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帝竜戦役⑬〜淘汰/帝竜ベルセルクドラゴン強襲戦

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #帝竜 #ベルセルクドラゴン #群竜大陸


「各地からの報告を聞けば戦況は明白だ猟兵の進軍は恐るべき速さであるがあくまでも想定のルートに沿ったものであり後背から奇襲などはありえずまた水面下で工作を進めていようともヴァルギリオス様の防護結界がある限り我らの急所に攻め入ることは決してできない。加えて考察するならば彼らの世界移動にも何らかの制限があり望む場所すべてを出口とすることはできないのだろう各所に配した帝竜たちを直接攻撃出来ていない現状を見ればその事実は自明の事柄であるであれば隣接区域から襲撃報告が上がってきているこの終焉の地こそが次なる目的地であると推測される。今生の目的を定めた吾にとってこの邂逅は歓ぶべきものであり彼らの亡骸を積み上げることで審理の解明への一助とするものだろう!」


「ぜえぜえ……、ええと、グリモアからの情報はちゃんと伝わってる?」
 息を荒く喘がせて、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)が猟兵たちに問い掛けた。
 どうやら彼は次なる帝竜の情報収集でかなりの体力を消耗しているらしい。曰く、未整頓のくせに高密度な情報で頭をぶん殴られた気分、だとか。

「個体名、『ベルセルクドラゴン』は、かつて群竜大陸を支配していた『古竜』たちを絶滅させたという強力な帝竜だ。強靭な肉体だけでなく、高い学習能力を併せ持ったヴァルギリオスの腹心でもあるらしい」
 コップに入った水をゴクリ。グリモア猟兵は呼吸を整えてゆっくりと敵の情報を猟兵たちに伝えていく。
 ここに来て現れた『最強』と呼ばれる帝竜。その闘法はシンプルにして苛烈。特殊能力や眷属の召喚、あるいは超サイズといった搦め手を投げ捨てて、ひたすらに近接戦闘に特化しているスタイルだ。

「身体機能に反射速度、そのどちらもが桁外れ。接敵すれば先手を取るのは間違いなく向こうの方だ。戦場に向かう前に先制攻撃への対策を考えておいて欲しい」
 おそらく敵の射程外から遠距離攻撃を仕掛けようとした場合でも、帝竜はなんらかの形で先制攻撃を仕掛けてくるだろう。そういった無茶を押し通すだけのパワーをベルセルクドラゴンは持っている。
 戦場へのゲートを開いた伏籠は、今まで以上に厳しい表情になりつつも、激励と共に仲間たちを送り出した。

「予知を介しても伝わってきた、異常なまでの学習能力。あのドラゴンを放置することは絶対にできない。危険な戦いになる。気を付けてくれ、イェーガー!」


灰色梟
 こんにちは、灰色梟です。帝竜戦、三本目のシナリオとなります。
 本シナリオでは下記のプレイングボーナスが適用されますので、まずはご確認ください。

●プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』
 (敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)

 畳み掛けるような台詞の連打に時空を超えてダイレクトアタックを受けた気分です。
 是非とも皆さんで彼のおしゃべりを黙らせてやってください。
 それではプレイングをお待ちしています。一緒に頑張りましょう。
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第1章 ボス戦 『帝竜ベルセルクドラゴン』

POW   :    ベルセルク・プレデター
【特定の1体に対する『殺意』】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    ベルセルク・グラップラー
【翼を巨大な腕として使う】事で【四腕格闘形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    ベルセルク・レイジ
全身を【狂える竜のオーラ】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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ジル・クリスティ
「だからどうして帝竜はどいつもこいつもさらに大きくなろうとするんだよ…」
ちっとはサイズ差ってものを考えてもらいたいと私は思う

遠距離からの狙撃も察知されるって…2500メートル先から狙撃もダメかぁ

なら、この小さな的は狙いにくいことに期待して、とにかくギリギリを見切って回避に専念するしかないよね
鎧装を最大出力の高機動モードで全速回避
とにかく動き続けて、攻撃を掻い潜って、懐に近付いたらロングレンジライフルモードチェンジ
最大出力で【Hyper Mega Buster】全力零距離砲撃ねらってやるっ
小さいからって甘く見ないでよっ!

全力全開でぶち当てたらまた全力回避―っ!
少しでもかすったら私ピンチだからねっ


伊美砂・アクアノート
【SPD 羅漢銭・須臾打】
あ゛あ゛あ゛っ、もうっ! シンプルに面倒なのだわー!? 相手の自己強化はどうやっても防げないので、殴られる役として前線へ。ぶっちゃけアタシは戦士とか騎士では無いんで攻撃を受け止められる気はしないが、回避型の盾として前線でちょこまかと『地形の利用、見切り、第六感、時間稼ぎ』で動き回って攻撃を誘引しますわね。
攻撃は、有効打というより『気を引く』コトに徹します。コインを投げ、グレネードを起爆し、ロープダートを振り回して嫌がらせ気味に攻撃。隙があったら、『スナイパー、投擲、早業、援護射撃』で相手の目をコインで射抜く、くらいは狙ってみるのさ…。…畜生めッ! 火力が欲しい…!


ナハト・ダァト
全ク、落ち着いテ話せ無イかナ
それガ不可能デあルかラ、ベルセルクと謂レなノだろうガ…

対処法
無限光を利用した発光による目潰し
更に光の点滅を利用した催眠術で、過興奮状態を齎し、時間経過を錯覚させる

催眠術と目潰しはドーピングで強化
瞳から筋肉の動きを捉えて攻撃を躱し
代償の疲労が訪れるまで目潰しを続ける

迷彩による残像を幾体も作り
目潰し後の視界に黒い物体を映す事でより強い催眠状態を効果的に与える

傷を負った場合は早業による医術で応急処置
継戦能力によって催眠が完了するまで続ける

疲労で動きが鈍った隙を狙い、
カウンターの先制攻撃

液化した触手を武器改造で刃に変えて攻撃

やハり狂戦士…
自傷ハお手ノ物だっタ、
といウ事だネ



「猟兵という存在に言及するのであればその多様性に触れざるを得ない彼らは通常であれば共存し得ない種族同士であっても行動を共にしときには友情あるいは愛情といった感情を獲得しているように見受けられる。あるいは世界を渡るという特殊な存在になった時点で彼らは元来の種族から逸脱して猟兵という新たな種族に変質している可能性もあるだがたとえそうであっても種族間のしがらみがすべて解決するなどということはありえないだろう彼らが如何にして多種族コミュニティを形成しているのかは非常に興味深い研究対象といえる」

「あ˝あ˝あ˝っ、もうっ! シンプルに面倒なのだわー!?」
 風に運ばれてきた畳み掛けるような独り言に伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)は思わず頭を抱え込んだ。
 今、彼女たちが潜んでいるのは、帝竜の領域『終焉の地ベルセルク』の端っこに位置する岩場だ。ここならまだ攻略対象からかなりの距離があるというのに、荒野に反響するベルセルクドラゴンの言葉は猟兵たちの耳にまでしっかりと届いていた。
 アクアノートとて多重人格者、思考の並列は慣れたものなのだが、こうも大声で休みなく台詞を続けられては流石に嫌気がさしてくる。さっさとあのオシャベリ・ドラゴンを黙れせてやりたい気分だ。

「全ク、落ち着いテ話せ無イかナ」
 どうやらアクアノートと同じ岩場に潜むナハト・ダァト(聖泥・f01760)も同意見らしい。彼の瞳に揺れる光も心なしか辟易とした様子だ。
「まァ、それガ不可能デあルかラ、ベルセルクと謂レなノだろうガ……」
 と、ブラックタールの聖者は困ったように粘性の身体を揺らす。
 ベルセルク、あるいはバーサーカー。その言葉は北欧に伝えられる狂戦士を指す。
 一般的なイメージはともあれ、あの自己完結を繰り返して言葉を止めない様子は、なるほど確かに忘我の狂戦士と言ってもいいかもしれない。――無論、戦闘が始まれば真にその名の如き武勇をも見せるのだろうが。

「うーん、それで結局、アレは何を言ってるのかな?」
 げんなりとした表情でお手上げとばかりに肩を竦めたのはジル・クリスティ(宇宙駆ける白銀の閃光・f26740)だ。
 鎧装を纏ったフェアリーはとっくの昔に帝竜の台詞の切れ目を見失い、滝のような言葉の羅列を右から左に聞き流していた。
 正直、彼女は帝竜の独り言にそこまで興味があるわけでもない。ないのだが、他の二人が(一応は)きちんと聞き取れている様子となってくると、さしもの彼女も多少は気になってくるものである。

「ふム、要約するト『猟兵は色んな種族がいる。不思議』とイったトこロだろうカ」
「で、『色々いる割には仲良くやってるじゃん、なんで』とか考えてるみたいだな」
「なんでって言われても、そんなの気にしたことないなぁ……」
 ナハトとアクアノートの説明にジルは不思議そうに首を傾げる。
 なにせ、今ここに集まっているメンバーだけを見ても、口調がコロコロと変わる多重人格者に、生まれ持った光を溢れ出させるブラックタール、そして宇宙世界の鎧装を装備したフェアリーという混沌っぷりだ。
 それでいて彼女たちは互いに協力し合うことになんら疑問は抱いていない。猟兵として当然のコトなのだが、あの帝竜にとってはそんなにおかしなコトなのだろうか?

「けど、色んな人(?)がいて、それぞれ得意なことが違うっていうのは、良いことだよね?」
「そウだネ。ソれこそガ私たチの持つ可能性ダ」
「あたしたちはあたしたちらしく、あのマッドを掻き回してやりましょう!」


「吾の知覚が優れていることは他の生物と比較すれば明確な事実だ数え切れぬ実戦を経験した吾は不可視の事象でである殺意さえも認識することが可能となっているこの身から発露するものだけでなく敵対者のそれであってもだ。今吾を貫く針のような殺意はまさしく敵の居場所を示しているならば吾は内から滲み出る殺意を力に変えて無謀なる猟兵たちを殺し尽くすのみだ!」
 爬虫類を彷彿とさせるベルセルクドラゴンの紅眼がぎろりと動く。捕食者の衝動に漲ったその視線が射抜いたのは、間違いなく猟兵たちが潜伏する方角だ。
 帝竜の四肢から禍々しい殺意が溢れ出る。膨れ上がったオーラを貪るように、ベルセルクドラゴンの肉体が筋肉を隆起させて一回り巨大に膨れ上がった。
 口元からだらりと垂れる涎。理性を感じさせない凶悪な気配はまさに狂戦士の名に相応しい。
 荒野の中心で帝竜が吼えた。まるで業火の如きプレッシャーが空気を震わせる。
 忘我の形相でベルセルクドラゴンは巨大な翼を拳のように大地に叩きつける。砕けた大地が宙に舞い、その一片を、最強の帝竜は右腕で掴み取った。

「だからどうして帝竜はどいつもこいつもさらに大きくなろうとするんだよ……、っうわぁ!?」
 遥か遠方、岩場から身を乗り出してロングレンジライフルを構えていたジルが悲鳴をあげた。
 視線の向こうで帝竜がぶん投げた瓦礫片。弾丸の如く飛来した岩の塊に、ジルは咄嗟に岩場から離脱する。
 直後、轟音と共に着弾した岩の弾丸が、先刻までジルが隠れていた岩を粉々に破壊した。飛び散った岩片がガラガラとスコールのように小柄な妖精へと降り注ぐ。

「うぅ、2,500mはあるのにダメって、どんな察知能力……、ってまた来た!」
 透明な翼で飛翔するジルを狙い、岩の弾丸が次々と帝竜の手から発射される。恐るべき速度と正確さで飛来する岩片。一発でも直撃すれば間違いなくノックアウトだ。
「しかも、相手の残弾はほとんど無限! こっちは狙いをつけてる暇もないし、とにかく回避に集中するしか!」
 風圧だけでも墜落しそうになる岩の嵐の中をジルはランダム軌道で必死に飛び回る。
 こうなっては長距離射撃は不可能。さしもの帝竜も『小さな的』は狙いにくいことを願うしかない。

「鎧装、最大出力! 高機動モード! ……二人とも、頼んだよ!」
 飛翔速度をさらに引き上げて、鎧装のフェアリーが戦場の空を切る。
 今は忍耐の時。この窮地を切り抜けて必殺の一撃をお見舞いするには、隙を突いて一気に敵の攻撃を掻い潜るしかない。
 そのためには、仲間たちの協力がどうしても必要だった。

「異種族の接触と衝突は自然界における必然のひとつである吾と古龍たちの生存競争もそのひとつだ殊に別種の知的生命体がひとつの領域に存在した場合絶滅による淘汰に至るのは決しておかしなことではない。ではなぜ猟兵たちの多種族コミュニティが成立しているのかオブリビオンという共通の敵があったとしても彼らの生態あるいは生活様式はときに相容れないものが――」
「それハ、あくマでキミの持つ常識の中でノ話だろウ?」
 岩石弾の射線の側面を衝いて、液状のボディを滑らせたナハトが帝竜との距離を詰める。不規則に伸び縮みする彼の粘性の体からは、尽きることない無限光がチカチカと瞬いていた。
 出現した新たな脅威に対してベルセルクドラゴンも即座に対応する。岩石を投擲する二本の腕はそのままに、帝竜は筋肉を隆起させた巨大な翼でナハトに殴りかかってきた。
 人型の固体となったブラックタールに殺意に満ちた巨大な拳が突き刺さる、その直前。ナハトは再び自身の組成を液体に変換し、無限光のフラッシュを浴びせながら自ら四散してみせた。
 弾けた虚空を貫いて空振りする拳。周期的にチラつく光を伴って退避したナハトは、ついでとばかりにモザイク状の残像を幾体も残しながら帝竜の様子を観察する。
 はてさて、並の敵であればこの手で煙に巻けるのだが……。

「おっト、流石ハ帝竜だネ」
 振り抜かれた翼拳が勢いそのままに大地に叩きつけられた。桁外れのパワーで殴られた周囲の大地が砕け散り、奈落へと続くような亀裂がいくつも開く。
 まるで大地震のような衝撃だ。下方から突き上げられた残像たちが一斉に霧散していく。
 ナハト本体も激しい大地の揺れに一瞬とはいえ足(?)を縺れさせる。その隙を逃さず、ベルセルクドラゴンは再び翼爪を振り上げた。

「ええい、こんにゃろう! 今度はアタシの番だ!」
 しかし、暴虐の爪刃がナハトに振り下ろされるよりも早く、帝竜の背後を取ったアクアノートが袖口に忍ばせたコインを放つ。
 羅漢銭・須臾打。流れるようにワンアクションで放たれたコインが瞬時に帝竜の背中に着弾した。
 荒野に連続する打撃音。だが、ベルセルクドラゴンの背部は硬質の竜鱗で覆われている。ほんの僅か、ナハトが回避行動を取る程度の時間は稼げたが、ダメージ自体はほとんど見て取れない。
 帝竜は背後を振り返ることもなく、猛々しい尻尾をスイングさせてアクアノートを打ち払う。まるでハエ叩きのように振るわれた何気ない一撃が、とんでもない威力を持ってアクアノートを襲う。

「っ! ぶっちゃけ、受け止めるとか無理だから!」
 大地を蹴ってバックステップ。慌てて飛び退いたアクアノートの右手には、いつの間にか奇術のようにコンパクトなランチャーが収まっている。
 駄目で元々。彼女は逡巡の間もなくトリガーを引く。単装式のランチャーから撃ち出されたグレネードが迫りくる竜の尻尾に直撃した。
 爆発音が戦場に轟く。着発信管の擲弾が弾け、指向性を持った多数の金属片を帝竜に叩きつけた。

「ぐぅっ! あっぶないなぁ!」
 至近での爆風を受けてアクアノートの身体がバックステップの距離を伸ばす。その目の前ギリギリを、暴風のような尻尾の一撃がすり抜けていった。
 グレネードの一撃をものともしない尻尾の装甲。ちょっとでも回避距離が足りていなければ頭を西瓜のように割られていたところだ。
 捕捉されたら、死ぬ。熱風を受けて自身もダメージを受けつつも、アクアノートはすぐさま付近の岩陰に飛び込んだ。

「うーん、今はなんとか誘引はできていますけど――」
「グオゥオ!」
「しまっ!?」
 狂戦士の帝竜が激しく咆哮する。彼女が岩陰に入った瞬間、伸びきったはずの帝竜の尻尾が、筋肉を盛り上がらせてその射程をさらに伸ばした。
 鞭のように軌道をうねらせて襲い掛かった尻尾が、岩石を砕きながらアクアノートを打ち据える。

「がっ! や、ば……」
 剛力に打ち上げられてアクアノートの身体が宙に浮く。激痛に息が詰まり、全身の臓腑が悲鳴をあげる。
 合間に岩が挟まって威力が僅かに落ちていたのがせめてもの幸いか、意識はなんとか残っている。だが、咄嗟に防御姿勢を取った右腕の損傷がシャレになっていない。反撃に移ろうにも指ひとつまともに動かせない有様だ。
 ぐにゃりと歪んだアクアノートの視界で、こちらに振り返ったベルセルクドラゴンが両翼を拳のように構えている。彼女はまだ空中に打ち上げられた状態。防御も回避も取れそうにない。
 絶体絶命。しかし、その危地にあって、アクアノートの前に滑り込むひとつの影があった。

「さテ、ソろそロ疲れテきたノでハないかイ?」
「!? グ、ヌゥ……ッ」
 漆黒の身体をめいっぱい広げたナハトが、その中心から妖しく光を点滅させる。彼が戦闘開始からずっと続けている、攻撃ともいえないような光の投射。その効果が、ようやく発揮されようとしていた。
 拳を振り抜こうと踏み込んだベルセルクドラゴンの足が、まるで階段を踏み外したかのように何もないところでたたらを踏む。地面の角度が傾いたような錯覚を帝竜は覚える。
 平衡感覚のズレ。すぐさま帝竜は己の身体をセルフチェックするが、ダメージらしきものはどこにも見当たらない。
 それもそのはず、ナハトが仕掛けたのはシンプルな催眠術だ。帝竜に催眠が通用するのかという賭けの部分もあったが、普段から思考を酷使しているであろうベルセルクドラゴンは、ものの見事にナハトの術中に囚われたのだった。

「やハり狂戦士。自傷ハお手ノ物だっタ、といウ事だネ」
 とはいえ、敵に表れた影響は動きが鈍くなった程度。効果時間も恐らく長くは続かない。
 掴み取ったチャンスを活かすため、猟兵たちは一息に攻勢に移る。
 まずは帝竜との距離が最も近いナハトが流体化した触手を刃のように成形してベルセルクドラゴンに斬りかかった。
 しかし、動きを止めているとはいえ、敵の装甲は強固。風を切って縦横に振り回されるナハトの刃を以てしても決定打には至らない。
 ナハトとてその程度は織り込み済み。本命の『武器』は身につけた医術。触手による攻撃を続けつつ、彼は器用にも粘性の身体を活かして、背後のアクアノートの腕を高速で治療し始めたのだ。

「応急処置ダ。こレで、やレるかナ?」
「腕は……、っ、動きますわ! これなら!」
 アクアノートが右腕を持ち上げて袖口を帝竜へと向ける。施されたのはあくまでも応急処置。全身には今も激痛が走っているが、彼女はそれを気合でねじ伏せて最後の一撃を狙う。
 大きく広がっていたブラックタールが、アクアノートの射線を開けるように身体の一部の収縮させる。彼女の視界に帝竜の姿がハッキリと映った。

「私だって、隙さえあれば、このくらいは狙ってやるのさ……!」
 アクアノートの袖口から発射された羅漢銭がベルセルクドラゴンに瞳を目掛けて一直線に跳んだ。
 竜鱗に覆われていな急所への攻撃。ビシリと軽快な音を鳴らしてヒットしたコインに、ドラゴンは顔を背けるようにのけ反った。
 ……だが、敵へのダメージはそれが限界。のけ反った背をぐいと勢いよく元に戻して、再び瞳を見開いた帝竜が獰猛な眼光でアクアノートを睨みつける。
 催眠の影響下からも抜け出したのか、ベルセルクドラゴンの両脚は今やしっかりと大地を踏みしめていた。

「……畜生めッ! 火力が欲しい……!」
「火力なら任せて! 二人が作ったチャンス、絶対に活かしてやるっ!」
 その瞬間、帝竜の意識は完全にナハトとアクアノートに向いていた。翼を含めた彼の四本腕は、それぞれ二人の猟兵に狙いをつけている。
 つまり、岩石の投擲も一時的に停止しているということだ。千載一遇、最高速度で飛翔したジルが一気に帝竜の懐に飛び込んでいく。
 狙うは敵の側面、振りかぶった翼と腕の死角、帝竜の脇腹だ。

「バレル展開! エネルギー充填120%! ハイパー・メガ・バスター、最終セーフティー解除!」
 両腕で保持したロングレンジライフルが唸りを上げてギミックを稼働させる。命中精度を犠牲にした、近距離戦用の大出力モードにジルの愛銃が変形すした。
 乾坤一擲、銃口を帝竜に突き刺さんばかりの勢いで吶喊したフェアリーの少女が、覚悟と共にトリガーを引き絞る。
「小さいからって甘く見ないでよっ! 発射っ!」

 銃口から放たれた莫大な熱量。ライフルを中心にして陽炎の如く世界が歪む。
 宣言通りの超火力。
 極大出力の荷電粒子砲がベルセルクドラゴンを貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

オブシダン・ソード
【狐剣】
僕も頑張ればあれくらい喋れるようになるかなぁ
噛みそう

いすゞの剣として
いつも通り、相棒にアドバイスと軽口を交えて鼓舞
接近戦なら君の身軽さと特訓の成果の見せ所だよ
爪と牙に翼に尻尾、手数多そうだし何しろでかいから大きく避けてね

敵が自分の肉体を武器にするなら、そこから順に斬っていこう
先制攻撃を凌げたら、まずはいすゞのUCで敵の原動力の『殺意』のみを斬る
敵の猛攻にはオーラ防御も駆使して緩和を狙う

両断しやすい大きさになったら
今度は実際にぶった斬りにいこうか
やることはさっきと同じ、攻撃してくる腕や翼から刻んで突き進めば良い
斬撃に合わせてUCを使用

『最強』を斬れたらきっと気分が良いよ
さあ、行こうか相棒


小日向・いすゞ
【狐剣】
器物と成った相棒を手に

メチャクチャ喋るっスね、負けてられないっスよォ
ま、ま、ま
難しい事を考えるのは止めて
できれば一方的にやられてくれると助かるっス!

えっ
噛む舌今何処にあるンスか?

はいはい
いつも通り実に心に沁みる助言っスねぇ


一発目の攻撃は受けるしか無いっスけれど
その害意、斬らせて貰うっス!

感情を爆発させる前に害意を斬って巨大化が防げるのならば
敵の様子を見て害意を斬り
勿論普通に攻撃もするっスよ
ねえ相棒

身軽に跳んで、翔けて、剣で受け
少しは素振りの成果も見せられるんじゃァ無いっスか

あっしの一撃は重くは無いっスが
相棒がいりゃァ少しは強くなる筈っスよ
そう、最強に届く程度には

はぁい、はい
行くっスよ!



「損害を正確に把握することは戦術を構築する上で極めて重要だ吾の左側面から侵入した熱線は腹部をほぼ水平に貫通し右側面まで到達しているまさに目覚ましい威力だ。しかし外傷の種類に着目すれば高熱による熱傷がほとんどであり出血あるいは有毒物質による汚染等は確認できないまた魔力炉を含む重要な臓器や運動機能を司る骨格等への影響も軽微ゆえに自己診断の結果を正確に表現するのであれば総合的なダメージすなわち生命力の減少による能力の凡そ10%ダウンが先刻の交戦で我が失ったすべてと言えるだろう。これは吾の持つ回復能力でリカバー可能な範囲であり戦闘行動を継続するのに支障はない!」
「メチャクチャ喋るっスね。ま、ま、難しい事を考えるのは止めて一方的にやられてくれると助かるっス!」
 一気呵成、決死の一撃を加えた仲間たちに続いて、小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)がベルセルクドラゴンへと斬り込んでいく。
 長ったらしい帝竜の台詞を考慮するまでもなく、敵は負傷により僅かなりとも身体機能を落としているはずだ。この好機を逃すわけにはいかない。
 妖狐の少女の右手で黒耀石の剣が剥き出しの刀身を鈍く輝かせる。単一の黒耀石から削りだされたこの直剣こそが、いすゞの相棒、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)が器物となった姿だ。

「僕も頑張ればあれくらい喋れるようになるかなぁ。……いや、噛みそうか」
「えっ、噛む舌今何処にあるンスか?」
 中天の陽光に銀河のような輝きを反射した黒耀石の剣。そこから聞こえてきた暢気な言葉にいすゞは思わずツッコミを入れる。
 というか、軽口を叩いている最中だろうがなんだろうが、今までも容赦なく彼のことを振り回してきた覚えがいすゞにはある。そして、存外におしゃべりなこの相棒は、そんな状況でも舌を噛むような素振りは見せたことがないような……。

「それはさておき、接近戦だ。爪と牙に翼に尻尾。手数が多そうだし何しろリーチが長いから大きく避けてね」
「(流されたっス……)はいはい、いつも通り実に心に沁みる助言っスねぇ」
「君の身軽さと特訓の成果の見せ所だよ。――ほら、来るよ!」
 猟兵の接近に対して、ベルセルクドラゴンもただ座視しているわけではない。竜鱗に覆われたドラゴンの両脚が大地を砕かんばかりに踏みしめる。疾走するいすゞに向かって、帝竜は真っ向から躍りかかってきた。
 その猛襲はまさに神速にして正確無比。恐らくはソードの刀身から予測したのであろう、いすゞの攻撃範囲の一歩外で停止した帝竜は、鋭い爪を備えた右腕を貫手のように放ってきた。
 名刀も斯くやの鋭利さを持つ爪剣が一瞬の内にいすゞの眼前に迫る。だが、いすゞたちにとっても先手を取られるのは想定内。彼女は敵の一撃目を捌くのに全神経を集中させる。

「力で対抗しようとしないで。大事なのは力の流れを逸らすことだよ」
「くぅっ、わかっちゃいるっスけど……っ!」
 鍔を返した黒耀石の剣が帝竜の刺突を側面で受け止めた。金属が衝突する甲高い音が荒野に響き渡る。
 狂戦士の二つ名に相応しい豪腕。受け止めた衝撃を殺しきれず、いすゞの足が宙に浮いた。
 後方に弾き飛ばされそうになりつつも、いすゞはソードの刀身を斜めにずらして帝竜の爪をいなす。ジャリ、と金属と石材が擦れる音を立てて、軌道を逸らした爪剣が少女の頬を掠めていった。

「好機は必ず来る。直撃だけは絶対に避けるんだ」
「……っ、合点承知。素振りの成果を見せてやるっスよ! 」
 ハッ、と荒い息を短く吐いて、直剣を構えた少女が気炎を上げる。一発貰えば即アウト、神経をすり減らすような攻防へと、いすゞは相棒の鼓舞を頼りに身を投じていく。
 初撃の貫手に続けて好き勝手に暴れ回るベルセルクドラゴンは、全身が凶器そのものだった。爪を振り抜き、翼で打ち付け、尻尾を薙ぎ払う。その攻撃はどれひとつ取っても致命的な破壊力を秘めている。荒れ狂う狂戦士の連撃が驟雨のようにいすゞに襲い掛かる。

「こ、のぅ……!」
 剣を盾にして翼撃を逸らし、あるいは身軽さを活かして尻尾を躱して、いすゞは懸命に連撃を凌いでいく。
 だが、手数も膂力も勝る帝竜を相手取れば、たとえ防御に専念しても無傷というわけにはいかない。ソードの護りを越えて伝わる衝撃、回避した身体を掠めた尖爪、ときには砕けた岩石から飛散した礫が、少女の体力を徐々に奪っていく。
 痛みと失血で視界の隅に暗く靄がかかる。限界ギリギリ、綱渡りのような状況。
 それでも少女は一心に足を動かし、剣を振るう。相棒の語る『好機』が訪れることを信じて。

「吾の優位は圧倒的でありこのままでも勝利は必至だがその一方で当初想定されていた交戦時間はゆうに超過してしまっているこれは猟兵の個体性能が想定値を上回っていたということもあるがなにより対象の所謂悪足掻きとも取れる抵抗によるところが大きいだろう。勝機のない戦闘を続けることは甚だ非論理的だ吾には理解できない何故吾が無為な時間に付き合わねばならないのかまったくもって時間の無駄だこれ以上の時間の浪費は耐えられない。――ゆえに、殺す!」
 それは突然の咆哮だった。途切れることなく攻勢を続けていたベルセルクドラゴンが、突然『キレた』。衝動的に膨れ上がった殺意が、ドラゴンの全身から一気に迸る。
 これこそが、彼のドラゴンがベルセルクと呼ばれる所以。思った通りに戦闘が進まなければ、彼はあっさりと怒りを爆発させてしまう。恐ろしいのは、彼がそうして生まれた『殺意』を利用して、自分自身にブーストを掛ける能力を持っていることだ。
 攻撃が上手くいかなければパワーアップし、それでも上手くいけなければ再び殺意を爆発させて更にパワーアップする。
 果ての無い循環を繰り返し、勝利に辿り着くまで、ひたすら暴れ回り、ひたすら強くなり続ける……。それが、狂戦士ベルセルクドラゴンという存在だ。
 恐るべき殺意のエネルギーは瞬く間に帝竜の右腕を覆う。そのエネルギーによって、彼の腕はより巨大に、より禍々しく変貌を遂げることだろう。

 ……だが、それこそが、猟兵たちが待ち望んでいた『好機』でもあった。

「いすゞ!」
「――その害意、斬らせて貰うっス! 」
 振り抜かれた黒耀の一閃が、帝竜の右腕を掠めるように空を切る。
 空振り、ではない。破魔の力が籠められた一刀は、過たず、帝竜の発露させた『殺意』だけを斬って落としたのだ。

「……なに?」
 ベルセルクドラゴンの長口上が初めて途切れた。意図しない強烈な感情の揺れ戻し。『再孵化』を経た彼にはこんな不可思議な経験は存在しない。
 さて、思うままに怒りを発散できなかったとき、彼は果たしてどのような反応を見せるのだろうか?
 答えは簡単、もう一回キレるのである。

「けれども、君の殺意は届かない」
「任せるっス、相棒!」
 膨れ上がる殺意をいすゞが再び叩き斬る。帝竜の瞳孔が困惑するように収縮と散大を繰り返した。
 行動と感情を上手く連動できず、敵の動きは明らかに精彩を欠いている。二度と訪れないであろうこの好機に、少女は傷だらけの身体を押して思い切り高く跳躍する。

「さあ、行こうか相棒」
「はぁい、はい。行くっスよ!」
 ハンドシェイク。握った指の繋がりが、すべてを切り裂く力となる。
 どちらかが欠けたら辿り着けない領域。
 二人が揃ったからこそ、その刃は『最強』に届くのだろう。

 ――『最強』を斬れたらきっと気分が良いよ。
 そんな軽口が宙に溶ける。
 瞬息一刀。稲妻のように落とされたいすゞの一撃が、帝竜を深々と切り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セシリア・サヴェージ
ベルセルク……そう呼ぶには少々理知的なドラゴンですね。
そして世界に対する大いなる脅威と呼べるでしょう。ここで必ず倒します。

体格、パワー、スピード……全ての要素において私が勝るものはないでしょう。
ですが私には今までに培ってきた経験が、受け継がれてきた暗黒騎士の戦闘技術があります。
記憶なき竜に人々が記憶し伝えてきた技をお見せしましょう!

万一の被弾に備え全身に【オーラ防御】を纏いつつ、攻撃を【武器受け】【見切り】で捌きながら【情報収集】で相手の癖を読みます。
あちらが力一辺倒の竜でないように、こちらも頭を使って戦いましょう。
そうして相手の行動が読めたら【カウンター】のUC【暗黒剣技】を叩き込みます。


須藤・莉亜
「計算された暴力ってめんどくさいんだよねぇ…。」
まあ、やるだけやってみようか。血の味も気になるしね。

こっちの攻撃で傷を負わすと強化されるって狡くない?
うーん、とりあえず動きを見切りつつ、攻撃を躱してみようかな。まあ、本命は敵さんの攻撃を食らった後って事で。

攻撃を食らった瞬間にUCを発動し、無数の蝙蝠に変化。敵さんを霧で囲んでこっちの姿を隠しつつ、全方位から血と生命力を奪いにかかる。
吸った生命力で更に蝙蝠を増やし、敵さんに的を絞らせないように立ち回る事にしよう。


クレア・フォースフェンサー
なるほど、あやつの目的はわしらを倒すことではなく、わしらと戦うことそのものにあるという訳か
ならば、できるだけ手の内は見せずに速攻で倒すが得策ということじゃな

とは言うてみたものの、あやつ相手にそれはちと無理な相談かもしれぬの
ならば、あやつが学んだこと全てを無に帰すことができるか……試してみようぞ

周囲に光珠を展開
あやつの攻撃を完全に躱すことは不可能であろう
敵の攻撃を見切りつつ、致命的な損傷を受けないように光珠と光剣で防ぎ、又は捌く

隠密機能で隠匿しつつ、受けた損傷を修復機能で修復
見術をもって敵の核を見切り、選択UCの力を乗せた光弓で貫こうぞ

おぬしがこの戦いにて得た知識、その魂ごと破壊させてもらうぞ



「傷を負うことそれ自体を吾は否定しない何故なら今ここにある吾は再孵化を経て生まれた存在でありそれはすなわち吾のオリジナルも何らかの形で死に至っているという事実があるからだつまりオリジナルを超越したという確信を持たない限り吾もまた死の可能性から目を逸らすことはできないだがしかしこの状況はなんだ猟兵と呼ばれる者たちの個体スペックは吾ら帝竜と伍するものではないはずだ彼らの特性である界渡りを考慮に入れても吾がこれほどの損傷を負うことなど想定できなかった! やはり吾は知りたい知らねばならぬ予知能力の秘密だけではない猟兵との交戦は吾に様々な知見を齎しているもはや理性の枷など不要この『経験』を吾が完全に修めるには、やはり貴様らを殺すしかない! ――グ、ガガ、ガルァア!」

 肩口から腰までを真っ直ぐに切り裂かれたベルセルクドラゴンが、傷口からとめどない鮮血を流しながら咆哮する。熱を帯びた口調で口角泡を飛ばすドラゴンは、激しく興奮しながらどす黒い瞳孔をぎょろぎょろと目まぐるしく動かしていた。
 粘つくような妄執と狂乱の殺意が綯い交ぜになった異様な気配。血濡れの帝竜が、獲物に爪を突き立てる瞬間を今か今かと待ち侘びている。


「なるほど、わしらと戦うことそのものもあやつの目的のひとつという訳か。……なんとも嫌な感じじゃ」
 荒野に響いた帝竜の叫びを耳にして、金糸金眼のサイボーグ、クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)が眉を顰めながら呟いた。
 終焉の地を駆ける彼女とその仲間たちは、もう数十秒としないうちに帝竜との交戦領域に入る。星のように輝く光剣を右手に握ったクレアは、遥か前方に視界を飛ばしながら帝竜との戦闘について思考を巡らせている。
 見目麗しい少女の姿に反して、クレアに宿っているのは老練なる剣豪の魂だ。老剣豪が積み重ねてきた経験は、速攻で勝負を決めるべしと囁いている。……だが、果たして『最強』の帝竜を相手にそう簡単に決着をつけることができるだろうか。

「計算された暴力ってめんどくさいんだよねぇ……。余計な知恵を着ける前に倒しちゃいたいってのは僕も同意見」
 と、クレアと並走するダンピール、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)も気だるげに頷く。
 彼が警戒しているのは、事前のブリーフィングで把握した帝竜の能力、すなわち自身の負傷をトリガーとした戦闘力強化と生命吸収能力の獲得だ。
 仲間たちとの交戦を経て、帝竜は少なくないダメージを負っている。能力の条件が満たされている以上、これから戦う相手は既に『ベルセルク・レイジ』の影響下にあると考えておいた方がいいだろう。
 となると、戦闘が長引いてこちらの生命力を奪われてしまえば、目も当てられない事態になってしまう。ゆえに莉亜の結論もクレアと同じ。やはりここは短期決戦を狙うしかない。

「ええ、あのドラゴンが経験を積めば、世界に対する大いなる脅威となるでしょう。……ここで必ず倒します」
 荒野を走る最後のひとり、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)が二人の言葉を引き継いで、決然と言い放つ。
 漆黒の騎士の掌中で、暗黒剣が感情の昂りと共鳴するように紫黒のオーラを揺らめかせた。
 体格、パワー、スピード……、敵の能力はあらゆる面で猟兵たちのそれを上回っている。考えるまでもなく苦戦は必至。それでも猟兵たちは、培ってきた技術と経験を信じて帝竜に挑みかかっていく。

「まあ、やるだけやってみようか。……敵さんのおでましだ」
 視線の先に帝竜の姿を捉え、莉亜がアンニュイに呟く。予想通り、既にベルセルクドラゴンの全身は赤黒い狂竜のオーラに覆われてしまっている。真っ赤に血走った帝竜の瞳孔からは理性の欠片も感じられない。分かってはいたが、一筋縄ではいかなそうだ。
 彼の視界でドラゴンの巨大な翼腕が大地を掴む。獣の如く四足の体勢を取った帝竜が、狂気に染まった眼光と共に猟兵たちに向けて駆け出した。
 その動きはある種の爬虫類、例えばトカゲの走り方によく似ていた。交互に高速で振り出される四肢に連動して帝竜の胴体が柔軟に捩れ動く。背後で波打つ尻尾はまるで周囲を威嚇しているかのようだ。
 曲がりくねった流血の跡を残して疾走する帝竜が、瞬く間に接近して猟兵たちを射程に収める。突進の勢いのまま敵対者を組み伏せようと、帝竜は後肢で地を蹴り、猟兵たちに飛び掛かる。敵が狙ったのは猟兵たちの先頭、だらりと脱力して泰然と佇む莉亜だ。

「グルォオゥ!」
「脇目も振らずに一直線とは、剣呑だねぇ。まぁ、捕まるわけにはいかないのだけど」
 帝竜が速度と体重を武器に莉亜を圧し潰した、その刹那、ダンピールの青年の姿が無数の黒い影に分裂して四方に飛び立った。ふっと消失した手応えに帝竜は衝動的に大地を殴り付け、辺り一帯をギロリと睨む。
 黒影の正体は莉亜が変身した暴食の吸血蝙蝠たちだ。姿を隠す濃霧を呼びながら、数え切れないほどの蝙蝠たちが群れを成してベルセルクドラゴンに襲い掛かる。
 だが、しかし……。

「ガァアアァ!」
「くっ、ずいぶんと必死じゃないか……っ」
 巻き起こる嵐。風圧を伴った帝竜の一挙手一投足が群がる蝙蝠を弾き飛ばしていく。荒れ狂う暴風と竜鱗の装甲が莉亜の牙を阻む。
 次いで、纏いつく蝙蝠を弾き飛ばしながら、帝竜はクレアとセシリアを次なる獲物に定めた。左右に分かれて突進を回避した二人の剣士を双眸に捉え、帝竜は右腕を杭にして大地に打ち込んだ。
 そのまま横方向に地面を蹴った重量級のボディが大地を削り、土煙を巻き上げる。瞬間的にクレアたちの視界が焦茶色のカーテンに遮られた。
 咄嗟に身構えた彼女たちを、ベルセルクドラゴンの尾撃が襲う。大地に突き立てた右腕を支点にして身体ごと振るわれた弧を描く尻尾の一撃。その威力は、防御を固めた二人の猟兵たちを諸共に吹き飛ばしてなお余りあるものだった。

「っ、なんの、暗黒騎士の戦技をお見せするのはこれからです! 」
「良い気迫じゃ! わしも負けておれんな!」
 光と暗黒、両者の愛剣が強烈な打撃を受け止める。耳鳴りのするような轟音と、防御を貫いて届いた衝撃からダメージを受けつつも、剣士たちはすぐさま帝竜に肉薄していく。
 クレアが周囲に光珠を展開し、セシリアが闇のオーラを全身に纏う。忘我の形相で暴れ回る帝竜の攻撃は、途切れることなく周囲の地形を破壊し続けている。その間隙を縫うようにして、二人はなんとか間合いに入り込もうと奮闘する。

「ゴオォオウ!」
「ぐぐぅっ……、ええい、見境なしに暴れおって!」
 迫りくる翼腕の右ストレートを旋回する光珠と光剣でクレアが捌く。パンチひとつとってもスーパーヘビー級。帝竜の重撃を受け流すたびに、彼女のナノマシンで構築された身体が悲鳴をあげている。
 帝竜の攻撃は無秩序に見えてその実、猟兵たちの急所を的確に狙ってきている。うっかり守りを緩めればあっという間にスクラップだ。これでは被弾覚悟で斬り込むことすらも難しい。

「ですが、その正確さを逆に利用できれば……」
 腕部の鋭爪を直撃寸前で受け流しながら、暗黒剣を盾にしたセシリアが眉間に力を籠める。ひりつくようなプレッシャーと全身に蓄積していくダメージ。ともすれば千々にちぎれそうな思考を総動員させて、彼女は帝竜の動きを見極めていく。
 ――思いついた作戦はたったひとつ。セシリアはすぐにアイコンタクトで仲間たちに自身の意志を伝える。
 逆転の一手を打たなければ戦況は悪くなる一方だ。これ以上手を拱いている余裕はどこにもない。覚悟を決めた三人の猟兵たちは、セシリアが見出した唯一の『チャンス』に全てを賭ける。

「莉亜さんっ、お願いします!」
「こっちもしんどいんだけど……、期待されたからには働かないとね」
 セシリアの叫びが作戦の開始を告げる。気だるげな台詞の中にガラスのように鋭い戦意を隠して、莉亜の変身した蝙蝠たちが一斉に帝竜へと襲い掛かった。
 まるでひとつの生き物のように(事実、ひとりの猟兵が変身したものなのだが)蝙蝠たちが雲霞の如く帝竜に牙を立てようとする。360度全周からの包囲攻撃。暴れ回るドラゴンに弾き飛ばされて何体もの蝙蝠が撃墜されつつも、莉亜は強烈なダメージのフィードバックを無視して攻勢を掛け続ける。
 今、莉亜は決定打を求めているわけではない。この小さくも鋭い血餓の牙は、帝竜の反撃を限定させるためのものだ。

「グルァア!」
「……ああ、よかった。その動きは狙い通りだ」
 吠え猛る帝竜の尻尾がピンと伸びて天を指す。目論見通りの敵の反応に蝙蝠となった莉亜は冷たく目を細める。
 ベルセルクドラゴンの選択した反撃は、開戦時にも見せた尻尾による旋回攻撃だ。
 狂乱の最中にある帝竜が、鬱陶しいであろう蝙蝠を一匹一匹時間を掛けて撃ち落していくことなど考えられない。狂戦士が全周を一気に薙ぎ払える攻撃を選択するのは、まさに予測通りだ。

「グルォオ!」
「やはり、狙いは頭。ならば……!」
 ドラゴンの丸太のような尻尾が恐るべき威力で薙ぎ払われる。だが、本能的に人間の急所、すなわち頭部を狙って放たれたその一撃は、地面スレスレに僅かな間隙を開けていた。
 直撃すれば致命傷となる必殺の尾撃に対して、セシリアが怯むことなく突進していく。好機は一瞬。疾駆するセシリアと尻尾の影とが交差する刹那、彼女はスライディングで帝竜の懐に滑り込んだ。
 殺意に満ちた突風がセシリアの頭上をすり抜ける。巻き上がった砂塵がざらざらとセシリアの頬を叩いた。
 千載一遇。プレートメイルをがしゃりと鳴らして、彼女はすぐさま体制を立て直す。スライディングから上体を起こしたセシリアは、膝を折った姿勢から一気に帝竜を目掛けて飛び掛かった。
 水平方向への鋭い跳躍。狙いはただひとつ。旋回攻撃の支点として大地に突き刺さった帝竜の右腕だ。

「はあぁっ!」
 気迫を込めてセシリアが吼える。籠めるは暗黒の力、振るうは騎士の技。破壊と守護、双極の力が暗黒剣の刃でひとつになる。
 それは現世に縋る者を冥府に繋ぎ止めるための一撃。逆手の両手持ちで握りしめられたダークスレイヤーが、ジャンプの勢いそのままに帝竜の手の甲を突き貫く。

「ギィガァア!」
「この好機、逃しませんよ。クレアさん!」
「応とも! 帝竜よ、おぬしの魂と知識。確かに『見えた』ぞ」
 血飛沫を噴き上げて片腕を大地に縫い留められたベルセルクドラゴンが出鱈目に抵抗する。突き立てた大剣に力を籠めて帝竜の動きを封じたセシリアは、間髪入れずにもう一人の剣士の名を叫んだ。
 金眼のサイボーグの見術が帝竜の『核』を見切る。ドラゴンの体内の奥深く、硬質の鱗と頑強な骨格に守られた中心点に、彼の竜の急所は存在していた。
 老剣豪の武勇は剣術のみにあらず。左手に握る白塗りの金属弓から伸びた光の弦をクレアは大きく引き絞る。
 番えるは白く輝く光の矢。一意専心、一矢貫通。ピタリと狙いを定めた光弓が、魂魄すらも貫き通す必殺の矢を撃ち放った。

「ガ、グァア! ――ァア、吾の命が吾の知識が消える消えていく何故だ何が足りなかった吾はもっと知りたい原因を因果を結末を究明せねばそうだ吾はまだ死ぬわけには――」
 帝竜の中心を真っ直ぐに射抜いた閃光が、帝竜の魂をその殺意ごと破壊した。狂乱のオーラが霧散し、ベルセルクドラゴンの言の葉に理性が戻る。
 生命力の流出に喘ぐ帝竜は、言葉の羅列を垂れ流しながら、残されたエネルギーで最後の反撃を試みようとする。
 だが、その行動が成就することは決してない。
 虚空に向けて指を伸ばすドラゴンに、夜の帳の如く、霧を纏った無数の蝙蝠たちが覆いかぶさったのだ。

「美味しいところを貰っちゃって悪いけど、やられっぱなしで僕も喉が渇いているんだよね。……キミの血は全部、僕のモノだ」
 帝竜の瞳が見た最後の光景。それは、鋭く伸びた莉亜の牙が自身に突き立てられるその瞬間だった。


 ベルセルクドラゴンの生命活動が停止し、呪力高山を覆う魔力の一角が崩れる。
 『最強』と呼ばれる帝竜はここに敗れ去った。だが、ヴァルギリオスの居城に至る道程は、いまだ複数の帝竜が守りを固めている。
 果たして、如何なる強敵がこの先に待ち構えているのか。猟兵たちは気を引き締めて次なる戦場へと歩を進めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年05月13日


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト