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耀う温度(作者 中川沙智
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●いのちあるかぎり
 薄暗い道を抜けた先で、吐息が白く燻る。
 初夏だというのに身が凍るような寒さだ。草葉には霜が降り、軒下には氷柱が伸びる。空気に肌を晒すだけですぐ凍傷になってしまいそう。
 誰もが震え怯え、命の灯火が絶えぬよう必死で耐えている。どの妖怪たちも住処に引きこもり、身を寄せ合い、どうにかやり過ごそうとしているが──打開策がない以上、限界が訪れるのも時間の問題だ。
 温度が失われているが故、光もかなり損なわれている。今の幽世においては人影も少なければ、喧騒も賑わいも縁遠い。
 もうすぐ終焉を迎えると言われても信じてしまうくらいには、滅びの昏い気配がする。

 世界を埋めんとばかりに飛び交う、無数の骸魂。
 すべてを蝕み喰い尽くし、残るはただただ空虚のみ。

●耀う温度
「『熱』の消えた幽世は、極寒の零下に凍る『氷結の世界』となる……なんて言ったら、君はどう思う?」
 問いかけたくせ、その返答は何でも構わないという風情で、鴇沢・哉太(ルルミナ・f02480)は薄く微笑む。
 今回の予知で見出された事件はカクリヨファンタズムに於けるもの。
 曰く、幽世で熱が奪われたのだとか。
 地球の文化に慣れ親しむ妖怪たちにとっても、熱はいのちの灯火だ。妖怪たちは『過去の思い出や追憶』を食糧とする。人々の追想にはあたたかな温度は必要不可欠な存在だからだ。
 このままではどの妖怪もオブリビオン化に抗えなくなるだろう。

「というわけで手遅れになる前に、対処をお願いしたいんだ」
 哉太はデータを呼び出し、視線を走らせてから説明を続ける。
 まずは、飛び交う骸魂によってオブリビオン化した妖怪たちを倒すところから始める必要がある。
「発生しているオブリビオンは『麒麟』だね。本来なら瑞兆、いいことの前触れとして姿を現すとされているんだけど、この場合は真逆。災いを齎す存在だから、漏らさず掃討してもらう必要があるよ」
 元々の逸話や見た目からして強敵とも思える麒麟だが、どうやら取り込んだ妖怪がさほど強くないらしい。そのため猟兵たちの力量であれば多数を相手取っても問題ないだろうと哉太は言う。
「麒麟の数はそれなりだけれど、倒すのはそんなに難しくない。数を減らしていけば自然と事件の元凶であるオブリビオンも姿を現すんじゃないかな」
 熱を奪ったそれを倒せば、幽世も季節のあたたかさを取り戻すだろう。
「ただ、現場はすごく寒いよ。何らかの対処法を用意しておけば尚いいだろうね。思い浮かばなければいつもより一枚多く着込むだけでも違うと思うよ」
 身一つで戦いに赴いたなら寒さで手がかじかんでしまった、なんてのは笑い話にはならなさそうだ。
 重装備である必要はないが、対策を練っておくに越したことはないに違いない。

 宙に浮かんでいた説明用のエフェクトを消去し、哉太は薔薇色の双眸をゆるりと細める。
「終わったら、近くの祠を詣でてくるといいよ」
 内緒話のように告げられたのは、その祠で行われるという祭りの話。
「白夜って知っている? 一日中太陽が沈まない夜のことでね。地球でいうところのフィンランドの夏至祭に似た催しがあるみたいだよ」
 祠は湖畔にある。篝火を焚き、それを見詰めながら夜を過ごすのだ。
 暖を取りながら誰かと談笑して、食事をする。あるいは湖に足を浸して散歩するくらいなら出来るだろう。
「篝火は『悪霊や悪運を駆除し、夏の到来を祝う』ために焚かれるらしいよ。誰かと楽しむのもいいし、ひとりで自分を見つめなおすのもいいかもしれない」
 派手に騒ぐのではなく、光と熱を顧みるための時間だ。
 質素ではあるが、茶と菓子くらいなら妖怪が用意してくれる。燦然とする夏に至る季節の狭間を、ゆっくりと過ごすのも悪くはない。

 生けるものとしての温度を取り戻すために、猟兵たちが出来ることは確かにある。
「行ってらっしゃい。君が持つ熱の在処を、どうか見失いませんように」
 告げて、哉太は手に浮かべたグリモアの彩を変化させていった。





第3章 日常 『祠参り』

POW周囲を掃除し、祠もピカピカに磨き上げる
SPD美味しいお酒や料理を用意し、お供えする
WIZ心を研ぎ澄まし、静かに祈りを捧げる
👑5

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●かがようおんど
 幽世に熱が取り戻される。
 すべて一気には温度が戻るはずもなく、徐々に少しずつ雪や氷や霜を溶かしていくのを待つしかない。だが遠からぬうちに、夏を迎える間際の清々しい気候となるだろう。
 一日中太陽の沈まない夜がやってくる。
 所謂白夜というものだ。この幽世では、この時期はずっと太陽が地平線の近くにあり、薄明かりの夜が続いていくのだ。昼間の延長というよりも、黎明や黄昏が長いという表現が正しいだろう。
 湖畔にて、水面の境界で穏やかに燃える橙色。
 清廉でありながら空に映える光の帯。
 雲を刷き、どこまでも広がっていく薄い青色。
 それは凍っていた空に太陽を落として、ゆっくりと融けていく様子を見ることに似ている。

 その湖畔の祠では、ごくささやかな祭りが催されている。 
 湖の女神に感謝を捧ぐ夏至祭──湖畔でゆっくり寛ぎ、互いの熱を確かめ合う。ただそれだけの祭りだ。
 妖怪たちも集まっているからすぐわかるだえろうけれど、場所に迷ったなら篝火を目印にするといい。
 湖畔で、大人数で囲むのにも十分な大きさの篝火。それは『悪霊や悪運を駆除し、夏の到来を祝う』ために焚かれている。誰であっても歓迎するあたたかさを湛えているだろう。
 カクリヨファンタズムの中でも、地球でいうところの北欧に近しい文化を持っているらしい。住んでいるのも西洋妖怪が多そうだ。その姿もちらほらと見られるはず。
 寒くはない。暑くもない。
 その真ん中で、柔らかな温度に逢いに行く。

 さあ、白夜のひと時をどうやって過ごそうか。
 芝生もあるし、岩場もある。気になるのなら大判のブランケットを敷けばいい。座って過ごすだけでもきっと格別な時間が得られるだろう。
 腹ごなしがしたければ、妖怪たちが差し入れてくれる軽食を味わおう。
 採りたてのいちごやビルベリーは瑞々しさが格別だし、それを摘まむだけでも舌を楽しめる。
 この夏至祭でよく食べられているのは、焼きたてのシナモンロールだ。小さめに作られているから食べやすい。コーヒーを合わせるのが鉄板だが、苦手な人間にはカモミールティーも振舞ってくれるとか。
 もしもう少し食べたいと望む者がいれば、マッシュルームのクリームスープに蒸したじゃがいもを添えて供してくれるはずだ。
 篝火にあたりながら、これからの夏に思い馳せるのもいい。祓いたい悪運があるなら、火にくべてしまうのもご一興。
 あるいは、穏やかな湖に触れたいならそれでもいい。足首くらいまで浸かる程度のところなら、歩いたって咎められない。凪いだ水辺で夜と昼のあわいを揺蕩うのも、きっと悪くない。

 肩を並べて熱を分け合うのなら──それが太陽でも、隣の誰かでも。
 あたたかいものをきっと得られるに違いない。
 暮れない夕暮れ、明けない暁。
 その真ん中で、きらめきゆれる温度に逢いに行く。