帝竜戦役㉙~最強の帝竜、今ここに降臨せし
●オブリビオン・フォーミュラ【帝竜ヴァルギリオス】を撃破せよ!
――帝竜ヴァルギリオス。
それはかつて勇者たちと相討ちの形で群竜大陸ごと封印された、最強の帝竜。
しかし、群竜大陸ごと復活した帝竜は、「収穫」を繰り返して嘗ての力を取り戻し。
そして――今まさに界渡るものとならんとしている。
「……とうとう、時が来たか」
丸盾のグリモアが八色に明滅し始めるのに合わせて何かが「視えた」のか、グリモア猟兵館野・敬輔が頭を上げる。
既にその場には、丸盾のグリモアの異変に気が付いた猟兵達が集まって来ていた。
「皆聞いてほしい。たった今、オブリビオン・フォーミュラ【帝竜ヴァルギリオス】を護っていた呪力高山の結界が破れ、世界樹イルミンスールのそびえる地に入れるようになった」
これは、群竜大陸の各所を護っていた帝竜たちを、猟兵達が次々と撃破した結果。
――それが意味することは、すなわち。
「今こそ帝竜ヴァルギリオスを討ち、この戦争に終止符を打つ時が来た、ということだ。……頼めるか」
冷たいながらも真摯な瞳を向ける敬輔に、猟兵達は其々の想いを胸に頷いた。
「帝竜ヴァルギリオスは、炎・水・土・氷・雷・光・闇・毒の八属性の首を持つ、世界最強のドラゴンだ」
それぞれの首は反目することなく互いに協力し、複数の属性を組み合わせた護りをもたらし、あるいは強力な尻尾の一撃や八属性すべてのブレス攻撃を猟兵にもたらす。
「持てる能力は俺ら猟兵より遥かに格上だ。俺らがユーベルコードを使用する前に必ず攻撃してくる」
最初の一撃を持てる技量や戦術を駆使して防御するか回避しない限り、戦場に立ち続けることはまず叶わないだろう。
「もしこのまま放っておいたら、帝竜ヴァルギリオスはアックス&ウィザーズの地を破壊し、他の世界に渡るだろう」
破壊の帝竜を他の世界に送り込まないためには、ここで討つしかないのだ。
――だから、今。
「皆の持てるすべての力を尽くし、ここで必ず帝竜ヴァルギリオスを討ち取ってくれ……頼む」
敬輔が軽く指を鳴らすと、八属性のいろに明滅を続ける丸盾のグリモアは、大きく広がって猟兵達を包み込み、世界樹の麓へと転送する。
――今、最終決戦の幕が上がろうとしていた。
北瀬沙希
北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
よろしくお願い致します。
ついに「帝竜ヴァルギリオス」に手が届く時がやって参りました。
皆様にはオブリビオン・フォーミュラたる帝竜の撃破をお願い致します。
オブリビオン・フォーミュラ戦につき、厳しく判定致します。
念入りに準備を整えた上での挑戦をお待ちしております。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「帝竜戦役」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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状況は全てオープニングの通り。
今回は冒頭への追記はありません。
●本シナリオにおける「プレイングボーナス」
【敵のユーベルコードへの対処法を編みだす】とプレイングボーナスが付与されます。
「帝竜ヴァルギリオス」は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります。
●プレイング受付期間
「オープニング公開直後」~「5月23日 8:29」。
※変更の際はマスターページ及びTwitterで告知。
※リプレイ執筆日は「5月23日~24日」となります。
●【重要】プレイングの採用について
本シナリオはオブリビオン・フォーミュラ戦になりますので、お預かりしたプレイングは時間の許す限り採用します。
ただし、有難くも参加者多数となり、採用数を絞らざるを得なくなった場合は、判定が大成功ないしは成功のプレイングから無作為で選出させていただきます。
そのため、プレイングに不備がなくてもお返しする可能性がございますので、予めご了承の上、ご参加をお願い申し上げます。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『帝竜ヴァルギリオス』
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POW : スペクトラル・ウォール
【毒+水+闇の『触れた者を毒にするバリア』】【炎+雷+光の『攻撃を反射し燃やすバリア』】【氷+土の『触れた者を凍結するバリア』】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 完全帝竜体
【炎と水と雷の尾】【土と氷と毒の鱗】【光と闇の翼】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : ヴァルギリオス・ブレス
【8本の首】を向けた対象に、【炎水土氷雷光闇毒の全属性ブレス】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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ナハト・ダァト
属性ノ把握ハ、叡智ニ任せ給エ
残像を9体生成
全てにへその緒を持たせ
遠隔操作可能に
その後1体共に迷彩で姿を消しながら
残りの8体はオーラ防御でブレスを受け止める
当然耐えられないのは承知の上
本命は倒れた残像の情報から、
各首の対応属性を把握
迷彩で隠した1体を出現させ
言いくるめ、催眠術、精神攻撃で本体と錯覚させる
最後の一体に向かうブレスを
把握した情報からオーラ防御に武器改造で反映
ドーピング、継戦能力、限界突破で耐えさせる間に
隠れた本体はダッシュ、早業で接近
「瞳」、医術から弱点の頭部を目掛けてユーベルコードを放つ
そノ首ハ、飾りノ様だネ
比良坂・逢瀬
ついに帝竜ヴァルギリオスとの決戦ですね
新陰流剣士、比良坂逢瀬、参ります
私は剣士として如何なる強大な相手にも心を平静に保ち、対峙します
敵の攻撃を<見切り>、得意とする<残像>を生む高速の歩法で幻惑します
私の得意とするユーベルコードは《影ヲ斬ル》です
相手が如何に堅固な防御を備えようとも、厚みも硬さも無い影を斬る太刀は、その護りを無効とする<鎧無視攻撃>です
帝竜本体を強化する各属性のバリアも、自身の影までは覆ってはいないでしょう
それに私のユーベルコードは初見では対処することの難しい奇襲性の高い業ですからね
愛刀たる三池典太の<破魔>の太刀をもって、帝竜を骸の海に還しましょう
ルード・シリウス
外套と靴の能力で気配と音を殺し、残像をばら撒く様に置いて囮にして攻撃の注意を惹きながら、呪骸の射撃でバリアの特性を把握及び特定。攻撃が来れば攻撃の軌道と範囲を見切って回避試みる
バリアが剥がれない時は、狙うは凍結以外の特性
上手く攻撃を凌ぎ切れたら、タイミング見計らって接近からの【魂装】発動。武装の真名及び自身の真の姿を開放、これまで喰らってきた帝竜や敵を憑依して強化、神喰と無愧の二刀による連撃で核たる心臓目掛け喰い千切る様に斬りつけ、毒や反射等によるダメージを血肉を喰らって癒し戦う
お前を喰らう為に、他の帝竜と殺り合い喰らいながら辿り着いたぞ…っ
お前で最後だ、お前を喰らって帝竜喰らいを完了させるっ
戦場外院・晶
……我が全身全霊、此処に
「戦場外院・晶と申します……よしなに」
祈りを高め、顕現したオーラで身を護り
ヴァルギリオス・ブレスに挑む
真っ向から踏破せんと
「……っ」
護ろうと身を焼く暴威
回復し、進みながら、また焼かれる
回復
前進
……そして焼身、繰り返す
「……ふふ」
正に地獄巡りがごとき苦行
超重力の回廊を抜けた経験がなければ挫けていました
「……途切れましたね」
骨の平原で技を磨かなければ、僅かな間隙を抜けられなかったでしょうね
【手をつなぐ】
手があり肉と骨と関節が備わっているならば……投げてみせる
怪力を撃鉄にグラップルを銃身に、彼自身の力を弾丸に
「……破ぁ!」
高めた破魔、今までの修練、この戦争……全てを込めて殴る
ナイ・デス
帝竜ワームも、帝竜ダイウルゴスも、滅びていれば
あとは貴方を倒すだけ。倒せば、私達猟兵の、完全勝利、です!
けれど、それがとても難しいと思える、威圧感
それでも
どんな盤面からも、勝利の光明はみえる
カダスフィアさんの言葉、です
負けません!
【第六感】と、首の動き注視で【見切り】
【念動力】で自身【吹き飛ばし】急加速することで目測誤らせ
【怪力ダッシュ】
受けるとしても、まだ、全て一度だけは避けるように
そして
【オーラ防御、覚悟、激痛耐性、継戦能力】防ぎ
切れず、仮初の肉体が、消し飛んでも
私(光)は、消えない
再生する。何度でも
そうして敵の強大さ、打ち破る為に、どこまでも輝きを増して
【生命力吸収】する光、解き放つ!
●『カタストロフ』を回避するために
――呪力高山に囲まれた、威厳溢れる世界樹の麓にて。
八色の首を横たえ休んでいたオブリビオン・フォーミュラ『帝竜ヴァルギリオス』が、ふと八つの首をもたげ、ある一点を見つめる。
『……来たか、猟兵達よ』
帝竜ヴァルギリオスの八つの首が見つめる先に現れたのは、グリモアの齎す八色の光。
その光が消えた時、現れたのは……5人の猟兵だった。
「ついに帝竜ヴァルギリオスとの決戦ですね」
帝竜ヴァルギリオスを一目見るなり、比良坂・逢瀬(影斬の剣豪・f18129)は愛刀たる三池典太をすらりと抜き、構える。
周囲は帝竜ヴァルギリオスの放つ威圧感に満ちているが、剣士たる逢瀬はオブリビオン・フォーミュラたる強大な相手にも心を平静に保ち、対峙していた。
逢瀬が心を平静に保つ姿を見て、ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)も威圧感に負けるまいと声を張り上げる。
「帝竜ワームも、帝竜ダイウルゴスも、滅びていれば、あとは貴方を倒すだけ」
『確かに。それも余を滅ぼせればの話だが』
闇を秘めた威圧感とともに紡がれる重圧感ある言の葉が、猟兵に更なるプレッシャーをかける。
倒すだけ、と口にするのは易しい。
だが、それがとても難しいと思える程の威厳と威圧感が深く重く戦場を支配し、猟兵の昂る心に冷や水を浴びせる。
――それでも、ここで引くことは許されないから。
「倒せば、私達猟兵の、完全勝利、です!」
心を奮い立たせ、さらに声を張り上げるナイと、帝竜ヴァルギリオスは興味深そうに眺めていた。
一方、あくまでも己が暴食の欲望に忠実なのが、ルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)。
「お前を喰らう為に、他の帝竜と殺り合い喰らいながら辿り着いたぞ……っ!」
暴食剣「神喰」を肩に担ぎ、呪詛剣「無愧」を突き付けながら、帝竜ヴァルギリオスの喉元を喰らいつかんと紅の瞳で狙いを定めるが、当のヴァルギリオスはルードのそれを鼻で笑い飛ばす。
『帝竜を喰らう、だと? 戯言も程々にするがいい、猟兵』
鼻で笑い飛ばしてはいるが、決して慢心はしていない。
『だが、ここまでたどり着いた、その努力には敬意を払わねばな』
他の2人の猟兵が動きを見せぬと見るや、翼を広げて
『ここまで辿り着いた猟兵達よ、余を倒さぬ限り『カタストロフ』は止まらぬぞ! さあ、最終決戦と行こうはないか!!』
「新陰流剣士、比良坂逢瀬、参ります」
「戦場外院・晶と申します……よしなに」
逢瀬が堂々と、戦場外院・晶(強く握れば、彼女は笑う・f09489)が礼儀正しく名乗りを上げ。
ナハト・ダァト(聖泥・f01760)とルードが、隙を伺うかのように帝竜の動きに注意を払い。
そして、ナイがふわり、と空中に浮きあがって。
――最終決戦の火蓋が、切って落とされた。
●八の属性の猛攻を受け止めよ
猟兵達に先んじて放たれるのは、八の首から一斉に吐かれる、八属性のブレス。
それは炎の嵐となり、激しい水流となり。
或いは光や闇の奔流と化し、猛烈な吹雪と化し。
あるいは猛毒の豪雨と化し、猟兵を打ち倒す轟雷や竜巻となり。
――それはまさに圧倒的な、自然現象の暴力。
しかし。
「属性ノ把握ハ、叡智ニ任せ給エ」
ナハトが「へその緒」を持たせ念話と遠隔操作を可能にした9体の残像のうち、8体に護りのオーラを纏わせてブレスの射線上に割り込ませ、真正面から一斉に受けさせる。
だが、残像を覆うオーラの護りはあっさり吹き散らされた上、残像そのものも8体全て一撃で吹き飛ばされた。
『残像程度で余のブレスを防げるとでも思ったか』
ナハトを嘲笑う帝竜ヴァルギリオス。
だが、その頃にはナハトともう1体の残像は姿をくらましていた。
『何処に消えたのか……まあ今はいいだろう。』
再度八つの口から吐かれるブレスを、今度は晶が身を挺して受ける。
身ひとつでは受けられるブレスは1本のみだが、晶が受けたブレスは……毒。
『ほう……真正面から小細工なしで受けるとは』
高めた祈りと顕現したオーラでかろうじて受け切った晶だが、それでもブレスの強い毒気が身を蝕む。
『ついでに小賢しく飛び回る猟兵も叩き落してくれよう』
引き続き晶を毒のブレスで足止めしつつ、残り7属性の首が、一斉に空中を飛び回るナイへと向く。
毒以外の7属性のブレスが一斉にナイに殺到するが、ナイは念動力で自身を吹き飛ばすように急加速と急制動を繰り返し、距離感と位置の目測を誤らせながらひたすら避け続けた。
必死に避け続けるナイが心に秘めるのは、かつて対峙した帝竜カダスフィアの言葉。
――どんな盤面からも、勝利の光明は見える。
今はまだ、光明すら見いだせない盤面だけど。
それでも、耐え続ければ、いつか見える。
――だから。
「負けません!」
避け損ね光のブレスの直撃を受けるが、それでもナイは己の心に活を入れつつ、纏ったオーラで軽減してかろうじて踏みとどまり、避け続ける。
『逢瀬とやらの姿が見えんな』
名乗りを上げたにも関わらず、いつの間にか残像を囮にしながら姿を消した逢瀬を八つ首を駆使して探しつつ、帝竜ヴァルギリオスは全身に三種類の防壁を同時展開。
――毒と水と闇の『触れた者を毒にするバリア』は表面が不気味に黒く泡立ち。
――炎と雷と光の『攻撃を反射し燃やすバリア』は鏡のような表面に揺らめく炎。
――氷と土の『触れた者を凍結するバリア』は冷気が生命を持ったかのように蠢いて。
逢瀬と同じく姿をくらましたナハトとルードの奇襲への警戒も兼ねて張られたバリアは、絶対防御に等しい防壁として猟兵達の手を止める。
思うところあり姿を現したルードが、幻影の外套と音無しの靴の効果で極力気配を消しながら、簒奪銃「呪骸」を抜いてヴァルギリオスの胴や首を狙い一斉射。
だが、展開されたバリアが弾丸を闇で絡め取り、あるいは凍らせ、さらに一部の弾丸すら反射した。
反射した弾丸は残像を囮に躱すが、ルードには今の一斉射でバリアの凡その範囲と特徴を掴んでいた。
(「場所は掴んだ。なら、極力凍結以外のバリアを狙うか」)
足音殺して接近したルードが無造作に振り下ろした神喰が毒バリアに触れるが、まるでバリアがクッションのように剣を受け止め、絡め取ろうとする。
やむを得ず神喰を引き抜くが、これではバリアを力技で破るのは困難だろう。だが、それでもルードは諦めずバリアを殴り続けた。
バリアに手こずるルードを無視し、帝竜ヴァルギリオスは、姿を現しているナイと、真正面から受け続けている晶へのブレスの集中砲火を再開。
晶に向ける首を絶えず変えながら、一方でナイの動きも牽制すれば、ナイも自由には飛び回れない。
次々と八属性のブレスを受ける晶の身体は、満身創痍。
己を照らす聖なる光で絶えず回復しても、すぐに闇のブレスが光を覆い尽くし。
さらに回復しても、今度は毒のブレスが光ごと晶を蝕む。
そして回復を重ねると、炎のブレスが全身を焼く。
――それでも、晶は前に進むことを諦めない。
風のブレスで後退させられようとも。
雷のブレスで地に打たれ伏そうとも。
「……ふふ」
正に地獄巡りがごとき苦行にも関わらず、晶は笑っている。
(「超重力の回廊を抜けた経験がなければ、挫けていました」)
この戦争を通し、繰り返し重力に負けぬ修練を積んだ経験が、今まさに生きていた。
一体どれだけの時間、晶がブレスに焼かれ続かれただろうか。
一体どれだけの時間、ナイがギリギリの見切りを続け、時には仮初の肉体すら消し飛ばされただろうか。
一体どれだけの時間……ルードとナハト、そして逢瀬が機が熟すのを待っているか。
だが、盤面が整う時は、ついにやってくる。
――光が闇を喰らい尽くす時が、やって来たのだ。
●光は牙を、闇は咢を剥き出しにし、世界を滅する闇を喰らい始める
晶とナイがなかなか機を掴めず手をこまねいている頃。
突然、帝竜ヴァルギリオスの前に姿を見せたのは――ナハト。
「こコだヨ」
『とうとうしびれを切らして姿を現したか!』
帝竜ヴァルギリオスは喜び勇んでナハトに風のブレスを吐くが、次の瞬間、己が目に飛び込んできた光景に凍り付く。
『何!!』
風のブレスの直撃を受けたナハトの身体は、吹き飛ばされることなくぎりぎり踏みとどまり、その外観は奇妙に揺らめかせている。
『残像だと?!』
本物が現れたと思い込みブレスを吐いたのだが、どうやら催眠と言いくるめでそう思い込まされていたと気づき、愕然とする帝竜ヴァルギリオス。
そして、目の前に突き付けられた事実に、帝竜ヴァルギリオスはさらに愕然とする。
(「先ほど一撃で残像は全て吹き飛ばされたはずだが、今度はぎりぎり耐えているのは何故だ!?」)
帝竜ヴァルギリオスが二重の驚愕に縛られている間に、警戒を解いてしまった背後から力強い呪句が響く。
「wgah’nagl fhtagn」
急ぎ死角に回り込んでいたナハトが、「瞳」と医学の知識から情報を収集分析し、呪句と共に罪を捕食する右手を帝竜ヴァルギリオスの風の首へ向け、罪の重さに応じて威力の上昇する赤光を照射。
それはたちまち風の威力を弱め、風のブレスを吐く頭を一瞬にして焼き尽くし潰していた。
「そノ首ハ、飾りノ様だネ」
『猟兵、が……っ!!』
風の頭を瞬時に潰したナハトを他の首で睨み、ようやく事の全てを悟る帝竜ヴァルギリオス。
最初の一斉射を1発で消し飛ぶ残像で受けたのは、属性の情報を収集するため。
先ほど残像がギリギリ耐え抜いたのは、収集した情報をもとに耐え抜けるよう瞬時に改造を施したため。
そして、残像自体を本体と錯覚させたのは、生じた隙を利用し、さらに情報収集を重ね、弱点を見出し一撃で潰す為。
――ナハトのひとつひとつの地道な積み重ねが、実を結んだ瞬間だった。
そして、ナハトと同じく、機が熟したと判断し動いた者が、もうひとり。
「影を斬るのは身体を斬るのも同じことです」
『!!』
死角から突然姿を現した逢瀬が一太刀で切り裂いたのは、帝竜ヴァルギリオスの本体ではなく――その足元に色濃く落ちている影。
一見すると太刀では切り裂けぬが、逢瀬のユーベルコードが乗せられた太刀は易々と影を切り裂く。
刹那、切り裂かれた影と同じ部位の帝竜ヴァルギリオスの本体と纏いし凍結バリアが影と同じように切り裂かれ、澄んだ音と共に砕かれた。
――逢瀬のユーベルコードは「影を斬ると共に実体をも斬る」もの。
己の実体にはバリアを展開できても、影にまでバリアは展開できない。
そう予想した逢瀬が、己のユーベルコードで影と同時に本体を切り裂き、狙い通りバリアを打ち破った。
バリアが破られ、絶え間なく吐き続けられていたブレスの嵐が一瞬だけ止む。
「ふふ……途切れましたね」
すぐさまブレス攻撃は再開されるも、中断させられリズムが乱れたことで生じた隙間を縫うように、晶が慈愛の笑みを浮かべながら帝竜ヴァルギリオスに接近。
――それは、骨の平原で骨に触れぬ様すり抜ける技を磨き続けた成果。
(「手があり肉と骨と関節が備わっているならば……投げてみせる」)
己が怪力を引き金とし、己が格闘の素養を銃身に見立て。
帝竜ヴァルギリオスを弾丸に見立て……右前足を確りと抱え。
そして――。
「……破ぁ!」
裂帛の気合とともに、帝竜ヴァルギリオスの巨体を持ち上げ、投げる。
――ズシィィィィィン!!
晶のすべての修練と想いが結実した、たった1度の投げ技が。
帝竜ヴァルギリオスの巨体を地から引き剥がし、轟音と共に八の頭から地面に叩きつけていた。
●地に伏せし帝竜の最期
『うぐっ……馬鹿な、こんなことがあり得るとは
……!!』
頭から地面に叩きつけられ、なかなか立ち上がれずもがく帝竜ヴァルギリオス。
「お前で最後だ、お前を喰らって帝竜喰らいを完了させるっ」
今が攻め時だと、紅の瞳を狂気に浸したルードが神喰と無愧を構え、己が宿す神魔喰ライシ暴食ノ暴君の力を解放するための言の葉を口にした。
「これが俺達の渇望」
――ドクン。
「ソシテ、我等ガ憎悪ト狂気」
――ドクン、ドクン。
「捕食者の如く尽くを暴食し、暴君ノ如ク尽クヲ鏖殺シ、一つ余さず蹂躙シ尽クソウ……ッ!!」
――ドクン、ドクン、ドクン!!
高まる心臓の鼓動と共に、神喰と無愧が真名開放形態に変形し、ルード自身も上半身に刻印された獣の文様が浮かび上がった真の姿を解放。
「サア、帝竜ノ力を持ッテ、全テヲ喰ラッテヤロウ!!」
理性と引き換えに闘争と捕食の衝動に身を浸したルートがその身に宿すは――『ヴァルギリオス以外のすべての帝竜の力』。
――カダスフィア、オアニーヴ、女禍、ベルセルクドラゴン。
――プラチナ、ガイオウガ、オロチ。
――そして……ダイウルゴスやワームまでも。
これまでルードが「喰らった」帝竜やアルダワの魔王、他世界の有力オブリビオンなどがルードに憑依し、爆発的な身体能力を与える。
ルードが神喰をかろうじて残っていた凍結バリアに叩き込むと、彼に憑依した帝竜ガイオウガの熱気が極寒の冷気すら吹き飛ばし、バリアも一気に切り裂き、消滅させていた。
『ぐは……っ! 帝竜喰らいに偽りなしか……しかも全て喰らっているとは!!』
ルードに憑依する気配の正体を察し、戦闘前の言に嘘偽りはなかったと帝竜ヴァルギリオスが悟っても、時すでに遅し。
さらにルードの何気なく振るう二刀が帝竜ヴァルギリオスの鱗を傷つけ、その生命力を啜ると共に、魂と存在もまとめて「喰い」始めていた。
『うぐぁぁぁぁぁぁ!! あり得ない、余が食われるなど
……!!』
存在そのものを喰らい尽くされる恐怖に縛られる帝竜ヴァルギリオスが、再度反射バリアを展開するも。
「如何に堅固な防御を備えようとも、私の太刀は厚みも硬さも無い影ごと斬りますから」
すかさず逢瀬が影ごとバリアを切り裂き無に帰すと同時に、炎と光の頭を斬り落としていた。
「もウ、そノ首ハ、飾りだネ」
さらにナハトの手から放たれる赤光が、一瞬で灼熱の炎となって水の頭を潰せば。
「今、です!」
空中を飛び回るナイの光が、瞬時に毒の頭を包み込み潰し。
「全テヲ喰ライ蹂躙シ、サラナル高ミを目指スノミ……ッ!!」
無造作に「喰い続ける」ルードが風と氷の頭を喰らえば。
「波ぁ!」
晶の拳が土の頭を完全に砕いていた。
猟兵達に次々と首を潰され、最後に残ったのは、闇のブレスを吐く漆黒の首。
『余が……ここで負けるわけにはいかぬ
……!!』
足掻きとばかりに吐かれた闇のブレスは、祈りの光を宿した晶が身を挺して受け、決して通さない。
「勝利の光明、見えました!」
何度ブレスの直撃を受けても、仮初の身体を失っても、瞬時に再生しその度に力を蓄えたナイの身体は、どこまでも輝きを増し。
そして、一筋の流星と化したナイが、漆黒の首へとその手を伸ばした。
ナイの伸ばした手から伸びた光は、闇すら全て喰らい尽くし。
――闇の首を、一気に光で押しつぶしていた。
全ての首を失った帝竜ヴァルギリオスの巨体は、音を立てて擱座する。
それでもまだ動く翼や蠢く首を、猟兵達は一斉に攻撃。
ナハトの罪を焼く赤光が。
逢瀬の影ごと切り裂く太刀が。
ルードの喰らい尽くす暴食の二刀が。
晶の鍛えに鍛えぬいた拳が。
ナイの流星の如き眩い光が。
一斉にヴァルギリオスの巨体に集中し、その巨体を骸の海へと還した。
――余を滅するとは、見事なり、猟兵達よ。
さらさらと音を立て崩れ行く巨体を見つめる逢瀬たちの耳に。
帝竜ヴァルギリオスの称賛の声が、微かに届いた気がした。
――帝竜ヴァルギリオス、撃破完了。
大成功
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