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ジニアは幽世に咲き誇る

#カクリヨファンタズム #鎮魂の儀

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#カクリヨファンタズム
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#鎮魂の儀


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●ジニアの鎮魂歌
 UDCアースに隣接する世界、カクリヨファンタズム。
 そこは妖怪の住まう世界であるが、その道程でどれだけの妖怪が死したかはわかるものではない。それだけ厳しい道程であったのだ。
 誰も彼もが死に近しい。
 だからこそ、妖怪たちは死せる者たちを悼むのだ。大規模な移動であれば、あるほどに危険は付き纏うし犠牲も大きくなる。
 人魚の妖怪が鎮魂の儀を執り行っていた。それは死した比丘尼の妖怪たちを悼んでのことだった。

「私達はあなた達の事を忘れない。隣人であり、友人であったあなた達を……この花が咲く度に私達は思い出す。忘れないということを思い出す……」
 人魚は謳う。
 己の友人であった比丘尼たちの骸魂が浄化されることを望んだ。想った。それは祈りでもあった。
 もしも、この儀式が上手く成功すれば、彼女たち、骸魂となった死せる妖怪たちは花や樹の糧となって浄化されるだろう。
 そうすれば、この地一面に咲き誇るジニアの花も美しく咲く。
 それが喪った者たちの慰めになればと想ったのだ。

 亡くなった者たちを簡単に忘れることなどできない。だからこそ、生きている自分たちは彼女たちのことを想って生きる。そうすれば、彼女たちは自分たちの心の中に生きているはずであるから―――。

「本当に? そんな世迷い言を本当に信じているの?」
 その言葉は人魚の直ぐ側から聞こえた。
 一際強い躯魂の気配。息を呑む。これは、と人魚の彼女が目を見開く。
 それは嘗ての友人である比丘尼の妖怪の骸魂。その言葉は重かった。人魚である彼女ですら溺れてしまうほどに。

「『忘却』こそが、生命に与えられた救いであるというのに。想いも、何もかも色あせて風化していく……醜くなっていくというのなら、一番キレイに『忘却』してしまうことが、生命の救いではなくて?」
 人魚は何も答えられなかった。
 忘れたくない。
 けれど、忘れることを友人であった比丘尼妖怪の骸魂は望んでいる。そう想った瞬間、彼女の意識は途絶え、周囲には夥しい数の骸魂が飛び交う混沌と化してしまった。

 ありとあらゆるものが骸魂に飲み込まれ、オブリビオンと化していく。
 止められない崩壊。
 鎮魂の儀は失敗した……儀式に参加した妖怪たち全てを飲み込み、災厄の種として世界に芽吹こうとしていた―――。

●百日草
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを出迎えて、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)は微笑んだ。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件は、カクリヨファンタズム。妖怪たちが住まう幽世、UDCアースに隣接する世界に起こるオブリビオンの発生を鎮めてほしいのです」
 カクリヨファンタズムは比較的新しく発見された世界である。
 猟兵たちにとっては、未だ馴染みの浅い世界であるかもしれない。すでに出身世界とする猟兵の数も多く確認されているから、言うに及ばずであるかも知れない。

 カクリヨファンタズムはUDCアースより移り住んできた妖怪たちが住まう世界である。
 だが、その道程は厳しいものである。大規模移動を行ったからと言って、確実にたどり着けるとは限らない。
 そうした道程の半ばで死せる妖怪は骸魂となってカクリヨファンタズムを漂っているのだ。
「はい、今回は、その骸魂を悼み、鎮めるための儀式……『鎮魂の儀』が失敗するという予知を受けました。儀式に参加した妖怪たちを救うため、駆けつけてほしいのです」

 集まってきた骸魂たちの大半は妖怪ではなく、周囲の花や樹に乗り移ってオブリビオン化しているのだという。
 それ故、彼等の力は弱い。猟兵であれば、どれだけ数がいたとしても問題はないだろう。
「……できれば、なのですが……彼等とて悪意ある妖怪たちが死した骸魂ではないのです……何か、慰めの言葉があれば、彼等も消滅した後、その魂を鎮めるきっかけとなるかもしれません」

 戦う以上に重要なことかも知れない。
 ただ戦って討ち果たすだけでは、骸魂はまた戻ってきて妖怪を飲み込み、オブリビオン化してしまうことだろう。そうなっては元の木阿弥である。
「さらに自然物に乗り移った骸魂によって、儀式場へ至る道は障害と化しています。といっても、今回は……そろばん? が……坂になっていて、回る珠が、そのローラー台のようにくるくる回って足を踏み出すだけで、くるくる回って戻されてしまうのです……」
 なんとも厄介な障害である。
 これをどうにか乗り越え、儀式上へと至れば、そこにいるのは儀式を行う主祭司に取り憑いた骸魂のオブリビオンがいるのだという。

「生前、主祭司である人魚の妖怪と、骸魂である比丘尼妖怪は友人であったようです。互いに花を愛で、歌を歌うことを愛するため、気があったようなのです。主祭司である人魚を取り込んだオブリビオンは強力な存在ですが、生前の関係性を呼び起こすような言葉を懸けることも有効であるようです」
 カクリヨファンタズムにおいて、骸魂に取り込まれた妖怪は、骸魂と生前の縁が合ったものが多いのだという。
 この関係性に訴えるということも、重要なことである。

「誰かの死を悼むということは、生命である以上避け得ぬことであると思います……どうか、わかたれてしまった彼女たちの想いに報いるため、オブリビオンを打倒して頂きたいのです」
 ナイアルテは頭を下げる。
 戦う理由は、人それぞれである。それと同じ様に争いが生まれる理由もまた様々だ。それが世界の危機へと繋がるのであれば、戦わなければならないのが猟兵である。
 しかし、ナイアルテは知っている。
 戦いの趨勢を決めるのは力であるのかもしれない。けれど、猟兵の戦いは誰かの想いを汲んでいくこともできるのである。

 だからこそ、ナイアルテは猟兵たちを見送る。
 彼等の戦いがきっと、死せる骸魂たちの荒む魂を救ってくれると信じて―――。


海鶴
 マスターの海鶴です。
 今回は新しい世界、カクリヲファンタズムでの事件となります。骸魂を鎮魂する儀式が失敗し、溢れる骸魂がオブリビオン化してしまう事件から妖怪たちを救うシナリオになっております。

●第一章
 集団戦です。
 儀式場に集まった骸魂達が妖怪ではなく周囲の花や樹に乗り移ってオブリビオン化した群体オブリビオンと戦うことになります。
 妖怪を飲み込んでいないため、非常に弱いです。苦戦することはないでしょう。
 数は多いですが、数で押す、ということもできないほどの力量差であると言えるでしょう。
 オープニングにある通り、何か慰めの言葉があると、またオブリビオン化することも防げるでしょう。

●第二章
 冒険です。
 儀式場への道は自然物……ここではそろばんに乗り移った骸魂が巨大なそろばん坂という障害となって皆さんの行く手を阻みます。
 足を踏み出した瞬間、そろばんの珠がくるくるまわり、儀式場へと一向にたどり着けません。
 これを如何にクリアするかが猟兵の皆さんの活躍のしどころです。

●第三章
 ボス戦です。
 鎮魂の儀の主催司である人魚が、かつての友人でもあった骸魂、比丘尼妖怪に飲み込まれオブリビオン化しています。
 第一章に登場したオブリビオンたちとは打って変わって強大なオブリビオンです。
 骸魂に対する慰めや、主祭司との関係性を思い起こさせても良いでしょう。

 それでは、新たに発見されたカクリヨファンタズムに巻き起こる事件。
 妖怪たちと死せる骸魂たちの織りなす世界の物語が、皆さんのキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 集団戦 『骸魂火』

POW   :    光の御返し
【発光している身体の一部】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、発光している身体の一部から何度でも発動できる。
SPD   :    光の御裾分け
【発光している身体の一部】を向けた対象に、【高熱を伴う光線】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    この子は傷つけさせない
全身を【発光させ、防御力が極めて高い身体】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 儀式場は骸魂で溢れかえっていた。
 妖怪たちは逃げ惑い、宙に浮かび飛ぶ骸魂たちは行き場をなくしたように草や花へと取り憑く。
 オブリビオンと化していく草花たち。ヒトの形をとってはいるが、その意志は薄弱。ただ、ただ、その骸魂は己の心の嘆きを発露するように花を咲かせる。

「消えてしまいたくない。いつまでも忘れてほしくない。けれど、誰かの重荷になるのは、いや」

 矛盾した想い。
 それが骸魂となってまで、その魂を縛る想い。
 忘れられたくない。けれど、忘れ去られていく現実。忘れないでと執着すれば、それは誰かの足枷になる。
 だから、それだけはしたくない。

 鎮魂の儀―――その儀式場で高らかに言う、強大なるオブリビオンの言葉。
「ならば、すべて綺麗に『忘却』してしまえばいい。誰も彼も、存在などなかったかのように。それが、それこそが魂の救済。最もと美しく、世界の泡沫ですらなく、さっぱりと消えてしまいましょう。私を想う誰かの想いも、何かも『忘却』の彼方へ連れ去りましょう」
 その言葉に付き従うように草花へと取り憑いた骸魂は次々と儀式場に集まった妖怪たちの記憶から己たちという存在を『忘却』させようと襲いかかるのだった―――。
村崎・ゆかり
未練に憑かれた骸魂が、生あるものを求めて、そして傷つけてしまう。やりきれないわね。
アヤメ、元オブリビオンのあなたは、こんな景色をどう思う?
まあ、愚問よね。始めるとしましょう。

薙刀を振るって「衝撃波」で「なぎ払い」「串刺し」にしつつ、「破魔」と「浄化」の力を込めた符をばらまいて。

聞きなさい、あなたたち!
本物のあなたたちはもういない。あなたたちの本物は骸の海に飲まれたの。そこは過去の領域、喪われたものの世界。
どれほど未練がましく焦がれたって、過去は現在を喰らおうとしてはいけない。
せめて、あなたたちに縁のある相手の幸いを、骸の海の底で願ってて。
それが誰も傷つかない共存の道よ。

おやすみ、オブリビオン。



 その言葉は大合唱のように鎮魂の儀を執り行う儀式場へと響き渡り、伝播するように儀式場の周囲へと伝わっていく。
「そうだ。『忘却』されればいい。誰かの足枷にならないように、誰かの想い出の中で色あせていかないように、みんなみんな『忘却』させよう」
 草花に取り憑いた骸魂たちは皆、オブリビオンとして顕現する。
 けれど、妖怪を飲み込んでいない骸魂はオブリビオン化してはいるものの、極端に弱い。『骸魂火』と呼ばれるオブリビオンと化し、光る花をランタンのように掲げながら、熱戦を放つ。
 その一撃一撃は脆く弱いものである。猟兵であれば問題にならない威力。だが、他の妖怪はそうはいかない。

「未練に憑かれた骸魂が、生あるものを求めて、そして傷つけてしまう。やりきれないわね」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、その光景を目の当たりにして感情を吐露する。
 本来であれば、この儀式は彷徨える骸魂たちを悼むものであったはず。皮肉にも、儀式は失敗し、逆に骸魂たちが生きる妖怪たちを傷つけようとしているのだ。
 ユーベルコード、愛奴召喚(アイドショウカン)によって召喚された恋人にしたエルフのクノイチの式神・アヤメが彼女の隣に立つ。

「アヤメ、元オブリビオンのあなたは、こんな景色をどう思う?」
 その問いかけはある意味で意味のない質問であったかも知れない。ゆかりにとって、アヤメがどう答えるかなんてわかっていたからだ。
 だからこそ、アヤメが浮かべる表情に、ゆかりもまた同意を示すのだ。
「まあ、愚問よね。始めるとしましょう」
 ゆかりの構える薙刀が薙ぎ払うように『骸魂火』たちの体を衝撃波で打つ。ただの一撃であるが、草花に取り憑いた骸魂が変じたオブリビオンには十分である。
 破魔と浄化の力の籠もった符がばら撒かれ、周囲を囲うにしていたオブリビオンたちを一斉に払い清めるのだ。

 アヤメもまたゆかりの力の籠もった符をばらまき、彼等の囲いを突き崩す。
 ただ、戦うだけではダメだ。ゆかりはそう感じた。行き場のない想い。生ある者を求めるが故に骸魂は道を誤っただけに過ぎない。
 きっとゆかりの薙刀は、全てのオブリビオンを打ち払うことができるだろう。それは手応えのないくらいに弱々しいオブリビオンと対峙してわかった。

 だが、それでも救われない想いを抱く者を強かに打ち据えることが正しいことばかりであるとは言えないのだ。
「聞きなさい、あなたたち!」
 それは一喝するような言葉。周囲に迫るオブリビオンたちが一歩足を止める。それだけで十分だった。もしも、不測の事態に陥ったとしても、アヤメが自分にはいる。
「本物のあなたたちはもういない。あなたたちの本物は骸の海に飲まれたの。そこは過去の領域、喪われたものの世界」
 それは事実を告げる言葉。
 死してなお、未練を抱くのであれば、己の状態を理解していないのかも知れない。その執着が、徒に他者を傷つけるものだとわからないのだ。
 ゆかりは、それを許せない。無自覚な悪意が誰かを傷つける前に、それを諭すのもまた彼女の戦いである。

「どれほど未練がましくこがれたって、過去は現在を喰らおうとしてはいけない。せめて、あなたたちに縁のある相手の幸いを、骸の海の底で願ってて。それが誰も傷つかない共存の道よ」
 過去があるからこそ、現在がある。現在があるからこそ、未来へと進むことが出来る。過去の化身たるオブリビオンは現在を喰らい、未来を閉ざす。
 それが『骸魂火』たちの望まぬことであることは、わかっている。

 ゆかりは薙刀を構え、振るった。
 せめて一撃で。苦しまずに―――。
「おやすみ、オブリビオン」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイラザード・ゲヘナ
「ヤレヤレじゃのぅ。」
 妾も長年生きてきたが、こー言う話はよく聞く分やるせないものじゃ。
妾たちで引導を渡してやるとするのじゃ。

妾流の鎮魂術じゃ。とくと逝くがよい。
(浄化と除霊の術がこもった結界術を展開)

む、まだ残っておるの。
スケさん(死霊騎士)カクさん(死霊蛇竜)
後よろしくなのじゃ。

さて…。
安心せい。人が忘れても覚えている者もおる。
主ら妖怪はそーやって生まれたのであろう?
ならお主らの思い出が新たな何かが生まれておるわ。
それに妾たちもおる。
そうそうこの経験は忘れたくとも忘れるものではないわ


アドリブや他猟兵との連携などはOKじゃの。



 鎮魂の儀は失敗に終わった。儀式場は勿論、その周辺に溢れかえる骸魂たち。それらは全て草花へと取り付き、オブリビオンと化した。
 個体のオブリビオンとしては勿論、群体オブリビオンとしても脆弱そのもの。しかし、それは猟兵を相手にすればの話である。一般の妖怪たちにとっては、オブリビオンは脅威そのものでしかない。
 群体オブリビオン『骸魂火』。それは人の形をとってはいるが、発光する花をランタンのように掲げる妖怪の姿をしていた。
「誰かの重荷にはなりたくない。けれど、私という存在を忘れてほしくない……私という想い出が足枷になるのならば、どうか『忘却』して欲しい―――そうだ、『忘却』させよう。綺麗に。色あせてボロボロになってしまう前に」

 それは嘆きのような言葉であった。
 今の己達がどういった存在であるのか、正しく理解していた。妖怪に害をなす存在。けれど忘れてほしくない。忘れてほしくないけれど、忘れて欲しい。
 矛盾した想いは、『骸魂火』たちの葛藤であったのかも知れない。
「ヤレヤレじゃのぅ」
 それはため息とともに溢れた言葉だった。
 アイラザード・ゲヘナ(セカイの渡り鳥・f18145)は遣る瀬無い思いと共に一歩を踏み出していた。
 目の前に広がるのは草花に取り付きオブリビオン化した骸魂の群れ。ユーベルコードで一応の強化を施しているようでは在るが、彼女の目から見てもそれは脆弱そのものであった。

「妾も長年生きてきたが、こー言う話はよく聞く分やるせないものじゃ。妾たちで引導を渡してやるとするのじゃ」
 掲げる手から放たれるのは、浄化と除霊の術が籠もった結界術。アイラザードの周囲に展開される結界に触れた『骸魂火』たちはたちまちに浄化されて霧散していく。
 それほどまでに、このオブリビオンは弱い。弱々しすぎる。
 だからこそ、強大なるオブリビオンの言葉にたちまちに影響されてしまうのだ。それを哀れと思うことはなかった。
 アイラザードは、ただ遣る瀬無いと思うだけであった。何度も見た、聞いた……そんなよくある葛藤であった。
 だからこそ、疾く、その妄執から解き放ってやらなければならないという思いが彼女の心の中に渦巻く。

「む、まだ残っておるの。スケさん、カクさん、後はよろしくなのじゃ」
 ユーベルコード、リザレクト・オブリビオンによって召喚された死霊騎士と死霊蛇竜が周囲の『骸魂火』を駆逐する。
 それは自身と同じ強さを持つが故に、脆弱なるオブリビオンが敵うわけもない。次々と数を減らしていくオブリビオンたち。
 嘆く言葉が響く。

「さて……安心せい。人が忘れても覚えている者もおる。主ら妖怪は、そーやって生まれたのであろう?」
 UDCアース。それはカクリヨファンタズムに隣接する世界だ。この世界にやってくる前に発生した妖怪たち。彼等は忘れられてしまう前に、この地へと大移動してきたのだ。
 覚えている者がいるだろうか?わからない。もうUDCアースでは全て忘れ去られているかもしれない。
「なら、お主らの想い出によって新たな何かがすでに生まれておるわ」
 誰かの思い、感情から生まれたのが妖怪であるのだというのならば、このカクリヨファンタズムにおいても、誰かの感情から何かが生まれることも在るかも知れない。
 その死を悼み、鎮魂の儀を経て、骸魂は草花の糧になるという。それもまた一つの道である。

「それに妾たちもおる……そうそうこの経験は忘れたくとも忘れるものではないわ」
 オブリビオンの手にした光る花。ランタンのように輝く無数の花たち。
 それは蛍火のように儀式場に揺らめいている。この光景をアイラザードはしっかりと覚えている。
 綺麗だと思った記憶を、彼女は忘れようとはしないだろう。
 この思いが、感情が、また新たな生命としてカクリヨファンタズムに生まれるかも知れない。
 だから、安心して良いのだと。

「忘れられないということを思い出す、それだけで救われる心がある。主らはその糧になるんじゃ―――」

成功 🔵​🔵​🔴​

メルステラ・セレスティアラ
『忘却』が魂の救済なのだと貴方は言うけれど
本当にそれは救済なのでしょうか?
……私はそうは思わない
全てを忘れて忘れられて、はたしてそれは『私』だと言えるのでしょうか
過去も現在も重ねた想いも紡いだ絆も、その全てを以て『私』なのだと私は断言できる

他者が自分を想ってくれることは幸せなこと
相手を想うことが重荷だなんてことは決してありません
私は貴方を忘れない
忘れないこと、想うこと、それを私が望んでいるから

全身を発光されては為す術が無くなってしまう
その前に【先制攻撃】で此方のアドバンテージを得るわ
これは破壊の力ではなく鎮めるための力
祈りと共に私の新たな力を解放しましょう
夜色の花が貴方を優しく包み込むから



「すべて綺麗に『忘却』してしまえばいい。誰も彼も、存在などなかったかのように。それが、それこそが魂の救済」
 それは儀式場から響く強大なるオブリビオンの言葉であった。その言葉は、草花に取り憑いた骸魂がオブリビオン化した『骸魂火』たちの心を扇動するものであった。
 忘れられたくないけれど、誰かの重荷には、枷にはなりたくないという『骸魂火』たちの想いを『忘却』させるという意志にまとめ上げたのだ。

 それは止められない雪崩のような感情が殺到するように群体オブリビオンである『骸魂火』たちを溢れかえさせたのだ。
 だが、その言葉に真っ向から立ち向かう者もいた。
「『忘却』が魂の救済なのだと貴方は言うけれど、本当にそれは救済なのでしょうか?」
 メルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)の淡いピンクの瞳が未だ遠い儀式状を見据える。その言葉は疑問を呈する言葉であったが、同時に彼女の思いの丈であった。
「……私はそうは思わない」
 言葉にすれば、それは力強く彼女の胸の内に込み上げるものがあった。
 メルステラの持つ、天の魔導書の頁が風にめくれ上がり、次々と夜色の花弁へと変わって、宙へと舞い上がっていく。
 それはユーベルコード、花紡(フロース)。浄化の力を持つ夜色の花弁が『骸魂火』たちの体を包み込んでいく。

「全てを忘れて忘れられて、はたしてそれは『私』だと言えるのでしょうか。過去も現在も重ねた想いも紡いだ絆も、その全てを以て『私』なのだと、私は断言できる」
 彼女の瞳はうつむかない。背中をそっと押す優しくも暖かい手をもう知っているから。だからこそ、彼女の言葉は力を持つ。
 胸の内側からこみ上げてくる。夜色の花弁が包み込んだ『骸魂火』が、その花弁の繭の中で明滅する。
 攻撃は無意味である。メルステラの放ったユーベルコードの花弁は、破壊するための力ではなく、鎮め、浄化するための力。
 こみ上げた想いのままにメルステラは祈る。優しく包み込むように、その先導され、ささくれた魂を癒やす。

「他者が自分を想ってくれることは幸せなこと。相手を想うことが重荷だなんてことは決してありません」
 その言葉は、夜色の花弁の繭の中まで届く。
 声色は優しい。どこまで優しくて、ささくれた心を優しくなでていくようだった。
「私は貴方を忘れない」
 それは祈りであり、誓いであった。
 猟兵として対峙したこと……幾ばくかの邂逅であった。だが、それでもメルステラは忘れることをしないだろう。
 彼女の物語の中で、この出会いはきっと忘れないものになっている。
 ―――なぜならば。

「忘れないこと、想うこと、それを私が望んでいるから」
 はらり、はらりと夜色の繭が花弁となって舞い落ちていく。舞い落ちて、崩れていく繭の形。
 その中にはもうオブリビオン『骸魂火』は存在していなかった。溶けるようにして消えていったオブリビオンの姿は、美しい願いと想いに連れられて、浄化されていく。
 いつかきっと、その魂の火は芽吹くように大地に満ち溢れるだろう。

 夜色の花弁がメルステラの手へと戻っていく。
 巻き戻すように花弁が天の魔導書へと姿を変え、ぱたんと本を閉じた時、メルステラの視界にはオブリビオンの姿は一体たりとて存在していなかった。

「望んだ私の想い……届いたのね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
己の為ではなく、信じた主の為に生きるが忍者。抜けた身とは言え、己を殺す事に躊躇いも疑念も無い

だが、彼らの想いも分かるさ。何の意味もなく生きて何の意味もなく死ぬ。そいつはあんまりだ
誰かに覚えてて欲しい。だったら、それが俺でもいいんだろう?……来な

【影分身の術】。無数に分散
全員が、全身全霊を掛けて彼らと戦う
光線を見切り、回避出来ない攻撃は武器で受け、戦場を駆け回り攪乱し、相手の隙を突いて手裏剣を打ち、接敵して忍刀で切り裂く
あえて、分身同士連携はしない。それぞれ1対1だ
無数の軍勢の一部じゃない。たった一人のお前の戦働きを俺は忘れない
全ての分身の戦いの記憶は俺自身に集約される
その全てを心に刻み込む



 カクリヨファンタズムにおいて、世界の住人である妖怪たちは元はUDCアースにて人々の感情を糧に生きていた者たちだ。
 文明の発達とともに人々に忘れ去られようとしてた彼等は、隣接するカクリヨファンタズムへと大移動を開始し、生き残るものと死せる者とに分かたれた。
 世界の移動とはそれほどまでに過酷なものであるのだ。
 だからこそ、生き残った者たちは、死せる者たちを悼む。それが死せる者たちへの手向けであり、慰めになると信じているからだ。

 此度の鎮魂の儀もそうしたものだ。
 友人をなくした、親を、兄弟を亡くした。そうした者たちの心の慰めであり、死者を悼む気持ちに貴賤はない。
「けれど、死んだ者たちは生きる人の重石になるのではないかと不安になる。だから『忘却』こそが真なる救済。『忘却』してしまいましょう。色あせてしまう前に。ボロボロになってしまう前に」
 その言葉は強大なるオブリビオンの声。それに釣られるようにして、草花に取り憑いた骸魂たちが次々とオブリビオン化していく。
「忘れられたくない。生きた意味があるのだと想いたい。けれど、忘れてしまえば、そんな思いもなかったことになる」

 それは嘆きか。それとも妄執か。
「己の為ではなく、信じた主のために生きるが忍者。抜けた身と言え、己を殺す事に躊躇いも疑念もない」
 その生き方はある意味で、『忘却』が救済であると語るオブリビオンの言葉と似通っているように思えたかも知れない。『忘却』するということは、己のこれまでを殺すことと同じ。
 ならば、その言葉は……字面の上だけではにていたのかも知れない。
 だが、髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)はそれだけではないのだとカクリヨファンタズムに降り立ち、駆ける。

「だが、彼らの想いも分かるさ。何の意味もなく生きて何の意味もなく死ぬ。そいつはあんまりだ」
 そんな生き方ばかりでは、人の心も何もかもが無意味になってしまう。どんな理由であれ、忍びを抜けた鍬丸の言葉は真摯にオブリビオン化した骸魂たちと向き合う。
 群体オブリビオン『骸魂火』。
 光る花をランタンにように掲げるヒト型。輝く花が強烈なる熱線を鍬丸へと放つ。

 だが、その熱線を宙に舞い躱す鍬丸の手が印を結ぶ。
「臨む兵 闘う者 皆 陣列べて前に在り」
 宙に舞った鍬丸の身体が一斉に分身し、同時に地面に着地する。ユーベルコード、影分身の術(カゲブンシンノジュツ)。無数に分散した鍬丸の分身が、一斉にオブリビオン『骸魂火』へと駆ける。
「誰かに覚えてて欲しい。だったら、それが俺でも良いんだろう? ……来な」

 そのユーベルコードは多数で立ち向かうものであったはずである。
 だが鍬丸はあえて、分身体一体一体が、群体オブリビオン一体を相手取って戦う。それは数で圧することのできる鍬丸にとっては己のユーベルコードのアドバンテージを捨てるに等しい行為であった。
 熱線を見切り、回避し……手裏剣が乱舞する。忍刀が閃き、オブリビオンを切り裂く。
 分身体同士の連携はない。一対一に持ち込まれたのではない。こちらから望んで一対一に持ち込んだのだ。

「無数の軍勢の一部じゃない。たった一人のお前の戦働きを俺は忘れない」
 戦う。それはあまりにも不器用な慰めであった。
 もっと上手なやり方があったのかもしれない。かける言葉があったのかもしれない。けれど、鍬丸は忍びである。これが彼にとっての良い方法だったのだ。
 その戦いは、言葉以上にオブリビオンに響いた。
 忘れてほしくない。けれど、忘れて欲しい。
 重石になりたくない。だから、と。けれど、それでも目の前の猟兵は背負っていくというのだ。

 分身体の戦いの記憶は全て鍬丸に集約される。
 それは膨大なる情報を己の体に受け入れる行為。何ひとつも取りこぼさない。その意志が瞳に宿る。
 振るった忍刃の重み、それ全てが彼等の想いの重み。
 けれど、鍬丸は何一つ苦には思わない。
 なぜなら、彼はもう決めていたのだ。
 その全てを心に刻み込むと―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ連携歓迎
いいえ……人も妖怪も、例え死んでしまったとしても
失われるものは何も無いわ
貴方たちが生きた痕跡は確かに残り、思い出は誰かの心に刻まれる
それらは決して足枷などではなく、生者のこれからの糧になり続けるの

だから安心しなさい
貴方たちは今を生きる者の心に生き続けて、
そして受け継がれていく想いの一部となって存在し続けるのだから

■戦闘
死神を気取るわけではないけれど、ここは【UC】で障壁としている
死霊たちを大鎌に変化させてヒルデに装備
そのまま周囲の骸魂火たちを纏めて【なぎ払い】、倒していくわ

……そうね、せめて貴方たちが少しでも誰かの心に残る事が出来る様に、
私もヒルデも貴方たちの事は忘れないわ



 死せる者が生きる者に何かを残せるとしたら、一体何が残るのだろうか。
 残るのは、重石ではないだろうか。
 人の思いは見えないけれど、確かな質量を持っているのかもしれない。託された想いは、重く両手に伸し掛かる。抱えきれないほどの思いを受け取る生きるものは、その重さ上に足は重くなり、生き苦しくなってしまうかもしれない。
 だからこそ、死せる者は『忘却』してほしいと願ってしまう。
 生きている者にこそ、軽々としていてほしい。伸びやかに、自由に、空を舞うように生きて欲しい。
 だからこそ、全て『忘却』してほしいと願ってしまうのかも知れない。
「それこそが救済。あらゆる死せる者は全て『忘却』されるべきです。喪われてしまった生命は、世界に何も残らないほうが良いのです。私達のように……骸魂のように、誰かを害するものへと成り果ててしまう前に」

 強大なるオブリビオンの声が遠い儀式場から響き渡る。
 その言葉に導かれるようにして無数の骸魂が草花へと取り憑いてオブリビオン化していく。
 オブリビオン『骸魂火』。
 それは光る花をランタンのように下げたヒト型。
「『忘却』して欲しい。何もかも。忘れて欲しい。忘れてほしくないけれど、誰かの重石にはなりたくない。死んでしまったのだから、何もかもさっぱりと無くなってしまうのが、道理……」

 その嘆きの言葉を真っ向から受け止める存在がいた。
「いいえ……人も妖怪も、例え死んでしまったとしても失われるものは何も無いわ」
 レナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)は日傘をくるりと回して、草花に取り憑く骸魂を見つめていた。
 その言葉は骸魂の弱りきった心を見据え、死霊を扱う術を持つ彼女の信念となって放たれた。
「貴方たちが生きた痕跡は確かに残り、想い出は誰かの心に刻まれる。それらは決して足枷などではなく、生者のこれからの糧になり続けるの」
 ―――ヒルデ、とレナーテの言葉が玲瓏なる命令を発する。
 控えていたボディーガード兼使用人の巨骸ヒルデが実体化し、レナーテの横に立つ。その手にレナーテの障壁と化していた死霊たちを大鎌へと変化させ、ヒルデに持たせるのだ。
 ユーベルコード、融魂の秘術(ブラスフェミー・シュミート)。
 それは死神の如き力をヒルデへと与える力。

「だから安心しなさい。貴方たちは今を生きる者の心に生き続けて、そして受け継がれていく想いの一部となって存在し続けるのだから」
 集積した死霊たちは巨大なる大鎌となってヒルデが振るう。
 その一薙ぎでオブリビオン『骸魂火』たちは薙ぎ払われる。もとより妖怪に取り憑いていない骸魂はオブリビオン化しても強い力を発揮できない。
 ただの一撃であっても致命傷になる。そこにレナーテのユーベルコードに寄って強化されたヒルデの一撃は、多数のオブリビオンを骸の海へと還していく。

 彼女の言葉は慰めになっただろうか。
 いや、ならないだろう。レナーテもそれがわかっていた。
 どれだけ言葉を尽くしたとしても、その想いに囚われてしまえば、それこそが自身を縛る枷となる。
 レナーテは思う。今、自分がしなければならないことはなにか。慰めではない何か。
「……そうね」
 瞳を伏せた。その瞳は死霊を見る瞳。であれば、瞳を閉じて感じるとしよう。その魂の色を。
「せめて貴方達が少しでも誰かの心に残る事が出来るように、私もヒルデも貴方たちの事は……」
 その魂の色。『骸魂火」。花の光。
 その蛍火のように儚くも美しい輝きを胸に留める。オブリビオン化したとしても、誰かの重石に、枷になりたくないと願う魂の色は、レナーテにとって好ましいものであったのかもしれない。
 その想いこそがレナーテが言う、誰かの心に刻まれていく尊いものであるのかもしれない。

「―――忘れないわ」
 その言葉は確かに骸魂たちの心を癒やしたのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
鎮魂の儀…SSWでも戦争に関する物が行われていました
解放軍の戦没者を慰撫し、遺族の方々が明日を向く重要な行事

この世界の儀がこのような形となり残念でなりません
騎士として解決に助力し、再びの開催を

道中といえど儀式会場を徒に破壊したくはありません
コピー狙い防御態勢とる敵を●操縦する複数のUCのレーザー●スナイパー精密攻撃
発光していない茎部分へ着弾させ焼き斬り、回避行動取る暇与えず接近
近接攻撃で制圧

誰かの記憶の中で負担になるのではないか
いいえ、妖怪の方々はその記憶が自身にとって大切だから集ったのです
安心してお眠り下さい

もし、誰かに忘れて欲しくないと望むのなら
僭越ながら、私が相対し受け止めましょう



 死者を悼む行為……鎮魂の儀は、どこの世界であっても存在する。それはどれだけ時代が進んでも、どれだけ科学技術が発展したとしても変わることのないものであった。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の出身世界であるスペースシップワールドであっても、鎮魂の儀と似たものが執り行われていた。
 戦争を終えた者たちが行うのは、戦没者の魂を慰撫する行為。
 それはカクリヨファンタズムにおいても同様のものであった。世界を渡るという行為は並外れたものではない。
 それだけ危険で厳しい道程なのだ。だからこそ、命を落としてしまう者が絶えなかった。その魂を、スペースシップワールドと同じ様に悼み、慰撫する行為はトリテレイアに理解できるものであった。
「あの時もそうでした……遺族の方々が明日を向く重要な行事……この世界の儀がこのような形となり残念でなりません」

 いまや儀式場の周辺は骸魂が溢れ返り、尋常ならざる量のオブリビオン『骸魂火』へと変貌を遂げていた。
 光る花をランタンのように掲げるヒト型。彼の言葉は嘆きと妄執に満ちていた。
「忘れられたくない。それでも誰かの重石にはなりたくない……消えたくない、けれど、消えないといけない。誰かのために私達が最後にできるは『忘却』させること」
 強大なるオブリビオンに先導された脆弱なる骸魂たちは、全ての妖怪たちの記憶から己たちの存在を『忘却』させることこそが、真なる救済であると信じて疑わないのだ。

「……騎士として解決に助力し、再びの開催を」
 トリテレイアのアイセンサーが輝く。ユーベルコード、自律式妖精型ロボ 遠隔操作攻撃モード(スティールフェアリーズ・アタックモード)によって複数の偵察用妖精型ロボが空中に舞う。
 彼の電脳によって操縦されるそれらは、一斉にオブリビオン『骸魂火』を打倒さんと飛来する。
 頭部に内蔵されたレーザーが光る花を避けて一撃を加えていく。
 今回のオブリビオンは草花に取り憑いているため、それだけでも十分に打撃となるのだ。

 圧倒的な自立式妖精型ロボの動きは次々とオブリビオンを霧散させていく。
 かのオブリビオンたちの言葉は、トリテレイアにとって否定しなければならないものだった。
「誰かの記憶の中で負担になるのではないか―――いいえ、妖怪の方々は、その記憶が自身にとって大切だから集ったのです」
 儀式上には逃げ惑う妖怪たちがいた。
 彼等がこの儀式場に集ったのは、死せる者たちの思いを重石に感じたから集まったのではない。
 彼等と死せる者を繋ぐ唯一のもの。
 それが想い出であり、記憶である。オブリビオンが『忘却』することこそが救済であると謳うものである。

 それだけ大切なものだから、妖怪たちは大切な想い出の中にいきる死せる者を悼むのだ。トリテレイアは機械騎士である。例え、この今彼が思い描く感情が入力されたものであったとしても、発露する感情は紛い物ではない。
「安心してお眠り下さい。もし、誰かに忘れて欲しくないと望むなら、僭越ながら、私が相対し受け止めましょう」
 彼の電脳は忘れることがない。
 人が忘れる生命だというのであれば、ウォーマシンたるトリテレイアは破壊されない限り忘れることはない。

 その電脳の中で生きる想い出は、きっと色褪せることはない。
 ならば、何も『忘却』される必要なんてないのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
討った敵の顔はしっかり覚えますよ。
それは勿論、永久に祟るために。
同僚からは「逆恨み」とこき下ろされましたが。
■闘
再発防止のため、警戒させず仕留めますか。
『ご心配なさらず。私は会った人の顏を忘れませんよ、仕事柄。
今までもこれからも覚え続けますよ、勿論あなた達のことも』
等と慰めますか。

動きを止めてくれたら集団目がけて【構え太刀】を放ち、
【範囲攻撃】できっちり送りましょう。
放つ際は動きを【見切り】、『光っていない場所』を狙います。

あなた達の存在は、私の頭の記録帳に確と記しました。
“表紙が真っ黒な”記録帳にね(UDC米国風の高笑い)
此の地を荒らしたあなた達を、私は永久に許しません。

※アドリブ・連携歓迎



 草花に取り憑いた骸魂はオブリビオン化したとしても、その力を十全に発揮することはできない。妖怪を飲み込まない限り、オブリビオンとしての力は強くはないのだ。
 鎮魂の儀、それはカクリヨファンタズムにおいて死せる妖怪たちを悼む儀式である。集まってきた骸魂を浄化し、癒やすことでその魂を草木の糧と還ることができる。
 そうすれば、骸魂は生ける者たちに害をなすことはなくなる。
 どれだけ生前が善良なるものであったとしても、骸魂となってしまった以上、妖怪を飲み込み強大なるオブリビオンとなることは避けられない。

「だから、『忘却』しなければなりません。全て、全て。何もかも忘れてしまいましょう。そうすれば、綺麗サッパリ何もなくなります。これ以上醜くなんてなりません」
 その言葉は強大なるオブリビオンの言葉であった。
 遠い儀式場から響く言葉。それは謳うような声色で、世界の真理を説く言葉であった。草花に取り憑いた脆弱なるオブリビオンにとって、その言葉に先導されるに足るものであったのだ。

「討った敵の顔はしっかり覚えますよ。忘れるなんて馬鹿なことはありませんよ」
『忘却』を奉ずるオブリビオンの声に対するは、荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)の言葉であった。よく通る声は、きっと遠く儀式場まで通ったことだろう。
 彼は冷静そのものであった。
 成すべきことを成す。ただそれだけのために己の存在はあるのだと。
「それは勿論、永久に祟るために……それは同僚から『逆恨み』とこき下ろされましたが」
 目指すは儀式場。そこに今回の元凶たるオブリビオンがいる。
 しかし彼の前に立ちはだかるは群体であるオブリビオン『骸魂火』たち。手にした光る花はランタンのように掲げられ、そのヒト型を照らす。
 その誰も彼もが弱々しいオブリビオンであった。

 ―――だからなんだというのだ。
 この混乱を見よ。鎮魂の儀を、儀式場を、集まった妖怪たちを。
「ご心配んさらず。私は会った人の顔を忘れませんよ、仕事柄。今までもこれからも覚え続けますよ、勿論あなた達のことも」
 その言葉は字面だけであれば、慰めの言葉であった。
 忘れてほしくない。忘れて欲しい。矛盾した言葉は結局の所、忘れてほしくないということだ。忘れ欲しい、『忘却』してほしいという願いは、強大なるオブリビオンに取ってつけられたお題目にすぎない。そう、蛟鬼は断ずる。

 思った通り、動きが鈍るオブリビオンたち。
 やはりそうであるかと思う。忘れてほしくない。ええ、勿論と蛟鬼は小さくうなずく。勿論ですとも、と。
 ユーベルコード、構え太刀(カマエタチ)が発動する。剣閃の如き鋭い蹴りが周囲に集まった『骸魂火』たちを一足の元に全て切り捨てる。
 その一撃で持って、彼の周囲に漂うオブリビオンは一掃される。弱いオブリビオンと言えど、これだけの技を受けて霧散しないものはいない。
「あなた達の存在は、私の頭の記録帳に確と記しました。“表紙が真っ黒な”記録帳にね」

 凄絶なる高笑いが響き渡る。
 覚えているとも。忘れるわけがない。
 鎮魂の儀。それは死せる者を悼む儀式。尊きものである。骸魂を無害なるものに変えて、草花の糧とする。

 そんな、そんな―――尊き儀式を失敗させた。それは断じて。
「此の地を荒したあなた達を、私は永久に許しません」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『そろばん坂』

POW   :    何度もチャレンジすれば越えられる!

SPD   :    右足が滑る前に左足を出せばいい!

WIZ   :    飛べばいいのでは?

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 儀式場周辺に溢れたオブリビオン『骸魂火』は猟兵達によって尽くが霧散され、骸の海へと還っていった。
 しかし、儀式場に残った強大なるオブリビオンの姿は未だ残っている。さらに、その儀式場へと続く坂道は、溢れかえった骸魂たちが取り憑くことで、奇妙で巨大なそろばん坂へと変貌していた。

 その光景を見た猟兵達は、あまりの荒唐無稽なる情景に声を失ったかもしれない。
 坂全てがそろばんの珠で埋め尽くされており、踏み出すだけで一瞬でつるりと滑って態勢を崩してしまう。

 空を飛べばいい……そう思った瞬間、まるで見透かすように、そろばんの珠が散弾よろしく飛び交う。
 冗談のような光景ではあったが、よく考えられた障害となっていた。
 これを切り抜け、儀式場へとたどり着かねば、骸魂に取り憑かれた妖怪を助け出すことは不可能。

 あらゆる能力、知恵、全てを使って、この障害を踏破しなければならない―――!
メルステラ・セレスティアラ
それなら私は風の魔法を使うわ
【全力魔法】で風の魔法で追い風を起こしましょう
【多重詠唱】で自身の衝撃を防ぐ防御の魔法も同時に詠唱
準備は整ったわ
いざ、そろばん坂にチャレンジ

踏み出す直前で追い風を起こす
私の全力魔法の追い風ならば、そろばんの珠が回転するよりも早く駆け抜けられる
全身で追い風を受けて一気に駆け抜ける
風は常に前向きに吹かせて
同時に詠唱している防御の魔法を私の身体にぴったりと張り付くように展開しているから、私自身が風の衝撃を受けることはないわ

そろばん坂を駆け抜けられたら追い風を旋回させてブレーキがわり
私、風になれたかしら!……なんてね



 鎮魂の儀を執り行っていた儀式場へと至る坂道は、普段であれば急であれど登れないほどではない坂道であった。
 今は鎮魂の儀のために灯籠が並び吊るされ、その灯りを持って骸魂たちの魂を慰めようとしていたのだ。
 けれど、鎮魂の儀は失敗し、骸魂は儀式場のみならず、周辺に溢れかえってしまった。周辺の草花に取り憑いた骸魂が変じたオブリビオンは猟兵たちの活躍に寄って全てが骸の海へと還された。

 だが、まだ強大なるオブリビオンは残っている。かのオブリビオンを討ち果たさなければ、取り憑かれてしまった妖怪を救うこともできず、何れオブリビオンは世界の終わり―――カタストロフを引き起こすことだろう。
 それを止めなければならないと猟兵達は坂道へと至るのだが……。

 そこにあった坂道は、全てそろばんの珠が敷き詰められ、駆け上がろうとすれば、つるりと滑ってしまう。勢いをつけたとしても、知恵を絞らねば途中で力尽きて坂の下まで一直線に戻されてしまうだろう。
「それなら私は風の魔法を使うわ」
 メルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)は一番槍を買って出た。彼女には勝算があったのだ。
 メルステラのミルクティ色の髪がふわりと風に舞う。天の魔導書の頁がぱらぱらと風にめくられて、在る頁を指し示す。
 それは彼女の言葉通り『風の魔法』の頁であった。
 唱える言葉は力となって、天の魔導書から魔法が顕現する。渦巻く風がメルステラの背後から追い風となって吹き付け始める。

「さらに……もう一つ」
 多重詠唱に寄って、自身への衝撃を防ぐ防御の魔法も同意に詠唱する。これで彼女自身が追い風によって受ける衝撃を減ずることができる。
 ぱたん、と天の魔導書を閉じる。その瞳は坂の上の儀式場を捉えていた。彼女の行動が、彼女以降の猟兵たちの指針となる。
 彼女の行動を持って、このそろばん坂を踏破するための基準となるのだから。

「準備は整ったわ。いざ、そろばん坂にチャレンジ」
 一歩踏み出す。その足がそろばんの珠にふれるか触れないか……その直前でメルステラの背中を押す魔法の追い風。
 彼女の全力魔法に寄って生み出された風は、彼女の体を坂の上へ、上へと押し上げる。踏み出す。そろばんの珠が回転するよりも速く、メルステラの足が次なる、そろばんの珠へと踏み出されていた。

 回転し、つるりと態勢を崩す前にメルステラは一歩、一歩を踏み出す。それは超高速の足踏み。けれど、彼女の魔法が、その足踏みを一気に坂道を駆け上がらせる歩法へと変える。
「わっ、わっ、わっ!」
 舌を噛みそう! そう思ってメルステラは口をつむぐ。油断するとあまりの速度に声を上げてしまいそうになるからだ。
 同時に詠唱している防御の魔法も問題なく作動している。風圧で彼女の髪は多少なびくけれど、その体に対する影響は少ない。
 ぴったりと魔法が張り付いて、彼女の体を保護しているのだ。

 風を切り裂いて進むメルステラの体は、坂の下から儀式場の直下まで一気に駆け上がる。
 風の魔法がメルステラの前面へと旋回させ、その体にブレーキをかえる。きゅ、とその体が儀式場知覚まで駆け上がり、その試みが見事に成功したことを知らせるようにメルステラは坂の下へと手をふる。

「私、風になれたかしら! ……なんてね」
 可愛らしく微笑みながらも、メルステラは儀式場へと視線を向ける。
 最後の戦いは、もうすぐそこまで迫っていた―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイラザード・ゲヘナ
ヤレヤレじゃのう。
本当にこの世界は妾たちを飽きさせぬモノじゃ。

さて、どう攻略したものか…。

ふむ。飛ぶか。
妾は飛べぬがな。
飛べるものを作るのじゃ。
「では、妾の秘術に驚くがよいの。」
三日月に乗り込むのじゃ。ほれちょうど座る為にあると言わんばかりの形ではないか。
飛んでくる算盤の珠はどうするかのぅ。
よし、『式神使い』の本領発揮じゃ。
『降霊』させた雑霊を三日月作成時のあまりの無機物に宿らせて、木霊の式神の『弾幕』で迎撃じゃ。言うたであろう?

≪お主らの想い出によって新たな何かがすでに生まれておるわ≫
妾の式もその一つじゃ。
あと、このそろばん坂も忘れれそうにないのー。


アドリブや他猟兵との連携などはOKじゃの。



 そろばん坂。
 儀式場へと至る坂道の地面をびっしりと覆うそろばんの珠。それは溢れかえった骸魂たちが無機物に取り憑くことに寄って出来上がった激しい障害物。
 地面を駆け上がろうとすれば、ベルトコンベアーのようにつるりと滑って一気に坂下まで転げ落ちてしまう。
 かと言って空を行けば……散弾のようにそろばん珠が飛んでくるのだ。

 これを前にして、猟兵達は各々の取れる手段で、そろばん坂を攻略しなくてはならない。
 すでに一番槍を務めた猟兵が坂の上まで見事に駆け上がっていた。
 それを指針にすれば……と思ったのだが、アイラザード・ゲヘナ(セカイの渡り鳥・f18145)は嘆息する。
「ヤレヤレじゃのう。本当にこの世界は妾たちを飽きさせぬモノじゃ」
 一体全体何が飛び出してくるかわからない世界である。
 それは他の世界を数多く見てきたアイラザードですら、驚嘆に値するものばかりであった。カクリヨファンタズムの世界の不可思議なる部分を、こうも見せつけられるとは思いもしなかったのだろう。

「さて、どう攻略したものか……」
 そろばん坂を見やる。
 そろばんの珠が埋め込まれた地面。普通ならば、飛べば良いのでは? となるのだが、前述した通り、そろばんの珠は対空射撃のように散弾の如き珠を空に向かって打ち出すのだ。
 これではただ空を飛ぶだけでは撃ち落とされてしまう。
 だが、アイラザードには妙案があった。

「ふむ。飛ぶか。妾は飛べぬがな。ならばどうする? 飛べるものを作るのじゃ」
 ぱちんと、指をならす。
 ユーベルコードが月光のように輝き、三日月(カグヤ)が発動する。それは彼女の周辺に在る無機物を変換する。
「では、妾の秘術に驚くがよいの」
 それは変換した無機物と同じ質量の三日月を生み出すユーベルコードである。
 あちらこちらに存在する無機物を変換し、アイラザードの目の前に浮かぶ三日月。それはまさに夜空に浮かぶ三日月を、そのまま大地へと下ろしたかのような形。

 それはまさに杯のように、宙に浮かんでいた。
「ほれ、ちょうど座る為にあると言わんばかりの形ではないか。さて、出発である」
 ぷかぷかとアイラザードを乗せて浮かぶ三日月。
 これでそろばん坂の回るそろばん珠も無意味である。
 だが―――。
「ふむ、飛んでくる算盤の珠はどうするかのぅ……よし、『式神使い』の本領発揮じゃ」

 ぽん、と掌を叩く。
 ユーベルコードによって三日月を作成した際に出た端材、その無異物に降霊によって憑依させた雑霊を木霊の式神の放つ弾幕で、そろばんの珠を迎撃するのだ。
 一斉に放たれる、散弾の如きそろばんの珠と木霊の式神が張る弾幕がかち合う。
 空中でぶつかり合う姿を見下ろしながら、アイラザードの乗る三日月は悠々と空を舞い、そろばん坂を攻略していく。

「言うたであろう?」
 それは先程まで戦っていたオブリビオンたちに向けた言葉だった。

 ―――『お主らの想い出によって新たな何かがすでに生まれておるわ』

 この式神たちもまた先程の経験を経て得たものの一つ。
 何一つ無駄にはならない。重石にはならない。人の強さは思いを形に変えること。思いを受けて何かを成長させること。
『忘却』しては、何一つアイラザードは得ることはできなかったものである。

 三日月から見下ろす、そろばん坂。
 荒唐無稽で破天荒で驚天動地なる姿を見せるカクリヨファンタズム。その光景は―――。

「このそろばん坂も忘れれそうにないのー」
 どうしたってもう、アイラザードの記憶に深く深く刻まれることになったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
何よ、このそろばん坂。どこかの遊園地のアトラクションのつもり?
まともに登るのも面倒ね。飛んでいきましょう。

飛鉢法を使って、そろばん玉の射程外まで高度を取って坂の上まで一気に飛ぶ。
念のため、「全力魔法」の風の「属性攻撃」の「結界術」と「オーラ防御」で集中攻撃を耐えきるわ。
向かってくるそろばん玉を、届く前に風で吹き飛ばし、それでも抜けてきたものは「オーラ防御」で耐える心算。
アヤメは一緒に鉢に乗せて飛ぶ。

上についたら、後続の皆のために、長いロープを垂らしましょうか。
使ってくれる人がいればいいけど。
ロープの端は手近な木にでも繋いで、それじゃあ、残るは首謀者のオブリビオンの討滅だけね。やってやりましょ。



 目の前に広がる光景に村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、めまいを起こさないまでも驚嘆の声を上げた。
 それはそろばん坂と呼ぶに相応しい光景。
 そろばんの珠が坂道を覆い、猟兵たちの行く手を阻んでいるのだ。
「何よ、このそろばん坂。どこかの遊園地のアトラクションのつもり?」
 そう評した彼女の言葉は正しい。
 こんな素っ頓狂な光景、そうそう見ることの出来るものではない。しかも、ベルトコンベアーのように普通に進めば、ずるずると坂の下まで落ちてしまうほどに滑りがいいのだ。

「まともに登るのも面倒ね。飛んでいきましょう」
 これにまともに付き合っていてはいられない。他の猟兵たちも様々な手段を講じるだろう。ならばゆかりは少しでも先に進んでおこうと考えたのだ。
「ノウマク サマンタ ブッダナーム バーヤベ スヴァーハー。風天よ! 天吹き渡る其の風の効験を、ひととき我に貸し与え給え! 疾っ!」
 ユーベルコード、飛鉢法(ヒハツホウ)。それは彼女の姿を華麗な戦巫女の盛装に返信させ、鉄の大鉢による飛行を可能にする。
 式神であるアヤメと共に大鉢に乗り込めば、ふわりと浮かび上がる。

 空を飛ぶ者には容赦なく、そろばん珠が飛んでくる。
 それは散弾のようにゆかりたちを狙うのだが、高高度まで浮かび上がる大鉢には効果が薄い。
 念の為にと大鉢に纏わせた風の結界術にゆよって、そろばん珠は全てオーラにぶつかって砕け散っていく。
 こちらの防御を抜けてくるかもしれないという危惧は、杞憂に終わった。杞憂で終わるならそれでいいじゃないですか、と隣に座るアヤメが笑う。
「それもそうね……と、上についたら後続の猟兵のために長いロープでも垂らしましょうか。使ってくれる人がいればいいし、少しでも力を温存できるなら、それに越したことはないでしょう」

 危なげなく頂上までたどり着いたゆかりが長いロープをたらそうと準備を始めた視界に、次々とそろばん坂を駆け上がってくる猟兵たちの姿見えた。
 確かに、これこそ杞憂であったとゆかりは納得する。
 この程度の障害につまずく猟兵もいないか、と。けれど、アヤメはゆかりのそういう気遣いに微笑えむのだ。
「わっ、と……アヤメ、そういうのは首謀者のオブリビオンを倒してからね」
 ゆかりもアヤメに微笑み返しながら、体を伸ばす。
 視線の先には儀式場。そこに今回の鎮魂の儀を執り行った人魚の妖怪に取り憑いた骸魂……オブリビオンがいる。

「それじゃあ、残るは首謀者のオブリビオンの討滅だけね。やってやりましょ」
 そういうゆかりの背後から後を追うように続々と猟兵達が、そろばん坂を踏破してくるのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
この坂を突破すればいいのか。
造作もない。修行の成果、見せてやろう。

踏破に専念する事で【忍術】発動。あらゆる技能が、鬼神の域の忍術へと昇華される。
忍びの修行に、濡れた和紙の上を破らず駆け抜けるというものがある。左足の重みが紙にかかる前に素早く右足を前に出す。
足で蹴って前に進むと紙が破れる。足ではなく全身の重心移動で前進するのがコツだ。
柔らかい紙に比べればそろばん珠など舗装された道路に等しい。珠に体重がかかり回転するより速く前に進む
【早業】【ダッシュ】【空中浮遊】で、珠を回転させずにその上を素早く駆け抜ける。極めれば水面すら走る、これぞ忍法「水蜘蛛の術」。
カクリヨか。なかなか楽しい世界じゃないか。



 見上げる坂はただの坂ではない。
 地面一面に埋め込まれたように存在するそろばんの珠。それは無機物に取り憑いた骸魂が地形を障害物へと変貌させた結果であった。
 骸魂とはこういうこともできるのかと、逆に関心してしまうのは、髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)である。
 その瞳に映るのは、坂の上に存在する鎮魂の儀の儀式場。そこに今回の首魁が存在している。疾く、かのオブリビオンを討ち果たさなければ、カクリヨファンタズムはきっと『忘却』が溢れかえった何もかもが無意味なる世界となり、世界の終わりを迎えてしまうことだろう。

 それを阻止することこそが、御下命如何にしても果たすべし、と彼が己に課したものである。
「この坂を突破すればいいのか……造作もない。修行の成果、見せてやろう」
 忍びとしての鍛錬を続ける内にわかったこともある。
 忍びの術、技術というものはあらゆるものに応用が効き、日々の生活に密着しているものであると。どんなことも忍びの技術へと至るのだ。
 ユーベルコード、忍術(シノビノワザ)。
 それは鍬丸が持つ忍者として必要な能力、技術全てがあらゆる摂理を越える鬼神の領域に達すると証明するものである。

「忍びの修行に濡れた和紙の上を破らずに駆け抜けるというものが在る……」
 左足の重みが紙に掛かる前に素早く右足を前に出す。
 人は駆け出す時に必ず足で地面を蹴って前に進む。それは類稀なる瞬発力を生み出すことだろう。
 けれど、その踏み込みは、踏み込む力に比例して大きな音を立てる。それでは静かなることを尊ぶ忍びにとっては致命的である。
 それをしないための修行。足音を消す。
「コツは……足ではなく全身の重心移動で前進すること」
 思い出すまでもない。
 鍬丸は常に歩く時、駆け出す時、その全てがそうして足を踏み出している。いついかなる時も心に刃を忍ばせる、常に戦いに際している、それこそ忍びであるという矜持があった。

「軟らかい紙に比べれば、そろばん珠など舗装された道路に等しい」
 それは坂道を普通に駆け上がっているような光景であった。
 ただ、駆け上がっている。足元のそろばん珠は微動だにしていない。それがどれだけ高度なことであるのか、鍬丸以外に分かるものもいなかったであろう。
「極めれば水面すら走る、これぞ忍法『水蜘蛛の術』―――」
 まさにそのとおりである。
 鍬丸の体は水面に波紋一つ立てずに進む水蜘蛛そのもの。坂道の上まで駆け上がると、鍬丸は坂の上から下を見下ろす。

 悪くない眺めである。
 この地において鎮魂の儀を執り行なおうとした主祭司の気持ちがわかる。鎮魂の儀にて骸魂を慰め、この地の糧になってもらおうとした理由がはっきりとわかったのだ。
「カクリヨか。なかなか楽しい世界じゃないか」
 だからこそ、鍬丸は駆ける。
 この世界を終わらせるわけにはいかない。
 この坂の上から見下ろす大地、そこにはきっとこの鎮魂の儀に集まった妖怪たちの想いが思っているのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
さて、次の仕事に向かうとしましょうかな……ん?
何だ『濡姫』、おまえも私を蔑むのか?
『別に?誰が何をしようと興味がごさいません』
■行
【WIZ】
算盤が彼方此方に飛んで、危ない所ですな。
慌てず騒がず、【落ち着いて】いきましょう。

先ずは、最も近い場所にある算盤板へ【ジャンプ】で
飛び移ります。算盤が近づいたら【念動力】を解放し
脚を踏まないように着地します。

飛んでくる算盤は【第六感】を巡らせ此方へ来る瞬間を
予測、再び【念動力】を解放し【空中浮遊】しながら
安全な場所へ緊急回避します。
これを繰り返し、ゆっくりと先へ進みましょう。

これ濡姫、腕に巻き付くんじゃない。

※アドリブ連携歓迎、『』は濡姫



 坂道を見上げる。そこにいるのはもうわかっている。主祭司である人魚の妖怪に取り付き、世界を『忘却』で満たそうとするオブリビオンの存在。
 きっと人魚の妖怪が骸魂に取り憑かれてしまったのは、些細な失敗であったのかもしれない。けれど、それは荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)の言うところの、“破滅”は、ちっぽけな塵が呼び起こすもの、であったのだと彼は断ずる。
「さて、次の仕事に向かうとしましょうかな……ん?なんだ『濡姫』、おまえも私を蔑むのか?」
 にゅるりと蛟鬼の裾の中から顔を出す彼の従者『濡姫』。

『別に?誰が何をしようと興味がございません』
 その従者の言葉は釣れないものであった。興味がないと言いながらも、こうして彼に付き従ってくれる者である。
 己の行為、行いに疑念が入る予知はない。
 けれど、往々にして他人とは他者の行いに口を挟むものである。正しいであるとか、間違っているだとか。
 それが一体何になるというのだろうか。結果が全てを物語っている。そして、この世界、カクリヨファンタズムにおいて、少しのほころびがいつも世界の終わり―――カタストロフを引き起こすのだ。

 それを止めるのが、蛟鬼の務めである。正しくそれを行うこと、滞りなく、全ての終末の芽を摘み取るのが蛟鬼の言う仕事である。
「算盤が彼方此方に飛んで、危ない所ですな。慌てず騒がず落ち着いていきましょう」
 彼の視界には空を駆ける猟兵もいれば、そろばん坂を駆け上がっていく者もいる。空を飛ぶ者へは散弾のようにそろばん珠が乱打され、その様子を見て嘆息するのだ。
 まったくもって骸魂のやることなすことは不可解であると。

 蛟鬼は軽く跳躍し、そろばん坂へと飛び移る。
 そのまま足をおろしてしまえば、一気に坂の下まで一直線だ。だが、彼は念動力で持って己の体を浮かせる。
 そろばんの珠を踏まないように、浮いているのだ。わずか数センチであるが、それでもそろばん坂は飛んでいると認識するのだろう。
 一斉に散弾のように蛟鬼へと打ち放たれるそろばん珠。
「おっと、それは予想の範疇ですな」
 ひらりと念動力で持って己の体を空中でひねって散弾の如きそろばん珠を躱す。そのついでというように、次々とそろばん坂を駆け上がっていく。
 そろばん珠は鬱陶しいが、それでも焦らずに落ち着いて上っていく。

「―――、これ濡姫、腕に巻き付くんじゃない」
 悪戯をするように腕に巻き付く従者、濡姫。その瞳が語る言葉を蛟鬼は理解していた。ゆっくりではなく、もっと急いだ方がよろしいのではございませんか?と。
 だが口にはしない。言葉にはしない。
 それは従者のすることではないとわかっているようであった。

 嘆息しながらも蛟鬼の視線はそろばん坂を駆け上がった先にある儀式場を捉える。
 あそこに今回の首魁がいる。
 放置してはおけない。
 塵は塵のままにしてはいけない。
 取り除かなければ、また世界に芽吹く終末の種が撒き散らされる。それは、まったくもって許容できないものであるのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
あれはSエンパイアでよく見られる計算機ですね
古代に障害として運用されたのか…

可笑しな推論は止めて踏破しましょう

センサーで珠の摩擦係数や傾斜角を●情報収集
●防具改造で足に接続した大盾にサーフボード宜しく●騎乗
脚部スラスターを噴射しての●スライディング移動で一気に滑り降りではなく『滑り登り』

UCで精度を上げたとはいえ噴射角度や重心制御を誤れば前転宙返りからの無様な転倒は必至
自己●ハッキング演算リソース再分配
●限界突破した制御演算速度で突破

(坂を上り切り空中で盾と足の接続解除。蹴り飛ばし宙に浮かばせる間に着地。落下盾キャッチ)

格好が格好なので普段は使いませんが、動作制御の精度は落ちていないようですね



 鎮魂の儀が執り行われた儀式上へと至る坂道。
 その坂道の地面を舗装するように埋め込まれた、そろばん珠。なんともカクリヨファンタズムらしい光景と言えば、それまでである。
 だが、その光景に他の異世界との共通点を見出す者もいる。
「あれはサムライエンパイアでよく見られる計算機ですね」
 しかしまさか、こうして古代に障害として運用されたのか……と可笑しな推論を組み上げてしまいそうになるのは、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)である。

 軽く頭部を振って推論を打ち切る。頭部を降ることに意味はないのだが、それでもやってしまうのは己の中に蓄積された何かがそうさせるのかもしれなかった。
「ふむ……踏破しましょう、と見ればなるほど……」
 トリテレイアのアイセンサーが輝く。
 そのセンサーは人の瞳以上に様々な情報を拾い上げていく。例えば、そろばん珠の摩擦係数や、傾斜角。ひと目見ただけでは、常人であれば、坂が急そうであるだとか、そろばん珠の滑りがどれほどのものかだとか、そういう思考になるだろう。

 だが、トリテレイアは違う。
 その電脳からはじき出される計算式は人の脳では演算しきれないものであった。ふむ、とうなずく。
 鋼の擬似天眼(マルチセンサー・フルアクティブモード)。それこそが彼のユーベルコード。超高速演算によって導き出される行動の成功率を上げる計算式は、すでに彼の中ではじき出されていた。

 手にした大盾を脚部、足底へと装着する。それはサーフボードのような風体であった。波乗りでもするのかと、ここが海であったのなら思ったであろう。
 だが、それは違う。彼がウォーマシンであるが故に、この形態が一番、そろばん坂を踏破するのに最適な解であると導き出したのだ。
 スラスターが青白い炎を吹き出し、その巨躯を大盾毎進めさせる。
「さあ、一気に滑り降りならぬ、『滑り登り』で頂上まで参りましょう」
 それは凄まじい速度で持って矢のように坂の頂上に在る儀式上へと駆け上がっていく。

「―――ユーベルコードで精度を上げたとは言え、スラスターの噴射角度や重心……バランサーの制御を誤れば、前転宙返りからの無様な店頭は必死……」
 ならばと、己の電脳から演算リソースを再分配する。
 スラスターの噴射の出力、バランサーの設定、逐一変わる環境データを入力しては、秒毎に修正を加えていく。
 微調整をしながら、並行してそろばん坂を駆け上がっていくのは、トリテレイア以外できた芸当ではなかったであろう。

 頂上まで駆け上がると空中でサーフボードにしていた大盾と足底のドッキングを解除し、蹴り飛ばした盾が空中にくるくるときりもみしながら落ちてくる間に地面に着地し、華麗に盾をキャッチし腕にドッキングさせる。
「格好が格好なので、普段遣いではありませんが、動作制御の精度は落ちていないようですね……」
 残るはオブリビオンだけである。
 こちらは何の問題もない。これだけの動きができる。今や猟兵最高峰とも言える技量を持つトリテレイアのアイセンサーが捉える先―――儀式場には、強大なるオブリビオンが控えている。

 この世界を終わらせないために。
 そして、何よりも『忘却』することが救済であると言うオブリビオンに飲み込まれた主祭司の人魚の妖怪を救うために彼は踏み出すのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ連携歓迎
これは……聞いてはいたけど、実際に見てみると
思ってた以上に愉快な仕掛けね……
ええと、そろばん? だったかしら
一体何の用途で使う道具なのかは良く分からないけれど、
また厄介な障害物ね

■行動
(物は試しにと足を乗せてみる)――きゃっ!? 
こ、これは思った以上に滑るわね……?

そうね、ならここは……【UC】を使いましょうか
【UC】で自分自身を霊体へと化して、浮遊しながら進む事で
回る球の影響を受けずに坂を超えていくわ

ただ、骸魂が憑りついて発生した物ならもしかしたら
霊体にも攻撃が通用する可能性もあるし、ここは念の為に
ヒルデと死霊の障壁で飛んでくる球の散弾を防ぎながら
さっさと進みましょう



「これは……聞いてはいたけど、実際に見てみると思ってた以上に愉快な仕掛けね……」
 レナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)は閉じた日傘を弄びながら見上げる坂道を見て、静かに驚いた。
 様々な世界を見てみたいと異世界を渡ってきたが、カクリヨファンタズムは彼女にとって格別なる姿を見せていたのかもしれない。
 その赤い瞳が捉える世界は、驚きに満ちていた。
 そう、彼女の瞳が捉えるのは、そろばん坂。そろばん珠が地面に埋め込まれるようにびっしりと広がっている坂道なのだ。

「ええと、そろばん? だったからしら……一体何の用途で使う道具なのかよくわからないけれど、また厄介な障害物ね」
 彼女は、算盤というものがどういったものであるのかわからない。未だ知らぬ世界が彼女の眼前に広がっているということが重要なのであって、そろばんの知識があるかないかは別問題なのだ。
 ただ、厄介と断ずるには少し足が浮足立ってしまうのもまた事実である。
 そして、彼女の好奇心は、脚を踏み出せば一体どうなってしまうのかという事に向いてしまう。

「―――……」
 見事な所作。それは令嬢たる彼女の身の上から連なる精錬された足の運びであった。だが、ここではそんなことまるで意に介していないように、そろばん坂のそろばん珠は彼女の脚を滑らせる。
「―――きゃっ!? こ、これは思った以上に滑るわね……?」
 滑る、と聞いてはいたのだが、本当にこれで? という疑いもあった。それになんだか少し楽しそうな気もしたのだ。こんな状況でなければ、頂上からこのそろばん坂を滑り降りてしまうのも楽しそうだと思ってしまうほどに。

 だが、それでもレナーテはこの坂を踏破しなければならない。この坂の頂上に儀式場があり、そこに事件の首魁であるオブリビオンが存在しているのだから。
「そうね、ならここは……」
 彼女の瞳がユーベルコードの輝きを放つ。水面に映る月(ネーベン・モーント)。それは彼女の体を幽体化し、浮遊させる。
 これならば、そろばん珠の影響は受けまい。だが、それでも注意しなければならない。このそろばん坂は、骸魂が取り憑いたが故に発生した障害なのである。
 念の為にボディーガードである巨骸ヒルデと死霊の障壁がレナーテの眼前に展開される。

 あ、と思った瞬間に浮遊する彼女を飛んでいると認識したそろばん坂から散弾の如く放たれるそろばん珠。
 彼女の読みは正しかった。もしも、ヒルデや死霊たちを障壁として展開していなければ、彼女はそろばん珠の餌食になっていた。

「なるほど……こうやって私達を儀式場から遠ざけたかったのね」
 敵であるオブリビオンの首魁。
 その目的は世界を救済すること。だが、それは『忘却』による救済である。世界を『忘却』で満たせば、世界を、妖怪を全て救えると信じているのだ。

 それが愚かしいことであるとレナーテはしっている。
 世界に『忘却』が溢れかえれば、そこにあるのは何もない世界。何も残っていない世界は、世界の終わり―――カタストロフと同じである。
 だからこそ、レナーテは進む。

 新しく知った世界。カクリヨファンタズム。愉快だと思った世界。
 それをカタストロフによって破壊されることは、絶対にあってはならないことだからだ。
 その瞳が儀式場を捉え、強大なるオブリビオンとの決戦が迫ることを、感じていた―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『水底のツバキ』

POW   :    届かぬ声
【触れると一時的に言葉を忘却させる椿の花弁】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    泡沫夢幻
【触れると思い出をひとつ忘却させる泡】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    忘却の汀
【次第に自己を忘却させる歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黎・飛藍です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「さあ、全てを忘れてしまいましょう。『忘却』してしまいましょう。私を想う気持ちも、悼む気持ちも、全て」
 だって、そうじゃない? と人魚の妖怪に取り憑いた比丘尼妖怪の骸魂が姿を変えたオブリビオン、『水底のツバキ』が謳うように言葉を紡ぐ。
 取り付き、支配権を奪った人魚の体をゆっくりと撫でる。愛おしいほどにお人好しな人魚。どんな時でも友人だと言ってくれた彼女。

「こんなにも貴方は愛おしいのに、きっとこの愛おしさもいつかは憎しみに変わる。そんなの美しくないわ。綺麗ではない。例え、私を悼んでくれたのだとしても、その行いはいつしか億劫になってしまう」
 だから、綺麗なまま忘れてしまいましょう。
 ぼろぼろになって、色あせて、擦り切れてしまう想いなんて、最初から無いほうが良いのだ。
 そんなの悲しい。
 いつまでも色あせてほしくない。綺麗で居て欲しい。せめて、想い出の中の私だけでも美しいままの貴方の友人出会って欲しい。

「だから、ねえ? すべて『忘却』させましょう。それが私と貴方の救いになるのだから―――」
 椿の花弁と泡沫、そして歌が鎮魂の儀が執り行われていた儀式上に溢れかえる。
 それは妄執。
 愛憎は表裏一体。
 嘗て在りし友愛は、もはや『忘却』されるべきものであると、『水底のツバキ』は麗しい歌声を響かせるのだった―――。
村崎・ゆかり
『忘却(Oblivion)』か。まさに正しくオブリビオンそのものね。
いらない記憶なら勝手に消えるわ。それでも残る記憶は、時間に磨き上げられて掛け替えのない想い出になる。
そもそも、過去たるあなたたちは、忘れられたら終わりでしょう? ちょっかいを出してくるのは、本当は忘れられたくないからじゃないの?
あたしが気を引いてる間に、背後へ回り込ませたアヤメに苦無攻撃をさせて、更にそれを囮として、あたしが本命を放つ。

風の「属性攻撃」で「破魔」と「浄化」を仕込んだ七星七縛符を確実に命中させて、オブリビオンのUCを封じる。
その後、薙刀の「なぎ払い」と「串刺し」で討滅を目指す。
さあ、鎮魂の時よ。永久に眠りなさい。



 忘れましょう。全て。忘れましょう。
 その歌声は『忘却』の歌声であった。オブリビオン『水底のツバキ』の歌声は、それを聞く者を眠りへといざなう。
 それは比丘尼妖怪出会った頃に持ち合わせていたものではない。人魚妖怪の持つ能力。忘れてほしいと願いながら、その歌声は友人であった人魚のもの。
 矛盾していると感じるものもいるだろう。
 そう、オブリビオンとなった『水底のツバキ』は矛盾した存在である。愛憎混ざりあった感情のままに歌声を発する。
「忘れて、忘れて、全て綺麗になりましょう。色褪せない、擦り切れない、そんな想い出と共に水底へと沈んで行きましょう」

 その歌声は世界を終わらせる歌声。『忘却』が世界を満たした時、その世界は何もかもがなくなる虚無の世界に成り果てる。
「『忘却』……Oblivion、か。まさしく正しくオブリビオンそのものね」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、その歌声を無視する。意識の端からはじき出す。
 己の言葉でユーベルコードの歌声を打ち消していく。聞かない。聞く必要がない。
 なぜなら!

「いらない記憶なら勝手に消えるわ。それでも残る記憶は、時間に磨き上げられて掛け替えのない想い出になる」
 駆け出す手には薙刀。迫る歌声を薙ぎ払うように進む。尋常ならざる精神力を持っていたとしても、長くは持つまい。
 だが、それでもゆかりが駆け出したのは、その手にした符を確実にオブリビオンへと叩き込むためである。

 歌声が猟兵たちを眠らせてしまえば、もうこのオブリビオンを止める手立てはないに等しい。世界の終わり―――カタストロフは確実にやってくる。『忘却』が世界に満ち溢れ、虚無の世界が訪れるだろう。
「そもそも、過去たるあなたたちは、忘れられたら終わりでしょう? ちょっかい出してくるのは、本当は忘れられたくないからじゃないの?」
 その言葉は穿った言葉であったかも知れない。
 けれど、動揺を引き出すには十分な言葉であった。歌声が鈍る。背後にかばっていた式神アヤメが好機を見逃さずに苦無を投擲する。

「―――忘れて欲しい。忘れて、何もかも平穏な波風立たぬ水底に居て欲しい」
 その言葉が真なる言葉であったのか、それとも欺瞞であったのか、ゆかりにはわからない。
 けれど、アヤメの放った苦無に気を取られたオブリビオン『水底のツバキ』へと必中の符―――七星七縛符が放たれる。
 その護符は『水底のツバキ』の喉元へと張り付き、ユーベルコードである眠りに誘う歌声を封じたのだ。
 それは一陣の風のようであった。水底には決して吹かぬ風。破魔と浄化の力が籠められた護符は、その効力を発揮する。

「嘘よ、そんなのは。誰かを独り占めにしたい時に使う御為ごかし……さあ、鎮魂の詩よ。永久に眠りなさい」
 ゆかりの薙刀の一撃が『水底のツバキ』の胴を貫く。
 その一撃は確かに歌声を封じた。しかし、代償もまたある。ユーベルコード、七星七縛符によるユーベルコードの封じ込めは、解除するまでゆかりの寿命を削る。
 
 しかし、それでもゆかりはできうる限り、歌声を封じ続けることだろう。
『忘却』なんてさせない。想い出は磨き上げられた宝石そのものだ。
 それをなかったことになんて、させてたまるかと彼女の強烈なる意志が、そのユーベルコードを他の猟兵達が駆けつけ、オブリビオンに打撃を与えるまで維持し続けるだろう。

 そう、例え己の生命を削る行いであったとしても―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルステラ・セレスティアラ
それは貴方のエゴだわ
あまりにも身勝手過ぎる
思い出も存在も何もかも綺麗なままに、すべてを忘れることを彼女も望んでいるとでも?
それを望むのは貴方だけ
現に彼女は貴方を『忘れない』ために鎮魂の儀を行っていた
私は彼女の忘れたくないという意思を尊重するわ

【全力魔法】で私の回りに風の障壁を作る
こうすることで歌どころか私の世界から音が消える
今はこれでいい
【多重詠唱】で同時に白炎の魔法を詠唱する
歌が終えるまで私は詠唱しながら風の障壁の魔法で堪える
口の動きが止まったのを見計らって【浄化】を乗せたアルカナ・ブラスターを放つわ
これは貴方を浄化する燃えない炎
貴方のエゴを断つ、白き炎

嘗ての愛が形を歪に変える
かなしい、ね



 そのオブリビオンの放つ『忘却』させる歌声は猟兵のユーベルコードに寄って封じられている。歌声は響けどユーベルコードの効力は発揮されない。
 あるのはただの歌声……いや、慟哭であったのかもしれない。『水底のツバキ』……人魚妖怪に取り憑いた比丘尼妖怪の骸魂が変貌した姿。
 それは生来の比丘尼とは違う姿をしていた。人魚妖怪を飲み込むことで姿が変じたのであろう。
「忘れて。忘れて。貴方を救うために必要なことだったのに。私を忘れてしまえば、何にもとらわれることのない貴方だったのに。水面に飛ぶ貴方も、何もかも変わることなんて何一つなかったはずなのに―――」
 それは執着であり、妄執。
 そこにはもはや正しさや間違いは関係がなかった。あるのは、己の欲求……これ以上友人であった人魚妖怪が変わっていくことを良しとしない、己の欲望のみであった。

「それは貴方のエゴだわ」
 その妄執を正面から切って捨てる。メルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)は慟哭響く儀式場へと進み出る。
 優しい髪色がふわりと揺れ、淡い瞳が『水底のツバキ』を捉える。
「あまりにも身勝手すぎる。想い出も存在も、何もかも綺麗なままに、すべてを忘れることを彼女も望んでいるとでも?」
 それは怒りであっただろうか。
 彼女の周囲に吹き荒ぶ風の魔法。天の魔導書が風に煽られて頁が音を立てる。風の障壁はもはや、オブリビオンの慟哭を一言たりとてメルステラには届けさせなかった。
 今はこれでいい。彼女の世界から音が消えた。
 静かに、けれどゆっくりと……彼女の詠唱が始まる。その詠唱は徐々に速度を上げていく。

「それを望むのは貴方だけ」
 何のために鎮魂の儀が行なわれていたのか。それは『忘れない』ためだ。人魚妖怪は友人であった死せる妖怪……比丘尼妖怪のことを忘れないために鎮魂の儀を執り行っていた。
 そこにあったのは友情であったり、友愛であったり……余人の入り込む余地はない感情であったのかも知れない。けれど、メルステラは、その意志を―――彼女の忘れたくないという意志を尊重する。
 だからこそ、オブリビオンと化した『水底のツバキ』の言葉は、歌声は聞かない。
 天の魔導書から白炎が舞い上がる。十分に詠唱され、蓄えられた力はもはや彼女の魔法による風の障壁では抑えきれないほどに成長していた。

「これは貴方を浄化する燃えない炎」
 風の障壁が白炎に絶えられなくなり、弾け飛ぶ。
 眼前に映るは『水底のツバキ』。何事かを歌っているのかもしれない。忘れたい、忘れたい、と思っているのは、自分自身のはずである。

 狂おしいほどに身を焦がす情念。
 隣にはもう居ることのできない。
 そんな感情が、愛が死せる者を変貌させていく。

「―――貴方のエゴを断つ、白き炎……」
 放たれるは白炎のアルカナ・ブラスター。一直線に放たれる凝縮された魔法の力が『水底のツバキ』を撃つ。
 その妄執を撃つ。
 彼女の一撃だけでは祓うことのできない妄執であるかも知れない。けれど、それでもメルステラは、その一撃を放つ。

 ただ、ただ、想うのだ。嘗ての愛が形を歪に変える。
 それがどうしても。
「かなしい、ね」
 そう感じる心のままに、誰かの心を振り払う白い炎をメルステラは燃やし続けるのだ―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイラザード・ゲヘナ
ヤレヤレじゃ。
全て忘却したら、それは主とその人魚との関係は『忘れた』のではなく、関係など『無かった』ことになるだけではないのかのぅ。


出会いすらなくなって、それで満足なのかのぅ。
『最初』から『出会わなかった』よかった…。
それが主のいう忘却ではないのか?
主らの縁はその程度であったのか?
妾の式神使いの腕、見せてやるのじゃ。
降霊の術で降ろした雑霊で作った木霊の式神じゃ
輪廻蝶と弾幕受けるがよいのじゃ。

む、この歌はいかんの。輪廻蝶が寝てしもうた。
妾も寝てしまわぬうちに封じるが最善かのぅ。
『では、その力消すとするかのぅ。月のない夜の闇に飲まれ!!。』新月じゃ!!

アドリブや連携は大歓迎じゃの。



 白き炎が一直線に『水底のツバキ』へと放たれる。
 一条の炎は、その一撃を持ってオブリビオンの情念を断つ。けれど、それでもなお『水底のツバキ』は吠えるように歌声を響かせる。
 ユーベルコードを封じていた符が弾け飛ぶ。歌声が、響き始める。

「ヤレヤレじゃ。全て忘却したら、それは主とその人魚との関係は『忘れた』ではなく、関係など『なかった』ことになるだけではないのかのぅ……」
 アイラザード・ゲヘナ(セカイの渡り鳥・f18145)は白炎に包まれている『水底のツバキ』を見やる。そこにあったのは妄執に取り憑かれた、ただの一人の妖怪としての姿であったのかもしれない。
「『無かった』ことになったとしても、出会わなければ、こんな思いをしなくてよかった! 出逢えば別れがあるなんて、私知らなかったのよ!」

 それは慟哭。
 出逢えば別れがある。そんな当たり前のことでさえ、突然の死は受け入れれることができなかったのだろう。
 それほどまでに世界を渡るということは険しく厳しい道程なのだ。
 だが、出会わなければよかったという言葉にアイラザードは言葉を返す。
「出会いすらなくなって、それで満足なのかのぅ。『最初』から『出会わなかった』のがよかった……それがお主の言う忘却ではないのか? 主らの縁はその程度であったのか?」
 カクリヨファンタズムにおいてオブリビオン化する骸魂は、生前に縁のあった妖怪を飲み込もうとする。
 それはある意味で切っても切れない縁があるということではないのか。

 死が二人を別つ。
 それでもなお、紡がれた縁は歪では在るが再び結ばれた。ならば!
「妾の式神使いの腕、見せてやるのじゃ」
 アイラザードの周囲に集まるのは、降霊の術で降ろした雑霊で作った木霊の式神。それらと輝く不思議な燐光放つ輪廻蝶が舞い飛ぶ。
 一斉に放たれる式神と輪廻蝶の乱舞は弾幕のように『水底のツバキ』を襲う。しかし、かのオブリビオンの封じていたユーベルコードが再び発動する。

 眠りを誘い、忘却を押し付ける歌声。
 その歌声の前に輪廻蝶たちが力なく地面へと落ちていく。
「む、この歌はいかんの。輪廻蝶が―――」
 このままでアイラザードまで眠ってしまう。いや、それ以前に記憶が『忘却』される―――!
 それ以上に、この歌声を放置してはならない。いつか世界が『忘却』に包まれてしまう。だからこそ、先行した猟兵もユーベルコードを封じていたのだ。

「では、その力消すとするかのぅ。月のない夜の闇に飲まれ!!」
 それは魔力で再現された月のない夜。
 夜の帳、光のない星星の輝きしかない夜が周囲を包み込む。ユーベルコード、新月(カグヤ)。月は輝かない。
 けれど、星々の輝きが歌声を相殺していく。歌声響けど、そのユーベルコードの効力は全て新月の夜が飲み込んでいく。

「主らの縁は、死が別つものではない」
 大地に生きる者たちにとって、闇夜の中に浮かぶ月の光はなくてはならないものだ。
 あの月を見上げながら、人魚と比丘尼は謳うこともあっただろう。
 互いを思いやる気持ちが強かった友人同士であれば尚更。だからこそ、新月は歌声を封じる。

「本当にであった者に別れは来ない。どれだけの時間が隔てても、別れは来ない。だからこそ、主は骸魂となってしまった今でも……その人魚との縁を喪わずにおれるのだからのぅ―――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ連携歓迎
悲観が過ぎるわね
そこまで大切に思う友人なら、思い出だったなら
もう少しそれらを信じる事は出来なかったのかしら

それとも貴女の友人は、居なくなった相手の事を
疎むような薄情な人物?
貴女達の想い出は、風化して色あせてしまうような
軽い記憶だったのかしら?

忘れたくないと、想い出を大切にしようとしていた
彼女達を見ていたならば分かるでしょう?

■行動
本当は貴女自身が恐れていただけでなくて?
相手を縛ってしまう事を、相手の気持ちが変わって疎まれてしまう事を
ここは【UC】による精神への【呪詛】で恐怖心を与えると共に増幅
声も出せなくなる恐怖で歌や動きを止めるわ

後は様子を見つつヒルデで攻撃を仕掛けましょう



 ―――悲観が過ぎる。
 それがレナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)をして言わしめた『水底のツバキ』の妄執であった。
 忘れてほしいと、想い出が色あせて消えてしまう前に。
 それが己と人魚妖怪に対する真なる救済であると言うのだ。けれど、それは一方的な望みに過ぎない。
 何故、人魚妖怪と生ける妖怪たちは鎮魂の儀を行い、骸魂となった死せる妖怪たちの魂を慰めようとしたのか。悼んだのか。それを理解していない。
「『忘却』して、もう私をこれ以上思い出さないで。思い出せば、思い出すだけ色あせて、ぼろぼろになっていく―――! 貴方が擦り切れていく―――!」

 その歌声のような慟哭は儀式場に響き渡る。
 忘却を催す歌声は新月の夜に包まれた儀式上にて闇夜に吸い込まれていく。先行した猟兵達が皆、そのユーベルコードを脅威に感じて封じてきたのだ。
 レナーテはその瞳をまっすぐ捉える。
 その慟哭は目をそらさんばかりのものであったかもしれない。けれど、レナーテには目を背ける理由が何一つなかった。
「そこまで大切に思う友人なら……思い出だったなら、もう少しそれらを信じることはできなかったのかしら」
 くるりと日傘を回してレナーテは言う。
 そんなにも大切な、色褪せることを恐れる思い出であったのならば、信じることもできたはずだと。自身が危惧するようなことなど起きないと思えなかったのかと。

 その言葉は『水底のツバキ』の歌声を鈍らせる。
 本当は貴方自身が恐れていただけでなくて? それがレナーテの視線と共に『水底のツバキ』へと突き刺さる。
「それとも貴方の友人は、居なくなった相手のことを疎むような薄情な人物?貴女達の想い出は、風化して色あせてしまうゆな軽い記憶だったのかしら?」
 巨骸ヒルデの威容がレナーテの背後から彼女を庇うようにして前に出る。一歩近づく度に『水底のツバキ』より放たれる歌声の力が強まっている。
 ユーベルコードを封じていた新月の夜も、限界が近づいてきている。

 それでもレナーテは言葉を紡ぐ。
 それこそがユーベルコードよりも何よりも『水底のツバキ』を、彼女たちの想い出を揺さぶる言葉であると信じているからだ。
「忘れたくないと、想い出を大切にしようとしていた彼女たちを見ていたならばわかるでしょう?」
 鎮魂の儀。
 それは彼女たちが死せる者にできる唯一のこと。慰め、悼む。そして、その骸魂の浄化は、いつしかこの儀式上の眼下にある花を咲かせる糧となるからだ。

「相手を縛ってしまうことを、相手の気持が変わって疎まれてしまうことを―――」
 貴方は恐れていたのね、とレナーテの唇が言葉を紡ぐ。
 瞬間、巨骸ヒルデの戦慄の絶叫(シュレッケンス・シュライ)が響き渡る。それは眠りを誘う歌声を相殺し、『水底のツバキ』へと恐怖を与える。
 忘れてほしいと願った自身。そういった自分がなくなってしまう恐怖を引き起こさっせる。
 身が竦む。動けない。ギシリと喉が軋む。『水底のツバキ』は、巨骸ヒルデの叫び声の前にただ、立ち竦むしか無かった。

「ヒルデ、お願い―――『彼女達』を救ってあげて」
 巨骸ヒルデが答えるように、その強大なる腕を振り上げる。それは鉄槌のように『水底のツバキ』を打ち据えた。
 衝撃が走り、歌声は完全に潰える。
『彼女達』の救いは、別離の先にしかない。レナーテはそれがよくわかっていた。儀式場の眼下に広がる花畑……百日草の花言葉を知っていたから。

 ―――別れた友への想い。いつまでも変わらぬ心。

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
【神風の術】。自身を中心に【破魔】の竜巻を起こす
放たれる椿の花弁が邪な力なら塵に変え、正邪の無い純粋な力なら風で吹き散らす

人魚の姐さんは、花は散って咲くから美しいとか言ってなかったかい
お前さんには、それが納得出来なかったか?例え別の花がいつか咲こうと、今目の前の花が散る悲しさは変わらない、と

【カウンター】で防御の術を攻撃に転じる
【範囲攻撃】【限界突破】で竜巻を広範囲に拡大、比丘尼を巻き込む
【貫通攻撃】。体を傷付けず、取り付いた骸魂のみを浄化

花の命は一繋がりだ
散ったと見えても、残した種子が再び芽吹く
散る事は死ぬ事じゃあない

彼女もそんな事を言ってなかったかい?納得出来なくてもいい、忘れないでやりな



 いつかの日に彼女が言っていた言葉を思い出す。
 詩を謳い、花を愛でる。それが彼女たちの日常であった。長く、永い時間を共に過ごした。あの日々は忘れようはずもない。
 けれど、それでも別れはやってくる。永遠はない。いつだって思わぬところで終わりを迎えるのが生命である。
『―――』
 ああ、もう思い出せない。色あせてしまっている。忘れて欲しいと願った想いは、すでに己が『忘却』してしまっていたのだ。

「―――う、う……あぁ……!」
 巨大なる腕に叩きつけられた『水底のツバキ』の身体がきしみながらも起き上がる。オブリビオンであるがゆえに手に入れた強靭なる身体が、彼女の持つ妄執を後押しする。
 その手から放たれるは椿の花弁。触れれば、一時的ではあるが記憶を失っていく恐るべきユーベルコードによって生み出された花弁である。
 猟兵と言えど、これに触れてしまえば己の使命も忘れてしまう。

「……神成る風よ、荒れ」
 ユーベルコード、神風の術(カミカゼノジュツ)。それは髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)の体を包み込む破邪の竜巻である。放たれる椿の花弁が邪なる力が籠められたものであるというのならば、鍬丸にふれることは叶わない。
 竜巻に触れた瞬間、すべて塵へと変えてしまう。その破邪の竜巻を身に纏い、鍬丸は儀式場を疾駆する。

 身に纏った竜巻を広範囲に拡大する。印を結ぶ手が素早く動き、破邪の竜巻が『水底のツバキ』を包み込む。
「人魚の姐さんは、花は散って咲くから美しいとか言ってなかったかい。おまえさんには、それが納得できなかったか? 例え、別の花がいつか咲こうと、今目の前の花が散る悲しさは変わらないと―――」
 わからない。
 もうわからないのだと『水底のツバキ』は絶叫する。乱れ咲くように椿の花弁が周囲に撒き散らされる。
 だが、鍬丸の操る花弁の前には全てが塵へと変える。

「花の命は一繋がりだ。散ったと見えても、残した種子が再び芽吹く」
 鍬丸の身体が『水底のツバキ』へと接近する。彼を遠ざけようと放たれる花弁は尽くが竜巻に巻き込まれて塵と消える。
「でもそれは、私ではない―――!」
 ならばと鋭い手刀が鍬丸に迫る。それを忍刀で切り払うことは簡単なことであったかもしれない。けれど、鍬丸はそれを身を捩って躱す。
 態勢が不安定になってしまう。けれど、それは骸魂に取り憑かれた人魚妖怪の体を傷つけないようにとの配慮であった。

「散ることは死ぬことじゃない」

 その言葉。忘却の彼方にある言葉。
『水底のツバキ』は目を見開く。全て『忘却』したはずなのに、胸を打つ言葉。いつかの誰かが言っていた―――。

「彼女もそんな事を言ってなかったかい? 納得できなくてもいい、忘れないでやりな」
 鍬丸が身に纏う破邪の竜巻が形を変える。それは一斉に『水底のツバキ』へと殺到し、体を傷つけずに、取り憑いた骸魂だけを浄化するように高く、その体を舞い上げた。

 破邪の竜巻は、その骸魂だけを浄化するように高く、高く舞い上げ、鍬丸は見送るように呟く。
「―――無理に思い出せなんて言わないさ。けれど、その高さなら十分に見えるだろう。人魚の姐さんがお前さんに見せたかった花が」
 そう、そこにあったのは百日草の花。ジニアが咲き誇る光景であった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒覇・蛟鬼
なあに、嘆くことなどありません。
どんな形であろうとも、覚えて貰えるのは幸せな事です。
“記憶”として、生きることができるのですから。

勿論私も、あなたの事を覚えますとも。

■闘
といっても、別の形でね。
さて、あの花弁には触れてはなりませんね……花びらの動きを
じっくりと【見切り】、そーっと避けて移動しますかな。
周囲に花びらが少なければ、【ダッシュ】で一気に行き、
当りかけたら【オーラ防御】で流します。

相手に近づいたら左手に力を込め、ツバキ目掛けて拳を一直線に
放ち【一撃必殺】と行きましょうか。

あなたは“記憶”として生きなさい……世を蝕んだ咎人としてね。
(濡姫にゅるり)『若、雰囲気台無し』

※アドリブ・連携歓迎



 オブリビオン『水底のツバキ』の身体が破邪の竜巻に寄って、空へと舞い上げられた。空より儀式場を見下ろした眼下に広がるのは、儀式上から見下ろせる位置にある花畑。
 その花畑に咲き誇るのは百日草。
 花言葉は―――。
「ああぁ……でも、なんで、もう、遅いのに! 私は願ってしまったのに『忘却』してほしいと―――!」
 その言葉の意味を知っているからこそ、『水底のツバキ』は慟哭する。地面へと激突し、呻くように体を這い上がらせる。
 その体を包むのは椿の花弁。触れた者の記憶を一時的では在るが『忘却』させる恐るべき花弁。

「なんで、そんな、今更……」
 骸魂に、オブリビオンになってしまった『水底のツバキ』にとって、その花畑の光景はあまりにも酷であった。人魚妖怪たちの想いを踏みにじるも同然であったからだ。
 だから、彼女は己の額に椿の花弁を押し当てる。『今』を『忘却』する。見ていない。自分は何一つ見ていない。あの植えられた花の意味も、何も見てない。
「なあに、嘆くことなどありません。どんな形であろうとも、覚えてもらえるのは幸せなことです。“記憶”として、生きることが出来るのですから」
 そんな『水底のツバキ』へと迫る猟兵があった。
 荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)は優しげな言葉を紡ぐ。それは生命を失った者への慰めの言葉のようにも聞こえたかもしれない。
 だが、今目の前にいるのはオブリビオン。カクリヨファンタズムにおいて、この世界を終わりへと導く存在である。

「勿論私も、あなたの事を覚えますとも」
 と言っても、別の形でね、と蛟鬼は駆ける。あの花弁に触れてはならないと直感じみた感覚で放たれる花弁の嵐を見切る。
 無数に放たれる小さな花弁。あの花弁一つにでも己が触れてしまえば、どうなるのかわかりきっていた。
 己の使命を忘却さられる。忘れてはならないものだ。“破滅”は、ちっぽけな塵が呼び起こすもの……確かに、あの花弁もまたちっぽけな塵一つであろう。
 だが、世界を終わらせる可能性を秘めているのであれば、彼の瞳は一片の油断もなく花弁の動きを視界に納め、目まぐるしく変わる光景を見切って躱すのだ。

 駆け出す、急停止。身に纏うオーラと組み合わせながら、距離を徐々に詰めていく。その度に『水底のツバキ』の慟哭じみた絶叫が響く。
 その慟哭は、蛟鬼には届かない。否、耳には届いているが聞き入れることはない。どれだけの理由があろうと、どれだけの悲哀があろうと、己が成すことに変わりはない。
「私は―――『忘却』したいのではなく、『忘却』させたい。私だけが覚えていたい。私だけが、私だけが、貴方を覚えていたい」
 それを妄執と呼ぶのだと蛟鬼は吹き荒れる椿の花弁の嵐を駆け抜けた。握りしめた拳が、ユーベルコードを引き起こす。
 一撃必殺。
 力を込めた左の拳が『水底のツバキ』目掛けて放たれる。

 その一撃は致命的な一撃であった。
 拳が捉えたのは『水底のツバキ』の心の臓。
「あなたは“記憶”として生きなさい……世を蝕んだ咎人としてね」
 それは断罪の一撃。
 情状酌量の余地はない。裾の中で己の従者である濡姫が、雰囲気台無しであると言ったようであるが、気に留めない。
 この一撃に、そんなものを挟んでいては守れる者も守れはしない。
 罪は罪である。咎は咎である。分けて考えてはならない。あるのは、世界の脅威であるか否か。または、それに成長するかしないか。

「忘れはしませんとも。私の中でずっとね―――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
『忘却』してしまえば記憶が劣化することは無い、己が友の記憶の中で色あせてしまうことも無い
自身が傷つくことを恐れるあまり、貴女は友人の『記憶』にばかり気を取られ、憑りついている『今』の友人と向き合えてはいないではありませんか!

花弁を格納銃器から撃ちだすUCの●なぎ払い掃射による●スナイパー●武器落としで迎撃

言葉を止める気はありません

生前のお二人は花と歌を共に楽しんだと聞き及んでおります
その度に一方的にでは無くお互いの思考…心を触れ合わせ築いた関係では無いのですか
仮初なれど一心同体となった彼女の心、もう一度触れて確かめなさい!

炎を裂いて突破し接近

それが出来ぬというならば…!

●怪力による剣の一閃



 記憶とは己を己たらしめるモノである。
 記憶なければ、自己は保てない。どんな生き方をしてきたか、どんな風に考えるのか、その基盤は記憶である。
 その機体は器でしかない。電脳もまた器である。だが、そこに入力された記憶は、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)だけのものである。
 例え―――始まりが借り物の紛い物であったとしても。

「『忘却してしまえば、記憶が劣化することはない。己が友の記憶の中で色褪せてしまうこともない」
 成程。論理的であるとトリテレイアは思ったかもしれない。
 オブリビオン『水底のツバキ』は、その強大なるユーベルコードを封じられ攻撃にさらされたことで弱っていると判断してもよかっただろう。
 けれど、それでもトリテレイアは知っている。追い詰められたオブリビオンほど、何をしでかすかわからない。
 取り分けて、この『忘却』たる力を持つ『水底のツバキ』は一瞬の気の緩みが己を窮地に追いやるのだと直感的に理解していた。

「自身が傷付くことを恐れるあまり、貴方は友人の『記憶』にばかり気を取られ、取り憑いている『今』の友人と向き合えていないではありませんか!」
 だが、それでもトリテレイアは己の炉心が命ずるままに一歩を踏み出す。それはロジカルな行動ではなかったように思える。
 この振れ幅こそが心であるというのならば、これより放つ言葉もまた真である。

「黙れっ! 黙れ! 私はっ、私はっ! ただ、囚われて居てほしくない、それは救いではないと―――!」
 慟哭が響き渡る。
 他者を思う気持ちは尊ぶべきものである。だが、それは時に他者を蝕む重荷になりえるだろう。その時人はどんな顔をするだろうか。悲嘆に暮れた顔をするだろうか。苦しげな顔をするだろうか。
 それが死せる者にはわからない。
 放たれる椿の花弁がトリテレイアを襲う。花弁のひとかけらでも己の機体に触れれば、そこでトリテレイアは自身が『忘却』してしまうことを知っていた。

 だからこそ、彼は超高温化学燃焼弾頭(消火用薬剤封入弾と併用推奨)(ヘルファイア・バレット)を格納銃器より放つ。
 薙ぎ払うように掃射し、花弁を焼き払っていく。花弁が燃え尽き、炭化して散っていく。その間を縫うようにしてトリテレイアは駆け抜ける。
「生前のお二人は花と歌を共に楽しんだと聞き及んでおります。その度に一方的にではなくお互いの思考……心を触れ合わせ築いた関係ではないのですか」
 それはトリテレイアにとっては、一種の賭けではあった。
 その言葉が彼女たちに何をもたらすのか予測できない。予測はできないが、そうしなければならないと、ロジカルではないことを吐き出していた。
 機械騎士は思う。

 これは己のエゴではないかと。だが、それでもトリテレイアは己の電脳がはじき出した言葉を信じる。
「仮初なれど一心同体となった彼女の心、もう一度触れて確かめなさい」
 燃え盛る炎を切り裂いて、トリテレイアの巨躯が『水底のツバキ』の体へと突進する。大盾による一撃は、その体ごとトリテレイアを儀式場の高台から飛び下ろす。
 空中で彼我の距離は離れない。
「―――」
 それは、どちらの言葉であったのだろうかと、後にトリテレイアは考えることがあるかもしれない。
 眼下に広がるのは百日草の花畑。儀式場から眼下に見える、この花々の光景を誰が誰に見せたかったのだろうか。
 トリテレイアは、『水底のツバキ』が人魚妖怪の心に触れてくれることを願っていた。そして、どうじにそれが出来ぬというのであれば、と剣を握りしめた。

「―――別れた友への想い。いつまでも変わらぬ心―――……ああ……」

 それが『水底のツバキ』の最後の言葉であった。
 剣を振るうより早く、そのオブリビオンの体は霧散して消えていく。まるで、空より見下ろした花々が、霧散して消えるオブリビオンを受け止めるように。
 骸魂より開放された人魚妖怪の体をトリテレイアは抱き、花畑へと着地する。共に身体に影響はなし、とアイセンサーが彼女の体を確認し息をつく。

「これが、貴方が彼女に見せたかったものなのですね―――」
 百日草―――ジニアの花が咲き誇る光景。
 それが人魚妖怪が、かつての友人に送る心。永遠はないのかもしれない。色褪せてしまうものもあるのかも知れない。

 けれど、トリテレイアは思うのだ。
 この花々が咲き誇る限り、彼女たちの友情に終わりと陰りは来ないのだろうと―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月01日
宿敵 『水底のツバキ』 を撃破!


挿絵イラスト