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平穏が喰われた日

#UDCアース


 次々とグリモアベースに猟兵たちが集結する。猟兵たちは、緊張の面持ちでこちらを見る少女の姿を目に捉えるだろう。
 やがて聞かされていた人数が揃うと、指で数を確認してから、その少女が勢いよく挙手をした。
「はいっ、注目! わたし、木鳩・基(完成途上・f01075)といいます! 人間のグリモア猟兵やってます! あ、仕事としては探索者もやってます」
 自己紹介を終えて、基の視線は手に持った手帳へと移る。文字をしっかりと読み取り、言葉の最初に「ええっと」と置いてから彼女は再度語り出した。喋ること自体には慣れているようだが、発表の場はそれほど得意でもないらしい。
「UDCアースで邪神復活の儀式が行われるみたいで……。皆さんは儀式の場に乗り込んで、その邪神を倒してください」
 そこまで話したところで、基はまたしても手帳を凝視した。自分を納得させるかのように何度か頷く彼女の表情は、どこか悩まし気だ。十数秒ほどの葛藤の後、彼女は「実は」と切り出し、手帳を回転させて猟兵たちに見せた。
「今回の邪神、予知で見た限りだとこんな感じっぽいです。……わたしとしても、あんまり可愛らしくはないかも」
 手帳にはペンで描かれただろう簡単なイラストがあった。
 丸っこく、下方が足のように裂けているだけの奇妙な怪物が、ページの中央に堂々と陣取っている。隣にはその怪物より幾分か小さな棒人間たちがいて、暗にそれが巨大であることを示していた。
 怪物は棒人間を捕食していた。頭ではなく、腹部の口からだ。口は怪物の体中に存在し、どれもが何本もの鋭い牙を覗かせている。
 基から説明が入る。今回出現するだろう邪神は『牙で喰らうもの』というらしい。生物を喰らえば喰らうほど成長して口の数を増やし、その成長はエスカレートしていく。
 今は紙の上の怪物だが、これは間もなく現実となる。放っておけばどんな被害が出るか、想像に難くない。
 張り詰めた空気を感じ取った基は、コホンと咳払いをした。
「えー……『牙で喰らうもの』がどこに現れるかは、大まかな位置以外は把握できていません。そこで、まずは情報収集をお願いしたいです」
 基が鞄から折り畳まれた紙を取り出し、猟兵たちの前で広げてみせた。
 それはある村落の大判地図だった。総人口はそれほど多くない、周囲を山に囲まれた普通の田舎の村という印象を受けるだろう。村人が営む商店をはじめとして、診療所や村役場、学校などの施設が村の内部に備わっている。特別な用事さえなければ、住民は村の外に出ていく必要もなさそうだ。
「この通り、全部が村の中で完結してますから、外の人たちと交流する機会も少ないそうです。だからなのか、外から観光程度でやってくる人にもよそよそしいと聞きます。住民同士の結びつきが強いんでしょうね、きっと」
 ただ、と基は言葉を付け加える。
「最近はこういう田舎村に移住してくる人も多いそうで。この村も、自然の魅力に惹かれてちょくちょく移住する人がいるらしいです」
 つまりは、最近移住した者の中に教団の関係者が潜んでいる可能性が高い。教団員たちも潜入するならこういった閉鎖的な面のある村を選ぶだろう。邪神の召喚に急いているのであればなおさらで、水面下で儀式の準備を整えるには適した環境ともいえる。
「あと、これは関係あるかわかりませんが……」
 言いながら、彼女は鞄から一冊の雑誌を取り出した。表紙を見る限り、よくあるオカルト雑誌のようだ。付箋が貼られたページを基が開くと、そこにはでかでかと『鳥人間現る』という派手な見出しがあった。同じページには、空中に浮かぶ影を捉えたモノクロ写真が掲載されている。
「ここ数か月の間にこの鳥人間の目撃例が何件かあるそうです。人型の鳥なのか鳥っぽい人なのかも定かじゃないですけど。ここまでならただの噂なんですが、妙に引っかかることもあって……子どもの行方不明事件が起こってるんですよ、この村」
 基いわく、行方不明になった子どもは一人だけではないらしい。その上、最初の事件と鳥人間の噂の発生はほぼ同時期に起きている。関連性を疑うのも間違った判断ではないだろう。
「これが厄介なのは、住民のみなさんが普段以上によそ者を警戒してるってことなんです。さっきの村の評判も、村を訪ねたオカルト好きがネットに残していったものですし。村の人から情報を得ようとするなら、普通のやり方じゃあしらわれるかもしれませんね」
 村人に聞き込みを行うなら、何か工夫が必要だろう。何の工夫もなく、いっそ力に任せてしまうのも今回は有効かもしれない。あるいは、村の人間には頼らないという方法もある。役場や図書館には何か資料があるかもしれないし、人間以外からも情報を引き出せるかもしれない。
 雑誌と手帳を鞄に戻した基は、ゆっくりと息を吐いた。伝えておきたいことはこれですべてらしい。
「正直、上手くやれるかわかんないですが……」
 そう言いかけたところで、彼女は頬を手で何度か軽く叩いた。それから、彼女は胸の前で右手の拳を掲げた。その拳は固く握られていた。
「いや、絶対に解決しましょうね、この事件!」
 グリモア猟兵になって日が浅いだろう基自身、自分がどれだけ支えられるかを不安に思っているようだ。が、そんな彼女も解決すると強く言い切った。
 様々な事柄を経てここに集った者たちも、まだ猟兵としては初々しい。似た境遇の基の鼓舞を受け取った彼らは、使命の達成のため、彼女とともに目的地へと向かうのだった。


堀戸珈琲
 初めまして、堀戸・珈琲(ほっと・こーひー)と申します。
 『第六猟兵』、いよいよ始まりましたね。
 私としてもMSとして初めての仕事なので、不慣れなところはあると思いますが、よろしくお願いいたします。

 さて、今回の最終目的は「邪神『牙で喰らうもの』の討伐」です。

 第一章では、邪神に辿り着くために必要な情報を収集してください。
 現在、明らかになっている情報は主に以下の通りです。
「舞台は閉鎖的な村である(設備が整備されている)」
「最近、村への移住者がいる」
「鳥人間の目撃例、また同時期に子どもの行方不明事件が発生している」
「村人は猟兵を警戒している」

 軽いまとめですので、オープニングの描写から様々なことを推測し、プレイングに入れ込んでいきましょう。自由に書いていただけるほど、自分でも予想だにしない凄まじいリプレイができるんじゃないかと思います。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『閉鎖的な村』

POW   :    腕力などの力を誇示する事で情報を引き出す

SPD   :    村の要所に忍び込む等して情報を調査する

WIZ   :    村人との会話で必要な情報を引き出す

👑11
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雛菊・ひばり
邪神とかもうその時点で面倒そうなのに、情報収集まで面倒そうとかやってられねーです。 
流石に白昼堂々怪しい事してる人はいないだろうけど、ヤバげな移住者だの、多数の行方不明事件だのが起きてる村な以上、隠し切れないボロとか違和感なんかが叩けば出てくるモンです。 

そして鳥には鳥をぶつけんだよ!という事で、影の追跡者(自身と共生する鳥型UDC)でまずは情報収集でもやってみるですよ。 
上空から村を見て、「不自然な人や物の流れが無いか」「人の目につきにくい場所に何か異常や痕跡は無いか」といった辺りを重点的に探ってみるです。



●鳥には鳥を

 おびただしい被害を生み出すだろう邪神の召喚。それだけでも手を焼くというのに、住民の警戒により情報収集まで一工夫必要となると、少々鬱陶しいような気もしてくる。
「……ったく、面倒すぎてやってらんねーですよ、この事件」
 雛菊・ひばり(人間のUDCエージェント・f05236)は、ビルの屋上で独り呟いた。三階建て程度の高さからの景色に目立つところは見られない。もっとも、建物が並ぶ村の中心付近に高所らしい高所はない。が、元より自分の地点からの眺望が目的でビルに登ったわけでもなかった。
 気分の転換も兼ねて、視線を快晴の空へと移す。この村の空には鳥人間とやらが現れるんだよな、とひばりは空を見て思い出す。
「それじゃ、やるですか」
 気だるげにそう言い放つと、ひばりの影から一羽の鳥が飛び出した。彼女と共生する鳥型のUDCである。見続けると吸いこまれそうなほどに黒々とした鳥は空中で何回か旋回し、それからひばりの隣へと降り立った。
 不穏な移住者や行方不明事件も含め、怪しい出来事が立て続けに発生している以上、村全体を見渡せば自ずと違和感などが出てくるはず。そのため、今回はこの鳥を使うことにした。
 ひばりは鳥を一瞥する。かつて失った人の髪に似たその黒を認識すると、彼女はぽつりと言葉を零した。傍目からでは命令に見えるその言葉は、ひばりにとってはほとんど独り言のようなものだった。
「往くですよ」
 言い終わると同時に、鳥は空へと飛び立った。鳥はぐんぐんと高度を上げていく。五感を共にしているひばりにはそれがわかった。青い空の中、黒い鳥は何かしらのアクセントのようだった。
 やがて十分な高度に達すると、鳥とひばりは村を見下ろした。地図では把握できない村の特徴や怪しい箇所、不審な動きをする人物を対象として、調査と追跡を開始した。
 一つ、鳥が不審な点を捉えた。北部の山に近い位置に古民家群があり、それは村の中心から遠い場所にあった。家々は一軒ずつ距離がある。また、何軒かには自動車や洗濯物が見受けられるが、ほとんどは無人家屋のようだ。
 人目につきにくい立地を求めているなら、この辺りに越してくるのが妥当か、とひばりは考える。木を隠すなら森の中ということわざもあるが、人に隠れてこそこそ活動するなら監視の目自体が少ない方がいいだろう。
 より接近して個々に見ていこうとしたところで、鳥の耳が異音を聞いた。それはひばりにも伝わってくる。
 異音は人間の声に似ていた。が、文章にはなっていない。その甲高い単発から、ひばりは直感的に連想する。
「子どもの声、です?」
 それが何を意味するか思考する暇は与えられなかった。
 不快な色で体を取り繕った飛行体の群れが、北部の山から湧き立つようにして飛来する。例の鳥人間だろう。その姿を細かに目にしてはいなかったが、普通の鳥類でないとわかる雰囲気に、思わず舌打ちした。
 このまま戦闘に持ちこむには、あまりにも分が悪い。鳥を旋回させ、引き戻させる。途中、鳥の目でひばりは後方を見た。鳥人間はもう追いかけてきてはいなかった。
「……やっぱ面倒くさいです、この事件」
 鳥が戻ってくるまでの間、ひばりは鳥人間の姿を思い返すと同時に、あの異音についても考えることにした。最終的に、彼女は深く考えるべきではなかったと結論づけた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

嶋野・輝彦
閉鎖的な田舎ってんならベタな尖り方、古式ゆかしき田舎のヤンキーとかいるんじゃないの?夜中に単車でブンこらしてやってんじゃないの?いるよね?夜に溜り場になりそうな所にいったら会えんもんかね?
そう言う子達を見つけて【POW】締め上げて話を聞く
訓練キャンプで反吐吐くほど鍛えられたし一応猟兵、流石に負けんよな?

若い子にとっちゃ娯楽も少ないだろうしこの手の噂はにゃ敏感なんじゃないかな?
あとオラついてる子とかだと度胸試しとかで捕まえてやろうなんて調べてたなんて奴もいそうだし
「さぁさぁキリキリ吐こうか?おじさん知りたいなぁ」

オッサンにやられたとか面子的に他所では言えんだろうし腕力上等で行きます



●夜の諍い

 夜が更ければ更けるほど、灯りも一層輝きを増す。
「あー、派手にやってるねぇ」
 嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)は自動車修理場のガレージが明るくなっているのを見つけると、ゆっくりとそこを目指して歩き始めた。
 閉鎖的な田舎村ならば、今どき珍しいタイプのチンピラもいるかもしれない。どうやらその勘は当たったらしい。
 近づくにつれ、ガレージ内の状況がよく見えてくる。何人かが一斗缶やビールケースなどに座って輪となり、集会じみたものをやっている。柄の悪い服装や尖った髪型から、探していた輩と違わないとわかった。
 輝彦はそのまま自動車修理場の敷地内へと入っていく。それぞれの顔が見える位置まで接近した頃には、集団全員の視線が突き刺さっていた。だからといって、彼が臆することはなかった。
「なぁ君たち、この村で起こっている怪事件について知ってることはないか?」
「あんたもオカルトマニアかなんかか?」
 輝彦へと尋ね返したのは、側頭部に剃りこみの入った金髪の男だ。ライダースジャケットにジーンズとそれらしい装いで固めている。彫りの深い顔をしているが、年はまだ二十代だろう。集まっている人間も男と同じかそれ以下くらいで、予想通り若い衆の集まりのようだ。
「いや、違う。おじさんは事件の捜査をやってる人間だ。君らに危害は加えない」
「よその人間は手ぇ出すな。これは俺たちでケリつける話だ。……早く帰れ」
「断ったらどうする?」
 輝彦の返しを受け、男はすっと立ち上がった。次いで、仲間たちも腰を上げる。
「動かなくして叩き出すしかねぇわな」
 古典的だなと輝彦は零しそうになったが、不用意に煽る必要もなさそうだ。
「5、数えてるうちに出ていけ。忠告はしたぞ」
 そもそも輝彦が不良っぽい連中を探していたのには、れっきとした理由がある。娯楽が少ないだろうこの村では、若者はこの手の噂の類いに敏感なはずだ。度胸試しも兼ねて調べ回っている者がいてもおかしくはない……目の前の集団は少し空気感が違うようだが。そんな者たちに力を誇示することで情報を得る。それが輝彦の目的だった。
 元より締め上げるつもりではいたが、まさか向こうから掛かってくるとは運がいい。余計な因縁を吹っ掛けずに済んだ。輝彦は微動だにせず、男がカウントを終えるのを待った。
 5、4、3、2、1。
 男は躊躇なく、輝彦に向けて右ストレートを放つ。輝彦はそれを何のこともなく左手で受け止めると、男の右手を包んだ左手の力を強めていった。男の顔が苦痛に歪む。周囲の仲間たちも心配そうな表情を浮かべるばかりだ。
 元サラリーマンとはいえ、輝彦も厳しい訓練を受けた猟兵だ。この世界の一般住民に負けることはない。
「さぁ、キリキリ吐こうか。……知ってることはないか?」
「話しゃいいんだろ!? わかったよ!」
 輝彦がぱっと手を開くと、男は右手を抱えながら跪いた。男が話し始めたのは十数秒経ってからだった。
「……二ヶ月くらい前に村に越してきた奴がいるんだ。それから、ガキが行方知れずになり始めた。鳥人間だかで村に人が来るようになったのも同じくらいだったか」
「引っ越してきた奴の名前はわかるか?」
「あぁ。『桑本』って奴だ。植物の桑に本って書いて、クワモト」
 『桑本』は三十代程度の男であり、右目下のほくろが顔の特徴らしい。
「それ以外に何か知らないか?」
「……俺らチームで追いかけようとしても、簡単に巻かれちまうんだ。新顔が住み着いたって話は出回ってるんだが」
「そうか。付き合ってくれてありがとな」
 目新しい情報がないのを再度確認し、輝彦は元来た方へと踵を返す。
 それにしても、と夜道を歩きながら彼は考える。
 男たちの追跡が失敗したのは、『桑本』のユーベルコードか何かなのだろうか? 何にしても、注意を払う必要はありそうだ。輝彦は独り頷いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

轟・富士王
・SPD
どうもー清掃の依頼を請けてやってきましたー(ツナギ姿で刀は掃除用具入れに隠し、担いで役場へ)
「いやーもー年末ですもんねー。どこも大掃除の依頼が多くて大変ですよー。じゃ、外壁洗浄してますんで、終わったら声かけますねー」
役場ならまだ人が多いし「誰か頼んだのかな」と思わせて少しの間は時間が稼げるかな。
さーて、掃除しますか……洗うのは身辺だけどね。
狙いは役場のゴミ捨て場だよ。住民票探しはリスク高すぎだし、新しい移住者は自治会に入れなくてゴミ出し禁止になってる田舎の村って結構多いんだよね。そういう人は遠くの役場までゴミを出しに来るわけ。怖いねぇ村八分。捨てられたゴミから個人情報をチェックだよ。



●洗浄作業

「どうもー、清掃の依頼を請けてやってきましたー」
 村役場の正面入口で朗らかな声がした。
「いやー、もう年末ですもんねー。どこも大掃除の依頼が多くて大変ですよー」
 声は、ブルーのツナギに身を包んだ一人の男のものだった。ローラーのついた掃除用具入れなども合わさり、一介の清掃業者のようにしか見えない。ニコニコした表情とその外見年齢から『掃除のおじさん』とでもいえるだろうか。
 役場の職員が何人か反応したが、彼らが聞き返すよりも早く、男はまた呼びかけた。
「じゃ、外壁洗浄してますんで、終わったら声かけますねー」
 それだけ言うと、男は掃除用具入れを押してそそくさと入口から立ち去ってしまった。突然現れた清掃業者に職員たちはざわついたが、誰かが頼んだのだろうと早々に合点し、また仕事に戻った。
 呼び止める者がいないことを確認した掃除のおじさん、もとい轟・富士王(テキトーおじさん・f03452)は、声のトーンを落として呟いた。露骨な笑顔は既に消え、適度に気を抜いた普段の表情に戻っている。
「さーて、掃除しますか……。洗うのは身辺だけどね」
 得物である刀が入った掃除用具入れを押しながら、歩くスピードを速めていく。
 住民票を狙いにいくのはリスクが高いと判断した富士王は、別の方法でターゲットの個人情報を入手することに決めた。狙いは役場のゴミ捨て場だ。
 移住者が自治会に入れず、地区のゴミ捨て場にゴミを捨てられないケースが田舎の村では存在する。そのため、そういった弾かれ者は役場へと直接ゴミを持ってくることになるそうだ。この村もそうであるかはわからないが、住民の何人かから敵視されているらしい『桑本』がその状態にある可能性は捨てたものではない。
 そのうちに、大きな直方体型の蓋付きゴミ箱が外壁にひっつくようにして設置されているのを富士王は発見した。何個かがゴミの種類の数だけ並んでいる。
 紙類というプレートが貼られたゴミ箱を覗いてみる。フレコンバッグが内側に取り付けられたその中に、ゴミは半分ほど詰まっている。早速、束のいくつかを取り出していく。新聞やチラシではなく、宛名の記載がありそうな長方形の郵便物を狙う。
 作業の最中、一芝居打ったのは正解だったな、と彼はふと思った。白昼堂々ゴミを漁っていては怪しまれるだろうが、清掃業者の格好なら違和感も薄れるだろう。ついでに役場の職員たちも食って掛かってはこなかった。
 ここまでは順調。あとは、『桑本』の個人情報を見つけ出せればいいが。
 祈りながら紐を解いていると、富士王の視界に目的の二つの文字が映った。それらが記されているハガキを拾い上げて見てみると、どこかの企業のダイレクトメッセージのようだった。ハガキにはしっかりと、本名と住所が記されていた。この住所が北部の古民家群の場所ならば、そこには探している人物の拠点が確実にあるだろう。
「お仕事完了かね」
 これまでに紐解いた紙類をできるだけ元に戻してゴミ箱に再投入し、手を払った。ハガキはツナギのポケットへ入れこんだ。
 職員に声をかけられないうちに退散しようとしたところで、富士王はもう一度ゴミ箱に目をやった。正直他の種類のゴミから情報は期待できそうにないが、時間のある限り調べさせてもらおう。軽い気持ちで、彼は可燃ゴミのゴミ箱の蓋を開けた。
 一つ、異様にしぼんでいるゴミ袋があった。中にあるのは何枚かの大判紙のようだ。富士王はゴミ袋を取り出し、素早く封を解く。それから、中身を地面へとぶちまけた。
 雑に折り畳まれた紙が転がり落ちる。丁寧に開いていくと、紙はテーブルの倍程度の大きさにまで広がった。しかし、それは大して彼を驚かせなかった。
 紙にはべっとりと、腐り始めた肉片が付着していた。枚数からして、かなり大量の肉が消費されているようだ。
 これが業務用のゴミだとは考えにくいし、そういった店であってもこの量は使い切れないだろう。
「餌の包装紙……ってところかな?」
 富士王は包装紙をより細かく畳んで掃除用具入れへ放り込むと、早々にその場を後にした。
 儀式がまだまだ完遂されないことを心の中で願うばかりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

塩崎・曲人
くっくっく
オレは確かに脳筋だが、こういうコソ泥っぽい事も大得意だ

基本方針として、可能な限り村人に見つからないように動く

村の建物に忍び込んで、怪しいものがないかお探ししましょうねー
特に村の外れとかで物を隠しやすい立地が怪しい
真新しい建物とかあったら最近移り住んできたやつの家かもしれないし、要チェック

無人の建物に忍び込めたら家探ししよう
特に地下室とか無いかは確実にチェック
怪しい邪教の儀式は地下でやるって相場が決まってるからな!
建物の外観と中の間取りから、隠し部屋がないかも推測できる

怪しい場所を見つけたら、なるべく痕跡を残さないように調査して
戻れなくなる前に戻って仲間と情報を共有する



●いろいろと引っかかる

 磨りガラスの窓が静かに開く。生じた隙間から、一つの影が建物の内部へと侵入した。ガラスには、鍵と重なる部分に穴が開けられている。
「……オレは確かに脳筋だが、こういうコソ泥っぽい事も大得意だぜ」
 そう自らに言い聞かせるように話すのは、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)だ。
 特定した住所は、村の北部の古民家群に位置していた。『桑本』の住居と考えてもおかしくはない。リスクはあるが、できる限り早期の解決を図るため、曲人はこの家の調査を買って出たのだった。
 周囲を見回してみる。現在居る場所は廊下であり、目の前には磨りガラスの格子戸を挟んで部屋があるらしい。
 この家が平屋で、昔ながらの建築物であることは確認済みだ。さほど大きいわけでもないので、調査する側としては好都合である。また、この家の横に白い自動車が停まっていたのを曲人は見ている。それがない今、この家は無人のはずだ。……『桑本』に同居人がいなければ。
 慎重に、曲人は格子戸を横に引いた。ガタガタという音で戸を開き切ると、畳が敷かれた部屋が視界に現れた。
 その畳部屋には家具が何も置かれていなかった。そのことを若干不思議に思いつつも、曲人は部屋の中に足を踏み入れた。
 が、簡単に侵入できたことに安堵感を感じていたのだろうか。
 彼は戸と畳の段差に足を引っ掛けてしまった。
「あっ!?」
 うっかり転びそうになり、思わず声が出る。反射的にトントントンともう一方の足でバランスを取って体勢を保つことで、なんとか体勢を保つことができた。
「危ねぇ……気をつけねぇと」
 深呼吸して落ち着いてから、曲人はまた見回してみる。この部屋の隣はフローリングの部屋で、ワーキングデスクや食卓などが置かれている。その向こうは廊下で、またさらに向こうは台所があるようだ。
 デスクの上には高価そうなパソコンや、何かの専門書の類いが見えた。『桑本』の表向きの仕事が家でできる種のものなら、突然田舎の村に出てこれるのも納得できそうだ。
 そのまま隣の部屋に移ろうと曲人はまた足を踏み出したが、そのとき強い違和感が彼の中で浮上した。
「なんで隣にモノ置いて、こっちの部屋には置かねえんだ……?」
 畳部屋に布団を敷くため空けているとしても、この配置はあまりに極端だ。物を置かない趣味ならまだわかるが、隣の部屋は少しばかり窮屈そうだ。
 曲人はまだ痛みが残る足先を見た。この部屋の床と戸の間には段差があったのだ。……なぜだろう?
「……なるほどな」
 彼は畳に手をかけると、次々とひっぺ返し始めた。
 やがて、正方形状の穴がぽっかりと床に空いているのを発見した。穴には梯子がかけられ、下へと続いている。
「怪しい邪教の儀式は地下でやるって、相場が決まってるもんなぁ」
 一度中を覗きこんでから、即座に梯子を下って地下へと降りる。
 元々は酒蔵のようなものだったのか、地下室はひんやりと涼しい。当初は何も見えなかったが、だんだんと曲人の目は暗闇に慣れていった。
 地下室はあまり広くはなかった。壁の本棚には、邪教に関係があると思われる怪しげな書物や道具がところ狭しと並べられている。部屋の隅には紙にくるまれた柔らかい物体が積まれていた。中身は例の餌であると考えて間違いないだろう。
 しかし、邪神の儀式がこの部屋で行われているわけではないようだ。だとすれば、村のどこかに邪神を隠す場所があるのだろうか。
 そんなことを考えつつも地下室の様子をしっかり記憶した曲人は、痕跡をできるだけ消してから、急いで家を出た。

成功 🔵​🔵​🔴​

煌燥・瑠菜
いくら閉鎖的といっても相手は人。打ち解けることが出来るはずです!

場所が田舎という事なので、きっと田んぼや畑で農作業をしているお年寄りの方がいると思うんですよね。それを手伝いながら何でもないお話をしたり、お弁当を振る舞うことで、心の距離を詰めてみようかと!あっ、もちろん猟兵である事は伏せてですけど。

それで手ごたえを感じたら、「近々この辺りに引っ越そうかと思うんですが、いい場所ありませんか?」と聞いてみます。そこから話を繋げて、『桑元』の事や住処、それ以外にも出来るだけの事を聞き出せるといいですね!



●大収穫

 怪事件さえ起きていなければ、本当に平和な村なのに……。
 『桑本』の住居近くに広がる自然を眺めながら、煌燥・瑠菜(続き綴る御噺の欠片・f02583)は心の中で呟いた。
 北部の古民家群は空き家が多いが、それでも人が住んでいないわけではない。田んぼや畑で農作業をして生計を立てている住民たちもいることだろう。
 いくら閉鎖的な態度を取るからといって、相手は人だ。相手が人なら、打ち解けることもできるはず!
 そうした考えの下、瑠菜はある程度の希望を持ってこの近辺で人探しをしている。風景に畑が多くなってきたところで、きょろきょろと辺りを見渡してみる。
 茶色い景色の中で、腰を曲げて作業に勤しむ老夫の姿が目に入った。不審がられないよう、自然なペースで近づいていく。
 瑠菜が老夫に声をかけたのは、発見からしばらくしてからだった。
「すみません、何をなさっているところなんですか?」
 最初は単純に、作業そのものに関心があるように装う。
 返ってきたのは冷たい対応だった。
「見てわからんか?」
 ただ、ここで食い下がるわけにもいかない。キャップを被った老夫に、瑠菜は返答する。
「はい。あんまり農業とかは詳しくなくて」
「詳しくなくてもわかるだろう。収穫だよ、収穫」
「そうなんですか。でも、お爺さん一人しかいらっしゃいませんよね?」
「それは仕方ないさ。だからこの畑全部、俺一人で獲るだけだよ」
「大変じゃないんですか?」
「……まぁ、人手も足りないしね」
「あの、私でよければ、お手伝いしましょうか?」
 瑠菜の言葉に老夫は怪訝そうな顔をしたが、瑠菜は引き下がらなかった。
 結局、手伝ってくれる分にはありがたいと言って老夫は承諾し、少しの間、瑠菜は農作業を手伝うことになった。
 作戦通りだ。こうして距離を詰めていけば、話しやすい場も生まれるだろう。
「実は私、お弁当があるんですけど、街の方でつまみ食いしてたら要らなくなっちゃって。これ終わったら、要りませんか――」

 野菜の収穫も済み、田舎村らしいのどかな時間の流れを瑠菜は感じていた。
「この村っていいところですね」
「そうかねぇ」
 瑠菜の弁当を頬張りながら、地べたに座っている老夫は答えた。機嫌は良くなっているようで、どことなく楽しそうだ。瑠菜の気遣いに、何か染みるものがあったのかもしれない。
 隣にしゃがんでいる瑠菜が会話を続けた。
「私、近々この村に引っ越そうかと思うんですが、いい場所ありませんか?」
「自然とかが目当てなら、ちょうどこの辺りかね。そういや、前もここに越してきた人がいたなぁ」
「どんな人ですか?」
 ここからが本題だ。瑠菜はそう自分に言い聞かせた。
 老夫は空を見上げながら、顎をなでた。
「ちょっと若い人。いつも夜明けちょっと前に白い車に乗って北の森へ出てくけど……アレはなんなんだろうねぇ」
「……北の森って何かあったりします?」
「昔は炭鉱があったけど、今は潰れてるからなぁ。洞窟自体はあるだろうけどね」
 邪神を隠しているなら、そこ以外にないだろう。夜明けの少し前に、『桑本』はそこに餌を届けに行くのだ。
 あとはそこへの道順がわかればいい。また一つ、猟兵は収穫を得た。
 瑠菜は立ち上がり、そろそろ行きますと言ってから礼をして、来た道を引き返した。
 老夫の「また来なよ」という優し気な声が最後に耳に残った。

成功 🔵​🔵​🔴​

エン・ジャッカル
予めに最近移住した者たちの情報を調査し、その後に山に身を潜ませて「影の追跡者の召喚」で影の追跡者を召喚する。その影の追跡者は調査した中で一番怪しいと思われる移住者の後を追わせて情報を収集する。もしその人が当たりであれば、それを仲間に情報を共通させる。


アルル・アークライト
最近移住してきた人が居て、それから事件が起こってる…って事?
とりあえずその人を調べてみたい所よね。

村の人達からは警戒されてると言う事は、
余り姿を見せるのは得策じゃない、カナ?
あるいは、他の仲間達を囮…うぉっほん、隠れ蓑にさせて貰おっかな。

村外れ、人に見つからない場所で【精霊蝶の召喚】を使用。
最近移住してきたって人に精霊蝶を張り付かせて、
怪しい行動が無いかどうかを調べるわね。
上手くすれば何か決定的な情報を得られるかも!

…とはいえ、張り込みって地道で暇よねー。
うー、面白い事とか無いものかしら。



●決して見失わない

「張りこみって地道で暇よねー。この最中に何か面白いことでも起きないかなー」
「私からすると、できれば起きてほしくないんですが……」
 『桑本』の住居付近の山の中にて、ひそひそと話す二つの声があった。どこか愉快な調子があるのがアルル・アークライト(星剣使い・f01046)、一方で落ち着きを伴っているのがエン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)である。
 時刻は早朝、夜が明ける少し前だ。アルルは外気の低さに身震いしつつ、動きのない『桑本』の家を退屈そうに眺めていた。
 やがて、家の玄関戸を開く音がした。家から出た『桑本』は荷物を肩に担いでいた。何往復かして複数の荷物を運び入れてから、自身も自動車へと乗りこんだ。
 エンジン音が周辺一帯に響き渡る。それを確認したエンがアルルに目配せすると、彼女はこくんと頷いた。
「はばたけ、蝶よ……!」
 アルルの近くに、七色の光を放つ蝶が出現する。美しい輝きを持つその蝶は精霊であり、アルルにのみ使役される存在だ。
 召喚の一部始終を見届けたエンも、続いて自身のユーベルコードを発動する。ふらりと、彼の背後から真っ黒な人型が現れる。人型は何歩か歩くが、その一切が無音だった。
 エンは人型に「あの車に乗った人物を追跡するように」と指示を出す。アルルも同様の指示を精霊蝶に命じた。黒々した暗闇と七色の光は自動車へと向かっていくと、張り付くようにして位置についた。
 自動車が加速を始め、北の森へと進入していく。二人が放った使者たちはすかさず追いかけ、その視界を二人のそれぞれの主人へと伝えていた。その追跡は決して途切れることはないはずだ。
「このままなら、問題なく邪神に辿り着けそうですね」
 地図を広げたエンは、自動車の走るルートを書きこんでいる。表情には、安心したような穏やかさがあふれていた。
 しかし、二人の視界の先にある自動車は、突然煙のように揺れた。ぐるぐると空気の中に溶けこむような渦となり、今にも視界から消えようとしていた。
「どうなってるんでしょう……!?」
「私にもわかんないよ!」
 困惑するエンに、アルルは突発的に叫んだ。だんだんと白い自動車は霧状にまで散り、僅かな姿しか捉えることができなくなっている。
 そのとき、アルルは『桑本』が『追跡を断ち切る』という能力を持っているらしいという情報を思い出した。これが相手のユーベルコードかどうかは知らないが、とにかくこの状況をなんとか乗り越えなくてはならない。
「エンさん、気合でなんとかしよう!」
「結構強引ですね……わかりました」
 相手の能力がこちらの精神力に依存するものであるなら、あながちその方法もバカにはできない。
 いかなる事情があっても、この村で邪神召喚儀式を完遂させるわけにはいかない。二人はそう強く意識し、集中力を増幅させていく。相手が粒一つになろうとも、絶対に見逃さない――!
 視界の中の自動車はだんだんと実体を取り戻し始めた。敵の能力を打ち負かすことに成功したのだ。
「よっし!!」
「あとは相手が目的地に着いてくれれば……!」
 エンの願いは、間もなくして叶った。
 自動車はむき出し状態の岩壁の前に停車した。『桑本』は地面に降り立つと、裂け目のような入口から仄暗い洞窟へと荷物の搬入を始めた。
 エンが素早くルートを書き留める。それを見ていたアルルは嬉しそうに彼に飛びかかった。
「これで邪神のところに乗りこめるね!」
「そうですね。……一度、みなさんのところに引き返しましょう」
 山を出て、エンとアルルはいそいそと駆けていく。
 それぞれの猟兵たちの活躍によって、邪神への道が開かれたのだった。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『嘲笑う翼怪』

POW   :    組みつく怪腕
【羽毛に覆われた手足】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    邪神の加護
【邪神の呪い】【喰らった子供の怨念】【夜の闇】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    断末魔模倣
【不気味に笑う口】から【最後に喰らった子供の悲鳴】を放ち、【恐怖と狂気】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●翼怪現る

 北の炭鉱を目指し、猟兵たちは朝の森を駆け抜ける。冷えた空気が彼らの体を包み、徐々に染み入っていく。
 突如、平静を崩すようにして、上空から何かがはばたく音がした。音には次第に甲高い単発が混ざり出し、間もなく耳障りなものへと変わる。鳥獣の鳴く声でないのは確かだった。
 猟兵の一人が音につられて上を見た。白い朝の空を、不快な色をした翼が埋めている。体に含まれているすべての有彩色は黒ずみ、輝きもなく汚れてしまっていた。
 その羽の中心には、雪玉のような白い顔があった。穴に似た目でこちらを見やる相手は、三日月状の口から常に歯をひん剥いている。そこを頭として、すらりと身体が伸びていた。足は鳥類特有の羽やかぎ爪に覆われている。
 鳥人間。そのワードが猟兵たちの頭を過ぎる。村に怪異として居座り、また情報収集の妨害も行った敵が、満を持して現れた。
 相手の一体は上空から飛来すると、低空飛行に切り替えて猟兵たちの目の前で留まった。その後も続々と降下し、一群は往く手を阻んだ。『桑本』とつながりがあるのは、これで決定的となった。
 こちらも準備は万全だ。最早、遠慮は要らない。邪魔立てをするのであれば、直ちに排除するだけだ。
 それぞれが得物を構え、猟兵たちは鳥人間――『嘲笑う翼怪』たちへと挑む。
 翼怪は表情を変えず、赤く汚れた口の端を尖らせたまま不気味に笑うのだった。
嶋野・輝彦
俺の後もみんな色々調べていたみたいだな
それじゃあ、邪神復活なんて根性腐った事考えてる『桑本』って奴のツラを拝みに行こうかね
の前に怪鳥戦か…

アサルトウェポンで攻撃、地面にたたき落としたら
捨て身の一撃、零距離射撃、ほとんど自爆特攻だなコレ
しょうがねぇだろ、素人なんだよそんなに色々器用にできねぇんだよ、40の手習いで今更いろいろ覚えるとか難しいんだよ
まぁ、何が言いたいかってぇと下手に器用立ち回ろうとするよりこっちの方がまだ良いだろうが
死にかけなきゃ起動しない戦場の亡霊とのかみ合わせもいいだろう?
ギリギリまで耐えて戦場の亡霊発動、その後死にそうになるまで戦闘後離脱
ホント痛いしきついしクソだな戦場の亡霊


煌燥・瑠菜
これまたすごい見た目ですね……すでに被害も出ていますし、こんなのが近くにいると知ったらお爺さんや村の人達も安心して眠れません。というわけでサクッと秘密裏に倒しちゃいましょう!

肉体があるなら炎は効果あると思うんですよね。なのでまずは距離を取りつつユーベルコードで炎を起こし、敵を燃やします!特に羽を重点的に狙い機動力を奪いましょうかね。木に燃え移ったらそれは消します。山火事起こすわけにはいきませんし。

数が多いので頭上も含めて囲まれないようにしたいですね。不意打ちや奇襲には【野生の勘】や【武器受け】で避けたり防いだりできればいいんですけど……


塩崎・曲人
ククク……咎人殺しのオレ様に罪と怨嗟を纏った力を向けてくるとか、面白れぇ根性だ
カモがネギ背負ってきたようにしか見えねぞオラァ!

片っ端から【咎力封じ】を仕掛けに行く
相手の纏う【喰らった子供の怨念】を『犯した罪の証拠』『被害者からの告発』と解釈し、
それに対して被害者の恨みを晴らす咎人殺しの力を全力駆動する
「テメェ自身が喰った者に取り殺されるがいいさ、クソ化物が!」
(目をギラつかせ、犬歯をむき出しにして獰猛に笑いながら)
無論1匹だけでは済まさず、展開した拷問具で【邪神の加護】を纏ってる敵を端からひき肉に変えていく
「有罪有罪有罪、テメェも有罪だ!地獄で懺悔すんのを忘れんなよ!」


エン・ジャッカル
鳥人間がここでやってくるということは時間稼ぎの可能性がありますね。
もしそうであれば、向こうが気付いて逃げるのを阻止するためにも、目の前の鳥人間を早期殲滅しなければ。

早速モードチェンジでアヌビス号(宇宙バイク)を変形させて自分と合体することにしましょう。

さて、相手は鳥人間。邪神特有の厄介な攻撃でこっちを攪乱することが推測できるので、アヌビス号に内蔵されているブースターによる瞬発移動で鳥人間を肉薄し、顔や羽を掴んで地面に叩き潰すか、他の鳥人間に向けて投げぶつけて落とす手もいいかもしれません。

ただ、アヌビス号は空を飛べないので、鳥人間が空に逃げた場合は他の仲間に頼るしかないのが心苦しいですね。



●それぞれの戦い方

 釣り合いの取れていないアンバランスな翼を背に、怪翼たちは周辺の木々と同程度の高さに滞空していた。彼らの羽ばたきによって、微かに風が起こる。森の澄んだ空気は気味の悪い温かさを持った微風に変換される。その些細な現象は、怪翼がこの世界に存在してはいけないという証明のようだった。
 これまたすごい見た目だ、と煌燥・瑠菜(続き綴る御噺の欠片・f02583)は怪翼を凝視した。風を受けただけで気分を悪くさせるのも、あの不吉な外観のせいだろうか。色筆を乱雑に振るわれた像のような敵をまじまじと眺めた。
 こんなものが近隣に棲みついていると知ったら、村の住人たちはどう思うだろう。無論、安心して夜も眠れないに決まっている。彼女の頭に、キャップを被った老夫の姿が浮かび上がった。不愛想だとしても、人は人だ。優しい一面も見せてくれた彼らの生活を、身勝手な者によって崩させていいはずがない。
 鼓舞も兼ね、瑠菜は拳をぎゅっと握った。
「サクッと倒しちゃいましょう! もちろん、秘密裏に!」
「私も、早期殲滅が望ましいと思います」
 静かに瑠菜に賛同したのは、エン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)だ。藍色の髪をたなびかせながら、彼は怪翼が猟兵たちに迫った理由を推察する。この村で目撃されてきた鳥人間が怪翼であり、また怪翼が『桑本』の支配下に置かれていることはとうに確定事項だ。主人の危機を感じ取り馳せ参じたのであれば、逃走までの時間を確保するために、こちらを遅延させる戦法を取る可能性もある。また目的が単純に追跡者の排除だとしても、猟兵側に漫然と戦う余裕はない。
 相棒であるアヌビス号のハンドルを握りながら、エンは怪翼たちを見返した。未だ静かに空に留まる怪翼たちの様子は、エンには不可解に見えた。とてもつもなく嫌な予感がした。
 その直感は数秒経たずして的中する。怪翼の一体が、幼子のものに似た金切り声を上げたのだ。最初の一体の絶叫が止まぬうちに、まるで共鳴するかのように、何体かが続いて同様の行動を取った。
 怪翼たちは球状の頭部を両腕で押さえ、空中でけたたましく喚きだした。ぶるぶると身悶えし、巻き起こす風はいっそう強くなる。気がつくと、彼らの白い顔に赤い線が増えている。空洞のような目から血涙が流れ、それは体を伝って地面へと落ちた。血が点々と土に紋様じみた跡を残す頃には、彼ら周辺の空気はどす黒いものへと変わっていた。邪神の呪い、自らが喰らった人の子たちの怨念、夜の真っ暗な闇から構成されたオーラがにじみ出ていた。
 風には殺気が混ざり、猟兵たちを圧迫する。怪翼が使用したユーベルコードは、いうなれば負荷を伴った身体強化。エンの推察は、後者が正しかったようだ。はじめからこちらを排除するつもりらしい。
「おいおい、どうすんだよ、これ……」
 嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)は僅かに引きつった顔をしながら呟く。アサルトウェポンを敵群を構えてはいるものの、この後の立ち回りがいまいち思いつかない。このまま怪翼の群れに突っこんでも、強化を済ませた個体に囲まれて終わりだ。
 どうするべきかと冷や汗をかく輝彦を、一人の影が横切った。視線を怪翼群から外さなかった輝彦だが、このときは横目で影の正体を見た。
 塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)だ。口角を釣り上げて笑みをつくっている。目の前の敵と同じ表情を見せる曲人を、輝彦は思わず呼び止めた。
「……何を笑ってんだ?」
「あ? いや、面白れぇ根性してるよな、と思って」
 腑に落ちない返答に首をかしげる輝彦をよそに、曲人は突き進む。緊張して対峙する猟兵たちの最前列に到達しても歩みを止めず、単身で怪翼の群れへと緩やかに接近する。
 血涙を流す怪翼の一体が飛来し、空中から押し潰すようにして曲人に飛びかかった。これを好機と捉えたのだろうか。そう判断したのであれば、まんまと罠に誘われたとしかいいようがない。
 向かってきた怪翼を、曲人は無言で縛り上げた。手には手枷を、口には猿轡をかけられ、体は縄で簀巻きにされている。あっという間に無力化され、地面でもんどりうつ怪翼を一瞥してから、顔を敵群へと戻す。既に複数体もの怪翼が彼に迫っていた。
 曲人は口角をさらに鋭く尖らせ、犬歯を覗かせて笑った。それは悦楽の感情の表れだった。
「咎人殺しに罪と怨嗟を纏って寄ってくるとかよぉ、オレにはネギ背負ったカモにしか見えねぇぞオラァ!」
 怪翼が纏う喰らった子どもの怨念とは犯した罪の証拠であり、被害者からの告発とも解釈可能だ。被害者の無念、憤り、恨み辛みを前にしたとき、復讐代行者である咎人殺しの力は全力で駆動する。
 曲人は拘束具を素早く取り出すと、向かい来る怪翼たちへと滅多矢鱈に投げつけた。粗雑なようで狙いがしっかりしたその投擲は、それぞれの腕、口、機敏な動きのいずれかを封じることに成功した。向かってこなかった怪翼に対しても、怨恨を纏う者へは同様に拘束具を放つ。が、さすがに距離が遠かったのか、こちらはあまり命中しない。けれど、初撃の成果としては十分だ。
 彼の攻撃は次のステップへ移る。釣り鐘のような形状をした箱型の拷問具を展開して地面に打ち下ろし、扉を開く。逃げる隙も与えず、足元に転がる一体の怪翼を中へ蹴り入れた。針が内側の全面に施されていると怪翼が知覚したとき、無慈悲にも扉は閉められた。
「テメェ自身が喰った者に取り殺されるがいいさ、クソ化物が!」
 拷問具に付随する鎖を掴み、一定の自由を奪った怪翼へと拷問具本体を打ちつける。拷問具の隙間から溢れる内部の個体の血液が、殴り抜けた個体から流出したものと溶け合った。次々と標的を変え、踊るように振り回す。内部は凄惨な状態になっているに違いない。曲人はただただ獰猛に笑い、目を光らせていた。
「有罪有罪有罪、テメェも有罪だ! 地獄で懺悔すんのを忘れんなよ!」
 前線を荒らす曲人を見て、彼の背後に立つ猟兵たちも目の色を変える。
「先制には成功したようですね」
 このタイミング以外に攻め入る機会はない。エンは頷くと、構えを取った。
「モードチェンジ!」
 叫ぶや否や、彼はアヌビス号と一緒に眩い光に包まれる。一瞬にして光が止むと、彼は三メートル以上のロボットに変身していた。変形機能を持つ相棒と合体することによって、アーマーモードへと変化したのだ。
 能力の最大効果を得たエンは、混乱の残る敵群へと急接近した。怪翼は、突如間合いを詰めてきたエンに対応できない。大急ぎで距離を取ろうとするが、時すでに遅し。エンは逃げ遅れた怪翼の一体を容赦なく地面へと叩きつけた。
 アヌビス号内蔵のブースターが唸り、振動しているのを感じる。急速発進を可能にしているのは相棒のおかげだ。感謝しつつ、エンは群れへと向き直る。
 瞬発的な移動で瞬く間に別個体に対してもリーチを詰める。今度はさらに別の個体へと投げつけ、両者に土を付けさせた。戦闘となり寡黙になったエンは、おまけとばかりに二体の怪翼を蹴り飛ばした。
 エンに続かんと、接近戦を得意とするほかの猟兵たちも、怪翼群を目指して走り出す。
 輝彦はため息をつくと、アサルトウェポンのグリップを握り直した。
「もうどうにでもなりやがれっての!」
 ワンテンポ遅れて駆け出しながら、彼は自身を警戒していない個体を見漁った。曲人の攻撃を回避しようと後方へ飛んだ個体に狙いを定め、銃口を向けた。狙い撃つ部位は巨大な黒の翼だ。よほど混乱していない限り、外しはしない。満を持して、輝彦は射撃した。
 奇怪な悲鳴を上げて、怪翼は墜落する。目視でそれを確認すると、混戦状態の戦場を潜り抜け、ちょうど目の前に怪翼が落下してくる地点まで移動する。彼が距離を埋めるために跳躍すると、まるで最初からその場に居合わせたかのように、怪翼の胴部に銃を突きつける格好になった。反動を承知の上で、輝彦がトリガーを引く。正真正銘の零距離射撃だった。
 乾いた音とともに、怪翼の肉体に大穴が開く。反動で軽く吹き飛ばされた後にそれを把握した輝彦は、相変わらずキツい仕事だよなと心の中で愚痴った。
「次――」
 身を起こし、戦況を眺め見ようと後方を振り返る。
 怪翼が覆い被さるように輝彦へ飛来し、羽に埋もれた腕で殴りかからんとしていた。速度が付加されているこの攻撃を避けるのは、現段階では困難だった。
 ダメージを覚悟して身構える。しかし、結局攻撃は彼に届かなかった。
 輝彦の眼前で、怪翼の翼が燃焼する。めらめらと翼を焼き尽くす炎が衰えることはない。物悲しい声を晒しながら、推進力を失った敵はあっけなく地面に落っこちた。
「大丈夫ですか?」
 距離を挟んで、瑠菜は輝彦に呼びかけた。彼がハンドサインで無事を伝えると、瑠菜はにこりと優しく笑った。それから、空中に留まる怪翼群へと目線を送る。鋭い目つきで睨む彼女には、どこか余裕があった。
「さて、どんどん燃やしちゃいます!」
 低空を飛ぶ敵に向かって腕を突き出し、握った手を開く。瞬間、瑠菜の腕を切り裂いて火柱が噴出し、猶予なく敵を包みこんだ。汚れた色の代わりに、紅蓮が空の一部を紅く染め上げる。
 怪異とはいえ、肉体が存在するのなら炎は有効打。一定距離から積極的に翼を狙っての火炎放射を繰り返し、着実に敵の機動力を奪っていく。墜落する怪翼が炎を木々に擦り付けても、瑠菜の制御によって簡単に消去される。
 暴れ回る前衛陣の間を縫って飛んでくる炎は、怪翼たちからすると厄介だった。うち一体が大きく旋回すると、一気に背後から彼女へと襲いかかった。
「後ろですね?」
 人間らしい外見だが、これでも彼女はキマイラだ。本能的な野生の勘によりその襲来を察知すると、怪翼が到達するよりも早く、横方向にローリングして打撃を逃れた。攻撃を外した敵は、目だけで彼女を顧た。
「お返しです!」
 至近距離で炎が炸裂し、怪翼の視界は真っ赤な炎で埋められた。数秒も経たぬうちに全身を灼熱が取り囲み、焦がしていく。
「不意打ちを警戒しておいて正解でしたね」
 ふふん、と瑠菜は得意気な笑みを見せた。
 怪翼の数は減り、戦況は間違いなく猟兵へと傾いていた。
 それを快く思わない怪翼の一体が、空で歯を軋ませた。

●己を呪う

「何だ、あれ」
 上空を見つめていた輝彦が独りごちた。声が聞こえた猟兵たちも、彼に続いて顔を上げる。
 白の多い空に、怪翼がぽつんと居座っていた。十メートルは地面から離れているだろうか。
 怪翼はぐねぐねと身をよじらせ、子どもの声で叫喚した。あの負荷を伴った身体強化だ。目から血を流す様子が地上からでもよくわかった。
 しかし、怪翼の儀式はまだ終わりではなかった。再びけたたましい音を発すると、表面に闇が絡みついた鎖が、怪翼の全身に巻かれていった。鎖は怪翼を締めつけ、肉体に負荷をもたらしている。が、同時に筋肉が先ほどよりも膨張しているようにも見えた。
 加え、怪翼は吐血した。体内を何かが蝕みはじめた証左であり、また怪翼を取り巻く邪悪なオーラがいっそう濃いものへと変容しはじめた。
「……自分を追い詰めてますね」
 エンはそう連想した。限度まで強化を果たし、こちらを即刻蹂躙するつもりなのか。
 だとするなら、身体強化の早急な妨害が必要だが……と、そこまで考えて現在の状況を見直した彼は、打破する策がないことに気づいた。
 敵は十メートル以上も上の空間に滞空している。地上からあの高さの敵に攻撃を当てられる猟兵は、この場に数少ない。もしそのユーベルコードで攻撃を試みたとしても、ほかの怪翼に阻まれてしまうだろう。
「ちったぁ頭使うじゃねぇか」
 飛来する怪翼たちを処理しながら、曲人はちらりとだけ見た。初動を捉えられる位置から突っこんできたとして、自分でも拘束が間に合うかはわからない。
 こうしている間にも、上空の怪翼はより増強していく。バイク形態のアヌビス号も重力下では飛翔できないし、自分もほかの猟兵に任せるべきか、とエンは悩んだ。そんなエンを、瑠菜がコンコンとノックした。
 なんだろうとエンが顔を向けると、彼女は小声で話した。
「あの、一つ案があるんですが――」

「瑠菜さん、準備完了です」
 合体を解いてバイク形態に戻ったアヌビス号に跨ったエンは、後ろに座る瑠菜に呼びかけた。
「お願いします」
 返答を聞いたエンはアクセルを捻った。宇宙バイクのエンジン音が森に響き渡る。加速しながら、敵を突き抜けていく。正面には曲人の姿があった。瑠菜は彼に向かって声を張った。
「曲人さん! できるだけ高く武器を振り回してください!」
 目で後方を見やり、突進の意図を掴んだ曲人は、犬歯を見せて笑った。
 邪魔立てしようとする怪翼を打ち払いつつ、進行方向の斜め上へ拷問具を思い切り振り上げた。
 そのとき、アヌビス号は元より備わっている機能により跳躍した。予測される着地点は、空中にある拷問具の上だ。
「ほらよ、跳んでいきな!」
 拷問具を足場として、アヌビス号はもう一段階跳ね上がった。無事に車体が上昇したのを確認したエンは、下方に低空を飛ぶ怪翼たちを見た。
「……瑠菜さん!」
「はい!」
 かけ声に反応し、瑠菜がバイクを蹴って高く跳び上がる。これで三段。
 怪翼は目と鼻の先だ。
「残念でしたね」
 手の平を突き出すと、噴出した炎が怪翼の翼を燃やし尽くした。滞空する手段を失った怪翼は、重力に従って落下する。反撃を受けないうちに、瑠菜は敵から離れていくように調整して落下していく。
 先に地面へ降り立っていたエンが彼女の降下を見守る。彼女は背から翼を生やすと、ホバリングしながらゆっくりと地面へ降り立った。落下地点で受け止める必要もあるかと思ったが、杞憂に終わったらしい。
 一方、怪翼はなすすべもなく地面へと落ちていく。隙だらけの敵を見て、輝彦は土を蹴った。
「後は任せてもらおうか。……これしかできないんでね」
 ほぼ自爆特攻のような攻撃を繰り返した彼は、それ相応に傷を負っていた。しかし、最近戦場に配置された初老の人間に、新しく何か特殊技術を覚えろというのも酷な話だ。ならば、確実にできることをやる方がまだ役に立つだろう、というのが彼自身の理屈だった。
 輝彦は落下してくる怪翼に合わせて跳び、アサルトウェポンを射撃しようとした。
 しかし、強化された怪翼は反射能力にも長けていた。怪翼は突き出された銃を躱すと、勢いのまま翼を輝彦に直撃させた。ユーベルコードが重ねがけされた一撃に、輝彦の体は大きく後方へ弾き飛ばされた。怪翼は手応えを感じ、血を歯から垂らしてにたりと嘲笑した。
 半透明な数発の弾丸が怪翼の背に命中したのは、その直後だった。前のめりに倒れながら、怪翼は背後を見た。
 人型が一体、アサルトウェポンのような機械を構えて立っていた。半透明な彼は追撃としてもう一発、怪翼の背に弾丸を放つ。無機質だが、そこには一握りほどの生命感を漂わせていた。
 使用者が瀕死にならねば出現しない『戦場の亡霊』だ。銃を杖代わりにして起き上がった輝彦は、怪翼に同情するように語りかけた。
「……こっちとしても痛いしキツいし、俺も好きじゃないぜ、そいつ」
 すぐに得物を持ち直し、照準を怪翼の頭部に定める。そして、彼は間も置かずに額から後頭へと撃ち抜いた。頭に弾丸を受けた怪翼は、ついに微動だにしなくなった。
 よろけて地面に腰を下ろした輝彦は、残る怪翼の群れを睨んだ。
「厄介者は退治できたが、まだいらっしゃるのかよ」
 この戦闘じゃ、あとどのくらい加勢できることやら。
 そんなふうに考えながら、輝彦は敵群へと疾駆する猟兵たちを眺めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

雛菊・ひばり
やっぱりあの時聞いた「声」は…
もういいです。只々不快なのでそれ以上喚くんじゃねーです。

【戦闘】
・儔を使用。すっと自身の背後から現れた漆黒の鳥型UDCが敵を攻撃する。
・事前調査で行方不明の子供がどうなったかある程度察しはついており、恐怖よりも諦観と怒りを覚えているため、断末魔模倣を使う個体を優先的に攻撃。

子供の肉は美味しかったです?それじゃ次はお前が喰われる番ですよ。


アルエット・ブラン
【SPD】
「ん、敵は……殺さないと……。」

ん、鳥人間?が相手…だけど、弱ってる?
……油断、しない。
他の猟兵さんの動きに注意、連携するね?
特に翼を狙うね? 使う技は【告死の糸・線】。
素早く、的確に狙う……援護と連携が目的だけど……。
もし、変な動きを感じたら、外套を脱いで加速する……。

「捕まえた……。」
糸が敵に絡まれば、引き摺り倒したりしても良いかも……?


ん、後は…動きやすい場所で足場に注意して戦うね。
邪神は殺さないと、ダメ……そう教わったから、殺すね。


空廼・柩
やあ、苦戦しているっぽいね
一応加勢に来た心算だけれど…戦力は必要?
眼鏡を外し、棺型の拷問具を抱えては
ひらり手を振りつつ視線は怪翼へ
…はあ、それにしても煩いな
化物の分際で人の、子どもの声で囀るな
――さあ、裁きの時間だ

攻撃には【咎力封じ】を使用
強化したこいつ等の攻撃をまともに喰らうのはまずい
数が多い分、少しでも此方の損害を減らさないと

共に戦う者在れば攻撃の隙を埋める、死角を補う等の連携を試みよう
敵の攻撃は【見切り】で回避するなり
拷問具で【武器受け】するなり直撃は極力避ける
防御した後に【カウンター】も狙ってみるのも手か

撃破完了したら傷の深い者に応急処置を行おう
…次の戦の途中、倒れられたりしたら嫌だし



●不快音の殲滅

 怪翼の鳴き声が森に反響する。戦闘を開始してから総量は減っているものの、煩わしさは変わることはない。悲痛な声で、彼らは興奮を表現していた。
 やっぱり、あのとき聞いた『声』は――。
 一抹の望みすらも粉々に打ち砕く喚声を、雛菊・ひばり(人間のUDCエージェント・f05236)は苛立ちを覚えながら聞いていた。行方不明の子どもがどうなったかについては情報収集の段階で察していたが、できれば何かの思い過ごしであってほしかったのが本当のところだ。
 悶々と感情をくすぶらせていると、ひばりは後方から二人の猟兵の足音を感じ取った。
「ん、敵は……殺さないと……」
 全身を黒の外套ですっぽりと覆っているアルエット・ブラン(人狼の人形遣い・f03968)が正面を見やった。敵はあと僅かで、残った個体も疲弊して弱っているようだ。だが、油断するわけにはいかない。
 眺めているうちに、きゃあきゃあと怪翼たちは敵の増援に対して喚きだした。
 アルエットの隣あたりに立つ長身の男が、それに反応して顔を上げる。ダンピール特有の色白い顔から野暮ったい眼鏡を外し、左目の本来の黒と右目の青き『彩』が露わになる。標的の姿を確認したところで、彼は棺のような形状をした拷問具を抱えた。
「加勢しに来たはいいものの……しかし、うるさいな」
 はぁ、と空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は愚痴っぽくため息をついた。大群に手こずっているという一報を聞き、お人好しな性格を隠せない彼は即座に駆けつけた。見たところ、あと一押しで突破できるだろう。
 またしても、怪翼たちは沸き立ちはじめる。揃った歯の隙間から脳を刺すような音を発している。空気を震わせながら、耳にした猟兵を硬直させてしまう。苦しみ喘ぐ声が、純粋無垢な子どもの最期を連想させるのだ。
 ひばりに内在する苛立ちがいっそう強くなる。会敵時から抱えていたこの情感は、時間の経過とともに明確に増幅している。
「もういいです」
 これ以上は理性的に処理できないし、思えば端からそうする必要もなかったのだ。ぶっきらぼうに言葉を吐き出した彼女は、断末魔を模倣する怪翼へ向いた。
「ただただ不快なので、それ以上喚くんじゃねーです」
 怪翼が騒ぎ出す。叫びによって動きを封じようとする魂胆らしい。
 しかし、吹っ切れ、諦観と怒りに身を包んだひばりに、最早怪翼の絶叫は届かなかった。
 胸糞悪い話を頭で再生し続けていても、今更犠牲者は蘇らない。ならば、二度と声を聞かないようにとっとと片付けてしまおう。
 ひばりは上着のポケットに手を突っこんだまま、怪翼たちを睨みつけた。鋭い敵意の表れだった。
「吾心啄ばみ貌(かたち)を成しやがれ、です」
 彼女の背後から、音もなく一体の鳥類のような影が現れる。風を切ってまっすぐに、喚き散らす怪翼へと向かっていく。
 ひばり自身を壁とする、真正面からの不意打ちという奇妙な構図。隙を与えぬまま、彼女に寄り添う漆黒の鳥は怪翼の胸をかぎ爪で引き裂いた。繰り返して怪翼が喚きはじめたので、そのまま頭部へと狙いを移し、より深い傷を与えていく。
 仲間の危機を見かねた別の個体が大きくぐるりと飛び回り、背後からひばりへと襲いかかる。ぽたぽたと血を流した頬を緩ませ、まだ攻撃に気づいていない彼女を怪翼は嘲笑った。邪神の加護を得て強化された蹴りが、彼女の頭目がけて飛来する。
 が、それは棺によって阻まれた。はっとなって、ひばりは背後に目をやった。
「俺もあんたと同意見だ。聞くに堪えないな、これは」
 柩が間に割って入り、攻撃を受け止めている。彼は自身の武器で攻撃の威力を殺すと、タイミングを見計らって棺の反対側から殴り、怪翼を押し返した。怪翼は戸惑いながらも、柩を硬直させようとして大きく口を開けた。
 ちょうどその瞬間、柩の手から猿轡が放たれた。猿轡はすっぽりと怪翼の口にはまり、抜けなくなった。外そうと引っ張って見せるが、しばらくは取れそうにない。
「化物の分際で人の……いや、子どもの声で囀るな」
 先ほどの感情面の理由に加え、敵が自身を強化する技を持っている以上は、多少なり攻撃能力を制限するべきと柩は考え、それを行動に反映した。ちらほらと、ユーベルコードの負荷を背負っている個体をまだ見かける。ああいう奴らの攻撃をまともに受けていては身が持たないし、未だ数で有利を取られている。そのため、こちらの損害を減らす必要があった。
 拘束をより強固にしようと、柩は手枷を構えた。
 突然、猿轡にもがいていた個体が空中で無数の切り傷を受け、体から血を吹いた。傷の多くは翼に発生し、即座に飛行能力を失わせるように正確に切られていた。体に受けたものも致命傷だったのか、怪翼は頭から地面に激突し、そのまま動かなくなった。
 ヒュッという何かを巻き上げるような音を柩は聞いた。音を追いかけてみると、アルエットの姿があった。
「邪神は殺さないと、ダメ……そう教わったから、殺すね」
 声や表情を変えず、彼女は次の得物へと取りかかった。素早く、的確に。戦いの基礎的な心得を慢心なく辿る。
 ひばりが対峙している個体に狙いを定めると、アルエットは右の指先から斬糸を放つ。血のように紅く、目に見えぬほどに細い糸。死を送りこむ動脈が、怪翼に向かって伸びていく。斬糸は翼を貫き、怪翼を固定した。
「群れはそっちだけじゃねーです」
「休む暇も与えんよ」
 慌てふためく怪翼へ、夜色の鳥は容赦なく腹に嘴を突き立てる。ぐらついた怪翼は、柩が自身の棺へと叩きこんだ。棺の中で暴れる活力もあったようだが、しばらく置くと棺から血が溢れ、掠れるような声だけがその場に残った。
「さあ、裁きの時間だ」
 意気揚々と、柩は戦場を見返した。
 ほかの猟兵たちの奮闘もあり、敵は着実に数を減らしている。殲滅も時間の問題だ。

●決着

 また一体が墜落し、地上で息を絶った。
「あとは、テメーだけですよ」
 ひばりの目線の先には、一体のみになった怪翼が滞空している。対する猟兵の数は、それを上回っている。
 怪翼は周囲を見渡した。もう上空にも低空にも、味方は飛翔していない。ただ空虚な風景があるばかりだ。怪翼は、きぃと鳴いた。
 直後、怪翼は翼を激しく羽ばたかせはじめた。薄汚れた羽が辺りに散らばり、だんだんと視界は羽に埋め尽くされていく。新たな種類の攻撃か、と一同は身構える。
 そんな中、柩がぽつりと零した。
「まさか、逃げるつもりか?」
 ご名答、と返事するかのようだった。自身がばら撒いた羽の中を突っ切って、怪翼はこれから猟兵が行く方面へと飛び去っていった。確かに、絶望的な状況下ならこの選択肢も敵にとってはあり得るだろう。
 だが、一体でも生かしておけば、今後この地域にどんな悪影響を及ぼすかは計り知れない。たとえ邪神を駆逐したとしても、それでは真に平和をもたらしたとはいえないはずだ。
「逃がさねーです……!」
 語気に感情を込めながら、ひばりは再度鳥型UDCを放った。後をつけるように飛行して追跡する。
 しかし、追いつけない。それなりの速度を伴った飛行であると知り、ひばりは静かに舌打ちした。低空での飛行は解いていないが、それでも怪翼は徐々に高度を上げつつあった。
 このままでは逃げ切られる――。
 そう苦悩するひばりに応えるように、アルエットが走り抜けていった。
 目で怪翼を捉え続けながら、外套のボタンに手を掛ける。ばっと、暗色のレオタードタイプのインナーが露わになる。
 身軽になり、走るスピードは上がる。すぐそこに怪翼の背が見えてきた。踏み切り線を適当につけ、大きく跳躍。武器の封印を解き、自身の血液から斬糸を放つ。それは空中で無数に分裂し、怪翼の翼に絡みついた。
 圧迫するような悲鳴が響いた。
「捕まえた……」
 アルエットは思い切り糸を引っ張った。空中で抵抗する怪翼から、だらだらと血が流れ落ちる。一瞬だけ糸を緩め、またさらに引く。何度か緩急をつけているうちに相手は力を失い、とうとう地べたへと引き倒された。
 かっぽりと開けた目で、怪翼は先ほどまで居たはずの空を眺めた。そこに、アルエットが覗きこむのが見え、何かが近づいてくる足音の後、また彼を覗きこむ者がいた。
「子どもの肉は美味しかったです?」
 ひばりは無感情に尋ねた。元より、返事などは期待していなかった。
「それじゃ、次はお前が喰われる番ですよ」
 かぎ爪が、怪翼の体に突き刺さった。怪翼は胸に鋭い嘴が刺さるのを感じたが、抵抗しなかった。鳥型UDCに啄まれる以外の選択肢など存在していないからだ。

「――さて、終わったね」
 逃げた個体の始末を遠目に眺め、柩は眼鏡をかけ直した。口調も普段の冴えない研究員らしいものに戻っている。
「じゃあ、傷の深い人は俺が応急処置するよ。誰かいる?」
 が、予想に反して挙手の数は少ない。猟兵のプライドのようなものだろうか。
「遠慮とかなしね。……次の戦いの途中、倒れられたりしたら嫌だし」
 そう付け足して、またちらほらと手が上がる。
 柩自身、傷を軽く治療するくらいの時間はあると見積もっている。あの逃げた怪翼が『桑本』に危機を知らせにいくのを目的としていたのなら、まだ『桑本』は猟兵が迫ってきていることを知らないはずだ。
 最終目標である邪神『牙で喰らう者』へ向けて、万全の準備をするに越したことはない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『牙で喰らうもの』

POW   :    飽き止まぬ無限の暴食
戦闘中に食べた【生物の肉】の量と質に応じて【全身に更なる口が発生し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    貪欲なる顎の新生
自身の身体部位ひとつを【ほぼ巨大な口だけ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    喰らい呑む悪食
対象のユーベルコードを防御すると、それを【咀嚼して】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑17
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●狂信者の最期

 走り続けていると、『桑本』のものと思わしき白の自動車が見えてきた。
 翻って、せり上がった岩山を望む。
 荒れた壁の下方に、人間の手が加わっている洞窟の入口があった。話に聞いていた廃炭鉱だ。内部は暗く、目配せしても先を見ることは叶わない。朽ちかけている材木から、それが放棄されてから何十年と経っているのがわかった。
 罠などに気を配りつつ、猟兵たちは先を進んでいく。しばらくして、道の先にオレンジ色の光が現れた。
 光の源は、ランプによるものだった。どるんどるんとどこかで発電機の音が聞こえるあたり、電力供給は安定しているらしい。ホールのような空間全体を照らし、十分な視界を確保していた。
 空間の中、男の背中が見えた。その奥には、鰐のような頭を持った、二足歩行の怪物が足を畳んで鎮座している。
 猟兵たちは一気に進入し、入口への道を塞ぐ。物音に反応して、男が振り返る。右目下にほくろがある顔がこちらを見た。『桑本』だ。
「……勘弁してくれよ」
 武器を手にした猟兵たちの姿を見て、『桑本』は顔を青くする。猟兵たちは抵抗を警戒したが、予想に反して男は地面へと項垂れた。
「も、もう意味ねぇじゃん。何の、何のためにやってきたのか、これじゃわっかんねぇよ」
 ところどころどもりながら、逆切れに近い感情の爆発を『桑本』は続けた。
「『餌』も大量に買ってさ、でも全然デカくなんねぇから別の化け物も呼んで『餌』狩らせたってのにさ、この仕打ちがこれかよ」
 罪の意識など一片もないようだ。猟兵の一人が飛びかかろうとしたところで、『桑本』の背後に赤い色が現れた。
 いくら感情的になったからとはいえ、彼は邪神を背にすべきではなかった。
「え……?」
 実に哀れな最期だった。唖然とした表情の『桑本』を、邪神は頭部にある大きな口で挟んだ。顎を持ち上げると、何度か男の肉体を噛み砕き、するんと飲みこんだ。
 『桑本』を捕食したことにより、邪神の筋肉は膨張する。筋肉の振動が終わると、口と牙を備えた部分が新たに邪神の体に芽吹いた。
 邪神『牙で喰らうもの』は、食事を終えたばかりの口を猟兵たちへと向ける。鋭く尖った牙の一本から、鮮やかな色をした血液が垂れた。
空廼・柩
あーあ、因果応報とはまさにこの事を言うんだろうな
…でも何だか意外で驚いたよ
あんな屑でも、俺達と同じ色の血が流れてるんだね

回復をされては厄介この上ない
【咎力封じ】で口となり得る部位を封じていく
というより、あんなのに噛み付かれたくない
噛み付かれる位ならば棺型の拷問具を盾にするなりして防御
その侭一発『カウンター』でも喰らわせてやろう
『傷口をえぐる』様に攻撃を与え、ダメージアップを図る
『目立たない』を活用すれば不意もつける可能性があるかな
隙を作る為に拷問具で殴りつける等『気絶攻撃』も考慮に入れる

共に戦う者在れば死角を補う様に動こう
…衰弱した者がいれば庇う位は出来るだろう
――大丈夫、痛みには強い方だから


アルエット・ブラン
【SPD】咎力封じ

「ん、これが本末転倒…なのかな?」

悪い人に同情なんて、しない…いつも通り、無感情で頑張る…
問題はボス、だよね…色々口が出てきて大変だから…まずは封じる、ね…
他の猟兵さんの援護、しつつ…同じように相手を拘束しようとする人が居れば…
うん、位置取り考えて、確実に拘束できるように連携する…

する事は咎力封じ…

「封じる、ね……」
特に口枷が出来るように動くね…
その後は、拘束を継続する、よ…ほかの人の助けになれば、いいなぁ…

「大きな口、危ない…」



●口封じ

 因果応報とは、まさにこのことをいうのだろうか。
 目の前で起こった一幕を見て、あーあ、と茶化すように空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は考えた。
「可哀そう……」
 柩の隣で、アルエット・ブラン(ゆりかごの月・f03968)が言葉を零した。死んだように顔の表情をぴくりとも動かさないまま、けど、と彼女は言葉を繋ぐ。
「あの人は悪い人……悪い人に同情なんて、しない」
 アルエットの瞳はまっすぐに邪神へと定まっていた。そこに、悲惨な死を迎えた男の姿はなかった。
 柩も同様に邪神を眺め見た。ちらりと、邪神の足元に目がいく。
「……でも、何だか意外で驚いたよ」
 硬い土の上には鮮血が付着し、細々と飛び散っていた。
「あんな屑でも、俺たちと同じ色の血が流れているんだね」
 もちろん、皮肉だった。傷を受ければ血を流し、それが全身に及べば死に至る。生物として大きな差異はないはずなのに、なぜ他人を虐殺に巻きこむよな真似をしたのだろう。まぁ、もう罵倒するにも遅すぎる。なにせ、当人は異形の怪物の一部になってしまった。
 頭部の巨大な口を使い、邪神は咆哮した。空気が揺れ、十分すぎるほどの音が鼓膜へと伝わってくる。
 次の瞬間には、こちらを喰らわんとして猟兵たちへと頭から突進していた。振動によって、壁に紐で取り付けられただけのランプがぐらりと揺れた。
 それぞれの臨戦態勢を取り、まずは攻撃を避けようと散開する。その中で、柩とアルエットはアイコンタクトで意思疎通を果たすと、互いに異なる方向へと跳んだ。彼らの手には、複数個の金属具が握られていた。
 直後、二人のいた地点に邪神の頭が突っこんだ。
「悪いが、その口は閉ざしてもらおうか」
 戦闘に突入し、柩の口調に変化が生じる。異形の胴部へと肉薄すると、二又の鎖が付いた金属球を口の一つへと投げ入れた。放りこまれた鉄の球はいくつか牙を砕きながら邪神の口にすっぽりと嵌り、慣性に従って鎖は体の反対へと回った。邪神の体を通り過ぎるようにして柩は鎖同士をぴったり結ぶと、そのまま距離を取った。
「封じる、ね……」
 アルエットも大まかな行動自体は変わらない。跳んだ後、壁を蹴って宙へと飛び出すと、邪神の頭を越えて背中側へと落ちる。落下しながら、口を備えた枝のように分裂して伸びる器官に轡を投げつける。それらの口には球が大きかったのか、轡は口の隙間を完全に埋めてしまい、鎖を結ばすとも使用を不可能にした。
 拘束を噛み砕こうと、それぞれの口に力を込める。牙と金属が擦れる音がするばかりで、ちっとも破壊される気配はない。邪神は激しく足を踏み鳴らした。
「上々だな」
 柩が呟く。攻撃にしても回復にしても口を使うのであれば、最初から手段そのものを封じてしまえばこちらの被害が少なくて済む。咎人殺しのユーベルコードを持つ二人は協力し、その封印に踏み切った。
 金具は尋常でない顎の力を持つ邪神への対策だ。末端部の口であるなら、これでも封じることができるだろう。
 邪神が怒りを露わにする最中、囁くようにしてアルエットの声がした。
「……こっち」
 煩わしい轡を掛けた相手の声。反応した邪神は再び吠え、彼女に向かって我も忘れて突進する。ばっと大口を開き、一飲みで捕食しようとした。
 だが、見え見えの攻撃を受けるほど彼女も鈍足ではない。アルエットが素早く飛び退くと、邪神はまた頭を振るって口を被せようとする。が、これもアルエットには見切られ、横跳びにより回避される。
 いくら攻撃を外そうと、並外れたスタミナによって邪神はアルエットを執拗に追い続けた。この鬼ごっこが続けば、彼女も口と牙の餌食になるかもしれない。
 アルエットは噛みつきを回避し続ける。だが、彼女の視線の移りは何らかのタイミングと位置を計っているようだった。――言い換えるなら、『誘導する』ような動きだった。
 突如として、邪神の顎に痛烈な打突が直撃する。
「よかったよ、あまり賢くはないみたいで」
 懐に飛びこんで棺で殴り上げた柩が、安堵と挑発の混ざった言葉を漏らす。
 邪神の胴部に轡を仕掛けた彼は一旦隠密行動に徹し、機を伺っていた。末端を拘束するのは簡単かもしれないが、最も攻撃に使用している頭の口はそう簡単には狙えない。そのため、アルエットに誘導を頼み、自身は一撃を決めこむのに徹した。
 結果は大成功だ。意識していない方向からの攻撃に対応できず、ぐらりと邪神の体勢が崩れる。ふっと気が遠のきでもしたのか、口は開けたままだった。
 その一瞬、決定的な隙を柩とアルエットは見逃さない。柩は大玉の金属球を持ち出すと、開きっぱなしの頭部の口へ全力で投擲する。それに合わせて、アルエットが地面を蹴って高く垂直に跳び上がった。
 鈍い音と一緒に、邪神の口に金属球が入りこむ。抵抗の暇も与えず、体に跳び乗ったアルエットが鎖を後頭部で括ってしまう。彼女は邪神が暴れ出す前に邪神の体から退き、一跳びで安全圏に降り立った。
 険しい顔つきで、柩は成り行きを見守った。これで封じられてくれれば万々歳だが――。
 邪神は取り付けられた金具をがちゃがちゃと、先が赤に染まった腕で引っ張る。当然、それで外れるものでもない。
 今度は頭全体に血管を浮かべ、重音のみで構成された唸り声を上げた。しばらくして口の中の金属球にヒビが入り、やがてそれは破壊音を伴って砕け散った。
「……さすがにそんなに甘くはないか」
 顎を上にして、邪神は舌の上に残った金具の残骸を飲みこんだ。
「大きな口、危ない……」
 アルエットがぼそりと言う。かなりの数の口を封じることは達成できたが、どうやら桁違いの顎の力を思い知らされることにもなったようだ。
 あの一撃を受けるわけにはいかない。猟兵たちはぐっと身構えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エン・ジャッカル
ついに邪神に対面してしまいましたか…。基さんが手帳に描いた邪神の絵と大差はありませんね。そして、喰らえば喰らうほど成長、でしたか。それは私たち猟兵とて例外ではないでしょうね。となれば接近して攻撃し、喰われる前に離脱と、一撃離脱の戦術を取るのが良さそうです。

その戦術を取るためには機動力が必要不可欠なので、アヌビス号と合体してブースターを多用することにしましょう。

ただ、この戦術は邪神を倒すに至るまでの時間がかかるため、その間に邪神が他の何かを喰らって回復してしまえば無意味となってしまうので、他の仲間の協力が必要ですね。或いはは火力担当を他の仲間に任せて自分が囮になるという手も有り…かもしれません。


煌燥・瑠菜
……因果応報、ということでしょうか……ともかく、このままにはしておけませんね……!

見た感じ接近戦は危険かもしれませんね……殴りかかったらそのまま腕ごと食べられそうです。なので、ここはユーベルコードでの遠距離攻撃に徹します!
狙いは邪神の足下。脚を狙っていると見せかけてウォーターカッターで地面を削り、脚がすっぽりハマるような穴を作って落とします!もちろん、炭鉱が崩れない程度にですけどね?生き埋めにはなりたくないですし。
上手くいったらウォーターカッターと雷撃の合わせ技で一気に攻め立てますよ!

……結局、何のためにこんな事をしたんでしょうね。これでこの村が平和になるなら、いい事なんですけど……



●確実なやり方で

 速度が付与された蹴りが邪神の腹に沈む。邪神は頭部の大口から唾を吐き散らした。腹部の口で即座に反撃しようにも、金属球を食わされた状態では噛みつくことすら叶わない。
 相手を齧りつこうと頭を振るう。しかし、相手は軽々と身体を逸らし、脚を動かさないまま吹き飛ぶように後退した。
 素早く間合いの範囲外へ。邪神を視界に捉えたまま、エン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)はけたたましい振動音の残響を聞いた。
「やはり、これが手堅いですね」
 再度、エンは邪神へと飛びこんでいく。ブースターがフル稼働し、熱を帯びるのがわかる。ぐん、と一瞬で距離を詰め、勢いそのままに頭部を機械の拳で殴り下ろす。衝撃を受けて、邪神の体は後方へひしゃげた。
 アヌビス号との合体で機動力を得て、ヒット・アンド・アウェイの戦法を取る。ダメージを積み重ねつつ、こちらは被害を受けない方法だ。あの大口に挟まれたら無事では済まないのは考えるまでもなかった。
 ただ、この作戦にも懸念点はある。あまりにも時間がかかる上、もしも何らかの肉を喰らって回復されたら振り出しに戻されてしまう。
 だが、エンも一人で戦っているわけではない。邪神の攻撃を急発進によって躱すと、エンは横方向へと転がった。エンの体によって陰になっていた光景が、そのときはじめて現れた。
 空間の天井まで、水柱が立ち上る。間欠泉のように噴き上がるそれは、轟音――先ほどまでブースターの稼働音でかき消されていたらしい――を吐きながら、飛沫を飛ばした。
 飛沫は空中で平らな円に変化する。その円の縁は、鋭い刃を伴っていた。手裏剣に似た水の刃は、きらりとランプの光を反射する。光の数から、邪神は空中に幾多もの水の刃が創生されているのを知った。
「ビックリしました?」
 水柱の脇に立つ煌燥・瑠菜(続き綴る御噺の欠片・f02583)は、邪神に笑いかけた。彼女が開いた口を結ぶのと、創り出したウォーターカッターが向かっていくのはほぼ同時だった。
 事件を起こした『桑本』の動機を訝しむ彼女だったが、とにかく今は目の前の脅威を取り除くしかない。近接攻撃は危険と判断して遠距離からの攻撃に徹することにした彼女は、準備が整うまでエンにカバーを頼んでいた。
 邪神にとって、刃は突然飛来したも同然だ。準備が整うまでエンによって隠されていた攻撃を対処する策があるはずもない。輝きを伴って、ウォーターカッターが降り注ぐ。体を狙わず、脚を集中攻撃するような軌道でいくつもが迫った。
 しかし、あまりにも狙いを下方に定めすぎたのか、ほとんどは地面に命中してしまう。円状の刃が地を抉り、線のような跡を残して溶けていく。なかにはかなり鋭い入射角で地面を潜っていくものもあった。邪神の脚に当たったものとて、さほど大きな傷を与えてはいない。
 邪神は膝を折って低く構える。残りの攻撃を『喰らって』しまおうという魂胆の表れだ。がばりと口を開き、一歩、前へと踏みこんだ。巨躯の体重がその足に乗り、地面に負荷をかけた。
 ばきっという砕ける音が、邪神の足元で鳴った。音は連鎖するように次々と発生し、廃炭鉱の中を埋め尽くす。猟兵による攻撃だと考えた邪神は、右へ左へと頭を振って注意を払うが、その警戒も虚しく無意味に終わる。
 微かな揺れ。それが自分の真下だと知覚したときには、もう遅かった。大きな音を立てて、邪神の立つ地面が崩落する。ちょうど邪神を飲みこむように穴が開いたのだ。平衡を失って、邪神は穴へ落ちる。人間でいう腰から上の部位だけが地上に露出し、それより下は完全に埋まってしまった。
 脱出を試みようと、脚を動かす。けれども、砕けた岩や礫が足の上に積み重なり、自由を奪っていた。
「地面に食べられちゃいましたね」
 瑠菜のウォーターカッターの目標は、最初から地面だった。威力を控え目にしたのもそのためだ。地形を攻撃する力が強すぎるとこの炭鉱ごと崩落させかねない。
 だから、全力はここからだ。
 力を込めると、バチバチと火花を発する光が手の平で巻き起こる。魔法で創り出した、握れるようなサイズの雷撃だ。
 雷を纏ったままの手を水柱にかざす。渦潮のように雷の粒は吸いこまれる。次第に水柱を帯が取り囲み、飛沫にも雷が籠った。
「精霊魔法って、こんな合わせ技も出来るんですよ!」
 飛沫は雷撃を纏ったウォーターカッターへと変わる。その変化を得意気に見届けると、瑠菜はちらりとエンに目配せした。
「エンさんも、ぶちかましちゃってください!」
「……はい!」
 頷くと、ブースターが激しく唸る音を残して彼は走り出した。
「さぁ、『とっておき』を受け取ってください!」
 途切れることなく、瑠菜のウォーターカッターが向かっていく。今度は体を狙う軌道だ。またしても邪神は口を開き、攻撃を喰らおうとする。だが、雷による痺れがそれを許さず、中断させる。対処できぬまま、降り来る刃を身に受けるしかなかった。物理的な負傷と内臓へのダメージが、邪神の体力を奪う。
 一度水の刃が止んだところで、邪神に影が被さった。ふと、邪神は頭を向けた。
 エン・ジャッカルだ。加速をつけて跳ね上がっていた彼は、空中でもう一度ブースターを吹かす。方向を邪神の頭に定め、瞬間発進。一連の行動は、著しいまでの速度を携えた跳び蹴りを意味していた。
 金属に覆われた足が、邪神の頭に食いこんだ。その超速に、回避など間に合うはずもなかった。
 埋まっていた下半身がすっぽ抜ける。それほどの衝撃だった。一瞬だけ体が宙に浮かび、邪神は地面に倒れた。時間を置いて、邪神はふらふらと膝を立て、大きな頭を持ち上げた。岩に押し潰されているところに強い衝撃を受けたからだろうか、脚には激しい負傷がある。接近して行う攻撃など、自分が動く必要のある立ち回りをある程度封じたかもしれない。
 依然、緊迫は続きそうだ。しかし、猟兵たちは確実に邪神を追い詰めつつあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

塩崎・曲人
マジで何がしたかったのかわからんなアイツ
お陰様で行方不明事件の報復が出来なくなっちまった
だがまぁ、これでやることはあと一個だけだな

「分かりやすくて結構!ドつき合いと行こうじゃねぇか!」
【喧嘩殺法】で近接格闘戦を仕掛ける
懐に飛び込んで殴る蹴る、野蛮で原始的な方法こそどんなときでも有効ってな
大雑把に四肢はあるが、本質的に不定形の敵だということだけは頭に入れ
不意の変化で奇襲されないよう注意はする
「現世へようこそ邪神君!パスポートはお持ちですかぁ!?」
「無ぇってんなら……不法入国と殺人の現行犯でお仕置きの時間だぜ!」

その他、可能なら仲間と連携し戦う


雛菊・ひばり
桑本ってヤローには言いたい事が色々ありましたけど、こうなってはもうどうしようもねーです。もう後は粛々と仕事をするだけ、です。

後方から【儔】メインで攻撃。
敵は厄介な技を持っているので、身軽さを活かしてなるべく防御されにくい死角から攻撃を加えてやるです

それと味方がガブリとやられちまうとめんどくせー事になるです。
常に前線には注意を向けて、危なそうであれば、すかさず鳥でちょっかいをかけて敵の邪魔をしてやるですよ。

戦闘後はすぐに今回の事件の背後関係を洗いに調査に出発ですよ。
自分の見えない所で起きた事件なら正直どうでもいいですが、一度関わってしまった以上、全力でこの理不尽をぶっ潰さないと気がすまねーです。


空廼・柩
全く、邪神って何でこうもしぶといのさ
ただあの凶悪な口が、ある程度封じられたのは僥倖だった
ならば俺も、少し覚悟を決めないと
――ごめん、ちょっと無理をする
何かあったら殴り倒して

真の姿の解放と共に【霄化】で己の肉体を強化
膨れ上がる身は巨大で歪な狼男へと姿を変える
灰の毛皮を飲み込む様な空の色
かつて焦がれた、化け物の彩を纏って敵と対峙
寿命が、理性が削れる感覚にぐっと耐えて
時間が惜しい、全力で行く

噛まれようが構うものか
頼るはこの身のみ
ただ只管に生じた口を爪で切り裂き、力任せに引き千切り、握り潰す
まさに化物VS化物
咆哮を上げ、己を奮い立たせながら狂った様に暴れ続ける
…さて、先に潰れるのは果たしてどちらかな?



●熱と青

 脚を引きずる邪神の頭を、横殴りの打撃が襲った。
「現世へようこそ邪神くん! パスポートはお持ちですかぁ!?」
 塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は犬歯を剥いて笑うと、手にしたショベルを肩に担ぎ直す。ショベルは炭鉱内の瓦礫の山から見繕ってきたものだが、なかなかどうして使い勝手がいい。
「無ぇってんなら……不法入国と殺人の現行犯でお仕置きの時間だぜ!」
 乱雑に言い放って、地を蹴って空中から得物を振り下ろす。ショベルの刃が肉に突き刺さり、邪神は異様な鳴き声を発した。
「こんなもんかよ邪神くん! もっと正面からド突き合おうぜ!」
 刺突、ハイキック、横薙ぎの連続殴打と入れられるだけの攻撃を次々と決めてゆく。邪神が満足な移動を封じられているのをいいことに、間合いは詰め切ったままだ。
 途中、邪神は片腕を振り上げた。指が引っ込み、筒状の捕食器官に変わる。
 まるで判子を押すように、曲人を喰らわんとして腕が迫った。
「ガブリとはいかせねーです」
 一羽の影が邪神の腕に飛来し、通り際に鋭利な爪で肉を引っ掻く。痛みに耐えかねた邪神は暴れるように腕を振り回した。
  手応えを感じた雛菊・ひばり(人間のUDCエージェント・f05236)は、鳥を旋回させて再び邪神へと向かわせる。
 曲人を意識している正面を避け、今度は背後から。肩に爪を引っ掛けると、飛行時の勢いを載せてジッパーを開くように先端までを引き裂いた。
 休む間もなく、だらんと垂れ下がった筒状の口に二又鎖の付いた金属球が投げ込まれる。太い牙同士に挟まるようにして光沢ある球が収まり、口封じを行った。
「全く、邪神は何でこうもしぶといんだか……」
 呆れたように空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は愚痴った。序盤で放った轡がまだ効果を持って口を閉ざさせているのは幸いだ。しかし、次々と口をつくられてはそれも無意味になってしまう。
「メシ喰って太ったから、とかじゃねぇの?」
 心なく放った柩の言葉に曲人が返す。あ、そういや、と言いながら、彼はショベルを縦に持つ。
「テメェ、一番デカい罪があったなぁ。邪神名義で命をかっ喰らった暴食の大罪が!」
 行方不明事件の被害者の亡骸すらも与えたと『桑本』は語っていた。
 復讐代行人として『桑本』に報復することはもうできない。それならば、『桑本』の閻魔帳に書かれた罪すらも目の前の敵に担ってもらわねば釣り合いが取れない。
「……アイツに償ってもらわねーと、私の気が済まねーのは確か、です」
 曲人に似たような思いをひばりも持っている。積もり積もった『桑本』への鬱憤をぶつけるには、もう目の前の敵しか残っていない。家族が消え去る痛みは、これでもよく知っている。本人に聞かせたかった言葉を飲み込んで、動力へと変換する。
 自分の知覚しない範囲の事件なら、ひばりはどうでもいいと考えている。しかし、一度でも関わりを持ってしまった以上、理不尽な力を叩きのめさずにはいられない。この事件の背後関係をすぐにでも調べに行きたいが、そのためにはまず、この敵を片さなければ。
「今はぶっ潰すだけ、です」
「それに賛成するぜ」
 大きくショベルを振りかぶり、曲人は邪神へと走る。それを思い切り、崩れるような勢いで邪神の頭に打ち付けた。邪神の頭には縦線の傷が刻まれるが、曲人は止まらずに連撃へと移る。
 ときを同じくして、ひばりも鳥を操作して邪神の頭上を陣取る。降下による高速接近を何度も繰り返し、皮膚に傷を重ねさせる。じわりじわりと、増えた傷口から体液が零れ出る。
 曲人とひばりの怒涛の攻撃に、柩は息を飲んだ。憤りやそれに類する感情が、目の前の邪悪の存在を許していないのだ。そして、元の性格から共感できる部分がそこにはあった。
 また、ここで押し切ってしまえるならそうすべきだとも彼は考えた。猟兵有利な戦局にあるとはいえ、肉体変化の奇襲によって形勢逆転される可能性はゼロではない。
 感化されつつもあった柩は、決意を固めた。
「ならば、俺も少し無理をしようか」
 静かに体の力を抜くと、次の瞬間には柩の肉体は膨れ上がっていた。獣の体がだんだんと形づくられ、硬く波打った毛が肌の表面に現れる。毛は広々とした快晴の空を再現するかのような色であり、変化前の灰に身を包んだような姿を塗り返していた。その青は、かつて飲まれて得た怪物の彩りを、全身に移したものだった。
 武器を振り回しながらもほくそ笑む曲人、一瞬呆気に取られるひばりをよそに、巨大な狼男――『真の姿』に変貌した柩は、邪神に歩み寄った。
 じりじりと、心の奥で痛みが焦げつく。命と理性が時とともに削られてゆく。時間が惜しいと切に思った。
 爪を立て、邪神へと突っこむ。深々と爪が相手に突き刺さったのを感じると、そのまま大きく動かした。極太い五本筋が、邪神の体に残った。
 素早い柩の動きに邪神は対応できないまま、無防備に隙を晒し続ける。そこを突いて爪を何度も繰り返し振るい、傷を体の至るところに負わせてゆく。柩の爪先には多量の邪神の体液が付着し、数滴が雫となって地面に染みた。
 邪神の叫びが炭鉱にこだまする。とうとう死に物狂いになった邪神は、原型を保った片腕で柩を掴むと、がばりと口が開いた。腕を振りほどこうにも、かなり強い力が込められており、逃がすつもりはないようだった。
 しかし、体の固定は柩には好機だった。先ほどの叫びを掻き消すような重低音で咆哮し、敵の体の中心を強引に切り裂く。
「オレ様を忘れてもらっちゃ困るぜ?」
 快活な声が割って入ったのはそのときだった。
 曲人の脚への打突とひばりが操る鳥型UDCからの頭への蹴りが折り重なったのだ。
「餌食になりやがれ、ですよ」
 静かな声を遠くに聞きながら、三点に一度に攻撃を受けた邪神は体勢を崩す。
 そこへ、狼の両の爪が突き立てられた。腹に突き立てられた爪はそれぞれ逆方向に力が働く。
 すべてを薙ぐかのような一撃だった。咆哮とともに、柩は邪神の体を二分した。
 断末魔が発せられる。やがてそれが止む頃には、邪神は紫色の煙になって、その煙もすぐに外気に混ざって無くなってしまった。

●平穏へと帰る日

 廃炭鉱を出ると、すっかり昼になっていた。
 一旦喰われてしまったものが元に戻ることはない。けれど、これ以上が喰われてしまうこともない。脅威は取り払った。あとはこの村の住民に任せておけば、失われた平穏は戻ってくるだろう。
 人知れず、猟兵たちはグリモアベースへと帰還した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月30日


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#UDCアース


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト