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箱詰トロイメライ

#ダークセイヴァー #シナリオ50♡

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#シナリオ50♡


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●箱詰トロイメライ
 さぁさ、皆様どうぞどうぞお席におつきくださいませ!
 今宵、領主に捧ぐ箱に詰めたる美しきもの。
 どれを選んで、せり落とし、献上するか――それによってあなた方の運命は変わってくるのですから!
 けれどそうですね、縁が強きものなれば金がなくともそれはあなたの手に渡るでしょう。
 たとえば同郷、相棒、主従、恋人。まだ恋人でなくともそれに近しい間柄。
 けれどすぐに離れるのは可哀想でございます。
 一夜の逢瀬を――最後の逢瀬を差し上げましょう。
 箱に詰めたるそれは、明日には領主の物になるのですから。

●予知
 ダークセイヴァーを訪れてくれんか、と終夜・嵐吾(灰青・f05366)は紡ぐ。
 そこで宴が催されるのだと、告げて。
「その宴は、領主に献上する貢物のオークション、なんじゃけど……」
 そこで競売にかけられるのは生きたヒトだ。箱に詰められて、競売にかけられる。
 その箱は様々な物。意匠施されたガラスケースもあれば、荘厳なたたずまいの棺であったりもする。
 その競売にかけられるヒトは近隣から集められたものであったり、かどわかされてきたものであったりと様々だ。
 そして――近くの町や村のものたちがその競に参加し、己に近しいモノ、縁のあるモノを見つければ競り落とし、次の日には領主に献上することとなる。
「その領主というのは――ヴァンパイアなんじゃよ」
 そして、打倒せねばならぬ相手なのだと嵐吾は言う。
 しかし貢ぐというときしか、ヴァンパイアの住む城の門は開かれない。
 そこで皆には、箱に詰められるものとそれを競り落とすものになって向かって欲しいのだと嵐吾は紡ぐ。
「あんまり気分ええもんじゃないんじゃけどな」
 箱に入るものは彩られ、そして何かしらの薬で体の自由を封じられる。瞬きもできる、呼吸もできる。しかし動くことはままならず、箱に飾られてしまうのだ。
 そして競り落とすものは――もちろん金の力、というのもあるのだが。
 縁が深いということをオークションを取り仕切るものに、その会場で声高に告げれば金がなくとも競り落とす事ができるのだ。
 それはやさしい領主が、最後の一夜に思い出をあげようという取り計らい故らしいが、下に隠れているのはただ遊びに興じたいがだけの心根だろう。
 嵐吾は紡ぐ。
 競が終わってもまだ油断はならず、そのまま連れて行かれるのはヴァンパイアの城。
 そこにて最後の逢瀬、一夜を過ごすことになるのだがそこでも無事にいられるというわけではない。
 箱に詰められたものは、共にいるものの最後を目にする。ヴァンパイアの配下達が襲撃してくるのだ。
 共にいる者は為す術無く命を散らせて――そして、その絶望と悲しみのままにまたヴァンパイアに弄ばれるようなのだ。
「まぁ悪趣味な事しとる、いうわけなんじゃけど」
 頼まれてくれるかの、と嵐吾は言う。
 宴の場所に、訳有りの顔で向かえば、己で箱に詰められに、そして競り落しにきたのだろうとあちらが勝手に思って案内してくれるはずと。
「人と人のつながりを、弄んでおるような輩は遠慮なく叩きのめしてきておくれ」
 頼む、と続けて――嵐吾は手の内でそのグリモアを輝かせるのだった。


志羽
 お目通しありがとうございます、志羽です。
 プレイング締め切り、受付方法などはお手数ですがマスターページの【簡易連絡】をご確認ください。
 全章、冒頭公開後からプレイングをいただければ幸いです。
 また、流血描写などがあると思いますので、苦手な方は参加しないことをお勧めします。
 おひとりさま、おふたり様向けの依頼となっております。
 その点ご理解の上、ご参加ください。

●シナリオについて
 第一章:冒険『献上の宴』
 第二章:集団戦『ヴァンパイアの花嫁』
 第三章:ボス戦『???』
 以上の流れとなっております。

●一章について
 オークションタイムからの描写になります。
 箱に入る方は『どのような箱に、どのような装いで』詰め詰めされているかをお願いします。
 ぜひお好きに綺麗に彩られてください。箱のサイズは自分がぴっちりはいるくらいのサイズであまり余裕はありません。ガラスの箱でも、棺でも。ただの四角い箱にでも。
 入る場所にお花を目いっぱい詰めてもらうも、布を一杯敷いてもらうもご自由に。
 お任せでもOKですが、その場合好きにされます。
 そして競り落とす方は『どのような思いでアピールするか』をお願いします。
 愛してるんだ! とか。唯一無二の存在、離れたくない。そういう心をヴァンパイアや支配人は美味しいします。
 もちろん、金貨を積んで競り落とすのもアリです。

 おひとり様参加の場合、相手が相棒の精霊等というのもOKです。が、ご自身は競り落とす方でお願いします。
 もしくはおひとり様どうしがかみ合えば、ですが描写の確約はできません。
 ご了承ください。

●二章について
 詳細は冒頭公開時にですが。
 箱に入る方は『戦闘に参加できません』。
 競り落とした方は『一人で敵と戦う事』になります。競り落とした方は流血可能性がありますのでそのつもりでいらしてくださいませ。

●お願い
 お二人様の場合はご一緒する方がわかるように互いに【ID】を記入していただけると助かります。また、失効日が同じになるように調整していただけると非常に助かります。(続けて二章、三章参加の場合、IDについては必要ありません)
 ご協力よろしくお願いします。

 以上です。
 ご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『献上の宴』

POW   :    面白いものが見れると聞いたのです(堂々と客として潜入する)

SPD   :    ……(賑わいに紛れて潜入する)

WIZ   :    この珍しい品をご覧ください(売り手として潜入する)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 小さな娘が箱に入るべく、身を清められていく。
 ぐしゃぐしゃだった髪は洗われ手入れされ。きらきら輝く絹糸のように。
 申し訳程度に纏っていた衣も淡い萌黄色のフリルの可愛らしいドレスに。こんな色も、服も見たことないとぱちくりと瞳を瞬かせる。
 けれど――ふわり、と良い香りがしたならば、四肢の自由は奪われて箱の中に縫い留められる。
 脇の下の棒、腰はここと布で押さえられ。つま先も安定するようにと固定される。体の何か所かを上手に支えられていくのだ。
 鮮やかな絹が幾重にも重なる箱は少女の身体にお誂え向きのサイズ。
 身体を固定された後、箱が真直ぐ立てられる。
 綺麗な身なり、そして装飾施された箱の中に収められ、その瞳だけきょろきょろと周囲の様子を伺うのだ。
 声も出ず、唇は僅かに震えるのみ。けれど思考はまっとうで――己のこれからをまだ娘は知らぬのだ。
 少し待っていてくださいねと綺麗な身なりの女が微笑んで離れていく。
 遠くで笑い声や歓声が響いているのが聞こえてくる。ここはどこだろうか、と思っても娘にはわからぬのだ。
 わかるのは、此処に連れてきた父が――先ほどまで側にいた父の手が震えていたこと。
 こんなにきれいな洋服を着せてもらって嬉しいはずなのに、何か不安は込み上げるばかりだ。
 そしてあなたの番ですと、明るい場所へと娘は運ばれる。
 そこは丸い円形の、舞台の上。周囲を見ればめかし込んだ男や女が沢山いる。それが値踏みするような、嫌な視線で自分を見つめており娘の心は怖ろしさに震えた。
「さぁ! 次なる娘ははたしていくらか! では100から!」
 と、司会の男が声高に。面白がって101、120などと値を吊り上げていくもの達がいる。
 そんな中で――待ってくれ、と。ばたばたと隅から男が舞台へと駆け寄ってくる。
 おとうさん、と娘は心の中で唱えた。呼ぶことできず、けれど瞳の端には僅かに涙が溜まっていく。
「おや、あなたは――ああ、この娘の父でいらっしゃいます!」
 税が払えず仕方なく娘と共にここに来た父親! と、司会の男は男の身の上を告げるのだ。
 すると会場の者たちはさざめいて、ああ可哀想にと嘆いて見せる。
「娘と一緒に……いさせてくれ……!」
 悲痛な叫びは何よりも美味しい。集う者たちはひそひそ笑いあって、良いのではなくてと紡ぐのだ。けれどまだまだという声に、司会の男は話して、という。
 貴方とこの娘の関係を、思い出を。
 それらにこの場に居る者たちが満足したならば、司会の男は、よろしい! と一声。
「この娘は貴方のところへ」
 さぁ案内するので最後の一夜をお過ごしなさいと――告げる。
 落札を告げるように槌で叩く音響かせて。
 父親は息を呑み、もう後悔しても遅いのだと知る。いや、分かっていてここにきたのだが――やっと理解できたのだ。
 ただ頷くばかり、引き摺られるようにどこかへ連れていかれる。
 そして娘も舞台の裏へと引き戻されて――馬車へと乗せられた。
 大丈夫、お父さんとは後で会えますよと運んだ男が笑っている。
 娘は本当に会えるの? と思うのだがやがて馬車は動き出す。
 領主の居城へと、向かって。
リアン・ブリズヴェール
【ソロ希望】【アドリブ歓迎】【SPD判定】

【魅了変化】で4歳の緑のドレスを着た姿になってオークションには競り落とす側として入ります

またオークション開催前に【オルタナティブダブル】でファムを召喚し、ファムは1人で浚われそうになった別の女の子を助けるものの、代わりに捕まりエメラルドのラバー拘束具で顔以外の全身を拘束された装いでシンプルなより窮屈なガラスケースに詰められてしまいます、さらにガラスケースの中には下からかなり暑い透明な煙で燻されていて、ファムは全身汗まみれです

オークションではファムを大事な姉として一緒にいたい、離れたくないという泣きながらのアピールをして競り落とそうとします



●少女とエメラルドの拘束娘
 リアン・ブリズヴェール(微風の双姫・f24485)は――今は四歳の姿だった。
 緑のドレスを着て着飾ったもの達が集う会場へと入り込む。
 リアンは此処へ来る前に――もう一人の自分、ファムを召喚していた。そしてファムは浚われそうになった別の女の子を助け代わりに捕まったのだ。
「次なる箱の中身は――目当ての少女の代わりに捕まえた者です!」
 台車に乗せられ運ばれてきたのはシンプルなガラスケースだった。
 窮屈な其れの中、エメラルド色のラバーでファムは拘束されていた。
 唯一、顔なにもされておらず、けれどだらだらと汗をかき続けていた。
 体をぎちぎちに拘束するそれは通気性がなく熱がこもるばかり。そしてそればかりではなく――熱い透明な煙で燻されてファムはふらふらとしていた。
「それでは参りましょう――」
「おねえちゃん!」
 と、競りが始まる前にリアンは飛び出す。
 泣きながら、舞台へと走り寄っていくのだ。その行く手を邪魔するものはいない。
 代わりに、さぁどのようなものがみられるのかと、人々の目は好奇に満たされている。
「ここに、いた……!」
 離れたくないと泣きながら縋る。
 その様子にまぁ、心打たれるわ。一緒にしてあげないといけないね、などと参加者らの声が響く。
 その声を受けて、司会の男はでは、と槌を打ち鳴らした。
「皆様、誰も手を上げられぬということでよろしいでしょうか! ではこのエメラルドの拘束娘はこのお嬢さんに!」
 わぁ、と拍手が巻き起こる。
 どうぞどうぞ、一夜を大事な姉とお過ごしくださいと――告げながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき
真剣に敵の喉元までいく事を考えている。

この世界は咎人ばかり。
閉じこもった咎人の所まで運んでくれるなら、見世物になるのも経費だね。
だから同胞達、僕が箱に入るから、変装して縁者をしてくれないかな。

【WIZ】
囚われた人魚を装う。
同胞達に競りをしてもらうため、自身が動けないので見えない部分の肉を同胞に一時返却し実体化&変装させる。

人魚を食べれば長生きできるなんて迷信はサムライエンパイアだったかな。

そんな事を考えていた。

ここは競り市だけど、そうじゃない。
決して活きの良い魚を買う所ではない。

死人のくせに活きの良いお百姓さん達がやってきた。
そうかい、領主様に新鮮なお魚をね。

君達、後で禊潰す。

アドアレ絡み歓迎



●人魚と――
 どうやったら敵の喉元までいけるだろうか。
 真剣に、そのことを夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は考えていた。
 はぁ、とため息は――零すことができた。
 この世界は咎人ばかり。
 閉じこもった咎人の所まで運んでくれるなら、見世物になるのも経費だねとわずかに、みさきは瞳細めた。
 その身の、見えない部分の肉は――今は無く。
 みさきは同胞達へと一時的にそれを返却し実体化をさせている。
 海の、波の意匠の中に入れられたみさきは、さぁこの人魚はどなたがと競りにかけられる声に引き戻された。
 値段が吊り上がっていく。
 その中で――同胞たちが変装して向かってくるのがみえた。
 けれどふと、みさきはそういえばと考えてしまったのだ。
(「人魚を食べれば長生きできるなんて迷信はサムライエンパイアだったかな」)
 そして視線を巡らせると――ぞろぞろと。
 いや、と否定を紡ごうとした唇は震えるだけだった。
 そうじゃない。
 ここは競り市だけど、そうじゃない。
 決して活きの良い魚を買う所ではないのだ。
「おや、これは……え、貢物?」
 死人のくせに、活きの良いお百姓さん達。みさきはそれを複雑な気持ちで見つめている。
 金はないのだろう。その手には代金替わりの野菜――なのだろうが、それは小さく。さらに腐れているものばかりだ。
「なるほど……」
 と、この場を任されている者は突然現れた珍妙な客らに興味を示し、話を聞いている。
 そしてこの場に集う者たちも、興味があるようでその成り行きを見守っているのだ。
「領主様に新鮮な魚をお届したいそうだ! ああ、なんという領主想いの領民か!」
 それが――死しているものだとわかっているだろうに、大仰にふるまう。
 その様に客らもなんて素敵な心掛けと笑って。
(「そうかい、領主様に新鮮なお魚をね……」)
 君達、後で禊潰す。
 そんな気持ちを抱えたみさきは、彼らの手にゆだねられるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グレイ・アイビー
悟郎(f19225)と

『競り落とされる側』で参加

ぼくの前の主人とやらもそうでしたが、献上品や奴隷をセンスも無く飾りつけるのが好きな奴はどこにでもいるんですね
見た目に拘るしか脳のない連中はこれだから

ぼくが出来そうなのは瞬きによる合図ぐれぇでしょうか
素早く三回瞬きすれば「無事」というようにアニキと事前に打ち合わせしときましょう

アニキは上手くやってくれますかね
こういう仕事の経験はそれなりにあるようですが…肝心なところで失敗しねぇで下さいよ?

複数の鍵が掛かった鎖で飾られた箱に閉じ込められても不思議と不安はねぇです
作戦の成功を、いや、アニキを信じてるってことでしょうか
こんな連中に負けねぇでくださいよ


薬師神・悟郎
グレイ(f24892)

ヴァンパイアらしい悪趣味な宴だ

競り落とす側で行動
可能であれば事前にUC使用
グレイを対象に追跡させ五感を共有
潜入ついでにこちらに有益な情報が得られれば上出来

同情を誘う悲痛な姿に見えるよう村人風の変装と、コミュ力と催眠術による然り気無い誘導でグレイを競り落とすことを試みる

あの子は無事なのか!?
あいつは生き別れになっていた俺の弟なんだ!
やっと、やっと会えたのに…こんな別れはあんまりだ!

グレイに関する真実を織り混ぜながら言いくるめ
頼む、頼む、と必死に頭を下げて懇願する様子を見せれば、この手の輩の機嫌を良くすることが出来るかもしれん

今は耐えてくれ
必ず反撃への好機を作ってやるからな



●兄弟の、鍵と鎖の箱の中
 ため息まじりにグレイ・アイビー(寂しがりやの怪物・f24892)は思うのだ。
(「ぼくの前の主人とやらもそうでしたが、献上品や奴隷をセンスも無く飾りつけるのが好きな奴はどこにでもいるんですね」)
 見た目に拘るしか脳のない連中はこれだから、とグレイは呆れていた。
 複数の鍵が掛かった鎖で飾られた箱。シンプルであるのに、それが嫌に主張するのだ。
 閉じ込めている、ということを。
 グレイはその箱の内で身じろぐことも無く、身体は自由を奪われている。
 けれど僅かに瞬いたり微かに唇動かす事くらいはできる。
(「ぼくが出来そうなのは瞬きによる合図ぐれぇでしょうか」)
 早く三回瞬きすれば『無事』というようにアニキ――薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)とは事前に打ち合わせを。
 アニキは上手くやってくれますかねと、グレイは暇な時間に思いめぐらせていた。
(「こういう仕事の経験はそれなりにあるようですが……肝心なところで失敗しねぇで下さいよ?」)
 箱の中で大人しく待っていると――次はあなたと舞台の上へと運ばれていく。
 明るい競売場。
 その中で――悟郎はすでにグレイの無事を知っていた。
(「ヴァンパイアらしい悪趣味な宴だ」)
 グレイを追跡、と召喚したものと五感を共有し調べていたからだ。
 ついでになにか有益な情報があれば、とも思ったが競売の準備に忙しそうなものたちがいるくらいだ。
 グレイが現れたなら、悟郎は舞台へと駆け上がる。
 同情を誘う悲痛な姿に見えるよう、村人風の変装と。ほかにも使える手を使って。
 箱の中でグレイは動かない。その様子に慌てて見せる。
 けれど瞬き三度見えたなら身体が動かぬ以外は、問題はないのだと思うのだ。
 それでも、演技はもう始まっている。
「あの子は無事なのか!?」
「ええ、もちろん大丈夫でございます!」
 と、詰め寄った司会の男が応える。
「あいつは生き別れになっていた俺の弟なんだ! やっと、やっと会えたのに……こんな別れはあんまりだ!」
 真実を織り交ぜながら――悟郎は紡ぐ。
 頼む、頼む、と必死に頭を下げて懇願するのだ。
 そんな様子をグレイは見つめていた。こんな、飾られた箱に閉じ込められていても不思議と不安はなかった。
 作戦の成功を――いや、とグレイは思う。
(「アニキを信じてるってことでしょうか」)
 こんな連中に負けねぇでくださいよ、と視線を向ける。
 悟郎はまだ頭を下げていた。
 こうするとこの手の輩は機嫌よくなることも知っているからだ。
 今は耐えてくれ、と悟郎は思う。
 必ず反撃への好機を作ってやるからな、と。
 頼み続けるその姿に心を打たれたわけでは、ないのだろう。
 けれど男は告げるのだ。
 この箱は、あなたにと。どうぞ一夜を共にお過ごしくださいと――この後起こることを知っているからこその、笑みを向けて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

地籠・凌牙
【陵也(f27047)と。アドリブ諸々歓迎】

箱に入るのは俺だ。えーと、そうだな。こう、別にか弱い女子ってワケじゃあねえし、
凶暴なペットをぎゅうぎゅうなとこに閉じ込めてる感じのが一番しっくりくるんじゃねえか。そういうのが好きな奴向けというワケじゃあねえんだが。
ふんわりとしたイメージしか思い浮かばねえから曖昧なとこは全部好きにしてもらって構わない。

あとは俺が出品された時に陵也が双子で唯一の家族だってことをアピールすれば、二人して潜入できるハズ。
ってあれ、マジ泣きしてる……!?いや、確かに感情に訴えろって話だからそうしようって話はしたけど!!
全部終わったら後で何か奢ってやろう。そうしよう……


地籠・陵也
【凌牙(f26317)と。アドリブ諸々歓迎】☆POW
凌牙が箱に入って出てくるから、それを俺が双子であることをアピールして競り落とせばいいんだよな。
なりすますとは言え誰かが高い値段つける前に言わなきゃいけないんだろう?そう上手く演技で割り込めるだろうか……

ま、待ってくれ!連れていくなら俺も一緒に……!たった一人残った大事な双子の弟なんだ……!
他の家族がみんな死んでしまって、たった一人残された家族なんだ……お願いだ……!!
(演技のつもりが本気で泣き出し、終わった後で我に返る)
……演技のつもりだったのに本気で泣いてしまった。心配かけたかな……と、とにかく乗り込めたならOK、だよな……?



●双子であるから唯一と、ぎゅうぎゅうの檻
 この箱かぁ、と地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)が思うのは、己がしゃがんでやっと入るくらいの箱だった。
 檻のようなそれを見ている間に凌牙はさぁはやくと詰められてしまう。衣服はシンプルなシャツとズボン。けれど裸足のままに詰め込まれた。立っているわけにもいかず、この箱の中では座っている事しかできない。
 別にか弱い女子、というワケでもない。
 これはあれか、と凌牙は思うのだ。
「凶暴なペットをぎゅうぎゅうなとこに閉じ込めてる感じのが一番しっくりくる……」
 けれど自分はペットではなく。今はそれを仕方なく受け入れてやっているだけなのだ。
 そういうのが好きな奴向けというワケじゃあねえんだがと凌牙は思う。
 ぎゅうぎゅうの箱。身動きはとりづらいが、硝子が張られているわけでもなく檻のよう。
 手を伸ばせばその隙間から手を出せるのにその手が億劫で動かせない。
 それは僅かにこの場に広がる甘い香りのせいなのだ。
 あ、もう動けないと凌牙は思う。そのまま凌牙は待つのだ。
 双子の――地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)が現れてくれる時を。
 次々と運ばれていく箱たち。
 そして凌牙も例外なく、舞台へと。
「さぁてちょっとやんちゃな子はしつけが必要ですから、檻にしてみましたがいかがでしょう!」
 しつけ、なんてと凌牙は思うのだ。
 その姿を陵也は見つめて。
 双子で唯一の家族であることをアピールして競り落とせばいいと、事前に話をしていた。
 それは解っているものの、陵也は吊り上がる値段についていけぬまま。
 上手く演技で割り込めるだろうか――そう思っていたが、自然と体は動いていた。
「ま、待ってくれ! 連れていくなら俺も一緒に……! たった一人残った大事な双子の弟なんだ……!」
 舞台へと陵也は走りよる。必死そうに、手を伸ばして。
「他の家族がみんな死んでしまって、たった一人残された家族なんだ……お願いだ……!!」
 ほろりと涙がこぼれた。
 その様子に凌牙も驚く。その調子、と思っていたのだが涙が流れるさまは予想外。
(「ってあれ、マジ泣きしてる……!? いや、確かに感情に訴えろって話だからそうしようって話はしたけど!!」)
 けれどまだ競りは終わっていないのだ。
 唯一の双子と訴えかけて、そしてその涙は真に迫るものだ。
 司会の男が皆様どうでしょう! と大きな身振り手振りで告げる。
「引き離しては可哀想でしょう。泣いてしまうほどになのですから」
 この箱は――いいえ、双子は引き離さぬように、と告げる。
 それに観客たちも同意して拍手を。
 その様子に陵也はくるりと周囲を見回して。
(「……演技のつもりだったのに本気で泣いてしまった」)
 心配かけたかな、と陵也は凌牙へと向き直る。
 とにかく乗り込めたならOK、だよな……? と少しだけ心配そうに陵牙を見て。
 それに応えることはできないけれども――全部終わったら後で何か奢ってやろう。そうしよう……と凌牙は思うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四王天・燦
f03442 シホを競り落とす

愛しい人の危機はいつも心配だ

身代りとなった友へ想いを伝える為に参入

シホのドレス姿に放心。
綺麗…アタシの花嫁になって欲しい…
囁きが零れる

初手で十倍値を提示。
宝石貴金属も差し出す

理由?
支え合ってきた親友だから。
綺麗な心も汚い心も見せあった特別な人だから。
大好きだから!

色欲も抱いている…全てを晒し合いたかった。
ただアタシみたいな奴が触れて良いのか不安で手を出せなかった。
嫌われるのではと怖くて言えなかった

想いを伝えてさせて。
願わくば最後に抱かせて欲しい

心の中からシホが離れない!
家族になりたかった!

演技ではなく祈るような懇願になる

金が足りなきゃ女の命たる髪も切って差し出すよ


シホ・エーデルワイス
燦f04448と参加
アドリブ歓迎

人が人を売り買いする…
いつ見ても悲しい光景…
こんな事はもう終わらせないと

聖痕が宿命を果たせと疼く

出品されそうになっていた子を助ける為
身代りを申し出て
鳥籠の様な箱に詰められる

印象は囚われた天使の花嫁
服装は胸元の聖痕が見える白のドレスに
手枷足枷首輪を付け吊るされている
ドレスや箱の詳細な装飾とポーズのアドリブ希望

競りの光景を悲しげな眼差しで見つめつつ
それとなく儚げな雰囲気を醸し出す

燦の「抱かせて欲しい」発言に驚き
最初は演技だと言い聞かせようとするも
目を見て本気だと第六感で気づく

突然の告白に内心混乱するも
燦の熱い想いが私の心の底に響き
気付かない内に頬が紅くなる

心が温かい



●想いを抱き、鳥籠の花嫁を求め
(「人が人を売り買いする……いつ見ても悲しい光景……」)
 こんな事はもう終わらせないと、とシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は聖痕が宿命を果たせと疼くのを感じながら瞳を伏せた。
 出品されそうになっていた子を助けるため、シホは身代わりを申し出た。
 そして今、鳥籠のような箱に詰められていた。その箱は、箱なのだ。
 けれど精緻な文様刻んだ木枠と硝子でもって作られている。
 目を凝らせばそれがどれほどのものか離れていてもわかるだろう。
 その中に腰掛けられる場所があり、シホはそこに身を置かれた。
 纏うのは真っ白な衣装だ。レースで作られた服は首も手も、顔以外をきっちりと隠していくようなものだ。けれどその中で胸元は露わに。そこにある聖痕がみえるようにとされていた。
 幾重にも重ねられたドレスの裾が鳥籠の中で重なって、溢れるように詰められて。
 さしずめ囚われた天使の花嫁といったところだ。
 手枷足枷首輪が、その戒めの印。両手を上へ、吊り上げられて、しかし身じろぎできぬほどに体は億劫だ。
 そして――舞台上へと迎えられる。その視線は悲し気に、この場を憂いていた。
 その姿を、四王天・燦(月夜の翼・f04448)は見て。
 愛しい人の危機はいつも心配だと、燦は思う。身代わりとなった友へ想いを伝えるために。
 けれど、その姿に――燦は放心していた。
「綺麗……アタシの花嫁になって欲しい……」
 そのわずかの間にも値段が吊り上がる。そこで燦は手を挙げて、今の金額の十倍の値を提示した。
 宝石も貴金属も差し出そうと。
 けれどすぐさま、同じ値を出してくるものがいる。
「ううん、困りました……では理由を聞いてみましょうか」
 そう告げると、共に手を挙げているものは領主様が気に入りそうだからだと高らかに。
 この箱を捧げればきっと願いを聞き入れてくれるだろうと。
「なるほど~。では、あなたは?」
「理由?」
 支え合ってきた親友だから、と燦は告げる。
「綺麗な心も汚い心も見せあった特別な人だから。大好きだから!」
 その言葉に本当にそれだけでしょうかと司会の男が煽ってくるのだ。
「――色欲も抱いている……全てを晒し合いたかった」
 ただアタシみたいな奴が触れて良いのか不安で手を出せなかった。
 嫌われるのではと怖くて言えなかった――と、燦は言葉続ける。
「想いを伝えてさせて。願わくば最後に抱かせて欲しい」
 その言葉にシホは驚いて瞬く。
 これはきっと演技と、己に言い聞かせようとしていた。けれど、燦と目があってしまったら――それが本気だと、気付いてしまった。
「心の中からシホが離れない! 家族になりたかった!」
 シホは混乱の中にいた。
 突然の告白――けれどその熱い想いが心の底に響いていく。
 シホの頬はそうっと、紅に染まっていた。そしてその心が温かい。
 そして燦は、演技ではなく祈るように――それは懇願へと変わっていく。
「金が足りなきゃ女の命たる髪も切って差し出すよ」
 だから、お願いだと紡ぐ。
 すると司会の男は槌を打った。
「いいえ、髪もお代も大丈夫です! あなたのその想いは何よりも尊く重く、共に一夜を過ごすとよろしいでしょう!」
 けれど触れる事はできないでしょうがと小さく、男は言葉続けて笑うのだが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【烟雨】

……本当は嫌なんですけど、ねぇ……
縮こまって怖がるあの娘を好奇の目に晒すのも、柔らかい心を無惨に傷付けるのも、御免被ります
ただ、あの娘、あれで頑固なんですよね……
言ったって聞きやしねぇんですよ、道具が箱に詰められて金銭で取引されるなんて普通だってのに

自分の養い子です
やっと笑うようになった子なんです
やっと人と話せるようになって来た子なんです
せめて一緒に居させてください
どうか、

叫ぶのは得意じゃねぇんですけどね
切々とさせた声は、ほんの微か養い子への本音も混ざる
だって、拾った時は本当に酷かったんですから
最近は、外に出掛けるようになったのも知っています
大丈夫、護りますよ
人の子の、お前のこれからを


世母都・かんろ
『烟雨』

わたし自身の魅力の自信は
あんまりないけど
彼が箱に詰められるのも
お金で売られるのもすごく嫌で
無理矢理押し通しちゃった
…まだ、怒ってるかな

(硝子箱、真珠と小さな虹色オパール
雨雫と紫陽花で彩る淡い乙女※仔細お任せ)

久しぶりに感じる奇異の目は
想像以上に多くて、こわかった
勝手に雨を連れてしまうことは
バレているから
きっと、囮になれてる、はず
冷える背筋
あつくなる呼吸
こわい、こわい
涙が、でる

唯一動く瞳であの人を探す
動かない唇で
名前を呼ぶ

かのう、さん

その姿を認めれば
その声を聴ければ
十分だった

彼の叫びが演技でも
いいの
それが、聞けただけで
不安がゆっくり消えていく

大丈夫、こわくない
だって
必ず、守ってくれるから



●養い子、雨の乙女の箱
 わたし自身の魅力の自信はあんまりないけど、と世母都・かんろ(秋霖・f18159)は吐息一つ。
 けれどそれよりも。
(「彼が箱に詰められるのも、お金で売られるのもすごく嫌」)
 無理やり押し通りしちゃった、とかんろは零す。
(「……まだ、怒ってるかな」)
 今頃、会場にいるのかなと思う事だけが今は自由。
 かんろの身はすでに固定されていて動かないのだから。
 それは硝子の箱だった。箱の上からはしゃらりしゃらり、雨粒を模した硝子が揺れている。
 その中には真珠と小さな虹色オパールも揺れていた。
 それらは箱の縁取りにも添えられている。
 雨粒辿るようなゆるやかな曲線を描く縁取り。
 そしてかんろの足元には紫陽花がこんもりと重ねられてそれは腰のあたりまで重なっている。
 そして服も、ふんわりと紫陽花をいくつも重ねたようなミニドレス。足はバレエシューズのような、リボンで巻き上げていく靴だった。
 けれど、動くことはできずその時が来るまでは薄暗い舞台裏に置かれるだけだ。
 次々と競売場へと、箱が運ばれていく。
 その競売場にて、雲烟・叶(呪物・f07442)はため息をひとつ。
「……本当は嫌なんですけど、ねぇ……」
 けれど、だ。厭うている事がある。
 縮こまって怖がるあの娘を好奇の目に晒すのも、柔らかい心を無惨に傷付けるのも、御免被りますと。
「ただ、あの娘、あれで頑固なんですよね……」
 言ったって聞きやしないと、叶は小さく笑い零す。
 道具が箱に詰められて金銭で取引されるなんて普通だってのにと、繰り広げられるやり取りを一歩下がって、叶は聞いていた。
 そして――舞台に乗せられる。
 向けられる視線――久しぶりに感じる奇異の目が想像以上に多く、こわいとかんろの唇は僅かに震えた。
 それはさぁさぁと雨を連れているからか。
「ではこちらの、珍しき雨の子はいかがいたしましょう!」
 そんな、高らかな声にかんろはだいじょうぶ、と思う。
(「きっと、囮になれてる、はず」)
 冷える背筋。あつくなる呼吸――こわい、こわい。
 かんろの心の中で渦巻くものがある。雨と共に涙が、零れ落ちた。
 言葉を紡ぐことはできない。唯一、その瞳だけが動くのだ。
 かんろの視線はさまよいながら、動かぬ唇で名を呼んでいた。
 かのう、さん。
 面白がって金額が吊り上げられていく。
「自分の養い子です」
 すっと手をあげて、叶は歩み寄る。
 その姿を認めれば――その声を聴ければ十分。
 かんろの心にじんわり、満ちるものがあった。
「やっと笑うようになった子なんです。やっと人と話せるようになって来た子なんです」
 せめて一緒に居させてください。どうか、と切々とした言葉が向けられる。
 叫ぶのは得意ではない。
 けれど、叶の切々とさせた声は、ほんの微か養い子への本音も混ざっていた。
 だって、と思い起こす――その姿。
(「拾った時は本当に酷かったんですから」)
 ふと、視線が合う。最近は、外に出掛けるようになったのも知っていますとそれは言葉にはせず。
 そしてかんろも――抱く思いがある。その叫びが演技でも、それでもいい。
 それが聞けただけでかんろの心より不安がゆっくり消えていくのだ。
(「大丈夫、こわくない」)
 だって、とかんろは思うのだ。
 必ず、守ってくれるから――そう思うと、なんてこともない。
 そう、大丈夫と叶も思うのだ。
 言葉を交わしているわけではないが、通じているかのように。
(「大丈夫、護りますよ」)
 人の子の、お前のこれからをと叶は微かに微笑みを向ける。
 それは――この件にかかわる間だけではなくなのだろう。
 槌の音が響く。
 美しき関係でしょうと視界の男が告げて。
 やっと笑って、話せるように――けれどお別れはくるのですと悲しんでいるようなそぶりをみせて。
 せめてできるのは、もう少し共にいることを許すことだけと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

ライナスが入った箱を視認次第、競りに参加する
棺の中に入った姿を見れば
内側で何かが煮え滾るような想いを抱くかもしれない
……生きていると解っているのに、何故だろうか

愛している、とは言えない
俺は機械だから、そんな言葉を告げる資格はない
だが、使われる存在だからこそ……
俺を使ってくれる者は、傍に置いてくれる者は選びたいと思う

俺にとっては其れが
其処に居る、ライナス・ブレイスフォードという男なんだ
他の誰でもなく、ライナスに使われたい
どうしても傍に居たいと思う程、大事なんだ

あいつは、俺だけの所有者だ
ライナスを返してもらう
……お前が居なくなるかもしれないんだぞ、必死にもなる


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と
硝子製の箱に入り競りを待つ
身動き取れ無えのも苛立つけどよ
何より敷き詰められた薔薇だけは耐え難えなと眉間に皺を寄せる
アースでは死人が吸血鬼にならねえよう棺に薔薇を入れるっつぅけど流石に入れすぎだろ…
流れる血が示す拒否反応に悪態をつく気力もない侭舞台にあげられるもリカルドの姿を捉えれば思わずといった笑みを零してしまうかもしれねえな

はは、おまえさんさ、やっぱり俺の事好きだろ?
揶揄う様な言の葉を投げるも開いた口から肺に薔薇の香が潜り込めば僅かに表情が歪む
…まあ別れを惜しむ様な苦悩の表情に周囲には見えるかもしれねえな

…何処にも行かねえっつっただろが。
必死になってんじゃねえよ、ばあか



●機械と、薔薇香棺の所有者
 それは硝子製の箱だった。
 ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は窮屈な、と思う。
 しかし身動きが取れないことよりも――この、敷き詰められた薔薇が。
 ライナスの身を包み込む様に深く敷き詰められた薔薇の放つ香りが何よりも耐えがたく、眉間に皺を寄せるばかりだ。
 UDCアースでは、とライナスは思う。
(「死人が吸血鬼にならねえよう棺に薔薇を入れるっつぅけど流石に入れすぎだろ……」)
 そう思いながら吐息零す。
 それにしても――僅かに突き刺さる薔薇の棘。
 その場所は冷えていくのか、それとも熱いのか。流れる血が示す拒否反応。
 いつもならば悪態をつくだろう。けれどその気力もない。
「さぁ次は、薔薇の棺に納められた美丈夫はいかがでしょうか」
 ああ、まぶしいと僅かにライナスは瞳眇めた。
 けれどその先に――その姿を捉えれば僅かに笑みが零れるというもの。
 その視線の先で、リカルド・アヴリール(遂行機構・f15138)は知らずのうちに拳を握り込んでいた。
 ライナスの姿を目にすると同時に、己の内で煮え滾るような想いを抱いていた。
 僅かに、笑っている。生きている。それは解っているのだ。
 生きているとはわかっているのにそんな想いを抱えたのは、何故だろうか。
 ライナスを――愛している、とは言えない。
 それは己が機械だからだ。
 機械だから、そんな言葉を告げる資格はないと、リカルドは思っているのだ。
(「だが、使われる存在だからこそ……」)
 そう思い、足を進める。
 競売が始まり、その壇上へとリカルドはすぐ上がる。
「おや、あなたはこちらのどのような方でございます?」
 興味本位のように問いかけられる。
 その問に真直ぐ、リカルドは応えるのだ。
「その男は、俺を使う者――俺が選んだ、男だ」
 使われるからこそ、傍に置いてくれる者は選びたい。
「俺にとっては其れが」
 其処に居る、ライナス・ブレイスフォードという男なんだ――リカルドは真っすぐに告げる。
 それはこの場に居る者たちではなくライナスに向けるかのように。
 僅かに、ライナスの口端が吊り上がる。
 はは、と零れた吐息。
 おまえさんさ、やっぱり俺の事好きだろ? ――揶揄う様な言の葉。口の端だけがわずかに引き上げられる。
 けれどそれは硝子に阻まれて聞こえはしない。それに薔薇の香気がライナスの肺へと潜り込みその表情はすぐに歪んだ。
 その表情は果たして周囲にどう取られているのか。
 そしてその耳にリカルドの声が響くのだ。
「他の誰でもなく、ライナスに使われたい。どうしても傍に居たいと思う程、大事なんだ」
 あいつは、俺だけの所有者だとリカルドは言い切る。
 ライナスを返してもらうと、この場に居る者全てに言い放った。
 司会の男は、よろしいでしょうと槌を打つ。主と共にいたい気持ちはわかりますよと笑って。それではこの者を、あなたにと。
「……何処にも行かねえっつっただろが」
 必死になってんじゃねえよ、ばあかと僅かに唇動かして告げる。 
 ライナスの言葉を読み取ってリカルドは。
「……お前が居なくなるかもしれないんだぞ、必死にもなる」
 当たり前のことだろうと――告げるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
【Pow】
この場には不釣り合いであろう
普段の黒衣のまま
普段の笑みを浮かべ
堂々と会場に入る

特に何が欲しいというのはないのだがね
少し興味が湧いてしまってね

目を止めたのは
まだ年端もいかぬ少年の姿
自分の身がよくない状況に置かれているのにも関わらず
好奇心に瞳を輝かせ
口元にはほんのり笑みすら浮かべている
…ああ、まるで
過去の私を見ているようだ

ねえ、今夜は私と共に過ごさないかい?
どこまで仕込めるかわからないが、
この世界での生き方を出来る限り伝えておきたいんだ
意味ありげな言葉と笑みを浮かべ
懐に忍ばせた金の袋を司会者に見せつけて

この子と一晩何をするかって?
ふふ、野暮なことは聞かないでくれ
悪いようにはしないから



●人格者たるか
 華々しき競売場の中、黒衣の男、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は普段の笑みを浮かべてただただ、様子を見詰めていた。
 堂々と会場にはいり、咎められる事もなく。
「あなたは何をお求めですの?」
「特に何が欲しいというのはないのだがね、少し興味が湧いてしまってね」
 社交場のお喋りだ。傍らの席の夫人が話しかけてくるのにセツナは笑って、何かいい掘り出しものでもあるだろうかと返す。
 ひとつ、ふたつ。
 いくつも猟兵たちが手をあげて、そして連れ立っていく。
「お次の箱に入りましたは、どこかで誰かが見つけてきた少年でございます」
 シンプルな黒い縁取りの、ガラスの箱だった。
 それに、セツナの目がとまる。
 まだ年端もいかぬ少年だった。きっちりと着込んだ服は上質なものなのだ。
 彼の瞳はきょろきょろと行ったり来たり。好奇心に瞳を輝かせて、口元にはほんのり笑みすら浮かべているのだ。
 そこにいるということ――己がよくない状況に置かれていることをわかっているのか。
 いや、きっとわかっていないのだろう。
 セツナはそんな様子にふ、と息一つ。
「……ああ、まるで」
 過去の私を見ているようだ――そう思うと立ち上がり舞台へと向かっていた。
「ではこの値で落札――おや?」
 あなた様も落札をご希望で、と壇上へとやってきたセツナへと司会の男が言葉向ける。
 その男を素通りして、セツナは少年の前に立った。
 きょとんとした少年の視線のみがセツナへと向けられている。
「ねえ、今夜は私と共に過ごさないかい?」
 どこまで仕込めるかわからないが、この世界での生き方を出来る限り伝えておきたいんだと意味ありげな言葉と笑みを浮かべる。
 その言葉は少年に聞こえていたのだろう。瞬き一つを返事とする。
「競り落とすならば金額の提示をお願いします」
 と、司会の男がそっと様子伺う様に声かけてくる。セツナは男へと懐に忍ばせた金の袋を見せつけた。
 安心したまえというように。
 男は笑って、なるほど良いご趣味をお持ちのようでと告げる。
 一晩どうぞ、お好きにお過ごしくださいと。どうされるのか興味はありますけれど、なんて話しつつ。
「この子と一晩何をするかって?」
 セツナは瞳細めふふ、と笑い零した。
 野暮なことは聞かないでくれと。
 悪いようにはしないから――そう告げたのは少年へか、それともこの先に潜むものへか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
入れられた箱は漆塗りの黒箱
箱には咲いた花を模した螺鈿が数か所
黒を基調としていながら、小さく飾る花が映える

装いは紫を基調とし、袖等の端は白のグラデーションの着物
着物には青の色が濃い竜胆、帯は萌黄
髪は後ろで結って、束ねた髪は前へ流す
長く美しい髪を見せるように

始まりと同時に聞こえる声は聞き慣れた声
威嚇するように吠えるのは、奪われんとするからで
普段とは異なる勇ましさと言うべきか、見せない怒りと言うべきか

そう……私が居なければ、彼は
彼が居なければ私は
互いに生きていく為に、私も彼も必要なのです

燃えるように強い瞳、温かく愛おしい――私の太陽
花は陽を浴びなければ生きられないのです
どうか、私を彼の元へ


篝・倫太郎
【華禱】
納められた箱
華美な装飾が無くても
夜彦の存在そのものが目を奪う程で

競売の始まりを告げる声に
被せるようにして叫ぶ
誰にも競りに参加させてなんざやらねぇ……
そんな事を思いながら、後悔を滲ませた風で叫ぶ

駄目だ!やっぱり駄目だ!
夜彦を手放すなんて出来ねぇ!

夜彦を手放して、どうして生きていける?
俺の唯一無二
最愛の、竜胆――

藍と紫の混じった瞳
その性格の真っすぐさを示すようにその瞳に俺を映すたった1人
笑めば穏やかで柔らかな綺麗な笑みを零す、俺だけの花

身寄りがなくて孤独で凍えそうな気持だった俺に
静かに寄り添ってくれたたった一人だ
どうあったって、手放せねぇよ

頼む……
俺から夜彦を奪わねぇでくれ
お願いだから……



●涙する男、竜胆の箱
 月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は、己が入れられた箱を内側から眺めていた。
 漆塗りの黒い箱。咲いた花を模した螺鈿が数か所に彩られ黒の中で映えているのだ。
 そして夜彦自身は、紫を貴重とした着物を纏っていた。袖の端などは白へと移り変わっていき、青の色が濃い竜胆が咲く。そして萌黄の帯を締めた。
 髪は後ろで結わえ、束ねた髪は肩から前へと、するりと流す。
 その色は、箱の中でひときわ目を引く色でもあった。
 箱は決して華美なものではない。けれどそれが夜彦を納めるに一番、しっくりとあうものだった。
 競売が始まり、先に運ばれていく箱をみつめる。
 そして自分の番と明るい舞台上へと夜彦は運ばれた。
 その箱が、夜彦が現れるとともに――篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)はその目を奪われていた。
(「誰にも競りに参加させてなんざやらねぇ……」)
 競売の始まりを告げる声。
 けれどそれに被せるように、後悔を滲ませた声を倫太郎は響かせる。
「それでは――」
「駄目だ! やっぱり駄目だ! 夜彦を手放すなんて出来ねぇ!」
 壇上へとすぐに向かって駆けあがる。
 競売の始まりが告げられる前に、夜彦のもとへと倫太郎はたどり着く。
 その聞きなれた声に夜彦は思うのだ。
(「威嚇するように吠えるのは、奪われんとするからで」)
 普段とは異なる、勇ましさと言うべきか。けれどそれとも、違う。
 見せない怒り――そちらのほうがまだ近さがある。
「夜彦を手放して、どうして生きていける? 俺の唯一無二。最愛の、竜胆――」
 すがるように、夜彦の納められた箱の前に膝をつく。
(「そう……私が居なければ、彼は」)
 彼が居なければ私は――互いに生きていく為に、私も彼も必要なのですと夜彦は思う。
 けれどそれを言葉には、今はできない。音にしようとすれば唇が震えるだけだからだ。
 倫太郎は夜彦を見上げる。視線は、合うことを許されていた。
 藍と紫の混じった瞳――その性格の真っすぐさを示すようにその瞳に俺を映すたった1人と倫太郎は零す。
 ――笑めば穏やかで柔らかな綺麗な笑みを零す、俺だけの花。
 燃えるように強い瞳、温かく愛おしい――私の太陽、と。
 夜彦も思うのだ。
(「花は陽を浴びなければ生きられないのです。どうか、私を彼の元へ」)
 ちらりと、視線を司会者の男へ向けて夜彦は臥せる。
 すると司会者はなるほどと楽し気に笑って頷いていた。
「あなたにとってこの方はどのような? それをお聞かせいただければもしかしたらもしかしても――あるかもしれません」
 此処は金より人の感情、想いが優先される競売なのですからと告げて。
「身寄りがなくて孤独で凍えそうな気持だった俺に、静かに寄り添ってくれたたった一人だ」
 どうあったって、手放せねぇよと倫太郎は紡ぎ――頼むと弱弱しく零した。
「頼む……俺から夜彦を奪わねぇでくれ。お願いだから……」
 その様子に競売場は、ああ引き離すなんてかわいそうなこと、とざわめくのだ。
 そしてその空気を司会の男は受け止めてわかりましたと槌を振り下ろす。
 始まっていなかった競売は、終わるのだ。夜彦の行先を倫太郎へと決めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

奇鳥・カイト
仁美(f02862)と参加
競り落とす側

とっとと吸血鬼を倒してェが……わざわざ入らないといけねーなんてな、面倒な話だ
まあ、仁美のやつは行っちまったし、そのままにしとくのもな
…行くしかねェか


愛だのなんだの、どいつも浮ついてやがる
どうせやる事は同じなんだからよ、取り繕う必要なんてねェ
しかし、金──は俺の手持ちじゃどうしようもねェな
万年金欠だ

つーか何て格好してんだ…恥ずかしくねェのかよ

アイツの気遣いっつーか、そういうのが鬱陶しいとも思う時はあるが
まあ、別に、嫌いとかではねェし…
だからって大好きだとかでもねェ
ただ、それでも…

あぁもう面倒臭ェ!
そいつは俺ンのだ! いいからとっとと寄越しやがれ!


アドリブ歓迎


霧沢・仁美
カイトくん(f03912)と一緒に参加。
『箱に入る側』で。

服装は花を編んで作ったビキニ水着っぽい衣装。
箱は立方体に近いガラス製、隙間にも色々な花を詰めて。
体型的にも露出度高いし、かなり恥ずかしいねこれ…!

うう、すっごい視線が刺さる…この格好が【誘惑】【おびき寄せ】になってるのか、あたしを見る目が皆凄いコトになってるような…
…カイトくん、大丈夫かな…なんか金額が凄いコトになりそうだけど…
こんなコトになるなら、あたしからもちょっとくらい渡しておいた方が良かったかも…

…って、そんな直球に自分のだなんて…!
や、嫌じゃないけど、寧ろ嬉しいけど…こう…やっぱり凄く恥ずかしいっていうか…!



●面倒くさがりと花の娘
 う、うそ……と思わず零したのは霧沢・仁美(普通でありたい女子高生・f02862)だ。
 花を編んで作ったビキニ水着のような衣装。
 それに立方体に近い硝子の箱だ。その中にも色とりどりの花々が詰められて――仁美は箱へと座った状態で詰められた。
(「体型的にも露出度高いし、かなり恥ずかしいねこれ……!」)
 花いっぱいのその中で、仁美は僅かに身じろぐ。
 そして競りの舞台へとあがるのはもうすぐと告げられていた。
 その競りの舞台――その端で。
(「とっとと吸血鬼を倒してェが……わざわざ入らないといけねーなんてな、面倒な話だ」)
 奇鳥・カイト(自分殺しの半血鬼・f03912)はため息一つ零す。
 けれど、行かないわけにはという理由もあるのだ。
(「まあ、仁美のやつは行っちまったし、そのままにしとくのもな……行くしかねェか」)
 今まで――競りを見て。
 愛だのなんだの、どいつも浮ついてやがるとカイトは思うのだ。
 どうせやる事は同じなんだからよ、取り繕う必要なんてねェ、と思うのだがしかし。
 しかし。
(「金──は俺の手持ちじゃどうしようもねェな」)
 万年金欠。ならば、この場の流儀に倣うしかないのだ。
 次の競売はと告げられる声。
「花に彩られた娘はいかがでしょう!」
 舞台の上にあげられて、仁美は小さく唸っていた。
(「うう、すっごい視線が刺さる……」)
 この格好が一層、誘惑しおびき寄せになっているのか。
 おお、とどよめくとともに向けられる視線はねっとりとしたものも含まれている。
(「あたしを見る目が皆凄いコトになってるような……」)
 そして始まれば値段は上がっていく。それを聞きながら仁美は大丈夫かな……と思うのだ。
(「なんか金額が凄いコトになりそうだけど……」)
 こんなコトになるなら、あたしからもちょっとくらい渡しておいた方が良かったかも……と視線を巡らせる。
 なんだか嫌な心地になる視線の中で――カイトの視線だけは違っていた。
「つーか何て格好してんだ……恥ずかしくねェのかよ」
 それは呆れを含んだような声色だった。
 箱の中にいる仁美。仁美をカイトはどう思っているのか。
(「アイツの気遣いっつーか、そういうのが鬱陶しいとも思う時はあるが。まあ、別に、嫌いとかではねェし……」)
 だからって大好きだとかでもねェとぽつりとカイトは零す。
 と、もうよろしいでしょうかと声が響きハッとする。
 値段が上がって、そして止まる。最後に手を挙げているのは好色そうな男だ。
 ただ、それでも――と、カイトは走りだした。
「あぁもう面倒臭ェ! そいつは俺ンのだ! いいからとっとと寄越しやがれ!」
 高らかに叫びながら舞台の上へと挙がる。
 その声を聴いて仁美はぱちくり、瞬いた。
(「……って、そんな直球に自分のだなんて……!」)
 ぱくぱくと口が動く。
 なんだその顔は、という様にカイトの視線が向けられた。
(「や、嫌じゃないけど、寧ろ嬉しいけど……こう……やっぱり凄く恥ずかしいっていうか……!」)
 紡ごうとすることができず、思うだけだ。
 ……って、そんな直球に自分のだなんて……! と仁美は僅かにその頬を染める。
 そんな様子におやおやと司会の男は笑って――大枚よりも良き縁があるようでと告げる。
 もう一歩で落札だった男は肩を落とし、けれどすごすごと去っていく。
 ここでは金よりも――縁が、想いの方が価値あるものなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

前回はきみを競り落としましたから、今回は僕が箱に入りましょう
信じていますよ、ザッフィーロ

金属製の檻のような箱にはアストロラーベのように天星図を模した装飾が施され
貢物らしく凝ったデザイン
そのほかはお任せさせていただきます

服装についてはいつものローブは目立つでしょうから
藍色のローブを着ていきましょう
帯や袖には金糸で刺繍が入り
貢物らしく少々華やかさを演出して

身動ぎできない状態というのは思いのほか……
ええ、不快なものですね
大人しく箱に詰められているとしましょうか

競りでもじっとしているも
耳慣れた声が聞こえたなら
視線を動かしてかれを見て切なげに笑いましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

以前は俺が売られたのだったか
あの時は宵が競り落としてくれると信じていた故不安は無かったが…競る側とはこれ程の心持ちになるのかと
心を抑えながら宵が競りにかけられる迄待つ

箱に詰められた宵が舞台の上に現れれば舞台の方へと駆け寄ろう
設定はかどわかされた大事な相方をやっと見つけた男、という所だろうか
ああ、本当に美しいな…だが、身動きとれぬその身は朽ちた後のそれを連想させ思わず苦し気に眉が寄ってしまう

宵、宵…朽ちる迄共に在ると言っただろう
何故斯様な場所にと、檻の間から手を伸ばしその髪を撫で梳かんと試みよう
もし誰かが競りを入れたならばそれ以上の金額を
…誰にも宵を渡す訳には行かんから、な



●手を伸ばす男と、星宮の檻の中
 以前は俺が売られたのだったか、とザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)はふと息を吐く。
 あの時は――競り落としてくれると信じていた。それ故、不安はなかったのだ。
 だが。
(「競る側とはこれ程の心持になるのか……」)
 不快、とは違う。不安、とも違う。
 けれどそれらに似た妙な心地だった。
 そのような想いをザッフィーロが抱いていた頃、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は僅かに微笑んでいた。
 前回は、宵がザッフィーロを競り落としたのだ。
 だから今回は僕が、と宵は告げたのだ。
 信じていますよ、ザッフィーロと。
 その、宵が迎えられる箱は――金属製の檻のような。
 そしてアストロラーベのように天星図を模した装飾が施されている。
 その天星図のきらきらとする星の輝きは――宝石だろう。ひとつずつ、小さなものを埋め込んで描かれており手がかかっているのだ。
 貢物らしく凝ったデザインですね、と宵は思う。そしてその顔の前夜空の色の布が重ねられ、縁取って、僅かに表情の一部を隠していく。
 きっと外からは口許しか見えぬだろう。
 いつものローブでは目立つだろうからと、宵が纏う色は藍。けれど帯、袖には金糸で刺繍が入り華やかさもあるのだ。
 きっと動けばその刺繍も一層よく見えるというのに今は檻の中。
(「身動ぎできない状態というのは思いのほか……」)
 ええ、不快なものですねと宵の想いは吐息として零れた。
 しかしできる事は、ない。
 大人しく箱に詰められているとしましょうかと僅かに瞳細める。
 まだ呼ばれないのか、少し退屈なんて思っていると己の檻が動き始める。
 けれど、視界は布一枚が下がり塞がれていて音しか宵は拾えない。
「神秘的な、星の輝きの箱に閉じ込めて。箱にも贅を尽くしたものでございますから始まりは――1000より」
 吊り上がった額に会場のどよめきが聞こえる。
 それをどこか遠くでザッフィーロは聞きながら舞台の方へと駆け寄った。
「宵……」
「おやぁ? 商品におさわりは厳禁でございますが、何か理由がおありのようで?」
 値が上がる、それを一時司会の男は止めて、ザッフィーロを舞台の上へと招くのだ。
 ああ、本当に美しいなと――顔は見えねども。その口端にたたえられた笑みでどのような表情かまでもわかる。
 しかし、身動きとれぬその身は朽ちた後のそれを連想させ、思わず苦し気に眉が寄ってしまう。
 その表情を確りとみていた司会の男は、お話聞きましょと客らへと向けるのだ。
 そしてザッフィーロは、かどわかされた大事な相方なのだと告げる。
 その耳慣れた声。この目の前の布一枚が僅かに邪魔だけれど視線を下に向ければ檻に触れる手が見えた。
 ちょっとだけお顔もお見せしましょうかと視界の男が顔の前に垂れる布を僅かばかりずらす。
 切なげに笑う――その表情がザッフィーロにも見えて。
「宵、宵……朽ちる迄共に在ると言っただろう」
 何故斯様な場所にと、檻の間から手を伸ばしその髪を撫で梳かんと――したのだが、そこまでですよと司会の男に止められた。
 その男へと向け、ザッフィーロは銀の瞳を細めて。
「今、宵の額はいくらだ」
 それ以上の金額を出そうと言い放つ。
 すると――司会の男はいいえいいえと首を振るのだ。
 お代はもう十分に――あなたのこの方へ向ける気持ちは、縁は何よりも深いと言って。
「……誰にも宵を渡す訳には行かんから、な」
 その声が届いたのは、宵の耳にのみ。
 すでに会場は拍手が巻き起こり、その方にその箱の彼をと盛り上がっていたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と
・アドリブ歓迎

人の絆を引き裂き、その愛を弄ぶ所業、悪意に満ちた享楽の宴
決して許してはおけません
大丈夫、覚悟は出来ています
わたくしたちの手で、これ以上の惨劇を防ぎましょう

祈るように手を組んだまま、水晶のように透明な硝子の箱に詰められて
箱の中には、純潔を示す白百合と、勿忘草の青い花
その姿はまるで、天使を封じ込めたハーバリウムのよう

蒼の瞳は愛する夫の姿を探す
声にならない救いの歌を、心の裡に響かせながら

ヴォルフ、わたくしを忘れないで
今は何も言えなくとも、身動きひとつ出来なくとも
わたくしの心は、あなたと共に

わたくしは信じています
ヴォルフは必ず、この棺から救い出してくれると――


ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と
・アドリブ歓迎

自由を奪われ、悪意に満ちた競りにかけられ、吸血鬼に献上される……
ヘルガ、すまない。お前に辛い思いをさせて

冷たい硝子の箱に詰められたヘルガは、まるで永久の時を越える精巧な人形のようで
だが違う。俺が求める彼女の美しさは、こんな悲しいものじゃない
花のように、小鳥のように、陽だまりのように
共に笑い、喜びを歌い、凍てついた心を暖めてくれる
俺は彼女と共に『生きて』いたいんだ……!

騎士として、そして夫として
命を懸けて彼女を守ると誓った
どうかその誓いを果たさせてくれ……

待っていてくれ、ヘルガ
たとえこの先に何が待ち受けていても、俺は必ずお前を救い出す……!



●騎士であり、夫である男と天使の箱
 人の絆を引き裂き、その愛を弄ぶ所業、悪意に満ちた享楽の宴――それは決して許しておけるものではないとヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は思う。
 だから甘んじているのだ。
 覚悟はできている、してきた。
 わたくしたちの手で、これ以上の惨劇を防ぎましょうとヘルガはヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)へと誓っていた。
 ヘルガは祈るように手を組んだまま、水晶のように透明な、硝子の箱へと詰められる。
 そして箱には、純潔を示す白百合と勿忘草の青い花が美しく敷き詰められて。
 その姿はまるで、天使を封じ込めたハーバリウムのようだ。
 次々と舞台上へと運ばれていく姿を見つつ、ヘルガは己の番を待つしかない。
 今は薄暗い舞台裏。あの明るい舞台の上へと引き上げられれば――きっとそこには愛する夫がいる筈。
 そしてヴォルフガングもまた、待っていた。
(「自由を奪われ、悪意に満ちた競りにかけられ、吸血鬼に献上される……ヘルガ、すまない。お前に辛い思いをさせて」)
 敵へとたどり着くためにこれは必要なことなのだ。
 けれど、心のどこかでは割り切れないものもある。
「では次の箱は――水晶に閉じ込めた天使とでもいいましょう!」
 こちらです、という声が響く。
 ヴォルフガングがその声に舞台を見れば――そこにはヘルガの姿があった。
 冷たい硝子の箱に詰められたヘルガは、まるで永久の時を越える精巧な人形のよう。
 だが違うのだ。それはヴォルフガングの知っているヘルガではない。
 ヴォルフガングが求める彼女の美しさは、こんな悲しいものじゃないのだと。
 ヴォルフガングは違う、と舞台へと向かう。
 その間にも競売は始まり、値は吊り上がっていた。
 そしてヘルガは青い瞳をそっと動かして――愛する夫の姿を見つけて僅かに表情緩む。
 そして心の内で、声にならぬ救いの歌を響かせていた。
(「ヴォルフ、わたくしを忘れないで」)
 今は何も言えなくとも、身動きひとつ出来なくとも――わたくしの心は、あなたと共に、と。
「おや、こちらの箱にも縁深い方がいらっしゃるようで」
 あなたにとってこの方は、と司会の男が訊ねる。
 どうしてそのようなことを教えねばならないのか、とも思いはするのだ。
「花のように、小鳥のように、陽だまりのように」
 共に笑い、喜びを歌い、凍てついた心を暖めてくれる――それがヴォルフガングにとってのヘルガ。
「俺は彼女と共に『生きて』いたいんだ……!」
 騎士として、そして夫として――命を懸けて彼女を守ると誓ったとヴォルフガングは紡ぐ。
「どうかその誓いを果たさせてくれ……」
 その声はヘルガにも聞こえている。
 わたくしは信じています、とそっと微笑みを浮かべて。
(「ヴォルフは必ず、この棺から救い出してくれる――」)
 向けた視線。ヴォルフガングも、ヘルガを見つめる。
 待っていてくれ、ヘルガと告げて。
(「たとえこの先に何が待ち受けていても、俺は必ずお前を救い出す……!」)
 言葉を交わすことはなくとも、見つめ合う。
 司会の男はよろしいでしょう! と高らかに。
 愛し合う者たちを引き離すなんてそんな野暮なこと、致しませんよと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と

作戦とはいえアル大丈夫か…?
身動きが取れないのって、危険だし
オレのが良かったんじゃ…まぁそれを守るのもオレの役目か!

とりあえずやることは、
オークションでアルを競り落とせばいいんだな
(箱詰めされた姿を見て))……アル綺麗…
あ、じゃない。早く競り落とさないとアルが…
アルが他のやつに…?
は、そんなの許さねぇけど
アルはオレのもんだし。

「黙れ」

競り落とそうとする声を拳を壁に叩きつけながら
【恫喝】と【殺気】で黙らせる
アルは誰にも渡さねぇ…オレが貰う
他に競り落としたいやつがいるってんなら前に出ろ
その口聞けなくしてやる


アルデルク・イドルド
ディルク(f27280)と

宝箱のような箱の中に宝石を散りばめた装飾品を身につけてやや露出の多い踊り子の様な姿で箱詰めにされている。

まさか自分が宝箱の中に入る日がくるとはな…宝石を散りばめた装飾品は悪くはないが。踊り子のような格好と言うのは少々恥ずかしいな…肌の露出も多いような気もするし…こう言うのは綺麗なお嬢ちゃんの方が似合うと思うんだが何を思ってこんな格好にさせられたのやら。

後はディルクに任せるしかねぇがよろしく頼むぜ
自分の相棒だと言ってくれればそれで…
(動けないまま目線だけはディルクに向けようと)

(ディルクの声に驚きながらも不思議とドキリと)ディル?



●告げる青年と宝石の踊り子箱
 その瞳のようにキラキラ輝く金の色で縁取って。
 宝箱のような箱は華美すぎず上品な佇まいだった。
 その中に収められたアルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)は――宝石散りばめた装飾品を身に着けて。やや露出の多い踊り子のような衣装で箱に詰められた。
 きっと動けばしゃらりとその布がきれいな軌跡を描くのだろう。その様を箱に閉じ込めるように、その姿は踊るかのように固定を施されじわじわと疲れてくる。
(「まさか自分が宝箱の中に入る日がくるとはな……宝石を散りばめた装飾品は悪くはないが」)
 この踊り子のような格好と言うのは少々恥ずかしいなとアルデルクは思うのだ。
 肌の露出も多いような気がするし……と吐息ひとつ。
(「こう言うのは綺麗なお嬢ちゃんの方が似合うと思うんだが」)
 何を思ってこんな格好にさせられたのやらとアルデルクは呆れのような気持ちを抱いていた。
 そして――すでに自由は奪われて、もう己に出来る事はといえば託す事のみだ。
(「後はディルクに任せるしかねぇがよろしく頼むぜ」)
 そう思いながらアルデルクな賑やかな舞台上へと運ばれていく。
 そしてディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)は――相方を心配していた。
「作戦とはいえアル大丈夫か……?」
 次々と競売にかけられるもの達の姿を見て、零す。
 身動きが取れないのって、危険だし、と思いめぐらせて。
「オレのが良かったんじゃ……まぁそれを守るのもオレの役目か!」
 なら、やることは一つ。
 この競売でアルデルクを競り落とせばいいだけなのだ。
 そう思ったところへ、司会の男の声が響く。
「宝石に彩られた踊り子さんの箱でございます!」
 その声に何故だか惹かれて――舞台を見れば。
「……アル綺麗……」
 その姿に、ディルクは見惚れていた。
 値が飛び交う。そのたびに吊り上がる。
 動けないままに、視線だけをアルデルクはディルクへと向けようとしていた。
 自分の相棒だと言ってくれればそれで。きっとこの場は収まる筈――だというのに、動く気配がない。
「もういらっしゃいませんか!」
 と――そんな声にディルクは我に返った。
「あ、じゃない。早く競り落とさないとアルが……」
 アルが他のやつに……?
 そう思うとじわりと心の中に浮かぶ衝動があった。
「は、そんなの」
 許さねぇけど――アルはオレのもんだし、とディルクはその気持ちを、その拳を壁に叩きつけて表した。
「――黙れ」
 鈍い音。その声に乗せられる殺気――凄みのある声に会場はしんと静まる。
 そしてディルクは舞台の方へと歩むのだ。
「アルは誰にも渡さねぇ……オレが貰う」
 その声に、驚きながらもアルデルクは不思議と、ドキリとしてしまう。
「ディル?」
 か細く落ちた声は彼の耳には届いていないようだ。
 そして、ディルクは会場のほかの者たちへと再度、告げる。
「他に競り落としたいやつがいるってんなら前に出ろ」
 その口聞けなくしてやる――と言葉続ければ静まったところへ槌が振り下ろされる音が響いた。
「よろしいでしょう! 誰にも渡したくない――あなたがお持ちください!」
 その感情の振りまき方は特別だからこそなのでしょうと言って。
 アルデルクはディルクのもとへと送られる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

憂世・長閑
あやちゃん/f01194と

ああ、だから、
だから、君を護ると言ったのに

大丈夫なのだと君は言う
オレのちからは借りないと、いつも君は言う

主が、主様が
あやちゃんは繊細だから
壊れてしまわないようにって言ってたんだ

その意味をオレは知ってる
大好きだった、拠り所にしていたあの子が壊れてしまった時
君はダメになったから…
もう繰り返さないようにって

ねえ、勝手に壊れてしまわないで
あの子はいなくなっても
君にいなくなられたら、どうしていいか分からないから

オレは主が望んだものでいるために
君を護らないといけないんだ

オレをオレたらしめる唯一
「オレが錠でいる為に――オレには君が必要なんだ」

泣かないで、ほら
大丈夫だから、ね?


浮世・綾華
長閑/f01437と

纏うのは巫の衣装
入るは重厚な金庫のような箱

俺は大丈夫だと啖呵を切ってからも
人の手をとることをやめられなかった

お前に守られなくたって大丈夫なのだと、思いたかった
…だから、なのに

自由を奪われれば思い起こされる記憶は
暗い、暗い箱の――檻の中
多少暗いだけならば大丈夫になったのに
狭い場所はまだダメで
うまく呼吸が出来ない
苦しさに思考が働かない

…っ――、

憐れむような長閑の表情が映って
ぼろと零れ落ちた雫にも気づけない

……

出してほしいなんて、言えない
言おうとしても儘ならなくて
それが今は、酷くありがたい

長閑が何かを言っている
いつもの、変わらない表情で

お前も、何も見たくないのに
俯くことさえ――



●錠と鍵と、重きは箱か、それとも
 巫の衣装を纏い浮世・綾華(千日紅・f01194)は重厚な、大事なものをしまう金庫のような箱へと収められた。
 その中に入った瞬間から息が詰まる。
 俺は大丈夫だと啖呵を切ってからも――綾華は人の手をとることをやめられなかった。
 お前に守られなくたって大丈夫なのだと、思いたかったのだ。
(「……だから、なのに」)
 心を塗りつぶすかのように迫るような、この囲い、箱。
 自由を奪われる。それは綾華の心に否応なく思い起こさせるのだ。
 暗い、暗い箱の――檻の中。
 多少暗いだけならば大丈夫になった。けれど狭い場所は――まだ。
 ひゅ、と喉が鳴る音は生々しい。
 呼吸がうまくできないことをそれで知る。苦しくて、思考がまともに――動かない。
 くらい、くらいその世界に――光が差し込めば。
「大事にしまい込まれた此方はいかがかな!」
 扉が開いた先では賑やかな競売の世界。その中で綾華は――見つけた。
「…っ――、」
 ああ、だから、と――憂世・長閑(愛し秉燭・f01437)は。
「だから、君を」
 護ると言ったのに。
 大丈夫なのだと君は言う。
 オレのちからは借りないと、いつも君は言う――長閑はあやちゃん、と細く零した。
 長閑は主が、主様が言っていたことを思い出す。
 あやちゃんは繊細だから、壊れてしまわないようにって言ってたんだと。
 その意味を長閑は知っている。
 大好きだった、拠り所にしていたあの子が壊れてしまった時――綾華はダメになったから。
 もう繰り返さないようにと、思っている。
 長閑の浮かべる表情は様々なものを含んでいて。
 綾華を大事にと守ろうと思って浮かべる表情は、綾華にとって。
 綾華にとっては、憐れむように見えて――ぼろ、と瞬けば大粒の涙が零れ落ちた。
 それにも綾華は気付けないくらいに、その表情は心を揺らして、言葉を失って。呼吸さえも忘れてしまう。
 出してほしいなんて、言えはしない。
 言おうとしても、今は唇を動かすことも億劫で儘ならないのだ。
 それが今は、酷くありがたいと綾華は思う。
 競売始まり、値が上がっている。長閑はその中を歩み、舞台へと向かうのだ。
「ねえ、勝手に壊れてしまわないで」
 あの子はいなくなっても――君にいなくなられたら、どうしていいか分からないから。
 長閑の唇が動く。けれど綾華は、何をいっているのかわからないのだ。
 その表情はいつもの、変わらないものだ。
 オレは主が望んだものでいるために、と長閑は紡ぐ。
「君を護らないといけないんだ」
 舞台の上で向かい合う。二人の間には何もないというのに、何もかもが遠いような気がするのは――箱の中だろうか。
 見たくない。お前も、何も見たくないと綾華は思う。
 けれど顔は上げられ、俯くことさえできず。世界を閉ざすには瞳を閉じるしかなかった。
「あなたはこちらの箱をお求めで? 一体どんなご縁でしょうか!」
 あやちゃんは、と言って。
 紡ごうとした言葉を打ち消して長閑は首をふる。そうではないと。もっと違う言葉があると。
 綾華は――オレをオレたらしめる唯一と長閑は。
「オレが錠でいる為に――オレには君が必要なんだ」
 泣かないで、ほらと長閑は微笑む。
 大丈夫だから、ね? と安心させるように。
 けれどその言葉も表情も、今は綾華には届かない。
 長閑は――キミは、と僅かに零していた。
 唯一という。でしたらあなたに託しましょうと競売は終わり、華やかに次の箱へと移っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
◇凍桜

※雪結晶を思わせる硝子箱&無垢な少女趣味の服でお任せ

どちらにしてもなびきが我儘を言うので
結局ジャンケンで決めましたが
身動きできない程度、問題ありません
たからは我慢のできる子です
それよりも
なびきが演技を頑張れるかが気になりますね

…悪趣味な人達ばかりですね
愛する人と最後の日を過ごす為に
参加せざるを得なかった人も居るでしょうから
全員が悪だとは思いませんが

なびき
演技が随分上手ですね
ほう、なるほど
まぁ年頃の娘が居れば
これくらい過保護なのは当たり前でしょう
(身内に指摘する者皆無

…?
なんですかその大金は
たから達はあまりお金を持っていないので
演技重視で泣き落とすのでは

へそくりでしょうか
あとでお説教ですね


揺歌語・なびき
◇凍桜

彼女が商品とされるのも
おれを必要だなんて演技をさせるのも
死ぬほど嫌だったわけで
最悪だ、最低だ
クソ

予め用意した大金は持参したもの
言ってないんだよね
結構貯金してること
猟兵は割と金持ちなんだよなぁ

とはいえ領主の好みには合わせる
演技か、演技ね
あの子がそう思ってるなら都合がいい

彼女は、おれのたった一人の家族です
大切に育てた唯一の宝物なんだ
誰にも渡したくなんてなかった
おれの命をくれたっていい
せめて、最後に抱きしめさせてください
心から愛してるんだ

客がヒいてる気がする
此処に身内が居ないことに期待
…まぁ居てもいいけど

まだ足りないですか
じゃ、これで(大金どさり

あの子を買うことに
僅かに興奮した己をまず殺したい



●僅かに感じるそれと、と六花の箱
 その箱は真っ白だった。
 雪の結晶、六花の精緻な細工をそこかしこに散りばめられた硝子の箱。
 その箱へと詰められた鎹・たから(雪氣硝・f01148)は、また真っ白な衣装を纏う。
 レース重ねられたワンピース。真っ白なヘッドドレスにも六花の意匠が施されひらひらとヴェールのように。
 たからはその中で、こうなるに至ったことを思い返す。
(「なびきが我儘を言うので結局ジャンケンで決めましたが」)
 身動きできない程度、問題ありませんとたからは思う。
 確かに少し疲れるかもしれない。体は動かぬように固定され身じろぎすら。許されているのは瞬きと僅かに唇震わせる程度だ。
 しかしそんな不自由さよりもたからは気になっていることがある。
(「なびきが演技を頑張れるか……」)
 そんな、揺歌語・なびき(春怨・f02050)が今どうしているかというと、ため息をついていた。
(「彼女が商品とされるのも、おれを必要だなんて演技をさせるのも」)
 どちらも――死ぬほど嫌だったのだ。
 けれどじゃんけんの末、彼女が商品となることになってしまった。
「最悪だ、最低だ。クソ」
 悪態をつく。それはこの競売に対して、そして己に対してもあるのだろう。
 いくつもの箱が競売にかけられて、次の箱はと高らかに。
「雪の意匠の箱はいかがでしょうか。閉じ込めた娘も真っ白にさせていただきました!」
 その声と共にたからも舞台上へと運ばれた。
 いくらから参りましょうか、なんて己に値を付けられる。その様をたからは静かに見ていた。
(「……悪趣味な人達ばかりですね」)
 愛する人と最後の日を過ごす為に参加せざるを得なかった人も居るでしょうから、全員が悪だとは思いませんがとたからは視線を巡らせる。
 そんな中でたからは、なびきの姿を見つけた。
 なびきは大金を用意してここに来ていた。そしてそれは――たからにはいっていない。
 結構貯金してることは言ってなかったのだ。猟兵は割と金持ちなのである。
 とはいえ――ここは領主の好みに合わせるべきなのだろう。
(「演技か、演技ね」)
 あの子がそう思ってるなら都合がいいと思いながらなびきは舞台へと向かう。
 値は上がっていくのだ、その中で待ってほしいと声を向けて。
「こちらの箱が欲しい方が現れました。お話を聞きましょう、ささ、どうぞこちらへ」
 司会の男はなびきを迎える。そしてなびきに、どういったご関係でと尋ねるのだ。
「彼女は、おれのたった一人の家族です。大切に育てた唯一の宝物なんだ」
 誰にも渡したくなんてなかったと、零す。
 おれの命をくれたっていいと、懇願して。
「せめて、最後に抱きしめさせてください――心から愛してるんだ」
 その言葉を、様子を箱の中でたからは見つめていた。
(「なびき。演技が随分上手ですね」)
 ほう、なるほどと他人事のようにその様子を見ている。それは自分に向けられている言葉であるのに。
(「まぁ年頃の娘が居れば、これくらい過保護なのは当たり前でしょう」)
 うんうん、と動くことができたなら頷いていただろう。けれどそれもできずぱちぱちと瞬く程度。
 果たしてそれが当たり前のことなのかは――誰も指摘する者がいなかったが故に。
 そのなびきの言葉に会場は一緒にいさせてあげましょうと同情的に――表面的には見えるのだ。
 けれどその下に含まれるものをなびきは感じていた。
 この中に――身内が、知ったものが居なければよいと思う。居てもいいけれど、いないに越したことはない。
 そして、金をこの場にだして。
「まだ足りないですか。じゃ、これで」
 と、さらに追加で金の入った袋を出す。どさり、と重みのある音と共に。
(「……? なんですかその大金は」)
 と、その大金を見てたからはぴくりと眉をはねさせた。
 聞いていた話と違う。
(「たから達はあまりお金を持っていないので演技重視で泣き落とすのでは」)
 あれはへそくりでしょうかとたからは思う。
 あとでお説教ですかね、とじーとなびきを見詰めて。
「ああ、これは相当な額を……ええ、では彼女はあなたに託しましょう! どうぞ最後の別れの一夜を」
 その言葉――競り落としたという事実。
 周囲の声はどうでもいい。けれどたからの視線はわずかに痛い。
(「あの子を買うことに、僅かに――」)
 興奮した、などと。そんな己をまず殺したいとなびきは思う。
 その心内を見透かされていることはないのだけれども、それでも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
ふぅん。おかしな趣味ね
と言ってもヴァンパイアの悪趣味なんて
今に始まった話ではないけれど
なら、こういうのはどうかしら?

【アリス擬き】を呼び出して
メアリが一人
アリスが一人
よく似た双子に見えるでしょう?

メアリが箱に詰められて
アリスがそれを競り落とす
そういう【演技】をしてみせる

束縛されるのは嫌いだけれど
献上されるにふさわしく
リボンで縛って飾り付け
あらお似合いねとアリスが笑う
あとはお願いねとメアリも笑う

お願いだからメアリを返してと
叶わないのならせめて一緒にいさせてと
生まれた時からずっと一緒だったのだから
えぇ決して、嘘ではないけれど

殺されるのがアリスの役目
最後に殺すのはメアリの役目
今はただじっと待つばかり



●役目はそれぞれ、今は飾られて
 ふぅん、とメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は興味があるのか、ないのか。
 おかしな趣味ねと小さく零す。
 と言っても――ヴァンパイアの悪趣味なんて今に始まった話ではない事も、わかっているのだ。
「なら、こういうのはどうかしら?」
 と、メアリーは仕組む。
 メアリが一人、アリスが一人。
 その五感は自身と共有する、アリスの――メアリの偽物。
 きっとよく似た双子に見えるでしょう? とメアリーは思うのだ。
 箱に詰められるのはメアリの方。
 メアリが箱に詰められてアリスがそれを競り落とす――そういう演技をして見せると。
 メアリーが詰め込まれる箱は七色の虹を模した色の布が下がる。
 それはまるで御伽噺の中のように。
 けれどその虹から伸びる端やメアリーの体に巻き付いて、戒めていくのだ。
 束縛されるのは嫌いだけれど、献上されるにふさわしくあらねばならない。
 リボンで縛って、飾られて――そして舞台の上へと揚げられる。
 あらお似合いねと――競売場の端でアリスが笑う。
 その姿を見つけて、あとはお願いねとメアリも笑うのだ。
「リボンに彩られた娘はさておいくらから――150? いえいえお安いですよ、さぁさぁどうぞ!」
 司会の男の声が響く。
 そこへ、アリスは走りよる。
「お願いだからメアリを返して」
「おやお嬢さん。しかし、もう領主様に捧げられると決まっておりますから」
 残念ながらそれはできないのですと笑み向けられる。
 最後にできることはひとつ、ただ一夜を共に過ごすだけと。
 その言葉に、それでもいいとアリスは言うのだ。
「せめて一緒にいさせて。生まれた時からずっと一緒だったのだから」
 えぇ決して、嘘ではないけれど――真実ではなく。けれど黙っていれば誰もわからない。
 そっくりな少女が二人。
 生まれた時から一緒と言えば双子と会場の者たちは思うのだ。
 そしてかわいそうね、かわいそうだとさざめく。
 最後の一夜を共に過ごさせてあげればいいと笑いながら。
 けれどこれでいいのだ。
 殺されるのが――アリスの役目。
 最後に殺すのは――メアリの役目。
 今はただじっと待つばかり。
 箱の中のメアリーは動かぬまま、同じ姿のアリスと共に夜を迎えるべく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
エミール◆f11025

装飾が凄い硝子の棺
蜜金色の宝石が嵌め込まれ名が彫られている
目閉じて祈りのポーズで横たわる
白の茉莉花に埋もれ、花の馨漂う
一輪のカスミソウを手に
服は青のドレス
装備品は通常全身絵と同じ

見目麗しい宝石人形
天真爛漫で可憐
穢れ無き幼い純白の天使の如く

(本当に動けないのよ
何も見えないのだわ
独りぼっち
置いていかれるのは、いや
゛また゛一人は
…また?

マリアは一度、依頼で鳥籠に入って売られた事があるけれど
この領主も歪んでいるわ
でも今は集中しなくちゃ

…エミール、見ているかしら
あなたは今、何を考えているの
何を思っているの

聲が、聞こえたわ)

エミールの熱い語りに動かない筈の人形が笑む
胸の祈焔の石が光る


エミール・シュテルン
アドリブ歓迎
マリアドール(f03102)さんと

本当に悪趣味の極みですね。
賑わいに紛れ会場へ潜入し、
マリアドール嬢…レディが出てきたら声を張上げようと、舞台を見つめます。
麗しい宝石箱に納まったレディの美しさに、一瞬見惚れてしまったなど…執事もとい騎士役として失格ですね。グッと手を握りしめ
「その方は私の大切なお嬢様です。誰にも指一本とて触れさせはしません!」
レディの優しい笑顔に勇気をもらっていたこと、お守りしたい気持ちを語ります。
本当の気持ちですから、声音にも力が入ります。
無事に落とせたら駆けつけます。
祈るような手にそっと触れつつ耳元へ口を寄せ囁くように
「大丈夫ですよ、レディ。私がお側にいます。」



●騎士と、宝石人形の硝子の棺
 その箱は贅を尽くされて。
 硝子の棺には鮮やかな掘り込み。それは花々に飛び立つ鳥と、祈りをささげる者たち。
 蜜金色の宝石が嵌め込まれ、そこには名が彫られていた。
 その中に祈りのポーズでマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は横たえられた。
 白の茉莉花に埋もれ、花の馨を漂わせ。その祈る手には一輪のカスミソウを添えられた。
 一面の白――その中で青。星の瞬きをこさえた優しさで包まれたフリルやレール重ねたドレスを纏っていた。
 それは見目麗しい宝石人形。天真爛漫で可憐――穢れ無き幼い純白の天使の如く。
 その中でマリアドールは瞬いて、そして瞳伏せた。
 棺の蓋は閉じられており、今は周囲も見えないのだ。
(「本当に動けないのよ。何も見えないのだわ」)
 独りぼっちだ。
 置いていかれるのは、いや――゛また゛一人は、と思う。
 けれど。
(「……また?」)
 何故そう思うのか、と思い始めたと同時に棺が動き始める。
 そしてその蓋が開かれると――まぶしい世界だ。
「この清楚で可憐な少女を競り落とすのは一体どちらさまでしょうか。では少し高めに――」
 賑やかな競売。
 値が吊り上がっていく様子にマリアドールは表情歪めることもできないのだ。
(「マリアは一度、依頼で鳥籠に入って売られた事があるけれど、この領主も歪んでいるわ」)
 でも今は集中しなくちゃとマリアドールは視線を巡らせる。
(「……エミール、見ているかしら。あなたは今、何を考えているの。何を思っているの」)
 マリアドールはまだその姿を見つけられない。
 早く、と思い巡らせていた。
 そして競売場の中でエミール・シュテルン(一途な・f11025)もまた、眉を潜めていた。
「本当に悪趣味の極みですね」
 マリアドール嬢が、レディが出てきたら声を張上げようと、舞台を見つめていたエミール。
 棺の蓋が開かれて、エミールはマリアドールの姿を目にする。
 その瞬間、息をのんで。
 麗しい宝石箱に納まったその美しさに、一瞬見惚れてしまったなど――それは、とグッと手を握りしめた。
「……執事もとい騎士役として失格ですね」
 そう呟いて、エミールは競売の舞台上へと向かう。
「その方は私の大切なお嬢様です。誰にも指一本とて触れさせはしません!」
 その声にわずかにマリアドールの瞼が震えた。
(「聲が、聞こえたわ」)
 そして視線向ければ、己の前へとエミールが向かってきて。
「おお、金額では測れぬものをお持ちの方が! お話聞かせていただきましょうか!」
 さぁ、あなたにとってこの方はどのような――どのように大切なのか。どうぞ教えてくださいと司会の男は言う。
 エミールは、レディの優しい笑顔に勇気をもらっているのですと語る。
 そしてお守りしたいのだと――それは本当の気持ちで、声音にも力が入るのだ。
 その言葉の強さに、マリアドールは微笑んでいた。
 動かないはずの人形が不思議と。そして胸の祈焔の石が光る。
 エミールの言葉に司会の男も頷いて、ではこの方にと会場は湧く。
 今はまだ触れることは叶わないのだが――後で会えたならば。
 その祈るような手にそっと触れ、囁きをきっと零すのだろう。
 大丈夫ですよ、レディ――私がお側にいます、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
競り落とす側として参加。
連携、アドリブ歓迎。

生き別れの恋人を探しに来た。という【演技】をする。
それに相応しい人物が入った箱が現れるまでは
会場を観察しどの様な落札者が好まれるのかを
【読心術】での【見切り】を行って
目的に合う人物が舞台に上がったらそれまでとは打って変わって
「ああっ!」
と声を上げ舞台に駆け寄り。
事前に想定した会場の人々に好まれる【演技】で
「やっぱりそうだ。ずっと探していたんだ。」
取り乱し。
参加者や司会者に向け
「か、彼女は俺に譲ってもらえないか。
金ならこれで。(金を取り出し)
足りなければ何とか都合をつけるから。」
と懇願。
(箱の中の彼女には詰まらない猿芝居に付き合わせて申し訳ないけどね)



●猿芝居と知っているのはひとり
 生き別れの恋人を探しに来た――その体で、フォルク・リア(黄泉への導・f05375)はこの競売場にいた。
 それに相応しい人物が入った箱が現れるのかどうかはわからないが、きっとそういう巡りもあるだろう。
 フォルクは会場の上を視線で撫でていく。
 どのような落札者が好まれるのか――それは様々だ。金にものを言わせ戯れのように落とす者もいれば情に訴えて競り落としていくものも。
 情に訴えるもののほうが明らかに数は多い。
 今日の多くは、猟兵たちだ。次から次へと競りは決まっていく。
 その中で――舞台上に運ばれた箱の中、女の唇が動くのをフォルクは目にした。
 ――だれか、たすけて。
 そう、弱弱しく動いたのを見て、彼女だと決める。
「ああっ!」
 声を上げ、舞台へと駆け寄る。
 この場に居る者たちに好まれる演技は――弱弱しく。けれど、必死である風を装って。
「やっぱりそうだ。ずっと探していたんだ」
 すがるように手を伸ばす。そして取り乱すように周囲を見て、司会の男を目に取れ傍に駆け寄る。
「か、彼女は俺に譲ってもらえないか。金ならこれで」
 手を震わせながら金を取り出す。そしてこれで足りなければ何とか都合をつけるからと懇願を。
 すると司会の男は笑って、事と次第によっては必要ありませんよと告げるのだ。
「あなたと彼女の関係を教えていただけますか、どうしてここにいるのかも!」
 それらが我々にはお代なのですと高らかに。
「彼女は……生き別れの恋人なんだ、間違いない……」
 切々と語る。その言葉に会場の者たちは身を傾け、最後の逢瀬をあげましょうと紡ぐのだ。
 けれどこれは芝居。それを知っているのはフォリアと――箱の中の彼女だけだ。
(「詰まらない猿芝居に付き合わせて申し訳ないけど」)
 その対価は――大きなものとなるだろう。
 彼女の向かう先にいる吸血鬼は――猟兵たちがきっと打ち倒すのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫丿宮・馨子
桜雨様(f05712)と

人と人との繋がりを弄ぶ
人との縁ゆえに生まれしわたくしたちとは
考えが合いそうにありませぬ

気休め程度でございますが
会場入り前にUC使用
桜雨様の手を握り
祈り破魔優しさを込めたオーラを纏わせ無事を願う
ご無事で…

硝子の棺を藤とネリネと桜で満たし
ドレス姿で黒髪ビスクドールの様に

体が動かなくなるこの香り
何を使って…気になるのは本体性質上

…箱の中に詰められて運ばれる感覚は
遠い遠い昔
船に揺られて来日したあの頃を思い出し――いえ、あの頃わたくしはまだ
ただの香炉であったはず
この記憶はどなたのもの?

必死に競り落とそうとしてくださる彼の姿を静かに見つめるのは
信じているから
不安なんて、ございません


桜雨・カイ
アドリブ歓迎

馨子さん(f00347)と共に
縁の深い人を目の前で失う事すら辛いのにそれをあえてだなんて……私には理解できないです

領主の懐に入る為とはいえ、失敗したら馨子さんが他人に競り落とされてしまう、しっかりしないと
(優しく握ってくれた手と温かいオーラに心が落ち着く)

待ってください!その…確かに目がさめるほど綺麗ですが…いやそうじゃくて
交渉は得意ではないので、素直に、本当に思っていることを言います
彼女は動かない人形ではないんです
『約束』してくれたんです。
心が折れそうな時は助けに来てくれると
それが嬉しかったんです
だから今は自分がそばにいたいんですと懸命に訴える

信じてくれたのだから、こたえないと



●約束に応えるべく、漆黒閉じ込めた硝子の棺を
 硝子の棺の中を満たすのは藤とネリネと桜だった。
 その中に黒のドレス姿で紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)はビスクドールのように横たわる。
(「人と人との繋がりを弄ぶ――」)
 人との縁ゆえに生まれしわたくしたちとは考えが合いそうにありませぬと馨子は思うのだ。
 ここに来る前に、気休め程度ではあるのだが包んだその手を馨子は思い出す。
(「ご無事で……」)
 祈りと破魔の力を、優しさも込めて、渡したのだ。
 体が動かなくなるこの香り――馨子はこれが何なのか気になっていた。
 それは彼女の本体の性質上のものもある。
 箱に詰められ、今はまだ薄暗い舞台裏。そこで運ばれる感覚は馨子に思い起こさせる記憶があった。
 遠い遠い昔――船に揺られて来日したあの頃。
(「――いえ、あの頃わたくしはまだ」)
 ただの香炉であったはず。だというのに――浮き上がるこの記憶は一体何なのか。
(「この記憶はどなたのもの?」)
 その不思議な心地を手繰る合間に馨子の入った箱はまた動き出す。
 それは競売の舞台へとあげられるために。
 そしてその競売場にて桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、彼女に握られた手を見詰めていた。
(「縁の深い人を目の前で失う事すら辛いのにそれをあえてだなんて……私には理解できないです」)
 その気持ちが膨れるが、今は押しとどめて。
 領主の懐に入る為とはいえ――失敗したら馨子さんが他人に競り落とされてしまう、しっかりしないと、とカイは思うのだ。
 ほんのりと、その手に残る温かなものを感じ心が落ち着いていく。
 そしてその時はやってくる。
「こちらは黒き淑女、と呼びましょうか。動かぬ人形のようでございますね。さてどのくらいから参りましょうか……美しきものを愛でるのがお好きな方は?」
 司会の男の問いかけにいくらでも出そう、とあたりから声が向けられる。
 カイはその声に負けぬように顔を上げてすぐに動き出す。
「待ってください! その……確かに目がさめるほど綺麗ですが……いやそうじゃくて」
 舞台へ走り寄りながら向けた言葉。
 交渉は得意ではない。だから素直に、本当に思っている事を紡ぐのみだ。
「あなたは? このお人形さんのような方とどのような?」
 カイはまず、そうではないのだと首を振る。
「彼女は動かない人形ではないんです、『約束』してくれたんです」
 心が折れそうな時は助けに来てくれると――それが嬉しかったんですとカイは紡ぐ。
「だから今は自分がそばにいたいんです」
 カイはこの場に居る者たちへと懸命に訴えていた。
 必死なその姿を静かに、馨子は見つめていた。今はそれしか、できないのだから。
 けれどそうあれるのは、信じているからだ。
(「不安なんて、ございません」)
 カイも、その気持ちをわかっていた。
 信じてくれたのだから、こたえないと――カイはその気持ちをもって再度、この場に居る者たちへと訴えかけた。
 必死の様子に、よろしいでしょうと司会の男は槌を打つ。
 この淑女は彼に任せましょうと。そうしてその言葉の通り、傍へと紡いで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
事前にUCを発動し吸血鬼化して自身に“魅了の呪詛”を付与
周囲の第六感に干渉し自身の存在感を強化しておく

…さて。郷に入っては郷に従えと言うし…
この地の領主に挨拶に伺う前に手土産を用意しないとね?

吸血鬼の礼儀作法に則り冷笑を浮かべ買い手として参加
UC【常夜の鍵】から“吸血鬼の財宝”を取りだして手で弄び、
縁深い者が誰も名乗り出ない箱を買い取るわ

ふぅん、“私達”に逆らった愚かな聖女ねぇ…
領主に渡す前に味見してみようかしら?

ではその倍で……あら?誰も上乗せしないの?
クスクス、遠慮しなくても良いのよ…?

ふふ、良く躾られている犬だこと
その箱の銀や十字架を外してなければ、
今ごろお前を箱にしていたのに…残念ね?



●そちら側に足を踏み入れて
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は――今は、己の身を吸血鬼として。そして魅了の呪詛を纏う。
 ここにいる、というその存在感はただ座っているだけでも十分なもの。
 この競売を楽しんでいる身なりの良いものたちも、リーヴァルディの様子をちらちらと見ている様子だ。
 けれど競売始まれば、そちらへと気も向いていく。
(「……さて。郷に入っては郷に従えと言うし……」)
 この地の領主に挨拶に伺う前に手土産を用意しないとね? とリーヴァルディは冷笑を浮かべていた。
 この場所での礼儀作法に則って、リーヴァルディは買い手としてここに居るのだ。
 吸血鬼の財宝を常世の鍵から取り出して手で弄ぶ。
 だれも名乗りでない箱はあるのかしら、とリーヴァルディは眺めていた。
 その中でまた新たな箱が一つ。
 それは簡素な木の箱だ。けれどその中には視界も、その口も塞がれた女が一人。
「こちらはでございますね……領主様などに逆らい『聖女』と名乗っていた娘でございます! ちょっとした際物でしょうか」
 こちらをお買い求めになるもの好きのお客様はいらっしゃいますでしょうか――そんな声に手を上げる者はちらほらと。
 その中でゆるりと、リーヴァルディも手をあげる。
「ふぅん、“私達”に逆らった愚かな聖女ねぇ……領主に渡す前に味見してみようかしら?」
 くすくすと笑い零し、リーヴァルディは圧する側の存在感を放つ。
 提示された金額――それを聞いて笑み深め。
「ではその倍で……」
 そういうとどよめきと、そしてそれ以降手が上がらなくなるのだ。
「あら? 誰も上乗せしないの?」
 クスクスと、リーヴァルディは笑みを深めていくのだ。
「遠慮しなくても良いのよ……?」
 今は吸血鬼であるのだから、そのようにふるまう。
 その、競り落とした箱の前にリーヴァルディは歩み出る。
 己の手に落ちたものを改めて見定めるように。
「ふふ、良く躾られている犬だこと。その箱の銀や十字架を外してなければ、」
 今ごろお前を箱にしていたのに……残念ね?
 浮かべた笑みは吸血鬼らしく――この場の客の、誰も気づかぬし察することはないだろう。
 リーヴァルディが何のためにここにいるのかを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
白露(f00355)さんと

遠くから漂う気がする薬の匂いに身体を強張らせ
直後に姿を消した白露さんに嫌な予感を覚えつつ探し、会場の中へ

箱詰めにされた姿を見れば激しく動揺し

何故か、寒い
数字の刻まれた…獣
脳裏に映る、よく似たダレかと消えていったダレか

周りの視線と司会の声に酷い気分になりつつ、ここで手放してはいけないと本能的に悟って

やだ…どこかに行っちゃうなんて嫌だ!

似てるって言われたのに
何が似てるかもまだよく分かって無いのに

まだ白露さんのこと何も知らないのに、こんなお別れなんて嫌っす!

縁なんて知らない、トクベツなんて分からない
それでも嫌だ、周囲を気にせずに喚き
それでも決して、涙は流せず

アドリブ歓迎


皆城・白露
未不二(f04322)と
(彼の事は基本名字呼びだが、たまに下の名前で呼ぶ)
(箱詰めされる側・アドリブ歓迎)

未不二が薬が苦手と聞くと「そうか、わかった。じゃあ、後で」とだけ告げてふらりと立ち去り
先に会場へ向かい、箱詰めにされる

数字(896)が書かれた白い拘束服を着せられ
白い花と共に真っ白な棺に納められる
不健康そうな顔つきに薄く化粧を施され、目の下のクマを隠される
元々色白なのもあって、目を閉じていると精巧な人形か死体に見える

モノ扱いされるのは慣れてる、「動けない」事にもあまり動じない
出来る事が無いし慌てても仕方ないし、と箱詰め以降は半ば寝ているが
未不二の動揺した様子と声には少し驚く




 遠くから漂う気がする――薬の匂い。
 その気配に未不二・蛟羽(花散らで・f04322)は体をこわばらせた。
 皆城・白露(モノクローム・f00355)は、未不二と声かける。
 それはどうしたのかと問うているのだ。それに蛟羽は苦笑して薬は苦手なのだと告げる。
「そうか、わかった。じゃあ、後で」
 そう言って白露はふらり、立ち去ってどこかへ。
 姿が消えた、その事に蛟羽は嫌な予感を覚えつつ、彼の姿を探しながら競売場へと入った。
 そして白露はと言えば――箱の中へ。
 身に纏うのは896が掛かれた白い拘束服。戒められ、白い花と共に真っ白な、飾り気のない棺へと納められた。
 不健康そうな顔つきを隠すように薄く化粧を施され、目の下のクマを隠された。
 そうして目を閉じると、もともと色白なこともあり精巧な人形か、死体かのようだ。
 モノ扱いされる事離れている。『動けない』という事にも白露は、あまり動じはしなかった。
 この状態では出来る事も無く、慌てても仕方ないのだ。
 やることがなければうつらうつら、半ば眠りの中だ。
 どこかに運ばれてもまぁいいか、と思う程度。だから競売の場所に引き出されても気づいていなかったのだ。
「さぁ、こちらの精巧な人形に見えるものはいかがかな。では参りましょう!」
 競りの声が響く。その声も白露にとっては遠いもの。
 けれど――その姿を見た蛟羽は激しく動揺していた。
 何故か、寒い。
 数字の刻まれた――獣。脳裏に映る、よく似たダレかと消えていったダレか。
 周囲から上がる声、視線、それから楽し気に競売を進めていく司会の声に蛟羽は酷い気分だった。
 けれど、ここで手放してはいけないと――本能的に悟っていた。
「やだ……どこかに行っちゃうなんて嫌だ!」
 その声で、半ば寝ていた白露は目を覚ます。蛟羽の動揺した様子と声には少し驚いていた。
 似てるって言われたのに。何が似てるかもまだよく分かって無いのに。
 蛟羽は舞台へと走り寄る。
「まだ白露さんのこと何も知らないのに、こんなお別れなんて嫌っす!」
 縁なんて知らない、トクベツなんて分からない。
 それでも嫌だ、と――周囲を気にせずに喚く。
 けれど蛟羽はどんなに声を張り上げても決して、涙は流せず。
 だが客や司会の男は、蛟羽のその様をまた楽しんでいたのだろう。
 これからを求める者たちに最後の一夜を与えるのも良いかもしれないと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


(まだ何も知らぬのだから、棺に入るには早く)
ナギ・ヌドゥー
領主を殺す機会を逃す訳にはいかない
売られている子を競り落とし潜入します

売られる寸前で絆を取り戻したあの父娘、皆あんな劇的に献上される訳では無い筈。
親にも見捨てられた奴隷同然の子を競り落とします
UC発動し嘘を無理やり信じ込ませよう
ぼくはその子と同郷の者です!幼い頃から見知っています
両親にすら見捨てられたこの子の行く末が心配なのです
領主様に直接ご慈悲をお願いしたい!

潜入する方便としてこの子を利用する形になる
だが誰からも愛されなかった子を救いたいという感情に嘘はない

いつも着けている首輪をこの子に預けます。
これは大切な己の一部
必ずこの子を救ってみせる、という誓いです。



●誓いを託して
 領主を殺す機会を逃す訳にはいかないとナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は思っていた。
 そうするには近づく必要がある。そのために、売られている子を競り落とすしかないことも理解していた。
 売られる寸前で絆を取り戻したあの父娘、皆あんな劇的に献上される訳では無い筈。
 きっとだれも迎えに来ぬものもいるだろう。
 たとえば親にも見捨てられた奴隷同然の子だ。
 そんな子が現れるだろうか、と思っていると。
「次は可愛らしい顔だったのでお好きな方がいるかと連れてきた子供でございます」
 このような綺麗な洋服は初めてで喜んで入ってくれました、と司会の男は言うのだ。
 ナギはこの子にしようと、舞台へと走り寄る。
「ぼくはその子と同郷の者です! 幼い頃から見知っています」
 これが嘘つきの目に見えますか? とナギは司会の男へというのだ。
 己の持てる術をもって――嘘を無理やり信じ込ませようとする。
「両親にすら見捨てられたこの子の行く末が心配なのです。領主様に直接ご慈悲をお願いしたい!」
 紡ぎながらこの潜入する方便として利用することになる子供へと視線向ける。
 動けず、言葉を発することもなく。ただぱちりと瞬いている。
 そして――ナギの言葉をこの場に居る者たちは信じた。
 箱に詰められた子供と会話することも、触れることも今はできない。
 けれど、お願いだとナギは言う。
 いつも着けている首輪をその子供に預けたいと。
 これは大切な己の一部。それを預けるのは――必ずこの子を救ってみせる、という誓いだった。
 だがこの場に居る者たちはそれを知ることはない。
 己の大切なものを預けるなんてそれほど大事に思っているのかと楽しみ一つ増やすだけなのだから。
 槌が打たれナギのもとにその子供の箱は送られる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

桐箱の中に納められた綾は
憂いのない桃源郷の花々に埋もれて
あんまりにも清らかで、ふれてはいけないような気さえして

けれど、穢れなき白に一輪混ざった薄紅に
逡巡なんて簡単に吹き飛んで
椅子を蹴立てて箱の傍へと駆け、
隔てられた境界線越しに手を伸ばす

慈悲深く誰にもやさしい、美しい神さま
だけど本当は淋しがりの、虚ろなるひと
――誰に止められても、許されなくても、知らない
きみを、ひとりぼっちになんかにさせやしない

右目からはらはら散る花が箱の周りを囲んで
かすかにほほ笑んだひとをいっそう彩る
何を引き換えにしたって惜しくないから
だいすきなきみの声をどうか、どうか、
わたしの耳に、かえしてよ


都槻・綾
f11024/かよ

桐の柩に刻まれし花鳥風月
秘色地に金襴の狩衣を纏い
横たわる周囲には
散らした羽根の如く、白牡丹の花を飾る
勿論
身の上にも、はらはらと花弁
胸元に置く一輪だけは薄紅の大輪

遠くからでも
彼女が私を見つけてくださるように、目印

ひとの身を得てから
また斯様に「品物」に戻るひと時は何とも滑稽で

箱詰めが窮屈であったか否かも
忘れてしまったなぁ、

何処か悠長な呟きは声にならず
然れど
柩の中は静かに凪いでいるから
浮かべる表情は穏やかであると良い

微睡みに落ちそうになるけれど
どうしてだろう
競りに駆け付けたあなたが
泣いているようにも思われて

大丈夫ですよ
暫し夢の中

謡うように彼女へ紡ぐ慰め
届きもしない声は、ただ、しじま



●そのひとはなだけは
 その桐の柩に刻まれているのは花鳥風月。精緻な掘り込みは近づかねばわからぬところまで心が及んでいるものだ。
 その中で秘色地に金襴の狩衣を纏い横たわる都槻・綾(糸遊・f01786)、その周囲には散らした羽根の如く、白牡丹の花が飾られていた。
 はらはらと身の上にも花弁は散って。けれど胸元に置く一輪だけは――薄紅の大輪であった。
 それは目印。
 遠くからでも、彼女が私を見つけてくださるようにと綾はうっそりと笑みを口端に湛えていた。
 ひとの身を得てからもう幾分か。
(「また斯様に「品物」に戻るひと時は何とも」)
 滑稽で――この狭い空間。箱詰めが窮屈であったか否かももう記憶の底か。
 掬い上げようとしてみるもののできず、忘れてしまったなぁと悠長な呟きは音にしたつもりが、吐息が空を掻くばかりだった。
 音になっていないけれど、それをも吸い込むようなこの柩。この柩の中は静かに凪いでいる。
 外の音は僅かに響いてくるが耳を擽るさざめきのようにも聞こえ、心慰めるようでもある。
 綾が浮かべる表情は穏やかなものだ。
 微睡みに落ちそうになる――けれどそれも揺れる。
 箱が動かされ競売の舞台へとあげられたのだ。
「次は美しき麗人をご覧入れましょう。一夜しか愛でる事ができないのは非常に残念でございますが」
 桐の柩が開かれて――その姿に、境・花世(はなひとや・f11024)は僅かに身をこわばらせる。
 憂いのない桃源郷の花々に埋もれて。あまりにも清らかで、ふれてはいけないような気さえして。
 けれど花世の目を捕らえたのはそのいろだ。
 穢れなき白の中一輪だけ、その胸元で咲く薄紅の大輪は花世向けた心でもあるのだ。
 逡巡なんて簡単に吹き飛ぶ。花世は椅子を蹴りたてて駆けるのだ。
 お客様、お待ちをという声など聞こえず、その傍へと。
 その姿を綾は見つめている。泣いているようにも思われて――大丈夫ですよ、と唇は僅かに動くのだ。
 暫し夢の中にあるだけ。
 謡うように彼女へ紡ぐ慰めも、声とはならず――ただ、しじま。
 慈悲深く誰にもやさしい、美しい神さま。
 けれど花世は知っているのだ。
 本当は淋しがりの、虚ろなるひと、と。
 伸ばした手は柩の縁をたどっていく。
「――誰に止められても、許されなくても、知らない。きみを、ひとりぼっちになんかにさせやしない」
 花世の右目に咲く大輪がはらはらと花弁を零して箱を囲んでいく。
 かすかにほほ笑んだひとをいっそう彩る。
「何を引き換えにしたって惜しくないから、だいすきなきみの声をどうか」
 どうか――辿る指先は、その身に触れることは、今はできず。
 その耳に触れる声も、今はなく。
 わたしの耳に、かえしてよと――花世が言葉向ける相手は此処の集う者たちにではないのだろう。
 そこはまるで隔絶された世界のようでもあり。
 この桐の箱の男は彼女のもとに行かねばならぬのだろうと思わせる。
 どうかそのままにしてあげてとさざめいて、一夜の時間が二人に与えられる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(ザザッ)
相も変わらずこの世界の敵は趣味が悪い。
とまれ、任務とあらば完遂する迄。
ロクには苦労を掛ける形となるが――あとで肉でも奢るとしよう。

(花の中に納まる君が見える。
紫苑の花。「追憶」「君を忘れない」――「忍耐」もだったか。)

(この場では彼女の「狩人仲間」という体裁で競り市に割って入ろう(演技)。)

(ザザッ)
その燃える髪の森番は本機が貰い受ける。
それは本機のかけがえのない狩人仲間――戦友にして友人にして相棒だ。

故あって今はこうして隔たれているが
いつだって多くの獲物を二人で仕留めてきた。

星獅子の名を冠する者の片割れとして
他の誰にも相棒を渡してやるつもりはない。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス
※箱詰め詳細はお任せします

(森番は永くひとから離れて生きてきた
ひとはひとの骸を、灼いて、埋めて、土に還すのだと
その振る舞いを己に似たものと、親しみを覚えているけれど
棺を華やかに飾る意味は、よく知らない
旅路がさみしくないようにだろうか
朽ちた骸から、美しい花芽が吹くようにだろうか)

(いい匂いがする。深い谷底の、静かな花畑)
(灼いてばかりの己もいつか花になれればいいな)
(紫苑がいい。あれは森の境にあるから)

(谷底から見るキミの姿が、遠い星みたいだ
きっと、いやなんだろうな。こんなの
キミは、意外と、すごく、怒りっぽいから)

(あとでお肉をご馳走しよう)



●狩人であり、相棒であり
 森番が迎えられた箱は緑に満ちていた。けれどそれは棺。
 躯の為のそれは、新緑を模した意匠を施されており、命の流転を現しているのだろうか。
 そして花々で満たされたその中にロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は眠るように横たえられた。
(「森番は永くひとから離れて生きてきた」)
 ひとはひとの骸を、灼いて、埋めて、土に還すのだ。
 その振る舞いを己に似たものと、親しみを覚えているけれど――けれどこの意味はわからないのだ。
 棺を華やかに飾る意味は、よく知らないとロクは息を吐く。
(「旅路がさみしくないようにだろうか。朽ちた骸から、美しい花芽が吹くようにだろうか」)
 それならここには花の種も入っているのかもしれない、とぼんやりと思う。
 その意識を穏やかに眠りに満たしていく不思議な香り。
 いい匂いがするとロクは思うのだ。
 深い谷底の、静かな花畑のような――この匂いに包まれて溶けていくような心地だ。
(「灼いてばかりの己もいつか花になれればいいな」)
 花になるならば――今この傍らにあるこの花がいいとロクは思う。
 紫苑が、いい。
 あれは森の境にあるからと、その形を思い浮かべていた。
 静かに静かに、眠るようにロクは瞼を下ろしている。
 だから賑やかでまぶしい舞台に上げられたことも、その音で知るのだ。
「こちらは緑の箱でございます! 緑に赤も映えますでしょう」
 その姿をジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)は見て、ザザッとノイズ混じりの声を零す。
「相も変わらずこの世界の敵は趣味が悪い。とまれ、任務とあらば完遂する迄」
 ロクには苦労を掛ける形となるが――あとで肉でも奢るとしようと動き出す。
 花の中に納まるロク。紫苑の花がそばに咲いて。
 その花は、『追憶』『君を忘れない』――『忍耐』もだったかとジャガーノートは思い起こす。
 そして、狩人仲間という体裁でその競りへとジャガーノートは割って入る。
 その姿を、そっと瞳を開けて、ロクは見つめていた。
(「遠い星みたいだ」)
 谷底から見るキミの姿。
 きっと、いやなんだろうな、こんなのとぼんやりと思う。
 ロクは知っているのだ、ジャガーノートの気質を。
(「キミは、意外と、すごく、怒りっぽいから」)
 ノイズ混じりの声が、響く。
 司会の男にどういったご用件でと問われて。
「その燃える髪の森番は本機が貰い受ける。それは本機のかけがえのない狩人仲間――戦友にして友人にして相棒だ」
 故あって今はこうして隔たれているが、いつだって多くの獲物を二人で仕留めてきたとジャガーノートは言い放つ。
 その言葉は強く、けれどしかしですねぇともったいぶるような態度を司会の男に取られるのだ。
「星獅子の名を冠する者の片割れとして、他の誰にも相棒を渡してやるつもりはない」
 きっぱりと言い切られる言葉。ノイズが混ざろうともその響きの強さは変わらぬのだ。
 その声を聴いてロクは思う。
(「あとでお肉をご馳走しよう」)
 それはジャガーノートも思っていた事だ。
 この件がすべて終わったら、その時は。
 かくして槌がうたれ、緑の箱は相棒のもとへと運ばれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイネ・ミリオーン
ロカジ/f04128

硝子の箱に、鉱石と歯車
あとはまあ、適当に
元から、見た目が普通とは、少し違う、ので
ケーブルとか、繋ぐなり、結ぶなりしたら、それっぽいです、か?
……正直、酸素マスク外すの、そこそこしんどいんです、けれど
忘れてました、ね
まあ、外しておいた方が、見た目は良さそう、なので……ロカジ印の薬、服用しつつ、頑張ります

茫洋とした何時もの無表情そのままで、箱の中で大人しく
一応、神さまとして造られたので、神さま扱いは、慣れてるんです、よ
……本当に、声も出ないんです、ね
すごい、笑いそうなんです、けれど
あ、でも、笑っちゃうより、は、逆に良かったかもしれません、ね
……ロカジ、狂信者か、何かですか、ね


ロカジ・ミナイ
アイネ/f24391

壇上にアイネの箱が現れたら、膝から崩れ落ちそうになりながら立って
拝むように、讃えるように、祈るように、腕を広げて名を叫ぶ
アイネ、アイネ、僕の神様

やっと逢えたね
ずっと手に入れたかったんだ
はかなげで、白く輝いていて、摩訶不思議な装いで
これが神様じゃなかったらなんだというのか

今日ここで競に勝てば君とひと夜の夢を見られるんだろう?
その為ならなんでも出来る、金だって幾らでも出すさ
金貨何枚だい?
アイネに値段を付けると思うと解せないが
お前さんらの納得は金で買えるんだろ

…なんて
一芝居っていうには大掛かりな大立ち回り
薬がなかったら笑われてたかもね
一回やってみたかったんだよねオークション



●奇異なる箱の神様はいかほどか
 其の箱は奇異なるあつらえをしていた。
 硝子の箱に鉱石零れ、歯車が回る。
 不思議な色合いのケーブルはアイネ・ミリオーン(人造エヴァンゲリウム・f24391)をこの箱へと繋いでいた。
 これは別の世界であれば――特におかしいと思われるものではないだろう。
 けれどこの世界では物珍しいものなのだ。
 元から見た目が、普通とは少し違うのだけれど――上手に箱に収まって。
 最後に、それに触れられた。
(「あ……酸素マスク」)
 それを外すのは――そこそこしんどい。それを、忘れてました、ねとアイネは思う。
(「まあ、外しておいた方が、見た目は良さそう、なので……」)
 しんどいのは少し我慢。瞬いて、アイネは薬を服用し、その中へと納まった。
 その薬を作ったのはロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)だ。
 ロカジは今、客席でこの競売を眺めている。
 顔見知りの姿を見つけて成り行きを見守ってみたり。他にも知り合いが潜んでいるなと笑っていたのだが。
「不思議で奇怪な箱はいかがでしょう。こういうあつらえはあまりございませんから、際物の一品でございますよ」
 運ばれてくるそれを目にして――ロカジは膝から崩れ落ちそうになりながら立った。崩れ落ちる、その様にあなた大丈夫と隣の席の夫人が声をかけるがそれも気にせず。
 拝むように、讃えるように、祈るように――大きく腕を広げ傍へと向かう姿は迷いなどなく。
「アイネ、アイネ、僕の神様」
 やっと逢えたねと言いながらロカジは舞台上へと進み出る。
「ずっと手に入れたかったんだ」
 はかなげで、白く輝いていて、摩訶不思議な装いで――これが神様じゃなかったらなんだというのか!
 と、大仰に。ロカジは神様に心酔する男を大立ち回りだ。
 茫洋とした何時もの無表情そのままで、箱の中で大人しくしているアイネはその様子をただただ、その二つの色持つ瞳で見つめるだけ。
(「一応、神さまとして造られたので、神さま扱いは、慣れてるんです、よ」)
 そう思いながら――本当に。
(「……本当に、声も出ないんです、ね」)
 くつり、喉は微かに動くのだけれども笑いは零れず。
 その心をロカジは知ってか知らずか、アイネの前で膝をついて仰ぐのだ。
「今日ここで競に勝てば君とひと夜の夢を見られるんだろう? その為ならなんでも出来る、金だって幾らでも出すさ」
 金貨何枚だい? とロカジの視線は司会の男へと向く。
「アイネに値段を付けると思うと解せないが、お前さんらの納得は金で買えるんだろ」
 それならいくらでも積もうとロカジは言う。本当に、値段をつけるなんて不本意なんだがとうった表情で。
 アイネという神様に心酔する男の姿に、その箱の中でむず痒い想いをアイネは抱いていた。
(「すごい、笑いそうなんです、けれど」)
 けれど、笑えないのだ。それは薬のせいでもある。
(「あ、でも、笑っちゃうより、は、逆に良かったかもしれません、ね」)
 ええ、そんな値段なのかい? もっと高いだろう! なんて司会の男へとロカジは詰め寄っている。
 芝居だと知っていれば、そうにしかみえないのだが。知らないものにとってはそれは芝居ではなく。
 値段をつける事は不本意――けれどその金額はあわない、とごねている。
(「……ロカジ、狂信者か、何かですか、ね」)
 アイネはふ、と口端だけに笑みをのせる。
 するとそれに気が付いてロカジは嬉しそうにするのだ。
 僕の神様が微笑んだ!! と。
 ――という一芝居。大がかりの大立ち回りはなかなか楽しいものだ。
(「一回やってみたかったんだよねオークション」)
 ごねてどこまで値を吊り上げられるだろうか、とロカジは思う。
 けれどこのロカジの芝居に司会の男もこの場の雰囲気も押されて。
「この方、此処までお望みのようですから一夜を差し上げましょう!」
 槌をうち、どうぞ幸せな一夜をお過ごしくださいませと言葉手向けられるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

叶・景雪
ヴォルフガング(f09192)お兄さんと
アドリブ歓迎。難しい漢字は平仮名使用。カタカナはNG。

箱:白鞘を思わせる白木の棺
服装:七五三風袴姿
波に鷹、家紋(錨片喰の真ん中部分を細桔梗)藍地の羽織に
金襴の袴
懐剣の代わりに自身の本体である景雪を携えている

こういうの悪しゅみっていうんだよね!
最後のおうせになんてさせないよ!
といっても、薬のせいか体はあんまりうごかせないけど…(眉間に皺よせ
刀だった昔は体なんてうごかないのがふつうだったのに。
こんな風にうごけないのが、もどかしいって思う日がくるなんて…ふしぎなかんじだね!
あ、お兄さんだ!お兄さんのお話にうるってしないとだよね!まかせて!(ふんす!


ヴォルフガング・ディーツェ
アドリブ歓迎
景雪(f03754)と

別世界の歴史を紐解いても思うが、栄華を極めた輩往々にして残虐行為に走るな
理屈の講義はまた今度、楽しい潜入捜査と参ろうか

…ところで景雪、ちゃんと潜り込めたよね?ピュア過ぎて違う意味で心配なんだけど!

景雪と色違いに合わせた着物に着替え
壇上を(何かが違う気がする)焦燥感で見守りつつ、出てきた彼に思わず息を呑む
棺は心臓に悪いな、本当に驚いたよ…!?
はいはいふんすしない、バレるから

「変装」するかの様に彼の兄を演じよう

「止めてくれ、腹違いでも誰より大事な弟なんだ!何でも支払うから解放してくれ…!」

より悲痛に聞こえるように瞳を潤ませ
大事な子には変わりない、指一つ触れるなよ?



●今は兄弟、しかし兄弟でなくとも――
 それは白鞘を思わせる白木の棺。
 叶・景雪(氷刃の・f03754)はその中で、こういうのは、と思いめぐらせる。
(「そう、悪しゅみっていうんだよね!」)
 ぱっと思いついて、いつもならば表情変わるだろうに今は僅かしか変化がない。
 最後のおうせになんてさせないよ! と景雪は静かに心に抱いていた。
 波に鷹と、細い桔梗が錨片喰の紋の真ん中を走る、藍色地の羽織に金襴の袴。
 そして、その胸には懐剣の代わりに自身の本体である景雪を携えていた。
 狭いこの場所――といっても、薬のせいだろう。
 体はうごかせないけれども――きゅ、と眉間に皺よせることはできた。
(「刀だった昔は体なんてうごかないのがふつうだったのに」)
 体を動かそう、と意識するものの動かない。感覚は鈍く、けれど音を拾う耳や嗅覚は研ぎ澄まされていくような心地だ。
(「 こんな風にうごけないのが、もどかしいって思う日がくるなんて……ふしぎなかんじだね!」)
 と、景雪が箱の中にいることが慣れてきた頃――ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は競売の様子を眺めていた。
(「別世界の歴史を紐解いても思うが、栄華を極めた輩往々にして残虐行為に走るな」)
 理屈の講義はまた今度、楽しい潜入捜査――と悠々と競売場の中にヴォルフガングは溶け込んでいた。
(「……ところで景雪、ちゃんと潜り込めたよね? ピュア過ぎて違う意味で心配なんだけど!」)
 そう、その佇まいは。
 心の内は、箱に入り競売にかけられる景雪のことを思って穏やかではいらでないのだ。
 だが黙っていればそれはわからないもの。
 景雪と色違いに合わせた着物で、舞台をそわりそわりと――何かが違う気もするのらが、焦燥感と共に見守っていた。
「お次は異国の佇まいを得た少年でございます!」
 箱の中――その姿を見た瞬間にヴォルフガングは瞳を見開く。
 目を閉じているとまるでほんとうに死んでしまっているようで。
 けれどぱちり、瞳開いた景雪はすぐにヴォルフガングの姿を見つけていた。
(「あ、お兄さんだ!」)
 ヴォルフガングは心臓に悪いな、と飲み込む。
(「本当に驚いたよ……!?」)
 けれどすぐにその気持ちは押し込められる。
 今やるべきことは変装するかのように兄を演じること。
 ヴォルフガングは舞台上へと向かう。
(「お兄さんのお話にうるってしないとだよね! まかせて!」)
 ふんす! と意気込むことはできなかったけれど気持ちは十分。
 そしてそうしようとしていた事をヴォルフガングは察していた。
(「はいはいふんすしない、バレるから」)
 と、表情に浮かべてみればぱしぱしと何度か景雪は瞬いた。
 ヴォルフガングは舞台に上がり、お願いだと声を上げる。
「止めてくれ、腹違いでも誰より大事な弟なんだ! 何でも支払うから解放してくれ……!」
 悲痛な声色を響かせ、その瞳の端に涙をこぼして。
 この場では腹違いの兄弟という。大事な存在だと。
 それは演技をしてなくても同じ事だ。
(「大事な子には変わりない、指一つ触れるなよ?」)
 この場にいる誰かに譲るつもりはなく。
 ほろり――景雪の瞳からも涙が零れ落ちた。
 それを見てなるほどなるほどと司会の男は頷いている。
「兄弟の縁が深いようでございます。領主様のもとに向かう事は止められませんが、それでももうしばし」
 共にいるくらいは許してよろしいのでは? と会場に問えば拍手が起こる。
 兄弟二人の夜をどうぞと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・紅
ぅやぁ
詰められたミラーさん(アイテム『ミラーナイト』)綺麗…いいなぁ(装いお任せ
(なら変わりますか?的視線を向けられ
ううん
動けないと愉しい宴に参加できなくて朧が煩いですし
折角なので衣装はお揃にしましたのでっ♪(くるり
(解せぬな目線
綺麗ですよミラーさん(ウィンク
それよりゴーレムって知られないように注意ですよ
(私の造形完璧なのでの目

元々無口なミラーさんとはアイコンタクト会話が主流

ミラーさんは僕にとって大切な
いつも自販機の補充してくれる女神なのですよ!
(そこですか
知らないのですか自販機を
渇き潤す神の御業を!
僕から自販機を奪わないで
(私でなく?
否、ミラーさんを奪わないで下さい!

実際困るので悲痛な叫び



●自販機=神の御業
 次なるは、銀細工で彩られた箱の、金色の娘――そう、響く。
「ぅやぁ」
 その姿に朧・紅(朧と紅・f01176)は瞬いた。
「詰められたミラーさん綺麗……いいなぁ」
 箱は鈍い銀の輝き。よくよくみると草花の意匠が彫り込んであるようだ。
 そして本物の蔦がその箱には絡んで。緑や草花がふんわりと詰められており、紅のミラーナイトは静かに佇んでいた。
 紅とミラーナイトの意匠は、今日はおそろい。
 広がるスカートの下にはふんわりペチコート。そしてエプロンつけて。
 ちょっとうらやましい。そんな視線を向けていると――なら変わりますか? というような視線を向けられて。
「ううん」
 ふるりと首を振れば紅の長い髪が揺れる。
 そこに入ることは、できないのだ。
(「動けないと愉しい宴に参加できなくて朧が煩いですし」)
 それに、折角なので衣装はお揃にしましたのでっ♪ とくるりと回って見せればミラーナイトから解せぬというような視線を向けられる。
 綺麗ですよミラーさん、とウィンクひとつ。
 それよりゴーレムって知られないように注意ですよと視線を向ける。
 ゴーレムであるミラーナイトは、おそらく動けるのだ。
 動いてしまえば人ではないとわかってしまう。じっと、じーっとですよ! と紅は視線で伝える。
 私の造形完璧なので、という目をもって。
 元々無口なミラーナイトとはアイコンタクトが主流。それは距離があっても問題はない。
 とはいうものの。
「お値段あがってまいりましたが、勢いは落ちてまいりましたね! ではそろそろ決めてしまいましょうか? いらっしゃいません? 大丈夫でございます?」
 その声に紅は、はっとして。
 待ってくださいと慌てて駆け寄った。
「おや、あなたは……おそろいのお洋服を召されていらっしゃる」
 お知り合いのようですね、という声に紅はそうと頷いた。
「ミラーさんは僕にとって大切な、いつも自販機の補充してくれる女神なのですよ!」
 そこですか、とミラーナイトの視線は言っている。
 けれどその前に――自販機というものをこの世界のものは知らないのだ。
「お嬢さん、自販機、とは?」
「知らないのですか自販機を。渇き潤す神の御業を!」
 僕から自販機を奪わないで、と紅が言うと――私ではなく? と視線が突き刺さる。
 それに気づいて間違え! と首を振って。
「否、ミラーさんを奪わないで下さい!」
 お願いです! と悲痛な叫び。実際困るのだから、紅にとっては死活問題なのだ。
「自販機……渇き潤す神のとは……私の知らぬことがまだ世の中にあるということでしょうか」
 その必死な感じが、自販機という謎のものに首を傾げつつも。むしろわからないものだからこそ神秘的に感じたのか、それとももっと他の感情か――それは定かではないのだけれども。
「こちらのお嬢さんにお渡ししましょう!」
 高らかに告げて、槌を振り下ろしたのだった。
 ちらっとこっそり、大成功です! とウィンクぱちんとする紅へとミラーナイトは人知れず目を伏せて、ため息をつけたのなら、ついていただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
オズ(f01136)さんと

競売の場には、どうにも惑う
けれど、場違いであればこそ
競る僕は哀れに見える事だろうな

代わる代わるの箱の中、
貴方を見付ければ安堵して
硝子棺で騎士と姫が添う姿は、
芸術品の様に美しくあるけれど
恒の表情が戻れば柔く笑んで、
矢張りその方が良いと心底に

待ってくれ、彼は友達なんだ
此処に居るのは、ああ、きっと
何かの――間違いなんだよ

彼は薔薇に包まれ眠るよりも、
薔薇に囲まれ走る方が良い筈
いや、僕だって、その方が良い
くるくる変わる表情は微笑ましくて
陽の様な笑顔で齎される癒しは、
芸術品では到底補えぬものだから

――だから、返してくれ
茨絡む手に気付き、響きは切実に
足りぬと言うなら、幾らでも出すさ


オズ・ケストナー
ライラック(f01246)と

ガラスの棺
敷き詰められたバラはおとうさんの大事な花

騎士のような肩章と飾紐
鍔のある黒い帽子に羽飾り
きっちりした格好
一緒に入っているシュネーは青いバラのドレス
羽飾りはお揃い

わたしは動けるようになるまでケースの中にいたから
薬がなくても狭い箱に入れば自然と動きは止まる
習性のようなもの

けれど
ライラの姿を見つければパッと表情が戻る

ライラっ

うれしそうに
棺の中、あかない棺の蓋に手を添えたくて
茨の絡む手を動かそうと

わたし、ライラといきたい
声にならない
もうケースの外の広い世界をしっているから
ライラのえがおも、やさしい声も
これきりなんていやだよ

だれかがこんな目にあってたなんて、かなしいよ



●その棺の中にいるよりも
 どうにも惑う。瞳を伏せそうになるけれど、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は前を見る。
 舞台上で繰り広げられる競り。
 この場とそぐわぬ、場違いであればこそ。
(「競る僕は哀れに見える事だろうな」)
 それは、きっとこの場にいる者たちにとっては面白いものとなるのだろう。
 代わる代わる箱が運ばれていく。けれど探す姿はまだ見えず。見知った姿を見はするが――それはライラックが踏み入る場面ではない。
「次は硝子の棺、薔薇を敷き詰めた箱に騎士と姫でございます」
 運ばれてくるのはオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が入る硝子の棺。
 その中に敷き詰められたのはバラ。それはオズにとって――おとうさんの大事な花だった。
 騎士のような肩章と飾紐の色は青。鍔のある黒い帽子に羽根飾り。
 きっちりとした格好であり、その腕には雪のような白い髪と桜色の瞳の人形――シュネーが抱かれていた。
 青いバラのドレス纏ったシュネーはお姫様のようで、オズの帽子の羽根飾りとお揃いのものを髪飾りに。
 この棺の中は、ケースの中にいたときのよう。そこは動けるようになるまでオズが居た場所だ。
 薬などなくても、狭い箱に入れば自然と動き止まってしまうのは習性のようなものだろう。
 じっと、して――薄っすらと瞳を開ける。オズの表情は硬く冷たいものだ。
 その姿をライラックは目にして安堵する。
 騎士と姫が寄りそう姿は芸術品の様に美しくあるけれど――それは何か、心に細波たてるものがあった。
 けれど、オズは瞬き一つ。
(「ライラっ」)
 この競売場の中でライラックの姿を見つければパッと表情が戻る。
 そう、華やいだのだ。
 そしてライラックも、嗚呼と柔く笑みを浮かべる。
 矢張りその方が良いと心底に――思うのだ。そして、前へと進み出る。
「待ってくれ、彼は友達なんだ。此処に居るのは、ああ、きっと」
 何かの――間違いなんだよと説に訴えるのだ。
 しかし司会の男は、いいえこちらいいらっしゃるのは間違いでございませんとまるで遊んでいるように言う。
 そしてあなたの知る彼はどのような方、と尋ねてくるのだ。
「彼は薔薇に包まれ眠るよりも、薔薇に囲まれ走る方が良い筈」
 いや、とライラックは首を振る。
「僕だって、その方が良い」
 くるくる変わる表情は微笑ましくて、陽の様な笑顔で齎される癒しは、芸術品では到底補えぬものだからと友人のことを語るのだ。
 そしてオズもうれしそうな表情をその侭に――ここから出ようと手を動かそうとする。
 あかない棺の蓋に手を添えたくて、茨の絡む手を動かそうとするけれど――動かない。
 もどかしさが、募るのだ。
(「わたし、ライラといきたい」)
 その想いも声にはならない。
 もうオズはケースの外の広い世界をしっているから――ここにとどまることはできないのだ。
(「ライラのえがおも、やさしい声も。これきりなんていやだよ」)
 動きたいのに、動けない。そして、このようなことが今まで続いていたことを思う。
(「だれかがこんな目にあってたなんて、かなしいよ」)
 そう思って、オズの表情は僅かに曇る。
 そしてライラックはオズの茨絡む手に気づいて。
「――だから、返してくれ」
 お願いだ、と紡ぐ。その響きは切実なものだった。
 足りぬと言うなら、幾らでも出すさと言うのだ。
 なんと美しき友情と司会の男は大仰に、そして皆様よろしいでしょうかと問うのだ。
 今宵、薔薇の中を走りまわることはできないけれどこの友人たちに一時をと。
 槌は打たれ彼らは共に一夜へと向かう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【花綴】

いのちの価値を競るだなんて
ひずんだ趣味をお持ちのようね
常夜は暗澹に満ちているわ

透き通る硝子匣に白色の花たち
純白のミニドレスに真白い花冠
仕上げにあかいリボンを纏わいましょう

白に咲かすのは、あかい牡丹一華

いっとうのあかを魅せましょう
いのちのあかを――わたしを
どうかその眸に焼きつけて

値踏みする視線がつき刺さる
嫌気をため息と共に吐き出せば
大勢のなかから、あなたの姿を捉う

――嗚呼
ティルさん、ティルさん
みえているわ、きこえているわ
けれど、この声は届かない

こんなにも近くに居ると云うのに
硝子越しに手をかさねても
つめたい隔てが染みるだけ

心優しくあいらしいあなた
紡がれる言葉が身へと染む

どうか涙を流さないで


ティル・レーヴェ
【花綴】

策とはいえ大事な友が箱の中
着飾る様は少しばかり楽しみ乍ら
胸中穏やかでないのも事実

値踏みする様な人々の眼
ひそひそと交わされる会話
会場を包む其れ等に不快感も抱きつつ

麗しく飾られた
彼女の姿が見えたなら
嗚呼!と縋るように駆け寄って
想いの芯に偽りなくも
少しばかり大仰に訴える

七結殿、七結殿!
姿消した其方をどれ程探し歩いたか
解るじゃろう?ティルじゃよ
其方の友じゃ

嗚呼
お声を出す事も出来ぬのか
妾の名を呼んだ柔き声も
穏やかに姿映した眼差しも
白き指重ねて繋いだ手も
硝子の中に囚われて

共に重ねた想い出も温もりも鮮明で
やっと見つけたのに
どうしてこんな……
其方がおらねば、妾は……

妾のお友達を返して!

眦には滴がひとつ



●しろにあか、ふれること能わずが
 いのちの価値を競るだなんて、と蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は瞳伏せる。

 ひずんだ趣味をお持ちのようねと継いで。
「常夜は暗澹に満ちているわ」
 と、零した言葉は擦れていた。ああ、声も奪われていくのねと僅かに表情曇らせて。
 透通す硝子匣に白色の花たちをいっぱいに。
 七結が纏うは純白のミニドレスに白い花冠。
 そしてあかいリボンを纏わいて、白に咲かすひといろはあか。
 牡丹一華だ。
(「いっとうのあかを魅せましょう」)
 いのちのあかを――わたしを、どうかその眸に焼きつけて。
 七結はその口端に笑みを僅かにのせて、待っている。
 その頃――七結のことをティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は思っていた。
(「策とはいえ大事な友が箱の中」)
 着飾る様は少しばかり楽しみ乍ら――ティルの胸中は穏やかでないのも事実だ。
 競売はいくつも行われている。見知った友人の姿も見え、共にこの背後に潜むものを挫きにきているとわかってはいるもののそわりとしてしまう。
 それに値踏みする様な人々の眼も、ひそひそ交わされる会話。
 どれもこれも、ティルにとって心地よいというものではなくこの会場包む空気に不快感も抱いていた。
 そしてその時は巡るのだ。
「続けてもうひとつ、硝子の棺をお見せしましょう」
 こちらは真っ白に、あか映える眠り姫――と、ティルの瞳のその姿が飛び込んでくる。
 美しく飾られたその姿。
「嗚呼!」
 すぐさま、ティルは立ち上がりその傍へと駆け寄るのだ。
 値踏みする視線が突き刺さる。嫌気をため息とともに七結は吐き出して――その視界の中、大勢の中からたったひとりを見つけた。
(「――嗚呼」)
 それもまた、音にならず吐息になるばかり。
 ティルは舞台の上へと招かれる。
 抱いた想いの芯に偽りはない。けれど少しばかり大仰にというのはこの場で訴えなければならないから。
「七結殿、七結殿!」
 姿消した其方をどれ程探し歩いたか――やっと見つけたとティルは紡ぐ。
「解るじゃろう? ティルじゃよ」
 その言葉に、七結は応えることは許されず。
(「ティルさん、ティルさん。みえているわ、きこえているわ」)
 その声が届くことはないのだ。
 其方の友じゃ、と紡ぐ言葉に頷くこともできず、七結は瞬きで応えるのだ。
「嗚呼、お声を出す事も出来ぬのか」
 妾の名を呼んだ柔き声も――穏やかに姿映した眼差しも、白き指重ねて繋いだ手も。
 全て、硝子の中に囚われて近いのに遠く。
 そうっとティルはその棺へと触れる。
 共に重ねた想い出も温もりも鮮明で――だがこの一枚がすべてを隔てる。
 七結もこんなにも近くに居ると云うのに。どうにか、にぶい感覚を得ながらも動かしたその手が僅かに動いて、棺に触れる。
 けれどぬくもりには届かなくてつめたい隔てが染みるだけ。
「どうしてこんな……其方がおらねば、妾は……」
 妾のお友達を返して! とティルは叫ぶ。
 その姿に心優しくあいらしいあなた、と七結は薄っすらと笑み浮かべるのだ。
 紡がれる言葉が身へと染むばかりと。
(「どうか涙を流さないで」)
 ティルの眦には雫が一つ。それを今は掬うこともできず。
 泣きそうになるのを我慢してきっときつい視線をティルは司会の男へと、そして会場へと向ける。
 少女のその視線の強さに、絆された――というわけではないのだろう。
 好奇の視線は未だある。それを気付かぬふりして、二人で夜を迎えるための槌の音を聞く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
箱入り/ブラッド(f01805)

皆の目に僕はどう映るだろう
天使? それともセイレーン?
どれも違う
僕が出来損だと知った時の
過去出逢った人達の落胆が、侮蔑が、憎悪が脳裏に蘇り
体が冷たくなっていく

漆黒の棺の中
白くゆったりとしたヴィンテージのネグリジェを身に纏い
ふんわりと真白の羽根に埋もれ、眠るように瞳を閉じる
胸の前で祈るように重ねた手には
誓いの日に彼から貰った一輪の赤い薔薇
花言葉は『あなたしかいない』

彼の声が聴こえる
見たくても震えるだけの睫毛
呼びたくても声にならない薄紅の花唇
薬のせい?
体に力が入らない

嗚呼、ブラッド、ブラッド
僕の全て

沢山の愛で僕を包んでくれた
『僕』を、見付けてくれた

彼を想い、涙零れる


ブラッド・ブラック
競り落とす/サン(f01974)

悪趣味な趣向だ
人の感情を弄ぶとは、反吐が出る

……オブリビオン打倒の為とはいえ
サン、どうか無事でいてくれ


美しい愛し子の姿に目を奪われ

値を付ける他者の声で我に返り
サンが値踏みされ物の様に扱われている事実に
徐々に怒りと吐き気が込み上げる

(下衆共め、貴様等のその汚い目玉抉り取ってくれようか)

舞台に上がり、ガラスの向こうのサンに触れ

サンは俺のものだ
俺と未来を誓い合った
俺の、唯一つの希望だ

俺はサンを愛している
誰にも渡すつもりはない

醜い怪物の憐れな戯言だと嗤えばいい

俺よりもサンを愛しているという者がいるなら今直ぐ名乗り出ろ
但し嘘をつくのなら……貴様の全て、喰らい尽くしてやろう



●出来損ないと醜い怪物は
 皆の目に僕はどう映るだろうと、サン・ダイヤモンド(apostata・f01974)は睫毛を震わせる。
 羽根の頭、ちらりと見える角は金剛石のような。翼のような兎の耳――牙も爪もある。やわらかな狐の尾にその脚は鷲耳木菟のもの。それがサンの持つもの。
 天使? それともセイレーン?
 そのどちらでも――どれも違うことをサンは知っている。
 己は出来損ないなのだと。
(「僕が出来損だと知った時の」)
 過去出逢った人達の落胆が、侮蔑が、憎悪が脳裏に蘇る。
 それが失わせていくのは、はたして体温だけなのか。
 体が冷たくなっていくと、呟く言葉も音にならず。
 漆黒の棺の中、白くゆったりとしたヴィンテージのネグリジュはその中でサンと溶け合うような色合いだ。
 ふんわりと真白の羽根に埋もれゆっくりと、眠るように瞳を閉じ、祈るように重ねた手がある。
 その手には――一輪の赤い薔薇があった。
 それは誓いの日に『彼』から貰ったもの。
(「この花の、花言葉は――」)
 あなたしかいない。
 その言葉を胸の内で抱いて、サンの意識は僅かに沈む。
 黒い棺の蓋が一度、閉じられる頃、彼は――ブラッド・ブラック(LUKE・f01805)はサンのことを想っていた。
 悪趣味な趣向だと、思う。人の感情を弄ぶとは、反吐が出る。
 けれど――この先に、この夜にオブリビオンが居るのならば。
 その打倒の為とは言え、ブラッドは願うばかりだ。
(「サン、どうか無事でいてくれ」)
 いくつもの競売を見てきた。けれどまだ。あの子は現れない。
 その姿をと不安も募るばかりだ。
「お次は黒き棺に真っ白な――美しきものをお見せいたしましょう」
 競売の舞台にひとつ、棺が運ばれその中が晒される。
 まっくろに、まっしろな――美しい愛し子だ。
 ブラッドはその姿に目を奪われ、暫し時を止める。
 けれどひとつふたつと増えて激しさを増していく、値を付けていく他者の声で我に返るのだ。
 サンが値踏みされ、物の様に扱われている事実。
 じわりじわりと、ブラッドの心には怒りが沸き上がる。それと共に吐き気が込み上げてくるのだ。
 此処は何ていう場所だ。
 こんな場所にあの愛し子を連れてきてよかったのだろうか――とも。
(「下衆共め、貴様等のその汚い目玉抉り取ってくれようか」)
 そんな輩に、あの子の姿を見せておくわけにもいかない。
 ブラッドは舞台へとあがる。そして周囲の視線も向けられる言葉も構わず、硝子の向こうのサンに触れた。
「サンは俺のものだ」
 俺と未来を誓い合った――俺の、唯一つの希望だ。
 ブラッドはこの場の誰にも渡さぬのだと告げる。
 その声の強さにわずかにサンの瞼が震えた。
 彼の声が聴こえる――傍にいる。
 けれどその姿見たくても睫毛震えるだけ。その名を呼びたくとも、微かに動くだけで聲にならない薄紅の花唇。
(「薬のせい?」)
 体に力が入らない。サンはそれでも――想いの限りを告げるのだ。
(「嗚呼、ブラッド、ブラッド――僕の全て」)
 その想いに、ブラッドの言葉が重なる。
「俺はサンを愛している。誰にも渡すつもりはない」
 それは威嚇か――それともブラッドの憤りが零れたか。
 人の形、髑髏の顔。それがさらなる異形を纏うかのように揺らめいている。
 それも、サンにとっては向けられた愛そのもの。
(「沢山の愛で僕を包んでくれた――『僕』を、見付けてくれた」)
 ブラッドを想い、涙零れる。この涙は悲しみではない。もっと別の――計り知れないもの。
 その涙の気配に僅かに瞳が光るのだ。
 そして、醜い怪物の憐れな戯言だと嗤えばいいとこの場に居る者たちへと言い放つ。
「俺よりもサンを愛しているという者がいるなら今直ぐ名乗り出ろ」
 但し嘘をつくのなら……貴様の全て、喰らい尽くしてやろうと異形は紡ぐ。
 この場の全てを圧するように。
 もう誰も手をあげることなどできなかった。司会の男もどうぞ、ご一緒にと頭を低くする。
 サンの側に、隣に――ブラッド以外があることは許されない。そして傍らにいる事を望むものは、もういなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ヨシュカ(f10678)
兄弟の演技をするヨー

小さめの硝子の箱の中に綺麗な格好で
ぎゅうぎゅうに詰め込まれる
相棒の拷問器具の賢い君の赤い糸も一緒
真っ赤でぎゅうぎゅう

小さくて狭くて居心地が悪い
弟クンは上手く競り落としてくれるのやら
アイツはちゃっかりしているからなァ……。
そのまま他のヤツの元に行ってしまえ!
なんてならなきゃいいケド。

箱の中で賢い君と戯れる戯れる
糸を結んで一人であやとりをする
アァ、楽しいなァ
所で弟クンはきちんと競り落としてくれたカナー?

金ならあとで寄越すカラ
どんなに高くても食らいついてくれヨ
じゃないとお前の命も……そうだろ賢い君。

アァ……演技が上手上手。
怖いなァ……怖い怖い。


ヨシュカ・グナイゼナウ
エンジさま(f06959)
(兄弟の演技中の為一人称変更中)

変装は上々、エンジさまはきれいに詰められたでしょうか?


大人にまざり落ち着かない様子で周囲を見渡し
壇上にある真っ赤に彩られた硝子の箱を見つけたなら
お兄さま…と小さく呟いて
オークションの開始共に、他人が提示した金額を常に超える額をこちらも提示
必死に競り落とそうと声を上げて

その人を、兄を返してください
僕の、僕の、たった一人のお兄さまなのです
顔を両手で押さえ、崩れる様に蹲み込んで嗚咽を漏らし
消え入りそうな声で、返してくださいと繰り返す


あーあ、安い演技も楽じゃない
世界で一番大っ嫌いなお兄さま
他の奴らになんか渡すもんか
僕がこの手で、……あとは秘密



●兄弟ごっこ、お兄様は箱の中
 兄弟の演技をするヨー、とエンジ・カラカ(六月・f06959)は何時もと変わらない。
 エンジの前にあるのは小さめの硝子の箱。
 その身を包むは――触り心地の良い真っ黒な、長衣。
 そこへぎゅうぎゅうに。
 相棒の賢い君の赤い糸も一緒に、真っ赤でぎゅうぎゅう。
 小さくて狭くて居心地悪い。逆に笑えて来るほどに。
 狭いねェと笑って、さてさてと思い浮かべる姿。
(「弟クンは上手く競り落としてくれるのやら」)
 アイツはちゃっかりしているからなァ……とエンジは唸る。
 そう、可能性は無きにしも非ず。
 そのまま他のヤツの元に行ってしまえ! ――なんてならなきゃいいケドと、微かに笑いを零しながら思うのだ。
 狭い箱の中に寝転ぶような、けれど狭いから足は抱えるように持ち上げて、箱の側面にあて支えるのだ。
 ふわり、変なにおいに体もわずかに鈍いが指先は動く。
 賢い君、と紡げば赤い色と共に戯れるのみ。
 糸を結んで一人であやとりににんまり、口の端に笑みが浮かぶ。
「アァ、楽しいなァ」
 その動きはゆるゆると。
 毒がどうとか言っていたがエンジへの効きはどうやらゆるやかなようだ。
 そこでふと、思い出す。
(「所で弟クンはきちんと競り落としてくれたカナー?」)
 そう思うものの、まだここは舞台裏。
 あ、マダかなんてエンジは呑気に思うのだ。
 その頃、弟クン――ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)は大人にまざり落ち着かない様子で周囲を見渡していた。
 変装は上々。エンジさまはきれいに詰められたでしょうか、とその姿現れるのをまっているのだ。
 そして――お次は赤い箱、と聞こえヨシュカはぱっと顔を向けた。
 硝子の箱は小さな正方形のような。その中でエンジは赤い糸に絡まって、抱かれて己の手元を見て笑っていた。
「お兄様……」
 小さな呟き。そのつぶやきは隣の男に聞こえていた。
 それでは、と値段が付けられて。いく。
 ヨシュカはその額を、常に超える額を提示していくのだ。
 必死に競り落とそうと――その声は大きくなる。
 そのヨシュカの声にエンジも気づいていた。
 体は動かせないから、そっと視線だけ投げてみる。けれどヨシュカの姿はどこだろうか、この体勢ではどうやら見えないようだ。
(「金ならあとで寄越すカラ、どんなに高くても食らいついてくれヨ」)
 じゃないとお前の命も……そうだろ賢い君とエンジは紡ぐ。
 しゅるりと赤い色がそれに応えるように動いていた。
 そして一際高く。
「その人を、兄を返してください」
 その人は、とヨシュカは息を詰まらせる。
「僕の、僕の、たった一人のお兄さまなのです」
 顔を両手で押さえ、崩れるように蹲み込んで嗚咽を漏らす。
 傍らにいた男が大丈夫かねと駆ける声は――本当に心配しているものではない響き。
 消え入りそうな声で返してください、返してくださいとヨシュカは繰り返す。
 そうか、そうかと傍らの男は頷いて――この子はその箱の、弟のようだと司会の男に告げるのだ。
 泣き崩れる程に思っている――ならばこの子にと、その男中心に広がっていくのだ。
 優しい男を演じるという事を楽しんでいるのだろう。それを見越したうえで、ヨシュカはありがとうと紡ぐ。
(「アァ……演技が上手上手。怖いなァ……怖い怖い」)
 そんな空気を感じて、エンジは喉鳴らして笑う。
 さてこの後迎える夜はどうなるのかと少しばかり心は踊るのだ。
 そしてヨシュカは。
(「あーあ、安い演技も楽じゃない」)
 その心内は早く終わらないかなぁというようなもの。
(「世界で一番大っ嫌いなお兄さま。他の奴らになんか渡すもんか」)
 僕がこの手で、……あとは秘密と、口の端に笑みを零して。
 けれどそれは、まだ泣いている振りの中、だぁれも気付かない。
 情にほだされたかのように、弟に兄との一時をと競売は盛り上がる。槌を打って、ぎゅうぎゅうの赤い箱の行先も決まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
クロト(f00472)は買い手
こんな美青年、出品したが最後
皆が我先にと殺到、阿鼻叫喚の奪い合い、戦争必至ゆえに

大正浪漫風の袴
藤に鈴蘭、赤の薔薇4輪…彼の選んだ花に包まれ
箱含め詳細お任せ

主従関係の演技で心引く狙い
喋れずとも雰囲気で…

派手な入札で目を引く彼
まるで好奇の視線を剥がすよう
いつもそうして護ってくれる

でも
もう、いい
彼を慰めるよう眸で微笑みかけ

身を献上し、民を護る
そう彼に告げた決意の裏に、真の願いがあった
彼を解放したい
私という主によって雁字搦めにされた彼の人生を解き放つ
これ以上何一つ犠牲にさせぬ

…どうして、悪魔など
私が彼を歪めてしまう
涙が零れたのはきっと
闇の世では、彼の純粋さが眩しすぎるから


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)を…彼を
きっと誰もが好きになる
見目だけの話で無く
知る程に
隠される程に

事前に演技と言い含めても
君に
有象無象が触れる事も
好奇の目が向く事も
鏖にしたくなる程の情動を、弱者の装いに潜め

順番が訪れたら、即
千倍?万倍?
構うものか
叩き付ける値で周囲など黙らせる

一秒たりと
君を、価値の解らぬ衆愚に晒すものか


それが貴方の決断なら、従う事こそ正しいと…
でも無理でした

簡素な身形に剣のみ一振り
他に何も持たず
何処にそんな財が…なんて
(実際金には困りませんが

今、私だけが貴方の剣
この穢れた手でも
その身を、誇りを、一夜でも守れるのなら
至上の喜び
命も人生も明日だっていらない
何もかも売り払うとも
悪魔に魂だって



●主従である、その下で
 佐那・千之助(火輪・f00454)は、己が箱へとクロト・ラトキエ(TTX・f00472)へと己の身を託した。
(「こんな美青年、出品したが最後」)
 皆が我先にと殺到、阿鼻叫喚の奪い合い、戦争必至。
 そう思うが故に、千之助がその役をするとなったのだ。
 纏うのは大正浪漫風の袴。
 横たわる箱は――千之助の髪色に似た色だ。陽が差すことが少なき世界だからこそ、求められるもの。
 その中で藤に鈴蘭、赤の薔薇四輪――クロトの選んだ花に包まれるのだ。
 今はまだ、舞台に上がるのを待つ身。
 クロトはいくつかの競りを見詰めながらぼんやりと思っていた。
(「千之助を……彼を」)
 きっと誰もが好きになると、クロトは思う。
 それは見目だけの話で無く、知る程に――そして、隠される程に。
 事前にもちろん、演技と言い含めている。
 けれど、それでも――千之助に有象無象が触れる事も、好奇の目が向く事も――塵にしたくなる程の情動を抱かせる。
 それを弱者の装いの下にクロトは潜めた。
 そして、その箱が現れる。花々に囲まれた千之助。
「それではこちら――いくらから参りましょうか」
 その声にクロトは手を挙げて。
「いくらでも。千倍? 万倍?」
 構うものかと紡ぐ。最初に提示された金額を撥ね上げさせて周囲など黙らせてしまうのだ。
 一秒たりと――君を、価値の解らぬ衆愚に晒すものかと。
 それは果たして演技の内か、その外か。
 その行動を、千之助は瞳細めて見つめる。
 派手な入札だ。それはまるで好奇の視線を剥がすよう。
(「いつもそうして護ってくれる」)
 でも――もう、いい。
 千之助はクロトへと――慰めるよう眸で微笑みかける。
 身を献上し、民を護る。
 そう彼に告げた決意の裏に、真の願いがあったのだと。
 彼を解放したいと、千之助は――主という役を追った千之助は思っていたのだ。
(「私という主によって雁字搦めにされた彼の人生を解き放つ――これ以上何一つ犠牲にさせぬ」)
 柔らかに微笑んでそれを告げるのだ。
 けれど、クロトはいいえと首を横に振る。
(「それが貴方の決断なら、従う事こそ正しいと……でも」)
 無理でした、とその唇は動く。
 クロトは、簡素な身形に剣のみ一振り。
 他に何も持たず、何処にそんな財が……という風なのだ。
 けれどここは金よりも縁に重きが置かれる場所なのだ。
 今、私だけが貴方の剣と――膝をつく。
「この穢れた手でも。その身を、誇りを、一夜でも守れるのなら――至上の喜び」
 命も人生も明日だっていらない。
 何もかも売り払うとも、と紡ぐのだ。
 悪魔に――魂だって、と。
 その言葉に、千之助は今、応えることができないのだ。
(「……どうして、悪魔など」)
 私が彼を歪めてしまう、と僅かに眉を寄せ――つぅ、と。涙一筋零れるのだ。
 ああ、どうしてそんなにも眩しいと。
 闇の世では、彼の純粋さが眩しすぎると思うのだ。
 ああなんというありようかと客も司会の男も思うのだろう。
 最後までと望むなら一緒にいさせてあげればよいではないかと。
 この従者に、主と共に過ごす時間をと槌が打たれる。
 向けた言葉は――演技か。それとも、抱えた本心をひそやかに秘めたものなのか。
 それを知るのも、己自身だけ。今は内緒のままに、共に夜を迎える。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

落浜・語
【狐扇】二人

何回かこの世界は来ているけれど、本当に…。ま、ぐずぐず言ってる暇はないからな。
冷静でいられる自信がないが、指輪に触ってれば…多分無理。

狐珀が舞台へと出されたら、その瞬間に舞台へと飛び乗って、背で隠すようにして立つ。
ずっと一緒にいると、何があっても手を離さないと誓った仲だ。人のものを勝手に競売なんかにかけるんじゃねぇ!
狐珀を愛していいのも、好きになっていいのも俺だけだ。ほかの奴になんざ、絶対に渡さない。(無意識に【呪詛】が漏れて右目が黒に)
うるさい黙れ。俺のものだ。薄汚ねぇ手で触るんじゃねぇ!それでも近づくってなら、その悪趣味なことしか考えられねぇ、頭ごとそっ首たたっ斬る…!


吉備・狐珀
【狐扇】

・箱…若紫色の花が詰められた常盤色のガラスケース
・装い…月白色の花柄のレースが施された藍色のドレス

綺麗なドレスですし、ドレスに合わせて髪も整えて頂いて…。
装飾品も付けてくださるのですか。
あ、指輪はこのままがいいです。この指輪は外したくないので。

せっかく綺麗に着飾ってもこの後のことを考えると良い気分ではありませんね。
(そっと左手の薬指の指輪を撫でながら)でも、大丈夫。私には若紫色と常盤色がいるから。
体の自由を奪われてしまうけれど。
恐れるものは何もない。若紫色と常盤色を想うだけで心が温かくなる。

人を競売にかけるなど悪趣味としか言いようがありませんが…。
語さんに競り落とされるなら…とも。



●誰にも見せたくない、その箱の
 月白色の花柄のレースが施された藍色のドレス。
 綺麗なドレス、とそれを吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は纏っていた。
 装飾品も色々と、ネックレスにイヤリング、指輪は、となったときにそっと狐珀は手を引いた。
 指輪はこのままがいいです、と。外したくないのでと。
 こんな風に着飾ってもらって、嬉しいと思う気持ちはあるのだ。
 けれど。
(「この後のことを考えると良い気分ではありませんね。」) 折角綺麗に着飾ってもらっても、と狐珀はそっと左手薬指の指輪を撫でながら思うのだ。
(「でも、大丈夫。私には若紫色と常盤色がいるから」)
 箱の中へと招かれる。若紫色の花が詰められた常盤色のガラスケースだ。
 ふわり、香るものが狐珀より自由を奪っていく。
 けれど、それでも。
(「恐れるものは何もありません」)
 若紫色と常盤色を想うだけで心が温かくなると、穏やかな心地はあるのだ。
 狐珀が思い浮かべるのは――ひとり。
(「人を競売にかけるなど悪趣味としか言いようがありませんが……」)
 けれど、彼ならば。
(「語さんに競り落とされるなら……」)
 それは、と思う。箱の中にて僅かに表情変える事と、吐息だけが許されて。
 そして狐珀も競売の舞台へとあげられる。
 その頃、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は己の指にあるものに触れていた。
(「何回かこの世界は来ているけれど、本当に……。ま、ぐずぐず言ってる暇はないからな」)
 冷静にいられる自身がない。けれど指輪に触っていれば――と、思うが。
 多分無理、とすぐに思う。平静さを保てるとは思わぬのだ。
「次は美しきお嬢さんでございます! ささ、どうぞご覧くださいませ」
 その声に顔をあげる。
 すると若紫色の花が詰められた常盤色のガラスケース――その中に狐珀の姿を見つけた瞬間、語は舞台へと走っていた。
 そして飛び乗り、狐珀を背中に隠すように立つのだ。
「おや、お客様~、飛び入りは、特別なお方以外はお断りでございますよ」
「ずっと一緒にいると、何があっても手を離さないと誓った仲だ」
 司会の男の声色は楽しんでいるような心地。それにいら立ちを隠さず、語は返す。
「人のものを勝手に競売なんかにかけるんじゃねぇ!」
 狐珀を愛していいのも、好きになっていいのも俺だけだ。ほかの奴になんざ、絶対に渡さない――その想いは強く。
 無意識に、語の身から零れるものがある。右目は黒に染まり、呪詛が溢れる。
 その様に想いがとても深いようでと男は紡ぐのだ。
 そんな言葉も、苛立ちにしかならない。
「うるさい黙れ。俺のものだ。薄汚ねぇ手で触るんじゃねぇ!」
 舞台の上から威嚇するように。
 語の声は狐珀にも、響いていた。箱の中でわずかに瞬いてその背中を見詰めていた。
「それでも近づくってなら、その悪趣味なことしか考えられねぇ、頭ごとそっ首たたっ斬る……!」
 司会の男は叩き斬られたら競売続けられませんし、と困ったように。
 そして客たちへと、この方に差し上げてもと問いかける。
 それに異を唱える者はおらず――お二人で一夜をお過ごしくださいと告げられるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シェルゥカ・ヨルナギ
エンティ(f00526)が迎えに来るって言うんだ

猫耳フード付きの黒色ケープコートを着せられたよ
中は黒基調のシャツとズボンと膝丈ブーツ

箱は細い金属の骨組と淡く様々に色付いたガラス製だね
蔦が絡みつき金属部分が所々腐食している

あれ。エンティは参加しないのかな
気が変わった?
…ああ、不参加のままでよかったのに

それにしても随分と大仰な演技だね
あはは
俺をとても大切なものみたいに

……
ねぇ、その目は演技だよね?
何故そんなに真剣なの
やめてよ。だめだよ。どうしてそこまで言うの。もういいよ
そんなに彼らを喜ばせないで
この後、万一でも君が本当に…

落札の槌すらかき消し重く響く己の鼓動
いやだ。見たくない


エンティ・シェア
シェルゥカ(f20687)を競り落としに行こうか
暫くは箱詰めの彼と競りの様子を静観して
終わる間際に待ったをかけよう

気に入らないね
そんなはした金で私の大切な彼を奪おうだなんて
金が要るなら持っておいきよと袋詰の金貨を放って
約束があるんだ。大事な大事な約束が
果たさぬまま別れてなるものか

もうひと押し必要なら彼の前で跪いて微笑もう
動けない彼を真っ直ぐに見つめて
会いに来たよ、愛しい主殿
君との時間は、私だけの特権だ。そうだろう?

彼には酷なことを頼んでしまったからね
演技を重ねても、心根くらいは偽りなく
愛おしいよ。君が
私の特別
私を救おうとしてくれる君に、応えられるように、なりたい
臆病な私を、どうか見届けておくれ



●微笑みに、向かう夜の先を想って
 これがお似合いになるでしょうと、シェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)に渡されたのは黒色ケープコートだった。
 フードを広げれば猫耳がついているが。
 そしてその中には黒貴重のシャツとズボン、膝丈のブーツだ。
 そしてその、赤い瞳が見つめるのは細い金属の骨組みと、淡く様々に色付いたガラスの箱。
 それを戒めるようにか、絡みついた蔦が金属の所々を喰らって腐らせていた。
 箱に入る――甘やかな香り。
 なんだろうこれ、とシェルゥカは思うが、入ってしまえばもう夢心地のような。
 けれど意識ははっきりとここにある。
 舞台裏で運ばれていく数々の箱を、棺を眺めて――そして、次はあなたと声がかかる。
 明るい舞台の上に連れていかれて――眩しくて僅かに瞳を細める。
「それではこちら、黒猫の青年はいかがでしょう。さぁ、お好みの儘に金額を――」
 その声に、100、200、400と――金額が吊り上がっていく。
 エンティ・シェア(欠片・f00526)はその様子を静観していた。
 箱詰めの彼と、彼に値を付けるもの達。
 その様子を、シェルゥカも箱の中から見ていて。
(「あれ。エンティは参加しないのかな。気が変わった?」)
 そう思っていると、そろそろ金額も天井でしょうか、よろしいかなと司会の男が問うている。
 もう終わるかな、と見つめていたシェルゥカの瞳に、最後の最後で上がる手が見えた。
(「……ああ、不参加のままでよかったのに」)
 気に入らないね、とエンティは笑いながら舞台の方へ。
「そんなはした金で私の大切な彼を奪おうだなんて」
 金が要るなら持っておいきよと、袋詰めの金貨を放る。
 ずしゃりと重いそれが、舞台の上に散らばった。
「約束があるんだ。大事な大事な約束が。果たさぬまま別れてなるものか」
 そうだろうと、エンティはシェルゥカへと笑いかける。
 その様にシェルゥカはそれにしても、と思うのだ。
(「随分と大仰な演技だね」)
 あはは、と声が零れるならきっと笑っていただろう。けれど今は喉が震えるのみ。
 俺をとても大切なものみたいに――とシェルゥカはその姿を見ていて。
 そしてエンティはもう一押し必要かな、とシェルゥカの箱の前に進み出て跪いて微笑んだ。
 真っすぐに――動けないままのシェルゥカへと視線向けて。
「会いに来たよ、愛しい主殿。君との時間は、私だけの特権だ。そうだろう?」
 シェルゥカは瞬いた。
(「……」)
 ねぇ、と問いたいけれど声は届かない。
(「その目は演技だよね? 何故そんなに真剣なの」)
 けれど答えはないのだ。エンティはただ微笑んでその姿勢を崩さない。
 酷なことを頼んでしまったから――演技を重ねても、心根くらいは偽りなくありたいのだ。
「愛おしいよ。君が――私の特別」
 私を救おうとしてくれる君に、応えられるように、なりたいと切々と声を響かせて。
(「やめてよ。だめだよ。どうしてそこまで言うの。もういいよ」)
 この後に何が起こるのかも、わかっているのだというように。
「臆病な私を、どうか見届けておくれ」
 そんな言葉を向けて――この場に居る者たちが沸かぬわけがないのだ。
 声をあげて、彼にあげてと夫人が紡ぐ。その縁を壊してはいけないねと頷く者もいる。
 その様子によろしいと司会の男は言うのだ。
 彼にこの箱をと、槌を振り上げる。
(「そんなに彼らを喜ばせないで。この後、万一でも君が本当に……」)
 不安が響く。シェルゥカの鼓動が跳ねる。
 それは落札の槌の音すらかき消して重く響くものだ。
(「いやだ」)
 そんなの――見たくない、と。シェルゥカの心は荒れるままに夜へと向かう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
油断しちゃったって後悔してる。
もともとこのオークションに参加する予定ではいたけれど…
ボクがほんの少し目を離したすきに、アーシェが連れていかれちゃうだなんて。

綺麗なドレスと花に包まれたアーシェを見て、手にぎゅっと力をこめて。

その子はボクの大切な子で、友人の人形師がボクの為にと作ってくれた特別なお人形。
ボクの大切な一番の友達で、故郷を失ってから今までずっと一緒に色んなことを乗り越えてきた。
友人の名前をもらって、容姿もそっくりなその子をヴァンパイアの手に渡すわけにはいかないんだよ。
今はいないアーシェも、ヴァンパイアに奪われたんだから。
待っててアーシェ、ボクが絶対に競り落とすから!

【アドリブ絡み歓迎】



●友人の姿も守るために
 今は亡き友人の名と面影を引き継いだ『アーシェ』は、瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)にとって特別な相手。
 油断しちゃった、とカデルのその心は後悔に満ちていた。
 もともと、このオークションに参加する予定ではいたのだ。
 けれどふと――カデルがほんの少し目を離したすきにアーシェは消えてしまったのだ。
 いや消えたのではなく、連れていかれたのだ。
 それを知るのはアーシェの姿を探しながら、競売の舞台上に現れた時。
「次は美しき、お人形さんでございます」
 その声に惹かれるように舞台を見れば――綺麗なドレス。それはカデルと一緒にいた時とは違うものだ。
 淡い若草色のドレス。それに花に包まれて綺麗に箱に収まるその姿。
 カデルはぎゅっと手に力を込めた。
「小さなお人形さんですので、値段は少し低めから参りましょうか」
 そんな声にカデルは待って、と舞台へと走る。
「その子はボクの大切な子で、」
 友人の人形師がボクの為にと作ってくれた特別なお人形なんだとカデルは舞台の上へと走るのだ。
 カデルは手絵を伸ばす――返して、と。
 すると司会の男は、あなたにとってこのお人形さんとは、と問いかける。
「ボクの大切な一番の友達で、故郷を失ってから今までずっと一緒に色んなことを乗り越えてきた」
 友人の名前をもらって、容姿もそっくりな――その子を。
(「ヴァンパイアの手に渡すわけにはいかないんだよ」)
 今はいないアーシェも、ヴァンパイアに奪われたんだからと滲みあがる心を抑えて、カデルはこの場に立っていた。
「待っててアーシェ、ボクが絶対に競り落とすから!」
 アーシェは大切な子。
 その子を誰にも渡す気はないのだとカデルは紡ぐ。
 そこまで大事でございますかと司会の男は笑って、いかがいたしますか皆様と客たちへと問いかけるのだ。
 その子とっても一生懸命だから、良いのではなくてと誰かが紡ぐ。
 誰かがまたそれに同調して、その子に渡してあげなさいとと声が波打つのだ。
 その声によろしいと槌を打つ。
 あなたと、あなたのお人形に――いいえ、お友達に一夜をと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
千鶴(f00683)と

箱の中に居る美しい人
よーし!何が何でもぼくが競り落とすよ
手を上げて悲しみと痛みに満ちた声を張り上げる

やめて、ちーくんを連れて行かないで
ちーくんはぼくの大切な人
優しくて綺麗で格好良くて可愛くて
すっごく魅力的なのはわかるよ

でも、その人はぼくの
ぼくの、好きな人なんだ
ちーくんにとっては迷惑かもしれないし
ぼくの押し付けかもしれない
それでもちーくんを愛してるんだよ

涙が出ない体が疎ましい
顔を歪めて泣きそうになりながら
拳を握りながら

ちーくんは王子様なんだ
みんなの王子様だって知ってる
ぼくのものになってくれなくていいから
ちーくんのそばにいたいんだよ

ちーくんを連れて行かないで
お願いだよ


宵鍔・千鶴
ティア(f26360)と

真白く綺麗に着飾り、ガラスケースの檻の匣
鑑賞用の装飾は白に咲く花々に敷き詰められ
唯一の青薔薇が一輪傍らに

いいよ、お人形さんのように成るのは得意なんだ
自由の効かない手足はいっそ懐かしくも在る
…でも、やっぱり俺は人形を着飾り創る側が好みだけど

悲痛に満ちた、けれど温かな愛の言葉が聴こえる
ヴァンパイアの悦ぶ愛の悲劇の舞台は整うよ
彼女の言葉がすごく、真っ直ぐだから
こんな状況だっていうのに……照れてしまうじゃないか

ティア、ティア
涙は無くとも理解っているよ、痛い程
泣くなよ、可愛い妖精さん

語り掛けたい声は届かず
寄り添って伸ばしたい手も届かない

噫、このガラス一枚がなんと厭わしいことだろう



●愛の悲劇を匣へと零して
 真白を纏う――その髪の漆黒と、その瞳の紫とは対局のように。
 ガラスケースの檻の匣へと宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は白に咲く花々敷き詰められ、唯一色持つものは青。青薔薇が一輪、傍らに置かれた。
 まるでお人形さんのようと、千鶴も思うのだ。
(「いいよ、お人形さんのように成るのは得意なんだ」)
 動くこともままならない。自由の効かない手足はいっそ懐かしくも在るのだ。
 ふ、と笑いが口端にともる。
(「……でも、やっぱり俺は人形を着飾り創る側が好みだけど」)
 本業は人形師である千鶴。横たわり瞳を伏せ、ここに己の代わりに横たわるならどんな人形が良いだろうかと思いめぐらせながら。
 舞台裏は薄暗く、けれど匣が動いたなら眩しい舞台上へと引き上げられる。
 光の中にさらされる、その姿――美しい人、とティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)は瞳を瞬かせた。
(「よーし! 何が何でもぼくが競り落とすよ」)
 ぐ、と手を握り――その手を上げる。
 そして悲しみに満ちた声をティアは響かせるのだ。
「やめて、ちーくんを連れて行かないで」
 ちーくんはぼくの大切な人、とティアは舞台へと寄るのだ。
 金額が上がっていくその中、少女の声に一時競売止めて司会の男は耳を傾ける。
「優しくて綺麗で格好良くて可愛くて、すっごく魅力的なのはわかるよ」
「ふふ、そうでございますね。値段も良い感じに吊り上がっておりますし」
 ですので、競売を続けたいのですが、と男は続ける。
 ティアは、ふるりと首を振って。
「でも、その人はぼくの――ぼくの、好きな人なんだ」
 ちーくんにとっては迷惑かもしれないし、ぼくの押し付けかもしれないと細い声だ。
 けれどそれでも。
「それでもちーくんを愛してるんだよ」
 真っすぐに紡ぐ。それはティアの気持ち。
 その声を千鶴は耳に――温かな、と思うのだ。
 悲痛に満ちている。けれど温かな愛の言葉。
 ヴァンパイアが悦ぶ愛の悲劇の舞台は整っていくのだ。
 ティアの言葉に千鶴は僅かに瞼を動かして、そしてその口許には薄っすらと笑みを。
 すごく真直ぐだから、その心も揺れてしまう。
(「こんな状況だっていうのに……照れてしまうじゃないか」)
 涙が出ない体が疎ましいと、ティアはきゅっと拳握って。そして顔を歪める。
 泣きそうな表情であるというのに、それは流れ落ちないのだ。
「ちーくんは王子様なんだ」
 みんなの王子様だって知ってる。ぼくのものになってくれなくていいから――ティアは、くるりとこの場所を見回して。
 そして千鶴を真っすぐ見つめた。
「ちーくんのそばにいたいんだよ」
 もし今、千鶴のその身が動いたならば――手を伸ばしていただろう。
 笑いかけていただろう。
(「ティア、ティア。涙は無くとも理解っているよ、痛い程」)
 泣くなよ、可愛い妖精さん――語り掛けたい声は届かない。
 僅かに唇が動く程度だ。
 何もかも、この硝子の匣の中からは届かないのだ。
(「噫、このガラス一枚がなんと厭わしいことだろう」)
 この隔たりを、どうすることも今はできない。
 ちーくんを連れて行かないで、とティアは零す。
 お願いだよ、と。
 かわいそうに、かわいそうにと客がさざめく。悲恋なんてかわいそう、と。
 だから最後の素敵な夜を、贈ってあげましょうとその恋の末を見守るように。
 槌のうたれる音が響く。
 決して幸せになれぬだろう。その恋を最後まで続けられるようにと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

遙々・ハルカ
よしのりサン(f05760)と

さ~て
折角なんだから演技力の高いトコ見せないとなァ
コツは真実を混ぜるコト

隅で舞台上の出来事に飽き始めて欠伸を溢す頃
値を告げられるまでは待ちの姿勢
付けられる値段が判らなかったので適当に換金してきた金貨
態と些か足りない量を布袋に突っ込んで駆け寄る

あァ、待ってくれ!
金はここにある、あるんだ
この人は駄目だ、頼む
どうかお願いだ
この人はオレの人生で一番大事な人なんだよ

言葉数は観客の反応を見ながら

この人は…
一番オレのことを知ってる
その上で一緒にいてくれる
身寄りのない独りぼっちのオレにとって
この世で唯一安心できる人なんだ
だから

成功すればこっそりと
どォ?とよしのりサンに片目瞑って


鹿忍・由紀
ハルカ(f14669)と

今回はより面倒な方をハルカにお任せ

行く当ての無い旅人を装い捕まりに
小綺麗なブラウスシャツとズボンに着替えさせられ
木枠で組まれたシンプルな箱の中へ
手のひらは正面に向いて顔より少し横
固定された姿は標本のよう
胸元には一輪の花をあしわられて

勝手に前髪を耳に掛けられ不満はあれども
商品をよく見せなきゃいけないかと一人納得
狭いし暇だし、競り落とす側になれば良かったかも

開けた視界は良好で人混みの中からハルカを探す
他からの視線なんて何処吹く風で

並べ立てられる言葉を他人事のように聞けば
大胆な演技がちょっと面白い

なかなか名演技だったんじゃない
得意げな姿に感心の視線
口に出せないってのは不便だな



●真実を織り交ぜ、言の葉の不便を想い
 行く当ての無い旅人を装い捕まり。
 今は小綺麗なブラウスシャツとズボンに着替えさせられ、木枠で組まれたシンプルな箱の中へと鹿忍・由紀(余計者・f05760)は詰められた。
 手のひらは、正面に向いて顔より少し横に止められる。
 固定された姿は――まるで標本のようだと由紀は思う。
 その胸元には一輪の花をあしらわれ、髪も綺麗に整えられる。
 前髪を耳にかけられて、僅かに由紀の表情は不満をにじませた。
 けれど、商品をよく見せなきゃいけないかと一人で納得するのはすぐだ。
 狭い場所に入れられて、じっとしているのは暇だ。
 競り落とす側になれば良かったかも、と由紀は思う。
 何も起こらぬ時間は退屈なものだ。けれどその時間も終わりを迎え、由紀は賑わいの中へと引きだされる。
 視界が開ければ――由紀は僅かに瞬く。思いのほか良好、人混みの中で由紀が捜すのは遙々・ハルカ(DeaDmansDancE・f14669)だった。
 ハルカはというと、隅で舞台上の出来事に飽きかけていた。
 他人からの視線なんて何処吹く風の様子。
 欠伸を零し、けれどこれからさぁというところでハルカは動き始める。
(「さ~て、折角なんだから演技力の高いトコ見せないとなァ」)
 コツは真実を混ぜるコト。
 値はいったいいくらが付くのだろうか。それは判らなかったので、ハルカは適当に換金してきた金貨を取り出す。
 態と些か足りない量を布袋に突っ込んで駆け寄った。
「あァ、待ってくれ!」
「おや、競売の始まりを邪魔する声――どちらから、ああ、あなたですね」
「金はここにある、あるんだ。この人は駄目だ、頼む」
 じゃらり、重たい金貨の袋をハルカは持ち上げて見せる。
 どうかお願いだと悲痛な声を響かせて。
「この人はオレの人生で一番大事な人なんだよ」
 その声に――客は興味津々だ。ここに居る者たちは人の縁を値踏みして面白がっているもの達ばかりなのだから。
 ハルカはその様子を、反応をみつつ言葉を選ぶのだ。
「ほうほう、一番大事とはどのような?」
「この人は……一番オレのことを知ってる」
 その上で一緒にいてくれる。
 身寄りのない独りぼっちのオレにとってこの世で唯一安心できる人なんだと、切々とハルカは語るのだ。
「だから」
 どうかお願いだ、誰にもと懇願する。
 その並べ立てられる言葉を、由紀は他人事のように聞いていた。
 大仰な身振り手振り。大胆なそれはちょっと面白い。
 しかしそれに客たちもまた乗ってくるのだ。
 そんなに大事であるのならば、共に過ごす時間を差し上げてはよいのでは?
 そうね、よろしいのではなくてと口々に。
 その声を聴いて司会の男も、ではその金貨であなたにと告げる。
「本当ですか、ありがとう……!」
 そこに喜びを滲ませて――ちらり、ハルカは由紀へとこっそりと視線向け。
(「どォ?」)
 片目瞑って、笑いかける。
 なかなか名演技だったんじゃない、と得意げな姿に感心の視線。
 それを言葉にしようとしたけれど、今は音にさえならないのだ。
(「口に出せないってのは不便だな」)
 そのことにわずかばかり由紀は表情歪め、けれど次にはいつも通り。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
セリオス◆f09573と
アドリブ◎

止めようとはしたんだが
宿敵のような奴を放って置けない彼の気持ちは分かるし
猟兵としては同感だ
…だが、幼馴染としては
黙って1人で見知らぬ誰かに、そして吸血鬼に売られに行って欲しくはない

…だから、僕も一緒に来た
買い手として…セリオスを迎えに行く
礼装姿で会場で待機しよう
…でも
いざ硝子の棺の彼を見ると
心がざわつきそうになる
…落ち着け
真っ直ぐ、凛と声を張ろう

――お待ちください
その人を私に譲っていただきたい
彼は…、…私の幼馴染です
もう一度だけ…漸く見つけた親友と
共に過ごさせてはいただけませんか
(…また誰かの手に渡ってしまう前に)

金でしか認められないのなら…用意はしております


セリオス・アリス
アレクシス◆f14882
アドリブ◎

硝子の棺
花と羽を敷き詰め
格好お任せ

アレスは心配症だから
黙ってこようと思ってたんだけどな
…止められたって
その先に、宿敵の
あの趣味の悪い吸血鬼みたいなのがいるかもしれないなら
放っておけねぇだろ
例え他の誰かが行きゃ解決するんだとしても

そんなこんなでアレスと二人
買われる側と買う側
…しかし鳥籠よか遮る物はすくねぇが
四方八方塞がれたんじゃ息がつまる
薬が効いてていっそよかったかもな
自分で選んだ事とはいえ
暴れだしたくて仕方がない
特に…アレスの声を聞いて
姿を見たら

ああ、ほんと
何て顔してんだよ
漸く見つけたと訴える姿が
ただの演技かどうか
硝子越しではわからない
今はそれがもどかしかった



●それは演技か、それとも
 硝子の棺に、黒い豊かで艶やかな髪が流れるのだ。
 花と羽根を敷き詰めて、横たえる。
 纏う色は黒一色。首元を彩るレースはその身全てを覆い隠して、その美しさを際立たせるのだ。
 眠っているかのように、瞳を伏せて――セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は物言わぬ美しきものになり果てる。
 僅かも動けず、口の端は僅かに引き攣るほどで諦めた。
 喋ることなければ、その顔に表情が乗らぬセリオスは、美しく囀る黒い鳥と紹介されたなら、きっと従順なものと思われるだろう。
 しかし、その心の内ではため息ばかり。
 セリオスが思い浮かべた姿はひとつ――アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の姿だ。
(「アレスは心配症だから、黙ってこようと思ってたんだけどな」)
 けれど、と苦いものがセリオスに込み上げる。
(「……止められたって。その先に、宿敵の」)
 思い浮かべた姿が揺らめく。アレクシスから――その姿は忌避するものへと変わってしまった。
(「あの趣味の悪い吸血鬼みたいなのがいるかもしれないなら」)
 放っておけねぇだろと、言の葉紡げたなら吐き出していただろう。
 例え他の誰かが行きゃ解決するんだとしても、心はここへと駆けたのだろうから。
(「にしても」)
 買われる側と買う側。
 鳥籠より遮る物は少ないが、とアレクシスは思う。
 そう、遮る物はないが狭い。四方八方塞がれたんじゃ息がつまるとため息ひとつ。
(「薬が効いてていっそよかったかもな」)
 自分が選んだ事とはいえ、暴れだしたくて仕方がないのだ。
 うずうずする。この後ろにいる吸血鬼を暴いてそして打ち砕きたいのだと。
 そんな思いを抱えながら、セリオスはつけて――ああ、まだその姿を見るのはと一度瞳を伏せた。
 止めようとは、したのだ。
 けれどセリオスの気持ちも確かにわかる。
(「宿敵のような奴を放って置けない彼の気持ちは分かるし、猟兵としては同感だ」)
 けれど――セリオスとアレクシスの関係は猟兵どうしであるという事だけではない。
(「……だが、幼馴染としては。黙って1人で見知らぬ誰かに、そして吸血鬼に売られに行って欲しくはない」)
 お次は、とセリオスの事が紹介される。
 黒き美しきもの、と響く声。最初の値から、徐々に吊り上がっていく幅があがっていく。
(「……だから、僕も一緒に来た」)
 買い手として、セリオスを迎えにいくのだとふかく息を吐いてアレクシスは顔を上げる。
 礼装姿できちりと装って。けれど――いざ、硝子の棺に入るその姿を見れば心がざわつきそうになる。
 それをアレクシスは制するのだ。
(「……落ち着け」)
 真っ直ぐ、凛と声を張ろうと深く息をする。
「――お待ちください。その人を私に譲っていただきたい」
 こんな競売、クソくらえと思うのだ。
 そう思う中でアレクシスの声がセリオスの耳を擽る。そしてその姿を見たら。
(「ああ、ほんと。何て顔してんだよ」)
 その顔は――ダメだ。そう、セリオスは思うが表情にはでない。
 表情はこわばったままだ。
 どんな関係でいらっしゃると興味本位というように司会の男は訊ねてくる。
「彼は……、……私の幼馴染です」
 途切れかける声を、繋いで。
 切々とアレクシスは紡ぐのだ。
「もう一度だけ……漸く見つけた親友と、共に過ごさせてはいただけませんか」
 紡ぐ言葉にはアレクシスの想いが浸されている。
(「……また誰かの手に渡ってしまう前に」)
 そうならぬように、己の手に。
「金でしか認められないのなら……用意はしております」
 金で買えるのならば――易いというものだ。
 訴える姿。それは演技なのか、それとも――違うのか。
 硝子越しではわからないのだ。
 手を伸ばしてその身に触れてやるべきなのだろう。そうしたいのに、できない。それが今はもどかしい。
 お二人は友に過ごす時間をもう少し紡がねばならぬようですねと。この青年に、この棺を任せましょうと槌のうたれる音が響いても、それは変わらぬまま。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
【桜雨】

愛に値段はつけられないとはよく言ったもの
それを体現するような催しですのね
此度の吸血鬼は随分とロマンチストのようですわ
ふふ、私も楽しませていただこうかしら

オークションには慣れていましてよ
どれも素敵な品ですけれど
私が求める逸品はただ一つ
レインさんの視線に応えるよう手を振って
ふふ、まるで蝶の標本のようね
そのまま私のコレクションに一つにしてもいい出来ですけれども…
でも駄目ね
飾り方がなってないわ
レインさんのいいところが少しも活かされていない

あの子は春の日の下
翅を羽ばたかせているのが一番美しいというのに
ただ囚えて飾り立てるだけでは愛らしい声だって聴こえやしない

あの子は私の元にいるのが一番いいのよ


氷雫森・レイン
【桜雨】
(透明クリスタル製宝石箱。
翅が痛むのを嫌った結果、リングピローの様な物の上に横向きに寝かされて入る形。
衣装は花びらの様なフリルと自分の翅より更に小さな薄翅のレース、沢山の小さな宝石と流星を模したリボンでふわふわきらきらに飾られた妖精用のドレス。
平素付けているバックカチューシャと銀のアンクレットもそのまま。
本能的な危機認識故か桜鬼の護りを纏っている)

目覚めかけのミレナリィドールってこんな気持ちなのかしら
毒には耐性がある筈なのに翅すら僅かも動かない
向けられる好奇の目玉
種族的には慣れた事でも気持ち悪い

やがて優美さを崩さず現れた私の春が見えた時安堵でほろりと涙が出た
そう私は貴女の物
約束したもの



●彩る宝石箱ではなく、自由の檻が良い
 翅が痛むのは嫌、と氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)はそっぽを向いた。
 それによりリングピローの様な物の上に横向きに寝かされて。
 レインが纏うのは花弁のようなフリル。それにレインの翅よりさらに小さな薄翅のレースを重ねて。沢山の小さな宝石と流星を模したリボンでふわふわきらきらに飾られた妖精用のドレスを纏う。それはきっと、空を駆ければ、そして陽光浴びれば一層輝く、彼女に似合いのものなのだろう。
 そしてしゃらりと、銀のアンクレットが鳴る。いつもつけているバックカチューシャと、今日は本能的な危機認識故なのか――桜鬼の護りを纏っていた。
 けれど、レインは透明なクリスタル製の宝石箱に納められ、とろとろと――微睡むような心地にある。
(「目覚めかけのミレナリィドールってこんな気持ちなのかしら」)
 毒には耐性がある筈なのに、翅すらぴくりとも。僅かも動かないのだ。
 そして、レインの入った宝石箱は持ち上げられ明るい競売場へと運ばれる。
「お次は小さな妖精のお嬢さん。大切に大切に、飾って宝石箱にしまっております」
 司会の男の声。さあいかほどと紡いだ瞬間から値段が吊り上がっていくのだ。
 その様子を――いや、今までも。
 千桜・エリシャ(春宵・f02565)は競売の様子をつまらないと思ったり、知った顔にあらあらと楽しんだり。
「愛に値段はつけられないとはよく言ったもの。それを体現するような催しですのね」
 此度の吸血鬼は随分とロマンチストのようですわとエリシャは嫋やかな笑み浮かべる。
 ふふ、と零す唇。それを指先でなぞって――私も楽しませていただこうかしらと。
 オークションはエリシャにとって慣れたもの。
 どれも素敵な品――けれど、エリシャが求める一品はただ一つ。
 そう、今まさに値段が吊り上がっていく宝石箱。
 その中で好奇の目を向けられ慣れた事でもやはり、気持ち悪いとレインは思うのだ。
 視線を巡らせる。どこもかしこも嫌な視線。
 けれど――ふと止まった、そこで。
 ひらり、その視線に応えるようにエリシャは手を振って立ち上がる。
「ふふ、まるで蝶の標本のようね」
 そのまま私のコレクションに一つにしてもいい出来ですけれども……でも駄目ねと優美に、エリシャは舞台の上へとあがる。
「飾り方がなってないわ」
 そう思わない? とエリシャは司会の男に問いかける。
 男は、私はノータッチですのでと言葉を濁し、何がか教えてくださいませんわと請うのだ。
「レインさんのいいところが少しも活かされていない」
 春の日の下、翅を羽ばたかせているのが一番美しいというのにとエリシャはため息まじりに紡ぐ。
「ただ囚えて飾り立てるだけでは愛らしい声だって聴こえやしない」
 捕まえておきたいなら、箱に、檻にいれたいのなら、見えぬ檻を与えればいいのよ、と常夜に咲く桜のように笑って見せる。
 その姿を目に――ほろり。レインの眼からは安堵で涙がこぼれた。
(「私の春――そう、私は貴方の物」)
 約束したもの、とレインは僅かに口端に笑みを彩る。
 エリシャはねぇ、と司会の男に微笑む。その顎をつぅ、と指先一本で持ち上げて。
「私の元にいるのが一番いいのよ」
 そうは思わない? と笑いかければそうでございますと頷くしかなく。
 槌を打つ音は高く。
 宝石箱の妖精は、その蓋が開く時を待つのだ。けれどそれは、この夜の先にある。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
黒羽/f10471

競り落とされる品として飾られる姿に目を見張る
名を呼び、待ってくれと声を上げ舞台へ駆け寄り
だが黒羽へ伸ばしかけた手は強く握りしめて止め、司会へ向き直る
…今は、まだ

そこに居るのは、他者に信を置き背を預ける事を思い出させてくれた、俺にとって無二の友だ
…何もしれやれない事は分かっている、それでもせめて傍に居る事を許してくれないか

頼む、と本心からの言葉を告げる
案じる気持ちまで全て曝し、見世物になろうと絶対に競り落とす
こんな箱へ入る事を了承してくれた黒羽に報いる為にも

同時に動けない間は必ず守ると決意し、一瞬だけ黒羽の瞳を強く見返す
その意思は隠し持った武器と共に、周囲には気取られないように


華折・黒羽
シキさん/f09107

瞼が重いはずなのに閉じる事はなく
息は出来るのに声は出ない

広げられた四肢と鴉の羽翼は
さながら標本のように幅広の木棺に打ち付けられて
纏った和装は常よりも高価な物だろう事が伺える
黒の身が映えるようと埋め尽くされた白の花
散った羽が一片、二片、

──声が聴こえる
嗚呼、
どうしたんですか、シキさん
そんな必死になって、何を

嗚呼、ああ、
「大丈夫ですよ」と
「心配しないで」と
声をかけたいのに
僅か動いた唇も音は成せない

大丈夫、だいじょうぶです、
だから…

どうか俺を
俺なんかを
助けようとしないでください

身体が動かないんだ
これじゃあ何も、誰も、守れないから
お願いです
どうか、その手を伸ばさないで



●その手はまだ、伸ばさずに
「次は大きな箱でございます! 扱いは丁寧にお願いしますね」
 知らぬ声だ、と華折・黒羽(掬折・f10471)は思う。
 ぴくりとも、動かぬのだ。
 瞼が重いはずなのに閉じる事はなく、息は出来るのに声は出ない。
 広げられた四肢と鴉の羽翼はさながら標本のように――幅広の木棺に打ち付けられていた。
 常に纏う者よりもっと高価な和装であることはその布の質感から伺える。
 黒。
 その身の黒が映えるようにと周囲には白の花で埋め尽くされ――一片、二片。散った羽が飲み込まれていく。
 その姿にシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は目を見張る。
 競り落とされる品として飾られるのは、わかっていた。
 わかっていたのだけれども胸中は穏やかではない。
「黒羽、待ってくれ」
 手を、声をあげシキは舞台へと駆け寄る。
 黒羽へと伸ばしかけたその手を、シキは強く握りしめて止め、司会のへと向き直る。
(「……今は、まだ」)
 そうされましたと伺う視線は、シキの様子を楽しんでいるようでもある。
「そこに居るのは、他者に信を置き背を預ける事を思い出させてくれた、俺にとって無二の友だ」
 呟きを零すように、告げる。シキはひとつ、息吐いて続けた。
「……何もしれやれない事は分かっている、それでもせめて傍に居る事を許してくれないか」
 この後に何が起こるのかも――わかっている、というように。
 シキは司会の男に、そしてこの場に居る客たちへと頼むのだ。
 その、シキの声を。
(「──声が聴こえる」)
 黒羽の耳が僅かに動いて拾い上げた。
 そこに、いると視線を動かして。
(「嗚呼、どうしたんですか、シキさん。そんな必死になって、何を」)
 そう思って、耳を傾ける。
 頼む、と頭を下げて本心からの言葉を向けるシキは真摯だ。
 案ずる気持ちまで、全てを曝す。見世物になろうとも絶対に競り落とすのだと。
(「こんな箱へ入る事を了承してくれた黒羽に報いる為にも」)
 そのためならばこの、向けられる視線も言葉も何もかも、シキにとってはどうでもよい――とは、言わない。
 耐えられるというのも少し違うのだ。乗り越えられるものである。
 その姿を黒羽見ていることしかできないのだ。
(「嗚呼、ああ、」)
 零れるものは、吐息ばかり。
「大丈夫ですよ」と。
「心配しないで」と。
 声をかけたいのに、僅か動いた唇も音は成せないのだ。
(「大丈夫、だいじょうぶです、だから……」)
 どうか俺を――俺なんかを。
 助けようとしないでください、と。黒羽は思うのだ。
 身体が動かないんだ、と。どうあっても、鈍く思うままに意志の伝わらぬからだ。
(「これじゃあ何も、誰も、守れないから」)
 お願いです、と黒羽は心の中で幾重にも紡ぐ。
 どうか、その手を伸ばさないでと心の内で何度も思うのだ。
 けれどそれを見透かしているのだろうか。
 シキは僅かに瞳を伏せる。
(「動けない間は必ず守る」)
 大丈夫だ、と一瞬だけ黒羽の瞳を強く見返す。
 その意思は隠し持った武器と共に、今はまだ潜めて気付かれぬように。
 お願いだ、と頭を下げるシキ。
 司会の男は何度も頼む彼にお譲りしても、と皆の総意を問う。
 お願いされたのだから、叶えてあげるのは私たちの務めでは、などと上から物を言う。
 けれどこれが、此処に居る彼らの在りようなのだ。
 槌を打つ音響いてシキは黒羽の箱を得る。
 今はまだ、手を伸ばさぬままに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

貴族っぽい格好をして舞台上を見る

いつもは僕が競り落とされる方だ
慾の眼差しに晒されて
物となって
値踏みされる
突き刺さる視線も何もかも
僕はしってる
本当は君にそんな想いはさせたくなかった

美しい朱枠の檻の匣
張り見世のようそれの中に佇む麗しの桜龍
瞬きするだけで
微笑むだけで春が咲く
美しい芸術品
アンドロギュノスの美
絢爛の春

嗚呼嫌だ
僕だけの櫻なのに
僕の櫻をそんな風に見るな
僕の櫻をものとして扱うな!
その美しい櫻は、僕の愛する櫻(ひと)
歌うように高らかに宣言しよう

僕は櫻宵を愛している、と
神にも悪魔にも誰にも渡さない
櫻宵は僕の海なのだから!
絶対に離れない

愛のうたを歌ってみせようか?
彼は絶対に僕が連れて帰るから


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

全身を這うような視線に双眸を細める
元々は花魁だからこういうのには慣れていたはずだったのだけど
張り見世は好かぬの

いつもこういう時に舞台に上がるのはリルだけれど
…こんな想いはさせたくないわ

城が建つくらい豪華な絵踏衣装を身に纏い
朱塗りの枠で囲まれた匣の中
舞い散っては花開く桜花の檻
微笑み座る
咲き誇る桜花は私自身のもの
甘やかな春の香りがわかるかしら
夢見草はただ朗らかに美しく咲いていればよい
柔く微笑み、大丈夫よと客席の人魚に瞬いて
瞬きのひとつ、風に游ぶ桜のように虜にせねば
慣れていたはずなのに
不快だわ

歌うように紡がれるリルの言葉に
胸が熱くなる
愛が満ちて花開く
ああなんて
嬉しい

私もあなたの元へゆきたいわ



●朱枠の檻を歌でなぞって
 ふわりと翻る。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)が纏うのは――黒。貴族のようにその身に一等上質な装いをもって舞台上を見詰めていた。
 見知った顔も、姿もあった。けれどそれはリルの心を動かさない。
 リルが待つのは、一人なのだから。
 いつもなら、競り落とされるのはリルの方だろう。
 慾の眼差しに晒され、物となって――値踏みされる。
 その突き刺さる視線も何もかも。
(「僕はしってる。本当は君にそんな想いはさせたくなかった」)
 けれど――選んでしまったのだ。
 会場に運ばれる、それは朱枠の匣。
 その中で、それは城が立つくらい豪華な絵踏衣装だ。それを身に纏い、ひらひらはらはら。
 舞い散っては花開く、桜花の檻の中で誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は微笑み座っていた。
 全身を這うような、視線に相貌を細める。
 櫻宵は元々、花魁だ。だからこういう視線を向けられることには慣れていた筈だったのだけれども。
(「張り見世は好かぬの」)
 その桜花は、櫻宵自身のものだ。甘やかな春の香りがわかるかしら、と微笑むのみ。
 夢見草はただ朗らかに美しく咲いていればよい――柔く微笑みを浮かべて、櫻宵はその姿を見つけた。
 大丈夫よ、と人魚に瞬きを一つ贈る。
 風に游ぶ桜のように虜にせねば――それに慣れていたはずなのに。
(「不快だわ」)
 違うものを拾い上げてしまうのは不本意なのだ。
 リルは吐息を零す。
 美しいその、朱枠の檻の匣。その中にたたずむ麗しの桜龍。
 瞬きするだけで、ひとつ。微笑むだけで、ふたつ――花が、春が咲いていくようだ。
(「美しい芸術品、アンドロギュノスの美――絢爛の春」)
 なんて言葉を送れば良いのだろうか。
 けれど、リルが贈るのならばきっとこの言葉なのだ。
 僕の櫻――僕だけの櫻。
 嗚呼嫌だと歯噛みしそうになる。
(「僕だけの櫻なのに、僕の櫻をそんな風に見るな」)
 客たちが向ける視線。それをすべて消し去ってしまいたいほどに。
 想いは溢れて、そして零れていってしまうものなのだ。
「僕の櫻をものとして扱うな!」
 叫ぶ。けれど、これは美しくない。想いのままに叫ぶだけでは――あの美しい櫻に見合うものではない。
「その美しい櫻は、僕の愛する櫻(ひと)」
 歌うように高らかに、リルは宣言するのだ。
 愛している、と。
「僕は櫻宵を愛している」
 神にも悪魔にも誰にも渡さない――櫻宵は僕の海なのだから!
 絶対に離れない。
 そう強く、歌うように紡がれていく。
 その言葉に櫻宵の胸が熱くなる。満ち満ちる――愛がある、そして花開くのだ。
(「ああなんて」)
 ――なんて、嬉しい。
 愛のうたをうたってみせようか? とこの場の客の全てにリルは見せつけるのだ。
 己の在り様を、櫻宵へのあいを。
「彼は絶対に僕が連れて帰るから」
 誰にも渡しは、しないのだと強く抱いて。
 その姿を瞳に映して、櫻宵は思うのだ。
 私もあなたの元へゆきたいわ、と。
 誰ももう――金さえも積むことはできないのだ。
 その愛が重くて深くて。
 槌を早く打ってと、客の誰かが告げる。視界の男はその言葉の儘に槌の音を響かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【五万円】

UC『Indestructible』で容姿変化
白髪赤目の姿は兄弟感を演出

長方形の硝子の箱
柔らかいクッションやシルクのシーツが敷き詰められ
身動きは取れないが寝心地は最高
大きめシャツにスラックスの寝スタイル
埋もれるように微睡む姿は
まるで硝子の中で飼われているようにも見える

向けられる好奇の目はどうでも良い
同じ色の『兄』を見つけたなら
さてどんな口説き文句で俺を買ってくれるのか

金を積んで兄を演じる姿に
兄弟がいたらこんな感じなのかと面白げ
硝子越しに視線を寄越すと
くつり笑う様はいつもの『真』

あぁそうだ
俺にとって真は『美味い餌』で
真にとって俺は『金蔓』
兄弟でもなんでもない
歪な関係に唇は自然と弧を描く


久澄・真
【五万円】

身を包む皺ひとつないスーツ
競売の舞台に続く扉の前
競りも終盤となったならそろそろ、

盛大に扉開く音響かせ
カツリ革靴の音鳴らし
呑気に寝こけている“弟”のいる舞台へと近付きながら
さあさ、一芝居

悲痛な顔で一歩一歩
司会へと投げ落としたアタッシュケース

金だ
今積んでいた額より多いはずだぜ
いくらでも出してやる
こいつは俺の、大切な弟だからな

内心ひそり浮かべた笑いを堪え

…共に帰れないならせめて最後の一夜を買わせてくれ
最後までこいつの、「兄」で居たい

無事騙せたならガラスに触れて
ジェイにだけ見える様、くつり笑った

帰ってこい

掠れる声とは反する表情浮かべ
存分に愉しめ、茶番劇を

そう、お前は大事な大事な
俺の「金蔓」



●兄と弟のふりをして
 身を包むのは皺ひとつないスーツだ。
 競売の舞台に続く扉の前で、男は待っていた。
 そろそろ競りも終盤という頃合――久澄・真(○●○・f13102)は盛大に扉開く音響かせ、カツリと革靴の音ならし歩む。
 その舞台には、呑気に寝こけている『弟』がいた。
 さぁさ、一芝居の始まりだ。
 その『弟』は、元の色とは、違う色を纏っていた。
 白髪赤目、己の容姿をジェイ・バグショット(幕引き・f01070)が変化させたのは兄弟感を出すだめだ。
 長方形の硝子の箱。柔らかいクッションやシルクのシーツを敷き詰めて、身動きはできないのだが。
(「……寝心地は最高」)
 大き目のシャツにスラックスとジェイはいつでも眠りに落ちることができそうな、いわゆる寝スタイルだ。
 ふかふかの中に埋もれて微睡む――それはまるで、硝子の中で飼われているようでもあるのだ。
 体は動かぬが、それでもいいかと思えてしまう。
 向けられる好奇の目はどうでも良い。
 撫でるように視線を向けて――ジェイは見つけた。
 同じ色の『兄』を。
(「さてどんな口説き文句で俺を買ってくれるのか」)
 楽しみ見つけて、わずかに笑いが零れてしまう。
 舞台へとやってくる真。その表情は悲痛なものだ。
 一歩一歩近づいて――そして、手にしていたアタッシュケースを司会の男へと投げ渡す。
「こちらは?」
「金だ」
 今積んでいた額より多いはずだぜ、と真は口端を上げ、言葉続ける。
「いくらでも出してやる。こいつは俺の、大切な弟だからな」
 と――内心、ひそり浮かべた笑いを堪えて真は言う。
 その笑い堪えた表情は、きっと苦し気なものに見えただろう。
「……共に帰れないならせめて最後の一夜を買わせてくれ。最後までこいつの、『兄』で居たい」
 切々と、わずかに声も擦れた。客も司会の男も、まぁなんと弟想いと騙されてくれる。その空気を真は感じていた。
 そして『兄』に『弟』をと、客たちは言い始める。
 その姿にジェイは面白げに。
 兄弟がいたらこんな感じなのかと硝子越しに視線を寄越す。
 そっと、真は硝子に触れる。僅かに、視線が合うのだ。
 真はジェイにだけ見える様、くつり笑ってみせる。
 その様は――『兄』ではなくいつもの『真』だ。
「帰ってこい」
 と、また兄の振りをする。
 擦れる声とは反する表情浮かべ――その下で告げるのは。
(「存分に愉しめ、茶番劇を」)
 あぁそうだ――と、ジェイも思い出す。
 これはあくまでごっこ遊びだ。
(「俺にとって真は『美味い餌』で――真にとって俺は」)
(「そう、お前は大事な大事な――俺の『金蔓』」)
 言葉かわすことはできないけれど、意識は交錯する一瞬がある。
 兄弟でもなんでもない。むしろ、そんなものとんでもない。
 ジェイの唇は、この歪な関係に――自然と弧を描く。
 遊びに興じていても、間違えることはない。違えることも、ないのだ。
 茶番劇はまだ始まったばかり。一夜をこれから共に、迎えるのだから。
 槌の音を聞きながら、まだもうしばらく――『兄』と『弟』ではあるけれど、互いに向けるその本質はやはり『美味い餌』と『金蔓』なのだ。
 色を揃えているのも――ほら、この夜のためだけの一興。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

競り落とす側でたぬちゃんとは別々に行くネ

金持ちそうな身形で悠々とオークションを眺める
「また後で」としか言わず来たから
声も上げず競りに参加してるナンて知ったらきっと驚くデショ
あのコは演技がイマイチだからねぇ、少々強引に行かないと
顔には満足そうな下卑た笑みを貼り付けて

イイ感じに値が釣り上がった所でその倍額示し競り落とすヨ
こーゆー時の為に各世界にへそくり溜め込んでンだから


引き裂かれる悲哀ばかりじゃあ胸焼けするのでは?
この子は私の可愛いペット
如何に高く値が付くか見てみたかったのさ
金じゃあない、私は領主の庇護が欲しい
その為に売られていく絶望だって、悪くはないと思うンだけどねぇ


火狸・さつま
コノf03130と

ふかふかクッション敷き詰められた箱の中
俺の事、何て言ってくれるのかな、なんて
相方…?
看板狐…?
もしかして、自慢の息子とか…?

コノが居るから
なぁんにも心配ないと信頼しきって
のんびりゆったり


騒がしい歓声
あ、れ…?始まってる、よね?!
今、俺、普通に競りにかけられてる?
なんで?!コノは?どんどん進んでく、よ?!
きょろりと視線巡らせればスグに分かる
誰もが目を惹く美人
あれ?なんかめかしこんでる?!綺麗!かっくいい!!
瞬間ぱちりあったおめめ
聞こえたコールは聞き覚えのある美声
え?え?なんで競りに参加?なにその金額!!
ひぇ…そんな高額!後でどうなるのコワイ!

ペット?!なんで?!
今、人姿だよ?!



●何も言わず、迎えにいけば
 正方形のような箱の中、ふかふかクッション敷き詰められて、尻尾をゆらり――は、今はできないと火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は思う。
 さつまがゆったり過ごしているのは、知っているからだ。
(「俺の事、何て言ってくれるのかな」)
 なんて、とふと口端に笑みを乗せる。
(「相方……? 看板狐……? もしかして、自慢の息子とか……」)
 どういってくれるのか、それもちょっと――楽しみ、というと不謹慎かもしれないが。
 けれど彼が――コノハ・ライゼ(空々・f03130)がいるから、なぁんにも心配ないと信頼しきってさつまはのんびりゆったり――うとうと、すや。
 ふかふかのクッションのせいだろう。
 さつまがうっかり、うとうとしていた頃。コノハは悠々と競売を眺めていた。
 金持ちそうな身なり。隣の席の婦人がちらり、視線を向けてくるので微笑んで返した。
『まだ後で』としか言わずきたから――声も上げず競りに参加してるナンて知ったらきっと驚くデショ、と悪戯の心地。
 けれどそれにも理由があるのだ。
(「あのコは演技がイマイチだからねぇ、少々強引に行かないと」)
 満足そうな下卑た笑み。この場を楽しんでいるような表情をコノハは貼り付けて――嗚呼と零す。
 箱詰めのたぬちゃん、寝てると小さく笑いそうになるのを堪えて。
「ではでは、残りの箱のあとこの箱ともう一つ。さぁ皆様持っている金貨の使い時でございますよ!」
 そんな言葉に笑いが零れて、提示された金額から上がっていく。
 もう競売も最後。一度も、という者がまるで記念にというようにも手をあげて盛り上がる。
 その騒がしい歓声の――ぱち、と瞬いてさつまは目を覚ました。
(「あ、れ……? 始まってる、よね?!」)
 その、外の音を拾って――さつまは目覚めた。体は何も語かなくて、わずかに震えるのみだ。
(「なんで?! コノは? どんどん進んでく、よ?!」)
 コノ、コノいる!? とこの場に視線を巡らせて、さつまは見つけた。
 すぐに見つけた。
 誰もが目を惹く美人――けれど、あれ? と思うのだ。
(「なんかめかしこんでる?! 綺麗! かっくいい!!」)
 尻尾が動いたなら、きっとふんわり動いた筈。その瞬間、ぱちりと視線会って。
 コノハじゃすっと手をあげて――提示されていた金額の倍額を示した。
 聞き覚えのある美声。その声が紡いだ言葉をさつまは瞬き、かみ砕く。
(「え? え? なんで競りに参加? なにその金額!!」)
 その金額に、会場がどよめく様に声あげる。
 こーゆー時の為に各世界にへそくり溜め込んでンだからとコノハはふふと笑み浮かべる。
(「ひぇ……そんな高額! 後でどうなるのコワイ!」)
 さつまはひぇ、と何度もぱつぱち瞬いている。
 そしてコノハは笑って――競り落としたものをよく見ようかな、と舞台へと向かうのだ。
 そしてお集りの皆さん、と笑って。
「引き裂かれる悲哀ばかりじゃあ胸焼けするのでは?」
 この子は私の可愛いペット――そういうと、司会の男は大枚叩くより情に訴えてもよろしかったんですよと声向ける。
「如何に高く値が付くか見てみたかったのさ」
 そしてさつまはぱちぱち何度も瞬いている。
(「ペット?! なんで?! 今、人姿だよ?!」)
 その様子にコノハは、うん、やっぱり何も言わずに来てよかったと思うのだ。
 そういう反応、きっとここにいる人たちは好きデショと。
「金じゃあない、私は領主の庇護が欲しい」
 その為に売られていく絶望だって、悪くはないと思うンだけどねぇ、と箱の縁をそっと撫でて。
 俺本当に売られちゃった!? 領主に捧げられちゃう!? と慌てるも紡げない。
 けれどそのさつまの胸中をコノハはちゃあんと理解していて大丈夫ダヨと笑ってみせるのだがさてどう、見えているのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四・さゆり
ジェラルディーノ(f21988)を連れて行くわ

自由を奪われるだなんて
常であれば、許してあげないけれど

あの子がわたしに縋るというのなら
許しましょう

かわいい子に強請られるのは
悪くないもの

ーーー

身動きがとれてしまえば
こんな箱、わたしは壊してしまいそう、だから

息が詰まるほど、花に埋めてちょうだい
姫君が眠る、箱のように

真っ白な花が、わたしの揺籃

あの子が縋る女なのだから
うんと、着飾ってちょうだいね


あなたの愛を子守唄に
ちっとも眠たくないけれど、
眠たげなふりをして

ガラス越しに、その指先に触れて
微笑んであげる、一夜限りの王子様

銀の糸を揺らして、お前がわたしだけを見つめたのなら
片目を開いて、お前だけに返しましょう


ジェラルディーノ・マゼラーティ
お嬢ちゃん(f00775)

このボクが詰められてもさ
お耽美にはならないどころか
洒落にならなくないかい?見た目的に
冗談めかして競り落とす側へ
19世紀頃の衣装を着ていこう
前が短いコートはお洒落

みしりと詰められた愛しの君
花で覆われた姿は何て可愛らしいんだろう
待ってくれ、と声を上げれば
彼女の元へと小走りに

嗚呼、こんな姿になって。愛しの君
私の元へと帰っておいで

演じるのは捜索の為
全財産を使い果たした商人とか貴族とか
くるりとした一房をそっと手に取り
口付けが出来たらどんなに幸せか
今は薄く透明な壁に指を這わせるだけ

白雪のきみ
どうか永遠に、我が夜の裡へ

薄曇りの夜空が覗いたなら
他には見えぬ立ち位置で、ぱちりとウインク



●真っ白な眠り姫と、全て使い果たした老紳士
 自由を奪われるだなんてと四・さゆり(夜探し・f00775)はため息一つ。
 こんな事、常であればさゆりは許してあげないだろう。
 けれど。
(「あの子がわたしに縋るというのなら許しましょう」)
 その口端にわずかに笑みを乗せて、くすりと零す。
(「かわいい子に強請られるのは――悪くないもの」)
 身動きがとれてしまえば、とさゆりは己の入る箱へと視線を向ける。
 簡単に壊せそう。壊してしまいそう。
 だから、息が詰まるほど花に埋められていく。
 それは姫君が眠る、箱のように――真っ白な、真っ白に。
 これが、わたしの揺籃と思う。
 そして纏う服も、一等美しいものを用意して。
「あの子が縋る女なのだから。うんと、着飾ってちょうだいね」
 声がかすれて、途切れていく。
 それは不思議な、この自由を奪う甘い香りのせいだろう。
 けれどそれも花の香りとまざって――わずかばかりの良い心地。
 そしてさゆりに縋る――あの子、ジェラルディーノ・マゼラーティ(穿つ黒・f21988)はとうとう最後になってしまった、と思っていた。
 このボクが詰められてもさ、お耽美にはならないどころか――洒落にならなくないかい? 見た目的に、と笑って冗談めかしてこの場にきたのだったかと思い起こす。
 この装いもお洒落。前が短いコートを纏い、19世紀頃の衣装はこの場によく馴染んでいた。
「それでは本日最後の箱は――真白の花々に抱かれた少女でございます」
 みしりと詰められた、愛しの君。
 花で覆われた姿は何て可愛らしいんだろうとジェラルディーノは思うのだ。
 そして待ってくれ、と声あげる。
 今どちらから待ったがかかりました? と司会の男が問いかければここだとジェラルディーノは小走りで近づいて、どうぞと舞台の上へと招かれる。
 そして縋るように――箱の側。
「嗚呼、こんな姿になって。愛しの君。私の元へと帰っておいで」
 ジェラルディーノが演じるのは、彼女の捜索の為、全財産を使い果たしたもの。その様子から商人だろうか、貴族だろうかと観客たちは興味津々なのだ。
「くるりとした一房をそっと手に取り、口付けが出来たらどんなに幸せか」
 箱の、この硝子一枚――それがすべてを阻むのだ。
 今はこの、薄く透明な壁に指を這わせるしかできないのだと。
「白雪のきみ――どうか永遠に、我が夜の裡へ」
 ジェラルディーノが声に様々な想いを滲ませて語り掛ける。
 その声を、愛を子守唄に――ちっとも眠くないけれど、さゆりは眠たげなふりをするのだ。
 硝子にふれる、その指。どうにか、僅かにその手を動かして、そっと指先に触れる。
 そしてさゆりは、微笑んだ。
(「微笑んであげる、一夜限りの王子様」)
 その様に、ジェラルディーノは銀糸を揺らして、見上げて、見つめて。
 片目をゆるり開いて――ジェラルディーノだけに。
 それはまるで薄曇りの夜空が覗いたよう。
 さゆりだけが、ジェラルディーノの今の表情を見て取れる。ぱちりとウインクひとつを投げ返した。
 誰も彼もが思うのだ。
 最後の最後に、また素敵な縁を見せていただいた。
 どうぞその姫君と一夜をお過ごしください、老紳士と――槌の音が数度響く。

 そしてこれにて閉幕――どうぞ最後の夜を、一時の逢瀬をお楽しみくださいと司会の男は礼ひとつ。
 客らも拍手でもって、領主の館へと向かう者たちを見送るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ヴァンパイアの花嫁』

POW   :    この心と体は主様のもの
自身の【感情か体の一部】を代償に、【敵への効果的な属性】を籠めた一撃を放つ。自分にとって感情か体の一部を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    全ては主様のために…
【肉体の痛みを麻痺させる寄生生物】【神経の痛みを麻痺させる寄生生物】【精神的な痛みを麻痺させる寄生生物】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    主様、万歳!
【自身が主人の脅威であると認識】を向けた対象に、【自らの全てを犠牲にした自爆】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:machi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 競売場からどこへ運ばれていくのか。
 それは領主の城だ。深い霧の中、湖の側に佇む古城。
 そこへ着くと血の気の無いものが迎えてくれる。

 どうぞ、皆様のお部屋はこちらでございます。
 箱の献上は明日、行いますので今はごゆるりとお休みくださいませ。

 そんな言葉と共に通された部屋は、それぞれ様々だ。
 豪奢で、貴人を迎えるための部屋もあれば、粗末な寝台一つの使用人を詰めるためだけの部屋もある。
 部屋に合わせて、紅茶などを楽しめるセットもあれば、水とコッピだけ。
 客人にあわせて部屋は用意されているのだろう。
 此処で許されているのは、箱は開けぬことだ。
 ここでふたり、最後の夜を過ごすだけ。
 そして薬も僅かに切れてきて――話をすることも、できるようになるものもいるだろう。
 見つめ合って過ごすのも、話をするのも過ごし方はそれぞれの自由だ。
 箱を壊して、そこからをださなければ、出なければ。
 しかし、そんな二人の静かな夜に来訪者がある。
 ひたひた、静かな足音。しゃらしゃら、鎖の僅かな音がする。
 こんこんと扉がノックされ、きぃと静かに開くのだ。
 そこにいるのは――ヴァンパイアの花嫁。
 かつてのわたしたちと同じ、捧げられにきたものたちと紡いで。
 部屋に訪れた花嫁は、様々だろう。
 女、男、朽ちた体、蕩けた意識。すでに人ではなく眷属になり果てて――贈り物をしに来たのだという。
「あなたが、大事な贈り物になるの。ここで、かつてのわたしの糧に、なって」
 迎えに来たのだから、きっとその箱の中のあなたにとってその前に居る方は大事な方なのでしょう。特別な方なのでしょう。
 だから失って、わたしと同じになって頂戴と花嫁は言う。
 泣きながら、笑いながら。様々な感情を僅かにのせて。
 ヴァンパイアに喰らわれてしまった生前はもう、花嫁にはなく。
 それは絶望か、それとも憤怒か、悲しみか。
 箱の前のあなたが傷つくのを何もできずに見る、そして失う。それが主からの最初の贈り物。
 贈り物をうけとったなら――きっと良い花嫁になるでしょうと。
 今から素敵な贈り物を作るわという。わたしと同じになって頂戴と、その手にあるのは剣か、槍か、またまたほかのものか。
 得物をもって花嫁はゆるりと近づいて――さぁ、しんで頂戴と笑いかけた。

 けれどここにいるのは猟兵だ。
 戦う術を持つものなのだ。
 花嫁をここで終わらせることが、為すべきこと。
 それは一人でしなければ、ならないのだが。
桜雨・カイ
馨子さん(f00347)と

人形のように動かない姿に不安だったので、声を聞きホッとする
いいえ手を繋いでくれたのが力になりましたよ

やっぱり笑っている方がいいなぁ…いえなんでもないです。

あなた(花嫁)も同じ目にあったんですね…そして今も…
できるだけ乱暴にはしたくない
でも硝子の棺は壊されぬように背後に庇います

これ以上彼女のような人を…
そうですね…私達は助けにきたんです
ならば覚悟を決めないと

【アルカナ・グロウ】発動
審判さん、力を貸してください
辛い運命に縛られる彼女を救う力を
「大切な人」と言ってくれた人を守れる力を

これ以上苦しまないように、できるだけ素早く攻撃
辛かったでしょう、もう休んでいいんですよ


紫丿宮・馨子
桜雨様(f05712)と

少しなら声が出そうです
UCが使えそうならば
彼のお手伝いができたのに

…ありが、とう…ござい、ます…

お礼と
安心させようと微笑を試みる
彼が頑張ってくれたおかげで
一緒に城へ入れたのだから

大事な、特別な…?
問われて想い巡らせて

そう、ですね
わたくしが自分で自分の本体を壊してしまいかねなかった時に
深い絶望と孤独と悲しみに苛まれていた時に
光をくださった
掬い上げてくださった
大切な方、ですよ

嗚呼あなたたちも
深い悲しみと絶望に堕ちたのですね
これ以上あなたたちのような方を出さぬために
わたくし達は参ったのですよ

彼の力になれないのは心苦しいけれど
目は逸らさない
一部始終しっかりと見つめる
信じています



●目を逸らす事はなく
 少しなら声が出そうです、と紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)は細い声を零した。
 そのわずかなものでも、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)にとっては安心の一つとなる。
 人形のように動かない姿に不安は募っていたのだ。ホッとする、その気持ちと共にカイはいいえと首をふるのだ。
 馨子が、ユーベルコードが使えそうならばお手伝いができたのにと紡ぐのを聞いて。
「いいえ手を繋いでくれたのが力になりましたよ」
 ひらりとその掌を振ってみせる。別れる前に紡いでくれたものが力になったのだと。
 その言葉には馨子はうっすらと、笑みを浮かべるのだ。
「……ありが、とう……ござい、ます……」
 お礼と安心させようと微笑みを試みて。
 カイが頑張ってくれたおかげで、今ここに――吸血鬼の居城へと入れたのだからと。
 そしてカイは、やっぱりと小さく零す。
「笑っている方がいいなぁ……いえなんでもないです」
 カイは言葉尻を隠すように、視線を向ける。
 扉の開く音。そこにはヴァンパイアの花嫁がいた。
 その手に持っているのは、槍だ。その先が向けられる。
「大事な……人を失って……あなたも主様のものに、なるの」
 現れた花嫁の、その言葉に馨子は思い巡らせる。
(「大事な、特別な……?」)
 そしてその花嫁の前にカイは立って、僅かに瞳を細める。
「あなたも同じ目にあったんですね……そして今も……」
 できるだけ乱暴にはしたくない。
 そして馨子の、硝子の棺は壊されぬようにしたいと思うのだ。
「これ以上彼女のような人を……」
 馨子は――そう、ですねと紡ぐ。
 わたくしが自分で自分の本体を壊してしまいかねなかった時に。
 深い絶望と孤独と悲しみに苛まれていた時に――光をくださった、掬い上げてくださった。
「大切な方、ですよ」
 馨子の言葉が落ちる。
 カイはその言葉を耳に、頷いていた。
「そうですね……私達は助けにきたんです。ならば覚悟を決めないと」
 審判さん、力をかしてくださいとカイは力を奮う。
 辛い運命に縛られる彼女を救う力を――『大切な人』と言ってくれた人を守れる力を。
 運命を切り開く力を得て、カイは花嫁へと向かうのだ。
「辛かったでしょう、もう休んでいいんですよ」
 これ以上苦しまないように、できるだけ素早く――けれど花嫁もその身に宿した寄生生物の力を借りるのだ。
 戦う、その様を見詰めて、馨子は。
(「嗚呼あなたたちも、深い悲しみと絶望に堕ちたのですね」)
 これ以上あなたたちのような方を出さぬために、わたくし達は参ったのですよと祈るのだ。
 今、戦うことはできない。
 カイの力になれないのは心苦しいけれど、目は逸らさない。
 それが今、馨子自身に許されたできることなのだから。
 信じていますと、戦うその背を見守るのみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
≪華恋≫

燦に想われ幸せを感じ
私もいつの間にか惹かれている事に気付くも
聖痕が宿命を忘れるなと疼く

(私の宿命に燦を巻き込みたくない)

結局想いに気付かないフリをするも
あられもない姿で拘束された様を見つめられ紅潮


ありがとう
喜んでくれて…嬉しい


淡々と

親友として「そういう嗜好もある」と受止めています

実際になってみないと答えられないよ
親友とは異なるレンズで燦を見るから
ただ…大抵の人は相手の愛を独り占めできず苦しむと思う…
燦の嗜好を許容できる人が見つかるといいね

見ているだけは無理
覚悟と勇気で自分を鼓舞し毒耐性で
悲嘆に暮れる花嫁も
救う為に困っている燦の力となる【輝喘】が起きて欲しいと願う

戦後
【祝音】で燦を癒す


四王天・燦
《華恋》

天蓋付きベッドの部屋。
手出し禁止への嫌味…精神的に無理だけど

綺麗…ドレス姿に魅了されていたい。
衣装は持ち帰り

大切な話と罠の並行は無粋

アタシって魔物娘と性的に交わるわ、魂喰いで接吻するわ…どう思う?
親友以外…恋人なら?
顔が熱い

襲撃の花嫁も相方の死を贈られた…僅かな感情はSOSと見た。
救うぜ

防戦一方で武器受け。
見切った軽攻撃を被弾する。
情けなく助けを求め符の医術をシホに行使

脅威にならぬ演技で薬が抜けるまで時間稼ぎ

自爆させない!
隠密の極意で加速し先制攻撃。
輝喘を受け、慰めの符術で花嫁の心を癒し、破魔で眷属化を解き昇天させる。
待ってる人がいるよ

拘束解除

二人なら何でもできる。
シホの優しさが温かい



●大事、だからこそ
 天蓋付のベッドが、四王天・燦(月夜の翼・f04448)の目に入る。
 手出し禁止への嫌味――精神的に無理だけど、とも思う。
 それよりも、今は。
「綺麗……」
 箱の中、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)のその姿に魅了されていた。
 そしてシホも、燦に想われているそのことに幸せを感じていた。
「あ、ありがとう」
 喜んでくれて……嬉しいとシホも告げる。
 その心は――いつの間にか、惹かれていたのだ。それに気付くも、駄目だと告げるものがある。
 忘れるなと疼く、それはシホの聖痕だ。
 宿命をわすれるな、と。
(「私の宿命に燦を巻き込みたくない」)
 疼くそれにわかっているというようにシホは心の中で紡ぐ。
 けれど燦はそれを知らないままに。
 けれどシホは想いに気付かないフリをして、だがこんな姿で拘束された様を見詰められ頬を紅に染めていた。
「アタシって魔物娘と性的に交わるわ、魂喰いで接吻するわ……どう思う?」
 親友以外……恋人なら?
 問いかける言葉に、顔が熱くなっていく。
 けれど淡々と、シホはその言葉を受け止めているように見せていた。
 親友として――『そういう嗜好もある』と受け止めて。
「実際になってみないと答えられないよ」
 親友とは異なるレンズで燦を見るから――ただ、とシホは紡ぐ。
「ただ……大抵の人は相手の愛を独り占めできず苦しむと思う……」
 燦の嗜好を許容できる人が見つかるといいね、と巻き込まぬ為に距離を取るのだ。
 その様に燦は言葉紡ごうとしたのだが、しかし来訪者がある。
 花嫁だ。私と同じになって、と補足囁く花嫁。
 けれどこの花嫁も被害者なのだと燦は思う。相方の死を贈られた――僅かな感情も助けての、SOSとみて。
「救うぜ」
 迫る、花嫁の手にあるのは槍だ。
 向けられる攻撃を燦は武器で受け流しつつも攻撃を受けてしまう。
 符をシホに向けたこともありじわじわと、シホの身も自由を取り戻していく。そのための時間稼ぎの戦いでもあった。
 見ているだけでは無理、とシホもまた己を奮い立たせる。
 覚悟と勇気を持って己を鼓舞し、身の自由を得ていくのだ。
(「悲嘆に暮れる花嫁も」)
 その、花嫁を救う為に困っている燦の力となる輝喘が起きて欲しいと願いを込めて。
 その名を呼んで、箱を叩きシホは知らせる。
 そちらに気が向いた一瞬だ。
 花嫁は燦のもとへ飛び込むように詰める。そこに――己の身を犠牲とするものを感じて。
「させない!」
 加速し、花嫁のもとに逆に詰める。
 慰めの符を以て、燦は花嫁の心を癒し、そしてその身の闇を払うのだ。
 吸血鬼の眷属たるものを。待っている人がいるよ、と囁いて。
 吸血鬼でなくなれば、花嫁はもう崩れてしまうのみ。
 そしてその、彼女が散りになった中から鍵が落ちた。
 それはシホを戒める箱の鍵。
 シホは箱の中からでて、まず燦を癒した。怪我は少しずつ、消えていく。
 それを受けながら燦は、二人なら何でもできると思うのだ。
 そして、シホの優しさが温かいと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

早く目を覚ましてと願いながら、
硝子越しの白皙をつい熱く見つめてしまう
きれいなひと、大切なひと

箱詰めのきみを起こしてしまったのは
きっと焦げそうな眼差しのせい
寝起きの甘く掠れる声に、
ぼふんと頬染め動揺を隠しきれず

くくく、口付け? いいの?

硝子越しにそっとくちびるを寄せた瞬間、
騒々しく開く扉と敵の足音
いいところを邪魔されて涙目で振り向けば
みるみるうちに身を這う真っ赤な牡丹

切り裂く花びらで花嫁たちを箱から遠ざけ、
高速移動で着実に一体ずつ屠る
一刻も早く片付けて、きみの顔を見たいから

全て終えたら何の隔てもない腕の中へ
かわいいひとを抱き締めてその声を聞こう
――おかえり、綾


都槻・綾
f11024/花世

注がれる視線の気配に
薄っすらと眸をあければ
見知らぬ天井と
見慣れた花の色

…眠りから醒ましてくださるのは
王子様の口付けではなかったでしょうか?

玻璃の蓋を覗き込む牡丹へ
まどろみの残るぼんやりした微笑みで
甘やかな揶揄

慌てる姿が可愛らしく
笑み咲き零れるけれど
無粋なる者の唐突な登場に
きょとんと瞬き数度

花を散らせるのは
勿体ないですねぇ

豪奢な部屋に艶めいた花弁が舞う
華麗なる速攻の戦いぶりを眺めつつ
一切の焦りも不安も無きゆったりした思考は
彼女へ寄せる信頼の証

元通りの静けさに還ったら
開けてくださいなー、と箱の中、
幼き子供のように両手を広げる

寄る身の熱にふくふく笑って
そっと囁こう

――ただいま、花世



●目覚めのそれは
 箱の中でただ美しく。
 境・花世(はなひとや・f11024)は早く目を覚ましてと願いながら、硝子越しの白皙をつい熱く、見つめていた。
(「きれいなひと、大切な人」)
 言葉にせず胸の内で紡いで――だからこそ、その僅かな変化をも花世は見落とさなかったのだろう。
 ふるりと、都槻・綾(糸遊・f01786)のその瞼が震える瞬間を。
 ゆるゆると開くその瞼。
 うっすらと眸をあければ――見知らぬ天井と、見慣れた花の色。
 綾は己の置かれている状況をそういえば、と思い出すのだ。
 焦がれそうなほどに、真直ぐに向ける――その花世の心を一層揺らしたのは。
「……眠りから醒ましてくださるのは、王子様の口付けではなかったでしょうか?」
 男の、寝起きの甘く掠れた声。
 まだまどろみの残るぼんやりした微笑みを綾は花世に向けるのだ。
 甘やかな――揶揄と共に。
「くくく、口付け? いいの?」
 花世はその揶揄に動揺を隠すこともできず。頬はぼふんと音たてるように染まっていた。
 慌てる姿が可愛らしく、綾は笑み咲き零れていく。
 いいの? いいの? と思いながらそっと距離詰める。
 硝子越しであるのに鼓動まで届いてしまいそうだ。それでも、そっとくちびるを寄せて――触れるか触れまいか、その瞬間に乱暴に扉開く音が響いた。
 綾も花世の向こう側、その無粋なる者の唐突な登場にきょとんと、瞬き数度。
 ふるふる、花世の肩は震えていた。
 そしてばっと後ろを振り向く、その瞳は涙目だ。
 せっかく、せっかくいいところだったのに――そんな想いと共に、あかいいろが花世の身を包み込んだ。
 みるみる、その身を這う真っ赤な牡丹。
 それを纏う花世は、この部屋への乱入者、花嫁へと一気に迫る。
 この箱には、触らせない。近寄らせない――素早い動き。花嫁が何かを紡ぐ前に、その言葉を塞いで喉を掻き斬ってしまう。
 一刻も早く片付けて、――みの顔を見たいから。花世の動きは一層、精細さを増していくのだ。
 ぴしゃり。跳ねた赤は、花弁の上へと散っていく。
 けれどはらりひらり――その色も、全て終われば落ちていくのだ。
 花を散らせるのは、勿体ないですねぇと綾は僅かに瞳細めた。
 豪奢な部屋。
 招かれたるその部屋は高貴なるもののための場所。
 その中で舞い踊る華麗なるいろ。
 此処へはあの現れた者たちの手など届きはしないのだと、綾は一切の焦りも不安も無くゆったりとした思考を巡らせていた。
 それが、綾が花世へと寄せる信頼の証なのだから。
 戦いの音、それが消え去り元通りの静けさに。
 けれど足音だけは静かにひとつ、そこにある。
 己の方へ近づいてくる、それはひとり。花世だと綾は目にせずともわかっている。
 開けてくださいなー、と箱の中。この身もだいぶ動く様になったと幼き子供のように両手を広げる。
 その、二人を隔てるものを――花世は開く。そのためのものは、花嫁たちが果てた中から、見つけた。
 綾を閉ざしていた世界は開かれてそっと花世は手を伸ばす。
 その手を受け止めれば寄る身の熱は、ここに互いがある印。
 ふくふく笑って――綾は花世の耳元に唇寄せる。その腕に招いて、緩やかに。
「――ただいま、花世」
「――おかえり、綾」
 かわいいひと、と抱き留められたその身に腕を伸ばして。
 綾の声、と花世はふふりと笑み零した。
 互いがここに居ると――そのぬくもりを感じて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【五万円】

だって暇だったから…
あっけらかんと言いながら未だに少し眠たげ
身動ぎしながら、ふわぁ…と欠伸を一つ

ホントだ。けど俺、怖い女嫌いだから…。
金髪美女はどう見ても優しくは無さそうだ
俺助けてやれねぇから…まぁ頑張れ?
箱の中で寛ぐように頬杖ついて微笑んだ

目の前の敵如きに後れを取る男ではないと言うのが俺の評価
微睡みつつ戦闘を眺める

美味そう…、もったいない…、飲みたい。
真が血を流す度に心配そっちのけで
そんなことを考える

ウトウトとうっかり寝そうになってる所で
どうやら終わったらしい真の問いかけ
絞め落とされた女を見せられたら答えは一つ

お前の方がいい。

花嫁なんかより真の方が美味そうだ
返る答えは知りつつの軽口


久澄・真
【五万円】

つかお前、普通に寝そうになってたろ
部屋に入るなり煙草をふかして
豪華なチェスターフィールドソファにどかり座れば
くつり笑って未だ箱詰の姿見る

さてと、どんな花嫁が来るのやら
招かずとも来たのは
なだらかなウェーブを描く金髪美女
ベールから覗く狂気の目がぎらぎらしてる

お、ジェイのタイプの女じゃねーの?
悪いな、俺がお相手する形になっちまって

美女とヤりあうのは大歓迎だが
血塗れの俺が贈り物なんて
あいつは大層喜ぶだけだぜ?

ある程度は遊んでやろう
負う傷も遊びの一環
福音で深手は器用に避けながら

さ、もう満足か?
遊びの中で絡めた糸は雁字搦めに身を縛る為
絞め落とした女の腰を掴み抱き寄せて
要る?

とお前に聞いてみようか



●まだ色は、そのままに
 二人が置かれたのは豪奢な部屋だ。
 久澄・真(○●○・f13102)は部屋に入るなり煙草をふかし、どかりと豪華なチェスターフィールドソファに腰下した。
 高い椅子はやっぱり座り心地もいいもんだ、と言いながら――くつり、喉鳴らして笑う。
「つかお前、普通に寝そうになってたろ」
「だって暇だったから……」
 まだ少し眠い、とジェイ・バグショット(幕引き・f01070)はあっけらかんと。けれどその瞼は未だに重そうだ。
 狭い箱の中、身動ぎしながら、ジェイはふわぁ……と大きく欠伸一つ。
 その視界の端にゆらりと紫煙が踊る。
「さてと、どんな花嫁が来るのやら」
 招いたわけではない。
 それでもその花嫁はやってくるのだ。静かに扉を開けて――血まみれの、花嫁衣裳を纏ったものが。
 なだらかなウェーブ描く金髪の美女だ。けれどその髪の隙間から見える瞳はぎらぎらと輝いて狂気を覗かせている。
 その姿を目に、からりと真は笑って。
「お、ジェイのタイプの女じゃねーの?」
 悪いな、俺がお相手する形になっちまってと言いながら立ち上がる真。
「ホントだ。けど俺、怖い女嫌いだから……」
 見た目は好み。けれど、その瞳の強さをみたらば遠慮したいものだ。
 どうみても優しくは無さそうなその姿。
「俺助けてやれねぇから……まぁ頑張れ?」
 箱の中で寛ぐように頬杖ついて、ジェイはただ微笑む。物見遊山、心配はしていないという余裕をもって。
 目の前の敵如きに後れを取る男ではない――ジェイはそう思っているからこそ微睡みの中にあれるのだ。
 花嫁の、その身の上で寄生生物が蠢いて。真はうわ、と零して飛び掛かってくる花嫁をまるでその先を見てきたかのようにかわす。
「美女とヤりあうのは大歓迎だが」
 そんなもん付けてるのはと独り言ち、左手をひらりと躍らせる。
 そこから繋がる操り糸は、弄ぶように傀儡を求めて此度は花嫁をそれに定めたのだ。
 飛び掛かる花嫁。この程度なら受けてもと笑って、痛みを楽しむのだ。
「血塗れの俺が贈り物なんてあいつは大層喜ぶだけだぜ?」
 深手だけは負わぬ様、真は器用に避けていく。
 いくつも切り傷を作られて、ジワリと痛みはするがこのくらいは可愛い物と。
 その血の香は箱に入っていたとしても――ジェイの心を擽るものだった。
「美味そう……、もったいない……、飲みたい」
 血を流せば心配――を、普通はするのだろう。けれどジェイは、それはそっちのけ。
 ただその色に惹かれるのみだ。けれど、眠さもまだあっていつしかウトウトと微睡の中。
「さ、もう満足か?」
 そろそろダンスもクライマックス、なんて笑いながら左手を己の方へ引くのだ。
 遊びの中で絡ませた糸は雁字搦めに身を縛るもの。
 絡めた花嫁を締め落せば、崩れる身体を、その腰を掴み抱き寄せて。くるりと踊るように回って真はジェイへと見せるのだ。
「要る?」
 うとうと、その意識が一言で引き戻される。
 終わったのかと、見せられるその女を目にし、そしてジェイの視線は真の方へ向くのだ。
「お前の方がいい」
 花嫁なんかより、真の方が美味そうだと僅かに口端上げて笑う。
 まぁ、そりゃそうだろうと真も返せばざらりと、花嫁は灰となっていく。
 灰の味なんて俺だって遠慮したいと真は返しながら、その中に鈍く光る色を見つけた。
 それは鍵。
 ここで現れたそれの使い道はたった一つだろう。
 けれど、すぐに開けず勿体ぶって――一段落の一服。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シェルゥカ・ヨルナギ
エンティ、不安で堪らない
何でもない話と、君の笑顔を

見届けたくなんかない
できる事ならやめてほしい
でも君にそれが必要だというなら

君に名前をあげるから
気に入ってくれるまで何度でも考えるから
必ず、生まれ変わって
絶対に生きて受け取って
約束

全身が一気に冷える
嫌な汗がじわりと滲む
俺がもっと何かできれば君がそんな事には

――鈍く光る大きな爪

息をしている筈なのに
喘鳴の中ただ苦しい
見ている事しかできない自分が

――造作もなく高く振り上げられたそれに

視界が、意識が、明滅する
また無力を思い知った
…また……?

串刺しの――


――ここまで
「シェルゥカ」を閉ざし俺が代わりに

綺麗な音楽を鼻歌でなぞりながら
死とまみえた彼を眺めよう


エンティ・シェア
やぁ、シェルゥカ。気分はどうだい
夜明けまで少しお喋りでもしようか
我々らしく、他愛もないことを、ね

逢瀬の終わりは存外早いものだ
嗚呼、シェルゥカ
今一度、君に酷なことを言うよ
私の最期を見届けておくれ
置いて逝かれるくらいならと自死を願う臆病な「私」の最期を
案じることはない。私は生まれ変わるのさ
だから、その時は
私に、名前をおくれ
約束だよ

抵抗なく花嫁殿の得物を受け入れよう
その綺麗な爪のような大鎌で、深く深く刺し貫いておくれ
私の息の根を止めにおいで
それから、再び開こう、その幕を
花嫁殿とは、再演の君がお相手だ

死んだり、しないよ
Spiceで痛みを追いやって、裁縫道具で命を繋ぎ止めて
夜が明けても君の傍にいるんだ



●約束ひとつ
 楽しそうに笑う。
「やぁ、シェルゥカ。気分はどうだい」
 それは演技なのか、それとも――それをエンティ・シェア(欠片・f00526)は隠していた。
 言葉向けられたシェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)はか細い吐息を零して。
「エンティ、不安で堪らない」
 ならその不安を払うために、夜明けまで少しお喋りでもしようかとエンティは笑うのだ。
「我々らしく、他愛もないことを、ね」
 シェルゥカは頷く。何でもない話と、君の笑顔。
 それを重ねる時間はすぐなのだ。
 エンティはその時間の終わりに、訪れた気配に視線を向ける。
「逢瀬の終わりは存外早いものだ。嗚呼、シェルゥカ」
 今一度、君に酷なことを言うよと――先ほどまでと何の変わりもない調子でエンティは言うのだ。
「私の最期を見届けておくれ」
 置いて逝かれるくらいならと自死を願う臆病な『私』の最期をと、願うのだ。
 そんな言葉――跳ねのけられるならそうしたいものだ。
 シェルゥカは首をゆるく振る。見届けたくない。できる事ならやめてほしい。
 でも。
(「でも君にそれが必要だというなら」)
 ふ、とエンティは笑う。案じることはないのだと。
「私は生まれ変わるのさ。だから、その時は」
 その先の言葉は――ゆっくりと紡がれていく。
「私に、名前をおくれ」
 シェルゥカは頷く。君に名前をあげるから、と。
「気に入ってくれるまで何度でも考えるから、必ず、生まれ変わって。絶対に生きて受け取って」
 約束だよ、とエンティの唇が鮮やかに動く。
 約束、とシェルゥカの唇も応えるように動いた。
 約束をしたのだから、大丈夫。
 けれど、さぁとその腕広げるようにしてエンティは待ち望んでいるかのように立つのだ。
 吸血鬼のものとなってしまった花嫁の前に。
「その綺麗な爪のような大鎌で、深く深く刺し貫いておくれ」
 私の息の根を止めにおいでと待っている。
 そんな素振りに――全身が一気に冷える。シェルゥカは嫌な汗がじわりと滲むのを感じていた。
(「俺がもっと何かできれば君がそんな事には」)
 ならぬというのに――鈍く光る大きな爪が振り下ろされる。
 エンティの身を赤が走る。赤い色がぱたたと落ちる様をシェルゥカは目にし、ひゅっと息を詰まらせた。
 喘鳴の中ただ苦しい。
 見ている事しかできない自分が、何もできぬ自身が。
 そして再度振り下ろされるその爪。その動きは酷くゆっくりとエンティの眼に映っていた。
 息の根を止めに来る。
 それから。
「それから、再び開こう、その幕を」
 花嫁殿とは、再演の君がお相手だ――痛み、薄れていく意識の端でエンティが見るものは狐面の青年だ。
 けれど、その倒れる姿はシェルゥカの意識を荒々しく撫でていく。
 視界が、意識が、明滅して。
 無力――また、思い知る。
(「……また……?」)
 その脳裏に現れる像がある。
 串刺しの――
 けれどそれは――ここまで、と。
 目隠しするように閉じられていく。
『シェルゥカ』を閉ざし現れるのは彼であり彼でなく。
 綺麗な――綺麗な音楽を鼻歌でなぞる。
 その音がエンティの耳にも届いていた。
「死んだり、しないよ」
 エンティは微かに笑う。ペインキラー、Spiceで痛みを追いやって、裁縫道具で命を繋ぎ止めてエンティはこの場にとどまる。
 何のために――それはひとつ。
 夜が明けても君の傍にいるんだ、と紡いで。
 死とまみえているというのに、その先には進むことがないと知っているかのように。
 花嫁を、エンティの招いた青年が打ち払う。
 その姿をただただ――箱の中から眺めるのみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花綴】

彼女の身は未だ硝子の中
されど共に過ごすひと夜を無事にと得れば
安堵が裡を満つ

嗚呼しかし無粋なるかな
近づく足音殺気に溜息ひとつ

花嫁の嘗てを思えば胸痛む
あゝ哀しく辛かったろう
身を裂かれるよりずっと
故にこそ
七結殿には決して同じ思いなど

この身傷つく事は怖くない
身を裂く痛みなら幾らでも
悲鳴すらも呑み込んで

怖いのは
大事な友が傷つく事失う事
心の痛みは耐え難く
だから妾は外にいる
我が儘じゃろう?

七結殿
どうか暫し耐えて欲しい
終わったらゆるり語ろう
あゝ背に受ける眼差しが温かい

花嫁殿
悲しき時間はもう終わり
与うるは葬送歌
彼岸渡りし先は安らかなれと
自爆より早く決着を

寄生や傷は聖衣で癒し
破魔込めた全力魔法の歌を其方へ


蘭・七結
【花綴】

伸ばした手は硝子の壁に阻まれる
脆くて厚い、透明な隔て
つめたい温度が伝ってゆく

未だに痺れを残す指のさき
自在に動かすことさえ儘ならない
嗚呼、なんてもどかしいの

ふかい夜、ふたりきりの時間
このひと夜が終わりを迎えるまで
どんなお話をしましょうか
訊ねた間際
此方へと寄る音が尖り耳に触れる

かつてを生きた花嫁
不自由な身体、棺という隔て
もどかしい、などでは言い表せない
とても哀しかったことでしょう

白を纏わう大切なひと
あなたの身があかく染まる
それは、いやね

心強い言葉に安堵する
だいじょうぶよ、ティルさん
それから、ありがとう

可憐なあなたを見映す
ちいさくあいらしいその姿
なんて心強いのでしょう

あなたの背をみつめていた



●見つめて、見つめられて
 その体を縛る温い戒めは解けていくけれど。
 けれど、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)が伸ばした手は硝子の壁に阻まれていた。
 脆くて厚い、透明な隔て。指先から、つめたい温度が伝っていく。
 それは未だに痺れを残す指のさき。
 七結はその自在に動かすことさえ儘ならない指先にため息零す。
「嗚呼、なんてもどかしいの」
 その表情を、言葉をティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は受けて。
 未だ硝子の中にいる七結。
 されど共に過ごすひと夜を無事にと得れば――安堵が裡を満つのだ。
 ふかい夜。ふたりきりの時間。
「このひと夜が終わりを迎えるまで、どんなお話をしましょうか」
 それはきっと楽しい夜になると、思うのだ。
 ふたりだけであれば。
 けれどここに近づくものの気配がある。
「嗚呼しかし無粋なるかな」
 足音、殺気――ティルは溜息ひとつ、落とした。
 きぃ、と小さな音をたてて部屋の扉が開かれる。
 七結の尖り耳に触れたその音は控えめなものだった。
「かつてのわたくし……花嫁になる、前の……」
 瞳に宿るものは暗澹だ。暗く淀んでいるのだ。
 かつてを生きた花嫁、と七結は瞳細める。
 不自由な体、棺という隔て――もどかしい。
 いや、もどかしい、などでは言い表せない気持ちが七結の中で生まれていく。
 とても哀しかったことでしょうと、かつてを想って。
 それはティルも同じなのだ。
(「あゝ哀しく辛かったろう」)
 その胸はつきりと痛む。身を裂かれるよりずっと、故にこそ――思う。
(「七結殿には決して同じ思いなど」)
 させてはならない。そしてさせるつもりはないのだ。
 この身傷つく事は怖くない。
 花嫁が削ったのはその身か、それとも心か。それを代償に得た力をもって、ティルへと向けるのは剣だった。
 血塗れのそれは花嫁の身よりも大きい。誰かの遺品のようなものだった。
 それをもってティルの身を切り裂いて。その痛みを幾らでも、悲鳴すらも呑み込んでティルは向かい合うのだ。
 怖いのは、痛みではなく。傷を負う事でもなく。
 大事な友が傷つく事、失う事だ。
 それにより与えられるであろう心の痛みは耐え難く――だからティルは、箱の外にいるのだ。
 我儘じゃろう? と僅かに微笑んで。
「七結殿、どうか暫し耐えて欲しい」
 終わったらゆるり語ろうと、ティルは紡ぐ。
 白を纏わう大切なひと。七結の視線はずっとティルに注がれていた。
(「あなたの身があかく染まる――それは、」)
 いやね、と七結は紡ぐ。
 けれどティルのその言葉耳にすれば、その気持ちは消えてしまうのだ。
 心強い言葉と安堵する。
「だいじょうぶよ、ティルさん。それから、ありがとう」
 可憐な、あなた。
 ちいさくあいらしいその姿――なんて心強いのでしょう、と。
 優しく柔らかな視線を七結びは向ける。ティルはそれを感じてふわり、微笑んだ。
(「あゝ背に受ける眼差しが温かい」)
 まるで、その眼差しに守られているような心地でもあるのだ。
 ティルは傷負った場所を抑えて、けれど視線は花嫁へと真っすぐに。
「花嫁殿、悲しき時間はもう終わり」
 贈れるのは――葬送歌。彼岸渡りし先は安らかなれと願いながら手向けるのだ。
 その身に宿る魔を打ち砕くために、魔法の歌を。
 聖衣でその傷を癒し、花嫁の心も、その身も。
 その背を七結は見つめている。ここにいるのよと、いうように。
 そしてその歌が届けば今まで何もなかった花嫁に表情が灯る。けれどその身はすでに死した者、さらさらと灰となって消えていった。
 その中にきらきらと輝く鍵がひとつ。二人を隔てるものを取り払うためのものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

ライナスと再会後、即座に駆け寄る
己の主人を箱から出せない
歯痒さを誤魔化す様に目を閉じるも
来訪者の存在を見れば、俺も得物を手にして迎え撃つ

敵が箱を壊す心配はなさそうだが
常に箱を【かばう】ことが出来る立ち位置に
安心しろ、ライナス
……独りきりの戦いは慣れているつもりだ
昔の様に戦う為に、今だけは聞こえないふりを努める

UC:歪、発動
【激痛耐性】も加えて、出来る限り痛覚を遮断
肉体が悲鳴を上げ、機械の腕や一部が軋んでも
――何も知らない過去に、くれてやるつもりはない

己の得物を振り上げ、八つ当たりの様に叩き付ける
動かなくなるまで何度でも
砕けろ、壊れろ、俺の前から消え失せろ


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

部屋にリカルドが来たら揶揄う様な笑みを向けつつ近くに来るのを待つ
薔薇の匂いも身に刺さる棘も疎ましいけどよ。人間こうして慣れてくんだなと吐き気を抑え息を吐くぜ
つかあんた、何辛気臭え面してんだよ
ほん、俺の事好き過ぎな、あんた
そう漸く回る様になった口で先程聞こえたなかっただろう言葉を紡ぎつつも来訪者を見れば動けぬ身をもどかしく思いつつ戦うリカルドを見守ろうとする…も
リカルドの言葉と、リカルドの身を包む呪詛をみれば眉間に皺を寄せつつ箱を膝で叩きつつおい!と声を
今は一人じゃねえんだよ!
勝手に壊れんなっつっただろが!おい、聞こえてんのかと声を張り上げんぜ
…クソ、箱から出る迄壊れんなよ



●歯痒さを踏みつぶして
 乱暴に、扉を開けたのはリカルド・アヴリール(遂行機構・f15138)だ。
 その様をライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は箱の中から悠々と、揶揄う様な笑みをもって迎えた。
 即座に、その姿を見てリカルドは駆け寄る。
 己の主人をこの忌々しい箱から出したいというのに――出せないのだ。
 歯痒さをごまかすように目を閉じて、リカルドはひとつ息を吐く。
 その様をライナスは箱の中からただ見つめて、笑っていた。
 この、薔薇の匂いも身に刺さる棘も疎ましいことはかわらない。
 けれど人間こうして慣れていくんだなと吐き気を覚えながらもそれを抑え、息を吐くのだ。
「つかあんた、何辛気臭え面してんだよ」
 そしてライナスはリカルドのその表情を揶揄う。
 らしくないような、そんな表情なのか。それとも、らしいのか。
「ほん、俺の事好き過ぎな、あんた」
 ライナスは漸く回るようになった口で、先ほど聞こえなかったであろう言葉を紡ぎ――その視線をリカルドの向こう側へと投げた。
 そこにいるのは花嫁。けれど吸血鬼の、だ。
 あれとこれから戦う――リカルドが一人で。そう思うと、ライナスは動けぬ身をもどかしく思うのだ。
 リカルドは抱いた歯痒さをその場に今は捨て置いて、得物を手にし花嫁と向き合う。
「まずは、あなた……箱のあなたの目の前で美しく散って、終わりを迎えて」
 そうすれば――箱のあなたは、わたしと同じになれるわと花嫁はうっそりと紡ぐ。
 もちろん、そんなことになる気はリカルドもライナスもないのだ。
 リカルドが立つのは、常に箱をかばうことができる立ち位置。
 この花嫁が箱を壊す心配はなさそうだが、それでもだ。
「安心しろ、ライナス……独りきりの戦いは慣れているつもりだ」
 独りで、昔のように。
 そのためにリカルドがせねばならないのはライナスを意識の外に出す事だった。
 今だけは、聞こえないふりを努めるのみ。
「――鉄屑と化して、果てるまで」
 痛みは、感じぬように。痛覚を遮断するのは敵からの攻撃ではなく、己の肉体が悲鳴をあげるのを見ぬふりをするためでもあるのかもしれない。
 肉体も、機械の腕や一部が軋んでも構わないのだと。
「――何も知らない過去に、くれてやるつもりはない」
 リカルドの身を呪詛が覆う。
 それをライナスが目にすれば眉間に皺が寄るのは明らかなことだ。
「おい!」
 その膝で箱を叩く。けれどびくともしない。
「今は一人じゃねえんだよ!」
 リカルドの軋んだ腕がおかしな音をたてている。
 その身に寄生生物宿して、花嫁が向ける一撃は重いのだ。
 それを振り払った瞬間、腕の一部がずれるかのように爆ぜて。
「勝手に壊れんなっつっただろが! おい、聞こえてんのか」
 その声は、届いているが届いていない。
 ライナスの声は聞こえていないとリカルドは戦い続けていくのだ。
「……クソ、箱から出る迄壊れんなよ」
 焦りも滲んでいた。
 得物振り上げたリカルドは、八つ当たりのように叩きつける。
 正面から振り下ろされたそれは鈍い音をたてて花嫁の身を潰していくのだ。
 動かなくなるまで、何度でも。
 砕けろ、壊れろ、俺の前から消え失せろ――俺が動けなくなるよりも、先に。
 花嫁の身はやがてびくりと、叩きつける衝撃に跳ねるだけとなる。
 そして灰となり消えていくのだ。その中にリカルドは鍵を一つ、みつけた。
 それはライナスを、あの箱から解き放つためのものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
景雪(f03754)
部屋は雪見障子の隔たりが目を引く洋室

…ま、妥当か。この世界にサムエン風のモノがそうそうあるわけないしね

先ずは君のメディカルチェックからだよ、景雪
大分抜けて来ただろうが「医術」で体調確認
その躰は未だ幼い、無理は禁物だよ?

さてさて、夜をどう過ごすか、か…
そういえば君とは腰を落ち着けて話す機会が中々なかったね
人の躰には慣れたかい、そろそろ趣味なんかも見つけられたかな?と頭を撫ぜて


部屋に踏み込まれたらすかさず応戦…汚い肉片になられるなんて迷惑な話だ
「全力魔法」「多重詠唱」「高速詠唱」「範囲攻撃」で補強した「指定UC」で幾重にも展開した氷のルーンで全てを氷の下に閉ざす
眠れ、哀れな贄共


叶・景雪
ヴォルフガング(f09192)お兄さんと
難しい漢字は平仮名使用。カタカナはNG

だんだん薬がぬけてきた…のかな?
少し顔をうごかせるようになってきたからおへやにしせんを
むけたけど…雪見しょうじの仕切りはちょっと見なれたかんじ?
まだ声は…だせそうにないから、きりっとした表情をしてから
くちびるで
『ぼくはだいじょうぶ!』

そういえば、おにいさんとはいつもお仕事で
会ってたかも…?
『しゅみってよくわからないし、人の体ってふべんだけど…
自由に動けるのは、楽しいよ!』
だから、早くうごけるようになりたいなぁ(うず

へやに花よめさんが入ってきたのに気づいたら
『気をつけて!』
あざやかな戦とうを目にきざむね!いつかぼくも…



●今はまだ遠い、背
 部屋は雪見障子の隔たりが目を引く洋室。
 それを見てヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)はまず一度、息をついた。
「……ま、妥当か。この世界にサムエン風のモノがそうそうあるわけないしね」
 それと似たもの、それ風のものはあるかもしれないが。
 けれど今は部屋の調度を見る事よりもしなければならないことがある。
 ヴォルフガングは箱の中、叶・景雪(氷刃の・f03754)へと笑いかけた。
「先ずは君のメディカルチェックからだよ、景雪」
 大分抜けて来ただろうが、とヴォルフガングはその体調を確認する。
 景雪も箱の中で自分の手をゆっくりと、握りしめた。
(「だんだん薬がぬけてきた……のかな?」)
 ゆっくりと、顔を動かしていく。景雪もくるり、視線を巡らせて。
 その中に見えた雪見障子の仕切りは、ちょっと見慣れた感じのものだった。
 けれど、まだ――声は出せそうにない。
 ヴォルフガングがの視線を受けて、景雪はきりっと表情を整えた。
『ぼくはだいじょうぶ!』
 と、唇動かせばヴォルフガングは瞬いて、表情緩めた。
「その躰は未だ幼い、無理は禁物だよ?」
 その言葉にこくりと、景雪は頷くのだ。
 今の所、大丈夫そうだ。そのことに胸をなでおろしながら、ヴォルフガングは椅子を引っ張ってきて傍へと置くと腰掛ける。
「さてさて、夜をどう過ごすか、か……そういえば君とは腰を落ち着けて話す機会が中々なかったね」
 言われてみれば、と景雪も思うのだ。
(「そういえば、おにいさんとはいつもお仕事で会ってたかも……?」)
「人の躰には慣れたかい、そろそろ趣味なんかも見つけられたかな?」
『しゅみってよくわからないし、人の体ってふべんだけど……自由に動けるのは、楽しいよ!』
 だから、早く動けるようになりたいなぁとうずうず。
 まだその体の動きは鈍い。けれど少しずつ動けるようになっているのも確かで、景雪はわずかに箱の中で動くのだ。
 だが二人だけの時間は終わりを告げる。
 今頃、どの部屋にも訪れているであろう花嫁の訪れだ。
『気をつけて!』
 まだ動けない景雪は戦うことをヴォルフガングに任せるしかないのだ。
 ヴォルフガングは、すぐさま応戦と花嫁へと距離詰める。
「……汚い肉片になられるなんて迷惑な話だ」
 なら、ばらまかなければ、散らさなければいいだけの話。
 己の持つ全力を重ねて、素早く紡ぎ――それを向ける場所を指定する。
「一手は地に、八手は二十四の軌跡に祝福されし勝利が為に」
 その呪われし指先が輝けば氷のルーンも現れて。
 幾重にも氷の中に、そしてまた氷の下にと花嫁たちを閉じ込めていく。
「眠れ、哀れな贄共」
 その姿を、あざやかに戦う姿を景雪は瞳瞬かせ、その胸へと刻み込む。
(「いつかぼくも……」)
 あんな風にと、願いを抱きながら。
 振り向くヴォルフガングのその表情に景雪は表情緩め。
 そして。
「おにいさん、つよい!」
 と――声が出たと驚きつつ微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
【桜雨】

ふふ、愛らしい声がやっと聴けましたわね
ティータイムを楽しんでいればノックの音
物々しい花嫁さんですこと

ねぇ、レインさんはこの方が可哀想だと思う?
私は可哀想だと思うわ
望まぬ婚姻を強いられて
挙句の果てに躯の海に葬送られて…
(…私も政略結婚の道具として育てられた過去があるから)

…けれどね、それ以上に
この美しい首が欲しいと思ってしまうの
嗚呼、駄目ね
血が滾って仕方ない
やはり私は
(どう足掻いても鬼みたい)

見切り躱して加速して
脚狙い一閃
痛みを麻痺させようと
動けないんじゃ意味ありませんもの
傷つけられても怯まず臆さず
己の血を舐めて
なるほど
手向けの花ということかしら
あなたにも咲かせてあげる
その御首に赫い花を


氷雫森・レイン
【桜雨】
少し体が動く様になってきた
けれど起き上がれそうにはないしクリスタルの壁は厚い
「エリシャ…」
私が呼ぶ名前が届いているかしら
瞳の桜が優しく咲った気がすると温もりが恋しくなる
心細さが弱る中、淋しさを覚えるくせこのままと思ってしまう奇妙な時間
「!」
聞いた予知を今更ながらに思い出す
あばら骨の内側が怖気に震えた
(っだめ…!)
今の私では念動力さえ儘ならない
彼女は強いけれど…!
「え?」
突然の問いを焦る頭で飲むのは難しくて
けれどそんな事はお構いなしに喋る彼女はいつも通り
でも様子がおかしい
「エリ、シャ…?」
何これ
繰り広げられる今まで供をした戦場では見た事の無い景色
私の知らない鬼の姿が其処には咲き誇っていた



●知らぬ姿
 宝石箱をそっと掲げて、千桜・エリシャ(春宵・f02565)は微笑む。
 その中で氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は少し体が動くようになってきたと僅かに身動ぎをした。
 けれど、起き上がれそうにはなく――何より、クリスタルの壁は厚いのだ。
「エリシャ……」
 この、名を呼ぶ声は届いているだろうか。
 宝石箱の外で、エリシャの瞳の、その桜の色が優しく咲った気がして――温もりが恋しくなる。
 綺麗な宝石箱の中は、やはり冷たくて。けれど、エリシャが傍にいると思うと、心細さは弱まるものの、淋しさを覚えて。そのくせ、このままと思ってしまう奇妙な心地。
 けれど、その時間も終わりを告げるのだ。
 薄く開いていく扉。そこから現れる、花嫁。
「!」
 聞いた予知をレインは今更ながらに思い出す。
 あばら骨の内側が怖気に震えた。
 エリシャは宝石箱を、テーブルの上に置いてレインへと背を向ける。
 その背中を追いかけることは、傍らを飛ぶことがレインには今、許されない。
(「っだめ……!」)
 生気のない花嫁たちはすでに人の枠をこえて、吸血鬼のものとなっている。
 今の私では念動力さえ儘ならないと動けぬその身を、現状をレインは悔しく思うのだ。
 彼女は強いけれど……! と、レインも思う。そのことは知っているのだ
 けれど一人で戦うのはと思ってしまうのも事実だ。
「ねぇ、レインさんはこの方が可哀想だと思う?」
「え?」
 そこへ、問いかけが投げかけられる。焦りを抱えた心では、頭ではその言葉を飲み込むのは難しい。
 けれどエリシャは瞳細めて、花嫁たちをみつつ言葉続けるのだ。
「私は可哀想だと思うわ。望まぬ婚姻を強いられて、挙句の果てに躯の海に葬送られて……」
 とうとうと語る。
 その声には何も色が無い様で――けれど深く沈んだものがあった。
(「……私も政略結婚の道具として育てられた過去があるから」)
 この花嫁たちはどんな気持ちだったのだろうか。
 喜んでここへ来たわけではないというのは、わかるのだけれども。
 そう、可哀想と思うのだけれども。けれど、それよりも疼く熱があるのだ。
「……けれどね、それ以上に」
 この美しい首が欲しいと思ってしまうの――エリシャの視線は花嫁たちの首を撫でていく。
 傷一つない、綺麗な首だ。
「エリ、シャ……?」
 なんだか様子がおかしい。
 ――嗚呼、ダメね、と。
 どこか笑い含んだ声色を落として、桜花模す鍔の大太刀へと手を伸ばす。
「血が滾って仕方ない。やはり私は」
 どう足掻いても鬼みたいと口端に笑みを乗せてエリシャは踏み込んだ。
「私達の大切なあの人のようになるのよ、あなたも」
 そして箱のあなたは私達と同じになる、と花嫁たちが口口に言う。
 その言葉を気にも留めず、距離詰めてその脚を狙って一閃する。
 其れだけでもう、ぐらりと花嫁の身は保てずに崩れそうになる。それを寄生生物の力をもって痛みも抑えてまだ動こうとするのだ。
「痛みを麻痺させようと、動けないんじゃ意味ありませんもの」
 それでも必死に動くのね、とざわりざわり。瞳に桜を咲ませ、その白い肌の上には桜花鱗の八首の大蛇が這い始める。
 そして黒く染まる刃の上を、はらりはらりと甘く蠱惑的に香る桜の花弁が撫でていくのだ。
「傷つけられても怯まず臆さず、己の血を舐めて――なるほど」
 花嫁が向ける攻撃。動けなくとも這ってでもという素振り。向けられた槍の鋭い突きがエリシャの肌を貫いて。
 けれど痛みもなんでもないこと。
「手向けの花ということかしら」
 あなたにも咲かせてあげるとエリシャは咲う。
 その御首に赫い花を、と大きく三日月を描く太刀筋が空間ごと断ち切って。
 そして怨念宿す死霊の胡蝶が刃の上を飛ぶのだ。
 その戦いの様を――レインは見ていることしか、できなくて。
「何これ」
 唇震えて、零れていた。
 今まで供をした戦場では見た事のない景色、その姿。
 レインの知らない鬼の姿が、其処には咲き誇っていた。
 首が撥ね飛ばされる。
 それと共に、花嫁の身は灰となって消えていく。その中にきらきらと、宝石のついた鍵がひとつ。
 エリシャはそれを拾い上げて――これで自由にとレインへと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
長閑と

まだ動けない
思考もうまく働かず
不安と恐れに下手くそに呼吸する

懐かしい音が耳に流れ
また脳が痺れるようだった

あの人の歌
俺たちが閉じ込めていた美しい籠の鳥が
長閑の為だけに囀っていた歌だ

羨ましくて疎ましかった
お前だけがいつも愛されて…

でも、言えなかった
膝を、空虚を抱え、主の傍らにいた

――意味をくれたのは、いつも
あいつと、彼女だけだったのに

意識が遠のいていく

すべてを忘れていいと
小さな手のひらで目を塞いだのは長閑だった
憐れみでも、俺の心を逃がすように優しく

ばか、だなあ
さやの代わりは、俺自身
俺は――スペア、なんだから

お前みたく、強く明るく前を向いていたかった
さや。上手くできなくって…ごめんな


憂世・長閑
あやちゃんと

触れることは儘ならずともこの音は届くだろう
今はもう君とオレだけが知っている歌を奏でる

眠りに落ちてくれるだろうか
もう何も考えないでいいと伝わってほしい

何を考えているか、分かるよ
君はいつも主が愛したあの人のことばかり
今はもうさやちゃんのことを思い出して
それからはずっと頭から離れないんでしょう

強くならなくていい
ずっと守ってあげる
オレが死ぬときはちゃんと
一緒に殺してあげる

だからね、もういいよ
君がさやちゃんを望むなら
代わりにだってなってあげたい

ふふ、分かるよ
オレも主様だけのものだから
でも、だから君を倒さなきゃ
盾を複製し戦う
血塗れでも錠だけ守れればいい
今日も、主の愛してくれたオレのままでいるよ



●目隠し
 箱の中は――浮世・綾華(千日紅・f01194)をぐらつかせる。
 狭い、狭い――世界がぎゅうぎゅうと綾華を押し込めて閉じ込めていく。
 まだ動けない。思考も鈍くうまく働かず募っていくものは不安と恐れ。
 ひゅーひゅーと呼吸はか弱く、いつ途絶えてもおかしくない。それもまた、綾華を追い詰めていくのだ。
 けれど、その耳に届いた音がある。
(「――あ……なつか、しい……」)
 けれどその音は――歌は。脳を痺れさせていくようなものだ。
 これは何の歌だったか。誰が歌っているのか、誰が歌っていたのか。
(「あの人の、歌」)
 歌っていたのは、俺たちが閉じ込めていた美しい籠の鳥と綾華は思う。
 でも今響くこの声は、綾華の頭を揺らしているのは憂世・長閑(愛し秉燭・f01437)の歌声だった。
 触れることは儘ならずともこの音は届くだろうと長閑は歌う。
 今はもう、この歌は綾華と長閑だけが知っている歌。
 この歌は長閑の為だけに囀っていた歌。
 その歌を紡ぎながら眠りに落ちてくれるだろうかと、長閑は綾華の様子を伺う。
(「もう何も考えないでいいんだよ、あやちゃん」)
 何を考えているの、なんて聞かなくていい。
 何を考えているか、分かるのだから。
(「羨ましくて疎ましかった。お前だけがいつも愛されて……」)
 狭いその場所で、綾華は――でも、と思う。
(「でも、言えなかった」)
 そう思いながら、思い返す己の姿。
 膝を、空虚と共に抱え、主の傍らにいたことを。
(「――意味をくれたのは、いつも。あいつと、彼女だけだったのに」)
 ゆらゆら、意識が揺れて遠のいていく。
 君はいつも主が愛したあの人のばかりと思いながら長閑が紡ぐ、その歌にゆりかご揺らされて。
 すべてを忘れていいと――小さな、手が。
 その小さな手のひらで目を塞いだのは誰だったか。
(「……お前だ」)
 今歌っている、長閑だ。
 それをどんなつもりで、したのか。
(「憐れみでも、俺の心を逃がすように優しかった」)
 ばか、だなあと――綾華は思うのだ。
 さやの代わりは、俺自身。
(「俺は――スペア、なんだから」)
 お前みたく、強く明るく前を向いていたかったと思いながらとろとろと、綾華の意識は落ちていく。
(「さや。上手くできなくって……ごめんな」)
 その想いは、今はもう届くことなく。
 僅かに緩やかになった吐息に長閑は柔らかに微笑んだ。
(「今はもうさやちゃんのことを思い出して、それからはずっと頭から離れないんでしょう」)
 強くならなくていい、と思う。
 ずっと守ってあげる、と思う。
(「オレが死ぬときはちゃんと、一緒に殺してあげる」)
 だからね、もういいよと長閑は零す。
「君がさやちゃんを望むなら」
 代わりにだってなってあげたい――零れた言葉。
 開かれる扉の音、それが重なり長閑は視線を向ける。
 そこにいるのはヴァンパイアの花嫁だ。
「主様への贈物……あなたもその一部になって……わたしのあの人みたいに……」
 血まみれの、ドレスを纏う。その手に持つ剣は錆びていて虚ろな、けれどまっすぐな視線を向けてくるのだ。
 その視線を受け取って、長閑は笑い零していた。
「ふふ、分かるよ。オレも主様だけのものだから」
 でも、だから――君を倒さなきゃと長閑は盾を複製しその手に持つ。
 ゆらり、ゆるり近づいてくる花嫁。その身からぼとぼとと何かが落ちている。
 長閑が見たそれは、花嫁についている寄生生物。
「すべて……主様のために……」
 花嫁のその身から血が流れる。それは瞳を通り、赤い涙のようだ。
 けれどそれに心揺らされることはなく。振り下ろされた刃は超常の力を得て、盾ごと圧し切ろうとしてくる。
 長閑はそれに身を引くことなく前へ。花嫁を吹き飛ばすが、その勢いを糧に壁を蹴って一気に距離詰めてくる。
 盾を構える、その一瞬の合間を狙うかのように貫く刃。
 ぼたぼたと、赤い色が落ちても長閑は笑っていた。
 血塗れになってもいい。この錠だけ守れれば己が砕けはしない事を知っているから。
(「今日も、主の愛してくれたオレのままでいるよ」)
 君も主様の為にありたいんだろうけれども、ここで俺が居なくなるわけにはいかないからと長閑は花嫁へと攻撃かける。
 戦いに慣れてなどいないのだろう。きっと今まで一方的に刃を向けてきたであろう花嫁を打ち砕くことは、さして難しい事ではなかった。
 灰になって崩れていく、その中から見つけた鍵は綾華を箱から解き放つもの。
 鍵と、錠。長閑はその鍵をそっと撫でるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
俺が把握しているだけでもかなりの数の猟兵が侵入したようだが、知っていて招いたのだろうか?
どちらにしても…奴等にとっては最後の夜になるだろうが

趣味の悪い花嫁になるのはお断りだ
ヴァンパイアの玩具にされた花嫁共には同情するが、抵抗はさせてもらうぞ
狭い室内でも問題ないようにと、使用する得物は忍刀を
接近戦は好まないが仕方ない

室内の家具を盾にしながら(地形の利用)逃げ足で最適な距離を保ちつつ戦う
刃に仕込んだ毒(毒使い、マヒ攻撃)で、敵の機動力を確実に削いでいき、好機と見ればUC発動
技を封じた後、暗殺にて止めを刺す

これが彼女達の救いになれば良いが…
せめて、お前達の仇は取っ手やる
この狂った宴を終わらせに行こう



●宴の終わりを、始めて
 ふ、と息を吐く。
 長い、競売の時間――その中で薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は猟兵達の姿を見ていた。
(「俺が把握しているだけでもかなりの数の猟兵が侵入したようだが、知っていて招いたのだろうか?」)
 知らずならば、なんと警戒心の薄いものなのか。
 知っていたとしたら――それは、この程度は倒されないという自負か、奢りか。
 どちらにしても、と悟郎は思うのだ。
(「……奴等にとっては最後の夜になるだろうが」)
 そう思っていると――静かに、扉の開く音がした。
 そこにいるのは、ヴァンパイアの花嫁だ。紡ぐ言葉は虚ろな物ばかり。
 ふらふら、剣を引きずりながら近づいてくる。
「あなたも……同じに……」
 死んで、と紡ぐ。
 悟郎はそんな姿を瞳細め、受け止めて。
「趣味の悪い花嫁になるのはお断りだ」
 ヴァンパイアの玩具にされた花嫁共には同情するが、抵抗はさせてもらうぞと忍刀――直刀に近い、刃渡りが短いそれを抜いた。
 接近戦は好まないが――この部屋では仕方ない。
 手近なテーブルを蹴り上げて悟郎は壁にする。花嫁が必要異常に迫れば距離を保ち、隙を見て踏み込んだ。
 刃に毒を仕込み、それで僅かに切りつけるだけでもいい。
 花嫁の機動力を確実に削いで――好機とみれば手枷、猿轡と拘束ロープを放つのだ。それに絡め取られた花嫁は動けなくなりその隙に悟郎は刃を滑らせた。
 息を潜め、後方から迫りその首を掻き斬る。
 崩れ落ちる花嫁は、やがて灰になり消えていった。
「これが彼女達の救いになれば良いが……」
 せめて、お前達の仇は取ってやる、と悟郎は零す。
 この狂った宴を終わらせに行こうと――部屋の外へ。
 居城のどこかに、吸血鬼がいることはもうわかっているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
千之助の、こんな箱など
今すぐ粉々にしてやりたいよ

言葉は必要?
今宵貴方は、身も心も私だけの…

なのに、全く不粋な事
誰が死ぬかと

主人に言っとけ
献上?ほざけ
絶望?弄ぶ?んなもん何一つ他者になど
手前じゃ棘は抜けない
お粗末過ぎ。付け入る余地は無いってな
…言える口が残ってればだが

脇腹を斬りUC励起
箱を包み防衛兼目隠し
…見ないでいて
全部終わらせる

失血は手早く包帯で押さえ
視線、踏み込み手足の挙動…
見切る全てを以て
代償の支払を前兆と見、敵UCを躱し
武器は短刀で受け、流して
黒剣で狙うは常に急所
…但し頸なれば
蛇腹剣へと変え、巻き斬り
――その命脈を、断つ

暗器使いと謳えど
本来は剣士(こっち)
…見たからには、何一つ遺さない


佐那・千之助
クロトの芝居掛かった台詞に微笑みを
どうやらお喋りする気分ではないようで

彼の強さは百も承知
だけど嘯く笑顔の裏に怒りがある
どうか無茶せぬよう
薬が切れたらすぐ回復できるよう徐々に魔力を集め

見覚えのある眷属
勿論初めて見たけれど
吸血鬼に壊された者は皆同じ顔をしている
もう此処で眠れるから…と、祈るような視線を向けて

視界が紅に染まる
なんで…
そんな大怪我、碌に戦える筈が無い
戦い様など彼は誰に見せるのも厭わぬだろう
私だから?
私が彼を傷付ける
何も見えないのに、それだけが…

薬が切れてくれば、身を軋ます違和を無視し
彼へ焔の蝶を
花に埋めていた黒剣で硝子を破れば身も花も彼の血に塗れ
先の比でなく濡れた頬は誤魔化せたろうか



●何かが、募るばかり
 まだその身に自由はなく、佐那・千之助(火輪・f00454)は口を開こうとしたのだけれども。
「言葉は必要? 今宵貴方は、身も心も私だけの……」
 芝居がかったクロト・ラトキエ(TTX・f00472)のセリフ。
 それを耳に、どうやらお喋りする気分ではないようで――と、千之助は微笑みを向けるだけ。
 クロトの心は、荒れていた。
(「千之助の、こんな箱など、今すぐ粉々にしてやりたいよ」)
 けれど、今はまだそれはできない。
 静かに訪れる――花嫁たち。
 その気配にクロトは深い溜息を落とし込む。
「なのに、全く不粋な事」
 ひたひた、足音だ。ゆっくりと扉を開いて現れたのは花嫁。ヴァンパイアの花嫁だ。
「死んでほしいの……箱の中のあなたに、同じになってもらうために。主様に、捧げるために……」
 誰が死ぬかと返して、クロトは千之助と花嫁の間に立って。
「主人に言っとけ。献上? ほざけ」
 いらだちを隠す事無く言い放つのだ。
「絶望? 弄ぶ? んなもん何一つ他者になど」
 手前じゃ棘は抜けない――刺さったそれはだれかれ構わず触れていいものではないのだから。
「お粗末過ぎ。付け入る余地は無いってな……言える口が残ってればだが」
 その様を千之助は見つめているだけだ。
 クロトの強さは百も承知。けれど――嘯く笑顔の裏に怒りがある。
 どうか無茶せぬよう、と千之助は心向ける。
 この身を阻害するものが消えたならすぐにでも回復できるように徐々に魔力を集めながら。
 そしてすっと、視線を――花嫁へと向ける。
 見覚えのある眷属。勿論、千之助は初めて見えた相手だ。
 けれど――知っている。
 吸血鬼に壊された者は皆同じ顔をしているのだ。
(「もう此処で眠れるから……」)
 祈るような視線を向ける。
 己を超えて向けられた視線をクロトは感じて――笑って、己の脇腹を斬り裂いた。
 どろり、落ちる血の赤を代償に。
「二つ、選択肢をあげる。――壊れるか。絶えるか」
 切れぬ血の絲で編んだ伸縮変幻自在の紅の布が箱へと被せられる。
「……見ないでいて」
 全部終わらせる、と祈りのように紡ぐクロト。
 視界が紅に染められた。最後に見えたは、クロトの脇腹から零れ落ちるもの。
「なんで……」
 そんな大怪我、碌に戦える筈が無いと千之助は息を呑む。
 戦い様など、クロトは誰に見せるのも厭わぬだろう。けれど、隠された。
(「――私だから?」)
 私が、彼を傷つける。何も見えないのに、それだけが……と千之助はクロトを想うのだ。
 この赤い布の向こう側で戦っている、その音は聞こえてくるのだ
 クロトは手早く失血するその個所を抑え。花嫁の挙動へと視線を向ける。
 すべてをもって動きを予想し、それをかわすのだ。
 花嫁の身が不意に、突然削られる。それは何かを成すための代償。前兆と視てクロトは振り下ろされる一撃をかわす。
 短刀でそれを受け流して――もう一方の手に持つ黒剣で狙うのは常に急所だ。
(「……但し頸なれば」)
 真っすぐであった黒剣がしなり、踊る。蛇腹剣へと姿を変えたそれは首を捕らえて巻き斬った。
 ――その命脈を、断つ。
 二つに分かれた、花嫁の頭と体。それは灰になって崩れ落ちていくのだ。
「暗器使いと謳えど、本来はこっち」
 剣士なのだと蛇腹剣振ればそれは元の形を得、鞘へと収まる。
「……見たからには、何一つ遺さない」
 と、灰となったその中にクロトは鍵を見つけた。
 ここにあるという事は、箱の鍵のはず。
 布を取り払えば、千之助は身を軋ます違和感を無視し、クロトへと優しい光と熱を宿した蝶を飛ばす。
 ああ、そんな傷をと――千之助は思うのだ。
 花に埋めていた黒剣をどうにか掴んでガラスを破る。
 零れ落ちるその花も、そして傍に崩れる千之助の身も、クロトの血に塗れるのだ。
 こんな傷を負ってと、心痛む。千之助の頬は、先の比ではなく濡れて。誤魔化せただろうかと、僅かに思うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
エンジさま(f06959)

ふう、無事に競り落とせましたね
エンジさまご無事ですか?…あ!お兄さまでした

さてと、ふふふ!良い眺めですねお兄さま。お可哀想に…!
開けるなんてとんでもない!それがお兄さまの棺になるのですから
あ、この紅茶美味しいですね

……許婚?お兄さまの浮気相手では?
いけないんだー賢い君に叱られてしまえ!

何で僕がアイツを守らなきゃならないんだ!
あ!何かニヤニヤしてる!ムカつく!
…え、爆発は流石にまずいのでは。ああもう!
箱を守るように覆いかぶさって

あー…、痛みを感じない質で良かったです
御転婆が過ぎますよレディ達、少し大人しくしていただけますか
損傷箇所から黄金色が立ちのぼる
夢の中にさようなら


エンジ・カラカ
ヨシュカ(f10678)
兄弟の演技をするヨー

アァ、箱の中は狭いなァ……。
賢い君と一緒で楽しいケド、狭すぎるなァ……。
おーい、弟クン。ヨシュカ!
開けろ。お兄様の命令だゾ。

弟クンはもてなされて、コッチは箱に詰められたまま!
なんてヤツなんだ。
優雅に紅茶を飲んでやがるー

アァ……知らないヤツ。
弟クンの許嫁?趣味イイネ。かーわいいネ。
賢い君の方がもっとイイ
ハァ?!浮気なんてしてないヨ
賢い君一筋ダヨー!

アーアー、お兄様はなーんにも出来ない
箱から出れない、カワイソウー
開けた箱が爆発したら二人とも仲良くサヨウナラだ。
なーんにも出来ないお兄様を助けてくれるよなァ

弟クン、今回もしっかり働いてくれヨ



●どちらが優位か
 エンジ・カラカ(六月・f06959)はこつこつ、箱を叩く。
「アァ、箱の中は狭いなァ……。賢い君と一緒で楽しいケド、狭すぎるなァ……」
「ふう、無事に競り落とせましたね」
 ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)はその手に、あたたかな紅茶注がれたカップを手に。
「おーい、弟クン。ヨシュカ!」
「エンジさまご無事ですか? ……あ! お兄さまでした」
「開けろ。お兄様の命令だゾ」
 そういう者の、ふふふ! とヨシュカは笑み深めるばかり。
「良い眺めですねお兄さま。お可哀想に……!」
 開けるなんてとんでもない! それがお兄さまの棺になるのですから、と言って。
「あ、この紅茶美味しいですね」
 美味しいひと時を楽しんでいるのだ。
「弟クンはもてなされて、コッチは箱に詰められたまま!」
 なんてヤツなんだ、とエンジは零す。
 優雅に紅茶を飲んでやがるーとじっとりとした視線を向けて。
 そんな兄弟の楽しい時間を過ごしていると――静かに部屋の扉があいた。
 二人の視線はそちらへ。そこにいるのはヴァンパイアの花嫁だ。
 真っ白なヴェールは血に塗れ、ドレスも汚れて敗れて、赤く染まっている。
「アァ……知らないヤツ。弟クンの許嫁?趣味イイネ。かーわいいネ」
 賢い君の方がもっとイイ、とエンジは紡ぐ。
 ヨシュカは首を少しだけ、傾げ。
「……許婚? お兄さまの浮気相手では? いけないんだー賢い君に叱られてしまえ!」
「ハァ?! 浮気なんてしてないヨ。賢い君一筋ダヨー!」
 と、はしゃいでいるとずるずる、大きな鎌を引きずりながらその花嫁はやってくる。
「主様のために、まず……あなた」
 箱の中のあなたのために、死んで頂戴と笑って迫る。
 ヨシュカはその鎌の一撃を椅子から飛びのいて交わした。
「アーアー、お兄様はなーんにも出来ない。箱から出れない、カワイソウー」
 と、本当にそう思っているとは思えない調子でエンジは紡ぐ。
「何で僕がアイツを守らなきゃならないんだ!」
 あ! 何かニヤニヤしてる! ムカつく! と声上げるヨシュカへとほらほら、ちゃんと見てとエンジは促すのだ。
「開けた箱が爆発したら二人とも仲良くサヨウナラだ。なーんにも出来ないお兄様を助けてくれるよなァ」
 弟クン、と笑いかける。その間にも花嫁は迫るのだ。
「ああ、避ける。だめよ、だめ。主様のために……ならないのなら」
 簡単にとらえることできないヨシュカにじれて、これは主様の害になると判断して飛び掛かる。
「……え、爆発は流石にまずいのでは。ああもう!」
「弟クン、今回もしっかり働いてくれヨ」
 箱を守るように覆いかぶさって、笑っているのが余計によくわかる。
 花嫁が自爆する。その衝撃をヨシュカは己の背に受けて、それに驚くものの痛みはなく。
「あー……、痛みを感じない質で良かったです」
 けれど、まだひとり。
「御転婆が過ぎますよレディ達、少し大人しくしていただけますか」
 痛みはないのだ。けれど、傷は負っている。
 ヨシュカは人ではなく自立機械人形。
 その、壊れてひび割れた損傷個所から黄金色が立ち上る。
「夢の中にさようなら」
 きっと今、ここにいるより良い夢ですよとヨシュカは笑って、また訪れた花嫁を封じるのだ。
 花嫁はやがて灰へと変わって、その中に鍵を見つける。
 それを目にしたエンジはだーしーて、と言うのだけれど。
 どうしましょうかと、ふふりとヨシュカは笑み向けるのだ。
 お兄さま、もっとちゃんとお願いして、なんて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
落ち着いて? 最初は舌を湿らせる程度でいいんだ
…ふふ、上手だね
一度身体が受け入れてしまえば後はどうってことないだろう?
(部屋の中には少年に水を飲ませようとしている猟兵の姿)
ふふ、盗み聞きとははしたないな

…戦いは恐ろしいかい?
ならば、今は目を瞑り、耳も塞いで構わない
が、現実から目を背けてはいけないよ

UCで敵を切りつけ、領主への忠誠心を力へと変える
ひたむきな感情は尊いものだが、それを害意として誰かに向けるのはよくない
それを人は盲信と呼ぶのだよ

…きみもそう
訳も分からずここに連れてこられたのではないかな
好奇心は罪ではないが、純粋さは時に自分を堕とす枷となる
どうか、きみは私のようにはならないでおくれ



●それは過去か、それとも
 落ち着いて? と優しく。
 セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は少年へと声を向けるのだ。
「最初は舌を湿らせる程度でいいんだ……ふふ、上手だね」
 一度身体が受け入れてしまえば後はどうってことないだろう? とセツナは笑いかける。
 少年の口許に水を運び――そのために、彼の箱のふたは外されていた。
 もっと欲しいと少年はねだる。けれど剣呑な視線をセツナは外へと向けた。
「ふふ、盗み聞きとははしたないな」
 そこにいるのは、ヴァンパイアの花嫁だ。
 さぁ、あなたも――そう思って、きたというのに。
「箱を……主様のものになるのに、あけたのね?」
 それはだめ、だめよと花嫁は怒りを見せるかのように震える。
「……戦いは恐ろしいかい?」
 セツナは、少年へと問いかける。少年は小さく、頷いた。
「ならば、今は目を瞑り、耳も塞いで構わない。が、現実から目を背けてはいけないよ」
 愛用の鎌『宵』をセツナは手にする。向かってくる花嫁。その身を刃が斬り裂いて――奪っていく。
「これで、あなたの罪は私のものだ」
 領主への忠誠心を。
「ひたむきな感情は尊いものだが、それを害意として誰かに向けるのはよくない」
 それを人は盲信と呼ぶのだよと手向けのように紡いで刃を躍らせるセツナ。
 花嫁のその胴体と首を切り離すのだ。そのつながりを断たれて、花嫁は灰となって消えていく。
「……きみもそう」
 けれど、セツナの向けた言葉は花嫁だけに向けたものではなかった。
 少年へと、セツナは向き直る。
「訳も分からずここに連れてこられたのではないかな」
 こくりと小さな頷き。それは悪ではない。けれども、身を亡ぼす危うさのあるものだ。
「好奇心は罪ではないが、純粋さは時に自分を堕とす枷となる」
 どうか、きみは私のようにはならないでおくれと紡いで。
 此処に居るんだよとセツナは紡ぐ。
 すべて終わったら、安全な場所まで連れていこうと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と
・アドリブ歓迎、流血負傷描写可

箱の中のヘルガに硝子越しの口付けを
これを二人の「最後の夜」になどしない
必ずお前を救い出す
反撃の好機が訪れるまで、どうか耐えてくれ

此度の黒幕、享楽のために記憶を奪い、俺たちの絆を引き裂こうとした嘗ての敵と同じ匂いがする
訪れた使者も、過去の犠牲者の成れの果てか
悍ましい残酷劇は、これで終わりにしてくれよう

俺の最大の弱点は恐らく「ヘルガを失うこと」
忘れるな、彼女のくれた温もりを、優しさを
この胸の「フェオの徴」と共に刻んだ誓いを!

呪詛と狂気に耐え、破魔の力を乗せた刃を叩き込む
自らの心も、命も捨てたお前たちに、俺は決して屈しない…!


ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と
・アドリブ歓迎

ヴォルフ、わたくしは大丈夫です
敵の狙いは恐らくあなた
どうか油断はなさらないで

体は動かせなくとも、箱から出られなくとも
この声さえあれば歌を紡ぐことは出来る
ヴォルフの心に寄り添うことは出来る
だから歌うの
世界を尊び、思いを紡ぎ、命の息吹を慈しむ歌を
祈りを、勇気を、優しさをこめて
絶望がヴォルフの心を支配しないように
互いの絆を見失わないように

わたくしは、あの花嫁と同じにはならない
ヴォルフの命も心も奪わせはしない
これ以上、悲劇を繰り返しはしない
なすすべもなく二人が悪意に壊されてゆく惨劇は、もう見たくないから……



●これは最後の夜ではなく
 硝子一枚なのだ。
 今ここは豪奢な部屋だ。けれどそれが例え薄汚れた部屋であったとしても、二人の行いはきっと変わらぬだろう。
 ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)はその、硝子越しの口づけをヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)へと捧げる。
「これを二人の『最後の夜』になどしない」
 必ずお前を救い出すとヴォルフガングは紡ぐ。反撃の好機が訪れるまで、どうか耐えてくれ、と。
 その言葉にヘルガは笑って見せるのだ。
「ヴォルフ、わたくしは大丈夫です」
 それよりも、あなたが心配と。
「敵の狙いは恐らくあなた。どうか油断はなさらないで」
 ヘルガの心配に、ヴォルフガングは頷く。
 此度の黒幕は――ヴォルフガングの心を逆撫でしていた。
 それは享楽のために記憶を奪い、ふたりの絆を引き裂こうとした嘗ての敵と同じ匂いがするからだ。
 敵に近づくほどに、その気配は強くなる。
 そしてひたり、と静かな足音。
 けれどその気配も異質であるのだから気付かないはずはないのだ。
「過去の犠牲者の成れの果て」
 ヴォルフガングは瞳細め、訪れた花嫁へと向き直る。
「悍ましい残酷劇は、これで終わりにしてくれよう」
 ヴォルフガングは剣を構える。
(「俺の最大の弱点は恐らく『ヘルガを失うこと』」)
 忘れるな、とヴォルフガングは己へと言葉向ける。
 彼女のくれた温もりを、優しさを、と。
「この胸の『フェオの徴』と共に刻んだ誓いを!」
 呪詛と狂気に耐え、破魔の力を乗せた刃を眼前へと詰める花嫁へと叩き込む。
 鈍い重さがそこにはあった。花嫁も簡単には倒されてやらないというように己の心を削って対する。
「自らの心も、命も捨てたお前たちに、俺は決して屈しない……!」
 その、ヴォルフガングが戦うさまを、ヘルガは見ているだけしかできない。
 体は動かせなくとも、箱から出られなくとも――この声さえあれば。
 声は。失われていたけれど少しずつ出るようになっていた。
(「ヴォルフの心に寄り添うことは出来る」)
 だから、歌うのだ。
 世界を尊び、思いを紡ぎ、命の息吹を慈しむ歌を。
(「」祈りを、勇気を、優しさをこめて。絶望がヴォルフの心を支配しないように」)
 互いの絆を見失わないように――ヴォルフガングのその耳に歌を届ける。
 花嫁との戦いで、わずかばかり削がれていった肉も元に戻るその力。
 ヘルガは思うのだ。
(「わたくしは、あの花嫁と同じにはならない」)
 ヴォルフの命も心も奪わせはしない、と。
(「これ以上、悲劇を繰り返しはしない――なすすべもなく二人が悪意に壊されてゆく惨劇は、もう見たくないから……」)
 繰り返されることの無いように、歌って。
 そしてその歌に応えるように、ヴォルフガングは花嫁を撃ち崩した。
 その身を灰として崩していく花嫁。灰の中にヴォルフガングは鍵を見つけた。
 それはヘルガを閉じ込めたあの箱の鍵だろう。
 おそらく、と鍵穴探し差し込めば、かちりと咬み合う音。
 二人を隔てていた硝子が無くなる。手を伸ばし、触れ合う――その幸せを得て。
 まだヘルガの身は万全ではない。ヴォルフガングは彼女を支えるように受け止めた。
 最後の夜から抜け出すべく、この居城の主の元へと二人の足は向く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・紅
ミラーさんかわゆき!
記念にスマホで撮りまくる
(呆れミラー

(ノック音
動かないでくださいね?死にますよ
棺なぞり動けるはずの彼女に忠告

ぅや、いらっしゃいです!
悲し?悔し?なら
ぜんぇぶ貴方ごと消したげますねっ

似た境遇の
否、気付けば己が手で家族を壊した娘は壊れた笑顔で優しく咲う

だからこそ、躊躇なく壊せるのだから
半身も又そう謂うモノなのだから

紅は朧へ

贈り物にャお返ししねェとなァ
溢れる刃は嵐の如く部屋ごと花嫁を斬り裂き血を啜る
ミラーだけ避けて
(動いたらなます斬りですね…

衣装を自身を斬り裂く刃も嗤いで受ける

堕ちた花嫁の愛も甘美でイイねェ
嘆きも絶望も嘗てのご馳走
殺人鬼に慈悲はなく利己的な愉しみの刃で只
最期を贈る



●贈り物は、
「ミラーさんかわゆき!」
 ぱしゃーぱしゃーとスマホを向けて、写真を撮りまくる朧・紅(朧と紅・f01176)。
 けれど箱の中のミラーナイトはあきれ顔だ。
 いっぱい撮れましたと紅はスマホの中身を確認してにこにこ。
 けれど、コンコンとノックの音が響けばその動きはぴたり、とまる。
「動かないでくださいね? 死にますよ」
 と、棺をなぞり朧は紡ぐ。
 それは忠告だった。動けるはずの彼女を、其処の中にとどめるための。
 訪れたヴァンパイアの花嫁へと、紅は。
「ぅや、いらっしゃいです!」
 ぱっと明るい声をむける。けれど、花嫁の声は陰鬱としたものだ。
 悲しみを、絶望を――そのために、あなたは死んでと。
「悲し? 悔し? なら、ぜんぇぶ貴方ごと消したげますねっ」
 似た境遇の――否、気付けば己が手で家族を壊した娘は壊れた笑顔で優しく咲う。
 だからこそ、躊躇なく壊せるのだから。
 半身も又そう謂うモノなのだから。
 紅は――朧へ。
 その様変わりは一瞬なのだ。
「贈り物にャお返ししねェとなァ」
 ギロチン刃が右へ左へ、嵐の如く荒れ狂う。
 花嫁を斬り裂くために、血を啜るために。
 けれどその刃はたったひとつ、ミラーナイトのいる箱だけは避けて傷つけないのだ。
 動いたらなます斬りですね……と、ミラーナイトもまた察して動かない。
 けれどその刃は、紅を、朧自身を裂けるという事は無く。
 衣装も、自分をも斬り裂く刃を朧は嗤って受けるのだ。
「堕ちた花嫁の愛も甘美でイイねェ」
 嘆きも絶望も嘗てのご馳走。
 殺人鬼に慈悲はなく利己的な愉しみの刃で只――最期を贈る。
 ヴァンパイアの花嫁の攻撃をギロチンの刃で叩き落として、斬り裂いていればその身は崩れて灰へと為る。
 斬り裂くものがなくなれば、やがて刃は収まっていくのだった。
 部屋に残るのは荒れた様相と無傷の箱。そして灰の中に鍵一つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
白露さん(f00355)と
…俺、おこっすから
勝手なことをした、と部屋に通された直後はむくれているが、敵が来ると直ぐに戦闘態勢に

難しいことは分からないけど、一個だけわかるっすよ
失くしたから同じに、ってやったら何も残らない…それは、さむいだけっすよ

UCで刻印を虎の手足に、笹鉄を蜘蛛の肢へと変化させ
脚で敵を串刺しにし、動きを封じてから大食いで喰い尽くそうと

標的はこちらだと理解しつつも、必要以上に白露さんをかばい

もしも、なんて無いっす、起こさないっす
だからそんな未来なんて考えられない
悪いモノは俺が全部全部喰ってやるっすから!

彼が流した涙の意味もその気持ちも理解することは出来ずに

アドリブ歓迎
花嫁はお任せ


皆城・白露
未不二(f04322)と(アドリブ歓迎)
呻き声程度は出るが、会話はできない

棺の中で目を閉じて
いつか(そこまで遠くはないのだろう)オレが本当に逝く時も
彼はこんな風に、見送ってくれるだろうか
悲しんでくれたり、するだろうか

時々目を開けて、未不二の様子を見る
(…なんだよ、怒ってるのか)

目の前で戦闘が始まっても身体が動かず
未不二が傷つくのを見ているしかない事で動揺し始める
(見送って欲しい、覚えてて欲しい、オレは自分の事ばかりだ)
(…結局、「平気だから」って、オレは楽な方を取っただけじゃないのか?)

「…みず、は」
(こんなオレを、そんなに傷ついてまで、守ろうとしないでくれ)
表情は動かせないが、涙だけが流れる



●まだ、どちらもその意味を知らず
「……俺、おこっすから」
 未不二・蛟羽(花散らで・f04322)はむすくれていた。
 勝手なことをした、と皆城・白露(モノクローム・f00355)に背中を向けて。
 白露は、うめき声程度は出るのだが声が生み出せない。
 仕方ない、瞳を閉じるばかりだ。
 いつか――そこまで遠くはないのだろう。
(「オレが本当に逝く時も、彼はこんな風に、見送ってくれるだろうか。悲しんでくれたり、するだろうか」)
 時折、瞳をあける。まだ背中を向けたまま――そこでやっと、白露は気付いた。
(「……なんだよ、怒ってるのか」)
 けれど敵の、ヴァンパイアの花嫁の訪れがあれば蛟羽はすぐに臨戦態勢をとる。
 きぃ、と小さな音を立てて扉が開いていく。
 そこにいるのは、さびた剣を持った花嫁がひとり。
 その表情は枯れ果てている。花嫁は、蛟羽へも白露へも別段感情をむけているわけではない。
 ただ、主のためにここにきたというような様子。
 だから主のために、あなたは死んでと蛟羽へと告げている。私と同じに、箱のあなたがなるためにと。
「難しいことは分からないけど、一個だけわかるっすよ」
 失くしたから同じに、ってやったら何も残らない……それは、さむいだけっすよ、と蛟羽は言葉向けるのだ。
 蛟羽は刻印を虎の手足へと乗せる。そして笹鉄――その血をもとにして生み出される、変幻自在のワイヤーと赤い鉤爪を躍らせた。
 向かってくる花嫁。
 それは己の身を顧みることなく飛び掛かってくる。
 その脚で敵を串刺しに。動きを封じ、蛟羽は喰いつくそうとするのだ。
 標的は自分であると蛟羽も理解していた。けれど、必要以上に白露をかばいにいってしまう。
 戦いは始まっているのに体が動かない侭の白露。
(「見送って欲しい、覚えてて欲しい、オレは自分の事ばかりだ」)
 蛟羽が傷ついていく。その様を見ているしかないということは、白露の心を揺らし始めた。
(「……結局、『平気だから』って、オレは楽な方を取っただけじゃないのか?」)
 このままでいいのか――そう思ったとき、喉が震えた。
「……みず、は」
 こんなオレを、そんなに傷ついてまで、守ろうとしないでくれ、と白露は思うのだ。
 知らず、表情は動かせないというのに涙だけが流れていく。
「もしも、なんて無いっす、起こさないっす」
 だからそんな未来なんて考えられないと蛟羽は紡ぐのだ。
 白露が、後ろでどんな顔をしているかは――今、わからないけれど。
「悪いモノは俺が全部全部喰ってやるっすから!」
 目の前の花嫁を倒して、蛟羽は振り返る。
 すると白露が泣いている。その様に瞬いて――けれど、その流した意味も、その気持ちも理解することはできないままだ。
 どう、声をかければいいのだろうか。
 蛟羽は倒した花嫁の灰から鍵を見つけて拾い上げる。白露を箱から出すために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と
……ついオレのものとか言っちゃったけど
アル聞いてたよな……うう、嫌われてないといいけど…
部屋の中でアルから距離をとった隅っこで自己嫌悪しつつ
アルの様子をチラチラ

アルの言葉に一瞬理解出来ずキョトンとして
「いいの?アルをオレのものにしても」
アルに近づいて箱に手を付きながら
「ハハッ、そんなら尚更…オレの宝は誰にもやらねぇ」

ハナヨメだかなんだか知らねぇが
纏めて捻り潰してやるよ
野生の勘で敵の攻撃を躱しつつ
UC【鬼神の一撃】で攻撃して敵の攻撃パターンを読み
怪力で纏めてなぎ払って吹き飛ばす

アンタらの大事なもんはもう戻らねぇが…
せめて同じとこに逝けるといいな


アルデルク・イドルド
ディルク(f27280)と
身体はまだあまり動かないが声なら何とか出せるようにはなったか?
…ディルクにあんな風に言われるとは思ってもいなかったと言うか普段子供っぽい印象だけで見ていたからか少し驚いてしまったが…。
ディルク。俺が欲しいんなら手に入れてみな。
俺達は海賊だぜ?欲しいものは奪ってでも手に入れろ。
UC【眠れる力を呼び起こせ!】

「俺を手に入れてみな」

さて、俺に出来るのはここまでだ。
まったく自分が…ディルにとってのお宝だなんてな。…きっと本心なんだろう…嘘をついたり自分を偽ったりできるやつじゃないからな。
あとは俺が覚悟を決めねーとな。



●それはただの箱ではなく
 ちらり、と視線を向けてまた外す。
 部屋の中、隅っこでディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)は小さくなって座っていた。
(「……ついオレのものとか言っちゃったけど。アル聞いてたよな……うう、嫌われてないといいけど……」)
 チラチラ、ディルクの視線はいったりきたり。
 その視線に気づきながら、アルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)は己の身体を顧みる。
 身体はまだあまり動かないが、声なら何とか出せそうだ。
(「……ディルクにあんな風に言われるとは思ってもいなかったと言うか普段子供っぽい印象だけで見ていたからか少し驚いてしまったが……」)
 そう思いながら、ディルク、と声かける。
 びくりとディルクの肩が震えたのを見て、
アルデルクは困ったように、小さく笑った。
「俺が欲しいんなら手に入れてみな」
 その言葉が一瞬、理解できず。ディルクはキョトンとして。
 けれどそろそろと箱へと近づいてくる。
「いいの? アルをオレのものにしても」
「俺達は海賊だぜ? 欲しいものは奪ってでも手に入れろ」
 その箱に、手をついて。アルデルクの言葉にディルクは笑い零した。
「ハハッ、そんなら尚更……オレの宝は誰にもやらねぇ」
 そうだった、己は海賊。アルデルクもそうだ。
 アルデルクはその言葉を再度、紡ぐ。
「俺を手に入れてみな」
 それは力ある言葉。ディルクはああ、と大きく頷く。
 そして視線を扉へと向けるのだ。
 ヴァンパイアの眷属、その花嫁の姿が見えたのだから。
「ハナヨメだかなんだか知らねぇが、纏めて捻り潰してやるよ」
 いつもよりも力が満ちている。それはアルデルクの言葉によるところもあった。
「さて、俺に出来るのはここまでだ」
 と、アルデルクは零す。
「まったく自分が……ディルにとってのお宝だなんてな」
 それを嘘だとは思えなかった。
(「……きっと本心なんだろう……嘘をついたり自分を偽ったりできるやつじゃないからな」)
 ふ、と息を吐く。
「あとは俺が覚悟を決めねーとな」
 それはこの戦いの間に定まるだろうか。アルデルクは呟いて――ディルクへと目を向けた。
 もう戦いは始まっている。
 ディルクは野生の勘をもって攻撃をかわしていた。だが花嫁もその力が突出しているという事は内容で均衡の場面。
 花嫁が寄生生物の力をもって己を強化して襲い掛かるのを紙一重でよけて。
 ディルクはその拳に破壊のオーラを纏わせる。
 一撃、その身に打ち込めば――なるほど、こう動くのかとその先のパターンも見えてくるのだ。
 なら、こうしようと怪力をもってなぎ払えばその身は思ったより軽く、吹き飛ばされる。
 呻きながら、花嫁は再び立ち上がって。
「箱のあなたの……大切なあなたが、死ねば」
 箱のあなたは、わたしとおなじ。
 そんなつぶやきをディルクは耳にする。
 この花嫁もかつては捧げられた者だったことがその言葉から見て取れた。
「アンタらの大事なもんはもう戻らねぇが……せめて同じとこに逝けるといいな」
 それくらいは、思ってもいいだろうか。
 放った拳の一撃で花嫁は灰となって崩れていく。
 そして、その中に一つ輝く違う色。
 お宝かな、なんて拾い上げたのは鍵だった。
 お宝ではなく、宝箱の鍵だと笑って、ディルクはアルデルクの収まるそれを開くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
【狐扇】

まだ体は思うように動かないけれど、でも話ができる程度には薬がきれてきて。
私が舞台にあげられたとき、駆け上がってこられた時は少し驚きましたけど…。
でも、好奇の目から隠すようにして、誰にも渡さないと仰って下さって嬉しかった。
語さんがいるから怖くなかったと伝えたかったのに―。

好奇の目から守って下さったように、今度は花嫁から私を守って下さるのですね。
私を傷つけまいと守ってくださるのは嬉しい。けれど、本当は。
私は語さんに守られるのではなく、隣で共に戦いたい。
動けない体が、箱から出られないのがもどかしい。

けれど口が動くのなら、声がでるのなら。
祝詞を唱えて貴方を穢れから守る(オーラ)で包ませて。


落浜・語
【狐扇】二人

あーほんっとに。どうしてこう、悪趣味なのが多いかなぁ。
俺は、狐珀の事が一番だから。人に渡すつもりもないし、こう言う形で見せたくもない。
こんな状況でなければ、狐珀の事ずっと見てられるのに。
大丈夫。狐珀のことは、絶対守るよ

奏剣でもって攻撃は受け流しつつ、狐珀のことを【かばう】事ができる位置からは動かないし、狐珀に攻撃は当てさせない。
深相円環を【投擲】、【念動力】で操作し【フェイント】も入れながら【マヒ攻撃】を
花嫁の動きが止まったら、ループタイに触れてUC『紫紺の防禦』を使用
舞う花弁で視界を覆って、花嫁だけを燃やしてしまおう。
もういい加減、終わるべきだ。送り火なら焚いてやる、とっとと帰れ



●その隣に、後ろではなくて
 体はまだ思う様に動かなくて。
 けれどこの口は動くと吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は紡ぐ。
 話しができる程度には薬が切れてきたようだ。
 狐珀の前には、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)がいる。
 語ははーと、深い溜息を零していた。
「あーほんっとに。どうしてこう、悪趣味なのが多いかなぁ」
 俺は、狐珀の事が一番だから。人に渡すつもりもないし、こう言う形で見せたくもないと語は小声で零す。
(「こんな状況でなければ、狐珀の事ずっと見てられるのに」)
 けれどその想いは、今は秘めて。
 あの時――舞台に上げられた時。駆けあがってきてくれた語。
(「そのことには少し驚きましたけど……」)
 でも、と薄っすらと狐珀は笑み浮かべる。こんな状況で、とは思うのだ。
 思っていた。それでも、込みあがる気持ちは抑えられるものではないのだ。
(「好奇の目から隠すようにして、誰にも渡さないと仰って下さって嬉しかった」)
 語さんがいるから怖くなかった――そのことを伝えたい。伝えようとしたのに。
 現れた花嫁たちはその時間を奪うのだ。
 静かに開かれた扉から生を奪われたもの達の闇色のような瞳が覗く。
 語を、そして狐珀を見て――まずはあなた、と語へと得物を向けた。
「あなたが死ねば、箱のあなたは――悲しむでしょう? わたしたちと、同じように」
 そうしてやっと主様に使えるにふさわしくなるの、と何の色も含まずに紡ぐのだ。
 けれど、そうされるつもりもない。させてやるつもりもないのだ。
 語はちらりと、狐珀へと視線向けて。
「大丈夫。狐珀のことは、絶対守るよ」
 奏剣をその手に。
(「好奇の目から守って下さったように、今度は花嫁から私を守って下さるのですね」)
 私を傷つけまいと守ってくださるのは嬉しい――けれど、本当は。
 その先の言葉を今は紡げない。
 狐珀は心の内で思うのだ。
(「私は語さんに守られるのではなく、隣で共に戦いたい」)
 動けない体が、箱から出られないのがもどかしくてたまらないのだ。
 狐珀は語のその背中を見つめるばかり。
 けれど、この口は動く。
 声がでるのなら、せめて。
 狐珀は祝詞を唱える。貴方を穢れから守るもので包ませて、と。
 今、隣に立ってもきっと迷惑をかけるだけ。ならできることを、ここでと狐珀は紡ぐのだ。
 そして、語は己の身を包むものに瞬いた。けれどそれが狐珀からのものだとすぐにわかる。
 奏剣でもって攻撃を受け流しつつ、狐珀の方へと行かせないようにしていたのだ。
 狐珀に攻撃は当てさせないと、花嫁との間に入って。
 梨の花とペリドットの力を宿したチャクラムを放ち、語は念動力で操作する。あっちへ、こっちへと敵の動きを惑わせるように。その刃に麻痺を乗せて。
 そしてその動きが止まったなら、語の指は守護の花を飾ったループタイへと触れる。
 それは狐珀が語へと贈ったものだ。
 幸運を運ぶ青い石と無事を願う緑の石が飾られたそれは、花弁を放ち語を守るようにひらひらと花嫁の視界を覆って、遮って。
 そしてそれが花嫁に触れれば炎となって燃え始める。
「もういい加減、終わるべきだ。送り火なら焚いてやる、とっとと帰れ」
 此処にいるべきではないのだと、語は思うのだ。
 その姿を狐珀も見つめていて。やがて花嫁は灰となって――語はその中から鍵を見つける。
 それは狐珀を箱より解き放つためのものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(窓辺から星がよく見える一室。そこに棺に詰められた相棒と二人でいる。)

(ザザッ)
――窮屈ではないか?面倒な役割を任せてすまないな。

話せるようにはなったか、ロク?
そうか。
嗚呼、そうだな。紫苑の香りだ。

――どうしたロク……ああ、いや そうか 来客か。

生憎と今は相棒と話しているのだ。余計な茶々は遠慮願おうか。

(ザザッ)
「剣狼」アクティベート。
邪がくまなく根付いたその身体――破邪の一閃にて跡形もなく消し去ろう。
(破邪×ランスチャージ)

――ああ、そうだ。帰り着いたら肉を食べよう。
何がいいか今から考えておくといい。(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス
※詳細お任せです

ん。
(箱の中から錆びた声
頷くくらいは、出来るようになった)
……だいじょぶ。
(少しぼんやりするけれど
「囮」なら、己の方が向いているのだから)

……いい匂いがする。
花の。
なあ、おれは、
(幸せそうにみえるかい)
……あとでで、いいや。

(箱の外で戦いが起きても、
どんな恐ろしいものが現れても、
キミはおれより強いから
ただ、この耳障りな声がキミに届くなら)
……あとでお肉食べないと。なあ。
おれたちは、まだ。
……話したいことが、たくさんあるから。
(約束くらいは、足しになるだろうか)



●その声で紡ぐ、約束
 窓辺から星が良く見える部屋だった。
 その窓辺に――棺。そして向かい合うようにジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)とロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は過ごしていた。
 ジャガーノートの擦れた雑音混じりの声が、ロクの耳を訪れる。
「――窮屈ではないか?面倒な役割を任せてすまないな」
 話せるようにはなったか、ロク? とジャガーノートはゆっくりと問いかける。
 ロクは身じろいで、そして喉を震わせる。
「ん」
 零れた声は――錆びた声だった。頷くくらいは、出来るようになったとロクは思う。
「……だいじょぶ」
「そうか」
 その声にもう一度頷く。
(「少しぼんやりするけれど『囮』なら、己の方が向いているのだから」)
 それに己を包む香りは、薄まっている。
 けれど、この緑の、花の香りは今もロクの鼻も、そして心も擽っていた。
「……いい匂いがする。花の」
「嗚呼、そうだな。紫苑の香りだ」
 一拍置いて――なあ、おれは、とロクは紡いだ。
(「幸せそうにみえるかい」)
 けれど続きは、紡がず。
 言わないのか、とジャガーノートは僅かに首を傾げて。
「――どうしたロク……ああ、いや そうか 来客か」
「……あとでで、いいや」
 ロクの視線は、ほらとジャガーノートの後ろを示した。
 薄く空いた扉から、するりと細く白い手が伸びて――花嫁が現れる。
「あるじさまのために……しんで……あるじさまのために……」
 同じ言葉を何度も繰り返す。
「生憎と今は相棒と話しているのだ。余計な茶々は遠慮願おうか」
 花嫁とロクの間にジャガーノートは立つ。
 そして目覚めを促すのだ。天体の獣の殻鋼で造られし破邪の機咢の目覚めを。
「『剣狼』アクティベート」
 哀色の牙と字す騎士、其れが在ったという証。ジャガーノートの纏うそれは気配を変えて。
「邪がくまなく根付いたその身体――破邪の一閃にて跡形もなく消し去ろう」
 もう人に戻ることはないのだろう。
 その魔を破る一撃。射程を伸ばし花嫁を貫いて壁際へと留める。
 どんな恐ろしいものが現れても、キミはおれより強いから、とロクは思うのだ。
(「ただ、この耳障りな声がキミに届くなら」)
 それは力になるかも、しれないとロクは思うのだ。
「……あとでお肉食べないと。なあ」
 おれたちは、まだ。
「……話したいことが、たくさんあるから」
 共に肩を並べて戦うことはできないけれど――それでもできることはある。
 約束くらいは、足しになるだろかと、想いを向けて。
 その声はジャガーノートにちゃんと届いていた。
「――ああ、そうだ。帰り着いたら肉を食べよう」
 何がいいか今から考えておくといいと、ノイズ混じりの声はどこか心地よさを感じさせるものだ。
 そのためにも、とジャガーノートは花嫁へと向き直る。
 己が壊れるわけにはいかない。そして壊れるつもりも、ロクを花嫁の同胞にさせる気もない。
 早く眠れとかけたもう一撃が、花嫁の身を崩していく。
 その体は灰となって――最後に残るのは鍵だ。
 それはロクの、緑の棺を開けるためのもの。生と死の箱が、生に向かうべく開かれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

貴殿が体験した嘗ての出来事は、僕たちには、僕には想像しかつきません
ですが同じ境遇になれと、かれを失えと、そう言われて従えますか……!

叫ぶも檻のような箱は頑丈で、出るなと強く言い含められたことも記憶に残り唇を噛んで踏みとどまりましょう
僕を守るために戦い、そして傷ついてゆく唯一無二の愛おしいかれ
いつもは頼もしく、力強く見えるはずのその背が朱に染まってゆく

ああ、ああ、ザッフィーロ……!
きみの背を、きみを守れるのは僕だけなのに……!
僕のために盾となり戦うかれの背を、その身を守れぬことは身を裂かれるように心が痛む
見ていることしかできぬというのは、これほどまでに辛いのか


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

…宵を置いて逝け、と?
何を馬鹿な事を…。…朽ちる迄共に在るとそう誓ったのでな
抵抗させて貰うぞと
左手に光の盾を展開しつつ【狼達の饗宴】にて6体の大きな狼を生じさせれば敵が部屋の奥…宵の元に近づかぬ様狼達で囲み阻まんと試みながら『怪力』任せの『メイス』を振るおう
宵にはこの場で危害を加えぬだろうとは理解はせども敵の攻撃があたらぬか心配になれば
自然と背後に向かわぬよう『かば』い攻撃を受ける事になるやもしれん
だが、痛みの中宵の声を聞けば口元に笑みを浮かべつつ敵にメイスを振るい『カウンター』
そして生じさせていた狼達を向けようと試みよう
…俺が約束を違えた事はなかろう
だから…なんだ、心配するな



●共に朽ちるまで
 花嫁の、訪れ。
 そして向けられた言葉に逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は箱の中より、静かに紡ぐ。
「貴殿が体験した嘗ての出来事は、僕たちには、僕には想像しかつきません」
 けれどその声は、徐々に激しくなっていくのだ。
「ですが同じ境遇になれと、かれを失えと、そう言われて従えますか……!」
 そんなことは――従える筈などない。
 それはザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)も、同じなのだ。
 ザッフィーロは死んで、とお願いをされた。けれどそのような願いを、もちろんこの男は叶えることはないのだ。
「……宵を置いて逝け、と?」
 何を馬鹿な事を……と、吐き捨てるように。けれどその声色には、苛立ちも含まれていた。
「……朽ちる迄共に在るとそう誓ったのでな」
 そしてすぅ、と瞳細め――抵抗させてもらうぞ、とザッフィーロは左手に光の盾を現した。
 そして六体の、大きな狼を生じさせる。それはザッフィーロの身の穢れが滲んだもの。それは血肉を喰らわんとするものだ。
 宵には近づけさせぬよう、狼達で囲み阻まんとする。
「しねないの? だめよ、それは」
 私が怒られてしまう、などと花嫁は言う。
 そしてそうであるのならば――命をとして、殺さなければというのだ。
 花嫁が、その手にある武器を持ってザッフィーロへと迫る。
 宵にはこの場で危害を加えぬだろうとは理解はせども、花嫁の攻撃が当たらないか心配してしまう。
 背後に向かわぬように、ザッフィーロはその攻撃を受ける。
 叫ぶ、どうにか動くその手で檻のような箱を掴む。揺らしても全く微動だにせぬ頑丈さ。
 ここから出ることはできない。
 唇を噛んで、宵はそこへと踏みとどまる。それはザッフィーロに出るなと強く言い含められたこともあるからだ。
(「僕を守るために戦い、そして傷ついてゆく唯一無二の愛おしいかれ」)
 いつもは頼もしく、力強く見えるはずのその背が――朱に染まってゆく。
 ひゅ、と喉が鳴る。呼吸が薄くなるのはその様を目にした生だろう。
「ああ、ああ、ザッフィーロ……!」
 きみの背を、きみを守れるのは僕だけなのに……!
 ぎゅう、と掴んだ檻。指は白むほどに力が込められていた。握っていたならば――それは血が滲んでいたかもしれない。
 己の為に盾となり戦う。その背を、その身を守れぬことは宵にとって身を裂かれるように心が痛む事だった。
「見ていることしかできぬというのは、」
 これほどまでに辛いのか――傍らに立てぬ。その背を守れぬ。
 そのことの重さを、宵は改めて知ることになるのだ。
 かれの名を呼んで――そして祈ることしかできぬ時も、あるのだと。
 ザッフィーロは、宵の声を聴いて口元に笑みを浮かべていた。
 迫る花嫁へと向けて、思うままの乗せられるだけの力全てをのせてメイスを奮う。
 懐に迫る、その瞬間花嫁の身の一部が爆ぜた。腕を吹き飛ばし、それでザッフィーロを殺そうとしているのだ。
 だが爆ぜるのが、直撃する前にメイスで払い飛ばす。
 しかしそのあおりはメイスふるう腕を傷つけて、肉をもっていきぼたぼたと血が落ちていくのだ。
 それでもまだ、動こうとする花嫁へとザッフィーロは視線一つ。
 狼たちが、とびかかりその身を喰らいつくす。すると花嫁は灰となり――それはさすがに食べられぬと、狼たちは顔をあげるのだ。
 しかしそのうちの一体が鈍く光るものを見つけ、ザッフィーロの元へと持ってくる。
 それは鍵だ。それを受け取り、傷ついた身でもってザッフィーロは宵の元へと向かう。
「……俺が約束を違えた事はなかろう。だから……なんだ、心配するな」
 鍵を、開ける。まずその手に触れた。
 こんなになってと宵は己の身が汚れる事等構わず触れる。
 箱の中と、外と。いつもと違う状況ではあった。
 けれどやはり。
「あれだな、箱の中の宵も美しく良いが」
 やはりこうして触れ合える方が良いとザッフィーロは微笑んだ。
 宵は瞬いて、柔らかに表情変えていく。それはもちろん、そうですと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラッド・ブラック
サンf01974
粗末で薄暗い部屋、棺の中のサンへ

サン、大丈夫か
済まない、お前にこんな役をやらせてしまって

嗚呼、離すものか
俺は絶対にお前を独りに等しない
そう誓ったからな


こんな時間にこんな場所を訪ねてくるのは碌な者ではないだろう
心配するなと告げ扉へ

花嫁の初撃を巨大な腕『貪婪の腕』で武器受け

悪いがサンを渡すつもりも、俺が死んでやるつもりも無い
無敵の【盲目の殻】で花嫁を覆い
話があるなら聞いてやろう

…歪められてしまったのだな

そのようなもので俺は貫けん
そして残念だが、俺は彼奴のように優しい手段を持ち合わせてはいない

UCを解き
そのままタール体にて花嫁を覆い
体に傷を付けぬよう生命力吸収
怨むなら怨め

…仇は取ろう


サン・ダイヤモンド
ブラッド(f01805)

ふふふ、大丈夫
まだ、うまく力は入らないけれど

……僕、嬉しかった
ブラッドが僕のこと、『俺のものだ』って
『誰にも渡さない』って、言ってくれて

漆黒の棺の中、彼の愛の彩宿す瞳を愛おしく見詰め微笑んで

あなたのものになれて嬉しい、本当に
ずっと、ずっと、離れたくない
放さないで


ブラッド…!
彼は強い、僕は彼を信じてる
だけど、

あの子も被害者だ
嗚呼、これ以上傷付けたくないと彼の心が泣いている

傲慢でも構わない
僕なら彼女を導ける、傷付けずに済む
僕がやれば
――これ以上彼が傷付かずに済むのに

なのに癒しも歌も、絞り出しても出てこない
心が痛くて悔しくて涙溢れる

……うん
こんなこと、もうさせない
終わらせよう



●共に痛むこころ
 粗末で薄暗い部屋だった。
 ひとつ、揺れるランプだけがこの部屋を薄っすらと照らしているだけ。
 その部屋の中で、ブラッド・ブラック(LUKE・f01805)はサン・ダイヤモンド(apostata・f01974)の入る棺の傍で、膝をつき見上げるのだ。
「サン、大丈夫か」
 済まない、お前にこんな役をやらせてしまってとうなだれる様はどこか可愛らしくも見える。
 その様にううん、とサンは柔らかに紡ぐのだ。
「ふふふ、大丈夫。まだ、うまく力は入らないけれど」
 それはそれでまた心配でもある。
 けれどブラッドはサンの瞳が己だけを映している様に、そして彼が何かを紡ごうとしている気配に声向けるのをやめて待った。
 サンは――ゆっくりと、その想いを口にしていく。
「……僕、嬉しかった」
 ブラッドが僕のこと、『俺のものだ』って――『誰にも渡さない』って、言ってくれて。
 その瞳がいとおしいとサンは見詰めて微笑む。
 漆黒の棺の中、愛の彩宿す瞳を。
 その瞳がまた柔らかに、一層愛の彩を滲ませる。
「あなたのものになれて嬉しい、本当に」
 ずっと、ずっと、離れたくないとサンは心の底から零すのだ。
 ずっと共にあれたら――それが何よりの。
 だから、言うのだ。
「放さないで」
「嗚呼、離すものか」
 俺は絶対にお前を独りに等しないとブラッドは言う。
 そう誓ったからなと続けて。
 その言葉も、またサンの心に響くのだ。
 二人の間に、二人だけの時間が流れる――その心地よさ。
 けれどそれがふつりと、途切れる。
 ブラッドはすっと、視線を扉へと向けた。
「こんな時間にこんな場所を訪ねてくるのは碌な者ではないだろう」
 立ち上がり、心配するなと告げて向かう。
「ブラッド……!」
 ブラッドは強い。それを一番よく知っているのはサンだろう。
(「僕は彼を信じてる。だけど、」)
 開かれていく扉。その先に居る花嫁は――まだ少女だ。
「主様のために……主様のものになって……」
 胡乱気な瞳だ。
 花嫁はブラッドの姿を見止めると、今でも薄かったというのにさらに表情が削り落とされた。
 代わりに得る、その身に合わぬ力。小さなナイフを持って突進してくるそれを、巨大な腕――貪婪の腕でブラッドはいなした。
「悪いがサンを渡すつもりも、俺が死んでやるつもりも無い」
 花嫁を、蕩けるように姿を変えたブラッドの身が覆う。
「話があるなら聞いてやろう」
 花嫁の動きをとどめる。そのナイフを、己を包むブラッドの身へと少女は突き立てるようにざくざくと動かしていた。
 その口から零れるのは――主様への服従。
「しんで、主様のために、もっと花嫁、ふやすために」
「……歪められてしまったのだな」
 どうしてそうなったか――それは想像に容易く。
 わずかに心を痛むものもあるのだ。
 けれど、少女はブラッドにとって一番に据えるものではない。
「そのようなもので俺は貫けん」
 そして残念だが、とブラッドはちらりとサンを見た。
 俺は彼奴のように優しい手段を持ち合わせてはいないのだと。
 サンは、その視線の意味を察してしまった。
 あの子も被害者だとサンは思う。
 そして――わかるのだ。
(「嗚呼、これ以上傷付けたくないと彼の心が泣いている」)
 傲慢でも構わない――僕なら彼女を導ける、傷付けずに済む。
 僕がやれば、と僅かにサンの唇は動いたと云うのに音にはならない。
(「僕がやれば――これ以上彼が傷付かずに済むのに」)
 なのに、なのに癒しも歌も、絞り出しても出てこないのだ。
 この身が動けば、そして声がもっと出て歌えれば――そう思うけれど、身体は動かないのだ。
 心が痛い。悔しくて、サンの瞳から涙溢れる。
 ほろほろと、それは輝く宝石のように。
 ブラッドは花嫁を、そのままタールの身体にて覆う。
 その体は傷つけぬように彼女の生命力を奪っていくのだ。
 包んだその身の動きが弱弱しくなっていく。
「怨むなら怨め」
 命を吸い上げて、終わりを与えるなど――それは目に見えぬ傷をブラッド自身がブラッドに与えるような。
 そしてそれを感じてしまうのだろうか。サンはそっと瞳伏せて最後の一粒の涙を零す。
 少女の動きが止まり、その身は灰のようにさらりと崩れていった。
 その中に、灰ではないものを感じてブラッドは人の形をとると拾い上げる。
 鈍い黒色の鍵だった。これに対するものは――そこにある。
「……仇は取ろう」
 棺開かれて、ブラッドが手を伸ばす。その手を借りて、サンも共に立つのだ。
「……うん。こんなこと、もうさせない」
 終わらせようと、紡いで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エミール・シュテルン
【水魚】
目を開いた姿にホッと息をつき
硝子の棺に手を当てたレディに合わせるように触れ
安心できるよう穏やかな口調で
「レディ、絶対に貴女をお守りします」

ノックの音に扉へ視線を向けると花嫁の姿が…

「きっと貴女も…。ですが、申し訳ありません。
私は、レディを悲しませるわけにはいかないのです」
助けられるなら助けて差し上げたい
けれど、どちらかしか取れないなら、私はレディを選びます

戦闘は未だ不得手なので…お願い、力を貸して?
ライオンライド使用し焔麗を構え【破魔】【精神攻撃】乗せ振るい
「せめて、これ以上の苦痛に苛まれないように…」

花嫁の攻撃を受けても苦痛の声は堪え
【残像】で惑わせつつ
「情けない姿は見せられません」


マリアドール・シュシュ
【水魚】

絢爛な照明
華奢で気品のある部屋
肖像画あり
黄色のカランコエ似の枯れた花が花瓶にある
壊れた蓄音機から流れる曲は物悲しく(曲名お任せ

薬の効果が薄れ
目を開ける

エミール…ありがとう
信じていたわ

嬉々な笑み浮かべ
硝子の棺に手を当て
ノックの音に胸騒ぎ
大きな鉈を引き摺り微睡む様な表情の血塗れの花嫁の少女を眺め
エミールの真摯な言葉に心打たれ
少女への感情はずっと憶えてられずとも哀しむ

祈りの詩(うた)を謳う
少女の心に浄化の華を添え
戦闘で傷つくエミールに悲痛の声

いやよ
あなたが傷つくのを見てるだけだなんて
マリアはいやよ!
マリアだって戦えるわ
お願い
早くここから出して頂戴!

硝子の棺が震え罅が入る
カランコエ似の花が咲く



●花が、咲く
 その部屋はとても豪奢な部屋だった。
 絢爛な照明、いくつも灯され部屋は煌々と。豪奢で気品のある部屋には、肖像画も飾られている。
 花が美しく咲き誇っていれば――とても似合いだろう。
 けれど花瓶には、色あせた黄色の、カランコエに似た花が数本差されているだけ。
 そして壊れて欠けた蓄音機から流れる曲は物悲し響くだけだ。
 この曲は何だったかとマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は思うが記憶の端にも引っかからない。
 けれどそれが、覚醒の切掛けになる。
 目を開けば――明るく眩しい。マリアドールの瞳は細められる。
 その様子に、ホッと息をついたのはエミール・シュテルン(一途な・f11025)だ。
 よかった、とその傍に一歩近づく。
「エミール……ありがとう」
 マリアドールはゆっくりと紡ぐ。信じていたわ、と擦れた声で。
 嬉々といった笑み浮かべ、そっと身体を動かす。まだ重さはあるが動けないことは無さそうだ。
 硝子の棺に手を当て、その冷たさを感じることもできる。
 その手に合わせるようにエミールもその場所に手を。そして安心できるよう、穏やかな声色で紡ぐ。
「レディ、絶対に貴女をお守りします」
 けれど――静かに。
 扉をノックする音。
 マリアドールの心はかき乱される。胸騒ぎしか、しないのだ。
 エミールもそちらへと、視線を向ける。
 その扉の向こうから現れたのは、大きな鉈を引きずりながら、微睡むような表情の、血まみれの少女。
 その服は花嫁衣裳のようだ。
 その姿を痛ましそうにエミールは見詰めて。
「きっと貴女も……。ですが、申し訳ありません」
 私は、レディを悲しませるわけにはいかないのですとエミールは少女へと対する。
 助けられるなら助けて差し上げたい――けれど。
「どちらかしか取れないなら、私はレディを選びます」
 その、エミールの向ける真摯な言葉にマリアドールは心打たれる。
 少女へ抱く感情。それをずっと憶えていられないとしても、今ここで哀しいと抱くのは本物だ。
 戦いは未だ不得手。
「……お願い、力を貸して?」
 だからエミールは力を借りる。黄金の獅子と共に、金の時計細工が印象的な深紅の魔鍵を構えて。
 それは心を、切るためのものだ。
「せめて、これ以上の苦痛に苛まれないように……」
 ふふ、と対する少女が笑う。その身の寄生生物が蠢いて、力を貸し与える代わりにぼたぼたと一層の血を流すことになろうとも。
 一気に距離をつめ、その鉈を奮う。
 エミールはそれを魔鍵で受け止めていなした。
 獅子もその動きに合わせて翻弄するように動く。
 できることはあるのだろうかとマリアドールは考える。
 そして、あるのだ。
 祈りの詩(うた)を謳うことができる。
 血塗れの少女。その心に浄化の華を添えられるように。
 けれど、傷つくエミールの姿にマリアドールの心は揺れる。
「いやよ……」
 あなたが傷つくのを見てるだけだなんて――その心は不安に満ちて。
「マリアはいやよ! マリアだって戦えるわ」
 お願い、早くここから出して頂戴!
 そう言って硝子の棺を叩くけれど、冷たく硬い感触があるだけ。
 その声を背中に受けて、エミールは苦痛の声を堪える。
 いくつか己の姿を残しながら向かっていくのだ。
「情けない姿は見せられません」
 終わりにしましょうと、その懐に踏み込んで魔鍵を振るう。
 少女は膝をついて、その身を灰としていくのだ。
 けれど、彼が傷ついていることには変わりない。
 マリアドールを閉じ込める硝子の棺が震え、罅が入る。
 その罅は――花のよう。カランコエ似の花が咲いていく。
 けれど灰となった少女の躯よりエミールは鍵を見つけ、それをもってマリアドールの元へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき
ずんびたちは還った。
持ってきた野菜が腐っていた事がショックだったため。
作る物には一生懸命なお百姓さんだから。一生終わってるが。

箱の中からUCを発動。

花嫁が扉を開ければそこは潮風薫る街だった。

【WIZ】
自身の入った箱は出口の所に設置。
街を抜ける花嫁達には拷問官達による攻撃。
他猟兵のフォロー。
過去から咎人を閉じ込め禊いできたこの区画は自爆テロの対策もされている。
消火設備や、防爆壁など。
街の様式はダークセイヴァー。
オブリビオンになってから咎の無い花嫁は出口まで到達できる。

その場合は、咎を犯さないように説得。
駄目な場合は、防疫として禊潰す。

野菜が腐るほど悪い空気を血錆臭い海の空気に変える。



●潮風薫る
 夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)の前にずんびたちはいない。
 ずんびたちは還ったのだ。
 それは持ってきた野菜が腐っていたことがショックだったから。
 作る物には一生懸命なお百姓さんだから。一生終わってるがとみさきは溜息をつく。
 けれど、これから訪れがあることはわかっている。
「郷愁よ、あの塔を再び。窓から見えたあの高き塔を。潮騒よ、あの薫りを再び。潮風に混ざる咎の薫りを。麗しき故郷よ、忘却より光を灯せ」
 みさきは己の領域をくみ上げる。
 潮風薫る街のを。
 その部屋を訪れた花嫁は知らぬ場所に一瞬、足を止める。
 けれど――どこかにきっといる、と歩み始める。
 ここに箱が――箱に入った、私と同じになるものがいるはずと花嫁はふらふらと。
 そして動くものに釣られてそちらへ。
 けれどそこにいるのは拷問官たちだ。花嫁へと攻撃を向け、その身を打ち崩す。
 その気配をみさきは感じていた。
 ここは、過去から咎人を閉じ込め禊いできた。
 自爆への対策も、消火設備や防爆壁などでされている。
 オブリビオンになってから咎の無い花嫁は出口まで到達できる――けれど、そんな花嫁はいないのだ。
 もうきっと、誰かを殺めているのだろうから。
 咎を犯さないように説得できればよいのにとみさきは思う。
 けれどそうできる花嫁はどこにもいなかった。
 ヴァンパイアの花嫁となって――手を汚さないでいるなんてできなかったのだろう。
 ああ、とみさきは思う。
 空気の匂いがかわっていくと。
 野菜が腐るほど悪い空気――それを、血錆臭い海の空気に変えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
コノf03130と

拗ね拗ね箱の中
真っ先に動くようになったのは…
おみみぺたんっと垂れ
しっぽびたんびたん!

声は出ず、もふっと埋まる
きいて、なかた
嘘でも演技でも、ちょっとくらい…
楽しみに、してた、のに…
普通に、競り落とすとか、ど、なの
あんな高額…そう、すごい、どよめく程の…
コノ、俺の為に、あんな大金…?
おみみぴんっと立ち
しっぽふさふさふぁたふぁた
ちらっとコノ見れば
見透かされたよな言葉
でも、そか…良かた
ちょと安心


コノ強いから大丈夫と特等席で観戦気分
そわそわり
じっと合図待ち
今だ!と飛び出し
コノに、手、出さないで!
雷火発動、尻尾に雷撃纏わせ【粉砕】叩き込む



コノに飛びつきハグ
コノの、いけず。ばか
ぐしぐし抗議


コノハ・ライゼ
たぬちゃん・f03797と
花嫁、部屋お任せ


不満尻尾に満足気
言っとくケド金は後で回収すンよ
ま、イイから気が済むまで寝てて
慈しむ様に箱の辺を撫で押せば開くよう細工
しぃ、と唇に充てた指でキスを投げ

箱の隅に腰掛けたまま花嫁出迎え
にこり笑うなり踏み込み柘榴で一閃

属性…速度強化とか苦手ねぇ
*見切りが間に合わなけりゃ*オーラ防御で弾き*激痛耐性で凌ぐわ
そんな温い手じゃイイ贈り物にならなくてよ

傷受け流す血を柘榴に与え【紅牙】発動
牙に*マヒ攻撃乗せ喰らいつきすかさず*2回攻撃で*傷口抉って*捕食
負傷分も*生命力吸収すんね
ほうら可愛いコ、アンタはドッチを応援する?

ハグには超うんざり顔で
ケドいい見世物だったデショ?



●尻尾は揺れる
 箱の中で拗ね拗ねと。
 その身で真っ先に動くようになったのは――ぺたんっと垂れた耳。時折ぴくぴくと動くが基本はぺたん、だ。
 そしてびたんびたんと動く尻尾。それはちょっと浮いてびたん、大きくびたんと様々な動きを見せていた。
 声はまだ出ず、もふっと埋まった火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は不機嫌だ。
 その不満尻尾に満足気にコノハ・ライゼ(空々・f03130)は笑って、その動きを目で追っていた。
 むすくれたさつまはちょっとだけ口を開いて、試してみる。
「きいて、なかた」
 音になった声は、思いのほかむーんと想いを滲ませて。
(「嘘でも演技でも、ちょっとくらい……楽しみに、してた、のに……」)
 びたんびたんと尻尾の動きは乱れることなく不満を訴えている。
「普通に、競り落とすとか、ど、なの」
 そう言ってさつまは思い出すのだ。摘まれていった金貨のことを。
「あんな高額……そう、すごい、どよめく程の……コノ、俺の為に、あんな大金……?」
 気づいてぺたんとなっていたお耳がぴぴんと立つ。
 そしてその尻尾がふぁたふぁた、嬉し気に揺れていた。
 ちらっ。
 コノハを見れば――口許には笑み浮かべ。
「言っとくケド金は後で回収すンよ」
「でも、そか……良かた」
 ちょと安心、とさつまはほっとするのだ。
「ま、イイから気が済むまで寝てて」
 コノハは、さつまが入っている箱を慈しむ様に、その辺を撫でていく。
 その動きに、さつまは気付いた。細工してる、と。
 コノハはしぃ、と唇に充てた指でキス一つ投げる。 そして箱の隅に腰掛けて、すっと視線を扉へと向けた。
 誰かがいる気配。きぃ、と小さな音たてて扉が開くのだ。
 そこにいたのは、鋭い切れ味と視るだけでわかる曲刀をもった女が一人。
 けれど生きてはいない。すでにヴァンパイアの眷属となってしまったものなのだから。
「あるじさまのために……贈り物、を」
 コノハはいらっしゃい、とにこり笑って――踏み込む。
 その手にもった柘榴が描く一閃の軌跡。それは女の身の上を走った。
 コノハは強いことをさつまは知っている。
 だから大丈夫と特等席で観戦気分だ。
 女が緩やかに扱う曲刀。その体の一部が突如消えて、血が噴き出す。けれど、素早さは増すのだ。
 反応速度が上がった事にコノハは一歩二歩と後ろに下がって。
 けれど女は詰めてくるのだ。見切る、それが紙一重で間に合って、けれどもう一方の手に女は曲刀投げ渡して再び切りつけてくる。その刃がコノハの身の上走って傷を生んで。
 けれどその痛みはやり過ごすことは醜聞にできる。
「そんな温い手じゃイイ贈り物にならなくてよ」
 流れる血は、柘榴に与えて。それは牙状の、殺戮捕食形態へと様変わりする。
 その牙に麻痺を乗せ喰らいつく。そしてそれは一度ではなく、傷口抉るようにさらに深く。
 女に与えられた傷、それを塞ぐように命をも吸い上げて。
 その戦いを見つつそわ、そわとさつまの尻尾は動いていた。
 じっと待っているのだ。コノハからの合図を。
「ほうら可愛いコ、アンタはドッチを応援する?」
 それを受けて――今だ! と。
「コノに、手、出さないで!」
 尻尾全体に文様が拡がる。ばちり、黒き雷が小さく爆ぜ――とび出しさつまはその尻尾を叩きこんだ。
 コノハの攻撃が募り、そこへさつまからの攻撃を受けて女は灰となって消えていく。
 終わり、と。くるっとコノハの方を向いてさつまは、ばっと腕広げて飛びついた。
 その腕はコノハの身へと回される。ハグ~? とそれを超うんざり顔でコノハはされるがまま。さつまはぎゅっと抱き着いてぐしぐしと抗議を開始する。
「コノの、いけず。ばか」
 そのいいように、コノハは、ふは、と息吐いて笑い零す。
 その言い方が、さつまらしすぎて。
 ケドいい見世物だったデショ? とコノハは笑って問いかけた。
 その視界の端に、さつまの尻尾がゆらゆら、動くのを映しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
箱入りメアリと縋りつくアリス
言葉を交わす必要はないかしら
だって、考えている事はお互いわかるもの

やがて届く贈り物は武器というには悪趣味で
嬲り殺して見せつける、そういう趣向の槌や鋸?
アリスにひどい事しないでと泣き叫んでみせても
無力なメアリとアリスの【演技】
だけれど最期の瞬間隠し持つ【物を隠す】
刃でするりと【部位破壊】心臓を一突きに

抵抗儚く差し違えたアリス
それを見ていただけのメアリ
そういう構図を作り出す

最期の瞬間
あとはお願いねとアリスは笑う
任せておいて、とメアリも笑う

死に至る痛みも苦しみも
我が身の事のように感じられるから
この苦痛に懸けて
メアリが必ず殺すから
その瞬間を待ちわびて
今はただじっと待つばかり



●ただその一瞬のためだけに
 メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は箱の中。
 その箱の傍には、ひとり。
 箱入りメアリと縋りつくアリス――言葉を交わす必要はないかしらとメアリーは思うのだ。
(「だって、考えている事はお互いわかるもの」)
 五感と思考を共有する。
 それがふたりの在り方なのだから。
 いつこの部屋にくるのかしら、まだかしら。
 どんな贈り物なのか、と思いめぐらせていると控えめなノックの音。
 そして返事を待たず、その扉が開かれた。
 ずるりずるりとたくさんの得物をもって現れたのはヴァンパイアの花嫁だ。
「箱の貴方、同じになるの……わたしと」
 だから、あなたは死んでと――アリスへと、その槌が振り下ろされた。
 それは逃げるために一歩引いたアリスの足を潰していく。
「逃げる……ならまずは、足」
 なんて、鋸を持ち出して花嫁はアリスへと向ける。
「アリスにひどい事しないで!」
 と、メアリーは泣き叫ぶ。
 無力なメアリとアリス――ふたりの、演技。
 どこまで騙されてくれるかしら、そもそも騙されていると思ってないのでは、と思考を交わし合う。
 アリスも、花嫁の成すことに泣いて叫んで――最後に、これでいい? と首を傾げる花嫁は剣を握っていた。
 それを振り下ろす、けれど最後の瞬間隔離持っていた刃を――その心臓へとアリスは向けた。
 一突きだ。そこを穿たれればただですむわけがない。
 突然の反撃に花嫁は瞳見開くが、それでももった剣は止まらない。
 その刃が、アリスを突き刺していく。
 けれど差し違えたのだ。
 抵抗儚く差し違えたアリスと、それを見ていただけのメアリ。
 ――あとはお願いね。
 最後の瞬間、アリスは笑った。
 任せておいて、とメアリも笑う。
 その痛みは――今はもうメアリのもの。
 死に至る痛みも苦しみも、我が身の事のように感じられるから――この苦痛に懸けて、とメアリは思う。
(「メアリが必ず殺すから、その瞬間を待ちわびて」)
 今はただじっと待つばかり――瞳を伏せて、待つばかり。
 そしてひたひた、足音が一つ近づいてくる。
 別の花嫁がこの惨状に気づいて、そしてメアリーを見て――主様に教えなきゃと、その足音はまた遠ざかっていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
オズさんと

僕にとって、部屋で添う棺の貴方は
余計に恒と掛け離れた物に思えて

最後の、と送り出しておいて
棺から出す事も許されないとは
全くもって、身勝手な話だよ

運ばれた時、何処も打つけてない?
御二人共、窮屈な思いはしてない?
叶うなら、紅茶を共としたいのに
来訪者は憩う時を妨げる心算らしい

境遇は哀れむが、悪いね
僕は騎士の代わりに剣を取ろう
歌わんとする姿を見たのなら
胸は熱く、陽の灯る様で
どんな形であれ、力と成り得て
剣を疑う事も無くなるものだ

棺を庇い乍ら《オーラ防御》
彼の前で傷付かぬ様に心掛け
《属性攻撃:風》混ぜて、薙いで
体勢崩した隙に、武器落とし
一気に踏み込み、花嫁に剣先を

其方の招待状は御断り、と云う訳さ


オズ・ケストナー
ライラックと

ライラのやさしい声にうれしくなる

へーきだよ
シュネーもきっと、だいじょうぶ
いたいところはないよ

か細い声と笑顔で頷いて
ライラと話してたら声がでるようになってきたみたい
ありがとう

くさりの音
そっか、きみもこんなふうに
――ううん、ライラは傷つけさせない
おくりものなんていらないよ

動けないことをもどかしく思うけれど
でもね、わたしは剣をもてなくたって
歌うことはできる

効果はないかもしれないけれど
ただ見てるだけなんてできなくて
ありったけで歌う蒲公英の歌
勇気の花として寄り添えるように

わたしはね、帰ったらライラとお茶会をするんだよ
とっておきのおかしをよういするんだ
だから、「いいはなよめ」になんてならないよ



●お茶会を――帰ったら
 まだ、誰の訪れもない。それまでに時間はあるようだ。
 なら、とライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)とオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はしばしの間言葉を交わす。
 ライラックにとって――ここで添う棺のオズは、余計に恒と掛け離れた物に思えて。
「最後の、と送り出しておいて、棺から出す事も許されないとは」
 全くもって、身勝手な話だよとライラックは肩を竦めて見せる。
 そしてその身を心配するのだ。
「運ばれた時、何処も打つけてない? 御二人共、窮屈な思いはしてない?」
 その言葉にふふ、とくすぐったそうにオズは笑って。
「へーきだよ。シュネーもきっと、だいじょうぶ」
 いたいところはないよ、というオズにライラックもほっとする。
 オズの声はか細い。けれど笑顔は何時もオズが浮かべるそれだ。
「ライラと話してたら声がでるようになってきたみたい。ありがとう」
 たどたどしかった声は調子を徐々に取り戻して、ライラックもその声の心地に微笑むのだ。
「叶うなら、紅茶を共としたいのに」
 そんな箱に入れられていなければ――きっと楽しいひと時にもなりえただろうに。
 けれど――ふたりの、その耳に届く音があった。
 ライラックは視線を、扉へと向ける。
「来訪者は憩う時を妨げる心算らしい」
 相手をしなければいけないのは、仕方ない事。
 ゆっくりと開く扉の先にはヴァンパイアの花嫁がいた。
 じゃら、じゃら。歩けば鎖の音がする。
 くさりの音、とオズは呟く。その音を拾ったのか、花嫁はふわりと笑って。
「箱の中のあなたが、わたしになるあなた。あなたは、これから贈り物に、なるの」
 わたしが、そうするのと――彼女の手には斧が握られていた。
「そっか、きみもこんなふうに」
 その先を、オズは紡がなかった。
 それは今から、彼女が為そうとしていることはオズにとって受け入れられるものではないから。
「――ううん、ライラは傷つけさせない。おくりものなんていらないよ」
 動けないことをもどかしく思う。けれど、オズの視線はそれに悲嘆するわけでなく前を向くのだ。
「わたしは剣をもてなくたって――歌うことはできる」
 それが、今オズが持てる剣でもあるのだ。
 オズの持つ歌の力が、ライラックに届くかどうかはわからない。
 けれど、ただ見ているだけなんてできない。
 その言葉にライラックは笑み浮かべ、そして花嫁とオズの間に立つ。
「境遇は哀れむが、悪いね」
 響く――オズの、歌。
 声はまだ少し擦れていた。けれど、ありったけで歌う蒲公英の歌は、勇気の花として寄り添えるように。 僕は騎士の代わりに剣を取ろう、とライラックはその手に想像する。
 無敵の怪物をも貫くヴォーパルの剣――その重みが掌に心地よいものとなりここにあることを主張する。
 そしてオズが歌わんとする姿を目にし、胸は熱く、陽の灯る様。
 その歌が届く。どんな形であれ、力と成り得て剣を疑う事も無くなるものだと。
 握った剣の重さを感じながら、ライラックはオズの前で傷つかぬように心がける。
 オーラを纏い、守りを固め、風も纏うのだ。
 風を混ぜて、薙いで。
 花嫁が振りかぶり、振り下ろす。その斧を受け止めた剣は軋むことも無く簡単にはじき返した。
 僅かに、その細い剣で弾かれると思っていなかった花嫁は驚いている様子。
 それを好機とみてライラックは踏み込んだ。
 剣先が花嫁の首元を掠めていく。
「其方の招待状は御断り、と云う訳さ」
 踊る切っ先が、花嫁の身を斬り裂いて――灰へと還していく。
 その様を、オズは見詰めて。
「わたしはね、帰ったらライラとお茶会をするんだよ。とっておきのおかしをよういするんだ」
 それは楽しみとライラックも微かに微笑む。
「だから、『いいはなよめ』になんてならないよ」
 きっと、この居城にいるものは同じように誰も、花嫁になんて思わないだろう。
 ライラックは果てた花嫁の灰の中に異質なものを見つけた。それに近づけば――鍵と判る。
 それは箱と揃いの鍵。それを見たオズは、ライラ、あけてあけて、とお願いを。
 もちろん、と笑って――かちゃり。鍵の開く音が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
箱の中の彼女に
「名も知らない君よ。
おかげで此処に来る事ができたよ。ありがとう。」
「そして、これから此処は戦場になるだろう。
ゆっくり話をする時間もないけど。君の事は守ると約束しよう。」

部屋の外を警戒し、扉がノックされたら武器を構え。
扉が開くか開かないかのうちに呪装銃「カオスエンペラー」で
外のものに向けて銃撃。【2回攻撃】でナイトクロウを使用。
窓を破って外に飛び出す。
大烏には女性の入った箱を掴ませ空を飛ばせて女性を守り。
黒狼と自身は花嫁を迎撃。
自分は障壁を発生させ身を守ると共に
自爆を警戒し花嫁から距離を取り、
狼に花嫁を攻撃させると同時に
カオスエンペラーの弾丸を黒い霊気で強化し攻撃、
花嫁を仕留める。



●守ると約束を
 瞳を僅かに細めて、フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は箱の中の彼女へと声を向ける。
「名も知らない君よ。おかげで此処に来る事ができたよ。ありがとう」
 君がいなければ此処へはこれなかったと、フォルクは礼を告げるのだ。
 けれど箱の中の娘は、いいえと首を振る。
 結局は――と。この後に訪れる未来を察して悲嘆しているのだろう。
 それは、わかる。だからフォルクは事実を告げるのみ。
「そして、これから此処は戦場になるだろう」
 その言葉に彼女はやっぱりというように瞳を伏せる。 
 けれどフォルクは言葉続けるのだ。
「ゆっくり話をする時間もないけど。君の事は守ると約束しよう」
 その言葉を向けると同時に扉がノックされた。
 コンコン、とその音はやけによく響く。
 その音にフォルクはすぐさま呪装銃『カオスエンペラー』を構えた。
 ゆっくりと――扉が開いていく。それが開ききる前に銃撃を。
「冥空を覆う黒翼、煉獄を駆る呪われし爪。斬り裂き咬み砕け。常世の闇を纏い、振う我に従い望むままに蹂躙せよ。その飢えた牙を満たす迄」
 そして続けて、もう一撃。
 フォルクはその身を死霊吸収体に変え、纏う黒い霊気と志を告げる大烏、そして冥府の黒狼と共に。
 突然の攻撃に、ヴァンパイアの花嫁は反応できない。
 その身をただ打ち抜かれ――バランスを崩し、膝をつく。
 フォルクは大烏には箱を掴ませ彼女を守るように。
 そして黒狼と自身は花嫁を迎え撃つべく動く。
 初弾のあたりが良かったのか――花嫁は動けないようだ。
 その様子にフォルクは黒狼へと視線向ける。黒狼は一気に距離を詰めその爪を、牙を花嫁へと突き立てた。
 そして再び、フォルクはその銃を向けるのだ。
 弾丸を黒い霊気で強化して、放つ――その瞬間に黒狼は離れる。
 それは、花嫁の眉間を爆ぜるように砕いて。その身を灰へと還していった。
 そしてその中にひとつ、鍵を見つける。それは箱を開けるためのものだ。
 今、此処で開けていいものか――まだ戦いは続くことはわかっている。
 フォルクはその鍵を拾い上げて、暫し思案する。
 そして箱の中の彼女は、ヴァンパイアから己を守ってくれたフォルクを見詰めていた。
 それは本当に守ってくれたという驚きと共に、感謝の気持ちをもって。

大成功 🔵​🔵​🔵​

地籠・凌牙
【陵也(f27047)と。アドリブ諸々歓迎。再送です】
箱に入るのを選んだのは俺だが……
あいつが一人で戦ってるのを見なきゃいけねえのは、やっぱりわかってても歯痒い気持ちになるな。
薬の効果はいつ切れるんだろう、完全に切れなくても声を張れるぐらいの力が戻ってくればな……
戦うことはできねえが支援はできないワケじゃねえだろ?

あの時とは違う。
陵也が俺を庇って心を喰われた時と同じことになんてさせない――いや、ならない。
大事な家族だからこそ、互いを信じてるからこそ今こうしてる。
でもな、こういう時だからこそあいつに声をかけてやんなきゃなんねえんだよ!

「陵也!絶対負けんじゃねえぞ!!」

――ってな!


地籠・陵也
【凌牙(f26317)と。アドリブ諸々歓迎。再送です】
……この花嫁は悲しい顔をしている。
いや、そういう風に見えるのは俺だけかもしれないけど。
でもきっと、終わらせてやった方が彼女にとっては幸せだろうというのはわかる。

攻撃は【武器受け】【オーラ防御】で凌ぎながら【指定UC】を【高速詠唱】で展開して動きを封じよう。
防戦一方と見せかけておけばきっと油断する。

「――大丈夫だ凌牙、俺は絶対に負けないから」

UCで動きを封じれたら首の辺りを【部位破壊】で攻撃する。
あんたもずっとそうし続けて疲れただろう。
悲劇は俺たちが終わらせるから、ゆっくり休んでくれ……って声をかけてやりたい。それぐらいはいいよな?



●今は、この声を
 ふたり、同じ部屋にて過ごす時間は――沈黙の時間。
 けれどそれぞれに色々と考えていたのだ。
 地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)の姿を、じっと見て――そして視線を外す。
(「箱に入るのを選んだのは俺だが……」)
あいつが一人で戦ってるのを見なきゃいけねえのは、やっぱりわかってても歯痒い気持ちになるなと、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は唸っていた。
 まだ、身体の動きは鈍い。
 薬の効果はいつ切れるんだろうと凌牙は己の手を握って開いてを繰り返していた。
(「完全に切れなくても声を張れるぐらいの力が戻ってくればな……」)
 喉へと凌牙は手を伸ばす。その動きも緩慢で、喉に触れた指は震えているような気がした。
 声はでるだろうか、と紡ごうとする。
 ため息のような音でもいい、何でもいい。
 ひとつ、発することができれば切掛けになる気がしていたのだ。
(「戦うことはできねえが支援はできないワケじゃねえだろ?」)
 言葉向ける事ができれば、必ず陵也の力になるはずなのだ。
 そして陵也も、時折向けられている視線には気づいていた。
 一体何を、とは思うがそれは問わず。
 それは警戒を、扉の方へ向けていたからということもある。
 陵也はちらりと扉を見詰めていた。するとこんこん、と控えめなノックの音がして――扉が、開かれた。
 そこにはふらふらと、同じくらいの年かさの娘がひとり。だが、その手には剣を、そして表情は嫌な笑みを浮かべていた。
 だというのに――陵也は、そうは思わなかったのだ。
「……この花嫁は悲しい顔をしている」
 いや、そういう風に見えるのは俺だけかもしれないけど――その笑みは無理やり作っているように。いや、作られているようにも見えたのだ。
(「でもきっと、終わらせてやった方が彼女にとっては幸せだろうというのはわかる」)
 ヴァンパイアの花嫁だ。
 もう人の枠からははみ出してしまっているが、望んでそうなったのか。いや、そうではないだろうと陵也は思う。
 娘が、距離を詰めてくる。真直ぐに剣を、突き立てるように。
 それをかわす。纏うオーラが僅かに行く先をずらして、それを目にしながら陵也は唱えていた。
「術式展開――」
 魔法陣をもって冷気を放つ。それがもたらすのは凍結だ。
 花嫁の足を撫で、動きを一瞬押しとどめる。
 けれど、防戦一方と見せかけるのだ。
 戦う、怪我をする。
 己を守っているのもわかるが、それで全てどうにかできることはないのだ。
 その姿に僅かに凌牙は焦りを感じていた。けれど、違うと首を振る。
 あの時とは、違う。
(「陵也が俺を庇って心を喰われた時と同じことになんてさせない――いや、ならない」)
 大事な家族だからこそ、互いを信じてるからこそ今こうしてると凌牙は思うのだ。
 でも、だからこそ――
(「でもな、こういう時だからこそあいつに声をかけてやんなきゃなんねえんだよ!」)
 声よ、出ろと凌牙は思う。息を吸って、音にして陵也に、伝えるだけ。
 簡単なことだと。
 そして。
「陵也! 絶対負けんじゃねえぞ!!」
「――大丈夫だ凌牙、俺は絶対に負けないから」
 冷気は、ずっと零れていた。
 陵也の向けたそれは花嫁の身を少しずつ凍らせて、鈍らせて――今、首にまで達していた。
 そして動きが止まる一瞬を陵也は見つけその手を首へ向ける。
「あんたもずっとそうし続けて疲れただろう」
 悲劇は俺たちが終わらせるから、ゆっくり休んでくれ、と――花嫁へと言葉を向ける陵也。
 花嫁の首に罅が入り、砕ける。
 そしてそれは全身へと広がり――爆ぜるように砕け、灰になっていく。
(「これぐらいはいいよな?」)
 望んでこうなったのではないはず。花嫁へと陵也は小さく言葉向けていた。
 そして花嫁であった灰の中に鍵を見つける。
 箱の、鍵だ。
「あ、鍵か?」
「今開ける」
 頼む、と凌牙は言う。その手は先程よりも随分、力が入るようになっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
箱をコンコンとノックしたら、アーシェがそっとボクに反応してくれた気がして。
不思議だね、遠くから見てた時よりもずっとずっと綺麗に見えるよ。
…心配しないで、大丈夫だよ。
笑顔で行ったら安心してくれるかな?

わかってる、きっとこれから起きそうな事も、アーシェと一緒に戦えないことも。

もしもなんて、そんな日は来ないなんて意地張って否定してたけど…
この御守りを使う日が来ちゃったね。

アメジストの護剣を握りしめて、現れた花嫁さんを向かい討つよ。
接近戦に持ち込まれたらこれで対応できるように。
強く強く、負けない心で立ち向かう。

UC【玩具の行進】を使用。
兵隊さんたち、今日はいつもよりもボクをいっぱい沢山手伝ってね…っ!



●ひとりだけれど、そうではなく
 コンコン、と箱をノックする。
 瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)がそうするのは、アーシェがそっと反応してくれた気がするからだ。
「不思議だね、遠くから見てた時よりもずっとずっと綺麗に見えるよ」
 今、アーシェの入った箱はカデルの腕の中にあった。
 それを開くことはできないけれど、傍にいて抱くことはできる。
「……心配しないで、大丈夫だよ」
 カデルは笑顔を、アーシェへと向ける。
 そうすれば安心してくれるような気がして。
 カデルは瞬いて――わかってる、と紡ぐ。
 きっとこれから起きそうなことも――そして、アーシェと一緒に戦えないことも。
 もしもなんて。
 そんな日は来ないなんて意地張って否定してたけど……と、カデルは瞳伏せる。
 そしてきゅっと、その手に握ったものがあった。
「この御守りを使う日が来ちゃったね」
 それはアメジストの護剣。握りしめ、アーシェを傍にあったテーブルの上へ。
 そうしたのは巻き込まぬ為だ。
 部屋の扉が開くのに気づいたから。
 そこにいたのはひとりの少女。自分よりも少し、幼いくらいかもしれない。
 けれど、槍をもってすぐさまカデルへと向かってくる。
「!」
 その槍の先を、護剣でカデルは弾いた。
 反応は、できる。強く強く、負けない心をもって向かい合うのだ。
「兵隊さんたち、ボクのお仕事手伝って!」
 その声に応えるようにおもちゃの兵隊さん人形がカデルの周りに現れた。
 数を増やしていくそれに、花嫁はどこから攻撃をすればと視線を向けて困っている様。
「兵隊さんたち、今日はいつもよりもボクをいっぱい沢山手伝ってね……っ!」
 一撃かけて、おもちゃの兵隊は消えていく。
 けれどそれも、幾つも重ねたならば力になるのだ。
 花嫁が槍を振るのをかわしながら踏み込んで、カデルは兵隊たちと共に攻撃をかけ続け――やがてダメージ募り、花嫁は灰となる。
 その中にきらりと輝く鍵を見つけて、カデルは拾い上げた。
 そして、これはきっととアーシェへと駆け寄るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
千鶴(f00683)と

箱の中の君は現実味がないくらいに綺麗
隔てた一枚がこんなにも遠くて冷たい
早くちーくんの温もりを感じたいよ

密やかな足音
ちーくん、ぼくの事で傷付かなくていいからね

好きな人の為なら痛みすらあまい
傷だって気にならない
ぼくは全然平気なのに、優しいんだから

名前を呼ばれた気がして振り返る
んに…やっぱり傷付けちゃったね
不思議とちーくんが隣に居てくれる気がする
見えない指先に後押しされたみたい
だいじょーぶ、笑顔で応えるよ

哀しい花嫁さん
自分の体を傷付けなくていいんだよ

攻撃を無かった事にしよう
そんな旦那さんは忘れて、ぼくのものになってよ
ぼくが満たすから
空っぽの君に優しい子守唄を
甘いさよならをあげる


宵鍔・千鶴
ティア(f26360)と

飾られたままの自身には
豪奢な部屋すら演出の様で
冷えた硝子など自由になれば
今直ぐに壊せるのに

ぞくりと、背筋が凍る
足音に金属音、現れるは悲しい花嫁
鈍く光る其の手の切っ先は彼女の方へと
向けるのか
やめろ、やめてくれ
俺は、また、何も出来ないまま
失うのか
足元が崩れ行く虚無感、
躰は動かず心臓は異常な位五月蝿い
――何故俺の声は出ないの
嫌だよ、きみが傷つくのは
ティア、ティー、
大丈夫と囁く彼女の名を必死に呼んで藻掻いて
其の叫びは届いていたかなんて最早解らないけど

贈り物?嗤わせるなよ
悪趣味な游びは終いにしよう
俺は大事なものは、絶対に、手放さない
ぴくりと、動いた指先に願いを懸けるように



●ふたりの間にあるもの
 何もかも、豪奢な。贅を尽くし貴人をもてなすための部屋を見る宵鍔・千鶴(nyx・f00683)の瞳はそれに何も得るものがないという様。
 飾られたままの自分にはこの豪奢な部屋すら演出の様。
 そしてこの、目の前の一枚。冷えた硝子など自由になれば今直ぐ壊せるのに、まだ体は言うことをきいてくれないのだ。
 箱の中の君は現実味がないくらいに綺麗、とティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)は手を伸ばす。
 ひんやり、触れた指先が告げる冷たさ。
 隔てた一枚がこんなにも遠くて冷たいとティアは零す。
「早くちーくんの温もりを感じたいよ」
 そう紡いだティアの表情がわずかに変わる。
 小さな音をティアの耳が拾ったのだ。
 それは密やかな足音――これからやってくるものの事をティアは思い浮かべ。
「ちーくん、ぼくの事で傷付かなくていいからね」
 好きな人の為なら痛みすらあまい。
 傷だって気にならないのだから。
 扉が開かれる。
 現れたのは、ヴァンパイアの花嫁だ。
 主様のために、主様のためにと――ずっと紡いでいる。
 ぞくりと、背筋が凍る。
 足音と、金属の、鎖の鳴る音にかりかりと床を引っ掻く音。それは古びた剣が奏でていた。
 そして、その剣はティアへと向けられる。
 その様に戦慄する。
(「やめろ、やめてくれ」)
 俺は、また、何も出来ないまま――失うのか、と。
 千鶴の心は荒れる。足元が崩れ行く虚無感、躰は動かず心臓は異常な位五月蠅い。
 その音だけで一杯になってしまう様な心地。そして思うのだ。
(「――何故俺の声は出ないの」)
 千鶴の瞳はティアの姿を追っている。
 その視線を感じて、ティアは小さく笑い零す。
(「ぼくは全然平気なのに、優しいんだから」)
 僅かにティアがそちらに気持ち向けた瞬間、剣の振り下ろされる音がした。
 身を逸らしたがティアの身を僅かに斬り裂いて。
 それを持つ花嫁はぶつぶつと主様のためにと言い続けている。
「主様の為、箱のあなたはわたし。あなたは贈り物、あなたはむかしのわたしの、わたしの――」
 己で呟きながら、僅かに花嫁の攻撃が鈍る。
 ティアはその声に、ぼくを誰かと重ねているのと問うのだけれど、返事はない。
 何を問われているかも花嫁はわかっていないのだ。
 けれど箱の中の千鶴にはそれも聞こえない。ただティアが傷つけられているように見えるだけだ。
 嫌だよ、きみが傷つくのはと声にならぬ叫びを千鶴は零す。
(「ティア、ティー」)
 その叫びが届いたか。
 名前を呼ばれた気がして――ティアは振り返る。そして千鶴の表情を見て表情は僅かに曇る。
「んに……やっぱり傷付けちゃったね」
 けれど不思議と、傍にいる気がして。隣に居てくれる気がしてティアは真っすぐ花嫁に迎えた。
(「見えない指先に後押しされたみたい」)
 それがなんだか嬉しくて――ティアは笑顔を返した。
「だいじょーぶ」
 ふにゃりと笑ってティアはゆっくり、花嫁へと向き直る。
「哀しい花嫁さん、自分の体を傷付けなくていいんだよ」
 もういいんだよと教えてあげるのだ。
 此処にこれ以上、その仮初の命でいなくていいのだと。
 傷はじくじくと痛む。けれどそれも、きっとなくなるのだろう。
「あなたは死んで……主様の、ために……贈り物、わたしも贈られた、贈られてしまった」
 どこまでも、花嫁は――それだけなのだ。
 それ以上の言葉がでてこない。
 ティアは攻撃を、無かった事にと告げる。
「そんな旦那さんは忘れて、ぼくのものになってよ」
 ぼくが満たすから――空っぽの君に優しい子守唄を。
「甘いさよならをあげる」
 大丈夫と囁く。そんなティアの名を必死に呼んで足掻いて――その叫びが届いていたかなんて、最早解らないけれど。
 花嫁はかつて人であったのだろう。けれど今はヴァンパイアの眷属だ、花嫁だ。
 その花嫁が零す言葉は千鶴を逆撫でる。
(「贈り物? 嗤わせるなよ」)
 悪趣味な游びは終いにしよう――そう思うとぴくり、と微かに動く場所があった。
 俺は大事なものは、絶対に、手放さないと動いた指先に願いを懸けるように。
 その感情が、千鶴に絡むものを引きちぎるように。
 そして優しい子守歌は心地よく。
 その歌は花嫁に届いたのだろうか。振り回していた剣を地に落とし、そこから彼女の身は崩れていく。
 灰に――ざらりと。
 その、崩れていく中に光るものを見つけてティアは近づく。
 それは鍵だ。見るだけでそれは隔たりをなくすものだとわかった。
 拾い上げたそれを見せ、今開けるねと笑いかける。
 千鶴は、硝子一枚に今触れていた。まだ感覚は鈍いけれど指先から腕へと、自由は徐々に戻ってくる。
 そして――彼女の名を紡いで、その声も戻ってくる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
部屋は一任

箱の前に立てば、夜彦と目が合う
瞳が不安げに揺れてるから
安心させるように笑って返して

何者にも、あんたを傷付けさせたりしねぇし
何者にも、奪わせない
俺はあんたの盾だから

贈り物は遠慮しとく
寧ろ、こんな茶番はここで仕舞いだ

拘束術使用
射程内の総ての対象に鎖での先制攻撃と拘束
同時にダッシュで近接して華焔刀でのなぎ払い
刃先返して2回攻撃
拘束から逃れた対象を優先

敵の攻撃は見切りと残像で回避
但し、回避する事で夜彦に攻撃が向かう場合と
回避不能時はオーラ防御で防いで
ダメージは激痛耐性で凌ぐ

自分が傷を負う事は怖くない
夜彦を喪うこと
それが何よりも恐ろしいから

だから何度でも繰り返す
何者にも、奪わせやしない


月舘・夜彦
【華禱】
部屋は希望なし

此処では彼一人が戦わなくてはならない
話は伺っていたものの、共に戦えぬのは歯痒いもの
どうやら表情に出てしまっていたようで
彼は笑って返して、いつもと変わらず応えるものだから
私も安堵して笑い返す

頼もしい限りですが、なるべくは無茶をしない事
傷だらけでも生きて私の所へ戻って来てくだされば良いのです

私が倫太郎殿に身を預けられるのは貴方の強さがあってこそ
共に戦ってきたからこそ、彼だけでも十分に力が有るのを知っている
そうでありながら私の盾としての役割を選んでいるという事

だから、彼が傷付こうとも恐れずに見守っていよう
彼が負けるはずはないのですからね



●知っているから、何も言わずただ
 どうぞと案内された部屋は、寝台と小さなテーブルと。
 別段豪奢というわけでもなく、けれど粗末でもなくという部屋だ。
 そこに運ばれた箱の前に篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は立つ。
 そこに立てば――月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)と目が合う。
 此処では倫太郎が一人で戦わなくてはならない。
 そう、聞いていたものの――解ってはいたものの、それと夜彦の心は別だ。
 共に戦えぬのは歯痒いと瞳が不安げに揺れる。
 倫太郎はそんな夜彦を安心させるように笑って。
「何者にも、あんたを傷付けさせたりしねぇし、何者にも、奪わせない」
 俺はあんたの盾だからと、夜彦へと大丈夫だと倫太郎は告げる。
 夜彦は瞬き一つ。
 どうやら表情に出てしまっていたようだと気付く。
 倫太郎が笑って、いつもと変わらず応えるものだから、夜彦の心には安堵が満ちるのだ。
「頼もしい限りですが、なるべくは無茶をしない事」
 傷だらけでも生きて私の所へ戻って来てくだされば良いのですと夜彦は擦れた声で紡ぐ。
 まだ体が自由を得ず。声も、縛られているような感覚があった。
 それでも倫太郎に伝えることができる。言葉かわすことができた。
 二人だけの間に流れるこの信頼はきっと誰も覆すことはできないのだろう。
 そこへひたひたと足音が近づいてくる。
 しゃらしゃら、鎖の音と共に。
 倫太郎が扉へと目を向ければ、ゆっくりと開いていく。
 そこにはヴァンパイアの花嫁がいた。その手に血まみれの斧をもって――微笑み浮かべて。
「あなた、死んでほしいの。贈り物になって、箱の貴方への贈り物に」
 わたしは優しいから、痛くないようにしてあげる、と言われてもそれに頷くわけにはいかない。
 倫太郎はいいやと首を横に振る。
「贈り物は遠慮しとく。寧ろ、こんな茶番はここで仕舞いだ」
 そう言って踏み込む。すぐさま放った見えない鎖が花嫁の身を捕らえた。
 そしてその手には、華焔刀がある。
 その姿を夜彦は瞳眇めて見つめていた。
 慌てることも焦ることもない。
(「私が倫太郎殿に身を預けられるのは」)
 貴方の強さがあってこそと想いを向ける。
 共に戦ってきたからこそ、倫太郎だけでも戦えることを知っている。一人で対する力が十分に有るのを知っている。
 そしてそうでありながら――
(「私の盾としての役割を選んでいるという事」)
 それも、知っている。
 華焔刀でなぎ払い、もう一度と攻撃をかける。拘束から逃れる花嫁を追いかけて切先は踊るのだ。
 そして花嫁は己の身の一部を削って力を得て飛び掛かってくる。
 倫太郎は振り下ろされる斧の一撃をその身に受けて、痛みに一瞬息詰めたがそれもやり過ごし凌いでいく。
 己が傷を負う事は怖くないのだ。それよりも怖ろしい事があるのだから。
(「夜彦を喪うこと、それが何よりも恐ろしいから」)
 だから何度でも繰り返すのだ。
 何者にも、奪わせやしないと強く想いながら。
 夜彦が後ろから、見守っていることを知っているから。
 倫太郎がいくら傷つこうとも、夜彦はその姿から目を背けることなく見つめていた。
 傷つくことを恐れる必要はないのだ。
 だって知っているのだから。夜彦は僅かに口端に笑みを乗せて。
「彼が負けるはずはないのですからね」
 その言葉は聞こえていたのだろうか。
 倫太郎が滑らせた刃の一撃が花嫁を灰へと変えていく。
 勢いのままに払った刃は、何かを飛ばして。それはかつりと音立てて壁へとぶつかった。
 倫太郎はなんだ、とそれを拾い上げて夜彦へと見せる。
 どうやら箱とはおさらばできそうだと笑って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

奇鳥・カイト
相変わらず仁美と(f02862)
嫌な事を思い出すような、ごく一般な客室だな

ま、ゆっくり待つとすっか
このまま静かに、ってわけでもなさそうだしな

「あー……そういやそうなるのか」
正直半分くらいは勢いだったが、それでも嫌か?なんて尋ねて
「んじゃ今度デートでもしてやろうか」からかうように笑みを作って

いいからお前ェは大人しくしてろ、俺がやりゃァイイ
「悪ィな、攻め入るよか待ち構えた方が得意なんだわ」
部屋の中に糸の罠。檻の中は既に我らの領域で
罠と闇討ち、カウンター。密室だからこそ扱い難く、だからこそ腕の見せ所だ


戦っているうちに、何やらサポートが届いたようだ
「ったく、お節介な奴だぜ──フン、好きにしてな」


霧沢・仁美
引き続きカイトくんと。
お部屋は、こういうお城の客室として一般的な部屋、かな。

さっき落札した時に言ってた言葉について突っ込んで尋ねてみるよ。
あたし、カイトくんのモノになっちゃうんだ…と話を向けて。
「…嫌じゃないよ?寧ろ、嬉しいかも」
…いやまあ、照れ臭くはあるけども。

って、そんなところに敵が。
加勢したいけどまだ箱を壊すワケにはいかないし、でも見てるだけってのは流石に…!
何か手段は…そうだ!

念心看波で花嫁を攻撃。視線さえ通れば身体は動かなくても発動はできるから…!
そこから花嫁の思考を読んで、カイトくんに攻撃や回避のタイミングを伝えて援護するよ。
…これくらいは、大丈夫…だよね…?



●揶揄いか、それとも
 ごくごく一般的な客室だった。寝台にテーブル、小さなあかり。豪奢すぎず、けれど飾り気は多少あるような。
 霧沢・仁美(普通でありたい女子高生・f02862)もくるりと視線回してそのつくりを眺めていた。
 けれどこの部屋は、嫌なことを思い出すような場所だと奇鳥・カイト(自分殺しの半血鬼・f03912)は思う。
「ま、ゆっくり待つとすっか」
 このまま静かに、ってわけでもなさそうだしなとカイトは手近にあった椅子に腰を下ろした。
 仁美は――そわそわとしていた。
 さっき落札した時に言ってた言葉――その真意を突っ込んで尋ねようと。
 あたし、カイトくんのモノになっちゃうんだ……と、様子伺う様にそっと。
「あー……そういやそうなるのか」
 仁美の言葉にカイトは先程の、競りでのことを思い出す。
 確かに言った。
 正直半分くらいは勢いだったのだが。そのことを告げ、それでも嫌か? とカイトは訊ねた。
「……嫌じゃないよ? 寧ろ、嬉しいかも」
 仁美の頬は僅かに赤く染まっている。照れ臭くはあるけども、と。
「んじゃ今度デートでもしてやろうか」
 からかうような笑みを作るカイト。仁美はその言葉にちょっとだけ慌てて。
 カイトは仁美のその反応を楽しんでいるようだ。
 けれどそんな時間も――終わり。
 ああ、とカイトはそちらへと視線を向けた。
 白い手が扉を開く。その先にいたのはヴァンパイアの花嫁だ。
 その手には槍を持って、しゃらしゃらと鎖の音をさせながら近づいてくる。
 加勢したいけど、まだ箱を壊すワケにはいかないし、と仁美は歯痒さを抱える。
(「でも見てるだけってのは流石に……!」)
 そんな仁美の気持ちを察してか――いいからお前ェは大人しくしてろ、俺がやりゃァイイと、カイトは僅かに視線を向けて告げる。
 そして花嫁に向かっては、口端に笑みを乗せて。
「悪ィな、攻め入るよか待ち構えた方が得意なんだわ」
 花嫁の動きが――止まった。何かに動きを阻まれている、それはと視線向ければ糸だ。
 部屋の中に糸の罠が張り巡らされている。
 檻の中は既に我らの領域とカイトは笑う。
 罠を巡らせ待ち構え、闇討ちにカウンター。
 密室だからこそ扱い難く、だからこと腕の見せ所。
 花嫁は思うままにひっかかってくれた。
 絡んだ糸がぎりぎりをその身を締め付け、ふつりと肌に赤い線を引いていく。
 その糸を無理やり引きちぎるように花嫁は動く。その身が傷つく事もかまわぬままに。
 それは寄生生物がその痛みを引き受けているからなのだろう。その代償に、血を流し続けることになっているようだが。
 その槍の切っ先をカイトは糸を絡ませ狙いを外させる。
 その戦いの様子を見て仁美は考えていた。
(「何か手段は……そうだ!」)
 手は出せずとも――あの花嫁を攻撃することはできる。
 視線さえ通れば、身体は動かなくても発動できる。
 じっと見つめて精神波で攻撃を。仁美は花嫁の思考を読むが、それは主様のためにと、そのことしか得られなかった。
「……これくらいは、大丈夫……だよね……?」
 このくらいの手伝いならばと仁美は意識を向ける。その刹那、花嫁の動きが一瞬止まった。
「ったく、お節介な奴だぜ──フン、好きにしてな」
 カイトは仁美がサポートをしているのに気づいて――折角作ってもらった好機だと仕込み糸を振るった。
 絡まる糸が一層、花嫁の身を引き絞りその肉に食い込んで――やがて限界がきたか。
 糸にかかる重さがふっと消えた。ざらりと、花嫁は灰になって消えていったのだ。
 その失われる感触の中で色が触れたものがあった。それは灰の中へと落ちていく。
 カイトがなんだ、と拾い上げれば鍵だ。
 これで出られるな、とカイトは仁美へと言う。仁美は、次はちゃんと助けるねと笑って返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
アイネ/f24391

僕のお薬もよく効いてるかい?
マスク付けてあげたいけど、ダメなんだってさ

なんて心配する横で酒だの茶だのを楽しんで
僕は自分に正直なもんでね、ごめんよ
帰ったらなんか奢るからさ
何がいいか考えといて
僕が綺麗なお客さんの相手してる間、暇でしょ?

しかし趣味のいい贈り物を思いつくもんだ
嫁に出すのは勿体ないから独身のままでいろって思し召しじゃないのかい?

僕らは支え合うって決めたとこなの
アイネは僕の心の伝道師(ポータブル高性能電波塔)で
僕はアイネの…なんだっけ?まぁ、大事な相手よ

だからねぇ、贈り物になってやれないのさ
代わりにこれをあげよう
誘雷血
恋すると走る電流に似てるだろ?


アイネ・ミリオーン
ロカジ/f04128

まあ、若干、息がしづらいです、けれど、何時もよりは、ずっとマシです、ね
……ロカジの薬、効きます、ね、ちゃんと
電波のお代には、十分です
あ、でも、マスクだけは、無くさないように、しないと

奢ってくださる、なら、喜んで
外の世界の飲食物、は、とても贅沢している気分に、なります、から

そうです、ね
君は、あの世界での拠り所(家主兼フラスコチャイルドの清浄な場所での症状緩和の為の薬師)です、から
とても、とても、大切です、よ
……悲愴感とか、緊張感とか、を、お望みだったとは、思うんです、けれど
別に、ないんですよ、ね
でも、怪我するのは、ちょっと心が痛む、ので、あとでちゃんと回復してあげましょう、ね



●ここに望むものは無く
 いい感じの部屋、やっぱり金を詰んだだけはあるね、なんて笑いながら。
「僕のお薬もよく効いてるかい?」
 マスク付けてあげたいけど、ダメなんだってさとロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)はまだお許しがでてないんだよねという。
 そのお許しというのは、その箱を開けること。
「まあ、若干、息がしづらいです、けれど、何時もよりは、ずっとマシです、ね」
 細い言葉で、へだたり一枚の向こう側でアイネ・ミリオーン(人造エヴァンゲリウム・f24391)は返す。
「……ロカジの薬、効きます、ね、ちゃんと。電波のお代には、十分です」
 あ、でも、とアイネは僅かに身じろぐ。まだ上手に動けないが――あったと視界の端にあるものに安堵して。
「マスクだけは、無くさないように、しないと」
「ちゃんと入ってるでしょ、そこそこ」
 と、ロカジはアイネの足近くを指さしつつ――これは良い茶だね、と一人ティータイム。
 良い味とは思うが少し物足りない。目についた酒を一滴、二滴――味わい深くなればこれはいいとご機嫌だ。
 そしてそのまま、飲んでみたくもなるというもの。
 心配する横で酒だの茶だのを楽しんでいるロカジはふと気づいて、アイネへと。
「僕は自分に正直なもんでね、ごめんよ」
 帰ったらなんか奢るからさ、と笑って。
「奢ってくださる、なら、喜んで」
 外の世界の飲食物、は、とても贅沢している気分に、なります、からとアイネは笑い零すのだ。それを楽しみにしましょうと。
 そしてアイネへと、ロカジは僅かに視線を投げる。
「何がいいか考えといて」
 言って次に向く先は――静かに開いた扉の方。ゆっくりと開いた扉の先にはひとり、客がいた。
「僕が綺麗なお客さんの相手してる間、暇でしょ?」
 花嫁だ。美しく着飾って、けれどその手には不似合いなもの。
「ケーキ入刀するには物騒だね、それはイチゴジャムかい?」
 なんて、もちろん違うことはわかっているのだ。
 それはさび付いた血の色。大きなナイフのような得物を彼女は持っている。
「箱のあなた……かつての私、あなたも主様のものになるのよ」
 だから、あなたは死んでとロカジに投げかけられる。
 その様に、しかし趣味のいい贈り物を思いつくもんだとロカジは零す。
「嫁に出すのは勿体ないから独身のままでいろって思し召しじゃないのかい?」
 けれど、残念とロカジは言うのだ。
 もうほら、決まってしまっているから誰も邪魔できないのさと。
「僕らは支え合うって決めたとこなの」
 アイネは僕の心の伝道師――ポータブル高性能電波塔――で。
「僕はアイネの……なんだっけ? まぁ、大事な相手よ」
 そうだろう? と視線だけ投げればわずかにアイネは笑って。
「そうです、ね。君は、あの世界での拠り所です、から」
 それは家主兼フラスコチャイルドの清浄な場所での症状緩和の為の薬師として、という意味なのだけれども。
 花嫁がそれを知ることはなく。
「とても、とても、大切です、よ」
 そういうこと、とロカジは笑って見せる。
「だからねぇ、贈り物になってやれないのさ」
 代わりにこれをあげようと、わずかに己の血液を代償に。
 さぁと抜き身放てば――雷纏う。
「恋すると走る電流に似てるだろ?」
 そこの花嫁も、僕に恋し直してみるかい、なんて冗談めかす。
 そんなやり取りにアイネはふと息吐いた。
「……悲愴感とか、緊張感とか、を、お望みだったとは、思うんです、けれど」
 別に、ないんですよ、ね――と紡ぐ。
 そう、戦っているのにそこに真剣さはあるけれども、無いような。
(「でも、怪我するのは、ちょっと心が痛む、ので、あとでちゃんと回復してあげましょう、ね」)
 アイネはただ見守るしかないのだ。
 この戦いの成り行きを――僅かにその体が動き始めるのを感じながら。
 ロカジの向けた一撃に、花嫁の動きは鈍る。しびれをもってその手にある得物を落として無防備に。
 その一瞬に、ほらともう一撃プレゼントすれば花嫁は崩れていく。あっけないね、と笑ってロカジはその灰の中から鍵を見つけた。
 どうやら、お許しがでたとアイネの箱が開かれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【烟雨】

……全く、困った子ですねぇ甘露のお嬢さん
お前は少し大人しくしていてくださいな

嗚呼、なるほど
妬み、嫉み、憎悪、まあ良くもどろどろと
ですが、生憎と溜め込んだもんならこっちの方が上ですよ
それにねぇ、今、自分は大層機嫌が悪ぃんで

【誘惑、恐怖を与える】で敵の攻撃タイミングを調整し誘発、【カウンター、呪詛、生命力吸収、継続ダメージ】
永遠に醒めねぇ悪夢を差し上げましょう
──人のもんに手ぇ出したんだ、狂い果てて逝け
その負の感情だけは拾い上げて喰らってやりましょう、あんたらのご主人さまをぶん殴るのに使いますからね

肉体が使い物にならなくなりゃ、さっさと捨てて作り替えますよ
それよりも、やることがありますから


世母都・かんろ
☆烟雨

(恐る恐る
…お、怒って、る?
あ、の、でも
うれ、し、かった、です
やっぱり、こわ、かった、から

ひかりのない目で彼を見る花嫁の
泣いて笑う顔に身体が強張る
わた、しも、戦わなきゃ
開、か、ない…!

どれだけ硝子箱を叩いても、びくともしない
いや、いや
叶さん、が、傷ついてる

涙が零れても
手が痛くても無意味なら
せめて雨だけは降らさないように
感情の、発露を押し込める
押し込める、けど
涙だけは、止まらなかった

うぅ、うぅう
やだ、やだよぉ

胸が苦しいのは
犠牲になった人々を想うからじゃなくて

喪ったのだと、泣いて笑う知らない誰かより
目の前のあなたが傷つくほうが
ずっとずっと、嫌だったから

わたしは
なんて悪い子なんだろう
猟兵失格だ



●想いを零して
 じっと、雲烟・叶(呪物・f07442)は世母都・かんろ(秋霖・f18159)を見詰めていた。
 まっすぐに向けられたそれを、かんろは受け止めて僅かに身じろぐ。
 そして恐る恐る――叶へと尋ねた。
「……お、怒って、る?」
 叶は何も言わない。かんろを見詰めているだけだ。
 かんろは、ためらいながらも言葉を続けていく。
「あ、の、でも」
 僅かの間をおいて素直に気持ちを伝えるのだ。
「うれ、し、かった、です。やっぱり、こわ、かった、から」
 その言葉にふ、と息吐いて。それは責めるでもなく呆れるでもなく、もっと別の声色だった。
「……全く、困った子ですねぇ甘露のお嬢さん」
 お前は少し大人しくしていてくださいな、と叶は紡ぐ。
 叶が向ける視線の先――扉が僅かに開いた。
 ゆらゆら、今にも倒れそうなのに倒れない。その手には剣をもって、それを裏腹に美しい花嫁衣裳の女。
 その瞳にはひかりはなく、かんろはその表情に体を強張らせた。
 泣いて笑う、その顔。
「わた、しも、戦わなきゃ。開、か、ない…!」
 硝子の箱を叩く。鈍く動くその身では力も入らず小さな音が響くだけ。
 叶は大人しくしていてくださいなと言ったのに、と小さく笑って、視線は花嫁へ。
「嗚呼、なるほど」
 妬み、嫉み、憎悪、まあ良くもどろどろと――と、花嫁が抱えたものを視るのだ。
「ですが、生憎と溜め込んだもんならこっちの方が上ですよ」
 災害級呪物たる叶のほうが、おそらく花嫁より長い時を生きている。
 彼女が蓄えたるが眷属になってからなので有れば――人の身を得るよりも前から、叶はそれらを集わせているのだ。
 けれど、ただその時の重ねだけではなく。
「それにねぇ、今、自分は大層機嫌が悪ぃんで」
 花嫁が踏み込んでくる。彼女からは表情が消えうせたており、代わりに力を得ていた。
 こっちと叶は誘う。さて恐怖を与えられるか、それはやってみてのという所。
 ただ力の限り振り下ろされれば――それは床を抉っていくほどの威力。
 痛そう、なんて思っていると横になぐそれが腹の肉を持っていく。
 嗚呼、痛いと傷口押さえて。
 赤い色が見えた。それをかんろは瞳見開いて。
(「いや、いや――叶さん、が、傷ついてる」)
 ほろり、涙が零れた。つぅと落ちる雫を気にせず、手が痛くても何度もかんろはその透明な隔たりを叩き続ける。
 でも、決して――雨だけは降らさないように。
 感情が零れ落ちるのは、発露するのは押し込める。
 押し込める、けれども涙だけは、止まらなかった。
「うぅ、うぅう。やだ、やだよぉ」
 胸が苦しい。それは犠牲になった人々を想うからではなく。
 喪ったのだと、泣いて笑う知らない誰かより――
目の前のあなたが、叶が傷つくほうがずっとずっと、嫌だったから。
 わたしは、なんて――悪い子なんだろう。
 かんろはきゅっと、硝子の隔たりを叩いて、赤くなった手を握り込む。
「猟兵失格だ」
 ぽつり、零した言葉は己の内に雨のように染み込んでいく。
 泣いている――あの子が泣いている。
 その気配を叶は感じていた。
 花嫁が一歩、深く踏み込んでくる。その刃を軽く身を逸らして避けて。
「永遠に醒めねぇ悪夢を差し上げましょう──人のもんに手ぇ出したんだ、狂い果てて逝け」
 呪詛と怨嗟の塊が花嫁へと迫る。
 花嫁の命を吸い上げて、それは叶の糧になっていくのだ。
「その負の感情だけは拾い上げて喰らってやりましょう、あんたらのご主人さまをぶん殴るのに使いますからね」
 どうして、そうなったのか――わずかな記憶の擽りと共に、花嫁の抱えたものを叶は貰って。
 痛みはある。この肉体はまだ使えるのか、使えないのか。
 使い物にならなければ、さっさと捨てて作り替えるだけだ。
 けれど、まだ動くようだ。
 肉体なんて、どうだっていい。それよりも――やることが、あるのだから。
 と――全て吸い上げられた花嫁が灰となって消えていく。
 落ちるのは、持っていた剣と鍵。その鍵だけを叶は拾い上げて、踵を返す。
 これをはやく、あけてと涙溢れかけるかんろの姿。今度はかんろの方が、言いたいことがあるようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

遙々・ハルカ
よしのりサン(f05760)と

いやァ、演技ちょいクサかったな~とか思うワケよ
芋臭い方が逆に良かったかなーとかさァ
室内を検分しつつのお喋り
呼ばれると素直にそちらへ
な~んだ、まだかァ

花嫁たちを見れば笑い
《オルタナティブ・ダブル》で《トヲヤ》を呼び出し敵へ蹴飛ばす
オレはよしのりサンをガードすっからヨロシク
聞こえはいいが箱に凭れ観戦の態
トヲヤは目前の敵を拳銃で撃ち抜き首肯したのみ
敵の数を確認しアサルトライフルで迎撃を

見て見て、アイツ結構~強ェから
よしのりサンにヘラヘラと話し掛け
トヲヤの漏らした個体だけ
手元で弄るナイフ、護身用拳銃で急所をぶち抜く
動けない奴はもっと簡単
口から刃を入れ捻ればオシマイ
イェ~イ


鹿忍・由紀
ハルカ(f14669)と

白基調の整然とした部屋
やる事ないしハルカの話を聞きながら相槌代わりの瞬き

ふと口元が動いた気がして名を呼んでみる
少しだけ掠れた声
ああ、息が詰まりそうだったよ
うんざりした様子でまだ動けない現状を伝えとく

贈答向けじゃないんだけどなあ
わざとらしく困惑した口調でいつもの無表情のまま
敵と向き合うハルカともう一人の姿
見慣れた顔で見慣れない気配のあれは
多重人格だと聞いていた者なのか
ぼんやり考えつつ特段心配もせずハルカの話に耳を傾ける
本当だ、働き者だね

ハルカに飛びかかる敵を
その姿のまま固定してやれば
あとは好きなようにお任せ
…知ってたけど、なかなか躊躇いがないよね
人の事は言えないのだけれど



●知ってるようで、知らなくて
 白基調の整然とした部屋。
 小さな寝台もきっちりとシーツがはられ乱れもない。
 それに小さなテーブルとイス。
「いやァ、演技ちょいクサかったな~とか思うワケよ」
 そんな部屋の中を遙々・ハルカ(DeaDmansDancE・f14669)は見聞中。
「芋臭い方が逆に良かったかなーとかさァ」
 もっとうまくできるような事があったかもなんてお喋りしつつ、他にはなぁんにもないと笑うハルカ。
 その言葉を相槌代わりに鹿忍・由紀(余計者・f05760)は瞬き一つ。
 ふと、口元が動いた。そんな気がして由紀は名を紡いでみる。
「ハルカ」
 その声は少しだけ擦れていた。
 名前を呼ばれ、ハルカは由紀の方へ素直に戻ってくる。
 けれどその次の言葉は息が詰まって、由紀は発することはなかった。
「な~んだ、まだかァ」
 その言葉にそのようだと由紀はうんざりした顔。
 まだ体も硬く、身動きもままならない。動くのは指先くらいかと見せてみる。
 なら、あれはオレが引き受けるねと――ハルカは笑う。
 部屋の扉が開いて、花嫁の姿が見えた。
 裾のほうはちぎれたように破れ、そして手には剣だ。
「主様の物になるもの、贈り物、わたしが贈るの」
 その花嫁の言葉に由紀はわざとらしく、困惑したように。
「贈答向けじゃないんだけどなあ」
 今度はちゃんと声が出た。いつもの無表情のまま、成り行きを見守るのだ。
 ハルカは己の傍にもうひとりの自分《トヲヤ》を呼び出して、その脚振り上げると花嫁へと蹴飛ばした。
「オレはよしのりサンをガードすっからヨロシク」
 箱に凭れハルカは観戦の態だ。
 トヲヤは目の前の花嫁を拳銃で打ち抜き首肯したのみ。そしてアサルトライフルを構える。
 まずはその手と、武器を持つ手を狙って弾丸放つ。
 花嫁は放たれたそれに身を穿たれ、まるで踊っているように右へ左へと体を揺らしていた。
 それもわずかの間。花嫁の身は崩れていくのだが――また別の花嫁の姿が見える。
「見て見て、アイツ結構~強ェから」
 ヘラヘラと、ハルカは由紀へと笑いかける。
 由紀は戦う《トヲヤ》とハルカとをその視界に入れて思うのだ。
 見慣れた顔、けれど見慣れない気配――多重人格だと聞いていた者なのか。
 そんなことをぼんやり考えつつ、特段心配もせず由紀はハルカの話に耳を傾けていた。
「本当だ、働き者だね」
 けれど、いくらつよくて働き者でも全て押さえられることはなく。
 ぬけて、飛び掛かってくる敵の姿。
 それを、由紀は視線向けて、その場に固定した。
 あとは好きなようにお任せ、と由紀の気持ちを汲んでかハルカは笑う。
 手元でいじるナイフ。それをひゅっとその花嫁へと放つ。
「動けない奴はもっと簡単」
 動いていてももちろん、急所をぶち抜くことはできるけど~、と笑って。
「口から刃を入れ捻ればオシマイ」
「……知ってたけど、なかなか躊躇いがないよね」
 その口から喉を打ち抜いて。
 イェ~イなんて笑うハルカに半眼を向ける由紀。人の事は言えないのだけれど、と思いつつ。
 やがて花嫁の姿は消えて――ハルカは鍵を見つけた。
 それは由紀の入るそれを開くためのものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
これから起こる惨劇をこの子には見せたくないな
……少しの間、目を瞑り伏せていてくれ

眷属などに用はない
コイツ等を送り返して領主を誘き出すぞ

UC発動
超スピードにより【殺気】を帯びた【残像】を無数に発生させる【フェイント】で幻惑
隙をみせた敵から毒を塗った刃で斬り殺していく【毒使い】

痛みを麻痺させたところで毒の効果は消せん
むしろ体の異変を察知できない分だけ対応が遅れよう
肉体も精神も腐り死んでいけ



●決して見せはしないもの
 通された部屋は、簡素で。けれど清潔感がない、というわけではない。
 ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は目の前の箱、その中にいる者へと視線を向けていた。
(「これから起こる惨劇をこの子には見せたくないな」)
 これから、ここへはヴァンパイアの花嫁が訪れるという。
 そうなれば繰り広げられるのは戦い。果たしてそれを、この子が見て正気でいられるのかどうか。
 状況を受け止められるかどうかは、危ういところもある。
「……少しの間、目を瞑り伏せていてくれ」
 その言葉に不思議そうな顔をしながらも箱の中で頷き一つ。
 これから、いいと言うまで――眷属になど用はないのだ。
 訪れた花嫁の姿を目にして、ナギは思う。
 コイツ等を送り返して領主を誘き出す、と。
 その身に過剰に投薬して、ナギは力を得る。
 その速さに追いつけるものはこの場にはいなかった。
 花嫁が武器を振り上げたかと思えば、その後ろにもうナギはいるのだから。
 フェイントを織り交ぜて、敵の力を削いでいく。
「痛みを麻痺させたところで毒の効果は消せん」
 むしろ体の異変を察知できない分だけ対応が遅れようとナギは紡ぐ。
「肉体も精神も腐り死んでいけ」
 その言葉と共に花嫁に一撃を。ナギ自身の命を削りながらかけて、やがてその姿を灰にするのだった。
 その中にナギもまた鍵を一つ、見つける。それは箱の鍵だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

ここが領主の城?

櫻!
朱塗りの枠にすがりついて、中の桜龍を見やる
よかった、どこも怪我はないね
朱塗り枠の匣の中、微笑む櫻宵はやっぱり綺麗で、可愛くて……ずっと閉じ込めておきたい、なんて邪な念が湧き上がったのを、首を振って追い払う

もう!のんきなんだから!
大丈夫……櫻は僕が守る
その籠の中からだすよ
花魁を籠からだす
身請けというんだっけ?
笑っていたら

嗚呼、君が
僕から櫻を奪いに来たの
そんなことさせないよ

僕は歌しか歌えない
いつも櫻宵に守られて背の後ろにいた
けれど
今日は

水泡のオーラ防御は、僕よりも櫻宵を守るように
磨いた歌唱活かして歌う「氷楔の歌」
全部を凍らせて、砕くよ

君と同じ、になんてならないし
させない


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

朱塗り枠の匣の中から、慌てたように泳ぎ寄ってくるリルをみる
そうと隙間から手を伸ばして安心させるよう頬を撫で
大丈夫よ、リル
うふふ、舞台の上からみてもやっぱりあなたはとても綺麗だわ

あら
私を?
是非そうしてもらわなきゃ、ね!
笑い合うそんな一時も幸せだわ
なのに、邪魔する無粋な輩は誰かしら

リル……!!
なんて、もどかしい
美しい白があかに染まるのも
可愛くて綺麗な顔が痛みに歪むのも
我慢ならない
歌い戦う人魚に胸が軋むわ
信じてるわ、守ってくれるって
だからこそこんなにもどかしい
……守れないことが
あなたを失いたくないとすべてが叫ぶよう

リルをそんな奴の花嫁になんてさせない

この箱からでたその時は
覚悟しておきなさいよ



●君のために
 ここが領主の城? とリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は見回しつつ部屋へと案内される。
 豪奢な扉――それを、開けば。
「櫻!」
 朱塗り枠の匣の中――誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は慌てたように泳ぎ寄ってくるリルをみる。
 その枠に縋りつく様に手を這わせリルは中の桜龍を、櫻宵を見遣るのだ。
「よかった、どこも怪我はないね」
 そうと隙間から手を伸ばして。
 櫻宵のその手はリルの頬へとたどり着く。安心させるようにその頬を撫で、櫻宵は微笑むのだ。
「大丈夫よ、リル」
 ああ、やっぱり綺麗で、可愛くて。
 ――ずっと閉じ込めておきたい。
 なんて、邪な念が湧きあがった。けれどリルはすぐに首を振ってその感情を追い払う。
 その様子にどうしたの、と櫻宵は問うが何でもないとリルは言うばかり。
「うふふ、舞台の上からみてもやっぱりあなたはとても綺麗だわ」
 すぐにわかったと櫻宵は言う。
「もう! のんきなんだから!」
 そんな風にちょっと頬膨らませるリルも可愛らしい。
 けれど、刹那――その表情は変わるのだ。
「大丈夫……櫻は僕が守る」
「あら、私を?」
 そう、とリルは頷く。
「その籠の中からだすよ」
 花魁を籠からだす。それは――
「身請けというんだっけ?」
 その言葉に櫻宵はふふと笑い零す。
「是非そうしてもらわなきゃ、ね!」
 笑い合うそんな一時も幸せだわと櫻宵は思う。
 けれど、その時間も僅かの間だ。
 嫌な気配が近づいてくるのは、わかっていた。
 二人だけのはずの部屋に訪れる、侵入者。
「邪魔する無粋な輩は誰かしら」
 と、櫻宵はその瞳に剣呑さを乗せる。
 そしてふわりとリルは身を翻して。
「嗚呼、君が――僕から櫻を奪いに来たの」
 そんなことさせないよ、と――ここへとやってきた花嫁へと向き直る。
 ずるずる、花嫁は引き摺ってきていた剣を振り上げてリルへと向かってくる。
 リルは――わかっている。己に何ができるか。
(「僕は歌しか歌えない」)
 いつも櫻宵に守られて背の後ろにいた――けれど。
(「今日は」)
 水泡のオーラをリルは纏わせる。
 リル自身よりも、櫻宵を護るように。
 花嫁が向ける剣がリルの身を切りつけて、傷つける。
 そして歌う――

 凍てつく吐息に君を重ねて
 氷の指先で爪弾いて 踊れ 躍れ 氷華絢爛
 ――君の熱 全て喰らい尽くすまで

 全部を凍らせて、砕くために。
「リル……!!」
 なんて、もどかしいと櫻宵は思うのだ。
 己は何もできぬまま、ただ傷つくさまを見つめるしかできなくて。
 美しい白があかに染まるのも――可愛くて綺麗な顔が痛みに歪むのも。
 それは櫻宵にとって我慢ならないことだ。
 胸が軋む。歌い戦う、その姿に心は歪な痛みを抱えていく。
 けれど――リルが戦うというのだから。
(「信じてるわ、守ってくれるって。だからこそ」)
 こんなにもどかしい――手が届かないことが。
(「……守れないことが」)
 あなたを失いたくないとすべてが叫ぶようでその身も心もちぎれそうだ。
 花嫁の身が凍り付く。
 歌声は熱を奪って――足から、その手からを凍らせ砕いていく。
 あるじさま、と花嫁のか細い声が響く。
 その声を拾い上げて、リルは歌を止めた。
「君と同じ、になんてならないし、させない」
 そして櫻宵も――リルをそんな奴の花嫁になんてさせないと思うのだ。
「この箱からでたその時は、覚悟しておきなさいよ」
 花嫁の身は砕け散る。その中から鍵を見つけて、リルは拾いあげた。
 身に染みる痛みがある。切りつけられた場所は熱をもって――けれど心は、それとは違う熱を得ていた。
 鍵を、開ける。
 迎えに来たよ、なんて紡いで。伸ばされた手に櫻宵も己の手を重ねた。
 もう見ているだけの時間は、終わり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
◆凍桜

なんですかあのお金は
まずたからに言うべきでしょう
いつの間にそんなに貯めていたのですか

確かになびきは大人で保護者ですから
たからが知らない貯蓄があっても不思議ではありません
…ああ
だから、いつも自分用の甘い物や
たからに着せたいという洋服には遠慮なく贅沢していたのですね

黙っていたことについては怒りますが
貯金は悪ではありません
むしろ将来を考えていてえらいです
演技も中々でしたよ

などと説教する間に現れた男性
…彼の涙の意味を、たからはもう知ることはできません

開かぬ箱
無力を思い知らされる
たからは、ヒーローなのに

いいえ
諦めてなどいません
だってなびきを信じていますから

たからの代わりに
彼を、救ってあげてください


揺歌語・なびき
◆凍桜
長い説教を正座で聞く
この過ごし方間違ってない?

ていうかその服すごくかわいいから
折角だし持って帰ろうよ
あっハイごめんなさい
聞いてます(うーん可愛い…

お出ましの花嫁、いや花婿か
蕩けた瞳に闇だけが浮かぶ

たからちゃんはそこで見ててね
うん、大丈夫
還してあげようね

と言いつつ
炎は苦手なんだよねぇ
自分の勘に任せて避けるも
焼け爛れる膚を、あえて棘鞭でえぐる
痛みは耐えられるしね

溢れた血に誘われたソレで
桜の嵐を吹雪かせる
呪詛の花弁で彼を沈めろ

痛みは今だけだよ、だからごめんね
ただしく君を、殺してやるから

箱は無傷で守る
彼女がわかってるかは―どうだろうな

言ったろ、焔は嫌いなんだ
だって花(雪)が、灼け(融け)るだろ



●お説教から始まる
「なんですかあのお金は」
 まずたからに言うべきでしょう、と鎹・たから(雪氣硝・f01148)は紡ぐ。
「いつの間にそんなに貯めていたのですか」
 その言葉を向けられている相手は――揺歌語・なびき(春怨・f02050)。
「この過ごし方間違ってない?」
 そろそろ痺れそう、なんていうなびきに間違ってませんとたからはぴしゃりと言ってのける。
「確かになびきは大人で保護者ですから、たからが知らない貯蓄があっても不思議ではありません」
 そう言ってたからは気付いた。
 なるほど、というように一つ頷くのは思い当たることがいくつかあったからだ。
「ていうかその服すごくかわいいから、折角だし持って帰ろうよ」
 ところで正座崩していい? なんて間に挟んでみるものの駄目です、とお許しは出ない。
「……ああ」
 ぴしゃりと言ってのけた後に――そう、こんな風にと思い至ることがひとつmふたつ、たくさん。
「だから、いつも自分用の甘い物や、たからに着せたいという洋服には遠慮なく贅沢していたのですね」
 そのことにむむ、とたからは零して――なびき、わかっていますかと再度強く言う。
「黙っていたことについては怒りますが」
「あっハイごめんなさい」
 とりあえず謝る。そんな様子にきゅっと厳しい表情向けるたから。
 貯金は悪ではありません。お金大事。たからはそれを知っているのだから。
「むしろ将来を考えていてえらいです。演技も中々でしたよ」
 と――たからはなびきへとずっとお説教をしていた。
「聞いてますか、なびき」
「聞いてます」
 と、その口は言う。でも思考はうーん可愛い……とゆるゆるだ。
 けれどそれも、部屋の扉が開く音にて終わる。
 たからはそちらへと目を向けた。
 真っ白な服――けれど、血に汚れて。その手にはナイフを握っていた。
 そしてその表情は笑っているのに涙をずっと零していた。
「お出ましの花嫁、いや花婿か」
 蕩けた瞳に闇だけが浮かんでいる。なびきはその姿を見て、そろりと立ち上がった。
(「……涙」)
 その、涙の意味を。
(「たからはもう知ることはできません」)
 花嫁――花婿か。
 それはもう人の外側に出た存在でもあるのだから。
 たからは動く様になった手で箱の蓋を押すけれどびくともしない。
 なんて無力――それを思い知らされる。
(「たからは、ヒーローなのに」)
 その心を、知っているのか。
「たからちゃんはそこで見ててね」
 ひとりでいるわけではなかった。たからはなびきへと視線を向ける。
 いいえと首を振る。そう、諦めてなどないのだ。
 助けられるはず――だってなびきを信じているのだから。
「たからの代わりに、彼を、救ってあげてください」
 その言葉はどんなおねだりよりも、尊いもの。
「うん、大丈夫。還してあげようね」
 そう、言うけれど。
「炎は苦手なんだよねぇ」
 花婿が攻撃をかけてくる。なびきは己の勘に任せてさけるものの痛みを感じて。
 その焼け爛れる膚を、あえて己の棘無知でえぐった。
 痛みは耐えられるもの、どうってことはない。
 そしてつぅと、溢れた血に誘われるものが、桜の嵐となって、踊り始める。
 彼を沈めろ、となびきはソレに命じるのだ。
「痛みは今だけだよ、だからごめんね」
 ただしく君を、殺してやるから――それは願いでもあるのだから。
 そして己の後ろにある箱を無傷で守ることを今は至上として。
 そのことを。
(「彼女がわかってるかは――どうだろうな」)
 ふと口の端に笑み乗せて。
「言ったろ、焔は嫌いなんだ」
 だって花――雪が、灼け――融けるだろと言って。
 花婿の姿が花に沈んで消えていく。
 きっとただしく終われたはずと見送って。
 その花婿はひとつ鍵を残す。それはたからをその箱より放つためのものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
黒羽と

呼ばれて、黒羽を見る
動けるようになってきた事に安堵して…そして、宴の場での狼狽を詫びる
「すまなかった…余計な事を、考えた」
棺に納められた黒羽を見て、かつて失った恩人の姿と重なった
また、失うかもしれないと
…今思えば、不要な心配だった

花嫁が現れたら銃を構え迎え撃つ
黒羽の言葉に応え、真っ直ぐ前を向いて
「ああ、任せろ」

黒羽の守りを優先
お前が望まなくても、今度こそ手を伸ばすのだと決めて
傷を負っても構わない
「大丈夫だ」
傷の痛みなら耐えられる
心許した者を失う、あの痛みに比べれば

そして何より、信じて任されたんだ
その信を、決して裏切らないように
敵が代償で弱る隙に攻撃を叩き込む
悪いが、ここで死んではやれない


華折・黒羽
シキさん

透明な棺の板をこんこんと叩きながら
名前を呼ぶ
大分身体が動く様になってきた
両翼や手足は商品に傷がつかない様にという配慮からか
貫通せずに打ち付けられていたから

謝る必要、どこにもありませんよ

必死にこの身を案じてくれた姿を
余計な事だと思うわけがない
俺があの時言った言葉は
もしあなたに何かあっても自らの手で守れない
今は戦えないと思ったからだ
でも

信じてますから

花嫁に銃向けるその背に言葉をかける
傷負う姿に拳を握って歯噛みするも
眼は逸らさずに真っ直ぐと
あなたの言葉に頷いて

あなたが嘗ての弱かった俺に強さを見せてくれた
俺はあなたの強さを、信じている

任せました
きっちり倒してくださいね
シキさん

強く心に火を灯そう



●その背を信じて、その背に全てを
 透明な棺の板をこんこんと叩きながら華折・黒羽(掬折・f10471)はシキさんと名を呼ぶ。
 大分身体が動く様になってきたと黒羽は紡ぐ。まだ少し、軋むような感覚はあるが良くなってきているのはわかるのだ。
 両翼や手足は商品に傷がつかない様にという配慮からだろうか。貫通せずに打ち付けられており、痛みなどはない。
 名前を呼ばれて、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は真っすぐ、黒羽を見ていた。
 彼が動けるようになってきた事に安堵して、そしてすまないと謝るのだ。
 それは、何についてと黒羽が問えば宴の場での狼狽のこと。
「すまなかった……余計な事を、考えた」
「謝る必要、どこにもありませんよ」
 棺に納められている。
 その姿を見てシキの記憶が疼いたのだ。かつて失った恩人の姿と重なって――また、失うかもしれないと。
 けれどそれは。
「……今思えば、不要な心配だった」
 わずかばかり居心地が悪いような。そんな心持ち。
 その言葉に黒羽は僅かに口端を緩めて。
 シキが――必死にこの身を案じてくれた姿を、それを余計な事だと思うわけがない。
「――俺があの時言った言葉は」
 もしあなたに何かあっても自らの手で守れない。
 今は戦えないと思ったからだと、告げる。
 でも、それは。
 その先の言葉を黒羽が続ける前に、静かに扉が開いた。
 ぺたぺたと何処か湿った足音。それにしゃらんしゃらんと鎖の音。
 笑っているのか、泣いているのか。そんな表情の花嫁は二人へと言葉を向ける。
「主様に贈られて……わたしはしあわせ、あなたもそうなれるわぁ……そのために、あなたは死ななきゃ」
 視線はふたりから――シキへ。
 シキの視線はそれと向きあい、銃を構えることを応えとする。
 花嫁へと銃向けたその背に言葉かける。それが、黒羽が今できる全てだった。
「ああ、任せろ」
 シキはその言葉に応え、真っ直ぐ前を向いて。
 黒羽を守るようにシキは動く。
 守ることを黒羽が望まなくとも、今度こそ手を伸ばすのだと決めて向かうのだ。
 花嫁がナイフを振るい、シキへと距離を詰める。
 身を切る痛みは本物。
 その、シキの耳へと声が一つ届く。
「信じてますから」
 ここから出て傍らに立つことができぬ今、シキが傷を負うその姿に拳を握って歯噛みするばかり。
 でも目を逸らしてしまうことはできない。そうしてはいけないと思うから。
 目は逸らさず真っすぐと、シキのその背中を見つめる。
 そしてシキは、大丈夫だと返した。
 傷の痛みなら耐えられる。なんてことない痛みだ。
(「心許した者を失う、あの痛みに比べれば」)
 その言葉に、黒羽は頷くのだ。
「あなたが嘗ての弱かった俺に強さを見せてくれた」
 俺はあなたの強さを、信じている――黒羽の言葉はどこまでも真っすぐで、真摯。黒羽の心がこもっているのだから。
「任せました。きっちり倒してくださいね」
 シキさん、と名を呼ばれたならばそれに応えねばならないとシキも思うのだ。
 何より、信じて任されたのだから。
 その信を――決して裏切らないように。
 戦う。その身を傷つける様があろうとも――強く心に火を灯して黒羽は見詰めていた。
 シキは代償をもって、力を得た花嫁が弱る瞬間を見て、攻撃を叩きこむ。
「悪いが、ここで死んではやれない」
 花嫁を睨み、引き金を引く瞬間息を詰める。
 放たれた弾丸が花嫁を貫いて、その身を散らした。
 それは灰となってふわりと舞う。
 一撃受けた場所を起点に花嫁は灰となって崩れ落ちた。
 その中に鍵を見つけシキは拾い上げる。ここにあるということならその使い道はひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アレスと
アドリブ◎

名前を呼ばれる
距離が近づく
本来なら触れられる筈の温度は
硬い硝子に阻まれた

俺がお前を信じなかった事があるか
強敵を前にこの身を預ける事も
囮をかって出れば必ず迎えに来てくれる事も
誰かを守る事だって
信じて疑った事はない
ちゃんと伝えたいのにまだ声どころか表情すら自由にならない
それでも、僅かでも伝えたくて
じっとアレスを見つめて返す

剣がぶつかる音
小さな呻き
踏み込む靴
視界が自由にならない代わりに
耳がいつも以上に音を拾う
アレス
なぁ、アレス
信じちゃいるが、無茶はしなくてもいいんだ
なぁ、

ドンっとぶつかる振動
血が硝子に
視界にうつる
表情はそのままに涙が零れた
ああ、せめて
声を絞り出して
歌でお前を守れたら


アレクシス・ミラ
セリオスと
アドリブ◎

――セリオス
硝子に額をそっと当てる
近いのに、君には触れられない
…今更だと思うけど
僕を信じて待っていてくれるかい
見つめる瞳に微笑みで返す
――ありがとう

…僕は、彼を守り、君達をそういう者にさせた奴を討ちに来た
せめて…光で送らせてくれ

【君との約束】を防御重視に
棺を背に戦う
攻撃は見切って剣で受け流し
破魔の光の斬撃でカウンターを

それでも、気付けば棺に背中が当たる
硝子を僕の血で汚してしまったな…
それに、君にそんな顔を…泣かせたくなかったのに
…ごめん
少しでも彼の不安を和らげたくて
振り向き笑ってみせる
…大丈夫
君の力は僕を守ってくれてるよ
だから僕も…君を守らせてほしい
剣を握り直し、再び駆ける



●ほんのわずかな隔たりであるというのに
「――セリオス」
 名前を、呼ばれる。
「近いのに、君には触れられない」
 硝子に額をそっと当てる、距離が近づく。
 だというのにそのすべての熱が――今は遠い。
 本来なら触れられる筈の温度は硬い硝子に阻まれてセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)はその一枚を挟んで、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の朝空の瞳の中に己の姿を見た。
 それはアレクシスも同じだ。セリオスの宝石のような青の瞳の中に自分の姿を見つけている。
「……今更だと思うけど」
 僕を信じてまっていてくれるかい――見つめる瞳の中の唇が動く。
 その言葉に込められたこころはどこまでも深く。
(「俺がお前を信じなかった事があるか」)
 それはどんな時だってとセリオスは思う。
 強敵を前にこの身を預ける事も。
 囮をかって出れば必ず迎えに来てくれる事も。
(「誰かを守る事だって、信じて疑った事はない」)
 どこまでも真っすぐな言葉を、音にできるならばしたかった。その耳に届けたかった。
 けれど喉は変に震えて声を紡いではくれない。だから見つめる事しかできなかった。
 ちゃんと伝えたい。伝わっているだろうか。僅かでも伝えたい想い。
 そして声だけでなく表情も今はままならない。それを一番理解しているのはセリオスだった。
 今、アレクシスの瞳に映る表情で、色の無い、気持ちの乗っていないような表情で向けたい想いではないというのに。
 けれどアレクシスも、今セリオスがどういう状況にあるかはわかっているのだ。
 だから見つめる瞳に微笑みで返す。
「――ありがとう」
 そして、伝わっていた。だからこそ零れた言葉だろう。
 そしてアレクシスは開いた扉を見据えるのだ。
 そこから入ってくるヴァンパイアの花嫁。すでに人ではないそれは、虚ろなもの達なのだから。
「……僕は、彼を守り、君達をそういう者にさせた奴を討ちに来た」
 アレクシスの言葉を、花嫁がどう受け取っているのかはわからない。
 彼女らの口からは主様とやらへの想いが――それもきっと、作られたものなのだろう。偽物のそれが紡がれるだけ。
「せめて……光で送らせてくれ」
 此処に居るべきではないとアレクシスは思う。
 カラコロと鈴が鳴る――想いに応えるように、守る為の力を与えて。
 花嫁たちがやってくる、その武器を剣で受け流すアレクシス。
 見切って、紙一重でかわして。破魔の光、その斬撃で葬ってやるしかできないのだ。
 剣がぶつかる高い音、低い音。
 小さな呻きはアレクシスのものか、それとも花嫁たちのものか。
 踏み込むその、足音も、すべて音を拾い上げてしまう。
 視界が自由にならない代わりに、いつも以上に。
(「アレス」)
 なぁ、アレスといつもなら言っているだろう。
(「信じちゃいるが、無茶はしなくてもいいんだ」)
 巡らせる視界の中に姿が見えない――かと、思えば赤い色が散って、セリオスはその姿を追う。
 その色は、アレクシスのものか、それとも花嫁の者なのかがわからない。
(「なぁ、」)
 ドンっと。ぶつかる振動。目の前にはその身慣れた姿、その背中。
 けれど――その色が硝子に張り付いた。血の色だ。
 アレクシスも、いつの間にと棺まで押されたことに気づく。
「硝子を僕の血で汚してしまったな……」
 鈍い熱、痛み。セリオス、とアレクシスが僅かに視線を向ける――そして見てしまった。
 涙だ。
 表情は変わらぬというのに、つぅと綺麗な一筋が瞳から零れ落ちている。
 けれどそれを美しいとだけは思えなかった。君にそんな顔を、とアレクシスは僅かに瞳見開いて。
 襲い来る花嫁を払いながら、硝子の棺と、セリオスと向き合った。
「……ごめん」
 泣かせたくなかったのに、とアレクシスは困ったように笑って。
 ああ、でも違うと――一層、表情緩める。
 困ったようでは、不安も和らぐことはないだろうと。
「……大丈夫」
 君の力は僕を守ってくれてるよ、と囁くように紡いでまたその背中を見せるのだ。
「だから僕も……君を守らせてほしい」
 剣を握りなおす。その手の力も戻ってきたような感覚。
 駆けるその背を、セリオスはまだ見ているしかできなかった。
(「ああ、せめて」)
 声を絞り出して――歌でお前を守れたら。
 わずかに、震える。けれどまだから回っているような心地。
 今はまだ、セリオスに許されているのはアレクシスが戦う姿を見ている事だけ。
 早くこの四肢に自由を取り戻して、そしてこの硝子の棺から出られたらと思うばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…さて。どうやら招かれざる客も来たみたいだし…
この辺りでこの不出来なお芝居も終わりにしましょうか


…少し待っていて。すぐに開放してあげるから

吸血鬼の変装を継続し豪奢な部屋で箱の聖女と世間話をし、
花嫁が現れたら自身の戦闘知識から敵の殺気や動作を予測して見切り、
攻撃を回避しつつ早業のカウンターで懐に切り込みUCを発動

…この光は闇を祓う太陽の輝き。不浄を清める陽炎の刃…

両手を繋ぎ太陽の魔力を溜めた残像の光剣をなぎ払い、
陽光のオーラで防御を無視する光属性攻撃を放つ

…この一太刀を手向けとする。せめて人として眠りなさい

…そういえば、自己紹介がまだだったわね
私の名はリーヴァルディ・カーライル。吸血鬼を狩る者よ



●狩られるもの、狩る者
 ゆるゆると――箱の中の者へとリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は視線を投げて笑うのだ。
 豪奢な部屋。その部屋に似合いの、これまた豪奢な椅子に座り、箱の中にいる聖女へと向けるその笑みは、まだ上に立つ異形の者が浮かべる笑みに近く。
 向ける言葉も、楽し気に虐げるような事を紡ぐのだがそれは世間話というもの。
 けれどその視線は静かに、部屋の扉を開いたものへと向けられた。
「……さて。どうやら招かれざる客も来たみたいだし……」
 この辺りでこの不出来なお芝居も終わりにしましょうか――そう紡ぐと同時に雰囲気が僅かに変わるのだ。
「……少し待っていて。すぐに開放してあげるから」
 小さく、彼女だけにわかるように告げる。
 リーヴァルディは近づいてくる、それが何かわかっているが気にも留めない様子を見せるのだ。
 けれど――その気配が近くまできたのなら。
「主……様の、ために……」
 その身の一部を消し去って、花嫁がリーヴァルディへと迫る。
 振り下ろされる一撃を僅かの変化を読み取ってリーヴァルディは避け、その懐へと踏み込んだ。
「……奥義、抜刀」
 それは吸血鬼の弱点であるもの。
 輝く光の刃を――花嫁へと放ったのだ。
「……この光は闇を祓う太陽の輝き。不浄を清める陽炎の刃……」
 短い悲鳴があがる。
 花嫁の、その身の内にある吸血鬼の因子を断ち切り、消し去っていくもの。
 リーヴァルディのその手にある輝き。両手を繋ぎ、太陽の魔力をためた残像の光剣を薙ぎ払えば、花嫁のその身は塵となっていく。
 それはもう花嫁が死したものであるからだ。けれど、吸血鬼であることからは解放されて人には、なれる。
「……この一太刀を手向けとする。せめて人として眠りなさい」
 望まず、きっとそうなってしまったであろうことはリーヴァルディも意識の端で理解していた。
 けれど吸血鬼であるなら――狩らねばなだないのだ。
 ふ、と息吐いてくるりと箱の中の聖女へと、リーヴァルディは向き直る。
「……そういえば、自己紹介がまだだったわね」
 私の名はリーヴァルディ・カーライル。吸血鬼を狩る者よ――その言葉は、箱の中の彼女にとってどれほどの言葉なのか。
 瞳瞬かせた彼女は、その端に涙をたたえていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『吸血鬼ディンドルフ』

POW   :    ダンスタイム
自身が【敵対心】を感じると、レベル×1体の【吸血鬼の犠牲者】が召喚される。吸血鬼の犠牲者は敵対心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD   :    ミラータイム
【対象のユーベルコードを複製すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【対象と同じユーベルコード】で攻撃する。
WIZ   :    ディナータイム
【「犠牲者の肉のスープ」】を給仕している間、戦場にいる「犠牲者の肉のスープ」を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。

イラスト:良之助

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアンネリーゼ・ディンドルフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 いつもならば――そろそろ、箱と肉塊を引きずって花嫁たちが戻ってくる頃と吸血鬼ディンドルフは思う。
 肉塊は、料理人に渡され鍋の中へ。
 箱に入ったもの達は、長い机のテーブルの用意された席まで運ばれて。そこで箱から出され用意され座らせられる。
 そして饗されるスープ。それを口にすることができたなら、その者は新たな花嫁となるのだ。
 そのスープは見た目はまともそうにみえてそうではない。運ばれて、目の前に皿が置かれたと同時に理解する。。
 それはひとのいのちの残り滓を煮込んで作られたもの。
 さぁ、お食べと微笑みを向けられる。きっと口にあうだろうと。
 目の前で殺された大事なものが煮込まれて作られたソレを口にできなければ――では共に鍋へと連れて行き潰して新たな材料にするだけ。
 まともな精神を保っているものはいないかもしれない。たとえ保っていたとしても口にした途端、耐えられずに壊れてしまう。
 なんてことをしてしまったのかと、一層の絶望に浸されて。
 そうして花嫁のひとりとなる――その幸せを、吸血鬼ディンドルフが与えるのだ。
 広いホールに、長いテーブルがひとつ。
 そこに現れるのは、今日は箱に詰められたもの達ではなく――猟兵。
 吸血鬼ディンドルフはまだ知らぬのだ。今日も主の椅子に座り、テーブルを見回して新たな花嫁を見出すのを楽しみにしているだけ。早くこの席が埋まらぬかな、と。
 しかし箱の引きずられる音ではなく、猟兵たちがやってくる足音が響く。
 己の腹の内に招きいれたものが牙剥くことをこの吸血鬼はまだ知らぬ。
リーヴァルディ・カーライル
…私は声無き声、音無き嘆きを聞き届けるもの

かの吸血鬼に殺された者よ、大切な人を奪われた者よ…

いまだその魂が鎮まらぬならば…
いまだ復讐の昏き炎が燻っているならば…

…その呪わしき怨嗟、その狂おしい憎悪
私が一つ余さず奴に叩き返してあげる…!

左眼の聖痕に魔力を溜め犠牲者達の魂の残像を暗視して、
心の中で彼らに祈りを捧げて限界を突破してUCを発動

敵の攻撃は全身を覆う犠牲者達の呪詛のオーラで防御
空中戦を行う推力を加え怪力の踏み込みから切り込み、
連続で大鎌をなぎ払い敵を乱れ撃ち傷口を抉る早業の先制攻撃を放つ

…吸血鬼相手に口舌を交わす気は無いけど、
彼らの望みとあらば口を開こう

…次はお前がひき肉になる番よ、吸血鬼



●最初の足音
 おや、と吸血鬼ディンドルフは視線を向ける。
 足音が一つ――箱を引きずる音ではないと首を傾げるもホールへと訪れるのであればそれは客だ。
 それが猟兵の一人であっても。
「やあ! 君は私が招待した者かな?」
 その問いにすぅと瞳細め、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は首を横インフル。
「……私は声無き声、音無き嘆きを聞き届けるもの」
 それは一体、どんな? などと――ディンドルフは肩を竦めて問いかける。
 その言葉にリーヴァルディは、その冷えた視線を外すことなく、その指先向けて紡ぐ。
「かの吸血鬼に殺された者よ、大切な人を奪われた者よ……」 いまだその魂が鎮まらぬならば――
 いまだ復讐の昏き炎が燻っているならば――
「……その呪わしき怨嗟、その狂おしい憎悪、私が一つ余さず奴に叩き返してあげる……!」
 リーヴァルディのその左眼の聖痕に魔力が募る。
 この場で無念を抱いたもの達はいる筈。その想いのままに、ディンドルフの周囲にはまとわりつく様に無念抱いたもの達がのしかかるように重なっていた。
 どれほど、非道を成してきたか――だが今は言葉向けるときではない。
 リーヴァルディは心の中で祈りを捧げ、限界を突破する。
「……汝ら、この瞳をくぐる者、一切の望みを棄てよ」
 その身を、受け止めた死した者たちの魂で覆いその心を添わせる。
 一気に距離を詰める、その速さにディンドルフは対応できなかった。
 頭上へと飛翔し、推力を加え踏み込む力には己の持つ力の全てを乗せて切り込んだ。
 その手にある大鎌は、過去を刻むもの。薙ぎ払えばディンドルフの身の上を裂いていくが、ディンドルフはそれを楽しそうに受けている。
「おお! 私に向けるそれは憎悪か、敵意か!」
 楽しいねと笑いながらステップを踏んで踊るよう。
 けれど私の相手はこちらの方がよさそうだとディンドルフは引き寄せる。
 己が生み出した犠牲者たちをここへと無理やりに招きよせているのだ。
 無念の心を持ちながらも、ディンドルフに従わねばならぬ犠牲者たち。
 その上を飛び越えて、リーヴァルディは再度詰め寄った。
(「……吸血鬼相手に口舌を交わす気は無いけど」)
 彼らの望みとあらば、口を開こうと。
「……次はお前がひき肉になる番よ、吸血鬼」
 リーヴァルディが向ける大鎌が再び振られる。その攻撃の前に出てくる犠牲者たちを、切り裂かねばならない。
 躊躇っている余裕などなく、振るってリーヴァルディはディンドルフへと迫る。
 大きく払った大鎌の一閃に襲われてもディンドルフは笑っているのだ。
「ひき肉! ははは! いいね、できるならしてくれたまえ」
 そうなるのも長き生の内では面白いかもしれないと笑いながら、お前達相手をしてやれとリーヴァルディへとさらに犠牲者たちを手向けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
ライラックと

整えられたテーブル
料理はなくてもいやな感じがする

まっすぐ吸血鬼を見て
きみをたおせばおしまいにできる

ライラの声に背を押され
うんっ
笑顔で駆ける

人魚が現れたら
ライラの声が引き換えになったということ
不安には思わない
これまで、動けないわたしをライラは勇気づけてくれた
こんどはわたしもがんばるからねっ

いくよっ
シャボン玉に包まれ加速
犠牲者を振り切って吸血鬼の元へ
ライラの声がきこえなくても
きもちが歌声通して伝わるかのよう
わたしも願うよ
犠牲者たちが、もう起こされなくてすむように

音にならなかった言葉を
泡につつんで届けられたらいいのに

斧を振り下ろす
きみからのおくりものもしあわせもいらないよ
だから、たおすね


ライラック・エアルオウルズ
オズさんと

想像を越える悪趣味だな
思わず視界を遮る様に、
前へ立つか悩みもするが
共に立つ貴方は、心強くて

ずっと、棺中で飽きただろう
思い切りと駆けておいでね

燈籠を揺らして、
声を代償に人魚を喚ぶ
暫し喋れないのは口寂しくも、
代わりと彼女が歌ってくれるし
彼の声が聞けるのは嬉しいな

《全力魔法》添えて、威力上げ
彼が吸血鬼の元へ往ける様に
犠牲者たちを歌声で魅了し、
行動妨害&此方に引き付けて
ある程度と引き付けられたなら、
刃の範囲攻撃でひと思いにと
どうか、安らかに眠れますよう

そうして、舞う泡も響く歌も
せめてもの餞になれば良い

贈物に限らず、こんな晩餐
赦せないと非難は紡げずとも
彼の言葉だけで、十二分だ
――さようなら



●言葉ではなくても伝わるもの
 長い通路を通り抜け――オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)とライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)もそのホールへとたどり着く。
 整えられたテーブル。料理はなくてもいやな感じがするとオズは視線をまっすぐと向けた。
 だれかと戦っている犠牲者たちを向かわせて悠々と過ごしているそれは吸血鬼だ。
 想像を超える悪趣味だな、とライラックは僅かに眉顰める。
 視界を遮るようにオズの前に立つか――そう悩んだのも一瞬だ。
 傍らで、共に立つオズは。
「きみをたおせばおしまいにできる」
 心強いのだから。
 そのオズの背中を押すようにライラックは声向ける。
「ずっと、棺中で飽きただろう。思い切りと駆けておいでね」
「うんっ」
 ライラックに笑顔を向け、オズは一歩を踏み出した。
 その背中を見つめ、ライラックはカンテラを揺らす。
 暫しの間、声は失われる。そして影が伸び、其処より現れるは想像上の友人『セイレーン』だ。
 暫し喋れないのは口寂しい。けれど代わりと彼女が歌ってくれるし彼の声も聴けるというのは嬉しい事。
 傍らを優美に泳ぐセイレーンの姿にオズは瞬く。それはライラックが声を引き換えとしていることも知っているが、不安はなかった。
(「これまで、動けないわたしをライラは勇気づけてくれた」)
 それを知っている事もある。何よりライラックに応えたい。
「こんどはわたしもがんばるからねっ」
 ふわり、オズの周囲をシャボン玉が踊る。
「いくよっ」
 そのシャボン玉に包まれたなら、一気に踏み込む速度は上がって――ディンドルフが行けと向かわせる犠牲者たちの手が届かぬうちにオズは走り抜けた。
 その犠牲者たちの間を抜けれるようにセイレーンは歌う。
 歌声で魅了し、惹きつけて呼び寄せるのだ。そして、惹きつけたならばその刃の届く範囲でひと思いに終わりを手向ける。
 どうか、安らかに眠れますようと。
 響く歌声はライラックのものではないけれど、きもちが歌声通して伝わるかのようとオズは思う。
(「わたしも願うよ」)
 犠牲者たちが、もう起こされなくてすむように――その、音にならなかった言葉を泡に包んで届けられたらいいのに。
 オズが思えば、またライラックも思う。
 舞う泡も響く歌も、せめてもの餞になれば良い、と。
「おや、飛び越えてきてしまったということはダンスの相手としては不服だったのね」
 ならばしばし踊ってあげようと笑うディンドルフへと、ううんと首を振ってオズは深く踏み込んで距離詰めた。
 その手にある斧は高く、振り上げられて。
「きみからのおくりものもしあわせもいらないよ」
 だから、たおすねとオズは言って重い一撃を向ける。
 その声はライラックにも聞こえていた。
(「贈物に限らず、こんな晩餐」)
 赦せないと非難は紡げずとも、とその唇は動くけれど音にはならない。
 けれど、とライラックは僅かに口端に笑みを浮かべて。
(「彼の言葉だけで、十二分だ――さようなら」)
 ひゅっと風切って落ちる刃がディンドルフの身を裂く。その傷口から血が霧のように立ち込めるが、ディンドルフは面白いというように笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
シェルゥカの歌声が聞こえた気がしたけど
君は、そんな顔をする子だったかな
…君も私と同じ、なのかな?

私は、君のことをよく知らないね
これから沢山教えてもらう予定だよ
だから、傍迷惑な宴をさっさと終わらせて帰ろうか
君の喚んだ影の子と、私の橘で、ひとつ演舞でも披露して差し上げよう

グルメな品は、見た目と香りで十分お腹が一杯だ
花弁の群れを壁に盾にと囲うように展開して
速度低下してもシェルゥカが傷つかないように
…彼が、離れていってしまわないように

あぁ、それにしても
血が足りなくてふらつくんだ。支えておくれ、シェルゥカ
このくらいの演技は許してくれるかな
君に触れたい気分なんだ
ちゃんと生きていると、実感したいし、伝えたい


シェルゥカ・ヨルナギ
――あれ
…ああ、君が代わりに出てくれてたの
何故か頭の一部に霞がかった様な感覚がある
でもエンティはちゃんと居るね
なら、いい

俺ももっと君を知りたいよ
手当の為にも早く帰ろう
茨でできた影人間を君の花弁と戯れさせて
俺はエンティをいつでも庇える位置に

ねぇ、吸血鬼。箱でしてた甘い香りは何を使ってるの?
ああ、教えてくれなくていいよ
その方が早く帰れるから
真っ黒な茨に絡まれ切り裂かれてしまえばいい

もし俺に攻撃が来たらその時だけはエンティから少し離れよう
巻き込まないように

エンティ、意外と平気そうだったのは無理をしていたのかな
いけないよ
つかまっていて
無事に帰れるまで離さないでおこう
ちゃんと生きてるって、俺に教えて



●まだ知らぬ君とも、生きて、触れて
 ぼんやり、意識が震えるような。
「――あれ」
 シェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)は一度瞬いて、理解する。
「……ああ、君が代わりに出てくれてたの」
 頭の一部に霞がかった様な感覚。
 でも、とシェルゥカはエンティ・シェア(欠片・f00526)へと視線向けた。
 ちゃんと居るねとシェルゥカは思う。
「なら、いい」
 一つ頷く。その様にエンティもふと笑みを浮かべて。
(「シェルゥカの歌声が聞こえた気がしたけど」)
 君は、そんな顔をする子だったかなと思うのだ。
(「……君も私と同じ、なのかな?」)
 そう思うけれど――まだ、そう。
 私は、君のことをよく知らないねとエンティは言って唇の前に指一本立てて笑み浮かべる。
「これから沢山教えてもらう予定だよ」
「俺ももっと君を知りたいよ」
 そのためにも――やるべきことはやらなければと二人は思うのだ。
「だから、傍迷惑な宴をさっさと終わらせて帰ろうか」
「手当の為にも早く帰ろう」
 シェルゥカとエンティも、ディンドルフが待つ部屋へとたどり着く。戦っている者はすでにいて、きっと次々とここに集うと思えた。
「君の喚んだ影の子と、私の橘で、ひとつ演舞でも披露して差し上げよう」
 茨で編まれた影人間を包む橘の花弁。
 そしてシェルゥカはエンティをいつでも庇える位置に立っていた。
「ねぇ、吸血鬼。箱でしてた甘い香りは何を使ってるの?」
 問いかける。だがシェルゥカは緩く首を振って――ああ、教えてくれなくていいよと続けた。
「その方が早く帰れるから」
 真っ黒な茨に絡まれ切り裂かれてしまえばいいと、シェルゥカは告げる。
「グルメな品は、見た目と香りで十分お腹が一杯だ」
 エンティは花弁の群れを壁に盾にと囲うように展開して、守れるように。
「君達も私のテーブルに招いてあげようか? スープをご馳走しよう!」
 ここにスープを、と高らかに。どこからか現れたそれはディンドルフの下僕か。
 がらがらと鍋をカートに乗せて運んでくる。けれどそれを、口にする気はもちろんないのだ。
 ほうらと差し出されるそれを拒めば動きが鈍くなる。
 そうなっても、エンティはシェルゥカが傷つかないようにと思うのだ。
(「……彼が、離れていってしまわないように」)
 そう思いながら、ゆらりとエンティの身は揺らいだ。
(「あぁ、それにしても」)
 エンティはふと細く笑って、お願いをひとつ。
「血が足りなくてふらつくんだ。支えておくれ、シェルゥカ」
 エンティはこのくらいの演技は許してくれるかな、と心の中で紡ぐ。
 エンティの揺らいだその身を、支えるために手が伸びる。
(「エンティ、意外と平気そうだったのは無理をしていたのかな」)
「いけないよ。つかまっていて」
 無事に帰れるまで離さないでおこう、とシェルゥカはエンティを見て。
「ちゃんと生きてるって、俺に教えて」
 君に触れたい気分なんだ、とエンティはそれも告げない。けれど――それは必要なことなのだ。
 触れているということは――ちゃんと生きている、と。
 実感したいし、伝えたい。きっとそれは触れた部分から伝わるはず。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
ナイトクロウは継続発動
鍵で箱を開け。
「体は大丈夫かい?
居心地は悪いかもしれないけど。此処で少し休むと良い。」
烏を護衛代わりに置き
「今はとりあえず大丈夫だろう。
ただ、その烏が消えたらこの館から逃げてくれ。
俺の事は気にしなくていいよ。」
寿命を削るが気にする余裕はない。

気付かれない様にホールに接近。
内を確認したら黒狼の攻撃やレッドシューターの炎で
料理や食材を破壊しディナータイムを妨害。
「手荒な事をして悪い。」
犠牲者に心の中で手を合わせ

敵の体勢が整う前に行動妨害を重視し
呪装銃「カオスエンペラー」から【マヒ攻撃】の【呪詛】を放ち
隙を見て攻撃力重視で黒狼との同時攻撃。
「人々の命を弄んだ罪。今償って貰う。」



●その命、削りながら
「体は大丈夫かい? 居心地は悪いかもしれないけど。此処で少し休むと良い」
 フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は箱から外への道筋を作る。けれど、今はまだここに居た方がいいと告げて傍らの烏を傍へ。
 そして耳を澄ます――もう誰かは戦っている気配がした。
「今はとりあえず大丈夫だろう。ただ、その烏が消えたらこの館から逃げてくれ」
 そう告げると、あなたはというような視線を向けられた。
 フォルクは察して大丈夫だと紡ぐ。
「俺の事は気にしなくていいよ」
 寿命を削るが気にする余裕はないのだ。死にに行くのか、というような視線だった。
 けれど死ぬことはない。ただ命は削られているのだろうが。
 フォルクは気付かれぬようにホールへと向かった。
 その途中見つけた厨房――そこにあるものは人のいのちを持っていたものだ。
 それらを、フォルクは破壊する。
 黒狼が材料を散らし、レッドシューターの炎で燃やしていく。
 これで新たな料理は準備できぬだろう。
「手荒な事をして悪い」
 けれど、人であったのだ――フォルクは心の中で手を合わせる。
 そして、次に向かうのはディンドルフだ。
 ほかの猟兵たちと戦っている。その隙をついて、フォルクは飛び出した。
「人々の命を弄んだ罪。今償って貰う」
 呪装銃『カオスエンペラー』を向ける。麻痺と呪詛を乗せて放てば、わずかばかりディンドルフの動きは精細さを欠く。
 その隙に、フォルクの元から黒狼が走り込み一撃を同時に畳みかけた。
 その命削りながら、確実に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディルク・ドライツェーン
アル(f26179)と
箱から出たアルをぎゅーっと抱きしめる
「もう遠慮しないからなっ」
まだ吸血鬼を倒さないといけないから、続きは帰ったらな
アルを奪おうとした奴をぶっ飛ばしに行こうぜっ!

吸血鬼の姿を見つけたらアインと一緒に接近戦
【動物使い】でアインと連携して隙をついてUCを叩き込む
その後は攻撃パターンを予測しながら
【怪力】を乗せた拳で力いっぱい【吹き飛ばし】てやるよっ
敵の攻撃には【野生の勘】で致命傷を受けないように回避しつつ
【激痛耐性】で耐える
少しの傷ならアルが回復してくれるしなっ
アルやアインに攻撃しようとするなら【かばう】ぞ
「アンタにオレの大事なもんは何一つやらねぇから」


アルデルク・イドルド
ディル(f27280)と
(ぎゅーとされて撫でながら)
遠慮しない…わ、わかったから帰ってからな。
先に戦闘だから!

さっきは一人で戦わせちまったからな怪我してるだろ?まずは回復しとこうな。
UC【母なる海の恵み】
悪趣味なスープはいらねぇよ。
俺にはディルがいるからなそんなの飲まなくても影響はない。

お前には本当に大事なやつなんかいねぇからわからないだろうがな【挑発】
っと、言ったろ俺にはディルがいるって。

さぁ、コインどもディルを援護だ。



●奪わせぬ、奪わせない
 アルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)が箱から出たならば、ディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)は両手を広げて迎えて。
 そしてぎゅーっと抱きしめた。
「もう遠慮しないからなっ」
「遠慮しない……わ、わかったから帰ってからな」
 先に戦闘だから! とアルデルクは言う。言わなければずっと抱きしめられていてもおかしくないような心地だ。
 その言葉にディルクはそうだなと頷く。
「まだ吸血鬼を倒さないといけないから、続きは帰ったらな」
 アルを奪おうとした奴をぶっ飛ばしに行こうぜっ! とぐっと拳握って叩きのめす気満々だ。
 その様にアルデルクは笑って、行こうと進む。
 戦いの喧騒――ホールではすでに戦いが始まっていた。
 すぐさま向かおうとするディルクをアルデルクは待てと止めた。
「さっきは一人で戦わせちまったからな怪我してるだろ? まずは回復しとこうな」
 深海石の指輪の光を、アルデルクはディルクへと向ける。
 傷が塞がれば、ディルクはありがとなと笑ってアインと銀色の毛並みの狼を傍らに。
 そして共に、破壊のオーラ纏った拳をもって走り込む。
 その姿にディンドルフも気付いた。とびかかるアインを一歩引いて交わした所にディルクが突っ込むように拳掲げて力いっぱい、振り下ろす。
 硬い床を抉る一撃はディンドルフの横っ腹を穿つように繰り出された。
 そしてこんなかんじかね、と笑いながら同じ様に技を返してくるのだ。
 真似事だというのに鏡に映るかのように同じ。
 けれどそれを、ディルクは野生の勘でもって致命傷受けないように身を逸らしてかわした。
「いい身のこなしだね。美味しいスープも馳走してやろうか?」
 そう言って、ほらとスープを示す。しかしそれを口にする気などはないのだ。
 断れば動きは鈍くなってしまうが、これでいいのだ。
「悪趣味なスープはいらねぇよ」
 俺にはディルがいるからなそんなの飲まなくても影響はないとアルデルクは言い切る。
 それを飲む気もなければ、お前の花嫁たちと同じようになる気もないのだからと。
「お前には本当に大事なやつなんかいねぇからわからないだろうがな」
 だから誰でもいいのだ――いや、選んではいたのだろうがそれもまっとうではない。
 そしてその選別に加わる気もないのだから。
「アンタにオレの大事なもんは何一つやらねぇから」
「っと、言ったろ俺にはディルがいるって」
 痛みを受けても構わないとディルクは思う。それは耐えられる。
 そして少しの傷であればアルデルクが治してくれることを知っているからだ。
 だが逆に、アルデルクやアインへと攻撃しようとするのは通すわけにはいかないのだ。
 ディンドルフの攻撃を受けてもディルクは再び踏み込んで一撃を見舞うべく動く。
「さぁ、コインどもディルを援護だ」
 それを援護すべく、アルデルクはコインをその手で躍らせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f11024/花世


優雅な振る舞いに見えて粗陋なこと

牡丹の眉根が寄るさまに
同意の頷きひとつ

ゆるり掲げる符
空中に七つ星を描く所作は舞の如し
同時に高速で詠い紡ぐ、七縛符

名を呼ばずとも駆け出す繊い背は
己へ向けてくださる信頼の証だから
違えずに機先を制して
給仕とやらを封じてみせましょ

響き渡る銃声によって解き放たれるのは
憐れな犠牲者たちの魂と
骸の海を標す門扉
残響の余韻は漣にも似ている

凛々しげな後ろ姿が勢い余って傾いだ様子へ
咄嗟に腕を掴んで引き寄せれば
さっきまでの勇壮は何処へやら
やはり女の身はふわりと軽い、と思わされるのだけれど、

彼女の暢気で頓狂な台詞に
ぱちりぱちりと目を瞬くと
思わずちいさく吹き出して、破願


境・花世
綾(f01786)と

舞台上は何もかもあんまり悪趣味で、
わたしの花嫁には似合わない

折角うつくしく着飾った衣装も
こんなにも清廉で真っ白な頬も
残虐な悪意で、汚させやしないよ

迷いなく踏み込んで見せるのは、
捨て身だからではなくて
背に護る花嫁、もとい綾の援護を
言葉交わさずとも信じているから

早業で銃を構え、狙い過たず撃ち抜こう

一発目、くだらない遊興への愉悦を消して
二発目、可哀想な花嫁達への執着を消して
三発目、己が存在が今在る理由さえ消して

勢いとスピードの代償にぐらりと傾ぐ躰
しまった、こちらも倒れ――っ、

……あ、や?

ふんわりと収まった胸の中は懐かしい馨
きみ、花嫁じゃなくて、王子様だったの



●花嫁、それとも
 もうすでに戦いは始まっていて。
 ディンドルフは訪れる猟兵をあおるかのように笑って、まるで楽しんでいるかのようでもあった。
 広いテーブルの上は戦いで乱されて。皿より零れて広がるスープは、かつて人であったものによってつくられたもの。それが、わかってしまう。
 力のないものであれば、こうなっていたかもしれない。
 けれど戦える力があったから、そうなっていない。それも、わかっているのだ。
(「わたしの花嫁には似合わない」)
 あんまり悪趣味で、境・花世(はなひとや・f11024)の眉根が寄る。その様に都槻・綾(糸遊・f01786)は同意の頷きを返すのだ。
「誠――優雅な振る舞いに見えて粗陋なこと」
 花世は思うのだ。そっと、傍らに視線を向けて。
 折角うつくしく着飾った衣装も、こんなにも清廉で真っ白な頬も――汚すことは許されない。
 残虐な悪意で、汚させやしないよと深く一歩踏み込んだ。
 その一歩には迷いなく、勢いに任せて向かう。
「次のお相手はお嬢さんかな? ダンスがいいかい? それともスープを……零れているな、新しいのを用意させようか」
 ディンドルフは迫る姿に気づいて笑って見せる。
 そのまま向かってきてどうするのかというように。
 花世が走るのは捨て身だから、ということはなく信じているからだ。
 背に守る花嫁――もとい綾の援護を言葉交わさずとも。
 軽快に走りながら、距離を詰めながら花世の手には銃が握られる。
 その間にゆるり、綾は符を掲げていた。
 空に描く、七つ星。その所作は舞の如く流麗で迷いなく自然な動き。
 それと同時に拘束で詠い紡ぐ、七縛符。
 花世の背。その繊い背は己へ向けてくださる信頼の証と綾はゆるり、笑み浮かべる。
 ならば違えず機先を制してみせようと放たれた護符が、ディンドルフが命じるその口を、そして給仕するものの動きも留める。
 その一瞬に、花世は狙い過たず。
 一発目、くだらない遊興への愉悦を消して。
 二発目、可哀想な花嫁達への執着を消して。
 三発目、己が存在が今在る理由さえ消して。
 ――緘黙の銃声が響く。
 憐れな犠牲者たちの魂と、骸の海を標す門扉。
 残響の余韻は漣にも似ていると綾は瞳細める。
 けれど、その姿が瞳の端に映った。
 勢いとスピードと、その代償に花世の身はぐらりと傾いだ。
 しまった、と花世は内心で紡ぐ。
(「こちらも倒れ――っ、」)
 その傾いだ身を、咄嗟に腕掴んで綾は引き寄せる。
 さっきまでの勇壮は何処へやら――そして、その身の軽さを感じるのだ。
 やはり女の身はふわりと軽い、と思わされるのだけれど。
「……あ、や?」
 ふんわりと収まった胸の中。懐かしい馨に花世は包まれていた。
 そしてするりとその唇から零れたのは。
「きみ、花嫁じゃなくて、王子様だったの」
 ぱちりぱちり、綾は瞬いて。
 その、暢気で頓狂な台詞に思わずちいさく吹き出して――綾は破顔する。
 この場がどのような場所であっても、その心に綻んだものは消せず零れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
箱から出れば、目の前には彼の姿
声を掛ける前に抱き寄せられて彼の体温と匂いに安堵する
やられるはずはないと思っていても無事な姿は見ておきたいもの

えぇ、勿論です
暫し動けなかった分、今度は私が体を張らなくてはなりませんね
やはり守られるだけでは性に合わないものです
それでは、往きましょう

召喚された者は破魔の力を付与した刃にて2回攻撃となぎ払いで多くを狙う
倫太郎殿の拘束術で捕らえた者がいれば対象周辺を払う

接近された際には倫太郎殿に接近、紫雨ノ舞にて攻撃を軽減
花びらはそのまま周囲の者を巻き込んでカウンター

倫太郎殿、気が立っているようで
……そう、ですね
私と貴方が逆だったのならば、腸が煮えくり返りそうです


篝・倫太郎
【華禱】
敵の元へと向かう前に……
部屋を出る前に
箱から出した夜彦をぎゅっと強く抱きしめる
いつもと同じ匂いと熱に、ほっと息を吐いて
安堵とここからの戦いの英気を養う

っし、夜彦……往けるよな?
そう尋ねるのも無粋だなぁなんて思いながら
夜彦の応えに笑って

んじゃ、往こうぜ
ここからはいつも通り

拘束術使用
射程内に居るすべての敵に鎖での先制攻撃と拘束
追跡なんざさせねぇし、攻撃もさせねぇ
拘束と同時に衝撃波と破魔を乗せた華焔刀でなぎ払い

正直、俺は無茶苦茶怒ってる訳で
その原因が吸血鬼の野郎だからぶちのめす
そんだけだ

怒ってる理由なんざ
一つしかねぇだろ?
人の唯一無二を花嫁に仕立てようとしたんだぜ?
万死に値するだろ、フツーは



●怒りの行く先
 箱から出れば、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の前には篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)がいる。
 夜彦が倫太郎へと声をかける前に――倫太郎はぎゅっと抱きしめた。
 伝わる体温と匂い――それにほっとするのは、倫太郎だけでなく夜彦もだった。
 息を吐いて、これからの戦いへと向けて英気を養う。
 そしてやられるはずはないと思っていても、無事な姿を見れば夜彦の心には安堵が拡がっていた。
 互いの存在をそこに感じて、そして離れる。
 尋ねるのも無粋だなぁ、なんて思いながら。
「っし、夜彦……往けるよな?」
「えぇ、勿論です」
 暫し動けなかった分、今度は私が体を張らなくてはなりませんねと夜彦は倫太郎へと告げる。
「やはり守られるだけでは性に合わないものです」
 それでは、往きましょうという夜彦へと倫太郎は笑って。
「んじゃ、往こうぜ」
 ここからはいつも通り。共に戦う、いつもの時間だ。
 二人、走って向かうホール。
 その姿見れば、先に戦っていた猟兵たちと変わるがごとく。
 けれどその前にディンドルフが呼び出した犠牲者たちの波が押し寄せてくる。
 射程内に居る敵に向けて倫太郎は見えぬ鎖を放つのだ。
 そしてその敵へと接した夜彦が薙ぎ払うかのように刃を振るう。
「追跡なんざさせねぇし、攻撃もさせねぇ」
 捕らえて、そして倫太郎もまた華焔刀で薙ぎ払えばその数は減る。
 そして吸血鬼への道が見えて倫太郎が先に一歩踏み込んだ。
 その様に夜彦は。
「倫太郎殿、気が立っているようで」
 すると当たり前だろうという様な顔をする。
(「正直、俺は無茶苦茶怒ってる訳で。その原因が吸血鬼の野郎だからぶちのめす。そんだけだ」)
 そう、ただひとつの理由だけだ。
「怒ってる理由なんざ一つしかねぇだろ?」
 倫太郎の声には怒気が満ちるばかり。
「人の唯一無二を花嫁に仕立てようとしたんだぜ? 万死に値するだろ、フツーは」
「……そう、ですね」
 その言葉に――夜彦もわずかの間に想像する。
「私と貴方が逆だったのならば、腸が煮えくり返りそうです」
 だろ、と言う倫太郎。
 二人で息を合わせ踏み込んで、ディンドルフの攻撃を魔力を帯びた紫色の花びらでいなして攻撃へと変える。
 そこへ倫太郎も己の怒りを乗せて、華焔刀を叩きこんだ。
 身を斬られても、ディンドルフは笑っている。
 まだ元気そうだから溜まったモン叩きつけてよさそうだな、とおどけてみるものの、倫太郎の抱えたものがすぐ収まる気配は無さそうだった。
 夜彦はそれを感じながら、お付き合いしますよとまた花弁を躍らせて二人同時に踏み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
長閑と

箱から解き放たれて呆然と手を引かれるままだった
お前に手を引かれるなんてまっぴらだと何時もなら振り解くのに

血で汚れていても分かる
繋ぐ温度に、お前が此処にいることが
最後に繋がったのが何時だったかなんて忘れるわけもない
あの人を、鳥を、空へ解き放った時――

開いた扉の先
強く香る死臭に思考が戻って手を解いた

思考を捨て、戦うことを望む

のどか

分かる。大雑把なそれが
雑に展開する足場に一貫性はない
無意識に当たり前のようにその足場を駆け
避けられないよう直前で大量の扇

相手がどんな奴かとか
考える余裕は今はなく

燃えろ

巻き込まれても構わない
大切に思ってくれる人が浮かぶ
ごめん、でも

嗚呼、謝ってばかりだ
やっぱり、俺は――


憂世・長閑
あやちゃんと

繋いだ手は、冷え切っていた
でも振りほどかれないのが嬉しい
痛みすら、君の為にあれたこと
主の言葉を守れた証のような気がして
弾むように足を進めた先

君みたいな主は、倒さないとな

声で分かった
君が戦いたいってこと
君が、望んでいること

手のひらを掲げる
盾を戦場に浮かばせれば
機動力のある彼の足場となっても
吸血鬼の助けにはさせない
それに。此方の対処に追われるのなら好都合

なりふり構わないのは何も考えたくないから?
そういうところがほっておけないって
多分あやちゃんは分かってないんだろうな
そうなるのも分かるけれど
主様は君には少しだけ天邪鬼だったから

自身の炎から、敵の炎から
てのひらを落として、盾を壁に

君を護るよ



●誰よりも、知っている
 繋いだ手がゆるく揺れる。
 冷え切ってる、と憂世・長閑(愛し秉燭・f01437)は思うのだ。
 けれど、手を繋いで振りほどかれないでいる。それが嬉しい。
 痛みすら、君の為にあれたこと。
 長閑の主の言葉を守れた証のような気がして――その視線は浮世・綾華(千日紅・f01194)へと向く。
 箱から解き放たれて呆然と手を引かれるまま。
 その視線に気づいた綾華は鈍い思考で思うのだ。
(「お前に手を引かれるなんてまっぴらだと何時もなら振り解くのに」)
 血で汚れていても分かるのだ。
 繋ぐ温度に、此処にいることが。
(「最後に繋がったのが」)
 何時だったかなんて忘れるわけもないと綾華は思う。
(「あの人を、鳥を、空へ解き放った時――」)
 まだ鈍い思考。けれど、長閑の弾む様に進める足が止まって。そして綾華の鼻を擽るにおい。
 強く香る死臭に思考が引き戻され、綾華は手を解いた。
 それが、少し寂しく、けれどそれだけではないような気持ちを長閑は得る。
 けれどすぐ、意識はディンドルフへと向けられていた。
「君みたいな主は、倒さないとな」
 その言葉は綾華の耳にも届いていた。
 そして、今は――この思考はいらないと思う。
 思考を捨て、ただ戦う事だけを望んで、零した。
「のどか」
 その声で、響きで長閑はすべて理解する。
 戦いたい。
 それを綾華が、望んでいることを。
 長閑は手のひらを掲げた。盾をいくつも戦場に浮かせていく。
 そして綾華も。
(「分かる」)
 大雑把なそれが、雑に展開し、一貫性はないようなそれのどこを進めばいいのか。
 綾華は一歩踏み出して、その盾の上を駆けていく。ひょいっと飛んで、落ちる。その先にまた足場になる盾があるのを知っているから。
 その様を視界の端にとらえたか、ディンドルフが楽しそうだなと向かうように追いかけようと。己もその盾を利用しようとするのだが。
「そうはさせない」
 すぐかき消して、長閑は好きにさせない。向かう先を失ったディンドルフはその場に立ち止まるしかなかった。
 そして長閑はそんな綾華の姿を目にして、あやちゃんと零していた。
(「なりふり構わないのは何も考えたくないから?」)
 そういうところがほっておけないって、多分あやちゃんは分かってないんだろうな、と長閑は僅かに瞳細める。
「そうなるのも分かるけれど」
 そうなったのは、と長閑は僅かに笑み零して。主様は君には少しだけ天邪鬼だったから――その事を彼は知らないのだ。
 そして綾華はディンドルフへと接する。
 避けられないように、直前で大量の扇を開いて、向けて。
 相手がどんな奴か、なんてことを考える余裕が今はない。
 ただ一言だった。
「燃えろ」
 巻き込まれても構わない。
 大切に思ってくれる人が浮かぶけれど――ごめん、でもと唇は動いて僅かに音になる。
 その炎をディンドルフが映しとる。同じように綾華に返す炎は混ざり合って、どちらがどちらの炎か。
(「嗚呼、謝ってばかりだ。やっぱり、俺は――」)
 意識が落ちかける。
 けれど己の周りの炎がわずかに和らいだ気がした。
 すっと視界を塞ぐように盾が降りてくる。ディンドルフと綾華の間を阻むように。
「君を護るよ」
 長閑の向けた声は綾華に届いているだろうか。
 届いていても届いていなくてもどちらでもいいのだ。
 盾を持って壁をして、綾華を今、守れているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき
まだ箱に入っている。

【WIZ】
三人の男が箱を担ぎ、二人の女が花嫁に変装、一人の童女が先導する。

三人の男は料理になりに行く。
元々死人であり、咎人を殺す為なら手段は問わない。

なぜか魚【鯨、ワニトガゲギス、鮫】が丸々入ったスープになるが。
箱からでたみさきは花嫁や童女と同胞が泳ぐスープを見て【楽しむ】
童心に返った兄弟をみる感情。

真の姿ではないので実寸ではないが給仕には大変なサイズ。
みさきの体も頭部胸部を除き少し削れている。

残る3人も、ミズウオ、竜宮の使い、金魚になって泳ぎに行くかもしれない。

吸血鬼君は、【楽しい】かい?

無慈悲に仕事を全うする咎人殺しがいるだけ。

アドアレ絡み歓迎



●いつもと違うひとさら
 箱の外に、という道は選ばず。
 三人の男が箱を担ぎ、二人の女が花嫁に変装し、一人の童女が先導する。
 箱の中で夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)はそっと周囲を伺うだけだ。
 三人の男は――料理になりに行く。元々死人であるのだ。
 咎人を殺すためであれば手段は問わない。
 ディンドルフのための厨房。そこで料理するもの達は新たな食材だとそれらを調理してスープにするのだ。
 けれど、それは魚が。鯨、ワニトガゲギス、鮫が入ったスープになるのだが。
 戦いの喧騒。それを気にせず荒れたテーブルにそれは運ばれる。
 みさきはそのスープを花嫁たちと童女と眺めて楽しむのだ。
 それは童心に返った兄弟を見るような。感情。
「おや? テーブルについた未来の花嫁に気づかずすまないね」
 と――ディンドルフはみさきに気づいた。
 花嫁は見たことがない顔だと思ったのだろうがさして気にもとめていない様子。
 さぁ食べていいんだよ、とそれがいつもと違うモノであることに気づいていないのだろうか。
「吸血鬼君は、楽しいかい?」
 みさきは問いかける。
 問いかければ、傍にいた三人も姿を変えて泳ぎにいってしまうのだ。
 それに一瞬気を取られたディンドルフへと拷問器具を無慈悲に向ける。
 禊潰すとディンドルフに攻撃かけるのだ。
 そこにいるのはただ、仕事を全うする喜びを示す咎人殺しがいるだけ。
 その拷問器具からディンドルフは逃れて、過激な花嫁候補もいる者だと肩を竦める。
 その皿が私の用意した皿でないならば私の振る舞いではなく。お前は応じた事にはならぬのだからとみさきの動きを阻害する。
 だが、浮けた傷は本物なのだろう。少し痛いねと、ディンドルフは僅かに眉を八の字に、困ったようにしてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
エンジさま(f06959)

はあい、お兄さま、いえ、エンジさま!
狭かったでしょう?体が箱型になってませんか?大丈夫みたいですね
賢い君も小さく?なったような、なってないような?

偉くないのに偉そうなヤツはダメです。それに趣味もよろしくありません
賢い君でグルグルになった所に、先程の亀裂から黄金の霧を
あなたの花嫁にばっきばきにされましたから!
エンジさまは吸わないでくださいね、危ないですから
それでは体の内側に針山地獄をつくりましょう

紅茶ですか?はい、お菓子も美味しかったです。そこは認めて差し上げます
でも帰っていただくジャーキーの方がきっと何倍も美味しいのです!
あなたはひとりで冷めたスープを地獄でどうぞ


エンジ・カラカ
ヨシュカ(f10678)

兄弟の演技はお終いダ。
……ヨシュカ、ヨシュカ、箱の中は狭かった。
コレも賢い君もいつもより小さくなったヨ。
みてみて、小さい。

アァ……アイツが頭の高いヤツ……。
うんうん、やろうやろうそうしよう。
賢い君はお腹が空いたらしい
さっきの紅茶もお菓子も食べられなかったもンなァ……。

薬指の傷を噛み切って君に食事を与えよう。
アイツの食うモノよりも全然美味しいコレの血
賢い君の大好物サ。

ばっきばきのヨシュカ
えーっとー、吸わないように気をつける。
うんうん。吸わない。
コレも賢い君も賢い!

ヨシュカ、ヨシュカ、紅茶とお菓子は美味かったカ?
帰ったらジャーキー食べよ
コイツよりもずっと美味しいジャーキー!



●美味しい紅茶とお菓子より
 ひらり、ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)は手をふる。
「はあい、お兄さま、いえ、エンジさま!」
 箱の鍵を開けて、ヨシュカは笑う。
 エンジ・カラカ(六月・f06959)はのそのそと箱から外へ。
 兄弟の演技はお終いダ、と息を吐く。
「狭かったでしょう? 体が箱型になってませんか? 大丈夫みたいですね」
「……ヨシュカ、ヨシュカ、箱の中は狭かった」
 コレも賢い君もいつもより小さくなったヨとエンジは体を縮こまてみせるが、それでもヨシュカよりは大きく。
「みてみて、小さい」
 と、エンジはその指に絡まる賢い君も見せるのだ。
「賢い君も小さく? なったような、なってないような?」
 どっちだろう、どっちでも構わないかとヨシュカは言って、行きましょうと示す。
 ヨシュカが進めば、エンジも進むしかなく。ちらり、視線の端にはヨシュカが楽しんでいた紅茶とお菓子が映るが、行かなければ置いて行かれてしまう。
 二人で向かうホール。ディンドルフへとすでに猟兵たちの牙は向いている。
「アァ……アイツが頭の高いヤツ……」
 エンジはディンドルフの姿を瞳に映す。ヨシュカはエンジの前に立ってそうですと頷いた。
「偉くないのに偉そうなヤツはダメです。それに趣味もよろしくありません」
「うんうん、やろうやろうそうしよう」
 賢い君はお腹が空いたらしいとエンジは言う。
「さっきの紅茶もお菓子も食べられなかったもンなァ……」
 わずかばかり名残惜しく思いながら、エンジは薬指の傷を噛み切った。
 じわりと零れたその血は、賢い君の食事。
「アイツの食うモノよりも全然美味しいコレの血」
 それは、賢い君の大好物。
 エンジから糧を得て、賢い君は赤い色を伸ばす。ディンドルフを捕まえてぐるぐると巻き付いて、毒性の宝石も、鱗片をも与えれば身動きはとれない。
 この技を返そうにも、それを封じられてディンドルフはおや、と片眉あげていた。
 そしてヨシュカはそのグルグルになったディンドルフの前に立って、先ほど生まれた亀裂から黄金の霧を伸ばす。
「あなたの花嫁にばっきばきにされましたから!」
「ばっきばきのヨシュカ」
「エンジさまは吸わないでくださいね、危ないですから」
「うんうん。吸わない」
 コレも賢い君も賢い! とエンジは己の口を手で塞いで。
 ヨシュカの黄金の霧はディンドルフの身の内へ。
「それでは体の内側に針山地獄をつくりましょう」
 黄金の霧を吸い込んで何になるのか、とディンドルフは笑っている。しかし――吸い込んだそれは、ディンドルフの身の内で無数の針状の結晶へとなる。
 内側から突き出すソレにディンドルフは痛み感じて呻いた。
「ヨシュカ、ヨシュカ、紅茶とお菓子は美味かったカ?」
「紅茶ですか?はい、お菓子も美味しかったです。そこは認めて差し上げます」
 でも、とヨシュカはエンジへと笑み向ける。
「帰っていただくジャーキーの方がきっと何倍も美味しいのです!」
「帰ったらジャーキー食べよ。コイツよりもずっと美味しいジャーキー!」
 うんうん、とエンジも頷く。もう、紅茶やお菓子よりもジャーキーが良い。
 あなたはひとりで冷めたスープを地獄でどうぞと会釈する。一層の棘が生み出され、身の内から飛び出たそれをディンドルフは引き抜いて、そして逃れるように離れていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
見つけたぞ
こいつが今回の元凶か
これまでは上手くやってきたんだろうが、それも終わりだ

他の猟兵へ注意が逸れている間に素早く行動
(闇に紛れる、目立たない、忍び足)
地形の利用で狙撃に最適な場所を確保すれば、弓を使い、破魔の力を込めた属性攻撃で攻撃、暗殺

利き腕もしくは脚の部位破壊を狙い機動力を奪う
その後、矢尻に毒(毒使い、マヒ攻撃)を仕込んだ矢を胴体など命中率の高い部位を狙い当てていく
一番成功率の高いタイミングでUC発動
技を複製されると厄介だ。完璧に決めてみせる

「絶望を教えてやろう」
これから行われることは罪人に相応しい処刑だ
後悔も謝罪もするなよ。聞くつもりもないが
貴様の絶望を被害者への慰めとするのだから



●絶望を与えるもの
 見つけたぞ、と薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は息を潜める。
「こいつが今回の元凶か」
 これまでは上手くやってきたんだろうが、それも終わりだと悟郎は紡ぐ。
 ほかの猟兵たちがもう仕掛けている。そちらへ注意が逸れている間に悟郎は素早く動く。
 豪奢なホール。その中は戦いの喧騒もあって隠れて動きやすい。柱の間を駆け、悟郎は狙撃に最適な場所を探す。
 ディンドルフの背後、視界に入らぬ場所――そこへ向かうのは、時間はかかったが確実に攻撃を駆けやすい場所だった。
 弓を構え――狙いを定める。
 猟兵の攻撃から逃れ、ほっとしているのかゆるんだ瞬間を狙って、破魔の力込めて攻撃を駆ける。
 暗殺、といければよかったのだろう。けれどその一矢で倒せるほどディンドルフもやわではなかった。
 矢の気配をかわす。それは腕や脚を狙い機動力を奪おうと思ってのことだ。
 だが飛んできた矢に気づきディンドルフも己の身を守る為に迫る。
 ひとりか、と侮ったのだろう。
 けれど距離が詰まる、その瞬間に悟郎は技を放つ。
 戦いは見ていた。だから技を複製されると厄介だという事も分かっている。
(「完璧に決めてみせる」)
 手枷、猿轡、拘束ロープを正面から放つ。
「絶望を教えてやろう」
 それを払い除けるようにディンドルフはするのだが、その身にふたつ絡みつく。
 これから行われることは罪人に相応しい処刑だと悟郎は告げる。
「後悔も謝罪もするなよ。聞くつもりもないが」
 貴様の絶望を被害者への慰めとするのだからとかける攻撃。
 ディンドルフの身を貫く痛み。ディンドルフは悟郎の攻撃から逃れるように動く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
馨子さん(f00347)と

大丈夫ですか、動けますか?
手を貸して箱から出た馨子さんと共に吸血鬼の元へ
この部屋、さっきよりも酷い…どうしてこんな事を…

敵の攻撃を避けたいが、身体が?うまく動けない…っ、
とっさにさっきのように馨子さんを背後に庇おうとする

…ありがとうございます。助けるつもりが助けられてしまいましたね
馨子さん、あの吸血鬼を止めましょう、一緒に
これ以上あの花嫁さん達のような人をださないためにも

馨子さんとタイミングを合わせて四色精扇をふるい
【エレメンタルー】発動
風の精霊にお願いして敵をスープから引き離し、逃げられないように風で動きを封じた後、馨子さんの攻撃と一緒に炎(火の精霊)で攻撃します!


紫丿宮・馨子
桜雨様(f05712)と

ようやく箱から出られますね
手を借りて箱の外へ
久々に触れた手のぬくもりに安堵

吸血鬼の元へ
この部屋…そしてあのスープ…もしや

っ…
敵の攻撃から庇われて咄嗟にUC発動
敵の動きを僅かの間でも鈍らせることができれば重畳
これ以上桜雨様を傷つけさせません
もちろん、そのスープを飲ませることも

ようやく共に戦えるようになったのですから
わたくしとて、お役に立ってみせますとも

桜雨様と呼吸を合わせるようにして
援護するように侍従扇から誘惑/精神攻撃/呪詛/破魔/催眠術/呪殺弾をのせた、光属性の衝撃波で攻撃

普段はあまり怒らないのですけれど
此度の被害者たちを思うと
穏やかなままでいられるはずがございません



●共に戦えるということ
「大丈夫ですか、動けますか?」
 桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)の言葉に紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)はようやく箱から出られますねと微笑む。
 差し出された手を借りて外へ。
 久々に触れた手のぬくもりに馨子は安堵を得ていた。
 そして――向かうのはこの居城の主の元だ。
 すでに戦っている者がいるホール。
 この部屋に集う死臭にカイは表情歪める。
「この部屋、さっきよりも酷い……どうしてこんな事を……」
 その中で大きな鍋が馨子の目についた。スープの満たされた鍋だ。
 其れから感じる嫌な気配は隠せるものではなく溢れている。
「この部屋……そしてあのスープ……もしや」
 その鍋に忌避を感じる。すると、身体が――重く感じられた。
「身体が? うまく動けない……っ」
 カイは馨子を庇えるようにとっさに前に出る。
 そして姿見止めると敵だと攻撃向けるディンドルフ。
「っ……」
 馨子は香炉から、凝縮された見えない香りの珠を放ち、ディンドルフを狂わせる。
 魅了はどうだろうか。睡眠の呪を乗せれば意識は僅かに鈍ったのかその攻撃は逸れていく。
「これ以上桜雨様を傷つけさせません。もちろん、そのスープを飲ませることも」
 馨子はぴしゃりと言ってのけた。
 カイは馨子へと軽く視線を向けて。
「……ありがとうございます。助けるつもりが助けられてしまいましたね」
「ようやく共に戦えるようになったのですから。わたくしとて、お役に立ってみせますとも」
 先ほどまでは見ている事しかできなかった。
 けれど今は違うのだからと馨子は微笑んだ。
「馨子さん、あの吸血鬼を止めましょう、一緒に。これ以上あの花嫁さん達のような人をださないためにも」
 カイは、対したあの花嫁たちのことを思い出す。
 馨子も、ええと頷く。
 そして、二人――息を合わせて動き始める。
 カイが四色精扇を広げてディンドルフへと走り込む。
 風の精霊へと願い、敵を逃げられないように動きを封じて。
 そして馨子は侍従扇から己の持てる力乗せた衝撃波を放ち攻撃する。
 普段は、あまり怒ることは無いのだ。
 けれど此度はと馨子は瞳細める。
 被害者たちを想うと――その心にはふつりと怒りが沸き起こる。
「穏やかなままでいられるはずがございません」
 衝撃波にディンドルフは押される。そこへ、カイは息を合わせ火の精霊の力借りて炎を叩きこんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・紅
アドリブ歓迎

お待たせ、お料理のお時間です
今日の料理人は僕(くるり
美味しく愉しくお料理されてくださいね!
んーけれど食べて下さる大切な方はいらっしゃらなさそうですね?
…では朧に食べて貰いましょー

変なフリすんな、と言わんばかりに不機嫌に菫が金へ
嗚呼だがお待ちかねのメインディッシュだ
裂くは己が手首
赤々と流れ出る血潮はずるりと鎌首擡げ
殺人鬼の思う侭
無数の血糸の咢が貪欲に獲物の生命力を喰らい暴れ絡み動きを制す

まさカ、俺が憐れむたァ思ッちャいねェよな?

犠牲者もまた等しく無慈悲に噛み散らす

(殺人鬼に憐憫も何もありはしない
だから
戻れないのなら
優しい誰かが心傷め殺る前に
僕が殺してあげますね)
心層で紅が零し

朧は嗤う



●殺人鬼にないひとつ
 戦いの音は賑やかだ。その音に導かれるように、足を向けた先。
 ホールに一歩入った朧・紅(朧と紅・f01176)の前へと、炎に塗れてディンドルフが転がってきた。
 ディンドルフは己の前に居るものを見上げ、無事な様子にわずかに口端引きつらせる。
 もうわかっているのだ。ここにいる者たちは吸血鬼を亡ぼすもの達なのだと。
 目が合って、紅はにこっと笑み向けた。
「お待たせ、お料理のお時間です」
 今日の料理人は僕と紅はくるり、回ってみせる。その様にディンドルフはぽかんと見上げて。
「美味しく愉しくお料理されてくださいね!」
 もう火は通っちゃってます? と焼かれた様をみて紅は首を傾げた。
「んーけれど食べて下さる大切な方はいらっしゃらなさそうですね? ……では朧に食べて貰いましょー」
 そういうと――不機嫌さを帯びて、菫が金へと変わる。
 変なフリすんな、と吐き出して。けれども口端は上がるのだ。
「嗚呼だがお待ちかねのメインディッシュだ」
 紅――朧は、己が手首を裂いて赤々と流れ出すそ血潮を許す。
 それはずるりと、鎌首もたげディンドルフへと食いかかるように踊る。
 殺人鬼の思う侭、無数の血糸の咢が貪欲に獲物の生命力を喰らい暴れ、絡んで。動きを制するのだ。
 ディンドルフは呻いて、周囲に犠牲者たちを集わせた。
 朧との間に割って入らせ、距離を稼いでいる様子。
「まさカ、俺が憐れむたァ思ッちャいねェよな?」
 けれど、口端上げて笑って、犠牲者もまた等しく。
 無慈悲に噛み散らしていく。
 殺人鬼に憐憫も、何もありはしないのだ。
(「だから――戻れないのなら。優しい誰かが心傷め殺る前に僕が殺してあげますね」)
 心層で紅が零す。
 そして朧は嗤うのだ。
 重なっていく犠牲者たちを目にしながら。次の得物を探して。

大成功 🔵​🔵​🔵​

叶・景雪
ヴォルフガング(f09192)お兄さんと
難しい漢字は平仮名使用。カタカナはNG

まだ体がちょっとうまく動かないからお兄さんの背中にのせてもらうね!
わわっ、すごーい、おにいさん!
とっても高いし早いよ!(きょろきょろ

ホールについたら背中からおりようとしたら、
おにいさんがおっきいわんこにのせてくれた!?
いっしょにがんばろー!
吸血鬼ってよくわからないけど、あやかしの一種だよね?
なら、きっと…この子(=細雪)が頑張ってくれるはず!
ぼくがさっきまで入ってたひつぎによくにた白い誂えから抜き
『破魔』『先制攻撃』『2回攻撃』で攻撃をしかけるね!
吸血鬼が体せいをくずしたら、舞風で
「手数のおおさは、負けないよー!」


ヴォルフガング・ディーツェ
景雪(f03754)と
いよいよ兎狩りの時間だ…念の為景雪は背負っていこうか
はいはい、はしゃいでると落ちるよー(苦もなく背負い)

戦闘では【指定UC】を用い景雪の護衛を兼ね犬霊・テオを付けよう…頼んだよ

悪趣味な吸血鬼には残念ながら思い入れはない
敵意すら無用、蚊を殺すのと何ら変わりはないのだから

接近戦でフェイントを掛けつつ組み付き、この魔爪で相手の胎を引き裂き破壊し【催眠術】【精神攻撃】【ハッキング】で精神干渉
ディンドルフの身体情報を弄び、見せるのは嘗て殺された時の光景
悪夢の再来だ、頭を垂れて感謝するんだな

出来た隙は景雪と連携
彼が手数で押すなら俺は魔炎と爪で相手を破壊し尽くす

妖狩り、此れにて完了かな



●共に重ねる
 その箱から出て叶・景雪(氷刃の・f03754)はあれ、と僅かにふらついた。
 それをヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は受け止めて。
「いよいよ兎狩りの時間だ……」
 けれど、念のためとヴォルフガングはしゃがんで景雪へと背中を向ける。
 まだ体がちょっとうまく動かない。景雪はその背中を見て、ヴォルフガングが言わんとしていること察してぴょんと背中に飛びついた。
「お兄さん、ありがと! 」
 ヴォルフガングが立ち上がる。すると今まで経験したことのない視界の高さに景雪ははしゃぐ。
「わわっ、すごーい、おにいさん!」
「はいはい、はしゃいでると落ちるよー」
「とっても高いし早いよ!」
 景雪を背負うことはヴォルフガングにとっては苦も無く。
 背負ったままたどり着いたホールでは戦いが繰り広げられていた。
 景雪はついたしおろして、お兄さんと言う。
 ヴォルフガングは頷いて、けれど景雪を下した場所は召喚した邪鉄の武装を纏う黒犬の機霊、テオの背中の上。
おにいさんがおっきいわんこにのせてくれた!? と景雪はちょっと驚き、テオへと言葉向ける。
「いっしょにがんばろー!」
「……頼んだよ」
 景雪の護衛を兼ねたテオへと言葉向けてヴォルフガングはさてと視線を向ける。
 悪趣味な吸血鬼には残念ながら思い入れはない。
 敵意すら無用、蚊を殺すのと何ら変わりはないのだからと静かに見つめて、その姿を捉える。
「吸血鬼ってよくわからないけど、あやかしの一種だよね?」
 景雪はなら、とその手をそっと添わせる。
「きっと……この子が頑張ってくれるはず!」
 さっきまで入っていた棺によくにた白い誂えから、その刃を抜き放つ。
 先にかけたのはヴォルフガングだった。
 己に迫る姿を見つけディンドルフもまた構える。ヴォルフガングが向けるのは魔爪だ。
 フェイントを駆けつつ組み付きその腹を引き裂いた。
 そしてわずかの間にその精神に干渉する。催眠術、精神攻撃、ハッキングと持てる力を向けるのだ。
 ヴォルフガングが得るのはディンドルフの身体情報。見せるのは嘗て殺された時の光景だ。
「悪夢の再来だ、頭を垂れて感謝するんだな」
 ディンドルフの動きが鈍る、止まる。
 景雪は細雪をもってディンドルフへと切りかかった。ひとつ、ふたつと連続で攻撃をかけ、己の映し身をいくつも複製していく。
「手数のおおさは、負けないよー!」
 突き刺さる刃。なら、とヴォルフガングは魔炎と爪でディンドルフを翻弄し破壊する。
「妖狩り、此れにて完了かな」
 ディンドルフの身は傷を増やしていく。
 しかしもう一度と駆けた攻撃をディンドルフは慣れたのか、避けて――犠牲者たちの壁を作り出す。
 攻撃をそれで阻んでいる間に、その姿は離れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
【水魚】

カランコエに見守られ
カスミソウは胸に秘め
罅割れた棺から抜け出て
エミールの手を握り起き上がる

マリアは大丈夫よ
それよりも…(彼の傷に触れ
エミールこそ、痛くないかしら
無理しちゃいやなのよ(リボンで怪我した箇所を巻く

ええ、哀しみの連鎖は断ち切りましょう
(この記憶はずっと憶えていれずとも
今、抱く感情は
マリアの大事なもの)
まぁ!エミールったら
マリアだってあなたに幸せになってもらいたいのよ(額こつんし微笑

悪趣味な吸血鬼と対峙
冷ややかな視線

エミールの後方支援
竪琴が無いので加護の詩(うた)をエミールへ
敵へは麻痺の糸絡む声で足止め
耳飾りを変え【茉莉花の雨】使用
世界を謳い何もかも浄化する

惨劇はお終いなのだわ


エミール・シュテルン
【水魚】
箱へ手を差し伸べ、起きるお手伝いをします
ようやく触れたレディの指先に名残惜しくゆっくりと離そうと
「どこか痛いところはありませんか?」

花嫁さんの一人になるのが幸せだなんて…
そんな幸せは私が許容できないのです。
これ以上、花嫁さんが増えないよう、ここで止めましょう。
それに…(囁くように
「レディには本当の花嫁としての幸せを見つけてほしいですから」
(額こつんに緩んだ口元を掌で覆い視線そらし

焔麗を振るい『破魔』『衝撃波』で距離をとりライオンライドを使用。
吸血鬼が同じようUC使用してきたら、レディの方へ向かわないよう細心の注意を払います。
「あなたの相手は私です」
万が一の場合はレディを『かばい』ます。



●惨劇を終わらせるために
 きっと戦いは、もう始まっているだろう。
 その気配を感じつつも、エミール・シュテルン(一途な・f11025)はマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)へと手を差し伸べた。
 ようやく触れることができた――しかし、起きるための手伝いである手はすぐに離れていく。それにエミールは名残惜しさを感じていた。
「どこか痛いところはありませんか?」
 カランコエに見守られ、カスミソウは胸に秘め――マリアドールは罅割れた棺から、その手を借りて抜け出た。
「マリアは大丈夫よ。それよりも……」
 そっと、エミールの傷に触れるマリアドール。
「エミールこそ、痛くないかしら」
 無理しちゃいやなのよ、とリボンを一つ解いて。そしてその傷へとマリアドールは巻いていく。
 エミールはされるがままだ。
 そしてエミールは思い零し始めるのだ。
「花嫁さんの一人になるのが幸せだなんて……そんな幸せは私が許容できないのです」
 これ以上、花嫁さんが増えないよう、ここで止めましょうとエミールが告げる。
「ええ、哀しみの連鎖は断ち切りましょう」
 マリアドールはそれにこくりと頷いて思うのだ。
(「この記憶はずっと憶えていれずとも――今、抱く感情は、マリアの大事なもの」)
 そう思っているとそれに、とエミールがそっと声潜め、そして囁く様に言葉紡ぐ。
「レディには本当の花嫁としての幸せを見つけてほしいですから」
「まぁ! エミールったら。マリアだってあなたに幸せになってもらいたいのよ」
 ぱちくり瞬いて、マリアドールは額をこつんとエミールの額へと合わせて微笑む。
 それに緩む口元――エミールはそれに気づいて掌で覆い隠し視線逸らした。
 そして二人で向かう、吸血鬼の元へ。
 悪趣味、とマリアドールの視線は冷ややかなものだ。
 マリアドールの前へと立ったエミールは金の時計細工が印象的な深紅の魔鍵を振るう。
 そして距離を取り黄金のライオンを召喚した。それを目にしたディンドルフは、マネを使用と己も黄金のライオンを呼び出しその背に。
 エミールはディンドルフの気が向かぬように立ちまわる。
 マリアドールは援護だ。
 竪琴がない。だから今は加護の詩を。
 そしてディンドルフには麻痺の糸絡む声で足止めをかけながら、耳飾りに触れた。
 それをジャスミンの形をした水晶の花弁に変えて――攻撃をかける。
 世界を謳い何もかも浄化する――そのために。
「惨劇はお終いなのだわ」
 今日、きっと終わる。マリアドールはそれが確かなものだと知っている。
 そのマリアドールへとディンドルフの意識が向きかける。
 だがそれを阻むように。
「あなたの相手は私です」
 エミールは前にたち、その視界を防いで彼女を庇うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
未不二(f04322)と(アドリブ歓迎)
※拘束服はベルトを切ってもらう

…泣いてた?オレが?何の事だ。気のせいだろ
(そっぽを向き誤魔化しにかかる)

そっちは、怪我は大丈夫か?
他にも色々言いたいことはあるけど、それは後だな

オレは「いずれいなくなるオレを、覚えていてもらう相手」が欲しくて
そればかり考えてたし、きっとそういう風にしか他人を見てなかった
だけど、もう違う。蛟羽、今はお前を守る。…ほら、怪我してるし
(守る。どんな姿を晒す事になろうとも)

勝手にどこかに行くな、か。努力はするさ

【人喰い灰白】使用(体の所々が獣化、使用中~戦闘後暫く会話困難)
召喚された犠牲者達を振り払い、吸血鬼に全力の攻撃を叩き込む


未不二・蛟羽
白露さん(f00355)と

先の戦いの傷は浅くはなく、先程の涙への困惑も消えず
それ以上聞くこともできず、聞いてもきっと分からない後ろめたさを呑み込んで

痛いけど…でも動けるっす
だから、もう一人でどこかにはいかないで

…難しいことは分からないっすよ
いつかなんてピンとこないし、なんでそれが欲しいかも…解らない
でも俺、守られたくて一緒にいるんじゃないっす
きらきらが、好きだから、もっと笑って欲しいから
だから勝手にいっちゃ、だめっす

笹鉄で犠牲者を切り払うことで道を作りながら駆け
吸血鬼に対してはワイヤーのロープワークで足元を絡め捕り、体勢を崩したところでUC
蛇が足の影へと喰いつき、白露の攻撃へと繋げ

アドリブ歓迎



●ひとりで、よりも
 受けた傷は浅くなく、未不二・蛟羽(花散らで・f04322)は僅かに顔を歪めた。
 けれどそれより先程、皆城・白露(モノクローム・f00355)が零した涙への困惑もあった。
 彼を拘束するものを外して――それでも、気になって蛟羽は泣いていた理由を聞いた。
 すると白露はきょとんと瞬いて。
「……泣いてた? オレが? 何の事だ。気のせいだろ」
 そう言いながら、白露はそっぽを向き誤魔化す。
 そうなるともう蛟羽は何も言えなくて、それ以上聞くこともできず。聞いてもきっと分からない後ろめたさを飲み込んだ。
「そっちは、怪我は大丈夫か? 他にも色々言いたいことはあるけど、それは後だな」
「痛いけど……でも動けるっす」
 蛟羽は、僅かに間を置いて。
「だから、もう一人でどこかにはいかないで」
 白露は向けられた言葉に――思う。
(「オレは『いずれいなくなるオレを、覚えていてもらう相手』が欲しくて」)
 そればかり考えてた。きっとそういう風にしか他人を見てなかった――だけど、違うと告げる。
 もう違う。
「今はお前を守る。……ほら、怪我してるし」
 白露は守る、と心の中で誓うのだ。たとえそれで、どんな姿を晒す事になろうとも、護れるのならば、と。
「……難しいことは分からないっすよ」
 いつかなんてピンとこないし、なんでそれが欲しいかも――蛟羽は解らない。
「でも俺、守られたくて一緒にいるんじゃないっす」
 きらきらが、好きだから、もっと笑って欲しいからと蛟羽は続けて。
「だから勝手にいっちゃ、だめっす」
 言いたいことは伝えなければと、言葉向ける。
 白露はその正面から向けられた言葉を受け取ってひとつ、頷いた。
「勝手にどこかに行くな、か。努力はするさ」
 まずはこの居城の主を倒すことが今すべきこと。
 けれど互いに向けた、もらった言葉を胸にふたりはディンドルフの方へと向かう。
 ホールはすでに荒れている。二人の眼にその姿が飛び込んできた。
 それと同時にあちらも認識したのか、犠牲者たちを召喚し己の前で壁とする。
 その犠牲者たちを、蛟羽の血から生み出されたワイヤーが撫でて道をつくる。
 そして白露もその姿の所々を獣として力を得るのだ。その間は、そしてそののちしばらくは会話ができないほどに精神が乱れるのだが倒すためならば、と。
 その獣の腕で犠牲者を薙ぎ払う。
 白露が走らせたワイヤーがディンドルフを絡めて。
「捕まえたーっす!」
 蛟羽の尾の蛇がディンドルフの影へと噛みついた。動きが鈍った――その瞬間を白露は見逃さない。
 そして蛟羽も、踏み込んでくれると信じていた。
 白露のその拳で白い炎が踊る。それを込めた一撃を、ディンドルフへと叩きこんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

……僕を花嫁になどと、それは端から叶わぬものです
僕は、かれのものですから

ザッフィーロ、落ち着いてくださいと声をかけるも秒で返された言葉に笑い
きみこそ先の戦闘で怪我しているのですから、無理はしないでくださいね

ええ、僕も冷静ですとも
ただ―――そうですね、愛おしいきみを守れず戦えなかったことが、すこーしだけ悔しいだけですとも
ザッフィーロのやや後方に立ちつつもその背を守り援護できるように
ザッフィーロの狼と攻撃の合間を縫うように【天響アストロノミカル】で攻撃いたしましょう

僕はかれのもの、かれは僕のもの
……かれの背を守るのも、僕だけです
あなたには、灰塵となっていただきましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵を護る様手を引き前を歩きながら敵の元へ
宵を花嫁にだと…?…宵はもう俺の物だというに
…、…否、俺は冷静だ。だが宵、お前は前に出るなよ?

戦闘時は前衛にて行動
宵に敵を近づけぬ様【狼達の饗宴】で生み出した狼達を敵を囲む様放ちつつ『怪力』を乗せたメイスを敵に振るおう
…血肉を所望か?ならばお前が成ってみるといい
まあ、喰らうのは狼のみだろうが

攻撃を続けながらも背後から流れる星を見れば宵を『かば』いながらも己への攻撃は気にせずメイスを振るい攻撃を続けよう
ああ、俺が必ず宵を護る様、お前も俺を護ってくれると信じているからな
…敵の攻撃は撃ち落としてくれるのだろう?ならば俺は全力で叩き潰すのみ、だ



●互いの居場所
 手を引き、前を歩む。
 その男の――ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)の怒りはふつふつと沸き立っていた。
 許せぬのだ。この居城にいる者の――それに乗って、打ち砕くためにきたのも、わかってはいるのだが。
 それでも心は正直だ。
(「宵を花嫁にだと……? ……宵はもう俺の物だというに」)
 そのザッフィーロの先行く様子に逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は彼の心中を察する。そして僅かに瞳を細め、思うのだ。
(「……僕を花嫁になどと、それは端から叶わぬものです。僕は、かれのものですから」)
 もうそう決まっているのだから、誰も覆すことなんてできない。それもわかりきった事なのだ。
 けれど、二人の間に邪魔しに入られたような気もして、それは気に入らない。
 ザッフィーロも同じく思っているのだろう。だから、その怒りを抱いている。
 僅かに早くなるその歩み。宵がザッフィーロと名を呼べばその視線が応える。
「ザッフィーロ、落ち着いてください」
「……、……否、俺は冷静だ。だが宵、お前は前に出るなよ?」
 そのすぐに返された言葉に宵は笑い零し、ええと頷く。
「きみこそ先の戦闘で怪我しているのですから、無理はしないでくださいね」
 ザッフィーロはこの程度問題ないと言うのだ。そして宵を、見つめる。
 いつもと変わらぬような。けれど、宵もまた心に抱えたものがあることを察して。
 そして言わんとしていることを理解して宵はにこりと笑った。
「ええ、僕も冷静ですとも。ただ――そうですね」
 この心にわだかまりがあるのならそれは。
「愛おしいきみを守れず戦えなかったことが、すこーしだけ悔しいだけですとも」
 けれどそれは、この先に居る吸血鬼にぶつけてしまいましょうと続けて。
 二人の向かう先、視界が開ける。ホールの中はすでに多くの猟兵に叩かれたディンドルフの姿。
 そして犠牲者たちの多さにザッフィーロは身の穢れが滲む、血肉を喰らわんとする狼の姿した炎を放つ。
 それは宵に敵を近づけぬために。
 その手にメイスを持って、ザッフィーロは宵の前に立つのだ。
 蠢いて迫る、犠牲者たちをかわしながら、ディンドルフへと二人は接する。
 誰かの攻撃受けて吹き飛んで、転がってきたディンドルフをザッフィーロは見下ろした。
「……血肉を所望か? ならばお前が成ってみるといい。まあ、喰らうのは狼のみだろうが」
 振り下ろす、メイスの一撃をまともに喰らえばと思ったのかディンドルフはかわした。
 その背を宵は見詰めている。守り、援護できるように。
 狼が描ける攻撃。その合間を縫うように――宵は攻撃を。
「流星群を、この空に」
 その背後からの攻撃にザッフィーロは僅かに笑みを浮かべた。
 やはりこうでなければ、ならないと。
 攻撃受けるのも気にせずメイスを振るい続ける。
 その間を縫うようにディンドルフへと隕石が落ちていくのだ。
「僕はかれのもの、かれは僕のもの……かれの背を守るのも、僕だけです」
 それは誰にも譲れない、譲る気ももちろんない。
「ああ、俺が必ず宵を護る様、お前も俺を護ってくれると信じているからな」
 だからこうして戦えるとザッフィーロは紡ぐ。
「……敵の攻撃は撃ち落としてくれるのだろう?」
 ディンドルフがその手振り上げ攻撃を掛けようとする。
 その声に宵は微笑んで、隕石で振り上げられたその手を潰すように。
「あなたには、灰塵となっていただきましょう」
 その言葉にふ、とザッフィーロは口の端に笑みを乗せる。
「ならば俺は全力で叩き潰すのみ、だ」
 振り下ろすメイスがその血肉を潰して。
 呻いたディンドルフは、宵のその術を映しとって同じように隕石を返す。
 それはザッフィーロと己の前に落とされて、ディンドルフは距離をとるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
同行/ブラッド

知らず知らず一歩、彼よりも前へ

――ううん、本当は気付いてる
僕は彼を信じてる
だけど彼が傷付くのなら自分が傷付く方がいい
それが愚かで子供じみたただの我儘だという事も、解ってる
それでも、

彼の穏やかな笑みに釣られ肩の力が抜ける

恰好?……ふふふ
ブラッドは、いつもかっこいいよ


黒の指先へ口付けて
絶対のパートナーブラッドへオーラ防御付与
あなたに加護を

うん、まかせて
僕は、僕にできる事を


僕の唯一、僕にはブラッドしかいない
そして、君達の大切な人も僕じゃない

【salvation】
祈り、歌い
犠牲者の縛られた魂を解き放とう

光の聖霊よ
愛する者達を巡り逢わせ、その魂を導いて

もう痛みも苦しみも無い
柔らかな光の中へ


ブラッド・ブラック
サン

強張ったサンの肩に触れ
「サン、……大丈夫だ」
愛し子を庇うよう前に出て
安心させるよう穏やかに笑んだ声音で
「俺に恰好を付けさせてくれ」

……俺はまた、お前に心配をかけていたのかもしれないな
だが、護ってみせよう
お前は俺の唯一の光なのだから

「お前の歌で彼等を救ってやってくれ」


『天使の抱擁』介しサンの加護纏い
「さあ、来い
お前の相手は俺だ」
サンを庇い、挑発・敵対心を集め
犠牲者の攻撃は武器受け・薙ぎ払いいなし
傷を受ければ黒い体液を餌に『貪婪の腕』を殺戮捕食態へ

狙うは吸血鬼唯一人

悲劇を、その苦しみを無かった事にはできないが
「彼等はお前のものではない」
せめて魂に安息を

限界突破・大食い
その性根ごと喰らってやろう



●共に戦い、歌って――救いを
 知らず知らず一歩。
 その一歩は小さくもあり大きい。
 サン・ダイヤモンド(apostata・f01974)の肩へとブラッド・ブラック(LUKE・f01805)は手を伸ばし触れる。
「サン、……大丈夫だ」
 その声と共に、ブラッドが前へと出る。
 愛し子たるサンを庇う様に前に出て、安心させるよう穏やかに。
 嗚呼、と吐息が零れるのをサンは飲み込んだ。
(「――ううん、本当は気付いてる」)
 僕は彼を信じてる、と心内で零して。
(「だけど彼が傷付くのなら自分が傷付く方がいい」)
 それが愚かで子供じみたただの我儘だという事も、解ってる――それでも、と心は頑なであったのだ。
 触れられる、その時まで。
 ブラッドの穏やかな笑みに片の力が抜けて。それを感じたかブラッドは言葉続ける。
「俺に恰好を付けさせてくれ」
 その言葉にサンは瞬いて、ふふと表情に彩りを乗せた。
「恰好? ……ふふふ」
 おかしなことをいう、と零して。けれどブラッドは何がおかしいのか――いや、サンが何をおかしく感じているのかはわからないのだ。
 その言葉を貰うまで。
「ブラッドは、いつもかっこいいよ」
 肩に置かれた手を取って、その黒の指先へとサンは口付ける。
 絶対のパートナー、ブラッド。
 サンはブラッドを守る為のオーラを巡らせる。光のヴェールがブラッドを包み守りとなるのだ。
「あなたに加護を」
 愛し子の笑み。
 それを目にブラッドは――思うのだ。
(「……俺はまた、お前に心配をかけていたのかもしれないな」)
 だが、護ってみせようと心に固く思う。
 お前は俺の唯一に光なのだからと、それは言葉にせず。けれどその気持ちは向けて「。
 そして先ほどはできなかったことが――今はできる。
「お前の歌で彼等を救ってやってくれ」
 傷を負ったディンドルフが己を守るように犠牲者たちを呼び出し侍らせる。
 彼らは何に囚われているのか――そのひとつひとつ、すべてを感じることはきっとできないし、する必要もないのだろう。
 けれどサンは、それでも助けるとブラッド走っている。
「うん、まかせて。僕は、僕にできる事を」
 僕の唯一、僕にはブラッドしかいないと、サンの視線が告げる。
 その視線が向かうディンドルフと犠牲者たち。
「そして、君達の大切な人も僕じゃない」
 祈り、歌う。
 向かってくる犠牲者たち――その、縛られた魂を解き放とうと。
「さあ、来い。お前の相手は俺だ」
 歌う合間、サンを守るのはブラッドの仕事。
 言葉を向け、敵対心を集め犠牲者たちの攻撃をブラッドが請け負う。
 犠牲者の向けた攻撃がブラッドの身を引き裂いた。その傷を、黒い退役を餌に『貪婪の腕』を殺戮捕食態へと変えて――伸ばす。
 そして犠牲者たちにサンの祈りが届くのだ。
(「光の聖霊よ――愛する者達を巡り逢わせ、その魂を導いて」)
 その歌声を耳にした犠牲者たちの前に現れるものは、おのおのが違うのだろう。もうそれを失って忘れてしまったものもいるが――覚えているものもいるのだ。
 それらは手を伸ばし優しい光の中へと消えていく。
「もう痛みも苦しみも無い、柔らかな光の中へ」
 祈りと共にサンは言葉向ける。
 そして開かれたその先にディンドルフの姿を見つけブラッドは懸ける。
 光の中に消えていくものたちの姿を見ながら思うのだ。
(「悲劇を、その苦しみを無かった事にはできないが」)
 今ここで、許されて放たれていく魂には、せめて安息を。
 けれどこのディンドルフに対してはそうである必要はない。
「彼等はお前のものではない」
 その性根ごと喰らってやろうとブラッドはその身を叩きつけるかのようにディンドルフへと落とした。
 貪婪の腕に掴まれたディンドルフは痛みに叫び声を上げて、果てなかった犠牲者たちに襲い掛からせる。それによって僅かに緩んだ隙間から転げるように逃れた。
 ブラッドはそれを追いかけることはしない。
「ブラッド」
「ああ」
 サンがそれよりも、此処に居るものたちを救うことを望んだからだ。
 ディンドルフが己を守るように置いて行ったもの達を救うために、サンはまた歌い、ブラッドはその間守る。
 放っておいても、あのディンドルフはほかの猟兵がきっと仕留めるだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
あなたの愛し仔たちは先に眠って貰ったよ
…次はあなただ

敵のUCの影響で動きが鈍いのが悔しいが、スピードに頼れないなら手数で勝負
灯火を可能な限り発生させ敵の周辺に纏わせる

…普段なら手足のように灯火を操れるのだが…今は水の中にいるようだ
苦戦に顔を歪ませ

…でも、不思議だねえ
あなたが優勢のはずなのにどうしてそんなに息が上がっているんだい?

苦戦のように見せていたのは敵の油断を誘う為
風の属性で少しずつ敵の周辺の空気を薄くし、灯火で残った酸素を食い尽くす算段だった
敵の動きが鈍ったのを確認したら破魔+毒を含ませた空気を風に乗せて敵の元へ
十分に呼吸ができないのは辛かろう
遠慮はいらない
さあ、たんと召し上がれ?



●灯火をもって
 くそ、とディンドルフは悪態をつく。
 今日も新たな花嫁を迎える、いつも通りになるはずだったのにと。
「あなたの愛し仔たちは先に眠って貰ったよ……次はあなただ」
 その前に、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は静かに立ちふさがった。
 しかし動きが鈍い。それはディンドルフが振る舞おうとするスープを拒否するからなのだろう。
 灯火をセツナは連ねる。可能な限り生み出しディンドルフの周囲に纏わせた。
 スピードに頼れないなら手数で勝負というところ。
(「……普段なら手足のように灯火を操れるのだが……」)
 今はまるで、水の中にいるよう。扱いづらいとセツナはその表情を歪ませる。
 周囲を囲まれたディンドルフは、それでもどうにか逃げ道を探す。
 その身はいくつもの傷を重ねられ、すでに思うままの力は振るえないようでもあった。
「……でも、不思議だねえ。あなたが優勢のはずなのにどうしてそんなに息が上がっているんだい?」
 セツナが表情歪ませたのは、演技だった。敵の油断を誘うために。
 風で少しずつ周辺の空気を薄くして灯火で残った酸素を喰い尽くして。
 動きが遅くなっているのは己もだが、それは相手も同じ。
 セツナは風に魔を破る力と毒を乗せて送る。
「十分に呼吸ができないのは辛かろう」
 遠慮はいらない、と笑って。
「さあ、たんと召し上がれ?」
 ディンドルフの肺へと送る物は生を繋ぐためのものでありつつ、内側から蝕むものでもある。
 突然、胸の中が焼けるような感覚に襲われたディンドルフは咳込んだ。
 そしてこのまま、此処にいるのはと思ったのだろう。犠牲者の壁を生みだして己とセツナの前に作りその場から逃げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【烟雨】

お嬢さんには言いませんけど、腹部はそれなりに痛みますね
失血死することはねぇんで、便利な身体です
……ま、痛みが好きな訳じゃねぇですけど

何ひとつ気付かず待っていた辺り、滑稽ですねぇ
さ、お仕事ですよ甘露のお嬢さん
約束しましたからね、あんたらの負の感情でぶん殴って来る、と

生憎と浄化も破魔も縁遠いもんでして
殺し直してやることしか出来ませんが、そもそもあんたらに用はないんですよ嘗ての人の子たち
人を呪わば穴二つ、明確な攻撃として此方に力を向けたのはあんたですからねヴァンパイア
既に負の感情は十分
【誘惑、恐怖を与える】で敵を惹き付け、敵の攻撃に合わせ【カウンター、呪詛、生命力吸収、継続ダメージ】
呪われろ


世母都・かんろ
【烟雨】

綺麗な着物を染める赤に
彼の回復を優先しかけて
花嫁との約束を果たそうとする姿を見て
やっぱり、やめた

わたしは猟兵
この力は役に立てる
この残酷を
終わらせられる

おぞましい食卓に
吐き気と寒気が襲うけど
今は、箱の中なんかじゃない

叶、さん、と
一緒、だから


震えた夜の一滴が
私の瞼に落ちていた

君の声すら届かぬならば
箱庭の夢よどうか終わって

離別は一度でよかったの
こんな繰り返しのアラーム
誰も望んじゃいないのに

君の声すら届かぬならば
箱庭の夢よどうか醒めて

君の愛すら、幻ならば


高速詠唱を兼ねた歌唱
指揮棒を雷雨の竜巻に変換
一度現れた竜巻は効果を受けないわ

叶さんに雨が降らぬよう集中
全力魔法と属性攻撃で敵にぶつける



●今は癒さず
 箱の中から出れば、僅かに足元がぐらつく。けれど世母都・かんろ(秋霖・f18159)はそれを上手に隠して――いや、雲烟・叶(呪物・f07442)は気付いているのかもしれないけれど――叶の傷にそっと手を伸ばした。
 綺麗な着物を染める赤。
 それなりに痛む傷。叶はそれをかんろには告げない。
 失血死することない身体は便利なものだ。この傷も痛みも――受けた想いも糧になる。
 それを思い出して、花嫁との約束をきっと果たすその姿を想って――かんろは手を止めた。
(「やっぱり、やめた」)
 痛そうな傷。けれど、この傷を癒すのはきっと今ではない。
 わたしは猟兵――かんろはぽつりと零し己の掌を見つめる。
 この力は役に立てる。この残酷を、終わらせられると。
 叶はその様子を目に、行きましょうかと促す。
(「……ま、痛みが好きな訳じゃねぇですけど」)
 痛みは動けば響くもの。それでも向かう先がある。
 かんろと叶がたどり着いたホールには、戦いで荒れた様相とディンドルフが呼び出したであろう犠牲者たちの姿。
「くっ、こんな、焼かれ切られ……今日も新しい花嫁を迎える筈だったのだが……!」
 そして、猟兵たちにやられたディンドルフの姿。
 ディンドルフはふたりの姿に気づいて、お前達にも料理をふるまってやろうかと告げる。
 すると侍従だろうか。慌ててスープをもってくるものがいる。
 それはひとの命をもって作られたものだ。
「何ひとつ気付かず待っていた辺り、滑稽ですねぇ」
 叶が向ける視線は冷ややかだ。
「さ、お仕事ですよ甘露のお嬢さん」
 おぞましい食卓――かんろはきゅっと表情歪める。
 吐き気と寒気が襲うけれど――今は、箱の中なんかじゃないと傍らを見上げた。
(「叶、さん、と――一緒、だから」)
 かんろは深呼吸をひとつ。
 そして叶は、約束しましたからね、と零す。
(「あんたらの負の感情でぶん殴って来る、と」)
 生憎と浄化も破魔も縁遠いもんでして、と叶が一歩前に出る。
「殺し直してやることしか出来ませんが、そもそもあんたらに用はないんですよ嘗ての人の子たち」
 ディンドルフはまたかという様に犠牲者たちを巡らせた。
 向けられた言葉に犠牲者たちを何を思うでもない様子。
「人を呪わば穴二つ、明確な攻撃として此方に力を向けたのはあんたですからねヴァンパイア」
 犠牲者たちの向こう、ディンドルフ。
 既に負の感情は十分なのだ。
 それにひとりではない。
 かんろは己の指揮棒をその手に、高速詠唱兼ねた歌紡ぐ。


 震えた夜の一滴が
 私の瞼に落ちていた

 君の声すら届かぬならば
 箱庭の夢よどうか終わって

 離別は一度でよかったの
 こんな繰り返しのアラーム
 誰も望んじゃいないのに

 君の声すら届かぬならば
 箱庭の夢よどうか醒めて

 君の愛すら、幻ならば


 歌と共に指揮棒が雷雨秘めた竜巻へと変わる。
 そしてそれは叶には雨降らせぬようにかんろは集中して全力で敵へとぶつけるように動かした。
 雷雨が犠牲者たちの上も撫で、そしてディンドルフを巻き上げ地に落とす。
 その前にいるのは、叶だ。
「呪われろ」
 その身に敵の気を引き付けて。
 ディンドルフの身へ己の持てるものを注ぎ込むは凶悪な呪詛。それはごっそりと、ディンドルフの力を奪っていく。
 それを喰らったディンドルフは呻いて、血を吐き捨てた。
 そしてまたくらってはたまらないというように犠牲者を壁として阻む。
 かんろがその指先で竜巻を向けて払う――その先に、逃げたのだろう。ディンドルフの姿は無かった。
 その手に指揮棒が戻ると、かんろは叶の傍に。
 傷を、今度は癒すために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

全身が軋む音が聞こえるが
少しでも早く、ライナスを箱から出したいと鍵を開ける
それを確認次第、敵の所へ向かおうとして……
気付けば、血の滲む彼の指が口の中に押し込まれていて
回復効果を乗せた血を飲み込みながら
思わず目を丸くしてしまう

俺は、ただ……お前を守りたいと思ったから……
言い訳にしか聞こえないだろうかと不安に思いつつ
ベルトに挟まれた薔薇には、また驚きを

ライナス、待っ……!
盾になろうとするも間に合わず
せめて、UC:光での【部位破壊】【援護射撃】を試みる
ライナスをお前の花嫁に?
随分と巫山戯たことを言ってくれる、さっさと消えろ

……ああ、薔薇を生ける花瓶が欲しくなるな


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と
箱が開き解放されると同時
敷かれた赤薔薇を手に取り棘を掌で削ぐ様手を滑らせれば
リカルドの襟首を掴み引き寄せつつ【血の洗礼】回復を乗せた赤が滲む指を相手の口に突っ込まんと試みる
あんたなあ…っ
俺に何処にも行くなっつうなら、壊れる様な事すんじゃねえよ

相手の傷が癒えたならリカルドの胸元のベルトに棘が取れた薔薇を苛立ちまぎれに差し込み敵の元へ
…こういう時はこれなんだろ?大人しく受け取っとけ
リカルドが前に出ようとしても、通さねえ
地を蹴り一気に前に躍り出ソードブレイカーとリボルバーにて攻撃を

…喰らう美味さも、亡くす恐れも知ってんからこそ頭に血が昇んだろうな
胸糞悪いもん、見せてんじゃねえよ



●赤い癒し
 箱が開かれると同時に、ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は敷かれた赤薔薇をその手に取る。
 赤薔薇の棘でその肌を、掌を削ぐよう滑らせれば赤が走る。
 全身が軋む音をその耳にとらえながら、ライナスを少しでも早く、箱から出したいと鍵を開けたリカルド・アヴリール(遂行機構・f15138)。
 敵の所へ向かおうと、僅かに身を翻したのだがライナスの手が伸びて襟首をつかむ。
 そして、ライナスとリカルドの視線が合った。
 その唇を撫でて――ライナスの指がリカルドの口の中に突っ込まれた。
 何を、と思えば――血の味。リカルドは自分の口の中にライナスの指が押し込まれていることを理解し目を丸くする。
 そして治療されていることにも気づいた。身体の軋みが和らいでいるのだ。
 こくり、とリカルドの喉が鳴る様をライナスは見詰めて、深くため息を一つ。
「あんたなあ……っ、俺に何処にも行くなっつうなら、壊れる様な事すんじゃねえよ」
 たまらない、というような。言いたいことは沢山あるのだけれど呑み込んだような声色でライナスは紡ぐ。
 そしてその傷が癒えたのを確認して、その口から指を引き抜いた。
 その口端を拭って、リカルドは僅かに視線を逸らせつつ。
「俺は、ただ……お前を守りたいと思ったから……」
 言い訳にしか聞こえないだろうかと不安が募る。
 ライナスはどんな顔をしているだろうかとリカルドが視線を向けると、その手が見えた。
 己の胸元のベルトに棘が抜かれた薔薇を差し込んで。
 それは苛立ち紛れでもあったのだが。
「……こういう時はこれなんだろ? 大人しく受け取っとけ」
 ベルトに挟まれた薔薇に、また驚きを得つつ、身を翻したライナスの後ろをついていくしかない。
 足早に向かう――そしてそのホールに就いたなら、リカルドが前に出ようとしたのだがそれよりも早く。
「通さねえ」
「ライナス、待っ……!」
 盾になろうとする、それを許さないと地を蹴り一気に前に躍り出るライナス。
 その手に霧の如く霞む刀身のソードブレイカーと、美しい装飾施されたリボルバーをもって。
 前を駆けるライナスを追い越せない。
 それならせめて、と人の運命を司る三女神が彫刻されたリボルバーより攻撃をかける。
 ライナスの向かう先にはディンドルフ。
「……喰らう美味さも、亡くす恐れも知ってんからこそ頭に血が昇んだろうな」
 胸糞悪いもん、見せてんじゃねえよとライナスはディンドルフへと憤りをぶつける。
 ディンドルフは身を切られ、血が飛ぶのをみつつ悪態ついていた。
「ああ! 今日は最悪の日だ!」
 花嫁になるものもいない――こんな風に攻撃かけられズタボロで。
 さっさとこんな場所から逃げ出して、また新たな居城を構えようとディンドルフは舌打ちする。
「ライナスをお前の花嫁に?」
 随分と巫山戯たことを言ってくれる、とリカルドは怒気を含む。
「さっさと消えろ」
 再び、その身体を砕くように放たれた銃弾がディンドルフの肉を砕いていく。
 と、リカルドの視界の端で胸元の赤薔薇が揺れた。
「……ああ、薔薇を生ける花瓶が欲しくなるな」
 この花は散らさず、持って帰ろうと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
犠牲者の【演技】はまだ続く
大人しく席に着かされて
スープが運ばれて来たのなら
気が触れたかのように笑ってみせて
まぁ、アリスったら
ずいぶん小さくなってしまったのね
本当に反吐が出るくらい悪趣味で
だからこそとっても素敵な贈り物!
なぶり殺されたアリスの苦痛
食べさせられるメアリの恥辱
全部確かに受け取ったから
【雌伏の時】はもうお終い!
さぁ、甘くて素敵な復讐を
至福の時を始めましょう?

あら、おかしいわ
鏡写しの筈なのに、まるで効果がないなんて
だけれどそれも当然ね? 苦痛も恥辱も
あなたはずっと支払わせてきた側だもの

いつもの刃はないけれど
スプーンで抉って【部位破壊】
ナイフやフォークがあるのなら
そちらを使っても良いかしら



●演技は、終わり
 くそ、くそ! と零しながらディンドルフは猟兵たちの間を抜ける。
 犠牲者を呼び出し壁として、この場から逃げるために。
 けれど――ホールに、一人。
 こんな戦いの場であっても大人しく席につかされている娘がいるではないか。
「花嫁になれそうな娘がまだいるじゃないか!」
 散々な目にあっていたディンドルフは花嫁にしようと近づく。
 その娘――メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)の前に己でスープを運んで。
 そのスープを目にしたメアリーは気がふれたかのように声をあげて笑って見せる。
「まぁ、アリスったら。ずいぶん小さくなってしまったのね」
 そのお皿に笑いかけて、本当に本当にとメアリーは紡ぐ。
「本当に反吐が出るくらい悪趣味で、だからこそとっても素敵な贈り物!」
 ねぇ! とメアリーはディンドルフを見上げる。
「なぶり殺されたアリスの苦痛、食べさせられるメアリの恥辱、全部確かに受け取ったから」
『雌伏の時』はもうお終い!
 高らかに叫んでメアリーは席から立ちあがる。
「さぁ、甘くて素敵な復讐を、至福の時を始めましょう?」
 そしてゆっくりと、その表情に笑みの色をのせるのだ。
 その変容にディンドルフは僅かに躊躇ったのだが――花嫁よ! と声あげる。気付かない、スープをふるまってそれに応じていないとうのに、メアリーの動きは変わらぬままであることにも。
 メアリーは笑って――そのことを教えてあげるのだ。
「あら、おかしいわ」
 くすくすと笑い零す。それに何がとディンドルフは問い返した。
「鏡写しの筈なのに、まるで効果がないなんて」
 メアリは今あらゆる行動に成功する。あなたが鏡映しに返すはずなら――メアリは今頃、花嫁よと。
「な、に?」
「だけれどそれも当然ね? 苦痛も恥辱もあなたはずっと支払わせてきた側だもの」
 払わせるものが無ければ成り立たない。
 メアリーは咄嗟に傍にあったスプーンを掴んだ。
 いつもの刃はないけれど――ひゅっとディンドルフの眼へと向ける。
 それ抉ってあげると片目を破壊する。びしゃり、跳ねた血を払って、もう一つ。
 フォーク見つけて掴んだメアリーはもう一つの眼も狙った。
 ディンドルフは痛みに呻いて体勢崩す。メアリーのフォークは目ではなく、その額を削っていった。
 あら、外れてしまったわとメアリーは零す。
 メアリの受けた苦痛や恥辱は目玉一個分? と首傾げて。
 けれど困難さは――これだけ猟兵に叩かれてまだ生きているのだ。
 確かに渋とそうと笑って逃げたディンドルフを追いかける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花綴】
指先絡めて歩める今
硝子に隔たれたひと時の後だからこそ
繋ぐ先が温かい
あゝ其方とならばどんな景だって

そう、恐れることなど何もない
されど……あゝ
この湧き上がる気持ちは
恐れでは無く怒りか遣る瀬無さか

大切な相手を目の前で失うだけでなく
あゝ……どうしてそんな
『いい趣味』などでは生温い
死して尚其方のいい様になど
彼ら彼女らも報われまい
悲しき花嫁らよ今暫し耐えてたもぅ
忌まわしき主を屠りたもうて
其方らに安けき時を

纏いし聖衣から伝わるのは
この地に交戦する者らの思い
友の花嫁の対する敵の
あゝその全てを糧として

増えた手は二回攻撃で更にと増やし
響かせし歌は破魔籠めた弔いの
花嫁達が彼岸を渡り
新たな生へと巡れますよう


蘭・七結
【花綴】

ふたり、指さきを絡めて歩む先
どんな光景が待っているのでしょうね
恐るることなど、何もないわ

ご機嫌よう、よい夜ね
ステキなひと夜をお過ごしかしら
……嗚呼、本当に
“よい趣味”をされているのね
最上のおもてなしは結構よ
代わりに、この夜を終わらせましょう

ひとつ、またひとつ
眼前へと現れ出でる姿かたち
……そう。あなたたちは――、
そのいのちを弄ばれてなお
あのひとに囚われ続けているのね
喚び起こすのは黒鍵の刃
悲しき縁を、黒き束縛の糸を絶ち切りましょう
一度の斬撃に思いを込めて
すべてを、薙ぎ払う

すくいたい、すくい切れない
この世界はどこまでも、つめたい
どうか安らかに眠れますようにと
心のなかへと溢れ出でた祈りを込めて



●いのり、ねがい
 指先が触れ合って、ぬくもりがある。
 ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)はその温かさを一層深く感じていた。
 それは硝子に隔たれたひと時の後だからこそ。
「どんな光景が待っているのでしょうね」
 そう言いながらも、恐るることなど、何もないわと蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は微笑む。
「あゝ其方とならばどんな景だって」
 そう、恐れることなど何もない。
 そう思っていたのだけれども。
(「されど……あゝ」)
 ティルの心に湧き上がる。この想いに、気持ちに名があるならそれは恐れではなかった。
 怒りか――遣る瀬無さか。
 ホールは荒れて、けれどまだディンドルフはそこにいる。
 このホールで何が行われていたのか――ティルはそれを思って瞳伏せた。
「大切な相手を目の前で失うだけでなく。あゝ……どうしてそんな」
『いい趣味』などでは生温いとティルは零す。
 そしてディンドルフは、自分が倒しやすそうな二人とみて、其処を突破の切り口としようと向かってくる。
「ご機嫌よう、よい夜ね。ステキなひと夜をお過ごしかしら」
 七結はディンドルフに微笑む。
「……嗚呼、本当に“よい趣味”をされているのね」
「褒めていただき感謝するが、そこを退け!」
 それとももてなしてやろうかと――ディンドルフは口端を上げる。
 片目失った吸血鬼はそれを糧を得て再生しようとしているのだ。
「最上のおもてなしは結構よ。代わりに、この夜を終わらせましょう」
 ならば、退けとディンドルフは犠牲者たちを向かわせる。
 ひとつ、またひとつ。
 眼前へと現れ出でる姿かたちに七結は瞳細める。
「……そう。あなたたちは――、」
 そのいのちを弄ばれてなお、あのひとに囚われ続けているのねと。
「死して尚其方のいい様になど、彼ら彼女らも報われまい」
 悲しき花嫁らよ今暫し耐えてたもぅとティルは言葉向ける。
 その言葉が、届いているかはわからないけれども、それでも。
「忌まわしき主を屠りたもうて、其方らに安けき時を」
 ひらり、ふわりとティルの纏う聖衣の端が踊る。
 その衣から伝わる、この地に交戦する者らの思い。
 そして――傍らの。
「悲しき縁を、黒き束縛の糸を絶ち切りましょう」
 七結はその手に黒鍵の刃を。すべてを、薙ぎ払う――一度の斬撃に思いを込めて。
(「すくいたい、すくい切れない」)
 この世界はどこまでも、つめたいと七結はゆるやかに瞳伏せて。
 どうか安らかに眠れますようにと、心のなかへと溢れ出でた祈りを込めて振るう。
 犠牲者たちの身が途切れる。けれどそれを癒して――ティルは祈る。
 この場で戦う皆の傷を負って、癒して。
(「あゝその全てを糧として」)
 そして歌うのだ。響く歌は魔を破る力込めた弔い。
 この犠牲者たち――花嫁達が彼岸を渡り、新たな生へと巡れますようにと。
 姿が掻き消えていく。ティルの歌に導かれたもの達はきっと、大丈夫――七結の祈りも共に持っていくのだから。
 犠牲者たちの中に紛れてディンドルフが逃げていく。ディンドルフの終わりが迫っているのは、目に見えて明らかだった。
 猟兵たちは逃がさないことを、ティルも七結も知っている。今は追うよりも犠牲者たちの傍に。
 目の前の者たちが解き放たれたなら、ティルはそっと七結の指先に自分の指先を触れさせてぬくもりを伝えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
ハルカ(f14669)と

まあよくいる吸血鬼って感じ
話なんか聞くだけ無駄だろうね
ほんと、すっかり運動不足だよ
準備運動くらいしたかったなぁ

さっきもまあまあ楽してたよね
なんて視線で訴えつつ言葉には出さず
任せたよ、と一言だけ残して
犠牲者達に見向きもせず崩れゆく泥の間隙を縫って吸血鬼の元へ

お待ちかねの贈り物だよ
ナイフで切り掛かってまず一撃
塞がれても問題ない
手数多めの接近戦を仕掛けて隙を狙えば
本命は『壊絶』による素早く重い膝蹴り
ちゃんと受け取ってね
ずっと箱に詰められていた鬱憤も乗せて思い切り弾き飛ばす

後ろから聞こえるハルカの声援に呆れつつ
背中を向けたまま手を振って応える
もう片手でナイフをくるり、握り直して


遙々・ハルカ
よしのりサン(f05760)と

ほーん?
アレが親玉だってさ
まァ~どっかで見たコトあるよーな吸血鬼だわな
別に話すコトもないしとっととヤッて帰っちゃお~ぜ
よしのりサン、ついでに運動不足の解消しとく?
ワハハ

今度はオレの方が楽チンな番ねと笑い
立ち並ぶ犠牲者たちを見れば喚び出す《泥塗れの小鴉》
それが人のかたちをしていようが、邪魔ならば只の障害物に過ぎない
任されちゃったら仕方ねェよな~
雑魚の出番はねェ~んだわ、サヨナラ
鴉と同じ泥濘になっていく様にも興味はなく

雑魚は鴉に、吸血鬼はよしのりサンに任せて
泥や血が掛からないように観戦
デジャヴだけど今度はちゃんと応援する(当社比)
イェ~、頑張れ~
よしのりサンかっこい~



●おそらく、攻守交替
「ほーん? アレが親玉だってさ」
 攻撃受けて、逃げて。犠牲者呼んで壁にして逃げる――そんなディンドルフを指さして遙々・ハルカ(DeaDmansDancE・f14669)はけらりと嗤った。
「まあよくいる吸血鬼って感じ。話なんか聞くだけ無駄だろうね」
 鹿忍・由紀(余計者・f05760)は、ぐーっと伸び一つ。
「まァ~どっかで見たコトあるよーな吸血鬼だわな。別に話すコトもないしとっととヤッて帰っちゃお~ぜ」
 よしのりサン、ついでに運動不足の解消しとく? とハルカは提案一つ。
「ほんと、すっかり運動不足だよ。準備運動くらいしたかったなぁ」
 箱に入ってたから体が硬い。日常の延長線上のような由紀の様子にワハハとハルカは声あげて笑った。
「今度はオレの方が楽チンな番ね」
 さっきもまあまあ楽してたよね――と、由紀が視線で訴えつつ。
「任せたよ」
 一言だけ残して、由紀は一歩を踏み出した。
 犠牲者たちが溢れる。それに見向きもせずディンドルフの方へと向かう由紀。
 目の前のこれはハルカがどうにかするのだから、己は構わなくていいのだ。
 ハルカは、立ち並ぶ犠牲者たちを見て泥塗れの小鴉を喚ぶ。
 それが人のかたちをしていようが、邪魔であるならば――只の障害物に過ぎないのだから。
 汚泥に塗れながら小鴉たちは迷いなく、犠牲者たちへと飛翔する。
「任されちゃったら仕方ねェよな~。雑魚の出番はねェ~んだわ、サヨナラ」
 攻撃かければ小鴉と同じような泥濘になって潰れていく。
 その様を眺め、吸血鬼はよりのりサンにお任せ~とハルカは泥や血が掛からぬように観戦の構え。
 あれ、さっきもこんな――デジャヴ? と思ったが気にしない。今度はちゃんと応援――というのも当社比。
 その時、由紀は崩れる犠牲者の中を抜けてディンドルフへと肉薄していた。
「お待ちかねの贈り物だよ」
 箱には入ってないけれど――そしてナイフで切りかかるけれども。
 それをディンドルフは躱し、当たるかというように余裕の笑みを浮かべた。
 けれど問題ない。手数多めの接近戦を仕掛けて――本命は。
 魔力を一点に圧縮しその脚に乗せて振り上げる。
 それも今までと同じ攻撃だろうとディンドルフは見誤った。
「ちゃんと受け取ってね」
 ただの蹴りと思えたのだ。けれど乗せられる限りの蹴りは、ディンドルフの身を穿つように衝撃を与え吹き飛ばす。
 素早く重い蹴り――ずっと箱に詰められていた鬱憤も乗せて思い切り弾き飛ばされたディンドルフは床の上に転がった。
「イェ~、頑張れ~、よしのりサンかっこい~」
 そこへ、ハルカの声が由紀の耳に届く。
 なにその声援、と呆れつつ背中向けたまま由紀は手を振って応えた。
 そしてもう片方の手でナイフをくるり、握り直す。
 もう一発くらい、いけそうかなと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(ザザッ)
相変わらずこの世界のオブリビオンは鼻持ちならないな。

――では、狩りの時間だ相棒。
箱詰になり鈍ってた分
存分に身体を動かすといい。
レグルス、此より戦闘行動を開始する。オーヴァ。

(ザザッ)
盾代わりの犠牲者達か。
もう助からない者共、討つ事に躊躇いはない。

――が、"選ばせて"やろう。

熱線銃複製/レーザーポインタ照射。(範囲攻撃×制圧射撃×スナイパー)

 FREEZE.
「動くな。」

動けば撃つ。
動かなければ何もしない。
己を殺した者を守るか否か、お前達が選べ。

吸血鬼――お前もだ。

動けば本機が討つ。
動かなければ――相棒が討つ。

好きな方を選ぶが良い。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス

……ねてるだけ、だったけどさ。
結構、疲れる。な。

(深呼吸――――花の香が遠退く
ここにあるのは"食事"の匂いだ
ひとの、血の、肉の、涙の)

喰うんだから、解ってるだろ。
なあ。

――――あああァァアアア!!!
(相棒の制止に重ね【殺気】を載せた「惨喝」の【大声】
狩られる【恐怖】をその身に刻め
尚も歯向かい動くのなら、ただしく獲物だ
咆哮に灼熱する刃で【ダッシュ、早業】
庇う病葉ごと【なぎ払う】)

……炎がお前たちを呑んでやる。
灰に。炭に。森に、還れ。

ジャック、約束覚えてるだろ。
終わったらお肉。な。



●相棒と
「相変わらずこの世界のオブリビオンは鼻持ちならないな」
 ノイズ交じりの声で、ジャガーノート・ジャック(JOKER・f02381)はこの先に待つものを思って、零す。
 それに続くロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)の姿にジャガーノートは視線向ける。
 なんだか、動きが鈍いような気がして。それを察したロクは僅かに唸って。
「……ねてるだけ、だったけどさ。結構、疲れる。な」
 その言葉に――では、狩りの時間だ相棒とジャガーノートは告げる。
「箱詰になり鈍ってた分、存分に身体を動かすといい」
 そうする、とロクは頷く。
 そして二人は向かうべき場所、ホールへと踏み込んだ。
「レグルス、此より戦闘行動を開始する。オーヴァ」
 その先、ディンドルフとの間には犠牲者たちが集う。
「盾代わりの犠牲者達か」
 それはもう助からない者共。それを討つ事に躊躇いはない。
「――が、"選ばせて"やろう」
 ノイズ混じる声は届いているだろうか。
 ジャガーノートの熱線銃が複製されそのレーザーが勝者される。
 そしてロクは深く息を吸い込んだ。
 深呼吸――包まれていた花の香が遠退いていく。
(「ここにあるのは――"食事"の匂いだ。ひとの、血の、肉の、涙の」)
 吐き出した息とともに、ロクの心もまた定まる。
「喰うんだから、解ってるだろ。なあ」
 そして、息吸い込んで。
「動くな」
「――――あああァァアアア!!!」
 FREEZE――ジャガーノートの告げる声とロクの叫びは重なる。
 動けば撃つ。動かなければ何もしない。
 己を殺した者を守るか否か、お前達が選べとジャガーノートは告げる。
「吸血鬼――お前もだ」
 その叫びに気づいたか、ディンドルフの視線は二人に向いていた。
「動けば本機が討つ。動かなければ――相棒が討つ」
 好きな方を選ぶが良いとノイズ交じりの声が告げる。
 ディンドルフはそれに動き留めたが――犠牲者たちはその言葉の意味を理解できなかったのだろう。
 動けば、その身が爆ぜダメージを受けて果てていく。
 そしてまた、ロクのその声に恐怖を刻まれたものは動けない。
 其れでも動くというのなら――ただしく獲物だ。
 その獲物は、ここではディンドルフだった。
 その叫びに灼熱する刃を手に走り込む。
 ディンドルフの前に壁となる犠牲者たち――庇う病葉だ。
 それごと、ロクは薙ぎ払う。
「……炎がお前たちを呑んでやる。灰に。炭に。森に、還れ」
 その刃はディンドルフの身も焼いて、このまま押し切られてはと新たに犠牲者を呼び間に挟む。
 ジャガーノートの動くなと、それを破ってうけた痛みに耐えながら。
「ジャック、約束覚えてるだろ。終わったらお肉。な」
 ロクがちらりと視線向けて確認ひとつ、投げてよこした。
 ジャガーノートはノイズの音は知らせてああと頷く。
 その為にもこの場を早く制圧してしまおうと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
ティア(f26360)と

まだ躰は少しふらつくけれど
不自由な拘束は解かれた

着飾った白を翻し
手にする相棒刀に力を込め
…今日は悪趣味で醜悪な
アンタが晩餐になる番だ

噫、怒っているよ、自分に
彼女の痛々しく残る傷にそうと触れるか触れないか
大丈夫と笑う彼女に
眸を揺らし
……有難う、ティア。
今此処に傍に居て、触れられること、……凄く嬉しい
ねえ、今度は俺に守らせて
匣中の一輪の青薔薇をティアの髪へ
対し唇に飾られた赫は
甘美に煽られ鼓動が跳ねる

かぐや、ゆくよ
桜が綻び舞い狂い
花弁は抉りじわりと
白き花と交わり
綺麗な赫を咲かせてくれ
壊した分だけ
俺がお前を壊してあげる

袖引かれた先
揃いと笑うルージュは
きみこそ花嫁に相応しい


ティア・メル
千鶴(f00683)と

およよ、ちーくん怒ってるみたい
……優しいなあ
ぼくの事ばっかり

大丈夫だよ
躊躇う手を一度軽く握る
ぼくも嬉しい
青薔薇をなぞれば満ちる幸せ
ありがとう
でもね、守られてばかりは嫌だよ

傷跡に指先浸し、ちーくんの唇に飾る
ふふふ、綺麗な花嫁さんだ
吸血鬼さんにはあーげないっ

攻撃力に重きを
揺蕩う幻惑の花弁
攻撃を打ち消し、支配する
動く事は許さない
この舞台はぼく達のもの
沙羅双樹の花弁で魂ごと奪い尽くす
夢幻に白と桜が踊り、真紅が咲く

んに?ちーくん
病み上がりなんだから程々にね
その裾を引いて視線を奪えたなら
自分の唇にも血のルージュを
お揃いだよん
悪戯に笑ってみせる

(ぼくとちーくんの間に邪魔者は要らない)



●おそろい
 まだ躰は少しふらついていた。けれど不自由な拘束から解かれて宵鍔・千鶴(nyx・f00683)はひとつ息をつく。
 ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)と千鶴と、二人で向かったのは吸血鬼のいるホール。
 着飾った白を翻し、千鶴はその手に力を籠める。相棒の、その柄を握り込んで。
 丁度、他の猟兵から追い立てられたかディンドルフが転がってくる。
「……今日は悪趣味で醜悪な。アンタが晩餐になる番だ」
 その静かな千鶴の言葉にティアはおよよ、と零した。
「ちーくん怒ってるみたい」
「噫、怒っているよ、自分に」
 そう言って千鶴はティアを見つめる。その身に痛々しく残る傷にそうと触れるか、触れないか――
 その視線の意味をティアは読み取って。
「……優しいなあ。ぼくの事ばっかり」
 大丈夫だよ、とその躊躇いの手をティアはとって軽く握る。
 千鶴は眸を揺らして。
「……有難う、ティア」
 その言葉にどういたしましてとティアは一層笑み深めて。
「今此処に傍に居て、触れられること、……凄く嬉しい」
「ぼくも嬉しい」
「ねえ、今度は俺に守らせて」
 匣中の一輪の青薔薇をティアの髪へと千鶴は捧げる。
 青薔薇をなぞれば満ちる幸せを、ティアは得て。
「ありがとう。でもね、守られてばかりは嫌だよ」
 傷跡をティアの指が撫でて。その色を浸して千鶴の唇へと飾る。
「ふふふ、綺麗な花嫁さんだ。吸血鬼さんにはあーげないっ」
 鼓動が、跳ねあがった気がした。甘美に煽られ己では制することができないもの。
 そしてティアはふわりと白い花弁を躍らせる。
 攻撃を増すように重きを置いて。揺蕩う幻惑の花弁を手向けるのだ。
 ディンドルフが呼ぶ犠牲者たちはこの場に居なかったことになって。
 動くことは許さない――この舞台はぼく達のものとティアは紡ぐ。
 沙羅双樹の花弁で魂ごと奪いつくすのだと。
 そして。
「かぐや、ゆくよ」
 その白の中に桜が綻び舞い狂う。千鶴の手から桜となって、ディンドルフを追い詰めるために。
 白き花とまじわって、それは桜色ではなく――ディンドルフの血の色を得ていくのだ。
「綺麗な赫を咲かせてくれ。壊した分だけ――俺がお前を壊してあげる」
 夢幻に白と桜が踊って真紅が咲いて。
「んに? ちーくん。病み上がりなんだから程々にね」
 ちょいちょい、とティアは千鶴の袖をひく。
 その視線を惹いて、奪えたなら――ティアはその唇を弓なりにして笑み乗せて。
 己の口にもそっと指を滑らせた。
「お揃いだよん」
 悪戯に笑ってみせれば千鶴は瞬いて。
 きみこそ花嫁に相応しい――そっと、ティアにだけ囁いた。
 ふふ、とティアは笑う。そしてちらりと、視線向けた先にはディンドルフが逃れていく姿。
(「ぼくとちーくんの間に邪魔者は要らない」)
 此度の邪魔ものは去って――ティアは他の人に任せちゃおと紡ぐ。
 だってもう、いつ途切れてもおかしくないほどに傷を負わせているのだからと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェラルディーノ・マゼラーティ
お嬢ちゃんと

花嫁とのダンス、楽しんでいただけたかな?
返された言葉には
お褒めに与り光栄です。なんて
態とらしく礼をして

さて、そろそろ
眠り姫もお目覚めの時間だ
僕らの物語はハッピーエンド
なら勿論
黒幕の打倒も不可欠だね

二丁拳銃で吸血鬼や、召喚された敵を撃つ
お姫様を守るのが務めだからね
ボスも僕がメインで叩いても良いんだけど
お嬢ちゃんは暴れたいみたいだから
邪魔が入らぬ様、その道行きに祝福を

ちょっとばかし物騒である点を除けば
赤絨毯をエスコート、だなんて
まるで花嫁を送る父親みたいだ
けどやっぱり
趣味悪男の花嫁として
彼女を贈るつもりなんてないから

クライマックス――
お姫様の死の接吻を楽しみに
キスをするのは、傘だけどネ


四・さゆり
ジェラルディーノと

もちろん、よ
あんたの銀の糸が揺れるのは

たとえ他の女相手だとしても
見惚れてしまうほど
ちゃんと迎えに来たことも、褒めてあげる

そうね、箱に詰められるのも
飽きちゃったわ

お前の姫の行く道よ
最後までエスコートして頂戴、王子様

趣味の悪い美丈夫さん、今晩は、
あら、わたしもきちんと花嫁候補よ

けれど残念
お前では役不足ね

邪魔をするのなら、
嘆きの娘たちだとしても、容赦はしないわ
王子様が鉛玉で眠らせてくれる、でしょう?

わたしは、まっすぐ、赤い絨毯を進むの
ふふ、連れ立って、も悪くは無いけれど

うんと働いたのだから、そこでみていて、王子様

腑、わたしが掻っ捌いてあげる

わたし、
許せないものは、許さないの



●エスコート
「花嫁とのダンス、楽しんでいただけたかな?」
 今はまだ閉じられた箱の前――ジェラルディーノ・マゼラーティ(穿つ黒・f21988)はうやうやしくご機嫌伺いのように。
 四・さゆり(夜探し・f00775)はやっと動き始めたその唇を動かす。
「もちろん、よ。あんたの銀の糸が揺れるのは」
 たとえ他の女相手だとしても、見惚れてしまうほどと紡いで。
「ちゃんと迎えに来たことも、褒めてあげる」
「お褒めに与り光栄です」
 なんて、また態とらしく礼をして、笑いかけた。
「さて、そろそろ――眠り姫もお目覚めの時間だ」
 そしてジェラルディーノは、これを使ってねと見つけた鍵を見せる。それは箱の、鍵。
「そうね、箱に詰められるのも飽きちゃったわ」
 その言葉に鍵を開ければさゆりはいつでも出られるのだ。
 けれども、すぐには出ずに笑って。
「お前の姫の行く道よ。最後までエスコートして頂戴、王子様」
「僕らの物語はハッピーエンド。なら勿論――黒幕の打倒も不可欠だね」
 ではその物語の終わりまで、と差し出された手にさゆりは自分の手を重ねた。
 そして二人もまた、ホールへと向かう。
 すでに多くの猟兵がディンドルフを叩き伏せて。それでもまだしぶとくそこにいる。
 だれかれ構わず襲うように犠牲者たちを呼び出して、それがふたりの元へも向かってくる。
「お姫様を守るのが務めだからね」
 それを二丁拳銃でジェラルディーノは打ち抜いて、さぁと道作る。
 ディンドルフへの道を。
「趣味の悪い美丈夫さん、今晩は、」
「っ! また新手か!」
「あら、わたしもきちんと花嫁候補よ」
 駆けられた声にディンドルフはまた敵かと声あげる。
 けれど花嫁、と聞いてそれなら僕になり敵を倒せと喚いた。
 その姿をさゆりは冷ややかに見つめて。
「けれど残念、お前では役不足ね」
 そう言い放てば、それなら消えろと犠牲者たちの数を増やす。
 それはディンドルフが殺したか、吸血鬼にしたか――そういったものたちだ。
「邪魔をするのなら、嘆きの娘たちだとしても、容赦はしないわ」
 王子様が鉛玉で眠らせてくれる、でしょう? とさゆりの視線はジェラルディーノへと投げられる。
 ジェラルディーノは肩竦めて、そしてお任せと嗤う。
「僕が叩いても良いんだけど、お嬢ちゃんは暴れたいみたいだからね」
 邪魔が入らぬ様、その道行きに祝福をと銃弾放つ。
 それに弾かれた犠牲者たちの身は爆ぜて、その場に赤い道を作っていくのだ。
 さゆりはふふ、と小さく笑い零す。
「わたしは、まっすぐ、進むだけ」
 ジェラルディーノが用意するその道を。
「ちょっとばかし物騒である点を除けば、赤絨毯をエスコート、だなんて」
 まるで花嫁を送る父親みたいだ、とすんと鼻を鳴らしてみる。
 けどやっぱり――と、すぐその瞳は剣呑さを帯びるのだが。
「趣味悪男の花嫁として、彼女を贈るつもりなんてないから」
 ね、と笑いかけて。
 最後、立ちふさがっていたものを打ち倒す。
「ふふ、連れ立って、も悪くは無いけれど」
 うんと働いたのだから、そこでみていて、王子様――そう言われていってらっしゃいお姫様と見送るだけ。
 そう、クライマックス――お姫様の死の接吻を楽しみに、と笑って。
「腑、わたしが掻っ捌いてあげる」
 とんと軽やかに赤い色の上を蹴ってさゆりはディンドルフへと距離詰める。
「キスをするのは、傘だけどネ」
 さゆりの手にあるのは赤い傘。それをジェラルディーノは瞳細め見つめている。
 そしてさゆりは、誰にやられたかディンドルフが片目になっていることに気づく。
 そのお揃いはちょっと嫌、とも思いつつ。
「わたし、許せないものは、許さないの」
 重い一撃を、近距離から放つ。さゆりの向けた赤い傘の切っ先はディンドルフの腹の一部を突き破って、その場に膨大な血を滴らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四王天・燦
《華恋》

決戦前、シホにお願い。
うちの神社で一緒に暮らそう

貧乏神様召喚。
競売で使わず仕舞の金を全額投入だ

シホの煙幕の中、犠牲者達の肉体を塵に還し魂を解放して頂くよ

アタシ達は吸血鬼の相手

人を狂わせる悪趣味な競売、冒涜の花嫁、犠牲者の無念、シホを花嫁に欲した傲慢…慈悲と赦しの巫女としても貴様に掛ける慈悲はない!

シホとの二人分の見切り、神鳴での武器受けで攻撃を捌く。
シホに負傷を回したくない

二・三度斬り合い。
次なる太刀はフェイントで、一仕事終えた貧乏神に向けて蹴り飛ばす。
吸血鬼の顔に極貧タッチ願うぜ

シホとの約束に感じた陰り、許しを請うような祈りを察する。
宿命の事も含め、ちゃんと告白しよう―
決意を固めるよ


シホ・エーデルワイス
≪華恋≫


決戦前

燦の気迫に圧され

戦いの無い時に立ち寄る程度で良ければ…

と口を滑らす

これ以上
燦と親密になってはいけないのに…

結局
聖痕の導きを口実に世界を巡り続け
極力神社へ留まらず
親友として心の距離を保つ事にする

燦の想いに気付かない振りをする事に少し罪悪感


普段の服へ<早業の早着替え>
ドレスは気に入り【救園】に仕舞う


序盤は<目潰し属性攻撃>の煙幕弾で撹乱しつつ
犠牲者が安らかに眠れる様<優しさと破魔の祈りを込めた誘導弾で範囲攻撃>

ボスを攻撃できる頃になれば【献装】で燦を真の姿化

<オーラ防御を張りつつ
燦と息を合わせ
第六感と聞き耳で敵の動きを見切り>情報共有

主よ
せめて今は燦の力となる幸せの享受をお許し下さい



●決意
 これから戦いに行かねばならない――けれど、その前に。
 四王天・燦(月夜の翼・f04448)はシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)へとお願いをひとつ、した。
「うちの神社で一緒に暮らそう」
 お願い、と言う。けれどその言葉には燦の想いがこもっていて。
 それにシホは圧されてしまったのかも、しれない。
「戦いの無い時に立ち寄る程度で良ければ……」
 するりと、口から滑り落ちるように零して。そしてはっとする。
(「これ以上、燦と親密になってはいけないのに……」)
 けれど、頷いてしまった。
 シホは――心の中で定める。
 聖痕の導きを口実に世界を巡り続け、極力神社へ留まらず。
 親友として心の距離を保つ事にしようと。
(「燦の想いに気付かない振りを――するの……けれど」)
 その事に少し罪悪感を抱きながらも、普段の服へと着替えて。着飾られたドレスは気に入ったから仕舞うのだ。
 そして行きましょうと燦へ告げる。
 二人で向かうのは、吸血鬼のいるであろうホール。
 ディンドルフが呼びだしたであろう犠牲者たちが、すぐさま二人にも向かってくる。
「競売で使わず仕舞の金を全額投入だ」
 御狐・燦が命ず――そう言って召喚するのは貧乏神様だ。けれど、備えた財産に比例した戦闘力を持ち、犠牲者たちへとそっと触れていく。
 すると。その身は劣化して崩れ去っていく様子。
 シホは攪乱するように、その目を潰すために煙幕弾を放つ。
 そして犠牲者が安らかに眠れる様優しさと破魔の祈りを込めた誘導弾を向けた。
 煙幕が立ち上る中で、燦の貧乏神様は犠牲者達の肉体を塵に還し、魂を解放していく。
 そして、その中でディンドルフの姿を見つけた。
 ぼとぼと、あふれ出る血。傷口を抑え無理やり再生し傷を塞いでいるような、様子。
「人を狂わせる悪趣味な競売、冒涜の花嫁、犠牲者の無念、シホを花嫁に欲した傲慢……慈悲と赦しの巫女としても貴様に掛ける慈悲はない!」
「くそ、ここにも!!」
 その憤りのような声を耳にしつつシホは唱える。
「我が主よ、この身を対価とし、かの者に真の姿を晒す許可をお与え下さい」
 シホは融霊体となって、燦に加護を。
 シホは――祈る。
(「主よ。せめて今は燦の力となる幸せの享受をお許し下さい」)
 二人分の力――燦は己の真の姿を得て、雷様が鍛えた刀を手に踏み込んだ。ディンドルフがかける攻撃が雑なのは、その力を失いつつあるからだろう。
 斬り合う――その中でフェイント交えて燦は貧乏神様のようへと蹴り飛ばした。
「その顔に極貧タッチを!」
 願いの通りに貧乏神様はディンドルフの顔を撫で一部を朽ちさせていく。
 そして転がって、犠牲者たちの中へと消えていった。
 燦はひといき、つく。そして感じていたものをそっと、顧みた。
 戦う前にも――シホとの約束に感じた陰りがある。そして祈りを請うような祈りの事も察していた。
(「宿命の事も含め、ちゃんと告白しよう――」)
 燦は決意を固める。
 きちんと伝えなければいけない事があるのだと。それは今、この場ではないけれども。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

奇鳥・カイト
仁美/f02862

手間掛けさせやがって──よーやくご登場か
へいへい…あんまり意気込むと脱げるぞそれ

そーいうわけで悪いが飯抜きだ、それくれェ我慢出来んだろ

仁美、合わせろ。俺から合わせんのは苦手だからな


基本は糸とそれのカウンター、それに不良のように素手でラフなファイトスタイルを混ぜていく
隙が出来れば攻めていく流れで、俺と仁美のどちらが主体になるかはその時々で対応していく


UCは大技を使うと跳ね返される事も鑑みて、こちらが隙を狙った一撃を放つというフリをする
【柳風】を使用する、カウンター技なので相対すればお互い不発になることを見込んで
その隙を仁美に任せる

アレンジ歓迎


霧沢・仁美
引き続きカイトくんと。

流石ヴァンパイアって感じの悪辣っぷりだね…!絶対にやっつけないと。
行こう、カイトくん!

…この格好のままで戦うのは、ちょっと恥ずかしいけど!
(何しろ水着並の露出度なので)

念動光弾で攻撃を仕掛けるけど、相手もユーベルコードで同じ攻撃を返してきそうだね…
それなら、お互いの弾丸がぶつかり合って打ち消しあうように弾丸を撃ちまくるよ!
相手が撃ち合いに集中するならカイトくんの攻撃の隙が出来そうだし、カイトくんに対応するならあたしの弾丸を撃ち込む隙ができるはず。
もし両方に対応するなら、弾丸に混ぜてワイヤーロープを投擲。【念動力】での【ロープワーク】で手足を絡め取って隙を作りにいくよ!



●息を合わせ
 ふたりがホールにつけば、そこは戦いの喧騒の中。
 けれど、端々に吸血鬼が何をしてきたかの、その痕は見て取れる。
「流石ヴァンパイアって感じの悪辣っぷりだね……! 絶対にやっつけないと」
 箱の中から出て、霧沢・仁美(普通でありたい女子高生・f02862)はぐっと拳握る。
 そして、奇鳥・カイト(自分殺しの半血鬼・f03912)はここにいるのかと視線を滑らせた。そしてぴたりと、一点で止まる。
「手間掛けさせやがって──よーやくご登場か」
 カイトはその視界にディンドルフの姿を見つけ瞳細める。あれがこの居城の主と。
「行こう、カイトくん!」
「へいへい……あんまり意気込むと脱げるぞそれ」
「えっ!?」
 言われて、ちょと恥ずかしさが込み上げてくる。
 仁美は改めて、自分の姿を見て、どこもおかしくないよね、脱げてないよね!? とわたわた。
「……この格好のままで戦うのは、ちょっと恥ずかしいけど!」
 大丈夫そうだけど、と溜息零す仁美にカイトは小さく笑って返す。
「そーいうわけで悪いが飯抜きだ、それくれェ我慢出来んだろ」
 行くぞ、と先を駆けたのはカイトだ。それに仁美もついていく。
「仁美、合わせろ。俺から合わせんのは苦手だからな」
 カイトはその手に糸を躍らせて。そして拳でもってディンドルフへと肉薄した。
 もう満身創痍とみてすぐにわかる。それでも侮れぬ相手では、あるのだ。
 カイトが突き出した拳を僅かでかわし、仁美が念動光弾で仕掛ければ一瞬そちらに気が向く。
 隙ができた――その瞬間カイトの拳は空を切ってディンドルフの身を穿つ。
 ぐ、と呻いたディンドルフ。
 そして仁美の指先が向けられているのを見て、同じように指さして念動光弾を跳ね返した。
「ははは! こんな弾丸そのまま返してやる!」
 お互いの弾丸がぶつかり合って打ち消し合う。仁美に対していれば、その身はがら空き。
 そしてその念動光弾はカイトにも向けられた。
「──読み通り、ってわけじゃねぇが。残念だったな」
 それを仕込み糸で弾いて己から逸らす。そしてそのまま、その糸で絡め取ってその手をカイトは封じた。
 さすがに間髪入れずに技を跳ね返す――という事はタイミングも難しくできなかったようだ。
 カイトの仕込み糸に縛られて動けないのは大きな隙。
 そこを仁美は見逃すこともなく、そして慌てることも無く狙い済まして。
 けれどきりきりと仕込み糸から伝わる感覚は、ディンドルフが抜け出ようとしている気配もある。
 その前に放たれた念動光弾。
 今までで一等力を乗せて――その輝きはディンドルフの身を穿った。
 カイトは視線だけで仁美にその調子と告げる。仁美もそれを感じて、このまま行こう! と笑み向けるのだった。
 だがこのままではとディンドルフは犠牲者たちを向かわせて、どうにか仕込み糸より逃れてこの場を離れていく。
 ぼとぼとと、血の道を作りながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

揺歌語・なびき
◆凍桜

グロテスクな晩餐会を
彼女に見せる羽目にならなくて良かった

まだ痛む膚の赤は応急処置を施したものの
あまり動かないほうがいい気はする
案の定彼女も
迷わずおれの前に立つけれど

大丈夫だよ、たからちゃん
二人でアレをちゃんと殺(ほろぼ)さなきゃ

きみが永遠に正義の味方なら
おれは死ぬまで咎人殺しだ

彼女と同じ力を扱えるなどと思うなよ
射撃で脚を狙い撃ったと同時に疾駆
棘鞭で吸血鬼を拘束し、己の体をUDCに明け渡す

おれとおまえで暫し殺しあいだ

誰も止めなくていい
これは、ただおれが腹立たしいだけなんだから
串刺しにして、傷をえぐって、何度でも裂いてやれ
痛いのは耐えられる

あの子がこいつをたたっ斬る瞬間さえできれば
それでいい


鎹・たから
◆凍桜

大切な人を食べるなんて
どれほどの恐怖と絶望でしょうか

自然と彼を庇うように動いた体
決して痛がらないけれど
先程の怪我は浅くはない

なのに、なびきは笑うのです
一緒に悪をほろぼそうと言うのです
ならば庇うことはしません

これ以上の絶望は、たから達が許しません

この身に降ろすマガツの力
どのような代償でも構いません
なびきと「彼」が
たからの正義を信じてくれる限り
たからは負けないのですから

彼と戦う敵の目に留まらぬよう
素早く駆けて背後を取る
暗殺の刃を2回攻撃で振るいましょう

なびき
もう大丈夫ですよ
あとは、たからがほろぼします

彼に宿る華が
たからの言葉を聞いてくれるかはわからないけれど

なびきに、身体を返してください



●正義の味方と咎人殺し
 この場は何て場所なんだろうかと、揺歌語・なびき(春怨・f02050)は思う。
(「グロテスクな晩餐会を彼女に見せる羽目にならなくて良かった」)
 そう思いながらまだ痛むなぁと思う。応急処置を施したものの、膚の赤はやはり痛い。痛いものは痛いのだ。
 あまり動かない方がいい気はする、と思うなびきの前に鎹・たから(雪氣硝・f01148)が迷いなく立つ。
(「大切な人を食べるなんてどれほどの恐怖と絶望でしょうか」)
 怪我をしているなびきの前に自然とたからは立ったのだ。
 決して痛がらないけれど、先程の怪我が浅くないことはわかっていた。
(「なのに」)
「大丈夫だよ、たからちゃん。二人でアレをちゃんと殺(ほろぼ)さなきゃ」
 へらりとなびきは笑う。
 一緒に悪をほろぼそうと言う――なら、とたからも僅かに笑って。
(「庇うことはしません」)
 そう、たからが思ったことをなびきは察したのだろう。
 一層、笑み深めて。
「きみが永遠に正義の味方なら、おれは死ぬまで咎人殺しだ」
 たからはこくりと頷いて――これから向かわねばならぬ敵へと足向ける。
 敵の、ディンドルフの息は上がっている。その身から血も失って真っ白な顔はさらに色を失っているようだ。
「これ以上の絶望は、たから達が許しません」
 どのような代償でも構わないとたからはその身にマガツの力を降ろす。
(「なびきと『彼』がたからの正義を信じてくれる限り――」)
 たからは負けないのですから、とその身に巡る力を。そして身をはじく感覚は皮膚が自然と切れて血が流れるのを感じながらたからは進む。
 高まる力を感じたか、ディンドルフはそれを映しとろうとする。
 しかし。
「彼女と同じ力を扱えるなどと思うなよ」
 なびきが放った銃弾がその脚を打ち抜いた。それと同時に疾駆し、放った棘鞭がディンドルフの血を求め縛り上げる。
「――今は、おれにも止められない」
 そしてその身を、UDCへと明け渡す。
 おれとおまえで暫し殺しあいだ、と笑って。
 そして明け渡すものが存在しないディンドルフは、それを真似ることもまたできない。
 誰も止めなくていいと――なびきは意識の端で思っていた。
(「これは、ただおれが腹立たしいだけなんだから」)
 串刺しにして、傷をえぐって、何度でも裂いてやれとUDCへと語りかける。
 己の身はどうなっても良い。痛いのは耐えられるのだから。
(「あの子が」)
 こいつをたたっ斬る瞬間さえできれば――それでいい。
 ディンドルフは棘鞭を無理やり引きはがす。そうしなければずっと動きを制されて動けぬままだからだ。
 傷を深めることを厭わず。けれどそれに執心して、目の前のなびきはともかくたからの事は意識から外されていた。
 ディンドルフの目に留まらぬよう素早くかけて背後に迫る。
「なびき、もう大丈夫ですよ――あとは、たからがほろぼします」
 暗殺の刃をその首へと二度、滑らせる。一度では浅い。そして二度目はディンドルフが首をそらし深い傷になることを裂けた。
 こんな、と声をあげてディンドルフは転がり、犠牲者たちを呼び寄せた。
 ああ、あれはもう終わるのだろうとたからは思う。
 無様に逃げていくのならもう負わない。きっとトドメをさす猟兵がいるだろうから。
 それより、とたからはなびきの方へ向き直る。
 彼に宿る華が、たからの言葉を聞いてくれるかはわからないけれど。
 まだその身を好きに扱っているのならば――それはたからにとってはなびきであって、なびきではない。
「なびきに、身体を返してください」
 その言葉に滲む思いがある。
 そしてふっと、なびきの纏う雰囲気が変わる。ふらふら、足がおぼつかないなびきに歩み寄ってたからは支えた。
 何も考えずにやりましたね、なんて小さなお小言を零しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と
・アドリブ歓迎、流血負傷描写可

ノゥブル、マルタメリエ、そしてノア……
貴様らはいつもそうだ
己の享楽のために人の殺めるばかりか、その魂までも踏みにじる
何という非道! 何という悪逆!
ディンドルフ、貴様だけは断じて許さん
悍ましき狂宴、今ここで終わらせてくれる!

不自由な箱に詰められたヘルガの
己が血を流した仲間たちの苦痛
そして…貴様に命も尊厳も奪われた過去の犠牲者たちの無念
その全てをこの剣に乗せ、全力で貴様に叩きつけてやる

召喚された犠牲者は、破魔の力で薙ぎ払い
許せ。忌まわしき呪縛から解き放たれ、安らかに眠れ

肉を裂き、臓を貫き、骨を砕いて尚足りぬ憤怒を!
塵も残さず砕け散れ――!


ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と
・アドリブ歓迎

わたくしは知ってしまった
あの花嫁たちが何者であるかを
彼女たちを愛した人々の末路を

ヴォルフ、わたくしも思いは同じです
こんな狂気の沙汰が許されて良いはずがない
必ずやこの悲劇を終わらせましょう

あのスープを口にしてはいけない
いいえ、あの男にだって、一口たりとも飲ませはしない
敵の呪いに呪詛耐性・狂気耐性・オーラ防御で耐えながら
歌うはレクイエム【怒りの日】。今こそ「最後の審判」の時
哀れな犠牲者の魂に慰めを
邪な享楽に塗れし非道の輩に天罰を
裁きの光は遍く輝き、全ての罪を暴き出す
悪徳はけして栄えることは無し

あなただけは許さない
赫奕たる焔に焼かれ消えなさい



●決して許さぬと誓う
 二人で向かう――そのホールでは戦いが繰り広げられていた。
 テーブルの上は荒れている。血の痕、そして蠢く犠牲者たちの姿――吸血鬼の所業。
 その様にヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)はその眉顰め嫌悪を露わにする。
「ノゥブル、マルタメリエ、そしてノア……貴様らはいつもそうだ」
 己の享楽のために人の殺めるばかりか、その魂までも踏みにじる。
「何という非道! 何という悪逆!」
 ヴォルフ、とヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)もその名を呼ぶ。
 わたくしは知ってしまった――とヘルガは瞳を伏せて。
「あの花嫁たちが何者であるかを、彼女たちを愛した人々の末路を」
 そしてもう一度、彼の名を呼ぶのだ。
「ヴォルフ、わたくしも思いは同じです」
 こんな狂気の沙汰が許されて良いはずがない、必ずやこの悲劇を終わらせましょうと。
 その言葉にヴォルフガングはしっかりと頷く。
「ディンドルフ、貴様だけは断じて許さん。悍ましき狂宴、今ここで終わらせてくれる!」
 ヴォルフガングは吼える。その手に己の得物をもって。
 不自由な箱に詰められたヘルガの――そして、己が血を流した仲間たちの苦痛。
 そして、とヴォルフガングはディンドルフを睨みつける。
 すでに幾人もの猟兵たちと戦い、血塗れであるというのにまだ長らえる。その傍に己の糧とするためかスープの大鍋を再び表して。
「貴様に命も尊厳も奪われた過去の犠牲者たちの無念、その全てをこの剣に乗せ、全力で貴様に叩きつけてやる」
 そしてヘルガはあのスープを口にしてはいけないと――あの男にだって、一口たりとも飲ませはしないと動く。
 そのスープを拒絶すれば、その身の自由は僅かに鈍っていく。それでもヘルガは歌うのだ。
「無辜の願いを冒涜し命を愚弄する者よ。何者も因果応報の理より逃れる術は無し。今ここに不義は潰えん。悪逆の徒に報いあれ」
 今こそ――最後の審判と。
 哀れな犠牲者の魂に慰めをと願う。
 邪な享楽に塗れし非道の輩に天罰をと、裁きの光をディンドルフの元へと落とすのだ。
 遍く輝き、それは全ての罪を暴き出す。
「悪徳はけして栄えることは無いのです」
 あなただけは許さない――赫奕たる焔に焼かれ消えなさいとヘルガは歌う。
 そして裁きの光がディンドルフを穿つ。
 光に貫かれ傷を負い呻くディンドルフは犠牲者たちを喚びふたりとの間に置く。
 その犠牲者たちを破魔の力をもってヴォルフガングは薙ぎ払った。
「許せ。忌まわしき呪縛から解き放たれ、安らかに眠れ」
 肉を裂き、臓を貫き、骨を砕いて尚足りぬ憤怒を!
「塵も残さず砕け散れ――!」
 ヴォルフガングは己の想いを振り下ろす。地獄の業火と共にディンドルフへと向けて。
 その一撃にディンドルフは吹き飛ばされて、犠牲者たちの中へ。
 このまま戦っていてはとディンドルフは急いで、犠牲者たちに邪魔をさせ二人の前から逃げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

櫻!櫻宵!
よかった……僕は、ちゃんと君を守れたね
安堵と共にその胸に頬を擦り寄せる
いてて……でも大丈夫…櫻宵が無事なら
ふふ、王子様はお姫様を助けるものだもの
僕だってやるときはやるんだから!
褒められ少し胸をはる

そうだよ
もうあんな吸血鬼のごはんになんてさせない
櫻宵に変なものを食べさせようとしないでよね!
櫻宵が食べていいのは――例えば、愛に浸したポワソン(人魚)、とか?なんてね
またそんなことを言う
櫻宵が食べてしまう前に無くしてしまおう
誘惑蕩ける歌声で紡ぐ『薇の歌』
そんなのは、なかった
僕の櫻は戦いたい様子
邪魔なんてさせないよ
泡沫のオーラ防御は、櫻宵を守る為に

だから
そんなの食べてはいけないったら!


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

何も出来ぬ事がこんなにももどかしかったなんて
匣から出てすぐリルを抱きとめる
綺麗な白があかに染まって
噫、いたましい(美しい)

ひとつ傷舐めれば月下に咲く花の蜜の味
助けてくれてありがとう
優しく頬を撫でる
頼もしい王子様ね

可愛い子を傷つけたお礼をしなきゃ
随分と素敵なディナー
犠牲者の―美味しそう
けれど私は美食家
愛したものしか食べないの
噫でも一口くらい良いかしら
冗談よ

響く人魚の歌に微笑んで
刀に破魔宿らせ
彼の傷のお返しとばかりに呪殺桜を衝撃波と共になぎ払い
晩餐ごと蹂躙する
吸血鬼はどんな味がするのかしら?
傷を抉るように斬り裂き
「浄華」
悪いものは祓って斬ってしまいましょ

今度はあなたがディナーになる番かしら



●その口に運んでいいもの、ダメなもの
「櫻! 櫻宵!」
 匣から出る、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)の名をリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は紡いで。
「よかった……僕は、ちゃんと君を守れたね」
 リルは櫻宵の身に変わりないことに安堵して、それと共にその胸に頬を摺り寄せた。
 何も出来ぬ事がこんなにももどかしかったなんて――櫻宵はリルを抱き留めて。
 綺麗な白があかに染まって――その姿は。
「噫、いたましい」
 けれど――美しい。それを飲み込んでいくよう。
 ひとつ、頬をかすった傷舐めれば月下に咲く花の蜜の味――舐められたリルは、そこに傷があるのだと感じて。
「いてて………でも大丈夫……櫻宵が無事なら」
「助けてくれてありがとう」
「ふふ、王子様はお姫様を助けるものだもの」
 僕だってやるときはやるんだから! とリルは少し胸を張る。
 ちょっとばかり自慢気な顔に櫻宵はくすりと笑って優しく頬を撫でた。
「頼もしい王子様ね」
 そして櫻宵は、いつまでも二人でいたいけどと零し。
「可愛い子を傷つけたお礼をしなきゃ」
 きっともうパーティーは始まっているだろうけどね、とリルと櫻宵もホールへと向かう。
 そして思った通り――その場所で追い詰められつつあるディンドルフの姿。
「あら、早く可愛い子を傷つけたお礼をしなきゃ」
 終わっちゃいそう、と笑う。また新手か、と――お前達も私のスープを飲んでいけばいいと強がりか、それとも断られることを見越してか振舞おうとする。
「随分と素敵なディナー。犠牲者の――美味しそう」
 櫻宵はちろりと舌見せて。けれど私は美食家と笑う。
「そうだよ。もうあんな吸血鬼のごはんになんてさせない」
 櫻宵は僕のなんだからとリルは言って。
「櫻宵に変なものを食べさせようとしないでよね!」
 櫻宵が食べていいのは――例えば、愛に浸したポワソン(人魚)、とか? ――なんてねとリルは笑う。
 それなら、僕が自分で口に運んであげると。
「ふふ、そうね。愛したものしか食べないの」
 噫でも一口くらい良いかしら、というときゅっとなるリルの眉。
「またそんなことを言う」
「冗談よ」
 本当に? とちょっと疑わし気な視線。例えそれがほんの少しのつまみ食いでも、嫌なのだから。
「櫻宵が食べてしまう前に無くしてしまおう」
 誘惑蕩ける歌声――リルが紡ぐは『薇の歌』だ。
 そんなのは、なかった――櫻宵が美味しそう、なんていうスープはなかった。
 ディンドルフの傍からスープは消えていく。
 その歌に微笑んで、櫻宵は刃を抜く。その刀に魔を破る力を宿らせて。
(「僕の櫻は戦いたいみたい」)
 邪魔なんてさせないよとリルは紡ぐ。そしてリルは泡沫のオーラを櫻宵へ。それは櫻宵を守る為のもの。
「これはお返し」
 リルの傷のお返しとばかりに花弁を衝撃波と共になぎ払う。
 晩餐ごと蹂躙する――吸血鬼はどんな味がするのかしら? と櫻宵は笑って。
 その傷にしましょうと誰がつけたか、ディンドルフの腹にある傷を狙って。
「愚かなる心の数々、戒め給いて一切衆生の罪穢れ ――斬り祓い、清めてあげる」
 不可視の斬撃でもって悪い物を斬り祓う。
「今度はあなたがディナーになる番かしら」
「だから、そんなの食べてはいけないったら!」
 もう! とすすいとリルが泳いでだめだよ! とぽかぽかと櫻宵を叩く。
 本当には食べないわよ! とリルのそれを受けるのは少し嬉しくて。櫻宵はふふと小さく笑い零した。
 傷を抉られたディンドルフは、二人のそのやり取りの間に犠牲者を呼び姿を眩ませた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
ボクの魔力がアーシェに満ちたら、いつものアーシェに戻るかな。
ごめんね、アーシェ。
もうボクは君を離したりしないから。
ぎゅうっと抱きしめてから、ディンドルフへと対峙に行くよ。

対峙した花嫁…ボクと同じくらいか幼い気がした。
彼女も、アーシェのような立場で大事な人を殺されて、絶望したんだ…

ごめんね、全部終わったら君に、犠牲になった人たちに
魂の安らぎの祈りを捧げるからね。
でもその前に、これ以上の犠牲者が出ないようにディンドルフを止めないとね。
行こうアーシェ、君に光を、ボクの祈りを…

UC【君がための光】を発動
祈りを込めた聖属性の全力魔法でアーシェと共に戦うよ
これ以上悲しい花嫁が生まれないようにと強く祈って。



●祈りを捧げるためにも
 ボクの魔力がアーシェに満ちたら、いつものアーシェに戻るかな――と、瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)はぎゅうとアーシェを抱きしめていた。
「ごめんね、アーシェ」
 もうボクは君を離したりしないからと、その胸に。一緒にいることの安堵も感じながら。
 けれどいつまでもここにいるわけにはいかないと、カデルは歩み始める。
 ディンドルフと対峙するために。
 ぽてぽてと歩む。ディンドルフの元へ向かいながら、カデルは思い出していた。
(「対峙した花嫁……ボクと同じくらいか幼い気がした」)
 どんな表情をしていたか――それはうまく言葉にできないものだった。
(「彼女も、アーシェのような立場で大事な人を殺されて、絶望したんだ……」)
 そう思うと、歩みは緩まり立ち止まってしまう。
 けれどカデルはふるりと首を振って顔をあげた。
「ごめんね、全部終わったら君に、犠牲になった人たちに魂の安らぎの祈りを捧げるからね」
 でもその前に、これ以上の犠牲者がでないようにディンドルフを止めないとね、とアーシェを抱きしめる力を強めて。
「行こうアーシェ、君に光を、ボクの祈りを……」
 この先にどんな光景が広がっていても――その戦場に入ることへ躊躇いは無く。
 カデルは祈りを込めた聖なる光を得る。
 ディンドルフという吸血鬼を見つけて、カデルは駆けた。
 戦って傷を負っている、今ならと。
(「これ以上悲しい花嫁が生まれないように」)
 倒さなきゃ、と強く祈って。
 仕掛けた攻撃にディンドルフは反応しきれない。全力の魔法乗せた攻撃を駆ければその身の一部がそげていく。
 ディンドルフはもう、まともに戦う力を失いつつあり、犠牲者を盾に逃れることしかできないのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
【桜雨】
レインさんの心中が手にとるように伝わってくる
こんな感情を向けられるのは慣れっこ
別に隠しているつもりはなかったのだけれども、ね
(だって本当に触れられたくない秘密は
桜の下に埋めてあるのだから)

さて、愉しい催しもこれで終幕
幕引きと参りましょうか
あら、このスープは…
最後に相応しい饗しですこと
いただきます、と一口
美味しい…嗚呼、彼女たちの無念が伝わってくるよう…
ふふ、私好みの味ですわ
捕食して呪詛として刃に宿して
私が彼女たちの仇をとってあげる
それと私の健気で可愛い妖精さんがお世話になった分も、ね
その首に手向けの花を咲かせましょう

昏睡したレインさんを両手で受け止めて
ふふ、今日はたっぷり労わなくてはね


氷雫森・レイン
【桜雨】
首魁の許へ行く道中には沈黙
どんな顔で、距離でいたらいい…?
私、怖いと思ってしまった
出会ってから彼女が非力な矮躯への力加減を覚えるまでに感じたそれとは意味が違う
首を欲しがる奇妙な嗜好や死霊術に感じてたものとも
それに先の問いかけと言葉
多分此処から先はエリシャの暗部
私はどうするべきなの…

いえ、それも全てこれを終えてから
全部敵の所為だもの
「寝床が悪くて苛々するの、さっさと帰って温泉に浸かって寝直したいわ」
今は問題の本質もこの我儘紛いが誰の真似かも忘れるの
悪趣味な物は頂かないけど此方は6倍よ
強大な全力魔法が使えるからは建前
終了後の昏睡と寝たふりでの逃避が本懐
…今は貴女との約束に尽くすだけで許して



●今は、まだ
(「どんな顔で、距離でいたらいい……?」)
 そうっと、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は千桜・エリシャ(春宵・f02565)の様子を伺う。
 沈黙――二人の間に言葉はない。
(「私、怖いと思ってしまった」)
 レインは思い返していた。
 出会ってから彼女が、エリシャが己の非力な矮躯への力加減を覚えるまでに感じたそれとは意味が違う。
 そしてエリシャの首を欲しがる奇妙な嗜好や死霊術に感じてたものとも――どちらとも違う。
(「それに」)
 先の問いかけと言葉――レインの心にうずくまるものがある。
 どう答えたらいいのか、どうすればいいのかと。
(「多分此処から先はエリシャの暗部。私はどうするべきなの……」)
 そんなレインの心内が手に取るように伝わってくる。けれどエリシャはそれでは揺るがないのだ。
 こんな感情を向けられるのは――慣れっこ。
(「別に隠しているつもりはなかったのだけれども、ね」)
 それにこれは、問われても触れられても――構わない事。
(「だって本当に触れられたくない秘密は――桜の下に埋めてあるのだから」)
 そんな沈黙のままに、それぞれ想いを抱いて戦いの場へとたどり着く。
 レインは気持ち切り替えるようにふるりと首を横にふった。
(「いえ、それも全てこれを終えてから。全部敵の所為だもの」)
 見事な部屋であっただろうに、今は犠牲者が蠢いて荒れている。
 そして主である吸血鬼、ディンドルフはどこからかどうにかという体で逃げてきた様子。
 その前に、また現れた猟兵に警戒をしているようだ。
「さて、愉しい催しもこれで終幕。幕引きと参りましょうか」
 と、エリシャはテーブルの上にあるスープに気づく。それは冷めてしまってるが――いのちをもって作られたものとすぐに理解するのだ。
「あら、このスープは……最後に相応しい饗しですこと」
 いただきます、と一口。
「美味しい……嗚呼、彼女たちの無念が伝わってくるよう……」
 その味は――いのちの味。エリシャは笑みを浮かべて。
「ふふ、私好みの味ですわ」
 けれどその味を、想いを捕食して呪詛として刃に宿すのだ。
「私が彼女たちの仇をとってあげる」
 それと、とエリシャはレインへと視線を向けて、ディンドルフへと向き直る。
「私の健気で可愛い妖精さんがお世話になった分も、ね」
 その首に手向けの花を咲かせましょうと、エリシャは大太刀を抜く。
 そしてレインも、ただここに居るだけではいられないのだ。
「寝床が悪くて苛々するの、さっさと帰って温泉に浸かって寝直したいわ」
 今は問題の本質もこの我儘紛いが誰の真似かも忘れるだけ。
「悪趣味な物は頂かないけど此方は6倍よ」
 全身の魔力回路を巡らせて、増強して――己が常時使える力を僅かの間、レインは引き上げる。
 強大な全力魔法が使えるから――というのは建前だ。大きな力を使うには代償があるのだから。
 レインの攻撃はディンドルフの片足を潰して。動き鈍ったところにエリシャの刃が走る。
 口にしたものたちの抱えていた無念を呪詛として、放たれた斬撃。それをたどるように紅い花が咲いては散っていく。
 ディンドルフを追い詰めることも、できた。
 けれどエリシャはトドメをせず、代償として意識を失い眠りにつくレインをその両の手で受け止めた。
 眠りに沈むレインの視界の中――エリシャの顔がぼやけている。
(「……今は貴女との約束に尽くすだけで許して」)
 そっと閉じられた紫色の瞳。
「ふふ、今日はたっぷり労わなくてはね」
 無様に足を引きずって逃げていく姿にエリシャは瞳細める。
 まだここには猟兵がいるのだから無理に負う必要もないと。 一口分の呪詛はディンドルフに返したのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん・f03797と


一人でご機嫌だったり喚いたりの相方にうんざりした顔のまま
吸血鬼にも溜息ひとつ
ああそうネ
されるよりする方が得意だし、ナンなら喰らうのが一番得意ヨ
けどネ、絶望を与える料理ナンてのは一番アタシの気にいらない料理なの


犠牲者だろうとオブリビオンであれば気にはしないケド
相方の気持ちを踏み躙ンのも、ネ
「柘榴」に【天齎】纏わせたぬちゃんが取り零した敵を一体ずつ斬ってくわ
敵全体の挙動*見切り隙縫うよう*残像置いて吸血鬼へ肉薄
刃突き立てたなら*傷口えぐるよう*2回攻撃
しっかり*捕食し*生命力吸収しとくわ

今度はアンタが料理される番
喰らう行為を貶めたコト、後悔する位美味しく頂いてアゲル


火狸・さつま
コノf03130と

コノにべったり
移動となれば離れるしかなくて
けれどコノのお隣歩けば御機嫌!
あれ?コノちゃんなんか疲れてる?(ぽじてぃぶ)

花嫁を御所望、みたい、だ、けど!
コノちゃんは!渡さない!!(ふんす!)
…あ。箱入てたの、俺だた
具材になんかさせない!!
コノは料理されるより、料理する方が得意!なんだから!

しっぽぶわわり毛並み逆立て
敵対心隠す事もしない
現れた犠牲者には
早業【燐火】炎の仔狐達呼び出し
籠めるは癒し弔う浄化の炎、聖属性攻撃
範囲攻撃で囲むように嗾ければ焼くよりも照らして
もう苦しむ事、ない
送り火に乗ってお逝き

こんな事する、お前は、赦さない
今度は全力魔法の断罪の業火
苦しみ焼かれ、骸の海に沈め



●許してはならぬもの
「コノ~」
「……」
「コノー」
「……」
 うんざり。コノハ・ライゼ(空々・f03130)がそんな顔をしているのは理由があった。
 べったりとくっついていた火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)はご機嫌――からの、喚いたり。
 さっきまではすんすんしていたのに今は隣をあるいてご機嫌だ。
「あれ? コノちゃんなんか疲れてる?」
 ひょい、と覗き込んでくる顔にお疲れにみえるならそうなんじゃナイ、とコノハはそっけなく。
 そしてコノハの視線は――片足引き摺るように逃げようとするディンドルフを捕らえた。
 さつまはコノハの前にしゅばっと、守るように立って。
「花嫁を御所望、みたい、だ、けど! コノちゃんは! 渡さない!!」
 ふんす! と鼻息荒く。さつまは絶対にダメをディンドルフからコノハを隠すようにたつ。そしてあれ、と思い返す。
 花嫁になるのは――箱に入っていた、方だったような。
「……あ。箱入てたの、俺だた。具材になんかさせない!!」
 コノは料理されるより、料理する方が得意! なんだから! とさつまは我が事のように。
「ああそうネ。されるよりする方が得意だし、ナンなら喰らうのが一番得意ヨ」
 溜息零しながら、コノハは言って――ディンドルフに向ける視線は冷たく、削ぐようなものだ。
「けどネ、絶望を与える料理ナンてのは一番アタシの気にいらない料理なの」
 敵意を向けて――向けられて。
 ディンドルフは犠牲者たちを傍らに呼びこむ。
(「犠牲者だろうとオブリビオンであれば気にはしないケド」)
 ちらり、コノハは薩摩を見る。
(「相方の気持ちを踏み躙ンのも、ネ」)
 ぶわり、と毛並み逆立てているさつま。
 敵愾心を隠すことも――しない。
 犠牲者たちに炎の仔狐達呼び出し、その周囲を走らせる。
 癒し弔う浄化の炎――広がる炎は囲い込む様に。嗾ければ焼くよりも照らして、さつまはもういいんだと告げる。
「もう苦しむ事、ない。送り火に乗ってお逝き」
 踏み込んで、ただすべてを斬り捨てる事もコノハにはできたのだが少しだけ待って。
 それでも取りこぼされていく犠牲者はいるのだ。
 柘榴へと己の生命力を籠めた、思い描く空模様のオーラを纏わせるコノハ。その一撃は肉体ではなく、邪な力を――ディンドルフの呪縛を斬って解放していく。
 そして先に一歩、ディンドルフへと踏み込んだ。
 すでにズタボロのその身に、一層深く刃を突き立てコノハは、捕食し生命力を吸い上げて。
「今度はアンタが料理される番」
 そう言ってたぬちゃん、炎頂戴と料理するように強請る。
「こんな事する、お前は、赦さない」
 犠牲者たちは――導くけれど、お前はそうはいかないとさつまは全力を籠める。
 断罪の業火――それをディンドルフへと向けた。
「苦しみ焼かれ、骸の海に沈め」
 炎がディンドルフを包んでその身を焼く。
 その熱さに短く悲鳴をあげ転がるように飛び出してきた。
 そこへ――再度、コノハが刃震う。
「喰らう行為を貶めたコト、後悔する位美味しく頂いてアゲル」
 料理人として、決してこの吸血鬼は許せないもの。
 身を焼かれ、切り裂かれ、ディンドルフは再び犠牲者たちを壁としてどうにか二人の前から逃げ出したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
千之助の前では、剣は収め。

斬り、削ぎ、剥ぎ、裂き、
砕き、抉り、奪い、壊し…
生かし方、殺し方。
何を、どの位、如何すれば等…
十分識ってる。

つまりが大した影響もない傷。
大袈裟…は、言いませんが。
藪蛇なので。

それはそれ。
件の吸血鬼には拳の十や萬めり込ませねば気が済まぬ。

室内突入。
幾らでも喚ぶといい。
道は焔が拓いてくれる。信じてる。
調度も敵も足場に吸血鬼へ肉薄。
剣を…はフェイク。
UCで攻撃力強化、
拳を顔面に。

所詮、主に仕えるなど似合わぬ雑兵。
だが傭兵…徒手も出来ぬ筈が無い。
足払いからの殴打、蹴撃へと繋げ。

こんな生業で。
この歳になって。
漸く殺意なんて識ったばかり。

花嫁?ほざけ。
手前には絶望をこそ呉れて遣る


佐那・千之助
クロトの怪我は治したが
失った血は戻らぬ…無茶をするな
おまえの傷は、痛い

怒っているな…
薬は多少残っているものの私は無事なのに、どうしてだろうか…

私がクロトの道を拓く
犠牲者達が彼を阻まぬよう、UCで炎龍を操ってかばう
ついでに悍ましい鍋も穿ち焼却
もう、命を口にすることなど…永劫無い
ほんの時折甘い血を頂ければ十分

数に圧され手傷を負えど、黒剣で貫き生命力吸収
直線状の複数を、部屋の奥まで一斉に射抜き燃やす2回攻撃
…すまない。痛かろうな…
もう、眠れるから…
包む焔で天へ送る

炎の援護を続けながら
杞憂だったか…?随分血の気の多いこと
敵を撲る彼の背から感じるもの
それは以前には無かったもの
私が彼を歪めたのか
それとも…



●憤
 その傷は治したのだけれども――佐那・千之助(火輪・f00454)はクロト・ラトキエ(TTX・f00472)を見つめ。
「失った血は戻らぬ……無茶をするな」
 おまえの傷は、痛いと千之助は言う。
 クロトは千之助の前では、剣を収めていた。
 己の傷は――受けた自分が一番よく、わかっている。
 斬り、削ぎ、剥ぎ、裂き、砕き、抉り、奪い、壊し――それは、生かし方、殺し方にもつながっている。
 何を、どの位、如何すれば――それも十分識ってる。
 つまりが大した影響もない傷とクロトは思っているのでは。
(「大袈裟……は、言いませんが」)
 千之助が思っている傷より、クロトが思っている己の状況は随分軽い。
 けれどそれを言うのは藪蛇。
 それはそれとして、クロトはふつふつと怒りを抱いていた。
 千之助はそれも感じている。
(「怒っているな……薬は多少残っているものの私は無事なのに、どうしてだろうか……」)
 件の吸血鬼には拳の十や萬めり込ませねば気が済まぬと、これから吸血鬼を仕留める気しかなく。
 千之助とクロトが足向けたホール。
 そこでは犠牲者たち多数おり、そしてそこかしこで戦いの痕も見て取れる。
「私がクロトの道を拓く」
 そう言って一歩先に千之助が進む。
 幾らでも喚ぶといい、とクロトは笑ってみせた。
 道は焔が拓いてくれると、信じているからだ。
 迫る犠牲者たちへと大気を歪め渦巻く溶鉄の竜巻より迸る炎の龍が奔る、踊る。
 そして千之助は目についた鍋を、スープ注がれた皿も穿って焼きつくす。
(「もう、命を口にすることなど……永劫無い」)
 ほんの時折甘い血を頂ければ十分と、口端に微かに笑みを乗せて。
 突然飛び出た犠牲者。数の上では相手の方が多いのだ。千之助はその身を引っ掻いて傷つけられるが、黒剣で生命力を貰えば癒えていく。
「……すまない。痛かろうな……もう、眠れるから……」
 轟、と炎が笑う。真直ぐ、直線でかけ犠牲者たちを射抜いて燃やすのは一度ではなく、二度ある。
 包む焔で、この犠牲者たちを天へ送るために。
 その中を走り抜けて――クロトはディンドルフへと迫っていた。
 手にある剣――それはフェイクだ。
 クロトは己を強化して、その拳をディンドルフへの顔面へと叩きこんだ。
 鈍いその音は、千之助へも届いている。
「杞憂だったか……? 随分血の気の多いこと」
 けれど、敵を撲る彼の背から感じるもの――それは以前には、無かったものだ。
 千之助はそれに感じるものがある。
 それはもしや、己のせいかと。
(「私が彼を歪めたのか、それとも……」)
 その視線を背に受けながら、クロトは戦う。
 初戦、主に仕えるなど似合わぬ雑兵と。
 だが、傭兵なのだ。
 拳叩きこみ、ぐらついたところ足をかけて払い再び殴打し蹴撃へと繋げて。
(「こんな生業で。この歳になって」)
 漸く殺意なんて識ったばかり。それが、あふれ出して――言葉になる。
「花嫁? ほざけ。手前には絶望をこそ呉れて遣る」
 喉引き攣らせ、ディンドルフは逃げようとする。
 だがその体はすでにボロボロで動きは鈍く、クロトはもう一撃を見舞った。
 ぐぎゃ、と潰れた声を響かせて。
 それでも生に執着するのか、ディンドルフは犠牲者たちをクロトの前に重ねて次の攻撃をかわした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アレスと
アドリブ◎

ようやくの自由に
アレスの怪我を確認したいとこだが
ああ…わかってるよ
こんなくそったれた悲劇
とっとと終わらせてやろうぜ

歌で身体強化して
出会い頭に先制攻撃
急かす気持ちで斬り込んで

けど…くそ
簡単に斬って捨てててわけにはいかねえか
俺と違って怪我をしてるアレスはなおさら
とにかく…回復させるか力を分けるかして何とか体制を整えねえと
アレス、
呼びかけて、吸血をと思ったら傷口を逆に押し付けられる
血と共に流れ込むアレスの力

あと1分でってか
ああ…、ちゃんと応えてやるよ
俺は―お前の剣だぜ?
【君との約束】で胸くそ悪いスープを崩し
ダッシュで距離を詰める
全力の炎を纏わせて
アレスと二人分だ
しっかりうけとめな!


アレクシス・ミラ
セリオスと
アドリブ◎

負傷はしているが…この程度なら大丈夫だ
…征こう、セリオス
これ以上奴の好きにはさせない
その為にここまで来たのだから

僕は彼の援護を
防御に剣にオーラ防御を込めてかばおう
でも…怪我のせいか、自分の体が余計に重く感じる

名前を呼ぶ声と、首筋に近付く口元に
彼が何をしようとしてるかに気付く
吸血する代わりに癒すか力を与える技
でも、それでは君の方が疲れるか倒れてしまう
それなら…
近付く彼の後頭部に手を回して
吸血を促すように
ぐっと力を込め、傷口に押し付ける
【双絆の願星】で彼の強化を
…いつもは君に力を貰ってばかりだから
今度は僕が
…君に、守護と加護を
祈りと信頼を、囁く言の葉に乗せる
頼んだよ、『僕の剣』



●ふたりぶん
 声にも、その身にも自由が戻ってくる。
 箱が開かれ――セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)はアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の怪我を確認しようと、した。
 けれど。アレクシスが笑ってしまったら。
「負傷はしているが……この程度なら大丈夫だ」
 そう言って、
「……征こう、セリオス」
 促されてしまえば――ああ、と頷かざるを得ない。
「わかってるよ」
「これ以上奴の好きにはさせない」
「こんなくそったれた悲劇、とっとと終わらせてやろうぜ」
 その為にここまで来たのだから――
 二人で向かうのはディンドルフがいるという場所だ。
 そこに足を踏み入れれば惨憺たる光景。
 けれど、もう終わりが近いことも――解った。
「セリオス」
 頷いて、セリオスは呼吸整える。
 先程までは歌えなかったが今は、歌える。
 歌で身体強化をして、ディンドルフへと真っすぐ向かい――その急かす気持ちで斬り込む。
 その間に、アレクシスは防御としてオーラを剣に。
 けれど、怪我のせいだろうか、自身の身体が余計に重く感じる。
 簡単に、ディンドルフへと向かえればよかった。
 けれどあちらも手負い、この場を切り抜けて生き延びようと必死に、足掻いている。
 その為ならどれほど、犠牲者を呼び出そうと構わぬというように。
 簡単には尽きぬほど、今まで人を弄んできたのだ。
 犠牲者の攻撃がセリオスに向く。その攻撃を、剣を滑らせてアレクシスが叩き落とし庇った。
「くそ、簡単に斬って捨ててってわけにはいかねえか」
 俺と違って怪我をしてるアレスはなおさら、と庇う動作ひとつに僅かに眉寄せたアレクシスを見てセリオスは思う。
(「とにかく……回復させるか力を分けるかして何とか体制を整えねえと」)
 そう思い、セリオスはアレス、と名を呼んだ。
 名を呼んで、そして首筋に近づいていく口元――アレクシスは、セリオスが何をしようとしているかに気づいた。
 血を得れば、癒すか、力かを与える技をセリオスは持っている。
 でも、それでは君の方が疲れるか倒れてしまうとアレクシスは僅かの間に思うのだ。
(「それなら……」)
 こうするのが一番だと、アレクシスは手を伸ばしセリオスの後頭部に手をまわして、傷口へと導く。
 吸血を促すように。
 傷口を押し付けられたセリオスは、その場所に唇這わせた。
 血の味。
 口の中に広がる鉄の味――けれど、それだけでなかった。
(「僕の力を君に」)
 己の血に聖なる加護を。その加護をセリオスへと、流し込む。
 流れ込む力は優しくて暖かいような。
「……いつもは君に力を貰ってばかりだから、今度は僕が」
 君に、守護と加護を。
 アレクシスの声が、セリオスの頭上から落ちてくる。
 祈りと信頼を、囁く言の葉に乗せて。
「頼んだよ、『僕の剣』」
 その言葉をセリオスに向けられるのはこの世でただ一人、アレクシスだけだ。
 その傷口から、唇話してアレクシスは――は、と息を吐く。
「あと1分でってか。ああ……、ちゃんと応えてやるよ」
 俺は――お前の剣だぜ?
 不敵に笑って見せる。受けた力を、失う前にぶつけなければならないのだから。
 アレクシスは行け、とその背を押す。
 その手もまた、心強く。その手に押されるままにセリオスは一歩を踏み込んだ。
 数多の光の剣を生み出して、ディンドルフのモノを覆す。
 胸くそ悪ぃとスープの皿をひっくり返して。
 連れ立つ光の剣には炎も踊る。
「アレスと二人分だ、しっかりうけとめな!」
 血を蹴って、犠牲者たちの上を軽々飛び越えてセリオスはディンドルフへとその刃届ける。
 それはまるで炎と共に飛翔する黒い鳥の様で、アレクシスは自由に羽ばたくようと僅かに瞳細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
アイネ/f24391

ヒトを食うことはヒトが最も忌む行為だ
殺すように、犯すように、ヒトを壊す
アイネの世界みたく、僕の世界にも飢饉の時にはあったと聞くが
…ああ、壊れちまったのさ

僕入りのスープはとっても美味しいだろうけどね

そうやって人様に迷惑かけないと続けられねぇような趣味をしてると
お隣さんに叱られるよ
それはそれ
僕とアイネは互いのスープを泣いて啜り合う仲というか
どっちかってーと同じ鍋を突き合う方がしっくりくる
ああ、一本のうどんを引っ張り合うのもいいねぇ

さぁ
箱詰めから解放を祝って運動といこうじゃないか
突き回して鶏ガラにしてやろう

動きが鈍ったとこを執拗に…なんて面倒だ
お前なんぞ一太刀で十分よ、勿体ない


アイネ・ミリオーン
ロカジ/f04128

自分の配下が、死んでも、気付かないものなんです、ね
結構、愚鈍と言うか……
僕の世界、だと、まあ、それしかなくて子を生かすために食わせた、なんて話もそれなりにはあります、けれど
食料があるのに、わざわざ、人肉を食べようとは、思いません、ね

趣味が迷惑、と言うか、存在が迷惑、なので……とりあえず排除一択です、ね
……あ、
帰ったら、お鍋じゃない、ですけれど、冷たいおうどんとか、食べたいです、ね
前に、あの世界で食べて、美味しかった、ので
奢ってくださるんで、しょう?

運動、なんですか、ね、これ
喋る声は全て催眠音声に
敵の動きを緩めて、落として、静かに
動きが鈍れば、ガラクタ片手に、撃ち抜きましょう



●世界が違えば
 もう終わりかけ? ヒーローは遅れてやってくる、とかどうだいとロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)はアイネ・ミリオーン(人造エヴァンゲリウム・f24391)へと笑いかける。
 吸血鬼は悪役ですね、とアイネは言って。
「自分の配下が、死んでも、気付かないものなんです、ね。結構、愚鈍と言うか……」
 もうそれに気づく余裕もないくらいかもしれませんが、と続ける。
 それに、と目を向けるのは――転がったスープの皿。
 ヒトを食うことはヒトが最も忌む行為とロカジは思うのだ。
 殺すように、犯すように、ヒトを壊す――
 アイネの世界みたく、僕の世界にも飢饉の時にはあったと聞くが、と零せばそうですねと頷きひとつ。
「僕の世界、だと、まあ、それしかなくて子を生かすために食わせた、なんて話もそれなりにはあります、けれど」
 食料があるのに、わざわざ、人肉を食べようとは、思いません、ね――どうしてそうするのか、意味がわからぬのだ。
 けれどロカジは。
「……ああ、壊れちまったのさ」
 と、肩竦めて、僕入りのスープはとっても美味しいだろうけどね、なんて冗談めかし。
 けどねぇとロカジは苦笑浮かべる。
「そうやって人様に迷惑かけないと続けられねぇような趣味をしてると、お隣さんに叱られるよ」
 そう、猟兵なんていうお隣さんに。
「趣味が迷惑、と言うか、存在が迷惑、なので……とりあえず排除一択です、ね」
 そこで――少しの合間を置いて。あ、とアイネは零しロカジへとちらり、視線向ける。
「帰ったら、お鍋じゃない、ですけれど、冷たいおうどんとか、食べたいです」
 前に、あの世界で食べて、美味しかった、ので――とその時のことを思い出すアイネ。
 おごってくださるんで、しょう? と視線向ければジェスチャー付きで、それはそれと、ものを横に置くふりつけるロカジ。
 僕とアイネは互いのスープを泣いて啜り合う仲というか――それよりもっとしっくりする表現がある。
「同じ鍋を突き合おう。ああ、一本のうどんを引っ張り合うのもいいねぇ」
 それは――きっとアイネにとって初めての経験になる。
 楽しみ、ですと話していれば犠牲者の間からディンドルフが姿見せた。
 どうにかこうにか、猟兵たちから逃げ回っている様子。
 けれど見つけたなら、見逃してやる気など毛頭ない。
「さぁ、箱詰めから解放を祝って運動といこうじゃないか」
 突き回して鶏ガラにしてやろうとロカジは少し楽しそうだ。
 アイネはなるほど、運動と零す。
「運動、なんですか、ね、これ」
 では、と――そこから、アイネの紡ぐ声はすべて催眠音声へとなる。
 一瞬のうちに眠りに落とす、ということはできないようだがそれでも、うとうと。
 意識を撫でていくには十分だ。
 敵の動きは緩まり、落とされ、静かになっていく。
 そうなれば狙うも容易いのだ。
 ケーブル繋いで操る大型の銃、ガラクタをアイネは向ける。
 犠牲者たちの姿はひとつ、またひとつと失われていって。
「動きが鈍ったとこを執拗に……なんて面倒だ」
 お前なんぞ一太刀で十分よ、勿体ないと、己の血液を僅かに与えて、雷電纏った一撃をロカジはディンドルフへと放った。
 ひ、と短い悲鳴と共に己の身を庇う。その、庇う様に動いた左腕を雷電が焼き切り、吹き飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

落浜・語
【狐扇】
さて、悪趣味な領主、もとい吸血鬼のお出ましで。
さー全力で叩き潰してしまおうか。

UC『怪談語り』使用。
右目を常磐色に変えて奏剣に【力溜め】したあと、【呪詛】を宿して【属性攻撃】を。代償には、【毒耐性】で乗り切る
写しても良いが、もれなくお前も何かしらの代償は払うことになるからな。
合間に深相円環を【投擲】して【マヒ攻撃】でもって、相手の動きを止めたり、こちらへの攻撃を阻止、狐珀に攻撃がいかないように【かばう】
そろそろお前が、年貢の納め時だ。とっととくたばりやがれ。


吉備・狐珀
【狐扇】

いつもそうやって花嫁達が戻ってくるのを呑気に待っていらしたのですね。
残念ながら今日は貴方の花嫁候補はいないようですけれど。

UC【三種の神器の祓い】使用
語さんにかかる毒を(毒耐性)の(オーラ防御)で(かばい)つつ、ウケに(破魔)(属性攻撃)を強化してもらいディンドルフを(浄化)し弱体させる。
ウケ、ディンドルフのUCを封じるつもりで(全力)でいきますよ。
ウカと月代は(衝撃波)で語さんの(援護射撃)をお願いしますね。

花嫁に幸せを与える必要はもうありません。
貴方が花嫁を迎え入れることはもうないのだから。


花嫁に幸せを与える必要はもうありません。
貴方が花嫁を迎え入れることはもうないのだから。



●終わりへの足音
 片足はもう動きが鈍く。そして片方の腕も失って。
 それでも戦いから離れようと足掻くディンドルフ。
「くそ、痛いじゃないか……くそ! ただ花嫁にスープをふるまって、眷属に、家族にしていただけというのに!」
 それは吸血鬼としてはおかしくはない、のかもしれない。
 けれど、ひとにとってはそうではないのだ。
「ああ、今日は誰もつれてこない、さんざんすぎる! なんでだ!」
 そこへ――花嫁達が戻ってくるのを呑気に待っていらしたのですねと冷たい声がひとつ。
 残念ながら今日は貴方の花嫁候補はいないようですけれどと吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は冷たく告げる。
「さて、悪趣味な領主、もとい吸血鬼のお出ましで」
 もう満身創痍なようだが、と落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は紡ぐ。
「さー全力で叩き潰してしまおうか」
 その言葉にディンドルフはひ、と喉を震わせた。
 そしてスープだ、私のスープをふるまうから見逃せという。
 それは口にする気にもならぬものだ。だが断ったものは――その身を縛られるものでもあった。
 しかし今、そのスープはどこにあるというのか。
 狐珀が鏡、剣、勾玉を放ってディンドルフの破れかぶれの攻撃をかばいだてる。
 そのみっつすべて、ディンドルフにとの戦いの中で思う侭に扱う事は――きっと、ディンドルフが万全ならば難しかっただろう。
 だがもう戦意も枯れ果てかけたディンドルフの前では容易い。
 その技を映し返そうとするディンドルフ。狐珀によって封じられた。
「花嫁に幸せを与える必要はもうありません。貴方が花嫁を迎え入れることはもうないのだから」
 その言葉に、ああと語は頷く。
 その右目は常盤色に。
 奏剣に力をためて――。
「写しても良いが、もれなくお前も何かしらの代償は払うことになるからな」
 呪詛を宿し、己の身にかかる毒は耐えて。
 深相円環を語は投擲し麻痺を施し動き鈍らせる。
「そろそろお前が、年貢の納め時だ。とっととくたばりやがれ」
 語が向ける攻撃がディンドルフの身を深くえぐる。
 その一撃によって贈られたものにさらに身体蝕まれ、それでも犠牲者たちを再び侍らせてディンドルフは逃げる。
 まだ生きるのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
シキさんと

思わず鼻を押さえた
色々なものが混じり合って
鬱々とする様なにおいが充満している

なんのにおいなのかは分からないけれど
長く留まりたくないと裡から不快感が湧きあがる心地

屠を構え
素早く臨戦態勢に入った
先の分も挽回する様に
駆け、薙ぎ
その白い肌へ刃先を次々と

信頼に、応えたい

攻撃の準備段階にあるシキさんを一目見やったのみ
すぐに前を見据えて再び対峙する

手出しはさせません

呼び出した己の相棒たる冬の王を引き連れ
シキさんに攻撃の手が届かない様黒帝と互いに立ち回り
かちりと整った音は聞き耳で拾い
頃合いを合わせシキさんの攻撃の軌道上から逸れる

人の思いを舐めすぎです
その思いに、あなたは倒されるんだ
─覚悟する事ですね


シキ・ジルモント
黒羽と共闘

オークションも“花嫁”も、全てこの場の為か
…気に入らないな
嫌なにおいごと過剰な憤りを振り払うように、吐き捨てて

先の戦闘で傷を受け万全ではないが、一人で戦うわけではない
戦闘中は黒羽に背を預け、同時に黒羽の死角をカバーする
銃以外にナイフやワイヤーも用いて、駆ける背が赤に染まらないように

黒羽の攻撃と合わせユーベルコードを仕掛ける
防御を捨てて、意識の一切をこの一射に集中
共に戦う黒羽を信頼するからこそ、無防備になると承知して尚、普段より深く集中できる

今の集中は、共に戦う者への信頼から成せる業
技を真似たとしても同じ事が出来るとは思えない
…人を娯楽の道具として見るあんたには、理解できないだろうがな



●信頼
 思わず、華折・黒羽(掬折・f10471)は鼻を抑えた。
 色々なものが混じり合って――鬱々とする様なにおいが充満している。
 それは戦いの気配、その中で流された血の匂いもあるのだろう。
 けれどそれ以上に――何かが、あった。重ねられこびりついてきたであろう何かのにおい。
「オークションも“花嫁”も、全てこの場の為か……気に入らないな」
 黒羽感じたにおいを、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)も感じ、過剰な憤りを振り払うように吐き捨てる。
 このにおいは、何なのか。それは黒羽にはわからない。わからなくて、きっといいのだ。
 長く留まりたくないと不快感が湧きあがる心地がぞわぞわとするばかり。
 吸血鬼――ディンドルフは何処にいるのか。
 犠牲者たちが、ゆるゆると動いて向かってくる。
 黒羽は屠を構え臨戦態勢に。
 シキも戦いの構えをとる。けれど、先の戦闘で傷を受け万全ではない。だが一人で戦うわけではないのだ。
 とん、と背中の触れる感覚。
 黒羽の死角をシキがカバーして、そして黒羽もまたシキの見えぬところをカバーする。
 駆ける――薙ぎ払う。
 その背が赤に染まらぬようにシキはナイフも、ワイヤーも用いて戦うのだ。
 信頼――それに応えたいとまた黒羽も思うのだ。
 刃先を向かい来るものに向け、その中でディンドルフを見つける。
 黒羽はシキへを一目見遣った。それのみで、足りる。
 防御を捨てて、意識の一切をこの一射に集中するシキ。
 それは共に戦う黒羽を信頼するからこそできることだ。無防備になると承知しているのだから。
 その間は、と前を見据えて黒羽は対峙する。
「手出しはさせません」
 己の生命力を代償に、黒羽は傍らに相棒たる冬の王を引き連れる。黒帝は黒羽を、そしてシキの邪魔をさせぬように動いて見せる。
 シキには攻撃を届かせぬように迫る犠牲者たちを払い続けて――その音を耳で拾った。
 犠牲者の攻撃払えばその先にディンドルフの姿。
 黒羽はシキの斜線上から一歩引いて、その道を開けた。
 その敵の姿が見えた瞬間、シキは引き金を引く。
「人の思いを舐めすぎです。その思いに、あなたは倒されるんだ」
 ――覚悟する事ですね、と告げるのとその弾丸がディンドルフを貫いた。
 痛みに呻いて、膝をつく姿。
 この一射は共に戦う者への信頼から成せる業とシキは言う。
 たとえ、ディンドルフが真似たとしても同じことができるとは思えないのだ。
 集中しきる、それがきっとできないだろうから。
「……人を娯楽の道具として見るあんたには、理解できないだろうがな」
 その言葉は果たして、届いているだろうか。
 地べたを這いずるように、呻いて。犠牲者たちをまた増やしディンドルフはその中に紛れていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【五万円】

さっきまで箱の中で居眠りをしていた白い姿は消え失せ
顔色の悪い“いつもの姿”

俺の席はどこだ?
とびきり最高のディナーでもてなしてくれるんだろう?
広いホールを突っ切って、横柄な態度で吸血鬼へ問う

おや?料理がないなんて残念だ。
わざとらしく残念そうにしながらも薄ら笑いを浮かべて

挽き肉作りなら手伝ってやろう。
そういうのは得意だぜ。

頭上へ出現したのは七つの拷問具『荊棘王ワポゼ』
棘のついた鉄輪はギュルルッと高速で回転しながら飛び、
真と連携してまな板役のマネキンごと、吸血鬼を文字通りの“挽き肉”へと変える
異物混入してっぞ。

真料理作れるって言ってたよな。
吸血鬼の肉でハンバーグとかどう?

俺は食わねーけど。


久澄・真
【五万円】

燻らせた煙草はそのままに
吸血鬼へ話を振るいつもの姿の連れを通り過ぎて
悠々椅子に腰かけ組む足
煙をひと吐き

材料でも揃わなかったか?
そりゃ残念だったな
あそこまで滑稽な舞台を誂えといてこのザマじゃあなぁ?

寛ぐ間に攻撃されたとて
“壁”はすぐに目の前へ
福音聞いて事前に把握した行動防ごうと
操る糸の先マネキン人形が躍り出る

つーか、人の挽き肉だのなんだのって
どうしてこうも普通じゃない肉に縁があるのかね俺達は
そして三度と行動予測
吸血鬼の動きを止めようとマネキン踊らせ
そのままジェイにミンチにしてもらおうかと
人形?まな板にでも活用しとけ
どーせいつもの使い捨てだ

冗談
俺も食わねぇよ
つーかんな肉、願い下げだろ



●いつもの、在り様
 箱の中で居眠りをしていた白い姿は消え失せて、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は顔色の悪い“いつもの姿”を取り戻す。
 戦いも終わり間近か――犠牲者たちが倒れた姿も広がるホールにてジェイはその姿を見つけた。
 身体の半分を潰されても逃げようとしているディンドルフの前に立ってジェイは、見下ろす。
「俺の席はどこだ? とびきり最高のディナーでもてなしてくれるんだろう?」
 口端に笑みを浮かべて――告げる。
「おや? 料理がないなんて残念だ」
 わざとらしく残念そうにしながら、薄ら笑い浮かべる。
 その横を久澄・真(○●○・f13102)は燻らせた煙草はそのままに、ジャックの横を通り過ぎ。真は転がる椅子を起こし悠々腰掛け、足を組み。真は煙をひと吐き。
「材料でも揃わなかったか? そりゃ残念だったな」
 あそこまで滑稽な舞台を誂えといてこのザマじゃあなぁ? と、喉鳴らして真は笑う。
「挽き肉作りなら手伝ってやろう。そういうのは得意だぜ」
 言って、ジャックはその頭上へと七つの拷問具『荊棘王ワポゼ』を現した。
 それをどう、己の向けられるのか――ディンドルフも理解、したのだろう。
 青い顔を、一層青ざめさせる。
 棘のついた鉄輪がギュルルッと拘束で回転しながらディンドルフへと飛ぶ。
 そして誠も、糸を操る。この後ディンドルフがどうするのか――すでに抵抗する力は弱く。
 マネキン人形が真の手によって躍り出る。
「つーか、人の挽き肉だのなんだのってどうしてこうも普通じゃない肉に縁があるのかね俺達は」
 真は笑って、ジャックの鉄輪の動きとマネキン人形の動きを合わせる。三度、その行動を予測するものの――ディンドルフのその先は、見えなくなっていく。
 なるほど、もう見えないということはその先がいつ潰えてもおかしくないということなのかもしれない。
 もしくは、未来をみるほどのことが――ない。
 そりゃ、この状況じゃなと笑いながら真はマネキン人形を操る。
 動きの鈍いディンドルフをマネキン人形が捕まえて、ほらジェイと示す真。
 しかしこのままではそのマネキン人形も巻き込んでしまう。構わないのか、と視線投げれば真は笑って。
「人形? まな板にでも活用しとけ。どーせいつもの使い捨てだ」
 別に気にすることはないと口端上げて笑う。
 その笑みに、ふとジェイは笑って文字通り――挽き肉に。
「ぎゃあああああ!!!」
 その叫び声はよく響く。
「異物混入してっぞ」
 マネキン人形ごと砕き、血塗れのディンドルフが足元で呻く。
「真料理作れるって言ってたよな。吸血鬼の肉でハンバーグとかどう?」
 俺は食わねーけど、とジャックが言う。
 その言葉に真は、はっ、と息吐き捨てて笑うのだ。
「冗談。俺も食わねぇよ、つーかんな肉、願い下げだろ」
 食うなら美味い肉がいい、と紫煙吐き出す真。確かにとジェイも頷いて、そもそも不味そうだと笑った。
 すでにその身はぐちゃぐちゃで、抗う術も失っているディンドルフ。
 這いずって、それでもまだと逃げる生き汚さだけは失われずにまだあるようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

地籠・凌牙
【陵也(f27047)と。アドリブ歓迎】
待たせたなあ吸血鬼さんよォ!
本日のメインディッシュは俺ら猟兵のドギツイ一発だぜ。
今までてめえが喰ってきた人たちの無念をたっぷり味わってもらおうか?

陵也、いいんだな?やるぜ?
――よし。

俺のUCでUC発動して動けない陵也を引っ掴み武器として【怪力】でぶん回す!
犠牲者を向けられようが容赦なしだ、むしろここで終わらせて眠らせてやった方がいい。一掃するまでぶん回す!
薙ぎ払った後はそのまま敵の顔面めがけて投げる、とみせかけてフェイント。
UCを解除した陵也に引っ張ってもらって俺が【重量攻撃】だ!
散々赤い花咲かせてきたんだ、今度はてめえが顔に真っ赤な花咲かせやがれッ!!


地籠・陵也
【凌牙(f26317)と。アドリブ歓迎】
もう花嫁は娶らせない。
あんな悲しい顔をした人たちを、これ以上生み出させなんかしない。
その為にここにきた。――覚悟しろ。

ああ、俺がお前の武器になる。
凌牙は思う存分暴れてくれ。

武器を構えてからUCを【破魔】【オーラ防御】と同時に展開、そして凌牙のUCで思い切り振り回されよう。
いくらぶつかろうが叩かれようが今の俺はびくともしない。
凌牙の武器として、ただ目の前の倒すべき相手を薙ぎ払おう。
犠牲者の人たちには心の中で【祈り】を捧げるよ。

道が開けたら突貫と見せかけUCを解除、鎖を引っ張って凌牙を突撃させる。
お前を終わらせるのは俺じゃない、俺の大事な双子の"報讐者"だ!



●宴の終わり
 ずるずると、地を這いつくばってディンドルフは逃げていた。
「くそ、くそ……痛いぃ……こんな、逃げて復讐してやる!」
 痛みはある。けれど意識はしっかりとそこにあり、まだ逃げることを目論んでいるのだ。
 逃げることなどできぬ状況だというのに、それを理解できず、認めず。
「待たせたなあ吸血鬼さんよォ!」
 その前に、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)が立ちふさがる。
「本日のメインディッシュは俺ら猟兵のドギツイ一発だぜ。今までてめえが喰ってきた人たちの無念をたっぷり味わってもらおうか?」
 凌牙はぐっと拳を握り込んで――トドメだとディンドルフを見下ろす。
「もう花嫁は娶らせない。あんな悲しい顔をした人たちを、これ以上生み出させなんかしない」
 そして地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)もディンドルフを見下ろしていた。
「その為にここにきた。――覚悟しろ」
 ディンドルフは血を吐き出して、最後の力振り絞るように犠牲者を喚ぶ。
 その様も、陵也と凌牙にとっては気分の良いものではない。
「陵也、いいんだな? やるぜ?」
「ああ、俺がお前の武器になる。凌牙は思う存分暴れてくれ」
「――よし」
 陵也は武器を構える。
 そして絶対防御の結界を己の身に纏うのだ。無敵となる、そのかわり陵也は動けなくなるのだが問題はない。
 ここには凌牙がいるのだから。
 魔を破る力を持乗せた陵也。その身に凌牙がドラゴンオーラ放つ。
 ディンドルフは味方であろうに何故攻撃を――と思うのだが今の陵也は無敵。それで傷つくことはなく。
 凌牙と陵也の間をオーラの鎖を繋ぐ。それが狙いなのだ。
 怪力をもって陵也の身を凌牙がその鎖でもって振り回す。
 犠牲者を向けられるが、容赦は無し。陵也は敵とぶつかるがそこに痛みもないのだ。
「ここで終わらせて眠らせてやった方がいい。一掃するまでぶん回す!」
 その言葉に心の中で陵也は頷く。そして祈りを――犠牲者たちへ。
 陵也は今――凌牙の武器としてただ、目の前の敵を薙ぎ払うことに注力するがそれでも、犠牲者たちには思うことがあるのだから。
 そしてその犠牲者たちの姿消えれば――あとはディンドルフのみ。
 もうほぼ、動けぬ敵は狙いやすい。そのまま凌牙は顔面目掛けて陵也を投げる――と、見せかけて。
 投げ放たれたその場所でぱっと陵也は己の無敵を解除する。代わりに今度は陵也が、凌牙を引っ張った。
「お前を終わらせるのは俺じゃない、俺の大事な双子の"報讐者"だ!」
 鎖を引っ張って――凌牙がディンドルフの前に引き寄せられる。
 その引き寄せられる力と共に、持てる重さの全てを凌牙は振り下ろすのだ。
「散々赤い花咲かせてきたんだ、今度はてめえが顔に真っ赤な花咲かせやがれッ!!」
 凌牙の向けるその爪牙が、ディンドルフの身を引き裂いた。
 幾重にも、猟兵たちからの攻撃を重ねられすでに虫の息でもあった。
 けれどふかく、その身削っていく一撃がその最後のあがきを打ち砕く。
 凌牙の攻撃によって――ディンドルフはその身を灰にかえてさらさらと消えていく。
 これで終わりだと、凌牙と陵也が最初に目にする。
 そしてこの場に集う猟兵たちも終わったのだと、知るのだ。
 この居城の主――多くの者を、手にかけ弄んできたものは果てる。
 非道なる吸血鬼の領主がまたひとり、その姿を消して。
 この先、この場所でディンドルフによって情を弄ばれるものは――もう現れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月24日


挿絵イラスト