帝竜戦役㉓〜脳髄の戦線
●
群竜大陸の端、そこに異様な土地があった。常識を超えた空間が様々存在する大陸ではあるが、そこは中でも飛びぬけて異様な場所だった。
それは何故か。
「――――」
大地に脳髄が広がっているのだ。
視界の端から端までただ鮮やかな肉色が広がっており、正気を疑う光景だった。しかしそれは、紛うことなく真実だった。
「――ムーッシュッシュッ!」
脳髄の大地、脳髄の海。足の踏み場も無いそこを何と言うべきか。その上を暴れる巨竜によって、柔らかな地形はどんどんと変わっていく。
大質量が風を切る轟音の裏で、軟質な破砕音が響く。周囲に潰された脳髄が散らばっていく。
雨だった。肉も血も脂肪も全てが細分され、降り注いでいく。
「――ムーッシュッシュッシュ!!」
地獄のような光景に、笑い声が響き続けていた。
●
「――撃破をお願いしますわ!」
猟兵たちの拠点、グリモアベースでフォルティナは言う。
「帝竜戦役……。アックス&ウィザーズ(A&W)の命運を賭けた戦争は、群竜大陸の様々な箇所で行われていますが、皆様に向かっていただきたいのは、“脳髄牧場”とも言える場所ですの」
群竜大陸、その地図の右端側を示しながら、
「そこでは、帝竜の一体、ドクターオロチが待ち構えてますわ。その頭部には、過去の戦争で見かけた個体と酷似した存在が見受けられます。それと比較するに竜部分の全長はかなりのサイズですわね」
地図上の肉色の大地を指示しながら、
「帝竜ヴァルギリオスとの決戦のためには、配下の帝竜との戦闘が必須ですわ。そのため皆様にドクターオロチの撃破をお願いしますの」
そうすればヴァルギリオスへの道が通じますものね、と言葉を続ける。
「オロチに限りませんが、配下の帝竜達は“皆様より先にユーべルコードを先制する”など強敵ですわ。十分気をつけて相対してくださいまし」
そこまで言うと、フォルティナは開いた手を見せ、そこに光を生み出す。
オレンジ色の光はグリモアだ。
「――まとめますわ」
・A&Wの命運を賭けた戦争、“帝竜戦役”が開始された。
・場所は“脳髄牧場”。敵は帝竜の一体、ドクターオロチ。
・オロチは必ずユーべルコードで先制攻撃をしてくる。
グリモアで空中に文字を書き終えると、フォルティナは手中に残ったグリモアの輝きを一層強くする。
「A&Wの命運をかけた戦争……。危険な戦いになるかと思いますが、皆様、ご武運をお祈りしますの!」
シミレ
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
今OPで27作目です。A&Wは3回目です。
不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。
●目的
・“脳髄牧場”で帝竜ドクターオロチを撃破。
●説明
・A&Wで戦争イベントが始まりました。A&W上空に浮かぶ“群竜大陸”の奥地にいる帝竜ヴァルギリオスを撃破するため、猟兵達は戦場を進んでいきます。
・ヴァルギリオスを撃破するためには、配下の帝竜を一定数撃破しなければなりません。
●プレイングボーナス
以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
(敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)
※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 ボス戦
『帝竜ドクター・オロチ』
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POW : グリーン・ディザスター
【口から放射される緑の粘液】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : オロチ分体
【水火闇光樹雷土のうち1つの属性を持つ竜】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : オロチミサイル
レベル×5本の【水火闇光樹雷土の7つの】属性の【エネルギー塊】を放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
戦場に転移された猟兵達は、それを見た。
「――――」
“脳髄牧場”。その名の通りの光景の中、帝竜の一体が聳え立つ光景を、だ。
「――ムシュ? 猟兵来ちゃった?」
巨竜が振り向き、猟兵の姿を認める。
「早いね~、もう少し遅く来てくれても良かったのに……、まあいいか。――ムシュシュ~! このオロチのパワーがどれほどか、見せつけてやる!」
竜の頭上、そこに突き立つ水晶へ身を預けていたドクターオロチが、手を振り被る。
「……!」
緑色の粘液を口端から零しながら、竜が咆哮する。零れ出た粘液が、脳髄の床を破壊していくのが見えた。
竜の周囲に、不可視の力場が形成されていくのも分かる。別の竜の召喚か、エネルギー塊の出現の予兆だった。
戦闘が、始まるのだ
才堂・紅葉
あの脳髄野郎…また出てきたのね
何もさせない内に骸の海に叩き返そう
先制対策は「蒸気バイク」による機動戦
縦横に機体を走らせ、本体と分体の攻撃を上手く【敵を盾にする】位置取りを行いながら、回避に徹して敵を見極める【野生の勘、操縦、情報収集、偵察、見切り】
反撃は火属性の竜を見極め、機構靴のガジェットで跳躍し、脚部アンカーを叩き込んで足場にする。纏うマントは前の帝竜様に耐火済み。そのまま炎の色に溶け込む【メカニック、火炎耐性、怪力、迷彩】
「獲物よ“楔”」
負傷の流血を戦化粧にし、展開した“楔”の【封印を解く】
無念を背負い超強化した身体能力で、火竜を足場に脳髄野郎へと【暗殺、重量攻撃、属性攻撃】を仕掛けたい
アウレリア・フルブライト
私は初めて見える敵ではありますが、それでも分かります。
この敵、碌な輩じゃありませんわね!
ここで確実に叩き潰してくれましょう!
敵のユーベルコードに対しては、視線と頭の向きを見て発射する方向を【見切り】、それをかわすようジグザグに【ダッシュ】しながら接近していきましょう。足元はあまり良くありませんので、肉の沈み具合、粘液の滑り具合も考慮した足運びを意識します。
命中すればそれ以上の戦闘は恐らく困難。何としても回避してみせます。
ユーベルコード発動の機会が巡ってきましたら不撓不滅の闘魂を発動。
「さあ、次は私の番ですわよ!」
飛翔し頭部の人型部分へ肉薄、【怪力】を込めた拳で全力の一撃を叩き込みます。
●
まず戦場に響いたのは一つの排気音だった。
「――!」
鋭く、絞るような音は、吐き出される気体が高速ということだ。そしてそれは連続し続け、戦場の各所から聞こえてきていた。
排気が途切れず、その座標を変位しているのだ。
「ムシュ~! ちょこまかちょこまかして……」
竜の額に立つドクターオロチが見下ろす先、そこに音源はあった。
紅葉だ。蒸気バイクに跨っている。
●
戦場に転移した紅葉の選択は単純だった。
突っ込んでかく乱……!
バイクといってもペダルのある自転車型だ。通常であれば速度も自転車相当だろうが、後部のマフラーが示す通り、只の自転車ではない。
転移されるや否や、マフラーから蒸気を迸らせて行った。出力を全開にしての突撃だった。 路面がイレギュラーなことは瞭然だったので、軟性の地面の上でタイヤが空転しないよう、最初から体重で車体を低く抑え込む。そうやってグリップを確かにすれば、次は滑ってあらぬ方向に吹っ飛ばされそうになるが、今は安定よりも速度が第一の時間だ。
行く。
「……!」
「ムーシュシュ!」
相手が巨竜の爪を振るってくれば、その範囲から逃れるようにハンドルを捌く。復帰後の速度を優先した引き絞りの甘いブレーキングでは、スキッドというより吹っ飛ばされるような滑りで地を抉っていく。
地表の脳髄を撒き散らしながら回避したこちらを、しかし相手は逃さない。長大な尾で周囲一帯ごと薙ぎ払おうとすれば、
「――そこ!」
加速を叩き込んで、オロチの懐へとこちらから飛び込んで行く。竜の足の間、腹の下、そういった尾の届かない箇所に飛び込んで回避し、逆側の足の間から射出されるように飛び出す。
高速で流れる視界の中、全ての判断も動作も一瞬で過ぎ去っていく。
油断したらすぐに脳髄の仲間入りね……!
速度計など見ている暇は無いが、転倒すれば即死の速度なのは体感で解っていた。
だが己は臆さなかった。空気抵抗を下げるため身はハンドルに張り付けるようにして、アクセルはベタ押し。
耳の中では竜巻が荒れ狂っているようだった。聞こえる周囲の音は排気と、己が身に着けた外套が騒々しくはためく音、そして竜の咆哮と風を切る音。
失敗の許されない瞬間が次々にやって来る。針の穴を通し続けるような作業だが、しかしこれでも幾分かましだということも理解していた。
「もう一人いるからね……!」
視線を向けた先にいるのは、猟兵だ。茶色で長い髪。高速で流れる視界の中、認められたのはそれだけだった。
●
アウレリアは行った。バイクで飛び出した猟兵と同時、己も大地を蹴って、敵への前進を選択したのだ。
金属製のブーツで大地を踏みしめ、蹴った反動で身を前に送っていくが、
この足元、やっぱり荒れますわね……!
脳髄で埋められた冒涜的な大地は、その不確かな感触に加えて、広がった血や脂が踏み込みを安定させない。
地を蹴るため、足を振り下ろせば、
「……!」
沈む。地面の場所によって厚さの大小はあるため、足の全てが沈むわけでは無いが、脳髄の中に埋もれるのだ。その足を引き抜くため逆足で踏ん張ろうとすれば、そちらはそちらで、撒き散らされた血や脂で滑って安定しない。
足元に纏わりつくそれらの感覚は、沼の中を進むのとよく似ていた。
「――だけどもう把握しましたわ」
戦場の路面は事前に把握しているのだ。そして何より、格闘術の免許皆伝を受けた自分にとって、“型”にも影響する足場の把握は急務だ。
この戦場へ飛び込んだ瞬間から、肉の沈み具合や、滑り具合といった足裏に返ってくる感覚を確かめ続けていた。
どれだけ踏み込めば、どれほど沈むか。どれだけ速ければ、どれほど滑るか。
それらの把握が済んだ今、足運びに迷いや乱れはない。
「行きますわよ……!」
大地を蹴り、その反力を正しく受け止め、一気に接近していく。
前方、視線を向けている先にあるのは、蒸気バイクからたな引く排気と外套、巨竜の足と身体、そして顔だ。
常に巨竜の顔を視界に収め、それがこちらに向こうとすれば、
「……!」
竜の視線を切る様に大地を蹴って、一気にその進路から逃れる。
口から吐き出すという都合上、必ず視線と頭の向きが関係しますもの……!
敵のユーべルコードの弱点はここだと、そう理解し、こちらが取る進路は直線ではなくジグザクを基本。一点にとどまらず、一直線にならず、敵に狙いを定めさせない。
「ムシュシュ~! そこ! ……あれ? ――そこか! ……あれれ?」
頭上から聞こえる声はどこか真剣味を感じさせないが、こっちからすれば必死だ。
……は、初めて見える敵ではありますが、この敵、碌な輩じゃありませんわね……!
いくら射線を見切ったとしても、彼我のサイズ差は歴然だ。巨大な顎から吐き出される粘液はこちらの頭上を傘のように覆い、一瞬で視界が陰る。
そして落下してくる。
「くっ……!」
大地を蹴り、時には脳髄の大地に滑り込むようになるが、構わない。滑りの度合いは感覚として頭というより身体が既に覚えている。それに、
「……!」
粘液が降り注いだ大地が、一瞬にして破壊されていくのが見えた。一撃でも食らえばそれ以上の戦闘が困難なことは明白だった。
「何としてでも回避しますわよ……!」
破壊で変化した大地の感覚を新たに捉え直しながら、顔に着いた脳髄を指で拭う。
それに、私へ注意を引かせていれば……!
視線を悟られないよう、顔を拭う指で目元を隠しながら見るのは、もう一人の猟兵だ。
こちらに注目している今、竜の尾側にいるバイクの彼女は、ドクターオロチにも巨竜にも、どちらにとっても視界の外だった。
「――――」
彼女は右手をハンドルから離し、何か長大な得物を構えたかと思うと、
「……!」
乗っていたバイクを足場に、帝竜へ向けて一気に跳躍した。が、
「? 気付いてるムシュよ~?」
「……!!」
炎竜が、突如として出現した。位置は彼女の眼前。直後、空を紅蓮が彩った。
宙に走った赤と黒の色は、炎竜が抜き打ちで放った炎のブレスだった。
ドクターオロチが、ユーべルコードで召喚した炎竜だ。
●
「…………」
ドクターオロチは肩越しに振り返り、背後の結果を見た。
巨竜の尾、その近くに残っていたのは宙をたゆたう炎竜と、ブレスの残滓だけだ。
跳び込んできた猟兵の、影の形も無い
二手に分かれて何するかと思ったら……。
一方が速度でかく乱し、一方が注意を引きつける。速度に惑わされれば、今、目の前にいる猟兵が。かく乱を無視すれば、背後に回ったバイクの猟兵が。敵の狙いはそんなところだろう。
そうして、結果は後者だった。しかしそれを予測していた自分は、カウンターとして炎竜を召喚し、跳び込んで来た猟兵をそのまま飲み込んだ。
「ムーッシュッシュッシュ!」
一手を摘み取ったのだ。これで向こうの戦力は半減。後は残った猟兵を圧し潰せばいい。
「さあ、そっちはいつまで避けられるかな?」
目の前の猟兵は、先ほどからこちらの粘液を回避し続けているが、不安定な足場でそれがいつまで続くか。こちらが油断せず、着実に追い詰めていけば相手がミスをする瞬間が、必ずある。
終わりだ。そう思い、手を振りかぶって巨竜に粘液放出の指示を送る。
送った。
「――!!」
だが、顎を開いたのは巨竜ではなかった。
「ム、ムシュ!?」
炎竜だ。
背後から、苦悶の絶叫が聞こえてきた。
●
紅葉はバイクの時と同じく、速度を緩めなかった。
「……!!」
跳躍した瞬間、目の前からブレスの歓迎が来た。迫り来る炎熱は苛烈で、まともに食らえば無事では済まなかったが、身に纏う外套は事前の帝竜戦で耐火加工済みだ。
手で手繰り寄せるようにして外套を翻し、炎を正面に受けた。
突風にも似た圧力が布越しから押し寄せて来る。
「……!」
炎が周囲の大気を消費し、喉が焼け、呼吸が上手くできない。マントの内側に残った大気を最後の息継ぎとして、己は呼吸を止めた。
跳躍の勢いのまま、ブレスを押し退けて直進すれば、熱の奥にさらなる高温があるのが解る。
炎竜の身体だ。
「ぁあ……!」
己はそこめがけて蹴り足をぶち込んだ。
「――!!」
炎竜の絶叫が戦場に吹き上がる。ただの蹴りでは無かったからだ。機構靴から飛び出したアンカーが炎竜の身体を捕えて、離さない。つまりは足回りが確定。
「……!」
暴れる炎竜を足場にして、駆け上がり、蹴り飛ばし、大跳躍。
太陽を背にすれば、ドクターオロチは眼下だ。
額に流れていた血を拭って戦化粧とすれば、さらに流血が増えたが、構わない。
「――獲物よ“楔”」
右腕に装備した遺物が、静かに活性化した。
●
「あら、迷いましたわね?」
「ム、ムシュ……!」
撃破したと思っていた猟兵の復活。アウレリアはオロチのその動揺を見抜いていた。
地表に立つ己が空を見上げれば、巨竜の頭があり、そしてその向こう側には跳び上がったもう一人の猟兵。今、三者の位置は直線だった。
刹那にして挟撃されたオロチは、虚を突かれ、どちらを優先すべきか一瞬迷いを見せたのだ。
こちらの声に振り向き、急ぎ粘液の放射を指示するが、遅い。先ほどまで立っていた位置に、己はもういない。
「――次はこっちの番ですわよ!」
長髪を振って、ガントレットを掲げる。黄金と水晶の青で彩られたそれは、しかし今、別の色が加わっていた。
拳から、否、身体全体から波打つように発せられた、眩く滾る波は己の覇気だ。
「闘魂……!」
己の胸にあるそれが、燃え盛っているのが解る。
拳を振り、足を構える。大地の感触など、最早何の妨げにもならない。
「行きますわよ……!」
飛翔したからだ。
脳髄の大地を蹴って、吹き飛ばす。背後にぶちまけられた勢いが、そのまま己の勢いだった。
行く。
●
両者は同時だった。
一方が上空から落ちれば、一方は大地から飛翔した。
一方が無念を背負えば、一方は闘魂を輝かせた。
一方が撃鉄を起こせば、一方は拳を振りかぶった。
両者は同時だった。
一方が骸の海に叩き帰すと言えば、一方はここで叩き潰すと言った。
一方が己の言葉通りにすれば、一方も己の言葉通りにした。
両者は同時なのだ。
砲身を走った鋼杭が敵を貫けば、そこを裏打ちするように鉄拳が衝突した。
破砕が敵の身体を走り、打撃が敵の身体を震わせた。
両者が合わさればどうなるか。
「――――!!」
帝竜が、激震した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
波山・ヒクイ
うわ~…地面がすっごい歩きたくない感じになっとります。
活躍を生放送したいけど、流石にこれは流すと怒られそうじゃなあ…
まあ仕方ない、あとで編集しておこう。
…さあわっちが来たぞ!なんか見るからにすっごく悪そうなのうみそマンよ、お覚悟!
そう意気込み、飛んでくる緑色のヌルヌルに対しわっちのすることは…バットを構える!
果たして液体を打ちかえすことは出来るのかって?
…できる!できるのじゃ!なぜなら…キマイラ打法は常識に囚われない!
固体だろうが液体だろうが気体だろうが飛んできたものはマウンドに叩き込む、それこそがキマイラ打法の真髄!
勢いがすごいからバットは折れちゃいそうだけど。ヒットになりゃー関係ねー!
黒玻璃・ミコ
※スライム形態
◆行動
ははは、やはり滅んでませんでしたね、ドクターオロチ!
素晴らしい、何度も骸の海へと蹴落とされようとも這い上がって来るとは
強い毒耐性を持ち不定形である特性を活かして脳髄牧場の粘液に潜み
そもそも攻撃の対象として存在を気取られぬよう
決して逸る事無く暗殺の機会を伺いましょう
仮に見付かろうとも重要な臓器はその位置をずらし
致命的な状態だけは避けます
既に脳内麻薬を過剰分泌させ痛覚を麻痺させてます
身体の欠片でも残れば十分
後は不滅の身体をも斬り裂く竜殺しの力
【黄衣の審判】で空間の断裂を操り
無になるまで延々と斬り裂けば良いのですから
オロチを名乗る竜種、再び死すべし
※他猟兵との連携、アドリブ歓迎
●
「……ムシュ?」
ドクターオロチは新たに表れた人影を見た。赤を基調とした着物姿を着崩し、異形の身体を包んでいる。
「……おぉう、おおぅ……? うおおぉ……」
露骨に嫌そうな顔で、猛禽類のような足先を“脳髄牧場”の大地に恐る恐る突き出しながら進んでくるのは、キマイラの猟兵だった。
●
わぁ……うわぁ……、す、すっごい歩きたくない感じになっとります……。
ヒクイは戦場の大地をそう感想した。何せ脳髄が敷き詰められているのだ。一歩進むたびに不快な感触が足裏に直に伝わってくる。
……わっちの活躍、生放送したかったけど、流石にこれ流すと怒られそうじゃなあ……。
放送コードとか放送倫理とか、そこら辺の単語が脳内に浮かぶのを自覚しながら、後で編集することにしようと、そう結論付けると、
「……さあわっちが来たぞ!」
何歩か歩いた所で立ち止まった。向こうが巨体で、加えて空中に浮いてるため遠近が解りづらいが、彼我の距離は数百メートル。もう少し近づこうかなとも思ったが、ちょっと地面のコンディション的にそう長く歩きたくないの……。
「――ともあれ、じゃ」
足と同じ、猛禽の指をオブリビオンに向けた。啖呵を切る、戦線布告、言い方は色々あるだろうが、ソレだ。
「――聞けい!」
腹からの声で、言う。
「なんか見るからにすっごく悪そうなのうみそマ――」
直後。巨竜の口から粘液が放出された。
●
ドクターオロチは小さく困惑しながら、眼前の結果を予測していた。
突如として現れ、何だか嫌そうな雰囲気で足を運んで、こちらに正面から啖呵を切ってきて、つまりは隙だらけだった猟兵の末路を、だ。
ほぼ反射的に攻撃を命じた今となって、気づくことがある。
……ムシュ? ……地面踏むのが嫌だったら、あの翼腕で飛べばよかったんじゃ……?
一つは、敵の腕についてだ。足と同じく猛禽類を思わせる腕部で、翼がある。猟兵は多種多様だ。なので単純に飛行能力を失している可能性もあるが、
「ムシュシュ? 翼としてじゃなくて他に使うつもりだったり~?」
推理とも言えない軽い思考遊びだ。こちらが放った粘液で敵が圧し潰されるまでの、ほんの一瞬の余興だった。
して余興の結果は如何にと、粘液の隙間から敵の手元を覗けば、
「――――」
そこにあった有り得ないものを見て、己の思考は吹き飛んだ。
●
「――はっはっはっはっは! 問答無用か!」
猟兵の笑い声が戦場に響く。それはドクターオロチの耳にも、そしてミコの耳にも届いていた。
……否、耳という部位も今は不確かですね
スライム状の身体なのだ。その特性を活かして、戦場に転移されるなり周囲の脳髄の粘液中に潜んだ。
決して衛生的とは言えず、それどころかあのオロチが用意した脳髄だ。毒性があってもおかしくはない空間だが、毒に対する耐性は己は人一倍高い。
様々な困難を乗り越えて潜み、耐え、オロチには未だに自分の存在を気付かれていない。このまま潜伏し続け、一撃を見舞う瞬間を待つのだ。
まあ、彼女が目立ってくれているという部分も勿論あるのでしょうが……。
見る。己と同時期に転移してきた少女を。
……しかし凄い選択をしましたね、彼女。
周囲の粘液中に潜んだ己からは少女の全身も、迫る粘液の巨大さも、戦場の様子がよく視認できた。
そして視認できたのは、それだけではない。
「――良い、良いぞ!」
少女の手に握られた得物もだ。
長く、先端に向かうにつれて太さを増し、その反対側にグリップを備え、こん棒にも似た道具を何と言うか。
「わっちのこのバットで打ち返してみせよう……!!」
前方上空、そこから斜め打ち下ろし気味の軌道でやって来る粘液に、バットを一度振り回した少女が、その先端を向けた。
やる気だ。
「ムシュシュ! ムーシュッシュッシュ! バット! バットって正気~!? 粘液だよ粘液! 液体! そんなんで打ち返せるわけ――」
少女が半身になり、足は肩幅に、グリップを両手で握った。
やる気だ。
本気で、打つ気だった。
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ミコはその光景を見て、危険だとは思ったが、無茶だとは思わなかった。
猟兵は多種多様ですからね……。
自分はブラックタールで、おそらく彼女はキマイラ。種族や見た目も違えば戦法だって違うだろう。それにそんな部分を抜きにしても、自分達は戦争時に限らず、いつも多彩な方法で困難を打開してきたのだ。
一年前の貴方はそれを味わったはずですよ、ドクターオロチ……。
そう思っていると、
「――!」
轟音の圧が高まってきた。巨竜から放たれた粘液が、少女やこちらのいる目前となったのだ。
●
ヒクイはそれを見上げて、巨大だとは思ったが、打てぬものではないと思った。
否、
「見る前から、最初からそう思っとるとも!」
しかし敵はそう思っていないのだろう。先ほど、液体を打てるのかと、言ってきた。
なので答えてやる。
「――できる! できるのじゃよ! なぜなら、キマイラ打法は常識に囚われない!」
足は肩幅、両手はグリップ。余計な力みは無い。
「固体だろうが液体だろうが気体だろうが! 飛んできたものはマウンドに叩き込む!」
そう、液体だ。迫る粘液は大気に揉まれ、その形状を変化させていた。速度が乗っていたときは雫にも似た形だったが、地表が近づいて失速するにつれてその表面積を広げているのだ。広範囲を破壊するためにはその方が適しているのだろう。
覆いかぶさるように、飲み込むように。球ではなく、面としてやって来る。
来た。
「……!」
瞬間、己は打点を見極め、体重移動の乗ったフルスイングをアッパー気味にぶちかました。
「――!」
激突。
周囲の大気が押し退けられるように震える。バットと粘液とのインパクトで生じた衝撃波だった。
そんな激音が示すものを、己も手の内に感じる。重さだ。重力に乗った莫大な質量が、バットの先に確かにある。それだけではない。粘液に触れた部分からバットが崩壊を始めていた。破壊されていっているのだ。
相手の攻撃は強烈で、こちらとしても実際キツい。粘るような数十トンの塊が、手の延長戦上にあるのだ。だが、
「球が強烈なほど、わっちの打球も強烈ぞ……!」
そうだ。己の“絶打”とは、そういうものなのだ。
いくら苛烈な球が来ようと、いくら豪快な球が来ようと、
「わっちに打てぬ球など、――ないっ!!』
叫び、身体ごと引き絞る様に、バットを振り切った。
その直後。
「――――」
グリップを握る掌に、二つの感覚が来た。
一つは、バットが過重に耐えきれなくなり、半ばから折れ、弾け飛んだ感覚。
そしてもう一つは、折れる間際、バットの先から重さが喪失した感覚だった。
それこそが、粘液を打ち返した手応えに間違いなかった。
刹那。
「……!!」
先ほどまで、バットによって空中に押し止められ、停止していた粘液塊が、轟音を立てて動き出した。
否、正確には、
「ム、ムムム、ムシュ!? ムシュシュ!? ムシュシュ~~~~!?」
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!! 刮目じゃ! 刮目した方が良いぞ、のうみそマン! ――ピッチャーライナーじゃからな!!」
弾丸のように一直線に弾き飛ばされた。
高速の粘液は雫型で、軌道は地上から、上空への斜め振り上げのアッパー。その距離を一瞬の内に詰めると、巨竜の顔面、そしてその上に立つドクターオロチに、正面から衝突した。
狙い通りのコースだった。
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爆発にも似た衝突音の後、竜と一人の絶叫をミコは聞いた。だがそれも続かない。粘液で顔面を破壊された痛苦は、叫びすらも満足に行わせなかったのだ。
「――ははは、やはり滅んでませんでしたね。ドクターオロチ。骸の海へと蹴落とされようとも、這い上がって来るとは」
「ム、シュ……!? 誰か、そこ、に……!」
新たな猟兵を察知したオロチが竜に命じ、音源の方へ粘液を放出したが、視覚どころか聴覚も破壊され、十全ではないのだ。
彼らが振り向いた場所に、己はもういない。
「ですが……、どうやら再び滅びそうなようですね。まあ、もしかすればまた復活して来るのやもしれませんが……」
言葉を発し続けながら、粘液の中を移動し続ける。特段速く移動してるつもりは無いが、敵は捕えられず、落着する粘液はことごとくこちらの背後だったり、見当違いな方向だった。そもそも放ってくる粘液も、先ほどに比べたら弱弱しかった。
「ここで滅ぼせば、おのずと解ることでしょう。――できればもう二度と復活されないよう」
言って、己は力を放出した。
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片手に折れたバットを持ったヒクイは見た。己のピッチャーライナーが巨竜の顔面を直撃した後、その足元に黒い影が出現したのだ。距離が離れているため、詳細は確認できないが、恐らくブラックタールの身体だ。
潜んでおったか、とそう思ったのもつかの間、
「――――」
声が聞こえてきた。
竜が暴れ、先ほどだって粘液が吹っ飛んだ戦場は気流が乱れ、盛大に吹き荒れている。そんな風に乗って声が聞こえてきたのだ。
ドクターオロチでも無く、竜でも無い声は、あのブラックタールからだった。
「い……あ……たあ……」
祈るようにも、呻くようにも聞こえるその声が大気に置かれたら、周囲に異変が起こった。
何じゃあ……?
ドクターオロチの周囲の空間が、“歪んだ”。
敵が放つユーべルコードの前兆かと思ったが、違う。敵にそんな余力は残っていないだろうし、それに、
「あれ、竜の身体に“重なって”おるぞ……?」
「あ……い……たあ……!」
そう疑問した直後、ブラックタールが言葉を唱え終えた。
すると、“歪み”が炸裂した。
●
ミコの詠唱によって巻き起こった結果は、一瞬で、多重だった。
「――――」
空間に生じ、竜の身体の各所に重なっていた“歪み”は、詠唱の終了と同時、一気に“開いた”。
空間が裂け、断裂していくのだ。
元々そこに有った大気は突如として押し退けられので、破裂するような音を響かせ、突風となって周囲に散っていく。
そして勿論、もともとそこに有った竜の鱗や肉、そして骨に至るまでは、断裂によって削がれるように、一気に消え失せた。
迸る血液すらも断裂に飲み込まれ、辺りに響くのは、荒れる風音と、
「……!」
竜の絶叫だけだ。
「オロチを名乗る竜種、再び死すべし」
断裂は一瞬で、そして多重だった。竜の各所に生じているのだ。
身体を裂かれ、苦痛に身を捩り、翼を削がれ、高度を失していく。
着地をしようと構えた足も、既に原型を留めていない。
「……!」
大地に墜落。周囲の脳髄が衝撃で上空に跳ね上がる中、何処かにいるこちらを打撃しようと、竜が長大な尾を振り回して暴れ狂う。大地を浚うような攻撃だった。
しかしその尾も各所を抉られ、半ばから折れて、もがれていく
すべては一瞬で起こり、しかし途切れず、多重だった。
「――オロチを名乗る竜種、再び死すべし」
「……!」
絶叫と断裂が、戦場を揺らし続けた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鞍馬・景正
他人の空似――という訳でも無さそうですが。
何にせよ、斬るのみ。
◆対策
足場の悪い中、迂闊に動き回っては逆に隙を晒す事になりましょう。
二刀を構えておき、【視力】で敵の動きを観察しつつ、此方に狙いを定めた瞬間が勝負処。
口の動きから放たれる瞬間を【見切り】、跳躍。
滞空中、斬撃の【衝撃波】による反動で推進力を得て回避を。
それだけで足りぬなら返す刃の【2回攻撃】で粘液を吹き散らしましょう。
尚も不足なら剣気による【オーラ防御】で致命打にならぬよう身を庇います。
◆攻撃
反撃の機を掴めれば、愛馬を喚び【鬼騎乗崩】を。
悪趣味な地より飛翔し、頭上のオロチに【怪力】籠めた一刀を直接届けてくれます。
大神・零児
前世の記憶っつーのか?
悪夢の内容は少し覚えてんだ
して
『龍脈』か
その見た目も攻撃方も悪夢のまま
違うのはお前だ
対策
鮮血の氣のオーラ防御を纏わせリミッター解除したC-BAに騎乗し各種センサーと戦闘知識、第六感、野性の勘で攻撃の軌道やわずかな事前動作等を情報収集
運転と操縦技術を駆使して残像を使い収集した情報も使って回避
回避不能な攻撃
鮮血の氣を妖刀『魂喰』に纏わせ念動力も加えたなぎ払いで衝撃波にオーラ防御をのせて乱れ撃ちのように飛ばし何度も吹き飛ばす
時間稼ぎができたら一瞬の隙をつき咄嗟の一撃による早業で鮮血の氣のオーラ防御とUCを融合させて纏い余波で発生するゴーストウルフと共に突進して蹂躙
アドリブ共闘可
●
ドクター・オロチは、“脳髄牧場”の上空から眼下の地表を見ていた。
「ムシュ?」
敵だ。猟兵、そう呼称される存在が複数で戦場に現れた。数は二、脳髄大地の上でそれぞれ別の動きを見せていた。
「……ムシュ? 一人は突っ込んでくるけど……、一人は動かない?」
動と静、敵が構えたのはそのような布陣だった。
●
転移が済んだ瞬間、景正は一人の猟兵が駆けて行くのを見送った、というよりは、ただ、それらは視界の中に入っていただけだった。
「――――」
速い。彼の背は、機械の乗り物に乗っていると言えど、ほんの僅かな時間で既にこちらから離れた位置にある。見事なものだと、純粋にそう思いもする。が、
「…………」
己が視界と思考の中心に据えるのは、もっと他の存在だった。
上空、そこにオブリビオンがいる。
「他人の空似――、という訳でも無さそうですね」
特徴的な頭部と、特徴的な赤い軽装だ。世界に、否、様々な世界を見ても似ている姿はそういないだろう。
何故、一年前に猟兵達で倒したはず、そんな思いも抱いてはいるが、
「…………」
言葉はそれ以上、無い。必要も無いからだ。
己は構えを取った。脇差も含めた二刀を手に下げ、見るは上空。
……復活結構、飛行結構。畢竟剣の役割は一つ……。
ただ、自分はその役割を果たす瞬間を待つのみだ。
決定的なその瞬間を逃さないため、
「――――」
ただ、待ち続けた。
●
爆圧が空を揺らしたのを、バイクに乗った零児は感じていた。
「……!」
見上げる。上空、身を起こした帝竜が、そこで一度咆哮をぶち挙げたかと思うと、長大な身体を振った。
かの竜は地上を睥睨し、
「――――」
顎を開き、喉奥から何かを吐き出すのを見た。それは一度では無く、複数回。連射だ。吐き出された全ては、緑色の粘液。
「――『龍脈』、か……」
それだけ見れば充分だった。己が時折見る悪夢、そこに現れたものと見た目も攻撃方法も、そのままだった。
前世の記憶、っつーのかね……。
それが何か、判ずることは難しい。覚えているのはその程度で、ほんの僅かな事だけだからだ。
だが一点、悪夢と目の前の光景に、明確に違う箇所があった。
「お前だ、ドクター・オロチ……!」
そう叫び、跨り、身を伏せるように搭乗していた己のバイク、“C-BA”にさらなる加速を命じた。
身を包む“鮮血の氣”を開放し、機体の各所を包むようにすれば、オーラによる防御で覆われ、氣を呼び水として出力リミッターの解除が可能だからだ。
だからそうした。直後。
「――!!」
元は機獣である“C-BA”が、正しく獣の咆哮のような唸りを挙げて、限界を超えた速度域まで一気に加速していった。
身にぶつかる風は厚く、大気の壁が座席から引き剥がさんと突進してくるようで、そんな突風が“C-BA”の駆動音と合わさり、耳の中で嵐のように渦巻く。
何より顕著なのは視界だ。周囲は脳髄しかなく単調な光景だが、それでも、離れた脳髄が次の瞬間には真横にあれば、今、自分がどれほどの速度域にいるか、一瞬で理解できる。
やがて、敵の攻撃が来る。それは身に落ちてくる圧や、染みついた戦闘経験、そして勿論“C-BA”の各種センサー類からも、解りきっていたことだった。
「ああ、そうとも、解ってるぜ……!」
そうだ、解っているのだ。いつ、どの程度の攻撃が、こちらをどうやって襲うのか。なので、上空からすべてを破壊する粘液が迫って来たとしても、己は臆せず、暴れる機体を抑えつけ、大気を突き破って行った。
血と脂は機体をスリップさせそうになるが、“C-BA”は爪立てるように大地を掴み、前へ前へと、こちらを運んでいってくれる。
愛機だ。それに、大陸とまで形容される広大なロケーションが合わされば、速度に果ては無くなる。
こちらを狙った攻撃の全てを、背後に置き去っていった。
縋り来る追撃の粘液は速度が生んだ残像に翻弄され、こちらを汚さない。
「――――」
振り切ったのだ。
己は、“抜けた”。残ったもう一人の猟兵はどうなったかと、速度も、気も、緩めずに背後を伺った瞬間、
「……!?」
そこから瀑布のような轟音が響いた。
粘液が次々と地表に落下、否、最早弾着と、そう形容した方が適切な光景だった。
爆撃だった。
圧縮された大気がぶちまけられ、こちらの背を押す。
●
景正は空を見上げていた。
視線の先、そこにあるのは、空に浮かぶオブリビオンと、それから放出された粘液。そのふたつだけだった。
こちらに迫り来る。だが、己は動かない。この足場の悪い中で迂闊に動き回っては、逆に隙を晒す事になるからだ。
そう判断した己は、先ほどから二刀を構えて、
「今……!」
迫り来る粘液を見切り、地を蹴って大跳躍。羅刹の筋力は身を軽々と宙へ運び、粘液の範囲から逃れようとするが、
「やはり足りませんか……」
上空、その位置から落とされた粘液は、最早塊ではない、半ば結合が解け、しかし粘度ある液体は、傘のように身を広げている。
広範囲を包むような爆撃から、これ以上逃れるには何が必要か。
「……!」
己はその答えを刀で作った。跳躍の余韻が残る最中、身を振り、手に構えた刀も振るい、目の前を斬撃したのだ。
刹那。切っ先から生じた剣の圧は、衝撃波として大気を吹き飛ばし、その反力でこちらの身を押す。
さらに加速した視界の中、己は返す刀でもう一刀を振るう。烈風。鋭利なそれが生まれ、こちらの身をさらに後押しながら、風自身は、一直線に粘液へ向かった。
「――!」
衝突。粘液と言えど何かとぶつかった後に響くのは、清水と同じく飛沫く音だ。
空に、緑の雨が散る。
散った。
一粒一粒が極小とはなったが、依然として危険な液体だ。己は身体に剣気を纏い、雨粒に向け、防御の構えを取った。
「……っ!」
雨が剣気を突き破り、袖や裾すらも食って、身体へ破壊の力を染み入れる。激痛だ。
だが、耐えた……!
致命となる箇所は守ったのだ。残りの粘液が地上に落下する音を聞きながら、身体の各所に力を入れる。
掌も、腕も良好。剣を握り、振れる。脚だってたった今、大地に降り立つことが出来た。
上等だ。
粘液によって破壊された大地は、表面が荒れ、脳髄の匂いを濃く湧き上がらせてきたが、己は構わず一息を吸い、
「――夙夜」
己は愛馬を呼び寄せた。ユーべルコードの発動だった。
夙夜への騎乗と同時、身体が重厚な具足に包まれる。
「…………」
夙夜の嘶きに合わせ、具足は硬質な音を小さく立てた。それが合図だった。
次の瞬間には、空へ飛翔していた。
●
ドクター・オロチはどちらの猟兵にも攻撃をかわされた後、それを見た。
「ム、ムシュー!? 馬!?」
馬だ。地上を蹴ったかと思うと、次の蹄が空中を踏み、今、こちらへ高速で向かってきている。
地上から空に向けて、ミサイルのように、否、正しくそれと同じくらい速度が出ているのだろう。
勢いの良い加速で、時速にして数百キロメートル。群竜大陸から数百メートル上空に浮かぶだけのこちらからすれば、距離の縮まりは一瞬だ。
「――――」
もう、猟兵は目の前といっていい距離だった。
群竜大陸から数百メートルと言えど、A&Wの地上から考えればここは雲の上だ。突風荒れ狂う高空、しかし騎乗で刀を構えた武者に歪みは無く、
「……!!」
ただ、飛翔してきた速度のまま、竜の額に立つこちらを信じられない力で斬り伏せた。
●
上空から大気の裂けるような、爆裂とも言えるようなそんな轟音が鳴ったのがつい先ほど。
その後、上空数百メートルから大地に巨竜が墜落したのが、たった今だ。
数十トンか数百トンか、それほどの質量が大地を揺らし、群竜大陸全体が揺れたのを零児は感じる。
「つーか、実際シートから浮いたぜ、今……」
己としては墜落に合わせて“C-BA”を跳躍させ、大地にブレーキング。なので、別段大きな被害は無かったが、強いて言うなら浮いた尻が痛い程度だ。
なので文句の一つでも言ってやろうかと、そう思いながら、前方、衝撃で吹き上がった地面によって煙る先を見た。
「――って、おいおいボロボロじゃねえか」
「ム、ム……シュ……!」
先ほど、上空のやり取りは一瞬だったが、何が起こったかは大体は解る。粘液と同じく、“C-BA”のセンサーなどもそうだが、自分も刀使いなのだ。
ドクターオロチの身体が刀で断たれているのは、一目で解った。
直後。
「……!」
もがく竜がこちらに顎を向け、抜き打ち気味に粘液を放出した。距離の縮まった位置からの、不可避の速射だった。
「遅ぇって」
最早“C-BA”から降り、手にはハンドルではなく刀が握られている。妖刀“魂喰”だ。
“C-BA”と同じく“鮮血の氣”を得たそれを振るえば、剣圧が切っ先から放たれ、衝撃波となる。オーラで“固めた”突風は、目の前から迫った粘液を押し退け、二つに割った。
そして衝撃波は一つだけではないのだ。乱れ撃ちのように放たれ、後続した二射、三射が粘液を四つ、八つと、割り、吹き飛ばしていく。
初撃ですら回避した己にとって、事前動作も完璧に判明した粘液など最早脅威では無かった。
「ム……シュ……シュ……」
次射を命じているようだったが、
「させねえよ!」
己は突進した。今まで戦場に無かった音を纏ってだ。
「――――」
大気を爆ぜ、気流を生む音だった。
火炎だ。
赤と黒の色で全身を覆い、それでも溢れた紅蓮が余波として無数の狼を周囲に形作る。
「――!!」
炎狼を引き連れ、爆発にも似た破壊の炎のまま、己は突進していった。
走る。
大地から染み出るものは、蒸発して血煙となるか、燃焼を後押しする脂の二種だ。
轟炎だ。風を切って走っても、火の勢いは落ちず、むしろ周囲の大気を飲み込み、さらに色味を増していく。
炎熱で揺らぐ視界の奥、見えたのは、間に合わずとも第二射を放とうとする巨竜と、「……!」
何事かを叫んだドクター・オロチの姿だった。
しかしそれは、最後まで、誰の耳にも聞こえることは無かった。
爆炎が、オブリビオンの全てを飲み込んだからだ。
巨竜の頭を食らえば、額のドクター・オロチがまず包まれた。
あふれ出る竜血すら炎が焼き飛ばし、肉や骨すら焦がされ、砕く。それほどの熱量が、遥か向こうの尾の先まで続いていった。
「――!」
炎狼らが、空に咆哮をぶち上げた。炎の喉が作った、炙るような遠吠えだった。
帝竜の姿は、最早どこにも存在しなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴