう。それならば心の痛みごとすべて、ふわふわと包んでしまえばいい。
 ルーシーの思いが籠もった一撃は、眠りの花を退けながら巡る。
「さあパパ、今よ」
「嘘……いや、真実の姿だけ魅せて」
 少女からの呼び掛けに応えたユェーは敵を死へと導いていく。穿つように無数の喰華が喰らいつく様を見つめたふたりは、骸魂が解放される様子を見守った。
 そして、周囲の妖怪がもとに戻った後。
「ルーシーちゃん、ありがとうねぇ」
 君の強さは優しくていつもあたたかいのだと告げ、ユェーが礼を伝えた。するとルーシーはふわりと微笑む。
「どういたしまして、お安いごようよ」
 何でもないことのように言いながらも少女は手を伸ばした。
 先へ進む前にもう一度、強く彼の手を握る。押し隠しているけれど、まだこわい。
 たとえば、この手をなくすこと。
 なんて恐ろしいのだと感じている少女の手を、ユェーは最初にそうしたのと同じように、そっと握り返した。
 大丈夫だよ、と告げるように――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
【春嵐】

桜ばかりの道に月明かりすらも届かない場所だね。
嗚呼。桜の元で戦うなど、折角咲いた花が散ってしまう。

桜の元には鬼が眠っていると云う話もある。
昔々は不吉だと恐れられてもいたね。

しかし、私はそうとは思わないのだよ。
鬼は桜の元でひとへと堕ちた。
君たち桜が、たった今鬼になってしまっているのなら
それを鎮めるのは我々の役目だろうね。

こんな風に散らずとも良いだろうに。
さて、問おう。
『桜の木の下には何が眠っているのかな?』

桜の世界から来たのでね
なるべくなら桜を散らせたくは無いのだが
なゆ、君はどうかな?

嗚呼。そっとだよ。
先程、魂を導いたように、優しく、そっと。
著書の獣も優しく触れるだろう。

ゆっくりお休み。


蘭・七結
【春嵐】

あわいろの花からあかく染まる花まで
幾重にも連なるサクラの迷宮
心惹かれるがままに歩んで往けば
何時の間にか惑ってしまいそうだわ

仄かな花あかり
うつくしい光景にため息が溢れてゆく

揺すれるサクラから現る人影
虚ろな言葉を織るあなたたちは
如何なる魂を宿しているのでしょう

サクラの元で睡る死体の言い伝え
ほんの少しならば耳にしたことがあるの
睡る鬼のお話は、はじめてだわ
今、此処で喩うのならば
その鬼は、あなたたちなのかしら

微睡み続けることもステキだけれど
めざめの時間も必要でしょう
睡りに堕とし続けるその縁を絶ちましょう

わたしもサクラの花がすきよ
薄紅を散らさずに哀しき繋がりのみを払う
いたくないように、上手にするわ



●桜の鬼と魂送り
 花と眠りの世界にて、歩みゆく先は昏い。
 あわいろの花、しろい花、あかく染まる花まで様々な桜が見られる場所。辺りには不思議な魂のひかりがあるとはいえ、桜ばかりの道には月明かりすら届かない。
 此処は幾重にも連なる桜の古木迷宮の最中。
 七結は隣を歩く英とはぐれないよう、そうと歩んでいく。ざわつく気配はあるものの、花の美しさは変わらなかった。
 それでもこの花々はただ儚いだけではない。
 心惹かれるがままに歩んで往けば、何時の間にか惑ってしまいそうだとも思えた。
「きれいね」
「嗚呼」
 仄かな花あかりを見上げた七結が溜息めいた感嘆の声を落とすと、英が静かに頷きを返してくれる。だが、いつしか何処からか不可思議な笑い声が聞こえてきていた。
 それが敵なのだと悟り、二人は気を引き締める。
「桜の元で戦うなど、折角咲いた花が散ってしまうね」
「ええ、いつか散りゆくものだとしても……」
 英と七結は樹の影に潜んでいるものが近付いていると知りながらも言葉を続けた。紫電の欠片が桜の周囲に舞いはじめる中、英は緩やかに語る。
「桜の元には鬼が眠っていると云う話もある」
 今でこそ慈しまれる花ではあるが、昔々は桜が不吉だと恐れられてもいた。
 そのとき、雷獣古桜が姿をあらわす。
「ふふ、この桜の下で斬り裂いて差し上げましょうか」
「桜が血を吸ってさぞ綺麗に咲くでしょう」
 その数は二体。
 姿こそ桜の精ではあるが、言動は雷獣に操られているようだ。精霊たるものが桜を大切に思わぬはずがない。されど彼女達からはその心が見えない。
 紡がれるのが虚ろな言葉だと感じた七結は、古桜達が手にする片刃剣に目を向けた。
「あなたたちは如何なる魂を――そう、そこに宿しているの」
 言葉の途中で骸魂が宿っているものを見極めた七結は、黒鍵の刃を構える。英は己の著書を開き、しかし、と言葉にした。
「桜鬼の話だが、私はそうとは思わないのだよ」
 鬼は桜の元でひとへと堕ちた。
 桜の精達がたった今、雷獣の力を得て鬼になってしまっているのなら、それを鎮めるのは自分の役目なのだろう。
 対する雷獣古桜は振りあげた刃で以て周囲の桜の枝を斬った。
 おそらく、二人もこのようにしてやるという宣戦布告めいた動作なのだろう。
「こんな風に散らずとも良いだろうに」
「……些か、やりすぎね」
 はらりと散った花の行方を眺め、七結は鍵杖を握り締めた。そんな中で英が動く。今にも斬り掛かって来そうな者達へと向けたのは攻撃の起点となる問いかけだ。
「さて、問おう。――『桜の木の下には何が眠っているのかな?』」
 何せ英は桜の世界から来た者。
 なるべくなら桜を散らせたくは無いのだが、骸魂が邪魔しているというのならば話は別。英の問いと共に開かれた頁から情念の獣が現れた。
「勿論、死体です」
 対する雷獣古桜はさも当たり前のように答える。
 すると英は肩を竦め、次に七結に問いかけた。
「なゆ、君はどうかな?」
「何も睡っていないわ。だって、もう目を覚ましたもの」
 桜の元で睡る死体の言い伝えは、七結もほんの少しならば耳にしたことがある。先程に英が語っていた睡る鬼の話は初めてだったが、それならばもう鬼は居ない。
 そして、此処に現れた骸魂としての鬼もいずれいなくなる。
「微睡み続けることもステキだけれど、めざめの時間も必要でしょう」
 桜と雷が世界を睡りに堕とし続けるのならば、手にした刃でその縁を絶つのみ。
 情念の獣がゆびさきで骸魂を穿つ動きに合わせて、七結も斬り込んでいく。くろ紅の一閃は桜の花精をすくうが如く振るわれていった。
「嗚呼。そっとだよ」
「そうと、ね」
 英は七結に穏やかに語りかけた。先程に魂を導いたように、優しく。
 著書の獣も桜精を傷付けぬように触れていた。それによって雷獣だけが引き剥がされていく様を見つめ、七結も更に攻勢に入っていく。
「いけるかい?」
「わたしもサクラの花がすきよ。だから――」
 薄紅を散らさずに哀しき繋がりのみを祓い、いたくないように。上手にするわ、と答えた七結の背を、英は静かに見つめていた。
 そして、攻防が幾度も巡った後。
 二人を襲っていた古桜から雷獣の刃が離れ、憑かれていた妖怪の意識が戻る。
「……ありがとう」
 古桜は穏やかに目を細め、お礼を告げた後に意識を失った。骸魂は天に昇るように浮遊していき、いつしか消え去っていく。七結は倒れた妖怪が無事であることを確かめ、英は還っていった魂を猫達と共に見送った。
「ゆっくりお休み」
「おやすみなさい」
 二人の言の葉は桜の迷宮にそっと響き、魂の冥福を祈るものとなって巡った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
桜迷宮…迷子にならないように気をつけようね

わぁ、ヨル!
ビリビリするよ、危ない!
カナンがオーラで守ってくれた
咄嗟にヨルを抱えて距離をとる
僕は電気にぴりぴりするのが嫌いなんだ

水泡のオーラを巡らせて
懐に入られないように気をつける
……いつもは、前に櫻がいるけれど
僕も守られてばかりではいられないから
それにさ
君たち…邪魔をしたらいけないよ
櫻と、神様がまた再会するんだから
そんな気配がする

ヨル、僕らでやるよ!
きゅっと鼓舞してくれるヨルに笑顔を向けて
歌う「氷楔の歌」
桜吹雪を凍らせて今一度冬に帰ってもらうよ
僕が寝たら叩いて起こしてよね

桜の下に、桜の先に何が……って決まっているだろ?

優しい約束と
愛が眠っているんだよ



●其処に睡るもの
 見慣れた花が、いとおしく想う花がざわめいていた。
 桜の迷宮と表すに相応しい様相の周囲を見渡してから、リルは尾鰭を揺らす。
「迷子にならないように気をつけようね」
 リルは少し先をぴょんぴょんと跳ねていくヨルを追う。当のヨルはというと桜が綺麗に咲いていることが嬉しいらしく、何かを探すようにきょろきょろしている。
 しかし、次の瞬間。
「きゅ!?」
「わぁ、ヨル!」
 ヨルとリルの間に紫電が走り、ふたりは同時に身体を震わせる。幸いにもリル達の傍にいたカナンが咄嗟に防御陣を巡らせて守ってくれていた。
「まだビリビリするよ、危ない!」
 フララはヨルとリルを導くように翅を羽撃かせる。リルは二羽に視線で礼を告げながら、ヨルを抱えて雷撃の出所から距離を取った。
「当たったと思いましたのに」
「残念だったな。僕は電気にぴりぴりするのが嫌いなんだ」
 桜の影から出てきたのは一体の雷獣古桜だ。姿こそ桜の精ではあるが、その意識と身体は雷獣の骸魂に乗っ取られている。
 リルは水泡の護りを巡らせ、蝶々と仔ペンギンを守りに入る。
 そうした理由は自分の懐に相手を入らせないようにするためでもあった。入り組んだ迷宮の中、誰かと合流できればよかったのだが、あいにく今はリル達だけ。
(……いつもは、前に櫻がいるけれど、)
 ふるふると頭を振ったリルは、確りと身構えて敵を見据えた。
 櫻宵はたくさんのことを乗り越えた。その姿を見たばかりなので、自分も守られているだけではいられないと強く思える。
 リルは雷獣の刃から放たれる紫電の一閃を見極めながら宙を泳いだ。直撃しそうになっても泡の守護で受け止め、なんとか耐える。
 そして、リルは「それにさ」と言葉を次いだ。
「君たち……邪魔をしたらいけないよ。櫻と、神様がまた再会するんだから」
 そんな気配がするのだと語り、リルは天井近くまで泳ぐ。
 抱いたヨルが揺桜を構えていつでも行けるというように身構えていた。その様子に頼もしさを覚えたリルは、まだ大丈夫だとヨルに告げる。
「ヨル、僕らでやるよ!」
「きゅっ」
 鳴いて鼓舞してくれたヨルに笑顔を向け、リルは歌を紡いでいった。カナンとフララに護りを任せて、唄っていくのは――氷楔の歌。
 凍てつく吐息に君を重ねて、氷の指先で爪弾いて。
 踊れ、躍れ、氷華絢爛。君の熱、全て喰らい尽くすまで。
 骸魂妖怪から放たれる桜吹雪すら凍らせて、今一度冬に還って貰う為に。
「僕が寝たら叩いて起こしてよね、ヨル」
「きゅきゅ……」
 歌と花吹雪が拮抗する中でヨルはリルを羽でぐいぐいと押していた。しかしそれは寝ぼけ眼で行われている。
「あれ、ヨルの方が寝てる? 起きて!」
「きゅっ!?」
 そんなやり取りがありながらもリル達は果敢に戦った。やがて、歌の力で雷獣の力が削り取られていく。その際に相手は弱々しく問いかけた。
「桜の枝の先……、桜の樹の下には……何が、睡っていると思いますか?」
「何が……って決まっているだろ?」
 妖怪達が語るような死体なんかではない。桜の下には――。
 優しい約束。
 愛が眠っていて、芽吹きを待っている。そう知っているから。だから大丈夫だと伝えたリルの歌は美しく巡り、氷華の月下美人を咲かせていく。
 そうして、人魚の聲は骸魂を葬送する詩と成った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸神櫻

朱が瞬く

あなただ

約束を守ってくれた
かえってきてくれた
胸がいっぱいで苦しくて
込み上げる涙を堪えて笑う
笑って迎えると決めてた

変じゃない
こういうのってきっと
運命っていうの

名前が無いの?
…なら、私が―
気に入られなかったらどうしよう
一雫の不安を誤魔化すように
小指絡めて先を促す
桜迷宮に惑わぬように
一緒に進みましょう
…この先も、これからも
ずっと友達だよ
こういうのを親友っていうのよ

あら本当
お邪魔虫

桜の先には
爛漫の幸が咲いているの

戦う合間告げる
あなたの名前は

厄斬硃赫神―朱赫七・カムイ
どう?

砕け散った彼の刀
相応しいのはこの刀よ

―喰桜

綺麗な桜に戻しましょ
生命喰らってなぎ払い浄化する

勿論
私の神は
『あなた』だけ


朱赫七・カムイ
⛩神櫻

薄紅が舞う

サヨ

誘七、櫻宵
桜の下で出逢った
しらぬ筈なのに泣きたいくらい懐かしいきみ
みつけた
捜してた
逢いたかった
私は約束を守れたかな?
初対面のはずなのに変だね

私に名はないよ
そなたがくれるかい?

絡められた小指
桜の彩
柔らかな笑みに安堵する
一緒にいこう

私達はもう友達だよね
話したいことが沢山―

彼らは邪魔をするようだよ

雷撃を受け止め遂に刀が砕け散る

櫻宵から受け取った刀を抜き放つ
―これだ
櫻宵を守るように
不思議と手に馴染むその刀でなぎ払い切り込む

桜の樹の下には
…優しい約束が咲いているんだ

櫻が告げた名前
朱が煌めき
朱桜が舞う

私の名は―厄斬硃赫神
朱赫七・カムイ

きみの与えてくれた名

私は『また』
きみの神になれるかな



●巡る約束
 朱が瞬き、薄紅が舞う。
 噫、あなただ。噫、きみだ。
 重なる視線だけで櫻宵はすべてを理解して、神は妙に浮き立つ気持ちを覚えていた。
「――私は、誘七櫻宵、というの」
 約束を守ってくれた。かえってきてくれた。
 胸がいっぱいで苦しくもなったけれど、櫻宵は込み上げる涙を堪えて笑った。次に廻り逢うときは笑顔で迎えると決めていたから。
「……サヨ」
 誘七、櫻宵、と神は桜の下で出逢ったひとの名を何度か繰り返した。
 知らぬ筈なのに、初めて会った筈なのに、泣きたいくらい懐かしい響きだ。見つめあう二人を少し遠くからカグラとカラスが眺めている。
 みつけた。捜していた。
 逢いたかった。
「私は約束を守れたかな?」
「ええ、勿論」
「ごめんね、こんなことを聞くなんて。初対面のはずなのに変だね」
 彼が問いかけたことに櫻宵は淡く笑んでみせた。いいの、と首を横に振った櫻宵は自分の胸元を押さえながら、ひとつずつ言葉を紡いでいく。
「変じゃない。こういうのって、きっと」
「きっと?」
「運命っていうの」
 ふふ、と静かに笑う櫻宵から目を離せない神はまだ少し不思議そうだった。けれども嬉しいという気持ちでいっぱいであることは櫻宵にも分かる。
「あなたは?」
「名前かい? 私に名はないよ」
 櫻宵からの視線を受けた神は残念そうに首を振った。もしすぐ横にカグラがいれば、彼はペン汰(仮)だとすかさず紹介しただろうが、それはさておき。
「名前が無いの? ……なら、私が――」
 途中まで言いかけた櫻宵は俯く。
 彼に会ったら告げようと思っていた名があった。しかし気に入られなかったらどうしよう、とひとしずくの不安が過ぎる。
「そなたがくれるかい?」
「いえ……ううん、その……」
 どうやら神は期待しているらしい。己の懸念を誤魔化すように、櫻宵は彼と小指を絡めて先を促す。既に此処は桜迷宮。迷わぬように一緒に、と誘えば彼は指を絡め返す。
 言い淀んだ櫻宵のことは気にかかったが、良い名を考えてくれている途中なのだろうと思えた。桜の彩と柔らかな笑みに安堵して、彼は歩きはじめる。
「一緒にいこう」
「いきましょうか、先へ」
「噫。ねぇ、サヨ。私達はもう友達だよね」
「……この先も、これからも、ずっと友達だよ」
「良かった」
 櫻宵が紡いだ言葉に特別な意味が宿っているとは知らず、神は穏やかに微笑む。櫻宵もつられて笑みを更に深め、桜花弁が舞う路をゆく。
「こういうのを親友っていうのよ」
「親友か、良いね。サヨと話したいことが沢山――」
 しかし、二人の会話は途中で遮られることとなった。紅い桜の樹の影から何体もの雷獣古桜が姿を現したからだ。
「気をつけて、サヨ。彼らは邪魔をするようだよ」
「あら本当、お邪魔虫ね」
 いつの間にか二人を取り囲むように骸魂妖怪達が迫ってきていた。先程から気配は感じていたが、これほどまでに多いとは思わなかった。櫻宵は屠桜を抜き、神はただの刀を鞘から抜き放つ。
「桜の枝の先には、桜の樹の下には――」
「何が睡っていると思いますか?」
 すると妖怪達が妙な言葉を投げかけながら雷撃を放ってきた。咄嗟に櫻宵を庇うように踏み込んだ神がそれを受け止める。
 だが、その衝撃によって彼の刀が砕け散った。
「……!」
 これでは櫻宵を守れない、と察した神が刃を見下ろす。しかしすぐに櫻宵が帯刀していたもう一振りの刀を投げ渡した。
「大丈夫、あなたに相応しいのはこの刀よ」
 ――喰桜。
 それは屠桜と対になる桜龍の牙である朱砂の太刀。櫻宵から受け取った刀を抜き放った神は、どうしてかこれが自分の刀であると実感していた。
 これだ、と言葉にした神は櫻宵の背を守るように布陣する。背中合わせになった二人は敵の次の一手に対抗するべく、反撃に出た。
 手に馴染む刀で以て薙ぎ払い、斬り込む神。彼が斬られぬよう立ち回り、呼吸を合わせて動いていく櫻宵。
 運命と転生の巡りを越えた先で共闘する師と弟子。そして、友。
 二人は雷獣古桜と斬り合いながら、互いの存在がとても大きなものだと感じていた。そして、二人は先程に問われたことについての返答を告げていく。
「桜の先には、爛漫の幸が咲いているの」
「桜の樹の下には……優しい約束が咲いているんだ」
 櫻宵と神は背を護りあい、次々と骸魂を斬り伏せては妖怪を救っていった。
 その合間に櫻宵は決心する。ねぇ、と彼にそっと呼び掛けた櫻宵は屠桜を振り下ろしながら告げた。
「あなたの名前は、厄斬硃赫神――朱赫七・カムイ」
「私の名は……」
 そのとき、彼にあらたな名が宿る。
 櫻が告げた名前を聞いたとき、心の裡で朱が煌めき、朱桜が舞ったように思えた。
 ――朱赫七・カムイ(無彩ノ赫・f30062)。
 告げられた名を言葉にした彼はその響きを嬉しく思い、深く噛み締めているようだ。
「どう?」
「噫、私はカムイだ」
「ふふ、お気に召したようね。それじゃあみんなを綺麗な桜に戻しましょ」
「きみの与えてくれた名だからね。さあ、すくっていこう」
 微笑みと視線を交わした櫻宵とカムイは対の桜刀を振るって骸魂を浄化していく。いつしか戦線に加わったカグラとカラスも骸魂を送る手伝いをしているようだ。
 きっと皆、こうして巡っていく。
 背中合わせでも確かに感じられる絆と縁を胸に抱き、二人は思いと言葉を交わす。

 ――私は『また』、きみの神になれるかな。
 ――勿論。私の神は『あなた』だけ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
雲の字と/f22865

雷嫌ェなのか…あァ、木か
すんなら袖でも掴んで…
…まァ良いや
当る落ちるは勘弁願いてェが、稲光てなァ見事なモンだぜ
マ、今のお前ェにゃ落ちやしめえよ、安心しな

云わにゃならねえたァ何かと思えば…
縮こまってたなァ何だったんだ

神鹿が散る花弁を巻き上げる様を見て、銅判を確と握り込む
借りる力は無論 天候
此れより成すは稲妻返し
今より奔る光はお前ェ達の物じゃねェ、俺の物サ
さぁさ大天狗は我なり
辺りを走る紫電をひと処に集め、此方の呼んだ稲妻と合わせて放つ
苦手と云うのを忘れていたが…平気ってんなら良いか

夫れ、覚えてやがったか
一人埋めりゃあ云い返せなくなっちまうゼ
マ、当分死なねェから安心しな


雨野・雲珠
菱川さんと/f12195

(落雷にかき消される悲鳴)
(セミの如くしがみつきつつ)

うう…雷に大火、病に害虫。
乗っ取られたとはいえ
桜の天敵を身に宿すとはなんという強者…
(信じて降りる)
けれど、呪いの浄化も破魔もおつとめのうち。
それにあの方々に一言物申さなければ

「桜の下に死体があるって仰るのやめてくださいませんか!?」

だってお約束ネタにされて困ってるんです!
俺死体なんて欲しくないです、
栄養なら肥料のほうが嬉しいですもの――神威依りませ、天大多恵主!

天狗というより雷神様のよう
この方が纏うものなら
炎も雷も平気なんですが…

ふー…
(以前、死んだら下に埋まってもいいと言ったことを思い出し)
…菱川さんは特別です。



●死は二人を別たない
 桜が咲き乱れる古木の迷宮にて――。
 それは一瞬の出来事だった。
 骸魂が宿る妖怪の登場と共に響く雷鳴。音と光に驚き、飛び上がる少年。
「!!??」
 音に掻き消された雲珠の悲鳴の後、彌三八が感じたのは背の重み。まるで蝉のように、少年が自分にしがみついているのだと気付くのに要した時間は数瞬。
「何でェ、雲の字」
「雷……雷が……」
 彌三八は慌てることなく、雲珠が落ちないように体勢を直してやる。ふるふると震える雲珠はというと、この背から絶対に離れないぞ! といった気持ちを抱いたらしく、腕と足に籠める力を更に強くした。即ち、絶賛混乱中である。
「ああ、雷が嫌ェなのか」
「うう……雷に大火、病に害虫。乗っ取られたとはいえ、桜の天敵を身に宿すとは」
 なんという強者、と呟いて震え続ける雲珠。
 その物言いで、彼が桜樹であったことが由来していると知った彌三八は納得する。
「あァ、木か。すんなら袖でも掴んで……」
「そ、袖ですか? これ以上にくっついてもいいんですね!」
 彌三八は背から下りろと言いたかったのだが、雲珠はしがみついた上で袖をぎゅっと握ってきた。
「……まァ良いや」
 あまりの怯えように、今のはそういう意味ではないのだとは言えず、彌三八はそのまま彼を背負ったままでいた。されど、いつまでもこのままでいては本当に雷撃にやられてしまう。彌三八は雷獣古桜を示し、雲珠を呼ぶ。
「当る落ちるは勘弁願いてェが、稲光てなァ見事なモンだぜ。見てみな、雲の字」
 幸いにも二人に刀を向けているのはたった一体。
 桜の精もあまりの雲珠の驚きようにぱちぱちと瞳を瞬いていた。それと同時に相手の周囲に小さな紫電が弾ける。
「光ってますね……」
「マ、今のお前ェにゃ落ちやしめえよ、安心しな」
「……はい」
 雲珠は彌三八が宥めてくれているのだと気付いた。こくりと頷いた少年は、その言葉を信じて背から降りる。
 正直を言えばまだ雷撃は恐ろしいが、戦いを放棄することは出来なかった。
 何より今は傍には彌三八がいる。
「呪いの浄化も破魔もおつとめのうち。それに、あの方々に一言物申さなければ」
「云わにゃならねえたァ何だい」
 ぐっと気合を入れた雲珠の横に立ち、彌三八は首を傾げる。そういえば彼女達が出現したとき、不可解なことを言っていた。

 ――桜の枝の先には、桜の樹の下には、何が睡っていると思いますか?
 ――ふふ……そう、死体ですよ。

「桜の下に死体があるって仰るのやめてくださいませんか!?」
 その言葉に対し、雲珠は全力で宣言した。
 彼の声を聞いた彌三八は滲みそうになる笑いを堪え、そんなことか、と肩を震わせた。
「縮こまってたなァ何だったんだ」
「だってお約束ネタにされて困ってるんです! 俺は死体なんて欲しくないです」
「そうかい、確かになァ」
「栄養なら肥料のほうが嬉しいですもの――神威依りませ、天大多恵主!」
 宣言したことで勢いがついたのか、雲珠は云うやいなやそのまま大きく踏み出した。背負った箱宮から角に花咲く神鹿が現れ、戦場へと駆けていく。
「綺麗なモンだ」
 駆けゆく神鹿が散る花弁を巻き上げる様を見遣り、彌三八も手にしていた銅判、大天狗の相を確と握り込んだ。其処から借りる力は無論、天候を操るもの。
 此れより成すは稲妻返し。
「今より奔る光はお前ェ達の物じゃねェ、俺の物サ」
 彌三八が双眸を鋭く細めれば、周囲に暗雲めいた霧が立ち込めていく。其処から巡るのは雷獣すら圧倒するほどの眩い天雷だ。
 ――さぁさ大天狗は我なり。
 辺りを走る紫電をひと処に集めた彌三八は己が呼んだ稲妻と合わせ、それらをひといきに解き放った。
 大多恵主が絢爛たる蹄で雷獣古桜を穿つ中、天雷がその身に致命的な一閃を与える。
「……!」
 雲珠はその様子に息を呑み、轟いた神鳴を瞳に映していた。はたとした彌三八は、雲珠が雷に怯えていたことを一瞬忘れてしまっていたと気付く。
「ッと、平気か雲の字」
「いえ、大丈夫です。天狗というより雷神様のようだと思って」
 彼が纏うものなら炎も雷も平気であるのは不思議だ。雷獣が宿っていた桜の精はその場に倒れたが、大事はないと分かる。
「そりゃ良かった。な、お前ェにゃ落ちなかったろ」
「はい! ふー……」
 自分達の戦いは一先ず終わったとして、雲珠は安堵の息を零した。しかしそのとき、ふと以前に交わした約束のことを思い出す。
 死体なんて要らない、と先程は言ってしまったがやはり彌三八だけは別だ。
「……菱川さんは特別です」
「夫れ、覚えてやがったか」
「俺の大事な約束ですから」
 彌三八は少年があのことを言っているのだと察し、軽く頬を掻いた。そうして少しばかり揶揄い気味に雲珠に告げる。
「一人埋めりゃあ云い返せなくなっちまうゼ」
「う……」
 言葉に詰まった雲珠に対して薄い笑みを返し、彌三八は迷宮の奥に歩き出す。見れば少しずつ絡まった古木がひらいていっているらしい。
「マ、当分死なねェから安心しな。さて、次に行くとするか」
「はい、暫くは生きていてくださると……って、待ってください菱川さん!」
 未だ二人で歩んでいきたい道がある。
 ひらひらと片手を後ろ手に振る彌三八を追い、雲珠は駆けていく。そんな二人を見送るかのように、桜の花弁が辺りに舞っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フルラ・フィル
かくり/f28103

ああ、迷路かい?
何時だって迷っているような私達にお似合いじゃないか
どうかな
迷っても迷わなくても関係ないよ
終などないのだから

フフ、感傷的になってしまったかな
これも散りゆく桜のせいさ
そうだよ、かくり
桜は散って、春に終を告げる為に咲いているのさ
随分と潔く美しいじゃないか

花の中に秘められているのは
甘く蕩ける蜜だろう?
寄越しなさい
キミ達の屍を埋めたなら
花はもっと美味なる蜜をうみだすかな

シィが放つ花嵐が私達を守ってくれるよ
健気な猫だろう?
かくり、キミは優しいのだね
私は花を散らすことなどどうとも思わない

かぶして、とかして

ほら、きれい
ほら、あまい

桜の蜜は私を満たしてくれるかな

さぁ、進もうか


揺・かくり
フルラ/f28264

桜から成る迷い路かい。
私は彷徨い続ける身だ
終わりの知れない道程には慣れているのさ。
君は迷わずに先へと往けるかい
……ふ、正しく君の云う通りだよ。

此の花も春の花かな
其の散り様は美しいと感じるよ。

花の元で眠る魂は良き魂なのだろうか
悪しき魂ならば好都合なのだよ。
私の手と成り足と成り得るのだから

さて、先へと往く為には
眼前の者を退けねばならないが
幽世の同胞だ。穏便に事を進めたい

私の元へと集う悪霊の魂
君たちの力を拝借しよう。
利口な君たちだ。加減は出来るかい

君の友人は多彩なのだね
有難く其の加護を身に受けよう

君は愛らしい貌の下に冷酷な魔女を潜めて居る様だ。
嫌いではない。好ましいとさえ感じるさ



●春の華散る
 四季折々の花の先は桜から成る迷い路。
 古木の枝が折り重なり、天井を形成しているこの場は妙な雰囲気に満ちていた。
「此処が……」
「ああ、これが迷路かい?」
 行く先は暗く、暫し進んだ今は振り向いても同じ景色が広がるのみ。されどかくりもフルラも惑ってはいない。その理由は言葉を交わす二人の口から語られる。
「フフ、怖くはないかい」
「私は彷徨い続ける身だ。終わりの知れない道程には慣れているのさ」
「それならいい。何時だって迷っているような私達にお似合いじゃないか」
 フルラが問いかけるとかくりが答え、二人はこれもまた自分達らしいのだと認めた。そして、次はかくりがフルラに問う番。
「君は迷わずに先へと往けるかい」
「どうかな。迷っても迷わなくても関係ないよ」
 終などないのだから。
 そのように答えたフルラの声を聞き、かくりは小さく頷いた。
「……ふ、正しく君の云う通りだよ」
 そんな二人の間に桜の花がひらひらと舞っていく。それと同時に妖怪の気配がした。暗闇に薄く疾走る紫電の欠片が戦いの到来を教えてくれている。
「此の花も春の花かな。其の散り様は美しいと感じるよ」
「少し感傷的になってしまったかな」
 これも散りゆく桜のせいさ、と言葉にしたフルラ。
 そうかもしれない、と告げ返したかくりは顔をあげ、桜樹の影から現れた雷獣古桜を見遣った。相手は数体。どれもが操られているらしく、虚ろな声を紡いでいる。
「おいでませ、おいでませ」
「死が彩る桜の世界へ、誰もが眠りにつく此の世界へ」
 雷獣が変化した片刃剣を差し向けた彼女達は、此方を斬り伏せるつもりらしい。
 花の元で眠る魂は良き魂なのだろうか。そう考えたかくりは、少なくともあの刃に宿るものは良いものとは呼べなさそうだと判断した。
「悪しき魂ならば好都合なのだよ」
 ――私の手と成り足と成り得るのだから。
 かくりが環を掲げれば、其処から死霊が溢れ出していく。同時にフルラがミエルの柩を骸魂妖怪に向けた。
「そうだよ、かくり。桜は散って、春に終を告げる為に咲いているのさ」
 桜は随分と潔く美しい。
 それに花の中に秘められているのは甘く蕩ける蜜だ。花である以上、そのことは他と変わらない。ただ自分達の糧として巡るもの。
「寄越しなさい。キミ達の屍を埋めたなら、花はもっと美味なる蜜をうみだすかな」
 そして、フルラは力を紡ぐ。
 詠唱が響いていく最中、かくりは妖怪達に言の葉を向けた。
「さて、先へと往く為に退いてもらうよ」
 相手は葬送すべき骸魂だが、身体の方は幽世の同胞だ。かくりとて穏便に事を進めたいのは変わらない。己に力を貸してくれる悪霊の魂達へと、ゆるりと目配せをしたかくりはかれらにそっと願う。
「利口な君たちだ。加減は出来るかい」
 かくりの呼び出した悪霊が雷獣桜に向かっていく中、蜜の楔が戦場に広がった。
 存在を蕩かし溶かして蜜に変える花嵐が、雷獣古桜の放つ桜の嵐と重なって拮抗していく。幾つか蜜嵐をすり抜けてきた花もあったが、フルラの傍に付いたシィが主達を守ってくれている。
 煌々と輝く満月の瞳は真っ直ぐに斃すべきものを映していた。
 かくりはシィの力に気付き、主であるフルラに声をかける。
「君の友人は多彩なのだね」
「健気な猫だろう?」
「頼もしい限りだ」
 シィの加護を受け入れ、かくりは死霊達が桜の妖を傷付けぬよう立ち回らせた。その様子を見たフルラは双眸を細める。
「かくり、キミは優しいのだね」
 対するフルラは桜の花を散らすことなど、どうとも思っていなかった。依代ごと蜜にしてしまっても良いとすら考えている。
 されど、同道の者が桜を慈しむならば魂だけを溶かすのも悪くはない。
 かぶして、とかして。
 ほら、きれい。ほら、あまい。
 謳うように巡らせていく甘やかな蜜の魔法が骸魂を囚えて揺らがせていく。かくりの死霊達も雷獣の片刃剣を桜精から引き剥がし、骸魂を散らしていった。
「桜の蜜は私を満たしてくれるかな」
「君は愛らしい貌の下に冷酷な魔女を潜めて居る様だ」
「お嫌いかい?」
「いいや、嫌いではない。好ましいとさえ感じるさ」
 そうして、二人は好意の滲む声と言の葉を交わしあい――やがて悪しき骸魂だけが天へと還され、憑かれていた桜の精は静かに意識を失った。
 彼女達はただ睡ってしまっただけだ。この世界が眠りから解放されれば、いずれ目を覚まして元に戻るだろう。
 一先ずはこれで此の場は収まった。かくりとフルラは桜迷宮の先に視線を向ける。
「行こうか」
「さぁ、進もうか」
 意思を重ねた二人は、花睡の世界を終わらせる為に歩き出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・しとり
次の路は夜桜か知ら
白に薄桃に濃紅、見事なものね
けれど怪しい空模様
雷の流石かしましい
桜の上にでも座した気か、桜冠して何を云うやら

貴方こそ
其方の見事な桜の主は未だ、死体ではないのだから
勝手に宿ってはいけないわ
気持ちはようく解るけれど
散らすことしかできまいに
せめて桜の下に睡ると良い、夢を見たまま

お望み通りに斬り合いを重ねて
花吹雪いたら、睡りに入ったものを狙ってとどめにかかる

――嗚呼、散って咲く花も在るのだった
花吹雪に束の間見惚れては
空に
海に
水面に
昨今の鮮烈に栄し花々を思い出して

偶には
わたしも咲かせてみようか
結んでひらいてあかい雨を
紅時雨
確か、そんな桜があったでしょう?

ひらけど滴る鮮華を散らす
戯れに



●散り咲くもの
 折々の花咲く先、次の路は夜桜の迷宮。
 先程までの景色と違ってひとつの花しか咲いていない場ではあるが、其処に宿っている色彩は少しずつ違っている。
 白に薄桃に濃紅。徐々に色付いていく花の流れを見て、しとりは声を紡ぐ。
「見事なものね」
 けれども、今の世界に満ちる花はただ美しいばかりではない。怪しい空模様だと感じたしとりは桜の古枝に阻まれた天井を見遣った。
 空気中に滲んでいくかのように、ちいさな紫電が走っている。
「雷の、流石かしましいこと」
 しとりが静かな言の葉を落とせば、その気配を察した骸魂妖怪が木々の間から姿をあらわした。姿こそ桜の精だが、雷光を纏う様からは獣の気配がする。おそらく古桜達が持つ片刃剣に骸魂としての雷獣が宿っているのだろう。
「雷で貫いて差し上げましょう」
 此方を見据えた雷獣古桜はしとりに刃を向けてくる。しかし彼女は怯むことなどなく、千代砌を差し向け返した。
「桜の上にでも座した気か、桜冠して何を云うやら」
「桜の枝の先には、桜の樹の下には、何が睡っているか知っていますか?」
 すると雷獣古桜が妙なことを問いかけてくる。
 おそらく語っているのは獣の方だ。桜の精自身がそれを問いかけているのではないのだと察し、しとりは淡々と言葉を返す。
「貴方こそ、知っているの」
「ええ、勿論」
 死体だと言いたげに双眸を細めた妖怪が刃を振り上げた。電流を帯びた桜の花吹雪が周囲に舞い、しとりを眠らせようと迫ってくる。それらを錆刀で斬り裂いたしとりは、ゆるく首を振ってみせた。
「其方の見事な桜の主は未だ、死体ではないのだから勝手に宿ってはいけないわ」
 魂だけではこの世で動けない。
 しとりにも、骸魂が抱えているであろう気持ちはようく解る。されど、こうして妖怪の身を乗っ取っても散らすことしかできまいに。
 そう感じたしとりは一気に踏み込み、赫き刃筋で相手の片刃剣を斬り裂こうと試みていく。一閃は刃で受けられたが、狙いは元から其方なので構わない。
「せめて桜の下に睡ると良い、夢を見たまま」
 剣戟が響く。
 刃と刃が衝突しあい、相手の望み通りに斬り合いが重ねられた。そして、相手が解き放った花吹雪が強く巡った刹那。
 ――嗚呼、散って咲く花も在るのだった。
 しとりがそのように思ったとき、花吹雪は天に舞い上がる。広がりゆく情景に束の間だけ見惚れた彼女は思い出していく。
 空に、海に、水面に。
 昨今の鮮烈に栄し花々を思い、しとりは幾度か瞼を瞬かせた。ならば偶には、わたしも咲かせてみようか。結んでひらいて、あかい雨を。
 紅時雨。
 確か、そんな桜があったと記憶している。
 そして――しとりは鮮華を散らす。ひらけど滴る其れを、戯れに。
 解き放たれた骸魂もまた、桜に埋もれるように散っては咲いて、消えていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
これはまた見事ですねぇ
月明かりか、日が差せばもっと綺麗なのでしょうけれど
一挙に咲くはずのない様々な桜を見上げ、光が差した光景を想像する

…随分と手荒な歓迎ね
空を裂いた雷撃には飛びすさる

ええ、ええ
そう言いますね
だからと言って私がそうなるわけにはいきませんが
電撃耐性とオーラ防御で態勢を整える
藍雷鳥を構えると同時にUCを発動し、藍焔華を花弁に

せっかくの花見もこれでは台無しね
野生の勘と敵の動きを見切り、攻撃を躱す
薙刀で受け流し、返す刃でカウンターを

木を隠すなら森の中…と言うでしょう
つまりはそういうこと
頃合いを見て周囲を舞う花弁を装っていた藍焔華の花弁を操作して攻撃

桜に宿る貴方達が桜を穢してはなりませんよ



●桜と櫻
 折り重なった様々な桜の花と樹。
 古枝が迷宮めいた天井を形成しているゆえに頭上は暗い。されど周囲に浮かぶ不思議な光が迷い路を示すが如く灯っていた。
 まるで夜桜の世界。そのように感じた千織は感嘆の言葉を落とす。
「これはまた見事ですねぇ」
 幽明を表すようなぼんやりとした灯りは奇妙だ。此処に月明かりか、或いは陽が差せばもっと綺麗なのだろうが、それは望めない。
 千織は一挙に咲くはずのない様々な桜を見上げ、光が差した光景を想像する。
 しかし、其処に現れたのは雷獣古桜だ。
「おいでませ、眠りの世界へ」
 そんな言葉と共に千織の頭上から飛びかかってきた妖怪。その一閃を藍雷鳥で受け止めた千織は骸魂妖怪へと強い眼差しを向けた。
「……随分と手荒な歓迎ね」
 刹那、空を裂いた雷撃が迸ってくる。すぐさま飛び退った千織は紫電を避け、地面に降り立った雷獣古桜を見据えた。
「桜の枝の先には、桜の樹の下には、何が睡っていると思いますか?」
「死体、とでも答えさせたいのでしょうね」
 相手からの問いかけを受け、千織は雷獣に操られた妖怪の姿をしかと捉える。この言葉は桜の精の意思ではないだろう。其処に宿った雷獣が云わせているだけだ。
「ふふ……」
 妖しく笑う相手に対し、千織は首を左右に振った。
「ええ、ええ。そう言いますね」
「貴女も此処で眠りますか?」
「いえ、だからと言って私がそうなるわけにはいきません」
 千織は電撃への耐性を強め、巡らせたオーラの防御で以て態勢を整える。千織は藍雷鳥を構え直すと同時に己の力を発動させた。
 すると藍焔華が花弁に変わり、八重桜と山吹の色彩が周囲に広がっていく。対する骸魂妖怪は電流を帯びた桜の花吹雪を放ち返した。
「せっかくの花見もこれでは台無しね」
 千織は勘で敵の動きを見切り、閃く花を躱していく。其処から敵の花弁を薙刀で受け流し、返す刃で斬り込んでいった。
 雷獣が変化した片刃剣と薙刀が激しくぶつかりあう。相手の力は強い。しかし千織は剣戟を交わしながら機を見計らった。
 やがて、或る一瞬。
「木を隠すなら森の中……と言うでしょう」
「?」
 不意に千織が呟いた言葉に骸魂妖怪が訝しげな様子を見せた。千織は疑問に答えるつもりはなく、一気に力を発動させていく。
「つまりはそういうこと」
 周囲を舞う花弁を装っていた藍焔華の花弁を操作した千織は敵に花を集わせた。瞬く間に花が全てを覆い隠す。
 そして――。
「桜に宿る貴方達が桜を穢してはなりませんよ」
 舞う花が収まり、千織が得物をそっと下ろしたとき。その足元には桜の精が倒れており、其処に宿っていた骸魂は浄化されていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

「桜の木の下には死体が埋まっている」あくまで物語の中での話で、伝承に過ぎない類だろう。現実にさせる訳には行かないからね。桜は優美で美しさの象徴であるべきだ。

敵の集団での攻撃は厄介だね。アタシも炎の戦乙女を呼び出して戦乙女と共に戦うよ。【見切り】【残像】で敵の攻撃を回避、回避しきれなかったダメージは【オーラ防御】で軽減。【衝撃波】を【範囲攻撃】化して纏めて幽霊達を薙ぎ払っていくよ。さあ、もう暴れ回るのはおしまいだ!!


真宮・奏
【真宮家】で参加

「桜の木の下には死体が埋まっている」怖い言葉ですが、実際に死体を埋めさせる訳にはいかないでしょう。本来は人々を魅了する桜、ここで狂ったまま散らせる訳にはいきません。救ってみせます!

白銀の騎士を発動、そのまま踏み止まって近づいてくる敵を迎撃するつもりで攻撃回数を増やし、移動距離を減らします。回避は困難になるでしょうから、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】でしっかり防御を固めます。連続で【範囲攻撃】化した【衝撃波】を飛ばします。悪夢は終わりです。さあ、今悪いものから解き放ちます!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

妖しさと美しさを兼ね備えた桜の化身というところ、ですか。「桜の木の下には死体が埋まっている」は伝承だけにしたいです。狂ったまま散らせるには余りにも惜しい。救えるなら、全力を。

幽霊の軍団は母さんと奏が足止めしてくれてるので、僕は妖怪達の相手をしましょう。【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を【範囲攻撃】化して【高速詠唱】で展開。裂帛の束縛も【範囲攻撃】化して使用。【衝撃波】で追撃していきます。攻撃が僕に飛んでくる可能性も多いので【オーラ防御】【第六感】で攻撃への備えを。さあ、骸魂はさっさと退場願いますか!!



●花と雷と眠り
 桜の木の下には死体が埋まっている。
 そんな根も葉もないことを語るのが此度の敵。桜が折り重なる迷宮にて、真宮家の三人は現れた敵と対峙していた。
 敵の数は三体。奇しくも此方の数と同等だ。
 響は身構え、雷獣古桜が語った桜の下に眠る死体について、首を横に振る。
「そんなのはあくまで物語の中での話で、伝承に過ぎない類だろう」
「ええ、伝承だけにしたいですね」
「怖い言葉ですが、実際に死体を埋めさせる訳にはいかないでしょう」
 響の思いに瞬と奏が答え、しっかりと頷いた。対する雷獣古桜達は、くすくすと笑っている。まるで誂っているようだ。
 桜までも揶揄するような言葉はおそらく、桜の精ではなく其処に宿った雷獣達が云わせているものだろう。
 そう感じ取った瞬は骸魂が彼女達を乗っ取った理由を悟る。
「あの体は妖しさと美しさを兼ね備えた桜の化身というところ、ですか。雷獣も惹かれてしまったのでしょうか」
 そして、響はあの骸魂達を追い出すと決めた。
「現実にさせる訳には行かないからね。桜は優美で美しさの象徴であるべきだ」
「本来は人々を魅了する桜です。こんな世界で狂ったまま散らせる訳にはいきません。救ってみせます!」
 奏もいつものように気合を入れ、敵の出方を窺っていく。奏の快いほどの勢いに同意を示し、瞬も力を紡いでいった。
「狂ったまま散らせるには余りにも惜しいです。救えるなら、全力を」
「二人共、やるよ!」
「――はい!」
 響は敵が集団であることを警戒し、炎の戦乙女を呼び出した。
 返事をした奏も白銀の騎士の力を発動させる。それと同時に雷獣古桜が妖怪桜を召喚し、首吊り紐や短刀で武装した呪われた自決者の幽霊を出現させた。
 それに対して響が戦乙女と共に駆け出し、奏はそのまま踏み止まることで近付いてくる敵を迎撃する姿勢を取る。
「母さん、奏、そちらの足止めはお願いします」
 瞬は幽霊達の相手を二人に任せ、妖怪達の相手を担うことにした。
 麻痺に目眩まし、部位破壊や武器落としの力を仕込んだ結界を周囲に広げた瞬は、一気にその範囲に敵を巻き込んでいく。
 高速の詠唱から紡がれ、展開された力に桜の精達が巻き込まれていった。
 上手く結界が巡っていると察し、響も幽霊を蹴散らしていく。相手からの攻撃は見切り、素早く動くことで残像を生み出す。
「甘いね、その攻撃じゃ当たっても効きやしないよ」
 敵の攻撃を回避した響は、炎の戦乙女と一緒に幽霊を浄化する。されど敵の数は多く、回避しきれなかったダメージはオーラの防御で軽減する。
 そして、響は衝撃波を広げることで纏めて幽霊達を薙ぎ払っていった。
 同じくして、奏も懸命に戦っている。
 敵の数は母が減らしてくれているとはいえ、すべての攻撃を回避することは困難だと分かっていた。響と同様にオーラ防御を広げた奏は、盾と武器、全てで自分の周囲を拠点として防御に入った。
「瞬兄さんにまで、攻撃は通しませんから!!」
 しっかりと防御を固めた奏は兄を護りながらも、連続で衝撃波を飛ばしていく。
 徐々に幽霊の数が減っていった。
 瞬は二人の頑張りと果敢さに負けぬよう、裂帛の束縛を巡らせる。
 アイヴィーの蔓にヤドリギの枝、藤の蔓。広範囲に広げた植物が桜の精達を縛っては動きを止めていく。其処へ更に、鋭い衝撃波を放つことで追撃していく瞬。
「そろそろですね。やりましょう!」
 瞬は奏と響に呼び掛け、一気に敵を穿とうと狙った。その声に視線で以て答えた二人は周囲の幽霊を散らし、妖怪達に目を向ける。
 さあ――。
 三人の声が重なり、それぞれの全力を込めた力が戦場に巡り始めた。
「もう暴れ回るのはおしまいだ!!」
「骸魂はさっさと退場願いますか!!」
「悪夢は終わりです。今悪いものから解き放ちます!!」
 響と瞬、奏。
 力を合わせた家族が放つ一閃は見事に妖怪達を貫き、悪い魂だけを天に還した。
 そして、骸魂から解放された桜妖はその場に倒れて眠りゆく。きっと今、此処が眠りの世界になっている影響だろう。
 彼女達をはじめとした妖怪を本当に救うためには、滅亡世界の中心になっている存在をどうにかしなければならない。
 頷きを交わした三人は妖怪達をそっと介抱した後、桜迷宮の奥を見据えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・ファルチェ
(絡み・アドリブ歓迎)

骸魂も可哀想な存在なのかもだけど、乗っ取られてる妖怪さんの方がもっと可哀想だよね。
バカの1つ覚えだけれど今回も、想い(魂)だけを斬っていければ良いな。

仲間が居るなら、庇ったり誘き寄せたりして僕が標的になるように立ち回る。
基本はオーラ防御や武器/盾受けなんかでダメージを抑えたり、見切りで回避したり、激痛や電撃への耐性で耐えたり…防御中心だね。
反撃したり、一人で戦う場合は属性攻撃+破魔+範囲攻撃+なぎ払いなんかでなるべく多くの敵を纏めて攻撃するね。
UCを使って出来るだけ古桜の精さん達へのダメージは控えめに…ってそこは気にしなくて大丈夫なのかな。

最後に骸魂へ祈りを捧げておくよ。



●祈りは再び
 桜の迷い路に雷撃が迸った。
 敵の到来を察したアルバは星の力を宿す剣を構える。
 紫電が視界を覆ったかと思った次の瞬間、目の前には雷獣が変化した片刃剣を手にする桜の妖怪が佇んでいた。
「桜の枝の先には、桜の樹の下には、何が睡っていると思いますか?」
 ふふ、と薄い笑みを向けた妖怪はそんなことを問う。
 きっとその言葉は相手に宿っている骸魂が言わせているのだろう。そう察したアルバは敢えて質問に答えない。
 おそらく死体と言わせたいのであり、此方をその亡骸にするために敵は襲いかかってくる。骸魂は破壊の意思しか宿しておらず、哀れにも思えた。
「骸魂も可哀想な存在なのかもだけど……」
 そのように狂うまで、どんな出来事があったのかは分からない。しかし今、魂が害悪となっているのならば放ってはおけなかった。
「乗っ取られてる妖怪さんの方がもっと可哀想だよね」
 だから斬るよ、と言葉にしたアルバは骸魂に宣言する。たとえ一つ覚えだと言われても構わない。今回もまた、想いだけを斬っていくだけだ。
 そして、アルバは地を蹴った。
 敵は妖怪桜を召喚することで呪われた自決者の幽霊を呼び寄せる。首吊り紐や短刀を持った幽霊達も浮かばれないものなのかもしれない。
 アルバは霊が他で戦う仲間に及ばぬよう、敢えてかれらを自分に引き付けた。
「さあ、こっちだよ」
 わざと幽霊を誘き寄せたアルバは、己が標的になるように立ち回る。巡らせたオーラの防御で攻撃の痛みを抑え、構えた茨の乙女を装飾した剣や白銀の盾で一撃をしかと防いでいくアルバ。彼の行動は防御中心だ。
 だが、それは反撃の機を窺うための動きでもある。
 短刀が振るわれた激痛や、妖怪から放たれた電撃に耐えるアルバはしっかりと戦況を見極めていった。
「そろそろ一気に蹴散らすしかないかな」
 アルバは集中することで刃に破魔の力を乗せ、ひといきに幽霊を薙ぎ払う。なるべく多くの敵を纏めて攻撃しようと狙い、幾度も攻防が繰り広げられた。
 そして、アルバは果敢に戦っていく。
 幽霊達は殆ど斃され、後は妖怪から骸魂を解放するだけだ。
「出来るだけ古桜の精さん達へのダメージは控えめに……ってそこは気にしなくて大丈夫なのかな」
 聞けば、妖怪は随分と丈夫なのだという。思いきり倒しても骸魂が滅されるだけだと思い出したアルバは攻勢に入っていく。
 そして、神への祈りを籠めた盾の騎士としての信念が無念の想いだけを斬った。
「……これで良かったかな」
 妖怪が倒れ、魂が消えたことを確かめたアルバは祈りを捧げる。
 倒した幽霊や骸魂が浮かばれるように、と――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

亞柳・水雷
古桜の精か…本来ならば人を愛し、人に愛でられる存在なのだろうな。
雷獣の骸魂、祓ってやらねばなるまい。

雷獣の雷撃は自然な物ではない故、私の天候操作だけではどうする事も出来ないかも知れないが…私とて雷と水を司る神、それと天叢雲剣を飲み込みし龍。
雷獣に後れを取るわけにはいかぬ。
まだ弱き力とは言え、龍神としての私の力を示そう。

我は祟りをもたらす悪龍なり。
我が身を傷つければ同じように傷を負うことになる。
それを恐れぬのなら掛かってくるが良い。

飲み込んだ神器、そして龍としての威厳を持って威圧―恐怖を与え、言霊(呪詛)により与えられた痛みを返す(神罰+カウンター)。

多少なりと役に立てれば良いが…。



●悪龍と桜
 紫電が周囲の空気に混じり始める。
 それが敵の到来の兆しだと察した水雷は、桜迷宮を見渡した。刹那、暗い世界の中に疾走る一閃が辺りを照らす。
 身を反らし、迸ってきた雷撃を避けた水雷。彼は目の前に現れた者を見遣った。
「おいでませ、おいでませ」
「古桜の精か……」
 くすりと笑った桜の妖怪を瞳に映した水雷は、その手に握られた刃に意識を向ける。彼女らは本来ならば人を愛し、人に愛でられる存在なのだろうが、今は違う。
 握られている片刃剣こそが此度の敵であり、彼女達を操っているものだ。
「それが雷獣の骸魂か。祓ってやらねばなるまい」
 水雷は敵意を向ける古桜妖怪へと視線を返し、身構えた。その間にも刃には雷が纏わりつき、此方を穿つ力となって巡っていく。
 その軌道を見極めようとしながら水雷は双眸を鋭く細めた。
 雷撃は自然の物ではない故、天候操作の力だけではどうすることも出来ないだろう。だが、それだからといって何も対抗しないわけにはいかない。水雷は雷獣に後れを取るわけにはいかないとして、己を律する。
「……私とて雷と水を司る神、それと天叢雲剣を飲み込みし龍」
 水雷は語ると同時に完全なる龍体になっていく。雷撃が迸ったが、そんなことに怯むような水雷ではない。
「まだ弱き力とは言え、龍神としての私の力を示そう」
 ――我は祟りをもたらす悪龍なり。
 宣言と共に竜神として飛翔した水雷は尾を翻した。骸魂達も桜妖怪を呼び寄せ、其処に宿る幽霊達を此方に嗾けてくる。
 されど、水雷はそれすら跳ね除ける勢いで力を振るった。
「幽霊と云えど、我が身を傷つければ同じように傷を負うことになる。それを恐れぬのなら掛かってくるが良い」
 水雷は飲み込んだ神器の力を巡らせ、龍としての威厳を以て威圧する。
 幽霊達に恐怖を与えた水雷は、言霊から成る呪詛を発動させた。それは己が与えられた痛みを返す神罰だ。
 囘る、廻る。桜を散らしながら魂を穿ち、霊を還す神の力が巡りゆく。
 雷撃が疾走れば、それと同じ鋭い一閃が戦場を翔ける。幽霊達が短刀を振り下ろせば、鋭利な一閃が霊体を散らした。
 そして、水雷の力によって徐々に幽霊達が消えていく。
 やがて召喚された桜樹がまぼろしのように消滅した後、水雷は骸魂妖怪達へとその力を振るっていった。
 そして――龍神として振る舞い、妖怪達に神罰を与えた彼は顔を上げる。
 倒れ伏した妖怪達は世界が齎す眠りにつき、骸魂は斃されて浄化されることで消えていた。周囲から感じる戦いの気配も収まってきており、もう暫くすればこの桜迷宮での戦いも終わっていくだろう。
「多少なりと役に立てれば良いが……」
 己の力を収め、水雷は人としての形へと戻っていく。
 眠った妖怪を樹の傍に移動させた水雷は、桜の迷宮の向こう側を見つめた。其処からはほんの少しだけ、真白な雪片が流れてきていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロシ・ギアルギーナ
綺麗な桜ですね。
とても綺麗…けれど桜というモノは儚いでしょう?風が吹けば飛んでいくような…その程度の存在。
わたくしの天竺牡丹(ダリア)の方が強く、美しくってよ。
ですから、儚く消えて下さいな。

癒やしの眠りを与えてくるなら、眠気の限界を突破すれば行動は叶うでしょう?
わたくしに眠りは不要、なぜならばこの身はすでに死したるモノ。

わたくしの魔法剣と共に空を駆け、舞いましょう。
華麗に優雅、それがわたくしを表す言葉ですから。

そして骸魂が桜たちから離れたら、ボクが美味しく食べてあげる。
斬り合いたいんだろ?散らせたいんだろ?
だったらボクの力と成り果てて、一緒に楽しく踊れば良いさ。
想像すると素敵だろう?



●哀花
 桜の花がひらひらと舞っていた。
 周囲に張り巡らされた樹の枝からは様々な色の花が咲いている。
「綺麗な桜ですね」
 緋に薄紅、白に近い色。ロシはそれぞれに違う色を咲かせた桜枝を見上げながら、心に浮かんだままの言葉を口にした。
「とても綺麗……。けれど桜というモノは儚いでしょう?」
 その声が途中から誰かに問いかけるような物言いになる。その理由は、ロシが見据える樹の影に何者かが潜んでいたからだ。
「ふふ……」
 ロシの声を聞いた人影が其処から姿を現す。それは予想通り、雷獣の骸魂に憑かれた古桜の精だった。
「風が吹けば飛んでいくような……その程度の存在」
「そうかしら。雷を宿した桜は、そうとはいえませんよ」
 雷獣古桜はくすくすと笑っている。桜よりも雷のことを強く語った言葉は、どうやら雷獣の骸魂のもののようだ。すると、ロシは薄い笑みを返した。
「わたくしの天竺牡丹の方が強く、美しくってよ」
 そういってロシが示したのは髪に飾ったダリアの花。紅い天竺牡丹と薄紅の桜。ふたつの花の間に細い紫電が迸った。
 それを合図にして、両者は互いへと敵意を向ける。
「ですから、儚く消えて下さいな」
「消えるのはあなたの方よ」
 言葉が重なった刹那、二人は動いた。
 雷獣が変化した片刃剣が振るわれたことで周囲に電流を帯びた桜の花吹雪が舞う。それは心地よさを与えるものではあるが、異変の最中にある世界で一度でも眠ってしまえば、もう二度と起きられなくなるだろう。
「それが癒やしの眠り? そんなものを与えてくるなら……そうね」
 ロシは桜吹雪を払いながら、骸魂妖怪へと視線を向けた。眠りに誘われたとしても眠気の限界を突破すれば行動は叶う。だが、そうはいっても抗えるものではないはずだ。骸魂妖怪は自分の力が効かないことにたじろぎ、不思議そうに問う。
「そんな、どうして眠らないの?」
「わたくしに眠りは不要、なぜならばこの身はすでに死したるモノ」
 返答を告げると同時にロシは飛翔させた魔法剣と共に迷宮内を翔けた。舞うように、戯曲に合わせて踊るかのように。
 華麗に優雅に――。
 それが己を表す言葉であるのだと自ら示したロシは桜妖怪の腕を狙い、剣として形をなした骸魂を引き剥がしていく。
 その刃も依代に過ぎなかったらしく、其処から魂が抜け出ていった。
「ボクが美味しく食べてあげる」
 倒れた桜妖怪が眠ったのだと判断したロシの口調が、それまでと一変する。宙を彷徨う骸魂に手を伸ばしたロシは口許を静かに緩めた。
「斬り合いたいんだろ? 散らせたいんだろ?」
 だったら――。
「ボクの力と成り果てて、一緒に楽しく踊れば良いさ」
 そんな言葉と同時にロシは骸魂を掴まえて、その手にそっと握り込んだ。そうしてロシは魂に問いかける。
「想像すると素敵だろう?」
 その言葉に答えられるものはもう何処にもいなかった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

逢海・夾
オレは、骸の上に立っている。過去は変えられねぇからな
ま、つまり、いつもと同じだ

さっきまでの方が余程香ってたんだけどな、なんだか息苦しい
見通せねぇってのは、なんとなく落ち着かねぇ
場を掴まれてる今は特にな。ま、逆に使ってやるくらいの気持ちでいくとするさ

変な感じがするな。こういう時は動き回るべきじゃないんだが、仕方ねぇ
ま、斬り合う気はねぇよ。先に斬ればいいんだろ
必要なのはこの体と得物だけ。邪魔なものは削ぎ落とす
感覚も感情も置いていくさ、疾く、疾くお前等を倒せればそれでいい
さぁ、身軽になったオレは捉えられるか?
試しなんてねぇよ、一撃で終わらせる
雷より疾く、花が地に墜ちる前に、斬り裂くぜ



●凪に薙ぐ
 ――オレは、骸の上に立っている。
 これまで歩いてきた道を振り返れば、積み重ねてきた屍や骸の姿が思い浮かぶ。
 それは夾が辿ってきた変えられぬ過去。何をしたとしても不変の出来事であり、夾が背負っていくべき事実だ。
「ま、つまり、いつもと同じだ」
 夾は己が進む桜迷宮の先を見遣り、軽く肩を竦めた。
 其処にはいつの間にか現れた雷獣古桜が立っており、夾に敵意を向けている。辺りの桜は、相手が散らしている紫電によって散っては舞っていた。
「さっきまでの方が余程香ってたんだけどな、なんだか息苦しいな」
 先程まで歩いていた様々な花の道と比べて、夾が訪れている迷宮は妙な雰囲気に満ちている。それはきっと天井が枝や花に覆われていて空が見えないことや、其処彼処に走っている雷獣の電撃のせいだろう。
 骸魂妖怪が立ち塞がっている道の向こう側も闇に閉ざされていて見えない。仄かな魂の灯りはあれど、先は窺えなかった。
「見通せねぇってのは、なんとなく落ち着かねぇな」
「見なくてもいいですよ。あなたはここで、桜の下に眠る死体になるんですから」
 夾が呟くと、雷獣に操られている桜の精が妖しく笑った。
 此処は桜の領域。相手にとっては自分のフィールドであり、夾にとっては場を掴まれてるといっても過言ではない。
「そんなことにはならねぇよ。ま、逆に使ってやるくらいの気持ちでいくとするさ」
 不敵な笑みを返した夾は身構えた。同時に雷獣古桜も刃を差し向け、夾を亡き者にするという勢いで斬り掛かってくる。
 雷光が輝き、雷獣が変化した片刃剣が激しい勢いで振り下ろされた。その太刀筋を見切った夾は妙な感覚をおぼえる。
「変な感じがするな」
 それはきっと雷獣が桜の精の寿命を吸って動いているからだ。こういったときは動き回るべきではないと知っているが、今この状況ならば仕方ない。
「斬り合う気はねぇよ」
 短剣を構えていながらも、夾がそう語った理由は単純明快。
 即ち――。
「先に斬ればいいんだろ」
 放たれた雷撃を避けた夾は駆ける。
 戦いにおいて必要なのは、この体と得物だけ。邪魔なものは削ぎ落として散らしていけばいい。感覚も感情も此の一閃には関係がない。
 ただひたすらに疾く、疾く。
「オレはお前等を倒せればそれでいい。さぁ、身軽になったオレは捉えられるか?」
「……!」
 夾の速さに対抗できないらしい骸魂妖怪が息を呑んだ。その様子にも構わず、夾は鋭い刃を振り下ろした。
「試しなんてねぇよ、一撃で終わらせる」
 その一閃は雷より鋭く巡り――。
 舞い散る花が地に墜ちるより前に、すべてが斬り裂かれた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
桜の木の下には死体、とは…
これまたありがちな台詞でいらっしゃる。

狂い咲く桜達が如何に美しかろうと。
常在戦場。戦さ場問わず…
己の遣る事は、変わらない。
敵の、視線。剣を用いるなら手許、体幹、足の運び。
雷撃を放つなら予備動作…等、見切り、知識に照らし、次手に繋ぐ。
剣なら躱し、潜り抜け。
花吹雪が孕む電流は、伝導率の高いナイフ等金属を地に放ち避電、回避を。
それでも眠りが蝕むなら刃を握り痛覚で意識保持。

おいでませ、と…
えぇ、参上しましたとも。
――Ever ready
近接よりUCを。

惨劇の上に限らず、
花は咲く所には咲くものでしょう。
でなきゃあ…
僕みたいな悪人の元にこそ、美しい桜が咲く羽目になっちゃいますから



●花咲く場所
 それはよく聞く陳腐な話だ。
 血を吸った桜が綺麗に咲くという話は使い古されすぎている。
「桜の木の下には死体、とは……」
 クロトは目の前に現れた敵が紡いだ声を聞き、眼鏡の奥の双眸を軽く瞑った。これまたありがちな台詞でいらっしゃる、と少しの皮肉を混ぜて、クロトは静かに身構える。
「ふふ……」
 妖しく笑う骸魂妖怪は雷獣に憑かれているようだ。
 周囲に狂い咲く桜達が如何に美しかろうと、相手が操られているものであろうとクロトがこれから行うことは変わらない。
 常在戦場。戦さ場問わず。
 己の遣るべきことは一貫しており、普段と変わらぬ力を揮っていくだけ。
 クロトは敵を見据えた。
 敵の視線。剣を用いるであろう相手の手許。そして体幹や足の運び。それらを見据えて把握したクロトは凡その目安を設けた。
 紫電はあの片刃剣から溢れ出ている。力の揺らぎからして、おそらく其処に骸魂としての雷獣が宿っているのだろう。
 あの剣から雷撃が放たれるのだと認識したクロトは相手の予備動作を見極める。
 即ち、一撃目は敢えて繰り出させるのだ。
「さあさ、あなたも桜の下に眠る死体になりなさい!」
 電流を帯びた桜の花吹雪が巻き起こり、クロトを包み込もうとする。一瞬だけ微睡みが訪れたが彼はそんなものに屈するほど弱くはなかった。
 舞い散る花弁すら見切り、これまでの知識に照らしながら次手に繋ぐ。それがクロトの戦い方だ。
 振るわれる剣は躱し、花の嵐は潜り抜けることで命中を避ける。
 花吹雪を孕む電流は否応なしに身体に伝わってきたが、己が手にした伝導率の高いナイフ等の金属を地に放つことで避電した。
 そうして次々と回避していくクロトは敵を瞳に映し続ける。するとまた別の雷獣古桜が現れ、彼を包囲しようと動いた。
「おいでませ、おいでませ」
 そういって揶揄うように笑った敵に対し、クロトは片目を眇める。
「えぇ、参上しましたとも。――Ever ready」
 反撃として寸刻の鋼糸を巡らせた彼は周囲を囲む敵をひといきに絡め取った。それによって彼女達が纏う桜がはらりと散る。
 少々痛みを与えてしまうが、骸魂を祓うにはこれも必要なこと。魂さえ剥がして落としてしまえば妖怪の方は助けられる。
「惨劇の上に限らず、花は咲く所には咲くものでしょう」
「う、うう……」
 クロトの言葉に返答すら出来ぬ様子の骸魂が呻く。対する彼は攻撃の手を緩めず、更なる捌式の一手を張り巡らせていった。そして、クロトは宣言する。
「でなきゃあ僕みたいな悪人の元にこそ、美しい桜が咲く羽目になっちゃいますから」
 そうでしょう、と問いかけたクロトだが答えは求めていなかった。
 刹那、鋼糸が片刃剣を絡め落とす。
 折れた刃から魂が抜け出した途端、桜の精達はその場に崩れ落ちた。異変が齎す眠りに誘われた妖怪達は穏やかな寝息を立てている。
 そうして、クロトは此の場に巡っていた戦いの終わりを悟った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

柚木・眞衣
血の如く紅い桜
ひらひら舞う花弁を掴む

桜の花弁が地面に落ちるまで
掴めたら願い事が叶う、なんて
そんな迷信を思い出していた

そんな最中、
鋭い光の筋が目の前を通る
びくり、と一瞬だけ肩が揺れ
雷撃を放った人影へ視線を送る

──そう、殺されたいの、

並々ならぬ敵意
ぴりぴりと肌に感じる殺気

内から溢れ出す声は、
壊して壊して壊してッ!
と狂気に満ちている

向けられる殺意が、
そんなに嬉しいのだろうか
その気持ちは何も分からない

でも、今回は、
あなたの出番はない
わたしが、全部終わらせる

冷めた目で敵を見据え
デバイスを握る指に力が入る
構え、狙うは、ただひとつ

やがて、
桜に混じるのは、夕顔の花弁

救うため
この先に進む為

──犯した罪を償うため



●儚い罪
 花が散る。血の如く紅い桜が地に落ちていく。
 その中のひとひらに手を伸ばした眞衣は、目の前に訪れた花弁を握り締めた。
「……掴めた」
 思い返していたのは、桜の花弁が地面に落ちるまでに掴めたらならば願い事が叶う、という信じ難い迷信のこと。
 偶然か必然か、手の中に収まった花を見下ろした眞衣は不思議な思いを抱く。
 しかし、そのとき。
 空気を震わせるほどに眩い鋭い光の筋が、眞衣の前に迸っていった。
 びくり、と一瞬だけ眞衣の肩が揺れる。されどそれが妖怪の仕業だと分かっている眞衣はすぐに佇まいを直した。
 手の中にあった桜をそっと仕舞い込み、雷撃を放った人影へ視線を送る。
 入り組んだ桜迷宮の最中、頭上に広がる古木の枝から飛び降りてきたのは雷獣に乗っ取られた古桜の精達だ。
「さあ、斬り合いましょう」
「我らの雷撃で木葉微塵に散らして差し上げます!」
 其々に好戦的な言葉を紡ぐ彼女達に対し、眞衣は真白な瞳を幾度か瞬かせた。その眸に映った骸魂妖怪は二体。
 数や地の利は相手側にあるが、眞衣は怯みなどしない。
「――そう、殺されたいの」
 雷獣のものであるのか、相手からは並々ならぬ敵意が感じられる。ぴりぴりと肌に感じる殺気を受け止めながら眞衣は静かに身構えた。
 敵と眞衣の間にちいさな眞衣が疾走る。静謐さを感じさせる所作からは想像もできないが、眞衣の裡には或る狂気の声が満ちていた。
 ――壊して壊して壊してッ!
 狂気に満ちた声が己を突き動かそうとしているが、そんな気配など微塵も感じさせない様子で眞衣は敵を見据え続ける。
 向けられる殺意が、迸る戦いの気配が、そんなに嬉しいのだろうか。その気持ちは何も分からないと断じ、眞衣は自分だけの力を使うことを決めた。
(今回は、あなたの出番はないの)
 心の中だけで胸裏の狂気に答え、眞衣は妖怪が放った電流をひらりと避ける。すると雷を帯びた桜の花吹雪が周囲に広がっていった。
「わたしが、全部終わらせる」
 宣言した眞衣は冷めた目で敵を見据え、ダイモンデバイスを握った。胸の奥で叫び続ける狂気の声には耳を傾けず、指に力を籠める。
 花は眠りを齎してきたが、少女は狂気すら抑え込む精神力で只管に耐えた。そして、構えて狙うはただひとつ。
 解き放つ力は桜を穿ち、やがて――。
 桜花の情景に混じりはじめたのは、淡い夕顔の花弁。
 迷いは抱かない。抱いてはいけない。救うために、この先に進むために、この力を揮うと決めたのだから。
 そして、眞衣は骸魂を花の嵐で包み込んでいく。
 ――犯した罪を償うため。
 言葉にはしない思いを秘め、眞衣は花舞う景色に魂が散りゆく様を見つめていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
桜は色も形も花の付き方も様々だな。
思った以上に種類があるものだ。

…死体か、あまり良い趣味とは言えないな。
折角綺麗な花を咲かせる木であるのに残念だ。

UC「halu」使用。自身の腕を蔦へと変え、妖怪桜達を薙ぎ払う。
ミヌレ!
蔦での攻撃で隙をつき、槍で幽霊の持つ武器を弾き落とす。
雷獣による雷撃から槍を守る様に蔦で覆っていたが、やがてそれを外していく。
ミヌレが大丈夫だと、言っているのが伝わってくる。
雷獣の放つ雷撃を纏わせ、勢い付いた槍で相手の持つ剣を目掛けてぶつかる。
突くとも刺すとも違う、砕く様な勢いでぶつかる。

悪いが俺達を木葉微塵にはできないよ、される訳にはいかない。
桜の者達に身体を返してやってくれ。



●桜樹の向こうへ
 一重咲きに八重咲き、大輪。
 陽に向かう花や下向きに咲く花。白に薄紅、緋色。
 桜と一言で表しても、それは色も形も花の付き方も様々なもの。そういった花々が一堂に会するかの如く咲き乱れる情景。
 そんな景色を眺め、ユヴェンはしみじみとした感慨を覚えていた。
「桜か。思った以上に種類があるものだ」
 ひとつの桜をゆっくりと観賞する機会は多くあれど、異なる名や種類の桜が集まる今の様相はなかなか見ることはない。それも桜が横並びに咲いているのではなく、互いに干渉しあうかのように枝が入り組み、迷宮を形成している。
「ふふ……」
 そのとき、妖しい笑い声が聞こえた。
 樹々の裏や枝上から放たれる殺気を受け止め、ユヴェンはミヌレと共に身構える。その声の主が此度の敵として立ち塞がる骸魂妖怪だと察した瞬間、枝の上から桜を纏った人影が飛び降りてきた。
「桜の枝の先には、桜の樹の下には――」
「何が睡っていると思いますか、っと!!」
 先ずは女性の桜の精が言葉を投げかけ、ユヴェンの注意を引いた瞬間。続いて現れた男性の桜精が彼へと刃を振り下ろした。
 咄嗟にひらりと動いたテュットが衝撃を弾き返し、一閃は防がれる。すまない、ありがとう、とテュットに礼を告げたユヴェンは二体の桜妖怪を見据えた。
「……死体か。あまり良い趣味とは言えないな」
 先程の問いに律儀に答えた彼は、周囲に舞う桜の色が濃い緋色になっていくことに気が付く。それは敵である骸魂妖怪が召喚した幻影の桜だ。
 それだけではなく、呪われし自決者の幽霊が次々と桜から出現した。
「折角綺麗な花を咲かせる木であるのに残念だ。しかし、そうか。その剣に宿っているものを貫けば何とかなりそうだな」
 奇妙な魂の揺らぎや桜精の動き。其処から雷獣が片刃剣そのものだと気付いたユヴェンは、槍竜の名を鋭く呼んだ。
「――ミヌレ!」
 ユヴェンが自身の腕を蔦へと変えると同時に、その手に竜槍が収まる。
 迸らせた蔦が戦場に巡り、それから続く槍の一閃が幽霊達を穿っていった。その槍撃は正確無比にかれらの持つ武器を弾き落としている。
 雷獣からの紫電撃は蔦で防いでいき、ユヴェンは幽霊を散らしていった。敵の数が減る度にユヴェンはそれを外し、視界を広げる。そうしていった理由はミヌレが大丈夫だと言っているのが伝わってきたからだ。
「穿つことで葬送できるのなら、俺達に躊躇う理由はない」
 ユヴェンは雷獣の放つ紫電をミヌレの槍に纏わせた。衝撃はあったが、そのまま勢いを得た槍で以て、ユヴェンは桜の精を狙い打った。
 刹那、竜槍が雷獣の剣と衝突する。突くとも刺すとも違う、砕く様な勢いでぶつかった槍は見事に剣を弾いて飛ばした。
「悪いが俺達を木葉微塵にはできないよ、される訳にはいかない」
 どうか、桜の者達に身体を返してやってくれ。
 願うように紡がれた思いと共に骸魂を砕く槍閃が戦場に疾走った。そうして穢れた魂は鋭い一閃に浄化され、桜妖怪達は深い眠りに落ちていく。
 おそらく骸魂から解放されたことで、異変の影響を受けているのだろう。彼女達を目覚めさせるには眠りの世界を終わらせなければならない。
「先に進むしかないか」
 竜槍を強く握ったユヴェンは桜迷宮の奥に目を向ける。
 其処からは冷気が流れてきており、まるで誘うような真白な雪の欠片が散っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『白霧嬢子』

POW   :    寒冷ニ、凍エ脅エ
【生命活動を維持出来ぬ程の冷気】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    悲嘆ニ、暮レ征ク
攻撃が命中した対象に【哭き已む事の出来ぬ悲哀の情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【精神を蝕む絶望感】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    ゆきめぐりても、あはむとぞ
【今一度、お前様と出逢いたい】という願いを【対峙する猟兵たち】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●みをつくしても
 月の池から桜の迷い路を抜け、辿り着いたのは真白な雪原。
 其処に咲いているのはこれまでの花々とは違う、不可思議な妖力を孕んだ六華の花。此処こそが世界を眠りで満たした異変の中心だ。
 その最中にたったひとり、佇む雪女は哀しげな声を落とす。
「花は咲いたのに、幾度も季節は巡ったと云うのに、何故じゃ……」
 冷気が吹き荒れる中で、骸魂としての白霧嬢子は酷く嘆いていた。その理由は嘗て、遥か昔に交わした約束が果たされなかったからだ。

 ――花が咲く頃に、迎えに行くよ。
 雪原の中で不意に、白霧の雪女とは違う声が響いてきた。同時に雪女の周囲に断片的な過去の光景が浮かびあがる。それはおそらく、舞う雪が魅せる記憶の幻想だ。
 過去、雪女はひとりの人間に戀した。
 姿形を偽り、子を成し、穏やかな平和を愛した。しかし亭主は冬に入る前の或る日、子を連れて大きな街へと出かけた。良い寺子屋の噂を聞き、子を其処に預けるためだ。
 女はその間に留守を預かることになった。
 そのときに交わされたのが、あの約束の言葉だった。
 しかし、男も子も二度と家に帰ってくることはなかった。道中に山賊にでも遭ったのか、何らかの事故に遭ったのか、それとも――。
「汝は妾を裏切ったのかえ……」
 白霧嬢子の言葉は過去に向けられていた。事故だと考えることも出来たが、それ以上に嫌な想像が巡った。男が子を連れて自分から逃げた、という考えだ。
「嫌じゃ、嫌じゃ。何故に戻ってきてくれなかったのか。お前様、嗚呼、お前様……」
 骸魂となった今も、彼女は探している。
 戀をした男を、愛した子を。
 そして、果たされなかった約束を。怒りと疑問と共に。

 此処に訪れた猟兵達に亭主の男の行方や末路は知ることが出来ない。
 だが、たったひとつだけ確かなことがある。
 こうして別の雪女に乗り移り、眠りの世界という異変を広げる骸魂を放っておくことは出来ない。それぞれに身構えた猟兵に気付き、白霧嬢子は顔をあげる。
「汝らは要らぬ。妾が求めているのは彼の人のみ」
 刹那、悲嘆に暮れた声と共に、鋭い冷気が周囲に舞った。
 理由はどうあれ、幽世を救うには骸魂を穿ち、斃すことが何よりも重要で大切なこととなる。雪女の悲哀にどう向き合うか、それともただ斬り伏せるのみか。
 対峙の仕方は此処に集った猟兵達次第。
 そして、戦いは雪と共に巡りゆく。
 
橙樹・千織
少し、貴女が羨ましい…
それだけ愛しいという想いを持てたこと
そして、それを受けてくれる人がいたことが
雪女の言葉へ思いを告げながら、糸桜のオーラを練り上げ氷結耐性を整える

貴女が愛した人に何が起きたのかはわからないけれど
骸魂になってまで探す愛した人を疑い
想い出が残るこの地を
巡った魂が生きているかもしれない世界を
その手で壊すの?
攻撃を見切り、躱し隙を見てカウンターを

その哀しみを理解することは今の私にはできませんが
このまま放置すれば私の大切な人達に害が及びかねない
だから…貴女を此処で討つ

UCで散るは春の花
祈り、歌うは浄化と破魔を込めた子守唄

ほら、冬を越えた花が咲む
還りなさい
眠りなさい
愛しく優しい夢と共に



●過ぎし日々を懐う
 六花の華が視界を埋め尽くしていく。
 白霧が満ちる冷たくて寒い眠りの世界。手に入れられぬなら、戻れぬならば――微睡みと夢の世界でせめて、というのが彼女の願いなのだろうか。
 幽世に訪れても逢えぬひとを思い、雪女はただ嘆き哀しみ続ける。
「少し、貴女が羨ましい……」
 千織は白霧嬢子を見つめ、吹き荒ぶ氷雪を軽く掲げた片腕で受け止めた。羨望を覚えたのはそれほどまでに強い想いがあるゆえ。
 それだけ愛しいという想いを持てたこと、一度は本気で人を愛したこと。
 そして、それを受けてくれる人がいたこと。
「羨ましい? この惨めな妾がかえ?」
 対する白霧嬢子は千織を睨め付ける。顔は見えないが、そうしているであろうとはっきり分かるほどに強い視線を感じた。
 千織は激しくなりゆく氷雪に備え、糸桜のオーラを練り上げて体勢を整える。
「惨め、ですか」
 自分をそう称する雪女には深い悲しみが感じ取れた。
 吹雪と呼応するかのように強い睡魔が襲いかかってきたが、耐えた千織は白霧嬢子に呼びかけていく。
「貴女が愛した人に何が起きたのかはわからないけれど、骸魂になってまで探す愛した人を疑うなんて――」
 想い出が残る地を、巡った魂が生きているかもしれない世界を、その手で壊すのか。
 千織がそのように問いかけると、雪女は首を振った。
「ふん、思い出の地などとうになくなったのじゃ。あの地に花は咲いた。じゃが、時が巡る度に荒れ地となり、草すらも枯れ果て……」
 雪女はわなわなと震えている。
 おそらく何年、何十年、百に届くやもしれぬほど、現世の思い出の地にいたのだろう。されど、いつまで経っても誰も来なかった。おそらくはそういうことだ。
「嗚呼……今一度、お前様と出逢いたい」
 人の寿命など解りきっているであろうに、雪女は有り得ぬ願いを言葉にした。
 出逢えますよ、などという嘘や気休めは言えない。千織は思うままの言葉を彼女に向け、吹雪や六花、睡りと戦っていく。
「その哀しみを理解することは今の私にはできませんが、このまま放置すれば私の大切な人達に害が及びかねません。だから……貴女を此処で討つ」
 強く宣言した千織は構えた武器を花へと還る。
 ――はらりと舞うは、櫻花と面影。共に散らさん、汝が魂。
 詠唱と共に散るのは春の花。祈り、歌うは浄化と破魔を込めた子守唄。
「ほら、冬を越えた花が咲む」
 還りなさい。
 眠りなさい。
 愛しく優しい夢と共に。
 睡りの雪原に響き渡っていく千織の歌は、戦いの序曲となって巡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
彼等がどうなったのか知る術はありません
彼女が知りたいことを教えられませんが
深い悲しみも抱いた絶望もこのままにしてはいけない

倫太郎、往きましょう

刃に破魔の力を付与、駆け足で接近して近接戦に持ち込む
敵の攻撃にはなぎ払いで衝撃波を放って相殺
冷気による攻撃は凍結耐性にて耐える
隙を見て早業の火華咲鬼剣舞

簪である私を贈った者、主の恋人は戻ることはなかった
ですが、彼の末路は知っている
オブリビオンに立ち向かい、そのまま命を落としたと
彼女が亡くなった後に知りました

死を迎えるまで待ち続けた主は、会えぬ悲しみに抱きながらも待ち続けた
愛していたからこそ、信じられたのだと私は思います
貴女も同じではありませんか


篝・倫太郎
【華禱】
果されない約束と果される約束と
そのどちらが多いのかなんてのは
きっと考えても意味はないんだろう

約束に込められた気持ちや想いは
その時点での精一杯の真実だから
それが嘘か誠かも……当人にしか判らない

往こうぜ、夜彦

防御力強化に篝火使用
破魔と衝撃波を乗せた華焔刀で先制攻撃
以降は夜彦への攻撃と冷気を出来るだけ庇うことを優先して行動
敵の攻撃は見切りと残像で回避し回避不能時はオーラ防御で防ぐ

夜彦の行動の邪魔はさせない

約束が果たされなかったとしても
それまでの幸せだった時間は嘘じゃないはずで……
だから、信じたくて探すのか
果てにあるはずの答えを

約束の証として
果されなかった約束を知る夜彦は
彼女に何を想うんだろう



●主と想い
 断片的に見えた過去の記憶。
 お前様、と雪女が呼ぶ夫や子の顔はぼやけてよく確認できなかった。おそらく、その理由は雪女が抱く記憶自体が日に日に朧気になっているからだろう。
「彼等がどうなったのか知る術はありませんね」
「ああ……。俺達には調べることも出来ない」
 夜彦と倫太郎は吹雪の中に消え去った記憶を思い、互いに首を振る。
 果たされる約束。
 果たされない約束。
 そのどちらが多いのかなんてことは、きっと考えても意味はないのだろうと倫太郎は思う。彼が吹雪の向こう側を見据える中、夜彦も僅かに瞳を伏せた。
「彼女が知りたいことを教えられませんが、深い悲しみも抱いた絶望もこのままにしてはいけません」
「そうだな、約束に込められた気持ちや想いはその時点での精一杯の真実だから」
 たとえどんな事情があったとしても、それが嘘か誠かも当人にしか判らない。それは自分達が語るべきことではないのだと二人はよく理解している。
「倫太郎、往きましょう」
「往こうぜ、夜彦」
 雪原に踏み出した彼らは歩を進める。
 眠りの世界を広げる白霧嬢子と対峙して、退治するために――。
 別の猟兵が雪女と戦っている。それを好機だと見た夜彦は刃に破魔の力を付与して、一気に駆け足で接近してゆく。
 対する倫太郎は防御力を強化するために篝火を使い、華焔刀に破魔と衝撃波を乗せた。
 相手は強い骸魂であるゆえ、先制攻撃は望めないだろう。しかし、ひといきに斬り込んでしまえば勢いに乗せられる。
 夜彦は白霧嬢子から放たれる冷気を受け止めながら、刃を薙ぎ払うことで衝撃波を生み出した。多少は相殺できただろうかと感じて、夜彦は倫太郎に視線を送る。彼の眼差しを受けた倫太郎は災魔を喰らう水の神力を更に巡らせた。
 その間にも雪女は接近を阻むように白氷を吹雪かせていく。
 夜彦は冷気による攻撃は凍結の耐性にて受け、隙を見て早業からの火華咲鬼剣舞を見舞って行こうと決めた。
 ――舞いて咲くは、炎の華。
 刀身に瑠璃色の炎を宿した剣舞が敵に向けて鋭く放たれる。花が咲くゆに広がる炎が戦場に躍り、白に瑠璃が重なった。
 倫太郎はというと、夜彦への攻撃と冷気を出来るだけ庇うよう立ち回る。
 敵の攻撃は見切りと残像で回避して、回避が出来ないときはオーラ防御で防ぐといういつもの戦法だ。
「夜彦の行動の邪魔はさせない」
「ありがとうございます、倫太郎」
 互いの名を呼び合い、己が出来る行動に入る二人の息はぴったりだ。氷雪を舞わせて対抗する白霧嬢子は手強い。
 戦いが巡る中、夜彦はふと思う。
 簪である自分を贈った者、主の恋人は戻ることはなかった。しかし夜彦は雪女と違って彼の末路は知っている。
 彼はオブリビオンに立ち向かい、そのまま命を落としたという。
 そう、彼女が亡くなった後に知った。
 何かを考えながら戦っているらしい夜彦の横顔を見遣り、倫太郎も思いを巡らせる。
(たとえ約束が果たされなかったとしても、約束が偽物だったとしても、それまでの幸せだった時間は嘘じゃないはずで……)
 だから、信じたくて探すのか。果てにあるはずの答えを。
 倫太郎は言葉には出さず、吹雪の向こうに佇む白霧嬢子に目を向けた。
 約束の証として、果されなかった約束を知る夜彦。彼は彼女に何を想うのだろうと考えながら、倫太郎達は戦い続ける。
 剣戟が響き、雪が舞い散る中で夜彦は隙を見出した。駆けた勢いのままに雪を蹴り、雪女へと最大限に近付く。
 死を迎えるまで待ち続けた主は、会えぬ悲しみに抱きながらも待ち続けた。
 己の主について語った夜彦は敵に言い放つ。
「愛していたからこそ、信じられたのだと私は思います。貴女も同じではありませんか」
 刹那、刃が雪女を薙いだ。
「……な、何じゃ。知った口を聞きおって――!」
 白霧嬢子はふらつきながらも夜彦と倫太郎から距離を取り、更に激しい吹雪を巻き上げてゆく。何年、何十年と待った自分と人間を一緒にするな。
 そのような意思を感じ取った夜彦は僅かに哀しげな瞳を見せ、倫太郎も複雑な気持ちを抱いた。されど、そういった骸魂だからこそこの異変を引き起こしているのだろう。
 戦いはまだまだ続く。
 二人はそのことをしかと覚悟しながら、眠りの世界に満ちる雪を見つめた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

分かるよ。その気持ち。夫と子供が二度と帰ってこなくて1人残された気持ち。アタシも夫を失った。でもアタシには奏が残された。彼女は1人でどれぐらいの悲しみを背負ったか。

でも夫はアンタから逃げたんじゃない。アタシはそう思う。今のままでは彼の人に会えない・・・アンタを解放するよ。

その心の痛みは良く分るから、吹雪を真正面から【ダッシュ】で突っ切る。被害は出来るだけ【オーラ防御】で軽減。上手く接近出来たら全力の【怪力】を込めた炎の拳で殴る。同じく1人の男を愛し、子を産んだ身として、悲しみに囚われたままのアンタを放って置けない。せめて、眠らせてやるよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

深く愛するからこそ、悪い考えに至ってしまったのですね。
お気持ちは分かるんですが、もう少し旦那様を信じてあげる事は出来なかったのですか?

八つ当たりしたって、旦那様には会えません。被害が広がる前に、貴女を倒します。

トリニティエンハンスで防御力を高め、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【氷結耐性】で防御を固め、吹雪に耐えながら、【属性攻撃】で炎属性を付与した【衝撃波】で攻撃。貴女の嘆きから齎す滅び、止めて見せます!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

自分が異形の者であれば、裏切られたと思うのも分かります。

しかし、自分の出した結論で他人を巻き込むのはいかがなものかと。
僕らは旦那様の末路は知りません。でも貴女のやり方では旦那様は戻って来ない。止めましょう。

まず【オーラ防御】で防御を固め、【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を仕込んだ【結界術】を展開。【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】を併せた疾風閃で攻撃します。永遠の待ちぼうけに、終わりを。



●愛したもの
 ――今一度、お前様と出逢いたい。
 悲嘆に暮れる雪女。白霧嬢子は亡き夫を思い、決して叶わぬ思いを抱いている。
 その声と共に雪原に巡る吹雪を受け止めた響は、彼女の中にある寂しさや悲しさ、無念さを強く感じ取った。
「分かるよ。その気持ち」
 響は強く足元の雪を踏み締め、白霧嬢子の気持ちに寄り添う。
 夫と子供が二度と帰ってこなくて、たったひとりで残された気持ちは痛いほどに理解できた。響も同じく夫を失ったのだ。しかし、響には奏が残された。
 それが響にとっての救いだったが、彼女は独りでどれぐらいの悲しみを背負ったか。
 考えれば考えるほど響の胸の奥が痛む。
 複雑な心境を抱える母の横顔をちらと見遣り、奏と瞬も雪女への思いを抱いた。
「深く愛するからこそ、悪い考えに至ってしまったのですね」
「自分が異形の者であれば、裏切られたと思うのも分かります。しかし……」
 奏の言葉に続き、瞬も言葉を紡ぐ。
 だが、哀れであるからといって世界に異変を起こしていいわけではない。彼女の心が収まるか、骸魂としての存在を屠らねば眠りの世界は終わらないだろう。
 瞬が頭を振る中、奏は問う。
「悲しいお気持ちは分かるんですが、もう少しだけ旦那様を信じてあげる事は出来なかったのですか?」
「……妾は信じて待った。何年、何十年とな」
 すると雪女がぽつりと答えた。
 そうですか、と痛み入るような表情を見せた瞬だったが、すぐに雪女をしっかりと見据える。それとこれとは話が別だ。
「自分の出した結論で他人を巻き込むのはいかがなものかと」
 世界を変異させる力が其処にあるのならば、自分達はそれを止めるだけ。
 戦うしかないのだとして三人は身構えた。
 頷いた響は骸魂を倒せども、彼女の心自体は汚したくはないと思っている。自分達に真実を伝えることや探すことはできずとも、せめて言葉だけでも優しくありたい。
「夫はアンタから逃げたんじゃない。アタシはそう思う」
 響は吹雪を真正面から受け、素早く駆けることで突っ切っていく。ややもすれば生命活動を維持出来ぬ程の冷気が迫ってくるが、猟兵たる響達は怯みなどしなかった。
「八つ当たりしたって、旦那様には会えません!」
 どれほどに悲しくとも今の状況は誰も望んでいない。奏が防御の力を固めると同時に瞬もオーラを巡らせる。
「僕らは旦那様の末路は知りません。でも貴女のやり方では旦那様は戻って来ない」
 止めましょう、と瞬は二人に呼び掛けた。
 返ってくる視線と頷きで、三人の意思は同じだと確かめられる。吹雪を突き抜けていく響は身を貫くような冷たさは、雪女の心の痛みそのものだと感じていた。
「今のままでは彼の人に会えない……アンタを解放するよ」
 被害は出来る限り、身に纏ったオーラで耐える。
 響が氷雪を軽減していく背を追い、奏も果敢に攻撃に移っていった。
「被害が広がる前に、貴女を倒します!」
 炎と水、更に風の魔力を己の身に宿らせた奏は雪女の力を削ぐために動く。瞬は二人の姿を見つめながら、鎧無視攻撃と麻痺、目潰しや部位破壊の力を仕込んだ結界術を展開していった。
 そうすれば二人の身は確かに守られていく。
 響は瞬のお陰で上手く接近できたと察し、全力の怪力を揮っていった。
 氷雪に対して響は炎の拳ですべてを殴る。其処に続いて動いた奏も、炎を宿した衝撃波で響を援護していく。
 ひとりの男を愛し、子を産んだ身として――同じ母として。
「悲しみに囚われたままのアンタを放って置けない。だから、せめて眠らせてやるよ!」
「貴女の嘆きから齎す滅び、止めて見せます!!」
 吹雪に耐える二人の炎は戦場に広がり、明るい灯火となって巡った。
「おのれ、小癪なものども……!」
 対する骸魂妖怪は更に吹雪を強め、誰も近づけまいとする。しかし奏も響も、二人を守る瞬も、退く気は微塵もなかった。
 それでもまだ白霧嬢子が倒れる気配はない。
「疾風よ、奔れ!!」
 瞬は高速詠唱から紡ぐ全力の魔法に更に詠唱を重ね、疾風閃の一撃を迸らせた。
 永遠の待ちぼうけに、終わりを。
 瞬が込めた思いを感じ取った響と奏は雪女を鋭く見つめながら駆ける。吹き荒ぶ雪風に消されてしまわぬほどに強い炎は、瞬の追い風を受けて激しく燃えあがった。
「瞬、奏、まだまだ行くよ!」
「「はい!!」」
 響の呼び掛けに元気よく答えた二人は、再びそれぞれの力を紡ぎあげてゆく。
 雪と氷。炎と風。
 衝突しあう思いと力は、睡りと氷の世界で鎬を削っていった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ
お言葉を返すなら、
「貴女は要らない。世界は崩壊を求めていない」
ってとこなんでしょう…けど。

悪人、化け物、人でなし…
さんざ奪い、踏み躙って来て、
未だ悔悟も罪悪感も知らぬ、言われた通りの己でも。

困った事に…
失くす不安や、果たされない約束の痛みは、
今では何となーく、解っちゃうんですよね。
…約束も果たされず置いていかれたら、僕は――

だから。
幾度も季節は巡ったから、ですよ。と。
ひとは、脆いから。
誰かと永遠に生きられる様に出来てはいないから。
いつかは、探しに、逢いに、往くしかなくなってしまう。
…こわい、ね。

UC用い骸魂を払おうとすれど、
思ってはしまうわけだ。

戀しいひと。
出逢えるのだったら…
逢えれば良いのに



●想う光
 嘆きの声と悲しみの吹雪が広がっていく。
 視界を真白に染める鋭い氷雪を受けながら、クロトは白霧嬢子を見据えた。
 目の前に立つ彼女こそが、或いは詳しく言及するならば、あの雪女の中に宿った骸魂が世界の異変を巻き起こすものだ。
 冷たい眠り。
 それは悲しみから生み出されるもの。このまま放っておけば辺り一帯だけではなく、幽世全土が眠りに包まれるのは明白だ。
 お言葉を返すなら、と言葉にしたクロトは雪女に語りかけた。
「貴女は要らない。世界は崩壊を求めていない……ってとこなんでしょう、けど」
 悪人、化け物、人でなし。
 そう呼ばれるほどのことを自分はやってきた。さんざ奪い、踏み躙って来て、未だ悔悟も罪悪感も知らぬ――言われた通りの己でも。
 クロトは半ば独り言ちながら、生きるためには何だって行ってきた自分の過去を振り返る。何の柵もないはずだった。
 しかし、その思いが過去形になっていることが示すように、今は違う。
「困った事に……」
 溜息を軽くつくと、白い息が吐き出された。
 雪女が吹雪を巡らせる度に、空気の温度は常人であれば活動が出来ないほどに下がっていく。それでもクロトは怯むことなどなく身構えていた。
 失くす不安、果たされない約束の痛み。
「喪失というものも、今では何となーく、解っちゃうんですよね」
 普段通りに敵の出方を窺うことで分析し、戦いに踏み出そうと狙うクロト。その胸裏に浮かぶのはやはり、彼の人のこと。
 太陽のような光を思えば、このような寒さなど何でもない。
 もしも、と嘗ては無かったはずの懸念が巡るのも、要らぬと断じていたはずのあたたかさと感情をいつのまにか得ていたから。
 闇を照らす陽光の眩しさを、今の己は確かに識っている。
(……約束も果たされず置いていかれたら、僕は――)
 様々な思考が過ぎる。
 あの雪女のようになってしまうのだろうか。必ずしもそうなるとは思ってなどいないが、可能性のひとつが見えた気がした。
 だが、だからこそ止める。
「幾度も季節は巡ったから、ですよ」
 お前様と白霧嬢子が呼んでいる愛しいひとは、それゆえに帰ってこない。
 ひとは、脆いから。
 誰かと永遠に生きられる様に出来てはいないから。
 十三の業、内の八。寸刻の鋼糸を迸らせたクロトは雪女に言葉を掛けていく。激しい雪風がクロトに吹き付けてくるが、彼は止まらない。
 ――いつかは、探しに、逢いに、往くしかなくなってしまう。
「……こわい、ね」
 氷雪に紛れて落とされたクロトの言の葉は誰にも聞かれぬまま消えていった。そして、クロトは骸魂を払うために更に戦場へと鋼糸を張り巡らせる。
 払い、祓おうとすれど、つい思ってはしまう。
 戀しいひと。愛おしいひと。
 出逢えるのだったら――逢えれば良いのに、と。
 そうして、戦いは続いていく。魂が眠る世界を滅し、在るべきものへと戻す為に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
ここは寒いね
冬ってのは結構嫌いなんだ……死ぬほど
まあ、お前にゃ関係ない話だけどさ
オマエサマ、を求めるのも結構だけどね
余所モンは邪魔だって言われたとこで、別の都合で動いてる奴はいるもんだ
仕方ないってやつさ

あんだけ花に囲まれて、未練がましいってやつかい
責めてるワケじゃなし、詳しく知りもしないけど
……うっとうしいくらいわかるものもヤなもんだ

会えなくなった奴にもう一度会うにはどうしたらいいんだろうね
そんな事ばっか考えてると頭痛くなるよ
会えるならそうあればいいとも思うけど
ままならないこともあるもんさ
お前がどっちかは知らないが

……さて、やっぱり手がかじかむのはいただけないな
ロクに武器も持てやしないのはね



●逅
 此処は寒い。
 それは周囲に吹雪いている氷の欠片や雪の大地のせいだけではない。視線の先に佇む雪女の心が悲しいほどに冷えているからこそ、この状況が作り出されている。
「冬ってのは結構嫌いなんだ……死ぬほどね」
 有は肩を竦め、震える仕草をしてみせた。実際に寒いので本当に震えてしまいそうなほどだが、戦いは既に始まっている。
「お前様、お前様……何処に行ったのじゃ」
「まあ、お前にゃ関係ない話だけどさ」
 吹雪と六花の中で呟いている白霧嬢子を見据え、有は頭を振った。こちらの話が向こうに関係がないように、どうやら向こうもこちらに意識を向けていない。
 別にいいさ、とちいさく言葉にした有は地を蹴った。降り積もる雪で足場は悪いが、そんなことなど気にしていられない。
「オマエサマ、を求めるのも結構だけどね」
 ――邪魔。
 有は言葉と同時に吹雪を遮る為の一閃を揮う。すると赤椿が広がり、白い雪の最中に鮮やかな色彩が入り混じった。
「余所モンは邪魔だって言われたとこで、別の都合で動いてる奴はいるもんだ。仕方ないってやつさ」
 互いに邪魔だと考えているなら排除するまで。
 非情にも思えるが、世界を巻き込んで嘆きを広げるならば止めなければならない。たとえ雪女の骸魂にどのような理由や過去があったとしても、それは変わらない。
「お主も妾の思いを荒唐無稽と断ずるか」
「そういうわけじゃないけどね。あんだけ花に囲まれて、未練がましいってやつかい」
 有は吹雪を受け止め、身を翻した。
 一処に留まっていれば周囲の花のように凍りつかされてしまうだろう。有はたえず動き続けながら花椿を放ち、骸魂の気を削り取っていく。
 その際に思うのは白霧嬢子が会いたいと想うひとのこと。
 きっと彼も子も、とうの昔に死を迎えた者。そうである以上はもう二度と同じものには逢えやしない。それが人間ならば余計に。
「責めてるワケじゃなし、詳しく知りもしないけど……」
 うっとうしいくらいにわかる。
 解ってしまう。それも嫌なのだという気持ちも思いも押し込め、有は戦い続ける。
「会えなくなった奴にもう一度会うにはどうしたらいいんだろうね」
「解らぬのじゃ……妾には、もう――」
「だよね。そんな事ばっか考えてると頭痛くなるよ」
 成立しているようでしていない言葉を交わしながら、雪女と有はそれぞれに放てる力を巡らせていった。
 もしも望み通りに会えるなら、そうあればいいとも思う。
 けれども、ままならないこともあるのだと結うは痛いほどに知っていた。どれだけ求めても、願っても会えやしない。
 お前がどっちかは知らないが、と呟きを落とした有は白霧嬢子を見つめた。
「……さて、やっぱり手がかじかむのはいただけないな」
 ろくに武器も持てやしないほどに冷気が満ちていくのは勘弁したい。早々に決着をつけるべきだとして、有は更に赤椿を解き放った。
 そして、椿の花が雪原に落ちる。
 戦いの最後は間近まで迫っているのだと報せていくように――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

柚木・眞衣
びりびりと肌を刺す冷気
眠気も狂気も全て抑え込んだ

──でも

大切な人に会えなくて
さみしい気持ちが募るのは
わたしにだって抑えられない

おもむろにポケットへ手を突っ込む
仕舞った紅い花弁を握り締めて
願うことは、ただ、ひとつ

──あなたに逢いたい

思い出すのは
今は居ない愛衣ちゃん
わたしが✕✕した、彼女

雪女、
あなたの痛みは分かる
同情でも憐れみでもない
これは、単なる共感

それでも眠りの中で
生きていく訳にはいかない

愛した人が生きた世界を
思い出がある、この世界を

壊さないで

彼女を納得させるような言の葉なんて
わたしにはない、だから、

構えたデバイスが
夕顔の花弁へ変わっていく

雪と花が舞う中で
無表情で彼女を見据え

──引き金を引いた



●雪原に咲く
 冷たくて悲しい空気が満ちている。
 震えてしまいそうな、びりびりと肌を刺す冷気が眞衣を襲っていた。雪が肌に張り付くように触れる度に白霧嬢子の記憶や思いの断片が伝わってくる。
 睡りの世界が齎す眠気。
 雪女の感情。自分の裡に宿る狂気。
 それらがぐちゃぐちゃになって心が掻き乱されそうだったが、眞衣は全て抑え込む。
 見た目だけでは彼女が狂気に堪えている様子は窺えない。しかし、その裡では激しい理性の巡りがあった。
「――でも」
 顔をあげ、白霧嬢子の姿をしかと捉えた眞衣は首を横に振る。
 睡魔も狂気もこうして抑えたが、僅かに綻びがあった。それは雪女が抱いている深く苦しい嘆きの感情だ。
 大切な人に会えなくて、さみしい気持ちが募る。
 それが何年、何十年と続いたであろうことは眞衣にも解った。花が咲いたら迎えに来るという約束を信じて、怨んで、どれほどの苦悶があったのだろうか。
「これは、わたしにだって抑えられない」
 眞衣は白霧嬢子が吹雪として解き放っている感情を思う。自分に伝わってきたのはほんの一欠片に過ぎない。
 それだというのにこんなに胸が締め付けられる。
 つまり、白霧嬢子自身は更に強い悲嘆や苦しみを抱き続けているということだ。
 眞衣は吹雪に押し負けるわけにはいけないとして、おもむろに自分のポケットへ手を差し入れた。そして、仕舞い込んだ紅い花弁を握り締める。
 其処から願うことは、ただ、ひとつ。
 ――あなたに逢いたい。
 今はもう居ない、何処にも居ない、居るはずのないあの子。
(わたしが✕✕した、)
 愛衣ちゃん。
 ふと過ぎった思いは先程のように押し込めた。逢いたいと願えども、自分も雪女の思いも決して叶うことはないのだから。少なくとも、いま此処では。
「あなたの痛みは分かる」
「ふん、憐憫など要らぬ」
「いいえ、同情でも憐れみでもない。これは――」
 単なる共感なのだと告げ、眞衣は思いを伝えることを止めた。理解ができる、解ってしまったのだと話した眞衣に対して、雪女は訝しげな雰囲気を満ちさせる。
 しかし、眞衣は気になどしなかった。
 どんな理由や思いがあろうとも眠りの中で生きていく訳にはいかない。
 愛した人が生きた世界を。
 あの思い出がある、この世界を。
「壊さないで」
「知らぬ、知らぬ! 何もかも、もう嫌なのじゃ!」
 眞衣の声に対して雪女は嘆きの言葉を返した。あれほどの悲しみを抱く彼女を納得させる材料は揃っていない。自分には言葉だけで心を救うことは出来ないと、眞衣はちゃんとわかっていた。
 だから、と構えたデバイスが瞬く間に夕顔の花弁に変わっていく。
 雪と花が閃く。
 誰にも逢えない。もう二度と廻り逢えないと示す、残酷なまでに白い世界。眞衣は無表情のままで彼女を見据え――そして、引き金を引く。
 その一閃は雪を裂くように舞い、戦いを終わらせる一手となって巡った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
約束っていうのは…不確かなものだよな
大切な約束というのは、希望でもあるが…
果たせず置き去りにされた約束は…まるで呪いにも似ている様だとも思う

会わせてやれたら良かったんだがな
叶えてやれそうもなくて悪い

気になる事があるんだが…
子どもがいたのであればアンタの元へ帰るつもりだったんじゃないか。
子はそう簡単に母親を忘れられるものでもないだろ。
俺もあの人…母と呼べる人に会いたくて会いたくて…その為なら何でもしようと思っていた事があるからな

俺のこの刀、青凪は冷気を吸い水刃へと変える。
アンタがその者の体に居たとて、大切な人は迎えには来られない
だから水の刃で相手を斬る
そしてUC『tyyny』で彼女を送る一曲を。



●雪と凪
 約束を交わした。
 それは果たされるものとばかり思っていた。最初は疑いはしなかった。
 次に花が咲けばまた逢えるのだと、最後まで寄り添えるのだと、信じていた。
 だが――。
「約束っていうのは……不確かなものだよな」
 白霧嬢子の記憶と思いの断片を視たユヴェンは、何処か悲しげに呟く。それほどに重い約束になるとは雪女とて思っていなかったのだろう。
 花が咲く頃に。
 いつ、とは云われなかった時期をどれほど待ち続けたのか。そして、信じていた思いはいつから歪んでしまったのか。
 それを知る術は今のユヴェンにはない。彼女の夫と子の行方は誰にも知れぬことだ。
「大切な約束というのは、希望でもあるが……」
 激しく戦場に吹き荒れる氷雪をその身に受け、耐えるユヴェン。彼は敵の動きを見据えながら思いを巡らせていた。
 果たせず置き去りにされた約束は、まるで呪いにも似ている。
 たった一言の約束が彼女を縛った。恨むにしろ、嘆くにしろ、いとおしいものに出逢いたいと願っている限りは苦しいだけだ。
「嗚呼、お前様……」
「会わせてやれたら良かったんだがな」
 吹雪を轟かせながらも愛おしいひとを呼ぶ雪女。ユヴェンとて、もし願いが届くならば合わせてやりたかった。
「叶えてやれそうもなくて悪い」
 ユヴェンは手にした刀を振るい、迫りくる氷雪を振り払いながら相手との距離を縮める。そのまま鋭い一閃で以て雪女を穿つのは骸魂を確実に払うため。
 されど魂の防御陣を広げた相手も、ただ黙ってやられているわけではない。
「邪魔じゃ」
「気になる事があるんだが……」
「…………」
 冷たく言い放つ雪女に対してユヴェンは問いかける。相手は無言だったが、彼は構わずに言葉を続けていく。
「子どもがいたのであればアンタの元へ帰るつもりだったんじゃないか」
「知らぬ、知らぬ、分からぬ!」
 吹雪と水刃が拮抗しあう。
 ユヴェンの持つ刀、青凪は冷気を吸って刃へと変えるものだ。更に鋭い吹雪が自分に向かってくることを察し、ユヴェンは一度後方に飛んだ。
「子はそう簡単に母親を忘れられるものでもないだろ。俺もあの人……母と呼べる人に会いたくて会いたくて……その為なら何でもしようと思っていた事があるからな」
「ならば何故に帰ってこぬのじゃ! お前様も、あの子も!」
 嘆く言の葉と同時に、ユヴェンへと更なる氷の一閃が紡がれた。水刃で以てそれを受け止めたユヴェンの身が僅かに揺らぐ。
 しかし、耐えた彼は刃を真っ直ぐに白霧嬢子に向けた。
「アンタがその者の体に居たとて、大切な人は迎えには来られない」
 だから、斬る。
 そうすることが今すべきことだとユヴェンは識っている。そして、振り下ろされた刃は骸魂を鋭く斬り裂いた。
 戦いはまだ続くと感じ取り、彼は身構え直す。
 ただ葬るだけではない。送るための調べを必ず彼女に贈るのだと決めて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

大好きで大切だからこそ、不安なのね
その気持ちはよく、分かるわ
しかももう、その問いに答えられる人はいない
この寒さがあなたの淋しい心なのだとしたら
……なんて哀しい事なの

ルーシーもパパが居なくなったらってほんの少しでも考えたら
とてもとても、怖かった
花飾りの重みと
恐怖を払うように握り返した手が、あたたかくて
前を進む力をくれる

ええ、パパ
どうかせめて、あのひとの不安を少なくして
ご家族の元へゆけますように
お手伝いをしましょう

お出で青花
雪女さんを導くパパに攻撃がいかないようにお守りして
彼女が二人の手を取ったなら
浄化の祈りを込めて、三人を包んで

もう、あなたたちはずっといっしょよ
離れる事はないわ


朧・ユェー
【月光】

嗚呼、とても切ないね
戀した人と愛した子
同時に大切な人が居なくなるのはとてもツライだろう
きっと僕もこの子が居なくなったら同じ気持ちなのだろう
いや、それこそ想像はしたくは無い
この子の手をそっと握る

真実はどうなのかわからない
でも彼女の気持ちが少しでも楽になるように

ルーシーちゃんありがとうねぇ
彼女が僕達を守ってくれてる間に
傀儡
彼女が知る戀した男と愛した子の姿へと変わる

そして伝える
ただいま、一緒に帰ろうと
二人の手が彼女に手に触れる

さぁお帰り、愛する者達と共に



●偽物と本物
「嗚呼、とても切ないね」
「大好きで大切だからこそ、不安なのね」
 吹雪が迸る戦場にて、視えたのは断片的な雪女の記憶。愛した夫と子が手を振る姿を見送っている光景が消え去り、ルーシーとユェーは思いを言葉にした。
 戀した人と愛した子。
 同時に大切な人が居なくなるのはとても辛かっただろう。それも、最初はまた会えると信じていたのだから余計に苦しみが募ったはずだ。
「その気持ちはよく、分かるわ」
 ルーシーがぽつりと呟く中、ユェーは無言だった。
 きっと自分もこの子が居なくなったら同じ気持ちになるのだろう。否、それこそ想像はしたくない出来事だ。
 ユェーは言葉の代わりにルーシーの手をそっと握る。
 雪女が巻き起こす吹雪は更に激しくなっていた。お前様に逢いたい、再開したいと願う彼女の思いは理解できる。
 しかももう、その問いに答えられる人はいないことも分かった。
「この寒さがあなたの淋しい心なのだとしたら……なんて哀しい事なの」
 ルーシーは周囲の寒さに震えながらも、これが雪女の悲しみと心の冷たさそのものなのだと感じ取る。
 同じく吹雪を受けているユェーには、真実がどうだったのかはわからない。
 それでも、彼女の気持ちが少しでも楽になるように。そのために動き始めたユェー達は白霧嬢子の心を慮っていく。
 鋭い吹雪が齎す痛みは無視できるものではなかったが、二人は果敢に立ち回った。
「ルーシーもパパが居なくなったらってほんの少しでも考えたら……」
 とてもとても、怖かったわ。
 ちいさく零した言の葉は寒さではなく恐怖で震えている。
 しかし、それも一瞬。
 ルーシーは花飾りの重みと、先程から握っている手のぬくもりに意識を向けた。ユェーの手は大きくて頼もしい。恐怖を払うように握り返した手は、あたたかくて――前を進む力をくれるものだと感じた。
「お出で青花」
 ルーシーは釣鐘水仙の花を周囲に巡らせ、ユェーを守る。
 彼は雪女を導く為に力を使うらしい。ユェーに攻撃がいかないように花を吹雪に当て、少女は護りの体勢に入っていく。
「ルーシーちゃんありがとうねぇ」
「ええ、パパ」
 彼女が自分を守ってくれてる間に、ユェーは傀儡を起動させた。それは自身と同じ強さを持つカラクリ人形とドッペルゲンガーだ。
 それらは先程に見た、雪女が戀した男と愛した子の姿へと変わった。
「お前様……? お主は……」
 すると白霧嬢子がふらりと一歩を踏み出す。
 それは勿論、本物ではなく偽物だ。雪女の記憶の中の二人の相貌がよく視えなかったため、顔ははっきりと再現されていない。おそらく雪女本人すらも顔を忘失しているため、朧気なものだったのだろう。
 術を操るユェーも、それを見守るルーシーもこれが或る意味で残酷なことだと解っていた。それでも、とルーシーは事の成り行きを見守る。
「どうかせめて、あのひとの不安を少なくしてご家族の元へゆけますように」
 そのお手伝いをするのがきっと、自分達の役目だ。
 ユェーは人形とドッペルゲンガーを操り、雪女の傍にまで近付かせていった。
 そして、ユェーはそっと告げる。
「ただいま、一緒に帰ろう」
「お前様……?」
 二人の手が彼女の手に触れた。雪女は不思議そうな声を零す。
 次の瞬間、白霧嬢子が二人の手を取った。ルーシーは浄化の祈りを込めて、三人を花で包みこんでいく。
「もう、あなたたちはずっといっしょよ。離れる事はないわ」
「さぁお帰り、愛する者達と共に」
 雪と花が交わりあう中、ルーシーとユェーは白霧嬢子に想いを伝えていった。
 雪女の頬に涙が伝ったのか、顔布の下から雫が零れ落ちる。
 すぐに周囲に吹き荒ぶ氷雪が涙を攫って凍らせていった。震えている様子の白霧嬢子は人形とドッペルゲンガーから手を離す。
 不穏な気配を感じたユェーとルーシーは、繋ぎ続けている手を更に強く握りあった。
「妾のためにこんなことをしたのか。ありがとう……じゃが――」
 確かに礼が聞こえた。
 しかし、それと同時に辺りを巻き込む吹雪が更に強くなっていく。
「これはまやかしじゃ。本物ではない」
 雪女は後方に下がり、人形達から距離を取った。もう顔も覚えていないほどに時は過ぎた。それゆえにこうして形を保った二人が現れることなどないのだ。
「……そうね」
 ルーシーは俯き、ユェーは無言のまま吹雪に包まれて白い柱になった人形とドッペルゲンガーを回収した。
 もう二度と彼女が愛しい者に逢えないということが、あまりにも悲しい。
 雪女の顔は見えないが、どうやら泣いているらしかった。そして、全てを拒絶するかのような吹雪が巻き起こり、ルーシーとユェーは身構え直す。
 最早、倒すことでしか解決できない。
 そう感じた二人は気を引き締め、共に戦いへの思いを強めていった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈍・しとり
死して尚も戀に彷徨うか
気の毒に
それに目の毒だこと

情を喰らうことこそ物の怪の生きる道と云う、わたし達は
人に情を移しては樂に生きていかれないのか知ら
どうしてか胸の痛いこと
哀れで痛ましいこと

結ばれたらば、物の怪であれど、死すらも二人を別ち得ぬと。
そう思うのか知ら
わたしも知りたいわ
その様なことがあるか知ら
死んだニンゲンと今一度巡り逢えるなど

真ならば拝ませて貰おう
刀を一休みさせるだけのこと、容易いのだから

嗚呼、
どうしてか胸の痛いこと
お前達の様を見て、どうして涙一滴止められようか、雨すら降るに
水仙に金盞花、山茶花、梔子。
白蘭、それに紅時雨。
せめて私の知る限りの手向けの花を咲かせよう

良い天気ね
羨ましいほどに



●雨と氷
 いとしい、いとおしい、こいしい。
 吹雪に交じる冷たさから雪女の思いを感じ取り、しとりは双眸を鋭く細めた。
 死して尚も戀に彷徨うのか。
「気の毒に。それに、目の毒だこと」
 浮かんだ思いは自然に言葉となり、しとりは白霧嬢子を見据え続ける。全てを拒絶するように吹雪は強く激しくなっていた。
 情を喰らうことこそ、物の怪の生きる道。
 わたし達はそう在るものだと考えながら、しとりは雪女にそうっと呼び掛けた。
「人に情を移しては樂に生きていかれないのか知ら」
「……知らぬ。もう、何も分からぬ」
 戀したことが間違いだったのか。愛を求めたことが罪だったのか。
 愛しいと想っていた人の行方は知れず、もう二度と逢うことは叶わない。そうして骸魂となった雪女は、どうして約束が守られなかったのかと嘆くだけの存在に成り果てた。
 どうしてか胸が痛い。
 哀れで痛ましい魂を思い、しとりは錆刀を握った。迫り来る氷雪は妖力を孕んでおり、当たれば力を削られる。
 刃で以て妖力の流れを斬ったしとりは地を蹴った。白い雪に足跡が刻まれ、鋭い一閃が道をひらく為に振るわれていく。
 結ばれたらば、物の怪であれど、死すらも二人を別ち得ぬ。
 そう思うのかしら、と声にしたしとりはひといきに白霧嬢子に肉薄した。
「わたしも知りたいわ」
「何をじゃ」
「その様なことがあるか知ら、死んだニンゲンと今一度巡り逢えるなど」
「…………」
 雪女が咄嗟に生成した氷の刃としとりの千代砌が衝突する。白く染まった吐息が空気を染めあげる中で、二人の言葉が交わされた。
「荒唐無稽と笑うが良い。じゃが、もしかすれば――」
 雪女は何かを言いかけたが、それ以上を声にすることはなかった。そして、しとりの刃を弾いた相手は後方に下がる。
 もしかすれば。
 その言葉が真ならば拝ませて貰おうと思った。この刀を下ろして、一休みさせるだけのことならば容易いのだから。
 おそらく――本人すら気付いていないが、『今一度、お前様と出逢いたい』という願いに猟兵達の多くが賛同すれば、何かが起こった。
 オブリビオンとなった雪女の魂は、それを実現させるほどの力を秘めている。
 されど賛同するものはおれど、数が足りなかった。
 しとりは僅かに瞳を伏せた。
 その理由は、彼女の願いは永遠に叶わないと知ったからだ。もはや救いはなく、此の雪女を斃す他ない。
「嗚呼、どうしてか胸の痛いこと」
 待ち続けた雪女。帰ることの出来なかった夫と子。
 お前達の様を見て、どうして涙一滴止められようか、雨すら降るに。
 しとりから零れ落ちた雫が雪原に落ちる。そうすれば水仙に金盞花、山茶花、梔子と様々な花が咲く世界が広がった。
 更には白蘭、それに紅時雨。
 せめて自分の知る限りの手向けの花を咲かせよう。そう決めたしとりの心象風景が、戦場に満ちていく。吹雪は止んでいないが、花は凍らずに咲いていた。
「良い天気ね」
 そう、羨ましいほどに。
 しとりの言葉は花と雪の世界へと紡がれ、徐々に近付く終わりを予感させた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎

過去の詳細は知らん
今見えた物ぐらいしかな

だけど今のお前を見てそいつが喜ぶことが無いのは分かるぜ
だって…家族なったんだろ?
そいつが愛したお前はどんな奴なんだ?
今のようなお前だったか?
…どうなんだそこんとこ

少なくとも裏切るようにはみえなかったぜ!


願いか!それはいくらでも手伝うさ
会いたいならば会うべきだ!

まぁ落ちつかせてからだけどな!

UCで光属性の魔力を滞留させつつ攻撃を防ぐ!
パル!
ルビ!
俺様の援護はいらん!
『彼女の願い』の援護をしろ!
…上手い事さ、過去から繋がるとかさ…やれない!?(丸投げ)

お前の相手はこの俺!兎乃零時様さ!
さぁ、全力全開でかかってこい!…これで結構、俺様はしぶといぜ!



●叶えたかった願い
 手を振る男と少年の姿が見えた。
 それは、雪女が夫と子を見送る光景だ。おそらくはあの景色こそが、彼らの姿を見た最後の時だったのだろう。断片的に視えていた景色は消え、今は吹き荒れる氷雪が猟兵達の身を貫かんとして激しく巡るだけ。
「過去の詳細は知らん。今見えた物ぐらいしかな」
 零時は巡らせた魔力で以て吹雪の直撃を避けながら、雪女に言い放つ。
 何があったのか。どうして帰ってこなかったのか。本当のことを知ることは誰であっても不可能なことだ。
「……」
「だけど今のお前を見てそいつが喜ぶことが無いのは分かるぜ」
 無言のまま吹雪を轟かせ続ける雪女に対して、零時は断言してみせた。訝しげな雰囲気が相手から感じられ、零時は更に言葉を続けた。
「だって、家族になったんだろ?」
「うむ、そうじゃが……妾は己を人だと偽った」
「そいつが愛したお前はどんな奴なんだ? 今のようなお前だったか?」
「誠実な男じゃった」
「だよな、少なくとも裏切るようにはみえなかったぜ!」
「しかし、妾の嘘がばれて捨てられたのやもしれぬ……」
 雪女は俯いていた。
 零時とのやり取りで過去を思い返していたのだろう。きっと男との生活は幸せだったはずだ。子まで成したのだから円満に違いなかった。
 だが、それゆえに突然の別離を認められなかったのかもしれない。
 零時が光の陣を紡いで吹雪を防いでいく中、雪女は震える声で願いを言葉にした。
「――今一度、お前様と出逢いたい」
 その声を聞いた零時は幾度か瞼を瞬かせ、ぱっと笑みを咲かせた。相手はオブリビオンであり骸魂だが、強い思いは良いものだと感じたのだ。
「願いか! それはいくらでも手伝うさ。会いたいならば会うべきだ!」
「お主は無駄じゃと断ぜぬのか?」
「そりゃあな! だって逢いたいんだろ?」
 まぁ落ちつかせてからだけど、と告げた零時の言葉には屈託がなかった。逢えない人に逢いたいという願いは荒唐無稽だが、賛同することは悪いことではない。
 零時は魔力の光線を解き放ち、その力を周囲に滞留させていく。
「パル! ルビ!」
 零時は光を巻き起こしながら、お供の名を呼んだ。
「俺様の援護はいらん! 『彼女の願い』の援護をしろ!」
 すると二匹から、どうやって? という雰囲気が感じられた。上手いこと過去から繋がるとか、そういうことをやれないかと告げた零時だが、流石に何か切欠や明確な力がなければ難しいようだ。
 やっぱそうだよなぁ、と言葉にして杖を握った零時は気を取り直す。
 何であれ、自分達が雪女の願いを肯定していることは変わらなかった。本当はそれだけで良いことを雪女も零時自身も未だ知らない。
 オブリビオンとなった彼女は無意識に願いを叶える力を宿していた。荒唐無稽な願いであっても、それに賛同するものが多ければ何かの出来事が起こったのだ。
 だが、白霧嬢子の願いを肯定した者はいても数が足りない。もし、零時のように真正面から願いを認めてくれるものが今よりも多くいれば――それこそ、本当に奇跡が起こったかもしれない。
 されどそれは、もう誰も知ることのない別の結末だ。
 吹雪を巻き起こす白霧嬢子はもはや倒すことでしか救えない。零時はパルとルビと共に並び立ち、光の軌跡を描く。
「お前の相手はこの俺! 兎乃零時様さ!」
「お主は優しいのう……しかし、すまぬ」
 雪女自身も力尽きるまで戦うしかないと悟っているのだろう。謝罪の言葉を告げた白霧嬢子は片手を上げ、零時をはじめとした猟兵を攻撃していく。
「さぁ、全力全開でかかってこい! これで結構、俺様はしぶといぜ!」
 光を描く零時は真っ直ぐに立ち向かう。
 もう彼女の願いは叶わない。それでも願いを大切にしたいという思いを強く抱き、少年は果敢に戦っていく。
 僅かでも良い。幽かでも、彼女に救いが訪れることを願って――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
菱川さんと/f12195
・極寒の雪里生まれ、寒いのは得意(氷結耐性)

待っていたかったんだと思います、
迎えに行くよって言ってくれたから。
それに、うんと待った後で
確かめに出かけるのは怖いですもの。

UCで嘆きの沈静化を試みながら
逢いたい気持ちに賛同
「待たなければ」という執着を【浄化】で和らげる

…ご家族を探しに行きませんか。
あなたが迎えに行くんです。
数多の過去が溶ける海には、お二人だっているかもしれません。
会えた暁には、事情はどうあれまず
「この馬鹿亭主!」くらい言ってもいいと思うんです。
…ね、菱川さん!(唐突に振る)

――鳥よ、花よ。

愛ゆえ深い嘆きで塞がれ狭くなったその視界、
誘い開けと【祈り】ます。


菱川・彌三八
雲の字と/f22865
分かっちゃいたが、袷で雪中は厳しい

…あァ、成程
入れ違っても切ねェものだな
然し善いんじゃねェか、逢えば
逢いたいんだろう
希うは如何許りか
賛同が得られるは如何許りか
俺にはわからねェが、肯定はしよう
夫れでお前ェの気が済むならば、僅かでも叶うか知れねェぜ

エッ ハイ
…唐突でやや怯んだ
マ、嘆くばかりでは何も始まらねえ
男なんてなァ何時だって待たせてばかりサ
そう云われちゃあ立つ瀬もねェや

さぁ、凍えっちまう前に如何にかしようか
月に花にと来たら風流なもんだが、加減がねェや
寒い処の生まれってんなら、ちいとマシなのかね
千鳥は胡粉で白く描き、雪に潜ませ徐々に削り取る
幻を見ながら往けりゃあ善いが、さて



●喩え叶わずとも
 吹き荒ぶ氷雪が身体を凍りつかせていく。
 分かっちゃいたが、と身を震わせた彌三八は袷の長着で雪中は厳しいと感じていた。しかし先程までは極普通の気温であったのだから致し方ない。
 対する雲珠は平気そうだった。
 元は極寒の雪里生まれ。雲珠は雪が齎す寒さには慣れている。次は菱川さんが俺にくっつきますか、なんてことを言おうかと思ったが流石に憚られたので黙っておく。
 何にせよ、あの雪女を倒すまではこの寒さは続くのだ。
 周囲には彼女が過ごしたであろう過去の出来事の断片が浮かんでは消えていた。
「……あァ、成程」
「待っていたかったんですね。迎えに行くよ、って言ってくれたから」
 彌三八が納得した声を紡ぐ中で、雲珠も彼女の心を理解する。約束を信じて、ずっと待ち続けた。されど果たされないと知ったのは、うんと待った後。
「入れ違っても切ねェものだな」
「はい、それに……確かめに出かけるのは怖いですもの」
 そうすれば本当に会えなくなる。
 それゆえに彼女は待って、待って、待ち続けて――何かも、失くした。その結果が今のこの状況なのだろう。
「然し善いんじゃねェか、逢えば。逢いたいんだろう」
 なァ、と雪女に呼び掛けた彌三八は何でもないことのように言う。
「……逢えぬのじゃ」
 返答は短い。だが、その一言だけで雪女が抱える心境がよく解った。今一度、お前様と出逢いたいという願いが荒唐無稽だとは本人も知っている。
 会いたい。逢えない。
 せめぎあう思いが拮抗できずに暴走したことで、世界の異変にまでなってしまった。
 雲珠は真白の桜吹雪を吹かせ、吹雪に対抗していく。
 この力で少しでも嘆きが静まるように。彼女の抱く願いが叶うように。彌三八と同じように雲珠も、白霧嬢子の逢いたい気持ちに賛同していた。
 そうすることが彼女の助けになると、二人とも知っていたからだ。
 そして、雲珠は『待たなければ』という執着を浄化しようと試みていく。
「……ご家族を探しに行きませんか」
「二人を?」
「ええ、あなたが迎えに行くんです」
 雲珠とて、お前様と呼ばれる者がこの世に居ないことは分かっている。先程に見えた景色はとても昔の出来事に思えた。
 骸魂となる前にかつて居た現代ではなく、かなり時代を遡ったものだ。それゆえに彼の人物は生きてはいまい。
「数多の過去が溶ける海には、お二人だっているかもしれません」
「…………」
 雲珠の言葉に白霧嬢子が何かを考えはじめた。彌三八は雲珠の言う通りだと告げ、自分も其れが悪くはないことだと考えていると語る。
 希うは如何許りか。賛同が得られるは如何許りか。
「俺にはわからねェが、肯定はしよう。夫れでお前ェの気が済むならば、僅かでも叶うか知れねェぜ」
「そう、なのじゃろうか」
 彌三八達の言葉に対し、雪女は僅かな逡巡を見せた。
 それでもまだ心は静まりきっておらず、吹雪が轟々と音を立てて巡っている。彌三八達は氷雪の鋭さをまともに受けぬよう立ち回りながらも、言葉を掛けていった。
「会えた暁には、事情はどうあれまず『この馬鹿亭主!』くらい言ってもいいと思うんです。ね、菱川さん!」
「エッ ハイ」
 雲珠から唐突に話を振られたことで彌三八は少しばかり怯んだ。
 すると、ちいさな笑い声が吹雪に混じって聞こえた気がした。顔は隠されているゆえに見えないが、白霧嬢子が笑ったのかもしれない。
 気を取り直した彌三八は佇まいを直す。
「マ、嘆くばかりでは何も始まらねえ。男なんてなァ何時だって待たせてばかりサ」
 そう云われては立つ瀬もないが、ひとつの道は示した。
 賛同する人数は少なく、完全に彼女の願いが叶うことはないだろう。だが、肯定する自分達は此処にいる。逢えたら良いと願う者が確かに存在することは間違いない。
「さぁ、凍えっちまう前に如何にかしようか」
 彌三八が千鳥を羽撃かせて行く中で、雲珠も更なる思いを紡いでいった。
「はい!」
 ――鳥よ、花よ。
 月に花に雪、と来れば風流なものだが、この吹雪には加減がない。強く頷いた雲珠に頼もしさを覚えつつ彌三八は次の行動に移った。
 胡粉で白く描いた千鳥を雪に潜ませ、魂の気を徐々に削り取る。
(幻を見ながら往けりゃあ善いが、さて)
 白霧嬢子の宿るのは愛。それゆえに深い嘆きが巡っているのだろう。塞がれて狭くなった視界はそのまま彼女の心を示しているようだ。
 いざない、ひらけ。
 雲珠の祈りと共に彌三八の千鳥が戦場に翔けてゆく。
 どうか届け。完全に救われる路がなくとも、一縷の希望が見出だせるように――。
 屹度、この戦いの終わりは間もなく訪れる。そのような予感を覚えながら、二人は果敢に戦い続けていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

みをつくしても逢はむとぞ思ふ―

約束を果たして
叶えて
何としても逢いたい
諦められない
…何故だろうね
不思議とね
わかる気もする

触れた春の手に柔く笑む
櫻宵。私の約はここに在る

暖かい春がここに咲いている
そうだね、サヨ
鎖された約を解いてあげよう
哀しみも絶望も喰らい桜咲く路を斬り拓く

約束は
叶えてもらうものではなくて叶えるものだ
そなたがその人を捜しにいくんだ

私は再約の神だからね
もう一度そなたらが廻り逢えるよう厄を斬った後、縁を約(結)ぼうか

見つけられるよ

どんな姿であれど分かるよ
結ばれた約があるのならば
きっと
本当のその形を取り戻して
そなたのこころに、再び花が咲いた頃にね
もしかしたら
あの花園の中にもいたのかも


誘名・櫻宵
🌸神櫻

私達の約は果たされた
果たしてくれた
また逢えた

約は果たされるものばかりではないともしっている

かつては希望の絆だった約が
厄の鎖となっているのね
凍てつく花冷えに
隣合う神の手に触れ

カムイ
一緒に絡め取られた魂を解放しましょう
冷たい眠りから春暁の目覚めへ
哀しみも絶望も恐るるものではない
あなたがいるから

哀しみを屠り桜咲かせるわ

鎖す冬を斬り裂いて桜咲かせ駆け
祈りを込めて怨嗟を浄化する桜嵐の様に薙ぎ払う

あなたの待ち人も
きっと還ってきてくれるわ
雪解けの春に
姿形は違ってもわかるかしら?

愚問だったわ
カムイは再び廻り生まれる―約結びの神様
だものね

きっとそう
祈り冬を終わらせましょう
怒りに濁る瞳では
見えない光がある



●再び、約束を
 瀬をはやみ、わびぬれば、風吹けば。
 様々な和歌の言葉が胸裏に浮かび、そっと巡っていく。その中でカムイが言葉にしたのは或るひとつの詩。
「みをつくしても逢はむとぞ思ふ――」
 約束を果たして、叶えて、何としても逢いたいと願う心。
 諦められない。諦めたくない。そういった気持ちが雪女から伝わってくる。
「何故だろうね。不思議とね、わかる気もするんだ」
「カムイ……」
 彼が紡いだ言葉は無自覚なものだったのだろう。しかし、櫻宵はその意味をよく知っていた。彼も嘗て、そうだった。
 カムイ自身は覚えておらず、櫻宵も今は語るつもりはない。
 自分達の約は果たされ、果たしてくれた。また逢えたという幸せな巡りを得たが、どの約束も必ず結ばれるわけではない。
 約は果たされるものばかりではないとも、櫻宵は知っている。
「かつては希望の絆だった約が厄の鎖となっているのね」
 それまで花で満ちていた世界は凍りついていた。凍てつく花冷えは厳しく鋭いものであり、櫻宵は隣合う神の手に触れる。
 触れた春の手を握り返し、カムイは柔く笑んでみせた。
「櫻宵。私の約はここに在る」
 そう、暖かい春がここに咲いているから。
 繋いだ手も縁も、もう離さない。
「ええ、カムイ。一緒に絡め取られた魂を解放しましょう」
 世界をこのままにしてはおけない。冷たい眠りから春暁の目覚めへと導くために、二人はいま此処に立っている。
 哀しみも絶望も恐るるものではない。何故なら、あなたがいるから。
「哀しみを屠り、桜を咲かせるわ」
「そうだね、サヨ。鎖された約を解いてあげよう」
 哀しみも絶望も喰らい、桜咲く路を斬り拓く。そのために――。
 屠桜と喰桜。
 対の刃が静かに、凛とした雰囲気の中で抜き放たれた。刹那、櫻宵が白い大地を強く蹴りあげた。鎖す冬を斬り裂いて、雪に対抗するように桜を咲かせ駆ける。
 その横を駆けていくのは勿論、カムイだ。
 祈りを込め、怨嗟を浄化する桜嵐の如く薙ぎ払う櫻宵の一閃。其処に合わせてカムイが赫の一閃を解き放った。
「あなたの待ち人も、きっと還ってきてくれるわ」
 雪解けの春に。
 この冷たい冬を超えた先で、きっと。
「約束とは、叶えてもらうものではなくて叶えるものだ。そなたがその人を捜しにいくんだ、白霧の君」
 櫻宵に続き、カムイも白霧嬢子に呼び掛けた。
 鋭い氷の刃を作り出すことで二人の刃を受けた雪女。その表情は見えないが、彼らの言葉を受けて何やら考え込んでいるようだ。
「……妾が、」
 それ以上の言葉は続かず、代わりに吹雪が舞い散った。
 自分から会いに行く、という言葉について思いを巡らせているようだ。櫻宵は骸魂の気を散らすため、更なる剣戟を見舞っていく。
 自分達が死と巡りの先で再会できたように、きっと白霧嬢子も――。
「姿形は違ってもわかるかしら?」
「見つけられるよ」
 ふと櫻宵が零した疑問に対し、カムイが答える。
「愚問だったわ」
 ふふ、と笑った櫻宵は彼の横顔を見つめた。彼は再約の神。そのことを示すようにカムイは雪女へと語りかけていった。
「もう一度そなたらが廻り逢えるよう厄を斬った後、縁を約として結ぼうか」
 再び廻り生まれる――約結びの神様。
 彼がこうして告げているのだから、災厄など抑えて巡らせることができるはず。白霧もお前様と呼ばれる夫や子も、姿や在り方が変わってしまっているだろう。
 それでも、どんな姿であれど分かる。
 結ばれた約があるのならば、きっと。
 ――風吹けば、峯にわかるゝ白雲の ゆきめぐりても、あはむとぞおもふ。
 カムイは白霧嬢子へと和歌を諳んじた。
 それはまたの再会を願う詩。彼女が願い続けるならば、たとえ時間が掛かってもいつか巡り会えると報せるための歌だ。
「本当のその形を取り戻して、そなたのこころに、再び花が咲いた頃に――」
「きっと、そう。祈りで冬を終わらせましょう」
 怒りに濁る瞳では見えない光があるのだから。そう告げた櫻宵は屠桜で吹雪を切り裂き、カムイと共に斬り込んでいく。
 カムイも喰桜で骸魂の悪しき部分だけを斬り、力を揮っていった。
 もしかしたら彼らの魂もあの花園の中にもいたのかもしれない。それを確かめるのは、この異変を収めてからだ。
 吹雪が巡りゆく中、二人は戦い続けた。
 眠りの六花はもう要らない。此れを乗り越えた先に、再約があると信じて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
冷たい冬が、凍てつく哀しみの心を示すかのようだね、ヨル
僕らは過ごしやすいけど
このまま冬に閉ざされ睡れば春は訪れないよ

果たさなかったのか
果たせなかったのか
僕にはわからないけれど
君はずっと待っていたんだね
君もかの神様のように、求む魂(ひと)を捜しに行ったりしたのかな
約を結び廻る櫻と神を想う

僕は君の探す人じゃないけど
祈り歌うことはできる
ヨルの鼓舞に微笑んで
六花咲かす水流を盾にして攻撃を防ぐ
歌うのは「望春の歌」

僕を守るように舞うカナンとフララに笑む
大丈夫だよ
きっと
またあえる
期待して、信じることは辛いのかもしれないけれど

君の冬があけて
優しい春が訪れるように
いつか君も逢いたい魂に逢えるように
僕は祈っている



●希望は雪の底に
 冬が巡り来るには未だ早い。
 しかし今、此処には冷たい冬が訪れている。まるで凍てつく哀しみの心を示すかの如き雪だと感じながら、リルはヨルをそっと抱いた。
 人魚もペンギンも水の冷たさや雪の寒さには強い方だ。
「僕らは過ごしやすいけど、このままにしてちゃいけないね」
「きゅ!」
 この世界が冬に閉ざされ睡れば秋はおろか、春さえ訪れない。近くで神と櫻が舞うような剣戟を骸魂へと見舞う様を見つめ、リルは呼吸を整えた。
 果たさなかったのか。
 果たせなかったのか。
 花が咲く頃に迎えに行くという約束の結末を思っても、本当のことは誰も知ることが出来ない。リルにもヨルにも、雪女にだって追うことが叶わないものだ。
「君はずっと待っていたんだね」
 リルは氷雪の痛みを水泡の力で受け止め、雪女に言葉を向ける。
 待っている。迎えに行く。
 ふたつの言葉を思えば、彼の神様のことが浮かんだ。目の前の彼女も求む魂に逢うために、いとおしいひとを捜しに行ったりしたのだろうか。
 約を結び、廻る櫻と神を想うリルはきゅうっと胸が締め付けられる感覚をおぼえた。
 彼らは約束を果たした。
 けれども、彼女は果たされなかったことを嘆いて世界まで巻き込んでしまっている。
「僕は君の探す人じゃないけど、祈り歌うことはできるよ」
「きゅきゅう!」
 リルの声に答えたヨルは鼓舞するように両羽をぱたぱたと揺らした。うん、と頷いて微笑んだリルは更に力を巡らせた。
 六花を咲かせる水流を盾にして吹雪の攻撃を防ぐ。
 そして、其処から歌いあげていくのは――薄紅を風に委ねるように響く、望春の歌。
 柔くて優しくて暖かい。すべてを抱いて、蕩ける歌声が戦場に巡りゆく。同時にリルを守るように幽世蝶達が羽ばたいた。
 優雅に翅を広げるカナンとフララにも笑みを向け、リルは双眸を淡く細める。
「大丈夫だよ」
 別離が訪れても、時間が掛かっても、きっと。
 またあえる。
 巡り逢うそのときまでは辛い。期待して待ち侘びた分だけ、そのいつかを信じることは難しいのかもしれないけれど。
 本当に想いが通じあっていたなら、まだ彼の人を想う心が残っているなら。
 希望まで睡らせてしまってはいけない。
 リルは歌に思いを込め、泡と桜の花吹雪を白い雪の波に衝突させていった。どうかこの歌が心を柔らかくする一助となるように。
 君の冬があけて、優しい春が訪れることを願って。
「僕は祈っているよ」
 いつか、君も逢いたい魂に逢えるように――。
 眠りの世界の力が少しずつではあるが、確かに弱まっていく。氷雪が示すのが冷たい心ならば、雪が止んだときに見える世界は、きっと。
 救いと春を祈る人魚の歌聲は清かに、真白な世界を桜の色に染めてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢海・夾
どんな過去があろうと、どんな思いがあろうと、倒すことに変わりはねぇ
お前がそいつを求めるように、オレは守りたいものがある
そのために、お前を倒しに来た
…だから、これは攻撃でしかねぇんだ
手向けの花は、もうそこら中にあるからな
これ以上は、ただの感傷ってやつになるんだろうよ

そら、煙に巻かれちまえ
見たいもんだけ見てりゃいい、それなら現実なんて見る間もねぇだろ
その間に終わりにしてやるよ
存在ごと、痛みも何もかも消してやる
攻撃は避けられるなら避けたいけどな、仕留めるのが先だろ
動ければそれでいい、こっちの息が止まる前に倒せばいいだけだ

知ったからって揺らぐようなもんじゃないけどな
ただ、出来ることをしただけだ



●偽りの幻影
 視えたのは、白霧嬢子が辿ってきた過去。
 己を人だと偽り、人間の男と恋をして子を成した。それは平穏で幸せな生活ではあったが、いつ自分が人ではないことが明らかになるか恐れる日々でもあっただろう。
 妖だと知れば夫は自分の元を去る。
 そのような懸念が渦巻いていたはずだ。そして、約束をひとつ残して消えてしまった男への疑念や不安は膨らむばかり。
 そんな過去の断片が雪景色の中に浮かんで消えていった。だが、夾にとってはそのようなことなど関係ない。
「どんな過去があろうと、どんな思いがあろうと、倒すことに変わりはねぇ」
「妾も斃されるわけにはいかぬ」
 夾が言い放つ言葉に対し、雪女も吹雪を轟かせることで此方を拒絶する。凍てつかせるような鋭い氷雪を受け止めた夾は強く地を蹴った。
 雪原では少しばかり動き辛いが、そのことにも構わず夾は駆ける。
「お前がそいつを求めるように、オレは守りたいものがある」
 そのために、お前を倒しに来た。
 凛と告げた夾は梅香の煙を解き放っていく。揺らぎながら巡るその力、幻煙奇譚は対象の望む幻を魅せるものだ。
「……だから、これは攻撃でしかねぇんだ」
 凍りついてはいるが、手向けの花はもうそこら中にある。そう告げた夾は雪女の周囲に幻が奔る様を見つめた。
「これ以上は、ただの感傷ってやつになるんだろうよ。そら、煙に巻かれちまえ」
 すると雪女の傍にふたつの影が現れた。
 ひとつは夫らしい男。もうひとつは少し小さい、少年の影だ。
「お前様……」
 雪女が呟き、影に手を伸ばした。
「見たいもんだけ見てりゃいい、それなら現実なんて見る間もねぇだろ」
 その間に終わりにしてやる。
 それが夾が出来る最大限の慈悲であり、幕の下ろし方だ。
 だが、二人の顔は霧が掛かったような真白なのっぺらぼうだった。おそらく雪女自身が夫と子のはっきりとした顔を忘れてしまったのだろう。
「――違う。これはまやかしじゃな」
「そうか、覚えてないのか」
 白霧嬢子は幻を振り払い、悲しげに呟いた。夾は梅香の煙が漂う雪原を見渡し、雪女が見たかった平穏の景色が消えていく様を確かめる。
 求める人の顔すら忘れて嘆くだけ。可哀想だが、それが今の雪女の在り方だ。
「それなら存在ごと、痛みも何もかも消してやる」
 更に激しくなった吹雪を受け、夾は果敢に立ち回った。避けられる攻撃は躱し、駄目ならばしかと受け止める。
 仕留めるのが先。動ければそれでいい。こうなった今、こちらの息が止まる前に倒せばいいだけだと夾は考えていた。
 悲しみや苦しみ、嘆きが吹雪から伝わってくる。それでも夾は怯まない。
「知ったからって揺らぐようなもんじゃないけどな」
 ただ、出来ることをするだけ。
 夾が放つ一閃は鋭く、眠りの世界と戦いを終わらせるための一手となってゆく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

揺・かくり
フルラ/f28264

雪の妖よ、君も過去を生きる者なのかい。
……否。君も、などでは無いね
私は既に死した者なのだから。

雪華の白も、君の懐く想いも
目が潰れる程に眩しくて仕方がない。
此の身を浸すのは呪詛のみ
君の真直な想いを理解する事など出来ぬのさ。

フルラ、花蜜の魔女たる君よ。
君の裡に滲む想いは如何なものだろうね。
……ああ、君の語らう通りさ
君が其の様で在るのなら、私とて同じ。

死霊諸君、今一度頼まれて呉れるかい
屍人たる私の命なぞ好きに喰らうが良い。
君たちが好む美味たる感情だ。
加減など求めぬよ
各々好きにするが良いさ。

わたしは、凍える温度を忌み嫌う
……ああ、何故だろうね。
忘れてしまったよ。知らずとも良い事だ。


フルラ・フィル
かくり/f28103

刺すように冷たい冬だね
だのにキミのココロは燃えているのかい
憎悪に怒りに
キミはね
凍てつくように美味しい蜜になれるよ

約束なんて、破られる為にあるものだろう?
そんなものを結ぶから裏切られるのだよ
(私のように)

かくり
死していようが生きていようが
過去も未来も在りはしない
(私には)

冬が嫌いかい?
冷たい雪は
鎖された水中を思わせる
私にとっては戒めさ
愚かしいことさ
……凍える人々の為に奔走して焔を、命を繋ぐ温かな蜜を配り歩いた、愚かな…忌わしい記憶を思い出
全て砕いてしまえ

辛いなら忘れてしまえばいい
捨ててしまえ
とかしてしまえ
それがキミの救われる道だ

もうしっているだろう?
待ち人は
存在しないのだとね



●行き往きて
 吹雪が大地を白く染めあげ、六花の華が他の花を凍りつかせていく。
 凍てつく氷雪がすべてを睡りに導く。そのような世界が少しずつ広がっていた。
「雪の妖よ、君も過去を生きる者なのかい」
 かくりは雪女である白霧嬢子に声を掛けた。これまで猟兵に幻を魅せられた彼女は酷く嘆いている。幻は偽物であり、そのまやかしは求めるものとは違うと断じたことで更に深い哀しみが巡ったのだろう。
「妾はもう、何も解らぬ。覚えてさえおれぬ……」
 表情は見えないが、猟兵達に追い詰められた骸魂は苦しげな声を上げていた。一度は心が解けようとしたときもあったが、それも眠りの世界の力が押し込めてしまってる。
「……否。君も、などでは無いね」
 私は既に死した者なのだから。独り言ちたかくりは、迫りくる氷雪を受け止めた。同じくフルラも花杖を掲げることで防御陣を張る。
「刺すように冷たい冬だね」
 放たれる一閃は冷気。しかし、フルラには彼女のココロが燃えているように思えてならなかった。愛憎とはよく言ったもので、愛は憎しみに変わるという。
 冷たい嘆き、熱い怒り。相反するものが雪女の裡にある。
「キミはね、凍てつくように美味しい蜜になれるよ」
 ふ、と笑ったフルラは翠の双眸を鋭く細めた。一見は穏やかに見える佇まいの奥には雪よりも冷たい何かが見えた気がする。
 かくりは死霊を呼び出し、吹雪に対抗して貰いながら雪女を瞳に映した。
 雪華の白も、彼女の懐く想いも、どうしてか目が潰れる程に眩しくて仕方がない。強い思いを抱いているからか、雲間から時折だけ射す薄い光が雪に反射しているからか。
 呪詛のみを抱くかくりにとって熱情は眩い。
「残念、とも云えぬけれど、私に君の真直な想いを理解する事など出来ぬのさ」
 愛憎を真に理解することは出来ない。
 彼女が交わしたという約束の行方を探し出すことも不可能だ。かくりがゆうるりと肩を竦める仕草をしてみせると、フルラが言葉を落とした。
「約束なんて、破られる為にあるものだろう?」
「……違う」
「そんなものを結ぶから裏切られるのだよ」
 私のように。
 思いは声にも表にも出さず、フルラは反撃に入っていく。幾何学模様を描く灼熱の杭によって氷雪を溶かすことでフルラは自陣を広げた。
 かくりは彼女の裡に何かが隠されていると察しながら、敢えて問う。
「フルラ、花蜜の魔女たる君よ。君の裡に滲む想いは如何なものだろうね」
 対するフルラはそっと振り向いた。
「かくり、死していようが生きていようが、過去も未来も在りはしないよ」
 私には。
 もうひとつ、言の葉を胸に秘めたフルラは静かな視線をかくりに送った。
「……ああ、君の語らう通りさ」
 君が其の様で在るのなら、自分とて同じ。何が過去であれ、どれが未来であれど、現在が此処にあるのだから何も変わらない。今は今として続いていくだけだ。
 かくりはフルラの言葉を胸に刻み、死霊達へと呼び掛けた。
「諸君、今一度頼まれて呉れるかい」
 屍人たる己の命なぞ好きに喰らうが良い。そんな風に語りかければ、かくりの力を得た死霊が氷雪を包み込むように動いていく。
「君たちが好む美味たる感情だ。加減など求めぬよ」
 各々好きにするが良いとのお達しを受けた死霊達は、骸魂の気を削り取る形で鋭い一閃や一撃を雪女に向けていった。
 その際、フルラはかくりが雪に触れることを避けている姿に気が付く。
「冬が嫌いかい?」
 杭を巡らせながら問うたフルラの声にはたとして、かくりはゆっくりと頷いた。
 自分が凍える温度を忌み嫌うことが透けて見えていたのか。魔女には何でもお見通しなのやもしれないと思いつつ、かくりは素直に認める。
「……ああ、何故だろうね」
「私にとって冷たい雪は鎖された水中を思わせる。戒めのようなものさ」
「そう……。私は忘れてしまったよ。知らずとも良い事だ」
「フフ、そうかもしれないね」
 言葉を交わし、二人はそれぞれの力を振るい続ける。フルラはこの記憶も思いも実に愚かしいものだと感じていた。
 凍える人々の為に奔走して焔を、命を繋ぐ温かな蜜を配り歩いた過去。
 愚かだと断じる忌わしい記憶を思い出し、フルラは首を横に振る。
「全て砕いてしまえ」
 灼熱の鉄杭を更に迸らせたフルラの眸には緋色が映っていた。そうして、フルラは白霧嬢子に語りかける。
「辛いなら忘れてしまえばいい、捨ててしまえ」
 とかしてしまえ。それがキミの救われる道なのだと告げ、蜜の杭を巡らせる。
 かくりも命を死にとかし、霊達に骸魂を屠るように願った。
「眠りは未だ要らないよ」
「それにもうしっているだろう? 待ち人は――」
 もう、存在しない。
 かくりとフルラの言葉を聞き、白霧の雪妖はちいさく震える。分かっている、知っている、痛いほどに理解している。
 逢えぬからこそ眠りの世界で夢を見たかった。
 二度と巡らない出逢いを、微睡みの中で感じたかった。
 けれども偽物やまやかしは嫌だ。違う。ならば、どうすれば。
「お前様、嗚呼、お前様……!」
 激しく吹き荒れる吹雪の中で叫びにも似た呼び声が響き渡った。骸魂の力が揺らぎ、心を保っていられないほどの衝撃が鉄杭と死霊によって齎される。
 フルラとかくりは並び立ち、戦いの終幕を見据えた。
 眠りの世界も、嘆きの聲も、そして愛憎と孤独も――今こそ、終わらせる刻だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葉山・鈴成り
うへぇ…、凍え死にしそうなくらいさっむいッス。
ぶるりと身震いしながら自らの体を擦る
この寒さはキミの悲しみが生み出してるンすねェ。
置いてかれて独りぼっち
雪女さんは寂しいンすね。

俺には鈴成がいるから
独りになることはないけれど
もしも片割れが居なくなってしまったら
キミの悲しみが分かるのかな

ここに居てもキミの望む人は帰ってこないっス
ずっとずぅっと、ここで独りで待つつもり?

もう帰ってこないと知っている
逢えないと分かっているンだろうな
でもきっと、受け容れられないンすよねェ

俺が夢を見るお手伝いしてあげるっス
優しい夢を見て欲しいから
せめて眠った先に、愛しい人が待っていますようにと願って

おやすみなさい、良い夢を。



●最後に眠りを
 凍え死にしそうなくらいに寒い。
 それが眠りの世界の中心地に踏み入った鈴成りの素直な感想だった。
「うへぇ……さっむいッス」
 身震いしながら自らの体を擦っても、吹き付ける雪が体温などすぐに奪ってしまう。同時に周囲に薄い気配が満ち、氷妖が辿ってきた過去の断片が見えはじめた。
 男と出逢った日のこと。
 己を人と偽り、彼と共に生きる道を歩んだこと。子を成し、成長を見守りながらも、いつか嘘と偽りが詳らかになるのではないかと、ひそかに怯える日々。
 そして、白霧嬢子が愛しい二人を見送った最後の日。
 手を振る男と子の顔は薄ぼんやりとしていて見えない。おそらくそれは雪女の記憶が曖昧になっているからだろう。
 あの日を最後に二人は二度と戻って来なかった。元から戻らない心算であったのか、それとも何か退っ引きならないことが起こったのか、誰も知らない。
「この寒さはキミの悲しみが生み出してるンすねェ」
 鈴成りは過去の記憶が消えていく中で、胸裏に浮かんだままの言葉を落とした。
 置いていかれて独りぼっち。
 懸念と不安、孤独と絶望。その中に残る僅かな希望。
「雪女さんは寂しいンすね」
 ただそれだけの心がこうして幽世の異変と重なり、眠りと花の世界を作りあげてしまった。なんと悲しく苦しいことだろうか。
 自分には鈴成がいるから独りになることはない。けれど、もしも何かが起こって片割れが居なくなってしまったら――。
「俺にもキミの悲しみが分かるのかな」
 鈴成りは独り言ち、白霧の雪妖を見つめる。過去の記憶の欠片を眺めながら、鈴成りもこれまで猟兵仲間と共に立ち回ってきた。
 氷雪を散らし、召喚した戦闘人と共に骸魂の力を削り取り、いよいよ白霧嬢子を斃す寸前まで追い詰めたのだ。
「ここに居てもキミの望む人は帰ってこないっス」
「嗚呼、そうじゃな」
「ずっとずぅっと、ここで独りで待つつもりっスか?」
「もう解らぬのじゃよ。妾には、もう……」
 鈴成りの問いかけに白霧嬢子は弱々しく答えるばかり。きっと彼女自身も、もう夫が帰ってこないと知っている。
 二度と逢えないと分かっているのだろう。
「そんなになっても、受け容れられないンすよねェ。それは苦しいだけっス」
 だから、と鈴成りは己の力を揮ってゆく。
 此処に訪れたのは自分だけではない。この世界の異変を止める為、或いは雪妖の暴走や嘆きを止める為に集った仲間達がいる。
 もしかすれば、彼女の荒唐無稽な願いに賛同する者が多く居たならば、奇跡が起こったのかもしれない。されど、それが叶えられることは終ぞなかった。
 故に斃すしかない。
「俺達が夢を見るお手伝いしてあげるっス」
 斃される道しか残っていないのなら、せめて優しい夢を見て欲しいから。
 眠った先に、愛しい人が待っていますようにと願って――。

 おやすみなさい、良い夢を。

 鈴成りが願う言の葉が紡がれ終わったとき、吹雪が止んだ。

●消滅と覚醒
 雪の上に華奢な身体が倒れ込む。
 降り積もっていた雪が柔らかかった為に殆ど音はしなかったようだ。それまで吹き荒れていた氷雪の嵐は収まり、誰もが戦いの終わりを察する。
「お前、様……何故じゃ……」
 倒れた雪女は震える声で愛しいひとを呼んだ。
 周囲に満ちていた雪が幻のように溶けはじめ、凍っていた花が割れていく。それらは元から異変によって咲いていた花。カタストロフの大元が打ち倒されたことによって、花も消滅する宿命なのだろう。
 骸魂としての雪女はもう、周囲の様子が認識できていないようだ。ただ過去の約束を思い、嘆きを繰り返すだけ。
「約束は、あの約束は嘘だったのかえ……お前様――」
 白霧の妖は泣いていた。
 隠されているゆえに顔も涙も見えないが、確かにそう思えた。そして、虚空に手を伸ばした雪女から消えかかった骸魂が抜け出ていく。
 空に向かって飛ぼうとした魂は途中で力尽きるように堕ち、跡形もなく消滅した。

 後に残ったのは解放された妖怪と、元からこの地に咲いていた花のみ。
 雪は溶けて、魂は散る。
 斯くして、眠りの世界には静かな目覚めが訪れた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月20日


挿絵イラスト