帝竜戦役㉗〜最期の決をとる
帝竜ダイウルゴスは無数の竜の集合体である。
高位の竜が持つ高い知性、膨大な記憶を集約したそれを「彼等」は文明と呼び、その維持と拡張を至上命題としていた。
「……状況の更新を」
「猟兵の進撃は継続中。帝竜も既に半数以上が消滅し……」
「戦力投入の間に合わない戦場が……」
「議長の判断を待つべきでは?」
生存戦略としての交戦及び戦線維持が決議された後も、戦況は随時変化する。
予想以上の猟兵の勢いに、目標達成に悲観的な知性・戦略の再変更を求める知性もあった。
「否。戦力の疲弊は文明侵略衝撃波(フロンティア・ライン)によって調整可能」
「否。ダイウルゴス文明は合議制であり、議長もその1票に過ぎない」
「否。無数の知性によってなされた高度な判断への異論は、文明に対する反逆である」
だが戦闘の継続を求める知性の数は未だ多く、そしてその意志は徐々に過激になりつつある。
「では、決を」
議長たる『ドラゴンテイマー』不在の間、議事の進行を管理していた知性は意見が規定量に達した段階での多数決を採用していた。
戦端が開かれてから実に110回目の議決は――。
●まあ賛成多数だったんですけどね
「学級会でつるし上げ食らった事ある子、手ェあげてー……あんまいねえな、最近はそういうのも流行んねえか」
おじさんぶってしたり顔するガン・ヴァソレム(ちょっと前流行ったアレ・f06145)の無駄話を聞いている余裕は猟兵達にはない。
彼らの視線は既に、眼前の巨大すぎる竜の画像にくぎ付けになっていた。
「でっかいだろ?これ出てきた直後の奴だから、今頃もっと育ってるぜ」
どれだけ遠景なのだろうか、翼の先端が山脈をがりがりと削っている。
「ものすごい数のドラゴンが合体して、脳内会議しながら動いてるんだと。
でかさと強さの秘密はそこだが、ネックもそこだな。引き延ばしなりちゃぶ台返しなり、決が出ないとパワーが出ないのは狙い所だぜ。
それから、小さい竜を大量に出してくる。1匹は大したことないが、親玉と同じで合体するとどんどん強くなるから、ほっとくと面倒臭え。あと……必殺技すげえな」
資料を読み返しながら、ガンは珍しく真面目な顔になった。
「簡単に言うと「食らうと文明のファンになるビーム」だ」
そのまんまじゃねえか、という言葉に素直に頷くガン。
「おうよ。ファンになると文明が好き過ぎて動けなくなって……んでそのうち文明になる」
ガンが指した画像には先ほどの山がダイウルゴスの羽根に飲み込まれる様子が写っていた。ゆっくり羽根の中に溶けていく様は無生物でもあまり気持ちのいいものではない。
「あんまり楽しそうな学級会じゃねえけど、もし呑まれそうになったら……そうだな、オレ様達の文明の方がいい所思い出して頑張ってみるのはどうよ?色々あるだろ?水着コンとか……あと、水着コンとかさ」
水着コンしかないのかよ。
「今年の夏だって、ドラゴン以外の水着も見たいだろ?」
その言葉だけは妙に説得力があった。
荒左腕
荒左腕です。
シンプルな純戦……と言いながら割とめちゃめちゃ言うのが出てきましたね。そういうの大好き。敵がめちゃめちゃしてくる分、プレイングボーナスの比重が大きくなってくると思います。
●「プレイングボーナス」について
本シナリオでは以下の行動に基づく行動をとることで有利な結果を得ることができます。
プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』
敵の攻撃に対する防御や、攻撃の性質を突いた反撃の内容を盛り込んでいただくことで、より効果的な攻撃が可能となります。
敵の攻撃については、OP及びオブリビオンのデータをご確認ください。
※具体的には「どんなUC・技能を使って対処」より「どんな理屈(既存のルール・物理法則である必要は全くありません!)で対処」の方が活躍できると思います。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『帝竜ダイウルゴス』
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POW : ダイウルゴス会議
自身の【体内の無数のダイウルゴスによる合議制】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : ダイウルゴス文明軍
レベル×1体の、【眼球】に1と刻印された戦闘用【小型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 文明侵略衝撃波『フロンティア・ライン』
【四肢のどれか】から【見えざる文明侵略衝撃波】を放ち、【ダイウルゴスの一部になりたいと望ませる事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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ケルスティン・フレデリクション
ぶんめい…
バレンタインも、クリスマスもきっと、竜さんのぶんめいにはないよね。だから、こっちのほうがしあわせだよ!
…なんて。えへへ
先制攻撃には
【気合い】【覚悟】【全力魔法】【多重詠唱】【高速詠唱】
を使い私の周りに幾重にも魔法の壁を作りあげて文明侵略衝撃波を防御するよ
ひとつじゃ、たりなくてもミルフィーユみたいにたくさん折り重なれば、きっと。
攻撃は【ひかりのしらべ】をつかうよ
きらきら、かがやくひかりはあなたをたおすしらべ
よそみは、だめだからね
それでも足りないなら鳥型の氷の精霊ルルにお願いして手伝ってもらうよ【属性攻撃】【範囲攻撃】
ルル、じゅんびはいい?
氷の雨をたくさん降らせるよ!
【アドリブ&連携OK
山を優に越す体躯――すなわち「文明」を、周囲の有機物・無機物関係なく
取り込むことで維持・発展し続ける、群体帝竜ダイウルゴス。
文明の繁栄に蔭をささんとする異物である猟兵の姿を捉えると、集合知性はすぐさまに対抗策の動議を開始した。
「発議。前方の敵性体に対して文明侵略衝撃波(フロンティア・ライン)を行使」
賛成89、反対10、棄権1。文明の維持を最優先とする彼らにとって、危険の早急な排除は論ずべくもない事である。
その左前脚が大地を踏み抜いた瞬間に発生した振動、突風、熱波。
これら全てが衝撃と共に知性体の脳髄へ電気信号として伝わり、ダイウルゴス文明への集約を促す現象、それが文明侵略衝撃波(フロンティア・ライン)の本質であった。
「おおきい……でも」
ケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)は巨大な足が地面に触れる直前に全ての準備を完了していた。
ありったけの魔力をつぎ込み、何層にも重ねた魔力障壁だ。
「ひとつじゃ、たりなくてもミルフィーユみたいにたくさん折り重なれば」
文明侵略衝撃波は、その巨体から発せられるため異常なほど効果範囲が広く、その上火線などを伴わない不可視の力場である。
有効射程内で回避することは非常に難しく、ケルスティンの対抗策は正解のひとつと言えた。
だが、それは絶え凌げた場合の話だ。
「……だめ、はやすぎるよ!?」
2枚、5枚、8枚。衝撃波が過ぎ去るまでの時間まで計算して張ったはずの障壁が、予想を上回る速さで砕かれてゆく。
「……知性を集約せよ。大いなるダイウルゴス文明となり、永久の繁栄を共に導くのだ……」
全ての障壁が砕けた瞬間、ケルスティンの意識に直接流れ込む複数の声。
威圧的ながらも巧みに彼女の意志を絡め取ろうとしたその時、何かが強くケルスティンの額を打った。
「痛……ルル!?」
いつも傍にいた氷の精霊・ルルがその身を挺して最後の障壁となり、ケルスティンの意識を辛うじて守ったのだ。衝撃波の影響を強く受け、ルルは引き攣ったように固まっている。
「……だいじょうぶよ、すぐなおしてあげるから」
粟立つ気持ちを無理矢理押さえつけ、ケルスティンは精霊の意志に報いることを決めた。
「バレンタインも、クリスマスも、ルルもいない、竜さんのぶんめいは、いや!
……わたしは、こっちが、しあわせなの!」
障壁にほとんど使い果たしてしまった魔力を指先に再集結し、ユーベルコードを発動する。
「きらきら、かがやくひかりはあなたをたおすしらべ……!」
天から降り注ぐ一条の光。か細いが鋭いその光が、巨大な竜の左膝を貫いた。
「……質疑。バレンタインとは何か」
「特定世界の宗教家を処刑した日付である。ダイウルゴス文明には不要と認識」
「質疑。クリスマスとは何か」
「特定世界の宗教家が誕生した日付である。ダイウルゴス文明には不要と認識」
左前脚部ダメージの分析にあたって提起された情報整理の動議は、他世界を包含するダイウルゴスの知識量のもと速やかに完了した。
しかし、巨大すぎる竜はその大きさ故に見逃していた。
ケルスティンの貫いた左膝。その小さな隙間に、クリスマスツリーとチョコレートが挟まっていることを。
壮大なるダイウルゴス文明に開いた、変革の一穴であった。
成功
🔵🔵🔴
ナイ・デス
文明を侵略し、拡大してきたダイウルゴス文明
なら……そのツケを、払ってもらいましょう
従わされてきた、誇り高き竜よ
立ち上がる時、です。私が、その力を……
文明軍は
【第六感見切り】で避け
【念動力オーラ防御かばい】受けて、防ぎ
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】そのうち再生する傷、問題ないと怯まず
『光をここに』
オブリビオンとなる前
生き延びたら融合しようとしているオアニーヴやガルシェンのように
世界の破滅など本来は望まない存在であった竜が、軍に、99の竜に、既にいる筈
その竜達に、心を
奇跡をここに、願います
彼らに不屈の、再生する力を与え、味方になってもらう
一緒に、世界を救いましょう、と
【生命力吸収】する光を、私は放つ
「発議。ダイウルゴス文明軍による敵性体の排除」
賛成88、反対10、棄権2。文明の維持を最優先とする彼らにとって、危険の早急な排除は論ずべくもない事である。
開票結果の変化は、ダメージによる判断力の低下とみなされた。
空を覆わんばかりの巨大な翼から、一枚ずつの羽根のように小さな竜が無数に飛び立ってゆく。
「文明を侵略し、拡大してきたダイウルゴス文明……今こそそのツケを払ってもらいましょう」
ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)はその全てが自分に向かってくることを感じ、身構えた。
小さな竜、という表現は実際のところ正しくはない。あくまでダイウルゴスとの比較であり、その全長はナイの3倍以上ある。
まるで大波に呑まれた羽虫のような状況にあって、ナイは向かってくる竜の攻撃を1匹ずつ丁寧に躱し、受け止め、急所を避けて耐える。
群竜大陸への攻撃に備えて用意した装備の全てを使い切る勢いで駆使し、雲霞の如き竜の群れを捌きながら、彼女は探していた。この状況を打開する鍵を。
「竜よ!誇り高き竜よ!私の声が聞こえますか!」
オアニーヴ。ガルシェン。ナイの胸中には、本来滅びを望んでいなかった竜の姿があった。無数の竜で構成されたダイウルゴスの中にも、きっとそんな竜がいると、彼女は信じていた。
「今こそ立ち上がる時です!私が、その力を……」
彼女のユーベルコードは本来生命力を時間という形で奪うものだが、今回はこれを逆の形で使っている。
生命の理から外れ切っているオブリビオンに「生きる時間」を押し付け、ダイウルゴスの呪縛から解き放とうというのだ。
「光を、ここに!」
本来の方式から明らかに外れたユーベルコードの使用はナイ自身の負担も大きく、成功率も低い。おそらく自分から当たってくれる――つまり、ダイウルゴスからの離脱に同意する――レベルでなければうまくはいかないだろう。
しかし、ナイには確信があった。
ナイの呼びかけとほぼ時を同じくして、ダイウルゴスでは奇妙な動議が発生していた。
「……質疑。クリスマスとは何か?」
「質疑を却下。同一の質疑は議事録を参照すべきである」
「異議。既存の回答に必要十分の情報がないため、再定義を要求する。
「我が文明」において、クリスマスは最重要の祝祭である」
「……緊急動議。我等ダイウルゴスは全ての知性を集約する」
賛成88、棄権……12。約1割の竜は、反対ではなく棄権――つまり、合議たるダイウルゴス文明自体からの離脱を表明したのだ。
次の瞬間、ダイウルゴスの巨大な前脚が爆ぜるように砕け、何百という竜が飛び出してゆく。
「ありがとう。さあ、一緒に!」
ナイの放つ光を受けて、飛び出した竜の群れに仮初の命が灯る。
その力が長くはもたない事を知ってか知らずか。竜達は勢いのままにダイウルゴス文明軍へ突撃し、そのすべてを焼き払い、そして力尽きて落ちてゆく。
次々に地面に落ちてようやくの死を迎える竜達に、ナイは心の中で最大限の礼をとった。
「……後は私が、必ず」
大成功
🔵🔵🔵
ドゥアン・ドゥマン
勝つべく全霊をかけるは、敵対者ながら同じよな
こちらも、文明を壊される訳にはいかぬ故。
同行者方との連携を意識し動く。
まず、先制への対処の下準備をば。
死者の硬貨を複数の群体に分けて飛ばし、空を駆ける足場とする。
ダイウルゴスを追跡し、四肢からなるべく離れた部位複数個所へ投擲した囁骨釘を打ち込み、
機動力を削ぐ狙いも兼ね、その生命力と念を吸収。
吸い上げたものは黒煙として現れる筈。
隙を見て、巨竜へ飛び移ろう。
【墓場影絵】でその身を這い、竜を捕食す竜の影となるべくだ。
先制の文明軍が飛んでくれば、溜めておいた黒煙を竜に偽装させ、死者の硬貨に纏わせる。
偽りの文明軍として範囲攻撃。誘惑、迎撃し、混乱させてやろうぞ
ダイウルゴスの集合意識に生じた綻びがその肉体にまで影響を及ぼし始めていたその時、爆ぜた左脚の対角――右後脚にはしなやかな影が降り立っていた。
「勝つべく全霊をかけるは、敵対者ながら同じよな。
こちらも、文明を壊される訳にはいかぬ故」
ドゥアン・ドゥマン(煙る猟葬・f27051)はひとりごちつつ、懐から取り出した囁骨釘を巨竜の関節に向けて投擲した。
竜の集合体とは聞いていたが、体表近くで見ればその身体は驚くほど隙間だらけだ。不可視の力で結合した無数の竜が、細胞のようにその肉を、骨を、神経を形作っているのが見える。
ドゥアンの囁骨釘は狙い違わず神経を形作る竜達の接合部に次々と潜り込み、その精を吸い上げて黒煙を吐き始めた。
ドゥアンが黒煙を確認して移動を始めたその頃、ダイウルゴスは議席――意思決定素子の突発的損壊による混乱から復旧していた。
戦闘行動中のため、議席数の補充は既に否決されている。
「発議。接近中の敵性体に対し、再度ダイウルゴス文明軍の招集を」
賛成88、棄権12。損壊議席を全て棄権票とみなせば全会一致である。集合意識の中に満ち足りた感覚が流れ、意識決定は全身に行き渡る。
再び翼の結合から解き放たれた無数の竜が、巨竜の体表を駆け上るドゥアンに襲い掛かったその時。
「呻き……唸り……囁き……」
ドゥアンが素早く印を切り、するりと足元の影に潜り込む。
その大きさ故に、ダイウルゴスの体表には無数に影ができる。
墓場影絵(クリーピー・ゴーストリー)を発動したドゥアンは影そのものとなって次々とこの影を乗り継ぎ、再び体表を駆け上っていった。
元より小さな猟兵の姿を捉えられる竜の数は少なく、運よく見極めた竜も自身の影の中に逃げ込まれては攻撃に踏み切ることができない。
「では、仕上げを御覧じろ」
ようやくダイウルゴスの頭部に到着したドゥアンは、投げ込んでいた囁骨釘から噴き出ていた黒煙を操作し、小さな――彼から見れば十分に巨大だ――黒い竜を作った。ダイウルゴスの右目元すぐ傍に現れたそれは、眼球を食い破らんばかりに顎を開けている。
眼前の危険に対して、ダイウルゴスの緊急動議が発動。
「発議。頭部表面に発生した敵性体のユーベルコード破壊を」
「異議。対象に質量は存在しな」
……衝撃。ダイウルゴスのこめかみがはじけ飛び、会議は中断した。
だがその頭蓋に刺さっているのはドゥアンの竜ではなく、ダイウルゴスの一部たる文明軍の竜の爪であった。
ドゥアンが作ったのは、正確には竜のダミー。要はハリボテである。
防衛本能に突き動かされた文明軍の竜を誘導し、同士討ちさせることが狙いだったのだ。
事前に黒煙が竜の性質を吸収したためにダイウルゴスの検知が遅れ、全力の突撃を浴びたダイウルゴスの頭は右半分を失い、怒りの表情を作る間もないほどに混乱していた。
成功
🔵🔵🔴
セレシェイラ・フロレセール
お花見のない文明は嫌だな、桜人として
文明とは、偉大なる先人が後世に残した宝物
昔も今もそしてこれからも、構築し積み上げ後世に残して行かなければならない宝物だ
奪われないよう、全力を以て阻止しよう
さあキミの物語にも終焉を綴ろう
魔力を込めて桜の硝子ペンで桜の魔法陣を描く
これはわたしの慰めの力
荒ぶる力を静め、宥める桜だ
己の魔力と慰めの力を織り上げ、重ね、美しい桜を咲かせよう
わたしはわたしの意思で世界を慰める
わたしはわたしの意思で望む物語を綴る
わたしはわたしの意思で慰めの力を結ぶ
さあ咲き誇れ、わたしの桜
キミにも桜を咲かせてみせよう
結んだ慰めの力を解放しよう
キミに捧げるは桜の奇跡
荒ぶる災厄すべて喰らい尽くせ
頭部を半分失い、千々に振り乱した首元から振り落とされたドゥアンは、無数に広がる桜の花弁に受け止められていた。
セレシェイラ・フロレセール(桜綴・f25838)が咄嗟に用意したものだ。
「……お花見のない文明は嫌だな、桜人として」
ドゥアンを地表へ降ろすと、彼女は改めて巨竜へ向き直り、硝子のペンをとった。
「文明とは、偉大なる先人が後世に残した宝物。奪われないよう、全力を以て阻止しよう」
ダイウルゴスの会議が一時的に停止し、コントロールを失った文明軍の群れがセレシェイラを捉える。ドゥアンの策で半数近くを落とされて尚数百の数が、統制はない分恐れ知らずの速度で殺到した。
再びセレシェイラの手元で硝子のペンが踊り、つられるように桜の花弁が周囲に舞い始める。
「わたしはわたしの意思で世界を慰める
わたしはわたしの意思で望む物語を綴る
わたしはわたしの意思で慰めの力を結ぶ……」
韻を踏まない詩は意図的なものだ。
慰撫の効果を付与した花弁の効果と耳から入るリズムの狂いで、元より混乱状態に近かった竜の群れが空中で衝突を始める。
最早烏合の衆と化した文明軍の竜に対し、セレシェイラは空中に桜花の意匠を描いた。
「さあ咲き誇れ、わたしの桜」
旋風に煽られた染井吉野のごとく。
花弁を模した魔力の塊が、態勢を崩した竜の群れを次々と射貫く。
二度に及ぶダイウルゴス文明軍の敗走によって、空を覆わんばかりだったその翼には破れ障子のように穴が開き、左脚は未だ再稼働に達しない。
「……緊急発議を」
わななくような言葉を猟兵達が聞いた次の瞬間。
眼前の山が、帝竜ダイウルゴスが跳んだ。
成功
🔵🔵🔴
ナイ・デス
後は私が、必ず
一緒には戦えなかった
その分
味方してくれた、竜の分も
もう、私は……止まらない、ですよ!
文明侵略衝撃波に、私は屈さない。屈せない
彼らを呪縛から解き放っておいて、一部になりたいなんて
思うわけには、いかない、です!
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】見えない衝撃波に正面から
仮初の肉体壊れても、意志の力【念動力】で動かして【ダッシュ】
ヤドリガミは、本体が無事なら、再生する
私も知らない、どこかにある本体が『いつか壊れるその日まで』
肉体壊れながら、壊されながらでも
再生し、世界守る為にと、真の姿の光に変わりながら
輝き増して
一部に、したいなら
あなたが、私の一部に、なれ!
【生命力吸収】する光、解き放つ!
残る3本の脚が大地を貫くと共に、山が裂け、湖が爆ぜ、大気が弾け飛ぶ。
猟兵達を最大の脅威と認識したダイウルゴスの出した結論、全力の文明侵略衝撃波(フロンティア・ライン)である。
半径数kmにも及ぶ範囲を飲み込む土の津波がナイを飲み込もうとする。
物理的な衝撃は念動力でなんとか凌いだものの、疲弊した思考の中に88の巨大な意識がなだれ込んできた。
「発議。猟兵の精神をダイウルゴス文明に帰属」
「そんな……っ!?」
あまりにも強力な物理的余波のために見落としがちだが、文明侵略衝撃波(フロンティア・ライン)の本質は精神に作用する攻撃である。
ヤドリガミであるナイの肉体を完全に破壊することはできないが、ヒトと同じ人格を獲得してしまったがゆえに、その心はヒトと同じく傷つき、壊れうる。
文字通り全身全霊を叩きこんできた巨竜の意志の前に、ヒトの精神はあまりにも小さく、その圧の前に声を上げる事すらできない。
「賛成88、棄権13。よって……」
「発議を却下する。本文明においては意思決定に合議を採用しない」
「……!?」
盲点を突かれる形になったナイの精神をすんでの所で救ったのは、つい先ほど前に聞いたはずの声であった。
「あなた達は……」
記憶に残るより、幾何か優し気な声。
「忘れないでほしい。君の文明――いや、君の精神は「ここ」にしかないのだ」
本体の所在がわからない自分の事を知っての言葉かどうかはわからない。
だが、その言葉に強く背中を押されて、ナイは真の姿を開放した。
「私は屈さない。屈せない!
あなた達を解き放っておいて、一部になりたいなんて、思うわけには、いかない、です!」
受けた負傷を力に変えるユーベルコードが、ナイの身体を光に包む。
破壊と再生のイメージを高度に練り上げて融合するその姿は、太陽の光。
「発議だ、帝竜ダイウルゴス!一部にしたいなら、あなたが私の一部になれ!」
「発議を承認、ダイウルゴス文明は合議にて成立する。反対88票、賛成……」
「今の「私」を、数えてみろ!」
太陽とは、その内部で毎秒数万回の核融合――連鎖的な分裂と結合を繰り返す、文字通り破壊と再生の塊だ。
精神世界で真の姿となったナイの意識もまた同様に、その輝きに比例して無数の粒子と化していた。
「賛成票……1億……5京……無限大数!?」
文字通り無限に増殖したナイの前に、たった88の巨竜は政治的に壊滅した。
「……決議完了ですね」
ナイが意識を取り戻した時、そこには竜の躯が無数に積み上がり、地平線まで続いていた。
「賛成「1」、反対88。ですが……私達の勝ちです」
大成功
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