23
耀う温度

#カクリヨファンタズム

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム


0




●いのちあるかぎり
 薄暗い道を抜けた先で、吐息が白く燻る。
 初夏だというのに身が凍るような寒さだ。草葉には霜が降り、軒下には氷柱が伸びる。空気に肌を晒すだけですぐ凍傷になってしまいそう。
 誰もが震え怯え、命の灯火が絶えぬよう必死で耐えている。どの妖怪たちも住処に引きこもり、身を寄せ合い、どうにかやり過ごそうとしているが──打開策がない以上、限界が訪れるのも時間の問題だ。
 温度が失われているが故、光もかなり損なわれている。今の幽世においては人影も少なければ、喧騒も賑わいも縁遠い。
 もうすぐ終焉を迎えると言われても信じてしまうくらいには、滅びの昏い気配がする。

 世界を埋めんとばかりに飛び交う、無数の骸魂。
 すべてを蝕み喰い尽くし、残るはただただ空虚のみ。

●耀う温度
「『熱』の消えた幽世は、極寒の零下に凍る『氷結の世界』となる……なんて言ったら、君はどう思う?」
 問いかけたくせ、その返答は何でも構わないという風情で、鴇沢・哉太(ルルミナ・f02480)は薄く微笑む。
 今回の予知で見出された事件はカクリヨファンタズムに於けるもの。
 曰く、幽世で熱が奪われたのだとか。
 地球の文化に慣れ親しむ妖怪たちにとっても、熱はいのちの灯火だ。妖怪たちは『過去の思い出や追憶』を食糧とする。人々の追想にはあたたかな温度は必要不可欠な存在だからだ。
 このままではどの妖怪もオブリビオン化に抗えなくなるだろう。

「というわけで手遅れになる前に、対処をお願いしたいんだ」
 哉太はデータを呼び出し、視線を走らせてから説明を続ける。
 まずは、飛び交う骸魂によってオブリビオン化した妖怪たちを倒すところから始める必要がある。
「発生しているオブリビオンは『麒麟』だね。本来なら瑞兆、いいことの前触れとして姿を現すとされているんだけど、この場合は真逆。災いを齎す存在だから、漏らさず掃討してもらう必要があるよ」
 元々の逸話や見た目からして強敵とも思える麒麟だが、どうやら取り込んだ妖怪がさほど強くないらしい。そのため猟兵たちの力量であれば多数を相手取っても問題ないだろうと哉太は言う。
「麒麟の数はそれなりだけれど、倒すのはそんなに難しくない。数を減らしていけば自然と事件の元凶であるオブリビオンも姿を現すんじゃないかな」
 熱を奪ったそれを倒せば、幽世も季節のあたたかさを取り戻すだろう。
「ただ、現場はすごく寒いよ。何らかの対処法を用意しておけば尚いいだろうね。思い浮かばなければいつもより一枚多く着込むだけでも違うと思うよ」
 身一つで戦いに赴いたなら寒さで手がかじかんでしまった、なんてのは笑い話にはならなさそうだ。
 重装備である必要はないが、対策を練っておくに越したことはないに違いない。

 宙に浮かんでいた説明用のエフェクトを消去し、哉太は薔薇色の双眸をゆるりと細める。
「終わったら、近くの祠を詣でてくるといいよ」
 内緒話のように告げられたのは、その祠で行われるという祭りの話。
「白夜って知っている? 一日中太陽が沈まない夜のことでね。地球でいうところのフィンランドの夏至祭に似た催しがあるみたいだよ」
 祠は湖畔にある。篝火を焚き、それを見詰めながら夜を過ごすのだ。
 暖を取りながら誰かと談笑して、食事をする。あるいは湖に足を浸して散歩するくらいなら出来るだろう。
「篝火は『悪霊や悪運を駆除し、夏の到来を祝う』ために焚かれるらしいよ。誰かと楽しむのもいいし、ひとりで自分を見つめなおすのもいいかもしれない」
 派手に騒ぐのではなく、光と熱を顧みるための時間だ。
 質素ではあるが、茶と菓子くらいなら妖怪が用意してくれる。燦然とする夏に至る季節の狭間を、ゆっくりと過ごすのも悪くはない。

 生けるものとしての温度を取り戻すために、猟兵たちが出来ることは確かにある。
「行ってらっしゃい。君が持つ熱の在処を、どうか見失いませんように」
 告げて、哉太は手に浮かべたグリモアの彩を変化させていった。


中川沙智
 中川です。
 調べてみたら夏至もいろんなお祭りがあるみたいですね。楽しいです。

●プレイングについて
 各章、プレイング受付期間を設けます。オープニング公開後告知期間を設けて、導入文を掲載した後の受付開始となります。第1章の導入文はオープニング公開日のうちに公開予定です。
 詳しい受付開始時刻等はマスターページの説明最上部及び中川のツイッター(@nakagawa_TW)にてお知らせします。お手数ですが適宜そちらをご参照くださいますようお願いいたします。
 受付期間外に頂いたプレイングはお返しする可能性がありますのでご了承ください。
 また、第1章と第2章に関しては、今回は採用人数を絞らせて頂くことになります。最低でも8名様は書きたいと考えていますが、前後するかもしれません。
 そのため問題のないプレイングでもお返しする場合もございます。第3章は出来るだけ採用したいと考えておりますので、何卒ご理解のほどをよろしくお願いいたします。

●プレイングボーナス
 第1章と第2章について、防寒対策を入れてくださった場合、プレイングボーナスが加算されます(なくてもマイナスにはなりません)

●シナリオ構成について
 第1章:麒麟(集団戦)
 第2章:フェニックスドラゴン(ボス戦)
 第3章:白夜の夏至祭(日常)
 以上の流れになっています。
 第3章についてはPOW/SPD/WIZの行動・判定例には特にこだわらなくて大丈夫です。ご自由にどうぞ。

●ご参加について
 ご一緒する参加者様がいる場合、必ず「プレイング冒頭」に【相手のお名前】と【相手のID】を明記してください。
 大勢でご参加の場合は【グループ名】で大丈夫ですので、「プレイング冒頭」にはっきり記載してください。
 これが抜けている方は迷子になる(場合によっては同行者様含めプレイングのお返しになる)ことがあります。
 また、プレイングの送信日(朝8時半更新)を合わせていただけるよう、ご協力よろしくお願いいたします。

●その他
 日常章である【第3章】のみの参加も歓迎です。
 第3章については、お誘いがあれば哉太がご一緒します。

 では、皆様のご参加を心からお待ちしております。
173




第1章 集団戦 『麒麟』

POW   :    カラミティリベンジ
全身を【災厄のオーラ】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
SPD   :    因果麒麟光
【身体を包むオーラ】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、身体を包むオーラから何度でも発動できる。
WIZ   :    キリンサンダー
【角を天にかざして招来した落雷】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を災いの雷で包み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●暮れぬ削氷
 非常に穏やかで優しく、足元の虫や植物を踏むことさえ恐れるほど殺生を嫌う。
 それが本来の麒麟の在り方であった。
 しかしそれも今は遠い。厄災を齎す存在であるそれは、幾体も蹄を鳴らしている。カシャンと硝子が割れたような音が響くのは、氷の張った水溜まりを踏み抜いたからだろう。
 ゆらり揺らめく霊光は、決して寒さを緩和することはない。
 むしろ猟兵たちの命の灯火を掻き消そうと向かってくる。
 吐く息は、白い。

 そこは広場だった。
 冷え切った風が肌を刺す。遮蔽物がない故に、逃げ隠れの出来ない視野の広さがある。向こうの攻撃もこちらの攻撃も通りやすい。
 幽世が熱を取り戻すために、まずは麒麟たちを駆逐する必要がある。
 猟兵たちはそれぞれの武器を手に、冴えた空気に踏み入っていく。
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

親友からもらったマフラーをぐりぐり巻きにして
コートも防寒手袋も引っ張り出してみたけど
にしても寒いんだよなー
帰ったら、コートもクリーニング出し直さなきゃならないし
嵯泉は?寒くない?
あっ、良いなーオーラ防御
そういうの私も使えるようになりたい

雷は出来るだけ避けて
相変わらずだけど、嵯泉えげつない技使うのな……
ま、私も人のこと言えないか
起動術式、【輝く災厄】
幸い、場には嵯泉が齎した恐怖が満ちている
その中心になった骸魂とやらを引き摺り込んでやろう
仕事してくれよ、姉さん

人間のいないこの世界にも、温度がなくちゃならないだろ
季節外れの冬眠なんかしてられない
そろそろ夏支度をしないとな!


鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
夏も近いというのに此の寒さか
随分と重装備にして来た様だな……
此方は服は冬仕様にし、オーラ防御で冷気を遮断
呪詛を扱うのと要領は同じだ、何れ試してみれば良い

確認し得る情報から戦闘知識と第六感にて攻撃を先読みし
武器受けで弾き落として決して後ろへは通さん
――魄碎武朽、喰らい付け
血を奪い、内を侵し尽くして呉れよう
禍為すモノに容赦なぞ必要あるまい
いや、お前に云われたくないぞ……

そら、周りを見てみるが良い
お前達を骸の海へと運ぶ迎えが来ているぞ
此の程度の冷気で氷獄の竜の腕から逃れる事なぞ叶う訳が無かろう

冬在ればこそ春の、夏の熱が意味を持つ
何方が欠けてもならぬもの――返して貰うぞ



●氷に伸ばす
 地球における日本であれば梅雨の季節。他の国であれば夏に届く前の清々しい気候。
 だが現在、この幽世には、真冬の厳しさが押し寄せている。
「夏も近いというのに此の寒さか」
 敵わんな、とばかりに鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は上着の襟を立てる。
 首肯して、マフラーを首にぐるぐると巻き付けた状態でニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が肩を震わせる。
 冷たい風が、青と黒のチェック柄のマフラーを翻す。己の身を掻き抱く。マフラーに寄せられた親友の心遣いがあたたかいから、それを手繰ろうとする仕草になった。
「にしても寒いんだよなー」
「随分と重装備にして来た様だな……」
「いやそりゃそうだろ」
 冬用のコートと防寒手袋を身に着けていても、寒いものは寒い。
 衣替えを済ませ休憩に入っていたコートを引っ張り出したのだ。帰ったらクリーニングに出し直さなければ──そこまで考えてため息を吐けば、目の前が白く曇る。
 ニルズヘッグにしてみれば、さして堪える様子もない嵯泉のほうが不思議だ。
「嵯泉は? 寒くない? 冬服にはなってるみたいだけど」
「霊光を纏うことで冷気を遮断している」
「あっ、良いなー。そういうの私も使えるようになりたい」
「呪詛を扱うのと要領は同じだ、何れ試してみれば良い」
 他愛無い言葉の応酬も、寒さを紛らわす手管のひとつなのかもしれない。
 近付いてくるオブリビオンの気配を察すれば、自然と注意はそちらに向けられる。動けば寒さに震える暇もないだろうから。
 麒麟の嘶きが、聞こえる。
「来るぞ」
 嵯泉が得物の鍔に指をかけながら呟いた。
 予知で聞いた情報を脳裏に思い描く。今この広場は冷気に浸っているものの、オブリビオンであればそれは障害にならないだろう。
 むしろこちらの動きが鈍っているうちに、速攻で畳み掛けてくる可能性のほうが高い。
 ならば──眇められた柘榴の眸が、麒麟が角を天に翳した様子を見詰めている。
 曇天に稲光が奔った。
 猟兵たちに構える間も与えず、雷光が轟き落ちてくる。
 直撃するかと思えたそれに、嵯泉は禍断の刃を振り抜く。太刀筋の残像が雷を受け流す。後ろへ通すことを許さない。
 雷鳴の名残が地形を蝕む前に地を蹴っていた。
 麒麟に一気に肉薄し、低く呟く。
「──魄碎武朽、喰らい付け」
 奥の奥まで喰い荒らせ。そう命ずるような斬撃が麒麟の一体に見舞われる。
 その麒麟は咄嗟に身を翻そうとした。しかし溢れる血潮は留まるところを知らない。骨の髄まで軋ませ、蝕む。
 呻き声が聞こえた。鬣を震わせ痛みを追いやろうとするも、血は流れ落ちるばかりだ。本来であれば次第に出血は止まるところなのに、それがない。治癒が不可能なのだと、同じ戦場にいた猟兵も察することが出来ただろう。
「血を奪い、内を侵し尽くして呉れよう。禍為すモノに容赦なぞ必要あるまい」
 これから訪れる終焉を指し示すような、冷徹な宣告であった。
 それを一瞥したニルズヘッグが、口の端を歪ませる。
「相変わらずだけど、嵯泉えげつない技使うのな……」
「いや、お前に云われたくないぞ……」
「ま、私も人のこと言えないか」
 呆れたような盟友の呟きに、ニルズヘッグも浅くかぶりを振って前に出る。
 視線を走らせれば、先程の嵯泉の一撃に恐れをなした麒麟たちが警戒し、距離を取っている。
 むしろそれは好都合だ。
「起動術式、【輝く災厄】」
 引き金を引くように指を曲げる。
 それを合図に死霊が哭いた。怨念の絶叫は先程喚起された恐怖へと縋りつく。引きずり込む。
 温度を失った地の底まで沈めようとする様子に、嵯泉は不敵に笑みを刷く。
「そら、周りを見てみるが良い。お前達を骸の海へと運ぶ迎えが来ているぞ」
「そういうことだ!」
 今幽世を満たしている冷気程度では、氷獄の竜の腕から逃れることは叶わない。
 十、百、あるいは千。数多の怨恨のかいなが、麒麟たちを縛っていく。
 これを続ければ、今回の事件の中心となったという骸魂への足掛かりも見えるはずだ。
 まだこれからだ。ニルズヘッグは嵌めた指輪の奥、約束の裡にいる面影へ呼びかける。
「仕事してくれよ、姉さん」
 誓いのように告げ、顔を上げる。
「人間のいないこの世界にも、温度がなくちゃならないだろ」
 金の眸と呪詛の焔は、未来を見据えている。
 これから迎える夏の燦然を知っている。
「季節外れの冬眠なんかしてられない。そろそろ夏支度をしないとな!」
「冬在ればこそ春の、夏の熱が意味を持つ」
 嵯泉も頷いた。季節の廻りが尊ばれるのは、過ぎゆく意味があるからだ。
 それぞれの美点も、かなしみも、抱えていける温度があるからだ。
「何方が欠けてもならぬもの――返して貰うぞ」
 ふたりの男が戦線と向き合い、前を睨んだのはほぼ同時だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

冬に包まれてしまったかのよう

櫻、大丈夫?
冷たい水に棲む僕はともかく
君は寒いのが好きではないだろ
身を寄せれば少しは暖かいかな
体温の低い己が恨めしい

このままでは心の底まで凍てついてしまう
そうだ、暖かい炎を灯そう
歌う鼓舞を込めた『恋の歌』
戀を希望を熱を焔(ひかり)を灯し暖めよう
櫻宵が笑んでくれたなら僕の胸に花が咲く
傍にいればこんなにも暖かい

おや
麒麟も来たようだ
水泡のオーラを漂わせ、僕の櫻を守るよ
けして、傷つけなんてさせないから

破魔と誘惑とかし歌う「恋の歌」
全部、燃やしてあげる
僕の櫻の手が強ばらないよう温めて
炎の壁で遮って
櫻宵の駆ける道をつくる
さあ!どんどん行くよ

君とましろな夜を見てみたいんだ


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

噫、なんて寒いの!
カチコチに氷ってしまいそうよ
あまり寒いのは得意ではないの
厚めの着物をガッチリ着込んで
全然寒くなさそうなリルにピッタリくっついて暖をとる
いいのよ、くっついてると温かいわ

こんな調子ではいけないわね
皆が氷像になってしまうわよ
人魚が恋歌えば
熱い焔が灯り照らす
素早く暖をとって、特に指を温めておくわね
刀が握れぬのでは困るもの
雪解け春を迎えるように
心まで温まるよう

折角の時間を邪魔するなんて無粋な妖だわ
私は妖を祓うもの
残らず狩ってあげる
破魔宿らせた衝撃波放ち思い切りなぎ払い斬り裂いて
生命喰らって傷癒し
「朱華」
破魔の神罰で蹂躙してあげる
真似などしても無駄なのよ

白い夜!私も見てみたいわ!



●いとしいとしと咲く戀よ
 息を吐いたら、目の前が白く煙った。
 いのちのぬくもり消え失せた、まさに幽世。神話でいうところの永遠に変わる事の無い世界。こんな凍えた時間がずっと続くなんて、どこか寂しい。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の長い睫毛が伏せられる。
 指先で雪片を摘まむも、すぐに融けてしまった。
 ──冬に包まれてしまったかのよう。
「噫、なんて寒いの! カチコチに氷ってしまいそうよ」
 けれど傍で咲く花笑みの温度はしっかりと感じられる。
 あまり寒いのは得意ではないの、そう言って着物の襟を揃える誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は、厚手の着物を重ねて寒さに耐えようとしている。
 白磁の肌を冷えが蝕んでは困るから、表情を覗き込むようにしてリルは問う。
「櫻、大丈夫? 冷たい水に棲む僕はともかく、君は寒いのが好きではないだろ」
 事実、リルはそれほど寒さに堪えている様子はない。ただ体温も低いから、己の温度をいとし君へ注ぐことは難しいかもしれない。
 そんな陰りを認識してか、あるいは微塵も意に介さずに、櫻宵は距離を詰めてリルと並ぶ。
 優しく淡い微笑みに、櫻宵ははにかむように頬を寄せる。
 つむぐ、つたわる、春蕩けのあたたかさ。
「いいのよ、くっついてると温かいわ」
 寄り添うだけで常春が在る。それは間違いないけれど──ただ待っているだけでは本当の熱は帰ってこない。
「このままでは心の底まで凍てついてしまう」
「ええ、こんな調子ではいけないわね。皆が氷像になってしまうわよ」
 同じ戦場に並び立つ猟兵も、この幽世で身を震わせている妖怪たちも。
 ふたりの見解が一致したなら迷いはない。
「そうだ、暖かい炎を灯そう」
 リルは胸に落ちた閃きのままに、旋律を口遊む。
 蕩けるような慕情を知っている。だから歌には熱が籠る。それはひどく甘い、たったひとりに焦がれる恋のアリア。導かれるように具現化するは眩い炎。
 戀を希望を熱を焔を灯し暖めよう。
 揺蕩う光。それは儚いわけではなく、確かな芯を軸に存在している。
「ふふ、ほんとうにあたたかい」
 櫻宵はその繊手を熱に翳す。身体を温めておくのももちろんだが、指先がかじかんでいれば刀を握ることが出来ない。
 雪解けから至る、爛漫の春。
 知らず寒さに強張りそうになっていた心すら、確かなぬくもりに花開いていく。あえかな微笑みも、また同様に。
 綻ぶ櫻宵の表情に、つられるようにリルも春花の息吹を胸に咲かせた。
 傍に居ればこんなにも温もりに満ちていて、何の心配も不安もない。
 そんな折だ。前方からオブリビオンの気配が姿を現す。
「おや、麒麟も来たようだ」
 ふたりの視線が届く先、嘶く麒麟たちがやってくる。
「櫻を守るよ」
 水泡ゆらめく霊光を手繰り寄せながら、誓いに似た声音でリルが言う。
「けして、傷つけなんてさせないから」
 そのひたむきな想いは、いつだって櫻宵の胸裏を幸いで満たしてくれる。深海の底で美しい真珠を見つけたように、桜霞の双眸は細められた。
 それだというのに──折角の時間を邪魔するなんて、この妖は無粋にもほどがある。
「私は妖を祓うもの」
 だから。
 容赦なんかしてやらない。
「残らず狩ってあげる」
 眼前に翳した血桜の刀身はあかい。
 零下の世界にあって、その存在感を鮮やかに顕わにする。
 どちらともなく、戦端を開く。リルの蠱惑の唄声が響き、太刀の柄を握る櫻宵の手を凍えさせない。
 麒麟が呼んだ雷鳴が轟くも、それは櫻宵に届く前に掻き消される。歌によって具現化された炎の壁が聳えているからだ。尽きぬ戀獄の焔は、どんなものにも防がれることはない。
 花道が見出される。
 桜龍の、独壇場だ。
「あなたは美味かしら」
 嫣然と嘯き、敵前へと舞い降りる。
 一閃。
 その太刀筋には破魔が宿る。三日月に似た斬撃は衝撃波を生じさせ、数体の麒麟を巻き込んでいく。
 攻勢は止まらない。一段深く踏み込み、身体を反転させた勢いで薙ぎ払う。確かな手応えと共に、じわり生命力を喰らっていこう。多少の傷はそれで埋まる。何の憂いも惧れもない。
「朱華」
 それはまるで神託のように。
 枝垂桜の翼が、桜の枝角が。絢爛の春を呼び覚まし、櫻宵に桜獄大蛇の霊力を呼び覚まさせる。
「破魔の神罰で蹂躙してあげる。真似などしても無駄なのよ」
 たとえ麒麟が神獣であろうとも、及ぶはずもない。
 凛と告げる櫻宵の姿を見て、リルは胸裏に咲く桜を知る。愛する人はこんなにも気高く、美しい。口許がくすぐったく綻んだ。
 今一度太刀を構え、呼吸を整え、敵と相対するとしよう。
「さあ! どんどん行くよ」
「ええ!」
 猛然と襲い来る麒麟の群れに臆したりしない。
 焔の恋歌で前線を焼き払えば、鋭い剣閃が迅雷を斬り裂き沈めていく。
 不意に、予知で聞いた話を思い浮かべたのはどちらが先だっただろう。
「君とましろな夜を見てみたいんだ」
「白い夜! 私も見てみたいわ!」
 それを見るのならばふたりがいい。
 視線が交差すればどちらともなく微笑んで、今は戦場で典雅に躍るとしようか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ドゥアン・ドゥマン
■心情
死の影、同様
命の灯もまた、我ら墓守が伏し仰ぐそのもの
どのような形にも、いずれ滅びは訪れるものだが、
滅びに抗うもまた、生の醍醐味と存じる
墓守として。猟兵として。…己として
この身を揮おうぞ

■戦闘
外套の下を重ね、防寒をば

技の模倣は厄介だが、
技の扱いに関しては、遅れをとる訳にはいくまい
こいつは少し、癖のある技でな

この温もりの無い、薄暗闇の地形をこそ利用しよう
光自体に影は無くとも。そこにあるだけで、
影を一層、濃く際立たせるだろう
麒麟のオーラの光と影の境界から、
麒麟を縛る影の檻を作る
動きを止め、生命力を吸収する狙いだ

元は、照らす側の存在であったのだろう
闇に紛れるはこちらの領分。…眠りを捧げる、葬送を



●影の檻、光の咎
 外套の下の衣を重ね、寒さへの対策を試みていた。準備を整えていたために行動には難儀しない。
 しかし目の前に吐く息の白さは、あまりにも季節外れだ。本来であれば緑が鮮やかに天を潤し、肌を焼く陽気が夏の到来を知らし始める頃合いのはずなのに。
「死の影、同様」
 ドゥアン・ドゥマン(煙る猟葬・f27051)は厳かに言う。
「命の灯もまた、我ら墓守が伏し仰ぐそのもの」
 命の明かりがあればこそ、死の影が差すのだ。相反する概念ではあるが、強く連結するものでもある。
 どのような形の在り方でも、いずれは滅びを迎えるものだ。しかしそれに抗うのもまた、生の醍醐味だとドゥアンは考えている。喉の奥、感慨に似た何かを飲み下す。
 被った頭蓋越しに、静かな青の眼差しが現況を見定めている。
 生死を見詰め、目を逸らさず、最後まで見届けるのが墓守の役目。
「墓守として。猟兵として。……己として」
 ──この身を揮おうぞ。
 麒麟と改めて向き合ったその時、冷たい風が吹き抜ける。ドゥアンの襤褸布を翻す。それに構わず、馳せる。
 距離を詰めつつ策を練る。
 予知で得た情報によれば、こちらの技を模倣するユーベルコードを使うという。厄介だが、こちらとて遅れを取るわけにはいかない。
「こいつは少し、癖のある技でな」
 心臓の上を親指で示す。呼び起こす。揺らめいたのはドゥアンの影だ。
 この幽世には熱がないため、それに伴う明るさと光は遠い。敢えて言うなら麒麟が持つ霊光の眩しさであり、それを逆手に取ることにした。
 世界を満たす闇と、薄暗い地形は利用出来る。麒麟の持つ光自体に影はなくとも、そこにあるだけで影は一層濃く引き立たせる。
 足元で霜を踏んだ硬質な音がする。
 それが合図だ。
 疾く駆けるは影の息吹。霊光が生じている光と影の狭間に爪を立て、影が迸る。そこから茨の檻の如くに数体の麒麟を絡めて縛る。ドゥアンはそこから確かに、麒麟の生命力を吸収する手応えを感じている。
 一度間合いを取れば技を模倣するのだろうが、現状身動きが取れないため、麒麟たちもたたらを踏んでいるようだ。それでいい。その間に他の猟兵たちが畳み掛けてくれるはずだ。
 麒麟。
 その成り立ちや由来の話を思い出す。
「元は、照らす側の存在であったのだろう」
 吉兆を授けるはずが、災禍を齎すものに堕ちてしまった。
 今この瞬間にも闇に喘いでいるのならば。
「闇に紛れるはこちらの領分。……眠りを捧げる、葬送を」
 ドゥアンの囁きは祈りのような色を孕んでいる。最後まで見届ける。それが、務めであるからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
ここが新しい世界…!なんだか複雑だけど優しくて、面白いのだ
俺は【氷結耐性】もあるし、寒いのはへっちゃらだ!何か羽織るくらいで十分
むしろこういう場所だと物が凍りやすくていいな!

む、来たな…あれが骸魂だな
まずは自分の立っている周辺の地面を凍らせて
挑発してあえてこちらに突っ込ませてやる
体当たりしてくる瞬間に、横に滑って闘牛士みたいに華麗にかわすぞ!

敵が雷で攻撃してくる上、地面に雷を帯電させてくるなら
【ジャンプ】で高く飛び上がり回避し、空中で《冬ハツトメテ》で『白炎舞』を発動!
敵を一気に燃やして、それから決めポーズで着地!

残念だったな!
寒いところは俺の独断場だ!むしろ暑くないから思いっきり戦えるのだ!



●ホワイト・ワルツ
 カクリヨファンタズム。
 猟兵たちが知って間もない世界。入り組んでいるのにどこか優しくて、どことなく懐かしい。
 ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)はつい心が弾んでしまって、口許で笑みを綻ばせる。
 氷と冷気を操る力を持っているからだろうか。ヴァーリャにとって寒さは慕わしいものだし、上着を羽織るくらいで防寒対策は十分だ。何なら踵も自然と軽くなる。
「むしろこういう場所だと物が凍りやすくていいな!」
 溌溂とした笑顔を咲かせていたところ、前方に見えたのはオブリビオンの影。
 すぐにヴァーリャのかんばせも真剣さを帯びる。
「む、来たな……あれが骸魂だな」
 麒麟が押し迫る中、ヴァーリャは慌てず足先で円を描く。氷のブレードは地面を瞬く間に凍らせた。冴えた冷気で周囲の世界を変えていく。
 そうして挑むような視線で敵を射貫く。来れるものなら来たらいい、そんな風情で。
 呼応したのか挑発に乗ったのか、一体の麒麟が疾駆してくる。その動きを見定める。体当たりしてくるその間際を見極めて、身を屈めて横へと滑るように避けた。さながら闘牛士が赤いマントを操るみたいに。
 ──さて、どう来る?
 一撃を躱された麒麟もただでは終わらない。角を天に翳し、稲光を喚ぶ。高く哭いて雷撃を叩きつけてくる。
 その攻撃が地を抉り帯電させるはず。
 ヴァーリャは菫の瞳を眇め、膝を屈める。
 雷の嘶きが地を抉る寸前に、高く跳躍した。宙で身を回転させ、大切な人から贈られた九尾扇を翻す。
 平時には黎明の冷涼を。
 戦時には灼熱の白炎を。
 扇の端が、ひとひらの白い花弁となる。雪娘が彼のおかげで操ることの出来る焔の欠片。炎は瞬く間に白い嵐となり、轟然と麒麟たちを包み込んだ。
 纏う霊光とは異なる苛烈な熱で、炙られていく。
 軽やかに着地したヴァーリャは、氷の舞台にてカーテシーを。
 ただ、顔上げた時に掲げられた笑顔は、それこそが爛漫の光だ。
「残念だったな!」
 焔が共にいるからこそ、胸を張って誇らしく。
 眼前へ人差し指を突きつけ、宣戦布告と洒落込もう。
「寒いところは俺の独断場だ! むしろ暑くないから思いっきり戦えるのだ!」
 だからまだ、始まったばかり。
 氷と炎の旋律を手繰り寄せ、ヴァーリャは今一度戦場に躍り出た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦
はぁ…吐いた息が白いね。
普段は首の傷を隠すのにつかってるけど煙ちゃんに編んでもらったマフラーが大活躍だねぇ。
後は【属性攻撃】で狐火の炎を灯して、と。
うん暖かい。

それにしてもなぜ今回のオブリビオンは熱を無くそうなんて思ったんだろうね…それは対峙すれば分かるかな…。

まずは麒麟を倒そう。麒麟は元は霊獣ともいえる存在だ早く解放してあげたいね。
UC【狐火・穿ち曼珠沙華】を一気に撃ち込むよ。
その攻撃に紛れて墨染桜で【早業】【だまし討ち】【なぎ払い】に【除霊】を載せて
敵攻撃は【戦闘知識】【第六感】で【見切り】



●彼岸の向こう
 目の前が白く煙る光景を、今時期に見ることになるとは思わなんだ。
「はぁ……吐いた息が白いね」
 逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)の声が、ゆるりと幽世の影に重なった。
「煙ちゃんに編んでもらったマフラーが大活躍だねぇ」
 普段は首の傷を隠すために使っている襟巻の存在に感謝した。指先で引き上げて、顎のあたりまで隠してしまおう。
 その指先を下ろす前に、眼前で翻す。
 すると導かれるように狐火がひとつ、ふたつと灯る。
 視界が明るくなるだけではない。極寒の世界では熱がそこにあるとわかるだけでも、心が安堵を覚えるものだ。
「うん暖かい」
 善き哉。他の猟兵たちが相対している麒麟たちの方向へ向かおうとして、不意に過った疑問に首を傾げた。
「それにしてもなぜ今回のオブリビオンは熱を無くそうなんて思ったんだろうね………」
 理彦は顎に手を当てて首を傾げてしまった。
 様々なものが失われた幽世があるという。
 その分起きた異変も様々で、それが如何なる意図で起こされたことかは判明していない。
「……それは対峙すれば分かるかな……」
 浅くかぶりを振る。現段階で考えても詮無きことだ。
 まずは麒麟と相対しよう。倒したならばその先に至る道筋も見えるだろう。
 麒麟は元は霊獣ともいえる存在だ。
 早く解放してあげたいね──とは、理彦が笑気と共に飲み下した願いだった。今はただ、戦おう。
 墨染桜が描かれた柄を握り、手に馴染ませるように薙刀を振るう。その切っ先を、迫り来る麒麟たちの群れに突きつけた。
 咲け。
 そして穿たれよ。
 合図のように切っ先を下げれば、瞬く間に顕現されるは曼殊沙華の杭。火の揺らめきを宿し、脳髄を抉りて滅びを招く。
 それが一斉に射出される。烈火の驟雨が麒麟たちを襲う最中、理彦は一足飛びで駆けた。
 こちらへ向けられる雷光は間一髪で見切って避け、懐へと滑り込む。
 目にも止まらぬと言えばあまりに単純。
 ある種の騙し討ちのような格好で、鋭い一閃を麒麟に放った。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
ホント寒っ
季節外れの上着にマフラーに手袋にと着けてはきたケド…
*オーラ防御で寒さって凌げるかしら
最終兵器は【翔影】で呼び出したくーちゃんネ
影とはいえ狐、その背で暖を取らせてもらって*空中戦といきマショ

自前で温かそうなのズルくない?
乗るくーちゃん以外を麒麟へ向かわせ噛み付き*捕食、*生命力吸収していこうか
そのイノチで温めて頂戴な

降る雷は軌道*見切り寸前で躱すよう指示するケド
躱しきれないようなら右目の「氷泪」から紫電奔らせ麒麟の雷を相殺しくーちゃん*かばうわねぇ
敵の強化は困るケド、*カウンター狙うよう近付いて
*傷口を抉ってしっかり仕留めてくわ

アンタも厄災に囚われたようなモンよネ
ゆっくり、オヤスミ



●疾く影とその先へ
 それなりの人数の猟兵もいるために誰かしらが火種に等しいものを持ち合わせているだろうし、何より戦いが始まれば気にならなくなるはずだ。
 そのはずだと把握していることと、理解は別だ。実感は尚の事。
「ホント寒っ」
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は己に腕を回しながら身震いする。寒い。幽世がどうとか熱という概念がどうこうではない。ただ只管に寒い。
「季節外れの上着にマフラーに手袋にと着けてはきたケド……」
 加えて霊光を肌に這わせ、幾らかでも冷気を遮断しようと試みる。効果はあるのだろうけれども、先入観のためか未だにあたたかくなる気配がない。
 ここまで来れば最終兵器だ。控えめな声で、黒影の管狐を呼び寄せる。
「くーちゃん、少しばかりあたためてネ」
 影とはいえ狐であることは間違いない。するりと添う管狐の背で暖を取らせてもらいながら、空中戦と洒落込もう。他の管狐らも同様に、四肢に生えた羽根で浮力を経て、空へ。首元のマフラーが煽られて翻る。
 上空は尚の事風が体温を奪っていく。肌が裂かれそうな鋭さをどうにかやり過ごし、コノハは薄氷の瞳で敵の様子を見据える。
「自前で温かそうなのズルくない?」
 苦笑に似た軽口は、他の誰かに聞こえることはない。騎乗しているそれ以外の管狐を呼び、一斉に麒麟へと向かわせた。
 影は牙を持ち、麒麟の背や脚に喰らいつく。管狐たちから吸収された生命力が、コノハの指先をあたためていくのがわかる。
「そのイノチで温めて頂戴な」
 ──構わないデショ?
 そんな声が聞こえたか、否か。
 麒麟も黙っているばかりではない。天へと掲げた角が稲光を呼ぶ。いつしか空を覆っていた暗い雲から、夥しい落雷が降り注いできた。
 軽く舌打ちをしたのは、それが想像以上に苛烈だったからだ。しかしコノハの意図を的確に汲んだ管狐が、ギリギリのところで身を捻り躱す。眼下で轟音と共に地が揺れる様が見えた。
 右目の氷牙に意識を集中させるかは微妙なところだったが、現状頼らなくても良さそうだ。
 地上に災禍の痕が広がり、それによって麒麟が力を増幅させる前に狩らなければならない。
 更に雷撃を見舞おうと嘶いた一頭の動きを見極める。避け、近接する。その隙を次手で埋められる前に、黒影による傷跡を狙って万象映すナイフで抉る。
「アンタも厄災に囚われたようなモンよネ」
 手応えがある。
 微かに笑みを刷き、宣告する。
「ゆっくり、オヤスミ」
 高く哭いた麒麟が命を手放す姿を、コノハは真直ぐに見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

物部・出雲
俺を冷やすか?貴様らに最早麒麟という名も相応しくはあるまい
――四つ足ども。俺が貴様らを導いてやろうぞ

さあて、寒さは俺の炎で十分であろう
俺こそ禍神、かつて縁起物だった貴様らにはどう見える?
ハッハ!まァ偉大であったもかつての話ぞ
――しかし、禍神であるこの俺に対するその殺意
万死に値する。不敬であるぞ獣共
だが善い。赦してやるとも――お前たちとてまた俺が愛すべく命だったのだ
いつまでも在り方を穢されては魂に哀れである
禍神とは、厄を払うモノよ
じゃじゃ馬ども。俺の炎で焼いてやろう。かかってくるがいい
暴れるなら暴れよ――そして雄々しくこの地から去ね
お前たちの荒ぶる魂を正しく導いてやるとも、骸の海になァ――。



●禍々しくは、業火なり
 猟兵たちと麒麟との闘いは、既に激化している。
 響く雷電、麒麟の嘶き、得物の金属音。そんな戦地に於いて、物部・出雲(マガツモノ・f27940)は鷹揚と周囲を見渡していた。
 幽世を満たす冷気も意に介さぬと、傲然と口の端を上げて見せる。
「俺を冷やすか? 貴様らに最早麒麟という名も相応しくはあるまい」
 もはやそれは神獣に在らず。
 否。出雲にとっては、それすらも従えるべき存在に過ぎぬ。
「──四つ足ども。俺が貴様らを導いてやろうぞ」
 長躯が進み出る。肺を軋ませる冷気を鑑み、刀を抜いた。
「さあて、寒さは俺の炎で十分であろう」
 出雲が片方の腕に刃を奔らせた。途端に噴き出したのは血ではない。それより尚赤き、獄炎。
 猛々しく燃え盛る火炎は暖を取るだけではなく、相対した麒麟をも恐れおののかせる。
 見せびらかす風情で腕を振るえば、零下の幽世にも熱が宿る。
「俺こそ禍神、かつて縁起物だった貴様らにはどう見える?」
 挑むような声で問う。瑞兆の化身であったそれは今や災禍の申し子だ。ある意味では今の麒麟たちのほうが出雲に近しいのかもしれない。「ハッハ! まァ偉大であったもかつての話ぞ」と、張り詰めた空気を一笑に付す。
 だが。
 黄金の眼が怜悧に前を見定める。
 禍神である己に差し向けてくる殺意。肌で感じるからこそ、眼光は鋭い。
「万死に値する。不敬であるぞ獣共」
 低く重い、声。
 麒麟たちが僅かに気圧されたのを見たのは誰だったか。出雲は浅くかぶりを振る。
「だが善い。赦してやるとも──お前たちとてまた俺が愛すべく命だったのだ」
 帝が恩赦を与えるかのような口吻だ。その在り方に心添わせるからこそ、鑑みる目線があるのだろう。いつまでも穢されたままでは魂が哀れである。
 それを断ち切るのも、役目であろう。
「禍神とは、厄を払うモノよ」
 出雲は刀を構え、切っ先を麒麟たちに差し向ける。柄から鍔、刀身へと滑り至る、煉獄の焔。
 その光が出雲の輪郭を浮かび上がらせる。けざやかに、鮮烈に。
「じゃじゃ馬ども。俺の炎で焼いてやろう。かかってくるがいい」
 災厄の霊光を纏った麒麟が高く哭く。他の個体が受けた攻撃もそれなりに多い。呪詛を増幅させると同時、角で蓄えられる雷光もまた倍化している。
 だがそれを恐れる理由も義理もない。
 暴れるのなら暴れればいい。そして雄々しく猛々しく、この地から去ね。
 出雲の面差しがそう語っている。
 雷か、炎か、どちらともなく火花が弾けたのが合図だ。
 音を立てて地を蹴る。肉薄する。間合いを確保したところで低く身を屈める。懐に滑り込んだのだと、麒麟が認識する頃にはもう遅い。
 下段から斬り上げる。手応えがある。焔の曼殊沙華が絢爛に咲き誇る。
 不敵に口の端を上げる。
 お前たちの荒ぶる魂を正しく導いてやるとも、骸の海になァ──。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
……風邪を引くでは済まない温度差ね。
手袋にコートにマフラーにタイツ。
冬服を引っ張り出して、着込んでゆくわ。
機械剣のエンジンも入れておいて、
あとは動けばあたたかくなるでしょう。

麒麟だって、元はヒトのあたたかなものから生まれたのでしょうに。
難儀なことだけれども、熱をなくしたおまえたちを見過ごすわけにはいかないのよ。

見晴らしがよいのはお誂え向きね。
見える限りの敵に向かって【《花剣》】
その仁愛が、仲間にだけ向いていることは分かっているのよ。
それでも、すべて等しく平らげれば、此方に向かうものもないでしょう。
そのあかりが消えるまで、何度だって繰り返すわ。

不香の花も花のうちだもの。
散りなさい。



●花と嵐が踏み越えて
 戦場のそこかしこで雷鳴が轟き、猟兵がそれを迎え撃つ。
 しかしそこで生じる熱は寒風のひと吹きで即座に霧散してしまう。やはり元凶となる骸魂を斃さねば、零下の世界に熱を取り戻すことは出来なさそうだ。
 黙っているだけでも体温を奪っていく極寒。
「……風邪を引くでは済まない温度差ね」
 花剣・耀子(Tempest・f12822)はマフラーの合わせを強く押さえる。
 手袋にコート、タイツ。もちろん中に着込んでいるのも冬服だ。きちんと準備を整えていたため、少なくとも戦闘態勢に入れないということはなさそうだ。
 耀子は手にした機械剣のエンジンを入れる。チェーンソーの刃が駆動する音がする。
 あとは戦っているうちにあたたかくなるだろう。
 視線を流す。
 災厄の稲妻を操り、蹄を慣らす麒麟たち。妖力を蓄えている様子を眺めている。
「麒麟だって、元はヒトのあたたかなものから生まれたのでしょうに」
 小さい囁きが零れた。
 泰平の世に現れる神獣。殺生を嫌い、吉兆を示す。そんな存在だという知識はあった。
 だが今は違う。幽世で必要とされるものを奪い、妖怪たちの慎ましやかな平穏を奪うものだ。
 耀子の声は揺らがない。
「難儀なことだけれども、熱をなくしたおまえたちを見過ごすわけにはいかないのよ」
 機械剣を構え、前を見据える。
 見晴らしが良いのはお誂え向きだ。どの個体も捉えることが叶う。間合いを手繰り寄せ、視界内のすべての敵を掃討していくとしよう。
 刃が冷気を刻む。
 敵を抉ることを待ち望んでいる。
 耀子の眼前に雷鳴が轟いたのが切欠になった。照準を合わせて斬撃を放つ。残像が数多の白刃となり、それがやがて嵐となって、縦横無尽に吹き荒れる。
 剣閃の向こうに嘶く麒麟を見つけて、僅かに目を眇めて耀子は言う。
「その仁愛が、仲間にだけ向いていることは分かっているのよ」
 帯びる霊光。轟く遠雷。遍く等しく齎されるはずの慈悲は、そこにはない。
「それでも、すべて等しく平らげれば、此方に向かうものもないでしょう」
 今一度機械剣を構え直す。
 瑠璃の双眸は怯まない。臆さない。
 踏み込む覚悟がそこにある。
「そのあかりが消えるまで、何度だって繰り返すわ」
 耀子は地を蹴る。先程の白刃で体勢を崩した麒麟たちが態勢を整える前に、踏み入る。
 大きく上段へ振り翳せば、刃が奔る音がする。
「不香の花も花のうちだもの」
 冷徹に宣告する。
「散りなさい」
 力任せに叩き斬る。大蛇が瑞獣を喰い荒らす。
 その様から、決して視線を逸らしたりしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
麒麟、麒麟ねぇ……
つか、くっそさみぃな……
氷結耐性で耐えるにしても
俺の場合はちっとばかし練度が低いからなぁ……

カクリヨの住人共々俺らが凍え死ぬ前に
さっさと片付けるとしましょうか、っと

拘束術使用
範囲内の全ての敵に鎖での先制攻撃と同時に拘束
拘束し損ねた対象にはダッシュで接近して
破魔と生命力吸収を乗せた華焔刀でのなぎ払い
刃先返しての2回攻撃で範囲攻撃

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回数的に攻撃はラッシュ状態になるだろから
華焔刀でいなして流すことも同時に行って対応
それでも避けきれない場合はオーラ防御で防いで凌ぐ
防ぎきれない場合は激痛耐性で耐える

UDCはそろそろ夏に向かうんだ
太陽の光は不可欠だろっての……



●鎖が奔る空の果て
 眼前で。
 嘶き、蹄を鳴らし、災厄の雷電を召喚する獣。
 伝承の類で聞き及んでいたものとの乖離は大きい。吉兆を運ぶ瑞獣は、今は凶兆と滅びを齎すものでしかない。
「麒麟、麒麟ねぇ……」
 だからだろうか。篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は顎に手を添え首を傾げてしまう。
 しかし思索に入る前に身を震わせる。氷結に関する耐性には幾らか覚えがあるものの、極寒の零下を凌げるほどの練度ではない。
 ならばこちらから打って出るしかない。
「カクリヨの住人共々俺らが凍え死ぬ前に、さっさと片付けるとしましょうか、っと」
 厄災のオーラで強化された攻撃で畳み掛けられてはひとたまりもない。
 先制攻撃を狙うべきだ。寒さを紛らわすために軽く足踏みをして、それから手のひらに意識を集中させる。
 生じたのは不可視の鎖だ。
 蛇のようにしなり、這い、蠢く。麒麟たちが反応する前に、鎖が果敢に疾駆する。
 風が冴えるのは鎖が奔るせいだ。
 猛然と襲う鎖の群れ。鎖先で殴打し、絡め取り、縛り上げる。鎖の軋む音がする。それから逃れた個体めがけて、倫太郎は一足飛びで走り出す。
「はあっ!」
 朱で施された焔が黒塗りの柄で踊る。それを引き寄せ円を描き、横薙ぎに叩き斬る。
 仰け反った隙も逃しはしない。刃先を返して胴体を鋭く穿った。
 ただ、かじかんだ手が一瞬だけ柄を掴む力を損ねる。
 いつの間にか背に回っていた別の麒麟が牙を剥いた。先程予測していた通り、連撃は驟雨のように抉り続ける。
 それでも倫太郎は臆さない。眼前に薙刀を翳し攻撃を防ぐと、雷鳴に似た衝撃音が迸った。
 同時に霊光を纏い防御を試み、それでも尚止めきれないものは受け止めた。歯の奥を強く噛みしめ、しかし倒れることだけを己に禁ずる。
 肩で息をしながら、倫太郎は毅然と真直ぐに告げた。
「UDCはそろそろ夏に向かうんだ。太陽の光は不可欠だろっての……」
 昏い雲の向こうには燦然とした熱があってしかるべきだ。
 故に折れてなどいられない。夏への足掛かりを、失わぬように前に出る。

成功 🔵​🔵​🔴​

ネヌ・エルナハ
ああ、もう、寒い。着こんできて良かった。
……でも、人間の姿を見たのは久しぶりね。

東の獣類の長とされた麒麟が、随分な姿。
余程低位の妖怪が取り込んだみたい。
外が騒がしいだけなら放っておいたのだけど。悪戯は使い魔だけで十分。
私の暖かなひと時の邪魔はさせない。寒いのは、我慢ならないもの。

ミゼリコルディア・スパーダで一体ずつ包囲攻撃
痩せ細った魔力じゃ、昔みたいに何本も同時には無理。
勘も、そのうち戻って来ると良いのだけど。

一人で相手をする事が無理なら素直に引いて
猟兵に頼るのは、本当は嫌よ。だけど、今は頼るしかない。



●滑空する魔術
 ネヌ・エルナハ(西洋妖怪のレトロウィザード・f28194)の長い睫毛が、冷気に震えている。
「ああ、もう、寒い。着こんできて良かった」
 厚手のコートを着ているだけでも違う。何も対策がなければ、唇すら上手く動かず詠唱が叶ったかどうかも怪しい。
 身を掻き抱く。白い息をくゆらせながら、周囲に視線を走らせる。
「……でも、人間の姿を見たのは久しぶりね」
 カクリヨファンタズムへの道程が猟兵たちに示されたのはつい最近だ。
 戦場を馳せる猟兵たち、息をひそめて姿を隠す妖怪たち。
 命の息吹だ。熱がそぞろに動く様子を、ネヌのルビーの双眸は冷静に映している。
 それにしても──麒麟たちが蠢く姿に、つい眉根が寄ってしまう。
「東の獣類の長とされた麒麟が、随分な姿。余程低位の妖怪が取り込んだみたい」
 己も別の世界、別の幽世に存在する西洋妖怪、カーバンクルだから理解が及ぶ。
 吉祥獣であるはずのもの。重んじられる代わりに慈しみ、善きものを齎すのが常の姿だ。しかしそれは今は見る影もなく、災厄を運ぶ凶獣に過ぎない。
 ネヌは口許に淡い微笑みを刷いた。
「外が騒がしいだけなら放っておいたのだけど。悪戯は使い魔だけで十分」
 前に進み出る。手首を捻り、魔法の箒に魔力を集めようとする。
 言い切った声は、玲瓏であった。
「私の暖かなひと時の邪魔はさせない。寒いのは、我慢ならないもの」
 麒麟の一体と視線が交錯したか、否か。
 判断を下す前に箒を操る。霜が降りる地面に円を描き、短く詠唱を添える。
 現出したのは魔法剣だ。その数凡そ百。瞬く間に宙を埋め、ネヌの頷きひとつで狙いを定める。
 確実に一体ずつを仕留める算段だ。角を天に翳し雷光を呼ぼうとする麒麟へと、幾何学模様を描き飛翔する切っ先が、村時雨のように貫いていく。
 久々に放った異能。だが、ネヌのかんばせに納得の色はない。
「痩せ細った魔力じゃ、昔みたいに何本も同時には無理」
 手をむすんで、ひらいて。嘗てはもっと大規模な魔術を施せたことを思い出す。
 幾らかの実践を経れば、感覚も手に馴染むだろう。今はそう思うしかない。
「勘も、そのうち戻って来ると良いのだけど」
 言葉を落とした瞬間だった。
 天から轟く雷鳴が迸る。咄嗟に魔法剣で軌道をずらそうとして、間一髪でそれが叶ったことを認識する。だが大地が明滅している。災いの雷が麒麟の力を増幅せんと蠢いているからだ。
 安堵と懸念。
 ここで一人で凌げると過信するほど、ネヌは愚かではない。
「猟兵に頼るのは、本当は嫌よ。だけど、今は頼るしかない」
 今は退こう。唇を引き結び、ネヌは踵を返した。
 寒風に淡い金の髪が靡き、翻っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

黄色いマフラー巻いて
体が固まらないよう腕を前後に振る
わたしはへーきだよっ
アヤカはとってもさむそう
ふふ、うごけばあったかくなるって言ってたよ

キリンは殺生をきらう
ほんとうは、たたかうのもすきじゃなかったのかな
うん
アヤカの声に答えて魔鍵を握る
わたしには痛くしないでたおす方法があるもの

アヤカのあったかい炎に微笑んで
蒲公英の歌を
アヤカが動きやすく
よけやすくなるように

名前を呼ばれたら
おまかせだよっ
魔鍵をさして生命力吸収

もしほんとうの自分のありかたをわすれてしまっても
だれかの命をうばわなくてすむように
わざわいをもたらしたと思われなくてすむように

中の妖怪たちを起こすんだ
みんな、おきてっ


浮世・綾華
オズ(f01136)と

へえ、ここが幽世…
つぅか寒…
何時もより着込んで襟巻も手袋もしてきたが寒いもんは寒い
オズ、へーきか?
――ん、じゃあめいっぱい動こ

妖怪はちょっとくらい乱暴にしたって大丈夫って聞いたケド…
オズをちらりとみて
出来るだけ痛い想いはさせたくない、よな、やっぱ

んならと鬼火は控えめな強さで浮かばせる
寒さを少しでも和らげられるように
そいつらだってきっと、凍えてるかもしれねーし
熱さで、目ぇ覚めるかもしれないし…?

動きを鈍らせられたら素早く駆け
まだ、生きたいだろ
ちょっと手荒だが鍵刀で足元を掬うように
角を天に翳せないように
それからオズ、と名を呼んで

っし、この調子で他の奴らも助けるぞ



●ひだまりへの扉
 今はUDCアースの日本でいうところの梅雨時、夏に至る少し前。
 なのにこうして防寒対策をしているのは不思議だ。嫌というより、理解が遠い。
 幽世とはかくも興味深い場所なのか──そんな感慨が、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の胸裏で浮かんでは弾ける。
 浮世・綾華(千日紅・f01194)もそれは同様だったらしい。ただし寒いものは寒い。上着の襟を立てて襟巻をして、前の合わせを手袋を嵌めた手で直す。
「つぅか寒……オズ、へーきか?」
 問われたオズが振り向けば、黄色いマフラーも緩く回る。腕を思いきり前後に振る。わざと大きい動きをしているのは、身体が固まってしまわないように。
「わたしはへーきだよっ。アヤカはとってもさむそう」
 様子を窺うオズの言葉に、綾華は「ご明察」とばかりに肩を竦めた。
 キトンブルーの瞳がほほえみのかたちに綻ぶ。
「ふふ、うごけばあったかくなるって言ってたよ」
「それもそうか。──ん、じゃあめいっぱい動こ」
 どうやらのんびりもしていられないようだし。
 前を見据えたのは、ふたりほぼ同時にだった。
 麒麟がやってくる。他の猟兵たちが凡そ倒したため、残る個体は数少ない。
 恐らく今相対しているそれを突破すれば、事件の元凶であるオブリビオンの元へ辿り着けるだろう。
「妖怪はちょっとくらい乱暴にしたって大丈夫って聞いたケド……」
「……うん」
 ふと思い返す。
 本来の瑞獣としての在り方に、オズはゆっくりと思い馳せる。
 麒麟は殺生を嫌うという。普段の性質は非常に穏やかで優しいのだと。平和を尊び平和に生きる、瑞祥の顕現。
「ほんとうは、たたかうのもすきじゃなかったのかな」
 オズの声が寒さに融けず、しんと降り注ぐ雪のように響く。
 優しい眼差しを横目で見て、綾華は白い吐息を奥歯で噛む。わかっている。言葉にしなくても自然と汲み取る温度がある。
「出来るだけ痛い想いはさせたくない、よな、やっぱ」
「うん」
 同じ方向を見ていた。
 だから目が合ったわけではなかった。それでも視線は重なった。
 オズは春うららの鍵を握る。綾華からの贈り物。苦しませたいわけじゃない。痛めつけたいわけじゃない。そのための方法が、今手の中にある。
 だからなんにも心配なんていらない。
 んなら、と綾華が長い指を操る。鍵刀から爪弾くように呼び寄せたのは緋色の鬼火。熱のない世界にひとつ、またひとつと息吹を灯していく。
 寒さを少しでも和らげられたらいいと、素直に思う。
「そいつらだってきっと、凍えてるかもしれねーし。熱さで、目ぇ覚めるかもしれないし……?」
 損なうのではなく、解くために。
 鬼火を奔らせる。威嚇、あるいは牽制。麒麟の輪郭が鬼火で浮かび上がる。
 それがあんまりあたたかいものだから、オズはふわりと微笑みを咲かせる。
 綾華の背を押すのが自分の役目だ。そう正確に理解して、口遊み始めるのは蒲公英の歌。
 ──てくてく 君と歩く てくてく 君と歌う てくてく 君と咲う。
 寒空の下で春が花開く。揺蕩うひだまり。それが綾華の身体の隅までぬくもりを届ける。
 動きを鈍らせ、身体は軽い。
 ならば憂いは存在しない。
 綾華は地を蹴った。襲来する迅雷を掻い潜り、麒麟の懐に滑り込む。
「まだ、生きたいだろ」
 諭すような声音になった。
 僅かに麒麟が戸惑う気配がする。その隙を狙って、不意打ち同然に鍵刀を麒麟の足元に突き立てる。
 狙い通りたたらを踏んだ。角に集まり始めた妖気が収縮しきれず、稲妻になり損なって散っていく。
「オズ」
「おまかせだよっ」
 既にオズは麒麟の死角で身を屈めていた。近くで、在り様を捉えようとしていた。
 予感のように告げる。
「もしほんとうの自分のありかたをわすれてしまっても、だれかの命をうばわなくてすむように」
 感じたのだ。
 本当は別に誰かを傷付けたいわけではないのではないか、と。
「わざわいをもたらしたと思われなくてすむように」
 魔鍵を包むように、五指を組んだ。
 祈りに似た願いになった。
 オズは麒麟の心臓めがけて鍵を翳す。
 取り込まれた妖怪に、目覚めを促すように。扉を開けて、もう寒くないよと手を差し伸べよう。
「みんな、おきてっ」
 呼び起こすは、さいわいに満ちた温度。
 知っているはずだ。
 忘れないで。思い出して。
 そんな想いが結実した瞬間、眩い光が迸った。目がくらむ。
「!」
 綾華が真紅の瞳を見開く。そこには、呪詛が剥がされたような麒麟、否、その名残を宿す妖怪が倒れていた。
 一瞬不安が過るも、どうやら傷を負っているわけではなさそうだ。ただ疲労しているだけなのだろう。そう認識したなら、どちらともなく安堵の息がまろび出る。
「っし、この調子で他の奴らも助けるぞ」
「うんっ!」
 駆けて行こう。
 自分たちにも出来ることがまだあるから。

 何故だろう。
 微かに、身を蝕む寒さが緩んだ気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『フェニックスドラゴン』

POW   :    不死鳥再臨
自身が戦闘で瀕死になると【羽が燃え上がり、炎の中から無傷の自分】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    フェニックス・レイ
レベル分の1秒で【灼熱の光線】を発射できる。
WIZ   :    不死鳥の尾
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【炎の羽】で包囲攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●熱は今ここにだけ
 道が開けた。
 麒麟の群れを突破した先、猟兵たちの目に飛び込んできたのは焔の気配。
 この幽世にあるはずがない──圧倒的な熱量だ。
 明らかに不死鳥の気配がする。しかし、どこかで龍神の神気も感じられる。
 鳳凰は鳥類の長とされ、獣類の長たる麒麟としばしば対に扱われる。龍神もまた、神話ではたびたび取り上げられる存在だ。
 それがひとつの形となって顕現している。
 だからだろうか、醸し出す霊力は先程の麒麟の比ではない。
 張り詰めた空気は、何も寒さのせいでだけではなさそうだ。

 さて、骸魂と化したのは何の妖怪だったのだろうか。
 取り込まれたのは何の妖怪だったのだろうか。
 鳳凰だろうか。龍神だろうか。
 わからないが──彼奴は確かにこの場を支配し、熱を神力として不死に手を伸ばしているのだろう。
 
 むすめの眼が燃えている。
 倒さなければ、この幽世に熱は戻ってこないのだ。
 それを誰もが正確に理解していた。
 ──フェニックスドラゴン、天から墜ちた羽根は散るのが定めだ。
逢坂・理彦
まるで全ての熱は自分のものだと言わんばかりだね。
鳳凰に竜に神力の高いもの同士が交わると非常に厄介だね。
節にさえ手を伸ばした存在に俺の業がどこまで通用するか。
けれどこの世界に熱を取り戻さないと誰も生きていく事は出来ない。
熱を返してもらうよ。

UC【狐神楽】
せめて同条件…空を飛ぶことにしよう。
襲いくる羽を【戦闘知識】で動きを把握して墨染桜でさばきながら接近。
避けられない羽は【火炎耐性】で耐えよう。
上手く近寄ることができれば【早業】【なぎ払い】で羽の【部位破壊】を試みてみようか。



●傲岸へ疾く
 この幽世で失われた熱。
 そのすべてがフェニックスドラゴンの元に力づくで収集されているという印象だった。
 麒麟たちとの戦いを経て幾らか身体はあたたまったものの、寒風が吹けばそれもすぐに鎮まってしまう。
 やはり目の前の相手を倒さなければ、世界は永遠に零下で凍えたままだろう。
「まるで全ての熱は自分のものだと言わんばかりだね」
 逢坂・理彦は辟易した様子でため息を吐いた。
 世界が持つ温度、ひいては季節さえ手を伸ばした存在に、己の業がどこまで通用するか。未知数で不明瞭だ。
「けれど」
  前に進み出る理彦の足取りに迷いはない。
「この世界に熱を取り戻さないと誰も生きていく事は出来ない」
 霊力を手繰り寄せる。念じると、理彦は狩衣姿に出で立ちを変えた。
「熱を返してもらうよ」
 宣言の後、馳せる。
 同時に凛とした鈴が鳴る。
 幾つも重なる涼やかな音色は不可視の気流を生み出し、理彦の身を宙へと運ぶ。
 これで足場としては同条件だ。フェニックスドラゴンが鳳凰の翼で飛翔しようと、追いつくことが叶うはずだ。
 そこまで判断した瞬間、空気が燃えた。
 不死鳥の尾羽から放たれるは焔の羽根。瞬く間に疾駆するそれは、複雑な軌道で理彦へと迫る。
「……!」
 出来るだけ動線を見極めようと目を眇める。が、数が多く咄嗟には対応しきれない。
 最低限を愛用の薙刀で打ち払い捌きがなら、敢えて前方へと飛んだ。頬や肩、腰やくるぶしを炎羽が苛烈に抉る。
 霊力を身体に這わせて耐性を高めた状態だが、守りに徹していては一方的になぶられるだけだ。
 故に理彦は、フェニックスドラゴンの懐まで滑り込む。
 疾く。
 薙ぎ切る。
 横一文字の斬撃が、舞う羽根の嵐を断ち切らんと放たれる。

成功 🔵​🔵​🔴​

春霞・遙
この事件を無事解決するために少しでも優しい熱と灯りを呼び戻したい。
篝火にするには弱い炎ですが、この炎は悪霊を追い払うのが本来の役割ですから。

相手の炎を種火にハシバミの枝に火をつけて【悪霊祓いの呪い】を使用して周囲の燃えそうなものに火をつけていこうと思います。蝋燭、提灯、行灯、灯籠、薪。
相手の攻撃は頑張って避けたり杖で「武器受け」したり。近づいてきたら「カウンター」でハシバミに灯した炎で攻撃したり。

UDCアースのある地域では夏の頃に牛の毛を焦がして悪霊を追い出すのだそうですよ。



●炎のさざめき
 フェニックスドラゴンが翼を翻すたびに、熱の奔流と焔の燦然が宙を埋める。
 そこに確かに温度はある。しかし、それは他者を脅かすものだ。うちがわから温めるようなぬくもりはない。
 ──この事件を無事解決するために少しでも優しい熱と灯りを呼び戻したい。
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)の穏やかな眼差しが、前をしっかりと見据えている。
 幽世を照らす篝火には弱々しい炎だ。だが本来の逸話を鑑みるならば、この炎は悪霊を祓うべきもの。その在り方を辿るべく、遙は一歩を踏み出した。
 手に持つセイヨウハシバミの枝に火を灯す。
 それは周囲を焼き払う苛烈さではなく、道行きを指し示す聡明さの模るようでもあった。
 遙は枝を半円を描くが如くに揮う。
「夏至の夜を汚す悪しきものを追い払え、聖なる炎を消す水の流れを探し出せ」
 そして周囲に火を散らしていく。
 妖怪たちの普段の生活に響かないようなところに、フェニックスドラゴンの動きを阻害するように囲い込むのだ。
「!!」
 だが敵も黙って見ているわけではない。焔の羽根を疾駆させ、螺旋を描き遙へと襲い来る。
 一瞬吐息を噛み、地を蹴る。
 ギリギリのところで体勢を低くして避ける。追撃はセイヨウハシバミの枝でいなし、反動で一気に踏み込んで炎を叩きつけた。
 知っていますか。
 そんな風情で遙は語る。
「UDCアースのある地域では夏の頃に牛の毛を焦がして悪霊を追い出すのだそうですよ」
 だから、今も帰る時間です。
 幽世が元の熱を取り戻すために。遙の毅然とした横顔に、迷いはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

篝・倫太郎
何が何に憑りついたんだか……
何にせよ、解放してやんねぇと、だな

攻撃力強化に篝火使用
詠唱と同時にダッシュで接近
破魔と鎧無視攻撃を乗せた華焔刀で先制攻撃
なぎ払いからの2回攻撃のフェイントも交ぜつつ戦闘

瀕死状態で再臨されると厄介なんで
出来るだけオーバーキル狙いしてく

再臨された場合はそちらへの対応も含めて
見切りや残像も使いながらオーラ防御で防いで凌ぐ

ダメージが著しい場合は攻撃に生命力吸収も乗せて体力維持

憑りついた骸魂が不死だったモノの成れの果てだから、なんかな?
焦がれるように求めちまうのは

そうであっても、ここはここで必至に生きてる連中の世界で
あんたがどうこうしていい場所じゃねぇ
だから、骸の海に還んなよ



●熱の在処
 妖気の圧が強い割に、殺意や悪意はさほど見受けられないような気がする。
 不死鳥と龍神が歪に重なり合い、いのちの熱を互いに取り込もうとしているように見える。
 やはりこうして相対しても、主になる骸魂となった妖怪がどちらなのか判別がつかない。
 篝・倫太郎はつい、眉根を寄せてしまった。
「何が何に憑りついたんだか……何にせよ、解放してやんねぇと、だな」
 今目の前にいるモノが、あるべき姿ではないことだけはわかる。
 だから往こう。
 琥珀の眼差しが真直ぐに前を向く。
 意識を集中させると、神力が掌の中に収縮する。
 ──祓い、喰らい、砕く、カミの力。
 同時に地を蹴った。薙刀の刃紋が流麗に浮かび上がる。軌跡が三日月の弧を描く。破魔の力を籠めた一撃を、フェニックスドラゴンの肩口から振り下ろした。
 焔の核に爪をかけたような感覚。それを手繰り寄せるように反動をつけ、もう一閃。
 果敢に攻勢を畳み掛けるつもりなのは、敵が瀕死に陥った時に再臨したら厄介だからだ。
 倫太郎の眼光は鋭いまま、もう一段深く踏み込み華焔刀の柄も使って殴打する。
 ただフェニックスドラゴンも黙っているわけではない。
 烈火のオーラを迸らせ、奔流で周囲を焼き払おうとする。
「ぐっ……!」
 広範囲に炎が広がり、猟兵たちの装備や肌を灼く。倫太郎もたまらず奥歯を噛みしめた。高温によるものではない汗が額に滲む。
「倒れてやるかよ!」
 凍えた大地を踏みしめる。薙刀を強く握り、体重を乗せて突貫する。
 刺す。
 しかし炎が潰える気配はない。
 だが顔を伏せることはない。
「憑りついた骸魂が不死だったモノの成れの果てだから、なんかな?」
 倫太郎の呟きがはっきりと、落ちた。
 そこにあったのは不死を掲げるはずの霊獣への懐疑、そしてその奥のやわらかいところを労わろうとする声だった。
「焦がれるように求めちまうのは」
 その求める先に何があるのだろう。
 死を遠ざけて尚、熱をずっと抱え続けることの意味は何だろう。
 その返事が来るとは思わない。思わないが、伝えたいと願ってしまった。
「そうであっても、ここはここで必至に生きてる連中の世界で、あんたがどうこうしていい場所じゃねぇ」
 誰が持つ熱も、他の誰かのものではないから。
 倫太郎は自分の腹に抱えた熱いものに促されるように、言う。
「だから、骸の海に還んなよ」
 瞳の中に息衝く思いは嘘じゃない。
 あるべきところに還るべきなのだ──妖怪も、骸魂も、オブリビオンも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

物部・出雲
不死はやめておけ、ロクなことにならんぞ
哀れな。さらに過去になってまで不死が欲しいか?
――お前ごときに命の熱は扱えまいよ

この俺こそ扱う資格があるというものである
そしてこの猟兵たちもまた、俺と並ぶ強者どもよ
不死すら踏み越え、未来を手にする
愚かでは不死でも生きていけんぞ、鳥頭
――未来がなければ、永劫彷徨うだけとまだ解らんかッ!?

善い。叩き込んでやろう
知らぬとは言わせぬ。理解できぬというのなら教えてやる
さあ、俺を恨め――そして未来に嫉妬せよ!
【黒陽:災禍焔】にて貴様を屠る
禍転じて福と為すというなァ?
俺こそ正にその権化よ。貴様には到底「荷が重すぎる」のだ!

俺の信仰と世界のため、疾く滅べッ!!



●黒きものの涯て
「不死はやめておけ、ロクなことにならんぞ」
 低く、荘厳な声だった。
 明瞭な響きと実感があり、未だ霜が降りている大地に染み入っていく。
 物部・出雲の眉間の皺は深い。鋭い金眼がフェニックスドラゴンを射貫く。
 しかし、不死龍のむすめの瞳は光が奔っているのに──ひどく冷めた色をしていた。
 出雲は首を横に振って言い捨てる。
「哀れな。さらに過去になってまで不死が欲しいか?」
 生きるものと違うモノとして妖怪となり、幽世に辿り着けず骸魂となり、他の妖怪を取り込み骸の海に溺れに行く。
 続く未来など欠片もないのに、頑なに死を遠ざけようとする。
 出雲は宣告のように、告げる。
「──お前ごときに命の熱は扱えまいよ」
 あまりにはっきりと言い放つものだから、周囲の猟兵たちも息を潜めて出雲たちの様子を窺っているようだ。
 視線を背にしっかりと受け止めて、出雲はフェニックスドラゴンの元へ歩き出す。
 氷が張った大地を踏めば音がする。
 続いた声はある種不遜であり、その分自負に満ちていた。
「この俺こそ扱う資格があるというものである。そしてこの猟兵たちもまた、俺と並ぶ強者どもよ」
 他の猟兵たちを一瞥し、出雲は不敵に笑みを刷いた。
 不死すら踏み越え、未来を手にする者たちだ。
 命とは息衝くものである。息衝くとは己に関わる変化を受け入れ、新たな熱を息吹かせるものである。
「愚かでは不死でも生きていけんぞ、鳥頭。──未来がなければ、永劫彷徨うだけとまだ解らんかッ!?」
 冴えた空気を震わすほどの怒声。
 それでもフェニックスドラゴンは表情を動かさない。
 むしろ背に負う不死鳥の翼を翻し、焔の羽根を射出せんと展開し始めていた。
 相容れぬ矜持。それを理解した出雲は邪から生じた神具を呼び出し、柄を握る。
「善い。叩き込んでやろう」
 預言めいた口吻は力強く、重い。
「知らぬとは言わせぬ。理解できぬというのなら教えてやる」
 刀身に黒い炎を這わせる。そして高らかに吼える。
「さあ、俺を恨め──そして未来に嫉妬せよ!」
 その瞬間、手元で燻っていた黒焔が一気に全身へと迸る。響動めく。外炎にちらついているのは、共に戦う猟兵たちが今までに受けた敵意や殺意だ。
 増殖した涅色が切っ先を揺らめかせ、幾重にも残像を生み出している。
「禍転じて福と為すというなァ? 俺こそ正にその権化よ。貴様には到底『荷が重すぎる』のだ!」
 凶つの黒竜はいのちの終わりを識っている。
 熱はひとところに留まるのではなく、前に進むべきものだ。
 そんな気概を籠めた剣閃が疾駆する。残像は重なり、数多の爪痕を確かに刻む。
 肌が炙られようと構いはしない。
 出雲は言い切る。
「俺の信仰と世界のため、疾く滅べッ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

あったかい
ううん、あつい、かも?
霊力というものがよくわからなくても、わかる

なんだかつよそうだね
アヤカにそう言って
負けないという言葉が返ってきたら笑う
わたしもおなじきもちだもの

たおせば、あったかくなる
そういうことだよね
武器を構える
あの子のなかにも、とりこまれた妖怪がいるんだ

うんっ
頷いて構える
相手の攻撃が放たれる前に

守りはまかせてっ
ガジェットショータイム
武器受けとオーラ防御を駆使して
透明なドームに似た要塞でアヤカと自分を覆う

あの炎はアヤカにはとどかせない
もっともっとやさしい炎をわたしはしってるよ

攻撃をしのげればあとは
アヤカに絶対の信を置いて魔鍵を握る
アヤカの想いが届くように


浮世・綾華
オズ(f01136)と

不死鳥、鳳凰…ほのおの鳥
焼き尽くすような熱は眩くて

そうだなと零し続く言葉を耳に
強そうでも、負けないケドな
そして頷いて
この世界の奴らが凍えないように
取り戻そう――熱も。取り込まれた奴も
オズが助けたいって思ってると分かる
俺はオズの優しさが報われて欲しいと思う

心強い守り
それでもオズの負担が少しでも減るように咎力封じ
攻撃の途切れ目を狙って、優しい守りの先へ

多少なら熱いのが来ても平気
むしろ――燃えるってもんだろ

攻撃を跳ね返すように扇を振り翳しそのまま放って
少しでも注意がそれるなら
備えていた鍵刀を握り直しダメージを与えよう
手加減できるような相手じゃないが
強く。助けたいと願いを込めて



●前に進むための鍵
「不死鳥、鳳凰……ほのおの鳥」
 鮮やかに網膜に焼き付く火の色を、浮世・綾華は反芻するように呼ぶ。
 零下の世界に在って、すべてを焼き尽くすような熱は眩しく、目が眩みそうになる。
 先程まで肌に染みていた冴え冴えとした寒さは今は遠い。それは何も、麒麟との戦闘で身体があたたまったからという理由だけではないだろう。
「あったかい」
 オズ・ケストナーの呟きは、実感というより事実の提示であった。
「ううん、あつい、かも?」
 首を傾げてしまう。そこに熱は確かにあるのに、どうにも身にしっくりと馴染まない。
 しかし伝わってくるものはある。感じるものはある。
「霊力というものがよくわからなくても、わかる」
 息衝く熱。
 この幽世に於いて他のどんな妖怪も持ち得なかったそれを、唯一抱えている存在だ。
 綾華も真紅の瞳を眇めてそうだな、と返す。
 張り詰める空気。鋭い眼光。悠然とした佇まい。
「なんだかつよそうだね」
 オズの声はまた、恐怖や忌避ではなく、感想に近い響きになった。
「強そうでも、」
 真直ぐに注ぐ綾華の眼差しに揺らぎはない。
 ひたすら真摯に、果敢に、矜持を携えて言い切った。
「負けないケドな」
 それがあんまり頼りがいのある色を湛えていたから、オズは蒲公英のような笑顔を咲かせた。
「わたしもおなじきもちだもの」
 その言葉が聞けて良かったと素直に思う。
 改めて向き直る。幽世の凍った空気とフェニックスドラゴンの熱した空気が混ざり、一触即発という気配だ。
 骸魂が辿った過去も含め、すべてに理解が及ぶわけではないだろう。
 だが。
「たおせば、あったかくなる。そういうことだよね」
 純然たる真理が目の前に横たわっている。
 オズのキトンブルーの瞳には、それに立ち向かおうという決意が滲んでいる。
 魔鍵を強く握りしめると同時、ほんの少しだけ垣間見た何かを拾ってしまう。
「あの子のなかにも、とりこまれた妖怪がいるんだ」
 一拍の間を置いて、綾華は小さく頷く。
 口許に笑みが刷かれた。
 迷いはなかった。
「この世界の奴らが凍えないように。取り戻そう──熱も。取り込まれた奴も」
 友として優しい時間を重ねてきたから。
 オズが、フェニックスドラゴンに取り込まれた妖怪も、何ならオブリビオンに転じてしまった骸魂も、助けたいと思っていることがわかってしまう。
「うんっ」
 頷いて構えるオズのひたむきな想いを大切にしてやりたいと願っている。優しさが報われて欲しいと、祈っている。
 そこまで至って、自分も随分殊勝だなと肩を竦めてしまった。
 綾華は思考を切り替える。
 他の猟兵たちが牽制した隙を縫い、相手の攻撃が放たれる前に馳せるとしよう。
「守りはまかせてっ」
 オズが掲げた魔鍵の先が円を描く。
 迸った魔力は攻撃を受け止め、防御を固めるために働きかける。
 それを受けて出現したガジェットは、透明な硝子のような彩をしていた。ドームに似た要塞でふたりを覆う。フェニックスドラゴンが一手遅れて放出した灼熱の光線の軌道を逸らすことに成功した。
「あの炎はアヤカにはとどかせない。もっともっとやさしい炎をわたしはしってるよ」
 先程麒麟との戦いで灯っていた鬼火のような。
 そこに確かな信頼が寄り添っていて、綾華はふと表情を和らげた。
「心強いもんだな」
 ならば次は己の番だ。フェニックスドラゴンが体勢を整える前に、綾華が疾駆させたのは咎を戒める拘束具だ。猿轡は躱されたものの、金古美の手枷は右足首を捕え、拘束ロープは左腕に届き絡みつく。
 オズの負担が減ればいい。
 苛烈な攻撃の途切れ目を狙い、優しい守りの先へ辿り着こう。
 多少であれば烈火も厭わない。
 頬についた煤を手の甲で拭いながら不敵に宣う。
「むしろ──燃えるってもんだろ」
 それを宣戦布告と受け取ったか、フェニックスドラゴンは空いた手を翻し、今一度熱光線を射出する。
 鮮烈でありながら鋭く重い一撃だ。
 綾華は眉根を寄せ、闇夜と黄金重ねる扇を眼前に広げた。オズの防御壁で押し止め、それでも貫通した熱。それを目掛けてわざと扇を放る。扇面で焔が轟く音が鳴り響いた。
「アヤカ!」
 オズはすかさず魔鍵を揮う。衝撃が綾華を襲う直前で、その後方に防壁を重ねる。熱爆発の反動で弾かれそうになった背中を受け止めることに成功する。
 ほんの少し。
 ほんの少しでいい。他の猟兵たちと同時進行で戦いながらも陰る気配がない不死龍のむすめが、注意がそれた瞬間を見過ごさない。
 折れぬと決めて、前のめりでフェニックスドラゴンの懐に肉薄する。
 横っ腹に斬り結ばれる一閃。
 黒鍵刀に全体重を乗せ、抉る。確かな手応えが腕を軋ませた。
 手加減出来るような相手ではない。
 それでも。
 強く。助けたいと願いを込めて──まだ膝をついたりはしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
ほ、炎……! ぐぬぬ、やっぱり苦手なのだ…
でも倒せないわけじゃない
例え炎が相手でも、力押しでいけばなんとかなるはず!

炎の羽は扇で起こした【範囲攻撃】の風で勢いを殺して
そのまま吹雪で消火していくぞ
根気がいるし疲れるけれど、なんとか反撃の糸口を探してやる!

【第六感】で相手の隙を感じ取ることができたら
そのまま距離を詰めて『風神の溜息』を相手に仕掛ける!
多分凍らせたとしても、敵は炎を纏っているから多分少ししか動きを封じられないだろう
でもそれで十分だ!

凍った相手に【先制攻撃】
【ジャンプ】して、思いっきり体重を乗せた蹴りを相手に叩き込むぞ!

さあ、お前が飲み込んだ妖怪さん、今すぐ吐き出してもらうぞ!



●氷と炎の錯綜
「ほ、炎……!」
 ヴァーリャ・スネシュコヴァの眼前を業火が焼き尽くしていく。
 咄嗟に腕で庇うような仕草をしてしまったのは、やはり炎への苦手意識が拭えないからだ。先程麒麟と相対していた時は寒々しかったからよかったが、今はどうしても二の足を踏んでしまう。
「ぐぬぬ、やっぱり苦手なのだ……」
 つい眉を顰めてしまう。
 唾を飲みこんで、胸に手を当てて深呼吸する。
 思い返すのは焔の欠片。大丈夫。不死龍の熱ではなく、温度は今だって胸裏に住み着いている。
 それに──さりげなく視線を流せば、彼の姿もこの戦場に在った。
 故にヴァーリャは毅然と前を見据える。
「でも倒せないわけじゃない」
 臆する心を叱咤して、もう一度九尾扇を構えた。黎明の澄んだ風が巻き起こる。
「例え炎が相手でも、力押しでいけばなんとかなるはず!」
 頭上に構えた扇を一気に振り下ろした。
 暁の息吹は、こちらに一斉に向かってくる炎の羽根を押し止める。流石に簡単には落とされてはくれないが、ヴァーリャは再び扇を振り翳す。
 風に冷気を乗せて、荒れ狂う吹雪を呼び寄せる。焔と氷がぶつかり合い、水蒸気が破裂し轟音が響く。
 怯みそうになる。
 ヴァーリャは奥歯を噛みしめる。フェニックスドラゴンの焔は苛烈に尽きる。こうして睨み合いを続けるのは骨が折れる。
 だが負けるわけにはいかない。
「なんとか反撃の糸口を探してやる!」
 気概でもう一段氷の乱舞を奔らせた。鍔迫り合いの様相になってくる。
 そうした押し合いの果て、菫の双眸が見開かれる。
 ──見えた。
 勘といえばあまりに単純。だが今はそれを信じる。低い体勢で駆け出した。
 相手が迎撃態勢に入る前に、口許に手を添え吐息を零す。
 吹きかけた息が絶対零度を纏う。背を押す冷風に乗せ、フェニックスドラゴンの左上腕を凍らせる。
 恐らくすぐに融かされてしまう。僅かに動きを封じらせるのがせいぜいだろう。
 でも。
 それでも。
「それで十分だ!」
 ヴァーリャが高く跳躍する。
 空中で体勢を整え、靴裏の氷のブレードを突きつける。
 全体重を乗せ、全身全霊の蹴りをその肩口に叩きこんだ。
 フェニックスドラゴンの上体が揺らぐ。
 確かな手応えを感じる。ヴァーリャは改めて向き合い、強く声を張った。
「さあ、お前が飲み込んだ妖怪さん、今すぐ吐き出してもらうぞ!」
 炎は苦手だけれど、逃げるつもりなんて欠片もない。
 自分の氷雪の力を手繰り寄せ、何度でもぶつけてみせよう。
 何度でも何度でも、何度でも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻沫

暖かいを通り越して熱いほど
やはり私は、リルのやわこい体温の方が好ましい

ふぅん龍神……ねぇ
いいわ!心が躍るわ……だって私は龍だもの
不死鳥を殺すのも一興よ
龍神だろうと構わない
まとめて喰らって咲かせてあげる

リルの歌が心地よく、私の背を押し守ってくれる
私はこの子を守りましょう
戀の焔で手を温めておいてよかったわ
破魔宿らせた衝撃波でなぎ払い
炎舞う空間ごと斬り裂き散らす
いやだわ
私の桜が焦げてしまうじゃない
桜吹雪のオーラで攻撃いなし、カウンター
傷抉るように斬って裂いて蹂躙してあげる!
思い切り踏込み放つ
「朱華」
これが神罰よ、なんて

熱を取り戻しましょう
こんなに寒いのでは可愛い人魚も凍人魚になってしまうもの


リル・ルリ
🐟櫻沫

今度は熱いな…茹だってしまいそう
だめだよ、この熱は皆のもの
氷漬けになってしまう前に返してもらおうか
大事なぬくもり、を

龍神?
櫻宵みたいだね
けれど僕の櫻の方がずうと綺麗であたたかだけど
ええ?龍と不死鳥まで食べたいの?君はなんて貪婪なのだろう

水のオーラで櫻宵を守るよ
僕の櫻が燃えてしまっては大変だ
歌詞に鼓舞を、蕩ける誘惑をこめて歌う
「月の歌」
君がもっと速く動けるように
傷を癒してあげられるように
守るために、歌うよ
妖を祓うのが陰陽師の務め、でしょう?
綺麗な桜にしておくってあげればいい


堕ちた羽を散らしてあたたかな熱を取り戻す
……言ったな?僕より櫻の方をなんとかしなきゃ
カチコチの樹氷みたいになる前にね



●咲く、裂く、そして
 先程身を竦ませて、着物の合わせを押さえていたのが嘘のようだ。
 いや、この幽世が冷え切っていたからこそだろうか。今この場は暖かいを通り越して熱いほど。
 ──やはり私は、リルのやわこい体温の方が好ましい。
 当然の摂理を再認識した風情で、誘名・櫻宵があえかに微笑む。
 その傍らのリル・ルリが、額に真珠のような汗を浮かばせた。
「今度は熱いな……茹だってしまいそう」
 吐息を曇らせた後、薄花桜の瞳が不死龍のむすめを見遣る。
 零下の幽世。いのちの息吹を凍らせて、閉鎖的ですらあった哀しい空間。
 本来その根源であったはずの熱を奪い独り占めするのは──リルはかぶりを振ることしかできない。
「だめだよ、この熱は皆のもの」
 氷漬けになってしまう前に返してもらおうか。
 リルの決意は清廉で、澄み渡る。
 何をかなんて言うまでもない。
「大事なぬくもり、を」
 その呟きだけで櫻宵は意図を理解する。そうね、そう視線だけで返事をして、猟兵たちの攻撃に晒され続けるフェニックスドラゴンの前に進み出る。
 近いけれど遠いむすめを見遣り、着物の袖を口許に添えて桜霞の双眸を眇めた。
「ふぅん龍神……ねぇ」
 喉でころりと笑みが零れる。
 差し出した眼差しに熱はない。違う世界に住んでいるという境界線を明確に引いているかのように。
「龍神? 櫻宵みたいだね」
 いとし人の言の葉を拾い、リルはぱちりと瞬いてみせた。
 続けて紡いだ言葉は、むしろリルのほうが誇らしげだ。
「けれど僕の櫻の方がずうと綺麗であたたかだけど」
 これもまた言わずとも知れた、当然のこと。
 櫻宵は鷹揚な態度を崩さない。最愛の君に褒めてもらえるのだから、これ以上の歓びなんてありはしない。
「いいわ! 心が躍るわ……だって私は龍だもの」
 是非はともあれ、違ういきものなのだから相容れる必要はない。
 不死鳥を斃すのもまた一興というものだろう。
「龍神であっても構わない。まとめて喰らって咲かせてあげる」
「ええ? 龍と不死鳥まで食べたいの? 君はなんて貪婪なのだろう」
 花咲く便箋と封筒で恋文を交換し合うように笑みを交わす。
 くすぐったくもあたたかい空気は、この場に在ってはむしろ不釣り合いだ。
 だが自分たちはそれでいい。それがいいのだから、往こう。
 フェニックスドラゴンが炎の羽を展開させる気配がする。それを捉えて、リルは冴えた空気を吸い込んだ。
 すべては櫻宵を傷付けさせないため。僕の櫻が燃えてしまっては大変だ──だから響く、響く、透徹たる歌声。
 旋律が含むは水を透く光。
 湖面が映すは咲き誇る月。
 歌詞に鼓舞を、蕩ける誘惑を、捧げられるは唯一無二に。
「──ルナティック、ルナティック、咲き誇れ」
 幽玄の歌声が滑らかに、伸びやかに、櫻の君に注がれていく。
 櫻宵の手足や艶やかな髪の一筋に、霊力が満ち満ちていくことが、傍から見てもわかるだろう。
 大いなる水の流れが癒しを与える。月の歌によって背を押し、加護を四肢に行き渡らせられていく。
 君がもっと速く動けるように。
 傷を癒してあげられるように。
「守るために、歌うよ」
 決意は真摯だ。しかし負荷をかけたいわけではないから、リルは迷いを払うことが出来ればと思って続ける。
「妖を祓うのが陰陽師の務め、でしょう? 綺麗な桜にしておくってあげればいい」
 護りはリルが、攻めは櫻宵が。
 だから何も心配いらない。そう教えてくれるようで、櫻宵は不敵に艶やかなくちびるの端を上げた。
 私はこの子を守りましょう。
 単純だが純然たる真実であり真理だ。
 先程紡がれた戀の歌。その焔で手を温めておいてよかったと素直に思う。リルを守るために武器を振るうことが出来るのだから。
「!」
 フェニックスドラゴンが焔の羽根を一斉掃射する。さながら炎の驟雨の如きそれを、ぎりぎりのところで見切って櫻宵は一気に距離を詰める。
 破魔を宿した太刀を横薙ぎに払う。一文字に見舞った斬撃は衝撃波を生じ、領域とばかりに確立されている炎の空間ごと斬り裂いた。
 火の粉が散る。
 押したと思えば押し返される。
 不死龍は間を置かず、立て続けに灼熱の光線を射出した。火力自体は羽根のほうが高いが、こちらは避ける余裕すら与えぬ速さで櫻宵の肩を抉った。
 焦げる匂い。重く響く痛み。
「いやだわ」
 愁眉を寄せる。
 而して櫻宵は悠然と言い捨てる。
「私の桜が焦げてしまうじゃない」
 黙っていると思ったら大間違いだ。言葉より尚雄弁に、桜吹雪を乗せた霊光を巻き起こす。熱光線の軌道を逸らし、開けた僅かな動線を見出し地を蹴る。
「傷抉るように斬って裂いて蹂躙してあげる!」
 高らかに笑う。
 懐に滑り込む。
「朱華」
 艶やかに咲き誇るは桜龍。
 桜獄大蛇の霊力をめざめさせて、無明の剣閃で空間ごと切り捨てる。
 フェニックスドラゴンが鳳凰でも龍神でも関係ない。
 斬り払う対象という以上の意味を有さない。
「これが神罰よ、なんて」
 焔のむすめが堪らずたたらを踏むのを見遣り、
「熱を取り戻しましょう。こんなに寒いのでは可愛い人魚も凍人魚になってしまうもの」
 そうでしょう?
 眦に笑み刻み、櫻宵はいとし人魚を振り返る。
「……言ったな? 僕より櫻の方をなんとかしなきゃ。カチコチの樹氷みたいになる前にね」
 リルも最愛の戀桜を瞳に映し、やわく頬を綻ばせる。
 堕ちた羽を散らしてあたたかな熱を取り戻す。
 その向こうに見る白い夜を、大切なあなたと体感したいんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ドゥアン・ドゥマン
あの煌々の炎、
…もしや、この地の熱を吸収しているのだろうか
麒麟もだが、鳳凰も竜神も。一筋縄ではいかぬだろう、尊き神威
…全霊を持って。骸魂の葬送を果たすべく

囁骨釘を地に打ち、
吸収した地の生命力たる黒き煙で、巨大な鳥を象る
煙とは空気の流れ。触れれば逆巻く気流で絡め取り、
炎を捕食する怪鳥と仕立てよう

即射の攻撃を避けるのは難。であれば、
攻撃を誘惑する目くらましや囮の狙いもある
猟兵方との連携を意識し、
攻撃を遮るよう、相手の生命力を吸い上げながら飛翔させる範囲攻撃をば
初めて作るもの故、集中を途切れさせぬように

元、あっただろうこの地の、命の暖かな念、…慰めも。煙に含まれている筈
その御許に、夜を運ぶ鳥と成さん



●黒き鳥のパヴァーヌ
 この幽世全土を閉ざす風雪。霜柱に氷柱。いのちあるものが外を歩くことすら叶わぬ極寒の世界。
 それと、目の前にいるフェニックスドラゴンとを見比べてしまう。
 炎熱と零下。
 あまりに対照的で乖離が著しいが、その一方で、プラスマイナスの差異に於ける基準点が一致し過ぎている。
 ドゥアン・ドゥマンは苦々しく眉を顰めながらも、一つの推論を打ち立てる。
「あの煌々の炎、……もしや、この地の熱を吸収しているのだろうか」
 なれば打倒せねば、熱を取り戻すことは出来まい。
 先程相対した麒麟もそうだが、鳳凰も龍神も一筋縄ではいかぬだろう。そのくらい厳然と尊き神威を湛えている。
「……全霊を持って。骸魂の葬送を果たすべく」
 いざ。
 ドゥアンが手を操れば、囁骨釘が鈍い音と共に地に穿たれる。
 そこから吸い上げるは地の生命力だ。黒く燻る煙が立ち上り、徐々に巨躯の鳥を構築していく。
 煙とはすなわち空気の流れ。
 触れようものなら逆巻く気流が相手を絡め取り、縛り付ける。それが炎であってもだ。業火をも捕食する怪鳥が、翼を広げて高く哭く。
「来たか」
 ドゥアンが眉を顰めると同時、灼熱の光線が放たれる。
 構える隙を与えぬ速度だ。ドゥアンのみならず他の猟兵も巻き込み鋭く抉る。肉が損なわれ焦げる感触をやり過ごし、一歩前に進み出る。
 即射の光線はまさに光の速さだ。回避するのは難しかろう。
 であれば攻撃の焦点をぶれさせる目くらましや囮の狙いもあるはずだ。
 故に。
 出来ることはある。
 この場に立つ猟兵たちは様々な思惑はあれど、頼もしき同胞であることは間違いないのだから。
 他の猟兵が放った搦め手の間に、黒煙の鳥を羽搏かせる。不死龍とは対照的な、黒く荘厳な翼で高く飛翔する。
 そのまま突貫させ、覆うように鉤爪で斬り裂く。攻撃を遮ると同時、傷口からは生命力を吸い上げる。
 僅かに。
 僅かに、大きな頭蓋の奥の青が細められる。
 初めて顕現させるものだ。集中が瓦解した瞬間に霧散してしまう。だからひたむきに前を見据える。決して退いてやるものか。
「元、あっただろうこの地の、命の暖かな念、……慰めも。煙に含まれている筈」
 控えめな声は、他の猟兵は認識してはいまい。
 他の誰でもなくドゥアン自身に、フェニックスドラゴンに、そして凍れるこの幽世に。
 響けばいいと希う。
「その御許に、夜を運ぶ鳥と成さん」
 夜を闇を抜けた先、黎明が待っているに違いないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネヌ・エルナハ
さっきまで寒かったのに、今度は暑い。
……嫌ね。熱が霊力の源になっているのかしら。東洋の神獣のキメラみたいな姿。
その上、名前がフェニックスドラゴンだなんて、節操なく混ぜすぎよ。
本当に不死なら少し興味はあるのだけれど。期待が過ぎるかしら。

アルカナ・ブラスターの詠唱を始めて最初は様子を窺い
……仮にも神に霊鳥、侮って大火傷は嫌だもの。
東洋の諺に従うなら、石橋は叩いて渡るものよ。
せめて、弱点か――奥の手を知ってから。攻撃はそれからでも、遅くはないはず。
炎の羽や召喚体が出てきた所で、溜めた一撃を狙い澄まして本体へ
本来あるべき姿に戻る時よ。世に仇なすなんて、似合わないもの。



●光差す魔術よ
「さっきまで寒かったのに、今度は暑い」
 ネヌ・エルナハは声に幾らかの苛立ちを含ませながら言う。
 確かに先程は極寒の中にいた。
 しかし今は相応に暑い。この幽世に熱が取り戻されたというのはなく、単純にそれを奪い我が物にする輩がいるだけのこと。
 そしてそれが目の前にいるむすめであるということ。呼吸をする容易さで理解してしまう。
「……嫌ね。熱が霊力の源になっているのかしら。東洋の神獣のキメラみたいな姿。その上、名前がフェニックスドラゴンだなんて、節操なく混ぜすぎよ」
 ついネヌが頭を抱えたのも許されたいところではある。
 不死鳥と龍神、どちらが主体となっているかはわかっていない。
 だがそれを引き剥がすことも出来ないのだから、本来は思いめぐらせる必要すらないのかもしれない。
 ほんのひと匙、胸に宿る知的好奇心で考えるならば。
 本当に──不死なんてものが存在するのなら、少し興味があるのが本音だ。
「流石に期待が過ぎるかしら」
 ネヌが肩を竦めるのと、フェニックスドラゴンがこちらに照準を合わせるのがほぼ同時だった。
 炎の羽根が疾駆する。軌道を変え、幾何学模様を描き奔る。その苛烈な攻撃を、ネヌは敢えて避けずにやり過ごすことで凌ぐ。
 熱さは過ぎれば痛覚を焼くのだと知る。痛みを堪えながら細かく術式を手繰る。詠唱の節を重ね、連ね、複雑に編み上げていく。冷静に様子を窺おうとしていた。
 唇を引き結ぶ。前を見据える。
「……仮にも神に霊鳥、侮って大火傷は嫌だもの」
 そう、ネヌは決してフェニックスドラゴンを見縊っているわけではない。むしろ逆だ。
 せめて弱点か奥の手を知るべきだ。反撃に転じるのはそれからでも遅くはない。
「東洋の諺に従うなら、石橋は叩いて渡るものよ。あるいは……彼を知り己を知れば百戦殆からずとも言うわね」
 ネヌの口許に刷かれた微笑みは淡い。
 今一度炎羽が繰り出されようとした瞬間、詠唱のおわりを結ぶことが叶った。
 夥しく差し込むは白き光線。
 フェニックスドラゴンのそれとは似て非なる真白き熱は、天上から下りる光の梯子にも似ている。
 敵が攻撃に至る前に射出すれば、不死龍のむすめの四肢を一気に穿っていく。
「本来あるべき姿に戻る時よ」
 吉兆齎す神獣は、人の世に在ってはならないもの。
 まるで見守っているような穏やかさで、ネヌはルビーの眼差しを向けながら怜悧に告げる。
「世に仇なすなんて、似合わないもの」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
まあ何方でも構わんだろう、どうせ倒す相手だ
では奪ったものを返して貰うとしよう

顕現する竜の姿に微かに息を吐く
紛いと嘯けど私にとっては唯一の竜
此の刃を向ける事なぞしたくはないが、決して違えられぬ約定でもある
唯今は「邪竜」をひとの傍らへと繋ぐ軛として此処に在ろう

――弩炮峩芥、刃に充ちよ
確認し得る全てから、戦闘知識と第六感で以って攻撃起点と方向を見切り
呪詛幕を張る際の補助として知らせ、同時に衝撃波にて軽減を図る
お前ばかりを盾には出来ん、幾らかの援け位には為らねばな

整えられた機会を逃しはせん
氷獄の竜に因る呪詛と氷をたらふく味わった事だろう
ならば――次は刃の味を知るが良い


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

龍なんだか鳥なんだかはっきりしない奴だなあ
ま、それもそっか
ともかくこいつが原因なら、ぶちのめしてやるだけだ

この身も紛いではあるが、本物を喚ぶことは出来る
真の竜というものを見せてやろう
――来い、【“Níðhǫggr”】
この体、少しだけ貸してやる
怒りを抑えなくて良いのは心地良いからな
だが嵯泉は傷付けるなよ
その男こそ、真に悪に堕した我が身を殺める者
私を「ひと」に繋ぐ、最たる楔である

熱線如きで呪氷の竜が殺せると思うな
氷を織り交ぜた呪詛幕で嵯泉ごと守り抜く
返しは爪と尾による叩きつけ
動きを止めたのなら後は嵯泉がカタをつけるさ
さァ、貴様も龍だというのなら
――竜殺しの刃、とくと味わうが良い



●灰の龍、金の刃
「龍なんだか鳥なんだかはっきりしない奴だなあ」
 あまりに明瞭明快な、ニルズヘッグ・ニヴルヘイムの初見の感想だった。
 鷲生・嵯泉も同感の様子で、手袋を嵌めた手で顎を擦る。
「まあ何方でも構わんだろう、どうせ倒す相手だ」
「ま、それもそっか」
 適度に緩めていた緊張感を、再び取り戻す。
 すべきことは決まっている。それこそあまりにも単純で、わかりきっている。
「ともかくこいつが原因なら、ぶちのめしてやるだけだ」
「では奪ったものを返して貰うとしよう」
 ふたりの眼差しが注がれるのはただ一点。
 他の猟兵たちの攻撃を受け続けているフェニックスドラゴンは既に数多の傷を負っているが、尚も苛烈な炎と存在感は衰えることを知らない。
 寒風が吹けども熱い竜神の神力を肌で感じる。
 ニルズヘッグは僅かに吐息を噛むものの、躊躇いなく腕を揮おうとする。
「この身も紛いではあるが、本物を喚ぶことは出来る」
 目の奥がちりりと炙られるように痛む。
 だが臆さない。
 テンポの乱れた風、風。光を抱かぬ夜を焦がす。その直下、中心に佇む男の灰燼の髪が翻る。
 呼び出だすは骸魂・ニーズヘッグ。
 呪詛を糧として顕現せしめる龍を今、此処に。
「真の竜というものを見せてやろう──来い、【“Níðhǫggr”】」
 この体、少しだけ貸してやる。
 その声は果たして音になったか否か、判別する者はいない。
 戦場に聳えるは要塞の如く。
 骸魂と合体し一時的にオブリビオンの龍となった、ニルズヘッグがそこに居た。荘厳にして雄大な居住まいで嘯く。
「怒りを抑えなくて良いのは心地良いからな」
 笑みが転がるような響き。骸魂と融合したからとて、人としての理性は損なわれていないと知れただろう。
 故に、だからこそ、ニルズヘッグは己の中に厳命する。
「だが嵯泉は傷付けるなよ。その男こそ、真に悪に堕した我が身を殺める者」
 視線を落とせばそこに居る。
 頼もしき盟友に、全幅の信頼を置く。例え何かに呑まれそうになっても、万一己が己を見失おうと、彼がいれば魔道に堕ちることもない。
「私を『ひと』に繋ぐ、最たる楔である」
 事実を差し出したにしてはあまりにひたむきな言葉であった。
 嵯泉はそれを咀嚼するも、真直ぐに呑み込みもしない。微かに落ちた吐息は、どうにも冷えた空気に馴染まない。
「紛いと嘯けど私にとっては唯一の竜」
 邪なものではない。贋なものでもない。
 友を紛いと言い捨てることなどしないと、柘榴の眼が確りと訴える。
「此の刃を向ける事なぞしたくはないが、決して違えられぬ約定でもある。唯今は「邪竜」をひとの傍らへと繋ぐ軛として此処に在ろう」
 共に戦場を往く決意が、ふたりを縁の鎖で結び付けている。
 それを狙いすましたかのようにフェニックスドラゴンが焔を差し向ける。
 瞬きの間に距離を詰める灼熱の光線。夥しく天から降り注ぎ地を穿つ。霜の降りた大地をそのまま蒸発させるほどの熱量だ。
 だがそれを一瞥し、ニルズヘッグは冗談を笑い飛ばす風情で言う。
「熱線如きで呪氷の竜が殺せると思うな」
 嵯泉もまた覇気を吐く。友に方向を顎で指し示し、鋭い視線で一点を見極める。
「──弩炮峩芥、刃に充ちよ」
 刀を抜いた嵯泉が体勢を低くし、居合切りの要領で一気に剣閃を放つ。術式を打ち砕く氣を乗せた刃が、ニルズヘッグの呪詛と交差する。
 逃れることなど許さない。
 熱光線がニルズヘッグと嵯泉両方を撃ち抜かんとした間際、硝子を槌で割るような甲高い音が響いた。
 氷面鏡と呪詛を重ねた霊幕が、届く前に壁となっているのだ。更に光線が射貫くただ一点に目掛けて、嵯泉の一撃が放たれている。衝撃が相殺され、熱光線の敢行を許さない。
 光線が乱反射し、周囲に閃き霧散していく。熱なき幽世に奔る、焔の名残。
 無事だ。
 龍と化したニルズヘッグのみならず、傍らにいる嵯泉も。何度も凌げるとは限らないが、少なくとも今の攻撃はほぼ完全に防ぐことに成功している。
「お前ばかりを盾には出来ん、幾らかの援け位には為らねばな」
 余裕を持った武人としての冷淡ではなく、肩を並べる相手への敬意と信頼に満ちた呟きになった。
 龍の姿となったとて、嵯泉の言葉が喜ばしいことに違いはない。
 ニルズヘッグは小さく笑みを噛み殺し、尾を叩きつけることでフェニックスドラゴンが体勢を整えるのを阻んだ。
 その一手にも当然氷と呪詛が含まれており、灰に曇った凍気が四肢を蝕む。炎のむすめの半身は動きが鈍り、思うように動かせていない。むしろ時が進むにつれ氷結の戒めが徐々に広がっていく。
「動きを止めたのなら後は嵯泉がカタをつけるさ」
「そういうことだ。整えられた機会を逃しはせん。氷獄の竜に因る呪詛と氷をたらふく味わった事だろう」
 太刀を上段に構えれば、刀身が透く氷の色を反射し煌めいた。
 切っ先が狙う相手は決まり切っている。
 敵の悉くを仕留めるそれは、天網恢恢疎にして漏らさずという言い回しが相応しい。
 続いた声が寸分違わずに重なる。
「ならば──次は刃の味を知るが良い」
「さァ、貴様も龍だというのなら──竜殺しの刃、とくと味わうが良い」
 不死龍の元へ一足飛びで肉薄する。
 真直ぐに速く重い斬撃を振り下ろし、全霊の力を籠めて纏う炎ごと断ち切った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
へぇ、暖めてくれるって?
ケド奪ったモノじゃあお断りカシラ

服装はそのまま、くーちゃんの飛行状態は解いて地に立つ
喰らった分得た熱が冷めぬ内に行きたいわネ
囲む羽は模様から軌道読み*見切り致命傷は避けつつ
*オーラ防御で弾き*激痛耐性で凌いでこう
勿論無駄に攻撃受けた訳じゃナイ
*カウンター狙い【黒喰】発動、周囲へ向けくーちゃんを解き放つわ
さあ、ぜぇんぶ食べちゃって

くーちゃんが羽を喰らう隙つき敵へと肉薄
喰らい損ねた羽は気にせず突っ込み
「牙彫」振るい斬りつけ*捕食、その*生命を頂いてきましょ
*2回攻撃でもう一度深く刃を差しこんで
奪われる*恐怖を与えるってのもイイかしら

ねぇその熱、あるべきトコに返しなさいな



●呑み込むならば毒までも
「へぇ、暖めてくれるって?」
 思わず口許に手を添えながら首を傾げる。
 が、別に相手の意向を理解しようとしたわけではない。その必要もない。義理もない。
 だからコノハ・ライゼは軽い口振りながらあっさりと言い捨てた。
「ケド奪ったモノじゃあお断りカシラ」
 ──その熱は、アンタのモノじゃない。
 この幽世より尚冷めた、薄氷の瞳が眇められる。
 攻勢に回っている間はともかく、間合いを取ればすぐに冷気に体温を奪われる。故に上着とマフラーは麒麟戦のまま、黒影の管狐の飛行状態だけ解いて地に降り立っておく。
 飛び交う炎の羽根が周囲を燃え上がらせるも、寒風がそれを鎮めるのもあっという間だ。
 冷めきらぬうちに、打ち崩すしかない。
 視線で焔羽の軌道を追う。動線こそ複雑だが、描かれる幾何学模様には法則性があると気付き、コノハは一歩半前に進み出る。微かに肩を掠めるも、さっきまでいた場所で火花が躍った。
 行けると腹を括れば話は早い。
 続けざまに降り注ぐ火の驟雨の中を、霊光で守りを刷いた状態で駆け抜ける。多少の火傷は奥歯を噛んで耐えきる。
 蓄積する熱と痛み、その動きを頭に叩き込みながら機を狙う。
 フェニックスドラゴンも他の猟兵たちからの猛攻を経て疲弊しているのは明らかだ。形勢を逆転させようと真直ぐに灼熱の羽根が射出されたのを見極める。
 隙を縫う。
 反撃に転じる。
 コノハは悠然と口の端を上げる。
「さあ、ぜぇんぶ食べちゃって」
 無駄に攻撃を受け続けたわけではない。フェニックスドラゴンの渾身の一手を目掛け、管狐を疾駆させる。
 羽根の先端を包むように影が伸びる。雁字搦めに絡んで重ねて呑み込む。
 封呪の雷が迸り爆ぜ、後には何も残らない。欠片もすべてご馳走様とばかりに。相殺に成功したのだ。
 すかさず身を滑らせた。一気に距離を詰め不死龍のむすめの懐に入る。
 近接して相対する。海象牙の柄を握り、手中で回転させ腹に突き刺した。
 貫いた状態で更に刃を捩じり、穿つ。
 春泪夫藍が焔のいのちを飲み干さんと咲き誇る。
 奪われるというものがどんな感覚か、その身を以て知るがいい。
 コノハは間近で、むすめの灼眼を見据える。
「ねぇその熱、あるべきトコに返しなさいな」
 いっそ陶然とした囁きになった。
 だってそれは──アンタのモノじゃないって、わかっているデショ?

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
麒麟。鳳凰。竜神。
なるほど、流石は幽世ね。
うしなわれた伝承のオンパレードじゃない。
物珍しいけれど、べつに観光に来たわけでは、……来たわけでは、あまりないのだけれど。あまり。
第一義はお仕事だけれど、折角の機会を逃す手はないのよ。

……、ねえ。
おまえ、もとの自分は憶えているの。
在り様を歪められて、何を望んでいたのかも忘れてしまったのかしら。

此の熱が妖怪でも神様でも、些末なことよ。
踏み込んで、在るものを斬るだけ。
過ぎた熱は冷ましましょう。

何度生まれ変わってくれても良いわ。
何度だって斬ってあげる。根競べといきましょう。
その力、存分に見せて頂戴。
かみさまだってちゃあんと斬れるのだと、証明しましょう。



●神を斬る
 花剣・耀子はフェニックスドラゴンの焔が潰えるであろう間際を、眺めている。
 確かに備えていたはずの神気は妖気と堕ち、それすら絶やされるのはもうすぐだ。
 思い馳せる。
 麒麟。鳳凰。竜神。
「なるほど、流石は幽世ね。うしなわれた伝承のオンパレードじゃない」
 耀子の青目が、戦場とは不釣り合いなくらいに和らぐ。
 対UDC組織で育ったからだろうか。異形というものは近しいものだし、興味が携えられているのもほんとうのことだ。
「物珍しいけれど、べつに観光に来たわけでは、……来たわけでは、あまりないのだけれど。あまり」
 誰ともなく言い訳を呈し、小さく笑って前に出る。
 第一義はもちろんお仕事。
 ただ、折角の機会を逃す手はない。
 燃え損なった炎の羽根が、地面の霜を融かす様を見ている。
「……、ねえ」
 不思議と労わるような声になった。
 耀子は続けて問いかける。
「おまえ、もとの自分は憶えているの」
 神獣ではなく、骸魂ではなく、オブリビオンではなく、その真ん中にいるむすめに問いかける。
 僅かに虚ろな眼差しが彷徨って、耀子に焦点を合わせようとする。
 そこに居るのはフェニックスに取り込まれた、哀れな竜神の少女であった。
 ただ、わかったのはそれまでだ。憶えているとも憶えていないとも言わず、肩を震わせている。
「在り様を歪められて、何を望んでいたのかも忘れてしまったのかしら」
 吐息と共に推測するも、あながちそれは間違っていないのだろう。
 望んだものがいのちの熱か、本来の自分という光なのか、それすらもわからないのだろう。
 そんな気配を察してしまったから。
 耀子は布を取り去り、残骸剣の柄を握る。
「此の熱が妖怪でも神様でも、些末なことよ」
 どちらでもいい。どちらでなくてもいい。
 耀子の面差しは凪いでいる。
 ひとたび瞼を閉じて、それから、それから。
 ゆっくりと目を開けた時には迷いなんてかけらもない。
「踏み込んで、在るものを斬るだけ。過ぎた熱は冷ましましょう」
 少女の気配が戦慄いた。
 最後の力を振り絞るように炎翼が燃え上がる。苛烈な業火の中から、傷を持たぬもう一人の少女が顕現する。
 不死の筈の不死鳥が、己の死を否定し再び不死を証明しようとしている。耀子にはそんな風に見えた。恐らくそれは少女ではなく骸魂であるフェニックスの生存本能だ。
 少女がひとりで凍えているのだと、正確に理解する。
 耀子の胸裏に波紋が広がっていく。つい深くため息をついてしまった。
「何度生まれ変わってくれても良いわ」
 刃を上段に構える。
 揺るがぬ視線で少女を射貫く。
 囚われてしまった螺旋に縛られて動けないのなら。
「何度だって斬ってあげる。根競べといきましょう」
 耀子の声に詭弁の彩は宿らない。
 褪せないひかりを、見出そう。
 心配なんて何もいらない。
「その力、存分に見せて頂戴」
 ──かみさまだってちゃあんと斬れるのだと、証明しましょう。
 冷え切った地面を蹴った。残り火の迸りにも構わずに駆けた。
 無傷なのに傷だらけの少女に肉薄する。上段から一気に振り下ろす。
 そこに在るものだから斬れる。
 傷んだこころを。
 霊魂を。
 歪んでしまった業だけを。
 斬る。
 その終わりを目を逸らさずに見届ける。炎が空気を燃やせなくなる、最後のひとひらになるまでずっと。
「──……!」
 焔が尽きる瞬間、地に広がった灰燼から、ひとりのむすめが耀子の腕の中にくたりと倒れ込んできた。
 飲み込まれた妖怪である竜神の少女だと、周囲の猟兵たちも察する。
 不意に、耀子はある逸話を思い出した。

 不死鳥は、みずから灰の中から甦るのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『祠参り』

POW   :    周囲を掃除し、祠もピカピカに磨き上げる

SPD   :    美味しいお酒や料理を用意し、お供えする

WIZ   :    心を研ぎ澄まし、静かに祈りを捧げる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●かがようおんど
 幽世に熱が取り戻される。
 すべて一気には温度が戻るはずもなく、徐々に少しずつ雪や氷や霜を溶かしていくのを待つしかない。だが遠からぬうちに、夏を迎える間際の清々しい気候となるだろう。
 一日中太陽の沈まない夜がやってくる。
 所謂白夜というものだ。この幽世では、この時期はずっと太陽が地平線の近くにあり、薄明かりの夜が続いていくのだ。昼間の延長というよりも、黎明や黄昏が長いという表現が正しいだろう。
 湖畔にて、水面の境界で穏やかに燃える橙色。
 清廉でありながら空に映える光の帯。
 雲を刷き、どこまでも広がっていく薄い青色。
 それは凍っていた空に太陽を落として、ゆっくりと融けていく様子を見ることに似ている。

 その湖畔の祠では、ごくささやかな祭りが催されている。 
 湖の女神に感謝を捧ぐ夏至祭──湖畔でゆっくり寛ぎ、互いの熱を確かめ合う。ただそれだけの祭りだ。
 妖怪たちも集まっているからすぐわかるだえろうけれど、場所に迷ったなら篝火を目印にするといい。
 湖畔で、大人数で囲むのにも十分な大きさの篝火。それは『悪霊や悪運を駆除し、夏の到来を祝う』ために焚かれている。誰であっても歓迎するあたたかさを湛えているだろう。
 カクリヨファンタズムの中でも、地球でいうところの北欧に近しい文化を持っているらしい。住んでいるのも西洋妖怪が多そうだ。その姿もちらほらと見られるはず。
 寒くはない。暑くもない。
 その真ん中で、柔らかな温度に逢いに行く。

 さあ、白夜のひと時をどうやって過ごそうか。
 芝生もあるし、岩場もある。気になるのなら大判のブランケットを敷けばいい。座って過ごすだけでもきっと格別な時間が得られるだろう。
 腹ごなしがしたければ、妖怪たちが差し入れてくれる軽食を味わおう。
 採りたてのいちごやビルベリーは瑞々しさが格別だし、それを摘まむだけでも舌を楽しめる。
 この夏至祭でよく食べられているのは、焼きたてのシナモンロールだ。小さめに作られているから食べやすい。コーヒーを合わせるのが鉄板だが、苦手な人間にはカモミールティーも振舞ってくれるとか。
 もしもう少し食べたいと望む者がいれば、マッシュルームのクリームスープに蒸したじゃがいもを添えて供してくれるはずだ。
 篝火にあたりながら、これからの夏に思い馳せるのもいい。祓いたい悪運があるなら、火にくべてしまうのもご一興。
 あるいは、穏やかな湖に触れたいならそれでもいい。足首くらいまで浸かる程度のところなら、歩いたって咎められない。凪いだ水辺で夜と昼のあわいを揺蕩うのも、きっと悪くない。

 肩を並べて熱を分け合うのなら──それが太陽でも、隣の誰かでも。
 あたたかいものをきっと得られるに違いない。
 暮れない夕暮れ、明けない暁。
 その真ん中で、きらめきゆれる温度に逢いに行く。
ベスティア・クローヴェル
【花】
※愛称はベティ
1日中太陽が沈まない日があるなんて、考えた事もなかった
手招きする七結の元へ歩きながら、こんな不思議な日に二人と過ごせる事を私は嬉しく思う

語り合う二人の言葉に耳を傾けていると、自然と頬が緩む
時間が流れるのは早いけれど、楽しかった思い出が色褪せる事はない
あの庭で語り明かした時のように、今日の事もきっと「つい昨日のことのようだ」と笑い合える
だよね、花世?

夏は太陽が一番輝く季節
だからきっと二人の夏は、太陽のようにキラキラと輝いて充実したものになるよ
私はそんな二人を見ることが出来れば十分

夏が終われば冬が来て、そしてまた夏が来る
何度でもこうして皆で語り合えたらいいな
本当に、そう思うよ


蘭・七結
【花】

暮れと明けをしらない不思議な時間
ふわふわブランケットを褥とし
お二人を手招きましょう
カヨさん、ベティさん、此方よ

焼きたてのシナモンロールは如何?
ぴりりと香るシナモンが癖になりそうだわ

ふふ。がーるずとーく、というものね
かつて花の庭にて語らったこと
やさしいひと時が、つい先日のよう
時は流れ季節は移ろう
うららかな春は去り、もうすぐ夏がくるわ
お二人はどんな夏を過ごすのかしら

わたしはまばゆい彩を見映したい
此度の夏は、ステキなものに出逢えそうなの

身を寄せて笑い、語らって
ニガテな寒さなど気にならない
このひと時が終わりを迎えたとしても
何度でも、何度だって
花の縁を結いだあなたたちに出逢いたい

嗚呼、あたたかいわ


境・花世
【花】
ふふ、さすが七結 、とびきりの乙女の宴だ
シナモンロールに熱い珈琲を添えれば、
お酒がなくたってだいじょうぶ
華やぐお喋りに、ときめく鼓動に酔えるから!

去年の夏もうんと楽しかったね
七夕に吊るした願いも、並んで見上げた花火も
今もわたしの中にきららかに咲いているよ
その隣に新しく植える花は、どんな彩がいいだろう

ぱちりとベティの赤い眸と視線が合えば、
おんなじ気持ちだと伝わった気がしてくすりと笑う
ねえ、また、きみたちと一緒に
次は、まだ、知らない世界の夏を見てみたいな

生まれゆく季節の淡いひかりが、
乙女たちの白い頬を柔らかに照らすから
なんだかくすぐったくて、笑いが止まらないや



●花咲くころに逢いましょう
 暮れと明けをしらない不思議な時間。
 時が凍ったようにも思えるのに、そこには確かな温度がある。
 それを分かち合うことが出来る相手がいるのだから、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は淡く微笑みを灯した。胸に宿るぬくもりを噛みしめるように実感する。
 太陽に撫でられていたようにも感じられる、ふわふわなブランケット。今宵のむすめたちの褥だ。それを片方の手で手繰り、もう片方の手でふたりを手招くとしよう。
「カヨさん、ベティさん、此方よ」
 繊手がひらり蝶の如く誘う。
 ベスティア・クローヴェル(没した太陽・f05323)と境・花世(はなひとや・f11024)は歩みを進め、七結を真ん中に挟むような格好でブランケットに腰を下ろす。
 花世はとっておきの輝石を見つけたように笑みを転がす。
「ふふ、さすが七結、とびきりの乙女の宴だ」
 視線を交わせば華やぐ空気。
 これからがしあわせなひと時であると、もはや約束されているようなもの。
 海のように波が寄せては返すというわけではないから、心地よい静寂が場を満たすばかりだ。
「一日中太陽が沈まない日があるなんて、考えた事もなかった」
 ベスティアの赤の眼差しが、近付けど融け合わない空と湖の狭間を見詰めている。
 沈まぬ太陽。
 見方によれば不自然にも思われる光景かもしれない。なのに暮れなずむ幽世は、只管に優しい。
 違和というより、不思議だと素直に思う。
 こんな日にふたりと過ごせることが嬉しいとも、思う。
 そんなベスティアの柔い歓びは、言わずとも七結と花世にも伝わっている。
「焼きたてのシナモンロールは如何?」
 七結が指先でシナモンロールを割れば、微かに白く湯気が上った。
 ふたりに先んじてちいさく食めば、口中に小麦の甘さとシナモンの芳香がふわり広がる。
「ぴりりと香るシナモンが癖になりそうだわ」
 七結に倣って、ベスティアと花世もシナモンロールを千切ってみる。まだ仄かにあたたかいそれを頬張ると、身体にじんわり温度が染み渡るようだ。
 熱い珈琲も一緒に胃に落とせば、酩酊に似た何かが心臓をさいわいに染める。
 お酒がなくたってだいじょうぶ。
「華やぐお喋りに、ときめく鼓動に酔えるから!」
 花世がはにかんで告げれば、ベスティアも七結も首肯する。
 悠久に似た、夜を知らぬ紫苑の宵。
 他愛無い話をした。砂糖とスパイスと素敵な何かを分け合うことは、夏に駆けていくための靴や、髪を飾る花を選ぶ時と同じような高揚を彷彿とさせる。
「ふふ。がーるずとーく、というものね」
 かつて花の庭にて語らった景色が、七結のまなうらに焼き付いている。やさしいひと時が、つい先日のことのようだ。
 思い出話もした。三人で渡った季節はいつだって眩しい。
「去年の夏もうんと楽しかったね」
 花世の声は弾むばかり。
 七夕に吊るした願いも、並んで見上げた花火も。暑いだけではなくて瑞々しい記憶ばかりだ。
「今もわたしの中にきららかに咲いているよ」
 そっと胸に手をあてて、花世は噛みしめるように囁いた。
 その隣に新しく植える花は、どんな彩がいいだろう──そんな風に思い馳せるだけでも、楽しい。
 次々と捲られる思い出のスケジュール帳。時間が流れるのは早い。ただ掠れはしない。楽しかった記憶が色褪せる事はない。
 ベスティアの笑みが零れた。
「あの庭で語り明かした時のように、今日の事もきっと『つい昨日のことのようだ』と笑い合える」
 首を傾げながら問えば、青銀の髪がさらりと肩口に落ちた。
「だよね、花世?」
 ぱちりとベスティアの赤い眸と視線が合った。
 花世のくちびるがくすぐったさで緩む。おんなじ気持ちだと即座に理解が及ぶことが嬉しい。
「時は流れ季節は移ろう」
 呼び水みたいな七結の囁き。
 話題が過去を振り返るものから、未来を想像するものへと移り変わる。
 白夜のきざはしでこれからを思い描く。
「うららかな春は去り、もうすぐ夏がくるわ。お二人はどんな夏を過ごすのかしら」
 例えばそう、自分ならば──。
 七結は口許に手を添えながら、秘密を分け合うように言う。
「わたしはまばゆい彩を見映したい。此度の夏は、ステキなものに出逢えそうなの」
 確信に似た予感。
 花世はつい身を乗り出すようにして提案する。
「ねえ、また、きみたちと一緒に」
 新しい日々に共に飛び込めたらきっとしあわせ。
 猟兵として世界を越えていく。今もこれからも、ずっと。
 とはいえ今芽吹いた願いは、猟兵としてではなく乙女としてのものだ。
「次は、まだ、知らない世界の夏を見てみたいな」
 熱が籠った声音になった。
 その様子がいとおしく思えて、ベスティアの言葉は存外なめらかに滑り落ちる。
「夏は太陽が一番輝く季節。だからきっと二人の夏は、太陽のようにキラキラと輝いて充実したものになるよ」
 予言に似た希望。
 花のむすめたちを見遣り、ベスティアは穏やかに言い添える。
「私はそんな二人を見ることが出来れば十分」
「ええ? ベティも一緒のほうが絶対いいよ」
「見るだけではなくて、三人で夏に逢いに行きましょう」
 花世と七結がほぼ同時に声を重ねたものだから、ついつい三人で顔を突き合わせて笑ってしまった。
 生まれゆく季節の淡いひかりが、乙女たちの白皙の頬を柔らかく照らす。
 花世はくすぐったさに溺れそうになって、今一度笑顔を咲かせた。
「夏が終われば冬が来て、そしてまた夏が来る」
 それが自然の摂理で、同じようで同じでないもの。
 自分でも不思議だった。ベスティアが語るいつかの話に憂慮はない。謝罪もない。
「何度でもこうして皆で語り合えたらいいな。本当に、そう思うよ」
 同意の代わりに、七結はそっとベスティアに身を寄せる。
 笑顔はしあわせの種だと誰かが言っていた。
 いつか花開くその時を心待ちにしていたら、苦手なはずの寒さも遠ざかる。
「このひと時が終わりを迎えたとしても」
 白夜の果てで、夜と朝が廻っても。
「何度でも、何度だって、花の縁を結いだあなたたちに出逢いたい」
 出逢えたらいいとは言わなかった。
 縁を紡いで編み上げて、何度でも繋ぐのだ。
 七結は長い睫毛を伏せながら、宿る熱の在処を知る。
 ──嗚呼、あたたかいわ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春霞・遙
北欧へは行ったことがないですが、夏至の火祭りは自分が扱うまじないで謂れを借りてますし気になってます。いずれUDCアースでも観光してみたいですね。
一年で一番昼の長い日。熱量が増して草も木も活力に満ちる日。そんな日に採れた草の露には病を癒す力もあるとかなんとか。何とも神秘的ですよね。

湖のほとりで、可能ならばハーブや薬草を摘んだり、花や草でリースを作ったりしたいです。
それに関して結婚や恋愛に関する占いやおまじないもあるそうですが、色恋には縁がないので装飾品として飾っておきましょう。



●繋がる縁、廻る明日
 まっさらな新しいものが生まれるような、余計なしがらみを捨ててあるべき姿に還るような。
 何とも言い難い感慨を抱きつつ、春霞・遙は景色を眺めていた。
 UDCアースにおいても、北欧へ赴いたことはない。ただし夏至の火祭りは、遙が用いるまじないの謂れに通じるものだ。慕わしくも近しいその温度に逢うため、いつか実際に訪れることが叶えばいい。
 一年で一番昼の長い日。湖畔の水面、空と湖の境界を融かす壮麗たる彩を一瞥し、遙は踵を返す。
 向かったのは祠にほど近い草むらだ。
 日が長い分、備わる熱量が増している。草や木や、あらゆる自然が活力に満ちる日。
「そんな日に採れた草の露には病を癒す力もあるとかなんとか。何とも神秘的ですよね」
 口許に小さな笑みを零して、地面に膝をつく。見渡せば周囲には様々な草花が揺れている。
 雑草もあるものの、時折ハーブや薬草も生えていた。それを選り分けて摘んでいく。必要な分が確保出来たなら、次に手を伸ばしたのは可憐な花であった。
 指を操り、リースを作り始める。花と草、近くに蔓もあったから材料には事欠かない。
 胸裏に思い描くは、それにまつわるおまじない。結婚や恋愛に関するものもあったはずだが、あいにく色恋には縁遠い性分だ。
 だからこれはただその様を慈しむためのものであっていい。
 飛び切り可愛らしい一輪を、いちばん目立つところに飾ってやる。遙は柔らかく笑み、双眸を細める。
 項で括ったダークブラウンの紙が、白夜の風によって翻っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
オズ(f01136)と

うん、そうだねえ
ふふ、俺らは大人なんだから
夜に遊んでてもいーんじゃないの?

俺の好きなものだと分かっていてはしゃぐ
そんな姿に緋を細め後を追う
待てって。食べる

おーほんとだ、うまい
なぁんかいろんな世界の苺
制覇できちゃいそーネ

どうしたと尋ねる前に楽し気に駆けて行く姿
凪いだ水辺が揺れ、きらきらと光る
返事はせずに靴を脱ぎ、ゆっくりと追う
導かれるまま踏み入れて

うわぁ、まだちょっと冷たいじゃん
言葉とは裏腹、声は楽しげにその手を取った

オズ
名を呼んで笑みが降ったなら
ちょっとだけ水を蹴り上げ
子供みたいに笑って
おわ、真似すんなし!あははっ

もしまだ吐息が白く濁ることあっても
お前の隣はこんなにも――


オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

まだ夜じゃないみたい
ふふ
夜じゃないからあそんでていい
自分に許可を出すみたいに言う

そっか、おとなだっ

アヤカ、いちごっ
いちごだってっ
手をぶんぶん振って
いちごくーださーいなっ

おいしいっ
ほんとだ。全部の世界のいちご、たべたいね
栽培がむずかしそうなところはどうしようか、まで考え巡らせ

湖がきらり光るのを見つけたら駆けだす
ぱぱっと靴を脱いで
冷たい水に足を浸して

アヤカっ
アヤカに手を伸ばす
水が苦手なことも覚えてるけど、アヤカはきっと手を取ってくれる
そう思うから尋ねない

ぬくもりに綻ぶ
冷たい世界でも、熱い場所でも
かわらずあたたかい

なあに?
わっ
飛沫に目を細めて
ふふ、わたしもっ
真似して蹴り上げて



●苺と水ときらめく光
 夜だけど、夜じゃないみたい。
 群青の空に橙が刷かれる。中間地点になる雲はアイリスの彩。掠れる薔薇色。
 オズ・ケストナーが微笑みを掲げている。
「ふふ。夜じゃないからあそんでていいよ」
 それは己にとくべつな許可を出すような口吻だった。
 傍らの浮世・綾華もつられるように双眸を緩める。「うん、そうだねえ」なんて声で寄り添いながら。
 お揃いの笑みの呼気をゆっくりと噛みしめて、提案めいた響きで言う。
「ふふ、俺らは大人なんだから、夜に遊んでてもいーんじゃないの?」
 弾けるように顔を上げたオズも、頬に喜色を咲かせて納得顔。
「そっか、おとなだっ」
 おとなだから、もうしばらくは明るい夜の下で過ごそう。
 湖のほとりをそぞろ歩きしていたら、幻獣めいた西洋妖怪が小さな手提げ籠を振舞っている姿が見えた。
 すれ違った猟兵が落としていった「苺を分けてもらえるらしいよ」という言葉で、オズの表情がますます明るくなる。
「アヤカ、いちごっ。いちごだってっ」
 待ちきれなくて小走りになる。オズは手を大きく振って西洋妖怪に駆け寄った。
 手提げ籠には摘みたてらしき瑞々しい苺が肩を並べている。
「いちごくーださーいなっ」
「じゃあ特別に多めの籠をあげようか」
 溌溂としたオズに、西洋妖怪はそっと手提げ籠を差し出してくれた。
 その様子を眺めていた綾華の胸裏にあたたかい熱が宿る。
 オズがはしゃいで苺を求めたのは、綾華の好物だと知っているからだ。
 緋色の眼は自然と細められて、手招くオズを優しく映している。
「こっちでたべようっ」
「待てって。食べる」
 先往くオズの背をゆっくり綾華が追っていく。見守るような風情になりながら、オズが決して自分を置いていかないことも知っていた。
 適当な岩場に腰かけて、一緒に籠を覗き込もう。一粒ずつ摘まんで、蔕を取って口に運ぶ。芳しい香り、噛んだ途端に広がる甘味と酸味。たまらず互いの頬が綻んだ。
「おいしいっ」
「おーほんとだ、うまい。なぁんかいろんな世界の苺、制覇できちゃいそーネ」
「ほんとだ。全部の世界のいちご、たべたいね」
 比較的どの世界でも見かける果物だ。「栽培がむずかしそうなところはどうしようか」「あー、アポカリプスヘルとかどうだっけ」なんて首を傾げながら苺を食べ進める。
 他愛無い話とあたたかい時間を分け合うだけで幸せはいつだって満杯だ。
 籠の底に数粒だけ苺が残る頃合いで、キトンブルーの瞳が湖面で揺らめく光を見つけた。
 綾華がどうしたと問う前に、オズはぱぱっと靴を脱いで湖へと駆け出した。
 オズは水際に立って、そうっと足を差し出した。先程まで零下の環境であったせいか、水は冴えるように冷たい。
 けれどだからこそ、自分が持つ熱を再認識出来る心地だ。
 オズが足先で軽く水と戯れるたびに、凪いだ水辺が揺れて光の欠片が零れる。硝子にも輝石にも似て、澄んだ色をしている。
「アヤカっ」
 真直ぐに手を伸ばす。
 綾華は苺は好きだけれど、水は苦手なことを覚えている。
 ただ不思議と、手を取ってくれる気がしていた。
 故に名を呼ぶ以上の誘い文句は弄さない。ただその存在そのもので、綾華を歓迎していることを示す。
 綾華も返事はしなかった。
 しかし同じように靴を脱ぎ、籠の近くにふたりの靴を揃えて並べておく。
 ゆっくりと歩を進めて、導かれるように湖に踏み入る。
「うわぁ、まだちょっと冷たいじゃん」
 声が跳ねる。とはいえそこに嫌悪の色はなく、ただ楽しげに弾むばかりだ。声と態度で、優しい手を取ったのだ。
 しばらくそうして、ちいさな水遊びを楽しんでいた。次第に湖水の温度が身体に馴染む。
 ぬくもりに綻んだのは、果たして笑顔だろうか心だろうか。
 冷たい世界でも、熱い場所でも、──きみといるなら、かわらずあたたかい。
「オズ」
 呼び声で、感慨から引き戻されたように顔を上げる。
「なあに?」
 オズが笑みを灯したところで、綾華が足先に水を引っかけて蹴り上げる。不意打ちだ。
「わっ」
 綾華のしてやったりという不敵な笑みと、きらめく飛沫に目を細められる。
 だからオズも負けじとばかりに水面を蹴り返した。
「ふふ、わたしもっ」
「おわ、真似すんなし! あははっ」
 水が躍る。
 光が咲く。
 最初にこの幽世に訪れた時には想像も出来なかったあたたかさがここに在る。
 もしまだ吐息が白く濁ることがあっても。
 お前の隣はこんなにも──。
 白夜の風が、綾華の想いの先を掬って霞んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻沫

湖畔に腰おろし、見上げた穹は黎明の色
もう深い夜のはずなのに不思議だわ
ねぇ、リル
人魚は嬉しげに黎明色の湖に尾鰭をひたして、ご機嫌に歌を歌ってる
まるで白の鱗に黎明をうつしたようで

これは現か夢幻かなんて
あんまりに美しくて見蕩れてしまう

甘酸っぱいビルベリーを食んで現かを確かめる
あなたにも
あーん
酸っぱい?うふふ!
シナモンロールもあるからこちらにおいで

半分こして食べながら笑顔をかわす
あけない暁に厄もとけていくよう

熱が戻った世界は暖かいわ
けれど
冷たい湖から尾鰭をあげたばかりの
まだ、つめたい人魚のぬくもりが―何よりも暖かくて
私をあたためてくれるの
いつだって温もりをくれる
寄り添う白に花笑むように咲き誇る


リル・ルリ
🐟櫻沫

ふしぎ
お空は今も黎明の色
時をとかして飲み込んだように薄ぼらけを湖面に映す
ひやりと冷たい黎明に尾鰭をひたしぱしゃりとはねれば嬉しくなって、小さく歌を歌う

湖畔を見遣れば、美しい櫻が咲いて微笑んで
嗚呼、しあわせなぬくもりが心に満ちていく
暁に咲く君の、なんと美しいこと
桜が人を惑わせるというのは本当だ

櫻、美味しい?
あかい果実
あーんとお口に頬ばれば、すぱさにピェッと顔を顰める
笑わないでっ
シナモンロール食べる、と機嫌をなおして彼の横
甘やかなのは隣に君がいるから

あったかいなぁ櫻は
隣の熱が愛おしい

嬉しくなってその角にひとつキスを
また咲いた
桜龍の角に春が咲く
彼の歓びの証

黎明は幸せ色の愛に染まって
笑みが咲く



●黎明に咲くぬくもり
 ふしぎ。
 リル・ルリの感慨未満の淡い感情が、空にゆっくりと霞んでいく。
 時をとかして飲み込んだように薄ぼらけを湖面に映す。
 湖畔の桟橋で、肩を並べて腰を下ろしている。
 尾鰭の先を白々明の湖面で跳ねさせれば、雫も跳ねて嬉しくなる。ひやりと冷たい感触すら心躍るから、つい歌を口遊み始めた。
 特等席で見上げる穹は黎明の色。澄み渡り透け往く、よあけの光を知っている色だ。
 それを映し出す湖面は鏡のよう。だが冷たさはない。幽世にあるいのちを抱き、共にあると知れる癒しの水。
「もう深い夜のはずなのに不思議だわ」
 リルの胸裏を読んだような言の葉で。
 誘名・櫻宵は隣のリルに頬を寄せ、耳打ちするように囁いた。
「ねぇ、リル」
 ぱちりとリルが瞬いたのは、声が反響したように思えたから。
 櫻が風にさざめくような、鈴が凛と鳴るような。隣から聞こえたはずなのに、湖にも反射したようにも思える綺麗な響きだ。
 改めて視線を向ければ、美しい櫻が咲いて微笑んでいる。それだけでどれだけ胸裏があたためられることか。
 嗚呼──しあわせなぬくもりが心に満ちていく。
 紅掛空色の暁に咲く最愛の、なんと端麗なことよ。
 桜が人を惑わせるというのは本当だなんて、何度思い知ったか忘れてしまった。
 しかしそんなリルがあどけない微笑みを傾げる様に、目を奪われていたのは櫻宵のほうだ。噛み損なった吐息が淡く零れる。
 湖面に浸る人魚の尾は、その白磁の鱗に黎明をうつしたように思えてならない。
 黎明に囚われたのか、抱かれたのか、取り込まれたのか。
 そのどれでもありそうなのに、どれでもない。現と夢幻の境界なんてとうに見失った。
 彼の美しさを何と喩えようか。
 どんな美辞麗句も足りないようで言葉に迷うのに、見蕩れる瞳ばかりが正直だった。
 櫻宵は傍らの手提げ籠に指を伸ばす。
 青紫色のビルベリーは甘酸っぱいだろうから、現に居られているかどうかを確かめよう。口の中に瑞々しい酸味と夏呼びの甘さが広がる。現実だ。
「櫻、美味しい?」
 リルが首を傾げて覗き込んでくる。櫻宵もくすり微笑みと共に分けっこしようとして、もう一粒を摘まんで差し出した。
「あなたにも。あーん」
「あーん」
 素直に口を開いたリルが頬張った瞬間、ぎゅっと顔を顰めてしまう。すぐに飲み込むことも吐き出すことも出来ず、どうにか咀嚼した時には半分涙目だ。
 着物の袖口を口許に当て、諧謔交じりにくすくす笑む櫻宵はいっそ嫣然としている。
「酸っぱい? うふふ!」
「笑わないでっ」
「怒らないの。シナモンロールもあるからこちらにおいで」
「……食べる」
 すんと鼻を鳴らして、リルは竦ませていた身を宥めて再び櫻宵の隣に戻った。
 焼きたてのシナモンロールを手で割れば、まだつめたさ残る空気に柔い湯気が立ち上る。
 優しい愛しい半分こ。どちらともなく笑顔も交わす。
 あけない暁は、厄を遠ざける和やかなぬくもりに満ちている。舌だけではなく胸の奥まで甘やかなのは隣に君がいるから、ただそれだけのこと。
「あったかいなぁ櫻は」
 あんまり隣の熱が愛おしいから、リルの呟きに実感が籠る。
 それに惹かれて、いとおしくて、湖から尾鰭を引き上げる。桟橋で半身を起こして、桜の枝角に至純なるくちづけを落とした。
 水面に波紋が広がるように。
 櫻宵の角に春が咲く。そして、頬にも朱が咲いた。それは歓びの証だと知っているから、リルは薄花桜の瞳を細めた。
 熱が戻った幽世は暖かい。けれど、冷たい湖から尾鰭を上げたばかりの。
 まだつめたいはずの人魚のぬくもりが──何よりも暖かくて、仕方なかった。耳朶も、鎖骨も、くるぶしも。多幸の温度で満ちている。
 それはいつだって。
 いつまでだって。
 ふたりを繋ぐ希望は何よりもきらめいている。
 夜の悲哀は訪れない。はじまりでもある永遠がどこまでも続いている。
 ぬくもりを分かち合って、黎明は幸せ色の愛に染まる。
 玻璃のように透く白と、爛漫に咲き誇る櫻とが。
 この幽世にあっていっとう綺麗に、花笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉瀬・煙之助
理彦くん(f01492)と
依頼お疲れ様、お腹空いたかなって思って…
お弁当作ってきたよ
といっても、食べるもの結構ありそうだし
理彦くんの好きな稲荷寿司と緑茶だけだけどね
そこの芝生で一緒に食べよっか
(理彦くんに寄り添いながら座り)

怪我はない…?
あるなら治すけど、大きな怪我はしてなさそうで良かった
(水筒から緑茶を注いで渡しながら)
ほんとだ、夜なのにとっても明るいね…!
うん、カクリヨはどことなく僕たちの故郷に似てるから
そんなに違和感ないね

しなもんろーる?
お菓子みたいなパンだね
……うん、ふわふわでとっても美味しいね…♪
珈琲よりは、僕はカモミールティの方にしようかな


逢坂・理彦
煙ちゃんと(f10765)
ふふ、煙ちゃんいらっしゃい。
ん?大丈夫怪我はないよ。
まださっきの名残で寒いから一緒に暖まろうか。
でもその時も煙ちゃんマフラーがあったから暖かかったんだよ。
え、俺の労いに稲荷寿司とお茶?ありがとう一緒に食べようか。

白夜は俺たちの世界では無いからとても新鮮だね。朝も夜もずっと明るいんだって。
でもカクリヨ自体はなんなくしっくりくるかな?
俺が妖狐なのもあるけど。
煙ちゃんも?なんだろう俺達が「妖」よりだからかもしれないね。

えっとね、しなもんろーるももらったから食べようデザートってやつだね。
コーヒーは甘くすれば飲めるんだけど…俺も煙ちゃんと一緒のにしよう。



●身体の中から灯る熱
 闇の陰りが遠い、明るい夜のこと。
 見覚えのあるしなやかなシルエットが、薄く微笑んだように見えた。
「依頼お疲れ様、理彦くん」
 吉瀬・煙之助(煙管忍者・f10765)の柔い声が、逢坂・理彦の狐耳に届く。
 理彦は煙之助の姿を見止めると、ゆるりと金の瞳を細めた。ねぎらいの言葉に応えるように手を上げる。
「ふふ、煙ちゃんいらっしゃい。ん? その包み何?」
「お腹空いたかなって思って……お弁当作ってきたよ」
 何せ同じ猟兵同士、戦闘で体力を消耗することには十分理解が及ぶものだ。煙之助の手にした風呂敷包みの隙間から、竹籠らしき色が見え隠れしている。
「といっても、食べるもの結構ありそうだし。理彦くんの好きな稲荷寿司と緑茶だけだけどね」
「え、俺の労いに稲荷寿司とお茶?」
 へらりと笑みを浮かべた煙之助に、理彦は目をまあるくしてから破顔した。西洋妖怪が用意してくれたものも美味には違いないだろうけれど、やはり慣れ親しんだ和の味には代えがたい。
 だから理彦が否を呈する理由はない。
「ありがとう。一緒に食べようか」
「じゃあそこの芝生がいいかな。座りやすそう」
 煙之助の指先が示す緑に、ふたり揃って腰を下ろす。吐息を噛めば、まだ熱が戻りきっていない冷えた感覚がある。自然と寄り添う恰好になった。
「まださっきの名残で寒いから一緒に暖まろうか」
 身も心も、隣でぬくもりを分かち合いたい。そんな響きの言葉になった。
 理彦は語る。この幽世がどれだけ厳しい寒さを湛えていたか。妖怪のみならずあらゆる命が、いずれ掻き消されるさだめに怯えていたかを。
「でもその時も煙ちゃんマフラーがあったから暖かかったんだよ」
 指先でマフラーを引っ張り上げる。普段は首の傷を隠すために用いるそれ。しかし今回は理彦が凍えないためにも随分役立ってくれた。
 声音に滲む感謝はあまりにもわかりやすくて、煙之助も面映そうに目を細める。
 しかし返す煙之助の視線が気遣わしげなのは、理彦の身を案じてのことだ。まだ発見されて間もないカクリヨファンタズムだ、未知のオブリビオンと相対するにはそれなりの危険がある。
「怪我はない…? あるなら治すけど」
「ん? 大丈夫怪我はないよ」
 まるで『だから心配はいらないよ』と示すように、胸を叩いて理彦が応える。そこに嘘や遠慮の気配はないから、煙之助は安堵の息を零した。
「大きな怪我はしてなさそうで良かった」
 そこでようやく心底寛ぐことが叶う。煙之助が草の上に風呂敷を広げた。しっかりと出汁を煮含めた稲荷寿司は見目からして美味しそう。水筒から緑茶を注げば、すぐそこの湖と同じような水面が揺れる。
 日常的な出来事、この幽世での戦い。
 食べ飲みを進めながら、他愛無い話をしながら過ごそう。胃にもあたたかさが降り積もっていく。
 それをひと掬いして手向けるように、話題は今の空へと移る。
「白夜は俺たちの世界では無いからとても新鮮だね。朝も夜もずっと明るいんだって」
「ほんと、夜なのにとっても明るいね……!」
 二人揃って見仰ぐ空は、時刻でいうととっくに深夜に差し掛かる頃合いだというのに、昼と夜の優しいあわいが広がっている。
 この世界の空気は初めて知るはずなのに、どこか慕わしい気がした。
「でもカクリヨ自体はなんなくしっくりくるかな? 俺が妖狐なのもあるけど」
「うん、カクリヨはどことなく僕たちの故郷に似てるから。そんなに違和感ないね」
「煙ちゃんも? なんだろう俺達が『妖』よりだからかもしれないね」
 数多の妖怪が住まうこの地は、端的に言えば肌が合うのだろう。
 不思議な実感が落ちてくる。ただ、それは決して嫌な感情ではなかった。
 あらかた稲荷寿司を食べ終えた頃、理彦が「ちょっと待ってね」と別の包みを取り出した。
 そこにあるのは鳴門の渦に似た、丸くて甘そうなパンだ。上に砂糖衣がかけられているそれに、煙之助はぱちりと瞬いた。
「えっとね、しなもんろーるももらったから食べよう。デザートってやつだね」
「しなもんろーる? お菓子みたいなパンだね」
 早速食べようとそれぞれを手に取って口に運ぶ。シナモンの独特の良い香り、小麦粉の自然な甘さが味わい深く、ふたりとも頬を綻ばせた。
「……うん、ふわふわでとっても美味しいね……♪」
 煙之助が噛みしめるように呟くから、理彦も同意の首肯を返す。
 本来は珈琲が合うらしいが、煙之助がもらってきたポットにはカモミールティーが入っている。こちらを合わせても格別な味になるのは間違いなさそう。
「珈琲よりは、僕はカモミールティーの方にしようかなって」
 珈琲は甘くすれば飲めるんだけど──なんて、理彦は頭の中で少しだけ迷う。
「……俺も煙ちゃんと一緒のにしよう」
 お揃いがもうひとつ増える。
 何となしにくすぐったくなって、煙之助と理彦は顔を見合わせて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミア・レイシッド
白い夜だわ。
夜であるのに白いのよ。
王様。貴方のいた景色もこのような白い夜が度々あったのかしら。
わたくしにはもう随分と見慣れた景色なのよ。

王様。夜は好きかしら。
わたくしは好きよ。

春の訪れを祝うまつりで王様と出会って、今は夏の訪れを祝っているのだわ。
夏ですって。
足首までの水の冷たさは感じないのだわ。

ここは夜と昼の間。わたくしは夜の者よ。
今の時刻が夜で良かったのだわ。

ねぇ、王様。
わたくしたちあやかしは、なぜ人には見えないのでしょうね。
酷い酷い凪いだ湖は喋ってくれないみたいだわ。
沈黙を貫かないでほしいのだわ。

ねぇ、王様。
わたくしは、人間とお話をしてみたいのだわ。夏に人間と。


(王様は使い魔のカラス)



●白と黒の廻りの向こう
 先程まで幽世が冷えきっていたからだろうか。
 空気はひどく冴え冴えとしている。落ちぬ太陽、奪われぬ熱。
 織りなされる色彩は確かにあるのに、夜の黒には縁遠い。
 ──白夜。
 やはりその呼称を用いることは理にかなっていると、ミア・レイシッド(Good night・f28010)は思わずにいられない。
「白い夜だわ」
 ミアの燃える髪が風に翻る。
「夜であるのに白いのよ」
 青の眼差しが湖畔に注がれるも、その言の葉を向けられているのは別の存在だ。
 黒烏。
 むすめの傍らに居るその翼は、この幽世に於いて殊の外存在感を顕わにしている。
「王様。貴方のいた景色もこのような白い夜が度々あったのかしら」
 吐息に音を乗せ、囁くように尋ねる。「わたくしにはもう随分と見慣れた景色なのよ」と続ける。内緒を分かち合うような声音になった。
 静寂が落ちている。
 染まれど曇らぬ天。遠く聞こえる篝火の火花と、人々のさざめき。しかしそれはこの場の空気を割るに至らない。
 ミアの声がしっかりと響いている。
「王様。夜は好きかしら」
 今度は慕わしいものを明け渡すような声音になった。
「わたくしは好きよ」
 邂逅の日を思い出す。春を迎えた頃の話だ。爛漫の訪れを祝うまつりで出逢った。そうして今は、夏の訪れを寿いでいる。
 一緒に過ごす初めての夏になる。
 ほんの少しだけ、ミアの面差しにいとけない色が宿る。
「夏ですって」
 こうして湖畔で歩を進めるも、足首まで浸った水はつめたいと感じられない。
 夏がやってくる。
 足先を水面に置くと、穏やかな波紋が描かれていく。その向こうに水底まで見渡せるのは不思議な感覚だ。闇の中ではそうはいかない。
 だからといって居心地の悪さは感じない。
「ここは夜と昼の間。わたくしは夜の者よ。今の時刻が夜で良かったのだわ」
 常の黒とは離れていても、夜に在る限り迷子になったりはしない。夏のこれからに思いを馳せることだって出来る。
「ねぇ、王様」
 ミアは問う。
「わたくしたちあやかしは、なぜ人には見えないのでしょうね」
 嘗て地球の過去において、妖怪は文明発達に伴い徐々に認識されなくなってきた。
 あんなに近くにあったのに、今は──。
 ミアは困ったように眉を下げる。
 酷い酷い凪いだ湖は、無言を貫くばかりで喋ってくれやしない。
 どうしようもなく胸の奥の水面に漣を起こしていく。
「ねぇ、王様」
 ミアは冀う。
 くちびるに上らせようとして初めて、己がそう望んでいたと知る。
「わたくしは、人間とお話をしてみたいのだわ。夏に人間と」
 その声は真直ぐに、あかるき白に響き渡る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ドゥアン・ドゥマン
憩う光景を見るのは、好い
骸魂に憑かれていた妖怪達は、無事だろうか
姿があれば、邪魔をせず
ただ静かに、祭りに混ざらせてもらおう
多様な文化を知るのも、生業に重要ゆえ
ゆるりと、手記に書き留めたい

シナモンロール、というのが名物なのか
少し分けて貰えるなら、ありがたく馳走になろう
ふむ…パンの一種だろうか…、甘いのか
渦を巻いた形が魂のようで。興味深い
コーヒーも、…実によい
食し、祝う。…夏の到来とは、生命の祭りのようだ

夜に陽があるのは奇妙な感覚だが…此処もまた、美しき
水面に柔く触れてみたい。…水は冷たかろうか
此岸と彼岸が混ざりあう場所というのは、
確かに、こういう場所なのやもしれぬ
篝火と空と湖とが、溶けあうが如く



●未知の天蓋
 静かな湖畔で猟兵たちが、妖怪たちが、思い思いに過ごしている。
 寒さに肩を竦めていた辛苦が、徐々に融けていくかのよう。
「憩う光景を見るのは、好い」
 ドゥアン・ドゥマンが噛みしめるように、実感を籠めて呟いた。
 眼前に横たわっている穏やかな空気。そんな今を誰もが味わっていればいい。そういえば骸魂に憑かれていた妖怪達は、無事だろうか。気にかかり、ドゥアンは周囲に視線を巡らせる。
 すると、木陰に見覚えのある姿を見つけた。不死龍のむすめ。他の妖怪たちに囲まれて、優しい時間に浸っているように思える。
 陽はもう墜ちない。
 それを理解したならば、ドゥアンの鋭い青眼が、僅かに眇められた。邪魔をするつもりはない。身を翻し歩を進める。己も祭りに混ざらせてもらうとしよう。
 違う世界、違う文明、違う文化。
 多様な在り方を知ることは、骸に関わるものとして重要なこと。墓守の自分にとっても、狩人の自分にとってもだ。
 ゆうりと手記に書き留めることが出来たらいい、そう考えながら篝火の近くまで向かう。
 ある妖怪の前に人だかりが出来ていた。これは何の騒ぎだと近くの妖怪に尋ねれば、焼き立てのシナモンロールを振舞ってくれているらしい。
「シナモンロール、というのが名物なのか」
 頷いた妖怪の瞳は輝いていて、それはもう飛び切りの味なのだと雄弁に示している。
 ならば試してみよう。少し分けてもらえるなら、ありがたく馳走になるとしよう。
 まだ仄かにあたたかいシナモンロールを抱え、適当に座りやすそうな草原に腰を下ろす。空と湖の境界が混ざらずに調和する美しい景色をしばらく眺めた後、シナモンロールを目の前に掲げてみる。
「ふむ……パンの一種だろうか……、甘いのか」
 小麦粉を焼いた時の豊かな香ばしさ、表面の砂糖衣のつややかさ、カタツムリに似た渦巻のかたち。特にその渦巻は、ドゥアンにとっては魂のようにも見える。どうにも知識欲がくすぐられてたまらない。
 そして傍らには深煎りの珈琲。その薫り高さをシナモンロールと共に口に運んだ。
 美味を知った吐息が微睡む。
「……実によい」
 食す。
 祝う。
 紅掛空色に染まる空が、息衝く灯火を寿いでいる。
 廻らずとも留まらず、流転する透徹は生命の息吹に似ている。であれば夏の到来は、生命の祭りのようだ。
「夜に陽があるのは奇妙な感覚だが……此処もまた、美しき」
 その彩は幻想のようでいてそうではないとわかるから、意を決して立ち上がる。水面に柔く触れてみたくなったのだ。
 先程までの零下の寒風を思えば、水はまだ冷たいかもしれない。
 知的探求心に背を押されるままに、ドゥアンは湖に向かって歩き出す。
 足先をそっと湖水に差し伸べる。
 想像以上に冷たかったから、思わず尾が跳ねてしまった。しかしますます興味深げに足を下ろす。少しずつ低温にも慣れてきて、両の足で湖底を踏みしめながら、天を仰ぐ。
 熱と熱の狭間で、佇む。
「此岸と彼岸が混ざりあう場所というのは、確かに、こういう場所なのやもしれぬ」
 篝火と空と湖とが、溶けあうが如くに。
 それを身体中で受け止めて、ドゥアンはゆっくりと瞼を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f03130/コノハさん

薄明の陽を映す凪いだ湖畔
浅瀬に足を浸して
そっと漣立てれば
高天原を歩く心地だろうか

清廉な冷たさを屈んで掬い上げ
再び手のひらから水面に返す雫は
ほたりほたり零れる度に
淡いひかりに耀いてうつくしい
水もまた
あたたかな春に還っていくみたい

いのちの生まれる芽吹きの季節を呼ぶよう
ぱしゃり
足先で水を蹴る

手で弾くより
もっとずっと大きな煌きが
きらきら舞い飛んだ、其の先、

髪に瞳に空色を頂くコノハさんを
水濡れの難に遭わせたのは、

…不可抗力――ですよ?

悪びれもせず首を傾いで宣う
反撃に浴びた水飛沫も白き夜天の彩りだから
私も空に染まれるかしら、と笑って

さぁ
身体を温めに
美味しいスープを頂きに行きましょう


コノハ・ライゼ
綾ちゃん(f01786)と

ああ、あたたかいわネ
沈まぬ陽、笑うヒト、馴染んでゆく気温を思えば満足気に目を細め
綾ちゃんの後追い鏡面に漣を立てる

空に溶けるような錯覚に誘われ深みに進む足を止めたのは
大きな水音、それから
振り返ると同時降る冷たい空色

思わず何度も瞬いて涼しく傾ぐ顔を見る
……そう。なら仕方ないわネ?
穏やかな吐息と共に返すのは勿論、予備動作無しで蹴り上げた盛大な水飛沫
零された言葉もからからと笑い飛ばし

なぁに言ってンの、空の色ならとっくに持ってるじゃナイ
空は万色を抱いてるンだから

でも、足りないというならもういっちょ浴びとく?
ナンて挑発は美味しいスープの前には形無しで
二つ返事、陸へと踵返そう



●いのちの呼び水
 薄明の陽が穏やかだからか。
 湖畔の水面が凪いでいるからか。
 あるいは両方が反響し合って、柔らかくも壮麗な光景が生み出されている。
 鏡合わせにも、正比例にも、別のいきものにも見えてしまう不可思議を揺蕩う。
 都槻・綾(糸遊・f01786)が浅瀬に足をつけ、くるぶしまで浸らせる。ゆるり足先を持ち上げれば漣が立つ。ただそれだけの光景がやけに幻惑めいて、高天原を歩むような心地になる。
「ああ、あたたかいわネ」
 綾の背を追うコノハ・ライゼの足元にも、また漣が重なる。
 沈まぬ陽、笑うヒト、馴染んでゆく気温。零下の極寒を思えばまほろばのような今に、満足気に薄氷の瞳を細める。
 綾を見遣れば、膝を屈めて鏡面に手を差し伸べていた。
 清廉で濁りと縁遠い冷たさを、掬い上げる。
 それを傾け水面に返す。
 雫がほたりほたりと流れ落ちる度に、陽のひかりが反射する。自然が成すサンキャッチャーのような耀きは、只管にうつくしい。青磁色の眼差しが、咲き綻ぶ花を愛でるようにそれを見詰めている。
 季節は夏へと移り変わるのに、水はあたたかな春に還っていくようだ。
 水面は大地、なれば雫はさながら種か。
 いのちの芽吹きを呼ぶように。
 ──ぱしゃり。
 綾が立ち上がって足先で水を蹴った。
 手で生み出すそれよりも幾分大きなきらめきが弾む。水晶の如く目映く。跳んで、散って、弧を描いて。
 その先で。
 まともにそれを受け止めてしまったのは、水音に振り返ったコノハだった。
 空に融けて溺れてしまいそうな錯覚に陥っていたために、即座に状況が飲み込めずにいる。夢魔に囚われたことに気付いて急ぎ覚醒しようとするように、徐々に思考を巡らせる。
 冷たい空色を真正面から浴びたのだと、コノハは三度瞬いてから遅れて気付く。
 髪に瞳に黎明の彩戴く彼を、水濡れの難に遭わせたのは。
「……不可抗力──ですよ?」
 人差し指を口許に当て、綾は涼しい顔して宣った。首を傾げる様に殊勝な色はなく、まるで偶然そうなってしまっただけと言わんばかりの悪びれぬ顔だ。
 髪を手櫛で掻き上げたコノハは、剣呑な風情で口の端を上げる。
「……そう。なら仕方ないわネ?」
 落ちた吐息は穏やかだ。
 が、コノハは予備動作なしで水面を鋭く蹴り上げて、倍返しにしては盛大な水飛沫を食らわせる。
 これまた避ける間などあるわけがない。
 ただ飛び散る露すら、綾にとっては白夜の贈り物。夕焼けと朝焼けのあわいに透けるひかりは、淡い夜空を彩っている。
 顎を撫でて水滴の感覚を認識し、これはもしかしたらと閃いた顔で綾が言う。
「私も空に染まれるかしら」
 揶揄交じりの笑みを見て、思わずコノハも噴き出してしまった。からからと上機嫌に笑い飛ばす。
 互いの睫毛から水滴がしたたり、水面で小さく弾けた。
「なぁに言ってンの、空の色ならとっくに持ってるじゃナイ。空は万色を抱いてるンだから」
 例えば、逆光でシルエットが浮かび上がる緑陰。朧な風景にあって確かな輪郭と趣を持つそれは、綾を彷彿とさせるような気がした。
 でも。
 それはそれとして。
 まだご所望とあればやぶさかではないと、コノハが片足を浮かせて挑むように問う。
「足りないというならもういっちょ浴びとく?」
「いえいえ。さぁそろそろ身体を温めに、美味しいスープを頂きに行きましょう」
 しれっとそう告げて、綾は先導するように引き返し始めた。
 どうにもはぐらかされた感覚はあれど、そういえば先程滋味深い匂いが届いた気がする。その魅惑には抗えなくて、コノハも足の行き先を陸のほうに向ける。それが何より雄弁な返事となった。
 背をあたためる熱に免じて、見逃してアゲル。
 きっと端正な面差しにそんな風に書いてあった。
 空と湖の真ん中でひかりに抱かれるような感覚に溺れる。
 未だ涼やかさを携える空気を肺一杯に吸い込んで、格別な熱を味わいに行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

妖怪たちからブラックコーヒーを貰って、火の傍に腰掛ける
そうだな、冬眠しなくて済みそう
ここ、故郷にちょっと空気が似てるんだ
何となく落ち着く気がする

火にはあんまり良い思い出はないけど
悪いものだけなら、くべるのも良いかも
でも嵯泉なら悪霊も悪運も自分で祓えそう
陰陽師だし……何となく
私の悪いもの――は、くべたら私が燃えそうな気もするし
見るだけにしとこ
はは、冗談だって
でもおまえが灼いてくれるなら効果覿面だな

……こうやって見てると、炎が魔を払う、なんて言われるのも分かるかも
暖かいし、綺麗だしさ
そう思えるのも、おまえと一緒に見てるからなのかも知れないけど
――うん。消えないよ、きっと


鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
妖怪達からの珈琲を手に火の傍にて
未だ少し涼しいが、此れ位なら過ごし易い
つくづく寒さに弱いな、お前……
……確かアルダワだったか
魔に通じる空気の様なものがあるのかもしれんな

揺らぐ炎に潰えた過去が揺らぐ
だが今は其処に映るのは別のもので
傍らに在る温度にこそ気を緩め、息を吐く
まあ、出来ねば話に成らん事ではあるが……
――不吉な事を云わんでくれ
ならばお前の分の不運も、私が灼き祓うとしよう

時に脅威、時に守りと様々な役割を務めて来たものだしな
そうだな……お前と見ているからこそ、こう思うのかもしれん
未来へと歩んで行く為の、消えぬ灯火であれ、と
ああ――そうだな。きっと消えはしない



●今ここにある温度
 篝火で、火花の弾ける乾いた音がする。
 妖怪たちからブラックの珈琲をもらったニルズヘッグ・ニヴルヘイムと鷲生・嵯泉は、火の傍で暖が取れる場所を確保して座る。
 冷え切った空気はまだぬくもりを取り戻してはおらず、足元で時折霜を踏む感触もある。だが篝火から齎される熱がしっかりと伝わってくるから、特段不便ではなかった。
「未だ少し涼しいが、此れ位なら過ごし易い」
 寛いで、悠然と珈琲を啜る嵯泉。
 対して隣のニルズヘッグは、身を竦ませるようにして珈琲のカップを包むように持っている。背を曲げる長躯の眼前で湯気が上る。
「そうだな、冬眠しなくて済みそう」
「つくづく寒さに弱いな、お前……」
 今に始まったことではないから、呆れではなく実感に近しい声音になった。
 それをニルズヘッグも理解しているから、小さく笑って応える。
 金の双眸が、暮れない黄昏を見遣って細められる。そこに郷愁めいた揺らめきが映る。
「ここ、故郷にちょっと空気が似てるんだ」
 魔と妖というものは、存外その境界は曖昧なものだ。
 特にこの幽世は西洋妖怪が闊歩しているし、文化もUDCアースでいうところの北欧に近しい。そしてそれは、地下迷宮を擁する魔法学園にも通じるところがある。
 だからだろう。変に肩肘張らず、穏やかな時間を甘受出来ている。
「何となく落ち着く気がする」
「……確かアルダワだったか。魔に通じる空気の様なものがあるのかもしれんな」
 嵯泉が得心して感慨深げに呟いた。その視線の先、揺れる篝火の焔に何かが過った。
 沈まぬ太陽と火の外輪が、重なり融ける。
 思い返さずとも常にまなうらにある、潰えた過去。男が今の嵯泉として成り立つための、芯になったもの。
 だが──今はそこに映るものは、別のものだ。
 幽世に戻る熱より、太陽の熱より、篝火の熱より。
 傍らに在る温度にこそ気を緩め、息を細く長く吐く。こうして心裡をほぐしてくれる熱を、他に知らない。
 それを察知したような、そうではないような。落ちかけた間を掬って、ニルズヘッグが柔い声音で言う。
「火にはあんまり良い思い出はないけど。悪いものだけなら、くべるのも良いかも」
 それは呪詛であったから。
 軽口は、子供が次は何で遊ぼうかと誘う時の口振りに似ている。
 あ、でも。
 閃きを得たように、ニルズヘッグの口許が綻んだ。肩口に結った灰の髪がさらりと落ちる。
「嵯泉なら悪霊も悪運も自分で祓えそう。陰陽師だし……何となく」
「まあ、出来ねば話に成らん事ではあるが……」
 嵯泉は剣術に長じているのみならず、陰陽を遣うことも得手としている。ただそういう意味ではないのだろうと思慮を及ぼす前に、ころり言葉が転がり落ちた。
「私の悪いもの――は、くべたら私が燃えそうな気もするし。見るだけにしとこ」
 祭りの賑やかさが遠ざかった気がした。
 それくらいはっきりと耳が音を拾ってしまう。
 ニルズヘッグの胸裏に、氷竜としての性質という意味ではなく、横たわる冷たいものがある。
 ふとした時にそれに気付いてしまうことがあって、それを一蹴出来る時も寄り添える時もある。黙って見守ることもあった。
 今は。
 嵯泉は武骨で飾り気のない本音を呈する。眉根が自然と寄っていた。
「──不吉な事を云わんでくれ」
 その心遣いも、ニルズヘッグは十分過ぎるくらいに理解している。
 あたたかい温度の存在を知っている。何度でも実感する。
 故に、軽く笑ってみせた。
「はは、冗談だって」
 凍えた指先に血が通ったような感覚で、ニルズヘッグは珈琲を口に含んだ。不思議と酸味はなく、苦味の中のしっかりした旨味を舌で味わう。
 僅かに奔った緊張が弛んだ気配を感じ、嵯泉も今一度珈琲を口に含む。熱を孕んだ声に迷いはない。
「ならばお前の分の不運も、私が灼き祓うとしよう」
「おまえが灼いてくれるなら効果覿面だな」
 何にも心配いらないのだと、肯定された心地になる。
 まったく参ったものだ。寒さも憂いも融かしてしまう熱の存在を、これでもかというくらいに思い知ってしまうのだから。
 一度カップを地面に置いてから、ニルズヘッグは大きく伸びをしてみせる。それを見止めて嵯泉も肩の力を抜いた。
 再び金と柘榴の眼差しが火に注がれる。
 時折風が吹いては煽られて燃え上がる。薪の中の水分が炎で急速に加熱されるたび、ぱちりと破裂音が鳴る。それすらも、いのちの証のように見えるのは何故だろう。
 穏やかな時間だ。
 きらめく夏に逢いにいくまでの充電期間にも思える、なだらかな風情。
 陰りがあったとしても照らしてくれる。闇に怯えなくていいのだと教えてもらうような、そんな。
「……こうやって見てると、炎が魔を払う、なんて言われるのも分かるかも」
 暖かいし、綺麗だしさ。
 ニルズヘッグの感慨が含むのは、理屈ではなく感情論だ。
「時に脅威、時に守りと様々な役割を務めて来たものだしな」
 嵯泉も時折焔に纏わる技を使うこともあるから、その作用する方向によって鉾にも楯にもなることを重々理解していた。
 その頼もしさに背を押されるように。
 ニルズヘッグが言う。
「そう思えるのも、おまえと一緒に見てるからなのかも知れないけど」
 そうかもしれない。
 そうであればいい。
 どちらの意味も含有していて、だからこそその炎がいつまでも潰えずにあればいいと願う。
「そうだな……お前と見ているからこそ、こう思うのかもしれん。未来へと歩んで行く為の、消えぬ灯火であれ、と」
 手を結び、開く。それから嵯泉は篝火に手を翳す。
 指の隙間から見え隠れする熱と光。それを見失わずにいられたらいい。
 どちらともなく願いを馳せた。
「──うん。消えないよ、きっと」
「ああ──そうだな。きっと消えはしない」
 願うだけでなく、手繰ろうという意思を籠めて声が重なる。
 暮れずに明けるひかりのあわいが、ふたりの男を包み込んでいる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と参加します

彼と手を繋いで会話をしながら祠へ向かます

手を繋いだ彼が何処か安堵しているようで
此処に居る事を教えるように少し力を込める

身を温めてくれる熱は心地が良いものですね
私も長い間「それ」を知りませんでした
この温度は、生きているからこそ在るもの
知れたのは、教えてくださった貴方のおかげですね
私も、貴方が傍に居るのだと思えて安心します

……夏になれば手を繋ぐのは暑いかもしれませんが
貴方とは、こうして歩いていたいです

伝えた言葉は少し照れ臭くて、笑ってしまう
彼もそうだろうか

さて、祠で何を頂きましょう
私はしなもんろーるが食べてみたいです
それからかもみーるてぃー
一緒に頂きませんか?


篝・倫太郎
夜彦(f01521)と

手を繋いでのんびりと
篝火を目印にして祠に向かう

掌の熱にほっと安堵すれば
気遣うように手を強く握り直されるから
小さく笑って

なんつーか、あったかいな、ってさ
生きてる温度だな、ってさ……
それを一番実感するのがあんたの熱だから
だから、ほっとしてんの

おかしい?そう尋ねて見れば
同意するように笑ってくれるから
それにもほっとして

少しずつ、夏らしい気候に戻るみたいだけど
今は、こうしてくっつく言い訳になるから
それが嬉しい……のは内緒だ

そう思ってたら照れ笑いと一緒に返されて
嬉しくてまた笑う

はは、うん
俺はクリームスープにしようかな
蒸したジャガイモも美味そうだし
折角だから分け合おうぜ?

掌の熱みたいに



●分け合う温度
 祠の前で篝火が焚かれている。
 慎ましやかな祠では静謐な空気が満ちていて、その前で燃える焔は、救いに至る天上の光のようだ。
 その目印を頼りに、湖の畔をゆっくりと歩いていく。
 月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の武骨な掌から、沁みるように伝わる熱。篝・倫太郎の胸にどうしようもない安堵が宿って、知らないうちに安堵の息がまろび出た。
 その気配を察したのだろう、 夜彦は力を籠めて手を握り直す。
 ここに居る。
 いなくなったりしない。
 ずっと傍に居る。
 似て非なる感情が湧くままに、繋いだ手から想いが伝わればいい。教え諭すようでいて宥めるようで、すべてを受け入れるようなあたたかな温度。
 倫太郎は小さな笑みを零す。
 胸に押し迫るくすぐったさがあんまり愛おしいから、それを明け渡すような声音で言う。
「なんつーか、あったかいな、ってさ。生きてる温度だな、ってさ……」
 いのちは熱を持っている。
 熱がなければ、恐らくそれは動いているだけだ。
 琥珀の双眸を細め、倫太郎は噛みしめるように告げた。
「それを一番実感するのがあんたの熱だから。だから、ほっとしてんの」
 おかしい? と尋ねるように目線を向ける。
 夜彦はそれもわかっていると言わんばかりに眦を緩める。おかしくないと伝えてくれる。それにもほっとしてしまう。
 手を繋いだままで、倫太郎は夜彦に寄り掛かるように身体を傾げる。
 そうすれば手だけではなくて半身が、彼の温度を知ることが出来るから。
「身を温めてくれる熱は心地が良いものですね」
 夜彦が実感を携えて紡いだ言葉は、隣の倫太郎にだけ届く声の大きさになる。
「私も長い間『それ』を知りませんでした」
 ヤドリガミだから。竜胆の簪であった時は、熱の傍らにはあったものの熱を持つわけではなかったし、己をあたためようという発想すらなかった。
 この温度は、生きているからこそ在るもの。
 緑玉の視線が倫太郎だけに注がれる。
「知れたのは、教えてくださった貴方のおかげですね」
 夜彦も倫太郎に頬を寄せる格好で、内緒話を打ち明けるように囁いた。
「私も、貴方が傍に居るのだと思えて安心します」
 幸せが灯る。
 つい先程幽世を蝕む零下の極寒がほどけたばかりだから、未だ空気は冷えた名残を宿したままだ。
 ふたりで歩む道筋には、どんな寒風も吹き込まない。
 けれど季節は巡る。これから夏が廻る。夏に向かう。
 その手前でこうして歩く温度が離れがたくて、倫太郎は吐息を噛み殺した。
 寒ければ、今のままなら、こうしてくっつく言い訳を呈することが出来る。
 それが嬉しい──のを、声になる前に喉で飲み下す。
「……夏になれば手を繋ぐのは暑いかもしれませんが」
 なのに。
「貴方とは、こうして歩いていたいです」
 夜彦は照れを潜ませながら、はにかんで言った。
 そこに貴方もそうでしょうかと窺うような気配を感じてしまって、お揃いが嬉しくなって。
 結局倫太郎もあどけない笑みを綻ばせる。
 そうこうしているうちに、篝火がだんだん近付いてきた。
 自然と芳しい料理の匂いも漂ってきて、夜彦は今一度倫太郎に視線を合わせた。
「さて、祠で何を頂きましょう。私はしなもんろーるが食べてみたいです」
 一緒に食事に赴いた時に、メニュー表を共に覗き込むような風情で問う。
「それからかもみーるてぃー。一緒に頂きませんか?」
「はは、うん。俺はクリームスープにしようかな、蒸したジャガイモも美味そうだし。折角だから分け合おうぜ?」
 今の時間みたいに。
 掌の熱みたいに。
 互いの温度が導となる。たとえ迷っても、必ず辿り着いてみせるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
白夜の空がよく見渡せるような開けた場所は無いかな
それでいて人があまり訪れない静かな場所なら尚良い
そんな隠れスポットを探し歩き
持ってきたレジャーシートを敷く

帰ってきた梓からクリームスープを受け取り
身体を冷やさないように膝にブランケットを掛けて
さぁ、明るい夜を楽しもうか
白夜って名前だけは聞いたことあったけど
本物を見られる日が来るなんてね
オレンジと水色のグラデーションが凄く綺麗
見惚れながら、ふと隣を見れば
お構いなしに食べて寝ちゃっている焔と零
この子達は花より団子かな?と思わず笑み

でも、美味しいスープに身も心も温まって
何だか俺まで釣られて眠くなってきたかも
…梓、ちょっと肩貸して


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
シナモンロール、クリームスープ、コーヒーを貰い
こぼさないように器用に抱えながら
座る場所の準備をしている綾のもとへ

ほら、お前に頼まれていたモンだ
まだ湯気が出ているクリームスープを差し出し
俺はシナモンロールを取り出し…
その瞬間、タイミング良く
顔を覗かせるドラゴンの焔と零
どうせお前達も食べたがるだろうと
少し多めに貰っておいてやったぞ
案の定、目を輝かせて見てくる二匹に
シナモンロールを1つずつ渡す
勢い良く食べ尽くしたら満足して
そのまま俺の膝の上で寝始めるこいつらは
まさに子供だなと頭を撫でてやる
…って、お前もか綾

膝と肩に重みと暖かみを感じながら
コーヒー片手に空を静かに眺め続ける



●近くで熱を感じたら
 白夜の空がよく見渡せるような、開けた場所はないだろうか。
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は猟兵たちや妖怪たちの賑わいから離れ、視線を巡らせていた。
 篝火が焚かれている祠の近くはいかんせん人が多い。湖周辺は観光名所というわけではないから、少し離れさえすれば静かな場所は見つけられるだろう。
 そう見込んでいた予想は的中する。
 高台の端、湖に向けて迫り出すような格好のそこは、人気どころか獣の気配すらしない。空も湖も一望出来るその場所は、まさに隠れスポットと言っていいだろう。
 狙い通りの場所を見つけることが出来て、綾の口の端が持ち上げられる。
 持参したレジャーシートを広げている間に、バスケットの平衡を保ちながら乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が姿を現した。
「ほら、お前に頼まれていたモンだ」
 バスケットから取り出し、梓がシートの上に料理を並べる。
 綾の前に、まだ湯気が上っているクリームスープを。梓の前に、焼き立ての香ばしさが残るシナモンロールを。そしてふたり分の珈琲も添えさせて。
 まだ零下の名残のある空気で冷えないように、膝にはブランケットを掛ける。
「さぁ、明るい夜を楽しもうか」
 珈琲波打つカップで乾杯しようとした、その瞬間。
 バスケットの後ろからふたつの影が顔を覗かせていた。「キュー」「ガウ」と声を上げ、やけにきらきらと興味津々な目をしている。梓は肩を竦めて苦笑する。
「焔も零も。どうせお前達も食べたがるだろうと、少し多めに貰っておいてやったぞ」
 焔の仔ドラゴンと、氷の仔ドラゴンだ。梓は一度カップを置いて、二匹の前にもシナモンロールを置いてやる。先程より一段高い「キュー!」「ガウ!」はどう聞いても歓声に他ならない。
 微笑ましげに見守っていた綾が珈琲を啜れば、程良い酸味と苦味が喉に落ちてくる。
 暮れど沈まぬ、群青に奔る陽光を静かに眺めている。
「白夜って名前だけは聞いたことあったけど、本物を見られる日が来るなんてね」
 ふたりの出身地であるダークセイヴァーとはまるで真逆だ。明けぬあの世界の分まで、白い光に揺蕩うような心地になる。
 透ける橙と水色のグラデーションは玄妙で、どんな絵の具でも描ける気がしない。
 感慨と共に綾が息を吐いた時、はたと気付いて隣を見た。
 そこにあったのは何とも微笑ましい光景だった。周辺にシナモンロールの小さなパンくずが散っている。焔も零も口許にもパンくずを残して、梓の膝の上で健やかな寝息を立てていた。
 綾がつい笑みを零してしまったのも許されたいところ。
「この子達は花より団子かな?」
「だろうさ。まさに子供だな」
 言いながら梓もまんざらではないのだろう。二匹の頭を撫でる指先はひどく優しい。
 和やかな空気に影は似合わない。今は静寂と共に白い夜に浸っていよう。
 そうして寛いでいるうちに、不意に綾も眠気に誘われた。美味しいスープが身も心もあたためてくれたからかもしれない。
 うつらうつらとし始めたところで大きなあくび。
「……梓、ちょっと肩貸して」
 観念して、潔く瞼を閉じることにした。肩に凭れ掛かる重さに、梓はつい瞬いてしまう。
「……って、お前もか綾」
 さほどしないうちに寝息がみっつに増えた。梓はやれやれとばかりに嘆息するも、膝と肩のあたたかさが心地いいものだから、何も言わずに珈琲を口に含んだ。
 静謐漂うトワイライトが、その光景をずっと見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
双子の妹、アンちゃん(f16565)と。

わあ、キレイな湖!
あ、祠があるよ、行ってみよ♪

お祭り?
あー、おひさまに感謝するんだ。
いいよね、そういうの!

祠にお参りして、両手を合わせて。
妖怪さんにご挨拶して、スープとお芋をもらって。
ポッケには、イチゴとビルベリー。

もぐもぐしながら。
芝生がふかふかで気持ちいいから、大の字に寝転んでみる。
空から見たらもみじ饅頭に見えるくらい、でーんと!

アンちゃんが嬉しそうに葉っぱを掲げてる。
見えなくても、ちゃんと会ってるんじゃない?
恥ずかしがりやさんなだけでー。

背中もお腹もあったかくて、うとうと。
気が付いたら、傍で丸くなって寝てる妹。

そっと手を繋いで。
うん、おやすみ。


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

篝火の灯りを目印に祠のお祭りへ
まつりん、見て
湖に橙色が混ざって溶けてる

お参りをしたら、名物を
ん、わたしは焼きたてシナモンロールとハーブティ
はむっと食べると甘い美味しさが口中に広がって
…んむ、まふぅりぃん、ほれなに?
まつりんの食レポも気になるお年頃

歩き疲れたら湖畔で足を浸してひと休み
あ、笹に似てる葉っぱ
一枝拝借して、髪のリボンで飾りつけて七夕気分
…夜にならないと、織姫さまと彦星さまは会えない?
少し心配になって聞いてみる

恥ずかしがり屋さん…、ふふ、うん、きっとそう

沈まないお日様を眺めて…まつりん?
微睡む兄の姿に、わたしも隣に寝転んで
おやすみなさい
一緒に微睡みの中へ



●そこにぬくもりがあるから、願いは叶う
 色硝子を重ね合わせても、黎明でも黄昏でもないこの景色は再現出来まい。
 湖面は空の鏡合わせ。
 自分も逆さまに映っているようで、不思議な浮遊感すら覚えるくらいに。
「わあ、キレイな湖! あ、祠があるよ、行ってみよ♪」
 赤茶の尻尾を上機嫌に振りながら、木元・祭莉(CCまつりん・f16554)は湖沿いを軽快に歩いていく。その傍らで、木元・杏(食い倒れますたーあんさんぽ・f16565)が美しく染まる光景に金の瞳を細めた。
「まつりん、見て。湖に橙色が混ざって溶けてる」
 指差した先。
 水色に紺青を透かしたような空、そして湖。
 その境界に太陽が溶けても融け切らず、眩い橙色が広がっている。
 光に促されるまま、篝火を目印に祠へ向かおう。「お祭りもやってるみたい」「お祭り? あー、おひさまに感謝するんだ。いいよね、そういうの!」なんて、息を弾ませ目を輝かせる。
 到着したらお参りして、手を合わせて。
 それから篝火近くで料理を振舞ってくれている一角に足を向けた。
 祭莉が元気に挨拶したら、妖怪も笑顔で対応してくれる。
 名物があると聞いた杏が尋ねたところ、店子の妖怪が幾つかの軽食を勧めてくれた。決して種類は豊富ではないが、どれもがまだ寒さが残る今の幽世では、格別美味しく感じられそうなあたたかさに満ちている。
 祭莉はマッシュルームのクリームスープに蒸しじゃがいもを。苺とビルベリーも分けてもらって、それはポケットに入れておいた。
 杏は焼き立てのシナモンロールとカモミールティーを。それぞれ譲ってもらったなら、手近な芝生に揃って腰を下ろす。
 いただきます。
 それぞれが口に含めば、地味深い森の豊かさが。小麦の甘さにシナモンの薫り高さが。熱を伴い染みてくるから、たまらず笑顔を綻ばせる。
 まだ仄かにあたたかいシナモンロールのひと欠けを頬張りながら、杏は隣の祭莉を覗き見る。
「……んむ、まふぅりぃん、ほれなに?」
 杏は祭莉の食レポも気になるお年頃なのだ。
 咀嚼しきれていないくぐもった声で問えば、率直ながら明確な感想が降ってくる。
「んーと、きのこのクリームスープ。ほくほくしてていい感じ」
 互いのを一口ずつ分けっこしたり、苺が一個だけ酸っぱいものが混じっていて悲鳴のような叫びを上げたり。
 あたたかい熱が灯っている、そんな優しいひと時だった。
 おなかが膨れれば気持ちまで満たされる心地で、祭莉は芝生に身を投げ出した。
 大の字に寝転べば、涼しい風が鼻のてっぺんを撫でていく。恐らく空から見下ろしたら紅葉思わす銘菓を彷彿とさせるくらいに、でーんと。
 その傍らで杏は湖にはしを浸してみた。まだ冷たい、しかしこれから太陽の熱を与えられて穏やかになるであろう水。
「あ、笹に似てる葉っぱ」
 視界に入ったやや縦長の葉を一枚拝借した。杏は髪のリボンをほどき、笹飾りを作る要領で飾り付ける。七夕の気分だ。日本ではちょうど季節が重なっているはずだ。
 出来上がったそれを天に翳してみれば、葉とリボンで出来た輪郭に橙が滲んでいる。
「……夜にならないと、織姫さまと彦星さまは会えない?」
 問いかけは憂いを潜ませている。
 天の川が、互いの存在が見られなければ、年に一度の再会は果たせないだろうか。
 心配そうな杏の声に、祭莉は頭の後ろで手を組みながら言う。
「見えなくても、ちゃんと会ってるんじゃない? 恥ずかしがりやさんなだけでー」
「恥ずかしがり屋さん……、ふふ、うん、きっとそう」
 祭莉の回答に、杏は笑みを転がした。大丈夫。ちゃんと会うことが叶っている。見えないだけで願い事は星に届いているから、何の心配もいらないのだ。
 思えば杏の表情にも安堵の色が宿る。湖から足を上げて、祭莉の隣に戻ってくる。
 沈まないおひさまを眺めながら、しばらくそうして他愛のない話をしていたけれど、徐々に会話も少なくなっていって。
「…………まつりん?」
 気付いた時には祭莉もうつらうつらと微睡み始めた。背中もおなかもあたたかいから仕方ないのだ。
 杏も小さく笑って、隣に寝転んだ。
 そっと手を繋いで。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

世母都・かんろ
【霧鳴館】
湖畔、篝火で
ブランケット、ふわふわ

雨、降ら、なくて、よかった、です
薄い、青色。きれい
あれ、が、太陽、かし、ら(橙と光帯を指差し

悪い、もの
いや、な、もの
綺麗に、して、夏を迎える
お盆…と、は、違う、け、ど
大切な、行事、なんです、ね

妖怪、さん
こんな、に、たくさん(はわ
え、と、わた、し
シナモンロール、と、カモミール、ティーを

やさしい、味
苺、と食べる、と、おいしい、です!
弥代、さん、は?

くべたい悪運
んんと考え、小さく祈って

猟兵、の、おし、ごと、で
こわいこと、は、ある、から
怪我、しない、よに
…ふたり、の、分も

それ、に
夏、楽しい、こと
あると、いいなって

ま、また
一緒、に
お、でかけ、したい、から


葵・弥代
【霧鳴館】
湖畔。篝火を見つめ、近くで聞こえる賑やかな音
僅かに口許を緩ませた

確かに不思議なものだ。
夜だと言うのに篝火がなくとも明るいな。
ん。どれだ?と世母都が指差す先に目を細める

あの篝火はその通り神聖なものなんだろう。
夏季を憂いなく迎えるために。

それは美味いのか?
俺も、しなもんろーる、と…こーひーを。
初めて聞くものに首傾げ。自分もひとつ手に取る
好き嫌いはないから美味しく頂く
ここぞとばかりに涼しい顔で大食い発揮
まだまだ食えそうだ。

…祓いたいものが浮かばん。
俺たちの代わりに願ってくれる者がいるから。
この先も大丈夫だろう。
しかしそれでは世母都の無事を祈る願いが足りないな。
俺と宵雛花のふたりで願おうか。


宵雛花・十雉
【霧鳴館】
湖畔の篝火のそば
皆でブランケットを敷いて食事を楽しむ

今はもう夜なんだよな?
ほんとにお天道さんが沈まねぇんだ
なんか変な感じだけど、綺麗なもんだなぁ
…お、太陽見つけたかい?

『悪霊や悪運を駆除し、夏の到来を祝う』か
それ聞くと、なんとなく神聖な火に見えてくんな

お、妖怪さんの差し入れたぁ有難ぇ
皆は何食う?
オレはシナモンロールにコーヒーに、欲張ってクリームスープも貰っちまお
弥代お前…見かけによらずよく食うな
すげぇ

祓いたい悪運ねぇ
オレは特に思い浮かばねぇかな
2人は何かあるかい?

へへ、そうだな
かんろちゃんの分はオレ達で祈ってやろ
怪我して一緒に出掛けられなくなっちまったら困るしさ



●願いの熾火を越えて
 敷かれたブランケットの肌触りは心地よい。
 篝火の傍、湖畔にて。夜と昼のあわいを揺蕩うような感覚は、何故かひどく慕わしいものだ。
 近くで聞こえる声も音も、五月蠅過ぎない程度に賑やかだ。
 白群の瞳に睫毛の影落とし、葵・弥代(朧扇・f27704)は僅かに口許を綻ばせる。
「雨、降ら、なくて、よかった、です」
 柔らかいブランケットをひと撫でして、世母都・かんろ(秋霖・f18159)は空を仰ぎ見る。
「きれい」
 薄い青。紺青から藍白へ至り、白夜の名にふさわしい白の光を戴いている。
 かんろの隣で、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)が感慨滲ませ息を吐く。
「今はもう夜なんだよな? ほんとにお天道さんが沈まねぇんだ」
 十雉が拠点とする桜の帝都は、通年で幻朧桜が咲くという意味では季節の概念は遠い。しかしこの幽世では昼夜の概念が異なっている。少なくとも退屈の色はない。
「なんか変な感じだけど、綺麗なもんだなぁ」
「確かに不思議なものだ。夜だと言うのに篝火がなくとも明るいな」
 弥代は興味深げに顎を擦る。かんろが指差したのは、天と湖で鏡合わせに刷かれる橙と光帯だ。
「あれ、が、太陽、かし、ら」
「ん。どれだ?」
「……お、太陽見つけたかい?」
 示された方向に視線を流し、弥代は眩しげに眼を細める。十雉も光を直視しないよう瞼を伏せながら、視線を篝火の方向へと差し出した。
 皓々と燃える、燠火。
 それは何かを害するためではなく、生を祝福するために焚かれている。そんな気がする。
「『悪霊や悪運を駆除し、夏の到来を祝う』か」
 予知で聞いた話を思い出し、十雉は密やかな響きで言う。
「それ思うと、なんとなく神聖な火に見えてくんな」
「あの篝火はその通り神聖なものなんだろう。夏季を憂いなく迎えるために」
 祠の近くにあるからか、明けども暮れぬ空の下にあるからか。
 理由はどうにせよ、意味が存在しているからこそ、この幽世に伝わっているのだろう。弥代はそう、思った。
「悪い、もの。いや、な、もの。綺麗に、して、夏を迎える」
 かんろの雨を揺蕩わせる髪が、涼しい風で靡いている。
 祓い清めるが如くに、陰りをくべてしまう。
 そうすればきっと、何の憂いもなく夏を歓迎出来るだろう。
「お盆……と、は、違う、け、ど。大切な、行事、なんです、ね」
 噛みしめるようなかんろの声音。実感を抱くそれは、この白夜を受け止めるような慈しみに満ちている。
 そんな折、軽食を供して歩いているらしき妖怪たちが、三人のブランケット近くを通りがかる。
 よければ如何ですか。そう告げて並べられた軽食や飲み物は、未だ熱を取り戻している最中のこの世界にあって、穏やかな温度を灯しているものばかりだ。
 くゆる湯気に、十雉が飄々と口の端を上げる。
「お、妖怪さんの差し入れたぁ有難ぇ。皆は何食う?」
「妖怪、さん。こんな、に、たくさん」
 はわっとかんろがしゃぼん玉の双眸を右往左往させる。それを見た妖怪のひとりが、こういう味が好きならこれを、と丁寧に教えてくれた。
 何となく胸の奥がくすぐったくなって、かんろは迷った末に意を決して告げる。
「え、と、わた、し。シナモンロール、と、カモミール、ティーを」
「オレはシナモンロールにコーヒーに、欲張ってクリームスープも貰っちまお」
「それは美味いのか? 俺も、しなもんろーる、と…こーひーを」
 十雉が指定する様子を見て、弥代も興味深げに首を傾げつつ、ふたりに追従する形で選んでみた。三人だからいっぱい食べて欲しいと、妖怪が少し多めに持たせてくれた。
 適当な芝生を陣取って、さっそく口に運ぼうとしようか。
 シナモンロールを指先で割ると、シナモンの薫り高い匂いがふわりと広がる。
 口に運んで噛みしめて。かんろの頬がゆるゆると綻ぶ。
「やさしい、味」
 食べ進めてからはたと気付いて、おまけに添えてもらった苺も一緒に食べてみた。
 瑞々しい酸味が舌の上で広がって、かんろの表情が更に明るくなる。今日の空にも負けないくらいの、きらめく瞳。
「苺、と食べる、と、おいしい、です! 弥代、さん、は?」
 先程初めて食べるようなことを言っていたからと、かんろはちらりと弥代の様子を窺う。
 それからふと下を見た。明らかに、シナモンロールの数が減っている。
「ん? 好き嫌いはないから美味しく頂いているぞ」
 言葉の通り、頬張っては咀嚼して、次々と踏破していく弥代の姿はいっそ清々しい。涼しい顔して随分と大食漢だ。
「弥代お前……見かけによらずよく食うな。すげぇ」
 あっけにとられたというよりも、ここまで来れば称賛するレベルだ。十雉はまずは落ち着こうとコーヒーを喉に落とす。
 ささやかでありながら、にぎやかな。まるで今日の祭りのような時間だ。
 そうして食べ勧めているうち、三人の視界に篝火に向かう人影が見える。例えば何かしらの本だったり、護符のような何かだったり。すべてを焔が飲み込んで、ぱちりと弾ける音がする。
 十雉は先程口にした言葉を思い出し、首を捻る。かんろと弥代も同じことを考えていたようで、自然と視線がかち合った。
「祓いたい悪運ねぇ。オレは特に思い浮かばねぇかな。二人は何かあるかい?」
 いざ聞かれると急には思いつかないものだ。
「くべたい悪運……」
 かんろはんんと考え、小さく祈って。
 胸の奥から湧き出た願いを、丁寧に織りなすように囁いた。
「猟兵、の、おし、ごと、で。こわいこと、は、ある、から、怪我、しない、よに」
 今後どんな戦いに身を投じるかはわからない。強いオブリビオンもいるだろう。
 それは自分だけではなくて、もちろん──。
「……ふたり、の、分も」
 自分の時よりずっとはっきりと、声になって響いた。
 それにはたと気付いたかんろは気恥ずかしくなって、慌てて言葉をつけ足した。
「それ、に。夏、楽しい、こと、あると、いいなって」
 元より今の自分の声の低さが気になって、かんろは途切れ途切れの言葉遣いになりがちだ。
 ただ今は。控えめではありながらも、確かな光が息衝いている。
「ま、また、一緒、に、お、でかけ、したい、から」
 どうかなと言いたげに、ちらりとふたりを見遣る。
 それを弥代は一瞥して、何事もないように朴訥と言う。
「……俺は祓いたいものが浮かばん。俺たちの代わりに願ってくれる者がいるから。この先も大丈夫だろう」
 今一度、火花が散る音がした。
 周囲のさざめきに掻き消されず、かんろの顔を見据えて続けた。
「しかしそれでは世母都の無事を祈る願いが足りないな。俺と宵雛花のふたりで願おうか」
「へへ、そうだな。かんろちゃんの分はオレ達で祈ってやろ」
 だから何にも心配はいらないという風情だ。
 十雉の切れ長の瞳に、確かに優しい光が湛えられている。
「怪我して一緒に出掛けられなくなっちまったら困るしさ」
 それはすなわち、また一緒に出掛けようという誘いにも似ている。
 ふたりの優しさが十分過ぎるくらいに伝わってきて、かんろははにかみながらカモミールティーに口をつけた。胸に灯るよろこびを、言葉にする準備のために。
 林檎思わす芳香のカモミールティーは、今この場の空気みたいにあたたかい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

物部・出雲
――うむ、好いことよ。熱が無ければ生命も生まれまいて
沈まぬ太陽か、それもまた善し!さあ、輝く太陽で宴といくかッ!!

と、思うたが。
おお、よい火である。俺が使う忌火と似ておるな
禍神というのはな――悪霊や悪運、ケガレを祓い、生命によい縁をつなげてやるのを務めとするのだ
おうい、そこな妖怪どもよ
俺に少し、お前たちの果実と洋菓子を分けてくれんか!
なァに、糧にするだけよ。再び同じような事件が起こらぬよう、俺が派手に一発――花火をあげてやろう
明るい場所では視たことがあるか?ふはは!それはそれは、「しゃれている」ぞ!

――お。
その……洋菓子か!しなもん ろーる
包んでくれぬか。なに、土産話をしてやりたい妻がいてな!



●熱咲く、廻る、夏を呼ぶ
 篝火が空に映える。
 人々が行き合い、あたたかい食べ物を分かち合う。
 湖の水面に沈みそうで沈まない太陽は眩く、景色のすべてを照らしている。
 熱がこの幽世に戻ったのだと、否応なく示される。これから夏を迎える頃には、更なる瑞々しい息吹が紡がれることだろう。
 金の眼差しはそれらを眺め、満足げないろを湛えていた。
「──うむ、好いことよ。熱が無ければ生命も生まれまいて」
 熱は命の源だ。生き続けるのであれば熱が必要だ。
 自然も生物も、妖怪も神も。此処に在るあらゆる生命は、もう凍え震えることに怯えなくてもいい。希望は熱を持つ輝きに満ちているのだから。
 物部・出雲は豪放に笑う。
「沈まぬ太陽か、それもまた善し! さあ、輝く太陽で宴といくかッ!!」
 腰に手を当てて宣言するかのように言う。
「と、思うたが」
 出雲が視線を流せば、各々が思い思いに寛ぐ様子が目に入る。湖の水際に足を浸していたり、芝生に寝転がりずっと空を見仰いでいたり。
 その中でも、篝火で暖を取っている妖怪たちの姿が目に留まった。大股で歩み寄り、長躯故に覗き込むような格好で話しかける。
「おお、よい火である。俺が使う忌火と似ておるな」
 声を拾ったのだろう。近くに居た幼い容貌の妖怪たちが、興味を抱いて見上げてくる。「あなたも火を使うの?」という風情のきらきらした瞳を受けて、出雲は首肯する。
「禍神というのはな──悪霊や悪運、ケガレを祓い、生命によい縁をつなげてやるのを務めとするのだ」
 先の戦いで竜神が取り込まれていたことも鑑みればわかるように、カクリヨファンタズムの在り様は出雲のそれにも近しいものがある。魔と妖の配分や、信仰や文化のかたちが違うだけだ。
 だからだろう。妖怪たちもぱちぱちと目を瞬かせて、純粋な敬意と感激の声を上げた。まだまだ妖怪としても半人前であろうその子らを見れば、口許が弛んでしまう。心臓の裏がくすぐったい。
 その時だ。軽食を供している妖怪たちが篝火の近くにやってきた。時折立ち止まっては、これがいいと指差されたものを渡しているらしい。
 出雲も手を上げて声を張った。
「おうい、そこな妖怪どもよ。俺に少し、お前たちの果実と洋菓子を分けてくれんか!」
 声が大きくてよく通るものだから、呼ばれた妖怪たちだけでなく、周囲の猟兵や妖怪も肩を跳ねさせていた。それすら笑いの種とばかりに、出雲はかんらと笑う。
「なァに、糧にするだけよ。再び同じような事件が起こらぬよう、俺が派手に一発──花火をあげてやろう」
 所謂景気づけだ。取引と呼ぶにはあまりに平穏に満ち、この場の空気に相応しい。
 妖怪たちは諸手を上げて賛同し、たっぷりのクリームスープに蒸しじゃがいも、小さな籠にも苺やビルベリーが盛られ、掴みやすいように張りのある紙に包んだシナモンロールを差し出される。
 その量の多さからも、出雲の提案に対する関心が明け透けだ。「花火などしばらく見ていなかった」と声を弾ませる妖怪に、出雲もそうかそうかと口の端を上げる。
「明るい場所では視たことがあるか? ふはは! それはそれは、『しゃれている』ぞ!」
 確かに昼間に花火をすることはないし、宵の口でもすぐに暗くなってしまう。明るくも押しつけがましくない、この時期この幽世だからこそ、咲き誇る奇跡になるだろう。
 ついでに手にした包みを示し、「その……洋菓子か! しなもん ろーる。包んでくれぬか。なに、土産話をしてやりたい妻がいてな!」と、奥方への土産を確保するのも忘れない。
 篝火の近くに集まりつつある人影と期待に応えるように、出雲は指先から焔の迸りを紡ぎだす。
 眩い光が、かがやきに映える。 

 夏が来る。
 熱咲く花咲く、夏が来る。
 凍える寒さを置き去りにして、きらめく夏と熱に逢いに行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月10日


挿絵イラスト